(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-10-06
(54)【発明の名称】標準12誘導ECGを作成するための方法とシステム
(51)【国際特許分類】
A61B 5/26 20210101AFI20230929BHJP
A61B 5/256 20210101ALI20230929BHJP
A61B 5/332 20210101ALI20230929BHJP
A61B 5/33 20210101ALI20230929BHJP
【FI】
A61B5/26
A61B5/256 220
A61B5/332
A61B5/33 300
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023518904
(86)(22)【出願日】2021-09-24
(85)【翻訳文提出日】2023-05-12
(86)【国際出願番号】 EP2021076338
(87)【国際公開番号】W WO2022063975
(87)【国際公開日】2022-03-31
(32)【優先日】2020-09-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】523104247
【氏名又は名称】コゾール ウガンダー キャピタル プロプライエタリー リミテッド
【氏名又は名称原語表記】Kozor Ugander Capital Pty Limited
(74)【代理人】
【識別番号】110001302
【氏名又は名称】弁理士法人北青山インターナショナル
(72)【発明者】
【氏名】ウガンダー,マーティン
(72)【発明者】
【氏名】カーティス,テディ,エム.エル.
【テーマコード(参考)】
4C127
【Fターム(参考)】
4C127AA02
4C127BB03
4C127JJ03
4C127LL15
(57)【要約】
電極を2つしか持たない単一誘導電子デバイスで、非同期で順次取得される15の誘導から、3つの標準肢誘導I、II、III、3つの標準拡張肢誘導aVR、aVL、aVF、および6つの標準前胸部誘導V1~V6で構成される標準12誘導ECGを作成するための方法およびシステムが開示される。順次取得される誘導は、3つの取得肢誘導I、II、IIIと、12の取得腕部基準胸部誘導CR1~CR6、CL1~CL6を含む。取得誘導CR1~CR6およびCL1~CL6の各ペアCRiおよびCLiは、それぞれ右腕および左腕と、対応する標準前胸部誘導Viに関連する共通の胸部位置Ciとの間で取得される電圧差を表す。
【選択図】
図16
【特許請求の範囲】
【請求項1】
3つの取得肢誘導I、II、III(取得誘導I~IIIと称する。)と、12の取得腕部基準胸部誘導CR1~CR6およびCL1~CL6(取得誘導CR1~CR6およびCL1~CL6と称する。)とを含む、非同期で順次取得される15の誘導から、3つの標準肢誘導I、II、III、3つの標準拡張肢誘導aVR、aVL、aVF、および6つの標準前胸部誘導V1~V6で構成される標準12誘導ECGを作成するための方法において、
1~6の整数iについて、取得誘導CR1~CR6およびCL1~CL6の各ペアCRiおよびCLiは、それぞれ右腕および左腕と、対応する標準前胸部誘導Viに関連する共通の胸部位置Ciとの間で取得される電圧差を表し、
前記方法が、
取得誘導I~IIIから、誘導II-誘導I=誘導IIIの式を用いて、時間整列された誘導I、II、III(時間整列誘導I~IIIと称する。)を生成する動作と、
時間整列誘導I~IIIから、3つの時間整列拡張肢誘導aVR、aVL、aVFを計算する動作と、
1~6の整数iについて、
(a)計算された腕部基準胸部誘導CLi(計算誘導CLiと称す。)を表す計算された差CRi - Iが、取得された誘導CLiと最適な一致を持つように、取得誘導CRiを取得誘導Iと時間整列させることによって、時間整列された腕部基準胸部誘導CRi(時間整列CRiと称する。)を生成するか、
(b)計算された腕部基準胸部誘導CRi(計算誘導CRiと称す。)を表す計算された和CLi+Iが、取得誘導CRiと最適な一致を持つように、取得誘導CLiを取得誘導Iと時間整列させることによって、時間整列された取得腕部基準胸部誘導CLi(時間整列CLiと称する。)を生成する、
ことのいずれか1つを実行する動作と、
1~6の整数iについて、時間整列前胸部誘導V1~V6を形成するために、時間整列誘導Iと、時間整列誘導IIおよび時間整列誘導IIIのうちの一つと、時間整列誘導CRiおよび時間整列誘導CLiのうちの一つとから時間整列前胸部誘導Viを計算する動作と、を含み、
ここで、時間整列誘導I~IIIと、時間整列拡張肢誘導aVR、aVL、aVFと、時間整列前胸部誘導V1~V6とが合わさって標準12誘導ECGを形成することを特徴とする方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法において、さらに、15の取得誘導の各取得誘導を平均化して15の対応する平均化拍動波形を生成する動作と、時間整列誘導I~IIIを作成するステップ、時間整列誘導CR1~CR6、および時間整列誘導CL1~CL6を生成するステップ(a)および(b)で、前記平均化拍動波形を取得誘導として用いる動作とを含む、方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の方法において、
前記ステップ(a)の時間整列は、前記差CRi-Iと前記取得誘導CLiとの間の前記最適な一致を達成するために、取得誘導CRiと取得誘導Iとを互いに対して繰り返しシフトすることによって行われ、
前記ステップ(b)の時間整列は、前記合計CLi+Iと前記取得誘導CRiとの間の前記最適な一致を達成するために、取得誘導CLiと取得誘導Iとを互いに対して繰り返しシフトすることによって行われる、方法。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかに記載の方法において、時間整列誘導Iはステップ(a)またはステップ(b)をそれぞれ実行する前に作成され、ステップ(a)またはステップ(b)における時間整列はそれぞれ、時間整列誘導Iを用いて実行される、方法。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかに記載の方法において、前記時間整列誘導I~IIIを作成する動作が、取得誘導I~IIIのうちの第3の取得誘導を基準として、関連する第1および第2の取得誘導を時間シフトすることによって、時間整列誘導I~IIIの第1の時間整列誘導および第2の時間整列誘導を作成することと、前記第1の時間整列誘導および前記第2の時間整列誘導から時間整列肢誘導I~IIIの残りの第3の時間整列肢誘導を計算することとを含む、方法。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれかに記載の方法において、前記15の順次取得される誘導は、2つの電極のみを用いて取得される、方法。
【請求項7】
請求項7に記載の方法において、1~6の整数iについて、取得誘導CRiと取得CLiは順次、前記2つの電極の一方を共通の胸部位置Ciに配置したまま、任意の順序で一方のすぐ後に他方が測定される、方法。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれかに記載の方法において、さらに、各時間整列誘導を同じ誘導の関連する計算バージョンと平均化し、関連する平均化時間整列誘導を生成することを含む、方法。
【請求項9】
請求項1乃至8のいずれかに記載の方法において、前記方法は、2つの電極を含む単一誘導のウェアラブルまたはポータブル電子デバイスを使用して実行され、前記15の順次取得される誘導は、対象者の身体上の前記2つの電極の位置を順次変えることによって取得される、方法。
【請求項10】
3つの標準肢誘導I、II、III、3つの標準拡張肢誘導aVR、aVL、aVF、および6つの標準前胸部誘導V1~V6で構成される標準12誘導ECGを作成するためのシステムであって、該システムは、
2つの電極と、
少なくとも1つの処理ユニットであって、
対象者の身体の異なる位置に前記2つの電極を順次移動させながら、前記2つの電極間の15のECG誘導を順次取得する動作であって、これには3つの取得肢誘導I、II、III(取得誘導I~IIIと称する。)と、12の取得腕部基準胸部誘導CR1~CR6、CL1~CL6(取得誘導CR1~CR6およびCL1~CL6と称する。)が含まれ、1~6の整数iについて、取得誘導CR1~CR6およびCL1~CL6の各ペアCRiおよびCLiは、それぞれ右腕および左腕と、対応する標準前胸部誘導Viに関連する共通の胸部位置Ciとの間で取得される電圧差を表す、動作と、
取得誘導I~IIIから、誘導II-誘導I=誘導IIIの式を用いて、3つの時間整列された誘導I、II、III(時間整列誘導I~IIIと称する。)を生成する動作と、
時間整列誘導I~IIIから、3つの時間整列拡張肢誘導aVR、aVL、aVFを計算する動作と、
1~6の整数iについて、
(a)計算された腕部基準胸部誘導CLiを表す計算された差CRi - Iが、取得された誘導CLiと最適な一致を持つように、取得誘導CRiを取得誘導Iと時間整列させることによって、時間整列された腕部基準胸部誘導CRi(時間整列CRiと称する。)を生成するか、または
(b)計算された腕部基準胸部誘導CRiを表す計算された和CLi+Iが、取得誘導CRiと最適な一致を持つように、取得誘導CLiを取得誘導Iと時間整列させることによって、時間整列された取得腕部基準胸部誘導CLi(時間整列CLiと称する。)を生成する、
動作と、
1~6の整数iについて、時間整列前胸部誘導V1~V6を形成するために、時間整列誘導Iと、時間整列誘導IIおよび時間整列誘導IIIのうちの一つと、時間整列誘導CRiおよび時間整列誘導CLiのうちの一つとから時間整列前胸部誘導Viを計算する動作と、を実行する処理ユニットとを具え、
ここで、時間整列誘導I~IIIと、時間整列拡張肢誘導aVR、aVL、aVFと、時間整列前胸部誘導V1~V6とが合わさって標準12誘導ECGを形成することを特徴とするシステム。
【請求項11】
請求項10に記載のシステムにおいて、前記システムは、前記2つの電極を含み、前記動作を実行するように構成された前記少なくとも1つの処理ユニットを含むポータブルまたはウェアラブルの電子デバイスに組み込まれている、システム。
【請求項12】
請求項11に記載のシステムにおいて、前記電子デバイスは、スマートウォッチ、スマートフォン、またはECG専用デバイスなどの電子デバイスである、システム。
【請求項13】
請求項10に記載のシステムにおいて、前記システムは、一部が前記2つの電極を含むポータブルまたはウェアラブルの電子デバイスに組み込まれ、一部が少なくとも1つの外部デバイスに組み込まれ、前記電子デバイスと前記少なくとも1つの外部デバイスは互いに通信するように構成されている、システム。
【請求項14】
請求項13に記載のシステムにおいて、前記少なくとも1つの外部デバイスは1以上のサーバを含む、システム。
【請求項15】
請求項10乃至14のいずれかに記載のシステムにおいて、前記少なくとも1つの処理ユニットは、請求項1乃至9のいずれかに記載の方法を実行するように構成される、システム。
【請求項16】
1つまたは複数の処理ユニットで実行されると、請求項1乃至10のいずれかに記載の方法を実行するように構成されたプログラムコード部分を含むプログラムを記録したことを特徴とする非一時的なコンピュータ可読記録媒体。
【請求項17】
請求項16に記載の非一時的なコンピュータ可読記録媒体であって、前記プログラムコード部分は、電子デバイス上で実行されたときに、前記15の取得誘導の取得を制御するようにさらに構成されている、非一時的なコンピュータ可読記録媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明のコンセプトは、標準12誘導心電図(ECG)を作成することに関する。より具体的には、本発明のコンセプトは、標準12誘導ECGを作成するための順次取得される誘導を使用する方法およびシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
心臓の電気活動は、体表に配置された2つの電極間の経時的な電圧として測定することができる。2つの電極からの経時的な電圧の波形を誘導(lead)という。心電図の文献では、「誘導(lead)」という用語が電極や電線にも使われるが、「誘導」という用語の正しい意味は、2つの電極間で測定された実際の経時的な電圧波形である。「誘導」の語は、測定または取得された誘導から算出される誘導にも使用される。
【0003】
Paul Kligfield, et al, "Recommendations for Standardization and Interpretation of the Electrocardiogram", pp.1306-1324, 2007年3月13日において、アメリカ心臓協会(AHA)等は、12誘導ECGの標準化に関する声明を発表している。本開示では、本書で提案する規格を「AHA規格」と称する。本開示で使用する場合、用語「標準12誘導ECG」は、AHA規格に従った12誘導ECGと解釈される。本書で使用する場合、「12の標準誘導」という用語は、標準12誘導ECGの12の誘導として解釈されるものとする。
【0004】
標準12誘導ECGは、3つの肢誘導(I、II、III)、3つの拡張肢誘導(aVR、aVL、aVF)、6つの前胸部誘導(V1、V2、V3、V4、V5、V6)を含む12の標準誘導で構成される。
【0005】
ECGマシンと呼ばれる最新の心電計では、従来、心電計に接続された10個の電極を体表の所定の位置に配置して、標準12誘導ECGを作成または生成する。10個の電極のうち4個が四肢に配置される。10個の電極のうち6個は心臓の上の胸部の、予め規定された標準の胸部電極位置に配置される。10個の電極で同時に取得された電気信号を拡張し処理して(特定の誘導の計算を含む)、12チャネルのECGデータが生成される。得られる12チャネルまたは誘導は、一般に、一方が前頭面の電気活動を表す6つの肢誘導(I、II、III、aVR、aVL、aVF)と呼ばれ、他方が概ね水平面に対応する電気活動を表す6つの前胸部誘導(V1、V2、V3、V4、V5、V6)と呼ばれる。
【0006】
従来の12誘導心電計で最初に記録または取得された誘導は、10本のケーブルでマシンに取り付けられた10個の電極を用いて、右腕(RA)、左腕(LA)、左脚(LL)、右脚(RL)、胸1~胸6(C1~C6)という身体上の標準電極位置間の同時測定の異なる組み合わせで、同時に計測される。RA、LA、LL、RL、C1~C6という用語は、実際の10個の電極だけでなく、電極の位置を指す場合もある。この10個の標準電極位置は、AHA規格の一部を構成する。本開示において、四肢電極位置RA、LA、LL、RLは、それぞれの四肢上の任意の位置を指すことができ、必ずしも手首および足首に限定されない。
図1は、3つの四肢電極RA、LA、LLが三角形(Einthoven's Triangle)を形成していることを示す。右脚のRLの電極は接地電極として使用され、実質的にどの誘導にも寄与しない。
図3は、予め規定された6つの胸部電極位置C1~C6を示す図である。
【0007】
標準12誘導ECGマシンでは、通常10個の電極がすべてワイヤでマシンに接続され、すべての誘導が同時に測定される。これにより、心臓の電位を12の異なる角度から同時に測定し、一定時間(通常10秒以上)にわたって記録することができ、各角度はそれぞれ12の標準誘導のうちの1つに対応する。したがって、最新のECGマシンで同時に測定された誘導は、定義上、すべて相互に時間的に整列しているか「同期」している。標準12誘導ECGの一部を構成する3つの拡張肢誘導aVR、aVL、aVF、および6つの前胸部誘導V1~V6は、取得中に測定された誘導から連続的に算出されるため、関連性がある。
【0008】
近年、2つの電極のみを使用する様々なタイプやデザインのポータブルまたはウェアラブルの単一誘導電子デバイスが開発されており、これは通常1つの誘導(肢誘導I)のみが測定・記録される。これらの先行技術の電子デバイスの中には、スマートウォッチやスマートフォンなどの形態のものもあれば、専用の単一誘導ECGデバイスの形態ものもある。2つの電極は、このような単一誘導デバイスに統合されていてもよいし、電子デバイスに有線または無線で接続されてもよい。このような単一誘導ECGデバイスは、特定の状態、例えば不整脈の監視および検出に使用することができるが、1つの誘導のみを生成する単一誘導ECGデバイスは、心臓診断の用途が限られている。
【0009】
アップルウォッチシリーズ4、5、6(登録商標、Apple Inc、Cupertino、CA、USA)を含む、様々なメーカーによるいくつかの先行技術の単一誘導のスマートウォッチベースのECGデバイスが存在し、これは単一誘導ECGを記録できる2つの統合型電極、典型的には肢誘導Iを有する。例えば、アップルウォッチを使用して、例えば右手の人差し指でウォッチのクラウンに触れ、左腕の手首がウォッチの裏側に接触した状態で、アイントホーフェンの肢誘導Iに対応する電圧差を経時的に記録することによって、肢誘導Iを測定することができる。ECG記録は、患者/ユーザによって開始され、その後、関連アプリケーション(アプリ)を使用して単一誘導ECGのPDF文書を作成し、診断評価のために印刷および/または転送することができる。
【0010】
近年、単一誘導ECGデバイスを使用して、様々なタイプのマルチ誘導ECGを作成する試みがなされている。特に、同期的に記録された標準12誘導ECGと同様の、ただし2つの電極のみを持つ単一誘導ECGデバイスと順次誘導取得を用いて、非同期に取得された誘導を生成する、標準12誘導ECGを再現または「合成」するための多大な努力がなされている。これまでのところ、そのような努力は成功しておらず、標準12誘導ECGとは異なる、ほとんどの診断用途に適さない他のタイプの複数誘導ECGが作成されるに過ぎない。
【0011】
Alexander Samol, Kristina Bischof, Blerim Luani, Dan Pascut, Marcus Wiemer, Sven Kaeseによる文献「Single-Lead ECG Recordings Including Einthoven and Wilson Leads by a Smartwatch: A New Era of Patient Directed Early ECG Differential Diagnosis of Cardiac Diseases?」、Sensors 2019, 19, 4377では、複数の誘導を順次取得するためにアップルウォッチを使用した結果が開示されている。この研究で提案された方法は、標準12誘導ECGを作成するものではない。特に、6つの標準前胸部誘導V1~V6が生成されない。代わりに、同時に、片手をもう片方の手の手首にかけ、両手と前腕を胸部に接触させ、3つの胸部電極位置C1、C4、C6で順にウォッチを保持することにより、非標準の前胸部誘導を記録し、それによって文献で「ウィルソン類似」の胸部誘導と呼ばれる3つの誘導が記録された。この3つの非標準誘導は、6つの標準前胸部誘導V1~V6とは異なり、信頼性の高い診断のための標準12誘導ECGの作成には使用できない。
【0012】
先行技術の単一誘導ECGデバイスの別の例として、AliveCor社(米国)から発売されているスマートウォッチがある。代表的な技術を記載した特許として、US9,986,925B2、US9,833,158B2がある。
【0013】
複数誘導ECGを作成するために単一誘導ECGデバイスを使用する先行技術の課題および失敗の結果は、Kahkashan Afrin, Parikshit Verma, Sanjay S. Srivatsa, and Satish T. S. Bukkapatnamの「Simultaneous 12-lead Electrocardiogram Synthesis using a Single-Lead ECG Signal:Application to Handheld ECG Devices」、2018年11月20日にも記載されている。当該文献にもあるように、単一誘導(2電極)デバイスから一度に1つの取得または誘導を順次信号記録することにより、単一誘導の携帯デバイスから標準12誘導ECGを導出または「合成」する多くの試みがなされてきた。AliveCor(商標)社のスマートウォッチで得られた結果は、その文献中に以下のように説明されている:「ベクトル心電図(VCG)解析は、これらの以前の試みから合成された心軸は、12誘導および/またはフランク誘導の測定から推定される心軸からかなり逸脱していることを示唆している。」したがって、VCG解析により、AliveCor(商標)が用いたような従来の試みでは、同期的な標準12誘導ECGから大きく外れたECGが得られ、したがって臨床的に満足できないことが実証された。さらに、その文献で提案された別の方法は、従来の12誘導ECGマシンを用いて同時に標準同期12誘導ECGを最初に記録する必要があるという欠点がある。また、提案の方法を運用するには、事前に取得される同時記録した標準12誘導ECGをクラウドベースのサーバにアップロードする必要がある。その後、単一誘導ECGが記録されると、その時点で欠落している11誘導の信号を合成するために、以前に取得された「真の」標準12誘導ECGを使用する。
【0014】
したがって、ポータブルまたはウェアラブルの単一誘導電子デバイスを使用するなどして、単一誘導ECGデバイスを使用して、標準同期12誘導ECGを記録する必要なく、順次取得される誘導から、12標準ECG誘導で構成される標準12誘導ECGを生成または「合成」する必要がある。
【発明の概要】
【0015】
上記に照らして、本発明のコンセプトの目的は、先行技術の上記欠点に対処した方法およびシステムを提供することである。
【0016】
本発明のコンセプトの第1の態様によれば、取得される3つの肢誘導I、II、III(取得誘導I~IIIと称する。)と、取得される12の腕部基準胸部誘導CR1~CR6、CL1~CL6(取得誘導CR1~CR6、CL1~CL6と称する。)とを含む、15の非同期の順次取得される誘導から、3つの標準肢誘導I、II、III、3つの標準的な拡張肢誘導aVR、aVL、aVF、および6つの標準前胸部誘導V1~V6で構成される標準12誘導ECGを作成する方法が提供され、
ここで、1~6に等しい整数iについて、取得誘導CR1~CR6およびCL1~CL6のうちの取得誘導CRiおよびCLiの各対は、それぞれ右腕および左腕と、対応する標準前胸部誘導Viに関連する共通の胸部位置Ciとの間で取得された電圧差を表し、
前記方法が、
誘導II-誘導I=誘導IIIの式を用いて、取得誘導I~IIIから、時間整列した肢誘導I、IIおよびIII(時間整列誘導I~IIIと称する。)を生成するステップと、
時間整列誘導I~III誘導から、時間整列した3つの拡張肢誘導aVR、aVL、aVFを計算するステップと、
1~6に等しい整数iについて、
(a)計算された腕部基準胸部誘導CLi(計算誘導CLiと称する。)を表す計算差CRiーIが取得誘導CLiと最適な一致を持つように、取得誘導CRiを取得誘導Iと時間整列させることにより、時間整列腕部基準胸部誘導CRi(時間整列CRiと称する。)を作成するステップ、
(b)計算された腕部基準胸部誘導CRi(計算誘導CRiと称する。)を表す計算和CLi+Iが取得誘導CRiと最適な一致を持つように、取得誘導CLiを取得誘導Iと時間整列させることにより、時間整列取得腕部基準胸部誘導CLi(時間整列CLiと称する。)を作成するステップ、のいずれかを実行するステップ、
および、
1~6に等しい整数iについて、時間整列前胸部誘導V1~V6を形成するために、時間整列誘導Iと、時間整列誘導IIおよび時間整列誘導IIIのうちの1つと、時間整列誘導CRiおよび時間整列誘導CLiのうちの1つとから時間整列前胸部誘導Viを計算するステップとを含み、
時間整列誘導I~IIIと、時間整列拡張肢誘導aVR、aVL、aVFと、時間整列前胸部誘導V1~V6とが合わさって標準12誘導ECGを形成する。
【0017】
本発明のコンセプトにより、順次取得される誘導から12の標準誘導(特に6つの標準前胸部誘導V1~V6を含む)を含む標準12誘導ECGを作成することが可能となる。特に、本発明は、順次取得される(「非同期の」)複数のECG信号から、標準12誘導ECGのI、II、III、aVR、aVL、aVF、V1~V6のすべてを、非常に高い精度で生成することが可能である。最も広い態様において、本発明のコンセプトによる方法は、標準12誘導ECGを生成するために、手元にある15の指定された非同期の取得誘導に対して実行される動作を含む。いくつかの実施形態によれば、本発明のコンセプトによる方法は、誘導を順次取得または記録する動作も含む。
【0018】
本発明のコンセプトは、2つの電極のみを有する単一誘導電子デバイスを用いて、対象者の身体上の2つの電極の位置を順次変更して15の誘導を順次取得することで、標準の12誘導をすべて含む標準12誘導ECGの作成を可能にする。このような単一誘導(2電極)電子デバイスは、特に、スマートウォッチ、スマートフォン、タブレットまたは専用の電子ECGデバイスなどのポータブルまたはウェアラブル電子デバイスであり得る。2つの電極は、スマートウォッチに統合されるなど、電子デバイスに統合されてもよい。一方または両方の電極は、電子デバイスに有線または無線で接続された電極であり得る。
【0019】
本発明のコンセプトが上述の先行技術に対して得られる特定の利点は、前胸部誘導V1~V6に関する。10の電極を持つECGマシンで従来の同期型12誘導ECGを記録する場合、各胸部電極C1~C6の電位から所謂ウィルソン中央端子(WCT)の電位を差し引くことにより、ECG記録中に前胸部誘導が連続的に「計算」される。AHA規格にもあるように、WCTはRA、LA、LLの3つの四肢電位の平均電位である。従来、単一誘導デバイスを使用する場合、WCTの代わりに右腕、左腕を基準として使用していた。測定されたCR誘導とCL誘導のPQRST波形は、WCT基準で記録された対応する計算された前胸部誘導の波形と同一ではない。本発明のコンセプトは、真の前胸部誘導V1~V6を生成するため、順次取得される誘導から真の標準12誘導ECGを生成することができる。
【0020】
したがって、15の特定の誘導を順次取得し、順次取得した15の誘導に対して時間整列と計算を行うことにより、順次取得された誘導から特に6つの標準前胸部誘導V1~V6を作成することができることは、本発明のコンセプトの知見である。これは、標準の前胸部誘導がVi=Ci-WCT、ここでWCT=1/3(RA+LA+LL)と定義されることを考えると、重要な知見である。WCTはRA、LA、LLから計算される「仮想の」電極を表すため、単一の電極を配置することはできない。従来の10電極のECGマシンでは、電極RA、LA、LLの3つの同時測定値を平均することで、身体の平均電位を継続的に与え、同期記録中にWCTを連続的に計算することができる。
【0021】
9つの標準誘導aVR、aVL、aVF、およびV1、V2、V3、V4、V5、V6は、物理電極の組み合わせからの同時測定値から計算される所与の物理電極と仮想電極間の電圧として定義される。aVR、aVL、aVF、V1、V2、V3、V4、V5、V6を正しく測定するためには、取得誘導に基づいて正しい計算を行うために、順次取得されるすべての信号を非常に正確に時間整列させる必要があることは、本発明のコンセプトの知見である。
【0022】
また、15の特定の順次取得誘導に対して本発明の方法を実行することにより、標準12誘導ECGの時間整列した12の標準誘導を作成することが可能であり、これは標準ECGの誘導数よりも3個多く、従来の同時取得の10電極心電計の取得誘導数よりも大幅に多い取得誘導であることは本発明のコンセプトの知見である。比較として、今日のデジタル10電極心電計の多くは、独立した情報の8チャネルのみを同時記録し、以下に詳細に説明するように、肢誘導のうちの4つは他の2つの誘導から導出される。非同期で順次取得される特定の15誘導に対して本発明の方法を実施することにより、取得誘導における特定の冗長情報を利用し、12の標準誘導を生成することが可能になる。
【0023】
したがって、2つの電極のみを順次測定で使用して、特に標準の前胸部誘導V1~V6を含み、標準の前胸部誘導V1~V6の代わりとして直接測定した「疑似胸部誘導」ではない正確な標準12誘導ECGの再現がどのように実現するかについての本発明のコンセプトとその解決策は、特定の冗長情報を含む12の「標準誘導」群を構成しない特定の取得誘導を使用し、これらの非標準誘導と取得した標準肢誘導I~IIIを組み合わせて時間整列と計算を行うことにより、標準12誘導ECGを生成するすべての12標準誘導を得るために必要な時間整列と計算を行うことができるという知見を含む。
【0024】
また、特に6つの腕部基準胸部誘導CR1~CR6と、6つの腕部基準胸部誘導CL1~CL6の両方を含む15の順次取得誘導に対して本発明の方法を実行することにより、時間整列した6つの標準前胸部誘導V1~V6を生成できることは、本発明の知見である。
【0025】
定義
本明細書で使用する場合、「誘導(lead)」という用語は、体表面の一対の電極間の経時的な電位差として測定される最初に取得された誘導と、その後時間整列(time-aligned)、平均化、または計算された誘導、特に標準12誘導ECGを構成する12の標準誘導のすべてを含む誘導との両方に使用される。明確のために適切な場合、誘導の異なる「状態」を示すために、「取得」、「時間整列」、「平均化」、「計算」という用語が使用される。
【0026】
本明細書で使用する場合、「標準12誘導ECG」という用語は、上記の背景欄で説明した12誘導ECG、すなわち12の標準誘導I、II、III、aVR、aVL、aVFおよびV1~V6を含むものと解される。特に、「標準12誘導ECG」および「12の標準誘導」という表現は、標準の前胸部誘導V1~V6を表すものではない疑似前胸部誘導や腕部基準前胸部誘導を含まないと解釈すべきである。
【0027】
本明細書で使用する場合、「単一誘導ECG装置」または類似の用語は、10個の電極を使用して全12の標準誘導を同時に生成するように構成されたECGデバイスまたはマシンとは対照的に、一度に1つの誘導のみを順次測定(非同期測定)または記録するように構成された装置と解釈される。したがって、「単一誘導ECGデバイス」という用語は、一度に1誘導ずつ順次記録しながら、標準12誘導ECGの12の標準ECG誘導のすべてを作成するという本発明のコンセプトを実施するために、ハードウェアおよび/またはソフトウェアによって変更された既存の単一誘導ECGデバイスも含むものとして用いられる。
【0028】
本発明のコンセプトでは、2つの電極を使用するだけでよい。これらは、従来の12誘導ECGと同じ電極位置に配置することができる。したがって、本願では、RA、LA、およびLL、ならびにC1~C6という用語は、電極そのものではなく、それぞれの電極の位置を指すものとして使用される。
【0029】
本明細書で使用する場合、用語「順次取得」、「順次記録」、「順次測定」などは、それぞれの電気的ECG信号を経時的に順次記録または取得し、各測定間で身体上の異なる電極位置の組を使用し、非同期の取得誘導をもたらす行為と解釈すべきである。
【0030】
本明細書において、「電極」という用語は、体表面の所与の位置における電位を測定するように構成された個別の電極または電極アセンブリを意味する。したがって、2以上の電極部品や部分によって形成された電極アセンブリも「電極」とみなされる。
【0031】
本明細書で使用する場合、「計算する」という用語は、計算または演算のために1または複数の電子処理ユニットを使用して計算することを意味する。
【0032】
本発明のコンセプトによる方法において時間整列誘導を生成する動作は、15の取得誘導の各取得誘導を平均化して15の対応する平均化拍動波形を生成することと、時間整列誘導I~IIIを作成するステップ、時間整列誘導CR1~CR6、および時間整列誘導CL1~CL6を生成するステップ(a)および(b)でそれぞれ、前記平均化拍動波形を取得誘導として用いることを含み得る。このような平均化拍動波形は、文献では「平均化群」とも呼ばれる。当然ながら、このような平均化には、取得した各誘導が2以上の心拍を表す期間にわたって記録されていることが必要である。各誘導の平均化は、誘導の各QRS群の最大偏位を検出し、この最大偏位を用いて拍動を整列させ、そこから平均化拍動を形成することによって行うことができ、また、この平均化から異なる波形形態を有する不整脈または余分な拍動を排除するための種々の戦略を取り入れることもできる。
【0033】
平均化拍動波形を形成するための取得ECG信号のそのような平均化を含むいくつかの実施形態では、本方法は以下を含み得る:
時間整列誘導I~IIIは、平均化された拍動波形I~IIIから生成され、時間整列平均化拍動波形I~IIIの形態となり、
時間整列拡張肢誘導aVR、aVL、aVFは、時間整列誘導I~IIIから計算され、時間整列平均化拍動波形の形態となり、
ステップ(a)およびステップ(b)において、取得腕部基準誘導CRiおよびCLiのそれぞれが平均化されて、関連する平均化拍動波形CRiおよびCLiがそれぞれ形成され、関連する平均化拍動波形CRiおよびCLiが、ステップ(a)およびステップ(b)で時間整列を行うために用いられ、得られる時間整列誘導CR1~CR6およびCL1~CL6は時間整列平均化拍動波形の形態となり、
前記時間整列平均化拍動波形から標準前胸部誘導V1~V6が計算され、計算されたV1~V6も時間整列平均化拍動波形の形態となる。
【0034】
平均化拍動波形を形成するために取得されたECG信号のそのような平均化を含むいくつかの実施形態では、最初に取得された生データは、平均化後に破棄されてもよい。しかしながら、順次取得される生データの全部または少なくとも一部を保存することが好ましい場合がある。これは品質管理に使用することができる。また、医療従事者やアルゴリズムによって、心臓のリズムを評価するために使用することができる。心不整脈の症状によっては、拍動波形の形態は決め手とならず、経時的な波形のリズムが決め手となる場合がある。
【0035】
一実施形態によれば、ステップ(a)の時間整列は、前記差CRi-Iと前記取得誘導CLiとの間の前記最適な一致を達成するために、取得誘導CRiと取得誘導Iとを互いに対して繰り返しシフトすることによって行われ、ステップ(b)の時間整列は、前記合計CLi+Iと前記取得誘導CRiとの間の前記最適な一致を達成するために、取得誘導CLiと取得誘導Iとを互いに互いに対して繰り返しシフトすることによって行われる。
【0036】
一実施形態によれば、取得誘導I~IIIから時間整列誘導I~IIIを生成する動作は、取得誘導I~IIIのうちの第3の取得誘導を基準として、取得誘導I~IIIの第1の取得誘導と取得誘導I~IIIの第2の取得誘導を時間整列させることを含む。非限定的な例として、取得誘導IIは、取得誘導IIIを基準として使用して、取得誘導Iと時間整列させることができる。時間整列は、計算された差分II-I(計算誘導IIIを表す)が、取得誘導IIIと最適な一致を有するように実行され得る。計算誘導IIIは、時間整列誘導IIIとして使用され得る。いくつかの実施形態において、時間整列は、前記最適な一致を達成するために、前記第1の取得誘導および前記第2の取得誘導を互いに対して反復的にシフトさせることによって実行することができる。他の実施形態では、取得誘導IIおよびIII、または取得誘導IおよびIIIが、時間整列のための前記第1および第2の取得誘導として使用される。
【0037】
本発明による方法の様々な動作またはステップは、任意の順序で実行することができるが、それでも、12の標準誘導が一緒になって標準12誘導ECGをもたらす。
【0038】
いくつかの実施形態によれば、ステップ(a)またはステップ(b)をそれぞれ実行する前に、時間整列誘導Iが作成され得る。ステップ(a)または(b)における時間整列は、それぞれ、次に時間整列誘導Iを用いて行うことができる。代替例として、取得した腕部基準胸部誘導の全部または一部を取得誘導Iと時間整列することから始め、次に時間整列誘導I~IIIを生成する動作を行うことも可能である。これらおよび他の可能な変形例については、さらに後述する。
【0039】
本発明のコンセプトによる方法の動作またはステップの順序に関して、6つの時間整列された前胸部誘導V1~V6の計算は、すべての時間整列誘導が利用可能な場合の最終ステップとして実行されてもよく、あるいは代替的に、計算は、その特定の前胸部誘導Viの計算に必要な時間整列誘導が利用可能となり次第、それぞれの前胸部誘導Viについて実行されてよいことにも留意されたい。
【0040】
本発明の方法によるステップ(a)およびステップ(b)は、1~6の各整数iについて、時間整列誘導CRiまたは時間整列誘導CLiのいずれも関連する時間整列標準前胸部誘導Viの計算において使用できるので、互いに代替的である。いくつかの実施形態では、ステップ(a)のみが6つの時間整列された腕部基準胸部誘導CR1~CR6の作成に用いられ、ステップ(b)は使用されず、6つの時間整列された腕部基準胸部誘導CL1~CL6は作成されない。いくつかの実施形態では、ステップ(b)のみが6つの時間整列された腕部基準胸部誘導CL1~CL6の作成に使用され、ステップ(a)は使用されず、6つの時間整列された腕部基準胸部誘導CR1~CR6は作成されない。これらの実施形態の組み合わせも可能であり、いくつかの実施形態では、ステップ(a)および(b)の両方が、1~6に等しいiについてそれぞれ実行される。
【0041】
いくつかの実装例では、12の腕部基準胸部誘導CR1~CR6およびCL1~CL6の取得は、対として実行され得る。1~6の整数iの場合、1つの電極を関連する共通の胸部位置Ciに配置したまま、取得誘導CRiと取得CLiは順次、任意の順序で一方のすぐ後に他方が測定され、したがって、2つの測定間で胸部電極を動かすことなく、各対の誘導CRi、CLiは任意の順序で一方のすぐ後に他方が測定される。
【0042】
15の取得誘導に存在する情報の冗長性は、ノイズ低減および/または取得時間短縮を含むさらなる利点を得るために利用され得る。このような実施形態は、各時間整列誘導を同じ誘導の関連する計算バージョンと平均化し、関連する平均化時間整列誘導を生成することにより、利用可能な冗長情報を可能な限り利用するステップを含み得る。このような平均化技術の詳細および実施例は、以下の詳細な説明に記載される。
【0043】
一実施形態によれば、本発明による方法は、時間整列誘導IおよびII、並びに時間整列前胸部誘導V1~V6から所謂フランク誘導X、YおよびZを数学的に導出することにより、ベクトル心電
図VCGを生成するステップを更に含み得る。
【0044】
ECGの評価で重要な方法は、VCGの評価である。VCGでは、フランクに従って誘導X、Y、Zを取得され、これらの誘導は身体の直交する3つの空間方向(左右、上下、前後)を表す。フランク誘導X、Y、Zの取得はほとんど行われないが、フランク誘導X、Y、Zは標準12誘導ECG、より具体的には標準肢誘導I、IIおよび標準前胸部誘導V1~V6から数学的に導出することが可能である。さらなる情報は、Kors JA, van Herpen G, Sittig AC, van Bemmel JH., 「Reconstruction of Frank vectorcardiogram from standard electrocardiographic leads: diagnostic comparison of different methods 」、Eur Heart J. 1990 Dec、11(12):1083-92に見ることができる。
【0045】
その研究では、導出されたVCGがフランクX、Y、Z誘導と非常に良好な一致を示すことが示されている。この導出は回帰分析を用いて開発され、誘導X、Y、Zを導出するために、肢誘導I、II、および前胸部誘導V1~V6を乗算する最適な係数が決定された。例として、フランク誘導Xは、Korsによる再構成行列を用いて以下のように計算することができる:
X = 0.38I-0.07II-0.13V1+0.05V2-0.01V3+0.14V4+0.06V5+0.54V6
【0046】
本発明のこの実施形態によりフランク誘導を生成するとき、上記計算で使用した8つの標準誘導(I、II、V1~V6)は、本発明の方法により生成された結果として時間整列しているため、正しいVCGを生成するためのフランク誘導X、Y、Zを数学的に導出するために使用することができる。また、VCG分析では、12誘導ECG全体の時間整列の精度が同時に求められる。
【0047】
本実施形態で得られるVCGは、任意でアルゴリズムや医療従事者がVCGやVCGから得られる数値指標を目視することで臨床診断に用いることができる。しかしながら、フランク誘導は高度な診断アルゴリズムに使用すると特に有利であることが実証されていることから、得られたVCGは、導出されたフランク誘導X、Y、Zの形で、高度な診断アルゴリズムによる評価にも有利に使用することができる。さらに、本発明のコンセプトによって得られたVCGプロットを用いて、以下に示すように、同時に記録された標準12誘導ECGとの高い一致を明確に示すことができる。
【0048】
本発明のコンセプトの第2の態様によれば、3つの標準肢誘導I、II、III、3つの標準拡張肢誘導aVR、aVL、aVF、および6つの標準前胸部誘導V1~V6によって構成される標準12誘導ECGを作成するためのシステムが提供され、該システムは、
2つの電極と、
少なくとも1つの処理ユニットであって、
対象者の身体の異なる位置に前記2つの電極を順次移動させながら、前記2つの電極間の15のECG誘導を順次取得する動作であって、これには3つの取得肢誘導I、II、III(取得誘導I~IIIと称する。)と、12の取得腕部基準胸部誘導CR1~CR6、CL1~CL6(取得誘導CR1~CR6およびCL1~CL6と称する。)が含まれ、1~6の整数iについて、取得誘導CR1~CR6およびCL1~CL6の各ペアCRiおよびCLiは、それぞれ右腕および左腕と、対応する標準前胸部誘導Viに関連する共通の胸部位置Ciとの間で取得される電圧差を表す、動作と、
取得誘導I~IIIから、誘導II-誘導I=誘導IIIの式を用いて、3つの時間整列された誘導I、II、III(時間整列誘導I~IIIと称する。)を生成する動作と、
時間整列誘導I~IIIから、3つの時間整列拡張肢誘導aVR、aVL、aVFを計算する動作と、
1~6の整数iについて、
(a)計算された腕部基準胸部誘導CLiを表す計算された差CRi-Iが、取得された誘導CLiと最適な一致を持つように、取得誘導CRiを取得誘導Iと時間整列させることによって、時間整列された腕部基準胸部誘導CRi(時間整列CRiと称する。)を生成するか、または
(b)計算された腕部基準胸部誘導CRiを表す計算された和CLi+Iが、取得誘導CRiと最適な一致を持つように、取得誘導CLiを取得誘導Iと時間整列させることによって、時間整列された取得腕部基準胸部誘導CLi(時間整列CLiと称する。)を生成する、
動作と、
1~6の整数iについて、時間整列前胸部誘導V1~V6を形成するために、時間整列誘導Iと、時間整列誘導IIおよび時間整列誘導IIIのうちの一つと、時間整列誘導CRiおよび時間整列誘導CLiのうちの一つとから時間整列前胸部誘導Viを計算する動作と、を実行する処理ユニットとを具え、
時間整列誘導I~IIIと、時間整列拡張肢誘導aVR、aVL、aVFと、時間整列前胸部誘導V1~V6とが合わさって標準12誘導ECGを形成する。
【0049】
一実施形態において、本システムは、前記2つの電極を含み、前記動作を実行するように構成された前記少なくとも1つの処理ユニットを含むポータブルまたはウェアラブルの単一誘導電子デバイスに組み込むことができる。いくつかの実施形態では、15誘導を順次取得し、そこから標準12誘導ECGを生成することに関するすべての動作は、さらなる外部デバイスを必要とせず、このような電子デバイスのみを使用して実行され得る。電子デバイスは、スマートウォッチ、スマートフォン、専用ECGデバイス等であり得る。2つの電極は、例えばスマートウォッチの外装に形成されるように、電子デバイスに統合されていてもよいし、一方または両方が電子デバイスとは別の電極として形成され、電子デバイスに有線または無線で接続されていてもよい。いくつかの実施形態では、電子デバイスは、ユーザが指示を出したり受け取ったりできるユーザインタフェースを提供するため、および生成された標準12誘導ECGを表示するなどの特定の機能のために、スマートフォン、タブレット、またはコンピュータなどの少なくとも1つの外部デバイスと通信し得る。
【0050】
代替的な実施形態では、本システムは、2つの電極を含むそのようなポータブルまたはウェアラブルの電子デバイスの一部と、少なくとも1つの外部デバイスの一部に組み込むことができ、前記電子デバイスと前記少なくとも1つの外部デバイスは互いに通信するように構成される。かかる実施形態において、少なくとも外部デバイスは、スマートフォン、タブレット、コンピュータ等、および/または、クラウドサーバ等の1以上のサーバを含む1以上の外部デバイスを含み得る。
【0051】
少なくとも1つの処理ユニットは中央処理装置(CPU)であってよく、1つまたは複数のコンピュータプログラムの命令を実行して本発明の方法の動作を実行し、任意で、誘導取得を制御することも可能であり、これにはユーザ命令の受信およびユーザ命令の提供が含まれる。少なくとも1つの処理ユニットは代替的に、ファームウェアとして、または特別に設計された処理ユニットとして実装され得る。本発明のコンセプトの最も広い態様において、少なくとも1つの処理ユニットは「クラウド」などのどこに提供されてもよい。
【0052】
本発明のコンセプトによるシステムは、方法の請求項のいずれかに定義された方法の動作を実行するように構成され得る。
【0053】
本発明の方法に関連して上述した利点および実施形態は、本発明のコンセプトによるシステムにも適用される。
【0054】
本発明のコンセプトの第3の態様によれば、処理能力を有する処理ユニットで実行可能なプログラムが記録された非一時的なコンピュータ可読記録媒体が提供され、前記プログラムは、電子デバイスで実行されると、いずれかの方法の請求項による方法を実行するように構成されたプログラムコード部分を含む。
【0055】
プログラムは、1以上の処理ユニットで方法を実装することができ、それは方法を実行するための専用の処理ユニットであってもよいし、コンピュータプログラム製品に基づいて方法を実行できる汎用の処理ユニットであってもよい。
【0056】
プログラム製品は、コンピュータ可読命令が格納され得る任意のコンピュータ可読媒体など、コンピュータ可読命令を備えるコンピュータ可読媒体で提供され得る。しかしながら、プログラムはさらに、または代替的に、サーバからダウンロードされてもよく、このプログラムは、ダウンロードされるコンピュータ可読命令を担持する信号として提供され得る。
【0057】
本発明のコンセプトの好ましい実施形態は、従属請求項に記載される。
【図面の簡単な説明】
【0058】
本発明のコンセプト、いくつかの非限定的な実施形態、および本発明のコンセプトのさらなる利点について、図面を参照しながら説明する。
【
図2】
図2は、拡張肢誘導VR、aVL、aVFを示す。
【
図4】
図4は、肢誘導を取得するために配置されたスマートウォッチを示す。
【
図5】
図5は、2つの腕部基準胸部誘導を取得するために配置されたスマートウォッチを示す。
【
図6】
図6は、2つの腕部基準胸部誘導を取得するために配置されたスマートウォッチを示す。
【
図7】
図7は、肢誘導I~IIIの時間整列を示す。
【
図8】
図8は、腕部基準胸部誘導CR1~CR6およびCL1~CL6の時間整列を示す。
【
図9】
図9a~9cは、15回の連続生データ取得と、対応する平均化拍動波形を示す。
【
図11】
図11a~11cは、本発明のコンセプトの精度を実証する波形を示す。
【
図12】
図12は、本発明の実施形態によって生成される標準12誘導ECGを示す。
【
図13】
図13は、本発明の実施形態によって生成された3次元VCGプロットである。
【
図14】
図14は、本発明の実施形態の動作を示すフローチャートである。
【
図15】
図15は、本発明の実施形態の動作を示すフローチャートである。
【
図16】
図16は、本発明のコンセプトによるシステムの一実施形態を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0059】
図1は、3つの標準四肢電極位置RA、LA、LLを示し、また、これらの電極間で3つの標準肢誘導I~IIIを測定する方法を示す。AHA規格によれば、肢誘導I~IIIは以下のように測定される:
I=電位差LA-RA (1)
II=電位差LL-RA (2)
III=電位差LL-LA (3)
【0060】
図2は、3つの標準拡張誘導aVF、aVL、AVRを示す。3つの肢誘導I~IIIは物理的な電極間で測定されるが、拡張肢誘導aVR、aVL、aVFの各々は、3つの電極RA、LA、LLのうちの関連する1つと、2つの反対側の電極の平均を表す関連する仮想電極(「ゴールドバーガー中央端子」と称する。)間で測定される。拡張肢誘導aVR、aVL、aVFは、AHA規格に基づき、簡略化のために上記式(1)~(3)を用いて以下のように計算する:
aVF=LL-(LA+RA)/2=(II+III)/2 (4)
aVL=LA-(RA+LL)/2=(I-III)/2 (5)
aVR=RA-(LA+LL)/2=-(I+II)/2 (6)
【0061】
図3は、標準12誘導ECGにおいて6つの標準前胸部誘導V1~V6の測定に使用される6つの標準胸部電極位置C1~C6を示す。拡張肢誘導について上述したように、6つの標準前胸部誘導V1~V6の各々は、関連する物理電極C1~C6の1つと、1つの仮想電極の間で測定される。前胸部誘導V1~V6には、RA、LA、LLで測定された3つの電位の平均を計算して得られる共通の仮想電極(ウィルソン中央端子(WCT)と称する。)が使用される:
WCT=(RA+LA+LL)/3 (7)
【0062】
標準前胸部誘導Vi(i=1~6)はそれぞれ、次のように計算される:
Vi=電位差Ci-WCT (8)
【0063】
したがって、標準12誘導ECTを構成する12の標準誘導のうちの9つは仮想電極から計算され、これらは2以上の測定電位から計算される。この事実は、すべての計算を時間同期させた誘導で実行する必要があるため、単一誘導デバイスを使用する場合の大きな課題となる。非同期で順次取得されるデータしかない場合、計算には同期データが必要なため、臨床的に信頼できる結果を得るには時間整列が重要になる。従来の同期型ECGマシンでは、記録時間中、同期した測定信号に対してすべての計算を連続して行うことができるため、この問題は生じない。後述するように、非同期のECG信号から十分に時間同期された信号を得ることは非常に困難である。わずかな時間シフトの誤り(時間整列ミス)でも、不正確で誤解を招く可能性があり、役に立たないECTとなる重大な影響を生じる可能性がある。非同期のシーケンシャルデータからマルチ誘導ECGを生成する先行技術の試みでは、提案された方法は、特に標準前胸部誘導V1~V6とWCTに関する問題を回避し、代わりにECGの(計算しない)直接測定した少ない非標準の誘導を使用することであった。このような解決手段から生じる偏差は、前述のVCG解析で述べた通りである。
【0064】
本発明のコンセプトの1つは、前胸部誘導V1~V6の各々が、対応する胸部電極Ciと腕部電極との間の電位差の測定で表現され得るという事実に基づいている。
【0065】
例えば、標準前胸部誘導V1は、以下のように計算され得る:
V1=C1-WCT=C1-(LA+LL+RA)/3=(3*C1-LA-LL-RA)/3=
(3*(C1-RA)-(LA-RA)-(LL-RA))/3=
(C1-RA)-((LA-RA)+(LL-RA))/3=CR1-(I+II)/3
ここで、
CR1=C1-RAである。
【0066】
したがって、標準前胸部誘導V1~V6のうち、1~6の整数iの各前胸部誘導Viは、測定された誘導CRi、I、IIから以下のように計算することができる:
Vi=CRi-(I+II)/3 (9)
ここで、
CRi=Ci-RA (10)
【0067】
本開示において、RAとC1~C6の間で測定される誘導CR1~CR6は、「腕部基準胸部誘導」と称す。LAとC1~C6の間で測定される誘導CL1~CL6も、「腕部基準胸部誘導」と称す。
【0068】
本発明は、取得される3つの誘導CRi、I、IIを正確に時間整列できれば、上の式(9)および(10)を用いて、順次取得される非同期誘導から標準12誘導ECGの前胸部誘導V1~V6の「合成」が可能であるという知見に部分的に基づいている。
【0069】
しかしながら、QRS群のピークに基づいて平均拍動の時間整列を用いて、取得ECG信号を時間整列しようとすると失敗する。QRSのピークは異なる誘導で異なる時点で発生するため、QRS群のピークを時間整列の時間基準として使用することはできない。したがって、QRS群のピークを使用すると時間整列が不正確になり、その結果、前胸部誘導V1~V6の計算が不正確になる。
【0070】
本発明のコンセプトは、非標準誘導からの情報の冗長性、すなわち、順次取得される腕部基準胸部誘導CR1~CR6と順次取得される腕部基準胸部誘導CL1~CL6の両方からの情報の冗長性を利用すれば、順次取得される非同期誘導から標準12誘導ECGの標準前胸部誘導V1~V6を「合成」することが可能という知見にも部分的に基づいている。
【0071】
本発明のコンセプトは、時間整列動作と計算動作とを含む。これらの動作は、様々な順序で行うことができる。ここで、第1の非限定的な実施形態が、
図4~
図8および
図9A~
図9Cを参照して説明され、ここで順次取得は、2つの電極、ディスプレイ、処理ユニット、および処理ユニット上で実行されると後述の動作を行うように構成されるプログラム(アプリ)を具える、スマートウォッチ10の形態の単一誘導型の電子デバイスを使用して行われる。第1の電極はスマートウォッチの背面側に配置され、第2の電極はスマートウォッチ10のクラウン12、および/またはフレーム、および/または他の明確に触れられる部分に形成される。本明細書では、第2の電極のすべての変形例をまとめて「クラウン」と称する。
【0072】
3つの肢誘導I~III、6つの腕部基準胸部誘導CR1~CR6、6つの腕部基準胸部誘導CL1~CL6の特定15誘導が順次取得される。
図9A~9Cは、15秒の間に対象者から記録された15個の波形を右側に示す。これは、本発明のコンセプトによる標準12誘導ECGを構成するための時間整列と計算を行うのに必要な、代表的な対象者1人の15回の順次取得の生データである。小さな円はQRS群の最大偏位を検出したものであり、
図9a~9cの左側に示す平均拍動波形を形成するための記録の位置合わせに用いられる。
【0073】
この非限定的な実施形態では、
図4および
図7に示されるように、最初に肢誘導I~IIIが記録される。スマートウォッチ10は、最初に対象者の左手首に装着され、または保持され、スマートウォッチの裏面の第1電極が電極位置LAに接触している。右手の人差し指がクラウン12に接触すると、回路が閉じる。第2電極位置は、電極位置RAに相当する。肢誘導I(LA-RA)が、後の平均化のために、少なくとも1つの心拍、好ましくは複数の心拍を表す期間にわたって記録される。図示のケースでは、すべての誘導が15秒間記録された。その後、スマートウォッチ10の背面側電極を電極位置LAおよびLLに接触させた状態で保持することにより、肢誘導II、肢誘導IIIがそれぞれ記録される。誘導II(LL-RA)の測定では右手をクラウン12に接触させ、誘導III(LL-LA)の測定では左手をクラウン12に接触させる。電極位置LLは、
図7に電極位置を破線で示すように、左脚(足首、膝)または腹部左下の任意の位置でよい。このようにして、順次取得される3つの肢誘導I~IIIが得られ、スマートウォッチ10のメモリに保存される。順次取得したデータを
図9aの右側に示す。
【0074】
続いて、
図5、
図6、
図8に示すように、12の腕部基準胸部誘導CR1~CR6、CL1~CL6を順次測定する。
図5を参照すると、ユーザは最初に、電極位置C1で背面側電極を胸に接触させ、右手をクラウン12(第2電極)に接触させて回路を閉じるようにスマートウォッチ10を保持する。この位置では、誘導CR1=C1-RA(
図8)が記録される。その後、スマートウォッチ10を
図6と同じ位置に維持しながら、ユーザは左手でクラウン12に触れ、電極LAとC1との間の誘導CL1(
図8)を記録する。この手順を繰り返し、すべての誘導ペアCRiとCLiを順次記録する。このようにして、12の腕部基準胸部誘導CR1~CR6、CL1~CL6が順次記録されてスマートウォッチ10のメモリに保存される。記録された波形を
図9bと
図9cの右側に示す。
【0075】
実行される時間整列と計算の精度を最適化するために、
図9a~9cの右側に示す15の取得誘導のそれぞれについて平均拍動波形を作成することが有益である。プログラムは、実行されるとそのような平均化を行うように構成されていることが好ましい。平均化は、すべての拍動をQRS群のピーク(記録データにおいて小さな円で示す)に合わせることによって実行され、各取得誘導に対応する平均化された拍動波形を形成することができる。結果として得られる15の平均拍動波形が
図9a~9cの左側に示され、その後の時間調整と計算に使用される。目標とする標準12誘導ECGを形成する、得られた12誘導の各々は、拍動波形の形でもある。上述のように、QRS群のピークを用いるこのような時間整列は、異なる誘導を互いに時間整列させるためには使用できず、平均化目的のために共通の誘導の拍動波形を整列させるためにのみ使用できることに留意されたい。
【0076】
取得された肢誘導I~IIIは情報の冗長性があり、これを用いて、以下の式に基づいて、時間整列肢誘導I~IIIを構成することができる:
誘導III=誘導II-誘導I (11)
【0077】
式(11)は、
図7のベクトル和I+III=IIと見なすことができる。誘導IIIは誘導II-誘導Iとして計算できるが、順次取得された誘導Iと誘導IIの時間シフトは不明である。いくつかの実施形態では、この減算は、計算された誘導IIIと取得された誘導IIIとの間の最適な一致が達成されるまで、IとIIとの間の時間整列を反復的にシフトしながら行われ得る。ウォッチのプログラムは、このような時間整列を実行するように構成され得る。計算された誘導IIIと取得された誘導IIIとの間の差は、誘導Iと誘導IIとの間で最適な時間整列が達成されたときに最小となる。一例として、取得誘導Iを基準として使用し、取得誘導IIを時間シフトさせることができる。このようにして、時間整列した誘導IおよびIIを構成することができる。時間整列誘導IIIは、上記式(11)で計算することができる。平均化された拍動波形が作成された本実施形態では、平均化拍動波形に対して時間整列および計算が行われ、得られる時間整列誘導I~IIIは、
図9aの左側に示すような拍動波形の形となる。
【0078】
上記式(4)~(6)を用いて、ウォッチの処理ユニットにより、正確に時間整列された誘導I~IIIから、時間整列された拡張誘導aVR、aVL、aVFが計算される。計算された拡張誘導aVR、aVL、aVFも拍動波形の形となる。
【0079】
標準肢誘導I~IIIが物理電極間で測定されるのとは対照的に、標準前胸部誘導V1~V6は、従来のECGマシンを使用する場合、従来は上記式(7)および(8)に従って仮想WCTから計算されていた。しかしながら、6つの腕部基準胸部誘導CR1~CR6と6つの腕部基準胸部誘導CL1~CL6を順次記録して得られる情報の冗長性により、正確な時間整列を行うことができ、最終的には時間整列誘導から6つの標準前胸部誘導V1~V6を高い精度で正しく計算することが可能となる。
【0080】
一実施形態では、
図8を参照すると、取得誘導CL1を整列基準として用い、式CL1=CR1-Iを用いて、時間整列誘導Iと取得された腕部基準誘導CR1との間で時間整列が行われる。すでにIIおよびIIIと時間整列されている誘導Iに対してCL1が時間シフトされ得る。すべてのペアCRiおよびCLiを用いて同様の時間整列を行うことにより、式を用いて6つの時間整列誘導CR1~CR6を構成することができる(i=1~6):
CLi=CRi-I (12)
【0081】
取得された6つの腕部基準胸部誘導CR1~CR6の各々(CRi)の時間整列は、既に時間整列された取得誘導Iaに対して、取得誘導CRia(添字aは取得誘導を示す)の時間整列を、
CLic=CRia-Ia (13)
としてCRiaとIaの取得値から算出される、計算された誘導CLIc(添字cは計算された誘導を示す)と、取得された基準値であるCLiaの差が最小限となるまで、繰り返しシフトすることによって実行することができる。
【0082】
処理ユニットによる上記の時間調整と計算を経て、3つの時間調整誘導I、IIと、6つの時間調整誘導CR1~CR6が得られる。これらの誘導はすべて互いに時間整列しているため、計算に使用することができる。上記式(9)(Vi=CRi-(I+II)/3)を用いて、処理ユニットによって、時間整列されたI、時間整列されたII、および時間整列されたCR1~CR6から、6つの時間整列された標準心前胸部誘導V1~V6を計算することができる。
【0083】
連続データから標準前胸部誘導V1~V6を作成するプロセスは、標準肢誘導I~IIIを時間整列するプロセスとは異なることに留意されたい。V1~V6を作成する際、時間整列は、12の標準誘導のセットの一部ではない、12の順次取得される誘導を使用して実行される。V1~V6の各前胸部誘導Viを取得するために、本発明のコンセプトは、関連する胸部電極Ciの2つの測定と、標準ECGの一部を構成しない誘導の取得を使用する。
【0084】
図12は、本発明の方法によって得られた標準12誘導ECGの一例を示す図であり、
図9a~9cの当初非同期の15の取得誘導から作成された、3つの時間整列標準肢誘導I~III、3つの時間整列標準拡張誘導aVR、aVL、aVF、6つの時間整列標準前胸部誘導V1~V6で構成されている。
図12における12の標準誘導の各々は、平均化拍動波形の形になっている。
図12のECGの下部には、一実施形態における、複数の心拍をカバーする期間にわたって測定された取得肢誘導IIも含まれている。他の実施形態では、さらに、または代わりに、複数の心拍をカバーする期間にわたって取得された15の誘導の任意の組み合わせを表示してもよい。
【0085】
本発明のコンセプトの範囲内で、式(9)の変形例を用いて、前胸部誘導V1~V6を計算することができる。まず、誘導IIと誘導IIIは式(11)の関係にあるため、誘導IIと誘導IIIのいずれかをViの計算に使用することができる。さらに、上記式(12)による誘導CLiと誘導CRiの関係から、Viの計算にはCLiとCRiのいずれを用いてもよい。
【0086】
一例として、請求項1のステップ(b)を用いて、CR1~CR6を基準として、数式:
CRi=CLi+I (12’)
を用いて、誘導CL1~CL6を時間整列誘導Iで代わりに時間整列し、計算された誘導CRic(取得したCLia+時間調整された取得したIaの合計として計算される)と取得されたCRiaとの差が最小になるまで(最適な整列を表す)、時間調整された誘導Iに対して各取得誘導CLiaを時間シフトして、6つの標準前胸部誘導V1~V6のうち1以上を計算することができる。したがって、6つの前胸部誘導V1~V6の任意の数を、時間整列させたCLiと時間整列させたIIIおよびIから、次のように計算することができる:
Vi=CLi-(III-I)/3 (14)
【0087】
さらに、前胸部誘導V1~V6の各々は、上述のように時間整合したCRiまたはCLiの取得バージョンから、または時間整合したCRiまたはCLiの計算バージョンから算出することができる。例えば、上記の例で説明したように、Viを計算するために時間整列した取得CRiを使用する代わりに、式(14)を使用して時間整列したCLiの計算バージョンからViを計算することができ、ここで時間整列したCLiはステップ(a)で得られた時間整列したCRiおよび時間整列したIから計算される。同様に、各Viは時間整列されたCRiの計算バージョンから計算することもでき、ここで時間整列されたCRiは、ステップ(b)で得られた時間整列された取得CLiおよび時間整列されたIから計算される。
【0088】
時間整列と計算の順序は必須ではなく、必要な時間整列の値に対して計算が行われる限り、本発明のコンセプトはあらゆる可能な順序をカバーすると考えられる。
【0089】
別の方法として、誘導Iと腕部基準胸部電極の時間整列を開始し、その後、時間整列された誘導I~IIIを作成することが可能である。
【0090】
6つの前胸部誘導V1~V6の計算は、すべての時間整列が行われた時点で行うことができる。代替例として、各前胸部誘導Viは、Viの計算に必要な対応する時間整列誘導が形成されると同時に計算されてもよい。
【0091】
いくつかの実施形態では、平均化、時間整列、および計算が実行される前に、15回の取得がすべて実行されてもよい。他の実施形態では、時間平均化、時間整列、および計算の1つ以上の動作は、それぞれの動作に必要なデータが利用可能になった時点で実行してもよい。
【0092】
図10を参照すると、時間整列された値から正しく計算された値を得るためには、非常に正確な時間整列を得ることがいかに重要であるかが示されている。
図10の拍動波形は、本発明のコンセプトを用い、対象者に対して本発明者らが行った研究から得られたものである。各拍動波形が1000msの期間にわたり表示されている。
図10は、取得した誘導CL1aと取得した誘導I
aとの間の時間シフトを、0~8msの範囲内でわずかに変化させた場合の効果を示す。
図10において、添字の「a」は「取得」、添字の「c」は「計算」を意味する。
【0093】
図10の1段目は、取得した誘導I
aを示す。2段目は、取得した誘導CL1
aを示す。3段目は,式(12)により計算された誘導CR1
c=I
a+CL1
aを示す。4段目は、取得した誘導CR1
aを示す。上の2段の取得誘導CL1
aと取得誘導I
aを時間整列させる場合、計算誘導CR1
cは取得誘導CR1
aとできるだけ厳密に一致させ、すなわちその間の差分CR1
a-CR1
cをできるだけ小さくする必要がある。
図10の5段目は、時間シフトを1ms単位で変えた場合の差分CR1
a-CR1
cを示す。他の実施形態では、時間整列を最適化するために、時間シフトは1msより短いか長い間隔であってもよい。この例では、4msの時間シフトで最適な時間整列が達成され、5段目で実質的に差がゼロとなる。例えば、5段目の右端と左端の波形のように、わずか1ミリ秒、あるいは数ミリ秒(波形全体の長さが約1000ミリ秒であることを考慮)の時間シフトが不正確であると、顕著な不正確さが発生する。したがって、時間整列の時間シフトがわずかに不正確でも、Viの計算値が不正確になり得る。4msの時間シフトで得られるほぼゼロの値は、したがって、最も正確に計算された誘導V1を生成する。
【0094】
次に、
図9a~9cと同じ対象者の肢誘導I、II、III、aVR、aVL、aVFを示す
図11a、11bを参照されたい。これは、本発明者らが行った研究の結果であり、15の誘導を連続取得してから本発明のコンセプトによる整列と計算を行った結果と、従来の12の誘導をすべて同時取得した結果とを比較したものである。
【0095】
最初の2列は「12誘導同時取得 1」と「12誘導同時取得 2」とラベルされ、従来の12誘導ECGマシンで同期的に記録された2つの個別の同時取得を示し、「真の」誘導を示している。3列目の「非同期取得、正しく整列」は、同じ対象者からの
図9a~9cの連続取得をもとに、本発明のコンセプトに従って時間整列と計算を行い、得られた結果を示す。4列目の「非同期取得、R波整列」は、本発明のコンセプトによる時間整列を行わず、QRS群の最大偏位のみを取得誘導の時間整列基準として用いた場合の「整列されていない」結果を示す。V1、V2、V3のように、違いが顕著なものを丸印で強調表示している。
図11a、11bはまた、2つの第1列の「真の」誘導と本発明のコンセプトによって得られた結果との間の優れた一致を明確に示している。
【0096】
【0097】
上記の表Iは、Korsによる行列であり、VCGの導出フランク誘導X、Y、Zを算出するために、誘導I、II、V1~V6の値を乗算および合計する係数を示している。このように、フランク誘導X、Y、Zは、本発明のコンセプトによって作成された8つの標準誘導I、II、V1~V6がすべて時間整列しているため、数学的に導出(計算)することができる。したがって、本発明のコンセプトにより、順次取得されるECG信号に対してVCG解析を行うことも可能であり、結果としてVCG誘導に基づく高度な診断アルゴリズムも可能となる。
【0098】
例えば、フランク誘導Xは、上記の行列を用いて、以下のように計算することができる:
X=0.38I-0.07II-0.13V1+0.05V2-0.01V3+0.14V4+0.06V5+0.54V6
【0099】
図11cおよび
図13は、本発明のコンセプトによって得られた誘導I、II、V1~V6から誘導X、Y、Zを生成した結果である。特に誘導Zでは、QRSの時間整列が使用されていないため、微妙なズレが認められる。しかしながら、本発明によって得られる実質的な利点は、グラフィカルなVCGプロットでより理解されるであろう。
【0100】
図13は、
図11cの導出された誘導X、Y、Zを3次元的にプロットした図である。
図11cと同じラベルを用いている。最初の2つは、12誘導ECGを別々に同時取得した場合の結果である。太い実線で描かれた曲線は、本発明のコンセプトによる順次取得に基づく時間整列と計算の結果である。破線で描かれた第4の曲線は、本発明のコンセプトを用いずに、QRS群の最大偏位のみで時間整列を行った場合の「整列していない」結果を示す。
図13のVCG解析では、本発明のコンセプト(黒実線)が真の基準値と優れた一致を示すのに対し、破線の曲線は顕著な差異を示すことが明確に示されている。
【0101】
任意のさらなる平均化
概要欄で述べたように、15の取得誘導に存在する情報の冗長性は、任意選択で、誘導の取得バージョンと計算バージョンを平均化することによって、ノイズ低減および/または取得時間の短縮を含む追加の利点を得るために使用することができ、それによって利用可能なすべての冗長情報が可能な限り活用される。平均化は、1以上の処理ユニットによって実行される。この手法を用いた例として以下の説明および計算では、取得した誘導は添字「a」で、計算した誘導は添字「c」で、平均化した誘導は下線で識別される。一般式は以下のように記述できるが、他のタイプの平均化も考慮されることが理解される:
誘導X=(誘導Xa+誘導Xc)/2
【0102】
誘導IIIの場合、このようなさらなる平均化は、次のように行うことができる:IaおよびIIaが、時間整列Iaおよび時間整列IIaを形成するための基準としてIIIaを使用して時間整列される場合、計算された時間整列誘導IIIcは、その後、以下のように計算することができる:
時間整列IIIc=時間整列IIa-時間整列Ia
【0103】
誘導IIIは、ともに時間整列された、取得バージョンIIIaと計算バージョンIIIcの2種類が利用可能である。2つのバージョンは互いに時間整列されているため、次のように平均化することができる:
III=(IIIa+IIIc)/2
【0104】
得られた平均化誘導IIIは、情報の冗長性を利用して得られたものであり、より低いノイズレベルを示し得る。
【0105】
平均化誘導Iは、最初にIaを基準としてIIaとIIIaを時間整列させ、その後時間整列されたIIaとIIIaから時間整列されたIcを計算し、最後に平均化されたI=(Ia+IIc)/2を計算することにより同様に計算することができる。
【0106】
平均化誘導IIも同様に計算することができる。
平均化した拡張誘導aVR、aVL、aVFは、取得した誘導IとII、IIとIII、またはIとIIIの任意の2つの組み合わせから生成された拡張誘導を平均化することによって計算され得る。あるいは、誘導aVR、aVL、aVFは、上記の平均化誘導I、II、IIIを用いてこれらの誘導を計算した結果となる。
【0107】
平均化した各前胸部誘導Viは、平均化されたCRi、I、IIから、Vi=CRi-(I+II)/3として計算することができる。代替例として、代わりに式(14)およびCLiを使用することができる。この例では、平均化したCRiは、CRiの取得バージョンと計算バージョンの平均として計算することができる:
CRi=(CRia+CRic)/2
【0108】
計算バージョンCRicは、式(10)を用いて、以下のように計算することができる:
CRi=Ci-RA
【0109】
その後、各平均化Viを、式(9)を用いて、以下のように計算することができる:
Vi=CRi-(I+II)/3
【0110】
この平均化手法と、取得信号の情報の冗長性をすべて利用することで、ノイズを同レベルに維持しながら取得時間を短縮することができる。例えば、それぞれわずか5秒程度の順次取得から標準12誘導ECGを生成することが可能である。明らかに、ECGの取得を連続記録する場合に、取得時間の短縮は特に有効である。
【実施例1】
【0111】
図14は、本発明のコンセプトの一実施形態による標準12誘導ECGを作成するための一連の動作を含むフローチャートを示す。本実施形態では、順次取得される15のECG誘導から標準12ECG誘導を生成するためのすべての時間整列および計算が、
図4~
図6のスマートウォッチ10のようなスマートウォッチにおいて実行され得る。しかしながら、任意選択で、スマートウォッチは、強化されたユーザ体験や機能を提供するために、スマートフォン、タブレット、コンピュータなどに接続されてもよい。スマートウォッチ10は、ユーザインタフェースと、少なくとも1つの処理ユニットと、フローチャートに示すステップを実行するように構成された「ウォッチアプリ」と呼ばれるプログラムを有する非一時的なコンピュータ可読記録媒体とを具える。
【0112】
第1のステップでは、ユーザがウォッチのアプリを開く。この時点で、非限定的な例として、ユーザは
図4に示すようにスマートウォッチを片方の手首に装着している。ユーザインターフェース(または接続されたスマートフォン等)において、ユーザは「12誘導心電図を記録」を選択することにより、手順を開始する。ウォッチは、次の取得のためのウォッチと手のポジショニングを、視覚的および/または聴覚的な指示を提供する。スマートフォン等がスマートウォッチと通信している場合、スマートウォッチのポジショニングのためのグラフィカルな指示を提供してもよい。例えば、最初の指示は、誘導Iの取得のために
図4のようにウォッチを保持することであり得る。その後、ユーザはウォッチに「次」と指示し、最初の取得を開始することができる。非限定的な例として、これは、ディスプレイ上のボタンを押すこと、物理的なボタンを押すこと、音声による指示を与えること、またはその他の方法で実行することができる。これにより、ウォッチは、所定時間にわたり第1の誘導の取得を実行する。取得中、任意でECG信号品質をウォッチのディスプレイに表示してもよい。これは、ECGの記録を手伝っている、または完全にその人のためにやっている第二の人物(医師、看護師、救急隊員、その他の医療専門家、その他の補助者等)のために見えることが有益であり得る。それぞれの取得後に、取得したECG信号がウォッチのメモリに保存される。
図14に示すように、上記のシーケンスがすべての誘導について繰り返される。最後の15番目の取得が終わると、ウォッチアプリは上述した整列と計算を行い、12誘導ECGを生成する。上記のように、取得した生データは、様々な目的のために任意に保存することができる。
【0113】
作成された12誘導ECGは、スマートウォッチに表示され、外部の同期した電子デバイス(例えば、スマートフォン、タブレット、またはコンピュータ)の大きなディスプレイに表示され、例えば電子メールを介して共有されてもよい。
【実施例2】
【0114】
図15は、本発明のコンセプトの一実施形態によるシステム100を用いて、
図16に模式的に示す本発明のコンセプトの別の実施形態による12誘導標準ECGを作成する一連の動作を含むフローチャートを示す。この実施形態では、各動作は、一部がここではスマートウォッチ10の形態の装着型または移動型の電子デバイスによって行われ、また一部は1以上の外部デバイスによって行われる。
図16に示すシステムの例では、システム100は、
図16に示すように互いに通信する、接続されたスマートフォン20、クラウドサーバ30等、および専用サーバ40をさらに含む。また、スマートフォン20、クラウドサーバ30、専用サーバ40と通信する別個のコンピュータ50を含んでもよい。スマートウォッチとスマートフォン20との接続は、典型的にはBluetooth経由であり、一方でサーバ40、50との接続はインターネット経由であり得る。システム100に含まれる「1以上の処理ユニット」は、本例では、腕ウォッチ10、スマートフォン20、クラウドサーバ30、および/または専用サーバ40に含まれる1つまたは複数の処理ユニットを含み得る。上記のように、時間整列と計算の動作は、本質的にどこで行われてもよい。
【0115】
取得シーケンスは
図14の例Iと同様であるが、ユーザが例えばスマートフォン20で専用のアプリやウェブページを開いて取得を開始する点が異なる。専用アプリまたはウェブページで「12誘導ECGを記録」を選択した後、ユーザは、15回の取得のうち最初の取得のためにスマートウォッチ10をどこに配置するかの指示を受ける。誘導Iを表す、30秒間(または他の所定の期間)のECG信号の取得が実行される。前の例と同様に、また符号21で示すように、ECG信号品質は任意で、信号品質に関する視覚的フィードバックを与えるために、スマートフォン20上で取得中に「ライブ」で観察することができる。このような視覚的フィードバックは、符号11で示すようにスマートフォン10のディスプレイ上にも提供されてもよいし、まったく提供されなくてもよい。この誘導に対する取得が完了したら、ユーザは最初の誘導の取得完了を示す入力を行うように指示され、これは例えば、ウェブページまたはアプリ20の「次へ」ボタンを再度押すことによる。時刻が登録され、登録された時刻は、登録された時刻より前の直近の取得時刻に関連付けられる。これにより、各取得が「ラベル」に関連付けられ、システムは、どの取得が15の順次取得された誘導のどれに対応するかを知ることができる。ウェブページやアプリには「次へ」を押した時刻が記録され、「次へ」を押した時刻の直前に取得されたECGであることが識別される。
【0116】
取得のすべてまたはそれぞれの終了時に、スマートウォッチ10はECG信号をスマートフォンアプリに保存し、スマートフォンアプリはECG取得をスマートフォン20のインターネット接続を介してクラウドサーバ30に転送する。
【0117】
最後の15回目の取得の終了時に、代替的にスマートフォンベースのアプリであり得る専用ウェブサーバ40は、クラウドサーバ30に接続し、15回のECG取得を専用サーバ40にダウンロードし、そこで本発明のコンセプトに従って整列と計算が行われる。その後、生成した
図12に示すECGと同様の12誘導ECGがユーザに提示される。
図16に示すように、生成された12誘導ECGは、スマートフォン20および/またはコンピュータ50に送信され、そこで12誘導ECGが符号51で示すように大きなディスプレイ上に表示され得る。ユーザは、ECGを表示したり、自分自身や医療従事者にPDFなどでメール送信したりすることができる。
【0118】
この例では、ユーザが当初スマートフォンにアクセスできない場合でも、スマートウォッチを使用して記録を実行することができる。取得された誘導は、スマートウォッチとスマートフォンが次に接続されたときに自動的にスマートフォンに転送され、その後クラウドに転送され、最終的に標準12誘導ECGの計算と表示に使用される。
【0119】
以下に、本明細書に記載のシステムおよび方法の実施形態の例を示す。
本明細書に開示されるのは、二重電極(例えば単一誘導)デバイス)を用いてECGを決定または生成する方法およびシステムである。この方法は、一連の非同期の(例えば、時間整列していない)測定誘導を得ることを含み得る。非同期測定誘導の各々は、デバイスの2つの電極(例えば、単一誘導)を介して取得することができる。2つの電極(例えば、単一誘導)は、一連の非同期測定誘導の取得中に、患者の身体の様々な位置に配置され得る。
【0120】
本方法は、非同期測定誘導の1つまたは複数についてそれぞれの時間シフトを決定することを含み得る。例えば、第1の誘導は、デバイスの2つの物理電極間の第1の電位(例えば、電圧、電圧関数など)を測定することによって特定され得る(例えば、肢誘導I)。第2の誘導は、デバイスの2つの物理電極間の第2の電位を測定することによって特定され得る(例えば、肢誘導II)。第3の誘導は、デバイスの2つの物理電極間の第3の電位を測定することによって特定され得る(例えば、肢誘導III)。第1、第2、および第3の誘導は、非同期的に測定された誘導に対応し得る(例えば、時間的に連続して取得または測定され得る)。第1、第2、第3の誘導は、非同期測定誘導の平均化された波形に対応し得る。
【0121】
本方法は、第1の誘導または第2の誘導のうちの1つまたは複数について時間シフトを実行することを含み得る。例えば、第1の誘導または第2の誘導の1または複数に対して時間シフトを実行し、(a)第3の誘導(例えば、肢誘導III)と、(b)(i)第2の誘導(例えば、肢誘導II)と(ii)第1の誘導(例えば、肢誘導I)と、の間の差を最小化する時間シフト値が決定され得る。一旦、(a)第3の誘導(例えば、肢誘導III)と、(b)(i)第2の誘導(例えば、肢誘導II)と(ii)第1の誘導(例えば、肢誘導I)と、の間の差を最小化する時間シフト値が決定されると、方法は、第1の誘導の時間整列バージョン、第2の誘導の時間整列バージョン、および第3の誘導の時間整列バージョンを決定することを含み得る。
【0122】
第1および第2の誘導の時間整列バージョンは、決定された時間シフト値を第1または第2の誘導の1つ以上に適用することによって決定され得る。例えば、第1の誘導を基準として使用し、第2の誘導に時間シフト値を適用することができる。別の例では、第2の誘導を基準として使用し、第1誘導に時間シフト値を適用することができる。別の例では、時間シフト値の一部を第1および第2の誘導の各々に適用して、第1および第2の誘導の時間整列バージョンを決定することができる。第3の誘導の時間整列バージョンは、第2の誘導の時間整列バージョンと第1の誘導の時間整列バージョンとの間の差を取ることによって決定され得る。一例では、第1、第2、および第3の誘導は、非同期的に取得された肢誘導(例えば、肢誘導I~III)に対応し得る。一例では、第1、第2および第3の誘導の各々は、デバイスからの非同期測定値に基づいて決定された平均化拍動波形に対応し得る。
【0123】
本方法はさらに、第1の誘導の時間整列バージョン、第2の誘導の時間整列バージョン、および/または第3の誘導の時間整列バージョンのうちの1つまたは複数を使用して、1つまたは複数の仮想誘導または拡張誘導を決定することをさらに含み得る。例えば、3つの拡張誘導は、第1の誘導の時間整列バージョン、第2の誘導の時間整列バージョン、および第3の誘導の時間整列バージョンに基づいて決定され得る。3つの拡張誘導は、拡張肢誘導aVR、aVL、aVFに対応し得る。例えば、拡張肢誘導aVR、aVL、aVFに対応する3つの拡張誘導は、それぞれ肢誘導I~IIIとして、第1の誘導の時間整列バージョン、第2の誘導の時間整列バージョン、および/または第3の誘導の時間整列バージョンを用いて、上記の式(4)~(6)で決定することができる。
【0124】
一例では、デバイスを用いて決定または測定される非同期誘導は15であり得る。例えば、15の非同期誘導は、3つの非同期肢誘導(例えば、肢誘導I~III)、6つの第1非同期腕部基準胸部誘導(例えば、CR1~CR6)、および6つの第2非同期腕部基準胸部誘導(CL1~CL6)を含み得る。一例では、15の非同期誘導のうち1以上またはそれぞれについて、それぞれの平均化拍動波形を決定することができる。この平均化は、それぞれの非同期誘導内のピークを揃えることで行うことができる。
【0125】
一例では、時間整列は、3つの肢誘導の時間整列バージョン(例えば、上述の第1の誘導の時間整列バージョン、第2の誘導の時間整列バージョン、および/または第3の誘導の時間整列バージョン)を用いて、6つの第1非同期腕部基準胸部誘導(例えば、CR1~CR6)の1以上と、6つの第2非同期腕部基準胸部誘導(CL1~CL6)の1以上の間で実行され得る。例えば、6つの第1非同期腕部基準胸部誘導のうちの第1の誘導(例えばCR1)と、6つの第2非同期腕部基準胸部誘導のうちの第1の誘導(例えばCL1)と、第1の誘導の時間整列バージョンとの間で時間整列が実行され得る。
【0126】
例えば、6つの第2の非同期腕部基準胸部誘導のうちの第1の誘導(例えば、CL1)は、第1の誘導の時間整列バージョン(例えば、時間整列肢誘導I)に基づいて、6つの第1非同期腕部基準胸部誘導のうちの第1の誘導(例えば、CR1)に適用すべき時間シフトを決定するための整列基準として使用され得る。別の例では、6つの第1非同期腕部基準胸部誘導のうちの第1の誘導(例えば、CR1)は、第1の誘導の時間整列バージョンに基づいて、6つの第2非同期腕部基準胸部誘導のうちの第1の誘導(例えば、CL1)に適用すべき時間シフトを決定するための整列基準として使用され得る。
【0127】
一例では、6つの第1非同期腕部基準胸部誘導のうちの第1の誘導の時間整列バージョン(例えば、CR1)は、(a)6つの第2非同期腕部基準胸部誘導のうちの第1の誘導の測定バージョン(例えば、CL1)と、(b)(i)6つの第1非同期腕部基準胸部誘導のうちの第1の誘導(例えば、CR1)と、(ii)第1の誘導の時間整列バージョン(例えば、時間整列肢誘導I)との間の差、との間の差を最小化する時間シフトの値を特定することによって決定され得る。次に、その差を最小化する特定された時間シフトは、6つの第1非同期腕部基準胸部誘導の第1の誘導(例えば、CR1)に適用して、6つの第1非同期腕部基準胸部誘導の第1の時間整列バージョン(例えば、時間整列CR1)を決定することができる。そして、このプロセスが、6つの第1非同期腕部基準胸部誘導のうちの第2の誘導(例えば、CR2)に対して繰り返され得る。換言すると、6つの第1非同期腕部基準胸部誘導のうちの第2の誘導(例えば、CR2)の時間整列バージョンは、(a)6つの第2非同期腕部基準胸部誘導のうちの第2の誘導の測定バージョン(例えば、CL2)と、(b)(i)6つの第1非同期腕部基準胸部誘導のうちの第2の誘導(例えば、CR2)と、(ii)第1の誘導の時間整列バージョン(例えば、時間整列肢誘導I)との間の差、との間の差を最小化する時間シフトの値を特定することによって決定され得る。この特定された時間シフトを6つの第1非同期腕部基準胸部誘導のうちの第2の誘導(例えば、CR2)に適用することにより、6つの第1非同期腕部基準胸部誘導のうちの第2の誘導の時間整列バージョン(例えば、時間整列CR2)を決定するのに用いることができる。同様の時間シフト特定を用いて、6つの第1非同期腕部基準胸部誘導のうちの第3、第4、第5、第6の時間整列バージョン(例えば、それぞれ、時間整列CR3、時間整列CR4、時間整列CR5、および時間整列CR6)を決定することができる。
【0128】
次に、時間整列した第1の誘導(例えば、時間整列肢誘導I)、時間整列した第2の誘導(例えば、時間整列肢誘導II)、および6つの時間整列した第1非同期腕部基準胸部誘導(例えば、時間整列CR1~6)を使用して、6つの標準前胸部誘導(例えば、前胸部誘導V1~V6)を決定することができる。例えば、時間整列した第1の誘導(例えば、時間整列肢誘導I)、時間整列した第2の誘導(例えば、時間整列肢誘導II)、および6つの時間整列した第1非同期腕部基準胸部誘導(例えば、時間整列CR1~6)を上記式(9)で使用して、6つの標準前胸部誘導(例えば、前胸部誘導V1~V6)を決定することができる。
【0129】
次に、時間整列した第1の誘導(例えば、時間整列肢誘導I)、時間整列した第2の誘導(例えば、時間整列肢誘導II)、時間整列した第3の誘導(例えば、時間整列肢誘導III)、決定した3つの拡張誘導(例えば、aVR、aVL、aVF)、および決定した6つの標準前胸部誘導(例えば、前胸部誘導V1~V6)によって標準12誘導ECGを得るか形成することができる。
【0130】
これらの決定または計算は、電極を含むデバイスと同じ場所に配置されたプロセッサおよびメモリ(例えば、スマートウォッチなどのウェアラブル内)、または電極を含むデバイスと動作可能に通信するプロセッサ(例えば、スマートウォッチと通信するスマートフォン、スマートウォッチと直接または間接的に通信するサーバシステムなど)によって実行され得ることに留意されたい。これらの処理ステップは、単一のプロセッサによって実行されてもよいし、複数のプロセッサに分割されてもよい。さらに、誘導の取得は、任意の順序で実行することができる。本明細書に記載の例では、特定の誘導を時間基準として使用するが、どの誘導を時間基準とし、どの誘導に時間シフトを適用するかは、設計上の選択に基づいて変更することができる。
【手続補正書】
【提出日】2023-05-26
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】請求項1
【補正方法】変更
【補正の内容】
【請求項1】
3つの取得肢誘導I、II、III(取得誘導I~IIIと称する。)と、12の取得腕部基準胸部誘導CR1~CR6およびCL1~CL6(取得誘導CR1~CR6およびCL1~CL6と称する。)とを含む、非同期で順次取得される15の誘導から、3つの標準肢誘導I、II、III、3つの標準拡張肢誘導aVR、aVL、aVF、および6つの標準前胸部誘導V1~V6で構成される標準12誘導ECGを作成するための、
コンピュータ実装方法において、
1~6の整数iについて、取得誘導CR1~CR6およびCL1~CL6の各ペアCRiおよびCLiは、それぞれ右腕および左腕と、対応する標準前胸部誘導Viに関連する共通の胸部位置Ciとの間で取得される電圧差を表し、
前記方法が、
取得誘導I~IIIから、誘導II-誘導I=誘導IIIの式を用いて、時間整列された誘導I、II、III(時間整列誘導I~IIIと称する。)を生成する動作と、
時間整列誘導I~IIIから、3つの時間整列拡張肢誘導aVR、aVL、aVFを計算する動作と、
1~6の整数iについて、
(a)計算された腕部基準胸部誘導CLi(計算誘導CLiと称す。)を表す計算された差CRi - Iが、取得された誘導CLiと最適な一致を持つように、取得誘導CRiを取得誘導Iと時間整列させることによって、時間整列された腕部基準胸部誘導CRi(時間整列CRiと称する。)を生成するか、
(b)計算された腕部基準胸部誘導CRi(計算誘導CRiと称す。)を表す計算された和CLi+Iが、取得誘導CRiと最適な一致を持つように、取得誘導CLiを取得誘導Iと時間整列させることによって、時間整列された取得腕部基準胸部誘導CLi(時間整列CLiと称する。)を生成する、
ことのいずれか1つを実行する動作と、
1~6の整数iについて、時間整列前胸部誘導V1~V6を形成するために、時間整列誘導Iと、時間整列誘導IIおよび時間整列誘導IIIのうちの一つと、時間整列誘導CRiおよび時間整列誘導CLiのうちの一つとから時間整列前胸部誘導Viを計算する動作と、を含み、
ここで、時間整列誘導I~IIIと、時間整列拡張肢誘導aVR、aVL、aVFと、時間整列前胸部誘導V1~V6とが合わさって標準12誘導ECGを形成することを特徴とする方法。
【手続補正2】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】請求項7
【補正方法】変更
【補正の内容】
【請求項7】
請求項
6に記載の方法において、1~6の整数iについて、取得誘導CRiと取得CLiは順次、前記2つの電極の一方を共通の胸部位置Ciに配置したまま、任意の順序で一方のすぐ後に他方が測定される、方法。
【手続補正3】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】請求項16
【補正方法】変更
【補正の内容】
【請求項16】
1つまたは複数の処理ユニットで実行されると、請求項1乃至10のいずれかに記載の
コンピュータ実装方法を実行するように構成されたプログラムコード部分を含むプログラムを記録したことを特徴とする非一時的なコンピュータ可読記録媒体。
【国際調査報告】