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特表2023-5422803D細胞培養コロイドのセットとその3D細胞培養方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-10-06
(54)【発明の名称】3D細胞培養コロイドのセットとその3D細胞培養方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/07 20100101AFI20230929BHJP
【FI】
C12N5/07
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023514014
(86)(22)【出願日】2020-08-26
(85)【翻訳文提出日】2023-03-20
(86)【国際出願番号】 CN2020111261
(87)【国際公開番号】W WO2022040959
(87)【国際公開日】2022-03-03
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523068868
【氏名又は名称】基可生医股▲分▼有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】100082418
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 朔生
(74)【代理人】
【識別番号】100167601
【弁理士】
【氏名又は名称】大島 信之
(74)【代理人】
【識別番号】100201329
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 真二郎
(74)【代理人】
【識別番号】100220917
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 忠大
(72)【発明者】
【氏名】呉侑峻
(72)【発明者】
【氏名】▲劉▼静▲ウェン▼
(72)【発明者】
【氏名】林威宇
【テーマコード(参考)】
4B065
【Fターム(参考)】
4B065AA90X
4B065AC20
4B065BB02
4B065BB38
4B065BC41
4B065BC47
4B065CA44
4B065CA46
(57)【要約】
【課題】3D細胞培養コロイドのセットとその3D細胞培養方法を提供する。
【解決手段】3D細胞培養コロイドのセットは、Aゲル材料と、C緩衝液と、D緩衝液と、を含む。3D細胞培養方法は、Aゲル材料を含む混合液に細胞を添加し、低温で作用させた後に細胞を含むコロイドを獲得し、コロイドにC緩衝液を添加して架橋を行い、C緩衝液を除去すると共に成長培地を添加し、コロイド内にスフェロイドが形成されるまで細胞を静置して培養するステップを含む。また、本発明はD緩衝液によりコロイドをさらに溶解し、培養後の細胞を取り出して分析する。よって、本発明の3D細胞培養コロイドのセットは、使用が便利であり、多種類の細胞株の3D細胞培養に適用できる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
0.5~3重量%のアルギン酸ナトリウムと、2.5~15重量%のゼラチンと、0.5~2重量%のHEPES緩衝液と、余剰のパーセンテージの純水と、を含むAゲル材料と、
0.2~10重量%の二価カチオン塩類と、0.01~1重量%の前記HEPES緩衝液と、余剰のパーセンテージの純水と、を含むC緩衝液と、
1~10重量%のエチレンジアミン四酢酸二水素二ナトリウムと、0.1~1重量%の水酸化ナトリウムと、0.05~1重量%の前記HEPES緩衝液と、余剰のパーセンテージの純水と、を含むD緩衝液と、を備えていることを特徴とする、
3D細胞培養コロイドのセット。
【請求項2】
前記C緩衝液の二価カチオン塩類は、塩化ストロンチウム、リン酸カルシウム、塩化カルシウム、及び硫酸カルシウムのうちの少なくとも1つであることを特徴とする請求項1に記載の3D細胞培養コロイドのセット。
【請求項3】
前記HEPES緩衝液は0.5~3MのHEPES緩衝液であることを特徴とする請求項1に記載の3D細胞培養コロイドのセット。
【請求項4】
熱伝導シートを更に備えていることを特徴とする請求項1に記載の3D細胞培養コロイドのセット。
【請求項5】
請求項1に記載のセットを使用する3D細胞培養方法であって、
細胞懸濁液を獲得するように細胞を成長培地中に懸濁させ、前記細胞懸濁液とAゲル材料とを体積比1:1の比率で混合し、混合溶液を獲得するステップ(a)と、
培養プレートを低温部材に載置し、且つ前記培養プレートの各穴に前記混合溶液を添加し、1~7分間静置してコロイドを形成するステップ(b)と、
前記コロイドにC緩衝液を添加し、10~20分間静置して架橋を行うステップ(c)と、
前記C緩衝液を前記成長培地に置換するステップ(d)と、
前記コロイド内で前記細胞がスフェロイドを形成するまで前記培養プレートを必要な温度で培養するように載置し、前記培養プレートは前記成長培地を毎日1回交換するステップ(e)と、を含むことを特徴とする、
3D細胞培養方法。
【請求項6】
前記Aゲル材料は0.5~2重量%のアルギン酸ナトリウムと、2.5~15重量%のゼラチンと、0.5~2重量%のHEPES緩衝液と、余剰のパーセンテージの純水と、を含み、且つ前記C緩衝液は、0.2~10重量%の二価カチオン塩類と、0.01~1重量%の前記HEPES緩衝液と、余剰のパーセンテージの純水と、を含むことを特徴とする請求項5に記載の3D細胞培養方法。
【請求項7】
前記ステップ(e)の後に、リン酸緩衝液を使用して前記スフェロイドを洗浄し、リン酸緩衝液を除去した後、D緩衝液を添加して前記スフェロイドと均一に混合し、且つ室温で5分間作用させて前記コロイドを溶解するステップ(f)をさらに実行し、前記D緩衝液は、1~10重量%のエチレンジアミン四酢酸二水素二ナトリウムと、0.1~1重量%の水酸化ナトリウムと、0.05~1重量%の前記HEPES緩衝液と、余剰のパーセンテージの純水と、を含むことを特徴とする請求項5に記載の3D細胞培養方法。
【請求項8】
前記ステップ(f)の後に、前記リン酸緩衝液を使用して溶解後の前記コロイドを洗浄し、遠心分離した後に上澄み液を除去し、細胞沈殿物を収集すると共に前記細胞沈殿物中の細胞を分析するステップ(g)をさらに実行することを特徴とする請求項7に記載の3D細胞培養方法。
【請求項9】
前記ステップ(b)の前記低温素子は、熱伝導シートを低温部材に載置して冷却することで獲得し、且つ前記必要な温度は30~37℃であり、前記混合溶液の細胞密度は10~10cells/mLであることを特徴とする請求項5に記載の3D細胞培養方法。
【請求項10】
前記C緩衝液の二価カチオン塩類は、塩化ストロンチウム、リン酸カルシウム、塩化カルシウム、及び硫酸カルシウムのうちの少なくとも1つであることを特徴とする請求項6に記載の3D細胞培養方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、3D細胞培養コロイドのセットとその3D細胞培養方法に関し、特に、本発明のセットは使用が便利であり、且つ多種類の細胞株の3D細胞培養に適用する。
【背景技術】
【0002】
体外で細胞を培養する技術はすでに相当成熟している。このため、現在の生物の研究において、細胞株が研究に常用されている。現在の細胞株の培養方法の多くは2Dの細胞培養法であり、細胞株を培養プレートの底部で平面的に培養する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】中国特許出願公開第105695413(B)号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、生物体内において、大多数の細胞の生長環境は立体的な環境であるため、2Dの細胞培養状態は、生物体内において細胞が生長する状態とは相当に大きな差がある。生物体内での細胞の生長状況をシミュレートするため、立体培地中で細胞を培養する3D細胞培養が現在研究、開発されており、従来の特許文献では、例えば、下記特許文献1には「腫瘍の個別化医療のための三次元細胞培養材料およびその調製方法」が開示されている。これはマトリゲル、低粘度アルギン酸ナトリウム溶液、ヒアルロン酸ナトリウム溶液、及び中粘度アルギン酸ナトリウム溶液等の材料を細胞の培地のマトリックスとして使用し、三次元細胞培養を行う。但し、従来の3D細胞培養に使用する立体培地の多くはマトリゲル(Matrigel)を材料として使用しており、その調製方法は繁雑であり、成分が複雑であり、コロイドの形成及び濃度の制御が難しく、ゲル化温度が低く、室温で操作する場合、凝固して操作が失敗し易かった。また、マトリゲルを調製する立体培地のコストは非常に高く、現在のところ、3D細胞培養は容易とは言えない。
【0005】
そこで、本発明者は上記の、3D細胞を培養するための材料とその方法を実際に使用するには、不足があるという欠点が改善可能と考え、鋭意検討を重ねた結果、合理的設計で上記の課題を効果的に改善する本発明の提案に至った。
【0006】
本発明は、上記問題点に鑑みて本発明者の鋭意研究により成されたものであり、その目的は、3D細胞培養コロイドのセットとその3D細胞培養方法を提供することにある。3D細胞培養コロイドのセットは、Aゲル材料と、C緩衝液と、D緩衝液と、を備えている。Aゲル材料は0.5~3重量%のアルギン酸ナトリウム(Sodium Alginate)と、2.5~15重量%のゼラチン(Gelatin)と、0.5~2重量%のHEPES(4-(2-hydroxyethyl)-1- piperazineethanesulfonic acid)緩衝液と、余剰のパーセンテージの純水と、を含む。C緩衝液は、0.2~10重量%の二価カチオン塩類と、0.01~1重量%の前記HEPES緩衝液と、余剰のパーセンテージの純水と、を含む。D緩衝液は、1~10重量%のエチレンジアミン四酢酸二水素二ナトリウム(Disodium ethylenediaminetetraacetate・2HO)と、0.1~1重量%の水酸化ナトリウム(NaOH)と、0.05~1重量%の前記HEPES緩衝液と、余剰のパーセンテージの純水と、を含む。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明は3D細胞培養コロイドのセットにより3D細胞培養方法を実行し、これは、細胞懸濁液を獲得するように細胞を成長培地中に懸濁し、前記細胞懸濁液とAゲル材料とを体積比1:1の比率で混合し、混合溶液を獲得するステップ(a)と、培養プレートを低温部材に載置し、且つ前記培養プレートの培養穴中に前記混合溶液を添加し、1~7分間静置してコロイドを形成するステップ(b)と、前記コロイドにC緩衝液を添加し、10~20分間静置して架橋を行うステップ(c)と、C緩衝液を細胞の成長培地に置換するステップ(d)と、コロイド内で前記細胞がスフェロイド(spheroid)を形成するまで培養プレートを必要な温度で培養するように載置し、培養プレートは成長培地を毎日1回交換するステップ(e)と、を含む。
【0008】
本発明の好適例において、C緩衝液の二価カチオン塩類は、塩化ストロンチウム、リン酸カルシウム、塩化カルシウム、及び硫酸カルシウムのうちの少なくとも1つである。
【0009】
本発明の好適例において、HEPES緩衝液は0.5~3MのHEPES緩衝液である。
【0010】
本発明の好適例において、本発明に係る3D細胞培養コロイドのセットは熱伝導シート(thermal conductive sheet)を更に備えている。
【0011】
本発明の好適例において、ステップ(e)の後に、リン酸緩衝液(1×PBS buffer)を使用して前記スフェロイドを洗浄し、リン酸緩衝液を除去した後、D緩衝液を添加して前記スフェロイドと均一に混合し、且つ室温で5分間作用させてコロイドを溶解するステップ(f)をさらに実行する。D緩衝液は、1~10重量%のエチレンジアミン四酢酸二水素二ナトリウム(Disodium ethylenediaminetetraacetate・2HO)と、0.1~1重量%の水酸化ナトリウムと、0.05~1重量%の前記HEPES緩衝液と、余剰のパーセンテージの純水と、を含む。
【0012】
本発明の好適例において、ステップ(f)の後に、前記リン酸緩衝液を使用して溶解後の前記コロイド溶液を洗浄し、遠心分離した後に上澄み液を除去し、細胞沈殿物を収集すると共に前記細胞沈殿物中の細胞を分析するステップ(g)をさらに実行する。
【0013】
本発明の好適例において、ステップ(b)の前記低温部材は、低温装置に載置して冷却することで獲得する熱伝導シートである。
【0014】
本発明の好適例において、前記細胞の培養に必要な温度は30~37℃である。
【0015】
本発明の好適例において、混合溶液の細胞密度は10~10cells/mLである。
【発明の効果】
【0016】
本発明は、以上説明したように構成されているので、以下に記載されるような効果を奏する。
以上述べた如く、本発明の3D細胞培養コロイドのセットは、使用が非常に便利であり、且つ多種類の細胞株の3D細胞培養に適用できる。また、本発明は細胞コロイドを溶解するD緩衝液を含むため、培養後に後続の細胞の分析を行うのにも十分に便利である。
【0017】
本発明の他の目的、構成及び効果については、以下の発明の実施の形態の項から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の一実施例に係る3D細胞培養方法を行う概略フローチャートである。
図2】本発明の一実施例の培養細胞のコロイドを溶解して細胞を分析する方法の概略フローチャートである。
図3】本発明による細胞培養後を示す生存率試験チャートである。
図4A】マトリックスゲルにより3D 細胞培養を行った顕微鏡写真である。
図4B】本発明のキットを使用して3D細胞培養を行った顕微鏡写真である。
図5】本発明の培養細胞により形成した細胞スフェロイドを示す顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、発明の実施の形態を通じて本発明を説明するが、以下の実施形態は特許請求の範囲にかかる発明を限定するものではない。また、実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0020】
本発明に係る3D細胞培養コロイドのセットとその3D細胞培養方法は、使用が便利であり、多種類の細胞株の3D細胞培養に適用できる。また、本発明はコロイドを溶解する緩衝液を含むため、後続の細胞分析を行うのも非常に便利である。
【0021】
本発明に係る3D細胞培養コロイドのセットは主に、Aゲル材料と、C緩衝液と、D緩衝液と、を備えている。本発明のセットは熱伝導シート(thermal conductive sheet)のような低温部材をさらに含み、3D細胞培養を行う過程において、コロイドの形成を助ける。
【0022】
本発明に係る3D細胞培養コロイドのセットのAゲル材料は、アルギン酸ナトリウム(Sodium Alginate)と、ゼラチンと、HEPES緩衝液と、余剰のパーセンテージの純水と、を含む。
【0023】
また、C緩衝液は、塩化ストロンチウム(Strontium Chloride・6HO)のような0.2~10重量%の二価カチオン塩類、リン酸カルシウム、塩化カルシウム、或いは硫酸カルシウムと、0.01~1重量%の前記HEPES緩衝液と、余剰のパーセンテージの純水と、を含む。本発明の好ましい実施形態では、C緩衝液は、0.5重量%の塩化ストロンチウムと、0.094重量%の1MのHEPES緩衝液と、余剰のパーセンテージの純水と、を含む。使用を便利にするため、C緩衝液を高濃度の濃縮型C緩衝液として調製し、例えば、10倍濃縮したC緩衝液として調製し、使用時に再度希釈する。以下の実施例において、C緩衝液中に二価カチオン塩類として塩化ストロンチウムを添加して試験を行う。
【0024】
また、D緩衝液は、1~10重量%のエチレンジアミン四酢酸二水素二ナトリウム(Disodium ethylenediaminetetraacetate・2HO)と、0.1~1重量%の水酸化ナトリウム(NaOH)と、0.05~1重量%の前記HEPES緩衝液と、余剰のパーセンテージの純水と、を含む。本発明の好ましい実施形態では、D緩衝液は、1.53重量%のエチレンジアミン四酢酸二水素二ナトリウムと、0.164重量%の水酸化ナトリウムと、0.082重量%の1MのHEPES緩衝液と、余剰のパーセンテージの純水と、を含む。使用を便利にするため、D緩衝液を高濃度の濃縮型D緩衝液として調製し、例えば、10倍の濃度のD緩衝液として調製し、使用時に再度希釈する。
【0025】
細胞の培養を開始する前に、まず、以下の使用する材料を準備する。Aゲル材料を37℃の水槽中に約10分間載置し、徹底的に溶解する。次いで、C緩衝液の10倍の濃縮液を、無血清(serum-free)の細胞培養液で1倍のC緩衝液に希釈する。ちなみに、このステップでは1×PBS緩衝液を使用してC緩衝液の10倍の濃縮液を希釈することはできない。また、1×PBS緩衝液により、D緩衝液の10倍の濃縮液を希釈し、1倍のD緩衝液を獲得する。なお、1倍のC緩衝液と1倍のD緩衝液は共に使用前に希釈する。
【0026】
以下に図1を参照しながら本発明の3D細胞培養コロイドのセットを用いた細胞培養方法について詳述する。
ステップ(a)では、0.5mLのAゲル材料(1)を試験管に注入し、次いで、培養する細胞を成長培地(growth medium)に懸濁し、細胞懸濁液を獲得する。0.5mLの細胞懸濁液を0.5mLのAゲル材料(1)を含む試験管に添加し、Aゲル材料(1)と十分に混合し、混合溶液(2)を獲得する。この混合溶液(2)中の細胞密度は、培養する細胞を考慮して適切に調整する。例えば、貼着型の細胞株の場合、培養する細胞は培養プレートの80%に達する密度が好ましく、且つ細胞密度は10~10cells/mLが常用される。この実施例の混合溶液(2)の細胞密度は10cells/mLである。
ステップ(b)では、熱伝導シート(3)を低温装置(4)に載置し、熱伝導シート(3)を迅速且つ均一に冷却する。熱伝導シート(3)は金属片であるが、これに限られず、且つこの低温装置(4)は氷塊や再使用可能なアイスバッグ等の物品であるが、これらに限られない。次いで、冷却が完了した熱伝導シート(3)に培養プレート(5)を載置し、且つ前記培養プレート(5)の培養穴に20~50μLの混合溶液(2)を添加し、1~7分間静置してコロイド(6)を形成する。コロイド(6)を形成するためには、マイクロピペットのチップによりコロイド(6)の表面に優しく接触し、コロイド(6)が既に形成されている場合、チップをコロイド(6)の表面から離す際に、コロイド(6)の表面が外に向けて引っ張られないようにする。
ステップ(c)では、コロイドの形成後に、コロイド(6)に1mLの冷却した温度約4℃の1倍のC緩衝液(7)を添加し、且つC緩衝液(7)によりコロイド(6)を被覆し、10~20分間静置して架橋を行う。この実施例では15分間静置する。
ステップ(d)では、1倍のC緩衝液(7)を慎重に除去し、この細胞の培養に用いる成長培地(8)に添加する。
ステップ(e)では、コロイド(6)内で細胞がスフェロイド(spheroid)を形成するまで培養プレート(5)を培養に必要な温度条件で載置し、成長培地(8)は毎日1回交換する。ステップ(e)の前記必要な温度とは、前記細胞を培養するのに好適な温度を指し、哺乳類動物の細胞を培養する場合、37℃が常用される培養温度である。また、培養時間も細胞の種類に応じて決定し、一般的には、3~14日間培養した後、コロイド(6)内の細胞が形成するスフェロイドを観察可能になる。
【0027】
さらに、細胞が成長した後、コロイド(6)内の細胞を取り出して後続の観察分析を行う場合、ステップ(e)の後に、ステップ(f)及びステップ(g) をさらに実行する。以下に図2を参照しながらステップ(f)及びステップ(g)について詳述する。
ステップ(f)では、培養プレート(5)内の成長培地(8)を除去し、冷却した温度約4℃のリン酸緩衝液(9)を使用し、例えば、1×PBS緩衝液によりコロイド(6)を慎重に洗浄した後、リン酸緩衝液(9)を除去する。この洗浄ステップを少なくとも1回実行する。次いで、冷却した温度約4℃のD緩衝液(10)を添加し、D緩衝液(10)とコロイド(6)とを均一に混合し、且つ室温で約5分間以上作用させてコロイド(6)を溶解する。
ステップ(g)では、溶解後のコロイドと細胞との混合液を培養プレート(5)内から取り出し、遠心管(11)に移し入れ、リン酸緩衝液(9)を添加して溶解後のコロイドと細胞との混合液を洗浄する。次いで、細胞を傷付けない回転速度で遠心分離ステップを実行し、例えば、1000rpmで10分間遠心分離を行った後、上澄み液を除去し、細胞沈殿物(12)を収集する。
【0028】
単体の細胞を獲得してさらに分析を行う場合、トリプシンEDTA溶液(trypsin-EDTA溶液)を使用して細胞沈殿物(12)を処理し、スフェロイド中の細胞群を分離し、単体の細胞を獲得する。
【0029】
<実施例一、Aゲル材料のゲル化試験>
表1に示すように、本発明人はAゲル材料中のアルギン酸ナトリウム(Sodium Alginate)、ゼラチン、及びHEPES緩衝液の比率がゲル化に与える影響を試験した。表1は7種類の調合を提供し、且つ各種の調合で製造されるコロイドに対し試験を行った。7種類の調合のAゲル材料は全てコロイドを製作可能であった。「コロイドのスライド」とは、コロイドが培養プレートの底部に対しスライドするかどうかを指す。「光学的透過性」とは、形成されたコロイドを文字が書かれた紙の上に載置し、コロイドを通して紙の上の文字が読めるかどうかを指す。「非崩壊時間」とは、コロイド形態を維持可能な時間を指す。
表1によると、7種類の調合で形成されたコロイドは、全て良好な光透過性を有し、且つ非崩壊時間は少なくとも12日以上に上り、3D細胞培養に確実に適用可能である。また、以下の実施例では、表1中の調合6のAゲル材料で形成されたコロイドにより3D細胞培養を行う。
<表1>
【0030】
<実施例二、細胞の生存率試験>
Huh-7細胞に対し2D培養方法及び本発明のセットにより3D細胞培養をそれぞれ実施し、48時間培養した後、MTT(3-(4、5-Dimethylthiazol-2-yl)-2、5-diphenyltetrazolium bromide)試験を行い、生存している細胞の比率を評価した。MTT試験は本分野で常用される細胞生存試験方法であるため、そのステップの詳細は省略する。
図3に示すように、本発明のセットにより培養したHuh-7細胞は、培養後の活性細胞数と初期の培養細胞とを比較すると、明らかに増加している。本発明のセットは細胞に対し毒性がなく、細胞の培養に確実に使用可能である。
【0031】
<実施例三、スフェロイドの生長の大きさ試験>
本実施例では、Huh-7細胞を、初期細胞量を1×10cellsとし、マトリゲル(Matrigel)及び本発明のセットによりそれぞれ3D細胞培養を行い、且つ2組のスフェロイドの生長を観察した。
図4A図4Bに示すように、マトリゲル(Matrigel)で培養した細胞は、培養後4日目にスフェロイドは観察されず、本発明のセットで培養した組では、培養後4日目にスフェロイドの生成が観察され、且つスフェロイドの直径は約20mmであった。また、培養後7日目に観察すると、マトリゲル(Matrigel)で培養した組は、スフェロイドの直径が約50mmであった。但し、本発明のセットで培養した組では、スフェロイドの直径は100mmに達した。マトリゲルと比べ、本発明のセットで3D細胞培養を行った場合、スフェロイドの生成がより早まり、且つスフェロイドの生長状況も好ましいことが明らかである。
【0032】
<実施例四、培養する細胞の種類>
表2及び図5は、本発明人が本発明の3D細胞培養コロイドのセットを使用し、多種類の癌細胞を培養する実験結果、及び形成されたスフェロイドの時間を示す。
表2及び図5によると、試験した細胞株は全て生長してスフェロイドを形成し、且つスフェロイドが観察されるまでの時間はどれも5日以上かからなかった。本発明のセットは多種類の細胞株に適用可能であり、且つ短時間内にスフェロイドの形成を観察できた。
<表2>
【0033】
以上述べた如く、本発明の3D細胞培養コロイドのセットとその3D細胞培養方法は、ゲル化ステップは2つの階段に分けて操作する。まず、低温環境で、例えば、10℃以下の操作環境でAゲル材料によりコロイドを形成した後、室温条件でコロイドとC緩衝液とを架橋し、3D細胞培養に用いる立体培地を獲得する。この2階段の操作方法は、操作時にコロイドの凝結速度が速すぎて立体培地の調製に影響が出るのを回避できる。
本発明に係る3D細胞培養コロイドのセットは操作が簡単であり、コロイドの形成に必要な時間が短く、形成されるコロイドの硬度を容易に制御できる。また、本発明により製造するコロイドはヒドロゲル(hydrogel)の網状構造を有しており、大多数の細胞株の3D培養に適合する。よって、本発明に係る3D細胞培養コロイドのセットの応用範囲は非常に広い。また、本発明は実施例が証明するように、本発明に係る3D細胞培養コロイドのセットは、従来のマトリゲル(Matrigel)を使用した3D細胞培養と比べて、スフェロイドの生成をより早く観察でき、実験効率が高まっている。
【0034】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されない。上記実施の形態に、多様な変更または改良を加えることが可能であることが当業者に明らかである。その様な変更または改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
【符号の説明】
【0035】
1 Aゲル材料
2 混合溶液
3 熱伝導シート
4 低温装置
5 培養プレート
6 コロイド
7 C緩衝液
8 成長培地
9 リン酸緩衝液
10 D緩衝液
11 遠心管
12 細胞沈殿物
図1
図2
図3
図4A
図4B
図5
【国際調査報告】