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特表2023-542435硝子体内投与のための水中油型油エマルション
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-10-06
(54)【発明の名称】硝子体内投与のための水中油型油エマルション
(51)【国際特許分類】
   A61K 9/107 20060101AFI20230929BHJP
   A61K 31/573 20060101ALI20230929BHJP
   A61K 47/14 20170101ALI20230929BHJP
   A61K 47/26 20060101ALI20230929BHJP
   A61K 47/10 20170101ALI20230929BHJP
   A61P 27/02 20060101ALI20230929BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20230929BHJP
   A61P 31/04 20060101ALI20230929BHJP
   A61P 31/10 20060101ALI20230929BHJP
   A61P 31/12 20060101ALI20230929BHJP
【FI】
A61K9/107
A61K31/573
A61K47/14
A61K47/26
A61K47/10
A61P27/02
A61P35/00
A61P31/04
A61P31/10
A61P31/12
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023540986
(86)(22)【出願日】2021-09-15
(85)【翻訳文提出日】2023-05-11
(86)【国際出願番号】 EP2021075275
(87)【国際公開番号】W WO2022058325
(87)【国際公開日】2022-03-24
(31)【優先権主張番号】20306037.1
(32)【優先日】2020-09-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523094683
【氏名又は名称】サンテン エスエーエス
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【弁理士】
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100202751
【弁理士】
【氏名又は名称】岩堀 明代
(74)【代理人】
【識別番号】100208580
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 玲奈
(74)【代理人】
【識別番号】100191086
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 香元
(72)【発明者】
【氏名】シュミット,マシュー
(72)【発明者】
【氏名】ダウル,フィリップ
(72)【発明者】
【氏名】ガリク,ジャン-セバスチャン
【テーマコード(参考)】
4C076
4C086
【Fターム(参考)】
4C076AA17
4C076BB11
4C076BB24
4C076CC04
4C076CC27
4C076CC31
4C076CC32
4C076CC35
4C076DD38
4C076DD45F
4C076DD46F
4C076FF16
4C086AA01
4C086AA02
4C086DA10
4C086MA03
4C086MA05
4C086MA22
4C086MA58
4C086MA66
4C086NA13
4C086ZA33
4C086ZB26
4C086ZB32
4C086ZB33
4C086ZB35
(57)【要約】
本発明は有効成分、油、2種の非イオン性界面活性剤の混合物および水を含む硝子体内投与、特に注射のための水中油型油エマルションであって、約100~約200nmの範囲の液滴サイズを有する水中油型油エマルションに関する。本発明に係るエマルションは、硝子体内への投与後の視力の問題を回避する。本発明に係るエマルションは、後眼部の眼疾患または眼病などの眼疾患または眼病を治療するために有効成分の良好な治療活性を与える。
【選択図】なし

【特許請求の範囲】
【請求項1】
・約0.01~約50%w/wの油と、
・前記油に含まれている、約0.001~約10%w/wの有効成分と、
・(i)ポリオキシエチレンヒマシ油およびソルビタンエステルおよび/または(ii)ポリオキシエチレンヒマシ油およびポリソルベートを含む、約0.001~約25%w/wの少なくとも2種の非イオン性界面活性剤の混合物と、
・水と
を含む、硝子体内投与のための水中油型油エマルションであって、
約100~約200nmの範囲の液滴サイズを有する、
水中油型油エマルション。
【請求項2】
前記エマルションは約0.01のエマルション/水の体積比で水に希釈させた後に約70%~約100%の範囲、好ましくは約75%~約100%の範囲、より好ましくは約80%~約100%の範囲の光透過率を有する、請求項1に記載の水中油型油エマルション。
【請求項3】
前記少なくとも2種の非イオン性界面活性剤の混合物は、ポリオキシエチレンヒマシ油およびソルビタンエステルを含む、請求項1または請求項2に記載または水中油型油エマルション。
【請求項4】
前記少なくとも2種の非イオン性界面活性剤の混合物は、ポリオキシル35ヒマシ油および/またはモノラウリン酸ソルビタン、好ましくはポリオキシル35ヒマシ油およびモノラウリン酸ソルビタンを含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の水中油型油エマルション。
【請求項5】
前記油はトリグリセリド油、好ましくは短鎖トリグリセリド、中鎖トリグリセリドおよび長鎖トリグリセリドから選択され、より好ましくは前記油は中鎖トリグリセリドである、請求項1~4のいずれか1項に記載の水中油型油エマルション。
【請求項6】
前記有効成分は親油性有効成分、好ましくは薬物の長鎖エステル、より好ましくは薬物のC10~C21エステル、さらにより好ましくは薬物のC12~C16エステル、さらにより好ましくは薬物のC14エステルであり、好ましくは前記薬物はステロイド、より好ましくはコルチコステロイドである、請求項1~5のいずれか1項に記載の水中油型油エマルション。
【請求項7】
前記有効成分は、デキサメタゾンカプリン酸エステル、デキサメタゾンラウリン酸エステル、デキサメタゾンミリスチン酸エステル、デキサメタゾンパルミチン酸エステルおよびデキサメタゾンステアリン酸エステルから選択され、好ましくはデキサメタゾンラウリン酸エステル、デキサメタゾンミリスチン酸エステルおよびデキサメタゾンパルミチン酸エステルから選択され、より好ましくはデキサメタゾンパルミチン酸エステルである、請求項6に記載の水中油型油エマルション。
【請求項8】
前記エマルションは、
・中鎖トリグリセリドと、
・デキサメタゾンカプリン酸エステル、デキサメタゾンラウリン酸エステル、デキサメタゾンミリスチン酸エステル、デキサメタゾンパルミチン酸エステルおよびデキサメタゾンステアリン酸エステルから選択される有効成分と、
・ポリオキシル35ヒマシ油と、
・モノラウリン酸ソルビタンと、
・グリセロールと、
・水と、
を含む、請求項1~7のいずれか1項に記載の水中油型油エマルション。
【請求項9】
前記有効成分はデキサメタゾンパルミチン酸エステルを含む、請求項8に記載の水中油型油エマルション。
【請求項10】
前記エマルションはアニオン性である、請求項1~9のいずれか1項に記載の水中油型油エマルション。
【請求項11】
前記エマルションは約110~約175nm、好ましくは約120nm~約150nmの範囲の液滴サイズを有する、請求項1~10のいずれか1項に記載の水中油型油エマルション。
【請求項12】
医薬として使用するための請求項1~11のいずれか1項に記載の水中油型油エマルション。
【請求項13】
眼疾患または眼病、好ましくは後眼部の疾患または病気、より好ましくはブドウ膜炎、糖尿病性黄斑浮腫(DME)などの黄斑浮腫、加齢黄斑変性症(AMD)などの黄斑変性症、網膜剥離、眼腫瘍、細菌感染症、真菌感染症、ウイルス感染症、多巣性脈絡膜炎、糖尿病性網膜症、増殖性硝子体網膜症(PVR)、交感性眼炎、フォークト・小柳・原田(VKH)症候群、ヒストプラズマ症、ブドウ膜拡散および血管閉塞から選択される疾患の治療に使用するための、請求項12に記載の水中油型油エマルション。
【請求項14】
前記エマルションは、約5~約250μLの範囲、好ましくは約10~約100μLの範囲、より好ましくは約25~約50μLの範囲の量で硝子体内に投与され、好ましくは硝子体内に注射される、請求項13に記載の水中油型油エマルション。
【請求項15】
請求項1~14のいずれか1項に記載の水中油型油エマルションを含む、埋め込み可能な装置および/または充填済み注射器。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は眼科用組成物の分野に関し、硝子体内投与のための水中油型油エマルションに関する。特に本発明は、硝子体内注射のための半透明エマルションに関する。
【背景技術】
【0002】
治療薬を後眼部に送達させることは難題である。特に有効成分、例えばコルチコステロイド薬を黄斑に効率的に投与することは難しいため、網膜を冒す疾患の好都合な治療薬は入手可能ではない。点眼薬(目薬など)の局所投与は、角膜および強膜からの限られた眼内吸収および涙や瞬きによる有効成分の除去により、大抵の場合に効果がない。硝子体への直接投与を伴う方法および特に硝子体内注射が検討されてきたが、それらはかなりの限界も示す。例えば後眼部の特定の組織は狙いを定めることが難しく、あるいは眼用媒体と硝子体との適合性により治療の安全性が保証されない。さらに、硝子体におけるいくつかの有効成分の短い半減期により繰り返しの注射が必要な場合が多く、これは患者にとって不好都合である。コルチコステロイドのプロドラッグの長鎖エステルなどの水溶性または加水分解性が乏しい有効成分の硝子体内投与はさらに難易度が高く、親水性剤を硝子体ゲルと非常に類似した水性媒体の中に注入することはできるが、親油性剤は一般に水に可溶化することができない。従って、硝子体にそれと天然に適合可能でない油成分を導入することが求められている。
【0003】
本出願人は、後眼部を冒す眼疾患の治療のための国際公開第2007/138113A1号に開示されている親油性コルチコステロイドプロドラッグを含む注射可能なエマルションを開発した。これらのエマルションはこの時に、特に眼の副作用(眼内圧の上昇など)の減少および患者の快適さ(注射回数の減少)の点で、既存の治療選択肢からのかなりの進歩を示していたが、それらは硝子体内投与の重要な問題、すなわち視力の問題に十分に対処するものでなかった。実際に水中油型油エマルションの分散相である油滴は、硝子体ゲルのものとはかなり異なる屈折率を有するため、それは硝子体内へのエマルションの注射後に水晶体と網膜との間に混濁を生じさせる場合がある。油滴の組成およびサイズに応じて、これは視界のぼやけまたは他の視覚障害などの視力の様々な問題を引き起こす場合がある。視力の問題は患者にとって不快であり、患者の服薬遵守を低下させる場合があり、これは既に眼内注射治療にとって大きな問題である。有効成分が親油性である場合に、有効成分を油に可溶化することができるようにするためにはエマルションは比較的大量の不連続相(油)を含まなければならないため、この問題は特に重大である。注射前のエマルション中の大量の油により、硝子体において大きな体積がその液滴によって占められる。他の場合には、有効成分を油に完全に可溶化することができないため、分散相はかすんだ状態(「乳白色」の見た目)になる。結果として、大きな体積の液滴および/またはその液滴の半透明性の欠如により視力の問題が生じ得る。
【0004】
従って、特に後眼部への親油性化合物の送達のために、視力の問題を回避し、かつ良好な治療効果を有する硝子体内投与のための新しい眼用媒体がなお必要とされている。本出願人は注射可能な眼用媒体に関して徹底的な研究を行い、狭い範囲の液滴サイズを有する水中油型油エマルションを使用することで視界のぼやけの制限および有効成分の放出の両方に効果があることを発見した。
【0005】
液滴サイズは当該技術分野で知られている界面活性剤および油の混合物を用いることにより調整することができるが、本出願人は、これは液滴の形成および挙動の適切な制御を達成するのには十分でなく、かつその技術的問題は液滴サイズ範囲に影響を与えるだけでは完全に解決されないことを悟った。本出願人は予期せぬことに、本エマルションを特に限られた選定成分の中で設計しなければならないことを発見した。
【0006】
本発明の第1の実施形態によれば、2種の非イオン性界面活性剤は、(i)ポリオキシエチレンヒマシ油およびソルビタンエステルおよび/または(ii)ポリオキシエチレンヒマシ油およびポリソルベートの混合物、好ましくはポリオキシエチレンヒマシ油およびソルビタンエステルの混合物である。有効成分が非常に親油性である本発明の第2の実施形態によれば、トリグリセリド油が本エマルションの分散相として使用される。
【0007】
本出願人は驚くべきことに、本発明のエマルションのこれらの際立った特徴は、硝子体内投与後の硝子体の透明性のかなりの向上を達成し、それにより視力の問題のかなりの減少またはさらにはその消失が生じることを見出した。本発明のエマルションは良好な治療効果も与え、かつ硝子体から眼の奥への制御型および持続的薬物送達を可能にする。さらに、本発明のエマルションは滅菌することができ、かつ長期間にわたって安定である。
【発明の概要】
【0008】
本発明は、約0.01~約50%w/wの油と、前記油に含まれている約0.001~約10%w/wの有効成分と、(i)ポリオキシエチレンヒマシ油およびソルビタンエステルおよび/または(ii)ポリオキシエチレンヒマシ油およびポリソルベートを含む約0.001~約25%w/wの少なくとも2種の非イオン性界面活性剤の混合物と、水とを含む硝子体内投与のための水中油型油エマルションであって、約100~約200nmの範囲の液滴サイズを有する水中油型油エマルションに関する。
【0009】
一実施形態によれば、本水中油型油エマルションは、約0.01のエマルション/水の体積比で水に希釈させた後に約70%~約100%の範囲、好ましくは約75%~約100%の範囲、より好ましくは約80%~約100%の範囲の光透過率を有する。一実施形態によれば、少なくとも2種の非イオン性界面活性剤の混合物は、ポリオキシエチレンヒマシ油およびソルビタンエステルを含む。一実施形態によれば、少なくとも2種の非イオン性界面活性剤の混合物は、ポリオキシル35ヒマシ油および/またはモノラウリン酸ソルビタン、好ましくはポリオキシル35ヒマシ油およびモノラウリン酸ソルビタンを含む。一実施形態によれば、油はトリグリセリド油、好ましくは短鎖トリグリセリド、中鎖トリグリセリドおよび長鎖トリグリセリドから選択され、より好ましくは前記油は中鎖トリグリセリドである。一実施形態によれば、有効成分は親油性有効成分、好ましくは薬物の長鎖エステル、より好ましくは薬物のC10~C21エステル、さらにより好ましくは薬物のC12~C16エステル、さらにより好ましくは薬物のC14エステルであり、好ましくは薬物はステロイド、より好ましくはコルチコステロイドである。一実施形態では、有効成分はデキサメタゾンカプリン酸エステル、デキサメタゾンラウリン酸エステル、デキサメタゾンミリスチン酸エステル、デキサメタゾンパルミチン酸エステルおよびデキサメタゾンステアリン酸エステルから選択され、好ましくはデキサメタゾンラウリン酸エステル、デキサメタゾンミリスチン酸エステルおよびデキサメタゾンパルミチン酸エステルから選択され、より好ましくはデキサメタゾンパルミチン酸エステルである。一実施形態によれば、本水中油型油エマルションは、中鎖トリグリセリド、すなわちデキサメタゾンカプリン酸エステル、デキサメタゾンラウリン酸エステル、デキサメタゾンミリスチン酸エステル、デキサメタゾンパルミチン酸エステルおよびデキサメタゾンステアリン酸エステルから選択される有効成分、ポリオキシル35ヒマシ油、モノラウリン酸ソルビタン、グリセロールおよび水を含む。一実施形態では、有効成分はデキサメタゾンパルミチン酸エステルを含む。一実施形態によれば、本水中油型油エマルションはアニオン性である。一実施形態によれば、本水中油型油エマルションは約110~約175nm、好ましくは約120nm~約150nmの範囲の液滴サイズを有する。
【0010】
一実施形態によれば、本水中油型油エマルションは医薬として使用するためのものである。一実施形態では、本水中油型油エマルションは眼疾患または眼病、好ましくは後眼部の疾患または病気、より好ましくはブドウ膜炎、糖尿病性黄斑浮腫(DME)などの黄斑浮腫、加齢黄斑変性症(AMD)などの黄斑変性症、網膜剥離、眼腫瘍、細菌感染症、真菌感染症、ウイルス感染症、多巣性脈絡膜炎、糖尿病性網膜症、増殖性硝子体網膜症(PVR)、交感性眼炎、フォークト・小柳・原田(VKH)症候群、ヒストプラズマ症、ブドウ膜拡散および血管閉塞から選択される疾患の治療に使用するためのものである。一実施形態では、本水中油型油エマルションは約5~約250μLの範囲、好ましくは約10~約100μLの範囲、より好ましくは約25~約50μLの範囲の量で硝子体内に投与され、好ましくは硝子体内に注射される。
【0011】
本発明は、本発明に係る水中油型油エマルションを含む埋め込み可能な装置にも関する。本発明は、本発明に係る水中油型油エマルションを含む充填済み注射器にも関する。
【発明を実施するための形態】
【0012】
定義
本発明では、以下の用語は以下の意味を有する。
【0013】
「約」は本明細書では、「およそ」、「大まかに」、「大体」または「ほぼ」を意味するために使用される。数字の前の「約」という用語は前記数字の値の±10%を意味する。「約」という用語は数値範囲と共に使用される場合は、記載されている数値の上下の境界を10%拡大させることによりその範囲を修正する。
【0014】
「有効成分」および「治療薬」は同義語であり、治療的使用のための化合物を指し、健康に関する。特に有効成分は、本明細書の後で定義されているように疾患または病気を治療または予防するために指示される場合がある。好ましくは、有効成分は眼疾患または眼病の治療に使用するためのものである。本開示では、有効成分はプロドラッグおよび薬物の両方を包含する。
【0015】
単独または別の置換基の一部としての「アルキル」という用語は、式-C2n+1(式中、nは1以上の数である)のヒドロカルビルラジカルを指す。アルキル基は直鎖状もしくは分岐鎖状であってもよい。本発明では、アルキル基は典型的には1~30個の炭素原子、好ましくは6~20個の炭素原子、より好ましくは8~18個の炭素原子、さらにより好ましくは10~16個の炭素原子を含む。
【0016】
本明細書で使用される「アルケニル」は不飽和のヒドロカルビル基を指し、これは直鎖状もしくは分岐鎖状であってもよく、1つ以上の炭素-炭素二重結合を含む。アルケニル基は直鎖状もしくは分岐鎖状であってもよい。本発明では、アルケニル基は典型的には1~30個の炭素原子、好ましくは6~20個の炭素原子、より好ましくは8~18個の炭素原子、さらにより好ましくは10~16個の炭素原子を含む。アルケニル基は例えば1つまたは2つの炭素-炭素二重結合を含んでいてもよい。
【0017】
「[下限値]~[上限値]」」などは、上限値および下限値の両方を除外する(すなわち包含しない)数値範囲を定める。
【0018】
「コルチコステロイド」は、副腎皮質において天然に産生されるホルモンであるコルチゾルに密接に関連している多種多様な薬物を指す。コルチコステロイドの非限定的な例としては、ベタメタゾン、ブデソニド、コルチゾン、デキサメタゾン、ヒドロコルチゾン、メチルプレドニソロン、プレドニソロン、プレドニゾンおよびトリアムシノロンが挙げられる。本発明では、コルチコステロイドは天然であっても人工であってもよい。
【0019】
エマルションの「液滴サイズ」は、分散相のピーク液滴サイズまたは平均液滴サイズ、好ましくはピーク液滴サイズを指す。液滴サイズは、高性能粒径分析計(英国Malvern Instruments社製のZetasizer2000またはZetasizer NanoSなど)を用いて、例えば水での希釈後の光散乱による当該技術分野で知られている方法によって測定してもよい。
【0020】
「薬物」または「薬理学的活性剤」は、投与した場合に対象、好ましくはヒトの生理機能または心理状態における治療の変化を引き起こす物質を指す。好ましくは有効成分は眼疾患または眼病を治療するためのものである。薬物はそれ自体、あるいはその薬学的に許容される塩の形態またはそのプロドラッグの形態で対象に投与してもよい。
【0021】
「エマルション」は当該技術分野における一般的知識によれば、液-液相分離により通常は不混和性である2種以上の液体の巨視的には均質であるが顕微鏡的には不均質な混合物を指す。エマルションにおいて、1種の液体(「分散相」)が液滴の形態でそれ以外の液体(「連続相」)の中に分散されている。エマルションの安定性は典型的に、エマルションの中に少なくとも1種の界面活性剤を含めることによって達成される。界面活性剤は例えばエマルションの液滴の表面に存在していてもよい。
【0022】
「親水親油バランス」または「HLB」は、エマルションの中の分散相および連続相(典型的には水相および油相)についての界面活性剤の相対的同時引力を表すパラメータを指す。界面活性剤はそれらの分子の親水性部分と親油性部分とのバランスに従って特徴づけられる。HLB値は1~40の任意の範囲の分子の極性を示す。エマルションによく使用される界面活性剤は、典型的には1~20の範囲のHLB値を有する。HLBは親水性の増加と共に増加する。
【0023】
「硝子体内投与」は眼の硝子体(硝子体液)内への組成物の投与を指す。硝子体内投与は、例えば硝子体内注射によって行ってもよい。
【0024】
「硝子体内注射」は注射手段、例えば注射器による硝子体内投与を指す。
【0025】
「親油性」は、水よりも脂肪、油、脂質および非極性溶媒により容易に溶解する化合物の性質を指す。親油性は例えばlog P値によって定量化してもよく、化合物は、例えばそのlog Pが5よりも大きく、好ましくは6よりも大きく、より好ましくは7よりも大きく、さらにより好ましくは8よりも大きい場合に親油性とみなしてもよい。
【0026】
「log P」は以下のように定められる。化合物の分配係数Pは、オクタノール中の前記化合物の濃度に対する水中でのその化合物(中性分子として)の濃度の比である。前記比の対数を「log P」と呼ぶ。log Pは公開されている手順に従って決定することができ、例えば好適な液体クロマトグラフィ(HPLC)法(Caron,J.C.およびShroot,B.,Journal of Pharmaceutical Sciences,1984,pp.1703-1706)を用いて測定してもよく、あるいはXLogP3方法などの好適なインシリコ法(Chen,T.ら,Journal of Chemical Information and Modeling,2007,Vol.47,No.6,pp.2140-2148)を用いて計算してもよい。
【0027】
「薬物の長鎖エステル」は、炭素原子と酸素原子のうちの一方が少なくとも7個の炭素原子を含むアルキルもしくはアルケニル鎖に共有結合で結合しており且つ前記炭素原子と酸素原子のうちの他方が薬物の官能基に共有結合で結合しているか薬物の官能基の一部である、エステル官能基(-COO-)を含む化学物質を指す。薬物の長鎖エステルはプロドラッグとして有用である。アルキルもしくはアルケニル鎖は直鎖状もしくは分岐鎖状であってもよく、典型的には9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19または20個の炭素原子、好ましくは9、11、13、15または17個の炭素原子、より好ましくは11、13または15個の炭素原子を含む。アルキルもしくはアルケニル鎖は例えばアルキル鎖であってもよい。従って薬物の長鎖エステルは、そのアルキルもしくはアルケニル鎖よりも1個以上多い炭素原子(エステル官能基の炭素である)を含むため、例えば「C12~C16エステル」は11~15個の炭素原子を含むアルキルもしくはアルケニル鎖を有する。薬物の長鎖エステルは典型的には、当該技術分野でよく知られている合成法または自然なプロセスに従う当該薬物のアルコール官能基と脂肪酸のカルボン酸官能基とのエステル化の反応の結果として生じる。脂肪酸の非限定的な例は、デカン(カプリン)酸(10:0)、ドデカン(ラウリン)酸(12:0)、テトラデカン(ミリスチン)酸(14:0)、ヘキサデカン(パルミチン)酸(16:0)およびオクタデカン(ステアリン)酸(18:0)である。
【0028】
「マイクロエマルション」は、IUPACの定義によれば液滴サイズが1~100nm、通常は10~50nmの範囲であるエマルションを指す。
【0029】
「水中油型油エマルション」は、分散相が連続相よりも著しく親油性であるエマルションを指す。典型的には分散相は油性であり、かつ/または連続相は水性である。
【0030】
「眼科用物質」または「眼科用組成物」は、対象の眼に投与することを目的とし、かつ/または対象の眼に投与するのに適した物質または組成物を指す。好ましくは、眼科用物質または組成物は医薬的効果を示し、すなわち眼疾患または眼病を治療するために指示される。
【0031】
「眼科治療」は、眼科用物質または組成物の対象の眼への投与の工程を含む、それを必要とする対象における眼疾患または眼病の治療を指す。
【0032】
物質または組成物について言及する「薬学的に許容される」とは、当該物質または組成物が互いに適合可能であり、かつ/または対象、好ましくはヒトに有害でなく、従って対象に当該物質または組成物が投与されることを意味する。特にそれは対象、好ましくはヒトに投与した場合に副作用、アレルギー反応または他の有害反応を生じない。ヒトへの投与のために、組成物は例えば食品医薬品(FDA)局または欧州医薬品庁(EMA)などの規制当局によって要求される無菌性、発熱性、一般的な安全性および純度基準を満たすものでなければならない。
【0033】
「薬学的に許容される賦形剤」は薬学的に許容される賦形剤、担体または媒体を指す。それはありとあらゆる溶媒、分散媒、被覆剤、抗菌剤および抗真菌剤、等張剤および吸収遅延剤などを含む。
【0034】
「医薬組成物」は、少なくとも薬学的に許容される賦形剤と混合された少なくとも有効成分を含む組成物を指す。医薬組成物は治療的使用のためのものであり、健康に関する。特に医薬組成物は、本明細書の後で定義されているように疾患または病気を治療または予防するために指示されてもよい。好ましくは、医薬組成物は眼疾患または眼病の治療に使用するためのものである。
【0035】
「後眼部」または「眼の後部空洞」は、前部硝子体膜と硝子体、網膜、網膜色素上皮(RPE)、脈絡膜および視神経とを含むその後ろにある光学構造体の全てを含む眼の後方3分の2を指す。
【0036】
「プロドラッグ」は、投与後にそれが体内で変換されて(すなわち代謝されて)薬物(すなわち薬理学的活性剤)になる有効成分を指す。典型的なプロドラッグは薬物のエステル、エーテルおよびアミド誘導体である。
【0037】
「[下限値]~[上限値]の範囲である」および他の同様の記載は、上限値および下限値の両方を含む(すなわち包含する)数値範囲を定める。さらに本出願においてそのように定められる任意の範囲は、対応するより狭い範囲「[下限値]~[上限値]」の明示的開示を含むものとして解釈されるべきである。
【0038】
「ステロイド」は、通常は腎臓の上に存在する2つの小さい分泌腺である副腎によって産生されるホルモンを指す。ステロイドは特定の分子構成で配置された4つのシクロアルキル縮合環を有する。本発明では、ステロイドは天然であっても人工であってもよい。
【0039】
「対象」は温血動物、好ましくは哺乳類、より好ましくはヒトを指す。好ましくは対象は患者、すなわち医療的ケアを受けるのを待っているか受けている途中であるもの、あるいは現在医療処置の対象であるか今後対象になるものである。好ましくは、対象は眼疾患または眼病を有する。
【0040】
「半透明(性)(Translucency)」または「半透明(性)(translucence)」または「半透明(性)(translucidity)」は同義語であり、光が目に見えるほどの光の散乱を生じることなく材料を通り抜けるのを可能にする物理的性質を指すが、ここではフォトンは必ずしも巨視的スケールでスネルの法則に従うわけではなく、その理由は、フォトンは2つの界面(例えば空気/材料)または内部(材料内)のいずれかにおいて散乱することができ、ここでは屈折率の変化が存在するからである。対照的に、フォトンが巨視的スケールでスネルの法則に従う場合、半透明の材料は「透明」であるとみなされる。典型的には、半透明の材料は異なる屈折率を有する成分で構成されており、透明の材料は均一な屈折率を有する成分で構成されている。半透明は不透明の反対である。本発明は特に水中油型油エマルション、エマルションの連続相または分散相および/または硝子体ゲルの半透明性または透明性に関する。半透明性または透明性は、当該技術分野で知られている定性的および/または定量的方法、例えば動物モデル、患者質問表または混濁試験における観察により決定してもよい。
【0041】
「治療する」または「治療」または「軽減」は、治療的処置および予防的処置もしくは防止的処置の両方を指し、その目的は、それを必要とする対象における標的とされる疾患または病気を予防するか減速させる(和らげる)ことである。治療を必要とするものとしては、既に疾患または病気に罹患しているものならびに障害に罹患しやすいものまたは障害が予防されるべきものが挙げられる。対象は、治療量の物質または組成物が投与された後に、当該対象が病原性細胞の数の減少、総病原性細胞の割合の減少、特定の疾患または病気に関連する1つ以上の症状のある程度の緩和、罹患率および死亡率の低下および/または生活の質の問題の改善のうちの1つ以上の観察可能および/または測定可能な向上を示す場合に、疾患または病気に対する「治療」が成功となる。治療の成功および疾患の改善を評価するための上記パラメータは、医師が精通している通常の手順によって容易に測定可能である。好ましくは、当該治療は本明細書の上に定義されている有効成分の投与の工程を含む。本発明では、疾患または病気は眼疾患または眼病、すなわち対象の眼を冒している病的障害または病気である。
【0042】
「混濁(度)」は、空気中の煙と同様に一般にヒトの裸眼では見ることができない多数の個々の粒子によって引き起こされる流体の濁りまたは曇りを指す。本発明は特に、個々の粒子が分散相(油)の液滴である水中油型油エマルションおよび/または硝子体ゲルの混濁度に関する。混濁度は当該技術分野で知られている方法によって、例えば安定性分析装置(例えば、米国Beckman Coulter社製のTurbiscan)を用いて決定してもよい。混濁度は光透過率(%)(完全に半透明の材料の場合に最大100%)または光吸光度(%)(完全に不透明の材料の場合に最大100%)のいずれかで表され、ここでは光透過率(%)=100-光吸光度(%)である。
【0043】
「ゼータ電位」は以下のように定められる。エマルションを安定化させるための当該技術分野において1つの周知の手法は分散相の液滴表面に静電荷を与え、これにより、より多くの液滴の反発およびより少ない液滴の合一が生じる。エマルション中に分散されたコロイド粒子はそれらのイオン特性および/または双極子属性により電荷を帯びる。この電荷を当該技術分野では「ゼータ電位」と呼び、それは粒子間の斥力または引力の大きさを反映している。ゼータ電位は当該技術分野で知られている方法によって、例えばゼータ電位測定装置(英国Malvern Instruments社製のZetasizer2000またはZetasizer NanoSなど)を用いて電気泳動移動度を測定することにより測定することができる。電気泳動移動度をスモルコフスキーまたはヘンリーの式によりゼータ電位値に変換する。
【0044】
詳細な説明
水中油型油エマルション
本発明は、油、有効成分、少なくとも2種の非イオン性界面活性剤の混合物および水を含む硝子体内投与のための水中油型油エマルションに関する。
【0045】
油は本エマルションの分散相に含まれており、水は本エマルションの連続相に含まれている。一実施形態によれば、油は分散相の主成分であり、水は連続相の主成分である。本実施形態では、当該技術分野においてよく使用される用語によれば、油は「分散相」であり、かつ水は「連続相」であると示されている場合があるが、分散相および連続相は実際にはそこに可溶化または懸濁化されているさらなる成分、例えば有効成分、界面活性剤、添加剤などを含んでいてもよい。
【0046】
本発明では、本エマルションは少なくとも2種の非イオン性界面活性剤の混合物を用いることにより安定化される。有利には、少なくとも2種の非イオン性界面活性剤の混合物は本エマルション中で適当な液滴サイズを得ることも助ける。
【0047】
いくつかの物質は場合により、同時に油、有効成分および/または非イオン性界面活性剤として相応しい場合があるが、本発明のエマルションでは油、有効成分および少なくとも2種の非イオン性界面活性剤は4種の異なる物質を指し、すなわち本発明のエマルションでは「油」成分は、同時に「有効成分」または「非イオン性界面活性剤」成分などになり得ない。言い換えると、本発明のエマルションは体系的に、水以外の少なくとも4種の異なる物質を含み、それらのうちの少なくとも1つは少なくとも油の機能を果たし、それらのうち別の1つは少なくとも有効成分の機能を果たし、それ以外の2つは少なくとも非イオン性界面活性剤の機能を果たす。言い換えると、本発明のエマルションでは油、有効成分および少なくとも2種の非イオン性界面活性剤は互いに異なる物質である。
【0048】
一実施形態によれば、有効成分は、
クロモグリク酸ナトリウム、アンタゾリン、メタピリレン、クロルフェニラミン、オロパタジン、ケトチフェン、アゼラスチン、エメダスチン、レボカバスチン、テルフェナジン、アステミゾール、ロラタジン、ピリラミンまたはプロフェンピリダミンなどの抗アレルギー薬;
合成グルココルチコイド、ミネラルコルチコイドならびにプロゲステロン、エストロゲンまたは男性ホルモン、例えばテストステロンDHEAおよびそれらの誘導体などのコレステロール代謝から生じるホルモン形態;
コルチゾン、ヒドロコルチゾン、酢酸ヒドロコルチゾン、デキサメタゾン、デキサメタゾン21-ホスフェート、フルオロキノロン、メドリゾン、プレドニゾン、メチルプレドニソロン、酢酸プレドニソロン、フルオロメトロン、トリアムシノロン、ベタメタゾン、ロテプレドノール、フルメタゾン(flumetasone)(フルメタゾン(flumethasone)としても知られている)、モメタゾン、ダナゾール、ベクロメタゾン、ジフルプレドナートまたはトリアムシノロンアセトニドなどの抗炎症薬;
サリチル酸塩、インドメタシン、イブプロフェン、ジクロフェナク、フルルビプロフェン、2-アリールプロピオン酸、N-アリールアントラニル酸、オキシカム、スルホンアニリド、ピラゾリジン誘導体、アリールアルカン酸、3-ベンゾイルフェニル酢酸およびそれらの誘導体、ピロキシカムあるいはロフェコキシブ、ジクロフェナク、ニメスリドまたはネパフェナクなどのCOX2阻害剤などの非ステロイド系抗炎症薬;
アラキドン酸の生理活性オータコイド代謝産物、例えばリポキシンA4(LXA4)、LXB4またはそれらのエピマー(エピ-リポキシン、15-エピ-LXA4および15-エピ-LXB4である)などの抗炎症薬および炎症収束因子(pro-resolving factors);
カルムスチン、シスプラチン、マイトマイシンまたはフルオロウラシルなどの抗悪性腫瘍薬;
ワクチンまたは免疫刺激薬などの免疫薬;
インスリン、カルシトニン、副甲状腺ホルモンおよびペプチドおよびバソプレシン視床下部放出因子;
マレイン酸チモロール、レボブノロールHCl、ベタキソロールHCl、チモロールベース(timolol-base)、ベタキソロール、アテノロール、ベフノロール、メチプラノロール、フォルスコリン、カルテオロール、エピネフリン、ジピベフリン(ジピバリールエピネフリン(dipivalyl epinephrine)としても知られている)、オキソノロール(oxonolol)、アセタゾラミドベース(acetazolamide-base)またはメタゾラミドなどのβアドレナリン遮断薬;
サイトカイン、インターロイキン、ラタノプロスト、ビマトプロストまたはトラボプロストなどのプロスタグランジン、抗プロスタグランジン薬、プロスタグランジン前駆体ならびに表皮増殖因子、線維芽細胞増殖因子、血小板由来増殖因子、形質転換増殖因子β、毛様体神経栄養因子、グリア細胞株由来神経栄養因子、NGF、EPOまたはPLGFなどの増殖因子;
VEGF阻害剤、VEGF可溶性受容体、VEGF-Trap、VEGF-抗体、VEGF-Trapまたは抗VEGF-siRNAなどの抗血管新生性化合物;
抗体または抗体断片、オリゴアプタマー、アプタマーならびにオリゴヌクレオチド、プラスミド、リボザイム、低分子干渉RNA、核酸断片、ペプチドまたはアンチセンス配列などの遺伝子断片;
天然もしくは合成シクロスポリン、シクロホスファミド(商品名Endoxan(登録商標))、シロリムス、タクロリムス、サリドマイドまたはタモキシフェンなどの免疫調節薬;
ピロカルピンまたはセビメリン(商品名Evoxac(登録商標))などの分泌促進薬;
15(S)-HETEまたはエカベトなどのムチン分泌促進薬(mucin secretagogues);
rtPA、ウロキナーゼ、プラスミンまたは一酸化窒素供与体などの抗血栓薬および血管拡張薬;
アンドロゲン模倣体、アマニ油サプリメント、アデノシンA3受容体作動薬およびスクアレン;
ルテインまたはビタミン、特にビタミンAなどの抗酸化薬;
ブリンゾラミド、ドルゾラミド、アセタゾラミド、メタゾラミドまたはジクロルフェナミドなどの炭酸脱水酵素阻害剤;
ブリモニジン、アプラクロニジン、ジピベフリンまたはエピネフリンなどの交感神経興奮薬(sympathomimetics);
ピロカルピンなどの副交感神経刺激薬(parasympathomimetics);
フィゾスチグミンまたはエコチオファートなどのコリンエステラーゼ阻害剤;
イドクスウリジン、トリフルオロチミジン(トリフルリジンとしても知られている)、アシクロビル、バラシクロビル、ガンシクロビル、シドフォビルまたはインターフェロンなどの抗ウイルス薬;
アミノグリコシド、カルバセフェム、カルバペネム、セファロスポリン、グリコペプチド、ペニシリン、ポリペプチド、キノロン、スルホンアミド、テトラサイクリン、クロルテトラサイクリン、バシトラシン、ネオマイシン、ポリミキシン、グラミシジン、セファレキシン、オキシテトラサイクリン、クロラムフェニコール、カナマイシン、リファンピシン、トブラマイシン、ゲンタマイシン、シプロフロキサシン、エリスロマイシン、セフタジジム、バンコマイシンまたはイミペネムなどの抗生物質;
ポリエン抗生物質、アゾール誘導体、イミダゾール、トリアゾール、アリルアミン、アムホテリシンBまたはミコナゾールなどの抗真菌薬;
スルホンアミド、スルファジアジン、スルファセタミド、スルファメチゾールおよびスルフィソキサゾール、ニトロフラゾンまたはプロピオン酸ナトリウムなどの抗菌薬;
それらの誘導体、それらのプロドラッグおよびそれらの許容される塩
から選択される。
【0049】
一実施形態によれば、有効成分はステロイド、ステロイド誘導体、ステロイドのプロドラッグまたはステロイドの許容される塩などの抗炎症薬から選択される。
【0050】
一実施形態によれば、有効成分は親油性である。一実施形態によれば、有効成分は約5~約15の範囲、好ましくは約6~約14の範囲、より好ましくは約7~約13の範囲、さらにより好ましくは約8~約12の範囲のlog Pを有する。XLogP3法によって計算されたデキサメタゾンパルミチン酸エステルのlog Pは9.8(約10)であるため、デキサメタゾンパルミチン酸エステルは高度に親油性である。
【0051】
一実施形態によれば、有効成分はプロドラッグである。一実施形態によれば、有効成分は薬物の長鎖エステルである。薬物の長鎖エステルはよく使用されるプロドラッグである。一実施形態では、有効成分はC10~C21エステルである。一実施形態では、有効成分はC10~C18エステル、好ましくはC12~C16エステル、より好ましくはC14エステルである。エステルプロドラッグからの薬物の放出は網膜および/または脈絡膜における酵素的プロセスにより生じる。プロドラッグは、眼の組織中に存在する酵素によって開裂することができる長鎖エステル官能基を含む。本発明では、薬物の代謝は典型的には硝子体内投与後に網膜および/または脈絡膜において生じる。開裂酵素は、例えばエステラーゼ(例えば、偽コリンエステラーゼまたはアセチルコリンエステラーゼ)、酸化還元酵素、転移酵素、リアーゼ、異性化酵素、リガーゼ、加水分解酵素、ホスファターゼ、プロテアーゼまたはペプチダーゼであってもよい。典型的には、エステルプロドラッグからの薬物の放出は1種以上のエステラーゼの作用を介して生じる。
【0052】
一実施形態によれば、有効成分はステロイドの長鎖エステルである。ステロイドの長鎖エステルはステロイドの周知のプロドラッグである。一実施形態では、有効成分はステロイドのC10~C21エステルである。一実施形態では、有効成分はステロイドのC10~C18エステル、好ましくはステロイドのC12~C16エステル、より好ましくはステロイドのC14エステルである。一実施形態では、ステロイドはコルチコステロイドである。一実施形態では、コルチコステロイドはアルクロメタゾン、アムシノニド、アムシナファル、アムシナフィド、ベクロメタゾン(ベクロメタゾンまたはジプロピオン酸ベクロメタゾンとしても知られている)、ベタメタゾン、クロロプレドニゾン、クロベタゾン、クロコルトロン、コルトドキソン、コルチゾル(ヒドロコルチゾンとしても知られている)、シクレソニド、デスシノロン(descinolone)、デソニド、デフラザコート、ジフロラゾン、ジフルプレドナート、デスオキシメタゾン、デキサメタゾン、ジクロリゾン、フルアザコート(fluazacort)、フククロロニド、フルドロコルチゾン、フルメタゾン(flumetasone)(フルメタゾン(flumethasone)としても知られている)、フルニソリド、フルオシノニド、フルオシノロン、フルオコルトロン、フルクロロロン、フルドロキシコルチド(フルランドレノロンまたはフルランドレノリドとしても知られている)、フルオロコルチゾン、フルオロメトロン、フルペロロン、フルプレドニゾロン、フルチカゾン、ヒドロコルタメート、ロテプレドノール、メドリゾン、メプレドニゾン、メチルプレドニソロン、モメタゾン、パラメタゾン、プレドニソロン、リメキソロン、トリアムシノロンおよびそれらの薬学的に許容される塩から選択される。一実施形態では、コルチコステロイドはプレドニソロン、フルオロメトロン、デキサメタゾン、リメキソロン、メドリゾンおよびそれらの薬学的に許容される塩から選択される。一実施形態では、コルチコステロイドはデキサメタゾンまたはその薬学的に許容される塩である。一実施形態では、デキサメタゾンの長鎖エステルはデキサメタゾンカプリン酸エステル(デキサメタゾンのC10エステル)、デキサメタゾンラウリン酸エステル(デキサメタゾンのC12エステル)、デキサメタゾンミリスチン酸エステル(デキサメタゾンのC14エステル)、デキサメタゾンパルミチン酸エステル(デキサメタゾンのC16エステル)およびデキサメタゾンステアリン酸エステル(デキサメタゾンのC18エステル)から選択される。一実施形態では、デキサメタゾンの親油性長鎖エステルはデキサメタゾンラウリン酸エステル、デキサメタゾンミリスチン酸エステルおよびデキサメタゾンパルミチン酸エステルから選択される。一実施形態では、デキサメタゾンの親油性長鎖エステルはデキサメタゾンパルミチン酸エステルである。
【0053】
一実施形態によれば、有効成分は本組成物中の唯一の有効成分である。一実施形態では、有効成分は少なくとも別の有効成分と組み合わせて使用される。一実施形態によれば、本エマルションは、約0.001%~約10%w/wの範囲、好ましくは約0.01%~約7.5%w/wの範囲、より好ましくは約0.1%~約5%w/wの範囲の量で有効成分を含む。一実施形態では、本エマルションは、約0.1~約5%w/wの範囲、好ましくは約0.25~約2.5%w/wの範囲、より好ましくは約0.5~約1%w/wの範囲の量で有効成分を含む。「w/w」は「本エマルションの総重量に対する重量」を意味する。好ましい一実施形態によれば、有効成分は油に含まれており、従って分散相に含まれている。別の実施形態によれば、有効成分は水に含まれており、従って連続相に含まれている。
【0054】
一実施形態によれば、油は、短鎖トリグリセリド(C~Cトリグリセリド)、中鎖トリグリセリド(C~C12トリグリセリド)、長鎖トリグリセリド(C13~C21トリグリセリド)または超長鎖トリグリセリド(C22以上、典型的にはC22~C34トリグリセリド)などのトリグリセリド油、ワセリン、液体パラフィン、重鉱油または軽油などの鉱油、ヒマシ油、トウモロコシ油、オリーブ油、大豆油、胡麻油、綿実油または甘扁桃油などの植物油、脂肪酸、ミリスチン酸イソプロピル、油性脂肪アルコール、ソルビトールエステルおよび/またはソルビトール脂肪酸、油性スクロースエステルおよびそれらの混合物から選択される油を含む。一実施形態では、油は鉱油、好ましくは軽油および重鉱油の混合物を含む。
【0055】
一実施形態では、油はトリグリセリド油を含む。本発明では、トリグリセリドは同一および異なる脂肪酸鎖を有していてもよい。一実施形態では、油は中鎖トリグリセリド(MCT)を含むか(実質的に)それからなる。中鎖トリグリセリド(MCT)は例えばパーム核油またはヤシ油から得てもよい。中鎖トリグリセリド(MCT)は0.93~0.96の範囲の密度を有する。
【0056】
いかなる理論にも縛られるものではないが、本出願人は、長鎖エステルプロドラッグなどの親油性有効成分を製剤化する際のトリグリセリドの使用により、有効成分の可溶化、制御されたサイズの液滴の形成、本エマルションまたは硝子体内での液滴の安定化、眼への有効成分の制御および/または持続送達および/または視力の問題の予防が容易になると考えている。
【0057】
一実施形態によれば、本組成物は、約0.01%~約50%w/wの範囲、好ましくは約0.1%~約25%w/wの範囲、より好ましくは約0.5%~約15%w/wの範囲の量で油を含む。一実施形態では、本組成物は、約0.5%~約15%w/wの範囲、好ましくは約0.75%~約10%w/wの範囲、より好ましくは約1%~約5%w/wの範囲の量で油を含む。一実施形態では、本組成物は、約0.01%~約15%w/wの範囲、好ましくは約0.1%~約5%w/wの範囲、より好ましくは約0.3%~約3%w/wの範囲の量で油を含む。「w/w」は「本エマルションの総重量に対する重量」を意味する。
【0058】
一実施形態によれば、非イオン性界面活性剤は、ポロキサマー282またはポロキサマー188またはプルロニック(登録商標)F-68LFまたはLutrol(登録商標)F68などのポロキサマー、クレモフォールEL(登録商標)またはクレモフォールRH(登録商標)などのポリオキシエチレンヒマシ油(ポリエトキシ化ヒマシ油)、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、エムルフォール(登録商標)などのポリオキシエチレン脂肪酸エステル、(15)-ヒドロキシステアリン酸ポリエチレングリコール(商品名Solutol(登録商標))、ポリソルベート20(商品名Tween(登録商標)20)またはポリソルベート80(商品名Tween(登録商標)80)などのポリソルベート、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ステアリン酸ポリオキシエチレン、チロキサポール、Span(商標)20、Span(商標)40、Span(商標)60、Span(商標)65、Span(商標)80またはSpan(商標)85などのソルビタンエステル、D-α-トコフェロールポリエチレングリコールコハク酸(「TPGS」または「ビタミンE-TPGS」)などのビタミンE誘導体およびそれらの混合物から選択される界面活性剤を含む。一実施形態では、非イオン性界面活性剤は、ポリオキシエチレンヒマシ油およびソルビタンエステルから選択される。特定の一実施形態では、2種の非イオン性界面活性剤の混合物は、少なくとも1種のポリオキシエチレンヒマシ油および少なくとも1種のソルビタンエステルの混合物からなる。さらなる特定の一実施形態では、ポリオキシエチレンヒマシ油は、ポリオキシル35ヒマシ油(CAS[61791-12-6]または[63393-92-0];PEG-35ヒマシ油またはポリオキシル-35ヒマシ油またはマクロゴールグリセロールリシノレート35としても知られている)、例えば市販品クレモフォールEL(登録商標)(Kolliphor EL(登録商標)としても知られている)である。さらなる特定の一実施形態では、ソルビタンエステルはモノラウリン酸ソルビタン、例えば市販品Span(商標)20である。一実施形態では、非イオン性界面活性剤はポリオキシエチレンヒマシ油およびポリソルベートから選択される。特定の一実施形態では、2種の非イオン性界面活性剤の混合物は少なくとも1種のポリオキシエチレンヒマシ油および少なくとも1種のポリソルベートの混合物からなる。さらなる特定の一実施形態では、ポリオキシエチレンヒマシ油はポリオキシル35ヒマシ油(CAS[61791-12-6]または[63393-92-0];PEG-35ヒマシ油またはポリオキシル-35ヒマシ油またはマクロゴールグリセロールリシノレート35としても知られている)、例えば市販品クレモフォールEL(登録商標)(Kolliphor EL(登録商標)としても知られている)である。さらなる特定の一実施形態では、ポリソルベートはポリソルベート20、例えば市販品Tween(登録商標)20である。
【0059】
いかなる理論にも縛られるものではないが、本出願人は、有効成分を製剤化する際の界面活性剤としてのポリオキシエチレンヒマシ油およびソルビタンエステルおよび/またはポリソルベートの使用により、有効成分の可溶化、制御されたサイズの液滴の形成、本エマルションまたは硝子体内での液滴の安定化、眼への有効成分の制御および/または持続送達および/または視力の問題の予防が容易になると考えている。
【0060】
一実施形態では、非イオン性界面活性剤は10以上、11以上、12以上、13以上または14以上のHLBを有する。そのような界面活性剤の例としては、ポリオキシエチレンヒマシ油またはソルビタンエステルが挙げられる。
【0061】
一実施形態によれば、本エマルションは、カチオン性界面活性剤および/またはアニオン性界面活性剤をさらに含む。一実施形態では、アニオン性界面活性剤はレシチンなどのアニオン性リン脂質、ドクサートナトリウム、乳化ワックスBP、ラウリル硫酸ナトリウムおよびそれらの混合物から選択される。一実施形態では、カチオン性界面活性剤は、塩化ベンザルコニウム(BAK)、塩化セタルコニウム(CKC)、塩化ベンゼトニウムなどの第四級アンモニウム化合物、セトリミド、カチオン性脂質、オレイルアミン、ステアリルアミン、DOTAP(N-[1-(2,3-ジオレオイルオキシ)プロピル]-N,N,Nトリメチルアンモニウム)クロリド、DOPE(ジオレオイルホスファチジルエタノールアミン)、ポリ(エチレンイミン)(PEI)、ポリ-L-リジン(PLL)およびそれらの混合物から選択される。
【0062】
一実施形態によれば、本エマルションは、0.001%~25%w/wの範囲、好ましくは約0.01%~約15%w/wの範囲、より好ましくは約0.2%~約10%w/wの範囲の量で界面活性剤を含む。一実施形態では、本エマルションは、約0.2%~約10%w/wの範囲、好ましくは約0.5%~約5%w/wの範囲、より好ましくは約1%~約3%w/wの範囲の量で界面活性剤を含む。上記範囲は、界面活性剤(アニオン性、カチオン性または非イオン性)の総量または非イオン性界面活性剤の総量のいずれかに適用してもよい。「w/w」は「本エマルションの総重量に対する重量」を意味する。一実施形態によれば、本エマルションは、約10/90~約90/10、好ましくは約15/85~約85/15、より好ましくは約25/75~約75/25、さらにより好ましくは約50/50~約75/25の範囲の重量での相対比で2種の非イオン性界面活性剤を含む。一実施形態では、本エマルションは、約10/90、約15/85、約25/75、約50/50、約75/25、約85/15または約90/10の重量での相対比で2種の非イオン性界面活性剤を含む。一実施形態では、本エマルションは、約25/75、約50/50または約75/25の重量での相対比で2種の非イオン性界面活性剤を含む。一実施形態によれば、本エマルションは約0.1~約5の範囲、好ましくは約0.2~約4、より好ましくは約0.5~約3の範囲の油の総量/界面活性剤の総量の重量比を有する。一実施形態では、本エマルションは約1~約2.5の範囲、好ましくは約1.5~約2、より好ましくは約1.7の範囲の油の総量/界面活性剤の総量の重量比を有する。
【0063】
一実施形態によれば、水は水道水、生理食塩水、蒸留水および超純水から選択される。水は例えば注射用水(aqua ad iniectabiliaまたはaqua ad injectionemとしても知られている)であってもよい。
【0064】
一実施形態によれば、本エマルションは、抗酸化剤、抗菌剤、緩衝剤、キレート剤、浸透剤、pH調整剤、防腐剤、可溶化剤、安定化剤、増粘剤、粘度調整剤または着色剤などの1種以上の添加剤を含む。一実施形態では、本エマルションは、グリセロール(グリセリン)、マンニトール、ソルビトール、キシリトール、プロピレングリコール、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化マグネシウム、塩化カルシウムおよびそれらの混合物から選択される少なくとも1種の浸透剤を含む。一実施形態では、浸透剤はグリセロール、マンニトール、ソルビトールおよびそれらの混合物から選択される。一実施形態では、浸透剤はグリセロールを含む。一実施形態では、本エマルションは、0.1%~20%w/wの範囲、好ましくは約0.25%~約10%w/wの範囲、より好ましくは約0.5%~約5%w/wの範囲の量で浸透剤を含む。「w/w」は「本エマルションの総重量に対する重量」を意味する。一実施形態では、本組成物は防腐剤を含んでおらず、すなわちそれは「防腐剤無添加」である。別の実施形態では、本組成物は、ベンジルアルコール、ホウ酸、クロルヘキシジン、塩化ベンザルコニウム(BAK)などの第四級アンモニウム塩、水銀塩、チオメルサールおよびそれらの塩およびそれらの混合物から選択される少なくとも1種の防腐剤を含む。
【0065】
一実施形態では、本エマルションは、中鎖トリグリセリド(MCT)、デキサメタゾンパルミチン酸エステル、ポリオキシル35ヒマシ油、モノラウリン酸ソルビタン、グリセロールおよび水を含む。
【0066】
一実施形態によれば、本エマルションはアジスロマイシンを含んでいない。一実施形態では、本エマルションは抗生物質を含んでいない。一実施形態によれば、本エマルションはラタノプロストを含んでいない。一実施形態では、本エマルションはプロスタグランジンを含んでいない。一実施形態によれば、本エマルションはミリスチン酸イソプロピルを含んでいない。一実施形態では、本エマルションは脂肪酸エステルを含んでいない。一実施形態によれば、本エマルションはカチオン性界面活性剤を含んでいない。一実施形態によれば、本エマルションはアニオン性界面活性剤を含んでいない。一実施形態によれば、本エマルションは、レシチン(例えばEpikuron(商標)、オボシン(Ovothin)(商標)またはLipoid(商標)、特にLipoid E80)などのリン脂質を含んでいない。一実施形態によれば、本エマルションはプルロニック(登録商標)F-68(Lutrol F68)などのポロキサマーを含んでいない。一実施形態によれば、本エマルションはチロキサポールを含んでいない。一実施形態によれば、本エマルションはポリソルベート20(商品名Tween(登録商標)20)を含んでいない。一実施形態によれば、本エマルションはポリソルベート80(商品名Tween(登録商標)80)を含んでいない。一実施形態では、本エマルションはポリソルベートを含んでいない。本開示では、「~を含んでいない」および「~を全く含有していない」などの記載は同じ意味を有し、組成物中の記載されている化合物の不存在を指し、その不存在は純度基準および当該技術分野においてよく使用され、特に眼科分野でよく使用される分析方法に従って検討される。
【0067】
一実施形態によれば、本エマルションはアニオン性エマルションであり、すなわち負のゼータ電位、典型的には-10mV以下のゼータ電位を有するエマルションである。本エマルションにアニオン性界面活性剤(本明細書の上に記載されている)を含めるのは、それに負の電荷を与えることによりそれをアニオン性にさせるための方法である。一実施形態では、アニオン性エマルションは約-15mV以下、好ましくは約-20mV以下、より好ましくは約-25mV以下、さらにより好ましくは約-30mV以下のゼータ電位を有する。一実施形態によれば、本エマルションはカチオン性エマルションであり、すなわち正のゼータ電位、典型的には10mV以上のゼータ電位を有するエマルションである。一実施形態では、カチオン性エマルションは約15mV以上、好ましくは約20mV以上、より好ましくは約25mV以上、さらにより好ましくは約30mV以上のゼータ電位を有する。本エマルションにカチオン性界面活性剤(本明細書の上に記載されている)を含めるのは、それに正の電荷を与えることによりそれをカチオン性にさせるための方法である。一実施形態によれば、本エマルションは非イオン性エマルション、すなわちゼロに近いゼータ電位、典型的には10mV~-10mVのゼータ電位(すなわち10mVおよび-10mV値を含まない)を有するエマルションである。
【0068】
一実施形態によれば、本エマルションはアニオン性であり、かつアニオン性界面活性剤を含んでいない。本出願人は驚くべきことに、少なくとも2種の非イオン性界面活性剤の混合物の使用により、時としてアニオン性エマルションが生じ得ることを発見した。理論により制限されるものではないが、本出願人は製造プロセス中に、本エマルションが負に帯電した成分を放出することができると考えている。一実施形態では、アニオン性エマルションは負に帯電していない出発成分で作られており、特に本エマルションの製造のための出発物質はアニオン性界面活性剤を全く含んでいない。
【0069】
カチオン性エマルションは眼内に投与した場合に炎症を引き起こす場合があるので、アニオン性エマルションが硝子体内投与のために好ましい。
【0070】
一実施形態によれば、本エマルションは約50~約250nmの範囲、好ましくは約100~約200nmの範囲、より好ましくは約110~約175nmの範囲の液滴サイズを有する。一実施形態では、本エマルションは約100~約200nmの範囲、好ましくは約110~約175nmの範囲、より好ましくは約120nm~約160nmの範囲の液滴サイズを有する。一実施形態では、本エマルションは約115nm、約120nm、約125nmまたは約130nmの液滴サイズを有する。一実施形態では、本エマルションは約145nm、約150nm、約155nm、約160nm、約165nmまたは約170nmの液滴サイズを有する。一実施形態では、本エマルションはマイクロエマルションではない。一実施形態では、本エマルションは約75nm、約100nm、約110nmまたは約120nm以上の液滴サイズを有する。一実施形態では、本エマルションは約225nm、約200nm、約175nmまたは約160nm以下の液滴サイズを有する。
【0071】
いかなる理論にも縛られるものではないが、本出願人は有効成分を製剤化する際の約100nm以上の液滴サイズを有するエマルションの使用により、本エマルションまたは硝子体内での液滴の安定化および/または眼への有効成分の制御および/または持続送達が容易になり得ると考えている。いかなる理論にも縛られるものではないが、本出願人は、有効成分を製剤化する際の約200nm以下の液滴サイズを有するエマルションの使用により本エマルションまたは硝子体内での液滴の安定化、眼への有効成分の制御および/または持続送達および/または視力の問題の予防が容易になり得ると考えている。
【0072】
本発明のエマルションにより硝子体内投与後に硝子体ゲルが半透明になる。硝子体内投与後のエマルションの視力の問題は本エマルションの混濁度によって決まり、本エマルションの不透明性に関連している。従って、硝子体内注射のためのエマルションは最も低い混濁度(すなわち最も低い光吸光度または最も高い光透過率)を有するものでなければならず、言い換えるとそれらは可能な限り半透明でなければならない。50%の光透過率/吸光度は一般に当該技術分野において視界の下限値とみなされている。
【0073】
エマルションの硝子体内投与後の硝子体ゲルの半透明性は、ある体積の本エマルション(注射体積に対応する)を約4mL(すなわち、成人における硝子体ゲルの平均体積)の水、生理食塩水などの水溶液などに希釈することによりインビトロでシミュレートすることができる。硝子体内注射後の硝子体への希釈は典型的には、約1:100(すなわち、約0.01のエマルション/水の体積比)~約1:500(すなわち、約0.002のエマルション/水の体積比)、好ましくは約1:100である。一実施形態によれば、本エマルションは、約0.005のエマルション/水の体積比(例えば4mL中に20μLに対応する)での水への希釈後に約50%~約100%の範囲、好ましくは約75%~約100%の範囲、より好ましくは約80%~約100%の範囲、さらにより好ましくは約85%~約100%の範囲の光透過率を有する。一実施形態によれば、本エマルションは約0.01のエマルション/水の体積比(例えば、1mL中に10μLまたは4mL中に40μLまたは8mL中に80μLに対応する)で水に希釈させた後に約50%~約100%の範囲、好ましくは約70%~約100%の範囲、より好ましくは約75%~約100%の範囲、さらにより好ましくは約80%~約100%の範囲の光透過率を有する。一実施形態によれば、本エマルションは約0.0125のエマルション/水の体積比(例えば4mL中に50μLに対応する)で水に希釈させた後に約50%~約100%の範囲、好ましくは約70%~約100%の範囲、より好ましくは約75%~約100%の範囲、さらにより好ましくは約80%~約100%の範囲の光透過率を有する。一実施形態によれば、本エマルションは、約0.025のエマルション/水の体積比(例えば4mL中に100μLに対応する)で水に希釈させた後に約50%~約100%の範囲、好ましくは約65%~約100%の範囲、より好ましくは約70%~約100%の範囲、さらにより好ましくは約75%~約100%の範囲の光透過率を有する。
【0074】
一実施形態では、本発明は、約0.01~約50%w/wのトリグリセリド油である油、前記油に含まれている約0.001~約10%w/wの親油性有効成分、約0.001~約25%w/wの少なくとも2種の非イオン性界面活性剤の混合物および水を含む硝子体内投与のための水中油型油エマルションであって、約100~約200nmの範囲の液滴サイズを有し、かつ約0.01のエマルション/水の体積比で水に希釈させた後に約70%~約100%の範囲の光透過率を有する水中油型油エマルションに関する。
【0075】
エマルションの硝子体内投与後の硝子体ゲルの半透明性も、モデル動物、例えばウサギの眼への硝子体内注射によってインビボでシミュレートすることができる。
【0076】
本発明のエマルションは有利には、硝子体内投与前であっても高度に半透明である。一実施形態によれば、本エマルションは約50%~約100%の範囲、好ましくは約60%~約100%の範囲、より好ましくは約70%~約100%の範囲、さらにより好ましくは約80%~約100%の範囲の光透過率を有する。一実施形態では、本エマルションは約80%~約100%の範囲、好ましくは約85%~約100%の範囲、より好ましくは約90%~約100%の範囲、さらにより好ましくは約95%~約100%の範囲の光透過率を有する。
【0077】
本発明のエマルションは有利には安定であり、すなわち本エマルションの不安定化および/または有効成分の分解を伴わずに長期間貯蔵することができる。一実施形態によれば、本エマルションは3ヶ月間、好ましくは6ヶ月間、より好ましくは1年間貯蔵することができる。
【0078】
本発明のエマルションは有利には、眼科分野における安全性要求に従って当該技術分野で知られている方法によって滅菌可能である。特に、本エマルションは滅菌された場合にその構造および/または特性を維持する。例えば本エマルションは、オートクレーブによる蒸気滅菌によって約120℃で10~30分間滅菌可能であってもよい。
【0079】
一実施形態によれば、本エマルションは自己乳化性油ではない。一実施形態によれば、本エマルションは自己乳化性油に含まれていない。一実施形態によれば、本エマルションは自己乳化性薬物送達システム(SEDDS)ではない。一実施形態によれば、本エマルションは自己乳化性薬物送達システム(SEDDS)に含まれていない。
【0080】
医学的使用
本発明は、医薬として使用するための本明細書の上に記載されている本発明に係るエマルションにも関する。
【0081】
本発明は、眼疾患または眼病の治療に使用するための本明細書の上に記載されている本発明に係るエマルションにも関する。一実施形態によれば、眼疾患または眼病は後眼部、特に眼の奥(例えば網膜)の疾患または病気である。一実施形態では、眼疾患または眼病はブドウ膜炎、糖尿病性黄斑浮腫(DME)などの黄斑浮腫、加齢黄斑変性症(AMDまたはARMD)などの黄斑変性症、網膜剥離、眼腫瘍、細菌感染症、真菌感染症、ウイルス感染症、多巣性脈絡膜炎、糖尿病性網膜症、増殖性硝子体網膜症(PVR)、交感性眼炎、フォークト・小柳・原田(VKH)症候群、ヒストプラズマ症、ブドウ膜拡散および血管閉塞から選択される。一実施形態では、眼疾患または眼病は糖尿病性黄斑浮腫(DME)である。一実施形態では、眼疾患または眼病は加齢黄斑変性症(AMD)である。
【0082】
一実施形態によれば、本エマルションは医薬組成物である。
【0083】
一実施形態によれば、本エマルションの使用は本エマルションの硝子体内投与の工程を含む。一実施形態では、本エマルションは約1~約500μLの範囲、好ましくは約5~約250μLの範囲、より好ましくは約10~約100μLの範囲、さらにより好ましくは約25~約50μLの範囲の量で硝子体内に投与される。一実施形態では、本エマルションは約20μL、約25μL、約30μL、約35μL、約40μL、約45μLまたは約50μLの量で硝子体内に投与される。一実施形態では、本エマルションは埋め込み可能な装置によって硝子体内に投与される。一実施形態では、本エマルションは注射器によって硝子体内に投与される。一実施形態では、本エマルションは硝子体内に注射され、すなわち硝子体内投与は硝子体内注射である。
【0084】
一実施形態によれば、本エマルションは局所的使用、すなわち角膜などの眼の表面への投与のためのものではない。一実施形態によれば、本エマルションの使用は本エマルションの局所投与の工程を含んでいない。一実施形態によれば、本エマルションはドライアイの治療に使用するためのものではない。
【0085】
有利には、有効成分がプロドラッグであり、かつ本エマルションが硝子体内に投与された場合、対応する薬物は硝子体内投与から3もしくは6ヶ月後に硝子体内に存在しないが、硝子体内投与から少なくとも3ヶ月間、好ましくは少なくとも6ヶ月間にわたって対応する薬物は後眼部の他の部分(網膜または脈絡膜など)内に存在する。有利には、有効成分がプロドラッグであり、かつ本エマルションが硝子体内に投与された場合、硝子体内投与から少なくとも3ヶ月間、好ましくは少なくとも6ヶ月間にわたってプロドラッグは硝子体内に存在する。
【0086】
本発明は、眼疾患または眼病の治療のための薬の製造における本明細書の上に記載されている本発明に係るエマルションの使用にも関する。一実施形態によれば、当該薬は硝子体内投与、好ましくは硝子体内注射によって投与される。本発明は、治療的有効量の本明細書の上に記載されている本発明に係るエマルションを対象に投与する工程を含む、それを必要とする対象における眼疾患または眼病の治療のための方法にも関する。一実施形態によれば、投与する工程は、対象への本エマルションの硝子体内投与、好ましくは硝子体内注射の工程を含む。
【0087】
装置
本発明は、本明細書の上に記載されている本発明に係る水中油型油エマルションを含む埋め込み可能な装置にも関する。一実施形態によれば、埋め込み可能な装置は生分解性である。
【0088】
本発明は、本明細書の上に記載されている本発明に係る水中油型油エマルションを含む硝子体内注射のための装置にも関する。一実施形態によれば、硝子体内注射のための装置は注射器である。一実施形態では、本装置は充填済み注射器である。一実施形態では、注射器は22~33ゲージ針、好ましくは25~30ゲージ針を有する。
【0089】
一実施形態によれば、埋め込み可能な装置または硝子体内注射のための装置は、約1~約500μLの範囲、好ましくは約5~約250μLの範囲、より好ましくは約10~約100μLの範囲の量の本エマルションを含む。一実施形態では、本装置は、約20μL、約25μL、約30μL、約35μL、約40μL、約45μLまたは約50μLの本エマルションを含む。
【0090】
一実施形態によれば、本エマルションはガラス製バイアルに包装されている。一実施形態によれば、本エマルションは単位用量形態で包装されている。別の実施形態によれば、本エマルションは複数回用量容器に包装されている。
【0091】
一実施形態によれば、本エマルションは点眼薬ではない。一実施形態によれば、本エマルションは点眼薬に含まれていない。一実施形態によれば、本エマルションは点眼薬の形態ではない。
【0092】
製造プロセス
本発明は、本明細書の上に記載されている本発明に係る水中油型油エマルションを製造するためのプロセスにも関する。
【0093】
一実施形態によれば、本プロセスは、
・分散相(油相)の成分を一緒に撹拌する工程、
・連続相(水相)の成分を一緒に撹拌する工程、
・任意に両方の相を約50~約80℃に加熱する工程、
・水相を油相に添加する工程、
・任意にその混合物を約60~約90℃に加熱する工程、
・好ましくは1~10分間の高剪断混合により液滴サイズを減少させる工程、
・任意に約10~約30℃に冷却する工程、および
・好ましくはマイクロフルイダイザーで均質化し、それにより最終エマルションを得る工程
を含む。
【0094】
別の実施形態によれば、本プロセスは、
・分散相(油相)の成分を一緒に撹拌する工程、
・連続相(水相)の成分を一緒に撹拌する工程、
・任意に両方の相を約50~約80℃に加熱する工程、
・水相を油相に添加する工程、
・任意にその混合物を約60~約90℃に加熱する工程、
・好ましくは1~10分間の高剪断混合により液滴サイズを減少させる工程、
・任意に約1~約3時間冷却する工程
を含む。
【0095】
一実施形態では、撹拌は磁気撹拌である。
【図面の簡単な説明】
【0096】
図1図1は、3種の試験用量のZ31EM588およびZ31EM589組成物について眼内注射から6ヶ月後の硝子体内のデキサメタゾン(DXM)の量を示すヒストグラムである。
図2図2は、3種の試験用量のZ31EM588およびZ31EM589組成物について眼内注射から6ヶ月後の網膜内のデキサメタゾン(DXM)の量を示すヒストグラムである。
図3図3は、3種の試験用量のZ31EM588およびZ31EM589組成物について眼内注射から6ヶ月後の脈絡膜内のデキサメタゾン(DXM)の量を示すヒストグラムである。
図4図4は、3種の試験用量のZ31EM588およびZ31EM589組成物について眼内注射から6ヶ月後の硝子体内のデキサメタゾンパルミチン酸エステル(DXP)の量を示すヒストグラムである。
図5図5は、3種の試験用量のZ31EM588およびZ31EM589組成物について眼内注射から6ヶ月後の網膜内のデキサメタゾンパルミチン酸エステル(DXP)の量を示すヒストグラムである。
図6図6は、3種の試験用量のZ31EM588およびZ31EM589組成物について眼内注射から6ヶ月後の脈絡膜内のデキサメタゾンパルミチン酸エステル(DXP)の量を示すヒストグラムである。
図7図7は、高圧蒸気滅菌なしの異なるクレモフォールEL(登録商標)/Span(商標)20比を用いた異なる油含有量(3、6.5および10%w/w)を有するエマルションの液滴サイズを示すグラフである。
図8図8は、高圧蒸気滅菌後の異なるクレモフォールEL(登録商標)/Span(商標)20比を用いた異なる油含有量(3、6.5および10%w/w)を有するエマルションの液滴サイズを示すグラフである。
【実施例
【0097】
以下の実施例によって本発明をさらに例示する。
【0098】
実施例1:水中油型油エマルション
材料および方法
材料:本エマルションの調製に使用した物質は商業的供給業者から購入し、さらに精製することなく使用した。
【0099】
方法-Z31EM090、Z31EM588、Z31EM589、Z01EM1515およびZ01EM1516エマルションの製造:200gの各エマルションを本明細書の後に記載されているように調製した。すなわち、油相成分をビーカーに入れて秤量する。油相成分を磁気撹拌下(200rpm)で溶解し、かつ僅かに加熱する(50℃)。油相を磁気撹拌下(200rpm)で65℃に加熱する。平行して、水相成分をビーカーに入れて秤量する。水相成分を磁気撹拌下(200rpm)で溶解し、かつ僅かに加熱する(50℃)。水相を磁気撹拌下(200rpm)で65℃に加熱する。次いで、水相を磁気撹拌下(300~400rpm)で油相の中に65℃で添加する。粗製のエマルションを磁気撹拌下(300~400rpm)で75℃に加熱する。ポリトロンホモジナイザー(Polytron(登録商標)PT6100、Kinematica社)を用いて16000rpmで5分間分散させる。氷浴を用いて当該エマルションを25℃に冷却する。Emulsiflexホモジナイザー(Avestin(登録商標)Emulsiflex C3)を用いて、15000psiで10分間(100mLのため)または15分間(150mLのため)連続的な均質化を行う。氷浴を用いて本エマルションを25℃に冷却する。pH測定および0.1MのNaOHでのpH7.0への調整を行う。次いで本エマルションをガラス製バイアル中で分散させ、かつオートクレーブで121℃で20分間滅菌する。Z31EM433およびZ31EM434エマルションの製造:200gの各エマルションを本明細書の後に記載されているように調製した。すなわち、油相成分をビーカーに入れて秤量する。油相成分を磁気撹拌下(200rpm)で溶解し、かつ僅かに加熱する(50℃)。油相を磁気撹拌下(200rpm)で65℃に加熱する。平行して、水相成分をビーカーの中で秤量する。水相成分を磁気撹拌下(200rpm)で溶解し、かつ僅かに加熱する(50℃)。水相を磁気撹拌下(200rpm)で65℃に加熱する。次いで、水相を磁気撹拌下(300~400rpm)で油相の中に65℃で添加する。本エマルションを氷浴を用いて2時間撹拌しながら25℃に冷却する。一晩(12時間)室温で貯蔵する。次いで本エマルションをガラス製バイアル中で分散させ、かつオートクレーブで121℃で20分間滅菌する。液滴サイズ:1/20での希釈(適量の水1mL中に50μLのエマルション)後にZetasizer NanoS(英国Malvern Instruments社)を用いて液滴サイズを測定した。混濁度:1/100での水での希釈(8mLの水の中に80μLの試料)後に8mLの試料についてTurbiscan Beckman Coulter(米国)を用いて混濁度(光透過率(%))を測定した。ゼータ電位:1/250での希釈(適量の水20mL中に80μLのエマルション)後にZetasizer NanoS(英国Malvern Instruments社)を用いて透明の使い捨てゼータセル中でゼータ電位を測定した。pH:全く希釈せずにSeven Multi Mettler Toledo XP205DRを用いてpHを測定した。オスモル濃度:全く希釈せずに100μLの試料に対してオスモル濃度を測定した。
【0100】
結果
表1に示されている組成物を含むエマルションを調製した。
【表1】
【0101】
当該エマルションは表2に詳述されているような特性を有する。
【表2】
【0102】
従って、2種の非イオン性界面活性剤を含む本発明に係る組成物(Z31EM588およびZ31EM589は有効成分を含み、Z01EM1515およびZ01EM1516は有効成分を全く含んでいない)は100~約200nmの範囲の液滴サイズを有し、1種の非イオン性界面活性剤のみを含む比較用エマルション(Z31EM433およびZ31EM434)は100nmよりもかなり小さい液滴サイズを有する。本発明に係る組成物は比較用エマルションよりも半透明でもある。
【0103】
大量の油(14%w/wのMCT)を含む比較用エマルションZ31EM090は1種のみの界面活性剤の存在下で200nm超の液滴サイズを有する。さらにその非常に低い半透明性によりそれは視界のぼやけなどの視力問題を引き起こすため、硝子体内投与に適していない(以下の実施例2を参照)。
【0104】
実施例2:混濁度アッセイ:硝子体内注射モデル
材料および方法
上記実施例1に記載されているように当該エマルションを調製した。
【0105】
混濁度測定方法:8mL中に40、80、100、160および200μLで被験エマルションを水に希釈した。次いでTurbiscan Beckman Coulter(米国)を用いて各試料の混濁度(光透過率(%))を測定した。
【0106】
結果
混濁度調査の結果が表3に示されている。
【表3】
【0107】
上記結果は、本発明に係る組成物(Z31EM588およびZ31EM589)により、硝子体内投与を模倣している条件下で希釈後に高い半透明性が得られることを証明している。例えば、本発明のエマルションを40μLのエマルションの硝子体内注射に対応する0.01のエマルション/水の比(8mL中に80μL)で希釈した場合に、透過率は85%超である。
【0108】
トリグリセリド油(MCT)に可溶化させたデキサメタゾンパルミチン酸エステルを含む比較用エマルションZ31EM433およびZ31EM434も、目のかすみなどの視力問題を引き起こし得ないという点で硝子体内投与に適した半透明性を示す。しかし100nmよりも小さいそれらの液滴サイズにより、それらにより十分な治療効果が得られない(以下の実施例3を参照)。
【0109】
対照的に、比較用エマルションZ31EM090では20μL(4mL中)という低い体積で投与された場合であっても必要な半透明性が得られない。従ってそれは視力の問題を引き起こすため、硝子体内投与に適していない。
【0110】
実施例3:薬物動態(PK)および薬力学的(PD)アッセイ
材料および方法
上記実施例1に記載されているように当該エマルションを調製した。
【0111】
この研究の目的は、6ヶ月の研究期間にわたる血液網膜関門(BRB)損傷のウサギモデルにおけるVEGF誘発性血管漏出に対する異なるデキサメタゾンパルミチン酸エステルエマルションの効果を比較することであった。HY79b染色により有色ウサギを6匹の動物(3匹の雄+3匹の雌)の群にランダムに分けた。その群のうちの1つに対して各エマルションを試験した。1日目に、左眼は治療しないままで被験エマルションを硝子体内注射により右眼に投与した。異なる時点で網膜の血管透過性を、右眼を500ngのrhVEGFに曝露してから48時間後に眼の蛍光定量により測定した場合の右の治療した眼と治療していない対応する眼との間の硝子体網膜区画の蛍光の比として表した。IVT投与から24週間後に、生物分析アッセイのためにZ31EM588およびZ31EM589エマルションで治療した動物の右眼から網膜、硝子体および脈絡膜を回収した。RRLC-MS/MS法n°N09F0109を用いて、これらの眼の構造体におけるデキサメタゾン(DXM)およびデキサメタゾンパルミチン酸エステル(DXP)含有量を決定した。
【0112】
結果
試験した3種の用量についての薬力学的(PD)データが表4に示されている。混濁の強さのためのスケールは、「±:極めて非常に低い、+:非常に低い、++:低い」である。
【表4】
【0113】
本発明に係る組成物(Z31EM588およびZ31EM589)は、硝子体内に注射した場合に有意な混濁を全く誘発しない。
【0114】
さらに、本発明に係る組成物(Z31EM588およびZ31EM589)の硝子体内注射により、VEGF誘発透過性(浮腫吸収)の正規化により証明されているように、3ヶ月および6ヶ月の時点でコルチコステロイド薬物デキサメタゾンによる効率的な治療が得られる。より低い用量(20μL)であっても、両方のエマルションにより少なくとも6ヶ月間にわたって有効な治療が得られる。
【0115】
同様の実験プロトコルに従って、比較用エマルションZ31EM433およびZ31EM434(実施例1に記載されている)を試験し、その結果が表5に示されている。
【表5】
【0116】
比較用エマルションZ31EM433およびZ31EM434は本発明に係るエマルションと同じ量の有効成分(0.8%DXP)を含み、硝子体内に注射した量は同様(160、240および320μgのDXP)であったが、比較用エマルションは1ヶ月を超えて効率的ではなかった。比較用エマルションは、1種のみの界面活性剤(クレモフォールEL(登録商標))を含み、従ってそれらの液滴サイズは100nm(60nm)よりも小さいという点で本発明とは異なっている。
【0117】
本発明に係る組成物(Z31EM588およびZ31EM589)の試験した3種の用量についての薬物動態学的(PK)データが図1図6に示されている。デキサメタゾン(DXM)は硝子体(図1)内に非常に低い濃度で存在するが、網膜(図2)および脈絡膜(図3)内には有意な量で存在する。従って、コルチコステロイド薬物(デキサメタゾン)を眼の後部組織(網膜、脈絡膜)に投与し、それにより有害作用を誘発し得る硝子体内には蓄積させることなく治療活性を与える。コルチコステロイドプロドラッグのデキサメタゾンパルミチン酸エステル(DXP)は硝子体(図4)、網膜(図5)および脈絡膜(図6)内に有意な量で存在する。従ってコルチコステロイド薬物(デキサメタゾン)は硝子体、網膜および脈絡膜におけるそのプロドラッグ(デキサメタゾンパルミチン酸エステル)の存在により長期間にわたって放出される。
【0118】
上記結果は、本発明に係る組成物により、視力の問題および有害作用を回避しながら長期間にわたって良好な薬物放出(薬物の制御および持続放出)が得られることを明らかに証明している。従ってそれらは後眼部へ有効成分を投与し、その眼疾患または眼病を治療するために有利である。液滴サイズが本発明の技術的効果を達成するために必須の特徴であることも証明されている。
【0119】
実施例4:本エマルションの特性に対する油量および界面活性剤比の効果
材料および方法
材料:本エマルションの調製に使用した物質は商業的供給業者から購入し、さらに精製することなく使用した。
【0120】
方法-本エマルションの製造:100gの各エマルションを本明細書の後に記載されているように調製した。すなわち、油相成分をビーカーに入れて秤量する。油相成分を磁気撹拌下(200rpm)で溶解し、かつ僅かに加熱する(50℃)。油相を磁気撹拌下(200rpm)で65℃に加熱する。平行して、水相成分をビーカーの中で秤量する。水相成分を磁気撹拌下(200rpm)で溶解し、かつ僅かに加熱する(50℃)。水相を磁気撹拌(200rpm)下で65℃に加熱する。次いで、水相を磁気撹拌下(300~400rpm)で油相の中に65℃で添加する。粗製のエマルションを磁気撹拌下(300~400rpm)で75℃に加熱する。ポリトロンホモジナイザー(Polytron(登録商標)PT6100、Kinematica社)を用いて16000rpmで5分間分散させる。氷浴を用いて当該エマルションを25℃に冷却する。Emulsiflexホモジナイザー(Avestin(登録商標)Emulsiflex C3)を用いて15000psiで10分間の連続的な均質化を行う。次いで当該エマルションを以下のように分散させた。オートクレーブ(FEDEGARI Autoclavi SPA)による121℃で20分間の蒸気滅菌のために、2つの5mLの透明のガラス製バイアルに5mLのエマルションを充填した。本エマルションの残りは100mLの透明のガラスバイアル中に貯蔵した。液滴サイズ:Zetasizer NanoS(英国Malvern Instruments社製)高性能粒径分析計を用いて、1/20での水での希釈(950μLの水の中に50μLのエマルション)後に準弾性光散乱を用いて液滴サイズを測定した。混濁度:1/100での水での希釈(8mLの水の中に80μLの試料)後に8mLの試料に対してTurbiscan Beckman Coulter(米国)を用いて各試料の混濁度(光透過率(%))を測定した。
【0121】
結果
表6に示されている組成物を含むエマルションを調製した。
【表6】
DXP:デキサメタゾンパルミチン酸エステル;MCT:中鎖トリグリセリド;CrEL:クレモフォールEL(登録商標);Tween20:Tween(登録商標)20;Span20:Span(商標)20
【0122】
この研究の目的は、当該水中油型油エマルションの特性に対する油相(油および有効成分)の量、混合物中の2種の界面活性剤の比およびオートクレーブによる滅菌の効果を評価することであった。
【0123】
2種の異なる非イオン性界面活性剤の混合物、すなわちクレモフォールEL(登録商標)/Span(商標)20およびクレモフォールEL(登録商標)/Tween(登録商標)20を試験した。有効成分(DXP)と油(MCT)との比を一定に維持した。安定なエマルションを得るために界面活性剤の量を油の量に対して増加させた。
【0124】
当該水中油型油エマルションの特性が表7に示されている。
【表7】
Surf.:総界面活性剤含有量;ピーク:液滴サイズ分布のピーク;混濁:混濁度(光透過率(%));NAC:オートクレーブなし;AC:オートクレーブによる滅菌;PS:相分離(不安定なエマルション);NM:測定せず
【0125】
CrELおよびSpan20の混合物(上の表7の第1の部分)により得られた油滴サイズは図7(高圧蒸気滅菌なし)および図8(高圧蒸気滅菌後)にも示されている。
【0126】
界面活性剤間の比は当該エマルションの特性に影響を与えるが、2種の非イオン性界面活性剤の混合物(すなわち、75/25~25/75の範囲の重量比)により、本発明では必要に応じて約100~約200nmの範囲の液滴サイズが得られる。
【0127】
同様に、ポリオキシエチレンヒマシ油(CrEL)の補助界面活性剤としてソルビタンエステル(Span20)またはポリソルベート(Tween20)を使用することにより、適切な動作範囲内の液滴サイズが得られる。但し、補助界面活性剤としてのソルビタンエステルの使用は、ポリソルベートエマルションと比較して液滴サイズが有意により低く、かつ半透明性は典型的により高いため有利である。ソルビタンエステルは大量の油(10%w/w)が使用される場合に特に好ましい。
【0128】
高い油含有量(10%w/w)が適当な液滴サイズの入手を妨げることはないが、より高い半透明性が得られ、かつ視力の問題のリスクをさらに抑えるので、より低い量の油が有利である。
【0129】
対照的に、1種のみの非イオン性界面活性剤を含むエマルションにより一般に、特に滅菌後に液滴サイズまたは半透明性の点で満足な特性が得られない。
【0130】
従って、上記結果は本発明の技術的特徴により、眼への有効成分、例えばステロイドプロドラッグ(上記実施例3に記載されている)の硝子体内注射のための要件(液滴サイズ、半透明性、高圧蒸気滅菌による安定性)を満たすエマルションが一貫して得られることを明らかに証明している。

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
【国際調査報告】