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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-10-10
(54)【発明の名称】ビタミンAの栄養液中での安定化
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/23 20060101AFI20231002BHJP
   A61K 31/22 20060101ALI20231002BHJP
   A61K 31/11 20060101ALI20231002BHJP
   A61K 31/07 20060101ALI20231002BHJP
   A61K 31/203 20060101ALI20231002BHJP
   A61K 31/122 20060101ALI20231002BHJP
   A61K 31/355 20060101ALI20231002BHJP
   A61K 31/59 20060101ALI20231002BHJP
   A61P 3/02 20060101ALI20231002BHJP
   A61K 9/107 20060101ALI20231002BHJP
   A61K 47/44 20170101ALI20231002BHJP
   A61K 47/18 20170101ALI20231002BHJP
   A61K 47/22 20060101ALI20231002BHJP
   A61K 47/10 20170101ALI20231002BHJP
【FI】
A61K31/23
A61K31/22
A61K31/11
A61K31/07
A61K31/203
A61K31/122
A61K31/355
A61K31/59
A61P3/02 102
A61P3/02 109
A61K9/107
A61K47/44
A61K47/18
A61K47/22
A61K47/10
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023511661
(86)(22)【出願日】2021-09-24
(85)【翻訳文提出日】2023-02-13
(86)【国際出願番号】 EP2021076313
(87)【国際公開番号】W WO2022063956
(87)【国際公開日】2022-03-31
(31)【優先権主張番号】20198425.9
(32)【優先日】2020-09-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】504164251
【氏名又は名称】バクスター インターナショナル インコーポレイティッド
(71)【出願人】
【識別番号】501453189
【氏名又は名称】バクスター・ヘルスケヤー・ソシエテ・アノニム
【氏名又は名称原語表記】Baxter Healthcare S.A.
【住所又は居所原語表記】Thurgauerstr.130 CH-8152 Glattpark (Opfikon) Switzerland
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100108903
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 和広
(74)【代理人】
【識別番号】100123593
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 宣夫
(74)【代理人】
【識別番号】100208225
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 修二郎
(74)【代理人】
【識別番号】100217179
【弁理士】
【氏名又は名称】村上 智史
(72)【発明者】
【氏名】ゾウアウイ ブレズ
(72)【発明者】
【氏名】カロリーヌ デュポン
(72)【発明者】
【氏名】ガブリエル ブロサール
(72)【発明者】
【氏名】ジャン-リュック トルイイ
(72)【発明者】
【氏名】オレリー クトゥイ
【テーマコード(参考)】
4C076
4C086
4C206
【Fターム(参考)】
4C076AA17
4C076BB13
4C076CC23
4C076DD37S
4C076DD49S
4C076DD59S
4C076EE52
4C076EE53
4C076EE54
4C076FF51
4C086AA01
4C086BA09
4C086DA14
4C086MA03
4C086MA05
4C086MA55
4C086MA66
4C086NA10
4C086NA14
4C086ZC23
4C086ZC29
4C206AA01
4C206CA09
4C206CB03
4C206CB27
4C206DA12
4C206DB04
4C206DB06
4C206DB51
4C206KA01
4C206MA03
4C206MA05
4C206MA42
4C206MA75
4C206MA86
4C206NA10
4C206NA14
4C206ZC23
4C206ZC29
(57)【要約】
本発明は、フレキシブルコンテナに脂質エマルジョンを含む、患者のビタミンA欠乏を予防又は是正するための医薬品に関するものであり、脂質エマルジョンは、(a)脂質エマルジョンの脂質相中にビタミンA、(b)任意で追加的に、脂質エマルジョンの脂質相にビタミンD、ビタミンE及び/又はビタミンK、及び(c)1.5ppm以下の溶存酸素(DO)、を含み、(d)脂質エマルジョンのpHは、5~9である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
フレキシブルコンテナ内の脂質エマルジョンを含む、患者のビタミンA欠乏を予防又は是正するための医薬品であって、前記脂質エマルジョンが、
a.前記脂質エマルジョンの脂質相にビタミンAと、
b.任意で追加的に、前記脂質エマルジョンの前記脂質相にビタミンD、ビタミンE及び/又はビタミンKと、
c.1.5ppm以下の溶存酸素(DO)と、
を含み、
d.前記脂質エマルジョンのpHが、5~9である、
医薬品。
【請求項2】
前記ビタミンAが、パルミチン酸レチニル、酢酸レチニル、レチナール、レチノール及び/又はレチノイン酸、好ましくはパルミチン酸レチニルの形態で存在する、請求項1に記載の医薬品。
【請求項3】
前記脂質エマルジョンが、脂質成分として、好ましくは低過酸化物の大豆油、オリーブ油、中鎖トリグリセリド、魚油、魚油抽出物、オキアミ油、藻油、紅花油、ひまわり油、コーン油、ココナッツ油、パーム核油、菜種油、菌類油及び水素化油又はこれらの混合物からなる群から選択される、低過酸化レベルの油を含む、請求項1又は2に記載の医薬品。
【請求項4】
前記脂質エマルジョンが、脂質成分として、過酸化物価が5ミリ当量(mEq)O/kg以下、好ましくは3mEq O/kg以下、より好ましくは1.5mEq O/kg以下の油を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の医薬品。
【請求項5】
前記脂質エマルジョンが、2~40%、好ましくは5~30%、より好ましくは5~20%の脂質濃度を有する、請求項1~4のいずれか一項に記載の医薬品。
【請求項6】
前記脂質エマルジョンが、好ましくはEDTA、トコフェロール、パルミチン酸アスコルビル及びブチルヒドロキシトルオール(BHT)からなる群から選択される抗酸化剤を含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の医薬品。
【請求項7】
前記医薬品が、2000~4000国際単位(IU)のビタミンAを含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の医薬品。
【請求項8】
前記ビタミンAが、脂質1グラム当たり少なくとも20IUビタミンA(IU/グラム)の濃度、好ましくは20~80,000IU/グラムの濃度でエマルジョン中に存在する、請求項1~7のいずれか一項に記載の医薬品。
【請求項9】
前記脂質エマルジョンが、ビタミンB2、B3、B5、B8、B9及びB12からなる群から選択されるビタミン類を更に含み、好ましくは、前記脂質エマルジョンが、ビタミンB2、B5及びB12を更に含む、請求項1~8のいずれか一項に記載の医薬品。
【請求項10】
前記医薬品が、光保護外包を含む、請求項1~9のいずれか一項に記載の医薬品。
【請求項11】
前記フレキシブルバッグが、ポリオレフィンを含む内張りを含み、前記内張りが、ポリ塩化ビニル(PVC)、可塑剤、接着剤又はラテックスを含まない、請求項1~10のいずれか一項に記載の医薬品。
【請求項12】
前記ビタミンAが、1~50℃の温度で保存した場合、少なくとも3ヶ月、前記脂質エマルジョン中で安定である、請求項1~11のいずれか一項に記載の医薬品。
【請求項13】
前記ビタミンAが、1℃~32℃、好ましくは1℃~25℃の温度で、少なくとも6ヶ月、好ましくは12ヶ月、より好ましくは18ヶ月、最も好ましくは24ヶ月、前記脂質エマルジョン中で安定である、請求項1~12のいずれか一項に記載の医薬品。
【請求項14】
前記脂質エマルジョンが、滅菌された脂質エマルジョンである、請求項1~13のいずれか一項に記載の医薬品。
【請求項15】
前記脂質エマルジョンが、炭水化物及びタンパク質からなる群から選択される主要栄養素を含まず、好ましくは、前記溶液が、脂質及びビタミン以外の栄養素を含まない、請求項1~14のいずれか一項に記載の医薬品。
【請求項16】
前記エマルジョン及び前記医薬品が、非経口投与用に構成される、請求項1~15のいずれか一項に記載の医薬品。
【請求項17】
前記脂質エマルジョンが、少なくとも2つ、少なくとも3つ、少なくとも4つ、少なくとも5つ又は少なくとも6つのチャンバーを有するマルチチャンバーコンテナの1つのチャンバーに収容される、請求項1~16のいずれか一項に記載の医薬品。
【請求項18】
前記コンテナが、炭水化物製剤を含む少なくとも第1のチャンバーと、アミノ酸製剤を含む第2のチャンバーと、脂質製剤を含む第3のチャンバーと、を備え、任意に、前記第1のチャンバー、前記第2のチャンバー及び/又は前記第3のチャンバー中に電解質及び/又はビタミン及び/又は微量元素を含む、請求項17に記載の医薬品。
【請求項19】
前記脂質エマルジョンが、第4のチャンバーに存在する、請求項17又は18に記載の医薬品。
【請求項20】
前記脂質エマルジョンが、脂質製剤を含むチャンバー内に存在する、請求項17~19のいずれか一項に記載の医薬品。
【請求項21】
患者のビタミンA欠乏を予防又は是正するための医薬品の調製方法であって、前記脂質エマルジョンが、脂質相及び水相を含み、
a.前記脂質相及び前記水相を別々に、撹拌下で60℃~90℃の温度に加熱すること、
b.ビタミンA、並びに任意にビタミンD、ビタミンE及び/又はビタミンKを前記脂質相に添加すること、
c.撹拌下で前記脂質相を前記水相に移すことにより、プレエマルジョンを調製すること、
d.前記プレエマルジョンを加圧下で40℃~60℃の温度で均質化すること、
e.任意に水を加えて、必要な体積及び濃度を調整すること、
f.前記脂質エマルジョンを1.5ppm以下の溶存酸素(DO)濃度及び5~9のpH値に調整すること、及び
g.前記溶液を、好ましくは最終加熱滅菌、より好ましくは湿熱による最終加熱滅菌によって滅菌すること、
を含む工程によって調製される、
請求項1~20のいずれか一項に記載の医薬品の調製方法。
【請求項22】
ビタミンA欠乏の予防又は是正に使用するための非経口投与用の滅菌された脂質エマルジョンであって、
a.脂質エマルジョンの脂質相中に、好ましくはパルミチン酸レチニルの形態で、ビタミンA、
b.任意に、前記脂質エマルジョンの前記脂質相中にビタミンD、ビタミンE及び/又はビタミンK、
c.1.5ppm以下のDO、及び5~9のpH、
を含む、滅菌された脂質エマルジョン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
説明
【0002】
本発明は、医薬品及び栄養液に対応する臨床栄養の分野に関する。
【0003】
本発明は、フレキシブルコンテナに脂質エマルジョンを含む、患者のビタミンA欠乏を予防又は是正するための医薬品に関するものであり、脂質エマルジョンは、(a)脂質エマルジョンの脂質相に、好ましくはパルミチン酸レチニルの形態のビタミンA、(b)任意で追加的に、脂質エマルジョンの脂質相にビタミンD、ビタミンE及び/又はビタミンK、及び(c)1.5ppm以下の溶存酸素(DO)、を含み、(d)脂質エマルジョンのpHは、5~9である。
【0004】
本発明の特定の実施形態では、本発明の医薬品の溶液は、パルミチン酸レチニルの形態のビタミンAを含み、ビタミンAは、好ましくは脂質エマルジョンで提供され、脂質成分は、過酸化物価の低い油である。脂質エマルジョンは、すぐに使用できる(ready-to-use)ものであってもよく、少なくとも2つ、少なくとも3つ、少なくとも4つ、少なくとも5つ又は少なくとも6つのチャンバーを有する大容量のマルチチャンバーコンテナの1つのチャンバーに収容されてもよい。さらに、本発明は、本発明の医薬品を調製する方法に関する。
【背景技術】
【0005】
発明の背景
【0006】
非経口栄養は、静脈アクセスによって患者に栄養を供給することを目的としている。栄養素は、主要栄養素(脂質、アミノ酸又はタンパク質及びブドウ糖又は炭水化物)、微量栄養素(ビタミン及び微量元素)及び電解質からなる。
【0007】
1つ以上の溶液の形態などの非経口栄養は、投与前に一緒に混合することができる電解質を含む又は含まない、グルコース、アミノ酸若しくは脂質を含む単一のフレキシブルバッグの形態、又は分離した主要栄養素及び電解質をすぐに使用できる形式で提供するマルチチャンバーフレキシブルバッグの形態、のいずれかで提供することができる。バッグは通常、合成又はプラスチック材料、例えばポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、エチレンビニルアルコール(EVOH)、エチレン酢酸ビニル(EVA)及び全ての可能なコポリマーなどの材料、本質的に、投与されるべき成分を含むことに適した合成材料から作られる。
【0008】
現状では、微量栄養素は通常、投与の前に直接栄養バッグに添加される。この目的のために、ビタミンは、栄養/輸液バッグに再構成及び/又は混合するための凍結乾燥物又は溶液の形態で、ガラスバイアルで提供することができる。微量元素はまた、投与前に輸液バッグに混合されることを意図したガラスバイアル又はポリプロピレンアンプルで提供される。
【0009】
患者への製剤の投与開始時に言及する使用前には、コンテナ又はバッグの注入口(セプタム)から微量栄養素を混合物又は主要栄養素に添加する、又はY字コネクターで輸液ラインに添加することがある。この工程には時間がかかり、幾つかのハンドリングステップが必要なため、エラー又は汚染の危険性が高まる。
【0010】
再構成した微量栄養素と、特に凍結乾燥製剤から再構成したビタミンとを、投与前に直接主要栄養素又は混合物に添加する主な理由は、幾つかのビタミンが、液体のすぐに使用できる製品で提供される場合、著しい安定性の問題を有することである。ビタミンA及びビタミンCが、2つの主要な例である(Fergusonら、A Review of Stability Issues Associated with Vitamins in Parenteral Nutrition;Clinical Nutrition ESPEN 2014,9巻2号)。しかしながら、ビタミンAは、完全PN(TPN)に必要な必須ビタミンと見なされるため、「一体型」のすぐに使用できる製剤の成分である必要がある。
【0011】
ビタミンAは、畜産物では既成ビタミンA(レチノール)として、果物及び野菜ではプロビタミンAカロテノイドとして存在する脂溶性化合物の総称である。体内で活性化する3種類のビタミンAは、レチノール、レチナール、及びレチノイン酸である。ビタミンA化合物は、主にレチニルエステル(例えば、パルミチン酸レチニル)の形態で肝臓に貯蔵されている必須脂溶性分子である。適切な場合、レチニルエステルは、加水分解されてall-trans-レチノールを生成し、血流に放出される前にレチノール結合タンパク質(RBP)に結合する。all-trans-レチノール/RBP複合体は、トランスサイレチンというタンパク質と結合して循環し、all-trans-レチノールを末梢組織へ送達する。
【0012】
ビタミンAは、一般に安定化させることが困難である。一つには、ビタミンA、すなわちレチノールは、ビタミンC及びビタミンB12以外にPN混和剤に見られる最も光に敏感な微量栄養素であるからである。例えば、保護されていないバッグ又は投与セットで光にさらされると、広範な光分解が起こる。
【0013】
PN用液体製剤中のビタミンA化合物を安定化する公知の方法は、ビタミンAを他の脂溶性ビタミンと共に脂質相に置くか、あるいは、後でPN製品に添加するために、ビタミンAを他のビタミンと共に脂肪含有凍結乾燥混合物に安定化することを含んでいる。ビタミンAが光に敏感であることが知られているため、光保護もまた、当該技術分野で(例えば、フレキシブルバッグの周りに茶色のガラス又はアルミニウムのカバーのなどの適切な容器の形態で)使用されてきた。例えば、Vitalipid(登録商標)(Fresenius Kabi)という製品は、ビタミンAをビタミンD、K、及びEと共に10mLアンプルに供給した脂質エマルジョンを含み、1mLあたり、大豆油100mg、卵レシチン12mg、及びグリセロール22mgを含む。当該脂質エマルジョンは、患者への投与前に注射用非経口栄養製剤に添加される。
【0014】
さらに、バッグ及び投与セットチューブでレチノールの収着が起こり、患者に投与されるビタミンAの量が更に減少する可能性がある。この問題は、酢酸エステルではなく、反応性の低いパルミチン酸エステルを使用することにより、かなり減少した。PVC、可塑剤、接着剤又はラテックスを含まないポリオレフィン製のチューブの導入により、ビタミンAの吸収が更に減少した。
【0015】
依然として、これらの手段は、精査すると、液体を潜在的な感染源に暴露する必要がない方法で、液体製剤で全ての栄養素を提供するTPN用製品を可能にするためは、十分ではない。
【0016】
ビタミンを劣化させるもう一つの原因は、脂質エマルジョンから発生する過酸化物である。多価不飽和脂肪酸(PUFA)を含む脂質エマルジョンは、過酸化の危険性が高い。ビタミンEは、フリーラジカルの主要なスカベンジャーとして作用し、脂質の過酸化ラジカルが脂肪酸側鎖と反応することを防ぐ。それでもなお、過酸化は、依然としてある程度起こり、脂質エマルジョンの組成とビタミンの劣化との間の関係を理解するためには、更なる調査が必要である。
【0017】
解離、酸化及び異性化を防止するために、脂質製剤を含むチャンバー内にビタミンAなどの脂溶性ビタミンを含む製品についての記述がある。しかしながら、このような方法は、ビタミンAに若干の保護を与える可能性があるが、冷蔵する、又はその他のこのような製品を特別に扱う必要なく、12~24ヶ月の貯蔵寿命を有するPN製品で使用するために効率的に安定化させることは十分ではない(Fergusonら、A Review of Stability Issues Associated with Vitamins in Parenteral Nutrition;Clinical Nutrition ESPEN 2014,9巻2号)。
【0018】
その結果、TPNに関連して必要な量のビタミンAを確実に提供する最良の方法は、投与の時点で他の必要な栄養素と組み合わせるべき独立した製剤を提供することであると考える専門家もいる。
【0019】
したがって、室温での貯蔵を意図する場合、多くの国で必要とされる25℃又は30℃までの温度で6ヶ月、12ヶ月あるいは24ヶ月などの長期間の保存に十分に安定した、すぐに使用できる液体での事前保存ビタミンAを提供する医薬品、特にTPN製品は、現在のところ存在しない。特に、大部分はマルチチャンバーバッグであるフレキシブルバッグに様々な異なる化合物を含有する標準的な非経口栄養製品では、これまでにビタミンAを安定化させることができず、さらに、一般的に、例えば米国及び欧州の薬局方の要件に準拠するために、最終加熱滅菌を行う必要がある。
【0020】
具体的には、本発明の根底にある技術的問題は、ビタミンA又はビタミンA製剤を含むフレキシブルコンテナに提供される、非経口投与用のすぐに使用できる製剤を含む患者のビタミンA欠乏の予防又は是正に使用できる、非経口栄養用の好ましくは最終加熱滅菌された予備調製済み包装製品を提供することである。特に、脂質、炭水化物及びアミノ酸、ペプチド及びタンパク質から選択される主要栄養素と、ビタミン及び微量元素を含む微量栄養素と、を含むマルチチャンバーバッグを提供することは困難であり、最終加熱滅菌されたマルチチャンバーバッグはまた、ビタミンAを安定的に含む。
【0021】
上記のため、現在までのところ、長期間にわたって安定性を確保する方法で、ビタミンAを含む溶液を必要とする患者に非経口投与するための溶液を含む非経口投与用のすぐに使用できる医薬品、特に、全ての主要栄養素並びに潜在的にはビタミン及び微量元素も1つのマルチチャンバーバッグで提供する製品は、入手可能ではない。炭水化物及びアミノ酸の溶液をデュアルチャンバーバッグで提供し、さらにビタミンAを含む製品は、例えば、エルネオパ若しくはネオパレン(いずれも株式会社大塚製薬工場)又はワンパル(エイワイファーマ株式会社)などが知られている。しかしながら、このような製品は、脂質エマルジョンを提供するものではない。一般に3-チャンバーコンテナに入った脂質エマルジョン製剤を含むすぐに使用できる製品は、製造がより複雑であり、ビタミンAの安定性に対する熱の悪影響を避けるための一般的な方法である濾過によって滅菌を行うことができない。
【0022】
さらに、このような製品は、脂質エマルジョン製剤も含む製品よりも全体の(再構成した)量が少ない傾向がある。したがって、最終加熱滅菌の場合でさえも、必要な熱暴露は、このような製品では、潜在的にビタミンAをこのような製品に添加することを可能にする前記脂質エマルジョン製剤も包含する製品よりも低い。さもなければ、前述のように、ビタミンAを、投与の直前に、すぐに使用できる非経口栄養製剤に手動で添加しなければならず、又は個別に投与しなければならず、両方の処置は、投薬過誤の危険性を伴い、滅菌済みの既製品に汚染を導入する重大な危険を含む。汚染は、潜在的な感染性物質を含むことができ、これは、病院内の患者、特に、例えば非経口投与により栄養液を受ける患者にとって重大な危険因子を表す。
【0023】
先行技術に鑑みて、簡便で、適度な保存期間を持ち、追加の混合工程を回避することを含めて使いやすい、患者のビタミンA欠乏を予防又は是正するための医薬品を開発する必要性が依然として大きい。溶液中のビタミンAは不安定であるため、このような製品は容易に入手できない。
【発明の概要】
【0024】
発明の概要
【0025】
先行技術に鑑みて、本発明の基礎となる技術的問題は、ビタミンAを含むフレキシブルコンテナに提供される、非経口投与用のすぐに使用できる製剤を含む、患者のビタミンA欠乏を予防又は是正するための、好ましくは最終加熱滅菌された医薬品を提供することである。
【0026】
この問題は、独立請求項の特徴によって解決される。本発明の好ましい実施形態は、従属請求項によって提供される。
【0027】
したがって、本発明は、フレキシブルコンテナ内の脂質エマルジョンを含む、患者のビタミンA欠乏を予防又は是正するための医薬品に関するものであり、脂質エマルジョンは、
a.脂質エマルジョンの脂質相にビタミンAと、
b.脂質エマルジョンの脂質相に、任意に、ビタミンD、ビタミンE及び/又はビタミンKと、
c.1.5ppm以下の溶存酸素(DO)と、
を含み、
d.脂質エマルジョンのpHは、5~9である。
【0028】
実施形態では、本発明は、アミノ酸製剤、脂質エマルジョン製剤又は炭水化物製剤を含む少なくとも1つのチャンバーと、ビタミンAを含む少なくとも第2の製剤と、を含む非経口栄養用の最終加熱滅菌されたマルチチャンバーコンテナに関するものであり、ビタミンA製剤は、
(a)脂質エマルジョンで提供され、
(b)任意にビタミンD、E及び/又はKと共に提供され、
(c)1.5ppm以下の溶存酸素(DO)を含み、及び
(d)5~9のpHで提供される。
【0029】
一実施形態によれば、このような最終加熱滅菌されたマルチチャンバーコンテナは、少なくとも100mL、少なくとも250mL、少なくとも500mL、少なくとも800mL、少なくとも1000mL、少なくとも1200mL、少なくとも1500mL、少なくとも1800mL、少なくとも2000mL、少なくとも2200mL、少なくとも2400mL、少なくとも2600mL、少なくとも2800mL又は少なくとも3000mLの再構成した体積を有する。ビタミンAもまた安定的に含む非経口栄養剤用の最終加熱滅菌されたマルチチャンバーコンテナを提供できることは、驚くべき知見である。本発明の実施形態によるマルチチャンバーコンテナは、好ましくは、2つ以上のチャンバーを有するフレキシブルコンテナからなる。重要なことは、本発明のマルチチャンバーコンテナは、少なくとも8分のF値を有する最終加熱滅菌工程を施されており、溶液を非経口投与しても安全である程度の無菌性が確保されていることである。したがって、本発明は、構成される製剤の少なくとも1つについて、最終加熱滅菌され、無菌充填工程を必要としない、記述されたマルチチャンバーコンテナなどの大容量製品を提供することを可能にする。したがって、本明細書で使用される「医薬品」という表現は、本明細書に記載の最終加熱滅菌されたマルチチャンバーコンテナを包含し、本願で更に詳細に記述されるビタミンA製剤は、マルチチャンバーコンテナのチャンバーの少なくとも1つに存在する。本発明に関連する用語「大容量」(マルチチャンバー)コンテナ及び(マルチチャンバーコンテナ「(より)高容量」)の使用は、好ましくは、少なくとも500mL、少なくとも800mL、少なくとも1000mL、少なくとも1200mL、少なくとも1500mL、少なくとも1800mL、少なくとも2000mL、少なくとも2200mL、少なくとも2400mL、少なくとも2600mL、少なくとも2800mL又は少なくとも3000mLの全体の再構成した体積の製品又は(マルチチャンバー)コンテナに言及する。
【0030】
「最終滅菌された」又は「最終加熱滅菌された」という表現は、このような製品が、欧州及び米国のガイドラインに基づき、100万分の1以下の非滅菌単位の確率(PNSU)又は滅菌保証レベル(SAL)でなければならないことを意味する。SALは、その数値がPNSUと同じになるような方法で、欧州薬局方で定義されている。したがって、SAL又はPNSUが10-6であることは、製品の1単位において生物が滅菌工程終了まで生存する確率が100万分の1以下であることを意味する。最終滅菌された製品が10-6SAL/PNSUに適合していることの証明は、幾つかの異なる滅菌サイクル開発手法によって達成することができる。この方法を適切に適用するためには、特定の製品に使用するために選択された滅菌方法に関する広範な科学的知識が必要である。更なる背景情報は、例えば、von Woedtke and Kramer,GMS KHI(2008),3(3),1-10(ISSN 1863-5245)に提供されている。「無菌」という表現は、ウイルスを含む全ての生存可能な微生物が存在しないことを意味する。
【0031】
本明細書で使用される「再構成した体積」という表現は、マルチチャンバーコンテナに含まれる全ての溶液の全体の体積に言及する。当該表現は、一度各チャンバー間の密閉が破られ、それぞれのチャンバーに含まれる溶液が結合されたときの溶液の全体の体積に言及することに限定されることを意図していない。また、再構成前の別々のチャンバーの溶液を足し合わせた体積に言及する。
【0032】
本発明は、ビタミンAの安定性に影響を及ぼす既知のパラメータを修正するが、ビタミンAの安定性に影響を及ぼすことが知られていなかった追加の要因も修正し、本発明の医薬品の脂質エマルジョンにおけるビタミンAの安定性を確保する全く予想外の医薬品をもたらす。重要なことは、他の脂溶性ビタミンも含む脂質エマルジョンの脂質相にビタミンAを含有させる以外に、脂質エマルジョン中のビタミンAの長期安定化のための最適条件を特定するために、エマルジョンの酸素濃度及びpHの変更を検討したことである。
【0033】
本発明の医薬品との関連で、請求された脂質エマルジョンの特定の特徴により、エマルジョンの脂質相にビタミンAと共に提供される脂溶性ビタミン、及びエマルジョンの水相に提供できる水溶性ビタミン、などの他のビタミンを伴って、フレキシブルコンテナでビタミンAを提供することが可能である。驚くべきことに、医薬品のエマルジョン中のビタミンAは、例えば、3つ以上のチャンバーからなるすぐに使用できる非経口栄養製品などの、体積が大きいために最終加熱滅菌を行うときに比較的高い熱暴露を必要とする、大容量の製品であっても、最終加熱滅菌に耐えることが可能である。これは特に、約100mL~2500mL、又は約800mL~2200mLの合計の(再構成した)体積を有する全ての主要栄養素製剤、すなわち脂質エマルジョン、炭水化物及びアミノ酸製剤を提供するPN製品の場合である。例えば、1つ又は2つのチャンバーのみからなるPN製品、一般にデュアルチャンバーバッグ内のアミノ酸製剤及び炭水化物製剤、及び/又はより低い合計の(再構成した)体積を有する製品、特にそれらの製剤の体積が500mL未満、400mL未満、300mL未満、200mL未満、特に100mL未満であるものは、そのより低い体積のために最終加熱滅菌中の熱暴露がより少なくて済む。したがって、このような製品は、加熱滅菌されても、ある程度のビタミンAを含むことができる。また、脂質製剤を含まない製品の場合、臨界加熱滅菌を回避するために、製品を濾過によって滅菌することができる。
【0034】
当該技術分野の医薬品、具体的には、脂質エマルジョンを含むMCBからなるPN製品、及び/又は以前に規定したように高い合計の(再構成した)体積を有するPN製品において、ビタミンAは、必要な熱暴露のために最終加熱滅菌中に分解しやすい。本発明の重要な貢献は、100mL超、特に500mL超、800mL超、1000mL超、1200mL超、及び特に1500超の体積を有する最終加熱滅菌されたすぐに使用できるPN製品を含むが、これらに限定されず、ビタミンAを安定して取り込むことができる医薬品を提供することにある。具体的には、本発明は、脂質エマルジョン製剤、例えば、全ての主要栄養素を含むPN用マルチチャンバーバッグも含むこのような大容量医薬品を提供する。
【0035】
当該技術分野では、ビタミンAの供給は、ミセル溶液に関連して(例えば、CN109010292B参照)又は混合したミセルにビタミンAを添加することによっても報告されている。しかしながら、本発明の開発過程において、このような液体ミセル法は、本発明の製品に要求されるような持続的なビタミンAの安定化には適していないことが判明した。これに対し、ビタミンAを安定に供給するためには、ビタミンAの安定性に関する研究で見出された一定の脂質エマルジョン及び特定の条件が必要であることを示すことができた。
【0036】
具体的には、本発明の医薬品の製造工程、特に医薬品の脂質エマルジョンにおいて、ビタミンAを1.5ppm超の酸素濃度に暴露することは、ビタミンAの長期安定性に有害であり、したがって、本発明に関連して脂質エマルジョン及びその成分の1.5ppm超のDO濃度への暴露は避けなければならないことが見いだされた。好ましくは、DO濃度は、1.0ppm未満、0.8ppm未満、又は更に好ましくは0.6ppm未満である。更に好ましい実施形態では、DO濃度は0.5ppm未満である。
【0037】
本発明との関連で、脂質エマルジョン中のDOの濃度は、1.5ppm以下である。好ましくは、脂質エマルジョン中のDOの濃度は、1.0ppm以下であり、実施形態では、0.5ppm以下である。特に好ましくは、脂質エマルジョンの製造工程、好ましくは本発明の医薬品の製造工程全体においても、DOが1ppm以下、好ましくは0.5ppm以下であることが保証される。
【0038】
実施形態では、脂質エマルジョン中のDOは、例えば、約0.001、0.005、0.01、0.02、0.03、0.04、0.05、0.06、0.07、0.08、0.09、0.1、0.12、0.14、0.16、0.18、0.2、0.22、0.24、0.26、0.28、0.3、0.32、0.34、0.36、0.38、0.4、0.42、0.44、0.46、0.48、0.6、0.62、0.64、0.66、0.68、0.7、0.72、0.74、0.76、0.78、0.5、0.52、0.54、0.56、0.58、0.8、0.82、0.84、0.86、0.88、0.9、0.92、0.94、0.96、0.98、0.99、1.00、1.10、1.20、1.30、1.40、又は1.49ppmなどの、0~1.5ppmの範囲内の値であってもよい。
【0039】
本発明によるDOの含有量は、このようなDO濃度が複雑な技術的計装又は溶液の操作なしに容易に確立できるため、本発明の医薬品の脂質エマルジョンによって含むことができるビタミンA及び更なるビタミンを安定化するために適していることは、大きな利点である。
【0040】
溶液中の溶存酸素(DO)とヘッドスペースに存在する酸素との間には、平衡が存在する。保存可能期間を通じて低いDOを維持するために、ビタミンAを含むチャンバーのヘッドスペースの酸素含有量を最小にすることができる。したがって、本発明の一実施形態によれば、ビタミンAを含むチャンバーのヘッドスペースをできるだけ少なくし、例えば、5mL未満、2mL未満、1mL未満、0.5mL未満、又は0.2mL未満にすることができる。他の実施形態では、残留空気中の酸素の含有量は、例えば窒素、アルゴン、CO又はこれらの混合物などの不活性ガスでヘッドスペースを満たすことによって低減される。本発明の更に別の実施形態では、ヘッドスペースの体積は、前述のように減少され、その後、前記不活性ガス又はガス混合物で満たされる。
【0041】
さらに、5~9のpHが、本発明の医薬品の脂質エマルジョン中のビタミンAの安定性を支持するために特に適切であろうということは予想外の発見であり、これまで、pHは、ビタミンAの安定性に影響を及ぼす主要なパラメータとして検討されたことはない。特に、とりわけ5.2~6.2の範囲のpH、とりわけ5.7~6.1の範囲のpHが、ビタミンAの長期安定性を支持することに適切であるという事実は、意外であった。
【0042】
実施形態では、pHは、請求された範囲内の任意の値であり得る。実施形態では、脂質エマルジョンのpHは、約5.1、5.2、5.3、5.4、5.5、5.6、5.7、5.8、5.9、6.0、6.1、6.2、6.3、6.4、6.5、6.6、6.7、6.8、6.9、7.0、7.1、7.2、7.3、7.4、7.5、7.6、7.7、7.8、7.9、8.0、8.1、8.2、8.3、8.4、8.5、8.6、8.7、8.8、8.9又は9.0であり得る。
【0043】
本発明の実施形態では、ビタミンAは、パルミチン酸レチニル、酢酸レチニル、レチナール、レチノール及び/又はレチノイン酸、好ましくはパルミチン酸レチニルの形態で提供される。
【0044】
実施形態では、医薬品のビタミンAは、パルミチン酸レチニルとして主に存在する。実施形態では、パルミチン酸レチニルは、本発明の脂質エマルジョンを、それを調製する方法中に添加されるビタミンAの唯一の形態である。実施形態では、本発明の医薬品の脂質エマルジョンのビタミンAは、パルミチン酸レチニルからなる。
【0045】
パルミチン酸レチニルは、他の特定の形態のビタミンAと比較して、本発明の医薬品の脂質エマルジョンにおいて特に安定であり、ビタミンAのより長い安定性を確保することが見出された。
【0046】
本発明の更なる実施形態では、脂質エマルジョンは、好ましくは低過酸化物の大豆油、オリーブ油、中鎖トリグリセリド、魚油、魚油エキス、オキアミ油、藻油、紅花油、ひまわり油、コーン油、ココナッツ油、パーム核油、菜種油、菌類油及び水素添加油又はこれらの混合物からなる群から選択される低過酸化物レベルの油を脂質成分として含む。
【0047】
当業者は、本発明の脂質エマルジョンと関連して特定の脂質成分の選択が、脂質エマルジョンによって含まれるビタミンA及び他のビタミンの安定性を高める重要な要因であると想定することはできない。しかしながら、本発明の製品を開発する過程において、一次及び二次酸化生成物の量が少ない油又は脂質が有利であり、本発明による製品中のビタミンの安定性に寄与し得ることが見出された。例えば、大豆油を使用する場合、低レベルの過酸化物を含むことを保証すべきである。
【0048】
したがって、実施形態では、医薬品の脂質エマルジョンは、脂質成分として、過酸化物価が5ミリ当量(mEq)O/kg以下、好ましくは3mEq O/kg以下、より好ましくは1.5mEq O/kg以下の油を含む。
【0049】
本発明の実施形態では、脂質エマルジョンは、2~40%、好ましくは5~30%、より好ましくは5~25%の脂質濃度を有する。
【0050】
実施形態では、本発明の脂質濃度は、約2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39又は40%のいずれかであり得る。
【0051】
本発明の実施形態では、脂質エマルジョンは、好ましくはEDTA、トコフェロール、パルミチン酸アスコルビル及びブチルヒドロキシトルエン(BHT)からなる群から選択される抗酸化剤を含んでもよい。
【0052】
大豆油などの酸化しやすい脂質成分や油脂を使用する場合には、抗酸化剤の使用が有利であり、示されている。このような抗酸化剤は、自己酸化の開始及び伝播の段階で形成されるフリーラジカルに抗酸化剤の水素を与えることにより、油脂の自己酸化を防止又は遅らせる。オリーブ植物、緑茶、ゴマ、薬用植物などから抽出することができる天然抗酸化物質を含む抗酸化物質には、様々な種類がある。
【0053】
本発明の実施形態では、医薬品は、2000~4000国際単位(IU)のビタミンAを含む。この実施形態は、成人患者へのビタミンAの提供に好ましい。
【0054】
実施形態では、本発明の医薬品は、500~1500国際単位(IU)ビタミンAを含み、新生児及び前期の乳児に使用することが好ましい。好ましくは、新生児用の本発明の医薬品は、500~1000IUのビタミンAを含む。さらに、前期の乳児用の本発明の医薬品は、好ましくは700~1500IUのビタミンAを含む。
【0055】
したがって、意図した用途に応じて、本発明の医薬品は、約550、600、650、700、750、800、850、900、950、1000、1050、1100、1150、1200、1250、1300、1350、1400、1450、1500、1550、1600、1650、1700、1750、1800、1850、1900、1950、2000、2050、2100、2150、2200、1250、2300、2350、2400、2450、2500、2550、2600、2650、2700、2750、2800、2850、2900、2950、3000、3050、3100、3150、3200、3250、3300、3350、3400、3450、3500、3550、3600、3650、3700、3750、3800、3850、3900、3950又は4000IUを含む、500~4000IUの範囲における値のビタミンAを含んでもよい。
【0056】
実施形態では、ビタミンA及び任意にビタミンD、E及び/又はKを含む脂質エマルジョンの体積は、1~1000mlの範囲である。この範囲内の本発明の脂質エマルジョンの任意の体積、例えば、2、3、4、5、6、7、8、9、10、12、14、16、18、20、24、28、32、36、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95、100、105、110、115、120、125、130、135、140、150、160、170、180、190、200、220、240、260、280、300、320、340、360、380、400、420、440、460、480、500、520、540、560、580、600、620、640、660、680、700、720、740、760、780、800、820、840、860、880、900、920、940、960、980、1000mlなどを使用することができる。
【0057】
本発明の実施形態では、脂質エマルジョンは、ビタミンAを含み、任意にビタミンD、E及び/又はKも含み、本発明の主要な脂質源として機能する脂質製剤によって含まれる。このような実施形態では、ビタミンA及び更なるビタミンを含む脂質エマルジョンの体積は、好ましくは約50~1000mL、好ましくは101mL~500mLの範囲である。
【0058】
更なる実施形態では、ビタミンA及び任意にビタミンD、E、及び/又はKも含む脂質エマルジョンは、本発明の医薬品の主要な脂質源とは異なるエマルジョンである。実施形態では、医薬品は、2つの脂質エマルジョンを含んでもよく、第1の脂質エマルジョンは、本発明の医薬品のより小さな体積/チャンバーに提供されるビタミンA及び更なるビタミンを含むエマルジョンであり、一方、第2のエマルジョンは、主要な脂質源として機能し、例えば、すぐに使用できるTPN製品と関連して、本発明の医薬品のより大きな体積/チャンバー、好ましくは本発明の製品のフレキシブルコンテナの分離チャンバーの中に提供することができる。このような実施形態では、ビタミンAのエマルジョンは、好ましくは約1~150ml、より好ましくは約1~100mlの範囲の体積を有し、第2の脂質エマルジョン/チャンバーは、好ましくは約40~1000ml、より好ましくは50~500mlの体積を有している。例えば、本明細書で請求されるビタミンAを含む第1の脂質エマルジョンを含むチャンバーは、10~50ml、例えば15ml、20ml又は25mlの体積を有してもよく、第2の脂質エマルジョンは、100~500ml、好ましくは約200mlの範囲内の体積を有してもよい。
【0059】
上記のように、実施形態では、ビタミンAを含む本発明の脂質エマルジョンの脂質濃度は、2~40%の範囲である。好ましくは、安定性を更に高めるために、5~20%の範囲であるべきであり、より好ましくは5~14%の範囲であるべきである。したがって、脂質エマルジョンの可能な体積に鑑みて、脂質溶液の脂質含有量(グラム単位)は、当業者であれば誰でも計算することが可能である。さらに、対応するビタミン濃度を計算することができる。これは、表1及び2に描写された例示的な実施形態に説明されている。
【0060】
【表1】
【表2】
【0061】
したがって、本発明の実施形態では、ビタミンAは、脂質1グラム当たり20~80,000IUビタミンA(IU/グラム)の範囲の濃度で医薬品のエマルジョン中に存在することができる。
【0062】
実施形態では、脂質エマルジョン中のビタミンA濃度は、約20、25、30、35、40、45、50、60、70、80、90、100、110、120、130、140、150、160、170、180、190、200、220、240、260、280、300、320、340、360、380、400、420、440、460、480、500、550、600、650、700、750、800、850、900、950、1000、1100、1200、1300、1400、1500、1600、1700、1800、1900、2000、2200、2400、2600、2800、3000、3500、4000、4500、5000、5500、6000、6500、7000、7500、8000、8500、9000、9500、10000、11000、12000、13000、14000、15000、16000、17000、180000、19000、20000、21000、22000、23000、24000、25000、26000、27000、280000、29000、30000、31000、32000、33000、34000、35000、36000、37000、380000、39000、40000、41000、42000、43000、44000、45000、46000、47000、480000、49000、50000、51000、52000、53000、54000、55000、56000、57000、580000、59000、60000、61000、62000、63000、64000、65000、66000、67000、680000、69000、70000、71000、72000、73000、74000、75000、76000、77000、7800000、79000、80000IU/グラム脂質のいずれかであり得る。
【0063】
本発明の医薬品の実施形態では、脂質エマルジョンは、
a.100mL以下の体積を有し、ビタミンAがエマルジョン中に1000~4000IU/グラム、好ましくは1200~3000IU/グラム、より好ましくは約2200IU/グラムの脂質濃度で存在し、又は
b.100mL以上の体積を有し、ビタミンAがエマルジョン中に20~300IU/グラムの濃度、より好ましくは約40~180IU/グラムの濃度、特に好ましくは約80~120IU/グラムの濃度で存在する。
【0064】
本発明の医薬品の更なる実施形態では、脂質エマルジョンは、ビタミンB群からなる群から選択されるビタミンを更に含む。
【0065】
実施形態では、脂質エマルジョンは、ビタミンB2を更に含む。実施形態では、脂質エマルジョンは、ビタミンB3を更に含む。実施形態では、脂質エマルジョンは、ビタミンB5を更に含む。実施形態では、脂質エマルジョンは、ビタミンB8を更に含む。実施形態では、脂質エマルジョンは、ビタミンB9を更に含む。
【0066】
実施形態では、脂質エマルジョンは、ビタミンB2及びB3を更に含む。実施形態では、脂質エマルジョンは、ビタミンB2及びB5を更に含む。実施形態では、脂質エマルジョンは、ビタミンB2及びB8を更に含む。実施形態では、脂質エマルジョンは、ビタミンB2及びB9を更に含む。実施形態では、脂質エマルジョンは、ビタミンB2を更に含む。実施形態では、脂質エマルジョンは、ビタミンB12を更に含む。実施形態では、脂質エマルジョンは、ビタミンB12及びビタミンB5を含む。
【0067】
実施形態では、脂質エマルジョンは、ビタミンB3及びB5を更に含む。実施形態では、脂質エマルジョンは、ビタミンB3及びB8を更に含む。実施形態では、脂質エマルジョンは、ビタミンB3及びB9を更に含む。実施形態では、脂質エマルジョンは、ビタミンB3を更に含む。
【0068】
実施形態では、脂質エマルジョンは、ビタミンB5及びB8を更に含む。実施形態では、脂質エマルジョンは、ビタミンB5及びB9を更に含む。実施形態では、脂質エマルジョンは、ビタミンB5を更に含む。
【0069】
実施形態では、脂質エマルジョンは、ビタミンB8及びB9を更に含む。実施形態では、脂質エマルジョンは、ビタミンB8及びB12を更に含む。実施形態では、脂質エマルジョンは、ビタミンB9を更に含む。
【0070】
実施形態では、脂質エマルジョンは、ビタミンB2、B3及びB5を更に含む。実施形態では、脂質エマルジョンは、ビタミンB2、B3及びB8を更に含む。実施形態では、脂質エマルジョンは、ビタミンB2、B3及びB9を更に含む。実施形態では、脂質エマルジョンは、ビタミンB2及びB3を更に含む。
【0071】
実施形態では、脂質エマルジョンは、ビタミンB2、B5及びB8を更に含む。実施形態では、脂質エマルジョンは、ビタミンB2、B5及びB9を更に含む。実施形態では、脂質エマルジョンは、ビタミンB2及びB5を更に含む。
【0072】
実施形態では、脂質エマルジョンは、ビタミンB2、B8及びB9を更に含む。実施形態では、脂質エマルジョンは、ビタミンB2、B8及びB12を更に含む。実施形態では、脂質エマルジョンは、ビタミンB2及びB9を更に含む。
【0073】
実施形態では、脂質エマルジョンは、ビタミンB3、B5及びB8を更に含む。実施形態では、脂質エマルジョンは、ビタミンB3、B5及びB9を更に含む。実施形態では、脂質エマルジョンは、ビタミンB3及びB5を更に含む。
【0074】
実施形態では、脂質エマルジョンは、ビタミンB3、B8及びB9を更に含む。実施形態では、脂質エマルジョンは、ビタミンB3及びB8を更に含む。実施形態では、脂質エマルジョンは、ビタミンB3及びB9を更に含む。
【0075】
実施形態では、脂質エマルジョンは、ビタミンB5、B8及びB9を更に含む。実施形態では、脂質エマルジョンは、ビタミンB5及びB8を更に含む。実施形態では、脂質エマルジョンは、ビタミンB5及びB9を更に含む。
【0076】
実施形態では、本発明の医薬品は、脂質エマルジョンの脂質相中にビタミンA、D、E及びKを含む。さらに、医薬品は、脂質エマルジョン中又はフレキシブルコンテナの異なるチャンバーに設けられた別々の液体中に、更なるビタミンを含むことができる。例えば、ビタミンB2、B3、B5、B8及び/又はB9は、脂質エマルジョンの水相中又は製品の別々の溶液中に含むことができる。医薬品に含むことができるそれぞれのビタミンの好ましい量の例を、表3に一覧にする。
【表3】
【0077】
実施形態では、医薬品は、光保護外包を含む。これは、ビタミンAは光に敏感であり、光保護は医薬品におけるその安定性を高めるため、非常に有利である。
【0078】
医薬品の実施形態では、フレキシブルコンテナは、好ましくは50cc/m/日未満の酸素透過率を有する酸素バリアフィルムを含む。更なる実施形態では、フレキシブルコンテナは、ポリオレフィンを含む内張り(an inner lining)を含み、内張りは、ポリ塩化ビニル(PVC)、可塑剤、接着剤又はラテックスを含有しない。実施形態では、フレキシブルコンテナは、好ましくは50cc/m/日未満の酸素透過性を有する酸素バリアフィルムと、ポリオレフィンを含む内張りと、を含み、内張りは、ポリ塩化ビニル(PVC)、可塑剤、接着剤又はラテックスを含有しない。
【0079】
本発明の実施形態では、ビタミンAは、1~50℃の温度で保存した場合、少なくとも3ヶ月、脂質エマルジョン中で安定である。
【0080】
本発明の実施形態では、ビタミンAは、脂質エマルジョン中で少なくとも6ヶ月、好ましくは12ヶ月、より好ましくは18ヶ月、最も好ましくは24ヶ月、30℃までの温度、例えば25℃で安定である。例えば、本発明によるビタミンA含有溶液は、25℃の温度で24ヶ月安定である。実施形態では、本発明によるビタミンA含有溶液は、30℃の温度で24ヶ月安定である。
【0081】
本発明の医薬品の特徴の組み合わせ、特に5~9の範囲のpH及び1.5ppm以下のDO濃度により、とりわけ、より高い体積を有する最終加熱滅菌された製品及び/又は脂質エマルジョン製剤を含むMCBが関係する場合に、医薬品中の脂質エマルジョンの脂質相におけるビタミンA、D、E及びKの長期安定性を確保できることは驚くべきことであった。本特徴の組み合わせにより、初めて、このような医薬品、特に先に定義したような高い体積の医薬品、とりわけ、その大きさと高い合計の(再構成した)体積により、最終加熱滅菌時により高い熱暴露を必要とする非経口栄養用の脂質エマルジョンを含む全ての主要栄養素に提供するMCBに、ビタミンAを安定的に導入することが可能となる。
【0082】
実施形態では、本発明に関連して配合される脂質エマルジョンは、ビタミンA、任意にD、E及びKと一緒に、潜在的にはまた、上記のビタミンB群の1つ以上と組み合わせて安定化し、これらは、好ましくは、40℃までで保存したときに、少なくとも3ヶ月脂質エマルジョン上の水相中に溶解される。
【0083】
本発明の更なる実施形態では、ビタミンA、任意にビタミンD、E及びKと組み合わせて、脂質エマルジョン中で少なくとも6ヶ月、好ましくは少なくとも12ヶ月、より好ましくは少なくとも18ヶ月、最も好ましくは少なくとも24ヶ月安定である。
【0084】
本発明の更なる実施形態では、ビタミンAは、任意にビタミンD、E及びKと組み合わせて、25℃までの温度、又は30℃までの温度で、少なくとも6ヶ月、好ましくは12ヶ月、より好ましくは18ヶ月、最も好ましくは24ヶ月、脂質エマルジョン中で安定である。
【0085】
本発明の更なる実施形態では、ビタミンA、任意にビタミンD、E及びKと組み合わせて、脂質エマルジョン中で少なくとも6ヶ月、好ましくは少なくとも12ヶ月、より好ましくは少なくとも18ヶ月、最も好ましくは少なくとも24ヶ月、約1℃~25℃の温度で安定である。
【0086】
本発明のまた更なる実施形態では、ビタミンA、任意にビタミンD、E及びKと組み合わせて、脂質エマルジョン中で少なくとも6ヶ月、好ましくは少なくとも12ヶ月、より好ましくは少なくとも18ヶ月、最も好ましくは少なくとも24ヶ月、例えば、これらに限定されないが、15~30℃、より好ましくは18~25℃に変化する室温の温度、又は1~10℃、好ましくは2~8℃、若しくは3~7℃などの冷蔵条件での貯蔵、を含む通常の貯蔵温度で安定である。
【0087】
本発明の実施形態では、ビタミンAを含む脂質エマルジョンは、滅菌された脂質エマルジョンである。幾つかの実施形態では、本発明の医薬品の脂質エマルジョンは、滅菌されてもよい。
【0088】
ビタミンAに関連して本明細書で使用する用語「安定」は、製品中に最初に提供されたビタミンAの量の少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%又は少なくとも80%が、1℃~40℃の温度で少なくとも6ヶ月及び/又は1℃~25℃の温度で少なくとも24ヶ月、本発明の最終加熱滅菌された製品の貯蔵後に依然として利用可能であることを意味する。好ましくは、製造時に製品に提供されるビタミンAの少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%又は少なくとも95%が、1℃~40℃の温度で少なくとも6ヶ月及び/又は1℃~25℃の温度で少なくとも24ヶ月、本発明の最終加熱滅菌された製品の貯蔵後に依然として利用可能である。一般に、「製品に提供される」ビタミンAの量は、製品説明書に記載された量に相当する。
【0089】
本発明の脂質エマルジョンは、調製及びフレキシブルバッグへの包装後に滅菌することができ、具体的には、前記フレキシブルバッグは、例えば非経口栄養に使用するマルチチャンバーコンテナであり、ビタミンAの著しい損失及び存在する場合はビタミンD、E及びK、並びに潜在的にそこに提供される更なるビタミン類の損失なく気密及び液密に密封することができる、酸素バリアフィルムなどの酸素不透過性の材料から好ましくは調製されていることは、重要な利点である。
【0090】
特定の好ましい実施形態では、本発明の脂質エマルジョンは、脂質エマルジョンの調製及びフレキシブルコンテナへの充填の後に、最終加熱滅菌を受ける。滅菌は、本発明の医薬品のフレキシブルバッグへの脂質エマルジョンの充填前又は充填後に行われてもよく、最終滅菌、具体的には充填及び密封されたフレキシブルコンテナの加熱滅菌は、本発明に関連して明らかに好ましい。
【0091】
本発明による製品の滅菌は、好ましくは最終加熱滅菌工程によって行われるが、ガンマ線照射又は任意の他の滅菌技術を使用することもまた可能である。好ましくは、本発明による製剤を含むマルチチャンバーバッグを具体的に含む医薬品は、最終加熱滅菌される。
【0092】
実施形態では、本発明によるビタミンA製剤は、非経口栄養用の最終加熱滅菌されたマルチチャンバーコンテナの一部を形成し、少なくとも2つ、少なくとも3つ、少なくとも4つ又は少なくとも5つのチャンバーを含み、そのうちの1つに本発明によるビタミンA製剤が収容される。
【0093】
本発明の実施形態では、脂質エマルジョンは、炭水化物及びタンパク質からなる群から選択される主要栄養素を含まず、好ましくは、脂質エマルジョンは、脂質及びビタミン以外の栄養素を含まない。実施形態では、脂質エマルジョンの水相は、栄養素と見なされない可能性のある水を含む。
【0094】
実施形態では、脂質エマルジョンは、炭水化物を含まない。実施形態では、脂質エマルジョンは、タンパク質を含まない。更なる実施形態では、脂質エマルジョンは、タンパク質又はアミノ酸を含まない。実施形態では、脂質エマルジョンは、電解質を含まない。実施形態では、溶液は、微量元素を含まない。実施形態では、エマルジョンは、脂質及びビタミンのみを含む。実施形態では、脂質エマルジョンは、ビタミンとして、ビタミンA、D、E及びKのみを含む。実施形態では、脂質エマルジョンは、唯一のビタミンとしてビタミンAを含む。実施形態では、脂質エマルジョンは、唯一のビタミンとしてビタミンA及びDを含む。実施形態では、脂質エマルジョンは、唯一のビタミンとしてビタミンA及びEを含む。実施形態では、脂質エマルジョンは、唯一のビタミンとしてビタミンA及びKを含む。実施形態では、脂質エマルジョンは、唯一のビタミンとしてビタミンA、E及びDを含む。実施形態では、脂質エマルジョンは、唯一のビタミンとしてビタミンA、K及びDを含む。実施形態では、脂質エマルジョンは、唯一のビタミンとしてビタミンA、E及びKを含む。
【0095】
本発明の実施形態では、エマルジョン及び医薬品は、非経口投与用に構成される。更なる実施形態では、エマルジョン及び医薬品は、経口投与用に構成される。実施形態では、エマルジョン及び医薬品は、経腸投与用に構成される。
【0096】
本発明の実施形態では、脂質エマルジョンは、少なくとも2つ、少なくとも3つ、少なくとも4つ、少なくとも5つ又は少なくとも6つのチャンバーを有するマルチチャンバーコンテナの1つのチャンバーに収容される。
【0097】
更なる実施形態では、コンテナは、炭水化物製剤を含む少なくとも第1のチャンバーと、アミノ酸製剤を含む第2のチャンバーと、脂質製剤を含む第3のチャンバーと、を備え、任意に、第1、第2及び/又は第3のチャンバー中に電解質及び/又はビタミン及び/又は微量元素を含む。
【0098】
更なる特定の実施形態では、脂質エマルジョンは、第4のチャンバーに存在する。
【0099】
特定の実施形態では、脂質エマルジョンは、医薬品の主要栄養素成分として機能する脂質製剤を含むチャンバー内に存在する。本明細書で使用されるように、主要栄養素成分として機能する脂質製剤は、例えばTPNに関連して消費者/患者の脂質の必要性をカバーすることを意図した脂質を含む液体に関する。ビタミンA、D、E及びKを含む本発明の脂質エマルジョンは、この脂質製剤に含まれることができ、これは通常、医薬品の大きなチャンバー内に提供され、好ましくは、用途に応じて、50~1000mlの範囲の体積を有する。代替的な実施形態では、ビタミンA、D、E及びKを含む本発明の脂質エマルジョンは、医薬品の主要栄養素成分として機能する脂質製剤を含むチャンバーとは別のチャンバー内に提供される。言い換えれば、脂質エマルジョンは、脂質製剤の一部であるか、又は脂質製剤のチャンバーとは異なるチャンバー内に存在する別個の溶液であることができる。
【0100】
更なる実施形態では、コンテナは、炭水化物製剤を含む少なくとも第1のチャンバーと、アミノ酸製剤を含む第2のチャンバーと、脂質製剤を含む第3のチャンバーと、を備え、任意に、第1、第2、第3、又は第4のチャンバー内に電解質及び/又はビタミン及び/又は微量元素を含む。
【0101】
実施形態では、コンテナは、炭水化物製剤を含む少なくとも第1のチャンバーと、アミノ酸製剤を含む第2のチャンバーと、脂質製剤を含む第3のチャンバーと、微量元素(好ましくは水溶液中)を含む第4のチャンバーと、を備え、任意に第1、第2、第3及び/又は第4のチャンバー中に電解質及び/又はビタミンを含む。
【0102】
実施形態では、コンテナは、炭水化物製剤を含む少なくとも第1のチャンバーと、アミノ酸製剤を含む第2のチャンバーと、脂質製剤を含む第3のチャンバーと、微量元素を含む第4のチャンバーと、を備え、任意に、少なくとも第1、第2、第3及び/又は第4のチャンバー中に電解質及び/又はビタミンを含み、少なくとも1つのチャンバーは、脂質エマルジョンを含む。好ましくは、コンテナは、少なくとも第1、第2、第3及び/又は第4のチャンバー中に電解質及び/又はビタミン及び/又は微量元素を含む。このような実施形態のうちの特定のものでは、少なくとも1つのチャンバーが脂質エマルジョンを含み、脂質エマルジョンは、好ましくは、第3のチャンバーの脂質製剤に含まれるか、又は第5のチャンバーに存在する。
【0103】
実施形態では、コンテナは、炭水化物製剤を含む少なくとも第1のチャンバーと、アミノ酸製剤を含む第2のチャンバーと、脂質製剤を含む第3のチャンバーと、を備え、電解質、微量元素及び/又はビタミンを第4及び/又は第5のチャンバーに含み、脂質エマルジョンを更なるチャンバーに含む。
【0104】
実施形態では、脂質エマルジョンは、水相中に、追加の水溶性ビタミン、特に、好ましくはビタミンB2、B5及び/又はB12などの、本明細書に開示されるビタミンB群の1つ以上を含む。
【0105】
実施形態では、脂質エマルジョンは、ビタミンB1及びビタミンCを含まない。
【0106】
実施形態では、コンテナは、炭水化物製剤を含む少なくとも第1のチャンバーと、アミノ酸製剤を含む第2のチャンバーと、脂質製剤を含む第3のチャンバーと、微量元素を含む第4のチャンバーと、脂質エマルジョンを含む第5のチャンバーと、を備える。
【0107】
本発明の実施形態では、脂質エマルジョンは、少なくとも2つ、少なくとも3つ、少なくとも4つ、少なくとも5つ又は少なくとも6つのチャンバーを有するマルチチャンバーコンテナの1つのチャンバーに収容される。本発明の実施形態では、コンテナは、酸素不透過性の可撓性材料から作られる。このようなコンテナは、例えば、好ましくは50cc/m/日未満の酸素透過性を有する酸素バリアフィルムを含むことができる。
【0108】
更なる態様では、本発明は、患者のビタミンA欠乏を予防又は是正するための本発明の医薬品の調製方法に関するものであり、脂質エマルジョンは、脂質相及び水相を含み、
a.脂質相及び水相を別々に、撹拌下で60℃~90℃の温度に加熱すること、
b.ビタミンA、並びに任意にビタミンD、ビタミンE及び/又はビタミンKを脂質相に添加すること、
c.撹拌下で脂質相を水相に移すことにより、プレエマルジョンを調製すること、
d.プレエマルジョンを加圧下で40℃~60℃の温度で均質化すること、
e.任意に水を加えて、必要な体積及び濃度を調整すること、
f.脂質エマルジョンを1.5ppm以下の溶存酸素(DO)濃度及び5~9のpH値に調整すること、及び
g.溶液を、好ましくは最終加熱滅菌、より好ましくは湿熱による最終加熱滅菌によって滅菌すること、
を含む工程によって調製される。
【0109】
実施形態では、工程a.において、脂質相及び水相は、70℃~80℃の温度まで撹拌下で加熱される。
【0110】
他の態様では、本発明は、ビタミンA欠乏の予防又は是正に使用するための非経口投与用の滅菌された脂質エマルジョンであって、(a)脂質エマルジョンの脂質相中に、好ましくはパルミチン酸レチニルの形態で、ビタミンA、(b)任意に、脂質エマルジョンの脂質相中にビタミンD、ビタミンE及び/又はビタミンK、(c)1.5ppm以下のDO、及び(d)5~9のpH、を含む。
【0111】
脂質エマルジョンの滅菌は、溶液を本発明のフレキシブルコンテナに充填する前又は後に行うことができる。
【0112】
さらに、本発明は、患者のビタミンA欠乏を予防又は是正する方法に関するものであり、当該方法は、(a)脂質エマルジョンの脂質相中に、好ましくはパルミチン酸レチニルの形態で、ビタミンA、(b)脂質エマルジョンの脂質相中に任意にビタミンD、ビタミンE及び/又はビタミンK、(c)1.5ppm以下のDO、及び(d)5~9のpH、を含む脂質エマルジョンを投与することを含む。
【0113】
本発明による患者のビタミンA欠乏を予防又は是正する方法の実施形態では、当該方法は、全非経口栄養を受けている患者において、ビタミンAの血漿レベルを維持し、内因性貯蔵物の枯渇を防止するための溶液を投与することを含む。
【0114】
患者のビタミンA欠乏を予防又は是正する方法との関連で、患者は成人患者である。実施形態では、患者は、新生児、早産児、乳児、小児又は青年などの小児患者である。
【0115】
本明細書で使用する場合、「成人」という用語は、20歳以上の人を指す。「小児」という用語は、生後1ヶ月までの未熟児(早産児)、完熟児、及び後期新生児;生後1ヶ月から1年までの乳児;1歳から12歳までの子供、及び13歳から19歳までの青年を含む新生児を指す。
【0116】
本発明の患者のビタミンA欠乏を予防又は是正するための医薬品に関連して開示された全ての特徴は、このような医薬品を調製する方法にも関連し、ここで、医薬品を調製する方法との関連でも開示されており、その逆もまた同様である。本発明の無菌又は滅菌された脂質エマルジョン及び本発明に係る患者のビタミンA欠乏の予防又は是正する方法についても同様である。
【発明を実施するための形態】
【0117】
発明の詳細な説明
【0118】
特許文献及び非特許文献の全ての引用文献は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0119】
本発明は、フレキシブルコンテナ内の脂質エマルジョンを含む、患者のビタミンA欠乏を予防又は是正するための、好ましくは最終加熱滅菌された医薬品を対象としており、脂質エマルジョンは、(a)脂質エマルジョンの脂質相中に、好ましくはパルミチン酸レチニルの形態で、ビタミンA、(b)脂質エマルジョンの脂質相中に任意にビタミンD、ビタミンE及び/又はビタミンK、及び(c)1.5ppm以下の溶存酸素(DO)を含み、(d)脂質エマルジョンのpHは、5~9のpHである。
【0120】
本明細書に開示するように、医薬品という用語は、医療目的、好ましくは臨床栄養のために使用されることを意図した、あらゆる製品に関する。本発明の医薬品は、患者のビタミンA欠乏を予防又は是正するという医療目的のために意図され、設計されたものである。
【0121】
ビタミンAという用語は、レチノール、レチナール、及びレチノイン酸を含む脂溶性の不飽和栄養有機化合物のグループに関するものであり、これらは体内で活性化される化合物である。さらに、この用語は、ビタミンAの貯蔵形態を含む幾つかのプロビタミンAカロテノイド(最も顕著なのはβ-カロテン)を含む。
【0122】
ビタミンAは、成長及び発育、免疫系の維持、並びに良好な視力に重要である、複数の機能を有する。ビタミンAは、レチナールという形態で目の網膜に必要であり、タンパク質オプシンと結合して、低照度(暗所視)及び色覚の両方に必要な光吸収分子であるロドプシンを形成する。ビタミンAはまた、上皮細胞などの重要なホルモン様成長因子であるレチノイン酸(レチノールの不可逆的酸化体)として、非常に様々な役割を担っている。
【0123】
動物由来の食品において、ビタミンAは、エステルの形態、主に、小腸でレチノール(化学的にはアルコール)に変換されるパルミチン酸レチニルの形態で殆ど存在する。レチノール形態は、ビタミンAの貯蔵形態として機能し、その視覚活性アルデヒド形態であるレチナールに変換されたり、レチナールから変換されたりすることができる。
【0124】
全ての形態のビタミンAは、レチニル基と呼ばれるイソプレノイド鎖が結合したβ-イオノン環を有している。両方の構造的特徴は、ビタミン活性に必須である。ニンジンのオレンジ色の色素(β-カロテン)は、2つの結合したレチニル基として表すことができ、これが体内で使用されてビタミンA量に寄与する。α-カロテン及びγ-カロテンはまた、単一のレチニル基を有し、これがある程度のビタミン活性を与える。他のカロテンは、いずれもビタミン活性を有しない。カロテノイドのβ-クリプトキサンチンは、イオノン基を有し、ヒトにおいてビタミン活性を有する。
【0125】
ビタミンAは、食品中にレチノール及びカロテンの2つの主要な形態で存在することができる。動物性食品源を食べたときに吸収されるビタミンAの形態であるレチノールは、黄色の脂溶性物質である。純粋なアルコール形態は不安定であるため、当該ビタミンは、レチニルエステル形態として組織中に存在する。また、酢酸レチニルやパルミチン酸レチニルなどのエステルとして商業的に生産及び投与されている。カロテン類であるα-カロテン、β-カロテン、γ-カロテン、及びキサントフィルであるβ-クリプトキサンチン(いずれもβ-イオノン環を含む)は、他のカロテノイドとは異なり、腸管粘膜でβ-カロテンを切断してレチノールに変換するβ-カロテン15,15’-ジオキシゲナーゼという酵素を保有する草食動物や雑食動物でプロビタミンAとして機能する。
【0126】
本発明との関連で、ビタミンAの例としては、パルミチン酸レチニル、酢酸レチニル、レチナール、レチノイン酸、及び/又は図1に表示される例が挙げられる。
【0127】
本発明との関連で、この形態のビタミンAが、本発明の医薬品に関連して非常に良好な安定性と関連していることが見出されたため、パルミチン酸レチニルの使用が特に好ましい。
【0128】
ビタミンAパルミチン酸エステル又はパルミチン酸レチノールとも呼ばれるパルミチン酸レチニルは、レチノール及びパルミチン酸のエステルで、式C3660である。
【0129】
ビタミンA欠乏は、患者の体内に十分なビタミンAがない状態を指す。これは、幾つかの健康問題を引き起こす可能性がある。本発明の患者群は、ビタミンA欠乏を発症する危険性がある、又は既にビタミンA欠乏を発症している全ての患者又は患者群を含む。特に、本発明の医薬品は、患者に既に生じているビタミンA欠乏を是正又は治療することを意図している。さらに、本発明を使用して、例えば、重度に障害された腸機能、全又は部分非経口栄養、胃腸バイパス手術、又は高齢のために、ビタミンA欠乏の発症の危険がある、又はその疑いがある患者におけるビタミンA欠乏の発生を予防することができる。本発明との関連で、予防は、絶対的な予防、すなわち疾患の発症を全く阻止すること、及び/又は患者が望ましくない病状を発症する危険性若しくは可能性を低下させる、又は疾患の発症、初発及び/若しくは進行を遅くする(slows)又は遅延させる(delays)予防措置の両方を包含すると見なされる。
【0130】
ビタミンA欠乏は、世界中の5歳未満の子供の約3分の1が罹患していると推定される。年間670,000人の5歳未満の子供の命が奪われていると推定される。発展途上国では、毎年250,000人~500,000人の子供がビタミンA欠乏のために失明しており、アフリカ及び東南アジアでの有病率が最も高い。ユニセフによると、ビタミンA欠乏は、「予防可能な小児失明症の主要原因」である。また、下痢などの一般的な小児疾患による死亡の危険性も増加させる。ユニセフは、ビタミンA欠乏を対処することは、国連のミレニアム開発目標の4番目に掲げられている乳幼児死亡率の低下、にとって極めて重要であると考えている。したがって、小児、新生児、早産児及び青年の治療における本発明の医薬品の適用は、本発明の重要な態様である。
【0131】
ビタミンA欠乏は、一次的な欠乏又は二次的な欠乏として起こり得る。一次的なビタミンA欠乏は、果物及び野菜からのプロビタミンAカロテノイド、又は動物及び乳製品からの既成ビタミンAを十分に摂取していない子供及び成人の間で生じる。また、母乳からの早期離乳もビタミンA欠乏の危険性を高める可能性がある。
【0132】
二次性ビタミンA欠乏は、脂質の慢性的な吸収不良、胆汁の生産及び放出障害、タバコの煙などの酸化剤への慢性的な暴露、並びに慢性アルコール中毒と関連している。ビタミンAは、脂溶性ビタミンであり、小腸への分散はミセル可溶化に依存しているため、低脂肪食からのビタミンAの利用が好ましくない結果をもたらす。亜鉛は、ビタミンAの輸送タンパク質の合成に不可欠であり、レチノールからレチナールへの変換の補因子として働くため、亜鉛の欠乏はまた、ビタミンAの吸収、輸送、代謝を悪くする可能性がある。栄養不良の人々では、ビタミンA及び亜鉛の摂取量が一般的に少ないため、ビタミンA欠乏の重症度が高まり、欠乏の生理学的徴候や症状を引き起こす。ブルキナファソの研究では、幼児にビタミンAと亜鉛を組み合わせて補給することにより、マラリアの罹患率が大幅に減少することが示された。本発明は、一次及び二次欠乏を含む、あらゆる種類のビタミンA欠乏に関する。
【0133】
視覚的発色団としての網膜の独特な機能により、ビタミンA欠乏の最も早いかつ特異的な症状の1つは、視力障害、特に減光における視力障害、すなわち夜盲症である。ビタミンAの欠乏が続くと、一連の変化が生じ、その中でも最も壊滅的なものは、眼で生じる。幾つかの他の眼球の変化は、乾燥性眼炎と呼ばれる。
【0134】
ビタミンAの過剰ではなく十分な供給は、妊娠中及び授乳中の女性にとって、正常な胎児の発育のために、及び母乳中に特に重要である。欠乏は、産後の補充によって補うことはできない。高用量ビタミンサプリメントで最も一般的なビタミンAの過剰摂取は、出生異常を引き起こす可能性があり、したがって1日の推奨値を超えないようにすべきである。
【0135】
本発明の医薬品は、ビタミンA欠乏を有する、発症している、又は発症の危険性がある患者の治療に使用することができる。当該治療は、この患者群におけるビタミンA欠乏を予防又は是正することを目的とすることができる。
【0136】
本発明との関連で、医薬品は、好ましくは酸素不透過性材料から作られたフレキシブルコンテナ又はフレキシブルバッグを含む。本発明との関連で、酸素不透過性材料の例は、酸素バリアフィルムであり、好ましくは、酸素透過率が50cc/m/day未満である。
【0137】
「溶存酸素」(DO)という用語は、水、脂質エマルジョン又はその他の液体若しくは溶液などの液体中に存在する、自由な、化合物ではない酸素のレベルに言及する。酸素飽和度(記号SO)は、所定の媒体に溶解可能な最大濃度の割合としてその媒体に溶解又は運搬されている酸素の濃度の相対的測度である。酸素センサー又はオプトードなどの溶存酸素プローブを用いて、液体媒体中、通常は水中の酸素濃度を測定することができる。
【0138】
溶存酸素は通常、1リットルあたりのミリグラム(mg/L)又は空気飽和度のパーセントで報告される。しかしながら、研究はまた、百万分の一(ppm)又はマイクロモル(μmol)単位でDOを報告する。1mg/Lは、1ppmに相当する。mg/Lと%空気飽和度との間の関係は、水の温度、圧力及び塩分によって変化する。酸素の1マイクロモルは、0.022391ミリグラムに等しい。したがって、100μmol/LのOは、2.2mg/LのOに相当する。空気飽和度から溶存酸素濃度を計算するために、試料の温度及び塩分濃度を知る必要がある。気圧は、酸素分圧が空気飽和率に寄与するため、すでに考慮されている。次に、塩分及び温度は、DO濃度が100%空気飽和状態になる場合に、ヘンリーの法則で計算することができる。しかしながら、酸素溶解度チャートを使用することはより簡単である。これらの表は、温度及び塩分濃度を変化させたときの空気100%飽和時の溶存酸素濃度を示している。次にこの値を、測定した飽和空気濃度に乗じることで、溶存酸素濃度を算出することができる[Fondriest Environmental,Inc.“Dissolved Oxygen.”Fundamentals of Environmental Measurements.19 Nov.2013.]。
【0139】
液体の酸素化は、例えば、液体を、酸素を含む気体に暴露することで行われる。例えば、液体試料を約21%のOを含む雰囲気に暴露すると、気体酸素の液体中への拡散により酸素化が起こる。この工程は、例えば、酸素含有ガス又は当業者に知られた同様の技術で液体を撹拌し、流すことによって加速することができる。
【0140】
溶存酸素濃度を測定するために、当該技術分野で利用可能な幾つかの方法がある。現代の技術は、溶存酸素センサーは、スポットサンプリング及び実験室用途のためのメーターに、又は展開された測定及び工程制御のためのデータロガー、プロセスモニター若しくはトランスミッターに取り付けられる場合、電気化学的センサー又は光学的センサーのいずれかを含む。一例として、ガス状及び溶存酸素用のPreSens Precision Sensing GmbH(ドイツ)の光ファイバー式酸素計Microx TX3がある。比色法は、サンプル中の溶存酸素濃度の基本的な近似値を提供する。高範囲及び低範囲の溶存酸素濃度用に設計された2つの方法がある。これらの方法は、基本的なプロジェクトには迅速かつ安価であるが、範囲が限定され、水中に存在する可能性のある他の酸化還元剤による誤差が生じる。伝統的な方法は、ウィンクラー滴定である。
【0141】
例えば、窒素などの適当なガスによるガスフラッシング、又は真空脱気装置の使用によるものを含む脱酸素の方法が、当業者に知られている。
【0142】
本発明の実施形態では、医薬品の脂質エマルジョンは、滅菌されたエマルジョンである。本発明との関連で、用語「滅菌された」は、滅菌の工程を経た溶液又はエマルジョンに関する。滅菌とは、特定の表面、物体又は液体、例えば食品又は生物学的培地に存在するあらゆる種類の生命(特に、真菌、細菌、ウイルス、芽胞、原虫などの単細胞真核生物などの微生物を指す)及びプリオンのような他の生体物質を排除、除去、殺害又は不活性化するあらゆる工程を指す。滅菌は、熱、化学物質、照射、高圧、及び濾過など、様々な手段で達成することができる。滅菌は、消毒、除菌、及び低温殺菌とは異なり、これらの方法は、存在するあらゆる種類の生命体及び生物学的因子を除去するのではなく、むしろ減少させるという点で異なる。滅菌後、対象物は、無菌状態又は無菌と呼ばれる。
【0143】
本発明の一実施形態によれば、滅菌は、熱によって行われる。本発明の他の実施形態によれば、滅菌は、水の存在下、圧力下で加熱して蒸気を発生させることを含み、この方法は、様々な薬局方及び規制当局によって推奨されている。一般に、前記蒸気滅菌は、オートクレーブで行われ、医薬品、医療機器、プラスチックバッグ及び他の使い捨て機器、ガラス容器、手術用包帯などに使用することが可能である。
【0144】
他の方法は、湿熱を用いた滅菌を包含する。本明細書で使用する「湿熱」という用語は、飽和蒸気、蒸気空気、及び熱水カスケード又は水噴霧滅菌の使用を含む。本発明の一実施形態によれば、湿熱による滅菌は、滅菌すべき溶液の全熱暴露を低減することができるため、好ましい。
【0145】
滅菌はまた、乾燥加熱によって達成することができる。この方法には、非常に高い温度(180~200℃)が必要である。乾燥加熱は、ガラス器具、金属及び他の表面を滅菌するために一般的に使用される。
【0146】
本発明の実施形態では、本発明の脂質エマルジョン及び/又は医薬品の滅菌は、C値が130分以下、好ましくは120分、110分、100分、90分又は80分以下の滅菌工程で行われる。実施形態では、C値は、70分、60分、50分、又は40分以下である。実施形態では、滅菌工程のF値は、少なくとも6分、好ましくは少なくとも8分である。実施形態では、滅菌工程のC値は、8~100分、好ましくは8~80分の範囲内である。本明細書で使用する場合、C値は、ビタミンA製剤が滅菌工程中に100℃以上の温度である時間(分単位)として理解することができる。一般に、Cは、サンプルの総熱消費量を定量化するために使用される物理的パラメータである。
【0147】
ある標準的な滅菌プロトコルでは、滅菌は、滅菌のための標準温度と考えることができる121℃の温度で行われる。材料が121℃以外の温度で滅菌される場合、微生物を殺すという同じ結果につながる滅菌の時間は変化する。幾つかの材料は、熱に敏感であり、121℃では滅菌できない。いわゆるF値を使用して、特定の温度で滅菌するための材料の暴露時間を決定する。F値は、121℃で1分間滅菌した場合と同じ熱致死率を与える指定温度での分単位の時間である。言い換えれば、Fは、10℃のz値を使用して計算された製品の容器又は単位に供給される温度121.1℃(250°F)での蒸気滅菌の等価な分数として定義される。
【0148】
z値とは、微生物の加熱致死時間の計算で使用される用語である。これは、D値の10倍(すなわち、1log10)の減少を達成するために上げなければならない温度の度数である。生物のD値は、ある培地において、ある温度で、生物数が10倍減少するために必要な時間である。例えば、食品の調理や保存において、異なる条件下での熱不活性化の効果を調べる際に有用である。z値は、温度を変化させたときのD値の変化の尺度であり、アレニウス式を簡略版であり、z=2.303 RT Tref/Eに相当する。
【0149】
特定の培地中の生物のz値は、D値が10倍変化するために必要な温度変化、言い換えれば、熱破壊曲線が1対数周期移動するために必要な温度である。これは、D値の対数をD値が得られた温度に対してプロットした結果得られる傾きの逆数である。D値は、ある温度で90%の生物を殺すために必要な時間を示すのに対し、z値は、異なる温度に対する生物の抵抗力に関係する。D値及びz値が分かれば、2つの熱処理の等価性を計算することができる。
【0150】
F0値は、F0=Δt×10(T-121/Z)の式で計算することができ、T=滅菌のための温度、Δt=1分、Z=10℃である。例えば、115℃で滅菌した場合、F0値は、F0=1×10(115-121/10)=1×10(-6/10)=1×10(-0.6)=3.98分と算出することができる。これは、121℃での1分間の加熱致死は、115℃での3.98分間の加熱致死に等しいことを意味する。
【0151】
放射線への暴露は、業界全体で使用されている他の滅菌方法である。ガンマ線は、最も一般的であるが、他の選択肢には赤外線及び紫外線及び高速電子線が含まれる。放射線は、通常、使い捨てのコンポーネント/システムの滅菌に使用されるが、包装された医薬品に使用することもできる。
【0152】
ガスによる処理はまた、滅菌の代替手段である。このようなガスとしては、エチレンオキシド、ホルムアルデヒド、グルタルアルデヒド、プロピレンオキシド、過酸化水素及び二酸化塩素が挙げられる。この方法は、一般にクリーンルームスーツを滅菌するために使用される。濾過による滅菌は、他の処理が特定の製品又は部品に適していない場合にのみ選択される。濾過では、最終的な医薬品溶液を、無菌製造条件下で製造され、サイズ排除、捕捉、静電引力、その他の様式で細菌を除去する適切な孔径/表面化学組成で設計されたフィルターに通過させる。
【0153】
本明細書で使用する場合、栄養素は、ヒトなどの生物が生存、成長、及び繁殖するために使用する物質である。栄養素は、代謝目的で細胞に取り込まれるか、又は細胞から排泄されて、毛髪、鱗、羽毛、又は外骨格などの非細胞構造物を作り出すことができる。幾つかの栄養素は、糖質、脂質、タンパク質/アミノ酸、発酵産物(エタノール又は酢)など、エネルギーを放出する過程で代謝的に小さな分子に変換することができ、水及び二酸化炭素を最終生成物とする。全ての生物は、水を必要とする。動物及び人間にとっての必須栄養素は、エネルギー源、タンパク質を作るために結合するアミノ酸の一部、脂肪酸のサブセット、ビタミン、及び特定のミネラル/微量元素である。
【0154】
主に動物の栄養素要求を表すのに使われる分類では、栄養素を主要栄養素と微量栄養素に分ける。比較的大量に消費される主要栄養素(炭水化物、脂質/脂肪、タンパク質/アミノ酸、水)は、主にエネルギーを生成するため、又は成長及び修復のために組織に取り込まれるために使用される。微量栄養素は、血管機能又は神経伝導のような、細胞の過程において微妙な生化学的かつ生理的な役割を担う。必須栄養素の量が不足する、又は吸収を妨げる疾患があると、成長、生存、及び繁殖が損なわれる欠乏状態となる。
【0155】
主要栄養素は、炭水化物、タンパク質、脂質、及び水を含む。主要栄養素は、ヒトが最も大量に消費し、ヒトにエネルギーの大部分を提供する化合物の種類として定義される。水分は、通常の食事の一部として摂取される総量に占める割合が高いが、栄養価はない。炭水化物は、グルコース、スクロース、リボース、アミロース(デンプンの主成分)、アミロペクチン、マルトース、ガラクトース、フルクトース、ラクトースを含む。タンパク質は、標準アミノ酸であるアラニン、アルギニン、アスパラギン酸(アスパラギン酸塩)、アスパラギン、システイン、グルタミン酸(グルタミン酸塩)、グルタミン、グリシン、ヒスチジン、イソロイシン(分岐鎖アミノ酸)、ロイシン(分岐鎖アミノ酸)、リジン、メチオニン、フェニルアラニン、プロリン、セリン、トレオニン、トリプトファン、チロシン、バリン(分岐鎖アミノ酸)を含むアミノ酸からなる。脂質(又は脂肪)は、酪酸(C4)、カプロン酸(C6)、カプリル酸(C8)、カプリン酸(C10)、ラウリン酸(C12)、ミリスチン酸(C14)、ペンタデカン酸(C15)、パルミチン酸(C16)、マーガリン酸(C17)、ステアリン酸(C18)、アラキジン酸(C20)、ベヘン酸(C22)、リグノセリン酸(C24)、セロト酸(C26)、などの飽和脂肪酸類;ミリストレイン酸(myristol)、ペンタデカン酸、パルミチン酸、ヘプタデセン酸、オレイン酸、エイコセン酸、エルカ酸、ネルボン酸などの一価不飽和脂肪酸類;必須脂肪酸であるリノール酸(LA)、必須脂肪酸であるα-リノレン酸(ALA)、ステアリドン酸(SDA)、アラキドン酸(ETA)、チムノドン酸(EPA)、クルパノドン酸(DPA)、サーボン酸(DHA)などの多価不飽和脂肪酸類;他の重要なω-酸(例えば、DHA、EPA)の出発点である、ω-3脂肪酸のα-リノレン酸ALA(18:3)及びω-6脂肪酸のリノール酸LA(18:2)などの必須脂肪酸を含む。
【0156】
微量栄養素は、健康を維持するための様々な生理的機能を調整するために、人間が生涯を通じて少量ずつ必要とする必須元素であり、特にビタミン類と食物ミネラル/微量元素が必須である。微量元素/微量ミネラル/食物ミネラルとしては、ホウ素、コバルト(ビタミンB12の成分として)、フッ化物、クロム、銅、ヨウ素、鉄、マンガン、モリブデン、セレン及び亜鉛が挙げられる。
【0157】
本発明の医薬品との関連で、微量元素は、塩化亜鉛、塩化鉄、塩化銅、亜セレン酸ナトリウム、セレン酸ナトリウム、塩化マンガン、フッ化ナトリウム、ヨウ化カリウム、塩化クロム、モリブデン酸ナトリウムなどの塩化塩又はナトリウム塩として提供することができる。
【0158】
ビタミン類は、例えば、ビタミンB群、ビタミンB1(チアミン)、ビタミンB2(リボフラビン)、ビタミンB3(ナイアシン)、ビタミンB5(パントテン酸)、ビタミンB6群(ピリドキシン、ピリドキサール-5-リン酸、ピリドキサミン)、ビタミンB7(ビオチン)、ビタミンB9(葉酸)、ビタミンB12(コバラミン)、コリン、ビタミンA(例えば、レチノール(プロビタミンAカロテノイドも参照))、ビタミンC(アスコルビン酸)、ビタミンD(ビタミンD2(エルゴカルシフェロール)、ビタミンD3(コレカルシフェロール))、ビタミンE(トコフェロール及びトコトリエノール)、ビタミンK(ビタミンK1(フィロキノン)、ビタミンK2(メナキノン))を含む。
【0159】
本発明の医薬品は、その脂質相に脂溶性ビタミンA、並びに任意にビタミンD、E及びKを含む脂質エマルジョンを含む。
【0160】
本明細書で使用する場合、ビタミンDという用語は、カルシウム、マグネシウム、及びリン酸の腸管吸収を増加させ、複数の他の生物学的効果を担う脂溶性のセコステロイドのグループに関する。ヒトにおいて、このグループの最も重要な化合物は、ビタミンD3(コレカルシフェロールとしても知られている)及びビタミンD2(エルゴカルシフェロール)である。
【0161】
ビタミンDの主な天然供給源は、日光暴露(特にUVB放射線)に依存する化学反応による皮膚表皮の下層でのコレカルシフェロールの合成である。コレカルシフェロール及びエルゴカルシフェロールは、食事及びサプリメントから摂取することができる。脂ののった魚の身などのわずかな食品が、ビタミンDを自然に大量に含む。
【0162】
本発明の実施形態では、ビタミンDは、ビタミンD3を含む、又はビタミンD3からなる。本発明の実施形態では、ビタミンDは、ビタミンD5、D4、D3、D2及び/又はD1を含む。
【0163】
ビタミンD1は、エルゴカルシフェロールとルミステロールの分子化合物の1:1混合物である。ビタミンD2は、エルゴステロールから作られるエルゴカルシフェロールである。ビタミンD3は、皮膚で7-デヒドロコレステロールから作られるコレカルシフェロールである。ビタミンD4は、22-ジヒドロエルゴカルシフェロールである。ビタミンD5は、7-デヒドロシトステロールから作られるシトカルシフェロールである。
【0164】
本発明の医薬品は、実施形態では、患者のビタミンD欠乏の予防又は是正に使用することができる。世界中で推定10億人が、ビタミンD不足又は欠乏のいずれかである。ビタミンDが不十分な食事と不十分な日光暴露との組み合わせにより、ビタミンD欠乏が引き起こる。小児における重度のビタミンD欠乏は、骨が軟化し弱くなる、くる病を引き起こすが、くる病は、先進国では稀な病気である。ビタミンD欠乏は、世界的に高齢者に見られ、子供や大人にも共通したままである。欠乏すると、骨のミネラル化が損なわれ、骨の損傷が起こり、子どものくる病や大人の骨軟化症を含む、骨が軟らかくなる病気になる。日光を避けると血中カルシフェジオールが低下する可能性がある。ビタミンDが欠乏すると、食事性カルシウムの腸管吸収率が15%に低下する。欠乏していない場合は、通常60~80%が吸収される。
【0165】
本明細書で使用するように、ビタミンEは、4つのトコフェロール及び4つのトコトリエノールを含む8つの脂溶性化合物のグループである。トコフェロール及びトコトリエノールの両方は、クロマノール環のメチル基の数及び位置によって決定されるように、α(アルファ)、β(ベータ)、γ(ガンマ)及びδ(デルタ)形態で生じる。これら全ての8種類のビタミンは、クロマン二重環を備え、フリーラジカルを還元する水素原子を供与できる水酸基と、生体膜への浸透を可能にする疎水性側鎖を持つことが特徴である。ビタミンEの様々な形態のうち、ガンマ-トコフェロール(γ-トコフェロール)は、北米の食事で見られる最も一般的な形式であるが、アルファ-トコフェロール(α-トコフェロール)は、生物学的に最も活性が高い。ビタミンEの全ての形態は、本発明の医薬品に含まれ得る。
【0166】
ビタミンEの欠乏は、稀であり、通常はビタミンEが少ない食事からではなく、食物脂肪の消化に関する根本的な問題によるものであるが、神経の問題を引き起こす可能性がある。ビタミンEは、細胞膜を活性酸素種から保護する脂溶性の抗酸化物質である。
【0167】
本発明の医薬品は、実施形態では、患者のビタミンE欠乏の予防又は是正のために使用することができる。世界的に、政府機関は、成人が1日当たり7~15mgの範囲で消費することを推奨している。
【0168】
本明細書で使用する場合、ビタミンKという用語は、食品及び栄養補助食品に含まれる構造的に類似した脂溶性ビタミンのグループに関する。人体は、血液凝固に必要な、又は骨及び他の組織におけるカルシウムの結合を制御するために必要なある種のタンパク質の完全な合成のためにビタミンKを必要とする。完全な合成は、ビタミンKを補酵素として使用するγ-グルタミルカルボキシラーゼという酵素によって、これらのいわゆる「gla-タンパク質」が最終的に修飾されることを必要とする。この修飾によって、他の方法では不可能なカルシウムイオンとの結合(キレート)が可能になる。
【0169】
ビタミンKがないと、血液凝固が著しく損なわれ、制御不能の出血が起こる。予備的な臨床研究によれば、ビタミンKの欠乏は、骨を弱め、骨粗鬆症につながる可能性があり、動脈及び他の軟組織の石灰化を促進する可能性がある。本発明の医薬品は、患者のビタミンK欠乏の治療に適しており、使用することが可能である。
【0170】
化学的には、ビタミンKファミリーは、2-メチル-1,4-ナフトキノン(3-)誘導体を含む。ビタミンKは、2つの天然ビタミン、すなわちビタミンK1及びビタミンK2を含む。ビタミンK2は、順番に、イソプレノイド基の原子からなる炭素側鎖の長さが異なる、多数の関連する化学的サブタイプからなる。実施形態では、ビタミンKのこれら全ての形態は、医薬品、好ましくは本発明の脂質エマルジョンの脂質相によって含まれてもよい。
【0171】
フィロキノン又はフィトメナジオンとしても知られるビタミンK1は、植物によって作られ、光合成に直接関与するため、緑葉野菜に最も多く含まれる。ビタミンKの植物型と考えることができる。動物ではビタミンKとして活性化され、血液凝固タンパク質の生成における活動に関与する、ビタミンKの古典的な機能を発揮する。動物はまた、同族体であるMK-4(メナキノンとして知られている)の形態でビタミンK2に変換されることがある。
【0172】
腸内細菌叢中の細菌はまた、K1をMK-4としてビタミンK2に変換することができる。さらに、細菌は、典型的には、ビタミンK2のイソプレノイド側鎖を長くして、様々なビタミンK2形態(ビタマー)、最も顕著なビタミンK2のMK-7~MK-11同族体を産生する。MK-4以外のK2の全ての形態は、バクテリアによってのみ産生され、バクテリアはこれらを嫌気性呼吸の際に利用する。MK-7及びその他の細菌由来のビタミンK2は、動物でビタミンK活性を示すが、MK-7がMK-4よりも有用性が高いかどうかは不明であり、調査事項である。
【0173】
ビタミンKの合成形態であるビタミンK3(メナジオン)は、グルタチオンの機能を阻害して毒性を示す可能性があるため、ビタミンK欠乏の治療にはもはや使用されていない。したがって、本発明の医薬品の実施形態は、ビタミンK3を含まない。
【0174】
ナトリウム、カリウム、塩化物、カルシウム、マグネシウム、リン酸塩及び重炭酸塩などの電解質はまた、栄養素に分類されることがある。
【0175】
ビタミンA並びに任意にビタミンD、E及びKも含む脂質エマルジョンの他に、本発明の医薬品は、主要栄養素及び微量栄養素などの栄養素を含む更なる溶液/液体を含んでもよい。医薬品の液体は、患者に投与する前に再構成することができる。製品の1つ以上の溶液の投与は、潜在的に1つ以上の溶液の再構成後に、非経口、経口又は経腸などの様々な投与経路を通じて行われ得る。
【0176】
本明細書で使用する「再構成した溶液」は、使用前にマルチチャンバーコンテナのチャンバーの内容物を混和することによって生成される非経口投与用の溶液に言及する。
【0177】
本発明に関しては、非経口投与が好ましい。非経口栄養(PN)とは、食事と消化の通常の処理を迂回して、専門的な栄養製品を人の静脈内に供給することである。他の経路で有意な栄養が得られない場合は、全非経口栄養(TPN)又は全栄養素添加(TNA)と呼ばれ、栄養が部分的に腸管でもある場合は、部分非経口栄養(PPN)と呼ばれる。中心静脈栄養(CVN)のように中心静脈からではなく、四肢の静脈アクセスにより投与される場合は、末梢非経口栄養(PPN)と呼ばれることがある。経腸栄養は、人間の消化管を経由するもので、非経口投与と対照的である。
【0178】
本発明の医薬品に関連して、脂質エマルジョンは、フレキシブルコンテナ内に提供される。本発明の実施形態では、脂質エマルジョンは、少なくとも2つ、少なくとも3つ、少なくとも4つ、少なくとも5つ又は少なくとも6つのチャンバーを有するマルチチャンバーコンテナの1つのチャンバーに収容される。
【0179】
本明細書で使用されるように、用語「フレキシブルコンテナ」は、プラスチックフィルムから作られたバッグなどの、柔軟な材料で作られたコンテナ又はバッグを指す。この用語は、ポリマー製のリジッドコンテナ又はセミリジッドコンテナを包含しない。
【0180】
本発明のフレキシブルコンテナ又はバッグは、限定するものではないが、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、エチレンビニルアルコール(EVOH)、エチレン酢酸ビニル(EVA)及び全ての可能なコポリマー、本質的に投与される成分を含むために適切な合成材料を含む材料で作ることができる。
【0181】
酸素不透過性フレキシブルコンテナは、コンテナの外部への酸素の移行を遮断するガスバリアフィルムから作られている。PEフィルム又はポリエチレンテレフタレートフィルムなどの透明フィルムに酸素バリア性を付与するために、様々な技術が開発されている。その主な技術は以下のとおりである:(1)高バリア性材料、一般的には無機酸化物層(SiOxやAlなど)でのコーティング;(2)多層フィルムであって、内層は、EVOH、ポリアミド、アルミニウム、PVDCなどのハロゲン化ポリビニリデン、非晶質ナイロン若しくは結晶性ナイロン又は両者の組み合わせ、エチレンビニルアルコールコポリマー層(EVOH)のコポリマー、ポリオレフィン、上記の層の2つ以上の組み合わせなどのバリア材料からなり、外層は、構造ポリマー(例えば、PE、PP又はPET)からなる。
【0182】
したがって、本開示はまた、前述のフレキシブルフィルムのいずれかから調製され得る非経口又は栄養製剤用のフレキシブルコンテナ、好ましくはマルチチャンバーコンテナを提供する。例えば、コンテナは、1つ又は複数のコンパートメント又はチャンバーを有するバッグの形態であってもよい。バッグなどのコンテナは、少なくとも2つのチャンバーを含んでもよいが、3、4、5又は6つ以上のチャンバーを含んでもよく、好ましい一実施形態では、2又は3つのチャンバーである。
【0183】
ソフトバッグを含む適切なコンテナは、典型的には、無菌、非発熱性、使い捨て、及び/又は即使用可能である。マルチチャンバーコンテナは、成人、小児又は新生児用の非経口栄養剤を保持するために特に有用であり、第1のチャンバー内に本明細書に開示するような炭水化物製剤を、第2のチャンバー内に本明細書に開示するようなアミノ酸製剤を、及び第3のチャンバー内に本明細書に開示するような脂質製剤を提供することができる。
【0184】
マルチチャンバーコンテナは、米国特許公開第2007/0092579号に開示されるように、垂直チャンバーを含んでもよい。例えば、マルチチャンバーコンテナは、2、3、4、5又は6つの隣接するチャンバー又はコンパートメントを含むバッグとして構成されてもよい。必要に応じて、フレキシブルバリア又は開閉可能なシール(例えば、ピールシール又はフレキシブルシール)を使用して、マルチチャンバーコンテナのチャンバーを分離する。マルチチャンバーコンテナはまた、脂質エマルジョン、炭水化物製剤及びアミノ酸製剤を収容するための3つのチャンバーを含み、例えば、ビタミン製剤及び/又は微量元素製剤を収容する少なくとも1つ、特定の実施形態では2つ又は3つのより小さいチャンバーを更に含んでもよい。ある特定の実施形態では、本発明のマルチチャンバーコンテナは、本発明による脂質エマルジョンを含む第1のチャンバーと、アミノ酸製剤を含む第2のチャンバーと、炭水化物製剤を含む第3のチャンバーと、ビタミン製剤を含む第4のチャンバーと、微量元素製剤を含む第5のチャンバーと、を有する。
【0185】
本発明に関連して使用されるマルチチャンバーコンテナ又はマルチチャンバーバッグ(MCB)は、それぞれのチャンバーに含まれる製剤を混和した後にその再構成した内容物を非経口投与するために設計され得る。このようなMCBは、2、3、4、5、6又はそれ以上のチャンバーを有してもよい。前記MCBのチャンバーは、同じ大きさを有してもよいし、様々な組成物及び体積に対応するために異なる大きさを有してもよい。チャンバーは、例えば、1~5ml、5~10ml、10~50ml、50~100ml、100~250ml、250ml~500ml、500~1000ml、1000~1500mlの体積を含むように設計されてもよい。MCBは、互いに隣接して配置されるチャンバーを有するように設計することができる。チャンバーは、様々な形状を有してもよい。チャンバーは、互いに水平方向及び/又は垂直方向に配向させることができる。特定の小さいチャンバーは、他の、より大きいチャンバー内に位置するように設計することができ、例えば、他の、より大きいチャンバー内に位置する小さいチャンバーは、周囲のより大きいチャンバーの溶接シームの間に前記小さいチャンバーの少なくとも1つの縁を溶接することによって前記大きいチャンバー内に収容及び固定されることができる。
【0186】
前記マルチチャンバーコンテナの開閉可能なシールは、製剤を別々に貯蔵し、投与の直前に混合/再構成することを可能にし、それによって、長期間混合物として貯蔵すべきでない製剤を単一のコンテナに貯蔵することを可能にする。開封することにより、各チャンバー間の連通と各チャンバーの内容物の混合が可能となる。マルチチャンバーコンテナの外側シールは、チャンバー間の弱いピールシール又はフレキシブルシールを開くために供給される流体圧の下では開かない、強力なシールである。幾つかの実施形態では、マルチチャンバーコンテナの開閉可能なシールは、マルチチャンバーコンテナの選択されたチャンバーだけの混合又は再構成、例えば、要望があれば、脂質エマルジョンとビタミンチャンバー及びアミノ酸チャンバーの混合が可能となるように設計されてもよい。
【0187】
マルチチャンバーコンテナは、構成流体が所望の順序で混合されるように、ピールシールを開封する所望の順序を説明する指示書を提供してもよい。2つ以上のピールシールの開封強度を変化させて、所望の順序で開封することを促進することができる。例えば、最初に開封するピールシールの開封強度は、2番目に開封するピールシールの開封に必要な開封強度の1/3~1/2であってもよい。
【0188】
本明細書で使用されるように、アミノ酸製剤は、1つ以上のアミノ酸及び1つ以上の電解質の無菌の水溶液を含む。典型的には、アミノ酸製剤は、アミノ酸製剤100mL当たり約2g~約20gのアミノ酸、例えば、アミノ酸製剤100mL当たり約3g~約15g及び/又は約5g~約15gのアミノ酸を含む。アミノ酸製剤に含まれる代表的なアミノ酸としては、例えば、イソロイシン、ロイシン、バリン、リジン、メチオニン、フェニルアラニン、スレオニン、トリプトファン、アルギニン、ヒスチジン、アラニン、アスパラギン酸、システイン、グルタミン酸、グリシン、プロリン、セリン、チロシン、オルニチン及びタウリンが挙げられる。さらに、チロシンの含有量は、例えば、グリシル-チロシンジペプチド又はアセチル-チロシン(Ac-Tyr)を添加することにより増加させることができる。しかしながら、一般に、グリシル-チロシンジペプチドは、Ac-Tyrと比較して薬物動態が改善されており、腎臓からの排泄がより速いため、血中へのチロシンの放出が減少する。
【0189】
アミノ酸製剤は、電解質を更に含んでもよい。本明細書で使用されるように、電解質は、ナトリウムイオン、カリウムイオン、カルシウムイオン、マグネシウムイオン、及び/又はリン酸イオンを含む。例えば、アミノ酸製剤は、約0.1mmol~約10mmolのナトリウム(例えば、約3.75mmol~約10mmolのナトリウム)、約0.1mmol~約10mmolのカリウム(例えば、約3.75mmol~約6.90mmolのカリウム)、約0.05mmol~約1.0mmolのマグネシウム(例えば、約0.05mmol~約0.11mmol及び/又は約0.38mmol~約0.65mmolのマグネシウム)、約0.1mmol~約10mmolのカルシウム(例えば、約1.13mmol~約5.10mmolのカルシウム)、約0.1mmol~約10mmolのリン酸塩(例えば、約0.94mmol~約5.10mmolのリン酸塩)、及びアミノ酸製剤100mL当たり10mmol以下の塩化物(例えば、5.6mmol以下の塩化物)である。カルシウム及びリンが同じ加熱滅菌溶液中に共存すると、不溶性のリン酸カルシウムが析出することがある。したがって、アミノ酸製剤には、カルシウムを含まないことができる。あるいは、グリセロリン酸ナトリウム5HO又はグリセロリン酸カルシウムなどのリンの有機塩を使用することによって、溶解性の問題なく、また過剰なナトリウムや塩化物を与えることなく、カルシウムやリン酸の量を増加させることができる。アミノ酸製剤において、ナトリウムは塩化ナトリウムの形態で、カルシウムは塩化カルシウム2HO又はグルコン酸カルシウムの形態で、マグネシウムは酢酸マグネシウム4HO又は塩化マグネシウムの形態で、カリウムは酢酸カリウムの形態で提供することができる。
【0190】
炭水化物製剤は、典型的にはグルコースの形態で、カロリーの供給を提供する。特に、炭水化物製剤は、非経口栄養を受ける患者において観察されている高血糖などの副作用を回避するために十分な量の炭水化物を提供する。典型的には、炭水化物製剤は、炭水化物製剤100mLあたり約20~60グラムのグルコース、例えば炭水化物製剤100mLあたり25~55グラムのグルコースを含む。本発明による非経口栄養用のマルチチャンバーコンテナに使用されるような炭水化物製剤は、約0.1mmol~約10mmolのカルシウム(例えば、約1.13mmol~約5.10mmolのカルシウム)の濃度でカルシウムを含むこともできる。
【0191】
本発明の医薬品の主要栄養素成分としての脂質の供給源として機能する脂質製剤は、油相、水相、及び両相を混和させる乳化剤のエマルジョンである。さらに、医薬品は、ビタミンA、D、E及びKを含む、本明細書に記載の脂質エマルジョンを含む。ビタミンA、D、E及びKを含む脂質エマルジョンは、主要な脂質源として機能する脂質製剤に含まれることができ、又は医薬品の異なるチャンバー内の異なる液体であることができる。
【0192】
本発明との関連で、非経口栄養用の注射用エマルジョンとして使用される脂質エマルジョンの場合、エマルジョンは、水中油型(o/w)エマルジョンである必要がある。これは、エマルジョンが血液と混和する必要があるため、油が内相(又は分散相)に存在し、水が外相(又は連続相)であることを意味する。本明細書に開示される脂質エマルジョンは、したがって、浮遊固形物を実質的に含まないことも必要である。もちろん、脂質エマルジョンは、抗酸化剤、pH調整剤、等張剤、ビタミン、微量元素、及びそれらの様々な組み合わせを含むが、これらに限定されない更なる成分を含んでもよい。脂質エマルジョン、その組成及び使用にわたる概要は、例えば、Driscoll,Journal of Parenteral and Enteral Nutrition 2017,41,125-134に提供されている。集中治療患者の非経口栄養における脂質エマルジョンの使用に関する更なる情報は、例えば、Calderら、Intensive Care Medicine,2010,36(5),735-749に提供されている。
【0193】
脂質エマルジョンの油相は、遊離酸として、遊離酸のイオン化形態又は塩形態として、及び/又はエステル形態として存在し得る長鎖多価不飽和脂肪酸などの多価不飽和脂肪酸を含んでもよい。多価不飽和脂肪酸/長鎖多価不飽和脂肪酸の適切なエステルとしては、アルキルエステル(例えば、メチルエステル、エチルエステル、プロピルエステル、又はこれらの組み合わせ)及びトリグリセリドエステルが挙げられるが、これらに限定されない。幾つかの態様では、長鎖多価不飽和脂肪酸は構造R(C=O)OR’を有し、Rは、少なくとも17個の炭素原子、少なくとも19個の炭素原子、少なくとも21個の炭素原子、又は少なくとも23個の炭素原子を有するアルケニル基であり、R’は、非存在、H、対イオン、アルキル基(例えば、メチル、エチル、又はプロピル)、又はグリセリル基(例えば、R(C=O)OR’は、モノグリセリド、ジグリセリド、又はトリグリセリドである)である。本明細書に開示される脂質製剤に使用するための多価不飽和脂肪酸としては、リノール酸(LA)、アラキドン酸(ARA)、α-リノレン酸(ALA)、エイコサペンタエン酸(EPA)、ドコサヘキサエン酸(DHA)、ステアリドン酸(SDA)、γ-リノレン酸(GLA)、ジホモ-γ-リノレン酸(DPA)、及びドコサペンタエン酸(DPA)、特にDHA、ARA、及びEPAが挙げられるが、これらに限定されず、これらはそれぞれ、遊離酸形態、イオン化又は塩形態、アルキルエステル形態、及び/又はトリグリセリド形態で存在し得る。場合によっては、多価不飽和脂肪酸及び/又は長鎖脂肪酸は、トリグリセリドの形態で存在する。
【0194】
典型的には、脂質製剤は、脂質エマルジョンの総重量を基準にして約5重量%~約35重量%の油相を含む。例えば、脂質エマルジョンの油相は、脂質製剤の総重量を基準にして、約8%~12%、約10%~約20%、約10%~約15%、約15%~約20%、約12%~約17%、約18%~22%及び/又は約20%重量で存在する。油相は、典型的には、そして好ましくは、油の供給源に依存する様々な量で、ω-3脂肪酸を含む。ヒトの代謝に関与する3種類のω-3脂肪酸は、通常、海洋魚油に含まれるエイコサペンタエン酸(EPA)及びドコサヘキサエン酸(DHA)、並びに植物油に一般的に含まれるα-リノレン酸(ALA)である。
【0195】
油相及びその成分は、単一の供給源又は異なる供給源に由来し得る(例えば、Fell ら、Advances in Nutrition,2015,6(5),600-610を参照されたい。植物油のうち、現在使用されている供給源としては、大豆油、オリーブ油、ココナッツ油、パーム核油(中鎖トリグリセリド)が挙げられるが、これらに限定されない。)。他の供給源は、Crypthecodinium cohnii及びSchizochytrium sp.などの微細藻類を含む藻類であり、場合によっては長鎖多価不飽和脂肪酸ドコサヘキサエン酸(DHA)の単一供給源として機能する。非経口脂質エマルジョンに使用される海洋油は、主に冷水に生息し、ニシン、シャッド及びイワシを含むが、これらに限定されない油性魚から加工される。しかしながら、他の海洋生物は、例えば、南極オキアミ(Euphausia superba Dana)などのオキアミなどの油源として使用することができる。オキアミ油は、例えば、EPA及びDHAの両方を、脂肪酸の最大35%w/wの量で提供する。脂質エマルジョンの成分としてのオキアミ油は、DHA及びEPAの存在により抗炎症性を有すると考えられ、エンドトキシンと結合するという仮説がある(Bonaterraら:Krill oil-in-water emulsions protects against lipopoly-saccharides-induced proinflammatory activation of macrophages in vitro.Marine Drugs(2017),15:74)。
【0196】
本明細書で言及する脂質エマルジョンは、界面活性剤(乳化剤とも呼ばれる)、共界面活性剤、等張剤、pH調整剤、及び抗酸化剤などの追加の成分を更に含んでもよい。一般に、界面活性剤は、油相と水相との間の界面張力を低下させることにより、エマルジョンを安定化させるために添加される。界面活性剤は、通常、疎水性部分と親水性部分を含み、製剤に含まれる界面活性剤/乳化剤の量は、エマルジョンの安定化を所望のレベルで達成するために必要とされる量に基づいて決定される。典型的には、脂質製剤中の界面活性剤の量は、脂質製剤の総重量を基準にして約0.01重量%~約3重量%、例えば、約0.01重量%~約2.5重量%、約0.01重量%~約2.3重量%、約0.02重量%~約2.2重量%、約0.02重量%~約2.1重量%、約0.02重量%~約2重量%、約0.05重量%~約1.8重量%、約0.1重量%~約1.6重量%、約0.5重量%~約1.5重量%、約0.8重量%~約1.4重量%、約0.9重量%~約1.3重量%、約1重量%~約1.2重量%、及び/又は約1.2重量%の範囲である。適切な界面活性剤及び共界面活性剤には、非経口的な使用が承認されている界面活性剤が含まれ、リン脂質(例えば、卵リン脂質及び大豆レシチン)、オレイン酸塩及びこれらの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。オキアミ油はまた、脂質エマルジョン中の乳化剤として使用することができ、脂質エマルジョンは、エマルジョンの総重量を基準にして約0.5重量%~2.2重量%のオキアミ油を含み、エマルジョンは、卵黄レシチンを含まない(US2018/0000732A1)。他の例示的な界面活性剤は、レシチンであり、卵、トウモロコシ若しくは大豆又はこれらの混合物得られるレシチンなどの、天然及び合成レシチンの両方を含む。幾つかの態様では、レシチンは、脂質製剤の総重量を基準として約1.2%の量で含まれる。
【0197】
実施形態では、本発明の医薬品の脂質エマルジョン、特にビタミンA、D、E及びKを含む脂質エマルジョンは、脂質成分として、好ましくは、低過酸化物の大豆油、オリーブ油、中鎖トリグリセリド、魚油、魚油抽出物、オキアミ油、藻油、紅花油、ひまわり油、コーン油、ココナッツ油、パーム核油、菜種油、菌類油及び水素化油又はこれらの混合物からなる群から選択される、低過酸化物レベルの油を含む。
【0198】
実施形態では、低い過酸化物レベルを有する脂質又は油は、5ミリ当量(mEq)O/kg以下、好ましくは3mEq O/kg以下、より好ましくは1.5mEq O/kg以下の過酸化物価を有する。上記の油は、この要件に適合するものとして記載されている。さらに、当業者は、過酸化物価を決定することにより、5ミリ当量(mEq)O/kg以下の過酸化物価を有する油などの低過酸化油又は脂質を同定することができる。
【0199】
過酸化物価は、油がどの程度一次酸化を受けたかに対する程度の尺度を与える。二次酸化の程度は、p-アニシジン試験から決定することができる。油脂に見られる二重結合は、自動酸化における役割を果たす。不飽和度の高い油脂は、最も自動酸化を受けやすい。
自動酸化(酸化的腐敗)の最も優れた検査方法は、過酸化物価の測定である。過酸化物は、自動酸化反応の中間体である。自動酸化は、油脂の劣化につながる酸素が関与するフリーラジカル反応である。過酸化物価は、油脂1kgあたりの過酸化酸素の量として定義される。従来は、ミリ当量という単位で表され、SI単位では、1キログラムあたりミリモル(備考:2は原子価である場合、1mEqのO=1mmol/2=0.5mmolのOであるため、1ミリ当量=0.5ミリモルである)である。
【0200】
過酸化物価は、(油脂中に形成する)過酸化物とヨウ化物イオンとの反応により形成するヨウ素の量を測定することにより決定される。
【化1】
【0201】
この反応で生成した塩基は、過剰に存在する酢酸によって取り込まれる。遊離したヨウ素は、チオ硫酸ナトリウムで滴定される。
【化2】
【0202】
酸性条件(過剰な酢酸)により、反応の妨げとなる次亜ヨウ素酸塩(次亜塩素酸塩の類似のもの)の生成を防ぐ。この反応に使用する指示薬は、アミロースがヨウ素と青から黒の溶液を形成し、ヨウ素を滴定すると無色となるデンプン溶液である。注意点としては、ヨウ素濃度が高くなるとデンプンが分解され、指示薬としての性質が完全には反転しないため、終点付近(黄ヨウ素色が薄くなる頃が終点)でのみデンプン指示薬溶液を添加することである。新鮮な油の過酸化物価は、10ミリ当量O/kg未満であり、過酸化物価が30~40ミリ当量O/kgの間にある場合、腐敗した味が顕著になる。本明細書で使用する場合、低過酸化物油は、5ミリ当量O/kg以下、好ましくは3mEq O/kg以下、より好ましくは1.5mEq O/kg以下の油である。
【0203】
幾つかの態様では、脂質エマルジョン製剤は、共界面活性剤を含む。典型的には、脂質製剤中の共界面活性剤の量は、界面活性剤の量よりも少なく、典型的には、製剤中の共界面活性剤の量は、脂質製剤の総重量を基準にして約0.001重量%~約0.6重量%、例えば、約0.001重量%~約0.55重量%、約0.001重量%~約0.525重量%、約0.001重量%~約0.5重量%、約0.005重量%~約0.5重量%、約0.01重量%~約0.4重量%、約0.02重量%~約0.3重量%、約0.03重量%~約0.2重量%、約0.04重量%~約0.1重量%、及び/又は約0.05重量%~約0.08重量%である。例示的な共界面活性剤は、オレイン酸塩、例えばオレイン酸ナトリウムである。幾つかの態様では、脂質製剤は、界面活性剤及び共界面活性剤としてレシチン及びオレエートを含み、例えば、1.2%のレシチン及び0.03%のオレイン酸塩の量である。幾つかの態様では、オレイン酸ナトリウムは、脂質製剤の総重量を基準にして約0.03重量%の量で含まれる。
【0204】
等張剤を脂質エマルジョンに添加して、脂質エマルジョンの浸透圧を所望のレベル、例えば生理学的に許容されるレベルに調整することができる。適切な等張剤としては、グリセロールが挙げられるが、これらに限定されない。典型的には、脂質エマルジョン製剤は、約180~約300ミリオスモル/リットル、例えば約190~約280ミリオスモル/リットル、及び/又は約200~約250ミリオスモル/リットルのモル浸透圧濃度を有する。幾つかの態様では、脂質エマルジョンは、脂質製剤の総重量を基準にして約1重量%~約10重量%、例えば約1重量%~約5重量%、約1重量%~約4重量%、及び/又は約2重量%~約3重量%の量の等張剤を含む。幾つかの態様では、脂質エマルジョン製剤は、約2重量%~約3重量%のグリセロールを含む。
【0205】
pH調整剤を脂質エマルジョンに添加して、pHを所望のレベル、例えば非経口的使用のための生理的に許容されるpHに調整することができる。適切なpH調整剤としては、水酸化ナトリウム及び塩酸が含まれるが、これらに限定されない。典型的には、本発明の脂質エマルジョン、特にビタミンA、D、E及びKを含む脂質エマルジョンは、約5~約9、例えば、約5.1~約8.9、約5.2~約8.8、約5.3~約8.7、約5.4~約5.6、約5.5~約5.5、約5.6~約8.4、約5.7~約8.3、約5.8~約8.2、約5.9~約8.1、約6~約8、約6.1~約7.9、約6.2~約7.8、約6.3~約7.7、約6.4~約7.6、約6.5~約7.5、約6.6~約7.4、約6.7~約7.3、約6.8~約7.2、約6.9~第7.1、及び/又は約7のpHを有する。
【0206】
ビタミンA及び任意にビタミンD、E及びKを含む脂質製剤及び/又は脂質エマルジョンは、抗酸化剤を更に含んでもよい。適切な抗酸化剤は、薬学的に許容される抗酸化剤であってもよく、EDTA、トコフェロール(例えば、γトコフェロール、δトコフェロール、αトコフェロール)、パルミチン酸アスコルビル、ブチルヒドロキシトール(BHT)又はそれらの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。幾つかの態様では、脂質エマルジョンは、約0~約200mg/L、例えば、約10~約200mg/L、約40~約150mg/L、約50~約120mg/L、約75~約100mg/Lの量の抗酸化物質、例えばビタミンEを含むことができる。
【0207】
全ての静脈内脂質エマルジョンの水相(又は水)は、注射に適するような薬局方の要件に適合しなければならず、すなわち、水は、注射用の滅菌水でなければならない。
【0208】
脂質エマルジョンは、一般に公知のプロセスに従って調製することができる(例えば、Hippalgaonkarら、AAPS PharmSciTech 2010,11(4),1526-1540又はWO2019/197198A1を参照)。一般に、水溶性成分及び油溶性成分は、それぞれ水相及び油相に溶解される。
【0209】
本明細書で他に定義されていない場合、本発明に関連して使用される全ての用語は、当業者の理解に従って解釈される。
【0210】
図面
【0211】
本発明は、以下の図によって更に説明される。これらは、本発明の範囲を限定することを意図したものではなく、本明細書に記載される発明をより明確に説明するために提供される本発明の態様の好ましい実施形態を表す。
【0212】
図面の説明
【図面の簡単な説明】
【0213】
図1】本発明に含まれるビタミンAという用語に含まれる化合物の例である。
図2】グラフは、ビタミンAの安定領域(白い部分)を示している。安定とは、80%~120%の回復率を定義する。ハッチングを施した部分は、経時的な酸素濃度依存性から、ビタミンAが安定ではない領域を示している。したがって、6ヶ月後に約0.300ppmのビタミンAの酸素レベルでは、もはや安定とはいえず、すなわち、回復率は80%未満に落ちる。
【実施例
【0214】
実施例
【0215】
本発明は、以下の実施例によって更に説明される。これらは、本発明の範囲を限定することを意図したものではなく、本明細書に記載される発明をより説明するために提供される本発明の好ましい実施形態及び/又は特定の態様を表す。
【0216】
実施例1:ビタミンA濃度の測定方法
【0217】
脂溶性ビタミンの測定は、移動液相と液体固定相との間で分析物を分配することにより溶液中の成分を分離する超高性能液体クロマトグラフィー(UPLC)により達成することができる(逆相モード)。その結果、溶出時間の違いにより、異なる分析物を独立して検出することができる。また、HPLCにUV、蛍光(FLD)、電気化学(ED)、又は蒸発光散乱(ELSD)検出法を組み合わせてビタミンAを測定することも可能である。一般に、サンプルの光への暴露を減らすように注意し、それぞれの光保護装置を使用する必要がある。例えば、ビタミンA濃度は、Leeら、Simultaneous Determination of Vitamin A and E in Infant Formula by HPLC with Photodiode Array Detection,Korean J Food Sci Ani Resour 31(2)191-199に記載の高速液体クロマトグラフィー(HPLC)によって測定することができる。ビタミンAの標準定量法は、エタノール性水酸化カリウム水溶液を用いる試験材料の鹸化、及びn-ヘキサンを用いる抽出によるビタミンAの遊離を含む。抽出液を濃縮した後、残渣をメタノールに溶解し、RP-C18カラムでHPLC分離後、UV又は蛍光検出器でビタミンAの含有量を測定する。
【0218】
実施例2:溶存酸素(DO)濃度の測定方法
【0219】
様々な方法を使用して、所定の溶液のDO含有量を決定することができる。一般に、本発明によるDO濃度を測定するために、電気化学的又は光学的センサーが使用される。好ましい方法は、ガラス繊維(例えば、140μm)に基づく光ファイバー微量酸素マイクロセンサを有する単一チャンネルの温度補償型酸素計であるMICROX TX3などの光ファイバー酸素計を使用することを含む。光学式酸素マイクロセンサ(オプトードとも呼ばれる)は酸素を消費せず、その信号はサンプルの流量に依存せず、マイクロセンサチップの直径は、例えば50μm未満で、液相と気相の両方で酸素を測定し、酸素含有量のオンライン温度補正がある。測定中のデータを視覚化するために、酸素濃度計は、LCD&データ-ロガーユニットに接続されている。
【0220】
酸素測定及び調整は、当該処理の混合及び充填段階中の窒素及び酸素含有ガスへの暴露の間の平衡に基づく。これらの処理工程を通じて、溶液DOを鋭敏かつ定期的に監視することにより、最終コンテナ内の酸素レベルを制御することができる。加えて、バッグのヘッドスペースに一定量の窒素又は酸素を充填して、最終的に目標とするDOレベルに到達させることができる。
【0221】
実施例3.異なる条件下での混合ミセル及び脂質エマルジョン製剤からのビタミンAの回収率
【0222】
脂質エマルジョン及び混合ミセルを含む溶液などの、最終加熱滅菌された組成物におけるビタミンAの安定性は、実験室で検討されてきた。表4に纏めたように、複数の検討が行われている。
【表4】
【0223】
実験は、ビタミンA、D、E及びKの組み合わせを含むビタミン製剤を用いて行った。その結果、ビタミンAの回収率は、特に脂質エマルジョン、例えば、大豆油若しくはオリーブ油又はこれらの混合物との10%脂質エマルジョンにおいて良好であることが示され、試験C1も参照されたい。しかしながら、5%エマルジョン(例えば、検討C3)及び20%エマルジョン(検討C2)はまた、後者の場合、製剤が非酸素バリアバッグに保管されたことを特に考慮すると、良好な結果を与えた。したがって、5%~20%w/vの油の範囲における5%~20%の油相の範囲における脂質エマルジョンは、ビタミンAを安定的に収容するための製剤に推奨される。さらに、酸素バリアバッグ及び潜在的には脱酸素剤も使用すると、保存後のビタミンAの安定性及びその回復が更に向上する(検討C1)。
【0224】
対照的に、混合ミセル製剤は、酸素バリアバッグの存在下(検討B2、B3)、及び例えば、ソルビトール、クエン酸又はパルミチン酸アスコルビルなどの様々な抗酸化剤の存在下、並びに混合ミセル製剤が最終加熱滅菌されなかった場合(検討A2及びA3)でも、ビタミンAの相応の安定性を提供することができなかった。酸素バリアバッグを使用すると、ビタミンAの安定性は向上するが(検討B1)、酸素バリアバッグに入れた脂質エマルジョンで得られたレベルまで引き上げることはできなかった。
【0225】
酸素バリアバッグを使用すると、ビタミンAの安定性が明確に更に向上した。したがって、酸素レベルがビタミンAの安定性に重要な役割を果たすことが確認できた。実施例4では、これを更に検討した。
【0226】
実施例4:ビタミンAの安定性に及ぼす酸素の影響
【0227】
ビタミンAの安定性を、5ミリ当量(mEq)O/kg未満の過酸化物レベルを有する10%大豆脂質エマルジョン中で試験した。脂質エマルジョンは、1dd/25mLの濃度のビタミンA、及び1dd/25mLの濃度のビタミンEを含み、pHは、HClで5.9に調整された。
【0228】
図2は、溶存酸素の存在によるビタミンAの回収率の依存性を描写する。光照射とは無関係に、ビタミンAは、0.3ppm超の酸素の存在下では、40℃で6ヶ月超安定でないことが判明した。具体的には、図2に示すように、40℃で6ヶ月後に少なくとも80%の回収率を得るためには、約0.3ppm未満のDOレベルが必要であることが判明した。対照的に、ビタミンEではこのような依存性は見られず、このことは、ビタミンAが非経口栄養製剤に配合される条件、特に、最終加熱滅菌されるべきマルチチャンバーコンテナなどの大容量のコンテナで配合される条件を慎重に調整する必要性を明確に示す。
【0229】
実施例5:ビタミンAの安定性に及ぼす熱暴露の影響
【0230】
1dd/25mlの濃度でビタミンAを含む大豆油をベースとする10%脂質エマルジョンを、約7.5~8.0の自然pHで25mLの体積を有するフレキシブルコンテナ内に提供した。コンテナは、非酸素バリア材料からなるものであった。コンテナは、光保護材料でオーバーパウチ(overpouched)され、脱酸素剤が加えられ、このことは、製剤中に残留酸素が残らないことを意味した。当該製剤を異なる滅菌条件下に置いた。滅菌後、40℃で6ヶ月保存した場合のビタミンAの回収率を評価した。その結果を表5に纏めた。C値は、原薬であるビタミンAの全熱暴露量を示す指標である。この結果は、ビタミンAが、本発明による製品を製造するための重要な要素である全熱暴露の影響を受けやすいことを示し、特にビタミンA製剤が、例えば25mLや50mLコンテナなどの100mL未満のより小さいコンテナ(ここでは光暴露や酸素レベルもはるかに容易に制御することが可能である)と比較して、最終加熱滅菌されるときに、必要なFに達するためにかなり高い熱暴露を必要とする2つ、3つ、4つ又は5つのチャンバーコンテナなどの大きな体積を有するマルチチャンバーコンテナの一部を形成する場合に、影響を受けやすいことを示す。
【表5】
【0231】
実施例6:ビタミンAの安定性に及ぼすpHの影響
【0232】
表6に示されるビタミンA含有製剤の2つのバッチを、ビタミンAの安定性に対するpHの影響に関して試験した。両バッチは、オリーブ油との5%脂質エマルジョンとして処方し、25mLの体積を有する(光保護材料及び脱酸素剤でオーバーパウチした)酸素バリア材料フレキシブルコンテナに保存された。
【表6】
【0233】
驚くべきことに、ビタミンAの回収率は、pHを約7.5~8.0の自然のものよりも低いpHに調整したときに改善される。したがって、pHは、他のパラメータとともに、本発明による製品中のビタミンAの安定性に寄与し、特に、ビタミンA製剤が高い体積を有する最終加熱滅菌されたマルチチャンバーコンテナの一部を形成する場合にも寄与する。
図1
図2
【国際調査報告】