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特表2023-542233オリゴペプチドの生産のための組換え酵母
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-10-05
(54)【発明の名称】オリゴペプチドの生産のための組換え酵母
(51)【国際特許分類】
   C12N 1/19 20060101AFI20230928BHJP
   C07K 5/093 20060101ALI20230928BHJP
   C12P 21/02 20060101ALI20230928BHJP
   C07K 1/14 20060101ALN20230928BHJP
   C12N 15/57 20060101ALN20230928BHJP
【FI】
C12N1/19 ZNA
C07K5/093
C12P21/02
C07K1/14
C12N15/57
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023518755
(86)(22)【出願日】2021-09-27
(85)【翻訳文提出日】2023-05-22
(86)【国際出願番号】 EP2021076468
(87)【国際公開番号】W WO2022064027
(87)【国際公開日】2022-03-31
(31)【優先権主張番号】102020000022846
(32)【優先日】2020-09-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IT
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】506261567
【氏名又は名称】ルサッフル・エ・コンパニー
【氏名又は名称原語表記】LESAFFRE ET COMPAGNIE
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】弁理士法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】ダリー,シモーナ
(72)【発明者】
【氏名】ガッリアーニ,ステファノ
(72)【発明者】
【氏名】ビュジエロ,インマコラータ
(72)【発明者】
【氏名】グリギス,マッテオ
(72)【発明者】
【氏名】タグリアーニ,アウロ・ロベルト
【テーマコード(参考)】
4B064
4B065
4H045
【Fターム(参考)】
4B064AG01
4B064CA06
4B064CA19
4B064CC24
4B064DA01
4B064DA13
4B065AA72X
4B065AA72Y
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA01
4B065CA24
4H045AA10
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA12
4H045CA10
4H045EA20
4H045EA50
4H045FA74
(57)【要約】
本発明は、PEP4遺伝子が不活性化される組換え酵母に関する。前記酵母は、オリゴペプチドの生産に有用である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
PEP4遺伝子、及び
γ-GT又はDUG経路を介したグルタチオン分解に関与する少なくとも1つの遺伝子
の不活性化により遺伝子組換えされた酵母。
【請求項2】
請求項1記載の酵母であって、ここで、前記γ-GT又はDUG経路を介したグルタチオン分解に関与する遺伝子が、ECM38、DUG1、DUG2及びDUG3から選択される、酵母。
【請求項3】
請求項1~2記載の酵母であって、ここで、前記PEP4遺伝子の不活性化が、遺伝子の全欠失又は部分欠失、あるいは変異原性又は外因性DNAの挿入、特に外因性DNAを用いた相同組換えにより得られる、酵母。
【請求項4】
一倍体又は二倍体である、請求項1~3記載の酵母であって、且つここで、PEP4遺伝子の複写物の一方又は両方が不活性化されている、酵母。
【請求項5】
サッカロマイセス及びピキアから選択される属に属する、請求項1~4記載の酵母。
【請求項6】
S・セレビシエ及びP・パストリスから選択される、請求項5記載の酵母。
【請求項7】
GSH1又はGSH2遺伝子の1つ以上の追加の複写物の導入によりさらに遺伝子組換えされる、請求項1~6記載の酵母。
【請求項8】
S・セレビシエ種に属する、請求項1から7記載の酵母であって、その菌株が、登録番号CNCMI-5574又はCNCMI-5575でCNCM-InstitutePasteurに寄託されている、酵母。
【請求項9】
以下の工程:
(i)請求項1から7において定義された酵母を培養し、それによってバイオマスを形成する工程
(ii)このバイオマスからグルタチオンを分離し、そして精製する工程
を含む、グルタチオンの生産のための発酵プロセス。
【請求項10】
請求項9の工程(i)記載のプロセスにより得ることが可能な、グルタチオン生産のためのバイオマス。
【請求項11】
グルタチオンの調製のための請求項1~8に定義された酵母の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オリゴペプチドの発酵生産、具体的には、γ-グルタミル-システイニル-グリシンの生産に有用な遺伝子組換え酵母に関する。
【背景技術】
【0002】
グルタチオン(J. De Rey Pallade, Bull. Chem. Soc. France 31, 987-91, 1904)は、通常、動物細胞中に存在するトリペプチド(γ-グルタミル-システィニル-グリシン、しばしばGSHとして示される)であり、主に解毒剤(グルタチオニル誘導体の形での毒素の除去)、金属キレート剤及び還元剤の役割と共に、多くの生化学的プロセスにおいて酵素基質として関与する。還元剤の役割としては、グルタチオンは、フリーラジカルを還元し、一般的に細胞の老化プロセスを抑制する中で相当な重要性を有する。グルタチオンは酸化する傾向があり、ジスルフィド架橋の存在を特徴とする二量体を形成し、しばしばGSSG又は「酸化型グルタチオン」として示される。酸化型と還元型の2つの型は、インビボで共存する。グルタチオンは(還元型と酸化型の両方で)、その生理的重要性の観点から、医薬品、栄養補助食品及び化粧品の処方において有効成分として使用される。
【0003】
グルタチオンは、化学的合成によって調製することができるが、通常は、より安価で、光学的に純粋な形態の製品をもたらすバイオテクノロジーによって生産される(Li et al., Appl. Microbiol. Biotechnol. 66, 233-42, 2004)。バイオマスは、発酵培養液から分離され、その後、溶解(lysis)を受けて上澄中にグルタチオンを放出することができ;その後、グルタチオンは、精製され、固体の形態で単離される。グルタチオンの最も一般的な精製方法は、酸化銅又は銅塩を用いた反応(米国特許第2702799号)及びそれに続くヒドロ亜硫酸又はその塩を用いた反応(中国特許第106220708号)あるいは電気化学的還元(欧州特許第2439312号、欧州特許第2963156号)を含む。あるいは、(欧州特許第1391517号)、グルタチオンは、クロマトグラフィーのみで精製でき、したがって安全性及び環境上の理由から銅及びHSの使用を避けることができる。
【0004】
前記文献中の様々な例には、サッカロマイセス(Saccharomyces)属、ピキア(Pichia)属及びカンジダ(Candida)属の野生型又は遺伝子組換え酵母でのグルタチオンの生産(欧州特許第1391517号、欧州特許第1512747号、米国特許第2018/0135142号)、又は遺伝子組換え大腸菌(Escherichia coli)(欧州特許第2088153号)などの細菌由来の他の微生物でのグルタチオンの生産が記載されている。
【0005】
GSHは、バイオマス中に蓄積されるか、上清中に排泄される(M. Rollini et al., Production of glutathione in extracellular form by Saccharomyces cerevisiae, Process Biochemistry 45, 441-445, 2010)。
【0006】
S・セレビシエ(S.cerevisiae)におけるグルタチオンの生合成は、2つの連続した反応を含む。第1の反応は、酵素グルタミン酸 システインリガーゼにより触媒され、L-グルタミン酸とシステインから始まって、γ-L-グルタミル-システインの合成をもたらす。第2の反応は、酵素グルタチオン シンセターゼにより触媒され、グリシンをジペプチド γ-L-グルタミル-システインに結合させ、それによりグルタチオン、又はトリペプチド γ-L-グルタミル-L-システイニル-グリシン(γ-Glu-Cys-Gly)を形成する。生合成は、組換え菌株において、分子生物学的手法を用いて増加させることができる。
【0007】
生合成法との競合では、バイオマス中でグルタチオンの蓄積を防止する生分解法も存在し;グルタチオンは、それぞれの酵素によって触媒される反応により代謝されて、3つの構成アミノ酸に再変換される。知られている主な分解経路では、第1の酵素であるγグルタミルトランスペプチダーゼ(遺伝子ECM38によりコードされる)は、γ-L-グルタミルを加水分解して、ジペプチド システイニル-グリシンの形成をもたらし、そしてグルタミン酸を放出する;第2の酵素であるシステイニル-グリシン ペプチダーゼは、ジペプチドを加水分解して、システイン及びグリシンを放出する。そのため、グルタチオンの分解は、ジペプチド システイニル-グリシン(Cys-Gly)の形成をもたらす。
【0008】
第2のGSH分解経路は、組換え出芽酵母(Saccharomyces cerevisiae)菌株が要求されており、ここで、前記主要経路は欠失されている(Kumar et al., FEMS Microbiology Lett 219, 187-94, 2003)。次いで、前記第2の経路が特定され、そして遺伝子DUG1、DUG2及びDUG3によりコードされる3つの酵素を含む「DUG複合体」により触媒されることが証明された。具体的には、その経路は、プロテアーゼ(DUG1、ジペプチダーゼとも呼ばれる)を伴う、ペプチダーゼ(DUG2)及びグルタミン アミドトランスフェラーゼ(DUG3)の複合作用を含む(Bachhawat et al., Genetics 175, 1137-51, 2007)。
【0009】
工業生産のためには、バイオマス中の濃度が最大レベルに達したとき、発酵の最後で、グルタチオンの分解を制限することが重要であり;工業的な量のバイオマスを処理するには、必然的に数時間の処理時間が必要であり、その間、製品の分解は収量の減少を伴い、精製を複雑にする。したがって、Kumar et al., J Biol Chem 287, 4552-61, 2012に記載されているように、遺伝子ECM38によりコードされるγ-GT経路と、遺伝子DUG1,DUG2及びDUG3によりコードされるDUG経路の両方を不活性化することによって、分解を防止することを検討するのが合理的であろう。
【0010】
しかし、前記2つのグルタチオン分解経路の二重の欠失では、後述するように不十分である。
【発明の概要】
【0011】
本発明の説明
現在、第3のグルタチオン分解経路が存在することが発見されている。実際、上記の2つの分解経路の二重欠失を保持している組換え酵母でも、グルタチオンを分解することが可能であり;発酵の最後で、バイオマスのGSH含有量が急速に低下する傾向があり、化学的な(自発的な)分解によるものよりもはるかに低下が速い。したがって、前記分解は酵素的であり、そして工業生産から得ることが可能な収量に対して明らかに悪影響を及ぼす。
【0012】
驚くべきことに、現在、既に公知であり通常酵母中に存在する酵素、すなわち、アスパルチルプロテアーゼ又はプロテイナーゼAとして知られ、PEP4遺伝子によりコードされるプロテアーゼ(Ammerer et al., Mol Cell Biology, 6, 2490-2499,1986)が、加水分解によってグルタチオンをグリシンとγ-L-グルタミル-システイン(γ-Glu-Cys)に分解することが見出されている。
【0013】
プロテイナーゼAは、S・セレビシエの液胞中に存在するタンパク質分解性酵素であり、古くからペプシン様アスパルチル プロテイナーゼとして知られ、分類されており;アスパルチルプロテイナーゼは、異なる機能と異なる最適pHの範囲を伴って、脊椎動物、真菌、植物及びレトロウイルス中に広く分布している。機能の違いは、そのファミリーに属する酵素をコードするゲノム配列の間の低い相同性に反映される(Parr et al., Yeast, 2007)。
【0014】
ビールの製造では、S・セレビシエのプロテイナーゼAが、泡の形成に寄与するタンパク質の分解に関与しており;PEP4遺伝子の欠失は、ビールの泡のより良い品質とより高い安定性をもたらす(Wang et al., Int J of Food Microbiol, 2007; 中国特許第1948462号)。
【0015】
プロテイナーゼAの不活性化は、ヒト副甲状腺ホルモンの生産に使用されるピキア・パストリス(Pichia pastoris)の組換え菌株においても記載されており、これは、前記副甲状腺ホルモンのタンパク質分解を防止するためである (Wu et al., J Ind Microbiol Biotechnol, 2013)。
【0016】
しかし、プロテイナーゼAが、グルタチオンに果たすことが出来、γ-Glu-Cys ジペプチドの形成を伴う分解を引き起こす作用については、今まで一度も述べられていない。したがって、PEP4遺伝子を不活性化することによって、バイオマス中のグルタチオンの安定性が改善されることは、予想されていなかった。
【0017】
実際、活性型のプロテイナーゼAの存在は、バイオマス中で、部分的に加水分解されるグルタチオンの蓄積に悪影響を及ぼすことが実証されている。加水分解の生成物は、グルタチオン分解経路から予想されるようなシステイニル-グリシン(Cys-Gly)ジペプチドではなく、γ-L-グルタミル-システイン ジペプチド(γ-Glu-Cys)である。したがって、活性型のプロテイナーゼAの存在は、生産されるグルタチオンの安定性に悪影響を及ぼす。これは特に、発酵プロセスの最後と、次の段階のグルタチオンの溶解、抽出及び精製の間の期間に観察される。前記プロセスの条件下では、バイオマスのグルタチオン含有量の減少と同時に、γ-L-グルタミル-システイン ジペプチド(γ-Glu-Cys)含有量の増加が観察される。
【0018】
γ-L-グルタミル-システイン ジペプチド(γ-Glu-Cys)はまた、それが、グルタチオンの特徴に非常に類似している化学的特徴(還元する能力及び金属錯体化する能力を有する、遊離チオールの存在)及び生化学的特徴(分子量、等電点)を有しているために、グルタチオンから分離することが難しい不純物である。したがって、高濃度のγ-Glu-Cys ジペプチドの存在は、グルタチオンの精製プロセスを妨害する可能性がある。したがって、PEP4遺伝子の欠失のさらなる利点は、酵母の菌株から得られるグルタチオンのより効率的な精製プロセスである。
【0019】
本発明は、酵母の菌株からなり、ここで、PEP4遺伝子は、機能的に、例えば、その遺伝子構造又は発現を変えることにより減少しているか、又は部分的又は完全な遺伝子欠失により抑制されており;したがって、プロテイナーゼA酵素は産生されないか、又は触媒活性のない形で産生される。これが、細胞によって産生され、そしてバイオマス中に含有されるグルタチオンの経時的な安定性を高め、γ-Glu-Cys ジペプチドの低い濃度を維持し、製品の品質とプロセスの収率に有益となる。
【0020】
この酵素を不活性化するさらなる方法は、プロテアーゼ阻害剤、より具体的にはアスパルチルプロテアーゼ阻害剤を加えることである。前記物質は、酵素の活性を阻害し、結果としてこの酵素はグルタチオン分解活性を発揮できなくなる。
【0021】
したがって、前記作用の最終的な結果は、グルタチオンを製造するプロセスの効率を高めることである。
【0022】
発明の詳細な説明
本発明の対象は、グルタチオンを産生することができる組換え微生物であって、ここで、プロテイナーゼAをコードするPEP4遺伝子は、前記微生物中で不活性化されていることを特徴とする。
【0023】
本発明の一態様では、前記微生物が一倍体酵母又は二倍体酵母のような酵母であることが求められる。本発明の具体的な実施態様では、前記微生物は、二倍体酵母であって、ここで、PEP4遺伝子の両方の複写物は不活性化されている。
【0024】
本発明によれば、PEP4遺伝子は、その全欠失又は部分欠失によるか、あるいは相同の組換えプロセスを用いた選択マーカーのような変異原生又は外因性DNAの挿入により不活性化することができる。いずれにせよ、遺伝子の不活性化は、プロテイナーゼAの発現を消失させるか又は減少させるか、あるいは機能性の無いプロテイナーゼAの発現を引き起こす。
【0025】
本発明は、以下を実証する:
-PEP4遺伝子の不活性化は、生産されたグルタチオンの安定性を改善する一方で、そ の力価は室温で安定なままである;
-PEP4遺伝子の不活性化は、発酵条件下でγ-グルタミル-システイン ジペプチド (γ-Glu-Cys)の存在を減少させる;
-グルタチオンのγ-L-グルタミル-システイン(γ-Glu-Cys)への分解も、 非発酵条件下、生成物の精製中(下流)で減少させる。
【0026】
好ましい実施態様では、本発明は、PEP4遺伝子、及びγ-GT又はDUG経路を介したグルタチオンの分解に関与する少なくとも1つの遺伝子の不活性化による遺伝子組換え酵母を提供する。γ-GT又はDUG経路を介したグルタチオンの分解に関与する前記遺伝子は、好ましくは、ECM38、DUG1、DUG2及びDUG3から選択される。
【0027】
酵母において、特定の標的遺伝子は、所与の遺伝子を別の(マーカー)遺伝子(例えば、抗生物質又は別の毒性物質、栄養要求性マーカー又はその他の遺伝子に対する耐性を付与する遺伝子)に置き換える組換え機序によって、不活性化することができる。その後の工程を容易にするために、マーカー遺伝子は、DNA断片の除去を触媒する特定のリコンビナーゼにより認識される短い反復配列に挟まれるように構成され、その後、マーカー遺伝子を除去する。例えば、「Cre」又は「R」と呼ばれるリコンビナーゼにより認識される配列LoxP又はLoxRは、このように使用することができ、そして実質的に同等である多数の代替方法が存在する。
【0028】
本発明によれば、グルタチオンの生合成能力を高めるように設計された、微生物の他の遺伝子改変も、例えば、以下に記載されるように、GSH1及びGSH2遺伝子の1つ以上の複写物を挿入することによって、効果を与えることができる。
【0029】
本発明の具体的な実施態様では、PEP4遺伝子の不活性化により得られる組換え微生物は、サッカロマイセス・セレビシエ種に属する微生物である。S・セレビシエのPEP4遺伝子は、1218個のヌクレオチド(NCBI参照配列:NM_001183968.1)からなり、XVI染色体におけるS・セレビシエのゲノムに位置し、その2つの複写物は、二倍体細胞中に存在する。
【0030】
本発明の代表的な実施態様によれば、グルタチオンを産生することができる組換え微生物は、S・セレビシエに由来するが、その酵母グループに属するいずれの微生物も使用することができる。前記微生物の例としては、C・ウティリス(C.utilis)などのカンジダ(Candida)属、P・パストリス(P.pastoris)などのピキア(Pichia)属、K・ラクティス(K.lactis)などのクリベロマイセス(Kluyveromyces)属、及び分裂酵母(S.pombe)などのシゾサッカロマイセス(Schizosaccharomyces)属に属する酵母が挙げられる。
【0031】
本発明による組換え微生物の由来となる酵母は、好ましくは、プロテアーゼ活性を有するタンパク質をコードするPEP4遺伝子を天然に含有する、S.セレビシエである、二倍体の菌株GN2361又はGN2362又はGN2373である。S.セレビシエ菌株GN2361、GN2362及びGN2373は、American Type Culture Collection(ATCC)に保管されているS.セレビシエ菌株BY4742に順次由来し、コードATCC201389が割り当てられている。菌株BY4742から始まって、公知の技術に従って行われた遺伝子工学的手法により、ECM38、DUG2及びGCG1遺伝子によりコードされる、以前から知られていたすべてのグルタチオン分解経路は、不活性化された(Ganguli et al. 2007, Genetics, and Baudouin-Cornu et al. 2012, J. Biol. Chem.)。
【0032】
しかし、代謝経路の不活性化にもかかわらず、前記菌株から得られたバイオマスは、下流の段階においてグルタチオン分解を引き起こし;生成物の精製中に、後にγ-グルタミル-システイン(γ-Glu-Cys)と同定される不純物の増加と共に、グルタチオン含有量の減少が観察された。
【0033】
その後、生合成経路、又は公知のグルタチオンの代謝経路に関連しない別の遺伝子、すなわちPEP4遺伝子が不活性化され、グルタチオンのγ-Glu-Cysへの生化学的分解が除去されたバイオマスが得られ;前記改善された安定性を有するバイオマスは、工業的な処理時間と適合し、したがって、より良い製品精製の利点を提供する。
【0034】
驚くべきことに、前記バイオマスはまた、発酵の最後でそのブロス中のGlu-Cysの低い存在を示す。PEP4遺伝子を含有する最初の菌株、及びプロテイナーゼAを欠いた対応する派生菌株を、同じ条件下で発酵させると、後者の菌株において、所望の産物(グルタチオン)と非所望の産物(γ-Glu-Cys)との間のより良い比率が得られる。
【0035】
本発明は、PEP4遺伝子の不活性化が、グルタチオンの発酵生産においてより良い品質のバイオマスをもたらし、同時にバイオマスの工業的加工性を促進することを実証する。
【0036】
本発明による組換え微生物を導き出すことができる別の酵母は、一倍体菌株GN2357であるS・セレビシエ菌株であり、ここで、PEP4遺伝子は、ゲノム中、ここでもまた染色体XVI中に位置しているが;一倍体の細胞中にその1つの複写物のみが存在する。
【0037】
組換え二倍体又は一倍体の微生物におけるPEP4遺伝子の不活性化は、遺伝子のヌクレオチド配列を、ゲンタマイシンに類似した構造を有するアミノグリコシド系抗生物質であるG418に対する耐性を付与する外因性遺伝子の配列に置き換えることにより達成できる。次いで、挿入された外因性遺伝子は、酵母細胞において組換えプロセスの手段を用いて除去される。その結果、PEP4遺伝子が欠失し、その機能が失われる。
【0038】
PEP4遺伝子の不活性化により、より高い安定性を有するグルタチオンを蓄積することが可能なS・セレビシエの組換え菌株を得るために使用される方法は、一般的に、グルタチオンの安定性を改善しようとする他の酵母に適用できる。
【0039】
本発明の一実施態様では、グルタチオン分解及びγ-Glu-Cys産生は、ピキア・パストリス菌株において減少し;特に、同じ実験条件下では、PEP4遺伝子を欠いた菌株は、長期間かけてもより低いγ-Glu-Cysの産生を示す。
【0040】
以下の実施例は、本発明をより詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0041】
図1】2つの反復loxP配列に挟まれたK・ラクティスのURA3遺伝子を用いた置換によるDUG2遺伝子の欠失。
図2】2つのFRT配列とPEP4遺伝子と相同な2つの領域に挟まれたKanMX4遺伝子を用いた置換によるPEP4遺伝子の欠失。
図3】GSHの安定性-グラフは、異なる時間でS・セレビシエのバイオマス中に存在するγ-Glu-Cys ジペプチドのレベルを示す。
図4】GSHの安定性-グラフは、異なる時間のP・パストリスのバイオマスに存在する-Glu-Cysジペプチドのレベルを示す。
【0042】
[実施例1](比較)
酵母サッカロマイセス・セレビシエ菌株 NCYC2958を、欧州特許第1391517号の実施例3に記載されているように培養し;発酵の最後で酵母を遠心分離し、次いで脱イオン水を用いて遠心分離で洗浄する。得られたバイオマスを、記載されているグルコース及び他の栄養素を含有する10倍量の水溶液に分散し、バイオマスの還元型グルタチオン含有量を増加させ;前記の手順の最後に、ブロス全体を遠心分離し、バイオマスを脱イオン水で洗浄して上清を除去する。
【0043】
次に、欧州特許第1391517号の実施例1に記載されているように、GSHに富んだ酵母バイオマスを、熱酸溶解を受けさせた後に、0.2ミクロンの多孔性を有するセラミック膜を通して精密ろ過する。前記特許の[0060]項及び[0061]項に記載されているように、得られたほぼ透明な溶液を、イオン交換樹脂のカラム、次いで吸着性樹脂に通し、最後にナノろ過により濃縮する。
【0044】
粉末状の還元型グルタチオンは、噴霧乾燥により精製された水溶液から得られ;得られた生成物は、欧州薬局方に定められた純度規格に適合する。
【0045】
[実施例2]ECM38及びDUG2を欠失したS・セレビシエの組換え菌株の構築
BY4742菌株から始まって、ECM38とDUG2遺伝子によりコードされる、以前から知られていたグルタチオン分解経路は、先行技術(Ganguli et al. 2007, Genetics, Baudouin-Cornu et al., 2012, J Biol Chem)に記載されているように行われた遺伝子工学的手法により不活性化された。
【0046】
DUG2遺伝子は、BY4742菌株中で、2つの反復loxP配列により挟まれた、クルイベロマイセス・ラクティス(Kluyveromyces lactis)のURA3遺伝子(サッカロマイセス・セレビシエのURA3遺伝子のホモログ)を用いた置換により除去された(図1)。
【0047】
LoxP-URA3-LoxPカセットを含有し、DUG2遺伝子の領域5’と3’に挟まれたDNA断片を使用して、BY4742株を形質転換し;ウラシルを含まない合成培地で増殖する能力に対して選択された形質転換物を精製し、且つ分析し、URA3マーカーを用いてDUG2遺伝子の置換を確認した。その後、グルタチオン生合成に必要な2つの酵素を触媒するGSH1とGSH2遺伝子を含有する発現カセットが、最初にDUG2遺伝子を含有している遺伝子座に挿入された。
【0048】
ECM38遺伝子は、(DUG2がすでに欠失している菌株中で、)DUG2について記載されているのと同じ工程に従って、クルイベロマイセス・ラクティスのLEU2遺伝子マーカー(サッカロマイセス・セレビシエのLEU2遺伝子のホモログ)を用いた置換により除去された。最後に、その後のリコンビナーゼ誘導により、2つのURA3及びLEU2マーカー遺伝子が除去された。
【0049】
このようにして得られた菌株は、DUG2及びECM38遺伝子(グルタチオンの分解に関与する)を欠失させるだけでなく、グルタチオンの生合成及び生産を増加させる遺伝子GSH1及びGSH2の追加の複写物も含有する。
【0050】
[実施例3]S・セレビシエの組換えPEP4欠失性菌株の構築
既述した実施例の微生物は、化合物G418に対する耐性を付与する配列(KanMX4)を含有するDNA断片を用いて形質転換される。形質転換の結果、前記配列は、内在性のPEP4遺伝子の場所に挿入され、それによりそのノックアウトが誘導される。一倍体菌株の場合、得られたものは、微生物のゲノム中に存在するPEP4遺伝子の唯一の複写物のノックアウトであり;二倍体酵母の場合、このプロセスが繰り返され、PEP4遺伝子の第2の複写物もまた除去される。
【0051】
この形質転換に使用されるDNA断片は、KanMX4遺伝子の配列(810bp)を含有し、2つのFRT(フリッパーゼ認識標的)組換え配列とPEP4遺伝子と相同な2つの領域(図2の第1の部分)に挟まれ、それがPEP4遺伝子座における断片の部位特異的組換えを可能にする役割を果たす。
【0052】
KanMX4遺伝子は、プラスミドpWKW (Storici et al. 1999, Yeast 15:271-283)から、プライマーP1及びP2の結合部位を用いて増幅することにより得られる。
【0053】
それぞれが特定の一対のオリゴヌクレオチドを介して得られる、2つの異なるDNA断片は、微生物のゲノム中に存在するPEP4遺伝子のそれぞれ2つの複写物をノックアウトするために使用される。
【0054】
以下のオリゴヌクレオチドは、PEP4遺伝子の第1の断片の増幅と第1の複写物のノックアウトに使用される:
【化1】
【0055】
以下のオリゴヌクレオチドは、PEP4遺伝子の第2の断片の増幅と第2の複写物のノックアウトに使用される:
【化2】
【0056】
こうして得られた断片1と断片2は精製され、酢酸リチウム法(Kawai et al. 2010 Bioeng bugs 1(6) 395-403)による微生物の形質転換に使用される。
【0057】
酵母は、断片1を用いて形質転換され、選択剤G418を含有するYPD培地に播種され;3つのG418耐性コロニーが得られ、そして単離される。PEP4遺伝子座における断片1の形質転換と組換えを検証するために、3つのコロニーは、次のプライマーと条件を用いてPCR増幅により分析される:
【化3】
【0058】
PCR産物は、0.8%ゲル電気泳動により分析され、予想どおり953bpの断片と720bpの断片が同定される。
【0059】
3つの形質転換物を液体YPD培地中に接種し、30℃で20時間、200rpmで撹拌しながら増殖するに任せる。細胞のインキュベーションの間に、S・セレビシエ Flp/FRTの内在性組換え系が活性化され、これは、異種KanMX4遺伝子の切除をもたらす(Park YN et al. Yeast28(9) 673-681, 2011)。3つのそれぞれの培養液を、適切に希釈し、(選択剤G418の非存在下で)YPD培地に播種する。その後、プレート上で増殖したコロニーを、レプリカプレーティングによりYPD+G418培地のプレートに移す。前記プレート上でも成長しないコロニーは、Flp/FRTの組換えのために、異種KanMX4遺伝子を失ったコロニーである。前記コロニーは、最初のYPDプレートから単離され、以下のプライマー及び条件を用いてPCRにより分析される:
【化4】
【0060】
PCR産物は0.8%ゲル電気泳動により分析され、予想通り、600bpの断片を同定し、PEP4遺伝子の第1の複写物のノックアウトが確認される。
【0061】
[実施例4]S.セレビシエの組換え二倍体菌株の構築
GN2363株(GN2361株から)、GN2364株(GN2362株から)、GN2376株(GN2373株から)の構築。手順は、実施例2に記載したように、最初の菌株GN2361、GN2362、GN2373に対して行なわれ、対応するPEP4欠失性菌株:GN2363、GN2364及びGN2376が得られる。
【0062】
手順は、様々な酵母の菌株に対して、複製可能であり、且つ適用可能であることを証明した。
【0063】
酵母GN2363は、Collection Nationale de Cultures de Microorganismes-Institut Pasteur(パリ、ブダペスト条約に基づく国際寄託当局)に寄託され、登録番号CNCMI-5574として登録される。
【0064】
酵母GN2364は、Collection Nationale de Cultures de Microorganismes-Institut Pasteur(パリ、ブダペスト条約に基づく国際寄託当局)に寄託され、登録番号CNCMI-5575として登録される。
【0065】
[実施例5]実験室規模での酵母培養及びGSHの安定性試験
GN2361菌株とGN2363菌株(最初の菌株と組換え菌株)は、三角フラスコ中で、液体培養における増殖プロセスを用いて、同じ条件下で培養し、このプロセスは、栄養段階とその後の生産段階を含む。
【0066】
栄養段階は、栄養培地 20mL(1%酵母エキス、2%ペプトン、2%ブドウ糖)に貯蔵した細胞 0.5mL(-80℃で凍結保存した)を接種することによって得られる。培養物は、28℃で16時間、200rpmで攪拌しながら増殖するに任せる。
【0067】
インキュベーション期間の最後に、栄養培養物 10mLを、生産用培地 90mL(2%酵母エキス、8%グルコース、0.2%システイン、0.2%グリシン、0.2%L-グルタミン酸)に接種する。培養物は、28℃で48時間、250rpmで撹拌しながら増殖するに任せる。
【0068】
インキュベーション期間の最後に、培養物を2つの等量の試料に分割して、安定性試験に使用するための2つの等量のサンプルを得る。
【0069】
それぞれの培養物について、1つの試料を直ちに熱溶解に供し、そのグルタチオン及びγ-Glu-Cys ジペプチドの含有量をHPLC法で分析する。第2の試料を25℃で24時間インキュベートする。インキュベーション期間の後、サンプルを熱溶解に供して、そのグルタチオン及びγ-Glu-Cys ジペプチドの含有量を分析する。
【0070】
結果を表1に示し、表は、4つの独立したサンプルから得られた平均値を示す。
【表1】
【0071】
結果は、PEP4欠失性菌株GN2363が、より少量のγGlu-Cys ジペプチドを産生し、25℃での24時間のインキュベーションの後でも一定のままであることを示す。最初の菌株GN2361(これは、PEP4遺伝子を含有する)は、γ-Glu-Cys ジペプチドの量において112%の増加を示し、更により大きなGSHの分解(GSH残基で95%対98%)を示す。
【0072】
[実施例6]実験室規模での酵母の培養、及びバイオマス中のグルタチオンの安定性試験
GN2362菌株とGN2364菌株(最初の菌株と組換え菌株)を培養し、GSHとγ-Glu-Cys ジペプチドの含有量に対する安定性試験を、実験室規模で、実施例4に記載されるものと同じ手順を用いて行う。
【0073】
結果を表2に示し、表は、4つの独立したサンプルから得られた平均値を示している。
【表2】
【0074】
結果は、GN2364株(GN2362に対応するΔpep4)が、親菌株よりも少ない量のγ-Glu-Cysジペプチドを産生することを示す。γ-Glu-Cysの増加は、親菌株GN2362よりもGN2364株の方が相当低い(24時間のインキュベーション後で14%対88%)。
【0075】
[実施例7]実験室規模での酵母の培養及びGSHの安定性試験
GN2373株とGN2376(最初の菌株と組換え菌株)を培養し、GSHとγ-Glu-Cys ジペプチドの含有量に対する安定性試験を、実験室規模で、実施例4に記載されるものと同じ手順で行う。
【0076】
結果を表3に示し、表は、4つの独立したサンプルから得られた平均値を示す。
【表3】
【0077】
結果は、組換え菌株GN2376が、より少量のγ-Glu-Cys ジペプチドを産生し、25℃で24時間のインキュベーションの後も一定のままであることを示す。最初の菌株GN2373(これは、さらにPEP4遺伝子を含有する)は、γ-Glu-Cys ジペプチドの量の71%の増加を示す。
【0078】
[実施例8]実験室規模での一倍体S・セレビシエの培養及びGSH安定性試験
GN2357菌株及びGN2357-Δpep4菌株を培養し、GSHとγ-Glu-Cys ジペプチドの含有量に対する安定性試験を、実験室規模で、実施例4に記載されるものと同じ手順で行う。
【0079】
結果を表4に示し、表は、4つの独立したサンプルから得られた平均値を示す。
【0080】
【表4】

結果は、菌株GN2357-Δpep4が、より少量のγ-Glu-Cys ジペプチドを産生し、25℃で24時間のインキュベーションの後も一定のままであることを示す。代わりに、PEP4遺伝子をまだ含有している菌株は、γ-Glu-Cys ジペプチドの量の46%増加を示す。
【0081】
[実施例9]パイロットスケールでの酵母の培養及びGSH安定性試験
GN2361菌株及び対応するGN2363菌株(組換えΔpep4)を、液体培地中で、増殖プロセスにより培養し、このプロセスは、三角フラスコ中での前栄養段階と栄養段階、及びバイオリアクター中での発酵段階と生産段階を含む。
【0082】
前栄養段階は、実施例4に記載されているように行う。
【0083】
栄養段階は、前栄養培養液 0.1mLを、三角フラスコ中の栄養培地 400mL(1%酵母エキス、2%ペプトン、2%ブドウ糖)に移すことにより行う。培養液を、28℃で24時間、240rpmの撹拌下でインキュベートする。
【0084】
発酵段階は、生産用培地(酵母エキス、ブドウ糖、アンモニウム、リン酸、硫酸並びにビタミン及びミネラルサプリメント)を含有する7Lのバイオリアクターに移し、28℃で、ガスを流し(1~2VVMの空気流量)、そして撹拌(600~1200rpm)することにより行う。
【0085】
発酵培養のバイオマスを収穫し、遠心分離により半分の体積に濃縮し、そして28℃で、ガスを流し(1VVMの空気流量)且つ撹拌して(600rpm)、生産用培地(グルコース、アンモニウム、リン酸塩、硫酸塩、システイン、グリシン及びグルタミン酸)を含む7Lのバイオリアクターに再導入する。
【0086】
インキュベーション期間の最後に、培養物を4つの等量の試料に分割し、安定性試験に使用する4つの等量のサンプルを得る。
【0087】
それぞれの培養物について、1つの試料を直ちに熱溶解に供し、そのグルタチオン及びγ-Glu-Cys ジペプチド含有量をHPLC法により分析する。残りの3つの試料を25℃で24時間、それぞれ48時間及び72時間インキュベートする。それぞれのインキュベーション期間の後、サンプルを熱溶解に供し、そのグルタチオンとγ-Glu-Cys ジペプチドの含有量を分析する。
【0088】
結果を表1に示す。この表は、最初の菌株GN2361を用いて得られたデータと、対応する遺伝子組換え酵母GN2363を用いた2つの独立した試験から得られたデータを示す。
【表5】
【0089】
データは、全体的に少ない分解(%力価の低下)を伴い、且つ酵素による分解がほとんど除去された(γ-GCの限定的な増加)、遺伝子組換えバイオマス中のグルタチオンの増加した安定性を示す。
【0090】
[実施例10]パイロットスケールでの酵母の培養及びGSH安定性試験
GN2362株とそれに対応するGN2364菌株(改変されたΔpep4)を実施例9に記載のように培養する。
【0091】
結果を下の表及び図3に示す。
【表6】
【0092】
データは、全体的に少ない分解(%力価の低下)を伴い、且つ酵素による分解がほとんど除去されている(γ-GCの限定的な増加)、遺伝子組換えバイオマス中のグルタチオンのより高い安定性を示す。y-GCは、化学的プロセスによりゆっくりと分解する。
【0093】
GN2362では、細胞溶解がプロテイナーゼAを急速に放出する一方、γ-Glu-Cysの増殖はより速く、次いで自然分解によりゆっくりと減少する。
【0094】
GN2364では、y-Glu-Cysの増殖は全細胞と溶解細胞の両方で遅い。
【0095】
[実施例11]ピキア・パストリスの発酵及びグルタチオンの安定性試験
菌株 ピキア・パストリス X-33(これは、PEP4を含有する)、SMD1168H(これは、PEP4を含有しない)及びGN2364(上記の組換えS・セレビシエ)を、適切な培地中、250rpmで28℃で48時間培養する。発酵の最後で、細胞バイオマスを遠心分離により収穫し、dHOに再懸濁し、それぞれの菌株につき1つの懸濁液を得る。
【0096】
dHO中のグルタチオンの原液は、150g/Lの濃度に調製する。原液の1つの試料を細胞バイオマス懸濁液に加え、最終的に10g/LGSH濃度とする。GSHを加えた細胞バイオマスを1.5mLの試料に分割し、900rpmで撹拌しながら25℃の制御温度でインキュベートする。γ-Glu-Cysの生成を96時間まで監視し、インキュベートしたサンプルを異なる時間でHPLC分析する。得られたデータを図4に示す。
【0097】
データは、ピキアX-33菌株によるグルタチオンの分解が、γ-Glu-Cysを与えることを示すが、PEP4遺伝子を欠いた2つの酵母、ピキアSMD1168H及びサッカロマイセスGN2364は、同じ挙動を示し、γ-Glu-Cysの生産を増加させない。
図1
図2
図3
図4
【配列表】
2023542233000001.app
【国際調査報告】