(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-10-06
(54)【発明の名称】癌の治療用サルモネラ菌株およびその用途
(51)【国際特許分類】
C12N 1/21 20060101AFI20230929BHJP
C12Q 1/02 20060101ALI20230929BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20230929BHJP
A61P 35/02 20060101ALI20230929BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20230929BHJP
A61K 35/74 20150101ALI20230929BHJP
C12N 15/11 20060101ALN20230929BHJP
【FI】
C12N1/21 ZNA
C12Q1/02
A61P35/00
A61P35/02
A61K48/00
A61K35/74 A
C12N15/11 Z
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022578550
(86)(22)【出願日】2020-07-08
(85)【翻訳文提出日】2022-12-16
(86)【国際出願番号】 KR2020008920
(87)【国際公開番号】W WO2021256599
(87)【国際公開日】2021-12-23
(31)【優先権主張番号】10-2020-0074197
(32)【優先日】2020-06-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】513218905
【氏名又は名称】インダストリー、ファウンデーション、オブ、チョンナム、ナショナル、ユニバーシティ
【氏名又は名称原語表記】INDUSTRY FOUNDATION OF CHONNAM NATIONAL UNIVERSITY
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ミン、チョン チュン
(72)【発明者】
【氏名】ソン、ミ リョン
(72)【発明者】
【氏名】ユ、ソン ファン
(72)【発明者】
【氏名】ホン、ヨン チン
(72)【発明者】
【氏名】フイ、グエン ディン
【テーマコード(参考)】
4B063
4B065
4C084
4C087
【Fターム(参考)】
4B063QA01
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4C087MA66
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4C087ZB26
4C087ZB27
(57)【要約】
本発明は、癌の治療のために癌に選択的に作用するサルモネラ菌株およびこれを含む癌の予防または治療用組成物に関する。特に、本発明によるサルモネラ菌株は、腫瘍抑制効果を有するが、正常器官では生存力が著しく低くて、従来の発明より著しい抗癌効果を有することができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
サルモネラ菌病原性アイランド-1(Salmonella pathogenicity island-1;SPI-1);および
サルモネラ菌病原性アイランド-2(Salmonella pathogenicity island-2;SPI-2);が欠失した、サルモネラ(Salmonella)属変異菌株。
【請求項2】
前記サルモネラ菌病原性アイランド-1(SPI-1)は、配列番号1で表される塩基配列からなる、請求項1に記載のサルモネラ(Salmonella)属変異菌株。
【請求項3】
前記サルモネラ菌病原性アイランド-2(SPI-2)は、配列番号2で表される塩基配列からなる、請求項1に記載のサルモネラ(Salmonella)属変異菌株。
【請求項4】
前記サルモネラ(Salmonella)属変異菌株は、抗癌タンパク質を暗号化する遺伝子が追加的に導入されたものである、請求項1に記載のサルモネラ(Salmonella)属変異菌株。
【請求項5】
前記抗癌タンパク質は、毒素タンパク質、癌抗原に特異的な抗体または前記抗体の断片、腫瘍抑制タンパク質(Tumor suppressor protein)、血管新生抑制剤、癌抗原、プロドラッグ転換酵素(Prodrug-converting enzymes)、およびプロアポトーシスタンパク質(pro-apoptotic protein)から構成された群より選択される少なくとも1つである、請求項4に記載のサルモネラ(Salmonella)属変異菌株。
【請求項6】
前記毒素タンパク質は、リシン(Ricin)、サポリン(Saporin)、ゲロニン(Gelonin)、モモルジン(Momordin)、デボウガニン(Debouganin)、ジフテリア毒素、シュードモナス毒素(Pseudomonas toxin)、ヘモリシン(HlyA)、FASリガンド(FAS ligand;FASL)、腫瘍壊死因子-α(Tumour necrosis factor-α;TNF-α)、TNF-関連アポトーシス-誘発リガンド(TNF-related apoptosis-inducing ligand;TRAIL)およびサイトリシンA(Cytolysin A;ClyA)からなる群より選択される少なくとも1つである、請求項5に記載のサルモネラ(Salmonella)属変異菌株。
【請求項7】
前記サイトリシンAは、配列番号15で表される塩基配列からなる、請求項6に記載のサルモネラ(Salmonella)属変異菌株。
【請求項8】
前記腫瘍抑制タンパク質は、RB(Retinoblastoma protein)タンパク質、p53タンパク質、APC(Adenomatous polyposis coli)タンパク質、PTEN(Phosphatase and tensin homologue)タンパク質およびCDKN2A(cyclin dependent kinase inhibitor 2A)タンパク質から構成された群より選択される少なくとも1つである、請求項5に記載のサルモネラ(Salmonella)属変異菌株。
【請求項9】
前記血管新生抑制剤は、アンギオスタチン(angiostatin)、エンドスタチン(endostatin)、トロンボスポンジン(Thrombospondin)およびタンパク分解酵素抑制タンパク質から構成された群より選択される少なくとも1つである、請求項5に記載のサルモネラ(Salmonella)属変異菌株。
【請求項10】
前記癌抗原は、アルファ-フェトプロテイン(α-fetoprotein;AFP)、血管内皮成長因子受容体2(Vascular endothelial growth factor receptor 2;VEGFR2)、サバイビン(Survivin)、レグマイン(Legumain)および前立腺癌特異的抗原(Prostate cancer specific antigen;PCSA)からなる群より選択される少なくとも1つである、請求項5に記載のサルモネラ(Salmonella)属変異菌株。
【請求項11】
前記プロドラッグ転換酵素は、チミジンキナーゼ(Thymidine kinase)、シトシンデアミナーゼ(cytosine deaminase)、ニトロレダクターゼ(nitroreductase)、プリンヌクレオシドホスホリラーゼ(purine nucleoside phosphorylase)、カルボキシペプチダーゼG2(carboxypeptidase G2)、クロメートレダクターゼYieF(chromate reductase YieF)、単純ヘルペスウイルスI型チミジンキナーゼ/ガンシクロビル(herpes simplex virus type I thymidine kinase/ganciclovir;HSV1-TK/GCV)およびβ-グルクロニダーゼ(β-glucuronidase)からなる群より選択される少なくとも1つである、請求項5に記載のサルモネラ(Salmonella)属変異菌株。
【請求項12】
前記プロアポトーシスタンパク質は、L-アスナーゼ(L-ASNase)またはRNA-結合モチーフタンパク質5(RNA-binding motif protein 5;RBM5)である、請求項5に記載のサルモネラ(Salmonella)属変異菌株。
【請求項13】
前記サルモネラ(Salmonella)属変異菌株は、サルモネラチフィムリウム(Salmonella typhimurium)、サルモネラコレレスイス(Salmonella choleraesuis)、サルモネラエンテリティディス(Salmonella enteritidis)、サルモネラインファンティス(Salmonella infantis)、パラチフス菌(Salmonella paratyphi)および腸チフス菌(Salmonella typhi)からなる群より選択される少なくとも1つに由来する、請求項1に記載のサルモネラ(Salmonella)属変異菌株。
【請求項14】
前記サルモネラ(Salmonella)属変異菌株は、グアノシン多リン酸合成能が欠如した変異体である、請求項1に記載のサルモネラ(Salmonella)属変異菌株。
【請求項15】
サルモネラ(Salmonella)属変異菌株は、ppGpp合成酵素(ppGpp synthase)をコーディングするサルモネラrelA(Salmonella-relA)遺伝子およびspoT(Salmonella-spoT)遺伝子の少なくとも1つが不活性化された、請求項1に記載のサルモネラ(Salmonella)属変異菌株。
【請求項16】
サルモネラ(Salmonella)属菌株のサルモネラ菌病原性アイランド-1(Salmonella pathogenicity island-1;SPI-1)およびサルモネラ菌病原性アイランド-2(Salmonella pathogenicity island-1;SPI-2)遺伝子を除去して形質転換された菌株を得るステップを含む、サルモネラ(Salmonella)属変異菌株を製造する方法。
【請求項17】
前記サルモネラ菌病原性アイランド-1(SPI-1)およびサルモネラ菌病原性アイランド-2(SPI-2)の遺伝子の除去は、組換えベクターによって行われる、請求項16に記載のサルモネラ(Salmonella)属変異菌株を製造する方法。
【請求項18】
前記サルモネラ菌病原性アイランド-1(SPI-1)は、配列番号1で表される塩基配列からなる、請求項16に記載のサルモネラ(Salmonella)属変異菌株を製造する方法。
【請求項19】
前記サルモネラ菌病原性アイランド-2(SPI-2)は、配列番号2で表される塩基配列からなる、請求項16に記載のサルモネラ(Salmonella)属変異菌株を製造する方法。
【請求項20】
抗癌タンパク質を暗号化する遺伝子を導入するステップをさらに含む、請求項16に記載のサルモネラ(Salmonella)属変異菌株を製造する方法。
【請求項21】
前記抗癌タンパク質は、リシン(Ricin)、サポリン(Saporin)、ゲロニン(Gelonin)、モモルジン(Momordin)、デボウガニン(Debouganin)、ジフテリア毒素、シュードモナス毒素(Pseudomonas toxin)、ヘモリシン(HlyA)、FASリガンド(FAS ligand;FASL)、腫瘍壊死因子-α(Tumour necrosis factor-α;TNF-α)、TNF-関連アポトーシス-誘発リガンド(TNF-related apoptosis-inducing ligand;TRAIL)およびサイトリシンA(Cytolysin A;ClyA)からなる群より選択される少なくとも1つである、請求項20に記載のサルモネラ(Salmonella)属変異菌株を製造する方法。
【請求項22】
前記サイトリシンAを暗号化する遺伝子は、配列番号15で表される塩基配列からなる、請求項21に記載のサルモネラ(Salmonella)属変異菌株を製造する方法。
【請求項23】
前記サルモネラ(Salmonella)属菌株は、サルモネラチフィムリウム(Salmonella typhimurium)、サルモネラコレレスイス(Salmonella choleraesuis)、サルモネラエンテリティディス(Salmonella enteritidis)、サルモネラインファンティス(Salmonella infantis)、パラチフス菌(Salmonella paratyphi)および腸チフス菌(Salmonella typhi)からなる群より選択される少なくとも1つである、請求項16に記載のサルモネラ(Salmonella)属変異菌株を製造する方法。
【請求項24】
前記サルモネラ(Salmonella)属菌株は、グアノシン多リン酸合成能が欠如した変異体である、請求項16に記載のサルモネラ(Salmonella)属変異菌株を製造する方法。
【請求項25】
前記サルモネラ(Salmonella)属菌株は、ppGpp合成酵素(ppGpp synthase)をコーディングするサルモネラrelA(Salmonella-relA)遺伝子またはspoT(Salmonella-spoT)遺伝子が不活性化された、請求項24に記載のサルモネラ(Salmonella)属変異菌株を製造する方法。
【請求項26】
前記形質転換された菌株を培養するステップをさらに含む、請求項16に記載のサルモネラ(Salmonella)属変異菌株を製造する方法。
【請求項27】
前記形質転換された菌株を抗生剤培地に培養して変異菌株を選別するステップをさらに含む、請求項16に記載のサルモネラ(Salmonella)属変異菌株を製造する方法。
【請求項28】
請求項1~15のいずれか1項に記載のサルモネラ(Salmonella)属変異菌株を有効成分として含む、癌の予防または治療用薬学的組成物。
【請求項29】
前記癌は、黒色腫、卵管癌、脳癌、小腸癌、食道癌、リンパ腺癌、胆嚢癌、血液癌、甲状腺癌、内分泌腺癌、口腔癌、肝臓癌、胆道癌、大腸癌、直腸癌、子宮頸癌、卵巣癌、腎臓癌、胃癌、十二指腸癌、前立腺癌、乳癌、脳腫瘍、肺癌、甲状腺未分化癌、子宮癌、結腸癌、膀胱癌、尿管癌、膵臓癌、骨/軟部組織肉腫、皮膚癌、非ホジキンリンパ腫、ホジキンリンパ腫、多発性骨髄腫、白血病、骨髄異形成症候群、急性リンパ芽球性白血病、急性骨髄性白血病、慢性リンパ球性白血病、慢性骨髄性白血病および孤立性骨髄腫から構成される群より選択される、請求項28に記載の薬学的組成物。
【請求項30】
請求項1~15のいずれか1項に記載のサルモネラ(Salmonella)属変異菌株を有効成分として含む癌の診断用組成物。
【請求項31】
目的とする個体から分離された生物学的試料に、請求項1~15のいずれか1項に記載の菌株を処理するステップを含む癌の診断のための情報提供方法。
【請求項32】
前記菌株からレポータータンパク質が発現する場合、癌と診断するステップをさらに含む、請求項31に記載の癌の診断のための情報提供方法。
【請求項33】
請求項1~15のいずれか1項に記載のサルモネラ(Salmonella)属変異菌株を有効量で個体に投与するステップを含む、癌の予防または治療方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、癌に選択的に作用するサルモネラ菌株およびこれを含む癌の予防または治療用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
癌は現在全世界的に最も多くの死亡者を出す疾病の一つであって、平均寿命の延長と癌発生年齢の低下によって癌発生率は継続して増加する傾向にある。韓国の国立癌センター(National Cancer Center)で提供する2013年の統計資料によれば、2010年に癌登録統計課に登録された韓国の癌発生患者は計202,053人であり、継続して増加する傾向にある。
【0003】
したがって、癌については細胞レベルの基本研究から全方位的な抗癌治療に関する研究が全世界的に進められてきているが、未だ癌の発生機序が不明確であり、再発防止および完治が難しくて抗癌剤に対する需要が爆発的に増えており、多大な研究費が研究所および企業体に投資されている。しかし、高価格の抗癌治療費用は、直接的な医療費用だけでなく、発病後の社会経済活動の萎縮、リハビリおよび患者の看護による間接費用が追加されて、癌患者の家族および社会構成員全体に経済的に大きな負担となっており、低費用の新たな技術の導入が要求されているのが現状である。
【0004】
このような現状に合わせて、約100余年前に細菌による癌抑制現象が報告されて以来、多くの研究関係者によって抗癌効果を有する菌株が開発されており、一部の研究グループではすでに臨床段階が進行中である。
【0005】
低い酸素分圧と豊富な営養分、免疫反応の欠乏などに代表される癌組織の細胞環境体内で増殖する病原性菌株が好む生息地の特徴でもある。特に、癌組織の中心に位置したネクロティック領域(necrotic region)は薬物伝達が効率的に行われず、癌の転移などを誘発することが知られているが、クロストリジウム(Clostridium)、ビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)、サルモネラ(Salmonella)などは、癌組織の中心にあるネクロティック領域の豊富な営養分に集積して増殖し、この過程で癌組織の縮小および成長抑制などが観察されて、昔から抗癌治療のための生菌株として使用されている。
【0006】
中国のDr.Xu研究チームは、ビフィドバクテリウムロンガム(Bifidobacterium longum)を経口投与して、新生血管生成抑制剤であるエンドスタチン(endostatin)を固形癌組織に伝達するシステムを考案しており、以後、抗癌性抗生物質であるアドリアマイシン(adriamycin)との混合治療研究などを報告した(Xu YF,et al.,Cancer Gene Ther.2007,14(2):1517;Hu B,et al.,Cancer Gene Ther.2009,16(8):655-63)。
【0007】
このほか、米国国立癌研究所(NCI)をはじめとする多様な研究チームでサルモネラの癌成長阻害結果を発表し、サルモネラチフィムリウム(S.typhimurium)の毒性を弱めた変異菌株の開発を含む抗癌治療物質を搭載した弱毒化サルモネラ組換え菌株の抗癌効果を報告した(Nishikawa H,et al.,J Clin Invest.2006,116(7):1946-54,Clairmont,C.et al.J.Infect.Dis.2000,181:1996-2002.Nguyen VH,et al.,Cancer Res.2010,1;70(1):18-23,Kim K,et al.,PLoS One.2013,8(3):e60511.)
【0008】
しかし、生菌株を用いた抗癌治療は、腫瘍組織以外の正常組織にも長時間残留し、菌株による副作用の発生が懸念されてきた。特に、腫瘍治療のための組換えサルモネラの強力な抗癌治療物質の生成は、正常組織に残留するサルモネラによって組織の損傷を引き起こすことがある。また、腫瘍細胞の死滅後、除去されずに残る残留サルモネラによる慢性感染時、保菌者として周辺の他の人への感染の恐れがあり、免疫機能が弱くなった患者や高齢者には病原性が弱くなったサルモネラによって致命的な敗血症が発生する可能性があり、慢性感染時に生成された抗体は、自己免疫疾患(autoimmune disease)を起こす可能性、例えば、関節炎、眼炎、尿道炎などが発生する恐れがある。したがって、サルモネラを用いた抗癌治療技術の開発においてサルモネラの腫瘍組織に対する増殖の特異性を高め、正常器官での過度の免疫反応とそれによる副作用を最小化するために、腫瘍組織ではない他の正常組織でのサルモネラの生存能力を効率的に調節して、正常器官でサルモネラ感染時に迅速に除去できる菌株の開発が必要である。サルモネラの病原性遺伝子を欠如させた変異菌株は、サルモネラの弱毒性および生存能力を調節することが報告された。サルモネラ病原性遺伝子群であるSPI-1(Salmonella pathogenicity island-1)またはSPI-2(Salmonella pathogenicity island-2)の不活性化は、サルモネラガリナルムの病原性が弱くなる効果を示し(特許1015008050000)、弱毒化サルモネラにおいて病原性遺伝子群に属する単一遺伝子の追加欠如は、脾臓で変異菌株の生存力を急速に減少させた。(特許1017735800000)
【0009】
しかし、サルモネラガリナルムにおいてSPI-1またはSPI-2遺伝子群の欠如は、鳥類上皮細胞内の侵入効率性が減少して非病原性を有する結果により正常組織で残留サルモネラの生存能力を確認することができず、弱毒化サルモネラにおける病原性遺伝子群に属する単一遺伝子の欠如による脾臓内のサルモネラ生存力の減少は、リンパ球と多様な免疫細胞から構成されている免疫器官である脾臓によるサルモネラに対する免疫反応感受性の増大効果と見られて、免疫器官ではない生体内すべての正常組織に対するサルモネラの生存能力を迅速に調節するとは考えにくい。
【0010】
そこで、本研究者らは、腫瘍組織ではない他の正常組織でのサルモネラの生存能力を効率的に調節し、抗癌効果に優れたサルモネラ菌株を開発するために努力した結果、かつて知られた弱毒化サルモネラ菌株にサルモネラ病原性遺伝子群を追加的に欠如させた結果、正常器官での生存力は減少し、腫瘍成長が著しく抑制されることを確認したことで、前記本発明の菌株を抗癌用組成物の有効成分として有用に使用できることを検証し、本発明を完成するに至った。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の一目的は、遺伝子が欠失したサルモネラ(Salmonella)属変異菌株およびその製造方法に関する。
【0012】
本発明の他の目的は、本発明で提供するサルモネラ(Salmonella)属変異菌株を用いた癌の予防、改善または治療用組成物を提供することである。
【0013】
しかし、本発明が解決しようとする技術的課題は以上に言及した課題に制限されず、言及されていないさらに他の課題は以下の記載から当業界における通常の知識を有する者に明確に理解されるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0014】
以下、本願に記載された多様な実施形態が図面を参照して記載される。下記の説明において、本発明の完全な理解のために、多様な特異的詳細事項、例えば、特異的形態、組成物および工程などが記載されている。しかし、特定の実施形態は、これらの特異的詳細事項の1つ以上なしに、または他の公知の方法および形態とともに実行できる。他の例において、公知の工程および製造技術は本発明を不必要にあいまいにさせないために、特定の詳細事項として記載されない。「一つの実施形態」または「実施形態」に対する本明細書全体による参照は、実施形態と結びつけて記載された特別な特徴、形態、組成または特性が本発明の一つ以上の実施形態に含まれることを意味する。したがって、本明細書全体にわたる多様な位置で表現された「一つの実施形態において」または「実施形態」の状況は必ずしも本発明の同一の実施形態を示さない。追加的に、特別な特徴、形態、組成、または特性は一つ以上の実施形態において何らかの適した方法で組み合わされる。
【0015】
本発明内に特別な定義がなければ、本明細書に使われたすべての科学的および技術的な用語は、本発明の属する技術分野における当業者によって通常理解されるものと同じ意味を有する。
【0016】
本発明の一実施形態によれば、サルモネラ菌病原性アイランド-1(Salmonella pathogenicity island-1;SPI-1);およびサルモネラ菌病原性アイランド-2(Salmonella pathogenicity island-1;SPI-2);が欠失した、サルモネラ(Salmonella)属変異菌株に関する。
【0017】
本発明において、前記サルモネラ菌病原性アイランド-1(Salmonella pathogenicity island-1;SPI-1)は、サルモネラ菌感染初期の腸上皮細胞(intestinal epithelial cell)の侵入(invasion)に必要な第3型分泌系と毒性タンパク質の遺伝子全体群を有しているサルモネラ遺伝体内の特定部位である(Kimbrough TG et al,Microbes Infect,(2002);4(1):75-82)。
【0018】
本発明において、前記サルモネラ菌病原性アイランド-1(SPI-1)は、配列番号1で表される塩基配列からなるものであってもよい。
【0019】
本発明において、サルモネラ菌病原性アイランド-2(Salmonella pathogenicity island-1;SPI-2)は、サルモネラ菌が上皮細胞を通過した後、腸免疫器官や脾臓、肝などの免疫器官内の大食細胞に食菌(phagocytosis)した後、食胞(phagozome)内で溶菌せずに生き残るようにする機序に関与する反応期タンパク質とこれらのタンパク質を分泌させる第3型分泌系の遺伝子群を含む特定の遺伝体部位である(Waterman SR et al,Cell Microbiol,(2003);5(8):501~511,Abrahams GL,Cell Microbiol,(2006);8(5):728-737)。前記第3型分泌系(Type III secretion system、TTSS)は、グラム陰性菌に発達した病原性物質の伝達方法で、宿主細胞膜を通過して直接細胞質に病原性活性タンパク質を注入する注射器形態の器具(Mota LJ et al,Ann Med.(2005);37(4):234-249)で多重タンパク質複合構造体である。サルモネラ菌の感染経路では、第3型分泌系による病原性物質の伝達過程が非常に重要であることが知られている(Schlumberger MC et al,Curr Opin Microbiol,(2006);9(1):46-54)。野生型のサルモネラは、TTSSタンパク質を用いて宿主の腸内上皮細胞(epithelial cell)に付着(adhesion)、侵入(invasion)し、大食細胞(macrophage)の食菌作用(phagocytosis)中にも生存して、場合によっては、血流に沿って全身感染(Systemic infection)を起こす現象を示す。したがって、TTSSタンパク質が正常に機能する時、サルモネラ感染が進行する。
【0020】
本発明において、前記サルモネラ菌病原性アイランド-2(SPI-2)は、配列番号2で表される塩基配列からなるものであってもよい。
【0021】
本発明において、前記サルモネラ(Salmonella)属変異菌株は、抗癌タンパク質を暗号化する遺伝子を追加的に導入したものであってもよい。
【0022】
本発明の前記「抗癌タンパク質」とは、癌細胞の死滅を直間接的に誘導できる機能を有するペプチドであって、例えば、毒素タンパク質、癌抗原に特異的な抗体または前記抗体の断片、腫瘍抑制タンパク質(Tumor suppressor protein)、血管新生抑制剤、癌抗原、プロドラッグ転換酵素(Prodrug-converting enzymes)およびプロアポトーシスタンパク質(pro-apoptotic protein)から構成された群より選択される少なくとも1つであってもよいが、これに限定されるものではない。
【0023】
本発明の前記「毒素タンパク質」とは、癌細胞の死滅を直間接的に誘導できる機能を有するタンパク質であって、例えば、リシン(Ricin)、サポリン(Saporin)、ゲロニン(Gelonin)、モモルジン(Momordin)、デボウガニン(Debouganin)、ジフテリア毒素、シュードモナス毒素(Pseudomonas toxin)、ヘモリシン(HlyA)、FASリガンド(FAS ligand;FASL)、腫瘍壊死因子-α(Tumour necrosis factor-α;TNF-α)、TNF-関連アポトーシス-誘発リガンド(TNF-related apoptosis-inducing ligand;TRAIL)およびサイトリシンA(Cytolysin A;ClyA)からなる群より選択される少なくとも1つであってもよく、さらに好ましくは、サイトリシンAであってもよいが、これに限定されるものではない。
【0024】
本発明において、前記サイトリシンA遺伝子の導入は、組換えベクターによって行われてもよいが、これに限定されるものではない。
【0025】
本発明において、前記組換えベクターは、配列番号13で表される正方向プライマーおよび配列番号14で表される逆方向プライマーを用いて作製されたものであってもよい。
【0026】
本発明において、前記サイトリシンA(Cytolysin A;ClyA)遺伝子は、34-kDaの細胞膜に穴を形成して細胞を溶血させるタンパク質をコーディングする遺伝子で、大腸菌、サルモネラなどで発現する。前記サイトリシンAの配列は、WaiSN,Lindmark B,Soderblom T,et al.Vesicle-mediated export and assembly of pore-forming oligomers of the enterobacterial ClyA cytotoxin.Cell2003;115:25-35に記載されているが、これに限定するものではなく、多様な原核細胞由来のものおよびこれらの機能的変異体が本願に使用可能である。一実施形態において、サイトリシンA(ClyA)のタンパク質accession番号はABI83833.1、遺伝子配列はDQ910780.1である。前記サイトリシンA遺伝子は、配列番号15で表される塩基配列からなるものであってもよい。
【0027】
本発明の前記「腫瘍抑制タンパク質」とは、正常細胞に存在しながら機能を維持するが、その機能が失われた場合には、正常細胞が無分別な細胞分裂および成長の誘導によって癌細胞に転換されるようにする機能をする遺伝子であって、例えば、RB(Retinoblastoma protein)タンパク質、p53タンパク質、APC(Adenomatous polyposis coli)タンパク質、PTEN(Phosphatase and tensin homologue)タンパク質、CDKN2A(cyclin dependent kinase inhibitor 2A)タンパク質などであってもよいが、これに限定されるものではない。
【0028】
本発明の前記癌抗原に特異的な抗体または前記抗体の断片は、癌細胞の表面または細胞質に特異的に発現レベルが高いタンパク質である抗原に特異的に結合可能な抗体であって、例えば、乳癌または胃癌細胞に特異的に発現レベルが高いHER2などに特異的な抗体のようなものであってもよいが、これに限定されるものではない。
【0029】
本発明の前記抗体は、タンパク質またはペプチド分子の抗原性部位に特異的に結合可能なタンパク質分子を意味する。前記抗体の形態は特に限定されず、ポリクロナール抗体、モノクロナール抗体または抗原結合性を有するものであれば、抗体の一部の場合でも含まれ、全種類の免疫グロブリン抗体が含まれていてもよい。また、ヒト化抗体などの特殊抗体が含まれ、前記抗体は、2個の全長の軽鎖および2個の全長の重鎖を有する完全な形態だけではなく、抗体分子の機能的な断片を含む。抗体分子の機能的な断片とは、少なくとも抗原結合機能を保有している断片を意味し、Fab、F(ab’)、F(ab’)2、Fvなどになってもよいが、これに限定されるものではない。
【0030】
本発明の前記「抗体」とは、本発明の前記癌抗原を暗号化する遺伝子を通常の方法により発現ベクターにクローニングして前記遺伝子によって暗号化されるタンパク質を得た後に、通常の方法により製造できる。
【0031】
本発明の前記「血管新生抑制剤」とは、癌細胞周辺で新しい血管が生成されることを抑制して癌細胞の死滅を直接または間接的に誘導できる機能を有するタンパク質または化合物を意味する。好ましくは、前記血管新生抑制剤は、アンギオスタチン(angiostatin)、エンドスタチン(endostatin)、トロンボスポンジン(Thrombospondin)、およびタンパク分解酵素抑制タンパク質などであってもよいが、これに限定されるものではない。
【0032】
本発明の前記「癌抗原」とは、癌細胞では発現するが、正常細胞ではほとんど発現しないタンパク質を抗原として、これにより抗腫瘍免疫反応を誘導することで癌細胞の直接または間接的死滅を誘導できるタンパク質を意味する。本発明の前記癌抗原は、好ましくは、アルファ-フェトプロテイン(α-fetoprotein;AFP)、血管内皮成長因子受容体2(Vascular endothelial growth factor receptor 2;VEGFR2)、サバイビン(Survivin)、レグマイン(Legumain)、前立腺癌特異的抗原(Prostate cancer specific antigen;PCSA)などであってもよいが、これに限定されるものではない。
【0033】
本発明の前記「プロドラッグ転換酵素」とは、不活性薬物を酵素反応による代謝により活性薬物に転換させる機能を有するタンパク質であって、このようなプロドラッグ転換酵素を用いる場合、不活性薬物が代謝されて癌細胞の死滅を直接または間接的に誘導できる活性薬物に転換されるようにして、癌の予防または治療に非常に有用に使用可能である。本発明の前記プロドラッグ転換酵素は、好ましくは、チミジンキナーゼ(Thymidine kinase)、シトシンデアミナーゼ(cytosine deaminase)、ニトロレダクターゼ(nitroreductase)、プリンヌクレオシドホスホリラーゼ(purine nucleoside phosphorylase)、カルボキシペプチダーゼG2(carboxypeptidase G2)、クロメートレダクターゼYieF(chromate reductase YieF)、単純ヘルペスウイルスI型チミジンキナーゼ/ガンシクロビル(herpes simplex virus type I thymidine kinase/ganciclovir;HSV1-TK/GCV)、β-グルクロニダーゼ(β-glucuronidase)などであってもよいが、これに限定されるものではない。
【0034】
本発明の前記「プロアポトーシスタンパク質」とは、癌細胞が成長または維持されるのに必須の因子(タンパク質、営養分、オリゴヌクレオチドなど)を欠乏させることにより、癌細胞の直接または間接的な死滅を誘導するタンパク質を意味する。本発明の前記プロアポトーシスタンパク質は、好ましくは、L-アスナーゼ(L-ASNase)、RNA-結合モチーフタンパク質5(RNA-binding motif protein 5;RBM5)などであってもよいが、これに限定されるものではない。
【0035】
本発明において、前記サルモネラ(Salmonella)属変異菌株は、レポーター遺伝子をさらに含み、前記レポーター遺伝子は、前記サルモネラ(Salmonella)属変異菌株のイメージングを可能にする。
【0036】
前記レポーター遺伝子は、生体内(in vivo)または生体外(ex vivo、in vitro)映像撮影が可能なタンパク質をコーディングするもので、多様な由来の生物発光遺伝子、化学発光遺伝子、蛍光遺伝子を含むものである。
【0037】
本発明において、前記発光遺伝子は、原核または真核細胞由来のルシフェラーゼ遺伝子であってもよい。前記原核細胞由来のルシフェラーゼ遺伝子は、バクテリアルシフェラーゼ遺伝子(lux)であってもよい。前記真核細胞由来のルシフェラーゼ遺伝子は、ファイヤーフライ由来の発光遺伝子であってもよいが、これに限定されるものではない。前記遺伝子は、プラスミドの形態でまたはサルモネラの遺伝体に挿入されて存在してもよい。
【0038】
本発明において、前記発光遺伝子は、プラスミドの形態でまたはサルモネラの遺伝体に挿入されて存在してもよい。
【0039】
本発明において、前記サルモネラ(Salmonella)属変異菌株は、サルモネラチフィムリウム(Salmonella typhimurium)、サルモネラコレレスイス(Salmonella choleraesuis)、サルモネラエンテリティディス(Salmonella enteritidis)、サルモネラインファンティス(Salmonella infantis)、パラチフス菌(Salmonella paratyphi)および腸チフス菌(Salmonella typhi)からなる群より選択される少なくとも1つに由来するものであってもよい。挙げられたサルモネラ(Salmonella)属菌株は、グラム陰性の通性嫌気性桿菌である。乳糖分解力がなく、インドールを形成せず、硫化水素を生成しないので、大腸菌とは区別される。前記サルモネラ(Salmonella)属菌株は、周毛を有していて運動性があるものであってもよい。
【0040】
前記サルモネラチフィムリウム(Salmonella typhimurium)は、サルモネラ(Salmonella)属の腸チフスを起こす原因菌である。前記サルモネラチフィムリウムは、棒状の桿菌で、片毛がありグラム陰性である。前記サルモネラチフィムリウムは、熱に弱くて、60℃で20分で死滅し、家畜、野生動物、保菌者などや、牛乳、卵などによって1次汚染し、汚染した生育などから2次感染しやすいザラダなども原因になって、食中毒の一種であるサルモネラ症(Salmonellosis)を誘発することがある。
【0041】
前記サルモネラコレレスイス(Salmonella choleraesuis)は、サルモネラ(Salmonella)属のブタコレラ菌としてよく知られている菌で、ヒトと動物ともに感染する菌である。前記サルモネラコレレスイスは、サルモネラによる急性敗血症の主な原因菌である。この菌は、周毛を有していて運動性があるグラム陰性の通性嫌気性桿菌である。乳糖分解力がなく、インドールを形成せず、硫化水素を生成しないので、大腸菌とは区別される。発育の最適温度は35~37℃であり、増殖可能な温度範囲は10~43℃であり、60℃で20分間加熱で死滅する。最適pHは7.2~7.4であり、大きさは0.5~0.8×3~4μmである。
【0042】
前記サルモネラエンテリティディス(Salmonella enteritidis)は、サルモネラ(Salmonella)属の細菌性感染型食中毒の原因菌で、腸炎菌ともいう。前記サルモネラエンテリティディスは、サルモネラの代表的な菌で、すべての動物で感染を起こすことがあり、宿主適応力が非常に高い。周毛を有していて運動性があるグラム陰性の通性嫌気性桿菌である。乳糖分解力がなく、インドールを形成せず、硫化水素を生成しないので、大腸菌とは区別される。発育の最適温度は35~37℃であり、増殖可能な温度範囲は10~43℃であり、60℃で20分間加熱で死滅する。最適pHは7.2~7.4であり、大きさは0.5~0.8×3~4μmである。
【0043】
前記サルモネラインファンティス(Salmonella infantis)は、卵または家禽肉類によって感染する菌株であり、パラチフス菌(Salmonella paratyphi)および腸チフス菌(Salmonella typhi)は、腸チフスの原因菌株である。
【0044】
本発明において、前記サルモネラ(Salmonella)属変異菌株は、グアノシン多リン酸合成能が欠如した変異体であってもよい。前記グアノシン多リン酸は、グアノシン-5-二リン酸-3-二リン酸(ppGpp)であってもよい。
【0045】
本発明において、サルモネラ(Salmonella)属変異菌株は、ppGpp合成酵素(ppGpp synthase)をコーディングするサルモネラrelA(Salmonella-relA)遺伝子およびspoT(Salmonella-spoT)遺伝子の少なくとも1つが不活性化されたものであってもよい。
【0046】
本発明において、前記ppGpp合成能を有する遺伝子が欠失したサルモネラ(Salmonella)属菌株は、腫瘍抑制効果を示すが、正常器官と組織でも有意な生存力を示してサルモネラによる感染が発生することがあり、また、サルモネラ菌の病原性遺伝子のみを欠失させた菌株も、正常器官で病原性が維持されて治療用菌株としての活用の可能性がわずかである。しかし、本発明のように、前記ppGpp合成能遺伝子が不活性化されたサルモネラ属菌株に、追加的にSPI-1およびSPI-2遺伝子を同時に欠失させたサルモネラ属菌株は、正常器官では前記菌株の生存力が著しく低くて、サルモネラによる感染がないだけでなく、前記ppGpp合成能を有する遺伝子が欠失したサルモネラ属菌株に比べて抗癌効果も著しく優れているというメリットがある。
【0047】
本発明において、前記サルモネラ(Salmonella)属変異菌株は、SHJ2037(寄託番号KCTC 10787BP)に由来するものであってもよい。
【0048】
本発明において、用語「由来」は、組換えプラスミド乃至組換え菌株が遺伝子組換え過程を経る前の既存のプラスミド乃至菌株を意味する。
【0049】
本発明のサルモネラ(Salmonella)属変異菌株の遺伝子の欠失および不活性化のために、サルモネラ(Salmonella)属宿主細胞に組換えベクターを使用することができる。前記組換えベクターは、プラスミドであってもよいが、これに限定されない。前記プラスミドは、電気穿孔方法によりサルモネラ属菌株に導入されてもよいが、これに限定されない。前記電気穿孔法は、原形質体(protoplast)に電気衝撃を与えて細胞膜がDNAを受け入れるようにする方法である。細胞に一定の間隔で高い電圧の電気刺激を与えると、細胞膜の小さい穴が開くが、この時、電気泳動(electrophoresis)作用によりDNAがこの穴を通して細胞内に挿入される。
【0050】
本発明の前記サルモネラ(Salmonella)属変異菌株は、癌の予防または治療に使用できる。
【0051】
本発明において、前記「癌」は、変種細胞の迅速かつ制御されない成長を特徴とする疾病であって、黒色腫、卵管癌、脳癌、小腸癌、食道癌、リンパ腺癌、胆嚢癌、血液癌、甲状腺癌、内分泌腺癌、口腔癌、肝臓癌、胆道癌、大腸癌、直腸癌、子宮頸癌、卵巣癌、腎臓癌、胃癌、十二指腸癌、前立腺癌、乳癌、脳腫瘍、肺癌、甲状腺未分化癌、子宮癌、結腸癌、膀胱癌、尿管癌、膵臓癌、骨/軟部組織肉腫、皮膚癌、非ホジキンリンパ腫、ホジキンリンパ腫、多発性骨髄腫、白血病、骨髄異形成症候群、急性リンパ芽球性白血病、急性骨髄性白血病、慢性リンパ球性白血病、慢性骨髄性白血病および孤立性骨髄腫から構成される群より選択される少なくとも1つであってもよく、好ましくは、肝臓癌、胆道癌、大腸癌、直腸癌、子宮頸癌、卵巣癌、腎臓癌、胃癌、十二指腸癌、前立腺癌、乳癌、脳腫瘍、肺癌、甲状腺未分化癌、子宮癌、結腸癌、膀胱癌、尿管癌、膵臓癌、骨/軟部組織肉腫および皮膚癌から構成される群より選択される少なくとも1つであってもよく、さらに好ましくは、結腸癌であってもよいが、これに限定されるものではない。
【0052】
本発明の前記サルモネラ(Salmonella)属変異菌株は、腫瘍組織に比べて正常組織で生存力が低いものであってもよい。ここで、前記正常組織は、肺、肝および脾臓からなる群より選択される臓器の組織であってもよいが、これに限定されない。
【0053】
本発明の前記サルモネラ(Salmonella)属変異菌株は、正常組織では生存力が著しく低くて、サルモネラによる感染がないだけでなく、従来の発明より抗癌効果も著しく優れているというメリットがある。
【0054】
また、本発明の前記サルモネラ(Salmonella)属変異菌株のゲノム中の異なる2以上の突然変異によってサルモネラ(Salmonella)属変異菌株が弱毒化されれば、前記サルモネラ(Salmonella)属変異菌株は、親菌株に復帰する確率が非常に希薄で安全であることが知られている。
【0055】
本発明のさらに他の実施形態によれば、サルモネラ(Salmonella)属菌株のサルモネラ菌病原性アイランド-1(Salmonella pathogenicity island-1;SPI-1)およびサルモネラ菌病原性アイランド-2(Salmonella pathogenicity island-2;SPI-2)遺伝子を除去して形質転換された菌株を得るステップを含む、サルモネラ(Salmonella)属変異菌株を製造する方法を提供する。
【0056】
本発明の前記サルモネラ菌病原性アイランド-1(SPI-1)は、配列番号1で表される塩基配列からなるものであってもよい。
【0057】
本発明の前記サルモネラ菌病原性アイランド-2(SPI-2)は、配列番号2で表される塩基配列からなるものであってもよい。
【0058】
本発明において、前記サルモネラ菌病原性アイランド-1(SPI-1)およびサルモネラ菌病原性アイランド-2(SPI-2)の遺伝子の除去は、組換えベクターによって行われてもよいが、これに限定されるものではない。
【0059】
本発明において、前記組換えベクターは、配列番号7で表される正方向プライマーおよび配列番号8で表される逆方向プライマーを用いて作製されたものであってもよい。
【0060】
前記組換えベクターは、pKD13、pCP20またはpJL39プラスミドに由来するものであってもよいが、これに限定されない。
【0061】
前記pKD13は、3434bpからなり、ベータ-ラクタマーゼ(beta-lactamase)、rrnB転写ターミネーター(rrnB transcription terminator)、プライミング部位1(priming site 1)、天然FRT部位(natural FRT site)、共通プライミング部位kt(common priming site kt)、Tn5ネオマイシンホスホトランスフェラーゼ(Tn5 neomycin phosphotransferase)、共通プライミング部位k2(common priming site k2)、共通プライミング部位k1(common priming site k1)、天然FRT部位の遠位35-nt(distal 35-nt of natural FRT site)、プライミング部位4(priming site 4)、ラムダターミネーター(lambda terminator)およびR6Kガンマ複製原点(R6K gamma replication origin)遺伝子を含む。
【0062】
前記pCP20プラスミドは、9497bpからなり、EcoRI、cat、Pstl、HindIII Ci857、flp、bamHi、ベータ-ラクタマーゼ(beta-lactamase)、mobA、mob2およびrepA101ts遺伝子から構成される。
【0063】
本発明の製造方法は、抗癌タンパク質を暗号化する遺伝子を導入するステップをさらに含むことができる。
【0064】
本発明において、前記抗癌タンパク質は、毒素タンパク質、癌抗原に特異的な抗体または前記抗体の断片、腫瘍抑制タンパク質(Tumor suppressor protein)、血管新生抑制剤、癌抗原、プロドラッグ転換酵素(Prodrug-converting enzymes)およびプロアポトーシスタンパク質(pro-apoptotic protein)から構成された群より選択される少なくとも1つであってもよいが、これに限定されるものではない。
【0065】
本発明の前記毒素タンパク質は、リシン(Ricin)、サポリン(Saporin)、ゲロニン(Gelonin)、モモルジン(Momordin)、デボウガニン(Debouganin)、ジフテリア毒素、シュードモナス毒素(Pseudomonas toxin)、ヘモリシン(HlyA)、FASリガンド(FAS ligand;FASL)、腫瘍壊死因子-α(Tumour necrosis factor-α;TNF-α)、TNF-関連アポトーシス-誘発リガンド(TNF-related apoptosis-inducing ligand;TRAIL)およびサイトリシンA(Cytolysin A;ClyA)からなる群より選択される少なくとも1つであってもよく、さらに好ましくは、サイトリシンAであってもよいが、これに限定されるものではない。
【0066】
本発明において、前記サイトリシンA遺伝子の導入は、組換えベクターによって行われてもよいが、これに限定されるものではない。前記サイトリシンA遺伝子の導入に使用されたベクターは、SP-1およびSP-2遺伝子の除去に使用されたベクターと同一でも異なっていてもよい。
【0067】
本発明において、前記組換えベクターは、配列番号13で表される正方向プライマーおよび配列番号14で表される逆方向プライマーを用いて作製されたものであってもよい。
【0068】
本発明において、前記組換えベクターのうち前記プラスミドの導入は、電気穿孔方法によるものであってもよいが、これに限定されない。
【0069】
本発明において、前記サイトリシンA(ClyA)遺伝子を導入するステップは、前記サルモネラ菌病原性アイランド-1(SPI-1)およびサルモネラ菌病原性アイランド-2(SPI-2)の遺伝子の除去前または後に行われてもよいし、実行の順序を特に制限するわけではない。
【0070】
本発明において、前記サルモネラ(Salmonella)属菌株は、サルモネラチフィムリウム(Salmonella typhimurium)、サルモネラコレレスイス(Salmonella choleraesuis)、サルモネラエンテリティディス(Salmonella enteritidis)、サルモネラインファンティス(Salmonella infantis)、パラチフス菌(Salmonella paratyphi)および腸チフス菌(Salmonella typhi)からなる群より選択される少なくとも1つに由来するものであってもよい。
【0071】
本発明において、前記サルモネラ(Salmonella)属菌株は、グアノシン多リン酸合成能が欠如した変異体であるサルモネラ(Salmonella)属変異菌株であってもよい。
【0072】
本発明において、前記サルモネラ(Salmonella)属菌株は、ppGpp合成酵素(ppGpp synthase)をコーディングするサルモネラrelA(Salmonella-relA)遺伝子またはspoT(Salmonella-spoT)遺伝子が不活性化されたものであってもよい。
【0073】
本発明の製造方法は、前記のように形質転換された菌株を培養するステップをさらに含むことができる。
【0074】
本発明において、前記培養するステップは、抗生剤を含むLB培地(Lysogeny broth)を用いて行われ、前記LB培地は、シゲラ(Shigella)属菌株の成長とプラークの形成を最適化するためにジュゼッペベルターニ(Giuseppe Bertani)によって開発され、一般的な成分には、ペプチド、カゼインペプトン、ビタミン(Bビタミンを含む)、微量元素(窒素、硫黄、マグネシウム)、無機質が含まれ、滲透圧は塩化ナトリウムで調節される。
【0075】
本発明の製造方法は、前記のように形質転換された菌株を抗生剤培地に培養して変異菌株を選別するステップをさらに含むことができる。
【0076】
本発明において、前記抗生剤は、カナマイシンまたはテトラサイクリンであってもよいが、これに限定されない。
【0077】
本発明の前記サルモネラ(Salmonella)属変異菌株、前記抗癌タンパク質、前記サルモネラ(Salmonella)属菌株および前記組換えベクターに関する内容は、前記組成物に記載されたものと同一で、明細書の過度の複雑性を避けるために省略する。
【0078】
本発明のさらに他の実施形態によれば、本発明で提供するサルモネラ(Salmonella)属変異菌株を有効成分として含む、癌の予防または治療用薬学的組成物に関する。
【0079】
本発明において、前記「癌」は、変種細胞の迅速かつ制御されない成長を特徴とする疾病であって、黒色腫、卵管癌、脳癌、小腸癌、食道癌、リンパ腺癌、胆嚢癌、血液癌、甲状腺癌、内分泌腺癌、口腔癌、肝臓癌、胆道癌、大腸癌、直腸癌、子宮頸癌、卵巣癌、腎臓癌、胃癌、十二指腸癌、前立腺癌、乳癌、脳腫瘍、肺癌、甲状腺未分化癌、子宮癌、結腸癌、膀胱癌、尿管癌、膵臓癌、骨/軟部組織肉腫、皮膚癌、非ホジキンリンパ腫、ホジキンリンパ腫、多発性骨髄腫、白血病、骨髄異形成症候群、急性リンパ芽球性白血病、急性骨髄性白血病、慢性リンパ球性白血病、慢性骨髄性白血病および孤立性骨髄腫から構成される群より選択される少なくとも1つであってもよく、好ましくは、肝臓癌、胆道癌、大腸癌、直腸癌、子宮頸癌、卵巣癌、腎臓癌、胃癌、十二指腸癌、前立腺癌、乳癌、脳腫瘍、肺癌、甲状腺未分化癌、子宮癌、結腸癌、膀胱癌、尿管癌、膵臓癌、骨/軟部組織肉腫および皮膚癌から構成される群より選択される少なくとも1つであってもよく、さらに好ましくは、結腸癌であってもよいが、これに限定されるものではない。
【0080】
本発明の前記「予防」は、本発明の組成物を用いて、癌によって発生した症状を遮断したり、その症状を抑制または遅延させるすべての行為であれば制限なく含むことができる。
【0081】
本発明の前記「改善」または「治療」は、本発明の組成物を用いて、癌によって発生した症状が好転したり、有利になるすべての行為であれば制限なく含むことができる。
【0082】
本発明の前記薬学組成物は、カプセル、錠剤、顆粒、注射剤、軟膏剤、粉末または飲料形態であることを特徴とし、前記薬学組成物は、ヒトを対象とすることを特徴とする。
【0083】
本発明の前記薬学組成物はこれらに限定されるものではないが、それぞれ通常の方法により、散剤、顆粒剤、カプセル、錠剤、水性懸濁液などの経口型剤形、外用剤、坐剤および滅菌注射溶液の形態に剤形化されて使用可能である。本発明の薬学組成物は、薬学的に許容可能な担体を含むことができる。前記薬学的に許容される担体は、経口投与時には、結合剤、滑沢剤、崩壊剤、賦形剤、可溶化剤、分散剤、安定化剤、懸濁化剤、色素、香料などが使用可能であり、注射剤の場合には、緩衝剤、保存剤、無痛化剤、可溶化剤、等張剤、安定化剤などが混合されて使用可能であり、局所投与用の場合には、基剤、賦形剤、潤滑剤、保存剤などが使用可能である。本発明の薬学組成物の剤形は、上述のような薬剤学的に許容される担体と混合して多様に製造できる。例えば、経口投与時には、錠剤、トローチ、カプセル、エリキシル(elixir)、サスペンション、シロップ、ウエハなどの形態に製造することができ、注射剤の場合には、単位投薬アンプルまたは複数回投薬形態に製造することができる。その他、溶液、懸濁液、錠剤、カプセル、徐放型製剤などに剤形化することができる。
【0084】
本発明の前記製剤化に適した担体、賦形剤および希釈剤の例としては、ラクトース、デキストロース、スクロース、ソルビトール、マンニトール、キシリトール、エリスリトール、マルチトール、デンプン、アカシアガム、アルギネート、ゼラチン、カルシウムホスフェート、カルシウムシリケート、セルロース、メチルセルロース、未晶質セルロース、ポリビニルピロリドン、水、メチルヒドロキシベンゾエート、プロピルヒドロキシベンゾエート、タルク、マグネシウムステアレートまたは鉱物油などが使用できる。また、充填剤、抗凝集剤、潤滑剤、湿潤剤、香料、乳化剤、防腐剤などを追加的に含むことができる。
【0085】
本発明の前記薬学組成物の投与経路はこれらに限定されるものではないが、口腔、静脈内、筋肉内、動脈内、骨髄内、硬膜内、心臓内、経皮、皮下、腹腔内、鼻腔内、腸管、局所、舌下または直腸が含まれる。経口または非経口投下が好ましい。
【0086】
本発明の前記「非経口」とは、皮下、皮内、静脈内、筋肉内、関節内、滑液嚢内、胸骨内、硬膜内、病巣内および頭蓋骨内注射または注入技術を含む。本発明の薬学組成物はさらに、直腸投与のための坐剤の形態で投与できる。
【0087】
本発明の前記薬学組成物は、使用された特定化合物の活性、年齢、体重、一般的な健康、性別、定式、投与時間、投与経路、排出率、薬物配合および予防または治療される特定疾患の重症度を含む様々な要因によって多様に変化することができき、前記薬学組成物の投与量は、患者の状態、体重、疾病の程度、薬物形態、投与経路および期間によって異なるが、当業者によって適宜選択可能であり、1日0.0001~50mg/kgまたは0.001~50mg/kgで投与することができる。投与は、1日に1回投与してもよく、数回分けて投与してもよい。前記投与量は、いかなる面でも本発明の範囲を限定するものではない。本発明による医薬組成物は、丸剤、糖衣錠、カプセル、液剤、ゲル、シロップ、スラリー、懸濁剤に剤形化される。
【0088】
本発明のさらに他の実施形態では、前記サルモネラ(Salmonella)属変異菌株を有効成分として含む癌の診断用組成物を提供する。
【0089】
本発明の前記診断用組成物は、本発明による前記菌株を有効成分として含む。
【0090】
本発明の前記菌株は、本発明による変異菌株が個体内で癌細胞を標的とした後に、菌株内にリアルタイムにイメージング可能なレポータータンパク質が発現するため、正常組織に対するノイズシグナルなしに癌をリアルタイムに診断することができる。
【0091】
本発明の前記「レポータータンパク質」とは、視覚的に癌が診断できるようにする機能を行うタンパク質であって、例えば、蛍光タンパク質、ルシフェラーゼ(Luciferase)および核医学またはMRI映像撮影に使用されるタンパク質からなる群より選択される少なくとも1つであってもよいが、これに限定されるものではない。
【0092】
本発明の前記「蛍光タンパク質は」は、癌が視覚的に診断できるように自ら蛍光を呈するタンパク質であって、例えば、緑色蛍光タンパク質(Green Fluorescent Protein;GFP)、変形された緑色蛍光タンパク質(Modified Green Fluorescent Protein;MGFP)、増強された緑色蛍光タンパク質(Enhanced Green Fluorescent Protein;EGFP)、赤色蛍光タンパク質(Red Fluorescent Protein;RFP)、増強された赤色蛍光タンパク質(Enhanced Red Fluorescent Protein;ERFP)、青色蛍光タンパク質(Blue Fluorescent Protein;BFP)、増強された青色蛍光タンパク質(Enhanced Blue Fluorescent Protein;EBFP)、黄色蛍光タンパク質(Yellow Fluorescent Protein;YFP)および増強された黄色蛍光タンパク質(Enhanced Yellow Fluorescent Protein;EYFP)から構成された群より選択される少なくとも1つであってもよいが、これに限定されるものではない。
【0093】
本発明の前記核医学またはMRI映像撮影に使用されるタンパク質は、例えば、単純ヘルペスウイルスのチミジンリン酸酵素(Herpes simplex virus thymidine kinsease)、ドーパミン受容体(Dopamine receptor)、ソマトスタチン受容体(Somatostatin receptor)、ソジウム-ヨウ素輸送体(Sodium-iodide transporter)、鉄受容体、トランスフェリン受容体(Transferrin receptor)、フェリチン(Ferritin)および鉄輸送体(magA)からなる群より選択される少なくとも1つであってもよいが、これに限定されるものではない。
【0094】
本発明の前記「診断」とは、本発明の前記菌株が癌を標的として位置する時、前記菌株に導入されたベクターまたは染色体に導入されたレポータータンパク質によってリアルタイムに癌の存在の有無をモニタリングできることを含む生体内癌組織を確認するすべての行為を意味する。
【0095】
本発明の前記診断用組成物において、前記変異菌株、ベクター、形質転換、癌などに関する内容は、先に記載したものと同一で、本明細書の過度の複雑性を避けるために省略する。
【0096】
本発明のさらに他の実施形態では、サルモネラ(Salmonella)属変異菌株を処理するステップを含む癌の診断のための情報を提供する方法を提供する。
【0097】
本発明の前記方法は、目的とする個体から分離された生物学的試料に、本発明による前記変異菌株を処理するステップを含む。
【0098】
本発明の前記癌の診断のための情報を提供する方法は、前記菌株からレポータータンパク質が発現する場合、癌と診断するステップをさらに含むことができる。
【0099】
本発明の前記「生物学的試料」とは、個体から得られるか、個体に由来する任意の物質、組織または細胞を意味するもので、例えば、組織、細胞(cell)、または細胞抽出物(cell extract)を含むことができるが、これに限定されるものではない。
【0100】
本発明の前記診断のための情報提供方法において、前記変異菌株、抗癌タンパク質、レポータータンパク質、ベクター、菌株、形質転換、癌、診断などに関する内容は、前記レポータータンパク質、ベクター、菌株、癌の予防または治療用薬学的組成物に記載したものと同一で、本明細書の過度の複雑性を避けるために省略する。
【0101】
本発明のさらに他の実施形態では、本発明で提供するサルモネラ(Salmonella)属変異菌株を有効量で個体に投与するステップを含む、癌の予防または治療方法に関する。
【0102】
本発明において、前記「個体」とは、癌の予防または治療が必要な個体であって、哺乳動物および非-哺乳動物をすべて含むことができる。ここで、前記哺乳動物の例としては、ヒト、非-ヒト霊長類、例えば、チンパンジー、他の類人猿またはサル種;畜産動物、例えば、ウシ、ウマ、ヒツジ、ヤギ、ブタ;飼育動物、例えば、ウサギ、イヌまたはネコ;実験動物、例えば、齧歯類、例えば、ラット、マウスまたはモルモットなどを含むことができるが、これに限定されるものではない。また、本発明において、前記非-哺乳動物の例としては、鳥類または魚類などを含むことができるが、これに限定されるものではない。
【0103】
本発明において、前記「投与」とは、任意の適切な方法で個体に本発明の有効成分を導入する過程を意味するものであって、前記のように投与されるサルモネラ(Salmonella)属変異菌株の製剤は特に限定せず、固体形態の製剤、液体形態の製剤または吸引用エアゾール製剤で投与されてもよいし、使用直前に経口または非経口投与用液体形態の製剤に転換されるように意図される固体形態の製剤で投与されてもよく、例えば、散剤、顆粒剤、カプセル、錠剤、水性懸濁液などの経口型剤形、外用剤、坐剤および滅菌注射溶液の形態に剤形化して投与されてもよいが、これに限定されるものではない。
【0104】
また、本発明において、前記投与時、本発明のサルモネラ(Salmonella)属変異菌株とともに薬学的に許容可能な担体を追加的に投与することができる。ここで、前記薬学的に許容される担体は、経口投与時には、結合剤、滑沢剤、崩壊剤、賦形剤、可溶化剤、分散剤、安定化剤、懸濁化剤、色素、香料などを使用することができ、注射剤の場合には、緩衝剤、保存剤、無痛化剤、可溶化剤、等張剤、安定化剤などを混合して使用することができ、局所投与用の場合には、基剤、賦形剤、潤滑剤、保存剤などを使用することができる。本発明の前記サルモネラ(Salmonella)属変異菌株の剤形は、上述のような薬学的に許容される担体と混合して多様に製造できる。例えば、経口投与時には、錠剤、トローチ、カプセル、エリキシル(elixir)、サスペンション、シロップ、ウエハなどの形態に製造することができ、注射剤の場合には、単位投薬アンプルまたは複数回投薬形態に製造することができる。その他、溶液、懸濁液、錠剤、カプセル、徐放型製剤などに剤形化することができる。
【0105】
一方、製剤化に適した担体、賦形剤および希釈剤の例としては、ラクトース、デキストロース、スクロース、ソルビトール、マンニトール、キシリトール、エリスリトール、マルチトール、デンプン、アカシアガム、アルギネート、ゼラチン、カルシウムホスフェート、カルシウムシリケート、セルロース、メチルセルロース、未晶質セルロース、ポリビニルピロリドン、水、メチルヒドロキシベンゾエート、プロピルヒドロキシベンゾエート、タルク、マグネシウムステアレートまたは鉱物油などが使用できる。また、充填剤、抗凝集剤、潤滑剤、湿潤剤、香料、乳化剤、防腐剤などを追加的に含むことができる。
【0106】
本発明によるサルモネラ(Salmonella)属変異菌株の投与経路はこれらに限定されるものではないが、口腔、静脈内、筋肉内、動脈内、骨髄内、硬膜内、心臓内、経皮、皮下、腹腔内、鼻腔内、腸管、局所、舌下または直腸が含まれる。経口または非経口投下が好ましい。
【0107】
本発明において、「非経口」は、皮下、皮内、静脈内、筋肉内、関節内、滑液嚢内、胸骨内、硬膜内、病巣内および頭蓋骨内注射または注入技術を含む。本発明の薬学的組成物はさらに、直腸投与のための坐剤の形態で投与可能である。
【0108】
本発明において、「有効量」は、好ましい生物学的結果を提供するための作用剤の十分な量を指す。前記結果は、疾患の兆候、症状または原因の減少および/または緩和、または生物界の任意の他の好ましい変化であってもよい。例えば、治療用途のための「有効量」は、疾患において臨床的に有意な減少を提供するのに要求される、本発明に開示された前記サルモネラ(Salmonella)属変異菌株の量である。任意の個別的な場合において適切な「効果的な」量は、日常的な実験を用いて当業者によって決定可能である。したがって、表現「有効量」は、一般的に活性物質が治療効果を有する量を指す。本発明の場合に、活性物質は、癌の予防、改善または治療剤である。
【0109】
本発明のサルモネラ(Salmonella)属変異菌株は、併用された特定化合物の活性、年齢、体重、一般的な健康、性別、定式、投与時間、投与経路、排出率、薬物配合および予防または治療される特定疾患の重症度を含む様々な要因によって多様に変化することができ、前記サルモネラ(Salmonella)属変異菌株の投与量は、患者の状態、体重、疾病の程度、薬物形態、投与経路および期間によって異なるが、当業者によって適宜選択可能であり、1日0.0001~100mg/kgまたは0.001~100mg/kgで投与することができる。投与は、1日に1回投与してもよく、数回分けて投与してもよい。前記投与量は、いかなる面でも本発明の範囲を限定するものではない。本発明による前記サルモネラ(Salmonella)属変異菌株は、丸剤、糖衣錠、カプセル、液剤、ゲル、シロップ、スラリー、懸濁剤に剤形化できる。
【0110】
本発明において、前記癌に関する記載は、先に記載されたものと重複し、明細書の過度の複雑性を避けるために、以下、その詳しい記載を省略する。
【0111】
本発明のサルモネラ(Salmonella)属変異菌株は、単独で、または手術、放射線治療、ホルモン治療、化学治療および生物学的反応調節剤を用いる方法と併用して使用可能である。
【発明の効果】
【0112】
本発明による遺伝子が欠失したサルモネラ(Salmonella)属変異菌株は、正常組織ではその生存力が非常に低いが、癌組織では生存しながら癌細胞の死滅を効果的に誘導して、優れた抗癌効果とともにサルモネラ(Salmonella)属菌株による感染の副作用がないというメリットがある。
【図面の簡単な説明】
【0113】
【
図1】pJH18プラスミド作製のための方法を模式図に示したものである。
【
図2】pJH18プラスミドを含む組換え菌株間の成長速度をグラフに示す図である。
【
図4】サルモネラ菌株のレポータータンパク質の発現確認の結果である。
【
図5】培養された菌株においてルシフェラーゼ(Luciferase)活性を測定するためにセレンテラジンを添加してイメージングを示す図である。
【
図6】培養された菌株においてルシフェラーゼ(Luciferase)活性をグラフに示す図である。
【
図7】菌株の血液寒天に対する溶血活性の程度を確認した結果を示す図である。
【
図8】本発明の一実施例による培養液のATPを測定した結果をグラフに示す図である。
【
図9】マウス肝におけるサルモネラ分布度を分析した結果を示す図である。
【
図10】マウス腫瘍におけるサルモネラ分布度を分析した結果を示す図である。
【
図11】菌株が処理された腫瘍動物モデルの脾臓を摘出する過程を示す図である。
【
図12】菌株が処理された腫瘍動物モデルの脾臓の大きさを測定した結果を示す図である。
【
図13】菌株が処理された腫瘍動物モデルの脾臓の重量を測定した結果をグラフに示す図である。
【
図14】CT26を注射した腫瘍動物モデルに、本発明の一実施例であるCNC18と対照群であるPBSおよびSHJ2037を接種した後、腫瘍の大きさをグラフに示す図である。
【
図15】CT26を注射した腫瘍動物モデルにおいて各菌株を接種した後、生存率を分析した結果をグラフに示す図である。
【
図16】MC38を注射した腫瘍動物モデルに、本発明の一実施例であるCNC18と対照群であるPBSおよびSHJ2037を接種した後、腫瘍の大きさをグラフに示す図である。
【
図17】MC38を注射した腫瘍動物モデルにおいて各菌株を接種した後、生存率を分析した結果をグラフに示す図である。
【
図18】腫瘍動物モデルに菌株注入後、腫瘍内の白血球の比率を測定して比較したものをグラフに示す図である。
【
図19】腫瘍動物モデルに菌株注入後、腫瘍内の好中球を測定して比較したものをグラフに示す図である。
【
図20】腫瘍動物モデルに菌株注入後、腫瘍内のナチュラルキラー細胞を測定して比較したものをグラフに示す図である。
【
図21】腫瘍動物モデルに菌株注入後、腫瘍内のCD8+ T細胞を測定して比較したものをグラフに示す図である。
【
図22】腫瘍動物モデルに菌株注入後、リンパ節内の樹状細胞を測定して比較したものをグラフに示す図である。
【
図23】腫瘍動物モデルに菌株注入後、腫瘍内のM2大食細胞を測定して比較したものをグラフに示す図である。
【
図24】腫瘍動物モデルに菌株注入後、腫瘍内の制御性T細胞(Treg cell)を測定して比較したものをグラフに示す図である。
【
図25】腫瘍動物モデルにSHJ2037luxとCNC18lux菌株を注入した後、1日目に腫瘍と臓器を摘出して、in vivoイメージシステム(In Vivo Imaging System;IVIS)を用いたイメージを撮影した図である。
【
図26】腫瘍動物モデルにSHJ2037luxとCNC18lux菌株を注入した後、3日目に腫瘍と臓器を摘出して、in vivoイメージシステム(In Vivo Imaging System;IVIS)を用いたイメージを撮影した図である。
【
図27】腫瘍動物モデルにSHJ2037luxとCNC18lux菌株を注入した後、5日目に腫瘍と臓器を摘出して、in vivoイメージシステム(In Vivo Imaging System;IVIS)を用いたイメージを撮影した図である。
【
図28】多発性骨髄腫動物モデルにSHJ2037luxとCNC18lux菌株を注入した後、in vivoイメージシステム(In Vivo Imaging System;IVIS)を用いたイメージを撮影した図である。
【
図29】多発性骨髄腫動物モデルにSHJ2037luxとCNC18lux菌株を注入した後、in vivoイメージシステム(In Vivo Imaging System;IVIS)を用いたイメージを撮影した図である。
【発明を実施するための形態】
【0114】
本発明の一実施形態によれば、サルモネラ菌病原性アイランド-1(Salmonella pathogenicity island-1;SPI-1);およびサルモネラ菌病原性アイランド-2(Salmonella pathogenicity island-1;SPI-2);が欠失した、サルモネラ(Salmonella)属変異菌株に関する。
【実施例】
【0115】
以下、実施例を通じて本発明をより詳細に説明する。これらの実施例は単に本発明をより具体的に説明するためのものであって、本発明の要旨によって本発明の範囲がこれらの実施例によって制限されないことは当業界における通常の知識を有する者にとって自明であろう。
【0116】
[準備例1]弱毒化サルモネラの作製
本発明の弱毒化サルモネラは、SHJ2037菌株をテンプレート(template)とし、病原性に関連する遺伝子あるいは遺伝子群をラムダファージ(λ phage、lambda phage)を用いた相同組換え(homologous recombination)方法で欠如させて弱毒化サルモネラ菌株を作製した。
【0117】
具体的には、pKD13プラスミドを用いて各遺伝子のオープンリーディングフレーム(open reading frame)の位置にKanカセットを保有したDNA片をPCR増幅した。計3個の遺伝子(群)の除去に用いられたPCRプライマー配列は下記表1の通りである。PCR生成物であるpKD46を細胞内に含んでいるサルモネラチフィムリウムSMR2130(SHJ2037、DrelA、DspoT)懸濁液に電気穿孔(electroporation)方法により導入し、カナマイシン(Kanamycin)培地に培養してコロニーを選別した。以後、形質転換された菌株にpCP20プラスミド(Datsenko KA,et al.,Proc Natl Acad Sci US A.2000,6;97(12):6640-5)を電気穿孔を用いて導入し、FLP組換え酵素(recombinase)によりkanカセットを除去して菌株を作製した。
【0118】
【0119】
[準備例2]遺伝子発現のための組換えサルモネラの作製
図1は、pJH18プラスミド作製のための方法を模式図に示したものである。pJL39プラスミド(Mol Ther.,21(11),p.1985-1995,(2013))を鋳型鎖として、制限酵素EcoRI部位を含むように作製された正方向プライマー(5’-CGGAATTCACCATGTCTAGATTAGATAAAAGTAAAGTGATTAACAG-3’;配列番号9)および制限酵素PvuII-XbaI部位を含むように作製された逆方向プライマー(5’-GCTCTAGACAGCTGTTAAGACCCACTTTCACATTTAAGTTGTTTTTCT-3’;配列番号10)を用いてtetR遺伝子を増幅した。以後、前記増幅産物に制限酵素EcoRIおよびXbaIを入れて切断し、これを精製して、tetR遺伝子増幅産物を得た後に、これをpBAD24(カタログ番号、ATCC(登録商標)87399、ATCC、米国)プラスミドに導入する過程によりpBAD-TetRプラスミドを作製した。
【0120】
その後、前記pJL39プラスミドのPvuIIおよびHindIII断片を介して、多重クローニングサイトを含むダイバージェント(Divergent)プロモーター領域を前記pBAD-TetRプラスミドに導入してpTetR-BADプラスミドを作製した。NheIおよびPcil制限酵素を用いて前記pTetR-BADプラスミドからaraCおよびaraBADプロモーターを除去して、pTetIIプラスミドを作製した。
【0121】
また、pSF-OXB1(Oxford Genetics、England)を鋳型として、正方向プライマー(5’-CTACTCCGTCAAGCCGTCAAGCTGTTGTGACCGCTTGCT-3’;配列番号11)および逆方向プライマー(5’-TGAATTCCTCCTGCTAGCTAGTTGGTAACGAATCAGACGCCGGGTAATACCGGATAG-3’;配列番号12)で増幅された恒常的プロモーターであるOXB1を、ギブソンアセンブリ方式を用いて前記pTetIIプラスミドに導入することにより、最終的にOXB1、tetAおよびtetRプロモーターを含むpJH18プラスミドを作製した。
【0122】
前記pJH18プラスミドをテンプレートとして、Rluc8およびサイトリシンA(ClyA)を暗号化する遺伝子を、前記プロモーターの下流に
図1のような組み合わせで導入する過程によりpJH18-CRプラスミドを作製した。この時、前記サイトリシンA(ClyA)遺伝子を導入するために用いられる正方向プライマーは5’-AGTCCATGGTTATGACCGGAATATTTGC-3’(配列番号13)であり、逆方向プライマーは5’-GATGTTTAAACTCAGACGTCAGGAACCTC-3’(配列番号14)である。
【0123】
[準備例3]形質転換されたサルモネラ属変異菌株の作製
前記準備例1で作製したサルモネラ菌株に、前記準備例2で作製したプラスミドを電気穿孔法(Electroporation)を用いて形質転換した後、100μg/mlのアンピシリン(Ampicillin)が含まれたLB固体培地を用いて前記形質転換されたそれぞれの菌株を一晩培養した。その後、生成されたコロニーをアンピシリンが含まれたLB液体培地に培養して実験に使用した。このように作製されたサルモネラ属変異菌株における形質転換された内容をまとめると下記表2の通りである。
【0124】
【0125】
[実験例1]組換えサルモネラのタンパク質の発現および活性評価
[1-1]サルモネラ変異体菌株と既存の菌株との成長比較
前記比較例1および製造例で作製された組換えSHJ2037、CNC18コロニーをアンピシリンが含まれたLB液体培地に一晩培養した後、新しいLB培地を用いて1:100の比率で希釈し、追加培養によりOD
600値が0.5~0.7に到達する時、前記培養液に最終濃度が200ng/mlとなるようにエタノールで希釈されたドキシサイクリンを添加し、200rpmおよび37℃の条件で振盪培養器で培養した。培養時間によりOD
600値を測定して菌株の成長パターンを分析して、その結果を
図2に示した。
【0126】
一方、組換えされていない既存のサルモネラコロニーを同様の方式で処理して、その結果を
図3に示した。
【0127】
図2および3に示すように、CNC18組換えサルモネラは、既存の弱毒化サルモネラであるSHJ2037および野生型サルモネラ菌株と成長速度の差がほとんどなく、ドキシサイクリンを用いたタンパク質の発現中にも特別な成長阻害を有していなかった。したがって、前記のように作製されたサルモネラ菌株の病原性遺伝子の欠如がサルモネラ菌株の成長および遺伝子の発現に影響を及ぼさないことを確認した。
【0128】
[1-2]ウェスタンブロット分析によるタンパク質の発現レベルの比較
前記比較例1および製造例で作製された組換えSHJ2037、CNC18サルモネラ菌株間のサイトリシンA(ClyA)遺伝子の発現レベルを評価するために、前記実験例[1-1]のように培養された菌株で発現したRluc8タンパク質を特異的な抗体を用いてウェスタンブロット分析を行った。
【0129】
具体的には、前記実験例[1-1]の菌株の培養液を4×10
7CFU/mlとなるようにPBSを用いて希釈し、13,000rpmで5分間遠心分離してペレットを収集した。前記ペレット分画をPBSを用いて洗浄し、0.2%β-メルカプトエタノール(β-mercaptoethanol)(カタログ番号:EBA-1052、ELPIS BIOTECH)が含まれたSDSサンプル緩衝液と混合して菌株溶解物を得た。その後、12%SDS-PAGEで前記菌株溶解物を電気泳動し、前記ゲルからニトロセルロース膜にタンパク質を移した後、5%脱脂乳を用いて常温でブロッキングした。以後、Rluc8抗体(カタログ番号:AB3256、ミリポア、米国)を用いてRluc8タンパク質の発現レベルを確認し、その結果を
図4に示した。
【0130】
図4に示すように、2つの組換えSHJ2037、CNC18サルモネラ菌株はRluc8遺伝子を過発現し、菌株間の発現レベルは大きな差がないことを確認した。
【0131】
[1-3]タンパク質の活性分析による機能的発現レベルの比較
前記実験例[1-1]のように培養された菌株においてルシフェラーゼ活性の測定のために、
図5のように前記菌株を1mlのPBSに再懸濁させた。その後、前記再懸濁された菌株に、基質であるエタノールで希釈された1μg/mlのセレンテラジン(Coelenterazine)を添加した後、NightOWL II LB 983 In Vivoイメージシステム(Berthold technologies,GmbH&Co.KG、ドイツ)またはバイオラッドイメージャーChemoDocTM XRS+システムを用いて1秒露出時間の条件でルシフェラーゼ活性値を測定した。このように測定された値は各菌株のCFUによる標準化を行い、相対的発光ユニット(Relative luminescence units;RLU)で計算して、その結果を
図6に示した。
【0132】
図6に示すように、ルシフェラーゼ活性値はドキシサイクリンが存在する場合でのみ確認され、誘導体敏感度と活性最大値が類似することを確認した。
【0133】
また、PBSで希釈された前記準備例3によって選別された組換えサルモネラ菌株を0または20ng/mlのドキシサイクリンが含まれた血液寒天プレートに塗抹し、37℃で一晩培養した後、プレート写真を撮影して、その結果を
図7に示した。
【0134】
図7に示すように、菌株の血液寒天の溶血活性は、サイトリシンAを暗号化する遺伝子のドキシサイクリンが含まれた場合(+)でのみ現れることを確認した。
【0135】
前記の結果により、本発明による組換えCNC18サルモネラ菌株は、サイトリシンA(ClyA)遺伝子の発現を調節することができ、抗癌遺伝子伝達体として機能を有することを確認した。
【0136】
[実験例2]組換えサルモネラ処理による腫瘍細胞のDAMPシグナル(signal)分泌の確認
組換えサルモネラ菌株が腫瘍細胞に及ぼす影響を確認するために、SHJ2037およびCNC18菌株が処理された腫瘍細胞で免疫反応を起こしうる損傷関連分子類型(Damage-Associated Molecular Pattern;DAMP)の変化を確認した。DAMP中にて細胞外分泌をするATPを測定した。具体的には、マウスのCT26結腸癌細胞株であるCRL-2638およびHB-8064(ATCC、米国)を10%ウシ胎児血清(Fetal bovine serum;FBS)および1%のペニシリン-ストレプトマイシンが含まれた高ブドウ糖DMEM(Dulbecco’s Modified Eagles Medium)培地(カタログ番号:#LM 001-05、ウェルジーン、韓国)を用いて、5%CO
2培養器で37℃の条件で培養した後、組換えサルモネラを腫瘍細胞に処理して共同培養した。培養液を時間によりアッセイキット(assay kit)を用いてATPを測定して、その結果を
図8に示した。
【0137】
図8に示すように、腫瘍細胞で分泌したATP値はサルモネラを処理した場合に増加し、本発明によるサルモネラ菌株自体が腫瘍の治療に利用できることを確認した。
【0138】
[実験例3]小動物腫瘍モデルにおける組換えサルモネラの分布度分析
抗癌治療のために研究で使用される小動物であるマウスモデルに弱毒化サルモネラ菌株を注入した時、宿主内菌株の増殖速度と分布を確認した。
【0139】
具体的には、4種のSHJ2037、CNC16、CNC17、そしてCNC18菌株をそれぞれLB液体培地に培養後、PBSで洗浄および希釈した。前記それぞれの菌株を最終菌株濃度が2×10
7CFU/マウスとなるようにマウスの尾静脈に注入し、菌株あたり3匹ずつのマウスを安楽死させた後、宿主の臓器を摘出して破砕および希釈してLB固体培地に塗抹培養して生菌数を測定し、その結果を
図9に示した。また、腫瘍を含むマウスを同様の方法で処理して、宿主の腫瘍を摘出して破砕および希釈してLB固体培地に塗抹培養して生菌数を測定し、その結果を
図10に示した。
【0140】
その結果、
図9および10に示すように、CNC18菌株は肝で非常に低い生存力を示して急速に死滅するが、腫瘍には残存して特異的かつ選択的な標的能力を有することを確認した。
【0141】
これに対し、CNC16菌株は、
図9に示すように、肝でSHJ2037菌株より高い生存力を有し、CNC18より100倍以上高い生存力を有することを確認した。すなわち、CNC16菌株は、腫瘍以外の他の臓器でも非特異的な標的能力を有することを確認した。
【0142】
また、CNC17も、肝でSHJ2037菌株より高い生存力を示した。すなわち、CNC17菌株も、非特異的な標的能力を有することを確認した。
【0143】
図10に示すように、腫瘍においてCNC17菌株はCNC18菌株に比べて10倍以上低い生存力を有する。すなわち、CNC17菌株は、腫瘍に対してCNC18菌株に比べて低い効果を有することを確認した。
【0144】
[実験例4]サルモネラの注入による過炎症反応分析(1)
1次的にサルモネラの注入による過炎症反応を確認するために、CT26腫瘍モデルマウス9匹にSHJ2037およびCNC18菌株およびPBSをそれぞれ3匹ずつ注入した後、時間によるマウスそれぞれに対する脾臓の重量を測定して比較した。
図11のように、マウスを開腹し、脾臓を摘出して、各マウスごとに脾臓の大きさを測定して、その結果を
図12に示した。
【0145】
図12に示すように、菌株処理群は、PBSを処理した対照群に比べて脾臓の大きさが増加したが、CNC18菌株処理群はSHJ2037菌株処理群に比べて脾臓の大きさが小さいことが分かり、本発明によるサルモネラ菌株が過炎症反応を最小化することを確認した。
【0146】
[実験例5]サルモネラの注入による過炎症反応分析(2)
追加的に、サルモネラの注入による過炎症反応を確認するために、実験例4と同様の方法でSHJ2037、CNC16、CNC17、およびCNC18菌株ごとにマウスにそれぞれ注入した後、1、3、5日目に脾臓の重量を測定して比較した。
【0147】
その結果、
図13に示すように、SHJ2037、CNC16、CNC17菌株処理群は、PBSを処理した対照群に比べて脾臓の重量が増加したが、CNC18は、菌株処理群のうち最も増加幅が少なかった。
【0148】
前記結果により、本発明による弱毒化サルモネラ菌株は、腫瘍に強い標的能力を維持しながら感染初期からすべての正常臓器で生存力が大きく減少して急速に死滅することにより、宿主に菌株による副作用を最小化することを確認した。
【0149】
[実験例6]小動物腫瘍モデルにおける弱毒化サルモネラの抗癌効果の分析(1)
前記実験例2のように培養された腫瘍細胞(CT26 1×10
6 cell/mice)をマウス(BALB/C、n=7)の脇腹に皮下注射して、腫瘍動物モデルを構築した。このモデルにSHJ2037とCNC18サルモネラ菌株を尾静脈に注入した。腫瘍動物モデルの抗癌効果を評価するために、2%イソフルラン(Isoflurane)を用いて麻酔した後、腫瘍の大きさ(mm
3)を(長さ×高さ×幅)/2を用いて測定し、その結果を
図14および15に示した。
【0150】
図14および15に示すように、対照群と比較して、サルモネラ処理群が癌成長を阻害し、生存率が増加することを確認した。特に、CNC18菌株は、SHJ2037より腫瘍成長抑制効果が著しく優れていることを確認した。
【0151】
したがって、腫瘍に強い標的能力を維持しながら感染初期からすべての正常臓器で生存力が大きく減少して急速に死滅するCNC18菌株は、宿主内感染による副作用を最小化しながら優れた腫瘍治療効能を有することを確認した。
【0152】
[実験例7]小動物腫瘍モデルにおける弱毒化サルモネラの抗癌効果の分析(2)
培養された腫瘍細胞(MC38、マウス結腸腺癌細胞、1×10
6 cell/mice)をマウス(C57BL/6、n=6)の脇腹に皮下注射して、腫瘍動物モデルを構築した。このモデルにSHJ2037とCNC18サルモネラ菌株を尾静脈に注入した。腫瘍動物モデルの抗癌効果を評価するために、2%イソフルラン(Isoflurane)を用いて麻酔した後、腫瘍の大きさ(mm
3)を(長さ×高さ×幅)/2を用いて測定し、その結果を
図16および17に示した。
【0153】
図16および17に示すように、対照群と比較して、サルモネラ処理群が癌成長を阻害し、生存率が増加することを確認した。特に、CNC18菌株は、SHJ2037よりも腫瘍成長を抑制することを確認した。
【0154】
[実験例8]サルモネラの注入による免疫活性化効果の確認
サルモネラの注入による免疫活性化効果を確認するために、免疫細胞を測定して比較した。前記実験例6のように構築された腫瘍動物モデルにSHJ2037とCNC18サルモネラ菌株を注入し、3日目に免疫細胞を採取した。免疫細胞は腫瘍および腫瘍周囲のリンパ節から採取した。採取された前記免疫細胞の量を測定した後、その結果を
図18~24の通りに示した。
【0155】
図18~22に示すように、CNC18菌株処理群がPBS対照群およびSHJ2037対照群に比べて白血球、好中球、ナチュラルキラー細胞およびCD8+ T細胞の比重が増加し、リンパ節での樹状細胞も増加した。これに対し、
図23および24に示すように、CNC18菌株処理群がPBS対照群およびSHJ2037対照群に比べて免疫抑制作用をするM2大食細胞および制御性T細胞(Treg cell)は減少した。
【0156】
前記結果により、本発明によるCNC18弱毒化サルモネラ菌株は、PBS対照群およびSHJ2037対照群に比べて免疫機能を大きく上昇させる効果を確認した。
【0157】
[実験例9]サルモネラによる腫瘍の映像化分析(1)
前記実験例2のように培養された腫瘍細胞をマウスの脇腹に皮下注射して、腫瘍動物モデルを構築した。このモデルにSHJ2037luxとCNC18luxサルモネラ菌株を注入した。ここで、前記SHJ2037luxとCNC18lux菌株は、SHJ2037菌株とCNC18菌株に発光遺伝子を導入した菌株である。前記発光遺伝子は、バクテリアルシフェラーゼ遺伝子(lux)を使用した。
【0158】
腫瘍動物モデルにおける菌株の映像化効果を評価するために、インビボイメージシステム(In Vivo Imaging System;IVIS)を用いて時間ごとに臓器および腫瘍を摘出した後、イメージを撮影し、その結果を
図25~27に示した。
【0159】
図25~27に示すように、SHJ2037lux菌株のように、CNC18lux菌株を注入した場合、腫瘍に特異的かつ選択的に生存能力を示し、リアルタイムに映像化できることを確認した。
【0160】
[実験例10]サルモネラによる腫瘍の映像化分析(2)
培養されたMOPC細胞をマウスの脛骨に注射して多発性骨髄腫(multiple myeloma)モデルを構築した後、実験例9と同じく、SHJ2037luxとCNC18luxサルモネラ菌株を注入した。次に、in vivoイメージシステム(In Vivo Imaging System;IVIS)を用いて時間ごとにイメージを撮影し、その結果を
図28および29に示した。
【0161】
図28および29に示すように、CNC18lux菌株を注入した場合、腫瘍に特異的かつ選択的に生存能力を示し、リアルタイムに映像化できることを確認した。特に、腫瘍周辺部に残留してイメージシグナルが分散したSHJ2037luxとは異なり、CNC18lux菌株の場合、腫瘍深部まで到達してより明確な映像をリアルタイムに確認することができた。
【0162】
前記実験例1~10から分かるように、CNC18菌株は、腫瘍に強い標的能力を維持しながら感染初期からすべての正常臓器で生存力が大きく減少して急速に死滅するCNC18菌株は、宿主内感染による副作用を最小化しながら優れた腫瘍治療効能を有することを確認した。
【0163】
以上、本発明の特定の部分を詳細に記述したが、当業界における通常の知識を有する者にとって、このような具体的な記述は単に好ましい実施形態に過ぎず、これによって本発明の範囲が制限されるわけではないことは明らかである。したがって、本発明の実質的な範囲は添付した請求項とその等価物によって定義される。
【産業上の利用可能性】
【0164】
本発明は、癌に選択的に作用するサルモネラ菌株およびこれを含む癌の予防または治療用組成物に関する。
【配列表】
【国際調査報告】