IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ リジェネロン・ファーマシューティカルズ・インコーポレイテッドの特許一覧

特表2023-542820細胞培養成績を改善し、アスパラギン配列バリアントを軽減するためのアスパラギン供給戦略
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-10-12
(54)【発明の名称】細胞培養成績を改善し、アスパラギン配列バリアントを軽減するためのアスパラギン供給戦略
(51)【国際特許分類】
   C12N 1/00 20060101AFI20231004BHJP
   C12P 21/08 20060101ALI20231004BHJP
【FI】
C12N1/00 G
C12P21/08
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023513579
(86)(22)【出願日】2021-08-27
(85)【翻訳文提出日】2023-04-11
(86)【国際出願番号】 US2021047870
(87)【国際公開番号】W WO2022047108
(87)【国際公開日】2022-03-03
(31)【優先権主張番号】63/072,740
(32)【優先日】2020-08-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】63/072,745
(32)【優先日】2020-08-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】507302748
【氏名又は名称】リジェネロン・ファーマシューティカルズ・インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【弁理士】
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100188433
【弁理士】
【氏名又は名称】梅村 幸輔
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【弁理士】
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【弁理士】
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【弁理士】
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100214396
【弁理士】
【氏名又は名称】塩田 真紀
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【弁理士】
【氏名又は名称】川本 和弥
(72)【発明者】
【氏名】ベヌン-セラーノ サンドラ
(72)【発明者】
【氏名】ローレンス ショーン エム.
(72)【発明者】
【氏名】ジョンソン エイミー エス.
【テーマコード(参考)】
4B064
4B065
【Fターム(参考)】
4B064AG27
4B064CA19
4B064CC24
4B064CD13
4B064DA01
4B065AA90X
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065BD33
4B065CA25
4B065CA44
(57)【要約】
改善された細胞培養成績のための、真核細胞を培養するための方法が提供される。この方法は、概して、合成細胞培養培地において真核細胞を増殖又は維持する段階であって、初期フェドバッチ細胞培養中に約2.6mM~約43.2mM、及び後期フェドバッチ細胞培養中に約2.6mM~約21.6mMの量のアスパラギンを、合成細胞培養培地に補充する、増殖又は維持する段階と、当該細胞を、当該アスパラギン補充細胞培養培地中で、初期フェドバッチ細胞培養の少なくとも一部及び後期フェドバッチ細胞培養の少なくとも一部の間、維持する段階と、を含み、細胞培養成績は、初期及び/又は後期フェドバッチ細胞培養におけるアスパラギン補充の量がより少ない同様の方法と比較して、アスパラギン補充によって改善される。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
改善された細胞培養成績のための、真核細胞を培養するための方法であって、前記方法が、
合成細胞培養培地において真核細胞を増殖又は維持する段階であって、初期フェドバッチ細胞培養中に約3.6mM~約43.2mM、及び後期フェドバッチ細胞培養中に約3.6mM~約21.6mMの量のアスパラギンを、前記合成細胞培養培地に補充する、増殖又は維持する段階と、
前記細胞を、前記アスパラギン補充細胞培養培地中で、前記初期及び後期フェドバッチ細胞培養の少なくとも一部の間、維持する段階と
を含み、
初期及び/又は後期フェドバッチ細胞培養におけるアスパラギン補充の量がより少ないか、又はアスパラギン補充がない同様の方法と比較して、少なくとも1つの細胞培養成績パラメータが、前記アスパラギン補充によって改善される、前記方法。
【請求項2】
アスパラギンサプリメントが、初期及び/又は後期フェドバッチ細胞培養において、バルクフィードの一部として、又は別個のアスパラギンサプリメントフィードとして提供される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
アスパラギンサプリメントが、初期及び/又は後期フェドバッチ細胞培養において、継続的に、又はボーラスとして提供される、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
初期フェドバッチ細胞培養中に約7.2mM~約21.6mM、及び後期フェドバッチ細胞培養中に約3.6mM~約10.8mMの量のアスパラギンを、前記合成細胞培養培地に補充する、先行請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記フェドバッチ細胞培養中に前記真核細胞から目的の組換えタンパク質を発現させる段階を更に含む、先行請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記少なくとも1つの細胞培養成績パラメータが、細胞生存率の増加、細胞成長速度の増加、細胞密度の増加、前記目的の組換えタンパク質の力価の増加、前記目的の組換えタンパク質の収量の増加、前記細胞培養の少なくとも一部における必須アミノ酸の枯渇の低減、前記細胞培養の少なくとも一部における少なくとも1つの細胞培養副産物の形成の低減、及び少なくとも1つのタンパク質品質指標の改善からなる群から選択される、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記少なくとも1つの細胞培養副産物が、アンモニウムイオン及びアラニンからなる群から選択される、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記少なくとも1つのタンパク質品質指標が、タンパク質配列バリアントの低減である、請求項6に記載の方法。
【請求項9】
前記目的の組換えタンパク質の力価が、初期及び/又は後期フェドバッチ細胞培養においてより少ない量のアスパラギン補充で培養された細胞と比較した力価よりも、少なくとも3%、5%、8%、9%、10%、11%、12%、13%、14%、15%、又は少なくとも20%高い、請求項6に記載の方法。
【請求項10】
前記目的の組換えタンパク質の収量が、初期及び/又は後期フェドバッチ細胞培養においてより少ない量のアスパラギン補充で細胞が培養される同様の方法と比較して、少なくとも0.1g/L、少なくとも0.5g/L、少なくとも1g/L、少なくとも1.2g/L、少なくとも1.4g/L、少なくとも1.6g/L、少なくとも1.8g/L、少なくとも2g/L、少なくとも2.2g/L、少なくとも2.4g/L、又は少なくとも2.5g/L増加する、請求項6に記載の方法。
【請求項11】
細胞培養物が、前記後期フェドバッチ細胞培養の少なくとも一部の間に、少なくとも約10~50M個の細胞/mlの生存細胞数を維持する、請求項6に記載の方法。
【請求項12】
前記細胞が、少なくとも2日間、少なくとも3日間、少なくとも4日間、少なくとも5日間、又は前記初期及び/若しくは後期フェドバッチ細胞培養の期間中、アスパラギン補充細胞培養条件下で維持される、先行請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記アスパラギンサプリメントが、少なくとも1回、少なくとも2回、少なくとも3回、少なくとも4回、少なくとも5回、毎日、又は前記初期フェドバッチ細胞培養の少なくとも一部の間継続的に、提供される、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記アスパラギンサプリメントが、少なくとも1回、少なくとも2回、少なくとも3回、少なくとも4回、少なくとも5回、毎日、又は前記後期フェドバッチ細胞培養の少なくとも一部の間継続的に、提供される、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記アスパラギンサプリメントが、少なくとも2日間、少なくとも3日間、少なくとも4日間、少なくとも5日間、又は前記初期フェドバッチ細胞培養の期間中、継続的に提供される、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記アスパラギンサプリメントが、少なくとも2日間、少なくとも3日間、少なくとも4日間、少なくとも5日間、又は前記後期フェドバッチ細胞培養の期間中、継続的に提供される、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記アスパラギンサプリメントが、前記フェドバッチ細胞培養の5日目以降に開始して、その後、前記後期フェドバッチ細胞培養の少なくとも一部の間、継続的に提供される、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記継続的なアスパラギンサプリメントが、前記細胞培養の前記フェドバッチの10日目以降に中止される、請求項16に記載の方法。
【請求項19】
前記アスパラギンサプリメントが、初期及び/又は後期フェドバッチ細胞培養において継続的に提供される、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
前記アスパラギンサプリメントが、継続的なバルクフィードの一部として提供される、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記アスパラギンサプリメントが、別個の継続的なアスパラギンサプリメントフィードの一部として提供される、請求項19に記載の方法。
【請求項22】
前記細胞培養におけるアスパラギン、アスパラギン酸、及びグルタミン酸の細胞外アミノ酸枯渇が、初期及び/又は後期フェドバッチ細胞培養においてアスパラギン補充がボーラスフィードとして提供される同様の方法と比較して、少なくとも1日、少なくとも2日、少なくとも3日、又は少なくとも4日以上遅くなる、先行請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
前記真核細胞が、哺乳動物細胞である、先行請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項24】
前記真核細胞が、CHO細胞である、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記真核細胞が少なくとも約1.8mM/日~約9.3mM/日のアスパラギンを消費するように、前記細胞が高アスパラギン消費細胞株である、先行請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項26】
前記真核細胞が少なくとも約0.32mM/日~約1.8mM/日のアスパラギンを消費するように、前記細胞が低アスパラギン消費細胞株である、先行請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項27】
前記目的の組換えタンパク質が少なくとも4g/L、少なくとも5g/L、少なくとも6g/L、少なくとも7g/L、少なくとも8g/L、少なくとも9g/L、又は少なくとも10g/L、少なくとも11g/L、少なくとも12g/L、少なくとも13g/L、少なくとも14g/Lの収量で産生されるように、前記真核細胞が高産生細胞株である、先行請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項28】
前記目的の組換えタンパク質が、抗体、ヒト抗体、ヒト化抗体、キメラ抗体、モノクローナル抗体、多重特異性抗体、二重特異性抗体、抗原結合抗体断片、一本鎖抗体、ダイアボディ、トリアボディ又はテトラボディ、Fab断片又はF(ab’)2断片、IgD抗体、IgE抗体、IgM抗体、IgG抗体、IgG1抗体、IgG2抗体、IgG3抗体、又はIgG4抗体である、請求項5に記載の方法。
【請求項29】
前記目的の組換えタンパク質が、Fcドメインを含む、請求項5に記載の方法。
【請求項30】
前記目的の組換えタンパク質が、Fc-融合タンパク質、受容体-Fc-融合タンパク質(TRAP)、抗体、抗体断片、及びScFv-Fc融合タンパク質からなる群から選択される、請求項5に記載の方法。
【請求項31】
前記目的の組換えタンパク質が、抗PD1抗体、抗PDL-1抗体、抗Dll4抗体、抗ANG2抗体、抗AngPtl3抗体、抗PDGFR抗体、抗Erb3抗体、抗PRLR抗体、抗TNF抗体、抗EGFR抗体、抗PCSK9抗体、抗GDF8抗体、抗GCGR抗体、抗VEGF抗体、抗IL1R抗体、抗IL4R抗体、抗IL6R抗体、抗IL1抗体、抗IL2抗体、抗IL3抗体、抗IL4抗体、抗IL5抗体、抗IL6抗体、抗IL7抗体、抗RSV抗体、抗NGF抗体、抗CD3抗体、抗CD20抗体、抗CD19抗体、抗CD28抗体、抗CD48抗体、抗CD3/CD20二重特異性抗体、抗CD3/抗MUC16二重特異性抗体、及び抗CD3/抗PSMA二重特異性抗体からなる群から選択される、請求項5に記載の方法。
【請求項32】
前記目的の組換えタンパク質が、抗インフルエンザウイルス抗体、抗呼吸器合胞体ウイルス(RSV)抗体、抗中東呼吸器症候群(MERS)ウイルス、抗エボラウイルス抗体、抗ジカウイルス抗体、抗重症急性呼吸器症候群(SARS)抗体、及び抗COVID-19抗体からなる群から選択される、請求項5に記載の方法。
【請求項33】
前記目的の組換えタンパク質が、少なくとも1つのアリロクマブ、サリルマブ、ファシヌマブ、ネスバクマブ、デュピルマブ、トレボグルマブ、エビナクマブ、リヌクマブ、カシリビマブ、又はイムデビマブから選択される、請求項5に記載の方法。
【請求項34】
細胞培養において哺乳動物細胞から発現される目的のポリペプチドにおけるアスパラギン配列バリアントを防止するための方法であって、前記方法が、
合成細胞培養培地において哺乳動物細胞を増殖又は維持する段階であって、初期フェドバッチ細胞培養中に約3.6mM~約43.2mM、及び後期フェドバッチ細胞培養中に約3.6mM~約21.6mMの量のアスパラギンを、前記合成細胞培養培地に補充する、増殖又は維持する段階と、
前記細胞を、前記アスパラギン補充細胞培養培地中で、前記初期及び後期フェドバッチ細胞培養の少なくとも一部の間、前記目的のポリペプチドの発現に十分な条件下で維持する段階と
を含み、
前記哺乳動物細胞によって発現される前記目的のポリペプチドが全ての個々の配列バリアント遺伝子座において0.30%未満のアスパラギン配列バリアントを含むように、細胞外アスパラギンレベルが、前記細胞培養培地において少なくとも初期フェドバッチ細胞培養の間、約0.1mMの枯渇限界を超えて維持される、前記方法。
【請求項35】
前記哺乳動物細胞によって発現される前記目的のポリペプチドが、前記細胞培養の12日目の後、全ての個々の配列バリアント遺伝子座において0.30%未満のアスパラギン配列バリアントを含む、請求項34に記載の方法。
【請求項36】
アスパラギンサプリメントが、初期及び/又は後期フェドバッチ細胞培養において、バルクフィードの一部として、又は別個のアスパラギンサプリメントフィードとして提供される、請求項34又は35に記載の方法。
【請求項37】
アスパラギンサプリメントが、初期及び/又は後期フェドバッチ細胞培養において、継続的に、又はボーラスとして提供される、請求項34~36のいずれか一項に記載の方法。
【請求項38】
初期フェドバッチ細胞培養中に約7.2mM~約21.6mM、及び後期フェドバッチ細胞培養中に約3.6mM~約10.8mMの量のアスパラギンを、前記合成細胞培養培地に補充する、請求項34~37のいずれか一項に記載の方法。
【請求項39】
前記細胞が、少なくとも2日間、少なくとも3日間、少なくとも4日間、少なくとも5日間、又は前記初期及び/若しくは後期フェドバッチ細胞培養の期間中、アスパラギン補充細胞培養条件下で維持される、請求項34~38のいずれか一項に記載の方法。
【請求項40】
前記アスパラギンサプリメントが、少なくとも1回、少なくとも2回、少なくとも3回、少なくとも4回、少なくとも5回、毎日、又は前記初期フェドバッチ細胞培養の少なくとも一部の間継続的に、提供される、請求項34~38のいずれか一項に記載の方法。
【請求項41】
前記アスパラギンサプリメントが、少なくとも1回、少なくとも2回、少なくとも3回、少なくとも4回、少なくとも5回、毎日、又は前記後期フェドバッチ細胞培養の少なくとも一部の間継続的に、提供される、請求項34~38のいずれか一項に記載の方法。
【請求項42】
前記アスパラギンサプリメントが、少なくとも2日間、少なくとも3日間、少なくとも4日間、少なくとも5日間、又は前記初期フェドバッチ細胞培養の期間中、継続的に提供される、請求項34~38のいずれか一項に記載の方法。
【請求項43】
前記アスパラギンサプリメントが、少なくとも2日間、少なくとも3日間、少なくとも4日間、少なくとも5日間、又は前記後期フェドバッチ細胞培養の期間中、継続的に提供される、請求項34~38のいずれか一項に記載の方法。
【請求項44】
前記アスパラギンサプリメントが、前記フェドバッチ細胞培養の5日目以降に開始して、その後、前記後期フェドバッチ細胞培養の少なくとも一部の間、継続的に提供される、請求項43に記載の方法。
【請求項45】
前記継続的なアスパラギンサプリメントが、前記細胞培養の前記フェドバッチの10日目以降に中止される、請求項43に記載の方法。
【請求項46】
前記アスパラギンサプリメントが、初期及び/又は後期フェドバッチ細胞培養において継続的に提供される、請求項34~38のいずれか一項に記載の方法。
【請求項47】
前記アスパラギンサプリメントが、継続的なバルクフィードの一部として提供される、請求項46に記載の方法。
【請求項48】
前記アスパラギンサプリメントが、別個の継続的なアスパラギンサプリメントフィードの一部として提供される、請求項46に記載の方法。
【請求項49】
前記アスパラギン配列バリアントが、前記目的のポリペプチドの翻訳中の、アスパラギンの代わりのセリンの誤取り込みである、請求項34~48のいずれか一項に記載の方法。
【請求項50】
細胞培養において哺乳動物細胞から発現される目的のポリペプチドにおけるアスパラギン配列バリアントを検出するための方法であって、
合成細胞培養培地において哺乳動物細胞を増殖又は維持する段階と、
前記真核細胞から目的の組換えタンパク質を発現させる段階と、
前記細胞培養又は合成細胞培養培地におけるアスパラギン又は1つ以上のアスパラギン関連アミノ酸の細胞内及び/又は細胞外濃度を測定する段階と、
前記アスパラギン又は1つ以上のアスパラギン関連アミノ酸の測定された濃度を、前記発現した目的のポリペプチドにおけるアスパラギン配列バリアントの存在と相関させる段階と
を含む、方法。
【請求項51】
前記アスパラギン又は前記1つ以上のアスパラギン関連アミノ酸の測定された濃度が、前記アスパラギン配列バリアントの存在と逆相関する、請求項50に記載の方法。
【請求項52】
初期フェドバッチ細胞培養中に約3.6mM~約43.2mM、及び後期フェドバッチ細胞培養中に約3.6mM~約21.6mMの量のアスパラギンを、前記合成細胞培養培地に補充し、前記細胞が、前記アスパラギン補充細胞培養培地中で、前記初期及び後期フェドバッチ細胞培養の少なくとも一部の間、維持される、請求項50又は51に記載の方法。
【請求項53】
前記1つ以上のアスパラギン関連アミノ酸が、アスパラギン酸(Asp)、グルタミン酸(Glu)、グルタミン(Gln)、及びそれらの組み合わせから選択される、請求項50~52のいずれか一項に記載の方法。
【請求項54】
前記1つ以上のアスパラギン関連アミノ酸が、グルタミン酸(Glu)である、請求項53に記載の方法。
【請求項55】
前記1つ以上のアスパラギン関連アミノ酸が、後期フェドバッチ細胞培養中に測定され得る、請求項50~54のいずれか一項に記載の方法。
【請求項56】
前記1つ以上のアスパラギン関連アミノ酸が、前記細胞培養の5日後、6日後、7日後、8日後、9日後、又は10日後に測定され得る、請求項55に記載の方法。
【請求項57】
前記1つ以上のアスパラギン関連アミノ酸が、細胞内で測定される、請求項50~56のいずれか一項に記載の方法。
【請求項58】
前記1つ以上のアスパラギン関連アミノ酸が、細胞外で測定される、請求項50~57のいずれか一項に記載の方法。
【請求項59】
1つ以上の細胞培養パラメータを監視及び制御するための方法であって、
凝固点降下、電気化学、デジタルイメージング、光度測定、生体プロセス分析器、又はラマン分光法の1つ以上を使用して、細胞培養物における1つ以上の細胞培養パラメータをインサイチュで測定する段階と、
前記測定された1つ以上の細胞培養パラメータを、前記細胞培養パラメータに関する所定の設定値と比較して、前記1つ以上の細胞培養パラメータが所定の閾値範囲内にあるかどうかを判定する段階と、
細胞培養パラメータが前記所定の閾値範囲外であると判定される場合、前記細胞培養パラメータのうちの1つ以上を調整する段階と
を含む、方法。
【請求項60】
前記1つ以上の細胞培養パラメータが、細胞成長速度、細胞密度、細胞生存率、アスパラギン濃度、アスパラギン関連アミノ酸濃度、アンモニウムイオン濃度、及びアラニン濃度からなる群から選択される、請求項59に記載の方法。
【請求項61】
前記1つ以上の細胞培養パラメータが、アスパラギン濃度及びアンモニウムイオン濃度から選択される、請求項59に記載の方法。
【請求項62】
アンモニウムイオン濃度が所定の閾値範囲外であると判定される場合、アスパラギンフィード入力が調整される、請求項61に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2020年8月31日に出願された米国仮出願第63/072,740号、及び2020年8月31日に出願された米国仮出願第63/072,745号の出願日の恩典を主張し、その内容は、全ての目的のためにその全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
発明の分野
本発明は、細胞培養成績を改善するための、細胞を培養する方法に関する。本発明は、具体的には、アスパラギン補充を使用する、細胞培養成績を改善し、アスパラギン配列バリアントを軽減するための、細胞を培養する方法、及びタンパク質バイオ医薬品の産生のための方法に関する。
【背景技術】
【0003】
発明の背景
生物学的作用物質、特にタンパク質及びポリペプチドは、新規のバイオ医薬品として開発されることが多々ある。高レベルの特定の目的のタンパク質を産生する操作された細胞は、これらのバイオ医薬品の商業的産生を成功させるために極めて重要になっている。細胞培養条件の制御及び最適化は、様々であり、細胞培養において産生される治療用タンパク質のレベル及び品質に大きな影響を与える。
【0004】
バッチ又はフェドバッチプロセスで細胞培養を介してタンパク質を製造することが慣例である。バイアル解凍後の接種材料の成長の初期段階には、種培養における細胞の培養が含まれる。典型的には、細胞集団のサイズ及び/又は体積を漸進的に増加させるために、細胞は、シードトレインバイオリアクターなどにおいて指数的成長速度で成長させる。細胞質量がいくつかのバイオリアクター段階を通してスケールアップされた後、細胞は次いで、細胞がまだ指数関数的成長(対数期)にある間に、フェドバッチ産生バイオリアクターに移される(Gambhir,A.et al.,2003,J Bioscience Bioeng 95(4):317-327(非特許文献1))。
【0005】
フェドバッチ培養への移行後、細胞は、一定期間培養され、その一方で、培地の組成物は、目的のタンパク質又はポリペプチドの産生を可能にするように監視及び制御される。特定の収量に達した後、又は細胞の生存率、廃棄物の蓄積、若しくは栄養素の枯渇により、培養が終了するべきであると判断された後、産生されたタンパク質又はポリペプチドは、単離される。過去10年間で、組換えタンパク質の収量を改善することを意図する多くの重要な進歩がなされており、収量は、現在、1リットル当たり数グラムの力価に達している。タンパク質製造プロセス、並びに細胞株工学、並びに細胞培養培地及びフィード開発の進歩は、タンパク質収量の向上に貢献している。例えば、細胞培養培地及びフィードを最適化するためのスキームは、栄養素補充、並びに継続的な細胞成長及び最適な産生物の分泌をサポートするための既知組成の無血清培地の設計を含む。
【0006】
しかしながら、培地により、健全かつ堅牢な細胞成長及び維持、並びに組換えタンパク質の高力価産生が可能になる、細胞を培養するための培地及び方法が、当該技術分野において依然として必要である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Gambhir,A.et al.,2003,J Bioscience Bioeng 95(4):317-327
【発明の概要】
【0008】
一態様では、改善された細胞培養成績のための、真核細胞を培養するための方法が提供される。この方法は、概して、合成細胞培養培地において真核細胞を増殖又は維持する段階であって、初期フェドバッチ細胞培養中に約3.6mM~約43.2mM、及び後期フェドバッチ細胞培養中に約3.6mM~約21.6mMの量のアスパラギンを、合成細胞培養培地に補充する、増殖又は維持する段階と、当該細胞を、当該アスパラギン補充細胞培養培地中で、初期フェドバッチ細胞培養の少なくとも一部及び後期フェドバッチ細胞培養の少なくとも一部の間、維持する段階と、を含み、初期及び/又は後期フェドバッチ細胞培養におけるアスパラギン補充の量がより少ないか、又はアスパラギン補充がない同様の方法と比較して、少なくとも1つの細胞培養成績パラメータが、アスパラギン補充によって改善される。
【0009】
ある特定の実施形態では、アスパラギンサプリメントは、ボーラスフィードサプリメント(例えば、初期フェーズ中に1つのボーラスフィードサプリメント、及び後期フェーズ中に1つのボーラスフィードサプリメント)、細胞培養の少なくとも一部にわたって複数のボーラスフィードサプリメント(例えば、初期フェーズ中2、3、4、又は5つのボーラスフィードサプリメント、及び後期フェーズ中に2、3、4、又は5つのボーラスフィードサプリメント)、又は細胞培養の少なくとも一部にわたって継続的に、細胞培養(初期フェーズ及び後期フェーズの両方)に提供され得る。
【0010】
ある特定の実施形態では、少なくとも1つの細胞培養成績パラメータは、細胞生存率の増加、細胞成長速度の増加、細胞密度の増加、目的の組換えタンパク質の力価の増加、目的の組換えタンパク質の収量の増加、細胞培養の少なくとも一部における必須アミノ酸の枯渇の低減、細胞培養の少なくとも一部における少なくとも1つの細胞培養副産物の形成の低減、及び少なくとも1つのタンパク質品質指標の改善からなる群から選択される。ある特定の実施形態では、少なくとも1つの細胞培養副産物は、アンモニウムイオン及びアラニンからなる群から選択される。ある特定の実施形態では、少なくとも1つのタンパク質品質指標は、タンパク質配列バリアントの低減である。
【0011】
ある特定の実施形態では、真核細胞は、哺乳動物細胞、鳥類細胞、昆虫細胞、又は酵母細胞であり得る。特定の実施形態では、真核細胞は、CHO細胞であってもよい。他の実施形態では、組換えタンパク質は、Fc-融合タンパク質、受容体-Fc-融合タンパク質(TRAP)、抗体、抗体断片、又はScFv-Fc-融合タンパク質から選択されてもよい。
【0012】
他の態様では、細胞培養において哺乳動物細胞から発現される目的のポリペプチドにおけるアスパラギン配列バリアントを防止するための方法が提供される。ある特定の実施形態では、この方法は、合成細胞培養培地において哺乳動物細胞を増殖又は維持する段階であって、初期フェドバッチ細胞培養中に約3.6mM~約43.2mM、及び後期フェドバッチ細胞培養中に約3.6mM~約21.6mMの量のアスパラギンを、合成細胞培養培地に補充する、増殖又は維持する段階と、当該細胞を、当該アスパラギン補充細胞培養培地中で、初期及び後期フェドバッチ細胞培養の少なくとも一部の間、目的のポリペプチドの発現に十分な条件下で維持する段階と、を含む ある特定の実施形態では、哺乳動物細胞によって発現される目的のポリペプチドが、全ての個々の配列バリアント遺伝子座において、0.30%未満のアスパラギン配列バリアントを含むように、細胞外アスパラギンレベルは、細胞培養培地において少なくとも初期フェドバッチ細胞培養の間、約0.1mMの枯渇限界を超えて維持される。
【0013】
他の態様では、細胞培養において真核細胞から発現される目的の組換えポリペプチドにおけるアスパラギン配列バリアントを検出するための方法が提供される。ある特定の実施形態では、この方法は、合成細胞培養培地において真核細胞を増殖又は維持する段階と、真核細胞から目的の組換えタンパク質を発現させる段階と、合成細胞培養培地における1つ以上のアスパラギン関連アミノ酸の細胞内及び/又は細胞外濃度を測定する段階と、1つ以上のアスパラギン関連アミノ酸の測定された濃度を、発現した目的の組換えタンパク質中に存在するアスパラギン配列バリアントの量と相関させる段階と、を含み得る。1つ以上のアスパラギン関連アミノ酸の測定された濃度は、アスパラギン配列バリアントの量と逆相関する。
【0014】
更に他の態様では、細胞培養培地条件を監視及び制御するための方法が提供される。この方法は、概して、凝固点降下、電気化学、デジタルイメージング、光度測定、生体プロセス分析器、又はラマン分光法の1つ以上を使用して、細胞培養物における1つ以上の細胞培養パラメータをインサイチュで測定することを使用して、細胞培養物における1つ以上の細胞培養パラメータを測定する段階と、測定された1つ以上の細胞培養パラメータを、細胞培養パラメータに関する所定の設定値と比較して、1つ以上の細胞培養パラメータが所定の閾値範囲内にあるかどうかを判定する段階と、細胞培養パラメータが所定の閾値範囲外であると判定される場合、細胞培養パラメータのうちの1つ以上を調整する段階と、を含む。ある特定の実施形態では、アンモニウムイオン濃度が監視され得、アンモニウムイオン濃度が特定の細胞培養物に関する所定の閾値範囲外であると判定される場合、アスパラギンサプリメントフィードは、細胞培養物が適切なアスパラギンを依然として受け取りながらより少ないアンモニウムを産生するように、調整され得る。
【0015】
複数の実施形態が開示されているが、本開示の更に他の実施形態が、本開示の例示的な実施形態を示し、説明する以下の詳細な説明から当業者には明らかとなるであろう。実現されるように、本発明は、本開示の要旨及び範囲から逸脱することなく、様々な態様全てにおける修正が可能である。したがって、詳細な説明は、本質的に例示的であり、限定的ではないとみなされるべきである。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1Aは、標準的な供給戦略を用いたフェドバッチ細胞培養中の細胞外必須アミノ酸消費を示し、一方、図1Bは、標準的な供給戦略を用いたフェドバッチ細胞培養中のアスパラギンの消費を示す。
図2】本開示の実施形態による、様々な供給戦略を使用した、フェドバッチ細胞培養中の細胞外アミノ酸(図2A)及びアスパラギン(図2B)消費を示す。
図3A】本開示の実施形態による、低、中、及び高量のサプリメントを有する一連の初期フェドバッチアスパラギンサプリメントを示す。
図3B】本開示の実施形態による、アスパラギンサプリメントの量の増加に伴う細胞培養成長の増加を示す。
図3C】本開示の実施形態による、アスパラギンサプリメントの増加に伴う細胞培養力価の増加を示す。
図4図4Aは、本開示の実施形態による、後期フィードにおける低及び高アスパラギンサプリメントを示す。本開示の実施形態に従って、図4Cは、全体的な細胞培養産生性が負の影響を受けないことを示し、一方、図4Bは、副産物形成の増加を示す。
図5A】本開示の実施形態による、改善されたアスパラギン補充供給戦略を示す。本開示の実施形態に従って、図5Aは、フェドバッチ細胞培養における細胞外必須アミノ酸濃度を示す。
図5B】本開示の実施形態による、改善されたアスパラギン補充供給戦略を示す。本開示の実施形態に従って、図5Bは、フェドバッチ細胞培養における細胞外アスパラギン濃度を示す。
図5C】本開示の実施形態による、改善されたアスパラギン補充供給戦略を示す。本開示の実施形態に従って、図5Cは、細胞培養成長の増加を示す。
図5D】本開示の実施形態による、改善されたアスパラギン補充供給戦略を示す。本開示の実施形態に従って、図5Dは、細胞培養力価の増加を示す。
図5E】本開示の実施形態による、別の例示的な細胞株におけるアスパラギンサプリメントの後の細胞力価を示す。
図5F】本開示の実施形態による、別の例示的な細胞株におけるアスパラギンサプリメントの後の生存細胞数を示す。
図5G】本開示の実施形態による、別の例示的な細胞株におけるアスパラギンサプリメントの後の細胞生存率を示す。
図6】本開示の実施形態に従って、図6Aは、初期フェドバッチ細胞培養におけるアスパラギンサプリメントの後のアスパラギン消費を示し、一方、図6Bは、後期フェドバッチ細胞培養におけるアスパラギンサプリメントの後のアスパラギン消費を示す。
図7】本開示の実施形態による、例示的な高消費細胞株のためのアスパラギン供給戦略の範囲にわたるアスパラギン消費速度を示す。
図8】アスパラギン酸及びグルタミン酸を利用するアスパラギンの合成経路を示す。
図9】本開示の実施形態による、例示的な高消費細胞株の後期フェドバッチ細胞培養におけるアスパラギンレベルの効果を示し、図9A~9Bは、細胞外アスパラギン(図9A)及び細胞外グルタミン酸(図9B)濃度を示し、図9C~9Dは、細胞内アスパラギン(図9C)及び細胞内グルタミン酸(図9D)濃度を示す。
図10】本開示の実施形態による、別の例示的な高消費細胞株の後期フェドバッチ細胞培養におけるアスパラギンレベルの効果を示し、図10A~10Bは、細胞外アスパラギン(図10A)及び細胞外グルタミン酸(図10B)濃度を示し、図10C~10Dは、細胞内アスパラギン(図10C)及び細胞内グルタミン酸(図10D)濃度を示す。
図11】本開示の実施形態による、例示的な高消費細胞株の後期フェドバッチ細胞培養におけるアスパラギンレベルの効果を示し、図11A~11Bは、細胞外アスパラギン(図11A)及び細胞外グルタミン酸(図11B)濃度を示し、図11C~11Dは、細胞内アスパラギン(図11C)及び細胞内グルタミン酸(図11D)濃度を示す。
図12】本開示の実施形態による、後期フェドバッチ細胞培養における高い(初期3倍、後期1.5倍)及び非常に高い(初期6倍、後期3倍)アスパラギンレベルの効果を示し、図12Aは、アスパラギン濃度を示し、図12Bは、アスパラギン酸濃度を示し、図12Cは、力価を示し、図12Dは、グルタミン酸濃度を示し、図12Eは、グルタミン濃度を示し、図12Fは、アンモニウム濃度を示す。
図13-1】本開示の実施形態による、ボーラス及び継続的なアスパラギンフィードの効果を示し、図13Aは、生存細胞数を示し、図13Bは、力価を示し、図13Cは、アンモニウム形成を示し、図13Dは、アラニン形成を示す。
図13-2】本開示の実施形態に従って、継続的なアスパラギンサプリメントフィードは、同じ総アスパラギンサプリメント量を有するボーラスアスパラギンサプリメントフィードと比較して、細胞外アスパラギンの枯渇(図13E)、アスパラギン酸の枯渇(図13F)、及びグルタミン酸の枯渇(図13G)を遅らせることを示す。
図14】本開示の実施形態による、ボーラス及び継続的なアスパラギンフィードの効果を示す。図14Aは、アスパラギンの消費量を示すが、図14B~14Cは、アスパラギン関連代謝物(アスパラギン酸、図14B、及びグルタミン酸、図14C)の消費を示す。図14Dは、細胞培養副産物、アンモニウムの形成を示す。
図15】本開示の実施形態による、例示的な細胞株におけるハイブリッド供給アプローチ(ボーラスアスパラギンサプリメントフィードと組み合わせた継続的なアスパラギンサプリメントフィード)を示し、図15Aは、細胞外アスパラギンを示し、図15Bは、細胞外アスパラギン酸を示し、図15Cは細胞外グルタミン酸を示し、図15Dは、生存細胞数を示し、図15Eは、力価を示し、図15Fは、アンモニウム形成を示し、図15Gは、アラニン形成を示す。
図16】本開示の実施形態による、別の例示的な細胞株におけるハイブリッド供給アプローチ(ボーラスアスパラギンサプリメントフィードと組み合わせた継続的なアスパラギンサプリメントフィード)を示し、図16Aは、細胞外アスパラギンを示し、図16Bは、生存細胞数を示し、図16Cは、力価を示し、図16Dは、アンモニウム形成を示し、図16Eは、アラニン形成を示す。
図17】本開示の実施形態に従って、図17Aは、アスパラギン供給戦略に従ったフェドバッチ細胞培養におけるアスパラギン消費を示し、図17Bは、アスパラギン配列バリアントの形成の軽減を示す。
図18】本開示の実施形態による、アスパラギン供給戦略に従ったフェドバッチ細胞培養におけるアスパラギン消費量を示す。本開示の実施形態に従って、図18Bは、細胞内グルタミン酸レベルを示し、図18Cは、アスパラギン配列バリアントの形成の軽減を示す。
図19】本開示の実施形態による、例示的な細胞株に関するアスパラギン、アスパラギン関連アミノ酸、及びアスパラギン配列バリアントの間の相関関係を示す。図19B~19Dは、細胞外アスパラギン(図19B)、アスパラギン酸(図19C)、及びグルタミン酸(図19D)を示すが、図19E~19Gは、例示的な細胞内アスパラギン(図19E)、アスパラギン酸(図19F)、及びグルタミン酸(図19G)を示す。
図20】本開示の実施形態による、別の例示的な細胞株(高消費細胞株)に関するアスパラギン、アスパラギン関連アミノ酸、及びアスパラギン配列バリアントの間の相関関係を示す。図20B~20Dは、細胞外アスパラギン(図20B)、細胞内アスパラギン酸(図20C)、及び細胞内グルタミン酸(図20D)を示す。
図21A】本開示の実施形態による、例示的な細胞株に関するアスパラギン配列バリアント傾向を示す。図21Aは、高アスパラギン初期供給戦略を示す(図21A、質量分析によって決定される配列バリアントの量)。
図21B】本開示の実施形態による、例示的な細胞株に関するアスパラギン配列バリアント傾向を示す。図21Bは、低アスパラギン初期供給戦略を示す(図21B、質量分析によって決定される配列バリアントの量)。
図21C】本開示の実施形態による、例示的な細胞株に関するアスパラギン配列バリアント傾向を示す。図21Cは、高アスパラギン初期供給戦略を示す(図21C、細胞内グルタミン酸の濃度)。
図21D】本開示の実施形態による、例示的な細胞株に関するアスパラギン配列バリアント傾向を示す。図21Dは、低アスパラギン初期供給戦略を示す(図21D、細胞内グルタミン酸の濃度)。
図21E】本開示の実施形態による、例示的な細胞株に関するアスパラギン配列バリアント傾向を示す。図21Eは、1つの例示的な細胞株に関する細胞内グルタミン酸レベルを示す。
図21F】本開示の実施形態による、例示的な細胞株に関するアスパラギン配列バリアント傾向を示す。図21Fは、別の例示的な細胞株に関する細胞内グルタミン酸のプロファイルを示す。
図22】例示的な細胞株に関するアスパラギン、アスパラギン関連アミノ酸、及びアスパラギン配列バリアントの相関関係を示す。図22A~22Dは、高及び低アスパラギン供給戦略のための例示的な細胞株に関する細胞外アスパラギン(図22A)、細胞外アスパラギン酸(図22B)、細胞外グルタミン酸(図22C)、及び細胞外グルタミン(図22D)を示す。図22E~22Hは、高及び低アスパラギン供給戦略のための別の例示的な細胞株に関する細胞外アスパラギン(図22E)、細胞外アスパラギン酸(図22F)、細胞外グルタミン酸(図22G)、及び細胞外グルタミン(図22H)を示す。
図23】細胞外グルタミンが、後期フェドバッチ細胞培養において、アスパラギン配列バリアントの代理として機能することができることを更に例示する。図23Aは、例示的な細胞株における高アスパラギン供給戦略を介したグルタミン産生を示す。同様に、図23Bは、例示的な細胞株における高アスパラギン供給戦略を介したグルタミン産生を示す。最後に、図23Cは、6日目及び8日目にアスパラギンを補充しない場合、アスパラギン配列バリアントが検出され、細胞外グルタミンが枯渇限界を下回る(すなわち、不十分なグルタミンがアスパラギン供給戦略を介して産生される)ことを示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
発明の詳細な説明
本開示の態様によれば、最適化されたアスパラギン供給戦略を用いて細胞培養操作を実行することは、かかる最適化されたアスパラギン供給戦略なしでの細胞培養操作と比較して、細胞培養における細胞成長の改善及び細胞によるタンパク質産生の改善を含む、細胞培養成績を改善することができることが予想外に見出された。
【0018】
非限定的な例として、細胞培養成績の改善は、細胞成長速度、細胞密度、細胞生存率、タンパク質産生、細胞成長副産物の産生(例えば、アンモニウムイオン濃度、アラニン濃度など)、及びそれらの様々な組み合わせの評価によって判定され得る。改善は、本明細書に開示されるように、最適化されたアスパラギン供給戦略なしの細胞培養操作と比較して評価され得る。
【0019】
アスパラギンは非必須アミノ酸であり、しばしば培養中に細胞によって高レベルで消費され、これは、細胞培養代謝において中心的な役割を果たす。本開示のある特定の態様では、フェドバッチ細胞培養の細胞培養成績におけるアスパラギンの役割は、細胞内及び細胞外アスパラギン及び関連代謝物の代謝調査とともに調査された。
【0020】
図1A及び1Bに示されるように、細胞外必須アミノ酸(図1A)は、フェドバッチ細胞培養の終わりに高度に消費され、大部分は枯渇することがわかったが、非必須アミノ酸である細胞外アスパラギン(図1B)は、標準的なボーラスアスパラギン供給戦略に従うフェドバッチ細胞培養のタイムライン全体で枯渇する。
【0021】
本開示の実施形態は、細胞培養成績を改善しながら、アスパラギンサプリメントを利用して、アミノ酸枯渇を最小限に抑え、遅らせ、かつ防止する細胞培養方法を対象とする。例えば、図2A~2Bを参照すると、細胞外必須アミノ酸枯渇は、必須アミノ酸補充によって防止できることがわかった(図2A)が、フェドバッチ細胞培養の産生フェーズの成長フェーズ(初期段階)及び固定/崩壊フェーズ(後期段階)中のアスパラギン補充の量が多いと、例示的な高産生細胞株における細胞外アスパラギン枯渇が防止されず、アスパラギン消費率が化学量論的要求を超えることが示唆された(図2B)。したがって、本開示の実施形態によれば、フェドバッチ細胞培養の初期段階、成長フェーズ及び後期段階、固定/崩壊フェーズの間及びその後のアスパラギン補充の影響を評価して、本明細書に記載されるように、バランスの取れたアスパラギン供給戦略を選択した。
【0022】
本明細書で使用されるセクションの見出しは、構成の目的のためにのみ使用され、記載される主題を限定するものとして解釈されるべきではない。本明細書に記載の方法及び技術は、概して、別段の指示がない限り、当技術分野で知られている従来の方法に従って、かつ本明細書全体で引用され、議論される様々な一般的及びより具体的な参考文献に記載されているように行われる。例えば、Sambrook et al.,Molecular Cloning:A Laboratory Manual,3rd ed.,Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,N.Y.(2001)、及びAusubel et al.,Current Protocols in Molecular Biology,Greene Publishing Associates(1992)、Harlow and Lane Antibodies:A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,N.Y.(1990)、及びJulio E.Celis,Cell Biology:A Laboratory Handbook,2nd ed.,Academic Press,New York,N.Y.(1998)、及びDieffenbach and Dveksler,PCR Primer:A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,N.Y.(1995)を参照されたい。本開示全体で言及されている全ての刊行物は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0023】
定義
別途定義されない限り、本明細書で使用される全ての技術用語及び科学用語は、本発明が属する技術分野の当業者によって一般的に理解されているものと同じ意味を有する。本明細書に説明されるものと同様又は同等の任意の方法及び材料が本発明の実施において使用され得るが、特定の方法及び材料をこれから説明する。
【0024】
「ペプチド」、「ポリペプチド」、及び「タンパク質」という用語は、全体を通して交換可能に使用され、ペプチド結合によって互いに結合された2つ以上のアミノ酸残基を含む分子を指す。ペプチド、ポリペプチド、及びタンパク質はまた、グリコシル化、脂質付着、硫酸化、グルタミン酸残基のガンマ-カルボキシル化、アルキル化、ヒドロキシル化、及びADP-リボシル化などの修飾を含み得る。ペプチド、ポリペプチド、及びタンパク質は、タンパク質ベースの薬物を含む、科学的又は商業的関心のあるものであり得る。ペプチド、ポリペプチド、及びタンパク質は、とりわけ、抗体、及びキメラ又は融合タンパク質を含む。ペプチド、ポリペプチド、及びタンパク質は、細胞培養方法を使用して組換え動物細胞株によって産生される。
【0025】
本明細書で使用される場合、「異種ポリヌクレオチド配列」という用語は、バイオ医薬品原薬物質として産生されるキメラタンパク質(トラップ分子のような)、抗体、又は抗体部分(例えば、VH、VL、CDR3)などの目的のタンパク質をコードする核酸ポリマーを指す。異種のポリヌクレオチド配列は、遺伝子操作技術(例えば、キメラタンパク質をコードする配列、又はコドン最適化配列、イントロンなしの配列など)によって製造され、それがエピソームとして存在し得るか、又は細胞のゲノムに組み込まれ得る、細胞に導入され得る。異種ポリヌクレオチド配列は、産生細胞ゲノム内の異所性部位に導入される天然に存在する配列であり得る。異種ポリペプチド配列は、ヒトオルソログをコードする配列など、別の生物由来の天然に存在する配列であり得る。
【0026】
「抗体」は、ジスルフィド結合によって相互接続された4本のポリペプチド鎖、2本の重(H)鎖及び2本の軽(L)鎖からなる免疫グロブリン分子を指す。各重鎖は、重鎖可変領域(HCVR又はVH)及び重鎖定常領域を有する。重鎖定常領域は、3つのドメイン、CH1、CH2及びCH3を含有する。各軽鎖は、軽鎖可変領域及び軽鎖定常領域を有する。軽鎖定常領域は、1つのドメイン(CL)からなる。VH領域及びVL領域は、フレームワーク領域(FR)と呼ばれる、より保存された領域が点在する相補性決定領域(CDR)と呼ばれる超可変の領域へと更に細分することができる。各VH及びVLは、アミノ末端からカルボキシ末端へ、以下の順序:FR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、FR4で配置された3つのCDR及び4つのFRで構成される。「抗体」という用語は、任意のアイソタイプ又はサブクラスのグリコシル化及び非グリコシル化免疫グロブリンの両方への言及を含む。「抗体」という用語は、抗体を発現させるようにトランスフェクトされた宿主細胞から単離された抗体など、組換え手段によって調製、発現、作成、又は単離された抗体分子を含む。「抗体」という用語はまた、2つ以上の異なるエピトープに結合することができるヘテロ四量体免疫グロブリンを含む、二重特異性抗体を含む。二重特異性抗体は、概して、本出願に参照により組み込まれる米国特許出願公開第2010/0331527号に記載される。
【0027】
抗体の「抗原結合部分」(又は「抗体断片」)という用語は、抗原に特異的に結合する能力を保持する抗体の1つ以上の断片を指す。抗体の「抗原結合部分」という用語内に包含される結合断片の例としては、(i)VL、VH、CL、及びCH1ドメインからなる一価断片であるFab断片、(ii)ヒンジ領域でジスルフィド架橋によって連結された2つのFab断片を含む二価断片であるF(ab′)2断片、(iii)VH及びCH1ドメインからなるFd断片、(iv)抗体の単一アームのVL及びVHドメインからなるFv断片、(v)VHドメインからなるdAb断片(Ward et al.(1989)Nature 241:544-546)、(vi)単離されたCDR、及び(vii)VL及びVHが一価分子を形成するために対になる単一タンパク鎖を形成するために、合成リンカーによって接合される、Fv断片の2つのドメイン、VL及びVHからなるscFv断片が挙げられる。ダイアボディなどの他の形態の一本鎖抗体もまた、「抗体」という用語の下に包含される(例えば、Holliger et al.(1993)PNAS USA 90:6444-6448、Poljak et al.(1994)Structure 2:1121-1123を参照されたい)。
【0028】
更に、抗体又はその抗原結合部分は、抗体又は抗体部分の、1つ以上の他のタンパク質又はペプチドとの共有又は非共有会合によって形成される、より大きな免疫付着分子の一部であり得る。かかる免疫付着分子の例としては、四量体scFv分子を作製するためのストレプトアビジンコア領域の使用(Kipriyanov et al.(1995)Human Antibodies and Hybridomas 6:93-101)、及び二価及びビオチン化scFv分子を作製するためのシステイン残基、マーカーペプチド、及びC末端ポリヒスチジンタグの使用(Kipriyanov et al.(1994)Mol.Immunol.31:1047-1058)が挙げられる。Fab及びF(ab’)2断片などの抗体部分は、全抗体のパパイン又はペプシン消化を介するなどの従来の技術を使用して、全抗体から調製され得る。また、抗体、抗体部分、及び免疫付着分子は、当該技術分野で一般的に知られている標準的な組換えDNA技術を使用して得ることができる(Sambrook et al.,1989を参照されたい)。
【0029】
「ヒト抗体」という用語は、ヒト生殖系列免疫グロブリン配列に由来する可変領域及び定常領域を有する抗体を含むことを意図する。本発明のヒト抗体は、例えば、CDR、特にCDR3における、ヒト生殖系列免疫グロブリン配列(例えば、インビトロでのランダム若しくは部位特異的変異産生によってか、又はインビボでの体細胞変異によって導入された変異)によってコードされないアミノ酸残基を含み得る。しかしながら、本明細書で使用される場合、「ヒト抗体」という用語は、別の哺乳動物種(例えば、マウス)の生殖系列に由来するCDR配列が、ヒトフレームワーク配列へと移植された抗体を含むことを意図するものではない。
【0030】
本明細書で使用される場合、「組換えヒト抗体」という用語は、宿主細胞にトランスフェクトされた組換え発現ベクターを使用して発現された抗体などの、組換え手段によって調製、発現、作成、若しくは単離される全てのヒト抗体、組換えコンビナトリアルヒト抗体ライブラリから単離された抗体、ヒト免疫グロブリン遺伝子にトランスジェニックである動物(例えば、マウス)から単離された抗体(例えば、Taylor et al.(1992)Nucl.Acids Res.20:6287-6295を参照されたい)、又はヒト免疫グロブリン遺伝子配列の、他のDNA配列へのスプライシングを含む任意の他の手段によって調製、発現、作成、若しくは単離された抗体を含むように意図される。かかる組換えヒト抗体は、ヒト生殖系列免疫グロブリン配列に由来する可変領域及び定常領域を有する。しかしながら、ある特定の実施形態では、かかる遺伝子組換えヒト抗体は、インビトロでの変異産生(又は、ヒトIg配列にトランスジェニックな動物が使用される場合、インビボでの体細胞の変異産生)に供されるため、組換え抗体のVH領域及びVL領域のアミノ酸配列は、ヒト生殖系列VH配列及びVL配列に由来し、それに関連する一方で、インビボでのヒト抗体生殖系列レパートリー内に自然に存在しない場合がある。
【0031】
「Fc-融合タンパク質」は、2つ以上のタンパク質の一部又は全部を含み、そのうちの1つは、免疫グロブリン分子のFc部分であり、これは、それ以外の場合、天然には一緒に見られない。抗体由来ポリペプチド(Fcドメインを含む)の様々な部分に融合された、ある特定の異種ポリペプチドを含む融合タンパク質の調製は、例えば、Ashkenazi et al.,Proc.Natl.Acad.ScL USA 88:10535,1991、Byrn et al.,Nature 344:677,1990、及びHollenbaugh et al.,“Construction of Immunoglobulin Fusion Proteins”,in Current Protocols in Immunology,Suppl.4,pages10.19.1-10.19.11,1992に記載されている。「受容体Fc融合タンパク質」は、いくつかの実施形態では、免疫グロブリンのヒンジ領域、続いてCH2及びCH3ドメインを含むFc部分に連結した受容体の1つ以上の細胞外ドメインを含む。いくつかの実施形態では、Fc-融合タンパク質は、1つ以上のリガンドに結合する2つ以上の異なる受容体鎖を含有する。例えば、Fc-融合タンパク質は、トラップ、例えば、IL-1トラップ(例えば、hIgG1のFcに融合したIL-1R1細胞外領域に融合したIL-1RAcPリガンド結合領域を含有するリロナセプト、米国特許第6,927,004号を参照されたい)、又はVEGFトラップ(例えば、hIgG1のFcに融合したVEGF受容体Flk1のIgドメイン3に融合したVEGF受容体Flt1のIgドメイン2を含有するアフリベルセプト、米国特許第7,087,411号及び同第7,279,159号を参照されたい)などである。
【0032】
アスパラギン補充
本開示のある特定の態様では、フェドバッチ細胞培養にアスパラギンを補充すると、細胞培養成績に影響を与えることが見出された。しかしながら、アスパラギン補充の量にかかわらず、フェドバッチ細胞培養中のアスパラギンの枯渇を回避することができないことも見出された。この点に関して、限定されないが、本開示のある特定の態様では、フェドバッチ細胞培養中のアスパラギン枯渇が細胞培養成績に悪影響を及ぼし得る一方で、過度に高いレベルで供給されたアスパラギンも、例えばアンモニウムなどの副産物形成という形で、細胞培養成績に悪影響を及ぼし得ることが予想外に見出された。
【0033】
ある特定の実施形態では、改善された細胞培養成績のための、真核細胞を培養するための方法が提供される。この方法は、概して、合成細胞培養培地において真核細胞を増殖又は維持する段階であって、初期フェドバッチ細胞培養中に約2.6mM~約28.6mM、及び後期フェドバッチ細胞培養中に約2.6mM~約21.6mMの量のアスパラギンを、合成細胞培養培地に補充する、増殖又は維持する段階と、当該細胞を、当該アスパラギン補充細胞培養培地中で、初期フェドバッチ細胞培養の少なくとも一部及び後期フェドバッチ細胞培養の少なくとも一部の間、維持する段階と、を含み、細胞培養成績が、初期及び/又は後期フェドバッチ細胞培養におけるアスパラギン補充の量がより少ない同様の方法と比較して、アスパラギン補充によって改善される。
【0034】
本明細書で更に詳細に説明されるように、アスパラギンサプリメントは、ボーラスフィードサプリメント(例えば、初期フェーズ中に1つのボーラスフィードサプリメント、及び後期フェーズ中に1つのボーラスフィードサプリメント)、細胞培養の少なくとも一部にわたって複数のボーラスフィードサプリメント(例えば、初期フェーズ中に2、3、4、又は5つのボーラスフィードサプリメント、及び後期フェーズ中に2、3、4、又は5つのボーラスフィードサプリメント)、又は細胞培養の少なくとも一部にわたって継続的に、細胞培養(初期フェーズ及び後期フェーズの両方)に提供され得る。
【0035】
ある特定の実施形態では、アスパラギンサプリメントは、バルクフィードの一部として、又はバルクフィードへの別個のサプリメントフィードとして提供され得る。より具体的には、サプリメントは、バルクフィードの一部として、又はバルクフィードへの別個のサプリメントフィードとして、ボーラスフィード又は継続的フィードにおいて細胞培養(初期フェーズ及び後期フェーズの両方)に提供され得る。
【0036】
ある特定の実施形態では、細胞培養密度及び/又は力価は、初期及び/又は後期フェドバッチ細胞培養におけるアスパラギン補充の量がより少ない同様の方法と比較して、増加する。ある特定の態様では、細胞培養物は、アスパラギン補充後の後期フェドバッチ細胞培養の少なくとも一部の間に、少なくとも約10~50M個の細胞/ml、例えば、約10~35M個の細胞/mlの生存細胞数を維持し得る。
【0037】
ある特定の実施形態では、真核細胞が少なくとも約1.8mM/日~約9.3mM/日のアスパラギンを消費するように、真核細胞は、高アスパラギン消費細胞株である。他の実施形態では、真核細胞が少なくとも約0.32mM/日~約1.8mM/日のアスパラギンを消費するように、真核細胞は、低アスパラギン消費細胞株である。
【0038】
ある特定の実施形態では、本方法は、フェドバッチ細胞培養中に真核細胞から目的の組換えタンパク質を発現させることを更に含む。目的の組換えタンパク質の力価は、非アスパラギン補充培養で培養される細胞と比較した力価よりも少なくとも3%、5%、8%、9%、10%、11%、12%、13%、14%、15%、又は少なくとも20%高い場合がある。目的の組換えタンパク質の収量は、細胞が非アスパラギン補充培養中で培養される同様の方法と比較して、少なくとも0.1g/L、少なくとも0.5g/L、少なくとも1g/L、少なくとも1.2g/L、少なくとも1.4g/L、少なくとも1.6g/L、少なくとも1.8g/L、少なくとも2g/L、少なくとも2.2g/L、少なくとも2.4g/L、又は少なくとも2.5g/L増加する場合がある。ある特定の実施形態では、目的の組換えタンパク質が、少なくとも4g/L、少なくとも5g/L、少なくとも6g/L、少なくとも7g/L、少なくとも8g/L、少なくとも9g/L、又は少なくとも10g/L、少なくとも11g/L、少なくとも12g/L、少なくとも13g/L、少なくとも14g/Lの収量で産生されるように、真核細胞は、高産生細胞株である。
【0039】
ある特定の実施形態では、初期フェドバッチ細胞培養中に約2.6mM~約28.6mM、約3.0mM~約25.0mM、約5.0mM~約23.0mM、約6.0mM~約22.0mM、約7.2mM~約21.6mM、約10.6mMなど、及び後期フェドバッチ細胞培養中に約2.6mM~約21.6mM、約2.6mM~約20.0mM、約2.6mM~約18.0mM、約2.6mM~約16.0mM、約2.6mM~約14.4mM、約5.3mMなどの量のアスパラギンを、合成細胞培養培地に補充する。他の実施形態では、初期フェドバッチ中に約7.2mM~約21.6mM、及び後期フェドバッチ中に約2.6mM~約14.4mMの量のアスパラギンを、合成細胞培養培地に補充する。他の実施形態では、初期段階のフェドバッチ中に約10.6mM、及び後期段階のフェドバッチ中に約5.3mMの量のアスパラギンを、合成細胞培養培地に補充する。
【0040】
ある特定の実施形態では、細胞は、フェドバッチ細胞培養の少なくとも2日間、少なくとも3日間、少なくとも4日間、少なくとも5日間、又はフェドバッチ細胞培養の期間中、アスパラギン補充細胞培養条件下で維持され得る。アスパラギンサプリメントは、初期フェドバッチ細胞培養の少なくとも一部の間、少なくとも1回、少なくとも2回、少なくとも3回、少なくとも4回、少なくとも5回、毎日、又は継続的に提供され得る。同様に、アスパラギンサプリメントは、後期フェドバッチ細胞培養の少なくとも一部の間、少なくとも1回、少なくとも2回、少なくとも3回、少なくとも4回、少なくとも5回、毎日、又は継続的に提供され得る。
【0041】
ある特定の実施形態では、細胞は、少なくとも500リットル、少なくとも750リットル、少なくとも1,000リットル、少なくとも1,500リットル、少なくとも2,000リットル、少なくとも2,500リットル、少なくとも5,000リットル、少なくとも7,500リットル、少なくとも10,000リットル、少なくとも12,500リットル、少なくとも15,000リットル、少なくとも20,000リットル、少なくとも25,000リットル、500リットル~25,000リットルなどの体積を有する細胞培養物中で、アスパラギン補充細胞培養条件下で維持され得る。
【0042】
ある特定の実施形態では、アスパラギンサプリメントは、初期及び/又は後期フェドバッチ細胞培養において継続的に提供され得る。ある特定の態様では、細胞培養における継続的なアスパラギン補充は、初期及び/又は後期フェドバッチ細胞培養においてアスパラギン補充がボーラスフィードとして提供される同様の方法と比較して、少なくとも1日、少なくとも2日、少なくとも3日、又は少なくとも4日以上の、アスパラギン、アスパラギン酸、及びグルタミン酸の細胞外アミノ酸枯渇の遅延をもたらす。
【0043】
より具体的には、ある特定の実施形態では、本明細書に記載されるように、アスパラギンサプリメントは、初期フェドバッチ細胞培養の少なくとも2日間、少なくとも3日間、少なくとも4日間、少なくとも5日間、又は初期フェドバッチ細胞培養の期間中、継続的に提供され得る。同様に、ある特定の実施形態では、アスパラギンサプリメントは、後期フェドバッチ細胞培養の少なくとも2日間、少なくとも3日間、少なくとも4日間、少なくとも5日間、又は後期フェドバッチ細胞培養の期間中、継続的に提供され得る。
【0044】
限定されないが、ある特定の実施形態では、アスパラギンサプリメントは、フェドバッチ細胞培養の2日目以降と、その後、初期フェドバッチ細胞培養の少なくとも一部の間、又はフェドバッチ細胞培養の5日目以降と、その後、後期フェドバッチ細胞培養の少なくとも一部の間、継続的に提供され得る。かかる後期フェドバッチ継続アスパラギンサプリメントは、後期フェドバッチ細胞培養の10日目以降に中止されてもよい。
【0045】
アスパラギン配列バリアントを軽減するためのアスパラギン補充
他の態様では、フェドバッチ細胞培養中のアスパラギン(Asn)枯渇は、細胞培養において哺乳動物細胞から発現される目的のポリペプチドにおけるアスパラギン配列バリアント(SV)の発生をもたらす可能性があることが見出された。背景として、参照により本明細書に組み込まれる米国特許第9,096,879号に開示されるように、哺乳動物細胞における目的のポリペプチドの組換え発現中の特定のアミノ酸の枯渇は、アミノ酸の誤取り込みを引き起こす可能性があることが知られている。例えば、哺乳動物細胞における目的のポリペプチドの組換え発現中の特定のアミノ酸の枯渇は、哺乳動物細胞における目的のポリペプチドの翻訳中にそのアミノ酸が第2のアミノ酸によって置換されることをもたらし得る。Asn→Serアスパラギン配列バリアント(すなわち、目的のポリペプチドの翻訳中のアスパラギンの代わりのセリンの誤取り込み)が観察されるが、細胞培養培地にアスパラギンを補充することによって最小限に抑えることができる。
【0046】
この点において、アスパラギンによるフェドバッチ細胞培養の補充は、アスパラギンSVの形成を最小限に抑えることができることが見出された。本開示の実施形態によれば、アスパラギンSVは、少なくとも初期段階のフェドバッチ細胞培養中に細胞培養培地おける細胞外アスパラギンレベルを、約1.0mM、約0.5mM、約0.25mM、約0.2mM、約0.1mMなどの枯渇限界を超えて維持することによって最小化され得ることが予想外に見出された。ある特定の実施形態では、初期段階のフェドバッチ細胞培養の少なくとも最初の6日、初期段階のフェドバッチ細胞培養の少なくとも最初の5日、初期段階のフェドバッチ細胞培養の少なくとも最初の4日、初期段階のフェドバッチ細胞培養の少なくとも最初の3日、初期段階のフェドバッチ細胞培養の少なくとも最初の2日などの間、細胞培養培地における細胞外アスパラギンレベルは、かかる枯渇限界を超えて維持され得る。例として、かかる枯渇限界を超える維持期間は、初期段階のフェドバッチ細胞培養中に、アスパラギンサプリメントを少なくとも1回、少なくとも2回、少なくとも3回、毎日、継続的になど提供することを含み得る。
【0047】
本開示のある特定の実施形態によれば、アスパラギンによるフェドバッチ細胞培養の補充は、目的のポリペプチドにおけるアスパラギンSVの量が約0.50%未満、目的のポリペプチドにおけるアスパラギンSVの量が約0.45%未満、目的のポリペプチドにおけるアスパラギンSVの量が約0.40%未満、目的のポリペプチドにおけるアスパラギンSVの量が約0.35%未満、目的のポリペプチドにおけるアスパラギンSVの量が約0.30%未満、目的のポリペプチドにおけるアスパラギンSVの量が約0.25%未満、目的のポリペプチドにおけるアスパラギンSVの量が約0.20%未満、目的のポリペプチドにおけるアスパラギンSVの量が約0.15%未満、目的のポリペプチドにおけるアスパラギンSVの量が約0.10%未満、アスパラギンSVが検出されない、となるように、アスパラギンSVの発生を軽減、すなわち防止することができる。
【0048】
ある特定の実施形態では、アスパラギンによるフェドバッチ細胞培養の補充は、例えば、細胞培養の4日目、細胞培養の5日目、細胞培養の6日目、細胞培養の7日目、細胞培養の8日目、細胞培養の9日目、細胞培養の10日目、細胞培養の11日目、細胞培養の12日目、細胞培養の13日目、細胞培養の14日目の後、後期フェドバッチ細胞培養中などに、アスパラギンSV形成をかかるレベルに軽減することができる。
【0049】
ある特定の実施形態では、例えば、初期フェドバッチ細胞培養中に約2.6mM~約28.6mM、約7.2mM~約21.6mM、約10.6mMなど、及び後期フェドバッチ細胞培養中に約2.6mM~約21.6mM、例えば約2.6mM~約14.4mM、約5.3mMなどの量で、本明細書に一般的に記載されるようなアスパラギンを細胞培養に補充し得る。ある特定の実施形態では、アスパラギンサプリメントは、バルクフィードの一部として、又は別個のアスパラギンサプリメントフィードとして提供され得る。
【0050】
ある特定の態様では、フェドバッチ細胞培養の少なくとも4日目までアスパラギンの枯渇を防止するように、十分なアスパラギン補充が、初期段階のフェドバッチ細胞培養中に提供される場合(例えば、ある特定の実施形態では、第2のボーラスフィード)、アスパラギンSVの形成が軽減され得ることが予想外に見出された。ある特定の実施形態では、過剰なアンモニウムの形成のバランスをとりながらの、アスパラギン酸(Asp)及びグルタミン酸(Glu)の枯渇を防止するための(又は十分なグルタミン(Gln)(すなわち、100mg/L超)を産生するための)、初期段階のフェドバッチ細胞培養における補充、続いて、その後及び後期段階のフェドバッチ細胞培養中の十分なアスパラギン補充は、アスパラギンSVの最適化された軽減を提供した。
【0051】
ある特定の実施形態では、枯渇限界を超えるレベルを維持するために、初期段階にフェドバッチ細胞培養中に十分なアスパラギン補充を提供すること(例えば、フェドバッチ細胞培養の少なくとも4日目まで)、及びその後、望ましくない副産物形成(例えば、アンモニウム)を最小限に抑えるために、後期段階のフェドバッチ細胞培養中に十分なアスパラギン補充を提供することが、予想外に見出された。非限定的な例として、初期段階及び後期段階のフェドバッチ細胞培養中のアスパラギン補充は、アスパラギンSVの低リスクを提供するための以下の基準のいずれかを満たし得る。
【0052】
非限定的な例示的な初期段階のフェドバッチ条件
【0053】
非限定的な例示的な後期段階のフェドバッチ条件
【0054】
アスパラギン関連アミノ酸
本開示の他の態様では、標的アスパラギン枯渇が、細胞代謝経路を介してアスパラギンに関連する非必須アミノ酸に影響を与える可能性があることが見出されている。背景として、アスパラギン(Asn)、アスパラギン酸(Asp)、グルタミン酸(Glu)、及びグルタミン(Gln)は、細胞代謝経路を介して互いに相互変換され得る。アスパラギンが必要な場合、細胞は、アスパラギン酸及びグルタミン酸の利用を増加させて、補足的なアスパラギンを合成することができる。アスパラギン酸、グルタミン酸、及びグルタミンの細胞内/細胞外濃度がより高いことは、細胞ニーズをサポートするのに十分な細胞内アスパラギンを細胞が有することを示し得る。しかしながら、アスパラギン酸、グルタミン酸、及びグルタミンの濃度の減少は、アスパラギンの制限を示す可能性がある。
【0055】
アスパラギン配列バリアント(SV)の代理マーカーとしてのアスパラギン関連アミノ酸
他の態様では、アスパラギン酸(Asp)、グルタミン酸(Glu)、及びグルタミン(Gln)を含む、アスパラギン関連アミノ酸は、目的のポリペプチドの産生中に形成されるアスパラギン配列バリアントの代理マーカーとして使用され得ることが見出されている。本開示のある特定の実施形態によれば、アスパラギン関連アミノ酸の細胞内及び細胞外濃度は、アスパラギン配列バリアントの形成の定性的指標として機能することができることが見出されている。
【0056】
理論によって限定されることを意図することなく、アスパラギン関連アミノ酸の細胞内及び/又は細胞外濃度がより高いレベルであることは、概して、細胞ニーズをサポートするのに十分な細胞内アスパラギンを細胞が有することを示す。かかる十分な細胞内アスパラギンは、産生された目的のポリペプチドにおける最小限のアスパラギン配列バリアントをもたらすであろう。逆に、アスパラギン関連アミノ酸の細胞内及び/又は細胞外濃度がより低いレベルであることは、概して、細胞ニーズをサポートするのに不十分な細胞内アスパラギンを細胞が有することを示す。かかる不十分な細胞内アスパラギンは、産生された目的のポリペプチドにおけるアスパラギン配列バリアントの増加をもたらす。したがって、アスパラギン関連アミノ酸は、一般的な逆相関に基づいて、アスパラギン配列バリアントの代理マーカーとして使用され得る。これらの代理の相関の強さは、標的アスパラギン補充が、関連アミノ酸の細胞外及び細胞内アミノ酸プロファイルに及ぼす影響に依存し、したがって、細胞株及びアスパラギン濃度によって部分的に決定され得る。
【0057】
ある特定の実施形態では、細胞内及び細胞外アスパラギン及びアスパラギン関連アミノ酸濃度は、アスパラギン配列バリアントの代理マーカーとして使用され得る。限定されることを意図することなく、アスパラギンSVは、初期段階のフェドバッチ細胞培養において十分なアスパラギンを補充することによって特に最小化され得、アスパラギンSVの形成は、細胞内及び細胞外アスパラギン及びアスパラギン関連アミノ酸濃度を使用して監視され得ることが予想外に見出された。例として、アスパラギンSVの形成は、アスパラギン又はアスパラギン関連アミノ酸の細胞内又は細胞外濃度を監視することによってインサイチュで監視され得る。ある特定の実施形態では、細胞外アスパラギン(Asn)は、アスパラギンSVの代理として初期段階のフェドバッチ細胞培養において監視され得るが、細胞外アスパラギン(Asn)、アスパラギン酸(Asp)、グルタミン酸(Glu)、及びグルタミン(Gln)は、後期段階のフェドバッチ細胞培養において監視され得る。代替的な実施形態では、細胞内Asn、Asp、Glu、及びGlnは、後期段階のフェドバッチ細胞培養で監視され得る。
【0058】
ある特定の実施形態では、目的のポリペプチドにおけるアスパラギン配列バリアントの検出、測定、又はスクリーニングのための方法が提供される。この方法は、概して、合成細胞培養培地において真核細胞を増殖又は維持する段階と、真核細胞から目的の組換えタンパク質を発現させる段階と、合成細胞培養培地におけるアスパラギン又は1つ以上のアスパラギン関連アミノ酸の細胞内及び/又は細胞外濃度を測定する段階と、アスパラギン又は1つ以上のアスパラギン関連アミノ酸の測定された濃度を、発現した目的の組換えタンパク質中に存在するアスパラギン配列バリアントの存在と相関させる段階と、を含む。いくつかの実施形態では、アスパラギン又は1つ以上のアスパラギン関連アミノ酸の測定された濃度は、アスパラギン配列バリアントの存在と逆相関する。
【0059】
ある特定の実施形態では、本明細書に記載されるように、合成細胞培養培地にアスパラギンを補充し得る。ある特定の実施形態では、アスパラギン関連アミノ酸は、アスパラギン酸(Asp)、グルタミン酸(Glu)、グルタミン(Gln)、及びそれらの組み合わせから選択され得る。いくつかの実施形態では、アスパラギン関連アミノ酸は、グルタミン酸である。いくつかの実施形態では、アスパラギン関連アミノ酸は、細胞内で測定され得る。
【0060】
いくつかの実施形態では、1つ以上のアスパラギン関連アミノ酸は、後期フェドバッチ細胞培養中に、例えば、フェドバッチ細胞培養の5日後、6日後、7日後、8日後、9日後、10日後などに測定され得る。
【0061】
ある特定の態様では、代理マーカーとしてアスパラギン関連アミノ酸を使用して、アスパラギン配列バリアントを検出、測定、又はスクリーニングするための方法は、特定の目的のポリペプチドに対する最適な細胞培養パラメータを識別するための高スループットのスクリーニング及び最適化技術を提供し得る。例えば、この方法は、特定の目的のポリペプチドに対するアスパラギン配列バリアントを最小化する最適なアスパラギンフィードレベルを標的とするために使用され得る。
【0062】
アスパラギン補充の最適化、インサイチュ監視及び制御
ある特定の実施形態では、アスパラギン補充を含む、細胞培養パラメータを監視及び制御するための方法が提供される。かかる方法は、標的細胞株及び/又は目的のポリペプチドに対する最適なアスパラギン補充を提供するために、様々な細胞培養プロセスパラメータを監視及び制御し得る。監視及び制御され得る例示的な細胞培養プロセスパラメータとしては、アスパラギン濃度、アスパラギン関連アミノ酸濃度、生細胞数、死細胞数、タンパク質力価、アンモニウムイオン、アラニン、浸透圧、及びそれらの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。
【0063】
ある特定の態様では、本開示の監視及び制御方法は、アンモニウムイオン及びアラニンなどの細胞培養副産物の形成を同時に制御しながら、細胞培養培地におけるアスパラギン枯渇を最適化及び防止するために使用され得る。かかる監視及び制御は、それによって、細胞培養成績パラメータ、例えば、生存細胞数及びタンパク質力価の改善された制御を提供することができる。
【0064】
ある特定の実施形態では、細胞培養培地条件を監視及び制御するための方法が提供される。この方法は、概して、インサイチュ凝固点降下、電気化学、デジタルイメージング、光度測定、生体プロセス分析器、又はラマン分光法を使用して、細胞培養における1つ以上の細胞培養パラメータを測定する段階と、測定された1つ以上の細胞培養パラメータを、細胞培養パラメータの所定の設定値と比較して、1つ以上の細胞培養パラメータが所定の閾値範囲内にあるかどうかを判定する段階と、細胞培養パラメータが所定の閾値範囲外であると判定される場合、細胞培養パラメータのうちの1つ以上を調整する段階と、を含み得る。ある特定の実施形態では、アンモニウムイオン濃度が監視され得、アンモニウムイオン濃度が特定の細胞培養物に関する所定の閾値範囲外であると判定される場合、アスパラギンサプリメントフィードは、細胞培養物が適切なアスパラギンを依然として受け取りながらより少ないアンモニウムを産生するように、調整され得る。かかる方法は、最適かつ最大量のアスパラギン補充を提供する一方で、アンモニウムイオン及びアラニンなどの細胞副産物の産生を最小限に抑えるために使用され得る。
【0065】
ある特定の実施形態では、本開示の監視及び制御方法は、細胞培養プロセスパラメータの正確で継続的なフィードバック及びモデル予測制御のために、シグナル処理技術と組み合わせた、細胞培養パラメータのリアルタイム評価のための、インサイチュ凝固点降下、電気化学、デジタルイメージング、光度測定、生体プロセス分析器、若しくはラマン分光法、又は他の好適なインサイチュ細胞培養パラメータ測定方法論及び計量化学モデリング技術を利用し得る。バイオリアクター含有物のインサイチュ凝固点降下、電気化学、デジタルイメージング、光度測定、生体プロセス分析器、又はラマン分光法は、試験のために試料を物理的に除去することなく、1つ以上のプロセス変数の分析を可能にする。かかる技術は、アスパラギン補充を含む、細胞培養プロセスパラメータのリアルタイムフィードバック制御を提供することができる。
【0066】
一実施形態では、アンモニウムイオン及び/又はアラニンの所定の最大設定値が設定され得る。同様に、アスパラギン補充継続流量の所定の設定値が設定され得る。フェドバッチ細胞培養中の所望の時点(例えば、初期段階のフェドバッチ時間枠、1日目、2日目、3日目、4日目、後期段階のフェドバッチ時間枠、5日目、6日目、7日目、8日目、9日目、10日目など)で、継続的な供給アスパラギン補充が開始され得る。アスパラギン、アスパラギン関連アミノ酸、アンモニウムイオン、及び/又はアラニンの濃度のうちの1つ以上は、凝固点降下、電気化学、デジタルイメージング、光度測定、生体プロセス分析器、又はラマン分光法によって、細胞培養操作中に監視され得る。ある特定の実施形態では、生のスペクトルデータが継続的に最新であることを確実にするために、凝固点降下、電気化学、デジタルイメージング、光度測定、生体プロセス分析器、又はラマン分光法からのデータは、約10分~2時間ごとに取得され得る。別の実施形態では、データは、約15分~1時間ごとに取得され得る。更に別の実施形態では、データは、約20分~30分ごとに取得され得る。
【0067】
1つ以上の細胞培養プロセスパラメータの監視は、インサイチュ分析を可能にする任意の市販の分析器によって分析され得る。インサイチュ分析器は、細胞培養内の生データを取得できる必要がある(例えば、分析器には、バイオリアクターに挿入され得るプローブが装備されている必要がある)。好適な分析器としては、RamanRXN2及びRamanRXN4分析器(Kaiser Optical Systems,Inc.Ann Arbor,Mich.)、又はBioProfile Flex自動細胞培養分析器が挙げられるが、これらに限定されない。
【0068】
インサイチュ分析器によって取得された生のスペクトルデータは、プロセスパラメータ内のデータを相関させるために、監視又は制御される特定のプロセスパラメータのオフライン測定(例えば、オフラインアスパラギン濃度測定)と比較され得る。オフライン測定データは、任意の適切な分析方法によって収集され得る。更に、任意の種類の多変量ソフトウェアパッケージ、例えば、SIMCA13(MKS Data Analytic Solutions,Umea,Sweden)は、データを、監視又は制御される特定のプロセス変数のオフライン測定に相関させるために使用され得る。しかしながら、いくつかの実施形態では、生データをフィルタで前処理して、いかなる変化するベースラインをも除去することが必要であり得る。例えば、生データは、任意の種類の点平滑化技術又は正規化技術で前処理され得る。正規化は、例えば、任意の電力変動及び露出時間を補正するために必要とされ得る。一実施形態では、生データは、21cm-1の点平滑化を有する第1の導関数などの点平滑化、及び標準正規変量(SNV)などの正規化で処理され得る。
【0069】
計量化学モデリングもまた、得られたスペクトルデータに対して実行され得る。ある特定の実施形態では、限定されないが、部分最小二乗(PLS)、主成分分析(PCA)、直交部分最小二乗(OPLS)、多変量回帰、正準相関、因子分析、クラスタ分析、グラフィカル手順などを含む1つ以上の多変量方法を、スペクトルデータ上で使用することができる。一実施形態では、取得されたスペクトルデータは、PLS回帰モデルを作成するために使用される。PLS回帰モデルは、予測された変数及び観測された変数を新しい空間に投影することによって作成され得る。この態様では、PLS回帰モデルは、ラマン分析から得られた測定値、及びオフライン測定値を使用して作成され得る。PLS回帰モデルは、予測されるプロセス値、例えば、予測される栄養素濃度値を提供する。
【0070】
計量化学モデリングの後、信号処理技術は、予測されたプロセス値(例えば、予測されたアスパラギン濃度値)に適用され得る。一実施形態では、信号処理技術には、ノイズ低減技術が含まれる。ある特定の実施形態では、1つ以上のノイズ低減技術が、予測されたプロセスパラメータに適用され得る。当業者に知られている任意のノイズ低減技術が利用され得る。例えば、ノイズ低減技術は、データ平滑化及び/又は信号除去を含み得る。平滑化は、一連の平滑化アルゴリズム及びフィルタによって達成されるが、信号除去は、分析されたスペクトルデータに含まれるべきではないデータを識別するために信号特性を使用する。一実施形態では、予測されるプロセス値は、ノイズ低減フィルタによって軽減されるノイズである。ノイズ低減フィルタは、最終フィルタ処理値(例えば、最終フィルタ処理された栄養素濃度値)を提供する。この態様では、ノイズ低減技術は、生の測定を、測定がモデルに従って得るべきものについてのモデルベースの推定と組み合わせる。一実施形態では、ノイズ低減技術は、現在の予測されたプロセス値をその不確実性と組み合わせる。不確実性は、予測されたプロセス値及び現在のプロセス条件の再現性によって決定され得る。次の予測されたプロセス値が観察されると、予測されたプロセス値(例えば、予測された栄養素濃度値)の推定値は、より高い確実性を有する推定値により多くの重みが与えられる加重平均を使用して更新される。反復的アプローチを使用して、最終プロセス値は、以前の測定値及び現在のプロセス条件に基づいて更新され得る。この態様では、アルゴリズムは、現在の予測されたプロセス値、前の値、及び実験的に決定された定数を利用するように、再帰的でありかつリアルタイムで実行可能でなければならない。ノイズ低減技術は、自動フィードバックコントローラが作用するノイズを低減することによって、ラマン分析から受信した測定、及びPLS予測の堅牢性を改善する。
【0071】
最終フィルタ処理されたプロセス値(例えば、最終フィルタ処理された栄養素濃度値)を取得すると、最終値は、自動フィードバックコントローラに送信され得る。自動フィードバックコントローラは、所定の設定値以下でプロセスパラメータ(例えば、アンモニウム濃度の監視及びアスパラギン濃度の制御)を制御及び維持するために使用され得る。一実施形態では、最大設定値を超えるアンモニウム濃度が検出された場合、自動フィードバックコントローラは、アスパラギンフィードの量を閾値範囲内に低減するように促され得る。自動フィードバックコントローラには、所望の設定点(例えば、所定の設定点)と測定されたプロセスパラメータとの間の差として誤差値を計算し、正確で応答性のある補正を自動的に適用することができる任意の種類のコントローラが含まれ得る。自動フィードバックコントローラはまた、プラットフォームインタフェースからリアルタイムで変更されることが可能である制御装置を有するべきである。例えば、自動フィードバックコントローラは、所定の設定点の調整を可能にするユーザインタフェースを有するべきである。自動フィードバックコントローラは、所定の設定値の変化に応答することが可能であるべきである。
【0072】
一実施形態では、自動フィードバックコントローラは、比例・積分・微分(PID)のコントローラであり得る。この態様では、PIDコントローラは、所定の設定点と測定されたプロセス変数との間の差(例えば、測定されたアスパラギン濃度)を計算し、正確な補正を自動的に適用するように動作可能である。例えば、細胞培養の栄養素濃度を制御する場合、PIDコントローラは、フィルタ処理された栄養素価と所定の設定点との差を計算し、栄養素量の補正を提供するように動作可能であり得る。この態様では、PIDコントローラは、補正された栄養素量が、バイオリアクターにポンプで送られ得るように、バイオリアクター上の栄養素ポンプに動作可能に接続され得る。
【0073】
リアルタイム分析及びフィードバック制御の使用によって、本開示の方法は、目的の標的細胞株及び/又はポリペプチドに最適なアスパラギン補充を提供することができる。すなわち、本発明の方法は、有害な細胞培養副産物を含む細胞培養副産物の産生を最小限に抑えながら、細胞培養に最適なアスパラギン補充を提供することができる。
【0074】
細胞培養培地
「細胞培養培地」及び「培養培地」という用語は、典型的には、炭水化物エネルギー源、必須(例えば、フェニルアラニン、バリン、トレオニン、トリプトファン、メチオニン、ロイシン、イソロイシン、リジン、及びヒスチジン)及び非必須(例えば、アラニン、アスパラギン、アスパラギン酸、システイン、グルタミン酸、グルタミン、グリシン、プロリン、セリン、及びチロシン)アミノ酸、微量元素、エネルギー源、脂質、ビタミンなど、細胞の成長を向上させるための必要な栄養素を提供する、細胞、例えば、真核細胞を成長させるために使用される栄養素溶液を指す。細胞培養培地は、細胞成長をサポートする原料を供給する抽出物、例えば、血清又はペプトン(加水分解物)を含有し得る。培地は、動物由来の抽出物の代わりに、酵母由来の抽出物又は大豆抽出物を含有し得る。既知組成培地は、全ての化学成分が知られている(すなわち、知られている化学構造を有する)細胞培養培地を指す。一般に、既知組成培地は、血清又は動物由来のペプトン並びに酵母及び大豆抽出物などの動物由来成分を含まない。一実施形態では、培地は、既知組成培地である。
【0075】
培地はまた、ホルモン及び成長因子などの、成長速度及び/又は生存率を最小の成長速度及び/又は生存率を上回って向上させる成分を含有し得る。培地は、細胞の生存及び増殖に最適なpH及び塩濃度に配合されることが好ましい。
【0076】
ある特定の態様では、細胞培養培地は、血清を含まないものであってもよい。「血清を含まない」は、ウシ胎児血清などの動物血清を含まない細胞培養培地に適用する。血清を含まない培地は、16g/L以下の大豆加水分解物などの加水分解物を含有し得る。本開示はまた、血清を含まないだけでなく、加水分解物も含まない既知組成培地も提供する。「加水分解物を含まない」は、例えば、ペプトン、トリプトンなどの動物又は植物タンパク質加水分解物などの外因性タンパク質加水分解物を含有しない細胞培養培地に適用する。
【0077】
「基本培地」は、細胞が増殖する初期培地(例えば、シードトレイン内及び/又は細胞培養産生の0日目に存在する)であり、アミノ酸の基本混合物を含む全ての必要な栄養素を含有する。基本培地の様々なレシピ(すなわち、配合物)は、市販のロットで製造又は購入することができる。同様に、「基本フィード媒体」は、産生培養中に一般的に消費され、供給戦略(いわゆる「フェドバッチ」培養のための)において利用される、補足的栄養素の混合物を含有する。様々な基本フィード媒体が市販されている。「供給」は、ケモスタットにあるような継続的なフィード培養システムを含むプロトコルに従って(C.Altamirano et al.,Biotechnol Prog.2001 November-December;17(6):1032-41を参照されたい)、又はフェドバッチプロセスに従って(Y.M.Huang et al.,Biotechnol Prog.2010 September-October;26(5):1400-10)など、定期的な間隔での培地へのスケジュールされた追加又は追加を含む。例えば、培養物は、1日に1回、2日に1回、3日に1回供給され得るか、又は監視されている特定の培地成分の濃度が所望の範囲外にあるときに供給され得る。
【0078】
限定されることを意図するものではないが、本開示は、様々な基本培地又はそれらの組み合わせのうちの任意の1つ以上により実施され得る。基本媒体は、当技術分野で一般に知られており、これには、とりわけ、イーグルのMEME(最小限の必須媒体)(Eagle,Science,1955,112(3168):501-504)、HamのF12(Ham,Proc.Nat’l.Acad.Sci.USA,1965,53:288-293)、F-12 K培地、ダルベッコ培地、ダルベッコ変法イーグル培地(Proc.Natl.Acad.Sci.USA.,1952 August;38(8):747-752)、DMEM/ハムのF12 1:1、TrowellのT8,A2培地(Holmes and Wolf,Biophys.Biochem.Cytol.,1961,10:389-401)、Waymouth培地(Davidson and Waymouth,Biochem.J.,1945,39(2):188-199)、Williams E培地(William’s et al.,Exp.Cell Res.,1971,69:105以下参照)、RPMI 1640(Moore et al.,J.Amer.Med.Assoc.,1967,199:519-524)、MCDB 104/110培地(Bettger et al.,Proc.Nat’l.Acad.Sci.USA,1981,78(9):5588-5592)、Ventrex HL-1培地、アルブミン-グロブリン培地(Orr et al.,Appl.Microbiol.,1973,25(1):49-54)、RPMI-1640培地、RPMI-1641培地、Iscoveの変法ダルベッコ培地、McCoyの5A培地、LeibovitzのL-15培地、及び血清を含まない場合、例えば、EX-CELL(商標)300シリーズ(JRH Biosciences、Lenexa、Kans.)、プロタミン亜鉛インスリン培地(Weiss et al.、1974,米国特許第4,072,565号)、ビオチン葉酸塩培地(Cartaya、1978、米国Re30,985)、トランスフェリン脂肪酸培地(Baker、1982、米国特許第4,560,655号)、トランスフェリン-EGF培地(Hasegawa、1982、米国特許第4,615,977号;Chessebeuf、1984、米国特許第4,786,599号)、及び他の培地の順列(Inlow、米国特許第6,048,728号;Drapeau、米国特許第7,294,484号;Mather、米国特許第5,122,469号;Furukawa、米国特許第5,976,833号;Chen、米国特許第6,180,401号;Chen、米国特許第5,856,179号;Etcheverry、米国特許第5,705,364号;Etcheverry、米国特許第7,666,416号;Ryll、米国特許第6,528,286号;Singh、米国特許第6,924,124号;Luan、米国特許第7,429,491号などを参照されたい)が含まれる。
【0079】
細胞培養培地はまた、培養される細胞の要件又は所望の細胞培養パラメータに応じて、ポリアミンなどの追加の成分、又は増加した濃度のアミノ酸、塩、糖、ビタミン、ホルモン、成長因子、緩衝剤、抗生物質、脂質、微量元素などの成分の有無にかかわらず、定期的に(いわゆる「フェドバッチ」培養におけるように)供給され得る。
【0080】
ある特定の態様では、細胞培養培地は、追加のアミノ酸補充が提供されない場合、組換えタンパク質産生の過程にわたってアミノ酸が枯渇し得るか、又は枯渇したアミノ酸に対してアミノ酸補充が提供される場合、細胞培養培地は、「非枯渇」(以下に記載されるように)であり得る。
【0081】
一実施形態では、培地は、更に、100μM±15μMのオルニチン、又は300μM±45μMのオルニチン、又は600μM±90μMのオルニチン、又は900μM±135μMのオルニチンを含有する。別の実施形態では、培地は、少なくとも約29μM±1μMのオルニチン、又は少なくとも約59μM±12μMのオルニチン、80μM±13μMのオルニチン、又は少なくとも約296μM±44μMのオルニチン、又は少なくとも約593μM±89μMのオルニチン、又は少なくとも約889μM±133μMのオルニチンを含有する。
【0082】
任意選択で、プトレシンを、補充された培地に添加してもよい。プトレシンは、いくつかの細胞培養培地配合物中の成分として、低濃度、例えば、0.01~120mg/Lで含まれており、例えば、0.02~0.08mg/Lのプトレシンを記載するWO2005/028626、米国特許第5,426,699号(0.08mg/L)、米国特許第RE30,985号(0.16mg/L)、米国特許第5,811,299号(0.27mg/L)、米国特許第5,122,469号(0.5635mg/L)、米国特許第5,063,157号(1mg/L)、WO2008/154014(約100 82M~約1000μM)、米国特許出願第2007/0212770号(0.5~30mg/Lのポリアミン、2mg/Lのプトレシン、2mg/Lのプトレシン+2mg/Lのオルニチン、2mg/Lのプトレシン+10mg/Lのオルニチン)を参照されたい。
【0083】
いくつかの実施形態では、細胞培養培地に、オルニチンとプトレシンとの組み合わせを更に補充し、プトレシンは、少なくとも約150~720μMの濃度であり得る。いくつかの実施形態では、培地に、約170~230μMの濃度で、プトレシンを更に補充する。一実施形態では、培地は、90μM±15μM以上のオルニチンに加えて、200μM±30μMのプトレシンを含有する。一実施形態では、培地は、89μM±13μM以下のオルニチンに加えて、186μM±28μM以下のプトレシンを含有する。別の実施形態では、培地は、89μM±13μM以上のオルニチンに加えて、186μM±28μM以上のプトレシンを含有する(参照によりその全体が本明細書に組み込まれる、2014年9月18日に公開された国際公開第2014/144198A1号を参照されたい)。
【0084】
更に他の実施形態では、オルニチンは、0.09±0.014mM~0.9±0.14mM、例えば、0.09±0.014mM、0.3±0.05mM、0.6±0.09mM、又は0.9±0.14mMのオルニチンの範囲の濃度で培地中に存在する。いくつかの実施形態では、培地はまた、少なくとも0.20±0.03mMのプトレシンを含有する。いくつかの実施形態では、追加のプトレシンは、0.20±0.03mM~0.714±0.11mM、例えば0.20±0.03mM、0.35±0.06、又は0.714±0.11mMのプトレシンの範囲の濃度である。
【0085】
更に他の実施形態では、培地に、少なくとも約0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1、2、3、4、5、6、7、8、9、又は10mMの濃度(1リットル当たりのミリモルで表される)で、タウリンを補充し得る。
【0086】
種々の他のサプリメントを培地に添加してもよく、更に適切な条件を決定することは当業者の技術の範囲内である。ある特定の実施形態では、サプリメントは、本明細書に記載されるようなアスパラギンサプリメントであり得る。いくつかの実施形態では、培地に、非枯渇になるようにするためか、又は補充の栄養素が必要とされるのに応じて(すなわち、バルクフィード)、アスパラギン酸、システイン、グルタミン酸、グリシン、リジン、フェニルアラニン、プロリン、セリン、トレオニン、バリン、アルギニン、ヒスチジン、アスパラギン、グルタミン、アラニン、イソロイシン、ロイシン、メチオニン、チロシン、及びトリプトファンからなる群から選択されるアミノ酸の混合物を補充する。
【0087】
一実施形態では、培地に、約170μM~175μMのヌクレオシドを更に補充する。一実施形態では、培地は、少なくとも40μM、少なくとも45μM、少なくとも50μM、少なくとも55μM、少なくとも60μM、少なくとも65μM、少なくとも70μM、少なくとも75μM、少なくとも80μM、少なくとも85μM、少なくとも90μM、少なくとも95μM、少なくとも100μM、又は少なくとも105μMの累積濃度でプリン誘導体を含有する。一実施形態では、培地は、約100μM~110μMのプリン誘導体を含有する。プリン誘導体としては、ヒポキサンチン並びにヌクレオシドアデノシン及びグアノシンが挙げられる。一実施形態では、培地は、少なくとも30μM、少なくとも35μM、少なくとも40μM、少なくとも45μM、少なくとも50μM、少なくとも55μM、少なくとも60μM、又は少なくとも65μMの累積濃度のピリミジン誘導体を含有する。一実施形態では、培地は、約65μM~75μMのピリミジン誘導体を含有する。ピリミジン誘導体としては、ヌクレオシドチミジン、ウリジン、及びシチジンが挙げられる。特定の一実施形態では、培地は、アデノシン、グアノシン、シチジン、ウリジン、チミジン、及びヒポキサンチンを含有する。
【0088】
上記の添加剤のいずれかの含有に加えて、一実施形態では、培地に、マイクロモル量の脂肪酸(又は脂肪酸誘導体)及びトコフェロールを更に補充する。一実施形態では、脂肪酸は、リノール酸、リノレン酸、チオクチン酸、オレイン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、アラキドン酸、ラウリン酸、ベヘン酸、デカン酸、ドデカン酸、ヘキサン酸、リグノセリン酸、ミリスチン酸、及びオクタン酸のうちのいずれか1つ以上を含む。一実施形態では、培地は、トコフェロール、リノール酸、及びチオクト酸を含有する。
【0089】
一実施形態では、培地に、少なくとも約700μM又は少なくとも約2mMの累積濃度で、他の栄養素及び必須栄養素を含むビタミンの混合物を更に補充し得る。一実施形態では、ビタミンの混合物は、D-ビオチン、塩化コリン、葉酸、ミオイノシトール、ナイアシンアミド、ピリドキシンHCl、D-パントテン酸(hemiCa)、リボフラビン、チアミンHCl、ビタミンB12などのうちの1つ以上を含有する。一実施形態では、ビタミンの混合物は、D-ビオチン、塩化コリン、葉酸、ミオイノシトール、ナイアシンアミド、ピリドキシンHCl、D-パントテン酸(hemiCa)、リボフラビン、チアミンHCl、及びビタミンB12の全てを含む。
【0090】
特定の実施形態では、細胞培養培地は、既知組成であってもよく、本明細書で論じられるようなアミノ酸混合物;CaCl2HO、KCl、MgSO、NaCl;NaHPO又は他のリン酸塩;ピルビン酸;D-ビオチン;塩化コリン;葉酸;ミオイノシトール;ナイアシンアミド;ピリドキシンHCl;D-パントテン酸;リボフラビン;チアミンHCl;ビタミンB12;ρ-アミノベンゾ酸;エタノールアミンHCl;ポロキサマー188;DL-a-トコフェロールリン酸;リノール酸;NaSeO;チオクチン酸;1つ以上の緩衝剤、及びグルコース;並びに任意選択でアデニン;グアノシン;シチジン;尿酸;チミジン;及びヒポキサンチン2Naを含み得る。
【0091】
一実施形態では、本開示の培地の開始浸透圧は、200~500、250~400、275~350、又は約300mOsmである。本開示の培地における細胞の成長中、特にフェドバッチプロトコルによる任意の供給の後、培養の浸透圧は、最大で約350、400、450、500、又は最大で約550mOsmまで増加し得る。
【0092】
培地の浸透圧が約300未満であるいくつかの実施形態では、浸透圧は、指定された量を超える1つ以上の塩を添加することにより、約300に調整され得る。一実施形態では、浸透圧は、塩化ナトリウム、塩化カリウム、マグネシウム塩、カルシウム塩、アミノ酸塩、脂肪酸の塩、重炭酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、塩であるキレート剤、糖(例えば、ガラクトース、グルコース、スクロース、フルクトース、フコースなど)、及びそれらの組み合わせから選択される浸透圧調節物質の1つ以上を添加することによって、所望のレベルまで増加される。一実施形態では、浸透圧調節物質は、合成培地中に既に存在する成分中のその濃度を超えて添加される(例えば、糖は、糖成分に対して指定された濃度を超えて添加される)。
【0093】
細胞培養
本開示の一態様は、本明細書に記載されるような、アスパラギンサプリメントで培養された目的の組換えタンパク質を発現させる細胞株を含む細胞培養物を提供する。組換えタンパク質を産生するために日常的に使用される細胞株の例には、とりわけ、初代細胞、BSC細胞、HeLa細胞、HepG2細胞、LLC-MK細胞、CV-1細胞、COS細胞、VERO細胞、MDBK細胞、MDCK細胞、CRFK細胞、RAF細胞、RK細胞、TCMK-1細胞、LLCPK細胞、PK15細胞、LLC-RK細胞、MDOK細胞、BHK細胞、BHK-21細胞、CHO細胞、CHO-K1細胞、NS-1細胞、MRC-5細胞、WI-38細胞、3T3細胞、293細胞、Per.C6細胞、及び鶏胚細胞が含まれる。一実施形態では、細胞株は、CHO細胞株、又は大規模なタンパク質産生のために最適化されたいくつかの特異的CHO細胞バリアント、例えば、CHO-K1のうちの1つ以上である。
【0094】
本開示の別の態様は、本明細書に記載されるようなアスパラギンサプリメントを使用して細胞を培養する方法に関し、かかるアスパラギンサプリメントの使用は、真核細胞の増殖を向上させると同時に、初期及び/又は後期フェドバッチ細胞培養におけるアスパラギン補充の量がより少ない同様の方法と比較して、1つ以上の目的の組換えタンパク質の力価をかかる細胞によって改善し、特に初期段階及び/又は後期段階のフェドバッチ細胞培養における使用によって細胞生存能を維持する。
【0095】
いくつかの態様では、組換えタンパク質力価は、初期及び/又は後期フェドバッチ細胞培養におけるより少ない量のアスパラギン補充で成長させた細胞と比較して改善される。いくつかの実施形態では、初期及び/又は後期フェドバッチ細胞培養におけるより少ない量のアスパラギン補充で成長させた細胞培養から得られるタンパク質力価は、初期/後期フェドバッチ細胞培養におけるより少ない量のアスパラギン補充で培養された細胞からのタンパク質力価(収量)よりも、少なくとも約4%、少なくとも約5%、少なくとも約6%、少なくとも約7%、少なくとも約8%、少なくとも約9%、少なくとも約10%、少なくとも約11%、少なくとも約12%、少なくとも約13%、少なくとも約14%、少なくとも約15%、少なくとも約16%、少なくとも約17%、少なくとも約18%、少なくとも約19%、少なくとも約20%、少なくとも約21%、少なくとも約22%大きい、少なくとも約23%大きい、少なくとも約24%大きい、少なくとも約25%大きい、少なくとも約26%大きい、少なくとも約27%大きい、少なくとも約28%大きい、又は少なくとも約29%大きい。いくつかの実施形態では、本開示のアスパラギンサプリメントによる細胞培養から得られるタンパク質力価は、初期及び/又は後期フェドバッチ細胞培養におけるより少ない量のアスパラギン補充で培養される同様又は同一の細胞のそれよりも大きい。
【0096】
いくつかの態様では、細胞成長(例えば、倍加速度)、生存細胞密度、細胞生存率、及びそれらの組み合わせは、初期及び/又は後期フェドバッチ細胞培養におけるより少ない量のアスパラギン補充で成長させた細胞と比較して改善される。
【0097】
いくつかの実施形態では、本開示のアスパラギンサプリメントで培養される生存細胞の倍加速度は、初期及び/又は後期フェドバッチ細胞培養においてより少ない量のアスパラギン補充で培養された細胞の倍加速度よりも、少なくとも5%、少なくとも6%、少なくとも7%、少なくとも8%、少なくとも9%、少なくとも10%、少なくとも11%、少なくとも12%、少なくとも13%、少なくとも14%、少なくとも15%、少なくとも16%、少なくとも17%、少なくとも18%、少なくとも19%、少なくとも20%、少なくとも21%、少なくとも22%、少なくとも23%、少なくとも24%、少なくとも25%、少なくとも26%、少なくとも27%、少なくとも28%、少なくとも29%、少なくとも30%、少なくとも35%、少なくとも40%、少なくとも45%、少なくとも50%、少なくとも55%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも100%、又は少なくとも3倍以上大きい。いくつかの実施形態では、本開示のアスパラギンサプリメントで培養された生細胞の倍加速度は、初期及び/又は後期フェドバッチ細胞培養においてより少ない量のアスパラギン補充で培養された生細胞の倍加速度よりも、約10%、11%、12%、13%、14%、15%、16%、17%、18%、19%、20%、21%、22%、23%、24%、25%、26%、27%、28%、29%、又は30%大きい。
【0098】
いくつかの実施形態では、能動的にサイクリングする哺乳動物細胞の倍加時間は、本開示のアスパラギンサプリメントで培養される場合、初期及び/又は後期フェドバッチ細胞培養においてより少ない量のアスパラギン補充で培養された細胞と比較して、30時間未満、29時間未満、28時間未満、27時間未満、26時間未満、25時間未満、24時間未満、23時間未満、22時間未満、21時間未満、20時間未満、19時間未満、又は18時間未満である。いくつかの実施形態では、能動的に成長する哺乳動物細胞の倍加時間は、本開示のアスパラギンサプリメントで培養される場合、初期及び/又は後期フェドバッチ細胞培養においてより少ない量のアスパラギン補充で培養された細胞と比較して、28時間未満である。いくつかの実施形態では、哺乳動物細胞の倍増時間は、本開示のアスパラギンサプリメントで培養される場合、初期及び/又は後期フェドバッチ細胞培養においてより少ない量のアスパラギン補充で培養された細胞と比較して、約27±1時間、約26±1時間、約25±1時間、約24±1時間、約23±1時間、約22±1時間、又は約21±1時間である。いくつかの実施形態では、能動的にサイクリングする哺乳動物細胞の倍加時間は、本開示のアスパラギンサプリメントで培養される場合、初期及び/又は後期フェドバッチ細胞培養においてより少ない量のアスパラギン補充で培養された細胞と比較して、約24±1時間である。いくつかの実施形態では、本開示のアスパラギンサプリメントで培養される場合、能動的に分裂する細胞の倍加時間は、初期及び/又は後期フェドバッチ細胞培養においてより少ない量のアスパラギン補充で培養された能動的にサイクリングする細胞の倍加時間よりも、少なくとも15%、少なくとも16%、少なくとも17%、少なくとも18%、少なくとも19%、少なくとも20%、又は少なくとも25%短い。
【0099】
細胞生存率に関して、本開示のアスパラギンサプリメントで培養された細胞は、初期及び/又は後期フェドバッチ細胞培養においてより少ない量のアスパラギン補充で培養された細胞の生存率よりも、少なくとも10%、少なくとも15%、少なくとも20%、少なくとも25%、少なくとも30%、少なくとも35%、少なくとも40%、少なくとも45%、少なくとも50%、少なくとも55%、少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも99%、少なくとも100%、又は少なくとも3倍大きい生存率を示す。
【0100】
産生培養容器又はバイオリアクターでは、種子培養又は成長フェーズに続いて、基礎培養培地及び細胞が培養容器に供給される。ある特定の実施形態では、細胞上清又は細胞溶解物は、産生培養後に採取される。他の実施形態では、目的のポリペプチド又はタンパク質は、当技術分野で周知の技術を使用して、目的のタンパク質の位置に応じて、培養培地若しくは細胞溶解物、又はそれが何であってもそれから回収される。
【0101】
「細胞株」は、細胞の継続継代又はサブ培養を通じて特定の系統に由来する細胞を指す。「細胞」という用語は、「細胞集団」と互換的に使用される。
【0102】
「細胞」という用語は、組換え核酸配列を発現させるのに好適である任意の細胞を含む。細胞には、非ヒト動物細胞、哺乳動物細胞、ヒト細胞、鳥細胞、昆虫細胞、酵母細胞、又は例えば、ハイブリドーマ若しくはクアドローマなどの細胞融合物などの真核生物のものが含まれる。ある特定の実施形態では、細胞は、ヒト、サル、類人猿、ハムスター、ラット、又はマウス細胞である。他の実施形態では、細胞は、以下の細胞から選択される。CHO(例えば、CHO K1、DXB-11 CHO、Veggie-CHO)、COS(例えば、COS-7)、網膜細胞、Vero、CV1、腎臓(例えば、HEK293、293 EBNA、MSR293、MDCK、HaK、BHK21)、HeLa、HepG2、WI38、MRC5、Colo25、HB 8065、HL-60、リンパ球、例えば、Jurkat(Tリンパ球)又はDaudi(Bリンパ球)、A431(表皮)、CV-1、U937、3T3、L細胞、C127細胞、SP2/0、NS-0、MMT細胞、幹細胞、腫瘍細胞、及び前述の細胞由来の細胞株。いくつかの実施形態では、細胞は、1つ以上のウイルス遺伝子、例えば、ウイルス遺伝子を発現させる網膜細胞(例えば、PER.C6(登録商標)細胞)を含む。いくつかの実施形態では、細胞は、CHO細胞である。他の実施形態では、細胞は、CHO K1細胞である。
【0103】
組換えタンパク質産生フェーズにおいて、「フェドバッチ細胞培養」又は「フェドバッチ培養」は、培養の終了前の周期的な細胞及び/又は産生物の採取の有無にかかわらず、動物細胞及び培地が最初に培養容器に供給され、追加の培養栄養素が培養中に、継続的又は別個の増分で、培養物にゆっくりと供給されるバッチ培養を指す。フェドバッチ培養には、定期的に全培養物(細胞及び培地を含み得る)が除去され、新鮮な培地によって置き換えられる、「半継続フェドバッチ培養」が含まれる。フェドバッチ培養は、単純な「バッチ培養」と区別されるが、細胞培養のための全ての成分(動物細胞及び全ての培養栄養素を含む)は、バッチ培養における培養プロセスの開始時に培養容器に供給される。フェドバッチ培養は、プロセス中に上清が培養容器から除去されない限り、灌流培養とは更に区別することができるが、灌流培養では、細胞は、例えば、濾過によって培養物において抑制され、培養培地は、継続的又は間欠的に導入され、培養容器から除去される。しかしながら、フェドバッチ細胞培養中の試験目的での試料の除去が企図される。フェドバッチプロセスは、最大作動容積及び/又はタンパク質産生が到達されたと判定されるまで継続する。
【0104】
本明細書で使用される場合、「継続的な細胞培養」という語句は、通常、特定の成長フェーズにおいて細胞を継続的に成長させるために使用される技術に関する。例えば、細胞の一定の供給が必要な場合、又は特定の目的のポリペプチド若しくはタンパク質の産生が必要な場合、細胞培養は、特定の成長のフェーズでの維持を必要とし得る。したがって、細胞をその特定のフェーズに維持するために、条件を継続的に監視及び調整しなければならない。
【0105】
本開示の一態様は、タンパク質が産生及び採取される、フェドバッチ産生細胞培養に関する。産生フェーズの前に、典型的には、細胞培養のための全ての成分が、培養プロセスの開始時に培養容器に供給され、次いで、細胞集団が、産生規模のための準備ができるまで拡大される、成長フェーズ(シードトレイン又は種子培養としても知られる)が存在する。したがって、培養容器には、開始細胞株に応じて、初期細胞成長フェーズのための好適な播種密度の細胞が接種される。いくつかの態様では、本開示のアスパラギンサプリメントは、本明細書に更に記載されるように、フェドバッチ産生細胞培養とともに使用され得る。
【0106】
培養容器には、ウェルプレート、Tフラスコ、振動フラスコ、撹拌容器、スピナーフラスコ、中空繊維、エアーリフトバイオリアクターなどが含まれるが、これらに限定されない。好適な細胞培養容器は、バイオリアクターである。バイオリアクターは、環境条件を操作又は制御するように製造又は設計された培養容器を指す。かかる培養容器は、当該技術分野において周知である。
【0107】
バイオリアクターのプロセス及びシステムは、ガス交換を最適化して、細胞成長及び産生性を維持するのに十分な酸素を供給し、COを除去するために開発されてきている。ガス交換の効率を維持することは、細胞培養及びタンパク質産生のスケールアップを確実に成功させるための重要な基準である。かかるシステムは、当業者に周知である。
【0108】
一実施形態では、培地に、フェドバッチプロセスに従って、細胞培養中に間隔を置いて補充する。フェドバッチ培養は、当技術分野で一般に知られており、タンパク質産生を最適化するために使用される(Y.M.Huang et al.,Biotechnol Prog.2010 September-October;26(5):1400-10)。フェドバッチプロセスは、典型的には、産生フェーズ中に使用される。
【0109】
補充の供給は、産生培養の期間中、毎日、又は2~3日ごとの頻度で間隔を置いて、追加の栄養素、例えば、ビタミン、アミノ酸、及び本明細書に上述されるような他の栄養素を含むように実施され得る。補充された供給(栄養素を含有する補充された培地が添加される)は、2週間以上の培養のために、産生培養の期間を通して、少なくとも2回、又は少なくとも8回、実施され得る。別の実施形態では、補充の供給は、培養の期間中、毎日実施することができる。代替の培養供給スケジュールも想定されている。
【0110】
追加のアミノ酸補充を行って、非枯渇培地を提供してもよく、枯渇したアミノ酸は、当技術分野で知られており、本明細書に記載される方法に従って決定される。このレジームが用いられる場合、追加のアミノ酸は、アミノ酸枯渇の判定に応じて、産生培養の期間中、好ましくは毎日、又は2~3日ごとの頻度で間隔を置いて補充又は添加される。一実施形態では、非枯渇細胞培養培地を維持するための追加のアミノ酸の混合物は、2週間以上の培養のために、1日目又は約1日目、2日目又は約2日目、3日目又は約3日目、4日目又は約4日目、5日目又は約5日目、6日目又は約6日目、7日目又は約7日目、8日目又は約8日目、9日目又は約9日目、10日目又は約10日目、11日目又は約11日目、12日目又は約12日目、13日目又は約13日目、及び14日目又は約14日目に培養物に添加される。代替の培養供給スケジュールも想定されている。
【0111】
CHO細胞などの真核細胞は、小規模培養、例えば、約25mLの培地を有する125mlの容器、約50~100mLの培地を有する250mLの容器、約150~240mLの培地を有する250mLの容器、約100~200mLの培地を有する500mLの容器で培養され得る。代替として、培養は、例えば、約300~1000mLの培地を有する1000mLの容器、約500mL~3000mLの培地を有する3000mLの容器、約2000mL~8000mLの培地を有する8000mLの容器、及び約4000mL~15000mLの培地を有する15000mLの容器などの大規模であり得る。製造用培養は、10,000L以上の培地を含有することができる。タンパク質治療薬の臨床製造などの大規模細胞培養は、典型的には、細胞が所望のタンパク質を産生する間、数日又は更に数週間維持される。この期間中に、培養に、培養の過程において消費される栄養素及びアミノ酸などの成分を含有する濃縮されたフィード培地を補充し得る。濃縮されたフィード培地は、任意の細胞培養培地配合に基づくことができる。かかる濃縮されたフィード培地は、細胞培養培地の成分の大部分を、例えば、通常の有用量の約5倍、6倍、7倍、8倍、9倍、10倍、12倍、14倍、16倍、20倍、30倍、50倍、100倍、200倍、400倍、600倍、800倍、又は更には約1000倍で含有することができる。濃縮されたフィード培地は、しばしば、フェドバッチ培養プロセスで使用される。
【0112】
いくつかの実施形態では、細胞成長又はタンパク質産生の過程において、細胞培養に、添加物としても知られている「ユースポイント添加物」、ユースポイント成分、又はユースポイント化学物質を更に補充し得る。ユースポイント添加物としては、成長因子又は他のタンパク質、緩衝剤、エネルギー源、塩、アミノ酸、金属、及びキレート剤のうちのいずれか1つ以上が挙げられる。他のタンパク質には、トランスフェリン及びアルブミンが含まれる。サイトカイン及びケモカインを含む成長因子は、当技術分野で一般に知られており、細胞成長、又は場合によっては、細胞分化を刺激することが知られている。成長因子は、通常、タンパク質(例えば、インスリン)、小ペプチド、又はエストロゲン、DHEA、テストステロンなどのステロイドホルモンである。場合によっては、成長因子は、例えば、テトラヒドロ葉酸(THF)、メトトレキサートなどの、細胞増殖又はタンパク質産生を促進する非天然化学物質であり得る。タンパク質及びペプチド成長因子の非限定的な例としては、アンジオポイエチン、骨形態形成タンパク質(BMP)、脳由来神経栄養因子(BDNF)、表皮成長因子(EGF)、エリスロポイエチン(EPO)、線維芽細胞成長因子(FGF)、グリア細胞株由来神経栄養因子(GDNF)、顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)、成長分化因子-9(GDF9)、肝細胞成長因子(HGF)、肝腫由来成長因子(HDGF)、インスリン、インスリン様成長因子(IGF)、移行刺激因子、ミオスタチン(GDF)、神経成長因子(NGF)、及び他の神経栄養因子、血小板由来成長因子(PDGF)、トロンボポイエチン(TPO)、トランスフォーミング成長因子アルファ(TGF-α)、トランスフォーミング成長因子ベータ(TGF-β)、腫瘍壊死因子-アルファ(TNF-α)、血管内皮細胞成長因子(VEGF)、wntシグナル経路アゴニスト、胎盤成長因子(PIGF)、ウシ胎児ソマトトロピン(FBS)、インターロイキン-1(IL-1)、IL-2、IL-3、IL-4、IL-5、IL-6、IL-7などが挙げられる。一実施形態では、細胞培養培地に、ユースポイント添加成長因子インスリンを補充する。一実施形態では、培地におけるインスリンの濃度、すなわち、添加後の細胞培養培地におけるインスリンの量は、約0.1μM~10μMである。
【0113】
緩衝剤は、当技術分野で一般に知られている。本発明は、任意の特定の緩衝剤に限定されず、当業者であれば、特定のタンパク質を産生する特定の細胞株とともに使用するための適切な緩衝剤又は緩衝システムを選択することができる。一実施形態では、ユースポイント添加緩衝剤は、NaHCOである。他の実施形態では、緩衝剤は、HEPESである。他の実施形態では、ユースポイント添加緩衝剤は、NaHCO及びHEPESの両方を含む。
【0114】
細胞培養におけるユースポイント添加物として使用するためのエネルギー源もまた、当技術分野で周知である。限定されないが、一実施形態では、ユースポイント添加エネルギー源は、グルコースである。特定の細胞株及び産生されるタンパク質の特定及び具体的な要件を考慮すると、一実施形態では、グルコースが、培地において約1~20mMの濃度に添加されることができる。場合によっては、グルコースは、20g/L以上の高レベルで添加することができる。
【0115】
キレート剤は、同様に、細胞培養及びタンパク質産生の技術において周知である。EDTA四ナトリウム二水和物及びEDTA四ナトリウムクエン酸塩は、当技術分野で使用される2つの一般的なキレート剤であるが、他のキレート剤が本発明の実施において採用されてもよい。一実施形態では、ユースポイント添加キレート剤は、EDTA四ナトリウム二水和物である。一実施形態では、ユースポイント添加キレート剤は、Naなどのクエン酸塩である。
【0116】
一実施形態では、細胞培養培地に、例えば、グルタミンなどのエネルギー源としての1つ以上のユースポイント添加アミノ酸を追加的に補充し得る。一実施形態では、細胞培養培地に、約1mM~13mMの最終濃度で、ユースポイント添加グルタミンを補充する。
【0117】
他のユースポイント添加物としては、鉄、ニッケル、亜鉛、及び銅の塩などの様々な金属塩のうちの1つ以上が挙げられる。一実施形態では、細胞培養培地に、硫酸銅、硫酸亜鉛、塩化第一鉄、及び硫酸ニッケルのうちの任意の1つ以上を補充する。
【0118】
タンパク質産生
ある特定の態様では、本開示は、真核細胞を培養することによって、組換えタンパク質の産生における組換えタンパク質力価を改善することを含む、細胞培養成績を改善させるための方法を提供する。いくつかの実施形態では、真核細胞は、組換えタンパク質をコードする安定的に統合された核酸を含む。他の実施形態では、本開示の方法は、改善された細胞成長(例えば、倍加速度)、生存細胞密度、細胞生存率、及びそれらの組み合わせを提供する。
【0119】
いくつかの実施形態では、本開示の方法は、本開示のアスパラギンサプリメントを提供する段階と、真核細胞をアスパラギンサプリメントにおいて培養する段階と、真核細胞から目的の組換えタンパク質を発現させる段階と、初期及び/又は後期フェドバッチ細胞培養においてより少ない量のアスパラギン補充又は非アスパラギン補充で培養された同様又は同一の真核細胞と比較して、アスパラギンサプリメントにおいて培養された真核細胞からより高い力価の組換えタンパク質を産生する段階と、を含む。
【0120】
いくつかの実施形態では、本開示のアスパラギンサプリメントで培養された細胞から、培養培地1リットル当たりのタンパク質産生物のグラムで表すことができるタンパク質産生率又は力価は、少なくとも100mg/L、少なくとも1g/L、少なくとも1.2g/L、少なくとも1.4g/L、少なくとも1.6g/L、少なくとも1.8g/L、少なくとも2g/L、少なくとも2.5g/L、少なくとも3g/L、少なくとも3.5g/L、少なくとも4g/L、少なくとも4.5g/L、少なくとも5g/L、少なくとも5.5g/L、少なくとも6g/L、少なくとも6.5g/L、少なくとも7g/L、少なくとも7.5g/L、少なくとも8g/L、少なくとも8.5g/L、少なくとも9g/L、少なくとも9.5g/L、少なくとも10g/L、少なくとも15g/L、又は少なくとも20g/Lである。
【0121】
いくつかの実施形態では、本開示のアスパラギンサプリメントで培養された細胞から得られるタンパク質力価は、初期及び/又は後期フェドバッチ細胞培養においてより少ない量のアスパラギン補充又は非アスパラギン補充で培養された同様又は同一の細胞からのタンパク質力価(収量)よりも、少なくとも約2%、少なくとも約3%、少なくとも約4%、少なくとも約5%、少なくとも約6%、少なくとも約7%、少なくとも約8%、少なくとも約9%、少なくとも約10%、少なくとも約11%、少なくとも約12%、少なくとも約13%、少なくとも約14%、少なくとも約15%、少なくとも約16%、少なくとも約17%、少なくとも約18%、少なくとも約19%、少なくとも約20%、少なくとも約21%、少なくとも約22%、少なくとも約23%、少なくとも約24%、少なくとも約25%、少なくとも約26%、少なくとも約27%、少なくとも約28%、又は少なくとも約29%大きい。
【0122】
いくつかの実施形態では、本開示のアスパラギンサプリメントで培養された哺乳動物細胞によるタンパク質の力価(収量)は、初期及び/又は後期フェドバッチ細胞培養においてより少ない量のアスパラギン補充又は非アスパラギン補充で培養された同様又は同一の細胞によるタンパク質の力価よりも、少なくとも100mg/L、少なくとも0.5g/L、少なくとも1g/L、少なくとも1.2g/L、少なくとも1.4g/L、少なくとも1.6g/L、少なくとも1.8g/L、少なくとも2g/L、少なくとも2.5g/L大きい。
【0123】
本開示の方法は、細胞培養プロセスを介してタンパク質産生を改善するのに有用である。本発明で使用される細胞株は、商業的又は科学的に関心のある組換えタンパク質を発現させるように遺伝子操作され得る。細胞株を遺伝子操作することは、宿主細胞に所望の組換えポリペプチドを発現させるように、組換えポリヌクレオチド分子で細胞をトランスフェクション、形質転換、若しくは形質導入すること、又はそうでなければそれを変更(例えば、相同組換え及び遺伝子活性化、又は組換え細胞の非組換え細胞との融合によって)することを含む。目的のポリペプチドを発現させるための、細胞又は細胞株を遺伝子操作するための方法及びベクターは、当業者に周知であり、例えば、様々な技術が、Current Protocols in Molecular Biology.Ausubel et al.,eds.(Wiley&Sons,New York,1988,and quarterly updates)、Sambrook et al.,Molecular Cloning、A Laboratory Manual(Cold Spring Laboratory Press,1989)、Kaufman,R.J.,Large Scale Mammalian Cell Culture,1990,pp.15-69に示されている。培養における成長に好適な多種多様な細胞株は、American Type Culture Collection(Manassas,Va.)及び商業ベンダーから入手可能である。
【0124】
いくつかの実施形態では、タンパク質産生物(目的のタンパク質)は、抗体、ヒト抗体、ヒト化抗体、キメラ抗体、モノクローナル抗体、多重特異性抗体、二重特異性抗体、抗原結合抗体断片、一本鎖抗体、ダイアボディ、トリアボディ、若しくはテトラボディ、Fab断片若しくはF(ab’)2断片、IgD抗体、IgE抗体、IgM抗体、IgG抗体、IgG1抗体、IgG2抗体、IgG3抗体、IgG4抗体、又はそれらの組み合わせである。一実施形態では、抗体は、IgG1抗体である。一実施形態では、抗体は、IgG2抗体である。一実施形態では、抗体は、IgG4抗体である。一実施形態では、抗体は、キメラIgG2/IgG4抗体である。一実施形態では、抗体は、キメラIgG2/IgG1抗体である。一実施形態では、抗体は、キメラIgG2/IgG1/IgG4抗体である。
【0125】
いくつかの実施形態では、抗体は、抗プログラム細胞死1抗体(例えば、米国特許出願公開第2015/0203579A1号に記載される抗PDI抗体)、抗プログラム細胞死リガンド-1(例えば、米国特許出願公開第2015/0203580A1号に記載される抗PD-L1抗体)、抗DII4抗体、抗アンジオポエチン-2抗体(例えば、米国特許第9,402,898号に記載される抗ANG2抗体)、抗アンジオポエチン様3抗体(例えば、米国特許第9,018,356号に記載される抗AngPtl3抗体)、抗血小板由来成長因子受容体抗体(例えば、米国特許第9,265,827号に記載される抗PDGFR抗体)、抗Erb3抗体、抗プロラクチン受容体抗体(例えば、米国特許第9,302,015号に記載される抗PRLR抗体)、抗補体5抗体(例えば、米国特許出願公開第2015/0313194A1号に記載される抗C5抗体)、抗TNF抗体、抗上皮成長因子受容体抗体(例えば、米国特許第9,132,192号に記載される抗EGFR抗体、又は米国特許出願公開第2015/0259423A1に記載される抗EGFRvIII抗体)、抗プロタンパク質転換酵素サブチリシンケキシン-9抗体(例えば、米国特許第8,062,640号又は米国特許出願公開第2014/0044730A1号に記載される抗PCSK9抗体)、抗成長及び分化因子-8抗体(例えば、米国特許第8,871,209号又は同第9,260,515号に記載され、抗ミオスタチン抗体としても知られている抗GDF8抗体)、抗グルカゴン受容体(例えば、米国特許出願公開第2015/0337045A1号又は同第2016/0075778A1号に記載される抗GCGR抗体)、抗VEGF抗体、抗IL1R抗体、インターロイキン4受容体抗体(例えば、米国特許出願公開第2014/0271681A1号又は米国特許第8,735,095号又は同第8,945,559号に記載される抗IL4R抗体)、抗インターロイキン6受容体抗体(例えば、米国特許第7,582,298号、同第8,043,617号、又は同第9,173,880号に記載される抗IL6R抗体)、抗IL1抗体、抗IL2抗体、抗IL3抗体、抗IL4抗体、抗IL5抗体、抗IL6抗体、抗IL7抗体、抗インターロイキン33(例えば、米国特許出願公開第2014/0271658A1号又は同第2014/0271642A1号に記載される抗IL33抗体)、抗分化抗原群3(例えば、米国特許出願公開第2014/0088295A1号及び同第2015/0266966A1号、並びに米国特許出願第62/222,605号に記載される抗CD3抗体)、抗分化抗原群20(例えば、米国特許出願公開第2014/0088295A1号及び同第2015/0266966A1号、並びに米国特許第7,879,984号に記載される抗CD20抗体)、抗CD19抗体、抗CD28抗体、抗分化抗原群48(例えば、米国特許第9,228,014号に記載される抗CD48抗体)、抗Fel d1抗体(例えば、米国特許第9,079,948号に記載される)、抗インフルエンザウイルス抗体、抗呼吸器合胞体ウイルス抗体(例えば、米国特許出願公開第2014/0271653A1号に記載される抗RSV抗体)、抗中東呼吸器症候群ウイルス(例えば、米国特許出願公開第2015/0337029A1号に記載される抗MERS-CoV抗体)、抗エボラウイルス抗体(例えば、米国特許出願公開第2016/0215040号に記載される)、抗ジカウイルス抗体、抗重症急性呼吸器症候群(SARS)抗体(例えば、抗SARS-CoV抗体、抗COVID-19抗体(例えば、抗SARS-CoV-2抗体)、抗リンパ球活性化遺伝子3抗体(例えば、抗LAG3抗体又は抗CD223抗体)、抗神経成長因子抗体(例えば、米国特許出願公開第2016/0017029号及び米国特許第8,309,088号及び同第9,353,176号に記載される抗NGF抗体)、及び抗アクチビンA抗体からなる群から選択される。いくつかの実施形態では、二重特異性抗体は、抗CD3×抗CD20二重特異性抗体(米国特許出願公開第2014/0088295A1号及び同第2015/0266966A1号に記載される)、抗CD3×抗ムチン16二重特異性抗体(例えば、抗CD3×抗Muc16二重特異性抗体)、及び抗CD3×抗前立腺特異性膜抗原二重特異性抗体(例えば、抗CD3×抗PSMA二重特異性抗体)からなる群から選択される。一実施形態では、目的のタンパク質は、前述のいずれかの組み合わせを含む。
【0126】
いくつかの実施形態では、目的のタンパク質は、抗インフルエンザウイルス抗体、抗呼吸器合胞体ウイルス抗体(例えば、米国特許出願公開第2014/0271653A1号に記載される抗RSV抗体)、抗中東呼吸器症候群ウイルス(例えば、米国特許出願公開第2015/0337029A1号に記載される抗MERS-CoV抗体)、抗エボラウイルス抗体(例えば、米国特許出願公開第2016/0215040号に記載される)、抗ジカウイルス抗体、抗重症急性呼吸器症候群(SARS)抗体(例えば、抗SARS-CoV抗体、抗COVID-19抗体(例えば、抗SARS-CoV-2抗体)からなる群から選択される。一実施形態では、目的のタンパク質は、前述のいずれかの組み合わせを含む。
【0127】
いくつかの実施形態では、目的のタンパク質は、アリロクマブ、サリルマブ、ファシヌマブ、ネスバクマブ、デュピルマブ、トレボグルマブ、エビナクマブ、及びリヌクマブからなる群から選択される。一実施形態では、目的のタンパク質は、前述のいずれかの組み合わせを含む。
【0128】
いくつかの実施形態では、目的のタンパク質は、Fc部分及び別のドメイン(例えば、Fc-融合タンパク質)を含有する組換えタンパク質である。いくつかの実施形態では、Fc-融合タンパク質は、Fc部分に連結された受容体の1つ以上の細胞外ドメインを含有する、受容体Fc-融合タンパク質である。いくつかの実施形態では、Fc部分は、ヒンジ領域、続いてIgGのCH2及びCH3ドメインを含む。いくつかの実施形態では、受容体Fc-融合タンパク質は、単一のリガンド又は複数のリガンドのいずれかに結合する2つ以上の区別できる受容体鎖を含有する。例えば、Fc-融合タンパク質は、TRAPタンパク質、例えば、IL-1トラップ(例えば、hIgG1のFcに融合したII-1R1細胞外領域に融合したIL-1RAcPリガンド結合領域を含有するリロナセプト、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる米国特許第6,927,004号を参照されたい)、又はVEGFトラップ(例えば、hIgG1のFcに融合したVEGF受容体Flk1のIgドメイン3に融合したVEGF受容体Flt1のIgドメイン2を含有するアフリベルセプト又はziv-アフリベルセプト、米国特許第7,087,411号及び同第7,279,159号を参照されたい)である。他の実施形態では、Fc-融合タンパク質は、Fc部分に連結された抗体の可変重鎖断片及び可変軽鎖断片などの1つ以上の抗原結合ドメインのうちの1つ以上を含有する、ScFv-Fc融合タンパク質である。
【0129】
繰り返すが、本開示は、組換えタンパク質産生のための任意の特定の種類の細胞に限定されない。組換えタンパク質産生に好適な細胞種類の例としては、哺乳動物細胞、昆虫細胞、鳥細胞、細菌細胞、及び酵母細胞が挙げられる。細胞は、組換え遺伝子発現のためのベクターで形質転換された幹細胞若しくは組換え細胞、又はウイルス産生物を産生するためのウイルスでトランスフェクトされた細胞であり得る。細胞は、目的のタンパク質をコードする組換え異種ポリヌクレオチド構築物を含有し得る。その構築物は、エピソームであり得るか、又はそれは、細胞のゲノムに物理的に統合される要素であり得る。細胞はまた、異種ポリペプチド構築物上にコードされるそのタンパク質を有さずに、目的のタンパク質を産生し得る。言い換えれば、細胞は、抗体を産生するB細胞など、目的のタンパク質を天然にコードし得る。細胞はまた、鶏胚細胞などの一次細胞、又は一次細胞株であり得る。
【0130】
有用な細胞の例としては、CHO、COS、網膜細胞、Vero、CV1、腎臓、HeLa、HepG2、WI38、MRC5、Colo25、HB 8065、HL-60、リンパ球、A431、CV-1、U937、3T3、L細胞、C127細胞、SP2/0、NS-0、MMT細胞、幹細胞、腫瘍細胞、及び前述の細胞に由来する細胞株が挙げられる。様々な実施形態では、細胞株は、CHO細胞誘導体、例えば、CHO-K1、CHO DUX B-11、CHO DG-44、Veggie-CHO、GS-CHO、S-CHO、又はCHO Iec変異株である。
【0131】
産生フェーズは、シェーカーフラスコ又はウェーブバッグから、250mLのバイオリアクター、1リットルのバイオリアクター、及び大規模な産業用バイオリアクターまで、培養の任意の規模で実施することができる。同様に、シードトレイン拡張フェーズは、シェーカーフラスコ又はウェーブバッグから、250mLのバイオリアクター、1リットル又はより大きいバイオリアクターまで、培養の任意の規模で実施することができる。大規模なプロセスは、約100リットル~20,000リットル以上の容量で実施することができる。いくつかの手段のうちの1つ以上は、温度シフト又は化学誘導などのタンパク質産生を制御するために使用され得る。成長フェーズは、産生フェーズよりも高い温度で生じ得る。例えば、成長フェーズは、約35℃~38℃の第1の温度で発生し得、産生フェーズは、約29℃~37℃、任意選択で約30℃~36℃、又は約30℃~34℃の第2の温度で発生し得る。更に、カフェイン、ブチレート、タモキシフェン、エストロゲン、テトラサイクリン、ドキシサイクリン、及びヘキサメチレンビサセトアミド(HMBA)などのタンパク質産生の化学誘導剤は、温度シフトと同時に、その前、又はその後に添加され得る。誘導剤が温度シフトの後に添加される場合、それらは、温度シフトの後1~2日など、温度シフトの1時間から5日後に添加することができる。産生細胞培養は、ケモスタットにおけるような継続的なフィード培養システム(C.Altamirano et al.,2001上記を参照されたい)として、又はフェドバッチプロセス(Huang,2010上記を参照されたい)に従って実行され得る。
【0132】
本開示は、本発明の個々の態様又は実施形態の例示として意図される、本明細書に記載される特定の実施形態によって範囲に限定されるものではない。機能的に同等の方法及び構成要素は、本発明の範囲内にある。本明細書に記載されたものに加えて本発明の様々な修正は、前述の記載及び添付の図面から当業者には明らかである。かかる修正は、発明の範囲内にある。
【0133】
本開示全体で言及されている全ての刊行物は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【実施例
【0134】
以下の実施例は、例示目的のためのみに提供されており、本発明の範囲を限定することを意図するものではない。
【0135】
フェドバッチ方法論
本明細書に記載されるように、フェドバッチ供給開発は、自動化されたAMBR250、24ウェイ、並列バイオリアクターシステムを介して行われる。AMBR250高スループットワークステーションは、24基の使い捨てバイオリアクターの統合された並列制御を提供する。より具体的には、AMBR250(24ウェイ)は、24基のバイオリアクターで構成される完全に統合された高スループットシステムであり、各々が、細胞培養プロセスを並行して完全に自動化された制御下で最大250mlの作業容量を有する。温度、インペラ速度、pH及び溶存酸素(DO)、オフガス分析を含む、各バイオリアクター容器の個々の継続的な制御及び監視が提供される。このシステムは、完全に自動化された培地充填、接種、サンプリング、及び供給を提供する。システムは、インペラ、スパージャー、又はヘッドスペースガス、pH及びDOプローブ、及び最大4つの供給ラインを備えたバイオリアクターを使用する。
【0136】
本開示の供給戦略開発を実施する際に、AMBR250バイオリアクター(Sartorious Stedim)は、最大250mLの作動容積で実行される。独自の既知組成基底培地及びフィード培地が使用される。フィード培地及び供給戦略は、細胞株ごとに異なる。グルコースは、毎日供給され、レベルは、標的に基づいて制御される。バイオリアクターは、細胞培養物で接種される。酸素は、制御によって維持され、純粋な酸素は、研究中に様々な流量でスパージャーを通して添加される。同様に、pHは、上部pH帯については、CO散布による制御によって維持され、下部帯のpHは制御されない。接種細胞密度、溶存酸素、温度、pH、不感帯は、一定に保たれる。空気及び酸素の撹拌及び流量は、規模によって異なる。
【0137】
特に明記しない限り、例示的なポリペプチドAを発現させる高アスパラギン消費CHO細胞株1が全ての実施例で利用される。
【0138】
細胞外アミノ酸測定
本明細書に記載されるように、アミノ酸の細胞外レベルを測定してもよい。ある特定の実施形態では、かかるレベルは、以下の手順に従って測定される。Waters AccQ・Tag法プロトコル及びWaters AccQ・Tag試薬キット(Waters,Milford,MA)を使用して、使用済み細胞培養培地試料を誘導体化し、調製した。誘導体化の前に、試料を10倍希釈し、100mg/Lのサルコシン内部標準でスパイクした(Millipore Sigma,Burlington,MA)。誘導体化アミノ酸の分離及びその後の測定は、AccQ・Tag Ultra C18カラム(1.7uM、2.1×10mm)を装備したUPLCを使用して実施し、データは、260nmの波長で収集した。移動相及び勾配は、Waters AccQ・Tag法プロトコルに従った。
【0139】
細胞内アミノ酸測定
本明細書に記載されるように、アミノ酸の細胞内レベルを測定してもよい。ある特定の実施形態では、かかるレベルは、以下の手順に従って測定される。細胞をバイオリアクターから回収し、室温で遠心分離し、上清を細胞ペレットから分離する。細胞ペレットを、1×PBSで洗浄し、遠心分離する。PBSを除去し、細胞ペレットを液体窒素で冷クエンチする。研究試料は、安定した標識された内部標準でスパイクし、抽出し、有機溶媒でタンパク質沈殿に供する。遠心分離後、上清のアリコートを希釈し、C18逆相UHPLCカラムを装備したAgilent 1290/AB Sciex QTrap 5500LC-MS/MSシステムに注入する。質量分析計は、エレクトロスプレーイオン化(ESI)を使用して正のモードで操作される。個々の分析物親イオンのピーク面積を、擬似MRMモードで、対応する内部標準の親イオンのピーク面積に対して測定する。定量は、各実行の直前に調製された、強化された較正基準から産生された加重最小二乗回帰分析を使用して実施する。LC-MS/MS生データは、AB SCIEXソフトウェアAnalyst 1.6.2を使用して収集し、処理する。データ整理は、Microsoft Excel for Office 365 v.16を使用して実施する。
【0140】
アスパラギン配列バリアント分析
本明細書に記載されるように、目的のポリペプチドのアスパラギン配列バリアントを測定してもよい。かかる配列バリアントの任意の好適な測定方法を使用することができるが、アスパラギン配列バリアントの定量的な量は、以下のように決定してもよい。約50個の可能なペプチドのうちの3個のペプチドに焦点を当てた、迅速かつ感度の高いLC-MSベースのアッセイをスクリーニングツールとして使用して、置換の例を特定し、置換の程度の定量的推定を得てもよい。目的のポリペプチドは、適切な精製方法論を使用して小規模で精製してもよい。次に、目的のポリペプチドを還元し、変性させ、続いて酵素消化を行ってもよい。このようにして、目的のポリペプチドのトリピックマップを産生し、タンパク質配列を分析して、予想される配列からの任意の変動が存在するかどうかを判定してもよい。HPLC勾配ベースの分離を、その後実施することができ、個々のペプチドを、Q-TOF MSシステムによって分析してもよい。特定のペプチドは、質量分析によって詳細に分析してもよい。ペプチド配列の変化を分析してもよい。例として、アスパラギンからセリンへの置換について27Daシフトが観察される。
【0141】
実施例1-細胞培養及び供給戦略開発に対するアスパラギンの影響
フェドバッチ細胞培養成績及び供給戦略を、例示的なCHO細胞株及び様々なアスパラギン補充を使用して評価した。フェドバッチ細胞培養成績及び供給戦略開発は、本明細書に記載されるように、AMBR250バイオリアクターシステム及びアミノ酸測定を使用して実施され得る。
【0142】
図3A~3Cを参照すると、ある特定の態様では、初期フェドバッチ細胞培養におけるアスパラギンの増加は、細胞成長の増加をもたらし、他の細胞栄養素の必要性とバランスが取れているとき、培養産生性に悪影響を及ぼさないことが見出された。図3Aは、低、中、及び高量のサプリメント(例えば、1回の供給当たり約1.8mM~約5.4mMのアルギニンの範囲)による一連の初期フェドバッチアスパラギンサプリメントを示すが、かかるアスパラギンサプリメントは、後期フェドバッチアスパラギン枯渇を防止しないことを示す。図3Bは、アスパラギンサプリメントの量の増加に伴う細胞培養成長の増加を示し、一方、図3Cは、いくつかの必須アミノ酸の枯渇に起因するプラトーに達するまでの、アスパラギンサプリメントの増加に伴う細胞培養力価の増加を示す。
【0143】
図4A~4Cを参照すると、後期フェドバッチ細胞培養におけるアスパラギンの増加は、アンモニウムなどの副産物形成の増加にもかかわらず、細胞培養産生性に著しい影響を及ぼさないことも見出された。より具体的には、図4Aは、後期フィードにおける低及び高アスパラギンサプリメント(1回の供給当たり約1.8mM~約7.2mMの範囲)を示すが、かかるアスパラギンサプリメントは、後期フェドバッチアスパラギン枯渇を防止しないことを示す。全体的な細胞培養産生性は、悪影響を受けないが(図4C)、後期フェドバッチ細胞培養におけるアスパラギンサプリメントのより多い量は、過剰な副産物の形成につながる可能性があり(図4B)、必要に応じてより多くのアスパラギンを細胞培養物に供給することができるが、枯渇を防ぐことは依然として困難であることを示唆している。
【0144】
本開示の実施形態によれば、改善されたアスパラギン補充供給戦略(すなわち、初期フェドバッチフィードにおける3倍のアスパラギン、及び後期フェドバッチフィードにおける1.5倍のアスパラギンを有する「新しい供給プラットフォーム」)が開発され、これは、初期フェドバッチ細胞培養における必須アミノ酸及びアスパラギンの枯渇を防止し、細胞培養成績の全体的な向上をもたらした。図5A~5Dに示されるように、初期フェドバッチアスパラギン補充は、初期フェドバッチアスパラギン枯渇を防止し、細胞培養成長を増加させた。更に、示されるように、必須アミノ酸枯渇の排除とともに、アスパラギン関連の細胞培養成長の増加は、細胞培養産生性を改善し、産生フェドバッチ時間を延長させ、より高い力価をもたらした。しかしながら、後期フェドバッチ細胞培養におけるより高いアスパラギン補充は、それでも後期フェドバッチにおけるアスパラギン枯渇を回避することはできない。図5E~5Gを参照すると、細胞力価、生存細胞数、及び細胞生存率は全て、別の例示的な細胞株において、より高いアスパラギンサプリメントによって改善した。
【0145】
図6Aを参照すると、初期フェドバッチ細胞培養において様々な量のアスパラギンを補充することは、同様の時点で枯渇をもたらす。しかしながら、アスパラギンサプリメントの量を増やすと、アスパラギンの消費率が増加し(図7を参照されたい)、細胞がアスパラギンを効率的に利用していないことを示唆する。図6Bを参照すると、後期フェドバッチ細胞培養において、増加したアスパラギン量を補充することは、後期フェドバッチアスパラギン枯渇を防止せず、かつ過剰な副産物形成を引き起こす可能性があり、再度、細胞がアスパラギンを効率的に利用していないことを示唆する。
【0146】
この点に関して、図7は、例示的な高消費細胞株についての、アスパラギン供給戦略の範囲にわたるアスパラギン消費率を示す。示されるように、本開示の新しいプラットフォーム供給戦略は、以前の知られているプラットフォーム供給戦略と比較して、細胞培養の期間にわたってより少ないアスパラギンを消費するフェドバッチ細胞培養をもたらす。更に、示されるように、高アスパラギン供給戦略は、低アスパラギン供給戦略と比較して、より高いアスパラギン消費率をもたらす。このデータは、本開示の新しいプラットフォーム供給戦略が、アスパラギンの最も効率的な使用を提供することを示唆している。
【0147】
要約すると、アスパラギンは、高消費細胞株において枯渇することが特定された。初期フェドバッチ細胞培養における補充は、細胞培養成績に影響を与える。後期フェドバッチ細胞培養における補充は、副産物、例えば、アンモニウムの産生を増加させる。必須アミノ酸の枯渇を防止し、初期フェドバッチにおけるアスパラギンの枯渇を克服し、アンモニウムの影響を最小限に抑えるバランスの取れたアスパラギン供給戦略が細胞培養産生性の向上をもたらすことが予想外に見出された。
【0148】
実施例2-アスパラギン関連アミノ酸に対するフェドバッチ細胞培養におけるアスパラギンの影響
代謝経路を介する、アスパラギンと、アスパラギンに関連する非必須アミノ酸との間の相互関係は、本明細書に記載されるように、AMBR250バイオリアクターシステム及びアミノ酸測定を使用して調査され得る。
【0149】
図8を参照すると、アスパラギンが必要な場合、細胞は、アスパラギン酸及びグルタミン酸の利用を増加させて、補充のアスパラギンを合成し得る。アスパラギン酸、グルタミン酸、及びグルタミンのより高い細胞内/細胞外濃度は、細胞が細胞ニーズをサポートするのに十分な細胞内アスパラギンを有することを示し得る。しかしながら、アスパラギン酸、グルタミン酸、及びグルタミンの濃度の減少は、アスパラギンの制限を示す可能性がある。
【0150】
図9A~9Dを参照すると、例示的な高消費細胞株1の後期フェドバッチ細胞培養におけるアスパラギンレベルの効果が示される。示されるように、低アスパラギンは、関連する非必須アミノ酸の細胞内プロファイルに影響を与える(低アスパラギンでは細胞内グルタミン酸が減少する)。
【0151】
図10A~10Dを参照すると、別の例示的な高消費細胞株2の後期フェドバッチ細胞培養におけるアスパラギンレベルの効果が示される。しかしながら、示されるように、低アスパラギンは、例示的な高消費細胞株1で観察されるものよりも低い程度で、関連する非必須アミノ酸の細胞内プロファイルに影響を与える(低アスパラギンでは細胞内グルタミン酸が減少する)。
【0152】
図11A~11Dを参照すると、例示的な低消費細胞株の後期フェドバッチ細胞培養におけるアスパラギンレベルの効果が示される。示されるように、低アスパラギンは、この例示的な細胞株については、関連する非必須アミノ酸の細胞外又は細胞内プロファイルに影響を与えない(グルタミン酸の細胞内プロファイルは、低アスパラギンでは減少しない)。示されるように、フェドバッチサイクルの最後に高レベルの細胞内アスパラギン及びグルタミン酸が存在する。
【0153】
最後に、図12A~12Fに示されるように、細胞外アスパラギンの増加は、アスパラギン関連アミノ酸を増加させることができるが、力価及びアンモニウムレベルにも影響を及ぼし得ることを示す、高(初期3倍、後期1.5倍)及び非常に高い(初期6倍、後期3倍)の効果。示されるように、より高いレベルの補充のアスパラギン(図12A)は、アスパラギン関連アミノ酸の増加をもたらし得る(図12B、12D、及び12E)が、結果として生じる望ましくない細胞培養副産物(すなわち、図12F、アンモニウム)の増加は、細胞培養成績の低下をもたらし得る(すなわち、図12C、力価)。
【0154】
図9A~9D、図10A~10D、図11A~11D、及び図12A~12Fはまとめて、異なるアスパラギン供給レベルに対するアスパラギン関連アミノ酸プロファイル及び細胞培養成績が細胞株によって異なることを示し、アスパラギン供給要件が細胞株の特定のニーズに標的化され得ることを示唆している。
【0155】
要約すると、アスパラギン関連アミノ酸の細胞内濃度は、特定の細胞株に対する特定のアスパラギン要件を示唆する。より具体的には、関連するアミノ酸の細胞外及び細胞内アミノ酸プロファイルに対するアスパラギン補充の影響は、細胞株の特定のニーズを標的化することができる。
【0156】
実施例3-アスパラギン枯渇の克服
細胞培養成績を維持しながらアスパラギン枯渇を克服するように最適化された、改善されたアスパラギン供給戦略及びプラットフォームは、本明細書に記載されるように、AMBR250バイオリアクターシステム及びアミノ酸測定を使用して開発され得る。
【0157】
以下の表1は、調査された例示的なアスパラギン供給戦略を示す。
【0158】
【表1】
【0159】
表1に示すように、標準的なフェドバッチボーラスアスパラギンフィードを、アスパラギンサプリメントの総量の2倍が細胞培養に提供されるように、いくつかのアスパラギン供給戦略、すなわち、継続的なアスパラギンサプリメントフィード(ボーラス細胞培養バルクフィードとは別個)、継続的なバルク+アスパラギンフィードの組み合わせ、及びボーラスアスパラギンフィードと継続的なアスパラギンサプリメントフィード(ボーラス細胞培養バルクフィードとは別個)の両方を利用したハイブリッド供給戦略と比較した。
【0160】
図13A~13Dを参照すると、ボーラスフィード及び継続的なアスパラギンフィードは、同じ総アスパラギンサプリメント量について、同等の細胞培養成績(図13Aに示される生存細胞数、図13Bに示される培養産生性)を有することが見出された。更に、細胞培養副産物形成(図13Cはアンモニウム形成を示し、図13Dはアラニン形成を示す)は、ボーラス及び継続的なアスパラギンフィードにおいて比較的一定である。しかしながら、図13E~13Gを参照すると、継続的なアスパラギンサプリメントフィードは、同じ総アスパラギンサプリメント量を有するボーラスアスパラギンサプリメントフィードと比較して、細胞外アスパラギン(図13E)、アスパラギン酸(図13F)、及びグルタミン酸(図13G)の枯渇を遅らせる。本開示の態様によれば、同じ総アスパラギンサプリメント量は、継続的に供給されると、アスパラギン、アスパラギン酸、及びグルタミン酸の消費率を減少させることが予想外に見出された。この点で、同等の細胞培養成績を有する改善されたアミノ酸枯渇プロファイルは、細胞培養によるより効率的なアスパラギン消費を示唆する。
【0161】
図14A~14Dを参照すると、継続的な独立したアスパラギンフィード(ボーラスバルクフィードとは別個)を介したアスパラギンの補充は、継続的なバルクフィード及び標準的なボーラス補充を介したアスパラギンの継続的な補充と比較して、同じ総アスパラギンサプリメント量(図14A)については、細胞外アスパラギン枯渇を防止しないが、細胞培養副産物形成(図14D)を低減し、アスパラギン関連代謝物の消費率を調節することが見出された(図14B及び図14C)。図示される全ての供給戦略は、同等の細胞培養成績を有する。
【0162】
ハイブリッド供給アプローチ(ボーラスアスパラギンサプリメントフィードと組み合わせた継続的なアスパラギンサプリメントフィード)は、ボーラスアスパラギン補充と比較して、アミノ酸の枯渇を遅らせるが、複数の例示的な細胞株にわたって副産物形成を増加させることが見出された。
【0163】
図15A~15Gを参照すると、第1の例示的な細胞株では、ハイブリッド供給アプローチは、アスパラギン及び関連する代謝産物の枯渇を遅らせ(図15Aは細胞外アスパラギンを示し、図15Bは細胞外アスパラギン酸を示し、図15Cは細胞外グルタミン酸を示す)、同等の細胞培養成績(図15Dに示される生存細胞数、図15Eに示される培養産生性)が得られることが見出されたが、副産物形成を増加させることも見出された(図15Fはアンモニウム形成を示し、図15Gはアラニン形成を示す)。
【0164】
図16A~16Eを参照すると、第2の例示的な細胞株では、ハイブリッド供給アプローチは、アスパラギンを遅らせる(図16Aは細胞外アスパラギンを示す)ことが見出されたが、細胞培養産生性の低下をもたらした(図16Bに示される生存細胞数、図16Cに示される培養産生性)。ハイブリッド供給アプローチはまた、副産物形成を増加させることが見出された(図16Dはアンモニウム形成を示し、図16Eはアラニン形成を示す)。
【0165】
要約すると、後期フェドバッチにおける細胞外アスパラギン枯渇の影響は、新しいアスパラギンサプリメント供給戦略を特定することによって対処された。継続的なアスパラギン補充がアスパラギンを供給するためのより効率的なプラットフォームであることが予想外に見出された。特に独立した別個のアスパラギンフィードとしての継続的なアスパラギン補充は、アスパラギン及び関連する代謝物の消費率を低下させる。
【0166】
実施例4-フェドバッチ細胞培養におけるアスパラギン配列バリアントの軽減及び制御、並びにアスパラギン配列バリアントの代理マーカーとしてのアスパラギン関連アミノ酸の使用
アスパラギン配列バリアントを軽減するためのアスパラギンサプリメントの使用、及び目的のポリペプチドにおけるアスパラギン配列バリアントの代理マーカーとしてのアスパラギン関連アミノ酸の使用は、本明細書に記載されるように、AMBR250バイオリアクターシステム及びアミノ酸測定を使用して調査され得る。
【0167】
例示的な高消費細胞株2の後期フェドバッチ細胞培養におけるアスパラギンレベルの効果を示す図10A~10Dに戻って参照すると、アスパラギン配列バリアントを、フェドバッチ細胞培養の最終日に質量分析によって分析した。低アスパラギン補充細胞培養物には、0.30%のアスパラギン配列バリアントが存在することが見出され、高アスパラギン補充細胞培養物には、0.24%のアスパラギン配列バリアントが存在することが見出された。これらのSV値は、比較的低く、図10Dに示されるように、細胞培養において観察されるより高いレベルの細胞内グルタミン酸と一致する。
【0168】
同様に、例示的な低消費細胞株の後期フェドバッチ細胞培養におけるアスパラギンレベルの効果を示す図11A~11Dを参照すると、アスパラギン配列バリアントを、フェドバッチ細胞培養の最終日に質量分析によって分析した。低アスパラギン補充細胞培養物には、0.11%のアスパラギン配列バリアントが存在することが見出され、高アスパラギン補充細胞培養物には、0.04%のアスパラギン配列バリアントが存在することが見出された。繰り返すが、これらのSV値は、比較的低く、図11Dに示されるように、細胞培養において観察されるより高いレベルの細胞内グルタミン酸と一致する。
【0169】
図17A~17Bを参照すると、初期段階のフェドバッチにおける細胞外アスパラギン枯渇が、Asn→Ser、アスパラギン配列バリアントの形成の指標であり得ることが見出されている。図17Aに示されるように、初期段階の細胞培養の少なくとも4日目まで(例えば、フィード2まで)細胞外アスパラギンレベルを0.1mM(15mg/L)の枯渇限界を超えて維持する高アスパラギン供給戦略(10.8mMで初期段階3倍、後期段階1.5倍)は、アスパラギン配列バリアントの形成をSV約0.20%未満のレベルに軽減することができる(図17B)。
【0170】
図18Aを参照すると、後期フィードにおけるより低いアスパラギンレベルが、特にピーク生存細胞濃度の後に、Asn→Ser、アスパラギン配列バリアントを増加させることが見出されている。図18Aに示される実験では、初期フィードにおけるアスパラギンレベルは、同じであった。図18Bは、低アスパラギン後期供給戦略と比較した、高アスパラギン後期供給戦略に関する細胞内グルタミン酸(Glu)レベルを示す。更に、細胞培養培地へのGlnの添加が、アスパラギン配列バリアントの形成を更に軽減することが予想外に見出された(図18C)。
【0171】
示されるように、細胞内グルタミン酸濃度は、アスパラギン配列バリアントの存在と逆相関する。より高い細胞内グルタミン酸レベルは、アスパラギン配列バリアントの発生率が低い細胞培養物において見られ、より低い細胞内グルタミン酸レベルは、アスパラギン配列バリアントの発生率が高い細胞培養物において見られる。このようにして、細胞内グルタミン酸は、目的のポリペプチドにおけるアスパラギン配列バリアントの量の代理マーカーとして使用され得る。
【0172】
図19A~19Gは、例示的な細胞株1に関する、アスパラギン、アスパラギン関連アミノ酸、及びアスパラギン配列バリアントの間の相関関係を示す。図19B~19Dは、細胞外アスパラギン(図19B)、アスパラギン酸(図19C)、及びグルタミン酸(図19D)を示すが、図19E~19Gは、例示的な細胞内アスパラギン(図19E)、アスパラギン酸(図19F)、及びグルタミン酸(図19G)を示す。図19Gは、後期段階のフェドバッチ細胞内グルタミン酸(Glu)が、図19Aの高及び低アスパラギン供給戦略を使用して産生されるポリペプチドに対するアスパラギン配列バリアントの代理マーカーとして機能することができることを示す。示されるように、高アスパラギンサプリメントフィードは、高い後期段階のフェドバッチ細胞内グルタミン酸、及び低いアスパラギン配列バリアントをもたらす。低アスパラギンサプリメントフィードは、低い後期細胞内グルタミン酸、及びより高いアスパラギン配列バリアントをもたらす。代理の細胞内グルタミン酸測定は、質量分析計でのアスパラギン配列バリアント分析と一致する。しかしながら、この特定の細胞株について、細胞外若しくは細胞内のアスパラギン若しくはアスパラギン酸、又は細胞外グルタミン酸に関する明確な傾向は存在しない。
【0173】
図20A~20Dは、別の例示的な細胞株(高消費細胞株)に関する、アスパラギン、アスパラギン関連アミノ酸、及びアスパラギン配列バリアントの間の相関関係を示す。図20B~20Dは、細胞外アスパラギン(図20B)、細胞内アスパラギン酸(図20C)、及び細胞内グルタミン酸(図20D)を示す。図20C及び20Dは、後期段階のフェドバッチ細胞内アスパラギン酸及び細胞内グルタミン酸が両方とも、図20Aの高及び低アスパラギン供給戦略を使用して産生されるポリペプチドに対するアスパラギン配列バリアントの代理マーカーとして機能することができることを示す。示されるように、高アスパラギンサプリメントフィードは、高い後期段階のフェドバッチ細胞内アスパラギン酸、及び高い後期段階のフェドバッチ細胞内グルタミン酸、並びに低いアスパラギン配列バリアントをもたらす。低アスパラギンサプリメントフィードは、低い後期フェドバッチ細胞内アスパラギン酸、及び低い後期フェドバッチ細胞内グルタミン酸、並びにより高いアスパラギン配列バリアントをもたらす。代理の細胞内アスパラギン酸及び細胞内グルタミン酸の測定は、質量分析計でのアスパラギン配列バリアント分析と一致する。
【0174】
図21A~21Fは、例示的な細胞株1のアスパラギン配列バリアントの傾向が細胞内グルタミン酸の傾向と一致することを示し、細胞内アスパラギン関連アミノ酸がアスパラギン配列バリアントの代理として使用され得ることを示す。図21A及び21Cは、高アスパラギン初期供給戦略を示す(図21A、質量分析によって決定される配列バリアントの量、図21C、細胞内グルタミン酸の濃度)。図21B及び21Dは、低アスパラギン初期供給戦略を示す(図21B、質量分析によって決定される配列バリアントの量、図21D、細胞内グルタミン酸の濃度)。図21Eは、アスパラギン配列バリアントのより高い発生率及びより低い発生率と相関する例示的な細胞株4の細胞内グルタミン酸レベルを示し、図21Fは、別の例示的な細胞株5についての同様の細胞内グルタミン酸プロファイルを示す。
【0175】
図22A~22Hは、例示的な細胞株に関する、アスパラギン、アスパラギン関連アミノ酸、及びアスパラギン配列バリアントの間の相関関係を示す。図22A~22Dは、高及び低アスパラギン供給戦略に関する、例示的な細胞株1についての、細胞外アスパラギン(図22A)、細胞外アスパラギン酸(図22B)、細胞外グルタミン酸(図22C)、及び細胞外グルタミン(図22D)を示す。示されるように、細胞外アスパラギン、アスパラギン酸、又はグルタミン酸、及びアスパラギン配列バリアントの形成については、明確な傾向は観察されていない。しかしながら、後期段階のフェドバッチ細胞外グルタミンとアスパラギン配列バリアントの形成との間には相関関係が存在する(特に、初期段階のフェドバッチ細胞培養における、枯渇限界を超えるアスパラギンの補充が想定されている)。例示的な細胞株4についての同様の傾向が図22E~22Hに示され、高及び低アスパラギン供給戦略に関する、細胞外アスパラギン(図22E)、細胞外アスパラギン酸(図22F)、細胞外グルタミン酸(図22G)、及び細胞外グルタミン(図22H)を示す。
【0176】
図23A~23Cは、細胞外グルタミンが、後期段階のフェドバッチ細胞培養においてアスパラギン配列バリアントの代理として機能することができることを更に示す。図23Aは、十分なグルタミンが例示的な細胞株1において高アスパラギン供給戦略を介して産生され得ることを示す(例えば、グルタミン枯渇限界を超える)。同様に、図23Bは、十分なグルタミンが例示的な細胞株1において高アスパラギン供給戦略を介して産生され得ることを示し、アスパラギン配列バリアントが質量分析計によって検出されなかった実施形態と相関する。最後に、図23Cは、6日目及び8日目にアスパラギンを補充しない場合、アスパラギン配列バリアントが検出され、細胞外グルタミンが枯渇限界を下回る(すなわち、不十分なグルタミンがアスパラギン供給戦略を介して産生される)ことを示す。しかしながら、十分なグルタミンが高アスパラギン供給戦略を介して産生されるとき、細胞外グルタミンは、アスパラギン配列バリアント形成と相関する。
【0177】
本明細書で引用された全ての刊行物及び特許出願は、各刊行物又は特許出願が具体的かつ個別に参照により組み込まれることが示されているかのように、参照により本明細書に組み込まれる。
【0178】
本発明は、例示的な実施形態を参照して説明されてきたが、本発明の範囲から逸脱することなく、様々な変更が行われてもよく、同等物がその要素の代わりとなり得ることを当業者は理解するであろう。加えて、その本質的な範囲から逸脱することなく、特定の状況又は材料を教示に適合させるために、多くの修正が行われ得る。したがって、本発明は、本発明を実施するために企図された最良のモードとして開示された特定の実施形態に限定されるものではなく、本発明は、添付の特許請求の範囲内に入る全ての実施形態を含むことが意図される。
図1
図2
図3A
図3B
図3C
図4
図5A
図5B
図5C
図5D
図5E
図5F
図5G
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13-1】
図13-2】
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21A
図21B
図21C
図21D
図21E
図21F
図22
図23
【国際調査報告】