(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-10-11
(54)【発明の名称】車両用、特に商用車用のステアリングシステム
(51)【国際特許分類】
B62D 5/04 20060101AFI20231003BHJP
【FI】
B62D5/04
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023519392
(86)(22)【出願日】2021-08-26
(85)【翻訳文提出日】2023-04-05
(86)【国際出願番号】 EP2021073651
(87)【国際公開番号】W WO2022063517
(87)【国際公開日】2022-03-31
(31)【優先権主張番号】102020125258.7
(32)【優先日】2020-09-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】597007363
【氏名又は名称】クノル-ブレムゼ ジステーメ フューア ヌッツファールツォイゲ ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】Knorr-Bremse Systeme fuer Nutzfahrzeuge GmbH
【住所又は居所原語表記】Moosacher Strasse 80, D-80809 Muenchen, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】マリオ リューブシュトルフ
【テーマコード(参考)】
3D333
【Fターム(参考)】
3D333CB02
3D333CB13
3D333CB42
3D333CC02
3D333CC15
3D333CC28
3D333CC34
3D333CD58
3D333CE03
3D333CE04
3D333CE05
3D333CE12
(57)【要約】
本発明は、車両用、特に商用車用のステアリングシステム(10)であって、少なくとも1つの第1の車輪(16)を操舵するための少なくとも1つの第1のステアリングギヤボックス(12)および該第1のステアリングギヤボックス(12)に連結された少なくとも1つの第1のステアリング機構(14)と、少なくとも1つの第2の車輪(22)を操舵するための少なくとも1つの第2のステアリングギヤボックス(18)および該第2のステアリングギヤボックス(18)に連結された少なくとも1つの第2のステアリング機構(20)と、少なくとも1つのテンション機構(26)と、を備えており、該テンション機構(26)は、前記第1のステアリングギヤボックス(12)と前記第2のステアリングギヤボックス(18)とに連結されており、これにより、前記第1のステアリングギヤボックス(12)と前記第2のステアリングギヤボックス(18)とに、特に停止状態において互いに反対の方向に相対して予荷重を加えることができる、ステアリングシステム(10)に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両用、特に商用車用のステアリングシステム(10)であって、
少なくとも1つの第1の車輪(16)を操舵するための少なくとも1つの第1のステアリングギヤボックス(12)および少なくとも1つの第1のステアリング機構(14)であって、前記第1のステアリングギヤボックス(12)は、前記第1のステアリング機構(14)に連結されている、少なくとも1つの第1のステアリングギヤボックス(12)および少なくとも1つの第1のステアリング機構(14)と、
少なくとも1つの第2の車輪(22)を操舵するための少なくとも1つの第2のステアリングギヤボックス(18)および少なくとも1つの第2のステアリング機構(20)であって、前記第2のステアリングギヤボックス(18)は、前記第2のステアリング機構(20)に連結されている、少なくとも1つの第2のステアリングギヤボックス(18)および少なくとも1つの第2のステアリング機構(20)と、
前記第1のステアリングギヤボックス(12)と前記第2のステアリングギヤボックス(18)とに、特に停止状態において互いに反対の方向に相対して予荷重を加えることができるように、前記第1のステアリングギヤボックス(12)と前記第2のステアリングギヤボックス(18)とに連結されている、少なくとも1つのテンション機構(26)と、
を備える、ステアリングシステム(10)。
【請求項2】
前記テンション機構(26)は、前記第1のステアリング機構(14)と前記第2のステアリング機構(20)とに回転可能に取り付けられている、請求項1記載のステアリングシステム(10)。
【請求項3】
前記テンション機構(26)には、取付け状態において弾性的に予荷重を加えることができかつ/または予荷重が加えられている、請求項1または2記載のステアリングシステム(10)。
【請求項4】
前記テンション機構(26)は、少なくとも1つの長さ調整機構および/またはテレスコープ機構を有している、請求項1から3までのいずれか1項記載のステアリングシステム(10)。
【請求項5】
前記テンション機構(26)は、少なくとも1つの弾性的なばね部材を有している、請求項1から4までのいずれか1項記載のステアリングシステム(10)。
【請求項6】
前記弾性的なばね部材は、アキシャルばね部材として形成されている、請求項5記載のステアリングシステム(10)。
【請求項7】
前記弾性的なばね部材は、ラジアルばね部材、特に板ばね部材として形成されている、請求項5記載のステアリングシステム(10)。
【請求項8】
前記第2のステアリングギヤボックス(18)は、構造的に少なくとも1つの寸法において、前記第1のステアリングギヤボックス(12)よりも小さく形成されている、請求項1から7までのいずれか1項記載のステアリングシステム(10)。
【請求項9】
前記第2のステアリングギヤボックス(18)は、構造的に少なくとも1つの寸法において、前記第1のステアリングギヤボックス(12)より少なくとも約10%だけ、好適には少なくとも20%だけ、特に好適には少なくとも25%だけ小さく形成されている、請求項8記載のステアリングシステム(10)。
【請求項10】
前記第1のステアリングギヤボックス(12)は、少なくとも1つの第1の電動モータ(28)に連結されており、前記第2のステアリングギヤボックス(18)は、少なくとも1つの第2の電動モータ(36)に連結されている、請求項1から9までのいずれか1項記載のステアリングシステム(10)。
【請求項11】
前記第2のステアリングギヤボックス(18)は、前記第2の電動モータ(36)を介してのみ駆動可能である、請求項10記載のステアリングシステム(10)。
【請求項12】
前記第1のステアリングギヤボックス(12)は、前記第1のステアリングギヤボックス(12)を少なくとも1つのステアリングコラム(32)と車両ステアリングホイール(34)とに連結することができる、少なくとも1つの機械的な直結駆動部(30)を有している、請求項1から11までのいずれか1項記載のステアリングシステム(10)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用、特に商用車用のステアリングシステムであって、少なくとも1つの第1の車輪を操舵するための少なくとも1つの第1のステアリングギヤボックスおよび第1のステアリングギヤボックスに連結された少なくとも1つの第1のステアリング機構と、少なくとも1つの第2の車輪を操舵するための少なくとも1つの第2のステアリングギヤボックスおよび第2のステアリングギヤボックスに連結された少なくとも1つの第2のステアリング機構と、少なくとも1つのテンション機構とを備えた、ステアリングシステムに関する。
【0002】
車両用、特に商用車用のステアリングシステムには将来的にさらに増大する機能要件が課される。ステアリングシステムは、車両の(部分)自動化の流れの中で中心的な役割を果たすからである。
【0003】
この場合、特に重要なのは、ステアリングシステムが正確かつ確実に機能し、増大する前記機能要件を考慮し、それでもなお構成空間要件に関してさらに最適化され得る、という点である。
【0004】
車両用のステアリングシステムは、従来技術から既に周知である。
【0005】
例えば独国特許出願公開第10114600号明細書(DE112012806263T5)に示された車両ステアリング装置は、運転者により操作可能なステアリング操作装置、特にステアリングハンドホイールと、車体の左右に位置する、操舵可能な車軸の車輪対の操舵可能な各1つの車輪を制御する、各1つの電気機械的なアクチュエータと、操舵可能な車軸に対応して配置された2つのアクチュエータの内の一方に故障または異常が生じた場合に、まだ正常に機能している他方のアクチュエータによりその都度、この車軸の両方の車輪の制御を保証する手段とを有している。
【0006】
さらに独国特許出願公開第112012806263号明細書に開示された車両ステアリング装置は、車両ステアリングホイールの操作に従って操舵輪を回動させるように構成されたステアリング装置を含んでおり、この場合、ステアリング装置は、互いに共通して設定された電気的な特性を有する、操舵用の第1のモータおよび第2のモータと、第1のモータを流れる電流の第1の電流値を検出するように構成された第1の電流センサと、第2のモータを流れる電流の第2の電流値を検出するように構成された第2の電流センサと、異常診断ユニットとを含んでいる。
【0007】
従来技術に基づくこのようなステアリング装置は依然として複雑であり、多数の構成部材から成るように構成されていて高価であり、大きな構成空間を必要とすると共に高重量を有している。
【0008】
したがって本発明の課題は、冒頭で述べた形式のステアリングシステムを有利に改良して、特にステアリングシステムが冗長的に形成されており、より低い重量を有しており、廉価に製造可能であり、かつ車輪に対する正確な操舵命令を実行するようにすることにある。
【0009】
この課題は本発明に基づき、請求項1記載の特徴を備えたステアリングシステムにより解決される。それによれば、車両用、特に商用車用のステアリングシステムであって、少なくとも1つの第1の車輪を操舵するための少なくとも1つの第1のステアリングギヤボックスおよび第1のステアリングギヤボックスに連結された少なくとも1つの第1のステアリング機構と、少なくとも1つの第2の車輪を操舵するための少なくとも1つの第2のステアリングギヤボックスおよび第2のステアリングギヤボックスに連結された少なくとも1つの第2のステアリング機構と、少なくとも1つのテンション機構とを備えており、テンション機構は、第1のステアリングギヤボックスと第2のステアリングギヤボックスとに連結されており、これにより、第1のステアリングギヤボックスと第2のステアリングギヤボックスとに、特に停止状態において互いに反対の方向に相対して予荷重を加えることができる、ということが想定されている。
【0010】
本発明は、ステアリングシステムが2つの独立したステアリングギヤボックスを有しており、これにより、ステアリングシステムは冗長的なステアリングシステムとして形成されている、という基本思想に基づいている。さらに、第1のステアリングギヤボックスと第2のステアリングギヤボックスとが、両ステアリングギヤボックスに予荷重を加えるテンション機構を介して互いに連結されている。この予荷重を加えるということは、両ステアリングギヤボックスひいては連結された第1および第2のステアリング機構におけるステアリング遊びを解消もしくは調整することができる、という利点もしくは背景を有している。これにより、ステアリングシステムがより正確に作動することができるようになるため、ステアリングシステムおよび車両もしくは商用車の運転確実性が改良される。通常運転の場合には、テンション機構は、両ステアリングギヤボックスに予荷重を加えるためだけに用いられ、第1のステアリングギヤボックスから第2のステアリングギヤボックスにまたは第2のステアリングギヤボックスから第1のステアリングギヤボックスにステアリング動作を伝達するためには用いられない。特にこの場合、第1のステアリングギヤボックスと第2のステアリングギヤボックスとに、停止状態において互いに反対の方向に相対して予荷重を加えることができる。第1および/または第2のステアリングギヤボックスが故障した場合には、テンション機構は、その遊び調整部材としての機能の他に、まだ正常な第1または第2のステアリングギヤボックスのステアリング動作を第1または第2のステアリング機構に伝達し、これにより両方の車輪の操舵性を引き続き確実に保証するために、連動体として用いられる。
【0011】
その他の点では、テンション機構は、第1のステアリング機構と第2のステアリング機構とに回転可能に取り付けられている、ということが想定されていてもよい。第1および第2のステアリング機構は、本発明では1つまたは複数の継手を備え、各タイロッドを第1および第2のステアリングギヤボックスに結合するリンク装置として形成されている。これにより、テンション機構は極めて簡単に、第1および第2のステアリング機構に結合もしくは連結され得る。よって、ラック等の高価で製造に手間のかかるステアリング構成部品を省くことができ、これにより、廉価なステアリングシステムが提供可能である。ただし、テンション機構は、第1のステアリング機構と第2のステアリング機構との間の唯一の機械的な結合部材もしくは連結部材である。第1のステアリング機構と第2のステアリング機構とは、通常運転中は互いに独立して、第1もしくは第2のステアリングギヤボックスにより駆動されるからである。
【0012】
さらに、テンション機構には、取付け状態において弾性的に予荷重を加えることができかつ/または予荷重が加えられている、ということが考えられる。弾性的かつ機械的に予荷重を加えるこの形式は、両方のステアリング機構とステアリングギヤボックスとに相反する予荷重を加える構造的に極めて簡単で確実な手段を提供する。予荷重を加えることを保証するために追加的な構成部材を設ける必要が一切ないからである。さらにこの構成は、極めて廉価かつ軽量である。この場合、テンション機構は、特に弾性的に予荷重を加えることができかつ/または予荷重を加えられたテンションロッド、テンションバー、テンションスポーク、テンションパイプ、テンションビームまたはテンションバイスとして形成されていてもよい。
【0013】
さらに、テンション機構は、少なくとも1つの長さ調整機構および/またはテレスコープ機構を有している、ということが考えられる。これにより、予荷重が特に正確に調整され得る。このことは特に、極度に大きな予荷重は両方のステアリング機構およびステアリングギヤボックスに対する機械的負荷を成す恐れがあると共に、両方のステアリング機構およびステアリングギヤボックスの耐用年数を短縮するため、有利である。ただし、極度に小さな予荷重も同様に不都合である。この場合にはステアリングシステムの実質的に全ての遊び解消の効果が無くなる恐れがあるからである。この点で、テンション機構による予荷重の正確な調整は、本発明による、確実に機能するステアリングシステムの意味において極めて重要である。
【0014】
さらに、テンション機構は、少なくとも1つの弾性的なばね部材を有している、ということが可能である。ばね部材により、テンション機構の予荷重力、緩衝特性、予荷重距離、予荷重方向および予荷重弾性等の重要なパラメータを、各ステアリングシステムに特定して調整することができるため、適合する弾性的なばね部材を選択することにより、予荷重過多と予荷重過少との間での良好な妥協を目指すことができる。弾性的なばね部材は、長さ調整機構および/またはテレスコープ機構との組合せにおいて特に有利である。なぜならば、これにより、上述したパラメータをより正確に調整することができるからである。
【0015】
さらに、弾性的なばね部材は、アキシャルばね部材として形成されている、ということが想定されていてもよい。アキシャルばね部材を設けることにより、上述したパラメータを極めて簡単に調整することができる。テンション機構は、本発明の1つの実施例では剛性のバー状、ビーム状またはロッド状の部材として形成されていてもよいからである(すなわち、テンション機構の長さは、高さおよび幅に比べて大幅に長い)。つまりテンション機構は、上述したように予荷重を加えるその機能もしくは作用を、アキシャルばね部材との組合せにおいて実質的に軸線方向に発揮する。
【0016】
同様に、弾性的なばね部材は、ラジアルばね部材、特に板ばね部材として形成されている、ということが考えられる。ラジアルばね部材により、テンション機構の予荷重が構造的に極めて簡単に、重量を節減して極めて少数の構成部材を使用して実現され得る。例えば板ばね部材は、明確に規定された弾性特性を備える極めて簡単な、しかしまた極めて確実で完成された機械部材であるからである。つまり、ラジアルばね部材は、テンション機構を形成するための極めて有効で確実な構成部材である。ラジアルばね部材を構成するためには、場合により単に1つの構成部材が必要であるだけに過ぎないからである。
【0017】
さらに、第2のステアリングギヤボックスは、構造的に少なくとも1つの寸法において、第1のステアリングギヤボックスよりも小さく形成されている、ということが考えられる。いわゆる「パワーパック」とも呼ばれる第2のステアリングギヤボックスは、機械的に車両ステアリングホイールとステアリングコラムとには結合されていないため、制御装置および/または調整装置を介してのみ制御される。よって、第2のステアリングギヤボックスでは、ステアリングコラムに機械的に結合するためのいくつかの構成部材が省かれてもよく、これにより、全体として第1のステアリングギヤボックスよりも小さく形成されていてもよい。その結果、特に軽量でコンパクトかつ効率的なステアリングシステムが提供され、このステアリングシステムは、2つのステアリングギヤボックスにもかかわらず、商用車製造では主に1つのステアリングギヤボックスに取り付けられる周知の電気的なステアリングシステムに比べ、重量が中立的であるかまたはそれどころかより軽量である。
【0018】
さらに、第2のステアリングギヤボックスは、構造的に少なくとも1つの寸法において、第1のステアリングギヤボックスより少なくとも約10%だけ、好適には少なくとも20%だけ、特に好適には少なくとも25%だけ小さく形成されている、ということが可能である。この構成空間の節約により、車両において別の構成群が、よりフレキシブルにかつ/またはより大きく設計され得る。車両、特に商用車における機能密度が、自律運転の背景に鑑みて引き続き連続して高まり、この場合、所要構成空間は、実質的に一定のままだからである。この点で、第2のステアリングギヤボックスをこのように縮小することにより目指す、ステアリングシステムの省スペース式の構成は、特に重要である。
【0019】
追加的に、第1のステアリングギヤボックスは、少なくとも1つの第1の電動モータに連結されており、第2のステアリングギヤボックスは、少なくとも1つの第2の電動モータに連結されている、ということが想定されていてもよい。この連結は、純粋な電気機械的なステアリングアシストの他に、第1および第2の電動モータにより、ステアリングシステムのアシスト機能、例えば車線保持アシスト、(部分)自律ステアリング、衝突アシストおよび/または風補償アシストが、第1および第2のステアリングギヤボックスを介して実現可能であるため、特に有利である。この場合、2つの電動モータは、車両またはステアリングシステムの1つの、特に中央の制御装置および/または調整装置に(例えばCANバス、LINバスおよび/またはイーサネットを介して)接続され得、同時に制御装置および/または調整装置は、アシストシステムにより必要とされるセンサが提供する信号を処理し、信号に応じて2つの電動モータを制御する。これにより、特に効率的で迅速かつ動的なステアリングシステムが提供されることになる。
【0020】
さらに、第2のステアリングギヤボックスは、第2の電動モータを介してのみ駆動可能である、ということが考えられる。さらに、第2の電動モータは、第1の電動モータから独立して、ステアリングシステムの制御装置および/または調整装置により制御可能である。これにより特に有利には、追加的な構成空間ならびにポンプ、弁、アクチュエータおよび導管等の効果な構成部材を含む追加的な液圧式のステアリングアシスト手段を省くことができる。さらに、ステアリングシステムの制御もしくは調整が簡単になる。第1および第2の電動モータを制御するだけで済み、これにより、ステアリング液圧システムの追加的で高価な制御もしくは調整を省くことができるからである。
【0021】
同様に、第1のステアリングギヤボックスは、第1のステアリングギヤボックスを少なくとも1つのステアリングコラムと車両ステアリングホイールとに連結することができる、少なくとも1つの機械的な直結駆動部を有している、ということも考えられる。これにより、ステアリングシステムに追加的な安全レベルが設けられる。最悪な場合、すなわち第1および第2の電動モータが故障した場合でさえ、車両はステアリングシステムを介して依然として機械的に、車両運転者により車両ステアリングホイールを介して安全に制御され得るからである。この場合、テンション機構は追加的に、第1のステアリングギヤボックスもしくはステアリング機構のステアリング動作を同時に第2のステアリングギヤボックスもしくは第2のステアリング機構に伝達する連動体として用いられ、これにより、1つの車軸の両方の車輪は依然として規定通りに操舵可能である。車軸は、車両もしくは商用車の前車軸であってもよい。しかしまた追加的または択一的に、後ろ車軸であってもよい。したがって、車両の安全性が、機械的な直結駆動部により高められ、車両が操舵不能な状況を回避することができる。
【0022】
本発明の更なる詳細および利点を、唯一の図面に示した1つの実施例に基づき、より詳しく説明する。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】唯一の
図1には、本発明によるステアリングシステムの1つの実施例の概略的な斜視図が示されている。
【0024】
つまり
図1には、車両(
図1には図示せず)用の、本発明によるステアリングシステム10が示されている。
【0025】
車両は、商用車として形成されている。
【0026】
ステアリングシステム10は、少なくとも1つの第1の車輪16を操舵するための第1のステアリングギヤボックス12と、第1のステアリング機構14とを有している。
【0027】
さらに、第1のステアリングギヤボックス12は、第1のステアリング機構14に連結されている。
【0028】
第1のステアリング機構14は、第1のステアリングロッド14aと、第2のステアリングロッド14bとを有しており、第1のステアリングロッド14aと第2のステアリングロッド14bとは、回り継手を介して互いに結合されている。
【0029】
さらに第2のステアリングロッド14bは、別の回り継手を介してタイロッド14cに連結されており、タイロッド14cもやはり、第1の車輪16を取り付けて支持するホイールキャリア14dに装着されている。
【0030】
第1のステアリングロッド14aもやはり、第1のステアリングギヤボックス12の出力軸に、相対回動不能に連結されている。
【0031】
よって、第1のステアリングギヤボックス12の出力軸の回動が、第1のステアリング機構14に伝達され、これにより、第1のステアリング機構14のタイロッド14cが旋回させられ、その結果、第1の車輪16のステアリング動作もしくは回動が生ぜしめられる。
【0032】
さらにステアリングシステムは、第2の車輪22を操舵するための第2のステアリングギヤボックス18と、第2のステアリング機構20とを有している。
【0033】
図1では、第2のステアリングギヤボックス18は、第2のステアリング機構20に連結されている。
【0034】
第2のステアリング機構20は、別の第1のステアリングロッド20aと、別の第2のステアリングロッド20bとを有しており、別の第1のステアリングロッド20aと別の第2のステアリングロッド20bとは、回り継手を介して互いに結合されている。
【0035】
さらに第2のステアリングロッド20bは、別の回り継手を介して別のタイロッド20cに連結されており、別のタイロッド20cもやはり、第2の車輪22を取り付けて支持するホイールキャリア20dに装着されている。
【0036】
別の第1のステアリングロッド20aは、第2のステアリングギヤボックス18の出力軸に、相対回動不能に連結されている。
【0037】
よって、第2のステアリングギヤボックス18の出力軸の回動が、第2のステアリング機構20に伝達され、タイロッド20cが旋回させられ、その結果、第2の車輪22のステアリング動作もしくは回動が生ぜしめられる。
【0038】
第1および第2のステアリングギヤボックス12,18は、それぞれ車両フレーム支持体に(例えば複数のねじ締結部を介して)取り付けられており、この場合、2つのステアリングギヤボックス12,18の出力軸は、それぞれ車両フレーム支持体を貫通して延びており、それぞれ第1のステアリングロッド14a,20aに相対回動不能に連結されている。
【0039】
第1および第2の車輪16,22もしくはステアリングシステム10は、本実施例では商用車の前車軸24に対応して配置されている。
【0040】
択一的または追加的に、第1および第2の車輪16,22もしくはステアリングシステム10は、商用車の後ろ車軸に対応して配置されていてもよい。
【0041】
さらにステアリングシステムは、第1のステアリングギヤボックス12と第2のステアリングギヤボックス18とに連結されたテンション機構26を有している。
【0042】
図1では、テンション機構は、弾性的に予荷重を加えることができかつ/または予荷重を加えられたテンションロッド、テンションバー、テンションスポーク、テンションパイプ、テンションビームまたはテンションバイスとして形成されていてもよい。
【0043】
前記連結は、第1のステアリングギヤボックス12と第2のステアリングギヤボックス18とに相対して予荷重を加えることができるように行われる。
【0044】
特に、第1のステアリングギヤボックス12と第2のステアリングギヤボックス18とに、停止状態において互いに反対の方向に相対して予荷重を加えることができる、ということが想定されていてもよい。
【0045】
よって、テンション機構26には、取付け状態において弾性的に予荷重を加えることができるかまたは予荷重が加えられていてもよい。
【0046】
さらに、テンション機構26は、第1のステアリング機構14と第2のステアリング機構20とに回転可能に取り付けられている。
【0047】
枢着は、
図1では各第2のステアリングロッド14b,20bと各タイロッド14c,20cとの間の回り継手において行われる。
【0048】
反対の方向に予荷重を加えるということは、第1のステアリング機構14と第2のステアリング機構20とを、各第2のステアリングロッド14b,20bと各タイロッド14c,20cとの間の回り継手において、ステアリングシステム10のステアリング遊びを相殺、調整もしくは解消する分だけ、テンション機構26により弾性的に押し離すことを意味する。
【0049】
この場合、両方の第2のステアリングロッド14b,20bに対する、両方のタイロッド14c,20cのとりわけ回り継手における間隔が増大し、これにより、ステアリング遊びが解消されることになる。
【0050】
しかもこれに関連して択一的に、反対の方向に予荷重を加えるということは、第1のステアリング機構14と第2のステアリング機構20とを、各第2のステアリングロッド14b,20bと各タイロッド14c,20cとの間の回り継手において、ステアリングシステム10のステアリング遊びを相殺、調整もしくは解消する分だけ、テンション機構26により弾性的に押し合わせることを意味する、ということが想定されていてもよい。
【0051】
この場合、両方の第2のステアリングロッド14b,20bに対する、両方のタイロッド14c,20cのとりわけ回り継手における間隔が縮小し、これにより、ステアリング遊びが解消されることになる。
【0052】
テンション機構26はさらに、長さ調整機構26aを有していてもよい。
【0053】
長さ調整機構26aは、例えば互いに軸線方向に移動可能な2つのリニアガイドにより形成されていてもよく、リニアガイドは、互いに所望の位置に(例えば1つまたは複数のねじ締結部を介して)取り付けられる。
【0054】
追加的または択一的に、テンション機構26は、テレスコープ機構を有していてもよい。
【0055】
テンション機構26はさらに、弾性的なばね部材(
図1には図示せず)を有していてもよい。
【0056】
弾性的なばね部材は、アキシャルばね部材として形成されていてもよい。
【0057】
この場合、アキシャルばね部材は、アキシャル圧縮ばね部材としてもしくはアキシャル引張りばね部材として形成されていてもよい。
【0058】
これに関連して、特にコイル圧縮ばね、ダイヤフラムばね、皿ばね、竹の子ばね、輪ばね、ガス圧縮ばねまたはオイル圧縮ばねが、アキシャル圧縮ばね部材として考えられる。
【0059】
さらにこれに関連して、特にコイル引張りばねと、アキシャル引張りばねにも適した、上述した別の全てのばね部材とが、アキシャル引張りばね部材として考えられる。
【0060】
弾性的なばね部材はさらに、追加的または択一的に、ラジアルばね部材として形成されていてもよい。
【0061】
この場合、特に板ばね部材または棒ばね部材が考えられる。
【0062】
図1では、第2のステアリングギヤボックス18は、構造的に少なくとも1つの寸法において、第1のステアリングギヤボックス12よりも小さく形成されている。
【0063】
第2のステアリングギヤボックス18は、特に構造的に1つの寸法において、第1のステアリングギヤボックス12より少なくとも約10%だけ小さく形成されている。
【0064】
ただし好適には、第2のステアリングギヤボックス18は、構造的に少なくとも1つの寸法において、第1のステアリングギヤボックス12より少なくとも20%だけ小さく形成されている。
【0065】
ただし特に好適には、第2のステアリングギヤボックス18は、構造的に少なくとも1つの寸法において、第1のステアリングギヤボックス12より少なくとも25%だけ小さく形成されている。
【0066】
この寸法は、
図1では例えば両方のステアリングギヤボックス12,18の長さである。
【0067】
ただし追加的または択一的に、この寸法は、両方のステアリングギヤボックス12,18の幅または高さである、ということも考えられる。
【0068】
さらに第2のステアリングギヤボックス18は、構造的に2つの寸法または3つの寸法において第1のステアリングギヤボックス12よりも小さく形成されていてもよい。
【0069】
さらに、第1のステアリングギヤボックス12は、第1の電動モータ28に連結されている。
【0070】
第1の電動モータ28は、第1のステアリングギヤボックス12にフランジ締結されており、内部でスピンドルまたはボールねじを駆動し、スピンドルまたはボールねじは、次いでその駆動トルクもしくはステアリングモーメントを第1の出力軸に伝達する。
【0071】
第1の出力軸もやはり、第1のステアリング機構14に連結されているため、出力軸の回転運動は、第1の車輪16のステアリング動作に変換される。
【0072】
第1のステアリングギヤボックス12はさらに、第1のステアリングギヤボックス12をステアリングコラム32と車両ステアリングホイール34とに連結することができる機械的な直結駆動部30を有している。
【0073】
機械的な直結駆動部30は、第1の電動モータ28と同様に、スピンドルまたはボールねじにも相対回動不能に結合されており、車両運転者により生ぜしめられる車両ステアリングホイール34の手動のステアリング動作により、ステアリングコラム32を介してスピンドルまたはボールねじを駆動する。
【0074】
図1ではさらに、第2のステアリングギヤボックス18も、第2の電動モータ36に連結されている。
【0075】
第2の電動モータ36は、第2のステアリングギヤボックス18にフランジ締結されており、内部で別のスピンドルまたはボールねじを駆動し、別のスピンドルまたはボールねじは、次いで駆動トルクもしくはステアリングモーメントを第2の出力軸に伝達する。
【0076】
第2の出力軸もやはり、第2のステアリング機構20に連結されているため、出力軸の回転運動は、第2の車輪22のステアリング動作に変換される。
【0077】
さらに
図1において明らかなように、第2のステアリングギヤボックス18は、第2の電動モータを介してのみ駆動可能である。
【0078】
つまり、第2のステアリングギヤボックス18は、機械的にステアリングコラム32もしくは車両ステアリングホイール34に連結されているのではなく、第2の電動モータ36によってのみ駆動されている。
【0079】
以下に、ステアリングシステム10の機能を説明する。
【0080】
車両運転者は、通常運転では、すなわちステアリングシステムの全てのコンポーネントが規定通りに機能している場合には、ステアリングシステム10を、車両ステアリングホイール34を介して制御する。
【0081】
車両運転者が車両ステアリングホイール34を回動させて制御すると、すなわち、目下の回転角度の相対変化が生ぜしめられると直ちに、この回動は、一方では機械的にステアリングコラム32を介して第1のステアリングギヤボックス12に伝達される。
【0082】
第1のステアリングギヤボックス12もやはり、ステアリングコラム32のこの回動を機械的に第1のステアリング機構14に伝達し、第1のステアリング機構14もやはり、車両ステアリングホイール34の回動に応じて第1の車輪16を規定通りに旋回もしくは回動させる。
【0083】
他方では、同時に回転角度センサがステアリングコラム32および/または車両ステアリングホイール34の回転角度と回転方向とを連続的に検出しており、これらの値をステアリングシステム10または商用車の制御装置および/または調整装置(
図1には図示せず)に伝達する。
【0084】
さらに、同時にトルクセンサがステアリングコラム32および/または車両ステアリングホイール34のステアリングモーメントを連続的に検出しており、これらの値を同様に制御装置および/または調整装置に伝達する。
【0085】
次いで、ステアリングコラム32および/または車両ステアリングホイール34の回転角度、回転方向およびステアリングモーメントに関するこれらの値に基づき、手動での機械的なステアリング動作との(システムの慣性による)最小の時間的なずれを伴って、第1および第2の電動モータ28,36が制御装置および/または調整装置により同時にかつ互いに独立して制御される。
【0086】
これにより、両方の電動モータ28,36は、互いに独立して、車両ステアリングホイール34を介した手動での機械的な制御に対して同時にもしくは同期して両方のステアリングギヤボックス12,18を制御することができ、これにより、ステアリングアシストを生ぜしめる。
【0087】
第1および第2のステアリングギヤボックス12,18に、第1および第2のステアリング機構14,20を介して予荷重を加えるテンション機構26により、第1のステアリングギヤボックス12と第2のステアリングギヤボックス18との間の遊びが調整される。
【0088】
第1および/または第2の電動モータ28,36が故障した場合には、第1のステアリング機構14のステアリング動作を第2のステアリング機構20に伝達しかつ反対に第2のステアリング機構20のステアリング動作を第1のステアリング機構14に伝達するために、テンション機構26が追加的に連動体として用いられる。
【0089】
唯一の電動モータ28,36だけが正常な場合でも、それでもなお、制御を保証することができる。2つの電動モータ28,36は互いに独立して制御され得るからである。
【符号の説明】
【0090】
10 ステアリングシステム
12 第1のステアリングギヤボックス
14 第1のステアリング機構
14a 第1のステアリングロッド
14b 第2のステアリングロッド
14c タイロッド
14d ホイールキャリア
16 第1の車輪
18 第2のステアリングギヤボックス
20 第2のステアリング機構
20a 第1のステアリングロッド
20b 第2のステアリングロッド
20c タイロッド
20d ホイールキャリア
22 第2の車輪
24 前車軸
26 テンション機構
26a 長さ調整機構
28 第1の電動モータ
30 機械的な直結駆動部
32 ステアリングコラム
34 車両ステアリングホイール
36 第2の電動モータ
【国際調査報告】