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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-10-11
(54)【発明の名称】脳卒中の処置
(51)【国際特許分類】
   A61K 45/00 20060101AFI20231003BHJP
   A61P 9/10 20060101ALI20231003BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20231003BHJP
   A61K 31/21 20060101ALI20231003BHJP
   A61K 31/4422 20060101ALI20231003BHJP
   A61K 47/34 20170101ALI20231003BHJP
   A61K 9/14 20060101ALI20231003BHJP
   A61K 9/51 20060101ALI20231003BHJP
   A61K 9/10 20060101ALI20231003BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20231003BHJP
   A61K 45/06 20060101ALI20231003BHJP
【FI】
A61K45/00
A61P9/10
A61P25/00
A61K31/21
A61K31/4422
A61K47/34
A61K9/14
A61K9/51
A61K9/10
A61P43/00 111
A61P43/00 121
A61K45/06
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023519710
(86)(22)【出願日】2021-09-28
(85)【翻訳文提出日】2023-05-26
(86)【国際出願番号】 US2021052402
(87)【国際公開番号】W WO2022072348
(87)【国際公開日】2022-04-07
(31)【優先権主張番号】2015386.2
(32)【優先日】2020-09-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(31)【優先権主張番号】2107137.8
(32)【優先日】2021-05-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.プルロニック
(71)【出願人】
【識別番号】507226592
【氏名又は名称】オックスフォード ユニヴァーシティ イノヴェーション リミテッド
(71)【出願人】
【識別番号】507044516
【氏名又は名称】プレジデント アンド フェローズ オブ ハーバード カレッジ
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【弁理士】
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100156144
【弁理士】
【氏名又は名称】落合 康
(72)【発明者】
【氏名】ビアード,ダニエル
(72)【発明者】
【氏名】イングバー,ドナルド
(72)【発明者】
【氏名】ウズン,オクタイ
(72)【発明者】
【氏名】ボーブ,フランク
【テーマコード(参考)】
4C076
4C084
4C086
4C206
【Fターム(参考)】
4C076AA16
4C076AA29
4C076AA65
4C076BB13
4C076CC11
4C076EE24
4C076EE48
4C084AA17
4C084AA19
4C084AA20
4C084MA02
4C084MA05
4C084MA21
4C084MA38
4C084MA41
4C084MA66
4C084NA05
4C084NA14
4C084ZA011
4C084ZA012
4C084ZA401
4C084ZA402
4C084ZC411
4C084ZC412
4C084ZC75
4C086AA01
4C086AA02
4C086BC26
4C086MA01
4C086MA02
4C086MA03
4C086MA04
4C086MA05
4C086MA21
4C086MA38
4C086MA41
4C086MA66
4C086NA05
4C086NA14
4C086ZA01
4C086ZA40
4C086ZC41
4C086ZC75
4C206AA01
4C206AA02
4C206EA07
4C206MA01
4C206MA02
4C206MA03
4C206MA04
4C206MA05
4C206MA41
4C206MA58
4C206MA61
4C206MA86
4C206NA05
4C206NA14
4C206ZA01
4C206ZA40
4C206ZC41
4C206ZC75
(57)【要約】
本発明は、側副血管を介して脳への血液供給を増加させることにより脳卒中を処置するのに用いるためのせん断活性化ナノ治療薬(SA-NT)であって、SA-NTが、複数のナノ粒子を含む凝集体を含み、凝集体が、1つ以上の血管拡張薬またはその医薬的に許容される塩をさらに含み;凝集体が、所定のせん断応力を超えると分解するように構成されている、せん断活性化ナノ治療薬に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
側副血管を介して脳への血液供給を増加させることにより脳卒中を処置するのに用いるためのせん断活性化ナノ治療薬(SA-NT)であって、SA-NTが、複数のナノ粒子を含む凝集体を含み、凝集体が、1つ以上の血管拡張薬またはその医薬的に許容される塩をさらに含み;
凝集体が、所定のせん断応力を超えると分解するように構成されている、せん断活性化ナノ治療薬。
【請求項2】
1つ以上の血管拡張薬が、硝酸薬、アンジオテンシンII受容体遮断薬、カルシウムチャネル遮断薬、選択的α遮断薬、β1作動薬、β2作動薬、β作動薬、ET1受容体拮抗薬、ホスホジエステラーゼ5阻害薬、または小(SK)および中間(IK)カルシウム活性化カリウムチャネルの作動薬からなる群より選択される、請求項1に記載の使用のためのせん断活性化ナノ治療薬。
【請求項3】
1つ以上の血管拡張薬が、硝酸薬、アンジオテンシンII受容体遮断薬、またはカルシウムチャネル遮断薬からなる群より選択される、請求項1または2に記載の使用のためのせん断活性化ナノ治療薬。
【請求項4】
1つ以上の血管拡張薬が、ニトログリセリンを含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の使用のためのせん断活性化ナノ治療薬。
【請求項5】
1つ以上の血管拡張薬が、ニモジピンを含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の使用のためのせん断活性化ナノ治療薬。
【請求項6】
SA-NTが、約100dyn/cm2を超えるせん断応力でその構成ナノ粒子を放出するように構成されている、請求項1~5のいずれか一項に記載の使用のためのせん断活性化ナノ治療薬。
【請求項7】
ナノ粒子が、ポリ乳酸とポリグリコール酸の共重合体を含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の使用のためのせん断活性化ナノ治療薬。
【請求項8】
1つ以上の血管拡張薬またはその医薬的に許容される塩が、ナノ粒子中に封入されているか、ナノ粒子の表面に吸着しているか、またはナノ粒子に共有結合している、請求項1~7のいずれか一項に記載の使用のためのせん断活性化ナノ治療薬。
【請求項9】
1つ以上の血管拡張薬またはその医薬的に許容される塩が、ナノ粒子が凝集しているときよりナノ粒子が分解しているとき、より速い速度でおよび/またはより多くの量で放出される、請求項1~8のいずれか一項に記載の使用のためのせん断活性化ナノ治療薬。
【請求項10】
側副血管を介して脳への血液供給を増加させることにより脳卒中を処置するのに用いるための組成物であって、該組成物が、1つ以上の医薬的に許容される添加剤、担体および/または希釈剤と組み合わせて、請求項1~9のいずれか一項に記載のせん断活性化ナノ治療薬(SA-NT)を含む、組成物。
【請求項11】
SA-NTまたは組成物が、静脈内投与される、請求項1~9のいずれか一項に記載の使用のためのせん断活性化ナノ治療薬または請求項10に記載の使用のための組成物。
【請求項12】
SA-NTまたは組成物が、連続注入として投与される、請求項1~11のいずれか一項に記載の使用のためのせん断活性化ナノ治療薬または組成物。
【請求項13】
SA-NTまたは組成物が、ボーラスとして投与される、請求項1~11のいずれか一項に記載の使用のためのせん断活性化ナノ治療薬または組成物。
【請求項14】
脳卒中が、虚血性脳卒中である、請求項1~13のいずれか一項に記載の使用のためのせん断活性化ナノ治療薬または組成物。
【請求項15】
処置が、ペナンブラへの血流を増加させる、請求項1~14のいずれか一項に記載の使用のためのせん断活性化ナノ治療薬または組成物。
【請求項16】
SA-NTまたは組成物が、神経保護治療と組み合わせて投与される、請求項1~15のいずれか一項に記載の使用のためのせん断活性化ナノ治療薬または組成物。
【請求項17】
SA-NTまたは組成物が、血栓溶解治療および血栓を溶解する治療より選択される1つ以上の更なる治療と組み合わせて投与され;更なる治療が、SA-NTの一部として投与されない、請求項1~16のいずれか一項に記載の使用のためのせん断活性化ナノ治療薬または組成物。
【請求項18】
処置を必要とする患者に請求項1~9のいずれか一項に記載のせん断活性化ナノ治療薬(SA-NT)または請求項10に記載の組成物を投与することを含む、側副血管を介して脳への血液供給を増加させることにより脳卒中を処置する方法。
【請求項19】
側副血管を介して脳への血液供給を増加させることにより脳卒中を処置するための医薬の製造のための、請求項1~9のいずれか一項に記載のせん断活性化ナノ治療薬(SA-NT)または請求項10に記載の組成物の使用。
【請求項20】
複数のナノ粒子を含む凝集体を含むせん断活性化ナノ治療薬(SA-NT)であって、凝集体が、所定のせん断応力を超えると分解するように構成されており;そして、凝集体が、約0.4重量%~約2.5重量%のニトログリセリンまたはその医薬的に許容される塩をさらに含む、せん断活性化ナノ治療薬。
【請求項21】
凝集体が、約0.8重量%~約1.6重量%のニトログリセリンまたはその医薬的に許容される塩を含む、請求項20に記載のせん断活性化ナノ治療薬。
【請求項22】
凝集体が、約1重量%~約1.4重量%のニトログリセリンまたはその医薬的に許容される塩を含む、請求項20または21に記載のせん断活性化ナノ治療薬。
【請求項23】
SA-NTが、約100dyn/cm2を超えるせん断応力でその構成ナノ粒子を放出するように構成されている、請求項20~22のいずれか一項に記載のせん断活性化ナノ治療薬。
【請求項24】
凝集体が、ニモジピンをさらに含む、請求項20~23のいずれか一項に記載の使用のためのせん断活性化ナノ治療薬。
【請求項25】
ナノ粒子が、ポリ乳酸とポリグリコール酸の共重合体を含む、請求項20~24のいずれか一項に記載のせん断活性化ナノ治療薬。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ペナンブラに供給を行っている側副血管において血流を増加させることによる虚血性脳卒中の処置に関する。
【背景技術】
【0002】
脳卒中は世界中で大きな健康問題である。最近の推定(Feigin VL et al. Global and regional burden of stroke during 1990-2010: findings from the Global Burden of Disease Study 2010. Lancet. 2014;383(9913):245-254)では、世界の有病率は1000人年当たり5人が脳卒中であることを示しており、これは3,300万人が脳卒中後に生存していることに相当する。2010年には590万人が脳卒中関連で死亡し、脳卒中によって1億200年を超える障害調整生存年(DALY)が失われており、これは、早期死亡と障害に起因する健康寿命の損失年数の合計に相当する。近年、脳卒中治療の選択肢または脳卒中関連の死亡率/罹患率の低下においてはほとんど進歩が見られない。
【0003】
脳卒中は、血栓または血塊によって脳への血流が阻害されると生じる。その後の血液供給の減少は、脳細胞の損傷および死を引き起こす。虚血性脳卒中は、脳への血液供給が血栓によって完全に遮断されるか、または著しく減少すると生じる。これは、血管の損傷または破裂により動脈からの血液が脳内に出血するときに発生する出血性脳卒中とは異なる。
【0004】
現在、血栓除去術または血栓溶解術によって虚血侵襲を止めること以外に、虚血性脳卒中に対する具体的な治療法はない。血栓または血塊により脳が適切な血液供給を奪われる時間を最小限に抑えることが、虚血組織を救うための鍵となる。
【0005】
脳卒中後の血流の減少と細胞死の速度は均一ではない。中央領域(虚血性コア)では、血流の減少が著しく、急速な組織死をもたらす。コアの周囲には、脳組織を限られた時間だけ生存させるのに十分な残留灌流が存在する場合がある。閉塞した動脈が十分に速やかに開通すれば、この周囲領域(虚血性ペナンブラ)の組織を救うことができる。虚血性脳卒中が発症した後、ペナンブラは、脳の表面上の軟髄膜側副(またはバイパス)血管(本明細書において「側副」または「側副血管」とも称する)を介して、隣接する閉塞されていない動脈領域から残留灌流を受け取る。臨床試験では、これらの血管を通る流量が多くなると、ペナンブラが大きくなり(細胞死の核領域が小さくなり)、脳卒中患者の転帰が改善されることが示されている。例えば、Vagalら(Stroke (2018) 49(9): 2102-2107)は、側副が貧弱な脳卒中患者では、側副が頑丈な患者より低いペナンブラ救助になると報告している。Wufuerら(Exp Ther Med. 2018 Jan;15(1):707-718)は、血栓溶解処置後に側副循環状態が良好な脳卒中患者の転帰の改善を報告しており、一方、Lengら(J Neurol Neurosurg Psychiatry. 2016 May;87(5):537-44)は、血管内(血栓除去)処置後に処置前の側副状態が良好な脳卒中患者の転帰の改善を報告している。
【0006】
側副血管を通る血流を維持または増強できる治療法は、虚血下のペナンブラの細胞をより長く生存させ、閉塞した脳動脈が開通し得る好機を広げる可能性がある。しかしながら、ヒトの脳卒中転帰における側副血管の状態の重要性が証明されているにもかかわらず、側副血管を標的としたそのような治療法に関する既存の研究はほとんどない。そのため、側副治療法は、発展途上の分野である。
【0007】
以前に提案されている側副治療戦略は、例えば血圧の上昇または血管拡張によって、側副灌流を増加させる介入を含む。これらのアプローチは主に、脳への血液の推進圧力を高めること、または側副血管を拡張することに基づく。これらの介入の多くは、脳卒中の動物モデル(例えば、誘発性高血圧、部分大動脈閉塞、吸入一酸化窒素および蝶形口蓋神経節刺激)における側副血流を改善することが示されているが、それらの最終的な臨床的有用性は、侵襲性、副作用および専門機器の必要性を巡る問題により限定されている。例えば、血圧を上昇させることは、すでに機能不全のある患者において出血または血管の破裂を容易に引き起す可能性がある。また、血管拡張治療は、脳および身体の他の場所の血管床を拡張する可能性がある。これは血管スチール(すなわち、末梢血管ネットワークの拡張が脳などの別の領域から血流を「盗む」)を引き起こし、これにより、全身灌流圧が低下し、最終的に脳卒中の転帰を悪化させる。
【0008】
例えば、強力な血管拡張剤であるニトログリセリンの経皮(すなわち全身)送達は、超急性脳卒中患者の機能的転帰を改善しなかったことが最近示されている(Bath et al., The Lancet, Volume 393, Issue 10175, pages 1009-1020)。
【0009】
したがって、脳卒中患者の転帰を改善する更なる治療が必要とされている。
【発明の概要】
【0010】
本発明は、虚血性脳卒中時の全身血管拡張に関連する有害な副作用を軽減または回避しながら、側副血管を選択的に拡張する戦略について説明する。したがって、本発明は、側副血管を介して脳への血液供給を増加させることにより脳卒中を処置するのに用いるためのせん断活性化ナノ治療薬(SA-NT)であって、SA-NTが、複数のナノ粒子を含む凝集体(ナノ粒子凝集体/NPA)を含み、ナノ粒子凝集体が、1つ以上の血管拡張薬またはその医薬的に許容される塩をさらに含み;ナノ粒子凝集体が、所定のせん断応力を超えると分解するように構成されている、せん断活性化ナノ治療薬に関する。
【0011】
本発明はまた、側副血管を介して脳への血液供給を増加させることにより脳卒中を処置するのに用いるための組成物であって、該組成物が、1つ以上の医薬的に許容される添加剤、担体および/または希釈剤と組み合わせて、このようなSA-NTを含む、組成物に関する。
【0012】
本発明はまた、処置を必要とする患者にこのようなSA-NTまたはこのような組成物を投与することを含む、側副血管を介して脳への血液供給を増加させることにより脳卒中を処置する方法に関する。
【0013】
本発明はまた、側副血管を介して脳への血液供給を増加させることにより脳卒中を処置するための医薬の製造のための、このようなSA-NTまたはこのような組成物の使用に関する。
【0014】
本発明はまた、複数のナノ粒子を含む凝集体を含むSA-NTであって;凝集体が、所定のせん断応力を超えると分解するように構成されており;そして、凝集体が、約0.1重量%~約20重量%の1つ以上の血管拡張薬をさらに含む、SA-NTに関する。好ましくは、凝集体は、1つ以上の血管拡張薬として、約0.4重量%~約2.5重量%のニトログリセリンまたはその医薬的に許容される塩を含む。
【0015】
側副治療としてのSA-NTの使用には、以前に試行された側副治療に比べて多くの明確な利点があり、臨床的有用性を高め得る。例えば、SA-NTは、静脈内など、血流へ簡単に直接投与される。専門機器は必要なく、処置は非侵襲的である。処置は、病院到着時または病院到着前に、例えば緊急事態に対応する救急隊員によって施される場合がある。したがって、これは、全身の血圧を低下させることなく、脳卒中後の脳への血流を増加させる改良された方法である。
【0016】
側副血管の拡張によって側副血管への血流を増加させる選択的処置もまた、脳卒中自体を引き起こす閉塞を標的とする従来の処置に比べて利点がある。特に、閉塞自体を標的とする薬物の投与は、脳卒中の性質が診断されるまで延期される。したがって、側副血管を特に標的とする本発明は、緊急治療として脳卒中直後に投与できるため、そのような処置より利点がある。これにより、脳卒中の発生から更なる治療の実施までの期間における脳組織の生存が最大化される。
【0017】
さらに、SA-NTは、血管拡張剤を放出する側副血管の部位でのみ活性化される。これにより、血管拡張剤への全身曝露が最小限に抑えられ、血管拡張剤の血管拡張効果を向上させる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1図1は、脳卒中ラットモデルにおける側副灌流に対するニトログリセリン含有ナノ粒子凝集体を含むSA-NT(NG-NPA)およびブランクNPAの注入の効果を示す。
図2図2は、脳卒中ラットモデルにおけるNG-NPAおよびブランクNPAでの処置中の側副灌流の平均変化を示す。
図3図3は、脳卒中ラットモデルにおける「遊離」ニトログリセリン(すなわち、NPAを含まない可溶性ニトログリセリン)の増加させた用量と比較した、NG-NPAを用いて得られたピーク側副灌流を示す。
図4図4は、脳卒中ラットモデルにおける2.75μg/kg/分の速度でのNG-NPAの注入投与時の、側副灌流および平均動脈圧を示す。
図5図5は、脳卒中ラットモデルにおける4.15μg/kg/分の速度でのNG-NPAの注入投与時の、側副灌流および平均動脈圧を示す。
図6図6は、脳卒中ラットモデルにおける第1群への4μg/kg/分の速度でのNG-NPAの注入投与および第2群へのブランクNPAの注入投与後の、時間の関数としての側副灌流の変化を示す。
図7図7は、脳卒中ラットモデルにおける第1群への4μg/kg/分の速度でのNG-NPAの注入投与および第2群へのブランクNPAの注入投与後の、時間の関数としての対側/対照半球における灌流の変化を示す。
図8図8は、脳卒中ラットモデルにおける第1群への4μg/kg/分の速度でのNG-NPAの注入投与および第2群へのブランクNPAの注入投与後の、時間の関数としての平均動脈圧の変化を示す。
図9図9は、脳卒中ラットモデルにおけるNG-NPAおよびブランクNPAでの処置後の梗塞サイズを示す。
図10図10は、ラット脳卒中モデル(NG-NPA群とブランクNPA群の両方を含む)における側副灌流と梗塞体積との関係を示す。
図11図11は、脳卒中ラットモデルにおける第1群への4μg/kg/分の速度での遊離ニトログリセリン(GTN)の注入投与および第2群への生理食塩水注入投与後の、時間の関数としての側副灌流の変化を示す。
図12図12は、脳卒中ラットモデルにおける第1群への4μg/kg/分の速度での遊離ニトログリセリン(GTN)の注入投与および第2群への生理食塩水注入投与後の、時間の関数としての対側/対照半球における灌流の変化を示す。
図13図13は、脳卒中ラットモデルにおける第1群への4μg/kg/分の速度での遊離ニトログリセリン(GTN)の注入投与および第2群への生理食塩水注入投与後の、時間の関数としての平均動脈圧の変化を示す。
図14図14は、脳卒中ラットモデルにおける第1群への40μg/kg/分の速度での遊離ニトログリセリン(GTN)の注入投与および第2群への生理食塩水注入投与後の、時間の関数としての側副灌流の変化を示す。
図15図15は、脳卒中ラットモデルにおける第1群への40μg/kg/分の速度での遊離ニトログリセリン(GTN)の注入投与および第2群への生理食塩水注入投与後の、時間の関数としての対側/対照半球における灌流の変化を示す。
図16図16は、脳卒中ラットモデルにおける第1群への40μg/kg/分の速度での遊離ニトログリセリン(GTN)の注入投与および第2群への生理食塩水注入投与後の、時間の関数としての平均動脈圧の変化を示す。
【発明を実施するための形態】
【0019】
SA-NTは、天然の血小板と同様のサイズの凝集体を含むが、より小さなナノ粒子の凝集体として製造される。これらの凝集体は、正常な生理学的流れの条件下で血液中を流れるとき、無傷のままである。しかしながら、正常レベルより高い断応力(>100dyn/cm2)にさらされると、凝集体は個々のナノ粒子に分解される。これらのナノ粒子は、より大きな凝集体粒子よりも抗力が低く、ナノ粒子が流れる血管の表面により効率的に付着する。したがって、ナノ粒子によって運ばれる任意の治療薬は、局所的に高せん断応力の領域における分解部位へ選択的に送達され得る。
【0020】
これまで、SA-NTは、肺塞栓症などの血栓塞栓性疾患において血栓溶解薬である組織プラスミノーゲンアクティベーター(t-PA)を送達するために使用されてきた(例えば、Korinら(Science. 2012 Aug 10;337(6095):738-42)の図3参照)。しかしながら、Korinの開示は、閉塞した血管内での治療薬の放出に限定されている。異常に高い流量によって異常に高いせん断応力を受ける非閉塞血管を標的とすることは、これまで考慮されていなかった。
【0021】
脳卒中の間、側副血管が接続する2つの血管領域(健康な血管新生組織とペナンブラ組織)間の大きな圧力差により、側副血管内の血流速度が極めて速くなる。これにより、血管の直径の変化とは無関係に、せん断応力が著しく上昇する(例えば、Beard, D. J. et al. (2015). "Intracranial Pressure Elevation Reduces Flow through Collateral Vessels and the Penetrating Arterioles they Supply, a Possible Explanation for 'Collateral Failure' and Infarct Expansion after Ischemic Stroke. Journal of Cerebral Blood Flow & Metabolism", 35(5), 861-872参照)。
【0022】
脳卒中後に側副血管が閉塞しないという事実にもかかわらず、本発明者らは、これらの血管への選択的送達がSA-NTの投与により達成できることを見出した。実施例および対応する図1~5に示すとおり、このようなSA-NTは、脳卒中後の側副血管の灌流を人工的に増強する制御可能で効果的な方法を提供する。これにより、ペナンブラの細胞への血流が増加し、血塊がその位置に残っている脳卒中患者の脳生存を高める。
【0023】
本発明は、血塊回収治療を利用できないセンター(例えば、小規模な救急治療センター)で使用し得る、容易に利用可能な治療を提供する。この新しい治療は、ペナンブラの細胞が生存し続けることができる期間を延長する。これは、脳卒中後の脳組織の回復を促進するという直接的な利点があるだけでなく、例えば、血塊回収のために患者を大規模な専門センターに搬送するための追加時間を提供し、患者が良好な臨床転帰を得る可能性を最大化し得る。
【0024】
ナノ粒子
本明細書に記載のSA-NTは、ナノ粒子の凝集体を含む。本発明において、ナノ粒子のサイズは、約1nmから約1000nm程度である。典型的には、ナノ粒子の平均直径は、約50nm~約500nm、好ましくは約70nm~約400nm、好ましくは約90nm~約300nm、および好ましくは約100nm~約240nmである。
【0025】
薬物送達に適するナノ粒子は、当該技術分野で周知である。したがって、本発明のSA-NTで用いるナノ粒子は、例えば、Korinら(Science. 2012 Aug 10;337(6095):738-42)、米国特許第6,645,517号;第5,543,158号;第7,348,026号;第7,265,090号;第7,541,046号;第5,578,325号;第7,371,738号;第7,651,770号;第9,801,189号;第7,329,638号;第7,601,331号;第5,962,566号;米国特許出願公開第2006/0280798号;第2005/0281884号;第2003/0223938号;第2004/0001872号;第2008/0019908号;第2007/0269380号;第2007/0264199号;第2008/0138430号;第2005/0003014号;第2006/0127467号;第2006/0078624号;第2007/0243259号;第2005/0058603号;第2007/0053870号;第2006/0105049号;第2007/0224277号;第2003/0147966号;第2003/0082237号;第2009/0226525号;第2006/0233883号;第2008/0193547号;第2007/0292524号;第2007/0014804号;第2004/0219221号;第2006/0193787号;第2004/0081688号;第2008/0095856号;第2006/0134209号;第2004/0247683号および国際公開第2013/185032号(これらのすべての内容は出典明示により本明細書の一部とする)に記載のものを含み得る。本発明における使用のためのナノ粒子の特に適した例は、Korinら(Science. 2012 Aug 10;337(6095):738-42)および国際公開第2013/185032号(この内容は出典明示により本明細書の一部とする)に記載のものである。
【0026】
例えば、本明細書に記載の凝集体を形成するのに使用できるナノ粒子の種類は次のものであり得る:(1)1つ以上の血管拡張薬がナノ粒子コア上に吸収/吸着されているかまたはコーティングを形成する、ポリマーまたは他の材料から形成されたナノ粒子;(2)1つ以上の血管拡張薬によって形成されたコアから形成され、ポリマーまたは他の材料でコーティングされたナノ粒子;(3)1つ以上の血管拡張薬が共有結合している、ポリマーまたは他の材料から形成されたナノ粒子;(4)1つ以上の血管拡張薬および他の分子から形成されたナノ粒子;(5)1つ以上の血管拡張薬とナノ粒子の構成成分または他の非薬物物質とのほぼ均一な混合物を含むように形成されたナノ粒子;(6)1つ以上の血管拡張薬のコアをコーティングした純粋な薬物または薬物混合物のナノ粒子;(7)血管拡張薬を含まないナノ粒子;(8)全体が1つ以上の血管拡張薬から構成されるナノ粒子;(9)ナノ粒子内に浸透した1つ以上の血管拡張薬を有するナノ粒子;および(10)1つ以上の血管拡張薬がナノ粒子に吸着されているナノ粒子。
【0027】
ナノ粒子は、典型的には、1つ以上の生体適合性ポリマーを含む。生体適合性ポリマーは、生分解性であっても非生分解性であってもよいが、好ましくは、生分解性である。いくつかの実施態様において、生体適合性ポリマーは、ポリ乳酸とポリグリコール酸の共重合体、ポリ(グリセロールバセシン酸)(PGS)、ポリ(エチレンイミン)、プルロニック(ポロキサマー407、188)、ヒアルロン、ヘパリン、アガロースまたはプルランである。いくつかの実施態様において、ポリマーは、フマル酸/セバシン酸の共重合体である。
【0028】
用いるポリマーの平均分子量は、約20,000Da~約500,000Daであり得る。
【0029】
本発明のSA-NTで用いるためのナノ粒子を製造するために、当技術分野で知られている任意の方法を使用できる。例えば、蒸発法(例えば、フリージェット膨張、レーザー蒸発、スパークエロージョン、電気爆発、化学蒸着)、機械的摩擦を伴う物理的方法(例えば、Elan Nanosystemsが開発したパールミリング技術)、および溶媒置換後の界面堆積は、すべて用い得る。
【0030】
好ましくは、本発明のSA-NTで用いるナノ粒子は、ポリ乳酸とポリグリコール酸の共重合体(PLGAとしても知られる)を含む。本発明のSA-NTで用いるナノ粒子がPLGAを含むとき、PLGA中のラクチド対グリコリドの比は、好ましくは約10:90~約90:10、好ましくは約25:75~約75:25、最も好ましくは約50:50である。
【0031】
ナノ粒子がPLGAを含むとき、ナノ粒子は、ペルフルオロブタンポリマーマイクロスフェアとして形成され得る。例えば、本発明のSA-NTで用いるナノ粒子は、Acusphereから得られるHDDSTM(疎水性薬物送達システム)ナノ粒子であり得る。これらのナノ粒子は、PLGA、リン脂質および細孔形成剤を含むエマルションを作成することにより作られ得る。このエマルションは、噴霧乾燥によってさらに処理され、ハニカムに類似した構造を有するガスを含む小さな多孔質マイクロスフェアを製造する。
【0032】
本発明のナノ粒子は、例えば実施例1および2aに記載の方法に従って、製造し得る。
【0033】
ナノ粒子凝集体
本発明のSA-NTで用いる凝集体は、複数の構成ナノ粒子を含む。典型的には、凝集体は、約2~約10,000個のナノ粒子、好ましくは約3~約8,000個のナノ粒子、好ましくは約7~約6,000個のナノ粒子、好ましくは約10~約6,000個のナノ粒子、および好ましくは約20~約4,000個のナノ粒子を含む。
【0034】
本発明において、凝集体は、マイクロサイズの凝集体、すなわち約0.1μm~約1,000μm程度のサイズである。典型的には、凝集体のサイズは、天然の血小板と同様である。凝集体の平均直径は、好ましくは約0.5μm~約10μm、好ましくは約1μm~約7μm、好ましくは約1.4μm~約4.5μm、好ましくは約1.8μm~約3.5μm、および好ましくは約2μm~約3μmである。
【0035】
ナノ粒子は、1つ以上の種類の分子間(すなわち非共有)力および/または共有結合によって結合して、凝集体になり得る。例えば、ナノ粒子は、静電相互作用、双極子間相互作用、ファンデルワールス力、水素結合および/または共有結合のうちの1つまたは複数によって一緒に結合し得る。ナノ粒子が共有結合によって凝集体に一緒に結合するとき、切断可能なリンカーを使用し得る。当技術分野で知られている、または本明細書で定義されているような、あらゆる切断可能なリンカーを使用し得る。
【0036】
ナノ粒子間の結合強度は、隣接するナノ粒子間の相互作用の程度を増減することによって調整し得る。例えば、ナノ粒子の結合強度は、1つ以上の正に帯電した基および1つ以上の負に帯電した基を含むようにナノ粒子の表面を修飾することによって増加させ得て、これにより、隣接するナノ粒子間の静電相互作用の程度を増加し得る。
【0037】
あるいは、ナノ粒子の結合強度は、例えば、ナノ粒子の表面を修飾して、ナノ粒子の表面から電気陰性部分を除去することによって減少させ得る。これにより、隣接するナノ粒子間の双極子間結合および/または水素結合の強度が減少し得る。
【0038】
利用可能で当技術分野で周知の多種多様な方法によって、ナノ粒子凝集体を形成するように、ナノ粒子を誘導し得る。PLGAベースのナノ粒子などの多くの疎水性ナノ粒子は、水溶液中で自己凝集し得る(例えばC.E. Astete et al., J. Biomater. Sci, Polymer Ed. 17:247 (2006)参照)。あるいは、ナノ粒子の濃縮溶液を噴霧乾燥して、凝集体を形成し得る(例えばSung, et al., Pharm. Res. 26:1847 (2009)およびTsapis et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 99:12001 (2002)参照)。凝集体を形成する他の方法は、w/o/wエマルション法および単純な溶媒置換法を含むがこれらに限定されない。
【0039】
本明細書に記載のナノ粒子凝集体は、せん断応力条件下で分解する(disaggregate)。せん断応力は、血流によって加えられる摩擦抗力であり、dyn/cm2で測定される。血液が血管を流れるとき、血管壁に近接する血液は血管壁に付着する傾向があり、その結果、血流が減少し、速度勾配が生じる。血管の中心の血流速度は、血管の端の血流速度より速くなる。血液速度の違いにより、血液中の細胞および粒子にせん断応力がかかる。せん断応力は、血管壁までの距離が減少するにつれて増加する。血液の流れによって生じるせん断応力は、血液中に存在する分子および凝集体にもかかる。凝集体が受けるせん断応力は凝集体の大きさの関数であり、凝集体が大きくなるほど、それにかかるせん断応力も大きくなる。
【0040】
正常な生理学的条件下では、脳および末梢血管内のせん断応力は約15~30dyn/cm2の間で厳密に制御されている。虚血性脳卒中後、虚血ペナンブラに供給を行っている側副血管におけるせん断応力はこの範囲を超え、(例えば)100dyn/cm2を超え得る。側副血流のせん断応力を、側副血流速度と直径の測定値を用いて、Beard, D. J. et al. (2015). "Intracranial Pressure Elevation Reduces Flow through Collateral Vessels and the Penetrating Arterioles they Supply. A Possible Explanation for 'Collateral Failure' and Infarct Expansion after Ischemic Stroke". Journal of Cerebral Blood Flow & Metabolism, 35(5), 861-872で作られた、式τ=γ×η(式中、τはせん断応力、γはせん断速度、ηは粘度である)を用いて計算した。せん断速度は、8×(血流速度)/(血管直径)として計算した。血液粘度については公表されている数値(3cP)を用いた。
【0041】
本発明のSA-NTの凝集体は、所定のせん断応力を超えると、その構成要素のナノ粒子に分解するように構成されている。好ましくは、凝集体は、血管内のせん断応力が上昇した領域、すなわち、血管内のせん断応力が正常な生理学的レベルを超える領域を流れるときに、分解するように構成されている。好ましくは、本発明のSA-NTの凝集体は、虚血性脳卒中後にペナンブラに供給を行なっている側副血管内でその構成要素のナノ粒子に分解するように構成されている。
【0042】
好ましくは、凝集体は、約30dyn/cm2を超える、好ましくは約50dyn/cm2を超える、好ましくは約75dyn/cm2を超える、最も好ましくは約100dyn/cm2を超える所定のせん断応力で分解するように構成されている。所望により、凝集体は、約125dyn/cm2を超える、所望により約150dyn/cm2を超えるせん断応力で分解するように構成されていてもよい。
【0043】
一般に、構成要素のナノ粒子への凝集体の分解は、凝集体が受けるせん断応力が、ナノ粒子を一緒に結合する分子間力(例えば、静電相互作用、双極子間相互作用、ファンデルワールス力および/または水素結合)に打ち勝つのに十分であるときに生じる。
【0044】
凝集体の分解は、部分的であっても完全であってもよい。分解が部分的であるとき、凝集体は、所定の高いせん断応力にさらされるとき、少なくとも5%、少なくとも10%、少なくとも15%、少なくとも20%、少なくとも25%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、または少なくとも95%分解し得る。あるいは、凝集体は、所定の高いせん断応力にさらされるとき、完全な分解を受け得る(すなわち、その構成ナノ粒子に完全に分解され得る)。
【0045】
本発明における使用に適したナノ粒子、およびこれらのナノ粒子の凝集体は、Korinら(Science. 2012 Aug 10;337(6095):738-42)および国際公開第2013/185032号(この内容は出典明示により本明細書の一部とする)に記載されている。
【0046】
血管拡張薬
本発明によるSA-NTは、虚血ペナンブラに供給を行っている側副血管へ血管拡張剤/薬を選択的に送達するために用いられる。
【0047】
血管拡張剤/薬は、血管の拡張を引き起こす物質である。本明細書で用いる用語の血管拡張剤(vasodilating agent)および血管拡張薬(vasodilating drug)は、相互交換可能に用いられる。
【0048】
側副血管を拡張できるあらゆる血管拡張薬を使用し得る。好ましくは、1つ以上の血管拡張薬は、硝酸薬、アンジオテンシンII受容体遮断薬(ARB、サルタンとも称される)、カルシウムチャネル遮断薬(CCB)、選択的α遮断薬、β1作動薬、β2作動薬、β作動薬、ET1受容体拮抗薬、ホスホジエステラーゼ5阻害薬、または小(SK)および中間(IK)カルシウム活性化カリウムチャネルの作動薬からなる群より選択される。より好ましくは、1つ以上の血管拡張薬は、硝酸薬、アンジオテンシンII受容体遮断薬(ARB、サルタンとも称される)、カルシウムチャネル遮断薬(CCB)、選択的α遮断薬、またはβ1作動薬からなる群より選択される。最も好ましくは、1つ以上の血管拡張薬は、硝酸薬、アンジオテンシンII受容体遮断薬(ARB、サルタンとも称される)、またはカルシウムチャネル遮断薬(CCB)からなる群より選択される。
【0049】
1つ以上の血管拡張薬が、硝酸薬であるとき、硝酸薬は、好ましくは、ニトログリセリン(NG)、ニコランジル、モルシドミン/3-モルホリノシドノンイミン塩酸塩、ニトロプルシドナトリウム、一硝酸イソソルビド、または二硝酸イソソルビドであり、より好ましくは、ニトログリセリン(NG)、ニコランジル、モルシドミン/3-モルホリノシドノンイミン塩酸塩、またはニトロプルシドナトリウムであり、最も好ましくは、ニトログリセリン(NG)である。
【0050】
1つ以上の血管拡張薬が、アンジオテンシンII受容体遮断薬(ARB、サルタンとも称される)であるとき、ARBは、好ましくは、カンデサルタン、バルサルタン、ロサルタン(Iosartan)、エプロサルタン、オルメサルタン、テルミサルタン、またはイルベサルタンであり、より好ましくは、カンデサルタン、バルサルタン、ロサルタン、エプロサルタン、またはオルメサルタンであり、最も好ましくは、カンデサルタン、またはバルサルタンである。
【0051】
1つ以上の血管拡張薬が、カルシウムチャネル遮断薬(CCB)であるとき、CCBは、好ましくは、ニモジピン、レルカニジピン、ニフェジピン、フェロジピン、ニカルジピン、ベラパミル、ジルチアゼム、アムロジピン、またはクレビジピンであり、より好ましくは、ニモジピン、レルカニジピン、ニフェジピン、フェロジピン、ニカルジピン、またはベラパミルであり、より好ましくは、ニモジピン、レルカニジピン、ニフェジピン、またはフェロジピンであり、最も好ましくは、ニモジピンである。
【0052】
1つ以上の血管拡張薬が、選択的α遮断薬であるとき、選択的α遮断薬は、好ましくは、ドキサゾシン(メシル酸塩)、プラゾシン、またはテラゾシンであり、最も好ましくは、ドキサゾシン(メシル酸塩)である。
【0053】
1つ以上の血管拡張薬が、β1作動薬であるとき、β1作動薬は、好ましくは、ドブタミン、またはドーパミンである。
【0054】
1つ以上の血管拡張薬が、β2作動薬であるとき、β2作動薬は、好ましくは、Eフォルモテロール、インダカテロール、サルブタモール、サルメテロール、またはテルブタリン(Turbutaline)である。
【0055】
1つ以上の血管拡張薬が、β作動薬であるとき、β作動薬は、好ましくは、イソプレナリンである。
【0056】
1つ以上の血管拡張薬が、ET1受容体拮抗薬であるとき、ET1受容体拮抗薬は、好ましくは、アンブリセンタン、ボセンタン、またはBQ123であり、好ましくは、BQ123である。
【0057】
1つ以上の血管拡張薬が、ホスホジエステラーゼ5阻害薬であるとき、ホスホジエステラーゼ5阻害薬は、好ましくは、シルデナフィル、タダラフィル、またはパパベリン(Papavarine)である。
【0058】
1つ以上の血管拡張薬が、小(SK)および中間(IK)カルシウム活性化カリウムチャネルの作動薬であるとき、小(SK)および中間(IK)カルシウム活性化カリウムチャネルの作動薬は、好ましくは、NS309、EBIO、SKA-31、SKA-121、またはSKA-111であり、最も好ましくはNS309である。
【0059】
1つ以上の血管拡張薬が、上記に挙げたクラスの1つでないとき、1つ以上の血管拡張薬は、好ましくは、ジアゾキシド、ヒドララジン、メチルドパ、またはミノキシジルである。
【0060】
複数の血管拡張薬を本発明のSA-NTにおいて用いるとき、血管拡張薬は、同じクラスの血管拡張薬、または複数の異なるクラスの血管拡張薬(本明細書で記載していないクラスを含む)に由来し得る。
【0061】
最も好ましくは、1つ以上の血管拡張薬は、ニトログリセリンもしくはニモジピン、またはそれらの組合せである。一実施態様において、1つ以上の血管拡張薬は、ニトログリセリンである。別の実施態様において、1つ以上の血管拡張薬は、ニモジピンである。
【0062】
血管拡張薬は単独で使用されてもよく、または2つ以上の異なる血管拡張薬の組合せが使用されてもよい。2つ以上の血管拡張薬を用いるとき、これらは同じナノ粒子上、または単一の凝集体として一緒に結合さしている別々のナノ粒子上に提供され得る。また、2つ以上の血管拡張薬を用いるとき、これらは同じ凝集体として、または別々の集合体として提供され得る。
【0063】
血管拡張薬は、医薬的に許容される塩の形態で提供され得る。本明細書で使用する場合、他に断りのない限り、血管拡張剤または血管拡張薬への言及には、医薬的に許容される塩への言及が含まれる。
【0064】
1つ以上の血管拡張薬は、ナノ粒子がSA-NTの凝集体に凝集する前または後のいずれかに、ナノ粒子またはナノ粒子凝集体に結合され得る。1つ以上の血管拡張薬は、当技術分野で知られている任意の方法でナノ粒子またはナノ粒子凝集体に結合され得る。
【0065】
血管拡張薬およびナノ粒子またはナノ粒子凝集体に関して、本明細書で用いる用語「結合する(coupled to)」は、凝集体または凝集体のナノ粒子構成要素に絡み合う、埋め込まれる、組み込まれる、封入される、表面に結合している(bound to)、あるいは会合している(associated with)ことを意味する。
【0066】
いくつかの実施態様において、1つ以上の血管拡張薬は、凝集体内に封入されているか、または凝集体のナノ粒子構成成分である。いくつかの実施態様において、1つ以上の血管拡張薬は、凝集体の表面に吸収または吸着されている。したがって、1つ以上の血管拡張薬は、凝集体の外表面に結合させることができる。これは、例えば凝集体の外表面上のナノ粒子が、ナノ粒子凝集体の形成後に1つ以上の血管拡張薬と結合するとき、起こり得る。
【0067】
いくつかの実施態様において、1つ以上の血管拡張薬は、凝集体の少なくとも複数のナノ粒子構成要素の表面に吸収または吸着されている。これは、例えばナノ粒子が、ナノ粒子凝集体の形成後に1つ以上の血管拡張薬と結合するとき、起こり得る。
【0068】
いくつかの実施態様において、1つ以上の血管拡張薬は、凝集体、または凝集体のナノ粒子構成要素と共有結合する。1つ以上の血管拡張薬の分子と、凝集体または凝集体のナノ粒子構成要素との間の共有結合は、リンカーにより媒介され得る。限定されないが、2つの分子または分子の異なる部分を一緒にコンジュゲートするため当該技術分野で知られているあらゆるコンジュゲート化学を、血管拡張分子をナノ粒子またはナノ粒子凝集体に結合するために用い得る。血管拡張薬をナノ粒子または凝集体にコンジュゲートさせるための例示的なリンカーおよび/または官能基は、ポリエチレングリコール(PEG、NH2-PEGX-COOHであって、様々な長さX(1<X<100)のPEGスペーサーアームを有することができ、例えばPEG-2K、PEG-5K、PEG-10K、PEG-12K、PEG-15K、PEG-20K、PEG-40Kなど)、マレイミドリンカー、PASylation、HESylation、スベリン酸ビス(スルホスクシニミジル)リンカー、DNAリンカー、ペプチドリンカー、シランリンカー、多糖リンカー、加水分解性リンカーなどを含むがこれらに限定されない。PEGは、好ましいリンカーである。PEGリンカーを介したSA-NT凝集体の治療薬へのコンジュゲートは、例えば国際公開第2013/185032号(この内容は出典明示により本明細書の一部とする)に記載のように、達成し得る。
【0069】
いくつかの実施態様において、リンカーは、少なくとも1つの切断可能な連結基を含み、すなわち、リンカーは、本明細書に記載の切断可能なリンカーである。
【0070】
いくつかの実施態様において、1つ以上の血管拡張薬は、凝集体または凝集体のナノ粒子構成要素に非共有結合している。1つ以上の血管拡張薬の分子と凝集体との間の、または凝集体のナノ粒子構成要素との非共有結合は、イオン相互作用、ファンデルワールス相互作用、双極子間相互作用、水素結合、静電相互作用および/または形状認識相互作用に基づき得る。
【0071】
1つ以上の血管拡張薬は、ナノ粒子凝集体の形成前にナノ粒子に結合する必要はない。例えば、予め形成されたナノ粒子は、1つ以上の血管拡張薬の存在下で凝集できる。理論に束縛されるものではないが、1つ以上の血管拡張薬は、凝集体の空間(または空洞)に存在し得る、すなわち、1つ以上の血管拡張薬は、凝集体内に封入され得る。
【0072】
本発明のSA-NTにおいて、ナノ粒子凝集体は、広い重量範囲の1つ以上の血管拡張薬を含み得る。例えば、ナノ粒子凝集体は、約0.1重量%~約20重量%の1つ以上の血管拡張薬を含み得る。好ましくは、凝集体は、約0.2重量%~約10重量%、好ましくは約0.3重量%~約5重量%、好ましくは約0.4重量%~約2.5重量%、好ましくは約0.8重量%~約1.6重量%、好ましくは約1重量%~約1.4重量%の1つ以上の血管拡張薬を含む。
【0073】
1つ以上の血管拡張薬としてニトログリセリン(またはその医薬的に許容される塩)を使用することが意図されるとき、SA-NTのナノ粒子凝集体は、好ましくは約0.4重量%~約2.5重量%、好ましくは約0.8重量%~約1.6重量%、好ましくは約1重量%~約1.4重量%のニトログリセリンまたはその医薬的に許容される塩を含む。
【0074】
1つ以上の血管拡張薬としてニトログリセリンを使用することが意図されるとき、ニトログリセリンを含むナノ粒子凝集体は、例えば実施例2aに記載の方法に従って、製造され得る。
【0075】
1つ以上の血管拡張薬は、ナノ粒子および/または凝集体が血管の表面に付着する際に放出され得る。上記のように、より小さいナノ粒子は、より大きな凝集粒子より低い抗力を受ける。これは、より小さなナノ粒子が、より大きな凝集粒子より、それらが流れる血管の表面に効率的に付着することを意味する。より小さいナノ粒子のより効率的な付着の結果として、血管の表面への1つ以上の血管拡張薬の放出速度は、典型的には、より大きい凝集粒子よりもより小さいナノ粒子の方が大きい。
【0076】
したがって、1つ以上の血管拡張薬は、典型的には、ナノ粒子が凝集しているときよりナノ粒子が分解しているとき、より速い速度でおよび/またはより多くの量で放出される。したがって、本明細書に記載のSA-NTは、虚血性脳卒中後のせん断応力が上昇した血管、すなわちペナンブラに供給を行っている側副血管の表面に、1つ以上の血管拡張薬を選択的に送達できる。
【0077】
以下に記載する実施例は、脳の側副血管に血管拡張薬を送達するための本発明のSA-NTの使用に関する。図1および2(実施例3aに基づく)は、血管拡張薬を含まないナノ粒子凝集体(「ブランク-NPA」)を投与するときに側副灌流の変化がないのと比較して、ニトログリセリンを含むナノ粒子凝集体を投与するときには側副灌流の大幅な増加が観察されることを示している。
【0078】
上記のように、Bathら(The Lancet、Volume 393、Issue 10175、pages 1009-1020)は、最近、強力な血管拡張薬であるニトログリセリンの経皮(すなわち全身)送達が、超急性脳卒中を患う患者の機能的転帰を変化させないことを示した。この発見は、本明細書の実施例3bおよび図3によって裏付けられており、齧歯動物への「遊離」ニトログリセリンの送達(すなわち、SA-NTを用いて側副血管へ選択的に送達しない)が、側副灌流のピークのわずかな増加のみを引き起こしたことを報告している。
【0079】
対照的に、図1~5はそれぞれ、本発明によるSA-NTを用いたニトログリセリンの送達が側副灌流の有意な増加を引き起こすことを示している。したがって、本発明のSA-NTを使用して1つ以上の血管拡張薬を側副血管に選択的に送達することは、急性脳卒中を患う患者の臨床転帰を改善するための効果的なアプローチを提供する。
【0080】
投与
本発明のSA-NTの投与は、脳卒中後の脳への血流を増加させるために使用され得る。典型的には、SA-NTは、脳卒中後のペナンブラへの血流を増加させる。典型的には、SA-NTは、側副血管を拡張し、典型的には、これは、側副血管が他の動脈より大きく拡張される側副血管の選択的拡張である。したがって、典型的には、SA-NTの投与は、側副血管を通る灌流の増加を引き起こし、これは、側副血管を通る灌流の選択的な増加、すなわち平均的な動脈灌流の変化が最小限であるかまたは全く変化しない増加であり得る。好ましくは、本発明のSA-NTの投与後の平均的な動脈灌流の変化は、投与前のベースラインから約25%未満、好ましくは約20%未満、好ましくは約15%未満である。
【0081】
本発明のSA-NTは、当該技術分野で知られているあらゆる方法により投与され得る。好ましくは、ナノ粒子は、静脈内または動脈内投与され、最も好ましくは静脈内投与される。
【0082】
本発明のSA-NTが静脈内投与されるとき、投与は、連続注入であり得る。好ましくは、注入は、閉塞が除去され、脳への血流が回復するまで、患者へ送達される。例えば、注入は、約500分まで、所望により約400分まで、所望により約300分まで、所望により約200分まで、所望により約100分までの時間送達され得る。
【0083】
あるいは、本発明のSA-NTが静脈内投与されるとき、投与は、ボーラスとして、すなわち、短時間にわたって患者に投与される単一の別個の用量としてであり得る。処置期間中、すなわち最初のボーラス投与から再灌流の開始まで、複数回のボーラスを患者に投与し得る。1回以上のボーラス投与を連続注入と組み合わせ得る。
【0084】
一般的に、より長い半減期を有する血管拡張薬は、ボーラス投与を含むレジメンにより投与され得て、一方、より短い半減期を有する血管拡張薬は、連続注入を含むレジメンにより投与され得る。
【0085】
例えば、ニトログリセリンの半減期は短く、一方、ニモジピンの半減期は長い。したがって、1つ以上の血管拡張薬がニトログリセリンを含むとき、SA-NTを連続注入として投与することが好ましい(例えば、実施例3dに例示され、図4および5に示される)。逆に、1つ以上の血管拡張薬がニモジピンを含むとき、ボーラスを含むレジメンによりSA-NTを投与することが好ましい。
【0086】
本発明のSA-NTは、虚血性脳卒中が疑われる以下の任意の時点、例えば、顔、腕または脚の突然のしびれまたは衰弱、突然の混乱、発話障害または言葉を理解するのが困難、片目または両目が突然見えにくくなる、突然の歩行困難、めまい、平衡感覚の喪失または調整能力の欠如、突然の激しい頭痛、体の片側の完全な麻痺、嚥下困難(嚥下障害)および喪失意識より選択される1つ以上の脳卒中症状の観察後に投与され得る。
【0087】
脳卒中症状の発生後できるだけ早く患者に本発明のSA-NTを最初に投与することが好ましい。例えば、SA-NTは、例えば緊急通報に応答する医療従事者(救急車の救急隊員など)により緊急薬として投与され得る。
【0088】
緊急薬として投与する場合、本発明のSA-NTは、好ましくは脳卒中症状の発生から約4時間以内、好ましくは脳卒中症状の発生から約3時間以内、好ましくは脳卒中症状の発生から2時間以内、より好ましくは脳卒中症状の発生から約1時間以内に患者に投与される。
【0089】
本発明は、虚血性脳卒中の処置に特に有用である。しかしながら、SA-NTは、脳卒中の種類を診断する前に、急性脳卒中の症状を示すあらゆる患者に投与できる。投与は、例えば、患者が罹患した脳卒中の性質を決定するための画像検査を必要とせずに実施できる。これは、緊急時の投与を可能にするため、特に有益である。理論に束縛されることを望まないが、典型的な虚血性脳卒中の処置は、出血性脳卒中を患う患者に投与された場合、有害な影響を与え得る。しかしながら、急性出血性脳卒中は、血管せん断応力の増加とは関連しない。したがって、本発明によるSA-NTは、典型的には、出血性脳卒中を患う患者の血管に血管拡張薬を分解または選択的に送達することはない。したがって、本発明のSA-NTは、多くの既存の脳卒中処置に関連する出血性脳卒中患者に対する潜在的に有害な転帰を回避しながら、急性脳卒中の症状を示すあらゆる患者に緊急時に投与できる。
【0090】
本発明とは対照的に、脳卒中を引き起こす閉塞を標的とする処置(例えば、t-PAなどの血栓破壊薬の投与、または血栓除去術)は、典型的には、画像診断が実施されるまで延期される。このような処置に伴う潜在的なリスクは、脳卒中の性質の判断が処置前に必要とされることを意味する。これにより処置が遅れ得て、この遅れの間に脳組織が失われ得る。したがって、本発明を用いて緊急時に患者を処置できることは、閉塞自体を標的とする処置と比較して有利である。
【0091】
投与量
平均動脈圧の変化を最小限に抑えながら、SA-NTが可能な限り側副灌流の大きな増加をもたらすことが本発明の目的である。これを達成するために必要な血管拡張薬の具体的な用量は、特定の血管拡張薬の有効性を含むさまざまな要因に応じて変化する。例示的な血管拡張薬の場合、本発明のSA-NTを用いた血管拡張薬の送達は、脳卒中を起こしていないラットにおいて脳血流を増加させるのに必要とされる「遊離」血管拡張薬(すなわち、SA-NTの一部として送達しない)の典型的な注射用量のおよそ1/70の用量を必要とすることが示されている(Hoffman et al. Stroke, Vol 13, No 2, 1982に記載されている)。特に、図4および図5は、2.75μg/kg/分および4.15μg/kg/分の両方の濃度でニトログリセリンを送達することにより、ラットにおける脳側副灌流の実質的な増加が得られることを示している。
【0092】
本発明のSA-NTにより側副血管へ1つ以上の血管拡張薬を選択的に送達するために、約0.1%~約10%、好ましくは約0.5%~約8%、好ましくは約1%~約7%、好ましくは約1.5%~約6%、好ましくは約2%~約5%、好ましくは約2.5%~約4.5%、最も好ましくは約3%~約4%の推奨用量の「遊離」血管拡張薬を投与することが好ましい。
【0093】
ニトログリセリンが、1つ以上の血管拡張薬として用いられるとき、約0.001μg/kg/分~約8μg/kg/分、好ましくは約0.01μg/kg/分~約2μg/kg/分、好ましくは約0.05μg/kg/分~約1μg/kg/分、好ましくは約0.1μg/kg/分~約0.75μg/kg/分、および最も好ましくは約0.15μg/kg/分~約0.4μg/kg/分の用量を患者に投与することが好ましい。
【0094】
併用療法
本発明のSA-NTは、血流の閉塞を除去するために使用されるかまたはそれが意図される処置、すなわち、血栓溶解処置および/または血栓除去術などの再灌流を開始するために使用されるかまたはそれが意図される処置と組み合わせて患者に投与され得る(しかし典型的には別々に送達される)。これは、同時に、例えばSA-NTが再灌流点で患者に投与されるときに、または別々に、例えば、SA-NTが脳卒中虚血後であるが再灌流前に投与され、再灌流を開始するための処置がその後開始されるときに(本発明のSA-NTの投与中、またはそのような投与の停止後のいずれか)、生じ得る。
【0095】
再灌流を開始するために使用されるかまたはそれが意図される処置がSA-NTと組み合わせて使用されるとき、再灌流を開始するために使用されるかまたはそれが意図される処置は、本発明のSA-NTと実質的に同時に投与され得る。あるいは、再灌流を開始するために使用されるかまたはそれが意図される処置は、本発明のSA-NTとは別の時点で投与され得る。典型的には、再灌流を開始するために使用されるかまたはそれが意図される処置は、SA-NTの投与開始の約5時間以内、SA-NTの投与開始の所望により約4時間以内、所望により約3時間以内、所望により約2時間以内、所望により約1時間以内、所望により約30分以内、所望により約10分以内に投与される。典型的には、再灌流を開始するために使用されるかまたはそれが意図される処置は、SA-NTの投与開始から約10分後、SA-NTの投与開始から所望により約30分後、所望により約1時間後、所望により約2時間後、所望により約3時間後、所望により約4時間後、所望により約5時間後に投与される。好ましくは、血栓溶解処置は、患者への血液希釈薬の適用または溶解薬の適用より選択される。適切な血液希釈剤は、CoumadinTM(ワルファリン);PradaxaTM(ダビガトラン);XareitoTM(リバーロキサバン)およびEliquisTM(アピキサバン)、フォンダパリヌクス、未分画ヘパリン、エノキサパリンおよびデルタパリンを含むがこれらに限定されない低分子量ヘパリン、ストレプトキナーゼ(SK)、ウロキナーゼ、ラノテプラーゼ、レテプラーゼを含むがこれらに限定されない血栓溶解薬、スタフィロキナーゼ、テネクテプラーゼおよびアルテプラーゼ、またはアスピリン、クロピドグレールまたはチカグレロルなどの抗血小板薬より選択され得る。
【0096】
本発明はまた、1つ以上の神経保護薬の送達と組み合わせて用いられ得る。選択的に適用される血管拡張薬処置と1つ以上の神経保護薬の投与との組合せは、側副血管を介した脳への1つ以上の神経保護薬の送達速度を増加させることにより、1つ以上の神経保護薬の有効性を増強し得る。
【0097】
本発明のSA-NTと組み合わせて用いられ得る神経保護薬の好ましい種類には、フリーラジカルスカベンジャー、イオンチャネル相互作用/興奮毒性遮断治療および免疫調節/抗炎症療が含まれる(例えばRajah et al. "Experimental neuroprotection in ischemic stroke: a concise review". Neurosurg Focus. 2017 Apr;42(4)参照)。本発明のSA-NTと組み合わせて用いられ得る好ましい神経保護薬は、NXY-059、NA-1、インターロイキン-1受容体アンタゴニストおよび尿酸である。これらの好ましい神経保護薬は、臨床脳卒中患者において良好な忍容性を示すことが当技術分野で知られている。
【0098】
1つ以上の神経保護薬を、本発明のSA-NTにおいて血管拡張薬と組み合わせてもよく、または別々に(すなわち、SA-NTの一部としてではなく)送達してもよい。
【0099】
1つ以上の神経保護薬がSA-NTにおいて血管拡張薬と組み合わされるとき、1つ以上の神経保護薬は、血管拡張薬と同じナノ粒子上で提供されてもよく、または単一の凝集体として一緒に組み合される血管拡張薬とは別のナノ粒子上で提供されてもよい。同様に、神経保護薬と血管拡張薬の両方が用いられるとき、これらは同じ凝集体または別個の凝集体で提供され得る。
【0100】
1つ以上の神経保護薬がSA-NTと組み合わせて用いられるが、別々に送達されるとき、1つ以上の神経保護薬は、本発明のSA-NTと実質的に同時に投与され得る。あるいは、1つ以上の神経保護薬は、SA-NTの投与の約10分以内、本発明のSA-NTの送達の所望により約30分以内、所望により約1時間以内、所望により約2時間以内、所望により約3時間以内に投与され得る。あるいは、1つ以上の神経保護薬は、本発明のSA-NTの投与前、SA-NTの送達前の例えば約10分以内、所望により約30分以内、所望により約1時間以内、所望により約2時間以内、所望により約3時間以内に投与され得る。
【0101】
本発明において、SA-NTは、血流の遮断を除去するために使用されるかまたはそれが意図される処置(例えば血栓溶解および/または血栓除去術)と、1つ以上の神経保護薬の投与などの神経保護治療との両方と組み合わせて用いられ得る。
【0102】
組成物
本発明はまた、脳卒中の処置における使用のための組成物であって、該組成物が、1つ以上の医薬的に許容される添加剤、担体または希釈剤と組み合わせて、本明細書に記載のSA-NTを含む、組成物に関する。
【0103】
適切な添加剤、担体および希釈剤は、標準的な薬学の本で見つけられる。例えばHandbook for Pharmaceutical Additives, 3rd Edition (eds. M. Ash and I. Ash), 2007 (Synapse Information Resources, Inc., Endicott, New York, USA)およびRemington: The Science and Practice of Pharmacy, 21st Edition (ed. D. B. Troy) 2006 (Lippincott, Williams and Wilkins, Philadelphia, USA)参照。
【0104】
本発明の組成物における使用のための添加剤は、微結晶セルロース、クエン酸ナトリウム、炭酸カルシウム、リン酸二カルシウムを含むがこれらに限定されず、そして、グリシンは、様々な崩壊剤、例えばデンプン(好ましくはトウモロコシ、ジャガイモまたはタピオカデンプン)と共に、アルギン酸および特定の複合ケイ酸塩を、ポリビニルピロリドン、スクロース、ゼラチン、アカシアなどの造粒結合剤と一緒に使用され得る。
【0105】
医薬担体は、滅菌水性媒体および様々な無毒性有機溶媒などを含む。医薬的に許容される担体は、ガム、デンプン、糖、セルロース系物質、およびそれらの混合物を含む。製剤はまた、例えば、液体製剤の静脈内、動脈内または筋肉内注射により投与され得る。
【0106】
また、本明細書で用いる「医薬的に許容される担体」は、当業者に周知であり、0.01~0.1M、好ましくは0.05Mリン酸緩衝液または0.9%生理食塩水を含むがこれらに限定されない。さらに、このような医薬的に許容される担体は、水性または非水性の溶液、懸濁液およびエマルションであり得る。非水溶媒の例は、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、オリーブ油などの植物油、オレイン酸エチルなどの注射用有機エステルである。水性担体は、水、アルコール性/水性溶液、エマルションまたは懸濁液(生理食塩水および緩衝媒体を含む)を含む。医薬的に許容される担体として機能する物質の他の例として以下が挙げられる:(1)糖類、例えばラクトース、グルコースおよびスクロース;(2)デンプン類、例えばコーンスターチおよびバレイショデンプン;(3)セルロースおよびその誘導体、例えばカルボキシメチルセルロースナトリウム、メチルセルロース、エチルセルロース、微結晶セルロース、酢酸セルロース;(4)粉末トラガカント;(5)麦芽;(6)ゼラチン;(7)滑沢剤、例えばステアリン酸マグネシウム、ラウリル硫酸ナトリウムおよびタルク;(8)添加剤、例えばカカオバターおよび坐剤ワックス;(9)油、例えばピーナツ油、綿実油、ベニバナ油、ゴマ油、オリーブ油、コーン油、ダイズ油;(10)グリコール類、例えばプロピレングリコール;(11)ポリオール類、例えばグリセリン、ソルビトール、マンニトールおよびポリエチレングリコール(PEG);(12)エステル類、例えばオレイン酸エチルおよびラウリン酸エチル;(13)寒天;(14)緩衝剤、例えば水酸化マグネシウムおよび水酸化アルミニウム;(15)アルギン酸;(16)発熱物質を含まない水;(17)等張食塩水;(18)リンガー液;(19)エチルアルコール;(20)pH緩衝溶液;(21)ポリエステル類、ポリカーボネート類および/またはポリ無水物類;(22)増量剤、例えばポリペプチドおよびアミノ酸;(23)血清成分、例えば血清アルブミン、HDLおよびLDL;(22)C2-C12アルコール類、例えばエタノール;および(23)医薬製剤に使用される他の無毒性の適合性物質。湿潤剤、着色剤、離型剤、コーティング剤、甘味剤、着香剤、香料、防腐剤および抗酸化剤もまた、製剤中に存在し得る。
【0107】
医薬的に許容される非経腸ビヒクルは、塩化ナトリウム溶液、ブドウ糖リンゲル液、ブドウ糖と塩化ナトリウム、乳酸リンゲル液および固定油を含む。静脈内ビヒクルは、液体および栄養補給剤、電解質補給剤、例えばリンゲルブドウ糖をベースとするものを含む。防腐剤および他の添加剤、例えば抗菌剤、抗酸化剤、照合剤(collating agent)、不活性ガスなどもまた存在し得る。
【0108】
本発明に従って投与可能な制御または遅延放出組成物のための医薬的に許容される担体は、親油性デポー(例えば、脂肪酸、ワックス、油)中の製剤を含む。また、本発明には、ポリマー(例えば、ポロキサマーまたはポロキサミン)でコーティングされた粒子組成物、および組織特異的受容体、リガンドもしくは抗原に対する抗体に結合した、または組織特異的受容体のリガンドに結合した化合物も含まれる。
【0109】
医薬的に許容される担体は、ポリエチレングリコール、ポリエチレングリコールとポリプロピレングリコールのコポリマー、カルボキシメチルセルロース、デキストラン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドンまたはポリプロリンなどの水溶性ポリマーの共有結合によって修飾された化合物を含み、これらは、静脈内注射後の血中半減期が対応する非修飾化合物より実質的に長いことが知られている(Abuchowski and Davis, Soluble Polymer-Enzyme Adducts, Enzymes as Drugs, Hocenberg and Roberts, eds., Wiley-Interscience, New York, N.Y., (1981), pp 367-383)。このような修飾はまた、水溶液中での化合物の溶解度を高め、凝集を排除し、化合物の物理的および化学的安定性を高め、化合物の免疫原性および反応性を大幅に低下させ得る。結果として、所望のインビボ生物学的活性は、非修飾化合物より少ない頻度またはより低い用量で、このようなポリマー化合物を投与することによって達成され得る。
【0110】
本明細書で用いる用語「薬物」、「原薬」、「医薬活性成分」などは、処置を必要とする患者を処置するために使用され得る化合物を指す。
【0111】
本明細書で用いる用語「添加剤」は、薬物のバイオアベイラビリティに影響を与え得るが、それ以外では薬理学的に不活性なあらゆる物質を指す。
【0112】
本明細書で用いる用語「医薬的に許容される」は、過度の毒性、刺激、アレルギー反応などがなく、合理的なリスク・ベネフィット比に見合い、その意図する使用に有効な、患者の組織と接触して使用するのに適した健全な医学的判断の範囲内にある種を指す。
【0113】
本明細書で用いる用語「医薬的に許容される塩」用語は、ヒトおよび/または動物に薬物または医薬組成物の成分として投与でき、投与時に遊離化合物(中性化合物または非塩化合物)の生物学的活性の少なくとも一部を保持する塩である。塩基性化合物の所望の塩は、化合物を酸で処理することにより、当業者に知られている方法によって製造され得る。無機酸の例としては、塩酸、臭化水素酸、硫酸、硝酸およびリン酸が挙げられるがこれらに限定されない。有機酸の例としては、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、グリコール酸、ピルビン酸、シュウ酸、マレイン酸、マロン酸、コハク酸、フマル酸、酒石酸、クエン酸、安息香酸、ケイ皮酸、マンデル酸、スルホン酸、およびサリチル酸が挙げられるがこれらに限定されない。塩基性化合物とアミノ酸との塩、例えばアスパラギン酸塩およびグルタミン酸塩もまた製造され得る。酸性化合物の所望の塩は、化合物を塩基で処理することにより、当業者に知られている方法によって製造され得る。酸化合物の無機塩の例としては、アルカリ金属およびアルカリ土類金属塩、例えばナトリウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、およびカルシウム塩;アンモニウム塩;およびアルミニウム塩が挙げられるがこれらに限定されない。酸化合物の有機塩の例としては、プロカイン、ジベンジルアミン、N-エチルピペリジン、N,N-ジベンジルエチレンジアミン、およびトリエチルアミン塩が挙げられるがこれらに限定されない。酸性化合物とアミノ酸との塩、例えばリシン塩もまた製造され得る。医薬製剤に特に有用な更なる塩は、Berge S.M. et al., "Pharmaceutical salts," J. Pharm. Sci. 1977 Jan; 66(1):1-19に記載されている。
【0114】
本明細書で用いる用語「医薬組成物」は、1つ以上の原薬と1つ以上の添加剤との組合せを指す。
【0115】
本明細書で用いる用語「患者」は、ヒトまたは非ヒト哺乳類を指す。非ヒト哺乳類の例としては、家畜動物、例えばヒツジ、ウマ、ウシ、ブタ、ヤギ、ウサギおよびシカ;およびコンパニオンアニマル、例えばネコ、イヌ、げっ歯類およびウマが挙げられる。
【0116】
本明細書で用いる用語「身体」は、上で定義した患者の身体を指す。
【0117】
本明細書で用いる薬物の「治療有効量」なる用語は、患者を処置し、したがって所望の治療効果または改善効果を生じるのに有効な薬物または組成物の量を指す。治療有効量は、とりわけ、患者の体重および年齢ならびに投与経路に依存し得る。
【0118】
本明細書で用いる用語「処置する」は、そのような用語が適用される障害、疾患もしくは状態を反転、緩和、進行阻害もしくは予防すること、またはそのような障害、病気、状態の1つ以上の症状を反転、緩和、進行阻害もしくは予防することを指す。
【0119】
本明細書で用いる用語「処置(treatment)」は、上で定義した「処置する(treating)」行為を指す。
【0120】
本明細書で用いる用語「血栓溶解」は、化学的手段、例えば血栓溶解薬を用いて、血流の遮断物、例えば血塊を除去することを指す。
【0121】
本明細書で用いる用語「血栓除去術」は、機械的手段を用いて、血流の遮断物、例えば血塊を除去することを指す。
【0122】
本明細書で用いる用語「ボーラス」は、静脈内に迅速に与えられる、比較的多量の個別用量の薬物の単回投与を指す。
【0123】
本明細書で用いる用語「連続注入」は、一定時間にわたる薬物の連続的な静脈内投与を指す。
【0124】
本明細書で用いる用語「生体適合性」は、体液または組織と接触している間、本質的に細胞毒性または免疫原性を示さないことを意味する。
【0125】
本明細書で用いる用語「ポリマー」は、オリゴマー、コオリゴマー、ポリマーおよびコポリマー、例えばランダムブロック、マルチブロック、スター、グラフト、グラジエントコポリマーおよびそれらの組み合わせを指す。
【0126】
本明細書で用いる用語「生体適合性ポリマー」は、対象体の体内で使用したときに無毒性、化学的に不活性および実質的に非免疫原性であり、血液中で実質的に不溶性であるポリマーを指す。生体適合性ポリマーは、非生分解性であってもよく、好ましくは生分解性であってもよい。好ましくは、生体適合性ポリマーは、インサイチュで使用されるときにも非炎症性である。
【0127】
本明細書で用いる用語「切断可能な連結基」は、あるセットの条件下では安定であるが、異なるセットの条件下では切断されて、リンカーが一緒に保持している2つの部分を解放する化学基である。切断可能な連結基は、切断剤、例えば、加水分解、pH、上昇したせん断応力、酸化還元電位、温度、放射線、超音波処理、または分解性分子(例えば、酵素または化学試薬)の存在などの影響を受けやすい。例示的な切断可能な連結基としては、加水分解性リンカー、酸化還元切断可能な連結基(例えば、-S-S-および-C(R)2-S-S-、式中、Rは、HまたはC1-C6アルキルであり、少なくとも1つのRは、C1-C6アルキル、例えばCH3またはCH2CH3である);リン酸ベースの切断可能な連結基(例えば、-O-P(O)(OR)-O-、-O-P(S)(OR)-O-、-O-P(S)(SR)-O-、-S-P(O)(OR)-O-、-O-P(O)(OR)-S-、-S-P(O)(OR)-S-、-O-P(S)(OR)-S-、-S-P(S)(OR)-O-、-O-P(O)(R)-O-、-O-P(S)(R)-O-、-S-P(O)(R)-O-、-S-P(S)(R)-O-、-S-P(O)(R)-S-、-O-P(S)(R)-S-、-O-P(O)(OH)-O-、-O-P(S)(OH)-O-、-O-P(S)(SH)-O-、-S-P(O)(OH)-O-、-O-P(O)(OH)-S-、-S-P(O)(OH)-S-、-O-P(S)(OH)-S-、-S-P(S)(OH)-O-、-O-P(O)(H)-O-、-O-P(S)(H)-O-、-S-P(O)(H)-O-、-S-P(S)(H)-O-、-S-P(O)(H)-S-、および-O-P(S)(H)-S-、式中、Rは、直鎖または分岐鎖C1-C10アルキルで置換されていてもよい);酸で切断可能な連結基(例えば、ヒドラゾン、エステル、およびアミノ酸エステル、-C=NN-および-OC(O)-);エステルベースの切断可能な連結基(例えば-C(O)O-);ペプチドベースの切断可能な連結基(例えば、細胞内のペプチダーゼおよびプロテアーゼなどの酵素によって切断される連結基、例えば、-NHCHRAC(O)NHCHR BC(O)-、式中、RAおよびRBは、2つの隣接するアミノ酸のR基である)が挙げられるがこれらに限定されない。ペプチドベースの切断可能な連結基は、2つ以上のアミノ酸を含む。ペプチドベースの切断連結は、ペプチダーゼまたはプロテアーゼの基質であるアミノ酸配列を含む。
【0128】
本明細書で用いる「ニトログリセリン」または「NG」は、「三硝酸グリセリル」または「GTN」としても知られており、それらと同等である。
【0129】
本明細書で用いる用語「ニトログリセリンナノ粒子凝集体」または「NG-NPA」は、血管拡張薬としてニトログリセリンを含む本発明によるSA-NTを指す。
【0130】
本明細書で用いる用語「含む(comprising)」は、「少なくとも一部それからなる」を意味する。用語「含む」を含む本明細書の各記述を解釈するとき、それ以外の特徴、またはその用語が先頭にある特徴も存在し得る。「含む(comprise)」および「含む(comprises)」などの関連用語も同様に解釈される。
【実施例
【0131】
実施例1 ナノ粒子凝集体の製造
ナノ粒子(NP)を、単純な溶媒置換法を用いてPLGA(50:50、17kDa、酸末端;Lakeshore Biomaterials、AL)から製造した。蛍光疎水性色素であるクマリン-6をNP中に含ませて、この試験における可視化および定量を可能にした。
【0132】
1mg/mlのポリマーを、0.1重量%クマリンを含むジメチルスルホキシド(DMSO、Sigma、MO)に溶解させて、室温で水に対して透析し、溶媒置換とその後の水溶液中での自己集合によりナノ粒子を形成させた。
【0133】
NP凝集体の製造:PLGA NPを遠心分離し、10mg/mlの水中懸濁液に濃縮し、1mg/mlのL-ロイシン(Spectrum Chemicals & Laboratory Products、CA)を加えた。NP凝集体を、Mobile Minor噴霧乾燥機(Niro, Inc.;Columbia、MD)を用いて噴霧乾燥技術により製造した。ロイシン-NP水性懸濁液を有機相(エタノール)とは別に1.5:1の比率で注入し、噴霧直前にインラインで混合した。入口温度は80℃、液体供給速度は50ml/分であり;ガス流速を25g/分に設定し、ノズル圧力は40psiであった。噴霧乾燥した粉末を、サイクロンの出口の容器に集めた。SA-NT懸濁液を、粉末を水中に所望の濃度で再構成することにより形成した。凝集体懸濁液を20μmフィルターでろ過し、大きすぎる凝集体をろ別し;遠心分離(2000gで5分間)とそれに続く洗浄も用いて、単一の未結合NPを除去した。動的光散乱(DLS)を用いて、HeNeレーザー、173°後方散乱検出器で動作するゼータ粒子サイズ分析装置(Malvern instruments、UK)を用いて、希釈溶液中のNPのサイズを決定した。サンプルを、pH7.4のPBS緩衝液中で1mg/mlの濃度にて調製した。
【0134】
実施例2a ニトログリセリンナノ粒子(NG-NP)の製造
ナノ粒子(NP)を、シングルエマルション溶媒蒸発法を用いて、PLGA(50:50、酸末端;GMPグレードのPLGA(D,L-乳酸-グリコール酸共重合体)、Durect Lactel製)から製造した。ろ過滅菌した1%(w/v)ポリビニルアルコール(PVA、Sigma-Aldrich)溶液を、ミリQ水中で調製し、水相として用いた。ジクロロメタンに溶解させた50mg/mLのPLGAポリマー(Sigma-Aldrich)を有機相として用いた。5mg/mLニトログリセリン(American Regent-Nitroglycerin Injection、USPグレード)溶液を有機相に移した。PLGAおよびニトログリセリン溶液を含む有機相を、水相を含むPVA 50mLを含むビーカー中で混合した。この溶液混合物を、プローブソニケーター(Q-SonicaモデルQ700)を用いて、4℃の冷蔵室内で40AMPの強度にて1.5分間超音波処理した。ストック溶液を、100KD CEチューブ(Spectrum-labs)を用いて、ミリQ水に対して一晩透析した。試料濃度を、乾燥重量分析を実施することにより決定した(0.5mLの懸濁液を3回120℃のオーブン中で乾燥し、平均を用いて総ナノ粒子収率、>90重量%を計算した)。形成したNPのサイズ分布を、動的光散乱(DLS)を用いて特性評価した。NPのZ平均サイズは185.6nm、標準偏差は75.18であることがわかった。NPのモード平均サイズは210.8nmであることがわかった。
【0135】
実施例2b ニトログリセリンナノ粒子凝集体(NG-NPA)の製造
NG-NP懸濁液を、ミリQ水を加えて5mg/mLに希釈した。2mg/mLのL-ロイシン(Spectrum Chemicals & Laboratory Products、CA)を水相として用いた。ベンチトップBuchi290噴霧乾燥機(Buchi-290、Switzerland)の部品を用いて噴霧乾燥技術により製造したNGナノ粒子凝集体を、オートクレーブにより滅菌した。ロイシン-NP水性懸濁液を、有機相(エタノール):NG-NP懸濁液混合物と別々に1.5:1の比率で注入し、噴霧直前にインラインで混合した。入口温度は110℃、液体供給速度は6mL/分であり;60mbarの圧力で吸引する。噴霧乾燥した粉末をサイクロン出口の容器に集め、-20℃のデシケーターに保管した。ナノ粒子凝集体内のニトログリセリン負荷を、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)により測定し、1.2重量%であった。サイズ測定では、サンプルをpH7.4のPBS緩衝液中で1mg/mLの濃度にて調製し、Malvernレーザー回折装置で測定した。ナノ粒子凝集体のサイズの中央値は、2.5μmであることがわかった。
【0136】
実施例3 げっ歯類における側副灌流を増加させるためのニトログリセリンを含むナノ粒子の使用
動物実験を、体重300~350gの雄性高血圧自然発症ラット(SHR)(Harlan、Bicester、UK)で実施した。すべての動物を12時間の明暗サイクルで飼育し、実験前に餌と水を自由に摂取させた。すべての手順は、Animal (Scientific Procedures) Act 1986 (UK)および実験動物の管理と使用に関するNational Institutes of Healthのガイドラインに準拠しており、University of Oxford Animal Ethics Committee, the Home Office (UK)により承認された。
【0137】
麻酔とモニタリング
ラットをO2/N2(1:3)中5%イソフルランで麻酔し、1%~2%のイソフルランで維持した。中核体温を、熱電対直腸プローブと加温プレート(Harvard Apparatus、UK)により37℃に維持した。切開部位の毛を剃り、洗浄し、2mg/kgの0.05%ブピバカイン(Aspen、UK)を皮下注射した。大腿動脈ラインを用いて、連続的な動脈圧モニタリングを行った。
【0138】
実験用脳卒中モデル
ラットは、長さ4mm×直径0.35mmのシリコンチップを備えた4-0モノフィラメント閉塞糸を使用した、シリコンチップ付き管腔内糸閉塞法(Spratt et al. (2006): "Modification of the method of thread manufacture improves stroke induction rate and reduces mortality after thread-occlusion of the middle cerebral artery in young or aged rats." J Neurosci Methodsに記載)を用いて中大脳動脈閉塞(MCAo/脳卒中)を受けた。フィラメントを右外頚動脈断端内に進め、内頚動脈を上って右MCAの起始部を閉塞した。
【0139】
マルチサイトデュアルレーザードップラープローブを用いた中心血流と側副灌流の変化の測定
レーザードップラー流量計(LDF)(Oxford Optronix、Oxford、UK)を使用し、デュアルプローブを用いてMCAと側副動脈領域の両方の脳血流(CBF)の変化を測定した。動物の頭部を定位固定フレーム内のイヤーバーで固定した。プローブ1を、正中線の側方+4mm、ブレグマの後方-2mmに配置して、コアMCA CBFの変化を測定した。プローブ2を、正中線の側方+3mm、ブレグマの前方+2mmに配置して、前大脳動脈(ACA)とMCA灌流領域の間の境界領域内の側副血管によって供給されるCBFの変化を測定した。中大脳動脈閉塞を、プローブ1のベースラインからのLDFシグナルの>70%減少により確認した。
【0140】
薬物投与
実施例3a
MCAo前に、大腿静脈に2フレンチシリコンチューブをカニューレ挿入した。動物を、MCAoの30分後に、ブランクナノ粒子凝集体の静脈内ボーラスとその後注入(NPA対照、生理食塩水中に1mg、n=6)、またはニトログリセリンナノ粒子凝集体の静脈内ボーラスとその後注入(NG-NPA、生理食塩水中にNPA 1mg中ニトログリセリン12.5μg、n=6)を受けるように無作為に割り付けた。側副灌流を、注入前のベースラインからの変化%として測定した。側副灌流の変化を図1に示す。ブランクNPAおよびNG-NPAの平均側副灌流の比較を図2に示す。
【0141】
ブランクNPAは、側副灌流を有意に変化させなかった。NG-NPAの投与は、投与開始4分後に側副血液灌流をベースラインより平均40%増加させた(図1)。NG-NPAの投与もまた、処置期間中の平均側副灌流を増加させた(図2)。
【0142】
実施例3b
MCAo前に、大腿静脈に2フレンチシリコンチューブをカニューレ挿入した。1匹の高血圧自然発症ラット(SHR)は、MCAoの30分後に開始して、NPAに封入されていない遊離ニトログリセリン(NG、12.5、25、50および100μg)の用量を増加させながら1分間かけた静脈内ボーラスを受けた。各用量の投与の間に、NGの5半減期のウォッシュアウト期間があった。側副灌流を、注入前のベースラインからの変化%として測定した。結果を図3に示す。
【0143】
ピーク側副血流の増加は、NPAに封入されていないニトログリセリンの等価用量と比較して、NG-NPAグループで2.5倍高かった。さらに、「遊離」ニトログリセリンの用量を増加しても、側副灌流の更なる増加は示さなかった(図3)。
【0144】
実施例3c
MCAo前に、大腿動脈および大腿静脈に2フレンチシリコンチューブをカニューレ挿入した。平均動脈圧を、大腿動脈カテーテルにより連続的に測定した。側副灌流を、注入前のベースラインからの変化%として測定した。1匹のSHRは、MCAoの30分後に開始して、NG-NPAの静脈内注入(2ml/時間にて生理食塩水中にNPA 2mg中ニトログリセリン25μgを含む=NG用量が2.75μg/kg/分)を受けた。このSHRの側副灌流および平均動脈圧の変化を図4に示す。
【0145】
別のSHRは、MCAoの30分後に開始して、NG-NPAの静脈内注入(3ml/時間にて生理食塩水中にNPA 2mg中ニトログリセリン25μgを含む=NG用量が4.15μg/kg/分)を受けた。このSHRの側副灌流および平均動脈圧の変化を図5に示す。
【0146】
実施例4 げっ歯類における側副灌流を増加させるためのニトログリセリンを含むナノ粒子の使用
動物実験を、体重280~310gの雄性高血圧自然発症ラット(SHR)(ARC、Perth、Australia)で実施した。すべての動物を12時間の明暗サイクルで飼育し、実験前に餌と水を自由に摂取させた。実験は、Animal Care and Ethics Committee of the University of Newcastleにより承認され (プロトコル番号A-2020-003)、Australian Code of Practice for the Care and Use of Animals for Scientific Purposesの要件に従ったものであった。
【0147】
麻酔とモニタリング
ラットをO2/N2(1:3)中5%イソフルランで麻酔し、1%~2%のイソフルランで維持した。中核体温を、熱電対直腸プローブと加温プレートにより37℃に維持した。切開部位の毛を剃り、洗浄し、2mg/kgの0.05%ブピバカインを皮下注射した。大腿動脈ラインを用いて、連続的な動脈圧モニタリングを行った。
【0148】
実験用脳卒中モデル
ラットは、長さ4mm×直径0.35mmのシリコンチップを備えた4-0モノフィラメント閉塞糸を使用した、シリコンチップ付き管腔内糸閉塞法(Spratt et al. (2006): "Modification of the method of thread manufacture improves stroke induction rate and reduces mortality after thread-occlusion of the middle cerebral artery in young or aged rats." J Neurosci Methodsに記載)を用いて中大脳動脈閉塞(MCAo/脳卒中)を受けた。フィラメントを右外頚動脈断端内に進め、内頚動脈を上って右MCAの起始部を閉塞した。
【0149】
レーザースペックルコントラストイメージングを用いた、脳卒中(右)半球の側副血流と対照(左)半球の脳血流の変化の測定
両側の薄くした頭蓋骨ウィンドウを介したレーザースペックルコントラストイメージング(RWD Life Sciences)を用いて、脳の右(脳卒中)側の側副動脈領域と脳の左(対照/対側)側の同等の領域の脳血流(CBF)の変化を測定した。動物の頭部を定位固定フレーム内のイヤーバーで固定した。頭蓋骨ウィンドウ(4mm×4mm)を、ブレグマの後方1mmおよび正中線の側方1mmから開始して両側に作成した。レーザースペックルイメージングソフトウェア上の対象とする領域を、ブレグマの後方2mm、右側の正中線から側方3mmに配置して、前大脳動脈(ACA)とMCA灌流領域の間の境界領域内の側副血管によって供給されるCBFの変化を測定した。別の対象とする領域を、左側(対照/対側)半球上の同等の領域(すなわち、ブレグマの後方2mmおよび正中線から側方3mm)に配置した。
【0150】
薬物投与
MCAo前に、大腿動脈および大腿静脈にカニューレ挿入した。平均動脈圧を、大腿動脈カテーテルにより連続的に測定した。側副および対照半球灌流を、注入前のベースラインからの変化%として測定した。
【0151】
動物を、MCAoの25分後に開始して、ブランクナノ粒子凝集体の静脈内注入(NPA対照、生理食塩水2ml中に4mg、n=7)、またはニトログリセリンナノ粒子凝集体の静脈内注入(NG-NPA、生理食塩水2ml中にNPA 4mg中ニトログリセリン50μgを2.8~3ml/時間=4μg/kg/のニトログリセリン、n=7)を受けるように無作為に割り付けた。閉塞糸を引っ込めることにより再灌流が誘発されるまで、注入を45分間続けた。動物を手術後24時間回復させ、その時点で動物を安楽死させ、最終的な脳卒中(梗塞)サイズについて脳を分析した。
【0152】
結果
NG-NPAの投与は、側副血液灌流を有意に増加させたが、ブランクNPAは、側副灌流を有意に変化させなかった(図6)。NG-NPAは、対照/対側半球の対応する領域の灌流に影響を与えなかった(図7)。NG-NPAは、血圧を有意に低下させなかった(図8)。NG-NPA処置は、24時間で脳卒中のサイズを有意に減少させた(図9)。両群を組み合わせるとき、側副灌流の変化の程度と梗塞体積との間に有意な逆相関が存在する(図10)。側副灌流と梗塞体積との間のこの反比例の関係は、側副灌流の改善が脳卒中の転帰に及ぼす保護効果を裏付けるものである。これらの結果は、NG-NPAが側副灌流を増強し、特に側副を標的としており(対側/対照半球灌流および血圧に変化なし)、脳卒中の転帰を改善することを裏付けている。
【0153】
実施例5 げっ歯類における灌流および血圧に対する遊離ニトログリセリンの影響
動物実験を、体重280~310gの雄性高血圧自然発症ラット(SHR)(ARC、Perth、Australia)で実施した。すべての動物を12時間の明暗サイクルで飼育し、実験前に餌と水を自由に摂取させた。実験は、Animal Care and Ethics Committee of the University of Newcastleにより承認され (プロトコル番号A-2020-003)、Australian Code of Practice for the Care and Use of Animals for Scientific Purposesの要件に従ったものであった。
【0154】
麻酔とモニタリング
ラットをO2/N2(1:3)中5%イソフルランで麻酔し、1%~2%のイソフルランで維持した。中核体温を、熱電対直腸プローブと加温プレートにより37℃に維持した。切開部位の毛を剃り、洗浄し、2mg/kgの0.05%ブピバカインを皮下注射した。大腿動脈ラインを用いて、連続的な動脈圧モニタリングを行った。
【0155】
実験用脳卒中モデル
ラットは、長さ4mm×直径0.35mmのシリコンチップを備えた4-0モノフィラメント閉塞糸を使用した、シリコンチップ付き管腔内糸閉塞法(Spratt et al. (2006): "Modification of the method of thread manufacture improves stroke induction rate and reduces mortality after thread-occlusion of the middle cerebral artery in young or aged rats." J Neurosci Methodsに記載)を用いて中大脳動脈閉塞(MCAo/脳卒中)を受けた。フィラメントを右外頚動脈断端内に進め、内頚動脈を上って右MCAの起始部を閉塞した。
【0156】
レーザースペックルコントラストイメージングを用いた、脳卒中(右)半球の側副血流と対照(左)半球の脳血流の変化の測定
両側の薄くした頭蓋骨ウィンドウを介したレーザースペックルコントラストイメージング(RWD Life Sciences)を用いて、脳の右(脳卒中)側の側副動脈領域と脳の左(対照/対側)側の同等の領域の脳血流(CBF)の変化を測定した。動物の頭部を定位固定フレーム内のイヤーバーで固定した。頭蓋骨ウィンドウ(4mm×4mm)を、ブレグマの後方1mmおよび正中線の側方1mmから開始して両側に作成した。レーザースペックルイメージングソフトウェア上の対象とする領域を、ブレグマの後方2mm、右側の正中線から側方3mmに配置して、前大脳動脈(ACA)とMCA灌流領域の間の境界領域内の側副血管によって供給されるCBFの変化を測定した。別の対象とする領域を、左側(対照/対側)半球上の同等の領域に配置した。
【0157】
薬物投与
MCAo前に、大腿動脈および大腿静脈にカニューレ挿入した。平均動脈圧を、大腿動脈カテーテルにより連続的に測定した。側副および対照半球灌流を、注入前のベースラインからの変化%として測定した。
【0158】
4μg/kg/分ニトログリセリン(GTN)
動物を、MCAoの25分後に開始して、生理食塩水の注入(対照、0.3ml/時間、n=6)、または遊離ニトログリセリンの注入(遊離GTN、生理食塩水中0.25μg/μl、300μl/時間=4μg/kg/分、n=6)を受けるように無作為に割り付けた。閉塞糸を引っ込めることにより再灌流が誘発されるまで、注入を45分間続けた。
【0159】
4μg/kg/分での遊離GTNの投与は、側副血液灌流を変化させなかった(図11)。4μg/kg/分での遊離GTNは、対照/対側半球の対応する領域における灌流に有意な影響を及ぼさなかった(図12)。4μg/kg/分での遊離GTNは、血圧を低下させた(図13)。
【0160】
これらの結果は、遊離薬物として投与されたGTNは側副灌流に影響を及ぼさないが、低血圧を引き起こすことを裏付けている。
【0161】
40μg/kg/分ニトログリセリン(GTN)
動物は、MCAoの25分後に開始して、遊離ニトログリセリンの静脈内注入(遊離GTN、生理食塩水中2.5μg/μl、300μl/時間=40μg/kg/分、n=4)を受けた。閉塞糸を引っ込めることにより再灌流が誘発されるまで、注入を45分間続けた。ビヒクル対照(生理食塩水)は、4μg/kg/分の試験に用いたものと同じ対照群であった(n=6)。
【0162】
40μg/kg/分での遊離GTNの投与は、側副血液灌流を変化させなかった(図14)。40μg/kg/分での遊離GTNは、対照/対側半球の対応する領域における灌流に有意な影響を及ぼさなかった(図15)。40μg/kg/分での遊離GTNは、血圧を有意に低下させた(図16)。
【0163】
これらの結果は、NG-NPAの用量の10倍に相当する用量で遊離薬物として投与されたGTNは側副灌流に影響を及ぼさないが、用量依存的な低血圧を引き起こすことを裏付けている。これらの結果は、遊離GTNの用量を4μg/kg/分から40μg/kg/分に単純に増加させるだけでは側副灌流を増強できないことを強調しており、これはおそらく全身血管を拡張する遊離GTNにより生じる低血圧によるものであると考えられる。したがって、NG-NPAに封入されている4μg/kg/分でのGTNと同じ側副増強効果を引き起こすのに必要な遊離薬物の等価用量を決定することは不可能であり、そのため、NG-NPAが側副増強に対して与える有効性の増強倍数を決定することは不可能である。
【0164】
実施例4の結果と合わせると、これらの結果は、NG-NPAが、側副血管への選択的送達および全身性低血圧の欠如により、GTNを効果のない側副増強治療から極めて効果的な側副増強治療に変えることができることを示している。
【0165】
以上、本発明の特定の実施態様について説明したが、本発明は、説明した以外の方法でも実施し得ることが理解される。上記の説明は、例示的なものであって、限定的なものではないこと意図している。したがって、以下に記載する特許請求の範囲から逸脱することなく、記載した本発明に修正を加え得ることが当業者には明らかである。
図1
図2
図3
図4
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図6
図7
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図10
図11
図12
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【国際調査報告】