(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-10-11
(54)【発明の名称】常磁性硬質ステンレス鋼及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C22C 38/00 20060101AFI20231003BHJP
C22C 30/00 20060101ALI20231003BHJP
C21D 9/00 20060101ALI20231003BHJP
C21D 8/00 20060101ALI20231003BHJP
C22C 38/60 20060101ALI20231003BHJP
B22F 1/00 20220101ALI20231003BHJP
B22F 10/22 20210101ALI20231003BHJP
G04B 37/22 20060101ALI20231003BHJP
【FI】
C22C38/00 302Z
C22C30/00
C21D9/00 Q
C21D8/00 E
C22C38/60
B22F1/00 W
B22F10/22
G04B37/22 A
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023518759
(86)(22)【出願日】2021-09-06
(85)【翻訳文提出日】2023-03-23
(86)【国際出願番号】 EP2021074505
(87)【国際公開番号】W WO2022096178
(87)【国際公開日】2022-05-12
(32)【優先日】2020-11-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】506425538
【氏名又は名称】ザ・スウォッチ・グループ・リサーチ・アンド・ディベロップメント・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【氏名又は名称】山川 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】ポレ,ジョエル
【テーマコード(参考)】
4K018
4K032
4K042
【Fターム(参考)】
4K018AA32
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4K042DC04
4K042DD03
4K042DD05
4K042DE02
4K042DE06
(57)【要約】
本発明は、重量比で- 20≦Cr≦40%、- 3≦Ni≦20%、- 0≦Mn≦15%、- 0≦Al≦5%、- 3<Mo≦15%、- 0≦W≦5%、- 0≦Cu≦2%、- 0≦Si≦5%、- 0≦Ti≦1%、- 0≦Nb≦1%、- 0≦C≦0.1%、- 0≦N≦0.5%、- 0≦S≦0.5%、- 0≦P≦0.1%、を含有する化学的組成を有し、残りは各々0.5%以下の濃度の鉄と不純物とからなる、常磁性ステンレス鋼に関し、上記鋼は、575~900HV10の硬度を有する。本発明は更に、この鋼で作製された部品、特に計時器コンポーネント、及び上記部品の製造方法に関する。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
常磁性ステンレス鋼であって、重量比で
- 25≦Cr≦35%、
- 5≦Ni≦10%、
- 0≦Mn≦3%、
- 0≦Al≦3%、
- 3<Mo≦10%、
- 0≦W≦5%、
- 0≦Cu≦2%、
- 0≦Si≦3%、
- 0≦Ti≦1%、
- 0≦Nb≦1%、
- 0≦C≦0.1%、
- 0≦N≦0.5%、
- 0≦S≦0.5%、
- 0≦P≦0.1%、
を含む化学的組成を有し、残りは各々0.5%以下の濃度の鉄と不純物とからなり、
前記鋼は、575~900HV10の硬度を有する、
鋼。
【請求項2】
Moは3.5%以上であることを特徴とする、請求項1に記載の鋼。
【請求項3】
Moは3.5%~6%であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の鋼。
【請求項4】
Moは4%~6%であることを特徴とする、請求項1~3のいずれか一項に記載の鋼。
【請求項5】
Wは0.2%以上であることを特徴とする、請求項1~4のいずれか一項に記載の鋼。
【請求項6】
Wは0.5%以上であることを特徴とする、請求項1~5のいずれか一項に記載の鋼。
【請求項7】
前記硬度は650~900HV10であることを特徴とする、請求項1~6のいずれか一項に記載の鋼。
【請求項8】
前記硬度は675~900HV10であることを特徴とする、請求項1~7のいずれか一項に記載の鋼。
【請求項9】
40~80質量%のシグマ相と、20~60質量%のオーステナイト相とによって形成されるミクロ構造を有することを特徴とする、請求項1~8のいずれか一項に記載の鋼。
【請求項10】
前記オーステナイト相は、いわゆる一次オーステナイトと、フェライトとオーステナイトとを含む構造を有する合金の変態から生じるいわゆる二次オーステナイトとによって形成されることを特徴とする、請求項9に記載の鋼。
【請求項11】
前記オーステナイト相は、いわゆる二次オーステナイトによって形成され、前記二次オーステナイトは、100%フェライト構造を有する合金の変態から生じることを特徴とする、請求項9に記載の鋼。
【請求項12】
前記オーステナイト相は10μm未満のサイズを有し、前記サイズは断面図における前記相の最小寸法に対応することを特徴とする、請求項1~11のいずれか一項に記載の鋼。
【請求項13】
前記オーステナイト相は、5μm未満のサイズを有する、請求項12に記載の鋼。
【請求項14】
請求項1~13のいずれか一項に記載の鋼で作製された部品。
【請求項15】
外側部品又はムーブメントの計時器コンポーネントであることを特徴とする、請求項14に記載の部品。
【請求項16】
請求項15に記載の前記計時器コンポーネントを含む時計。
【請求項17】
常磁性ステンレス鋼製の部品の製造方法であって、
(a)製造しようとする部品の形状を実質的に有する又は形状が異なるブランクを用意する又は作製するステップであって、前記ブランクは、請求項1~6のいずれか一項に記載の化学的組成を有し、大部分フェライト又は完全フェライト構造を有する、ステップ、
(b)ステップ(a)からの前記ブランクが製造しようとする前記部品とは異なる形状を有する場合に、前記ブランクを成形するステップ、
(c)前記ブランクに対して硬化処理と呼ばれる熱処理を実施して前記部品を得るステップであって、前記硬化処理は、600~1,000℃の温度で30分~24時間の総継続時間にわたって1つ以上の段階で実施されて、前記構造のフェライトをオーステナイト相と金属間シグマ相とに変態させ、前記硬化処理の後に、周囲温度まで冷却することを特徴とするステップ、
の連続ステップを含むことを特徴とする、製造方法。
【請求項18】
ステップ(a)における前記ブランクの前記大部分フェライト又は完全フェライト構造は、1,000~1,500℃の温度で1分~24時間の継続時間にわたって基材に熱処理又は熱機械的処理を実施することによって作られたものであり、前記熱処理又は熱機械的処理の後に、500℃未満の温度にクエンチすることで、周囲温度において前記フェライト構造を保持することを特徴とする、請求項17に記載の製造方法。
【請求項19】
ステップ(c)における前記熱処理は、600℃~850℃の第1段階と、850~1,000℃の第2段階との2段階で実施されることを特徴とする、請求項17又は18に記載の製造方法。
【請求項20】
前記基材は、粉末形態又は固結物の形態であることを特徴とする、請求項18又は19に記載の製造方法。
【請求項21】
前記基材は、鋳造、プレス、金属射出成形、付加的製造、又は粉末冶金によって得られたことを特徴とする、請求項18~20のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項22】
ステップ(a)における前記ブランクは、選択的レーザー溶融によって作製されることを特徴とする、請求項21に記載の製造方法。
【請求項23】
ステップ(a)における前記ブランクの構造は、40%以下の質量比のオーステナイトと、フェライトの質量比が60%以上の質量比のフェライトとを含有することを特徴とする、請求項17~22のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項24】
ステップ(a)における前記ブランクの構造は、100%フェライトを含有することを特徴とする、請求項17~23のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項25】
ステップ(a)の終了時に、前記ブランクは150~400HV10の硬度を有することを特徴とする、請求項17~24のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項26】
前記成形ステップ(b)は、650℃未満の温度で1つ以上の塑性変形シーケンスを含むことを特徴とする、請求項17~25のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項27】
前記成形ステップ(b)は、鍛造、ブランキング又は機械加工によって実施されることを特徴とする、請求項17~26のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項28】
前記熱処理又は熱機械的処理は、複数のサイクル実施されることを特徴とする、請求項18に記載の製造方法。
【請求項29】
前記ブランクの構造がオーステナイトを含有する場合、前記方法は、ステップ(c)の前に、1,000~1,500℃の温度で1分~24時間の継続時間にわたって前記ブランクに加熱処理又は熱機械的処理を実施して完全フェライト構造を得るステップ(b’)を含み、前記加熱処理又は熱機械的処理の後に、500℃未満の温度へのクエンチを行って、周囲温度において前記完全フェライト構造を保持することを特徴とする、請求項23に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、575HV以上の硬度を有する常磁性ステンレス鋼と、この鋼から作製された部品、特に、計時器用コンポーネントに関する。本発明は更に、このステンレス鋼部品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
硬質の非強磁性金属合金は、多くの分野で、基本的には、大きな機械的及び/又はトライボロジー的応力を受け、磁場の影響を受けないことが必須であるコンポーネントに用いられている。これは特に、ムーブメントにおける歯車、ピニオン、シャフト、又はばねなどの多くの計時器用コンポーネントの場合に当てはまる。外側部品、例えば、ケースミドル部、ベゼル、裏蓋、リュウズにとっても、高い硬度を得ることは重要である。これは、高い硬度は、一般的により優れた耐擦過性及び耐摩耗性を獲得し、その結果、外部環境に曝されるこれらのコンポーネントの良好な耐久性を獲得するからである。
【0003】
冶金学では、合金を硬化させるために、合金の化学的組成や熱力学的履歴に応じて、様々な機構が用いられている。これに関して、固溶硬化、時効硬化、ひずみ硬化、鋼のマルテンサイト変態、スピノーダル分解、粒界強化(Hall Petch)が知られている。最も注目すべき合金は、これらの硬化機構のいくつかが同時に用いられている。しかし、硬さが500HVを超える非強磁性の合金は稀である。更に、このような高レベルの硬度を達成するために、結晶性の非強磁性合金は、一般的には、第2相の析出によって最大硬度を達成するための随意の熱処理の前に、高度のひずみ硬化を必要とする。これは、例えば、ひずみ硬化によってのみ硬化できるオーステナイト系ステンレス鋼、又はひずみ硬化後に析出熱処理を行うことで硬化できるいくつかのオーステナイト系超合金の場合に当てはまる。実際には、ひずみ硬化状態(temper)でこれらの合金からコンポーネントを製造することは困難である。第一に、鍛造の場合、要求される硬度を得るために適切な度合いのひずみ硬化を行うことは、特に複雑な形状を有する部品の場合に、単純ではない。代わりに、定められた均質なひずみ硬化度を有する半製品に対して機械加工を行うことができるが、要求されるひずみ硬化度を有する適切な材料のフォーマットを得ることは必ずしも容易ではない。更に、合金が既に少なくとも部分的に硬化していることから、あらゆる機械加工が非常に難しくコストがかかる。最後に、特定の粉末冶金又は付加的製造方法のように、用いる方法が塑性変形を伴わない場合、単純に、これらの合金を硬化させることはできない。あるいは、例えば特定の高エントロピー合金又は金属間合金のような、500HVを超える固有硬度を有する合金を製造することは可能であるが、これらは同様に、非常に高い硬度と非常に低い延性により、機械加工が難しく、変形させることはほぼ不可能である。これは、硬化状態では非強磁性でありながら、事前のひずみ硬化を必要とせずに熱処理によって硬化できる合金を見つけることの重要性を際立たせる。このように、成形は軟質で延性の状態で行われ、部品が完成した後に硬化熱処理が行われる。特に炭素鋼やマルテンサイト系ステンレス鋼が大きな成功を収めているのはこうした理由からであるが、残念ながら後者は強磁性体である。
【0004】
非強磁性合金において、500HVを超える硬度を得るために、その他の解決策が現在広く使用されている。様々な表面硬化プロセスが、特にオーステナイト系ステンレス鋼又はチタン合金に対して、例えば部品成形後に行われる。しかし、硬化層の厚みは、通常は非常に小さく、数十マイクロメートルのオーダーであり、表面の外観は、通常は処理によって変わる。したがって、計時器用コンポーネントの場合、きれいで全体的に研磨された表面を得るために、硬化後に部品を再加工しなければならない。しかし、このような仕上げ操作は硬化層の全部又は一部を除去し、特に表面硬化処理は一般的に高コストであることから、この解決策は実際にはほとんど用いられていない。
【0005】
したがって、繰り返しになるが、熱処理によって硬化して500HVを超える硬度を達成できる非強磁性合金を見つける必要性がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、以下の基準に適合するように最適化されたステンレス鋼組成物を提案することによって、上記の欠点を克服することである。
-常磁性挙動、
-製造プロセス中に事前のひずみ硬化を必要とすることなく、熱処理によって500HV超、より具体的には575HV以上の硬度、
-非常に良好な耐腐食性。
【0007】
この鋼で作製された部品は、特に研磨後に、良好な美的外観も有することが必須である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
そのために、本発明に係るステンレス鋼は、重量比で以下の組成を有し、
- 20≦Cr≦40%、
- 3≦Ni≦20%、
- 0≦Mn≦15%、
- 0≦Al≦5%、
- 3<Mo≦15%、
- 0≦W≦5%、
- 0≦Cu≦2%、
- 0≦Si≦5%、
- 0≦Ti≦1%、
- 0≦Nb≦1%、
- 0≦C≦0.1%、
- 0≦N≦0.5%、
- 0≦S≦0.5%、
- 0≦P≦0.1%、
残りは、各々0.5%以下の濃度の鉄と不純物とからなる。
【0009】
本発明によれば、ステンレス鋼部品を製造する方法は、フェライト又はフェライト-オーステナイト領域内の上記組成の基材に対して第1の熱処理又は熱機械的処理を行うことと、その後に、周囲温度においてフェライト又はフェライト-オーステナイト構造を保持するように材料をクエンチすることからなる。このフェライト又はフェライト-オーステナイトのマイクロ構造は、軟質であり、したがって延性があるため、必要に応じた容易な成形が可能である。次いで、随意的な成形を行った後、フェライトをオーステナイト相と金属間シグマ相とに変態させるために硬化処理を行う。
【0010】
本発明の新規性は、一方では、硬化源としてシグマ相を用いることに由来し、他方では、組成物中のモリブデン含有量が3%を超えることに由来する。より具体的には、シグマ相は、有害であり、それ故ステンレス鋼には望ましくないとずっと考えられてきた。シグマ相は、クロムリッチであり、一般的には粒界にて形成されることから、合金中に存在する他の相のクロム濃度を低下させることによって耐食性を大幅に低下させる。シグマ相は、非常に少量であっても、非常に迅速かつ実質的にステンレス鋼を脆化させる。これは、この相が複雑な正方晶構造を有し、本来的に非常に脆く、粒界に存在することで、割れの進展に有利な経路を形成するからである。したがって、900~1,100HV10の硬度と常磁性の性質という2つの特に有利な性質があるにもかかわらず、シグマ相がステンレス鋼に用いられたことはない。本発明によれば、ステンレス鋼の組成及び上記方法が、粒界におけるシグマ相の形成が優位とはならずに、シグマ相とオーステナイト相の両方で微細分布を得るように最適化される。2つの非強磁性相からなるこの特定のマイクロ構造は、特に、硬度と靭性、優れた耐食性、及び卓越した研磨性との間で適切なバランスをもたらす。
【0011】
更に、3%超のMo(モリブデン)含有量は、耐食性を改善する。これは、Mo含有量が高いと、Moがシグマ相に高濃度で存在したままでも、オーステナイトでかなり高いMo濃度(>1%)が得られるからである。Moの存在によりオーステナイトの耐食性を増大させることで、全体として合金の耐食性、より具体的には耐孔食性が改善される。3%超のMo濃度を有することの第2の利点は、γ+σ領域において硬化熱処理をより高温で実施できるようになることであり、これはオーステナイト中のCr(クロム)及びMo濃度を更に増大し、それによって更に耐腐食性を改善する。更に、高温で熱処理を実施することは、耐食性を低下させる炭化物又は窒化物が生成するリスクを低減する。より具体的には、温度が高いほど、オーステナイトにおける炭素と窒素の溶解度が大きくなる。
【0012】
本発明の別の特徴及び利点は、図面を参照しながら以下の詳細な説明を読むことで、より良く理解されるであろう。
図1~5の図は、熱力学的計算ソフトウェアのThermocalc(TCFE10データベース)を用いて作成した。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】Sigma+CFC(オーステナイト)相領域に対するMoの影響を示したFe-(32.5-x)%Cr-7%Ni-x%Mo合金(質量%)の相図である。
【
図2】Fe-28.5%Cr-7%Ni-4%Mo合金(質量%)について、オーステナイトのPRENに対する硬化熱処理温度の影響を示す図である。
【
図3】従来技術に係るFe-(29.5-x)%Cr-7%Ni-3%Mo-x%C合金(質量%)の相図であり、オーステナイト相における炭素の溶解度に対する温度の影響を示す図である。
【
図4】本発明に係るFe-(27.5-x)%Cr-7%Ni-5%Mo-x%C合金(質量%)の相図であり、オーステナイト相における炭素の溶解度に対する温度の影響を示す図である。
【
図5】本発明に係るFe-(27.5-x)%Cr-7%Ni-5%Mo-x%N合金(質量%)の相図であり、オーステナイト相における窒素の溶解度に対する温度の影響を示す図である。
【
図6】光学顕微鏡によって得られた本発明に係るFe-29.5%Cr-7%Ni-3.5%Mo鋼(質量%)の画像である。
【
図7】本発明に係るFe-28.5%Cr-7%Ni-4%Mo鋼(質量%)の動電位分極試験の電流-電位曲線を、3種の硬化熱処理温度について示し、従来技術に係るオーステナイト系ステンレス鋼DIN1.4435と比較した図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は、575~900HV10、好ましくは650~900HV10、より好ましくは675~900HV10の硬度を有する常磁性ステンレス鋼に関する。HV10硬度は、ISO6507-1:2018規格に従って測定されたビッカース硬度を意味すると理解される。本発明は更に、この鋼を用いて作られた部品、より具体的には、計時器用コンポーネント、に関する。上記部品は、ケースミドル部、裏蓋、ベゼル、リュウズ、押し部品、ブレスレットリンク、ブレスレット、タングバックル、文字盤、時計針、及び文字盤時字からなる群(すべてを網羅しているわけではない)から選択される外側部品コンポーネントであり得る。上記部品は、歯車、シャフト、ピニオン、ばね、ブリッジ、プレート、ねじ及びバランスからなる群(すべてを網羅しているわけではない)から選択されるムーブメントのコンポーネントでもあり得る。本発明は更に、本発明に係るステンレス鋼部品の製造に関する。
【0015】
本発明に係るステンレス鋼は、重量比で以下の組成を有し、
- 20≦Cr≦40%、
- 3≦Ni≦20%、
- 0≦Mn≦15%、
- 0≦Al≦5%、
- 3<Mo≦15%、
- 0≦W≦5%、
- 0≦Cu≦2%、
- 0≦Si≦5%、
- 0≦Ti≦1%、
- 0≦Nb≦1%、
- 0≦C≦0.1%、
- 0≦N≦0.5%、
- 0≦S≦0.5%、
- 0≦P≦0.1%、
残りは、各々0.5%以下の濃度の鉄と不純物からなる。
【0016】
好ましくは、本発明に係るステンレス鋼は、重量比で以下の組成を有し、
- 25≦Cr≦35%、
- 5≦Ni≦10%、
- 0≦Mn≦3%、
- 0≦Al≦3%、
- 3<Mo≦10%、
- 0≦W≦5%、
- 0≦Cu≦2%、
- 0≦Si≦3%、
- 0≦Ti≦1%、
- 0≦Nb≦1%、
- 0≦C≦0.1%、
- 0≦N≦0.5%、
- 0≦S≦0.5%、
- 0≦P≦0.1%、
同様に、残りは鉄と不純物からなる。
【0017】
好ましくは、上記組成範囲の1つについて、Moの重量%は3.5~15%又は3.5~10%である。より好ましくは、Moの重量%は3.5~6%又は4~6%である。
【0018】
有利には、上記組成範囲の1つについて、Wの重量%は0.2~5%、より有利には0.5~5%である。
【0019】
3質量%超のMo含有量は、オーステナイト相中のMoの濃度を増大させ、これは次に鋼の全体的な耐腐食性の増大をもたらす。
【0020】
更に、Mo濃度の増大は、特に、
図1に示すように、硬化熱処理(シグマ+CFC領域における)を、より高温で実施できるようにする。したがって、4%のMoの場合は熱処理を950℃まで実施でき、5%のMoの場合は975℃まで実施できる。シグマ+CFC領域において、より高温で硬化熱処理を実施することは、オーステナイト中のCr及びMo濃度を更に増大し、それによって更に耐腐食性を改善する。処理温度がオーステナイトのPREN(Cr、Mo及びN含有量に基づく耐孔食指数、例えば、PREN=%Cr+3.3x%Mo+16x%N)に与える影響を
図2に示す。
【0021】
更に、高温で熱処理を実施することは、耐食性を低下させる炭化物又は窒化物が生成するリスクを低減する。より具体的には、温度が高いほど、オーステナイトにおける炭素と窒素の溶解度が大きくなる。この影響を、炭素に関して、
図3及び4の相図(それぞれ従来技術に係るFe-(29.5-x)%Cr-7%Ni-3%Mo-x%C合金、及び本発明に係るFe-(27.5-x)%Cr-7%Ni-5%Mo-x%C合金)を用いて示す。Mo濃度を3%超まで増大して、硬化熱処理を925-1,000℃の温度範囲内で実施できるようにすることで、炭素及び窒素などの侵入型元素に関して低純度の合金を使用でき、それにより合金のコストを劇的に低下できる。
図3において、Fe-(29.5-x)%Cr-7%Ni-3%Mo-x%C合金の3%モリブデンの場合、γ+σ領域は最大で925℃まで安定であり、炭化物析出(
図3のM23C6相)を防止する最大炭素濃度は、この温度でわずか0.01%超である(図の矢印参照)。しかし、
図4のFe-(27.5-x)%Cr-7%Ni-5%Mo-x%C合金の5%モリブデンの場合、炭化物(
図4のM23C6相)の不在は、975℃の温度において、ほぼ0.02%の最大炭素質量濃度まで保証され、これは、なおもγ+σ(CFC+シグマ)領域内である。硬化熱処理における50℃というわずかな違いは、Mo濃度が高いことで可能となり、その結果、オーステナイト中の炭化物の溶解度に2倍の差をもたらす。
図5にFe-(27.5-x)%Cr-7%Ni-5%Mo-x%N合金について示すように、温度の影響は、窒素についても同様である。より具体的には、窒化物生成(
図5のHCP相)を防止するための最大窒素濃度は、925℃における0.15質量%から、975℃における約0.3質量%へと、温度とともに大きく増大する。
【0022】
本発明に係るステンレス鋼部品は、以下に更に詳述する方法を用いて製造される。本発明によれば、ステンレス鋼部品を製造する方法は、上記範囲内の組成を有するブランクを用意する又は作るステップ(a)を含む。このブランクは、大部分フェライト、好ましくは100%フェライトの構造を有する。ブランクは、1,000~1,500℃の範囲の温度で熱処理又は熱機械的処理を施し、その後クエンチした基材から得られる。基材は、粉末形態又は固結物の形態であることができる。基材は、鋳造、プレス、金属射出成形(MIM)、付加的製造、そしてより広くは粉末冶金によって製造できる。基材及び熱処理は、単一ステップで、例えば選択的レーザー溶融(SLM)法によって、実施できると想定される。上記の種々の技術は、作製される部品の寸法と実質的に等しい寸法を有する基材でブランクを作製することを可能にし、その場合、その後の成形工程は不要である。
【0023】
基材の組成は、1,000℃~1,500℃の温度で1分~24時間の継続時間にわたって保持されたときに、大部分フェライト又は完全フェライト構造が得られるように最適化される。温度は、オーステナイトの質量比が40%以下、フェライトの質量比が60%以上となるように選択される。1,000℃~1,500℃に保持したときに形成されるオーステナイトは、その後の硬化熱処理で形成された二次オーステナイトと対照的に、一次オーステナイトと呼ばれる。好ましくは、構造は、1,000℃~1,500℃に保持した後で、完全フェライトである。
【0024】
鋳造によって得られた基材の均質化、再結晶化又は応力緩和処理を行うために、又は粉末形態の基材の焼結を行うために、1,000℃~1,500℃の範囲の熱処理又は熱機械的処理を用いることができる。フェライト又はフェライト-オーステナイト領域における処理は、単一のサイクルで行うことも、複数の熱処理又は熱機械的処理サイクルを含むこともできる。また、他の熱処理又は熱機械的処理を先に又は後で実施することもできる。
【0025】
フェライト又はフェライト-オーステナイト領域に保持した後に、冷却中に新たな相が形成されるのを防ぐために、ブランクを500℃未満の温度まで急冷する。これはクエンチングとしても知られる。このようにして、フェライト又はフェライト-オーステナイト構造は周囲温度に保たれる。本発明に係る組成のおかげで、フェライト構造は、急冷後に周囲温度に保つのに十分に安定であり、それにもかかわらず、600~1,000℃の中間温度におけるその後の熱処理により、容易にかつ急速にシグマ相及びオーステナイトに変態するのに十分に準安定である(下のステップ(c)参照)。
【0026】
ステップ(a)の終了時に、合金は硬度が低く延性が高い。これは、例えば鍛造、ブランキング、又は機械加工などによる、容易な成形を可能にできる。
【0027】
ステップ(a)の後に、当該方法は、機械加工、ブランキング、又は鍛造のような変形を伴う任意の操作によってブランクを形成する、随意的なステップ(b)を含む。このステップは、複数のシーケンスで実行することができる。ステップ(a)の終了時に、ブランクが、製造しようとする部品の最終形状を既に有している場合には、このステップは不要である。
【0028】
成形に加えて、フェライトをオーステナイト及びシグマ相へと変態させる後続のステップの間に、特にフェライトの変態率を高めるために塑性変形操作を実施することができる。更に、フェライト構造の場合、ひずみ硬化による硬化が低く、本発明に係る合金は硬化による処理の前に大部分フェライト又は完全フェライトであることから、この塑性変形ステップは、機械加工又はブランキングによる随意的な成形において問題となり得る硬化を引き起こさない。1つ以上のシーケンスで行われるこの塑性変形は、650℃よりも低い温度で行うことができる。
【0029】
随意的な成形操作の後、当該方法は600℃~1,000℃の1つ以上の段階でブランクに硬化熱処理を施して最終特性を得るステップ(c)を含む。600~1,000℃の熱処理の継続時間は、フェライトの完全な変態を確実にするように固定されており、その結果、シグマ相とオーステナイト相とによって形成されたマイクロ構造が得られる。完全変態は、フェライトの99%超がオーステナイト相+シグマ相へと変態することを意味すると理解される。したがって、最終構造は、微量の残留フェライトを1%未満の割合で含有し得る。上記のように、フェライトのオーステナイト相+シグマ相への変態率は、特に、合金の組成と、その熱機械的履歴に依存する。概して、1つ以上の段階における熱処理の総継続時間は、30分~24時間である。有利には、熱処理は、600℃~850℃の第1段階と、850℃~1,000℃の第2段階との2段階で実施される。より低温の第1段階は、より高速の変態速度と、より微細なマイクロ構造とを生じるのに対し、より高温の第2段階は、腐食への耐性を最大にする。変態は第1段階後に完了することから、マイクロ構造は、より高温の第2段階後に微細なままである。
【0030】
この硬化処理後に、鋼は、シグマ相の質量比が40~80%、オーステナイトの質量比が20~60%であり、これらの割合は化学的組成と実施される熱処理に依存する。上記のように、鋼は、微量の残留フェライトを1重量%未満の割合で含有し得る。オーステナイト相は、二次オーステナイトと、潜在的に一次オーステナイトとからなる。
【0031】
有利には、一次オーステナイト及び二次オーステナイトは、10μm未満、より有利には5μm未満のサイズを有する。このサイズは、断面図における相の最小寸法を意味するものとして理解される。これは、オーステナイトがラメラ状の場合にはオーステナイトラメラの厚みであってよく、オーステナイトが球状の場合には直径であってよい。後者において、オーステナイトが完全に球形ではない場合、サイズはオーステナイト構造の最小寸法に関係する。
【0032】
有利には、最終構造は、一次オーステナイトなしで、二次オーステナイトとシグマ相とから形成される。得られるマイクロ構造は、二次オーステナイト及びシグマ相から形成された、非常に微細で均質な共析マイクロ構造である。二次オーステナイトは、一次オーステナイトよりも微細であるという特徴を有する。この、硬化前に形成されたオーステナイトのより粗大な構造は、鏡面仕上げに適さない。更に、硬化処理の前と後とで形成されたオーステナイトの組成が異なることは、耐腐食性に関して、より好ましくない。
【0033】
得られる部品は、硬化熱処理のおかげで575~900HV10、より具体的には650~900HV10の高い硬度を有する。すべてのステンレス鋼と同様に、機械的・磁気的性質に影響を与えることなく、非金属の介在物も少量存在できる。更に、硫化マンガンのような被削性を高める介在物も、合金中に少量存在させることができる。
【0034】
この硬化熱処理ステップの後に、随意的に、研磨などの表面仕上げステップ(d)を行うことができる。
【0035】
あるいは、ステップ(a)においてオーステナイト+フェライト構造を有するブランクの存在下で、当該製造方法は、更に、硬化熱処理の前に、100~1,500℃の温度範囲でオーステナイト+フェライト構造を100%フェライト構造に変態させるステップ(b’)を行うことができる。
【0036】
まとめると、高温熱処理(1,000~1,500℃)後にクエンチすることによって、鋼は、特に以下の特性を有する。
●150~400HV10の硬度
●周囲温度における圧縮下で50%を超える割れを伴わず、塑性変形を伴う良好な延性
●フェライトの存在に起因して強磁性挙動を示す。
【0037】
硬化熱処理後に、本発明に係る鋼は、特に以下の特性を有する。
●575~900HV10の硬度
●常磁性挙動
●非常に微細な構造に起因する、優れた研磨性
●非常に高い耐摩耗性
●高い耐腐食性
【0038】
耐腐食性については、本発明に係る鋼は、3%超のモリブデン濃度のおかげで特に効果的であり、上記モリブデン濃度はオーステナイト相の耐腐食性を増大することで、合金全体の耐腐食性を増大する。したがって、これらの鋼は、外側コンポーネントに特に有益である。
【0039】
最後に、本発明を以下の実施例により例証する。
【実施例】
【0040】
実施例1
Fe29Cr8Ni5Moとして知られる鋼は、質量比で58%の鉄、29%のクロム、8%のニッケル及び5%のモリブデンを含有する。この鋼は、高純度元素(>99.9%)からアーク溶融によって製造され、棒状に鋳造される。これに、アルゴン雰囲気中、1,300℃で2時間の均質化熱処理を施した後、ガスクエンチ(約200K/分)を実施した。この棒を、次いで、周囲温度において圧縮によって変形させて厚さを2分の1に低減した後、フェライト領域において空気中、1,080℃で10分間アニールし、水中でクエンチした。このアニール状態で、Fe29Cr8Ni5Mo合金は、265HV10のVickers硬度を有する。次いで、硬化熱処理を、1つの試料は850℃、別の試料は900℃で、6時間実施した。オーステナイト相とシグマ相とを含む微細で均質な二相マイクロ構造が得られた。この状態で、Fe29Cr8Ni5Mo合金は、それぞれ705及び675HV10のVickers硬度を有する。
【0041】
実施例2
Fe29Cr7Ni4Moとして知られる鋼は、質量比で60%の鉄、29%のクロム、7%のニッケル及び4%のモリブデンを含有する。この鋼も、高純度元素(>99.9%)からアーク溶融によって製造し、アルゴン中、1,300℃で2時間の均質化熱処理の後に、ガスクエンチを実施し、周囲温度において圧縮によって変形させて厚みを2分の1に低減し、空気中、1,100℃で10分間のアニール熱処理の後に、水中でクエンチした。このアニール熱処理の後、Fe29Cr7Ni4Mo合金は単相フェライトマイクロ構造を有する。第1の試料を、次いで、真空下、700℃で4時間、その後900℃で3時間加熱した。得られた硬度は670HV10である。第2の試料を、真空下、750℃で7時間加熱した。得られた硬度は735HV10である。いずれの場合も、微細な二相マイクロ構造が得られる。
【0042】
実施例3
Fe29.5Cr7Ni3.5Moとして知られる鋼は、質量比で60%の鉄、29.5%のクロム、7%のニッケル及び3.5%のモリブデンを含有する。この鋼も、高純度元素(>99.9%)からアーク溶融によって製造し、アルゴン中、1,300℃で2時間の均質化熱処理の後に、ガスクエンチを実施し、周囲温度において圧縮によって変形させて厚みを2分の1に低減し、空気中、1,100℃で15分間のアニール熱処理の後に、水中でクエンチした。このアニール熱処理の後、Fe29.5Cr7Ni3.5Mo合金は単相フェライトマイクロ構造を有する。次いで、第1の試料を、真空下、700℃で4時間、その後900℃で3時間加熱した。得られた硬度は675HV10である。第2の試料を、真空下、750℃で7時間加熱した。得られた硬度は730HV10である。第1の試料について、偏光下で光学顕微鏡で観察されたマイクロ構造を
図6に示す。オーステナイト相が主に隆起したラメラ状で、シグマ相がアレイ状の、二相の微細な分布を観察することができる。
【0043】
実施例4
塩化物媒体中での耐腐食性、特に耐孔食性を評価するために、動電位分極試験を、市販の参照ステンレス鋼(すなわち、DIN 1.4435鋼)、及び本発明に係るFe28.5Cr7Ni4Moグレードに実施し、これに3種類の温度、すなわちそれぞれ750、800及び850℃の温度における硬化熱処理を、真空下、6時間実施した。予め、鋼をアルゴン中、1,300℃で2時間加熱し、次いでガスクエンチによって冷却して、周囲温度で100%フェライト構造を得た。750、800又は850℃での熱処理の後、合金は二相オーステナイト+シグマ相構造を有する。動電位分極測定を、塩化カリウムを用いた飽和カロメル参照電極と白金補助電極とを備える電気化学セルで実施した。分析する試料、すなわち、作用電極は、鏡面仕上げを有する直径8mmの円盤状である。動電位分極試験を用い、孔食電位を比較することで、塩化物媒体中の耐食性を評価した。後者は、不動態皮膜の局所破断及び孔食の結果として測定される電流の急速な増加に対する電位に対応する。試験の目的で、孔食電位は、0.25mAの電流に対応する電位として定義される。最初に、1M NaCl溶液を調製してセル内に導入した後、1時間窒素パージする。作用電極の自由電位Vocを10分間記録する。最後の自由電位から、電位を0.5mV/sの速度で、測定電流の0.25mAまで上昇させ、次いで2mV/sの速度で測定電流の0.01mAまで低下させる。結果を
図7に示す。熱処理温度の増加に伴う孔食電位の増加を明らかに見ることができ、その値は750、800又は850℃における熱処理についてそれぞれ0.32、0.38及び0.46VvsSCE、及び参照オーステナイトステンレス鋼については0.24VvsSCEである。更に、電位低下相の再不動態化は、熱処理温度が高いときに促進される。これは、Mo含有量の増大が、熱処理温度の上昇、それによる耐腐食性の増大に有益であることを示す。
【手続補正書】
【提出日】2023-03-23
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
常磁性ステンレス鋼であって、重量比で
- 25≦Cr≦35%、
- 5≦Ni≦10%、
- 0≦Mn≦3%、
- 0≦Al≦3%、
- 3<Mo≦10%、
- 0≦W≦5%、
- 0≦Cu≦2%、
- 0≦Si≦3%、
- 0≦Ti≦1%、
- 0≦Nb≦1%、
- 0≦C≦0.1%、
- 0≦N≦0.5%、
- 0≦S≦0.5%、
- 0≦P≦0.1%、
を含む化学的組成を有し、残りは各々0.5%以下の濃度の鉄と不純物とからなり、
前記鋼は、575~900HV10の硬度を有する、
鋼。
【請求項2】
Moは3.5%以上であることを特徴とする、請求項1に記載の鋼。
【請求項3】
Moは3.5%~6%であることを特徴とする、請求項1に記載の鋼。
【請求項4】
Moは4%~6%であることを特徴とする、請求項1に記載の鋼。
【請求項5】
Wは0.2%以上であることを特徴とする、請求項1に記載の鋼。
【請求項6】
Wは0.5%以上であることを特徴とする、請求項1に記載の鋼。
【請求項7】
前記硬度は650~900HV10であることを特徴とする、請求項1に記載の鋼。
【請求項8】
前記硬度は675~900HV10であることを特徴とする、請求項1に記載の鋼。
【請求項9】
40~80質量%のシグマ相と、20~60質量%のオーステナイト相とによって形成されるミクロ構造を有することを特徴とする、請求項1に記載の鋼。
【請求項10】
前記オーステナイト相は、いわゆる一次オーステナイトと、フェライトとオーステナイトとを含む構造を有する合金の変態から生じるいわゆる二次オーステナイトとによって形成されることを特徴とする、請求項9に記載の鋼。
【請求項11】
前記オーステナイト相は、いわゆる二次オーステナイトによって形成され、前記二次オーステナイトは、100%フェライト構造を有する合金の変態から生じることを特徴とする、請求項9に記載の鋼。
【請求項12】
前記オーステナイト相は10μm未満のサイズを有し、前記サイズは断面図における前記相の最小寸法に対応することを特徴とする、請求項1に記載の鋼。
【請求項13】
前記オーステナイト相は、5μm未満のサイズを有する、請求項12に記載の鋼。
【請求項14】
請求項1に記載の鋼で作製された部品。
【請求項15】
外側部品又はムーブメントの計時器コンポーネントであることを特徴とする、請求項14に記載の部品。
【請求項16】
請求項15に記載の前記計時器コンポーネントを含む時計。
【請求項17】
常磁性ステンレス鋼製の部品の製造方法であって、
(a)製造しようとする部品の形状を実質的に有する又は形状が異なるブランクを用意する又は作製するステップであって、前記ブランクは、請求項1~6のいずれか一項に記載の化学的組成を有し、大部分フェライト又は完全フェライト構造を有する、ステップ、
(b)ステップ(a)からの前記ブランクが製造しようとする前記部品とは異なる形状を有する場合に、前記ブランクを成形するステップ、
(c)前記ブランクに対して硬化処理と呼ばれる熱処理を実施して前記部品を得るステップであって、前記硬化処理は、600~1,000℃の温度で30分~24時間の総継続時間にわたって1つ以上の段階で実施されて、前記構造のフェライトをオーステナイト相と金属間シグマ相とに変態させ、前記硬化処理の後に、周囲温度まで冷却することを特徴とするステップ、
の連続ステップを含むことを特徴とする、製造方法。
【請求項18】
ステップ(a)における前記ブランクの前記大部分フェライト又は完全フェライト構造は、1,000~1,500℃の温度で1分~24時間の継続時間にわたって基材に熱処理又は熱機械的処理を実施することによって作られたものであり、前記熱処理又は熱機械的処理の後に、500℃未満の温度にクエンチすることで、周囲温度において前記フェライト構造を保持することを特徴とする、請求項17に記載の製造方法。
【請求項19】
ステップ(c)における前記熱処理は、600℃~850℃の第1段階と、850~1,000℃の第2段階との2段階で実施されることを特徴とする、請求項17に記載の製造方法。
【請求項20】
前記基材は、粉末形態又は固結物の形態であることを特徴とする、請求項18に記載の製造方法。
【請求項21】
前記基材は、鋳造、プレス、金属射出成形、付加的製造、又は粉末冶金によって得られたことを特徴とする、請求項18に記載の製造方法。
【請求項22】
ステップ(a)における前記ブランクは、選択的レーザー溶融によって作製されることを特徴とする、請求項21に記載の製造方法。
【請求項23】
ステップ(a)における前記ブランクの構造は、40%以下の質量比のオーステナイトと、フェライトの質量比が60%以上の質量比のフェライトとを含有することを特徴とする、請求項17に記載の製造方法。
【請求項24】
ステップ(a)における前記ブランクの構造は、100%フェライトを含有することを特徴とする、請求項17に記載の製造方法。
【請求項25】
ステップ(a)の終了時に、前記ブランクは150~400HV10の硬度を有することを特徴とする、請求項17に記載の製造方法。
【請求項26】
前記成形ステップ(b)は、650℃未満の温度で1つ以上の塑性変形シーケンスを含むことを特徴とする、請求項17に記載の製造方法。
【請求項27】
前記成形ステップ(b)は、鍛造、ブランキング又は機械加工によって実施されることを特徴とする、請求項17に記載の製造方法。
【請求項28】
前記熱処理又は熱機械的処理は、複数のサイクル実施されることを特徴とする、請求項18に記載の製造方法。
【請求項29】
前記ブランクの構造がオーステナイトを含有する場合、前記方法は、ステップ(c)の前に、1,000~1,500℃の温度で1分~24時間の継続時間にわたって前記ブランクに加熱処理又は熱機械的処理を実施して完全フェライト構造を得るステップ(b’)を含み、前記加熱処理又は熱機械的処理の後に、500℃未満の温度へのクエンチを行って、周囲温度において前記完全フェライト構造を保持することを特徴とする、請求項23に記載の製造方法。
【国際調査報告】