IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ アルベルト・アインシュタイン・カレッジ・オブ・メディシンの特許一覧

特表2023-542535ATTB細胞系、それに由来するトランスジェニック細胞系、およびそれらを製造する方法
<>
  • 特表-ATTB細胞系、それに由来するトランスジェニック細胞系、およびそれらを製造する方法 図1
  • 特表-ATTB細胞系、それに由来するトランスジェニック細胞系、およびそれらを製造する方法 図2
  • 特表-ATTB細胞系、それに由来するトランスジェニック細胞系、およびそれらを製造する方法 図3
  • 特表-ATTB細胞系、それに由来するトランスジェニック細胞系、およびそれらを製造する方法 図4A
  • 特表-ATTB細胞系、それに由来するトランスジェニック細胞系、およびそれらを製造する方法 図4B
  • 特表-ATTB細胞系、それに由来するトランスジェニック細胞系、およびそれらを製造する方法 図5
  • 特表-ATTB細胞系、それに由来するトランスジェニック細胞系、およびそれらを製造する方法 図6
  • 特表-ATTB細胞系、それに由来するトランスジェニック細胞系、およびそれらを製造する方法 図7
  • 特表-ATTB細胞系、それに由来するトランスジェニック細胞系、およびそれらを製造する方法 図8
  • 特表-ATTB細胞系、それに由来するトランスジェニック細胞系、およびそれらを製造する方法 図9
  • 特表-ATTB細胞系、それに由来するトランスジェニック細胞系、およびそれらを製造する方法 図10
  • 特表-ATTB細胞系、それに由来するトランスジェニック細胞系、およびそれらを製造する方法 図11
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-10-10
(54)【発明の名称】ATTB細胞系、それに由来するトランスジェニック細胞系、およびそれらを製造する方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/10 20060101AFI20231002BHJP
   C12Q 1/70 20060101ALI20231002BHJP
   C12Q 1/02 20060101ALI20231002BHJP
   C12Q 1/66 20060101ALI20231002BHJP
   C12N 15/33 20060101ALN20231002BHJP
【FI】
C12N5/10
C12Q1/70
C12Q1/02
C12Q1/66
C12N15/33 ZNA
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023518825
(86)(22)【出願日】2021-09-24
(85)【翻訳文提出日】2023-05-17
(86)【国際出願番号】 US2021051947
(87)【国際公開番号】W WO2022067034
(87)【国際公開日】2022-03-31
(31)【優先権主張番号】63/082,701
(32)【優先日】2020-09-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】520426357
【氏名又は名称】アルベルト・アインシュタイン・カレッジ・オブ・メディシン
【氏名又は名称原語表記】ALBERT EINSTEIN COLLEGE OF MEDICINE
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100122301
【弁理士】
【氏名又は名称】冨田 憲史
(74)【代理人】
【識別番号】100157956
【弁理士】
【氏名又は名称】稲井 史生
(74)【代理人】
【識別番号】100170520
【弁理士】
【氏名又は名称】笹倉 真奈美
(74)【代理人】
【識別番号】100221545
【弁理士】
【氏名又は名称】白江 雄介
(72)【発明者】
【氏名】ジェイコブズ,ウィリアム アール
(72)【発明者】
【氏名】レオン,ローレンス
(72)【発明者】
【氏名】ルコセ,レジ
(72)【発明者】
【氏名】デ オリベイラ,アンナ パウラ
【テーマコード(参考)】
4B063
4B065
【Fターム(参考)】
4B063QA01
4B063QA19
4B063QQ03
4B063QQ08
4B063QQ10
4B063QR58
4B063QX02
4B065AA01Y
4B065AA90X
4B065AA95Y
4B065AB04
4B065AC14
4B065BA02
4B065BA03
4B065CA43
4B065CA44
4B065CA46
4B065CA60
(57)【要約】
遺伝子改変哺乳動物細胞および遺伝子改変哺乳動物細胞系は、哺乳動物細胞ゲノムの染色体上の標的遺伝子座に挿入された組換え配列を含み、組換え配列はスメグマ菌由来のBxb1 attB配列を含む。トランスジェニック哺乳動物細胞およびトランスジェニック哺乳動物細胞系は、哺乳動物ゲノムの染色体上の標的遺伝子座に安定して組み込まれた異種の核酸を含み、異種の核酸がトランスジェニック哺乳動物細胞による発現のために構成された異種の遺伝子を含む。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Vero細胞ゲノムの染色体上の標的遺伝子座に挿入された組換え配列を含む遺伝子改変哺乳動物細胞であって、前記組換え配列がスメグマ菌由来のBxb1 attB配列を含む、遺伝子改変哺乳動物細胞。
【請求項2】
前記哺乳動物細胞がVero細胞であり、前記標的遺伝子座が前記Vero細胞ゲノムの第6染色体上のアデノ随伴ウイルス組込み部位1(AAVS1)を含む、請求項1に記載の遺伝子改変哺乳動物細胞。
【請求項3】
attB部位が、AAVS1遺伝子座の1529位と1530位との間、AAVS1遺伝子座の2155位と2156位との間、AAVS1遺伝子座の2408位と2409位との間、またはそれらの組合せに挿入されている、請求項2に記載の遺伝子改変哺乳動物細胞。
【請求項4】
前記組換え配列を含むAAVS1遺伝子座が配列番号22の4キロベースの配列を有する、請求項2に記載の遺伝子改変哺乳動物細胞。
【請求項5】
前記attB配列がGGCTTGTCGACGACGGCGGTCTCCGTCGTCAGGATCAT(配列番号2)の配列を有する、請求項1に記載の遺伝子改変哺乳動物細胞。
【請求項6】
請求項1に記載の遺伝子改変哺乳動物細胞を含む細胞系。
【請求項7】
Vero細胞ゲノムの染色体上の標的遺伝子座に挿入された組換え配列を含む遺伝子改変哺乳動物細胞を産生する方法であって、前記組換え配列がスメグマ菌由来のBxb1attB配列を含み、前記方法が、
前記標的遺伝子座上の標的部位とハイブリダイズするオリゴヌクレオチド配列を含むガイドRNAと、
Cas9エンドヌクレアーゼと
を含む複合体を提供することと;
前記attB配列を含む一本鎖DNA配列を提供することと;
前記複合体および前記一本鎖DNA配列をVero細胞へ導入して、前記標的遺伝子座に挿入された前記Bxb1 attB配列を含む遺伝子改変Vero細胞を得ることと
を含む、方法。
【請求項8】
前記標的遺伝子座が哺乳動物細胞ゲノムの第6染色体上のアデノ随伴ウイルス組込み部位1(AAVS1)を含む、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記Bxb1 attB配列が、AAVS1遺伝子座の1529位と1530位との間、AAVS1遺伝子座の2155位と2156位との間、AAVS1遺伝子座の2408位と2409位との間、またはそれらの組合せに挿入される、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記Cas9エンドヌクレアーゼが、前記標的部位とgRNAとのハイブリダイゼーションに際して、前記標的部位においてDNA切断を触媒する、請求項7に記載の方法。
【請求項11】
前記一本鎖DNA配列が配列番号1の配列を有する、請求項7に記載の方法。
【請求項12】
前記ガイドRNAが配列番号10、配列番号20、配列番号21またはそれらの組合せの配列を有する、請求項7に記載の方法。
【請求項13】
哺乳動物細胞ゲノムの染色体上の標的遺伝子座に安定して組み込まれた異種の核酸を含むトランスジェニック哺乳動物細胞であって、前記異種の核酸が前記トランスジェニック哺乳動物細胞による発現のために構成された異種の遺伝子を含む、トランスジェニック哺乳動物細胞。
【請求項14】
前記哺乳動物細胞がVero細胞であり、前記標的遺伝子座が前記哺乳動物細胞ゲノムの第6染色体上のアデノ随伴ウイルス組込み部位1(AAVS1)を含む、請求項13に記載のトランスジェニック哺乳動物細胞。
【請求項15】
前記異種の核酸が、AAVS1遺伝子座の1529位と1530位との間、AAVS1遺伝子座の2155位と2156位との間、AAVS1遺伝子座の2408位と2409位との間、またはそれらの組合せに挿入されている、請求項14に記載のトランスジェニック哺乳動物細胞。
【請求項16】
組み込まれた前記異種の核酸の第1の末端におけるattL配列と、組み込まれた前記異種の核酸分子の第2の末端におけるattR配列とを含む、請求項13に記載のトランスジェニック哺乳動物細胞。
【請求項17】
前記異種の核酸が、前記異種の遺伝子に作動可能に連結されたプロモーターを含む、請求項13に記載のトランスジェニック哺乳動物細胞。
【請求項18】
前記異種の核酸が、抗生物質耐性マーカー、SV40配列またはそれらの組合せをコードする遺伝子を含まない、請求項13に記載のトランスジェニック哺乳動物細胞。
【請求項19】
前記異種の遺伝子がウイルス遺伝子、レポーター遺伝子またはそれらの組合せを含む、請求項13に記載のトランスジェニック哺乳動物細胞。
【請求項20】
前記異種の遺伝子がウイルス遺伝子を含み、哺乳動物細胞系が、前記ウイルス遺伝子の欠失を有する単一サイクル感染性ウイルスの複製を支持する、請求項19に記載のトランスジェニック哺乳動物細胞。
【請求項21】
前記ウイルス遺伝子が単純ヘルペスウイルス-1(HSV-1)、単純ヘルペスウイルス-2(HSV-2)、サイトメガロウイルス、ロタウイルス、天然痘、ポリオウイルス、狂犬病ウイルス、レオウイルス、日本脳炎ウイルス、出血熱ウイルス、麻疹ウイルス、インフルエンザウイルス、中東呼吸器症候群コロナウイルス、デングウイルス、ジカウイルス、SARS-CoV2またはそれらの組合せ由来の遺伝子を含む、請求項19に記載のトランスジェニック哺乳動物細胞。
【請求項22】
前記ウイルス遺伝子が必須遺伝子、または必須遺伝子と非必須遺伝子との組合せを含む、請求項19に記載のトランスジェニック哺乳動物細胞。
【請求項23】
前記ウイルス遺伝子がHSV遺伝子を含み、前記HSV遺伝子がグリコプロテインB、グリコプロテインC、グリコプロテインD、グリコプロテインE、グリコプロテインG、グリコプロテインH、グリコプロテインI、グリコプロテインJ、グリコプロテインK、グリコプロテインL、グリコプロテインM、グリコプロテインN、UL20、UL45、US9もしくはそれらの組合せまたはそれらの組合せを含む、請求項19に記載のトランスジェニック哺乳動物細胞。
【請求項24】
細胞系が、HSV-2 gD遺伝子の欠失を含むゲノムを有する単一サイクル感染性HSV-2、またはHSV-1 gD遺伝子の欠失を含むゲノムを有する単一サイクル感染性HSV-1の複製を支持する、請求項23に記載のトランスジェニック哺乳動物細胞。
【請求項25】
前記標的遺伝子座に組み込まれた1~50コピーの前記異種の核酸を含む、請求項13に記載のトランスジェニック哺乳動物細胞。
【請求項26】
請求項13に記載のトランスジェニック哺乳動物細胞を含む細胞系。
【請求項27】
トランスジェニック哺乳動物細胞ゲノムの染色体上の標的遺伝子座に安定して組み込まれた異種の核酸を含むトランスジェニック哺乳動物細胞を産生する方法であって、
請求項1に記載の遺伝子改変哺乳動物細胞を、
異種の遺伝子と、バクテリオファージBxb1由来のattP配列を含む組換え配列とを含む異種の核酸、および
バクテリオファージBxb1インテグラーゼと核局在化配列とをコードするmRNA
と接触させることと;
前記Bxb1インテグラーゼによって媒介される、前記遺伝子改変哺乳動物細胞のBxb1 attB配列と前記異種の核酸の前記attP配列との間の配列特異的組換えによって、前記遺伝子改変哺乳動物細胞の前記標的遺伝子座において前記異種の核酸を挿入して、前記トランスジェニック哺乳動物細胞を産生することと
を含む方法。
【請求項28】
前記attP配列がGGTTTGTCTGGTCAACCACCGCGGTCTCAGTGGTGTACGGTACAAACC(配列番号3)の配列を有する、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
前記接触させることが、前記遺伝子改変哺乳動物細胞に前記異種の核酸および前記mRNAをトランスフェクトすることを含む、請求項27に記載の方法。
【請求項30】
前記異種の核酸が、異種の遺伝子配列に作動可能に連結されたプロモーターおよび適宜、選択可能マーカーを含む、請求項27に記載の方法。
【請求項31】
前記異種の核酸が、異種の遺伝子配列に作動可能に連結された選択可能マーカーをさらに含む、請求項27に記載の方法。
【請求項32】
前記選択可能マーカーがネズミチフス菌hisD遺伝子配列を含む、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
前記哺乳動物細胞がVero細胞であり、前記標的遺伝子座がVero細胞ゲノムの第6染色体上のアデノ随伴ウイルス組込み部位1(AAVS1)を含み、前記異種の核酸が、AAVS1遺伝子座の1529位と1530位との間、AAVS1遺伝子座の2155位と2156位との間、AAVS1遺伝子座の2408位と2409位との間、またはそれらの組合せに挿入される、請求項27に記載の方法。
【請求項34】
前記異種の核酸が、抗生物質耐性マーカー、SV40配列またはそれらの組合せをコードする遺伝子を含まない、請求項27に記載の方法。
【請求項35】
前記トランスジェニック哺乳動物細胞が、前記標的遺伝子座に挿入された1~50コピーの前記異種の核酸を含む、請求項27に記載の方法。
【請求項36】
前記異種の遺伝子がウイルス遺伝子、レポーター遺伝子またはそれらの組合せを含む、請求項27に記載の方法。
【請求項37】
前記遺伝子改変哺乳動物細胞が、
前記標的遺伝子座上の標的部位とハイブリダイズするオリゴヌクレオチド配列を含むガイドRNAと、Cas9エンドヌクレアーゼとを含む複合体を提供することと;
スメグマ菌由来の前記Bxb1 attB配列を含む一本鎖DNA配列を提供することと;
前記複合体および前記一本鎖DNA配列を前記哺乳動物細胞へ導入して、前記標的遺伝子座に挿入された前記Bxb1 attB配列を含む哺乳動物細胞を得ることと
を含むプロセスによって調製される、請求項27に記載の方法。
【請求項38】
必須遺伝子の欠失を有するゲノムを含む単一サイクル感染性ウイルスを繁殖させる方法であって、
哺乳動物細胞ゲノムの染色体上の標的遺伝子座に挿入された少なくとも1コピーの前記必須遺伝子を含むトランスジェニック哺乳動物細胞を提供することであって、前記トランスジェニック哺乳動物細胞が前記必須遺伝子によってコードされるタンパク質を構成的に発現する、提供することと;
前記トランスジェニック哺乳動物細胞を前記単一サイクル感染性ウイルスと接触させることと;
前記単一サイクル感染性ウイルスを前記トランスジェニック哺乳動物細胞によって発現された前記タンパク質により補完して、前記単一サイクルウイルスを繁殖させることと
を含む方法。
【請求項39】
前記接触させることは、前記単一サイクル感染性ウイルスによる前記トランスジェニック哺乳動物細胞の感染を促進する条件下において、前記単一サイクル感染性ウイルスを前記トランスジェニック哺乳動物細胞へ添加することを含む、請求項38に記載の方法。
【請求項40】
異種の核酸が選択マーカーとしてのhisDをさらに含み、前記方法が、前記トランスジェニック哺乳動物細胞を、ヒスチジノールを含む選択培地において、前記単一サイクル感染性ウイルスの産生を最大限にするために好適な期間および好適な条件下において培養することをさらに含む、請求項38に記載の方法。
【請求項41】
前記単一サイクル感染性ウイルスが単純ヘルペスウイルス-1(HSV-1)、単純ヘルペスウイルス-2(HSV-2)、サイトメガロウイルス、ロタウイルス、天然痘、ポリオウイルス、狂犬病ウイルス、レオウイルス、日本脳炎ウイルス、出血熱ウイルス、麻疹ウイルス、インフルエンザウイルス、中東呼吸器症候群コロナウイルス、ジカウイルス、SARS-CoV2またはそれらの組合せを含む、請求項38に記載の方法。
【請求項42】
前記単一サイクル感染性ウイルスが単一サイクル感染性HSV-1または単一サイクル感染性HSV-2であり、前記必須遺伝子がグリコプロテインB、グリコプロテインC、グリコプロテインD、グリコプロテインE、グリコプロテインG、グリコプロテインH、グリコプロテインI、グリコプロテインJ、グリコプロテインK、グリコプロテインL、グリコプロテインM、グリコプロテインN、UL20、UL45、US9またはそれらの組合せを含む、請求項38に記載の方法。
【請求項43】
試料中の感染性ウイルスを検出および/または定量するための方法であって、
哺乳動物細胞のゲノムの染色体上の標的遺伝子座に安定して組み込まれた異種の核酸を含むトランスジェニック哺乳動物細胞を提供することであって、前記異種の核酸がレポーター遺伝子に作動可能に連結されたウイルスプロモーターを含む、提供することと;
前記トランスジェニック哺乳動物細胞を前記試料と接触させることであって、前記試料中に存在する感染性ウイルスが前記ウイルスプロモーターをトランス活性化し、前記トランスジェニック哺乳動物細胞内の前記レポーター遺伝子の発現を誘導する、接触させることと;
前記レポーター遺伝子によってコードされるタンパク質を発現する哺乳動物細胞の数を定量して、前記感染性ウイルスを定量することと
を含む方法。
【請求項44】
前記接触させることが、前記トランスジェニック哺乳動物細胞を前記試料中に存在するウイルスに感染させることを含む、請求項43に記載の方法。
【請求項45】
前記トランスジェニック哺乳動物細胞において前記レポーター遺伝子の発現を検出することをさらに含む、請求項43に記載の細胞に基づくレポーターアッセイ。
【請求項46】
前記レポーター遺伝子が、ルシフェラーゼ、nanoLuc、ベータ-ラクタマーゼ、アルカリホスファターゼ、緑色蛍光タンパク質、Venus、モノマー赤外蛍光タンパク質(mIFP)、LssmOrange(Long Stokes Shift monomeric Orange)、赤色蛍光タンパク質(RFP)、TagRFP657(Tag Red Fluorescent Protein 657)、mOrange2(monomeric Orange2)、mApple(monomeric Apple)、Sapphire、mTagBFP2(monomeric Tag Blue Fluorescent Protein)、tdTomato、mCherry(monomeric Cherry)、黄色蛍光タンパク質(YFP)、高感度黄色蛍光タンパク質(EYFP)、mCerulean3(monomeric Cerulean3)、緑色蛍光タンパク質(GFP)、高感度緑色蛍光タンパク質(EGFP)またはそれらの組合せを含む蛍光タンパク質をコードする、請求項43に記載の細胞に基づくレポーターアッセイ。
【請求項47】
前記試料が、対象からの生体試料、またはバルクウイルスのバッチから採取された試料である、請求項43に記載の方法。
【請求項48】
前記生体試料が血清、唾液、血漿、全血、鼻咽頭拭き取り検体、尿、便、呼吸液、脳脊髄液またはそれらの組合せを含む、請求項47に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2020年9月24日出願の米国仮出願第63/082,701号の優先権を主張し、当該出願は、その全体を参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
政府からの支援についての申告
本発明は、米国国立衛生研究所-国立アレルギー感染疾患研究所(NIH-NIAID)により与えられたグラント番号AI117321の下に政府からの支援によって行われた。
【背景技術】
【0003】
ウイルス繁殖のための1つまたは複数の必須機能が欠損した単一サイクル感染性ウイルス(single cycle infectious virus)が開発されている。グリコプロテインDにおいて欠失を有する(ΔgD-2)単純ヘルペスウイルス-2(HSV-2)株が、gD遺伝子のゲノム欠失(ΔgD-2と命名された)を含有する遺伝子改変単一サイクル感染性HSV-2株を生成するために開発された。前臨床マウス研究において、このΔgD-2ワクチン株は高タイター非中和性Absを誘発し、それはFcガンマ受容体(FcγR)を活性化して抗体依存性細胞媒介性細胞傷害性(ADCC)を誘導した。2用量を皮下投与すると、雌および/または雄マウスはHSV-1およびHSV-2の臨床単離物による致死的な膣または皮膚曝露に対して完全に保護され、潜伏感染の確立が妨げられた。さらに、雌マウスにワクチン接種すると、それらの仔は生後1週間におけるその後のHSV曝露に対して保護された。
【0004】
ウイルス繁殖に必須の遺伝子の欠失を含有する単一サイクル感染性ウイルスは、ウイルス必須遺伝子を導入遺伝子として発現する補完的な細胞において効率的に増殖させることができる。ウイルス性導入遺伝子は、細胞のゲノムにランダムに挿入され得る。ΔgD-2の場合、ウイルスはVD60細胞系において増殖する。VD60細胞は培養物中にgDタンパク質を産生し、ΔgD-2を有効に補完するために使用されてきた[Cheshenko, N., et al, FASEB J, 2013. 27(7): p. 2584-99]。VD60細胞系において培養されたΔgD-2株の、HSV-1およびHSV-2に対する殺ウイルス性免疫を誘発するためのワクチンとしての有効性は実証されている[Petro, C. et al, Elife, 2015, 4;Petro, C.D. et al, JCI Insight, 2016, 1(12)]。VD60細胞系は、単純ヘルペスウイルス-1(HSV-1)KOS株由来の6キロベース(kb)のBamHI J DNA断片[グリコプロテインD(gD)遺伝子を含む]を、Vero細胞のゲノムDNAへ、BamHI J断片、COLE1プラスミドレプリコン、アンピシリン耐性遺伝子、SV40複製起源、および選択可能マーカーとしてサルモネラ菌(Salmonella)hisD遺伝子を含有するプラスミドを使用して、ランダムに組み込むことによって構築された。VD60細胞系は、少なくとも100コピーの挿入されたDNA断片を有するが、正確なコピー数は定量するのが困難であった。さらに、VD60細胞系は不特定の様式で繁殖されており、Vero細胞は発癌性になることが示されている。
【0005】
規定の条件下で産生および培養され、かつ細胞ゲノムの規定の位置に導入遺伝子が安定して挿入されている新しい細胞系が望ましい。また、ウイルスを含むワクチンを製造するプロセス全体を通してウイルスの効力を評価するために有効に使用され得るトランスジェニック細胞系を提供することは有益であり得る。さらに、対象からの試料中のウイルスの存在を検出するための診断アッセイにおいて使用され得るトランスジェニック細胞系もまた有益であり得る。
【発明の概要】
【0006】
本開示は、Vero細胞ゲノムの染色体上の標的遺伝子座に挿入された組換え配列を含む遺伝子改変哺乳動物細胞であって、組換え配列がスメグマ菌(Mycobacterium smegmatis)由来のBxb1attB配列を含む、遺伝子改変哺乳動物細胞を提供する。
【0007】
また、本開示は、哺乳動物細胞ゲノムの染色体上の標的遺伝子座に挿入された組換え配列を含む哺乳動物細胞を産生する方法であって、組換え配列がスメグマ菌由来のBxb1attB配列を含み、方法が、標的遺伝子座上の標的部位とハイブリダイズするオリゴヌクレオチド配列を含むガイドRNAとCas9エンドヌクレアーゼとを含む複合体を提供することと;Bxb1attB配列を含む一本鎖DNA配列を提供することと;複合体および一本鎖DNA配列を哺乳動物細胞へ導入して、標的遺伝子座に挿入されたBxb1attB配列を含む哺乳動物細胞を得ることとを含む、方法を提供する。
【0008】
本開示は、哺乳動物細胞ゲノムの染色体上の標的遺伝子座に安定して組み込まれた異種の核酸を含むトランスジェニック哺乳動物細胞であって、異種の核酸(the heterologous nucleic)がトランスジェニック哺乳動物細胞による発現のために構成された異種の遺伝子を含む、トランスジェニック哺乳動物細胞を提供する。
【0009】
また、本開示は、トランスジェニック哺乳動物細胞ゲノムの染色体上の標的遺伝子座に安定して組み込まれた異種の核酸を含むトランスジェニック哺乳動物細胞を産生する方法であって、本明細書において開示される遺伝子改変哺乳動物細胞を、異種の遺伝子とバクテリオファージBxb1由来のattP配列を含む組換え配列とを含む異種の核酸、およびバクテリオファージBxb1インテグラーゼと核局在化配列とをコードするmRNAと接触させることと;Bxb1インテグラーゼによって媒介される、遺伝子改変哺乳動物細胞のBxb1 attB配列と異種の核酸のattP配列との間の配列特異的組換えによって、遺伝子改変哺乳動物細胞の標的遺伝子座において異種の核酸を挿入して、トランスジェニック哺乳動物細胞を産生することとを含む方法を提供する。
【0010】
本開示は、必須遺伝子の欠失を有するゲノムを含む単一サイクル感染性ウイルスを繁殖させる方法であって、哺乳動物細胞ゲノムの染色体上の標的遺伝子座に挿入された少なくとも1コピーの必須遺伝子を含むトランスジェニック哺乳動物細胞を提供することであって、トランスジェニック哺乳動物細胞が必須遺伝子によってコードされるタンパク質を発現する、提供することと;トランスジェニック哺乳動物細胞を単一サイクル感染性ウイルスと接触させることと;単一サイクル感染性ウイルスをトランスジェニック哺乳動物細胞によって発現されたタンパク質により補完して、単一サイクル感染性ウイルスを繁殖させることとを含む方法を提供する。
【0011】
また、本開示は、試料中の感染性ウイルスを検出および/または定量する方法であって、哺乳動物細胞のゲノムの染色体上の標的遺伝子座に安定して組み込まれた異種の核酸を含むトランスジェニック哺乳動物細胞を提供することであって、異種の核酸がレポーター遺伝子に作動可能に連結されたウイルスプロモーターを含む、提供することと;トランスジェニック哺乳動物細胞を試料と接触させることであって、試料中に存在する感染性ウイルスがウイルスプロモーターをトランス活性化し、トランスジェニック哺乳動物細胞内のレポーター遺伝子の発現を誘導する、接触させることと;レポーター遺伝子によりコードされるタンパク質を発現する哺乳動物細胞の数を定量して、感染性ウイルスを定量することとを含む方法を提供する。
【0012】
上記に説明される特色および他の特色は、以下の図面および詳細な説明によって例示される。
【0013】
以下の図は例示的な実施形態であり、同様の要素には同様の番号を付している。特許または出願ファイルは、色を施した少なくとも1つの図面を含有する。色付き図面を伴うこの特許または特許出願公開公報の複製物は、必要な手数料の受領および支払いに際して事務局によって提供される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、Vero:attB細胞を調製する方法、およびVero:attB細胞からVD60L細胞系を調製する方法を例示する。
図2図2は、Vero AAVS1部位および3種の候補ガイドRNA(gRNA)の位置の略図である。
図3図3は、1529位に挿入されたBxb1 attB(配列番号2)を有するVero AAVS1部位の略図である。
図4図4Aは、attBを含有する可能性のあるVero細胞クローンを特定するPCR結果を示すアガロースゲルであり、attBを含有する可能性のあるVero細胞クローンは+記号によって示される。図4Bは、クローニングされたVero:attB細胞の第6染色体におけるBxb1 attBの部位特異的挿入を確証するPCR結果を示す。
図5図5は、Vero:attB細胞の第6染色体におけるHSV遺伝子含有プラスミドの部位特異的挿入を確証するPCR結果を示す。
図6図6は、VD60Lクローンの、ΔgD-2::RPFの繁殖を支持する能力を試験するプラークアッセイの結果を示し、VD60細胞、VD60L細胞およびVero細胞におけるRFPの発現を示すカラー写真を含む。
図7図7は、ΔgD-2::RPF組換え体による感染後の、VD60細胞、VD60L細胞およびVero細胞におけるgDおよびRFPの発現を示すカラー写真である。
図8図8は、VD60からPCR増幅され、COLE1複製起源を有するプラスミドに挿入された4kB DNA断片;マイコバクテリオファージBxb1由来のattP遺伝子座を含む38塩基対DNA配列;バクテリオファージラムダのKOS部位をコードする200bp配列;ならびに原核生物プロモーターおよび真核生物プロモーターを有するhisDをコードするネズミチフス菌(Salmonella typhimurium)遺伝子をコードするDNA断片からなるHSV-1含有プラスミド(pBRL969)である。
図9図9は、pBRL916と命名されたプラスミドのマップである。
図10図10は、pBRL914と命名されたプラスミドのマップである。
図11図11は、pBRL915と命名されたプラスミドのマップである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
細胞の染色体における規定の位置に挿入されたスメグマ菌(M.smegmatis)由来のBxb1 attB配列を含む哺乳動物細胞系が、本明細書において開示される。特に、本開示は、Vero細胞ゲノムにおける規定の遺伝子座においてBxb1 attB配列を含む遺伝子改変Vero細胞を提供する。
【0016】
挿入されたBxb1 attB配列を含む哺乳動物細胞系は、例えば、(1)単一サイクル感染性ウイルスの増殖を補完し、その繁殖を促進するか、(2)試料中に存在する生存可能な単一サイクル感染性ウイルスを迅速に検出し、かつ/もしくはその量を定量するか、または(3)抗体依存性細胞媒介性細胞傷害性(ADCC)および/もしくは抗体依存性細胞媒介性ファゴサイトーシスを測定するための抗原特異的レポーター細胞として使用することができるトランスジェニック細胞系を開発するために使用することができる。また、少なくとも1種の異種のタンパク質を発現する、遺伝子改変哺乳動物細胞に由来するトランスジェニック哺乳動物細胞が開示される。遺伝子改変哺乳動物細胞およびトランスジェニック哺乳動物細胞を産生する方法、ならびにこれらの細胞を使用する方法が開示される。
【0017】
「遺伝子座」という用語は、染色体上の特定の位置を指す。公知の遺伝子座は、公知の遺伝子情報、例えば1つまたは複数の多型マーカー部位を含有し得る。
【0018】
「標的遺伝子座」は、細胞における目的の遺伝子またはポリヌクレオチドが組み込まれるDNAの領域、例えば染色体DNAまたはミトコンドリアDNAの領域である。
【0019】
「核酸コンストラクト」または「異種の核酸」または「ベクター」は、本明細書において使用される場合、特定の宿主細胞にとって外来性の供給源に由来するか、または同じ供給源に由来する場合その元の形態から改変されている核酸配列、特にDNA配列を指す。核酸コンストラクトまたは異種の核酸は、天然において一緒に見出されない1つまたは複数の機能単位を含むように構築され、核酸(または複数の核酸)を宿主細胞へ移行させるように設計される。例として、環状、二本鎖、染色体外DNA分子(プラスミド)、コスミド(ラムダファージ由来のCOS配列を含有するプラスミド)、異種の(非ネイティブ)核酸配列を含むウイルスゲノムなどが挙げられる。異種の核酸は、DNA配列であり得る。異種の核酸は、導入遺伝子または異種の遺伝子のDNA配列を含む。異種の核酸を含む宿主細胞は、異種の遺伝子を発現する。また、核酸コンストラクトは、ベクターと称される場合がある。
【0020】
「遺伝子」という用語は、生物学的機能と関連付けられるDNAのセグメントを指す。したがって、遺伝子は、それらの発現に必要とされるコード配列および/または調節配列を含む。また、遺伝子は、例えば、他のタンパク質についての認識配列を形成する、発現されないDNAセグメントを含み得る。遺伝子は、目的の供給源からのクローニング、または公知の配列情報もしくは予測される配列情報からの合成を含む、様々な供給源から得ることができ、所望のパラメーターを有するように設計された配列を含み得る。
【0021】
「異種の核酸」は、特定の宿主ゲノムにとって外来性の供給源に由来するか、または同じ供給源に由来する場合その元の形態から改変されている核酸配列またはポリヌクレオチド、特にDNA配列を指す。異種の核酸は、天然において一緒に見出されない1つまたは複数の機能単位を含むように構築され、核酸(または複数の核酸)を宿主ゲノムへ移行させるように設計される。例として、環状、二本鎖、染色体外DNA分子(プラスミド、シャトルプラスミド)、コスミド(ラムダファージ由来のcos配列を含有するプラスミド)、異種の(非ネイティブ)核酸配列を含むウイルスゲノムなどが挙げられる。
【0022】
「遺伝子」という用語は、生物学的機能と関連付けられるヌクレオチド配列を指す。したがって、遺伝子は、その発現に必要とされるコード配列および/または調節配列を含む。また、遺伝子は、例えば、他のタンパク質についての認識配列を形成する、非コードDNAセグメント、例えば調節エレメントを含み得る。遺伝子は、目的の供給源からのクローニング、または公知の配列情報もしくは予測される配列情報からの合成を含む、様々な供給源から得ることができ、所望のパラメーターを有するように設計された配列を含み得る。「導入遺伝子」または「異種の遺伝子」とは、宿主細胞にとって外来性の供給源に由来するか、または同じ供給源に由来する場合その元の形態から改変されている遺伝子を指す。したがって、この用語は、細胞にとって外来性もしくは異種であるか、または細胞にとって同種であるがそのエレメントが普通見出されない宿主細胞核酸内の位置に存在するDNAセグメントを指す。異種の遺伝子が発現されると、異種のポリペプチドを産出する。「安定して組み込まれた」という用語は、宿主ゲノムに組み込まれ、細胞複製物として複製し、後代に伝えられる異種の核酸を指す。本開示において、宿主細胞はVero細胞であり、異種の核酸は、Vero細胞ゲノムに組み込まれ、後代細胞に渡される。
【0023】
DNAセグメント(ヌクレオチド配列)は、別のDNAセグメントと機能的関係に置かれている場合「作動可能に連結され」ている。例えば、シグナル配列についてのDNAは、それがポリペプチドの分泌に参加するタンパク質前駆体として発現される場合、ポリペプチドをコードする遺伝子についてのDNAに作動可能に連結されており;プロモーターまたはエンハンサーは、それがコード配列の転写を刺激する場合、その配列に作動可能に連結されている。一般的に、作動可能に連結されているDNA配列は連続しており、シグナル配列の場合、連続し、かつ読取り相にある。しかしながら、例えば、エンハンサーは、それらが転写を制御するコード配列と連続している必要はない。連結は、便利な制限酵素部位における、またはそれの代わりに挿入されるアダプターもしくはリンカーにおけるライゲーションによって達成される。
【0024】
「組換え体」という用語は、細胞について使用される場合、細胞が異種の核酸を複製するか、または異種の核酸によってコードされるペプチドもしくはタンパク質を発現することを示す。組換え細胞は、細胞のネイティブ(非組換え)形態内において見出されないポリヌクレオチドを含有し得る。
【0025】
細胞は、外因性または異種のDNA、例えばDNAコンストラクトが細胞の内側に導入された場合、そのようなDNAによって「形質転換され」ているかまたは「トランスフェクトされ」ている。形質転換するDNAは、細胞のゲノムに組み込まれ(共有結合され)ても、組み込まれ(共有結合され)なくてもよい。
【0026】
「トランスジェニック」という用語は、細胞または細胞の祖先に導入された特定の遺伝子改変を含む細胞を指す。そのような改変は、1つまたは複数の点突然変異、欠失、挿入またはそれらの組合せを含み得る。本開示において、トランスジェニックとは、細胞に導入された異種の核酸を含む細胞を指す。
【0027】
「組換え部位」は、本明細書において説明されるリコンビナーゼ酵素によって認識される特定のポリヌクレオチド配列である。典型的に、2つの異なる部位が関与しており(「相補的部位」と呼ばれる)、1つは標的核酸(例えば、真核生物の染色体またはエピソーム)に存在し、もう1つは標的組換え部位に組み込まれる核酸上に存在する。「attB」および「attP」という用語は、それぞれ、元々細菌標的およびファージドナー由来の結合(または組換え)部位を指し、本明細書において使用される。本明細書において言及されるattB部位は、特にBxb1 attB部位である。組換え部位は、コアまたはスペーサー領域によって分離される左右のアームを含み得る。attB部位とattP部位との間における組換え、およびこれに付随する標的における核酸の組込みに際して、組み込まれたDNAに隣接する組換え部位は、「attL」および「attR」と称される。
【0028】
「プロモーター」という用語は、特定の遺伝子の転写を開始するDNAの領域を指す。プロモーターは、転写を適切に開始するために必要とされるプロモーターの最小限の部分であるコアプロモーターを含み、調節エレメント、例えば転写因子結合部位もまた含み得る。調節エレメントは、転写を促進してもよく、転写を阻害してもよい。プロモーターにおける調節エレメントは、転写アクチベーターまたは転写リプレッサーの結合部位であり得る。プロモーターは、構成的であっても、誘導性であってもよい。構成的プロモーターは、常に活性であり、かつ/または転写の基礎レベルを超える遺伝子の転写を定常的に指示するプロモーターを指す。誘導性プロモーターは、細胞に添加されるか、または細胞において発現される分子または因子によって誘導されることが可能なプロモーターである。誘導性プロモーターは、誘導の非存在下でも基礎レベルの転写を産生し得るが、誘導は、典型的に、そのタンパク質の有意により多い産生をもたらす。
【0029】
「プロモーター-レポーターコンストラクト」とは、レポーター遺伝子の転写を駆動するプロモーターであって、次にレポーター遺伝子がレポータータンパク質に翻訳される、プロモーターを含有するDNAベクターまたはプラスミドを指す。「レポーター」または「レポータータンパク質」は、その発現が細胞事象、例えば感染などの細胞事象に相関しているタンパク質である。レポータータンパク質の発現は、様々な方法を使用して測定することができ、発現されるレポータータンパク質の種類に依存する。
【0030】
「トランス活性化」という用語は、本明細書において使用される場合、調節遺伝子によってコードされる因子であって、その調節遺伝子が、その因子が結合および活性化する遺伝子配列と必ずしも連続していない、因子による遺伝子配列の活性化を指す。
【0031】
「単一サイクル感染性ウイルス」は、不能化感染性単一サイクル(DISC)ウイルスとも称され、ウイルスゲノム合成、アセンブリーおよび/もしくはウイルス粒子放出または新しい宿主細胞の再感染に関与する1つまたは複数の必須機能が欠損しているウイルスである。そのようなウイルスは、失われている遺伝子産物またはその機能をトランスで提供する補完的な細胞系において繁殖される。
【0032】
哺乳動物細胞ゲノムの染色体上の標的遺伝子座に挿入された組換え配列を含む遺伝子改変哺乳動物細胞が、本明細書において開示される。組換え配列は、スメグマ菌(M.smegmatis)由来のBxb1 attB配列を含む。遺伝子改変Vero細胞を含む細胞系もまた開示される。
【0033】
使用される哺乳動物細胞の種類は、特に限定されない。一態様において、細胞は、上皮細胞またはリンパ腫細胞である。一態様において、上皮細胞はVero細胞である。一態様において、リンパ腫細胞はRMA細胞である。
【0034】
attB配列(本明細書において互換的に「attB部位」とも称される)は、Vero細胞ゲノム内の所定の標的遺伝子座上の規定の標的部位に挿入され得る。attB部位および標的遺伝子座の数は限定されず、attB部位は哺乳動物細胞ゲノム内の単一の標的遺伝子座に挿入されてもよく、複数の(すなわち、2つ以上の)標的遺伝子座に挿入されてもよい。attB部位は、標的遺伝子座の単一の標的部位において挿入されてもよく、複数の部位(すなわち、2つ以上の部位)において挿入されてもよい。
【0035】
一態様において、哺乳動物細胞はVero細胞であり、標的遺伝子座は、Vero細胞ゲノムの第6染色体上に位置するアデノ随伴ウイルス組込み部位1(AAVS1)を含む。一態様において、attB配列は、遺伝子改変Vero細胞のゲノムの第6染色体のAAVS1遺伝子座の1529位と1530位との間、AAVS1遺伝子座の2155位と2156位との間、AAVS1遺伝子座の2408位と2409位との間、またはそれらの組合せに挿入される。一態様において、組換え配列を含むAAVS1遺伝子座は、配列番号22の4キロベースの配列を有する。
【0036】
また、Vero細胞ゲノムの染色体上の標的遺伝子座に挿入されたスメグマ菌由来のattB配列を含む遺伝子改変哺乳動物細胞を産生する方法が、本明細書において開示される。方法は、標的遺伝子座上の標的部位とハイブリダイズするオリゴヌクレオチド配列を含むガイドRNAとCas9エンドヌクレアーゼとを含む複合体を提供することと;attB配列を含む一本鎖DNA配列を提供することと;複合体および一本鎖DNA配列を哺乳動物細胞へ導入して、標的遺伝子座に挿入されたattB配列を含む哺乳動物細胞を得ることとを含む。一態様において、Cas9エンドヌクレアーゼは、標的部位とgRNAとのハイブリダイズに際して、AAVS1遺伝子座における標的部位においてDNA切断を触媒する。
【0037】
遺伝子改変哺乳動物細胞および哺乳動物細胞系の生成は、CRISPR-Cas9システムの使用を含む。CRISPRとは、細菌および古細菌によって適応防御のために使用されるClustered Regularly Interspaced Short Palindromic Repeats II型システムを指す。Cas9とは、エンドヌクレアーゼ酵素であるCRISPR関連タンパク質9を指す。このシステムは、細菌および古細菌が、例えばウイルスまたはプラスミド由来の外来性核酸を、配列特異的様式で検出およびサイレンシングすることを可能にする。II型システムにおいて、ガイドRNA(gRNA)はCas9と相互作用し、Cas9のヌクレアーゼ活性が、gRNAに存在する配列に相補的なDNA配列を標的化するように方向付ける。gRNAは標的DNAの相補的配列と塩基対形成し、Cas9ヌクレアーゼ活性は標的DNAにおいて二本鎖切断部位を生成する。
【0038】
本質的に、CRISPR-Cas9システムは、Cas9ヌクレアーゼならびに2つのRNA種:CRISPR RNA(crRNA)およびトランス活性化RNA(tracrRNA)を含む。crRNAは、標的DNA配列に結合し、Cas9ヌクレアーゼ活性を標的DNA遺伝子座へ方向付けるガイドRNAのヌクレオチド配列を含む。crRNAヌクレオチド配列は、ゲノムDNA配列に相補的な部分と、トランス活性化RNA(tracrRNA)に相補的な追加のエレメントとを含む。tracrRNAはcrRNAにハイブリダイズし、Cas9タンパク質に結合し、活性CRISPR-Cas9複合体を提供する。gRNAは、tracrRNAとcrRNAとを一緒に融合して単一のRNA分子に組み合わせた、標的DNAのCas9媒介性切断を方向付けることができる単一ガイドRNA(sgRNA)種であってもよい。したがって、sgRNA種は、Cas9結合およびヌクレアーゼ活性に必要な配列と、目的の標的DNAに相補的な標的配列とを含有する。代わりに、crRNAとtracrRNAとが分離している2部分ガイドRNAもまた用いることができる。
【0039】
「CRISPR-Cas9複合体」という用語は、標的ポリヌクレオチドにハイブリダイズし、Cas9タンパク質と複合体形成したガイドポリヌクレオチドを含む複合体を指す。最も単純な形態においては、CRISPR-Cas複合体の形成は、標的ポリヌクレオチドにおけるまたは標的ポリヌクレオチドに近い(例えば標的ポリヌクレオチドから1~20塩基対以内の)1つまたは両方のポリヌクレオチド鎖の切断をもたらす。CRISPR-Cas複合体の形成は、典型的に、標的配列の3塩基対上流(5’)の1つまたは両方のポリヌクレオチド鎖の切断をもたらす。
【0040】
本開示において、CRISPR-Casシステムは、哺乳動物細胞のゲノムDNAに組換え部位としてattB部位を挿入するために使用される。attB部位は、Bxb1ファージがBxb1 attP部位を介して組み込まれる、スメグマ菌由来のBxb1 attB部位である[Barletta, R.G. et al., J Gen Microbiol, 1992. 138(1): p. 23-30;Mediavilla, J. et al., Mol Microbiol, 2000. 38(5): p. 955-70;Ghosh, P. et al., Mol Cell, 2003. 12(5): p. 1101-11;Nkrumah, L.J. et al., at Methods, 2006. 3(8): p. 615-21;およびOhja, A., et al., Cell, 2005. 123(5): p. 861-73]。
【0041】
本開示の態様において、哺乳動物細胞はVero細胞である。Vero細胞は、1962年に日本の千葉の千葉大学の安村(Yasamura)および川喜多によって正常成体アフリカミドリザル[クロロセブス・セバエウス(Chlorocebus Sebaeus)]の腎臓から単離されたVero細胞系由来の腎臓上皮である。Vero細胞は、ゲノム内の標的遺伝子座における正確に規定された位置(標的部位)においてattB遺伝子組込み部位を含有するように操作されている。Vero細胞におけるattB遺伝子組込み部位の挿入のために、CRISPR-Cas9システムは、標的遺伝子座内の正確な位置に二本鎖DNA切断部位を導入するように設計され、Vero細胞にトランスフェクトされる。標的遺伝子座上の標的部位において二本鎖DNA切断部位を作出する少なくとも1つのガイドRNAが設計される。CRISPR-Cas9複合体は、ガイドRNAとCas9エンドヌクレアーゼとを、複合体を形成するために好適な条件下において組み合わせることによって形成される。形成されると、CRISPR-Cas9複合体は、attB部位を含む一本鎖DNA配列と組み合わせられ、Vero細胞にコトランスフェクトされて、損傷したDNAを切除する(「切断および貼り付け」作業と類似する)。このようにして、attB部位は、標的遺伝子座上の標的部位に挿入される。
【0042】
一態様において、標的遺伝子座は、アデノ随伴ウイルス組込み部位1(AAVS1)遺伝子座である。AAVS1遺伝子座[ヒトの「safe harbor」遺伝子座;Mali et al, Science, 2013 Fe. 15; 339 (6121):823-826]のクロロセブス・セバエウスオルソログは、Vero細胞において特定された。CRISPR-Cas9システムは、AAVS1遺伝子座内の正確な位置において二本鎖DNA切断部位を導入するように設計され、Vero細胞にトランスフェクトされた。3種の合成sgRNA:(1)Vero AAVS1配列の1529位と1530位との間に二本鎖切断部位を作出するsgRNA、(2)Vero AAVS1配列の2155位と2156位との間に二本鎖切断部位を作出するsgRNA、および(3)Vero AAVS1配列の2408位と2409位との間に二本鎖切断部位を作出するsgRNAは、AAVS1遺伝子座において二本鎖DNA切断部位を作出するように設計された。一態様において、Vero AAVS1の1529位と1530位との間に二本鎖切断部位を作出するsgRNAは、配列番号10の配列を有する。一態様において、Vero AAVS1の2155位と2156位との間に二本鎖切断部位を作出するsgRNAは、配列番号20の配列を有する。一態様において、Vero AAVS1の2408位と2409位との間に二本鎖切断部位を作出するsgRNAは、配列番号21の配列を有する。
【0043】
一態様において、複合体(CRISPR-Cas9複合体)は、AAVS1遺伝子座に特異的なガイドRNAとCas9エンドヌクレアーゼとを、複合体を形成するために好適な条件下において組み合わせることによって形成される。形成されると、複合体は、attB部位を含む一本鎖DNA配列(一本鎖DNA修復鋳型)と組み合わせられる。attB配列を含有する一本鎖DNA配列は、AAVS1遺伝子座に特異的なガイドRNAを含むCRISPR-Cas9複合体と共に、Vero細胞にコトランスフェクトされる。一態様において、一本鎖DNA配列は、Vero AAVS1上流および下流配列が両側に隣接する、スメグマ菌由来の38ヌクレオチドのattB配列を含む。一態様において、一本鎖DNA配列は、配列番号1の配列を有する。編集された細胞が所望の位置にattB配列を含有することの確認は、PCRおよびサンガー配列解析によって達成される。コトランスフェクションはエレクトロポレーション法によって促進することができるが、これに限定されない。一態様において、attB部位は、AAVS1遺伝子座上の標的部位において挿入される。一態様において、標的部位は、AAVS1遺伝子座の1529位と1530位との間、AAVS1遺伝子座の2155位と2156位との間、AAVS1遺伝子座の2408位と2409位との間、またはそれらの組合せに存在する。
【0044】
attB組換え部位を含有する遺伝子改変Vero細胞、および対応する細胞系は、本明細書において「Vero:attB細胞」または「Vero:attB細胞系」と称される。一態様において、Vero:attB細胞を含むVero:attB細胞系が提供される。一態様において、Vero:attB細胞系は、Vero:attB細胞から本質的になるかまたはからなる。
【0045】
また、哺乳動物細胞ゲノムの染色体上の標的遺伝子座に安定して組み込まれた異種の核酸を含むトランスジェニック哺乳動物細胞であって、異種の核酸がトランスジェニック哺乳動物細胞(the transgenic mammalian)による発現のために構成された異種の遺伝子を含む、トランスジェニック哺乳動物細胞が、本明細書において開示される。また、トランスジェニック哺乳動物細胞を含む細胞系が開示される。一態様において、トランスジェニック哺乳動物細胞は、トランスジェニック哺乳動物細胞ゲノム内の標的遺伝子座に安定して挿入された少なくとも1つの異種の遺伝子を含む。トランスジェニック哺乳動物細胞における異種の核酸の発現は、構成的、誘導性またはそれらの組合せであり得る。
【0046】
また、本開示は、哺乳動物細胞ゲノムの標的遺伝子座に安定して組み込まれた異種の核酸を含むトランスジェニック哺乳動物細胞を産生する方法を提供する。一態様において、哺乳動物細胞はVero細胞であり、核酸はVero細胞ゲノムの第6染色体に組み込まれる。方法は、哺乳動物細胞ゲノムの染色体上の標的遺伝子座に挿入された第1の組換え配列を含む遺伝子改変哺乳動物細胞(例えば、Vero:attB細胞)を提供することであって、第1の組換え配列がスメグマ菌由来のattB配列を含む(例えば、Vero:attB細胞)、提供することと;異種の遺伝子とバクテリオファージBxb1由来のattP配列を含む第2の組換え配列とを含む異種の核酸を提供することと;バクテリオファージBxb1インテグラーゼと核局在化配列とをコードするmRNAを提供することと;遺伝子改変哺乳動物細胞を、異種の核酸およびmRNAと接触させることと;Bxb1インテグラーゼによって媒介される配列特異的組換えによって、異種の核酸を標的遺伝子座における第1の組換え配列に組み込んで、トランスジェニック哺乳動物細胞を産生することとを含む。一態様において、接触させることは、異種の核酸およびmRNAを、第1の組換え配列を含む遺伝子改変Vero細胞に導入することを含む。
【0047】
本開示において、Bxb1組込みシステムは、トランスジェニック哺乳動物細胞および対応する哺乳動物細胞系を生成するために使用される。本明細書において開示される通り、トランスジェニック哺乳動物細胞は、細胞ゲノムの標的遺伝子座においてattB遺伝子組込み部位を含有する遺伝子改変細胞のさらなる遺伝子改変によって産生され、この組込み部位へ、補完的な遺伝子が高効率で容易に挿入される。
【0048】
Bxb1組込みシステムは、(1)スメグマ菌由来の38塩基対(bp)attB配列(GGCTTGTCGACGACGGCGGTCTCCGTCGTCAGGATCAT;配列番号2)、(2)バクテリオファージBxb1由来の48塩基対attP配列(GGTTTGTCTGGTCAACCACCGCGGTCTCAGTGGTGTACGGTACAAACC;配列番号3)および(3)バクテリオファージBxb1セリンインテグラーゼ(Bxb1インテグラーゼ)からなる。Bxb1組込みシステムは、その標的attB部位とattP部位との間の組換えを開始および完了するためにBxb1セリンインテグラーゼ酵素のみを必要とする高効率組換えシステムであることが実証されている。(Xu, et al. BMC Biotechnol, 2013. 13: p. 87)。
【0049】
Bxb1マイコバクテリオファージによって産生されるBxb1インテグラーゼは、同一ではないファージ(attP)結合部位と細菌(attB)結合部位との間の組換えを媒介する。attBおよびattP標的部位の各々は、逆反復が両側に隣接する組込みコアを含有する。Bxb1セリンインテグラーゼによって促進された組換えは、attB標的部位における遺伝子改変をもたらす。このようにして、哺乳動物細胞におけるattB配列の組込みは、特異的ファージ結合(attP)配列を含有するDNAのための挿入部位として作用する。このことは、attB配列を含有する細胞(例えば、Vero:attB)が、Bxb1セリンインテグラーゼによって媒介される、特定のファージ結合(attP)配列を含有する異種の核酸分子の組込み/挿入のための基質として作用することを可能にする。
【0050】
attBとattPとの間の組換えは、追加の成分を伴わずにBxb1インテグラーゼによって組み換えることができないハイブリッド部位attLおよびattRの形成をもたらす。以前に組み込まれた核酸配列の切除を媒介するためには、RDF(recombination directionality factor)と呼ばれるファージにコードされる別のタンパク質が、Bxb1インテグラーゼに加えて必要とされる。しかしながら、RDFを伴わないBxb1インテグラーゼ単独の存在下においては、組込み反応は一方向性であり、宿主共同因子を必要としない。したがって、異種の核酸分子の組込み後、トランスジェニック哺乳動物細胞は、組み込まれた異種の核酸の第1の末端に隣接するattL配列と、組み込まれた異種の核酸分子の第2の末端に隣接するattR配列とを含む。
【0051】
attBおよび/またはattP部位は、例えばそれらの各々のコア配列の突然変異によって、組換え効率を増加するように、かつ/またはBxb1セリンインテグラーゼの結合親和性を増加するように改変することができる。一態様において、attB部位は、配列番号2に95%、または98%、または99%、または100%相同の核酸配列を有する。一態様において、attP部位は、配列番号3に95%、または98%、または99%、または100%相同の核酸配列を有する。
【0052】
attL部位または配列は、GGCTTGTCGACGACGGCGGTCTCAGTGGTGTACGGTACAAACC(配列番号29)の核酸配列を有する。一態様において、attR部位または配列は、GGTTTGTCTGGTCAACCACCGCGGTCTCCGTCGTCAGGATCAT(配列番号30)の核酸配列を有する。
【0053】
attB部位を含有する哺乳動物細胞(attB含有細胞)のゲノムDNAにおいて異種の核酸の部位特異的組込みを促進するために、attB含有細胞を、Bxb1インテグラーゼ、およびHSV遺伝子とattP配列とを含む異種の核酸と接触させる。Bxb1インテグラーゼは、細胞にトランスフェクトされる、Bxb1インテグラーゼをコードするmRNA配列によって、attB含有細胞に導入される。特に、異種の核酸(DNA配列)、およびBxb1インテグラーゼをコードするmRNA配列は、attB含有細胞にコトランスフェクトされる。また、Bxb1インテグラーゼをコードするmRNAは、核局在化配列/シグナル(NLS)をコードする配列を含み得る。NLSは、細胞質から核へのタンパク質(合成されたBxb1インテグラーゼ)の輸送を媒介するシグナルとして作用する短鎖ペプチド(例えば、4~20個のアミノ酸)である。NLS配列は公知であり、ウイルスタンパク質内に存在する配列、例えばHIV-2、インフルエンザウイルス、アデノウイルスおよび/またはシミアンウイルス-40(SV-40)由来の配列を含む。一態様において、NLSは、核局在化を標的化する10個のアミノ酸のペプチドである。一態様において、NLSはSV-40由来のNLSである。
【0054】
一態様において、mRNA配列は、Bxb1インテグラーゼおよび核局在化配列をコードする。一態様において、mRNAは、プロモーター、T7プロモーターの下流にBxb1インテグラーゼ遺伝子およびSV40核局在化配列を含有するプラスミドからインビトロ(in vitro)で合成される。一態様において、attP含有プラスミドは、大腸菌(E.coli)において増幅される。attP部位を含む異種の核酸がmRNAとコトランスフェクトされる場合、mRNAは、アミノ末端に核局在化ペプチドを有するBxb1インテグラーゼに翻訳され、異種の核酸を伴うBxb1インテグラーゼの核への進入を可能にし、attB/attP組込み反応をもたらす。
【0055】
異種の核酸の挿入/組込みのための標的遺伝子座および/または標的部位は、attB配列が哺乳動物細胞のゲノムに組み込まれている位置によって規定される。attB配列の標的部位および/または標的遺伝子座は限定されない。一態様において、異種の核酸は、単一の標的遺伝子座に、または複数の標的遺伝子座に挿入される。一態様において、異種の核酸は、標的遺伝子座における単一の標的部位に、または標的遺伝子座における複数の部位に挿入される。
【0056】
一態様において、哺乳動物細胞はVero細胞であり、異種の核酸の挿入/組込みのための標的遺伝子座はVero:attB細胞の第6染色体上のAAVS1遺伝子座を含む。特に、異種の核酸は、AAVS1遺伝子座内の特定の位置(標的部位)において組み込まれ/挿入される。一態様において、異種の核酸は、AAVS1遺伝子座の1529位と1530位との間、AAVS1遺伝子座の2155位と2156位との間、AAVS1遺伝子座の2408位と2409位との間、またはそれらの組合せに挿入され得る。一態様において、異種の核酸は、AAVS1遺伝子座の1529位と1530位との間に挿入される。
【0057】
異種の核酸は、attB含有細胞のattB部位におけるその挿入を促進するように設計される。そのようにするために、異種の核酸は、バクテリオファージBxb1由来のattP配列を含む組換え配列を含む。
【0058】
また、異種の核酸は、哺乳動物細胞のゲノムにおける組込み後、異種の遺伝子の発現を促進するように設計される。一態様において、異種の核酸は、異種の遺伝子に作動可能に連結されたプロモーターを含む。プロモーターは異種の遺伝子からの一次転写物の合成を駆動する。例示的なプロモーターとして、誘導性プロモーター、構成的プロモーター、組織特異的プロモーターおよび合成プロモーターが挙げられる。
【0059】
また、他の有用なエレメントが、異種の核酸に含まれ得る。例えば、異種の核酸は、選択可能マーカーをコードする遺伝子、細菌複製起源、ウイルス複製起源またはそれらの組合せをさらに含み得る。また、異種の核酸は、WPRE、大腸菌コスミド配列(cos配列)、細菌プロモーター、膜貫通ドメインおよび/またはポリアデニル化(ポリA)シグナルのような、導入遺伝子発現をモジュレートするか、または抗原のクローニングを改善するために使用され得る他の配列を含み得る。膜貫通ドメイン、例えば、血小板由来増殖因子受容体(PDGFR)膜貫通ドメインは、異種の遺伝子に融合されるか、または異種の遺伝子と共に使用されて、細胞膜表面上での異種の遺伝子産物の発現を可能にし得る。ポリAシグナル配列はポリアデニル化および転写終止を促進し、異種の遺伝子の下流に位置する。例示的なポリAシグナル配列として、SV40ポリ(A)シグナル、ウシ成長ホルモンポリアデニル化シグナル(bGHpA)、ヒト成長ホルモンポリアデニル化シグナル(hGHpA)、免疫グロブリンカッパシグナルおよびウサギベータグロビンポリアデニル化シグナル(rbGlob)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0060】
異種の遺伝子の発現は、選択可能マーカーをコードする遺伝子(本明細書において「レポーター遺伝子」および「レポータータンパク質」とも称される)の発現に基づいて定性的かつ/または定量的に評価され得る。一態様において、異種の核酸は、異種の遺伝子に作動可能に連結された選択可能マーカーをさらに含む。選択可能マーカーをコードする遺伝子は、異種のポリペプチドをコードする遺伝子の上流および/または下流に挿入することができる。一態様において、選択可能マーカー遺伝子は、異種のポリペプチドをコードする遺伝子の下流に挿入される。一態様において、選択可能マーカーは、プロモーターに、および異種のポリペプチドをコードする遺伝子に作動可能に連結される。選択可能マーカーは、それを発現する細胞から識別でき、かつ容易に測定することができる視覚的に特定可能な特徴を誘導し得る。代わりに、選択可能マーカーは、選択剤の存在下において増殖する能力を宿主細胞に与えるマーカー、または必要とされる栄養素の非存在下において増殖する能力を宿主細胞に与えるマーカーであり得る。
【0061】
選択可能マーカーをコードする遺伝子の非限定的な例として、β-ガラクトシダーゼ(lacZ)、蛍光タンパク質、発光タンパク質、hisDまたはそれらの組合せをコードする遺伝子が挙げられる。一態様において、選択可能マーカーは、ネズミチフス菌由来のhisDをコードする遺伝子である。
【0062】
一態様において、選択可能マーカーはネズミチフス菌hisD遺伝子であり得る。有利に、異種の核酸は、抗生物質耐性マーカー、SV40配列またはそれらの組合せを含有しない。したがって、一態様において、また、トランスジェニック哺乳動物細胞は、抗生物質耐性マーカー、SV40配列またはそれらの組合せを含有しない。一態様において、SV40配列はSV40複製起源である。
【0063】
一態様において、異種の核酸はプラスミドである。一態様において、プラスミドは、attP部位、プロモーター、プロモーターに作動可能に連結された異種の遺伝子および選択可能マーカー(例えば、hisD遺伝子)を含む。プラスミドは、attB含有細胞にトランスフェクトされ、attB部位とattP部位との間の部位特異的組換えによってゲノムに組み込まれる。一態様において、プラスミドは、抗生物質耐性マーカー、SV40配列またはそれらの組合せを含まないかまたは含有しない。一態様において、プラスミドは、抗生物質耐性マーカーおよびSV40配列を欠く(これらを含まないかまたは含有しない)。
【0064】
本開示は、哺乳動物細胞ゲノムの染色体上の標的遺伝子座に安定して組み込まれた異種の核酸を含むトランスジェニック哺乳動物細胞であって、異種の核酸がトランスジェニック哺乳動物細胞による発現のために構成された異種の遺伝子を含む、トランスジェニック哺乳動物細胞を提供する。一態様において、トランスジェニック哺乳動物細胞は、標的遺伝子座に挿入された少なくとも1コピーの異種の核酸を含む。一態様において、トランスジェニック哺乳動物細胞は、標的遺伝子座に挿入された1~50コピーの、または1~20コピーの、または1~10コピーの異種の核酸を含む。
【0065】
一態様において、異種の核酸は、ウイルス遺伝子、レポーター遺伝子またはそれらの組合せを含む異種の遺伝子を含む。
【0066】
挿入されたBxb1 attB配列を含む細胞系は、単一サイクル感染性ウイルスの増殖を補完し、かつ繁殖を促進するトランスジェニック細胞系を開発するために使用することができる。一態様において、異種の核酸はウイルス遺伝子を含む。ウイルス遺伝子は、DNAウイルス、RNAウイルスまたはそれらの組合せ由来であり得る。ウイルス遺伝子は、単一のウイルス遺伝子またはウイルス遺伝子の組合せを含み得る。ウイルス遺伝子は、ウイルス遺伝子からの一次転写物の合成を駆動するプロモーターに作動可能に連結される。トランスジェニック哺乳動物細胞および対応する細胞系は、異種の核酸によりコードされるウイルス遺伝子を安定して発現する。一態様において、プロモーターは構成的プロモーターであり、ウイルス遺伝子はトランスジェニック哺乳動物細胞により構成的に発現される。一態様において、プロモーターは、CMVプロモーター、CAGプロモーター、伸長因子1アルファ(EF1α)プロモーター、ホスホグリセレートキナーゼ1(PKG1)プロモーター、ユビキチンC(Ubc)プロモーター、ベータアクチンプロモーターまたはそれらの組合せを含む。
【0067】
ウイルス遺伝子は、単純ヘルペスウイルス-1(HSV-1)、単純ヘルペスウイルス-2(HSV-2)、サイトメガロウイルス、ロタウイルス、天然痘、ポリオウイルス、狂犬病ウイルス、レオウイルス、日本脳炎ウイルス、出血熱ウイルス、麻疹ウイルス、インフルエンザウイルス、中東呼吸器症候群コロナウイルス、ジカウイルス、デングウイルス、SARS-CoV2、インフルエンザAウイルスまたはそれらの組合せ由来の遺伝子を含み得る。ウイルス遺伝子は限定されず、哺乳動物細胞において発現することができる任意のウイルス遺伝子であり得る。
【0068】
ウイルス遺伝子は、必須遺伝子、非必須遺伝子、または必須遺伝子と非必須遺伝子との組合せであり得る。「必須遺伝子」とは、ウイルスの複製および新しい感染性ウイルス粒子またはビリオンの産生(ウイルスの増殖)に必要とされるウイルスゲノムによってコードされる遺伝子を指す。一態様において、ウイルス遺伝子は必須遺伝子である。
【0069】
一態様において、異種の核酸はHSV遺伝子を含む。HSV遺伝子は、単一のHSV遺伝子またはHSV遺伝子の組合せであり得る。一態様において、異種の核酸は少なくとも1つのHSV遺伝子を含む。一態様において、異種の核酸は、少なくとも2または少なくとも3または少なくとも4つのHSV遺伝子を含む。HSV遺伝子は、単純ヘルペスウイルス-1(HSV-1)、単純ヘルペスウイルス-2(HSV-2)またはそれらの組合せ由来(HSV-1由来の遺伝子およびHSV-2由来の遺伝子)であり得る。一態様において、HSV遺伝子は、HSV必須遺伝子、またはHSV必須遺伝子とHSV非必須遺伝子との組合せを含む。HSVゲノムは、必須または非必須のいずれかとして分類することができるおよそ90種の様々な遺伝子をコードする。一態様において、トランスジェニック哺乳動物細胞および対応する細胞系は、異種の核酸によってコードされるHSV遺伝子を安定して発現し、対応するHSV遺伝子のゲノム改変を含む単一サイクル感染性HSVウイルスの複製を支持する(補完する)。一態様において、ゲノム改変は、HSVゲノムにおけるHSV遺伝子の完全なまたは部分的な欠失である。
【0070】
必須HSV遺伝子の非限定的な例は、ウイルスの脂質エンベロープに含有されるタンパク質、例えば、グリコプロテインB(gB)、グリコプロテインC(gC)、グリコプロテインD(gD)、グリコプロテインE(gE)、グリコプロテインG(gG)、グリコプロテインH(gH)、グリコプロテインI(gI)、グリコプロテインJ(gJ)、グリコプロテインK(gK)、グリコプロテインL(gL)、グリコプロテインM(gM)、グリコプロテインN(gN)、UL20、UL45、US9またはそれらの組合せをコードする遺伝子を含む。一態様において、HSV遺伝子は、gD遺伝子、gG遺伝子、gI遺伝子、gJ遺伝子またはそれらの組合せを含む。一態様において、HSV遺伝子はグリコプロテインDを含む。一態様において、HSV遺伝子は、グリコプロテインD遺伝子、グリコプロテインG遺伝子、グリコプロテインI遺伝子、グリコプロテインJ遺伝子またはそれらの組合せを含む。一態様において、HSV遺伝子は、単純ヘルペスウイルス-1(HSV-1)グリコプロテインD遺伝子、単純ヘルペスウイルス-2(HSV-2)グリコプロテインD遺伝子またはそれらの組合せを含む。
【0071】
一態様において、トランスジェニック哺乳動物細胞はVero細胞であり、HSV-1グリコプロテインD遺伝子、HSV-2グリコプロテインD遺伝子またはそれらの組合せを含む。一態様において、異種の核酸は、HSV-1 gD、gD、gJおよびgI遺伝子を含む13.9kB配列であり、配列番号19に対応する配列を有する。attB部位に挿入されたHSV-1グリコプロテイン遺伝子を含むこれらのトランスジェニックVero細胞、および対応する細胞系は、本明細書において「VD60L細胞」または「VD60L細胞系」と称される。一態様において、VD60L細胞系は、VD60L細胞から本質的になるかまたはからなる。VD60L細胞は、HSV-1グリコプロテイン遺伝子を安定して発現し、1つまたは複数のこれらの遺伝子のうちのゲノム欠失を含有する遺伝子改変単一サイクル感染性HSV-1株を補完する。ゲノム欠失は、完全な欠失であっても、部分的な欠失であってもよい。一態様において、VD60L細胞は、HSV-2 gD遺伝子のゲノム欠失(ΔgD-2)を含有する単一サイクル感染性HSV-2株を補完する。VD60L細胞および対応する細胞系は規定の条件下において産生および維持されるので、ウイルスの産生に伴う任意の潜在的な安全性の懸念は最小限になる。
【0072】
必須遺伝子の欠失を有するゲノムを含む単一サイクル感染性ウイルスを繁殖させる方法であって、Vero細胞ゲノムの染色体上の標的遺伝子座に挿入された少なくとも1コピーの必須遺伝子を含むトランスジェニックVero細胞を提供することであって、トランスジェニックVero細胞が必須遺伝子によってコードされるタンパク質を発現する、提供することと;トランスジェニックVero細胞を単一サイクル感染性ウイルスと接触させることと;単一サイクル感染性ウイルスを、トランスジェニックVero細胞において発現されたタンパク質により補完して、単一サイクル感染性ウイルスを繁殖させることとを含む方法が、本明細書において開示される。一態様において、標的遺伝子座は、Vero細胞ゲノムの第6染色体上のアデノ随伴ウイルス組込み部位(AAVS1)を含む。
【0073】
単一サイクル感染性ウイルスは、近隣の感染していない細胞へ拡がることができる成熟ビリオンの形成を妨げるように遺伝子改変されているウイルスである。単一サイクル感染性ウイルスは、宿主細胞の初期感染後に感染性ウイルス粒子を形成することができず、単一ラウンドのみの複製および感染を起こす。遺伝子改変は、典型的に、必須ウイルス遺伝子について行われ、宿主細胞における成熟ビリオンの形成を有効に妨げる、ウイルス遺伝子の完全なもしくは部分的な欠失、またはウイルス遺伝子の突然変異であり得る。その結果、単一サイクル感染性ウイルスは、失われている遺伝子が、操作された細胞(補完的な細胞)によってトランスで供給された場合のみ、溶解性感染を確立し、繁殖することができる。一態様において、トランスジェニック哺乳動物細胞はウイルス遺伝子を安定して発現し、同じ遺伝子の遺伝子改変(例えば、欠失)を有するゲノムを含む単一サイクル感染性ウイルスの複製を表現型的に補完する。この補完の結果として、単一サイクル感染性ウイルスは、トランスジェニック哺乳動物細胞において複製し、新しい感染性ウイルス粒子を産生することができる。トランスジェニック哺乳動物細胞および対応するトランスジェニック哺乳動物細胞系は、規定の条件下において産生および維持されるので、単一サイクル感染性ウイルスの産生に伴ういかなる潜在的な安全性の懸念も最小限である。
【0074】
一態様において、単一サイクル感染性ウイルスは、単純ヘルペスウイルス-1(HSV-1)、単純ヘルペスウイルス-2(HSV-2)、サイトメガロウイルス、ロタウイルス、天然痘、ポリオウイルス、狂犬病ウイルス、レオウイルス、日本脳炎ウイルス、出血熱ウイルス、麻疹ウイルス、インフルエンザウイルス、中東呼吸器症候群コロナウイルス、ジカウイルス、SARS-CoV2またはそれらの組合せを含む。
【0075】
一態様において、単一サイクル感染性ウイルスは、必須遺伝子、もしくは必須遺伝子と非必須遺伝子との組合せの部分的なまたは完全な欠失を含む単一サイクル感染性HSV(HSV-1またはHSV-2)である。一態様において、欠失したHSV必須遺伝子は、gB、gC、gD、gE、gG、gH、gI、gJ、gK、gL、gM、gN、UL20、UL45、US9またはそれらの組合せを含む。一態様において、欠失したHSV遺伝子は、gD、gG、gI、gJまたはそれらの組合せを含む。一態様において、HSV遺伝子は、グリコプロテインDを含む。一態様において、HSV遺伝子は、gD、gG、gIおよびgJを含む。一態様において、HSV遺伝子は、単純ヘルペスウイルス-1(HSV-1)グリコプロテインD遺伝子、単純ヘルペスウイルス-1(a herpes simplex virus-1)(HSV-2)グリコプロテインD遺伝子またはそれらの組合せを含む。
【0076】
一態様において、単一サイクル感染性HSVは、HSV-1またはHSV-2のゲノムにおけるグリコプロテインD遺伝子の欠失を含む単一サイクル感染性HSV-1またはHSV-2である。一態様において、単一サイクル感染性HSVは、単一サイクル感染性HSV-2である。一態様において、単一サイクル感染性ウイルスは、HSV-2のゲノムにおけるgD遺伝子の欠失を含むHSV-2を含む。一態様において、単一サイクル感染性ウイルスHSVは、gD遺伝子のゲノム欠失を有するΔgD-2株である。一態様において、異種の核酸遺伝子は、トランスフェクトされたVero細胞のゲノムに安定して組み込まれ、単純ヘルペスウイルス-1(HSV-1)グリコプロテインD遺伝子、単純ヘルペスウイルス-1(HSV-2)グリコプロテインD遺伝子またはそれらの組合せを含む。単一サイクル感染性ウイルスHSV、例えばΔgD-2株を補完することができるVD60細胞系は、1988年にDavid Johnsonによって最初に開発された[Ligas MW & Johnson DC (1988), J Virol 62(5):1486-1494]。簡潔に説明すると、HSV-1のKOS株由来の6kb BamHI断片が、hisD遺伝子を含有する大腸菌プラスミドにライゲートされ、その後、Vero細胞へトランスフェクトされた。ΔgD-2::GFPウイルスの容易な補完を可能にしたヒスチジノール耐性クローンが単離された[Cheshenko N, et al. (2014) J Virol 88(17):10026-10038;Petro C, et al. (2015), Elife 4]。VD60細胞はΔgD-2ウイルスを補完するが、補完するだけでなく、異常な組換えまたは相同組換えの可能性を最小限にする新しい細胞系(VD60L)を提供することが望ましい。VD60L細胞は、ΔgD-2ウイルスを繁殖するため、および試料(例えば、ワクチン調製物のアリコート)中に存在する生存可能な単一サイクルウイルス感染性粒子(例えば、ΔgD-2)の数を検出するために使用することができる。
【0077】
トランスジェニックVero細胞系において繁殖されたΔgD-2は、対象への投与のために製剤化され得る。VD60細胞系において培養されたΔgD-2株の、HSV-1およびHSV-2に対する殺ウイルス性免疫を誘発するためのワクチンとしての有効性は実証されている[Petro, C. et al, Elife, 2015, 4;Petro, C.D. et al, JCI Insight, 2016, 1(12);WO2015/134368]。したがって、トランスジェニックVero細胞系において繁殖されたΔgD-2は、対象におけるHSV-1感染、HSV-2感染、またはHSV-1およびHSV-2同時感染を処置または予防するために使用することができる。一態様において、トランスジェニックVero細胞系において繁殖されたΔgD-2は、対象におけるHSV-1感染、HSV-2感染、またはHSV-1およびHSV-2同時感染によって引き起こされる疾患を処置または予防するために使用することができる。
【0078】
一態様において、培養した(cultivatedまたはcultured)トランスジェニック哺乳動物細胞の、単一サイクル感染性ウイルスとの接触は、単一サイクル感染性ウイルスによるトランスジェニック哺乳動物細胞の感染を促進する条件下において、単一サイクル感染性ウイルスを、培養したトランスジェニック哺乳動物細胞へ添加することを含む。トランスジェニック哺乳動物細胞を単一サイクル感染性ウイルスに感染させるために使用される条件は限定されず、任意の好適な条件を使用することができる。一態様において、トランスジェニック哺乳動物細胞はVD60L細胞である。
【0079】
一態様において、トランスジェニック哺乳動物細胞における単一サイクル感染性ウイルスの繁殖は、感染したトランスジェニック哺乳動物細胞を、単一サイクル感染性HSVの産生を最大限にするために好適な期間および好適な条件(例えば、温度、相対湿度、CO雰囲気)下において培養することをさらに含む。単一サイクル感染性ウイルスの最大産生をもたらす条件は変動し、限定されず、例えば、感染した細胞を、37℃の温度において5%のCO雰囲気にて所定の時間間隔培養することを含み得る。
【0080】
一態様において、トランスジェニック哺乳動物細胞は、挿入された異種の核酸によってコードされる選択マーカーを含む。一態様において、方法は、選択培地においてトランスジェニック哺乳動物細胞を培養することをさらに含む。一態様において、トランスジェニック哺乳動物細胞はhisDを選択マーカーとして含み、選択培地はヒスチジノールを含む。培養培地中のヒスチジノールの量は限定されず、過度の実験を伴うことなく当業者が決定することができる。
【0081】
また、挿入されたBxb1 attB配列を含む遺伝子改変哺乳動物細胞(attB含有細胞)は、試料中に存在する生存可能な単一サイクル感染性ウイルスを迅速に検出し、かつ/またはその量を定量するトランスジェニック哺乳動物細胞系を開発するために使用することができる。そのようなトランスジェニック哺乳動物細胞系は、ウイルスプロモーターに融合されたレポーター遺伝子を含有し、レポーター遺伝子は、トランスでウイルスプロモーターを活性化することができるウイルスに細胞が感染した際に発現される。一態様において、異種の遺伝子は、ウイルスプロモーターに作動可能に連結されたレポーター遺伝子である。
【0082】
レポーター遺伝子は、蛍光タンパク質、発光タンパク質またはそれらの組合せをコードし得る。非限定的な例として、ルシフェラーゼ、ナノルシフェラーゼ(nanoLuc)、ベータ-ラクタマーゼ、アルカリホスファターゼ、緑色蛍光タンパク質(GFP)、高感度緑色蛍光タンパク質、(EGFP)、赤色蛍光タンパク質(RFP)、Venus、モノマー赤外蛍光タンパク質(mIFP)、LssmOrange(Long Stokes Shift monomeric Orange)、赤色蛍光タンパク質(RFP)、TagRFP657(Tag Red Fluorescent Protein 657)、mOrange2(monomeric Orange2)、mApple(monomeric Apple)、Sapphire、mTagBFP2(monomeric Tag Blue Fluorescent Protein)、tdTomato、mCherry(monomeric Cherry)、黄色蛍光タンパク質(YFP)、高感度黄色蛍光タンパク質(EYFP)、mCerulean3(monomeric Cerulean3)、緑色蛍光タンパク質(GFP)、高感度緑色蛍光タンパク質(EGFP)またはそれらの組合せが挙げられる。しかしながら、レポーター遺伝子はこれらに限定されず、他の好適なレポーター遺伝子もまた使用することができる。
【0083】
ウイルスプロモーターのトランス活性化がレポーター遺伝子によってコードされるレポータータンパク質の発現をもたらすように、ウイルスプロモーターは、レポーター遺伝子に作動可能に連結され得る。例えば、異種の核酸は、プロモーター-レポーターコンストラクトを含み得る。特に、プロモーターは、ウイルスの調節遺伝子によってコードされ、かつウイルスプロモーターに特異的である因子によってトランス活性化される。プロモーターは誘導性プロモーターであり、プロモーターを作動させることができる遺伝子をコードするウイルスの存在下において作動する。したがって、トランスジェニック哺乳動物細胞が、ウイルスプロモーターをトランス活性化することができるウイルスと接触し、これに感染した場合、ウイルスはウイルスプロモーターをトランス活性化し、トランスジェニック哺乳動物細胞におけるレポーター遺伝子の発現を誘導する。このようにして、試料中に存在する感染性ウイルス粒子の数は、レポータータンパク質を発現する細胞の数を定量することによって測定することができる。感染した細胞におけるレポータータンパク質の発現は、感染していない細胞において検出された蛍光のバックグラウンドレベルと比較され得る。レポータータンパク質の発現は、免疫蛍光細胞を検出および定量するために好適な任意の方法、例えば、蛍光活性化セルソーティング(FACS)、免疫蛍光顕微鏡法などの方法を使用して検出することができる。
【0084】
一態様において、ウイルスプロモーターは、HSV-1、HSV-2、サイトメガロウイルス、ロタウイルス、天然痘、ポリオウイルス、狂犬病ウイルス、レオウイルス、日本脳炎ウイルス、出血熱ウイルス、麻疹ウイルス、インフルエンザウイルス、中東呼吸器症候群コロナウイルス、デングウイルス、ジカウイルス、SARS-CoV2またはそれらの組合せ由来であり、トランスジェニック哺乳動物細胞が各々のウイルスに感染することによってトランス活性化(誘導)される。
【0085】
一態様において、ウイルスプロモーターは、HSV-1またはHSV-2由来のプロモーターである。HSV-1またはHSV-2プロモーターは、ICP0プロモーター、ICP4プロモーター、ICP27プロモーター、ICP8プロモーター、チミジンキナーゼ(TK)プロモーター、ビリオンタンパク質5(VP5)プロモーターまたはそれらの組合せを含み得る。
【0086】
単純ヘルペスウイルス1型(HSV-1)複製中の遺伝子発現は、時間的に調節される。ウイルスDNA複製前に遺伝子発現の初期相が起こり、最初期ウイルスmRNAは感染全体を通して発現され続ける。遺伝子発現の初期相は、2つの段階:新規のタンパク質合成の非存在下において起こるαまたは最初期(IE)段階、および少なくともいくつかのIE遺伝子の作動を必要とするβまたは真の初期(E)段階に分けることができる。HSV-1遺伝子発現の後期段階もまた、2つの段階:ウイルスDNA複製前にわずかに検出することができるβγまたは「漏出性」後期遺伝子、およびウイルスDNA合成後にのみ検出することができるγ後期(L)mRNAに分けることができる。
【0087】
細胞に進入した後、HSVカプシドおよび外被は徐々に緩み、分離する。ヌクレオカプシドは核ポアへ輸送され、ウイルスDNAを核へ放出し;ウイルス粒子の外被に存在するVP16タンパク質は、それ自体は核局在化シグナルを所有しないが、細胞因子HCF-1によって核へ輸送される。VP16は最初期(IE)遺伝子プロモーターに結合して、特にIE遺伝子に対して作用するトランス活性化因子としてIE遺伝子の転写を刺激する。HSV IE遺伝子転写は、強力な転写エンハンサー複合体をアセンブルするウイルス(VP16)転写因子および細胞(すなわち、HCF-1、Oct-1、SP1およびGABP)転写因子によって媒介される。コアドメインは、2つの細胞タンパク質、Oct-1およびHCF-1と相互作用して、ウイルスIE遺伝子プロモーターにおける特異的シス調節エレメントにおいてDNA結合複合体を形成する。IE発現の主要な駆動因子は、細胞コアクチベーターHCF-1である。HCF-1は、ヒストンデメチラーゼ(JMJD2/KDM4およびLSD1/KDM1A)ならびにヒストンH3K4メチルトランスフェラーゼ(SETD1AおよびMLL1/KMT2A)を含有する複合体の部分として、IE遺伝子についてアセンブルされるクロマチンをモジュレートすることにおいて重要な役割を果たす。この複合体は、IEプロモーターにおけるヘテロクロマチンのアセンブリーを制限し、活性真性染色質クロマチン状態への移行を促進する。HCF-1タンパク質は、溶解性感染性サイクルおよび潜伏からの再活性化の両方についての中心的な調節成分である(Vogel and Kristie, 2013 - doi.org/10.3390/v5051272;Liang et al., 2009-DOI: 10.1038/nm.2051 , 2013-DOI: 10.1126/scitranslmed.3005145)。
【0088】
一部の細胞タンパク質およびウイルスタンパク質、例えば、熱ショックタンパク質90α(Hsp90α)は、VP16によって媒介されるIE遺伝子の転写を調節し得る。ウイルス外被タンパク質pUL14、VP11/12(UL46によってコードされる)およびVP13/14(UL47によってコードされる)は、VP16によって媒介されるIE遺伝子転写の効率を向上させることができ、これはVP16の核入力を促進することにおいて同じ役割を果たし得る(Lee et al., 2008;Yamauchi et al., 2008;Hernandez Duran et al., 2019)。別の外被タンパク質であるプロテインキナーゼUS3は、ウイルスの放出を調節し、リン酸化によって外被からのVP11/12、VP13/14およびVP16の解離を促進し、ウイルス遺伝子の転写を開始するためにできるだけ早く核への進入を可能にし得る。(Kato and Kawaguchi, 2018;Hernandez Duran et al., 2019)。HSV-1IEタンパク質ICP22は、IE遺伝子の転写を阻害し得るが、VP16は阻害を緩和し得る。VP16とICP22との間に直接的な相互作用はないが、ICP22は、これもまたVP16に結合する様々な転写因子と相互作用することができる。(Cun et al., 2009;Guo et al., 2012)。それゆえ、VP16およびICP22によるIE遺伝子の転写調節は、両方の転写因子および関連する転写因子の一部の未知の作用を通して達成され得る。
【0089】
異種の遺伝子としてレポーター遺伝子を含むトランスジェニック哺乳動物細胞は、試料中に存在するウイルスを検出および/もしくは定量するため、ならびに/または保存されたウイルス試料の感染性を決定するために使用することができる。本開示は、細胞に基づくレポーターアッセイを使用して試料中の感染性ウイルスを検出および/または定量する方法を提供する。細胞に基づくレポーターアッセイおよび検出方法は、例えば、哺乳動物細胞の標的遺伝子座に安定して組み込まれた異種の核酸を含むトランスジェニック哺乳動物細胞であって、異種の核酸がレポーター遺伝子に作動可能に連結されたウイルスプロモーターを含む、トランスジェニック哺乳動物細胞を利用する。
【0090】
一般的に、感染性(つまり、生きている)ウイルスの存在について試料を試験するため、ウイルスを含有することが分かっている試料中に存在する感染性ウイルスの量を定量するため、および/または保存されたウイルス試料の感染性を決定するための上皮細胞、例えばVero細胞の使用は、プラークアッセイに基づく。プラークアッセイは、細胞のウイルス感染を促進するために好適な条件下で、Vero細胞を、ウイルスを含有する試料へ曝露することと;ある期間待機して、ウイルスが細胞内で繁殖して新しい感染性粒子を産生するかどうかを決定することと;個々のプラークをカウントすることによって感染性粒子を定量することとを含む。単一サイクル感染性ウイルスの場合、単一サイクル感染性ウイルスで失われている遺伝子を発現する補完的な細胞が、そのようなアッセイにおいて使用される。しかしながら、ウイルスの効力を測定するそのような方法は、時間および労力の両方を要する。比較的短期間内で行うことができる、試料中のウイルスの量を定量する方法は、非常に有利であろう。
【0091】
本開示は、試料中の感染性ウイルスを定量するための細胞に基づくレポーターアッセイを提供する。細胞に基づくレポーターアッセイは、プロモーター-レポーターコンストラクトを含む異種の核酸を含むトランスジェニック哺乳動物細胞を利用する。細胞に基づくレポーターアッセイは、試料中の感染性ウイルスの存在を検出するため、およびウイルス感染性(効力)を測定するために使用することができる。また、細胞に基づくレポーターアッセイは、感染性ウイルスの存在について生体試料を試験するために使用することができる。また、細胞に基づくレポーターアッセイは、効力アッセイとして使用することができる。また、対象からの生体試料において感染性ウイルスを検出するための方法が、本明細書において開示される。本明細書において開示されるアッセイおよび方法は、短期間で行うことができ、試料中に存在するウイルスの量を正確に定量することができる。
【0092】
一態様において、アッセイおよび/または方法において使用されるトランスジェニック哺乳動物細胞を、ウイルスを含むかまたはウイルスを含むことが疑われる試料と接触させる。一態様において、試料は、バルクウイルスの保存前、保存中または保存後にバルクウイルスのバッチから採取される。ウイルスの感染性は保存中に潜在的に減少する場合があり、したがって、予測されるウイルス量が保存後に試験試料中に存在するかどうかを決定する迅速かつ有効な方法、すなわち、経時的な保存中のウイルス安定性を測定する方法を有することは有益である。アッセイ結果は、バルクウイルスをどうするか、例えば、それがさらなる使用(例えば、製造)に好適であるかどうか、またはその代わりにそれを改変もしくは廃棄すべきかどうかを決定するために使用することができる。また、アッセイは、生きているウイルス、例えば単一サイクル感染性ウイルスを含むワクチンのバッチから採取した試料について行うことができ、この場合、アッセイ結果は、バッチをどうするか、例えば、バッチが医療専門家による使用のために利用可能にするのに好適であるかどうかを決定するために使用することができる。
【0093】
一態様において、試料は対象からの生体試料である。一態様において、ウイルスは生体試料中に存在するか、または生体試料中に存在することが疑われる。感染性ウイルスの存在について対象からの生体試料を迅速かつ正確に試験する(スクリーニングする)ことができるアッセイは、対象の迅速な診断および処置を提供することにおいて有益であろう。生体試料は、血清、唾液、血漿、全血、鼻咽頭拭き取り検体、尿、便、呼吸液、脳脊髄液またはそれらの組合せを含み得るが、これらに限定されない。
【0094】
一態様において、接触させることは、トランスジェニック哺乳動物細胞に、試料中に存在するウイルスを感染させることを含む。トランスジェニック哺乳動物細胞の感染後、ウイルスはウイルスプロモーターをトランス活性化し、これは哺乳動物細胞においてレポーター遺伝子の発現を誘導する。
【0095】
一態様において、ウイルス感染性を測定するための細胞に基づくレポーターアッセイ法は、哺乳動物細胞のゲノムの染色体上の標的遺伝子座に安定して組み込まれた異種の核酸を含むトランスジェニック哺乳動物細胞を提供することであって、異種の核酸がレポーター遺伝子に作動可能に連結されたウイルスプロモーターを含む、提供することと;トランスジェニック哺乳動物細胞を試料と接触させることであって、試料中に存在する感染性ウイルスがウイルスプロモーターをトランス活性化し、これは哺乳動物細胞においてレポーター遺伝子の発現を誘導する、接触させることと;レポーター遺伝子によってコードされるタンパク質を発現する哺乳動物細胞の数を定量して、感染性ウイルスを定量することとを含む。
【0096】
一態様において、対象からの生体試料において感染性ウイルスを検出する方法は、対象からの生体試料を、哺乳動物細胞のゲノムの染色体上の標的遺伝子座に安定して組み込まれた異種の核酸を含むトランスジェニック哺乳動物細胞と接触させることであって、異種の核酸がレポーター遺伝子に作動可能に連結されたウイルスプロモーターを含む、接触させることと;トランスジェニック哺乳動物細胞を生体試料と接触させることであって、試料中に存在する感染性ウイルスがウイルスプロモーターをトランス活性化し、これは哺乳動物細胞においてレポーター遺伝子の発現を誘導する、接触させることと;レポーター遺伝子によってコードされるタンパク質を発現する哺乳動物細胞の数を定量して、感染性ウイルスを定量することとを含む。
【0097】
一態様において、接触させることは、トランスジェニック哺乳動物細胞をウイルスに感染させることを含む。一態様において、細胞に基づくレポーターアッセイおよび/または方法は、トランスジェニック哺乳動物細胞においてレポートされる遺伝子(the reported gene)の発現を誘導することをさらに含む。一態様において、トランスジェニック哺乳動物細胞はVero細胞であり、標的遺伝子座は、Vero細胞ゲノムの第6染色体上のアデノ随伴ウイルス組込み部位1(AAVS1)を含む。
【0098】
また、細胞に基づくレポーターアッセイを含む診断方法、または生体試料において感染性ウイルスを検出する方法が、本明細書において開示される。
【0099】
また、本開示は、抗原特異的抗体依存性細胞媒介性細胞傷害性(ADCC)および/または抗体依存性細胞媒介性ファゴサイトーシス(ADCP)を定量化および特徴付けるために使用することができるトランスジェニック哺乳動物細胞を提供する。
【0100】
一態様において、本開示は、細胞集団におけるADCCの割合または量を定量化する方法であって、トランスジェニック哺乳動物細胞ゲノムの染色体上の標的遺伝子座に安定して組み込まれた異種の核酸を含む複数のトランスジェニック哺乳動物細胞を提供することであって、異種の核酸が、トランスジェニック哺乳動物細胞の細胞膜上での発現のために構成された異種の抗原遺伝子と、トランスジェニック哺乳動物細胞の細胞質における発現のために構成された蛍光タンパク質をコードする遺伝子とを含む、提供することと;複数のトランスジェニック哺乳動物細胞を抗体および免疫細胞集団と接触させることと;1つまたは複数の時点において蛍光を呈する複数のトランスジェニック哺乳動物細胞の量を定量化することとを含む方法を提供する。
【0101】
一態様において、本開示は、細胞集団におけるADCPの割合または量を定量化する方法であって、トランスジェニック哺乳動物細胞ゲノムの染色体上の標的遺伝子座に安定して組み込まれた異種の核酸を含む複数のトランスジェニック哺乳動物細胞を提供することであって、異種の核酸が、トランスジェニック哺乳動物細胞の細胞膜上での発現のために構成された異種の抗原遺伝子と、トランスジェニック哺乳動物細胞の細胞質における発現のために構成された蛍光タンパク質をコードする遺伝子とを含む、提供することと;複数のトランスジェニック哺乳動物細胞を抗体および食細胞集団と接触させることと;1つまたは複数の時点において蛍光を呈する食細胞の量を定量化してADCPの割合または量を定量化することとを含む方法を提供する。
【0102】
一態様において、ADCCおよび/またはADCP法のために設計されたトランスジェニック哺乳動物細胞はRMA細胞である。RMA細胞は、C57/Bl6マウス由来のT細胞リンパ腫細胞系である。Bxb1 attB部位を含む遺伝子改変RMA細胞(RMA-attBBxb1)は、Bxb1インテグラーゼをコードするmRNAと、attP部位および抗原をコードする遺伝子を含む異種の核酸とをコトランスフェクトされ得る。抗原をコードする遺伝子は、シグナル配列および膜貫通ドメインに融合され、構成的プロモーターに作動可能に連結され、トランスフェクトした細胞の表面上で発現する。細胞が抗原に加えてレポーター遺伝子もまた発現するように、異種の核酸は構成的プロモーターに作動可能に連結されたレポーター遺伝子をさらに含む。
【0103】
異種の抗原遺伝子は、目的の標的、例えば、ウイルス、細菌、寄生生物に特異的な免疫応答を誘導する抗原をコードする。本明細書において使用される場合、「抗原」とは、対象において目的の標的への免疫応答、例えば、体液性および/または細胞媒介性応答を誘発することができるポリペプチドまたはタンパク質を指す。
【0104】
異種の抗原遺伝子は、ウイルス、細菌または寄生生物由来の遺伝子であり得る。ウイルスは病原性ウイルスである場合があり、その例として、アデノウイルス、サイトメガロウイルス(CMV)、コクサッキーウイルス、クリミアコンゴ出血熱ウイルス、チクングニアウイルス、デングウイルス、ドーリウイルス、東部ウマ脳炎(EEE)ウイルス、エボラウイルス、エプスタインバーウイルス(EBV)、ハンタウイルス、肝炎ウイルス(例えば、A型肝炎、B型肝炎、C型肝炎、D型肝炎、E型肝炎)、HSV-1、HSV-2、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)、ヒトパピローマウイルス、ヒトSARSコロナウイルス、SARS CoV-2、ヒトTリンパ球向性ウイルス(HTLV)、インフルエンザウイルス、日本脳炎ウイルス、マールブルグウイルス、麻疹ウイルス、ムンプスウイルス、ポリオウイルス、ノーウォークウイルス、天然痘、パルボウイルス、狂犬病ウイルス、レオウイルス、ライノウイルス、リフトバレー熱ウイルス、ロタウイルス、風疹ウイルス、重症熱性血小板減少症候群(SFTS)ウイルス、呼吸器合抱体ウイルス(RSV)、水痘帯状疱疹ウイルス、西部ウマ脳炎ウイルス、西ナイルウイルス、黄熱病ウイルス、ジカウイルスまたはそれらの組合せが挙げられる。
【0105】
細菌は、病原性細菌である場合があり、その例として、放線菌属の種(Actinomyces sp.)、桿菌属の種(Bacillus sp.)、バルトネラ属の種(Bartonella sp.)、ボルデテラ属の種[Bordetella sp.(Bordatella sp.)]、ボレリア属の種(Borellia sp.)、ブルセラ属の種(Brucella sp.)、カンピロバクター属の種(Campylobacter sp.)、クラミジア属の種(Chlamydia sp.)、クロストリジウム属の種(Clostridium sp.)、コリネバクテリウム属の種(Corynebacterium sp.)、コクシエラ属の種(Coxiella sp.)、エンテロバクター属の種(Enterobacter sp.)、腸球菌属の種(Enterococcus sp.)、大腸菌属の種(Escherichia sp.)、フランシセラ属の種(Francisella sp.)、ガードネレラ属の種(Gardnerella sp.)、ヘモフィルス属の種(Haemophilus sp.)、ヘリコバクター属の種(Helicobacter sp.)、クレブシエラ属の種(Klebsiella sp.)、レジオネラ属の種(Legionella sp.)、レプトスピラ属の種(Leptospira sp.)、リステリア属の種(Listeria sp.)、マイコバクテリウム属の種(Mycobacterium sp.)、マイコプラズマ属の種(Mycoplasma sp.)、ナイセリア属の種(Neisseria sp.)、ノカルジア属の種(Nocardia sp.)、リケッチア属の種(Rickettsia sp.)、パスツレラ属の種(Pasteurella sp.)、プロテウス属の種(Proteus sp.)、シュードモナス属の種(Pseudomonas sp.)、サルモネラ属の種(Salmonella sp.)、セラチア属の種(Serratia sp.)、赤痢菌属の種(Shigella sp.)、ブドウ球菌属の種(Staphylococcus sp.)、連鎖球菌属の種(Streptococcus sp.)、トレポネーマ属の種(Treponema sp.)、ビブリオ属の種(Vibrio sp.)、エルシニア属の種(Yersinia sp.)またはそれらの組合せが挙げられる。
【0106】
寄生生物は、病原性寄生生物である場合があり、その例として、アカントアメーバ属の種(Acanthamoeba spp.)、バラムチア属の種(Balamuthia spp.)、バベシア属の種(Babesia sp.)、大腸バランチジウム(Balantidium coli)、ブラストシスチス属の種[Blastocystis sp.(Blastocystic sp.)]、クリプトスポリジウム属の種[Cryptosporidium sp.(Cryptospiridium sp.)]、シクロスポラ・カイエタネンシス(Cyclospora cayetanensis)、赤痢アメーバ(Entamoeba histolytica)、ランブル鞭毛虫(Giardia lamblia)、イソスポーラ・ベリ[Isospora belli(Isospora bello)]、リーシュマニア属の種(Leishmania sp.)、ネグレリア・フォーレリ[Naegleria fowleri(Naegleria foweri)]、マラリア原虫属の種(Plasmodium sp.)、リノスポリジウム・セーベリ(Rhinosporidium seeberi)、肉胞子虫属の種(Sarcocystis sp.)、トキソプラズマ・ゴンディ(Toxoplasma gondii)、トリコモナス属の種(Trichomonas sp.)、トリパノソーマ属の種(Trypanosoma sp.)またはそれらの組合せが挙げられる。
【0107】
トランスジェニック細胞系は、特異的抗体および特異的エフェクター細胞との組合せにおいてADCCまたはADCPの標的として使用される。抗体およびエフェクター細胞は、抗原が由来する微生物(ウイルス、細菌、寄生生物)に曝露され、かつ/もしくはこれに感染した個体から、または微生物に特異的なワクチンをワクチン接種された個体から得られる。
【0108】
ADCCの量は、顕微鏡またはFACSによって、赤色蛍光の損失を定量することによって測定することができる。
【0109】
ADCPの量は、蛍光トランスジェニック細胞のファゴサイトーシスによって示されるマクロファージの比率を定量することによって測定することができる。
【0110】
本明細書において開示されるADCCおよびADCP法は、感染環境をシミュレートし、非常に汎用性であり、ポリクローナル血清、様々な種類の細胞系、および例えば様々なマウス株の使用を可能にする。
【0111】
本開示は、非限定的な以下の実施例によってさらに例示される。
【実施例
【0112】
実験の詳細
Vero細胞におけるAAVS1遺伝子座の確証
配列相同性に基づいて、ヒト第19染色体上のアデノ随伴ウイルス組込み部位1(AAVS1)遺伝子座のオルソロガスな部位は、Vero細胞系の霊長類源であるクロロセブス・セバエウスにおいて第6染色体上にある。Vero細胞におけるAAVS1遺伝子座を確証するために、Vero細胞(ATCC CCL-81)由来のゲノムDNAを、DNAzol試薬を使用して製造業者の推奨に従って抽出した。精製したゲノムDNAを、表1のプライマー対を使用するPCR増幅の鋳型として使用した。
【0113】
表1
【表1】

【0114】
精製したPCR産物のサンガーシークエンシングにより、増幅された領域はヒトAAVS1遺伝子座と90%同一であることが確証された。配列番号22の配列を有する4086bpコンセンサス配列を生成し、Vero AAVS1と命名し、これはVero細胞の第6染色体(NCBI参照配列:NC_023647.1)上の座標47705457~47709543に対応した。
【0115】
Vero AAVS1遺伝子座を標的化するCas9ガイドRNAの設計
Chop Chopサーバー(https://chopchop.cbu.uib.no/)を使用して、サンガーシークエンシングを通して得たVero AAVS1部位をアップロードし、アルゴリズム検索を行うことによって、推定ガイドRNA(gRNA)の特定を行った。AAVS1配列の1529位と1530位との間、2408位と2409位との間、2155位と2156位との間、2037位と2038位との間、および1416位と1417位との間に二本鎖DNA切断部位を作出するための5つの異なる合成単鎖ガイドRNA(sgRNA)を生成した。gRNA配列は、Integrated DNA Technologies(IDT DNA)によって合成され、gRNA安定性を増加させる改変を含んだ。上位3つの候補合成ガイドRNA、特にsgRNAを選択し、RNA安定性を増加させる改変を含む化学合成のために、IDT DNAに送った。図2は、Vero AAVS1部位、ならびに上位3つの候補単鎖gRNA:(1)Vero AAVS1配列の1529位と1530位との間に二本鎖切断部位を作出するgRNA、(2)Vero AAVS1配列の2155位と2156位との間に二本鎖切断部位を作出するgRNA、および(3)Vero AAVS1配列の2408位と2409位との間に二本鎖切断部位を作出するgRNAの位置の略図である。
【0116】
Vero AAVS1部位の1529位と1530位との間に二本鎖切断部位を作出する合成gRNAの配列は、配列番号10の配列を有する。配列番号10の下線部分は、20ヌクレオチドのcrRNA領域を表す。
mA*mG*mA* rGrGrA rArCrA rArUrA rCrArA rArUrU rCrGrG rUrUrU rUrArG rArGrC rUrArG rArArA rUrArG rCrArA rGrUrU ArArA rArUrA rArGrG rCrUrA rGrUrC rCrGrU rUrArU rCrArA rCrUrU rGrArA rArArA rGrUrG rGrCrA rCrCrG rArGrU rCrGrG rUrGrC mU*mU*mU* rU(配列番号10)
【0117】
Vero AAVS1の2155位と2156位との間に二本鎖切断部位を作出する合成gRNAの配列は、配列番号20の配列を有する。配列番号20の下線部分は、20ヌクレオチドのcrRNA領域を表す。
mC*mC*mU* rGrCrA rArGrA rUrGrC rCrGrU rGrArC rArGrG rUrUrU rUrArG rArGrC rUrArG rArArA rUrArG rCrArA rGrUrU rArArA rArUrA rArGrG rCrUrA rGrUrC rCrGrU rUrArU rCrArA rCrUrU rGrArA rArArA rGrUrG rGrCrA rCrCrG rArGrU rCrGrG rUrGrC mU*mU*mU* rU(配列番号20)
【0118】
Vero AAVS1の2408位と2409位との間に二本鎖切断部位を作出する合成gRNAの配列は、配列番号21の配列を有する。配列番号21の下線部分は、20ヌクレオチドのcrRNA領域を表す。
mC*mC*mA* rCrCrC rUrArA rGrArA rArCrG rArGrA rGrArG rUrUrU rUrArG rArGrC rUrArG rArArA rUrArG rCrArA rGrUrU rArArA rArUrA rArGrG rCrUrA rGrUrC rCrGrU rUrArU rCrArA rCrUrU rGrArA rArArA rGrUrG rGrCrA rCrCrG rArGrU rCrGrG rUrGrC mU*mU*mU* rU(配列番号21)
【0119】
Vero相同配列が両側に隣接するattBを含有する一本鎖DNAの設計
1529位の上流のVero AAVS1配列に対応する40ヌクレオチドおよび1529位の下流のVero AAVS1配列に対応する40ヌクレオチドが両側に隣接する38ヌクレオチドのattB配列を含有する一本鎖DNA断片を、IDT DNAに化学合成させた。配列を以下に示す。
【化1】
【0120】
配列番号1において、下線のヌクレオチドはcrRNAに対応する配列を示し、一方で、太字のヌクレオチドはattB配列を示す。
【0121】
Cas9-gRNA複合体および一本鎖オリゴヌクレオチドのコトランスフェクション
4マイクロリットル(μl)のCas9タンパク質(NEB緩衝液3中の20μM、80pmol;New England Biolabs、Ipswich、MA)を、Vero AAVS1部位を標的化する1μlの合成gRNA(トリス-EDTA中の100μM、100pmol、IDT、Coralville、IA)と混合することによって、Cas9-gRNA複合体を形成した。混合物を室温で20分間インキュベートした。インキュベーションの終わりに、40bpのVero相同配列が両側に隣接する38bpのattB配列を含有する1μlの一本鎖DNA(トリス-EDTA中の100μM、100pmol、IDT、Coralville、IA)を添加した(配列番号1)。この混合物に、20μlのVero細胞懸濁液(全部で細胞2.5x10個、Lonza Buffer SF中にて)を添加した。この混合物を16ウェルのNucleocuvetteストリップの単一のチャンバーに移し、細胞にヌクレオフェクション(エレクトロポレーション法に基づくトランスフェクション)をNucleofector Xユニット(Lonza、Basel、スイス)を使用してプログラムDN-100により行った。
【0122】
エレクトロポレーション法後、細胞懸濁液を、1ミリリットル(ml)の5%のFBS/DMEMを含有する12ウェルプレートの2つのウェルに移し、37℃において5%のCOにてインキュベートした。細胞をコンフルエンスまで増殖させ(1週間)、トリプシン処理し、限界希釈法によるクローン選択のため96ウェルプレートに播種した。
【0123】
attB挿入の存在について細胞をスクリーニングする
相同組換えの確認をPCRにより確認した。Vero attB細胞の一部を溶解し、ゲノムDNAを抽出した。具体的には、Veroトランスフェクタントを含有する96ウェルプレートを、2つの96ウェルプレートに播種して複製した。1プレートは細胞を培養し続けるために使用し、一方で、第2のプレートの細胞は、トリス-HCl(pH8)中の50μlの1μg/mlのプライマーゼを各ウェルに添加することによって溶解した。37℃において5分間インキュベートした後、細胞を剥がし、96ウェルPCRプレートへ移した。プレートを密閉し、95℃に15分間加熱し、冷却した。ゲノムDNAを、attB部位(プライマー1529attB_F:配列番号25、表2)およびVero AAVS1部位の1529位(プライマー1529attB_R:配列番号26、表2)に結合するプライマー対を使用するPCR増幅のための鋳型として使用した。PCR産物をアガロースゲル電気泳動によって直接的に分析した。
【0124】
図3は、1529位に挿入されたattBを有するVero AAVS1部位の略図である。図4Aは、attBを含有する可能性のあるVero細胞クローン(+記号によって示されるレーン)を特定する結果を示す。また、図4Bは、Vero:attB細胞の第6染色体におけるBxb1 attBの部位特異的挿入を確証するPCR結果を示す。
【0125】
attBを含有するVero細胞(VerB細胞)の特定を確認するためのサンガーシークエンシング
Vero/attBについての初期スクリーニングからの候補クローンを、T-25フラスコへ拡張した。第2ラウンドのスクリーニングのために、推定attB挿入部位(Vero AAVSナンバリングシステムにおける1529位)を囲む領域を増幅することによって生成したPCR産物についてサンガーシークエンシングを行った。各クローン由来のおよそ1x10個の細胞を、Monarch(登録商標)ゲノムDNA精製キット(NEBカタログT3010L、NEB、Ipswich、MA)を使用して溶解した。精製した鋳型を、NEBNext(登録商標)Ultra(商標)II Q5マスターミックス(カタログ番号NEB M0544、NEB、Ipswich、MA)を使用するPCRに使用した。シークエンシングに使用したプライマーは、フォワードプライマー1201F(AATCTGAGCGCCTCTCCTGG、配列番号27)およびリバースプライマー2471R(CCCCCATGCCATCTTCACTC、配列番号28)であった。サンガー解析により、クローン3CへのattBの挿入の成功を確認し、この新しいVero::attB細胞系を細胞系VerB1529αと命名した。
【0126】
HSV-1遺伝子US4-US7を含有するhisD-attPコスミド(pBRL969)の構築
VD60細胞から、プライマーCCGCTGTTTCAACAGAAATGACC(配列番号11)およびCCAACTCAGTGACTGCGGTCG(配列番号12)を使用して、4.3kbのHSV1 BamHI J断片を増幅し(Ligas, et al, 1988., J. Virol., 62, 1486-1494)、pCR4blunt Topoベクターにクローニングした。断片は、それぞれグリコプロテインG、J、DおよびIをコードする、HSV-1由来のUs4、Us5、Us6およびUs7遺伝子を含む。断片をEcoRI消化によって単離し、DNAポリメラーゼI、Large(Klenow)によって平滑末端化し、hisDベクターpYUB2941のBst1107I部位においてクローニングし、pYUB2942を得た。hisD遺伝子を大腸菌におけるマーカーとして使用するために、プラスミドptwBから、表2に示される配列を有するプライマーptwB_5996およびptwB_6082を使用して、EM7プロモーターを増幅した。
【0127】
得られた生成物をpYUB2942のAcc65I部位にクローニングし、pYUB2943を得た。pBRL834から、表2に示される配列を有するプライマーpBRL834_352-attP_F(フォワード)およびpBRL834_attP_R(リバース)によりBxb1 attPを増幅し、pYUB2943のPsiI部位にクローニングし、pBRL961を作出した。pYUB328由来のラムダcosを、プライマーpYUB328-cosBF(フォワード)およびpYUB328-cosBR(リバース)(表2に示される配列)を使用することにより増幅し、その後、pBRL961のBspHI断片を、大腸菌株UTH4314(FhisD4314、thyA321、deo-71)におけるこの断片と置換することによって、抗生物質マーカーを伴わないhisDコスミドであるpBRL969(図8)を構築した。
【0128】
表2
【表2】

【0129】
Bxb1をコードするmRNAの合成
HAタグ付けしたBxB1遺伝子およびT7プロモーターの下流のSV40核局在化配列を含有するpCAGGSプラスミド(pCAGGS/HA-NLS BxB1)を、CellScript T7 mScript mRNA産生キット(Madison、WI)を使用するインビトロmRNA合成のための鋳型として使用した。インビトロで転写したmRNAを、Stratagene Absolutely RNAミニプレップキット(La Jolla、CA)を使用して精製した。
【0130】
Vero::attB細胞へのpBRL969の組込み
BxB1インテグラーゼをコードするmRNAとプラスミドpBRL969とをコトランスフェクトすることによって、Vero::attB細胞について、適合するBxb1 attP部位を含有するプラスミドとの組換えを行った。100μlのLonza SF緩衝液中において2μgのプラスミドpBRL969、Bxb1インテグラーゼをコードする1μgのmRNA、およびVero::attB細胞2x10個を混合することによって、トランスフェクション複合体を形成した。この混合物を、100μlのNucleofectorキュベットに移し、Nucleofector Xユニットを使用してプログラムDN-100によりエレクトロポレーション法を行った。
【0131】
エレクトロポレーション法後、細胞懸濁液を、20mlの5%のFBS/DMEMを含有する150mm直径の組織培養皿に移した。3日後、培地を除去し、2mMのヒスチジノールを補充した20mlの5%のFBS/-ヒスチジンDMEMにより置換した。培養1週間後、クローニングリングを使用して個々の細胞(クローン)を選択した。個々のクローンを12ウェルプレートへ移し、拡張した。非選択細胞を集め、ゲノムDNA解析のために溶解した。ゲノムDNAを、HSV gG遺伝子(プライマーgG)およびVero AAVS1部位の2471位に結合するプライマー対を使用するPCR増幅のための鋳型として使用した。図4Bは、Vero:attB細胞の第6染色体におけるHSV遺伝子含有プラスミドの部位特異的挿入を確証するPCR結果を示す。プラスミドDNAのBxb1組込みの挿入頻度は約10~20%である。Vero:attB細胞に組み込まれた核酸は、配列番号19に対応する配列を有する。
【0132】
ΔgD-2の繁殖およびプラークアッセイにおいて決定されるそれらの感染性タイターを支持するクローンの能力について、クローンを試験した。播種した細胞に、RFPを発現するΔgD-2ウイルスを0.1のMOIにおいて感染させ、感染24時間後に回収した。超音波によって、感染した細胞からウイルスを抽出した。細胞屑を除去するための遠心分離後、上清をアッセイして、ウイルスの量を定量した。プラークアッセイの結果を図6および以下の表3に示す。
【0133】
表3
【表3】

【0134】
gDタンパク質の発現およびウイルス繁殖についてのVD60L細胞の試験
スクリーニングからのクローンを、ΔgD-2::RFPによる感染後にgDを発現するそれらの能力について、およびΔgD-2::RFPの繁殖を支持するそれらの能力について試験した。ΔgD-2::RFPは、gD遺伝子(ΔgD-2)が欠失され、赤色蛍光タンパク質(RFP)を強く発現する遺伝子により置換されている、操作されたHSV-2ウイルスである。ΔgD-2::RFP組換え体は、以前にマウスにおいて感染に対する保護を示したΔgD-2から作製される。
【0135】
VD60およびVD60L細胞に、ΔgD-2::RFP組換え体を感染させ、細胞におけるgDおよびRFPの発現および発現を評価した。播種した細胞に0.01のMOIにおいて感染させ、感染2日後にパラホルムアルデヒド中において固定した。gDに対して生じさせたマウス抗体およびマウスIgGに対する蛍光二次抗体を使用する免疫蛍光染色によって、グリコプロテインgDの発現を観察した。クローン4の結果を図7に示す。図6は、VD60およびVD60Lクローンにおいて、ΔgD-2::RFPによる0.1のMOIにおける感染はウイルス繁殖およびCPEをもたらすことを示す。
【0136】
また、私たちは、ΔgD-2を補完するための代替のHSV-1配列の使用を提案する。
例えば、
A.KOS株または他の任意のHSV-1株由来のgD-1の単一のコピー;
B.EF-1αなどの外因性細胞プロモーターに融合した、KOS株または他の任意のHSV-1株由来のgD-1のオープンリーディング;
C.上記のAまたはB由来の遺伝子の多数のコピー;
D.KOSまたは他の任意のHSV-1株由来のグリコプロテインG、J、DおよびIをコードする遺伝子の多数のコピー。
【0137】
上記の実験は、第6染色体上の標的遺伝子座に組み込まれたattB配列を含有する遺伝子改変Vero細胞(Vero:attB)の産生を例示する。attB部位を、CRISPR-Cas9システムを使用してVero細胞系のAAVS1部位における多数の特定の位置に導入したが、これらに限定されず、AAVS1内の他の部位またはゲノム内の他の遺伝子座もまた標的化することができる。Vero attB細胞系は、ワクチンウイルスの産生およびアッセイ開発両方のための、補完的な細胞系およびレポーター細胞系を生成するための高効率システムを提供することになる。
【0138】
また、HSV-1グリコプロテインDがVero細胞ゲノムDNAの第6染色体上の標的遺伝子座に挿入されている、遺伝子改変Vero細胞が、本明細書において開示される。原理の証明として、HSV-1グリコプロテインD遺伝子を含み、かつ抗生物質耐性マーカーおよびSV40配列を欠く新しいプラスミドを、Vero/attB細胞に組み込んで、グリコプロテインDを発現するVD60L細胞を産生した。VD60L細胞は、ΔgD-2を補完することが実証された。さらに、インテグラーゼおよび核局在化配列をコードするmRNAをトランスフェクトすることによって、Bxb1インテグラーゼを発現する方法もまた開発した。この方法は、attB部位へのattPプラスミドの効率的な組込みを媒介する。
【0139】
図1は、Vero:attB細胞系およびVD60L細胞系を調製する方法の要約を例示する。
【0140】
ワクチン調製物中の感染性弱毒化ウイルス粒子の量を迅速に評価するためのHSV-2誘導性レポーター細胞系
私たちは、HSVプロモーターに融合されたレポーター遺伝子(例えば、RFP、GFP、nanoLuc)を含有し、かつそれが、細胞がΔgD-2ウイルスに感染した際に発現される、トランスジェニックVero細胞系を開発することを提案する。トランスジェニックVero細胞系は、本明細書において開示されるVero attB細胞系に由来することになる。トランスジェニック細胞系を調製するための例示的なプラスミドコンストラクト(pBRL916)を図9に示す。プラスミドpBRL916は、真核細胞における選択マーカーとしての、SV40プロモーターから発現するブラスチシジン耐性のための遺伝子;Vero::attB細胞におけるattB部位への組込みを可能にするBxb1 attP部位;多量体化を可能にするバクテリオファージラムダcos部位(cite);および典型的に休止状態であるが、Vero細胞がΔgD-2ウイルスに感染した場合に活性化される、実験的に規定されたHSV-2プロモーターにより発現される赤色蛍光タンパク質遺伝子を含む。以下のHSV-2遺伝子由来のプロモーターをpBRL916にクローニングし、ΔgD-2ウイルスによる感染後1~2時間以内に最適活性を評価する。以下のHSV-2プロモーターを試験する。
ICP0
ICP4
ICP27
ICP8
TK
VP5
【0141】
最適プロモーター-レポーターコンストラクトを決定するために、プロモーターの各々を、pBRL916ベクターにクローニングし、Bxb1インテグラーゼをコードするmRNAと共にVero::attB細胞へコトランスフェクトし、ブラスチシジンにより選択する。得られる細胞系にΔgD-2を感染させ、FACSまたは96ウェルプレートルミノメーターによってレポーターの発現を解析する。レポーター発現を測定するために最適な感染後時間を決定する。レポーター活性をプラーク形成単位と相関させる標準曲線を求め、このようにして、ワクチンのタイターを、日ではなく数時間で評価することができる。
【0142】
抗体依存性細胞媒介性細胞傷害性(ADCC)および/または抗体依存性細胞媒介性ファゴサイトーシス(ADCP)を定量化し、特徴付けるための抗原標的細胞系
ウイルス感染またはウイルスワクチンによるワクチン接種に応答して個体により産生されるFc受容体活性化抗体、特にFcγRIV活性化抗体のレベルは、現在、Promega Mouse FcγRIV ADCC Bioassayを使用して測定される。このアッセイは、nanoLuc遺伝子がSTATプロモーターに融合されている、Jurkat T細胞系を利用する。このアッセイはFcγRIV活性化抗体レベルを定量するために有用である一方で、それは、感染した細胞の死滅を媒介する免疫細胞の種類を評価しない。加えて、ADCC免疫において、様々な免疫エフェクターが様々な役割を果たし得る。それゆえ、私たちは、ADCCまたはADCPを定量化し、これらを区別することができる細胞系を開発することを提案する。
【0143】
これを達成するために、私たちは、C57/Bl6マウス由来のT細胞リンパ腫であるRMA細胞系を使用することを計画する。私たちは、attB配列を、RMA細胞におけるマウス染色体の非必須領域へ導入する。得られるRMA-attBBxb1細胞系に、細胞の表面上に標的抗原を発現するように操作したプラスミドとBxb1インテグラーゼをコードするmRNAとをコトランスフェクトする。得られるトランスジェニックRMA細胞は、細胞の表面上に抗原を発現する。細胞表面上に抗原標的を発現することに加えて、この細胞は、細胞質において赤色蛍光も構成的に発現する。例えば、レポーター遺伝子(例えば、RFP遺伝子)はEF1α(伸長因子1α)遺伝子の高効率プロモーターに融合され、その発現は蛍光顕微鏡を使用してまたはFACSによって容易に検出されることになる。
【0144】
例示的なプラスミドコンストラクトpBRL914およびpBRL915は、それぞれ、図10および図11に示される。
【0145】
pBRL914(図10)は、感染した細胞の表面上に、デングウイルス株DENV2由来のNS1タンパク質を発現するように設計されている。NS1タンパク質をコードする遺伝子は、免疫グロブリンカッパ由来のシグナル配列、および血小板由来増殖因子受容体(PDGFR)由来の膜貫通ドメインに融合されている。また、pBLR914は、SV-40プロモーターから発現される真核細胞における選択マーカーとしてのブラスチシジン耐性、EF-1αプロモーターにより発現される赤色蛍光タンパク質(RFP)、RMA-attBBxb1細胞におけるattB部位への組込みを可能にするBxb1由来のattP部位、および多量体化を可能にするバクテリオファージラムダcosをコードする。
【0146】
pBRL915(図11)は、ブラスチシジン耐性遺伝子が、大腸菌のhisD突然変異体を補完し、かつ真核細胞においてヒスチジノールに対する耐性を与えるために融合されたネズミチフス菌由来のhisD遺伝子と置換されていることを除いては、pBRL914と実質的に同じである。この耐性は、抗生物質耐性選択の必要性を除去する。
【0147】
操作された細胞系は、特異的抗体および特異的エフェクター細胞との組合せにおいてADCCまたはADCPの標的として使用される。抗体およびエフェクター細胞は、抗原が由来する微生物(ウイルス、細菌、寄生生物)に曝露され、かつ/もしくはこれに感染した個体から、またはワクチンをワクチン接種された個体から得られる。ADCCは、顕微鏡またはFACSによって、赤色蛍光の損失を定量することによって測定される。ADCPは、蛍光トランスジェニック細胞のファゴサイトーシスによって示されるマクロファージの比率によって測定される。
【0148】
組成物、方法および物品は、代わりに、本明細書において開示される任意の適切な材料、工程または成分を含むか、からなるかまたはから本質的になる場合がある。組成物、方法および物品は、加えてまたは代わりに、組成物、方法および物品の機能または目的の達成に別の場合には必要ではない任意の材料(もしくは種)、工程または成分を欠くか、または実質的に含まないように調合され得る。
【0149】
本明細書において開示されるすべての範囲は終点を包含し、終点は独立して互いに組合せ可能である(例えば「最大25重量%、またはより特に5重量%~20重量%」の範囲は、「5重量%~25重量%」の範囲の終点およびすべての中間の値を包含することなどである)。「組合せ」とは、配合物、混合物、合金、反応生成物などを包含する。「第1」、「第2」などの用語は任意の順序、量または重要性を示さず、むしろ、1つの要素を別の要素から区別するために使用される。「a」および「an」および「the」という用語は量の限定を示さず、本明細書において別に示されるかまたは文脈が明らかに矛盾しない限り、単数および複数の両方を包含すると解釈すべきである。「または」は、明らかに別に言及されない限り、「および/または」を意味する。「一部の実施形態」、「一実施形態」などの明細書全体を通した言及は、実施形態と関係して説明される特定の要素が本明細書において説明される少なくとも1つの実施形態に含まれ、他の実施形態において存在してもよく、存在しなくてもよいことを意味する。加えて、説明される要素は、様々な実施形態において任意の好適な様式にて組み合わせてもよいと理解すべきである。「それらの組合せ」とは非限定的であり、列挙される成分または特性のうちの少なくとも1つを、適宜、列挙されていない同様または同等の成分または特性と共に含む任意の組合せを含む。
【0150】
別に規定しない限り、本明細書において使用される技術用語および科学用語は、本出願が属する分野の当業者によって通常理解されるのと同じ意味を有する。すべての引用される特許、特許出願および他の参考文献は、それらの全体を参照により本明細書に組み込まれる。しかしながら、本出願における用語が、組み込まれる参考文献における用語と矛盾するかまたは食い違う場合、本出願の用語が、組み込まれる参考文献の食い違う用語よりも優先する。
【0151】
実施形態が説明されているが、現在予想されないかまたは予想され得ない代替物、改変、変形、改善および実質的同等物が、出願人または他の当業者に想起され得る。したがって、附属の特許請求の範囲は、公開されたときおよびそれらが修正され得るとき、すべてのそのような代替物、改変、変形、改善および実質的な同等物を包含すると意図される。
図1
図2
図3
図4A
図4B
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
【配列表】
2023542535000001.app
【手続補正書】
【提出日】2023-05-29
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0002
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0002】
政府からの支援についての申告
本発明は、米国国立衛生研究所-国立アレルギー感染疾患研究所(NIH-NIAID)により与えられたグラント番号AI117321の下に政府からの支援によって行われた。本発明は、米国国立衛生研究所により与えられたAI117321の下に政府からの支援によって行われた。政府は、本発明について一定の権利を有する。
【国際調査報告】