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特表2023-542133高効率のウイルス富化および精製のための非対称ナノ細孔膜(ANM)ろ過
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  • 特表-高効率のウイルス富化および精製のための非対称ナノ細孔膜(ANM)ろ過 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-10-05
(54)【発明の名称】高効率のウイルス富化および精製のための非対称ナノ細孔膜(ANM)ろ過
(51)【国際特許分類】
   C12M 1/00 20060101AFI20230928BHJP
   C12Q 1/686 20180101ALI20230928BHJP
   C12N 7/02 20060101ALN20230928BHJP
【FI】
C12M1/00 A
C12Q1/686 Z
C12N7/02 ZNA
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023517307
(86)(22)【出願日】2021-09-14
(85)【翻訳文提出日】2023-04-13
(86)【国際出願番号】 US2021050169
(87)【国際公開番号】W WO2022060691
(87)【国際公開日】2022-03-24
(31)【優先権主張番号】63/078,533
(32)【優先日】2020-09-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TRITON
(71)【出願人】
【識別番号】517084771
【氏名又は名称】ユニバーシティ オブ ノートル ダム デュ ラック
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【弁理士】
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100157923
【弁理士】
【氏名又は名称】鶴喰 寿孝
(72)【発明者】
【氏名】ワン,セミング
(72)【発明者】
【氏名】チャン,シュエ-チア
【テーマコード(参考)】
4B029
4B063
4B065
【Fターム(参考)】
4B029AA09
4B029BB13
4B029DG08
4B029FA05
4B029FA15
4B029GA08
4B029GB09
4B029HA06
4B063QA01
4B063QA19
4B063QQ03
4B063QQ10
4B063QR08
4B063QR32
4B063QR62
4B063QS39
4B063QX02
4B065AA95X
4B065BD18
4B065CA46
(57)【要約】
非対称ナノ細孔膜(ANM)ろ過技術を使用する高効率のウイルス富化および精製方法が、本明細書に記載される。ANM設計は、強い外力によるウイルス性粒子の変形、溶解および融合を防止し、したがって、サイズに基づく限外ろ過の他の優位性を保ちながら収量を有意に増大させる。ウイルス性粒子由来の汚染タンパク質を洗い流すことができる固有の特徴も提供される。現在の手法より高いスループット、収量、試料純度、濃度係数およびより正確なサイズ分画が提供される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1のチャンバ;
第2のチャンバ;
前記第1と第2のチャンバの間に位置しており、前記第1のチャンバに面し少なくとも部分的にそれを定義している第1の膜表面、前記第2のチャンバに面し少なくとも部分的にそれを定義している第2の膜表面、および前記第1と第2の膜表面の間に広がる複数の非対称形状のナノ細孔を含む膜であって、各ナノ細孔が、前記第1の膜表面で第1の直径を有する第1のナノ細孔開口部および前記第2の膜表面で前記第1の直径より大きい第2の直径を有する第2のナノ細孔開口部を含む膜;
前記第1のチャンバ内に位置される前記ウイルス性粒子を含む試料;ならびに
圧力駆動流、電気浸透流、遠心力またはその組合せによって前記第1のチャンバから前記第2のチャンバへ前記膜を通して流体の流れを誘導するデバイス
を含む、ウイルス性粒子を単離するための系。
【請求項2】
前記第1の膜表面が1つまたは複数の調節板を含む、請求項1に記載の系。
【請求項3】
第1のチャンバ;
第2のチャンバ;
前記第1と第2のチャンバの間に位置しており、前記第1のチャンバに面し少なくとも部分的にそれを定義している第1の膜表面、前記第2のチャンバに面し少なくとも部分的にそれを定義している第2の膜表面、および前記第1と第2の膜表面の間に広がる複数の非対称形状のナノ細孔を含む膜であって、各ナノ細孔が、前記第1の膜表面で第1の直径を有する第1のナノ細孔開口部および前記第2の膜表面で前記第1の直径より大きい第2の直径を有する第2のナノ細孔開口部を含み;
前記第1の膜表面が1つまたは複数の調節板を含む;
前記第1のチャンバ内に位置される前記ウイルス性粒子を含む試料;ならびに
圧力駆動流、電気浸透流、遠心力またはその組合せによって前記第1のチャンバから前記第2のチャンバへ前記膜を通して流体の流れを誘導するデバイス
を含む、ウイルス性粒子を単離するための系。
【請求項4】
前記第1の膜表面が、磁気合金でコーティングされている、請求項1に記載の系。
【請求項5】
前記第1の直径が、約10nm~約200nmである、請求項1に記載の系。
【請求項6】
前記複数の非対称形状のナノ細孔の前記第1の直径が、各ナノ細孔相互間で10%未満の変動係数を有する、請求項1に記載の系。
【請求項7】
前記第2の直径が、約30nm~約10μmである、請求項1に記載の系。
【請求項8】
前記第1と第2の膜表面間の距離が、約1μm~約100μmである、請求項1に記載の系。
【請求項9】
前記膜が、約10~約1010個ナノ細孔/cmのナノ細孔密度を含む、請求項1に記載の系。
【請求項10】
前記膜のナノ細孔が、イオンエッチングされる、請求項1に記載の系。
【請求項11】
前記第1のチャンバが、複数の注入口を含む、請求項1に記載の系。
【請求項12】
前記第1のチャンバが、前記第1のチャンバへ前記試料をロードするための第1の注入口;および
前記第1のチャンバへ溶出緩衝液、溶解溶液、PCRカクテル、またはその組合せをロードするための第2の注入口を含み;
濃縮ウイルス溶液が、前記第1のチャンバから前記第1の注入口もしくは前記第2の注入口を通って採取チューブまたは第3のチャンバへ溶出される、請求項1に記載の系。
【請求項13】
前記第1の注入口および第2の注入口が、同じ注入口である、請求項12に記載の系。
【請求項14】
前記第2のチャンバが、排出口を含み、前記第1のチャンバから前記第2のチャンバへ前記膜を通した流体の流れを誘導するための前記デバイスが接続される、請求項1に記載の系。
【請求項15】
前記膜が、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリカーボネート(PC)、ポリプロピレン(PP)、ポリイミド(PI)、またはポリエーテルスルホン(PES)のうち1つもしくは複数を含む1つもしくは複数の材料から形成される、請求項1に記載の系。
【請求項16】
第4のチャンバおよび前記第4のチャンバと前記第1のチャンバの間に位置しているフィルタをさらに含み、前記フィルタが前記第4のチャンバに面し少なくとも部分的にそれを定義している第1のフィルタ表面、前記第1のチャンバに面し少なくとも部分的にそれを定義している第2のフィルタ表面および前記第1と第2のフィルタ表面の間に広がる複数のフィルタ細孔を含む、請求項1に記載の系。
【請求項17】
各フィルタ細孔が、直径約200nm~約5ミクロンを有する、請求項16に記載の系。
【請求項18】
前記フィルタが、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリカーボネート(PC)、ポリプロピレン(PP)、ポリイミド(PI)およびポリエーテルスルホン(PES)を含む1つまたは複数の材料から形成される、請求項16に記載の系。
【請求項19】
流体の流れを誘導するための前記デバイスが、約0.01mL/時~約100mL/時の流速を生成する、請求項1に記載の系。
【請求項20】
流体の流れを誘導する前記デバイスが、約1気圧未満の圧力を生成する、請求項1に記載の系。
【請求項21】
流体の流れを誘導するための前記デバイスが、注射器ポンプ、電気浸透ポンプ、マイクロポンプ、遠心分離機、減圧式注射器、スナップロック注射器ポンプ、またはその組合せを含む、請求項1に記載の系。
【請求項22】
前記試料が、前記膜または前記フィルタに対して垂直もしくは接線方向にアプライされる、請求項1に記載の系。
【請求項23】
前記試料が前記膜またはフィルタに対して接線方向にアプライされる場合、流速が、約5mL/時~約40mL/時である、請求項22に記載の系。
【請求項24】
前記ウイルス性粒子が、サイズ約80~100nmである、請求項1に記載の系。
【請求項25】
前記ウイルス性粒子が、SARS-COV-2ウイルス性粒子である、請求項1に記載の系。
【請求項26】
前記磁気合金が、ニッケル-鉄、サマリウム-コバルト、アルミニウム-ニッケル-コバルト、ニッケル-鉄-クロミウム、鉄-クロミウム-コバルト、またはネオジム-鉄-ホウ素である、請求項4に記載の系。
【請求項27】
前記ウイルス性粒子が、磁気ビーズにカップリングされたプローブに結合している、請求項4に記載の系。
【請求項28】
前記プローブが、抗体である、請求項27に記載の系。
【請求項29】
前記系が、複数の同一の系と直列または並列に接続される、請求項1に記載の系。
【請求項30】
ウイルスを単離するための、請求項4に記載の系の使用。
【請求項31】
請求項1に記載の系を準備する工程と、
前記第1のチャンバから前記第2のチャンバへ前記膜を通る流体の流れを誘導し、その結果前記ウイルス性粒子が前記第2のチャンバに単離される工程とを含む、ウイルス性粒子を単離する方法。
【請求項32】
請求項31に記載の方法を使用して単離されるウイルス性粒子。
【請求項33】
請求項1に記載の系を準備する工程と;
前記第1のチャンバから前記第2のチャンバへ前記膜を通る流体の流れを誘導し、その結果前記ウイルス性粒子が前記第2のチャンバに単離される工程と;
前記単離されたウイルス性粒子を溶解する工程と;
ウイルス性RNAを測定する工程と
を含む、試料中のウイルス性粒子を検出する方法。
【請求項34】
前記単離されたウイルス性粒子が、化学的、機械的または熱的溶解を使用して溶解される、請求項33に記載の方法。
【請求項35】
化学的溶解が使用された場合、前記ウイルス性RNAが測定される前に、RNA抽出が前記単離されたウイルス性粒子に対して実行される、請求項34に記載の方法。
【請求項36】
熱的または機械的溶解が使用される場合、前記ウイルス性RNAが直接測定される、請求項34に記載の方法。
【請求項37】
前記溶解されたウイルス性粒子が、前記第1のチャンバ中でPCRカクテルと混合される、請求項34に記載の方法。
【請求項38】
前記試料が、約1mL~約100mLの初期容積を有する、請求項33に記載の方法。
【請求項39】
前記試料が、スワブによって採取される、請求項33に記載の方法。
【請求項40】
前記試料が、前記スワブから緩衝液中に抽出される、請求項39に記載の方法。
【請求項41】
前記ウイルス性粒子を含む前記試料が、1つもしくは複数の細胞培養上清または動物対象から入手される試料を含む、請求項33に記載の方法。
【請求項42】
動物対象から入手される前記試料が、血液、唾液、咳の飛沫、くしゃみの飛沫、血漿、涙、血清、尿、痰、胸水または腹水のうち1つもしくは複数を含む、請求項41に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2020年9月15日に出願の米国特許仮出願第63/078533号の優先権を主張し、その全体を参照により本明細書に組み込む。
連邦政府による資金提供を受けた研究
本発明は、国立衛生研究所補助金番号1R21CA206904-01およびHG009010-01下で米国政府支援により行われた。米国政府は、本発明において一定の権利を有する。
配列表に対する参照
本出願は、37 C.F.R.§1.821(c)にしたがってコンピュータ読み込み可能な形式の配列表とともに出願される。EFSによって提出されたテキストファイル、「092012-9140-WO01_sequence_listing_18-AUG-2021_ST25.txt」は、2021年8月18日に作成され、7つの配列を含有し、ファイルサイズ40.1キロバイトを有し、その全体を参照により本明細書に組み込む。
【0002】
非対称ナノ細孔膜(ANM)ろ過技術を使用する高効率のウイルス富化および精製方法が、本明細書に記載される。ANM設計は、強い外力によるウイルス性粒子の変形、溶解および融合を防止し、したがって、サイズに基づく限外ろ過の他の優位性を保ちながら収量を有意に増大させる。ウイルス性粒子由来の汚染タンパク質を洗い流すことができる固有の特徴も提供される。現在の手法より高いスループット、収量、試料純度、濃度係数およびより正確なサイズ分画が提供される。
【背景技術】
【0003】
核酸増幅に基づく試験は、COVID-19の最も高感度で早い検出を現在のところ提供している。核酸試験は、疾患の蔓延を追跡するために不可欠なツールとして進行中のコロナウイルスのパンデミックにおいて使用されている。しかしながら、偽陰性結果の可能性が21%より高く、時には、はるかに高いことが分かっている[1]。症状が発症する典型的な期間(5日目)より前の感染4日間の間、感染した人における偽陰性結果の確率は、1日目の100%から4日目の68%に低下する。症状発症日における偽陰性率の中央値は、38%で高止まる。さらに悪いことに、前症状(症状発症前にSARS-CoV-2が検出された)または無症状(SARS-CoV-2が検出されたが、症状が全く無い)の人から伝染することを示唆する証拠が蓄積している[2]。これら事例において考え得る高い偽陰性率は、無症状感染を検出し、検出されていない伝染連鎖を遮断し、さらに曲線を下方へ向けるための広範囲にわたる試験および接触者の追跡を含めた、現在の介入手段の主要な課題を提起する。したがって、現在のRT-PCR COVID-19試験の感度を増大させることが急務である。
【0004】
高い偽陰性率は、COVID-19試験の検出限界(LOD)を改善することによって低下させうる。現在FDAに認可されているCOVID-19試験のLODは、まだ比較的高い(例えば、LabCorp:6250コピー/mL;CDC:1000~3000コピー/mL)[3]。RT-PCR反応が、試料中に存在するウイルス性ゲノム(わずか1~10分子のRNA)を正確に検出するのに非常に高感度であることが示されているとすれば[4]、現在のCOVID-19試験の高いLODは、主に、RT-PCR試験に一般に使用される現在の試料調製工程と関係する標的の有意な損失によるものである。図1は、現在のCOVID-19 RT-PCR試験の典型的なワークフローを示す。通常、臨床医は、鼻咽頭スワブを採取し、それをウイルス性輸送培地(VTM)数ミリリットル(一般に、1.5~3mL、スワブを浸漬するのに最小限の容積)を含有するバイアルへ移し、そのバイアルは、試験するために実験室へ運搬される。ウイルス性RNAは、カラムに基づくRNA精製キットを使用してスワブVTM試料の一部のみ(一般に100μL、スワブの1/30)からその後精製され、96.6%の標的が損失する。さらに、溶出された精製RNA(100μL)のほんのわずか(5μL)がその後逆転写され、増幅され、さらに95%のRNA損失に相当する。結果として、RNA抽出キットの収量が100%であると仮定しても、スワブ由来のウイルス性RNAの約0.16%しかRT-PCR用として抽出されない。最近の研究によると[5]、患者のウイルス性力価は、感染初期の間に高く、単一の患者の鼻咽頭スワブは、SARS-COV-2ウイルス性粒子1,000,000個近くを保有しうる。これは、わずか約1600個のRNA分子が、現在最も信頼できる基準の試料調製方法を使用するRT-PCR定量化に利用可能であることを意味する。事実、患者のウイルス性力価は、大きく変動し、数桁低い場合があり、偽陰性率は必然的に高くなる。したがって、試料をRT-PCRに供する前にウイルスを濃縮するなど標的の損失を減少させる直接的な方法が必要である。
【発明の概要】
【0005】
本明細書に記載される一実施形態は:第1のチャンバ;第2のチャンバ;第1と第2のチャンバの間に位置しており、第1のチャンバに面し少なくとも部分的にそれを定義している第1の膜表面、第2のチャンバに面し少なくとも部分的にそれを定義している第2の膜表面、および第1と第2の膜表面の間に広がる複数の非対称形状のナノ細孔を含む膜であって、各ナノ細孔が、第1の膜表面で第1の直径を有する第1のナノ細孔開口部および第2の膜表面で第1の直径より大きい第2の直径を有する第2のナノ細孔開口部を含む膜;第1のチャンバ内に位置されるウイルス性粒子を含む試料;ならびに圧力駆動流、電気浸透流、遠心力またはその組合せによって第1のチャンバから第2のチャンバへ膜を通して流体の流れを誘導するデバイスを含む、ウイルス性粒子を単離するための系である。一態様において、第1の膜表面は、1つまたは複数の調節板を含む。
【0006】
本明細書に記載される別の実施形態は、:第1のチャンバ;第2のチャンバ;第1と第2のチャンバの間に位置しており、第1のチャンバに面し少なくとも部分的にそれを定義している第1の膜表面、第2のチャンバに面し少なくとも部分的にそれを定義している第2の膜表面、および第1と第2の膜表面の間に広がる複数の非対称形状のナノ細孔を含む膜であって、各ナノ細孔が、第1の膜表面で第1の直径を有する第1のナノ細孔開口部および第2の膜表面で第1の直径より大きい第2の直径を有する第2のナノ細孔開口部を含む膜;第1の膜表面が1つまたは複数の調節板を含む;第1のチャンバ内に位置されるウイルス性粒子を含む試料;ならびに圧力駆動流、電気浸透流、遠心力またはその組合せによって第1のチャンバから第2のチャンバへ膜を通して流体の流れを誘導するデバイスを含むウイルス性粒子を単離するための系である。一態様において、第1の膜表面は、磁気合金でコーティングされている。別の態様において、第1の直径は、約10nm~約200nmである。別の態様において、複数の非対称形状のナノ細孔の第1の直径は、各ナノ細孔相互間で10%未満の変動係数を有する。別の態様において、第2の直径は、約30nm~約10μmである。別の態様において、第1と第2の膜表面間の距離は、約1μm~約100μmである。別の態様において、膜は、約10~約1010個ナノ細孔/cmのナノ細孔密度を含む。別の態様において、膜のナノ細孔は、イオンエッチングされる。別の態様において、第1のチャンバは、複数の注入口を含む。別の態様において、第1のチャンバは、第1のチャンバへ試料をロードするための第1の注入口;および第1のチャンバへ溶出緩衝液、溶解溶液、PCRカクテル、またはその組合せをロードするための第2の注入口を含み;濃縮ウイルス溶液は、第1のチャンバから第1の注入口もしくは第2の注入口を通って採取チューブまたは第3のチャンバへ溶出される。別の態様において、第1の注入口および第2の注入口は、同じ注入口である。別の態様において、第2のチャンバは、排出口を含み、第1のチャンバから第2のチャンバへ膜を通した流体の流れを誘導するためのデバイスが接続される。別の態様において、膜は、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリカーボネート(PC)、ポリプロピレン(PP)、ポリイミド(PI)、またはポリエーテルスルホン(PES)のうち1つもしくは複数を含む1つもしくは複数の材料から形成される。別の態様において、本明細書に記載の系は、第4のチャンバおよび第4のチャンバと第1のチャンバの間に位置するフィルタをさらに含み、フィルタが第4のチャンバに面し少なくとも部分的にそれを定義している第1のフィルタ表面、第1のチャンバに面し少なくとも部分的にそれを定義している第2のフィルタ表面および第1と第2のフィルタ表面の間に広がる複数のフィルタ細孔を含む。別の態様において、各フィルタ細孔は、直径約200nm~約5ミクロンを有する。別の態様において、フィルタは、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリカーボネート(PC)、ポリプロピレン(PP)、ポリイミド(PI)およびポリエーテルスルホン(PES)を含む1つまたは複数の材料から形成される。別の態様において、流体の流れを誘導するためのデバイスは、約0.01mL/時~約100mL/時の流速を生成する。別の態様において、流体の流れを誘導するデバイスは、約1気圧未満の圧力を生成する。別の態様において、流体の流れを誘導するためのデバイスは、注射器ポンプ、電気浸透ポンプ、マイクロポンプ、遠心分離機、減圧式注射器、スナップロック注射器ポンプ、またはその組合せを含む。別の態様において、試料は、膜またはフィルタに対して垂直もしくは接線方向にアプライされる。別の態様において、試料が膜またはフィルタに対して接線方向にアプライされる場合、流速は、約5mL/時~約40mL/時である。別の態様において、ウイルス性粒子は、サイズ約80~100nmである。別の態様において、ウイルス性粒子は、SARS-COV-2ウイルス性粒子である。別の態様において、磁気合金は、ニッケル-鉄、サマリウム-コバルト、アルミニウム-ニッケル-コバルト、ニッケル-鉄-クロミウム、鉄-クロミウム-コバルト、またはネオジム-鉄-ホウ素である。別の態様において、ウイルス性粒子は、磁気ビーズにカップリングされたプローブに結合している。別の態様において、プローブは抗体である。別の態様において、系は、複数の同一の系と直列または並列に接続される。
【0007】
本明細書に記載される別の実施形態は、ウイルスを単離するための本明細書に記載される系の使用である。
本明細書に記載される別の実施形態は:本明細書に記載の系を準備する工程と、第1のチャンバから第2のチャンバへ膜を通る流体の流れを誘導し、その結果ウイルス性粒子が第2のチャンバに単離される工程とを含む、ウイルス性粒子を単離する方法である。
【0008】
本明細書に記載される別の実施形態は、本明細書に記載される方法を使用して単離されるウイルス性粒子である。
本明細書に記載される別の実施形態は:本明細書に記載される系を準備する工程と;第1のチャンバから第2のチャンバへ膜を通る流体の流れを誘導し、その結果ウイルス性粒子が第2のチャンバに単離される工程と、単離されたウイルス性粒子を溶解する工程と;ウイルス性RNAを測定する工程とを含む、試料中のウイルス性粒子を検出する方法である。一態様において、単離されたウイルス性粒子は、化学的、機械的または熱的溶解を使用して溶解される。別の態様において、化学的溶解が使用された場合、ウイルス性RNAが測定される前にRNA抽出が単離されたウイルス性粒子に対して実行される。別の態様において、熱的または機械的溶解が使用される場合、ウイルス性RNAは直接測定される。別の態様において、溶解されたウイルス性粒子は、第1のチャンバ中でPCRカクテルと混合される。別の態様において、試料は、約1mL~約100mLの初期容積を有する。別の態様において、試料は、スワブによって採取される。別の態様において、試料は、スワブから緩衝液中に抽出される。別の態様において、ウイルス性粒子を含む試料は、1つもしくは複数の細胞培養上清または動物対象から入手される試料を含む。別の態様において、動物対象から入手される試料は、血液、唾液、咳の飛沫、くしゃみの飛沫、血漿、涙、血清、尿、痰、胸水または腹水のうち1つもしくは複数を含む。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】CDC 2019新規コロナウイルス(2019-nCoV)リアルタイムRT-PCR診断委員会の指導にしたがった現行のCOVID-19 RT-PCR試験の代表的なワークフローを示す図である。主流のキットおよびRT-PCR試薬を、実例のために挙げる。
図2】ウイルス性粒子の試料調製および下流のRT-PCR検出の模式的概要である。レンチウイルスのサイズは、約80~100nmであり、SARS-CoV-2と類似している。熱的溶解を、75℃で10分間実行した。
図3】ANM構成を示す図である。
図4A】ANMウイルス富化および単離デバイスの模式図である。ANMウイルス富化および単離デバイスの模式的概観を示す図である。
図4B】ANMウイルス富化および単離デバイスの模式図である。ANMウイルス富化および単離デバイスのワークフローを示す図である。ウイルス性RNA抽出について提案される手順は:ANMの表面でのSARS-CoV-2などのウイルス性粒子の濃縮および単離;ならびに1% Triton X-100を使用する捕捉されたウイルス性粒子の溶解、および直接RT-PCRのための遊離したウイルス性RNAの溶出を含む。
図4C】ANMウイルス富化および単離デバイスの模式図である。ANMのSEM画像を示す図である。
図5】標準的な手順と比較してANM濃縮によるレンチウイルスの検出を示す図である。図5Aは、ANM有り無しの試料のCを示す図である。図5Bは、ANM有り無しの試料の通過画分のCを示す図である。
図6A】ANM濃縮を使用した直接RT-PCRによるレンチウイルスの検出を示す図である。試料の化学的および熱的溶解のCを示す図である。
図6B】ANM濃縮を使用した直接RT-PCRによるレンチウイルスの検出を示す図である。ANM有り無しで直接RT-PCRを使用した試料のCを示す図である。
図6C】ANM濃縮を使用した直接RT-PCRによるレンチウイルスの検出を示す図である。ANM有り無しで試料2.5mLならびに10mLのCを示す図である。
図7】ウイルス性輸送培地(VTM)試料2.5mLが処理される場合に同じ細孔サイズ(およそ60nm)を持つANMと従来通りのトラックエッチド膜間の典型的な処理時間の比較を示す図である。ろ過工程は、注射器によって発生される真空チューブの非常に低い負圧力(およそ0.8気圧)によって駆動された。
図8】2つの異なる濃縮デバイス:ANMデバイスおよび市販の限外ろ過デバイス(Millipore製Amicon Ultra-2 Centrifugal Filter Unit、UFC210024)を使用する前後で、同じSARS-CoV-2試料で実行したRT-PCRのC値を示す図である。これらの実験は、2つの異なるプライマー-プローブセット:N1遺伝子(図8A)およびN2遺伝子(図8B)について示される。全ての濃縮実験について、溶出容積は、投入試料容積1mLで0.2mLであった。2つの異なる溶解方法(RNA抽出キットおよび1%(容積/容積)Triton X-100を使用する界面活性剤による溶解方法)が、比較のために使用された。
図9】3つの異なる溶解方法:RNA抽出キット、熱的溶解(65℃、10分間)、および異なるパーセント(容積/容積)のTriton X-100を使用する界面活性剤による溶解を使用し、濃縮せずに同じSARS-CoV-2試料に対して実行したRT-PCRのC値を示す図である。これらの実験は、2つの異なるプライマー-プローブセット:N1遺伝子(図9A)およびN2遺伝子(図9B)について示される。Triton X-100の溶解成績は、RNA抽出キットおよび熱的溶解(65℃、10分間)と同程度であった。
図10】異なる投入容積(1mL、2.5mLおよび5mL)からのANM富化前後の同じSARS-CoV-2試料に対して実行したRT-PCRのC値を示す図である。これらの実験は、2つの異なるプライマー-プローブセット:N1遺伝子(図10A)およびN2遺伝子(図10B)について示される。ANMデバイスは、様々な容積から最終溶出容積40μLにウイルス試料を濃縮した。1% Triton X-100を使用して、直接RT-PCR用のウイルス性粒子を溶解した。これらのデータは、ANMデバイスが大容積試料からウイルス性粒子を富化し、それにより下流のアッセイ感度を高めることを示す。
図11】ANM富化前後で異なるウイルスロードのSARS-CoV-2試料に対して実行したRT-PCRのC値を示す図である。これらの実験は、2つの異なるプライマー-プローブセット:N1(図11A)およびN2遺伝子(図11B)について示される。ANMデバイスは、2.5mLから最終溶出容積40μLにウイルス試料を濃縮した。1% Triton X-100を使用して、直接RT-PCR用のウイルス性粒子を溶解した。これらのデータは、ANMデバイスが非常に低いウイルス性力価の試料においてさえウイルス性粒子を富化し、それにより偽陰性を排除することによって下流のアッセイ感度を高めることを示す。
図12図12A及び図12Bは、直列のタンジェンシャルフローANMろ過デバイスを示す図である。各チップは、下部でANM膜および上部で調節された基体からなる。濃縮ウイルス溶液は、チップの2つの基体間を接線方向に送り出される。タンジェンシャルフロー設計および調節板は、透過流を減少させることになるウイルスのろ過ケーキの蓄積を防止する。
【発明を実施するための形態】
【0010】
別段の規定がない限り、本明細書に使用される技術的および科学的用語は全て、通常の当業者によって一般に理解されるものと同じ意味を有する。例えば、本明細書に記載される細胞および組織培養、分子生物学、免疫学、細菌学、遺伝学、ならびにタンパク質および核酸化学およびハイブリダイゼーションに関して使用されるあらゆる命名法および技術は、当業者に周知であり、一般的に使用されるものである。矛盾がある場合、定義を含めて本文書が支配することになる。本明細書に記載されるものと類似のまたは同等の方法および材料が、本発明の実施または試験に使用されうるが、好ましい方法および材料については後述する。
【0011】
本明細書では、「含む(include)」、「含む(including)」、「含有する(contain)」、「含有する(containing)」、「有する(having)」、等などの用語は、「含む(comprising)」を意味する。本開示は、明示的に述べられているかどうかにかかわらず、本明細書に示される実施形態または要素を「含む(comprising)」、「からなる(consisting of)」、および「本質的になる(consisting essentially of)」他の実施形態も企図する。
【0012】
本明細書では、本開示の文脈(特に請求項の文脈)において使用される用語「a」、「an」、「the」および類似の用語は、本明細書において特に明記されるまたは文脈によって明らかに否定されない限り、単数と複数の両方を網羅するものと解釈されるべきである。加えて、「a」、「an」または「the」は、特に明記しない限り「1つまたは複数」を意味する。
【0013】
本明細書では、用語「または(or)」は、接続的または離接的でありうる。
本明細書では用語「実質的」は、大きいまたは有意な程度を意味するが、完全を意味しない。
【0014】
本明細書では、目的の1つもしくは複数の値に適用される用語「約」または「およそ」は、記載される参照値と類似の、または当業者によって決定される特定の値に対して許容可能な誤差範囲内の値のことを指し、その値は、測定系の制約など、その値が如何に測定または決定されるかによってある程度決まることになる。一態様において、用語「約」は、用語「約」によって修飾される値の最大±10%の変動内にある整数と分数両方の成分を含めた任意の値のことを指す。あるいは、「約」は、当業者の慣習につき、3標準偏差内または3標準偏差超を意味しうる。あるいは、例えば、生体システムまたはプロセスに関する、用語「約」は、一桁以内、一部の実施形態において値の5倍以内、一部の実施形態において値の2倍以内を意味することができる。
【0015】
本明細書に開示される範囲の全ては、別々の値として両方の端点ならびに範囲内で指定される整数および分数の全てを含む。例えば、範囲0.1~2.0は、0.1、0.2、0.3、0.4...2.0を含む。端点が、用語「約」によって修飾される場合、指定される範囲は、端点を含めた範囲内または3もしくはより大きい標準偏差内の任意の値の最大±10%の変動に拡大される。本明細書では、記号「~」は、「およそ」を意味する。
【0016】
コロナウイルス(CoV)は、エンベロープ型のプラス鎖RNAウイルスであり、外側表面において王冠形状の棍棒様スパイク突起に囲まれている。コロナウイルスのスパイクタンパク質は、ウイルス性エンベロープに埋め込まれた糖タンパク質である。このスパイクタンパク質は、特定の細胞受容体に付着し、スパイクタンパク質の構造変化を開始し、細胞膜の侵入を引き起こし、その結果ウイルス性ヌクレオカプシドが細胞内へ放出される。これらのスパイクタンパク質は、宿主向性を決定する。コロナウイルスは、サイズ26~32キロベースの大きなRNAゲノムを有し、固有の複製の方法を獲得する能力がある。他のRNAウイルスの様に、コロナウイルスは、感染によりゲノムの複製およびmRNAの転写を受ける。対象におけるコロナウイルス感染は、肺に重大かつ長期の損傷をもたらし、場合によっては重篤な呼吸器問題に至る可能性がある。
【0017】
本明細書では「SARS-COV-2」は、ベータコロナウイルス(ベータCoVまたはβ-CoV)である。特に、SARS-COV-2は、B系統のベータ-CoVである。SARS-COV-2は、2019-nCoV、COVID-2019または2019新規コロナウイルスとして公知な場合もある。ベータコロナウイルスは、コロナウイルスの4つの属のうちの1つであり、人畜共通起源の、エンベロープを持つプラス鎖、一本鎖RNAウイルスである。ベータコロナウイルスは、主にコウモリに感染するが、ヒト、ラクダおよびウサギの様な他の種にも感染する。SARS-COV-2は、ヒト同士の間など動物間を移動可能でありうる。ベータCoVは、ヒトにおいて発熱および呼吸器症状を誘導しうる。β-CoVゲノムの全体の構造は、他の要素の前にORF1abレプリカーゼポリタンパク質(rep、pp1ab)を含有する。このポリタンパク質は、多くの非構造タンパク質に切断される。SARS-COV-2は、受容体結合ドメインの可動性ループ内にフェニルアラニン(F486)、可動性グリシル残基、およびS1とS2サブユニット間の境界にフューリン切断部位の導入を生じる4アミノ酸の挿入を有する。フューリン切断部位は、SARS-COV-2の組織向性をもたらし、伝播性を増大させ、病原性を改変する可能性がある。
【0018】
本明細書では、「試料」は、標的の存在および/もしくはレベルが検出もしくは決定される任意の試料もしくはウイルス性粒子を含む任意の試料、または本明細書に記載のその成分を意味することができる。試料は、液体、溶液、乳液または懸濁液を含みうる。試料には、アポプラスト液などの任意の植物の液体もしくは組織、血液などの任意の生体液もしくは組織、全血、血漿および血清などの血液画分、筋肉、間質液、汗、唾液、尿、涙、滑液、骨髄、脳脊髄液、鼻汁、痰、羊水、気管支肺胞洗浄液、胃洗浄液、嘔吐物、糞便、肺組織、末梢血単核細胞、総白血球、リンパ節細胞、脾臓細胞、扁桃腺細胞、がん細胞、腫瘍細胞、胆汁、胸水、腹水、消化液、皮膚、またはその組合せを含みうる。試料は、対象から得られたまま直接使用することができ、またはろ過、蒸留、抽出、濃縮、遠心分離、干渉成分の不活性化、試薬の添加、等によるなど、前処理して、本明細書で検討されるもしくは当技術分野で公知のいくつかの様式で試料の特徴を修飾することができる。
【0019】
本明細書では、用語「対象」は、動物のことを指す。一般に、動物は哺乳動物である。対象は、例えば霊長類(例えば、ヒト、男性もしくは女性;乳児、青年または成人)、ブタ、ウシ、ヒツジ、ヤギ、ウマ、イヌ、ネコ、ウサギ、ラット、マウス、魚類、鳥類、等のことも指す。一実施形態において、対象はヒトである。
【0020】
「ウイルス」、「ウイルス粒子」および「ウイルス性粒子」は、本明細書において互換的に使用される。ウイルスは、ナノ粒子と考えられうる。本明細書ではウイルスは、生物学的有機体の細胞に感染しうる粒子でありうる。個々のウイルス、またはウイルス粒子は、ビリオンとも呼ぶことができ、カプシドとして公知の保護タンパク質膜によって囲まれた1つまたは複数の核酸分子、いわゆるウイルス性ゲノムを含むことができる。核酸分子が、DNAで一般に構成される細胞性有機体とは異なり、ウイルス性核酸分子は、DNAまたはRNAのいずれかを含みうる。一部の事例において、ウイルス性核酸性分子は、DNAとRNA両方を含む。ウイルス性DNAは、通常二本鎖で、環状または直鎖状配置のいずれかであり、ウイルス性RNAは、通常一本鎖である。しかしながら、一本鎖ウイルス性DNAおよび二本鎖ウイルス性RNAの例も公知である。ウイルス性RNAは、分割されていてもよく(異なるRNA分子上に異なる遺伝子がある)または非分割でもよい(1つのRNA断片上に全ての遺伝子がある)。ウイルス性ゲノムのサイズは、サイズが有意に変動しうる。DNAウイルスとRNAウイルスの両方が、本明細書において単離されうる。
【0021】
非対称ナノ細孔膜(ANM)ろ過技術を使用する高効率のウイルス富化および精製方法が、本明細書に記載される。ANM技術は、市販のイオントラック膜に対して非対称エッチング技術を利用して、先端側で10nm~200nmであり、基部側で最高2ミクロンでありうる円錐形のナノ細孔を作製する。非対称形状の細孔を有するトラックエッチド膜(限外ろ過膜におけるより従来通りの円筒状または不規則な形状の細孔とは対照的である)は、ウイルス性単離適用にとって重要な優位性を提供する。非対称性細孔形状の鍵となる優位性は、類似の円筒状細孔膜と比較して、同じスループットで試料がフィルタ膜を通り抜けるようにアプライされる圧力/力の200~400%の劇的な減少である。アプライされる圧力のこの有意な減少は、サイズに基づく限外ろ過の他の優位性を保ちながら高圧力によるウイルスの溶解を防ぐ。さらに、類似の円筒状の細孔膜と比較して、膜を通る輸送速度の劇的な増強により、目詰まりおよびトラップの機会が有意に減少する。この新たな細孔幾何形状設計により、高収量および高スループットが可能になり、トラップ設計が可能になる。トラップ設計は、特定のサイズ範囲内のウイルスの濃縮ならびにより大きいおよびより小さい残屑、分子およびウイルスからの分離を可能にする。濃縮係数は、100程度になりうる。重要なことに、トラップ設計により、洗い流し緩衝液を用いてトラップされたウイルスを洗い流して、大量のタンパク質を含めて、全ての汚染物質を除去することが可能になる。それは、現在の製品より高いスループット、収量、試料純度および濃縮係数、加えてより正確なサイズ分画も提供する。
【0022】
ANM技術により、サイズに基づく分画が30~200nm範囲内で実行されうるように(異なる細孔サイズを持つ異なるナノ細孔膜モジュールを使用することによる)、細孔サイズを正確に制御することが可能になる。
【0023】
ANMは、膜ホルダおよび市販のマイクロポンプまたは注射器ポンプからなる。ポンプは、専用の機器内に収納されえ、または消費者が、実験室において自身の注射器ポンプを使用することができる。一実施形態は、ANMおよびそのホルダを含み、それらは、各使用後に廃棄されてもよい。ANMは、ポリカーボネートトラックエッチド膜から製作されてもよく、その膜は、所望のイオントラックを創出するために最初に放射線照射され、細孔にトラックを発達させるために次いでエッチングされる。トラック照射工程は、大量生産能力がある。エッチングプロセスには、化学エッチングと乾式エッチングがあり、それらは拡大も容易である。
【0024】
円錐形の幾何形状が、流れ剪断速度を減少させるので、ANMは高スループットである。より低い剪断速度は、溶解によるウイルスの損失も最小限にする。タンパク質、RNP、HDL、およびLDLなどの他のナノ粒子からウイルスを単離することができる高収量かつ高スループットのプラットフォームが成果である。円錐形ナノ細孔は、誘電コーティングのないイオントラック膜の非対称湿式エッチングによって製作される。その技術は、細胞培地/上清および血漿試料で検証されている。ANMは、沈殿技術(Exoquick)、超遠心分離、サイズ排除(qEV)ならびにカラム吸着(miReasy)より極めて高い収量およびスループットを呈する。スループットは特に高く、他の技術の数日間と比較して、細胞培地約1mLおよび血漿約300マイクロリットルに対して約1時間かかる。qEVは、同程度のスループットを有するが、分画しない。
【0025】
単離および精製されたウイルス粒子は、機械的、熱的または化学的に溶解されて、定量化のためにその分子バイオマーカーカーゴを放出することができる。そのような定量化は、リアルタイム定量的PCR(qRT-PCR)、ワンステップqRT-PCR、およびPCR増幅バイアスに悩まされないANM miRNA定量化技術を含めた多くの技術で行われうる。ANMろ過技術は、60nmの非対称ナノ細孔フィルタの存在および2つの膜間にトラップされたウイルス粒子に対する緩衝液洗浄工程の追加によりウイルス粒子とタンパク質の完全な分離を可能にする。したがって、タンパク質除去を犠牲にすることなく高い回収効率が実現されうる。さらに、この方法は、単離プロセスに著しい複雑性をもたらしスループットを減少させるタイミングを必要としない。ANM技術は、10mL以下、5mL以下、4mL以下、3mL以下、2mL以下、1mL以下、500μL以下、または300μL以下のあらゆる任意の容積からウイルス粒子を同時に単離および濃縮する。濃縮係数は、10~100程度の係数になりうる。本ナノ細孔技術は、細孔の先端サイズより大きいサイズを持つ全てのウイルス粒子に対して同じ単離効率を可能にし、したがって、単離工程において導入されるバイアスが、より少ない。ANM技術により、サイズに基づく分画が、30~200nm範囲内で実行されうるように(異なる細孔サイズを持つ異なるナノ細孔膜モジュールを使用することによる)、細孔サイズを正確に制御することが可能になる。
【0026】
本明細書に記載される一実施形態は:第1のチャンバ;第2のチャンバ;第1と第2のチャンバの間に位置しており、第1のチャンバに面し少なくとも部分的にそれを定義している第1の膜表面、第2のチャンバに面し少なくとも部分的にそれを定義している第2の膜表面、および第1と第2の膜表面の間に広がる複数の非対称形状のナノ細孔を含む膜であって、各ナノ細孔が、第1の膜表面で第1の直径を有する第1のナノ細孔開口部および第2の膜表面で第1の直径より大きい第2の直径を有する第2のナノ細孔開口部を含む膜;第1のチャンバ内に位置されるウイルス性粒子を含む試料;ならびに圧力駆動流、電気浸透流、遠心力またはその組合せによって第1のチャンバから第2のチャンバへ膜を通して流体の流れを誘導するデバイスを含む、ウイルス性粒子を単離するための系である。一態様において、第1のチャンバは、1つまたは複数の調節板を含む第1の膜の反対に壁を含む。一部の実施形態において、少なくとも1つ、少なくとも2つ、少なくとも3つ、少なくとも4つ、少なくとも5つの調節板があってもよい。他の実施形態において、多くとも1000個、多くとも900個、多くとも800個、多くとも700個、多くとも600個、多くとも500個、多くとも400個、多くとも300個、多くとも200個、多くとも100個、多くとも50個または多くとも25個の調節板があってもよい。調節板は、ガラス繊維、プラスチック、複合材または別の材料で作られてもよい。一部の実施形態において、調節板は、ポリカーボネート(PC)、ポリスチレン(PS)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリ塩化ビニル(PVC)、SU-8フォトレジストおよびポリイミド(PI)、ポリジメチルシロキサン(PDMS)、シリコン、またはガラスで作られてもよい。特定の実施形態において、調節板は、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)で作られてもよい。調節板は、立方体、三角柱、長方形、円錐形、または曲線状、ジグザグ状、波形もしくはL字形のパネルのように成形され、これら形状の組合せを有する、または別の方法で構成されうる。調節板の幾何形状は、三角形、くさび型、三日月形、等でありうる。それらは、ヘリンボーンパターンを含めた、組織化されたまたは千鳥状のパターンを想定することができる。特定の実施形態において、調節板は、立方体または三角柱でもよい。調節板は、約15μm~約3mm、約20μm~約2mm、約25μm~約2mm、約30μm~約2mm、約35μm~約1mm、約40μm~約1mm、または約45μm~約1mmの高さを有しうる。調節板は、約25μm~約7mm、約50μm~約6mm、約100μm~約5mm、約100μm~約4mm、約100μm~約3mm、約100μm~約2mm、約100μm~約1mm、約125μm~約5mm、または約150μm~約5mmの間隔をあけることができる。調節板のサイズ、数および間隔は、変動してもよく、特定の使用または単離される粒子にとって所望される試料流の分散、経路および速度を提供するように選択されうる。一部の実施形態において、それぞれまたは特定の調節板は、上部および/もしくは下部の両方、片側または両側でそれらの全周にわたって形成された間隙を有する。加えて、調節板は、規則的なパターンまたは不規則な配置を持つアレイで配置されてもよい。また、調節板の一部が、他のものより大きくてもよい。これまで、限外ろ過調節板は、膜上に直接置かれて、フィルタケーキを壊す渦を発生させてきた。しかしながら、渦は、ろ過速度を減少させることにもなる。本開示は、渦を発生することなく膜の反対のチャネル表面に調節板を置く。調節板の配置および間隔は、ウイルス性粒子またはナノ粒子のサイズ範囲、特定の培地における拡散係数、膜厚、等などの様々な因子によって決まり、分極層の拡散時間尺度、垂直および接線方向の流速、ならびに流体の流れの入口距離に影響されうる。調節板は、上向きの勢いを発生して、フィルタケーキがしっかり固まる前にそれを崩壊させる。
【0027】
本明細書に記載される別の実施形態は:第1のチャンバ;第2のチャンバ;第1と第2のチャンバの間に位置しており、第1のチャンバに面し少なくとも部分的にそれを定義している第1の膜表面、第2のチャンバに面し少なくとも部分的にそれを定義している第2の膜表面、および第1と第2の膜表面の間に広がる複数の非対称形状のナノ細孔を含む膜であって、各ナノ細孔が、第1の膜表面で第1の直径を有する第1のナノ細孔開口部および第2の膜表面で第1の直径より大きい第2の直径を有する第2のナノ細孔開口部を含む膜;第1のチャンバは、1つまたは複数の調節板を含む第1の膜の反対に壁を含む;第1のチャンバ内に位置されるウイルス性粒子を含む試料;ならびに圧力駆動流、電気浸透流、遠心力またはその組合せによって第1のチャンバから第2のチャンバへ膜を通して流体の流れを誘導するデバイスを含む、ウイルス性粒子を単離するための系である。一態様において、第1の膜表面は、磁気合金でコーティングされてもよい。別の態様において、系は、第4のチャンバならびに第4のチャンバと第2のチャンバの間に位置し、第2のチャンバに面し少なくとも部分的にそれを定義している第1の膜表面および第4のチャンバに面し少なくとも部分的にそれを定義している第2の膜表面を含む第2の膜をさらに含んでもよい。第2の膜は、本明細書に記載の膜(例えば、ANM)でもよく、膜の第1の膜表面は、磁気合金でコーティングされてもよい。別の態様において、磁気合金は、ニッケル-鉄、サマリウム-コバルト、アルミニウム-ニッケル-コバルト、ニッケル-鉄-クロミウム、鉄-クロミウム-コバルト、またはネオジム-鉄-ホウ素である。別の態様において、ウイルス性粒子は、磁気ビーズにカップリングされたプローブに結合している。磁気ビーズは、球形など、一般に球形、卵子形、円板形、立方体および他の3次元形状の様々な形状のいずれかでありうる。磁気ビーズは、例えば、樹脂およびポリマーを含めた様々な材料を使用して製造されうる。磁気ビーズは、例えば、マイクロビーズ、マイクロ粒子、ナノビーズおよびナノ粒子を含めた任意の適したサイズでありうる。磁気ビーズは、ビーズの実質的に全てまたはビーズの1成分のみを構成しうる磁気応答性材料を含んでもよい。ビーズの残りは、とりわけ、アッセイ試薬の付着を可能にするポリマー材料、コーティング、および部分を含んでもよい。適切な磁気ビーズの例には、フローサイトメトリーマイクロビーズ、ポリスチレンマイクロ粒子およびナノ粒子、官能化したポリスチレンマイクロ粒子およびナノ粒子、コーティングされたポリスチレンマイクロ粒子およびナノ粒子、シリカマイクロビーズ、蛍光マイクロスフェアおよびナノスフェア、官能化した蛍光マイクロスフェアおよびナノスフェア、コーティングされた蛍光マイクロスフェアおよびナノスフェア、色染色マイクロ粒子およびナノ粒子、磁気マイクロ粒子およびナノ粒子、超常磁性マイクロ粒子およびナノ粒子(例えば、DYNABEADS(登録商標)粒子、Dynal Bead Based Separations(Invitrogen Group)、Carlsbad、Calif.から入手できる)、蛍光マイクロ粒子およびナノ粒子、コーティングされた磁気マイクロ粒子およびナノ粒子、強磁性マイクロ粒子およびナノ粒子、コーティングされた強磁性マイクロ粒子およびナノ粒子、ならびに当業者に公知の他の磁気ビーズがある。別の態様において、プローブは抗体である。抗体は、ウイルス性粒子上の表面マーカーに結合できる。特に、抗体は、SARS-Cov-2のスパイク糖タンパク質(S1およびS2)、レンチウイルスのGP41もしくはGP120、他の公知のウイルス性粒子表面マーカーまたはその組合せに結合できる。別の態様において、第1の直径は、約5nm~約300nm、約5nm~約200nm、約10nm~約300nm、約10nm~約200nm、約10nm~約150nm、約10nm~約100nm、約10nm~約50nm、約20nm~約300nm、約20nm~約200nm、約20nm~約100nm、または約50nm~約200nmでありうる。特定の態様において、第1の直径は、約10nm~約200nmでありうる。第2の直径は、約5μm未満、約4μm未満、約3μm未満、約2μm未満、約1μm未満、または約0.5μm未満でありうる。特定の態様において、第2の直径は、約2μm未満でもよい。ナノ細孔は、規則的なパターンまたは不規則な配置を持つアレイで配置されてもよい。また、調節板の一部が、他のものより大きくてもよい。別の態様において、膜は、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリカーボネート(PC)、ポリプロピレン(PP)、ポリイミド(PI)、またはポリエーテルスルホン(PES)のうち1つもしくは複数を含む1つもしくは複数の材料から形成される。別の態様において、系は、第3のチャンバおよび第3のチャンバと第1のチャンバの間に位置するフィルタをさらに含み、フィルタは第3のチャンバに面し少なくとも部分的にそれを定義している第1のフィルタ表面、第1のチャンバに面し少なくとも部分的にそれを定義している第2のフィルタ表面および第1と第2のフィルタ表面の間に広がる複数のフィルタ細孔を含む。別の態様において、各フィルタ細孔は、直径150nm~6ミクロン、150nm~5ミクロン、200nm~5ミクロン、200nm~4ミクロン、200nm~3ミクロン、200nm~2ミクロン、200nm~1ミクロン、300nm~5ミクロン、400nm~5ミクロン、500nm~5ミクロン、600nm~5ミクロン、700nm~5ミクロン、800nm~5ミクロン、900nm~5ミクロン、または1000nm~5ミクロンを有しうる。別の態様において、フィルタは、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリカーボネート(PC)、ポリプロピレン(PP)、ポリイミド(PI)およびポリエーテルスルホン(PES)を含む1つまたは複数の材料から形成される。別の態様において、流体の流れを誘導するデバイスは、流速約0.01mL/時~約1000mL/時、約0.01mL/時~約900mL/時、約0.01mL/時~約800mL/時、約0.01mL/時~約700mL/時、約0.01mL/時~約600mL/時、約0.01mL/時~約500mL/時、約0.01mL/時~約400mL/時、約0.01mL/時~約300mL/時、約0.01mL/時~約200mL/時、約0.01mL/時~約100mL/時、約0.05mL/時~約1000mL/時、約0.1mL/時~約1000mL/時、約0.2mL/時~約1000mL/時、約0.3mL/時~約1000mL/時、約0.4mL/時~約1000mL/時、または約0.5mL/時~約1000mL/時を生成する。別の態様において、流体の流れを誘導するデバイスは、圧力約0.3気圧未満、約0.4気圧未満、約0.5気圧未満、約1気圧未満、約1.1気圧未満、約1.2気圧未満、約1.3気圧未満、約1.4気圧未満、約1.5気圧未満を生成する。特に、流体の流れを誘導するデバイスは、約1気圧未満の圧力を生成する。別の態様において、流体の流れを誘導するためのデバイスは、注射器ポンプ、電気浸透ポンプ、マイクロポンプ、遠心分離機、またはその組合せを含む。別の態様において、試料は、膜またはフィルタに対して垂直もしくは接線方向にアプライされる。別の態様において、ウイルス性粒子は、サイズ約60~200nm、約65~200nm、約70~200nm、約75~200nm、約80~200nm、約60~150nm、約65~150nm、約70~150nm、約75~150nm、約80~150nm、約60~100nm、約65~100nm、約70~100nm、約75~100nm、または約80~100nmである。別の態様において、本明細書に記載される系を使用して、パラミクソウイルス科(呼吸器合胞体ウイルス(RSV)、パラインフルエンザウイルス(PIV)、メタニューモウイルス(MPV)、エンテロウイルス)、ピコルナウイルス科(ライノウイルス、RV)、コロナウイルス科(CoV)、アデノウイルス科(アデノウイルス)、パルボウイルス科(HBoV)、オルトミクソウイルス科(A、B、C、D型インフルエンザ、アイサウイルス、トゴトウイルス、クアランジャウイルス)、ヘルペスウイルス科(ヒトヘルペスウイルス、水痘帯状疱疹ウイルス、エプスタインバーウイルス、サイトメガロウイルス)、鳥インフルエンザ、天然痘、パンデミックインフルエンザ、成人呼吸窮迫症候群(ARDS)を含むが、これに限定されないウイルス性感染性疾患を引き起こすウイルス性粒子を単離することができる。CoVは、重症急性呼吸器症候群(SARS-CoV)、中東呼吸器症候群(MERS-CoV)、COVID-19(2019-nCoV、SARS-CoV-2)、229E、NL63、OC43、またはHKU1のうち1つもしくは複数を含むことができる。別の態様において、ウイルス性粒子は、SARS-COV-2ウイルス性粒子である。
【0028】
本明細書に記載される別の実施形態は:本明細書に記載の系を準備する工程と、第1のチャンバから第2のチャンバへ膜を通る流体の流れを誘導し、その結果ウイルス性粒子が第2のチャンバに単離される工程とを含む、ウイルス性粒子を単離する方法である。
【0029】
本明細書に記載される別の実施形態は、本明細書に記載される方法を使用して単離されるウイルス性粒子である。
本明細書に記載される別の実施形態は:第1のチャンバ;第2のチャンバ;第3のチャンバ;第1と第2のチャンバの間に位置しており、第1のチャンバに面し少なくとも部分的にそれを定義している第1の膜表面、第2のチャンバに面し少なくとも部分的にそれを定義している第2の膜表面、および第1と第2の膜表面の間に広がる複数の非対称形状のナノ細孔を含む膜であって、各ナノ細孔が、第1の膜表面で第1の直径を有する第1のナノ細孔開口部および第2の膜表面で第1の直径より大きい第2の直径を有する第2のナノ細孔開口部を含む膜;第3チャンバと第1のチャンバの間に位置するフィルタであって、第3のチャンバに面し少なくとも部分的にそれを定義している第1のフィルタ表面、第1のチャンバに面し少なくとも部分的にそれを定義している第2のフィルタ表面および第1と第2のフィルタ表面の間に広がる複数のフィルタ細孔を含むフィルタ;ならびに圧力駆動流、電気浸透流、遠心力またはその組合せによって第3のチャンバから第1のチャンバへフィルタを通しておよび第1のチャンバから第2のチャンバへ膜を通して流体の流れを誘導するデバイスを含む系を準備する工程と;ウイルス性粒子を含む試料を第3のチャンバに導入する工程と;第3のチャンバから第1のチャンバへおよび第1のチャンバから第2のチャンバへフィルタおよび膜を通る流体の流れを誘導し、その結果ウイルス性粒子がフィルタを通過し、第2のチャンバに単離される工程とを含む、ウイルス性粒子を単離する方法である。一態様において、ウイルス性粒子を含む試料は、1つもしくは複数の細胞培養上清または動物対象から入手される試料を含む。別の態様において、動物対象から入手される試料は、血液、唾液、咳の飛沫、くしゃみの飛沫、血漿、涙、血清、尿、痰、胸水または腹水のうち1つもしくは複数を含む。別の態様において、第1の直径は、約10nm~約200nmである。別の態様において、第2の直径は、約2μm未満である。別の態様において、膜は、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリカーボネート(PC)、ポリプロピレン(PP)、ポリイミド(PI)またはポリエーテルスルホン(PES)を含む1つもしくは複数の材料から形成される。別の態様において、各フィルタ細孔は、直径200nm~5ミクロンを有する。別の態様において、フィルタは、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリカーボネート(PC)、ポリプロピレン(PP)、ポリイミド(PI)またはポリエーテルスルホン(PES)を含む1つもしくは複数の材料から形成される。別の態様において、第1のチャンバは、1つまたは複数の調節板を含む第1の膜の反対に壁を含む。別の態様において、試料を流すデバイスは、流速約0.01mL/時~約1000mL/時を生成する。別の態様において、流体の流れを誘導するデバイスは、約1気圧未満の圧力を生成する。別の態様において、流体の流れを誘導するためのデバイスは、注射器ポンプ、電気浸透ポンプ、マイクロポンプ、遠心分離機、またはその組合せを含む。
【0030】
別の態様において、試料は、フィルタに対して垂直もしくは接線方向にアプライされる。
本明細書に記載される別の実施形態は、本明細書に記載される方法のいずれかを使用して単離されるウイルス性粒子である。
【0031】
本明細書に記載される別の実施形態は、本明細書に記載の系を準備する工程と、第1のチャンバから第2のチャンバへ膜を通る流体の流れを誘導し、その結果ウイルス性粒子が第2のチャンバに単離される工程と、単離されたウイルス性粒子を溶解する工程と;ウイルス性RNAを測定する工程とを含む、試料中のウイルス性粒子を検出する方法である。別の態様において、単離されたウイルス性粒子は、化学的または熱的溶解を使用して溶解される。別の態様において、化学的溶解が使用された場合、ウイルス性RNAが測定される前にRNA抽出が単離されたウイルス性粒子に対して実行される。別の態様において、熱的溶解が使用される場合、ウイルス性RNAは直接測定される。別の態様において、試料は、約1mL~約100mLの初期容積を有する。特定の態様において、試料は、約2.5mL~約10mLの初期容積を有する。別の態様において、試料は、スワブによって採取される。別の態様において、試料は、スワブから緩衝液中に抽出される。
【0032】
本明細書に記載される組成物、製剤、方法、プロセスおよび適用に対する適切な修飾ならびに適合が、その任意の実施形態または態様の範囲から逸脱することなく行われうることは、関連する当業者にとって明らかであろう。提供される組成物および方法は、例示的なものであり、指定された実施形態のいずれの範囲も限定することを意図しない。本明細書に開示される様々な実施形態、態様および選択肢の全ては、任意の変形または反復で組み合わせることができる。本明細書に記載される組成物、製剤、方法、およびプロセスの範囲は、本明細書に記載される実施形態、態様、選択肢、例、および優先傾向の全ての実在または潜在的組合せを含む。本明細書に記載される組成物、製剤または方法は、任意の成分もしくは工程を省く、本明細書に開示される任意の成分もしくは工程を置換する、または本明細書の他の場所で開示される任意の成分もしくは工程を含むことができる。本明細書に開示される組成物もしくは製剤のいずれかの任意の成分の質量と、製剤中の他の任意の成分の質量または製剤中の他の成分の合計質量との比が、あたかも明示的に開示されるかのように、ここに開示される。参照により組み込まれる特許または刊行物のいずれかにおけるいかなる用語の意味も、本開示内で使用される用語の意味と矛盾する場合、本開示内の用語または語句の意味が支配的になる。さらに、本明細書は、単に典型的な実施形態を開示し、記載するものである。本明細書に引用される全ての特許および刊行物は、その特定の教示のために参照により本明細書に組み込まれる。
【0033】
本明細書に記載される本発明の様々な実施形態および態様は、以下の条項によって要約される:
条項1. 第1のチャンバ;第2のチャンバ;第1と第2のチャンバの間に位置しており、第1のチャンバに面し少なくとも部分的にそれを定義している第1の膜表面、第2のチャンバに面し少なくとも部分的にそれを定義している第2の膜表面、および第1と第2の膜表面の間に広がる複数の非対称形状のナノ細孔を含む膜であって、各ナノ細孔が、第1の膜表面で第1の直径を有する第1のナノ細孔開口部および第2の膜表面で第1の直径より大きい第2の直径を有する第2のナノ細孔開口部を含む膜;第1のチャンバ内に位置されるウイルス性粒子を含む試料;ならびに圧力駆動流、電気浸透流、遠心力またはその組合せによって第1のチャンバから第2のチャンバへ膜を通して流体の流れを誘導するデバイスを含む、ウイルス性粒子を単離するための系。
【0034】
条項2. 第1の膜表面が1つまたは複数の調節板を含む、条項1の系。
条項3. 第1のチャンバ;第2のチャンバ;第1と第2のチャンバの間に位置しており、第1のチャンバに面し少なくとも部分的にそれを定義している第1の膜表面、第2のチャンバに面し少なくとも部分的にそれを定義している第2の膜表面、および第1と第2の膜表面の間に広がる複数の非対称形状のナノ細孔を含む膜であって、各ナノ細孔が、第1の膜表面で第1の直径を有する第1のナノ細孔開口部および第2の膜表面で第1の直径より大きい第2の直径を有する第2のナノ細孔開口部を含む膜;第1の膜表面が1つまたは複数の調節板を含む;第1のチャンバ内に位置されるウイルス性粒子を含む試料;ならびに圧力駆動流、電気浸透流、遠心力またはその組合せによって第1のチャンバから第2のチャンバへ膜を通して流体の流れを誘導するデバイスを含む、ウイルス性粒子を単離するための系。
【0035】
条項4. 第1の膜表面が、磁気合金でコーティングされている、条項1~3のいずれか1つの系。
条項5. 第1の直径が、約10nm~約200nmである、条項1~4のいずれか1つの系。
【0036】
条項6. 複数の非対称形状のナノ細孔の第1の直径が、各ナノ細孔相互間で10%未満の変動係数を有する、条項1~5のいずれか1つの系。
条項7. 第2の直径が、約30nm~約10μmである、条項1~6のいずれか1つの系。
【0037】
条項8. 第1と第2の膜表面間の距離が、約1μm~約100μmである、条項1~7のいずれか1つの系。
条項9. 膜が、約10~約1010個ナノ細孔/cmのナノ細孔密度を含む、条項1~8のいずれか1つの系。
【0038】
条項10. 膜のナノ細孔が、イオンエッチングされる、条項1~9のいずれか1つの系。
条項11. 第1のチャンバが、複数の注入口を含む、条項1~10のいずれか1つの系。
【0039】
条項12. 第1のチャンバが、第1のチャンバへ試料をロードするための第1の注入口;および第1のチャンバへ溶出緩衝液、溶解溶液、PCRカクテル、またはその組合せをロードするための第2の注入口を含み;濃縮ウイルス溶液が、第1のチャンバから第1の注入口もしくは第2の注入口を通って採取チューブまたは第3のチャンバへ溶出される、条項1~11のいずれか1つの系。
【0040】
条項13. 第1の注入口および第2の注入口が、同じ注入口である、条項12の系。
条項14. 第2のチャンバが、排出口を含み、第1のチャンバから第2のチャンバへ膜を通した流体の流れを誘導するためのデバイスが接続される、条項1~13のいずれか1つの系。
【0041】
条項15. 膜が、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリカーボネート(PC)、ポリプロピレン(PP)、ポリイミド(PI)、またはポリエーテルスルホン(PES)のうち1つもしくは複数を含む1つもしくは複数の材料から形成される、条項1~14のいずれか1つの系。
【0042】
条項16. 第4のチャンバおよび第4のチャンバと第1のチャンバの間に位置するフィルタをさらに含み、フィルタが第4のチャンバに面し少なくとも部分的にそれを定義している第1のフィルタ表面、第1のチャンバに面し少なくとも部分的にそれを定義している第2のフィルタ表面および第1と第2のフィルタ表面の間に広がる複数のフィルタ細孔を含む、条項1~15のいずれか1つの系。
【0043】
条項17. 各フィルタ細孔が、直径約200nm~約5ミクロンを有する、条項16の系。
条項18. フィルタが、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリカーボネート(PC)、ポリプロピレン(PP)、ポリイミド(PI)およびポリエーテルスルホン(PES)を含む1つまたは複数の材料から形成される、条項16または条項17の系。
【0044】
条項19. 流体の流れを誘導するためのデバイスが、約0.01mL/時~約100mL/時の流速を生成する、条項1~18のいずれか1つの系。
条項20. 流体の流れを誘導するデバイスが、約1気圧未満の圧力を生成する、条項1~19のいずれか1つの系。
【0045】
条項21. 流体の流れを誘導するためのデバイスが、注射器ポンプ、電気浸透ポンプ、マイクロポンプ、遠心分離機、減圧式注射器、スナップロック注射器ポンプ、またはその組合せを含む、条項1~20のいずれか1つの系。
【0046】
条項22. 試料が、膜またはフィルタに対して垂直もしくは接線方向にアプライされる、条項1~21のいずれか1つの系。
条項23. 試料が膜またはフィルタに対して接線方向にアプライされる場合、流速が、約5mL/時~約40mL/時である、条項22の系。
【0047】
条項24. ウイルス性粒子が、サイズ約80~100nmである、条項1~23のいずれか1つの系。
条項25. ウイルス性粒子が、SARS-COV-2ウイルス性粒子である、条項1~24のいずれか1つの系。
【0048】
条項26. 磁気合金が、ニッケル-鉄、サマリウム-コバルト、アルミニウム-ニッケル-コバルト、ニッケル-鉄-クロミウム、鉄-クロミウム-コバルト、またはネオジム-鉄-ホウ素である、条項4~25のいずれか1つの系。
【0049】
条項27. ウイルス性粒子が、磁気ビーズにカップリングされたプローブに結合している、条項4~26のいずれか1つの系。
条項28. プローブが抗体である、条項27の系。
【0050】
条項29. 系が、複数の同一の系と直列または並列に接続される、条項1~28のいずれか1つの系。
条項30. ウイルスを単離するための、条項4~29のいずれか1つの系の使用。
【0051】
条項31. 条項1~30のいずれかの系を準備する工程と、第1のチャンバから第2のチャンバへ膜を通る流体の流れを誘導し、その結果ウイルス性粒子が第2のチャンバに単離される工程とを含む、ウイルス性粒子を単離する方法。
【0052】
条項32. 条項31の方法を使用して単離されるウイルス性粒子。
条項33. 条項1~32のいずれかの系を準備する工程と;第1のチャンバから第2のチャンバへ膜を通る流体の流れを誘導し、その結果ウイルス性粒子が第2のチャンバに単離される工程と、単離されたウイルス性粒子を溶解する工程と;ウイルス性RNAを測定する工程とを含む、試料中のウイルス性粒子を検出する方法。
【0053】
条項34. 単離されたウイルス性粒子が、化学的、機械的または熱的溶解を使用して溶解される、条項33の方法。
条項35. 化学的溶解が使用された場合、ウイルス性RNAが測定される前にRNA抽出が単離されたウイルス性粒子に対して実行される、条項34の方法。
【0054】
条項36. 熱的または機械的溶解が使用される場合、ウイルス性RNAが直接測定される、条項34の方法。
条項37. 溶解されたウイルス性粒子が、第1のチャンバ中でPCRカクテルと混合される、条項34の方法。
【0055】
条項38. 試料が、約1mL~約100mLの初期容積を有する、条項33~37のいずれか1つの方法。
条項39. 試料が、スワブによって採取される、条項33~38のいずれか1つの方法。
【0056】
条項40. 試料が、スワブから緩衝液中に抽出される、条項39の方法。
条項41. ウイルス性粒子を含む試料が、1つもしくは複数の細胞培養上清または動物対象から入手される試料を含む、条項33~40のいずれか1つの方法。
【0057】
条項42. 動物対象から入手される試料が、血液、唾液、咳の飛沫、くしゃみの飛沫、血漿、涙、血清、尿、痰、胸水または腹水のうち1つもしくは複数を含む、条項41の方法。
【0058】
参照文献
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4. Esbin et al., "Overcoming the bottleneck to widespread testing: A rapid review of nucleic acid testing approaches for COVID-19 detection," RNA (2020).
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【実施例
【0059】
実施例1
全般的な方法
非対称ナノ細孔膜(ANM)
ポリカーボネート(PC)トラックエッチド膜は、高速重イオンによる材料の照射、その後の化学エッチングに基づくトラックエッチング技術によって調製された。細孔サイズは、エッチング時間によって制御することができ、単位領域当たりのイオンの数が、損傷トラックの数、それゆえ、細孔の数を決定する。小さくて10nm程度~大きくて20μm程度の範囲の直径を持つ円筒状細孔、および5×10cm-2程度の高い細孔密度を有するこの型のポリカーボネート膜は、商業的に販売されている。30±3nm PC膜を本研究に使用し、膜は、厚さ6μmであり、Sigma(Whatman Nuclepore Track-Etched Membranes;WHA110602)から入手した。受け取ったままの膜は、円筒状の細孔形状を有し、細孔密度5×10cm-2を有する。受け取ったままの膜の細孔サイズおよび密度を、SEMによって確認した。非対称ナノ細孔を、受け取ったままのトラッキングされた膜の片面における単純なOプラズマエッチングプロセスによって作製した。非対称エッチングは、円錐形のような非対称の細孔形状を形成する。直径25mmの円筒状の細孔膜を、シリコンウエハ(厚さ500μm)上に置いた。見た目ではこれら膜の片面は輝くように見え、反対の面は粗く見える。膜を、粗面を上にしてシリコンウエハ上に置いた。直径21mmの穴が開いた2.5cm×2.5cm PMMAシートを膜の上に置き、カプトンテープを使用してシリコンウエハにPMMAシートを付着させた。この穴は、Oプラズマに曝露される膜の領域を定義した。Oプラズマエッチングを、市販の反応性イオンエッチング系(Oxford PlasmaPro System、モデルRIE100またはPlasmatherm 790RIE)を用いて実行した。エッチング条件は以下の通りであった:Oガス圧力200Pa、ガス流速標準30cmmin-1、および出力100W。プラズマエッチングは、50nm/分の高いエッチング速度で、上面(基部側)で細孔直径を拡大し、一方で下面の細孔直径のエッチングは、プラズマが、かなり低いエッチング速度、およそ5nm/分で膜を貫通した後にのみ起こるが、下面において細孔直径は、変わらないままである。さらに、プラズマエッチングは、膜厚も減少させる。平均細孔直径60nmを持つ直径25mmのANMを、高収量のウイルス単離に使用した。SARS-CoV-2は、平均サイズ100nmを有する。そのため、ウイルス単離用のANMは、細孔サイズ100nm未満でなければならない。平均細孔サイズ60のANMが、最も高いウイルス回収率をもたらすことが判明した。
【0060】
レンチウイルス単離
レンチウイルスストック(Takara Bio USA,Inc.#0038VCT)を、1×PBSで最初に100倍希釈した。実験前に、希釈したレンチウイルス溶液1μLを、作業溶液用として1×PBS 1mLに添加した。作業溶液1μLを、試験試料(PBS、ウイルス性輸送培地、唾液、血漿)にスパイクした。購入したウイルスストックは、レンチウイルス1×10~1×1010 TU/mLを有した。レンチウイルス10~100TUを、最終的にスパイクした試料に使用した(TU:形質導入単位)。
【0061】
ウイルス単離を、調製したままの非対称ナノ細孔膜を使用する直接フローナノろ過によって実行した。膜を、自家製のプラスチック膜ホルダ内に密封した。プラスチック筐体を、金属ネジとナットで固定し、プラスチック製の環状ガスケットで漏出のない密封を行った。単離は、サイズに基づく単離および洗浄工程を含んだ。平均細孔直径60nmを持つ直径25mmのANMを、高収量のレンチウイルス単離に使用した。この適用に使用されるレンチウイルスは、平均サイズ100nmを有する。結果として、レンチウイルス単離用のANMは、細孔サイズ100nm未満でなければならない。より小さいサイズのANMは、ウイルス単離に対してより優れた保持成績を提供すると期待される。しかし、より小さいサイズのANMは、高い流体力学的抵抗による低スループットおよびウイルスを溶解する可能性があるANMの細孔先端におけるより大きな圧力降下によるウイルスの損傷/損失の増大を含めたいくつかの短所を有する。したがって、特定のウイルス単離に使用されるANMの最適化された細孔サイズが存在する。この適用において、平均細孔サイズ60のANMが、最も高いウイルス回収率を提供することが判明した。ウイルス試料を、一定流速(60mL/時)で注射器ポンプを使用して注射器によって非対称ナノ細孔膜ろ過デバイスに連続的に導入し、その後1×PBS 5mLによる洗浄工程を行った。濃縮したウイルスを、非対称ナノ細孔膜の隣の流体チャンバから回収し、単離されたウイルスを、下流のPCR分析に次いで使用した。
【0062】
血清、血漿などの不均一性の高い試料からウイルスを単離する場合、上流フィルタ、調節板設計を含むタンジェンシャルフローANMろ過、および/または磁気ビーズが必要になる。ウイルス試料は、PES注射器フィルタで予めろ過されてもよい。大容積で不均一な試料を処理する場合、ウイルス単離を、タンジェンシャルフローナノろ過様式で実行することもできる。特に、不均一性の高い試料を大容積でろ過する場合、ろ過ケーキ形成および高い集合圧力は、ウイルスの溶解および癒着を招く。タンジェンシャルフローナノろ過アッセイにおいて、供給流は、残余物(滞留物)が再循環する間に一部分が膜を通過する(透過する)ように非対称ナノ細孔膜表面と並行して通過する。蠕動ポンプは、一定流速で滞留流を再循環させて、制限層の形成を防止し、その後1×PBSを最高30mL含む洗浄工程を行う。ANMフローチップを、チャネル寸法65(L)×20(W)×1(H)mmでチップを3次元印刷することによって作った。また、調節されたタンジェンシャルフロー設計を導入して、付着物およびろ過ケーキ形成をよりよく抑制した。これらの調節板を、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)で作られるフローチャンバの一部分になるように、流路の上部壁に製作した。調節板は、立方体または三角柱の様な形状でありうる。調節板は、約25μm~約2mmの高さを有することができ、約100μm~約5mmの間隔をあけることができる。調節板設計により、調節板および調節板相互の間隔におけるろ過ケーキの異なる剪断速度および分極層長が可能になった。ろ過ケーキの特徴的な分極長および剪断速度の差異により、変化の位置でそれを破壊することが可能になる。二次元調節板は、系においてろ過ケーキを壊す渦を誘導することもできる。調節板設計は、ろ過供給(例えば、懸濁物供給)における特殊なろ過構造から発想を得ており、特殊なろ過構造は、局所的な渦を誘導することによって制限的な目詰まり層の除去を有意に増強させうる。
【0063】
SARS-CoV-2ウイルスおよび試薬
熱不活化SARS-CoV-2を、BEI Resourcesから入手した(NR-52286、Lot:70037779)。購入したウイルスストックは、BioRad QX200 Droplet Digital PCR(ddPCR(商標))システムを使用して定量化した1.77×10個ゲノム相当量/mLの濃度を有する。実験前に、ウイルスストックを、係数1000~10,000,000で希釈して、様々なスパイクウイルス濃度を持つウイルス溶液を得た。ウイルス性輸送培地を、ハンクス液(HBSS)中に0.5%ウシ血清アルブミン(BSA)、ベンジルペニシリン(2×10IU/L)、ストレプトマイシン(200mg/L)、ポリミキシンB(2×10IU/L)、ゲンタマイシン(250mg/L)、ナイスタチン(0.5×10IU/L)、オフロキサシン塩酸塩(60mg/L)およびスルファメトキサゾール(0.2g/L)で作った。HBSS中のTriton X-100を、ウイルス性RNA抽出に使用した。
【0064】
SARS-CoV-2の濃縮およびウイルス性RNAの抽出
図4Aおよび図4Bに示すようにANMウイルス富化および単離デバイスは、2つの部品:ANMホルダおよびスナップロック設計の注射器で構成される。ANMが上部チャンバと下部チャンバにデバイスを分離するANMホルダを、3次元印刷によって製作した。ANMデバイスは、上部チャンバに試料および溶出緩衝液をそれぞれロードするための2つの注入口、ならびに下部チャンバの透過流のための排出口を有する。注射器を下部チャンバの排出口に接続し、スナップロック付き注射器を使用して陰圧を生成し、それによりウイルスを濃縮し、精製するためにANMを通してウイルス試料溶液を輸送する。スナップロックは、吸引の間にプランジャーを保持する必要性を解消するのに役立つ。典型的なウイルス濃縮実験において、ウイルス試料2.5mLでロードした注射器を、試料ロード注入口と接続した。上部チャンバ内の全ての空気を、試料注射器のプランジャーを手動で押すことによって次いで追い出し、上部チャンバが試料溶液で充填されたら溶出緩衝液ローディング注入口をキャップで密封した。濃縮プロセスを開始するために、スナップロックをプランジャーアセンブリに挿入し、プランジャーをパチンとロックして、ウイルスを濃縮および精製する間ANMを通してウイルス試料溶液の全てを汲み出すための圧力を生成するまで引いた。最後に、溶出緩衝液ローディング注入口を通して小容積(およそ40μL)の緩衝液を上部チャンバ内へピペットで移すことによって濃縮したウイルスを溶出した。直接RT-PCRのために、1% Triton X-100を使用してウイルス性粒子を溶解し、ウイルス性RNAを溶出させた。
【0065】
磁気非対称ナノ細孔膜(MNM)ウイルス単離
簡潔には、80nmの金を、熱蒸発器(Oerlikon Leybold 8ポケット電子ビーム)を使用して450nmトラックエッチドポリカーボネート膜(Whatman)の片側に蒸着して、その後の電着プロセスにおける作用電極を形成した。次いで、Ni80Fe20フィルム200nmを金膜の上に電着した。Ni電極を電着溶液に使用した。Ni80Fe20電着溶液は、289g/L NiSO6HO、64g/L FeSO7HO、40g/L HBO、8.9g/L 5-スルホサリチル酸二水和物、および3g/L 1,3,(6,7)-ナフタレントリスルホン酸三ナトリウム塩水和物で構成された。電着の間、沈着電流<2.5mA/cm。得られたMNMは、基部直径約450nmおよび先端直径約250nmを持つ非対称幾何形状を有する。
【0066】
MNMを使用するウイルス単離
本明細書に詳述されるように、ウイルスは、ANMを使用してそのサイズに基づいて最初に単離されることになる。ウイルスの免疫選別は、ウイルスに特異的なタンパク質を認識する磁気ナノビーズを使用する正の選択によって実行されることになる。抗体を含むこれら磁気ナノビーズ(20~30nm)は、試料(単離されたウイルス)に添加され、振盪しながら室温で30分間インキュベートされることになる。次いで、試料は、MNMホルダの貯蔵部に添加されることになり、流速1mL/時でウイルス試料を汲み出すためにプログラム可能な注射器ポンプによって圧力がアプライされることになる。MNMホルダを、コンピュータ制御されたフライス盤(Roland、monoFab SRM-20)によって製作した。環状ネオジム磁石2個を、MNMホルダの上側および下側それぞれに置き、それら磁石は、MNMを磁化するための磁場を形成する。試料溶液はチップを通して汲み出されることになるので、磁気ナノ粒子で標識されたウイルスは、MNMの細孔の端に捕捉されることになる。
【0067】
RNA抽出
RNAを、製造業者の手引書にしたがってNucleoSpin(登録商標)RNA Virus Kit(Takara Bio)を使用して試料から単離した。試料50μLを、RAV1溶液200μLと最初に混合し、70℃で5分間インキュベートした。エタノール200μLを添加した後、溶液を結合カラムに移し、8000×gで1分間遠心分離した。次いでカラムを、RAW 500μLおよびRAV3 600μLで、8000×gで1分間順次洗浄し、その後RAV3 200μLで洗浄し、11000×gで5分間乾燥させた。最後に、70℃のRNase不含水50μLを添加して、室温で2分間インキュベーションした後11000×gで1分間RNAを溶出させた。
【0068】
qRT-PCR
溶解したウイルス試料を本明細書に記載のデバイスから採取し、ワンステップqRT-PCRによって分析した。実験を、Lenti-X(商標)qRT-PCR Titration Kit(Takara Bio USA)を使用して実施し、StepOnePlus(商標)Real-Time PCR System(Applied Biosystems)を使用して製造業者の手引書にしたがってレンチウイルスを定量化した。Lenti-X(商標)qRT-PCR Titration Kitの製造業者は、プライマー配列を開示していない、したがって配列情報は利用できない。各反応は、最終容積25μL中に、採取した試料2μL、RNase不含水8μL、Quant-X緩衝液(Takara Bio USA)12.5μL、Lenti-Xフォワードプライマー(Takara Bio USA、10μM)0.5μL、Lenti-Xリバースプライマー(Takara Bio USA、10μM)0.5μL、ROX Reference Dye LMP(50×)(Takara Bio USA)0.5μL、Quant-X(商標)Enzyme(Takara Bio USA)0.5μL、およびRT Enzyme Mix(Takara Bio USA)0.5μLを含有した。反応混合物を、逆転写のために42℃で5分間インキュベートし、95℃で10秒間失活させ、続いて95℃で5秒間および60℃で30秒間のqPCRを40サイクルした。C値を、MIQEガイドラインにしたがってStepOne(商標)Software v2.3を使用して取得し、分析した。
【0069】
TaqPath 1-Step RT-qPCRマスター混合物(ThermoFisher、A15299)および2019-nCoV RUO Kit(IDT)を製造業者の手引書にしたがって使用して、SARS-CoV-2を定量化した。各反応は、最終容積20μL中に試料2μL、TaqPath 1-Step RT-qPCRマスター混合物5μL、RNase不含水11.5μL、およびN1/N2プローブ1.5μLを含有した。N1/N2プライマー配列を、表1に示す。反応混合物を、25℃で2分間、50℃で15分間、および95℃で2分間インキュベートし、その後StepOnePlus(商標)Real-Time PCR System(Applied Biosystems)において95℃で3秒間および55℃で30秒間を45サイクルした。絶対定量のために、標準曲線を、各プレートについて標準RNA Control(AcroMetrix Coronavirus 2019(COVID-19)RNA Control(RUO)、Thermo、954519)の一連の希釈から生成した。C値を、MIQEガイドラインにしたがってStepOne(商標)Software v2.3を使用して取得し、分析した。
【0070】
【表1】
【0071】
実施例2
ANMを使用するウイルス濃縮
ANM濃縮の有り無しで標準的なRT-PCR方法(標準的なRNA抽出)を比較した。さらに、図2に例示されるように、直接RT-PCR方法(ANM濃縮および熱的溶解)の可能性を評価した。レンチウイルスでスパイクしたPBS緩衝液3mLを使用して、スワブ試料由来VTMを模倣した。PBS緩衝液3mL中のレンチウイルスを、高収量でより小容積(例えば、100μL)に富化できる場合、より多くのウイルス性粒子を下流のRNA抽出およびRT-PCR分析用として採取することができ、富化係数に比例する係数で感度が改善される。さらに、サイズに基づくANMろ過は、ウイルス性粒子を単に濃縮および単離し、たいていサイズが小さい可能性が高い干渉試薬を除去するので、RNA抽出を省略することができ、濃縮されたウイルス性粒子を簡単に熱的溶解し、その後直接RT-PCRに使用できるという可能性が開かれる。RNA抽出工程を排除することにより、試料調製にかかる費用と時間の両方の減少が可能になる。ウイルス性RNA抽出に使用される現在のRNA抽出工程は、完了するまでに通常30分間かかり、大規模な人間の労力および既に不足しているRNA抽出キットなどの材料を必要とする。
【0072】
スワブのウイルス性粒子の放出媒体としてPBS緩衝液を使用することが有利であることは、注目に値する。血清またはBSAを含有する不均一なVTMと異なり、ウイルス性粒子を含むPBS緩衝液を高スループットで、ろ過ケーキのない様式でANMに通すことができ、このことが高収量の濃縮の鍵である。本明細書に開示されるANMデバイス(図3)は、陰圧によって、例えば下部注射器を引くことによって簡単に駆動されうる。これにより約3分間以内に約2.5mLの試料の富化が可能になる。現実に実際には、スワブ上のウイルス性粒子は、緩衝液中でスワブを力強くかきまわすことによってPBS緩衝液中に最初に抽出されうる。次に、ANMデバイスを真空チューブに接続して(採血チューブの様に)、濃縮プロセスを開始することができる。ウイルス性粒子をANM上に捕捉した後、VTM約100μLを導入して、膜上のウイルス性粒子を溶出させる。スワブ試料を患者から採取した後、これら工程の全てを、正しく行うことができる。ここで、VTM中にウイルス性粒子を溶出することは、試験施設に輸送する前にウイルス量を最大化するのに不可欠である。最近の研究で、一部のVTMが、直接RT-PCRと適合することが判明した[6]。全ての実験はPBS緩衝液のみで実行されたが、VTM試料が、試験されることになる。RNA抽出および/またはRT-PCRは、ANM試料濃縮の直後に実行された。
【0073】
実施例3
ANMを使用するウイルスの濃縮は、標準的なRT-PCR方法の感度を増大させる
ANM濃縮の有り無しで標準的なRT-PCR方法を比較した。試験試料を、PBS緩衝液3mLにレンチウイルスをスパイクすることによって得た(図2)。次いで、試料を、2つの群:1)ANM濃縮していない試料100μLおよび2)ANMを使用して200μLにその後濃縮された試料2.5mL(予想される富化係数は、約12.5であった)に分けた。次に、標準的なRNA抽出(化学的溶解を用いる)を、両方の試料群に対して実行した。投入容積と溶出容積が同一であった(100μL)ので、RNA抽出工程においてさらなる濃縮はなかった。試料が、ANMを使用して濃縮された場合、Ctが、ウイルスがANM濃縮していない希釈溶液中にあった場合の平均19.3と比較して15.8であったことは、ANMを使用したRT-PCRの感度が係数11まで有意に改善されたことを示す(図6A)。11倍の感度改善(濃度増大)および容積富化係数12.5を踏まえて、ANM濃縮の収量は、約88%であると推定された。高収量は、ANMろ過の通過画分に対するRT-PCR実験によっても確認された(図6B)。ウイルス濃度は、ANM通過後に有意に低下した(8.6のC低下)。
【0074】
実施例4
ANM濃縮は、直接RT-PCRを可能にする
直接RT-PCR方法(熱的溶解)を、標準的なRT-PCR方法(化学的溶解)と比較した。2つの同一の試料を使用する化学的溶解および熱的溶解は、類似の効率をもたらす(図6A)。この観察は、試料を特定の緩衝液およびVTM中に貯蔵する場合に、RNA抽出工程を排除できることを示す最近の研究[6]と一致する。したがって、ANMを使用するウイルス性粒子の単離および濃縮後に直接RT-PCRを実行することが可能である。理想的には、試料を最終容積5μLに濃縮できる場合、全てのウイルス性粒子を直接RT-PCR用としてスワブから採取することができる。実際には、ANMチップにおけるそのような小容積の試料の取り扱いは、困難な場合がある。しかしながら、最終容積40μLは、より実用的で取り扱いがより容易である。試料が、2.5mLから40μLに濃縮された場合、C値は、34.9から29.6に低下し(5.26の低下)、38倍の感度増大に相当した(図6B)。感度のこの有意な改善は、非常に低いウイルス濃度を持つ試料を使用して得られた(C約34.9、陰性対照:37.5)。異なる投入試料容積(2.5mLおよび10mL)を使用する濃縮成績も、試験した。同量のレンチウイルスを、初期容積2.5mLおよび10mLでそれぞれPBS溶液にスパイクした。ANM濃縮後、同数のウイルス性粒子が、回収された(図6C)。大容積試料を処理する能力により、試料を希釈して感度を犠牲にすることなくプールされたスクリーニングが可能になる。本明細書に開示されるANM濃縮デバイスが、現実の設定(VTMおよびスワブ、等で)で試験されることになる。広いウイルス濃縮範囲にわたる標準曲線を得て、現実の設定においてANMによって可能になる感度の改善を検証することになる。
【0075】
実施例5
ANMデバイスおよびワークフロー
図4Aおよび図4Bに示すようにANMウイルス富化および単離デバイスは、2つの部品:ANMホルダおよびスナップロック設計の注射器で構成される。ANMデバイスを使用するウイルス性RNA抽出について提案される手順は:(i)ANMの表面でのSARS-CoV-2などのウイルス性粒子の濃縮および単離;(ii)1% Triton X-100を使用する捕捉されたウイルス性粒子の溶解、および直接RT-PCRのための遊離したウイルス性RNAの溶出を含む。この使い捨てのウイルス単離および富化デバイスは、ANMろ過技術の適用によって試験手順におけるRNA抽出を回避する一方、現在のCOVID-19 RT-PCR試験の感度を改善する。本明細書に記載のANMデバイスは:単一デバイス上でのウイルス粒子の同時富化、汚染物質除去およびウイルス性RNA放出;現在FDA認可されているRT-PCR試験のワークフローとの互換性;ならびに迅速(<15分間)、低費用、使い捨てのデバイスを使用して、現在の臨床プロセスよりウイルスおよびウイルス性RNA回収を有意に改善して、偽陰性の試験結果の割合を減少させうる。
【0076】
実施例6
ANMは、より速いウイルス富化および精製を可能にする
図4A図4Cにおいて実証されるANMの高度に非対称なナノ細孔幾何形状設計は、液圧抵抗を劇的に減少させる。したがって、より速いろ過が、図4Aおよび図4Bに示すようなスナップロック設計を備えた注射器によって発生される真空チューブの陰圧など、非常に低い陰圧(およそ0.8気圧)で実現されうる。ウイルス性輸送培地(VTM)試料2.5mLを処理するために、ろ過時間は、ANMの場合およそ15分間であるが、同じ細孔サイズを持つ従来通りのトラックエッチドナノ細孔膜の場合40分間が必要である(図7)。特に、低い圧力はウイルス性粒子の剪断に誘導される溶解も最小限にし、より高いRNA回収をもたらす。ANMは、単純で、電子部品を含まないデバイスの設計が、試料処理の高スループット要件を満たすことを可能にする。
【0077】
ANMは、従来通りの限外ろ過デバイスより優れている。その核心において、ANMは、図4Cに示す通り高度に非対称(円錐形)の幾何形状および一様な細孔先端サイズを持つ薄く、ねじれの少ない(直線)ナノ細孔を含有する。結果として、保持は、膜マトリックス内へウイルスが侵入することなくナノ細孔開口によってもっぱら達成され、したがって、膜におけるウイルス損失を有意に最小化する。単離されたウイルスの高度の回収は、停留容積を取り出すことによって簡単に実現されうる。ANM技術は、従来通りの限外ろ過方法よりも大きな優位性を有し;従来通りのろ過膜は、膜によるウイルス性粒子の吸収ならびに不均一な円柱状の細孔における損失のためウイルスを高度に回収することができない。したがって、図8Aおよび図8Bに示す通り、従来通りの限外ろ過膜の回収率は、ANMよりかなり低い。市販の限外ろ過デバイス(Millipore製、Amicon Ultra-2 Centrifugal Filter Unit、UFC210024)を使用して有意なウイルス損失(C値の有意な増大)が観察され、一方、ANMは、SARS-CoV-2ウイルスを成功裏に濃縮し、回収することができる(元の試料と比較したC値の減少)。
【0078】
実施例7
界面活性剤溶解したSARS-CoV-2試料に対する直接RT-PCRの実現可能性
図9Aおよび図9Bは、直接RT-PCR方法(熱的溶解および異なるパーセンテージのTriton X-100を使用する界面活性剤溶解)を標準的なRNA抽出によるRT-PCR方法(化学的溶解)と比較する。2つの同一の試料を使用する標準的なRNA抽出および熱的溶解は、類似の効率をもたらす。この観察は、試料が特定の緩衝液およびウイルス性輸送培地中に貯蔵される場合、RNA抽出工程を排除できることを示す最近の研究と一致する[7]。SARS-CoV-2は、脂質二重層が弱点である自己組織化粒子である。したがって、ウイルス性エンベロープは、界面活性剤によって破裂させることができる。図9Aおよび図9Bに示すように、Triton X-100の溶解成績は、RNA抽出キットおよび熱的溶解と同程度である。したがって、ANMを使用するウイルス性粒子の単離および濃縮後に直接RT-PCRを実行することは可能である。ANMワークフローにおいて、界面活性剤による溶解は、その簡単さのため熱的溶解より好ましい。
【0079】
ANMは、大容積の試料を処理し、したがってアッセイ感度を高めることが可能である。理想的には、スワブ試料を、RT-PCR反応のために管理可能な最終容積5μLに濃縮できる場合、スワブ試料由来の全てのウイルス性粒子を、直接RT-PCR用として富化および単離することができる。実際には、ANMデバイスにおけるそのような小容積の試料の取り扱いは、困難である。最終溶出容積40μLは、より実用的で取り扱いがより容易である。ANMデバイスの富化成績を、比較的大きい投入試料容積(1mL、2.5mLおよび5mL)を使用して試験した。元のウイルス試料のC値は、SARS-CoV-2ヌクレオカプシド1遺伝子(N1遺伝子)の場合およそ30.3であった。C値の低下によって示されるように、ANMによる富化後、最終的に溶出されたウイルス試料の濃度は、投入容積に伴って実際に増大した。図10Aおよび図10Bに示す通り、スワブ試料が、1mL、2.5mLおよび5mLから最終溶出容積40μLに濃縮される場合、N1遺伝子のC値は、30.3から26.6、25.6および24.3にそれぞれ低下し、13倍~64倍の感度増大に相当した。類似の結果が、SARS-CoV-2ヌクレオカプシド2遺伝子(N2遺伝子)でも示された。感度においてそのような改善が、比較的低濃度のウイルスを含む試料を使用して得られた(Cおよそ30.3、陰性対照:39.5)ことは、言及するに値する。大容積ウイルス試料を富化する能力により、現在のCOVID-19試験の感度を改善することが可能になり、試料を希釈して感度を犠牲にすることなくプールされたスクリーニングが可能になる。
【0080】
実施例8
ANMは、非常に低いウイルス性力価の試料においてもウイルス粒子を単離および濃縮することができる
図11Aおよび図11Bは、ANMデバイスが、N2遺伝子プライマー-プローブセットを使用した場合などに非常に低いウイルス性力価(C>30)または検出不可能なウイルス性力価の試料においてSARS-CoV-2を富化できることを実証する。これらの結果は、ウイルス性輸送培地試料からウイルスを濃縮することで、ANM富化していない同じ試料と比較して、低いウイルスロードの試料においてSARS-CoV-2の検出が実質的に改善することを示す(低ウイルス性力価の試料に対してANMデバイスを使用した場合のC値の平均的な改善は、5.0であった、n=12)。C値におけるこれら改善は、より高いウイルス性力価を持つ試料を使用した結果と一致し、ANMデバイスが、低ウイルスロードの試料に対しても高い回収率を維持できることを示す。
【0081】
実施例9
ワクチン関連適用のためにANMをタンジェンシャルフロー形式で操作して、不活化または弱毒化ウイルスの高スループット精製を可能にすることができる
図12は、ANMデバイスをタンジェンシャルフロー形式に構成して、ウイルスワクチン溶液の高スループット(チップ当たり>40mL/時)かつ拡張性のある(並行または直列での複数チップ)精製を可能にできる方法を実証する。調節された設計は、高度に濃縮されたウイルス溶液がろ過ケーキを形成して、スループットを減少させることを防ぐ。細胞培養反応器内で培養されるウイルスワクチンは、注射前に除去されなければならないタンパク質に汚染されている。ANMデバイスは、この適用を可能にする。
図1
図2
図3
図4A
図4B
図4C
図5
図6A
図6B
図6C
図7
図8
図9
図10
図11
図12
【配列表】
2023542133000001.app
【国際調査報告】