IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ アランセオ・ドイチュランド・ゲーエムベーハーの特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-10-12
(54)【発明の名称】部分水素化ジエンポリマー
(51)【国際特許分類】
   C08F 8/04 20060101AFI20231004BHJP
   C08F 36/06 20060101ALI20231004BHJP
   C08L 15/00 20060101ALI20231004BHJP
   C08K 3/013 20180101ALI20231004BHJP
   C08K 3/02 20060101ALI20231004BHJP
   C08K 3/36 20060101ALI20231004BHJP
   B60C 1/00 20060101ALI20231004BHJP
【FI】
C08F8/04
C08F36/06
C08L15/00
C08K3/013
C08K3/02
C08K3/36
B60C1/00 A
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023515351
(86)(22)【出願日】2021-09-27
(85)【翻訳文提出日】2023-03-07
(86)【国際出願番号】 EP2021076476
(87)【国際公開番号】W WO2022064031
(87)【国際公開日】2022-03-31
(31)【優先権主張番号】20198701.3
(32)【優先日】2020-09-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】516112462
【氏名又は名称】アランセオ・ドイチュランド・ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ジアウェン・ジョウ
(72)【発明者】
【氏名】トーマス・リュンツィ
(72)【発明者】
【氏名】エラ・クリーメン
(72)【発明者】
【氏名】ヴィルフリート・ブラウバッハ
【テーマコード(参考)】
3D131
4J002
4J100
【Fターム(参考)】
3D131AA01
3D131AA02
3D131AA06
3D131AA08
3D131AA14
3D131AA19
3D131BA01
3D131BA02
3D131BA04
3D131BA05
3D131BA07
3D131BA08
3D131BA12
3D131BA18
3D131BA20
3D131BB02
3D131BB05
3D131BB06
3D131BB11
3D131BC02
3D131BC12
3D131BC18
3D131BC19
3D131BC31
4J002AC111
4J002AC112
4J002DA036
4J002DJ016
4J002FD016
4J002GN01
4J100AS01Q
4J100AS02P
4J100AS03Q
4J100AS04Q
4J100AS06Q
4J100AS23Q
4J100BC43Q
4J100CA01
4J100CA14
4J100CA31
4J100DA01
4J100DA04
4J100DA25
4J100DA28
4J100HA04
4J100HB02
4J100HC90
4J100HD04
4J100JA29
(57)【要約】
硬化性部分水素化ブタジエンポリマーであって、0.5~55%の水素化度を有し、前記ポリマーの全重量を基準として合計0~9重量%の、ブタジエンから誘導される一般式(I)のビニル基及び一般式(II)のトランス基を有し、100%である前記ポリマーの全重量を基準として少なくとも50重量%の1,3-ブタジエンから誘導される単位を含むブタジエンポリマーである、硬化性部分水素化ブタジエンポリマーを提供する。前記ポリマーの製造方法、前記ポリマーを含む組成物、及び前記ポリマーを用いて得られる物品も提供する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
硬化性部分水素化ブタジエンポリマーであって、
0.5~55%の水素化度を有し、
前記硬化性部分水素化ブタジエンポリマーの全重量を基準として合計0~9重量%の、式(I):
【化1】
のブタジエンから誘導されるビニル基及び式(II):
【化2】
のブタジエンから誘導されるトランス基を有し、
前記硬化性部分水素化ブタジエンポリマーの全重量(100%)を基準として少なくとも50重量%の1,3-ブタジエンから誘導される単位を含むブタジエンポリマーである、硬化性部分水素化ブタジエンポリマー。
【請求項2】
式(I)のブタジエンから誘導されるビニル単位を有しないか、又は前記硬化性部分水素化ブタジエンポリマーの全重量を基準として0.94重量%未満の式(I)のブタジエンから誘導されるビニル単位を有する、請求項1に記載の硬化性部分水素化ブタジエンポリマー。
【請求項3】
前記硬化性部分水素化ブタジエンポリマーの全重量を基準として0~8重量%の式(II)のブタジエンから誘導されるトランス単位を有する、請求項1及び2に記載の硬化性部分水素化ブタジエンポリマー。
【請求項4】
5~20個の炭素原子を有する1,3-ブタジエン以外の共役ジエンから選択される1つ以上のコモノマーから誘導される単位を含み、前記1つ以上のコモノマーから誘導される単位の少なくとも一部が、水素化又は部分水素化された形態で存在していてもよい、請求項1~3のいずれか一項に記載の硬化性部分水素化ブタジエンポリマー。
【請求項5】
少なくとも80重量%の1,3-ブタジエンから誘導される単位を含み、2~39%の水素化度を有する、請求項1~4のいずれか一項に記載の硬化性部分水素化ブタジエンポリマー。
【請求項6】
100,000~2,500,000g/モルの重量平均分子量(Mw)、及び1.5~15の分子量分布(Mw/Mn)、及び-120~0℃のガラス転移温度を有する、請求項1~5のいずれか一項に記載の硬化性部分水素化ブタジエンポリマー。
【請求項7】
抽出によって測定される結合した硫黄の含有量が、前記硬化性部分水素化ブタジエンポリマーの全重量を基準として12ppm~20,000ppm又は20ppm~2,000ppmである、請求項1~6のいずれか一項に記載の硬化性部分水素化ブタジエンポリマー。
【請求項8】
少なくとも1つの請求項1~7のいずれか一項に記載の硬化性部分水素化ブタジエンポリマーを組成物の全重量を基準として90重量%~100重量%含む、組成物。
【請求項9】
100℃におけるムーニー粘度ML1+4が40~130である、請求項8に記載の組成物。
【請求項10】
少なくとも5重量%の少なくとも1つの請求項1~7のいずれか一項に記載の硬化性部分水素化ブタジエンポリマーと、少なくとも10重量%の1つ以上の充填剤とを含む硬化性コンパウンドであって、
前記充填剤が、タイヤ、タイヤの構成要素、及びタイヤを製造するための材料における用途に適切であり、好ましくは、1つ以上の酸化ケイ素、1つ以上のカーボンブラック、又は1つ以上の酸化ケイ素と1つ以上のカーボンブラックとの組み合わせを含み、
前記重量パーセントが、前記硬化性コンパウンドの全重量を基準としており、
前記硬化性コンパウンドは、少なくとも1つのジエンポリマー、好ましくはブタジエン及びスチレンから誘導される単位を含むポリマーを場合によりさらに含んでいてもよく、
前記ジエンポリマーが、Si原子、S原子、N原子、O原子、又はそれらの組み合わせを含む1つ以上の官能基、好ましくは、シラン単位、シロキサン単位、アミノシロキサン単位、スルホシロキサン単位、これらの各単位の複数種、又はそれらの組み合わせを含む1つ以上の官能基を有するように官能化されている、硬化性コンパウンド。
【請求項11】
請求項10に記載の硬化性コンパウンドを硬化させることによって得られる、加硫物。
【請求項12】
請求項11に記載の加硫物を含む物品であって、好ましくはタイヤ、又はタイヤの構成要素から選択される、物品。
【請求項13】
請求項1~7のいずれか一項に記載の硬化性部分水素化ブタジエンポリマーの製造方法であって、
少なくとも1つの硬化性ブタジエンポリマーを出発ポリマーとして準備するステップと、
前記出発ポリマーに対して少なくとも1つの水素化処理を行って、前記ポリマー中の不飽和単位の数を減少させて、0.5%~55%又は2%~39%の水素化度を実現し、式(I):
【化3】
のブタジエンから誘導されるビニル基及び式(II):
【化4】
のブタジエンから誘導されるトランス基の量を、前記硬化性部分水素化ブタジエンポリマーの全重量を基準として0重量%~9重量%にするステップと
を含み、
前記出発ポリマーが、少なくとも50重量%の1,3-ブタジエンから誘導される単位を有する、製造方法。
【請求項14】
前記出発ポリマーが、0~0.94重量%の前記式(I)のブタジエンから誘導されるビニル基及び0~8重量%の前記式(II)のブタジエンから誘導されるトランス基を有する、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記出発ポリマーが、抽出によって測定して、前記出発ポリマーの全重量を基準として約12ppm~約20,000ppm又は約20ppm~約2,000ppmの含有量の結合した硫黄を有する、請求項13又は14に記載の方法。
【請求項16】
物品の製造方法であって、請求項10に記載の硬化性コンパウンドの硬化及び成形を行うステップを含み、前記成形は、前記硬化の最中又は後又は前に行う、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
硬化性部分水素化ブタジエンポリマー、その製造方法、それを含む組成物、及びそれを用いて得られる物品に関する。
タイヤの重要な性質としては、安全に運転するための乾いた及び濡れた表面に対する良好な密着性、低燃料消費量のための低い転がり抵抗、並びにタイヤ寿命を延長するための高い耐摩耗性が挙げられる。同時に転がり抵抗を増加させたり耐摩耗性を低下させたりすることなく、濡れた表面に対するタイヤの密着性を改善することは困難である。「ウェットスリップ抵抗」とも呼ばれる濡れた表面に対する密着性、及び転がり抵抗は、タイヤの製造に用いられるゴムの動的機械的性質に大きく依存する。より高い温度(60℃~100℃)において高い反発弾性を有するゴムは、転がり抵抗を低下させるために有利であり、一方、低温(0~23℃)において高い減衰率又は低い反発弾性を有するゴムはウェットグリップの改善に有利である。ポリブタジエンゴムは、良好な動的機械的性質を有することが知られており、タイヤの製造に広く用いられている。
【背景技術】
【0002】
1,3-ブタジエンを重合させる場合、得られるポリマーは、炭素-炭素二重結合を有する繰り返し単位を含む。この炭素-炭素二重結合上に水素原子がどのように配置されているかによるが、繰り返しポリマー単位は、ビニル単位(1,2付加によって得られ、当技術分野では「1,2ブタジエン単位」とも呼ばれる)、シス単位、及びトランス単位の間で区別することができる。後者の2つは1,4-付加によって得られ、当技術分野では一括して「1,4-ブタジエン単位」と呼ばれる。
【0003】
1,2-ブタジエン単位(ビニル単位)は、ぶらさがった二重結合を有し、式(I):
【化1】
又は立体式(IA):
【化2】
で表すことができる。式(I)及び(IA)は、同じ化学単位の別の表現である。
【0004】
シス-1,4-ブタジエン単位中、炭素-炭素二重結合に結合する両方の-CH-基は、二重結合の同じ側に配置されている。シス-1,4-ブタジエン単位(シス単位)は式(II):
【化3】
又は立体式(IIA)
【化4】
で表すことができる。式(II)及び(IIA)は、同じ化学単位を表す2つの異なる方法である。
【0005】
トランス-1,4-ブタジエン単位中、炭素-炭素二重結合に結合する2つの-CH-基は、二重結合の互いに反対側に配置されている。トランス-1,4-ブタジエン単位(トランス単位)は式(III):
【化5】
(ここで、R1、R2、R3、及びR4は、すべて水素である)
で表すことができる。或いは、トランス-1,4-ブタジエン単位は式(IIIA)
【化6】
で表すことができる。式(III)及び(IIIA)は、同じ化学単位を表す2つの異なる方法である。
【0006】
用いられる重合方法によって決定されるが、これらの異なる単位は、様々な量で得ることができ、結果として得られるポリマーの性質を制御することができる。
【0007】
アルカリ金属開始剤、例えばブチルリチウムを用いてアニオン重合法によって得られるポリブタジエンでは、これら3つの種類の単位すべてが不規則に分布する。この方法によって得られるブタジエンポリマーは、低含有量のシス単位(10~30重量%の間)と、中から高含有量のトランス単位及びビニル単位とをポリマー鎖中に有する傾向にある。
【0008】
遷移金属又は希土類金属をベースとする重合触媒を用いる場合、3つの異なる種類の単位の形成をより良く制御することができる。例えば、1つ以上の希土類金属をベースとする重合触媒、又はコバルト、ニッケル、若しくはチタンをベースとする重合触媒を用いることによって、非常に低い含有量のビニル単位及びトランス単位と、少なくとも90重量%の非常に多い量のシス単位とを有するポリマー得ることができる。
【0009】
高シス含有量(したがって低トランス及びビニル含有量)を有するブタジエンポリマーの生成は周知である。高シス-ブタジエンポリマーは、容易に商業的に入手可能であり、例えばArlanxeo Deutschland GmbH,Cologne,GermanyよりBUNAの商品名で入手可能である
【0010】
高シス-ポリブタジエンポリマーは、良好な動的機械的性質を有することが知られているが、比較的低い耐摩耗性を有する傾向にある。材料の耐摩耗性を増加させるために、これらは別のポリマー、典型的にはブタジエン-スチレンコポリマー、又は充填剤と組み合わされることが多い。
【0011】
したがって、転がり抵抗及びスリップ抵抗に関して改善された性質を有するタイヤ材料を製造するために配合することができるゴムの提供が必要とされ続けているだけではない。ゴムポリマーと充填剤との相互作用の改善も一般に必要とされている。相分離によってタイヤの内部安定性及びその寿命が低下することがあるので、経時による相分離を回避するためにブタジエンゴムと充填剤との良好な適合性が必要である。
【0012】
(特許文献1)には、ポリブタジエンゴムマトリックス中の充填剤の分散は、ペイン指数(Payne index)の増加によって示される、極性基によるポリブタジエンポリマーの官能化によって改善できることが示されている。ペイン指数は、ゴムマトリックス中の充填剤の均一な分布の尺度の1つである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】米国特許出願公開第2016/0280815 A1号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
驚くべきことに、ブタジエンポリマーと充填剤との適合性は、ブタジエンポリマーの部分水素化を低水素化度で行うことによって改善できることが分かった。水素化は、不飽和二重結合の数が減少するので、ポリマーの極性を低下させると考えられる。部分水素化ブタジエンゴムは、低い水素化度において既に良好又は改善された動的機械的性質を示し、したがって低いムーニー粘度を示すので、タイヤ又はその構成要素への加工も容易である。
【課題を解決するための手段】
【0015】
したがって、以下では、水素化度0.5~55%、好ましくは2~39%の水素化度を有し、ポリマーの全重量を基準として合計0~9重量%の、式(I)
【化7】
のブタジエンから誘導されるビニル基及び式(II)
【化8】
のブタジエンから誘導されるトランス基を有する硬化性部分水素化ブタジエンポリマーであって、
ポリマーの全重量を基準として少なくとも50重量%の1,3-ブタジエンから誘導される単位を含むブタジエンポリマーである、硬化性部分水素化ポリブタジエンポリマーが提供される。
【0016】
別の一態様では、組成物の全重量を基準として90重量%~100重量%の少なくとも1つの部分水素化ブタジエンポリマーを含む組成物が提供される。
【0017】
さらなる一態様では、化合物の全重量を基準として少なくとも10重量%の部分水素化ブタジエンポリマーを含む硬化性化合物であって、少なくとも1つの充填剤、又は部分水素化ブタジエンポリマーを硬化させることができる少なくとも1つの硬化剤、又はそれらの組み合わせをさらに含み、上記充填剤が、タイヤ、タイヤの構成要素、及びタイヤを製造するための材料における用途に適切であり、好ましくは1つ以上の酸化ケイ素、1つ以上のカーボンブラック、又は1つ以上の酸化ケイ素と1つ以上のカーボンブラックとの組み合わせを含む、硬化性化合物が提供される。
【0018】
さらに別の一態様では、上記硬化性化合物を硬化させることによって得られる加硫物が提供される。
【0019】
さらなる一態様では、上記加硫物を含む物品が提供される。
【0020】
別の一態様では、部分水素化ブタジエンポリマーの製造方法であって、
少なくとも1つの硬化性ブタジエンポリマーを出発ポリマーとして提供するステップと、
出発ポリマーに対して少なくとも1つの水素化処理を行って、ポリマー中の不飽和単位の数を減少させて、0.5%~55%の水素化度を実現し、式(I):
【化9】
のブタジエンから誘導されるビニル基及び式(II):
【化10】
のブタジエンから誘導されるトランス基を、ポリマーの全重量を基準として0重量%~9.0重量%にするステップとを含み、
出発ポリマーが、少なくとも50重量%、好ましくは少なくとも80重量%の1,3-ブタジエンから誘導される単位を含む、方法が提供される。
【0021】
さらなる一態様では、硬化性ゴムコンパウンドの硬化及び成形を行うステップを含む物品の製造方法であって、成形は、硬化の最中、後、又は前に行うことができる、方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下の詳細な説明において、本開示がさらに説明される。
【0023】
以下の説明において、特定の規格(ASTM、DIN、ISOなど)に言及する場合がある。特に指定されなければ、それらの規格は、2020年3月1日において有効であった版で用いられる。例えば、規格が期限切れとなっているという理由で、その日付で有効な版がない場合は、2020年3月1日に最も近い日付で有効であった版に言及される。
【0024】
特に指定されなければ、本説明に引用されるすべての文献が参照により援用される。
【0025】
以下の説明において、組成物又はポリマーの成分の量は、同義で「重量パーセント」、「wt.%」、又は「重量%」によって示すことができる。「重量パーセント」、「wt.%」、又は「重量%」という用語は、特に示されなければ100%であるそれぞれ組成物又はポリマーの全重量を基準としている。
【0026】
「phr」という用語は、「ゴム100重量部当たりの重量部」を意味する。この用語は、ゴム組成物の成分の量がゴムコンパウンド中のゴムの総量を基準とするためにゴムの配合において用いられる。組成物の1つ以上の成分の量(1つ以上の成分の重量部)は、100重量部のゴムを基準としている。
【0027】
本開示において示される範囲は、特に記載が無ければ、その範囲の端点の間及びその端点のすべての値が含まれ開示されることを意味する。
【0028】
「含む」という用語は、排他的ではなく非限定的な意味で用いられる。「成分A及びBを含む組成物」という表現は、成分A及びBを含むことを意味するが、組成物は別の成分を有することもできる。「含む」の使用とは逆に、「からなる」という語は、狭い限定的な意味で用いられる。「成分A及びBからなる組成物」という表現は、成分A及びBの組成物を表し、別の成分は含まないことを意味する。
【0029】
ブタジエンポリマー:
典型的には、本開示による部分水素化ポリマーはゴムである。ゴムは典型的には20℃未満のガラス転移温度を有する。
【0030】
本開示による部分水素化ブタジエンポリマーは硬化性である。これらは、硬化性のブタジエンポリマーを出発ポリマーとして提供するステップと、出発ポリマーを水素化して、ポリマー中の不飽和単位の数を減少させて、0.5~55%、例えば2~39%の水素化度を実現するステップとによって得ることができる。本開示の一実施形態では、部分水素化ポリマーは7%~39%の水素化度を有する。本開示の一実施形態では、部分水素化ポリマーは12%~39%の水素化度を有する。上記部分水素化ブタジエンゴムを用いて製造される物品は、典型的にはゴムをそれらの硬化形態で含む。
【0031】
本開示によるブタジエンポリマーは、1,3-ブタジエンのホモポリマー及びコポリマーを含む。好ましくは、本開示によるポリマーは、ポリマーの重量を基準として少なくとも50%、好ましくは少なくとも80重量%の1,3-ブタジエンから誘導される単位を含む。本開示の一実施形態では、部分水素化ポリマーは、少なくとも90重量%、又は95重量%、又はさらには少なくとも99重量%の1,3-ブタジエンから誘導される単位を含む。
【0032】
本開示の一実施形態では、部分水素化ポリマーは、ポリマーの全重量を基準として0重量%~50重量%、好ましくは0重量%~20重量%の1つ以上のコモノマーを含む。
【0033】
適切なコモノマーとしては、5~24個、好ましくは5~20個の炭素原子を有する共役ジエンが挙げられるが、これらに限定されるものではない。具体例としては、イソプレン、1,3-ペンタジエン、2,3-ジメチルブタジエン、1-フェニル-1,3-ブタジエン、1,3-ヘキサジエン、ミルセン、オシメン、ファルネセン、及びそれらの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されるものではない。コモノマーは、炭素-水素結合以外の別の官能性を得るために1つ以上の位置で官能化されていてよい。このような別の官能基としては、架橋部位基、分岐部位基、分岐基、又は官能化末端基を挙げることができる。
【0034】
適切なコモノマーは、例えば架橋部位基、分岐部位基、分岐基、又は官能化末端基などの官能基を導入するコモノマーなどの1つ以上の別の共重合性コモノマーも含まれるが、これらに限定されるものではない。
【0035】
上記の同じ化学的種類の1つ以上のコモノマーの組み合わせ、及び異なる化学的種類の1つ以上のコモノマーの組み合わせを用いることもできる。
【0036】
本開示の一実施形態では、部分水素化ブタジエンポリマーは、0~10重量%、好ましくは0~5重量%、より好ましくは1重量%未満の1つ以上のコモノマーから誘導される単位を含む(ポリマーの全重量を基準とする)。
【0037】
本開示の一実施形態では、部分水素化ポリマーは、1つ以上のビニル芳香族コモノマーから誘導される単位を含まず、又は本質的に含まず、特に、スチレン、o-メチルスチレン、m-メチルスチレン、p-メチルスチレン、p-tert-ブチルスチレン、ビニルナフタレン、ジビニルベンゼン、トリビニルベンゼン、ジビニルナフタレンから誘導される単位を本質的に含まない。本明細書において用いられる場合、「本質的に含まない」は、ポリマーの全重量を基準として1重量%未満、好ましくは0.1重量%未満含むことを意味する。
【0038】
本開示の一実施形態では、部分水素化ブタジエンポリマーは、1つ以上のアルファ-オレフィンから誘導される単位を含まず、又は本質的に含まず、特に、エテン、プロペン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、4-メチル-1-ペンテン,1-オクテン、及びそれらの組み合わせから誘導される単位を含まず、又は本質的に含まない。
【0039】
本開示による部分水素化ポリマー中、1つ以上のコモノマーから誘導される単位は、水素化による影響を受けている場合もあるし、受けていない場合もある。
【0040】
本開示による部分水素化ブタジエンポリマーは、少量の、式(I)
【化11】
によるブタジエンから誘導されるビニル基(1,2-ブタジエン単位)及び式(II)
【化12】
によるブタジエンから誘導されるトランス基(1,4-ブタジエン単位)を有する。
【0041】
好ましくは、部分水素化ブタジエンポリマーは、ポリマーの全重量を基準として9重量%未満、好ましくは5重量%未満、例えば0%の、このようなトランス単位及びビニル単位の総量を有する。
【0042】
好ましくは、部分水素化ブタジエンポリマーは、ポリマー全重量を基準として0.94重量%、又は0.94重量%未満、例えば0%のこのようなビニル基の総量を有する。典型的な量としては、ポリマーの全重量を基準として0重量%~0.90重量%又は0~0.8重量%が挙げられる。
【0043】
好ましくは、本開示による部分水素化ブタジエンポリマーは、0~8重量%、好ましくは0~4重量%、又はさらには0~2重量%の一般式(II)によるトランス単位(1,4トランスブタジエン単位)を有する。
【0044】
本開示による部分水素化ポリブタジエンポリマーは、40~130ムーニー単位、例えば55~130又は60~129単位の100℃におけるムーニー粘度ML1+4を有することができる。
【0045】
本開示による部分水素化ポリブタジエンポリマーは、100,000g/モル~2,500,000g/モルの重量平均分子量(Mw)を有することができる。一実施形態では、ポリマーは450kg/モル~620kg/モルのMwを有する。
【0046】
本開示による部分水素化ポリブタジエンポリマーは、1.5~15の分子量分布(MWD)を有することができる。本開示の一実施形態では、ポリマーは1.5~4.5のMWDを有する。
【0047】
本開示による部分水素化ポリブタジエンポリマーは、-120℃~0℃のガラス転移温度(Tg)を有することができる。本開示の好ましい一実施形態では、上記ポリマーは-60℃~-110℃又は-65℃~-105℃のTgを有する。
【0048】
一実施形態では、本開示による部分水素化ポリブタジエンポリマーは、100℃におけるムーニー粘度ML1+4が40~130単位であり、分子量が100,000~2,500,000g/モルであり、分子量分布(MWD)が1~20であり、ガラス転移温度が-120℃~0℃である。
【0049】
本開示の一実施形態では、本開示の部分水素化ポリマーは0.6以下、例えば0.3~0.59のムーニー応力緩和(MSR)を有する。
【0050】
好ましい一実施形態では、本開示の部分水素化ポリマーは、例えば硫黄含有改質剤で処理した結果として、ポリマーに結合した硫黄を含む。好ましくは、上記ポリマーは、抽出によって測定される結合した硫黄の含有量が、ポリマーの全重量を基準として12ppm~20,000ppm又は20ppm~2,000ppmである。
【0051】
部分水素化ブタジエンポリマーの製造方法
本開示による部分水素化ブタジエンポリマーは、少なくとも1つのブタジエン出発ポリマーに対して少なくとも1つの水素化処理を行って、ポリマー中の不飽和単位の数を減少させることによって得ることができる。好ましくは、水素化処理は、前述の水素化度が得られるように行われる。水素化処理は、1つの処理又は複数の処理を含むことができる。
【0052】
出発ポリマーは、典型的には、ブタジエンホモポリマー、又は部分水素化ポリマーに関して前述したコモノマーを有するブタジエンコポリマーである。典型的には、出発ポリマーは、少なくとも50重量%、好ましくは少なくとも80重量%の1,3-ブタジエンから誘導される単位を含む。本開示の一実施形態では、出発ポリマーは、少なくとも90重量%、又は95重量%、又はさらには少なくとも99重量%の1,3-ブタジエンから誘導される単位を含む。
【0053】
典型的には、出発ポリマーは、非水素化ブタジエンポリマーである。しかしながら、水素化処理は、段階的に行うことができ、2つ以上の処理ステップを含むことができる。部分水素化ブタジエンも出発ポリマーとして用いることができ、次にその水素化度は水素化処理によってさらに増加する。水素化処理は、典型的には加圧下で、ポリマーを水素で処理するステップを含み、典型的には1つ以上の水素化触媒の使用を含む。水素原子がポリマーの炭素-炭素二重結合に付加して、それらが飽和炭素-炭素結合に変換される。好ましくは、多量のブタジエンから誘導されるシス単位(したがって少量のトランス単位及びビニル単位)を有するポリマーが出発ポリマーとして用いられる。好ましくは、出発ブタジエンポリマーは式(III):
【化13】
による少なくとも90重量%のブタジエンから誘導されるシス単位を有する。
【0054】
好ましくは、出発ブタジエンポリマーは、ポリマーの全重量を基準として少なくとも91重量%又は少なくとも92重量%のこのようなシス単位を有する。シス単位の数は水素化処理によって減少するが、その理由は、シス単位の一部は水素化されて、式(IV):
【化14】
による、又は式(IVA):
【化15】
の別の立体表記による飽和基に変換されるからである。式(IV)及び(IVA)は、同じ化学単位の異なる表現である。
【0055】
ブタジエンから誘導されるビニル基及びブタジエンから誘導されるトランス基の数は、水素化処理によって減少する場合も減少しない場合もある。したがって、水素化処理は、ブタジエンから誘導されるビニル基、トランス基、又はその両方の量を維持するため、又は減少させるために行うことができる。一実施形態では、本開示による出発ポリブタジエンポリマーは、水素化処理が行われて、ブタジエンから誘導されるビニル基及びトランス基の量が維持され又は減少し、部分水素化ブタジエンポリマーに関して前述したような式(I)によるビニル基及び式(II)のトランス基の総量及び個別の量を有する部分水素化ブタジエンポリマーが得られる。
【0056】
本開示の一実施形態では、出発ブタジエンポリマーは、式(I)のビニル基及び式(II)のトランス基の総量が9重量%以下である。本開示の一実施形態では、出発ポリマーは、ポリマーの全重量を基準として0.94重量%、又は0.94重量%未満、例えば0%の総量のビニル基を有する。典型的な量としては、ポリマーの全重量を基準として0重量%~0.90重量%又は0.5~0.8重量%が挙げられる。
【0057】
本開示の一実施形態では、出発ブタジエンポリマーは、ポリマーの全重量を基準として0重量%~8重量%の一般式(II)によるトランス単位(1,4トランスブタジエン単位)を有する。
【0058】
本開示の一実施形態では、水素化は、出発ポリマーのムーニー粘度を増加させて、100℃においてML1+4のムーニー粘度が40~130ムーニー単位、例えば55~130又は60~129単位である本開示による部分水素化ポリマーを得るためにも行われる。
【0059】
本開示の一実施形態では、水素化は、100,000g/モル~2,500,000g/モルの重量平均分子量(Mw)を有する部分水素化ポリブタジエンポリマーを得るためにも行われる。
【0060】
本開示の一実施形態では、水素化は、出発ポリマーの分子量分布(MWD)を増加させて、1.0~20、例えば1.5~4.5のMWDを有する部分水素化ポリブタジエンポリマーを得るためにも行われる。
【0061】
本開示の一実施形態では、水素化は、出発ポリマーのガラス転移温度を低下させて、-120℃~0℃、好ましくは-60℃~-110℃、又は-65℃~-105℃のガラス転移温度(Tg)を有する部分水素化ポリブタジエンポリマーを得るためにも行われる。
【0062】
本開示による硬化性部分水素化ブタジエンポリマーの製造に用いられる出発ブタジエンポリマーは、ブタジエンゴムの周知の製造方法によって調製することができる。市販のポリマーを用いることもできる。適切なポリマーは、ニッケル、コバルト、チタン触媒、又は希土類触媒を用いることによって調製することができる。希土類触媒としては、ネオジム、プラセオジム、セリウム、ランタン、ガドリニウム、及びジスプロシウム、又はそれらの組み合わせが挙げられる。より好ましい一実施形態では、希土類元素はネオジムを含む。適切なポリマーは、例えば、カナダ特許出願公開第1,143,711 A号明細書、米国特許第4,260,707号明細書、米国特許出願公開第2013/0172489 A1号明細書に記載のように、又は欧州特許出願公開第2 819 853 A1号明細書の段落[0011]~[0049]に記載のように調製することができ、これらすべてが参照により本明細書に援用される。
【0063】
例えば、ブタジエンモノマー(及び、存在する場合はコモノマー)は、不活性溶媒中、Ti、Co、Ni、又は希土類金属を含む少なくとも1つの触媒組成物の存在下で重合させることができる。好ましい一実施形態では、出発ブタジエンポリマーは、希土類金属、好ましくはネオジムを含む重合触媒を用いて調製される。このような希土類触媒により得られるブタジエンポリマーは、好ましくは、92重量%を超えるシス-1,4単位、及び1重量%未満の1,2-ビニル単位、及び8重量%未満の1,4-トランス単位を含む(ポリマーの全重量を基準としたパーセント値)。一実施形態では、出発ブタジエンポリマーは、0.5重量%~0.9重量%、又は0.6重量%~0.8重量%の含有量のビニル基を有する。一実施形態では、出発ポリマーは、ポリマーの全重量を基準として0.5~7.5重量%の含有量の1,4トランス単位を有する。好ましくは、出発ブタジエンポリマーは、チーグラー・ナッタ型の希土類、好ましくはネオジムの触媒組成物を用いて調製される。典型的には、チーグラー・ナッタ型触媒系は、希土類金属(例えばネオジム)源と、塩化物源と、有機アルミニウム化合物との少なくとも3つの成分を含む。
【0064】
金属源としては、触媒金属(例えばネオジム)のアルコキシド、リン酸塩、又はカルボン酸塩を挙げることができ、好ましくはバーサチック酸ネオジムから選択される。塩化物源の例としては、塩化アルキルアルミニウム、好ましくはセスキ塩化エチルアルミニウムが挙げられるが、これらに限定されるものではない。有機アルミニウム化合物としては、アルキルアルミニウムが挙げられ、例えば水素化ジイソブチルアルミニウム(DIBAH)が挙げられるが、これに限定されるものではない。典型的な反応温度は60℃~140℃の間である。適切な不活性溶媒としては、例えば、芳香族、脂肪族、及び脂環式の炭化水素が挙げられる。例としては、ベンゼン、トルエン、ペンタン、n-ヘキサン、イソヘキサン、ヘプタン、ペンタン異性体、メチルシクロペンタン、及びシクロヘキサンが挙げられるが、これらに限定されるものではない。溶媒は、個別に若しくは組み合わせて用いることができ、又は1つ以上の極性溶媒とブレンドすることができる。不活性有機溶媒は、モノマー100重量部を基準として200~900重量部の量で用いることができる。重合は、連続的、又はバッチ式で行うことができる。反応は、例えば触媒の不活性化によって、例えばプロトン性化合物を加えることによって停止することができる。
【0065】
ポリブタジエン出発ポリマーは、分岐又は別のポリマー鎖との結合を誘導するため、例えばムーニー粘度を増加させるため、又はムーニー応力緩和を減少させるために、1つ以上の改質剤、好ましくは硫黄含有改質剤で処理される場合もされない場合もある。その目的のための改質剤の使用は、当技術分野において周知のように、例えば、米国特許第9,845,366号明細書、米国特許第9,963,519号明細書、及び米国特許第5,567,784号明細書に記載されている。本開示の一実施形態では、ポリブタジエン出発ポリマーは、1つ以上の改質剤、好ましくは硫黄又は1つ以上の硫黄基を含む1つ以上の改質剤で処理されている。硫黄含有改質剤による処理によって、ポリマー中に硫黄を組み込んで、ポリマー中に硫黄-炭素結合を形成することができる。ポリマーに結合している硫黄の量は、抽出後にポリマーの硫黄含有量を求めることで求めることができる。典型的には、出発ポリマーは、ポリマーの全重量を基準として、約12ppm~約20,000ppm、好ましくは約20ppm~約2,000ppmの含有量の結合した硫黄(抽出後に測定)を有することができる。
【0066】
ムーニー粘度を増加させるため、又はムーニー応力緩和を減少させるため、又はポリマー中に分岐を導入するための改質処理は、好ましくは、重合を停止した後、及び好ましくはワークアップ手順の前の反応混合物中で行うことができる。好ましくは、この処理は反応混合物中で行われる。適切な硫黄含有改質剤としては、ハロゲン化硫黄、より好ましくは臭化硫黄及び塩化硫黄及びポリ硫黄ハロゲン化物が挙げられる。好ましくは、硫黄含有改質剤は、1分子当たり1~8個の間の硫黄原子、好ましくは1分子当たり1又は2個の硫黄原子を有する。適切な例としては、SCl、SCl、SOCl、SBr、SOBrが挙げられるが、これらに限定されるものではない。改質剤の典型的な量としては、出発ポリマー100部当たり0.005~2重量部、又は出発ポリマー100部当たり0.007~0.5部を挙げることができる。
【0067】
硫黄又はハロゲン化物とは別に又はこれらに加えて官能基Rを含む官能化改質剤も用いることもできることが考慮される。このような改質剤の例は、米国特許出願公開第2016/0280815 A1号明細書又は欧州特許第2 819 853 B1号明細書に記載されており、どちらもそれらの全体が参照により本明細書に援用される。しかし、このような官能基は水素化による影響を受ける場合があり、これは望ましくない場合がある。
【0068】
本開示の一実施形態では、出発ポリマーは、例えば改質剤による処理の結果として必然的に0.6以下、例えば0.3~0.59のムーニー応力緩和(MSR)を有する。
【0069】
本開示の一実施形態では、出発ポリマーは、0.6を超えるムーニー応力緩和(MSR)を有する。
【0070】
本開示の一実施形態では、出発ポリマーは、前述の改質剤、例えば硫黄、又は1つ以上の硫黄ハロゲン化物、又は硫黄及びハロゲン化物以外の1つ以上の官能基Rをさらに含む1つ以上の硫黄ハロゲン化物化合物を含む改質剤による処理が行われていない。このような出発ポリマーは、抽出後に硫黄を含まない場合があり、又は(ポリマーの全重量を基準として)0.005重量%未満、又は30ppm未満の硫黄を含む場合がある。
【0071】
出発ポリマーの水素化は、ジエンポリマーの水素化に関して当技術分野において周知のように行うことができる。水素化方法の例は、例えば、米国特許第5,017,660号明細書、米国特許第5,334,566号明細書、米国特許第7,176,262 B2号明細書、米国特許第10,364,335 B2号明細書、及び米国特許出願公開第2019/0284374 A1号明細書に記載されている。好ましくは、水素化はウィルキンソン触媒(RhCl(PPh)を用いて行われる。Salemらの米国特許出願公開第2019/0284374 A1号明細書の実験の項に記載される“Procedure for Hydrogenations”(水素化の手順)に本質的に従うことができる。この参考文献には、アクリロニトリルゴムの水素化が記載されているが、一般にポリブタジエンにも適用可能である。
【0072】
出発ポリマーの水素化は、反応混合物中で行うことができ、又は単離されたポリマー、好ましくは、重合中に用いられるものと異なる溶媒であってよい水素化用の溶媒中に溶解又は懸濁された単離されたポリマーを用いて行うことができる。典型的な溶媒としてはクロロベンゼンが挙げられる。典型的には、ポリマーは、5重量%~15重量%の量で溶媒中に溶解させることができる。
【0073】
好ましくは、水素化触媒はウィルキンソン触媒である。触媒の量は、実現すべき水素化度によって決定することができ、0.02~0.08phrの量を含むことができる。水素は、典型的には1.5~100barの圧力で加えることができる。例えば10リットルの高圧容器中の撹拌装置の速度は、典型的には500~1000rpmであってよい。反応は、数時間、例えば1~24時間の間にわたって行うことができる。
【0074】
部分水素化ポリマーは、当技術分野において周知のようにワークアップを行うことができる。水素化反応は、例えば、水素の圧力を開放し、安定剤を加えることによって終了させることができる。ポリマーは、溶媒の蒸発、適切な量の1つ以上の極性液体(例えば、メタノール、エタノール、アセトン)を加えることによる沈殿、又は好ましくは水蒸気蒸留によって単離することができる。水は、適切なふるい、又はエキスペラー若しくはエキスパンダースクリューなどのスクリュー組立体、又は流動床乾燥機によって除去することができる。従来方法、例えば乾燥キャビネット又はスクリュー乾燥機でさらなる乾燥を行うことができる。
【0075】
ポリマー組成物
本開示によるジエンポリマーは、硬化性であり、すなわち、これらのポリマーは、例えば、1つ以上の硬化剤、例えば「加硫物」、すなわち架橋ゴム製品を製造するための1つ以上の硬化剤の反応又は活性化によって架橋させることができる。しかし、本開示による部分水素化ポリマーは、さらに架橋できるようにある程度まで架橋させることもできる。
【0076】
本開示の一態様では、本開示の少なくとも1つの部分水素化ポリブタジエンを含む組成物が提供される。これらの組成物は、以下に記載されるゴム助剤、又は1つ以上の硬化剤若しくは別の成分、及びそれらの組み合わせをさらに含むことができる。
【0077】
一実施形態では、このような組成物は、組成物の全重量を基準として少なくとも90重量%、好ましくは少なくとも96重量%の本開示による部分水素化ブタジエンポリマーを含む。このような組成物は、例えば、粉末の形態、顆粒、押出ペレット、シート、又はベイルの形態であってよい。一実施形態では、少なくとも90重量%、又は少なくとも96重量%の部分水素化ポリマーを含む組成物は、100℃におけるムーニー粘度ML1+4が40~130ムーニー単位、例えば55~130又は60~129単位であってよい。組成物は、エクステンダーオイルを含まなくてよいし、又は10%未満、好ましくは5%未満のエクステンダーオイルを含むことができる(組成物の総量を基準とした重量パーセント)。一実施形態では、組成物は、硬化剤を含まないか、又は10%未満、好ましくは5%未満、若しくはさらには1重量%未満の量の硬化剤を含む。
【0078】
コンパウンド
本開示による少なくとも1つの部分水素化ポリブタジエンポリマーを含む組成物は、ゴムコンパウンドの製造に用いることができる。したがって、本開示の別の一態様では、本開示による少なくとも1つの部分水素化ブタジエンポリマーを、好ましくはコンパウンドの重量を基準として少なくとも5重量%の量で含むゴムコンパウンドが提供される。ゴムコンパウンドは、典型的には、コンパウンドの全重量を基準として5重量%~75重量%、又は7~50重量%の本開示の少なくとも1つの部分水素化ブタジエンポリマーを含むことができる。
【0079】
ゴムコンパウンドは、少なくとも1つの充填剤をさらに含むことができる。本開示によるゴムコンパウンドは、コンパウンドの重量を基準として少なくとも10重量%、好ましくは少なくとも15重量%の1つ以上の充填剤を含むことができる。
【0080】
ゴムコンパウンドは、例えば、粉末の形態、顆粒、押出ペレット、シート、又はベイルの形態であってよい。このようなゴムコンパウンドは、以下に記載される1つ以上のゴム助剤、1つ以上の硬化剤、及び/又は水素化ブタジエンポリマー以外の1つ以上のゴムをさらに含むことができる。
【0081】
充填剤
好ましくは、上記コンパウンドは、タイヤ、タイヤの構成要素、及びタイヤを製造するための材料の用途に適切な少なくとも1つの充填剤を含む。好ましくは、充填剤は、1つ以上の酸化ケイ素、1つ以上のカーボンブラック、又は1つ以上の酸化ケイ素と1つ以上のカーボンブラックとの組み合わせを含む。好ましくは、充填剤としては、好ましくは5~1,000、好ましくは20~400m/gのBET表面積(窒素吸収)を有するシリカ含有粒子が挙げられる。このような充填剤は、例えば、シリケートの溶液からの沈殿によって、又はハロゲン化ケイ素の火炎加水分解によって得ることができる。シリカ充填剤粒子は10~400nmの粒度を有することができる。シリカ含有充填剤は、Al、Mg、Ca、Ba、Zn、Zr、又はTiの酸化物も含むことができる。ケイ素酸化物系充填剤の別の例としては、ケイ酸アルミニウム、好ましくは20~400m/gのBET表面積及び10~400nmの一次粒径を有するアルカリ土類金属ケイ酸塩、例えばケイ酸マグネシウム又はケイ酸カルシウム、天然シリケート、例えばカオリン、及び別の天然シリケート、例えばクレイ(層状シリカ)が挙げられる。充填剤のさらなる例としては、ガラス粒子をベースとする充填剤、例えばガラスビーズ、微小球、ガラス繊維、及びガラス繊維製品(マット、ストランド)が挙げられる。
【0082】
シリカ含有充填剤などの極性充填剤は、疎水性を高めるために改質することができる。適切な改質剤としては、シラン又はシラン系化合物が挙げられる。このような改質剤の典型的な例としては、一般式(V):
(RO)Si-R-X (V)
(ここで、それぞれのR、R、Rは、互いに独立して、アルキル基であり、好ましくはR、R、Rは、すべてメチル又はすべてエチルであり、Rは、1~20の炭素原子を有する脂肪族又は芳香族の結合基であり、Xは、硫黄含有官能基であり、-SH、-SCN、-C(=O)S、又はポリスルフィド基から選択される)
に対応する化合物が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0083】
上述した改質されたシリカの代わりに、又はこれに加えて、同様の改質は、例えば配合中、又はタイヤ又はその構成要素の製造プロセス中において、例えば改質剤、好ましくはシラン又はシラン系充填剤、例えば式(V)によるものなどをゴムコンパウンドの製造時に加えることによって、その場で行うこともできる。
【0084】
酸化ケイ素以外の金属酸化物をベースとする充填剤としては、酸化亜鉛、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム及びそれらの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されるものではない。別の充填剤としては、金属炭酸塩、例えば炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸亜鉛、及びそれらの組み合わせ、金属水酸化物、例えば水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、及びそれらの組み合わせ、3~8個の炭素原子を有するアルファ-ベータ-不飽和脂肪酸及びアクリル酸若しくはメタクリル酸の塩、例えばアクリル酸亜鉛、亜鉛ジアクリレート、メタクリル酸亜鉛、亜鉛ジメタクリレート、及びそれらの混合物が挙げられる。
【0085】
本開示の別の一実施形態では、ゴムコンパウンドは、炭素をベースとする1つ以上の充填剤、例えば1つ以上のカーボンブラックを含む。カーボンブラックは、例えば、ランプブラック法、ファーネスブラック法、又はガスブラック法によって製造することができる。好ましくは、カーボンブラックは、20~200m/gのBET表面積(窒素吸収)を有する。適切な例としては、SAF、ISAF、HAF、FEF、及びGPFブラックが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0086】
適切な充填剤の別の例としては、炭素-シリカ二重相充填剤、リグニン若しくはリグニン系材料、デンプン若しくはデンプン系材料、及びそれらの組み合わせが挙げられる。
【0087】
好ましい一実施形態では、充填剤は、1つ以上の酸化ケイ素、カーボンブラック、又はそれらの組み合わせを含む。
【0088】
充填剤の典型的な量としては、ゴム100部当たり5~200部、例えば、ゴム100重量部に対して10~150重量部、又は10~95重量部が挙げられる。
【0089】
硬化剤:
好ましくは、ゴムコンパウンドは、部分水素化ブタジエンポリマーを硬化させるための少なくとも1つの硬化剤も含む。硬化剤は、部分水素化ブタジエンポリマーを架橋(硬化)させることができ、本明細書においては「架橋剤」又は「加硫剤」とも呼ばれる。適切な硬化剤としては、硫黄、硫黄系化合物、及び有機若しくは無機過酸化物が挙げられるが、これらに限定されるものではない。好ましい一実施形態では、硬化剤は硫黄を含む。1つの硬化剤の代わりに、1つ以上の硬化剤の組み合わせを用いることができ、又は1つ以上の硬化剤と1つ以上の硬化促進剤若しくは硬化触媒との組み合わせを用いることができる。硫黄供与体として作用する硫黄含有化合物の例としては、硫黄、ハロゲン化硫黄、ジチオジモルホリン(DTDM)、テトラメチルチウラムジスルフィド(TMTD)、テトラエチルチウラムジスルフィド(TETD)、及びジペンタメチレンチウラムテトラスルフィド(DPTT)が挙げられるが、これらに限定されるものではない。硫黄促進剤の例としては、アミン誘導体、グアニジン誘導体、アルデヒドアミン縮合生成物、チアゾール、チウラムスルフィド、ジチオカルバメート、及びチオホスフェートが挙げられるが、これらに限定されるものではない。加硫剤として用いられる過酸化物の例としては、ジ-tert-ブチル-ペルオキシド、ジ-(tert-ブチル-ペルオキシ-トリメチル-シクロヘキサン)、ジ-(tert-ブチル-ペルオキシ-イソプロピル-)ベンゼン、ジクロロ-ベンゾイルペルオキシド、ジクミルペルオキシド、tert-ブチル-クミル-ペルオキシド、ジメチル-ジ(tert-ブチル-ペルオキシ)ヘキサン、及びジメチル-ジ(tert-ブチル-ペルオキシ)ヘキシン、及びブチル-ジ(tert-ブチル-ペルオキシ)バレレートが挙げられるが、これらに限定されるものではない。必要に応じて、スルフェンアミド型、グアニジン型、又はチウラム型の加硫促進剤を加硫剤とともに用いることができる。
【0090】
加えられる場合、加硫剤は、典型的にはゴム100重量部当たり0.5~10重量部、好ましくは1~6重量部の量で存在する。
【0091】
別のゴム
本開示によるゴムコンパウンド及び組成物は、本開示の部分水素化ブタジエンポリマー以外の1つ以上の追加のゴムを含むことができる。このような別のゴムの例としては、高ビニルポリブタジエン(すなわち少なくとも10重量%のビニル含有量)、ブタジエンとアクリル酸C1-C4-アルキルとのコポリマー、クロロプレン、ポリイソプレン、スチレン-ブタジエンコポリマー、イソブチレン-イソプレンコポリマー、ブタジエン-アクリロニトリルコポリマー、例えば5重量%~80重量%のアクリロニトリル含有量を有するもの、例えば10重量%~40重量%のアクリロニトリル含有量を有するもの;部分又は完全水素化アクリロニトリルゴム、エチレン-プロピレン-ジエンコポリマー、天然ゴム、及びそれらの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されるものではない。コンパウンド中の1つ以上の別のゴムの典型的な量としては、例えば、部分水素化ブタジエンポリマー100部当たり5~500部を挙げることができる。
【0092】
本開示の一実施形態では、ゴムコンパウンドは1つ以上の以下のゴムを含む:少なくとも1つの天然ゴム、ポリマーの重量を基準として1重量%を超え最大75重量%のビニル含有量を有する少なくとも1つのポリブタジエンゴム。好ましくは-50℃を超えるガラス転移温度を有し、好ましくは約1重量%~60重量%、好ましくは20~50重量%のスチレン含有量を有する少なくとも1つのスチレン-ブタジエンコポリマー、及びそれらの組み合わせ。ゴムは、例えばシリルエーテル又は別の官能基で改質される場合も改質されない場合もある。
【0093】
本開示の好ましい一実施形態では、ゴムコンパウンドは、少なくとも1つのスチレン-ブタジエンコポリマーを、好ましくはコンパウンドの全重量を基準として5重量%~65重量%、又は10重量%~50重量%の量で含む。好ましくは、ゴムコンパウンドは、さらに、1つ以上の酸化ケイ素を含む少なくとも1つの充填剤を、好ましくはコンパウンドの全重量を基準として5~50重量%の量で含む。
【0094】
本開示の別の一実施形態では、本開示によるジエンポリマーは、1つ以上のジエンポリマーと組み合わされ、好ましくはブタジエンと、前述の少なくとも1つのビニル芳香族化合物、好ましくはスチレンとから誘導される単位を含むポリマーであって、Si原子、O原子、N原子、及びS原子から選択される1つ又は2つ以上の原子を含む1つ又は2つ以上の官能基を有するポリマーと組み合わされ、好ましくは、上記官能基はSi原子及びO原子を含む。上記官能基は、例えば、国際特許出願の国際公開第2021/009156 A1号パンフレット;米国特許出願公開第2016/0083495 A1号明細書及び米国特許出願公開第2016/0075809 A1号明細書、並びに欧州特許出願公開第2847264 A1号明細書(すべてが参照により本明細書に援用される)に記載されるα-官能化、ω-官能化、又はα-及びω-官能化の場合のように、ポリマーの末端位置に位置することができる。上記官能基は、例えば、参照により本明細書に援用される米国特許第6,521,698 B2号明細書などに記載されるようにメルカプト酸又はメルカプトポリメーテルによって処理することによる、ペンダント基、例えば鎖中官能基の一部としてのペンダント基であってよい。
【0095】
このようなブレンドは、改善された機械的性質若しくは動的性質又はその両方によって示されるように、充填剤の分散、特にシリカ及び/又は炭素充填剤の分散を改善できることが明らかとなっている。
【0096】
本開示によるポリマーを、官能化された又は官能化されていない別のジエンポリマーと組み合わせて用いる場合、ある機械的又は動的性質を実現するために必要な硬化剤の量を、水素化されていない対応するものを用いたブレンドの場合よりも減少させることができることも分かった。本開示による水素化ジエンポリマーと、別のジエンポリマー、特にスチレン-ブタジエン型ポリマーとの組み合わせが、タイヤ組成物の耐摩耗性を改善することも分かった。したがって、本開示の一実施形態では、本開示による部分水素化ブタジエンポリマーと、少なくとも1つのさらなるジエンポリマー、好ましくは、ブタジエン及びスチレンから誘導される単位を含み、1つ、又は2つ以上のSi原子、N原子、S原子、O原子を含み、好ましくは1つ以上のSi原子及びO原子を含む1つ以上の末端基又は側鎖基を含むように官能化されたポリマーとの組み合わせ、例えばブレンドを含む組成物が提供される。例えば、官能化ポリマーは、1つ以上のシラン、シロキサン、アミノシロキサン、スルホシロキサン、又はそれらの組み合わせを含む官能基を含むように改質することができる。このようなブレンドは、ブレンドの全重量を基準として10重量%~95重量%の本開示による1つ以上のポリマーと1つ以上の官能化ポリマーとを含む。本開示によるポリマーの官能化ポリマーに対する適切な重量比としては、1:5~5:1の重量比が挙げられる。このようなブレンドは、前述及び後述のゴムコンパウンド、並びに前述及び後述の物品の製造に用いることができる。
【0097】
別のゴム助剤:
本開示による部分水素化ブタジエンポリマーを含む組成物及びゴムコンパウンドは、ゴムの配合及び加工の分野において周知の1つ以上のさらなるゴム助剤を含むことができる。このようなさらなる助剤としては、硬化反応促進剤、酸化防止剤、熱安定剤、光安定剤、加工助剤、可塑剤、粘着付与剤、発泡剤、及び着色剤が挙げられるが、これらに限定されるものではない。加工助剤としては、有機酸、ワックス、及びプロセス油が挙げられる。油の例としては、MES(中度抽出溶媒和物)、TDAE(処理留出物芳香族抽出物)、RAE(残留芳香族抽出物)、並びに軽質及び重質ナフテン油及び植物油が挙げられるが、これらに限定されるものではない。市販の油の具体例としては、商品名Nytex 4700、Nytex 8450、Nytex 5450、Nytex 832、Tufflo 2000、及びTufflo 1200を有するものが挙げられる。油の例としては、官能化油、特にエポキシ化又はヒドロキシル化された油が挙げられる。
【0098】
活性化剤としては、トリエタノールアミン、ポリエチレングリコール、ヘキサントリオールが挙げられる。着色剤は、染料及び顔料を含み、有機又は無機であってよく、例えば、亜鉛白及び酸化チタンを挙げることができる。
【0099】
当技術分野において周知のように意図される使用に応じて、さらなるゴム助剤を適切な量で用いることができる。助剤の個別の量又は総量の典型的な量の例としては、コンパウンド中のゴムの全重量を基準として0.1重量%~50重量%が挙げられる。
【0100】
ゴムコンパウンドを製造する場合、本開示による部分水素化ポリマー又はポリマー組成物は、ゴム加工の分野において周知の手段によって、例えばロール、密閉式ミキサー、及び混合押出機の使用によって、1つ以上の成分とブレンドすることができる。充填剤は、好ましくは、固体の部分水素化ブタジエンポリマー、又はそれと当技術分野において周知の別のゴムとの混合物と、例えばニーダーの使用によって混合される。充填剤は、固体として、又はスラリーとして、若しくは当技術分野において周知の別の方法で加えることができる。
【0101】
加硫物
ゴム加硫物は、本開示のゴムコンパウンドに対して1つ以上の硬化ステップを行うことによって得ることができる。硬化は、当技術分野において周知のように行うことができる。硬化は、一般に100~200℃の間、例えば130~180℃の間の温度で行われる。硬化は、加圧化の金型中で行うことができる。典型的な圧力としては、10~200barの圧力が挙げられる。硬化時間及び条件は、ゴムコンパウンドの実際の組成、並びに硬化剤及び硬化性成分の量及び種類によって決定される。
【0102】
物品
本開示による組成物及びコンパウンドは、物品の製造に用いることができ、タイヤ又はタイヤの構成要素の製造に特に適切である。タイヤとしては、空気式タイヤが挙げられる。タイヤとしては、原動機付き車両、航空機、並びに電気自動車、及びハイブリッド車、すなわち燃焼機関又は電気推進エンジン若しくは電池によって駆動できる車両のタイヤが挙げられる。タイヤの典型的な構成要素としては、インナーライナー、トレッド、アンダートレッド、カーカス、及びサイドウォールが挙げられる。
【0103】
一実施形態では、本開示の組成物は、例えばOリング、ガスケット、又はあらゆる別のシール若しくはシールの構成要素を製造するためのシール材料として用いられる。
【0104】
一実施形態では、本開示による組成物は、ポリスチレン及びスチレン-アクリロニトリルなどの熱可塑性プラスチックの衝撃改質剤として用いられる。
【0105】
別の一実施形態では、本開示による組成物は、ゴルフボール又はその構成要素の製造に用いられる。
【0106】
別の一実施形態では、本開示による組成物は、形材、膜、減衰要素、及びホースから選択される成形物品の製造に用いられる。
【0107】
物品は、本開示の硬化性ゴムコンパウンドの硬化及び成形によって得ることができる。成形ステップは、硬化ステップの最中又は後に行うことができ、硬化ステップの前に行うこともできる。1つの硬化及び/又は成形ステップを用いることができ、又は複数の硬化及び/又は成形ステップを用いることができる。物品を形成するための硬化又は成形又はその両方の間、本開示の組成物及びコンパウンドは、物品の製造に必要な1つ以上の追加の構成要素と組み合わせることができる。
【0108】
以下に、特定の実施形態及び実施例によって本開示がさらに説明されるが、これらの特定の実施形態及び実施例に本開示が限定されることを意図するものではない。
【0109】
方法
ポリマーの性質
水素化度:
水素化度は、式1.1及び1.2:
【数1】
によるジエンポリマー中の水素化二重結合の非水素化二重結合に対する比率を表している。
【0110】
水素化度は、H NMR分光法によって求めることができる。ポリマー中に存在する二重結合の量は、H NMRスペクトル中の4.7~5.8ppmの領域中のオレフィン性プロトンからの積分によって求めることができる。信号はジエン単位1つ当たり2つのプロトンを表すので、信号を2で割る必要がある(式1.3):
【数2】
【0111】
二重結合の水素化によって飽和が起こり、2つの新しいプロトンが加わる。これによって、8つのプロトン(ブタジエン単位1つ当たり)はHNMRスペクトルの1.1~1.5ppmにシフトする。したがって、この領域の積分を8で割ったものが水素化された二重結合を表す(式1.4)
【化16】
【数3】
【0112】
したがって、水素化度は式1.5:
【数4】
によりH NMRスペクトル中のこれらの積分の比率によって求めることができる。
【0113】
水素化度は、%で表され、すなわち式(1.5)の結果に100%が掛けられる。例えば、1.5による式の結果として0.2の比率は、20%の水素化度に対応する。
【0114】
シス単位、トランス単位、及びビニル単位の含有量:
ポリマー中のビニル単位、シス単位、及びトランス単位の含有量は、規格のISO 12965:2000(E)に記載のようにFT-IR分光法により吸光度及び吸光度比を用いて求めることができる。
【0115】
ムーニー粘度:
規格のASTM D1646(1999)に準拠して1999 Alpha Technologies MV 2000ムーニー粘度計を用いて、ポリマーのムーニー粘度を求めた。
【0116】
ムーニー応力緩和(MSR):
ASTM D 1646-00に準拠して100℃の温度において、ムーニー応力緩和(MSR)求めた。
【0117】
分子量及び分子量分布:
ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)によって、分子量(数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw))及び分子量分布(Mw/Mn))を求めた。Agilent 1260 Refractive Index Detector、Agilent 1260 Variable Wavelength Detector、1260 ALSオートサンプラー、カラムオーブン(Agilent 1260 TCC)、Agilent 1200 Degasser、Agilent 1100 Iso Pump、及びAgilentの3つのPLgel 10 μm Mixed B300×7.5mmカラムのカラム組み合わせを含むAgilent,Santa Clara,CA,USAによるモジュラーシステムを用いた。テトラヒドロフラン(THF)を溶媒として用いた。PSS Polymer Standards Service GmbH(Mainz,Germany)のポリスチレン標準物質を用いた。THF中に溶解させたポリマー試料をシリンジフィルター(0.45μmPTFE膜、直径25mm)に通して濾過した。測定は、40℃において1mL/分の流量を用いて行った。
【0118】
ガラス転移温度:
2003 Perkin Elmer DSC-7熱量計上の示差熱分析(DTA、示差走査熱量測定(DSC))によって、ガラス転移温度(Tg)を求めた。10mg~12mgのポリマーを、Perkin ElmerのDSCサンプルホルダー(標準アルミニウムパン)上に置いた。2回の冷却/加熱サイクルを行い、第2の加熱サイクル中にTgを求めた。第1のDSCサイクルは、液体窒素を用いた-100℃までの試料の第1の冷却、次に20K/分の速度での+150℃までのその加熱によって行った。第2のDSCサイクルは、+150℃の試料温度に到達してすぐに試料を約320K/分の速度で冷却することによって開始した。第2の加熱サイクルでは、20K/分の加熱速度で試料を+150℃まで再び加熱した。Tgは、第2の加熱操作のDSC曲線のグラフから求めた。
【0119】
ポリマーに結合する硫黄の含有量:
1gのポリマー試料をより小さな断片に切断し、50mLのアセトン(>99%の純度)を用いて48時間の還流下でソックスレー抽出によって抽出した。抽出後、ポリマーを真空オーブン中60℃で乾燥させた。続いて、燃焼イオンクロマトグラフィー(CIC)によって硫黄量(結合した硫黄)の定量を行った。このCIC技術は、2つの連結したユニットからなり:その第1は、オートサンプラー、燃焼ユニット(電気ヒーター)、及び吸収モジュールからなる自動消化ユニットであり;第2は、定量のためのイオンクロマトグラフィーユニットである。測定のため、ポリマー試料をセラミックボート中に測り取り、次にアルゴン-酸素雰囲気中で熱加水分解的に酸化させる。次に分析物のガスを過酸化水素溶液中に吸収させ、イオンクロマトグラフに自動的に移動させ、そこで硫黄は、硫酸アニオンとして測定される。CIC装置は、例えばThermo Fisher Scientific(例えばFisher Scientific GmbH,Schwerte,Germany)より市販されている。
【0120】
硬化性化合物の性質
ムーニー粘度:
ISO 289-1に準拠して1999のAlpha Technology Mooney MV 2000上で、硬化性化合物のムーニー粘度(100℃においてML(1+4)の条件で測定)を測定した。
【0121】
Monsanto MDR:
ISO 6502に準拠してAlpha Technology Rheometer MDR 2000 E上で、Monsanto MDRを測定した。
【0122】
加硫ポリマーの性質
硬度:
DIN 53505に準拠して60℃におけるショアA硬度を測定した。
【0123】
反発弾性:
DIN 53512に準拠して60℃における反発弾性を求めた。
【0124】
機械的応力:
DIN 53504に準拠して、ZwickRoelln,Ulm,GermanyのroboTest Rロボット試験システム上で10kNにおけるS2試験装置上で10%、100%、及び300%の伸びにおける応力値(σ10、σ100、及びσ300)、引張強度、及び破断時伸びを測定した。
【0125】
摩耗:
DIN53516に準拠して摩耗を測定した。
【0126】
動的性質:
DIN53513-1990に準拠して、Gabo-Testanlagen GmbH,Ahlden,GermanyのEplexor 500 N上で、10Hzにおいて、-100℃~+100℃の温度範囲、1K/分の加熱速度で、動的性質を求めた(試料:l×w×t=60mm×10mm×2mmのストリップ;サンプルホルダー間の自由長30mm)。この方法で以下の性質を求めた:E’(60℃):60℃における貯蔵弾性率;E’(23℃):23℃における貯蔵弾性率;E’(0℃):0℃における貯蔵弾性率;tanδ(60℃)、すなわち60℃における損失係数(E”/E’);tanδ(23℃)、すなわち23℃における損失係数(E”/E’)、及びtanδ(0℃)、すなわち0℃における損失係数(E”/E’)。E’によって、氷及び雪上の冬用タイヤトレッドのグリップの指標が得られる。E’が減少すると、グリップが改善される。tanδ(60℃)は、運転条件下のタイヤからのヒステリシス損失の尺度となる。tanδ(60℃)が減少すると、タイヤの転がり抵抗が減少する。tanδ(0℃)は、材料のウェットグリップの尺度となる。tanδ(0℃)が増加すると、ウェットグリップが増加する。
【0127】
弾性特性:
DIN53513-1990に準拠して弾性特性を求めた。エラストマー試験システム(MTS Systems GmbH,831 Elastomer Test System)を用いた。測定は、二重剪断モードにおいて、剪断方向に静的予備ひずみなし、円筒形試料(2つの試料のそれぞれが20×6mmであり、5mmの厚さにあらかじめ圧縮される)上で約0の振動、及び0.1~40%のひずみ範囲で10Hzの測定周波数で行った。この方法を以下の性質を求めるために用いた:
G’(0.5%):0.5%振幅掃引における動的弾性率、G’(15%):15%振幅掃引における動的弾性率、G’=G’(0.5%)-G’(15%):15%の振幅掃引に対する0.5%における動的弾性の差、tanδ(max):60℃における全測定範囲の最大損失係数(G”/G’)。
【0128】
G’(0.5%)-G’(15%)の差は、混合物のペイン効果の指標となる。この値が小さいほど、混合物中の充填剤の分散が良好になり、ゴム-充填剤の相互作用が良好になり、相分離の危険性が低下する。tanδ(max)は、運転条件下のタイヤからのヒステリシス損失の別の尺度となる。tanδ(max)が減少すると、タイヤの転がり抵抗が減少する。
【実施例
【0129】
一般的な重合及び水素化:
チーグラー・ナッタ型ネオジム触媒の存在下での1,3-ブタジエンの溶液重合によって、ポリブタジエンポリマーを調製した。これらのポリブタジエンポリマーは、ポリマーの全重量を基準として95重量%を超える高いシス含有量と、ポリマーの全重量を基準として0.94重量%未満のビニル含有量及び4%以下のトランス含有量とを有した。これらのポリマーは、反応混合物の硫黄含有改質剤による処理の結果として、同じムーニー粘度を有したが、それらの分子量分布、分子量、及びムーニー応力緩和は異なった。第1のポリマー(比較例1)は、100ppm未満の結合した硫黄を含み(抽出後測定)、第2のポリマー(比較例2)は、100~1000ppmの間の結合した硫黄を含んだ。これらのポリマーは約1重量%のゲル含有量を有した。これらのポリマーを出発ポリマーとして用い、それらの性質を表1中にまとめている。これらのポリマーの一部に対して、異なる水素化度で部分水素化を行った(実施例1~5、exp.1~5)。水素化は、Salemらの米国特許出願公開第2019284374 A1号明細書(参照により本明細書に援用される)の”Procedure for Hydrogenations”(水素化の手順)の見出しに記載の手順に本質的に従って行った。この参考文献には、アクリロニトリルゴムの水素化が記載されているが、この手順を、適宜ポリブタジエンの部分水素化に適用した。部分水素化ポリマーの性質を表1中に示す。
【0130】
【表1】
【0131】
コンパウンドの調製:
比較例1及び2並びに実施例1~5のポリマーと表2に列挙される成分とを、続いて1.5Lのニーダー(Werner & Pfleiderer GK 1,5 E)中150秒の時間で成分を加え、混合することによって配合した。次に2回の混練を150℃で3分間行い、それぞれ室温で24時間の休止時間で中断した。硫黄及び促進剤はニーダーには投入せず、次にロールミル(4mmのニップ、40℃)上で混合した。
【0132】
【表2】
【0133】
得られた硬化性コンパウンドの機械的及び動的性質を調べた。硬化性コンパウンドの一部を、金型中160℃及び120barにおいて20分間加硫(硬化)させた。硬化性コンパウンド及び硬化コンパウンドの性質を表3、4、及び5中に示す。
【0134】
【表3】
【0135】
【表4】
【0136】
【表5】
【0137】
表3~5中の結果は、ポリマーの部分水素化によって、それらの性質が改善されることを示している。60℃における反発特性は、水素化度の増加とともに改善されるが、より高い水素化度においてプラトーに到達すると思われる。tanδ(60℃)値は水素化度の増加とともに減少し、これは水素化が増加すると転がり抵抗が低下することを示している。tanδ(0℃)値は水素化の増加とともに増加し、材料のウェットグリップの増加を示している。差G’(0.5%)-G’(15%)は、水素化が増加すると減少した。この差は、ペイン効果(ゴム-充填剤相互作用)の指標となる。差が小さいほど、充填剤の分散が良好になり、ゴム-充填剤相互作用が良好になり、相分離の危険性が低下する。これは、コンパウンド中のゴム-充填剤相互作用が改善され、相分離の危険性が低下することを示す。この効果は、驚くべきものであるが、その理由は、極性基(不飽和基)が水素化によって除去されたからである。この改善は高水素化度においては横ばいとなる。
【0138】
ポリマーのムーニー粘度は、水素化度の増加とともに増加する。39%を超える水素化度では、ムーニー粘度は、高くなりすぎて、測定条件の100℃におけるML(1+4)では測定できなくなり、異なる測定条件の使用が必要となり得る。55%以上の水素化度において、動的機械的性質の改善は、コンパウンドの加工が非常に困難となるムーニー粘度によって相殺されることがある。ポリマーの分子量若しくは分子量分布の増加によって、又はポリマーのムーニー応力緩和の減少によって、より低い水素化度、したがってより低いムーニー粘度において、性質は既に改善される。
【0139】
ポリマーブレンドを有する実施例
本開示によるポリマーと異なる官能化ポリマーとのブレンドを有するゴムコンパウンドを調製した(実施例6~10)。比較例(比較例3~5)では、非水素化ジエンポリマーと官能化ポリマーとのブレンドを有するゴムコンパウンドを比較のため調製した。ポリマーの組成物を表6中に示しており、ゴムコンパウンドを製造するための成分を表7中に示している。同様の硬度のコンパウンドが得られるように量を適応させた。ゴムコンパウンドを硬化させ、結果を表8中に示している。表8から分かるように、コンパウンドは、C-C二重結合の量が減少したため剛性が高くなり、より良好な動的性質(より小さいtanδmax、60℃において改善された反発)によって明らかなように充填剤の分散は改善された。
【0140】
【表6】
【0141】
【表7】
【0142】
【表8】
【0143】
実施例11及び比較例4。
実施例11では、本開示による水素化ジエンゴム(前出のポリマー2)と非官能化スチレン-ブタジエンポリマー(前出のポリマー3)との組み合わせを用いてゴムコンパウンドを製造した。比較例4では、非水素化ジエンポリマー(前出のポリマー1)と同じ非官能化ブタジエン-スチレンポリマーとの組み合わせを用いてコンパウンドを製造したが、硬化剤の量は実施例11よりも多かった。コンパウンドを製造するための構成要素を表9中に示す。硬化したコンパウンドの性質を表10中に示す。表10から分かるように、実施例11ではより少ない硬化剤が用いられ、比較例4と同様の機械的及び動的性質が得られたが、実施例11の摩耗値はより良好であった。
【0144】
【表9】
【0145】
【表10】
【国際調査報告】