(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-10-05
(54)【発明の名称】抗菌および抗ウイルスコーティング
(51)【国際特許分類】
C03C 17/25 20060101AFI20230928BHJP
B32B 17/06 20060101ALI20230928BHJP
B32B 9/00 20060101ALI20230928BHJP
A01N 59/20 20060101ALI20230928BHJP
A01N 25/00 20060101ALI20230928BHJP
A01N 25/34 20060101ALI20230928BHJP
A01P 1/00 20060101ALI20230928BHJP
A01P 3/00 20060101ALI20230928BHJP
C09D 7/61 20180101ALI20230928BHJP
C09D 183/04 20060101ALN20230928BHJP
【FI】
C03C17/25 A
B32B17/06
B32B9/00 A
A01N59/20 Z
A01N25/00 101
A01N25/00 102
A01N25/34 A
A01P1/00
A01P3/00
C09D7/61
C09D183/04
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023517391
(86)(22)【出願日】2021-09-16
(85)【翻訳文提出日】2023-03-22
(86)【国際出願番号】 GB2021052407
(87)【国際公開番号】W WO2022058734
(87)【国際公開日】2022-03-24
(32)【優先日】2020-09-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】591229107
【氏名又は名称】ピルキントン グループ リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100225060
【氏名又は名称】屋代 直樹
(72)【発明者】
【氏名】サイモン ジェイムス ハースト
(72)【発明者】
【氏名】キャリカス スクマー ヴァーマ
(72)【発明者】
【氏名】アンドリュー オリヴァー スミス
(72)【発明者】
【氏名】フィオナ ブラック
(72)【発明者】
【氏名】サイモン ジェフリーズ
【テーマコード(参考)】
4F100
4G059
4H011
4J038
【Fターム(参考)】
4F100AA17B
4F100AA20B
4F100AA27B
4F100AB02
4F100AB10B
4F100AB11B
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4F100EH46B
4F100EJ422
4F100EJ851
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4F100GB07
4F100GB32
4F100GB48
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4F100JC00B
4F100YY002
4F100YY00B
4G059AA01
4G059AA08
4G059AC30
4G059EA05
4G059EA18
4G059EB07
4H011AA01
4H011AA04
4H011BA01
4H011BB18
4H011BC18
4H011DA07
4H011DA13
4H011DC05
4H011DC10
4J038DL031
4J038HA066
4J038PC03
(57)【要約】
本発明は、(i)ガラス基板と、(ii)シリカマトリックスコーティング層であって、シリカマトリックスコーティング層は、(a)少なくとも50重量%のシリカと、(b)1~50重量%の量でシリカマトリックスコーティング層上に堆積されたおよび/またはシリカマトリックスコーティング層内に埋め込まれた銅含有粒子と、を含むシリカマトリックスコーティング層と、を備え、基板上の細菌の増殖は、コーティングされていないガラス基板と比較して少なくとも10%減少し、基板上のウイルスの不活性化は、コーティングされていないガラス基板と比較して少なくとも10%増加する、抗菌および/または抗ウイルスコーティングガラス基板、ならびにその作製方法およびその使用に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に抗菌および/または抗ウイルスコーティングを生成するプロセスであって、
(i)第1の表面と第2の表面とを有するガラス基板を準備するステップと、
(ii)ケイ素含有溶液と銅含有粒子溶液または粉末とを準備するステップと、
(iii)水および加水分解材料の存在下で前記ケイ素含有溶液と前記銅含有粒子溶液または粉末とを共に混合して、シリカおよび銅コーティング組成物を形成するステップであって、前記加水分解材料は、
(a)1つ以上のポリオール、
(b)少なくとも0.5のpKa値を有する1つ以上の弱酸、または
(c)1つ以上のポリオールおよび1つ以上の弱酸、
を備える、ステップと、
(iv)前記ガラス基板の少なくとも前記第1の表面を前記シリカおよび銅コーティング組成物と接触させて、前記ガラス基板上にシリカの層を堆積させるステップと、
(iv)前記ガラス基板上に堆積された前記シリカおよび銅コーティング組成物を硬化させてシリカマトリックスコーティング層を形成するステップであって、前記銅含有粒子は、1~50重量%の量で前記シリカマトリックスコーティング層上に堆積されおよび/または前記シリカマトリックスコーティング層内に埋め込まれる、ステップと、を含む、基板上に抗菌および/または抗ウイルスコーティングを生成するプロセス。
【請求項2】
(v)コーティングガラス基板を、少なくとも600℃の温度で、より好ましくは少なくとも650℃の温度で、強化するステップをさらに含む、請求項1に記載のプロセス。
【請求項3】
前記銅含有粒子溶液または粉末は、銅、銅合金、銅金属もしくは酸化銅またはそれらの混合物のマイクロ粒子、ナノ粒子のクラスターの形態の銅含有粒子を含む、請求項1または2に記載のプロセス。
【請求項4】
前記銅含有マイクロ粒子または銅のナノ粒子のクラスターは、100nm~10μmのサイズ範囲を含む、請求項3に記載のプロセス。
【請求項5】
前記銅合金は、亜鉛、スズ、アルミニウム、ケイ素、ニッケル、マンガン、ベリリウム、鉛、鉄、アルミニウムから選択される1つ以上の元素を含む、請求項3に記載のプロセス。
【請求項6】
前記ケイ素含有溶液および前記銅含有粒子溶液または粉末は、ジアセトンアルコール、プロピレングリコール、プロピレングリコールメチルエーテル(PGME)、イソプロパノール、3-メトキシ-1-ブタノールおよびそれらの混合物を含む群から選択される溶媒を含む、請求項1から5のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項7】
前記シリカおよび銅コーティング組成物は、少なくとも50重量%のシリカ、より好ましくは少なくとも65重量%のシリカを含む、請求項1から6のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項8】
前記シリカマトリックスコーティング層は、温和な反応条件下でのオルトケイ酸テトラエチル(TEOS)および/またはその誘導体の加水分解および重縮合を伴うゾルゲル反応から形成される、請求項1から7のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項9】
前記シリカおよび銅コーティング組成物は、前記ガラス基板に直接付与される、請求項1から8のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項10】
前記シリカおよび銅コーティング組成物は、前記シリカマトリックスコーティング層中のシリカの量に対して少なくとも1.0重量%のジルコニアをさらに含む、請求項1から9のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項11】
存在する前記ジルコニアまたはアルミニウムは、酸化物の形態である、請求項10に記載のプロセス。
【請求項12】
前記シリカおよび銅コーティング組成物は、ローラーコーティング、スプレーコーティング、液圧霧化噴霧、空気霧化噴霧、超音波噴霧、浸漬コーティング、スピンコーティング、カーテンコーティングまたはスロットダイコーティングの1つ以上の手段によって前記ガラス基板に付与される、請求項1から11のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項13】
前記シリカ銅コーティング組成物は、ローラーコーティングまたはスプレーコーティングによって前記ガラス基板に付与される、請求項12に記載のプロセス。
【請求項14】
前記シリカおよび銅コーティング組成物を付与する前に、前記ガラス基板の前記表面をクリーニングするステップをさらに含む、請求項1から13のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項15】
前記クリーニングステップは、前記ガラス基板の前記表面を、セリアによる研磨、アルカリ水溶液による洗浄、脱イオン水によるすすぎ、および/またはプラズマ処理の1つ以上の手段によって処理することを含む、請求項14に記載のプロセス。
【請求項16】
前記シリカおよび銅コーティング組成物を硬化させるステップは、90℃~450℃の範囲の温度、より好ましくは90℃~300℃の範囲の温度に加熱することを含む、請求項1から15のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項17】
前記シリカマトリックスコーティング層は、5nm~250nmの範囲の厚さに堆積される、請求項1から16のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項18】
前記シリカおよび銅コーティング組成物を堆積させる前に、透明導電性酸化物コーティングをガラス基板に付与する、請求項1から8または請求項1から8に従属する場合の請求項10から17のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項19】
請求項1から18のいずれか一項に記載のプロセスによって作製された抗菌および/または抗ウイルスコーティングガラス基板であって、
(i)ガラス基板と、
(ii)シリカマトリックスコーティング層であって、前記シリカマトリックスコーティング層は、
(a)少なくとも50重量%のシリカと、
(b)1~50重量%の量でシリカマトリックスコーティング層上に堆積されたおよび/またはシリカマトリックスコーティング層内に埋め込まれた銅含有粒子と、
を含むシリカマトリックスコーティング層と、を備え、
前記基板上の細菌の増殖は、コーティングされていないガラス基板と比較して少なくとも10%減少し、
前記基板上のウイルスの不活性化は、コーティングされていないガラス基板と比較して少なくとも10%増加する、
請求項1から18のいずれか一項に記載のプロセスによって調製された抗菌および/または抗ウイルスコーティングガラス基板。
【請求項20】
前記シリカマトリックスコーティング層は、少なくとも1.0重量%のジルコニアをさらに含む、請求項19に記載の抗菌および/または抗ウイルスコーティングガラス基板。
【請求項21】
前記コーティングガラス基板は、24時間以内に、少なくとも、グラム陽性菌および/またはグラム陰性菌について2対数減少させる、またはウイルスについて2対数減少させる、請求項19または20に記載の抗菌コーティングガラス基板。
【請求項22】
前記コーティングガラス基板は、2時間以内に少なくともグラム陽性菌および/またはグラム陰性菌について3対数減少させる、または2時間以内にウイルスについて2対数減少させる、請求項19または20に記載の抗菌コーティングガラス基板。
【請求項23】
請求項19から22のいずれか一項に記載の抗菌および/もしくは抗ウイルスコーティングガラスを備える、ならびに/または請求項1から18のいずれか一項に記載のプロセスによって作製された、建築用または自動車用グレージング。
【請求項24】
断熱グレージングユニットまたは自動車用グレージングユニットの作製における、請求項19から22のいずれか一項に記載の、および/または請求項1から18のいずれか一項に記載のプロセスによって作製された、抗菌および/または抗ウイルスコーティングガラス基板の使用。
【請求項25】
電子デバイス、家具、スプラッシュバックもしくはスクリーン、医療用容器、壁装材、タッチスクリーン、鏡もしくはガラス瓶、冷蔵用品の作製における、または輸送中もしくは輸送用途における、請求項19から22のいずれか一項に記載の、および/または請求項1から18のいずれか一項に記載のプロセスによって作製された、抗菌および/または抗ウイルスコーティングガラス基板の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス基板上に抗菌および/または抗ウイルスコーティングを生成するためのプロセス、抗菌および/または抗ウイルスコーティングされたガラス基板、ならびに様々な範囲の用途におけるそのような抗菌および/または抗ウイルスコーティングされたガラス基板の使用に関する。
【0002】
さらに、本発明は、強化可能な抗菌および/または抗ウイルスコーティングをガラス基板上に生成するプロセス、強化可能な抗菌および/または抗ウイルスコーティングされたガラス基板、ならびに様々な範囲の用途におけるそのような強化可能な抗菌および/または抗ウイルスコーティングされたガラス基板の使用に関する。
【0003】
すなわち、本発明は、ガラス基板上に抗菌および/または抗ウイルスコーティングを生成するためのプロセス、ならびにその少なくとも1つの表面上にそのような抗菌および/または抗ウイルスコーティングを有するガラス基板に関する。本発明はまた、例えば、建築用および自動車用グレージング、スプラッシュバック、家具、ボトル、壁装材、およびタッチスクリーンなどであるがこれらに限定されない、本発明に従って作製された、抗菌コーティングガラス基板を備える抗菌および/または抗ウイルス物品にも関する。
【背景技術】
【0004】
電子デバイスの使用頻度が世界中に広がるにつれ、そのような基板の表面に存在し得る微生物の存在もまた増加し、それゆえ、個人間の微生物の潜在的な移動が増加する。実際、例えば店舗およびスーパーマーケットに配置されるタッチスクリーンで、1時間あたり数百人がタッチスクリーン端末を使用し得、それゆえ、細菌、真菌、酵母、ウイルスであり得る微生物が使用者間で拡散する可能性がある。本発明の目的においては、ウイルスもまた微生物であると考慮される。
【0005】
さらに、特定の細菌株に対する耐性の脅威が高まり、いくつかのウイルスの伝染から疫病の流行が発生するにつれて、個々のガラス基板には、デバイスや用途に関わらず、微生物、特に細菌およびウイルスの拡散を止めることが可能である必要性がますます高まっている。
【0006】
細菌、酵母、およびウイルスを含む微生物は、金属表面に接触すると死滅し得ることは以前から知られていた。実際、院内環境での微生物の拡散を食い止める試みにおいて、ドアの取っ手、浴室の備品およびベッドなどの表面に銅が使用されてきた(Applied and Environmental microbiology 2011、March、77(5)、1541-1547)。
【0007】
しかしながら、窓およびドアなどの透明性を必要な基準に維持する必要があり、好ましくは例えば摩耗や引っかき傷にも耐性がある、表面に、抗菌および抗ウイルス特性を組み込む技能は困難であることが証明されている。これは、ガラス基板に永続的な抗菌および抗ウイルス活性を与えることが難しいだけでなく、抗菌および抗ウイルス活性をもたらすガラス基板に付与されたいずれのコーティングも、許容コストで美的外観を維持しながらグレージングの必要なパラメータをも提供しなければならないためである。さらに、ガラス基板、特に窓およびドアは、現在のグレージング基準に準拠するために、好ましくは熱処理またはアニールされることが望ましいため、コーティングの付与後に強化されるという点において要求される性能を満たし、さらに抗菌および抗ウイルス特性を提供可能である、グレージング製品を提供することは、当然のことながら、ガラスメーカーにとっての課題である。
【0008】
基板表面に抗菌活性を付与する試みがなされてきた。例えば、国際公開第2009/098655号には、高周波スパッタリングによって当該基板を銀膜でコーティングすることを含む、基板に抗菌特性を付与するための方法が記載されている。ただし、この文献は、処理後、特に熱処理後のガラス基板の特性に関しては言及していない。
【0009】
韓国公開特許第2013-0077630号公報は、指紋防止および抗菌目的のためのシリカゾル-ゲル中のナノ金属イオンの分散液を開示している。ただし、銅粒子は考慮されておらず、代わりに、銀を中心に、強い金属塩の反応を通じたナノ金属イオンの生成に焦点が当てられている。同様に、中国特許第109534687号明細書は、抗菌機能を提供するために使用される、組み込まれた金属イオン、好ましくは銀を有するシリカベースのゾル-ゲルを提供するためのプロセスを記載している。
【0010】
米国特許第9028962号明細書は、酸化銅粒子が透明基板に付与される複雑な多段階プロセスを開示している。ガラス基板は、ガラスを化学的に強化するために粒子の付与の前または後にイオン交換に供され、続いて酸化銅粒子が還元される。抗菌ガラスは、さらにフルオロシラン層でコーティングされる。
【0011】
国際公開第2005/115151号では、ナノ粒子添加剤を含み、機能性シラン、すなわち、OH基含有量の高いオリゴマーで形成された分散助剤および/または接着促進剤の付着によって粒子の表面が修飾された結果として抗菌機能および装飾機能の両方を有すると言われる、機能性ゾル-ゲルコーティング剤が開示されている。
【0012】
米国特許出願公開第2010/0015193号明細書は、耐性コーティングを形成する目的で、基板の表面上に形成され、外部雰囲気に曝された複数の抗菌性金属アイランドを有する基板を開示している。走査型電子顕微鏡で測定したとき、基板とそれぞれの抗菌金属アイランドとの間の平均接触角値は90度以下である。抗菌性金属アイランドは、不活性ガス雰囲気中においてスパッタリングすることによって配置される。
【0013】
独国実用新案第202005006784号明細書は、概して、その表面の少なくとも一部を透明で多孔質のゾル-ゲル層でコーティングすることが提案されているエアコンまたは冷蔵庫のドア、窓、および/または内張りなどの物品を記載し、ゾル-ゲル層は、1つ以上のアルキル基を有し、少なくとも1つの抗菌効果のある物質/化合物がドープされた有機修飾シロキサンマトリックスを含む。残念ながら、サポートとして提供されている抗菌試験データは存在しない。
【発明の概要】
【0014】
しかしながら、上記の先行技術文献のいずれも、本発明に係るプロセスを詳述しておらず、本発明に係るプロセスは、基板上に、ガラス産業においてリーズナブルなコストで使用され、例えば、ガラスまたはグレージングが高頻度で公共接触を伴うロケーションで使用され得る、ガラス基板およびグレージングの必要レベルにまで、必要な微生物および/またはウイルス耐性および光学特性、ならびに摩耗および引っかき傷への耐性を有する抗菌コーティングを提供することが可能である。
【0015】
さらに、上記の文献のいずれも、工業規模でガラス基板に抗菌および/または抗ウイルスコーティングをもたらそうとするときに遭遇する問題、または、実際に工業用コーティング作業およびその終了時にガラス基板に付与された抗菌および抗ウイルスコーティングが工業用コーティング作業の開始時にガラス基板に付与される抗菌および/または抗ウイルスコーティングと同じ性能を提供することを確実にする方法に対処していない。上記の文献は、活性成分とガラス基板への付与後に得られる抗菌および/または抗ウイルスコーティングの両方とに安定性をもたらすために必要な条件について言及していない。さらに、上記の文献は、工業規模で生成されたガラス基板の抗菌および/または抗ウイルスコーティングの再現性を維持することに関連する問題に関して言及していない。これは、本発明が対処しようとする問題である。
【0016】
したがって、リーズナブルなコストおよび工業規模で光学的性能および機械的耐久性を維持しながら、微生物病原体、特に細菌およびウイルス、の増殖および伝染を減少させることが可能である透明コーティングが付与されたガラス基板の必要性が存在する。
【0017】
本発明に従って作製された抗菌および/または抗ウイルスコーティングガラス基板は、例えば、自動車用グレージングならびに、商業用および住宅用用途を含む建築用ガラス窓、ならびに食品およびヘルスケア用途に使用され得るが、これらに限定されない。本発明はまた、例えば、タッチスクリーン、携帯電話、ラップトップコンピュータ、ブックリーダー、ビデオゲームデバイス、現金自動預金支払機、スクリーン、医療用容器、冷蔵用途、または輸送中もしくは輸送用途および輸送モードなどの電子デバイスにおける用途も見出し得るが、これらに限定されない。実際、本発明は、ガラス基板が使用されて触れられ得るかまたはガラススクリーンに表示された情報がタッチによって検索される、任意の用途または状況に適用可能である。
【0018】
さらに、本発明に従って作製された抗菌および/または抗ウイルスコーティングは、例えばコーティングされた基板およびコーティングされていない基板、例えば、そのコーティング層が抗菌および/または抗ウイルスコーティングの上または下のいずれかに配置されている、コーティング層を生成するために化学蒸着(CVD)および/または物理蒸着(PVD)を用いてコーティングされたフロートガラスなどのガラス基板と共に使用され得るが、これらに限定されない。
【0019】
さらに、本発明に従って作製された抗菌および/または抗ウイルスコーティングがガラス基板に付与されるとき、ガラス基板は、例えばフロートガラスなどの平坦なガラスを備え得るか、あるいはガラス基板は、例えばホウケイ酸ガラス、圧延板ガラス、セラミックガラス、強化ガラス、化学強化ガラス、中空ガラス、またはボトル、ジャーおよび医療容器などの物品用に成形されたガラス、などであるがこれらに限定されない、代替形態のガラスを備え得る。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明の第1の態様によれば、基板上に抗菌および/または抗ウイルスコーティングを生成するプロセスであって、
(i)第1の表面と第2の表面とを有するガラス基板を準備するステップと、
(ii)ケイ素含有溶液と銅含有粒子溶液または粉末とを準備するステップと、
(iii)水および加水分解材料の存在下でケイ素含有溶液と銅含有粒子溶液または粉末とを共に混合して、シリカおよび銅コーティング組成物を形成するステップであって、加水分解材料は、
(a)1つ以上のポリオール、
(b)少なくとも0.5のpKa値を有する1つ以上の弱酸、または
(c)1つ以上のポリオールおよび1つ以上の弱酸、
を備える、ステップと、
(iv)ガラス基板の少なくとも当該第1の表面をシリカおよび銅コーティング組成物と接触させて、ガラス基板上にシリカの層を堆積させるステップと、
(iv)ガラス基板上に堆積されたシリカおよび銅コーティング組成物を硬化させてシリカマトリックスコーティング層を形成するステップであって、銅含有粒子は、1~50重量%の量でシリカマトリックスコーティング層上に堆積されおよび/またはシリカマトリックスコーティング層内に埋め込まれる、ステップと、を含む、プロセスを提供する。
【0021】
加えて、本発明に関連して、プロセスはさらに、(v)コーティングガラス基板を、少なくとも600℃の温度で、より好ましくは少なくとも650℃の温度で、強化するステップをさらに含み得る。
【0022】
好ましくは、銅含有粒子溶液または粉末は、銅、銅合金、銅金属もしくは酸化銅またはそれらの混合物のマイクロ粒子、ナノ粒子のクラスターの形態の銅含有粒子を含み得る。
【0023】
すなわち、本発明者らは、銅粒子が、ケイ素含有溶液と混合されおよび硬化されてシリカマトリックスコーティング層を形成するときに、ガラス基板に効果的な抗菌および/または抗ウイルス特性を提供するのに特に適合性があり有益であることを見出した。実際、本発明に関連して、発明者らは、本発明に従って生成されたガラスコーティングが、少なくとも600℃の温度での強化の前およびその後の両方において、効果的な抗菌および/または抗ウイルス特性を提供することが可能であることを確認した。
【0024】
銅含有マイクロ粒子または銅のナノ粒子のクラスターは、50nm~15μmのサイズ範囲を含む。より好ましくは、銅粒子は、好ましくは75nm~12μmのサイズ範囲で提供される。しかしながら、最も好ましくは、銅粒子は、100nm~10μmのサイズ範囲にある。
【0025】
本発明に関して、銅合金が存在するとき、銅合金は、亜鉛、スズ、アルミニウム、ケイ素、ニッケル、マンガン、ベリリウム、鉛、鉄、アルミニウムから選択される1つ以上の元素を含み得る。
【0026】
本発明の第1の態様によるガラス基板上に抗菌または抗ウイルスコーティングを生成するための方法では、加水分解材料は、(a)1つ以上のジオール、(b)少なくとも0.5のpKa値を有する1つ以上の弱酸、または(c)1つ以上のジオールおよび1つ以上の弱酸を有し得る。すなわち、本発明に関して、本発明者らは、ケイ素を加水分解してガラス基板上にシリカのコーティングを堆積させるために使用される材料が、コーティングされたガラス基板の抗菌および抗ウイルス特性に影響を与えることを発見した。
【0027】
加水分解材料がポリオールであるとき、ポリオールは、好ましくは、プロピレングリコール、エチレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオールまたはグリセロールから選択される。
【0028】
好ましくは、加水分解材料は、ジオールである。最も好ましくは、プロピレングリコールが、本発明のプロセスに関連する加水分解材料として使用される。
【0029】
加水分解材料が弱酸、すなわち、少なくとも0.5のpKa値を有する酸であるとき、弱酸は、好ましくは、シュウ酸、リン酸、クロロ酢酸、クエン酸、乳酸、アスコルビン酸、およびプロピオン酸の1つ以上を含む群から選択される。しかしながら、最も好ましくは、本発明者らは、クエン酸が本発明に関連して使用するのに好ましいジオールであることを見出した。
【0030】
銅含有粒子溶液または粉末は、例えば、鉛、スズ、鉄、アンチモン、ニッケル、亜鉛、カドミウム、クロム、ヒ素、およびテルルなどの追加の金属成分を含み得る。しかしながら、追加の金属成分は、好ましくは、各々低いレベルで存在する。例えば、存在する場合、追加の金属成分は、シリカマトリックスコーティング層の10重量%未満、より好ましくはシリカマトリックスコーティング層の5重量%未満、またはシリカマトリックスコーティング層の1重量%未満を構成する。
【0031】
好ましくは、本発明に係るガラス基板に付与されるシリカおよび銅コーティング組成物は、少なくとも1重量%の銅を含む。あるいは、ガラス基板に付与されるシリカおよび銅コーティング組成物は、1~10重量%の銅を含み得る。あるいは、基板に付与されるシリカおよび銅コーティング組成物は、最大50重量%の銅を含み得る。
【0032】
すなわち、ガラス基板上に堆積したシリカおよび銅コーティング組成物、したがって、基板上にそのように形成されたシリカマトリックスコーティング層は、1~50重量%の銅を含み得る。あるいは、基板上にそのように形成されたシリカマトリックスコーティング層は、2重量%~40重量%の銅を含み得る。あるいは、基板上にそのように形成されたシリカマトリックスコーティング層は、5重量%~25重量%の銅を含み得る。あるいは、基板上にそのように形成されたシリカマトリックスコーティング層は、10重量%~25重量%の銅を含み得る。
【0033】
あるいは、ガラス基板上に堆積したシリカおよび銅コーティング組成物、したがって、基板上にそのように形成されたシリカマトリックスコーティング層は、1~40重量%の銅を含み得る。より好ましくは、基板上にそのように形成されたシリカマトリックスコーティング層は、1重量%~25重量%の銅を含み得る。最も好ましくは、基板上にそのように形成されたシリカマトリックスコーティング層は、1重量%~20重量%の銅を含み得る。
【0034】
好ましくは、シリカマトリックスコーティング層中の銅は、金属銅、酸化銅(I)または酸化銅(II)の形態である。より好ましくは、シリカマトリックスコーティング層中の銅は、金属銅または酸化銅(I)の形態である。しかしながら、最も好ましくは、銅は、銅金属の形態である。
【0035】
本発明の第1の態様に関して、ケイ素含有溶液および銅粒子含有溶液または粉末は、各々、好ましくは溶媒を含む。ケイ素含有溶液および銅粒子含有溶液または粉末において使用される溶媒は、同じであっても異なってもよい。溶媒は、好ましくは、例えば、ジアセトンアルコール、1-メトキシ2-プロパノール(PGME)、プロピレングリコールメチルエーテル(PGME)、イソプロパノール、3-メトキシ-1-ブタノールおよびそれらの混合物を含む群から選択される。
【0036】
好ましくは、本発明に係るガラス基板に付与されるシリカコーティング組成物は、少なくとも50重量%のシリカを含む。あるいは、ガラス基板に付与されるシリカコーティング組成物は、少なくとも65重量%のシリカを含み得る。あるいは、基板に付与されるシリカコーティング組成物は、少なくとも75重量%のシリカを含む。
【0037】
すなわち、ガラス基板上に堆積したシリカコーティング組成物、したがって、基板上にそのように形成されたシリカマトリックスコーティング層は、50重量%~99重量%のシリカを含み得る。より好ましくは、基板上にそのように形成されたシリカマトリックスコーティング層は、65重量%~98重量%のシリカを含み得る。あるいは、基板上にそのように形成されたシリカマトリックスコーティング層は、50重量%~80重量%のシリカを含み得る。あるいは、基板上にそのように形成されたシリカマトリックスコーティング層は、50重量%~90重量%のシリカを含み得る。
【0038】
本発明に従って作製されるシリカマトリックスコーティング層は、好ましくはオルトケイ酸テトラエチル、Si(OC2H5)4、(TEOS)および/またはその誘導体をベースとし、温和な反応条件下で加水分解されて透明コーティングを形成する。オルトケイ酸テトラエチルをベースとしたシリカマトリックスコーティング層は、フロートガラスなどのガラス基板での使用について最適である。さらに、本発明者らは、オルトケイ酸テトラエチルを銅含有粒子溶液または粉末と組み合わせて使用してシリカマトリックスコーティング層を形成することが好ましいこと、およびこれを使用すると、コーティングされたガラス基板がない場合と比較して抗菌性および抗ウイルス性の両方の減少に関して優れた結果が得られることを見出した。
【0039】
本発明に係るプロセスの一実施形態では、シリカおよび銅コーティング組成物は、ガラス基板と接触して直接付与され得る。あるいは、シリカおよび銅コーティング組成物は、ガラス基板上に堆積した別の層の上に付与され得る。
【0040】
加えて、シリカおよび銅コーティング組成物は、ジルコニウムをさらに含み得る。シリカおよび銅コーティング組成物中のジルコニウムの量は、シリカマトリックスコーティング層中のジルコニウムの必要量に対して設定されることが好ましい。より好ましくは、シリカコーティング組成物中のジルコニウムの量は、一度硬化したシリカマトリックスコーティング組成物中のジルコニウムの必要量に対して設定されることが好ましい。
【0041】
例えば、シリカコーティング組成物は、少なくとも1重量%のジルコニウムをさらに含み得る。あるいは、シリカコーティング組成物は、1重量%未満のジルコニウムを含み得る。本発明の代替の実施形態では、シリカおよび銅コーティング組成物は、1~15重量%のジルコニウムを含み得る。好ましくは、シリカコーティング組成物は、2~10重量%のジルコニウムを含み得る。シリカマトリックスコーティング層の耐久性を改善するために、シリカおよび銅コーティング組成物は、好ましくは、2~8重量%のジルコニウムを含む。
【0042】
ジルコニウムは、好ましくは、ジルコニウムの酸化物の形態でシリカコーティング組成物中に存在する。
【0043】
本発明に係るプロセスに関して、シリカコーティング組成物は、好ましくは、スプレーコーティング、液圧霧化噴霧、空気霧化噴霧、超音波噴霧、浸漬コーティング、スピンコーティング、カーテンコーティングまたはスロットダイコーティングの1つ以上の手段によってガラス基板に付与され得る。最も好ましくは、本発明に係るプロセスでは、シリカコーティング組成物は、ローラーコーティングまたはスプレーコーティングによってガラス基板に付与される。
【0044】
本発明に係るプロセスに従うとき、ガラス基板の表面は、コーティングの品質を改善するため、シリカおよび銅コーティング組成物を付与する前に、クリーニングされ得る。ガラス基板のクリーニングは、好ましくは、セリアによる研磨、アルカリ性水溶液による洗浄、脱イオン水リンスによるすすぎ、および/またはプラズマ処理の1つ以上を含み得る。クリーニングは、好ましくは、シリカ層の付与前に溜まり得る任意の不要なほこりまたは汚れ粒子を除去する。
【0045】
シリカおよび銅コーティング組成物の硬化は、好ましくは、90℃~450℃の範囲の温度に加熱することによって実施され得る。より好ましくは、本発明に係る方法は、好ましくは、90℃~350℃の範囲の温度に加熱することによってシリカコーティング組成物を硬化させることを含み得る。より好ましくは、本発明に係る方法は、好ましくは、150℃~350℃の範囲の温度に加熱することによってシリカコーティング組成物を硬化させることを含み得る。最も好ましくは、本発明に係る方法は、好ましくは、180℃~300℃、または180℃~250℃の範囲の温度に加熱することによってシリカコーティング組成物を硬化させることを含み得る。シリカおよび銅コーティング組成物の硬化は、シリカマトリックスコーティング層の密度およびシリカマトリックスコーティング層が形成される速度を改善し得るため、有利である。
【0046】
好ましくは、シリカマトリックスコーティング層は、5nm~250nmの範囲の厚さに堆積する。あるいは、シリカマトリックスコーティング層は、5nm~200nmの範囲の厚さに堆積する。より好ましくは、シリカマトリックスコーティング層は、10~100nmの範囲の厚さに堆積するか、またはシリカマトリックスコーティング層は、20~80nmの範囲の厚さに堆積し得る。さらに、シリカマトリックスコーティング層は、25~60nm、またはさらに30~50nmの範囲の厚さに堆積し得る。
【0047】
銅を含むシリカマトリックスコーティング層はまた、例えば化学蒸着および/または物理蒸着によってガラス基板に付与され、シリカマトリックスコーティング層の上または下のいずれかに付与されるコーティングと組み合わせて使用され得る。例えば、本発明に係るプロセスに関連して、代替の実施形態では、透明導電性酸化物コーティングは、好ましくは、シリカおよび銅コーティング組成物の堆積前にガラス基板に付与され得る。
【0048】
本発明の第2の態様によれば、好ましくは、本発明の第1の態様に従って作製された、
(i)ガラス基板と、
(ii)シリカマトリックスコーティング層であって、シリカマトリックスコーティング層は、
(a)少なくとも50重量%のシリカと、
(b)1~50重量%の量でシリカマトリックスコーティング層上に堆積されたおよび/またはシリカマトリックスコーティング層内に埋め込まれた銅含有粒子と、
を含むシリカマトリックスコーティング層と、を備え、
基板上の細菌の増殖は、コーティングされていないガラス基板と比較して少なくとも 10%減少し、
基板上のウイルスの不活性化は、コーティングされていないガラス基板と比較して少なくとも10%増加する、
抗菌コーティングガラス基板を提供する。
【0049】
また、本発明の第2の態様に関して、抗菌および/または抗ウイルスコーティングされたガラス基板は、好ましくは強化可能である。すなわち、抗菌および/または抗ウイルスコーティングが付与されたコーティングガラス基板は、少なくとも600℃の温度に加熱され得、なお抗菌および/または抗ウイルス特性を保持し得る。より好ましくは、抗菌および/または抗ウイルスコーティングが付与されたコーティングガラス基板は、少なくとも650℃の温度に加熱され得、なお抗菌および/または抗ウイルス特性を保持し得る。熱処理またはアニールされたコーティングガラスは、さまざまな建築用途および自動車用グレージング用途について望ましい。本発明の第1および第2の態様に係るコーティングされたガラス基板が熱処理後にその抗菌特性および抗ウイルス特性の両方を保持するという事実は、有益かつ驚くべきことである。
【0050】
また、本発明の第2の態様に関連して、好ましくは、抗菌コーティングされた基板が提供され、抗菌コーティングされた基板は、24時間以内に、少なくとも、グラム陽性菌および/またはグラム陰性菌について2対数減少をもたらす、またはウイルスについて2対数減少をもたらす。
【0051】
より好ましくは、抗菌コーティングされた基板は、2時間以内にグラム陽性菌および/またはグラム陰性菌について少なくとも2対数減少をもたらす。さらにより好ましくは、抗菌コーティングされた基板は、2時間以内にグラム陽性菌および/またはグラム陰性菌について少なくとも3対数減少をもたらす。2対数減少または2対数死滅は、99.0%減少後に微生物コロニーを10,000個の細菌に減少させ、3対数死滅は、99.9%減少後に微生物コロニーを1,000個の細菌に減少させる。
【0052】
さらに、本発明の第2の態様に関連して、好ましくは、抗ウイルスコーティングされたガラス基板が提供され、抗ウイルスコーティングされたガラス基板は、24時間以内に、ウイルスについて少なくとも2対数減少をもたらす。より好ましくは、抗ウイルスコーティングされたガラス基板は、2時間以内にグラム陽性菌および/またはグラム陰性菌について少なくとも2対数減少をもたらす。
【0053】
本発明の第2の態様に係る抗菌コーティングされたガラス基板は、少なくとも1.0重量%のジルコニウムをさらに含み得る。ジルコニウムは、好ましくは酸化物として存在する。本発明の第3の態様によれば、好ましくは、本発明の第2の態様による、または本発明の第1の態様に従って作製された、抗菌および/または抗ウイルスコーティングガラス基板を備える建築用途または自動車用グレージングが提供される。
【0054】
本発明の第4の態様によると、好ましくは、本発明の第1の態様に係るプロセスによって作製された抗菌および/または抗ウイルスコーティングされたガラス基板の使用、および/または断熱グレージングユニット、自動車用グレージングユニット、電子デバイス、家具、スプラッシュバックもしくはスクリーン、医療用容器、壁装材、タッチスクリーン、鏡またはガラス瓶、冷蔵用品の作製においてまたは輸送中もしくは輸送用途において使用される本発明の第2の態様に係る抗菌および/または抗ウイルスコーティングされた基板が提供される。
【0055】
したがって、本発明の第1の態様に関する本発明のすべての態様は、必要に応じて、本発明の第2、第3および第4の態様に関しても適用されることを理解されたい。
【0056】
ここで、本発明の実施形態は、下記の実施例および図面を参照して、単に例示として説明される。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【
図1】
図1a,1b,1c,および1dの間で(a)硝酸、(b)塩酸、(c)室温でのクエン酸、および(d)60℃でのクエン酸の使用を比較して、ジアセトンアルコール中で行われたゾルゲル反応の経時的な進行FTIRスペクトルを図示する。
【
図2】異なる酸触媒を使用したときに、(a)788nmでのSi-O-Cスペクトルピークが、(b)881nmでのEt-OHピークが、(c)1140nmでのSi-O-Siピークが、経時的にどのように変化するかを図示する。
【
図3】異なる溶媒のうち(a)プロピレングリコール中において、(b)ジアセトンアルコール中において、(c)3-メトキシ-1-ブタノール中において、(d)プロピレングリコールメチルエーテル中において、反応触媒としてクエン酸を用いて60℃で還流したゾルゲル反応の経時的な進行FTIRスペクトルを図示する。
【
図4】60℃でクエン酸を使用した、さまざまな溶媒のFTIRスペクトルの比較を図示する。
図4a、
図4bは、スペクトルの始点を図示する。
図4cは、788nmでのスペクトルピークが時間とともにどのように変化するかを図示する。
図4dは、881nmでのスペクトルピークが時間とともにどのように変化するかを図示する。
【
図5】(a)前駆体溶液Hまたは(b)前駆体溶液Iを使用して、プロピレングリコールを溶媒として使用する反応の進行を図示する。
【
図6】プロピレングリコールが溶媒として使用される異なる濃度のクエン酸について、881nmでのEt-OHピークの成長、したがって加水分解反応の進行を図示する。
【
図7】(a)ローラーコーティング試験の期間中のコーティング溶液中の、銅の溶解を図示する。(b)異なる酸を使用した、銅の溶解を図示する。(c)異なる銅粒子サイズを使用した、銅の溶解を図示する。(d)異なるクエン酸濃度を使用した、銅の溶解を図示する。
【
図8】体積密度に関して、NanotecおよびPromethean銅粒子の懸濁液の溶液中の粒子サイズ分布を図示する。
【
図9a】(a)サンプル9dのシミュレートされた熱強化処理の前後で、コーティングされたガラスサンプルの酸化物シェルの成長を示す銅粒子のSEM 断面画像を図示する。
【
図9b】(b)サンプル9cのシミュレートされた熱強化処理の前後で、コーティングされたガラスサンプルの酸化物シェルの成長を示す銅粒子のSEM 断面画像を図示する。
【
図9c】(c)サンプル9cのシミュレートされた熱強化処理の前後で、コーティングされたガラスサンプルの酸化物シェルの成長を示す銅粒子のSEM 断面画像を図示する。
【
図10】サンプル内の銅の表面被覆率を強調する、サンプル35aのImageJソフトウェアによって処理されたSEM画像である。
【
図11】表17cのサンプル33a、34a、35aおよび33c、34cおよび35cについての、パーセンテージ(%)対抗ウイルス性能(%R)としての銅表面被覆率のグラフである。
【
図12】表17cのサンプル33aおよび35aについての曝露時間(時間)対抗ウイルス性能(%R)のグラフである。
【実施例】
【0058】
[材料]
金属銅粒子を、Nanotec S.A.およびPromethean Particles Ltd.から入手した。亜酸化銅粒子を、American Chemet CorporationおよびNordox ASから入手した。TEOSは、オルトケイ酸テトラエチル(テトラエトキシシランとも呼ばれ、TEOSと略記する)であり、これは、式Si(OC2H5)4を有し、オルトケイ酸、Si(OH)4のエチルエステルである。これは、Merckから入手可能である。
【0059】
[実験例]
[コーティング溶液の調製]
[1.温和な反応条件下でのオルトケイ酸テトラエチルゾルゲル前駆体溶液の調製]
シリカを含む一連の前駆体溶液を、温和な反応条件下で本発明に関連して調製した。各コーティング溶液について、オルトケイ酸テトラエチル(TEOS)を加水分解してシリカ溶液を生成した。オルトケイ酸テトラエチル(TEOS)の加水分解を、(i)弱酸の存在下における水、または、(ii)有機溶媒、例えばジオールの存在下での水、のいずれかを使用して達成した。オルトケイ酸テトラエチル(TEOS)を、低温、つまり20℃~80℃の間の温度で撹拌しながら、水および弱酸またはジオールのいずれかと混合した。弱酸は、カルボン酸、具体的にはクエン酸であった。
【0060】
酸を水と共に使用してTEOSを加水分解したとき、有機溶媒中で反応を実施した。適切な有機溶媒を、ジアセトンアルコール(DAA)、プロピレングリコールメチルエーテル(PGME)または3-メトキシ-1-ブタノールから選択した。加水分解反応が酸の非存在下で起こったとき、すなわちジオールを利用してTEOSを加水分解したとき、好ましい有機溶媒は、好ましくはジオール、例えばプロピレングリコールであった。
【0061】
図1a~1d、2a~2c、3a~3d、4a~4d、5a、5b、および6に例示および図示された各前駆体溶液の成分量の詳細を表1に示す。
【0062】
【0063】
TEOS加水分解反応の進行を、FTIR分析を使用して追跡した。異なる有機溶媒および異なる酸を使用した一連のTEOS加水分解反応のFTIRスペクトルを、
図1a~1d、3a~3d、4a、4b、5a、および5bに図示する。881nm(Et-OH)および788nm(Si-O-C)のスペクトルピークが安定したときに、加水分解反応が完了したと識別した。
図1a~1dおよび2a~2cは、選択した溶媒としてジアセトンアルコールを用いて、クエン酸(前駆体溶液C)における加水分解反応の進行を、塩酸(前駆体溶液A)および硝酸(前駆体溶液B)と比較する。
【0064】
本発明者らは、加水分解反応の反応速度が、選択された温度に従って変更され得ることを観察した。例えば、加水分解反応の速度は、高温、具体的には60℃~80℃の範囲の温度を使用して増加し得ることが観察された。具体的には、
図1cおよび1dは、溶媒としてジアセトンアルコール、および選択した有機酸としてクエン酸を使用して、それぞれ室温(前駆体溶液C)および60℃(前駆体溶液D)でのTEOSの加水分解の反応速度の違いを図示する。TEOS加水分解反応に高温を使用した場合、溶媒および水の蒸発を防ぐために、溶液を還流下で加熱した。
【0065】
図3a~3dおよび4a~4dは、選択された有機酸としてクエン酸を有するさまざまな溶媒を使用したTEOSの加水分解の反応速度の違いを図示する。表1の前駆体溶液D~Gを使用した。プロピレングリコールの反応速度が最も高く、加水分解反応は1時間後に完了したと判断した。
【0066】
図5aは、プロピレングリコール中のTEOSの加水分解反応のFTIRスペクトルの進行を示しており、表1の前駆体溶液Hについて記載したようにクエン酸の量が減少している。加水分解反応は、3時間後に完了したと判断した。
【0067】
図5bは、有機酸が存在しない場合のTEOSの加水分解反応のFTIRスペクトルの進行および表1の前駆体溶液Iについて記載したように水の量の減少を示す。加水分解反応は、3時間後に完了したと判断した。
【0068】
図6は、前駆体溶液G~Iの経時的な881nmでのEt-OHピークの進行を示す。
【0069】
[2.銅コーティング溶液の調製]
セクション1に記載した前駆体シリカ溶液の調製に続いて、各溶液を溶媒でさらに希釈し、銅含有粒子を加えた。本発明に関連して、本発明者らは、上記セクション1に記載の温和な反応条件を使用すると、コーティング溶液中の銅の溶解に関して改善された安定性を有するコーティング溶液が生成されることを見出した。対照的に、本発明者らは、より過酷な条件を使用するとき、例えば、ゾルゲル反応触媒として塩酸などの無機強酸を使用するとき、銅の溶解が無機酸の添加により開始し、急速に進行することを発見した。
【0070】
図7aは、シリカコーティング溶液が塩酸を含む、2時間にわたるローラーコーティング試験におけるシリカコーティング溶液中の銅の溶解を図示する。発明者らは、溶液中の銅の溶解の結果として、2時間にわたるコーティング溶液の色の変化を観察した。いかなる特定の理論にも拘束されることを望むものではないが、本発明者らは、銅と形成された錯体の結果として色の変化が生じ得ると理解する。
【0071】
シリカコーティング溶液に溶解した銅のパーセンテージを、未溶解の銅粒子を除去し、誘導結合プラズマ発光分析(ICP-OES)を使用して残りの溶液中の銅の量を分析することによって決定した。溶液中に残っている銅の量を
図7aに図示する。
【0072】
0.1重量パーセントの銅を含むシリカコーティング溶液について無機酸および有機酸を使用した銅の溶解速度に対する影響を、酸素への曝露を制限して、つまり閉鎖系で、15時間攪拌しながら調査した。結果を
図7bに図示する。
【0073】
発明者らは、
図7dに示すように、TEOSのゾルゲル加水分解反応に使用される有機酸の濃度を下げることによって、銅の溶解速度のさらなる低下を達成することが可能であることを見出した。
【0074】
また、本発明者らは、有機酸の濃度を低下させたとき、結果として、上記セクション1のTEOSのゾルゲル加水分解反応を十分に進行させるために、反応時間を増加させることが好ましかったことに注目した。
【0075】
さらに、本発明者らは、銅を含むコーティング溶液の酸素への曝露を減らすことによって、銅の溶解速度を遅くし得ることを見出した。これは、溶液を封入すること、溶液を窒素で覆うこと、または溶液に不活性ガスを注入することのいずれかによって達成された。
【0076】
本発明者らはさらに、銅粒子のサイズもまた、コーティング溶液中の銅の溶解を安定化させる役割を果たしていることが示されたことを発見した。平均粒子サイズがより小さい銅は、酸素に曝露され同じ溶媒中において一定の攪拌で2時間攪拌されたとき、粒子サイズがより大きい銅よりも速く溶解することが示された。これらの調査結果の結果を
図7cに示す。溶液中の銅粒子のサイズを、Malvern Mastersizerでレーザー回折分析を使用して決定した。本発明に関連して使用される2つの銅分散液AおよびBの銅粒子サイズ分布を
図8に示す。銅分散液Aによって提供される粒子は、500nmから8.5ミクロンまでのサイズ範囲を有し、一方、銅分散液Bによって提供される粒子は、200nmから3ミクロンまでのサイズ範囲を有する。より大きな銅粒子は、コーティング溶液中に懸濁したままにするために撹拌を増やす必要があったが、一方、より小さな銅粒子は、撹拌を減らしても懸濁したままであった。撹拌の必要性が減少すると、銅の溶解速度もまた低下する。
【0077】
【0078】
[3.銅粒子を含むシリカマトリックス層のコーティングされたガラスサンプルを得るためのローラーコーティングとそれに続く熱処理とによる銅コーティング溶液の堆積]
コーティングされたガラスサンプルは、上記のオルトケイ酸テトラエチル(TEOS)と銅粒子とのゾルゲル反応から得られたコーティング溶液から形成された銅粒子が埋め込まれたシリカマトリックス層の潜在的な抗菌および抗ウイルス効果および耐久性を評価するために調整され、次のようにフロートガラス基板にローラーコーティングによって付与される。
【0079】
コーティング溶液1~7を、表1の前駆体溶液Cを用いて調製し、室温で4時間攪拌した。撹拌後、これらのコーティング溶液をプロピレングリコール、ジアセトンアルコール、および銅分散液AまたはBで希釈して、表3に示すシリカおよび銅の重量パーセントを達成した。
【0080】
コーティング溶液8~12を、表1の前駆体溶液Dを使用して調製し、60℃で4時間攪拌した。撹拌後、これらのコーティング溶液をプロピレングリコール、ジアセトンアルコール、および銅分散液AまたはBで希釈して、表3に示すシリカおよび銅の重量パーセントを達成した。
【0081】
コーティング溶液13を、表1の前駆体溶液Iを用いて、80℃で3時間撹拌した。撹拌後、このコーティング溶液をプロピレングリコール、ジアセトンアルコール、および銅分散液AまたはBで希釈して、表3に示すシリカおよび銅の重量パーセントを達成した。
【0082】
銅分散液AおよびBは、上記の表2に記載されている。コーティング溶液1~13はすべて、41.55重量%のプロピレングリコールを含んでいた。
【0083】
【0084】
各実験において、テスト用のサンプルを生成するために使用したローラーコーター装置は、Burkle easy-Coater RCL-M 700であった。これは、平滑なEPDMゴム製の塗布ローラー材料とパターニングされた刻印が施されたスチール製のドクターローラーとを備える。コーティング溶液1~13の各々を、ドクターローラーと塗布ローラーとの間のローラーコーター上のチャネルに圧送することによってローラーコーターに順番に塗布し、再循環させた。各々の場合において、コーティング溶液を、塗布ローラーによって、30cm×40cmの寸法で、ガラス基板に塗布した。使用したガラス基板は、NSGから入手可能なフロートガラスなどのソーダ石灰ケイ酸塩ガラスを備えていた。通常のソーダ石灰ケイ酸塩ガラス組成物は、重量%で、例えば、SiO2 69~74%、Al2O3、Na2O 10~16%、K2O 0~5%、MgO 0~6%、CaO 5~14%、SO3 0~2%、およびFe2O3 0.005~2%を含む。
【0085】
【0086】
ピンチは、塗布ローラーとドクターローラーとの間の圧縮であり、
オフセットは、塗布ローラーとガラス基板との間の圧縮であり、
ローラー速度は、塗布ローラー、ドクターローラー、および搬送コンベアの速度である。
【0087】
コーティングを付与した後、ガラス基板をすぐに対流式オーブン内で200℃~300℃の温度で加熱してコーティングを硬化させた。形成されたシリカマトリックスコーティング層をさらに高密度化し、ガラス強化プロセスをシミュレートするために、ガラス表面を650℃にする熱処理をいくつかのサンプルに適用した。表5に、各サンプルに採用した硬化条件を記載する。
【0088】
【0089】
[4.銅粒子を含むシリカマトリックス層のコーティングされたガラスサンプルを得るための、スプレーコーティングとそれに続く熱処理とによる銅コーティング溶液の堆積]
[4.1.単一の固定スプレーヘッドを使用して作成したサンプル]
コーティングされたガラスサンプルを調製して、上記のオルトケイ酸テトラエチル(TEOS)と銅粒子とのゾルゲル反応から得られたコーティング溶液から形成され、スプレーコーティングによってフロートガラス基板に付与された、銅粒子が埋め込まれたシリカマトリックス層の抗ウイルス効果を評価した。
【0090】
コーティング溶液14~28を表1の前駆体溶液Eを用いて調製し、60℃で6時間撹拌した。撹拌後、これらのコーティング溶液をプロピレングリコールメチルエーテル、イソプロパノール、および表6に示すようなB~Eの銅分散液で希釈した。銅分散液B~Eを表2に記載する。コーティング溶液14~18はすべて、75重量%のイソプロパノールを含んでいた。
【0091】
使用したスプレーコーティング装置には、72度のスプレー角度を備えた固定液圧霧化スプレーノズルが組み込まれており、ガラスは室温でコンベア上のスプレーノズルの下方を移動する。
【0092】
【0093】
表6に示される各コーティング溶液は、室温で最大30cm×40cmの寸法で、ガラス基板に個別に付与された。
【0094】
【0095】
使用したガラス基板は、NSGから入手可能なフロートガラスなどのソーダ石灰ケイ酸塩ガラスを含んだ。典型的なソーダ石灰ケイ酸塩ガラス組成物は、重量%で、例えば、SiO2 69~74%、Al2O3、Na2O 10~16%、K2O 0~5%、MgO 0~6%、CaO 5~14%、SO3 0~2%、およびFe2O3 0.005~2%を含む。
【0096】
コーティングを付与した後、基板を、加熱コンベア上において40~50℃で1~2分間乾燥させ、その後、さらに最大140~180℃の5分間の熱処理のために対流式オーブンに移し、コーティングを硬化した。シリカマトリックスコーティング層をさらに高密度化し、ガラス強化プロセスをシミュレートするために、表8に記載されているように、サンプルの一部に650℃へのさらなる熱処理を適用した。
【0097】
【0098】
[4.2.複数の固定スプレーヘッドおよびトラバーススプレーヘッドを使用して作成されたサンプル]
大規模な生産をシミュレートするために、より大きな基板サイズをコーティングする必要があるため、複数の固定スプレーヘッドまたはトラバーススプレーヘッドを使用したサンプルをも生成した。各コーティングは、最大70cmの幅を有するガラス基板に個別に付与され、上記4.1で記載したように乾燥および硬化された。
【0099】
コーティング溶液29~38を、表1の前駆体溶液Eを使用して調製し、60℃で6時間攪拌した。撹拌後、これらのコーティング溶液をプロピレングリコールメチルエーテル、イソプロパノール、および表8aに示すように銅分散液B、C、およびDで希釈した。コーティング溶液29~32は、75重量%のイソプロパノールを含んでいた。コーティング溶液33~35は、25重量%のイソプロパノールを含んでいた。
【0100】
コーティング溶液36~38を、表1の前駆体溶液Eを使用して調製し、60℃で6時間攪拌した。撹拌後、これらのコーティング溶液をプロピレングリコールメチルエーテル、プロピレングリコール、イソプロパノール、および銅分散液Bで希釈した。コーティング溶液36~38は、1重量%のイソプロパノールおよび5重量%のプロピレングリコールを含んでいた。
【0101】
【0102】
コーティング溶液29~32については、ガラスが室温でコンベア上のスプレーノズルの下方を移動する、各々72度のスプレー角度を有する複数の固定液圧霧化スプレーノズルを組み込んだスプレーコーティング装置を使用した。コーティング溶液33~35については、トラバーススプレーシステムに取り付けられた110度のスプレー角度を有する単一の液圧霧化スプレーノズルを組み込んだスプレーコーティング装置を使用した。コーティング溶液36~38については、トラバーススプレーシステムに取り付けられた単一の空気霧化LVMPスプレーノズルを組み込んだスプレーコーティング装置を使用した。表6に示される各コーティング溶液を、室温で最大30cm×40cmの寸法でガラス基板に個別に付与した。
【0103】
【0104】
【0105】
【0106】
使用したガラス基板は、NSGから入手可能なフロートガラスなどのソーダ石灰ケイ酸塩ガラスを含んでいた。典型的なソーダ石灰ケイ酸塩ガラス組成物は、重量%で、例えば、SiO2 69~74%、Al2O3、Na2O 10~16%、K2O 0~5%、MgO 0~6%、CaO 5~14%、SO3 0~2%、およびFe2O3 0.005~2%を含む。
【0107】
コーティング溶液31~32については、コーティングを付与した後、基板を、加熱コンベア上において40~50℃で1~2分間乾燥させ、その後、さらに最大140~180℃の5分間の熱処理のために対流式オーブンに移し、コーティングを硬化した。シリカマトリックスコーティング層をさらに高密度化し、ガラス強化プロセスをシミュレートするために、表8eに記載されているように、サンプルの一部に650℃へのさらなる熱処理を適用した。コーティング溶液33~35については、コーティングを付与した後、基板を、室温で乾燥させ、その後、対流式オーブンに移して表8eに記載のように150℃または200℃でさらに5分間熱処理した。コーティング溶液36~38については、コーティングを付与した後、基板を90℃に設定された対流式オーブン内で乾燥させた。コーティングをさらに硬化させるために、ガラスの表面温度を200℃に上昇させる後続熱処理を各サンプルに適用した。
【0108】
追加のサンプルを、実寸の生産ラインで作成した。コーティングを、幅2.25m、長さ3.21mのガラス基板上に堆積した。これらのサンプルについて、使用したスプレーコーティング装置には、トラバーススプレーシステムに取り付けられた最大3つの空気霧化LVMPノズルを組み込んだ。2段階の硬化プロセスで、最大6m/分のライン速度を使用した。堆積後、コーティングされた基板は、ラインを下って移動し、50~100℃の温度に設定されたIRオーブン内で乾燥された。乾燥したコーティングされた基板は、続いて第2のIRオーブンに入り、コーティングがさらに硬化し、ガラスの表面温度が150~200℃に上昇した。
【0109】
【0110】
[抗菌および抗ウイルス試験]
[5.上記のセクション3に記載したローラーコーティングされたガラスサンプルの抗菌結果]
ローラーコーティングによって堆積されたコーティングされたガラスサンプルは、ISO22196に基づく標準プロトコルを使用して、University College London(英国)、Saniter(トルコ)、MGS Laboratories Ltd(英国)、およびIndustrial Microbiological Services Limited(英国)によって抗菌性能を評価された。サンプルを、大腸菌(E.Coli ATCC 8739)および黄色ブドウ球菌(S.Aureus ATCC 6538P)に対して24時間にわたってテストした。
【0111】
ISO22196に従って、抗菌活性(すなわち対数減少)Rを、式1に従って計算した。さらに、死滅細菌のパーセンテージについて、播種直後の未処理の試験片(%I)と培養時間t後の未処理の試験片(%R)との両方を、それぞれ式2および式3に従って計算した。
【0112】
【0113】
【0114】
【0115】
U0は、播種直後に未処理の試験片から回収された生菌の平均数(cells/cm2)であり、
Utは、培養時間t後に未処理の試験片から回収された生菌の平均数(cells/cm2)であり、
Atは、培養時間t後に処理された試験片から回収された生菌の平均数(cells/cm2)である。
【0116】
【0117】
【0118】
【0119】
【0120】
表9~12の結果は、コーティング溶液中の銅濃度が増加するにつれて、E.Coli 8739に対する抗菌性能が増加することを示す。特にE.Coli 8739に対する表10の結果は、より小さなサイズの銅粒子で性能が向上することを示唆している。サンプル3a(銅分散液Bを使用)の98.68%と比較して、サンプル2a(銅分散液Aを使用)は、コーティングされていない参照に対して94.75%の死滅細菌のパーセンテージをもたらした。
【0121】
表9および10は、S.Aureus 6538に対する抗菌性能を示しており、最も低い銅の濃度および銅分散液A(サンプル1a)によって供給されるより大きな粒子を使用したときでも、コーティングされていない参照と比較して細菌の99%超(2対数減少超)が死滅した。
【0122】
【0123】
表13の結果は、サンプル6aとサンプル7a(コーティング中に0.4重量%の銅を使用した粒子分散液AおよびBを使用)との両方が、コーティングされていない参照に対して細菌の99.9%超が死滅したこと(3対数減少超)を示している。
【0124】
【0125】
【0126】
表15の結果は、硬化方法を一定に保ちながら、銅濃度を(サンプル11cから9cに)増加させることによって、抗菌活性が平均1.87に増加(コーティングされていない参照と比較して細菌の98.67%を死滅させる)し、コーティングされていない参照に対して細菌の99%超を死滅させる複数の繰り返しを有することを示す。
【0127】
表14および15の結果、具体的にはサンプル9a、9b、および9cは、初期硬化の温度および持続時間(200~300℃)が抗菌活性に大きな影響を与えることをも示す。
【0128】
【0129】
表15aの結果は、650℃の熱処理を受けていないサンプル(サンプル31aおよび32a)が、2時間後にE.Coli 8739に対して4対数(99.99%)超の減少、および2時間後にS.Aureusに対して3対数(99.9%)超の減少を達成することを示す。追加の650℃の熱処理を受けたサンプル(サンプル31bおよび32b)の場合、2対数(99%)減少を超える抗菌性能を達成するのに必要な時間は、6時間に増加した。
【0130】
[6.セクション3および4で記載したローラーコーティングおよびスプレーコーティングされたガラスサンプルの抗ウイルス結果]
[実験結果4]
ローラーおよびスプレーコーティングによって堆積されたコーティングされたサンプルを、ISO21702に基づくプロトコルを使用して、ケンブリッジ大学によって抗ウイルス性能について評価した。使用されたウイルス株は、マウス肝炎ウイルスA59(MHV-A59)であり、SARS-CoV-2の代理として機能し得ることが十分に確立されたコロナウイルスであった。このウイルス株は、SARS-CoV-2と同じベータコロナウイルスファミリーに属し、構造的にほぼ同一であり、安定性試験で広く使用されている。
【0131】
セクション4.2でスプレーコーティングによって堆積されたコーティングサンプルを、ISO21702に基づくプロトコルを使用して、Virology Research Services Limitedによって抗ウイルス性能について評価した。使用したウイルス株は、ヒトコロナウイルスNL63であった。
【0132】
感染性を、サンプルのウイルス誘発細胞死をスコアリングすることによって評価し、残存感染力価(TCID50)として表した。次に、これらの値を使用して、式4に従って対数減少を計算した。さらに、不活化のパーセンテージについて、播種直後の未処理の試験片(%I)および培養時間t後の未処理の試験片(%R)を、それぞれ式5および式6に従って計算した。
【0133】
【0134】
【0135】
【0136】
V0は、播種直後に未処理の試験片から回収されたTCID50/mlの平均であり、
Vtは、培養時間t後に未処理の試験片から回収されたTCID50/mlの平均であり、
Ctは、培養時間t後に処理された試験片から回収されたTCID50/mlの平均である。
TCID50は、組織培養感染量の中央値であり、細胞を培養したウェルプレートにウイルス液の希釈液を播種したときに、細胞の50%が感染する濃度である。
【0137】
【0138】
表16の結果は、サンプル15c(0.04重量%の銅および0.5重量%のシリカからなるコーティング溶液を使用してスプレーコーティングされたサンプル)が、コーティングされていない参照に対して1時間後にマウス肝炎ウイルスの47.88%、初期ウイルス量に対して94.52%を、不活性化したことを示す。
【0139】
【0140】
表17の結果は、ローラーコーティングされたサンプル12dが、コーティングされていない参照と初期のウイルス量との両方に対して、SARS-Cov-2ウイルスを3時間後に99.91%、24時間後に97.73%不活性化したことを示す。
【0141】
追加の抗ウイルス試験を、マウス肝炎ウイルスA49、SARS-Cov-2(英国株)、ヒトコロナウイルス229E、ヒトコロナウイルスNL63、およびインフルエンザA型に対して実施した。
【0142】
【0143】
表17aの結果は、同じ質量の銅に対して、サンプル30aに銅分散液Bを使用すると(サンプル20aに銅分散液Cを使用した場合と比較して)抗ウイルス性能が0.6対数減少(74.85%)から1.05(91.02%)に改善されることを示す。いかなる特定の理論にも拘束されることを望むものではないが、本発明者らは、これは、銅粒子のより大きな表面積被覆率につながる、より小さな粒子サイズ(
図8に示されるように)のためであり得ると考える。
【0144】
この結果はまた、コーティング溶液中の銅とシリカとの質量比を0.08(サンプル9d)から0.4(サンプル29a)に増加させると、抗ウイルス性能が0.28対数減少(47.91%死滅)から0.6(74.85%死滅)に改善されることをも示す。
【0145】
【0146】
表17bの結果は、サンプル32aのコーティング溶液中の銅の濃度がサンプル31aに対して半分であるにもかかわらず、抗ウイルス性能が有意に高いことを示している。いかなる特定の理論にも拘束されることを望むものではないが、本発明者らは、これは、銅粒子のより大きな表面積被覆率(表22に示されるように)につながるより小さな粒子サイズ(
図8に示されるように)によるものであり得ると考える。
【0147】
【0148】
表17cの結果は、200℃で硬化したサンプル(サンプル33c~サンプル35c)のコーティング溶液中の銅の濃度を直線的に増加させることによって、
図11に図示するように、6時間の曝露時間後の抗ウイルス性能が1.20(93.65%の死滅)の対数減少から1.79(98.40%の死滅)へ、さらに3.20(99.94%の死滅)へと増加することを示す。
【0149】
150℃で硬化したサンプル(サンプル33a~サンプル35a)のコーティング溶液中の銅の濃度を直線的に増加させることによって、6時間の曝露時間後の抗ウイルス性能は、
図11に図示するように、1.07(91.45%死滅)の対数減少から1.38(95.84%死滅)へ、さらに2.79(99.84%死滅)へと増加する。
【0150】
曝露時間を2時間から6時間に直線的に増加させることによって、150℃で硬化したサンプル(サンプル33aサンプル35a)は、
図12に図示するように、対数減少が0.66~0.75~1.07へと増加し、および対数減少が1.19~1.69~2.79へと増加する。
【0151】
サンプル35aにラミネートサイクルを加えたもの、およびサンプル35aに処理Kを加えたものについての結果は、良好な抗ウイルス性能は、サンプルをラミネーティング熱サイクルおよび「摩擦リグ試験」を介して過酷な洗浄剤に供した後も維持された(表20に記載)。
【0152】
【0153】
表17dの結果は、コーティング溶液中のシリカの濃度を1.5重量%から2.5重量%に増加させることによって(サンプル36c、37c、38c)、銅の濃度を一定に保ちながら、抗ウイルス性能に悪影響を及ぼさなかったことを示す。すなわち、銅粒子の周囲およびその上方でシリカの厚さを増加させても、性能に悪影響はなかった。
【0154】
[7.セクション3において記載したローラーコーティングされたサンプルの耐久性テスト]
[EN1096試験]
表5に記載されているローラーコーティングによって堆積されたコーティングされたガラスサンプルを、参照によって本明細書に援用されるEN1096クラスSおよびEN1096クラスBに従って、SO2、結露、塩および摩耗のサイクルにさらすことによって、相対的な耐久性(または劣化)について評価した。耐久性試験の結果を表19にまとめる。
【0155】
分類系は、コーティングされたガラスが設置されたときのコーティングされた表面の位置に基づく。この設置位置は、コーティングがその耐用期間中に経験する侵食(例えば湿度、大気汚染、摩耗など)の種類および範囲を決定する。
【0156】
EN1096クラスBの場合、すなわち、コーティングされたガラスは、モノリシックグレージングとして使用され得るが、コーティングされた表面は、建物の内面にあるべきである。EN1096クラスSの場合、すなわち、ガラスのコーティングされた表面は、建物の外面または内面に配置され得るが、これらのタイプのコーティングされたガラスは、具体的に定義された用途、例えば、店頭、でのみ使用され得る。
【0157】
【0158】
【0159】
[洗浄剤の適合性]
表5に記載されているローラーコーティングによって堆積されたコーティングされたガラスサンプルを、コーティングされた表面に1Kgの荷重を加えて、改良されたオイル摩擦リグ試験から3650回のストロークの洗浄剤作用に供することによって、3650回のクリーニングサイクルをシミュレーションし、相対的な耐久性(または劣化)について評価した。洗浄剤を塗布するために、8×9cm片(ポリエステル88%/ポリアミド12%)の多目的マイクロファイバークロスを使用し、改良した治具に取り付け、実行中に必要に応じて洗浄剤で湿らせた。合成汗溶液の場合、マイクロファイバークロスの代わりにゴムストリップを使用し、1000回のストロークを実施し、0.15kgの荷重を使用した。テストの結果を表21に記載する。
【0160】
【0161】
【0162】
[8.ローラーコーティングおよびスプレーコーティングされたサンプルの表面分析]
コーティングされたサンプルに対してICP-OES分析を実施し、下記に記載する方法ステップによってコーティング中の銅の総量を評価した。
・テスト用の5×5cmのサンプルを90mmのペトリ皿に置き、コーティング面を上にした。
・2mlの濃H2SO4をコーティング表面にピペッティングした。
・次に、サンプルを100℃に設定したホットプレートに10分間置いた。
・次に、温度を150℃まで10分間上昇させ、続いてサンプルが発煙するまで(通常は約5分間)200℃に上昇させた。
・次に、サンプルを放冷し、50mlのメスフラスコに洗い入れた。
・次に、H2SO4 Cuスタンダードとマッチングしたマトリックスを使用して、サンプルをICP-OESで分析した。
【0163】
表23に示すように、この方法を使用して、さまざまな耐久性試験後のコーティングの損傷の程度を評価した。
【0164】
走査型電子顕微鏡による調査を使用して、シリカマトリックスコーティング層に関連する銅粒子の外観と分布とを分析した。コーティングされたサンプルを採取し、走査型電子顕微鏡(SEM)を使用して検査に先立って、プラチナの薄層(均一な導電性表面を提供する)でコーティングする前に、アルミニウムスタブに取り付けた。
【0165】
図9a~9cは、シミュレートされた強化プロセスの前後のサンプル9cおよびサンプル9dのシリカコーティング層に埋め込まれた銅粒子のサイズ、形状および構造を図示する。
【0166】
反射電子(BSE)画像は、化学組成の違いを強調し、原子番号の大きい材料(つまり、銅ナノ粒子)がより明るく見えるため、これらの画像は、ImageJソフトウェア(https://imagej.nih.gov/ij/index.html)で処理された。サンプル35aの処理された画像の例は、
図10において見られ得る。次に、各サンプルの表面の明るい特徴のおおよそのサイズおよび数を判定し、このデータを使用して、表22に示すように、銅で覆われた2次元表面のパーセンテージを計算した。
【0167】
【0168】
図11は、銅粒子の表面被覆率およびコーティングされていない参照(%R)に対する抗ウイルス性能との関係を示す。
【0169】
【0170】
表23は、試験K後のサンプル35aについて、保持された銅の最小量が76%であったことを示している。セクション5の表17cは、このサンプル35aが96.08%(1.41対数減少)の抗ウイルス性能を維持したことを示した。
【0171】
【0172】
【0173】
したがって、要約すると、高い光透過性および優れた美的外観を備えたガラス上の耐久性、抗菌性、および/または抗ウイルス性コーティングには、大きく拡大している市場が存在する。銅にはある程度の抗菌活性があることが示されているが、高い抗菌効果を示す銅含有コーティングは、一般的に耐久性もしくは光学的な問題を有するか、十分な規模で生産され得ないか、または必要な程度まで強化可能ではない。ゾルゲル配合物は、ガラス上に耐久性のあるコーティングを作成するために使用され、必要な透明性を備える一方、堆積の方法では、過酷な反応条件および金属粒子と相容れないことが多い材料が使用される。本発明に関連して、本発明者らは、産業規模でも優れた抗菌および抗ウイルス特性と並んで耐久性および光学的透明性を保持しながら、様々な基板に付与され得るコーティングを提供しながら非常に温和な条件でゾルゲル法を利用するプロセスを本明細書に開示する。
【0174】
すなわち、本発明者らによって記載された上記の知見は、抗菌および/または抗ウイルスコーティングされたガラス基板の工業的作製に適したコーティング溶液を調合することが可能であることを示している。これは、弱酸および/またはジオールを使用する温和なゾルゲル反応条件を採用することによって可能になり、オルトケイ酸テトラエチルのシリカへの加水分解反応を進行させ、それによって銅分散液が添加された最終コーティング溶液中の銅の溶解速度を遅くした。
【0175】
本発明者らは、シリカおよび銅のコーティング溶液をローラーコーティングまたはスプレーコーティングによって工業規模でガラス基板に付与し得、抗菌および抗ウイルス効果の両方を示すコーティングされたガラス基板を得ることができることを実証した。すなわち、上記の結果は、24時間後にE.Coli 8739および S.Aureus 6538に対して、コーティングされていない参照と比較して99.9%を超える細菌を死滅させることが示されており、また、結果は、3時間後のSARS-Cov-2(英国株)ウイルスの、コーティングされていない参照と比較した、99.9%を超える不活性化の証拠を提供する。
【0176】
さらに、銅の質量が増加すると、抗ウイルス性能と抗菌性能との両方が向上することがわかった。さらに、抗ウイルス性能は、銅の表面被覆率の増加に伴い増加することがわかった。粒子サイズを小さくすることによって、同じ質量の銅でより大きな表面被覆率を達成し得る。例えば、
図11は、6時間のウイルス曝露時間で、銅粒子の1.6%の被覆率が、ヒトコロナウイルス NL63に対して、90%を超える死滅(1対数減少)を達成した一方で、銅粒子の3.1%の被覆率が、ヒトコロナウイルス NL63に対して、99%を超える死滅(2対数削減)を達成したことを示す。
【0177】
同様の状況は、抗菌性能についても経験されている。例えば、非強化ガラスサンプルの場合、グラム陽性菌とグラム陰性菌(大腸菌(E.Coli ATCC 8739)および黄色ブドウ球菌(S.Aureus ATCC 6538P))との両方に対して、2時間後に99.9%を超える(3対数減少)抗菌効果が達成された。
【0178】
非強化サンプルと比較して強化サンプルは性能の低下を示したが、6時間後でも99%を超える(2対数減少)抗菌低下が達成された。
【0179】
コーティングされた基板は、ガラス産業の厳しい試験要件にも適合するため、さまざまなガラス基板用途に使用され得る。
【国際調査報告】