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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-10-06
(54)【発明の名称】黄体形成ホルモンの新規な使用
(51)【国際特許分類】
   A61K 38/24 20060101AFI20230929BHJP
   A61P 15/00 20060101ALI20230929BHJP
【FI】
A61K38/24
A61P15/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023518298
(86)(22)【出願日】2021-09-17
(85)【翻訳文提出日】2023-05-02
(86)【国際出願番号】 IB2021058493
(87)【国際公開番号】W WO2022058951
(87)【国際公開日】2022-03-24
(31)【優先権主張番号】102020000022015
(32)【優先日】2020-09-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IT
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523099035
【氏名又は名称】ラ マールカ,アントーニオ
【氏名又は名称原語表記】LA MARCA,Antonio
【住所又は居所原語表記】Via Carlo Zucchi 41, 41123 Modena,Italy
(74)【代理人】
【識別番号】100159905
【弁理士】
【氏名又は名称】宮垣 丈晴
(74)【代理人】
【識別番号】100130443
【弁理士】
【氏名又は名称】遠藤 真治
(74)【代理人】
【識別番号】100142882
【弁理士】
【氏名又は名称】合路 裕介
(74)【代理人】
【識別番号】100158610
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 新吾
(74)【代理人】
【識別番号】100132698
【弁理士】
【氏名又は名称】川分 康博
(72)【発明者】
【氏名】ラ マールカ,アントーニオ
【テーマコード(参考)】
4C084
【Fターム(参考)】
4C084AA02
4C084AA03
4C084BA44
4C084DB25
4C084MA55
4C084MA66
4C084NA14
4C084ZA811
4C084ZA812
(57)【要約】
本発明は、個体における原始卵胞及び/又は一次卵胞の、活性化及び/又は成熟化の誘導における使用のための、黄体形成ホルモン(LH)又はLH様活性を有する分子若しくはそれを含む組成物に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
個体における原始卵胞及び/又は一次卵胞の、活性化及び/又は成熟化若しくは発育の誘導における使用のための、黄体形成ホルモン(LH)又はLH様活性を有する分子若しくはそれを含む組成物であって、前記LH様活性を有する分子は、絨毛性ゴナドトロピン(CG)又はLHアゴニストからなる群から選択される、黄体形成ホルモン(LH)又はLH様活性を有する分子若しくはそれを含む組成物。
【請求項2】
原始卵胞の成熟化又は発育は、一次卵胞の増加に関連している、請求項1に記載の使用のための、LH又はLH様活性を有する分子若しくはそれを含む組成物。
【請求項3】
原始卵胞及び/又は一次卵胞の活性化及び/又は成熟化若しくは発育は、胞状卵胞の超音波計数(AFC)の増加及び抗ミュラー管ホルモン(AMH)の血清値の増加に関連している、請求項1又は2に記載の使用のためのLH又はLH様活性を有する分子若しくはそれを含む組成物。
【請求項4】
前記個体は、2ng/mlより高い、好ましくは2.5ng/mlより高いAMHの血清濃度と定義される、標準範囲の卵巣予備能を有する、請求項1~3のいずれか一項に記載の使用のためのLH又はLH様活性を有する分子若しくはそれを含む組成物。
【請求項5】
前記個体は、10より大きい、より好ましくは12より大きいAFCと定義される、標準範囲の卵巣予備能を有する、請求項1~4のいずれか一項に記載の使用のためのLH又はLH様活性を有する分子若しくはそれを含む組成物。
【請求項6】
前記個体は、2ng/ml未満、好ましくは1.5ng/ml未満のAMHの血清濃度と定義される、卵巣予備能の低下を有する、請求項1~3のいずれか一項に記載の使用のためのLH又はLH様活性を有する分子若しくはそれを含む組成物。
【請求項7】
前記個体は、10未満、好ましくは8未満のAFCと定義される、卵巣予備能の低下を有する、請求項1~3及び6のいずれか一項に記載の使用のためのLH又はLH様活性を有する分子若しくはそれを含む組成物。
【請求項8】
LHは、ヒトLH(hLH)、好ましくは組換えヒトLH(rhLH)である、請求項1~7のいずれか一項に記載の使用のためのLH又はLH様活性を有する分子若しくはそれを含む組成物。
【請求項9】
CGは、ヒトCG(hCG)、好ましくは組換えヒトCG(rhCG)である、請求項1~8のいずれか一項に記載の使用のためのLH又はLH様活性を有する分子若しくはそれを含む組成物。
【請求項10】
前記LHは、1日当たり150~450国際単位(IU)の間に含まれる量で、より好ましくは1日当たり170~350IUの間に含まれる量で、さらに一層好ましくは1日当たり180~250IUの間に含まれる量で摂取される、請求項1~9のいずれか一項に記載の使用のためのLH又はLH様活性を有する分子若しくはそれを含む組成物。
【請求項11】
LH又は前記LH様活性を有する分子は、少なくとも30日の期間、好ましくは40~120日の間に含まれる期間、より好ましくは50~100日の間に含まれる期間、摂取される、請求項1~10のいずれか一項に記載の使用のためのLH又はLH様活性を有する分子若しくはそれを含む組成物。
【請求項12】
LH又は前記LH様活性を有する分子は、少なくとも60日の期間、摂取される、請求項1~11のいずれか一項に記載の使用のためのLH又はLH様活性を有する分子若しくはそれを含む組成物。
【請求項13】
LH又は前記LH様活性を有する分子は、個体における不妊症処置と関連して、又は個体における不妊症処置と組み合わせて、好ましくは卵巣刺激と関連して、又は卵巣刺激と組み合わせて摂取される、請求項1~12のいずれか一項に記載の使用のためのLH又はLH様活性を有する分子若しくはそれを含む組成物。
【請求項14】
LH又は前記LH様活性を有する分子は、前記不妊症処置の前に、好ましくは卵巣刺激の前に摂取される、請求項1~13のいずれか一項に記載の使用のためのLH又はLH様活性を有する分子若しくはそれを含む組成物。
【請求項15】
LH又は前記LH様活性を有する分子は、FSHと関連させず、FSHと組み合わせずに、摂取される、請求項1~14のいずれか一項に記載の使用のためのLH又はLH様活性を有する分子若しくはそれを含む組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、個体における原始卵胞及び/又は一次卵胞の、活性化及び/又は成熟化若しくは発育の誘導における使用のための、黄体形成ホルモン(LH)又はLH様活性を有する分子若しくはそれを含む組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
未成熟な小卵胞から排卵の準備が整った卵胞への活性化、成長及び発育は、緩慢なプロセスであり、数カ月を要し、成長卵胞の大きな損失を特徴とする。したがって、単一の卵胞の排卵を得るために、数百の原始卵胞が活性化され、成長する必要がある。
【0003】
卵胞成長の最終段階のみが、特に卵胞寿命の最後の2週間が、ホルモン(即ちFSH及びLH)に影響され得る。これらのホルモンは、胞状卵胞(卵巣超音波によって容易に確認することができる2ミリメートルより大きい卵胞)に作用し、その時点で卵巣の中で利用可能なこれらの卵胞の同時成長を可能にし、このため、自然選択及び単一の卵胞の排卵とは対照的な複数の卵母細胞の過剰排卵を可能にする。卵巣刺激と呼ばれるこの戦略は、体外受精技術の基礎である。
【0004】
LHの使用に基づく新規な戦略が、本発明において説明される。事実、本発明は、卵胞成長の第1の各期に作用することを狙う新規な治療スキームに関する。実際、本開示は、原始卵胞の活性化、及び後期の発育における一次卵胞の発育を増大させる可能性を示す。この新規な手法を用いると、胞状卵胞の数を増加させることができ、これらの卵胞は、卵巣刺激に利用可能である。
【0005】
女性の卵巣の中には、思春期を過ぎると、数種類の卵巣卵胞が同時に存在する。即ち、原始卵胞、一次卵胞、二次卵胞又は胞状卵胞及び排卵前卵胞である。
【0006】
原始卵胞は、卵母細胞を取り囲んでいる顆粒膜細胞の単一細胞層を特徴とする顕微鏡的構造をしている。原始卵胞は、子宮内生活の間に生成され、その後は、活性化するまで休止したままとなる。
【0007】
活性化は、依然としてほとんど解明されていない機序によって起こるが、原始卵胞の休止状態からの活性化を調節するプロセスにおいて、様々な卵巣内因子が重要な役割を果たし得ると考えられるようである。
【0008】
これらの卵巣内因子は、例えば、サイトカイン幹細胞因子(SCF)、ニューロトロフィンファミリーに属する成長因子、血管内皮成長因子(VEGF)、骨形成タンパク質4(BMP-4)、白血病抑制因子(LIF)、塩基性線維芽細胞成長因子(FGF2)及びケラチノサイト成長因子(KGF)である(Hsueh AJ,et al Endocr Rev.2015及びGershon E,et Int J Mol Sci.2020)。
【0009】
加えて、トランスジェニックマウスで行われた研究は、転写因子フォークヘッドボックスO3a(FOXO3a)をコードする遺伝子の欠失が、全ての原始卵胞を活性化し、及びその結果として卵巣予備能の枯渇を引き起こすことを示し、このため、FOXO3aは、原始卵胞の休止状態と活性化状態との間の移行の主要な調節因子であることが明らかになった(John GB,et al,Dev Biol.2008)。
【0010】
現在まで、FOXO3aの発現によって媒介される完全な機序の分子詳細は十分に解明されていないが、FOXO3aは、ホスファチジルイノシトール-3-キナーゼ(PI3K)経路として知られているシグナル伝達経路を通して作用し得ることが示唆されている(John GB,et al,Dev Biol.2008)。
【0011】
原始卵胞が活性化されると、最良の場合、数カ月後に排卵に至ることができるプロセスが開始される(しかし、このプロセスは最大6カ月かかる)。原始卵胞は一次卵胞になり、直径が増大し、顆粒膜細胞が厚みを増して多層になる。次に、卵胞内に流体で満たされた腔が出現し、卵胞には顆粒膜の分泌物が見られる。この状態で、卵胞は、二次卵胞又は胞状卵胞と呼ばれる。この経路の途中で、原始卵胞のほとんどは、閉鎖及びアポトーシスのプロセスを経る。したがって、胞状卵胞の数は、活性化されて成長した原始卵胞の数より大幅に少なくなる。
【0012】
ヒト卵巣は、266,000~472,000個の原始卵胞を含有する。年齢が進むにつれて、原始卵胞の集団は漸減し、推定される閉経期のストックは、100~1000個より少ない休止卵胞になる。休止卵胞のストックの年齢に関連する枯渇は、2つのプロセス、即ち、閉鎖、及び成長期への移行が原因で起こる。成長期に入る卵胞の数は、プールサイズ又は内分泌因子によって調整され得るが、最近の研究は、複数のパラクリン/オートクリン因子が、捉えどころなく作用することを示唆している(Hsueh AJ,et al,Endocr Rev.2015)。
【0013】
卵胞は、成長期に入ると、GC増殖又は卵母細胞サイズの増加のいずれかによって大きくなる。透明帯は、卵胞成長の開始直後に卵母細胞の周囲に沈着し始めるが、その正確な細胞供給源は依然として不明である。卵胞は、徐々に二次卵胞になる(Gougeon A.,Endocr Rev.1996;Erickson GF,St al,Fertil Steril.2001)。
【0014】
そのことを前胞状段階から考慮すると、排卵卵胞は、8つの段階を通過して排卵前期のサイズに到達することになり、この卵胞が前胞状段階から排卵段階まで通過するのに必要な時間は、2カ月より多くかかる(Gougeon A.,Endocr Rev.1996)。
【0015】
哺乳動物では、出生時に存在する卵胞の大部分(>99%)は閉鎖となり、1%未満のみが排卵に到達することが長く認識されてきた。したがって、個々の卵胞の「正常な」運命は、正常と考えられ得るプロセスである閉鎖に入ることによって消失することであり、それは卵巣が周期的な排卵活動を生じさせることを可能にする。霊長類では、閉鎖は初期成長卵胞にのみ影響を及ぼす(Dalbies-Tran R,et al,Cells.2020)。平均閉鎖率は、前胞状卵胞及び初期胞状卵胞について、それぞれ、およそ30%及び32%である。対照的に、より大きい卵胞の閉鎖は、周期中に大幅に変化し、循環FSHレベルに逆相関する(Gougeon A.et al,Endocr Rev.1996及びErickson GF et al.Fertil Steril.2001)。
【0016】
原始卵胞から小前胞状卵胞までの、及び上記の卵胞形成のこの部分は、ゴナドトロピン非依存性と呼ばれる(図1)。なぜなら、それは、生理的条件下で卵胞刺激ホルモン(FSH)及びLHによって制御されないと一般に考えられているからである。そのようなわけで、それは、下垂体によるFSH又はLHの産生がない患者、即ち、下垂体のない女性又はホルモン避妊薬を摂取している女性にも起こる(Gougeon A.et al,Endocr Rev.1996;Erickson GF et al.Fertil Steril.2001)。
【0017】
卵胞がより進行した発育段階に到達すると、それは胞状卵胞と呼ばれ、サイズは1ミリメートル未満であり得るが、それより大きく9mmまでとなることもある。したがって、胞状卵胞の集団は、(それらが1~2mmより大きい場合)超音波によって識別することができる。加えて、胞状卵胞は、抗ミュラー管ホルモン(AMH)を産生し、それは血流中に分泌される。したがって、胞状卵胞計数のための超音波スキャン(直径2~10mmの卵巣卵胞と定義される)及び/又はAMHの測定は、胞状卵胞プールを測定することを可能にする(Broekmans FJ,et al,Fertil Steril.2010)。
【0018】
しかしながら、胞状卵胞はゴナドトロピンに感受性であり、依存性である。
【0019】
卵胞は、2mmのサイズから、よりFSHに依存するようになる。なぜなら、FSHが増加すると、その閉鎖のパーセンテージが減少するからである(Gougeon A et al,1984 Clinical Pathology of the Endocrine Ovary)。これらの卵胞は、卵胞内のエストロゲン-アンドロゲン比が低く、アンドロステンジオンが優勢なステロイドである。選択可能な胞状卵胞は、質及び成長速度に関して、よりゴナドトロピンに反応性になるが、そのFSH誘発性のアロマターゼは依然として発現が少ない。選択の間に、排卵を運命づけられた卵胞は、アンドロゲン産生構造からエストロゲン産生構造へと切り替え、そのFSH誘発性のアロマターゼ活性を発現する(Gershon E et al Int J Mol Sci.2020)。
【0020】
このようにして、ゴナドトロピン依存性の卵胞形成が始まり(図1)、胞状卵胞は、FSHの制御下でのみ成長を続ける。卵巣内に毎月存在する胞状卵胞のうち、FSHに対して最多の受容体を有する(即ちFSHに対して感受性が最大の)ものが、最速且つ最も効率的に成長することになる卵胞である。
【0021】
優勢な卵胞を選択する頃に、LH受容体の発現を、卵胞細胞中に検出することができる。LHは、黄体細胞からのプロゲステロン分泌、及びアンドロゲン分泌を刺激し、一方、FSHは、顆粒膜細胞からのプロゲステロン及びエストラジオールの分泌を刺激する。卵胞成長の間に、LHによって産生された黄体のアンドロゲンは、エストロゲンに変換されるか、又は顆粒膜細胞のアンドロゲン受容体に結合する。このように、アンドロゲンは、FSH受容体の発現上昇を介してFSHに対する卵胞の感受性を高めることが示されている(Luo W,et al,2006 Biology of Reproduction)。
【0022】
選択された成長卵胞は、高品質のステロイドを産生し、そのステロイドは、血流中に誘導されると、下垂体のFSH産生を相対的及び瞬間的に減少させることになる。このため、99.5%の事例において、女性は1回に1つの卵母細胞を排卵する。高レベルのエストラジオールは、視床下部のGnRHに対する下垂体の感受性を高め、これは、なぜ周期の中頃に下垂体が多量のLHを血液中に放出する(LHピーク)のかの説明になり得る。排卵前卵胞は、下垂体のLHの血液中への内因性分泌(LHピーク)が刺激されると排卵し、このようにして、卵母細胞が卵管膨大部に捕捉されて、最終的に精子によって受精させられることを可能にする。
【0023】
ホルモンLHが(ゴナドトロピン依存性の)卵胞形成の制御に関与していることは、何十年間も知られている。さらに、卵巣刺激に正確に使用される組換えLH分子は、約30年間市販されている。卵巣刺激は、卵巣卵胞の発育を誘導するための薬理学的処置と定義される。それは、2つの目的のため、即ち、1)定時性交又は定時授精のため、2)ART(生殖補助医療)において、卵胞吸引で複数の卵母細胞を得るために使用することができる(Zegers-Hochschild et al,2017,ICMART Glossary)。卵巣刺激は、LH又はLH活性を伴うか又は伴わないFSHの投与によって実行されることが多い。それは、適切な量のFSH(用量は患者特性によって変化し得る)を、場合によりLH又はLH活性(通常1日当たり75単位又は150単位)と一緒に約2週間投与することによって、ゴナドトロピン依存性の卵胞形成に作用し、卵巣に存在する胞状卵胞の成長を刺激する。ART処置のための卵巣刺激との関連で、その狙いは、存在する全ての胞状卵胞の成長を獲得することであり、したがって、そうではなく単一の卵胞の成長及び排卵へと導くことになる選択及びリクルートメントの自然過程を回避する。
【0024】
LH又はLH活性を伴うか又は伴わないFSHゴナドトロピンでの卵巣刺激は、受精のために可能な限り多数の卵母細胞が得られることを可能にするため、ART処置の基礎となる。卵巣刺激後に得られる卵母細胞の数は、胞状卵胞の数に依存する。利用可能な胞状卵胞の数が多いほど、リクルートされる卵母細胞の数が多くなる。回収された卵母細胞の数は、創出され得る胚の数に直接関係するため、これは必然的に、開始された卵巣刺激の周期当たりの妊娠及び出産の累積率の増加につながる(La Marca A,et al,Hum Reprod Update.2014)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0025】
このような理由のため、原始卵胞及び/又は一次卵胞の活性化及び成熟化を促進して、胞状卵胞の予備を増加させることができ、その結果として、適切な卵巣刺激後にそれが成熟し、成熟卵母細胞になることができる治療を特定する必要性が大いにある。
【0026】
上に述べたように、卵巣の卵胞形成の間に2つの期を特定することができる。生理的条件下で、第1期はゴナドトロピン非依存性であり、第2期はゴナドトロピン依存性である。卵胞発育の初期段階において治療的に作用する能力は、医師が患者の卵巣予備能を操作するのを可能にし、基礎卵巣予備能の低い女性における胞状卵胞の数及びAMHの増加をもたらし得るため、極めて興味深い。現在、この適応症のために(即ち、ゴナドトロピン非依存性期の間に原始卵胞及び/又は一次卵胞を活性化/成熟化させるために)承認された薬物はない。したがって、従来はゴナドトロピン非依存性であると、即ちFSHにもLHにも感受性でないと考えられている、原始卵胞及び/又は一次卵胞の成長を活性化し、促進するために、LHを使用するという可能性が、機能的な卵巣予備能を増大させるための新規且つ有効な治療戦略として提案される。
【課題を解決するための手段】
【0027】
上に述べられ、以下により詳細に説明されるように、従来技術に従ってゴナドトロピン依存性の卵胞形成を刺激する、ゴナドトロピンを用いる卵巣刺激プロトコルとは全く異なる方法で、LH又はLH様活性を有する分子が、本発明に従って使用される。最も重要なことであるが、LH又はLH様活性を有する分子は、異なる卵胞形成の段階で、即ち、原始卵胞及び/又は一次卵胞の活性化及び/又は成熟化の段階、即ち生理的条件下でゴナドトロピン非依存性である発育段階で、投与される。したがって、それは、従来の卵巣刺激プロトコルより早い卵胞形成の段階で投与される。さらに、投与される用量は、150~450国際単位の間であり、したがって、従来の卵巣刺激プロトコルにおいて適用される75~150国際単位の用量より大幅に高い。
【0028】
さらに、本発明による処置期間は、少なくとも30日であるが、一方、卵巣刺激プロトコルは、LHを14日間適用するのみである。さらに、本発明の使用及び方法によれば、LH又はLH様活性を有する分子は、FSHと併用投与されないが、そのような併用投与は卵巣刺激プロトコルでは必須である。
【0029】
発明の概要
本発明の第1の態様は、個体における原始卵胞及び/又は一次卵胞の、活性化及び/又は成熟化若しくは発育の誘導における使用のための、黄体形成ホルモン(LH)又はLH様活性を有する分子に関する。実際に、本出願人は、LH又はLH様活性を有する分子の投与が、原始卵胞の活性化、又は一次卵胞へのその発育をもたらすプロセスを刺激することができることを確認した。上記の医療目的のために、LH又はLH様活性を有する分子は、好ましくは、1日当たり150~450国際単位(IU)の間に含まれる量で、少なくとも30日、好ましくは少なくとも60日の期間投与される。好ましくは、LH又はLH様活性を有する分子は、FSHの併用投与なしで投与される。
【0030】
本発明の第2の態様は、上記の医療用使用のための、LH又はLH様活性を有する分子を含む組成物に関する。一実施形態では、組成物は、医薬製品の調製に許容される、塩、緩衝剤、界面活性剤、添加剤、担体、防腐剤及び/又はそれらの組み合わせを含む。組成物は、好ましくは液体形態に、好ましくは、滅菌溶液、エマルション、又は懸濁液などの形態に製剤化されているか、あるいは、再構成されて液体製剤が得られるように、粉末形態であり、好ましくは凍結乾燥された粉末形態である。
【0031】
本発明の第3の態様は、個体における原始卵胞及び/又は一次卵胞の活性化及び/又は成熟化を誘導する方法に関する。前記方法は、少なくとも、有効量の、LH又はLH様活性を有する分子若しくはそれを含む組成物を、それを必要とする個体に投与するステップを含む。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1】ヒトゴナドトロピン非依存性及びゴナドトロピン依存性の卵胞形成の概略図を示す。
図2】元来の卵巣皮質における、又はLHを伴わない(対照)若しくは伴う2日間の培養後の、(A)原始卵胞及び(B)一次卵胞の数(組織切片当たりの平均±SEM)を示す。各グラフ内で、*は、元来の生検材料に対する統計的有意性を表し、**は、元来の生検材料及び対照に対する有意性を表す(二元配置ANOVA;P<0.05;n=6培養物、試料当たり11~18切片を試験)。
図3】元来の生検材料、LHを伴わない又は伴う2日間の培養後の、卵巣皮質試料における成熟化の異なる段階の卵胞の割合の表示を示す。卵胞の分布は、全ての生存能力のある卵胞のパーセンテージとして示されている。*は、元来の生検材料に対する統計的有意性を表し、**は、元来の生検材料及び対照の両方に対する有意性を示す(p<0.05)。
図4】FOXO3aの細胞質への移行を示す、卵母細胞の画分における増加を示す。
図5】LHを伴い48時間インキュベートした卵巣組織の初代培養物中のCCN遺伝子の相対的発現を示す。LHで処置した試料と対照との有意差は、*で表示されている(P<0.005)。
図6】LHで刺激した後のCCNファミリーの遺伝子の発現を示す膜に関する免疫ブロットの画像を示す。
図7】基礎LHとAMHのパーセンテージ増加との相関を示す。
【発明を実施するための形態】
【0033】
定義
本発明との関連で、「国際単位」(IU)という用語は、本明細書で使用する場合、物質の効果又は生物学的活性に基づくその物質の量の測定単位を意味する。
【0034】
本発明との関連で、「胞状卵胞の超音波計数」又は「AFC」という用語は、経腟骨盤超音波スキャンによって得られる、個体における胞状卵胞の計数を意味する。
【0035】
本発明との関連で、「卵巣予備能」という用語は、卵母細胞の数及び/又は質を意味し、生殖する能力を反映するものである。卵巣予備能は、幾つかの手段のうちいずれかによって評価することができる。それには、女性の年齢、超音波による胞状卵胞の数、抗ミュラー管ホルモンレベル、卵胞刺激ホルモン及びエストラジオールのレベル、クエン酸クロミフェン負荷試験、ゴナドトロピン刺激に対する応答、及び卵母細胞及び/又は胚の数、形態又は遺伝的評価に基づく、ART処置中の卵母細胞及び/又は胚の評価が含まれる。
【0036】
本発明との関連で、「CCN」は、細胞間シグナル伝達に関与する細胞外マトリックス関連のタンパク質のファミリーを意味する。ECM内でのその動的役割のため、それはマトリセルラータンパク質と考えられる。
【0037】
発明の詳細な説明
本発明の第1の態様は、個体における原始卵胞及び/又は一次卵胞の、活性化及び/又は成熟化若しくは発育の誘導における使用のための、黄体形成ホルモン(LH)又はLH様活性を有する分子に関する。
【0038】
一実施形態では、LH様活性を有する分子は、絨毛性ゴナドトロピン(CG)又はLHアゴニストからなる群から選択される。LHアゴニストの例は、チエノピリミジン及び他の薬理学的シャペロン(ファルマコペロン(pharmacoperone))として、LH/CG受容体の7つの膜貫通ドメイン内でアロステリックに相互作用する薬物様低分子量リガンドである。
【0039】
実際に、本出願人は、LH又はLH様活性を有する分子の投与が、原始卵胞の活性化、又は一次卵胞へのその成熟化をもたらすプロセスを刺激することができることを確認した。実際に、原始卵胞の成熟化は、一次卵胞の増加及び原始卵胞の減少に関連している。
【0040】
一実施形態では、原始卵胞及び/又は一次卵胞の活性化及び/又は成熟化若しくは発育は、個体の卵巣予備能の上昇と関連している。卵巣予備能の上昇は、好ましくは、胞状卵胞の超音波計数(AFC)により、及び/又は抗ミュラー管ホルモン(AMH)の血清アッセイにより、定義される。本出願人は、LH又はLH様活性を有する分子の投与が、個体における卵巣予備能を上昇させ、結果としてAFC値及びAMHの血清レベルを上昇させることができることを確認した。
【0041】
さらに、従来技術とは反対に、本出願人は、LH又はLH様活性を有する分子が、ゴナドトロピン非依存性として知られる卵胞形成の第1期を刺激することができることを確認した。
【0042】
表1は、本発明と、卵巣刺激のため、即ちゴナドトロピン依存性期の刺激のためのLHの使用との差違を示す。
【0043】
【表1】
【0044】
好ましくは、個体は、女性のヒト対象である。
【0045】
本発明の一実施形態では、個体は、標準範囲の卵巣予備能を有する。好ましくは、個体は、10より大きい、より好ましくは12より大きいAFC値を有し、及び/又は個体は、2ng/mlより高い、より好ましくは2.5ng/mlより高いAMHの血清濃度を有する。
【0046】
本発明の一実施形態では、個体は、卵巣予備能の低下を有する。好ましくは、個体は、10未満、より好ましくは8未満のAFC値を有し、及び/又は個体は、2ng/ml未満、より好ましくは1.5ng/ml未満のAMHの血清濃度を有する。
【0047】
一実施形態では、前記LHは、ヒトLH(hLH)であり、又は前記CGは、ヒト絨毛性ゴナドトロピン(hCG)である。好ましくは、前記LHは、組換えヒトLH(rhLH)であるか、若しくは尿から抽出され、又は前記CGは、組換えヒト絨毛性ゴナドトロピン(rhCG)である。
【0048】
前記LH又は前記CGは、好ましくは、組換えタンパク質として、又は精製/単離されて使用される。
【0049】
これに関連して、好ましくは、LH又はCGタンパク質全体の使用について、又はLH若しくはCGの活性が維持されるという条件で、LH又はCGタンパク質のホモログ、アナログ、変異体、誘導体若しくは断片について、言及がなされる。
【0050】
一実施形態では、前記LH又はCGは、生物学的に活性なホモログである。本発明の一実施形態では、言及されているLH又はCGのタンパク質変異体は、例えばLH又はCGの活性を増加させるようになされた、N末端領域及び/又はC末端領域の改変を有する。前記改変は、好ましくは、アミノ酸の欠失、付加、変更、及びそれらの組み合わせの中から選択される。或いは、前記LH又はCGは、好ましくはその一次構造において、アセチル化、カルボキシル化、グリコシル化、リン酸化及びそれらの組み合わせによって改変され得る。
【0051】
さらなる実施形態では、前記LH又はCGは、融合タンパク質の調製のために、分子、金属、又はマーカー(例えばタンパク質)にコンジュゲート/結合している。本発明のさらなる実施形態では、前記LH又はCGは、そのタンパク質分解に対する耐性を改善するため、及び/若しくはその溶解性を最適化するため、又はその薬物動態学的特性を改善するため、分子生物学的技術によって改変される。さらなる実施形態では、前記LH又はCG、好ましくはそのタンパク質形態は、その安定性及び/又はその半減期及び/又はその水溶解性及び/又はその免疫学的特性を改善することができる少なくとも1つの分子にコンジュゲートしている。前記分子は、例として、ポリエチレングリコール(PEG)である。
【0052】
本発明のさらなる実施形態では、前記LH又はCGタンパク質は、当業者に公知の従来のタンパク質合成技術によって合成される。例えば、そのタンパク質は、化学合成により、固相ペプチド合成を使用して合成することができる。或いは、LH又はCGは、当業者に公知の組換えDNA技術を用いて製造することができる。
【0053】
本発明のさらなる実施形態では、LH又はCGタンパク質は、組換えDNA技術を用いてそれを合成又はそれを製造した後に、当業者に公知の方法を用いて単離又は精製される。例えば、LH又はCGは、クロマトグラフィー法(ゲル濾過、イオン交換及び免疫親和性)を用いて、高速液体クロマトグラフィー(HPLC、RP-HPLC、イオン交換HPLC、サイズ排除HPLC)により、又は沈降(免疫沈降法)により、精製することができる。
【0054】
一実施形態では、前記LH又はLH様活性を有する分子は、上記の医療目的のために、1日当たり150~450国際単位(IU)の間に含まれる量で、より好ましくは1日当たり170~350IUの間に含まれる量で、さらに一層好ましくは1日当たり180~250IUの間に含まれる量で使用される。
【0055】
一実施形態では、LH又はLH様活性を有する分子は、少なくとも1日1回、好ましくは少なくとも1日2回摂取される。上記の医療目的のために、LH又はLH様活性を有する分子は、少なくとも30日の期間、好ましくは40~120日の間に含まれる期間、より好ましくは50~100日の間に含まれる期間、摂取される。好ましい実施形態では、LH又はLH様活性を有する分子は、少なくとも60日につき摂取される。好ましくは、LH又はLH様活性を有する分子は、非経口で、好ましくは皮下又は筋肉内に投与される。
【0056】
一実施形態では、LH又はLH様活性を有する分子は、不妊症処置と関連して、又はそれと組み合わせて、好ましくは卵巣刺激と関連して、又はそれと組み合わせて摂取される。
【0057】
LH又はLH様活性を有する分子は、好ましくは不妊症処置の前に、好ましくは卵巣刺激の前に摂取される。
【0058】
好ましい一実施形態では、LH又はLH様活性を有する分子は、FSHと関連させず、それと組み合わせることなく、摂取される。
【0059】
本発明の第2の態様は、上記の医療用途のための、LH及び/又はLH様活性を有する分子を含む組成物に関する。一実施形態では、組成物は、医薬製品の調製に許容される、塩、緩衝剤、添加剤、担体、防腐剤及び/又はそれらの組み合わせを含む。
【0060】
一実施形態では、組成物は、非経口投与用に、好ましくは、皮下又は筋肉内投与用に製剤化される。組成物は、好ましくは液体形態に、好ましくは、滅菌溶液、エマルション、又は懸濁液などの形態に製剤化されているか、あるいは、再構成されて液体製剤が得られる粉末形態であり、好ましくは凍結乾燥された粉末形態である。好ましい実施形態では、組成物は、再構成されて液体製剤が得られるように、粉末として製剤化され、好ましくは凍結乾燥された粉末として製剤化される。
【0061】
本発明の一実施形態では、前記組成物は、経腸投与用に、好ましくは経口投与用に製剤化される。特に、組成物は、固体形態に、好ましくは、トローチ剤、カプセル剤、錠剤、粒状粉末剤、ハードシェルカプセル剤、口腔内溶解顆粒剤、サシェ剤又は丸剤の形態に製剤化される。
【0062】
本発明の第3の態様は、個体における原始卵胞及び/又は一次卵胞の活性化及び/又は成熟化若しくは発育を誘導する方法に関する。前記方法は、少なくとも、有効量の、LH又はLH様活性を有する分子若しくはそれを含む組成物を、それを必要とする個体に投与するステップを含む。
【0063】
一実施形態では、原始卵胞及び/又は一次卵胞の活性化及び/又は成熟化は、個体の卵巣予備能の上昇と関連している。卵巣予備能の上昇は、好ましくは、胞状卵胞の超音波計数(AFC)により、及び/又は抗ミュラー管ホルモン(AMH)の血清アッセイにより、定義される。
【0064】
好ましくは、個体は、女性のヒト対象である。
【0065】
本発明の一実施形態では、個体は、標準範囲の卵巣予備能を有する。個体は、好ましくは、10より大きい、より好ましくは12より大きいAFC値を有し、及び/又は個体は、2ng/mlより高い、より好ましくは2.5ng/mlより高いAMHの血清濃度を有する。
【0066】
本発明の一実施形態では、個体は、卵巣予備能の低下を有する。個体は、好ましくは、10未満、より好ましくは8未満のAFC値を有し、及び/又は個体は、2ng/ml未満、より好ましくは1.5ng/ml未満のAMHの血清濃度を示す。
【0067】
一実施形態では、個体における原始卵胞及び/又は一次卵胞の活性化及び/又は成熟化を誘導する方法は、個体における不妊症を処置する方法と関連するか、又はそれと組み合わせられる。
【0068】
一実施形態では、LH又はLH様活性を有する分子は、個体における不妊症処置と関連して、又はそれと組み合わせて、好ましくは卵巣刺激と関連して、又はそれと組み合わせて摂取される。
【0069】
LH又はLH様活性を有する分子は、好ましくは不妊症処置の前に、好ましくは卵巣刺激の前に摂取される。
【0070】
好ましい一実施形態では、LH又はLH様活性を有する分子は、単独で、FSHと関連なく摂取される。
【実施例
【0071】
in vitro試験
哺乳動物において、卵巣は、原始卵胞の構造をとる有限及び限定数の卵母細胞を含有する。原始卵胞の大多数は、生殖寿命の間の予備として休止を維持している。それらのうち数個のみが活性化し、発育して、より進展した卵胞の段階になる。原始卵胞の休止状態の維持及び活性化を調節する分子機序は、完全には解明されていないが、様々な研究が、卵母細胞によって産生される阻害/活性化分子の協調作用、並びに卵母細胞それ自体の体細胞との情報伝達及び卵母細胞内の情報伝達に依存していることを示している。
【0072】
このような理由のため、この試験の目的は、a)黄体形成ホルモン(LH)は、FOXO3aの細胞質-核間の移行を促進することができるかどうか、及びb)LHは、卵巣組織のin-vitro培養物中のCCNファミリーのメンバーを活性化することができ得るかどうかを調査することである。
【0073】
材料及び方法
卵巣組織のドナー
卵巣皮質組織の2×2×2mm片を、カップル不妊の試験における精密検査として、診断用の腹腔鏡検査及び卵管通色素検査を受ける患者から採取された生検材料から得た。この試験に登録した患者は、従来、規則的な月経周期を有し、試料採取時に病状を有していないと申告した。全患者に、研究目的での試料及び臨床データの使用について書面による同意を求め、それが得られた。
【0074】
組織の調製
卵巣組織を滅菌条件下で取得し、1×PBSを含有するペトリ皿に移し、そこで、メスを使用して髄質組織を皮質から分離した。卵巣皮質組織を、より小さい1mmのサイズの片にさらに分割した。免疫組織化学的分析のために、初期生検材料由来の片のひとつを直接4%パラホルムアルデヒド中に4℃で終夜固定した。これとは別に、初期生検材料由来の片のひとつを、全RNA抽出のために、下記の方法で処理した。残余の片を12ウェルのマルチウェルプレートに沈着させ(ウェル当たり1片)、平衡化前培養培地で覆った(500μl/ウェル、37℃で1時間)。
【0075】
培養培地は、基礎培地マッコイ5A中に溶解した、25mM HEPES、1mMペニシリン/ストレプトマイシン、1mM L-グルタミン、1mMアムホテリシンB、及び10%ウシ胎仔血清(FBS)から構成されるものとした。全ての試薬をSigma-Aldrich(St.Louis、MO、USA)から購入した。試料を、37℃で、5%CO2を含有する湿気のある環境の条件下にて処置前に24時間培養した。
【0076】
処置
初代培養の24時間後、試料を10μMのLH(培養培地に溶解した)でさらに48時間処置した(最初の24時間後に培地を1回交換)。対照試料を、LHを含まない培地のみで培養した。このように処置した試料を、下記のように、全RNA抽出のために、又は免疫組織化学的分析のために処理した。
【0077】
RT-qPCR
元来の生検材料由来の卵巣の片のひとつ及び10μMのLHで処置した試料(及び対応する対照)を、製造元によって記載されたプロトコルに従って、直接1mlのTri-Reagent(登録商標)(Sigma Aldrich)中に溶解し、全RNA抽出のために速やかに処理した。抽出されたRNAを20μlのRNアーゼ不含の水に入れ、DNアーゼI(Promega、Madison、WI、USA)で消化させた。精製したRNAをNanodrop ND-1000分光光度計(Thermo Fisher Scientic、Waltham、MA、USA)を使用して定量化した。各試料に対応するメッセンジャーRNAをM-MuLV逆転写酵素(NEB、Ipswich、MA、USA)を使用してcDNAに逆転写した。cDNAをRT-qPCR反応用のテンプレートとして使用した。
【0078】
調べる各遺伝子について、遺伝子発現の分析を可能にするために、試料を三重反復で評価し、平均として表した。結果は、恒常的に発現されたβ-アクチン遺伝子の発現を使用して正規化した。反応の陰性対照は、cDNAの代わりに蒸留水を増幅させた。評価した遺伝子は、CCN2、CCN3及びCCN5であった。各遺伝子の相対的発現を、Livak及びSchmittgen,2001によって記載された2-ΔΔCt法を適用して計算した。
【0079】
スライドの調製
元来の生検材料由来の試料、LHで処置した試料(及び対応する対照試料)を、4%パラホルムアルデヒド中に4℃で終夜固定した。次いで、試料をアルコールの上昇系列で脱水し、キシレン中で透徹した後、パラフィンのブロック中に包埋した。卵巣の連続薄片を、ミクロトーム(7μm)でカットすることによって取得し、免疫組織化学的分析又は形態分析用染色(ヘマトキシリン及びエオシン)のために使用して、卵胞の計数を可能にした。
【0080】
免疫組織化学
キシレンを用いてパラフィンをスライドから除去し、それらをアルコールの下降系列で再水和した。スライドをアンマスクして、核抗原の曝露を可能にした。スライドを一次抗FOXO3a抗体又は抗p-FOXO3a抗体(マウス抗ヒト、1:100)で処置し、次いで、TRITC又はFITC(ヤギ抗マウス、1:10000)にコンジュゲートされた二次抗体とともにインキュベートした。使用した抗体は全てSanta Cruz、CA、USAから購入した。試料をDAPIで対比染色して、核の識別を可能にした。スライド当たり少なくとも5視野を無作為に選択した異なる2名の作業者により、陽性の卵胞の二重盲検計数を行った。
【0081】
SDS-PAGE
個々の試料中に含有されるタンパク質を、RIPA緩衝液で抽出し、ブラッドフォードアッセイで定量化した。同量のタンパク質(50μg)を、2×ローディングバッファー(4%SDS、20%グリセロール、0.004%ブロモフェノールブルー、pH6.8の0.125M Tris-HCl、10%2-メルカプトエタノール)、1×プロテアーゼ阻害剤カクテル及び5mMフェニルメチルスルホニルフルオリド(PMSF、Sigma Aldrich、St.Louis、MO、USA)と混合し、最後に10分間煮沸して、タンパク質を線形化した。タンパク質抽出物を、変性条件下で12%ポリアクリルアミド/ビス-ポリアクリルアミドゲルを用いて分解した。ColorBurst Electrophoresis Marker(Sigma Aldrich、St.Louis、MO、USA)を分子量マーカーとして使用した。試料を三重反復で3つの同一のゲルにロードした。タンパク質を定電圧(120V)で90分間泳動させた。
【0082】
免疫ブロット
分子量に基づいて分離されたタンパク質を、Trans-Blot SDセミドライ転写セル(Bio-Rad、Hercules、CA、USA)を使用して、ポリフッ化ビニリデン(PVDF、Thermo scientific、Rockford、IL、USA)で作製された3つの膜(ゲル毎に1つ)に転写した。膜を、トリス緩衝生理食塩水(TBS、pH7.4)と5%部分脱脂乳(脱脂乳粉末、Sigma Aldrich、St.Louis、MO、USA)との溶液中で終夜ブロッキングした。次いで、膜をそれぞれ、抗CCN2抗体、抗CCN3抗体又は抗CCN5抗体(Santa Cruz Biotechnology、Dallas、TX、USA)の1:200希釈物とともに1時間インキュベートした。0.05%Tween20(Sigma Aldrich、St.Louis、MO、USA)のTBS溶液で3回洗浄した後、膜を、セイヨウワサビペルオキシダーゼ(HRP)をコンジュゲートしたウサギ抗ヤギ二次抗体(Bethyl、Montgomery、TX、USA)1:10000とともにさらにインキュベートした。最後に、膜を、ECL Western Blotting Substrate(Thermo Scientific、Rockford、IL、USA)で覆い、ChemiDoc XRS+(Bio-Rad、Hercules、CA、USA)を使用する化学発光によってバンドを検出した。シグナルを取得し、デジタル画像の分析システム(VersaDoc Imaging System及びQuantityOneソフトウェア、Bio-Rad Laboratories Inc.)によって半定量化した。画像の取得後、膜を洗浄し、ウサギで得られた抗ヒトβチューブリン一次抗体(Abcam、Cambridge、UK)の1:500希釈物で再ハイブリダイズし、前述のように処理した。発色後、βチューブリンの各バンドの強度を、最初にロードした量のタンパク質に対する内部標準として使用した。
【0083】
統計分析
RT-qPCRで得られた相対発現量について、クラスカル・ウォリス検定、次にダン・ボンフェローニ検定と組み合わせて(P<0.005)、統計分析を行った。免疫ブロッティング後のバンドの統計的分析を、GraphPad Prismソフトウェアを使用し、二元配置ANOVA検定を適用して行い、確率P<0.05を有意とみなした。卵巣卵胞の計数について、卵胞の数を、ANOVA検定を使用し、次に事後検定によって、処置群間で比較した。確率P<0.05での差を有意とみなした。
【0084】
結果
図2に示すように、一次卵胞の数は、LHでの処置によって増加した(その結果、原始卵胞の数は減少)。卵巣組織の培養後の原始卵胞の自然活性化という、文献で十分に立証された現象もまた、実験において現れている。事実、対照(LHを含まない培養中の卵巣組織)は、元来の生検材料中に存在するものと比較して、一次卵胞の数の有意な増加を示す。LHは、対照及び元来の生検材料の両方とは対照的に、一次卵胞の数を増加させることができることが明らかになった。図3は、初期生検材料における総存在量に対する様々な成熟化の段階の卵胞のパーセンテージを示す。様々な亜集団のパーセンテージの変化は、対照試料及びLHで処置した試料の両方において有意であった。LHは、表現型の移行期を経て一次卵胞段階に到達する卵胞の数だけではなく、この期を超えて前胞状の表現型にまで到達する卵胞の数も増加させるのに有効であることを示した。図4は、FOXO3aが、核内に局在化していた卵母細胞のパーセンテージと比較して、細胞質のレベルで陽性を示す卵母細胞のパーセンテージをまとめている。LHは、FOXO3aの、核から細胞質への移行を促進することによって、原始卵胞の活性化を誘導した。LHは、2日間の処置後、CCNファミリーに属する3つ全ての遺伝子及びタンパク質の相対的発現を誘導することができ、ホスファチジルイノシトール-3-キナーゼ経路が活性化されたことが確認された(図5及び6)。
【0085】
in vivo試験
前向きパイロット試験を、特発性不妊症に罹患している患者30名に行った。試験の目的は、卵巣予備能に対する外因性LHによる中/長期の処置の効果、即ち、胞状卵胞の数(AFC)及び循環AMHを調査することであった。この試験の背景にある仮説は、LHは原始卵胞及び/又は一次卵胞の成長を活性化又は促進することができ、したがって、超音波(胞状卵胞計数-AFC)により、又はAMH(胞状卵胞によって産生されるホルモン)の測定により、in vivoで確認することができる前胞状卵胞及び胞状卵胞の増加をもたらし得るというものであった。
【0086】
登録された患者の年齢は、18~40歳の範囲であった。除外基準は、既知の不妊因子(内分泌性-排卵性因子、卵管因子、子宮内膜症)の存在、卵巣のう胞の存在、内分泌/代謝障害の存在、及び男性側の因子とした。患者背景は、表2に示されている。患者全員が規則的な月経周期を有していた(28~35日毎)。
【0087】
【表2】
【0088】
試験において患者30名に、LHを1日187.5U(朝75U及び夕112.5U)の投与量で2カ月間処置した。0時点、1カ月後及び治療終了時(2カ月)に、患者に対し、血清AMHのアッセイ及び胞状卵胞の超音波計数(AFC)によって卵巣予備能の分析を行った。患者30名のうち、11名は、LHでの治療の開始前10日~90日の範囲の時間間隔で、1周期の体外受精(IVF)を受けた。これらの患者は、LHでの治療の2カ月後に2回目の周期のIVFを繰り返し受けた。
【0089】
試験の目的
試験の主目的:卵巣予備能マーカー、即ちAFC及びAMH、に対するLH投与の効果を評価すること。
【0090】
副次的目的:LH治療に対する卵巣の応答の予測基準を評価すること。LHでの長期の治療の前及び後でIVF周期の結果を評価すること。
【0091】
試験の結果
2カ月間のLHでの処置後、AFCの平均60%の増加、及びAMHの52%の増加があったことが、試験から判明した(表3)。
【0092】
【表3】
【0093】
登録した患者30名のうち、12名は卵巣予備能が極めて低下していた(AMH<1ng/ml及び/又はAFC<7と定義される)。これらの患者において、治療に対する応答は、正常な卵巣予備能を有する患者において認められた応答と同等であった。
【0094】
次に、重回帰分析を使用して、どの変数がLHでの治療に対するポジティブな応答を予測できるのかを調査し、より若年齢、並びにFSH及びLHの低血清レベルが、外因性のLHでの治療に対する良好な応答を予測する基準であることが判明した。特に、AMHの増加率は、年齢がより低く、LHの基礎血漿レベルがより低い場合に、より大きかった(図7)。
【0095】
【表4】
【0096】
【表5】
【0097】
【表6】
【0098】
【表7】
【0099】
LHでの前処置及びIVFの結果
募集した患者のうち数名は、1周期の卵巣刺激をLHでの治療の前の3カ月間に受けたが、妊娠に至らなかった。これらの患者は、2回目のIVF周期をLHでの治療の2カ月後に受けた。2回の卵巣刺激間の比較が表5に示されている。LHでの処置は、得られる胚を増加させたことが判明した。特にそれは、より多くの胚盤胞が得られることを可能にし、より多くの患者が、卵巣刺激処置後に凍結保存胚を得た。
【0100】
【表8】
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
【国際調査報告】