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特表2023-542439アンモニア分解反応のための合金/酸化物、合金/窒化物複合触媒
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  • 特表-アンモニア分解反応のための合金/酸化物、合金/窒化物複合触媒 図3
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-10-10
(54)【発明の名称】アンモニア分解反応のための合金/酸化物、合金/窒化物複合触媒
(51)【国際特許分類】
   B01J 23/83 20060101AFI20231002BHJP
   C01B 3/04 20060101ALI20231002BHJP
   B01J 35/02 20060101ALI20231002BHJP
   B01J 23/78 20060101ALI20231002BHJP
   B01J 27/24 20060101ALI20231002BHJP
【FI】
B01J23/83 M
C01B3/04 B
B01J35/02 H
B01J23/78 M
B01J27/24 M
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022500596
(86)(22)【出願日】2020-11-12
(85)【翻訳文提出日】2022-02-24
(86)【国際出願番号】 US2020060230
(87)【国際公開番号】W WO2022019941
(87)【国際公開日】2022-01-27
(31)【優先権主張番号】16/920,056
(32)【優先日】2020-07-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522004461
【氏名又は名称】ベタージー コーポレイション
【氏名又は名称原語表記】BETTERGY CORP.
【住所又は居所原語表記】8 John Walsh Blvd.,Suite 321,Peekskill,NY 10566-5330 U.S.A.
(71)【出願人】
【識別番号】520156708
【氏名又は名称】ザ リサーチ ファウンデーション フォー ザ ステイト ユニバーシティ オブ ニューヨーク
【氏名又は名称原語表記】THE RESEARCH FOUNDATION FOR THE STATE UNIVERSITY OF NEW YORK
(74)【代理人】
【識別番号】110001438
【氏名又は名称】弁理士法人 丸山国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ウー,ガアン
(72)【発明者】
【氏名】ムカルジー,シュレヤ
(72)【発明者】
【氏名】タン,ジオン
(72)【発明者】
【氏名】ルー,ボー
【テーマコード(参考)】
4G169
【Fターム(参考)】
4G169AA03
4G169AA08
4G169BB02A
4G169BB02B
4G169BB06A
4G169BB06B
4G169BB11A
4G169BB11B
4G169BC01A
4G169BC02A
4G169BC03A
4G169BC03B
4G169BC04A
4G169BC05A
4G169BC06A
4G169BC06B
4G169BC08A
4G169BC09A
4G169BC09B
4G169BC10A
4G169BC10B
4G169BC12A
4G169BC12B
4G169BC13A
4G169BC16A
4G169BC31A
4G169BC38A
4G169BC42A
4G169BC43A
4G169BC43B
4G169BC44A
4G169BC50A
4G169BC51A
4G169BC51B
4G169BC54A
4G169BC55A
4G169BC58A
4G169BC59A
4G169BC62A
4G169BC66A
4G169BC67A
4G169BC67B
4G169BC68A
4G169BC68B
4G169CB35
4G169CB81
4G169EB19
4G169EC23
4G169EC25
4G169EC27
4G169FB05
4G169FB09
4G169FB31
4G169FB44
4G169FC08
(57)【要約】
【解決手段】本発明は、アンモニア分解触媒、その製造方法、及びその使用を開示する。その触媒は、複合金属、又は合金を、複合酸化物又は窒化物に触媒担体として担持させたものである。触媒は、500℃以下の温度及び30気圧までの圧力を含む様々な温度及び圧力でのアンモニア分解に有用である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
触媒であって、
コバルト、鉄、クロム、マンガン、及びバナジウムのうちの少なくとも1つを含む第1の元素と、
ニッケル、銅、及びニオブのうちの少なくとも1つを含む第2の元素と、
担体と、
促進剤と、
を含んでおり、
第1の元素と第2の元素とが組み合わされて少なくとも第1の混合物を形成し、第1の混合物はバイメタルナノクラスター及び合金のうちの少なくとも1つであり、
第1の混合物は前記担体に担持されており、前記担体は、混合酸化物、窒化物、及びペロブスカイトのうちの少なくとも1つを含んでおり、
前記促進剤はアルカリ金属である、触媒。
【請求項2】
前記担体はアルカリ土類金属を含む、請求項1に記載の触媒。
【請求項3】
前記アルカリ土類金属は、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、及びバリウムのうちの少なくとも1つを含む、請求項2に記載の触媒。
【請求項4】
前記担体は希土類金属を更に含む、請求項2に記載の触媒。
【請求項5】
前記希土類金属は、セリウム、ランタン、及びプラセオジムのうちの少なくとも1つを含む、請求項4に記載の触媒。
【請求項6】
前記担体は、アルミニウム、ジルコニウム、モリブデン、及びチタンのうちの少なくとも1つを更に含む、請求項2に記載の触媒。
【請求項7】
前記促進剤のアルカリ金属は、カリウム、セシウム、ナトリウム、リチウム、及びルビジウムのうちの少なくとも1つを含む、請求項1に記載の触媒。
【請求項8】
第1の混合物はバイメタルナノクラスターであり、
前記担体は、
アルカリ土類金属及び希土類金属と、
アルミニウム、ジルコニウム、モリブデン、及びチタンの少なくとも1つと
のうちの少なくとも1つを含む混合酸化物であり、
前記アルカリ土類金属は、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、及びバリウムのうちの少なくとも1つを含んでおり、
前記希土類金属は、セリウム、ランタン、及びプラセオジムのうちの少なくとも1つを含んでおり、
前記促進剤は、カリウム、セシウム、ナトリウム、リチウム、及びルビジウムのうちの少なくとも1つを含む、請求項1に記載の触媒。
【請求項9】
15質量パーセント乃至85質量パーセントの間の濃度で第1の元素及び第2の元素を含む、請求項1に記載の触媒。
【請求項10】
第1の元素及び第2の元素はコバルトを含む合金を形成する、請求項1に記載の触媒。
【請求項11】
アンモニアを分解するシステムであって、
触媒と、
アンモニアを含む液体と、
ポンプと、
液体アンモニアを気化させる熱交換器と、
反応器と、
精製ユニットと、
を備えており、
前記液体は容器に入っており、前記ポンプは前記容器から前記液体を受け取り、前記熱交換器に前記液体を導くように構成されており、
前記熱交換器は、前記液体を蒸発させて蒸気にし、前記蒸気を前記反応器に供給するように構成されており、
前記反応器は触媒を備えており、前記蒸気を水素及び窒素を含む混合物に分解するように構成されており、
前記反応器は、前記混合物を前記熱交換器に導くように構成されており、
前記熱交換器は、前記混合物の温度を低下させ、前記液体を前記精製ユニットに導くように更に構成されており、
前記精製ユニットは、前記混合物から水素を分離するように構成されている、システム。
【請求項12】
前記触媒は、
コバルト、鉄、クロム、マンガン、及びバナジウムのうちの少なくとも1つを含む第1の元素と、
ニッケル、銅、及びニオブのうちの少なくとも1つを含む第2の元素と、
担体と、
促進剤と、
を含んでおり、
第1の元素と第2の元素とが組み合わされて少なくとも第1の混合物を形成し、第1の混合物はバイメタルナノクラスター及び合金のうちの少なくとも1つであり、
第1の混合物が前記担体に担持されており、前記担体は、混合酸化物、窒化物、及びペロブスカイトのうちの少なくとも1つを含んでおり、
前記促進剤はアルカリ金属である、請求項11に記載のシステム。
【請求項13】
前記熱交換器は、前記液体の温度を500℃未満の温度に調整するように構成されている、請求項12に記載のシステム。
【請求項14】
前記熱交換器は、前記液体の温度を500℃以上の温度に調整するように構成されている、請求項12に記載のシステム。
【請求項15】
前記熱交換器は、前記液体の温度を500℃未満の温度に調整するように構成されている、請求項11に記載のシステム。
【請求項16】
前記熱交換器は、前記液体の温度を500℃以上の温度に調整するように構成されている、請求項11に記載のシステム。
【請求項17】
アンモニアを含む液体と、
触媒と、
を含んでおり、前記触媒は、
コバルト、鉄、クロム、マンガン、及びバナジウムのうちの少なくとも1つを含む第1の元素と、
ニッケル、銅、及びニオブのうちの少なくとも1つを含む第2の元素と、
担体と、
促進剤と、
を含んでおり、
第1の元素と第2の元素とが組み合わされて少なくとも第1の混合物を形成し、第1の混合物はバイメタルナノクラスター及び合金のうちの少なくとも1つであり、
第1の混合物が前記担体に担持されており、前記担体は、混合酸化物、窒化物、及びペロブスカイトのうちの少なくとも1つを含んでおり、
前記促進剤はアルカリ金属である、システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[連邦政府による資金提供を受けた研究開発の記載]
本発明は,米国エネルギー省のARPA-E(Award No.DE-AR0000817)の支援を受けたものである。連邦政府は、本発明において一定の権利を有し得る。
【0002】
本発明は、ニューヨーク州エネルギー研究開発局(NYSERDA)の支援の下、契約番号141102で行われており、NYSERDAは本発明の権利を有し得る。
【0003】
[関連出願の相互参照]
本願は、2019年7月3日に出願された米国仮特許出願第62/870,077号について優先権を主張しており、その開示内容は全体として本明細書の一部となる。
【0004】
本発明は、一連の触媒と、それら触媒の製造方法及び使用に関する。触媒は、限定ではないが、粉末、球体、スラブ、ペレット、又は中空円筒の形態の触媒担体であるペロブスカイト、複合酸化物若しくは窒化物、又は混合酸化物若しくは混合窒化物に担持された複合金属、合金又は金属ナノクラスターで作られている。このような触媒は、500℃未満の温度でほぼ完全な変換を行うようなアンモニア分解に使用するのに適している。また、触媒は、500℃を超える温度でほぼ完全な変換を行うアンモニア分解にも適している。また、触媒は、膜反応器と組み合わせることで、様々な温度(例えば、100℃、200℃、300℃、400℃、500℃、600℃、700℃、800℃、及び、より高い温度)と圧力(例えば、5気圧、10気圧、15気圧、20気圧、25気圧、30気圧、35気圧、40気圧、45気圧、50気圧、及び、より高い圧力)にてアンモニア分解膜反応器で使用できるプロセスにおいて、反応と分離とを組み合わせることを可能とする。
【背景技術】
【0005】
[1.アンモニアの分解]
アンモニア分解は、化学産業における工業用プロセスであって、最近では、燃料電池自動車のためのクリーンで安全な再生可能な水素源として注目されている。アンモニア分解は吸熱性である。それにより、1モルの反応物当たり2モルの生成物が生成される。
NH<=>l/2N+3/2H (ΔH=45.6kJ/mol)
【0006】
熱力学的に、アンモニアの変換率は、温度が高くなると増加し、圧力が高くなると減少する。より高圧のアンモニア分解がコンパクトな設計の膜反応器のためには好ましいことから、変換率の問題に対処する必要がある。燃料電池の水素にはアンモニアが含まれていないことが望ましい。これは、アンモニアはプロトン交換膜燃料電池(PEMFC)をゆっくりと汚染し、PEMにおけるアンモニウムの拡散が比較的遅いので、アンモニア汚染からのPEMFCの回復が非常に遅いからである。従って、アンモニアを完全に変換することが、アンモニア分解による水素生成のためには望ましく、燃料流のアンモニア含有量を300ppmから0ppmに低減するためには、アンモニア再循環システムを導入する必要がある。
【0007】
速度論的には、アンモニアの解離速度は、温度と触媒の種類とに依存する。反応速度は、700℃を超える温度で作用させることで大幅に増加する。しかしながら、現場の水素ステーションでの高温運転は、高温で必要になる装置の高コストと、エネルギーコストと、触媒の安定性の懸念とを含む幾つかの理由のために望ましくない。
【0008】
[2.アンモニア分解用触媒(先行技術分析)]
米国特許第5,055,282号と、米国特許第5,976,723号と、米国特許出願公開2020/0164346号とには、分解反応器でアンモニアを水素及び窒素に分解するルテニウム系触媒が開示されている。Ruの問題は、貴金属であって高価で入手しにくいことから、アンモニアの分解に使用すると水素発生プロセスのコストが大幅に上昇することである。そのため、貴金属と非貴金属を組み合わせて、貴金属の使用量を削減する触媒が存在している。米国特許出願公開20090060809Alでは、イオン交換法により、Fe、Co、Ni、及びCuから選択された1つの金属元素を、Ru、Rh、Pd、lr、及びPtから選択され、且つ触媒の総質量に基づいて10ppm乃至500ppmの量の貴金属と共に、Si/Alの原子比を有する多孔質シリカアルミナに担持させている。
【0009】
米国特許第9,670,063号及び米国特許出願公開第2016/0289068A1は、分解反応器でアンモニアを水素及び窒素に分解するためのアルカリ金属アミド(NaNH、LiNH等)窒化物-イミド複合触媒を開示している。450℃で大気圧下でのアンモニア変換率は54.9%である。アルカリ金属アミド系触媒の問題点は、反応中の触媒の高活性が数時間しか続かないことで、工業的な応用には実用的ではないことである。
【0010】
米国特許9,138,726号は、多孔質酸化物担体と、酸水熱法によって多孔質酸化物担体と混合する低価の銅化合物とを含む銅系触媒を教示している。低価の銅化合物は、CuとCuOである。しかしながら、その研究はNの生成に焦点を当てており、低温燃焼のためにOとNHの混合物の流れを用いている。
【0011】
本発明は、限定ではないが、粉末、球体、スラブ、ペレット、又は中空円筒の形態の触媒担体であるペロブスカイト、複合酸化物若しくは窒化物、又は、混合酸化物若しくは混合窒化物に担持された複合金属、合金、又は金属ナノクラスターを含む。このような触媒は、500℃未満の温度でほぼ完全な変換を行うアンモニア分解に使用するのに適している。また、このような触媒は、500℃を超える温度でほぼ完全に変換できるアンモニア分解にも適している。更に、このような触媒は、膜反応器と結合して、様々な温度(例えば、100℃、200℃、300℃、400℃、500℃、600℃、700℃、800℃、及び、より高い温度)及び圧力(例えば、5気圧、10気圧、15気圧、20気圧、25気圧、30気圧、35気圧、40気圧、45気圧、50気圧、及び、より高い圧力)にてアンモニア分解膜反応器で使用できるプロセスにおいて反応と分離とを組み合わせることができる。例えば、このような触媒は、様々な温度(例えば、100℃、200℃、300℃、400℃、500℃、600℃、700℃、800℃、及び、より高い温度)で完全に変換するようなアンモニアの分解を促進することができる。また、触媒は、様々な温度(例えば、100℃、200℃、300℃、400℃、500℃、600℃、700℃、800℃、及び、より高い温度)及び圧力(例えば、5気圧、10気圧、15気圧、20気圧、25気圧、30気圧、35気圧、40気圧、45気圧、50気圧、及び、より高い圧力)にてアンモニア分解膜反応器で使用できるプロセスにおいて反応と分離とを組み合わせるために、膜反応器に結合されてよい。
【0012】
本発明の顕著な利点の1つは、比較的低い温度及び低い圧力において比較的高い変換率でアンモニアを分解するために触媒を使用できることである。当業者であれば、本明細書に記載されている触媒が、高温(例えば、500℃より高い)及び高圧(例えば、30気圧より高い)でアンモニア分解を補助できることを理解するであろうが、これらの触媒は更に、500℃未満の温度にて30気圧未満でアンモニア分解を補助することが可能である。これらの触媒は、比較的低い温度及び圧力でアンモニア分解を補助することができるので、アンモニア分解は、高いエネルギー効率で、低コストで、全体的な資源をより多く節約して達成され得る。
【図面の簡単な説明】
【0013】
本発明は、添付の図面を参照することにより、より容易に理解することができる。
【0014】
図1図1は、様々な実施形態に従った、MgSrCeO触媒上のCoNi合金の高解像度透過電子顕微鏡(HRTEM)画像を示す。
【0015】
図2図2は、様々な実施形態に従っており、異なる2つのスケールバーで示された、MgSrCeO触媒上のCoNi合金の元素マッピングを示す。
【0016】
図3図3は、様々な実施形態に従った、MgSrCeO上のバイメタルCoNi合金と比較したモノメタルCo,Ni MgSrCeOのXRDを示す。
【0017】
図4図4は、様々な実施形態に従った、CeSrO、MgCeO、MgPrO、MgCeZrO、MgLaSrO、MgPrSrOのような他の酸化物上のバイメタルCoNiのXRDを示している。
【0018】
図5図5は、様々な実施形態に従った1wt%K-CoNi-MgCeSrOのXPSスペクトルを示しており、(a)は、Co、CoO及びCoの存在を確認しており、(b)は、Ni、NiO及びNiの存在を確認しており、(c)では、マグネシウムが、MgOとしてだけでなく還元状態でも存在しており、(d)では、セリウムのCe3+及びCe4+状態が観察され、(e)では、ストロンチウムが、金属としてだけでなく金属酸化物としても存在している。
【0019】
図6図6は、様々な実施形態に従った、1wt%K-CoNi-MgCeOのXPSスペクトルを示しており、(a)は、Co、CoO、及びCoの存在を確認しており、(b)は、Ni、NiO及びNiの存在を確認しており、(c)はマグネシウムがMgOとしてだけでなく還元状態で存在していることを確認しており、(d)では、セリウムのCe3+及びCe4+状態が観察されている。
【0020】
図7図7は、様々な実施形態に従った、触媒が装填されたアンモニア分解反応器を示しており、純粋なアンモニアが水素及び窒素に分解されて、その後、純粋な水素が精製ユニットを介して得られることを示している。
【発明を実施するための形態】
【0021】
ある実施形態では、アンモニア分解用の触媒がもたらされる。その触媒は、バイメタルナノクラスター又は合金を含んでよい。ナノクラスター又は合金は、コバルト、鉄、クロム、マンガン、及びバナジウムから選択された少なくとも1つの元素(A)と、ニッケル、銅、及びニオブから選択された少なくとも1つの元素(B)との組合せを含んでよい。バイメタルナノクラスター又は合金は、限定ではないが、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウムなどのアルカリ土類金属(C)である少なくとも1つの元素と、限定ではないが、セリウム、ランタン、プラセオジムなどの希土類金属(D)である少なくとも1種の金属とで形成された混合酸化物又は混合窒化物又はペロブスカイトに担持されてよい。ペロブスカイトは、或いは、アルミニウム、ジルコニウム、モリブデン又はチタンから選択された少なくとも1つの元素(E)で形成されてよい。
【0022】
また、その複合触媒は、カリウム、セシウム、ナトリウムなどのアルカリ金属で促進されてよい。触媒(X)における各元素(A)乃至(D)の化学形態は、X線回折法(XRD)などの公知の方法で確認できる。即ち、各元素(A)乃至(D)の化学形態は、触媒(X)を測定することで確認できる。元素(A)及び(B)は、金属クラスター又は合金の形態であることが好ましい。測定時に試料が空気にさらされることに起因して、少量の酸化物が検出されることがある。元素(C)及び(D)は、混合酸化物又は混合窒化物を形成していることがあり、個々の元素の組成はXPS分析によって得られる。合成に使用される原料は、金属硝酸塩、金属酢酸塩、金属硫酸塩などの塩であろう。前駆体である金属塩化物は、完全に除去されないと、触媒活性に影響を与える可能性がある。
【0023】
[触媒(X)の調製方法]
触媒(X)の調製方法に特段の制限はない。ある実施形態では、触媒は元素(A)乃至(C)を含んでおり、各成分は均一に分散している。蒸着沈殿法や共沈殿法などの沈殿法が、合成技術のスケールアップを容易にするために行われてよい。沈殿には、任意の種類のアルカリが用いられてよい。ある実施形態では、9乃至11のpHが沈殿中に維持されてよい。
【0024】
溶液(1)は,元素(A)、(B)及び(C+D)の水性混合物であってよく、(A)と(B)のモル比と、(C+D)に対する(A及びB)の質量比とは正確に制御される。溶液(2)は、最小濃度が2Mであるアルカリ溶液からなる。アルカリの濃度は、2Mと5Mの間で変化してよい。
【0025】
ある実施形態では、溶液(1)が制御された速度で溶液(2)に添加されて、粒子の凝集が抑制されてよい。例えば、溶液(1)は、1ml/分の速度で滴下されて溶液(2)に添加されてよい。最終溶液は、電磁攪拌機を用いて200rpmの速度で連続的に撹拌されてよい。混合が完了すると、撹拌が停止されて、最終溶液は少なくとも4乃至12時間そのままにされてよい。エージング後、沈殿物は、遠心分離して水で洗浄することで溶液から分離できる。洗浄と遠心分離のステップは、少なくとも4回繰り返されてよい。完全に洗浄した後、沈殿物は、ペトリ皿にて、真空下、60℃で8時間乃至12時間乾燥されてよい。これに続いて、還元雰囲気下で400乃至700℃の温度で熱還元がなされてよい。ランピングレートは2乃至5℃/分に維持されてよい。還元ガスは、100ml min-1の流量で流されてよい。還元ガスは、Arでバランスされた10%Hであってよい。その後、熱還元が、1時間にわたって行われてよい。ある実施形態では、サンプルが更に不活性雰囲気中で1時間処理されて、保管及び輸送のために触媒が不活性化されてよい。触媒は、反応前に500乃至600℃の温度で活性化処理を施されてよい。
【0026】
[元素(A)]
元素(A)は金属クラスターの形態であってよい。或いは、元素(A)は、元素(B)と合金又はクラスターを形成する金属であってよい。成分(A)及び(B)は酸化物の形態であってよい。合金形態又は金属クラスターが最も好ましい。元素(A)は、コバルト、鉄、クロム、マンガン、及びバナジウムから選択されてよいが、コバルトが好ましい。
【0027】
[元素(B)]
元素(B)は、ニッケル、銅、ニオブから選択された少なくとも1つの元素であってよい。元素(B)は、金属クラスター形態であるか、又は、元素(A)と合金又はクラスターを形成する金属であることが好ましい。成分(A)及び(B)は、酸化物の形態であってよいが、窒化物又は炭化物の形態であってはならない。しかしながら、合金形態又は金属クラスターが最も好ましい。金属クラスター又は合金以外の化学形態の具体例には、酸化物又は複合酸化物がある。
【0028】
[元素(C)]
元素(C)は、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウムなどのアルカリ土類金属(C)である少なくとも1つの元素、セリウム、ランタン、プラセオジムなどの希土類金属(D)である少なくとも1つの金属、又は、アルミニウム、ジルコニウム、モリブデン、又はチタンから選択された少なくとも1つの元素(E)を含んでよい。元素(C)は、金属又は金属酸化物又は金属窒化物の形態であってよく、混合金属酸化物が最も好ましい。(C)の元素では、ランタノイドの群から1つの元素が含まれてよく、当該元素は、セリウム又はランタン又はプラセオジムであってよく、希土類元素の質量比は10%未満であってよい。
【実施例
【0029】
触媒CoNi-MgSrCeO及び触媒1wt%K-CoNi-MgSrCeOの調製プロセスを示すために、実施例1及び実施例2が説明される。
【0030】
[触媒の調製例1]
実施例1は、アンモニア分解用のCoNi-MgCeSrO触媒を製造する手順を提供する。
【0031】
4.36gの硝酸コバルト、2.31gの硝酸ニッケル、1.6gの硝酸マグネシウム、0.6gの硝酸セリウム、及び0.7gの硝酸ストロンチウムを100mlの水に加えて溶液1を調製する。100mlの水に11gの水酸化カリウムを加えて溶液2を調製する。この2つの溶液を別々に調製し、全ての塩が完全に溶解するまで撹拌して、澄んだ溶液を得る。次に、溶液1を1ml/minの速度で滴下して溶液2に加える。その後、混合溶液を少なくとも16時間、好ましくは24時間そのままにする。その後、9000rpmで3分間遠心分離して沈殿物を分離し、水で洗浄する。遠心分離及び洗浄を少なくとも3回繰り返し、混合物から全ての残留物を除去する。その後、60℃で8時間、混合物を真空乾燥する。乾燥後、スピードミキサー又はボールミルで10分間固体残留物を粉砕する。次に、この微粉末を、Arでバランスした10%Hの流れの中で、600℃で1時間熱還元する。2℃/分のレートでランピングして、炉の温度を25℃から600℃まで上昇させる。
【0032】
アンモニア分解率(6000h-1):450℃-90.5%、475℃-99.6%、500℃-100.0%
【0033】
[触媒の調製例2]
実施例2は、アンモニア分解用のカリウム促進1wt%K-CoNi-MgSrCeO触媒を製造する手順を提供する。
【0034】
実施例1と同様に合成を繰り返す。熱還元後、1wt%硝酸カリウム水溶液又は1wt%水酸化カリウムエタノール溶液に触媒を分散させる。この後、80℃で溶媒を蒸発させる。全ての溶媒が蒸発すると、乳鉢と乳棒で、或いはスピードミキサーで約2000rpmで残留物を粉砕する。その後、この微粉末を再び600℃で1時間熱還元する。
【0035】
アンモニア分解率(6000h-1):450℃-98.5%、475℃-100.0%。500℃-100%
【0036】
触媒CoNi-MgCeO、触媒1wt%K-CoNi-MgCeO、触媒Ca-CoNi-MgCeO、及び触媒Cs-CoNi-MgCeOの調製プロセスを示すために、実施例3乃至6を説明する。
【0037】
[触媒の調製例3]
実施例3は、アンモニア分解用のCoNi-MgCeO触媒を製造する手順を提供する。
【0038】
4.36gの硝酸コバルト、2.31gの硝酸ニッケル、1.6gの硝酸マグネシウム、0.6gの硝酸セリウムを100mlの水に加えて溶液1を調製する。11gの水酸化カリウムを100mlの水に加えて溶液2を調製する。これら2つの溶液を別々に調製し、全ての塩が完全に溶解して透明な溶液になるまで撹拌する。次に、1ml min-1の速度で溶液1を滴下して溶液2に加える。混合溶液を8時間エージングする。その後、8000rpmで5分間遠心分離し、水で洗浄して沈殿物を分離する。遠心分離及び洗浄を少なくとも3回繰り返し、混合物から全ての残留物を除去する。その後、60℃で8時間、混合物を真空乾燥させる。乾燥後、スピードミキサー又はボールミルで10分間、固体残留物を粉砕する。次に、その微粉末を600℃で1時間熱還元する。2℃/分のレートでランピングして、炉の温度を25℃から600℃まで上昇させる。
【0039】
アンモニア分解率(6,000h-1):450℃-74.25%、475℃-94.50%、500℃-100.0%。
【0040】
[触媒の調製例4]
実施例4は、アンモニア分解用のカリウム促進1%K-CoNi-MgCeO触媒を製造する手順を提供する。
【0041】
実施例3で調製した触媒を熱還元した後、1wt%硝酸カリウム水溶液又は1wt%硝酸カリウムエタノール溶液に触媒を分散させる。続いて、80℃で溶媒を蒸発させる。全ての溶媒が蒸発した後、乳鉢及び乳棒で、又はスピードミキサーで約2000rpmで残留物を粉砕する。その後、微粉末を600℃で1時間、再度熱還元する。
【0042】
アンモニア分解率(6,000h-1):450℃-81%、475℃-97.5%、500℃-99%。
【0043】
[触媒の調製例5]
実施例5は、アンモニア分解用のカルシウム促進1%Ca-CoNi-MgSrCeO触媒を製造する手順を提供する。
【0044】
実施例1と同様に合成を繰り返す。熱還元後、1wt%硝酸カルシウム水溶液又は1wt%硝酸カルシウムエタノール溶液に触媒を分散させる。次に、80℃で溶媒を蒸発させる。全ての溶媒が蒸発すると、乳鉢と乳棒で、或いはスピードミキサーで約2000rpmで残留物を粉砕する。次に、この微粉末を600℃で1時間、再度熱還元する。
【0045】
アンモニア分解率(6,000h-1):450℃-91%、475℃-99.5%、500℃-100.0%。
【0046】
[触媒の調製例6]
実施例6は、アンモニア分解用のセシウム促進1%Cs-CoNi-MgCeSrO触媒を製造する手順を提供する。
【0047】
実施例1と同様に合成を繰り返す。熱還元後、1wt%硝酸セシウム水溶液又は1wt%水酸化セシウムエタノール溶液に触媒を分散させる。次に、80℃で溶媒を蒸発させる。全ての溶媒が蒸発すると、乳鉢及び乳棒で、或いはスピードミキサーで約2000rpmで残留物を粉砕する。次に、この微粉末を600℃で1時間、再度熱還元する。
【0048】
アンモニア分解率(6,000h-1):450℃-92.3%、475℃-99.0%、500℃-100.0%。
【0049】
実施例7及び実施例8は、触媒CoNi-MgZrO、触媒1wt%K-CoNi-MgZrOの調製プロセスを示すために記載される。
【0050】
[触媒の調製例7]
実施例7は、アンモニア分解用のCoNi-MgZrO触媒を製造する手順を提供する。
【0051】
4.36gの硝酸コバルト、2.31gの硝酸ニッケル、1.6gの硝酸マグネシウム、0.6gの硝酸セリウム、0.84gのオキシ硝酸ジルコニウムを100mlの水に加えて、溶液1を調製する。100mlの水に11gの水酸化カリウムを加えて溶液2を調製する。これら2つの溶液を別々に調製して、全ての塩が完全に溶解して透明な溶液になるまで撹拌する。次に、溶液1を1ml/分の速度で滴下して溶液2に加える。混合溶液を8時間エージングした後、8000rpmで5分間遠心分離して沈殿物を分離し、その後水で洗浄する。遠心分離及び洗浄を少なくとも3回繰り返し、混合物から全ての残留物を除去する。その後、混合物を60℃で8時間、真空乾燥させる。乾燥後、スピードミキサー又はボールミルで10分間、固体残留物を粉砕する。次に、この微粉末を600℃で1時間、熱還元する。2℃/分のレートでランピングして、炉の温度を25℃から600℃まで上昇させる。
【0052】
アンモニア分解率(6,000h-1):450℃-75.0%、475℃-84.0%、500℃-90.0%。
【0053】
[触媒の調製例8]
実施例8は、アンモニア分解用のカリウム促進1%K-CoNi-MgCeZrO触媒を製造する手順を提供する。
【0054】
実施例7と同様に合成を繰り返す。熱還元後、1wt%硝酸カリウム水溶液又は1wt%水酸化カリウムエタノール溶液に触媒を分散させる。次に、80℃で溶媒を蒸発させる。全ての溶媒が蒸発すると、乳鉢と乳棒で、或いはスピードミキサーで約2000rpmで残留物を粉砕する。次に、この微粉末を600℃で1時間、再度熱還元する。
【0055】
アンモニア分解率(6,000h-1):450℃-79.0%、475℃-89.5.0%、500℃-93.4%。
【0056】
[触媒の調製例9]
実施例9は、アンモニア分解用触媒として、MgCeOに担持されたCoとNiのバイメタル窒化物触媒を製造する手順を提供する。
【0057】
実施例3のように合成を繰り返す。窒化については、純粋なNHでバランスして700℃で3時間、熱還元を行う。
【0058】
冷却後、NH分解活性についてサンプルをテストする。
【0059】
アンモニア分解率(6,000h-1):450℃-50.25%、475℃-73.50%、500℃-88.32%、575℃-99%。
【0060】
図7は、アンモニアを分解するためのシステムである。ある実施形態では、システム700は、タンク702、ポンプ704、熱交換器706、反応器708、及び精製ユニット710を含む。ある実施形態では、液体アンモニアは、アンモニアタンク702からポンプ704を介して熱交換器706に送られて、気化されて100乃至200°Cの温度範囲に加熱されてよい。ガス状アンモニアは、触媒が装填された反応器708に入り、炉で加熱されて分解反応がなされる。上述したように、触媒は、少なくとも、限定ではないが100℃未満から1000℃を超える範囲の温度を含む様々な温度で、そして、限定ではないが10気圧未満から100気圧を超える圧力にてアンモニアを分解できるという理由で有益である。故に、温度及び圧力が広範囲にわたる様々な実施形態において、アンモニアは、触媒反応下で反応器において水素及び窒素に分解される。水素と窒素の混合物が反応器708を出て熱交換器706で冷却され、次に、精製ユニット710で精製されることで水素が得られる。
【0061】
本発明の範囲及び精神から逸脱することなく、本発明に様々な変更や変形を加えることができることは当業者には明らかであろう。本発明の他の実施形態は、本明細書の考察と本明細書に開示された発明の実施とから当業者に明らかになるであろう。本明細書及び実施例は例示的なものとしてのみ考慮され、本発明の真の範囲及び精神は特許請求の範囲によって示されることが意図されている。
図3
図4
図5
図6
図7
【手続補正書】
【提出日】2023-09-21
【手続補正1】
【補正対象書類名】図面
【補正対象項目名】全図
【補正方法】削除
【補正の内容】
【国際調査報告】