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特表2023-542728ユートロフィン調節エレメント内に変異を誘導することによる細胞におけるユートロフィン発現の増強、及びその治療的使用
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  • 特表-ユートロフィン調節エレメント内に変異を誘導することによる細胞におけるユートロフィン発現の増強、及びその治療的使用 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-10-11
(54)【発明の名称】ユートロフィン調節エレメント内に変異を誘導することによる細胞におけるユートロフィン発現の増強、及びその治療的使用
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/09 20060101AFI20231003BHJP
   C12N 15/31 20060101ALI20231003BHJP
   C12N 5/077 20100101ALI20231003BHJP
   C12N 15/55 20060101ALI20231003BHJP
   C12N 15/864 20060101ALI20231003BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20231003BHJP
   C12N 15/12 20060101ALI20231003BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20231003BHJP
   A61K 38/46 20060101ALI20231003BHJP
   A61K 31/7105 20060101ALI20231003BHJP
   A61K 35/76 20150101ALI20231003BHJP
   A61P 21/04 20060101ALI20231003BHJP
【FI】
C12N15/09 110
C12N15/31 ZNA
C12N5/077
C12N15/55
C12N15/864 100Z
C12N5/10
C12N15/12
A61K48/00
A61K38/46
A61K31/7105
A61K35/76
A61P21/04
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023519536
(86)(22)【出願日】2021-09-29
(85)【翻訳文提出日】2023-03-28
(86)【国際出願番号】 EP2021076882
(87)【国際公開番号】W WO2022069598
(87)【国際公開日】2022-04-07
(31)【優先権主張番号】20306112.2
(32)【優先日】2020-09-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】503197304
【氏名又は名称】ジェネトン
(71)【出願人】
【識別番号】503119487
【氏名又は名称】ユニヴェルシテ・デヴリ・ヴァル・デソンヌ
(71)【出願人】
【識別番号】507002516
【氏名又は名称】アンセルム(アンスティチュート・ナシオナル・ドゥ・ラ・サンテ・エ・ドゥ・ラ・ルシェルシュ・メディカル)
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】マリオ・アメンドラ
(72)【発明者】
【氏名】シモン・ギロー
【テーマコード(参考)】
4B065
4C084
4C086
4C087
【Fターム(参考)】
4B065AA93X
4B065AB01
4B065AC14
4B065AC20
4B065BA02
4B065CA24
4B065CA44
4C084AA02
4C084AA13
4C084DC22
4C084MA02
4C084NA14
4C084ZA94
4C086AA01
4C086AA02
4C086EA16
4C086MA01
4C086MA02
4C086MA04
4C086NA14
4C086ZA94
4C087AA01
4C087AA02
4C087BC83
4C087CA12
4C087MA02
4C087NA14
4C087ZA94
(57)【要約】
本発明は、遺伝子編集酵素を使用してユートロフィンリプレッサー結合部位を含む標的配列内に変異を誘導することによる細胞におけるユートロフィン発現を増強するための組成物、及びジストロフィン異常症の処置のためのその使用に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞におけるユートロフィン発現を増強するための方法であって、Ets-2-リプレッサー因子(ERF)結合部位、ホメオボックスタンパク質engrailed-1(EN1)結合部位2、Let7c結合部位及びmiR-196b結合部位からなる群から選択されるユートロフィン遺伝子の少なくとも1つのリプレッサー結合部位を含む標的配列内に部位特異的変異を誘導することができる少なくとも1つの遺伝子編集酵素を含む組成物を細胞に導入する工程を含み、前記変異が、リプレッサー結合部位配列全体を欠失することなく、リプレッサー結合部位を破壊する、方法。
【請求項2】
前記リプレッサー結合部位が、配列CGGAAからなるERF結合部位、配列GTAGTGGからなるEN1結合部位2、配列番号1からなるLet7c結合部位、及び配列番号2の配列からなるmiR-196b結合部位からなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記リプレッサー結合部位が、Let7c結合部位である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記遺伝子編集酵素が、部位特異的ヌクレアーゼ、塩基エディター及びプライムエディターからなる群から選択される、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記遺伝子編集酵素が、ユートロフィンリプレッサー結合部位を含む前記標的配列に対する相補配列を含むガイドRNAを含むCRISPR/Cas遺伝子編集酵素である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記gRNAが、配列番号3~17及び25からなる群から選択される、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記組成物が、配列特異的ヌクレアーゼである少なくとも2つの遺伝子編集酵素を含み、第1の配列特異的ヌクレアーゼが、標的配列内で第1の部位特異的変異事象を誘導し、第1の変異事象が修復されたら、第2の配列特異的ヌクレアーゼを使用して、標的配列内で第2の部位特異的変異事象を誘導するような方法で、前記ヌクレアーゼが連続的に使用される、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
配列CGGAAからなるEts-2-リプレッサー因子(ERF)結合部位、配列GTAGTGGからなるホメオボックスタンパク質engrailed-1(EN1)結合部位2、配列番号1からなるLet7c結合部位及び配列番号2からなるmiR-196b結合部位からなる群から選択されるユートロフィン遺伝子のリプレッサー結合部位を含む標的配列内に部位特異的変異を誘導することができる少なくとも1つの遺伝子編集酵素を含む、ユートロフィン発現を増強するための組成物であって、変異が、リプレッサー結合部位配列全体を欠失することなく、リプレッサー結合部位を破壊する、組成物。
【請求項9】
ユートロフィン遺伝子のリプレッサー結合部位が、配列番号1からなるLet7c結合部位である、請求項8に記載の組成物。
【請求項10】
前記遺伝子編集酵素が、ユートロフィンリプレッサー結合部位を含む前記標的配列に対する相補配列を含むガイドRNAを含むCRISPR/Cas遺伝子編集酵素である、請求項8又は9に記載の組成物。
【請求項11】
前記ガイドRNAが、配列番号3~17及び25からなる群から選択される配列を含む、請求項10に記載の組成物。
【請求項12】
前記遺伝子編集酵素が、核酸構築物によってコードされる、請求項8~11のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項13】
前記核酸構築物が、ウイルスベクター、より好ましくは、AAVベクターに含まれている、請求項12に記載の組成物。
【請求項14】
請求項8~13のいずれか一項に記載の組成物、及び医薬賦形剤を含む医薬組成物。
【請求項15】
ジストロフィン異常症、好ましくは、デュシェンヌ型筋ジストロフィー、ベッカー型筋ジストロフィー又はX連鎖性拡張型心筋症の処置における使用のための、請求項8~13のいずれか一項に記載の組成物及び請求項14に記載の医薬組成物。
【請求項16】
Ets-2-リプレッサー因子(ERF)結合部位、ホメオボックスタンパク質engrailed-1(EN1)結合部位2、Let7c結合部位及びmiR-196b結合部位からなる群から選択されるユートロフィン遺伝子のリプレッサー結合部位を含む少なくとも1つの標的配列内に部位特異的変異を含む操作された細胞であって、変異が、リプレッサー結合部位配列全体を欠失することなく、リプレッサー結合部位を破壊する、操作された細胞。
【請求項17】
前記リプレッサー結合部位が、配列CGGAAからなるEts-2-リプレッサー因子(ERF)結合部位、配列GTAGTGGからなるホメオボックスタンパク質engrailed-1(EN1)結合部位2、配列番号1からなるLet7c結合部位及び配列番号2からなるmiR-196bからなる群から選択される、請求項16に記載の操作された細胞。
【請求項18】
ユートロフィン遺伝子の前記リプレッサー結合部位が、Let7c結合部位である、請求項16又は17に記載の操作された細胞。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遺伝子編集酵素を使用してユートロフィン調節エレメントを含む標的配列内に変異を誘導することによる細胞におけるユートロフィン発現を増強するための組成物に関する。本発明は、ジストロフィン異常症の処置のためのその治療的使用にも関する。
【背景技術】
【0002】
デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)は、ジストロフィン遺伝子における変異によって引き起こされる致死的なX連鎖性神経筋障害である。この疾患は、新生児男性5000人に1人に影響を及ぼし、ヒト集団における最も一般的な劣性障害の1つである。ジストロフィンタンパク質の非存在下において、細胞骨格及び細胞外マトリックスの間の連結が損なわれ、筋肉の強度、柔軟性及び安定性の喪失をもたらす。DMD患者は、12歳までに車椅子に制限され、通常、心肺不全に起因して、その人生の20年から40年で死亡する。かなりの発展が、遺伝子に基づく戦略、細胞に基づく戦略及び薬理学的戦略においてなされたが、現在のところ、DMDに対する有効な処置は存在しない。
【0003】
遺伝子に基づく戦略の中で、エクソンスキッピング及び終止コドンリードスルーは、限定的な有効性を示し、DMD患者の特異的なサブセットにのみ適用可能である。エクソンスキッピングの使用は、一般に、スプライスエンハンサー部位を阻害して、特定のエクソンがスプライシングに関与するのを防止する合成アンチセンスオリゴヌクレオチドの使用を指す(Mann CJら Proc Natl Acad Sci U S A. 2001年1月2日; 98(1):42~7頁)。エクソンスキッピングアプローチは、リーディングフレームが欠失に隣接する追加のエクソンをスキッピングすることによって修復され得る欠失を有し得るある特定の患者においてのみ使用することができる(Perry B Shieh, Neurotherapeutics. 2018年10月;15(4):840~848頁)。組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)及びマイクロジストロフィンを使用する遺伝子治療は、現在、最も有望なアプローチである(Sakamoto Mら、Biochem Biophys Res Commun. 2002年5月17日; 293 (4): 1265~72頁を参照されたい)が、処置の安全性及び有効性は依然として評価されている。更にまた、このアプローチは、短縮ジストロフィン及び部分的に機能的なジストロフィンを送達し、全長ジストロフィンの利益を再現しない。
【0004】
全てのDMD患者、及び潜在的にはベッカー型患者にも適用可能な代替の治療アプローチは、患者の遺伝的欠陥に関わりなく、DMDにおける主要な欠陥を相殺することができるジストロフィンの構造的及び機能的パラログであるユートロフィンを上方調節することからなる。以前の研究は、ユートロフィンレベルの3倍の増加が、任意の毒性作用なく、異なるDMDの動物モデルにおいてジストロフィンの病態生理をレスキューすることを実証した。遺伝子、mRNA及びタンパク質レベルでユートロフィン発現を上方調節するいくつかの機構が以前に記載された。例えば、WO2015/018503において、ユートロフィン発現の増加を可能にするジンクフィンガータンパク質に融合された転写活性化エレメントを含む融合タンパク質をコードする遺伝子を含む組換えアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターが開示されている。同じ様式で、デュアルAAV系が、転写活性化ドメインに融合された非活性化ヌクレアーゼ活性を有するCas9(dCas9)の組み合わせを使用して開発された。AAV-dCas9とAAV-gRNA標的化ユートロフィンの共注射は、DMDのmdxマウスモデルにおいて、筋ジストロフィー症状を改善することを可能にする(Liao H.ら、Cell. 2017年12月14日; 171(7): 1495~507頁を参照されたい)。類似のアプローチは、WO2020/101042に開示されている。
【0005】
別のアプローチは、ユートロフィン発現を上方調節するユートロフィンリプレッサーエレメントを標的にすることであった。実際に、5'UTR/プロモーター-エンハンサー領域において、いくつかのユートロフィントランスリプレッサーが特定されている(例えば、EN1、EN2及びEts-2)。ユートロフィンは、3'UTR領域において、いくつかのmiRNA(例えば、Let7c、miR-206)及びシス-AUリッチリプレッサー配列による抑制の対象でもある。最近、ユートロフィンmRNAにおけるlet7 miR結合部位を遮断する2'-O-メチルオリゴヌクレオチドが、マウス筋芽細胞及びDMDのmdxマウスモデルにおいて、それぞれ、2倍及び3倍、ユートロフィンタンパク質発現を上方調節することが示された(WO2019/183005)。ユートロフィンの上方調節は、有意な組織学的改善及び機能改善に関連した(Mishraら、PLoS One. 2017年、12(10):e0182676)。C2C12細胞におけるアンチセンス配列を使用するmiRNAの阻害もWO2009/134710に記載されている。しかしながら、これらのアプローチは、ユートロフィン発現を活性化するために導入遺伝子の持続的発現を必要とし、ユートロフィンの上方調節を誘導する妊娠中の改変が永久的である戦略を開発する必要性が残されている。
【0006】
最近、CRISPR/Cas9に基づくアプローチが、miRNA結合部位を含むユートロフィン(UTRN)遺伝子の3'UTR領域を欠失させるために、不死化ヒト筋芽細胞において、インビトロで使用された(Soblechero-Martinら、2020年、bioRχiv 印刷前; doi.org/10.1101/2020.02.24.962316; Kasturi Senguptaら、Molecular therapy: Nucleic Acids、2020年、22頁)。調節エレメントの完全な領域の欠失は、mRNAの不安定性、及び最終的な副作用を誘発するユートロフィンの異所性発現を誘導し得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】WO2015/018503
【特許文献2】WO2020/101042
【特許文献3】WO2019/183005
【特許文献4】WO2009/134710
【特許文献5】米国特許第5,173,414号
【特許文献6】米国特許第5,139,941号
【特許文献7】WO92/01070
【特許文献8】WO93/03769
【特許文献9】WO2019/193119
【特許文献10】WO2007/069666
【特許文献11】WO2008/118820
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Mann CJら Proc Natl Acad Sci U S A. 2001年1月2日; 98(1):42~7頁
【非特許文献2】Perry B Shieh, Neurotherapeutics. 2018年10月;15(4):840~848頁
【非特許文献3】Sakamoto Mら、Biochem Biophys Res Commun. 2002年5月17日; 293 (4): 1265~72頁
【非特許文献4】Liao H.ら、Cell. 2017年12月14日; 171(7): 1495~507頁
【非特許文献5】Mishraら、PLoS One. 2017年、12(10):e0182676
【非特許文献6】Soblechero-Martinら、2020年、bioRχiv 印刷前; doi.org/10.1101/2020.02.24.962316
【非特許文献7】Kasturi Senguptaら、Molecular therapy: Nucleic Acids、2020年、22頁
【非特許文献8】Amirouche A.ら Hum. Mol. Genet. 2013年、22(15):3093~3111頁
【非特許文献9】Gramolini A. O.ら J. cell. Biol. 2001年、154:1173~83頁
【非特許文献10】Liら、Nature Signal transduction and targeted Therapy、5、2020年
【非特許文献11】Guhaら、Computational and Structural Biotechnology Journal、2017年、15、146~160頁
【非特許文献12】Chakrabartiら、Molecular Cell, 2019年、73, 699~713頁
【非特許文献13】Kurganら、Molecular Therapy: Methods & Clinical Development; 2021年、21、478~491頁
【非特許文献14】Liyang Zhangら、Nature Communications、2021年、doi: 10.1038
【非特許文献15】Allenら、Front. Genome Ed.、2021年1月28日、doi: 10.3389
【非特許文献16】Komorら、Nature 533、420~424頁、doi:10.1038/nature17946
【非特許文献17】Rees HA、Liu DR. Nat Rev Genet. 2018年12月;19(12):770~788頁
【非特許文献18】Anzalone AV.ら Nature、2019年、576:149~157頁、
【非特許文献19】Matsoukas IG. Front Genet. 2020年; 11: 528頁
【非特許文献20】Kantor Aら Int. J. Mol. Sci. 2020年、21(6240頁)
【非特許文献21】Berns及びBohenzky、1987年、Advances in Virus Research (Academic Press, Inc.) 32:243~307頁
【非特許文献22】Muzyczka, N. 1992年 Current Topics in Microbiol. and Immunol. 158:97~129頁
【非特許文献23】Lebkowskiら(1988年) Molec. Cell. Biol. 8:3988~3996頁
【非特許文献24】Vincentら(1990年) Vaccines 90 (Cold Spring Harbor Laboratory Press)
【非特許文献25】Carter, B. J. (1992年) Current Opinion in Biotechnology 3:533~539頁
【非特許文献26】Kotin, R. M. (1994年) Human Gene Therapy 5:793~801頁
【非特許文献27】Bunning Hら J Gene Med, 2008年; 10: 717~733頁
【非特許文献28】Paulkら Mol ther. 2018年; 26(1):289~303頁
【非特許文献29】Wang Lら Mol Ther. 2015年; 23(12):1877~87頁
【非特許文献30】Vercauterenら Mol Ther. 2016年; 24(6):1042~1049頁
【非特許文献31】Zinn Eら、Cell Rep. 2015年; 12(6):1056~68頁
【非特許文献32】Darras BT、Miller DT、Urion DK. Dystrophinopathies. 2000年9月5日[2014年11月26日更新].
【非特許文献33】Pagon RA、Adam MP、Ardinger HHら編. GeneReviews(登録商標) [インターネット]. Seattle (WA): University of Washington, Seattle; 1993-2017. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK1119/
【非特許文献34】Doenchら 2016年、Nat. Biotechnol. 34(2):184~191頁
【非特許文献35】Hsuら 2013年、Nat Biotechnol. 2013年9月;31(9):827~32頁
【非特許文献36】Brinkmanら 2014年、NAR 41(12):168頁
【非特許文献37】Guiraudら、HMG. 2015年
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、ユートロフィンの転写及び翻訳をそれぞれ抑制解除し、したがって、ユートロフィンレベルを上方調節するために、ユートロフィンプロモーターにおけるリプレッサードメインを破壊するか、又はmiR若しくは他のRNA不安定エレメントの結合部位を撹乱するCRISPR-Cas系等の遺伝子編集酵素を使用するDMDのための新規のユートロフィン上方調節に基づく治療戦略を開発した。エクソンスキッピング/オリゴヌクレオチド等の以前の方法に反して、この戦略は、DNAレベルで作用し、したがって、予想される改変は永久的であろう。調節エレメントの完全な領域の欠失とは対照的に、本発明者らは、ここで、CRISPR/Cas等の遺伝子編集酵素を単一ガイドRNAと共に使用して、標的配列内に正確に変異を誘導した。調節エレメントの欠失とは対照的に、本明細書において使用される方法は、標的リプレッサー結合部位に隣接する調節エレメントの安定性を維持し、副作用を低減することを可能にする。また、重要な結合部位を欠く短縮タンパク質に基づく従来の遺伝子治療と比較して、内因性ユートロフィンを上方調節する特異的標的化戦略は、より良好な治療的及び免疫学的可能性を有する全長ユートロフィンを生じるであろう。この戦略を使用して、本発明者らは、特に、Let7c結合部位、miR-196b結合部位、ERF結合部位及びEN1結合部位2の特異的破壊が、他のリプレッサー結合部位と比較して、ユートロフィン発現を効率的に増加させることを可能にすることを示した。驚くべきことに、単一のリプレッサー結合部位、特に、Let7c結合部位の特異的破壊は、リプレッサー結合部位のクラスターを含むリプレッサー結合部位の完全な領域の欠失と同じぐらい効率的にユートロフィン発現を増加させた。DMDのmdxマウスモデルにおいて、Cas9を発現するrAAV、及びLet7c結合部位を標的にする単一gRNAを発現するrAAVの共投与は、対照と比較して、筋肉の構造及び組織学を改善した。これは、ジストロフィン異常症の処置のための新たな展望を開く。
【0010】
本発明は、細胞におけるユートロフィン発現を増強するための方法であって、Ets-2-リプレッサー因子(ERF)結合部位、好ましくは配列CGGAAからなるEts-2-リプレッサー因子(ERF)結合部位、ホメオボックスタンパク質engrailed-1(EN1)結合部位2、好ましくはGTAGTGGからなるホメオボックスタンパク質engrailed-1(EN1)結合部位2、Let7c結合部位、好ましくは配列番号1からなるLet7c結合部位、及びmiR-196b結合部位、好ましくは配列番号2からなるmiR-196b結合部位からなる群から選択されるユートロフィン遺伝子のリプレッサー結合部位を含む標的配列内に配列特異的変異を誘導することができる少なくとも1つの遺伝子編集酵素を含む組成物を細胞に導入する工程を含み、変異が、リプレッサー結合部位配列全体を欠失することなく、リプレッサー結合部位を破壊する、方法に関する。
【0011】
特定の実施形態において、前記遺伝子編集酵素は、部位特異的ヌクレアーゼ、塩基エディター及びプライムエディター、より具体的には、ユートロフィン抑制結合部位を含む前記標的配列に対する相補配列を含むガイドRNAを含むCRISPR/Cas遺伝子編集酵素である。好ましい実施形態において、前記gRNAは、配列番号3~17及び25からなる群から選択される配列を含む。
【0012】
特定の実施形態において、前記組成物が、配列特異的ヌクレアーゼである少なくとも2つの遺伝子編集酵素を含む場合、第1の配列特異的ヌクレアーゼが、標的配列内で第1の部位特異的変異事象を誘導し、第1の変異事象が修復されたら、第2の配列特異的ヌクレアーゼを使用して、標的配列内で第2の部位特異的変異事象を誘導するような方法で、前記ヌクレアーゼは連続的に使用される。
【0013】
別の態様において、本発明は、Ets-2-リプレッサー因子(ERF)結合部位、好ましくは配列CGGAAからなるEts-2-リプレッサー因子(ERF)結合部位、ホメオボックスタンパク質engrailed-1(EN1)結合部位2、好ましくは配列GTAGTGGからなるホメオボックスタンパク質engrailed-1(EN1)結合部位2、Let7c結合部位、好ましくは配列番号1からなるLet7c結合部位、及びmiR-196b結合部位、好ましくは配列番号2からなるmiR-196b結合部位からなる群から選択されるユートロフィン遺伝子の少なくとも1つのリプレッサー結合部位を含む標的配列内に部位特異的変異を誘導することができる少なくとも1つの遺伝子編集酵素を含む、ユートロフィン発現を増強するための組成物であって、変異が、リプレッサー結合部位配列全体を欠失することなく、リプレッサー結合部位を破壊する、組成物に関する。一部の好ましい実施形態において、ユートロフィン遺伝子のリプレッサー結合部位は、Let7c結合部位、好ましくは配列番号1からなるLet7c結合部位である。
【0014】
特定の実施形態において、前記組成物は、前記ユートロフィン抑制結合部位を含む前記標的配列に対する相補配列を含むガイドRNAを含むCRISPR/Cas遺伝子編集酵素を含む。好ましい実施形態において、前記gRNAは、配列番号3~17及び25からなる群から選択される配列を含む。
【0015】
特定の実施形態において、前記遺伝子編集酵素は、核酸構築物、好ましくは、ウイルスベクター、より好ましくは、AAVベクターに含まれる核酸構築物によってコードされる。
【0016】
好ましい実施形態において、本発明は、ジストロフィン異常症、好ましくは、デュシェンヌ型筋ジストロフィー、ベッカー型筋ジストロフィー又はX連鎖性拡張型心筋症の処置における使用のための上記に記載される組成物に関する。
【0017】
別の態様において、本発明は、上記に記載される組成物及び医薬賦形剤を含む医薬組成物、並びにジストロフィン異常症、好ましくは、デュシェンヌ型筋ジストロフィー、ベッカー型筋ジストロフィー又はX連鎖性拡張型心筋症の処置におけるその使用に関する。
【0018】
別の態様において、本発明は、Let7c結合部位、miR-196b結合部位、ERF結合部位又は/及びEN1結合部位2からなる群から選択されるユートロフィン遺伝子のリプレッサー結合部位、好ましくは、Let7c結合部位を含む少なくとも1つの標的配列内に部位特異的変異を含む操作された細胞であって、変異が、リプレッサー結合部位配列全体を欠失することなく、リプレッサー結合部位を破壊する、操作された細胞、及びジストロフィン異常症、より好ましくは、デュシェンヌ型筋ジストロフィー、ベッカー型筋ジストロフィー又はX連鎖性拡張型心筋症の処置におけるその使用に関する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】関連するプロモーター及び重要なリプレッサードメインを有するユートロフィン遺伝子の概略組織。ユートロフィンAプロモーターは、5'末端でCpGリッチであり、シナプス発現を制御するEボックス及びNボックスモチーフを含有する。Ets-2リプレッサー因子は、Nボックスを通じてシナプス外ユートロフィン発現をサイレンシングし、EN1は、ユートロフィン発現を阻害することもできる。ユートロフィンの3'UTRにおいて、いくつかのmiRは、転写後にユートロフィン発現を抑制する。エクソン(エクソン数を伴う灰色ボックス)及びイントロン領域(黒色線)、イントロンエンハンサー(ユートロフィンのためのDUE)、ユートロフィンの非翻訳第1エクソン1Aが規定される。矢印は、転写開始部位を示す。
図2】ユートロフィンリプレッサー結合部位を標的にするCas9-RNP-sgRNAによる処置後のユートロフィンA発現の増強。ヒトDMD筋芽細胞を、Cas9-RNP、及びLet7c、miR-196b、miR150/133b/296-5p(II)又はERBの結合部位(ERF結合部位)を標的にするsgRNAに48時間曝露した(3回の生物学的反復)。ユートロフィン転写物をgapdhで正規化した。値は、条件あたりn=3の平均±SEMである;*P<0.05、**P<0.01、***P<0.001。
図3】ユートロフィンのレポーター系及び3'UTRバリアント。特異的欠失領域を有するいくつかの3'UTR構築物を合成し、デュアルレポータープラスミドpEZX-GA02において、Gaussiaルシフェラーゼ遺伝子の下流に挿入した。ヌクレオチド位置を右に表す。
図4】特異的3'UTRバリアントによるレポーター遺伝子発現。全てのpEZX-GA02-3'UTR構築物を、hDMD D52筋芽細胞においてトランスフェクトした。48時間後、Gaussiaルシフェラーゼレベルを測定し、SEAP発現によって正規化した。n=3/群;C1-全長に対して、*P<0.05、**P<0.01、***P<0.01。データは、平均±SEMとして表す。
図5】sgRNA-Cas9処置後のユートロフィンタンパク質発現。SpCas9及びhEN1、hERB又はhLet7c1ガイドで処置されたヒトDMD D52筋芽細胞における相対ユートロフィンタンパク質発現を、ウエスタンブロットによって決定し、α-アクチニンローディングについて標準化した。相対ユートロフィン発現を、条件あたりn=2の平均±SEMとして示す。
図6】hDMD D52筋芽細胞におけるsgRNA-Cas9処置後のユートロフィンmRNA発現。SpCas9-gRNAによる処置の5日後のhDMD D52筋芽細胞における相対ユートロフィンA mRNAレベル。ユートロフィン転写物をgapdhで正規化した。値は、条件あたりn=3の平均±SEMである;*P<0.05、**P<0.01、***P<0.001。インデルのパーセンテージを示す。
図7】C2C12筋芽細胞におけるsgRNA-Cas9処置後のユートロフィンmRNA発現。SpCas9-gRNAによる処置の5日後のC2C12筋芽細胞における相対ユートロフィンA mRNAレベル。ユートロフィン転写物をgapdhで正規化した。値は、条件あたりn=2の平均±SEMである。
図8】sgRNA-Cas9処置後のユートロフィンタンパク質発現。SpCas9並びにmLet7c2及びhLet7c2ガイドで処置された健康なマウスのC2C12筋芽細胞における相対ユートロフィンタンパク質発現を、ウエスタンブロットによって決定し、チューブリンローディングについて標準化した。相対ユートロフィン発現を、条件あたりn=2の平均±SEMとして示す。
図9】hDMD D52筋芽細胞におけるsgRNA-Cas9処置後のユートロフィンmRNA発現。SpCas9-hLet7c2又はSpCas9-mLet7c2による処置の5日後の相対ユートロフィンA mRNAレベル。異なるcas9:gRNA比を、異なるエンハンサー濃度と同様に使用した。初期条件:1:2のcas9:gRNA比;1倍のエンハンサー濃度。最適化された条件:1:5のcas9:gRNA比;5倍のエンハンサー濃度。ユートロフィン転写物をgapdhで正規化した。値は、条件あたりn=3の平均±SEMである;*P<0.05、**P<0.01、***P<0.001。
図10】mdxマウスにおけるrAAV-mLet7c2/rAAV-SpCas9処置のインビボ評価。(A)rAAV-Rosa26/rAAV-SpCas9(対照)又はrAAV-mLet7c2/rAAV-SpCas9で処置されたmdx TA組織における相対ユートロフィンタンパク質発現を、ウエスタンブロットによって決定し、α-アクチニンローディングについて標準化した。相対ユートロフィン発現を、条件あたりn=3の平均±SEMとして示す。(B)rAAV-mLet7c2/rAAV-SpCas9又はrAAV-Rosa26/rAAV-SpCas9(対照)の1E12vg総用量で5週間処置された9週齢のmdxマウスのTA筋におけるユートロフィンについての免疫蛍光染色。横断面を、抗ユートロフィンモノクローナル抗体SC-33700及び抗マウス二次抗体で染色した。倍率:20倍。(C)壊死領域(黒色星)及び再生線維(黒色矢印)を示す、対照対rAAV-mLet7c2/rAAV-SpCas9処置mdxマウスにおけるTA筋(9週齢)のヘマトキシリン-エオシン染色横筋切片。倍率:20倍。(D)rAAV-Rosa26/rAAV-SpCas9(対照)及びrAAV-mLet7c2/rAAV-SpCas9処置の横筋切片(C)における中心核形成及び壊死/炎症の定量化。値は、群あたりn=3の平均±SEMである;*P<0.05。
【発明を実施するための形態】
【0020】
細胞においてユートロフィン発現を増強するための組成物
ユートロフィン発現は、ユートロフィン遺伝子に隣接するいくつかの調節エレメントによって制御される(図1)。例えば、3'UTRにおけるAUリッチエレメントは、mRNA安定性をモジュレートする。調節エレメントの欠失は、mRNAの不安定性を誘導し得、ユートロフィン遺伝子の異所性発現を誘導する。調節エレメントの完全な領域の欠失とは対照的に、本発明者らは、ここで、標的配列内で正確に部位特異的変異を誘導する遺伝子編集酵素を使用し、調節エレメントの欠失とは対照的に、本明細書において使用される方法は、標的リプレッサー領域に隣接する調節エレメントとの安定性を維持することを可能にし、副作用を低減する。また、臨床態様のために、ユートロフィンリプレッサー結合部位を含む標的配列内に部位特異的変異を誘導する本方法は、調節エレメントの欠失を誘導する先行技術の方法と比較して、1)より容易な送達;2)予想される改変のより高い効率;3)オフターゲット、染色体転座及び異常のより低いリスク;4)細胞あたりでより低い毒性ゲノム二本鎖破壊をもたらす。この戦略を使用して、本発明者らは、特に、Let7c結合部位、miR-196b結合部位、ERF結合部位及びEN1結合部位2の特異的破壊が、他のリプレッサー結合部位と比較して、ユートロフィン発現を効率的に増加させることを可能にすることを示した(図2及び6)。驚くべきことに、単一のリプレッサー結合部位、特に、Let7c結合部位の特異的破壊は、リプレッサー結合部位のクラスターを含むリプレッサー結合部位の完全な領域の欠失と同じぐらい効率的にユートロフィン発現を増加させた(図4)。
【0021】
そのため、本開示は、細胞におけるユートロフィン発現を増強するための方法であって、Ets-2-リプレッサー因子(ERF)結合部位、ホメオボックスタンパク質engrailed-1(EN1)結合部位2、Let7c結合部位及びmiR-196b結合部位からなる群から選択されるユートロフィン遺伝子の少なくとも1つのリプレッサー結合部位を含む標的配列内に部位特異的変異を誘導することができる少なくとも1つの遺伝子編集酵素を含む組成物を細胞に導入する工程を含み、前記部位特異的変異が、リプレッサー結合部位配列全体を欠失することなく、リプレッサー結合を破壊する、方法に関する。
【0022】
本開示は、Ets-2-リプレッサー因子(ERF)結合部位、ホメオボックスタンパク質engrailed-1(EN1)結合部位2、Let7c結合部位及びmiR196b結合部位からなる群から選択されるユートロフィン遺伝子のリプレッサー結合部位を含む標的配列内に部位特異的変異を誘導することができる遺伝子編集酵素を含む、細胞におけるユートロフィン発現を増強するための組成物であって、変異が、リプレッサー結合部位配列全体を欠失することなく、リプレッサー結合部位を破壊する、組成物にも関する。これらの特異的標的配列に導入される変異は、ユートロフィン(UTRN)遺伝子又はmRNAにおけるリプレッサー結合を阻害し、その後、UTRN発現が増加する。
【0023】
本明細書において使用される場合、「リプレッサー結合部位を破壊する部位特異的変異」は、リプレッサー結合部位配列全体を欠失することなく、リプレッサー結合部位配列の一部分を改変する変異を指す。リプレッサー結合部位を破壊する変異は、ユートロフィン遺伝子又はmRNAにおいてリプレッサー結合を阻害する方法で、結合部位を変化させる。本明細書において使用される場合、「阻害する」は、部分的な又は全体的な阻害を指す。ユートロフィン遺伝子又はmRNAにおけるリプレッサー結合の阻害は、ユートロフィン発現の増加を誘導する。
【0024】
ヒトユートロフィン(UTRN)遺伝子(遺伝子ID:7402;Ensembl:ENSG00000152818 MIM:128240)は、6番染色体にあり、およそ900kbに及ぶ複数の小さなエクソン、及び2つのエクソンから構成される長い5'非翻訳領域を含む。ユートロフィンmRNAは、2つの全長種(A-及びB-ユートロフィンと名付けられる)を含有し、これらは、異なる初期エクソンを有し、異なるプロモーターから転写される。これらの転写物から生じる予測されるタンパク質配列は、それぞれ、31及び26アミノ酸の固有のセクションを有するそれらのN末端で異なる。それ故に、ユートロフィンは、A-及びB-ユートロフィンの複合体であり、A-ユートロフィンのみが、ジストロフィン欠乏横紋筋において上方調節される。UTRN遺伝子は、チンパンジー、アカゲザル、イヌ、ウシ、マウス、ラット、ニワトリ、ゼブラフィッシュ、及びカエルにおいて保存されている。ヒトUTRNオルソログは、多くの生物において見出されている。
【0025】
本明細書において使用される場合、単数形の「a」、「an」及び「the」は、文脈が明確に他を指示しない限り、単数及び複数の指示対象の両方を含む。
【0026】
ユートロフィン発現の調節は複雑である。とはいえ、いくつかの上方調節エレメントが、プロモーターにおいて特定されており、ユートロフィンmRNAも、その5'-及び3'-UTR領域によって媒介される転写又は翻訳抑制に付される。本明細書においてユートロフィンリプレッサー結合部位と呼ばれる、成体筋肉におけるユートロフィン発現の抑制に関与するいくつかの調節配列が特定されている。ユートロフィンリプレッサー結合部位は、非限定的な例として、Amirouche A.ら Hum. Mol. Genet. 2013年、22(15):3093~3111頁及びGramolini A. O.ら J. cell. Biol. 2001年、154:1173~83頁に記載されるAUリッチエレメント(ARE)等のユートロフィン遺伝子の3'-UTR領域内の配列、或いはmiRNAによって、好ましくはlet7c、miR-296-5p(I)、miR206及びmiR-196b結合部位によって標的にされる配列、或いはN/ボックス-EBS部位とも名付けられたEts-2-リプレッサー因子(ERF)結合部位、又はホメオボックスタンパク質engrailed-1(EN1)に対する結合部位1若しくは2等のユートロフィン遺伝子の5'UTR/プロモーター-エンハンサー領域内の配列を含む。
【0027】
本発明者らは、Let7c結合部位、miR-196b結合部位、ERF結合部位及びEN1結合部位2からなる群から選択される特異的リプレッサー結合部位の破壊が、ユートロフィン発現を増加させるのに有効であることを示した。
【0028】
好ましい実施形態において、前記リプレッサー結合部位は、6番染色体のGRCh38.p13(ゲノム参照コンソーシアム(2019年3月)、参照配列CGF_000001405.39)の144,850,989~144,853,034位に局在化したユートロフィン遺伝子の3'UTR配列にあってもよく、前記リプレッサー結合部位は、配列番号1のLet7c結合部位(6番染色体のGRCh38.p13(ゲノム参照コンソーシアム(2019年3月)、参照配列CGF_000001405.39の144,852,607~144,852,626位)、又は配列番号2のmiR-196b結合部位である。
【0029】
別の好ましい実施形態において、前記リプレッサー結合部位は、6番染色体のGRCh38.p13(ゲノム参照コンソーシアム(2019年3月)、参照配列CGF_000001405.39)の144,291,829で開始するユートロフィンAエクソン1の上流に局在化したユートロフィン遺伝子の5'UTR配列にあってもよく、前記リプレッサー結合部位は、配列CGGAAからなる6番染色体のGRCh38.p13(ゲノム参照コンソーシアム(2019年3月)、参照配列CGF_000001405.39)の144,285,022~144,285,026に局在化した、N/ボックス-EBS部位とも名付けられたEts-2 リプレッサー(ERF)因子結合部位、又は配列GTAGTGGからなる6番染色体のGRCh38.p13(ゲノム参照コンソーシアム(2019年3月)、参照配列CGF_000001405.39)の144,285,004~144,285,010に局在化したホメオボックスタンパク質engrailed-1(EN1)結合部位2である。
【0030】
一部の好ましい実施形態において、前記リプレッサー結合部位は、Let7c結合部位、好ましくは配列番号1からなるLet7c結合部位である。
【0031】
有利には、ユートロフィン遺伝子の5'UTR/プロモーター-エンハンサー領域内のリプレッサー結合部位の破壊は、ジストロフィン欠乏横紋筋において上方調節されるユートロフィンAの転写を特異的に増加させる。
【0032】
限定されるものではないが、ヒト、ブタ、チンパンジー、イヌ、ウシ、マウス、ウサギ又はラットを含むいくつかの異なる哺乳動物のユートロフィンリプレッサー結合部位の配列は公知であり、配列データベースにおいて容易に見出すことができる。一部の好ましい実施形態において、前記ユートロフィン遺伝子は、ヒトである。
【0033】
本開示によれば、本発明者らは、遺伝子編集酵素を使用して、ユートロフィンリプレッサー結合部位を含む標的配列内で部位特異的変異を特異的に誘導した。遺伝子編集酵素は、配列特異的ヌクレアーゼ、塩基エディター又はプライムエディターであってもよい。
【0034】
特定の実施形態において、前記遺伝子編集酵素は、配列特異的ヌクレアーゼである。
【0035】
「ヌクレアーゼ」という用語は、核酸(DNA又はRNA)分子、好ましくは、DNA分子のヌクレオチド間のホスホジエステル結合の加水分解(切断)を触媒することができる野生型又はバリアント酵素を指す。「切断」とは、二本鎖破壊事象又は一本鎖破壊事象を意図する。
【0036】
「配列特異的ヌクレアーゼ」という用語は、配列特異的な様式で、核酸を切断するヌクレアーゼを指す。メガヌクレアーゼ、TAL-ヌクレアーゼ(TALEN)、ジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)、又はクラスター化して規則的な配置の短い回文配列リピートCRISPR)/Cas系のようなRNA/DNAガイドエンドヌクレアーゼ、及びアルゴノート(Liら、Nature Signal transduction and targeted Therapy、5、2020年; Guhaら、Computational and Structural Biotechnology Journal、2017年、15、146~160頁に概説)等の異なる種類の部位特異的ヌクレアーゼを使用することができる。
【0037】
本開示によれば、ヌクレアーゼは、ユートロフィンリプレッサー結合部位を含む配列の配列特異的標的化によって、標的配列内で、核酸切断、好ましくは、DNA切断を起こす。「リプレッサー結合部位を含む配列の配列特異的標的化」とは、上記に記載されるリプレッサー結合部位を含む配列、及び/又は前記リプレッサー結合部位に隣接する配列の一部分、特に、前記リプレッサー結合部位に隣接する最大で15ヌクレオチド、好ましくは、前記リプレッサー結合部位に隣接する10、9、8、7、6又は5ヌクレオチドの少なくとも1(1又は2)配列を標的にすることが意図される。
【0038】
本開示によれば、標的配列は、本明細書に開示されるユートロフィンリプレッサー結合部位配列のそれぞれ5'及び3'末端に対して、-15位のヌクレオチド~+15位のヌクレオチドの部分配列を含むか、又はそれからなる。
【0039】
ユートロフィンリプレッサー結合部位を含む前記標的配列は、下記のTable 1(表1)に表される。
【0040】
【表1】
【0041】
特に、Let7c結合部位を含む標的配列は、配列番号18又は配列番号26であり、miR-196b結合部位を含む標的配列は、配列番号19であり、ERF結合部位を含む標的配列は、配列番号20であり、EN1結合部位2を含む標的配列は、配列番号21である。
【0042】
本明細書において開示されるように、UTRN遺伝子標的配列の切断は、部位特異的変異、特に、前記リプレッサー結合部位を破壊し、それによって、UTRN遺伝子又はmRNAにおいてUTRNリプレッサー結合を阻害することによりUTRN発現を増加させる標的配列におけるインデル及び/又は置換変異を誘導する。
【0043】
本発明によるヌクレアーゼによって導入されるDNA鎖破壊は、小さい挿入及び欠失(インデル)並びに置換を誘導する非相同末端結合(NHEJ)経路及びマイクロホモロジー媒介末端結合(MMEJ)経路等の細胞自身のDNA修復プロセスによって修復される。
【0044】
「インデル」という用語は、本開示による配列特異的ヌクレアーゼを使用したユートロフィンリプレッサー結合部位を含む標的配列内のDNA切断の導入後、NHEJ又はMMEJ等の細胞自身のDNA修復機構から生じる挿入欠失変異原性事象を指す。本開示によれば、前記インデルは、ユートロフィンリプレッサー結合部位を含む標的配列において起こり、このエレメントの機能、特に、ユートロフィン遺伝子の転写又は翻訳の抑制を阻害する。別の言い方では、前記インデルは、ユートロフィン遺伝子発現レベルの増加を誘導する。本明細書において使用される場合、本開示によるリプレッサー結合部位を含む標的配列内のインデルは、先行技術に開示されているリプレッサー結合部位の上流及び下流の2つの部位特異的ヌクレアーゼ標的化配列によって誘導されるリプレッサー結合部位の欠失とは異なる。
【0045】
一部の実施形態において、インデルは、挿入欠失変異原性事象を指し、これは、50以下のヌクレオチド塩基が、DNA又はRNA配列から、変化し、挿入され、及び/又は欠失する。インデルのサイズは、遺伝子編集酵素に依存する。例えば、SpCas9のためには、単一ヌクレオチドは、最も一般的なインデルとして、それぞれ、1-nt挿入又は欠失を示す標的の大部分を有する最も高頻度の種類のインデルである。それにもかかわらず、より長い欠失(例えば、最大で41nt)に対する優先傾向を示す部位が観察される場合がある(Chakrabartiら、Molecular Cell, 2019年、73, 699~713頁; Kurganら、Molecular Therapy: Methods & Clinical Development; 2021年、21、478~491頁)。
【0046】
本開示によれば、前記配列特異的ヌクレアーゼは、ユートロフィンリプレッサー結合部位を含む標的配列内で部位特異的変異を切断及び誘導して、ユートロフィン遺伝子又はmRNAにおけるリプレッサー結合を阻害し、それによってUTRN遺伝子発現を増加させる。
【0047】
特定の実施形態において、本発明者らは、CRISPR系を使用して、上記に記載されるユートロフィンリプレッサー結合部位を含む標的配列内の切断を誘導した。
【0048】
CRISPR系は、Casタンパク質(CRISPR関連タンパク質)及び単一ガイドRNAの2つの構成要素に関与する。Casタンパク質は、単一ガイドRNA配列に相補的なDNAにおいて認識及び二本鎖切断を起こすガイドとしてガイドRNA配列を使用するDNAエンドヌクレアーゼである。Casタンパク質は、2つの活性切断部位、即ち、HNHヌクレアーゼドメイン及びRuvC様ヌクレアーゼドメインを含む。
【0049】
Casタンパク質とは、標的核酸配列を切断することができるCas9の操作されたエンドヌクレアーゼ又はホモログも意味する。特定の実施形態において、Casタンパク質は、二本鎖破壊又は一本鎖破壊のいずれかに対応し得る核酸標的配列における切断を誘導し得る。Casタンパク質バリアントは、事実上天然に存在せず、タンパク質操作又はランダム変異誘発によって得られるCasエンドヌクレアーゼであり得る。Casタンパク質は、当技術分野において公知のCasタンパク質の1種であり得る。Casタンパク質の非限定的な例としては、Casl、CaslB、Cas2、Cas3、Cas4、Cas5、Cas6、Cas7、Cas8、Cas9(Csnl及びCsxl2としても公知)、Cas12(Cas12a又はCpf1)、CaslO、Csyl、Csy2、Csy3、Csel、Cse2、Cscl、Csc2、Csa5、Csn2、Csm2、Csm3、Csm4、Csm5、Cmrl、Cmr3、Cmr4、Cmr5、Cnrr6、Csbl、Csb2、Csb3、Csxl7、CsxM、Csx lO、Cs l6、CsaX、Csx3、Cs l、Csxl5、Csfl、Csf2、CsO、Csf4、そのホモログ、オルソログ、又はその改変バージョンが挙げられる。好ましくは、Casタンパク質は、スタフィロコッカス・アウレウス(Staphylococcus aureus)Cas9タンパク質及びストレプトコッカス・サーモフィラス(Streptococcus thermophilus)Cas9等のストレプトコッカス・ピオゲネス(Streptococcus pyogenes)Cas9タンパク質及びそのオルソログである。別の好ましいCasタンパク質は、アシダミノコッカス(Acidaminococccus)又はラクノスピラ科(Lachnospiracae)由来のCas12a等のCas12aである。増強された活性を有するCas12aバリアントは、Liyang Zhangら(Nature Communications、2021年、doi: 10.1038)に開示されている。
【0050】
Casは、前記標的配列内でDNA切断を特異的に誘導する標的核酸配列の相補配列、特に本開示によれば、上記に記載されるユートロフィンリプレッサー結合部位を含む前記標的配列の一部分の相補配列を含むように設計されたガイドRNA(gRNA)と接触する。
【0051】
本明細書において使用される場合、「ガイドRNA」、「gRNA」又は「単一ガイドRNA」は、標的核酸へのgRNA/Cas複合体の特異的な標的化又はホーミングを促進する核酸を指す。
【0052】
特に、gRNAは、トランス活性化crRNA(tracrRNA)及びcrRNAを含むRNAを指す。好ましくは、前記ガイドRNAは、別々に使用され得るか、又は一緒に融合され得るcrRNA及びtracrRNAに相当する。標的配列と対形成する相補配列は、Casをリクルートして、標的配列で、DNAに結合し、それを切断する。
【0053】
本開示によれば、crRNAは、それが前記領域を標的にすることができるように、ユートロフィンリプレッサー結合部位を含む標的配列の一部分に対する相補配列を含むように操作される。「リプレッサー結合部位を標的にする」とは、上記に記載されるリプレッサー結合部位を含む配列、及び/又は前記リプレッサー結合部位に隣接する配列の少なくとも一部分、特に、前記リプレッサー結合部位に隣接する最大で15ヌクレオチド、好ましくは、前記リプレッサー結合部位に隣接する10、9、8、7、6又は5ヌクレオチドの少なくとも配列を標的にすることが意図される。
【0054】
特定の実施形態において、crRNAは、5~50ヌクレオチド、好ましくは、15~30ヌクレオチド、より好ましくは、20ヌクレオチドの配列を含み、これは、標的配列に相補的である。本開示によれば、前記標的配列は、上記に記載され、プロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)に隣接するユートロフィンリプレッサー結合部位を含むDNA配列である。
【0055】
本明細書において使用される場合、「相補配列」という用語は、標準的な低ストリンジェント条件下でポリヌクレオチドの別の部分とハイブリダイズすることができるポリヌクレオチドの配列部分(例えば、crRNA又はtracRNAの一部分)を指す。優先的には、配列は、鎖間のワトソン・クリック塩基対形成、即ち、アデニン及びチミン(A-T)ヌクレオチド、並びにグアニン及びシトシン(G-C)ヌクレオチド間の固有の塩基対形成に依拠する2つの核酸鎖間の相補性に従って、互いに相補的である。
【0056】
前記gRNAは、本開示を考慮して、当業者に公知の任意の方法によって設計することができる。特定の実施形態において、前記gRNAは、上記に記載されるユートロフィンリプレッサー結合部位を標的にしてもよく、Table 1(表1)に記載される配列(gRNA配列)の1つを含んでいてもよい。
【0057】
【表2】
【0058】
配列番号1及び2は、UTRNリプレッサー結合部位の(+)鎖に対応する。gRNA配列の配列番号3、4、5、6、7、8、12、15及び25は、UTRNリプレッサー結合部位の(-)鎖に対応する。gRNA配列の配列番号9、10、11、13、14、16及び17は、UTRNリプレッサー結合部位の(+)鎖に対応する。
【0059】
Table 2(表2)に提示されるgRNA配列は、gRNA分子に対応するDNA配列の形態で示され、これは、gRNAの(RNA)配列のDNA等価体を意味する。
- CTGAGGTAGAAAGGTGATCA(配列番号3)は、配列CUGAGGUAGAAAGGUGAUCA(配列番号27)を有するgRNAに対応する。
- CTGAGGTAGAAAGGTGGTCA(配列番号4)は、配列CUGAGGUAGAAAGGUGGUCA(配列番号28)を有するgRNAに対応する。
- ATGGATCTGAGGTAGAAAGG(配列番号5)は、配列AUGGAUCUGAGGUAGAAAGG(配列番号29)を有するgRNAに対応する。
- AAGATGGATCTGAGGTAGAA(配列番号6)は、配列AAGAUGGAUCUGAGGUAGAA(配列番号30)を有するgRNAに対応する。
- AAGGTGGTTCTGAGGTAGAA(配列番号25)は、配列AAGGUGGUUCUGAGGUAGAA(配列番号31)を有するgRNAに対応する。
- GTGCTTTCTTGGGTATGACA(配列番号7)は、配列GUGCUUUCUUGGGUAUGACA(配列番号32)を有するgRNAに対応する。
- CTTTAAATAGGTGCTTTCTT(配列番号8)は、配列CUUUAAAUAGGUGCUUUCUU(配列番号33)を有するgRNAに対応する。
- TCTTCCGGAACAAAGTTGCT(配列番号9)は、配列UCUUCCGGAACAAAGUUGCU(配列番号34)を有するgRNAに対応する。
- GAACAAAGTTGCTGGGCCGG(配列番号10)は、配列GAACAAAGUUGCUGGGCCGG(配列番号35)を有するgRNAに対応する。
- ACGTAGTGGGGCTGATCTTC(配列番号11)は、配列ACGUAGUGGGGCUGAUCUUC(配列番号36)を有するgRNAに対応する。
- CCGGCCCAGCAACTTTGTTC(配列番号12)は、配列CCGGCCCAGCAACUUUGUUC(配列番号37)を有するgRNAに対応する。
- ATCTTCCGGAACAAAGTTGC(配列番号13)は、配列AUCUUCCGGAACAAAGUUGC(配列番号38)を有するgRNAに対応する。
- TCTTCCGGAACAAAGTTGCT(配列番号14)は、配列UCUUCCGGAACAAAGUUGCU(配列番号39)を有するgRNAに対応する。
- ATCAGCCCCACTACGTTCCC(配列番号15)は、配列AUCAGCCCCACUACGUUCCC(配列番号40)を有するgRNAに対応する。
- GCTGACCCGGGAACGTAGTG(配列番号16)は、配列GCUGACCCGGGAACGUAGUG(配列番号41)を有するgRNAに対応する。
- ACGCTGACCCGGGAACGTAG(配列番号17)は、配列ACGCUGACCCGGGAACGUAG(配列番号42)を有するgRNAに対応する。
【0060】
本開示は、最大で5(1、2、3、4又は5)の変異(置換、欠失又は挿入)によって上記のgRNA配列と異なる、ユートロフィンリプレッサー結合部位を標的にするgRNAバリアントを包含する。
【0061】
本開示は、化学的に改変されたgRNA、特に、編集を改善する少なくとも1つの化学的改変を含むgRNAを包含する。特に、インビトロ及びインビボの初代細胞及び幹細胞を含むほとんどの細胞型において、編集を改善するgRNAの化学的改変は、当技術分野において周知である(例えば、Allenら、Front. Genome Ed.、2021年1月28日、doi: 10.3389を参照されたい)。非限定的な例としては、3つの最初の及び最後の塩基での2'-O-メチル、並びにgRNAの最初の3つ及び最後の2つの塩基の間の3'ホスホロチオネート結合が挙げられる。
【0062】
特定の実施形態において、前記gRNAは、miR-let7c結合部位を標的にしてもよく、配列番号3~6又は配列番号3~6及び25からなる群から選択される配列を含む。特定の実施形態において、前記gRNAは、miR-196-b結合部位を標的にしてもよく、配列番号7又は8、好ましくは、配列番号7の配列を含む。特定の実施形態において、前記gRNAは、ERF結合部位を標的にしてもよく、配列番号9又は14、好ましくは、配列番号9の配列を含む。特定の実施形態において、前記gRNAは、EN1結合部位2を標的にしてもよく、配列番号15~17、好ましくは、配列番号16の配列を含む。一部の好ましい実施形態において、前記gRNAは、miR-let7c結合部位、ERF結合部位又はEN1結合部位2を標的にし、好ましくは、前記gRNAは、配列番号3~6、9、16及び25から選択される配列を含む。別の好ましい実施形態において、前記gRNAは、miR-let7c結合部位を標的にし、好ましくは、前記gRNAは、配列番号3~6及び25からなる群から選択される配列、好ましくは、配列番号5の配列を含む。
【0063】
別の特定の実施形態において、前記遺伝子編集酵素は、Komorら、Nature 533、420~424頁、doi:10.1038/nature17946及びRees HA、Liu DR. Nat Rev Genet. 2018年12月;19(12):770~788頁に記載されるDNA塩基エディター、又はAnzalone AV.ら Nature、2019年、576:149~157頁、Matsoukas IG. Front Genet. 2020年; 11: 528頁及びKantor Aら Int. J. Mol. Sci. 2020年、21(6240頁)に記載されるプライムエディターである。
【0064】
塩基エディター又はプライムエディターの使用は、変異、好ましくは、標的配列における特異的部位での点変異の導入を可能にする。
【0065】
本開示によれば、塩基エディター又はプライムエディターは、ユートロフィンリプレッサー結合部位を含む配列の配列特異的標的化によって、標的配列内で変異を起こす。「リプレッサー結合部位を含む配列の配列特異的標的化」とは、上記に記載されるリプレッサー結合部位を含む配列、及び/又は前記リプレッサー結合部位に隣接する配列の一部分、特に、前記リプレッサー結合部位に隣接する最大で15ヌクレオチド、好ましくは、前記リプレッサー結合部位に隣接する10、9、8、7、6又は5ヌクレオチドの少なくとも1(1又は2)配列を標的にすることが意図される。
【0066】
前記塩基エディターは、特異的DNA標的配列を標的にすることができる上記に記載される触媒的に不活性な配列特異的ヌクレアーゼ、及びヌクレオチドデアミナーゼドメイン等の触媒的に活性な塩基改変酵素の融合物からなる。
【0067】
特に、前記塩基エディター又はプライムエディターは、CRISPR塩基エディター又はプライムエディターである。前記CRISPR塩基エディター又はプライムエディターは、触媒的に不活性な配列特異的ヌクレアーゼとしてdead Casタンパク質(dCas)を含む。dCasは、ヌクレオチド鎖切断活性を欠く改変Casヌクレアーゼを指す。ヌクレアーゼ活性は、Casタンパク質のHNH及び/又はRuvC様触媒ドメインにおける1つ若しくは複数の変異及び/又は1つ若しくは複数の欠失によって、dCasタンパク質において阻害又は防止され得る。得られたdCasタンパク質は、ヌクレアーゼ活性を欠くが、高い特異性及び効率でガイドRNA(gRNA)-DNA複合体に結合して、配列を特異的に標的にする。特定の実施形態において、前記dead Casは、Casの1つの触媒ドメインが、阻害又は防止されているCasニッカーゼであってもよい。
【0068】
前記塩基エディターは、前記標的配列に特異的に結合する標的核酸配列の相補配列、特に本開示によれば、上記に記載されるユートロフィンリプレッサー結合部位を含む前記標的配列の一部分の相補配列を含むように設計されたガイドRNA(gRNA)と接触する。
【0069】
前記gRNAは、本開示を考慮して、当業者に公知の任意の方法によって設計することができる。特定の実施形態において、前記gRNAは、上記に記載されるユートロフィンリプレッサー結合部位を標的にしてもよく、Table 2(表2)に記載される配列(gRNA配列)の1つを含む。
【0070】
非限定的な例として、前記塩基エディターは、dead Casタンパク質、特に、Casニッカーゼに融合されたヌクレオチドデアミナーゼドメインである。前記ヌクレオチドデアミナーゼは、アデノシンデアミナーゼ又はシチジンデアミナーゼであってもよい。
【0071】
特定の実施形態において、前記塩基エディターは、非限定的な例として、BE1、BE2、BE3、BE4、HF-BE3、Sa-BE3、Sa-BE4、BE4-Gam、saBE4-Gam、YE1-BE3、EE-BE3、YE2-BE3、YEE-BE3、VQR-BE3、VRER-BE3、SaKKH-BE3、cas12a-BE、Target-AID、Target-AID-NG、xBE3、eA3A-BE3、A3A-BE3、BE-PLUS、TAM、CRIPS-X、ABE7.9、ABE7.10、ABE7.10* xABE、ABESa、VQR-ABE、VRER-ABE及びSaKKH-ABEからなる群から選択されてもよい。
【0072】
前記プライムエディターは、上記に記載される触媒的に不活性な配列特異的ヌクレアーゼ、特に、Casニッカーゼ又は野生型Cas、及び触媒的に活性な操作された逆転写(RT)酵素の融合物からなる。前記融合タンパク質は、上記に記載される標的配列に対する相補配列を含有する、特に、Table 2(表2)に記載される配列の1つ、及びDNAにおいてプライマー結合部位領域に結合する配列を含む追加配列も含む、プライム編集ガイドRNA(pegRNA)と組み合わせて使用される。特定の実施形態において、前記逆転写酵素は、モロニーマウス白血病ウイルスRT酵素及びそのバリアントである。前記プライムエディターは、非限定的な例として、PE1、PE2、PE3及びPE3bからなる群から選択されてもよい。
【0073】
本開示による組成物は、インビトロ及び/又はインビボで、細胞において、好ましくは、筋肉細胞等のジストロフィンを発現する細胞において、ユートロフィン発現を増加させる。
【0074】
ユートロフィン遺伝子の発現レベルが、未処置細胞におけるよりも遺伝子編集酵素で処置された細胞において、少なくとも1.5倍高い、又は2倍、3倍、4倍、5倍高い場合に、ユートロフィン遺伝子発現は、細胞において増強されている。RNA又はタンパク質レベルであり得るユートロフィン遺伝子発現の増加は、当業者に公知の任意の好適な方法によって決定され得る。
【0075】
例えば、試料に含有される核酸は、最初に、標準的な方法に従って、例えば、溶解酵素若しくは化学溶液を使用して抽出されるか、又は製造業者の使用説明書に従って核酸結合樹脂によって抽出される。次いで、UTRN mRNAのレベルを、ハイブリダイゼーション(例えば、ノーザンブロット解析)及び/又は増幅(例えば、RT-PCR)によって検出する。
【0076】
UTRNタンパク質のレベルも、当業者に公知の任意の好適な方法によって決定され得る。タンパク質の量は、例えば、半定量的ウエスタンブロット、ELISA等の酵素標識及び媒介イムノアッセイ、ビオチン/アビジン型アッセイ、ラジオイムノアッセイ、免疫電気泳動、質量分析、若しくは免疫沈降によって、又はタンパク質若しくは抗体アレイによって、測定され得る。
【0077】
前記遺伝子編集酵素、例えば、gRNA及びCasタンパク質は、当技術分野において公知の手順を使用する化学合成及び酵素的ライゲーション反応を使用して構築することができ、限定されるものではないが、リン酸カルシウムトランスフェクション、DEAE-デキストラントランスフェクション、電気穿孔、マイクロインジェクション、微粒子銃、ウイルス感染又はリポソーム媒介トランスフェクションを含む任意の公知の技法を使用して細胞に送達することができる。
【0078】
一部の実施形態において、ユートロフィン発現を増強するための組成物は、ユートロフィンリプレッサー結合部位を含むそれぞれの標的配列内で単一変異事象を誘導することができる単一配列特異的ヌクレアーゼを含む。
【0079】
別の特定の実施形態において、ユートロフィン発現を増強するための前記組成物は、ユートロフィンリプレッサー結合部位を含む1つ又は複数の標的配列内で変異事象を誘導することができる上記に記載される少なくとも2つの遺伝子編集酵素を含んでいてもよい。
【0080】
特に、前記遺伝子編集酵素が配列特異的ヌクレアーゼである場合、前記配列特異的ヌクレアーゼは、第1の配列特異的ヌクレアーゼが、標的配列内で第1の変異事象を切断及び誘導するような方法で、連続的に使用することができる。第1の変異事象が修復されたら、第2の配列特異的ヌクレアーゼを使用して、前記又は別の標的配列内で第2の変異事象を切断及び誘導し得る。
【0081】
別の特定の実施形態において、前記少なくとも2つの遺伝子編集酵素が塩基エディター又はプライムエディターである場合、前記遺伝子編集酵素を、同時に使用することができる。別の特定の実施形態において、前記2つの遺伝子編集酵素が塩基エディター又はプライムエディター及び単一配列特異的ヌクレアーゼである場合、前記遺伝子編集酵素を、同時に使用することもできる。
【0082】
一部の好ましい実施形態において、少なくとも2つの遺伝子編集酵素の標的配列は、異なる。一部の実施形態において、ユートロフィン発現を増強するための組成物は、ユートロフィンリプレッサー結合部位からなる標的配列内で配列特異的変異を誘導することができる遺伝子編集酵素を含む。
【0083】
核酸構築物及び発現ベクター
一実施形態において、前記遺伝子編集酵素は、1つ又は複数の核酸構築物によってコードされる。
【0084】
「核酸構築物」という用語は、本明細書において使用される場合、組換えDNA技術の使用から得られる人工の核酸分子を指す。核酸構築物は、一本鎖又は二本鎖いずれかの核酸分子であり、これは、核酸配列のセグメントを含有するように改変され、そうでなければ天然に存在しないであろう様式で組み合わされ、並置される。核酸構築物は、通常、「ベクター」、即ち、外因的に作出されたDNAを宿主細胞に送達するために使用される核酸分子である。
【0085】
好ましくは、核酸構築物は、筋肉細胞において発現を指示する1つ又は複数の制御配列に作動可能に連結された前記遺伝子編集酵素を含む。
【0086】
前記制御配列は、ユビキタスプロモーター、組織特異的プロモーター、又は誘導性プロモーターであってもよく、これは、標的器官(即ち、筋肉)の細胞において機能的である。当技術分野において周知であるそのような配列は、特に、プロモーター、及び限定されないが、エンハンサー、ターミネーター、イントロン、サイレンサー、特に、組織特異的サイレンサー、及びマイクロRNA等の導入遺伝子の発現を更に制御することができる更なる調節配列を含む。
【0087】
ユビキタスプロモーターの例としては、CAGプロモーター、ホスホグリセリン酸キナーゼ1(PGK)プロモーター、サイトメガロウイルスエンハンサー/プロモーター(CMV)、SV40s初期プロモーター、レトロウイルスラウス肉腫ウイルス(RSV)LTRプロモーター、ジヒドロ葉酸還元酵素プロモーター、β-アクチンプロモーター、及びEF1プロモーターが挙げられる。
【0088】
筋肉特異的プロモーターとしては、限定されないが、デスミン(Des)プロモーター、筋肉クレアチンキナーゼ(MCK)プロモーター、CK6プロモーター、アルファ-ミオシン重鎖(アルファ-MHC)プロモーター、ミオシン軽鎖2(MLC-2)プロモーター、心臓トロポニンC(cTnC)プロモーター、合成筋肉特異的SpC5-12プロモーター、ヒト骨格アクチン(HSA)プロモーターが挙げられる。
【0089】
好ましい実施形態において、前記核酸構築物は、配列CGGAA、GTAGTGG、配列番号1及び2からなる群から選択される配列を含む、ユートロフィンリプレッサー結合部位領域を標的にすることができる遺伝子編集酵素を含む。
【0090】
より好ましい実施形態において、前記核酸構築物は、配列番号3~6又は配列番号3~6及び25からなる群から選択されるgRNA配列、好ましくは、配列番号5のgRNA配列を含むLet7c結合部位を標的にすることができる遺伝子編集酵素を含む。
【0091】
別の好ましい実施形態において、前記核酸構築物は、配列番号7又は8からなる群から選択されるgRNA配列、好ましくは、配列番号7のgRNA配列を含むmiR196-b結合部位を標的にすることができる遺伝子編集酵素を含む。
【0092】
別の好ましい実施形態において、前記核酸構築物は、配列番号9~14からなる群から選択されるgRNA配列、好ましくは、配列番号9のgRNA配列を含むERF結合部位を標的にすることができる遺伝子編集酵素を含む。
【0093】
別の好ましい実施形態において、前記核酸構築物は、配列番号15~17からなる群から選択されるgRNA配列、好ましくは、配列番号16のgRNA配列を含むEN1結合部位2を標的にすることができる遺伝子編集酵素を含む。
【0094】
上記に記載される核酸構築物は、発現ベクターに含有されていてもよい。ベクターは、自己複製性ベクター、即ち、染色体外実体として存在し、その複製が、染色体複製と独立しているベクター、例えば、プラスミド、染色体外エレメント、ミニ染色体又は人工染色体であってもよい。ベクターは、自己複製を保証するための任意の手段を含有していてもよい。或いは、ベクターは、宿主細胞に導入されたら、ゲノムに組み込まれ、それが組み込まれている染色体と一緒に複製されるものであってもよい。
【0095】
適切なベクターの例としては、限定されるものではないが、組換え組み込み又は非組み込みウイルスベクター、及び組換えバクテリオファージDNA、プラスミドDNA又はコスミドDNAに由来するベクターが挙げられる。好ましくは、ベクターは、組換え組み込み又は非組み込みウイルスベクターである。組換えウイルスベクターの例としては、限定されるものではないが、ヘルペスウイルス、レトロウイルス、レンチウイルス、ワクシニアウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス又はウシパピローマウイルスに由来するベクターが挙げられる。
【0096】
AAVは、ヒト遺伝子治療のための有望なベクターとしてかなりの興味をもたらしている。中でも、ウイルスの有益な性質は、その任意のヒト疾患との関連の欠如、その分裂細胞及び非分裂細胞の両方に感染する能力、並びに感染し得る異なる組織に由来する幅広い範囲の細胞株である。
【0097】
AAVゲノムは、4681塩基を含有する直鎖状一本鎖DNA分子から構成される(Berns及びBohenzky、1987年、Advances in Virus Research (Academic Press, Inc.) 32:243~307頁)。ゲノムは、それぞれの末端に逆位末端反復配列(ITR)を含み、これは、DNA複製起点として及びウイルスのためのパッケージングシグナルとして、シスで機能する。ITRは、およそ145bpの長さである。ゲノムの内部非反復部分は、それぞれ、AAV rep及びcap遺伝子として公知の2つの大きなオープンリーディングフレームを含む。これらの遺伝子は、ビリオンの複製及びパッケージングに関与するウイルスタンパク質をコードする。特に、少なくとも4つのウイルスタンパク質が、それらの見掛けの分子量に従って名付けられたRep 78、Rep 68、Rep 52及びRep 40のAAV rep遺伝子から合成される。AAV cap遺伝子は、VP1、VP2及びVP3の少なくとも3つのタンパク質をコードする。AAVゲノムの詳細な説明について、例えば、Muzyczka, N. 1992年 Current Topics in Microbiol. and Immunol. 158:97~129頁を参照されたい。
【0098】
本開示は、上記に記載されるガイドRNA及び/又はCasタンパク質を含むAAVベクターに関する。
【0099】
そのため、一実施形態において、上記に記載されるガイドRNA及び/又はCasタンパク質を含む核酸構築物又は発現ベクターは、5'ITR及び3'ITR配列、好ましくは、アデノ随伴ウイルスの5'ITR及び3'ITR配列を更に含む。
【0100】
本明細書において使用される場合、「逆位末端反復配列(ITR)」という用語は、ウイルスの5'末端に位置するヌクレオチド配列(5'ITR)及び3'末端に位置するヌクレオチド配列(3'ITR)を指し、これは、回文配列を含有し、フォールドされて、DNA複製の開始の間、プライマーとして機能するT形状のヘアピン構造を形成することができる。それらは、宿主ゲノムへのウイルスゲノム組み込みのため、宿主ゲノムからのレスキューのため、及び成熟ビリオンへのウイルス核酸の封入のためにも必要である。ITRは、ベクターゲノム複製及びウイルス粒子へのそのパッケージングのためにシスであることが必要である。
【0101】
本開示のウイルスベクターにおける使用のためのAAV ITRは、野生型ヌクレオチド配列を有していてもよく、又は挿入、欠失若しくは置換によって変更されていてもよい。AAVの逆位末端反復配列(ITR)の血清型は、任意の公知のヒト又は非ヒトAAV血清型から選択され得る。具体的な実施形態において、核酸構築物又はウイルス発現ベクターは、AAV1、AAV2、AAV3(3A型及び3B型を含む)、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAVrh10、AAV11、AAV12、トリAAV、ウシAAV、イヌAAV、ウマAAV、ヒツジAAV、及び任意の他のAAV血清型、又は現在公知の若しくは後に発見される操作されたAAVを含む任意のAAV血清型のITRを使用することによって行われ得る。
【0102】
一実施形態において、核酸構築物は、対応するカプシドの5'ITR及び3'ITR、好ましくは、血清型AAV-2の5'ITR及び3'ITRを含む。
【0103】
他方で、本開示の核酸構築物又は発現ベクターは、合成5'ITR及び/又は3'ITRを使用することによって、そして異なる血清型のウイルスに由来する5'ITR及び3'ITRを使用することによっても、行うことができる。ウイルスベクター複製に必要な全ての他のウイルス遺伝子は、下記に記載されるウイルス産生細胞(パッケージング細胞)内で、トランスで提供され得る。したがって、ウイルスベクターにおけるそれらの包含は、任意選択である。
【0104】
一実施形態において、本開示の核酸構築物又はウイルスベクターは、ウイルスの5'ITR、ψパッケージングシグナル、及び3'ITRを含む 「ψパッケージングシグナル」は、ウイルスゲノムのシスで作用するヌクレオチド配列であり、これは、一部のウイルス(例えば、アデノウイルス、レンチウイルス等)において、複製の間に、ウイルスカプシドにウイルスゲノムをパッケージングするプロセスのために必須である。
【0105】
組換えAAVウイルス粒子の構築は、一般に、当技術分野において公知であり、例えば、米国特許第5,173,414号及び米国特許第5,139,941号;国際公開第92/01070号、国際公開第93/03769号、Lebkowskiら(1988年) Molec. Cell. Biol. 8:3988~3996頁; Vincentら(1990年) Vaccines 90 (Cold Spring Harbor Laboratory Press); Carter, B. J. (1992年) Current Opinion in Biotechnology 3:533~539頁; Muzyczka, N. (1992年) Current Topics in Microbiol. and Immunol. 158:97~129頁;並びにKotin, R. M. (1994年) Human Gene Therapy 5:793~801頁に記載されている。
【0106】
ウイルス粒子
好ましい実施形態において、本開示は、上記に記載される核酸構築物又は発現ベクターを含むウイルス粒子に関する。
【0107】
本開示の核酸構築物又は発現ベクターは、ウイルスカプシドにパッケージングされて、「ウイルスベクター粒子」とも名付けられる「ウイルス粒子」を生じ得る。特定の実施形態において、上記に記載される核酸構築物又は発現ベクターは、AAV由来カプシドにパッケージングされて、「アデノ随伴ウイルス粒子」又は「AAV粒子」を生じる。本開示は、本開示の核酸構築物又は発現ベクターを含み、好ましくは、アデノ随伴ウイルスのカプシドタンパク質を含む、ウイルス粒子に関する。
【0108】
AAVベクター粒子という用語は、一般に操作された、任意の組換えAAVベクター粒子、又は変異AAVベクター粒子を包含する。組換えAAV粒子は、同じ又は異なる血清型のAAVに対応する天然又は変異Capタンパク質によって形成されるウイルス粒子において、特定のAAV血清型に由来するITRを含む核酸構築物又はウイルス発現ベクターを封入することによって調製されてもよい。
【0109】
アデノ随伴ウイルスのウイルスカプシドのタンパク質としては、カプシドタンパク質VP1、VP2及びVP3が挙げられる。様々なAAV血清型のカプシドタンパク質配列の間の相違は、細胞侵入のための異なる細胞表面受容体の使用をもたらす。代替の細胞内プロセシング経路と組み合わせて、これは、それぞれのAAV血清型についての別個の組織向性を生じさせる。
【0110】
いくつかの技法が、天然に存在するAAVウイルス粒子の構造的及び機能的性質を改変及び改善するために開発されている(Bunning Hら J Gene Med, 2008年; 10: 717~733頁; Paulkら Mol ther. 2018年; 26(1):289~303頁; Wang Lら Mol Ther. 2015年; 23(12):1877~87頁; Vercauterenら Mol Ther. 2016年; 24(6):1042~1049頁; Zinn Eら、Cell Rep. 2015年; 12(6):1056~68頁)。
【0111】
そのため、本開示によるAAVウイルス粒子において、所与のAAV血清型のITRを含む核酸構築物又はウイルス発現ベクターは、例えば、a)同じ又は異なるAAV血清型に由来するカプシドタンパク質から構成されるウイルス粒子;b)異なるAAV血清型又は変異体由来のカプシドタンパク質の混合物から構成されるモザイクウイルス粒子;c)異なるAAV血清型又はバリアント間のドメインスワッピングによって短縮されているカプシドタンパク質から構成されるキメラウイルス粒子に、パッケージングされ得る。
【0112】
当業者には、本開示による使用のためのAAVウイルス粒子が、AAV1、AAV2、AAV3(3A型及び3B型を含む)、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV10、AAV11、AAV12、AAV2i8、AAVrh10、AAVrh39、AAVrh43、AAVrh74、AAV-LK03、AAV2G9、AAV.PHP、AAV-Anc80、AAV3B及びAAV9.rh74(WO2019/193119に開示される通り)を含む任意のAAV血清型由来のカプシドタンパク質を含んでいてもよいことが認識されるであろう。
【0113】
筋肉への遺伝子移入のために、AAV血清型2、6、8、9、AAVrh10又はAAV9.rh74が好ましい。具体的な実施形態において、AAVウイルス粒子は、本開示の核酸構築物又は発現ベクター、及び好ましくは、AAV9又はAAV9.rh74血清型由来のカプシドタンパク質を含む。
【0114】
細胞においてユートロフィン発現を増強するための方法
本開示は、Let7c結合部位、miR-196b結合部位、ERF結合部位及びEN1結合部位2からなる群から選択されるユートロフィン遺伝子のリプレッサー結合部位を含む標的配列内に部位特異的変異を誘導することによる、細胞におけるユートロフィン発現を増強するための方法であって、前記変異が、リプレッサー結合部位配列全体を欠失することなく、前記リプレッサー結合部位を破壊する、方法に関する。前記方法は、前記遺伝子編集酵素が、前記標的配列内で部位特異的変異を誘導するように、上記に記載される組成物を細胞に導入する工程を含み、ここで、前記変異は、リプレッサー結合部位配列全体を欠失することなく、リプレッサー結合部位を破壊する。
【0115】
特定の実施形態において、前記遺伝子編集酵素は、部位特異的ヌクレアーゼ、塩基エディター及びプライムエディター、好ましくは、上記に記載されるCRISPR/cas遺伝子編集酵素からなる群から選択される。
【0116】
特定の実施形態において、前記遺伝子編集酵素は、部位特異的ヌクレアーゼ、より好ましくは、ガイドRNA及びCasタンパク質を含むCRISPR/Casヌクレアーゼであり、ここで、Casタンパク質と組み合わされた前記ガイドRNAは、Let7c結合部位、miR-196b結合部位、ERF結合部位及びEN1結合部位2からなる群から選択されるユートロフィンリプレッサー結合部位を含む前記標的配列内にインデル及び/又は置換変異を切断及び誘導し、これは、リプレッサー結合部位配列全体を欠失することなく、前記リプレッサー結合部位を破壊する。
【0117】
別の特定の実施形態において、前記遺伝子編集酵素は、塩基エディター又はプライムエディター、好ましくは、Let7c結合部位、miR-196b結合部位、ERF結合部位及びEN1結合部位2からなる群から選択されるユートロフィンリプレッサー結合部位を含む前記標的配列内に部位特異的変異を誘導するCRISPR 塩基エディター又はプライムエディターであり、これは、リプレッサー結合部位配列全体を欠失することなく、前記リプレッサー結合部位を破壊する。
【0118】
前記方法は、Casタンパク質、塩基エディター又はプライムエディター、及びガイドRNA(crRNA、tracrRNa、又は融合ガイドRNA若しくはpegRNA)等の遺伝子編集酵素を細胞に導入する工程に関与する。前記遺伝子編集酵素、好ましくは、上記に記載されるガイドRNA及び/又はCasタンパク質、塩基エディター若しくはプライムエディターは、核酸構築物、好ましくは、上記に記載されるガイドRNA及び/又はCasタンパク質、塩基エディター若しくはプライムエディター等の前記遺伝子編集酵素をコードする発現ベクターの細胞への導入の結果として、細胞においてインサイツで合成されてもよい。或いは、ガイドRNA及び/又はCasタンパク質、塩基エディター若しくはプライムエディター等の前記遺伝子編集酵素は、細胞の外側で産生し、次いで、細胞に導入されてもよい。
【0119】
前記核酸構築物又は発現ベクターは、当技術分野において公知の任意の方法によって細胞に導入することができ、非限定的な例として、核酸構築物又は発現ベクターが細胞ゲノムに組み込まれる安定形質転換法、核酸構築物又は発現ベクターが細胞のゲノムに組み込まれない一過性形質転換法、及びウイルス媒介法が挙げられる。例えば、一過性形質転換法としては、例えば、マイクロインジェクション、電気穿孔又は微粒子銃が挙げられる。
【0120】
一部の実施形態において、前記方法は、インビトロ法である。インビトロ法は、患者から収集された細胞等の細胞の培養物において行われる。
【0121】
操作された細胞
別の態様において、本開示は、上記に記載される方法によって得られ得る又は得られた操作された細胞に関する。
【0122】
特に、本開示は、リプレッサー結合部位配列全体を欠失することなく、前記リプレッサー結合部位を破壊する、上記に記載されるLet7c結合部位、miR-196b結合部位、EN1結合部位2又はERF結合部位からなる群から選択されるユートロフィンリプレッサー結合部位を含む少なくとも1つの標的配列内に部位特異的変異を含む操作された細胞、好ましくは、筋肉細胞に関する。
【0123】
本開示の操作された細胞は、エクスビボ遺伝子治療の目的で使用されてもよい。そのような実施形態において、上記に記載される、ガイドRNA及びCasタンパク質、塩基エディター若しくはプライムエディター等の前記遺伝子編集酵素、核酸構築物、発現ベクター又はウイルス粒子が、細胞に導入される。
【0124】
前記細胞は、その後、患者又は対象に移植することができる。移植された細胞は、自家、同種異系、又は異種起源を有し得る。臨床使用のために、細胞単離は、一般に、優良医薬品製造基準(GMP)条件下で行われる。
【0125】
特定の実施形態において、操作された細胞は、筋肉へのエクスビボ遺伝子治療のために使用される。
【0126】
好ましくは、前記細胞は、哺乳動物細胞等の真核細胞であり、これらとしては、限定されるものではないが、ヒト、非ヒト霊長類、例えば、類人猿、チンパンジー、サル及びオランウータン、イヌ及びネコを含む飼育動物、並びに家畜、例えば、ウマ、ウシ、ブタ、ヒツジ及びヤギ、又は限定されないが、マウス、ラット、モルモット、ウサギ、ハムスター等を含む他の哺乳動物種が挙げられる。当業者は、移植される患者又は対象に従ってより適切な細胞を選択するであろう。
【0127】
前記操作された細胞は、自己再生及び多能性の性質を有する細胞、例えば、幹細胞又は誘導多能性幹細胞であってもよい。幹細胞は、好ましくは、間葉系幹細胞である。間葉系幹細胞(MSC)は、骨芽細胞、軟骨細胞、脂肪細胞又は筋細胞の少なくとも1つに分化することができ、任意の種類の組織から単離され得る。一般に、MSCは、骨髄、脂肪組織、臍帯又は末梢血から単離される。前記細胞はまた、衛星細胞(筋幹細胞)及びメサンジオブラストであってもよい。それを得るための方法は、当業者に周知である。誘導多能性幹細胞(iPS細胞又はiPSCとしても公知)は、成体細胞から直接作成することができるある種の多能性幹細胞である。Yamanakaらは、マウス及びヒト線維芽細胞にOct3/4、Sox2、Klf4及びc-Myc遺伝子をトランスフェクトし、細胞に遺伝子を発現させることによってiPS細胞を誘導した(WO2007/069666)。Thomsonらは、その後、Klf4及びc-Mycの代わりにNanog及びLin28を使用して、ヒトiPS細胞を生成した(WO2008/118820)。
【0128】
前記操作された細胞はまた、筋肉細胞であってもよい。本明細書において使用される場合、「筋肉」という用語は、心筋(即ち、心臓)及び骨格筋を指す。本明細書において使用される場合、「筋肉細胞」という用語は、筋細胞、筋管、筋芽細胞及び/又は衛星細胞を指す。
【0129】
医薬組成物
本開示によるガイドRNA及びCasタンパク質、塩基エディター若しくはプライムエディター等の遺伝子編集酵素、核酸構築物、発現ベクター、ウイルス粒子又は操作された細胞は、好ましくは、治療有効量の上記に記載される前記生成物を含む医薬組成物の形態で使用される。
【0130】
本開示の文脈において、治療有効量は、そのような用語が適用される障害若しくは状態の進行を反転させる、軽減する若しくは阻害するために、又はそのような用語が適用される障害若しくは状態の1つ若しくは複数の症状の進行を反転させる、軽減する若しくは阻害するために十分な用量を指す。
【0131】
「有効用量」又は「有効投薬量」という用語は、所望の効果を達成する又は少なくとも部分的に達成するために十分な量として定義される。
【0132】
有効用量は、医学分野の当業者が認識するであろう、使用される組成物、投与の経路、性別、年齢及び体重等の考慮中の個体の身体特性、併用薬物療法、及び他の因子等の因子に応じて決定及び調整される。
【0133】
本開示の様々な実施形態において、医薬組成物は、薬学的に許容される担体及び/又は媒体を含む。
【0134】
「薬学的に許容される担体」は、必要に応じて、哺乳動物、特に、ヒトに投与された場合に、有害反応、アレルギー反応又は他の不都合な反応を生じない媒体を指す。薬学的に許容される担体又は賦形剤は、非毒性の固体、半固体又は液体の、フィラー、希釈剤、封入材料又は任意の種類の製剤補助剤を指す。
【0135】
好ましくは、医薬組成物は、注射することができる製剤のために薬学的に許容される媒体を含有する。これらは、特に、等張の無菌生理食塩水溶液(リン酸一ナトリウム若しくはリン酸二ナトリウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム若しくは塩化マグネシウム等、又はそのような塩の混合物)、又は乾燥組成物、特に、場合に応じて、滅菌水又は生理的食塩水の添加の際に注射可能溶液の構成を可能にする凍結乾燥された組成物であってもよい。
【0136】
注射可能な使用に好適な医薬形態としては、無菌の水溶液又は水性懸濁液が挙げられる。溶液又は懸濁液は、ウイルスベクターに適合し、標的細胞へのウイルスベクター粒子の侵入を防止しない添加物を含んでいてもよい。全ての場合において、形態は、無菌でなければならず、容易な注射器能力が存在する程度に液体でなければならない。これは、製造及び保管の条件下で安定でなければならず、細菌及び真菌等の微生物の汚染作用に対して保存されなければならない。適切な溶液の例は、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)又は乳酸リンゲル等の緩衝液である。
【0137】
治療的使用
上記に記載される、遺伝子編集酵素、例えば、ガイドRNAとCasタンパク質、塩基エディター若しくはプライムエディターとの組み合わせ、核酸構築物、発現ベクター、ウイルス粒子又は医薬組成物を含む組成物、或いは本開示による単離された細胞は、医薬として、特に、ジストロフィン異常症の処置のための医薬として使用され得る。
【0138】
ジストロフィン異常症は、タンパク質のジストロフィンをコードするDMD遺伝子における病原性バリアントによって引き起こされるX連鎖性筋肉疾患のスペクトルである。ジストロフィン異常症は、デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)、ベッカー型筋ジストロフィー(BMD)及びX連鎖性拡張型心筋症(DMD関連拡張型心筋症とも称される)を含む。
【0139】
DMDは、病原性バリアントがジストロフィン異常症を引き起こす唯一の遺伝子である。5,000超の病原性バリアントが、DMD、BMD又はX連鎖性拡張型心筋症を有する人において特定されている。疾患を引き起こす対立遺伝子は、非常に可変であり、遺伝子全体の欠失、1つ又は複数のエクソンの欠失又は重複、及び小さな欠失、挿入又は単一塩基変化を含む(Darras BT、Miller DT、Urion DK. Dystrophinopathies. 2000年9月5日[2014年11月26日更新]. In: Pagon RA、Adam MP、Ardinger HHら編. GeneReviews(登録商標) [インターネット]. Seattle (WA): University of Washington, Seattle; 1993-2017. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK1119/から利用可能、同様にOMIM Entries for Dystrophinopathies 300376, 300377, 302045及び310200を参照されたい)。
【0140】
本開示は、本開示によるジストロフィン異常症、特に、デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)、ベッカー型筋ジストロフィー(BMD)及びX連鎖性拡張型心筋症を処置するための方法であって、治療有効量の上記に記載される組成物、医薬組成物又は単離された細胞を患者に投与する工程を含む、方法も提供する。
【0141】
「治療有効量」とは、所望の治療結果を達成するために必要な投薬量及び期間で有効な量を指す。本開示の生成物、それを含む医薬組成物又は細胞の治療有効量は、疾患状態、個体の年齢、性別及び体重、並びに個体において所望の応答を誘発する生成物又は医薬組成物の能力等の因子に従って変わり得る。投薬レジメンは、最適な治療応答を提供するように調整され得る。治療有効量はまた、典型的には、生成物又は医薬組成物の任意の毒性作用又は弊害をもたらす作用を治療的に有益な効果が上回るものである。
【0142】
本明細書において使用される場合、「患者」又は「個体」という用語は、哺乳動物を表す。好ましくは、本開示による患者又は個体は、ヒトである。
【0143】
本開示の文脈において、「処置すること」又は「処置」という用語は、本明細書において使用される場合、そのような用語が適用されるジストロフィン機能障害若しくは状態によって引き起こされる疾患の進行を反転させること、軽減すること若しくは阻害すること、又はそのような用語が適用される障害若しくは状態の1つ若しくは複数の症状の進行を反転させること、軽減すること若しくは阻害することを意味する。
【0144】
本開示の生成物は、一般に、患者において治療効果を誘導するのに有効な投薬量及び期間で、公知の手順に従って投与される。
【0145】
投与は、全身又は局所であり得る。全身投与は、好ましくは、皮下(SC)、筋肉内(IM)、静脈内(IV)又は動脈内等の血管内、腹腔内(IP)、皮内(ID)、そうでなければ組織内である。投与は、例えば、注射又は灌流によってであり得る。一部の好ましい実施形態において、投与は、非経口的、好ましくは、静脈内(IV)又は動脈内等の血管内である。本開示の実行は、他に指示されない限り、当技術分野における技能内である従来の技法を用いる。そのような技法は、文献において完全に説明されている。
【0146】
更なる態様において、本開示は、ユートロフィン遺伝子発現を活性化する使用のための、例えば、研究ツールのための、上記に記載される組成物の非治療的使用にも関する。
【0147】
別の態様において、本開示は、ユートロフィン発現を増強するためのキットに関し、前記キットは、上記に記載される、遺伝子編集酵素、例えば、ガイドRNAとCasタンパク質、塩基エディター若しくはプライムエディターとの組み合わせ、核酸構築物、発現ベクター、又はウイルス粒子、或いは本開示による単離された細胞を含む。
【0148】
本発明を、ここに、以下の実施例を用いて例示し、これらは、限定的なものではない。
【実施例
【0149】
1.材料及び方法
細胞培養
ヒトDMD筋芽細胞を、1%のペニシリンストレプトマイシン(Invitrogen社)で補充された平滑筋細胞成長培地(C-23060、PromoCell社)中で維持した。細胞を、5%のCO2、37℃で維持した。
【0150】
sgRNA設計
Let7c結合部位及びERF結合部位を標的にするガイドを、編集について意図される変異へのそれらの近接性に基づいて選択し、Doenchら 2016年、Nat. Biotechnol. 34(2):184~191頁によって記載されるオンラインBenchling Toolによってコンピューターで予測される最も活性なsgRNAに基づいて設計した。0.30よりも高い予測活性スコアを有する全てのsgRNAを、次に、CRISPR設計ツールによって解析し、可能性のあるオフターゲット部位の少なくとも可能な数に従ってランク付けした(Hsuら 2013年、Nat Biotechnol. 2013年9月;31(9):827~32頁)。
- hLetc1(Letc1):ATGGATCTGAGGTAGAAAGG(配列番号5)
- miR-196b:GTGCTTTCTTGGGTATGACA(配列番号7)
- miR-150-133b-296-5p(II):TTATTTTAGAATAGGTTGGG(配列番号24)
- hERB(ERB):TCTTCCGGAACAAAGTTGCT(配列番号9)
- hLet7c2:CTGAGGTAGAAAGGTGGTCA(配列番号4)
- hLet7c3:AAGATGGATCTGAGGTAGAA(配列番号6)
- mLet7c2:CTGAGGTAGAAAGGTGATCA(配列番号3)
- mLet7c4:AAGGTGGTTCTGAGGTAGAA(配列番号25)
- EN1(hEN1):GCTGACCCGGGAACGTAGTG(配列番号16)
【0151】
3つの最初の及び最後の塩基に2'-O-メチル並びに最初の3つの塩基及び最後の2つの塩基の間に3'ホスホロチオネート結合を含むヌクレオフェクション化学的に改変された単一ガイドRNA(Synthego社)を、製造業者の使用説明書に従って希釈した。リボヌクレオタンパク質複合体を、sgRNA及び30pmolのストレプトコッカス・ピオゲネスCas9タンパク質(比1:2)を用いて形成した。条件あたり2.5×105個のhDMD筋芽細胞を、Alt-R(登録商標)Cas9 Electroporation Enhancer(番号1075916;IDT社)の存在下、 P5 Primary Cell 4D-Nucleofector Xキット(C2C12 program社)を使用して、RNPでトランスフェクトした。培養培地を、翌日交換し、細胞を、電気穿孔48時間後にタンパク質解析のために摘出した。
【0152】
DNA解析
ゲノムDNAを、QuickExtract(商標)DNA抽出溶液(Lucigen社、Middelton、WI、USA)を用いて抽出した。50ngのゲノムDNAを使用して、KAPA2G Fast ReadyMix(Kapa Biosystem社、Wilmington、MA、USA)を使用して、それぞれのgRNAの切断部位に及ぶ領域を増幅した。サンガーシークエンシング(Genewiz社、Takeley、UK)後、挿入及び欠失(インデル)のパーセンテージを、TIDEソフトウェア(Brinkmanら 2014年、NAR 41(12):168頁)を使用して算出した。
【0153】
RNA抽出及びRT-qPCR
総RNAを、RNeasy Microキット(Qiagen社、Hilden、Germany)を使用して精製した。RNAを、Transcriptor First Strand cDNA合成キット(Roche社、Basel、Switzerland)を使用して逆転写した。qPCRを、Maxima Syber Green/Rox(Life Scientific、Thermo-Fisher Scientific社、Waltham、MA、US)を使用して行った。ユートロフィンA(フォワードプライマー5'-ACGAATTCAGTGACATCATTAAGTCC-3'(配列番号22)、リバースプライマー5'ATCCATTTGGTAAAGGTTTTCTTCTG-3'(配列番号23)mRNA発現レベルを、参照遺伝子(NM_002046.6)としてヒトGAPDHを使用して正規化し、対照に対する倍数変化(2^ΔΔCt)として表した。逆転写なし(RTなし)及び鋳型対照なし(NTC)の反応を、それぞれ40サイクルのPCR実行において、陰性対照として使用した(Cq値 NTC=未決定、RTなし=未決定)。
【0154】
タンパク質解析
筋肉細胞試料を、プロテアーゼ阻害剤(P8340、Sigma-Aldrich社)で補充されたRIPA緩衝液(R0278-50ml、Sigma-Aldrich社)中、氷上でホモジナイズした。BCA定量化後、10μgの総タンパク質を100℃で5分間熱変性させた後、NuPAGE 3~8% TRIS Acetate Midiゲル(Novex、Life Technologies社)にロードし、PVDF膜(Millipore社)に移した。膜を、Odysseyブロッキング緩衝液(926-41090;LI-COR社;USA)を用いて1時間ブロッキングし、次いで、室温で2時間、以下の一次抗体:マウス抗ユートロフィン(1:50、MANCHO3(84A))及びウサギ抗gapdh(1:5000、MAB374、Sigma Aldrich社)と共にインキュベートした。Odysseyイメージングシステム及びImage Studio Liteソフトウェア(LI-COR Biosciences社;USA)を使用して、ビンキュリンに対して、標的タンパク質を定量化した。
【0155】
レポーターアッセイ及びトランスフェクション
ユートロフィン3'UTRは、ヒトユートロフィンUTRN-001(ENST00000367545.7)配列に基づく。全てのユートロフィン3'UTRレポーター構築物を、GenScript Biotech社(Leiden、Netherlands)によって作成し、pEZX-GA02 Gaussiaルシフェラーゼ(Gluc)及びGaussiaルシフェラーゼレポーター遺伝子の下流の分泌アルカリホスファターゼ(SEAP)レポータークローニングベクター(ZX-104、Genecopoeia社)に組み込んだ。正確な組み込みを、酵素消化によって制御し、全てのプラスミドを配列決定して、構築物の同一性を検証した。XL-10細菌における形質転換後、プラスミド調製を、NucleoSpin Plasmidキット(740588.50、Macherey Nagel社)を使用して、製造業者の推奨に従って行った。Gaussiaルシフェラーゼレポーター遺伝子におけるユートロフィン3'UTRバリアントの影響を研究するために、hDMD D52筋芽細胞を、10,000個細胞/ウェルで96ウェルプレートに播種した。その翌日、細胞を、トランスフェクション剤としてLipofectamine(商標)3000 (L3000008、ThermoFisher社)を使用してトランスフェクトした。簡潔には、100ngのpEZX-GA02-3'UTRバリアント及び0.2ulのP3000試薬を、5ulのOptimenに希釈した後、5ulのOptimenに希釈された0.3ulのLipofectamine 3000と穏やかに混合した。室温での15分のインキュベーション後、混合物を、100ulの最終体積に無血清培養培地で希釈した。実験を三反復で行った。トランスフェクション48時間後、上清を、酵素投薬量のために収集した。
【0156】
酵素投薬量
Gaussiaルシフェラーゼ活性を、以下のプロトコールを使用することによって測定した。培養培地を収集し、1:10希釈を使用して、PBS1Xに希釈した。50ulの希釈された上清を、白色96ウェルOptiPlateに分配した。11ulのセレンテラジン(C3230-50UG、Sigma Aldrich社)を、5.5mlのPBS1Xに希釈し、自動で分配した。ルシフェラーゼ光単位を、EnSpire Multimodeプレートリーダー(Perkin Elmer社、Courtaboeuf、France)を使用して測定した。トランスフェクション効率を、Phospha-Light(商標)SEAPレポーター遺伝子アッセイシステム(T1015、ThermoFisher社)及び上清の1:20希釈を使用するSEAPの定量化によって制御した。Gaussiaルシフェラーゼ値を、SEAP測定値によって正規化した。全ての条件を三反復で行った。
【0157】
マウス及び薬物処置
全ての動物手順を、実験動物の人間のケア及び使用についての欧州のガイドラインに従って行い、動物実験は、番号APAFIS#29497-2020102611378971 v2及びDAP 2020-001-BのEvryの動物実験C2AE-51について倫理委員会によって承認された。全てのC57BL/10ScSn-Dmdmdx/J(BL10/mdx)雌マウスは、CERFE(Experimental Functional Research Exploration Center)施設、Genopoleにおいて飼育した。
【0158】
4週齢のmdxマウスに、rAAV9-CMV-Cas9及びrAAV9-gmLet7c2の合計10E12ベクターゲノムを尾静脈注射によって投与した。SpCas9(1):gmLet7c2(5)比を使用した。対照mdxマウスは、rAAV9-CMV-Cas9及びrAAV9-gRosa26.1の合計10E12ベクターゲノムを受けた。次いで、全てのマウスを、9週齢で摘出した。マウス組織の組織学的及び分子分析のために、検体を、動物を頸椎脱臼によって死亡させた直後に収集し、液体窒素で冷却したイソペンタン中で瞬間凍結させ、-80℃で保管した。
【0159】
組織学的分析
前脛骨筋(TA)横凍結切片(8μm厚さ)を、凍結した筋肉から調製し、風乾し、-80℃で保管した。マウス切片を、以前に記載されたようにして[Guiraudら、HMG. 2015年]、ヘマトキシリン-エオシン染色のために処理した。全筋肉切片を、ZEN2.6 SlideScanソフトウェア及びPlan APO 10×0.45 NA対物レンズを使用して、Axioscan Z1自動スライドスキャナー(Zeiss社、Germany)において可視化した。中心の有核線維の割合を、全筋肉切片のH&E画像を解析することによって決定した。壊死の領域を、DMD_M.1.2.007 MDC1A_M.1.2.004 TREAT-NMD SOPSに基づいて定量化し、TA切片において、Fiji ImageJ 1.49iソフトウェアを用いて行った。
【0160】
免疫蛍光法
凍結横筋切片を、アセトン中で10分間固定し、次いで、M.O.M.(登録商標)(Mouse on Mouse)(BMK-2202、Vector Laboratories社)中で30分間ブロッキングし、マウスモノクローナル抗ユートロフィン(1:50、SC-33700)一時抗体と共に4℃で終夜インキュベートした。次に、切片を、PBS中で洗浄し、好適なAlexa Fluor二次抗体と共に室温で1時間インキュベートした。切片を、Axioplan 2顕微鏡システム(Carl Zeiss社、Germany)下で調べた。
【0161】
統計学
結果を、Prism(GraphPad Software, Inc.社)、及び分散の平等に応じて等しい又は等しくない標本分散と仮定する両側分布(F検定)を伴うスチューデントのt検定を使用して解析した。データは、平均±SEM(平均の標準誤差)として表し、nは、比較のために、それぞれの群において使用された独立した生物学的反復の数を示す。差は、(*)p<0.05、(**)p<0.01及び(***)p<0.001で有意と見なした。
【0162】
2.結果
単一ガイドRNAを使用して、本発明者らは、ユートロフィンプロモーターにおける特異的リプレッサードメイン及びユートロフィン遺伝子の3'-UTRを標的にする(図1)。参照配列として3'-UTR配列(配列番号43)を使用して、AU-リッチエレメントは、314~336位であり;miR-296-5p(I)は、314~336位であり;miR-206は、394~415位であり;miR-150は、1508~1527位であり;Let7cは、1593~1616位であり;miR-196bは、1697~1715位である。
【0163】
ヒトDMD筋芽細胞において、本発明者らは、リボヌクレオタンパク質(RNP)Cas9、並びにユートロフィンの3'UTRにおけるLet7c、miR-196b、miR-150/133b/296-5p(II)結合部位及びユートロフィン遺伝子の5'UTRのERF結合部位を標的にする異なる単一ガイドをヌクレオフェクトした。
【0164】
陰性対照は、単一ガイドRNAなしでCas9でヌクレオフェクトされたヒトDMD筋芽細胞に相当する。処置の48時間後、本発明者らは、ユートロフィンmRNAレベルの有意な1.8 倍及び4.1倍の増加にそれぞれ関連する、miR-196b及びLet7cを標的にする単一ガイドによる編集の70%及び87%の有効性(Table 3(表3))を観察した(図2)。本発明者らはまた、RNP Cas9系を使用して、プロモーター領域中のEts-2リプレッサー因子結合部位(ERB)を破壊し、ユートロフィンmRNAレベルの4.7倍の増加に関連する編集の90%の有効性(Table 3(表3))を観察した(図2)
【0165】
【表3】
【0166】
インデルを、TIDEソフトウェア[Brinkmanら 2014年、NAR 41(12):168頁]を使用することによって決定する。
【0167】
ジストロフィー筋芽細胞において、これらの結果は、上記で言及された以前に公開されたユートロフィンに基づく戦略で得られた結果よりも優れている。対照的に、ユートロフィンmRNAレベルの有意な増加を伴わない編集の16%の有効性(Table 3(表3))が、gmiR-150-133b-296-5p(II)を標的にする単一ガイドで観察された(図2)。
【0168】
次いで、本発明者らは、下方調節されているUTRN発現の原因となる3'UTRを探した。したがって、3'UTRのいくつかのバリアントを設計した(図3)。これらの異なる3'UTRを、デュアルレポーター系であるpEZX-GA02に組み込んだ。次に、全ての構築物を、hDMD-D52筋芽細胞においてトランスフェクトした。レポーター系(Gaussiaルシフェラーゼ)を使用して、GLuc発現に対するそれぞれの構築物/欠失の結果を研究することができた。これは、遺伝子発現を増加させるために生じさせる最良の欠失についてのいくつかのアイデアを与えた。
【0169】
hDMD D52筋芽細胞において全ての構築物を用いて得られた結果を図4に提示する。これらのデータは、3'UTRの341~2046位に相当する欠失させる最良の領域を定義することを可能にする(構築物C4)。この欠失は、Let7cの結合部位の欠失と比較して(構築物C9)、有意差を示さず、Let7cが、非常に興味深く、恐らく標的にするための最良の配列であることを示す。ガイドhLet7c1を使用すると、主な遺伝子改変は、1ヌクレオチドの付加及び8ヌクレオチドの欠失である。1ヌクレオチドの付加又は8ヌクレオチドの欠失によるLet7c結合部位の破壊は、Let7cの結合部位の完全な欠失と同等に効率的である(構築物C9対C10及びC11の比較)。これらのデータは、点変異を生じさせる単一ガイドが2つのsgRNAによって生じた欠失よりも効率的であることを実証する。
【0170】
hDMD D52においてhLet7c1、hEN1及びhERBで得られたタンパク質の結果を図5に示す。処置の5日後、全てのガイド/処置は、陰性対照と比較して、ユートロフィンA発現の2/3倍の増加を導いた。
【0171】
これらのデータによれば、1つのガイドによるLet7c結合部位の標的化は、ユートロフィンの3'UTRにおける最良の選択肢であった。いくつかのガイドは、ヒトDMD筋芽細胞において、hLet7c1を標的にする。ヒトDMD筋芽細胞における最も効率的なガイドは、hLet7c1であった(図6)。通常の条件(cas9:ガイド比が1:2と1倍のエンハンサー)において、このガイドは、87%の効率で切断し、ユートロフィンmRNA発現を、最大で4.1倍増加させる。したがって、本発明者らは、Let7cに注目し、他の可能性のあるガイド(Let7c2及び3)を探した。重要には、hLet7c1は、ヒトUTRNに特異的であり、Let7c2ガイドは、ヒト及びマウス3'UTR配列について「互換性がある」(hLet7c2及びmLet7c2の間の1ヌクレオチドの不一致)。通常の条件で、hLet7c2及びmLet7c2は、49~52%の効率で切断し、ユートロフィンmRNA発現を2倍まで増加させる(図6)。hLet7c2及びmLet7c2は、類似の方法で挙動し、それらのインデルプロファイルは類似する。
【0172】
DMDマウスモデル(mdxマウス)におけるlet7c BS破壊によるUTRN上方調節を試験するために、本発明者らは、mLet7c BS、mLet7c2及びmLet7c4に特異的な2つの追加のガイドを設計した。C2C12不死化マウス筋芽細胞株において、mLet7c2は、ユートロフィンタンパク質発現の2倍の増加を示して、最も強力であった(図7及び8)。
【0173】
細胞処置の条件を改変して、切断効率及びその後のユートロフィンレベルを改善した。cas9:ガイド比を、1:2から1:5まで変化させ、使用されるエンハンサーの濃度を、1倍から5倍まで増加させた。これらの最適化された条件で、切断の有効性は、最高で95%まで増加し、ユートロフィンmRNAは7倍の増加に達した(図9)。これらの研究は、hDMD D52筋芽細胞において行った。
【0174】
Cas9を発現する組換えAAV及びmLet7c2を発現する組換えAAVを、mdxマウスに静脈内投与した(1:5のrAAV-SpCas9/AAV-mLet7c2比を使用して、1E12vg総用量)。rAAV-Rosa26/rAAV-SpCas9による処置を、対照として使用した。TA筋肉組織のウエスタンブロット解析は、対照と比較して、1E12vg総用量のrAAV-mLet7c2/rAAV-SpCas9による処置の5週間後にユートロフィンタンパク質発現の1.6倍の増加を示した(図10A)。筋肉切片の免疫蛍光染色は、ユートロフィンシグナルが、対照と比較して、rAAV-mLet7c2/rAAV-SpCas9処置後に増加し、筋肉膜に局在化することを確認する(図10B)。rAAV-mLet7c2/rAAV-SpCas9で処置されたマウスからの筋肉は、TA筋において、対照群と比較して、中央の有核線維の有意な22%(p=0.03)の減少を示した。rAAV-mLet7c2/rAAV-SpCas9で処置されたマウスのTAにおける壊死筋肉領域は、対照群と比較して、82%(P=0.03)有意に減少した(図10C)。これは、Cas9を発現するrAAV、及びLet7c結合を標的にする単一gRNAを発現するrAAVによるmdxマウスの処置が、対照と比較して、筋肉の構造及び組織学をマウスで改善したことを示す。これらの結果は、ジストロフィン異常症の処置のための新たな展望を開く。
図1
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【配列表】
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【国際調査報告】