(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-10-11
(54)【発明の名称】電気車両用バッテリートレイ底部
(51)【国際特許分類】
H01M 50/242 20210101AFI20231003BHJP
C22C 21/02 20060101ALI20231003BHJP
C22F 1/043 20060101ALI20231003BHJP
H01M 50/224 20210101ALI20231003BHJP
H01M 50/233 20210101ALI20231003BHJP
H01M 50/236 20210101ALI20231003BHJP
C22F 1/00 20060101ALN20231003BHJP
【FI】
H01M50/242
C22C21/02
C22F1/043
H01M50/224
H01M50/233
H01M50/236
C22F1/00 613
C22F1/00 623
C22F1/00 630A
C22F1/00 640A
C22F1/00 631Z
C22F1/00 682
C22F1/00 683
C22F1/00 686A
C22F1/00 691B
C22F1/00 691C
C22F1/00 692A
C22F1/00 694A
C22F1/00 686B
C22F1/00 692B
C22F1/00 630M
C22F1/00 685Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023518334
(86)(22)【出願日】2021-09-22
(85)【翻訳文提出日】2023-04-27
(86)【国際出願番号】 FR2021051628
(87)【国際公開番号】W WO2022064140
(87)【国際公開日】2022-03-31
(32)【優先日】2020-09-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(32)【優先日】2021-05-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】517422951
【氏名又は名称】コンステリウム ヌフ-ブリザック
【氏名又は名称原語表記】CONSTELLIUM NEUF-BRISACH
(74)【代理人】
【識別番号】100080447
【氏名又は名称】太田 恵一
(72)【発明者】
【氏名】バルビエ,ダヴィ
(72)【発明者】
【氏名】リスト,ジョスリーヌ
(72)【発明者】
【氏名】マッス,ジャン-フィリップ
【テーマコード(参考)】
5H040
【Fターム(参考)】
5H040AA37
5H040AS07
5H040AY10
5H040CC33
5H040LL01
5H040NN00
(57)【要約】
本発明は、電気車両用またはハイブリッド車両用バッテリートレイに関する。バッテリートレイ底部は、侵入に対する耐性を保証しつつ厚みを最適化するために弾性率が77GPaを超えるアルミニウム合金製薄板を用いて作られる。本発明はまた、弾性率が77GPaを超えかつ降伏応力Rp0.2が295MPaを超える4000系のアルミニウム合金製薄板にも関する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
バッテリートレイ底部を製作するための、弾性率が少なくとも77GPaであるアルミニウム合金製薄板の利用。
【請求項2】
合金が、少なくとも10重量%のケイ素含有量を有する4000系合金であることを特徴とする、請求項1に記載のアルミニウム合金製薄板の利用。
【請求項3】
合金が、スクラップ、好ましくは廃車両に由来する廃棄物または残片を、好ましくは少なくとも50%、より好ましくは少なくとも80%含むことを特徴とする、請求項1または2に記載のアルミニウム合金製薄板の利用。
【請求項4】
薄板の製造に必要な鋳造スラブの製造のカーボンフットプリントが、鋳造スラブあたり4トン未満のCO
2、好ましくは鋳造スラブあたり2トン未満のCO
2であることを特徴とする、請求項1から3のいずれか一つに記載のアルミニウム合金製薄板の利用。
【請求項5】
バッテリートレイ底部でのその成形後かつバッテリートレイ底部の熱処理後の薄板の降伏応力Rp0.2が、少なくとも295MPa、好ましくは少なくとも315MPa、好ましくは少なくとも320MPa、より好ましくは少なくとも330MPa、より好ましくは少なくとも350MPa、より好ましくは少なくとも400MPaであることを特徴とする、請求項1から4のいずれか一つに記載のアルミニウム合金製薄板の利用。
【請求項6】
弾性率が少なくとも77GPaであり、かつ降伏応力Rp0.2が、質別T6で少なくとも315MPaであるアルミニウム合金製の、バッテリートレイ底部用4000系合金製薄板。
【請求項7】
4000系合金が、スクラップ、好ましくは廃車両に由来する廃棄物または残片を、好ましくは少なくとも50%、より好ましくは少なくとも80%含む、請求項6に記載の薄板。
【請求項8】
薄板の製造に必要な鋳造スラブの製造のカーボンフットプリントが、鋳造スラブあたり4トン未満のCO
2、好ましくは鋳造スラブあたり2トン未満のCO
2であることを特徴とする、請求項6または7に記載の薄板。
【請求項9】
4000系合金の組成が、重量%で、
Si:10~14、
Mg:0.05~0.8、
Cu:0.2~2.0、
Fe:≦0.5、
Mn:≦0.5、
任意でNa、Ca、Sr、Ba、YおよびLiの中で選択される少なくとも一つの元素であって、選択される場合の前記元素の量は、Na、Ca、Sr、Ba、Yについては0.01~0.05またLiについては0.1~0.3、
Sb:≦0.05、
Cr:≦0.1、
Ti:≦0.2、
他の元素が各々0.05未満で合計0.15未満、残りはアルミニウム、
であることを特徴とする、請求項6から8のいずれか一つに記載の薄板。
【請求項10】
不溶性析出物Mg
2Siを含むことを特徴とする、請求項9に記載の薄板。
【請求項11】
Si含有量が、11~13重量%であることを特徴とする、請求項9または10に記載の薄板。
【請求項12】
Cu含有量が、少なくとも0.25重量%、好ましくは少なくとも0.30重量%、好ましくは0.35重量%、好ましくは0.4~0.8重量%、好ましくは0.5~0.7重量%であることを特徴とする、請求項9から11のいずれか一つに記載の薄板。
【請求項13】
Fe含有量が、少なくとも0.10重量%、好ましくは0.10~0.3重量%であることを特徴とする、請求項9から12のいずれか一つに記載の薄板。
【請求項14】
Mn含有量が、0.05~0.2重量%であることを特徴とする、請求項9から13のいずれか一つに記載の薄板。
【請求項15】
Mn含有量が、0.05重量%未満であることを特徴とする、請求項9から13のいずれか一つに記載の薄板。
【請求項16】
Sr含有量が、0.01~0.05重量%であることを特徴とする、請求項9から15のいずれか一つに記載の薄板。
【請求項17】
Cr含有量が、0.01~0.05重量%であり、かつ/またはTi含有量が、0.01~0.15重量%であることを特徴とする、請求項9から16のいずれか一つに記載の薄板。
【請求項18】
質別T6での降伏応力が、少なくとも320MPa、より好ましくは少なくとも330MPa、より好ましくは少なくとも340MPa、より好ましくは少なくとも350MPa、より好ましくは少なくとも400MPaであることを特徴とする、請求項6から17のいずれか一つに記載の薄板。
【請求項19】
請求項6から18のいずれか一つに記載の薄板を用いて作られる、バッテリートレイ底部。
【請求項20】
a.好ましくは竪型半連続鋳造による、鋳造スラブの製造、
b.好ましくは少なくとも540℃の温度での1.5時間の間の、好ましくは550℃の温度での少なくとも4時間の間の均質化、
c.熱間圧延、
d.少なくとも60%の好ましい圧下率を伴う冷間圧延、
e.少なくとも500℃の温度での溶体化処理、ついで焼入れ、好ましくは、50℃から100℃の温度でのコイリング、
という連続するステップを含む、請求項6から18のいずれか一つに記載の薄板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気モーター付き車両またはハイブリッドモーター付き車両の分野に関する。
【0002】
本発明はより詳細には、そのような電気モーター付き車両またはハイブリッドモーター付き車両のバッテリートレイに関しており、該トレイは、平面図で概して多角形の形を有する周縁フレーム、周縁フレームの下部表面に連結される、アルミニウム合金で製作される底部、および閉じるための上部カバーで構成されている。
【背景技術】
【0003】
バッテリーのトレイまたはバッテリートレイは、電気車両またはハイブリッド車両の作動に使用される電気エネルギーを生み出すことを可能にする、電気エネルギーの貯蔵セルの構成要素のユニットを収容するチャンバを含むことができる。電気エネルギー貯蔵セルの構成要素のユニットは、バッテリートレイの中に配置され、それからバッテリーのトレイは電気モーター付き車両またはハイブリッドモーター付き車両に取り付けられる。
【0004】
電気モーター付き車両またはハイブリッド車両(内燃機関もまた備えた電気モーター付き車両)は、モーターを作動させるために多くのバッテリーを必要とする。欧州特許出願公開第1939026号明細書、米国特許出願公開第2007/0141451号明細書、米国特許出願公開第2008/0173488号明細書、米国特許出願公開第2009/0236162号明細書および欧州特許出願公開第2623353号明細書の参考文献は、従来の電気車両用バッテリートレイのいくつかの例を示している。
【0005】
バッテリートレイは、電気エネルギーの貯蔵に使用されるバッテリーのセルを保護しなければならない。とりわけ、事故の場合には、この保護は、車両の完全な故障を引き起こすショートを避けなければならない。バッテリートレイは、電磁放射線を避けるためにファラデーケージの機能もまた有しなければならない。
【0006】
したがって、バッテリートレイは、衝突による衝撃の場合にモジュールを保護するのに十分な機械的特性を有しなければならない。
【0007】
中国特許出願公開第106207044号明細書は、積層されたPVCフォームと炭素繊維との中間層で形成され、側面の衝撃に耐える性能を有する、炭素繊維ベースの複合材料製バッテリートレイを示している。中国実用新案第205930892号明細書は、衝突の場合の安全性能を改善するために、底部の代わりにバッフルのハニカム構造を必要とする実用新案を示している。欧州特許出願公開第2766247号明細書は、バッテリーのサブコンパートメントの側面壁と車両の本体の長手方向の梁との間の自由な変形空間およびトレイの利用を提案している。
【0008】
中国特許出願公開第108342627号明細書は、質量部で表現される以下の原料から調製される電気車両用バッテリートレイを示している:0.4~0.9質量部の鉄、0.5~0.8質量部のチタン、0.7~1.3質量部の亜鉛、0.2~0.6質量部のケイ素、3~6質量部のニッケル、4~8質量部の銅、1~3質量部のマンガン、80~90質量部のアルミニウム、0.2~0.6質量部の炭化ホウ素、0.8~1質量部の酸化クロム、0.2~0.25質量部の酸化マグネシウム、0.2~0.5質量部の酸化ケイ素、0.2~0.5質量部の酸化チタン、0.2~0.5質量部の酸化イットリウム、0.02~0.05質量部の炭化ベリリウム、0.02~0.05質量部の炭化ジルコニウムおよび0.02~0.05質量部の炭化タングステン。
【0009】
中国特許出願公開第107201464号明細書は、0.4~0.9質量部の鉄、0.5~0.8質量部のチタン、0.7~1.3質量部の亜鉛、0.2~0.6質量部のケイ素、0.1~0.15質量部のチタン、3~6質量部のニッケル、4~8質量部の銅、1~3質量部のマンガンおよび80~90質量部のアルミニウムから調製される電気自動車用バッテリートレイを示している。
【0010】
中国特許出願公開第107760162号明細書は、高強度の合金において製作される本体を含む、高強度かつ耐腐食性の、乗用車用バッテリートレイを示している。バッテリートレイの本体の表面は、耐腐食性被覆の層で覆われている。アルミニウム合金は、重量パーセント含有量で以下のような成分から調製される:0.21~0.47%のMn、1.83~3.75%のCu、0.23~0.47%のTi、2.35~7.48%のSiC、0.13~0.54%のErおよび、純アルミニウムと微量の不純物とから成る残部。
【0011】
仏国特許発明第2721041号明細書は、Si:6.5から11%、Mg:0.5から0.8%、Cu:<0.3%、Fe:<0.08%、Mn:<0.5%、および/またはCr:<0.5%、Sr0.008から0.025%、Ti:<0.02%、他の元素の合計が0.2%未満で残りはアルミニウムの組成(重量)によって特徴づけられる、機械建造物、航空機建造物または宇宙建造物を目的としたアルミニウム合金製薄板に関している。この発明による薄板は、飛行機の翼の下面および胴体の被覆、ならびにロケットの極低温タンクのために特に使用され得る。
【0012】
欧州特許出願公開第3384060号明細書の発明は、自動車車体の補強部品用または構造部品用のアルミニウム合金製薄板に関しており、該アルミニウム合金製薄板の組成は、重量%で:Si:10~14、Mg:0.05~0.8、Cu:0~0.2、Fe:0~0.5、Mn:0~0.5、任意でNa、Ca、Sr、Ba、YおよびLiの中で選択される少なくとも一つの元素であって、選択される場合の前記元素の量は、Na、Ca、Sr、Ba、Yについては0.01~0.05またLiについては0.1~0.3、Sb:0~0.05、Cr:0~0.1、Ti:0~0.2、他の元素が各々0.05未満で合計0.15未満、残りはアルミニウムである。本発明はまた、そのような薄板の製造方法および、自動車車体の補強部品または構造部品を製作するための、弾性率が少なくとも77GPaである、少なくとも10重量%のケイ素含有量を有する4000系合金製薄板の利用にも関している。
【0013】
2018年5月16日バート・ナウハイムに於ける会議「Materials in car body engineering」の一環として行われたNovelis社の説明によると、バッテリートレイの軽量化は、降伏応力が高いアルミニウム薄板を用いて得られる。
【0014】
2019年6月28日バート・ナウハイムに於ける会議「Battery systems in car body engineering」の一環として行われたArcelor社の説明によると、バッテリートレイの軽量化は、降伏応力が非常に高い鋼を用いて得られる。
【0015】
バッテリートレイはまた、バッテリートレイのチャンバの内部への流体の侵入、または、バッテリートレイのチャンバの外への電気エネルギー貯蔵セルの構成要素内に入っている電解質の漏れを避けるために、完全に密封されていなければならない。もしバッテリートレイが車両のフロアの下に固定されているならば、水や泥の侵入を防ぐために、密封閉塞はとりわけ必須である。さらに、入って来る流体および出て行く流体に対する耐腐食性を提供することが必要である。
【0016】
車両の作動性能を改善するために、バッテリートレイは、最大限の耐衝撃性、密封閉塞、耐腐食性、温度の制御に適合する能力、および非常に多くの、電気エネルギー貯蔵セルの構成要素を収める能力を同時に提供しつつ、減少した重量を有しなければならない。
【0017】
本発明は、電気モーター付き車両用またはハイブリッドモーター付き車両用バッテリートレイ底部を軽量化するために開発された。トレイのこの領域の主な機能性は、電気エネルギー貯蔵セルとそれらの冷却システムとを、道路からの(液体または固体の)侵入から守ることである。本発明は、アルミニウム合金製薄板の利用を提案する。この解決案は実際に、大きい面積上での完璧な密封性(溶接接合部は不可欠ではない)と高い運動エネルギーを有する物体の侵入を制限することを可能にする構造性能とを同時に提供しながらの優れた機能的反応、ならびに性能の経時的な高い安定性(特性の経時的変化がほぼないまたはないこと、関係する環境における組織の腐食への高耐性)、そして最後に最適化された質量を保証することを可能にする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】欧州特許出願公開第1939026号明細書
【特許文献2】米国特許出願公開第2007/0141451号明細書
【特許文献3】米国特許出願公開第2008/0173488号明細書
【特許文献4】米国特許出願公開第2009/0236162号明細書
【特許文献5】欧州特許出願公開第2623353号明細書
【特許文献6】中国特許出願公開第106207044号明細書
【特許文献7】中国実用新案第205930892号明細書
【特許文献8】欧州特許出願公開第2766247号明細書
【特許文献9】中国特許出願公開第108342627号明細書
【特許文献10】中国特許出願公開第107201464号明細書
【特許文献11】中国特許出願公開第107760162号明細書
【特許文献12】仏国特許発明第2721041号明細書
【特許文献13】欧州特許出願公開第3384060号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
本発明の目的は、機械的特性、腐食とりわけ粒間腐食に対する耐性、バッテリートレイの接合方法のための優れた挙動を有しつつ、侵入に対して優れた特性を有するバッテリートレイ用アルミニウム合金製金属材料を定義することである。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明の第一の対象は、バッテリートレイ底部を製作するための、弾性率が少なくとも77GPaであるアルミニウム合金製薄板の利用である。
【0021】
本発明の別の対象は、弾性率が少なくとも77GPaでありかつ降伏応力Rp0.2が質別T6で少なくとも295MPaであるアルミニウム合金製の、バッテリートレイ底部用4000系アルミニウム合金製薄板である。
【0022】
本発明のさらに別の対象は、本発明による薄板を用いて作られるバッテリートレイ底部である。
【0023】
本発明のさらに別の対象は、薄板の製造方法であり、該製造方法は以下の連続するステップを含む:
a.好ましくは竪型半連続鋳造による、鋳造スラブの製造、
b.均質化、好ましくは少なくとも540℃の温度での1.5時間の間の、好ましくは550℃の温度での少なくとも4時間の間の加熱、
c.熱間圧延、
d.少なくとも60%の好ましい圧下率を伴う冷間圧延、
e.少なくとも500℃の温度での溶体化処理、ついで焼入れ、好ましくは、50℃から100℃の温度でのコイリング。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】電気モーター付き車両用またはハイブリッドモーター付き車両用バッテリートレイの分解組立図であり、この場合、底部は周縁フレームと区別された部品である。
【
図3】衝撃部材を用いた数値シミュレーションモデルを示している。
【
図4】利用される材料の応力-ひずみ曲線を示している。
【
図5】軽量化を示しており、横座標では、利用されるさまざまな材料の降伏応力Rp0.2が示されている。
【発明を実施するための形態】
【0025】
相反する言及のないかぎり、合金の化学組成に関して表示されているものは全て、合金の総重量に基づく重量百分率として表現されている。1.4Cuと表現されている場合、重量パーセントで表示された銅含有量を1.4倍するという意味である。アルミニウム合金の呼称は、当業者に知られている、アルミニウム協会の規定に従ったものである。冶金学的質別の定義は、欧州規格EN 515中に記されている。
【0026】
引張りにおける静的機械的特性、言い換えると破断強度Rm、0.2%の伸びにおける慣用的な降伏応力Rp0.2、局部伸びAg%および破断伸びA%は、規格NF EN ISO 6892-1に準じた引張り試験により決定され、試験の採取および方向は、規格EN 485-1によって定義されている。
【0027】
ヤング率とも呼ばれる、弾性率は、規格ASTM 1876に準じて測定される。
【0028】
相反する言及のないかぎり、規格EN 12258の定義が適用される。薄板は、矩形の横断面の圧延製品であり、その一様な厚みは0.20mmから6mmの間である。
【0029】
図1は、電気モーター付き車両用またはハイブリッドモーター付き車両用バッテリートレイの非限定例を示しており、それは底部21、底部21の周縁の稜の外側部分の上に位置決めされるように形成される外側周縁フレーム22、および上の方で周縁フレームの上に配置される上部の頑丈な薄板またはカバー23を含んでいる。外側周縁フレーム22は一般に、溶接または接着のような接合手段によって底部21に連結されており、下部と周縁フレームとの間の稜の接合の強度および閉塞を保証している。外側周縁フレームは、主として多角形の形状を有している。上部カバーは、非制限例としてリベット、接着、溶接またはねじのような接合手段によって周縁フレームに接合される。それはまた、密封して固定されることができる。周縁フレーム22と底部21との全体は、非制限例として型打ち鍛造によって、薄板の変形から得られる一つの部品から成ることもできる。
【0030】
下部金属板の主な構造的機能は、道路からバッテリートレイへの物体の侵入からの保護である。その原則はつまり、バッテリートレイのバッテリーを損傷から守ることである。発明者らは、バッテリートレイのために最も適合されたアルミニウム合金製材料を特定しようと努めた。最良の材料を定義するための典型的な選択基準は、衝撃部材によるバッテリートレイ底部の変形に対する最も大きいエネルギー吸収を得ること、または、バッテリートレイ底部の同じ変形について、衝撃部材の最も大きい侵入力を得ることである。発明者らは複数のステップで行った:第一は、さまざまな仮想材料を用いて数値シミュレーションを実現することにあった。仮想材料とは、それが存在し得るかどうかを先験的に気にかけることなく、もっぱらその機械的特性によって定義される材料である。これらの機械的特性とは、弾性率、降伏応力Rp0.2および応力-ひずみ曲線である。第二のステップは、採択された特性を得ることを可能にする組成および製造方法を探すことによって、採択された仮想材料を定義することにあった。これらのステップは当然、バッテリートレイ底部の軽量化のために最も高性能な現実の材料を得るために、一定の回数繰り返された。
【0031】
通常、材料の降伏応力Rp0.2の上昇は、前記材料を用いて作られる部品を薄くし得るための従来の手段である。驚くべきことに、発明者らは、バッテリートレイ底部の特性を改善するために弾性率を上げることもまた適切であることを示した。弾性率および降伏応力が、独立した2つの特性であって、相関していないことが知られている。アルミニウム薄板について、通常、弾性率は典型的には70GPaである。
【0032】
本発明によるバッテリートレイ底部はつまり、弾性率が少なくとも77GPaであるアルミニウム薄板を利用する。
【0033】
好ましい一実施形態において、バッテリートレイ底部のために利用される薄板は、少なくとも79GPa、より好ましくは少なくとも84GPa、より好ましくは少なくとも89GPa、より好ましくは少なくとも94GPa、より好ましくは少なくとも99GPaの弾性率を有する。
【0034】
一実施形態において、バッテリートレイ底部は、Si含有量が少なくとも10%である、4000系のアルミニウム合金製薄板を利用する。
【0035】
一実施形態において、バッテリートレイ底部は、バッテリートレイ底部での成形後かつバッテリートレイ底部の熱処理後の降伏応力Rp0.2が、少なくとも295MPa、好ましくは少なくとも315MPa、好ましくは少なくとも320MPa、より好ましくは少なくとも330MPa、より好ましくは少なくとも340MPa、より好ましくは少なくとも350MPa、より好ましくは少なくとも370MPa、より好ましくは少なくとも380MPa、より好ましくは少なくとも390MPa、より好ましくは少なくとも400MPaであるアルミニウム合金製薄板を利用する。
【0036】
本発明の別の態様は、弾性率が少なくとも77GPaであり、かつ降伏応力Rp0.2が質別T6で少なくとも295MPaであるアルミニウム合金製の、バッテリートレイ底部用4000系アルミニウム合金製薄板である。
【0037】
一実施形態において、薄板は、4000系合金の組成として、重量%で、以下を有する:
Si:10~14、
Mg:0.05~0.8、
Cu:0.2~2.0、
Fe:≦0.5、
Mn:≦0.5、
任意でNa、Ca、Sr、Ba、YおよびLiの中で選択される少なくとも一つの元素であって、選択される場合の前記元素の量は、Na、Ca、Sr、Ba、Yについては0.01~0.05またLiについては0.1~0.3、
Sb:≦0.05、
Cr:≦0.1、
Ti:≦0.2、
他の元素が各々0.05未満で合計0.15未満、残りはアルミニウム。
【0038】
ケイ素含有量は、好ましくは少なくとも10重量%、好ましくは10.5重量%また好ましくは11重量%であり、実際、それより少ない含有量だと一般的に、十分な弾性率に達することができない。ケイ素含有量は有利には、少なくとも11.5重量%また好ましくは少なくとも12重量%である。ケイ素含有量は、好ましくは多くて14重量%であり、実際、それより多い含有量だと一般的に、伸びおよび成形性の望まれる特性に達することができない。有利にはケイ素含有量は、多くて13.5重量%また好ましくは多くて13重量%である。有利な一実施形態は、最小11重量%から最大13重量%までのSi含有量を有している。
【0039】
マグネシウム含有量は、好ましくは少なくとも0.05重量%また好ましくは少なくとも0.1重量%であり、実際、それより少ない含有量だと一般的に、十分な機械的特性に達することができない。マグネシウム含有量は、好ましくは多くて0.8重量%また好ましくは多くて0.7%であり、実際、型打ち鍛造されたバッテリートレイ底部の場合には、それより多い含有量だと一般的に、伸びおよび成形性の望まれる特性に達することができない。本発明の一実施形態において、マグネシウム含有量は、0.1重量%から0.3重量%であり、このことは薄板の高成形性を得ることを可能にする。
【0040】
本発明の別の実施形態において、マグネシウム含有量は、0.3重量%から0.6重量%であり、このことは十分な成形性を保ちつつより高い機械的強度を得ることを可能にする。
【0041】
銅含有量は好ましくは、少なくとも0.2重量%、好ましくは少なくとも0.25重量%、多くて2.0重量%である。最小0.2%、好ましくは最小0.25%、より好ましくは最小0.30%、より好ましくは最小0.35%、より好ましくは0.40%でありかつ最大0.7%の低い銅含有量は、時効後(例えば質別T4)の薄板にとって腐食に対する耐性のために有利である。それに対して最小0.5%から最大2%までの高い銅含有量は、部品の最終熱処理後(例えば質別T6またはT7)の高い機械的強度を得るために有利である。驚くべきことに、0.3%のCu含有量から、不溶性析出物Mg2SiおよびQ(AlMgSiCu)が形成され得るが、機械的特性を有意に低下させることはない。これらの不溶性析出物は、少なくとも0.1μm、または0.5μmの典型的なサイズを有する。析出物は、溶体に入れた際に溶けることができない場合に、不溶性である。成形性と降伏応力Rp0.2との間の興味深いトレードオフが、0.4%、好ましくは0.40%またより好ましくは少なくとも0.5%の最低含有量および/または好ましくは0.8%またより好ましくは0.7%の最大含有量の銅を用いて得られる。
【0042】
鉄含有量は、好ましくは多くて0.5重量%である。0.5重量%より多い鉄含有量は、成形性に不利な影響を及ぼし得る。有利には、機械的強度および成形性を改善するために0.1重量%、好ましくは0.10重量%から0.3重量%である量の鉄の添加を行う。より具体的に成形性を改善するために、0.05重量%、好ましくは0.10重量%から0.2重量%である量の鉄の添加を行うことが有利であり得る。
【0043】
マンガン含有量は、好ましくは多くて0.5重量%である。0.5重量%より多いマンガン含有量は、成形性に不利な影響を及ぼし得る。一実施形態において、特に成形性を改善するために、0.05重量%から0.2重量%である量のマンガンの添加を行うことが有利である。しかしながら別の実施形態においては、マンガンは添加されないので、マンガン含有量は0.05重量%未満である。
【0044】
Na、Ca、Sr、Ba、YおよびLiの中で選択される少なくとも一つの元素の添加は有利であり、選択される場合の前記元素の量は、Na、Ca、Sr、Ba、Yについては0.01~0.05でありまたLiについては0.1~0.3である。添加物として選択されない元素は、その含有量がNa、Ca、Sr、Ba、Yについては0.01重量%未満、またLiについては0.05重量%未満に保たれる。これらの元素は、凝固の際のケイ素を含む共晶化合物のサイズを制御することおよび/またはそれらの組織を変更することを特に可能にする変性剤であり、このことは、特に大きなサイズのスラブの鋳造の際の機械的特性とりわけ成形性に有利な影響を及ぼす。ストロンチウムは好まれる変性剤であり、0.01~0.05重量%のストロンチウムの添加は有利である。
【0045】
Sb含有量は、好ましくは多くて0.05重量%である。アンチモンの添加は特に、合金の中のリンの存在を制限するために有利であるが、この元素は共晶の組織を不利に変更するものである。本発明の一実施形態において、アンチモン含有量は、0.01重量%から0.04重量%であるが、しかしながらこの実施形態において、ナトリウムやストロンチウムのような変性剤の添加は、好ましくは避けられる。
【0046】
クロム含有量は、多くて0.1重量%である。有利には、0.01重量%から0.05重量%、好ましくは0.01重量%から0.03重量%である量のクロムの添加を行う。
【0047】
チタン含有量は、0重量%から0.2重量%である。有利には、0.01重量%から0.15重量%である量のチタンの添加を行う。
【0048】
一実施形態において、薄板は、少なくとも320MPa、より好ましくは少なくとも330MPa、より好ましくは少なくとも340MPa、より好ましくは少なくとも350MPa、より好ましくは少なくとも370MPa、より好ましくは少なくとも380MPa、より好ましくは少なくとも390MPa、より好ましくは少なくとも400MPaの、質別T6での降伏応力を有する。
【0049】
本発明による薄板の製造方法は、好ましくは以下の連続するステップを有する。
【0050】
まず初めに、薄板のために必要な組成の鋳造スラブを製造するステップである。
【0051】
好ましくは、鋳造スラブは、4000系合金製である。
【0052】
好ましくはこの合金は、規格EN 12258-3に準じたスクラップを含んでいる。鋳造スラブの合金はつまり、スクラップであり得る原料を用いて製造される。
【0053】
スクラップと呼ばれるのは、さまざまな製造工程で生まれる金属の収集および/または回収から生じる、アルミニウムおよび/またはアルミニウム合金から成る生産物であり、それらはプロダクションスクラップと呼ばれるか、または使用後の製品の、リカバリースクラップと呼ばれる。
【0054】
プロダクションスクラップの中で、EN 12258-3に準じて定義されているドロス、ドリッピング、細かく切り刻まれたスクラップおよび金属屑を挙げることができる。
【0055】
リカバリースクラップの中で、廃車両に由来する廃棄物または残片を挙げることができる。
【0056】
好ましくは、4000系合金は、少なくとも50重量%、より好ましくは少なくとも80重量%のスクラップを少なくとも含んでいる。
【0057】
好ましくは、4000系合金は、少なくとも50重量%のリカバリースクラップ、より好ましくは少なくとも80重量%のリカバリースクラップを少なくとも含んでいる。
【0058】
好ましくは、リカバリースクラップは、廃車両に由来する廃棄物または残片であって、好ましくは少なくとも50%、より好ましくは少なくとも80%である。このような合金はとりわけ興味深く、なぜなら通常、廃車両、非制限例として観光車両、軽車両、小型トラック、トラックは、多くのアルミニウム製部品を含んでいるからである。これらの廃車両の一部は、指令2000/53/ECによって定義されている。
【0059】
これらのアルミニウム製部品は、非常に種々さまざまである。それは非制限例としてエアコンのコンデンサおよびエバポレータ、モーターの冷却用ラジエータまたは室内の暖房用ラジエータ、過給空気冷却器、オイルラジエータおよびオイル交換器、燃料冷却装置といった熱交換器のような部品であり得る。それはまた、非制限例としてシリンダヘッド、シリンダブロックまたはエンジンブロックといったエンジンの部品でもあり得る。それはまた、他の成型部品、非制限例として、サスペンションのための部品でもある。これらの部品は、ケイ素を含有した合金を成分とする。このことは、ろう付けされる、上述の、熱交換器に当てはまる。このことは、通常4000系の合金が利用される成型によって得られ、ろう付けされる熱交換器のリサイクル系に使用される、先に列挙された他の部品に当てはまる。ところで、燃焼エンジン推進から電気推進への転換は、このリサイクル系を不安定にすることになる。車両における、とりわけ車体および構造部品のためのアルミニウム合金製薄板は、先行技術においては5000系および6000系合金製であり、それらは、それらの組成を考慮すると4000系合金の多量のリサイクル用に適していない。
【0060】
本発明による薄板はつまり、電解工場に由来するアルミニウム利用を減らすことを可能にするであろう廃車両のリサイクル系を作り出すことを可能にする。本発明による薄板の4000系合金は好ましくは、アルミニウム合金の廃棄物または残片、好ましくは使用中の車両に由来する廃棄物または残片を、好ましくは少なくとも50%、より好ましくは少なくとも80%含んでいる。
【0061】
水力電気を利用する、最良の電解工場は、炭素陽極の利用を考慮すると鋳造スラブ1トンあたり4トンのCO2換算(CO2 eq)カーボンフットプリントを有する。ヨーロッパで生産される電解アルミニウム鋳造スラブ1トンに対する典型的なカーボンフットプリントは、7トンのCO2 eqより少し少ない。もっぱらリサイクルアルミニウム合金を用いて得られる鋳造スラブ1トンのカーボンフットプリントは、鋳造スラブあたりおよそ0.5tのCO2 eqである。
【0062】
廃車両に由来する廃棄物または残片の合金の多様性を考慮すると、もっぱら廃車両の廃棄物または残片を用いて鋳造スラブを製作することは必ずしも可能というわけではない。本発明による薄板に必要な組成を得るために、一次金属のインゴットおよび添加金属を利用することが必要である。これらの添加を考慮すると、本発明による鋳造スラブのカーボンフットプリントは、好ましくは鋳造スラブ1トンあたり4トン未満のCO2 eq、好ましくは鋳造スラブ1トンあたり2トン未満のCO2 eq、好ましくは鋳造スラブ1トンあたり1トン未満のCO2 eq、より好ましくは鋳造スラブ1トンあたり1tから0.5tのCO2 eq、より好ましくは鋳造スラブ1トンあたり0.5トン未満のCO2 eqである。
【0063】
CO2 eqのトン数は、上述の作業によって生み出されるCO2だけではなく、またそれらのCO2換算トン数のために生み出される他の温室効果ガスのトン数も含んでいる。
【0064】
好ましくは、鋳造スラブの鋳造は、竪型半連続鋳造によって行われる。
【0065】
好ましくは、鋳造スラブは次に、皮層を取り除くためにスカルピングされる。
【0066】
鋳造スラブは次に、好ましくは少なくとも540℃で1.5時間の間、好ましくは550℃で少なくとも4時間の間、均質化される。
【0067】
鋳造スラブは次に、3mmから10mmの好ましい厚みにまで熱間圧延される。ついで冷間圧延が少なくとも60%の好ましい圧下率を伴って実現され、薄板の厚みが得られる。
【0068】
一実施形態において、冷間圧延は、薄板の破断を引き起こし得る端の亀裂の発生を避けるために、焼きなましによって分けられる2つのステップで行われる。
【0069】
薄板は次に、溶体化処理ついで焼入れされる。溶体化処理は、少なくとも500℃、好ましくは少なくとも540℃の温度で、少なくとも30秒、好ましくは少なくとも1分の間行われる。焼入れは、少なくとも1℃/秒、好ましくは5℃/秒の速度で、水または空気で行われる。薄板は次に好ましくは、50℃から100℃、好ましくは60℃から80℃の温度でコイリングされ、ついでコイルは、10℃から35℃の周囲温度で自然に冷却される。このコイリングの代わりに、薄板に85℃で8時間の熱処理を受けさせることも可能である。このステップは、薄板を用いてとりわけ型打ち鍛造によって作られる部品が塗装されるときに有用である。
【0070】
このステップは実際に、180℃で20分間の塗装焼付の際に、好ましくは質別T6を得るために薄板の組織硬化を改善することを可能にすることになる予備時効として作用する。
【0071】
第一の実施形態において、薄板、好ましくは質別T4の薄板は次に、任意に切断され、例えば型打ち鍛造によって任意に成形されて、好ましくはバッテリートレイ底部、または、周縁フレーム、任意に前記周縁フレームの一部のついたバッテリートレイ底部である部品を得る。
【0072】
薄板または得られた部品は次に、典型的には200℃から250℃の温度での15分から150分の継続時間の間の焼戻しによって、熱処理されて、好ましくはT6を得る。
【0073】
この薄板を用いて得られるバッテリートレイ底部の材料の降伏応力および/または質別T6での薄板の降伏応力は、少なくとも295MPa、好ましくは少なくとも315MPa、好ましくは少なくとも320MPa、より好ましくは少なくとも330MPa、より好ましくは少なくとも340MPa、より好ましくは少なくとも350MPa、より好ましくは少なくとも370MPa、より好ましくは少なくとも380MPa、より好ましくは少なくとも390MPa、より好ましくは少なくとも400MPaである。
【0074】
第二の実施形態において、薄板は、100℃から150℃、好ましくは120℃から140℃の、5時間から15時間、好ましくは7時間から9時間の間の処理による薄板の低温時効によって得られる質別T6xにある。薄板は次に、任意に切断され、例えば型打ち鍛造によって任意に成形されて、好ましくはバッテリートレイ底部、または、周縁フレーム、任意に前記周縁フレームの一部のついたバッテリートレイ底部である部品を得る。前記部品は次に塗装され、塗装ステップは、180℃で20分間の塗装焼付を有する。
【0075】
驚くべきことに、発明者らは、薄板またはこの薄板を用いて得られるバッテリートレイ底部が、車両とりわけ電気車両での利用について、合金中の銅の存在にもかかわらず、腐食に耐えることを確認した。質別T6の薄板の、および/または、とりわけ質別T4、質別T6または質別T6xではあるがそれらに限定されるものではない薄板を用いて得られるバッテリートレイ底部の材料の、規格ISO 11846に準じて測定される粒間腐食に対する耐性は、195℃で40分の追加時効の後または130℃で1000時間の時効の後に、多くて400μm、好ましくは300μmの最大深さ、または多くて350μm、好ましくは250μmの平均深さである。
【実施例】
【0076】
特定の侵入試験が、底部21の侵入に対する耐性を評価するために設計された。薄板の材料の侵入に対する耐性を評価するために、底部21の薄板上での重大な2つの構成を用いることが可能であり、それらは外側周縁フレームに近い侵入および外側周縁フレームから離れた侵入を形成するものである。フレームのすぐ近くでは、機械システムは頑丈であり、侵入の間の薄板のわずかな変形のみ可能にする。このように、材料の割れは、主要な損傷のメカニズムである。フレームから遠い中心位置では、システムは、弾性的に動く。それは弾塑性変形の中枢であり得、バッテリーモジュールと薄板の高い接触リスクを導く。試験は、静的荷重試験機Zwick 400で行われることができる。
図2で示されているように、薄板13は、30mmの幅の上部鋼製フレームと下部鋼製フレーム11との間に締めつけられて、複数のねじ12によって固定されている。端部が丸みのある(r=1.5mm)直径19.6mmの円筒形マンドレルが、薄板の中への侵入を実行するために機械に固定される。マンドレルに押し当てられる力およびその変位が測定される。フレームは、薄板の中心の参照記号1および角にある参照記号4の同じ位置上で2つの位置を制御するように移動することができる。試験中のマンドレルの全変位は、底部21とバッテリーとの間の典型的な空間を示すために選択される15mmの距離に調整される。
【0077】
試験は、ほぼ静的な条件において行われた。
【0078】
上に記述された侵入テストは、テストされるべき材料を保持することを必要とする。発明者らはつまり、初めに、バッテリートレイ底部を軽量化するために最も有望な材料を特定しようと努めた。発明者らはつまり、バッテリートレイ底部の全体を軽量化する目的において最も有望なものを特定するために仮想材料の特性を定義した。仮想材料の特性は、弾性率、降伏応力および応力-ひずみ曲線である。これらのデータは、表1および表2にまとめられており、また応力-ひずみ曲線については
図4にまとめられている。A0と呼称される材料は、仮想ではない。それは、自動車ボディ製造用によく知られているアルミニウム合金AA6111である。この合金AA6111の採用された特性は、塗装焼付処理(「Bake hardening」)後の型打ち鍛造された薄板の特性である。
【0079】
材料のこれらのさまざまな特性は、単純化されたバッテリートレイ底部を利用して侵入に対するそれらの耐性を調べるために、数値シミュレーションにおいて利用された。数値シミュレーションソフトは、LS-Dynaである。単純化されたバッテリートレイ底部は、350×600mmの薄板である。シミュレーション用の網状組織は、厚みの中に5つの積分点をもつ「fully integrated shell element(完全積分シェル要素)」である、長さ2.5mmの構成要素を利用する。数値シミュレーション用の境界条件は、2つの特徴を有する。第一は、端部から薄板の内側へ20mmのところの幅30mmのストリップであって、ここで薄板の平面における平行移動および垂直軸の周りの回転のみが許可される。第二の特徴は、ねじの領域を示すための薄板の周りに分配された直径10mmの16の領域の存在であって、ここで全ての平行移動および全ての回転は継手部に固定される。
図2の平面図は、このストリップおよびこれらの16領域を示している。
【0080】
下部金属板の主な構造的機能は、道路からバッテリートレイ上への物体に対する侵入からの保護である。その原則はつまり、バッテリーケースのバッテリーを損傷から守ることである。
【0081】
数値的アプローチは、直径150mmの球形の衝撃部材を用いた、ほぼ静的な侵入テストのシミュレーションである。発明者らは、端部が丸みのある直径19.6mmの円筒形マンドレルよりもむしろ150mmの球形の衝撃部材の直径を利用したのであり、なぜなら、それが、実際にバッテリートレイに衝撃を与える可能性のある現実の物体により近いからである。シミュレーションは、一定速度での薄板の中心での15mmのパンチの変位まで行われ、そしてパンチへの反力が計算された。さまざまな材料選択間の曲線が比較された。
【0082】
表2によってかつ
図5でグラフによって示されているように、降伏応力Rp0.2の増加は、バッテリートレイ底部を、該底部を70GPaの弾性率のアルミニウム合金製材料を用いて6%から19%薄くすることによって軽量化することを可能にする。表3に示されているように、70GPaの代わりに80GPaの弾性率を有する薄板の利用は、同じ降伏応力Rp0.2で、薄板を、典型的には6%さらに薄くすることを可能にする。表3の例A0および例A10の場合、70GPaの代わりに80GPaの弾性率は、280MPaから260MPaへの降伏応力の低下を補うことを可能にする。同様に、表3の例A6および例A8が示しているように、同じ降伏応力Rp0.2で弾性率を80GPaから100GPaに増加することは、薄化を典型的には6%改善することをまた可能にする。
【0083】
【0084】
【0085】
【0086】
Neuf Brisach工場のリサイクルセンターは現在、0.3t CO2 eq/t未満のカーボンフットプリントを有している。
【0087】
鋳造スラブは、表4による組成を用いて竪型半連続鋳造によって鋳造され、ついで皮層を取り除くためにスカルピングされた。
【0088】
【0089】
鋳造スラブは次に、表5の条件にしたがって加熱、熱間圧延、ついで冷間圧延されて薄板になり、薄板は溶体化処理そして焼入れされた。次に、薄板A、薄板Bおよび薄板Cは、85℃で8時間の間の熱処理を受けた。
【0090】
冷間圧延の間の鋳造スラブDおよび鋳造スラブEでの端の亀裂の発生を考慮して、冷間圧延は、薄板上の亀裂の発生を避けるために、350℃で1時間の間の焼きなましによって分けられる2つのステップで行われた。
【0091】
【0092】
薄板は次に、表6にしたがって焼戻しの熱処理を受けた。
【0093】
【0094】
このように得られた薄板は、表7で、圧延方向との関係において横方向において機械的に特徴づけられた。
【0095】
【0096】
薄板はまた、車両の利用の間の腐食に対する耐性を評価するために、2つの時効の後に規格ISO 11846に準じて測定される粒間腐食においても特徴づけられた。
【0097】
【符号の説明】
【0098】
1 薄板の中心
11 鋼製フレーム
12 ねじ
13 薄板
21 底部
22 外側周縁フレーム
23 上部カバー
【国際調査報告】