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特表2023-542154心臓分化を受けているヒト細胞を含む細胞微小区画、当該微小区画から得られた組織、及びそれらの使用
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-10-05
(54)【発明の名称】心臓分化を受けているヒト細胞を含む細胞微小区画、当該微小区画から得られた組織、及びそれらの使用
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/077 20100101AFI20230928BHJP
   C12Q 1/06 20060101ALI20230928BHJP
【FI】
C12N5/077
C12Q1/06
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023517372
(86)(22)【出願日】2021-09-21
(85)【翻訳文提出日】2023-04-24
(86)【国際出願番号】 EP2021075945
(87)【国際公開番号】W WO2022058615
(87)【国際公開日】2022-03-24
(31)【優先権主張番号】2009552
(32)【優先日】2020-09-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】520174104
【氏名又は名称】ツリーフロッグ テラピューティクス
【氏名又は名称原語表記】TREEFROG THERAPEUTICS
【住所又は居所原語表記】30 AVENUE GUSTAVE EIFFEL BATIMENT A,33600 PESSAC,FRANCE
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】フェイユー,マクシム
(72)【発明者】
【氏名】レオナール,アンドレア,ベス
【テーマコード(参考)】
4B063
4B065
【Fターム(参考)】
4B063QA01
4B063QA18
4B063QQ17
4B063QR77
4B063QR85
4B065AA93X
4B065BA12
4B065CA44
4B065CA46
(57)【要約】
本発明は、細胞微小区画であって、各微小区画が、少なくとも1つの内腔の周囲に組織化された、以下の層:
-PDGFRα、MESP-1、NKX2-5、GATA4、MEF2C、TBX20、ISL1、及びTBX5から選択される少なくとも1つの遺伝子を発現する、心臓分化を受けているヒト細胞の少なくとも1つの内層と、
-等張水溶液の少なくとも1つの中間層と、
-少なくとも1つの外部ヒドロゲル層と、を連続して含む、細胞微小区画に関する。
本発明はまた、当該微小区画から得られる心臓組織、及び特に心臓疾患の治療におけるそれらの使用に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
三次元細胞微小区画(10)であって、少なくとも1つの内腔(18)の周囲に組織化された、
-PDGFRα、MESP-1、NKX2-5、GATA4、MEF2C、TBX20、ISL1、及びTBX5から選択される少なくとも1つの遺伝子を発現する、心臓分化を受けているヒト細胞の少なくとも1つの内層(16)と、
-等張水溶液の少なくとも1つの中間層(14)と、
-少なくとも1つの外部ヒドロゲル層(12)と、を連続して含み、
前記内層が、可変的な厚さを有し、前記内層の最大厚さ(t2)と最小厚さ(t1)との間の比が、2以上であり、前記内層の前記最小厚さ(t1)及び前記最大厚さ(t2)が、前記内層及び前記中間層の境界面と、前記内層及び内腔(18、18-、18-2)の境界面との間、かつ/又は前記内層及び内腔(18-1)の境界面と、前記内層及び別の内腔(18-2)の境界面との間で、前記内層及び1つ以上の前記内腔(18、18-1、18-2)によって形成される細胞体の幾何学的中心を通るセグメント(22)に沿って測定された前記内層の厚さの最小及び最大である、細胞微小区画(10)。
【請求項2】
前記内層(16)の前記最大厚さ(t2)と前記最小厚さ(t1)との間の比が、5以上であることを特徴とする、請求項1に記載の細胞微小区画(10)。
【請求項3】
前記等張水溶液の中間層(14)が、インテグリンに結合することができるペプチド又はペプチド模倣配列を含有することを特徴とする、請求項1又は2に記載の細胞微小区画(10)。
【請求項4】
少なくとも2つの内腔(18-1、18-2)を含むことを特徴とする、請求項1~3のいずれか一項に記載の細胞微小区画(10)。
【請求項5】
前記内層(16)の前記ヒト細胞が、ヒト多能性幹細胞から得られたことを特徴とする、請求項1~4のいずれか一項に記載の細胞微小区画(10)。
【請求項6】
閉じていることを特徴とする、請求項1~5のいずれか一項に記載の細胞微小区画(10)。
【請求項7】
ヒドロゲルから作製された前記外層(12)が、少なくともアルギン酸を含むことを特徴とする、請求項1~6のいずれか一項に記載の細胞微小区画(10)。
【請求項8】
球状又は細長い形状を有することを特徴とする、請求項1~7のいずれか一項に記載の細胞微小区画(10)。
【請求項9】
中空の回転楕円体、中空の卵形、中空の円柱、又は中空の球体であることを特徴とする、請求項1~8のいずれか一項に記載の細胞微小区画(10)。
【請求項10】
10μm~1mmの直径又は最小寸法を有することを特徴とする、請求項1~9のいずれか一項に記載の細胞微小区画(10)。
【請求項11】
10μm~50cmの最大寸法を有することを特徴とする、請求項1~10のいずれか一項に記載の細胞微小区画(10)。
【請求項12】
前記内層(16)において心臓分化を受けているヒト細胞の数が、1~100,000個の細胞であることを特徴とする、請求項1~11のいずれか一項に記載の細胞微小区画(10)。
【請求項13】
前記内層において心臓分化を受けているヒト細胞の数が、50~50,000個の細胞であることを特徴とする、請求項1~12のいずれか一項に記載の細胞微小区画(10)。
【請求項14】
請求項1~13のいずれか一項に記載の少なくとも2つの細胞微小区画を含む、一連の細胞微小区画(10)。
【請求項15】
前記微小区画が、対流培養培地中にあることを特徴とする、請求項14に記載の一連の細胞微小区画(10)。
【請求項16】
前記微小区画が、閉鎖チャンバ内の前記培養培地中にあることを特徴とする、請求項14又は15に記載の一連の細胞微小区画(10)。
【請求項17】
心筋トロポニンCを発現する心臓細胞組織(20)を得るための、請求項1~13のいずれか一項に記載の細胞微小区画(10)の使用。
心筋トロポニンC及びアルファ-アクチニンを発現する心臓細胞組織(20)を得るための、請求項1~13のいずれか一項に記載の細胞微小区画(10)の使用。
【請求項18】
請求項1~13のいずれか一項に記載の少なくとも1つの細胞微小区画(10)から得られる、心筋トロポニンCを発現する心臓ヒト細胞(20)の圧縮組織。
【請求項19】
請求項1~13のいずれか一項に記載の少なくとも1つの細胞微小区画(10)から得られる、心筋トロポニンC及びアルファ-アクチニンを発現する心臓ヒト細胞(20)の圧縮組織。
【請求項20】
前記微小区画の前記内腔(18、18-1、18-2)の全体的又は部分的な消失によってヒト細胞の前記内層(16)を圧縮することを含む方法によって得られる、請求項18又は19に記載の心臓ヒト細胞の圧縮組織。
【請求項21】
外部ヒドロゲル層(12)内に全体的又は部分的に封入されていることを特徴とする、請求項18~20のいずれか一項に記載の心臓ヒト細胞(20)の圧縮組織。
【請求項22】
収縮性であり、2Hz未満の自発的収縮周波数を有することを特徴とする、請求項18~21のいずれか一項に記載の心臓ヒト細胞(20)の圧縮組織。
【請求項23】
収縮性であり、0.5Hz未満の自発的収縮周波数を有することを特徴とする、請求項18~22のいずれか一項に記載の心臓ヒト細胞(20)の圧縮組織。
【請求項24】
前記組織の全細胞数に対して、数で50%を超える、心筋トロポニンCを発現する細胞のレベルを有することを特徴とする、請求項18~23のいずれか一項に記載の心臓ヒト細胞(20)の圧縮組織。
【請求項25】
前記組織の全細胞数に対して、数で50%を超える、心筋トロポニンC及びアルファ-アクチニンを発現する細胞のレベルを有することを特徴とする、請求項18~23のいずれか一項に記載の心臓ヒト細胞(20)の圧縮組織。
【請求項26】
前記組織の全細胞数に対して、数で75%を超える、心筋トロポニンCを発現する細胞のレベルを有することを特徴とする、請求項18~24のいずれか一項に記載の心臓ヒト細胞(20)の圧縮組織。
【請求項27】
凍結されていることを特徴とする、請求項18~26のいずれか一項に記載の心臓ヒト細胞(20)の圧縮組織。
【請求項28】
心臓疾患の治療及び/又は予防における、それ自体での又は細胞解離後の使用のための、請求項18~27のいずれか一項に記載の心臓ヒト細胞(20)の圧縮組織。
【請求項29】
虚血性心臓疾患の治療及び/又は予防における、請求項28に記載の使用のための心臓ヒト細胞(20)の圧縮組織。
【請求項30】
請求項19~29のいずれか一項に記載の心臓ヒト細胞(20)の圧縮組織の使用であって、
-薬物及び薬物候補を心臓疾患における有効性及び/若しくは心臓に対する効果について試験し、かつ/又は
-物質、化合物、組成物、若しくは薬物の心臓毒性を試験するための、使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、心臓分化の間に発現される遺伝子を発現するヒト細胞を含む特定の細胞微小区画から得られる特定の心臓組織の使用による、心臓疾患、特に虚血性心臓疾患の治療に関する。
【背景技術】
【0002】
世界保健機関によれば、心臓血管疾患、及び特に虚血性心臓疾患(一般に心筋梗塞につながる)は、世界における主要な死因である(Thomas,H.et al.Global Atlas of Cardiovascular Disease 2000-2016:The Path to Prevention and Control.Glob.Heart 13,143-163(2018))。
【0003】
現在、心臓虚血の結果を予防又は治療するための、特に心不全及び心停止のリスクに関与する心筋壊死を治療するための満足のいく解決策はない。
【0004】
最近、ヒト胚性幹細胞及び誘導多能性幹細胞の両方を含むヒト多能性幹細胞であるhPSC-CMに由来する心筋細胞の使用で、損失又は損傷した心臓組織を再生する研究が、関連する心不全を回避又は治療するために実行されてきている(Desgres,M.& Menasche,P.Clinical Translation of Pluripotent Stem Cell Therapies:Challenges and Considerations.Cell Stem Cell 25,594-606(2019)、Bertero,A.& Murry,C.E.Hallmarks of cardiac regeneration.Nat.Rev.Cardiol.15,579-580(2018)、Jiang,B.,Yan,L.,Shamul,J.G.,Hakun,M.& He,X.Stem Cell Therapy of Myocardial Infarction:A Promising Opportunity in Bioengineering.Adv.Ther.3,1900182(2020)、Liew,L.C.,Ho,B.X.& Soh,B.S.Mending a broken heart:Current strategies and limitations of cell-based therapy.Stem Cell Res.Ther.11,1-15(2020))。
【0005】
これらの心筋細胞は、他の適用、特に洞結節機能不全の治療のため(Lee,J.H.,Protze,S.I.,Laksman,Z.,Backx,P.H.& Keller,G.M.Human Pluripotent Stem Cell-Derived Atrial and Ventricular Cardiomyocytes Develop from Distinct Mesoderm Populations.Cell Stem Cell 21,179-194.e4(2017))、又は中隔異常などの先天性心臓疾患を治療するため(Devalla,H.D.& Passier,R.Cardiac differentiation of pluripotent stem cells and implications for modeling the heart in health and disease.Sci.Transl.Med.10,1-14(2018)、又は疾患のモデリングのため、又は薬物及び候補薬物を試験するため(Tzatzalos,E.,Abilez,O.J.,Shukla,P.& Wu,J.C.Engineered heart tissues and induced pluripotent stem cells:Macro-and microstructures for disease modeling,drug screening,and translational studies.Adv.Drug Deliv.Rev.96,234-244(2016))、生物学的心臓刺激物質として使用され得る。
【0006】
心筋梗塞後の患者の損傷した心臓組織を再生するのに必要とされる細胞の量は、約10億個であると推定されており(Laflamme,M.A.& Murry,C.E.Heart regeneration.Nature473,326-335(2011)、それによって、心臓細胞療法におけるhPSC-CM心筋細胞の使用は、好適な臨床規模では現在不可能である。実際、心臓組織を産業規模で産生することは、組織の生存及び適切な機能のために十分に穏やかである培養条件と、細胞を非生理学的ストレス(典型的には、バイオリアクタ中の液体培養の状況における流体力学的ストレス)に必然的にさらす大容量培養の制約との間の妥協を達成することが必要であるため、複雑である。hPSCから心筋細胞を産生するための方法は、特に以下の問題:
-心筋細胞への分化前の懸濁培養におけるhPSC集合体の不十分な形成、実際、hPSC集合体の初期形成及び均質性は、細胞再生のため、したがって分化後に得られる心臓組織の質のために重要であり、
-バイオリアクタにおける培養中の剪断ストレス及び衝撃に対するhPSCの感受性に起因する細胞の有意な損失(Lam,A.T.L.et al.Conjoint propagation and differentiation of human embryonic stem cells to cardiomyocytes in a defined microcarrier spinner culture.Stem Cell Res.Ther.5,1-15(2014))、
-hPSCの大規模な増殖と心臓分化とを組み合わせることの不可能性(Le,M.N.T.& Hasegawa,K.Expansion culture of human pluripotent stem cells and production of cardiomyocytes.Bioengineering 6,(2019)、を有する。
【0007】
バイオリアクタ中の懸濁液における心臓分化の間のこれらの欠点を制限するための既知の解決策は、
-マイクロキャリア、並びに撹拌の一時的に停止の使用(Ting,S.,Chen,A.,Reuveny,S.& Oh,S.An intermittent rocking platform for integrated expansion and differentiation of human pluripotent stem cells to cardiomyocytes in suspended microcarrier cultures.Stem Cell Res.13,202-213(2014))
-又は心臓分化中に剪断に感受性が低い細胞株の使用(Laco,F.et al.Selection of human induced pluripotent stem cells lines optimization of cardiomyocytes differentiation in an integrated suspension microcarrier bioreactor.Stem Cell Res.Ther.11,1-16(2020))、のいずれかを必要とする。
【0008】
しかしながら、これらの解決策は最適ではない。特に、
-マイクロキャリアは、細胞を機械的ストレスにさらされたままにし、除去することが困難であり得、
-撹拌は、分化に必要な栄養素及び産物の均一な拡散を可能にせず、
-単一の出発細胞株に限定することは、極めて制約的であり、限定的である。
【0009】
また、心筋細胞への分化を受けている細胞の損失は、バルクヒドロゲル中で直接的に培養を実行することによっても減少させることができることも知られている(Kerscher,p.et al.Direct Production of Human Cardiac Tissues by Pluripotent Stem Cell Encapsulation in Gelatin Methacryloyl.ACS Biomater.Sci.Eng.3.1499-1509(2017);Li,Q.et al.Scalable and physiologically relevant microenvironments for human pluripotent stem cell expansion and differentiation.Biofabrication 10,(2018))が、これらの方法は、従来のバイオリアクタにおける培養と適合しない。この方法を産業で使用されるバイオリアクタに適合させるために、ヒドロゲル中に細胞を封入することによって試験が実行されたが、これらの試験はマウス幹細胞に限定されていた(Agarwal,P.et al.A Biomimetic Core-Shell Platform for Miniaturized 3D Cell and Tissue Engineering.Part.Part.Syst.Charact.32,809-816(2015)、Chang,S.et al.Emulsion-based Encapsulation of Pluripotent Stem Cells in Hydrogel Microspheres for Cardiac Differentiation.Biotechnol.Prog.btpr.2986(2020)doi:10.1002/btpr.2986、Zhao,S.et al.Bioengineering of injectable encapsulated aggregates of pluripotent stem cells for therapy of myocardial infarction.Nat.Commun.7,1-12(2016))。
【0010】
最後に、心筋細胞の心臓における送達後の細胞保持は、非常に乏しいことが知られており(Hou,D.et al.Radiolabeled cell distribution after intramyocardial,intracoronary,and interstitial retrograde coronary venous delivery:Implications for current clinical trials.Circulation 112,150-156(2005))、これは心臓細胞療法の有効性を制限する。加えて、心臓組織を再生するために、現在得られているような心筋細胞の移植の間に、患者に不整脈を誘発する大きなリスクがあり、これがまた、心臓疾患を治療するための細胞療法の使用を制限する。実際、現在まで、心臓疾患に関連する治療適用のための幹細胞由来の心臓細胞の安全性を確実にするために克服する最も重要な科学的課題の1つは、移植中に誘発される移植不整脈の除去である(Menasche,P.Cardiac cell therapy:Current status,challenges and perspectives.Archives of Cardiovascular Diseases 113,285-292(2020)、Kadota,S.,Tanaka,Y.& Shiba,Y.Heart regeneration using pluripotent stem cells.Journal of Cardiology(2020)doi:10.1016/j.jjcc.2020.03.013、Chen,K.,Huang,Y.,Singh,R.& Wang,Z.Z.Arrhythmogenic risks of stem cell replacement therapy for cardiovascular diseases.Journal of Cellular Physiology(2020)doi:10.1002/jcp.29554)。一般的に一過性であるが、不整脈が、心筋梗塞後の大型動物再生モデルである、ブタ(Romagnuolo,R.et al.Human Embryonic Stem Cell-Derived Cardiomyocytes Regenerate the Infarcted Pig Heart but Induce Ventricular Tachyarrhythmias.Stem Cell Reports 12,967-981(2019))及び非ヒト霊長類(Ichimua,h.et al.Allogeneic transplantation of iPS cell-derived cardiomyocytes regenerates primate hearts.Nature 538,388-391(2016)、Liu,Y.-W.et al.Human embryonic stem cell-derived cardiomyocytes restore function in infarcted hearts of non-human primates.Nature biotechnology 36,597-605(2018)、Chong,J.J.H.et al.Human embryonic-stem-cell-derived cardiomyocytes regenerate non-human primate hearts.Nature510,273-277(2014))の両方で観察された。
【0011】
したがって、本質的な心臓細胞療法要求を満たすためだけでなく、薬物分子の研究及び開発においても、前臨床段階で患者をこれらの治療に曝露する前にそれらの有効性及び毒性を判定するために、高品質の心筋細胞の大規模産生のための解決策が重要であり必要とされている。
【0012】
したがって、本発明の目標は、これらの必要性の全てを満たし、従来技術の不都合及び限界を克服することである。
【発明の概要】
【0013】
この目標を達成するために、本発明は、細胞療法における使用に好適な、特定の特徴を有するヒト心臓細胞の圧縮組織を大量に得るために、重要な発生中間体を経ることを提案する。
【0014】
この目的のために、本発明の目標は、少なくとも1つの内腔の周りに連続して組織化された、
-PDGFRα、MESP-1、NKX2-5、GATA4、MEF2C、TBX20、ISL1、及びTBX5から選択される少なくとも1つの遺伝子を発現する、心臓分化を受けているヒト細胞の少なくとも1つの内層であって、可変的な厚さを有する、内層と、
-等張水溶液の少なくとも1つの中間層と、
-少なくとも1つの外部ヒドロゲル層と、を含む三次元(three-dimensional、3D)細胞微小区画である。
【0015】
微小区画内で、ヒト細胞の内層及び内腔は、三次元細胞体を一緒に形成する。細胞内層の最小厚さ及び最大厚さが、この細胞体の幾何学的中心を通るセグメントに沿って測定された場合、最大厚さと最小厚さとの間の比は、2以上である。内層厚は、細胞体の幾何学的中心を通るセグメントに沿って、
a.
内層及び中間層の境界面と、
内層及び内腔の境界面と、の間、
かつ/又は
b.
内層及び内腔の境界面と、
内層及び別の内腔の境界面と、の間、で測定される。
【0016】
したがって、本発明の特定の目標は、少なくとも1つの内腔の周りに連続して組織化された、
-PDGFRα、MESP-1、NKX2-5、GATA4、MEF2C、TBX20、ISL1、及びTBX5から選択される少なくとも1つの遺伝子を発現する、心臓分化を受けているヒト細胞の少なくとも1つの内層であって、当該内層が可変的な厚さを有し、内層の最大厚さと最小厚さとの間の比が2以上であり、内層の最小厚さ及び最大厚さが、内層及び中間層の境界面と、内層及び内腔の境界面との間、かつ/又は内層及び内腔の境界面と、内層及び別の内腔の境界面との間で、内層及び内腔によって形成される細胞体の幾何学的中心を通るセグメントに沿って測定された内層の厚さの最小及び最大である、内層と、
-等張水溶液の少なくとも1つの中間層と、
-少なくとも1つの外部ヒドロゲル層と、を含む細胞微小区画である。
【0017】
したがって、本発明による微小区画は、心臓分化の中間段階に関連する遺伝子PDGFRα/MESP1/NKX2-5/GATA4/MEF2C/TBX20/ISL1/TBX5の発現を伴う、細胞分化を受けている細胞を含む。かかる構成(特定の厚さ特性を有する心臓分化を受けるヒト細胞の層、等張水溶液層、及び少なくとも1つのヒドロゲル層が連続して周囲に組織化されている1つ以上の内腔)は、新規である。実際、hPSCを心筋細胞に分化させるためのいくつかの既知のプロトコルが存在し、これらのプロトコルは、WNT経路(Wingless及びInt-1)の調節に部分的又は全体的に依存している(Dunn,K.K.& Palecek,S.P.Engineering scalable manufacturing of high-quality stem cell-derived cardiomyocytes for cardiac tissue repair.Front.Med.5,(2018))。hPSCの指示された心臓分化の間、細胞は、中胚葉、心臓中胚葉、心臓前駆体、及び最終的に心筋細胞へのそれらの移行中に形態学的な変化を受ける。hPSCの2D培養において、これらの変化は、異なる形態学に関連することが知られている(Palpant,N.J.et al.Generating high-purity cardiac and endothelial derivatives from patterned mesoderm using human pluripotent stem cells.Nat.Protoc.12,15-31(2017))。これらの形態学的変化は、3D培養システムで十分に報告されておらず、本発明の目標の形態は今まで得られておらず、報告されていない。しかしながら、有利には、この形態は、次いで、多数の圧縮組織を得ることを可能にし、損傷した心臓組織を再生するためのそれらの使用を可能にする特性を有する。
【0018】
外部ヒドロゲル層及び等張水溶液の中間層の存在は、微小区画間の細胞の均一な分布を可能にする。そのため、微小区画間の均質性は、hPSCの事前の封入によって大きく改善され、既存の方法と比較して増加した収量及び質を可能にする。更に、このヒドロゲル層は、微小区画融合を回避することを可能にし、これらは、表現型の均質性及びバイオリアクタ中で産生される心臓細胞の生存にとって好ましくない変動性の主な原因である。
【0019】
加えて、心臓分化に使用されるWNT経路の調節は、β-カテニン分解に関連しており(Lam,A.T.L.et al.Conjoint propagation and differentiation of human embryonic stem cells to cardiomyocytes in a defined microcarrier spinner culture.Stem Cell Res.Ther.5,1-15(2014))、β-カテニンは、細胞-細胞接着複合体における役割を演じる分子である(Brembeck,F.H.,Rosario,M.& Birchmeier,W.Balancing cell adhesion and Wnt signaling,the key role ofβ-catenin.Curr.Opin.Genet.Dev.16,51-59(2006))。有利なことに、本発明による微小区画の形態は、WNT経路の調節によって誘導される細胞-細胞接着の脆弱性にもかかわらず、心臓分化を受けている細胞を保護することを可能にする。
【0020】
本発明による微小区画は、特定の分化したヒト心臓細胞の圧縮組織を得るために使用することができる。したがって、本発明はまた、心筋トロポニンC及び優先的にアルファ-アクチニンも発現する心臓細胞組織を得るための、本発明による細胞微小区画の使用に関する。
【0021】
したがって、本発明はまた、圧縮心臓組織に関する。特に、本発明は、前述の少なくとも1つの細胞微小区画から、内腔の全体的又は部分的な消失によるヒト細胞の内層の圧縮化を含む方法によって得られる、心筋トロポニンCを発現するヒト心臓細胞(すなわち、対応する遺伝子の別名がTNNC1である、心筋トロポニンCの遺伝子を発現するヒト細胞)の圧縮組織に関する。優先的に、本発明による圧縮心臓細胞は、圧縮組織を構成する細胞の全数に対して、数で少なくとも50%、更により優先的に少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%の、心筋トロポニンCを発現する細胞のレベルを有し、このレベルは90%を超え得る。優先的に、本発明による圧縮心臓細胞は、圧縮組織を構成する細胞の全数に対して、数で少なくとも50%、更により優先的に少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%の、アルファ-アクチニンを発現する細胞のレベルを有し、このレベルは90%を超え得る。優先的に、本発明による圧縮心臓細胞は、圧縮組織を構成する細胞の全数に対して、数で少なくとも50%、更により優先的に少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%の、トロポニンC及びアルファ-アクチニンを発現する細胞のレベルを有し、このレベルは90%を超え得る。
【0022】
従来技術において、それはJing Donghui et al.「Cardiac cell generation from encapsulated embryonic stem cells in static and scalable culture systems」,Cell Transplantation,col.19,no 11,1 November 2010,pages 1397-1492で報告されており、心臓組織は、ポリリシンでコーティングされたアルギン酸ビーズにマウス又はヒトESCを封入し、次いで、クエン酸ナトリウム溶液中でのインキュベーションによって核を溶解することで得られた。胚性幹細胞から実証されたこの解決策は、得られた組織の純度、特に心筋トロポニンCを発現する細胞のレベルが20%未満であり、療法における使用を考慮するには不十分であり、満足のいくものではない。更に、組織中に細胞不純物を多く有しすぎると、心筋に望ましくない細胞を導入することで患者にリスクを引き起こし、これは、特に、その電気伝導性及び/又はその収縮能力を破壊することによって、その適切な機能を破壊し得る。加えて、この論文に報告されている濃度でのポリリシンの使用は、細胞に対して毒性のリスクを有する。
【0023】
同様に、Koivisto Janne T.et al.「Mechanically Biomimetic Gelatin-Gellan Gum Hydrogels for 3D Culture of Beating Human Cardiocytes」,Applied Materials & Interfaces,vol.11,no.23,12 June-2019,pages 20589-20602において、細胞の組織化に利用可能な空間を有さないヒドロゲル内での細胞の封入が、おそらく細胞増殖後に、ヒドロゲルを機械的に加圧して報告されている。微小区画における封入はなく、これは好適な収縮周波数をもたらさず、療法における使用に十分なレベルの心筋トロポニンCを発現する細胞ももたらさない。
【0024】
本発明による心臓組織は、従来技術とは異なる特定の方法によって得られ、少なくとも50%、優先的に少なくとも75%の心筋トロポニンC及び/又はアルファ-アクチニンを発現する細胞のレベルを有する心臓組織を得ることを可能にする。実際に、分化中の本発明による構成は、保護された内腔内での自己/パラ分泌シグナルの伝達を可能にし、これは、細胞が生体模倣方式で、インビボで構造を自己組織化することを可能にする。この構造は、極めて脆弱であり、Koivisto Janne T.et alで報告されているものとは対照的に、機械的保護及び利用可能な空間の両方を必要とする。本発明により、この構成は、設置若しくは閉じ込められたシステムに配置することができず、また保護されていないシステムに配置することができない。実際に、心臓分化は、従来システムにおいてインビボであまり再現性がなく(3D及び2Dの両方、https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S2213671118301504)、これは細胞環境の不完全な制御をもたらす。非自明な驚くべき手段で、本発明は、環境の制御された構造化を、保護された自己組織化の形態で提案し、これは、培養システムにおける小さな変動に対するより低い感受性、したがってより高い再現性を可能にする。
【0025】
本発明による心臓組織は、虚血性心臓組織を再生するために使用することができる。したがって、本発明は、病態、特に心臓疾患の予防及び/又は治療におけるそれらの使用のための当該組織に関する。
【0026】
他の特徴及び利点は、本発明の詳細な説明及び以下の実施例から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1a図1bに示される写真に対応する、本発明による細胞微小区画10の断面図の略図であり、外部ヒドロゲル層12、等張水溶液の層14、より大きい厚さt2及びより小さい厚さt1を有する心臓分化を受けているヒト細胞の層16、並びに内部内腔18を有する。
図1b図1aの概略図に対応する倍率4×で撮影した、本発明による微小区画の位相差顕微鏡画像である。
図2a図2bに示される写真に対応する、本発明による細胞微小区画10の断面図の略図であり、外部ヒドロゲル層12、等張水溶液の層14、より大きい厚さt2及びより小さい厚さt1を有する心臓分化を受けているヒト細胞の層16、並びに2つの内部内腔18-1及び18-2を有し、S1は、等張水溶液の層14の厚さを表す。
図2b図2aの概略図に対応する、倍率4×で撮影した、本発明による微小区画の位相差顕微鏡画像である。
図2c】倍率4×で撮影した本発明による複数の微小区画の位相差顕微鏡画像であり、各微小区画は異なる形態を有する。
図3a図3bに示される写真に対応する、本発明による細胞微小区画10の断面図の略図であり、外部ヒドロゲル層12、等張水溶液の層14、より大きい厚さt2及びより小さい厚さt1を有する心臓分化を受けているヒト細胞の層16、並びに2つの内部内腔18-1及び18-1を有し、s1は、等張水溶液の層14の厚さを表す。
図3b図3aの概略図に対応する、倍率4×で撮影した、本発明による微小区画の位相差顕微鏡画像である。
図4a図4bに示される写真に対応する、本発明による圧縮組織の断面図の略図であり、外部ヒドロゲル層12、等張水溶液層14、分化した心臓細胞20の圧縮組織を有する。
図4b図4aの概略図に対応する、倍率4×で撮影した、微小区画における本発明による圧縮組織の位相差顕微鏡画像である。
図4c】微小区画における本発明による圧縮組織の倍率4×で撮影した位相差顕微鏡画像を示す。
図5】-倍率4×を用いた標準的な卓上顕微鏡で、一連の位相差顕微鏡画像(1秒当たり少なくとも30画像の頻度)から得られた組織及び/又は細胞の拍動周波数を示すグラフ、並びに -分化開始時の、封入されたか(最も外側)又は遊離の幹細胞、及び分化開始の約2週後の本発明による圧縮組織を示す、倍率4×で撮影した位相差顕微鏡画像(A1:封入されていない幹細胞集合体、A2:これらの集合体に由来する圧縮心臓組織、B1:カプセル中の圧縮心臓組織、B2:分化を受けている心臓細胞を含有する微小区画、B3:封入された幹細胞)を含む。
図6】-倍率4×を用いた標準的な卓上顕微鏡で、一連の位相差顕微鏡画像(1秒当たり少なくとも30画像の頻度)から得られた組織及び/又は細胞の拍動周波数を表すグラフ、並びに -倍率4×で撮影した位相差顕微鏡画像、を含む。左の画像は、封入したhiPSCからカプセル中で分化した圧縮心臓組織を示す。右の画像は、本発明による圧縮心臓組織を解離することによって得られた細胞を示す。
図7】倍率4×での位相差顕微鏡画像を含む。上の列の3つの画像(a、b、及びc)は、封入した細胞の画像である。下の列の3つの画像(d、e、及びf)は、封入されていない細胞の画像である。左列の画像(a及びd)は、心臓細胞への分化の開始時に誘導された幹細胞を表す。中央列の画像(b及びe)は、分化開始の3~7日後に心臓分化を受けているヒト細胞を表す。右列の画像(c及びf)は、分化した心臓組織を表す。
図8】心筋トロポニンCを発現する組織(図7c及び図7fのように得られた)における細胞の割合を表すグラフであり、左は、封入された、本発明による組織(画像7c)であり、右は、封入されていない組織(画像7f)である。
図9】組織における分化の開始(図7a及び図7dのように得られた)の間の細胞増幅率を示すグラフであり、左は、封入された本発明による組織であり、右は、封入されていない組織である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
定義
本発明の目的において、「アルギン酸」という用語は、β-D-マンヌロン酸及びα-L-グルロン酸から形成される直鎖多糖類、それらの塩、及び誘導体を意味する。
【0029】
本発明の意味の範囲内において、「ヒドロゲルカプセル」は、液体及び優先的に水で膨張したポリマー鎖のマトリクスから形成される三次元構造を意味する。
【0030】
本発明の意味の範囲内における「遺伝子を発現する」細胞は、多能性細胞と比較して、該当する遺伝子のDNA配列から転写されたRNAの少なくとも5倍多いコピー、優先的に10倍多いコピー、優先的に20倍多いコピー、優先的に100倍多いコピーを含有する細胞を意味する。
【0031】
本発明の意味の範囲内において、「ヒト細胞」は、ヒト細胞又は免疫学的にヒト化された非ヒト哺乳動物細胞を意味する。これが特定されない場合であっても、本発明による細胞、幹細胞、前駆細胞、及び組織は、ヒト細胞から、若しくは免疫学的にヒト化された非ヒト哺乳動物細胞から構成されるか、又はそれらから得られる。
【0032】
本発明の意味の範囲内において、「前駆細胞」は、心臓分化に既に関与しているが、まだ分化していない幹細胞を意味する。
【0033】
本発明の意味の範囲内において、「胚性幹細胞」は、胚盤胞の内部細胞塊に由来する多能性幹細胞を意味する。複数の胚性幹細胞は、転写因子OCT4、NANOG、及びSOX2などのマーカー、並びにSSEA3/4、Tra-1-60、及びTra-1-81などの表面マーカーの存在によって評価することができる。本発明の文脈において使用される胚性幹細胞は、例えば、Chang et al.(Cell Stem Cell,2008,2(2)):113-117)に記載される技法を使用して、それらが生じる胚の破壊を伴わずに得られる。任意選択的に、ヒトの胚性幹細胞を除外することができる。
【0034】
本発明の意味の範囲内における「多能性幹細胞」又は「多能性細胞」は、生物中に存在する全ての組織を形成する能力を有するが、そのような生物全体を形成することはできない細胞を意味する。ヒト多能性幹細胞は、本出願においてhPSCと呼ぶことができる。それは、特に、誘導多能性幹細胞(iPSC又はヒト誘導多能性幹細胞についてhiPSC)、胚性幹細胞、又はMUSE細胞(「多系列分化ストレス耐性」細胞について)であり得る。
【0035】
本発明の意味の範囲内において、「誘導多能性幹細胞」は、分化した体細胞の遺伝子再プログラミングによって多能性に誘導された多能性幹細胞を意味することが意図される。これらの細胞は、特に、アルカリホスファターゼによる染色並びにタンパク質NANOG、SOX2、OCT4、及びSSEA3/4の発現などの多能性マーカーについて陽性である。誘導多能性幹細胞を得るための方法の例は、論文Yu et al.(Science 2007,318(5858):1917-1920)、Takahashi et al(Cell,207,131(5):861-872)、及びNakagawa et al(Nat Biotechnol,2008,26(1):101-106)に記載されている。
【0036】
本発明の意味の範囲内において、「分化した心臓細胞」は、心筋細胞の表現型を有する細胞、すなわち、TNNC1(心筋トロポニンC遺伝子)及びACTN2(アルファアクチニン遺伝子)などの特異的マーカーを発現し、自発的細胞内カルシウムシグナルに(未成熟心臓細胞の場合)、又は当該カルシウムシグナルを誘発することができる電気的若しくは化学的刺激に続いて応答して、自発的に収縮することができる細胞を意味する。
【0037】
本発明の意味の範囲内において、「分化した」細胞は、分化していない多能性幹細胞とは対照的に、特定の表現型を有する細胞を意味する。
【0038】
本発明による圧縮心臓組織又は本発明による微小区画の「フェレ径」は、当該圧縮組織又は当該微小区画に対する2つの接線の間の距離「d」を意味し、これらの2つの接線は平行であり、それによって、当該圧縮組織又は当該微小区画の突出全体が、これらの2つの平行した接線の間に含まれる。
【0039】
本発明の意味の範囲内において、細胞分化を受けているヒト細胞の内層の「可変的な厚さ」は、同じ微小区画における内層が、全体にわたって同じ厚さを有さないことを意味すると理解される。
【0040】
本発明の意味の範囲内において、心臓における「埋め込み」又は「移植」は、心臓において、本発明による少なくとも1つの圧縮組織を特定の位置に沈着させる行為を意味する。埋め込みは、任意の手段によって、特に注入によって実行することができる。
【0041】
本発明の意味の範囲内において、「微小区画」又は「カプセル」は、少なくとも1つの細胞を含有する、三次元又は完全に閉じた構造を意味する。
【0042】
本発明の意味の範囲内において、「対流培養培地」は、内部運動によって活発化される培養培地を意味する。
【0043】
本発明の意味の範囲内において、本発明による圧縮心臓組織又は本発明による微小区画の「最大寸法」は、当該圧縮組織又は当該微小区画の最大フェレ径の値を意味する。
【0044】
本発明の意味の範囲内において、本発明による圧縮心臓組織又は本発明による微小区画の「最小寸法」は、当該圧縮組織又は当該微小区画の最小フェレ径の値を意味する。
【0045】
本発明の意味の範囲内で、「組織」又は「生物学的組織」は、生物学における組織の一般的な意味を有し、これは、細胞と器官との間の中間の組織化レベルである。組織は、クランプ、ネットワーク、又はバンドル(繊維)に分類される、同じ起源の一連の類似細胞である(最も頻繁に、共通の細胞株に由来するが、それらは異なる細胞株の関連を通して起源を見出すことができる)。組織は、機能的集合体を形成し、すなわち、その細胞が同じ機能に寄与する。生物学的組織は規則的に再生し、一緒に集合して器官を形成する。
【0046】
本発明の意味の範囲内において、「圧縮心臓組織」又は「心臓細胞の圧縮組織」は、分化した心臓細胞から少なくともなる、少なくとも1つの心臓組織を含む組織の単位を意味する。組織は、少なくとも部分的に圧縮されており、すなわち、主に細胞からなり、特に、その体積は、50%を超える細胞、優先的に75%の細胞、優先的に90%の細胞からなる。組織は、完全に圧縮することができ、すなわち、内腔がもはや検出できないか、かつ/又は内腔が存在しない。本発明による圧縮組織は、微小組織と呼ぶことができる。
【0047】
本発明の意味の範囲内において、「内腔」は、細胞によって形態的に囲まれた水溶液の体積を意味する。優先的に、その内容物は、微小区画の外側に存在する対流液体の体積と拡散平衡にない。
【0048】
細胞微小区画
本発明の目的は、少なくとも1つの内腔の周囲に組織化された、
-PDGFRα、MESP-1、NKX2-5、GATA4、MEF2C、TBX20、ISL1、及びTBX5から選択される少なくとも1つの遺伝子を発現する、心臓分化を受けているヒト細胞の少なくとも1つの内層であって、可変的な厚さを有する、内層(「内層」と呼ばれる)と、
-等張水溶液の少なくとも1つの中間層(「中間層」と呼ばれる)と、
-少なくとも1つの外部ヒドロゲル層(「外層」と呼ばれる)と、を連続して含む、細胞微小区画である。
【0049】
本発明による微小区画は、したがって、細胞の少なくとも1つの内層を含む三次元構造である。これらの細胞は、心臓分化を受けている生きたヒト細胞である。この細胞の層は、微小区画において三次元で組織化される。
【0050】
微小区画における心臓分化を受けているヒト細胞は、PDGFRα、MESP-1、NKX2-5、GATA4、MEF2C、TBX20、ISL1、及びTBX5から選択される少なくとも1つの遺伝子を発現する細胞である。これらの遺伝子は、分化を受けている心臓細胞に特異的である。優先的に、微小区画に存在する心臓分化を受けているヒト細胞は、これらの遺伝子の少なくとも2つを発現する。一変形形態により、微小区画に存在する心臓分化を受けているヒト細胞は、これら全ての遺伝子を発現する。
【0051】
心臓分化を受けているヒト細胞の内層は、可変的な厚さを有する。微小区画内で、ヒト細胞の内層及び内腔は、三次元細胞体を一緒に形成する。細胞内層の最小厚さ及び最大厚さが、この細胞体の幾何学的中心を通るセグメントに沿って測定された場合(図1a、図2a、及び図3aにおいて22として示される)、最大厚さと最小厚さとの間の比は、2以上、優先的に5以上である。内層厚さは、細胞体の幾何学的中心を通るセグメントに沿って、
a.
内層及び中間層の境界面と、
内層及び内腔の境界面と、の間、
かつ/又は
b.
内層及び内腔の境界面と、
内層及び別の内腔の境界面と、の間、で測定される。
【0052】
図1図2、及び図3は、本発明による細胞微小区画10の例を示し、外部ヒドロゲル層12、等張水溶液層14、1つ以上の内部内腔18、18-1、18-2、より大きい厚さt2及びより小さい厚さt1を有する心臓分化を受けているヒト細胞の層16(厚さは、層16及び内腔18、18-1、18-2によって形成されるこの細胞体の幾何学的中心を通るセグメント22に沿って測定される)を有し、比t2/t1は2よりもはるかに大きい。
【0053】
図1では、1つのスロット18のみがあり、結果として、内層厚さは、層16及び内腔18によって形成される細胞体の幾何学的中心を通るセグメント22に沿って、内層及び中間層の境界面と、内層及び内腔18の境界面との間で測定される。
【0054】
図2及び図3では、2つの内腔18-1及び18-2があり、したがって、内層厚さは、層16及び内腔181-18-2によって形成される細胞体の幾何学的中心を通るセグメント22に沿って、
-内層及び中間層の境界面と、内層及び内腔18-1の境界面との間、かつ
-内層及び中間層の境界面と、内層及び内腔18-2の境界面との間、かつ
-内層及び内腔18-1の境界面と、内層及び内腔18-2の境界面との間、で測定される。
【0055】
内層において心臓分化を受けているヒト細胞の数は、優先的に1~100,000個の細胞、更により優先的に50~50,000個の細胞、特に500~25,000個の細胞である。
【0056】
内層において心臓分化を受けているヒト細胞は、多能性幹細胞から、特にヒト多能性幹細胞から、又は任意選択的に、転写プロファイルが心臓前駆体又は心臓細胞のものを獲得するように人工的に改変された非多能性ヒト細胞から、典型的には特異的標的細胞表現型転写因子を発現させることによって優先的に得られた。優先的に、内層におけるヒト細胞は、ヒト多能性幹細胞から、当該幹細胞の分化を開始することができる溶液と接触して配置させた後に得られた。
【0057】
等張水溶液の中間層は、優先的に、インテグリンに結合することができるペプチド又はペプチド模倣配列を含有する。「等張水溶液」は、200~400mOsm/Lのモル浸透圧濃度を有する水溶液を意味する。この層は、細胞の内層と外部ヒドロゲル層との間に配置される。
【0058】
中間層は、微小区画の製造中に添加されている要素、及び/又は微小区画に添加された要素、及び/又は微小区画の他の成分によって分泌若しくは誘導された要素、からなり得る。
【0059】
中間層は、特に、細胞外マトリクス及び/若しくは培養培地を含み得るか、又はそれらからなり得る。それが細胞外マトリクスを含む場合、それは、内層の細胞によって分泌された細胞外マトリクス及び/又は微小区画の調製/組み立てられたときに添加された細胞外マトリクスよるものであり得る。
【0060】
中間層は、心臓分化を受けている細胞を培養するために必要とされるタンパク質及び細胞外化合物の混合物を優先的に含む。優先的に、中間層は、コラーゲン、ラミニン、エナクチン、ビトロネクチンなどの構造タンパク質、並びにTGF-ベータ及び/又はEGFなどの成長因子を含む。一変形形態により、中間層は、Matrigel(登録商標)及び/あるいはGeltrex(登録商標)及び/あるいは修飾アルギン酸などの植物由来、若しくは合成由来のヒドロゲル型のマトリクス、又はMebiol(登録商標)のようなポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)とポリ(エチレングリコール)とのコポリマー(PNIPAAm-PEG)からなるか、又はそれらを含み得る。
【0061】
一変形形態により、中間層は、ゲルを形成し得る。
【0062】
分化を受けているヒト細胞の内層と接触している中間層の表面で、中間層は、任意選択的に、1つ以上の細胞を含有し得る。
【0063】
中間層の厚さ(図1及び図2にs1で示される)は、優先的に30nm~300μm、更により優先的に30nm~50μmである。
【0064】
中間層の存在は、本発明により、微小区画内の要素の構造化を促進する。
【0065】
本発明による微小区画及び微小区画内の細胞の内層は、中空である。実際、本発明による微小区画は常に、微小区画の中空部分を構成する少なくとも1つの内部内腔を含む。内腔は、液体、特に培養培地(例えば、B27サプリメントを添加した基礎RPMI培地など)及び/又は内層の細胞によって分泌された液体を含有する。有利には、この中空部分の存在は、細胞が、制御できる組成の小さな拡散体積を有することを可能にし、いわゆる自己分泌/パラ分泌細胞伝達を促進し、これは次に心臓分化に好都合である。
【0066】
一実施形態により、図2及び図3に示されるように、本発明による微小区画は、複数の内腔、少なくとも2つの内腔を含むことができる。この状況は、自己分泌及びパラ分泌シグナルに関して、単一の内腔の存在と同じ利点を有し、(体積に対する細胞)/(細胞)の比が幾何学的に低くなるため、内腔の水溶液の組成を制御する細胞の能力を増加させる。更に、かかる構成の安定化は、微小区画によって提供される機械的保護を実証する。
【0067】
内腔は、優先的に、本発明による微小区画の体積の10%~90%に相当する。
【0068】
微小区画は、外部ヒドロゲル層を含む。優先的に、使用されるヒドロゲルは生体適合性であり、すなわち細胞に対して毒性ではない。ヒドロゲル層は、微小区画に含有される細胞に供給する酸素及び栄養素の拡散を可能にし、それらの生存を可能にしなければならない。一実施形態により、外部ヒドロゲル層は、少なくともアルギン酸を含む。それは、排他的にアルギン酸からなり得る。アルギン酸は、特にアルギン酸ナトリウムであることができ、80%α-L-グルロン酸及び20%β-D-マンヌロン酸から構成され、100~400kDaの平均分子量及び0.5~5質量%の総濃度を有する。
【0069】
ヒドロゲル層は、細胞を外部環境から保護し、細胞の制御されない増殖を制限して、心臓分化を受けている細胞への、次いで心臓細胞への、少なくとも心筋細胞へのそれらの制御された分化を可能にする。
【0070】
外層は、閉じているか、又は部分的に閉じている。したがって、微小区画は、閉じているか、又は部分的に閉じている。優先的に、微小区画は閉じている。
【0071】
本発明による微小区画は、任意の三次元形態であることができ、すなわち、空間内の任意の物体の形状を有し得る。優先的に、本発明による微小区画は、球状又は細長い形態にある。それは、特に、中空の回転楕円体、中空の卵形、中空の円柱、又は中空の球体の形態にあり得る。
【0072】
本発明による微小区画にそのサイズ及び形状を付与するのは、微小区画の外層、すなわちヒドロゲル層である。優先的に、本発明による微小区画の最小寸法は、10μm~1mm、優先的に100μm~700μmである。それは、10μm~600μm、特に10μm~500μmであり得る。この最小寸法は、特に、心臓組織内の心臓細胞の生存を促進し、心臓における埋め込み後の心臓組織の再組織化及び血管新生を最適化するために、本発明による微小区画から得られる三次元心臓組織の生存にとって重要である。
【0073】
その最大寸法は、優先的に10μm超、より優先的に10μm~1m、更により優先的に10μm~50cmである。一実施形態により、最大寸法は一部器官のサイズに一致しており、したがって30cm未満(10μm~30cm)である。
【0074】
本発明による微小区画は、分化したヒト心臓細胞からなる、三次元圧縮心臓組織を得るために特に有用である。
【0075】
本発明による微小区画は、任意選択的に、凍結して保存され得る。次いで、それは、心臓細胞の成熟を継続し、三次元圧縮心臓組織を得るために、解凍されなければならない。
【0076】
本発明はまた、一緒の複数の微小区画に関する。そのため、本発明はまた、本発明による少なくとも2つの細胞微小区画を含む上記の一連の細胞微小区画に関する。優先的に、本発明による一連の微小区画は、培養培地中、特に少なくとも部分的に対流培養培地中にある。特に好適な実施形態により、本発明の目標は、バイオリアクタなどの閉鎖チャンバにおける、優先的にバイオリアクタなどの閉鎖チャンバ内の培養培地における、上記のような一連の細胞微小区画である。
【0077】
本発明による微小区画を得るための方法
本発明はまた、本発明による微小区画を調製するための方法に関する。
【0078】
特に、方法は、
-心臓細胞に、少なくとも心筋細胞に、分化することができる幹細胞若しくは前駆細胞、又は
-カプセル内で再プログラミングを受け、それによって心臓細胞に、少なくとも心筋細胞に、分化することができる誘導多能性幹細胞になるように意図された分化した細胞、を囲むヒドロゲルカプセルを含む、細胞微小区画を産生することからなる。
【0079】
本発明による微小区画を調製するための方法は、
-ヒドロゲルカプセル内に、
細胞によって分泌されるか又は操作者によって供給される等張水溶液、優先的に細胞外マトリクスの要素、優先的に細胞によって自然に分泌される細胞外マトリクスに加えて提供される等張水溶液の少なくとも一部、
心臓細胞に分化することができる細胞、を含む細胞微小区画を産生するステップ、
-PDGFRα、MESP-1、NKX2-5、GATA4、MEF2C、TBX20、ISL1、及びTBX5から選択される少なくとも1つの遺伝子を発現する、心臓分化を受けているヒト細胞、並びに任意選択的に、他の細胞の少なくとも1つの中空の三次元層を得るように、細胞微小区画内に細胞分化を誘導するステップ、からなるステップの実施を少なくとも含み得る。
【0080】
有利には、ヒドロゲル及び組み合わせた細胞外マトリクスの添加における全体的又は部分的な封入は、ヒト多能性細胞の心筋への分化を可能にするのに好適な手段であり、いくつかの利点、特に、
i)微小区画内でバッチの細胞の均質な分布を促進すること、
ii)バイオリアクタによって加えられる流体力学的ストレスに対する機械的保護、及び微小区画の望ましくない融合の制限、
iii)良好な生存及び良好な細胞組織化を促進する、細胞外マトリクス要素を局所的に保持している微小環境の組織化、
iv)分化の間に自己分泌経路及びパラ分泌経路を促進する内腔を維持すること、を組み合わせている。
【0081】
ヒドロゲルカプセル内に、心臓分化を受けている少なくともヒト細胞及び等張水溶液を含有し、任意選択的に、他の細胞、例えば支持細胞を添加する、細胞微小区画を産生するための任意の方法が、使用され得る。好適な方法は、とりわけ国際公開第2018/096277号に記載されている。優先的に、封入は、3つの溶液:
-ヒドロゲル溶液、
-例えばソルビトール溶液などの等張中間溶液、
-封入される細胞、培養培地、及び任意選択的だが優先的に、細胞外マトリクスを含む溶液、
を、3つの溶液の混合物からなるジェットを注入器の流出口で形成することを可能にするマイクロ流体注入器を介して、同心円状に共注入することによって実行され、当該ジェットは滴に分裂し、当該滴は、ヒドロゲル溶液を硬化させて各微小区画の外層を形成するカルシウム槽に収集され、各滴の内部部分は、封入した細胞、培養培地、及び細胞外マトリクスを含む溶液によって構成される。
【0082】
一実施形態により、封入は、マイクロ流体チップを使用してヒドロゲルカプセルを生成することができるデバイスを用いて実行される。例えば、デバイスは、マイクロ流体注入器によって同心円状に注入されるいくつかの溶液のためのシリンジショットを含み得、滴に分割されるジェットを形成することを可能にし、滴は、次いで、カルシウム槽に収集される。特に好適な実施形態により、3つの溶液:
-ヒドロゲル溶液、例えばアルギン酸、
-例えばソルビトール溶液などの等張中間溶液、
-iPSC、培養培地、及び任意選択的であるが優先的に、細胞外マトリクスを含む、ステップb)から引き出される溶液、が3つのシリンジポンプに充填される。
【0083】
3つの溶液は、滴に分裂するジェットを形成することを可能にするマイクロ流体又はマイクロ流体チップ注入器を使用して、同心円状に共注入(同時注入)され、その外層はヒドロゲル溶液であり、溶液のコアは封入される細胞を含み、これらの滴は、アルギン酸溶液を硬化させてシェルを形成するカルシウム槽に収集される。
【0084】
細胞微小区画の単分散性を改善するために、ヒドロゲル溶液を直流で帯電させる。基部リングが、マイクロ流体注入器(共押出チップ)から出るジェットの軸に垂直な平面に先端の後に配置され、電場を発生させる。
【0085】
特定の実施形態において、本発明による調製方法の細胞微小区画を産生するステップは、
-培養培地、優先的に、成長因子FGF2及びTGFβ又は細胞に対するその作用を再現する分子、Rhoキナーゼ経路の阻害剤、又は細胞に対するその作用を再現する分子を含有する培養培地中で、特に細胞死を制限することによって、多能性幹細胞をインキュベートするステップ。
-任意選択的に、多能性幹細胞を等張水溶液、優先的に細胞外マトリクスと混合するステップ、
-混合物をヒドロゲル層に封入するステップ、からなるステップを含む。
【0086】
本発明による微小区画の調製のために封入される細胞は、優先的に、
-少なくとも心臓細胞に分化することができる細胞であって、これらの細胞が、
心臓細胞に、少なくとも心筋細胞に分化することができる幹細胞、優先的に胚性幹細胞若しくは誘導多能性幹細胞、非常に優先的に誘導多能性幹細胞、及び/又は
又は心臓細胞、少なくとも心筋細胞に分化することができる前駆細胞、のいずれかである、細胞、
-並びに/あるいは再プログラミングを受けることができ、それによって心臓細胞、少なくとも心筋細胞に分化することができる誘導多能性幹細胞になる分化した細胞、から選択される。
【0087】
封入された細胞は、拒絶のいかなるリスクも回避するために、本発明による微小区画から得られた分化した心臓細胞を受容するように意図されたヒトと免疫適合性であることができる。一実施形態において、封入された細胞は、本発明による微小区画から得られた圧縮心臓組織が埋め込まれるヒトから事前に採取された。
【0088】
本発明による微小区画に含有される心臓分化を受けている細胞への分化は、任意の好適な方法によって実行することができる。それは、特に、Dunn,KK & Palecek,SP「Engineering fabrication evolutive de cardiomyocytes derives de cellules souches de haute qualite pour la reparation des tissus cardiaques.」Front.Med.5,(2018))に列挙されるプロトコルのうちの1つとして知られている方法であり得る。
【0089】
現在最も一般的なもののうちの1つであるプロトコルは、(Burridge,P.W.et al.Chemically defined generation of human cardiomyocytes.Nat.Methods 11,855-860(2014))に詳細に記載されている。
【0090】
特定の実施形態において、本発明による方法の細胞分化を誘導するステップは、ヒト心臓細胞に分化することができるヒト幹細胞を含有するカプセルを、WNT経路活性化因子(CHIR99021など)を含有する培養培地に12時間~72時間、より優先的に12~48時間導入することからなるステップを含む。
【0091】
次に、プロセスは、WNT経路の阻害剤を含有する培養培地中で微小区画をインキュベートすることからなるステップを含み得る。優先的に、このステップは、分化を誘導するステップの終了(WNT経路の活性化因子の添加)後0~3日、優先的に12~72時間、特に24~48時間に実行される。好ましい実施形態により、このステップは、カプセルを、WNT経路の阻害剤を含有する培養培地中で、優先的に12時間~48時間、特に24~48時間インキュベートすることからなる。
【0092】
特定の一実施形態は、以下:
(a)ヒト多能性幹細胞含有カプセルを、WNT経路活性化因子を含有する培養培地中で12時間~72時間インキュベートすること、
(b)ステップ(a)の0~48時間後に、カプセルを、WNT経路阻害剤を含有する培養培地中で12時間~48時間インキュベートすること、である。
【0093】
優先的に、培養培地は、B27サプリメント添加、インスリン無添加(分化の最初の7日間)、及びインスリン添加(分化の7日目から)のRPMIである。
【0094】
優先的に、心臓分化を受けている細胞を含有する本発明による微小区画は、分化誘導の開始後2~7日、優先的に分化誘導の開始後3~7日、更により優先的に分化開始後4~6日に得られる。優先的に、本発明による微小区画は、WNT経路阻害剤が添加された瞬間に、又はその後に出現する。
【0095】
内腔は、増殖及び発達する細胞によって、三次元で心臓分化を受けているヒト細胞の層の形成の時に生成される。内腔は、液体、特に本方法の実施に使用される培養培地を含有することができる。
【0096】
一実施形態により、出発幹細胞は、微小区画内の内腔の周りに三次元で幹細胞の層に組織化され、次いで分化中にこの内腔が消失し、第2の内腔が出現して本発明による微小区画を形成する。
【0097】
方法は、優先的に、一連の微小区画を用いてバイオリアクタなどの閉鎖チャンバ内で、更により優先的に、少なくとも部分的に対流する好適な培養培地中で実施される。
【0098】
本発明による方法はまた、任意選択的に
-細胞の懸濁液又は細胞クラスタの懸濁液を得るために、微小区画又は一連の微小区画を解離させることからなるステップであって、カプセルの除去が、特に、加水分解、溶解、穿孔、及び/又は生体適合性であり、細胞に対して非毒性である任意の手段による破裂によって実行することができ、例えば、除去が、リン酸緩衝液、二価イオンキレート剤、ヒドロゲルがアルギン酸を含む場合にアルギン酸リアーゼなどの酵素、及び/又はレーザーマイクロダイセクションを使用して達成され得る、ステップ、並びに
-細胞又は細胞クラスタの全部若しくはいくつかのをヒドロゲルカプセル中に再封入するステップ、を含み得る。
【0099】
再封入は、
i)後に得られる圧縮心臓組織のサイズ及び均質性の標準化を最適化し、
ii)多能性ステップから得られる細胞増幅の増加、したがってより高い収率を可能にするように適応される手段である。
【0100】
どの時点でも、本発明による方法は、微小区画に含有される細胞の表現型を検証することからなるステップを含み得る。この検証は、微小区画に含有される細胞の少なくともいくつかによる、以下の遺伝子:PDGFRα、MESP-1、NKX2-5、GATA4、MEF2C、TBX20、ISL1、及びTBX5のうちの少なくとも1つの発現を特定することによって実行することができる。
【0101】
本発明による方法は、本発明による微小区画を凍結するステップを、それらを使用して分化した心臓細胞への分化を継続して、圧縮心臓組織を得る前に含み得る。凍結は、優先的に-190℃~-80℃からなる温度で実行される。解凍は、細胞を極めて素早く解凍するように、温水槽(優先的に37度)中で実行することができる。本発明による微小区画は、それらを使用して分化した心臓細胞への分化を継続して、圧縮心臓組織を得る前に、それらが使用される前の限られた期間にわたって4℃超、優先的に4℃~38℃に維持することができる。
【0102】
本発明による微小区画はまた、本発明による方法の実施直後に、保存及び凍結することなく使用して、分化した心臓細胞への分化を継続して、圧縮心臓組織を得ることができる。
【0103】
圧縮心臓組織を得るための方法
分化を受けているヒト細胞を含有する本発明による微小区画を得た後、方法は、圧縮組織の形態で三次元物体を得るために継続することができる。
【0104】
圧縮体は、一般に、WNT経路の阻害剤の添加後2~10日、特に5~7日に出現する。実際に、阻害剤の添加は、心臓細胞に分化し続ける細胞の圧縮化に対する準備である。
【0105】
そのため、圧縮体は、一般に、分化の開始後7~14日に出現する。
【0106】
圧縮化の終わりに、内腔の全て又はいくつかが、部分的又は完全に消失しており(圧縮化現象によって部分的又は完全に除去されている)、細胞は、少なくとも部分的にヒト心臓細胞、優先的に少なくとも心筋細胞を含む。
【0107】
本発明による方法は、微小区画内で心臓細胞を増幅するステップ、及び任意選択的に1回以上の再封入を含み得る。
【0108】
得られた圧縮心臓組織は、ヒドロゲルカプセル中に維持することができる。優先的に、それは常に等張水溶液、優先的に細胞外マトリクスによって囲まれている。三次元圧縮心臓組織及び等張水溶液層を含有するカプセルが、図4に示される。
【0109】
圧縮組織は、優先的に、使用前にカプセル中に保存される。保存のために、圧縮心臓組織を含有するカプセルは、カプセルからヒドロゲル層を除去する前に凍結することができる。本発明による方法は、本発明による圧縮心臓組織を含有するカプセルを、それらが使用される前に凍結するステップを含むことができる。凍結は、優先的に-190℃~-80℃の温度で実行される。本発明による圧縮心臓組織を含有するカプセルは、それらが心臓における移植片として使用される前に、組織の細胞を極めて素早く解凍するように、温水槽(優先的に37度)中で解凍し得る。本発明による圧縮心臓組織は、それらの使用前の限定された期間、4℃超で、優先的に4℃~38℃で維持することができる。
【0110】
圧縮心臓組織を得た後、心臓における埋め込み前の任意の時点で、本発明による方法は、カプセルに含有される細胞の表現型を検証することからなるステップを含み得る。この検証は、圧縮組織を形成する心臓細胞による心筋トロポニンCの発現を特定することによって実行することができる。
【0111】
優先的に、使用前に、本発明による圧縮心臓組織を含有するカプセルのヒドロゲル層は除去される。カプセルの除去は、特に、加水分解、溶解、穿孔、及び/又は生体適合性であり、細胞に対して非毒性である任意の手段による破裂によって実行することができる。例えば、除去は、リン酸緩衝液、二価イオンキレート剤、ヒドロゲルがアルギン酸を含む場合にアルギン酸リアーゼなどの酵素、及び/又はレーザーマイクロダイセクションを使用して達成され得る。
【0112】
ヒドロゲルの除去が、優先的に全てである場合、本発明による圧縮心臓組織は、それが心臓に埋め込まれる移植片として使用されるとき、ヒドロゲルを欠いている。
【0113】
三次元圧縮心臓組織
本発明はまた、上記のような方法に従って得られた心臓組織に関する。したがって、本発明の主題は、本発明による少なくとも1つの細胞微小区画から得られる、心筋トロポニンC及び優先的にアルファ-アクチニンを発現するヒト細胞の圧縮組織である。
【0114】
特に、本発明は、本発明による少なくとも1つの細胞微小区画から、当該微小区画の内腔の全体的又は部分的な消失によるヒト細胞の層の圧縮(二次圧縮として知られる圧縮)を含む方法によって得られる、心筋トロポニンCを発現するヒト細胞の圧縮組織に関する。優先的に、圧縮心臓細胞組織は、以下に記載されるような方法によって得られる。
【0115】
したがって、本発明による組織は、心筋トロポニンC及び優先的にアルファ-アクチニンを発現する、少なくとも分化した心臓細胞を含むヒト組織である。本発明による圧縮組織はまた、他の細胞型を含有することができる。
【0116】
有利には、本発明による心臓組織は、圧縮組織を構成する細胞の全数に対して、数で少なくとも50%、更により優先的には少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも90%の、心筋トロポニンCを発現する細胞のレベルを有する。心筋トロポニンCを発現する細胞のこの有意なレベルは、細胞療法における本発明による心臓組織の使用を想定するのに有利である。
【0117】
優先的に、本発明による圧縮心臓細胞は、圧縮組織を構成する細胞の全数に対して、数で少なくとも50%、更により優先的に少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%の、アルファ-アクチニンを発現する細胞のレベルを有し、このレベルは90%を超え得る。アルファ-アクチニンを発現する細胞のこの有意なレベルは、細胞療法における本発明による心臓組織の使用を想定するのに有利である。
【0118】
優先的に、本発明による圧縮心臓細胞は、圧縮組織を構成する細胞の全数に対して、数で少なくとも50%、更により優先的に少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%の、トロポニンC及びアルファ-アクチニンを発現する細胞のレベルを有し、このレベルは90%を超え得る。トロポニンC及びアルファ-アクチニンの両方を発現する細胞のこの有意なレベルは、細胞療法における本発明による心臓組織の使用を想定するのに有利である。
【0119】
優先的に、この圧縮組織は収縮性であり、4Hz未満、優先的に2Hz未満、更により優先的に1.7Hz未満、特に1Hz未満、とりわけ0.5Hz未満、あるいは0.25Hz未満の自発的収縮周波数を有する。この組織収縮周波数は低く、これは心臓におけるその埋め込みに大きな利点を有する。実際、かかる周波数は、本発明による圧縮組織が治療される心臓に移植されるその時に、不整脈を回避することを可能にする。
【0120】
成人の平均心拍数は、60~100拍/分(1~1.7Hz)である。本発明による心臓圧縮組織の低い収縮周波数は、これらの組織から得られた組織又は細胞の移植中の不整脈のリスクを低下させる。一実施形態により、患者(レシピエント)の心拍数よりも低い本発明による組織の自発的拍動周波数で、この不整脈のリスクは更に低下される。
【0121】
自発的拍動の周波数における低下は、ヒト幹細胞に由来する心筋細胞の成熟に関連しており、3D培養環境が、心筋細胞の成熟を改善する。本発明により、封入はまた、圧縮心臓組織の収縮周波数を低下させることを可能にする。図5は、所与の出発細胞集団について、(封入されたヒト多能性幹細胞から)微小区画/カプセル内の分化した心筋細胞が、同じプロトコル(及びヒト多能性幹細胞の同じ初期バッチ)を用いるが、自由な浮遊培養中で分化した心筋細胞よりも遅い自発的拍動速度を有することを示す。そのため、封入された幹細胞からの心筋細胞への分化は、自発的収縮周波数を低下させる。
【0122】
ヒト多能性幹細胞は、心臓分化プロセス中にシグナル伝達分子を分泌し、分化の成功のために必要な特異的パラ分泌微小環境を生成する(Kempf,H.et al.Bulk cell density and Wnt/TGFbeta signalling regulate mesendodermal patterning of human pluripotent stem cells.Nature Communications 7,(2016))。カプセルの存在は、これらのパラ分泌因子の局所濃度を増加及び維持するのに役立ち、分化の表現型を改善し、自発的拍動周波数の低下をもたらす。
【0123】
本発明による圧縮心臓組織は、数ヶ月間、自発的に収縮を続けることができる。そのため、産物は経時的に安定である。
【0124】
一変形形態により、微小区画内の心臓分化は、遂行され、かつ/又は電気的刺激及び代謝介入若しくはホルモン介入などの他の技法と組み合わされ得る。かかる技法との組み合わせは、移植前の本発明による圧縮心臓組織の自発的拍動の周波数を更に低下させることを可能にすることができる。
【0125】
本発明による心臓ヒト細胞の圧縮組織は、外部ヒドロゲル層に全体的に又は部分的に封入することができる。ヒドロゲルカプセルは、心臓分化中のヒト細胞微小区画の最初のものであり得るか、又はそれは、初期ヒドロゲル層が除去されている場合に新たなヒドロゲル層、次いで方法の任意の段階での再封入であり得る。
【0126】
本発明による圧縮心臓細胞の封入は、組織を保護し、4Hz未満、優先的に2Hz未満、更により優先的に1Hz未満、特に0.5Hz未満の自発的収縮周波数を維持することを可能にする。それは、0.25Hz未満であり得る。収縮周波数が制限されるメカニズムは、i)心臓細胞の原形質細胞の電気的連続性、ii)及び/又は圧縮組織の細胞間隙における細胞当たりの利用可能なカルシウムの量の制限、iii)及び/又は心臓細胞の細胞骨格要素の機械的連続性に関連する機械的強度、を介する3D構造化と結びつけることができる。本発明による圧縮心臓組織の封入はまた、圧縮組織のサイズを制御することを可能にし、心臓に注入されるときに、特に単一細胞の注入と比較して、保持、統合、及び細胞生存を改善し、本発明による圧縮組織を用いた心臓細胞療法の有効性を増加させる。
【0127】
一実施形態により、本発明による心臓ヒト細胞の圧縮組織は、外部ヒドロゲル層に封入されない。特に、カプセルは、移植後に圧縮組織細胞が心臓に埋め込まれることを可能にするために、使用前に優先的に除去される。
【0128】
本発明による圧縮ヒト心臓細胞組織は、優先的に、細胞外マトリクスなどの等張水溶液層によって全体的又は部分的に囲まれている。この等張水溶液層は、圧縮心臓組織が封入されている場合、ヒト心臓細胞の圧縮組織とヒドロゲル層との間に配置される。
【0129】
本発明による圧縮心臓組織は、三次元にある。それは、優先的に、球状又は細長い形状を有する。好ましい実施形態により、心臓ヒト細胞の圧縮組織は、回転楕円体、卵形、円柱、又は球体の形状を有する。
【0130】
本発明による圧縮組織の例が、図4に示される。この例において、本発明による圧縮組織は、等張水溶液層及び外部ヒドロゲル層によって囲まれている。
【0131】
優先的に、それは、10μm~1mm、優先的に100μm~700μmの直径又は最小寸法を有する。この最小寸法は、その生存のために、特に、心臓組織内の心臓細胞の生存を促進し、心臓における埋め込み後の心臓組織の再組織化並びに血管新生を最適化するために重要である。
【0132】
その最大寸法は、優先的に10μm超、より優先的に10μm~1m、更により優先的に10μm~50cmである。一実施形態により、最大寸法は一部器官のサイズに一致しており、したがって30cm未満(10μm~30cm)である。
【0133】
制御された数の幹細胞の封入及び/又はそれらの再封入は、得られる心臓組織の所望のサイズ及び形状を制御することを可能にする。そのため、本発明による心臓組織のサイズは、想定される治療使用に応じて変えることができる。
【0134】
本発明による圧縮ヒト心臓細胞組織は、その保存を促進するために凍結することができる。
【0135】
有利には、本発明は、多数の質の良いヒト心臓組織を産生することを、多能性細胞の心臓細胞への分化によるそれらの産生にわたって、組織単位を保護することによって可能にする。
【0136】
図7図8、及び図9は、所与の出発細胞集団について、少なくとも1つの内腔の存在を伴う分化を受ける段階、次いで二次圧縮を経ることによって微小区画/カプセル内で得られた組織が、同じプロトコル(及びヒト多能性幹細胞の同じ初期バッチ)を用いるが自由な浮遊培養で分化した組織と比較して、はるかに多いトロポニンCを発現する細胞のレベルを有することを示す。そのため、微小区画における心筋細胞への分化及び/又は二次圧縮を含む方法による心筋細胞への分化は、心臓組織の質を増加させることを可能にし、したがって、細胞療法にそれらを使用するための能力を改善する。
【0137】
本発明による圧縮心臓細胞組織は、細胞に解離させることができる。解離は、当業者に既知の従来の方法に従って、特に、細胞を分離することを可能にする酵素溶液を使用して実行することができる。使用される酵素は、例えば、トリプシン、コラゲナーゼ、アキュターゼ、及びそれらの混合物から選択することができる。解離された細胞は、優先的に、懸濁液中で使用されるか、又は例えば、コラーゲンゲルなどのゲル若しくはパッチに組み込まれる。
【0138】
本発明による圧縮ヒト心臓細胞組織の使用
本発明による心臓ヒト細胞の圧縮組織は、それ自体で、又は心臓細胞の懸濁液を産生するために使用することができる。
【0139】
実際、本発明による圧縮心臓細胞組織は、ヒトの心臓に埋め込み可能な細胞(移植片細胞)の懸濁液を産生するために、特に心臓疾患の治療のために、特に有用である。本発明による圧縮組織の形状、サイズ、及び組成は、本発明による圧縮組織内の心臓細胞の改善された収率を伴う均質な分化を促進し、心臓における埋め込み前に二次的に解離され得る。
【0140】
本発明によるヒト心臓細胞の圧縮組織はまた、特に心臓疾患の治療のために、ヒトの心臓における埋め込み可能な移植片などとしての使用に特に有用である。本発明による圧縮組織の形状、サイズ、及び組成は、埋め込み前の本発明による圧縮組織内の心臓細胞の生存、並びに心臓に一度埋め込まれた移植片の埋め込み、再組織化、及び血管新生の成功を可能にする。
【0141】
したがって、本発明の別の目標は、療法、特に細胞療法における薬物としての、特に、心臓疾患の治療及び/又は予防を必要としている患者における、優先的に、虚血性心臓疾患の治療及び/又は予防における、それ自体で又は細胞への解離後、細胞懸濁液の形態での使用のためのヒト心臓細胞の圧縮組織である。
【0142】
本発明による組織から得られた解離細胞を使用することができるが、それらは、圧縮心臓組織よりも高い自発的収縮周波数を有する。カプセル内の分化した心筋細胞の遅い自発的拍動速度は、細胞が解離され、2D条件で培養される場合、維持されない(図6)。
【0143】
治療は、予防的、治癒的、又は対症的治療、すなわち、一時的又は永久的にヒトの前途を改善すること、優先的にまた、疾患を根絶すること、及び/又は疾患の進行を停止若しくは遅延すること、及び/又は疾患の退行を促進することが意図された任意の行為を意味する。
【0144】
実際に、本発明による心臓ヒト細胞の圧縮組織は、ヒトにおける心臓疾患、特に心臓の少なくとも一部の虚血を引き起こしている梗塞などの疾患の、例えば損傷領域を置換する治療のために使用することができる。
【0145】
治療は、本発明による圧縮組織若しくはそれらの解離によって得られた細胞を、心臓に、心臓の心室の領域に、特に左心室に埋め込むこと、若しくは移植すること、又はそれらを当該心室に、理想的には臓側心膜と心室の筋肉組織との間に配置されるパッチ、若しくは病的状況でそれらを残存させるものに組み込むこと、からなる。心臓における埋め込みに好適な外科用埋め込みデバイスが、非常に優先的に使用される。これらは、特に、針、カニューレ、又は本発明による圧縮組織、若しくは本発明による圧縮組織を解離させることによって得られる細胞を心臓に沈着させることを可能にする他のデバイス、例えば、外科用動脈又はマイクロインプラントにおけるステントの埋め込みに使用されるものであり得る。
【0146】
例示的な一実施形態により、埋め込みは、直接的な心筋注入によって、特に胸骨切開術によって、又はカテーテルベースのデバイスを用いて実行することができ、本発明による心臓圧縮組織又はこれらの組織から得られた細胞(他のタイプの細胞の添加を伴うか又伴わない)を、患者の左心室の内壁に1つ以上の部位で注入する。
【0147】
別の例示的な実施形態により、埋め込みは、心外膜パッチを使用して行われ得る。本発明による圧縮心臓組織又はこれらの組織から得られた細胞(他のタイプの細胞の添加を伴うか又は伴わない)は、パッチの形成に使用される。次いで、これらのパッチは、胸骨切開によるか、又は切開及び胸腔へのパッチの注入を含む外科的処置によるいずれかで、患者の左心室の心外膜表面に配置することができる。
【0148】
一実施形態において、単回埋め込みの間に、1~1,000,000個の本発明による圧縮組織単位が埋め込まれる。
【0149】
一実施形態において、単回埋め込みの間に、本発明による圧縮組織単位の解離によって得られた10~1010個の細胞が埋め込まれる。
【0150】
必要な場合、特にいくつかの別個の領域に触れる場合、又は移植を実行しなければならない領域が広すぎて部位だけでは移植を実行できない場合、心臓の異なる領域において、いくつかの同時的又は連続的な埋め込みを実行することが可能である。
【0151】
同様に、同じ領域で、単回移植では十分でない場合、いくつかの埋め込みを同じ領域で、多かれ少なかれ有意な期間で再度実行することができる。
【0152】
本発明による圧縮心臓組織の埋め込みは、心臓疾患、及び特に虚血性心臓疾患に罹患している患者が、心臓機能を臨床的に改善して、特に、
-心臓細胞の収縮性能(例えば、左心室の駆出率によって測定され得る)を増加させること、及び/又は
-心室壁の厚さを増加させること、を可能にする。
【0153】
そのため、有利には、本発明は、移植によって誘発される不整脈のリスクを制限しながら、患者の全体的な健康及び生活の質を改善することを可能にする。
【0154】
別の態様により、本発明による圧縮組織は、心臓組織モデルとして、特に、
-薬物及び薬物候補を心臓疾患における有効性及び/若しくは心臓に対する効果について試験し、かつ/又は
-物質、化合物、組成物、若しくは薬物の心臓毒性を試験するために、有用であることができる。
【0155】
したがって、本発明はまた、これらの使用に関する。
【0156】
次に、本発明を、実施例を使用して説明する。
【実施例
【0157】
本発明による微小区画のいくつかの例が図1図3に示され、圧縮組織の例が図4に示される。
【0158】
実施例1
図1bの画像は、倍率4×で撮影された本発明による微小区画の位相差顕微鏡画像である。それは、分化の開始の5日後(幹細胞の最初の封入の8日後)に撮影された。この図に示される微小区画を得るために使用したステップは、以下のとおりである。
1.ヒト誘導多能性幹細胞をアルギン酸ヒドロゲル中に封入した(封入時に細胞外マトリクスを添加せず)。
2.封入した幹細胞を、幹細胞の培養培地(mTeSR1)で3日間培養した。
3.3日目に、培養培地を幹細胞培地からWNT活性化分子(CHIR99021)を含有する心臓分化培地に交換した。培地は、B27サプリメント添加、インスリン無添加、CHIR99021添加したRPMI培地である。これは、分化の0日目であるとみなされる。
4.分化の2日目に、培地を、WNT活性化分子無添加の心臓分化培地に交換した。培地は、B27サプリメント添加したインスリン無含有RPMI培地である。
5.分化の3日目に、培地を、WNT経路を阻害する分子(WNT-C59又はIWR1)を含有する心臓分化培地に交換した。培地は、WNT-C59又はIWR1を添加したインスリン無含有RPMI培地B27である。
6.分化の5日目に、図1bの写真を、位相差顕微鏡によって本発明による微小区画を倍率4×で撮影した。
【0159】
実施例2
図2b及び図2cの画像は、倍率4×で撮影した本発明による微小区画の位相差顕微鏡画像である。それらは、分化の開始の5日後(幹細胞の最初の封入の11日後)に撮影された。これらの図に示される微小区画を得るために使用したステップは、以下のとおりである。
1.ヒト誘導多能性幹細胞をアルギン酸ヒドロゲル中に封入した(封入時に細胞外マトリクスを添加する)。
2.封入した幹細胞を、幹細胞の培養培地(mTeSR1)で6日間培養した。
3.6日目に、培養培地を幹細胞培地からWNT活性化分子(CHIR99021)を含有する心臓分化培地に交換した。培地は、B27サプリメント添加、インスリン無添加、CHIR99021添加したRPMI培地である。これは、分化の0日目であるとみなされる。
4.分化の2日目に、培地を、WNT活性化分子無添加の心臓分化培地に交換した。培地は、B27サプリメント添加したインスリン無含有RPMI培地である。
5.分化の3日目に、培地を、WNT経路を阻害する分子(WNT-C59又はIWR1)を含有する心臓分化培地に交換した。培地は、WNT-C59又はIWR1を添加したインスリン無含有RPMI培地B27である。
6.分化の5日目に、図2b及び図2cの写真を、位相差顕微鏡によって本発明による微小区画を倍率4×で撮影した。
【0160】
実施例3
図3bの画像は、倍率4×で撮影された本発明による微小区画の位相差顕微鏡画像である。それは、分化の開始の5日後(幹細胞の最初の封入の11日後)に撮影された。これらの図に示される微小区画を得るために使用したステップは、図2b及び図2cを得るための細胞と同じである。違いは、封入された幹細胞の数が多いことである。
【0161】
実施例4
図4b及び図4cは、微小区画における本発明による圧縮組織の倍率4×で撮影した位相差顕微鏡画像を示す。圧縮組織は、5日目を超えて分化を継続することによって得られた(図1図2、及び図3で既に説明されている)。
1.分化の7日目に、培養培地を、B27サプリメント添加、インスリン添加したRPMI培地に交換した。
2.培地を画像化まで2~3日毎に交換した。
【0162】
図4に示される画像は、分化の開始後≧14日の圧縮組織に関連する。
【0163】
比較試験:自発的拍動速度
図5は、所与の出発細胞集団について、(封入されたhiPSCから)カプセル内で分化した心筋細胞が、同じプロトコル(及びhiPSCの同じ初期バッチから)を使用するが自由な培養浮遊で分化した心筋細胞よりも遅い自発的拍動速度を有することを示す。拍動速度(Hz)は、倍率4×を用いた標準的な卓上顕微鏡での一連の位相差顕微鏡画像(1秒当たり少なくとも30画像の頻度)から得、倍率4×で撮影した位相差顕微鏡画像であり、分化の開始時に封入されたか又は遊離の幹細胞(最も外側)、及び分化の開始から約2週後の最終圧縮組織(最も内側)を示す。封入された分化プロセスの場合、本発明による微小区画を有する中間ステップが、分化5日目で示される。
【0164】
図6は、カプセル中の分化した心筋細胞の自発的拍動の遅い速度が、カプセルを除去した後にわずかに増加し、細胞を解離させて2D培養に配置した後に大幅に増加したことを示す。そのため、圧縮心臓組織は、当該組織の解離によって得られた単離細胞よりも遅い拍動速度を有する。拍動速度(Hz)は、倍率4×を用いた標準的な卓上顕微鏡での一連の位相差顕微鏡画像(1秒当たり少なくとも30画像の頻度)から得、本発明による封入され、次いで封入されずに圧縮された心臓組織における拍動速度は、分化の開始から約3週後に得た。分化の約3週後、本発明による圧縮組織の亜集団を解離させ、2D培養条件下に1週間配置してから拍動速度を記録した。画像は、倍率4×で撮影した位相差顕微鏡画像である。左の画像は、封入したhiPSCからカプセル中で分化した圧縮心臓組織を示す。右の画像は、2D培養条件下に配置された後に初期封入した再構成された心臓組織のサブセットから得られた細胞を示す。
【0165】
比較試験:トロポニンCを発現する細胞の形態、細胞増幅、及び数
同じ実験条件下で同じ分化方法による比較試験を実行して、封入の有無で、三次元で得られた心臓細胞への分化及び組織を比較した。
【0166】
全ての培養は、2D培養で得られた同じ初期細胞から産生された。3Dで得られた集合体を、撹拌懸濁培養において(55rpmで撹拌)、カプセルの有無で培養する(いかなるマトリクスの添加も伴わない)。同じ細胞密度(細胞e6個/mL培地)を、分化の0日目の開始時に使用する(画像a)及びe))。同じ分化プロトコルを、両方の条件(カプセルの有無)に適用する。
【0167】
図7は、倍率4×での位相差顕微鏡画像を示す。上の列の3つの画像(a、b、及びc)は、本発明による封入した細胞の画像である。
【0168】
下の列の3つの画像(d、e、及びf)は、封入されていない細胞の画像である。
【0169】
左列の画像(a及びd)は、心臓細胞への分化の開始時に誘導された幹細胞を表す。
【0170】
中央列の画像(b及びe)は、分化開始の3~7日後に心臓分化を受けているヒト細胞を表す。
【0171】
右列の画像(c及びf)は、分化した心臓組織を表す。
【0172】
形態は、本発明による封入の有無によって異なることに留意されたい。封入なしでは、分化の間に内腔はなく、分化の終わりに得られた心臓組織は、非常に異なる形状を有する。
【0173】
図8では、心筋トロポニンCを発現する組織(図7c及び図7fのように得られた)における細胞のパーセンテージは、本発明の条件下(二次圧縮)では90%を超えるが、一方、同じ条件下で封入なしで得られた心臓組織では40%であることを示すことができる。
【0174】
図9では、分化の開始の間の細胞増幅速度は、本発明の条件下で2より大きいが、一方、同じ条件下であるが封入なしで得られた心臓組織において0.5未満であることが認められる。
図1a
図1b
図2a
図2b
図2c
図3a
図3b
図4a
図4b
図4c
図5
図6
図7
図8
図9
【国際調査報告】