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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-10-05
(54)【発明の名称】眼鏡レンズの製造方法
(51)【国際特許分類】
   G02C 7/02 20060101AFI20230928BHJP
   G02C 7/10 20060101ALI20230928BHJP
   G02C 11/00 20060101ALN20230928BHJP
【FI】
G02C7/02
G02C7/10
G02C11/00
【審査請求】有
【予備審査請求】有
(21)【出願番号】P 2023524746
(86)(22)【出願日】2021-10-25
(85)【翻訳文提出日】2023-04-24
(86)【国際出願番号】 EP2021079550
(87)【国際公開番号】W WO2022084559
(87)【国際公開日】2022-04-28
(31)【優先権主張番号】20203733.9
(32)【優先日】2020-10-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】507062222
【氏名又は名称】カール ツァイス ヴィジョン インターナショナル ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100139491
【弁理士】
【氏名又は名称】河合 隆慶
(72)【発明者】
【氏名】ミシェル-レネ クリストマン
(72)【発明者】
【氏名】アンドリュー ロベラ アダン
(72)【発明者】
【氏名】ゲルハルト ケルシュ
【テーマコード(参考)】
2H006
【Fターム(参考)】
2H006BA01
2H006BA02
2H006BA03
2H006BA04
2H006BE02
2H006CA00
(57)【要約】
レンズ基材と少なくとも1つのコーティングとを含む眼鏡レンズの製造方法であって、コーティングされていない又はプレコーティングされた前面とコーティングされていない又はプレコーティングされた後面とを含むレンズ基材を提供するステップと、少なくとも1つのコーティングをレンズ基材の表面の少なくとも一方に堆積させるステップであって、少なくとも1つのコーティングの表面は、少なくとも1つのコーティングの表面を改質できる少なくとも1つの媒質と接触させると改質可能であるステップと、少なくとも1つのコーティングの表面を、個別の周辺屈折力を考慮して、部分的又は全面的に少なくとも1つの媒質と接触させるステップと、レンズ基材と少なくとも1つのコーティングとを含む眼鏡レンズを取得するステップであって、少なくとも1つのコーティングの表面は個々の周辺屈折力に応じて改質されているステップと、を含む。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
レンズ基材と少なくとも1つのコーティングとを含む眼鏡レンズの製造方法であって、少なくとも、
- コーティングされていない又はプレコーティングされた前面とコーティングされていない又はプレコーティングされた後面とを含むレンズ基板を提供するステップと、
- 前記レンズ基材の前記表面の少なくとも一方に少なくとも1つのコーティングを部分的又は全面的に堆積させるステップと、
- 前記少なくとも1つのコーティングの表面を少なくとも1つの媒質と部分的又は全面的に接触させるステップと、
- レンズ基材と少なくとも1つのコーティングとを含む眼鏡レンズを取得するステップであって、前記少なくとも1つのコーティングの前記表面は改質されているステップと、
を含み、
前記少なくとも1つのコーティングの前記表面の前記改質は、前記少なくとも1つのコーティングの膨潤をもたらす拡散制御表面改質であり、
前記少なくとも1つのコーティングの前記表面の前記改質には、少なくとも1人の装用者の眼の個別の周辺屈折力が考慮されている
ことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記少なくとも1つのコーティングの前記表面の前記改質が、前記少なくとも1つのコーティングの表面形状の改質であることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記少なくとも1つの媒質が、前記周辺屈折力を考慮してインクジェット印刷により塗布されることを特徴とする、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記少なくとも1つのコーティングが、少なくとも1つのフォトクロミックコーティングと、少なくとも1つのフォトクロミックに似ているが、少なくとも1つのフォトクロミック染料を含まないコーティング組成物に基づく少なくとも1つのコーティングからなる群の少なくとも1つから選択されることを特徴とする、請求項1~3の何れか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記少なくとも1つのコーティングの前記少なくとも1つの媒質との前記全面的接触では、前記処方された屈折力が考慮されることを特徴とする、請求項1~4の何れか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記少なくとも1つのコーティングを前記少なくとも1つの媒質と接触させる前に装用時の位置が考慮されることを特徴とする、請求項1~5の何れか1項に記載の方法。
【請求項7】
少なくとも1つの単電磁パルスは、前記レンズ基材と、前記少なくとも1つのコーティングと、前記少なくとも1つの媒質とを含む前記眼鏡レンズの少なくとも1つの表面に印加されることを特徴とする、請求項1~6の何れか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記眼鏡レンズが、少なくとも1つのハードコーティング、少なくとも1つの反射防止コーティング、及び少なくとも1つの透明コーティングからなる群の少なくとも1つから選択される少なくとも1つのコーティングでさらに被覆されることを特徴とする、請求項1~7の何れか1項に記載の方法。
【請求項9】
i)眼鏡レンズ、又は
ii)眼鏡レンズ及び眼鏡レンズの使用説明書、又は
iii)前記眼鏡レンズの仮想表現であって、非一時的データ媒体に記憶される、及び/若しくはデータ信号である仮想表現、又は、
iv)前記眼鏡レンズの仮想表現と前記眼鏡レンズの仮想使用説明書であって、非一時的データ媒体上に記憶された表現及び説明書、又は
v)前記眼鏡レンズの仮想表現及び任意選択により前記仮想レンズの仮想使用説明書を有する非一時的データ媒体、又は
vi)前記眼鏡レンズの仮想表現及び任意選択により前記眼鏡レンズの仮想使用説明書を有するデータ信号
を含み、
前記眼鏡レンズはレンズ基材を含み、前記レンズ基材はコーティングされていない又はプレコーティングされた前面とコーティングされていない又はプレコーティングされた後面とを含み、
前記レンズ基材の少なくとも1つの表面は、少なくとも1つのコーティングで部分的又は全面的に被覆され、
前記少なくとも1つのコーティングの前記表面を少なくとも1つの媒質と部分的又は全面的に接触させることにより、前記少なくとも1つのコーティングの前記表面は前記少なくとも1つの媒質と接触させられると改質され、前記少なくとも1つのコーティングの前記表面の拡散制御膨潤が生じ、装用者の視力を矯正又は補償するために処方された屈折力、周辺屈折力、及び眼鏡レンズの装用時位置からなる群の少なくとも1つを考慮した目標最終光学表面が得られる、製品。
【請求項10】
レンズ基材と少なくとも1つのコーティングとを含む眼鏡レンズの製造方法であって、少なくとも、
- コーティングされていない又はプレコーティングされた前面とコーティングされていない又はプレコーティングされた後面とを含むレンズ基板を提供するステップと、
- 前記レンズ基材の前記表面の少なくとも一方に少なくとも1つのコーティングを部分的又は全面的に堆積させるステップと、
- 前記少なくとも1つのコーティングの表面を少なくとも1つの媒質と部分的又は全面的に接触させるステップと、
を含み、さらに、
- 前記眼鏡レンズの前記表面の少なくとも一方に少なくとも1つの単電磁パルスを印加するか、又は複数の単電磁パルスを印加するステップであって、前記眼鏡レンズは前記レンズ基材、前記少なくとも1つのコーティング、及び前記少なくとも1つの媒質を含むステップと、
- 全面的又は部分的に改質された表面を有する少なくとも1つのコーティングを含む眼鏡レンズを取得するステップであって、前記少なくとも1つのコーティングの前記表面は、前記少なくとも1つの媒体と接触している、又は接触させられたときに改質可能であり、前記少なくとも1つの媒質は前記少なくとも1つのコーティングの前記表面を改質することができ、前記少なくとも1つのコーティングの前記表面の前記改質では、少なくとも1人の装用者の眼の個別の周辺屈折力が考慮されるステップ
を特徴とする方法。
【請求項11】
レンズ基材と少なくとも1つのコーティングとを含む眼鏡レンズの製造方法であって、少なくとも、
- コーティングされていない又はプレコーティングされた前面とコーティングされていない又はプレコーティングされた後面とを含むレンズ基板を提供するステップと、
- 前記レンズ基材の前記表面の少なくとも一方に少なくとも1つのコーティングを部分的又は全面的に堆積させるステップと、
- 前記少なくとも1つのコーティングの表面を少なくとも1つの媒質と部分的又は全面的に接触させるステップと、
を含み、さらに、
- 前記眼鏡レンズの前記表面の少なくとも一方に少なくとも1つの単電磁パルスを印加するか、又は複数の単電磁パルスを印加するステップであって、前記眼鏡レンズは前記レンズ基材、前記少なくとも1つのコーティング、及び前記少なくとも1つの媒質を含むステップと、
- 前記少なくとも1つの媒質を除去するステップと、
- 全面的又は部分的に改質された表面を有する少なくとも1つのコーティングを含む眼鏡レンズを取得するステップであって、前記少なくとも1つのコーティングの前記表面は、前記少なくとも1つの媒体と接触しているとき、又は接触させられたときに改質可能であり、前記少なくとも1つの媒質は前記少なくとも1つのコーティングの前記表面を改質することができ、前記少なくとも1つのコーティングの前記表面の前記改質では、少なくとも1人の装用者の眼の個別の周辺屈折力が考慮されるステップ
を特徴とする方法。
【請求項12】
レンズ基材と少なくとも1つのコーティングとを含む眼鏡レンズの製造方法であって、少なくとも、
- コーティングされていない又はプレコーティングされた前面とコーティングされていない又はプレコーティングされた後面とを含むレンズ基板を提供するステップと、
- 前記レンズ基材の前記表面の少なくとも一方に少なくとも1つのコーティングを部分的又は全面的に堆積させるステップと、
- 前記少なくとも1つのコーティングの表面を少なくとも1つの媒質と部分的又は全面的に接触させるステップと、
を含み、さらに、
- 前記眼鏡レンズの前記表面の少なくとも一方に少なくとも1つの単電磁パルスを印加するか、又は複数の単電磁パルスを印加するステップであって、前記眼鏡レンズは前記レンズ基材、前記少なくとも1つのコーティング、及び前記少なくとも1つの媒質を含むステップと、
- 全面的又は部分的に改質された表面を有する少なくとも1つのコーティングを含む前記眼鏡レンズを取得するステップであって、前記少なくとも1つのコーティングの前記表面は、前記少なくとも1つの媒体と接触しているとき、又は接触させられたときに改質可能であり、前記少なくとも1つの媒質は前記少なくとも1つのコーティングの前記表面を改質することができ、前記少なくとも1つのコーティングの前記表面の前記改質では、少なくとも1人の装用者の眼の個別の周辺屈折力が考慮されるステップ
を特徴とする方法。
【請求項13】
レンズ基材と少なくとも1つのコーティングとを含む眼鏡レンズの製造方法であって、少なくとも、
- コーティングされていない又はプレコーティングされた前面とコーティングされていない又はプレコーティングされた後面を含むレンズ基板を提供するステップと、
- 前記レンズ基材の前記表面の少なくとも一方に少なくとも1つのコーティングを部分的又は全面的に堆積させるステップと、
- 前記少なくとも1つのコーティングの表面を少なくとも1つの媒質と部分的又は全面的に接触させるステップと、
を含み、さらに、
- 前記眼鏡レンズの前記表面の少なくとも一方に少なくとも1つの単電磁パルスを印加するか、又は複数の単電磁パルスを印加するステップであって、前記眼鏡レンズは前記レンズ基材、前記少なくとも1つのコーティング、及び前記少なくとも1つの媒質を含むステップと、
- 前記少なくとも1つの媒質を除去するステップと、
- 全面的又は部分的に改質された表面を有する少なくとも1つのコーティングを含む
眼鏡レンズを取得するステップであって、前記少なくとも1つのコーティングの前記表面は、前記少なくとも1つの媒体と接触しているとき、又は接触させられたときに改質可能であり、前記少なくとも1つの媒質は前記少なくとも1つのコーティングの前記表面を改質することができ、前記少なくとも1つのコーティングの前記表面の前記改質では、少なくとも1人の装用者の眼の個別の周辺屈折力が考慮されるステップ
を特徴とする方法。
【請求項14】
前記少なくとも1つのコーティングの前記表面の前記改質は、前記少なくとも1つのコーティングの表面形状の改質であることを特徴とする、請求項10~13の何れか1項に記載の方法。
【請求項15】
前記少なくとも1つのコーティングの前記表面の前記改質は、前記少なくとも1つのコーティングの拡散制御膨潤であることを特徴とする、請求項10~14の何れか1項に記載の方法。
【請求項16】
前記少なくとも1つのコーティングの前記表面の前記少なくとも1つの媒質との前記全面的又は部分的接触は、前記少なくとも1つの媒質を前記少なくとも1つのコーティングの前記表面に印刷することによって行われることを特徴とする、請求項10~15の何れか1項に記載の方法。
【請求項17】
前記少なくとも1つの単電磁パルスは、前記レンズ基材、前記少なくとも1つのコーティング、及び前記少なくとも1つの媒質を含む前記眼鏡レンズの1つの表面に印加されることを特徴とする、請求項10~16の何れか1項に記載の方法。
【請求項18】
前記少なくとも1つのコーティングは、少なくとも1つのフォトクロミックコーティングと、フォトクロミックコーティングのための、ただしフォトクロミック染料を含まないコーティング組成物に基づく少なくとも1つのコーティングとからなる群の少なくとも1つから選択されることを特徴とする、請求項10~17の何れか1項に記載の方法。
【請求項19】
前記少なくとも1つの媒質は、少なくとも1つの有機脂肪酸飽和又は不飽和、任意選択により置換されたモノカルボン酸を含むことを特徴とする、請求項10~18の何れか1項に記載の方法。
【請求項20】
前記少なくとも1つのコーティングを改質するために必要なプロセス総時間は100μs~7分の範囲内であることを特徴とする、請求項10~19の何れか1項に記載の方法。
【請求項21】
前記少なくとも1つの単電磁パルスは50μs~200msの範囲の包絡線を有することを特徴とする、請求項10~20の何れか1項に記載の方法。
【請求項22】
前記少なくとも1つの単電磁パルスは、少なくとも1つのフラッシュランプ、少なくとも1つのハロゲンランプ、少なくとも1つの有向プラズマ放電、少なくとも1つのレーザ、少なくとも1つのマイクロ波発生器、少なくとも1つの誘導加熱器、少なくとも1つの電子ビーム、少なくとも1つのストロボスコープ、及び少なくとも1つの水銀ランプからなる群から選択される少なくとも1つの電磁源により送達される光を含むことを特徴とする、請求項10~21の何れか1項に記載の方法。
【請求項23】
前記少なくとも1つの単電磁パルスの波長は100nm~1800nmの範囲であることを特徴とする、請求項10~22の何れか1項に記載の方法。
【請求項24】
レンズ基材と少なくとも1つのコーティングとを含む眼鏡レンズの製造方法であって、少なくとも、
- コーティングされていない又はプレコーティングされた前面とコーティングされていない又はプレコーティングされた後面とを含むレンズ基板を提供するステップと、
- 前記レンズ基材の前記表面の少なくとも一方に少なくとも1つのコーティングを部分的又は全面的に堆積させるステップと、
- 前記少なくとも1つのコーティングの表面を少なくとも1つの媒質と部分的又は全面的に接触させるステップと、
を含み、さらに、
- 前記眼鏡レンズの前記表面の少なくとも一方に少なくとも1つの単電磁パルスを印加するか、又は複数の単電磁パルスを印加するステップであって、前記眼鏡レンズは前記レンズ基材、前記少なくとも1つのコーティング、及び前記少なくとも1つの媒質を含むステップと、
- 全面的又は部分的に改質された表面を有する少なくとも1つのコーティングを含む眼鏡レンズを取得するステップであって、前記少なくとも1つのコーティングの前記表面は、前記少なくとも1つの媒体と接触しているとき、又は接触させられたときに改質可能であり、前記少なくとも1つの媒質は前記少なくとも1つのコーティングの前記表面を改質することができ、前記少なくとも1つのコーティングの前記表面の前記改質は、少なくとも1人の装用者の眼の個別の周辺屈折力を考慮した前記少なくとも1つのコーティングの拡散制御膨潤であるステップ
を特徴とする方法。
【請求項25】
レンズ基材と少なくとも1つのコーティングとを含む眼鏡レンズの製造方法であって、少なくとも、
- コーティングされていない又はプレコーティングされた前面とコーティングされていない又はプレコーティングされた後面とを含むレンズ基板を提供するステップと、
- 前記レンズ基材の前記表面の少なくとも一方に少なくとも1つのコーティングを部分的又は全面的に堆積させるステップと、
- 前記少なくとも1つのコーティングの表面を少なくとも1つの媒質と部分的又は全面的に接触させるステップと、
を含み、さらに、
- 前記眼鏡レンズの前記表面の少なくとも一方に少なくとも1つの単電磁パルスを印加するか、又は複数の単電磁パルスを印加するステップであって、前記眼鏡レンズは前記レンズ基材、前記少なくとも1つのコーティング、及び前記少なくとも1つの媒質を含むステップと、
- 前記少なくとも1つの媒質を除去するステップと、
- 全面的又は部分的に改質された表面を有する少なくとも1つのコーティングを含む眼鏡レンズを取得するステップであって、前記少なくとも1つのコーティングの前記表面は、前記少なくとも1つの媒体と接触しているとき、又は接触させられたときに改質可能であり、前記少なくとも1つの媒質は前記少なくとも1つのコーティングの前記表面を改質することができ、前記少なくとも1つのコーティングの前記表面の前記改質は、少なくとも1人の装用者の眼の個別の周辺屈折力を考慮した前記少なくとも1つのコーティングの拡散制御膨潤であるステップ
を特徴とする方法。
【請求項26】
レンズ基材と少なくとも1つのコーティングとを含む眼鏡レンズの表面のための方法であって、少なくとも、
- コーティングされていない又はプレコーティングされた前面とコーティングされていない又はプレコーティングされた後面とを含むレンズ基板を提供するステップと、
- 前記レンズ基材の前記表面の少なくとも一方に少なくとも1つのコーティングを部
分的又は全面的に堆積させるステップと、
- 前記少なくとも1つのコーティングの表面を少なくとも1つの媒質と部分的又は全面的に接触させるステップと、
を含み、さらに、
- 前記眼鏡レンズの前記表面の少なくとも一方に少なくとも1つの単電磁パルスを印加するか、又は複数の単電磁パルスを印加するステップであって、前記眼鏡レンズは前記レンズ基材、前記少なくとも1つのコーティング、及び前記少なくとも1つの媒質を含むステップと、
- 全面的又は部分的に改質された表面を有する少なくとも1つのコーティングを含む眼鏡レンズを取得するステップであって、前記少なくとも1つのコーティングの前記表面は、前記少なくとも1つの媒体と接触している、又は接触させられたときに改質可能であり、前記少なくとも1つの媒質は前記少なくとも1つのコーティングの前記表面を改質することができ、前記少なくとも1つのコーティングの前記表面の前記改質では、少なくとも1人の装用者の眼の個別の周辺屈折力を考慮した前記少なくとも1つのコーティングの拡散制御膨潤であるステップ
を特徴とする方法。
【請求項27】
レンズ基材と少なくとも1つのコーティングとを含む眼鏡レンズの表面を改質する方法であって、少なくとも、
- コーティングされていない又はプレコーティングされた前面とコーティングされていない又はプレコーティングされた後面とを含むレンズ基板を提供するステップと、
- 前記レンズ基材の前記表面の少なくとも一方に少なくとも1つのコーティングを部分的又は全面的に堆積させるステップと、
- 前記少なくとも1つのコーティングの表面を少なくとも1つの媒質と部分的又は全面的に接触させるステップと、
を含み、さらに、
- 前記眼鏡レンズの前記表面の少なくとも一方に少なくとも1つの単電磁パルスを印加するか、又は複数の単電磁パルスを印加するステップであって、前記眼鏡レンズは前記レンズ基材、前記少なくとも1つのコーティング、及び前記少なくとも1つの媒質を含むステップと、
- 前記少なくとも1つの媒質を除去するステップと、
- 全面的又は部分的に改質された表面を有する少なくとも1つのコーティングを含む眼鏡レンズを取得するステップであって、前記少なくとも1つのコーティングの前記表面は、前記少なくとも1つの媒体と接触しているとき、又は接触させられたときに改質可能であり、前記少なくとも1つの媒質は前記少なくとも1つのコーティングの前記表面を改質することができ、前記少なくとも1つのコーティングの前記表面の前記改質は、少なくとも1人の装用者の眼の個別の周辺屈折力を考慮した前記少なくとも1つのコーティングの拡散制御膨潤であるステップ
を特徴とする方法。
【請求項28】
前記少なくとも1つのコーティングの前記表面の前記改質が、前記少なくとも1つのコーティングの表面形状の改質であることを特徴とする、請求項24~27の何れか1項に記載の方法。
【請求項29】
前記少なくとも1つのコーティングの前記表面の前記少なくとも1つの媒質との前記全面的又は部分的接触が、前記少なくとも1つの媒質を前記少なくとも1つのコーティングの前記表面に印刷することによって行われることを特徴とする、請求項24~28の何れか1項に記載の方法。
【請求項30】
前記少なくとも1つの単電磁パルスが、前記レンズ基材、前記少なくとも1つのコーテ
ィング、及び前記少なくとも1つの媒質を含む前記眼鏡レンズの1つの表面に印加されることを特徴とする、請求項24~29の何れか1項に記載の方法。
【請求項31】
前記少なくとも1つのコーティングが、少なくとも1つのフォトクロミックコーティングと、フォトクロミックコーティングのための、ただしフォトクロミック染料を含まないコーティング組成物に基づく少なとも1つのコーティングからなる群の少なくとも1つから選択されることを特徴とする、請求項24~30の何れか1項に記載の方法。
【請求項32】
前記少なくとも1つの媒質が、少なくとも1つの有機脂肪酸飽和又は不飽和、任意選択により置換されたモノカルボン酸を含むことを特徴とする、請求項24~31の何れか1項に記載の方法。
【請求項33】
前記少なくとも1つのコーティングを改質するために必要なプロセス総時間は100μs~7分の範囲内であることを特徴とする、請求項24~32の何れか1項に記載の方法。
【請求項34】
前記少なくとも1つの単電磁パルスが50μs~200msの範囲の包絡線を有することを特徴とする、請求項24~33の何れか1項に記載の方法。
【請求項35】
前記少なくとも1つの単電磁パルスが、少なくとも1つのフラッシュランプ、少なくとも1つのハロゲンランプ、少なくとも1つの有向プラズマ放電、少なくとも1つのレーザ、少なくとも1つのマイクロ波発生器、少なくとも1つの誘導加熱器、少なくとも1つの電子ビーム、少なくとも1つのストロボスコープ、及び少なくとも1つの水銀ランプからなる群から選択される少なくとも1つの電磁源により送達される光を含むことを特徴とする、請求項24~34の何れか1項に記載の方法。
【請求項36】
前記少なくとも1つの単電磁パルスの波長は100nm~1800nmの範囲であることを特徴とする、請求項24~35の何れか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、眼鏡レンズの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
Brien A.HoldenらのGlobal Vision Impairment Due to Uncorrected Presbyopia,Arch Ophthalmol 2008,126(12):1731-1739によれば、距離に関する屈折異常を矯正しないことが視覚障害の最も一般的な原因とされている。Universal eye health:a global action plan 2014-2019,World Health Organization 2013において、WHOは2010年の視覚障害患者を2億8500万人と推定している。C.S.Y.LamらのDefocus Incorporated Multiple Segments(DIMS)spectacle lenses slow myopia progression:a 2-year randomised clinical trial,Br J Ophthalmol 2019:0:1-6は、小児を対象としてDefocus Incorporated Multiple Segments(DIMS)眼鏡レンズの試験を行っており、このレンズは例えば米国特許出願公開第2017/0131567A1号明細書、米国特許出願公開第2019/0212580A1号明細書、又は米国特許出願公開第2020/0159044A1号明細書においても開示されており、近視焦点ぼけを生じさせるものである。DIMS眼鏡レンズは、近視の小児において近視の進行及び眼軸長の伸長を遅らせることがわかっている。
【0003】
米国特許出願公開第2017/0131567A1号明細書は、眼の屈折異常を矯正するための処方に基づく第一の屈折力を有する第一の屈折領域と、眼の網膜以外の位置に結像させる機能を有する第二の屈折領域を含む、眼の屈折異常の進行を抑制するための眼鏡レンズを開示している。第二の屈折領域は、複数の個別の島様形状の領域として形成される。
【0004】
米国特許出願公開第2019/0212580A1号明細書は、米国特許出願公開第2017/013167A1号明細書で開示されているように第一の屈折領域と第二の屈折領域を含む眼鏡レンズを開示している。米国特許出願公開第2019/0212580A1号明細書による第二の屈折領域は、相互に別々の複数の領域としてばらばらに配置されており、これらの第二の屈折領域の各々は第一の屈折領域により取り囲まれている。
【0005】
米国特許出願公開第2020/0159044A1号明細書は、近視を矯正するための処方に基づく第一の屈折力を有する第一の屈折領域と、第一の屈折力とは異なる屈折力を有する第二の屈折領域を含む第一の眼鏡レンズを開示している。第二の屈折力の各々は、眼鏡レンズの対物側表面から延びる凸形状に形成される。第二の屈折領域の各々は、第一の屈折領域の対物側表面より大きい曲率を有する。第二の屈折領域は、相互に異なる複数の屈折力を有する複数の屈折領域を含む。米国特許出願公開第2020/0159044A1号明細書はさらに、近視を矯正するための処方に基づく第一の屈折力を有する第一の屈折領域と第一の屈折力とは異なる屈折力を有する第二の屈折領域を含む第二の眼鏡レンズも開示している。第二の眼鏡レンズの第二の屈折領域は、複数の島様形状領域として非同心円状に形成され、第二の屈折領域の屈折力は第一の屈折領域の第一の屈折力より2.00D~5.00Dだけ大きい。米国特許出願第2020/0159044A1号明細書はさらに、眼の屈折異常を矯正するための処方に基づく第一の屈折力を有する第一の屈折領域と、第一の屈折力とは異なる屈折力を有する第二の屈折領域を含む第三の眼鏡レンズ
を開示している。第三の眼鏡レンズの第二の屈折領域は所定の半径の円に内接する六角形を形成するように配置された複数の島様形状領域として非同心円状に形成される。
【0006】
米国特許出願公開第2015/0160477A1号明細書は、焦点ぼけと眼の度数を制御するために、レンズを眼の中央視区域に対応するレンズ領域と、眼の赤道視区域に対応する凸レンズ領域に分割する多要素レンズを開示している。多要素レンズは、大きい焦点ぼけを発生させる大型ユニット凸レンズを含み、大型ユニット凸レンズ上での組合せを通じて小さい焦点ぼけ又は合焦状態を発生させる小型ユニット凹レンズ又は小さい焦点ぼけを発生させる小型単レンズが大型ユニット凸レンズ上の別に提供される。大型ユニット凹レンズと小型ユニット凹レンズ又は小型単レンズとの間の接合部は漸進的ズーム構造又は段階的ズーム構造である。米国特許出願公開第2015/0160477A1号明細書はまた、大型ユニット凸レンズ上に、サブユニット凹レンズ又は中型単レンズも開示しており、各組合せが大型ユニット凸レンズのレンズとの組合せを通じて中程度の焦点ぼけを発生させる。サブユニット凹レンズ又は中型単レンズは小型ユニット凹レンズ又は小型単レンズの外側リング上に配置され、リング状である。
【0007】
国際公開第2018/026697A1号パンフレットは、近視治療のための眼科レンズを開示している。レンズは、各レンズ上に分散されたドットパターンを含み、ドットパターンは1mm以下の距離だけ離間されたドットの列を含み、各ドットの最大寸法は0.3mm以下である。ドットは正方形のグリッド、六角形のグリッド、その他のグリッド上に、又はセミランダム若しくはランダムパターンに配置され得る。ドットは規則的間隔で離間されてもよく、又はドット間隔はドットのレンズの中心からの距離に応じて変化し得る。ドットパターンは1mmより大きい最大寸法の、ドットのない透明開口を含むことができ、透明開口は眼鏡の装用者の視軸と整合する。透明開口は実質的に円形又は同様の形状とすることができる。ドットは、対応するレンズの表面上の突出部でも凹部でもよい。突出部は透明材料から形成できる。突出部を製造するために、個別の材料部分を、例えばインクジェットプリンタを使って、レンズ表面上にドットパターンに対応するように堆積させる。個別の部分は、例えば光の照射を使って硬化させると突出部となる。ドットパターンは、ドットパターンを通じて見た物体の像コントラストを、透明開口を通じて見た物体の像コントラストと比較して少なくとも30%低下させることができる。国際公開第2018/026697A1号パンフレットによれば、この眼鏡は装用者に合わせてカスタマイズされ、とりわけ、それによってレンズは装用者の軸上視力を20/20以上に矯正する度数を有し、レンズは各レンズ上に分散されたドットパターンを含み、ドットパターンは装用者の周辺視野の少なくとも一部について、レンズが装用者の視力を20/25以上に矯正し、像コントラストを軸上像コントラストと比較して少なくとも30%低下させることができるように配置されたドットのアレイを含む。
【0008】
国際公開第2006/034652A1号パンフレットは、人の眼の屈折異常の進行を治療する方法、特に近視の焦点ぼけを増強することによって近視の進行に対抗する方法及び遠視焦点ぼけを増強することによって遠視の進行に対抗する方法を開示する。方法は、人の眼の網膜に上に第一の像を生成するステップと、焦点ぼけを発生させるために第二の像を生成するステップを含む。焦点ぼけを変化させるために、眼の平衡状態が軸方向の眼の成長に影響を与えて正眼視に向かわせるべきである。この人工的なシフトは、好ましくは正常視を保持できるように従来の矯正と共に眼鏡レンズに組み込まれ得る。この眼鏡レンズは、フレネルレンズ又は、2つ以上の屈折力の同心円状の光学ゾーンを含む中心-周辺多焦点レンズであり得る。
【0009】
国際公開第2010/075319A2号パンフレットは、眼軸長に関係する障害を予防し、改善し、又は逆転させる治療処置方法を開示している。そのために、患者の視野の人工的なぼやけを導入することによって、眼の網膜に入る像の平均空間周波数を、眼軸の
それ以上の伸長を抑止する閾値空間周波数より低くする。人工的なぼやけを導入するために、ぼやけ誘導ガラスが使用される。ぼやけ誘導ガラスは、レンズの片方又は両方の表面上の小さい隆起又は凹み、レンズ内へのレンズ材料とは異なる材料の包含、レンズへの高レベルの収差の組み込み、周辺視により大きく影響を与える、より高レベルの収差の組み込み、レンズの上からレンズの下までの、片方又は両方のレンズへの累進的なマイナスの補正の提供、レンズの片方又は両方の表面に堆積されるコーティング又はフィルムによってぼやけを誘導する。例えばレンズの中央区域内の隆起又は凹みの密度を下げることにより、光景の、眼軸と軸方向に整合する部分について比較的正常な像の取得が容易になり、他方で、光景の、光軸と整合しない部分のぼやけは大きくなる。人工的ぼやけの量は、例えば隆起又は凹みの密度又は寸法を変化させることによって制御できる。
【0010】
国際公開第2019/166653A1号パンフレットは、人の眼の処方に基づく屈折力を有する屈折領域と、複数の、少なくとも3つの不連続の光学素子を含み、少なくとも1つの光学素子は非球面光学機能を有するレンズ要素を開示している。不連続の光学素子のうちの少なくとも1つは、例えば複屈折材料で製作される多焦点屈折マイクロレンズ、回折レンズであり得るか、又は人の眼の網膜の正面にコースティックを生じさせるよう構成された形状を有する。
【0011】
国際公開第2019/16654A1号パンフレットは、人の眼の屈折異常を矯正するための処方に基づく第一の屈折力及び第一の屈折力とは異なる第二の屈折力を有する屈折領域と、少なくとも3つの光学素子と、を含み、少なくとも1つの光学素子は、眼の網膜上に結像させない光学機能を有して、眼の屈折異常の進行を遅らせるレンズ素子を開示している。第一の屈折力と第二の屈折力との差は0.5D以上であり得る。
【0012】
国際公開第2019/166655A1号パンフレットは、人の眼のための処方に基づく屈折力を有する屈折領域と、複数の、少なくとも3つの光学素子を含むレンズ素子を開示している。光学素子は、レンズの少なくとも1つのセクションに沿って、光学素子の等価球面屈折力が前記セクションのある点から前記セクションの周辺部分に向かって増大するように構成される。光学素子は、レンズの少なくとも1つのセクションに沿って、光学素子の等価乱視屈折力が前記セクションのある点から前記セクションの周辺部分に向かって増大するように構成され得る。
【0013】
国際公開第2019/166657A1号パンフレットは、標準的装用状態で、中心視のために、装用者にその装用者の眼の屈折異常を矯正するためのその装用者の処方に基づく第一の屈折力を提供するように構成された処方部分と、複数の、少なくとも3つの光学素子であって、少なくとも1つの光学素子は、標準的装用条件で、周辺視のために、眼の網膜に結像しないようにして、眼の屈折異常の進行を遅らせる光学機能を有する光学素子を含むレンズ素子を開示している。光学素子の少なくとも1つは、標準的装用条件で、周辺視のために、網膜以外の位置に結像させる光学的機能を有し得る。
【0014】
国際公開第2019/166659A1号パンフレットは、装用者の眼のための処方に基づく屈折力を有する屈折領域と、複数の、少なくとも2つの連続的光学素子を含み、少なくとも1つの光学素子が、装用者の眼の網膜に結像しないようにして眼の屈折異常の進行を遅らせる光学機能を有するレンズ素子を開示している。国際公開第2019/166659A1号パンフレットによる連続的光学素子を有することによって、レンズ素子の審美性が改善され、レンズ素子表面の不連続性が限定される。少なくとも2つの連続光学素子は独立していてよい。
【0015】
国際公開第2019/206569A1号パンフレットは、装用者に、標準的装用条件で、その装用者の眼の屈折異常を矯正するためのその装用者の処方に基づく第一の光学機
能を提供するように構成された処方部分と、複数の連続的光学素子を含むレンズ素子を開示している。各光学素子は、標準的装用条件での第二の光学機能と前記標準的装用条件で眼の網膜に結像しないようにして眼の屈折異常の進行を遅らせる第三の光学機能を同時に提供する同時の二焦点光学機能を有する。第二及び第三の光学機能を同時に提供する複数の連続的光学素子を有することにより、国際公開第2019/206569A1号パンフレットによれば、光の一部を装用者の網膜上に合焦させ、光の一部を装用者の網膜の前又は後ろの何れかに合焦させることによって近視又は遠視などの眼の屈折異常の進行を遅らせる、構成が容易なレンズ素子を有することが可能となる。さらに、このレンズ素子により、光のうち網膜上に合焦させる部分と、光のうち眼の網膜上に合焦させない部分を選択できることになる。国際公開第2019/026569A1号パンフレットはまた、レンズ素子を提供する方法も開示しており、これは、装用者に、標準的装用条件で、装用者の眼の屈折異常を矯正するためのその装用者の処方に基づく第一屈折力を提供するように構成されたレンズ部材を提供するステップと、複数の連続的光学素子を含む光学パッチを提供するステップと、レンズ部材の前又は後面の一方に光学パッチをセットすることによってレンズ素子を形成するステップと、を含む。代替的に、この方法は、レンズ素子を成形するステップと、成形中に複数の連続的光学素子を含む光学パッチを提供するステップを含む。
【0016】
欧州特許第3531195A1号明細書は、ナノ構造及び/又はマイクロ構造コーティングを含む眼鏡レンズを開示している。ナノ構造及び/又はマイクロ構造コーティングを得るために、第一のステップで、コーティングされていない又はプレコーティングされたレンズ基材の少なくとも一方の表面がナノ粒子及び/又はマイクロ粒子の層で被覆され、レンズ基材のそれぞれのコーティングされていない又はプレコーティングされた表面がマスキングされる。第二のステップで、少なくとも1つのコーティングがナノ粒子及び/又はマイクロ粒子の層の上に堆積される。それによって、少なくとも1つのコーティングはナノ粒子及び/又はマイクロ粒子のほか、レンズ基材のそれぞれのコーティングされていない又はプレコーティングされた表面のナノ粒子及び/又はマイクロ粒子間の中間空間を被覆する。第三のステップで、ナノ粒子及び/又はマイクロ粒子が除去されて、ナノ構造及び/又はマイクロ構造コーティングがレンズ基材のそれぞれのコーティングされていない又はプレコーティングされた表面に残る。
【0017】
欧州特許第2682807A1号明細書は、コーティングの所望の位置に追加の透明コーティングを堆積させることによって、所望の位置に開口を有するマスキング層を含め、マスキング層と開口の両方が眼鏡レンズのコーティングのみによりオーバコーティングされるようにすることによって、又はレンズ基材の所望の位置に色付けすることによって、眼鏡レンズの表面上にマークを形成する方法を開示している。追加の透明コーティングを堆積させる場合、第一のステップで、開口を有するマスキング層がマーキングされるレンズ基材のコーティングされていない又はプレコーティングされた表面に堆積される。第二のステップで、透明コーティングがマスキング層のほか、それぞれのコーティングされていない又はプレコーティングされた表面にマスキング層の開口を介して堆積される。第三のステップで、マスキング層とマスキング層の上の透明コーティングが除去され、それによって透明コーティングはそれぞれのコーティングされていない又はプレコーティングされた表面の上に残る。その後、透明コーティングが眼鏡レンズのコーティングで、例えば多層反射防止コーティング、多層反射コーティングの部分、及び撥水層でオーバコーティングされ、それによって目に見えるマークが得られる。マークは、光反射の違いによって見ることのできる装飾パターン、ロゴ、文字を構成し得て、それによって装用者の快適な視野が確保される。
【0018】
欧州特許第3339940A1号明細書は、レンズ基材のコーティングされていない又はプレコーティングされた表面上に、マスキング層を介してコーティングを堆積させる方
法を開示しており、それによって、マスキング層を使用して、及び使用せずに堆積されたコーティングの屈折率の違いによって例えばロゴが確実に見えることになる。
【0019】
国際公開第2007/066006A2号パンフレットは、光学製品の表面にマイクロスケールのパターンを転写する方法を開示している。そのため、転写可能な材料の層がスタンプの表面上に堆積され、これはスタンプを光学製品の基材の表面上に堆積されたラテックスの未乾燥の層と接触させることによって転写されるパターンに対応するマイクロリリーフを構成する凹部と突出部を有する。スタンプに加えられる圧力に応じて、突出部に塗布された透明材料の層だけ、又は凹部と突出部に堆積された転写可能材料の層がラテックスの層に転写される。転写後、スタンプは除去される。
【0020】
上述の方法に加えて、特に(射出)成形及びフォトリソグラフィに加えて、国際公開第2020/078964A1号パンフレットは、光学製品であって、ベースとなるレンズ基材、耐摩耗コーティング、及び耐摩耗コーティングの前面から、又は後面から突出する少なくとも1つの光学素子を含む光学製品の製造方法として、耐摩耗コーティングの前面から突出する少なくとも1つの光学素子のアディティブマニュファクチャリングを提案している。
【0021】
欧州特許出願第20182515.5号明細書は、少なくとも1つの単電磁パルスを当てることにより、少なくとも1つのコーティング前駆体材料を乾燥及び硬化、焼結、並びに/又は固化させる方法を開示している。少なくとも1つのコーティング前躯体材料は、ハードコーティング中のハードコーティング前駆体材料を含み得る。少なくとも1つのコーティング前駆体材料を乾燥及び硬化、焼結、並びに/又は固化させるのに必要な全体的なプロセス時間は、例えばオーブン内で熱を直接加える従来の熱硬化プロセスと比較して、短縮される。さらに、光学特性及び/又は機械的特性は、少なくとも1つの単電磁パルスのプロセスパラメータを変化させることにより調整可能である。
【0022】
眼の網膜は、水平方向にも垂直方向にも成長する。網膜の前又は後に周辺視焦点を生じさせることで眼が成長するための眼網膜への刺激を軽減又は停止するという理論に基づいて、上述のように眼鏡レンズのための幾つかのデザインが提案されている。刺激は周辺視のための近視又は遠視の焦点ぼけ、すなわち焦点が網膜の背後又は網膜の前方に位置することから生じるものである。例えば近視眼の屈折を、米国特許出願公開第2017/013167A1号明細書の図1による第一の屈折領域と第二の屈折領域を含む眼鏡レンズで矯正する場合、眼の屈折異常を矯正するための処方に基づく屈折力を有する六角形の第一の屈折領域を通じた中心視において、無限遠からの光束は第一の屈折領域、眼の角膜、及び眼のその他の光学的構成要素で屈折し、網膜の真上に、正確には眼の網膜中心窩の真上にある焦点に集束する。無限遠の物点は、眼鏡レンズ装用者にとって完璧な像を形成する。したがって、中心視では、眼は本来通りの成長ができなくなるような解剖学的状態がないかぎり、本来通りに成長すると仮定される。米国特許出願公開第2017/013167A1号明細書の図1に示される第二の屈折領域のうちの1つを通した周辺視では、無限遠からの光束は、第二の屈折領域、眼の角膜、及び眼のその他の光学的構成要素で屈折し、眼の網膜の前方にある焦点に集束する。したがって、焦点が眼の網膜の前方に位置する周辺視では、眼は眼軸長伸長の速度を低下させるか、又はさらにはそれを完全に停止させると仮定される。しかしながら、眼の網膜の湾曲はそれほど均一ではないため、無限遠から入射して、第二の屈折領域のうちの何れか1つ、眼の角膜、及び眼のその他の光学的構成要素で屈折した光束は、必ずしも眼の網膜の前方にある焦点に集束するとはかぎらない。さらに、眼の網膜及び眼自体の解剖学的構造は個別の形状又は湾曲を有し、それゆえ人によって異なる。同じ人物の左眼の網膜と右眼の網膜でさえ同じ形状又は湾曲ではない。近視又は遠視の進行は、眼鏡レンズの各装用者の屈折力を例えば米国特許出願公開第2017/013167A1号明細書の図1のように、同じ所定の第一の屈折領域と同じ所定
の第二の屈折領域を含む眼鏡レンズで矯正しても抑制されない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0023】
したがって、本発明の課題は、改良された、個別の調整可能な最終光学表面を有する眼鏡レンズを提供することであった。本発明の別の課題は、眼鏡レンズの最終光学表面を個別に調整するための単純で効率的な方法を提供することであった。眼鏡レンズは、光束を眼の網膜の前方、又は直上、及び/又は背後に集束させるべきである。焦点の位置は眼に合わせることが可能であるべきである。
【課題を解決するための手段】
【0024】
課題は、特許請求項1、10、11、24、及び25に記載の眼鏡レンズの製造方法によって解決されている。課題はさらに、特許請求項12、13、26、及び27に記載の眼鏡レンズの表面の改質方法によって解決されている。
【0025】
ISO 13666:2019(E)のセクション3.10.13によれば、眼鏡レンズの処方屈折力は、屈折力検査により特定された装用者の視力の矯正/補償のために明示された度数として定義される。ISO 13666:2019(E)のセクション3.10.3によれば、度数はレンズの焦点屈折力とプリズム屈折力を含む一般的な用語である。装用者の視力の屈折力検査は典型的に、他覚的屈折力検査及び/又は自覚的屈折力検査として実行される。他覚的屈折力検査には、リフラクトメータ又はオートリフラクトメータが典型的に使用される。他覚的屈折力検査に使用可能な市販のシステムは、眼球波面収差計、オートリフラクトメータ、角膜形状解析装置、及び角膜曲率計のうちの少なくとも1つを含み得る。自覚的屈折力は通常、アイケア専門家によって行われる。他覚的屈折力検査に使用されるシステムや器具に応じて、視軸又は視線は、ISO 13666:2019(E)によれば物体空間内の関心対象の点から眼の入射瞳の中心までの光線経路及びそれに続く像空間内の射出瞳の中心から、例えば装置により使用される凝視目標により事前に特定される網膜の凝視点までである。自覚的屈折力検査中、視軸は例えば装用者に対して示される視力表により事前に特定される。屈折補正用レンズ、すなわちISO 13666:2019(E)のセクション3.5.3による装用者の視力を矯正又は補償するための度数を有するレンズの最終光学表面の計算は、少なくとも処方された度数に基づいているが、この処方された度数の特定では典型的に、1つの視線方向しか考慮されない。国際公開第2008/049503A2号パンフレットには、処方度数の計算において自覚的屈折力検査及び他覚的屈折力検査を考慮に入れることが記載されている。処方度数の計算においてすでに自覚的屈折力検査及び他覚的屈折力検査を考慮に入れることは、屈折補正用レンズの最終光学表面の計算のための正確で個別的な根拠となる。屈折補正用レンズの最終光学表面の正確さをさらに高め、特に屈折補正用レンズの最終光学表面の個別的な適応可能性をさらに向上させるためには、他覚的屈折力検査と自覚的屈折力検査のうちの少なくとも一方だけでなく、周辺屈折力も考慮される。K.G.Foote,C.Leahy,M.Everett,J.Straub,Ultra-widefield peripheral refraction using a slit-scanning ophthalmoscope and image montaging,Investigative Ophthalmology & Visual Science July 2020,Vol.61,PB00151,ARVO Imaging
in the Eye Conference Abstract,July 2020(https://iovs.arvojournals.org/article.aspx?articleid=2770401&resultClick-1、最終閲覧日2020年12月10日)で開示されているように、広視野スリット走査検眼鏡を使って周辺屈折力を測定できる。少なくとも1人の装用者の眼の周辺屈折力は、屈折補正用レンズの最終光学表面の計算においてその少なくとも1人の装用者の眼の解剖学的状態を
考慮に入れるための間接的な手段である。周辺屈折力がわかれば、少なくとも1人の装用者の眼の解剖学的状態を正確に知る必要がなくなり、これは、周辺屈折力が少なくとも1人の装用者の眼の解剖学的状態、例えばその中の個別の距離及び各眼の個別の屈折率をすでに間接的に考慮したものであるからである。解剖学的状態は眼によって異なるだけでなく、同じ眼であっても、例えば成長、年齢、又は疾患によって変化し得るため、周辺屈折力の測定は、各眼の個別の解剖学的状態を考慮するための間接的な手段であり、例えば眼内の各々の距離、例えば角膜からレンズ前面までの距離やレンズの前又は後面から中心窩までの距離の非常に複雑な特定が不要であり、その眼内又は眼の1つの光学的構成要素内の異なる屈折率の非常に複雑な特定が不要であり、及び/又は網膜の表面形状を正確に知ることが不要である。
【0026】
好ましくは、屈折補正用レンズの最終光学表面は、中心視のため、及び周辺視のために個別に調整される。装用者の中心視を補正又は補償するために、自覚的屈折力検査及び/又は他覚的屈折力検査、好ましくは少なくとも自覚的屈折力検査が、仕上げ済みレンズの最終光学表面の計算において考慮に入れられる。装用者の周辺視も同時に補正又は補償するために、周辺屈折力の測定を考慮に入れることが好ましい。
【0027】
さらに好ましくは、屈折補正用レンズの最終光学表面は、装用者の中心視を最小限の結像収差で最適に補正又は補償し、装用者の周辺視を最適に補正又は補償する。屈折補正用レンズは、レンズ基材と少なくとも1つのコーティングを含むことが好ましい。装用者の中心視を少なくとも自覚的屈折力検査に基づいて最適に補正又は補償するために、レンズ基材の確立された研削及び研磨プロセスが使用され得る。屈折補正用レンズの少なくとも1つのコーティングは、その少なくとも1つのコーティングを含むレンズ基材の表面として、製作公差内で同じ最終光学表面を有すると仮定される。少なくとも1つのコーティングは、コーティングシーケンスの一部であり得る。装用者の周辺視を、好ましくは周辺屈折力の測定に基づいてさらに最適に補正又は補償するために、屈折補正用レンズのコーティングのうちの少なくとも1つの最終光学表面が改質されることが好ましい。屈折補正用レンズのコーティングのうちの少なくとも1つの最終光学表面の改質は個別に調整可能であることが好ましく、少なくとも1人の装用者の眼の周辺視の測定結果に合わせて個別に調整可能であることが好ましい。好ましくは、中心視は好ましくは屈折補正用レンズのコーティングのうちの少なくとも1つの個別的な改質により損なわることはなく、これは、個別的改質が周辺視にのみ関しているからである。換言すれば、屈折補正用レンズのコーティングのうちの少なくとも1つの最終光学表面の改質によって、中心視に関してだけでなく、周辺視に関しても個別の調整が確実にできる。
【0028】
あらゆる所望の光学表面を製造する、非常に信頼できる方法が、欧州特許第3812142A1号明細書として公開された欧州特許出願第19204745.4号明細書において開示されている。欧州特許出願第19204745.4号明細書において開示されている方法によれば、従来の研削及び研磨プロセスでは実現不能な最終的光学表面の製造も可能である。本願で開示されている方法は、レンズ基材のために使用される光学材料を問わない。この方法では、コーティングされていない又はプレコーティングされたレンズ基材を完全に、又は少なくとも部分的に覆う少なくとも1つのコーティングがあればよく、この少なくとも1つのコーティングは、少なくとも1つの媒質と接触し、又はそれと接触させられたときに改質可能である。少なくとも1つのコーティングの改質は好ましい点として、不可逆的であり、長期的に安定である。例えば欧州特許第3531195A1号明細書とは異なり、あらゆる所望の最終的光学表面を改質する、又は適応させる、及び/又は製作するための追加のコーティングは不要である。しかしながら、欧州特許出願第19204745.4号明細書に記載されているように、少なくとも1つのコーティングを改質できる少なくとも1つの媒質と接触させられると改質可能な少なくとも1つのコーティングの接触時間の長さは、好ましくは25分~30時間、さらに好ましくは30分~20時
間、より好ましくは35分~15時間、最も好ましくは40分~10時間の範囲内にある。少なくとも1つのコーティングは、少なくとも1つの媒質と室温で、すなわち22℃±2℃の温度で、又は好ましくは25℃~80℃、さらに好ましくは27℃~55℃、より好ましくは30℃~50℃、及び最も好ましくは35℃~45℃の温度範囲を含む、より高い温度で接触させられ得る。少なくとも1つのコーティングは、好ましくは280nm~1200nmの波長範囲のキセノンを照射しながら少なくとも1つの媒質と接触させられ得る。欧州特許出願第19204745.4号明細書で開示された上述のプロセス条件はいかなる所望の方法でも組み合わせてよい。
【0029】
欧州特許出願第19204745.4号明細書で開示されている方法はあらゆる所望の最終光学表面を創出するための多用的方法であり、それゆえ非実践的又はより複雑な製造方法は不要となるものの、例えば国際公開第2019/16653A1号パンフレット、国際公開第2019/166654A1号パンフレット、国際公開第2019/166655A1号パンフレット、国際公開第2019/166657A1号パンフレット、及び国際公開第2019/166659A1号パンフレットは、それらの中に記載された眼鏡レンズの製造に関して、直接表面加工、成形、鋳造、若しくは射出成形、エンボス加工、成膜、又はフォトリソグラフィなどの異なる技術を提案している。例えば米国特許出願公開第2017/013167A1号明細書、国際公開第2019/16653A1号パンフレット、国際公開第2019/166654A1号パンフレット、国際公開第2019/166655A1号パンフレット、国際公開第2019/166657A1号パンフレット、又は国際公開第2019/166659A1号パンフレットに記載の眼鏡レンズを製造するのに成形プロセスを使用した場合、それぞれの眼鏡レンズを得ることができるようにするために極めて高い堅牢性と高い品質の種型を各々必要とする。ガラス製の型は、上述の要求事項を満たすが、加工が難しく、コストが高い。成形プロセスの使用には、それによって実現すべき各光学表面のために異なる種型が必要であり、これは例えば効率及びコスト面の理由から、高スループットの製造プロセスには適していないか、少なくとも第一の選択肢ではない。欧州特許出願第19204745.4号明細書に記載の方法に、中心視に関してその装用者にどの補正が必要であるかがわかることだけでなく、前述のような周辺屈折力がわかることを組み合わせると、欧州特許出願第19204745.4号明細書において開示されている方法は、その装用者の実際のニーズに合わせて個別化するようにさらに改善される。周辺屈折力がわかれば、例えば国際公開第2019/166657A1号パンフレットに記載されているような網膜の正確な形状と湾曲を知ることも、推測により、又は大まかにそれを知ることも不要となる。
【0030】
さらに、EN ISO 13666:2019(E)のセクション3.2.36による装用状態での最終光学表面の表面形状を個別に調整するために、装用中の眼及び顔に関するレンズの向きを含めた位置(3.5.2)が考慮されることが好ましい。
【0031】
屈折補正用レンズのコーティングのうちの少なくとも1つの個別的改質については、コーティングのうちの少なくとも1つが不可逆的に改質されることが好ましい。不可逆的且つ個別的に改質されることになる少なくとも1つのコーティングは、それ自体が不可逆的に改質可能、好ましくは不可逆的改質を引き起こすことのできる少なくとも1つの媒質と接触させると不可逆的に改質可能な少なくとも1つのコーティングである。不可逆的改質は、少なくとも1つのコーティング自体の不可逆的改質であり、すなわち、例えば欧州特許出願公開第3531195A1号明細書とは異なり、少なくとも1つのコーティングの不可逆的改質のために追加又は続きのコーティングを堆積させる必要がない。さらに、少なくとも1つのコーティングと接触させるために使用される少なくとも1つの媒質は、例えば欧州特許出願公開第3531195A1号明細書においてコーティングされるべき表面をマスキングするために使用されるナノ粒子及び/又はマイクロ粒子の層と混同してはならない。少なくとも1つのコーティングの不可逆的改質は、少なくとも1つのコーティ
ングを、改質されることになる各特定の位置及び/又は各特定の領域において、不可逆的改質を引き起こすことのできる少なくとも1つの媒質と接触させることによって誘起されることが好ましい。少なくとも1つのコーティングの不可逆的改質は、少なくとも1つのコーティングの表面を、不可逆的改質を引き起こすことのできる少なくとも1つの媒質と接触させることによって引き起こされる少なくとも1つのコーティングの不可逆的膨潤であることが好ましい。少なくとも1つのコーティングの不可逆的膨潤は、突出部として、又は凹部として認められ得る。不可逆的膨潤が突出部として認められる場合、表面のほとんどが改質又は膨潤させられていないことが好ましい。不可逆的膨潤が凹部として認められる場合、表面のほとんどが改質又は膨潤されていることが好ましい。
【0032】
少なくとも1つのコーティングを特定の位置及び/又は特定の領域において改質させるために、少なくとも1つのコーティングは、レンズ基材のコーティングされていない又はプレコーティングされた表面に堆積させて、その下の隣接する表面を全面的に覆うか、又はその下の隣接する表面を部分的に覆い得る。コーティングされていない又はプレコーティングされた表面は、コーティングされていない又はプレコーティングされた表面の一部のみが改質されるべき少なくとも1つのコーティングで覆われ、コーティングされていない又はプレコーティングされた表面のそれ以外の部分はそれによって覆われないように、少なくとも1つのコーティングで部分的に覆われ得る。
【0033】
少なくとも1つのコーティングの個別的改質は、局所的でも広範囲でもよい。個別的改質は、何れの任意の形態又は形状でもよい。個別的改質は、最密充填構造を画定しても、最密充填構造を画定しなくてもよい。構造は、連続的でも非連続的でもよい。個別的改質は、あらゆる任意の形状及び形態のマイクロメートルスケールの構造を含み得る。各個別的改質のアスペクト比、すなわち高さ又は奥行き対最小横方向範囲の比は調整可能であり得る。個別的改質は、マイクロレンズとして動作し得る少なくとも1つの構造を含み得るか、又は光学的に集合的に機能する少なくとも2つの構造を含み得る。個別的改質の形状はガウス形状であっても、複雑な形状であってもよい。個別的改質は特定の位置において個別に調整可能な度数をもたらし得る。
【0034】
個別的改質は個別の膨潤として認められ、これは拡散制御膨潤であると仮定される。拡散制御膨潤は、少なくとも1つの媒質が少なくとも1つのコーティングと接触する時間及び少なくとも1つの媒質と少なくとも1つのコーティングとの間の接触表面に依存するか、又は少なくともそれらによって制限されると仮定される。
【0035】
少なくとも1つの媒質と接触させられたときに不可逆的に膨潤可能な少なくとも1つのコーティングの個別に調整可能な膨潤による少なくとも1つのコーティングの個別化可能な改質の実質的な利点は、装用者の眼(両眼の場合もある)の個々の解剖学的状態が容易且つ効率的に勘案でき、容易且つ効率的に最終光学表面において実現可能である点である。その個別に調整可能な膨潤による少なくとも1つのコーティングの個別化可能な改質の別の利点は、従来の研削及び/又は研磨プロセスなどの従来の研磨方式では実現できない表面形状、構造、及び/又はパターンでも容易に実現できる点である。少なくとも1つのコーティングの個別に利用可能な膨潤により容易に実現可能な表面形状、構造、及び/又はパターンは、成形プロセスでも実現可能であり得る。しかしながら、個別に調整される最終光学表面の各々は固有であり、これまでのところ高い品質では製作されないため、成形プロセスではその都度新しい型を製造する必要があり、これはコストがかかり、現実的ではない。したがって、個別に調整可能な膨潤プロセスが好ましい。膨潤プロセスは、少なくとも1つのコーティングの個別に調整可能な膨潤を起こさせるためだけでなく、標準化された表面パターン、例えば米国特許出願公開第2017/0131567A1号明細書又は先に述べた他の何れかの引用文献の中で開示されているものなどを製造するためにも適用可能であることは自明である。
【0036】
表面形状、構造、及び/又はパターンが少なくとも1つの媒質と接触させられた時に膨潤可能ではない少なくとも1つのまた別のコーティングではコーティングされない場合、少なくとも1つの媒質と接触させられたときに膨潤可能である少なくとも1つのコーティングの最終光学表面は、必要に応じて、例えば装用者の眼の解剖学的状態の変化に応じて、後の段階でさらに改質又は再調整され得る。
【0037】
屈折補正用レンズのコーティングのうちの少なくとも1つの最終光学表面を個別に改質するために、コーティングのうちの少なくとも1つは少なくとも1つの媒質と接触したときに不可逆的に改質可能である必要があることが好ましく、少なくとも1つの媒質と接触したときに不可逆的に膨潤可能である必要があることがさらに好ましい。少なくとも1つの媒質と接触したときに少なくとも1つのコーティングを不可逆的に膨潤させるために、少なくとも1つのコーティングの表面は、改質されるべき少なくとも1つの位置及び/又は少なくとも1つの領域のみが1つの媒質と接触するために露出されるようにマスキングされ得る。少なくとも1つの媒質と接触した後、マスクは除去可能であり、それによりマスクされた表面が残らないことが好ましい。好ましくは、マスクは基板との優れた接着性を有し、パターニング可能であり、少なくとも接触時間にわたっては少なくとも1つの媒質との接触に耐え、一切残らないように容易に除去可能である。マスクとして、感圧接着剤、金属マスク、フォイル、及び/又はフォトレジストが使用され得る。マスクのパターニングは、使用されるマスクに依存する。少なくとも1つの感圧接着剤又は少なくとも1つのフォイルを含むマスクの場合、パターニングにはレーザアブレーションが好ましい。金属マスクの場合、パターニングにはリフトオフプロセスが好ましい。このようなリフトオフプロセスではまず、マスクのネガが表面に適用され、例えばインクジェット印刷法によって、例えばワックスを使ってインプリント又はプリントされる。その後、表面全体が、すなわちネガも含めて、例えば物理蒸着プロセスを通じて得られる金属層で覆われる。最後にネガが除去され、例えばワックスが有機溶剤により除去でき、このようにして表面のうち、少なくとも1つの媒質と接触するために露出した少なくとも1つの特定位置及び/又は少なくとも1つの特定領域が残る。少なくとも1つのフォトレジストを含むマスクの場合、所定のパターンを通じたUV照射が使用されることが好ましい。改質されるべき表面、又は実行可能性の理由から表面全体、すなわち改質されるべき表面とマスクされた表面が少なくとも1つの媒質と接触した後、及び任意選択的に、加速表面改質に使用されるエネルギ源に暴露した後、それぞれのマスクと少なくとも1つの媒質が取り除かれる。感圧接着剤又はフォトレジストを含むマスクは、有機溶剤、例えばエタノール、イソプロパノール、又はアセトンでクリーニングすることにより除去され得る。フォイルを含むマスクは剥離され得る。金属を含むマスクは、王水でクリーニングすることにより除去され得る。
【0038】
改質されるべき表面をマスクして、改質されるべき表面、又は好ましくは実行可能性の理由から、表面全体、すなわちその中のマスクされた部分も含めて、少なくとも1つの媒質と接触させる代わりに、及びそれより好ましくは、少なくとも1つの媒質は少なくとも1つのコーティングの表面のうち、改質されるべき少なくとも1つの特定位置及び/又は少なくとも1つの特定領域に選択的に塗布される。少なくとも1つの媒質は印刷方式、好ましくはインクジェット印刷により塗布されることが好ましい。
【0039】
表面をマスクし、少なくとも1つの媒質を選択的に塗布する代わりに、改質されるべき少なくとも1つのコーティングには少なくとも1つのコーティングを改質できる少なくとも1つの媒質が選択的に塗布され、それと接触させられる。少なくとも1つの媒質と接触することにより改質可能な少なくとも1つのコーティングは、少なくとも1つの特定位置及び/又は少なくとも1つの特定領域に印刷方式、好ましくはインクジェット印刷により選択的に塗布されることが好ましい。
【0040】
少なくとも1つの媒質と接触させられると改質可能な少なくとも1つのコーティングは、フォトクロミックコーティング、又はフォトクロミックコーティングに使用可能であるがフォトクロミック染料を一切含まないコーティング組成物に基づくコーティングであることが好ましい。屈折補正用レンズは、前面及び後面に少なくとも1つの改質可能コーティングを含み得る。少なくとも1つの改変可能コーティングがフォトクロミックコーティング又はフォトクロミックコーティングに使用可能なコーティング組成物に基づくコーティングであるが、コーティング組成物がフォトクロミック染料を含まない場合、屈折補正用レンズの前面のみがそれぞれの少なくとも1つのコーティングを含む。最終光学表面の改質は、周辺視を考慮して、中心視を損なわない最終光学表面の改質又は調整であることが好ましい。周辺視を考慮し、中心視を損なわない最終光学表面の改質又は調整は、最終光学表面のその後の変化であることが好ましい。ここで、最終光学表面とは中心視に関して最終的である。周辺視を考慮した最終光学表面の改質又は調整は、少なくとも1つのマイクロレンズを得る最終光学表面のその後の改質であることが好ましい。少なくとも1つのマイクロレンズは、装用者の眼(両眼の場合もある)の周辺屈折力を考慮して個別に調整された何れの任意の形状又は形態であってもよい。最終光学表面のその後の改質によって任意の形状又は形態の少なくとも2つのマイクロレンズが得られる場合、少なくとも2つのマイクロレンズは、個別の周辺屈折力を考慮して表面に分散される。少なくとも2つのマイクロレンズの任意の形状又は形態は、相互に同じでも異なっていてもよく、各々が個々の周辺屈折力を考慮している。少なくとも1つのマイクロレンズ又は少なくとも2つのマイクロレンズは、中心視を損なわないことが好ましい。
【0041】
少なくとも1つのフォトクロミックコーティングは例えば、欧州特許出願公開第1433814A1号明細書、欧州特許出願公開第1602479A1号明細書、又は欧州特許出願公開第1561571A1号明細書に記載されているフォトクロミック組成物に基づき得る。通常フォトクロミック組成物をもたらすことになるコーティング組成物に基づく少なくとも1つのコーティングは、欧州特許第1433814A1号明細書、欧州特許第1602479A1号明細書、又は欧州特許第1561571A1号明細書に記載されている組成物を含み得るが、フォトクロミック染料は一切含まない。
【0042】
欧州特許出願公開第1433814A1号明細書、特に欧州特許出願公開第1433814A1号明細書の請求項1は、(1)ラジカル重合性モノマー100重量部と、(2)アミン化合物0.01~20重量部と、(3)フォトクロミック化合物0.01~20重量部とを含むフォトクロミック組成物を開示しており、ラジカル重合性モノマーは、シラノール基又は加水分解によりシラノール基を形成する基を有するラジカル重合性モノマー、及び/又はイソシアナート基を有するラジカル重合性モノマーを含む。欧州特許出願公開第1433814A1号明細書による、それに記載されたフォトクロミック組成物から得られるフォトクロミックコーティングと眼鏡レンズ基材との間の接着性を高めるために、シラノール基又は加水分解によってシラノール基を形成する基を有するラジカル重合性モノマー、或いはイソシアネート基を有するラジカル重合性モノマーが使用される。使用可能なモノマーは、欧州特許出願公開第1433814A1号明細書の3ページ、段落[0025]から、7ページ、段落[0046]に記載されている。さらに、欧州特許出願公開第1433814A1号明細書によれば、フォトクロミック組成物は、他のラジカル重合性モノマーを含み得る。他の重合性モノマーとしては、得られるフォトクロミックコーティングの耐溶媒性、硬度、及び耐熱性などの特徴的な特性、或いは発色強度及び退色速度などのそのフォトクロミック特性を向上させるために、少なくとも60のホモポリマーのLスケールロックウェル硬度を有するラジカル重合性モノマー(「高硬度モノマー」)と40以下のホモポリマーのLスケールロックウェル硬度を有するラジカル重合性モノマー(「低硬度モノマー」)を組み合わせて用いることが好ましい。高硬度モノマー及び低硬度モノマーに関する例及び説明は、欧州特許出願公開第1433814A1号明細書
の7ページ、段落[0052]から、13ページ、段落[0096]に記載されている。得られるフォトクロミックコーティングの耐溶媒性、硬度、及び耐熱性などの特徴的な特性、或いは発色強度及び退色速度などのフォトクロミック特性のバランスを向上させるために、低硬度モノマーの量は、シラノール基又は加水分解によりシラノール基を形成する基を有するラジカル重合性モノマー、及びイソシアネート基を有するラジカル重合性モノマーを除く、他の全てのラジカル重合性モノマーの合計に基づいて、5~70重量%であることが好ましく、高硬度モノマーの量は、5~95重量%であることが好ましい。さらに、欧州特許出願公開第1433814A1号明細書によれば、高硬度モノマーとして、少なくとも3つのラジカル重合性基を有するモノマーを、他の全てのラジカル重合性モノマーの合計に基づいて少なくとも5重量%の量で含むことが、特に好まれる。さらに好ましくは、欧州特許出願公開第1433814A1号明細書によれば、ラジカル重合性モノマーは、硬度によって分類された前述のモノマーに加えて、分子内に少なくとも1つのエポキシ基と少なくとも1つのラジカル重合性基を有するラジカル重合性モノマーを含む。少なくとも1つのエポキシ基を有するラジカル重合性モノマーを使用することにより、フォトクロミック化合物の耐久性及びフォトクロミックコーティングの接着性を向上させることができる。分子内に少なくとも1つのエポキシ基と少なくとも1つのラジカル重合性基を有するラジカル重合性モノマーは、欧州特許出願公開第1433814A1号明細書の13ページ、段落[0101]から14ページ、段落[0105]に開示されている。欧州特許出願公開第1433814A1号明細書によれば、分子内に少なくとも1つのエポキシ基と少なくとも1つのラジカル重合性基を有するラジカル重合性モノマーの量は、他の全てのラジカル重合性モノマーの合計に基づいて、好ましくは0.01~30重量%、特に好ましくは0.1~20重量%である。欧州特許出願公開第1433814A1号明細書に記載のフォトクロミック組成物は、上記のラジカル重合性モノマーに加えて全てのラジカル重合性モノマーの合計100重量部に基づいて0.01~20重量部の量の少なくとも1つのアミン化合物を含む。少なくとも1つのアミン化合物についての例は、欧州特許出願公開第1433814A1号明細書の14ページ、段落[0108]から15ページ、段落[0112]に記載されている。欧州特許出願公開第1433814A1号明細書に開示されたフォトクロミック組成物は、全てのラジカル重合性モノマーの合計100重量部に基づいて、0.01~20重量部、好ましくは0.05~15重量部、より好ましくは0.1~10重量部の量の少なくとも1つのフォトクロミック化合物を含む。フォトクロミック化合物に関する例は、欧州特許出願公開第1433814A1号明細書の15ページ、段落[0114]から20ページ、段落[0122]に記載されている。
【0043】
欧州特許出願公開第1602479A1号明細書、特に欧州特許出願公開第1602479A1号明細書の請求項9は、ラジカル重合性モノマー100重量部と、シリコーン系又はフッ素系界面活性剤0.001~5重量部と、フォトクロミック化合物0.01~20重量部とを含むフォトクロミック組成物を開示している。欧州特許出願公開第1602479A1号明細書によれば、フォトクロミック組成物は、シラノール基又は加水分解によりシラノール基を形成する基を有するラジカル重合性モノマーと、アミン化合物と、フォトクロミック化合物とを含む。シラノール基又は加水分解によりシラノール基を形成する基を有するラジカル重合性モノマーの使用量は、コーティング剤全体の総重量に基づいて、適切には0.5~20重量%、特に1~10重量%である。欧州特許出願公開第1602479A1号明細書による、シラノール基又は加水分解によってシラノール基を形成する基を有するラジカル重合性モノマーと共に使用できる他のラジカル重合性モノマーは、例えば、トリメチロールプロパントリメタクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、テトラメチロールメタントリメタクリレート、テトラメチロールメタントリアクリレート、トリメチロールプロパントリエチレングリコールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラメタクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、ウレタンオリゴマーテトラアクリレート、ウレタンオリゴマーヘキサメタクリレート、ウレタンオリゴマーヘキサアクリレート、ポリエステルオリゴマーヘキサアクリレート、ジ
エチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、テトラエチレングリコールジメタクリレート、トリプロピレングリコールジメタクリレート、ビスフェノールAジメタクリレート、2,2-ビス(4-メタクリロイルオキシエトキシジフェニル)プロパン、グリシジルメタクリレート、平均分子量776の2,2-ビス(4-アクリロイルオキシポリエチレングリコールフェニル)プロパン又は平均分子量475のメチルエーテルポリエチレングリコールメタクリレートなどである。他のラジカル重合性モノマーの使用量は、コーティング剤全体の重量に基づいて、適切には20~90重量%、特に40~80重量%である。アミン化合物、例えば、トリエタノールアミン、N-メチルジエタノールアミン、トリイソプロパノールアミン、N,N-ジメチルアミノエチルメタクリレート又はN,N-ジエチルアミノエチルメタクリレートなどの使用量は、例えば、コーティング剤全体の重量に基づいて、適切には0.01~15重量%、特には0.1~10重量%である。ナフトピラン誘導体、クロメン誘導体、スピロオキサジン誘導体、スピロピラン誘導体又はフルギミド誘導体などのフォトクロミック化合物の使用量は、コーティング剤全体の重量に基づいて、適切には0.1~30重量%、特には1~10重量%である。
【0044】
眼鏡レンズが少なくとも1つのフォトクロミックコーティング、好ましくは、少なくとも1つのフォトクロミックコーティングを含む矯正用レンズの前表面を含む場合、矯正用レンズは、任意に少なくとも1つのフォトクロミック下塗りコーティングを含み得る。好ましくは、矯正用レンズの前表面は、少なくとも1つのフォトクロミック下塗りコーティングと、少なくとも1つのフォトクロミックコーティングとを含み、フォトクロミックコーティングは、その最外層コーティングである。少なくとも1つのフォトクロミック下塗りは、欧州特許出願公開第1602479A1号明細書、特に欧州特許出願公開第1602479A1号明細書の請求項1に開示されたポリウレタン樹脂層、又は国際公開第03/058300A1号パンフレット、特に国際公開第03/058300A1号パンフレットの22ページ、3行から23ページ、13行に開示された下塗り層を含み得る。
【0045】
少なくとも1つのコーティングを改質可能な少なくとも1つの媒質は、少なくとも1つの有機酸であることが好ましい。少なくとも1つの媒質は、少なくとも1つの有機脂肪酸飽和又は不飽和、任意選択的に置換されたモノカルボン酸を含むことが好ましい。少なくとも2~22個の炭素原子、好ましくは3~18個の炭素原子を含む少なくとも1つの有機脂肪酸飽和又は不飽和モノカルボン酸を含むことが好ましい。少なくとも1つの媒質としては、例えば酢酸、プロピオン酸、アクリル酸、乳酸、酪酸、イソ酪酸、吉草酸、ヘプタン酸、カプロン酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、ミリストレイン酸、パルミトレイン酸、リノール酸、アルファリノール酸、ガンマリノール酸、オレイン酸、リシノール酸、ステアリドン酸、アラキドン酸、エイコサペインタン酸、ドコサペンタン酸、及び/又はドコサヘキサエン酸が使用され得る。好ましくは、少なくとも1つの媒質は、酢酸、乳酸、酪酸、カプロン酸、カプリン酸、ペラルゴン酸、リノール酸、アルファリノール酸、ガンマリノール酸、及びオレイン酸からなる群より選択された少なくとも1つの酸を含む。より好ましくは、少なくとも1つの媒質は、乳酸、カプリン酸、及びオレイン酸からなる群より選択された少なくとも1つの酸を含む。代替的又は追加的に、少なくとも1つの媒質は、例えばクエン酸などのトリカルボキシル酸又は例えば塩酸などの無機酸を含み得る。少なくとも1つの媒質として、前述のものの1つ又はそれらの何れかの組合せが使用され得る。少なくとも1つの媒質は、市販の等級又は市販の品質で使用され得るか、又は少なくとも1つの媒質は希釈して使用され得る。少なくとも1つの媒質がインクジェット印刷で塗布される場合、少なくとも1つの媒質の粘性は印刷可能となるように調整されなければならないことがあり得る。
【0046】
少なくとも1つのコーティングを改質できる少なくとも1つの媒体は、少なくとも1つのコーティングと一時的にのみ接触することが好ましい。少なくとも1つの媒質は、(i
)少なくとも1つの単電磁パルスの印加によって、又は複数の単電磁パルスの印加によって除去されるか、(ii)少なくとも1つの単電磁パルスの印加の後に又は単電磁パルスの印加によって、例えば単純にそれを拭き取るかすすぎ落すことによって除去される。そのため、少なくとも1つの媒質は、少なくとも1つのコーティングの上に追加の材料又はコーティングとして残らない。
【0047】
前述の方法を使った個別的に調整可能な最終光学表面の創出を加速させるために、少なくとも1つのコーティングの表面を少なくとも1つの媒質と接触させた後、少なくとも1つの単電磁パルスが、レンズ基材、少なくとも1つのコーティング、及び少なくとも1つの媒質を含む眼鏡レンズの少なくとも一方の表面に印加され得る。少なくとも1つの単電磁パルスは、好ましくは少なくとも1つのキセノンフラッシュランプからの少なくとも1つのフラッシュランプ、少なくとも1つのハロゲンランプ、少なくとも1つの有向プラズマ放電、少なくとも1つのレーザ、少なくとも1つのマイクロ波発生器、少なくとも1つの誘導加熱器、少なくとも1つの電子ビーム、少なくとも1つのストロボスコープ、及び少なくとも1つの水銀ランプからなる群から選択される少なくとも1つの電磁源から印加できる。少なくとも1つの単電磁パルスは、少なくとも1つのフラッシュランプから印加されることが好ましい。好ましくは、少なくとも1つのフラッシュランプは、キセノン、クリプトン、及び/又はアルゴンから選択されるガス、好ましくはキセノンが充填されたフラッシュランプである。少なくとも1つの単電磁パルスの波長は、好ましくは100nm~1800nmの範囲、より好ましくは150nm~1300nmの範囲、最も好ましくは200nm~1000nmの範囲内である。少なくとも1つの単電磁パルスの波長はまた、好ましくは350nm~1000nmの範囲内、より好ましくは400nm~800nmの範囲内、最も好ましくは420nm~700nmの範囲内である。前述の電磁源のうちの少なくとも1つから印加される少なくとも1つの単電磁パルスの波長は、これらの波長範囲内であることが好ましい。少なくとも1つの単電磁パルスは、眼鏡レンズ表面のうちの少なくとも一方に、すなわち(i)眼鏡レンズの前面に、(ii)眼鏡レンズの後面に、又は(iii)眼鏡レンズの前面と後面に印加される。少なくとも1つの単電磁パルスが眼鏡レンズの前面と後面に印加される(iii)の場合、前述の電磁源のうちの1つの位置は、少なくとも1つの単電磁パルスが眼鏡レンズの前面に直接印加されるか、後面に直接印加されるように交代され得る。代替的に、上述のケース(iii)では、前述の電磁源の少なくとも2つが、少なくとも1つの単電磁パルスが眼鏡レンズの前面に直接印加され、少なくとも1つの単電磁パルスが眼鏡レンズの後面に直接印加されることが同時に又は交互に行われるように位置付けられる。少なくとも2つの電磁源が使用される何れの場合も、これらの少なくとも2つの電磁源は同じ種類でも異なる種類でもよい。
【0048】
眼鏡レンズの表面の一方のみが、少なくとも1つの媒質と接触させられたときに改質可能な少なくとも1つのコーティングを含む場合、少なくとも1つの単電磁パルスは、前記眼鏡レンズのうち、前記少なくとも1つのコーティングを含む表面に印加され得るか、又は少なくとも1つの単電磁パルスは、眼鏡レンズのうち、前記少なくとも1つのコーティングを含まない表面に印加され得る。再び、後述の説明を参照されたい。眼鏡レンズの前面と後面の両方が各々、各々が少なくとも1つの媒質と接触させられたときに改質可能である少なくとも1つのコーティングを含む場合、少なくとも1つの単電磁パルスは、(i)眼鏡レンズの前面、(ii)眼鏡レンズの後面、又は(iii)眼鏡レンズの前面と後面に印加され得る。前記ケース(iii)の場合、電磁源に関する前述の可能性が当てはまる。
【0049】
欧州特許出願第19204745.4号明細書がすでに、好ましくは280nm~1200nmの波長を有するキセノン光の照射を提案していることを考慮すると、例えば、好ましくはキセノンガスが充填された少なくとも1つのフラッシュランプから発せられた少なくとも1つの単電磁パルスを印加すること、すなわちフォトニック硬化方式によるもの
が、少なくとも1つのコーティングを改質できる少なくとも1つの媒質と接触させられたときに改質可能な少なくとも1つのコーティングの最終光学表面を得るためのプロセス総時間が大幅に短縮させることは、はるかに大きな驚きであった。さらに、欧州特許出願第19204745.4号明細書に記載されている方法と比較してプロセス総時間を短縮するために、少なくとも1つの単電磁パルスの印加以外に、追加の作業は不要である。換言すれば、少なくとも1つのコーティングを改質できる少なくとも1つの媒質と接触させられたときに改質可能な少なくとも1つのコーティングを接触させることにより、少なくとも1つの単電磁パルスの印加の後、すなわちフォトニック硬化方式の使用により、少なくとも1つのコーティングのあらゆる所望の、又は目標の最終光学表面が、欧州特許出願第19204745.4号明細書に記載されている方法と比較して大幅に短縮されたプロセス総時間で得られる。
【0050】
「単電磁パルス」とは、前述の電磁源のうちの少なくとも1つにより送達され、少なくとも1つの改質可能コーティングを含む眼鏡レンズのうち少なくとも一方の表面に印加される光を意味し、少なくとも1つの改質可能コーティングはそれによって、少なくとも1つの媒質と全面的に若しくは少なくとも部分的に接触するか、少なくとも1つの媒質により全面的に若しくは少なくとも部分的に覆われる。少なくとも1つの単電磁パルスは、上で定めた波長範囲のうちの1つで印加され得る。少なくとも1つの単電磁パルスは、所定の持続時間、すなわち所定の包絡線を有することが好ましい。少なくとも1つの単電磁パルスの包絡線とは、少なくとも1つの単電磁パルスが、改質されるべき少なくとも1つのコーティングを含む眼鏡レンズの少なくとも1つの表面に印加される期間として定義され、少なくとも1つのコーティングは少なくとも1つの媒質により全面的に又は少なくとも部分的に覆われる。少なくとも1つの単電磁パルスの包絡線はさらに、少なくとも1つの単電磁パルスが、少なくとも1つの媒質と接触させられた、又は少なくとも1つの媒質により覆われたときに改質可能な少なくとも1つのコーティングを含まない眼鏡レンズの少なくとも1つの表面に印加される期間として定義され、少なくとも1つの媒質は少なくとも1つのコーティングを改質することができる。包絡線は、50μs~200msの範囲、好ましくは100μs~150msの範囲であり得る。各単電磁パルスは少なくとも2つのマイクロパルスを含み得て、少なくとも2つのマイクロパルスの各々は、各単電磁パルスの包絡線内の所定の持続時間を有する。単電磁パルスの包絡線内の少なくとも2つのマイクロパルスの持続時間は、相互に同じでも異なっていてもよい。単電磁パルスの包絡線内のマイクロパルス全部の持続時間のパーセンテージは、単電磁パルスのデューティサイクルとして定義される。さらに、少なくとも1つの単電磁パルス又は少なくとも1つのマイクロパルスは所定のピーク強度を有する。ピーク強度とは、1つの単電磁パルス又は1つの単電磁パルス内の1つのマイクロパルスによって、光エネルギが単位時間あたりに少なくとも1つのコーティングの単位面積に印加される速度として定義され、少なくとも1つのコーティングは少なくとも1つの媒質によって全面的に又は少なくとも部分的に覆われる。ピーク強度は好ましくは、0.01W/cm~200W/cmの範囲、さらに好ましくは0.1W/cm~150W/cm、より好ましくは0.5W/cm~100W/cm、最も好ましくは1W/cm~60W/cmの範囲内である。単電磁パルスの包絡線内の少なくとも2つのマイクロパルスのピーク強度は、相互に同じでも異なっていてもよい。単電磁パルスの包絡線内の少なくとも2つのマイクロパルスのピーク強度は相互に同じであることが好ましい。単電磁パルスの包絡線内の2つの連続するマイクロパルス間のピーク強度は、ゼロである必要はなく、一定である必要はなく、等しい必要はない。必要に応じて、各単電磁パルスが繰り返されて電磁パルストレインが提供され得る。電磁パルストレイン内で、各単電磁パルスは少なくとも2回、最大1000回繰り返され得て、各単電磁パルスは2~100回繰り返されることが好ましい。電磁パルストレイン内で、同じ単電磁パルスが繰り返されることが好ましい。電磁パルストレイン内で、各単電磁パルスの包絡線は相互に同じでも異なっていてもよい。電磁パルストレイン内で、各単電磁パルスの包絡線は同じであることが好ましい。電磁パルストレイン内で、
各単電磁パルスは少なくとも2つのマイクロパルスを含み得て、少なくとも2つのマイクロパルスは、それらのピーク強度、持続時間、及び/又はデューティサイクルに関して相互に同じでも異なっていてもよい。電磁パルストレイン内で、各単電磁パルスは少なくとも2つのマイクロパルスを含み得て、少なくとも2つのマイクロパルスはそれらのピーク強度、持続時間、及び/又はデューティサイクルに関して相互に同じであることが好ましい。少なくとも2つの単電磁パルスを含む電磁パルストレイン内で、少なくとも2つの単電磁パルスは0.1Hz~5Hz、好ましくは0.2Hz~4Hz、さらに好ましくは0.3Hz~3.5Hz、最も好ましくは0.4~2Hzの範囲の繰り返し率で繰り返され得る。少なくとも1つの単電磁パルスの包絡線内の少なくとも1つの単電磁パルスのピーク強度は、包絡線内で、及び/又は少なくとも1つの単電磁パルス内の各マイクロパルスと共に漸減し得る。例えば、この減少は少なくとも1つの単電磁パルスを発生させるために使用される電磁源の充電コンデンサの限界による可能性がある。少なくとも1つの単電磁パルスによって少なくとも1つのコーティングであって少なくとも1つの媒質で全面的に又は少なくとも部分的に被覆されている少なくとも1つのコーティングを含む眼鏡レンズに付与される照射量は、各単電磁パルスと共に包絡線の持続時間全体にわたり送達される平均強度であり、少なくとも単電磁パルスは各々が個別の量の強度を送達される少なくとも2つのマイクロパルスを含んでいても含まなくてもよい。少なくとも1つの単電磁パルスにより付与される照射量は好ましくは、0.001J/cm~50J/cm、さらに好ましくは0.1J/cm~30J/cm、より好ましく間は1J/cm~20J/cm、最も好ましくは2.0J/cm~15J/cmの範囲内であり得る。特に好ましくは、付与される照射量は3J/cm~8J/cmの範囲内である。
【0051】
少なくとも1つの単電磁パルスの前述のプロセスパラメータの何れの1つの何れの変更も、少なくとも1つの単電磁パルスが、少なくとも1つの媒質で改質可能な少なくとも1つのコーティングに印加されたときに得られる光学表面に影響を与え得る。さらに、少なくとも1つの単電磁パルスの前述のプロセスパラメータの何れの1つの何れの変更も、少なくとも1つの単電磁パルスが、少なくとも1つの媒質と接触させられたときに改質可能な少なくとも1つのコーティングを含まない眼鏡レンズの表面に印加されたときに得られる光学表面に影響を与え得る。例えば少なくとも、例えば少なくとも1つのマイクロレンズである表面改質の幅と高さに関する寸法が、適当な少なくとも1つの単電磁パルスを印加することによって調整可能であるだけでなく、表面改質の形状も、印加される少なくとも1つの単電磁パルスによって調整可能である。それゆえ、少なくとも1つの単電磁パルスを、少なくとも1つのコーティングを改質できる少なくとも1つの媒体で部分的又は全面的に被覆される少なくとも1つのコーティングに印加することにより、欧州特許出願第19204745.4号明細書において開示されている接触時間と比較してプロセス総時間が大幅に短縮されるだけでなく、それと同時に、少なくとも1つのコーティングの取得可能な表面改質の可能性が広がる。少なくとも1つの単電磁パルスを、少なくとも1つのコーティングを改質できる少なくとも1つの媒質と接触させられたときに改質可能な少なくとも1つのコーティングを含む眼鏡レンズの少なくとも1つの表面に印加することにより、欧州特許出願第19204745.4号明細書に記載されている方法により実現可能な目標光学表面と同じ目標光学表面が得られるが、プロセス総時間は欧州特許出願第19204745.4号明細書において必要な接触時間よりはるかに短い。プロセス総時間、すなわちコーティングされていない又はプレコーティングされたレンズ基材の少なくとも1つの表面に堆積された少なくとも1つのコーティングを上述の少なくとも1つの単電磁パルスを使って改質させるのに必要な総時間は、好ましくは100μs~7分、さらに好ましくは300μs~5分、より好ましくは500μs~4分、及び最も好ましくは1ms~3分の範囲内である。
【0052】
少なくとも1つの単電磁パルスの印加は正確に1つの単電磁パルスの印加を含むことが好ましく、正確に1つの単電磁パルスは、前述のように少なくとも2つのマイクロパルス
に細分され得る。少なくとも1つの単電磁パルスの印加はまた、幾つかの単電磁パルス、好ましくは少なくとも2つの単電磁パルス、さらに好ましくは複数の単電磁パルスの印加を含むことも好ましく、その各々は再び、前述のように少なくとも2つのマイクロパルスに細分され得る。単電磁パルスの正確な数に関係なく、少なくとも1つの単電磁パルスに関する前述の説明が当てはまる。
【発明を実施するための形態】
【0053】
要約すると、以下の実施形態は本発明の範囲内で特に好ましい。
【0054】
実施形態1:レンズ基材と少なくとも1つのコーティングとを含む眼鏡レンズの製造方法であって、
- コーティングされていない又はプレコーティングされた前面とコーティングされていない又はプレコーティングされた後面とを含むレンズ基板を提供するステップと、
- レンズ基材の少なくとも一方の表面を、少なくとも1つのコーティングを改質できる少なくとも1つの媒質と接触することによって改質可能な少なくとも1つのコーティングで覆うステップと、
- 少なくとも1つのコーティングの最も外側の表面、すなわち少なくとも1つのコーティングの、レンズ基材の表面の一方に隣接していない表面を、装用者の周辺屈折力を考慮して、少なくとも1つの媒質と全面的に又は部分的に接触させるステップと、
- 少なくとも1つの単電磁パルスを、レンズ基材、少なくとも1つのコーティング、及び少なくとも1つの媒質を含む眼鏡レンズの少なくとも一方の表面に印加するステップと、
- レンズ基材と少なくとも1つのコーティングとを含む眼鏡を得るステップであって、少なくとも1つのコーティングの表面は全面的に、又は部分的に改質されているステップと、
を所与の順序で含む。
【0055】
実施形態2:少なくとも1つの表面形状は、全面的に又は部分的に改質されている、実施形態1に記載の方法。
【0056】
実施形態3:少なくとも1つのコーティングの表面形状の改質は、少なくとも1つのコーティングの少なくとも1つの隆起部である、実施形態1又は2に記載の方法。
【0057】
実施形態4:少なくとも1つのコーティングの表面形状の改質は、少なくとも1つのコーティングの拡散制御プロセス、好ましくは少なくとも1つのコーティングの拡散制御膨潤プロセスである、実施形態1~3の何れか1つに記載の方法。
【0058】
実施形態5:少なくとも1つのコーティングが硬化及び/又は固化された後に、少なくとも1つのコーティングが少なくとも1つの媒質と接触され、また少なくとも1つの電磁パルスが、レンズ基材、少なくとも1つのコーティング、及び少なくとも1つのコーティングと接触する少なくとも1つの媒質を含む眼鏡レンズの表面のうちの少なくとも1つに印加される、実施形態1~4の何れか1つに記載の方法。
【0059】
実施形態6:少なくとも1つのコーティングの表面形状の完全な改質は、眼鏡レンズの最終光学表面として調整可能である、実施形態1~5の何れか1つに記載の方法。
【0060】
実施形態7:少なくとも1つのコーティングの表面形状の完全な改質は、好ましくは中心視のために装用者の処方された屈折力を補正又は補償する、実施形態1~6の何れか1つに記載の方法。
【0061】
実施形態8:少なくとも1つのコーティングの表面形状の部分的改質により、少なくとも1つのコーティングの、少なくとも1つの局所的膨潤が得られる、請求項1~7の何れか1つに記載の方法。
【0062】
実施形態9:少なくとも1つのコーティングの表面形状の処方された屈折力を考慮した完全な改質の後に、少なくとも1つのコーティングの表面形状の少なくとも1つの部分的な改質が行われ、好ましくは、
- 少なくとも1つのコーティングの改質された表面を、周辺屈折力を考慮して、好ましくは少なくとも1つの特定位置及び/又は少なくとも1つの特定領域において、少なくとも1つの媒質で部分的に覆う、又はそれと部分的に接触させるステップと、
- 少なくとも1つの単電磁パルスを、レンズ基板、少なくとも1つのコーティング、及び少なくとも1つの媒質を含む眼鏡レンズの表面のうちの少なくとも一方に印加するステップと、
- レンズ基材と少なくとも1つのコーティングとを含む眼鏡レンズを得るステップであって、少なくとも1つのコーティングの表面形状は部分的に改質され、好ましくは少なくとも1つのマイクロレンズを含むステップと、
を所与の順序で含む、実施形態1~8の何れか1つに記載の方法。
【0063】
実施形態10:眼鏡レンズは、少なくとも1つのハードコーティング、少なくとも1つの反射防止コーティング、及び少なくとも1つの透明コーティングからなる群のうち少なくとも1つから選択される少なくとも1つのコーティングでさらに被覆される、実施形態1~9の何れか1つに記載の方法。
【0064】
実施形態11:少なくとも1つの単電磁パルスの印加の後に、少なくとも1つの媒質の残留物が少なくとも1つのコーティングの改質された表面から拭き取られる、実施形態1~10の何れか1つに記載の方法。
【0065】
実施形態12:少なくとも1つのコーティングの表面形状の改質は少なくとも、印加される少なくとも1つの単電磁パルスに応じて調整可能又は調節可能である、実施形態1~11の何れか1つに記載の方法。
【0066】
実施形態13:レンズ基材は光学材料に基づき、光学材料は、DIN EN ISO 13666:2019-12のセクション3.3.1により、光学コンポーネントへと製造されることが可能な透明材料と定義されている、実施形態1~12の何れか1つに記載の方法。眼鏡レンズ基材は、DIN EN ISO 13666:2019-12のセクション3.3.1による鉱物ガラス及び/又は、DIN EN ISO 13666:2019-12のセクション3.3.3による熱可塑性硬質樹脂、又はDIN EN ISO 13666:2019-12のセクション3.3.5によるフォトクロミックガラスで製作され得る。
【0067】
好ましくは、眼鏡レンズ基材は、下表に示される光学材料の少なくとも1つに基づき、特に好ましくは有機硬質樹脂の少なくとも1つに基づく。
【0068】
【表1】
【0069】
実施形態14:少なくとも1つのコーティングの局所的表面改質によって、その高さが好ましくは1nm~10μm、さらに好ましくは2nm~9μm、さらに好ましくは3nm~8μmの範囲、より好ましくは4nm~7μmの範囲、最も好ましくは5nm~6μmの範囲のマイクロレンズ又はレンズレットが得られる、実施形態1~13の少なくとも1つに記載の方法。複雑な形状を含む局所的表面改質の場合、前述の範囲は最大高さに適用されることが好ましい。内部の範囲に関して、好ましくは5μm~20mm、さらに好ましくは10μm~10mm、さらに好ましくは20μm~5mm、より好ましくは50μm~4mm、最も好ましくは70μm~3mmの範囲の幅が付与され得る。寸法は、白色光干渉計システムにより特定されることが好ましい。マイクロレンズ又はレンズレットが得られる局所的表面改質の実現可能な表面度数に関して、前述の改質の可能性の多様性により広い範囲で調整可能であり、表面度数は0.2ディオプトリ~50ディオプトリの
範囲、好ましくは0.25ディオプトリ~40ディオプトリの範囲、さらに好ましくは0.3ディオプトリ~30ディオプトリの範囲、より好ましくは0.4ディオプトリ~20ディオプトリの範囲、最も好ましくは0.5ディオプトリ~10ディオプトリの範囲である。表面度数は欧州特許出願第19204745.4号明細書の明細書で説明されているように計算され得る。
【0070】
実施形態15:
i)眼鏡レンズ、又は
ii)眼鏡レンズ及び眼鏡レンズの使用説明書、又は
iii)眼鏡レンズの仮想表現であって、非一時的データ媒体に記憶される、及び/若しくはデータ信号である仮想表現、又は、
iv)眼鏡レンズの仮想表現と眼鏡レンズの仮想使用説明書であって、非一時的データ媒体上に記憶された表現及び使用説明書、又は
v)眼鏡レンズの仮想表現及び任意選択により仮想レンズの仮想使用説明書を有する非一時的データ媒体、又は
vi)眼鏡レンズの仮想表現及び任意選択により眼鏡レンズの仮想使用説明書を有するデータ信号
を含む製品であって、
眼鏡レンズはレンズ基材を含み、レンズ基材はコーティングされていない又はプレコーティングされた前面とコーティングされていない又はプレコーティングされた後面とを含み、
レンズ基材の少なくとも1つの表面は、少なくとも1つのコーティングで被覆され、少なくとも1つのコーティングは、少なくとも1つの媒質と接触させられると改質可能であり、装用者の視力を矯正又は補償するために処方された屈折力、周辺屈折力、及び眼鏡レンズの装用時の位置からなる群の少なくとも1つを考慮した、何れの目標最終光学表面も得られる、製品。
【手続補正書】
【提出日】2022-10-26
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0024
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0024】
課題は、特許請求項1及び9に記載の眼鏡レンズの製造方法によって解決されている。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0046
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0046】
少なくとも1つのコーティングを改質できる少なくとも1つの媒体は、少なくとも1つのコーティングと一時的にのみ接触することが好ましい。少なくとも1つの媒質は、(i)少なくとも1つの単電磁パルスの印加によって、又は複数の単電磁パルスの印加によって除去されるか、(ii)少なくとも1つの単電磁パルスの印加の後に又は単電磁パルスの印加の後に、例えば単純にそれを拭き取るかすすぎ落すことによって除去される。そのため、少なくとも1つの媒質は、少なくとも1つのコーティングの上に追加の材料又はコーティングとして残らない。
【手続補正3】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
レンズ基材と少なくとも1つのコーティングとを含む眼鏡レンズの製造方法であって、少なくとも、
- コーティングされていない又はプレコーティングされた前面とコーティングされていない又はプレコーティングされた後面とを含むレンズ基板を提供するステップと、
- 前記レンズ基材の前記表面の少なくとも一方に少なくとも1つのコーティングを部分的又は全面的に堆積させるステップと、
- 前記少なくとも1つのコーティングの表面を少なくとも1つの媒質と部分的又は全面的に接触させるステップと、
- レンズ基材と少なくとも1つのコーティングとを含む眼鏡レンズを取得するステップであって、前記少なくとも1つのコーティングの前記表面は改質されているステップと、
を含み、
前記少なくとも1つのコーティングの前記表面の前記改質は、前記少なくとも1つのコーティングの膨潤をもたらす拡散制御表面改質であり、
前記少なくとも1つのコーティングの前記表面の前記改質には、少なくとも1人の装用者の眼の個別の周辺屈折力が考慮されている
ことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記少なくとも1つのコーティングの前記表面の前記改質が、前記少なくとも1つのコーティングの表面形状の改質であることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記少なくとも1つの媒質が、前記周辺屈折力を考慮してインクジェット印刷により塗布されることを特徴とする、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記少なくとも1つのコーティングが、少なくとも1つのフォトクロミックコーティングと、少なくとも1つのフォトクロミックに似ているが、少なくとも1つのフォトクロミック染料を含まないコーティング組成物に基づく少なくとも1つのコーティングからなる群の少なくとも1つから選択されることを特徴とする、請求項1~3の何れか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記少なくとも1つのコーティングの前記少なくとも1つの媒質との前記全面的接触では、前記処方された屈折力が考慮されることを特徴とする、請求項1~4の何れか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記少なくとも1つのコーティングを前記少なくとも1つの媒質と接触させる前に装用時の位置が考慮されることを特徴とする、請求項1~5の何れか1項に記載の方法。
【請求項7】
少なくとも1つの単電磁パルスは、前記レンズ基材と、前記少なくとも1つのコーティングと、前記少なくとも1つの媒質とを含む前記眼鏡レンズの少なくとも1つの表面に印加されることを特徴とする、請求項1~6の何れか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記眼鏡レンズが、少なくとも1つのハードコーティング、少なくとも1つの反射防止コーティング、及び少なくとも1つの透明コーティングからなる群の少なくとも1つから選択される少なくとも1つのコーティングでさらに被覆されることを特徴とする、請求項1~7の何れか1項に記載の方法。
【請求項9】
レンズ基材と少なくとも1つのコーティングとを含む眼鏡レンズの製造方法であって、少なくとも、
- コーティングされていない又はプレコーティングされた前面とコーティングされていない又はプレコーティングされた後面とを含むレンズ基板を提供するステップと、
- 前記レンズ基材の前記表面の少なくとも一方に少なくとも1つのコーティングを部分的又は全面的に堆積させるステップと、
- 前記少なくとも1つのコーティングの表面を少なくとも1つの媒質と部分的又は全面的に接触させるステップと、
を含み、さらに、
- 前記眼鏡レンズの前記表面の少なくとも一方に少なくとも1つの単電磁パルスを印
加するか、又は複数の単電磁パルスを印加するステップであって、前記眼鏡レンズは前記レンズ基材、前記少なくとも1つのコーティング、及び前記少なくとも1つの媒質を含むステップと、
- 前記少なくとも1つの媒質を、(i)前記少なくとも1つの単電磁パルスの印加若しくは前記複数の単電磁パルスの印加によって、又は(ii)前記少なくとも1つの単電磁パルスの印加の後若しくは前記複数の単電磁パルスの印中の後に除去するステップと、
- 全面的又は部分的に改質された表面を有する少なくとも1つのコーティングを含む眼鏡レンズを取得するステップであって、前記少なくとも1つのコーティングの前記表面は、前記少なくとも1つの媒体と接触しているとき、又は接触させられたときに改質可能であり、前記少なくとも1つの媒質は前記少なくとも1つのコーティングの前記表面を改質することができ、前記少なくとも1つのコーティングの前記表面の前記改質では、少なくとも1人の装用者の眼の個別の周辺屈折力が考慮されるステップ
を特徴とする方法。
【請求項10】
前記少なくとも1つのコーティングの前記表面の前記改質は、前記少なくとも1つのコーティングの表面形状の改質であることを特徴とする、請求項に記載の方法。
【請求項11】
前記少なくとも1つのコーティングの前記表面の前記改質は、前記少なくとも1つのコーティングの拡散制御膨潤であることを特徴とする、請求項9又は10に記載の方法。
【請求項12】
前記少なくとも1つのコーティングの前記表面の前記少なくとも1つの媒質との前記全面的又は部分的接触は、前記少なくとも1つの媒質を前記少なくとも1つのコーティングの前記表面に印刷することによって行われることを特徴とする、請求項9~11の何れか1項に記載の方法。
【請求項13】
前記少なくとも1つの単電磁パルスは、前記レンズ基材、前記少なくとも1つのコーティング、及び前記少なくとも1つの媒質を含む前記眼鏡レンズの1つの表面に印加されることを特徴とする、請求項9~12の何れか1項に記載の方法。
【請求項14】
前記少なくとも1つのコーティングは、少なくとも1つのフォトクロミックコーティングと、フォトクロミックコーティングのための、ただしフォトクロミック染料を含まないコーティング組成物に基づく少なくとも1つのコーティングとからなる群の少なくとも1つから選択されることを特徴とする、請求項9~13の何れか1項に記載の方法。
【請求項15】
前記少なくとも1つの媒質は、少なくとも1つの有機脂肪酸飽和又は不飽和、任意選択により置換されたモノカルボン酸を含むことを特徴とする、請求項9~14の何れか1項に記載の方法。
【請求項16】
前記少なくとも1つのコーティングを改質するために必要なプロセス総時間は100μs~7分の範囲内であることを特徴とする、請求項9~15の何れか1項に記載の方法。
【請求項17】
前記少なくとも1つの単電磁パルスは50μs~200msの範囲の包絡線を有することを特徴とする、請求項9~16の何れか1項に記載の方法。
【請求項18】
前記少なくとも1つの単電磁パルスは、少なくとも1つのフラッシュランプ、少なくとも1つのハロゲンランプ、少なくとも1つの有向プラズマ放電、少なくとも1つのレーザ、少なくとも1つのマイクロ波発生器、少なくとも1つの誘導加熱器、少なくとも1つの電子ビーム、少なくとも1つのストロボスコープ、及び少なくとも1つの水銀ランプからなる群から選択される少なくとも1つの電磁源により送達される光を含むことを特徴とする、請求項9~17の何れか1項に記載の方法。
【請求項19】
前記少なくとも1つの単電磁パルスの波長は100nm~1800nmの範囲であることを特徴とする、請求項9~18の何れか1項に記載の方法。
【国際調査報告】