(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-10-05
(54)【発明の名称】中性子捕捉療法のための中性子ビームの生成、減速および構成のためのデバイス
(51)【国際特許分類】
A61N 5/10 20060101AFI20230928BHJP
G21K 5/02 20060101ALI20230928BHJP
G21K 1/00 20060101ALI20230928BHJP
【FI】
A61N5/10 H
G21K5/02 N
G21K1/00 N
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023532846
(86)(22)【出願日】2021-08-09
(85)【翻訳文提出日】2023-03-28
(86)【国際出願番号】 ES2021070607
(87)【国際公開番号】W WO2022034257
(87)【国際公開日】2022-02-17
(32)【優先日】2020-08-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】ES
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】512047623
【氏名又は名称】ウニベルシダ デ グラナダ
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSIDAD DE GRANADA
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ポラス サンチェス,イグナシオ
(72)【発明者】
【氏名】プラエナ ロドリゲス,アントニオ ハビエル
(72)【発明者】
【氏名】アリアス デ サーベドラ アリアス,フェルナンド
(72)【発明者】
【氏名】トレス サンチェス,パブロ
(72)【発明者】
【氏名】ラモス チェルネンコ,ナタリヤ
【テーマコード(参考)】
4C082
【Fターム(参考)】
4C082AC07
4C082AE01
4C082AG32
4C082AG41
4C082MA01
(57)【要約】
中性子ビームの生成、減速および構成のためのデバイスは、前記陽子ビームが方向付けられる入口開口(1)と、中性子ビームを生成するために陽子ビームが加速される標的(2)と、中性子をエピサーマル範囲のエネルギーにする減速材(3)と、前記減速材(3)を囲む反射性カバー(4)と、濾過ステージ(5)と、前記中性子ビームのための出口開口(6)と、前記出口開口(6)を介して前記デバイスから出射しない中性子およびガンマ線放射を抑制するためのシールド(7)と、を備える。前記濾過ステージ(5)は、高速中性子、熱中性子およびガンマ線放射をそれぞれフィルタリングする少なくとも3層を備える。本発明は、中性子捕捉療法(より具体的にはホウ素療法)において使用される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
陽子ビームからの中性子の生成に基づく、中性子ビームの生成、減速および構成のためのデバイスであって、
‐前記陽子ビームが方向付けられる入口開口(1)と、
‐前記ビームと核相互作用して伝搬の主軸を画定する中性子ビームを生成するための、前記陽子ビームの方向の経路内に配置される標的(2)と、
‐前記標的(2)を冷却するための冷却モジュールと、
‐前記標的(2)と接触する減速材(3)であって、標的(2)から濾過ステージ(5)までの前記ビームの方向において19.62cmと23.98cmの間の厚さ(W2)を有し、前記核相互作用で生成される中性子がエピサーマル範囲のエネルギーまで減速される、減速材(3)と、
‐前記減速材(3)を囲む反射性カバー(4)であって、拡散した中性子を主軸に再方向付けし、エピサーマル中性子束を増加させる反射性カバー(4)と、
‐前記中性子ビームが出射する出口開口(6)と、
‐前記出口開口(6)を介して前記デバイスから出射しない中性子およびガンマ線放射を抑制するために、前記出口開口(6)の周囲に配置されるシールド(7)と、
‐前記出口開口(6)を介して前記デバイスから出射する前に前記中性子ビームをフィルタリングするための濾過ステージ(5)であって、前記濾過ステージ(5)は、前記出口開口(6)と接触し、前記反射性カバー(4)によって囲まれ、前記濾過ステージ(5)は、少なくとも3層、すなわち高速中性子濾過層、熱中性子濾過層およびガンマ線放射濾過層を備える、濾過ステージ(5)と、
を備える、デバイス。
【請求項2】
前記減速材の全厚さ(L4+L5)は、24.64cmと36.96cmとの間に構成され、前記標的と加速器のチューブの一部とを前記入口開口まで覆う、請求項1に記載のデバイス。
【請求項3】
前記減速材(3)は、以下の材料:グラファイト、D
2O、AlF
3、CaF
2、Li
2CO
3、MgF
2、Al
2O
3、またはこれらの組み合わせ、のうち少なくとも1つで製造される、請求項2に記載のデバイス。
【請求項4】
前記減速材(3)はMgF
2で製造される、請求項3に記載のデバイス。
【請求項5】
前記濾過ステージに含まれる前記高速中性子濾過層は、1.00cm±15%の厚さ(L1)を有する、
請求項1~4のいずれか一項に記載の中性子ビームの生成、減速および構成のためのデバイス。
【請求項6】
前記濾過ステージ(5)に含まれる前記熱中性子濾過層は、0.20cm±20%の厚さ(L2)を有する、
請求項1~5のいずれか一項に記載の中性子ビームの生成、減速および構成のためのデバイス。
【請求項7】
前記濾過ステージ(5)に含まれる前記ガンマ線放射濾過層は、1.00cm±15%の厚さ(L3)を有する、
請求項1~6のいずれか一項に記載の中性子ビームの生成、減速および構成のためのデバイス。
【請求項8】
前記高速中性子濾過層は、Al、FeまたはNiを含むことを特徴とする、請求項5~7のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項9】
前記高速中性子濾過層はAlで製造されることを特徴とする、請求項8に記載のデバイス。
【請求項10】
前記熱中性子濾過層は、
10B、
6Li、Gd、CdまたはLiFを含むことを特徴とする、請求項5~9のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項11】
前記熱中性子濾過層はLiFで製造されることを特徴とする、請求項10に記載のデバイス。
【請求項12】
前記ガンマ線放射濾過層は、PbまたはBiを含むことを特徴とする、請求項5~11のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項13】
前記ガンマ線放射濾過層はBiで製造されることを特徴とする、請求項12に記載のデバイス。
【請求項14】
前記ガンマ線放射濾過層は、生成される前記中性子ビームの飛行の方向に沿って最後に配置される、請求項5~13のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項15】
前記高速中性子濾過層、前記熱中性子濾過層および前記ガンマ線放射濾過層は、生成される前記中性子ビームの飛行の方向に沿ってこの順で配置される、請求項14に記載のデバイス。
【請求項16】
拡散した中性子を前記主軸に再方向付けする、前記減速材(3)を囲む反射性カバー(4)は、前記減速材から前記入口開口まで前記ビームの方向に25.00cm±40%の厚さ(L6)を有する、
請求項1~15のいずれか一項に記載の中性子ビームの生成、減速および構成のためのデバイス。
【請求項17】
前記反射性カバー(4)は、以下の材料:Ni、Pb、BeOまたはBi、のうち少なくとも1つを含む、請求項1~16のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項18】
前記反射性カバー(4)はPbで製造される、請求項17に記載のデバイス。
【請求項19】
直径A±2δの出口開口を有し、以下の径方向寸法:
‐前記減速材の後部の直径(φ2):A±2δ+36cm±10%
‐前記カバー(4)の直径(φ3):A±2δ+106cm±15%
‐前記デバイスの直径(φ4):A±2δ+116cm±20%
‐フロントシールド(7)のコリメータの内径(R1):(0.5A±δ+3cm±10%)
‐フロントシールド(7)のコリメータの外径(R2):(0.5A±δ+22.5cm±50%)
を有する、請求項1~18のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項20】
前記標的(2)は
7Liを含み、入射陽子ビームとの前記核相互作用は
7Li(p,n)
7Beである、請求項1~19のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項21】
前記中性子ビームのための前記出口開口(6)は、以下の幾何学的形状:円筒形、円錐形、角錐形、切頭ピラミッド形、のうち1つによる少なくとも1つの部分を有する、請求項1~20のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項22】
前記中性子ビームのための前記出口開口(6)は、照射を停止するための可動クロージャを備える、請求項1~21のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項23】
前記中性子ビームのための前記出口開口(6)の周囲に配置される前記シールド(7)は、以下の材料:LiF、
6LiF、B
4C、ポリエチレン、Pb、Bi、のうち少なくとも1つを含む、請求項1~22のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項24】
ホウ素中性子捕捉療法における使用のための、請求項1~23のいずれか一項に記載のデバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概してビームの生成、減速および構成のためのデバイスに関し、より具体的には、中性子捕捉療法のための中性子ビームに関する。
【背景技術】
【0002】
ホウ素中性子捕捉療法(一般的にBNCTと略される)は、実験的な癌放射線治療の一種であり、健康組織および腫瘍組織への線量を異ならせて制御可能となるように細胞レベルで選択的であるという点でユニークである。このようにして、周囲の健康組織を損傷することなく、腫瘍細胞を殺すことができる。BNCT技術は、主に、事前にホウ素化合物(10Bは中性子によって補足される確率が高いので)を投与された患者に、中性子を照射することに基づく。一般的に、上記中性子ビームは、原子炉によって、またはより近年では粒子加速器を用いて生成される。ホウ素は癌細胞に好適に束縛されるので、中性子がホウ素と反応する際、癌細胞を殺すかまたは重度に損傷する核反応が発生するが、隣接組織の細胞はほとんど損傷がない。
【0003】
ホウ素中性子捕捉療法を実現可能とするために、特定の質の中性子ビームが必要である。上記の中性子ビームは、エピサーマルタイプ(すなわち0.5eVと10keVの間のエネルギー)でなければならず、処置すべき腫瘍の種類に適合した強度を有しなければならない。さらに、ビームは、熱中性子(0.5eV未満のエネルギー)および高速中性子(10keVを超えるエネルギー)やガンマ線放射の混合を抑えたものでなければならない。同様に、処置は、エピサーマル中性子の熱化(すなわち、組織を貫通するに伴って当該中性子のエネルギーが減少する過程であり、深さ3~6cmで熱ピークに達する)を考慮せねばならない。さらに、中性子ビームは、腫瘍への放射線量を最大化する一方で、患者身体の他の部分は可能な限り最低の線量しか受けないようにできるように、拡散を低くする必要がある。これらの条件は、国際原子力機関(IAEA)の技術文書1223で標準化されている(D. Rorer他、「Current Status of Neutron Capture Therapy, IAEA TECDOC 1223」、国際原子力機関、ウィーン、2011年)。
【0004】
最新技術では(たとえば[I. Porras他、「Perspectives on Neutron Capture Therapy of Cancer」、CERN Proc.、1、295-304、2019]および[Torres-Sanchez(aはアキュートアクセント付き)他、「On the upper limit for the energy of epithermal neutrons for Boron Neutron Capture Therapy」、Radiation Physics and Chemistry、156、240-244、2019])、BNCT治療のための最適な中性子エネルギーは、適用される組織によって数keV(1~10keV)の範囲内であるということが示された。さらに、BNCT治療において中性子ビームの適用可能性を確実にするために、とりわけ、放射線の組織貫通容量に関する以下の品質因子を測定することが推奨されている:
‐有利深さ(よりよくは、ADとして知られる):これは、組織内で、腫瘍が受ける放射線量が、健康組織に堆積する最大線量と等しくなる深さとして定義される。このパラメータは、BNCT治療の推奨最大適用深さを決定する。
‐治療可能深さ(TD):これは、腫瘍組織への線量が、健康組織に堆積する最大線量の2倍となる深さを示す。したがってこれは、BNCT治療が最も効率的となり得る領域を決定する。
‐有利深さ線量レート(ADDR):これは、健康組織における最大線量レートと等価である。治療時間が決まれば、これによって健康組織が受ける最大線量を知ることができる。
‐治療比(TR):これは、腫瘍における最大線量と、健康組織における最大線量との間の比率によって与えられる。したがってこれは、健康組織への損傷を防ぐために最大化すべきパラメータである。
【0005】
また、IAEAは、生成される中性子のエネルギーに関するパラメータについて、別の一連の勧告を定義する:
‐エピサーマル束(φepi):これは、組織に衝突するエピサーマル中性子束を測定する。勧告は、このパラメータが、109エピサーマル中性子(n)毎平方センチメートル毎秒(単位:n/cm2s)より大きくなければならないと示す。
‐熱中性子とエピサーマル中性子との間の比率:φth/φepi、ただしφthは熱中性子束であり、これは毎単位ベースで表現すると0.05未満でなければならない。
‐全電流(Jn)と全流束との間の比率:Jn/φnであり、これは生成されたビームの方向および拡散に関する。このパラメータが大きいほど、ビームはよりよく集束され、腫瘍組織の近傍の健康組織への照射がより少なくなる。このパラメータは0.7より大きいことが好ましい。
‐エピサーマル中性子あたりの高速中性子線量(Dfast):このパラメータは2・10-13Gy・cm2/n未満に最小化することが好ましい。
‐エピサーマル中性子あたりのガンマ放射線量(Dγ):上記と同様に、患者が受ける放射線を低減するために、この線量を最小化することが好ましい。その値は、2・10-13Gy・cm2/n未満でなければならない。
【0006】
様々なBNCT治療デバイスを比較するために、しばしば、たとえばICRU4標準組織模型(「International Commission on Radiation Units and Measurements」において推奨される)およびスナイダー脳モデル(W.S. Snyder他、「Estimates of absorbed fractions for monoenergetic photon sources uniformly distributed in various organs of a heterogeneous phantom」、Oak Ridge National Lab、Tenn.、J. Nucl. Med. 10: Suppl. No. 3、7-5、1969参照)のような、組織基準モデルでのシミュレーションが用いられる。
【0007】
過去では、BNCTは原子炉からの中性子源を用いて実施された。参考として、FiR-1施設(ヘルシンキに配置された原子炉。現在では解体)および京都のKURRI施設を挙げるべきであろう。しかしながら、今日では、低エネルギー高強度加速器技術の発展の結果として、BNCTは病院設置で実施可能である(Brugger, R. M他、「Rapporteurs' report. Neutron beam design, development, and performance for neutron capture therapy」、Springer、Boston、MA、1990、3-12参照)。たとえば、「Cyclotron Based Epithermal Neutron Source」(C-BENSと略され、京都に位置する)は、エピサーマル中性子源を生成するためのサイクロトロン加速器ベースのBNCT施設であり、現在稼働中である。
【0008】
近年では、A. J. Kreiner他、「Present status of accelerator-based BNCT」(Reports of Practical Oncology & Radiotherapy 21.2、2016、95-101)に開示されるような、7Li(p,n)、9Be(p,n)または9Be(d,n)のように、中性子の生成のための様々な反応がテストされつつあり、最適な中性子ビームを探索するための努力がなされている。しかしながら、これらの反応で生成される中性子は、BNCT治療に必要なエネルギーを超えている(数百keVからMeVのオーダー)。したがって、生成される中性子を治療ニーズに適合させ、エピサーマル範囲(すなわち0.5eV~10keVであり、BNCT治療に最適である)の中性子のみを考慮するすべてのIAEA勧告を適切に充足することが可能な、中性子捕捉療法のための中性子ビームの生成、減速および構成のためのデバイス(DPMC)へのニーズが存在する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
前章でも説明したように、中性子ビームの生成、減速および構成のためのデバイス(DPMC)に対応する分野において、エピサーマル範囲(0.5eV~10keV)の中性子のみを考慮するすべての国際原子力機関(IAEA)勧告を充足できるデバイスを開発するニーズが存在する。本発明は、ホウ素中性子捕捉療法における使用に対して、より適しておりかつより安全な、エネルギー範囲を提供可能なデバイスによって、上述のニーズに対する解決策を提供する。
【0010】
より具体的には、本発明の主な目的は、陽子ビームからの中性子の生成に基づく中性子ビームのDPMCに関し、これにより、1eVと20keVの間で109n/(s cm2)を超える中性子束を得ることができ、以下を維持する:(i)熱中性子束が全流束の5%未満であり、(ii)高速中性子によって生成される線量は、1eVと20keVの間の中性子毎に2 10-13n/(s cm2)未満であり、(iii)二次的光子によって生成される線量は、1eVと20keVの間の中性子毎に2 10-13n/(s cm2)未満である。
【課題を解決するための手段】
【0011】
陽子ビームからの中性子の生成に基づく中性子ビームのDPMCは、
‐陽子ビームが方向付けられる入口開口と、
‐伝搬の主軸を画定する中性子ビームを生成するために、核反応によって陽子ビームと相互作用する標的と、
‐前記標的の溶融を防止するよう標的を冷却するための冷却モジュールと、
‐標的と接触する減速材であって、核反応で生成された中性子がエピサーマル範囲のエネルギーに減速される、減速材と、
‐拡散した中性子を主軸に再方向づけし、エピサーマル中性子束を増加させるための、減速材を囲む反射性カバーと、
‐濾過ステージであって、少なくとも、高速中性子濾過層と、熱中性子濾過層と、ガンマ線放射濾過層とを備える、濾過ステージと、
‐中性子ビームのための出口開口であって、濾過ステージと接触する、出口開口と、
‐前記出口開口を介してデバイスから出射しない中性子およびガンマ線放射を抑制するための、出口開口の周囲に配置されたシールドと、
を備える。このデバイスの組成および寸法により、上述の特性を有する中性子束を得ることができる。
【0012】
前記DPMCは、中性子ビームが出口開口を介してデバイスから出射する前に、濾過ステージが中性子ビームに作用することを特徴とする。得られた中性子ビームは、たとえば患者の組織に適用可能である。
【0013】
本発明の好適な実施形態では、入口開口に衝突する陽子ビームは、粒子加速器によって得られ、中性子を生成するために、前記陽子ビームは、金属材料から製造された標的に対して加速される。
【0014】
別の好適な実施形態では、標的は7Liを含み、入射陽子ビームとの核反応は7Li(p,n)7Beである。
【0015】
特定の実施形態では、減速材は、以下の材料:グラファイト、D2O、AlF3、CaF2、Li2CO3、MgF2、Al2O3、Fe、のうち少なくとの1つを含む。とくに、エネルギー源(陽子ビーム)が低エネルギー源である場合には、MgF2の使用が好適である。源が高エネルギー源である場合には、MgF2をAlF3で徐々に置き換え、次に双方をCaF2およびFeで置き換えることが好適である。
【0016】
他の好適な実施形態では、減速材は、以下の幾何学的形状:円筒形、円錐形、角錐形、切頭ピラミッド形、のうち1つによる少なくとも1つの部分を有する。
【0017】
本発明のいくつかの好適な実施形態では、反射性カバーは、以下の材料:Ni、Pb、BeO、Bi、のうち少なくとも1つを含む。
【0018】
本発明の有利な実施形態のいくつかでは、濾過ステージの高速中性子濾過層は、以下の材料:Al、Fe、Ni、のうち少なくとも1つを含む。
【0019】
本発明の他の特定の実施形態では、濾過ステージの熱中性子濾過層は、以下の材料:10B、6Li、Gd、Cd、LiFのうち少なくとも1つを含む。これによって、中性子ビームの適用中に健康な表面組織が受ける過度の熱照射が低減される。熱中性子は、ほとんどは組織内に深く貫通せず、表面または浅い外傷に用いる場合のみ適用可能であるため、組織内への適用には有用ではない。GdおよびCdは、最大の熱捕捉断面積を有する材料の例であり、同様にガンマ線放射生成を最小化する必要がなければ、熱中性子を除去するためにこれらを用いることが最適であろう。いずれの場合でも、ガンマ線放射生成は有意であり、ガンマ線放射フィルタとしてより大きい厚さのPbまたはBiを示唆する。代替的に、この濾過層は、部分的に減速より前に配置されてもよく、そうすると、ガンマ線放射は材料の残部を通過することによって部分的に減衰するが、そのような場合には、熱中性子減衰器としてのその効果は減少する。
【0020】
本発明の他の好適な実施形態では、濾過ステージのガンマ線放射濾過層は、以下の材料:Pb、Bi、のうち少なくとも1つを含む。このようにすると、本発明で得られる中性子ビームのガンマ線放射による汚染が低減される。
【0021】
本発明の濾過ステージが少なくとも備える、上述の3層の結果として、エピサーマル中性子以外の放射源は低減される。これによって、生成される中性子ビームのスペクトルはエネルギー選択性が非常に強くなり、2~3keVの範囲で最大値を有し、中性子捕捉療法(より具体的にはBNCT)に非常に適している。
【0022】
本発明の特定の実施形態のいくつかによれば、中性子ビームのための出口開口は、以下の幾何学的形状:円筒形、円錐形、角錐形、切頭ピラミッド形、のうち1つによる少なくとも1つの部分を有する。このようにすると、得られた中性子ビームの拡散が減少する。
【0023】
本発明の特定の有利な実施形態では、中性子ビームのための出口開口(6)は、照射を停止するための可動クロージャを備える。
【0024】
本発明の他の実施形態では、中性子ビームのための出口開口の周囲に配置されるシールドは、以下の材料:LiF、6LiF、B4C、ポリエチレン、Pb、Bi、のうち少なくとも1つを含む。他の好適な実施形態では、シールドはPbおよびリチウム化ポリエチレンのみを含む。より有利ないくつかの実施形態では、Pb層およびリチウム化ポリエチレン層に、天然のLiFおよび6LiエンリッチLiFの追加2層が追加される。シールドの結果として、照射組織に近い正常組織または領域(受けた残留放射線が可能な限り最低限となるべきである)が受ける放射線量を低減するために、主軸から拡散した中性子のほとんどおよびこれに関連するガンマ線放射が抑制される。B4Cは、10Bを有するので一般に用いられる材料であり、固体である。
【0025】
本発明の中性子ビームのDPMCの好適な使用は、ホウ素中性子捕捉療法からなる。濾過ステージの結果として、本発明の中性子ビームの出射前に、前記中性子ビームは、この種の治療におけるその使用に適したスペクトルを有する。
【0026】
本文章を通して、用語「含む・備える(comprises)」およびその派生語は、排他的に理解すべきではなく、定義されたものが追加の要素またはステップを含んでもよいという可能性を許容する意味に理解すべきである。
【図面の簡単な説明】
【0027】
本発明の説明を完結させるために、本記載の一体的一部であり、本発明の好適な実施形態を示す一組の図面が提供される。前記図面は、非限定的な例示的な方法で解釈されるべきであり、以下に詳細に説明される。
【
図1】2次元の軸方向の断面によって本発明の好適な実施を示す図であり、本デバイスの主な寸法と、これを組み立てる材料とが示される。
【
図2】
図1に示す本発明の3次元視を示す図である。その内部における材料および層の分布を可視化するために径方向断面を有する。
【
図3】材料の適切な選択が、エピサーマル中性子を減少させることなく、熱中性子束および高速中性子束をいかに最小化し2~3keVのスペクトル最大値に達するかを示すために、本発明のLi源から出口開口までの様々な点における中性子のスペクトルを示す図である。エピサーマル範囲(0.5eV~10keV)がグレーの領域で示される。
【
図4】2つの基準BNCT治療施設:ヘルシンキ(フィンランド)のFiR-1および京都(日本)のC-BENS、と比較しての、本発明の出口開口において得られる放射の最終スペクトルを対数スケールで示す図。エピサーマル範囲(0.5eV~10keV)がグレーの領域で示される。
【
図5】
図4と同じ各施設と比較しての、本発明の出口開口において得られる放射の最終スペクトルを線形スケールで示す図。エピサーマル範囲(0.5eV~10keV)がグレーの領域で示される。
【
図6】本発明の出口開口その場での径方向における中性子束(エピサーマル、熱および高速)の横方向プロファイルおよびガンマ線放射の横方向プロファイルを、対数スケールで示す図。
【0028】
以下の要素に対応する一連の参照番号は、上述の図面に伴う。
(1) 入口開口
(2) 標的
(3) 減速材
(4) 反射性カバー
(5) 濾過ステージ
(6) 出口開口
(7) シールド
(W1) 最後の濾過層(5)から入口開口(1)までの、ビームの方向における空気の厚さ
(W2) 標的(2)から濾過ステージ(5)までの、ビームの方向における減速材(3)の厚さ
(L1) 高速中性子濾過層の厚さ
(L2) 熱中性子濾過層の厚さ
(L3) ガンマ線放射濾過層の厚さ
(L4) 減速材の直径が出口開口に近づくにつれて減少する実施形態における減速材の前部または正面部の厚さ
(L5) 減速材の直径(φ3)が一定である、減速材の後部の厚さ
(L6) ビームの方向における、減速材(3)から入口開口までのカバー(4)の厚さ
(φ2) 減速材の後部の直径
(φ3) カバー(4)の直径
(φ4) サイドシールド(7)を含むデバイスの直径
(R1) フロントシールド(7)のコリメータの内径
(R2) フロントシールド(7)のコリメータの外径
【発明を実施するための形態】
【0029】
図1は、軸対称性および円筒・円錐形状を有する本発明の好適な実装を示す。まず、加速器(図示せず)によって陽子ビームを2.1MeV(しかしながら、他の値を用いてもよい)にまで加速する必要があり、本発明の入口開口(1)または方向付けチューブを介して陽子ビームを方向付けることによって、すべてのIAEA勧告が充足される。このエネルギーの陽子ビームにおいて、本発明によって生成される中性子は、平均エネルギー108.4keVおよび最大エネルギー350.4keVを有する。次に、陽子ビームが標的(2)(この場合には加速器の方向付けチューブの端部に配置されたリチウム(
7Li)シート)に衝突し、核反応
7Li(p,n)
7Beによって中性子が生成される。前記陽子ビームは、主軸にそって方向付けられる。しかしながら、本発明の他の好適な実施形態は、中性子を生成するための他の核反応(たとえば
9Be(p,n))を伴ってもよい。また、本発明は、標的(2)を冷却するための冷却モジュール(図示しないが、発生し得る高温により標的(2)が溶融するのを防止するために必要である)を備える。
【0030】
リチウム標的(2)を囲み、正面方向および両側部に延びて、前記正面方向に標的(2)からフィルタ(5)まで、厚さ(W2)が21.80cm±10%(好ましくは21.8cm)の、減速材(3)のコアが配置される。好適には、減速材はMgF
2を伴って製造される。減速材(3)として使用可能な他の材料は、Al、MgまたはCa金属とFとの組み合わせ、グラファイトの形態の炭素、または、水(H
2Oまたは重水D
2O)である。これらの材料は、中性子相互作用特性に基づいて選択される。したがって、大きい弾性断面積および小さい吸収断面積を有する同位体が必要である。中性子は、弾性衝突によって徐々にエネルギーを失い得る。この衝突によるエネルギー損失は、水素または重水素、または炭素のような軽量の同位体に対して、より大きくなる。元素Al、Mg、CaまたはFの適性は、主にそれらの数十~数百keVの範囲のエネルギー共鳴(これによって、減速を介してエピサーマル範囲に遷移する高エネルギー中性子の量を低減できる)による。MgF
2は、弾性断面積が比較的大きいため他の材料に優先して選択される一方で、捕捉あたりのガンマ線放射の生成は、水等の他の材料より低い。さらに、各原子核は各衝突でエネルギーの大部分を失うほど軽量ではないので、中性子に、はるかにゆっくりと、かつ制御可能に、そのエネルギーを失わせることができる。AlまたはCa等の他の金属は、より高いエネルギー共鳴を有するので、低エネルギー源としてのそれらの使用は、Mgほど適してはいない。本発明の他の好適な実装では、減速材は、以下の材料:D
2O、Al
2O
3、Li
2CO
3、のうち少なくとも1つ、あるいは、同等または類似の特性を有する当業者に既知の他のもので製造可能である。
図1では、減速材(3)は、円筒部分および別の円錐部分を含む。しかしながら、他の好適な実施形態では、減速材(3)は、以下の幾何学的形状:円筒形、角錐形、切頭ピラミッド形、円錐形、のうち1つを有する、少なくとも1つの部分またはプロファイルを備える。
【0031】
好適には、減速材(3)の周囲に反射性カバー(4)(大きい弾性衝突断面積を有し同時に高い質量数を有する材料で作製される)が配置され、これによって、中性子はこれらの衝突においてより多くのエネルギーを失わず、さらに、後向き衝突の確率がより高く、これによって、中性子が減速材のコアに向かって回復され得る。したがって、反射材は、拡散した中性子を中性子ビームの主軸に再方向付けし、これによってエピサーマル中性子束が増大する。その後部において、減速材から入口開口まで、カバー(4)は、ビームの方向に25.00cm±40%の厚さ(L6)を有する。
【0032】
また、減速材は、標的と、加速器のチューブの一部とを後部(ビーム入口)まで覆う。好適な実施形態では、減速材の全厚さ(L4+L5)は、24.64cmと36.96cmの間に構成される。
【0033】
さらに、反射材カバー(4)の材料は、減速過程で生じたガンマ線放射を吸収しなければならない。この理由から、このタスクについて、高い原子番号の材料が理想的である。この方法では、この機能のための最適な材料は鉛およびビスマスである。PbはBiよりも弾性衝突断面積が大きく、一般に反射材として用いられてきた(ビームの拡散が考慮すべき要因となる正面方向を除く)。径方向および後方向において、Pb層の厚さ(L6)を増大させることにより、減速材(3)のコアから逸脱した中性子をより多く回復することができる。この関係は、エピサーマル中性子の増加が飽和する最大厚さに到達するまで維持される。
【0034】
濾過ステージ(5)(これも反射材カバー(4)によって囲まれる)は、減速材(3)のコアの後に配置される。前記濾過ステージ(5)は、BNCT治療に寄与しない中性子のスペクトル(高速および熱中性子)の追加的な濾過を提供するとともに、エピサーマル中性子束への影響を最小限にしつつガンマ線放射を低減するよう機能する。好適には、上述の濾過ステージ(5)は、少なくとも以下の層を備える:
‐高速中性子濾過層:この層は減速を補完し、高速中性子の一部をその共鳴によって選択的に除去することによって、得られる中性子のスペクトルをフィルタリングする機能を基本的に実行する。この層の厚さ(L1)は1.00cm±15%である。
図1では、この層はアルミニウムシートからなり、その厚さは1cmである。しかしながら、FeまたはNi等の他の元素も適している可能性がある。
‐熱中性子濾過層:この層の目的は、ビームの熱中性子を抑制することである。減速過程は、かなりの量の熱中性子(ビームをBNCT治療で使用する前にビームから除去せねばならない)を、後に生成する。Liは大きな熱捕捉断面積を有する材料である。この性質により、これは最適な熱中性子フィルタとなる。
この層の厚さ(L2)は0.20cm±20%である。とくに、
図1の実装では、この層は2mmの厚さしかないLiFシートであるが、そこに到達する熱中性子束の半分以上を除去可能である。この熱中性子濾過層のために使用可能な他の材料は、BおよびCdである(これらは、比較的大きい捕捉断面積を有し、交換でガンマ線放射を生成し、これを除去するために反射性カバー(4)に大量のPbまたはBiを要求する)。
‐ガンマ線放射濾過層:この層は、エピサーマル中性子束への影響を可能な限り小さくしつつ、ガンマ線放射を軽減するために設計される。この層の厚さ(L3)は1.00cm±10%である。
図1では、この層は1cmの厚さのBiシートからなり、これによって、より低い拡散でより大きい中性子束を得ることができる。
【0035】
好適には、ガンマ線放射濾過層は、生成される中性子ビームの飛行の方向に沿って最後に配置される。より好適には、熱中性子濾過層およびガンマ線放射濾過層は、生成される中性子ビームの飛行の方向に沿ってこの順で配置される。
【0036】
図1から、濾過ステージ(5)は、生成される中性子ビームの飛行の方向に沿って、アルミニウム、LiFおよびBiの各層をこの順で備えるということがわかる。しかしながら、上述の各層は、技術的に可能な任意の順序で配置可能であり、減速材のブロックの一部と交換することも可能である。本発明の他の好適な実施形態は、濾過ステージ(5)に含まれる層のうち1以上の層を複数備える。
【0037】
濾過ステージ(5)の結果として、得られる中性子のスペクトルは、BNCT治療に適したものとなる(高速中性子および熱中性子がフィルタリングされ、熱中性子束が全流束の5%未満に維持され、残留ガンマ線放射も除去されている)。
【0038】
次に、ビームの形状および集束を決定する出口開口(6)が配置される。とくに、これは
図1に示すように円筒・円錐形部分を有する。この目的のために、前記開口は、コリメーション円錐(好適にはこれもPbから作製され、これによって、その円錐の母線の傾きを考慮して中性子ビームを形作ることができる)を備える。傾きが大きすぎると(すなわち非常に細長いコリメーション円錐)、エピサーマル束を過度に減少させる。逆に、非常に低い傾き(すなわち非常に平坦な円錐)は、ビームの過度の拡散を生成する。BNCT治療に使用可能な中性子ビームは、空気が充填された前記出口開口(6)を通って出射する。本発明の好適な実施形態のいくつかでは、出口開口(6)はスリットおよび/または突起を備えるということに留意すべきである。同様に、他の有利な実装では、開口(6)は照射を停止するためにリモート操作が可能な、二重のLiおよびPb層を備える可動クロージャ(ビームシャッターとも呼ばれる)を備える。
【0039】
最後に、様々な層のシールド(7)が配置され、これは、それがなければ出口開口6以外の部分を介してどこかに出射することになる中性子を吸収するとともに、ガンマ線放射からの患者の保護として機能する。出口開口(6)の後には、それがなければ制御不可能な態様で本発明から出射することになる中性子を吸収できるようにするための、様々な材料が配置される。
図1に示すように、このシールド(7)は、少なくとも2つの層を備え、それぞれ、以下の材料のうち1つからなる:
‐反射性カバー(4)のためのコーティングとしてのリチウム化ポリエチレン(熱中性子を吸収するための
6Liエンリッチ化ポリエチレンを含む)。前記ポリエチレンは水素を含むので、中性子のエネルギーを急速に熱範囲まで減少できる一方で、
6Liがガンマ線放射を生成することなくこれらを捕捉する。この層の結果として、これらの方向に出射する可能性のある中性子は、熱化され、追加の放射保護手段として吸収される。
‐ガンマ線放射を吸収するための鉛。
【0040】
シールド(7)は、十分に高い比率の6Liとの混合が実現される場合には、上述の2層(Pb層およびリチウム化ポリエチレン層)のみを含んでもよい。代替的に、6Li同位体の濃度を増大させるために、追加で以下の2層を用いてもよい:天然のLiF層および6Liエンリッチ化LiF層(これは天然のLiF層と共に、主軸から外れた分の寄与で得られる中性子ビームの汚染を防止する)。
【0041】
本発明の別の好適な実装では、上述の材料:リチウム化ポリエチレン、鉛、LiF、6Liエンリッチ化LiF、のシールド(7)の1層以上の複数があってもよい。他の実装では、リチウム化ポリエチレンをホウ酸塩処理済みポリエチレンで置換してもよい。
【0042】
シールド(7)の各層は、中性子ビームによって透過されるであろうという意味において上述した。しかしながら、それらは技術的に可能な任意の順序で配置可能である。したがって、出口開口(6)はその円錐・円筒状断面の双方において鉛およびLiF層によって覆われる。しかしながら、
図1に示すシールド(7)の各層の配置は、単なる例示であり、設計要件によって変化し得るということに留意すべきである。
【0043】
まとめると、DPMCは、熱および高速中性子束を最小限に抑えつつ、同時に高流束のエピサーマル中性子ビームを生成可能でなければならない。BNCTに適用される中性子の最適なエネルギーは数keVであり、深い腫瘍の治療が可能であることから、スペクトルの最大値はこのエネルギー範囲内になければならない。同様に、ガンマ線放射によるビームの汚染は可能な限り避けねばならない。最後に、中性子ビームは良好なコリメーションを有さねばならず、拡散があまり大きくてはいけない。言い換えると、生成された中性子は、正面に向かって出射せねばならず、ビームは出口開口(6)を通って出射した後に過度に広がってはならない。本発明において、2つの異なるガンマ線放射フィルタがあるが、それぞれの機能は異なるということに留意すべきである:濾過ステージ(5)に含まれる層は、出口開口(6)を通って出射し治療に使用されるべきビームのための放射をフィルタするものであり、一方で、シールド(7)に含まれるガンマ線放射フィルタは、主軸から拡散した中性子のみに影響する。
【0044】
図1に示す本発明の好適な実施形態では、設計は事前に課されねばならない2つのパラメータ:A(14cm)およびφ1(8cm)から生成される。残りのパラメータは、設計の最適な寸法を表す。しかしながら、DPMCは、上記パラメータの特定の許容可能範囲内で動作可能であり、各パラメータの最適な範囲は、以下に、その動作を実質的に劣化させず許容されるパーセント変動とともに、センチメートル単位で示される:φ2(50,±10%),φ3(120,±15%),φ4(130,±20%),R1(10,±10%),R2(45,±50%),W1(19.80,±10%),W2(21.80,±10%),L1(1.00,±15%),L2(0.20,±20%),L3(1.00,±10%),L4(6.20,±10%),L5(24.60,±10%),L6(25.00,±40%),L7(57.00,±20%),L8(70.80,±20%),L9(1.00,±50%),L10(1.00,±50%),L11(5.00,±10%),L12(4.00,±25%),L13(3.00,±25%),T1(2.00,±50%),T2(2.00,±50%)。出口開口のサイズは、値A=14cmで設計された。しかしながら、変形A±2δは、他の関連する径方向寸法における、以下のような変化を必然的に伴う:φ2、φ3およびφ4は±2δ(Aと同様)だけ変化し、R1およびR2はAの半分だけ変化する(±δ)。このようにして、ビームのための入口開口(1)は、標的(2)の方向的要件に従って変形可能である。
図1の設計は、3次元視で
図2にも示される。デバイスは軸に関して対称であることに留意すべきである。
【0045】
図1および2に示す好適な実施形態の検証は、IAEAによって課された品質パラメータを、上記設計で得られた品質パラメータと比較することによって実施された。第一に、2.0および2.1MeVそれぞれにおける陽子ビームについて、2種類の模型(ICRU-4標準組織で充填された円筒状模型、および、もう一方のスナイダー模型モデル)について、モンテカルロシミュレーションによってDPMCが検証された。
【0046】
各模型に関する各シミュレーションの結果を表1にまとめる。
【表1】
【0047】
等価グレイ(Gy-Eq)の単位で全放射等価線量(DT)を推定するために、以下の式を用いた。
DT=(w│ │th+χr・wB)Dth+wfast・Dfast+D
ただしDthは熱中性子線量であり、r=0.422であり、χは治療に適用されるホウ素の濃度(その値は、腫瘍組織では約35であり、健康組織では10である)を表し、wth、wfastおよびwBはそれぞれ、熱中性子、高速中性子およびホウ素の寄与の生物学的効果比(RBE)に依存する一連の重み付けパラメータである。とくに、wthおよびwfastは、腫瘍組織および健康組織の双方について3.2に等しい。これに対し、ホウ素の重み付けは、健康組織(wB=1.3)に比べて腫瘍では高い(wB=3.8)。
【0048】
第二に、表2において、DPMCで得られる中性子ビームの様々な品質パラメータを、IAEA勧告に基づいて比較する。とくに、2.0および2.1MeVにおける陽子ビームの結果がそれぞれ示される。エネルギーのエピサーマル限界(LE)は10および20keVに設定した。高速中性子によって生成される線量の約半分が、10~20keVの範囲内のエネルギーを持つ中性子に対応するということに留意すべきである。さらに、入射陽子ビームが2.1MeVのエネルギーを有している場合には本提案の発明ですべてのIAEA勧告を充足したが、2.0MeVの場合には、エピサーマル束の点で低下した。留意すべき他の側面として、本提案の好適な実施形態の結果として、BNCT治療に最も適している0.5eV~10keVの範囲内のエピサーマル中性子のみを考慮するとIAEA要件を充足可能であるということがある。これは、濾過ステージ(5)およびシールド(7)ならびにこれらを形成する各材料の結果として達成される。
【0049】
第三に、DPMCにおける中性子スペクトルが解析された。とくに、
図3は、DPMC内およびその出口開口(6)の様々な位置における中性子スペクトルを示し、減速およびそれに続く望ましくない中性子の濾過を反映する。本設計の材料の選択により、エピサーマル束を減少させることなく、熱および高速電子束を最小化できる。とくに関連が強いのは、MgF
2層内での最も高いエネルギーを有する中性子の減速であり、これによって、スペクトル最大値は、BNCT治療(とくに深い腫瘍)に最適な2~3keVにおいて達成される。
【0050】
【0051】
加えて、これは他のDPMC施設(とくにFir-1およびC-BENS)によって提供されるスペクトルと比較された。結果を
図4(対数スケール)および
図5(線形スケール)に示す。
【0052】
図6は、出口開口(6)その場における径方向における中性子束(エピサーマル、熱および高速)およびガンマ線放射の横方向プロファイルを対数スケールで示す。グラフ中央領域における垂直な破線によって区切られる、出口開口(6)におけるビームの良好な画定と、前記出口開口(6)の外側での中性子の効率的な抑制とが顕著である。とくに、エピサーマル中性子束は、最初の15cmで大きさ2桁だけ減少するが、熱中性子についてはその減衰ははるかに明確であり、最初の5cmで発生する。加えて、ガンマ線放射は、放射領域全体でよく減衰される。これによって、ガンマ線放射および主軸からずれる寄与の双方に関して、得られる中性子ビームの汚染が回避される。
【0053】
本発明の好適な実施形態のいくつかでは、反射性カバー(4)は、以下の材料:Ni、Pb、BeO、Bi、のうち少なくとも1つを含む。酸化ベリリウムの場合には、使用可能な同位体は9Beである。これは高い弾性断面積を有し、MeV範囲まで断面積のほぼ全体を構成し、これによってその場合には吸収損失は最低限となる。しかしながら、これは2つの欠点(いずれも9Beの低い質量に起因する)を有する。一方では、中性子衝突は主に大きな角度では発生せず(後向き反射)、したがって多くの中性子はそれらの経路に従ってDPMCの外部に達し、わずかに拡散するが反射されず、これによって材料のより大きい厚さが要求される。一方で、弾性衝突の力学により、より重い原子核に比較してはるかに多くのエネルギーを中性子が失うので、中性子は過度に減速されることになる。したがって、BeOは、中性子について、本発明の実施形態で用いる2~2.1MeVを超える、より高い初期エネルギーを用いる場合により適している可能性がある。そのような場合には、それは、反射材および減速材の間のその中間的振る舞いの結果として、MgF2とともに減速に貢献するであろう。
【国際調査報告】