(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-10-05
(54)【発明の名称】特定の心臓組織及び心臓病態の治療におけるその使用
(51)【国際特許分類】
C12N 5/071 20100101AFI20230928BHJP
C12Q 1/02 20060101ALI20230928BHJP
A61P 9/00 20060101ALI20230928BHJP
A61P 9/10 20060101ALI20230928BHJP
A61K 35/34 20150101ALI20230928BHJP
【FI】
C12N5/071
C12Q1/02
A61P9/00
A61P9/10
A61K35/34
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023517361
(86)(22)【出願日】2021-09-21
(85)【翻訳文提出日】2023-04-21
(86)【国際出願番号】 EP2021075951
(87)【国際公開番号】W WO2022058617
(87)【国際公開日】2022-03-24
(32)【優先日】2020-09-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】520174104
【氏名又は名称】ツリーフロッグ テラピューティクス
【氏名又は名称原語表記】TREEFROG THERAPEUTICS
【住所又は居所原語表記】30 AVENUE GUSTAVE EIFFEL BATIMENT A,33600 PESSAC,FRANCE
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】フェイユー,マクシム
(72)【発明者】
【氏名】レオナール,アンドレア,ベス
【テーマコード(参考)】
4B063
4B065
4C087
【Fターム(参考)】
4B063QA01
4B063QA18
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4B065AA93X
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4B065CA46
4C087AA01
4C087AA02
4C087BB47
4C087MA23
4C087NA14
4C087ZA36
(57)【要約】
本発明は、収縮性であり、低い自発的収縮周波数を有する、心筋トロポニンCを発現するヒト心臓細胞の圧縮組織に関する。
本発明はまた、特に心臓病態、特に虚血性心臓疾患の治療における、この組織の使用に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
心筋トロポニンCを発現するヒト心臓細胞の三次元圧縮組織であって、収縮性であり、4Hz未満の自発的収縮周波数を有することを特徴とする、ヒト心臓細胞の三次元圧縮組織。
【請求項2】
前記組織の全細胞数に対して、数で50%を超える、心筋トロポニンCを発現する細胞の含有量を有することを特徴とする、請求項1に記載のヒト心臓細胞の圧縮組織。
【請求項3】
前記組織の全細胞数に対して、数で50%を超える心筋トロポニンC及びアルファ-アクチニンを発現する細胞の含有量を有することを特徴とする、請求項1又は2に記載のヒト心臓細胞の圧縮組織。
【請求項4】
前記組織の全細胞数に対して、数で75%を超える、心筋トロポニンCを発現する細胞の含有量を有することを特徴とする、請求項1~3のいずれか一項に記載のヒト心臓細胞の圧縮組織。
【請求項5】
0.5Hz未満の自発的収縮周波数を有することを特徴とする、請求項1~4のいずれか一項に記載のヒト心臓細胞の圧縮組織。
【請求項6】
0.25Hz未満の自発的収縮周波数を有することを特徴とする、請求項1~5のいずれか一項に記載のヒト心臓細胞の圧縮組織。
【請求項7】
等張水溶液の層によって少なくとも部分的に囲まれていることを特徴とする、請求項1~6のいずれか一項に記載のヒト心臓細胞の圧縮組織。
【請求項8】
外部ヒドロゲル層に完全に又は部分的に封入されていることを特徴とする、請求項1~7のいずれか一項に記載のヒト心臓細胞の圧縮組織。
【請求項9】
球状又は細長い形状を有することを特徴とする、請求項1~8のいずれか一項に記載のヒト心臓細胞の圧縮組織。
【請求項10】
回転楕円体、卵形、円柱、又は球形であることを特徴とする、請求項1~9のいずれか一項に記載のヒト心臓細胞の圧縮組織。
【請求項11】
10μm~1mmの直径又は最小寸法を有することを特徴とする、請求項1~10のいずれか一項に記載のヒト心臓細胞の圧縮組織。
【請求項12】
10μm~50cmの最大寸法を有することを特徴とする、請求項1~11のいずれか一項に記載のヒト心臓細胞の圧縮組織。
【請求項13】
少なくとも1つの内腔を含む心臓細胞及び/又は心臓分化を受けている細胞の組織からの、前記内腔の全体的又は部分的な除去による前記組織の圧縮を含む方法による、請求項1~12のいずれか一項に記載のヒト心臓細胞の圧縮組織。
【請求項14】
凍結されていることを特徴とする、請求項1~13のいずれか一項に記載のヒト心臓細胞の圧縮組織。
【請求項15】
心臓病態の治療及び/又は予防において、そのままか又は解離後に、細胞の懸濁液の形態で使用するための、請求項1~14のいずれか一項に記載のヒト心臓細胞の圧縮組織。
【請求項16】
虚血性心臓疾患の治療及び/又は予防における、請求項15に記載の使用のためのヒト心臓細胞の圧縮組織。
【請求項17】
請求項1~14のいずれか一項に記載のヒト心臓細胞の圧縮組織の使用であって、
-医薬品及び医薬品候補を心臓病態における有効性及び/若しくは心臓に対するそれらの効果について試験し、かつ/又は
-物質、化合物、組成物、若しくは医薬品の心臓毒性を試験するための、使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、心臓分化の間に発現される遺伝子を発現するヒト細胞を含む特定の細胞微小区画から得られる特定の心臓組織の使用による、心臓疾患、特に虚血性心臓疾患の治療に関する。
【背景技術】
【0002】
世界保健機関によれば、心臓血管疾患、及び特に虚血性心臓疾患(一般に心筋梗塞につながる)は、世界における主な死因である(Thomas,H.et al.Global Atlas of Cardiovascular Disease 2000-2016:The Path to Prevention and Control.Glob.Heart 13,143-163(2018))。
【0003】
現在、心臓虚血の結果を予防又は治療するための、特に心不全及び心停止のリスクに関与する心筋の壊死を治療するための満足のいく解決策はない。
【0004】
最近、ヒト胚性幹細胞及び誘導多能性幹細胞の両方を含むヒト多能性幹細胞であるhPSC-CMに由来する心筋細胞を使用して、損失又は損傷した心臓組織を再生する研究が、関連する心不全を予防又は治療するために実行されてきている(Desgres,M.& Menasche,P.Clinical Translation of Pluripotent Stem Cell Therapies:Challenges and Considerations.Cell Stem Cell 25,594-606(2019)、Bertero,A.& Murry,C.E.Hallmarks of cardiac regeneration.Nat.Rev.Cardiol.15,579-580(2018)、Jiang,B.,Yan,L.,Shamul,J.G.,Hakun,M.& He,X.Stem Cell Therapy of Myocardial Infarction:A Promising Opportunity in Bioengineering.Adv.Ther.3,1900182(2020)、Liew,L.C.,Ho,B.X.& Soh,B.S.Mending a broken heart:Current strategies and limitations of cell-based therapy.Stem Cell Res.Ther.11,1-15(2020))。
【0005】
これらの心筋細胞は、他の適用、特に洞結節機能不全を治療するため(Lee,J.H.,Protze,S.I.,Laksman,Z.,Backx,P.H.& Keller,G.M.Human Pluripotent Stem Cell-Derived Atrial and Ventricular Cardiomyocytes Develop from Distinct Mesoderm Populations.Cell Stem Cell 21,179-194.e4(2017))、又は中隔欠損などの先天性心臓疾患を治療するため(Devalla,H.D.& Passier,R.Cardiac differentiation of pluripotent stem cells and implications for modeling the heart in health and disease.Sci.Transl.Med.10,1-14(2018))、あるいは候補医薬品を試験する、疾患モデリングのために(Tzatzalos,E.,Abilez,O.J.,Shukla,P.& Wu,J.C.Engineered heart tissues and induced pluripotent stem cells:Macro-and microstructures for disease modeling,drug screening,and translational studies.Adv.Drug Deliv.Rev.96,234-244(2016))、生物学的心臓刺激物質として使用することができる。
【0006】
心筋梗塞後の患者の損傷した心臓組織を再生するのに必要とされる細胞の量は、およそ10億個であると推定されており(Laflamme,M.A.& Murry,C.E.Heart regeneration.Nature 473,326-335(2011))、それは、心臓細胞療法においてhPSC-CM由来心筋細胞を使用することが現在不可能であることを意味する。実際、心臓組織を産業規模で産生することは、組織の生存及び正しい機能のために十分に穏やかである培養条件と、細胞を非生理学的ストレス(典型的には、バイオリアクタ中の液体培養の状況における流体力学的ストレス)に必然的にさらす大容量培養の制約との間の妥協を達成することが必要であるため、複雑である。hPSCから心筋細胞を産生するための方法は、特に、以下の問題:
-心筋細胞への分化前の懸濁液における培養中の乏しいhPSC集合体の形成:実際、hPSC集合体の初期形成、及び均質性は、細胞再生のために、したがって分化後に得られる心臓組織の質のために重要である、
-バイオリアクタにおける培養中の剪断ストレス及び衝撃に対するhPSCの感受性に起因する細胞の有意な損失(Lam,A.T.L.et al.Conjoint propagation and differentiation of human embryonic stem cells to cardiomyocytes in a defined microcarrier spinner culture.Stem Cell Res.Ther.5,1-15(2014))、
-hPSCの大規模な増殖と心臓分化とを組み合わせることの不可能性(Le,M.N.T.& Hasegawa,K.Expansion culture of human pluripotent stem cells and production of cardiomyocytes.Bioengineering 6,(2019))、を有する。
【0007】
バイオリアクタ中の懸濁液における心臓分化の間のこれらの不都合を制限するための既知の解決策は、
-マイクロキャリアを使用し、撹拌を一時的に停止するか(Ting,S.,Chen,A.,Reuveny,S.& Oh,S.An intermittent rocking platform for integrated expansion and differentiation of human pluripotent stem cells to cardiomyocytes in suspended microcarrier cultures.Stem Cell Res.13,202-213(2014))、
-又は心臓分化中に剪断に感受性が低い細胞株を使用するか(Laco,F.et al.Selection of human induced pluripotent stem cells lines optimization of cardiomyocytes differentiation in an integrated suspension microcarrier bioreactor.Stem Cell Res.Ther.11,1-16(2020))、のいずれかを必要とする。
【0008】
しかしながら、これらの解決策は最適ではない。特に、
-マイクロキャリアは、除去することが困難であり得る機械的ストレスに細胞をさらされたままにし、
-撹拌の停止は、分化に必要な栄養素及び産物の均一な拡散を可能にせず、
-単一の出発細胞株に限定することは、極めて制限的であり、限定的である。
【0009】
また、心筋細胞への分化を受けている細胞の損失は、バルクヒドロゲル中で直接的に培養を行うことによっても減少させることができることも知られている(Kerscher,P.et al.Direct Production of Human Cardiac Tissues by Pluripotent Stem Cell Encapsulation in Gelatin Methacryloyl.ACS Biomater.Sci.Eng.3,1499-1509(2017)、Li,Q.et al.Scalable and physiologically relevant microenvironments for human pluripotent stem cell expansion and differentiation.Biofabrication 10,(2018))が、これらの方法は、従来のバイオリアクタ培養と適合しない。この方法を産業で使用されるバイオリアクタに適合させるために、ヒドロゲル中に細胞を封入することによって試験が実行されたが、これらの試験はマウス幹細胞に限定されていた(Agarwal,P.et al.A Biomimetic Core-Shell Platform for Miniaturized 3D Cell and Tissue Engineering.Part.Part.Syst.Charact.32,809-816(2015)、Chang,S.et al.Emulsion-based Encapsulation of Pluripotent Stem Cells in Hydrogel Microspheres for Cardiac Differentiation.Biotechnol.Prog.btpr.2986(2020)doi:10.1002/btpr.2986、Zhao,S.et al.Bioengineering of injectable encapsulated aggregates of pluripotent stem cells for therapy of myocardial infarction.Nat.Commun.7,1-12(2016))。
【0010】
最後に、心臓への送達後の心筋細胞の細胞保持は、非常に乏しいことが知られており(Hou,D.et al.Radiolabeled cell distribution after intramyocardial,intracoronary,and interstitial retrograde coronary venous delivery:Implications for current clinical trials.Circulation 112,150-156(2005))、これは心臓細胞療法の有効性を制限する。加えて、心臓組織を再生するために、現在得られているような心筋細胞の移植の間に、患者に不整脈を誘発する著しいリスクがあり、これがまた、心臓病態を治療するための細胞療法の使用を制限する。実際、現在まで、心臓疾患に関連する治療適用のための幹細胞由来の心臓細胞の安全性を確実にするために克服すべき最も重要な科学的課題の1つは、移植中に誘発される不整脈の除去である(Menasche,P.Cardiac cell therapy:Current status,challenges and perspectives.Archives of Cardiovascular Diseases 113,285-292(2020)、Kadota,S.,Tanaka,Y.& Shiba,Y.Heart regeneration using pluripotent stem cells.Journal of Cardiology(2020)doi:10.1016/j.jjcc.2020.03.013、Chen,K.,Huang,Y.,Singh,R.& Wang,Z.Z.Arrhythmogenic risks of stem cell replacement therapy for cardiovascular diseases.Journal of Cellular Physiology(2020)doi:10.1002/jcp.29554)。一般的に一過性であるが、不整脈が、心筋梗塞後の再生のための重要な動物モデルであるブタ(Romagnuolo,R.et al.Human Embryonic Stem Cell-Derived Cardiomyocytes Regenerate the Infarcted Pig Heart but Induce Ventricular Tachyarrhythmias.Stem Cell Reports 12,967-981(2019))及び非ヒト霊長類(Ichimura,H.et al.Allogeneic transplantation of iPS cell-derived cardiomyocytes regenerates primate hearts.Nature 538,388-391(2016)、Liu,Y.-W.et al.Human embryonic stem cell-derived cardiomyocytes restore function in infarcted hearts of non-human primates.Nature biotechnology 36,597-605(2018)、Chong,J.J.H.et al.Human embryonic-stem-cell-derived cardiomyocytes regenerate non-human primate hearts.Nature 510,273-277(2014))の両方で観察された。
【0011】
したがって、心臓細胞療法における重要な必要性を満たすためだけでなく、医薬品分子の研究及び開発においても、前臨床段階で患者をこれらの治療に曝露する前にそれらの有効性及びそれらの毒性を評価するために、高品質の心筋細胞の大規模産生を可能にする解決策が大いに必要とされている。
【0012】
したがって、本発明の目的は、これらの必要性の全てを満たし、従来技術の不都合及び限界を克服することである。
【発明の概要】
【0013】
この目的を達成するために、本発明者らは特定の心臓組織を開発した。
【0014】
本発明の特定の主題は、心筋トロポニンCを発現するヒト心臓細胞(すなわち、対応する遺伝子の別名がTNNC1である、心筋トロポニンC遺伝子を発現するヒト細胞)の圧縮組織であり、収縮性があり、4Hz未満の自発性収縮周波数を有する。
【0015】
本発明の別の主題は、心筋トロポニンCを発現するヒト心臓細胞(すなわち、対応する遺伝子の別名はTNNC1である、心筋トロポニンC遺伝子を発現するヒト細胞)の圧縮組織である。
【0016】
優先的に、本発明によるヒト心臓細胞の圧縮組織は、圧縮組織を形成する細胞の全数に対して、数で少なくとも50%、更により優先的に少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%の、心筋トロポニンCを発現する細胞の含有量を有し、この含有量は90%を超えることが可能である。優先的に、本発明によるヒト心臓細胞の圧縮組織は、圧縮組織を形成する細胞の全数に対して、数で少なくとも50%、更により優先的に少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%の、アルファ-アクチニンを発現する細胞の含有量を有し、この含有量は90%を超えることが可能である。優先的に、本発明によるヒト心臓細胞の圧縮組織は、圧縮組織を形成する細胞の全数に対して、数で少なくとも50%、更により優先的に少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%の、トロポニンC及びアルファ-アクチニンを発現する細胞の含有量を有し、この含有量は90%を超えることが可能である。
【0017】
先行技術において、Jing Donghui et al.「Cardiac cell generation from encapsulated embryonic stem cells in static and scalable culture systems」,Cell Transplantation,col.19,no 11,1 November 2010,pages 1397-1492は、ポリリシンでコーティングされたアルギン酸ビーズにマウス又はヒトESCを封入し、次いで、クエン酸ナトリウム溶液中でのインキュベーションによるコアの溶解によって得られる心臓組織を報告した。胚性幹細胞を使用して実証されたこの解決策は、得られた組織の純度、特に心筋トロポニンCを発現する細胞の含有量が20%未満であり、治療使用を考慮するには不十分であり、満足のいくものではない。組織中に細胞不純物が多すぎると、当該組織は、心筋に望ましくない細胞を導入することによって患者にリスクを与え、その正しい機能を混乱させるリスクを、特にその電気伝導率及び/又は収縮性を混乱させることによって伴う。加えて、この論文に報告されている濃度でのポリリシンの使用は、細胞に対して毒性のリスクを示す。
【0018】
同様に、Koivisto Janne T.et al.「Mechanically Biomimetic Gelatin-Gellan Gum Hydrogels for 3D Culture of Beating Human Cardiocytes」,Applied Materials & Interfaces,vol.11,no.23,12 June 2019,pages 20589-20602は、細胞の組織化に利用可能な空間を有さないヒドロゲル内での細胞の封入を報告しており、ヒドロゲルを機械的に加圧する細胞増殖の後にはなおさらそうである。微小区画における封入はなく、これは好適な収縮周波数をもたらさず、治療使用に十分な含有量の心筋トロポニンCを発現する細胞ももたらさない。
【0019】
本発明による心臓組織は、従来技術とは異なる特定の方法によって得られ、少なくとも50%、優先的に少なくとも75%の、心筋トロポニンC及び/又はアルファ-アクチニンを発現する細胞の含有量を有する心臓組織を得ることを可能にする。実際、本発明による構成は、分化を受けながら、保護された内腔内の自己分泌/パラ分泌シグナルの伝達を可能にし、これは、細胞がインビボ構造の生体模倣である手段で自己組織化することを可能にする。この構造は、極めて脆弱であり、Koivisto Janne T.et alで報告されているものとは対照的に、機械的保護及び利用可能な空間の両方を必要とする。本発明によれば、この構成は、閉じ込められたシステムでも保護されていないシステムでも確立することができない。実際に、心臓分化は、従来システムにおいてインビボで再生することが困難なことは有名であり(3D及び2Dの両方、特に、https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S2213671118301504で実証されている)、これは細胞環境の不完全な制御を反映している。非自明な驚くべき手段で、本発明は、環境の制御された構造化を、保護された自己組織化の形態で提案し、培養システムにおける小さな変動に対するより低い感受性、したがってより高い再現性を可能にする。
【0020】
有利には、これらの心臓組織は、そのままか又は細胞への解離後に使用され、細胞療法における使用に好適である。特に、これらの組織は、虚血性心臓組織を再生するために使用することができる。
【0021】
そのため、本発明は、病態、特に心臓病態の予防及び/又は治療におけるそれらの使用のために、そのままか又は細胞への解離後に、当該組織を標的にする。
【0022】
ヒト心臓細胞のこの圧縮組織を得るために、一実施形態により、重要な発生中間体、すなわち、少なくとも1つの内腔の周りに連続して組織化された、
-心臓細胞への細胞分化を受け、PDGFRα、MESP-1、NKX2-5、GATA4、MEF2C、TBX20、ISL1、及びTBX5から選択される少なくとも1つの遺伝子を発現する、ヒト細胞の少なくとも1つの内層であって、可変的な厚さを有する、内層と、
-等張水溶液の少なくとも1つの中間層と、
-少なくとも1つの外部ヒドロゲル層と、を含む三次元(3D)細胞微小区画を介して進めることが可能である。
【0023】
そのため、この種の微小区画は、心臓分化における中間段階に関連する遺伝子PDGFRa/MESP1/NKX2-5/GATA4/MEF2C/TBX20/ISL1/TBX5の発現を伴う、細胞分化を受けている細胞を含む。この構成(特定の厚さ特性を有する心臓分化を受けるヒト細胞の層、等張水溶液の層、及び少なくとも1つのヒドロゲル層が連続して周囲に組織化されている1つ以上の内腔)は、新規である。実際、hPSCを心筋細胞に分化させるためのいくつかの既知のプロトコルが存在し、これらのプロトコルは、Wnt(Wingless及びInt-1)経路を調節することに部分的又は完全に基づいている(Dunn,K.K.& Palecek,S.P.Engineering scalable manufacturing of high-quality stem cell-derived cardiomyocytes for cardiac tissue repair.Front.Med.5,(2018))。hPSCの指示された心臓分化の間、細胞は、中胚葉、心臓中胚葉、心臓前駆細胞、及び最終的に心筋細胞へのそれらの移行中に形態学的な変化を受ける。2D hPSC培養において、これらの変化は、異なる形態学に関連することが知られている(Palpant,N.J.et al.Generating high-purity cardiac and endothelial derivatives from patterned mesoderm using human pluripotent stem cells.Nat.Protoc.12,15-31(2017))。これらの形態学的変化は、3D培養システムにおいて十分に報告されておらず、本発明の主題である形態は今まで得られておらず、報告されていない。そのため、これは有利なことに、損傷した心臓組織を再生するためにそれらを使用できる特性を有する大量の圧縮組織を得ることを可能にする。
【0024】
外部ヒドロゲル層及び等張水溶液の中間層の存在は、微小区画間の細胞の均一な分布を可能にする。そのため、微小区画間の均質性は、hPSCの事前の封入によって大きく改善され、既存の方法と比較して増加した収量及び質を可能にする。更に、このヒドロゲル層は、微小区画が融合するのを防止することを可能にし、これらの融合事象は、表現型の均質性及びバイオリアクタ中で産生される心臓細胞の生存にとって好ましくない変動性の主な原因である。
【0025】
加えて、心臓分化に使用されるWnt経路の調節は、β-カテニンの分解に関連しており(Lam,A.T.L.et al.Conjoint propagation and differentiation of human embryonic stem cells to cardiomyocytes in a defined microcarrier spinner culture.Stem Cell Res.Ther.5,1-15(2014))、β-カテニンは、細胞-細胞接着複合体における役割を演じる分子である(Brembeck,F.H.,Rosario,M.& Birchmeier,W.Balancing cell adhesion and Wnt signaling,the key role ofβ-catenin.Curr.Opin.Genet.Dev.16,51-59(2006))。有利なことに、微小区画の形態は、Wnt経路の調節によって誘導される細胞-細胞接着の脆弱性にもかかわらず、心臓分化を受けている細胞を保護することを可能にする。
【0026】
他の特徴及び利点は、本発明の詳細な説明及び以下の実施例から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1a】
図1bに示される写真に対応する、本発明による圧縮心臓組織の断面
図22の概略描写であり、外部ヒドロゲル層12、等張水溶液の層14、分化した心臓細胞の圧縮組織20を有する。
【
図1b】
図1aの概略図に対応する倍率4×で撮影した、微小区画における本発明による圧縮組織の位相差顕微鏡画像である。
【
図1c】微小区画における本発明による圧縮組織の倍率4×で撮影した位相差顕微鏡画像を示す。
【
図2a】
図2bに示される写真に対応する細胞微小区画10の断面図の概略描写であり、外部ヒドロゲル層12、等張水溶液の層14、最大厚さt2及び最小厚さt1を有する心臓分化を受けているヒト細胞の層16、並びに内部内腔18を有する。
【
図2b】
図2aの概略図に対応する倍率4×で撮影した微小区画の位相差顕微鏡画像である。
【
図3a】
図3bに示される写真に対応する細胞微小区画10の断面図の概略描写であり、外部ヒドロゲル層12、等張水溶液の層14、最大厚さt2及び最小厚さt1を有する心臓分化を受けているヒト細胞の層16、並びに2つの内部内腔18-1及び18-2を有し、S1は、等張水溶液の層14の厚さを表す。
【
図3b】
図3aの概略図に対応する倍率4×で撮影した微小区画の位相差顕微鏡画像である。
【
図3c】倍率4×で撮影した複数の微小区画の位相差顕微鏡画像であり、各微小区画は異なる形態を有する。
【
図4a】
図4bに示される写真に対応する細胞微小区画10の断面図の概略描写であり、外部ヒドロゲル層12、等張水溶液の層14、最大厚さt2及び最小厚さt1を有する心臓分化を受けているヒト細胞の層16、並びに2つの内部内腔18-1及び18-1を有し、s1は、等張水溶液14の層の厚さを表す。
【
図4b】
図4aの概略図に対応する倍率4×で撮影した微小区画の位相差顕微鏡画像である。
【
図5】-倍率4×の標準的な卓上顕微鏡で、一連の位相差顕微鏡画像(1秒当たり少なくとも30画像の頻度)から得られた組織及び/又は細胞の拍動周波数を示すグラフ、並びに -分化開始時の、封入されたか(最も外側)又は遊離の幹細胞、及び分化開始の約2週後の本発明による圧縮組織を示す、倍率4×で撮影した位相差顕微鏡画像(A1:カプセルを伴わない幹細胞集合体、A2:これらの集合体に由来する圧縮心臓組織、B1:封入における圧縮心臓組織。B2:分化を受けている心臓細胞を含有する微小区画、B3:封入された幹細胞)を含む。
【
図6】-倍率4×の標準的な卓上顕微鏡で、一連の位相差顕微鏡画像(1秒当たり少なくとも30画像の頻度)から得られた組織及び/又は細胞の拍動周波数を示すグラフ、並びに -倍率4×で撮影した位相差顕微鏡画像、を含む。左側の画像は、封入されたhiPSCからカプセル中で分化した圧縮心臓組織を示す。右側の画像は、本発明による圧縮心臓組織を解離することによって得られた細胞を示す。
【
図7】倍率4×で撮影した位相差顕微鏡画像を含む。上の列の3つの画像(a、b、及びc)は、封入した細胞の画像である。下の列の3つの画像(d、e、及びf)は、封入されていない細胞の画像である。左列の画像(a及びd)は、心臓細胞への分化の開始時に誘導された幹細胞を示す。中央列の画像(b及びe)は、分化の開始から3~7日後に心臓細胞への細胞分化を受けているヒト細胞を示す。右列の画像(c及びf)は、分化した心臓組織を示す。
【
図8】心筋トロポニンCを発現する組織(
図7c及び
図7fのように得られた)における細胞の割合を示すグラフであり、左は、本発明による封入した組織(画像7c)であり、右は、封入されていない組織(画像7f)である。
【
図9】組織における分化の開始(
図7a及び
図7dのように得られた)の間の細胞増幅のレベルを示すグラフであり、左は、本発明により封入されており、右は、封入されていない。
【発明を実施するための形態】
【0028】
定義
本発明の目的において、「アルギン酸」は、β-D-マンヌロン酸及びα-L-グルロン酸から形成される直鎖多糖類、それらの塩、及び誘導体を意味する。
【0029】
本発明の目的において、「ヒドロゲルカプセル」は、液体、優先的に水を使用して膨潤したポリマー鎖のマトリクスから形成される三次元構造を意味する。
【0030】
本発明の目的において、「遺伝子を発現する細胞」は、多能性細胞と比較して、問題の遺伝子のDNA配列から転写されたRNAの少なくとも5倍多いコピー、優先的に10倍多いコピー、優先的に20倍多いコピー、優先的に100倍多いコピーを含有する細胞を意味する。
【0031】
本発明の目的において、「ヒト細胞」は、ヒト細胞又は免疫学的にヒト化された非ヒト哺乳動物細胞を意味する。これが特定されない場合であっても、本発明による細胞、幹細胞、前駆細胞、及び組織は、ヒト細胞から、若しくは免疫学的にヒト化された非ヒト哺乳動物細胞からなるか、又はそれらから得られる。
【0032】
本発明の目的において、「前駆細胞」は、心臓細胞への細胞分化が既に約束されているが、まだ分化していない幹細胞を意味する。
【0033】
本発明の目的において、「胚性幹細胞」は、胚盤胞の内部細胞塊に由来する細胞の多能性幹細胞を意味する。胚性幹細胞の多能性は、転写因子OCT4、NANOG、及びSOX2などのマーカー、並びにSSEA3/4、Tra-1-60、及びTra-1-81などの表面マーカーの存在によって評価することができる。本発明の文脈において使用される胚性幹細胞は、例えば、Chang et al.(Cell Stem Cell,2008,2(2)):113-117)に記載される技法を使用して、それらが由来する胚を破壊することなく得られる。任意選択的に、ヒトからの胚性幹細胞を除外することができる。
【0034】
本発明の目的において、「多能性幹細胞」又は「多能性細胞」は、起源の生物全体に存在する全ての組織を形成する能力を有する細胞を意味するが、生物全体自体を形成することができることはない。ヒト多能性幹細胞は、本出願においてhPSCと呼ぶことができる。これらは、特に、誘導多能性幹細胞(iPSC又はヒト誘導多能性幹細胞についてhiPSC)、胚性幹細胞、又はMUSE細胞(「多系列分化ストレス耐性」について)であり得る。
【0035】
本発明の目的において、「誘導多能性幹細胞」は、分化した体細胞の遺伝子再プログラミングによって多能性になるように誘導された多能性幹細胞を意味する。これらの細胞は、特に、アルカリホスファターゼによる染色並びにタンパク質NANOG、SOX2、OCT4、及びSSEA3/4の発現などの多能性マーカーについて陽性である。誘導多能性幹細胞を得るための方法の例は、Yu et al.(Science 2007,318(5858):1917-1920)、Takahashi et al(Cell,207,131(5):861-872)、及びNakagawa et al(Nat Biotechnol,2008,26(1):101-106)による論文に記載されている。
【0036】
本発明の目的において、「分化した心臓細胞」は、心筋細胞の表現型を有する細胞、すなわち、TNNC1(心筋トロポニンC遺伝子)及びACTN2(アルファ-アクチニン遺伝子)などの特異的マーカーを発現し、細胞内カルシウムシグナルに自発的手段で(未成熟心臓細胞の場合)、又は当該カルシウムシグナルを誘発することができる電気的若しくは化学的刺激に続いて応答して、自発的に収縮することができる細胞を意味する。
【0037】
本発明の目的において、「分化した」細胞は、分化していない多能性幹細胞とは対照的に、特定の表現型を有する細胞を意味する。
【0038】
本発明による圧縮心臓組織又は微小区画の「フェレ径」は、当該圧縮組織又は当該微小区画に対する2つの接線の間の距離「d」を意味し、これらの2つの接線は平行であり、それによって、当該圧縮組織又は当該微小区画の突出の全体が、これらの2つの平行した接線の間に含まれる。
【0039】
本発明の目的において、細胞分化を受けているヒト細胞の内層の「可変的な厚さ」は、同じ微小区画において、内層が全体にわたって同じ厚さを有さないことを意味する。
【0040】
本発明の目的において、心臓における「埋め込み」又は「移植」は、心臓における特定の位置に、本発明による少なくとも1つの圧縮組織を沈着させる行為を意味する。埋め込みは、任意の手段によって、特に注入によって実行することができる。
【0041】
本発明の目的において、「微小区画」又は「カプセル」は、少なくとも1つの細胞を含有する、部分的に又は完全に閉じた三次元構造を意味する。
【0042】
本発明の目的において、「対流培養培地」は、内部運動によって撹拌される培養培地を意味する。
【0043】
本発明の目的において、本発明による圧縮心臓組織又は微小区画の「最大寸法」は、当該圧縮組織又は当該微小区画の最大フェレ径の値を意味する。
【0044】
本発明の目的において、本発明による圧縮心臓組織又は微小区画の「最小寸法」は、当該圧縮組織又は当該微小区画の最小フェレ径の値を意味する。
【0045】
本発明の目的において、「組織」又は「生物学的組織」は、生物学における組織についての一般的な意味、すなわち、細胞と器官の間の中間の組織化レベルを有する。組織は、クラスタ、ネットワーク、又はバンドル(繊維)に分類される、同じ起源の一連の類似細胞である(一般に、共通の細胞株に由来するが、それらは異なる細胞株の会合に由来し得る)。組織は、機能的集合体を形成し、すなわち、その細胞が同じ機能に寄与する。生物学的組織は規則的に再生し、一緒に集合して器官を形成する。
【0046】
本発明の目的において、「圧縮組織」又は「圧縮心臓組織」又は「心臓細胞の圧縮組織」は、分化した心臓細胞から少なくともなる、少なくとも1つの心臓組織を含む組織単位を意味する。組織は、少なくとも部分的に圧縮されており、すなわち、主に細胞からなり、特に、その体積は、50%を超える細胞、優先的に75%の細胞、優先的に90%の細胞からなる。組織は、完全に圧縮することができ、すなわち、内腔がもはや検出できないか、かつ/又は内腔が存在しない。本発明による圧縮組織は、微小組織と称することができる。
【0047】
本発明の目的において、「内腔」は、細胞によって形態的に囲まれた水溶液の体積を意味する。優先的に、その内容物は、微小区画の外側に存在する対流液体の体積と拡散平衡にない。
【0048】
三次元圧縮心臓組織
したがって、本発明の主題は、心筋トロポニンC及び優先的にまたアルファ-アクチニンを発現するヒト心臓細胞(すなわち、対応する遺伝子の別名がTNNC1である、心筋トロポニンC遺伝子を発現するヒト細胞)の圧縮組織である。
【0049】
したがって、本発明による組織は、心筋トロポニンC及び優先的にアルファ-アクチニンを発現する、少なくとも分化した心臓細胞を含むヒト組織である。本発明による圧縮組織はまた、他の細胞型を含有することができる。
【0050】
組織は、優先的に、少なくとも1つの内腔を含む心臓細胞及び/又は心臓分化を受けている細胞の組織から、当該内腔の全体的又は部分的な除去による当該組織の圧縮(「二次的」圧縮)を含む方法によって得られている。
【0051】
この圧縮組織は収縮性であり、4Hz未満、優先的に2Hz未満、更により優先的に1.7Hz未満、特に1Hz未満、特に0.5Hz未満の自発的収縮周波数を有する。有利には、それは0.25Hz未満であり得る。組織のこの収縮周波数は低く、これは、心臓へのその埋め込みのための重要な利点である。実際、かかる周波数は、本発明による圧縮組織が治療される心臓に移植されるとき、不整脈を防止することを可能にする。
【0052】
成人の平均心拍数は、60~100拍/分(1~1.7Hz)である。本発明による圧縮心臓組織の低い収縮周波数は、これらの組織から得られた組織又は細胞の移植中の不整脈のリスクを低下させる。一実施形態によれば、患者(レシピエント)の心拍数よりも低い本発明による組織の自発的拍動周波数で、この不整脈のリスクは更に低下される。
【0053】
自発的拍動周波数における低下は、ヒト幹細胞に由来する心筋細胞の成熟に関連しており、3D培養環境が、心筋細胞の成熟を改善する。本発明により、封入はまた、圧縮心臓組織の収縮周波数を低下させることを可能にする。
図5は、所与の出発細胞集団について、(封入されたヒト多能性幹細胞から)微小区画/カプセル内で分化した心筋細胞が、同じプロトコル(及びヒト多能性幹細胞の同じ初期バッチ)を使用するが自由に浮遊した培養で分化した心筋細胞よりも遅い自発的拍動速度を有することを示す。そのため、封入された幹細胞からの心筋細胞への分化は、自発的収縮周波数を低下させる。
【0054】
ヒト多能性幹細胞は、心臓分化プロセス中にシグナル伝達分子を分泌し、分化の成功のために必要な特異的パラ分泌微小環境を生成する(Kempf,H.et al.Bulk cell density and Wnt/TGFbeta signalling regulate mesendodermal patterning of human pluripotent stem cells.Nature Communications 7,(2016))。カプセルの存在は、これらのパラ分泌因子の局所濃度を増加及び維持するのに役立ち、分化表現型を改善し、自発的拍動周波数の低下をもたらす。
【0055】
組織のこの収縮周波数は低く、これは、心臓へのその埋め込みのための重要な利点である。実際、かかる周波数は、本発明による圧縮組織が治療される心臓に移植されるとき、不整脈を防止することを可能にする。
【0056】
本発明による圧縮心臓組織は、数ヶ月間、自発的に収縮を続けることができる。そのため、産物は経時的に安定である。
【0057】
有利には、本発明による心臓組織は、圧縮組織を形成する細胞の全数に対して、数で少なくとも50%、更により優先的には少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも90%の、心筋トロポニンCを発現する細胞の含有量を有する。心筋トロポニンCを発現する細胞のこの高い含有量は、細胞療法における本発明による心臓組織の使用を想定するのに有利である。
【0058】
優先的に、本発明によるヒト心臓細胞の圧縮組織は、圧縮組織を形成する細胞の全数に対して、数で少なくとも50%、更により優先的に少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%の、アルファ-アクチニンを発現する細胞の含有量を有し、この含有量は90%を超えることが可能である。アルファ-アクチニンを発現する細胞のこの高い含量は、細胞療法における本発明による心臓組織の使用を想定するのに有利である。
【0059】
優先的に、本発明によるヒト心臓細胞の圧縮組織は、圧縮組織を形成する細胞の全数に対して、数で少なくとも50%、更により優先的に少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%の、トロポニンC及びアルファ-アクチニンを発現する細胞の含有量を有し、この含有量は90%を超えることが可能である。心筋トロポニンC及びアルファ-アクチニンの両方を発現する細胞のこの高い含有量は、細胞療法における本発明による心臓組織の使用を想定するのに有利である。
【0060】
図7、
図8、及び
図9は、所与の出発細胞集団について、少なくとも1つの内腔の存在を伴う分化を受ける段階、次いで二次圧縮を介して進行する微小区画/カプセル内で得られた組織が、同じプロトコル(及びヒト多能性幹細胞の同じ初期バッチ)を使用するが自由に浮遊した培養を使用して分化した組織と比較して、はるかに多い含有量のトロポニンCを発現する細胞を有することを示す。そのため、微小区画における心筋細胞への分化及び/又は二次圧縮を含む方法を使用した心筋細胞への分化は、心臓組織の質を増加させることを可能にし、したがって、細胞療法におけるそれらの使用の可能性を改善する。
【0061】
本発明による圧縮心臓組織は、任意の好適な方法によって得ることができる。一実施形態により、それは、心臓分化を受けているヒト細胞の少なくとも1つの細胞微小区画から、当該微小区画の内腔の全体的又は部分的な除去によるヒト細胞の層の圧縮を含む方法を使用して得ることができる。優先的に、ヒト心臓細胞の圧縮組織は、前述の方法によって得られる。
【0062】
本発明によるヒト心臓細胞の圧縮組織は、外部ヒドロゲル層に完全に又は部分的に封入することができる。ヒドロゲルカプセルは、心臓分化を受けているヒト細胞の微小区画が由来するものであり得るか、又はそれは、初期ヒドロゲル層が除去されており、次いで再封入が本方法の任意の段階で行われている場合、新たなヒドロゲル層であり得る。
【0063】
本発明によるヒト心臓細胞の圧縮組織の封入は、組織を保護し、4Hz未満、優先的に2Hz未満、更により優先的に1Hz未満、特に0.5Hz未満、更には0.25Hz未満の自発的収縮周波数を維持することを可能にする。収縮周波数を制限するメカニズムは、i)心臓細胞の細胞質の電気的連続性を作り出すこと、ii)及び/又は圧縮組織の細胞間隙における細胞当たりの利用可能なカルシウムの量を制限すること、iii)及び/又は心臓細胞の細胞骨格要素の機械的連続性に関連する機械的強度、を介する3D構造化に関連し得る。本発明による圧縮心臓組織の封入はまた、圧縮組織のサイズを制御することを可能にし、心臓に注入されるときに、特に単一細胞の注入と比較して、細胞保持、統合、及び生存を改善し、それによって、本発明による圧縮組織を用いた心臓細胞療法の有効性を増加させる。
【0064】
一実施形態により、本発明によるヒト心臓細胞の圧縮組織は、外部ヒドロゲル層に封入されない。特に、カプセルは、移植に続いて圧縮組織の細胞が心臓に埋め込まれることを可能にするために、使用前に優先的に除去される。優先的に、使用されるヒドロゲルは生体適合性であり、すなわち細胞に対して非毒性である。一実施形態により、外部ヒドロゲル層は、少なくともアルギン酸を含む。それは、排他的にアルギン酸からなり得る。アルギン酸は、特にアルギン酸ナトリウムであることができ、80%α-L-グルロン酸及び20%β-D-マンヌロン酸から構成され、100~400kDaの平均分子量及び0.5~5重量%の総濃度を有する。外層は、閉じているか、又は部分的に閉じている。
【0065】
本発明によるヒト心臓細胞の圧縮組織は、優先的に、等張水溶液の層によって全体的又は部分的に囲まれている。この等張水溶液の層は、圧縮心臓組織が封入されている場合、ヒト心臓細胞の圧縮組織とヒドロゲル層との間に配置される。等張水溶液の層は、優先的に、インテグリンに結合することができるペプチド又はペプチド模倣配列を含有する。「等張水溶液」は、200~400mOsm/Lのモル浸透圧濃度を有する水溶液を意味する。この等張水溶液は、優先的に、インテグリンに結合することができるペプチド又はペプチド模倣配列を含有する。それは特に、細胞外マトリクス又は培養培地であり得る。それが細胞外マトリクスである場合、それは、内層の細胞によって分泌された細胞外マトリクス及び/又は添加された細胞外マトリクスからなり得る。中間層は、ゲルを形成し得る。それは、心臓分化を受けている細胞を培養するために必要なタンパク質及び細胞外化合物の混合物を優先的に含む。優先的に、水溶液は、コラーゲン、ラミニン、エンタクチン、ビトロネクチンなどの構造タンパク質、並びにTGF-ベータ及び/又はEGFなどの成長因子を含む。一変形形態により、中間層は、Matrigel(登録商標)及び/あるいはGeltrex(登録商標)及び/あるいは修飾アルギン酸などの植物由来、若しくは合成由来のヒドロゲル型マトリクス、又はMebiol(登録商標)型のポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)とポリ(エチレングリコール)とのコポリマー(PNIPAAm-PEG)からなるか、又はそれられを含み得る。
【0066】
等張水溶液と接触している圧縮組織の表面で、細胞外マトリクスは、任意選択的に、1つ以上の細胞を含有し得る。
【0067】
本発明による圧縮組織の周囲の等張水溶液の層の厚さは、優先的に30nm~300μm、更により優先的に30nm~50μmである。
【0068】
本発明による圧縮心臓組織は、三次元である。それは、優先的に、球状又は細長い形状を有する。好ましい実施形態により、ヒト心臓細胞の圧縮組織は、回転楕円体、卵形、円柱、又は球の形状を有する。
【0069】
本発明による圧縮組織の例が、
図1に示される。この例において、本発明による圧縮組織は、等張水溶液の層及び外部ヒドロゲル層によって囲まれている。
【0070】
それは、好ましくは、10μm~1mm、優先的に100μm~700μmの直径又は最小寸法を有する。この最小寸法は、その生存のために、特に、心臓組織内の心臓細胞の生存を促進し、心臓における埋め込み後の心臓組織の再組織化並びに血管新生を最適化するために重要である。
【0071】
その最大寸法は、優先的に10μm超、より優先的に10μm~1m、更により優先的に10μm~50cmである。一実施形態により、最大寸法は臓器のサイズに一致しており、したがって30cm未満(10μm~30cm)である。
【0072】
制御された数の幹細胞の封入及び/又は再封入は、得られる心臓組織の所望のサイズ及び形状を制御することを可能にする。そのため、本発明による心臓組織のサイズは、想定される治療使用に応じて変えることができる。
【0073】
本発明によるヒト心臓細胞の圧縮組織は、その保存に有利なように凍結することができる。
【0074】
有利には、本発明は、大量の質の良いヒト心臓組織を産生することを、多能性細胞の心臓細胞への分化によるそれらの産生にわたって、組織単位を保護することによって可能にする。
【0075】
本発明による心臓細胞の圧縮組織は、細胞に解離させることができる。解離は、当業者に既知の従来の方法に従って、特に、細胞を分離することを可能にする酵素溶液を使用して実行することができる。使用される酵素は、例えば、トリプシン、コラゲナーゼ、アキュターゼ、及びそれらの混合物から選択することができる。解離された細胞は、優先的に、懸濁液中で使用されるか、又はゲル、例えばパッチにおけるコラーゲンゲル中に組み込まれる。
【0076】
圧縮心臓組織を得るための方法
本発明による心臓組織は、任意の好適な方法によって得ることができる。
【0077】
特定の実施形態により、本発明による圧縮心臓組織は、心臓分化を受けているヒト細胞の微小区画から得られる。
【0078】
これは、特に、少なくとも1つの内腔の周りに連続して組織化された、
-心臓細胞への細胞分化を受けており、PDGFRα、MESP-1、NKX2-5、GATA4、MEF2C、TBX20、ISL1、及びTBX5から選択される少なくとも1つの遺伝子を発現する、ヒト細胞の少なくとも1つの内層(「内層」と称される)と、
-等張水溶液の少なくとも1つの中間層(「中間層」と称される)と、
-少なくとも1つの外部ヒドロゲル層(「外層」と称される)と、を含む、細胞微小区画であり得る。
【0079】
したがって、微小区画は、細胞の少なくとも1つの内層を含む三次元構造である。これらの細胞は、心臓細胞への細胞分化を受けている生きたヒト細胞である。この細胞の層は、微小区画において三次元で組織化される。
【0080】
微小区画に存在する心臓分化を受けているヒト細胞は、PDGFRα、MESP-1、NKX2-5、GATA4、MEF2C、TBX20、ISL1、及びTBX5から選択される少なくとも1つの遺伝子を発現する細胞である。これらの遺伝子は、分化を受けている心臓細胞に特異的である。優先的に、微小区画に存在する心臓分化を受けているヒト細胞は、これらの遺伝子の少なくとも2つを発現する。変形形態により、微小区画に存在する心臓分化を受けているヒト細胞は、これらの遺伝子の全てを発現する。
【0081】
心臓細胞への細胞分化を受けているヒト細胞の内層は、可変的な厚さを有する。微小区画内で、ヒト細胞の内層及び内腔は、三次元細胞体を一緒に形成する。細胞の内層の最小厚さ及び最大厚さが、この細胞体の幾何学的中心を通るセグメントに沿って測定される場合、最小厚さに対する最大厚さの比は、2以上である。内層の厚さは、細胞体の幾何学的中心を通るセグメントに沿って、
-a.
*内層及び中間層の境界面と、
*内層及び内腔の境界面と、の間、
並びに/又は
-b.
*内層及び内腔の境界面と、
*内層及び別の内腔の境界面と、の間、で測定される。
【0082】
図2、
図3、及び
図4は、かかる細胞微小区画10の例を示し、外部ヒドロゲル層12、等張水溶液の層14、1つ以上の内部内腔18、18-1、18-2、最大厚さt2及び最小厚さt1を有する心臓分化を受けているヒト細胞の層16(厚さは、層16及び内腔18、18-1、18-2によって形成されるこの細胞体の幾何学的中心を通るセグメント22に沿って測定される)を有し、t2/t1比は2よりもはるかに大きい。
【0083】
図2では、内腔18は1つのみであり、結果として、内層の厚さは、層16及び内腔18によって形成される細胞体の幾何学的中心を通るセグメント22に沿って、内層及び中間層の境界面と、内層及び内腔18の境界面との間で測定される。
【0084】
図3及び
図4では、2つの内腔18-1及び18-2があり、結果として、内層の厚さは、層16及び内腔181-18-2によって形成される細胞体の幾何学的中心を通るセグメント22に沿って、
-内層及び中間層の境界面と、内層及び内腔18-1の境界面との間、並びに
-内層及び中間層の境界面と、内層及び内腔18-2の境界面との間、並びに
-内層及び内腔18-1の境界面と、内層及び内腔18-2の境界面との間、で測定される。
【0085】
内層の心臓細胞への細胞分化を受けているヒト細胞の数は、優先的に1~100,000個の細胞、更により優先的に50~50,000個の細胞、特に500~25,000個の細胞である。
【0086】
内層の心臓細胞への細胞分化を受けているヒト細胞は、多能性幹細胞、特にヒト多能性幹細胞から、又は任意選択的に、転写プロファイルが心臓前駆体又は心臓細胞のものと一致するように人工的に改変された非多能性ヒト細胞から、典型的には標的細胞表現型に特異的な転写因子を発現させることによって優先的に得られた。優先的に、内層のヒト細胞は、ヒト多能性幹細胞から、当該幹細胞の分化を開始することができる溶液と接触させた後に得られた。
【0087】
等張水溶液の中間層は、優先的に、インテグリンに結合することができるペプチド又はペプチド模倣配列を含有する。「等張水溶液」は、200~400mOsm/Lのモル浸透圧濃度を有する水溶液を意味する。この層は、細胞の内層と外部ヒドロゲル層との間に配置される。
【0088】
中間層は、微小区画の産生中に添加されている要素、及び/又は微小区画に添加された要素、及び/又は微小区画の他の成分によって分泌若しくは誘導された要素、からなり得る。
【0089】
中間層は、特に、細胞外マトリクス及び/若しくは培養培地を含み得るか、又はそれらからなり得る。それが細胞外マトリクスを含む場合、これは、内層の細胞によって分泌される細胞外マトリクス及び/又は微小区画の調製/産生時に添加される細胞外マトリクスであり得る。
【0090】
中間層は、心臓分化を受けている細胞を培養するために必要なタンパク質及び細胞外化合物の混合物を優先的に含む。優先的に、中間層は、コラーゲン、ラミニン、エンタクチン、ビトロネクチンなどの構造タンパク質、並びにTGF-ベータ及び/又はEGFなどの成長因子を含む。一変形形態により、中間層は、Matrigel(登録商標)及び/あるいはGeltrex(登録商標)及び/あるいは修飾アルギン酸などの植物由来、若しくは合成由来のヒドロゲル型マトリクス、又はMebiol(登録商標)型のポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)とポリ(エチレングリコール)とのコポリマー(PNIPAAm-PEG)からなるか、又はそれらを含み得る。
【0091】
一変形形態により、中間層は、ゲルを形成し得る。
【0092】
分化を受けているヒト細胞の内層と接触している中間層の表面で、細胞外マトリクスは、任意選択的に、1つ以上の細胞を含有し得る。
【0093】
微小区画内の中間層の厚さ(
図2及び
図3でS1として示される)は、優先的に30nm~300μm、更により優先的に30nm~50μmである。
【0094】
中間層の存在は、本発明により、微小区画内の要素の構造化を促進する。
【0095】
微小区画及び微小区画内で心臓分化を受けている細胞の内層は、中空である。実際、微小区画は常に、微小区画の中空部分を構成する少なくとも1つの内腔を含む。内腔は、液体、特に培養培地(例えば、B27サプリメントを添加したRPMI基礎培地)及び/又は内層の細胞によって分泌された液体を含有する。有利には、この中空部分の存在は、細胞が組成を制御することができる小さな拡散体積を有することを可能にし、自己分泌/パラ分泌細胞伝達と称されるものを促進し、これは次に心臓分化に好都合である。
【0096】
一実施形態により、
図3及び
図4に示されるように、微小区画は、複数の内腔、少なくとも2つの内腔を含み得る。この状況は、自己分泌及びパラ分泌シグナルに関して、単一の内腔の存在と同じ利点を有し、(体積当たりの細胞)/(細胞)の比が幾何学的に低くなるため、内腔の水溶液の組成を制御する細胞の能力を増加させる。更に、かかる構成の安定化は、微小区画によって提供される機械的保護を実証する。
【0097】
内腔は、優先的に、微小区画の体積の10%~90%に相当する。
【0098】
微小区画は、外部ヒドロゲル層を含む。優先的に、使用されるヒドロゲルは生体適合性であり、すなわち細胞に対して非毒性である。ヒドロゲル層は、微小区画に含有される細胞を供給し、かつそれらが生存することを可能にするために、酸素及び栄養素の拡散を可能にしなければならない。一実施形態により、外部ヒドロゲル層は、少なくともアルギン酸を含む。それは、排他的にアルギン酸からなり得る。アルギン酸は、特にアルギン酸ナトリウムであることができ、80%α-L-グルロン酸及び20%β-D-マンヌロン酸から構成され、100~400kDaの平均分子量及び0.5~5重量%の総濃度を有する。
【0099】
ヒドロゲル層は、細胞を外部環境から保護し、細胞の制御されない増殖を制限することを可能にし、心臓分化を受けている細胞への、次いで心臓細胞への、少なくとも心筋細胞へのそれらの制御された分化を可能にする。
【0100】
外層は、閉じているか、又は部分的に閉じている。したがって、微小区画は、閉じているか、又は部分的に閉じている。好ましくは、微小区画は閉じている。
【0101】
微小区画は、任意の三次元形態であり得、すなわち、空間内の任意の物体の形状を有し得る。優先的に、微小区画は、球状又は細長い形状である。それは、特に、中空の回転楕円体、中空の卵形、中空の円柱、又は中空球の形態にあり得る。
【0102】
それは微小区画の外層、すなわちヒドロゲル層であり、微小区画にそのサイズ及び形状を与える。優先的に、微小区画の最小寸法である直径は、10μm~1mm、優先的に100μm~700μmである。それは、10μm~600μm、特に10μm~500μmであり得る。この最小寸法は、特に、心臓組織内の心臓細胞の生存を促進し、心臓における埋め込み後の心臓組織の再組織化並びに血管新生を最適化するために、微小区画から得られる三次元心臓組織の生存にとって重要である。
【0103】
その最大寸法は、優先的に10μm超、より優先的に10μm~1m、更により優先的に10μm~50cmである。一実施形態により、最大寸法は臓器のサイズに一致しており、したがって30cm未満(10μm~30cm)である。
【0104】
微小区画は、分化したヒト心臓細胞からなる、三次元圧縮心臓組織を得るために特に有用である。
【0105】
微小区画は、任意選択的に、保存のために凍結され得る。次いで、心臓細胞の成熟を継続し、本発明による圧縮心臓組織を得るために、それを解凍しなければならない。
【0106】
微小区画は、優先的に、培養培地中、特に少なくとも部分的に対流培養培地中で、一連で(少なくとも2つの微小区画)使用される。特に好適な実施形態により、本発明の主題である圧縮心臓組織は、バイオリアクタなどの閉鎖チャンバ内で、優先的にバイオリアクタなどの閉鎖チャンバ内の培養培地中で、前述のような一連の細胞微小区画から得られる。
【0107】
前述のような微小区画、及び圧縮心臓組織を得るために使用され得る微小区画は、特に以下に記載される方法によって得ることができる。かかる方法は、
-心臓細胞に、少なくとも心筋細胞に、分化することができる幹細胞若しくは前駆細胞、又は
-カプセルにおける再プログラミングをカプセル内で受け、それによって心臓細胞に、少なくとも心筋細胞に、分化することができる誘導多能性幹細胞になるように意図された分化した細胞、を囲むヒドロゲルカプセルを含む、細胞微小区画を産生することからなる。
【0108】
一実施形態により、微小区画を調製するための方法は、
-ヒドロゲルカプセルの内部に、
*細胞によって分泌されるか又は操作者によって供給される等張水溶液、優先的に細胞外マトリクスの要素、優先的に細胞によって自然に分泌される細胞外マトリクスに加えて供給される等張水溶液の少なくとも一部、
*心臓細胞に分化することができる細胞、を含む細胞微小区画を産生するステップ、
-PDGFRα、MESP-1、NKX2-5、GATA4、MEF2C、TBX20、ISL1、及びTBX5から選択される少なくとも1つの遺伝子を発現する、心臓細胞への細胞分化を受けているヒト細胞、並びに任意選択的に他の細胞の少なくとも1つの中空三次元層を得るように、細胞微小区画内に細胞分化を誘導するステップ、からなるステップの実施を少なくとも含むことができる。
【0109】
有利には、細胞外マトリクスを供給することと組み合わされたヒドロゲル内の全体的又は部分的な封入は、いくつかの利点、特に、
i)微小区画内でバッチの細胞の均質な分布を促進すること、
ii)バイオリアクタによって加えられる流体力学的ストレスに対する機械的保護、及び微小区画の望ましくない融合の制限、
iii)良好な生存及び良好な細胞組織化を促進する、細胞外マトリクス要素を局所的に保持する微小環境の組織化、
iv)内腔を維持し、分化の間に自己分泌経路及びパラ分泌経路を促進すること、を蓄積することによって、ヒト多能性細胞の心筋への分化を可能にする好適な手段である。
【0110】
使用は、ヒドロゲルカプセル内に、心臓分化を受けている少なくともヒト細胞及び等張水溶液を含有し、任意選択的に、他の細胞、例えば支持細胞を添加する、細胞微小区画を産生するための任意の方法からなり得る。好適な方法は、特に国際公開第2018/096277号に記載されている。優先的に、封入は、3つの溶液:
-ヒドロゲル溶液、
-中間等張溶液、例えばソルビトール溶液、
-封入される細胞、培養培地、及び任意選択的だが優先的に、細胞外マトリクスを、
3つの溶液の混合物からなるジェットを注入器の流出口で形成することを可能にするマイクロ流体注入器を介して、同心円状に共注入することによって実行され、当該ジェットは液滴に分解し、当該液滴は、ヒドロゲル溶液を硬化させて各微小区画の外層を形成するカルシウム槽に収集され、各液滴の内部部分は、封入した細胞、培養培地、及び細胞外マトリクスを含む溶液からなる。
【0111】
一実施形態により、封入は、マイクロ流体チップを使用してヒドロゲルカプセルを生成することができるデバイスを用いて実行される。例えば、デバイスは、マイクロ流体注入器によって同心円状に注入されるいくつかの溶液のためのシリンジポンプを含み得、液滴に分解するジェットを形成することを可能にし、液滴は、次いで、カルシウム槽内に収集される。特に好適な実施形態により、3つの溶液:
-ヒドロゲル溶液、例えばアルギン酸、
-中間等張溶液、例えばソルビトール溶液、
-iPSC、培養培地、及び任意選択的であるが優先的に、細胞外マトリクスを含む、ステップb)から得られる溶液、が3つのシリンジポンプに充填される。
【0112】
3つの溶液は、液滴に分解するジェットを形成することを可能にするマイクロ流体注入器又はマイクロ流体チップによって同心円状に共注入(同時注入)され、その外層はヒドロゲル溶液であり、溶液のコアは封入される細胞を含み、これらの液滴は、アルギン酸溶液を硬化させてシェルを形成するカルシウム槽に収集される。
【0113】
細胞微小区画の単分散性を改善するために、ヒドロゲル溶液を直流で帯電させる。基部でリングは、電場を発生させるために、マイクロ流体注入器(共押出チップ)から出現するジェットの軸に垂直な平面に先端の後に配置される。
【0114】
特定の実施形態において、細胞微小区画を産生するステップは、
-培養培地、優先的に、成長因子FGF2及びTGFβ又は細胞に対するそれらの作用を再現する分子、Rhoキナーゼ経路の阻害剤、又は細胞に対するそれらの作用を再現する分子を含有する培養培地中で、特に細胞死を制限することによって、多能性幹細胞をインキュベートするステップ。
【0115】
-任意選択的に、多能性幹細胞を等張水溶液、優先的に細胞外マトリクスと混合するステップ、
-混合物をヒドロゲル層に封入するステップ、からなるステップを含む。
【0116】
微小区画の調製のために封入される細胞は、優先的に、
-少なくとも心臓細胞に分化することができる細胞であって、これらの細胞が、
*心臓細胞に、少なくとも心筋細胞に分化することができる幹細胞、優先的に胚性幹細胞若しくは誘導多能性幹細胞、非常に優先的に誘導多能性幹細胞、及び/又は
*又は心臓細胞、少なくとも心筋細胞に分化することができる前駆細胞、のいずれかである、細胞、
-並びに/若しくは再プログラミングを受けることができ、それによって心臓細胞、少なくとも心筋細胞に分化することができる誘導多能性幹細胞になる分化した細胞、から選択される。
【0117】
封入された細胞は、拒絶のいかなるリスクも回避するために、微小区画から得られた分化した心臓細胞を受容するように意図されたヒトと免疫適合性であり得る。一実施形態において、封入された細胞は、本発明による圧縮心臓組織が埋め込まれるヒトから事前に採取された。
【0118】
微小区画に含有される心臓分化を受けている細胞への分化は、任意の好適な方法によって実行することができる。それは、特に、(Dunn,KK & Palecek,SP Engineering fabrication evolutive de cardiomyocytes derives de cellules souches de haute qualite pour la reparation des tissus cardiaques.[Evolutive production of cardiomyocytes derived from high-quality stem cells for the repair of cardiac tissues]Front.Med.5,(2018))に列挙されるプロトコルのうちの1つなどの既知の方法であり得る。
【0119】
現在最も一般的なもののうちの1つであるプロトコルは、(Burridge,P.W.et al.Generation chimiquement definie de cardiomyocytes humains.[Chemically defined generation of human cardiomyocytes]Nat.Methods 11,855-860(2014))に詳細に記載されている。
【0120】
特定の実施形態において、本方法の細胞分化を誘導するステップは、ヒト心臓細胞に分化することができるヒト幹細胞を含有するカプセルを、Wnt経路活性化因子(CHIR99021など)を含有する培養培地に12時間~72時間、より優先的に12~48時間導入することからなるステップを含む。
【0121】
次に、方法は、Wnt経路阻害剤を含有する培養培地中で微小区画をインキュベートすることからなるステップを含み得る。このステップは、優先的に、分化を誘導するステップの終了後0~3日、優先的に12~72時間、特に24~48時間に実行される。好ましい実施形態により、このステップは、カプセルを、Wnt経路阻害剤を含有する培養培地中で、優先的に12時間~48時間、特に24~48時間インキュベートすることからなる。
【0122】
特定の一実施形態は以下のとおりである。
(a)ヒト多能性幹細胞含有カプセルを、Wnt経路活性化因子を含有する培養培地中で12時間~72時間インキュベートすること、
(b)ステップ(a)の0~48時間後に、カプセルを、Wnt経路阻害剤を含有する培養培地中で24時間~48時間インキュベートすること。
【0123】
優先的に、培養培地は、B27サプリメント添加、インスリン無添加(分化の最初の7日間)及びインスリン添加(分化7日目から)のRPMIである。
【0124】
優先的に、心臓分化を受けている細胞を含有する微小区画は、分化誘導の開始後2~7日、優先的に分化誘導開始後3~7日、更により優先的に分化開始後4~6日に得られる。優先的に、本発明による微小区画は、Wnt経路阻害剤が添加された瞬間に、又はその後に出現する。
【0125】
内腔は、増殖及び成長している細胞によって、三次元で心臓分化を受けているヒト細胞の層の形成の瞬間に作り出される。内腔は、液体、特に本方法の実施に使用される培養培地を含有することができる。
【0126】
一実施形態により、出発幹細胞は、微小区画内の内腔の周りに三次元で幹細胞の層に組織化され、次いで分化中にこの内腔が消失し、第2の内腔が出現して微小区画を形成する。
【0127】
方法は、優先的に、一連の微小区画を用いてバイオリアクタなどの閉鎖チャンバ内で、更により優先的に、少なくとも部分的に対流する好適な培養培地中で実施される。
【0128】
方法はまた、任意選択的に、
-細胞の懸濁液又は細胞クラスタの懸濁液を得るために、微小区画又は一連の微小区画を解離させることからなるステップを含み得、カプセルは、特に、加水分解、溶解、穿孔、及び/又は任意の生体適合性手段、すなわち細胞に対して毒性でない手段による破壊によって除去することができる。例えば、除去は、リン酸緩衝化生理食塩水、二価イオンキレート剤、ヒドロゲルがアルギン酸を含む場合にアルギン酸リアーゼなどの酵素、及び/又はレーザーマイクロダイセクション、並びに
-細胞又は細胞クラスタの全部若しくは一部をヒドロゲルカプセル中に再封入するステップ、を使用して達成され得る。
【0129】
再封入は、
i)後に得られる圧縮心臓組織のサイズ及び均質性の標準化を最適化すること、
ii)多能性ステップから得られる細胞増幅の増加、したがってより高い収率を可能にすること、のために好適な手段である。
【0130】
どの時点でも、方法は、微小区画に含有される細胞の表現型を検証することからなるステップを含み得る。この検証は、微小区画に含有される細胞の少なくともいくつかによる、以下の遺伝子:PDGFRα、MESP-1、NKX2-5、GATA4、MEF2C、TBX20、ISL1、及びTBX5のうちの少なくとも1つの発現を特定することによって実行することができる。
【0131】
方法は、微小区画を凍結するステップを、それらを使用して分化した心臓細胞への分化を継続して、本発明による圧縮心臓組織を得る前に含み得る。凍結は、優先的に-190℃~-80℃の温度で実行される。解凍は、細胞を極めて素早く解凍するために温水槽(好ましくは37℃)中で実行することができる。本発明による微小区画は、それらを使用して分化した心臓細胞への分化を継続して、圧縮心臓組織を得る前に、それらが使用される前の限られた期間にわたって4℃超、優先的に4℃~38℃に維持することができる。
【0132】
微小区画はまた、方法の実施直後に、保存及び凍結することなく使用して、分化した心臓細胞への分化を継続して、本発明による圧縮心臓組織を得ることができる。
【0133】
一変形形態により、微小区画内の心臓分化は、おそらく遂行され、かつ/又は電気的刺激及び代謝介入若しくはホルモン介入などの他の技法と組み合わされる。かかる技法との組み合わせは、移植前の本発明による圧縮心臓組織の自発的拍動の周波数を更に低下させることを可能にすることができる。
【0134】
上記のように分化を受けているヒト細胞を含有する微小区画を得た後、方法を継続して、本発明による圧縮心臓組織の形態で三次元物体を得ることができる。本発明による圧縮心臓組織は、特に、前述のような心臓分化を受けているヒト細胞の少なくとも1つの細胞微小区画から、当該微小区画の内腔の全体的又は部分的な除去による、ヒト細胞の層の圧縮を含む方法を使用して得ることができる。優先的に、ヒト心臓細胞の圧縮組織は、以下に記載される方法によって得られる。
【0135】
圧縮体は、一般に、Wnt経路阻害剤の添加後2~10日、特に5~7日に出現する。実際に、阻害剤の添加は、心臓細胞に分化し続ける細胞の圧縮に対する準備である。
【0136】
したがって、圧縮体は、一般に、分化の開始後7~14日に出現する。
【0137】
圧縮の終わりに、内腔の全て又は一部が、部分的又は完全に消失しており(圧縮現象によって部分的又は完全に除去されている)、細胞は、少なくとも部分的に、分化したヒト心臓細胞、優先的に少なくとも心筋細胞を含む。
【0138】
方法は、微小区画内で心臓細胞を増幅するステップ、及び任意選択的に1回以上の再封入を含み得る。
【0139】
本発明に従って得られた圧縮心臓組織は、ヒドロゲルカプセル中に維持することができる。優先的に、それは常に等張水溶液、好ましくは細胞外マトリクスによって囲まれている。本発明による三次元圧縮心臓組織及び等張水溶液の層を含有するカプセルが、
図1に示される。
【0140】
本発明による圧縮組織は、優先的に、使用前にカプセル内に保存される。その保存のために、本発明による圧縮心臓組織を含有するカプセルは、カプセルからヒドロゲル層を除去する前に凍結することができる。そのため、方法は、本発明による圧縮心臓組織を含有するカプセルを、その使用前に凍結するステップを含むことができる。凍結は、優先的に-190℃~-80℃の温度で実行される。本発明による圧縮心臓組織を含有するカプセルは、心臓における移植片として使用する前に、組織の細胞を極めて素早く解凍するために温水槽(好ましくは37℃)中で解凍し得る。本発明による圧縮心臓組織は、それらが使用される前の限定された期間、4℃超で、優先的に4℃~38℃で維持することができる。
【0141】
本発明による圧縮心臓組織を得た後、心臓における埋め込み前のいつでも、方法は、カプセルに含有される細胞の表現型を検証することからなるステップを含み得る。この検証は、本発明による圧縮組織を形成する心臓細胞による心筋トロポニンCの発現を特定することによって実行することができる。
【0142】
優先的に、使用前に、本発明による圧縮心臓組織を含有するカプセルのヒドロゲル層は除去される。カプセルは、特に、加水分解、溶解、穿孔、及び/又は任意の生体適合性手段、すなわち細胞に対して毒性でない手段による破壊によって除去することができる。例えば、除去は、リン酸緩衝化生理食塩水、二価イオンキレート剤、ヒドロゲルがアルギン酸を含む場合はアルギン酸リアーゼなどの酵素、及び/又はレーザーマイクロダイセクションを使用して達成され得る。
【0143】
ヒドロゲルは、優先的に完全に除去され、本発明による圧縮心臓組織は、それが心臓に埋め込まれる移植片として使用されるとき、ヒドロゲルを欠いている。
【0144】
本発明によるヒト心臓細胞の圧縮組織の使用
本発明によるヒト心臓細胞の圧縮組織は、そのまま使用するか、又は心臓細胞の懸濁液を産生するために使用することができる。
【0145】
実際に、本発明によるヒト心臓細胞の圧縮組織は、ヒト心臓に、特に心臓病態を治療するために、埋め込むことができる細胞(移植片細胞)の懸濁液の産生に有用である。本発明による圧縮組織の形状、サイズ、及び組成は、本発明による圧縮組織内の心臓細胞の改善された収率を伴う均質な分化を促進し、心臓における埋め込み前に二次的に解離され得る。
【0146】
本発明によるヒト心臓細胞の圧縮組織はまた、ヒト心臓に埋め込むことができる移植片としてのその使用、特に心臓病態を治療するために特に有用である。本発明による圧縮組織の形状、サイズ、及び組成は、埋め込み前の本発明による圧縮組織内の心臓細胞の生存、並びに心臓に一度埋め込まれた移植片の移植、再組織化、及び血管新生の成功を可能にする。
【0147】
したがって、本発明の別の主題は、療法、特に細胞療法における医薬品としての使用のため、特に、心臓病態の治療及び/又は予防を必要としている患者における、優先的に、虚血性心臓疾患の治療及び/又は予防における、そのままか又は細胞への解離後、細胞懸濁液の形態での使用のためのヒト心臓細胞の圧縮組織である。
【0148】
本発明による組織から得られた解離した細胞を使用することは可能であるが、それらは圧縮心臓組織よりも高い自発的収縮周波数を有する。カプセル内の分化した心筋細胞の遅い自発的拍動速度は、細胞が解離され、2D条件下で培養される場合、維持されない(
図6)。
【0149】
治療は、予防的、治癒的、又は対症的治療、すなわち、一時的又は永久的にヒトの将来を改善すること、優先的にまた、疾患を根絶すること、及び/又は疾患の進行を停止若しくは遅延させること、及び/又は疾患の退行を促進することが意図された任意の行為を意味する。
【0150】
実際に、本発明によるヒト心臓細胞の圧縮組織は、ヒトにおける心臓疾患、特に心臓の少なくとも一部の虚血をもたらしている梗塞などの疾患の、例えば損傷領域を置換する治療のために使用することができる。
【0151】
治療は、本発明による圧縮組織若しくはその解離によって得られた細胞を、心臓に、心臓の心室で、特に左心室に埋め込むこと、移植すること、又はそれらを当該心室に、理想的には臓側心膜と心室の筋肉組織との間に配置されるパッチ、若しくは疾患状態でそれらを残存させるものに組み込むこと、からなる。使用は、非常に優先的に心臓における埋め込みに好適な外科的埋め込みデバイスでなされる。これは、特に、針、カニューレ、又は本発明による圧縮組織、若しくは本発明による圧縮組織の解離によって得られる細胞を心臓に沈着させることを可能にする他のデバイス、例えば、動脈におけるステント若しくは外科用マイクロインプラントの埋め込みに使用されるものであり得る。
【0152】
例示的な一実施形態により、埋め込みは、直接的な心筋注入によって、特に胸骨切開術によって、又はカテーテルベースのデバイスを用いて実行することができ、本発明による圧縮心臓組織又はこれらの組織から得られた細胞(他のタイプの細胞の添加を伴うか又伴わない)を、患者の左心室内壁に1つ以上の部位で注入する。
【0153】
別の例示的な実施形態により、埋め込みは、心外膜パッチを使用して実行することができる。本発明による圧縮心臓組織又はこれらの組織から得られた細胞(他のタイプの細胞の添加を伴うか又は伴わない)は、パッチの形成に使用される。次いで、これらのパッチは、胸骨切開によるか、又は切開及び胸腔へのパッチの注入を含む外科的処置によるいずれかで、患者の左心室の心外膜表面に配置することができる。
【0154】
一実施形態において、同じ埋め込みの間に、1~1,000,000個の本発明による圧縮組織単位が埋め込まれる。
【0155】
一実施形態において、同じ埋め込みの間に、本発明による圧縮組織単位の解離によって得られた104~1010個の細胞が埋め込まれる。
【0156】
必要な場合、特にいくつかの別個の領域が罹患している事象、又は移植片を適用する領域が広すぎて1つの部位のみで移植を行うことができない場合、心臓の異なる領域に複数の同時的又は連続的な埋め込みを行うことが可能である。
【0157】
同様に、同じ領域において、単一の移植片が不十分である場合、いくつかの埋め込みを、より長いか又はより短い期間にわたって、同じ領域で再び行ことができる。
【0158】
本発明による圧縮心臓組織の埋め込みは、心臓疾患、及び特に虚血性心臓疾患に罹患している患者が、心臓機能を臨床的に改善して、特に、
-心臓細胞の収縮性能(例えば、左心室駆出率によって測定され得る)を増加させること、及び/又は
-心室壁の厚さを増加させること、を可能にする。
【0159】
したがって、有利には、本発明は、移植片によって誘発される不整脈のリスクを制限しながら、患者の全体的な健康及び生活の質を改善することを可能にする。
【0160】
別の態様により、本発明による圧縮組織は、心臓組織モデルとして、特に、
-医薬品及び医薬品候補を、心臓病態における有効性及び/若しくは心臓に対するそれらの効果について試験し、かつ/又は
-物質、化合物、組成物、若しくは医薬品の心臓毒性を試験するために有用であることができる。そのため、本発明の別の主題は、これらの使用である。
【0161】
次に、本発明を、実施例を使用して説明する。
【実施例】
【0162】
本発明による圧縮組織のいくつかの例が
図1a~
図1cに示され、当該圧縮組織を得るために使用することができる微小区画の例が
図2~
図4に示される。
【0163】
実施例1
図2b及び
図2cの画像は、倍率4×で撮影した微小区画の位相差顕微鏡画像である。それらは、分化の開始の5日後(幹細胞の最初の封入の8日後)に撮影された。これらの図に示される微小区画を得るために使用したステップは、以下のとおりである。
1.ヒト誘導多能性幹細胞をアルギン酸ヒドロゲル中に封入した(封入時に細胞外マトリクスを添加せず)。
2.封入した幹細胞を、幹細胞培養培地(mTeSR1)で3日間培養した。
3.3日目に、培養培地を幹細胞培地からWnt活性化分子(CHIR99021)を含有する心臓分化培地に交換した。培地は、B27を補充した、インスリン無添加、CHIR99021添加のRPMI培地である。これは分化0日目であるとみなされる。
4.分化の2日目に、培地を、Wnt活性化分子無添加の心臓分化培地に交換した。培地は、B27を補充した、インスリン無添加のRPMI培地である。
5.分化3日目に、培地を、Wnt経路阻害分子(C59又はIWR1)を含有する心臓分化培地に交換した。培地は、B27を補充した、インスリン無添加、Wnt-C59又はIWR1添加のRPMI培地である。
6.分化の5日目に、
図2b及び
図2cの写真を、位相差顕微鏡によって微小区画を倍率4×で撮影した。
【0164】
実施例2
図3b及び
図3cの画像は、倍率4×で撮影した微小区画の位相差顕微鏡画像である。それらは、分化の開始の5日後(幹細胞の最初の封入の11日後)に撮影された。これらの図に示される微小区画を得るために使用したステップは、以下のとおりである。
1.ヒト誘導多能性幹細胞をアルギン酸ヒドロゲル中に封入した(封入時に細胞外マトリクスの添加を伴う)。
2.封入した幹細胞を、幹細胞培養培地(mTeSR1)で6日間培養した。
3.6日目に、培養培地を幹細胞培地からWnt活性化分子(CHIR99021)を含有する心臓分化培地に交換した。培地は、B27を補充した、インスリン無添加、CHIR99021添加のRPMI培地である。これは分化0日目であるとみなされる。
4.分化の2日目に、培地を、Wnt活性化分子無添加の心臓分化培地に交換した。培地は、B27を補充した、インスリン無添加のRPMI培地である。
5.分化3日目に、培地を、Wnt経路阻害分子(C59又はIWR1)を含有する心臓分化培地に交換した。培地は、B27を補充した、インスリン無添加、Wnt-C59又はIWR1添加のRPMI培地である。
6.分化の5日目に、
図3b及び
図3cの写真を、位相差顕微鏡によって本発明による微小区画を倍率4×で撮影した。
【0165】
実施例3
図4aの画像は、倍率4×で撮影した微小区画の位相差顕微鏡画像である。それは、分化の開始の5日後(幹細胞の最初の封入の11日後)に撮影された。これらの図に示される微小区画を得るために使用したステップは、
図3b及び
図3cを得るための細胞と同じである。違いは、封入された幹細胞の数が多いことである。
【0166】
実施例4
図1b及び
図1cは、ヒドロゲルカプセル中の本発明による圧縮組織の倍率4×で撮影した位相差顕微鏡画像である。本発明による圧縮組織は、5日目を超えて分化を継続することによって得られた(先の図について既に説明した)。
1.分化の7日目に、培養培地を、B27を補充した、インスリン添加のRPMI培地に交換した。
2.培地を画像化まで2~3日毎に交換した。
【0167】
図1に示される画像は、分化の開始後≧14日の圧縮組織に関連する。
【0168】
比較試験:自発的拍動速度
図5は、所与の出発細胞集団について、(封入されたhiPSCから)カプセル内で分化した心筋細胞が、同じプロトコル(及びhiPSCの同じ初期バッチから)を使用するが自由に浮遊した培養で分化した心筋細胞よりも遅い自発的拍動速度を有することを示す。拍動周波数(自発的拍動間を1回として定義される)を、倍率4×を有する標準的な卓上顕微鏡で一連の位相差顕微鏡画像(少なくとも30画像/秒の頻度で)から得た。画像は、倍率4×で撮影した位相差顕微鏡画像であり、分化開始時の、封入されたか(最も外側)又は遊離の幹細胞、及び分化開始から約2週後の最終圧縮組織(最も内側)を示す。封入された分化プロセスの場合、本発明による微小区画を有する中間ステップが、分化5日目に示される。
【0169】
図6は、カプセル中で分化した心筋細胞の自発的拍動の遅い速度が、カプセルを除去した後にわずかに増加し、細胞を解離させて2D培養に配置した後に大幅に増加したことを示す。そのため、圧縮心臓組織は、当該組織の解離によって得られた単離細胞よりも遅い拍動周波数を有する。拍動周波数(自発的拍動間を1回として定義される)を、倍率4×を有する標準的な卓上顕微鏡で一連の位相差顕微鏡画像(少なくとも30画像/秒の頻度で)から得た。封入され、次いでカプセルが除去された、本発明による圧縮心臓組織における拍動周波数を、分化の開始から約3週後に得た。分化の約3週後、本発明による圧縮組織の亜集団を解離させ、2D培養条件下に1週間配置してから拍動周波数を記録した。画像は、倍率4×で撮影した位相差顕微鏡画像である。左側の画像は、封入したhiPSCからカプセル中で分化した圧縮心臓組織を示す。右側の画像は、2D培養条件下に配置された後の初期封入した圧縮心臓組織のサブセットから得られた細胞を示す。
【0170】
比較試験:トロポニンCを発現する細胞の形態、細胞増幅、及び数
同じ実験条件下で同じ分化方法による比較試験を実行して、封入の有無及び二次圧縮の有無で得られた、心臓細胞への分化及び三次元組織を比較した。
【0171】
全ての培養は、2D培養から取り出された同じ初期細胞から産生された。3Dで得られた集合体を、撹拌懸濁培養において(55rpmで撹拌しながら)、カプセルの有無で培養する(マトリクスの添加を伴わない)。同じ細胞密度(細胞e6個/mL培地)を、分化の0日目の開始時に使用する(画像a)及びe))。同じ分化プロトコルを、両方の条件下(カプセルの有無)で適用する。
【0172】
図7は、倍率4×で撮影した位相差顕微鏡画像を示す。上の列の3つの画像(a、b、及びc)は、本発明による封入した細胞の画像である。
【0173】
下の列の3つの画像(d、e、及びf)は、封入されていない細胞の画像である。
【0174】
左列(a及びd)の画像は、心臓細胞への分化の開始時に誘導された幹細胞を示す。
【0175】
中央列(b及びe)の画像は、分化の開始から3~7日後に心臓細胞への細胞分化を受けているヒト細胞を示す。
【0176】
右列(c及びf)の画像は、分化した心臓組織を示す。
【0177】
形態は、本発明による封入の有無によって異なることが観察される。封入なしでは、分化を受けている内腔はなく、したがって、その後の圧縮はなく、分化の終わりに得られた心臓組織は、非常に異なる形状を有する。
【0178】
図8では、心筋トロポニンCを発現する組織(
図7c及び
図7fのように得られた)における細胞のパーセンテージは、本発明の条件下(二次圧縮)では90%を超えるが、同じ条件下で封入なしで得られた心臓組織では40%であることが観察される。
【0179】
図9では、分化の開始の間の細胞増幅のレベルは、本発明の条件下で2より大きいが、一方、同じ条件下であるが封入なしで得られた心臓組織において0.5未満であることが観察される。
【国際調査報告】