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特表2023-542228遺伝子ノックアウトを有する哺乳動物細胞株
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-10-05
(54)【発明の名称】遺伝子ノックアウトを有する哺乳動物細胞株
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/09 20060101AFI20230928BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20230928BHJP
   C12P 21/00 20060101ALI20230928BHJP
   C12N 15/113 20100101ALI20230928BHJP
【FI】
C12N15/09 100
C12N5/10 ZNA
C12P21/00 A
C12N15/09 110
C12N15/113 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023518736
(86)(22)【出願日】2021-09-23
(85)【翻訳文提出日】2023-05-02
(86)【国際出願番号】 EP2021076165
(87)【国際公開番号】W WO2022063877
(87)【国際公開日】2022-03-31
(31)【優先権主張番号】20197946.5
(32)【優先日】2020-09-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】591003013
【氏名又は名称】エフ. ホフマン-ラ ロシュ アーゲー
【氏名又は名称原語表記】F. HOFFMANN-LA ROCHE AKTIENGESELLSCHAFT
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100102118
【弁理士】
【氏名又は名称】春名 雅夫
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【弁理士】
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100188433
【弁理士】
【氏名又は名称】梅村 幸輔
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【弁理士】
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【弁理士】
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【弁理士】
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100214396
【弁理士】
【氏名又は名称】塩田 真紀
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【弁理士】
【氏名又は名称】川本 和弥
(72)【発明者】
【氏名】アオスレンダー サイモン
(72)【発明者】
【氏名】バウアー ニールス
(72)【発明者】
【氏名】オズワルド ベネディクト
【テーマコード(参考)】
4B064
4B065
【Fターム(参考)】
4B064AG01
4B064CA19
4B064CC24
4B064DA01
4B065AA90X
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065CA24
4B065CA44
(57)【要約】
本明細書では、異種ポリペプチドを発現する組換え哺乳動物細胞を生成するための方法、及び前記組換え哺乳動物細胞を使用して異種ポリペプチドを生産するための方法であって、前記組換え細胞において少なくとも内因性遺伝子MYCの発現が低減されている、方法が報告される。哺乳動物細胞、例えばCHO細胞における少なくとも内因性遺伝子MYCのノックアウトが、細胞による組換え生産性を改善することが見出された。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも内因性遺伝子MYCの発現を低減させることによって、異種ポリペプチドをコードする外因性核酸を含む組換え哺乳動物細胞の異種ポリペプチド発現を、同じ条件下で培養された、同一の遺伝子型を有するが前記発現の低減される遺伝子の内因性発現を有する哺乳動物細胞と比較して、増加させる方法。
【請求項2】
異種ポリペプチドを生産するための方法であって、
a)前記異種ポリペプチドをコードするデオキシリボ核酸を含む哺乳動物細胞を培養する工程、及び
b)前記細胞又は培養培地から前記異種ポリペプチドを回収する工程
を含み、
少なくとも内因性遺伝子MYCの発現が低減されている、
方法。
【請求項3】
改善された組換え生産性を有する組換え哺乳動物細胞を生産するための方法であって、
a)哺乳動物細胞中の内因性遺伝子MYCを標的とするヌクレアーゼ支援及び/又は核酸を適用して、前記内因性遺伝子の活性を低減させる工程、並びに
b)前記内因性遺伝子の活性が低減されている哺乳動物細胞を選択する工程
を含み、
それにより、同じ条件下で培養された、同一の遺伝子型を有するが前記遺伝子の内因性発現を有する哺乳動物細胞と比較して、組換え生産性が増加した組換え哺乳動物細胞を生産する、
方法。
【請求項4】
遺伝子ノックアウトが、ヘテロ接合性ノックアウト又はホモ接合性ノックアウトである、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
改変された細胞の生産性が、前記遺伝子を除いて同じ遺伝子型を有する親哺乳動物細胞と比較して少なくとも10%増加する、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
遺伝子発現の前記低減が、ヌクレアーゼ支援遺伝子ターゲティングシステムによって媒介される、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記ヌクレアーゼ支援遺伝子ターゲティングシステムが、CRISPR/Cas9、CRISPR/Cpf1、ジンクフィンガーヌクレアーゼ、TALEN、又はメガヌクレアーゼからなる群から選択される、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
遺伝子発現の前記低減が、RNAサイレンシングによって媒介される、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
RNAサイレンシングが、siRNA遺伝子ターゲティング及びノックダウン、shRNA遺伝子ターゲティング及びノックダウン、並びにmiRNA遺伝子ターゲティング及びノックダウンからなる群から選択される、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記異種ポリペプチドが抗体である、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
ノックアウトが、前記異種ポリペプチドをコードする前記外因性核酸の導入前、又は前記異種ポリペプチドをコードする前記外因性核酸の導入後に行われる、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記哺乳動物細胞がCHO細胞である、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
内因性遺伝子SIRT-1及びMYCの発現が低減されている、請求項1~12のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、治療用抗体などの治療用ポリペプチドの組換え生産のための細胞株開発の分野にある。より詳細には、本明細書では、少なくとも1つの内因性遺伝子の機能的ノックアウトを有する哺乳動物細胞が報告されており、これは発現特性の改善をもたらす。
【背景技術】
【0002】
背景
哺乳類の宿主細胞株、特にCHO及びHEK細胞株は、供給タンパク質(例えば、抗原、受容体など)及び治療用分子(例えば、抗体、サイトカインなど)などの分泌タンパク質の組換え生産のために使用される。これらの宿主細胞株は、対応する治療用分子をコードする発現カセットを含むベクターでトランスフェクトされる。続いて、選択圧を加えることにより、安定したトランスフェクタントが選択される。これにより、個々のクローンからなる細胞プールができる。単一の細胞クローニングの工程において、これらのクローンが単離され、続いて様々なアッセイでスクリーニングされ、トッププロデューサー細胞が特定される。
【0003】
遺伝子工学的アプローチが、それらの特性、例えば、(i)タンパク質の折り畳みと分泌を改善するための折り畳まれていないタンパク質応答経路に関与する内因性タンパク質の過剰発現(Gulis,G.,et al.,BMC biotechnology,14(2014)26(非特許文献1))、(ii)細胞生存率を改善し、発酵プロセスを延長するための抗アポトーシスタンパク質の過剰発現(Lee,J.S.,et al.,Biotechnol.Bioeng.110(2013)2195-2207(非特許文献2))、(iii)細胞増殖と生産性を改善するためのmiRNA及び/又はshRNA分子の過剰発現(Fischer,S.,et al.,J.Biotechnol.212(2015)32-43(非特許文献3))、(iv)治療用分子(Ferrara,C.,et al.,Biotechnol.Bioeng.93(2006)851-861(非特許文献4))及び他の多く(Fischer,S.,et al.,Biotechnol.Adv.33(2015)1878-1896(非特許文献5))のグリコシル化パターンを調節するための糖酵素の過剰発現などを改善するために宿主細胞株に適用されてきた。
【0004】
さらに、内因性タンパク質のノックアウトは、細胞の特性を改善することが示されている。例としては、(i)アポトーシス耐性の増加につながるBAX/BAKタンパク質のノックアウト(Cost,G.J.,et al.,Biotechnol.Bioeng.105(2010)330-340(非特許文献6))、(ii)非フコシル化タンパク質を生成するためのPUTSのノックアウト(Yamane-Ohnuki,N.,et al.,Biotechnol.Bioeng.87(2004)614-622(非特許文献7))、(iii)GS選択システム(Fan,L.,et al.,Biotechnol.Bioeng.109(2012)1007-1015(非特許文献8))及び他の多く(Fischer,S.,et al.,Biotechnol.Adv.33(2015)1878-1896(非特許文献5))を使用して選択効率を高めるためのGSのノックアウトがある。ジンクフィンガー又はTALENタンパク質が過去に主に使用されてきたが、最近ではノックアウトを目的としたゲノム配列の多用途かつシンプルなターゲティングのために、CRISPR/Cas9が確立されている。例えば、miRNA-744は、配列切除を可能にする複数のgRNAを使用することにより、CRISPR/Cas9を使用してCHO細胞において標的とされた(Raab,N.,et al.,Biotechnol.J.(2019)1800477(非特許文献9))。
【0005】
米国特許出願公開第2007/160586号(特許文献1)は、細胞の複製寿命を延長するための方法を開示している。
【0006】
欧州特許第3308778号(特許文献2)は、アルギニンとそのT細胞モジュレーターとしての使用を開示している。
【0007】
Fischer,S.らは、CHO細胞におけるマイクロRNA-30ファミリーによるタンパク質産生の亢進が、ユビキチン経路の調節によって媒介されることを開示している(J.Biotechnol.212(2015)32-43(非特許文献3))。
【0008】
生産性を高める単一の内因性遺伝子のノックアウトは、宿主細胞株に導入されるその単純さのために非常に望ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】米国特許出願公開第2007/160586号
【特許文献2】欧州特許第3308778号
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Gulis,G.,et al.,BMC biotechnology,14(2014)26
【非特許文献2】Lee,J.S.,et al.,Biotechnol.Bioeng.110(2013)2195-2207
【非特許文献3】Fischer,S.,et al.,J.Biotechnol.212(2015)32-43
【非特許文献4】Ferrara,C.,et al.,Biotechnol.Bioeng.93(2006)851-861
【非特許文献5】Fischer,S.,et al.,Biotechnol.Adv.33(2015)1878-1896
【非特許文献6】Cost,G.J.,et al.,Biotechnol.Bioeng.105(2010)330-340
【非特許文献7】Yamane-Ohnuki,N.,et al.,Biotechnol.Bioeng.87(2004)614-622
【非特許文献8】Fan,L.,et al.,Biotechnol.Bioeng.109(2012)1007-1015
【非特許文献9】Raab,N.,et al.,Biotechnol.J.(2019)1800477
【発明の概要】
【0011】
本発明による1つの独立した態様は、異種ポリペプチドを発現する組換え哺乳動物細胞を生成するための方法及び前記組換え哺乳動物細胞を使用して異種ポリペプチドを生産するための方法であって、組換え哺乳動物細胞において、MYC、STK11、SMAD4、PPP2CB、RBM38、NF1、CDK12、SIN3A、PARP-1、ATM、Hipk2、BARD1、HIF1AN、SMAD3、PALB2、FUBP1、RBL2、RPS6KA3、GPS2、ETS1、E2F5、CDKN1A、RNF43、EEF2K、AKT1、BRCA1、ATR、SMAD2、BAD、FOXO1、PBRM1、NRAS、BRCA2、NOTCH1、CREBBP、及びRBX1からなる群から選択される内因性遺伝子の1つ又は複数、すなわち少なくとも1つの活性又は機能又は発現は、低減されている、又は除去されている、又は減少している、又は(完全に)ノックアウトされている。
【0012】
本発明は、少なくとも部分的には、哺乳動物細胞、例えばCHO細胞における、MYC、STK11、SMAD4、PPP2CB、RBM38、NF1、CDK12、SIN3A、PARP-1、ATM、Hipk2、BARD1、HIF1AN、SMAD3、PALB2、FUBP1、RBL2、RPS6KA3、GPS2、ETS1、E2F5、CDKN1A、RNF43、EEF2K、AKT1、BRCA1、ATR、SMAD2、BAD、FOXO1、PBRM1、NRAS、BRCA2、NOTCH1、CREBBP、及びRBX1からなる遺伝子群からの少なくとも1つの遺伝子の機能的ノックアウトが、特に複雑な抗体フォーマットの組換え生産性を改善するという知見に基づく。
【0013】
本発明の場合、組換え哺乳動物細胞を生成するための一連の工程は決定的ではなく、すなわち、導入遺伝子が、MYC、STK11、SMAD4、PPP2CB、RBM38、NF1、CDK12、SIN3A、PARP-1、ATM、Hipk2、BARD1、HIF1AN、SMAD3、PALB2、FUBP1、RBL2、RPS6KA3、GPS2、ETS1、E2F5、CDKN1A、RNF43、EEF2K、AKT1、BRCA1、ATR、SMAD2、BAD、FOXO1、PBRM1、NRAS、BRCA2、NOTCH1、CREBBP、及びRBX1からなる群からの遺伝子の少なくとも1つの機能的ノックアウトの前に導入される場合、又は最初に機能的ノックアウトが行われ、その後、細胞が導入遺伝子でトランスフェクトされる場合である。すべての態様及び実施形態の好ましい一実施形態では、導入遺伝子、すなわち異種ポリペプチドをコードする核酸は、内因性遺伝子の機能的ノックアウトの前に導入される。特定の好ましい実施形態では、内因性遺伝子はMYC遺伝子である。
【0014】
本発明の1つの独立した態様は、MYC、STK11、SMAD4、PPP2CB、RBM38、NF1、CDK12、SIN3A、PARP-1、ATM、Hipk2、BARD1、HIF1AN、SMAD3、PALB2、FUBP1、RBL2、RPS6KA3、GPS2、ETS1、E2F5、CDKN1A、RNF43、EEF2K、AKT1、BRCA1、ATR、SMAD2、BAD、FOXO1、PBRM1、NRAS、BRCA2、NOTCH1、CREBBP、及びRBX1からなる遺伝子群から選択される少なくとも1つの内因性遺伝子の活性又は/及び機能又は/及び発現が低減されている、又は除去されている、又は減少している、又は(完全に)ノックアウトされている哺乳動物細胞である。特定の好ましい実施形態では、内因性遺伝子はMYC遺伝子である。
【0015】
本発明の1つの独立した態様は哺乳動物細胞であり、MYC、STK11、SMAD4、PPP2CB、RBM38、NF1、CDK12、SIN3A、PARP-1、ATM、Hipk2、BARD1、HIF1AN、SMAD3、PALB2、FUBP1、RBL2、RPS6KA3、GPS2、ETS1、E2F5、CDKN1A、RNF43、EEF2K、AKT1、BRCA1、ATR、SMAD2、BAD、FOXO1、PBRM1、NRAS、BRCA2、NOTCH1、CREBBP、及びRBX1からなる遺伝子群から選択される少なくとも1つの内因性遺伝子の発現が低減されており、前記哺乳動物は、同じ条件下で培養された、同一の遺伝子型を有するがMYC、STK11、SMAD4、PPP2CB、RBM38、NF1、CDK12、SIN3A、PARP-1、ATM、Hipk2、BARD1、HIF1AN、SMAD3、PALB2、FUBP1、RBL2、RPS6KA3、GPS2、ETS1、E2F5、CDKN1A、RNF43、EEF2K、AKT1、BRCA1、ATR、SMAD2、BAD、FOXO1、PBRM1、NRAS、BRCA2、NOTCH1、CREBBP、及びRBX1からなる遺伝子群から選択される前記少なくとも1つの内因性遺伝子のそれぞれの内因性遺伝子発現を有する細胞と比較して、異種ポリペプチドの生産性が増加している。特定の好ましい実施形態では、内因性遺伝子はMYC遺伝子である。
【0016】
本発明の1つの独立した態様は、MYC、STK11、SMAD4、PPP2CB、RBM38、NF1、CDK12、SIN3A、PARP-1、ATM、Hipk2、BARD1、HIF1AN、SMAD3、PALB2、FUBP1、RBL2、RPS6KA3、GPS2、ETS1、E2F5、CDKN1A、RNF43、EEF2K、AKT1、BRCA1、ATR、SMAD2、BAD、FOXO1、PBRM1、NRAS、BRCA2、NOTCH1、CREBBP、及びRBX1からなる遺伝子群から選択される少なくとも1つの内因性遺伝子の低減された発現を有し、外因性核酸、すなわち前記異種ポリペプチドをコードする導入遺伝子を含む、組換え哺乳動物細胞の異種ポリペプチド力価を、同じ条件下で培養された、同一の遺伝子型を有するがMYC、STK11、SMAD4、PPP2CB、RBM38、NF1、CDK12、SIN3A、PARP-1、ATM、Hipk2、BARD1、HIF1AN、SMAD3、PALB2、FUBP1、RBL2、RPS6KA3、GPS2、ETS1、E2F5、CDKN1A、RNF43、EEF2K、AKT1、BRCA1、ATR、SMAD2、BAD、FOXO1、PBRM1、NRAS、BRCA2、NOTCH1、CREBBP、及びRBX1からなる遺伝子群から選択される前記少なくとも1つの内因性遺伝子の内因性遺伝子発現を有する細胞と比較して、増加させるための方法である。特定の好ましい実施形態では、内因性遺伝子はMYC遺伝子である。
【0017】
本発明の1つの独立した態様は、改善された組換え生産性を有する組換え哺乳動物細胞を生産するための方法であって、該方法は、以下の工程:
a)哺乳動物細胞においてMYC、STK11、SMAD4、PPP2CB、RBM38、NF1、CDK12、SIN3A、PARP-1、ATM、Hipk2、BARD1、HIF1AN、SMAD3、PALB2、FUBP1、RBL2、RPS6KA3、GPS2、ETS1、E2F5、CDKN1A、RNF43、EEF2K、AKT1、BRCA1、ATR、SMAD2、BAD、FOXO1、PBRM1、NRAS、BRCA2、NOTCH1、CREBBP、及びRBX1からなる遺伝子群から選択される少なくとも1つの内因性遺伝子を標的とするヌクレアーゼ支援及び/又は核酸を適用して、前記内因性遺伝子の活性を低減させる工程、及び
b)内因性遺伝子の活性が低減されている哺乳動物細胞を選択する工程
を含み、
それによって、同じ条件下で培養された、同一の遺伝子型を有するがMYC、STK11、SMAD4、PPP2CB、RBM38、NF1、CDK12、SIN3A、PARP-1、ATM、Hipk2、BARD1、HIF1AN、SMAD3、PALB2、FUBP1、RBL2、RPS6KA3、GPS2、ETS1、E2F5、CDKN1A、RNF43、EEF2K、AKT1、BRCA1、ATR、SMAD2、BAD、FOXO1、PBRM1、NRAS、BRCA2、NOTCH1、CREBBP、及びRBX1からなる遺伝子群から選択される前記少なくとも1つの内因性遺伝子の内因性遺伝子発現を有する細胞と比較して、組換え生産性が増加した組換え哺乳動物細胞を生産する。特定の好ましい実施形態では、内因性遺伝子はMYC遺伝子である。
【0018】
本発明の1つの独立した態様は、異種ポリペプチドを製造するための方法であって、以下の工程:
a)異種ポリペプチドをコードする外因性デオキシリボ核酸を含む組換え哺乳動物細胞を、任意に異種ポリペプチドの発現に適した条件下で培養する工程、及び
b)細胞又は培養培地から異種ポリペプチドを回収する工程
を含み、
前記哺乳動物細胞において、MYC、STK11、SMAD4、PPP2CB、RBM38、NF1、CDK12、SIN3A、PARP-1、ATM、Hipk2、BARD1、HIF1AN、SMAD3、PALB2、FUBP1、RBL2、RPS6KA3、GPS2、ETS1、E2F5、CDKN1A、RNF43、EEF2K、AKT1、BRCA1、ATR、SMAD2、BAD、FOXO1、PBRM1、NRAS、BRCA2、NOTCH1、CREBBP、及びRBX1からなる遺伝子群から選択される少なくとも1つの内因性遺伝子の活性又は/及び機能又は/及び発現は、低減されている、又は除去されている、又は減少している、又は(完全に)ノックアウトされている。特定の好ましい実施形態では、内因性遺伝子はMYC遺伝子である。
【0019】
本発明の別の独立した態様は、改善された及び/又は増加した組換え生産性を有する(having/with)組換え哺乳動物細胞を生産するための方法であって、該方法は、以下の工程:
a)MYC、STK11、SMAD4、PPP2CB、RBM38、NF1、CDK12、SIN3A、PARP-1、ATM、Hipk2、BARD1、HIF1AN、SMAD3、PALB2、FUBP1、RBL2、RPS6KA3、GPS2、ETS1、E2F5、CDKN1A、RNF43、EEF2K、AKT1、BRCA1、ATR、SMAD2、BAD、FOXO1、PBRM1、NRAS、BRCA2、NOTCH1、CREBBP、及びRBX1からなる遺伝子群から選択される少なくとも1つの内因性遺伝子を標的とする核酸又は酵素又はヌクレアーゼ支援遺伝子ターゲティングシステムを哺乳動物細胞に適用して、前記内因性遺伝子の活性又は/及び機能又は/及び発現を低減させる、又は除去する、又は減少させる、又は(完全に)ノックアウトする工程、及び
b)前記内因性遺伝子の活性又は/及び機能又は/及び発現が低減されている、又は除去されている、又は減少している、又は(完全に)ノックアウトされている哺乳動物細胞を選択する工程
を含み、
それにより、改善された及び/又は増加した組換え生産性を有する(having/with)組換え哺乳動物細胞を生産する、方法である。
【0020】
本発明のすべての態様及び実施形態の特定の好ましい実施形態では、内因性遺伝子はMYC遺伝子である。
【0021】
本発明のすべての態様及び実施形態の特定の従属の実施形態では、哺乳動物細胞は異種ポリペプチドをコードする核酸を含む。
【0022】
本発明のすべての態様及び実施形態の特定の従属の実施形態では、異種ポリペプチドをコードする核酸は、前記哺乳動物細胞において機能するプロモーター配列に作動可能に連結され、前記哺乳動物細胞において機能するポリアデニル化シグナルに作動可能に連結される。特定の実施形態では、哺乳動物細胞は、適切な培養条件下で培養した場合に異種ポリペプチドを分泌する。
【0023】
本発明のすべての態様及び実施形態の特定の従属の実施形態では、MYC、STK11、SMAD4、PPP2CB、RBM38、NF1、CDK12、SIN3A、PARP-1、ATM、Hipk2、BARD1、HIF1AN、SMAD3、PALB2、FUBP1、RBL2、RPS6KA3、GPS2、ETS1、E2F5、CDKN1A、RNF43、EEF2K、AKT1、BRCA1、ATR、SMAD2、BAD、FOXO1、PBRM1、NRAS、BRCA2、NOTCH1、CREBBP、及びRBX1からなる遺伝子群から選択される少なくとも1つの内因性遺伝子のノックアウトは、ヘテロ接合ノックアウト又はホモ接合ノックアウトである。
【0024】
本発明のすべての態様及び実施形態の特定の従属の実施形態において、ノックアウト細胞株の生産性は、同じ遺伝子型を有するがMYC、STK11、SMAD4、PPP2CB、RBM38、NF1、CDK12、SIN3A、PARP-1、ATM、Hipk2、BARD1、HIF1AN、SMAD3、PALB2、FUBP1、RBL2、RPS6KA3、GPS2、ETS1、E2F5、CDKN1A、RNF43、EEF2K、AKT1、BRCA1、ATR、SMAD2、BAD、FOXO1、PBRM1、NRAS、BRCA2、NOTCH1、CREBBP、及びRBX1からなる遺伝子群から選択される前記少なくとも1つの内因性遺伝子が完全に機能的に発現するそれぞれの哺乳動物細胞と比較して、少なくとも5%、好ましくは10%以上、最も好ましい20%以上増加している。
【0025】
本発明のすべての態様及び実施形態の特定の従属の実施形態では、MYC、STK11、SMAD4、PPP2CB、RBM38、NF1、CDK12、SIN3A、PARP-1、ATM、Hipk2、BARD1、HIF1AN、SMAD3、PALB2、FUBP1、RBL2、RPS6KA3、GPS2、ETS1、E2F5、CDKN1A、RNF43、EEF2K、AKT1、BRCA1、ATR、SMAD2、BAD、FOXO1、PBRM1、NRAS、BRCA2、NOTCH1、CREBBP、及びRBX1からなる遺伝子群から選択される少なくとも1つの内因性遺伝子の低減又は除去又は減少又はノックアウトは、ヌクレアーゼ支援遺伝子ターゲティングシステムによって媒介される。特定の実施形態では、ヌクレアーゼ支援遺伝子ターゲティングシステムは、CRISPR/Cas9、CRISPR/Cpf1、ジンクフィンガーヌクレアーゼ、TALEN、及びメガヌクレアーゼからなる群から選択される。
【0026】
本発明のすべての態様及び実施形態の特定の従属の実施形態では、MYC、STK11、SMAD4、PPP2CB、RBM38、NF1、CDK12、SIN3A、PARP-1、ATM、Hipk2、BARD1、HIF1AN、SMAD3、PALB2、FUBP1、RBL2、RPS6KA3、GPS2、ETS1、E2F5、CDKN1A、RNF43、EEF2K、AKT1、BRCA1、ATR、SMAD2、BAD、FOXO1、PBRM1、NRAS、BRCA2、NOTCH1、CREBBP、及びRBX1からなる遺伝子群から選択される少なくとも1つの内因性遺伝子の発現の低減は、RNAサイレンシングによって媒介される。特定の実施形態では、RNAサイレンシングは、siRNA遺伝子ターゲティング及びノックダウン、shRNA遺伝子ターゲティング及びノックダウン、並びにmiRNA遺伝子ターゲティング及びノックダウンからなる群から選択される。
【0027】
本発明のすべての態様及び実施形態の特定の従属の実施形態では、MYC、STK11、SMAD4、PPP2CB、RBM38、NF1、CDK12、SIN3A、PARP-1、ATM、Hipk2、BARD1、HIF1AN、SMAD3、PALB2、FUBP1、RBL2、RPS6KA3、GPS2、ETS1、E2F5、CDKN1A、RNF43、EEF2K、AKT1、BRCA1、ATR、SMAD2、BAD、FOXO1、PBRM1、NRAS、BRCA2、NOTCH1、CREBBP、及びRBX1からなる遺伝子群から選択される少なくとも1つの内因性遺伝子のノックアウトは、i)異種ポリペプチドをコードする外来性核酸の導入前、又はii)異種ポリペプチドをコードする外来性核酸の導入後に行われる。
【0028】
本発明のすべての態様及び実施形態の特定の従属の実施形態では、異種ポリペプチドは抗体である。特定の実施形態では、抗体は、2つ以上の異なる結合部位及び任意にドメイン交換を含む抗体である。特定の実施形態では、抗体は、3つ以上の結合部位又はVH/VLペア又はFab断片、及び任意にドメイン交換を含む。特定の実施形態では、抗体は、多重特異性抗体である。
【0029】
本発明のすべての態様及び実施形態の特定の従属の実施形態では、少なくとも1つの内因性遺伝子は、MYC、STK11、SMAD4、PPP2CB、RBM38、CDK12、PARP-1、ATM、Hipk2、BARD1、及びSMAD3からなる遺伝子群から選択される。特定の実施形態では、少なくとも1つの内因性遺伝子は、MYC、STK11、SMAD4、PPP2CB、RBM38、及びCDK12からなる遺伝子の群から選択される。特定の実施形態では、少なくとも1つの内因性遺伝子は、MYC及びSTK11からなる遺伝子の群から選択される。好ましい一実施形態では、少なくとも1つの内因性遺伝子はMYCである。
【0030】
本発明のすべての態様及び実施形態の特定の従属の実施形態では、組換え哺乳動物細胞において、内因性SIRT-1遺伝子並びにMYC、STK11、SMAD4、PPP2CB、RBM38、CDK12、PARP-1、ATM、Hipk2、BARD1、及びSMAD3からなる群から選択される1つ又は複数、すなわち少なくとも1つのさらなる内因性遺伝子の活性又は機能又は発現は、低減されている、又は除去されている、又は減少している、又は(完全に)ノックアウトされている。特定の実施形態では、少なくとも1つのさらなる内因性遺伝子は、MYC、STK11、SMAD4、PPP2CB、RBM38、及びCDK12からなる遺伝子の群から選択される。特定の実施形態では、少なくとも1つのさらなる内因性遺伝子は、MYC及びSTK11からなる遺伝子の群から選択される。好ましい一実施形態では、少なくとも1つのさらなる内因性遺伝子はMYCであり、すなわち、内因性SIRT-1及び内因性MYC遺伝子の活性又は機能又は発現は低減されている、又は除去されている、又は減少している、又は(完全に)ノックアウトされている。
【0031】
本発明のすべての態様及び実施形態の特定の従属の実施形態では、異種ポリペプチドは、多重特異性抗体及び抗体-多量体融合ポリペプチドを含む異種ポリペプチドの群から選択される。特定の実施形態では、異種ポリペプチドは、以下からなる群から選択される:
i)第1のFab断片と第2のFab断片を含むドメイン交換を伴う完全長抗体であって、
第1のFab断片において、
a)第1のFab断片の軽鎖はVL及びCH1ドメインを含み、第1のFab断片の重鎖はVH及びCLドメインを含む;
b)第1のFab断片の軽鎖はVH及びCLドメインを含み、第1のFab断片の重鎖はVL及びCH1ドメインを含む;又は
c)第1のFab断片の軽鎖はVH及びCH1ドメインを含み、第1のFab断片の重鎖はVL及びCLドメインを含む;
及び
第2のFab断片は、VL及びCLドメインを含む軽鎖と、VH及びCH1ドメインを含む重鎖とを含む、完全長抗体;
ii)ドメイン交換及び追加の重鎖C末端結合部位を有する完全長抗体であって、
- 完全長抗体軽鎖と完全長抗体重鎖のそれぞれ2対を含む1つの完全長抗体であって、完全長重鎖と完全長軽鎖のそれぞれの対により形成される結合部位が、第1の抗原に特異的に結合する、1つの完全長抗体;
及び
- 1つの追加のFab断断片であって、完全長抗体の1つの重鎖のC末端に融合されており、追加のFab断片の結合部位が第2の抗原に特異的に結合する、1つの追加のFab断断片;を含み、
第2の抗原に特異的に結合する追加のFab断片が、i)a)軽鎖可変ドメイン(VL)と重鎖可変ドメイン(VH)が互いに置き換えられている、又はb)軽鎖定常ドメイン(CL)と重鎖定常ドメイン(CH1)が互いに置き換えられているようなドメインクロスオーバーを含むか、又はii)一本鎖Fab断片である、完全長抗体;
iii)第1のエピトープ又は抗原に特異的に結合する第1の結合部位と、第2のエピトープ又は抗原に特異的に結合する第2の結合部位とを含む1アーム一本鎖抗体であって、
- 可変軽鎖ドメイン及び軽鎖カッパ又はラムダ定常ドメインを含む軽鎖;
- 可変軽鎖ドメイン、軽鎖定常ドメイン、ペプチドリンカー、可変重鎖ドメイン、CH1ドメイン、ヒンジ領域、CH2ドメイン、及びノブ変異を有するCH3を含む軽鎖/重鎖の組み合わせ;
- 可変重鎖ドメイン、CH1ドメイン、ヒンジ領域、CH2ドメイン、ホール変異を有するCH3ドメインを含む重鎖
を含む、1アーム一本鎖抗体;
iv)第1のエピトープ又は抗原に特異的に結合する第1の結合部位、及び第2のエピトープ又は抗原に特異的に結合する第2の結合部位を含む、2アーム一本鎖抗体であって、
- 可変軽鎖ドメイン、軽鎖定常ドメイン、ペプチドリンカー、可変重鎖ドメイン、CH1ドメイン、ヒンジ領域、CH2ドメイン、及びホール変異を有するCH3を含む、軽鎖/重鎖の第1の組み合わせ;
- 可変軽鎖ドメイン、軽鎖定常ドメイン、ペプチドリンカー、可変重鎖ドメイン、CH1ドメイン、ヒンジ領域、CH2ドメイン、及びノブ変異を有するCH3ドメインを含む、軽鎖/重鎖の第2の組み合わせ
を含む、2アーム一本鎖抗体;
v)第1のエピトープ又は抗原に特異的に結合する第1の結合部位と、第2のエピトープ又は抗原に特異的に結合する第2の結合部位とを含む、共通軽鎖二重特異性抗体であって、
- 可変軽鎖ドメイン及び軽鎖定常ドメインを含む軽鎖;
- 可変重鎖ドメイン、CH1ドメイン、ヒンジ領域、CH2ドメイン、ホール変異を有するCH3ドメインを含む第1の重鎖;
- 可変重鎖ドメイン、CH1ドメイン、ヒンジ領域、CH2ドメイン、ノブ変異を有するCH3ドメインを含む第2の重鎖
を含む、共通軽鎖二重特異性抗体;
vi)ドメイン交換を伴う追加の重鎖N末端結合部位を有する完全長抗体であって、
- 第1及び第2のFab断片であって、第1及び第2のFab断片の各結合部位が第1の抗原に特異的に結合する、第1及び第2のFab断片;
- 第3のFab断片であって、第3のFab断片の結合部位が第2の抗原に特異的に結合し、第3のFab断片が、可変軽鎖ドメイン(VL)及び可変重鎖ドメイン(VH)が互いに置き換えられるようなドメインクロスオーバーを含む、第3のFab断片;及び
- 第1のFc領域ポリペプチド及び第2のFc領域ポリペプチドを含むFc領域
を含み;
第1のFab断片及び第2のFab断片は、それぞれ、重鎖断片及び完全長軽鎖を含み、
第1のFab断片の重鎖断片のC末端は、第1のFc領域ポリペプチドのN末端に融合されており、
第2のFab断片の重鎖断片のC末端は、第3のFab断片の可変軽鎖ドメインのN末端に融合されており、第3のFab断片のCH1ドメインのC末端は、第2のFc領域ポリペプチドのN末端に融合されている、完全長抗体;
vii)完全長抗体と、任意にペプチドリンカーを介して互いにコンジュゲートした非免疫グロブリン部分とを含むイムノコンジュゲート、
及び
viii)抗体-多量体融合ポリペプチドであって、
(a)抗体重鎖及び抗体軽鎖と、
(b)N末端からC末端に向かって、非抗体多量体ポリペプチドの第1の部分、抗体重鎖CH1ドメイン又は抗体軽鎖定常ドメイン、抗体ヒンジ領域、抗体重鎖CH2ドメイン、及び抗体重鎖CH3ドメインを含む第1の融合ポリペプチドと、N末端からC末端に向かって、非抗体多量体ポリペプチドの第2の部分、及び第1のポリペプチドが抗体重鎖CH1ドメインを含む場合は抗体軽鎖定常ドメイン、又は第1のポリペプチドが抗体軽鎖定常ドメインを含む場合は抗体重鎖CH1ドメインを含む、第2の融合ポリペプチドとを含み、
(i)(a)の抗体重鎖と(b)の第1の融合ポリペプチド、(ii)(a)の抗体重鎖と(a)の抗体軽鎖、及び(iii)(b)の第1の融合ポリペプチドと(b)の第2の融合ポリペプチドが、それぞれ独立して、少なくとも1つのジスルフィド結合によって互いに共有結合しており、
抗体重鎖及び抗体軽鎖の可変ドメインが、抗原に特異的に結合する結合部位を形成する、抗体-多量体融合ポリペプチド。
【0032】
特定の好ましい実施形態では、少なくとも1つの内因性遺伝子は、MYC、STK11、SMAD4、PPP2CB、RBM38、CDK12、PARP-1、ATM、Hipk2、BARD1、及びSMAD3からなる遺伝子の群から選択される。特定の実施形態では、少なくとも1つの内因性遺伝子は、MYC、STK11、SMAD4、PPP2CB、RBM38、及びCDK12からなる遺伝子の群から選択される。特定の実施形態では、少なくとも1つの内因性遺伝子は、MYC及びSTK11からなる遺伝子の群から選択される。好ましい一実施形態では、少なくとも1つの内因性遺伝子はMYCである。さらに好ましい一実施形態では、さらに、内因性SIRT-1遺伝子の活性又は機能又は発現は低減されている、又は除去されている、又は減少している、又は(完全に)ノックアウトされている。
【0033】
特定の実施形態では、組換え哺乳動物細胞において、内因性SIRT-1遺伝子並びにMYC、STK11、SMAD4、PPP2CB、RBM38、CDK12、PARP-1、ATM、Hipk2、BARD1、及びSMAD3からなる群から選択される1つ又は複数、すなわち少なくとも1つのさらなる内因性遺伝子の活性又は機能又は発現は、低減されている、又は除去されている、又は減少している、又は(完全に)ノックアウトされている。特定の実施形態では、少なくとも1つのさらなる内因性遺伝子は、MYC、STK11、SMAD4、PPP2CB、RBM38、及びCDK12からなる遺伝子の群から選択される。特定の実施形態では、少なくとも1つのさらなる内因性遺伝子は、MYC及びSTK11からなる遺伝子の群から選択される。好ましい一実施形態では、少なくとも1つのさらなる内因性遺伝子はMYCであり、すなわち、内因性SIRT-1遺伝子及び内因性MYC遺伝子の活性又は機能又は発現は低減されている、又は除去されている、又は減少している、又は(完全に)ノックアウトされている。
【0034】
本発明のすべての態様及び実施形態の特定の従属の実施形態では、少なくとも1つの内因性遺伝子は、MYC、STK11、SMAD4、PPP2CB、RBM38、NF1、CDK12、SIN3A、PARP-1、ATM、Hipk2、BARD1、HIF1AN、SMAD3、及びCDKN1Aからなる遺伝子群から選択される。特定の実施形態では、少なくとも1つの内因性遺伝子は、MYC、STK11、SMAD4、PPP2CB、RBM38、NF1、及びCDK12からなる遺伝子の群から選択される。特定の実施形態では、少なくとも1つの内因性遺伝子は、MYC、STK11、SMAD4、及びPPP2CBからなる遺伝子の群から選択される。好ましい一実施形態では、少なくとも1つの内因性遺伝子はMYCである。
【0035】
本発明のすべての態様及び実施形態の特定の従属の実施形態では、組換え哺乳動物細胞において、内因性SIRT-1遺伝子並びにMYC、STK11、SMAD4、PPP2CB、RBM38、NF1、CDK12、SIN3A、PARP-1、ATM、Hipk2、BARD1、HIF1AN、SMAD3、及びCDKN1Aからなる群から選択される1つ又は複数、すなわち少なくとも1つのさらなる内因性遺伝子の活性又は機能又は発現は、低減されている、又は除去されている、又は減少している、又は(完全に)ノックアウトされている。特定の実施形態では、少なくとも1つのさらなる内因性遺伝子は、MYC、STK11、SMAD4、PPP2CB、RBM38、NF1、及びCDK12からなる遺伝子の群から選択される。特定の実施形態では、少なくとも1つのさらなる内因性遺伝子は、MYC、STK11、SMAD4、及びPPP2CBからなる遺伝子の群から選択される。好ましい一実施形態では、内因性SIRT-1遺伝子及び内因性MYC遺伝子の活性又は機能又は発現は低減されている、又は除去されている、又は減少している、又は(完全に)ノックアウトされている。
【0036】
本発明のすべての態様及び実施形態の特定の従属の実施形態では、異種ポリペプチドは、抗体-多量体融合ポリペプチドであって、
(a)抗体重鎖及び抗体軽鎖と、
(b)N末端からC末端に向かって、非抗体多量体ポリペプチドの第1の部分、抗体重鎖CH1ドメイン又は抗体軽鎖定常ドメイン、抗体ヒンジ領域、抗体重鎖CH2ドメイン、及び抗体重鎖CH3ドメインを含む第1の融合ポリペプチドと、N末端からC末端に向かって、非抗体多量体ポリペプチドの第2の部分、及び第1のポリペプチドが抗体重鎖CH1ドメインを含む場合は抗体軽鎖定常ドメイン、又は第1のポリペプチドが抗体軽鎖定常ドメインを含む場合は抗体重鎖CH1ドメインを含む、第2の融合ポリペプチドとを含み、
(i)(a)の抗体重鎖と(b)の第1の融合ポリペプチド、(ii)(a)の抗体重鎖と(a)の抗体軽鎖、及び(iii)(b)の第1の融合ポリペプチドと(b)の第2の融合ポリペプチドが、それぞれ独立して、少なくとも1つのジスルフィド結合によって互いに共有結合しており、
抗体重鎖及び抗体軽鎖の可変ドメインが、抗原に特異的に結合する結合部位を形成する。
【0037】
特定の実施形態では、少なくとも1つの内因性遺伝子は、MYC、STK11、SMAD4、PPP2CB、RBM38、NF1、CDK12、SIN3A、PARP-1、ATM、Hipk2、BARD1、HIF1AN、SMAD3、及びCDKN1Aからなる遺伝子の群から選択される。特定の実施形態では、少なくとも1つの内因性遺伝子は、MYC、STK11、SMAD4、PPP2CB、RBM38、NF1、及びCDK12からなる遺伝子の群から選択される。特定の実施形態では、少なくとも1つの内因性遺伝子は、MYC、STK11、SMAD4、及びPPP2CBからなる遺伝子の群から選択される。好ましい一実施形態では、少なくとも1つの内因性遺伝子はMYCである。さらに好ましい一実施形態では、加えて、内因性SIRT-1遺伝子の活性又は機能又は発現は低減されている、又は除去されている、又は減少している、又は(完全に)ノックアウトされている。
【0038】
特定の実施形態では、組換え哺乳動物細胞において、内因性SIRT-1遺伝子並びにMYC、STK11、SMAD4、PPP2CB、RBM38、NF1、CDK12、SIN3A、PARP-1、ATM、Hipk2、BARD1、HIF1AN、SMAD3、及びCDKN1Aからなる群から選択される1つ又は複数、すなわち少なくとも1つのさらなる内因性遺伝子の活性又は機能又は発現は、低減されている、又は除去されている、又は減少している、又は(完全に)ノックアウトされている。特定の実施形態では、少なくとも1つのさらなる内因性遺伝子は、MYC、STK11、SMAD4、PPP2CB、RBM38、NF1、及びCDK12からなる遺伝子の群から選択される。特定の実施形態では、少なくとも1つのさらなる内因性遺伝子は、MYC、STK11、SMAD4、及びPPP2CBからなる遺伝子の群から選択される。好ましい一実施形態では、少なくとも1つのさらなる内因性遺伝子はMYCである。
【0039】
特定の従属の実施形態では、第1の融合ポリペプチドは、非抗体多量体ポリペプチドの第1の部分として、ペプチドリンカーによって互いに接続されたTNFリガンドファミリーメンバーの2つの外部ドメイン又はその断片を含み、第2の融合ポリペプチドは、非抗体多量体ポリペプチドの第2部分として、TNFリガンドファミリーメンバーの1つの外部ドメイン又はその断片のみを含むか、又はその逆である。特定の実施形態では、第1の融合ポリペプチドは、N末端からC末端に向かって、非抗体多量体ポリペプチドの第1の部分、抗体軽鎖定常ドメイン、抗体ヒンジ領域、抗体重鎖CH2ドメイン、及び抗体重鎖CH3ドメインを含み、第2の融合ポリペプチドは、N末端からC末端に向かって、非抗体多量体ポリペプチドの第2の部分、及び抗体重鎖CH1ドメインを含む。特定の実施形態では、非抗体多量体ポリペプチドの部分に隣り合うCLドメインにおいて、位置123のアミノ酸(Kabat EUナンバリング)がアルギニン(R)によって置き換えられ、かつ位置124のアミノ酸(Kabat EUナンバリング)がリジン(K)によって置換されており、非抗体多量体ポリペプチドの部分に隣り合うCH1ドメインにおいて、位置147のアミノ酸(Kabat EUナンバリング)及び位置213のアミノ酸(Kabat EUナンバリング)がグルタミン酸(E)によって置換されている。特定の実施形態では、抗体重鎖及び抗体軽鎖の可変ドメインが、線維芽細胞活性化タンパク質(FAP)、メラノーマ関連コンドロイチン硫酸プロテオグリカン(MCSP)、上皮成長因子受容体(EGFR)、癌胎児性抗原(CEA)、CD19、CD20及びCD33からなる群から選択される細胞表面抗原に特異的に結合する結合部位を形成する。特定の実施形態では、TNFリガンドファミリーメンバーは、ヒトT細胞活性化を共刺激する。特定の実施形態では、TNFリガンドファミリーメンバーは、4-1BBL及びOX40Lから選択される。1つの好ましい実施形態において、TNFリガンドファミリーメンバーは4-1BBLであり、細胞表面抗原はFAP又はCD19又はCEAである。
【0040】
本発明のすべての態様及び実施形態の特定の従属の実施形態では、異種ポリペプチドは、二価の単特異的又は二重特異的完全長抗体及び非免疫グロブリン部分を含む融合ポリペプチドであり、抗体は、任意にペプチドリンカーを介して抗体の重鎖又は軽鎖の一方の単末端で非免疫グロブリン部分にコンジュゲートされる。特定の実施形態では、少なくとも1つの内因性遺伝子は、MYC、STK11、SMAD4、PPP2CB、RBM38、CDK12、PARP-1、ATM、Hipk2、BARD1、SMAD3、PALB2、FUBP1、RBL2、RPS6KA3、GPS2、ETS1、E2F5、CDKN1A、RNF43、EEF2K、AKT1、BRCA1、ATR、SMAD2、BAD、FOXO1、PBRM1、NRAS、BRCA2、NOTCH1、CREBBP、及びRBX1からなる遺伝子群から選択される。特定の実施形態では、少なくとも1つの内因性遺伝子は、MYC、STK11、SMAD4、PPP2CB、RBM38、CDK12、PARP-1、BARD1、ETS1、E2F5、RNF43、EEF2K、AKT1、BRCA1、BAD、FOXO1、PBRM1、BRCA2、NOTCH1、及びCREBBPからなる遺伝子群から選択される。特定の実施形態では、少なくとも1つの内因性遺伝子は、MYC、STK11、及びCDK12からなる遺伝子の群から選択される。好ましい一実施形態では、少なくとも1つの内因性遺伝子はMYCである。さらに好ましい一実施形態では、加えて、内因性SIRT-1遺伝子の活性又は機能又は発現は低減されている、又は除去されている、又は減少している、又は(完全に)ノックアウトされている。特定の実施形態では、異種ポリペプチドが、インターロイキン-2にコンジュゲートした抗PD-1抗体である。特定の実施形態では、インターロイキン-2は、望ましくないCD25媒介毒性及びTreg増殖を回避するために、IL-2Ra(CD25)への結合が消失した操作されたIL2v部分である。
【0041】
本発明のすべての態様及び実施形態の特定の従属の実施形態では、哺乳動物細胞はCHO細胞又はHEK細胞である。好ましい一実施形態では、哺乳動物細胞は、CHO-K1細胞である。特定の実施形態では、哺乳動物細胞は、懸濁増殖哺乳動物細胞である。
【0042】
本発明のすべての態様及び実施形態の特定の従属の実施形態では、異種ポリペプチドの生産性は、4日間のバッチ培養で決定される。特定の実施形態では、4日間のバッチ培養は、少なくとも110細胞/ml(10E6細胞/ml)の細胞密度で接種/開始される。特定の実施形態では、4日間のバッチ培養は、少なくとも210細胞/mlの細胞密度で接種/開始される。特定の実施形態では、4日間のバッチ培養は、少なくとも510細胞/mlの細胞密度で接種/開始される。特定の実施形態では、4日間のバッチ培養は、少なくとも1010細胞/mlの細胞密度で接種/開始される。特定の実施形態では、4日間のバッチ培養は、化学的に定義された無血清培地中で行われる。
【0043】
本発明のすべての態様及び実施形態の特定の従属の実施形態では、1つ、2つ又はそれを超える内因性遺伝子の低減又は除外又は減少又はノックアウトは、CRISPR/Cas9ヌクレアーゼ支援遺伝子ターゲティングシステムによるものである。好ましい一実施形態では、内因性遺伝子はSIRT-1であり、配列番号12、13及び14の3つのガイドRNAが使用される。さらに好ましい一実施形態では、内因性遺伝子はMYCであり、配列番号15、16及び17の3つのガイドRNAが使用される。特定の実施形態では、内因性遺伝子はSTK11であり、配列番号18、19及び20の3つのガイドRNAが使用される。特定の実施形態では、内因性遺伝子はSMAD4であり、配列番号21、22及び23の3つのガイドRNAが使用される。特定の実施形態では、内因性遺伝子はPPP2CBであり、配列番号24、25及び26の3つのガイドRNAが使用される。特定の実施形態では、内因性遺伝子はRBM38であり、配列番号27、28及び29の3つのガイドRNAが使用される。特定の実施形態では、内因性遺伝子はNF1であり、配列番号30、31及び32の3つのガイドRNAが使用される。特定の実施形態では、内因性遺伝子はCDK12であり、配列番号33、34及び35の3つのガイドRNAが使用される。特定の実施形態では、内因性遺伝子はSIN3Aであり、配列番号36、37及び38の3つのガイドRNAが使用される。特定の実施形態では、内因性遺伝子はPARP-1であり、配列番号39、40及び41の3つのガイドRNAが使用される。特定の実施形態では、内因性遺伝子はATMであり、配列番号42、43及び44の3つのガイドRNAが使用される。特定の実施形態では、内因性遺伝子はHipk2であり、配列番号45、46及び47の3つのガイドRNAが使用される。特定の実施形態では、内因性遺伝子はBARD1であり、配列番号48、49及び50の3つのガイドRNAが使用される。特定の実施形態では、内因性遺伝子はHIF1ANであり、配列番号51、52及び53の3つのガイドRNAが使用される。特定の実施形態では、内因性遺伝子はSMAD3であり、配列番号54、55及び56の3つのガイドRNAが使用される。特定の実施形態では、内因性遺伝子はCDKN1Aであり、配列番号57、58及び59の3つのガイドRNAが使用される。
【0044】
描写され、特許請求される様々な実施形態に加えて、本開示の主題は、本明細書に開示され、特許請求される特徴の他の組合せを有する他の実施形態も対象とする。したがって、本明細書に提示される特定の特徴は、本開示の主題が本明細書に開示される特徴の任意の好適な組合せを含むように、本開示の主題の範囲内において他の様式で互いに組合せられても良い。本開示の主題の特定の実施形態の前述の説明は、例示及び説明目的のために提示されている。包括的であるようにも本開示の主題を開示される実施形態に限定するようにも意図されていない。
【発明を実施するための形態】
【0045】
発明の態様の詳細な説明
異種ポリペプチドを発現する組換え哺乳動物細胞を生成するための方法及び前記組換え哺乳動物細胞を使用して異種ポリペプチドを生産するための方法が本明細書において報告され、組換え細胞において、MYC、STK11、SMAD4、PPP2CB、RBM38、NF1、CDK12、SIN3A、PARP-1、ATM、Hipk2、BARD1、HIF1AN、SMAD3、PALB2、FUBP1、RBL2、RPS6KA3、GPS2、ETS1、E2F5、CDKN1A、RNF43、EEF2K、AKT1、BRCA1、ATR、SMAD2、BAD、FOXO1、PBRM1、NRAS、BRCA2、NOTCH1、CREBBP、及びRBX1からなる遺伝子群から選択される内因性遺伝子の少なくとも1つの活性/機能/発現は、低減/除去/減少/(完全に)ノックアウトされている。
【0046】
本発明は、少なくとも部分的には、哺乳動物細胞、例えばCHO細胞における、MYC、STK11、SMAD4、PPP2CB、RBM38、NF1、CDK12、SIN3A、PARP-1、ATM、Hipk2、BARD1、HIF1AN、SMAD3、PALB2、FUBP1、RBL2、RPS6KA3、GPS2、ETS1、E2F5、CDKN1A、RNF43、EEF2K、AKT1、BRCA1、ATR、SMAD2、BAD、FOXO1、PBRM1、NRAS、BRCA2、NOTCH1、CREBBP、及びRBX1からなる遺伝子群から選択される少なくとも1つの内因性遺伝子のノックアウトが、標準的なIgG型抗体の、特に複雑な抗体フォーマットの組換え生産性を改善するという知見に基づく。
【0047】
I.一般的な定義
本発明を実施するための有用な方法及び技術は、例えば、Ausubel,F.M.(ed.),Current Protocols in Molecular Biology,I~III巻(1997);Glover,N.D.,and Hames,B.D.,ed.,DNA Cloning:A Practical Approach,I巻及びII巻(1985),Oxford University Press;Freshney,R.I.(ed.),Animal Cell Culture-a practical approach,IRL Press Limited(1986);Watson,J.D.,ら、Recombinant DNA,Second Edition,CHSL Press(1992);Winnacker,E.L.,From Genes to Clones;N.Y.,VCH Publishers(1987);Celis,J.,ed.,Cell Biology,Second Edition,Academic Press(1998);Freshney,R.I.,Culture of Animal Cells:A Manual of Basic Technique,second edition,Alan R.Liss,Inc.,N.Y.(1987)に記載されている。
【0048】
組換えDNA技術を使用することにより、核酸の誘導体の作製が可能になる。このような誘導体は、例えば、置換、変更、交換、欠失又は挿入によって、個々の又はいくつかのヌクレオチド位置で修飾することができる。修飾又は誘導体化は、例えば、部位特異的突然変異誘発によって行うことができる。このような修飾は、当業者によって容易に行うことができる(例えば、Sambrook,J.ら、Molecular Cloning:A laboratory manual(1999)Cold Spring Harbor Laboratory Press,New York,USA;Hames,B.D.,and Higgins,S.G.,Nucleic acid hybridization-a practical approach(1985)IRL Press,Oxford,Englandを参照)。
【0049】
本明細書及び添付の特許請求の範囲において使用される場合、単数形「1つの(a)」、「1つの(an)」、及び「その(the)」は、文脈において特に明白な規定がない限り、複数の指示対象を含むことに留意しなければならない。したがって、例えば、「1つの細胞(a cell)」への言及は、複数のそのような細胞、及び当業者に公知であるその等価物を含み、他も同様である。同様に、用語「1つの(a)」(又は「1つの(an)」)、「1つ又は複数の」、及び「少なくとも1つの」も、本明細書において同義的に使用され得る。用語「含む(comprising)」、「含む(including)」、及び「有する(having)」が同義的に使用され得ることにも留意すべきである。
【0050】
用語「約」は、その後に続く数値の±20%の範囲を意味する。特定の実施形態では、「約」という用語は、その後に続く数値の±10%の範囲を意味する。特定の実施形態では、「約」という用語は、その後に続く数値の±5%の範囲を意味する。
【0051】
用語「含む(comprising)」は、用語「からなる(consisting of)」も含む。
【0052】
本明細書で使用される「組換え哺乳動物細胞」という用語は、ポリペプチドを発現することができる外因性ヌクレオチド配列を含む哺乳動物細胞を意味する。そのような組換え哺乳動物細胞は、そのような細胞の子孫を含む、1つ以上の外因性核酸(複数可)が導入された細胞である。したがって、「異種ポリペプチドをコードする核酸を含む哺乳動物細胞」という用語は、哺乳動物細胞のゲノムに組み込まれ、異種ポリペプチドを発現することができる外因性ヌクレオチド配列を含む細胞を意味する。特定の実施形態では、外因性ヌクレオチド配列を含む哺乳動物細胞は、宿主細胞のゲノムの遺伝子座内の単一の部位に組み込まれる外因性ヌクレオチド配列を含む細胞であり、この外因性ヌクレオチド配列は、少なくとも1つの第1の選択マーカーに隣接する第1及び第2の組換え認識配列、並びに第1と第2の組換え認識配列の間に位置する第3の組換え認識配列を含み、かつ組換え認識配列は全て異なっている。
【0053】
本明細書で使用される「組換え細胞」という用語は、遺伝子修飾後の細胞、例えば、目的の異種ポリペプチドを発現し、該目的のポリペプチドの任意の規模での生産のために使用できる細胞などを意味する。例えば、「外因性ヌクレオチド配列を含む組換え哺乳動物細胞」は、目的の異種ポリペプチドのコード配列が宿主細胞のゲノムに導入されている細胞を意味する。例えば、リコンビナーゼ媒介カセット交換(RMCE)に供され、それによって目的のポリペプチドのコード配列が宿主細胞のゲノム中に導入された「外因性ヌクレオチド配列を含む組換え哺乳動物細胞」は、「組換え細胞」である。
【0054】
「外因性ヌクレオチド配列を含む哺乳動物細胞」及び「組換え細胞」はどちらも、「形質転換細胞」である。この用語は、継代の回数に関わらず、初代形質転換細胞も、それに由来する子孫も含む。子孫は、例えば、核酸含有量が親細胞と完全に同一ではなくてもよいが、突然変異を含んでもよい。最初に形質転換された細胞においてスクリーニング又は選択されたのと同じ機能又は生物活性を有している突然変異子孫は、包含される。
【0055】
「単離された」組成物とは、その天然環境の成分から分離された組成物である。いくつかの実施形態において、組成物は、例えば、電気泳動(例えば、SDS-PAGE、等電点電気泳動法(IEF)、キャピラリー電気泳動、CE-SDS)又はクロマトグラフィ(例えば、サイズ排除クロマトグラフィ又はイオン交換若しくは逆相HPLC)によって測定した場合に95%又は99%を超える純度まで精製される。抗体の純度を評価するための方法の概説については、例えば、Flatman,S.ら、J.Chrom.B 848(2007)79-87を参照されたい。
【0056】
「単離された」核酸は、その天然環境の構成要素から分離された核酸分子を指す。単離された核酸には、通常核酸分子を含む細胞内に含まれる核酸分子が含まれるが、核酸分子は、染色体外、又は天然の染色体位置とは異なる染色体位置に存在する。
【0057】
「単離された」ポリペプチド又は抗体とは、その天然環境の成分から分離されたポリペプチド分子又は抗体分子を意味する。
【0058】
用語「組込み部位」は、外因性ヌクレオチド配列が挿入される、細胞ゲノム内の核酸配列を意味する。特定の実施形態において、組込み部位は、細胞ゲノム中の隣り合う2つのヌクレオチドの間にある。特定の実施形態において、組込み部位は、ヌクレオチド配列のストレッチを含む。特定の実施形態において、組込み部位は、哺乳動物細胞のゲノムの特定の遺伝子座内に位置している。特定の実施形態において、組込み部位は、哺乳動物細胞の内因性遺伝子内にある。
【0059】
用語「ベクター」又は「プラスミド」は、同義的に用いることができ、本明細書において使用される場合、それが連結されている別の核酸を増殖させることができる核酸分子を意味する。この用語は、自己複製する核酸構造としてのベクター、及びベクターが導入された宿主細胞のゲノム内へと組み込まれたベクターを含む。特定のベクターは、それらが機能的に連結されている核酸の発現を指示することができる。このようなベクターは、本明細書において「発現ベクター」と呼ばれる。
【0060】
用語「に結合する」は、ある結合部位のその標的への結合、例えば、抗体重鎖可変ドメイン及び抗体軽鎖可変ドメインを含む抗体結合部位などの、各抗原への結合を意味する。この結合は、例えばBIAcore(登録商標)アッセイ(GE Healthcare、Uppsala、Sweden)を用いて測定することができる。すなわち、用語「(抗原に)結合する」は、インビトロアッセイでの、抗体のその抗原への結合を意味する。特定の実施形態において、結合は、抗体を表面に結合し、その抗体への抗原の結合を表面プラズモン共鳴(SPR)によって測定する結合アッセイにおいて、測定される。用語「結合する」は、用語「特異的に結合する」も含む。
【0061】
例えば、BIAcore(登録商標)アッセイの1つの可能な実施形態では、抗原が表面に結合され、抗体、すなわちその結合部位(複数可)の結合が、表面プラズモン共鳴(SPR)によって測定される。結合親和性は、用語k(結合定数:複合体を形成する結合についての速度定数)、k(解離定数;複合体の解離についての速度定数)、及びK(k/k)に基づいて定義される。あるいは、SPRセンサーグラムの結合シグナルを、共鳴シグナルの高さ及び解離挙動に関して、参照物の応答シグナルと直接比較することもできる。
【0062】
用語「結合部位」は、標的に対して結合特異性を示す任意のタンパク質性実体を意味する。これは、例えば、受容体、受容体リガンド、アンチカリン、アフィボディ、抗体などであり得る。したがって、本明細書で使用される「結合部位」という用語は、第2のポリペプチドに特異的に結合することができるか、又は第2のポリペプチドによって特異的に結合されることのできる、ポリペプチドを意味する。
【0063】
本明細書において使用される場合、用語「選択マーカー」は、その遺伝子を有する細胞が、対応する選択剤の存在下でポジティブ又はネガティブに特異的に選択されることを可能にする遺伝子を意味する。例えば、限定するわけではないが、選択マーカーにより、その選択マーカー遺伝子で形質転換された宿主細胞が、各選択剤の存在下(選択的培養条件下)で、ポジティブに選択されることが可能になり得る;形質転換されていない宿主細胞は、選択的培養条件下で増殖することも生存することもできないと考えられる。選択マーカーは、ポジティブ、ネガティブ、又は二機能性であってよい。ポジティブ選択マーカーにより、マーカーを有する細胞の選択が可能になり得るのに対し、ネガティブ選択マーカーにより、マーカーを有する細胞を選択的に排除することが可能になり得る。選択マーカーは、宿主細胞において薬物に対する耐性を付与することができるか、又は代謝若しくは異化の欠陥を補うことができる。原核細胞においては、とりわけ、アンピシリン、テトラサイクリン、カナマイシン、又はクロラムフェニコールに対する耐性を付与する遺伝子を使用することができる。真核細胞において選択マーカーとして有用な耐性遺伝子としては、アミノグリコシド系ホスホトランスフェラーゼ(APH)(例えば、ハイグロマイシンホスホトランスフェラーゼ(HYG)、ネオマイシン、及びG418 APH)、ジヒドロ葉酸レダクターゼ(DHFR)、チミジンキナーゼ(TK)、グルタミン合成酵素(GS)、アスパラギン合成酵素、トリプトファン合成酵素(インドール)、ヒスチジノールデヒドロゲナーゼ(ヒスチジノールD))の遺伝子、並びにピューロマイシン、ブラスチシジン、ブレオマイシン、フレオマイシン、クロラムフェニコール、ゼオシン、及びミコフェノール酸に対する耐性をコードする遺伝子が挙げられるが、それらに限定されるわけではない。さらなるマーカー遺伝子は、国際公開第92/08796号及び国際公開第94/28143号に記載されている。
【0064】
対応する選択剤の存在下での選択を容易にすることを超えて、選択マーカーは、別法として、普通は細胞に存在しない分子、例えば、緑色蛍光性タンパク質(GFP)、高感度GFP(eGFP)、合成GFP、黄色蛍光性タンパク質(YFP)、高感度YFP(eYFP)、シアン蛍光性タンパク質(CFP)、mPlum、mCherry、tdTomato、mStrawberry、J-red、DsRed単量体、mOrange、mKO、mCitrine、Venus、YPet、Emerald、CyPet、mCFPm、Cerulean、及びT-Sapphireであってよい。例えば、コードされるポリペプチドが発する蛍光の検出又は不在にそれぞれ基づいて、そのような分子を発現する細胞を、この遺伝子を内部に持たない細胞と区別することができる。
【0065】
本明細書において使用される場合、用語「作動可能に連結された」は、目的の様式でそれらが機能することを可能にする関係にある、2つ以上の成分の近接した配置を意味する。例えば、プロモーター及び/又はエンハンサーがコード配列の転写を調節する役割を果たす場合、そのプロモーター及び/又はエンハンサーはコード配列に作動可能に連結されている。特定の実施形態では、「作動可能に連結されて」いるDNA配列は、単一の染色体上で近接し、隣り合っている。特定の実施形態では、例えば、1つの分泌リーダーと1つのポリペプチドといった2つのタンパク質のコード領域を結合する必要があるとき、これら配列は近接し、隣り合い、かつ同じリーディングフレームに存在する。特定の実施形態では、作動可能に連結されたプロモーターは、コード配列の上流に位置しており、かつコード配列に隣り合うことができる。特定の実施形態では、例えば、コード配列の発現を調節するエンハンサー配列に関して、2つの成分は、隣り合ってはいないが、作動可能に連結され得る。エンハンサーがコード配列の転写を増大させる場合、エンハンサーはコード配列に作動可能に連結されている。作動可能に連結されたエンハンサーは、コード配列の上流、内部、又は下流に位置してよく、かつコード配列のプロモーターからかなり離れて位置してよい。作動可能な連結は、当該技術分野で公知の組換え法によって、例えば、PCR方法を用いて、かつ/又は好都合な制限部位でのライゲーションによって、達成することができる。好都合な制限部位が存在しない場合には、合成オリゴヌクレオチドアダプター又はリンカーを従来の手順に従って使用することができる。内部リボソーム侵入部位(IRES)は、それが5’末端に非依存的な方法により内部位置でORFの翻訳を開始できる場合、オープンリーディングフレーム(ORF)に作動可能に連結されている。
【0066】
本明細書において使用される場合、用語「外因性」は、あるヌクレオチド配列が特定の細胞に由来せず、DNA送達法、例えば、トランスフェクション法、エレクトロポレーション法、又は形質転換法によって該細胞に導入されることを示す。したがって、外因性ヌクレオチド配列は人工配列であり、この人工物は、例えば、起源が異なる部分配列の組合せ(例えば、SV40プロモーターを有するリコンビナーゼ認識配列と緑色蛍光性タンパク質のコード配列との組合せは、人工核酸である)から、又は配列(例えば、膜結合型受容体の細胞外ドメインのみをコードする配列若しくはcDNA)の部分的な欠失若しくは核酸塩基の突然変異から、生じ得る。用語「内因性」は、細胞に由来するヌクレオチド配列を意味する。「外因性」ヌクレオチド配列は、塩基組成が同一である「内因性」対応物を有し得るが、「外因性」配列は、例えば組換えDNA技術によって細胞に導入されている。
【0067】
本明細書において使用される場合、「異種」という用語は、あるポリペプチドが特定の細胞に由来せず、それぞれのコードする核酸が、DNA送達法、例えば、トランスフェクション法、エレクトロポレーション法、又は形質転換法によって当該細胞に導入されることを示す。したがって、異種ポリペプチドは、それを発現する細胞に対して人工的なポリペプチドであり、そのため、そのポリペプチドが異なる細胞/生物に由来する天然に存在するポリペプチドであるか、又は人工ポリペプチドであるかどうかに依存しない。
【0068】
本特許出願では以下の内因性遺伝子を使用した:
【0069】
「サーチュイン-1」という用語は、哺乳動物におけるシグナル伝達の一部である酵素、すなわち、NAD依存性デアセチラーゼサーチュイン-1を意味する。サーチュイン-1はSIRT-1遺伝子によってコードされる。ヒトサーチュイン-1は、UniProtKBエントリQ96EB6を有する。チャイニーズハムスターサーチュイン-1は、UniProtKBエントリA0A3L7IF96を有する。SIRT-1ノックアウトの効果は、参照により本明細書に明示的に組み込まれるPCT/EP2020/067579に記載されている。
【0070】
II.抗体
ヒト免疫グロブリンの軽鎖及び重鎖のヌクレオチド配列に関連する一般的な情報は、Kabat,E.A.,et al.,Sequences of Proteins of Immunological Interest,5th ed.,Public Health Service,National Institutes of Health,Bethesda,MD(1991)に与えられる。
【0071】
本明細書において使用される場合、重鎖及び軽鎖のすべての定常領域及びドメインのアミノ酸位置は、Kabat,ら,Sequences of Proteins of Immunological Interest,5th ed.,Public Health Service,National Institutes of Health,Bethesda,MD(1991)において説明されるKabatナンバリングシステムによりナンバリングされ、本明細書では「Kabatによるナンバリング」と称される。具体的には、Kabatら、Sequences of Proteins of Immunological Interest、5th ed.、Public Health Service,National Institutes of Health、Bethesda、MD(1991)のKabatナンバリングシステム(647~660ページを参照されたい)は、カッパアイソタイプ及びラムダアイソタイプの軽鎖定常ドメインCLに使用し、Kabat EUインデックスナンバリングシステム(661~723ページを参照されたい)は、重鎖定常ドメイン(CH1、ヒンジ、CH2及びCH3であって、本明細書では、この場合には、「Kabat EUインデックスによるナンバリング」と称することによってさらに明確にしている)に使用される。
【0072】
本明細書での「抗体」という用語は、最も広義に使用され、全長抗体、モノクローナル抗体、多重特異性抗体(例えば、二重特異性抗体)、及び抗体-抗体断片-融合物並びにそれらの組み合わせを含む様々な抗体構造を包含するが、これらに限定されない。
【0073】
「天然抗体」という用語は、様々な構造を有する天然に存在する免疫グロブリン分子を意味する。例えば、天然IgG抗体は、ジスルフィド結合されている2つの同一の軽鎖及び2つの同一の重鎖で構成される約150,000ダルトンのヘテロ四量体糖タンパク質である。N末端からC末端に、各重鎖は、重鎖可変領域(VH)とそれに続く3つの重鎖定常ドメイン(CH1、CH2、及びCH3)を有し、それにより、第1の重鎖定常ドメインと第2の重鎖定常ドメインとの間にヒンジ領域が配置される。同様に、NからC末端に、各軽鎖は、軽鎖可変領域(VL)とそれに続く軽鎖定常ドメイン(CL)を有する。抗体の軽鎖は、その定常ドメインのアミノ酸配列に基づき、カッパ(κ)及びラムダ(λ)と呼ばれる2種類の1つに割り当てられてもよい。
【0074】
「完全長抗体」という用語は、天然抗体の構造と実質的に類似した構造を有する抗体を意味する。完全長抗体は、それぞれがN末端からC末端の方向に、軽鎖可変領域及び軽鎖定常ドメインを含む2つの完全長抗体軽鎖、並びにそれぞれがN末端からC末端の方向に、重鎖可変領域、第1の重鎖定常ドメイン、ヒンジ領域、第2の重鎖定常ドメイン、及び第3の重鎖定常ドメインを含む、2つの完全長抗体重鎖を含む。天然抗体とは対照的に、全長抗体は、1つ若しくは複数の追加のscFv、又は重鎖若しくは軽鎖Fab断片、又は、全長抗体の異なる鎖の1つ若しくは複数の末端にコンジュゲートしているが各末端には1つの断片のみであるscFabなどのさらなる免疫グロブリンドメインを含んでもよい。これらのコンジュゲートもまた、完全長抗体という用語により包含される。
【0075】
「抗体結合部位」という用語は、重鎖可変ドメインと軽鎖可変ドメインの対を意味する。抗原への適切な結合を確実にするために、これらの可変ドメインは同族の可変ドメインであり、すなわち一緒に属する。抗体の結合部位は、少なくとも3つのHVR(例えば、VHHの場合)又は3~6つのHVR(例えば、天然に存在する、すなわち、VH/VLペアを有する従来の抗体の場合)を含む。一般に、抗原結合に関与する抗体のアミノ酸残基が、結合部位を形成している。これらの残基は通常、抗体重鎖可変ドメインと対応する抗体軽鎖可変ドメインのペアに含まれる。抗体の抗原結合部位は、「超可変領域」又は「HVR」からのアミノ酸残基を含む。「フレームワーク」又は「FR」領域は、本明細書で定義される超可変領域残基以外の可変ドメイン領域である。したがって、抗体の軽鎖及び重鎖可変ドメインは、NからC末端に向けて、領域FR1、HVR1、FR2、HVR2、FR3、HVR3、及びFR4を含む。特に、重鎖可変ドメインのHVR3領域は、抗原結合に最も寄与し、抗体の結合特異性を定義する領域である。「機能的結合部位」は、その標的に特異的に結合することができる。「特異的に結合する」という用語は、インビトロアッセイにおいて、特定の実施形態では結合アッセイにおいて、その標的への結合部位の結合を表す。そのような結合アッセイは、結合イベントが検出され得る限り、任意のアッセイであり得る。例えば、抗体を表面に結合させ、該抗体への抗原の結合が表面プラズモン共鳴(SPR)によって測定される、結合アッセイである。あるいは、ブリッジングELISAを使用することができる。
【0076】
「超可変領域」又は「HVR」という用語は、本明細書で使用される場合、超可変的な配列(「相補性決定領域」又は「CDR」)であり、及び/又は構造的に定義されるループ(「超可変ループ」)を形成し、及び/又は抗原に接触する残基(「抗原接触」)を含有するアミノ酸残基ストレッチを含む、抗体可変ドメインのそれぞれの領域を指す。一般的に、抗体は、6つのHVRを含み、重鎖可変ドメインVHに3つ(H1、H2、H3)、軽鎖可変ドメインVLに3つ(L1、L2、L3)である。
【0077】
HVRには、次のものが含まれる:
(a)アミノ酸残基26~32(L1)、50~52(L2)、91~96(L3)、26~32(H1)、53~55(H2)、及び96~101(H3)に生じる超可変ループ(Chothia,C.及びLesk,A.M.、J.Mol.Biol.196(1987)901-917)、
(b)アミノ酸残基24~34(L1)、50~56(L2)、89~97(L3)、31~35b(H1)、50~65(H2)、及び95~102(H3)に生じるCDR(Kabat,E.A.ら、Sequences of Proteins of Immunological Interest、第5版、Public Health Service、National Institutes of Health、Bethesda、MD(1991)、NIH Publication 91-3242)、
(c)アミノ酸残基27c~36(L1)、46~55(L2)、89~96(L3)、30~35b(H1)、47~58(H2)及び93~101(H3)で生じる抗原接触(MacCallumら、J.Mol.Biol.262:732~745(1996));並びに
(d)アミノ酸残基46~56(L2)、47~56(L2)、48~56(L2)、49~56(L2)、26~35(H1)、26~35b(H1)、49~65(H2)、93~102(H3)、及び94~102(H3)を含む、(a)、(b)、及び/又は(c)の組合せ。
【0078】
別段の指示がない限り、HVR残基及び可変ドメイン内の他の残基(例えば、FR残基)は、本明細書において、上記のKabatらに従ってナンバリングされている。
【0079】
抗体の「クラス」は、定常ドメイン又は定常領域、好ましくは重鎖が持つFc領域の種類を指す。抗体には、次の5種類の主要なクラス:IgA、IgD、IgE、IgG及びIgMが存在し、これらのうちのいくつかを、「サブクラス」(アイソタイプ)、例えば、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1及びIgA2に更に分けることができる。免疫グロブリンの異なるクラスに対応する重鎖定常ドメインは、それぞれα、δ、ε、γ、及びμと呼ばれる。
【0080】
「重鎖定常領域」という用語は、定常ドメイン、すなわち、CH1ドメイン、ヒンジ領域、CH2ドメイン、及びCH3ドメインを含む免疫グロブリン重鎖の領域を意味する。特定の実施形態では、ヒトIgG定常領域は、重鎖のAla118からカルボキシル末端に及ぶ(ナンバリングはKabat EUインデックスに従う)。しかし、定常領域のC末端リジン(Lys447)は、存在していてもよく、又は存在していなくてもよい(ナンバリングはKabat EUインデックスに従う)。「定常領域」という用語は、鎖間ジスルフィド結合を形成するヒンジ領域システイン残基を介して互いに共有結合することができる2つの重鎖定常領域を含む二量体を意味する。
【0081】
「重鎖Fc領域」という用語は、少なくともヒンジ領域の一部、CH2ドメイン、及びCH3ドメインを含む、免疫グロブリン重鎖のC末端領域を意味する。特定の実施形態では、ヒトIgG重鎖Fc領域は、Asp221又はCys226又はPro230から重鎖のカルボキシル末端に及ぶ(ナンバリングはKabat EUインデックスに従う)。したがって、Fc領域は定常領域よりも小さいが、C末端部分はそれと同一である。しかしながら、重鎖Fc領域のC末端リジン(Lys447)は、存在してもよく、又は存在しなくてもよい(Kabat EUインデックスによるナンバリング)。「Fc領域」という用語は、鎖間ジスルフィド結合を形成するヒンジ領域システイン残基を介して互いに共有結合することができる2つの重鎖Fc領域を含む二量体を意味する。
【0082】
抗体の定常領域、より正確にはFc領域(及び同様に定常領域)は、補体活性化、C1q結合、C3活性化、及びFc受容体結合に直接関与している。補体系に対する抗体の影響は、特定の条件に依存するが、C1qへの結合は、Fc領域における規定の結合部位によって引き起こされる。このような結合部位は、先行技術で公知であり、例えば、Lukas,T.J.ら、J.Immunol.127(1981)2555-2560、Brunhouse,R.及びCebra,J.J.、Mol.Immunol.16(1979)907-917、Burton,D.R.ら、Nature 288(1980)338-344、Thommesen,J.E.ら、Mol.Immunol.37(2000)995-1004、Idusogie,E.E.ら、J.Immunol.164(2000)4178-4184、Hezareh,M.ら、J.Virol.75(2001)12161-12168、Morgan,A.ら、Immunology 86(1995)319-324、及びEP0307434において記載されている。このような結合部位は、例えば、L234、L235、D270、N297、E318、K320、K322、P331及びP329(KabatのEUインデックスによるナンバリング)である。サブクラスIgG1、IgG2、及びIgG3の抗体は通常、補体活性化、C1q結合、及びC3活性化を示すのに対し、IgG4は、補体系を活性化せず、C1qと結合せず、C3を活性化しない。「抗体のFc領域」は、当業者に周知の用語であり、抗体のパパイン切断に基づいて規定される。
【0083】
本明細書で使用される場合、「モノクローナル抗体」という用語は、実質的に均一な抗体の集団から得られた抗体を指し、すなわち、その集団を構成する個々の抗体は、同一であり、及び/又は同じエピトープに結合するが、例えば、自然発生突然変異を含有するか、又はモノクローナル抗体調製物の産生中に生じる、起こり得るバリアント抗体は例外であり、かかるバリアントは一般的に少量で存在する。典型的には異なる決定基(エピトープ)に対して指向する異なる抗体を含むポリクローナル抗体製剤とは対照的に、モノクローナル抗体製剤のそれぞれのモノクローナル抗体は、1つの抗原上の単一の決定基に対して指向する。したがって、修飾語「モノクローナル」は、抗体の実質的に均一な集合から得られる抗体の特徴を示し、任意の特定の方法による抗体の産生を必要とするように解釈すべきではない。例えば、本発明に従って使用されるモノクローナル抗体は、ハイブリドーマ法、組換えDNA法、ファージディスプレイ法、及びヒト免疫グロブリン遺伝子座の全部又は一部を含むトランスジェニック動物を利用する方法を含むがこれらに限定されない種々の技術によって作製されてもよい。
【0084】
「価数」との用語は、本出願で使用される場合、抗体内の特定数の結合部位の存在を示す。したがって、「二価」、「四価」及び「六価」との用語は、抗体内のそれぞれ2個の結合部位、4個の結合部位及び6個の結合部位の存在を示す。
【0085】
「単一特異性抗体」は、単一の結合特異性を有する、すなわち、1つの抗原に特異的に結合する抗体を意味する。単一特異性抗体を、全長抗体若しくは抗体断片(例えば、F(ab’))又はそれらの組合せ(例えば、全長抗体と追加のscFv又はFab断片)として調製することができる。単一特異性抗体は、一価である必要はない。すなわち、単一特異性抗体は、1つの抗原に特異的に結合する1つを超える結合部位を含んでもよい。例えば、天然抗体は、単一特異性であるが二価である。
【0086】
「多重特異性抗体」は、同じ抗原又は2つの異なる抗原上の少なくとも2つの異なるエピトープに対して結合特異性を有する抗体を表す。多重特異性抗体を、全長抗体若しくは抗体断片(例えば、F(ab’)二重特異性抗体)又はそれらの組合せ(例えば、全長抗体と追加のscFv又はFab断片)として調製することができる。多重特異性抗体は、少なくとも二価であり、すなわち、2つの抗原結合部位を含む。さらに、多重特異性抗体は、少なくとも二重特異性である。したがって、二価の二重特異性抗体は、多重特異性抗体の最も単純な形態である。2つ、3つ又はより多く(例えば、4つ)の機能的な抗原結合部位を有する操作された抗体が報告されている(例えば、US 2002/0004587を参照)。
【0087】
特定の実施形態において、抗体は、多重特異性抗体、例えば、少なくとも二重特異性抗体である。多重特異性抗体は、少なくとも2つの異なる抗原又はエピトープに対する結合特異性を有するモノクローナル抗体である。特定の実施形態では、結合特異性の1つは第一の抗原に対するものであり、他は、異なる第二の抗原に対するものである。ある特定の実施形態では、多重特異性抗体は、同じ抗原の2つの異なるエピトープに結合し得る。多重特異性抗体を使用して、抗原を発現する細胞に細胞毒性剤を局在化させることもできる。
【0088】
多重特異性抗体は、完全長抗体又は抗体-抗体断片-融合物として調製することができる。
【0089】
多重特異性抗体を作製するための技術としては、異なる特異性を有する2つの免疫グロブリン重鎖-軽鎖対の組換え共発現(Milstein,C.及びCuello,A.C.、Nature305(1983)537-540、WO93/08829、及びTraunecker,A.ら、EMBO J.10(1991)3655-3659を参照されたい)、及び「ノブ・イン・ホール(knob-in-hole)」操作(例えば、米国特許第5,731,168号を参照されたい)が挙げられるが、これらに限定されない。多重特異性抗体はまた、抗体Fcヘテロ二量体分子を作製するための静電ステアリング効果の改変(国際公開第2009/089004号);2つ以上の抗体若しくは断片の架橋(例えば、米国特許第4676980号、及びBrennan,M.,et al.,Science 229(1985)81-83を参照のこと);ロイシンジッパーを使用した二重特異的抗体の産生(例えば、Kostelny,S.A.,et al.,J.Immunol.148(1992)1547-1553を参照のこと);軽鎖のミスペアリング問題を回避するための、一般的な軽鎖技術の使用(例えば国際公開第98/50431号を参照のこと);二重特異性抗体断片を作製するための「ダイアボディ」技術の使用(例えば、Holliger,P.,et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 90(1993)6444-6448を参照のこと);及び、例えばTutt,A.,et al.,J.Immunol.147(1991)60-69に記載されている三重特異的抗体の調製により作製することができる。
【0090】
例えば、「オクトパス(Octopus)抗体」を含む3つ以上の抗原結合部位を有する操作された抗体、又はDVD-Igも本明細書に含まれる(例えば、国際公開第2001/77342号及び国際公開第2008/024715号を参照)。3つ以上の抗原結合部位を有する多重特異性抗体の他の例は、WO 2010/115589、WO 2010/112193、WO 2010/136172、WO 2010/145792、及びWO 2013/026831に見出すことができる。二重特異性抗体又はその抗原結合断片は、「二重作用Fab」又は「DAF」もまた含む(例えば、米国特許出願公開第2008/0069820号及び国際公開第2015/095539号を参照のこと)。
【0091】
多重特異性抗体はまた、同じ抗原特異性の1つ又は複数の結合アームにドメインクロスオーバーを持つ非対称の形で、すなわちVH/VLドメイン(例えば、国際公開第2009/080252号及び国際公開第2015/150447号を参照)、CH1/CLドメイン(国際公開第2009/080253号を参照)又は完全なFabアーム(国際公開第2009/080251号、国際公開第2016/016299号を参照、Schaefer et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 108(2011)1187-1191、及びKlein et al.,MAbs 8(2016)1010-1020も参照)を交換することによっても提供され得る。一態様では、多重特異性抗体はクロスFab断片を含む。「クロスFab断片」又は「xFab断片」又は「クロスオーバーFab断片」という用語は、重鎖及び軽鎖の可変領域又は定常領域のいずれかが交換されたFab断片を指す。クロスFab断片は、軽鎖可変領域(VL)と重鎖定常領域1(CH1)とで構成されるポリペプチド鎖、及び重鎖可変領域(VH)と軽鎖定常領域(CL)とで構成されるポリペプチド鎖を含む。非対称Fabアームは、荷電又は非荷電アミノ酸突然変異をドメインインターフェースに導入して正しいFabペアリングを指示することによって操作することもできる。例えば、WO 2016/172485を参照。
【0092】
抗体又は断片はまた、国際公開第2009/080254号、国際公開第2010/112193号、国際公開第2010/115589号、国際公開第2010/136172号、国際公開第2010/145792号又は国際公開第2010/145793号に記載されている多重特異性抗体であり得る。
【0093】
抗体又はその断片はまた、WO2012/163520に開示されるような多重特異性抗体であってもよい。
【0094】
多重特異性抗体の様々なさらなる分子フォーマットが当技術分野で知られており、本明細書に含まれる(例えば、Spiess et al.,Mol.Immunol.67(2015)95-106を参照のこと)。
【0095】
二重特異性抗体は、一般に、同じ抗原上の2つの異なる重複しないエピトープ又は異なる抗原上の2つのエピトープに特異的に結合する抗体分子である。
【0096】
複合体(多重特異性)抗体は
- ドメイン交換を伴う完全長抗体:
第1のFab断片及び第2のFab断片を含む多重特異性IgG抗体であって、第1のFab断片において、
a)CH1ドメインとCLドメインのみが互いに置き換えられている(すなわち、第1のFab断片の軽鎖はVLドメイン及びCH1ドメインを含み、第1のFab断片の重鎖はVHドメイン及びCLドメインを含む);
b)VHドメイン及びVLドメインのみが互いに置き換えられている(すなわち、第1のFab断片の軽鎖はVHドメイン及びCLドメインを含み、第1のFab断片の重鎖はVLドメイン及びCH1ドメインを含む);又は
c)CH1とCLドメインが互いに置き換えられ、VH及びVLドメインが互いに置き換えられている(すなわち、第1のFab断片の軽鎖はVH及びCH1ドメインを含み、第1のFab断片の重鎖はVL及びCLドメインを含む);及び
第2のFab断片は、VL及びCLドメインを含む軽鎖と、VH及びCH1ドメインを含む重鎖とを含む;
ドメイン交換を伴う完全長抗体は、CH3ドメインを含む第1の重鎖と、CH3ドメインを含む第2の重鎖とを含み得、例えば、国際公開第96/27011号、国際公開第98/050431号、欧州特許第1870459号、国際公開第2007/110205号、国際公開第2007/147901号、国際公開第2009/089004号、国際公開第2010/129304号、国際公開第2011/90754号、国際公開第2011/143545号、国際公開第2012/058768号、国際公開第2013/157954号又は国際公開第2013/096291号(参照により本明細書に組み込まれる)に開示されるように、第1重鎖及び修飾された第2重鎖のヘテロ二量体化を支援するために、両CH3ドメインは、それぞれのアミノ酸置換によって、相補的な様式で操作されている;
- ドメイン交換及び追加の重鎖C末端結合部位を有する完全長抗体:
多重特異性IgG抗体であって、
a)完全長抗体軽鎖と完全長抗体重鎖のそれぞれ2対を含む1つの完全長抗体であって、完全長重鎖と完全長軽鎖のそれぞれの対により形成される結合部位が、第1の抗原に特異的に結合する、1つの完全長抗体、及び
b)1つの追加のFab断断片であって、完全長抗体の1つの重鎖のC末端に融合されており、追加のFab断片の結合部位が第2の抗原に特異的に結合する、1つの追加のFab断断片、を含み、
第2の抗原に特異的に結合する追加のFab断片が、i)a)軽鎖可変ドメイン(VL)と重鎖可変ドメイン(VH)が互いに置き換えられている、又はb)軽鎖定常ドメイン(CL)と重鎖定常ドメイン(CH1)が互いに置き換えられているようなドメインクロスオーバーを含むか、又はii)一本鎖Fab断片である、多重特異性IgG抗体;
- 1アーム一本鎖フォーマット(=1アーム一本鎖抗体):
第1のエピトープ又は抗原に特異的に結合する第1の結合部位と、第2のエピトープ又は抗原に特異的に結合する第2の結合部位とを含む抗体であって、個々の鎖は以下の通りである:
- 軽鎖(可変軽鎖ドメイン+軽鎖カッパ定常ドメイン)
- 軽鎖/重鎖の組み合わせ(可変軽鎖ドメイン+軽鎖定常ドメイン+ペプチドリンカー+可変重鎖ドメイン+CH1+ヒンジ+CH2+ノブ変異を有するCH3)
- 重鎖(可変重鎖ドメイン+CH1+ヒンジ+CH2+ホール変異を有するCH3);
- 2アーム一本鎖フォーマット(=2アーム一本鎖抗体):
第1のエピトープ又は抗原に特異的に結合する第1の結合部位と、第2のエピトープ又は抗原に特異的に結合する第2の結合部位とを含む抗体であって、個々の鎖は以下の通りである:
- 軽鎖/重鎖1の組み合わせ(可変軽鎖ドメイン+軽鎖定常ドメイン+ペプチドリンカー+可変重鎖ドメイン+CH1+ヒンジ+CH2+ホール変異を有するCH3)
- 軽鎖/重鎖2の組み合わせ(可変軽鎖ドメイン+軽鎖定常ドメイン+ペプチドリンカー+可変重鎖ドメイン+CH1+ヒンジ+CH2+ノブ変異を有するCH3);
- 一般的な軽鎖二重特異性フォーマット(=一般的な軽鎖二重特異性抗体):
第1のエピトープ又は抗原に特異的に結合する第1の結合部位と、第2のエピトープ又は抗原に特異的に結合する第2の結合部位とを含む抗体であって、個々の鎖は以下の通りである:
- 軽鎖(可変軽鎖ドメイン+軽鎖定常ドメイン)
- 重鎖1(可変重鎖ドメイン+CH1+ヒンジ+CH2+ホール変異を有するCH3)
- 重鎖2(可変重鎖ドメイン+CH1+ヒンジ+CH2+ノブ変異を有するCH3);
- T細胞二重特異性フォーマット:
ドメイン交換を伴う追加の重鎖N末端結合部位を有する完全長抗体であって、
- 第1及び第2のFab断片であって、第1及び第2のFab断片の各結合部位が第1の抗原に特異的に結合する、第1及び第2のFab断片、
- 第3のFab断片であって、第3のFab断片の結合部位が第2の抗原に特異的に結合し、第3のFab断片が、可変軽鎖ドメイン(VL)及び可変重鎖ドメイン(VH)が互いに置き換えられるようなドメインクロスオーバーを含む、第3のFab断片;及び
- Fc領域であって、第1のFc領域のポリペプチドと第2のFc領域のポリペプチドとを含む、Fc領域を含み、
第1のFab断片及び第2のFab断片は、それぞれ、重鎖断片及び完全長軽鎖を含み、
第1のFab断片の重鎖断片のC末端は、第1のFc領域ポリペプチドのN末端に融合されており、
第2のFab断片の重鎖断片のC末端は、第3のFab断片の可変軽鎖ドメインのN末端に融合されており、第3のFab断片のCH1ドメインのC末端は、第2のFc領域ポリペプチドのN末端に融合されている、完全長抗体;
- 抗体-多量体-融合物であって、
(a)抗体重鎖及び抗体軽鎖と、
(b)N末端からC末端に向かって、非抗体多量体ポリペプチドの第1の部分、抗体重鎖CH1ドメイン又は抗体軽鎖定常ドメイン、抗体ヒンジ領域、抗体重鎖CH2ドメイン、及び抗体重鎖CH3ドメインを含む第1の融合ポリペプチドと、N末端からC末端に向かって、非抗体多量体ポリペプチドの第2の部分、及び第1のポリペプチドが抗体重鎖CH1ドメインを含む場合は抗体軽鎖定常ドメイン、又は第1のポリペプチドが抗体軽鎖定常ドメインを含む場合は抗体重鎖CH1ドメインを含む、第2の融合ポリペプチドとを含み、
(i)(a)の抗体重鎖と(b)の第1の融合ポリペプチド、(ii)(a)の抗体重鎖と(a)の抗体軽鎖、及び(iii)(b)の第1の融合ポリペプチドと(b)の第2の融合ポリペプチドが、それぞれ独立して、少なくとも1つのジスルフィド結合によって互いに共有結合しており、
抗体重鎖及び抗体軽鎖の可変ドメインが、抗原に特異的に結合する結合部位を形成する、抗体-多量体-融合物
である。
【0097】
「ノブ・イントゥー・ホール」二量体化モジュール及び抗体操作におけるその使用は、Carter P.;Ridgway J.B.B.;Presta L.G.:Immunotechnology,Volume 2,Number 1,February 1996,pp.73-73(1)に記載されている。
【0098】
抗体の重鎖のCH3ドメインを、「ノブ・イントゥー・ホール」技術によって改変することができる。例えば、国際公開第96/027011号、Ridgway,J.B.,et al.,Protein Eng.9(1996)617-621;及びMerchant,A.M.,et al.,Nat.Biotechnol.16(1998)677-681に、いくつかの例を伴って詳細に記載されている。この方法では、2つのCH3ドメインの相互作用表面を改変して、これら2つのCH3ドメインのヘテロ二量体化を増加させ、それによってそれらを含むポリペプチドのヘテロ二量体化を増加させる。(2つの重鎖の)2つのCH3ドメインのそれぞれは「ノブ」であることができ、他方は「ホール」である。ジスルフィドブリッジの導入はさらに、ヘテロ二量体を安定化させ(Merchant,A.M.ら、Nature Biotech.16(1998)677-681;Atwell,S.ら、J.Mol.Biol.270(1997)26-35)、収率を増加させる。
【0099】
(抗体重鎖の)CH3ドメインの変異T366Wは、「ノブ変異」又は「変異ノブ」として表され、(抗体重鎖の)CH3ドメインの変異T366S、L368A、Y407Vは、「ホール変異」又は「変異ホール」として表される(KabatのEUインデックスによるナンバリング)。CH3ドメイン間の追加の鎖間ジスルフィド架橋(Merchant,A.M.ら、Nature Biotech.16(1998)677-681)も、例えば、「ノブ変異」を有する重鎖のCH3ドメインにS354C変異を導入(「ノブ-cys-変異」又は「変異ノブ-cys」と表記)すること、及び「ホール変異」を有する重鎖のCH3ドメインにY349C変異を導入(「ホール-cys-変異」又は「変異ホール-cys」と表記)することにより、使用できる(KabatのEUインデックスによるナンバリング)。
【0100】
「ドメインクロスオーバー」という用語は、本明細書で使用される場合、抗体重鎖VH-CH1断片とその対応する同族の抗体軽鎖とのペアにおいて、すなわち抗体Fab(断片-抗原結合)において、少なくとも1つの重鎖ドメインが、その対応する軽鎖ドメインによって置換されており、その逆も同様である、という点について、ドメイン配列が天然抗体の配列から逸脱していることを表す。ドメインクロスオーバーは、一般的に3種類あり、(i)CH1及びCLドメインのクロスオーバーであって、軽鎖中のドメインクロスオーバーによってVL-CH1ドメイン配列がもたらされ、重鎖断片中のドメインクロスオーバーによってVH-CLドメイン配列(又はVH-CL-ヒンジ-CH2-CH3ドメイン配列を有する全長抗体重鎖)がもたらされるもの、(ii)VH及びVLドメインのドメインクロスオーバーであって、軽鎖中のドメインクロスオーバーによってVH-CLドメイン配列がもたらされ、重鎖断片中のドメインクロスオーバーによってVL-CH1ドメイン配列がもたらされるもの、並びに(iii)完全な軽鎖(VL-CL)及び完全なVH-CH1重鎖断片のドメインクロスオーバー(「Fabクロスオーバー」)であって、ドメインクロスオーバーによってVH-CH1ドメイン配列を有する軽鎖がもたらされ、ドメインクロスオーバーによってVL-CLドメイン配列を有する重鎖断片がもたらされるもの(上述のすべてのドメイン配列は、N末端からC末端への方向で示されている)がある。
【0101】
本明細書で使用される場合、対応する重鎖ドメイン及び軽鎖ドメインに関して「互いに置き換えられた」という用語は、上述のドメインクロスオーバーを指す。そのため、CH1及びCLドメインが「互いに置き換えられた」場合、この用語は、項目(i)の下で言及されたドメインクロスオーバー、並びに結果として生じる重鎖及び軽鎖ドメイン配列を指す。したがって、VH及びVLが「互いに置き換えられた」場合、この用語は、項目(ii)の下で言及されたドメインクロスオーバーを指し、またCH1及びCLドメインが「互いに置き換えられ」、かつVH及びVLドメインが「互いに置き換えられた」場合、該用語は、項目(iii)の下で言及されたドメインクロスオーバーを指す。ドメインクロスオーバーを含む二重特異性抗体は、例えば、国際公開第2009/080251号、国際公開第2009/080252号、国際公開第2009/080253号、国際公開第2009/080254号、及びSchaefer,W.,et al,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 108(2011)11187-11192において報告されている。このような抗体は、一般にCrossMabと呼ばれる。
【0102】
多重特異性抗体はまた、一実施形態では、上記の項目(i)で述べたCH1及びCLドメインのドメインクロスオーバー、又は上記の項目(ii)で述べたVH及びVLドメインのドメインクロスオーバー、又は上記の項目(iii)で述べたVH-CH1及びVL-VLドメインのドメインクロスオーバーのいずれかを含む、少なくとも1つのFab断片を含む。ドメインクロスオーバーを伴う多重特異性抗体の場合、同じ抗原に特異的に結合するFabは、同じドメイン配列であるように構築される。そのため、ドメインクロスオーバーを伴う1つを超えるFabが、多重特異性抗体に含まれる場合、Fabは、同じ抗原に特異的に結合する。
【0103】
「ヒト化」抗体は、非ヒトHVRからのアミノ酸残基、及びヒトFRからのアミノ酸残基を含む抗体を指す。特定の実施形態では、ヒト化抗体は、少なくとも1つ、典型的には2つの可変ドメインの実質的に全てを含むものであり、それにおいて、HVR(例えば、CDR)の全て又は実質的に全てが非ヒト抗体のものに相当し、FRの全て又は実質的に全てがヒト抗体のものに相当する。ヒト化抗体は、任意に、ヒト抗体に由来する抗体定常領域の少なくとも一部を含んでいてもよい。抗体、例えば、非ヒト抗体の「ヒト化形態」は、ヒト化を受けた抗体を指す。
【0104】
「組換え抗体」という用語は、本明細書において使用される場合、組換え細胞などの組換え手段により調製、発現、作製又は単離された全ての抗体(キメラ、ヒト化及びヒト)を表す。これには、NS0、HEK、BHK、羊膜細胞、CHO細胞などの組換え細胞から単離された抗体が含まれる。
【0105】
本明細書で使用される場合、「抗体断片」という用語は、インタクトな抗体が結合する抗原に結合するインタクトな抗体の一部を含む、インタクトな抗体以外の分子を指し、すなわちそれは、機能的な断片である。抗体断片の例としては、以下に限定されないが、Fv、Fab、Fab’、Fab’-SH、F(ab’)2、二重特異性Fab、ダイアボディ、直鎖状抗体、一本鎖抗体分子(例えば、scFv又はscFab)が挙げられる。
【0106】
III.組換え方法及び組成物
抗体は、例えば、米国特許第4,816,567号に記載されているように、組換え方法及び組成物を使用して産生することができる。これらの方法のために、抗体をコードする1つ以上の単離された核酸(複数可)が提供される。
【0107】
一態様では、抗体を作製する方法であって、抗体をコードする核酸を含む宿主細胞を、抗体の発現に好適な条件下で培養することと、任意に、抗体を宿主細胞(又は宿主細胞培養物)から回収することとを含む、方法が提供される。
【0108】
抗体の組換え産生に関しては、例えば、上述の抗体をコードする核酸が単離され、さらなるクローニング及び/又は宿主細胞内での発現のために、一又は複数のベクターに挿入される。このような核酸は、容易に単離することができ、一般的な手順を用いて(例えば、抗体の重鎖と軽鎖をコードする遺伝子に特異的に結合できるオリゴヌクレオチドプローブを使用することによって)配列決定することができる。
【0109】
通常、例えば治療用抗体のような目的のポリペプチドの組換え大量生産のためには、該ポリペプチドを安定に発現し分泌する細胞が必要とされる。この細胞は、「組換え細胞」又は「組換え生産細胞」と呼ばれ、このような細胞を作製するために使用される方法は「細胞株開発」と呼ばれる。細胞株開発方法の第1の工程において、例えばCHO細胞等の適切な宿主細胞に、当該目的のポリペプチドの発現に適した核酸配列をトランスフェクトする。第2の工程において、目的のポリペプチドを安定に発現する細胞を、目的のポリペプチドをコードする核酸と共にコトランスフェクトしておいた選択マーカーの共発現に基づいて選択する。
【0110】
ポリペプチドをコードする核酸、すなわちコード配列は、構造遺伝子と呼ばれる。このような構造遺伝子は、純粋なコード情報である。したがって、その発現にはさらなる調節エレメントが必要である。したがって、通常、構造遺伝子はいわゆる発現カセットに組み込まれる。発現カセットが哺乳動物細胞において機能的となるために必要とされる最小限の制御エレメントは、構造遺伝子の上流、すなわち5’側に位置する、当該哺乳動物細胞において機能的なプロモーター、及び構造遺伝子の下流、すなわち3’側に位置する、当該哺乳動物細胞において機能的なポリアデニル化シグナル配列である。プロモーター配列、構造遺伝子配列、及びポリアデニル化シグナル配列は、作動可能に連結された形態で並べられる。
【0111】
目的のポリペプチドが、異なる(単量体)ポリペプチド、例えば、抗体又は複合体抗体フォーマットなどから構成されるヘテロ多量体ポリペプチドである場合、単一の発現カセットが必要であるだけでなく、含まれる構造遺伝子が異なる多数の発現カセット、すなわち、ヘテロ多量体ポリペプチドの異なる(単量体)ポリペプチドのそれぞれに対して少なくとも1つの発現カセットが必要である。例えば、全長抗体は、軽鎖の2個のコピー及び重鎖の2個のコピーを含むヘテロ多量体ポリペプチドである。したがって、全長抗体は、2つの異なるポリペプチドから構成される。したがって、全長抗体の発現のためには2つの発現カセット、すなわち軽鎖のための1個及び重鎖のための1個が必要とされる。例えば、完全長抗体が二重特異性抗体である場合、すなわち、抗体が2つの異なる抗原に特異的に結合する2つの異なる結合部位を含む場合、2つの軽鎖並びに2つの重鎖もまた互いに異なる。したがって、このような二重特異性完全長抗体は、4つの異なるポリペプチドで構成されているため、4つの発現カセットが必要となる。
【0112】
目的のポリペプチドのための発現カセットは、次に、1つ又は複数のいわゆる「発現ベクター」に組み込まれる。「発現ベクター」は、細菌細胞中で該ベクターを増幅し、かつ含まれる構造遺伝子を哺乳動物細胞中で発現させるのに必要とされるすべてのエレメントを提供する核酸である。典型的には、発現ベクターは、例えば大腸菌(E.coli)の場合、複製開始点及び原核生物選択マーカー、さらには真核生物選択マーカー、並びに目的の構造遺伝子の発現に必要とされる発現カセットを含む、原核生物プラスミド増殖単位を含む。「発現ベクター」は、哺乳動物細胞に発現カセットを導入するための輸送運搬体である。
【0113】
以前のパラグラフで概説したように、発現しようとするポリペプチドが複雑であるほど、必要とされる異なる発現カセットの数もまた多くなる。本質的に、発現カセットの数と共に、宿主細胞のゲノム中に組み込まれる核酸のサイズも大きくなる。同時に、発現ベクターのサイズも大きくなる。しかし、ベクターのサイズの実用的な上限は約15kbpの範囲にあり、それを上回ると、操作及び処理の効率が著しく落ちる。この問題は、2つ以上の発現ベクターを用いることによって対処することができる。それにより、発現カセットは、それぞれが発現カセットの一部のみを含む異なる発現ベクター間で分割することができ、その結果サイズの縮小をもたらす。
【0114】
多重特異性抗体などの異種ポリペプチドを発現する組換え細胞を生成するための細胞株開発(CLD)は、目的の異種ポリペプチドの発現及び産生に必要なそれぞれの発現カセットを含む核酸のランダム組込み(RI)又は標的指向性組込み(TI)のいずれかを使用する。
【0115】
RIを使用すると、一般に、複数のベクター又はその断片が、同一又は異なる遺伝子座で細胞のゲノムに組み込まれる。
【0116】
TIを使用すると、一般に、異なる発現カセットを含む導入遺伝子の単一コピーが、宿主細胞のゲノムの所定の「ホットスポット」に組み込まれる。
【0117】
(グリコシル化された)抗体の発現に適した宿主細胞は、一般に、例えば脊椎動物等の多細胞生物に由来する。
【0118】
IV.宿主細胞
懸濁液中で増殖するように適合された任意の哺乳動物細胞株を、本発明による方法で使用することができる。さらに、組み込み方法とは無関係に、すなわち、RI及びTIの場合、任意の哺乳動物宿主細胞を使用することができる。
【0119】
有用な哺乳動物宿主細胞株の例は、ヒト羊膜細胞(例えば、Woelfel,J.et al.,BMC Proc.5(2011)P133に記載されているCAP-T細胞);SV40(COS-7)で形質転換されたサル腎臓CV1株;ヒト胚腎臓株(例えば、Graham,F.L.et al.,J.Gen Virol.36(1977)59-74)に記載されたHEK293細胞又はHEK293T細胞);ベビーハムスター腎臓細胞(BHK);マウスのセルトリ細胞(例えば、Mather,J.P.,Biol.Reprod.23(1980)243-252)に記載されるTM4細胞);サル腎細胞(CV1);アフリカミドリザル腎細胞(VERO-76);ヒト子宮頚癌細胞(HELA);イヌ腎臓細胞(MDCK;バッファローラット肝臓細胞(BRL 3A);ヒト肺細胞(W138);ヒト肝細胞(HepG2);マウス乳腺腫瘍(MMT060562);例えばMather,J.P.et al.,Annals N.Y.Acad.Sci.383(1982)44-68に記載のTRI細胞;MRC5細胞;及びFS4細胞である。他の有用な哺乳動物宿主細胞株としては、DHFR-CHO細胞を含む、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞(Urlaub,G.et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 77(1980)4216-4220)、及び、骨髄腫細胞株、例えば、Y0、NS0及びSp2/0が挙げられる。抗体産生に適した特定の哺乳動物宿主細胞の総説については、例えば、Yazaki,P.及びWu,A.M.、Methods in Molecular Biology、第248巻、Lo,B.K.C.(編.)、Humana Press、Totowa、NJ(2004)、255-268頁を参照されたい。
【0120】
特定の実施形態では、哺乳動物宿主細胞は、例えば、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞(例えば、CHO K1、CHO DG44等)、ヒト胚性腎臓(HEK)細胞、リンパ系細胞(例えば、Y0、NS0、Sp20細胞)、又はヒト羊膜細胞(例えば、CAP-T等)である。好ましい一実施形態では、哺乳動物(宿主)細胞は、CHO細胞である。
【0121】
標的指向性組み込みにより、哺乳動物細胞ゲノムの予め定められた部位に外因性ヌクレオチド配列が組み込まれることが可能になる。特定の実施形態では、標的指向性組み込みは、ゲノム及び組み込まれる外因性ヌクレオチド配列に存在する1つ以上の組換え認識配列(RRS)を認識するリコンビナーゼによって媒介される。特定の実施形態において、標的化組込みは、相同組換えによって媒介される。
【0122】
「組換え認識配列」(RRS)は、リコンビナーゼによって認識され、リコンビナーゼに媒介された組換え事象のために必要かつ十分である、ヌクレオチド配列である。RRSを用いて、組換え事象が起こると考えられるヌクレオチド配列中の位置を定めることができる。
【0123】
特定の実施形態において、RRSは、Creリコンビナーゼによって認識され得る。特定の実施形態において、RRSは、FLPリコンビナーゼによって認識され得る。特定の実施形態において、RRSは、Bxb1インテグラーゼによって認識され得る。特定の実施形態では、RRSは、φC31インテグラーゼによって認識され得る。
【0124】
RRSがLoxP部位である特定の実施形態において、細胞は、組換えを行うためにCreリコンビナーゼを必要とする。RRSがFRT部位である特定の実施形態において、細胞は、組換えを行うためにFLPリコンビナーゼを必要とする。RRSがBxb1 attP部位又はBxb1 attB部位である特定の実施形態では、細胞は、組換えを行うためにBxb1インテグラーゼを必要とする。特定の実施形態では、RRSがφC31 attP部位又はφC31 attB部位である場合、細胞は、組換えを行うためにφC31インテグラーゼを必要とする。これらのリコンビナーゼは、これらの酵素のコード配列を含む発現ベクターを用いて、あるいはタンパク質やmRNAとして細胞中に導入することができる。
【0125】
TIに関して、ゲノムの遺伝子座内の単一の部位に組み込まれた、本明細書に記載のランディング部位を含む、TIに適した任意の既知又は将来の哺乳動物宿主細胞を、本発明において使用することができる。このような細胞は、哺乳動物TI宿主細胞と呼ばれる。特定の実施形態では、哺乳動物TI宿主細胞は、本明細書に記載されるように、ランディング部位を含むハムスター細胞、ヒト細胞、ラット細胞、又はマウス細胞である。好ましい一実施形態では、哺乳動物TI宿主細胞は、CHO細胞である。特定の実施形態では、哺乳動物TI宿主細胞は、ゲノムの遺伝子座内の単一の部位に組み込まれた、本明細書に記載のランディング部位を含む、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、CHO K1細胞、CHO K1SV細胞、CHO DG44細胞、CHO DUKXB-11細胞、CHO K1S細胞、又はCHO K1M細胞である。
【0126】
特定の実施形態では、哺乳動物TI宿主細胞は、組み込まれたランディング部位を含み、ランディング部位は、1つ以上の組換え認識配列(RRS)を含む。RRSは、リコンビナーゼ、例えば、Creリコンビナーゼ、FLPリコンビナーゼ、Bxb1インテグラーゼ、又はφC31インテグラーゼによって認識され得る。RRSは、互いに独立して、LoxP配列、LoxP L3配列、LoxP 2L配列、LoxFas配列、Lox511配列、Lox2272配列、Lox2372配列、Lox5171配列、Loxm2配列、Lox71配列、Lox66配列、FRT配列、Bxb1 attP配列、Bxb1 attB配列、φC31 attP配列、及びφC31 attB配列からなる群から選択され得る。複数のRRSが存在しなければならない場合、同一でないRRSが選択される限りにおいて、各配列の選択は他方に依存する。
【0127】
特定の実施形態では、ランディング部位は、1つ以上の組換え認識配列(RRS)を含み、RRSはリコンビナーゼによって認識され得る。特定の実施形態では、組み込まれたランディング部位は、少なくとも2つのRRSを含む。特定の実施形態では、組み込まれたランディング部位は3つのRRSを含み、第3のRRSは第1のRRSと第2のRRSの間に位置する。特定の好ましい実施形態では、3つのRSSは全て異なる。特定の実施形態では、ランディング部位は、第1のRRS、第2のRRS、及び第3のRRS、並びに第1のRRSと第2のRRSの間に位置する少なくとも1つの選択マーカーを含み、かつ第3のRRSは、第1のRRS及び/又は第2のRRSとは異なる。特定の実施形態では、ランディング部位は更に第2の選択マーカーを含み、かつ第1及び第2の選択マーカーは異なる。特定の実施形態では、ランディング部位は、第3の選択マーカー及び配列内リボソーム進入部位(IRES)も更に含み、該IRESは該第3の選択マーカーに作動可能に連結されている。第3の選択マーカーは、第1又は第2の選択マーカーとは異なり得る。
【0128】
本発明は、以下CHO細胞で例示されるが、これは本発明を例示するためにのみ提示され、限定として解釈されるべきではない。本発明の真の範囲は、特許請求の範囲に記載されている。
【0129】
本発明による方法における使用に適した例示的な哺乳動物TI宿主細胞は、そのゲノムの遺伝子座内の単一の部位に組み込まれたランディング部位を有するCHO細胞であり、ランディング部位はCreリコンビナーゼを介したDNA組換えのための3つの異種特異的loxP部位を含む。
【0130】
この例では、異種特異的loxP部位は、L3、LoxFas、及び2Lであり(例えば、Lanza et al.,Biotechnol.J.7(2012)898-908;Wong et al.,Nucleic Acids Res.33(2005)e147を参照)、その際、L3及び2Lはランディング部位の5’末端及び3’末端にそれぞれ隣接し、LoxFasはL3部位と2L部位の間に位置している。ランディング部位は、IRESを介した選択マーカーの発現を蛍光性GFPタンパク質の発現に結び付けて、ポジティブ選択によってランディング部位を安定化すること並びにトランスフェクション及びCre組換え後に該部位が存在しないものを選択すること(ネガティブ選択)を可能にする、バイシストロン性単位をさらに含む。緑色蛍光タンパク質(GFP)は、RMCE反応をモニターするのに役立つ。
【0131】
先の段落で概説したようにランディング部位がこのように編成されていることによって、2つのベクター、例えば、いわゆる、L3部位及びLoxFas部位を有するフロントベクター並びにLoxFas部位及び2L部位を内部に持つバックベクターの同時組み込みが可能になる。ランディング部位に存在するものとは異なる、選択マーカー遺伝子の機能的エレメントは、両方のベクター間に分配させることができ:プロモーター及び開始コドンはフロントベクター上に位置することができるのに対し、コード化領域及びポリAシグナルはバックベクター上に位置している。両方のベクターに由来する当該核酸の正しいリコンビナーゼ媒介性組み込みのみが、それぞれの選択剤に対する耐性を誘導する。
【0132】
通常、哺乳動物TI宿主細胞は、哺乳動物細胞のゲノムの遺伝子座内の1つの部位に組み込まれるランディング部位を含む哺乳動物細胞であって、該ランディング部位が、少なくとも1つの第1の選択マーカーに隣接する第1の組換え認識配列及び第2の組換え認識配列、並びに第1の組換え認識配列と第2の組換え認識配列の間に位置する第3の組換え認識配列を含み、かつ組換え認識配列が全て異なっている、ランディング部位を含む哺乳動物細胞である。
【0133】
選択マーカーは、アミノグリコシド系ホスホトランスフェラーゼ(APH)(例えば、ハイグロマイシンホスホトランスフェラーゼ(HYG)、ネオマイシン、及びG418 APH)、ジヒドロ葉酸レダクターゼ(DHFR)、チミジンキナーゼ(TK)、グルタミン合成酵素(GS)、アスパラギン合成酵素、トリプトファン合成酵素(インドール)、ヒスチジノールデヒドロゲナーゼ(ヒスチジノールD)、並びにピューロマイシン、ブラスチシジン、ブレオマイシン、フレオマイシン、クロラムフェニコール、ゼオシン、及びミコフェノール酸に対する耐性をコードする遺伝子からなる群から選択され得る。また、選択マーカーは、緑色蛍光性タンパク質(GFP)、高感度GFP(eGFP)、合成GFP、黄色蛍光性タンパク質(YFP)、高感度YFP(eYFP)、シアン蛍光性タンパク質(CFP)、mPlum、mCherry、tdTomato、mStrawberry、J-red、DsRed単量体、mOrange、mKO、mCitrine、Venus、YPet、Emerald6、CyPet、mCFPm、Cerulean、及びT-Sapphireからなる群から選択される蛍光性タンパク質であってもよい。
【0134】
外因性ヌクレオチド配列は、特定の細胞に由来しないが、DNA送達法、例えば、トランスフェクション法、エレクトロポレーション法、又は形質転換法などによって前記細胞に導入することができるヌクレオチド配列である。特定の実施形態では、哺乳動物TI宿主細胞は、哺乳動物細胞のゲノム中の1つ以上の組み込み部位に組み込まれた少なくとも1つのランディング部位を含む。特定の実施形態では、ランディング部位は、哺乳動物細胞のゲノムの特定の遺伝子座内の1つ以上の組み込み部位に組み込まれる。
【0135】
特定の実施形態では、組み込まれたランディング部位は、少なくとも1つの選択マーカーを含む。特定の実施形態では、組み込まれたランディング部位は、第1、第2及び第3のRRS、並びに少なくとも1つの選択マーカーを含む。特定の実施形態において、選択マーカーは、第1と第2のRRSの間に位置している。特定の実施形態において、2つのRRSは、少なくとも1つの選択マーカーに隣接する。すなわち、第1のRRSが選択マーカーの5’(上流)に位置し、第2のRRSが選択マーカーの3’(下流)に位置している。特定の実施形態では、第1のRRSは選択マーカーの5’末端と隣り合っており、第2のRRSは、選択マーカーの3’末端に隣り合っている。特定の実施形態では、ランディング部位は、第1のRRS、第2のRRS、及び第3のRRS、並びに第1のRRSと第3のRRSの間に位置する少なくとも1つの選択マーカーを含む。
【0136】
特定の実施形態において、選択マーカーは第1と第2のRRSの間に位置しており、かつこれら2つの隣接RRSは互いに異なる。特定の好ましい実施形態において、第1の隣接RRSはLoxP L3配列であり、第2の隣接RRSはLoxP 2L配列である。特定の実施形態では、LoxP L3配列は、選択マーカーの5’に位置し、LoxP 2L配列は、選択マーカーの3’に位置する。特定の実施形態では、第1の隣接RRSは野生型FRT配列であり、第2の隣接RRSは変異FRT配列である。特定の実施形態では、第1の隣接するRRSは、Bxb1 attP配列であり、第2の隣接するRRSは、Bxb1 attB配列である。特定の実施形態では、第1の隣接するRRSはφC31 attP配列であり、第2の隣接するRRSは、φC31 attB配列である。特定の実施形態では、2つのRRSは、同じ向きに位置決めされている。特定の実施形態では、2つのRRSは、両方が順方向又は逆方向に向いている。特定の実施形態では、2つのRRSは、反対の向きに位置決めされている。
【0137】
特定の実施形態では、組み込まれたランディング部位は、2つのRSSが隣接する、第1の選択マーカー及び第2の選択マーカーを含み、該第1の選択マーカーは該第2の選択マーカーとは異なる。特定の実施形態では、2つの選択マーカーのどちらも、相互に独立して、グルタミン合成酵素選択マーカー、チミジンキナーゼ選択マーカー、HYG選択マーカー、及びピューロマイシン耐性選択マーカーからなる群から選択される。特定の実施形態では、組み込まれたランディング部位は、チミジンキナーゼ選択マーカー及びHYG選択マーカーを含む。特定の実施形態では、第1の選択マーカーは、アミノグリコシド系ホスホトランスフェラーゼ(APH)(例えば、ハイグロマイシンホスホトランスフェラーゼ(HYG)、ネオマイシン、及びG418 APH)、ジヒドロ葉酸レダクターゼ(DHFR)、チミジンキナーゼ(TK)、グルタミン合成酵素(GS)、アスパラギン合成酵素、トリプトファン合成酵素(インドール)、ヒスチジノールデヒドロゲナーゼ(ヒスチジノールD)、並びにピューロマイシン、ブラスチシジン、ブレオマイシン、フレオマイシン、クロラムフェニコール、ゼオシン、及びミコフェノール酸に対する耐性をコードする遺伝子からなる群から選択され、第2の選択マーカーは、GFP、eGFP、合成GFP、YFP、eYFP、CFP、mPlum、mCherry、tdTomato、mStrawberry、J-red、DsRed単量体、mOrange、mKO、mCitrine、Venus、YPet、Emerald、CyPet、mCFPm、Cerulean、及びT-Sapphire蛍光タンパク質からなる群から選択される。特定の実施形態では、第1の選択マーカーはグルタミン合成酵素選択マーカーであり、第2の選択マーカーはGFP蛍光タンパク質である。特定の実施形態では、両方の選択マーカーに隣接する2つのRRSは異なっている。
【0138】
特定の実施形態では、選択マーカーは、プロモーター配列に作動可能に連結されている。特定の実施形態では、選択マーカーは、SV40プロモーターに作動可能に連結されている。特定の実施形態では、選択マーカーは、ヒトサイトメガロウイルス(CMV)プロモーターに作動可能に連結されている。
【0139】
V.標的指向性組込み
本発明による組換え哺乳動物細胞を作製するための1つの方法は、標的指向性組み込み(TI)である。
【0140】
標的指向性組み込みでは、哺乳動物TI宿主細胞のゲノムの特定の遺伝子座に外因性核酸を導入するために部位特異的組換えが用いられる。これは、ゲノムにおける組み込み部位の配列が外因性核酸と交換される酵素プロセスである。このような核酸交換を行うために使用される1つのシステムは、Cre-loxシステムである。交換を触媒する酵素はCreリコンビナーゼである。交換される配列は、ゲノム内並びに外因性核酸内の2つのlox(P)部位の位置によって定義される。これらのlox(P)部位は、Creリコンビナーゼによって認識される。それ以上は必要なく、すなわちATPなどは不要である。元々Cre-loxシステムはバクテリオファージP1で発見された。
【0141】
Cre-loxシステムは、哺乳動物、植物、細菌、酵母等、様々な種類の細胞で機能する。
【0142】
特定の実施形態では、異種ポリペプチドをコードする外因性核酸は、単一又は二重リコンビナーゼ媒介カセット交換(RMCE)によって哺乳動物TI宿主細胞に組み込まれている。それにより、組換えCHO細胞などの組換え哺乳動物細胞が得られ、その中で、定義された特異的な発現カセット配列が単一の遺伝子座でゲノムに組み込まれ、それが次に異種ポリペプチドの効率的な発現及び産生をもたらす。
【0143】
Cre-LoxP部位特異的組換え系は、多くの生物学的実験系において広く使用されている。Creリコンビナーゼは、34bpのLoxP配列を認識する38kDaの部位特異的DNAリコンビナーゼである。CreリコンビナーゼはバクテリオファージP1に由来し、チロシンファミリーの部位特異的リコンビナーゼに属する。Creリコンビナーゼは、LoxP配列間の分子内組換えと分子間組換えの両方を媒介することができる。LoxP配列は、2つの13bp逆方向反復に挟まれた8bpの非パリンドロームコア領域から構成される。Creリコンビナーゼは13bpの反復に結合し、それによって8bpのコア領域内での組換えを媒介する。Cre-LoxP媒介組換えは、高い効率で起こり、他のいかなる宿主因子も必要としない。2つのLoxP配列が同じヌクレオチド配列上で同じ方向に配置されている場合、Creリコンビナーゼ媒介性組換えは、2つのLoxP配列の間に位置するDNA配列が共有結合で閉じた環として切り取るであろう。2つのLoxP配列が同じヌクレオチド配列上で逆方向の位置に配置されている場合、Creリコンビナーゼ媒介性組換えは、2つの配列の間に位置するDNA配列の向きを反転するであろう。2つのLoxP配列が2つの異なるDNA分子上にあり、1つのDNA分子が環状である場合、Creリコンビナーゼ媒介性組換えにより、環状DNA配列の組み込みをもたらすであろう。
【0144】
用語「一致RRS」とは、2つのRRS間で組換えが起こることを示す。特定の実施形態では、2つの一致RRSは同じである。特定の実施形態では、どちらのRRSも、野生型LoxP配列である。特定の実施形態では、どちらのRRSも、変異体LoxP配列である。特定の実施形態では、どちらのRRSも、野生型FRT配列である。特定の実施形態では、どちらのRRSも、変異体FRT配列である。特定の実施形態では、2つの一致RRSは、異なる配列であるが、同じリコンビナーゼによって認識され得る。特定の実施形態では、第1の一致RRSはBxb1 attP配列であり、第2の一致RRSはBxb1 attB配列である。特定の実施形態では、第1の一致RRSはφC31 attB配列であり、第2の一致RRSはφC31 attB配列である。
【0145】
「2プラスミドRMCE」戦略又は「二重RMCE」は、2つのベクターの組み合わせを使用する場合、本発明による方法で用いられる。例えば、限定されるものではないが、組み込まれたランディング部位は、3つのRRS、例えば、第3のRRS(「RRS3」)が第1のRRS(「RRS1」)と第2のRRS(「RRS2」)の間に存在する並びを含むことができ、第1のベクターは、組み込まれた外因性ヌクレオチド配列上の第1のRRS及び第3のRRSと一致する2つのRRSを含み、第2のベクターは、組み込まれた外因性ヌクレオチド配列上の第3のRRS及び第2のRRSと一致する2つのRRSを含む。
【0146】
2プラスミドRMCE戦略では、3つのRRS部位を使用して、2つの独立したRMCEを同時に実行することを含む。したがって、2プラスミドRMCE戦略を用いる哺乳動物TI宿主細胞のランディング部位は、第1のRRS部位(RRS1)に対しても第2のRRS部位(RRS2)に対しても交差活性を有していない第3のRRS部位(RRS3)を含む。標的化される2つのプラスミドは、効率的な標的指向のために同じ隣接RRS部位を必要とし、一方のプラスミド(フロント)にはRRS1及びRRS3が隣接し、他方(バック)にはRRS3及びRRS2が隣接している。さらに、2プラスミドRMCEでは、2つの選択マーカーも必要とされる。1つの選択マーカー発現カセットは、2つの部分に分割された。フロントプラスミドは、プロモーターとそれに続く開始コドン及びRRS3配列を含む。バックプラスミドは、開始コドン(ATG)を欠き、選択マーカーコード化領域のN末端に融合されたRRS3配列を有する。融合タンパク質のインフレーム翻訳、すなわち動作可能な連結を確実にするために、RRS3部位と選択マーカー配列の間に付加的なヌクレオチドを挿入する必要がある場合がある。両方のプラスミドが正確に挿入された場合にのみ、選択マーカーの完全な発現カセットが組み立てられ、したがって、各選択剤に対する耐性が細胞に与えられる。
【0147】
2プラスミドRMCEは、リコンビナーゼによって触媒される、標的ゲノム遺伝子座内の2つの異種特異的RRSとドナーDNA分子の間の二重組換えクロスオーバー事象を伴う。2プラスミドRMCEは、フロントベクター及びバックベクターに由来する組み合わせられたDNA配列のコピーを、哺乳動物TI宿主細胞ゲノムの予め定められた遺伝子座に導入するように設計されている。RMCEは、原核生物ベクターの配列が哺乳動物TI宿主細胞ゲノム中に導入されず、したがって、宿主の免疫又は防御機構の望まれない誘発を低減させ、及び/又は防ぐように、実行することができる。RMCE手順は、複数のDNA配列を用いて繰り返すことができる。
【0148】
特定の実施形態では、標的指向性組込みは、2回のRMCEによって実現され、その際、2つの異なるDNA配列が両方とも、哺乳動物TI宿主細胞に一致するRRSのゲノムのあらかじめ定められた部位に組み込まれ、各DNA配列は、ヘテロ多量体ポリペプチドの一部分及び/又は2つの異種特異的RRSが隣接する少なくとも1つの選択マーカー若しくはその一部分をコードする、少なくとも1つの発現カセットを含む。特定の実施形態では、標的指向性組込みは、複数回のRMCEによって実現され、その際、複数のベクターに由来するDNA配列がすべて、哺乳動物TI宿主細胞のゲノムのあらかじめ定められた部位に組み込まれ、各DNA配列は、ヘテロ多量体ポリペプチドの一部分及び/又は2つの異種特異的RRSが隣接する少なくとも1つの選択マーカー若しくはその一部分をコードする、少なくとも1つの発現カセットを含む。特定の実施形態では、選択マーカーは、一部が第1のベクターにおいてコードされ、一部が第2のベクターにおいてコードされてよく、その結果、二重RMCEによって両方が正確に組み込まれた場合にのみ、その選択マーカーの発現が可能になる。
【0149】
特定の実施形態では、リコンビナーゼに媒介された組換えによる標的指向性組込みにより、原核生物ベクターに由来する配列を含まずに、宿主細胞ゲノムの1つ又は複数のあらかじめ定められた組込み部位に、選択マーカー及び/又は多量体ポリペプチドの様々な発現カセットが組み込まれる。
【0150】
特定の実施形態のように、ノックアウトは、異種ポリペプチドをコードする外来性核酸の導入前又はその後のいずれでも実施できることが指摘されなければならない。
【0151】
VI.本発明による組成物及び方法
異種ポリペプチドを発現する組換え哺乳動物細胞を生成するための方法及び前記組換え哺乳動物細胞を使用して異種ポリペプチドを生産するための方法が本明細書において報告され、組換え哺乳動物細胞において、MYC、STK11、SMAD4、PPP2CB、RBM38、NF1、CDK12、SIN3A、PARP-1、ATM、Hipk2、BARD1、HIF1AN、SMAD3、PALB2、FUBP1、RBL2、RPS6KA3、GPS2、ETS1、E2F5、CDKN1A、RNF43、EEF2K、AKT1、BRCA1、ATR、SMAD2、BAD、FOXO1、PBRM1、NRAS、BRCA2、NOTCH1、CREBBP、及びRBX1からなる群からの遺伝子の少なくとも1つの活性/機能/発現は、低減/除去/減少/(完全に)ノックアウトされている。
【0152】
本発明は、少なくとも部分的には、哺乳動物細胞、例えばCHO細胞における、MYC、STK11、SMAD4、PPP2CB、RBM38、NF1、CDK12、SIN3A、PARP-1、ATM、Hipk2、BARD1、HIF1AN、SMAD3、PALB2、FUBP1、RBL2、RPS6KA3、GPS2、ETS1、E2F5、CDKN1A、RNF43、EEF2K、AKT1、BRCA1、ATR、SMAD2、BAD、FOXO1、PBRM1、NRAS、BRCA2、NOTCH1、CREBBP、及びRBX1からなる群からの遺伝子の少なくとも1つのノックアウトが、標準的なIgG型抗体の、特に複雑な抗体フォーマットの組換え生産性を改善するという知見に基づく。
【0153】
本発明は、例示的な細胞株及び例示的な異種ポリペプチドを使用して以下に例示される。しかしながら、異種ポリペプチド発現に適した任意の細胞を使用することができる。本発明は、CRISPR-Cas9媒介性遺伝子ノックアウトを使用してさらに例示される。しかし、標的遺伝子を低減又は破壊するための任意の方法又は技術、例えばRNAi、ジンクフィンガー又はTALENタンパク質を使用してもよい。したがって、このすべては、本発明の基礎となる一般的な概念の単なる例示として提示されており、その限定として解釈されるべきではない。本発明の真の範囲は、添付の特許請求の範囲に記載されている。
【0154】
例示的な細胞株として、以前に作製され、大規模治療用タンパク質産生に適した性能を有するCHO細胞株を使用した(例えば、国際公開第2019/126634号を参照)。
【0155】
異なる個々の遺伝子ノックアウト(KO)を2つの抗体産生CHO細胞株に導入した。一方の細胞株は抗PD1抗体-IL2v融合物を産生し、他方は抗FAP抗体-CD137融合物を産生した。
【0156】
ノックアウトを、CRISPR-Cas9を使用して作製した。CRISPR-Cas9媒介性遺伝子ノックアウトのために、3つの異なるgRNAを使用したそれぞれの遺伝子のコード配列(CDS)内の3つの異なる部位を、多重リボ核タンパク質送達を使用して同時に標的化した。多重リボ核タンパク質送達は、一般的なプラスミドベースのCRISPR-Cas9編集と比較して、より高い遺伝子編集有効性及び特異性を示す。遺伝子標的部位での二本鎖切断はインデル形成を誘導し、又は多重化されたgRNA使用に起因して、エクソンの欠失も、標的タンパク質のCDSのフレームシフトをもたらす。
【0157】
以下の遺伝子を個々にノックアウトした:
MYC、STK11、SMAD4、PPP2CB、RBM38、NF1、CDK12、SIN3A、PARP-1、ATM、HIPK2、BARD1、HIF1AN、SMAD3、LATS2、NF2、PALB2、TP73、FUBP1、NR3C1、PIK3R1、PTCH1、APC、TRPV4、PML、RPS6KA3、RBP2、EGLN2、MAPK14、GPS2、ETS1、E2F5、JUN、p53、CDKN2D、LATS1、NFKBIA、GSK3B、CDKN1A、CDKN2A、RNF43、HTATIP2、EEF2K、RBP1、BNIP3、AKT1、HIF1A、EPHA2、KEAP1、MAPK8IP3、ERK1/MAPK3、ERK2/MAPK1、E2F1、CDKN1C、NUPR1、CAMK1、BAP1、CHK2、CDKN2C、BRCA1、RASA1、RIPK3、EGLN3、ERK5/MAPK7、RPS6KA5、MAPK9、CDKN1B、MXI1、PRKAG2、ATR、SMAD2、FOXO3、BAD、EIF4EBP1、E2F7、FOXO1、CTNNB1、PBRM1、NRAS、BRCA2、NOTCH1、AJUBA、MAPK8、FBXW7、EGLN1、RIPK1、VHL、CREBBP、CHK1、RBX1、CUL3、WEE1。
【0158】
抗体の生産性及び増殖に対するそれぞれのノックアウトの影響を示すために、4日間のバッチ培養を行った(実施例7参照)。CRISPR-Cas9オンターゲット効率の対照及び非標的対照を含めた。発酵プロセスで使用される細胞密度は着実に増加する。結果を以下の表に示す。
-:発現なし/結果なし
【0159】
CHK1及びWEE1ノックアウトによって分かるように、タンパク質発現に関連すると予測される遺伝子の改変が正又は負の効果をもたらすかどうかは予測できず、すなわち、これら2つの場合のように細胞分裂の停止など、意図された反対の効果をもたらし得る。
【0160】
4日間のバッチ発酵プロセスでは、未改変の細胞プール又はクローンと比較して異なる複合抗体フォーマットを発現するMYC KO細胞プールについて、少なくとも5%及び最大49%又はさらには99%の生産性の増加、すなわち生産性のほぼ倍増が得られた。これらの細胞プールは、未編集、ホモ接合性及びヘテロ接合性のMYC遺伝子座を含有する細胞の混合物を含むことを指摘しなければならない。したがって、単離されたクローンで得られる改善はさらに高いであろう。
【0161】
MYC遺伝子不活性化について得られた結果を、14日間の高細胞密度フェドバッチ培養で確認した(実施例9参照)。結果を以下の表に示す。
【0162】
試験した80を超えるノックアウトに関するデータは、生産性に対する遺伝子ノックアウトの予測不能性を示している。見られ得るように、ノックアウトの40%のみが生産性の増加をもたらしたのに対して、他の残りは、細胞増殖又は生産性に対する影響を何ら示さなかったか、又は有害な影響を示した。いくつかのノックアウトは細胞にとって致死的であり、細胞死又は細胞増殖なし/低増殖をもたらした。
【0163】
MYC遺伝子ノックアウトは、両方の細胞株において生産性に最も大きな影響を及ぼした。MYCノックアウト細胞プール内のPCR増幅MYC遺伝子座のシーケンシングにより、第1のgRNA結合部位でのシーケンシング反応の突然の中断が明らかになった。この理論に束縛されるものではないが、結果として、標的遺伝子のコードされたタンパク質の発現は、その後、発現レベルが実質的に低減又は破壊される。
【0164】
MYCノックアウトの効果は、以下の表に示すように、様々な異なるタンパク質で確認されている。
【0165】
MYC遺伝子ノックアウトに加えて、遺伝子STK11、SMAD4、PPP2CB、RBM38、NF1、CDK12、SIN3A、PARP-1、ATM、Hipk2、BARD1、HIF1AN、SMAD3、PALB2、FUBP1、RBL2、RPS6KA3、GPS2、ETS1、E2F5、CDKN1A、RNF43、EEF2K、AKT1、BRCA1、ATR、SMAD2、BAD、FOXO1、PBRM1、NRAS、BRCA2、NOTCH1、CREBBP、及びRBX1のノックアウトは、異種抗体の発現の増加をもたらした。
【0166】
蒸気に列挙した遺伝子のいずれか1つの活性/発現のノックアウトは、異種ポリペプチドの産生のために使用される真核細胞において、特に、組換えポリペプチド、特に抗体を産生するために使用されるか、又は使用されることが意図されている組換えCHO細胞において、より具体的には、標的指向性組込み組換えCHO細胞において有利である。ノックアウトにより、生産性が大幅に向上する。これは、個々のフェドバッチ培養から得ることのできる産物の高収率をもたらすことから、いかなる大規模生産工程にとっても経済的に非常に重要である。
【0167】
蒸気に列挙した遺伝子のノックアウトはCHO細胞に限定されるものではなく、HEK293細胞、CAP細胞、及びBHK細胞のような他の宿主細胞株においても使用することができる。
【0168】
遺伝子の活性/発現をノックアウトするために、CRISPR/Cas9技術が使用されている。同様に、ジンクフィンガーヌクレアーゼ又はTALENなどの他の技術を使用することができる。さらに、siRNA/shRNA/miRNAなどのRNAサイレンシング種を用いて、mRNAレベルをノックダウンし、その結果、遺伝子の活性/発現をノックダウンすることができる。
【0169】
この理論に束縛されることなく、ホモ接合性ノックアウトは、ヘテロ接合性ノックアウトよりも生産性の増加に有利な効果を有すると仮定される。
【0170】
本発明は、少なくとも部分的には、哺乳動物細胞、例えばCHO細胞における、MYC、STK11、SMAD4、PPP2CB、RBM38、NF1、CDK12、SIN3A、PARP-1、ATM、Hipk2、BARD1、HIF1AN、SMAD3、PALB2、FUBP1、RBL2、RPS6KA3、GPS2、ETS1、E2F5、CDKN1A、RNF43、EEF2K、AKT1、BRCA1、ATR、SMAD2、BAD、FOXO1、PBRM1、NRAS、BRCA2、NOTCH1、CREBBP、及びRBX1からなる遺伝子群からの少なくとも1つの遺伝子の機能的ノックアウトが、特に複雑な抗体フォーマットの組換え生産性を改善するという知見に基づく。
【0171】
本発明は以下に要約される:
本発明の1つの独立した態様は、MYC、STK11、SMAD4、PPP2CB、RBM38、NF1、CDK12、SIN3A、PARP-1、ATM、Hipk2、BARD1、HIF1AN、SMAD3、PALB2、FUBP1、RBL2、RPS6KA3、GPS2、ETS1、E2F5、CDKN1A、RNF43、EEF2K、AKT1、BRCA1、ATR、SMAD2、BAD、FOXO1、PBRM1、NRAS、BRCA2、NOTCH1、CREBBP、及びRBX1からなる遺伝子群から選択される少なくとも1つの内因性遺伝子の活性又は/及び機能又は/及び発現が低減されている、又は除去されている、又は減少している、又は(完全に)ノックアウトされている哺乳動物細胞である。
【0172】
本発明の1つの独立した態様は哺乳動物細胞であり、MYC、STK11、SMAD4、PPP2CB、RBM38、NF1、CDK12、SIN3A、PARP-1、ATM、Hipk2、BARD1、HIF1AN、SMAD3、PALB2、FUBP1、RBL2、RPS6KA3、GPS2、ETS1、E2F5、CDKN1A、RNF43、EEF2K、AKT1、BRCA1、ATR、SMAD2、BAD、FOXO1、PBRM1、NRAS、BRCA2、NOTCH1、CREBBP、及びRBX1からなる遺伝子群から選択される少なくとも1つの内因性遺伝子の発現が低減されており、前記哺乳動物は、同じ条件下で培養された、同一の遺伝子型を有するがMYC、STK11、SMAD4、PPP2CB、RBM38、NF1、CDK12、SIN3A、PARP-1、ATM、Hipk2、BARD1、HIF1AN、SMAD3、PALB2、FUBP1、RBL2、RPS6KA3、GPS2、ETS1、E2F5、CDKN1A、RNF43、EEF2K、AKT1、BRCA1、ATR、SMAD2、BAD、FOXO1、PBRM1、NRAS、BRCA2、NOTCH1、CREBBP、及びRBX1からなる遺伝子群から選択される前記少なくとも1つの内因性遺伝子のそれぞれの内因性遺伝子発現を有する細胞と比較して、異種ポリペプチドの生産性が増加している。
【0173】
本発明の1つの独立した態様は、MYC、STK11、SMAD4、PPP2CB、RBM38、NF1、CDK12、SIN3A、PARP-1、ATM、Hipk2、BARD1、HIF1AN、SMAD3、PALB2、FUBP1、RBL2、RPS6KA3、GPS2、ETS1、E2F5、CDKN1A、RNF43、EEF2K、AKT1、BRCA1、ATR、SMAD2、BAD、FOXO1、PBRM1、NRAS、BRCA2、NOTCH1、CREBBP、及びRBX1からなる遺伝子群から選択される少なくとも1つの内因性遺伝子の低減された発現を有し、外因性核酸、すなわち前記異種ポリペプチドをコードする導入遺伝子を含む、組換え哺乳動物細胞の異種ポリペプチド力価を、同じ条件下で培養された、同一の遺伝子型を有するがMYC、STK11、SMAD4、PPP2CB、RBM38、NF1、CDK12、SIN3A、PARP-1、ATM、Hipk2、BARD1、HIF1AN、SMAD3、PALB2、FUBP1、RBL2、RPS6KA3、GPS2、ETS1、E2F5、CDKN1A、RNF43、EEF2K、AKT1、BRCA1、ATR、SMAD2、BAD、FOXO1、PBRM1、NRAS、BRCA2、NOTCH1、CREBBP、及びRBX1からなる遺伝子群から選択される前記少なくとも1つの内因性遺伝子の内因性遺伝子発現を有する細胞と比較して、増加させるための方法である。
【0174】
本発明の1つの独立した態様は、改善された組換え生産性を有する組換え哺乳動物細胞を生産するための方法であって、該方法は、以下の工程:
a)哺乳動物細胞においてMYC、STK11、SMAD4、PPP2CB、RBM38、NF1、CDK12、SIN3A、PARP-1、ATM、Hipk2、BARD1、HIF1AN、SMAD3、PALB2、FUBP1、RBL2、RPS6KA3、GPS2、ETS1、E2F5、CDKN1A、RNF43、EEF2K、AKT1、BRCA1、ATR、SMAD2、BAD、FOXO1、PBRM1、NRAS、BRCA2、NOTCH1、CREBBP、及びRBX1からなる遺伝子群から選択される少なくとも1つの内因性遺伝子を標的とするヌクレアーゼ支援及び/又は核酸を適用して、前記内因性遺伝子の活性を低減させる工程、及び
b)内因性遺伝子の活性が低減されている哺乳動物細胞を選択する工程
を含み、
それによって、同じ条件下で培養された、同一の遺伝子型を有するがMYC、STK11、SMAD4、PPP2CB、RBM38、NF1、CDK12、SIN3A、PARP-1、ATM、Hipk2、BARD1、HIF1AN、SMAD3、PALB2、FUBP1、RBL2、RPS6KA3、GPS2、ETS1、E2F5、CDKN1A、RNF43、EEF2K、AKT1、BRCA1、ATR、SMAD2、BAD、FOXO1、PBRM1、NRAS、BRCA2、NOTCH1、CREBBP、及びRBX1からなる遺伝子群から選択される前記少なくとも1つの内因性遺伝子の内因性遺伝子発現を有する細胞と比較して、組換え生産性が増加した組換え哺乳動物細胞を生産する。
【0175】
本発明の1つの独立した態様は、異種ポリペプチドを製造するための方法であって、以下の工程:
a)異種ポリペプチドをコードする外因性デオキシリボ核酸を含む組換え哺乳動物細胞を、任意に異種ポリペプチドの発現に適した条件下で培養する工程、及び
b)細胞又は培養培地から異種ポリペプチドを回収する工程
を含み、
前記哺乳動物細胞において、MYC、STK11、SMAD4、PPP2CB、RBM38、NF1、CDK12、SIN3A、PARP-1、ATM、Hipk2、BARD1、HIF1AN、SMAD3、PALB2、FUBP1、RBL2、RPS6KA3、GPS2、ETS1、E2F5、CDKN1A、RNF43、EEF2K、AKT1、BRCA1、ATR、SMAD2、BAD、FOXO1、PBRM1、NRAS、BRCA2、NOTCH1、CREBBP、及びRBX1からなる遺伝子群から選択される少なくとも1つの内因性遺伝子の活性又は/及び機能又は/及び発現は、低減されている、又は除去されている、又は減少している、又は(完全に)ノックアウトされている。
【0176】
本発明の別の独立した態様は、改善された及び/又は増加した組換え生産性を有する(having/with)組換え哺乳動物細胞を生産するための方法であって、該方法は、以下の工程:
a)MYC、STK11、SMAD4、PPP2CB、RBM38、NF1、CDK12、SIN3A、PARP-1、ATM、Hipk2、BARD1、HIF1AN、SMAD3、PALB2、FUBP1、RBL2、RPS6KA3、GPS2、ETS1、E2F5、CDKN1A、RNF43、EEF2K、AKT1、BRCA1、ATR、SMAD2、BAD、FOXO1、PBRM1、NRAS、BRCA2、NOTCH1、CREBBP、及びRBX1からなる遺伝子群から選択される少なくとも1つの内因性遺伝子を標的とする核酸又は酵素又はヌクレアーゼ支援遺伝子ターゲティングシステムを哺乳動物細胞に適用して、前記内因性遺伝子の活性又は/及び機能又は/及び発現を低減させる、又は除去する、又は減少させる、又は(完全に)ノックアウトする工程、及び
b)前記内因性遺伝子の活性又は/及び機能又は/及び発現が低減されている、又は除去されている、又は減少している、又は(完全に)ノックアウトされている哺乳動物細胞を選択する工程
を含み、
それにより、改善された及び/又は増加した組換え生産性を有する(having/with)組換え哺乳動物細胞を生産する、方法である。
【0177】
本発明のすべての態様及び実施形態の1つの従属の実施形態では、哺乳動物細胞は異種ポリペプチドをコードする核酸を含む。
【0178】
本発明のすべての態様及び実施形態の特定の実施形態では、異種ポリペプチドをコードする核酸は、前記哺乳動物細胞において機能するプロモーター配列に作動可能に連結され、前記哺乳動物細胞において機能するポリアデニル化シグナルに作動可能に連結される。特定の実施形態では、哺乳動物細胞は、適切な培養条件下で培養した場合に異種ポリペプチドを分泌する。
【0179】
本発明のすべての態様及び実施形態の特定の実施形態では、MYC、STK11、SMAD4、PPP2CB、RBM38、NF1、CDK12、SIN3A、PARP-1、ATM、Hipk2、BARD1、HIF1AN、SMAD3、PALB2、FUBP1、RBL2、RPS6KA3、GPS2、ETS1、E2F5、CDKN1A、RNF43、EEF2K、AKT1、BRCA1、ATR、SMAD2、BAD、FOXO1、PBRM1、NRAS、BRCA2、NOTCH1、CREBBP、及びRBX1からなる遺伝子群から選択される少なくとも1つの内因性遺伝子のノックアウトは、ヘテロ接合ノックアウト又はホモ接合ノックアウトである。
【0180】
本発明のすべての態様及び実施形態の特定の実施形態において、ノックアウト細胞株の生産性は、同じ遺伝子型を有するがMYC、STK11、SMAD4、PPP2CB、RBM38、NF1、CDK12、SIN3A、PARP-1、ATM、Hipk2、BARD1、HIF1AN、SMAD3、PALB2、FUBP1、RBL2、RPS6KA3、GPS2、ETS1、E2F5、CDKN1A、RNF43、EEF2K、AKT1、BRCA1、ATR、SMAD2、BAD、FOXO1、PBRM1、NRAS、BRCA2、NOTCH1、CREBBP、及びRBX1からなる遺伝子群から選択される前記少なくとも1つの内因性遺伝子が完全に機能的に発現するそれぞれの哺乳動物細胞と比較して、少なくとも5%、好ましくは10%以上、最も好ましい20%以上増加している。
【0181】
本発明のすべての態様及び実施形態の特定の実施形態では、MYC、STK11、SMAD4、PPP2CB、RBM38、NF1、CDK12、SIN3A、PARP-1、ATM、Hipk2、BARD1、HIF1AN、SMAD3、PALB2、FUBP1、RBL2、RPS6KA3、GPS2、ETS1、E2F5、CDKN1A、RNF43、EEF2K、AKT1、BRCA1、ATR、SMAD2、BAD、FOXO1、PBRM1、NRAS、BRCA2、NOTCH1、CREBBP、及びRBX1からなる遺伝子群から選択される少なくとも1つの内因性遺伝子の低減又は除去又は減少又はノックアウトは、ヌクレアーゼ支援遺伝子ターゲティングシステムによって媒介される。特定の実施形態では、ヌクレアーゼ支援遺伝子ターゲティングシステムは、CRISPR/Cas9、CRISPR/Cpf1、ジンクフィンガーヌクレアーゼ及びTALENからなる群から選択される。
【0182】
本発明のすべての態様及び実施形態の特定の実施形態では、MYC、STK11、SMAD4、PPP2CB、RBM38、NF1、CDK12、SIN3A、PARP-1、ATM、Hipk2、BARD1、HIF1AN、SMAD3、PALB2、FUBP1、RBL2、RPS6KA3、GPS2、ETS1、E2F5、CDKN1A、RNF43、EEF2K、AKT1、BRCA1、ATR、SMAD2、BAD、FOXO1、PBRM1、NRAS、BRCA2、NOTCH1、CREBBP、及びRBX1からなる遺伝子群から選択される少なくとも1つの内因性遺伝子の発現の低減は、RNAサイレンシングによって媒介される。特定の実施形態では、RNAサイレンシングは、siRNA遺伝子ターゲティング及びノックダウン、shRNA遺伝子ターゲティング及びノックダウン、並びにmiRNA遺伝子ターゲティング及びノックダウンからなる群から選択される。
【0183】
本発明のすべての態様及び実施形態の特定の実施形態では、MYC、STK11、SMAD4、PPP2CB、RBM38、NF1、CDK12、SIN3A、PARP-1、ATM、Hipk2、BARD1、HIF1AN、SMAD3、PALB2、FUBP1、RBL2、RPS6KA3、GPS2、ETS1、E2F5、CDKN1A、RNF43、EEF2K、AKT1、BRCA1、ATR、SMAD2、BAD、FOXO1、PBRM1、NRAS、BRCA2、NOTCH1、CREBBP、及びRBX1からなる遺伝子群から選択される少なくとも1つの内因性遺伝子のノックアウトは、i)異種ポリペプチドをコードする外来性核酸の導入前、又はii)異種ポリペプチドをコードする外来性核酸の導入後に行われる。
【0184】
本発明のすべての態様及び実施形態の特定の実施形態では、異種ポリペプチドは抗体である。特定の実施形態では、抗体は、2つ以上の異なる結合部位及び任意にドメイン交換を含む抗体である。特定の実施形態では、抗体は、3つ以上の結合部位又はVH/VLペア又はFab断片、及び任意にドメイン交換を含む。特定の実施形態では、抗体は、多重特異性抗体である。
【0185】
本発明のすべての態様及び実施形態の特定の実施形態では、異種ポリペプチドは、多重特異性抗体及び抗体-多量体融合ポリペプチドを含む異種ポリペプチドの群から選択される。特定の実施形態では、異種ポリペプチドは、以下からなる群から選択される:
i)第1のFab断片と第2のFab断片を含むドメイン交換を伴う完全長抗体であって、
第1のFab断片において、
a)第1のFab断片の軽鎖はVL及びCH1ドメインを含み、第1のFab断片の重鎖はVH及びCLドメインを含む;
b)第1のFab断片の軽鎖はVH及びCLドメインを含み、第1のFab断片の重鎖はVL及びCH1ドメインを含む;又は
c)第1のFab断片の軽鎖はVH及びCH1ドメインを含み、第1のFab断片の重鎖はVL及びCLドメインを含む;
及び
第2のFab断片は、VL及びCLドメインを含む軽鎖と、VH及びCH1ドメインを含む重鎖とを含む;
ii)ドメイン交換及び追加の重鎖C末端結合部位を有する完全長抗体であって、
- 完全長抗体軽鎖と完全長抗体重鎖のそれぞれ2対を含む1つの完全長抗体であって、完全長重鎖と完全長軽鎖のそれぞれの対により形成される結合部位が、第1の抗原に特異的に結合する、1つの完全長抗体;
及び
- 1つの追加のFab断断片であって、完全長抗体の1つの重鎖のC末端に融合されており、追加のFab断片の結合部位が第2の抗原に特異的に結合する、1つの追加のFab断断片;を含み、
第2の抗原に特異的に結合する追加のFab断片が、i)a)軽鎖可変ドメイン(VL)と重鎖可変ドメイン(VH)が互いに置き換えられている、又はb)軽鎖定常ドメイン(CL)と重鎖定常ドメイン(CH1)が互いに置き換えられているようなドメインクロスオーバーを含むか、又はii)一本鎖Fab断片である、多重特異性IgG抗体;
iii)第1のエピトープ又は抗原に特異的に結合する第1の結合部位と、第2のエピトープ又は抗原に特異的に結合する第2の結合部位とを含む1アーム一本鎖抗体であって、
- 可変軽鎖ドメイン及び軽鎖カッパ又はラムダ定常ドメインを含む軽鎖;
- 可変軽鎖ドメイン、軽鎖定常ドメイン、ペプチドリンカー、可変重鎖ドメイン、CH1ドメイン、ヒンジ領域、CH2ドメイン、及びノブ変異を有するCH3を含む軽鎖/重鎖の組み合わせ;
- 可変重鎖ドメイン、CH1ドメイン、ヒンジ領域、CH2ドメイン、ホール変異を有するCH3ドメインを含む重鎖
を含む、1アーム一本鎖抗体;
iv)第1のエピトープ又は抗原に特異的に結合する第1の結合部位、及び第2のエピトープ又は抗原に特異的に結合する第2の結合部位を含む、2アーム一本鎖抗体であって、
- 可変軽鎖ドメイン、軽鎖定常ドメイン、ペプチドリンカー、可変重鎖ドメイン、CH1ドメイン、ヒンジ領域、CH2ドメイン、及びホール変異を有するCH3を含む、軽鎖/重鎖の第1の組み合わせ;
- 可変軽鎖ドメイン、軽鎖定常ドメイン、ペプチドリンカー、可変重鎖ドメイン、CH1ドメイン、ヒンジ領域、CH2ドメイン、及びノブ変異を有するCH3ドメインを含む、軽鎖/重鎖の第2の組み合わせ
を含む、2アーム一本鎖抗体;
v)第1のエピトープ又は抗原に特異的に結合する第1の結合部位と、第2のエピトープ又は抗原に特異的に結合する第2の結合部位とを含む、共通軽鎖二重特異性抗体であって、
- 可変軽鎖ドメイン及び軽鎖定常ドメインを含む軽鎖;
- 可変重鎖ドメイン、CH1ドメイン、ヒンジ領域、CH2ドメイン、ホール変異を有するCH3ドメインを含む第1の重鎖;
- 可変重鎖ドメイン、CH1ドメイン、ヒンジ領域、CH2ドメイン、ノブ変異を有するCH3ドメインを含む第2の重鎖
を含む、共通軽鎖二重特異性抗体;
vi)ドメイン交換を伴う追加の重鎖N末端結合部位を有する完全長抗体であって、
- 第1及び第2のFab断片であって、第1及び第2のFab断片の各結合部位が第1の抗原に特異的に結合する、第1及び第2のFab断片;
- 第3のFab断片であって、第3のFab断片の結合部位が第2の抗原に特異的に結合し、第3のFab断片が、可変軽鎖ドメイン(VL)及び可変重鎖ドメイン(VH)が互いに置き換えられるようなドメインクロスオーバーを含む、第3のFab断片;及び
- 第1のFc領域ポリペプチド及び第2のFc領域ポリペプチドを含むFc領域
を含み;
第1のFab断片及び第2のFab断片は、それぞれ、重鎖断片及び完全長軽鎖を含み、
第1のFab断片の重鎖断片のC末端は、第1のFc領域ポリペプチドのN末端に融合されており、
第2のFab断片の重鎖断片のC末端は、第3のFab断片の可変軽鎖ドメインのN末端に融合されており、第3のFab断片のCH1ドメインのC末端は、第2のFc領域ポリペプチドのN末端に融合されている
完全長抗体;
vii)完全長抗体と、任意にペプチドリンカーを介して互いにコンジュゲートした非免疫グロブリン部分とを含むイムノコンジュゲート、
及び
viii)抗体-多量体融合ポリペプチドであって、
(a)抗体重鎖及び抗体軽鎖と、
(b)N末端からC末端に向かって、非抗体多量体ポリペプチドの第1の部分、抗体重鎖CH1ドメイン又は抗体軽鎖定常ドメイン、抗体ヒンジ領域、抗体重鎖CH2ドメイン、及び抗体重鎖CH3ドメインを含む第1の融合ポリペプチドと、N末端からC末端に向かって、非抗体多量体ポリペプチドの第2の部分、及び第1のポリペプチドが抗体重鎖CH1ドメインを含む場合は抗体軽鎖定常ドメイン、又は第1のポリペプチドが抗体軽鎖定常ドメインを含む場合は抗体重鎖CH1ドメインを含む、第2の融合ポリペプチドとを含み、
(i)(a)の抗体重鎖と(b)の第1の融合ポリペプチド、(ii)(a)の抗体重鎖と(a)の抗体軽鎖、及び(iii)(b)の第1の融合ポリペプチドと(b)の第2の融合ポリペプチドが、それぞれ独立して、少なくとも1つのジスルフィド結合によって互いに共有結合しており、
抗体重鎖及び抗体軽鎖の可変ドメインが、抗原に特異的に結合する結合部位を形成する、抗体-多量体融合ポリペプチド。
【0186】
本発明のすべての態様及び実施形態の特定の実施形態では、少なくとも1つの内因性遺伝子は、MYC、STK11、SMAD4、PPP2CB、RBM38、CDK12、PARP-1、ATM、Hipk2、BARD1、及びSMAD3からなる遺伝子群から選択される。特定の実施形態では、少なくとも1つの内因性遺伝子は、MYC、STK11、SMAD4、PPP2CB、RBM38、及びCDK12からなる遺伝子の群から選択される。特定の実施形態では、少なくとも1つの内因性遺伝子は、MYC及びSTK11からなる遺伝子の群から選択される。好ましい一実施形態では、少なくとも1つの内因性遺伝子はMYCである。
【0187】
本発明のすべての態様及び実施形態の特定の実施形態では、異種ポリペプチドは、抗体-多量体融合ポリペプチドであって、
(a)抗体重鎖及び抗体軽鎖と、
(b)N末端からC末端に向かって、非抗体多量体ポリペプチドの第1の部分、抗体重鎖CH1ドメイン又は抗体軽鎖定常ドメイン、抗体ヒンジ領域、抗体重鎖CH2ドメイン、及び抗体重鎖CH3ドメインを含む第1の融合ポリペプチドと、N末端からC末端に向かって、非抗体多量体ポリペプチドの第2の部分、及び第1のポリペプチドが抗体重鎖CH1ドメインを含む場合は抗体軽鎖定常ドメイン、又は第1のポリペプチドが抗体軽鎖定常ドメインを含む場合は抗体重鎖CH1ドメインを含む、第2の融合ポリペプチドとを含み、
(i)(a)の抗体重鎖と(b)の第1の融合ポリペプチド、(ii)(a)の抗体重鎖と(a)の抗体軽鎖、及び(iii)(b)の第1の融合ポリペプチドと(b)の第2の融合ポリペプチドが、それぞれ独立して、少なくとも1つのジスルフィド結合によって互いに共有結合しており、
抗体重鎖及び抗体軽鎖の可変ドメインが、抗原に特異的に結合する結合部位を形成する、抗体-多量体融合ポリペプチドである。
【0188】
特定の実施形態では、少なくとも1つの内因性遺伝子は、MYC、STK11、SMAD4、PPP2CB、RBM38、NF1、CDK12、SIN3A、PARP-1、ATM、Hipk2、BARD1、HIF1AN、SMAD3、及びCDKN1Aからなる遺伝子の群から選択される。特定の実施形態では、少なくとも1つの内因性遺伝子は、MYC、STK11、SMAD4、PPP2CB、RBM38、NF1、及びCDK12からなる遺伝子の群から選択される。特定の実施形態では、少なくとも1つの内因性遺伝子は、MYC、STK11、SMAD4、及びPPP2CBからなる遺伝子の群から選択される。特定の実施形態では、少なくとも1つの内因性遺伝子はMYCである。特定の実施形態では、第1の融合ポリペプチドは、非抗体多量体ポリペプチドの第1の部分として、ペプチドリンカーによって互いに接続されたTNFリガンドファミリーメンバーの2つの外部ドメイン又はその断片を含み、第2の融合ポリペプチドは、非抗体多量体ポリペプチドの第2部分として、TNFリガンドファミリーメンバーの1つの外部ドメイン又はその断片のみを含むか、又はその逆である。特定の実施形態では、第1の融合ポリペプチドは、N末端からC末端に向かって、非抗体多量体ポリペプチドの第1の部分、抗体軽鎖定常ドメイン、抗体ヒンジ領域、抗体重鎖CH2ドメイン、及び抗体重鎖CH3ドメインを含み、第2の融合ポリペプチドは、N末端からC末端に向かって、非抗体多量体ポリペプチドの第2の部分、及び抗体重鎖CH1ドメインを含む。特定の実施形態では、非抗体多量体ポリペプチドの部分に隣り合うCLドメインにおいて、位置123のアミノ酸(Kabat EUナンバリング)がアルギニン(R)によって置き換えられ、かつ位置124のアミノ酸(Kabat EUナンバリング)がリジン(K)によって置換されており、非抗体多量体ポリペプチドの部分に隣り合うCH1ドメインにおいて、位置147のアミノ酸(Kabat EUナンバリング)及び位置213のアミノ酸(Kabat EUナンバリング)がグルタミン酸(E)によって置換されている。特定の実施形態では、抗体重鎖及び抗体軽鎖の可変ドメインが、線維芽細胞活性化タンパク質(FAP)、メラノーマ関連コンドロイチン硫酸プロテオグリカン(MCSP)、上皮成長因子受容体(EGFR)、癌胎児性抗原(CEA)、CD19、CD20及びCD33からなる群から選択される細胞表面抗原に特異的に結合する結合部位を形成する。特定の実施形態では、TNFリガンドファミリーメンバーは、ヒトT細胞活性化を共刺激する。特定の実施形態では、TNFリガンドファミリーメンバーは、4-1BBL及びOX40Lから選択される。特定の実施形態では、TNFリガンドファミリーメンバーは4-1BBLであり、細胞表面抗原はFAPである。
【0189】
本発明のすべての態様及び実施形態の特定の実施形態では、異種ポリペプチドは、二価の単特異的又は二重特異的完全長抗体及び非免疫グロブリン部分を含む融合ポリペプチドであり、抗体は、任意にペプチドリンカーを介して抗体の重鎖又は軽鎖の一方の単末端で非免疫グロブリン部分にコンジュゲートされる。特定の実施形態では、少なくとも1つの内因性遺伝子は、MYC、STK11、SMAD4、PPP2CB、RBM38、CDK12、PARP-1、ATM、Hipk2、BARD1、SMAD3、PALB2、FUBP1、RBL2、RPS6KA3、GPS2、ETS1、E2F5、CDKN1A、RNF43、EEF2K、AKT1、BRCA1、ATR、SMAD2、BAD、FOXO1、PBRM1、NRAS、BRCA2、NOTCH1、CREBBP、及びRBX1からなる遺伝子群から選択される。特定の実施形態では、少なくとも1つの内因性遺伝子は、MYC、STK11、SMAD4、PPP2CB、RBM38、CDK12、PARP-1、BARD1、ETS1、E2F5、RNF43、EEF2K、AKT1、BRCA1、BAD、FOXO1、PBRM1、BRCA2、NOTCH1、及びCREBBPからなる遺伝子群から選択される。特定の実施形態では、少なくとも1つの内因性遺伝子は、MYC、STK11、及びCDK12からなる遺伝子の群から選択される。特定の実施形態では、少なくとも1つの内因性遺伝子はMYCである。特定の実施形態では、異種ポリペプチドが、インターロイキン-2にコンジュゲートした抗PD-1抗体である。特定の実施形態では、インターロイキン-2は、望ましくないCD25媒介毒性及びTreg増殖を回避するために、IL-2Ra(CD25)への結合が消失した操作されたIL2v部分である。
【0190】
本発明のすべての態様及び実施形態の特定の実施形態では、哺乳動物細胞はCHO細胞又はHEK細胞である。特定の実施形態において、哺乳動物細胞はCHO-K1細胞である。特定の実施形態では、哺乳動物細胞は、懸濁増殖哺乳動物細胞である。
【0191】
本発明の別の独立した態様は、異種ポリペプチドをコードするデオキシリボ核酸を含みかつ異種ポリペプチドを分泌する組換え哺乳動物細胞を製造するための方法であって、以下:
a)哺乳動物細胞のゲノムの遺伝子座内の単一部位に組み込まれた外因性ヌクレオチド配列を含む哺乳動物細胞を提供する工程であって、外因性ヌクレオチド配列が、少なくとも1つの第1の選択マーカーに隣接する第1及び第2の組換え認識配列、並びに第1及び第2の組換え認識配列の間に位置する第3の組換え認識配列を含み、すべての組換え認識配列が異なり、MYC、STK11、SMAD4、PPP2CB、RBM38、NF1、CDK12、SIN3A、PARP-1、ATM、Hipk2、BARD1、HIF1AN、SMAD3、PALB2、FUBP1、RBL2、RPS6KA3、GPS2、ETS1、E2F5、CDKN1A、RNF43、EEF2K、AKT1、BRCA1、ATR、SMAD2、BAD、FOXO1、PBRM1、NRAS、BRCA2、NOTCH1、CREBBP、及びRBX1からなる遺伝子群から選択される少なくとも1つの内因性遺伝子の活性/発現/機能が低減/除去/ノックアウトされている、外因性ヌクレオチド配列を含む哺乳動物細胞を提供する工程;
b)a)で提供された細胞に、3つの異なる組換え認識配列及び異種ポリペプチドのポリペプチドのための1~8個の発現カセットを含む2つのデオキシリボ核酸の組成物を導入する工程であって、
第1のデオキシリボ核酸が5’から3’の方向に、
- 第1の組換え認識配列、
- 1つ又は複数の発現カセット、
- 1つの第2の選択マーカーをコードする発現カセットの5’末端部分、及び
- 第3の組換え認識配列の第1のコピー、を含み、
及び
第2のデオキシリボ核酸が5’から3’の方向に、
- 第3の組換え認識配列の第2のコピー、
- 1つの第2の選択マーカーをコードする発現カセットの3’末端部分、
- 1つ又は複数の発現カセット、及び
- 第2の組換え認識配列、を含み、
第1及び第2のデオキシリボ核酸の第1~第3の組換え認識配列は、組み込まれる外因性ヌクレオチド配列上の第1~第3の組換え認識配列と一致しており、
1つの第2の選択マーカーをコードする発現カセットの5’末端部分及び3’末端部分が、まとまると、1つの第2の選択マーカーの機能的発現カセットを形成する、2つのデオキシリボ核酸の組成物を導入する工程;
c)
i)b)の第1及び第2のデオキシリボ核酸と同時に;又は
ii)その後に逐次的に、
1つ又は複数のリコンビナーゼを導入する工程であって、
1つ又は複数のリコンビナーゼが、第1及び第2のデオキシリボ核酸の組換え認識配列を認識し;(かつ、任意に、1つ又は複数のリコンビナーゼが、2リコンビナーゼ媒介カセット交換を行う)、リコンビナーゼを導入する工程、
及び
d)第2の選択マーカーを発現し、異種ポリペプチドを分泌する細胞を選択する工程、を含み、
それにより、異種ポリペプチドをコードするデオキシリボ核酸を含みかつ異種ポリペプチドを分泌する組換え哺乳動物細胞を製造する、方法である。
【0192】
本発明の別の独立した態様は、異種ポリペプチドをコードするデオキシリボ核酸を含みかつ異種ポリペプチドを分泌する組換え哺乳動物細胞を製造するための方法であって、以下:
a)哺乳動物細胞のゲノムの遺伝子座内の単一の部位に組み込まれる外因性ヌクレオチド配列を含む哺乳動物細胞を提供する工程であって、外因性ヌクレオチド配列が、少なくとも1つの第1の選択マーカーに隣接する第1及び第2の組換え認識配列、並びに第1と第2の組換え認識配列との間に位置する第3の組換え認識配列を含み、かつ組換え認識配列がすべて異なっている、外因性ヌクレオチド配列を含む哺乳動物細胞を提供する工程;
b)a)で提供された細胞に、3つの異なる組換え認識配列及び異種ポリペプチドのポリペプチドのための1~8個の発現カセットを含む2つのデオキシリボ核酸の組成物を導入する工程であって、
第1のデオキシリボ核酸が5’から3’の方向に、
- 第1の組換え認識配列、
- 1つ又は複数の発現カセット、
- 1つの第2の選択マーカーをコードする発現カセットの5’末端部分、及び
- 第3の組換え認識配列の第1のコピー、を含み、
及び
第2のデオキシリボ核酸が5’から3’の方向に、
- 第3の組換え認識配列の第2のコピー、
- 1つの第2の選択マーカーをコードする発現カセットの3’末端部分、
- 1つ又は複数の発現カセット、及び
- 第2の組換え認識配列、を含み、
第1及び第2のデオキシリボ核酸の第1~第3の組換え認識配列は、組み込まれる外因性ヌクレオチド配列上の第1~第3の組換え認識配列と一致しており、
1つの第2の選択マーカーをコードする発現カセットの5’末端部分及び3’末端部分が、まとまると、1つの第2の選択マーカーの機能的発現カセットを形成する、2つのデオキシリボ核酸の組成物を導入する工程;
c)1つ又は複数のリコンビナーゼを、
i)b)の第1及び第2のデオキシリボ核酸と同時に;又は
ii)その後に逐次的に、
1つ又は複数のリコンビナーゼを導入する工程であって、
1つ又は複数のリコンビナーゼが、第1及び第2のデオキシリボ核酸の組換え認識配列を認識し;(かつ、任意に、1つ又は複数のリコンビナーゼが、2リコンビナーゼ媒介カセット交換を行う)、リコンビナーゼを導入する工程、
d)任意に、第2の選択マーカーを発現し、異種ポリペプチドを分泌する細胞を選択する工程、
e)MYC、STK11、SMAD4、PPP2CB、RBM38、NF1、CDK12、SIN3A、PARP-1、ATM、Hipk2、BARD1、HIF1AN、SMAD3、PALB2、FUBP1、RBL2、RPS6KA3、GPS2、ETS1、E2F5、CDKN1A、RNF43、EEF2K、AKT1、BRCA1、ATR、SMAD2、BAD、FOXO1、PBRM1、NRAS、BRCA2、NOTCH1、CREBBP、及びRBX1からなる遺伝子群から選択される少なくとも1つの内因性遺伝子の活性/発現/機能を、低減/除去/ノックアウトする工程;
及び
f)任意に、工程d)の力価よりも高い力価で、異種ポリペプチドを発現及び分泌する細胞を選択する工程、を含み、
それにより、異種ポリペプチドをコードするデオキシリボ核酸を含みかつ異種ポリペプチドを分泌する組換え哺乳動物細胞を製造する、方法である。
【0193】
本発明のすべての態様及び実施形態の特定の実施形態では、リコンビナーゼはCreリコンビナーゼである。
【0194】
本発明のすべての態様及び実施形態の特定の実施形態では、デオキシリボ核酸は、哺乳動物細胞のゲノムの単一の部位又は遺伝子座に安定に組み込まれる。
【0195】
本発明の全ての態様及び実施形態の特定の実施形態では、異種ポリペプチドをコードするデオキシリボ核酸は、少なくとも4つの発現カセットを含み、
- 第1の組換え認識配列が、最も5’の(すなわち、第1の)発現カセットに対して5’に位置し、
- 第2の組換え認識配列が、最も3’の発現カセットに対して3’に位置し、
- 第3の組換え認識配列が、
- 第1の組換え認識配列と第2の組換え認識配列の間、かつ
- 2つの発現カセットの間に位置し、
及び
すべての組換え認識配列は異なる。
【0196】
本発明の全ての態様及び実施形態の特定の実施形態では、第3の組換え認識配列は、第4の発現カセットと第5の発現カセットの間に位置する。
【0197】
本発明の全ての態様及び実施形態の特定の実施形態では、異種ポリペプチドをコードするデオキシリボ核酸は、選択マーカーをコードする発現カセットをさらに含む。
【0198】
本発明の全ての態様及び実施形態の特定の実施形態において、異種ポリペプチドをコードするデオキシリボ核酸は、選択マーカーをコードするさらなる発現カセットを含み、選択マーカーをコードする発現カセットは、第3の組換え認識配列に対して部分的に5’及び部分的に3’に位置しており、前記発現カセットの、5’に位置する部分は、プロモーター及び開始コドンを含み、前記発現カセットの、3’に位置する部分は、開始コドンのないコード配列及びポリAシグナルを含み、開始コドンはコード配列に作動可能に連結されている。
【0199】
本発明の全ての態様及び実施形態の特定の実施形態では、選択マーカーをコードする発現カセットは、第3の組換え認識配列に対して、
i)5’、又は
ii)3’、又は
iii)部分的に5’及び部分的に3’
に位置している。
【0200】
本発明の全ての態様及び実施形態の特定の実施形態において、選択マーカーをコードする発現カセットは、第3の組換え認識配列に対して部分的に5’及び部分的に3’に位置しており、前記発現カセットの、5’に位置する部分は、プロモーター及び開始コドンを含み、前記発現カセットの、3’に位置する部分は、開始コドンのないコード配列及びポリAシグナルを含む。
【0201】
本発明の全ての態様及び実施形態の特定の実施形態において、選択マーカーをコードする発現カセットの、5’に位置する部分は、開始コドンに作動可能に連結されたプロモーター配列を含み、これにより、プロモーター配列は、上流でそれぞれ第2、第3又は第4の発現カセットに隣接し(すなわち、第2、第3又は第4の発現カセットに対して下流の位置にあり)、開始コドンは、下流で第3の組換え認識配列に隣接し(すなわち、第3の組換え認識配列に対して上流の位置にあり)、かつ、選択マーカーをコードする発現カセットの3’に位置する部分は、開始コドンを欠く選択マーカーをコードする核酸を含み、上流で第3の組換え認識配列に隣接し、下流でそれぞれ第3、第4又は第5の発現カセットに隣接している。
【0202】
本発明のすべての態様及び実施形態の特定の実施形態では、開始コドンは翻訳開始コドンである。特定の実施形態において、開始コドンはATGである。
【0203】
本発明の全ての態様及び実施形態の特定の実施形態において、第1のデオキシリボ核酸は第1のベクターに組み込まれ、第2のデオキシリボ核酸は第2のベクターに組み込まれる。
【0204】
本発明の全ての態様及び実施形態の特定の実施形態において、各発現カセットは、5’から3’の方向に、プロモーター、コード配列、及びポリアデニル化シグナル配列、任意にそれに続くターミネーター配列を含む。
【0205】
本発明の全ての態様及び実施形態の特定の実施形態において、異種ポリペプチドは、二価単一特異性抗体、少なくとも1つのドメイン交換を含む二価の二重特異性抗体、及び少なくとも1つのドメイン交換を含む三価の二重特異性抗体からなるポリペプチドの群から選択される。
【0206】
本発明の全ての態様及び実施形態の特定の実施形態において、リコンビナーゼ認識配列は、L3、2L、及びLoxFasである。特定の実施形態において、L3は配列番号01の配列を有し、2Lは配列番号02の配列を有し、LoxFasは配列番号03の配列を有する。特定の実施形態において、第1のリコンビナーゼ認識配列はL3であり、第2のリコンビナーゼ認識配列は2Lであり、第3のリコンビナーゼ認識配列はLoxFasである。
【0207】
本発明の全ての態様及び実施形態の特定の実施形態において、プロモーターは、イントロンAを含むヒトCMVプロモーターであり、ポリアデニル化シグナル配列は、bGHポリA部位であり、ターミネーター配列は、hGTターミネーターである。
【0208】
本発明の全ての態様及び実施形態の特定の実施形態において、プロモーターがSV40プロモーターでありポリアデニル化シグナル配列がSV40ポリA部位でありターミネーター配列が存在しない、選択マーカー(複数可)の発現カセット(複数可)を除いて、プロモーターは、イントロンAを含むヒトCMVプロモーターであり、ポリアデニル化シグナル配列は、bGHポリA部位であり、ターミネーター配列は、hGTターミネーターである。
【0209】
本発明の全ての態様及び実施形態の特定の実施形態において、ヒトCMVプロモーターは、配列番号04の配列を有する。特定の実施形態において、ヒトCMVプロモーターは、配列番号05の配列を有する。特定の実施形態において、ヒトCMVプロモーターは、配列番号06の配列を有する。
【0210】
本発明の全ての態様及び実施形態の特定の実施形態において、SV40ポリアデニル化シグナル配列は配列番号07である。
【0211】
本発明の全ての態様及び実施形態の特定の実施形態において、bGHポリアデニル化シグナル配列は配列番号08である。
【0212】
本発明の全ての態様及び実施形態の特定の実施形態において、hGTターミネーターは、配列番号09の配列を有する。
【0213】
本発明の全ての態様及び実施形態の特定の実施形態において、SV40プロモーターは配列番号10の配列を有する。
【0214】
以下の実施例、図面及び配列は、本発明の理解を助けるために提供されており、その真の範囲は、添付の特許請求の範囲に記載されている。本発明の思想から逸脱することなく、定められた手順に変更を加えることができると理解される。
【図面の簡単な説明】
【0215】
全ての図面: CHO細胞内の例示的な遺伝子について3つの独立したgRNAを用いて得られたノックアウトの検証。RNPヌクレオフェクションの7日後に得られた、欠失領域にまたがるDNA配列のクロマトグラムを、未改変の親細胞(上部クロマトグラム;「1.WT.ab1」と表記)及びノックアウトを有する細胞(下部クロマトグラム;「2.KO.ab1」と表記)について示す。Sangerシーケンシングを行って、挿入及び欠失事象の位置及び性質を検証した。gRNA及びPAMモチーフの位置は、それぞれ各gRNA配列について示されている。それぞれのガイドの開裂部位は、垂直線によって示されている。公開されたCHOゲノムにおけるゲノム位置:(PICRゲノム);https://www.ncbi.nlm.nih.gov/assembly/GCF_003668045.3/を参照。
図1-1】図1:MYCノックアウトSangerシーケンシング結果;ゲノム位置:RAZU01000002.1:8,114,040-8,118,048。
図1-2】図1-1の説明を参照のこと。
図1-3】図1-1の説明を参照のこと。
図2-1】図2:STK11ノックアウトSangerシーケンシング結果;ゲノム位置:RAZU01000219.1(10540304..10556926)。
図2-2】図2-1の説明を参照のこと。
図2-3】図2-1の説明を参照のこと。
図3-1】図3:PPP2CBノックアウトSangerシーケンシング結果;ゲノム位置:RAZU01000044.1(18735335..18754967)。
図3-2】図3-1の説明を参照のこと。
図4-1】図4:RBM38ノックアウトSangerシーケンシング結果;ゲノム位置RAZU01000236.1(501782..514198)。
図4-2】図4-1の説明を参照のこと。
図4-3】図4-1の説明を参照のこと。
図5-1】図5:NF1ノックアウトSangerシーケンシング結果;ゲノム位置:RAZU01001831.1(12672140..12907880)。
図5-2】図5-1の説明を参照のこと。
図6-1】図6:CDK12ノックアウトSangerシーケンシング結果;ゲノム位置:RAZU01000239.1(886868..960350)。
図6-2】図6-1の説明を参照のこと。
図7-1】図7:SIN3AノックアウトSangerシーケンシング結果;ゲノム位置:RAZU01000166.1(7107379..7169085)。
図7-2】図7-1の説明を参照のこと。
図7-3】図7-1の説明を参照のこと。
図8-1】図8:PARP-1ノックアウトSangerシーケンシング結果;ゲノム位置:RAZU01000210.1(10105791..10139187)。
図8-2】図8-1の説明を参照のこと。
図9-1】図9:ATMノックアウトSangerシーケンシング結果;ゲノム位置:RAZU01000166.1(10510024..10617455)。
図9-2】図9-1の説明を参照のこと。
図10-1】図10:Hipk2ノックアウトSangerシーケンシング結果;ゲノム位置:RAZU01000045.1(12630354..12820847)。
図10-2】図10-1の説明を参照のこと。
図10-3】図10-1の説明を参照のこと。
図11-1】図11:BARD1ノックアウトSangerシーケンシング結果;ゲノム位置:RAZU01000074.1(44502103..44567572)。
図11-2】図11-1の説明を参照のこと。
図11-3】図11-1の説明を参照のこと。
図11-4】図11-1の説明を参照のこと。
図12-1】図12:SMAD3ノックアウトSangerシーケンシング結果;ゲノム位置:RAZU01000166.1(480665..597614)。
図12-2】図12-1の説明を参照のこと。
図12-3】図12-1の説明を参照のこと。
図13-1】図13:CDKN1AノックアウトSangerシーケンシング結果;ゲノム位置:RAZU01000063.1(8736827..8768979)。
図13-2】図13-1の説明を参照のこと。
図13-3】図13-1の説明を参照のこと。
【0216】
配列の説明
配列番号01:L3リコンビナーゼ認識配列の例示的配列
配列番号02:2Lリコンビナーゼ認識配列の例示的配列
配列番号03:LoxFasリコンビナーゼ認識配列の例示的配列
配列番号04~06:ヒトCMVプロモーターの例示的なバリアント
配列番号07:例示的なSV40ポリアデニル化シグナル配列
配列番号08:例示的なbGHポリアデニル化シグナル配列
配列番号09:例示的なhGTターミネーター配列
配列番号10:例示的なSV40プロモーター配列
配列番号11:例示的なGFP核酸配列
配列番号12~14:SIRT-1ガイドRNA
配列番号15~17:MYCガイドRNA
配列番号18~20:STK11ガイドRNA
配列番号21~23:SMAD4ガイドRNA
配列番号24~26:PPP2CBガイドRNA
配列番号27~29:RBM38ガイドRNA
配列番号30~32:NF1ガイドRNA
配列番号33~35:CDK12ガイドRNA
配列番号36~38:SIN3AガイドRNA
配列番号39~41:PARP-1ガイドRNA
配列番号42~44:ATMガイドRNA
配列番号45~47:Hipk2ガイドRNA
配列番号48~50:BARD1ガイドRNA
配列番号51~53:HIF1ANガイドRNA
配列番号54~56:SMAD3ガイドRNA
配列番号57~59:CDKN1AガイドRNA
配列番号60+61:MYC検証プライマーのフォワード及びリバース
配列番号62+63:STK11検証プライマーのフォワード及びリバース
配列番号64+65:SMAD4検証プライマーのフォワード及びリバース
配列番号66+67:PPP2CB検証プライマーのフォワード及びリバース
配列番号68+69:RBM38検証プライマーのフォワード及びリバース
配列番号70+71:NF1検証プライマーのフォワード及びリバース
配列番号72+73:CDK12検証プライマーのフォワード及びリバース
配列番号74+75:SIN3A検証プライマーのフォワード及びリバース
配列番号76+77:PARP-1検証プライマーのフォワード及びリバース
配列番号78+79:ATM検証プライマーのフォワード及びリバース
配列番号80+81:Hipk2検証プライマーのフォワード及びリバース
配列番号82+83:BARD1検証プライマーのフォワード及びリバース
配列番号84+85:HIF1AN検証プライマーのフォワード及びリバース
配列番号86+87:SMAD3検証プライマーのフォワード及びリバース
配列番号88+89:CDKN1A検証プライマーのフォワード及びリバース
【実施例
【0217】
実施例1
一般的な技術
1)組換えDNA技術
Sambrookら、Molecular Cloning:A Laboratory Manual,Second Edition,Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,N.Y,(1989)に記載されているように、標準的な方法を使用してDNAを操作した。分子生物学的試薬は、製造元の説明書に従って使用した。
【0218】
2)DNA配列決定
DNAシーケンシングは、SequiServe GmbH(Vaterstetten、ドイツ)又はEurofins Genomics GmbH(Ebersberg、ドイツ)又はMicrosynth AG(Balgach、スイス)で行った。
【0219】
3)DNA及びタンパク質配列解析及び配列データ管理
EMBOSS(European Molecular Biology Open Software Suite)ソフトウェアパッケージ及びGeneious prime 2019(Auckland,New Zealand)を、配列の作成、マッピング、解析、アノテーション、及び図示のために使用した。
【0220】
4)遺伝子及びオリゴヌクレオチド合成
所望の遺伝子セグメントを、Geneart GmbH(レーゲンスブルク、ドイツ)又はTwist Bioscience(サンフランシスコ、米国)での化学合成によって調製した。合成された遺伝子断片を、増殖/増幅のために大腸菌プラスミドにクローニングした。サブクローニングされた遺伝子断片のDNA配列を、DNA配列決定によって検証した。あるいは、短い合成DNA断片を、化学的に合成されたオリゴヌクレオチドをアニーリングするか、PCRを介して組み立てた。それぞれのオリゴヌクレオチドは、metabion GmbH(Planegg-Martinsried、Germany)によって調製された。
【0221】
5)試薬
特に明記されていない限り、すべての市販の化学物質、抗体、及びキットは、製造元のプロトコルに従って提供されたとおりに使用した。
【0222】
6)TI宿主細胞株の培養
TI CHO宿主細胞を、湿度85%、5%COの加湿インキュベーター内で37℃で培養した。それらを、300μg/mlのハイグロマイシンBと4μg/mlの第2の選択マーカーを含む独自のDMEM/F12ベースの培地で培養した。細胞を3日又は4日ごとに0.3x10E6細胞/mlの濃度で総量30mlに分割した。培養には、125mlの非バッフル三角フラスコを使用した。細胞を150rpmで5cmの振とう振幅で振とうした。細胞数は、Cedex HiRes Cell Counter(Roche)によって決定した。細胞は60日齢に達するまで培養を続けた。
【0223】
7)クローニング
一般
R部位でのクローニングは、目的の遺伝子(GOI)の隣にあるDNA配列に依存し、これは次の断片にある配列と等しい配列である。このように、断片の組立ては、等しい配列の重なりと、それに続く、組み立てられたDNAのニックのDNAリガーゼによる封鎖によって可能になる。したがって、単一遺伝子、特に適切なR部位を含む予備ベクターのクローニングが必要である。これらの予備ベクターのクローニングが成功した後、R部位で挟まれている目的の遺伝子は、R部位のすぐ隣を切断する酵素による制限消化を介して切り出される。最後の工程は、すべてのDNA断片を1つの工程で組み立てることである。より詳細には、5’-エキソヌクレアーゼは重複領域(R部位)の5’末端を除去する。その後、R部位のアニーリングを行なうことができ、DNAポリメラーゼが3’末端を伸長して配列のギャップを埋める。最後に、DNAリガーゼはヌクレオチド間のニックを封鎖する。エキソヌクレアーゼ、DNAポリメラーゼ及びリガーゼのような異なる酵素を含むアセンブリマスターミックスを添加し、その後反応ミックスを50℃でインキュベートすると、単一の断片の1つのプラスミドへの組み立てをもたらす。その後、コンピテント大腸菌細胞をプラスミドで形質転換する。
【0224】
一部のベクターでは、制限酵素を介したクローニング戦略を使用した。適切な制限酵素を選択することにより、望みの目的の遺伝子を切り出し、その後、ライゲーションによって別のベクターに挿入することができる。したがって、マルチクローニングサイト(MCS)で切断する酵素を使用し、スマートな方法で選択して、正しいアレイ内の断片のライゲーションを実行できるようにすることが好ましい。ベクターと断片が以前に同じ制限酵素で切断されている場合、断片とベクターの粘着末端は完全に適合し、その後DNAリガーゼでライゲーションすることができる。ライゲーション後、コンピテント大腸菌細胞を新しく作製されたプラスミドで形質転換する。
【0225】
制限消化によるクローニング:
制限酵素によるプラスミドの消化のために、以下の成分を氷上で一緒にピペッティングした。
【0226】
(表)制限消化反応ミックス
【0227】
1回の消化でより多くの酵素を使用した場合は、各酵素1μlを使用し、PCRグレードの水を多かれ少なかれ加えることで容積を調整した。すべての酵素は、ニューイングランドバイオラボのCutSmartバッファー(100%活性)での使用に適格であり、同じインキュベーション温度(すべて37℃)であるという前提条件で選択された。
【0228】
サーモミキサー又はサーマルサイクラーを使用してインキュベーションを行い、試料を一定温度(37℃)でインキュベートできるようにした。インキュベーション中、試料は攪拌されなかった。インキュベーション時間は60分に設定された。その後、試料をローディング色素と直接混合し、アガロース電気泳動ゲルにロードするか、さらなる使用のために4℃/氷上で保存した。
【0229】
ゲル電気泳動用に1%アガロースゲルを調製した。そのため、1.5gの多目的アガロースを125三角フラスコに量り取り、150mlのTAE緩衝液で満たした。アガロースが完全に溶解するまで、混合物を電子レンジで加熱した。0.5μg/mlの臭化エチジウムをアガロース溶液に加えた。その後、ゲルを型に流し込んだ。アガロースが固まった後、型を電気泳動チャンバーに入れ、チャンバーをTAE緩衝液で満たした。その後、試料をロードした。(左から)最初のポケットに、適切なDNA分子量マーカーをロードし、続いて試料をロードした。ゲルは<130Vで約60分間泳動した。電気泳動後、ゲルをチャンバーから取り出し、UV-Imagerで分析した。
【0230】
標的バンドを切断し、1.5mlのエッペンドルフチューブに移した。ゲルの精製には、QiagenのQIAquick Gel Extraction Kitを製造元の指示に従って使用した。DNA断片を、さらに使用するために-20 °Cで保存した。
【0231】
ライゲーション用の断片は、挿入断片とベクター断片の長さ、及びそれらの相互の相関関係に応じて、1:2、1:3、又は1:5のベクター対挿入断片のモル比で一緒にピペッティングした。ベクターに挿入する必要のある断片が短い場合は、1:5の比率を使用した。挿入断片がより長ければ、ベクターとの相関関係で使用される挿入断片の量はより少なくなる。各ライゲーションで50ngのベクター量を使用し、特定の挿入断片量をNEBioCalculatorで計算した。ライゲーションには、NEBのT4 DNAライゲーションキットを使用した。ライゲーション混合物の例を次の表に示す。
【0232】
(表)ライゲーション反応ミックス
【0233】
DNAと水の混合から始めて、バッファーの添加、最後に酵素の添加は、すべての成分を氷上で一緒にピペッティングした。反応物を上下にピペッティングすることにより穏やかに混合し、短時間マイクロ遠心分離し、次に室温で10分間インキュベートした。インキュベーション後、T4リガーゼを65℃で10分間熱失活させた。試料を氷上で冷却した。最後の工程で、10-βコンピテント大腸菌細胞を2μlのライゲーションプラスミドで形質転換した(以下を参照)。
【0234】
R部位アセンブリによるクローニング:
アセンブリのために、両端にR部位を持つすべてのDNA断片を、氷上で一緒にピペッティングした。4つを超える断片を組み立てる場合は、製造業者の推奨どおり、すべての断片の等モル比(0.05ng)を使用した。反応ミックスの2分の1を、NEBuilder HiFi DNAアセンブリマスターミックスによって実施した。総反応量は40μlであり、PCRクリーン水を満たして到達させた。次の表に、例示的なピペッティングスキームを示す。
【0235】
(表)アセンブリ反応ミックス
【0236】
反応混合物の設定後、チューブを恒常的に50℃で60分間サーモサイクラー中でインキュベートした。組み立てが成功した後、10-βコンピテント大腸菌を2μlの組み立てたプラスミドDNAで形質転換した(以下を参照)。
【0237】
形質転換10-βコンピテント大腸菌細胞:
形質転換のために、10-βコンピテント大腸菌細胞を氷上で解凍した。その後、2μlのプラスミドDNAを細胞懸濁液に直接ピペットで移した。チューブをはじき、氷上に30分間置いた。その後、細胞を42℃の温かいサーマルブロックに入れ、正確に30秒間熱ショックを与えた。その直後に、細胞を氷上で2分間冷却した。950μlのNEB10-β増殖培地を細胞懸濁液に添加した。細胞を37℃で1時間振盪しながらインキュベートした。次に、50~100μlを事前に温めた(37℃)LB-Amp寒天プレートにピペットで移し、使い捨てスパチュラで広げた。プレートを37℃で一晩インキュベートした。プラスミドの組込みに成功しアンピシリンに対する耐性遺伝子を持っている細菌だけが、これらのプレート上で増殖可能である。翌日、単一コロニーを採取し、その後のプラスミド調製のためにLB-Amp培地で培養した。
【0238】
細菌培養:
大腸菌の培養は、Luria Bertaniの略であるLB培地で行い、1ml/Lの100mg/mlアンピシリンを添加して、0.1mg/mlのアンピシリン濃度にした。異なるプラスミド調製量について、以下の量に単一の細菌コロニーを接種した。
【0239】
(表)大腸菌の培養の体積
【0240】
ミニプレップのために、96ウェル2mlディープウェルプレートにウェルあたり1.5mlのLB-Amp培地を充填した。コロニーを拾い、つまようじを培地に押し込んだ。すべてのコロニーが拾われたとき、プレートを粘着性の空気多孔質膜で閉じた。プレートを37℃のインキュベーター中で200rpmの振盪速度で23時間インキュベートした。
【0241】
ミニプレップの場合、15mlのチューブ(通気蓋付き)に3.6 mlのLB-Amp培地を充填し、細菌コロニーを均等に接種した。つまようじは取り除かずに、インキュベーションのあいだチューブ内に残した。96ウェルプレートと同様に、チューブを37℃、200rpmで23時間インキュベートした。
【0242】
マキシプレップの場合、200mlのLB-Amp培地をオートクレーブ処理したガラス製の1L三角フラスコに充填し、約5時間経過した1mlの細菌の日中培養物を接種した。三角フラスコを紙栓で閉じ、37℃、200rpmで16時間インキュベートした。
【0243】
プラスミド調製:
ミニプレップの場合、50μlの細菌懸濁液を1mlのディープウェルプレートに移した。その後、細菌細胞をプレート内で3000rpm、4℃で5分間遠心分離した。上澄みを除去し、細菌ペレットを含むプレートをEpMotionに入れた。約90分後、分析が行われ、溶出されたプラスミドDNAをさらなる使用のためにEpMotionから取り出すことができた。
【0244】
ミニプレップの場合、15 mlのチューブをインキュベーターから取り出し、3.6mlの細菌培養物を2つの2mlのエッペンドルフチューブに分割した。チューブを卓上マイクロ遠心機で6,800xgで室温で3分間遠心分離した。その後、Qiagen QIAprep Spinミニプレップ・キットを使用して、製造元の指示に従ってミニプレップを実行した。プラスミドDNA濃度をNanodropで測定した。
【0245】
マキシプレップは、Macherey-Nagel NucleoBond(登録商標)Xtra Maxi EFキットを使用して、製造元の指示に従って実行した。DNA濃度をNanodropで測定した。
【0246】
エタノール沈殿:
DNA溶液の体積を2.5倍体積のエタノール100%と混合した。混合物を、-20℃で10分間インキュベートした。次に、DNAを14,000rpm、4℃で30分間遠心分離した。上澄みを注意深く除去し、ペレットを70%エタノールで洗浄した。この場合も、チューブを14,000rpm、4℃で5分間遠心分離した。上澄みをピペッティングにより注意深く除去し、ペレットを乾燥させた。エタノールが蒸発したら、適量のエンドトキシンフリーの水を加えた。DNAを4℃で一晩、水に再溶解する時間を与えた。少量のアリコートを採取し、NanodropデバイスでDNA濃度を測定した。
【0247】
実施例2
プラスミドの作製
発現カセットの組成
抗体鎖の発現には、以下の機能的要素を含む転写単位を使用した:
- イントロンAを含む、ヒトサイトメガロウイルス由来の前初期エンハンサー及びプロモーター、
- ヒト重鎖免疫グロブリン5’非翻訳領域(5’UTR)、
- マウス免疫グロブリン重鎖シグナル配列、
- それぞれの抗体鎖をコードする核酸、
- ウシ成長ホルモンポリアデニル化配列(BGH pA)、及び
- 任意に、ヒトガストリンターミネーター(hGT)。
【0248】
発現される所望の遺伝子を含む発現ユニット/カセットのほかに、基本的/標準的な哺乳動物発現プラスミドは、
- 大腸菌におけるこのプラスミドの複製を可能にするベクターpUC18からの複製起点、及び
- 大腸菌にアンピシリン耐性を付与するβラクタマーゼ遺伝子を含む。
【0249】
フロント及びバックベクタークローニング
2プラスミド抗体構築物を構築するために、抗体HC及びLC断片を、L3及びLoxFas配列を含む前方ベクター骨格、並びにLoxFas及び2L配列並びにPac選択マーカーを含む後方ベクターにクローニングした。CreリコンビナーゼプラスミドpOG231(Wong,E.T.ら、Nucl.Acids Res.33(2005)e147;O’Gorman,S.ら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 94(1997)14602-14607)を、すべてのRMCEプロセスに使用した。
【0250】
それぞれの抗体鎖をコードするcDNAを、遺伝子合成(Geneart、Life Technologies Inc.)によって作製した。37℃で1時間、遺伝子合成物及びバックボーンベクターをHindIII-HF及びEcoRI-HF(NEB)で消化し、アガロースゲル電気泳動によって分離した。挿入断片及びバックボーンのDNA断片をアガロースゲルから切り取り、QIAquickゲル抽出キット(Qiagen)を用いて抽出した。製造業者のプロトコルに従って迅速ライゲーションキット(Roche)を用いて、3:1の挿入断片/バックボーン比で、精製した挿入断片及びバックボーン断片をライゲーションした。次いで、42℃で30秒間の熱ショックによってライゲーションアプローチをコンピテント大腸菌DH5αに形質転換し、37℃で1時間インキュベートした後、選択用のアンピシリンを含む寒天プレートに播種した。プレートを37℃で一晩インキュベートした。
【0251】
翌日、クローンを採取し、ミニプレップ又はマキシプレップのために振盪しながら37℃で一晩インキュベートした。これは、EpMotion(登録商標)5075(Eppendorf)を用いて、又はそれぞれQIAprepスピンミニプレップキット(Qiagen)/NucleoBond XtraマキシEFキット(Macherey&Nagel)を用いて、実施した。すべてのコンストラクトを配列決定して、いかなる不適切な突然変異も存在しないように徹底した(SequiServe GmbH)。
【0252】
第2のクローニング工程において、第1のクローニングの場合と同じ条件を用いて、あらかじめクローニングしたベクターをKpnI-HF/SalI-HF及びSalI-HF/MfeI-HFで消化した。TIバックボーンベクターをKpnI-HF及びMfeI-HFで消化した。分離及び抽出を、前述したようにして実施した。製造業者のプロトコルに従ってT4 DNAリガーゼ(NEB)を用いて、1:1:1の挿入断片/挿入断片/バックボーン比で、精製した挿入断片及びバックボーンのライゲーションを4℃で一晩実施し、65℃で10分間、不活性化した。前述したようにして、下記のクローニング工程を実施した。
【0253】
クローニングされたプラスミドを、TIトランスフェクション及びプール作製のために使用した。
【0254】
実施例3
培養、トランスフェクション、選択及び単一細胞クローニング
TI宿主細胞を、独自のDMEM/F12ベースの培地中で、150rpmの一定の撹拌速度で、標準的な加湿条件下(95%rH、37℃、及び5%CO)で、使い捨て125mlベント・シェイク・フラスコ内にて増殖させた。3~4日ごとに、細胞を、選択マーカー1及び選択マーカー2を有効濃度で含む合成培地に、3x10E5細胞/mlの濃度で播種した。培養物の密度と生存率を、Cedex HiRes細胞カウンタ(F.Hoffmann-La Roche Ltd、Basel、Switzerland)で測定した。
【0255】
安定したトランスフェクションのために、等モル量のフロントベクターとバックベクターを混合した。混合物5μgあたり1μgのCre発現プラスミドを添加した(つまり、5μgのCre発現プラスミド又はCre mRNAを25μgのフロント及びバックベクター混合物に添加した)。
【0256】
トランスフェクションの2日前に、TI宿主細胞を、4x10E5細胞/mlの密度で、新鮮な培地に播種した。トランスフェクションは、NucleofectorキットV(Lonza、Switzerland)を使用して、製造元のプロトコルに従ってNucleofectorデバイスで実施した。3x10E7細胞を、合計30μgの核酸、すなわち、30μgのプラスミド(5μgのCreプラスミド及び25μgのフロント及びバックベクター混合物)、又は5μgのCre mRNA及び25μgのフロント及びバックベクター混合物のいずれかでトランスフェクトした。トランスフェクション後、細胞を、選択剤を含まない30mlの培地に播種した。
【0257】
播種後5日目に細胞を遠心分離し、組換え細胞の選択のために6x10E5細胞/ mlの有効濃度のピューロマイシン(選択剤1)と1-(2’-デオキシ-2’-フルオロ-1-β-D-アラビノフラノシル-5-ヨード)ウラシル(FIAU;選択剤2)を含む合成培地80mLに移した。細胞を37℃、150rpmでインキュベートした。この日から5%CO2、85%湿度で、分割はしなかった。培養物の細胞密度及び生存率を定期的にモニターした。培養物の生存率が再び増加し始めたとき、選択剤1及び2の濃度を、以前に使用した量の約半分に減少させた。より詳細には、細胞の回収を促進するために、生存率が40%より高く、かつ生細胞濃度(VCD)が0.5×10E6細胞/mLより高い場合は選択圧を下げた。したがって、4×10E5細胞/mlを遠心分離し、選択培地II(合成培地、1/2選択マーカー1及び2)40mlに再懸濁した。これらの細胞を以前と同じ条件で、かつこの場合も分割せずに、インキュベートした。
【0258】
選択を開始してから10日後、細胞内GFP及び細胞表面に結合した細胞外異種ポリペプチドの発現を測定するフローサイトメトリーによって、Cre媒介性カセット交換の成功を確認した。FACS染色のために、ヒト抗体の軽鎖及び重鎖に対するAPC抗体(アロフィコシアニン標識F(ab’)2断片ヤギ抗ヒトIgG)を使用した。フローサイトメトリーは、BD FACS Canto IIフローサイトメータ(BD、Heidelberg、Germany)を使用して実施した。試料あたり1万事象を測定した。生細胞を、側方散乱(SSC)に対する前方散乱(FSC)のプロットでゲートした。生細胞ゲートは、トランスフェクトされていないTI宿主細胞で定義され、FlowJo 7.6.5 ENソフトウェア(TreeStar、オルテン、スイス)を用いて、全ての試料に適用された。GFPの蛍光を、FITCチャネル(488nmでの励起、530nmでの検出)で定量化した。異種ポリペプチドを、APCチャネル(645nmでの励起、660nmでの検出)で測定した。親CHO細胞、すなわちTI宿主細胞の作製に使用した細胞を、GFP及び異種ポリペプチドの発現に関して陰性対照として使用した。選択開始から14~21日後、生存率は90%を超え、選択は完了したと見なされた。
【0259】
選択後、安定的にトランスフェクトされた細胞のプールを、限界希釈による単一細胞クローニングに供することができる。この目的のために、細胞をCell Tracker Green(商標)(Thermo Fisher Scientific,Waltham,MA)で染色し、384ウェルプレートに0.6細胞/ウェルで播種する。単一細胞クローニング及びその後の全ての培養工程では、選択剤2を培地から除外する。1つの細胞のみを含むウェルを、明視野及び蛍光ベースのプレートイメージングによって同定する。1つの細胞を含むウェルのみを、さらに検討する。プレーティング後約3週間で、コンフルエントなウェルからコロニーを採取し、96ウェルプレートでさらに培養する。
【0260】
実施例4
FACSスクリーニング
FACS解析を実施して、トランスフェクション効率及びトランスフェクションのRMCE効率を調べた。トランスフェクトされたアプローチの4×10E5細胞を遠心分離し(1200rpm、4分)、1mLのPBSで2回洗浄した。PBSを用いる洗浄工程の後、沈殿物を400μLのPBSに再懸濁し、FACSチューブ(セルストレーナーキャップ付きのFalcon(登録商標)丸底チューブ、Corning)に移した。FACS CantoIIを用いて測定を実施し、ソフトウェアFlowJoを用いてデータを解析した。
【0261】
実施例5
フェドバッチ培養
フェドバッチ生産培養は、独自の既知組成培地を含む振盪フラスコ又はAmbr15容器(Sartorius Stedim)で実施した。細胞を0日目に2×10E6細胞/mlで播種した。3、7、及び10日目に、培養物に独自のフィード培地を加えた。Cedex HiRes装置(Roche Diagnostics GmbH、マンハイム、ドイツ)を使用して、0、3、7、10、及び14日目に、培養物中の細胞の生存細胞数(VCC)及び生存率割合を測定した。グルコース、乳酸及び生成物力価の濃度を、3、5、7、10、12及び14日目にCobasアナライザー(Roche Diagnostics GmbH、マンハイム、ドイツ)を使用して測定した。フェドバッチ培養開始後14日目に、遠心分離(10分、1000rpm及び10分、4000rpm)によって上清を採取し、濾過(0.22μm)によって清澄化した。UV検出を伴うタンパク質A親和性クロマトグラフィを使用して、14日目の力価を測定した。製品の品質は、CaliperのLabChip(Caliper Life Sciences)によって決定した。
【0262】
実施例6
CHO細胞におけるRNPベースのCRISPR-Cas9遺伝子ノックアウト
材料/リソース:
● ガイド及びプライマー設計のためのGeneious 11.1.5ソフトウェア
● CHO TI宿主細胞株;培養状態:30~60日目
● TrueCut(商標)Cas9 Protein v2(Invitrogen(商標))
● TrueGuide Synthetic gRNA(標的遺伝子に対して特注設計、3nm未修飾gRNA、Thermo Fisher)
● TrueGuide(商標)sgRNAネガティブコントロール、非ターゲティング1(Thermo Fisher)
● 培地(200μg/mlのハイグロマイシンB、4μg/mlの選択剤2)
● DPBS-ダルベッコのリン酸緩衝生理食塩水(Ca及びMgを含まず)(Thermo Fisher)
● マイクロプレート24ディープウェルプレート(Agilent Technologies,Porvoir science)、カバー(自作)付き
● OC-100カセット装着用の細長いRNase、DNase、パイロジェンフリーのフィルターチップ。(Biozyme)
● Hera Safe Hood(Thermo Fisher)
● Cedex HiRes Analyzer(Innovatis)
● Liconic Incubator Storex IC
● HyCloneエレクトロポレーション緩衝液
● MaxCyte OC-100カセット
● MaxCyte STXエレクトロポレーションシステム
【0263】
CRISPR-Cas9 RNP送達
5μgのCas9を1μgのgRNA混合物(等しい比の各gRNA-例示的な遺伝子特異的gRNA配列については以下の表を参照)と10μLのPBS中で混合することによってRNPを予め組み立て、RTで20分間インキュベートした。2-4x10E6細胞/mLの間の濃度の細胞を遠心分離(3分間、300g)し、500μLのPBSで洗浄した。洗浄工程の後、細胞を再度遠心分離し(300gで3分間)、90μLのHyCloneエレクトロポレーション緩衝液に再懸濁すした。あらかじめインキュベートしたRNPミックスを細胞に加え、5分間インキュベートした。次に、この細胞/RNP溶液をOC-100キュベットに移し、MaxCyteエレクトロポレーションシステムを使用してプログラム「CHO2」でエレクトロポレーションした。エレクトロポレーション直後、細胞懸濁液を24ウェル(dwell)に移し、37℃で30分間インキュベートした。新鮮で予熱した培地を添加して、最終細胞濃度を1×10E6にし、細胞増殖のために350 rpmで振盪しながら37°Cでインキュベートした。ゲノムDNA調製(6日目又は8日目)のために、QuickExtractキット(Lucigen)を細胞に添加し、PCR鋳型として利用した。特定の遺伝子アンプリコンを、標準的なQ5 Hot Start Polymeraseプロトコル(NEB)及びgRNA標的部位にまたがる遺伝子特異的プライマーを使用してPCR増幅した(例については以下の表を参照)。それぞれのアンプリコンをQIAquick PCR精製キット(Qiagen)を用いて精製し、Eurofins Genomics GmbHによるSangerシーケンシングによって分析して、ノックアウトによる遺伝子不活性化を検証した(例については図1図13を参照)。
【0264】
実施例7
4日間バッチ培養
バッチ生産培養は、独自の化学的に定義された培地を含む6ウェル、ディープウェルプレート又は24ウェル、ディープウェルプレート又は振盪フラスコで行った。5x10E6細胞/mlで細胞を播種した。Cedex HiRes(Roche Diagnostics GmbH,Mannheim,Germany)又はCellavista(Synentec GmbH,Elmshorn,Germany)を使用して、0、2、4日目に、培養物中の細胞の生存細胞数(VCC)及び生存率割合を測定した。グルコース濃度、乳酸塩濃度及び生成物力価を、Cobas分析装置(Roche Diagnostics GmbH,Mannheim,Germany)を使用して0、2、4日目に測定した。バッチ開始後4日目に、遠心分離(10分、1000rpm、続いて10分、4000rpm)によって上清を採取し、濾過(0.22μm)によって清澄化した。UV検出を伴うタンパク質A親和性クロマトグラフィを使用して、力価を測定した。製品の品質は、CaliperのLabChip(Caliper Life Sciences)によって決定した。
【0265】
実施例8
フェドバッチ培養
流加生産培養は、独自の合成培地を含む振盪フラスコ又はAmbr15容器(Sartorius Stedim)で実施した。細胞を2×10E6細胞/mlで播種した。3、7、及び10日目に、培養物に独自のフィード培地を加えた。Cedex HiRes(Roche Diagnostics GmbH,Mannheim,Germany)を使用して、0、3、7、10、及び14日目に、培養物中の細胞の生存細胞数(VCC)及び生存率割合を測定した。グルコース濃度、乳酸塩濃度及び生成物力価を、Cobas分析装置(Roche Diagnostics GmbH,Mannheim,Germany)を使用して3、5、7、10、12及び14日目に測定した。フェドバッチ開始後14日目に、遠心分離(10分、1000rpm、続いて10分、4000rpm)によって上清を採取し、濾過(0.22μm)によって清澄化した。UV検出を伴うタンパク質A親和性クロマトグラフィを使用して、14日目の力価をさらに決定した。製品の品質は、CaliperのLabChip(Caliper Life Sciences)によって決定した。
【0266】
実施例9
高細胞密度のフェドバッチ培養
フェドバッチ生産培養は、独自の既知組成培地を含むAmbr 15容器又はAmbr 250容器(Sartorius Stedim)で実施した。細胞を0日目に15×10E6細胞/mlで播種した。1、3、及び6日目に、培養物に独自のフィード培地を加えた。Cedex HiRes装置(Roche Diagnostics GmbH、マンハイム、ドイツ)を使用して、0、3、7、10、及び14日目に、培養物中の細胞の生存細胞数(VCC)及び生存率割合を測定した。グルコース濃度、乳酸塩濃度及び生成物力価を、Cobas Analyzer(Roche Diagnostics GmbH,Mannheim,Germany)を使用して3、5、7、10、12、及び14日目に測定した。培養開始後14日目に、遠心分離(10分、1000rpm、続いて10分、4000rpm)によって上清を採取し、濾過(0.22μm)によって清澄化した。UV検出を伴うタンパク質A親和性クロマトグラフィを使用して、14日目の力価をさらに決定した。製品の品質は、CaliperのLabChip(Caliper Life Sciences)によって決定した。
図1-1】
図1-2】
図1-3】
図2-1】
図2-2】
図2-3】
図3-1】
図3-2】
図4-1】
図4-2】
図4-3】
図5-1】
図5-2】
図6-1】
図6-2】
図7-1】
図7-2】
図7-3】
図8-1】
図8-2】
図9-1】
図9-2】
図10-1】
図10-2】
図10-3】
図11-1】
図11-2】
図11-3】
図11-4】
図12-1】
図12-2】
図12-3】
図13-1】
図13-2】
図13-3】
【配列表】
2023542228000001.app
【国際調査報告】