(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-10-06
(54)【発明の名称】組換え微生物及びそのための使用
(51)【国際特許分類】
C12N 1/21 20060101AFI20230929BHJP
C12P 7/28 20060101ALI20230929BHJP
C12P 7/04 20060101ALI20230929BHJP
C12N 15/31 20060101ALN20230929BHJP
C12N 15/54 20060101ALN20230929BHJP
C12N 9/10 20060101ALN20230929BHJP
【FI】
C12N1/21 ZNA
C12P7/28
C12P7/04
C12N15/31
C12N15/54
C12N9/10
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023518082
(86)(22)【出願日】2021-09-24
(85)【翻訳文提出日】2023-03-20
(86)【国際出願番号】 US2021051888
(87)【国際公開番号】W WO2022066997
(87)【国際公開日】2022-03-31
(32)【優先日】2020-09-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】518403425
【氏名又は名称】ランザテク,インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【氏名又は名称】大森 規雄
(74)【代理人】
【識別番号】100153693
【氏名又は名称】岩田 耕一
(72)【発明者】
【氏名】ノーグル,ロバート
(72)【発明者】
【氏名】リァン,チン
(72)【発明者】
【氏名】ジュミナガ,ダルマウィ
(72)【発明者】
【氏名】ショックリー,アーサー
【テーマコード(参考)】
4B064
4B065
【Fターム(参考)】
4B064AC02
4B064AC33
4B064CA02
4B064CA19
4B064CC24
4B064DA16
4B065AA02X
4B065AA23X
4B065AA23Y
4B065AB01
4B065BA01
4B065CA03
4B065CA04
(57)【要約】
増加した生成物生成及び発酵安定性を含む、特定の利点を与える複数のCoAトランスフェラーゼの発現を含む遺伝子操作された微生物が提供される。ガス状基質の存在下で遺伝子操作された微生物を培養することを含む、生成物の生成を増加させるための方法も提供され、ガス状基質が、CO、CO2、及びH2のうちの1つ以上を含むC1炭素源を含み得る。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の外因性CoAトランスフェラーゼと、少なくとも1つの追加の外因性CoAトランスフェラーゼと、を含む、遺伝子操作されたWood-Ljungdahl微生物。
【請求項2】
前記第1の外因性CoAトランスフェラーゼが、アセトラクテートデカルボキシラーゼ遺伝子のコード領域を置き換える、請求項1に記載の微生物。
【請求項3】
前記少なくとも1つの追加の外因性CoAトランスフェラーゼが、アルデヒド-アルコールデヒドロゲナーゼ遺伝子のコード領域を置き換える、請求項1に記載の微生物。
【請求項4】
外因性チオラーゼ、及びアセトアセテートデカルボキシラーゼ若しくはアルファ-ケトイソバレレートデカルボキシラーゼから選択される外因性デカルボキシラーゼ、又はこれらの任意の組み合わせを更に含む、請求項1に記載の微生物。
【請求項5】
前記外因性チオラーゼ、及びアセトアセテートデカルボキシラーゼ若しくはアルファ-ケトイソバレレートデカルボキシラーゼから選択される前記外因性デカルボキシラーゼ、又はこれらの任意の組み合わせが、前記第1の外因性CoAトランスフェラーゼとともに機能するか、又は前記最小の1つの追加の外因性CoAトランスフェラーゼとともに機能する、請求項4に記載の微生物。
【請求項6】
前記外因性CoAトランスフェラーゼが、Clostridium acetobutylicum CtfA及びCtfB、又はClostridium beijerinckii CtfA及びCtfBである、請求項1に記載の微生物。
【請求項7】
前記外因性CoAトランスフェラーゼが、前記微生物に対して非天然である、請求項6に記載の微生物。
【請求項8】
前記外因性CoAトランスフェラーゼが、前記微生物に対して天然である、請求項6に記載の微生物。
【請求項9】
前記外因性CoAトランスフェラーゼが、同じである、請求項6に記載の微生物。
【請求項10】
前記外因性CoAトランスフェラーゼが、異なる、請求項6に記載の微生物。
【請求項11】
前記外因性CoAトランスフェラーゼが、アセトラクテートデカルボキシラーゼプロモータ及び少なくとも1つの他のプロモータの両方の制御下にある、請求項6に記載の微生物。
【請求項12】
前記微生物が、2,3-ブタンジオールを生成しない、請求項1に記載の微生物。
【請求項13】
前記微生物が、アセトン及びイソプロパノールのうちの1つ以上を生成する、請求項1に記載の微生物。
【請求項14】
一級-二級アルコールデヒドロゲナーゼ遺伝子、チオエステラーゼ遺伝子、3-ヒドロキシブチリルcoAデヒドロゲナーゼ遺伝子、又はこれらの任意の組み合わせにおける破壊的変異を更に含む、請求項1に記載の微生物。
【請求項15】
前記外因性CoAトランスフェラーゼが、1-ブタノール、ブチレート、ブテン、ブタジエン、メチルエチルケトン、エチレン、アセトン、イソプロパノール、脂質、3-ヒドロキシプロピオネート、テルペン、イソプレン、脂肪酸、2-ブタノール、1,2-プロパンジオール、1-プロパノール、1-ヘキサノール、1-オクタノール、コリスマート由来の生成物、3-ヒドロキシブチレート、1,3-ブタンジオール、2-ヒドロキシイソブチレート若しくは2-ヒドロキシイソブタン酸、イソブチレン、アジピン酸、ケト-アジピン酸、1,3-ヘキサンジオール、3-メチル-2-ブタノール、2-ブテン-1-オール、イソバレレート、イソアミルアルコール、又はモノエチレングリコールの生成を可能にする、請求項6に記載の微生物。
【請求項16】
前記微生物が、C1固定微生物である、請求項1に記載の微生物。
【請求項17】
前記微生物が、細菌である、請求項1に記載の微生物。
【請求項18】
前記微生物が、Acetobacterium、Alkalibaculum、Blautia、Butyribacterium、Clostridium、Eubacterium、Moorella、Oxobacter、Sporomusa、又はThermoanaerobacterから選択される属のメンバーである、請求項1に記載の微生物。
【請求項19】
ガス状基質の存在下で、請求項1に記載の微生物を培養することを含む、生成物の生成を増加させるための方法。
【請求項20】
前記ガス状基質が、CO、CO
2、及びH
2のうちの1つ以上を含むC1炭素源を含む、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記ガス状基質が、合成ガス又は産業廃棄物ガスを含む、請求項19に記載の方法。
【請求項22】
前記生成物が、アセトン及びイソプロパノールのうちの1つ以上である、請求項19に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本出願は、2020年9月25日に出願された米国仮特許出願第63/083,257号の利益を主張し、この全体は、参照によって本明細書に組み込まれる。
【0002】
(発明の分野)
本出願は、概して、遺伝子操作された微生物、並びに二酸化炭素(CO2)、一酸化炭素(CO)、及び/又は水素(H2)を含む基質からの生成物の発酵生成のためのそれらの微生物の使用に関する。
【背景技術】
【0003】
差し迫った気候変動の緩和は、石炭及び石油のような化石燃料の燃焼を通じて生成されるものなど、温室ガス(greenhouse gas、GHG)の排出量の劇的な低減を必要とする。燃料及び化学物質の持続可能な資源は、現在、化石炭素への我々の依存性に著しく取り替わるには不十分であるが、ガス発酵が、CO、CO2、及び/又はH2などのそのようなガスの生物学的固定のための代替的なプラットフォームとして、持続可能な燃料及び化学物質に最近出現している。特に、ガス発酵技術は、ガス化炭素質物質(例えば、都市固形廃棄物又は農業廃棄物)又は産業廃棄物ガス(例えば、製鋼所又は油精製所から)を含む広範囲の原材料を利用して、エタノール、ジェット燃料、及び様々な他の生成物を生成することができる。ガス発酵単独で、原油使用の30%に取って替わり、世界的なCO2を10%低減し得るが、任意の破壊的技術と同様に、この可能性が完全に達成される前に多くの技術的課題を克服する必要がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特に、ガス状基質からの天然及び非天然生成物の増加した生成のための、改善された安定性及び基質選択性を有する追加の微生物が依然として必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示は、第1の外因性CoAトランスフェラーゼ及び少なくとも1つの追加の外因性CoAトランスフェラーゼを含む遺伝子操作されたWood-Ljungdahl微生物に関する。第1の外因性CoAトランスフェラーゼは、アセトラクテートデカルボキシラーゼ遺伝子のコード領域を置き換え得る。少なくとも1つの追加の外因性CoAトランスフェラーゼは、アルデヒド-アルコールデヒドロゲナーゼ遺伝子のコード領域を置き換え得る。微生物は、第1の外因性CoAトランスフェラーゼとともに、外因性チオラーゼ、及びアセトアセテートデカルボキシラーゼ又はアルファ-ケトイソバレレートデカルボキシラーゼから選択される外因性デカルボキシラーゼを更に含み得る。外因性CoAトランスフェラーゼは、Clostridium acetobutylicum CtfA及びCtfB、又はClostridium beijerinckii CtfA及びCtfBであり得る。外因性CoAトランスフェラーゼは、微生物にとって非天然であり得るか、又は外因性CoAトランスフェラーゼは、微生物にとって天然であり得る。外因性CoAトランスフェラーゼは、同じであり得るか、又は外因性CoAトランスフェラーゼは、異なり得る。外因性CoAトランスフェラーゼは、アセトラクテートデカルボキシラーゼプロモータ及び少なくとも1つの他のプロモータの両方の制御下にあり得る。微生物は、2,3-ブタンジオールを生成し得ない。微生物は、アセトン及びイソプロパノールのうちの1つ以上を生成し得る。微生物は、一級-二級アルコールデヒドロゲナーゼ遺伝子、チオエステラーゼ遺伝子、3-ヒドロキシブチリルcoAデヒドロゲナーゼ遺伝子、又はこれらの任意の組み合わせにおける破壊的変異を更に含み得る。外因性CoAトランスフェラーゼは、1-ブタノール、ブチレート、ブテン、ブタジエン、メチルエチルケトン、エチレン、アセトン、イソプロパノール、脂質、3-ヒドロキシプロピオネート、テルペン、イソプレン、脂肪酸、2-ブタノール、1,2-プロパンジオール、1-プロパノール、1-ヘキサノール、1-オクタノール、コリスマート由来の生成物、3-ヒドロキシブチレート、1,3-ブタンジオール、2-ヒドロキシイソブチレート若しくは2-ヒドロキシイソブタン酸、イソブチレン、アジピン酸、ケト-アジピン酸、1,3-ヘキサンジオール、3-メチル-2-ブタノール、2-ブテン-1-オール、イソバレレート、イソアミルアルコール、又はモノエチレングリコールの生成を可能にし得る。微生物は、C1固定微生物であり得る。微生物は、少なくとも1つの追加の外因性CoAトランスフェラーゼとともに、外因性チオラーゼ、アセトアセテートデカルボキシラーゼ若しくはアルファ-ケトイソバレレートデカルボキシラーゼから選択される外因性デカルボキシラーゼ、又はこれらの任意の組み合わせを更に含み得る。微生物は、細菌であり得る。微生物は、Acetobacterium、Alkalibaculum、Blautia、Butyribacterium、Clostridium、Eubacterium、Moorella、Oxobacter、Sporomusa、及びThermoanaerobacterから選択される属のメンバーであり得る。
【0006】
本開示は、ガス状基質の存在下で、第1の外因性CoAトランスフェラーゼ及び少なくとも1つの追加の外因性CoAトランスフェラーゼを含む遺伝子操作されたWood-Ljungdahl微生物を培養することを含む、生成物の生成を増加させるための方法に更に関する。ガス状基質は、CO、CO2、CH4、及びH2のうちの1つ以上を含むC1炭素源を含み得る。ガス状基質は、合成ガス又は産業廃棄物ガスを含み得る。生成物は、アセトン及びイソプロパノールのうちの1つ以上であり得る。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】破壊されたアセトラクテートデカルボキシラーゼ遺伝子(ΔbudA)及び破壊された一級-二級アルコールデヒドロゲナーゼ遺伝子(ΔsecAdh)を有する微生物の発酵を示すグラフのセットである。上のパネルは、代謝産物生成(エタノール及びアセテート)を示す。下のパネルは、ガス消費及び生成(CO、CO-
2、及びH
2)を示す。
【
図2】プラスミド上のアセトン経路(thlA、ctfAB、adc)の発現を有するΔbudAΔsecAdh微生物の発酵を示すグラフのセットである。アセトン経路は、P
ferプロモータの制御下にある。上のパネルは、代謝産物生成(エタノール、アセテート、及びアセトン)を示す。下のパネルは、ガス消費及び生成(CO、CO-
2、及びH
2)を示す。
【
図3】アセトラクテートデカルボキシラーゼ遺伝子(budA)座位でのアセトン経路(thlA、ctfAB、adc)のノックインを有するΔsecAdh微生物の発酵を示すグラフのセットである。アセトン経路は、P
budAプロモータ及びP
ferプロモータの制御下にある。上のパネルは、代謝産物生成(エタノール、アセテート、及びアセトン)を示す。下のパネルは、ガス消費及び生成(CO、CO-
2、及びH
2)を示す。
【
図4】二官能性アルデヒド-アルコールデヒドロゲナーゼ(adhE1+adhE2)遺伝子座位でのアセトン経路(thlA、ctfAB、adc)、及び官能性一級-二級アルコールデヒドロゲナーゼ(secAdh)遺伝子のノックインを有する微生物の発酵を示すグラフのセットである。一級-二級アルコールデヒドロゲナーゼ(secAdh)は、この株がアセトンではなくイソプロパノールを生成するように、アセトンをイソプロパノールに変換する。アセトン経路は、P
adhE1/E2プロモータ及びP
ferプロモータの制御下にある。上のパネルは、代謝産物生成(エタノール、アセテート、ブタンジオール、及びイソプロパノール)を示す。下のパネルは、ガス消費及び生成(CO、CO-
2、及びH
2)を示す。
【
図5】選択された株のタンパク質発現及びアセトン生成レベルを示す棒グラフであり、特にアセトン生成が低い株における概して低いctfAB発現を示す。発酵データに基づく代謝モデリングもまた、ctfAB反応がアセトン/イソプロパノール生成における制限ステップであることを示す。
【
図6A】所望の生成物を生成する際のアセトン及びイソプロパノールプラスミド株の比較を示す一連のグラフである。上のパネルは、ctfABの追加コピーを有する株における増加したアセトン生成を示す。中央パネル及び下のパネルは、ctfABの追加のコピーを有する株における増加したイソプロパノール生成を示す。
【
図6B】所望の生成物を生成する際のアセトン及びイソプロパノールプラスミド株の比較を示す一連のグラフである。上のパネルは、ctfABの追加コピーを有する株における増加したアセトン生成を示す。中央パネル及び下のパネルは、ctfABの追加のコピーを有する株における増加したイソプロパノール生成を示す。
【
図6C】所望の生成物を生成する際のアセトン及びイソプロパノールプラスミド株の比較を示す一連のグラフである。上のパネルは、ctfABの追加コピーを有する株における増加したアセトン生成を示す。中央パネル及び下のパネルは、ctfABの追加のコピーを有する株における増加したイソプロパノール生成を示す。
【
図7】プラスミド上のアセトン経路の追加の発現(thlA、ctfAB、adc)、追加発現ctfABのみ、又は追加の経路発現なしを伴う微生物の発酵を示すグラフである。アセトン経路は、P
ferプロモータの制御下にある。
【
図8】ctfABの追加のコピーを有する統合されたゲノム株が、ctfABの追加のコピーを有しない統合されたゲノム株と比較して、イソプロパノール生成の改善を示すことを示すグラフである。
【
図9】アセトン及びイソプロパノール生成に対するctfABの追加のコピーの効果を示す一連の棒グラフである。左のパネルは、連続的なアセトン生成及びctfABの追加のコピーの効果を示す。右のパネルは、異なるsecAdhバリアントを用いた連続的なイソプロパノール生成及びctfABの追加のコピーの効果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0008】
アセトラクテートデカルボキシラーゼは、2,3-ブタンジオール(2,3-BDO)(Kopke,Appl Env Microbiol,80:3394-3405,2014)の形成のための重要なステップであり、この酵素をノックアウトすることは、2,3-BDO産生を全滅させることが実証されている(国際公開第2013/115659号)。アセトン又はイソプロパノールなどの他の異種生成物に向かって流動を導くために、アセトラクテートデカルボキシラーゼのノックアウトによって、それらの異種生成物の生成が増加するであろうと予想される。
【0009】
しかしながら、本発明者らは、これが必ずしもそうではないことを見出した。特に、本発明者らは、アセトラクテートデカルボキシラーゼ座位での異種生成物の生成に関与する遺伝子のノックインが、安定した発酵及び高い生成物力価を達成するために重要であることを発見した。
【0010】
更に、アセチル-CoAの2つの分子のアセトアセチル-CoAへの縮合が経路において熱力学的に最も好ましくないステップであるため、チオラーゼ反応が生成経路における障害として働くことが以前に推測された。しかしながら、本発明者らは、驚くべきことに、下流CoAトランスフェラーゼステップが、標的生成物への流動を改善するために最も重要であることを発見した。
【0011】
本発明者らはまた、官能性一級-二級アルコールデヒドロゲナーゼ遺伝子を有しながら、二官能性アルデヒド-アルコールデヒドロゲナーゼ遺伝子座位における異種生成物の生成の原因となる遺伝子のプラスミド発現又はノックインが、イソプロパノール生成を増加させることを発見した。同様に、二官能性アルデヒド-アルコールデヒドロゲナーゼ遺伝子座位及び一級-二級アルコールデヒドロゲナーゼ遺伝子のノックアウトにおける異種生成物の生成の原因となる遺伝子のプラスミド発現又はノックインが、アセトン生成を増加させる。
【0012】
アセトラクテートデカルボキシラーゼ遺伝子座位、又はアセトラクテートデカルボキシラーゼ遺伝子座位及びアルデヒド-アルコールデヒドロゲナーゼ(adhE1+adhE2)遺伝子座位の両方におけるプラスミド発現又はDNAのノックインを含む、遺伝子操作された微生物が提供される。一実施形態では、DNAは、アセトラクテートデカルボキシラーゼ遺伝子のコード領域を、その全体で、又は部分的のいずれかで置き換える。一実施形態では、DNAは、アセトラクテートデカルボキシラーゼプロモータを置き換えない。一実施形態では、DNAは、アセトラクテートデカルボキシラーゼ遺伝子のコード領域を、その全体又は一部のいずれかで置き換え、また、DNAは、アルデヒド-アルコールデヒドロゲナーゼ(adhE1+adhE2)遺伝子のコード領域を、その全体又は一部のいずれかで置き換える。
【0013】
一実施形態では、アセトラクテートデカルボキシラーゼは、EC4.1.1.5、すなわち(S)-2-ヒドロキシ-2-メチル-3-オキソブタノエート←→(R)-2-アセトイン+CO2によって定義される活性を有する。一実施形態では、アセトラクテートデカルボキシラーゼは、budAである。一実施形態では、budAは、配列番号3を含む。
【0014】
ノックインが実施された後、微生物は、典型的には、微生物がアセトラクテートデカルボキシラーゼを発現し、2,3-ブタンジオールなどの生成物を生成しないように、官能性アセトラクテートデカルボキシラーゼ遺伝子を有しない。
【0015】
一実施形態では、ノックインされたDNAは、1つ以上の酵素をコードする。一実施形態では、これらの酵素は、微生物に対して非天然であり、すなわち、微生物中に天然に存在しない。一実施形態では、これらの酵素は、微生物に対して天然であり、すなわち微生物中に天然に存在し、単に酵素の別のコピーを微生物のゲノムに加える。
【0016】
一実施形態では、ノックインされたDNAによってコードされた酵素は、アセトラクテートデカルボキシラーゼプロモータ、例えば、PbudAの制御下にある。一実施形態では、DNAは、Pferプロモータなどのプロモータを含む。一実施形態では、酵素は、アセトラクテートデカルボキシラーゼプロモータ及び少なくとも1つの他のプロモータの両方の制御下にある。一実施形態では、酵素は、両方のPbudA及びPferの制御下にある。
【0017】
一実施形態では、アセトン経路は、アセトラクテートデカルボキシラーゼ遺伝子座位でノックインされる。アセトン経路は、チオラーゼ、CoAトランスフェラーゼ、及びデカルボキシラーゼを含み得る。一実施形態では、デカルボキシラーゼは、アセトアセテートデカルボキシラーゼ又はアルファ-ケトイソバレレートデカルボキシラーゼである。例えば、アセトン経路は、thlA、ctfAB、及びadc又はthlA、ctfAB、及びkivdを含み得る。一実施形態では、CoAトランスフェラーゼは、ブチレート-アセトアセテートCoAトランスフェラーゼ、アセテートCoAトランスフェラーゼ、スクシニル-CoAトランスフェラーゼ、4-ヒドロキシブチリルCoAトランスフェラーゼ、ケトアジペート-スクシニルCoAトランスフェラーゼ、又はプロピオネートCoAトランスフェラーゼである。一実施形態では、CoAトランスフェラーゼは、ctfAサブユニットのみである。一実施形態では、CoAトランスフェラーゼは、ctfBサブユニットのみである。一実施形態では、経路は、ctfAを含み得るが、adcを含み得ない。一実施形態では、経路は、ctfBを含み得るが、adcを含み得ない。存在する場合、secAdhなどの一級-二級アルコールデヒドロゲナーゼは、アセトンをイソプロパノールに変換する。この酵素をコードする遺伝子における破壊的変異(例えば、ノックアウト変異)の導入は、アセトンの生成をもたらし、一方、この酵素の発現は、イソプロパノールの生成をもたらすであろう。したがって、宿主微生物の遺伝的背景に応じて、アセトン経路の導入は、アセトン又はイソプロパノールのいずれかの生成をもたらすであろう。アセトン及びイソプロパノールを生成するための微生物の操作は、国際公開第2012/115527号に記載されている。一級-二級アルコールデヒドロゲナーゼ活性をノックアウトするための微生物の操作は、国際公開第2015/085015号に記載されている。
【0018】
一実施形態では、アセトン経路は、アセトラクテートデカルボキシラーゼ遺伝子座位でノックインされ、また、アルデヒド-アルコールデヒドロゲナーゼ遺伝子座位でノックインされる。一実施形態では、アセトン経路は、アセトラクテートデカルボキシラーゼ遺伝子座位でノックインされ、CoAトランスフェラーゼのみは、アルデヒド-アルコールデヒドロゲナーゼ遺伝子座位でノックインされる。一実施形態では、CoAトランスフェラーゼは、ブチレート-アセトアセテートCoAトランスフェラーゼ、アセテートCoAトランスフェラーゼ、スクシニル-CoAトランスフェラーゼ、4-ヒドロキシブチリルCoAトランスフェラーゼ、又はケトアジペート-スクシニルCoAトランスフェラーゼである。アセトン経路は、thlA、ctfAB、及びadc又はthlA、ctfAB、及びkivdを含み得る。存在する場合、secAdhなどの一級-二級アルコールデヒドロゲナーゼは、アセトンをイソプロパノールに変換する。この酵素をコードする遺伝子における破壊的変異(例えば、ノックアウト変異)の導入は、アセトンの生成をもたらし、一方、この酵素の発現は、イソプロパノールの生成をもたらすであろう。したがって、宿主微生物の遺伝的背景に応じて、アセトン経路の導入は、アセトン又はイソプロパノールのいずれかの生成をもたらすであろう。アセトン及びイソプロパノールを生成するための微生物の操作は、国際公開第2012/115527号に記載されている。一級-二級アルコールデヒドロゲナーゼ活性をノックアウトするための微生物の操作は、国際公開第2015/085015号に記載されている。
【0019】
一実施形態では、微生物は、アセトン経路を含み、微生物がアセトンを生成するように、一級-二級アルコールデヒドロゲナーゼ遺伝子における破壊的変異も含む。一実施形態では、微生物は、アセトン経路を含み、微生物がイソプロパノールを生成するように、官能的一級-二級アルコールデヒドロゲナーゼも含む。
【0020】
実際、ノックインされたDNAは、本質的に任意の酵素又は酵素経路をコードし得る。例えば、ノックインされたDNAによってコードされた酵素は、1-ブタノール、ブチレート、ブテン、ブタジエン、メチルエチルケトン、エチレン、アセトン、イソプロパノール、脂質、3-ヒドロキシプロピオネート、テルペン、イソプレン、脂肪酸、2-ブタノール、1,2-プロパンジオール、1-プロパノール、1-ヘキサノール、1-オクタノール、コリスマート由来の生成物、3-ヒドロキシブチレート、1,3-ブタンジオール、2-ヒドロキシイソブチレート若しくは2-ヒドロキシイソブタン酸、イソブチレン、アジピン酸、ケト-アジピン酸、1,3-ヘキサンジオール、3-メチル-2-ブタノール、2-ブテン-1-オール、イソバレレート、イソアミルアルコール、又はモノエチレングリコールの生成を可能にし得る。
【0021】
一実施形態では、酵素経路についてのエネルギー論は、チオラーゼが唯一のエンドエルゴニック酵素経路であるため、チオラーゼが追加のコピーを必要とすると予想されるであろうことを例示した。一実施形態では、エネルギー論は以下のとおりである:thlA(+26kJ/mol)、ctfAB(-5.7kJ/mol)、Adc(-41.9kJ/mol)、及びsecAdh(-16.2kJ/mol NADH、-17.4kJ/mol NADPH)。一実施形態では、thlAの3つのコピーがプラスミド上で発現され、所望の生成物生成において最小限の改善を実証した。予想外に、本発明者らは、下流CoAトランスフェラーゼステップが、標的生成物への流動を改善するために最も重要であることを発見した。
【0022】
一実施形態では、参照酵素に対する全ての可能なプロモータ-遺伝子の組み合わせを含む、別個のアセトン生合成経路設計を保有する合計247株を得て、スクリーニングした。一実施形態では、プロモータを変化させることは、生成において11倍の改善をもたらしたが、プロモータと、同定された固有の酵素バリアントと、を組み合わせることは、参照株由来の遺伝子を使用する最良性能の設計に対して更に2倍の改善をもたらした。一実施形態では、最良性能の設計は、thlA、ctfAB、及びAdcに基づき、連続発酵試験及びゲノム統合に進められた。一実施形態では、アセトン経路を最適化した後、操作されたC.オートエタノゲナムsecAdh酵素のライブラリは、アセトンのイソプロパノールへの変換についてスクリーニングされた。いくつかのバリアント及び野生型は、ガス上で成長させた場合、20g/Lの供給アセトンのほぼ完全な変換(>97%)を示し、連続発酵及びゲノム統合における試験のために進められた。
【0023】
一実施形態では、中心代謝及びアセトン経路に関連する各酵素の発現レベルに対する変化をシミュレートすることによって、モデルは、過剰発現ctfABがアセトンへの流動を増加させるであろうことを予測した。
【0024】
一実施形態では、微生物は、C1固定微生物である。一実施形態では、微生物は、Wood-Ljungdahl微生物である。一実施形態では、微生物は、細菌である。一実施形態では、微生物は、Acetobacterium、Alkalibaculum、Blautia、Butyribacterium、Clostridium、Eubacterium、Moorella、Oxobacter、Sporomusa、及びThermoanaerobacterから選択される属のメンバーである。
【0025】
更に、ガス状基質の存在下で微生物を培養することを含む、生成物の生成を増加させる方法が提供される。一実施形態では、ガス状基質は、CO、CO2、及び/又はH2を含むC1炭素源を含む。一実施形態では、ガス状基質は、合成ガス又は産業廃棄物ガスを含む。一実施形態では、生成物は、1-ブタノール、ブチレート、ブテン、ブタジエン、メチルエチルケトン、エチレン、アセトン、イソプロパノール、脂質、3-ヒドロキシプロピオネート、テルペン、イソプレン、脂肪酸、2-ブタノール、1,2-プロパンジオール、1-プロパノール、1-ヘキサノール、1-オクタノール、コリスマート由来の生成物、3-ヒドロキシブチレート、1,3-ブタンジオール、2-ヒドロキシイソブチレート若しくは2-ヒドロキシイソブタン酸、イソブチレン、アジピン酸、ケト-アジピン酸、1,3-ヘキサンジオール、3-メチル-2-ブタノール、2-ブテン-1-オール、イソバレレート、イソアミルアルコール、又はモノエチレングリコールである。
【0026】
「発酵」という用語は、基質中の化学変化を引き起こす代謝プロセスとして解釈されるべきである。例えば、発酵プロセスは、1つ以上の基質を受け取り、1つ以上の微生物の利用を通じて1つ以上の生成物を生成する。「発酵」、「ガス発酵」などの用語は、ガス化によって生成される合成ガスなどの1つ以上の基質を受け取り、1つ以上のC1固定微生物の利用を通じて1つ以上の生成物を生成するプロセスとして解釈されるべきである。好ましくは、発酵プロセスは、1つ以上のバイオリアクターの使用を含む。発酵プロセスは、「バッチ」又は「連続」のいずれかとして説明され得る。「バッチ発酵」は、バイオリアクターが微生物とともに、原料、すなわち炭素源で満たされ、発酵が完了するまで生成物がバイオリアクター内に留まる発酵プロセスを説明するために使用される。「バッチ」プロセスでは、発酵が完了した後、生成物が抽出され、バイオリアクターは、次の「バッチ」が始まる前に洗浄される。「連続発酵」は、発酵プロセスがより長期間にわたって延長され、発酵中に生成物及び/又は代謝産物が抽出される発酵プロセスを説明するために使用される。好ましくは、発酵プロセスは、連続的である。
【0027】
微生物に関して使用されるとき、「非自然発生」という用語は、微生物が、言及される種の野生型株を含む言及される種の自然発生株において見られない少なくとも1つの遺伝子修飾を有することを意味することが意図される。非自然発生微生物は、典型的には、実験室又は研究施設で開発される。
【0028】
「遺伝子修飾」、「遺伝子改変」、又は「遺伝子操作」という用語は、微生物のゲノム又は核酸の人の手による操作を広く指す。同様に、「遺伝子修飾された」、「遺伝子改変された」、又は「遺伝子操作された」という用語は、そのような遺伝子修飾、遺伝子改変、又は遺伝子操作を含む微生物を指す。これらの用語は、実験室で生成された微生物と自然発生の微生物を区別するために使用され得る。遺伝子修飾の方法は、例えば、異種遺伝子発現、遺伝子又はプロモータの挿入又は欠失、核酸変異、改変遺伝子発現又は不活性化、酵素工学、指向性進化、知識ベース設計、ランダム変異導入法、遺伝子シャフリング、及びコドン最適化を含む。
【0029】
例えば、Clostridiaなどの微生物の代謝工学は、エタノールなどの天然の代謝産物以外の多くの重要な燃料及び化学分子を生成する能力を大いに拡大することができる。しかしながら、最近までClostridiaは、遺伝的に扱いにくいとみなされたため、一般に、広範な代謝工学努力は立ち入られなかった。近年、Clostridiaについては、ゲノム操作のためのいくつかの異なる方法が開発され、これには、イントロンベースの方法(Kuehne,Strain Eng:Methods and Protocols,389-407,2011)、対立遺伝子交換方法(ACE)(Heap,Nucl Acids Res,40:e59,2012;Ng,PLoS One,8:e56051,2013)、トリプルクロス(Liew,Frontiers Microbiol,7:694,2016)、I-SceIを介して媒介される方法(Zhang,Journal Microbiol Methods,108:49-60,2015)、MazF(Al-Hinai,Appl Environ Microbiol,78:8112-8121,2012)、又はその他(Argyros,Appl Environ Microbiol,77:8288-8294,2011)、Cre-Lox(Ueki,mBio,5:e01636-01614,2014)、及びCRISPR/Cas9(Nagaraju,Biotechnol Biofuels,9:219,2016)が含まれる。しかしながら、少数以上の遺伝的変化を繰り返し導入することは、遅い、骨の折れるサイクル時間、及び種にわたるこれらの遺伝学的技術の導入性に対する制限により、依然として非常に困難である。更に、我々は、C1取り込み、変換、及び生成物合成に向かう炭素/エネルギー/レドックスブローを最大にするであろう修飾を確実に予測するのに、ClostridiaにおけるC1代謝をまだ十分に理解していない。したがって、Clostridiaにおける標的経路の導入は、単調で退屈な、時間がかかるプロセスのままである。
【0030】
「組換え」は、核酸、タンパク質、又は微生物が、遺伝子修飾、操作、又は組換えの生成物であることを示す。一般に、「組換え」という用語は、微生物の2つ以上の異なる株又は種など、複数の源に由来する遺伝物質を含有するか、又はそれによってコードされる核酸、タンパク質、又は微生物を指す。
【0031】
「野生型」は、変異体又はバリアント形態とは区別されるように天然に存在する、生物、株、遺伝子、又は特性の典型的な形態を指す。
【0032】
「内在性」は、本開示の微生物が由来する野生型又は親微生物に存在又は発現される核酸又はタンパク質を指す。例えば、内在性遺伝子は、本開示の微生物が由来する野生型又は親微生物に天然に存在する遺伝子である。一実施形態では、内在性遺伝子の発現は、外来性プロモータなどの外来性調節エレメントによって制御され得る。
【0033】
「外来性」とは、本開示の微生物の外側に起源がある核酸又はタンパク質を指す。例えば、外来性遺伝子又は酵素は、人工的又は組換え的に作成され、本開示の微生物に導入されるか、又はそこに発現され得る。外来性遺伝子又は酵素はまた、異種微生物から単離され、本開示の微生物に導入されるか、又はそこに発現され得る。外来性核酸は、本開示の微生物のゲノムに組み入れるように、又は本開示の微生物、例えばプラスミドにおける染色体外の状態で留まるように適合され得る。
【0034】
「異種」は、本開示の微生物が由来する野生型又は親微生物に存在しない核酸又はタンパク質を指す。例えば、異種遺伝子又は酵素は、異なる株又は種に由来し、本開示の微生物に導入されるか、又は発現され得る。異種遺伝子又は酵素は、異なる株又は種で生じる形態で、本開示の微生物に導入されるか、又はそこに発現され得る。代替的に、異種遺伝子又は酵素は、いくつかの方法で、例えば、本開示の微生物における発現のためにそれをコドン最適化することによって、又は機能を変化させるように、例えば酵素活性の方向を逆転させるように、若しくは基質特異性を変化させるように、それを操作することによって修飾され得る。
【0035】
「ポリヌクレオチド」、「ヌクレオチド」、「ヌクレオチド配列」、「核酸」、及び「オリゴヌクレオチド」という用語は、互換的に使用される。それらは、任意の長さのポリマー形態のヌクレオチド、デオキシリボヌクレオチド若しくはリボヌクレオチドのいずれか、又はそれらの類似体を指す。ポリヌクレオチドは、任意の三次元構造を有することができ、既知又は未知の任意の機能を果たし得る。以下は、ポリヌクレオチドの非限定的な例である:遺伝子又は遺伝子断片のコード領域又は非コード領域、連鎖解析から定義される座位(複数可)、エクソン、イントロン、メッセンジャーRNA(messenger RNA、mRNA)、トランスファーRNA、リボソームRNA、短干渉RNA(short interfering RNA、siRNA)、短ヘアピンRNA(short-hairpin RNA、shRNA)、マイクロRNA(micro-RNA、miRNA)、リボザイム、cDNA、組換えポリヌクレオチド、分枝鎖ポリヌクレオチド、プラスミド、ベクター、任意の配列の単離されたDNA、任意の配列の単離されたRNA、核酸プローブ、及びプライマー。ポリヌクレオチドは、メチル化ヌクレオチド又はヌクレオチド類似体などの1つ以上の修飾されたヌクレオチドを含み得る。存在する場合、ヌクレオチド構造の修飾は、ポリマーの組織化の前又は後に付与され得る。ヌクレオチドの配列は、非ヌクレオチド構成要素によって割り込まれ得る。ポリヌクレオチドは、重合の後、例えば標識構成要素との共役により、更に修飾され得る。
【0036】
本明細書で使用される場合、「発現」は、ポリヌクレオチドがDNA鋳型から(例えば、mRNA若しくは他のRNA転写物へ)転写されるプロセス、及び/又は転写されたmRNAが、続いて、ペプチド、ポリペプチド、若しくはタンパク質へ翻訳されるプロセスを指す。転写物及びコードされたポリペプチドは、集合的に「遺伝子産物」と称され得る。
【0037】
「ポリペプチド」、「ペプチド」、及び「タンパク質」という用語は、任意の長さのアミノ酸のポリマーを指すために本明細書で互換的に使用される。ポリマーは、直鎖であっても分岐鎖であり得、修飾アミノ酸を含み得、非アミノ酸によって割り込まれ得る。この用語はまた、修飾されたアミノ酸ポリマーを包含し、例えば、ジスルフィド結合形成、グリコシル化、脂質化、アセチル化、リン酸化、又は標識成分との共役などの任意の他の操作がある。本明細書で使用される場合、「アミノ酸」という用語は、グリシン、D又はL光学異性体の両方、並びにアミノ酸類似体及びペプチド模倣体を含む天然及び/又は非天然若しくは合成アミノ酸を含む。
【0038】
「酵素活性」又は単に「活性」は、広範には、酵素の活性、酵素の量、又は反応を触媒するための酵素の可用性を含むがこれらに限定されない、酵素的な活性を指す。したがって、酵素活性を「増加させること」は、酵素の活性を増大させること、酵素の量を増加させること、又は反応を触媒するための酵素の可用性を増加させることを含む。同様に、酵素活性を「低下させること」は、酵素の活性を低下させること、酵素の量を低下させること、又は反応を触媒するための酵素の可用性を低下させることを含む。
【0039】
「変異した」は、本開示の微生物が由来する野生型又は親微生物と比較して、本開示の微生物において修飾されている核酸又はタンパク質を指す。一実施形態では、変異は、酵素をコードする遺伝子中の欠失、挿入、又は置換であり得る。別の実施形態では、変異は、酵素中の1つ以上のアミノ酸の欠失、挿入、又は置換であり得る。
【0040】
具体的には、「破壊的変異」は、遺伝子又は酵素の発現又は活性を低減又は排除(すなわち「破壊する」)する変異である。破壊的変異は、遺伝子又は酵素を、部分的に不活性化し得るか、完全に不活性化し得るか、又は欠失し得る。破壊的変異は、酵素によって生成される生成物の生合成を低減、防止、又は阻害する任意の変異であり得る。破壊的変異は、ノックアウト(knockout、KO)変異であり得る。破壊はまた、遺伝子、タンパク質、又は酵素の発現又は活性を低減するが、完全に排除しないノックダウン(knockdown、KD)変異でもあり得る。KOは、生成物の収率を高めるのに一般的に有効であるが、特に非増殖結合生成物について、利益を上回る増殖欠陥又は遺伝的不安定性の不利益をもたらす場合がある。破壊的変異は、例えば、酵素をコードする遺伝子における変異、酵素をコードする遺伝子の発現に関与する遺伝子調節エレメントにおける変異、酵素の活性を低下又は阻害するタンパク質を生成する核酸の導入、又は酵素の発現を阻害する核酸(例えば、アンチセンスRNA、siRNA、CRISPR)若しくはタンパク質の導入を含み得る。破壊的変異は、当該技術分野で既知の任意の方法を使用して導入され得る。
【0041】
破壊的変異の導入は、本開示の微生物が由来する親微生物と比較して、標的生成物を生成しないか、又は標的生成物を実質的に生成しないか、又は標的生成物の量を低減させる、本発明の微生物をもたらす。例えば、本開示の微生物は、標的生成物を生成しないか、又は親微生物よりも、少なくとも約1%、3%、5%、10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、若しくは95%少ない標的生成物を生成し得る。例えば、本開示の微生物は、約0.001、0.01、0.10、0.30、0.50、又は1.0g/L未満の生成物を生成し得る。
【0042】
「ノックイン」は、遺伝子座位におけるDNAの置換又は遺伝子座位における新しいDNAの挿入を伴う遺伝子操作方法を指す。多くの場合、ノックインは、遺伝子を1つ以上の異なる遺伝子と置き換えるであろう。例えば、アセトラクテートデカルボキシラーゼ(budA)遺伝子は、1つ以上の異なる遺伝子と、全体的又は部分的に置き換えられ得る。一実施形態では、遺伝子のコード領域のみが置き換えられる。一実施形態では、任意のプロモータ領域を含む、遺伝子のオペロン全体が置き換えられる。
【0043】
「コドン最適化」とは、特定の株又は種における核酸の最適化又は改善された翻訳のための、遺伝子などの核酸の変異を指す。コドンの最適化により、より速い翻訳速度、又はより高い翻訳の精度を生じることができる。実施形態では、本開示の遺伝子は、Clostridium、特にClostridium autoethanogenum、Clostridium ljungdahlii、又はClostridium ragsdaleiでの発現のためにコドン最適化される。別の実施形態では、本開示の遺伝子は、DSMZ受託番号DSM23693で寄託されている、Clostridium autoethanogenum LZ1561での発現のためにコドン最適化される。
【0044】
「過剰発現した」とは、本開示の微生物が由来する野生型又は親微生物と比較して、本開示の微生物における核酸又はタンパク質の発現の増加を指す。過剰発現は、遺伝子コピー数、遺伝子転写速度、遺伝子翻訳速度、又は酵素分解速度の変更を含む、当該技術分野において既知の任意の手段によって達成することができる。
【0045】
「バリアント」という用語は、核酸及びタンパク質の配列が、従来技術分野において開示されるか又は本明細書に例示される参照核酸及びタンパク質の配列などの、参照核酸及びタンパク質の配列から変化する、核酸及びタンパク質を含む。本開示は、参照核酸又はタンパク質と実質的に同じ機能を実行するバリアント核酸又はタンパク質を使用して実践され得る。例えば、バリアントタンパク質は、参照タンパク質と実質的に同じ機能を実行するか、又は実質的に同じ反応を触媒する場合がある。バリアント遺伝子は、参照遺伝子と同じ、又は実質的に同じタンパク質をコードし得る。バリアントプロモータは、参照プロモータと実質的に同じ、1つ以上の遺伝子の発現を促進するための能力を有し得る。
【0046】
そのような核酸又はタンパク質は、本明細書では「機能的に同等のバリアント」と称され得る。例として、核酸の機能的に同等のバリアントには、対立遺伝子バリアント、遺伝子の断片、変異した遺伝子、多型などが含まれ得る。他の微生物からの相同遺伝子も、機能的に同等なバリアントの例である。これらとしては、Clostridium acetobutylicum、Clostridium beijerinckii、又はClostridium ljungdahliiなどの種の相同遺伝子が挙げられ、それらの詳細は、Genbank又はNCBIなどのウェブサイトで公開されており入手可能である。機能的に同等なバリアントとしてはまた、特定の微生物のコドン最適化の結果として配列が変化している核酸が挙げられる。核酸の機能的に同等なバリアントは、好ましくは、参照核酸と少なくとも約70%、約80%、約85%、約90%、約95%、約98%、又はそれを超える核酸配列同一性(相同性パーセント)を有する。タンパク質の機能的に同等なバリアントは、好ましくは、参照タンパク質と少なくとも約70%、約80%、約85%、約90%、約95%、約98%、又はそれを超えるアミノ酸同一性(相同性パーセント)を有する。バリアントの核酸又はタンパク質の機能的同等性は、当該技術分野において既知の任意の方法を使用して評価することができる。
【0047】
核酸は、当該技術分野において既知の任意の方法を使用して、本開示の微生物に送達され得る。例えば、核酸は、裸の核酸として送達され得るか、又はリポソームなどの1つ以上の薬剤とともに配合され得る。核酸は、必要に応じて、DNA、RNA、cDNA、又はそれらの組み合わせであり得る。ある特定の実施形態では、制限阻害剤が使用され得る。追加のベクターには、プラスミド、ウイルス、バクテリオファージ、コスミド、及び人工染色体が含まれ得る。実施形態では、核酸は、プラスミドを使用して本開示の微生物に送達される。例として、形質転換(形質導入又はトランスフェクションを含む)は、エレクトロポレーション、超音波処理、ポリエチレングリコール媒介形質転換、化学的又は自然のコンピテンス、プロトプラスト形質転換、プロファージ誘発、又は共役によって達成され得る。活性制限酵素系を有するある特定の実施形態では、核酸を微生物に導入する前に核酸をメチル化する必要があり得る。
【0048】
更に、核酸は、特定の核酸の発現を増加又は別の方法で制御するために、プロモータなどの調節エレメントを含むように設計され得る。プロモータは、構成的プロモータ又は誘導性プロモータであり得る。理想的には、プロモータは、Wood-Ljungdahl経路プロモータ、ピルベート、フェレドキシンオキシドレダクターゼプロモータ、Rnf複合体オペロンプロモータ、ATPシンターゼオペロンプロモータ、又はホスホトランスアセチラーゼ/アセテートキナーゼオペロンプロモータである。
【0049】
「微生物」は、顕微鏡生物、特に細菌、古細菌、ウイルス、又は真菌である。本開示の微生物は、典型的には細菌である。本明細書で使用される場合、「微生物」の引用は、「細菌」を網羅するものと解釈されるべきである。
【0050】
「親微生物」は、本開示の微生物を生成するために使用される微生物である。親微生物は、自然発生型の微生物(すなわち、野生型微生物)又は以前に修飾されたことのある微生物(すなわち、変異体又は組換え微生物)であり得る。本開示の微生物は、親微生物において発現又は過剰発現されなかった1つ以上の酵素を発現又は過剰発現するように修飾され得る。同様に、本開示の微生物は、親微生物によって含有されなかった1つ以上の遺伝子を含有するように修飾され得る。本開示の微生物は、親微生物において発現されたより少ない量の1つ以上の酵素を発現しないように、又は発現するようにも修飾され得る。一実施形態では、親微生物は、Clostridium autoethanogenum、Clostridium ljungdahlii、又はClostridium ragsdaleiである。実施形態では、親微生物は、ブダペスト条約の条項下で、2010年6月7日に、Inhoffenstrase 7B,D-38124 Braunschweig,Germanyに所在するDeutsche Sammlung von Mikroorganismen und Zellkulturen GmbH(DSMZ)に寄託され、受託番号DSM23693を付与された、Clostridium autoethanogenum LZ1561である。この株は、国際公開第2012/015317号として公開されている国際特許出願第NZ2011/000144号に記載されている。
【0051】
「から誘導される」という用語は、新しい核酸、タンパク質、又は微生物を生成するように、核酸、タンパク質、又は微生物が異なる(例えば、親又は野生型)核酸、タンパク質、又は微生物から修飾又は適合されることを示す。そのような修飾又は適合は、典型的には、核酸又は遺伝子の挿入、欠失、変異、又は置換を含む。一般に、本開示の微生物は、親微生物に由来する。一実施形態では、本発明の親微生物は、Clostridium autoethanogenum、Clostridium ljungdahlii、又はClostridium ragsdaleiに由来する。実施形態では、本開示の微生物は、DSMZ受託番号DSM23693の下で寄託される、Clostridium autoethanogenum LZ1561に由来する。
【0052】
本開示の微生物は、官能的特性に基づいて更に分類され得る。例えば、本開示の微生物は、C1固定微生物、嫌気性生物、アセトゲン、エタノロゲン、カルボキシド栄養生物(carboxydotroph)、及び/又はメタン資化性菌(methanotroph)であり得るか、又はそれらに由来し得る。表1は、微生物の代表的なリストを提供し、微生物の機能特性を特定する。
【0053】
【表1】
1 Acetobacterium woodiiは、ガスからではなく、フルクトースからエタノールを生成することができる。
2 Clostridium magnumがCOで増殖することができるか否かは調査されていない。
3 Moorella thermoacetica、Moorella sp.HUC22-1の1つの株は、ガスからエタノールを生成することが報告されている。
4 Sporomusa ovataがCOで増殖することができるか否かは調査されていない。
5 Sporomusa silvaceticaがCOで増殖することができるか否かは調査されていない。
6 Sporomusa sphaeroidesがCOで増殖することができるか否かは調査されていない。
【0054】
「Wood-Ljungdahl」とは、例えば、Ragsdale,Biochim Biophys Acta,1784:1873-1898,2008に記載される炭素固定のWood-Ljungdahl経路を指す。「Wood-Ljungdahl微生物」は、予測どおり、Wood-Ljungdahl経路を含む微生物を指す。一般に、本開示の微生物は、天然のWood-Ljungdahl経路を含有する。本明細書において、ウッド-ユングダール経路は、天然の未修飾のウッド-ユングダール経路であり得るか、あるいはCO、CO2、及び/又はH2をアセチル-CoAに変換するように依然として機能する限り、ある程度の遺伝子修飾(例えば、過剰発現、異種発現、ノックアウトなど)を有するウッド-ユングダール経路であり得る。
【0055】
「C1」は、1炭素分子、例えば、CO、CO2、CH4、又はCH3OHを指す。「C1酸素化物」は、少なくとも1つの酸素原子も含む1炭素分子、例えば、CO、CO2、又はCH3OHを指す。「C1炭素源」とは、本開示の微生物のための部分的又は唯一の炭素源として機能する1つの炭素分子を指す。例えば、C1炭素源は、CO、CO2、CH4、CH3OH、又はCH2O2のうちの1つ以上を含み得る。好ましくは、C1炭素源は、CO及びCO2のうちの1方又は両方を含む。「C1固定微生物」は、C1炭素源から1つ以上の生成物を生成する能力を有する微生物である。典型的には、本開示の微生物は、C1固定細菌である。実施形態では、本開示の微生物は、表1で特定されるC1固定微生物に由来する。
【0056】
「嫌気性生物」は、増殖のために酸素を必要としない微生物である。嫌気性生物は、酸素が特定の閾値を超えて存在する場合、負の反応を示し得るか、又は死滅し得る。しかしながら、いくつかの嫌気性生物は、低レベルの酸素(例えば、0.000001~5%の酸素)を許容可能である。典型的には、本開示の微生物は、嫌気性生物である。実施形態では、本開示の微生物は、表1で特定される嫌気性生物に由来する。
【0057】
「アセトゲン」は、エネルギー節約のため、並びにアセテートなどのアセチル-CoA及びアセチル-CoA由来の生成物の合成のためのその主要機構としてWood-Ljungdahl経路を使用する、偏性嫌気性細菌である(Ragsdale,Biochim Biophys Acta,1784:1873-1898,2008)。特に、アセトゲンは、Wood-Ljungdahl経路を、(1)CO2からのアセチル-CoAの還元合成のための機構、(2)末端電子受容、エネルギー節約プロセス、(3)細胞炭素の合成におけるCO2の固定(同化)のための機構として使用する(Drake,Acetogenic Prokaryotes,In:The Prokaryotes,3rd edition,p.354,New York,NY,2006)。全ての自然発生するアセトゲンは、C1固定、嫌気性、独立栄養性、及び非メタン資化性である。典型的には、本開示の微生物は、アセトゲンである。実施形態では、本開示の微生物は、表1で特定されるアセトゲンに由来する。
【0058】
「エタノロゲン」は、エタノールを生成する、又は生成することが可能である微生物である。典型的には、本開示の微生物はエタノロゲンである。実施形態では、本開示の微生物は、表1で特定されるエタノロゲンに由来する。
【0059】
「独立栄養生物」は、有機炭素の不在下でも増殖することが可能な微生物である。代わりに、独立栄養生物は、CO及び/又はCO2などの無機炭素源を使用する。典型的には、本開示の微生物は、独立栄養生物である。実施形態では、本開示の微生物は、表1で特定される独立栄養生物に由来する。
【0060】
「カルボキシド栄養生物」は、炭素及びエネルギーの唯一の供給源としてCOを利用することが可能な微生物である。典型的には、本開示の微生物は、カルボキシド栄養生物である。実施形態では、本開示の微生物は、表1で特定されるカルボキシド栄養生物に由来する。
【0061】
「メタン資化性菌」は、炭素とエネルギーの唯一の供給源としてメタンを利用することが可能な微生物である。特定の実施形態では、本開示の微生物は、メタン資化性菌であるか、又はメタン資化性菌に由来する。他の実施形態では、本開示の微生物は、メタン資化性菌ではないか、又はメタン資化性菌に由来しない。
【0062】
より広くは、本開示の微生物は、表1で特定される任意の属又は種に由来し得る。例えば、微生物は、Acetobacterium、Alkalibaculum、Blautia、Butyribacterium、Clostridium、Eubacterium、Moorella、Oxobacter、Sporomusa、及びThermoanaerobacterからなる群から選択される属のメンバーであり得る。特に、微生物は、Acetobacterium woodii、Alkalibaculum bacchii、Blautia producta、Butyribacterium methylotrophicum、Clostridium aceticum、Clostridium autoethanogenum、Clostridium carboxidivorans、Clostridium coskatii、Clostridium drakei、Clostridium formicoaceticum、Clostridium ljungdahlii、Clostridium magnum、Clostridium ragsdalei、Clostridium scatologenes、Eubacterium limosum、Moorella thermautotrophica、Moorella thermoacetica、Oxobacter pfennigii、Sporomusa ovata、Sporomusa silvacetica、Sporomusa sphaeroides、及びThermoanaerobacter kivuiからなる群から選択される親細菌に由来し得る。
【0063】
実施形態では、本開示の微生物は、Clostridium autoethanogenum種、Clostridium ljungdahlii種、及びClostridium ragsdalei種を含むClostridiaのクラスターに由来する。これらの種は、Abrini,Arch Microbiol,161:345-351,1994(Clostridium autoethanogenum)、Tanner,Int J System Bacteriol,43:232-236,1993(Clostridium ljungdahlii)、及びHuhnke,国際公開第2008/028055号(Clostridium ragsdalei)によって最初に報告され、特徴付けられた。
【0064】
これらの3つの種は、多くの類似点を有する。特に、これらの種は全て、C1固定、嫌気性、アセトゲン性、エタノロゲン性、及びカルボキシド栄養性のClostridium属メンバーである。これらの種は、同様の遺伝子型及び表現型並びにエネルギー節約及び発酵代謝のモードを有する。更に、これらの種は、99%を超えて同一である16S rRNA DNAを有するクロストリジウムrRNA相同性群I内に群生し、約22~30mol%のDNA G+C含有量を有し、グラム陽性であり、同様の形態及びサイズを有し(0.5~0.7×3~5μmの対数成長細胞)、中温性であり(30~37℃で最適に成長する)、約4~7.5の同様のpH範囲を有し(約5.5~6の最適pHを有する)、シトクロムを欠いており、Rnf複合体を介してエネルギーを節約する。また、カルボン酸のそれらの対応するアルコールへの還元が、これらの種において示されている(Perez,Biotechnol Bioeng,110:1066-1077,2012)。重要なことに、これらの種は全て、COを含有するガスで強い独立栄養増殖も示し、主な発酵生成物としてエタノール及びアセテート(又は酢酸)も生成し、ある特定の条件下で少量の2,3-ブタンジオール及び乳酸も生成する。
【0065】
しかしながら、これら3つの種は、いくつかの違いも有する。これらの種は、ウサギの腸からのClostridium autoethanogenum、養鶏場の廃棄物からのClostridium ljungdahlii、及び淡水堆積物からのClostridium ragsdaleiの、異なる源から単離された。これらの種は、様々な糖(例えば、ラムノース、アラビノース)、酸(例えば、グルコン酸、クエン酸)、アミノ酸(例えば、アルギニン、ヒスチジン)、及び他の基質(例えば、べタイン、ブタノール)の利用において異なる。更に、これらの種は、特定のビタミン(例えば、チアミン、ビオチン)に対する栄養要求性において異なる。これらの種は、Wood-Ljungdahl経路遺伝子及びタンパク質の核酸及びアミノ酸配列に違いを有するが、これらの遺伝子及びタンパク質の一般的な組織及び数は、全ての種で同じであることがわかっている(Kopke,Curr Opin Biotechnol,22:320-325,2011)。
【0066】
したがって、要約すると、Clostridium autoethanogenum、Clostridium ljungdahlii、又はClostridium ragsdaleiの特徴の多くは、その種に特有ではなく、むしろC1固定、嫌気性、アセトゲン性、エタノロゲン性、及びカルボキシド栄養性のClostridium属のメンバーのこのクラスターの一般的な特徴である。しかしながら、これらの種は、実際は、全く異なるため、これらの種のうちの1つの遺伝子修飾又は操作は、これらの種のうちの別のものにおいては同一の効果がない場合がある。例えば、増殖、性能、又は生成物生成における違いが観察され得る。
【0067】
本開示の微生物は、Clostridium autoethanogenum、Clostridium ljungdahlii、又はClostridium ragsdaleiの分離株又は変異体にも由来し得る。Clostridium autoethanogenumの分離株及び変異体としては、JA1-1(DSM10061)(Abrini,Arch Microbiol,161:345-351,1994)、LZ1560(DSM19630)(国際公開第2009/064200号)、及びLZ1561(DSM23693)(国際公開第2012/015317号)が挙げられる。Clostridium ljungdahliiの分離株及び変異体としては、ATCC49587(Tanner,Int J Syst Bacteriol,43:232-236,1993)、PETCT(DSM13528、ATCC55383)、ERI-2(ATCC55380)(米国特許第5,593,886号)、C-01(ATCC55988)(米国特許第6,368,819号)、O-52(ATCC55989)(米国特許第6,368,819号)、及びOTA-1(Tirado-Acevedo,Production of bioethanol from synthesis gas using Clostridium ljungdahlii,PhD thesis,North Carolina State University,2010)が挙げられる。Clostridium ragsdaleiの分離株及び変異体としては、PI 1(ATCC BAA-622、ATCC PTA-7826)(国際公開第2008/028055号)が挙げられる。
【0068】
「基質」とは、本開示の微生物のための炭素及び/又はエネルギー源を指す。一般に、基質は、ガス状であり、C1炭素源、例えば、CO、CO2、及び/又はCH4を含む。好ましくは、基質は、CO又はCO+CO2のC1炭素源を含む。基質は、H2、N2、又は電子などの他の非炭素構成要素を更に含み得る。
【0069】
基質は、概して、約1、2、5、10、20、30、40、50、60、70、80、90、又は100mol%のCOなどの少なくともいくらかの量のCOを含む。基質は、約20~80、30~70、又は40~60mol%のCOなど、ある範囲のCOを含み得る。好ましくは、基質は、約40~70mol%のCO(例えば、製鋼所又は高炉ガス)、約20~30mol%のCO(例えば、塩基性酸素高炉ガス)、又は約15~45mol%のCO(例えば、合成ガス)を含む。いくつかの実施形態では、基質は、約1~10又は1~20mol%のCOなどの比較的低い量のCOを含み得る。本開示の微生物は、典型的には、基質中のCOの少なくとも一部分を生成物に変換する。いくつかの実施形態では、基質は、COを含まないか、又は実質的に含まない(1モル%未満)。
【0070】
基質は、いくらかの量のH2を含み得る。例えば、基質は、約1、2、5、10、15、20、又は30mol%のH2を含み得る。いくつかの実施形態では、基質は、約60、70、80、又は90mol%のH2などの比較的多量のH2を含み得る。更なる実施形態では、基質は、H2を含まないか、又は実質的に含まない(1モル%未満)。
【0071】
基質は、いくらかの量のCO2を含み得る。例えば、基質は、約1~80又は1~30mol%のCO2を含み得る。いくつかの実施形態では、基質は、約20、15、10、又は5mol%未満のCO2を含み得る。別の実施形態では、基質は、CO2を含まないか、又は実質的に含まない(1モル%未満)。
【0072】
基質は典型的にはガス状であるが、基質はまた、代替的な形態で提供され得る。例えば、基質は、マイクロバブル分散物発生装置を使用して、CO含有ガスで飽和した液体中に溶解され得る。更なる例として、基質は、固体支持体上に吸着され得る。
【0073】
基質及び/又はC1炭素源は、燃焼機関排蒸気、バイオガス、埋立地ガス、直接空気捕捉、又は電気分解からなど、産業プロセスの副産物として得られるか、又は別の源からの廃棄ガスであり得る。基質及び/又はC1炭素源は、熱分解、焙焼、又はガス化によって生成された合成ガスであり得る。言い換えれば、廃棄材料中の炭素は、熱分解、焙焼、又はガス化によってリサイクルされて、基質及び/又はC1炭素源として使用される合成ガスを生成することができる。基質及び/又はC1炭素源は、メタンを含むガスであり得、特定の実施形態では、基質及び/又はC1炭素源は、非廃棄ガスであり得る。
【0074】
特定の実施形態では、産業プロセスは、鉄鋼製造、非鉄製品製造、石油精製、電力生成、カーボンブラック生成、紙及びパルプ製造、アンモニア生成、メタノール生成、コークス製造、石油化学製品生成、炭水化物発酵、セメント作製、好気性消化、嫌気性消化、触媒プロセス、天然ガス抽出、セルロース発酵、油抽出、地質学的貯留層の産業処理、天然ガス石炭及び油などの化石資源の処理、又はこれらの任意の組み合わせなどの鉄金属製品製造から選択される。産業プロセス内の特定の処理ステップの例としては、触媒再生、流体触媒分解、及び触媒再生が挙げられる。空気分離及び直接空気捕捉は、他の好適な産業プロセスである。鋼及び合金鉄製造における特定の例としては、高炉ガス、塩基性酸素炉ガス、コークスオーブンガス、鉄炉頂ガスの直接還元、及び鉄の製錬からの残留ガスが挙げられる。他の一般的な例としては、燃焼ボイラー及び燃焼ヒーターからの煙道ガス、例えば、天然ガス、石油、又は石炭燃焼ボイラー若しくはヒーター、及びガスタービン排気が挙げられる。これらの実施形態では、基質及び/又はC1炭素源は、任意の既知の方法を使用して、それが大気中に放出される前に産業プロセスから捕捉され得る。
【0075】
基質及び/又はC1炭素源は、改質、部分酸化、又はガス化プロセスから得ることができる合成ガスとして既知の合成ガスであり得る。ガス化プロセスの例としては、石炭のガス化、製油所残留物のガス化、石油コークスのガス化、バイオマスのガス化、リグノセルロース系材料のガス化、廃木材のガス化、黒液のガス化、都市固形廃棄物のガス化、都市液体廃棄物のガス化、産業固形廃棄物のガス化、産業液体廃棄物のガス化、廃棄物固形燃料のガス化、下水のガス化、下水汚泥のガス化、廃水処理からの汚泥のガス化、別の材料のガス化を促進するためにバイガスが添加される場合などのバイオガスのガス化が挙げられる。改質プロセスの例としては、水蒸気メタン改質、水蒸気ナフサ改質、天然ガスの改質、バイオガスの改質、埋立地ガスの改質、ナフサ改質、及び乾燥メタン改質が挙げられる。部分酸化プロセスの例としては、熱及び触媒部分酸化プロセス、天然ガスの触媒部分酸化、炭化水素の部分酸化が挙げられる。都市固形廃棄物の例としては、タイヤ、プラスチック、並びに靴、衣服、及び織物などの繊維が挙げられる。都市固形廃棄物は、単に埋立タイプの廃棄物であり得、分類され得るか、又は分類され得ない。バイオマスの例としては、リグノセルロース系材料及び微生物バイオマスが挙げられ得る。リグノセルロース系材料としては、農業廃棄物及び森林廃棄物が挙げられ得る。
【0076】
基質及び/又はC1炭素源は、メタンを含むガス流であり得る。そのようなメタン含有ガスは、例えば、フラッキング、廃水処理、家畜、農業、及び都市固形廃棄物埋立地中などの化石メタン排出から得られ得る。メタンを燃焼させて、電気又は熱を生成することができ、C1副生成物を基質又は炭素源として使用することができることも想定される。
【0077】
基質の組成は、反応の効率及び/又は費用に著しい影響を及ぼし得る。例えば、酸素(O2)の存在は、嫌気性発酵プロセスの効率を低減させ得る。基質の組成に応じて、基質を処理、スクラブ、又は濾過して、毒素、望ましくない成分、又はちり粒子などのいかなる望ましくない不純物も除去すること、及び/又は所望の成分の濃度を増加させることが望ましくあり得る。
【0078】
特定の実施形態では、発酵は、糖、デンプン、リグニン、セルロース、又はヘミセルロースなどの炭水化物基質の不在下で実施される。
【0079】
本開示の微生物は、1つ以上の生成物を生成するようにガス流とともに培養され得る。例えば、本開示の微生物は、エタノール(国際公開第2007/117157号)、アセテート(国際公開第2007/117157号)、1-ブタノール(国際公開第2008/115080号、国際公開第2012/053905号、及び国際公開第2017/066498号)、ブチレート(国際公開第2008/115080号)、2,3-ブタンジオール(国際公開第2009/151342号及び国際公開第2016/094334号)、ラクテート(国際公開第2011/112103号)、ブテン(国際公開第2012/024522号)、ブタジエン(国際公開第2012/024522号)、メチルエチルケトン(2-ブタノン)(国際公開第2012/024522号及び国際公開第2013/185123号)、エチレン(国際公開第2012/026833号)、アセトン(国際公開第2012/115527号)、イソプロパノール(国際公開第2012/115527号)、脂質(国際公開第2013/036147号)、3-ヒドロキシプロピオネート(3-HP)(国際公開第2013/180581号)、イソプレンを含むテルペン(国際公開第2013/180584号)、脂肪酸(国際公開第2013/191567号)、2-ブタノール(国際公開第2013/185123号)、1,2-プロパンジオール(国際公開第2014/036152号)、1-プロパノール(国際公開第2017/066498号)、1-ヘキサノール(国際公開第2017/066498号)、1-オクタノール(国際公開第2017/066498号)、コリスマート由来の生成物(国際公開第2016/191625号)、3-ヒドロキシブチレート(国際公開第2017/066498号)、1,3-ブタンジオール(国際公開第2017/066498号)、2-ヒドロキシイソブチレート又は2-ヒドロキシイソブチル酸(国際公開第2017/066498号)、イソブチレン(国際公開第2017/066498号)、アジピン酸(国際公開第2017/066498号)、1,3-ヘキサンジオール(国際公開第2017/066498号)、3-メチル-2-ブタノール(国際公開第2017/066498号)、2-ブテン-1-オール(国際公開第2017/066498号)、イソバレレート(国際公開第2017/066498号)、イソアミルアルコール(国際公開第2017/066498号)、及びモノエチレングリコール(国際公開第2019/126400号)を生成することがきるか、又はこれらを生成するように操作することができる。特定の実施形態では、微生物バイオマス自体が、生成物とみなされ得る。これらの生成物は、更に変換されて、ディーゼル、ジェット燃料、及び/又はガソリンのうちの少なくとも1つの成分を生成し得る。加えて、微生物バイオマスは更に処理されて、単細胞タンパク質(single cell protein、SCP)を生成し得る。
【0080】
「天然生成物」は、遺伝子修飾されていない微生物によって生成される生成物である。例えば、エタノール、アセテート、及び2,3-ブタンジオールは、Clostridium autoethanogenum、Clostridium ljungdahlii、及びClostridium ragsdaleiの天然生成物である。「非天然生成物」は、遺伝子組換えされた微生物によって生成されるが、遺伝子組換えされた微生物が由来する遺伝子組換えされていない微生物によって生成されない生成物である。
【0081】
「選択性」は、微生物によって生成される全発酵生成物の生成に対する標的生成物の生成の比率を指す。本開示の微生物は、ある特定の選択性で、又は最小の選択性で生成物を生成するように操作され得る。一実施形態では、標的生成物は、本開示の微生物によって生成される全発酵生成物の少なくとも約5%、10%、15%、20%、30%、50%、又は75%を占める。一実施形態では、標的生成物は、本開示の微生物が少なくとも10%の標的生成物に対して選択性を有するように、本開示の微生物によって生成される全発酵生成物の少なくとも10%を占める。別の実施形態では、標的生成物は、本開示の微生物が少なくとも30%の標的生成物に対して選択性を有するように、本開示の微生物によって生成される全発酵生成物の少なくとも30%を占める。
【0082】
典型的には、培養は、バイオリアクター中で実施される。「バイオリアクター」という用語は、連続撹拌槽反応器(continuous stirred tank reactor、CSTR)、固定化細胞反応器(immobilized cell reactor、ICR)、トリクルベッド反応器(trickle bed reactor、TBR)、気泡塔、ガスリフト発酵槽、静的ミキサ、又はガス-液体接触に好適な他の容器若しくは他のデバイスなどの1つ以上の容器、塔、又は配管配置からなる培養/発酵デバイスを含む。いくつかの実施形態では、バイオリアクターは、第1の増殖反応器及び第2の培養/発酵反応器を含み得る。基質は、これらの反応器のうちの1つ又は両方に提供され得る。本明細書で使用する場合、「培養」及び「発酵」という用語は、同じ意味で使用される。これらの用語は、培養/発酵プロセスの増殖期及び生成物生合成期の両方を包含する。
【0083】
培養物は概して、微生物の増殖を可能にするのに十分な栄養素、ビタミン、及び/又は無機物を含有する水性培地中で維持される。好ましくは、水性培地は、最小嫌気性微生物増殖培地などの嫌気性微生物培地である。好適な培地は、当該技術分野において既知である。
【実施例】
【0084】
以下の実施例は、本開示を更に例示するが、当然のことながら、いかなる方法によってもその範囲を制限すると解釈されるべきではない。
【0085】
(実施例1)
この実施例は、ΔbudAΔsecAdh微生物を説明する。
【0086】
アセトラクテートデカルボキシラーゼは、2,3-ブタンジオール(2,3-BDO)(Kopke,Appl Env Microbiol,80:3394-3405,2014)の形成のための重要なステップであり、この酵素をノックアウトすることは、2,3-BDO産生を全滅させることが実証されている(国際公開第2013/115659号)。アセトンなどの他の異種生成物に向かって流動を導くために、それぞれのbudA遺伝子は、生成を改善することが予測された。
【0087】
ΔbudAΔsecAdhを得るための、一級-二級アルコールデヒドロゲナーゼ(secAdh)遺伝子(ΔsecAdh)をすでに含有するC.autoethanogenumの株におけるbudAのノックアウト(国際公開第2015/085015号)。budAのノックアウトは、前述のように実施した(国際公開第2013/115659号)。
【0088】
単一コロニーを、単離し、新鮮な適切な選択プレートに再ストリークし、次いでダブルクロスオーバーイベントについてスクリーニングした。正確なサイズのPCR産物を有した、確認されたダブルクロスオーバーイベントを再び再ストリークして、プラスミド損失を確保した。正しいコロニーを液体培地に採取し、凍結ストックを調製した。遺伝子型を全ゲノム配列決定によって確認し、表現型を増殖研究及び連続撹拌槽反応器(CSTR)の実行を通じて確認した。
図1に示されるように、代謝産物生成及びガス消費/生成の振動が観察された。
【0089】
(実施例2)
この実施例は、プラスミドからアセトン経路(thlA、ctfAB、adc)を発現するΔbudAΔsecAdh微生物を説明する。
【0090】
実施例1のΔbudAΔsecAdh微生物を更に修飾して、アセトン経路(thlA、ctfAB、adc)を含有するプラスミドを導入した。この株は、同じ経路を伴い、同じ増殖条件下であるが、budAのノックアウトを伴わない状態で、親ΔsecAdh株よりも少ないアセトンを生成した。budAのノックアウトは、2,3-BDOからの炭素流動を、アセトン及び/又はエタノールなどの他の代謝産物に再方向付けるであろうと予想されるため、これは驚くべきことである。
【0091】
更に、この株は、十分に増殖しないか、又は50%のCO、10%のH
2、30%のCO
2、残りN
2のガス混合物を用いてCSTR中の安定したアセトン産生を実証した(
図2)。再び、振動パターンは、増殖中に観察された:生成のピーク及びトラフ、トラフとの協調におけるCO及び水素の取り込み、並びにアセテート及びCO
2生成のピーク。
【0092】
(実施例3)
この実施例は、アセトラクテートデカルボキシラーゼ(budA)遺伝子座位でのアセトン経路(thlA、ctfAB、adc)のノックインを有するΔsecAdh微生物を説明する。
【0093】
budA座位でのアセトン経路ノックインのためのKI/KOプラスミドを、budA KOプラスミドを骨格として使用して構築し、アセトン経路を、budA KOプラスミドの5’budA KO相同性アームと3’budA KO相同性アームとの間に挿入した。アセトン経路は、Pferプロモータの制御下でthlA、ctfAB、及びadcを含有した。完全なKI/KOプラスミドを、GeneArt Seamless Cloning and Assembly Kit(ThermoFisher Scientific)を使用して組み立てた。正しいKI/KOプラスミドをPCRスクリーニングし、配列決定によって確認した。
【0094】
KI変異体を得るプロセスは、budA KO株の構築で説明したものと同じであり、budA座位で導入されたアセトン経路を有するΔbudAΔsecAdh株を得た。PCRスクリーニングを実行し、正確なサイズのPCR産物を有するコロニーを増殖させ、ゲノムDNAを単離し、遺伝子型を確認するために全ゲノムDNA配列決定に供した。
【0095】
株を、50%のCO、10%のH
2、30%のCO
2、残りN
2のガス混合物を用いてCSTR中で増殖させた。株は十分に成長し、高レベルのアセトンを生成した(
図3)。
【0096】
(実施例4)
この比較例は、官能性一級-二級アルコールデヒドロゲナーゼ(secAdh)を有する微生物、及び二官能性アルデヒド-アルコールデヒドロゲナーゼ(adhE1+adhE2)遺伝子座位でのアセトン経路(thlA、ctfAB、adc)のノックインを説明する。一級-二級アルコールデヒドロゲナーゼ(secAdh)は、この株がアセトンではなくイソプロパノールを生成するように、アセトンをイソプロパノールに変換する。
【0097】
アセトン経路を、上記のものと同様のステップで、adhE1+adhE2座位で挿入した。相同性アームを、PCRを介して増幅し、遺伝子型を配列決定によって確認した。
【0098】
株は、CSTRでは不十分に成長し、イソプロパノール又はエタノールウェルを十分に生成しなかった(
図4)。エタノール及びイソプロパノールのかなりの生成のために十分な細胞バイオマスを有するのに、反応器内で約6日間かかった。発酵は、実験の2週間経過にわたって安定ではなかった。したがって、adhE1+adhE2座位でのノックインは、budA遺伝子座でのノックインと同じ利益を与えない。
【0099】
(実施例5)
この実施例は、budA座位での他の遺伝子又は経路の組み入れについて説明する。
【0100】
Wood-Ljungdahl微生物は、1-ブタノール(国際公開第2008/115080号、国際公開第2012/053905号、及び国際公開第2017/066498号)、ブチレート(国際公開第2008/115080号)、ブタン(国際公開第2012/024522号)、ブタジエン(国際公開第2012/024522号)、メチルエチルケトン(2-ブタノン)(国際公開第2012/024522号及び国際公開第2013/185123号)、エチレン(国際公開第2012/026833号)、アセトン(国際公開第2012/115527号)、イソプロパノール(国際公開第2012/115527号)、脂質(国際公開第2013/036147号)、3-ヒドロキシプロピオネート(3-HP)(国際公開第2013/180581号)、イソプレンを含むテルペン(国際公開第2013/180584号)、脂肪酸(国際公開第2013/191567号)、2-ブタノール(国際公開第2013/185123号)、1,2-プロパンジオール(国際公開第2014/036152号)、1-プロパノール(国際公開第2017/066498号)、1-ヘキサノール(国際公開第2017/066498号)、1-オクタノール(国際公開第2017/066498号)、コリスマート由来の生成物(国際公開第2016/191625号)、3-ヒドロキシブチレート(国際公開第2017/066498号)、1,3-ブタンジオール(国際公開第2017/066498号)、2-ヒドロキシイソブチレート又は2-ヒドロキシイソブチル酸(国際公開第2017/066498号)、イソブチレン(国際公開第2017/066498号)、アジピン酸(国際公開第2017/066498号)、1,3-ヘキサンジオール(国際公開第2017/066498号)、3-メチル-2-ブタノール(国際公開第2017/066498号)、2-ブテン-1-オール(国際公開第2017/066498号)、イソバレレート(国際公開第2017/066498号)、イソアミルアルコール(国際公開第2017/066498号)、及びモノエチレングリコール(国際公開第2019/126400号)を含む、様々な非天然生成物を生成するように、すでに操作されている。これらの遺伝子又は経路のうちのいずれも、budA座位でノックインされて、改善された性能を有する株を得ることができる。
【0101】
一実施形態では、ノックインDNAは、例えば、thlA及びhbdを含む3-ヒドロキシブチレート経路をコードする。一実施形態では、ノックインDNAは、例えば、thlA、ctfAB、及びhbdを含む代替的な3-ヒドロキシブチレート経路をコードする。一実施形態では、ノックインDNAは、例えば、thlA、hbd、bcd、及びetfABを含むブタノール経路をコードする。一実施形態では、ノックインDNAは、例えば、thlA、HMGS、及びHMGRを含むメバロナートを含む。これらの経路は、1つ以上のプロモータ、例えば、P-budA及び/又はPferの制御下にあり得る。
【0102】
(実施例6)
この実施例は、オミクス及び動態アンサンブルモデリング誘導流動最適化を記載する。
【0103】
一実施形態では、プロテオミクス測定は、コンビナトリアルライブラリからの11種の株に対して行われた。これらの分析は、様々な強度を有する異なるプロモータによって駆動される同じ参照遺伝子を有し、異なるアセトン及び3-HBレベルをもたらす株の収集を含んだ(
図5)。全部で1916個の別個のタンパク質が、全ての株にわたって定量可能であり、そのうち、アセトン経路特異的酵素は、全ての試料において豊富であり、存在量中央値によってランク付けされた場合、データセットの上位3.2%内に含まれた。統計分析は、ベンチマーク株と比較して、全ての組み合わせ株においてこれらの酵素のレベルに著しい差があることを示した。アセトン生成は、アセトン経路酵素の存在量とよく相関し、最も低い存在量は、最も低い生成株において見出された。一貫して、ctfABの2つのサブユニットは、使用されるプロモータにかかわらず、thlA及びAdcと比較して、比較的より低い発現レベルを有することが見出された(
図5)。一実施形態では、アセトン及びイソプロパノールへの予測された流動は、ctfABにおける倍数変化を決定することによって実証された。一実施形態では、動態アンサンブルモデリングは、ctfAB発現が増加するにつれて、アセトン及びイソプロパノールへの総流動が増加することを予測した。
【0104】
(実施例7)
この比較例は、プロモータpWL及びctfABで選択された配列を有する株を試験することを記載する。
【0105】
一実施形態では、プロモータpWL及びctfABの配列をベクターにクローニングし、次いで最良の性能のアセトン及びイソプロパノール株に形質転換した。これらの株を比較するために成長実験を実施した。一実施形態では、ctfABの追加のコピーが存在した場合、所望の生成物の著しい増加が、他の代謝産物の低下とともに見られた。これらの結果は、後にCSTRで確認され、約20g/Lのイソプロパノールをもたらした(
図6A~
図6C)。
【0106】
(実施例8)
この比較例は、経路全体の追加のコピー(thlA、ctfAB、及びAdcを有する株)を試験することを記載する。
【0107】
一実施形態では、プラスミド上のアセトン経路の追加の発現(thlA、ctfAB、adc)、追加発現ctfABのみ、又は追加の経路発現なしを伴う微生物の発酵(
図7)。各経路遺伝子の追加のコピーを有する株よりも、追加のctfABのみを有した株において、より多くの改善が見られた。一実施形態では、これは、タンパク質存在量の改善が既知のプロモータ及びctfABバリアントを選択することに起因する。
【0108】
(実施例9)
この比較例は、ゲノムへのctfABの余分なコピーの統合を記載する。
【0109】
一実施形態では、追加のctfABコピーによる改善を確認した後、配列をゲノムに統合した。遺伝子をノックインしている間、いくつかの遺伝子を同時にノックアウトした。これらは、アセトン及びイソプロパノール生成の両方について有益なノックアウトであると予測された。生成された各株において、以前に記載されたプラスミド株と同様であるが、ctfABの余分なコピーを有しないイソプロパノール生成の改善が見られた。一実施形態では、ctfABの追加のコピーを有する統合されたゲノム株が、ctfABの追加のコピーを有しない統合されたゲノム株と比較して、イソプロパノール生成の改善を示す(
図8)。
【0110】
(実施例10)
この実施例は、ゲノムへのctfABの余分なコピーの統合を記載する。
【0111】
一実施形態では、オミクス測定、動態モデリング、及び無細胞プロトタイピングは全て、ctfABをアセトン生成のための制限ステップとして示唆する。ctfABバリアントとプロモータとの組み合わせを発現させることによるctfABの第2のコピーが、株におけるプラスミド上の最も高いプロテオミクス存在量を記録し、アセトン選択性の更なる40%の増加をもたらしたことが発見された(
図9、左のパネル)。
【0112】
一実施形態では、統合された株は、>4週間の定常状態生成で達成されるアセトン選択性及び培養安定性の著しい改善をもたらした(
図9、左のパネル)。
【0113】
一実施形態では、バリアントは、イソプロパノール生成について最も高い力価及び安定性を示した。一実施形態では、統合された株は、アセトンが統合された株と同等レベルの性能を有した(発酵レジームにおける微調整後に選択性がわずかに改善された場合であっても)(
図9、右のパネル)。アセトン及びイソプロパノールの両方について、ctfABの余分なコピーを発現させることは、性能を更に増加させ、最大約3g/L/時間の高速で、85%のガス利用率で90%の選択性を達成した(
図9)。
【0114】
本明細書に列挙される公表文献、特許出願、及び特許を含む全ての参考文献は、各参考文献が、あたかも参照により組み込まれることが個々にかつ具体的に示され、その全体が本明細書中に記載された場合と同じ程度まで、参照により本明細書に組み込まれる。本明細書における任意の先行技術への言及は、その先行技術が任意の国の努力傾注分野において共通の一般知識の一部をなすという認識ではなく、そのように解釈されるべきではない。
【0115】
本開示を説明する文脈において(特に、以下の特許請求の範囲の文脈において)、「a」及び「an」及び「the」という用語並びに同様の指示語の使用は、本明細書に別段の指示がない限り、又は文脈と明らかに相反することがない限り、単数及び複数の両方を包含すると解釈されるものとする。「備える(comprising)」、「有する(having)」、「含む(including)」、及び「含有する(containing)」という用語は、別段の断りのない限り、非限定的な用語(すなわち、「を含むがこれらに限定されない」ことを意味する)と解釈されるものとする。「から本質的になる」という用語は、組成物、プロセス、又は方法の範囲を、特定の材料、又はステップ、又は組成物、プロセス若しくは方法の基本的及び新規の特性に実質的に影響しないものに限定する。選択詞(例えば、「又は」)の使用は、選択詞のいずれか1つ、両方、又はこれらの任意の組み合わせを意味すると理解されるべきである。本明細書で使用される場合、「約」という用語は、別段の指示がない限り、指示された範囲、値、又は構造の±20%を意味する。
【0116】
本明細書の値の範囲の記述は、本明細書に別段の指示がない限り、範囲内に入る各個々の値を個々に言及する省略法としての役割を果たすことを単に意図し、各個々の値は、あたかも本明細書に個々に列挙されたかのように、本明細書中に組み込まれる。例えば、任意の濃度範囲、パーセント範囲、比率範囲、整数範囲、サイズ範囲、又は厚さ範囲は、別段の指示がない限り、列挙された範囲内の任意の整数の値、及び適切な場合、その分数(整数の10分の1、及び100分の1など)を含むと理解されるべきである。
【0117】
本明細書に記載される全ての方法は、本明細書に別段の指示がない限り、又は文脈と別段明らかに相反することがない限り、任意の好適な順序で実施され得る。本明細書に提供されるありとあらゆる例又は例示的な文言(例えば、「など」)の使用は、本発明をより良く解明することを単に意図し、別段の主張がない限り、本発明の範囲を制限しない。本明細書におけるいかなる文言も、本開示の実践に不可欠な任意の請求されていない要素を示すものと解釈されるべきではない。
【0118】
本開示の実施形態が本明細書に記載される。それらの実施形態の変化形は、上記の説明を読むことによって当業者に明らかとなり得る。本発明者らは、当業者が必要に応じてそのような変化形を採用することを予想し、本発明者らは、本開示が本明細書に具体的に記載されるものとは別の方法で実践されることを意図する。したがって、本開示は、適用法によって許可されたとおり、本明細書に添付される特許請求の範囲に記載される主題の全ての修正物及び同等物を含む。更に、その全ての考えられる変化形における上記の要素の任意の組み合わせは、本明細書に別段の指示がない限り、又は文脈と別段明らかに相反することがない限り、本開示によって包含される。
【0119】
第1の実施形態では、本開示は、第1の外因性CoAトランスフェラーゼ及び少なくとも1つの追加の外因性CoAトランスフェラーゼを含む遺伝子操作されたWood-Ljungdahl微生物に関する。
【0120】
第1の外因性CoAトランスフェラーゼが、アセトラクテートデカルボキシラーゼ遺伝子のコード領域を置き換える、第1の実施形態に記載の微生物。
【0121】
少なくとも1つの追加の外因性CoAトランスフェラーゼが、アルデヒド-アルコールデヒドロゲナーゼ遺伝子のコード領域を置き換える、第1の実施形態に記載の微生物。
【0122】
第1の外因性CoAトランスフェラーゼとともに、外因性チオラーゼ、及びアセトアセテートデカルボキシラーゼ又はアルファ-ケトイソバレレートデカルボキシラーゼから選択される外因性デカルボキシラーゼを更に含む、第1の実施形態に記載の微生物。
【0123】
外因性チオラーゼ、及びアセトアセテートデカルボキシラーゼ若しくはアルファ-ケトイソバレレートデカルボキシラーゼから選択される外因性デカルボキシラーゼ、又はこれらの任意の組み合わせを更に含む、第1の実施形態に記載の微生物。
【0124】
外因性チオラーゼ、及びアセトアセテートデカルボキシラーゼ若しくはアルファ-ケトイソバレレートデカルボキシラーゼから選択される外因性デカルボキシラーゼ、又はこれらの任意の組み合わせを更に含み、外因性チオラーゼ、及びアセトアセテートデカルボキシラーゼ若しくはアルファ-ケトイソバレレートデカルボキシラーゼから選択される外因性デカルボキシラーゼ、又はこれらの任意の組み合わせが、第1の外因性CoAトランスフェラーゼとともに機能するか、又は最小の1つの追加の外因性CoAトランスフェラーゼとともに機能する、第1の実施形態に記載の微生物。
【0125】
外因性CoAトランスフェラーゼが、Clostridium acetobutylicum CtfA及びCtfB、又はClostridium beijerinckii CtfA及びCtfBである、第1の実施形態に記載の微生物。
【0126】
外因性CoAトランスフェラーゼが、Clostridium acetobutylicum CtfA及びCtfB、又はClostridium beijerinckii CtfA及びCtfBであり、外因性CoAトランスフェラーゼが、微生物にとって非天然である、第1の実施形態に記載の微生物。
【0127】
外因性CoAトランスフェラーゼが、Clostridium acetobutylicum CtfA及びCtfB、又はClostridium beijerinckii CtfA及びCtfBであり、外因性CoAトランスフェラーゼが、微生物にとって天然である、第1の実施形態に記載の微生物。
【0128】
外因性CoAトランスフェラーゼが、Clostridium acetobutylicum CtfA及びCtfB、又はClostridium beijerinckii CtfA及びCtfBであり、外因性CoAトランスフェラーゼが、Clostridium acetobutylicum CtfA及びCtfB、又はClostridium beijerinckii CtfA又はCtfBであり、外因性CoAトランスフェラーゼが同じである、第1の実施形態に記載の微生物。
【0129】
外因性CoAトランスフェラーゼが、Clostridium acetobutylicum CtfA及びCtfB、又はClostridium beijerinckii CtfA及びCtfBであり、外因性CoAトランスフェラーゼが、異なる、第1の実施形態に記載の微生物。
【0130】
外因性CoAトランスフェラーゼが、Clostridium acetobutylicum CtfA及びCtfB、又はClostridium beijerinckii CtfA及びCtfBであり、外因性CoAトランスフェラーゼが、アセトラクテートデカルボキシラーゼプロモータ及び少なくとも1つの他のプロモータの両方の制御下にある、第1の実施形態に記載の微生物。
【0131】
微生物が、2,3-ブタンジオールを生成しない、第1の実施形態に記載の微生物。
【0132】
微生物が、アセトン及びイソプロパノールのうちの1つ以上を生成する、第1の実施形態に記載の微生物。
【0133】
一級-二級アルコールデヒドロゲナーゼ遺伝子、チオエステラーゼ遺伝子、3-ヒドロキシブチリルcoAデヒドロゲナーゼ遺伝子、又はこれらの任意の組み合わせにおける破壊的変異を更に含む、第1の実施形態に記載の微生物。
【0134】
外因性CoAトランスフェラーゼが、Clostridium acetobutylicum CtfA及びCtfB、又はClostridium beijerinckii CtfA及びCtfBであり、外因性CoAトランスフェラーゼが、1-ブタノール、ブチレート、ブテン、ブタジエン、メチルエチルケトン、エチレン、アセトン、イソプロパノール、脂質、3-ヒドロキシプロピオネート、テルペン、イソプレン、脂肪酸、2-ブタノール、1,2-プロパンジオール、1-プロパノール、1-ヘキサノール、1-オクタノール、コリスマート由来の生成物、3-ヒドロキシブチレート、1,3-ブタンジオール、2-ヒドロキシイソブチレート若しくは2-ヒドロキシイソブタン酸、イソブチレン、アジピン酸、ケト-アジピン酸、1,3-ヘキサンジオール、3-メチル-2-ブタノール、2-ブテン-1-オール、イソバレレート、イソアミルアルコール、又はモノエチレングリコールの生成を可能にする、第1の実施形態に記載の微生物。
【0135】
微生物が、C1固定微生物である、第1の実施形態に記載の微生物。
【0136】
少なくとも1つの追加の外因性CoAトランスフェラーゼとともに、外因性チオラーゼ、アセトアセテートデカルボキシラーゼ若しくはアルファ-ケトイソバレレートデカルボキシラーゼから選択される外因性デカルボキシラーゼ、又はこれらの任意の組み合わせを更に含む、第1の実施形態に記載の微生物。
【0137】
外因性チオラーゼ、アセトアセテートデカルボキシラーゼ若しくはアルファ-ケトイソバレレートデカルボキシラーゼから選択される外因性デカルボキシラーゼ、又はこれらの任意の組み合わせを更に含む、第1の実施形態に記載の微生物。
【0138】
微生物が、細菌である、第1の実施形態に記載の微生物。
【0139】
微生物が、Acetobacterium、Alkalibaculum、Blautia、Butyribacterium、Clostridium、Eubacterium、Moorella、Oxobacter、Sporomusa、又はThermoanaerobacterから選択される属のメンバーである、第1の実施形態に記載の微生物。
【0140】
ガス状基質の存在下で、第1の実施形態に記載の微生物を培養することを含む、生成物の生成を増加させるための方法。
【0141】
ガス状基質の存在下で、第1の実施形態に記載の微生物を培養することを含む、生成物の生成を増加させるための方法であって、ガス状基質が、CO、CO2、及びH2のうちの1つ以上を含むC1炭素源を含む、方法。
【0142】
ガス状基質の存在下で、第1の実施形態に記載の微生物を培養することを含む、生成物の生成を増加させるための方法であって、ガス状基質が、合成ガス又は産業廃棄物ガスを含む、方法。
【0143】
ガス状基質の存在下で、第1の実施形態に記載の微生物を培養することを含む、生成物の生成を増加させるための方法であって、生成物が、アセトン及びイソプロパノールのうちの1つ以上である、方法。
【配列表】
【国際調査報告】