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特表2023-542769抗微生物剤感受性に関して細菌を検出、同定、および特徴付けするための、分光学的方法、試薬、およびシステム
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-10-12
(54)【発明の名称】抗微生物剤感受性に関して細菌を検出、同定、および特徴付けするための、分光学的方法、試薬、およびシステム
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/04 20060101AFI20231004BHJP
   C12Q 1/06 20060101ALI20231004BHJP
   G01N 33/15 20060101ALI20231004BHJP
   G01N 33/48 20060101ALI20231004BHJP
   G01N 33/483 20060101ALI20231004BHJP
   G01N 21/49 20060101ALI20231004BHJP
   G01N 21/27 20060101ALI20231004BHJP
【FI】
C12Q1/04
C12Q1/06
G01N33/15 Z
G01N33/48 M
G01N33/483 C
G01N21/49 A
G01N21/27 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022578740
(86)(22)【出願日】2021-06-22
(85)【翻訳文提出日】2023-02-09
(86)【国際出願番号】 US2021038516
(87)【国際公開番号】W WO2021262738
(87)【国際公開日】2021-12-30
(31)【優先権主張番号】63/042,875
(32)【優先日】2020-06-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】514016821
【氏名又は名称】スペクトラル プラットフォームズ, インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】SPECTRAL PLATFORMS, INC.
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【弁理士】
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100188433
【弁理士】
【氏名又は名称】梅村 幸輔
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【弁理士】
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【弁理士】
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【弁理士】
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100214396
【弁理士】
【氏名又は名称】塩田 真紀
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【弁理士】
【氏名又は名称】川本 和弥
(72)【発明者】
【氏名】バルマ ラヴィ
【テーマコード(参考)】
2G045
2G059
4B063
【Fターム(参考)】
2G045CB21
2G045FA14
2G059AA05
2G059BB04
2G059BB09
2G059BB14
2G059CC16
2G059EE01
2G059EE02
2G059EE12
2G059HH02
2G059MM01
2G059MM04
2G059MM05
2G059MM14
4B063QA01
4B063QA06
4B063QA18
4B063QQ05
4B063QQ42
4B063QQ52
4B063QR08
4B063QR62
4B063QS39
4B063QX02
(57)【要約】
吸収スペクトルをレイリー散乱の寄与と吸収の寄与とに分離する方法が提供される。そのような分離を実施すること、およびレイリー散乱による影響を除去することにより、試料の吸収をより正確に測定することが可能である。吸収スペクトルをレイリー散乱の寄与と吸収の寄与とに分離することに関連する、さらなる方法:生物学的流体中に微生物が存在するか否かを評価すること、微生物に対する医薬の作用を評価すること、および感染を有することが疑われる対象を処置することが、提供される。吸収スペクトルをレイリー散乱の寄与と吸収の寄与とに分離するための、システム、および非一時的なコンピュータ可読記憶媒体が提供される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸収スペクトルをレイリー散乱の寄与と吸収の寄与とに分離する方法であって、以下の段階:
(i) 吸収スペクトルを測定する段階;
(ii) 吸収スペクトルをべき関数にフィットさせることによって、フィットスペクトルを生成する段階;
(iii) 吸収スペクトルからフィットスペクトルを差し引くことによって、差スペクトルを生成する段階;
(iv) 以下:
吸収スペクトルから、波長に関して差スペクトルが0以下であるポイントを選択すること、および
フィットスペクトルから、波長に関して差スペクトルが0よりも大きいポイントを選択すること
によって調整スペクトルを生成する段階;
(v) 段階(ii)~(iv)を0回以上繰り返す段階であって、段階が繰り返される場合には、吸収スペクトルの代わりに最新の調整スペクトルが使用され、最後の調整スペクトルがレイリー散乱の寄与である、段階;ならびに
(vi) 吸収スペクトルからレイリー散乱の寄与を差し引くことによって、吸収の寄与を生成する段階
を含む、方法。
【請求項2】
生物学的流体中に微生物が存在するか否かを評価する方法であって、以下の段階:
(i) 生物学的流体および無菌流体の両方について、以下:
(a) その光吸収が微生物の代謝産物に応じて変化する検出用成分と、該流体とを接触させること;
(b) 開始時点における参照光吸収スペクトルを測定すること;
(c) 後続の時点における、後続の複数の光吸収スペクトルを測定すること;
(d) レイリー散乱からの寄与について、該後続の光吸収スペクトルを補正することにより、複数のレイリー補正スペクトルを生成すること;
(e) レイリー補正スペクトルを用いて2次元プロットを生成することであって、プロットの一方の軸が、参照スペクトル以降の時間であり、プロットのもう一方の軸が、参照スペクトル以降の、特定の波長における、または特定の波長範囲における、吸光度の変化である、生成すること
を行う段階;および
(ii) 生物学的流体の2次元プロットを、無菌流体の2次元プロットと比較することによって、生物学的流体中に細菌が存在するか否かを決定する段階
を含む、方法。
【請求項3】
生物学的流体中に特定の微生物が存在するか否かを評価する方法であって、以下の段階:
(a) 試験微生物が存在する場合に特異的な応答を生じるようにあらかじめ選択された試薬と、生物学的流体とを混合する段階;
(b) 複数の波長においてその光吸収を測定する検出システムに、生物学的流体および該試薬を接触させる段階;
(c) 該試薬と混合された微生物を含む既知の試料を用いて、開始時点における参照陽性対照光吸収スペクトルを、および該試薬と混合された微生物を含まない既知の試料を用いて、陰性対照光吸収スペクトルを、測定する段階;
(d) 生物学的流体および試薬からの「試験」光吸収スペクトルを測定する段階;
(d) 陽性対照、陰性対照、および試験試料からの光吸収スペクトルの1つまたは複数を補正することによって、複数のレイリー補正スペクトルを生成する段階;
(e) 試験試料からのスペクトルを、陽性対照のスペクトルおよび陰性対照のスペクトルと比較することによって、生物学的流体中に陽性対照中の細菌が存在するか否かを決定する段階
を含む、方法。
【請求項4】
以下の段階の1つまたは複数:
関連する波長における吸収が閾値を上回るかどうかを推定することによって、ある特定の吸収ピークが試験試料に存在するかどうかを決定する段階;
試験試料についての、波長に対する吸光度の極大値のプロファイルが、陽性対照に関連するプリセット範囲内であるかどうかを決定する段階;
2つの波長における吸光度の比が、陽性対照に関連する範囲内であるかどうかを決定する段階;
あらかじめ定められた波長における吸光度が、現在の閾値を上回るかどうかを決定する段階;
ある特定の波長における時間依存性の吸光度が、ある期間にわたってプリセット閾値を上回るかどうかを決定する段階;
ある特定の波長における依存性の吸光度が、ある期間にわたってプリセット閾値を上回り、かつ該プリセット閾値を下回る値に戻ることを決定する段階;および
生物学的流体中に細菌が存在することが決定されたか否かを報告する段階
をさらに含む、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
レイリー散乱からの寄与について、後続の光吸収スペクトルを補正することが、後続の複数の光吸収スペクトルのそれぞれについての以下の段階:
(a) 後続の光吸収スペクトルから参照光吸収スペクトルを差し引くことによって、変化スペクトルを生成する段階;
(b) 変化スペクトルをべき関数にフィットさせることによって、フィットスペクトルを生成する段階;
(c) 変化スペクトルからフィットスペクトルを差し引くことによって、差スペクトルを生成する段階;
(d) 以下:
変化スペクトルから、波長に関して差スペクトルが0以下であるポイントを選択すること、および
フィットスペクトルから、波長に関して差スペクトルが0よりも大きいポイントを選択すること
によって調整スペクトルを生成する段階;
(e) 段階(a)~(c)を0回以上繰り返す段階であって、段階が繰り返される場合には、変化スペクトルの代わりに最新の調整スペクトルが使用され、最後の調整スペクトルがレイリープロファイルである、段階;ならびに
(f) 後続の光吸収スペクトルからレイリープロファイルを差し引くことによって、レイリー補正スペクトルを生成する段階
を含む、請求項3~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
微生物に対する医薬の作用を評価する方法であって、以下の段階:
(i) 微生物と医薬とを含む第1の流体、および微生物を含みかつ医薬を欠く第2の流体の両方について、以下:
(a) その光吸収が微生物の代謝産物に応じて変化する検出用成分と、該流体とを接触させること;
(b) 開始時点における参照光吸収スペクトルを測定すること;
(c) 後続の時点における、後続の複数の光吸収スペクトルを測定すること;
(d) レイリー散乱からの寄与について、該後続の光吸収スペクトルを補正することにより、複数のレイリー補正スペクトルを生成すること;
(e) レイリー補正スペクトルを用いた2次元プロットを生成することであって、プロットの一方の軸が、参照スペクトル以降の時間であり、プロットのもう一方の軸が、参照スペクトル以降の、特定の波長における、または特定の波長範囲における、吸光度の変化である、生成すること
を行う段階;および
(ii) 第1の流体についての2次元プロットを、第2の流体についての2次元プロットと比較することによって、微生物に対する医薬の作用を決定する段階
を含む、方法。
【請求項7】
試験試料中の微生物の濃度および存在を評価する方法であって、以下の段階:
未知の濃度の未知の微生物と、微生物の増殖を支援しかつ光吸収を生じさせる試薬培地とを有する全ての試験生物学的流体を含む、一連の試験試料に関して、
その光吸収が微生物の代謝産物に応じて変化する検出用成分と、該試験試料とを接触させる段階、紫外・可視吸光度を測定する段階、および測定された紫外・可視吸光度から、レイリー散乱を分離する段階;
開始時点において、陽性対照および陰性対照に関する参照光吸収スペクトルを測定する段階であって、陽性対照が、試験試料の濃度にわたるあらかじめ定められた複数の微生物濃度で存在する微生物を有する試験試料を含む、段階、および微生物の存在を決定する段階;
微生物の存在を検出するのに必要な時間を決定する段階、および陽性対照試料中の微生物濃度に対して時間のマスター曲線を生成する段階;ならびに
微生物の存在を検出するのに必要な時間を、陽性対照試料を用いたマスター曲線と比較することによって、微生物の存在を決定する、および微生物の濃度を決定する、段階
を含む、方法。
【請求項8】
試験生物学的流体中の未知の微生物の増殖を阻害するのに必要な抗生物質の濃度を評価する方法であって、以下の段階:
ほぼ同じ開始濃度の未知の微生物と、微生物の増殖を支援する試薬培地と、耐性閾値を上回る高濃度から始まってかつ最低濃度が感受性閾値を下回るまで2ずつ減少するという一連の濃度で存在する候補抗生物質とを有する、一連の試験試料に、請求項7に記載の方法を適用する段階
を含み、以下の段階:
ある程度の時間間隔の後で、試験試料中の微生物の濃度を決定する段階;および
抗生物質濃度とともに、微生物の濃度をプロットする段階
をさらに含む、方法。
【請求項9】
以下の段階:
閾値濃度を決定することによって最小発育阻止濃度(MIC)を決定する段階であって、該閾値濃度が、微生物の存在を決定するのに必要な時間が、ベースラインの値を上回ってプリセット係数の分だけ増加する濃度である、段階;
微生物の存在を決定するのに必要な時間をマスター曲線と比較することによって決定された試験試料中の微生物の濃度を用いることによって、標準病原体濃度に関してMICを補正する段階;
閾値濃度によって決定された試験試料中の微生物の濃度を用いることによって、標準病原体濃度に関してMICを補正する段階であって、該閾値濃度が、微生物の存在を決定するのに必要な時間が、ベースラインの値を上回ってプリセット係数の分だけ増加する濃度である、段階;
推定されたMICの絶対値に対する、病原体濃度に伴うMICの変動の、あらかじめ定められたマスター曲線によって、標準病原体濃度に関してMICを補正する段階;
あらかじめ定められたブレイクポイントに対して微生物の状態を比較することによって、微生物の耐性状態、感受性状態、または中間状態を特徴付けする段階
をさらに含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
微生物が、大腸菌(E. Coli)、S. エピデルミディス(S. epidermidis)、黄色ブドウ球菌(S. aureus)、K. ニューモニエ(K. pneumonia)、P. ミラビリス(P. Mirabilis)、A. バウマニ(A. baumannii)、エンテロコッカス、S. アガラクティエ(S. agalactiae)、カンジダ生物、ケカビ生物からなる群から選択される、請求項7~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
吸収スペクトルをレイリー散乱の寄与と吸収の寄与とに分離するためのシステムであって、
光源;
検出器;ならびに
プロセッサに機能的に連結されているメモリを含むプロセッサであって、メモリが、そこに格納されている命令を含み、命令が、プロセッサによって実行された際に、プロセッサに以下:
光源を用いて試料を照射すること;
検出器を用いて吸収スペクトルを記録すること;および
吸収スペクトルをレイリー散乱の寄与と吸収の寄与とに分離すること
を行わせる、プロセッサ
を含む、システム。
【請求項12】
以下の段階:
(i) 吸収スペクトルを測定する段階;
(ii) 吸収スペクトルをべき関数にフィットさせることによって、フィットスペクトルを生成する段階;
(iii) 吸収スペクトルからフィットスペクトルを差し引くことによって、差スペクトルを生成する段階;
(iv) 以下:
吸収スペクトルから、波長に関して差スペクトルが0以下であるポイントを選択すること、および
フィットスペクトルから、波長に関して差スペクトルが0よりも大きいポイントを選択すること
によって調整スペクトルを生成する段階;
(v) 段階(ii)~(iv)を0回以上繰り返す段階であって、段階が繰り返される場合には、吸収スペクトルの代わりに最新の調整スペクトルが使用され、最後の調整スペクトルがレイリー散乱の寄与である、段階;ならびに
(vi) 吸収スペクトルからレイリー散乱の寄与を差し引くことによって、吸収の寄与を生成する段階
によって、吸収スペクトルをレイリー散乱の寄与と吸収の寄与とに分離するための命令を有する、メモリ
をプロセッサが含む、請求項11に記載のシステム。
【請求項13】
命令が、複数の試料についての照射、記録、および分離のために構成されている、請求項11~12のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項14】
そこに格納されている、吸収スペクトルをレイリー散乱の寄与と吸収の寄与とに分離するための命令を含む、非一時的なコンピュータ可読記憶媒体であって、
該命令が、
(i) 吸収スペクトルを測定するためのアルゴリズム;
(ii) 吸収スペクトルをべき関数にフィットさせることによってフィットスペクトルを生成するための、アルゴリズム;
(iii) 吸収スペクトルからフィットスペクトルを差し引くことによって差スペクトルを生成するための、アルゴリズム;
(iv) 以下:
吸収スペクトルから、波長に関して差スペクトルが0以下であるポイントを選択すること、
フィットスペクトルから、波長に関して差スペクトルが0よりも大きいポイントを選択すること
によって調整スペクトルを生成するための、アルゴリズム;
(v) 段階(ii)~(iv)を0回以上繰り返すためのアルゴリズムであって、段階が繰り返される場合には、吸収スペクトルの代わりに最新の調整スペクトルが使用され、最後の調整スペクトルがレイリー散乱の寄与である、アルゴリズム;ならびに
(vi) 吸収スペクトルからレイリー散乱の寄与を差し引くことによって吸収の寄与を生成するための、アルゴリズム
を含む、非一時的なコンピュータ可読記憶媒体。
【請求項15】
さまざまな試薬および抗生物質があらかじめ充填されており、かつ決まった量の試験試料が添加される、n-ウェルプレートリーダー(nは、6、12、48、96、または384である);
調節可能なマイクロプレートリーダーであって、n-ウェルプレートを収容可能であり、かつ、そうするための命令がマイクロコントローラから提供された際に、n個のウェル全てからの紫外・可視吸収スペクトルを獲得する、調節可能なマイクロプレートリーダー;
調節可能なマイクロプレートリーダーと適切に接続しているソフトウェアを有する、マイクロコントローラまたはコンピュータであって、プリセットのスペクトル分解能においてかつプリセットのスペクトル範囲内で、紫外・可視吸収スペクトルを獲得するようにマイクロプレートリーダーに命令することが可能であり、かつ調節可能なマイクロプレートリーダーが取得したデータを獲得することも可能である、マイクロコントローラまたはコンピュータ;ならびに
請求項2~9のいずれか一項に記載の方法を実行することが可能なマイクロコントローラ
を含む、システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2020年6月23日に提出された米国特許仮出願第63/042,875号の恩典を主張するものであり、その開示は、その全体が参照により本明細書に組み入れられる。
【背景技術】
【0002】
序論
紫外光または可視光を用いる吸収分光法は、たとえば細菌などといった微生物の検出を含めた、バイオテクノロジーにおける多くの応用に関して使用されている。そのような手順においては、細菌を有することが疑われる試料を、細菌の代謝産物の存在に応じてその紫外または可視の吸収スペクトルが変化する指示薬化合物と、接触させることが可能である。たとえば、いくつかの種類の細菌は、酸性またはアルカリ性の代謝産物を産生するので、試料をpH指示薬と接触させることが可能である。ある種の細菌が存在する場合、周辺の培地のpHは変化し、その結果、pH指示薬の色の変化が引き起こされ、その後、該変化を検出することが可能である。対照的に、細菌が存在しない場合、pHは一定のままであり、そうすると、吸収スペクトルの変化は起こらないであろう。
【0003】
そのような方法は、関連する他の目的のためにも使用されている。たとえば、特定の指示薬を利用することによって、細菌のタイプまたはアイデンティティを決定することができる。たとえば、細菌であるH. ピロリ(H. pylori)は、ウレアーゼ酵素を産生可能であり、該酵素は尿素をアンモニアへと加水分解し、それにより、周囲の流体のpHを上昇させる。pHのこの変化は、したがって、pH指示薬化合物の吸収スペクトルにおける変化を観察することによって、検出可能である。
【0004】
他の例においては、ある特定の抗生物質に対する、細菌の抗微生物剤感受性応答を特徴付けするために、同様の方法が使用され得る。抗生物質への曝露により全ての細菌が死滅した場合、細菌のさらなる代謝産物は産生されず、そうすると、pHおよび吸収スペクトルは変化しないであろう。対照的に、抗生物質が細菌を死滅させることができない場合、細菌が代謝を行うにつれて、pHおよび吸収スペクトルは変化し続けるであろう。
【0005】
しかしながら、実験によって測定された、試験試料の吸収スペクトルは、指示薬の吸収スペクトルを完璧に表しているわけではない。むしろ、実験によって測定された吸収スペクトルは、レイリー散乱と、試験試料中の他の成分による吸収とを含めた要素からの寄与をも含んでいる。レイリー散乱の大きさは、散乱している光の波長に応じて変化する。
【発明の概要】
【0006】
概要
吸収スペクトルをレイリー散乱の寄与と吸収の寄与とに分離する方法が提供される。そのような分離を実施すること、およびレイリー散乱による影響を除去することにより、試料の吸収をより正確に測定することが可能である。吸収スペクトルをレイリー散乱の寄与と吸収の寄与とに分離することに関連する、さらなる方法:生物学的流体中に微生物が存在するか否かを評価すること、微生物に対する医薬の作用を評価すること、および感染を有することが疑われる対象を処置することが、提供される。吸収スペクトルをレイリー散乱の寄与と吸収の寄与とに分離するための、システム、および非一時的なコンピュータ可読記憶媒体が提供される。
【0007】
本開示の複数の局面は、疎水性リガンド-アルブミン複合体を含み、かつそれを、たとえば、疎水性分子を微生物へと指向させるための送達ビヒクルなどとして、作製および使用する方法をも含み、かつ、本開示の複数の局面は、試料中での微生物の検出、たとえば微生物の光学的検出における用途を、および、それを必要とする個体に投与するための、疎水性の活性な作用物質を含む、たとえば、疎水性の抗細菌剤または抗真菌剤などを含む、治療用組成物の製剤中での微生物の検出、たとえば微生物の光学的検出における用途を、見いだすことができるものである。本明細書に記載される特定の態様のいくつかは、細菌の、迅速な検出、同定、および抗微生物剤感受性の特徴付けと組み合わせられた、これらの方法の使用を可能にする。
【0008】
本開示の複数の局面は、試料中の細菌の存在を決定するために使用される製品およびプロセスを含み、かつ大腸菌群の細菌を早期に検出することおよびその数を数えることを可能にする製品およびプロセスにおいて使用され得る、培養培地を含む。大腸菌群の細菌を早期に検出することおよびその数を数えることを容易にする細菌用培養培地は、以下の混合物である:トリプトース、ラクトース、塩化ナトリウム、胆汁酸塩、グアーガム、および、増殖している細菌を検出することおよびその数を数えることを12時間未満で可能にするために、増殖中の細菌に極めて近い高濃度のフェノールレッドを提供するのに十分な、過剰量のフェノールレッド。フェノールレッドは、その荷電状態に応じた呈色を有し、かつその荷電状態は、ある種の細菌が産生する酸性(またはアルカリ性)の代謝副産物の存在によって変化する。多くの細菌は、通常の代謝条件下で酸を産生し、そして酸産生により、560 nmにおけるフェノールレッドのピークの低下が引き起こされる。本明細書に記載されるある特定の態様は、2~6時間未満での細菌の検出と組み合わせられた、これらの方法の使用を提供し、かつ細菌の抗微生物剤感受性の特徴付けを提供する。
【0009】
本開示の複数の局面は、pHの上昇(たとえば、尿素の加水分解に関連するもの)を特徴付けする、細菌検出方法を含む。たとえば、ウレアーゼ酵素を産生可能である細菌(たとえば、H. ピロリ)の存在を決定するために使用される製品およびプロセスが記載される。この酵素の産生(試験試料中のH. ピロリの存在に起因する)により、尿素(培地中に供給されている)の、アンモニアへの加水分解が引き起こされ、アンモニアはpHを上昇させる(これは、通常の代謝活性に関連するpHの低下とは区別される。これにより、560 nmにおけるフェノールレッドのピークの増大が引き起こされ、該増大をウレアーゼ産生細菌の指標として特徴付けすることが可能である。本明細書に記載されるある特定の態様は、2~6時間未満でのウレアーゼ産生細菌の検出と組み合わせられた、これらの方法の使用を可能にする。
【0010】
本開示の複数の局面は、尿素含有培地の使用を含むものであり、かつ、微生物を、尿素を加水分解するその能力に関して特徴付けするものである。該方法は、i) 尿素およびpH指示薬を含む溶液中に、細菌生物を入れる段階;ならびにii) 呈色を検査する段階であって;尿素を加水分解する能力が、pHの上昇を引き起こす段階を含む。フェノールレッドはpH指示薬として使用可能であり、かつこれは、細菌の存在を検出するために提供される。ある特定の例において、差は、尿素を加水分解する能力がpHの上昇をもたらす一方で、細菌の通常の代謝活性はpHの低下をもたらす、という点にある。本明細書に記載されるある特定の態様は、尿素を加水分解する能力による、2~6時間未満での細菌の検出と組み合わせられた、これらの方法の使用を可能にする。
【0011】
本開示の複数の局面は、ある種のクロモゲンの使用を含み、該クロモゲンは、大腸菌(E. coli)によって産生されるβ-ガラクトシダーゼが存在する際にある種の沈殿物が形成されることに起因して、色が変化する。ある特定の態様において、関心対象のクロモゲンには、参照によりそれらの開示が本明細書に組み入れられる、米国特許第7,807,439号(および関連する刊行物、たとえばJ. Clin Microbiol. 2000; 38(4):1587-91など)に記載されるものが含まれる。これらの開示は、これらのクロモゲンを(時には組み合わせとして)、プレート培地の一部として寒天とともに使用することに関連しており;試験試料は、これらのプレート上にプレーティングされ、そして試験コロニーから細菌コロニーを一晩増殖させる。細菌についての特異的な特徴付けは、コロニーの色に応じて識別することが可能である。本明細書に記載される特定の態様のいくつかは、より短い所要時間でのこの特徴付けを可能にする。
【0012】
本開示の複数の局面は、疎水性リガンド-アルブミン複合体を組み合わせるものであり、この複合体を微生物の表面に送達するものであり、かつ、ある種の紫外・可視光学シグネチャーを有する産物を産生するために、微生物の代謝活性のある種の副産物と、疎水性リガンドとの間のある種の化学反応を利用するものである、方法およびシステムを含む。
【0013】
ある特定の態様にしたがった方法は、以下を含む:(1) 水にわずかに可溶性であるリガンドを有する、第1のアルブミン溶液を作製する段階、および、ある特定の例においては、リガンドとアルブミンの分離のために十分な時間を確保する段階;(2) 第2の溶液を作製するために、未知の細菌を含む可能性がある試験試料を、第1の溶液と接触させる段階;(3) 第2の溶液についての可視スペクトルを、ある期間にわたって決定する(たとえばモニタリングする)段階;(4) 可視スペクトルにおける変化を検出する段階;ならびに(5) 可視スペクトルにおける変化が細菌の存在を示すかどうかを決定するために、または細菌の特徴付けを決定するために、可視スペクトルにおける変化を、プリセット参照と比較する段階。
【0014】
ある特定の態様にしたがった方法は、以下を含む:(1) 第1のリガンド溶液を作製する段階;(2) 第2の溶液を作製するために、未知の細菌を含む可能性がある試験試料を、第1の溶液と接触させる段階;(3) 第2の溶液についての可視スペクトルを、ある期間にわたって決定する(たとえばモニタリングする)段階;(4) 可視スペクトルにおける変化を(たとえば、あらかじめ定められたある期間にわたって)検出する段階;および(5) 可視スペクトルにおける変化が細菌の存在を示すかどうかを決定するために、または細菌の特徴付けを決定するために、可視スペクトルにおける変化を、プリセット参照と比較する段階。
【0015】
可視スペクトルにおける変化を検出するための、ある特定の態様にしたがった方法は、溶液についての一連の可視スペクトルを、ある期間にわたって取得することを含む。ある特定の態様における目的は、吸収ピークにおける、レイリー散乱の寄与の変化と、特異的な変化との両方を、識別することである。ほとんどの可視吸収ピークは約20 nmの帯域幅を有しており、かつレイリーの寄与は>100 nmにわたって広がって、吸光度と波長との間のべき乗則関係(-2か、-3か、または-4のいずれかのべき指数を有する)を有するため、可視スペクトルは典型的には<20 nmのスペクトル分解能を用いて取得され;これはたとえば、約7 nmの分解能である。
【0016】
ある特定の態様にしたがった方法は、以下を含む:(1) 第1の溶液が、わずかに可溶性であるリガンドとしてフェノールレッド(または、その呈色がその荷電状態に感受性である、他の任意の化合物)を含み、かつ第1の溶液が、細菌の代謝を可能にする培地を含む、方法であって;(2) モニターされている特異的な吸収ピークは、フェノールレッドに関連付けられる、560 nmにあり、このピークは、酸産生に起因して、その大きさが低下するものであり;(3) 本明細書に記載される方法によって、560 nmの吸光度ピークの変化の速度を特徴付けし、そして細菌の存在を示すために、この速度をプリセット閾値に対して比較し;(4) あるいは、560 nm の吸光度ピークの変化の速度は、第1の溶液を試験試料と組み合わせた複数の試料から特徴付けされてよく(これもまた、本明細書に記載される方法による)、そして、それらの試料からの560 nmの吸光度ピークの変化の速度を比較してよく、かつ、それらの試料からの560 nmの吸光度ピークの変化の速度を、第1の溶液を対照試料と組み合わせた他の試料と比較してもよく;(5) あるいは、フェノールレッドの440 nmの吸光度ピークは、その大きさが経時的に増大するため、このピークが検討されてもよい。
【0017】
ある特定の態様にしたがった方法は、以下を含む:(1) 本明細書に記載される方法であって、かつ(2) さまざまな標的抗生物質を、さまざまな濃度で、複数の第2の溶液に組み込むものであり、かつここで、(3) 560 nmの吸光度ピークの変化の速度が、抗生物質濃度に対してプロットされるものであり、かつここで、(4) 段階(3)のプロットが、560 nmの吸光度ピークの変化の速度がそこで0となる、抗生物質の最小濃度を決定するために使用されるものであり、ここでこの濃度は、最小発育阻止濃度を示す。
【0018】
ある特定の態様にしたがった方法は、以下を含む:(1) 本明細書に記載される方法であって、ここで、(2) 特定の細菌によって産生されるある種の代謝物と反応した際に色が変化する、ある種のクロモゲン物質を、第1の溶液が含み、かつ本明細書に記載される方法が、色スペクトルにおける変化をモニターするために使用されるものであり、かつここで、(3) 積分された色スペクトル全体が経時的にモニターされ、かつ、この積分された色スペクトルの有意な上昇が、対応する細菌の存在を示す。
【0019】
本発明の方法を実施するためのシステムは、マイクロコンピュータによって制御可能である吸収分光法用モニタを含み、該マイクロコンピュータは、上述の方法を実行可能なソフトウェアを、該マイクロコンピュータ上に有する。いくつかの例において、吸光度の測定は96ウェルプレートリーダー上で行われ、96ウェルプレートアレイの個々のウェルで、上述の具体的な態様が実行される。いくつかの例において、96ウェルプレートは、複数種のクロモゲン培地、および複数種の候補抗微生物剤を含む。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】ある特定の態様にしたがった、吸収スペクトルをレイリー散乱の寄与と吸収の寄与とに分離する方法のブロック図を示す。
図2】一連のうちで最初に取得されたスペクトル(「参照」スペクトル)、一定の時間経過後に取得された別のスペクトル(「スペクトル」)、および変化スペクトルまたは差スペクトル(「参照を差し引いたスペクトル」)を示す。
図3】-2のべき指数を有するべき乗則フィットの1回目の反復(「レイリーフィット」)を伴う、図2の差スペクトル(「参照を差し引いたスペクトル」)と、1回目の反復の「色スペクトル」でもある、残差とを示す。ここに記載される1回目の反復において、全てのポイントには、フィッティングプロセスにおいて等しい重み付けがなされる。色スペクトルにおいて、0よりも大きい全てのデータポイントには「+」記号が付けられており、かつこれらのデータポイントに関連付けられる重みは、図4の反復においては0にセットされる。
図4】-2のべき指数を有するべき乗則フィットの2回目の反復(「レイリーフィット」)を伴う、図2の差スペクトル(「参照を差し引いたスペクトル」)と、2回目の反復の「色スペクトル」でもある、残差とを示す。この2回目の反復において、データポイントには、図3の残差のとおりに重み付けがなされる。色スペクトルにおいて、0よりも大きい全てのデータポイントには「+」記号が付けられており、かつこれらのデータポイントに関連付けられる重みは、図5の反復においては0にセットされる。
図5】-2のべき指数を有するべき乗則フィットの3回目の反復(「レイリーフィット」)を伴う、図4の差スペクトル(「参照を差し引いたスペクトル」)と、2回目の反復の「色スペクトル」でもある、残差とを示す。この3回目の反復において、データポイントには、図4の残差のとおりに重み付けがなされる。
図6】434 nmにおけるピーク高さとともに、n回目の反復後の残差として推定された、色スペクトルを示す。該図から理解されるように、フィッティングプロセスは、3回目の反復後に解に収束する。
図7】試験試料中の微生物の存在の検出を示す。本発明者らは、フェノールレッドおよび適切な培地を含む、0.2 mLの試薬に、1000 CFU/mLの黄色ブドウ球菌(S. aureus)を含む、0.05 mLの試験試料を添加する。3つの試料が調製され、かつ別の3つの対照試料も調製された。試薬中のフェノールレッド濃度は、560 nmにおけるフェノールレッドの吸光度ピークが約2となるように調整される(吸光度において妥当なシグナル対ノイズ比である一方で、飽和ポイントである4を十分に下回ることを確実にするため)。左上:時間の関数としての、感染試料および対照試料についての560 nmにおけるフェノールレッドのピーク高さ、ならびにこれら2者の比;ここで、6つの試料の全ては37℃でインキュベートされ、そして可視吸光度が7分ごとに1回記録される。対照試料もまた、約350分のインキュベーション後に低下を示すことに注意されたい - これは、対照試料中の低レベルのコンタミナントに起因するようである。右上:最初の100分間のデータの拡大図。感染試料および対照試料の両方について、初期にピーク高さの低下が存在する - これは、温度変化に起因するか、または可視光それ自体への試料の曝露に起因するようである。したがって、感染試料についてのピーク高さの低下は、細菌の存在を特徴付けするためには使用することができない;しかしながら、感染試料と対照試料についての、吸光度のピーク高さの比は、これらの温度/光学の作用を除外して、正確に較正される。したがって、この量の有意な低下は、バックグラウンドのコンタミネーションのものを有意に上回る濃度での、細菌の存在を意味する。この例においては、1000 CFU/mLである細菌の存在は、試験の63分の時点で決定可能である。
図8A】試験試料中の病原体濃度の関数としての、560 nmにおけるフェノールレッドのピーク高さの時間での変動を示す。それぞれの試料は、125 uLの1X TSB、50 uLのフェノールレッド溶液(ここでフェノールレッドの濃度は、560 nmと440 nmの両方において、フェノールレッドの吸光度ピークが約2となるように調整されている)、および50 uLの試験試料を含み、該試験試料においては、細菌(この例においては大腸菌25933株)の濃度は0 CFU/mLと108 CFU/mLとの間で変化する。
図8B】試験試料についての吸光度ピークと対照試料についての吸光度ピークとの比を示し、これは、開始値からの低下としてプロットされている。
図8C】大腸菌および2種類の他の試験生物についての試験試料における、病原体濃度の関数としての、比(中間のチャート)が10%の低下に到達する時点の時間を示す。
図9】ウレアーゼ酵素の産生を検出するために使用された方法の例証を示す。左上:0.2 mLのフェノールレッド・尿素ブロス、およびウレアーゼ産生細菌(この例においてはプロテウス・ミラビリス(Proteus Mirabilis)、1000 CFU/mLである細菌ストックを0.05 mL添加)を含む試料についての吸収スペクトル。「参照」とは、最初の吸収スペクトル(t = 0において取得)を指し、かつ「スペクトル」とは、約4時間の時点での吸収スペクトルを指す。スペクトルよりも、560 nmおよび440 nmにおけるフェノールレッドのピークのほうが優勢である。「変化」とは、参照を差し引いた、4時間の時点での吸収スペクトルにおける差を指す。右上:波長の2乗の逆数としてスケーリングするレイリーの寄与、および色の寄与のほうが、「変化」よりも優勢である。これらの寄与は、本明細書における方法を用いて分離される。左下:同一の0.2 mLのフェノールレッド尿素ブロス試料であって、0.05 mLの試験細菌溶液を含むもの、および0.05 mLの対照溶液を含むものの、色スペクトル。右下:対照試料および細菌試料についての、500 nmと600 nmとの間の平均色スペクトル、およびそれら2者の間の差。差は、時間が経過するにつれて指数関数的に増大する。指数関数的増加の推定される減衰パラメーター(差への指数関数フィットの減衰パラメーター)が0より大きく、かつまた、フィットさせた値の周囲の信頼区間よりも大きい場合に、ウレアーゼ産生細菌の存在が明確となる。この例においては、ウレアーゼの産生は、140分の時点で明確となり;細菌の存在を示す(かつ図7に記載される)フェノールレッドマーカーは、110分および140分の時点で明確となる。
図10】市販のマンニトール・食塩・フェノールレッド(MSP)培地と、本明細書における方法とを用いる、黄色ブドウ球菌を検出するために使用された方法の例証を示す。左上:150 μlのMSP培地と、凡例に示される濃度の黄色ブドウ球菌を含む、1X緩衝液で調合された50 μlの試験溶液とを有する試料についての、時間の関数としての(かつ、20分の時点での値に対して正規化された)フェノールレッドのピーク高さ。右:対照試料からのアウトプットによって正規化された個々のトレースを有する、左のチャートと同じデータ。左下:560 nmにおけるフェノールレッドの吸光度の、変化の総括速度(4時間にわたって測定)であり、これは、黄色ブドウ球菌および3種類の他の生物について、病原体濃度の関数としてプロットされている。右下:フェノールレッドの560 nmにおける吸光度の、変化の最終速度(4時間の測定中の、最後の10分間にわたって測定)。変化の総括速度(左下)または変化の最終速度(右下)のいずれかが、判定帯域(黄色の影を付けた領域)内にある場合に、黄色ブドウ球菌の存在が示される。
図11】最小発育阻止濃度を特徴付けするために使用された方法の例証を示す。この例は、ゲンタマイシンに対する大腸菌25922株の応答を特徴付けするものである。上:曲線は、以下を含む試験溶液の応答を示す:1000 CFU/mLの大腸菌、本明細書に記載される、フェノールレッドベースの試薬、および凡例に示される濃度で存在するゲンタマイシン、GM。Y軸は、開始値に対して正規化された、560 nmにおけるフェノールレッドのピーク高さを表す。下:300分の時点における、正規化されたピーク高さを示し、これはGM濃度の関数としてプロットされている。
図12】最小発育阻止濃度を特徴付けするために使用された方法の例証を示す。この例は、ゲンタマイシンに対する大腸菌25922株の応答を特徴付けするものである。上:曲線は、以下を含む試験溶液の応答を示す:1000 CFU/mLの大腸菌、本明細書に記載される、フェノールレッドベースの試薬、および凡例に示される濃度で存在するゲンタマイシン、GM。Y軸は、開始値に対して正規化された、560 nmにおけるフェノールレッドのピーク高さを表す。下:300分の時点における、正規化されたピーク高さであり、これはGM濃度の関数としてプロットされている。
図13】黄色ブドウ球菌 ATCC 29213株の倍加時間(病原体の濃度が2倍になるのに必要な時間) 対 5種類の抗生物質の抗生物質濃度。
図14図14A:CLSI M100連続希釈法にしたがってはいるが、X軸に示されるように変化する病原体濃度(CLSI M100法において指定される0.5マクファーランドではない)を用いて推定された、MICの変動。図14B:観察されたMIC値に対してプロットされた、濃度に対するMICのトレースの線形フィットの傾き。
図15】抗生物質濃度に対してプロットされた、テトラサイクリンである抗生物質濃度に対する、色素を検出するのに必要な時間の変動。病原体の濃度は8.8 x 106 CFU/mLと推定される。2 μg/mLの抗生物質濃度に関し、検出までの時間は、この病原体濃度に関して約150分というベースラインの値と比較して、>2倍増加する。本発明者らは、MICのための基準として、この2倍の増加をセットする - 他の基準が使用されてもよいが、病原体濃度に関して、補正の異なるセットが必要であろう。試験病原体濃度におけるMICに対し、本発明者らは上述の補正を適用し、そして図23に示されるように、迅速試験のMICがCLSI M100のMICと相関することを見いだしている。
図16】試験細菌の懸濁液(1000 CFU/mLである、凡例に示されるさまざまな病原性細菌のATCC株を50 μl)とインキュベートされたChromUTI寒天(150 μl)についての色スペクトル。細菌を、それらの色スペクトルの異なる度合いに基づいて、認識することが可能である。何種類かの試薬は、試料中のある特定のタイプの細菌の存在に対して応答性である。たとえば、スタフィロコッカス選択寒天は、黄色ブドウ球菌およびS. エピデルミディス(S. epidermidis)の両方について観察される色変化をもたらすものであり、したがって、この培地における色変化は、試験試料中にこれらの細菌の1種が存在することを示す。同様に、胆汁・エスクリン・アザイドブロスは、色変化(黒色として視覚的に示されるものであって、色スペクトル上では、400 nmから始まり、その後500 nmおよび600 nmへと進む全ての波長に関して、吸光度が>2への上昇を開始する)を、以下に関して引き起こす:エンテロコッカス(S. アガラクティエ(S. agalactiae)を除く)、K. ニューモニエ(K. pneumonia)、ならびに試験された全てのカンジダ生物(C. アルビカンス(C. albicans)、C. グラブラタ(C. glabrata)、C. トロピカル(C. tropical)、およびC. クルセイ(C. krusei))。したがって、胆汁・エスクリン・アザイドブロスにおける黒色の呈色は、これらの生物のうちの1種が存在することを示す。さらに、胆汁・エスクリン・アザイドブロスにおける黒色の呈色は、スタフィロコッカス選択寒天において陽性である点と併せて、多微生物性の試料を示すものである。
図17】左:CromUTI寒天(HiMedia Labs社のM1353;販売者の指示どおりに調合し、そして96ウェルプレートの1ウェルにつき150 μlを流し込んでいる;HiMedia Lab社のストレプトコッカス選択寒天でもよい)と、黄色ブドウ球菌のATCC 29213株である接種原(104 CFU/mLの懸濁液を50 μL、とを含む試料についての、測定された紫外・可視吸収スペクトル。スペクトルは、試験試料の添加から10時間後に、96ウェルプレートリーダー(Molecular Devices社のVersa Max、37℃でインキュベートされたプレートが用いられる)を用いて測定される。スペクトルは、390 nmと840 nmとの間において、3 nmのスペクトル分解能を用いて取得され、これには、LabViewを用いてカスタマイズしたソフトウェアであって、データの獲得を制御し、かつその解析を行う、ラップトップ型コンピュータ上で動作するソフトウェアが用いられる。右:以下に概略が示される方法を用いてレイリーの寄与が除去された後の「色」スペクトル。
図18】左、 黄色ブドウ球菌 ATCC 29213株の濃度に対する、検出時間(図17に記載されるアルゴリズムによるもの)の変動。右:同じ変動であるが、黄色ブドウ球菌の野生型株についてのもの。
図19】5種類の異なる抗生物質についての、黄色ブドウ球菌の濃度に対する、CLSI M100法を使用しつつも非標準的な濃度の黄色ブドウ球菌 ATCC 29213株を用いて推定されたMICの、変動。
図20】log (CFU/mL) = 6の濃度において推定されたMICの大きさに対する、図19におけるトレースの傾きの変動。
図21図21A:以下を含む7種類の試料についての、レイリー散乱の経時的な変動:カチオン調整ミューラーヒントンブロス(CAMHB)、未知の濃度の試験細菌(色素産生に起因して、黄色ブドウ球菌と同定された)、および、96ウェルプレートにロードされた、7種類の濃度の候補抗生物質であるバンコマイシンであって、1.25 μg/mL(セル7)から始まり、かつセル1へと降順で各ウェルごとに1/2倍ずつ減少していく濃度を有する、バンコマイシン。データは8時間にわたって取得される。図21B:フィット式 y = a/[1+exp(-(t-b)/c)] におけるフィッティングパラメーターaの変動であり、この式を左に示されるデータにフィットさせるために、非線形のベストフィットルーチンが適用されている。フィッティングのパラメーターは、セル番号に対してプロットされる。この変動から、レイリーの増大は、推定セル番号4.8において無視可能になると推定され、これは、バンコマイシン濃度0.19 μg/mLに対応する。
図22A】GBS培地(HiMedia Labs社のM1073;販売者の指示どおりに調合し、そして96ウェルプレートの1ウェルにつき150 μlを流し込んでいる)と、S. アガラクティエのATCC 27956株である接種原(103 CFU/mLの懸濁液を50 μL、とを含む試料についての、測定された紫外・可視吸収スペクトル。スペクトルは、試験試料の添加から18時間後に、96ウェルプレートリーダー(Molecular Devices社のVersa Max、37℃でインキュベートされたプレートが用いられる)を用いて測定される。スペクトルは、390 nmと840 nmとの間において、3 nmのスペクトル分解能を用いて取得され、これには、LabViewを用いてカスタマイズしたソフトウェアであって、データの獲得を制御し、かつその解析を行う、ラップトップ型コンピュータ上で動作するソフトウェアが用いられる。
図22B】S. アガラクティエ細菌をGBS培地に添加した後、10時間、15時間、および25時間の時点において測定されたスペクトルについて、以下に概略が示される方法を用いてレイリーの寄与が除去された後の「色」スペクトル。
図22C】「色」スペクトル(すなわち、レイリーの寄与を差し引いた後)の525 nmにおける吸光度のピーク高さであり、色スペクトルのベースライン吸光度(すなわち、550 nmおよび500 nmにおける吸光度の平均)にわたって測定されている。
図23】6種類の試料についての、記載される迅速試験(Y軸上の結果)と、CLSI M100ディスク拡散法(X軸上の結果)との比較。Resと記載されたポイントおよびSusと記載されたポイントは、ディスク拡散アプローチについてのブレイクポイントに対してプロットされた、連続希釈法についてのCLSI M100ブレイクポイントである。したがって、迅速試験とCLSI法との一致は、データポイントが、赤色の四角形(耐性株についてのもの)または青色の四角形(感受性についてのもの)のいずれかに収まることによって示される。橙色の実線は、観察された全てのデータポイントについて、最良のべき乗則フィットを表す。完全な一致は、青色の線に重なって交わる橙色の実線、および1というR^2値によって示され得る。図23A:病原体濃度の補正後の、迅速試験のMIC値。図23B:病原体濃度の前の、迅速試験のMIC値。病原体濃度の補正前には、迅速試験のMIC値は、CLSI値との、系統的な差を有するように見受けられ、これは、橙色の線と青色の線との間の距離から明らかである。試験された他の11種類の抗生物質に関しても、同様の結果が得られた。
図24】ムコール・ラセモサス(Mucor racemosus)ATCC(登録商標)42647株の12時間にわたる25℃でのインキュベーション後の、ChromCandida寒天における増殖(図24A)、および胆汁・エスクリン・アザイド寒天における増殖(図24B)の目視確認。
【発明を実施するための形態】
【0021】
詳細な説明
吸収スペクトルをレイリー散乱の寄与と吸収の寄与とに分離する方法が提供される。そのような分離を実施すること、およびレイリー散乱による影響を除去することにより、試料の吸収をより正確に測定することが可能である。吸収スペクトルをレイリー散乱の寄与と吸収の寄与とに分離することに関連する、さらなる方法:生物学的流体中に微生物が存在するか否かを評価すること、微生物に対する医薬の作用を評価すること、および感染を有することが疑われる対象を処置することが、提供される。吸収スペクトルをレイリー散乱の寄与と吸収の寄与とに分離するための、システム、および非一時的なコンピュータ可読記憶媒体が提供される。
【0022】
本発明をより詳細に説明する前にまず、本発明の態様は変動し得るものであるゆえに、本発明は、記載される特定の態様に限定されないことが理解されるべきである。本発明の範囲は、添付の特許請求の範囲によってのみ限定されるものであるので、本明細書において使用される用語は、特定の態様を記述する目的のみのためのものであって、限定することを意図するものではないこともまた、理解されるべきである。
【0023】
ある範囲の値が提供される場合、文脈が明確に他を指示していない限り、該範囲の上限と下限の間にある途中の値のそれぞれもまた、下限の単位の1/10まで、具体的に開示されていることが理解される。指定される範囲内の、任意の指定される値または任意の途中の値と、指定される範囲内の、任意の別の指定される値または任意の別の途中の値との間という、より狭い範囲のそれぞれは、本発明に包含される。これらのより狭い範囲の上限および下限は、指定される範囲に独立して含まれてよく、または指定される範囲から独立して除外されてよく、かつ、上限・下限のいずれかかがより狭い範囲に含まれる場合、上限・下限のいずれもより狭い範囲に含まれない場合、または上限・下限の両方がより狭い範囲に含まれる場合の、それぞれの範囲もまた、本発明に包含されるものであって、そのようなそれぞれの範囲は、指定される範囲において任意の特定の上限・下限を除外する場合の、対象ともなる。指定される範囲が、上限・下限の一方または両方を含む場合、含まれるそれら上限・下限のいずれかまたは両方を除外する範囲もまた、本発明に含まれる。
【0024】
別途定義されない限り、本明細書において使用される全ての技術用語および科学用語は、本発明が属する技術分野の当業者によって通常理解されるものと、同じ意味を有する。本発明の実施または試験においては、本明細書に記載されるものと同様のまたは同等の、任意の方法および材料を使用することが可能であるが、見込みがあってかつ例示的ないくつかの方法および材料が、ここに記載され得る。本明細書において言及されるあらゆる刊行物は、それらの引用される刊行物に関連して方法および/または材料を開示および説明するために、参照により本明細書に組み入れられる。本開示は、相反のある範囲では、組み入れられた刊行物のいかなる開示よりも優先されることが、理解される。
【0025】
本明細書、および添付の特許請求の範囲において使用される場合、単数形の、「1つの(a)」、「1つの(an)」、および「その(the)」は、文脈が明確に他を指示していない限り、複数形の指示対象を含んでいることに、注意が払われなくてはならない。したがって、たとえば「小滴」への言及は、そのような小滴の複数を含み、かつ「別個のエンティティ」への言及は、別個のエンティティの1つまたは複数への言及を含み、他も同様である。
【0026】
特許請求の範囲は、任意の要素、たとえば、任意の随意選択の要素などを、除外するように起草され得ることが、さらに示される。そのため、この陳述は、特許請求の範囲の要素の記載に関連して、「単に」、「のみ」等といった排他的な用語が使用されること、または「否定的な」限定が使用されることについて、それらの使用に先立つ根拠としての役割を果たすことを、意図するものである。
【0027】
本明細書において論じられる刊行物は、本出願の提出日よりも前のそれらの開示を、単に提供するのみである。さらに、提供されている発行日は、実際の発行日とは異なる可能性があり、これは、独立して確認することを要する場合がある。本明細書における任意の用語の定義または使用法が、参照により本明細書に組み入れられる出願または参考文献における用語の定義または使用法と一致しない範囲では、本出願が優先される。
【0028】
本明細書に記載されかつ示される個々の態様のそれぞれが、別個の要素および特徴を有しており、これらは、本発明の範囲または精神から逸脱することなく、他のいくつかの態様の任意のものの特徴から容易に分離され得、または他のいくつかの態様の任意のものの特徴と容易に組み合わせられ得ることが、本開示を読んだ際に当業者には明らかとなるであろう。記載されている方法はいずれも、記載されているイベントの順序で、または論理的に可能な他の任意の順序で、実施可能である。
【0029】
定義
「レイリー散乱」とは、ある固定された波長で試料に入射した光が、光の波長よりもはるかに小さい粒子によって、主として弾性のプロセスを介して同じ波長で散乱するという、任意の様式を指す。散乱している(通常の分散形態で)粒子の共振周波数を十分に下回る光の周波数に関し、散乱の量は、球状の粒子の場合には、波長の4乗に反比例する。粒子の形状に応じて、スケーリングは、波長の2乗の逆数と4乗の逆数との間で変化し得る。
【0030】
方法
レイリー散乱の寄与と吸収の寄与への吸収スペクトルの分離
上述のように、実験によって測定された吸収スペクトルは、指示薬の吸収スペクトルだけでなく、レイリー散乱成分をも含む。したがって、これらの2つの成分を分離することが有益である。
【0031】
本開示の複数の局面は、特異的な吸収ピークにおける変化から、バックグラウンドレイリー散乱における変化を分離するための、方法およびシステムを含む。これらの方法は、観察された吸収ピークがレイリーの寄与と特異的な吸収の寄与との両方に起因しているために、重要であり;かつ、レイリーの寄与は、さまざまな理由に起因して経時的に変化し得るために、レイリーの寄与を正確に推定しないと、特異的な吸収の寄与が不正確に推定される可能性がある。たとえば、レイリーの寄与は、液体試料中の微小気泡の存在に起因して変化し得、かつここで、微小気泡は、移動したり、融合したり、または液体から消失したりする。レイリーの寄与を分離するための堅固な方法がないと、吸収の寄与は不正確に推定される可能性があり、それにより、測定値に誤り(または不確かさ)が導入される可能性がある。
【0032】
吸収スペクトルをレイリー散乱の寄与と吸収の寄与とに分離する方法は、以下の段階を含む:
(i) 吸収スペクトルを測定する段階、
(ii) 吸収スペクトルをべき関数にフィットさせることによって、フィットスペクトルを生成する段階、
(iii) 吸収スペクトルからフィットスペクトルを差し引くことによって、差スペクトルを生成する段階、
(iv) 以下:
吸収スペクトルから、波長に関して差スペクトルが0以下であるポイントを選択すること、
フィットスペクトルから、波長に関して差スペクトルが0よりも大きいポイントを選択すること
によって調整スペクトルを生成する段階、
(v) 段階(ii)~(iv)を0回以上繰り返す段階であって、段階が繰り返される場合には、吸収スペクトルの代わりに最新の調整スペクトルが使用され、最後の調整スペクトルがレイリー散乱の寄与である、段階、
(vi) 吸収スペクトルからレイリー散乱の寄与を差し引くことによって、吸収の寄与を生成する段階。
【0033】
図1は、上で論じた段階の、ブロック図を示す。図2図5は、該方法の例示的な態様を示す。例示的な態様が最初に論じられ、その後に、一般的な方法についての考察が続く。
【0034】
図2において、下の曲線は、実験の前に測定された参照スペクトルである。上の曲線は、実験中に測定されたスペクトルである。中間の曲線は、実験中に測定されたスペクトルから参照を差し引いた結果である。そのため、この態様においては、参照スペクトルに関して補正を行う任意の段階が実施されている。そのため、上述の段階(i)において測定された「吸収スペクトル」とは、図2における中間のスペクトルである。
【0035】
図3においては、図2の中間のスペクトルは、350 nmにおいて1.2の吸光度から始まる一連の青色の丸(個々のデータポイントを表す)へと変換されている。この吸収スペクトルをべき関数にフィットさせて、「レイリーフィット」と表示されている実線である、「フィットスペクトル」を生成する。図3はまた、差スペクトルを生成する段階をも示す。吸収スペクトルからフィットスペクトルを差し引くことによって、差スペクトルが生成され、これは、350 nmにおいて-0.06(図の右側の軸)から始まる赤色の四角形として示される。図3においては「プラス」(+)記号もまた示されており、その位置では差スペクトルは正である。
【0036】
図4においては、青色の丸は第1の調整スペクトルを表し、これは、図3における吸収スペクトルからポイントを選択することによって生成されたものであり、かつ図3の差スペクトルに基づいたものである。ポイントは、上で論じたアルゴリズムにしたがって、段階(iv)において選択された。図4はまた、段階(ii)~(iv)の第1回目の反復をも示す。すなわち、第1の調整スペクトルをべき関数にフィットさせて、実線で示され、かつ「レイリーフィット」と表示されている、フィット関数を生成する。次に差スペクトルが生成され、これは、赤色の四角形で示され、かつ「色スペクトル」と表示されている。プラス(+)記号は、差スペクトルが正である位置を示す。
【0037】
図5において、上述のシーケンスがもう一度繰り返される。これは最後の反復であるため、最後の調整スペクトルは、レイリーの寄与とみなすことが可能である。吸収の寄与は、元のスペクトルからレイリーの寄与を差し引いたものである。
【0038】
「フィットスペクトルを生成する」とは、吸収スペクトルの一部として取得されたデータポイントに対して、数学的回帰を実施することを意味する。本方法の場合においては、生成されたフィットスペクトルは、吸収スペクトルをべき関数にフィットさせることを伴う。たとえば、波長がグラフ上のx軸に描かれ、かつ吸光度がグラフ上のy軸に描かれる場合、フィットさせるべき関数は y = a・x^n + C の形式を取り得、ここで「a」および「C」は定数であり、かつ「n」は該関数のべき指数である。レイリー散乱は、波長の逆数にしたがって変化するため、「n」との値は負となるであろう。たとえば、nは-2、-3、または-4であり得る。いくつかの例において、「n」は整数である。他の場合において、「n」は整数ではない。
【0039】
フィットスペクトルを生成した後、本方法の次の段階は、吸収スペクトルからフィットスペクトルを差し引くことによって、差スペクトルを生成することである。この段階は、任意で、結果として得られた差スペクトルを実際にプロットするかまたはグラフ化することを伴ってよいが、それは必須ではない。一例として、吸光度スペクトル中の吸光度が、400 nmにおいて0.90であり、かつフィットスペクトル中の吸光度が、400 nmにおいて0.85である場合には、差スペクトルの値は、400 nmにおいて0.05である。差スペクトルの値は、正のまたは負のいずれかであり得る。別の例として、600 nmにおいて、該吸光度値が0.40であり、かつ該フィット値が0.55であった場合には、600 nmにおける差スペクトルは、-0.15となるであろう。
【0040】
次に、差スペクトルが正か負かに基づいて、フィットスペクトルまたは吸収スペクトルのいずれかから吸光度の値を選択することにより、調整スペクトルが生成される。上述の一例を続けると、400 nmにおいて差スペクトルは正の値0.05を有していた。したがって、調整スペクトルに関し400 nmにおいてフィット値0.85が選択されることを、アルゴリズムは指示する。対照的に、600 nmにおける差スペクトルの値は-0.15という負の値であるため、調整スペクトルに関し600 nmにおいて吸収値0.40が選択されることを、アルゴリズムは指示する。
【0041】
調整スペクトルを生成した後、段階(v)は、段階(ii)~(iv)の0回以上の任意の反復を伴う。したがって、いくつかの例において、段階は繰り返されずに、方法は段階(vi)へと進む。他の例において、段階は繰り返され、その場合は、実験によって測定された、元の吸収スペクトルの代わりに、最新の調整スペクトルが使用される。この反復は、任意の適切な回数を繰り返してよく、これはたとえば、0回、1回、2回、3回、4回、5回、10回、もしくは15回、またはさらに多い回数である。いくつかの例において、段階は、1回以上、たとえば2回以上、繰り返される。
【0042】
段階(v)において生成された、最後の調整スペクトルは、レイリー散乱の寄与の近似である。これは、関数のべき乗則の形に起因して、レイリー散乱の天然の挙動に近似する。吸収の寄与を取得するために、実験によって測定された元の吸収スペクトルから、レイリー散乱の寄与が差し引かれる。
【0043】
吸収スペクトルは、任意の適切な機器を用いて測定可能であり、これはたとえば、紫外・可視の電磁波の、いくらかまたは全ての範囲を測定するものである。いくつかの例において、吸収スペクトルは、250 nm~800 nmの範囲内の波長、たとえば350 nm~650 nmの範囲内の波長を含み得る。
【0044】
べき関数は、典型的には-2から-4の範囲にわたるオーダーを有する。いくつかの例において、べき関数は整数のオーダーを有し、これはたとえば、-2か、-3か、または-4である。いくつかの例において、べき関数は整数ではないオーダーを有し、これはたとえば、-2と-3との間、または-3と-4との間である。方法のうちのいくつかの段階が繰り返される場合には、上述のように、べき関数のオーダーは、各反復で同じオーダーかまたは異なるオーダーの、いずれかであってよい。いくつかの例において、オーダーは整数から始まるが、後続の反復においては整数ではなくなる。
【0045】
微生物の存在についての、任意の指示薬が利用可能である。いくつかの例において、指示薬は、その吸収スペクトルがpHの変化に応じて変化する、pH感受性色素であり、これは、たとえばフェノールレッドである。
【0046】
微生物の検出
生物学的流体中に微生物が存在するか否かを評価するための方法が提供される。いくつかの例において、方法は以下を含む:
(i) 生物学的流体および無菌流体の両方について、以下:
(a) その光吸収が微生物の代謝産物に応じて変化する検出用成分と、流体とを接触させること、
(b) 開始時点における参照光吸収スペクトルを測定すること、
(c) 後続の時点における、後続の複数の光吸収スペクトルを測定すること、
(d) レイリー散乱からの寄与について、後続の光吸収スペクトルを補正することにより、複数のレイリー補正スペクトルを生成すること、
(e) レイリー補正スペクトルを用いて2次元プロットを生成することであって、プロットの一方の軸が、参照スペクトル以降の時間であり、プロットのもう一方の軸が、参照スペクトル以降の、特定の波長における、または特定の波長範囲における、吸光度の変化である、生成すること
を行う段階、
(ii) 生物学的流体の2次元プロットを、無菌流体の2次元プロットと比較することによって、生物学的流体中に細菌が存在するか否かを決定する段階、
(iii) 生物学的流体中に細菌が存在することが決定されたか否かを報告する段階。
【0047】
微生物は、細菌、ウイルス、アメーバ、または真菌であり得る。いくつかの例において、べき関数は、-2か、-3か、または-4のオーダーを有する。オーダーは、任意の反復のそれぞれの間で同じであってよく、または異なってもよい。いくつかの例において、段階は、1回、2回、3回、もしくは4回、またはさらに多い回数が繰り返される。いくつかの例において、決定する段階は、生物学的流体の2次元プロットにおける変化の速度を、現在の閾値と比較することを含む。いくつかの例において、検出用成分は、その光吸収が、pHの変化に応じて変化する。いくつかの例において、検出用成分は、その光吸収が、細菌によって産生された酵素に応じて変化する。いくつかの例において、酵素はウレアーゼ酵素であり、かつ、方法の他の段階よりも前に、生物学的流体を尿素と接触させる。いくつかの例において、検出用成分は血液または尿である。
【0048】
微生物の定量
生物学的流体中に存在する微生物の量を定量するための方法が提供される。いくつかの例において、方法は以下を含む:
(i) 生物学的流体および無菌流体の両方について、以下:
(a) その光吸収が微生物の代謝産物に応じて変化する検出用成分と、流体とを接触させること、
(b) 開始時点における参照光吸収スペクトルを測定すること、
(c) 後続の時点における、後続の複数の光吸収スペクトルを測定すること、
(d) レイリー散乱からの寄与について、後続の光吸収スペクトルを補正することにより、複数のレイリー補正スペクトルを生成すること、
(e) レイリー補正スペクトルを用いて2次元プロットを生成することであって、プロットの一方の軸が、参照スペクトル以降の時間であり、プロットのもう一方の軸が、参照スペクトル以降の、特定の波長における、または特定の波長範囲における、吸光度の変化である、生成すること
を行う段階、
(ii) 生物学的流体の2次元プロットを、無菌流体の2次元プロットと比較することによって、生物学的流体中の微生物の量を決定する段階、
(iii) 生物学的流体中に存在することが決定された微生物の量を報告する段階。
【0049】
微生物に対する医薬の作用の評価
微生物に対する医薬の作用を評価する方法が提供される。いくつかの例において、方法は以下を含む:
(i) 微生物と医薬とを含む第1の流体、および微生物を含みかつ医薬を欠く第2の流体の両方について、以下:
(a) その光吸収が微生物の代謝産物に応じて変化する検出用成分と、流体とを接触させること、
(b) 開始時点における参照光吸収スペクトルを測定すること、
(c) 後続の時点における、後続の複数の光吸収スペクトルを測定すること、
(d) レイリー散乱からの寄与について、後続の光吸収スペクトルを補正することにより、複数のレイリー補正スペクトルを生成すること、
(e) レイリー補正スペクトルを用いて2次元プロットを生成することであって、プロットの一方の軸が、参照スペクトル以降の時間であり、プロットのもう一方の軸が、参照スペクトル以降の、特定の波長における、または特定の波長範囲における、吸光度の変化である、生成すること
を行う段階、
(ii) 第1の流体についての2次元プロットを、第2の流体についての2次元プロットと比較することによって、微生物に対する医薬の作用を決定する段階、
(iii) 微生物に対する医薬の作用を報告する段階。
【0050】
いくつかの例において、微生物は細菌であり、かつ医薬は抗生物質である。いくつかの例において、方法は、第3の流体について段階(i)~(iii)を実施する段階をさらに含み、ここで第3の流体は、微生物と、第1の流体における医薬の濃度とは異なる濃度の医薬とを含む。
【0051】
感染を有することが疑われる対象の処置
感染を有することが疑われる対象を処置する方法が提供される。そのような例においては、方法は、生物学的流体中に細菌が存在するかどうかを決定するおよび生物学的流体中に存在する細菌を定量する方法を、実施する段階を含むか、または生物学的流体中に細菌が存在するかどうかを決定するおよび生物学的流体中に存在する細菌を定量する方法が、すでに実施されている段階を含む。いくつかの例において、方法は、該決定に基づいて、医薬を、たとえば抗生物質を、対象に投与する段階をさらに含む。
【0052】
システム
吸収スペクトルをレイリー散乱の寄与と吸収の寄与とに分離するためのシステム
吸収スペクトルをレイリー散乱の寄与と吸収の寄与とに分離するためのシステムが提供され、該システムは以下を含む:
光源;
検出器;ならびに
プロセッサに機能的に連結されているメモリを含む、プロセッサであって、メモリが、そこに格納されている命令を含み、命令が、プロセッサによって実行された際に、プロセッサに以下:
光源を用いて試料を照射すること;
検出器を用いて吸収スペクトルを記録すること;および
吸収スペクトルをレイリー散乱の寄与と吸収の寄与とに分離すること
を行わせる、プロセッサ。
【0053】
いくつかの例において、分離は、上述の方法の段階を含む。いくつかの例において、命令は、複数の試料についての照射、記録、および分離のために構成されている。複数の試料は、2個以上であってよく、これはたとえば、5個以上、10個以上、25個以上、50個以上、または100個以上である。
【0054】
吸収分光法のためのシステム
本開示の複数の局面はまた、吸収分光法のためのサブシステム、ならびに吸光度スペクトルから吸光度のピーク高さを算出するためのサブシステム、吸光度のピーク高さを経時的に追跡するためのサブシステム、ならびに該情報を病原体のアイデンティティおよび抗微生物剤感受性の情報にレンダリングするためのサブシステムをも含む。
【0055】
ある特定の態様にしたがったサブシステムは、広帯域光源(たとえば、タングステンハロゲン電球)を含む、吸収分光光度計;該広帯域光源からある特定の波長を選択する、モノクロメーター;ある特定の波長を選択するようモノクロメーターに指令することが可能な、コンピュータ;試料セルと、試料セル通過後の光の強度を特徴付けする検出器とを収容する、コリメーティングステージ;および、プロセッサに機能的に連結されているメモリを有する、プロセッサであって、メモリが、そこに格納されている命令を有する、プロセッサ、を含み、命令は、プロセッサによって実行された際に、システムに以下の段階を実行させる:(1) モノクロメーターによって選択される、第1の所望の波長を選択する段階、(2) 第1の所望の波長による試料の照射を行う段階、(3) フォトダイオード(photodide)において、第1の所望の波長で測定された第1の光の強度を決定する段階、(4) 試料の非存在下で測定された第2の光の強度を用いて、測定されたこの第1の光の強度を較正することによって、試料の吸光度を計算する段階、(5) 所望の波長領域をカバーする、波長に対する吸光度のスペクトルが取得されるまで、段階(1)~(4)を繰り返す段階。
【0056】
ある特定の態様にしたがったサブシステムは、メモリが内蔵されているプロセッサを含み、該メモリは、本明細書のサブシステムを用いて取得された吸収スペクトルから、吸光度のピーク高さを算出するためのものである。メモリは命令を有しており、該命令は、実行時に、実行されるべき以下の段階を行わせる。(1) 測定された吸光度スペクトルは、第1の吸光度スペクトルとして取り扱われる。(2) 第1の吸光度スペクトルを、べき関数にフィットさせる(吸光度は、波長のn乗の逆数の関数であり、ここでnは、2か、または3か、または4のいずれかである)。(3) 「残差」(すなわち、段階(1)のフィットさせた吸光度スペクトルと、測定された吸光度スペクトルとの差)が算出される。(4) 残差から、残差の二乗平均平方根が算出される。(5) その残差が、残差の二乗平均平方根よりも大きい全ての波長に関して、第1の吸光度スペクトルの吸光度値が、べきスペクトルにおける吸光度値に置き換えられ、そしてこのようにして、第2の吸光度スペクトルが生成される。(6) 段階(2)~(5)が合計4回繰り返される。フィットさせた最後のべき関数は、この段階で、レイリー吸光度スペクトルへのフィットとして取り扱われる。(7) 元の吸光度スペクトルと、段階(6)の最後のレイリー吸光度スペクトルとの差として、吸光度のピーク高さが算出される。
【0057】
ある特定の態様にしたがったサブシステムは、メモリが内蔵されているプロセッサを含み、該メモリは、本明細書のサブシステムを用いて取得されそして本明細書のサブシステムによって解析された吸収スペクトルから、吸光度のピーク高さを追跡するためのものである。メモリは命令を有しており、該命令は、実行時に、実行されるべき以下の段階を行わせる。(1) 第1のタイムポイントにおいて測定を開始する。(2) 本明細書のサブシステムを用いて、試料について吸光度スペクトルを測定する。(3) 本明細書のサブシステムを用いて、吸光度ピークを算出するために吸光度スペクトルを解析する。(4) ある決まった長さの時間にわたり、待機する。この長さは、試験にかかる時間よりも短い。たとえば、ここに記載される試験は、完了させるのに約2~6時間を要する。したがって、この待機時間の長さは、2~6時間未満であり得;たとえば、約10分間であり得る。(5) 段階(2)~(3)を繰り返し、そしてそれぞれのタイムポイントにおける吸光度のピーク高さを算出する。
【0058】
ある特定の態様にしたがったサブシステムは、メモリが内蔵されているプロセッサを含み、該メモリは、本明細書のサブシステムを用いて取得されそして本明細書のサブシステムによって解析された吸収スペクトルを用いて、吸光度のピーク高さを追跡するための上述のサブシステムによって、抗微生物剤感受性を特徴付けするためのおよびアイデンティティに関して病原体をサブクラス分類するためのものである。メモリは命令を有しており、該命令は、実行時に、実行されるべき以下の複数の段階を行わせる。(1) 「試料」は、あらかじめ定められた試験試料を有する96ウェルプレートを含み;ここでそれぞれのウェルは、抗微生物剤感受性か、または病原体のサブクラス分類のいずれかに関して、異なる試験試薬を有する。メモリは、96ウェルプレート上のこのプリセットに対応するプリセット情報を有し、そして経時的に読み取られる、それらの96ウェルのそれぞれについての吸光度ピークを生じさせる。次に、それらの96ウェルのそれぞれに関して、メモリは吸光度の経時的なピーク高さを格納する。(2) メモリは、上述の試薬に対応するプリセットウェルから、図8A~8Cのスケーリング曲線をガイドラインとして用いて、試験試料中に存在する細菌の濃度を算出する。具体的には、メモリは、フェノールレッドのピーク高さの低下を算出し、そして次に、この低下を、予想される細菌濃度を読み取るために使用する。(3) メモリは、ある特定の細菌に対して特異的な試薬、たとえば、スタフィロコッカス(Staphylococcus)に対して特異的な上述の試薬を含む、プリセットウェルから、図10の曲線をガイドラインとして用いて、該特定の細菌の予想される濃度を算出する。(4) メモリは、上述の試薬とさまざまな濃度の試験抗生物質とを含むプリセットウェルから、上述の方法を用いて、最小発育阻止濃度を算出する。
【0059】
これらのサブシステムにおいて、意思決定閾値は、0.8~1.2の範囲で、たとえば0.85~1.15の範囲、たとえば0.9~1.1の範囲で、マスター曲線によって指示される意思決定閾値とは異なる可能性があり、かつ、該意思決定に対するあらかじめ定められたバイアスであって、患者のリスクを低減させるように設計されたバイアスを含むために、マスター曲線によって指示される意思決定閾値とは異なる可能性がある。
【0060】
上で概略を示したように、システムは、1つまたは複数の光源を含み、かつ96種類の別々の試料を有する96ウェルプレートを収容可能な試料チャンバーをも含む。ある態様において、関心対象の光源は、狭い波長範囲を有する光を出力するものであり、これは、たとえば25 nm以下の範囲、たとえば20 nm以下の範囲、たとえば15 nm以下の範囲、たとえば10 nm以下の範囲、たとえば5 nm以下の範囲であり、かつ2 nm以下の範囲を含む。
【0061】
ある特定の態様において、96ウェルプレートは、他の有限数のウェルを有するプレートと置き換えられる。ある特定の態様において、96ウェルプレートをロードするため、およびアンロードするために、ロボットアームが追加される。いくつかの態様において、ブランクの(または空の)試料チャンバーを測定することによって、任意の測定に先立ってシステムが較正される。この較正曲線はメモリ内に格納され、そして試料の測定値から差し引かれる。
【0062】
上述のように、方法は、ある特定の波長の光を用いて試料を照射すること、および透過光の強度を決定することを含む。本発明の方法を実施するためのシステムは、光を検出するための、1つまたは複数の検出器を含む。任意の都合の良い光検出プロトコルが利用されてよく、これはたとえば、光検出器の中でもとりわけ、アクティブピクセルセンサー(APS)、4分割フォトダイオード、ウェッジ検出器イメージセンサー、電荷結合素子(CCD)、増感型電荷結合素子(ICCD)、発光ダイオード、フォトンカウンター、ボロメーター、焦電検出器、フォトレジスター、光電池、フォトダイオード、光電子増倍管、フォトトランジスター、量子ドットフォトコンダクターまたは量子ドットフォトダイオード、およびそれらの組み合わせなどといった、光センサーまたは光検出器を含むが、これらに限定されない。ある特定の態様において、システムは1つまたは複数のCCDを含む。
【0063】
本発明のシステムが複数の光検出器を含む場合、それぞれの光検出器は、同じものであってよく、または異なるタイプの光検出器の組み合わせであってもよい。たとえば、本発明のシステムが2つの光検出器を含む場合、いくつかの態様において、第1の光検出器はCCDタイプの素子であり、かつ第2の光検出器はCMOSタイプの素子である。他の態様において、第1の光検出器および第2の光検出器の両方が、CCDタイプの素子である。さらなる他の態様において、第1の光検出器および第2の光検出器の両方が、CMOSタイプの素子である。さらなる他の態様において、第1の光検出器はCCDタイプの光検出器かまたはCMOSタイプの素子であり、かつ第2の光検出器は光電子増倍管である。また別の態様において、第1の光検出器および第2の光検出器は、光電子増倍管である。
【0064】
検出器は、1つまたは複数の光学調整用構成要素と、光学的に連結されてよい。たとえば、システムは、レンズ、コリメーター、ピンホール、ミラー、ビームチョッパー、スリット、回折格子、フィルター、光リフレクター、およびそれらの任意の組み合わせのうちの、1つまたは複数を含んでよい。いくつかの態様において、検出器は波長分離器と連結されており、これはたとえば、色ガラス、バンドパスフィルター、干渉フィルター、ダイクロイックミラー、回折格子、モノクロメーター、およびそれらの組み合わせなどである。ある特定の態様において、試料からの透過光は、光ファイバー(たとえば、光ファイバーリレーバンドル)を用いて集光され、そして光ファイバーを通って検出器の表面へと伝達される。散乱した光を検出器の活性表面上に伝搬するために、任意の光ファイバーリレーシステムが利用され得る。
【0065】
ある態様において、吸光度の測定は、実質的に一定である温度において実施される。そのため、本発明のシステムは、実質的に一定である温度を維持するように構成されており、これはたとえば、システムの温度が、5℃以下、たとえば4.5℃以下、たとえば4℃以下、たとえば3.5℃以下、たとえば3℃以下、たとえば2.5℃以下、たとえば2℃以下、たとえば1.5℃以下、たとえば1℃以下、たとえば0.5℃以下、たとえば0.1℃以下、たとえば0.05℃以下、たとえば0.01℃以下、たとえば0.005℃、たとえば0.001℃、たとえば0.0001℃、たとえば0.00001℃以下の温度しか、および0.000001℃以下を含む温度しか、変化しないものである。ある態様において、システムの温度は、温度制御サブシステムによって制御されてよく、該温度制御サブシステムは、システムの温度を測定し、かつ必要であれば、望ましいシステム温度を維持するために、周囲条件を制御する。温度サブシステムは、任意の都合の良い温度制御プロトコルを含んでよく、これは、温度制御プロトコルのタイプの中でもとりわけ、ヒートシンク、送風機、排気ポンプ、通気口、冷却機、冷却剤、熱交換、ペルティエ素子、または抵抗発熱体を含むが、これらに限定されない。
【0066】
上で概略を示したように、システムは、メモリを有する1つまたは複数のプロセッサを含み、該メモリは、上述の方法を実行するための、格納された命令を含む。いくつかの態様において、メモリは、そこに格納された命令を含む。
【0067】
本明細書に記載されるコンピュータ利用方法は、プログラミングを用いて実行されてよく、該プログラミングは、任意の数のコンピュータプログラミング言語の1つまたは複数で記述されてよい。そのような言語は、たとえば、Java(Sun Microsystems, Inc., サンタ・クララ、CA)、Visual Basic(Microsoft Corp., レドモンド、WA)、およびC++(AT&T Corp., ベドミンスター、NJ)、ならびに任意の他の多くの言語を含む。
【0068】
コンピュータ可読記憶媒体は、ディスプレイおよびオペレータ入力装置を有する1つまたは複数のコンピュータシステム上で、利用されてよい。オペレータ入力装置は、たとえば、キーボード、マウス等であってよい。プロセシングモジュールはプロセッサを含み、該プロセッサは、本発明の方法の段階を実行するための、そこに格納されている命令を有するメモリへの、アクセス権限を有する。プロセシングモジュールは、オペレーティングシステム、グラフィカルユーザインタフェース(GUI)コントローラ、システムメモリ、記憶ストレージ装置、および入出力コントローラ、キャッシュメモリ、データバックアップユニット、および他の多くの装置を含み得る。プロセッサは、市販のプロセッサであってよく、または利用可能であるかもしくは利用可能になるであろう、他のプロセッサのうちの1つであってもよい。プロセッサはオペレーティングシステムを実行し、かつオペレーティングシステムは、ファームウェアおよびハードウェアと周知の様式でインタフェース接続するものであり、かつさまざまなコンピュータプログラムの機能をプロセッサが調整および実行するのを容易にするものであり、ここで該コンピュータプログラムは、さまざまなプログラミング言語で記述されていてよく、これはたとえば、当技術分野において公知の、Java、Perl、C++、他の高水準言語または低水準言語、およびそれらの組み合わせなどである。オペレーティングシステムは、典型的にはプロセッサと連携して、コンピュータの他の構成要素の機能を調整および実行する。オペレーティングシステムはまた、全て既知の技術にしたがった、スケジューリング、入出力制御、ファイルおよびデータの管理、メモリ管理、ならびに通信制御および関連サービスを提供する。
【0069】
非一時的な媒体
非一時的なコンピュータ可読記憶媒体もまた、提供される。そのような媒体は、たとえば、CD-ROM、USBドライブ、フロッピーディスク、またはハードドライブであり得る。いくつかの例において、媒体は、そこに格納されている、吸収スペクトルをレイリー散乱の寄与と吸収の寄与とに分離するための命令を含む。いくつかの例において、命令は以下を含む:
(i) 吸収スペクトルを測定するためのアルゴリズム、
(ii) 吸収スペクトルをべき関数にフィットさせることによってフィットスペクトルを生成するための、アルゴリズム、
(iii) 吸収スペクトルからフィットスペクトルを差し引くことによって差スペクトルを生成するための、アルゴリズム、
(iv) 以下:
吸収スペクトルから、波長に関して差スペクトルが0以下であるポイントを選択すること、
フィットスペクトルから、波長に関して差スペクトルが0よりも大きいポイントを選択すること
によって調整スペクトルを生成するための、アルゴリズム、
(v) 段階(ii)~(iv)を0回以上繰り返すためのアルゴリズムであって、段階が繰り返される場合には、吸収スペクトルの代わりに最新の調整スペクトルが使用され、最後の調整スペクトルがレイリー散乱の寄与である、アルゴリズム、
(vi) 吸収スペクトルからレイリー散乱の寄与を差し引くことによって吸収の寄与を生成するための、アルゴリズム。
【0070】
添付の特許請求の範囲とは別に、本開示はまた、以下の項目によっても定義される。
1. 吸収スペクトルをレイリー散乱の寄与と吸収の寄与とに分離する方法であって、以下の段階:
(i) 吸収スペクトルを測定する段階;
(ii) 吸収スペクトルをべき関数にフィットさせることによって、フィットスペクトルを生成する段階;
(iii) 吸収スペクトルからフィットスペクトルを差し引くことによって、差スペクトルを生成する段階;
(iv) 以下:
吸収スペクトルから、波長に関して差スペクトルが0以下であるポイントを選択すること、および
フィットスペクトルから、波長に関して差スペクトルが0よりも大きいポイントを選択すること
によって調整スペクトルを生成する段階;
(v) 段階(ii)~(iv)を0回以上繰り返す段階であって、段階が繰り返される場合には、吸収スペクトルの代わりに最新の調整スペクトルが使用され、最後の調整スペクトルがレイリー散乱の寄与である、段階;ならびに
(vi) 吸収スペクトルからレイリー散乱の寄与を差し引くことによって、吸収の寄与を生成する段階
を含む、方法。
2. 生物学的流体中に微生物が存在するか否かを評価する方法であって、以下の段階:
(i) 生物学的流体および無菌流体の両方について、以下:
(a) その光吸収が微生物の代謝産物に応じて変化する検出用成分と、流体とを接触させること;
(b) 開始時点における参照光吸収スペクトルを測定すること;
(c) 後続の時点における、後続の複数の光吸収スペクトルを測定すること;
(d) レイリー散乱からの寄与について、後続の光吸収スペクトルを補正することにより、複数のレイリー補正スペクトルを生成すること;
(e) レイリー補正スペクトルを用いて2次元プロットを生成することであって、プロットの一方の軸が、参照スペクトル以降の時間であり、プロットのもう一方の軸が、参照スペクトル以降の、特定の波長における、または特定の波長範囲における、吸光度の変化である、生成すること
を行う段階;および
(ii) 生物学的流体の2次元プロットを、無菌流体の2次元プロットと比較することによって、生物学的流体中に細菌が存在するか否かを決定する段階
を含む、方法。
3. 生物学的流体中に特定の微生物が存在するか否かを評価する方法であって、以下の段階:
(a) 試験微生物が存在する場合に特異的な応答を生じるようにあらかじめ選択された試薬と、生物学的流体とを混合する段階:
(b) 複数の波長においてその光吸収を測定する検出システムに、生物学的流体および試薬を接触させる段階;
(c) 試薬と混合された微生物を含む既知の試料を用いて、開始時点における参照陽性対照光吸収スペクトルを、および試薬と混合された微生物を含まない既知の試料を用いて、陰性対照光吸収スペクトルを、測定する段階;
(d) 生物学的流体および試薬についての「試験」光吸収スペクトルを測定する段階;
(d) 陽性対照についての、陰性対照についての、および試験試料についての光吸収スペクトルの1つまたは複数を補正することによって、複数のレイリー補正スペクトルを生成する段階;
(e) 試験試料についてのスペクトルを、陽性対照のスペクトルおよび陰性対照のスペクトルと比較することによって、生物学的流体中に陽性対照中の細菌が存在するか否かを決定する段階
を含む、方法。
4. 関連する波長における吸収が閾値を上回るかどうかを推定することによって、ある特定の吸収ピークが試験試料に存在するかどうかを決定することを含む、項目3に記載の方法。
5. 試験試料についての、波長に対する吸光度の極大値のプロファイルが、陽性対照に関連するプリセット範囲内であるかどうかを決定することを含む、項目3に記載の方法。
6. 2つの波長における吸光度の比が、陽性対照に関連する範囲内であるかどうかを決定することを含む、項目3に記載の方法。
7. あらかじめ定められた波長における吸光度が、現在の閾値を上回るかどうかを決定することを含む、項目3に記載の方法。
8. あらかじめ定められた波長が、吸収ピークに関連しない、項目7に記載の方法。
9. ある特定の波長における時間依存性の吸光度が、ある期間にわたってプリセット閾値を上回るかどうかを決定することを含む、項目3に記載の方法。
10. ある特定の波長における依存性の吸光度が、ある期間にわたってプリセット閾値を上回り、かつ該プリセット閾値を下回る値に戻ることを決定する、項目9に記載の方法。
11. 生物学的流体中に細菌が存在することが決定されたか否かを報告する段階を含む、項目3に記載の方法。
12. レイリー散乱からの寄与について、後続の光吸収スペクトルを補正することが、後続の複数の光吸収スペクトルのそれぞれについての以下の段階:
(a) 後続の光吸収スペクトルから参照光吸収スペクトルを差し引くことによって、変化スペクトルを生成する段階;
(b) 変化スペクトルをべき関数にフィットさせることによって、フィットスペクトルを生成する段階;
(c) 変化スペクトルからフィットスペクトルを差し引くことによって、差スペクトルを生成する段階;
(d) 以下:
変化スペクトルから、波長に関して差スペクトルが0以下であるポイントを選択すること、および
フィットスペクトルから、波長に関して差スペクトルが0よりも大きいポイントを選択すること
によって調整スペクトルを生成する段階;
(e) 段階(a)~(c)を0回以上繰り返す段階であって、段階が繰り返される場合には、変化スペクトルの代わりに最新の調整スペクトルが使用され、最後の調整スペクトルがレイリープロファイルである、段階;ならびに
(f) 後続の光吸収スペクトルからレイリープロファイルを差し引くことによって、レイリー補正スペクトルを生成する段階
を含む、項目3~11のいずれか1つに記載の方法。
13. 微生物が細菌である、項目2~12のいずれか1つに記載の方法。
14. べき関数が、-2か、-3か、または-4のオーダーを有し、オーダーが、任意の反復のそれぞれの間で同じであってよく、または異なってもよい、項目2~13のいずれか1つに記載の方法。
15. 段階(a)~(c)が、1回、2回、または3回繰り返される、項目12~14のいずれか1つに記載の方法。
16. 決定する段階が、生物学的流体の2次元プロットにおける変化の速度を、プリセット閾値と比較することを含む、項目2~15のいずれか1つに記載の方法。
17. 検出用成分の吸光度が、pHの変化に応じて変化する、項目2~16のいずれか1つに記載の方法。
18. 検出用成分の吸光度が、細菌によって産生された酵素に応じて変化する、項目2~17のいずれか1つに記載の方法。
19. 酵素がウレアーゼ酵素であり、接触させる段階が、流体を尿素に接触させることをさらに含む、項目2~18のいずれか1つに記載の方法。
20. 検出用成分がフェノールレッドを含む、項目2~19のいずれか1つに記載の方法。
21. 生物学的流体が血液または尿である、項目2~20のいずれか1つに記載の方法。
22. 微生物に対する医薬の作用を評価する方法であって、以下の段階:
(i) 微生物と医薬とを含む第1の流体、および微生物を含みかつ医薬を欠く第2の流体の両方について、以下:
(a) その光吸収が微生物の代謝産物に応じて変化する検出用成分と、流体とを接触させること;
(b) 開始時点における参照光吸収スペクトルを測定すること;
(c) 後続の時点における、後続の複数の光吸収スペクトルを測定すること;
(d) レイリー散乱からの寄与について、後続の光吸収スペクトルを補正することにより、複数のレイリー補正スペクトルを生成すること;
(e) レイリー補正スペクトルを用いて2次元プロットを生成することであって、プロットの一方の軸が、参照スペクトル以降の時間であり、プロットのもう一方の軸が、参照スペクトル以降の、特定の波長における、または特定の波長範囲における、吸光度の変化である、生成すること
を行う段階;および
(ii) 第1の流体についての2次元プロットを、第2の流体についての2次元プロットと比較することによって、微生物に対する医薬の作用を決定する段階
を含む、方法。
23. 微生物に対する医薬の作用を報告する段階をさらに含む、項目22に記載の方法。
24. 微生物の存在を評価する方法であって、以下の段階:
未知の濃度の未知の微生物と、微生物の増殖を支援しかつ光吸収を生じさせる試薬培地と、候補抗生物質または候補医薬であって、耐性ブレイクポイントを上回る高濃度から始まってかつ最低濃度が感受性ブレイクポイントを下回るように1/2倍ずつ減少するという一連の濃度で存在する候補抗生物質または候補医薬とを有する全ての試験生物学的流体を含む、一連の試験試料に関して;
その光吸収が微生物の代謝産物に応じて変化する検出用成分と、試験試料とを接触させる段階;
開始時点において、陽性対照および陰性対照に関する参照光吸収スペクトルを測定する段階であって、陽性対照が、あらかじめ定められた複数の濃度で存在する微生物を含む試験試料を含む、段階;
微生物の存在を検出するのに必要な時間を決定する段階、および陽性対照中の微生物濃度に対して時間のマスター曲線を生成する段階;
全ての試験試料について、後続の時点において複数の光吸収スペクトルを測定する段階;
レイリー散乱からの寄与について、後続の光吸収スペクトルを補正することにより、複数のレイリー補正スペクトルを生成する段階;ならびに
試験試料を陽性対照および陰性対照と比較することによって、微生物の存在を決定する段階
を含む、方法。
25. 微生物の存在を決定するのに必要な時間を、マスター曲線と比較することによって、試験試料中の微生物の濃度を決定する段階をさらに含む、項目24に記載の方法。
26. 項目24~25のいずれか1つにしたがって、生物学的流体中に存在する未知の微生物に対する医薬の作用を評価する方法であって、以下の段階:
試料のセットを作製する段階であって、候補医薬の濃度が、耐性ブレイクポイントを上回る高濃度から、感受性ブレイクポイントを下回る低濃度へと変化する、段階;
医薬の濃度のみが異なる全ての既知試料の医薬の濃度に対して、微生物の存在を決定するのに必要な時間をプロットする段階;および
および微生物濃度が開始値からの有意な変化をしない濃度を、閾値とする段階
をさらに含む、方法。
27. 閾値濃度を決定することによって、最小発育阻止濃度(MIC)を決定する段階であって、該閾値濃度が、微生物の存在を決定するのに必要な時間が、ベースラインの値を上回ってプリセット係数の分だけ増加する濃度である段階をさらに含む、項目24~26のいずれか1つに記載の方法。
28. 微生物の存在を決定するのに必要な時間をマスター曲線と比較することによって決定された試験試料中の微生物の濃度を用いることによって、標準病原体濃度に関してMICを補正する段階をさらに含む、項目25~27のいずれか1つに記載の方法。
29. 閾値濃度によって決定された試験試料中の微生物の濃度を用いることによって、標準病原体濃度に関してMICを補正する段階であって、該閾値濃度が、微生物の存在を決定するのに必要な時間が、ベースラインの値を上回ってプリセット係数の分だけ増加する濃度である段階をさらに含む、項目25~27のいずれか1つに記載の方法。
30. 推定されたMICの絶対値に対する、病原体濃度に伴うMICの変動の、あらかじめ定められたマスター曲線によって、標準病原体濃度に関してMICを補正する段階をさらに含む、項目25~27のいずれか1つに記載の方法。
31. あらかじめ定められたブレイクポイントに対して微生物の状態を比較することによって、微生物の耐性状態、感受性状態、または中間状態を特徴付けする段階をさらに含む、項目24~30のいずれか1つに記載の方法。
32. 微生物が細菌であり、かつ医薬が抗生物質である、項目24~31のいずれか1つに記載の方法。
32A. 微生物に対する医薬の作用を評価する方法であって、以下の段階:
(i) 未知の濃度の未知の微生物と、微生物の増殖を支援しかつある特定の光吸収という特徴を生じさせることも可能な試薬培地と、候補抗生物質または候補医薬であって、耐性ブレイクポイント(CLSI M100ハンドブックに規定されるもの)を上回る高濃度から始まってかつ最低濃度が感受性ブレイクポイント(これもまたCLSI M100ハンドブックに規定されるもの)を下回るように1/2倍ずつ減少するという一連の濃度で存在する候補抗生物質または候補医薬とを有する全ての試験生物学的流体を含む、一連の試験試料に関して;
(ii) その光吸収が微生物の代謝産物に応じて変化する検出用成分と、試験試料とを接触させる段階;
(iii) 開始時点において、陽性対照および陰性対照に関する参照光吸収スペクトルを測定する段階であって、陽性対照が、既知の複数の濃度で存在する試験微生物を用いて調製された試験試料を含む、段階;
(iv) 微生物の存在を検出するのに必要な時間を決定する段階、および陽性対照中の微生物濃度に対してこの時間のマスター曲線を生成する段階;
(v) 全ての試験試料について、後続の時点において後続の複数の光吸収スペクトルを測定する段階;レイリー散乱からの寄与について、後続の光吸収スペクトルを補正することにより、複数のレイリー補正スペクトルを生成する段階;
(vi) 試験試料からの重要な特徴を、陽性対照および陰性対照と比較することによって、特定の微生物の存在を決定する段階;
(vii) 微生物の存在を決定するのに必要な時間を、段階(iv)のマスター曲線と比較することによって、試験試料中の特定の微生物の濃度を決定する段階;
(viii) 試験抗生物質(または試験医薬)の濃度のみが異なる全ての既知試料の、試験抗生物質(または試験医薬)の濃度に対して、微生物の存在を決定するのに必要な時間をプロットする段階;
(ix) 閾値濃度を調べることによってMICを決定する段階であって、該閾値濃度が、微生物の存在を決定するのに必要な時間が、ベースラインの値を上回ってプリセット係数の分だけ増加する濃度である、段階;
(x) 段階(vii)において決定された濃度と、段階(ix)において決定されたMICと、推定されたMICの絶対値に対する、病原体濃度に伴うMICの変動の、あらかじめ定められたマスター曲線とを用いることによって、標準病原体濃度に関してMICを補正する段階;
(xi) CLSI M100ハンドブックに報告されるブレイクポイントか、または微生物がCLSIハンドブックに記載されていない場合には、他の手段によって決定されたブレイクポイントに対して、微生物の状態を比較することによって、「耐性」か「感受性」か「中間」である微生物の状態を、特徴付けする段階
を含む、方法。
33. 微生物が、大腸菌、S. エピデルミディス、黄色ブドウ球菌、K. ニューモニエ、P. ミラビリス(P. Mirabilis)、A. バウマニ(A. baumannii)、エンテロコッカス、S. アガラクティエ、カンジダ生物、ケカビ生物からなる群から選択される、項目24~32Aのいずれか1つに記載の方法であって、選択された例が以下:
(i) 大腸菌:CromUTI寒天における、540 nmと570 nmとの間の吸収ピークの上昇、およびHiColiformブロスにおける緑色の検出、
(ii) S. エピデルミディス:CromUTI寒天における特徴的な発色、スタフィロコッカス選択寒天における特徴的な変化、および黄色ブドウ球菌に関連付けられる色素シグネチャーの非存在、
(iii) 黄色ブドウ球菌:CromUTI寒天における特徴的な発色、スタフィロコッカス選択寒天における特徴的な色変化、および黄色ブドウ球菌に関連付けられる色素シグネチャーの存在、
(iv) K. ニューモニエ:CromUTI寒天とストレプトコッカス選択寒天における特徴的な呈色、および胆汁・エスクリン寒天の暗色化、
(v) P. ミラビリス:尿素寒天における特徴的な色変化、
(vi) A. バウマニ:アシネトバクター寒天における特徴的な色変化、
(vii) エンテロコッカス:胆汁・エスクリン寒天の暗色化、ならびにCromUTI寒天およびストレプトコッカス選択寒天における特徴的な色変化、GBS培地(キャロットブロス(Carrot Broth))における色素非産生、
(viii) B群ストレプトコッカス(Group B Strep)(S. アガラクティエ):GBS培地(キャロットブロス)における特徴的な色素産生、ストレプトコッカス選択寒天およびCromUTI寒天における色変化、ならびに胆汁・エスクリン寒天の非暗色化、
(ix) カンジダ生物:CromCandida寒天における特徴的な色変化、および胆汁・エスクリン寒天の暗色化、
(x) ケカビ生物:CromCandida寒天における、および胆汁・エスクリン寒天における糸状増殖、ならびに微生物の増殖ゾーンに限定される、胆汁・エスクリン寒天における赤色の呈色
を含む、方法。
34. 方法が、第3の流体について段階(i)~(iii)を実施する段階をさらに含み、該第3の流体が、微生物と、第1の流体における医薬の濃度とは異なる濃度の医薬とを含む、項目24~33のいずれか1つに記載の方法。
35. 微生物が細菌である、項目24~34のいずれか1つに記載の方法。
36. べき関数が、-2か、-3か、または-4のオーダーを有し、オーダーが、任意の反復のそれぞれの間で同じであってよく、または異なってもよい、項目24~35のいずれか1つに記載の方法。
37. 段階(A)~(C)が、1回、2回、または3回繰り返される、項目24~36のいずれか1つに記載の方法。
38. 決定する段階が、生物学的流体の2次元プロットにおける変化の速度を、プリセット閾値と比較することを含む、項目24~37のいずれか1つに記載の方法。
39. 検出用成分の吸光度が、pHの変化に応じて変化する、項目24~38のいずれか1つに記載の方法。
40. 検出用成分の吸光度が、細菌によって産生された酵素に応じて変化する、項目24~39のいずれか1つに記載の方法。
41. 酵素がウレアーゼ酵素であり、接触させる段階が、流体を尿素に接触させることをさらに含む、項目40に記載の方法。
42. 検出用成分がフェノールレッドを含む、項目24~41のいずれか1つに記載の方法。
43. 生物学的流体が血液または尿である、請求項24~42のいずれか一項に記載の方法。
44. 感染を有することが疑われる対象を処置する方法であって、以下の段階:
項目2~43のいずれか1つに記載の方法を実施する、または該方法がすでに実施されている、段階
を含む、方法。
45. 抗生物質を対象に投与する段階をさらに含む、項目45に記載の方法。
46. 吸収スペクトルをレイリー散乱の寄与と吸収の寄与とに分離するためのシステムであって、
光源;
検出器;ならびに
プロセッサに機能的に連結されているメモリを含む、プロセッサであって、メモリが、そこに格納されている命令を含み、命令が、プロセッサによって実行された際に、プロセッサに以下:
光源を用いて試料を照射すること;
検出器を用いて吸収スペクトルを記録すること;および
吸収スペクトルをレイリー散乱の寄与と吸収の寄与とに分離すること
を行わせる、プロセッサ
を含む、システム。
47. 以下の段階:
(i) 吸収スペクトルを測定する段階;
(ii) 吸収スペクトルをべき関数にフィットさせることによって、フィットスペクトルを生成する段階;
(iii) 吸収スペクトルからフィットスペクトルを差し引くことによって、差スペクトルを生成する段階;
(iv) 以下:
吸収スペクトルから、波長に関して差スペクトルが0以下であるポイントを選択すること、および
フィットスペクトルから、波長に関して差スペクトルが0よりも大きいポイントを選択すること
によって調整スペクトルを生成する段階;
(v) 段階(ii)~(iv)を0回以上繰り返す段階であって、段階が繰り返される場合には、吸収スペクトルの代わりに最新の調整スペクトルが使用され、最後の調整スペクトルがレイリー散乱の寄与である、段階;ならびに
(vi) 吸収スペクトルからレイリー散乱の寄与を差し引くことによって、吸収の寄与を生成する段階
によって、吸収スペクトルをレイリー散乱の寄与と吸収の寄与とに分離するための命令を有する、メモリ
をプロセッサが含む、項目46に記載のシステム。
48. 命令が、複数の試料についての照射、記録、および分離のために構成されている、項目46~47のいずれか1つに記載のシステム。
49. そこに格納されている、吸収スペクトルをレイリー散乱の寄与と吸収の寄与とに分離するための命令を含む、非一時的なコンピュータ可読記憶媒体であって、命令が、
(i) 吸収スペクトルを測定するためのアルゴリズム;
(ii) 吸収スペクトルをべき関数にフィットさせることによってフィットスペクトルを生成するための、アルゴリズム;
(iii) 吸収スペクトルからフィットスペクトルを差し引くことによって差スペクトルを生成するための、アルゴリズム;
(iv) 以下:
吸収スペクトルから、波長に関して差スペクトルが0以下であるポイントを選択すること;
フィットスペクトルから、波長に関して差スペクトルが0よりも大きいポイントを選択すること
によって調整スペクトルを生成するための、アルゴリズム;
(v) 段階(ii)~(iv)を0回以上繰り返すためのアルゴリズムであって、段階が繰り返される場合には、吸収スペクトルの代わりに最新の調整スペクトルが使用され、最後の調整スペクトルがレイリー散乱の寄与である、アルゴリズム;
(vi) 吸収スペクトルからレイリー散乱の寄与を差し引くことによって吸収の寄与を生成するための、アルゴリズム
を含む、非一時的なコンピュータ可読記憶媒体。
50. さまざまな試薬および抗生物質があらかじめ充填されており、かつ決まった量の試験試料が添加される、n-ウェルプレートリーダー(nは、6、12、48、96、または384である);
調節可能なマイクロプレートリーダーであって、n-ウェルプレートを収容可能であり、かつ、そうするための命令がマイクロコントローラから提供された際に、n個のウェル全てについての紫外・可視吸収スペクトルを獲得する、調節可能なマイクロプレートリーダー;
調節可能なマイクロプレートリーダーと適切に接続しているソフトウェアを有する、マイクロコントローラまたはコンピュータであって、プリセットのスペクトル分解能においてかつプリセットのスペクトル範囲内で、紫外・可視吸収スペクトルを獲得するようにマイクロプレートリーダーに命令することが可能であり、かつ調節可能なマイクロプレートリーダーが取得したデータを獲得することも可能である、マイクロコントローラまたはコンピュータ;ならびに
請求項2~45のいずれか一項に記載の方法を実行することが可能なマイクロコントローラ
を含む、システム。
51. n-ウェルプレート;
ペトリ皿;
2分割ペトリ皿;および
4分割ペトリ皿
のうちの1つまたは複数を含む、項目2~45のいずれか1つに記載の方法を実行するためのシステム。
52. n-ウェルプレート、ペトリ皿、2分割ペトリ皿、および4分割ペトリ皿のうちの1つまたは複数に、適切な試薬があらかじめ充填されている、項目51に記載のシステム。
【実施例
【0071】
以下の実施例は、本発明をどのように作製および使用するかについての完全な開示および説明を当業者に提供するために提示されるものであり、かつ以下の実施例は、本発明者らの発明であると本発明者らがみなしているものの範囲を限定することを意図するものではなく、以下の実験が、実施された全ての実験または唯一の実験であると本発明者らが表明することを、意図するものでもない。使用される数値(たとえば量、温度等)に関して正確性を確保するための労力が費やされているが、しかし、そのうちのいくらかは、実験誤差および偏差が占めているはずである。別途指定されない限り、部は重量部であり、分子量は平均分子量であり、温度はセルシウス度におけるものであり、かつ圧力は大気圧かまたはその付近におけるものである。標準的な略称が使用され得、これはたとえば、bp、塩基対;kb、キロベース;pl、ピコリットル;sまたはsec、秒;min、分;hまたはhr、時間;aa、アミノ酸;nt、ヌクレオチド;等である。
【0072】
実施例1:細菌の存在を特徴付けするための、フェノールレッドにおける変化の検出
試験試料中の何らかの細菌の存在が検出された。まれな例外はあるものの、細菌の代謝活性により、pHを低下させる代謝物が産生される。pH指示薬分子(フェノールレッドなど)と組み合わせられた場合、pHを低下させる代謝物は、560 nmにおけるフェノールレッドの吸光度のピーク高さを低下させる。あるいは、440 nmにおけるフェノールレッドのピークもまた、検討され得る。あるいは、他のpH指示薬分子もまた、使用され得る。フェノールレッドの吸光度の測定されたピーク高さは、いくつかの因子によって悪影響を受けるが、これはたとえば、液体試料中の微小気泡の存在、光路におけるこれらの微小気泡の移動、さまざまな他のタンパク質凝集塊の存在、および光路におけるこれらのタンパク質凝集塊の凝集などである。これらのアーティファクトは、フェノールレッドの測定されたピーク高さに悪影響を及ぼし得るものであり、かつしたがって細菌の存在の検出を妨害する。ほとんどの場合、そのようなアーティファクトは、レイリー散乱の寄与に影響を及ぼす。したがって、本開示は、本明細書に記載されるように、フェノールレッドのピーク高さを正確に認識する方法を組み合わせる。図7に記載される態様、ならびに、以下を含む6つの試料について、フェノールレッドのピーク高さを正確に検出するための、本明細書における開示の使用:1000 CFU/mLの黄色ブドウ球菌、および100 CFU/mLの「大腸菌」を含む、3つの「感染」試料と、100 CFU/mLの大腸菌を含む、3つの「対照」試料。これらのピーク高さを用いて、システムは、3つの感染試料についての吸光度ピークと3つの対照試料についての吸光度ピークとの比を算出する。この比は経時的に低下し、そして有意な低下(本発明者らはこれを、データポイントへの線形フィットが、負の傾きであって、該傾きの周囲の95CIよりも大きい負の傾きを有するとき、として定義する)は、対照試料中の細菌濃度よりも有意に高い濃度で、「感染」試料中に何らかの細菌が存在することを意味する。この例においては、細菌の存在は63分の時点で識別可能である。第2のアプローチは、対照試料および感染試料についてのフェノールレッドのピークの低下を検討するものであり、これは、これら2つの差をシグナルとして、かつrms標準偏差をノイズとして、なされる。図7に示されるように、このSNR(ノイズで割ったシグナル)は、値0から出発して、時間が経過するにつれて指数関数的に増大する。SNRメトリックが、プリセット閾値である1を上回る場合、これは、細菌の存在についての追加の確認として、取得され得る。この例においては、細菌の存在は240分の時点で確認される。したがって、ここに記載されるイノベーションは、63分での細菌の検出、および4時間での細菌の存在の確認を可能にするものであり;これは、標準的なフェノールレッドブロス検出試薬を用いて細菌の存在を検出するためには、通常、一晩の増殖が要求される点とは対照的である。
【0073】
実施例2:細菌濃度の定量
試験試料中の細菌濃度の定量が実施された。本明細書に記載されるように、細菌の代謝活性により、pHを低下させる代謝物が産生され、該代謝物は、560 nmにおけるフェノールレッドのピーク高さを低下させ、かつ440 nmにおけるフェノールレッドのピーク高さを上昇させる。また、本明細書に記載されるように、この検出のために、適切な他のpH指示薬分子が使用されてよい。
【0074】
したがって本開示は、本明細書に記載されるような、フェノールレッドのピーク高さを正確に認識する方法を、細菌濃度を正確に定量するためのさらなるイノベーションと、組み合わせるものである。図8A~8Cは、以下を含む試料に関して、時間の関数としてのフェノールレッドの560 nmピークアウトプットの概略を示す:50 uLのフェノールレッド溶液、125 uLの1X TSB(水で調合)、および、さまざまな濃度の細菌(この例においては大腸菌25933株)を有する、50 uLの試験試料(PBS緩衝液で調合)。図は、以下の変化を示している。(1) 図8Aに示されるように、未感染の対照試料において、560 nmにおけるピーク高さのわずかな低下が存在しており、これは温度変化または蒸発を反映している。したがって、試験試料における全ての変化は、対照試料における変化と比較して検討される。(2) 図8Bに示されるように、試験試料における560 nmのピークが、対照試料における対応する値を用いて正規化されると、変化は、細菌による酸産生に起因するものとなる。この酸産生は、フェノールレッドのピーク高さの、シグモイド型の(sigmodial)低下をもたらす。(3) 図8Cに示されるように、フェノールレッドのピーク高さを10%低下させるのに必要な時間は、試験試料中の病原体濃度の対数との、相関を示す。異なる細菌では増殖速度も異なる点に対処するため、値に幅を持たせる。したがって、細菌のアイデンティティが未知である場合には、10%低下させるのに必要な所与の時間に関して、細菌濃度は10倍以内と推定され得る。たとえば、10%低下させるのに必要な時間が300分である場合には、細菌濃度は、500~20,000 CFU/mLの範囲にわたる可能性がある。細菌のアイデンティティが既知である場合には、対応する病原体濃度はより正確に推定可能である。たとえば、10%低下させるのに必要な時間が300分であり、かつ細菌が大腸菌であると既知である場合、細菌濃度は、500~2,000 CFU/mLの範囲にわたる可能性がある。正確に推定するため、本発明者らは、対照試料がいかなる細菌も一切含んでいないことを確実にすることをも必要とする、なぜならば対照試料は、サーマルドリフトに起因する変化を正規化によって除去するために、使用されるからである。これは、試験試料を、マイクロ波に誘導される加熱段階に供すること、およびウェル間のクロスコンタミネーションの可能性を除外するために、強力な透明パッケージングテープで個々のウェルを密封することによって、確実なものとなり得る。本発明者らの96ウェルに関し、本発明者らは、30秒の持続時間のマイクロ波での加熱段階が、各ウェルの内容物を滅菌するのに十分であると確認した。したがって、プロセスの段階は以下のとおりである。(1) それぞれのウェルに、125 uLの1X TSB、および50 uLのフェノールレッド溶液を入れる。(2) パッケージングテープを用いて密封する。(3) 96ウェルプレートを、1000 Wで30秒間マイクロ波照射する。(4) 約5分間にわたり、室温まで冷却する。(5) パッケージングテープを除去し、そして試験試料を添加する。(6) パッケージングテープを用いて再度密封し、そして37度にセットされた試料チャンバーを有するプレートリーダー内に、96ウェルプレートを収める。(7) 本明細書に記載されるように、スペクトルを取得し、そしてそれを色スペクトルへと処理する。(8) 試験試料について、560 nmのピーク高さを算出し、対照試料における対応する値を用いて正規化し、そして正味の低下を算出する。(9) この量が10%低下する時点の時間を算出する。(10) 図7の下のパネルに説明される対数依存性から、病原体濃度を読み取る。
【0075】
以下を含む6つの試料についての、フェノールレッドのピーク高さの正確な検出:1000 CFU/mLの黄色ブドウ球菌、および100 CFU/mLの「大腸菌」を含む、3つの「感染」試料と、100 CFU/mLの大腸菌を含む、3つの「対照」試料。これらのピーク高さを用いて、システムは、3つの感染試料についての吸光度ピークと3つの対照試料についての吸光度ピークとの比を算出する。この比は経時的に低下し、そして有意な低下(本発明者らはこれを、データポイントへの線形フィットが、負の傾きであって、該傾きの周囲の95CIよりも大きい負の傾きを有するとき、として定義する)は、対照試料中の細菌濃度よりも有意に高い濃度で、「感染」試料中に何らかの細菌が存在することを意味する。この例においては、細菌の存在は63分の時点で識別可能である。第2のアプローチは、対照試料および感染試料についてのフェノールレッドのピークの低下を検討するものであり、これは、これら2つの差をシグナルとして、かつrms標準偏差をノイズとして、なされる。図7に示されるように、このSNR(ノイズで割ったシグナル)は、値0から出発して、時間が経過するにつれて指数関数的に増大する。SNRメトリックが、プリセット閾値である1を上回る場合、これは、細菌の存在についての追加の確認として、取得され得る。この例においては、細菌の存在は240分の時点で確認される。したがって、ここに記載されるイノベーションは、63分での細菌の検出、および4時間での細菌の存在の確認を可能にするものであり;これは、標準的なフェノールレッドブロス検出試薬を用いて細菌の存在を検出するためには、通常、一晩の増殖が必要となる点とは対照的である。
【0076】
実施例3:ウレアーゼ産生細菌の存在を特徴付けするための、尿素ブロスベースを用いたフェノールレッドの変化の検出
試験試料中の何らかのウレアーゼ産生細菌の存在が検出された。通常、細菌の代謝活性により、pHを低下させる代謝物が産生される。これの例外の1つは、ウレアーゼ酵素を産生する細菌に関するものであって、かつブロス培地が、炭素および窒素の主たる供給源としてウレアーゼを含む場合である。この場合、尿素が副産物のアンモニアへと加水分解され、それにより、溶液/試験試料のpHが上昇する。pH指示薬分子(フェノールレッドなど)が溶液中に存在している場合、pHの上昇は、560 nmにおける吸収ピークの上昇を引き起こす。十分に長いインキュベーション時間(約18~24時間)を用いると、560 nmにおける吸光度の上昇は、肉眼でも明らかであるほどに、十分に顕著である。
【0077】
この読み取りは、約2~3時間のインキュベーション後に実施されたものであり、かつ図9に示される。左上のチャートは、短時間(この例においては4時間の時点)で色変化を読み取ることの困難性を示す。色スペクトルよりも、レイリー/フェノールレッドの寄与のほうが優勢であり、かつ変化は比較的小さい(4時間の時点であってさえも)。色スペクトルを識別するため、本発明者らは、「変化」を、レイリーの寄与における変化(これは、波長の2乗の逆数としてスケーリングする)と、色スペクトルにおける変化とに分離するための、本明細書に記載される方法を使用する。色スペクトルにおける変化は、500~600 nmにわたって(すなわち、予想される560 nmの吸光度ピークをカバーしている)積分され得、かつこれは、図に示されるように、時間が経過するにつれて指数関数的に増大する。したがって、このメトリックへの指数関数フィットが、0より大きい減衰係数を有し、かつまた、この推定値の周囲の信頼区間よりも大きい場合、これは、ウレアーゼ産生細菌の存在を示す。この例においては、ウレアーゼの産生は140分の時点で検出される。
【0078】
本明細書に記載される開示の値は、ウレアーゼ産生を検出するのに必要な時間を、デチューンされたさまざまな因子と比較することによって、理解可能である。本明細書に記載される方法が、レイリーの寄与に関して、一般多項式フィットを含むように改変された場合には、ウレアーゼ産生を検出するのに5時間超を要する。本明細書に記載される記載される方法が使用されず、かつ560 nmの吸光度における変化が、ポイント2つの比較(たとえば、560 nmと630 nmとの間の比較)を用いて検出される場合には、ウレアーゼ産生を検出するのに4時間超を要する。
【0079】
方法はまた、試料における微生物の存在または非存在を決定することをも含み、かつ、シグナル対ノイズ比を決定すること、および単色光源のサーマルドリフトを補正することをも含む。本発明の方法を実施するためのシステムもまた、提供される。
【0080】
実施例4:フェノールレッドを有する、スタフィロコッカスに特異的な培地
試験試料中の何らかのウレアーゼ産生細菌の存在が検出された。本明細書に記載される方法は、細菌の代謝活性による酸産生を利用する。酸産生は、培地によって可能となり、これは、本明細書においてはトリプチケース・ソイブロスであった。これらの方法は、ある特定の培地を包含するように改変されてよい。たとえば、マンニトール・食塩培地は、スタフィロコッカス生物が許容可能な高い含量で塩を含み、かつスタフィロコッカスおよび大腸菌が発酵可能なマンニトールをも含む。したがって、フェノールレッドを有するマンニトール・食塩培地は、スタフィロコッカスの存在を識別するために使用される。たとえば、Hardy Diagnostics社はマンニトール・食塩寒天を販売しており(https://catalog.hardydiagnostics.com/cp_prod/Content/hugo/MannitolSaltAgar.htm )、その上にプレーティングすると、黄色ブドウ球菌は黄色のコロニーへと旺盛に増殖し、S. エピデルミディスは赤色のコロニーへと増殖し、かつ他の細菌(プロテウス・ミラビリスおよび大腸菌(Escherichia Coli)など)は増殖しない。しかしながら、この判別は通常、24時間超の増殖時間を要する。本明細書に記載される方法は、4時間未満でのこの判別を可能にする。
【0081】
図10はこれらの方法を示す。本発明者らは、HiMedia社より入手可能であるマンニトール・食塩・フェノールレッド培地を使用する(https://www.himediastore.com/mannitol-salt-broth-6074 )。本発明者らは、製造元の指示のとおりに培地を混合すること、および96ウェルプレート上の個々のウェルへと150 uLの培地を添加することによって、試料を作製する。本発明者らは、それらのウェルへと50 uLの試験試料を添加するが、ここで該試験試料は、全て1X PBS緩衝液で調合されており、かつ、対照試料であるか、またはさまざまな量の細菌を有するかの、いずれかである。本発明者らは、96ウェルプレートリーダーと、フェノールレッドのアウトプットにおける変化を分離するための、本明細書における方法とを用いて、フェノールレッドのピーク高さをモニターする。これらの方法を用いると、108 CFU/mLの黄色ブドウ球菌については約1時間後に、および102 CFU/mLの黄色ブドウ球菌については約4時間後に、フェノールレッドのアウトプットの有意な低下が始まることが観察可能である。したがって、黄色ブドウ球菌の特異的な存在は、判定帯域内にある、フェノールレッドの560 nmのピークの変化の総括速度か、またはフェノールレッドの560 nmピークの変化の最終速度のいずれかによって、測定可能である。
【0082】
実施例5:黄色ブドウ球菌(Staphylococcus Aureus)の特異的な検出
本開示の複数の局面は、試験試料中の黄色ブドウ球菌の存在を検出するための方法およびシステムを含む。黄色ブドウ球菌は、その病原性に関連すると言われている一連のトリテルペノイドカロテノイドを産生する点において、独自性を有する病原体である(参考文献:"Pigments of Staphylococcus aureus, a Series of Triterpenoid Carotenoids" Marshall & Wilmoth 1981 https://jb.asm.org/content/jb/147/3/900.full.pdf )。これらのトリテルペノイドの吸収スペクトルは、トリプレットの吸収スペクトルを含み(MarshallおよびWilmoth、1981の図3を参照されたい)、トリプレットのうちの1つのピークは、488 nmに中心を有する。
【0083】
本開示の複数の局面は、全ての黄色ブドウ球菌株(臨床試料中に見いだされる野生型株を含む)が、「適切」な培地において、かつ培地において「十分」な酸素を有してインキュベートされた場合に、これらのトリテルペノイドカロテノイドを産生するであろう、という観察を含む。「適切」な培地は、少なくとも以下の2例を含む:HiMedia Laboratories社より入手可能なCromUTI寒天(https://www.himedialabs.com/intl/en/products/Clinical-Microbiology/Diagnostic-Media-for-Bacteria-Klebsiella/HiCrome%E2%84%A2-UTI-Agar-SM1353 )、およびこちらもHiMedia Laboratories社より入手可能な、ストレプトコッカス選択寒天(https://himedialabs.com/TD/M1840.pdf ;該調合物において推奨される選択性作用物質なしで使用する)。「十分」な酸素とは、寒天培地中に含まれる、溶存酸素の量を指す。寒天ベースのそのような調合物は、オートクレーブすることによって滅菌され(>121度、>15 psi、>15分)、ここで溶存酸素の該量は枯渇する。寒天培地は、最初に50度に冷まされてから、流し込まれる(またはピペットで移される)。寒天培地が50度で1時間にわたり保持された際に、「十分」な酸素が利用可能となり、そして、さらに48時間にわたり室温で保持された後で、プレートが使用される。
【0084】
「適切」な培地および「適切」な酸素というこれらの条件下で、野生型およびATCC株の黄色ブドウ球菌はトリテルペノイド毒素を産生し、該毒素を、黄色ブドウ球菌の存在を特徴付けするために使用することが可能である。図17は、黄色ブドウ球菌のATCC株(104 CFU//mL)を含む試験試料(0.05 mL)が添加されている、Crom-UTI寒天(96ウェルプレート上の各ウェルに流し込まれた0.15 mLの培地)から取得された、紫外・可視吸収スペクトルを示す。測定されたスペクトル(図17の左に示される)は、「色」スペクトルと「レイリー」の寄与とを含む。測定されたスペクトルは、そのままで利用可能なものではないが、レイリー散乱成分を分離するために、[0041]に記載される方法が使用される場合、残り(すなわち、「色」スペクトル;図17の右側に示されるもの)は、MarshallおよびWilmoth、1981に記載されるトリテルペノイドの吸収スペクトルに類似するものとなる。図17に記載される3つのピークのうちの1つまたは複数が存在することを閾値とする単純なアルゴリズムを用いることによって、この段階で、黄色ブドウ球菌に起因するものとして色スペクトルを認識することが可能である。
【0085】
本開示の複数の局面は、図17に示される「色」吸収スペクトルを、黄色ブドウ球菌に起因するものとして認識するための方法を、さらに含む。図17に記載されるトリプレットに関し、トリプレットのピークのいずれか1つの存在は、黄色ブドウ球菌の存在と関連付けられ得る。一例として、488 nmに中心のあるピークが検討される。2 x A488 / [A475 + A 505] として算出されるメトリックSは、Sが>1である場合に、黄色ブドウ球菌の存在を示すものであり得る。メトリックSにおいて、A488、A475、およびA505とは、色スペクトルにおける吸光度(すなわち、[0041]に記載される方法を用いてレイリーの寄与を除去した後のもの、を指す。したがって、黄色ブドウ球菌の存在の判定は、CromUTI培地および試験試料についての紫外・可視吸収スペクトルを取得して、「色」スペクトルおよびメトリックSを算出する、サブシステムのセットによって行うことが可能である。このメトリックSが1を上回る場合、これは黄色ブドウ球菌の存在を示す。測定の開始時には、メトリックSは通常1未満である。黄色ブドウ球菌はトリテルペノイド色素を産生するので、メトリックSは1を上回って増加する。
【0086】
本開示の複数の局面は、黄色ブドウ球菌の濃度を特徴付けする方法をさらに含む。図18に示されるように、メトリックSが1を上回った時点の時間は、黄色ブドウ球菌の濃度とスケーリングする。本発明者らは、野生型の黄色ブドウ球菌株のいくつかについても、同様のスケーリング挙動を見いだしている。したがって、図18に示される関係性を用いて、メトリックSが1を上回った時点の時間から、CromUTI寒天に添加された試験試料中の黄色ブドウ球菌の濃度を推定することが可能である。
【0087】
実施例6:候補抗生物質に対する応答の特徴付け
抗微生物剤感受性応答が特徴付けされた。病因となる病原体の代謝活性は、有効な抗微生物剤によって抑制可能である。したがって、ある試験濃度で存在する候補抗生物質が、本明細書に記載される教示と組み合わせられる場合、本発明者らは、微生物に対する該抗生物質の作用を推定することが可能である。本発明者らが、抗生物質のある一連の濃度を組み合わせる場合、本発明者らは最小発育阻止濃度を推定することが可能である。これは、ゲンタマイシン、GMに対する大腸菌の25922株(大腸菌の品質管理株の1つ)の一例に関する図11に示される。この例においては、試験溶液はゲンタマイシンを有していたが、その濃度は、2 μg/mLで開始され、そして1/2倍の間隔で低下していくというものであった。本発明者らは、2 μg /mLの試験溶液以外の全ての試験溶液について、560 nmのフェノールレッドの吸光度ピークが実質的に抑えられることを見いだしている。フェノールレッドのピーク高さに適用された線形フィットから、560 nmのピーク高さが開始値の1から低下しないGMの濃度として、2.03 μg/mLという推定値が得られる。
【0088】
上述した構想が、他にも具体的に実践できることもまた、当業者は理解可能である。たとえば、培地は、カチオン調整ミューラーヒントンブロス、CAMHBと置き換えられてよく、これにより、プロセスはCLSI M100に指定されるプロセスと一致するものとなる。さらに、フェノールレッドのピークにおける変化によって細菌増殖を読み取る代わりに、細菌増殖についてのシグナルとして、レイリー散乱を直接読み取ってもよい。細菌の開始時濃度が十分に低い場合(すなわち、約107 CFU/mLという飽和閾値を下回る場合)には、レイリー散乱吸光度は、細菌濃度につれて上昇するであろう)。試験溶液においてより低濃度(CLSI M100説明書において指定される、0.5マクファーランドまたは2 x 108 CFU/mLと比較して)の細菌を用いると、CLSIと等価である迅速MICを推定するために、補正(実施例7に記載されるもの)が必要となるであろう。最後に、MICについての閾値は、(実施例7に記載される補正の後で)CLSI法との最大の一致を確実にするように設計される、増殖が低下するある任意の位置に、セットされ得る。
【0089】
実施例7:病原体濃度に関するMICの推定および補正
本発明者らが実験によって観察しているように、抗微生物剤感受性についてのメトリックであるMICは、図19に示されるように、病原体濃度の関数である。したがって、CLSI M100の標準として規定されている2 x 108 CFU/mL(または0.5マクファーランド)という濃度よりも低い病原体濃度である試験試料から取得されたMICの推定値は、迅速試験のMICとCLSI標準との間の一致を最大にするために、この変動に関して補正する必要があろう。本発明者らは、図19に示されるトレースの傾きが、図20に示される、推定されたMICの大きさの絶対値とスケーリングすることを、実験によって見いだしている。したがって、病原体濃度に関してMICを補正するためのアルゴリズムは、図20に示される、実験によって観察されたスケーリング関係を、図18に記載される方法によって推定された病原体濃度とともに使用するものである。図21の例を用いて示されるように、試験病原体濃度において推定されるMICは、0.192 μg/mLである。これとは別に、検出までの時間が161分として測定され、かつこれは、7.5 x 106 CFU/mLという黄色ブドウ球菌の濃度を返す。この濃度および図14の式を用いて、本発明者らは、0.5マクファーランドにおけるCLSI M100のMICが0.867 μg/mLであると推定する。
【0090】
実施例8:病原体が候補抗生物質に対して耐性であるかまたは感受性であるかを決定するための、MIC、細菌の濃度、および細菌のアイデンティティの使用
抗微生物剤感受性についてのメトリックであるMIC、および細菌濃度が決定され、そして、0.5マクファーランドにおけるMICが推定されるように、細菌濃度に伴うMICの変動に関して、MICが補正されたら、細菌が候補抗生物質に対して耐性であるかまたは感受性であるかを決定するために、CLSI M100マニュアルに記載されるブレイクポイントと、MICを比較することが可能である。
【0091】
本発明者らは、このプロセスを、カチオン調整ミューラーヒントンブロス(CAMHB、Himedia labs社のM1657)において、バンコマイシンに対して試験された黄色ブドウ球菌の野生型株の一例を用いて例示する。図21に示されるように、レイリー散乱係数を時間に対してプロットし、そしてこれを、指数関数的に増加する関数である a/[1+exp(-(t-b)/c)] にフィットさせることによって、CAMHBを用いて細菌の生存率が推定される。次に、増加する係数「a」が抗生物質濃度に対してプロットされ、そしてこのプロファイルから、「a」が0に達した濃度が、病原体濃度におけるノミナルMICとして推定される。これとは別に、病原体濃度が推定され、そして病原体濃度に関してMICが補正される。これは、0.867 μg/mLという、CLSI M100のMICの推定値をもたらす。バンコマイシンに対するスタフィロコッカスのCLSI M100ブレイクポイントは、耐性に関して>16 μg/mLであり、かつ感受性に関して<2 μg/mLである。したがって、黄色ブドウ球菌のこの株は、バンコマイシンに対して感受性であることが報告される。
【0092】
上述のアプローチのバリエーションもまた、ここに記載される教示に採用され得る。たとえば、カチオン調整ミューラーヒントンブロスの使用の代わりに、本発明者らは、CromUTI寒天(またはストレプトコッカス選択寒天)をも使用可能である。CromUTI寒天は、黄色ブドウ球菌の色素産生を可能にするものであり、かつ色素産生のタイムラインは、抗生物質の有効性の指標として使用可能である。このアプローチは、同じウェルにおける抗生物質応答および細菌の同定に着目しており、それにより多微生物性の試料における試験を可能にするという、利点を有する。しかしながら、CromUTI寒天は、時間がたつにつれて乾燥することもまた知られており、かつ、それが乾燥するにつれて有効性が低下した培地となるため、より高いノイズメトリックが予想される。
【0093】
実施例9:ストレプトコッカス・アガラクティエ(Streptococcus Agalactiae)(B群ストレプトコッカス)の存在の検出
B群ストレプトコッカス(Group B streptococcus)(S. アガラクティエ)は、「キャロットブロス」においてインキュベートされた場合に、ニンジンのような色の色素を産生することが知られている(「キャロットブロス」はいくつかの販売者より入手可能であるが、本発明者らはHiMediaLabs社のGBS培地を使用した、https://himedialabs.com/TD/M1073.pdf )。ニンジンのような赤色の色素は、全てのGBS株のうち約97%が産生すると言われており、かつ、紫外・可視吸収スペクトルの、435 nm、566 nm、485 nm、および525 nmにおける極大値に関連付けられる(参考文献:https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/353069/ )。色素産生を特徴付けするための、記述されている手順は、相当に複雑であり、かつ、GBS細胞および色素を遠心分離すること、ならびに紫外・可視測定に適した溶媒中へと色素を抽出するために、さまざまな溶媒中で遠心分離ペレットを洗浄することを伴う。本発明者らの知る限り、増殖中の溶液からGBS色素を直接検出可能であることによる方法を説明する教示はない。分光法による同定を行わない場合には、現行の実験室用手順は、「キャロットブロス」培地における24時間のインキュベーション後に、ニンジンのような色を目視観察することを含む。
【0094】
本開示の複数の局面は、遠心分離および溶媒における抽出を行うことなしに、試験細菌懸濁液とGBS培地とを含む懸濁液における、GBS色素産生を特徴付けする方法を含む。そのような測定の困難性は、図12における黄色ブドウ球菌についての例、および図22におけるGBSについての例に示されるように、レイリーの寄与のほうが優勢である紫外・可視スペクトルによって生じる。図12における黄色ブドウ球菌の色素に関して記載されるのと同じ方法を用いて、GBSが産生する色素を、GBS培地および該細菌を含む試験試料において、直接検出することが可能である。これは、96ウェルプレートにおいて37℃でインキュベートされた培地および試験細菌に関するものである、図22に示されている。
【0095】
実施例10:96ウェルプレートおよび調節可能なマイクロプレートリーダーにおける、病原体のアイデンティティおよび抗微生物剤感受性の実行
本開示の複数の局面は、試験細菌のアイデンティティを特徴付けする(多微生物性の試料において、複数種の細菌の存在を特徴付けすることを含む)ための、および候補抗生物質のセットに対する試験細菌の応答を特徴付けするための、方法およびシステムを含む。このためのサブシステムは、何種類かの試薬が充填された96ウェルプレートを含み、かつ、細菌の試験懸濁液が添加された後で、該96ウェルプレートについての吸光度スペクトルを測定するための、調節可能な96ウェルプレートリーダーをも含む。
【0096】
ここに記載される例は、以下に列挙される12種類の試薬を含む。(1) ChromUTI寒天(カタログのM1353、Himedia Labs社より)、(2) ChromCandida寒天(カタログのM1297、Himedia Labs社より)、(3) スタフィロコッカス選択寒天(カタログのM1931、Himedia Labs社より)、(4) アウレウス・テルライト(カタログのM1468、Himedia Labs社より)、(5) MM寒天(M1393、Himedia Labs社より)、(6) ストレプトコッカス選択寒天(M1840、Himedia Labs社より)、(7) GBS培地(M1073、Himedia Labs社より)、(8) アシネトバクター寒天(M1839、HiMediaLabs社より)、(9) HiColiform寒天(M1453、Himedia Labs社より;製造元の使用説明書のとおりに調合し、そして寒天培地とするために標準的な寒天を添加する)、(10) マッコンキー・ソルビトール、(11) 尿素寒天、(12) 胆汁・エスクリン寒天(M493、Himedia labs社より)。
【0097】
本質的に同じ目的を達成するために、試薬の他の組み合わせが使用可能である。ChromUTI試薬は、試験試料中で優勢な生物を特徴付けするのに有用であり、かつ、ストレプトコッカスと、大腸菌と、B群ストレプトコッカス/エンテロコッカスとで、異なる色変化をもたらす。図16は、5種類の異なる細菌についての色スペクトルを示す。いくつかの細菌についてのスペクトルは、他のものと比べてより強い独自性をもって、同定可能である。たとえば、エンテロコッカス(たとえば、図16に示されるE. フェカリス(E. faecalis))についてのスペクトルと、S. アガラクティエについてのスペクトルとは互いに類似しているが、スタフィロコッカスおよび大腸菌のものとは大きく異なる。一方で、黄色ブドウ球菌についてのスペクトルは、実施例7においてすでに述べたように、特徴的な色素形成を含む。そして、大腸菌由来の色は、高い独自性を有する、約550 nmにおける極大値を含む。本発明者らが使用する12種類の試薬セット中の、色特異的な培地の他の例は、CromCandida寒天(これは、さまざまなカンジダ生物について2種類の異なる色をもたらす)と、MM寒天(これは、4タイプの異なる色変化をもたらす)である。
【0098】
それら試薬のうちの1つ(ChromCandida寒天)は、カンジダタイプの生物に関して色変化をもたらすように設計されている。これにおける色変化は、胆汁・エスクリン・アザイド寒天における黒色の呈色と組み合わせられて、カンジダ生物を示す。スタフィロコッカス選択寒天、およびアウレウス・テルライト寒天は、スタフィロコッカス(血中においてよく見いだされる細菌病原体)の存在を示すように設計されている。販売者から供給されるストレプトコッカス選択寒天は、B群ストレプトコッカス(GBS、S. アガラクティエ)に対して寒天を選択性にする特定の選択性作用物質とともに使用するように、設計されている。本発明者らは、これを選択性作用物質なしで使用する - そうすることで、GBSおよびエンテロコッカスの両方について、色変化が可能となる(視認される青色が生じ、かつプレートリーダー上で、色スペクトルは、ChromUTI寒天に関する図16に示される色スペクトルに、類似するものとなる。ストレプトコッカス選択寒天において陽性である点は、胆汁・エスクリン・アザイド寒天において陰性である点と組み合わせられて、通常は、S アガラクティエの存在を意味するものとなるであろう(しかしながら、胆汁・エスクリン・アザイド寒天において陽性であり、かつ胆汁・エスクリン・アザイド寒天において陽性である点は、S. アガラクティエの存在/非存在について十分な情報を提供するものではない)。GBS培地(一般にキャロットブロスと称される)は、GBS色素の産生によって、S. アガラクティエの存在についての情報をもたらす(実施例9に記載されている)。以前の臨床試験のとおり、この培地は、GBSの全ての臨床株のうちの約97%を検出する。GBS色素を継続的にモニタリングすることで、GBSの全ての臨床株の100%からの色素産生がこの方法によって検出されると、本発明者らは考えている。HiColiformブロスは、大腸菌に特異的な応答をもたらすように設計されている - 色変化は、大腸菌が産生する酵素に起因する。マッコンキー・ソルビトール寒天は、大腸菌の病原性株(これはソルビトールの発酵を行うことができない)を、非病原性株(これはソルビトールの発酵を行う)から区別する手段を提供する。該培地に含まれるpH指示薬の色変化によって、発酵が示される。尿素寒天は、尿素発酵細菌(P. ミラビリスがその一例である)の存在を示す。ウレアーゼ産生細菌の存在は、pH指示薬の特徴的な色変化を引き起こす、pHの上昇によって示される。
【0099】
本発明の複数の局面は、さまざまな濃度の候補抗生物質を有する培地を含む。1つの態様において、本発明者らは、以下の12種類の抗生物質を使用する:バンコマイシン(VAN)、テトラサイクリン(TET)、ペニシリン(PEN)、クリンダマイシン(CC)、エリスロマイシン(ERY)、セフォキシチン(FOX)、リネゾリド(LZD)、ゲンタマイシン(GM)、シプロフロキサシン(CIP)、トブラマイシン(NN)、イミペネム(IMP)、およびセファゾリン(CFZ)。ここに記載される教示が使用されるが、抗生物質の他の組み合わせもまた、選択可能である。これらの抗生物質は、一般的な病原性微生物である、黄色ブドウ球菌、S. エピデルミディス、S. アガラクティエ、E. フェカリス、および大腸菌に対するある程度のカバレッジを提供するように選択される。それぞれの抗生物質に関し、本発明者らは7種類の濃度を使用し、これは、CLSI M100耐性ブレイクポイント(該抗生物質および標的病原体についてのもの)の、いくらかの倍数(一般的には約1倍~2倍)から、CLSI M100感受性ブレイクポイント(該抗生物質/標的病原体の組み合わせについてのもの)を下回る濃度へと1/2倍ずつ減少する、という範囲にある。たとえば、VANに関し、スタフィロコッカスのCLSI M100ブレイクポイントは、16 μg/mLおよび2 μg/mLである。したがって本発明者らは、32 μg/mL、16 μg/mL、8 μg/mL、4 μg/mL、2 μg/mL、1 μg/mL、および0.5 μg/mLという抗生物質濃度を使用する。
【0100】
96ウェルプレート中の固有のウェルにおいて、抗生物質はそれぞれの濃度で準備される。上述の構成において、[00104]に記載されるように、本発明者らは、12種類の抗生物質それぞれを、7種類の濃度で使用し;したがって、AST測定に関して84個のウェルを使用し、かつ細菌のアイデンティティに関して12個のウェルを使用する。この構成は、CLSI M100法に類似した様式でMIC値を導き出すように設計されている。ここに記載される教示を用いることにより、他の構成もまた使用可能である。
【0101】
迅速試験によってCLSI M100のMICを推定することは、以下の2つの要因に起因して、困難である:(a) 第1に、抗生物質濃度が上昇するにつれて、病原体の倍加時間は指数関数的に増加する(図13)。いくつかの濃度においては、倍加時間は収束しないと予想される。CLSI M100のMICとは、0.5マクファーランド(2 x 108 CFU/mL)の開始濃度を用いた35±2度におけるインキュベーションとして、16~20時間(バンコマイシンの場合は24時間)のインキュベーションの後で、増殖が観察されない濃度を指す。したがって、CLSI M100のMICは、図13において、倍加時間が収束しない濃度を下回る、いくつかの濃度を指す。おそらく、試料が48時間(16~20時間ではなく)にわたってインキュベートされた場合には、20時間の時点では増殖が観察されない抗生物質濃度のいくつかにおいて、増殖が観察されるであろう。曲線上の正確な位置は、病原体濃度によって変化するであろう。したがって、CLSI M100法に類似した方法を使用するが、0.5マクファーランドの病原体濃度は使用しない場合に、推定されたMICそれ自体は、病原体濃度の関数となる。これは図14に示されている。したがって、非標準的な(すなわち、0.5マクファーランド以外の)病原体濃度において導き出されたMICの推定値はいずれも、この作用に関して補正しなくてはならない。病原体濃度に伴うMICの変動は、線形フィットを用いて記述され(図14の上を参照されたい)、線形フィットの傾きそれ自体は、推定されたMICの線形関数となる(図14の下を参照されたい)。そのため、病原体濃度についてのMICの補正は、病原体濃度が独立して推定されること(たとえば、実施例7に記載される方法を用いて)、および次に、これもまた実施例7に記載される、図14の補正を使用することを、必要とする。
【0102】
MICに関して迅速試験を難しくする第2の要因は、多微生物性の試料中の、複数種の病原体の存在である。たとえば、エンテロコッカスのほうが優勢であるが関心対象の病原体は黄色ブドウ球菌であるという、多微生物性の試料では、レイリー散乱の増大を検査することによって推定されたMICは誤っている可能性があり、これは、病原体濃度の不正確な補正のためであり、かつレイリー散乱よりも、エンテロコッカスの増殖のほうが優勢であるためである。この問題は、以下の2つの手段のうちの1つによって、軽減することが可能である:(a) 全ての多微生物性の試料を明確にすること、および(b) 関心対象の病原体に関連するシグナルにおける応答に着目すること。たとえば、実施例5に記載される方法を用いて、本発明者らは、黄色ブドウ球菌に特異的な色素を検出し、そして抗生物質濃度の関数としてこれらの色素を検出するのに必要な時間を特徴付けする。これは、それらを含む臨床試料、および抗生物質テトラサイクリンに関して、図15に示されている。この変動から、MICが、いかなる抗生物質も有さない培地について観察された、検出までの時間というメトリック(これは、この例においては150分であった)と比較して、検出までの時間というメトリックを2倍増加させるのに必要な最小の抗生物質濃度として、推定される。そうすると、この例におけるMICは、log(濃度) = 0.3、すなわち2 μg/mLという濃度である。150分という検出時間(および実施例8に記載される方法)から推定される黄色ブドウ球菌の濃度は、8.8 x 106 CFU/mLである。この濃度、および実施例7に記載される方法を用いて、0.5マクファーランドにおけるMICは、2.51 μg/mLであると推定される。この臨床試料はまた、エンテロコッカスをも含んでいたが(これは、血液寒天プレート上の個々のコロニーを単離した後で明らかとなった)、ここに記載される方法は、黄色ブドウ球菌の応答におけるMICメトリックに着目するものである。
【0103】
実施例11:目視観察を用いた、ケカビ目の存在についてのスクリーニング
ここに記載される教示はまた、目視観察のみを用いる判定試験のためにも実施可能である。何種類かの試薬に関連付けられる色変化のいくつかは、従来の方式以外の方式で、利用され得る。たとえば、胆汁・エスクリン寒天において、暗赤色の呈色は、通常、培地におけるエスクリングリコシドの加水分解に関連付けられる。生物がエスクリングリコシドを加水分解してエスクレチンおよびデキストロースを産生する場合、エスクレチンはクエン酸第二鉄と反応して、暗褐色または黒色のフェノール鉄錯体が生成される。エスクレチンの生成は、(培地がプレートに流し込まれている場合には)プレート全体が暗赤色に変わることと関連付けられる、なぜならばエスクレチンは、それが生成された場所である細菌細胞から拡散するからである。対照的に、何種類かの微生物もまた、胆汁・エスクリン寒天プレートを暗赤色に変えるが、これは、細菌の代謝に関連付けられる、低いpHのためである。そのような微生物に関し、赤色の呈色は、微生物が増殖しているゾーンに限定される。
【0104】
この例はケカビ目の真菌生物を含み、その一例は図24に示されている。ケカビ目の増殖は、胆汁・エスクリンプレートにおける赤色の呈色によって認識可能であり、かつこれは、エンテロコッカス生物による赤色の呈色とは区別可能であり(なぜならば、赤色の呈色は、真菌生物の増殖ゾーンに限定されるからである)、プレート上での糸状の外観によっても認識可能であり、かつCromCandidaプレート上で呈色が一切存在しないことによっても認識可能である(カンジダ生物は、CromCandidaプレート上で何らかの呈色を引き起こす)。
【0105】
上述の発明は、明確な理解を目的とした説明および例示のために、いくらか詳細に記載されているが、本発明の教示に照らせば、添付の特許請求の範囲の精神または範囲から逸脱することなく、本発明に対していくらかの変更および改変がなされ得ることが、当業者には容易に理解される。
【0106】
したがって、上述した内容は、本発明の原理の単なる例証である。本明細書において明示的には記載または提示されていないものの、本発明の原理を具現化するものであって、かつ本発明の精神および範囲内に含まれる、さまざまな取り合わせを、当業者が案出できることが理解される。さらに、本明細書に記載される全ての実施例および条件付きの表現は、主として、本発明の原理と、当技術分野を前進させるために本発明者らが寄与した構想とを読者が理解することを支援することを意図するものであり、かつ、そのような具体的に記載される実施例および条件に限定されないと、解釈されるべきである。さらに、本発明の原理、局面、および態様を記載する、ならびにそれらの具体例を記載する、本明細書における全ての記述は、それらの構造的な等価物および機能的な等価物の両方を包含することを、意図する。加えて、そのような等価物は、現時点で既知の等価物および将来開発される等価物の両方を含むことを、すなわち、構造にかかわらず、同じ機能を実施する、開発されたいかなる要素をも含むことを、意図する。さらに、本明細書において開示されるいかなるものも、そのような開示が特許請求の範囲に明示的に記載されているかどうかにかかわらず、公衆に供されることが意図されるものではない。
【0107】
したがって、本発明の範囲は、本明細書において示されかつ説明されている例示的な態様に限定されることが意図されるものではない。むしろ、本発明の範囲および精神は、添付の特許請求の範囲によって具現化される。特許請求の範囲においては、「…のための手段(means for…)」との表現と完全に同じもの、または「…のためのステップ(step for…)」との表現と完全に同じものが、請求項における限定の冒頭に記載されている場合にのみ、請求項におけるそのような限定に35 U.S.C.§112(f)または35 U.S.C.§112(6)が適用される旨が、明示的に規定されており;そのような表現と完全に同じものが、請求項における限定に使用されていない場合には、35 U.S.C.§112(f)も35 U.S.C.§112(6)も適用されない。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8A
図8B
図8C
図9
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【国際調査報告】