(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-10-12
(54)【発明の名称】水素交換質量分析を使用した、結合部位の同定のための方法
(51)【国際特許分類】
G01N 33/68 20060101AFI20231004BHJP
G01N 27/62 20210101ALI20231004BHJP
C12Q 1/37 20060101ALI20231004BHJP
【FI】
G01N33/68
G01N27/62 V ZNA
C12Q1/37
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023516058
(86)(22)【出願日】2021-09-11
(85)【翻訳文提出日】2023-04-14
(86)【国際出願番号】 US2021049975
(87)【国際公開番号】W WO2022056336
(87)【国際公開日】2022-03-17
(32)【優先日】2020-09-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】507302748
【氏名又は名称】リジェネロン・ファーマシューティカルズ・インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100188433
【氏名又は名称】梅村 幸輔
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100214396
【氏名又は名称】塩田 真紀
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【氏名又は名称】川本 和弥
(72)【発明者】
【氏名】チャン シシ
(72)【発明者】
【氏名】シャオ フイ
【テーマコード(参考)】
2G041
2G045
4B063
【Fターム(参考)】
2G041CA01
2G041EA04
2G041EA12
2G041FA12
2G041FA13
2G041FA23
2G041JA02
2G041JA05
2G041KA02
2G041LA07
2G041LA08
2G045AA40
2G045CB30
2G045DA36
2G045FB06
4B063QA11
4B063QQ79
4B063QR16
4B063QS28
4B063QX04
(57)【要約】
水素交換質量分析を使用して、タンパク質医薬品と宿主細胞タンパク質(HCP)との間の結合部位を同定するための方法が提供される。本出願はまた、HCPによる切断又は修飾を排除するために、タンパク質医薬品を修飾する方法を提供する。更に、本出願は、HCPによる切断又は修飾を排除するために、タンパク質医薬品における同定された結合部位をブロックする方法を提供する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
目的タンパク質と第2のタンパク質との間の結合部位を同定するための方法であって、
前記目的タンパク質及び前記第2のタンパク質を含む試料を重水とインキュベートする段階と、
前記試料に加水分解剤を添加して、少なくとも1つの消化物との混合物を得る段階と、
質量分析計を使用して、前記混合物中の前記少なくとも1つの消化物の分子量データを決定する段階と、
前記少なくとも1つの消化物の前記分子量データを、少なくとも1つの既知のタンパク質標準から得られたデータと相関させる段階と
を含む、方法。
【請求項2】
前記第2のタンパク質が、宿主細胞タンパク質である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記試料が、重水と、約60秒~約24時間インキュベートされる、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記試料が、室温でインキュベートされる、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
pHを約2.3に調節することによって、前記試料をクエンチする段階を更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
温度を約0℃に調整することによって、前記試料をクエンチする段階を更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記混合物が、液体クロマトグラフィーシステムに注入される、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記液体クロマトグラフィーシステムが、質量分析計とオンラインである、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
質量分析計が、前記液体クロマトグラフィーシステムに連結されている、請求項7に記載の方法。
【請求項10】
前記第2のタンパク質が、前記目的タンパク質を切断することができる、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記切断が、酸性残基に関連する、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記切断が、アスパラギン酸残基又はグルタミン酸残基に関連する、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
前記第2のタンパク質が、カルボキシペプチダーゼである、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記第2のタンパク質が、セリン型カルボキシペプチダーゼである、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記目的タンパク質が、VEGF結合タンパク質又はVEGFミニトラップである、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
前記目的タンパク質が、システインプロテアーゼIdeSを使用して生成されるFab又はF(ab’)2である、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
前記目的タンパク質が、タンパク質医薬製品、抗体、二重特異性抗体、抗体断片、抗体のFab領域、抗体-薬物コンジュゲート、融合タンパク質、又は薬物である、請求項1に記載の方法。
【請求項18】
第2のタンパク質による目的タンパク質の切断を排除するために、目的タンパク質を修飾するための方法であって、
以下:
前記目的タンパク質及び前記第2のタンパク質を含む試料を重水とインキュベートすることと、
前記試料に加水分解剤を添加して、少なくとも1つの消化物との混合物を得ることと、
質量分析計を使用して、前記混合物中の前記少なくとも1つの消化物の分子量データを決定することと、
前記少なくとも1つの消化物の前記分子量データを、少なくとも1つの既知のタンパク質標準から得られたデータと相関させることと
によって、第2のタンパク質による前記目的タンパク質の切断機構に関与する残基を同定する段階と、
前記第2のタンパク質による前記目的タンパク質の切断を排除するために、前記同定された残基を第2の残基に変異させる段階と
を含む、方法。
【請求項19】
前記第2のタンパク質が、宿主細胞タンパク質である、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記試料が、重水と、約60秒~約24時間インキュベートされる、請求項18に記載の方法。
【請求項21】
前記混合物が、液体クロマトグラフィーシステムに注入される、請求項18に記載の方法。
【請求項22】
前記液体クロマトグラフィーシステムが、質量分析計とオンラインである、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
質量分析計が、前記液体クロマトグラフィーシステムに連結されている、請求項21に記載の方法。
【請求項24】
前記第2のタンパク質が、前記目的タンパク質を切断することができる、請求項18に記載の方法。
【請求項25】
前記切断が、酸性残基に関連する、請求項18に記載の方法。
【請求項26】
前記切断が、アスパラギン酸残基又はグルタミン酸残基に関連する、請求項18に記載の方法。
【請求項27】
前記残基が、アスパラギン酸であり、塩基性アミノ酸又は中性アミノ酸へと変異される、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
前記残基が、グルタミン酸であり、塩基性アミノ酸又は中性アミノ酸へと変異される、請求項26に記載の方法。
【請求項29】
前記第2のタンパク質が、カルボキシペプチダーゼである、請求項18に記載の方法。
【請求項30】
前記第2のタンパク質が、セリン型カルボキシペプチダーゼである、請求項18に記載の方法。
【請求項31】
前記目的タンパク質が、VEGF結合タンパク質又はVEGFミニトラップである、請求項18に記載の方法。
【請求項32】
前記目的タンパク質が、システインプロテアーゼIdeSを使用して生成されるFab又はF(ab’)2である、請求項18に記載の方法。
【請求項33】
前記目的タンパク質が、タンパク質医薬製品、抗体、二重特異性抗体、抗体断片、抗体のFab領域、抗体-薬物コンジュゲート、融合タンパク質、又は薬物である、請求項18に記載の方法。
【請求項34】
第2のタンパク質による目的タンパク質の切断を排除するために、目的タンパク質を修飾するための方法であって、
以下:
前記目的タンパク質及び前記第2のタンパク質を含む試料を重水とインキュベートすることと、
前記試料に加水分解剤を添加して、少なくとも1つの消化物を有する混合物を得ることと、
質量分析計を使用して、前記少なくとも1つの消化物の分子量データを決定することと、
前記少なくとも1つの消化物の前記分子量データを、少なくとも1つの既知のタンパク質標準から得られたデータと相関させて、結合部位を同定することと
によって、前記目的タンパク質と前記第2のタンパク質との間の結合部位を同定する段階と、
前記第2のタンパク質による前記目的タンパク質の切断を排除するために、前記同定された結合部位をブロックする段階と
を含む、方法。
【請求項35】
前記第2のタンパク質が、宿主細胞タンパク質である、請求項34に記載の方法。
【請求項36】
前記試料が、重水と、約60秒~約24時間インキュベートされる、請求項34に記載の方法。
【請求項37】
前記混合物が、液体クロマトグラフィーシステムに注入される、請求項34に記載の方法。
【請求項38】
前記液体クロマトグラフィーシステムが、質量分析計とオンラインである、請求項37に記載の方法。
【請求項39】
質量分析計が、前記液体クロマトグラフィーシステムに連結されている、請求項37に記載の方法。
【請求項40】
前記第2のタンパク質が、前記目的タンパク質を切断することができる、請求項34に記載の方法。
【請求項41】
前記切断が、酸性残基に関連する、請求項34に記載の方法。
【請求項42】
前記切断が、アスパラギン酸残基又はグルタミン酸残基に関連する、請求項34に記載の方法。
【請求項43】
前記第2のタンパク質が、カルボキシペプチダーゼである、請求項34に記載の方法。
【請求項44】
前記第2のタンパク質が、セリン型カルボキシペプチダーゼである、請求項34に記載の方法。
【請求項45】
前記目的タンパク質が、VEGF結合タンパク質又はVEGFミニトラップである、請求項34に記載の方法。
【請求項46】
前記目的タンパク質が、システインプロテアーゼIdeSを使用して生成されるFab又はF(ab’)2である、請求項34に記載の方法。
【請求項47】
前記目的タンパク質が、タンパク質医薬製品、抗体、二重特異性抗体、抗体断片、抗体のFab領域、抗体-薬物コンジュゲート、融合タンパク質、又は薬物である、請求項34に記載の方法。
【請求項48】
遺伝子変異、ノックアウト、化学修飾、酵素修飾、又はそれらの組み合わせを使用して、前記同定された結合部位をブロックする段階を更に含む、請求項34に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2020年9月11日に出願された米国仮特許出願第63/077,220号の優先権及び恩典を主張し、それは参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
分野
本発明は、概して、水素交換質量分析を使用して、目的タンパク質又はタンパク質医薬品中の宿主細胞タンパク質の結合部位を同定するための方法に関する。
【背景技術】
【0003】
背景
残留宿主細胞タンパク質(HCP)の存在は、特に酵素活性を有するHCPの存在下で、バイオ医薬品の潜在的な安全性リスク及び製造における問題を引き起こす可能性がある。宿主細胞においてバイオ医薬品を産生するために組換えDNA技術が広く使用されてきたため、高純度のバイオ医薬品を得るために不純物を除去する必要がある。精製バイオプロセスを実施した後のいかなる残留不純物も、臨床試験を実施する前に、許容可能に低いレベルで存在しなければならない。特に、哺乳動物発現系、例えば、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞に由来する残留HCPは、製品の安全性、品質、及び安定性を損なう可能性がある。時には、特定のHCPは微量であっても、免疫原性応答又は望ましくない修飾を引き起こす可能性がある。したがって、医薬品中及び製造プロセス中の宿主細胞タンパク質を監視する必要がある。
【0004】
カルボキシペプチダーゼ(G3H8V5)は、製剤原料において一般的に同定されているにもかかわらず、モノクローナル抗体の完全性に影響を与えると報告されたことはない。本明細書において、カルボキシペプチダーゼが、Fd’製剤原料において同定され、Fd’薬物の安定性に対するその効果が記載される。Fd’薬物中のカルボキシペプチダーゼの量も定量化され、知見は、10ppmという低いカルボキシペプチダーゼの存在が、Fd’薬物の安定性を損なう可能性があることを示唆する。本研究の拡張は、カルボキシペプチダーゼ(G3H8V5)がFabタンパク質の安定性にも影響を及ぼし得るが、IgG1又はIgG4によって操作された組換えモノクローナル抗体には影響を及ぼさないことを示唆する。
【0005】
一方で、HCPとmAbとの間の相互作用は完全には理解されていない。最も一般的に受け入れられている概念は、HCPとmAbとの間の非特異的結合に起因して、HCPがmAbと共溶出するということである。本明細書では、Fd’薬物とカルボキシペプチダーゼとの間の相互作用を研究する際に水素-重水素交換質量分析(HDX-MS)が適用され、カルボキシペプチダーゼがFd’薬物を切断することを可能にする特異的結合部位が同定される。同様の結合部位は、Fabricatorによって切断されたFabタンパク質にも見られる。しかしながら、Fd’融合薬物及びmAb薬物において特異的結合部位は特定されない。
【0006】
酵素活性を有するHCP不純物を同定し、特徴付けるための方法に対する必要性が存在することが認識されるであろう。特に、これらの方法は、タンパク質医薬品中のHCPの結合部位の同定など、HCPの結合及び/又は酵素機構を調査することができるはずである。これらの方法は、製造プロセス中のバイオ医薬品及び試料中の酵素HCP不純物の、堅牢で信頼性が高く高感度な検出及び特徴付けを提供するはずである。更に、これらの方法は、タンパク質医薬品の修飾に基づいて、HCPの酵素活性を排除又は遮断することができるはずである。
【発明の概要】
【0007】
概要
HCP不純物の許容レベルを定義することは、生物学的処理システムを使用してバイオ医薬品を製造するための重要な問題となっている。HCPの結合及び/又は酵素機構を調査するために、残留HCP不純物を同定及び特徴付ける必要性がある。本出願は、水素交換質量分析(HX-MS)、例えば、水素/重水素交換質量分析(HDX-MS)を使用して、タンパク質医薬品中のHCPの結合部位を同定する方法を提供する。本出願はまた、酵素HCPによる切断又は修飾を排除するために、タンパク質医薬品を修飾する方法も提供する。更に、本出願は、HCPによる切断又は修飾を排除するために、同定された結合部位をブロックする方法を提供する。
【0008】
本開示は、目的タンパク質と第2のタンパク質との間の結合部位を同定するための方法を提供する。いくつかの例示的な実施形態では、本方法は、目的タンパク質及び第2のタンパク質を含む試料を重水とインキュベートする段階と、試料に加水分解剤を添加して、少なくとも1つの消化物を有する混合物を得る段階と、質量分析計を使用して混合物中の少なくとも1つの消化物の分子量データを決定する段階と、少なくとも1つの消化物の分子量データを少なくとも1つの既知のタンパク質標準から得られたデータと相関させる段階と、を含む。一態様では、第2のタンパク質は、宿主細胞タンパク質である。一態様では、試料は、室温で約60秒~約24時間、重水とインキュベートされる。別の態様では、本方法は、pHを約2.3に調節することによって、及び/又は温度を約0℃に調節することによって、試料をクエンチする段階を更に含む。別の態様では、混合物は、質量分析計とオンラインである液体クロマトグラフィーシステムに注入される。更に別の態様では、質量分析計は、液体クロマトグラフィーシステムに連結される。
【0009】
一態様では、第2のタンパク質は、目的タンパク質を切断することができる。別の態様では、切断は、アスパラギン酸残基又はグルタミン酸残基などの酸性残基に関連する。別の態様では、切断は、目的タンパク質のC末端で生じる。別の態様では、第2のタンパク質は、カルボキシペプチダーゼである。一態様では、第2のタンパク質は、セリン型カルボキシペプチダーゼである。更に別の態様では、目的タンパク質は、VEGF結合タンパク質又はVEGFミニトラップである。更なる態様では、目的タンパク質は、Fab又はF(ab’)2である。一態様では、目的タンパク質は、タンパク質医薬品、抗体、二重特異性抗体、抗体断片、抗体のFab領域、抗体-薬物コンジュゲート、融合タンパク質、又は薬物である。
【0010】
本開示は、少なくとも部分的に、第2のタンパク質による目的タンパク質の切断を排除するために、目的タンパク質を修飾するための方法を提供する。いくつかの例示的な実施形態では、本方法は、(a)目的タンパク質及び第2のタンパク質を含む試料を重水とインキュベートすることと、試料に加水分解剤を添加して少なくとも1つの消化物を含む混合物を得ることと、質量分析計を使用して混合物中の少なくとも1つの消化物の分子量データを決定することと、少なくとも1つの消化物の分子量データを少なくとも1つの既知のタンパク質標準から得られたデータと相関させることと、によって、第2のタンパク質による目的タンパク質の切断機構に関与する残基を同定する段階と、(b)第2のタンパク質による目的タンパク質の切断を排除するために、同定された残基を第2の残基に変異させる段階と、を含む。
【0011】
一態様では、第2のタンパク質は、宿主細胞タンパク質である。一態様では、試料は、重水と、約60秒~約24時間インキュベートされる。別の態様では、混合物は、液体クロマトグラフィーシステムに注入される。別の態様では、液体クロマトグラフィーシステムは、質量分析計とオンラインである。更に別の態様では、質量分析計は、液体クロマトグラフィーシステムに連結される。一態様では、第2のタンパク質は、目的タンパク質を切断することができる。別の態様では、切断は、アスパラギン酸残基又はグルタミン酸残基などの酸性残基に関連する。別の態様では、切断は、目的タンパク質のC末端で生じる。別の態様では、アスパラギン酸残基は、塩基性アミノ酸又は中性アミノ酸へと変異される。更に別の態様では、グルタミン酸残基は、塩基性アミノ酸又は中性アミノ酸へと変異される。更なる態様では、第2のタンパク質は、カルボキシペプチダーゼである。一態様では、第2のタンパク質は、セリン型カルボキシペプチダーゼである。別の態様では、目的タンパク質は、VEGF結合タンパク質又はVEGFミニトラップである。一態様では、目的タンパク質は、Fab又はF(ab’)2である。別の態様では、目的タンパク質は、タンパク質医薬品、抗体、二重特異性抗体、抗体断片、抗体のFab領域、抗体-薬物コンジュゲート、融合タンパク質、又は薬物である。
【0012】
本開示は、少なくとも部分的に、第2のタンパク質による目的タンパク質の切断を排除するために、目的タンパク質を修飾するための方法を提供する。いくつかの例示的な実施形態では、本方法は、(a)目的タンパク質及び第2のタンパク質を含む試料を重水とインキュベートすることと、試料に加水分解剤を添加して、少なくとも1つの消化物を有する混合物を得ることと、質量分析計を使用して、少なくとも1つの消化物の分子量データを決定することと、少なくとも1つの消化物の分子量データを少なくとも1つの既知のタンパク質標準から得られたデータと相関させることと、によって、目的タンパク質と第2のタンパク質との間の結合部位を同定する段階と、(b)第2のタンパク質による目的タンパク質の切断を排除するために、同定された結合部位をブロックする段階と、を含む。一態様では、第2のタンパク質は、宿主細胞タンパク質である。一態様では、試料は、重水と、約60秒~約24時間インキュベートされる。一態様では、混合物は、液体クロマトグラフィーシステムに注入される。一態様では、液体クロマトグラフィーシステムは、質量分析計とオンラインである。一態様では、質量分析計は、液体クロマトグラフィーシステムに連結される。一態様では、第2のタンパク質は、目的タンパク質を切断することができる。一態様では、切断は、アスパラギン酸残基又はグルタミン酸残基などの酸性残基に関連する。別の態様では、切断は、目的タンパク質のC末端で生じる。一態様では、第2のタンパク質は、カルボキシペプチダーゼである。一態様では、第2のタンパク質は、セリン型カルボキシペプチダーゼである。一態様では、目的タンパク質は、VEGF結合タンパク質又はVEGFミニトラップである。一態様では、目的タンパク質は、Fab又はF(ab’)2である。一態様では、目的タンパク質は、タンパク質医薬品、抗体、二重特異性抗体、抗体断片、抗体のFab領域、抗体-薬物コンジュゲート、融合タンパク質、又は薬物である。一態様では、本方法は、遺伝子変異、ノックアウト、化学修飾、酵素修飾、又はそれらの組み合わせを使用して、同定された結合部位をブロックする段階を更に含む。
【0013】
本発明のこれらの及び他の態様は、以下の説明及び添付の図面と併せて考慮される場合、よりよく認識され、理解されるであろう。以下の説明は、その様々な実施形態及び多数の具体的な詳細を示すが、限定ではなく、例証として与えられる。多くの置換、修正、追加、又は再配置は、本発明の範囲内で行われ得る。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】例示的な実施形態による、インタクト質量分析を使用した、ゼロ日目(T0)、1日目(T1)、4日目(T4)、又は8日目(T8)を含む異なる中間時点でのHCP不純物によるVEGFミニトラップからのC末端欠失の分析を示す。
【
図2】例示的な実施形態による、HCPを同定するためのプロファイリング方法としての免疫沈降の使用を示す。例示的な実施形態により、ストレプトアビジンでコーティングされた磁気ビーズ及びビオチン化抗HCP F550抗体を使用して、HCPを濃縮した。
【
図3】例示的な実施形態による、インタクト質量分析を使用した、異なる中間時点でのHCP不純物によるMAB1のF(ab’)2断片からのC末端欠失の分析を示す。例示的な実施形態により、VEGFミニトラップ試料中にHCP不純物が存在した。
【
図4】例示的な実施形態による、インタクト質量分析を使用した、異なる中間時点での組換えカルボキシペプチダーゼによるMAB1のF(ab’)2断片からのC末端欠失の分析を示す。
【
図5】例示的な実施形態による、HX-MSの分析結果に基づいた、VEGFミニトラップ及びカルボキシペプチダーゼを含むタンパク質複合体の3次元構造を示す。例示的な実施形態により、VEGFミニトラップにおいて強力な保護領域が同定され、カルボキシペプチダーゼの結合部位が示された。
【発明を実施するための形態】
【0015】
詳細な説明
バイオ医薬品の製造中には、高純度のバイオ医薬品を得るために不純物を除去する必要がある。薬物製剤の安定性は、製造、保存、輸送、取り扱い、及び投与中に維持されるべきである。バイオ医薬品中の残留宿主細胞タンパク質(HCP)は、製品の安定性及び品質を損なうため、患者に潜在的な安全性リスクをもたらす可能性がある。特に、プロテアーゼなどの酵素活性を有する一部のHCP不純物は、バイオ医薬製品の望ましくない分解、修飾、又は改変を引き起こし得る。特定の酵素HCPの同定及び排除は、製品の安全性及び安定性を確保するために重要である。酵素反応の作動条件、基質における酵素結合部位の位置、基質における切断部位/修飾部位の位置、及び最終生成物の化学構造などの酵素反応の結果を含む、酵素HCPの反応機序を理解することが重要である。
【0016】
本出願は、HX-MSを使用してタンパク質医薬品中のHCPの結合部位を同定する方法を提供する。本出願はまた、酵素HCPによるタンパク質医薬品の切断又は修飾を排除するために、タンパク質医薬品を修飾する方法を提供する。本出願の方法は、タンパク質医薬品中の同定された残基を変異させて、酵素HCPによる切断又は修飾を排除するステップを更に含み得、同定された残基が、同定された結合及び/又は酵素機構に関与する。更に、本出願は、同定された結合部位をブロックして、酵素HCPによるバイオ医薬品生成物の切断又は修飾を排除するステップを更に含み得る。
【0017】
いくつかの実施形態では、本出願は、HX-MSを使用して、タンパク質医薬品中のHCPの結合部位を同定する方法を提供する。本出願の方法は、タンパク質医薬品及びHCPを含む試料を重水とインキュベートするステップと、試料に加水分解剤を添加してペプチド混合物を得るステップと、質量分析計を使用してペプチド混合物の分子量データを決定するステップと、ペプチド混合物の分子量データを既知のタンパク質標準のデータと分析/相関させるステップと、を含む。一態様では、ペプチド混合物は、液体クロマトグラフィーシステムとオンラインで連結された質量分析計によって分析される。別の態様では、本出願は、酵素HCPによるタンパク質医薬品の切断を排除するために、タンパク質医薬品を修飾するための方法を提供する。タンパク質医薬品を修飾する方法は、HCPの切断機構に関与するアミノ酸残基を同定するステップと、HCPによるタンパク質医薬品の切断を排除するために、同定された残基を異なる残基に変異させるステップと、を含む。一態様では、タンパク質医薬品を修飾する方法は、HCPの結合部位に関与するアミノ酸残基を同定するステップと、HCPによるタンパク質医薬品の切断を排除するために、同定された結合部位をブロックするステップと、を含む。同定された結合部位をブロックする方法は、遺伝子変異、ノックアウト、化学修飾、酵素修飾、又はそれらの組み合わせを含む。
【0018】
一態様では、HCPは、C末端でタンパク質医薬品を切断することができるセリン型カルボキシペプチダーゼである。別の態様では、セリン型カルボキシペプチダーゼの切断機構は、アスパラギン酸残基又はグルタミン酸残基などの酸性残基に関連する。更に別の態様では、タンパク質医薬製品は、VEGF結合タンパク質、VEGFミニトラップ、Fab、F(ab’)2、抗体、二重特異性抗体、抗体断片、抗体-薬物コンジュゲート、融合タンパク質、又は薬物である。
【0019】
バイオ医薬製品の品質、有効性、及び安全性を改善するという要求により、酵素活性を有するHCP不純物を同定し、特徴付けることに対する要求が高まっている。本開示は、前述の要求を満たす方法を提供する。本明細書に開示される例示的な実施形態は、タンパク質医薬品とHCPとの間の結合部位を同定し、HCPによる切断を排除するために、タンパク質医薬品を改変し、HCPによる切断を排除するために、同定された結合部位をブロックする方法を提供することによって、前述の要求を満たす。
【0020】
「1つの(a)」という用語は、「少なくとも1つの」を意味すると理解されるべきであり、「約」及び「およそ」という用語は、当業者によって理解されるように標準的な変動を可能にすると理解されるべきであり、範囲が提供される場合、エンドポイントが含まれる。本明細書で使用される場合、「含む(include)」、「含む(includes)」、及び「含む(including)」という用語は、非限定的であることが意図され、それぞれ「含む(comprise)」、「含む(comprises)」、及び「含む(comprising)」を意味することが理解される。
【0021】
いくつかの例示的な実施形態では、本出願は、水素交換質量分析法を使用して、目的タンパク質と第2のタンパク質との間の結合部位を同定するための方法を提供し、本方法は、目的タンパク質及び第2のタンパク質を含む試料を重水とインキュベートする段階と、試料に加水分解剤を添加して、少なくとも1つの消化物を含む混合物を得る段階と、質量分析計を使用して混合物中の少なくとも1つの消化物の分子量データを決定する段階と、少なくとも1つの消化物の分子量データを少なくとも1つの既知のタンパク質標準から得られたデータと相関させる段階と、を含む。一態様では、第2のタンパク質は、宿主細胞タンパク質である。別の態様では、目的タンパク質は、VEGF結合タンパク質、VEGFミニトラップ、又はFab若しくはF(ab’)2である。更なる態様では、目的タンパク質は、タンパク質医薬製品、抗体、二重特異性抗体、抗体断片、抗体のFab領域、抗体-薬物コンジュゲート、融合タンパク質、又は薬物である。
【0022】
本明細書で使用される場合、「水素交換質量分析」、「HX-MS」、「水素/重水素交換質量分析」、又は「HDX-MS」という用語は、質量分析(MS)を使用したタンパク質分子への重水素の取り込みの測定を指す。HX-MSは、溶液中のタンパク質分子の重水(deuterium oxide)(重水(dideuterium oxide)、D2O、又は重水(heavy water))への曝露が、安定した水素結合を欠く無秩序領域において、アミドH(水素)からアミドD(重水素)への迅速な交換(例えば、水素交換反応、水素/重水素交換反応、又はHDX反応)を誘導することができるため、溶液中のタンパク質分子の構造的及び動的態様を監視するために使用することができる。その後、質量分析(MS)ベースのペプチドマッピングを使用して、個々のタンパク質セグメントの質量シフトを測定することができる(Konermann et al.,Hydrogen exchange mass spectrometry for studying protein structure and dynamics,Chem Soc Rev.March 2011,40(3),page 1224-1234)。水素交換反応をクエンチした後、タンパク質をタンパク質分解に供して、ペプチド混合物を得る。続いて、これらのペプチド中の重水素交換の位置及び相対量を、MSを使用して、個々のペプチドの質量シフトに基づいて決定及び分析することができる。重水素は、中性子並びに陽子を含む。重水素核は水素核の2倍の重さがあるため、水素が重水素に置き換えられると、タンパク質分子が重くなる。タンパク質分子の骨格アミド水素交換速度(H/D交換速度)の測定は、タンパク質構造、ダイナミクス、及び相互作用に関する詳細な情報を提供することができる。アミド重水素のインタクトなタンパク質分子への組み込みは、MSのエレクトロスプレーイオン化源に連結された液体クロマトグラフィーを使用して、誘導ペプチド混合物を分析することによって測定することができる。タンパク質分子の天然構造において、水素交換速度は数桁異なる場合がある。水素交換反応は、溶媒のアクセス可能性及び水素結合の関数である。タンパク質分子の表面上のアミド水素は、高い水素交換速度を示す水に結合される。タンパク質分子の安定な二次構造内に位置するアミド水素は、低い水素交換速度を示す(Johnson et al.,Mass Spectrometric Measurement of Protein Amide Hydrogen Exchange of Apo- and Holo-Myoglobin”.Protein Science,1994,3(12):2411-2418)。
【0023】
本明細書で使用される場合、「タンパク質」という用語は、共有結合したアミド結合を有する任意のアミノ酸ポリマーを含む。タンパク質は、概して「ポリペプチド」として当技術分野において既知である、1つ以上のアミノ酸ポリマー鎖を含む。「ポリペプチド」は、アミノ酸残基、関連する天然に存在する構造バリアント、及びペプチド結合を介して連結された非天然に存在するその合成類似体、関連する天然に存在する構造バリアント、並びに非天然に存在するその合成類似体からなるポリマーを指す。「合成のペプチド又はポリペプチド」は、天然に存在しないペプチド又はポリペプチドを指す。合成のペプチド又はポリペプチドは、例えば、ポリペプチド自動合成機を使用して合成され得る。様々な固相ペプチド合成方法が、当業者に既知である。タンパク質は、単一の機能的生体分子を形成するために、1つ又は複数のポリペプチドを含んでもよい。タンパク質は、生物治療薬タンパク質、研究又は治療において使用される組換えタンパク質、トラップタンパク質及び他のキメラ受容体Fc融合結合分子、キメラタンパク質、抗体、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、ヒト抗体、並びに二重特異性抗体のうちのいずれかを含み得る。別の例示的な態様では、タンパク質は、抗体断片、ナノボディ、組換え抗体キメラ、サイトカイン、ケモカイン、ペプチドホルモンなどを含み得る。タンパク質は、昆虫バキュロウイルス系、酵母系(例えば、ピキア(Pichia)種)、及び哺乳類系(例えば、CHO細胞、及びCHO-K1細胞のようなCHO誘導体)などの組換え細胞ベースの産生系を使用して産生され得る。生物治療薬タンパク質及びそれらの産生を論じる概説については、Darius Ghaderi et al.,Production platforms for biotherapeutic glycoproteins.Occurrence,impact,and challenges of non-human sialylation,28 Biotechnology and Genetic Engineering Reviews 147-176(2012)を参照されたい。いくつかの例示的な実施形態では、タンパク質は、修飾、付加物、及び他の共有結合で連結された部分を含む。それらの修飾、付加物、及び部分は、例えば、アビジン、ストレプトアビジン、ビオチン、グリカン(例えば、N-アセチルガラクトサミン、ガラクトース、ノイラミン酸、N-アセチルグルコサミン、フコース、マンノース、及び他の単糖類)、PEG、ポリヒスチジン、FLAGタグ、マルトース結合タンパク質(MBP)、キチン結合タンパク質(CBP)、グルタチオン-S-トランスフェラーゼ(GST)myc-エピトープ、蛍光標識、及び他の色素などを含む。タンパク質は、組成及び溶解性に基づいて分類され得、したがって、球状タンパク質及び線維状タンパク質などの単純タンパク質;ヌクレオタンパク質、糖タンパク質、ムコタンパク質、色素タンパク質、リンタンパク質、金属タンパク質、及びリポタンパク質などのコンジュゲートタンパク質;並びに一次誘導タンパク質及び二次誘導タンパク質などの誘導タンパク質を含み得る。
【0024】
本明細書で使用される場合、「加水分解剤」という用語は、タンパク質分子の消化を実施し得る多数の種々の薬剤のうちの任意の1つ又は組み合わせを意味する。酵素消化を行うことができる加水分解剤の非限定的な例としては、トリプシン、エンドプロテイナーゼArg-C、エンドプロテイナーゼAsp-N、エンドプロテイナーゼGlu-C、外膜プロテアーゼT(OmpT)、化膿レンサ球菌(Streptococcus pyogenes)の免疫グロブリン分解酵素(IdeS)、キモトリプシン、ペプシン、サーモリシン、パパイン、プロナーゼ、及びアスペルギルス・サイトイ(Aspergillus Saitoi)由来のプロテアーゼが挙げられる。非酵素消化を実施し得る加水分解剤の非限定的な例としては、高温、マイクロ波、超音波、高圧、赤外線、及び溶媒(非限定的な例は、エタノール及びアセトニトリル)の使用が挙げられる。非酵素消化の例としては、固定化酵素消化(IMER)、磁性粒子固定化酵素、及びオンチップ固定化酵素も挙げられ得る。タンパク質消化のための利用可能な技術を論じる概説については、Linda Switzar,Martin Giera & Wilfried M.A.Niessen,Protein Digestion:An Overview of the Available Techniques and Recent Developments,12 Journal of Proteome Research 1067-1077(2013)を参照されたい。加水分解剤の1つ又は組み合わせは、タンパク質又はポリペプチドにおいて、配列特異的な様式でペプチド結合を切断し、より短いペプチドの予測可能な一群を生成し得る。タンパク質分子を消化するために使用することができるいくつかのアプローチが利用可能である。試料中のタンパク質分子の消化のための広く受け入れられている方法の1つは、プロテアーゼの使用を伴う。多くのプロテアーゼが利用可能であり、それらの各々は、特異性、効率、及び最適な消化条件に関して独自の特徴を有する。プロテアーゼは、エンドペプチダーゼ及びエキソペプチダーゼの両方を指し、ペプチド内の非末端又は末端アミノ酸で切断するプロテアーゼの能力に基づいて分類される。代替的に、プロテアーゼはまた、触媒作用の機構によって分類される、アスパラギン酸、グルタミン酸、及びメタロプロテアーゼ、システイン、セリン、及びスレオニンプロテアーゼの6つの異なるクラスを指す。「プロテアーゼ」及び「ペプチダーゼ」という用語は、互換的に使用され、ペプチド結合を加水分解する酵素を指す。プロテアーゼはまた、特異的及び非特異的プロテアーゼに分類することができる。本明細書で使用される場合、「特異的プロテアーゼ」という用語は、ペプチドの特定のアミノ酸側鎖でペプチド基質を切断する能力を有するプロテアーゼを指す。本明細書で使用される場合、「非特異的プロテアーゼ」という用語は、ペプチドの特定のアミノ酸側鎖でペプチド基質を切断する能力の低いプロテアーゼを指す。切断の優先度は、タンパク質配列中の切断されたアミノ酸の総数に対する、切断部位としての特定のアミノ酸の数の比率に基づいて決定され得る。
【0025】
本明細書で使用される場合、「消化剤」という用語は、加水分解剤を使用してタンパク質の1つ以上のペプチド結合を加水分解することから得られる、ペプチドなどの誘導生成物を意味する。適切な加水分解剤、例えば、酵素消化又は非酵素消化を使用して、試料中のタンパク質の加水分解又は消化を実施するためのいくつかのアプローチがある。
【0026】
本明細書で使用される場合、「宿主細胞タンパク質」という用語は、宿主細胞に由来するタンパク質を含み、所望の目的タンパク質とは無関係であってもよい。宿主細胞タンパク質は、製造プロセスに由来するプロセス関連不純物であり得、細胞基質由来、細胞培養由来、及び下流由来の3つの主要なカテゴリーを含み得る。細胞基質由来不純物としては、宿主生物に由来するタンパク質及び核酸(宿主細胞ゲノム、ベクター、又は総DNA)が挙げられるが、これらに限定されない。細胞培養由来不純物としては、誘導物質、抗生物質、血清、及び他の培地成分が挙げられるが、これらに限定されない。下流由来不純物としては、酵素、化学的及び生化学的処理試薬(例えば、臭化シアン、グアニジン、酸化剤、及び還元剤)、無機塩(例えば、重金属、ヒ素、非金属イオン)、溶媒、担体、リガンド(例えば、モノクローナル抗体)、並びに他の溶出物が挙げられるが、これらに限定されない。
【0027】
本明細書で使用される場合、「ミニトラップ」又は「ミニトラップ結合分子」は、ミニトラップを生成するために使用することができる融合結合分子と同じ標的に結合することができる分子を意味する。かかるミニトラップには、(i)キメラポリペプチド、並びに(ii)例えば、1つ以上のジスルフィド架橋によって非共有結合又は共有結合されている2つ以上のポリペプチドを含む多量体(例えば、二量体)分子が含まれ得る。
【0028】
本明細書で使用される場合、「VEGFミニトラップ」又は「VEGFミニトラップ結合分子」とは、血管内皮増殖因子(VEGF)に結合することができ、血管新生眼障害及びがんなどのVEGF(例えば、VEGF110、VEGF121、又はVEGF165)の阻害によって治療可能又は予防可能である状態及び疾患の治療又は予防に治療上有用である。かかるミニトラップには、(i)1つ以上のVEGF受容体ドメインを含むキメラポリペプチド、並びに(ii)例えば、1つ以上のジスルフィド架橋によって非共有結合的に結合される2つ以上のポリペプチドを含む多量体(例えば、二量体)分子が含まれる。VEGFの阻害には、例えば、VEGF受容体へのVEGF結合の拮抗作用が含まれる。本出願のVEGFミニトラップのVEGF受容体ドメイン成分には、VEGFR1(Flt1)の免疫グロブリン様(Ig)ドメイン2(R1D2)、VEGFR2(Flk1又はKDR)(Flk1D3)のIgドメイン3(R2D3)、及び/又はVEGFR3(Flt4)のIgドメイン3(Flt1D3又はR3D3)が含まれる。本明細書で参照されるIgドメイン、例えば、R1D2、R2D3、R2D4、及びR3D3は、完全な野生型Igドメインだけでなく、野生型ドメインの機能特性を実質的に保持するそのバリアントも包含するように意図されており、例えば、VEGFミニトラップに組み込まれる場合、機能的なVEGF結合ドメインを形成する能力を保持する。当業者には、野生型ドメインと実質的に同じ機能特性を保持する上記のIgドメインの多数のバリアントを得ることができることが容易に明らかであろう。いくつかの態様では、ミニトラップ結合分子は、ミニトラップ結合分子のバリアントを含み得る。本明細書で使用される「バリアント」又は「結合分子バリアント」は、少なくとも1つのアミノ酸修飾又は翻訳後修飾によって標的結合分子とは異なる結合分子を含むことができる。バリアントは、結合分子自体、結合分子を含む組成物、又はそれをコードするアミノ配列を指し得る。好ましくは、結合分子バリアントは、親結合分子と比較して、少なくとも1つのアミノ酸修飾(例えば、約1~約10個のアミノ酸修飾)を有し、好ましくは、親と比較して、約1~約5個のアミノ酸修飾を有する。本明細書の結合分子バリアント配列は、親結合分子配列と、好ましくは少なくとも約80%の相同性、より好ましくは少なくとも約90%の相同性、最も好ましくは少なくとも約95%の相同性を有するであろう。いくつかの態様では、ミニトラップ結合分子は、融合結合分子を消化することによって生成され得る。
【0029】
本明細書で使用される場合、「Fab」又は「F(ab’)2」という用語は、プロテアーゼを使用して生成される抗体断片などのいくつかの特定の抗体断片を指す。Fab若しくはF(ab’)2断片、又はVEGFミニトラップ結合分子などの抗体断片の生成に好適なプロテアーゼとしては、トロンビン、パパイン、フィシン、システインプロテアーゼSpeB(FabULOUS)、又はシステインプロテアーゼIdeS(FabRICATOR(登録商標))などのエンドプロテイナーゼが挙げられる。好ましくは、エンドプロテイナーゼは、システインプロテアーゼIdeS(FabRICATOR(登録商標))である。例えば、IdeSは、定常配列ELLGGPSの2つのグリシン残基の間のヒンジ領域でヒトIgGを特異的に切断し、SpeBは、配列KTHTCPPC内のスレオニンとシステインの間のヒンジ領域で切断する。FabRICATOR(登録商標)(Genovis #A0-FR1-020)は市販されている。
【0030】
本明細書で使用される場合、「タンパク質医薬品」には、完全に又は部分的に生物学的であり得る活性成分が含まれる。一態様では、タンパク質医薬品は、ペプチド、タンパク質、融合タンパク質、抗体、モノクローナル抗体、二重特異性抗体、抗原、ワクチン、ペプチド-薬物コンジュゲート、抗体-薬物コンジュゲート、タンパク質-薬物コンジュゲート、細胞、組織、又はそれらの組み合わせを含み得る。別の態様では、タンパク質医薬品は、ペプチド、タンパク質、融合タンパク質、抗体、抗原、ワクチン、ペプチド-薬物コンジュゲート、抗体-薬物コンジュゲート、タンパク質-薬物コンジュゲート、細胞、組織、又はそれらの組み合わせの組換え、操作、修飾、変異、又は切断バージョンを含み得る。
【0031】
本明細書で使用される場合、「抗体」は、ジスルフィド結合によって相互接続された4つのポリペプチド鎖(2つの重(H)鎖及び2つの軽(L)鎖)からなる免疫グロブリン分子を指すことが意図される。各重鎖は、重鎖可変領域(HCVR又はVH)及び重鎖定常領域を有する。重鎖定常領域は、3つのドメイン(CH1、CH2、及びCH3)を含む。各軽鎖は、軽鎖可変領域(VL)及び軽鎖定常領域を有する。軽鎖定常領域は、1つのドメイン(CL)からなる。VH及びVL領域は、相補性決定領域(CDR)と呼ばれる超可変領域に更に細分され得、これは、フレームワーク領域(FR)と呼ばれるより保存された領域により散在する。各VH及びVLは、アミノ末端からカルボキシ末端へ、以下の順序で配列された3つのCDR及び4つのFRで構成され得る:FR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、FR4。「抗体」という用語は、任意のアイソタイプ又はサブクラスのグリコシル化及び非グリコシル化免疫グロブリンの両方への言及を含む。「抗体」という用語は、抗体を発現するようにトランスフェクトされた宿主細胞から単離された抗体などの、組換え手段によって調製、発現、生成、又は単離されたものを含むが、これらに限定されない。IgGは、抗体のサブセットを含む。
【0032】
「抗体」という用語は、本明細書で使用される場合、完全な抗体分子の抗原結合断片も含む。抗体の「抗原結合部分」、抗体の「抗原結合断片」、及び同様の用語は、本明細書で使用される場合、抗原に特異的に結合して複合体を形成する、天然に存在する、酵素的に取得可能な、合成の、又は遺伝子操作されたポリペプチド又は糖タンパク質を含む。抗体の抗原結合断片は、例えば、抗体可変ドメイン及び任意選択的に定常ドメインをコードするDNAの操作及び発現を伴うタンパク質消化又は組換え遺伝子操作技術などの、任意の好適な標準的な技術を使用して、完全な抗体分子から誘導され得る。かかるDNAは既知であり、かつ/又は、例えば、商業的供給源、DNAライブラリー(例えば、ファージ-抗体ライブラリーを含む)から容易に入手可能であるか、若しくは合成され得る。DNAは、例えば、1つ以上の可変ドメイン及び/若しくは定常ドメインを好適な構成に配置するために、又はコドンを導入し、システイン残基を生成し、アミノ酸を修飾、付加、若しくは欠失するなどのために、配列決定され、化学的に操作されるか、若しくは分子生物学の技術を使用することによって操作され得る。
【0033】
本明細書で使用される場合、「二重特異性抗体」という語句は、2つ以上のエピトープに選択的に結合することができる抗体を含む。二重特異性抗体は、概して、2つの異なる重鎖を含み、各重鎖は、2つの異なる分子(例えば、抗原)上又は同じ分子上(例えば、同じ抗原上)のいずれかで、異なるエピトープに特異的に結合する。二重特異性抗体が2つの異なるエピトープ(第1のエピトープ及び第2のエピトープ)に選択的に結合することができる場合、第1のエピトープに対する第1の重鎖の親和性は、概して、第2のエピトープに対する第1の重鎖の親和性よりも、少なくとも1~2、又は3、又は4桁低く、逆もまた真である。二重特異性抗体によって認識されるエピトープは、同じ又は異なる標的上(例えば、同じ又は異なるタンパク質上)にあり得る。二重特異性抗体は、例えば、同じ抗原の異なるエピトープを認識する重鎖を組み合わせることによって作製され得る。例えば、同じ抗原の異なるエピトープを認識する重鎖可変配列をコードする核酸配列は、異なる重鎖定常領域をコードする核酸配列に融合され得、かかる配列は、免疫グロブリン軽鎖を発現する細胞で発現され得る。
【0034】
典型的な二重特異性抗体は、各々が3つの重鎖CDRを有する2つの重鎖、続いて、CH1ドメイン、ヒンジ、CH2ドメイン、及びCH3ドメイン、並びに免疫グロブリン軽鎖を有し、免疫グロブリン軽鎖は、抗原結合特異性を付与しないが、各重鎖と会合し得るか、又は各重鎖と会合し得、かつ重鎖抗原結合領域が結合するエピトープのうちの1つ以上と会合し得るか、又は各重鎖と会合し得、かつ重鎖のうちの一方又は両方をエピトープの一方又は両方と結合させ得る。bsAbは、2つの主要なクラス(Fc領域を有するもの(IgG様)とFc領域を欠くもの)に分類することができ、後者は、通常、Fcを含むIgG及びIgG様二重特異性分子よりも小さい。IgG様bsAbは、これらに限定されないが、トリオマブ、ノブ・イントゥ・ホールIgG(kih IgG)、crossMab、orth-Fab IgG、二重可変ドメインIg(DVD-Ig)、ツー・イン・ワン若しくは二重作用Fab(DAF)、IgG-単鎖Fv(IgG-scFv)、又はκλボディなどの異なる形式を有し得る。非IgG様の異なる形式としては、タンデムscFv、ダイアボディ形式、単鎖ダイアボディ、タンデムダイアボディ(TandAb)、二重親和性再標的化分子(DART)、DART-Fc、ナノボディ、又はドックアンドロック(DNL)法によって産生される抗体が挙げられる(Gaowei Fan,Zujian Wang & Mingju Hao,Bispecific antibodies and their applications,8 Journal of Hematology & Oncology 130、Dafne Muller & Roland E.Kontermann,Bispecific Antibodies,Handbook of Therapeutic Antibodies 265-310(2014))。
【0035】
本明細書で使用される場合、「抗体断片」は、インタクトな抗体の一部(例えば、抗体の抗原結合領域又は可変領域)を含む。抗体断片の例としては、Fab断片、Fab’断片、F(ab’)2断片、scFv断片、Fv断片、dsFvダイアボディ、dAb断片、Fd’断片、Fd断片、及び単離された相補性決定領域(CDR)領域、並びにトリアボディ、テトラボディ、直鎖状抗体、単鎖抗体分子、及び抗体断片から形成された多重特異性抗体が挙げられるが、これらに限定されない。Fv断片は、免疫グロブリン重鎖及び軽鎖の可変領域の組み合わせであり、ScFvタンパク質は、免疫グロブリン軽鎖及び重鎖の可変領域がペプチドリンカーによって接続された組換え単鎖ポリペプチド分子である。いくつかの例示的な実施形態では、抗体断片は、親抗体と同じ抗原に結合する断片である親抗体の十分なアミノ酸配列を含み、一部の例示的な実施形態では、断片は、親抗体と同等の親和性で抗原に結合し、かつ/又は抗原への結合に関して親抗体と競合する。抗体断片は、任意の手段によって産生され得る。例えば、抗体断片は、インタクトな抗体の断片化によって酵素的若しくは化学的に産生されてもよく、かつ/又は部分的な抗体配列をコードする遺伝子から組換え的に産生されてもよい。代替的又は追加的に、抗体断片は、完全に又は部分的に合成により産生され得る。抗体断片は、任意選択的に、単鎖抗体断片を含んでもよい。代替的又は追加的に、抗体断片は、一緒に(例えば、ジスルフィド結合によって)連結された複数の鎖を含んでもよい。抗体断片は、任意選択的に、多分子複合体を含んでもよい。機能的な抗体断片は、典型的には、少なくとも約50アミノ酸を含み、より典型的には、少なくとも約200アミノ酸を含む。
【0036】
一態様では、本出願の試料は、室温で約60秒~約24時間、重水とインキュベートされる。一態様では、本方法は、pHを約2.3に調節することによって、及び/又は温度を約0℃に調節することによって、試料をクエンチする段階を更に含む。一態様では、混合物は、質量分析計とオンラインである液体クロマトグラフィーシステムに注入される。一態様では、質量分析計は、液体クロマトグラフィーシステムに連結される。別の態様では、本出願の方法における質量分析計は、エレクトロスプレーイオン化質量分析計、ナノエレクトロスプレーイオン化質量分析計、又はトリプル四重極質量分析計であり、質量分析計が、液体クロマトグラフィーシステムに連結される。
【0037】
本明細書で使用される場合、「質量分析計」は、特定の分子種を同定し、それらの正確な質量を測定することができるデバイスを含む。この用語は、検出及び/又は特徴付けのためにポリペプチド又はペプチドが溶出され得る任意の分子検出器を含むことが意図される。質量分析計は、3つの主要な部分:イオン源、質量分析計、及び検出器を含むことができる。イオン源の役割は、気相イオンを形成することである。分析物の原子、分子、又はクラスターを、気相に移し、(エレクトロスプレーイオン化などの場合)同時にイオン化することができる。イオン源の選択は、用途に大きく依存する。
【0038】
本明細書で使用される場合、「エレクトロスプレーイオン化」又は「ESI」という用語は、溶液中のカチオン又はアニオンのいずれかが、溶液を含むエレクトロスプレーニードルの先端と対電極との間に電位差を印加することから生じる高度に帯電した液滴の流れの形成及び大気圧での脱溶媒和を介して気相に移される、スプレーイオン化のプロセスを指す。一般に、溶液中の電解質イオンから気相イオンを産生するには、3つの主要なステップがある。これらは、(a)ES注入チップにおける帯電液滴の生成、(b)溶媒蒸発による帯電液滴の縮小、及び気相イオンを生成することができる高度に帯電した小さな液滴をもたらす液滴崩壊の繰り返し、並びに(c)非常に小さな高度に帯電した液滴から気相イオンが生成する機構である。段階(a)~(c)は、一般に装置の大気圧領域で起こる。いくつかの例示的な実施形態では、エレクトロスプレーイオン化質量分析計は、ナノエレクトロスプレーイオン化質量分析計であってもよい。
【0039】
本明細書で使用される場合、「トリプル四重極質量分析計」という用語は、(非質量分解)高周波(RF)を有する直列した2つの四重極質量分析器からなるタンデム質量分析計を指し、その間の四重極のみが衝突誘起解離のためのセルとして機能する。トリプル四重極質量分析計では、ペプチド試料は、MS機器と接続された液体クロマトグラフィーシステムに注入される。第1の四重極は、標的m/zを有するペプチドを単離するための質量フィルターとして使用され得る。第2の四重極は、ペプチドを断片に分解するための衝突セルとしての役割を果たす。第3の四重極は、初期親ペプチドからの特定のm/z断片の第2の質量フィルターとして機能する。本明細書で使用される場合、「タンデム質量分析法」という用語は、質量選択及び質量分離の複数の段階を使用することによって、試料分子に関する構造情報を得ることができる技術を含む。前提条件は、試料分子を気相に移し、インタクトでイオン化できること、及び第1の質量選択ステップの後、ある程度の予測可能かつ制御可能な様式でバラバラになるように誘導できることである。多段階MS/MS、又はMSnは、まず、前駆体イオン(MS2)を選択及び単離し、それを断片化し、一次断片イオン(MS3)を単離し、それを断片化し、二次断片イオン(MS4)を単離することによって、有意義な情報を取得し得るか、又は断片化イオンシグナルが検出可能であり得る限り、実施することができる。タンデムMSは多種多様な分析装置の組み合わせで成功裏に実行されている。特定の用途に対してどの分析器を組み合わせるかは、感度、選択性、及び速度だけでなく、サイズ、コスト、及び可用性などの多くの異なる要因によって決定され得る。タンデムMS法の2つの主要なカテゴリーは、タンデム・イン・スペース及びタンデム・イン・タイムであるが、ハイブリッドも存在し、ハイブリッドではタンデム・イン・タイム分析器が空間内で接続されるか、又はタンデム・イン・スペース分析器と接続される。タンデム・イン・スペース質量分析計は、イオン源、前駆体イオン活性化デバイス、及び少なくとも2つの非捕捉質量分析器を含む。特定のm/z分離機能は、機器のあるセクションにおいてイオンが選択され、中間領域において解離され、次いで、生成イオンがm/z分離及びデータ収集のために別の分析器に伝達されるように設計され得る。タンデム・イン・タイム質量分析計では、イオン源で産生されたイオンは、同じ物理デバイス内で、捕捉、分離、断片化、及びm/z分離され得る。
【0040】
質量分析計によって同定されたペプチドは、インタクトのタンパク質及びそれらの翻訳後修飾の代理標本(surrogate representative)として使用することができる。これらは、実験的MS/MSデータと理論的MS/MSデータとを相関させることによって、タンパク質の特徴付けに使用することができる。後者は、タンパク質配列データベース中の可能なペプチドから生成される。特徴付けとしては、タンパク質断片のアミノ酸を配列決定することと、タンパク質の配列決定を行うことと、タンパク質のデノボ配列決定を行うことと、翻訳後修飾の場所を特定することと、若しくは翻訳後修飾を同定することと、若しくは比較可能性分析、又はそれらの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。
【0041】
本明細書で使用される場合、「液体クロマトグラフィーシステム」又は「クロマトグラフィーシステム」という用語は、液体又は気体によって運ばれる化学混合物が、定常的な液相又は固相の周囲又は上を流れる際に、化学物質の差次的分布の結果として成分に分離され得るプロセスを指す。クロマトグラフィーの非限定的な例としては、従来の逆相(RP)クロマトグラフィー、イオン交換(IEX)クロマトグラフィー、混合モードクロマトグラフィー、及び順相クロマトグラフィー(NP)が挙げられる。
【0042】
例示的な実施形態
本明細書に開示される実施形態は、水素交換質量分析を使用して、タンパク質医薬品とHCPとの間の結合部位を同定し、HCPの結合及び/又は酵素機構を調査するための方法を提供する。
【0043】
いくつかの例示的な実施形態では、本出願は、水素交換質量分析法を使用して、目的タンパク質と第2のタンパク質との間の結合部位を同定するための方法を提供し、本方法は、目的タンパク質及び第2のタンパク質を含む試料を重水とインキュベートする段階と、試料に加水分解剤を添加して、少なくとも1つの消化物を含む混合物を得る段階と、質量分析計を使用して混合物中の少なくとも1つの消化物の分子量データを決定する段階と、少なくとも1つの消化物の分子量データを少なくとも1つの既知のタンパク質標準から得られたデータと相関させる段階と、を含む。
【0044】
一態様では、本出願の加水分解剤は、トリプシン、エンドプロテイナーゼArg-C、エンドプロテイナーゼAsp-N、エンドプロテイナーゼGlu-C、外膜プロテアーゼT(OmpT)、化膿レンサ球菌の免疫グロブリン分解酵素(IdeS)、キモトリプシン、ペプシン、サーモリシン、パパイン、プロナーゼ、及びアスペルギルス・サイトイ由来のプロテアーゼを含む酵素消化を行うことができる。
【0045】
一態様では、本出願の第2のタンパク質は、HCP、酵素HCP、カルボキシペプチダーゼ、セリン型カルボキシペプチダーゼ、又はカルボキシペプチダーゼG3H8V5である。
【0046】
一態様では、本出願の目的タンパク質は、VEGF結合タンパク質、VEGFミニトラップ、抗体のFab領域、抗体のF(ab’)2領域、タンパク質医薬品、抗体、二重特異性抗体、抗体断片、抗体-薬物コンジュゲート、融合タンパク質、又は薬物である。
【0047】
いくつかの例示的な実施形態では、本出願の方法は、試料を重水と、室温で約60秒~約24時間インキュベートするステップ、pHを約2.3に調整することによって、試料をクエンチするステップ、及び/又は温度を約0℃に調整するステップ、を含む。
【0048】
一態様では、本出願の方法は、目的タンパク質及び第2のタンパク質を含む試料を、重水と、約60秒~約24時間、約1分、約2分、約3分、約5分、約8分、約10分、約15分、約20分、約30分、約40分、約50分、約55分、約1時間、約2時間、約3時間、約4時間、約5時間、約6時間、約8時間、約10時間、約12時間、約15時間、約18時間、約20時間、約22時間、約24時間、約36時間、又は約72時間インキュベートするステップを含む。一態様では、本出願の方法は、目的タンパク質及び第2のタンパク質を含む試料を、重水と、室温、約18℃、約25℃、約30℃、又は約37℃で、約60秒~約24時間、約1分、約2分、約3分、約5分、約8分、約10分、約15分、約20分、約30分、約40分、約50分、約55分、約1時間、約2時間、約3時間、約4時間、約5時間、約6時間、約8時間、約10時間、約12時間、約15時間、約18時間、約20時間、約22時間、約24時間、約36時間、又は約72時間インキュベートするステップを含む。
【0049】
一態様では、本出願の方法は、反応混合物のpHを、約2.3、約2.0、約2.1、約2.2、約2.4、約2.5、約2.6、約2.7、約2.8、又は約2.9に調節することによって試料をクエンチするステップを含む。一態様では、本出願の方法は、反応混合物の温度を、約0℃、約1℃、約2℃、約3℃、約4℃、又は約5℃に調整することによって試料をクエンチするステップを含む。
【0050】
本方法は、前述のHCP不純物、酵素結合部位、水素交換質量分析法、VEGF結合タンパク質、VEGFミニトラップ、Fab断片、F(ab’)2断片、タンパク質医薬品、ペプチド、タンパク質、液体クロマトグラフィーシステム、又は質量分析計のいずれかに限定されないことが理解される。
【0051】
本明細書で提供される方法ステップの数字及び/又は文字での連続した表示は、方法又はその任意の実施形態を特定の指示された順序に限定することを意味しない。特許、特許出願、公開特許出願、アクセッション番号、技術論文、及び学術論文を含む、様々な刊行物が、本明細書全体を通して引用される。これらの引用された参考文献の各々は、その全体が全ての目的のために参照により本明細書に組み込まれる。別段記載されない限り、本明細書で使用される全ての技術及び科学用語は、本発明が属する技術分野における当業者によって一般に理解されるものと同じ意味を有する。本開示をより詳細に説明するために提供される以下の実施例を参照することによって、本開示をより十分に理解することができるであろう。これらは、例示することを意図し、本開示の範囲を限定するものとして解釈されるべきではない。
【実施例】
【0052】
実施例1.酵素HCPの同定及び特徴付け
VEGFミニトラップ及びHCP不純物を含む試料を、37℃で約2週間以上インキュベートした。試験試料を、ゼロ日(T0)、1日目(T1)、4日目(T4)、又は8日目(T8)などの異なる中間時点で収集し、インタクト質量分析法を使用して分析した。
図1は、インタクト質量分析を使用した、異なる中間時点でのVEGFミニトラップからのC末端欠失の分析を示す。
図1に示すように、VEGFミニトラップからの1つのグリシン残基(G)の欠失は、時点T1で観察された。時点T4では、グリシン(G)、ロイシン-グリシン(LG)、及びロイシン-ロイシン-グリシン(LLG)の欠失が観察された。ロイシン-ロイシン-グリシン(LLG)の欠失は、時点T8で観察された。データは、時点T16まで収集された。時点T16で更なる切断は観察されなかった。結果は、酵素HCPによるVEGFミニトラップからのC末端残基の段階的切断の存在を示す。
【0053】
VEGFミニトラップから段階的なC末端欠失を引き起こしたHCPを同定するためのプロファイリング方法として免疫沈降を行った。ストレプトアビジンでコーティングされたDynabeads(磁気ビーズ)及びビオチン化抗HCP F550抗体を使用して、HCPを濃縮した。
図2は、HCPを同定するためのプロファイリング方法としての免疫沈降の使用を示す。免疫沈降及びLC-MS/MS分析によって、VEGFミニトラップからのC末端残基の段階的切断に寄与するカルボキシペプチダーゼG3H8V5が同定された。具体的には、10mgのタンパク質試料に5μLの1M酢酸を添加し、室温で30分間インキュベーションした。110μLの10×TBS及び20μLの過剰の1M Tris-HCl(pH8)を添加して、pHを7.5に戻し、次いで、25μgのF550ビオチン化抗HCP抗体を、各試料に直ちに添加した。試料を穏やかに揺らしながら4℃で一晩インキュベーションした。洗浄した後、1.5mgの磁気ビーズを各試料に添加し、1×TBS中に懸濁し、穏やかに回転させながら室温で2時間インキュベーションした。次いで、ビーズをHBS-T及び1×TBSで洗浄し、100μLのMilliQ水中50%のアセトニトリル、0.1M酢酸で、800rpmで5分間、2回振盪することによって溶出した。各抗体試料を乾燥させ、20μLの尿素変性・還元溶液(8Mの尿素、10mMのDTT、0.1MのTris-HCl pH7.5)に再懸濁し、500rpmで、56℃で30分間インキュベーションした。次いで、6μLの50mMのヨードアセトアミドを各試料に添加し、暗所で、室温で30分間混合し、反応させた。消化のために50μLの20ng/μLトリプシンを37℃で各試料に添加し、750rpmで一晩振盪した。消化された試料を4μLの10%ギ酸で酸性にし、20μLをLC-MS/MS分析のためにガラスバイアルに移した。残りは-80℃で保存した。
【0054】
カルボキシペプチダーゼは、製剤原料において一般的に同定され得るHCPである。カルボキシペプチダーゼG3H8V5は、セリン型カルボキシペプチダーゼであり、タンパク質基質のC末端から3つ以下のアミノ酸残基を切り取ることによってペプチド結合の加水分解を触媒することができる。カルボキシペプチダーゼG3H8V5の切断機構は、アスパラギン酸残基又はグルタミン酸残基などの酸性残基に関連する。表1に示されるように、カルボキシペプチダーゼG3H8V5の存在を、免疫沈降濃縮試料及び非濃縮試料の両方を使用して更に定量した。IP濃縮後のカルボキシペプチダーゼの定量のために、GAGHMVPTDKPR[m/z633.32462+]、LFPEYK[m/z398.71562+]、及びLYQSMNSQYLK[m/z687.83972+]を含む、存在量が最も多いG3H8V5の3つのペプチドのピーク面積を使用して、スパイクインしたhPLBD2(宿主タンパク質、ヒト推定ホスホリパーゼB様2)ペプチドGLEDSYEGR[m/z1139.36982+]、QNLDPPVSR[m/z1139.36902+]、及びSVLLDAASGQLR[m/z1448.47352+]のピーク面積と比較し、15ppmの濃度を示した。非濃縮試料は、直接消化、続いて、カルボキシペプチダーゼの存在量が最も多い3つのペプチドGAGHMVPTDKPR[m/z633.32462+]、LFPEYK[m/z398.71562+]、及びLYQSMNSQYLK[m/z687.83972+]のピーク面積を使用したPRM法によって、VEGFミニトラップの存在量が最も多い3つのペプチドFLSTLTIDGVTR[m/z661.86942+]、SDQGLYTCAASSGLMTK[m/z895.40842+]、及びSDTGRPFVEMYSEIPEIIHMTEGR[m/z1397.66242+]のピーク面積と比較して定量し、24.5ppmの濃度を示した。
【0055】
(表1)カルボキシペプチダーゼG3H8V5の定量化
【0056】
実施例2.VEGFミニトラップ試料中のカルボキシペプチダーゼの活性の確認
VEGFミニトラップ試料中のHCP不純物として存在するカルボキシペプチダーゼの活性を、異なるタンパク質基質、MAB1のF(ab’)2断片を使用して更に確認した。モノクローナル抗体MAB1を、FabRICATOR(登録商標)(例えば、システインプロテアーゼIdeS)を使用して消化して、VEGFミニトラップと同様のC末端残基を共有する特異的F(ab’)2断片を生成した。システインプロテアーゼIdeSは、ヒンジの下の特定の部位で抗体を消化して、F(ab’)2及びFc/2断片を生成することができる。この特定のF(ab’)2断片は、そのC末端に、カルボキシペプチダーゼによる切断のための基質として機能することができる特定の領域を含む。VEGFミニトラップ試料及びMAB1のF(ab’)2断片を1:1の比で一緒に混合した(VEGFミニトラップ試料はHCP不純物を含んでいた)。混合物を、37℃で約2週間以上インキュベートした。試験試料を、ゼロ日(T0)、3日目(T3)、5日目(T5)、又は10日目(T10)などの異なる中間時点で収集し、インタクト質量分析法を使用して分析した。
図3は、インタクト質量分析を使用した、異なる中間時点でのMAB1のF(ab’)2断片からのC末端欠失の分析を示す。
図3に示されるように、グリシン(G)、ロイシン-グリシン(LG)、及びフェニルアラニン-ロイシン-グリシン(FLG)の欠失は、異なる割合で、時点T3及びT5で観察された。フェニルアラニン-ロイシン-グリシン(FLG)の欠失は、時点T10で観察された。結果は、カルボキシペプチダーゼによるMAB1のF(ab’)2断片からのC末端残基の段階的切断の存在を示す。結果は、HCP不純物中のカルボキシペプチダーゼが、MAB1のVEGFミニトラップ及びF(ab’)2断片の両方のC末端を切り取ったことを示す(VEGFミニトラップ試料にHCP不純物が存在していた)。
【0057】
MAB1のF(ab’)2断片と組換えカルボキシペプチダーゼを一緒に混合して、カルボキシペプチダーゼのクリッピング機構を更に調べた。混合物を、37℃で約2週間以上インキュベートした。試験試料を、ゼロ日(T0)、3日目(T3)、5日目(T5)、又は10日目(T10)などの異なる中間時点で収集し、インタクト質量分析法を使用して分析した。
図4は、インタクト質量分析を使用した、異なる中間時点での組換えカルボキシペプチダーゼによるMAB1のF(ab’)2断片からのC末端欠失の分析を示す。
図4に示されるように、グリシン(G)、ロイシン-グリシン(LG)、及びフェニルアラニン-ロイシン-グリシン(FLG)の欠失は、異なる割合で、時点T3及びT5で観察された。フェニルアラニン-ロイシン-グリシン(FLG)の欠失は、時点T10で観察された。結果は、組換えカルボキシペプチダーゼによる、MAB1のF(ab’)2断片からのC末端残基の段階的切断を示す。
【0058】
実施例3.水素交換質量分析法(HX-MS)による結合部位の同定
カルボキシペプチダーゼG3H8V5の結合及びクリッピング機構を理解するために、水素交換質量分析(HX-MS)を使用して、VEGFミニトラップにおけるカルボキシペプチダーゼの結合部位を特定した。VEGFミニトラップにおけるカルボキシペプチダーゼG3H8V5の結合部位の位置及びアミノ酸配列を更に調査した。タンパク質分子の重水への曝露は、安定した水素結合を欠く無秩序領域(Konermannら)又は保護されていない領域でアミドHからアミドDへの迅速な交換を誘導することができるため、タンパク質分子の特定の部位への重水素の取り込みの測定は、質量シフトによる質量分析法(MS)を使用して決定することができる。
【0059】
水素交換反応(例えば、水素/重水素交換反応)を行うために、カルボキシペプチダーゼを含むVEGFミニトラップ試料を、重水を添加した溶液中で調製した。試料を、重水と、室温で約60秒~約24時間インキュベートした。その後、pHを約2.3に調節し、かつ/又は温度を約0℃に調節することによって、水素交換反応をクエンチした。水素交換反応をクエンチした後、試料をタンパク質分解(例えば、トリプシン消化)に供して、ペプチド混合物を得た。ペプチド混合物を、質量分析計とオンラインで連結された液体クロマトグラフィーシステムに注入した。ペプチド混合物の分子量データを分析し、決定した。その後、ペプチド混合物中の重水素交換の位置及び相対量を、ペプチドの質量シフトに基づいてMSを使用して決定及び分析した。重水素核は水素核の2倍の重さがあるため、水素が重水素に置き換えられると、ペプチド分子が重くなる。
【0060】
VEGFミニトラップ及びカルボキシペプチダーゼを含むタンパク質複合体の骨格アミド水素交換速度の測定を実施して、タンパク質複合体の構造、ダイナミクス、及び相互作用を調査した。タンパク質複合体の構造内では、水素交換速度は、溶媒アクセス可能性及び水素結合の関数であるため、大きさが数桁変動した。タンパク質複合体の表面上のアミド水素は、高い水素交換速度を示した。タンパク質複合体の安定した構造内の2つのタンパク質分子間の結合部位に位置するアミド水素は、検出不能な又は低い水素交換速度を示した。タンパク質分子の領域が埋まっていた場合、この領域のアミド水素は水素交換から保護された。
図5は、HX-MSの分析結果に基づく、VEGFミニトラップ及びカルボキシペプチダーゼを含むタンパク質複合体の三次元構造を示す。
図5に示されるように、強力な保護領域が、カルボキシペプチダーゼの結合部位を示したVEGFミニトラップ内で同定された。結合部位に関与するアミノ酸は、LTIDGVTRSDQGLYTCAの配列を有する、VEGFミニトラップの170~186位のアミノ酸であった。カルボキシペプチダーゼによるVEGFミニトラップのC末端からの3つのアミノ酸残基の切り取りに関与する、VEGFミニトラップのグルタミン酸残基が同定された。
【0061】
カルボキシペプチダーゼの結合部位及びクリッピング機構を首尾よく同定すると、VEGFミニトラップのC末端切断を排除するための方法の開発につながり得る。切断機構に関与する特定のグルタミン酸残基を塩基性又は中性アミノ酸に変異させて、カルボキシペプチダーゼによるVEGFミニトラップの切断を排除することができる。更に、同定された結合部位をブロックして、遺伝子変異、ノックアウト、化学修飾、酵素修飾、又はそれらの組み合わせを使用して、カルボキシペプチダーゼによるVEGFミニトラップの切断を排除することができる。
【手続補正書】
【提出日】2023-05-12
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】配列表
【補正方法】追加
【補正の内容】
【配列表】
【国際調査報告】