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特表2023-542906嚢胞性線維症膜貫通コンダクタンス調節因子(CFTR)モジュレーターの新しい医学的使用
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-10-12
(54)【発明の名称】嚢胞性線維症膜貫通コンダクタンス調節因子(CFTR)モジュレーターの新しい医学的使用
(51)【国際特許分類】
   A61K 45/00 20060101AFI20231004BHJP
   A61P 1/04 20060101ALI20231004BHJP
   A61P 11/00 20060101ALI20231004BHJP
   A61P 13/12 20060101ALI20231004BHJP
   A61P 31/00 20060101ALI20231004BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20231004BHJP
   A61P 7/10 20060101ALI20231004BHJP
   A61K 31/47 20060101ALI20231004BHJP
   A61K 31/443 20060101ALI20231004BHJP
【FI】
A61K45/00
A61P1/04
A61P11/00
A61P13/12
A61P31/00
A61P43/00 111
A61P7/10
A61K31/47
A61K31/443
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023517962
(86)(22)【出願日】2021-09-17
(85)【翻訳文提出日】2023-04-25
(86)【国際出願番号】 EP2021075627
(87)【国際公開番号】W WO2022058503
(87)【国際公開日】2022-03-24
(31)【優先権主張番号】20196830.2
(32)【優先日】2020-09-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】509305088
【氏名又は名称】シャリテ-ウニベルジテーツメディツィン ベルリン
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100138210
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 達則
(74)【代理人】
【識別番号】100150810
【弁理士】
【氏名又は名称】武居 良太郎
(72)【発明者】
【氏名】ボルフガング キュブラー
(72)【発明者】
【氏名】ラスティ エルフィナンダ フアーディ
(72)【発明者】
【氏名】ビルギット グートビーア
(72)【発明者】
【氏名】マルティン ビッツェンラート
【テーマコード(参考)】
4C084
4C086
【Fターム(参考)】
4C084AA17
4C084MA17
4C084MA56
4C084MA66
4C084NA05
4C084NA14
4C084ZA591
4C084ZA592
4C084ZA661
4C084ZA662
4C084ZB111
4C084ZB112
4C084ZB321
4C084ZB322
4C084ZC011
4C084ZC012
4C086AA01
4C086AA02
4C086BC17
4C086BC29
4C086GA02
4C086GA08
4C086MA01
4C086MA04
4C086MA17
4C086MA56
4C086MA66
4C086NA05
4C086NA14
4C086ZA59
4C086ZA66
4C086ZB11
4C086ZB32
4C086ZC01
(57)【要約】
本発明は、内皮及び/又は上皮バリア機能不全を伴う疾患の予防及び/又は治療に使用するための嚢胞性線維症膜貫通コンダクタンス調節剤に関する。この疾患は嚢胞性線維症を含まない。本発明はさらに、内皮及び/又は上皮バリア機能不全を伴う疾患の予防及び/又は治療に使用するための活性成分としてCFTRモジュレーターを含む医薬組成物に関する。本発明は、さらに、i)CFTRモジュレーターと、ii)さらなるCFTRモジュレーターとを含む、内皮及び/又は上皮バリア機能不全を伴う疾患の予防及び/又は治療に使用する部品キットに関する。本発明は、さらに、対象における内皮及び/又は上皮バリア機能不全を伴う状態、疾患又は障害を治療する方法に関し、この方法は、それを必要とする対象、好ましくは哺乳動物にCFTRモジュレーターを投与することを含む。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
嚢胞性線維症を含まない、内皮及び/又は上皮バリア機能不全を伴う疾患の予防及び/又は治療に使用するための嚢胞性線維症膜コンダクタンス制御因子(CFTR)モジュレーター。
【請求項2】
疾患が透過性型浮腫を伴う、請求項1に記載の使用のためのCFTRモジュレーター。
【請求項3】
疾患が肺透過性型浮腫を伴う、請求項1又は2に記載のC使用のためのFTRモジュレーター。
【請求項4】
疾患が急性疾患である、請求項1~3のいずれか1項に記載の使用のためのCFTRモジュレーター。
【請求項5】
疾患が炎症性疾患である、請求項1~4のいずれか1項に記載の使用のためのCFTRモジュレーター。
【請求項6】
疾患が感染症である、請求項1~5のいずれか1項に記載の使用のためのCFTRモジュレーター。
【請求項7】
疾患が肺疾患、全身性炎症反応症候群、COVID-19又は敗血症である、請求項1~6のいずれか1項に記載の使用のためのCFTRモジュレーター。
【請求項8】
肺疾患が、急性呼吸窮迫症候群、人工呼吸器誘発肺損傷、輸血関連急性肺損傷又はCOVID-19関連肺炎を伴う肺炎である、請求項7に記載の使用のためのCFTRモジュレーター。
【請求項9】
CFTRモジュレーターが、CFTR増強因子、CFTR補正因子又はCTFR増幅剤、好ましくはCFTR増強因子又はCFTR補正因子である、請求項1~8のいずれか1項に記載の使用のためのCFTRモジュレーター。
【請求項10】
モジュレーターが、式I又は式IV:
【化1】
で表される化合物若しくは誘導体、又は薬学的に許容される塩である、請求項1~9のいずれか1項に記載の使用のためのCFTRモジュレーター。
【請求項11】
誘導体が式I若しくはIVの重水素化化合物又はその薬学的に許容される塩である、請求項10に記載の使用のためのCFTRモジュレーター。
【請求項12】
モジュレーターが式I若しくはIVの化合物又はそれらの薬学的に許容される塩である、請求項1~11のいずれか1項に記載の使用のためのCFTRモジュレーター。
【請求項13】
CFTRモジュレーターが、1つ以上のさらなるCFTRモジュレーターと組み合わせて使用される、請求項1~12のいずれか1項に記載の使用のためのCFTRモジュレーター。
【請求項14】
内皮及び/又は上皮バリア機能不全を伴う疾患の予防及び/又は治療に使用するための活性成分としてCFTRモジュレーターを含む医薬組成物であって、疾患が嚢胞性線維症を含まない医薬組成物。
【請求項15】
内皮及び/又は上皮バリア機能不全を伴う疾患の予防及び/又は治療に使用するための部品キットであって、i)CFTRモジュレーターと、ii)さらなるCFTRモジュレーターとを含み、疾患は嚢胞性線維症を含まない部品キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内皮及び/又は上皮バリア機能不全を伴う疾患の予防及び/又は治療に使用する化合物に関する。
【0002】
本発明はさらに、内皮及び/又は上皮バリア機能不全を伴う疾患の予防及び/又は治療に使用するための医薬組成物及び部品キットに関する。
【0003】
本発明はさらに、対象における内皮及び/又は上皮バリア機能不全を伴う状態、疾患又は障害を予防及び/又は治療する方法に関する。
【背景技術】
【0004】
上皮は、肺、腸、又は腎臓などの多くの内臓の内層を含む体の外表面と内表面を覆っている。上皮は、半選択的バリアとして、保護バリアとして、さらに、隣接するコンパートメント間で選択された物質を交換する表面として機能する。内皮は、血管及びリンパ管の内表面を覆い、血管内腔と周囲組織との間の半選択的障壁として作用し、物質の通過及び白血球の血流への出入りを制御する。微小血管内皮のバリア機能は、内皮細胞層と内皮間接合部の完全性に基づいており、内皮細胞骨格、細胞-細胞接合複合体、及び細胞外マトリックス及び基底膜への細胞接着のレベルで、血管ホメオスタシス、損傷及び修復において瞬間的に変化する。
【0005】
上皮又は内皮バリア機能障害は、様々な疾患で起こる基本的な病態生理学的事象である。例えば、上皮及び/又は内皮バリア機能不全は、炎症性物質、病原体、又は活性化された免疫細胞による刺激の間に生じ、流体、小溶質、大型タンパク質、又は区画を横切る細胞全体の制御不能な交換をもたらす。
【0006】
急性呼吸窮迫症候群(ARDS)は、重症患者における呼吸不全の一般的な原因である急性肺障害(ALI)としても知られる前臨床モデルにおいて、過炎症と上皮及び内皮バリア機能の喪失を特徴とする。非心原性肺水腫の急性発症、低酸素血症、及び機械的人工換気の必要性によって定義される。ARDSは、外傷、肺炎、及び/又は敗血症などの様々な病態によって引き起こされる臨床症候群である(Matthay et. al, Nat Rev Dis Primers. 2019 Mar 14;5(1):18)。
【0007】
ARDSは1967年に最初に定義され、急性低酸素血症、非心原性肺水腫、肺コンプライアンスの低下(肺硬直の増加)、呼吸仕事量の増加、及び外傷、肺炎、敗血症、胃内容物の誤嚥を伴ういくつかの臨床疾患に関連した陽圧換気の必要性の重篤な成人及び小児における臨床症状を記述した症例ベースの報告で定義された。1992年、米国-ヨーロッパのコンセンサス会議により、この症候群の特異的な診断基準が設定され、これらの基準は、いわゆるベルリンによる成人のARDSの定義で2012年に更新された。
【0008】
ARDSは、肺炎(細菌性及びウイルス性、SARS-CoV-2を伴う;真菌性はあまり一般的ではない)、非肺性敗血症(腹膜、尿路、軟部組織及び皮膚を伴う感染源を伴う)、VILI(人工呼吸器誘発肺損傷)、SIRS(全身性炎症反応症候群)、胃及び/又は口腔及び食道内容物の吸引(その後の感染により合併することがある)、及び重大な外傷(鈍的又は貫通性の損傷又は熱傷など)の状況下で最も一般的に発現する。ARDSの発症には、急性膵炎;新鮮凍結血漿、赤血球及び/又は血小板の輸血(すなわち、輸血に関連した急性肺損傷(TRALI));種々の薬剤による薬物過剰投与;溺水(淡水又は塩水の吸入);出血性ショック又は再潅流損傷(心肺バイパス及び肺切除後を伴う);及び煙吸入(しばしば皮膚熱傷に関連する)など、他のまれなシナリオも関連している。ARDSの他の病因としてしばしば考えられる非心原性肺水腫の他の原因には、肺移植後の原発性移植片機能不全、高所肺水腫、神経原性肺水腫、及び薬物誘発性肺損傷がある。
【0009】
敗血症は生命を脅かす状態で、感染に対する身体の反応によって自身の組織や臓器が損傷を受けると起こる。敗血症は、感染によって引き起こされる炎症性免疫反応によって引き起こされる。最も一般的には、感染は細菌性であるが、真菌性、ウイルス性、原虫性のこともある。初感染の一般的な部位は、肺、脳、尿路、皮膚、腹部臓器である。敗血症の最も一般的な原因は肺炎である。内皮バリア機能不全は、敗血症及び特に敗血症性ショックの初期にも起こる基本的な病態生理学的事象である。生理的条件下では、細胞間接着を維持するために、内皮の完全性は細胞骨格(アクチン)、細胞間接着分子(タイトジャンクション)、接着結合、及び一連の支持タンパク質によって維持される。敗血症及び他の炎症誘発性刺激により、内皮の活性化が起こり、これらの構造は主に血小板及び好中球の接着、炎症性メディエーターの放出、及び毒性の酸化中間体及びニトロソ化中間体に応答して破壊される。セレクチン及びインテグリンの発現の増加と組み合わせて、白血球の内皮表面への結合は、血管液の傍細胞性漏出及び損傷した内皮バリアを通過する血管外白血球の遊走をもたらす(Hotchkiss et al., Nat Rev Dis Primers. 2016 Jun 30;2:16045)。
【0010】
全身性炎症反応症候群(SIRS)は全身に影響を及ぼす炎症状態である。感染性又は非感染性の傷害に対する身体の反応である。SIRSは、全身性炎症、臓器機能不全及び臓器不全に関連する重篤な状態である。SIRSは敗血症とも密接に関連しており、患者はSIRSの基準を満たし、感染が疑われるか、証明されている。
【0011】
肺炎は肺の炎症状態であり、主に肺胞として知られる小気嚢を侵す。典型的な症状には、乾性咳嗽、胸痛、発熱、呼吸困難などがある。肺炎は通常、ウイルスや細菌による感染症が原因で起こるが、まれに他の微生物、特定の薬剤、自己免疫疾患などの病態が原因で起こることもある。
【0012】
ARDSでは、肺内皮を通過する液体及びタンパク質の透過性が増加し、肺間質に浮腫が蓄積する。次に、浮腫液は肺胞内に移行し、しばしば肺胞上皮の正常で緊張したバリア特性への損傷によって促進される。体液、タンパク質、好中球及び赤血球に対する肺胞-毛細血管透過性の亢進(肺胞腔への蓄積をもたらす)は、ARDSの特徴である。
【0013】
肺損傷が起こると、上述のように、タンパク質に富む炎症性浮腫液が肺間質及び遠位気腔に蓄積する。間質性及び肺胞浮腫は、ARDSの急性「滲出性」相(約7日)におけるびまん性肺胞損傷(DAD)の重要な特徴である。ARDS患者の病理標本は、最も頻繁にびまん性肺胞損傷(DAD)を明らかにし、実験室研究は、肺胞上皮と肺内皮の両方の損傷を示し、その結果、肺胞腔にタンパク質に富む炎症性浮腫液が蓄積することを示した。
【0014】
ARDSは通常、呼吸補助(酸素補給及び陽圧換気を伴う)、慎重な輸液管理、適切な抗菌療法、及び栄養補給などの全身支持療法によって治療される。しかし、この疾患の主要な病理学的特徴として、過炎症又はバリア障害を標的とした機序的治療戦略はまだ不十分である。さらに、人工呼吸器誘発肺損傷(VILI)と呼ばれる機械的換気の有害な結果は、肺水腫、圧外傷、及び低酸素血症の悪化をもたらし、機械的換気を延長させ、多臓器機能不全を引き起こし、死亡率を増加させる。患者がARDS診断基準を満たす前に、急性肺損傷の進行の早期に実施される予防的治療の試みがなされており、これにより臨床転帰が改善される可能性がある。これまで、薬物療法を用いた予防に焦点を当てたすべての試験で、期待はずれの結果が得られている。
【発明の概要】
【0015】
したがって、本発明の目的は、内皮及び/又は上皮バリア機能不全、特に急性呼吸窮迫症候群、換気装置誘発肺損傷、全身性炎症反応症候群、輸血関連急性肺損傷、敗血症又は肺炎を伴う疾患の予防及び/又は治療のための新しい治療を提供することである。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1A】群データは、CFTRモジュレーターが、インビトロ実験において、肺炎球菌(S. pneumoniae)、肺炎球菌溶血素(PLY)由来の毒素で刺激した後、肺内皮透過性を低下させることを示す。(A)PLY刺激後のヒト肺微小血管内皮細胞(HPMEC)の耐性低下。Ivacaftorによる前処理は、HPMEC耐性及び透過性に保護作用を与える。
図1B】(B)PLY刺激後のヒト肺微小血管内皮細胞(HPMEC)の耐性低下。Lumacaftorによる前処理は、HPMEC耐性及び透過性に保護作用を与える。
図1C】(C)PLY刺激はHPMEC上のCFTR発現を減少させ、Ivacaftorによる前処理はPLY刺激後のCFTR発現を回復させた。
図2】群データは、Ivacaftorがインビトロ実験で肺炎球菌溶血素に応答して細胞内Ca2+濃度([Ca2+)の増加を減少させたことを示している。ヒト肺微小血管内皮細胞(HPMEC)におけるt=30分の肺炎球菌由来毒素である肺炎球菌溶血素(PLY)による刺激は、内皮[Ca2+を増加させ、Ivacaftor前処理はこの内皮[Ca2+増加を減弱させた。データは平均±SEMである。*p<0.05対対照、各群n=6~12。
図3】群データは、CFTRモジュレーターは、肺炎球菌、肺炎球菌溶血素(PLY)由来の毒素で刺激した後、エクスビボ実験で肺透過性を低下させたことを示す。PLY刺激は肺透過性及び浮腫形成を増加させたが、これは摘出灌流マウス肺における肺重量増加の増加及びIvacaftor前処置がこの効果を減少させたことから明らかである。
図4A】群データは、Ivacaftorがインビボ実験で肺浮腫形成を減少させることを示す。インビボ実験のための実験プロトコール(A)肺炎球菌感染は、気管支肺胞洗浄液(BALF)中の高(B)マウス血清アルブミン(内因性マーカー)及び(C)ヒト血清アルブミン(HSA)(安楽死の60分前に静脈内注入された外因性マーカー)によって示されるように、マウス肺におけるタンパク質漏出を増加させた。Ivacaftor前処理は肺へのタンパク質漏出を減少させ、Ivacaftorが肺炎球菌感染肺における内皮バリア機能に対して保護作用を有することを示した。
図4B】群データは、Ivacaftorがインビボ実験で肺浮腫形成を減少させることを示す。
図4C】群データは、Ivacaftorがインビボ実験で肺浮腫形成を減少させることを示す。
図4D】(D)Ivacaftor前処置は、肺炎球菌感染マウスの生存率を増加させた。
図4E】(E)肺炎球菌感染はCFTR発現を低下させ、Ivacaftor前処理は肺炎球菌に感染したマウスの肺におけるCFTRの発現を安定化させた。データは平均±SEMである。*p<0.05対対照、各群n=6~12。
図5A】群データは、Ivacaftorがインビボ実験で肺免疫応答を低下させたことを示す。肺炎球菌感染は、気管支肺胞洗浄液(BALF)中の(A)白血球、(B)多形核細胞(PMN)、(C)炎症性マクロファージを増加させた。Ivacaftor前処置は肺に対する肺免疫応答を低下させ、Ivacaftorが肺炎球菌感染肺において保護作用を有することを示した。
図5B】群データは、Ivacaftorがインビボ実験で肺免疫応答を低下させたことを示す。
図5C】群データは、Ivacaftorがインビボ実験で肺免疫応答を低下させたことを示す。
図6A】群データは、治療後のイバカフターがインビボ実験で肺浮腫形成を減少させることを示す。インビボ実験のための実験プロトコール(A)。肺炎球菌感染は、気管支肺胞洗浄液(BALF)中の高(B)マウス血清アルブミン(内因性マーカー)及び(C)ヒト血清アルブミン(HSA)(安楽死の60分前に静脈内注入された外因性マーカー)によって示されるように、マウス肺におけるタンパク質漏出を増加させた。Ivacaftor投与後は肺へのタンパク質漏出を減少させ、Ivacaftorが肺炎球菌感染肺における内皮バリア機能に治療効果を有することを示した。
図6B】群データは、治療後のイバカフターがインビボ実験で肺浮腫形成を減少させることを示す。
図6C】群データは、治療後のイバカフターがインビボ実験で肺浮腫形成を減少させることを示す。
図7A】群データは、CFTRモジュレーターが、インビトロ実験で重症COVID-19患者の血漿で刺激した後、肺内皮透過性を低下させることを示す。(A)重症COVID-19患者の血漿による刺激後のヒト肺微小血管内皮細胞(HPMEC)の経内皮電気耐性の低下。Ivacaftorによる前処置は、内皮バリア機能の尺度としてHPMECs経内皮電気耐性に対する保護効果を与える。
図7B】(B)重症COVID-19患者の血漿による刺激後のヒト肺微小血管内皮細胞(HPMEC)の経内皮電気耐性の低下。Lumacaftorによる前処置は、内皮バリア機能の尺度としてHPMEC経内皮電気耐性に保護作用を与える。
図7C】(C)重症COVID-19患者の血漿での刺激は、HPMECでのCFTR発現を低下させ、Ivacaftorによる前処置は、重症COVID-19患者の血漿での刺激後にCFTR発現を回復させた。データは平均±SEMである。*p<0.05対対照;#p<0.05対COVID-19;各々n=3~5。対照的に、内皮及び/又は上皮バリア機能障害を伴う疾患は、典型的には、CFTRにおける突然変異を有さない患者に生じ、従って、非遺伝性疾患であり、従って、感染性病原体のような異なる原因を有する。
【発明を実施するための形態】
【0017】
好ましくは、内皮及び/又は上皮バリア機能不全を伴う疾患は、CFTR遺伝子の突然変異を含む疾患を含まない。内皮及び/又は上皮バリア機能不全を伴う疾患は、CFTR遺伝子が突然変異していない疾患を含む。
【0018】
さらに、内皮及び/又は上皮バリア機能不全を伴う疾患は、静水性肺水腫を伴う疾患を含まない。静水腫とは、毛細血管静水圧の上昇に起因する過剰な間質液の蓄積をいう。静水圧性肺水腫は、うっ血性心不全又は血管内容量過剰のように、肺循環圧上昇に続発する血管外水分の異常な増加を伴う。静水性肺水腫は、本明細書に定義される内皮バリア機能不全を伴わない。
【0019】
上皮及び/又は内皮機能障害は浮腫を引き起こすことがある。好ましくは、CFTRモジュレーターは、透過性型浮腫を伴う疾患の予防及び/又は治療に使用される。透過性型浮腫は、微小血管壁の内皮及び/又は上皮細胞層の破壊に起因し、その結果、障壁は、血液から間質への巨大分子の移動を制限することができなくなる。
【0020】
透過型浮腫は肺水腫であることがある。好ましくは、CFTRモジュレーターは、肺透過性型浮腫を伴う疾患の予防及び/又は治療に使用される。
【0021】
肺水腫は、肺の組織及び気腔における体液貯留と定義される。それはガス交換障害を引き起こし、呼吸不全を引き起こすことがある。肺水腫の原因は、心原性(静水性)と非心原性(透過性)に分けられる。心原性肺水腫では、心臓の左心室が肺循環から血液を適切に除去できないために起こります。非心原性肺水腫では、肺実質又は肺血管系の損傷によるものである。非心原性肺水腫は、タンパク質及び炎症細胞に富み、一方、心原性肺水腫は、わずかなタンパク質及び炎症細胞しか含まない。肺透過型浮腫は非心原性である。対照的に、心原性肺浮腫は、上述のように、静水性肺浮腫の最も一般的な形態である。
【0022】
内皮バリア及び/又は上皮機能障害を伴う疾患は、急性又は慢性の場合がある。急性疾患は一般に突然発症し、短期間で、しばしば数日から数週間しか続かない。慢性疾患はゆっくりと進行し、長期間にわたって悪化することがあります。好ましくは、CFTRモジュレーターは、急性疾患の予防及び/又は治療に使用される。
【0023】
好ましくは、CFTRモジュレーターは、炎症性疾患の予防及び/又は治療に使用される。炎症は、非感染性の刺激若しくは傷害によって、又は感染性病原体によって引き起こされることがある。
【0024】
好ましくは、非感染性刺激又は傷害は、吸入刺激、機械的換気、外傷、熱傷、膵炎、尿毒症、輸血関連、播種性凝固障害、虚血-再潅流、移植、酸吸引、特発性(Haman-Rich症候群)及びARDS、VILI、SIRS、TRALI又は肺炎の他の無菌性原因である。
【0025】
好ましくは、感染性病原体は、細菌、ウイルス、又は真菌である。菌類には、ヒストプラスマ・カプスラーツム、ブラストミセス、クリプトコッカス・ネオフォルマンス、ニューモシスチス・ジロベジ、ニューモシスチス肺炎、コクシジオイデス・イミチスがある。細菌には、インフルエンザ菌、黄色ブドウ球菌、緑膿菌、クレブシエラ・ニューモニエ、肺炎マイコプラズマ、クラミドフィラ・ニューモニエ、レジオネラ・ニューモフィラ、モラキセラ・カタラーリス、ストレプトコッカス・ニューモニエ、ストレプトコッカス・ヴィリダンス、ストレプトコッカス・フェカリス、エンテロバクター、サルモネラ、大腸菌、プロテウス、セラチア、髄膜炎菌等の連鎖球菌種が含まれる。ウイルスには、ライノウイルス、SARS-CoV-1又はSARS-CoV-2などのコロナウイルス、インフルエンザウイルス、RSウイルス、アデノウイルス、パラインフルエンザ、単純ヘルペスウイルス、又はサイトメガロウイルス肺炎が含まれる。より好ましくは、感染性病原体は、肺炎球菌、インフルエンザ菌、クラミドフィラ・ニューモニエ、ライノウイルス、コロナウイルス、インフルエンザウイルス、RSウイルス、アデノウイルス、又はパラインフルエンザから選択される細菌又はウイルスである。最も好ましくは、感染性病原体は、肺炎連鎖球菌又はSARS-CoV-2である。
【0026】
好ましくは、CFTRモジュレーターは、感染症の予防及び/又は治療に使用される。感染症は、上記に定義された感染性病原体によって引き起こされる。
【0027】
好ましくは、CFTRモジュレーターは、肺疾患、腎疾患、腸疾患、SIRS又は敗血症の予防及び/又は治療に使用される。
【0028】
好ましい腎疾患には、急性腎障害、溶血性尿毒症症候群、又は慢性腎疾患がある。
【0029】
好ましい腸疾患としては、炎症性腸疾患(IBD)が挙げられる。
【0030】
好ましい肺疾患には、ARDS、VILI、TRALI又は肺炎が含まれる。肺炎の例としては、市中感染肺炎(CAP)及び院内感染肺炎(HAP)がある。CAPにはさらにsCAP(重症市中肺炎)が含まれる。sCAPは、肺に限局した炎症が全身に広がり、敗血症、敗血症性ショック又は臓器不全などの敗血症関連合併症を引き起こす場合に存在する。人工呼吸器関連肺炎(VAP)はHAPの特別な形です。
【0031】
CAPの一般的な病原体は、肺炎球菌、インフルエンザウイルス、インフルエンザ菌、肺炎マイコプラズマ、クラミドフィラ、及びまれにレジオネラ・ニューモフィラである。HAPの一般的な病原体は緑膿菌、エンテロバクター、大腸菌、プロテウス、セラチア、肺炎桿菌、さらに多剤耐性病原体です。
【0032】
好ましくは、CFTRモジュレーターは、肺疾患、SIRS、COVID-19、又は敗血症の予防及び/又は治療に使用される。好ましい肺疾患は、上記で定義される。
【0033】
好ましくは、CFTRモジュレーターは、ARDS、VILI、SIRS、TRALI、敗血症、又はCOVID-19関連肺炎を伴う肺炎の予防及び/又は治療に使用される。より好ましくは、CFTRモジュレーターは、COVID-19関連肺炎を伴うARDS、敗血症、又は肺炎の予防及び/又は治療に使用される。最も好ましいCFTRモジュレーターは、ARDS、又はCOVID-19関連肺炎を伴う肺炎の予防及び/又は治療に使用される。
【0034】
好ましくは、CFTRモジュレーターは、ARDS、VILI、SIRS、TRALI、敗血症、又はCOVID-19関連肺炎を伴う肺炎の症状の予防及び/又は治療のために使用され、COVID-19関連肺炎を伴うARDS又は肺炎の症状の最も好ましいものとして、肺内の間質性又は肺胞液の蓄積、低酸素血症、咳嗽、喘鳴、呼吸困難、過呼吸及び肺炎、より好ましくは、ARDS、敗血症、又はCOVID-19関連肺炎の症状の最も好ましいものを伴う肺炎が含まれる。細胞レベルでは、これらの症状は、気管支肺胞洗浄液中の好中球及びマクロファージの蓄積の増加として明らかである。
【0035】
嚢胞性線維症膜貫通コンダクタンス調節因子(CFTR)タンパク質はABCトランスポーターファミリーのメンバーである。CFTRは、吸収上皮細胞や分泌上皮細胞など、さまざまな種類の細胞で発現しており、膜を横切るアニオンの流量、他のイオンチャネルやタンパク質の活性を調節している。より具体的には、これは、複数の臓器における上皮細胞の表面に存在する塩素チャンネルである。さらに、CFTRは、肺内皮細胞を含む多くの組織及び細胞型において発現される。CFTRは、感染及び炎症状態において細胞表面から下方制御される。さらに、CFTRの阻害はインビトロで肺微小血管内皮透過性を増加させることがわかった。
【0036】
CFTRモジュレーターは、CFTR遺伝子の突然変異によりCFTRタンパク質が欠損した細胞、臓器又は生物において、CFTR機能を改善する化合物(一般に、チャネルを通る塩素流束として定義される)として定義される。
【0037】
CFTRタンパク質の主な機能は、細胞表面を通過する塩素イオンの流路をつくることである。欠損CFTRタンパク質は、CFTR遺伝子における突然変異によって引き起こされるものとして本明細書において定義される。
【0038】
塩化物流は、当該技術分野で公知の方法、例えばパッチクランプ法により単一チャネル活性を測定することにより、Ussingチャンバー内の短絡電流を測定することにより、又は細胞外Cl-濃度の関数としてCl-感受性蛍光色素による細胞内Cl-の変化を測定することにより測定することができる。
【0039】
CFTRモジュレーターは、嚢胞性線維症の治療に使用するために開発されており、ここで、CFTRタンパク質の産生に影響する嚢胞性線維症膜貫通コンダクタンス調節因子(CFTR)遺伝子に突然変異がある。具体的には、CFTRモジュレーターは、CFTR遺伝子におけるそのような突然変異によって引き起こされるCFTRタンパク質の欠損を補正するように設計されている。本質的に、欠陥のあるCFTRタンパク質は、細胞膜を横切る塩素流束の減少をもたらす。CFTRモジュレーターは、CFTRタンパク質の特異的欠陥を効果的に標的化することが示されている。一群として、これらの薬物は、修飾因子と呼ばれる。なぜなら、これらの薬物は、欠陥のあるCFTRタンパク質の機能を修飾、すなわち改善し、その主要な機能に役立つようにすることを意図しているからである。
【0040】
本発明は、CFTR遺伝子の突然変異を伴わず、したがって欠陥のあるCFTRタンパク質に悩まされない疾患においてCFTRモジュレーターを使用する。
【0041】
モジュレーターは、CFTR増強因子、CFTR補正因子、CFTR増幅因子の3つのカテゴリーに分けられる。
【0042】
CFTR増強因子は、欠陥CFTRタンパク質のチャネル開口確率(又はゲーティング)を増加させる化合物として定義される。これは、塩化物流束を測定することによって再度決定することができる。
【0043】
CFTRタンパク質はゲートによって閉じられるトンネルのような形をしている。CFTR増強因子は、膜で利用可能であるがゲート(クラスIII)及びコンダクタンス(クラスIV)突然変異を有するCFTRチャネルの開口確率を増加させるように設計された。
【0044】
好ましくは、CFTR増強因子は、Ivacaftor(CAS番号:873054-44-5、Vertex PharmaceuticalsによりKalydeo(登録商標)の商品名で市販されている)、GLPG2451(CAS番号:2055015-61-5、Galapagos NVから市販されている)及びGLPG1837(CAS番号:165475-02-6、Galapagos NVから市販されている)、QBW251(Novartisから市販されている)、PTI-808(Proteostasis Therapeuticsから市販されている)、FDL176(Flatley Discovery Labから市販されている)、又はそれらの誘導体若しくは薬学的に許容される塩から選択される化合物である。
【0045】
Ivacaftor(CAS番号:873054-44-5、Vertex Pharmaceuticals)は、N-(5-ヒドロキシ-2,4-ジテルト-ブチル-フェニル)-4-オキソ-1H-キノリン-3-カルボキサミドであり、以下の構造式Iを有する。
【0046】
【化1】
【0047】
WO2006/002421A1は、Ivacaftor(Vertex Pharmaceuticals)のような式IによるCFTR増強因子及びその誘導体を開示している。WO2006/002421A1の内容は、その中に開示された化学化合物の任意の実施形態に関して、式Iによる構造又はその誘導体で本明細書に参考として援用される。
【0048】
GLPG2451(CAS番号:2055015-61-5、ガラパゴスNV)は、次の構造式IIを有する化合物である。
【0049】
【化2】
【0050】
GLPG1837(CAS番号:1654725-02-6、ガラパゴスNV)は、N-(3-カルバモイル-5,5,7,7-テトラメチル-4,7-ジヒドロ-5H-チエノ[2,3-c]ピラン-2-イル)-1H-ピラゾール-3-カルボキサミドであり、次の構造式IIIを有する。
【0051】
【化3】
【0052】
CFTR補正因子は、突然変異したCFTR遺伝子から翻訳された新生アミノ酸鎖の正しい三次元構造への正しい折り畳みを改善し、及び/又は突然変異したCFTR遺伝子のタンパク質産物の細胞膜への輸送を改善し、及び/又は突然変異したCFTR遺伝子のタンパク質産物の細胞膜での安定性を増加させる化合物として定義される。
【0053】
これにより、細胞膜でより機能的なタンパク質が得られ、このタンパク質は細胞膜を横切る塩素流束を測定することによって再び決定される。
【0054】
CFTR補正因子は、嚢胞性線維症患者のために設計されており、この嚢胞性線維症患者はF508del突然変異の少なくとも1コピーを有し、CFTRタンパク質が正しい三次元形状を形成するのを妨げる(クラスII突然変異)。CFTR補正因子は、CFTRタンパク質が細胞表面に移動できるように正しい三次元構造を形成するのを助ける。したがって、CFTR補正因子は細胞膜の機能的CFTRタンパク質の量を増加させることができる。
【0055】
好ましくは、CFTR補正因子は、Lumacaftor(CAS番号:936727-05-8、VX 809、Vertex Pharmaceuticalsから市販されている)、Tezacaftor(CAS番号:1152311-62-0、VX 661、Vertex Pharmaceuticalsから市販されている)、Elexacaftor(CAS番号:2216712-66-0、VX 445、Vartex Pharmaceuticalsから市販されている)、Bamocaftor(CAS番号:2204245-48-5、VX 659、Vertex Pharmaceuticalsから市販されている)、Bamocaftorカリウム(CAS番号:2204245-47-4、VX 659カリウム塩、Vertex Pharmaceuticalsから市販されている)、Posenacaftor(CAS番号:2095064-05-2、PTI-801、Proteostasis Therapeuticsから市販されている)、Cavosonstat(CAS番号:1371587-51-7、N91115、Nivalis Therapeuticsから市販されている)、GLPG2222(CAS番号:1918143-53-9、Galapagos NVから市販されている)、GLPG2737(Galapagos NVから市販されている)から選択される化合物、又はその誘導体若しくは薬学的に許容される塩である。さらなるCFTR補正因子は、WO2016/086136に開示されている。WO2016/086136の内容は、その中に開示された化学化合物の構造式の任意の実施形態に関して、参照により本明細書に組み込まれる。
【0056】
Lumacaftor(CAS番号:936727-05-8、VX 809、Vertex Pharmaceuticals)は、3-[6-({[1-(2,2-ジフルオロ-1,3-ベンゾジオキソール-5-イル)シクロプロピル]カルボニル}アミノ)-3-メチルピリジン-2-イル]安息香酸であり、以下の構造式IVを有する。
【0057】
【化4】
【0058】
EP2404919A1は、Lumacaftor及びその誘導体などの式IVによるCFTR補正因子を開示している。EP2404919A1の内容は、そこに開示された化学化合物の任意の実施形態に関して、式IVによる構造又はその誘導体と共に、参照により本明細書に組み込まれる。
【0059】
Tezacaftor(CAS番号:1152311-62-0、Vertex Pharmaceuticals)は、1-(2,2-ジフルオロ-1,3-ベンゾジオキソール-5-イル)-N-[1-[(2R)-2,3-ジヒドロキシプロピル]-6-フルオロ-2-(1-ヒドロキシ-2-メチルプロパン-2-イル)インドール-5-イル]シクロプロパン-1-カルボキサミドであり、次の構造式Vを有する。
【0060】
【化5】
【0061】
EP2365972A1は、Tezacaftor及びその誘導体などの式VによるCFTR補正因子を開示する。EP2365972A1の内容は、式Vによる構造又はその誘導体で開示される化学化合物の任意の実施形態に関して、参照により本明細書に組み込まれる。
【0062】
Elexacaftor(CAS番号:2216712-66-0、Vertex Pharmaceuticals)は、N-(1,3-ジメチルピラゾール-4-イル)スルホニル-6-[3-(3,3,3-トリフルオロ-2,2-ジメチルプロポキシ)ピラゾール-1-イル]-2-[(4S)-2,2,4-トリメチルピロリジン-1-イル]ピリジン-3-カルボキサミドであり、次の構造式VIを有する。
【0063】
【化6】
【0064】
Bamocaftor(CAS番号:2204245-48-5、Vertex Pharmaceuticals)は、(S)-N-(フェニルスルホニル)-6-(3-(2-(1-(トリフルオロメチル)シクロプロピル)エトキシ)-1H-ピラゾール-1-イル)-2-(2,2,4-トリメチルピロリジン-1-イル)ニコチンアミドであり、次の構造式VIIを有する。
【0065】
【化7】
【0066】
Bamocaftorカリウム(CAS 04245-47-4、Vertex pharamceuticals)はカリウム(ベンゼンスルホニル)[6-(3-[2-[1-(トリフルオロメチル)シクロプロピル]エトキシ]-1H-ピラゾール-1-イル]-2-[(4S)-2,2,4-トリメチルピロリジン-1-イル]ピリジン-3-カルボニル]アザニドであり、構造式VIIを有する。
【0067】
Posenacaftor(CAS番号:2095064-05-2、PTI-801、Proteostasis Therapeutics)は、8-メチル-2-(3-メチル-1-ベンゾフラン-2-イル)-5-[(1R)-1-(オキサン-4-イル)エトキシ]キノリン-4-カルボン酸であり、以下の構造式VIIIを有する。
【0068】
【化8】
【0069】
Cavosonstat(CAS番号:1371587-51-7、N91115、Nivalis Therapeutics)は3-クロロ-4-(6-ヒドロキシ-2-キノリニル)安息香酸であり、以下の構造式IXを有する。
【0070】
【化9】
【0071】
GLPG2222(CAS番号:1918143-53-9、Galapagos NV)は、4-[(2R,4R)-4-[[1-(2,2-ジフルオロ-1,3-ベンゾジオキソール-5-イル)シクロプロパンカルボニル]アミノ]-7-(ジフルオロメトキシ)-3,4-ジヒドロ-2H-クロメン-2-イル]安息香酸であり、以下の構造式Xを有する。
【0072】
【化10】
【0073】
CFTR増幅因子は、突然変異CFTRメッセンジャーRNAの量、ひいてはCFTRタンパク質の量を増加させる化合物として定義される。
【0074】
メッセンジャーRNAの量は、当該技術分野で公知の方法、例えばノザンブロット又はRT-PCRによって決定することができる。
【0075】
CFTR増幅因子は、不十分なCFTRタンパク質を産生するCFTR突然変異用に設計されている。CFTR増幅因子は、細胞及び組織中のCFTRタンパク質を増加させる薬剤の一種である。CFTR増幅因子は、突然変異CFTRメッセンジャーRNAの量を増加させ、その結果、CFTRタンパク質の量を増加させ、それによって、他のCFTRモジュレーターの基質を増加させる。メッセンジャーRNAは、タンパク質のアミノ酸配列を指定する遺伝暗号のコピーを伴う中間体分子である。増幅因子自体は、CFTRタンパク質の機能を補正したり、改善したりすることはない。
【0076】
好ましくは、CFTR増幅因子は、Nesolicaftor(PTI-428、Proteostasis Therapeuticsから市販されている)及びPTI-CH(KKenneth A. Giuliano et. al., SLAS Discov. 2018 Feb; 23(2): 111-121)から選択される化合物若しくは誘導体、又は薬学的に許容される塩である。
【0077】
Nesolicaftor(PTI-428、Proteostasis Therapeutics)は、以下の構造式XIを有する化合物である。
【0078】
【化11】
【0079】
好ましくは、CFTRモジュレーターは、CFTR増強因子、CFTR補正因子又はCFTR増幅因子である。より好ましくは、CFTRモジュレーターは、CFTR増強因子又はCFTR補正因子である。
【0080】
好ましくは、CFTR増強因子は、構造式Iを有する化合物、又はその誘導体、又は薬学的に許容される塩である。
【0081】
好ましくは、CFTR補正因子は、構造式IV~VIIを有する化合物、又はその誘導体、又は薬学的に許容される塩である。より好ましくは、CFTR補正因子は、構造式IVを有する化合物又は誘導体、又はその薬学的に許容される塩である。
【0082】
好ましくは、CFTRモジュレーターは、構造式I若しくはIVを有する化合物、又はその誘導体若しくは薬学的に許容される塩である。
【0083】
誘導体が使用される場合、好ましくは、CFTRモジュレーター誘導体は、重水素化誘導体である。薬物分子中の水素を重水素に置き換えると、その代謝が著しく変化し、薬物の生物学的作用に有益な変化をもたらす可能性がある。例えば、薬物の代謝速度を低下させ、投与回数を減らすことによって薬物の薬物動態に有益な変化をもたらす。重水素化誘導体は、好ましくは、1つ以上の水素が重水素で置換された構造式I又はIVによる化合物である。
【0084】
例えば、WO2012/15885A1は、構造式XIIを有するIvacftorの重水素化誘導体を開示しており、ここで、X1~X7は独立して水素又は重水素であり、Y1~Y7は独立してCH3又はCD3である。WO2012/15885A1の含有量は、その中に開示された化学化合物の任意の実施形態に関して、式XIIによる構造又はその誘導体と参照により本明細書に組み込まれる。
【0085】
【化12】
【0086】
Deutivacftor(CAS番号:1413431-07-8、Vertex Pharmaceuticalsから市販されている重水素化Ivacaftor又はVX 561)は、N-[2-tert-ブチル-4-[1,1,1,3,3,3-ヘキサジュウテリオ-2-(トリジュウテリオメチル)プロパン-2-イル]-5-ヒドロキシ-フェニル]-4-オキソ-1H-キノリン-3-カルボキサミドであり、以下の構造式XIIIを有する。
【0087】
【化13】
【0088】
より好ましくは、CFTRモジュレーターは、構造式I又はIVを有する化合物、又は薬学的に許容されるその塩である。
【0089】
さらに好ましくは、CFTRモジュレーターは、Ivacaftor又はLumacaftorである。
【0090】
本発明では、内皮及び/又は上皮バリア機能不全を伴う疾患について開示された任意の好ましい実施形態を、CFTRモジュレーターについての任意の好ましい実施形態と組み合わせることができることが理解されるべきである。好ましくは、本発明は、ARDS、VILI、SIRS、TRALI、敗血症又は肺炎の予防及び/又は治療に使用するための構造式I若しくはIV、又はその誘導体若しくは薬学的に許容される塩を有するCFTRモジュレーターに関する。
【0091】
より好ましくは、本発明は、ARDS、VILI、SIRS、TRALI、敗血症又は肺炎の予防及び/又は治療に使用するための構造式I又はIV、又はその薬学的に許容される塩を有するCFTRモジュレーターに関する。
【0092】
最も好ましくは、本発明で使用されるCFTRモジュレーターは、ARDS、VILI、SIRS、TRALI、敗血症又は肺炎の予防及び/又は治療に使用するためのIvacaftor又はLumacaftor(CAS番号:873054-44-5又はCAS番号:936727-05-8のいずれもVertex Pharmaceuticalsから市販されている)である。
【0093】
本発明で使用されるCFTRモジュレーターは、任意の適切な投与経路によって投与することができる。好ましくは、CFTRモジュレーターは、全身投与によって投与される。全身投与には、経口投与、非経口投与、経皮投与、直腸投与、吸入投与がある。非経口投与とは、経腸、経皮、又は吸入以外の投与経路をいい、典型的には注射又は注入による。非経口投与には、静脈内、筋肉内、及び皮下注射又は注入が含まれる。吸入とは、口から吸入するか鼻から吸入するかを問わず、患者の肺に投与することをいう。
【0094】
より好ましくは、CFTRモジュレーターは、注射又は注入によって、より好ましくは静脈注射又は注入によって投与される。
【0095】
本発明の使用はまた、CFTRモジュレーターが1つ以上のさらなる活性成分と組み合わせて使用される実施形態を含む。本発明では、CFTRモジュレーターは、1つ以上のさらなるCFTRモジュレーターと組み合わせて使用することができる。1つ以上のさらなるCFTRモジュレーターは、使用のためのCFTRモジュレーターとは異なること、すなわち、異なるCFTRモジュレーターの組み合わせが使用され得ることは理解されるべきである。例えば、CFTR増強因子又はCFTR補正因子は、さらなるCFTRモジュレーターと組み合わせて使用することができる。特に、CFTR増強因子は、CFTR補正因子と組み合わせて使用することができる。特に、構造式Iを有するCFTR増強因子、又はその誘導体若しくは薬学的に許容される塩を、CFTR補正因子、具体的には構造式IV若しくはVを有するCFTR補正因子、又はその誘導体若しくは薬学的に許容される塩と組み合わせて用いることができる。特に、Ivacaftorは、Lumacaftor又はTezacaftorから選択されたCFTR補正因子と組み合わせて使用することができる。
【0096】
CFTRモジュレーターは、通常、医薬組成物に製剤化される。したがって、さらなる態様において、本発明は、内皮及び/又は上皮バリア機能不全を伴う疾患の予防及び/又は治療に使用するための活性成分としてCFTRモジュレーターを含む、好ましくはそれからなる医薬組成物に関する。医薬組成物は、任意に、1つ以上のさらなるCFTRモジュレーター及び/又はそれらの組み合わせを含む1つ以上のさらなる薬学的に活性な化合物をさらに含むことができる。さらに、薬学的に許容される賦形剤とは、薬学的組成物への形態又はコンシステンシーの付与に関与する薬学的に許容される材料、組成物又はビヒクルを意味し、薬学的組成物中に存在し得る。
【0097】
さらなる態様において、本発明は、好ましくは、i)CFTRモジュレーターと、ii)上記で定義されるさらなるCFTRモジュレーターとを含む、好ましくはそれからなる、内皮及び/又は上皮バリア機能不全を伴う疾患の予防及び/又は治療に使用するための部品キットに関する。特に、i)は、CFTR増強因子又はCFTR補正因子であってもよく、ii)さらなるCFTRモジュレーターであってもよい。特に、i)はCFTR増強因子であってもよく、ii)はCFTR補正因子であってもよい。特に、i)構造式Iを有するCFTR増強因子、又はその誘導体若しくは薬学的に許容される塩であってもよく、ii)CFTR補正因子、又は特に構造式IV若しくはVを有するCFTR補正因子、又はその誘導体若しくは薬学的に許容される塩であってもよい。特に、i)はIvacaftorであってもよく、ii)Lumacaftor又はTezacaftorから選択されたCFTR補正因子であってもよい。
【0098】
本発明の部品キットのための成分は、同時投与のために、又は任意の順序で投与のために処方することができる。成分はまた、反復投与のためであってもよい。
【0099】
さらなる態様において、本発明は、CFTRモジュレーターを対象に投与する工程を含む、内皮及び/又は上皮バリア機能不全を伴う状態、疾患又は障害を予防及び/又は治療する方法に関する。
【0100】
好ましくは、対象は、そのような予防及び/又は治療を必要とする。好ましくは、対象は、それを必要とする哺乳動物である。
【0101】
本発明において、CFTRモジュレーターの使用のために開示された任意の実施形態、ならびに内皮及び/又は上皮バリア機能不全を伴う疾患のために開示された任意の実施形態は、活性成分としてCFTRモジュレーターを含み、好ましくはそれからなる医薬組成物、i)CFTRモジュレーターと、ii)さらなるCFTRモジュレーターとを含む、好ましくはそれからなる部品キット、ならびに内皮及び/又は上皮バリア機能不全を伴う状態、疾患又は障害を予防及び/又は治療する方法のいずれかに適用可能であり、この方法は、CFTRモジュレーターを対象に投与することを含むことが理解されるべきである。
【0102】
次に、本発明を以下の図及び実施例によってさらに説明する。
【実施例
【0103】
実施例1:肺炎球菌溶血素処理HPMECにおけるIvacaftor及びLumacaftorの細胞透過性及びCFTR発現に及ぼす影響(インビトロ実験)
2つのCFTRモジュレーターであるCFTR増強因子Ivacaftor及びCFTR補正因子Lumacaftorの効果を、肺炎球菌由来の肺炎球菌溶血素(PLY)毒素で刺激したヒト肺微小血管内皮細胞(HPMEC)を用いてインビトロで評価した。
【0104】
HPMECは、Promocellから購入し、微小血管内皮細胞増殖培地、内皮細胞増殖サプリメント、及びペニシリン-ストレプトマイシン中で5%CO下の37℃で培養した。10代までの細胞を用いて実験を行った。細胞をコンフルエントな単層に増殖させ、内皮単層の透過性を、以下のように経内皮電気耐性を測定することによって評価した。
【0105】
経内皮電気耐性は、内皮透過性の尺度として細胞単層の電気細胞-基質インピーダンスセンシング(ECIS)によりリアルタイムで測定される。HPMECを8ウェルのECISプレート中でコンフルエントになるまで増殖させた。コンフルエント細胞を10μmol/LのIvacaftor(Cayman Chemical)又は5μmol/LのLumacaftor(TargetMol)で24時間前処理し、次に0.25μg/mlの肺炎球菌溶血素(肺炎球菌由来の毒素)で刺激した。細胞透過性のパラメータとして内皮細胞単層の耐性を測定した。陽性対照として、細胞を(CFTRモジュレーターの非存在下で)肺炎球菌溶血素単独で刺激した。未処理細胞を陰性対照とした。
【0106】
内皮細胞の透過性は、内皮カルシウム濃度を測定することによってさらに評価されている:内皮カルシウム濃度の増加は、内皮細胞透過性の増加の基礎となる重要なメカニズムを表す。内皮カルシウムの増加は、細胞の収縮をもたらし、内皮細胞間のギャップ形成を増加させ、透過性を増加させる。この測定では、HPMECをチャンネルスライドでコンフルエンスまで培養した。コンフルエント細胞を、5%ウシ胎児血清(FBS)及び10μmol/Lのカルシウム感受性色素fura-2-アセトキシメチルエステル(fura-2AM)を含有し、プルロンF-127(DMSO中の20%溶液)に溶解したハンクスバランス塩溶液と共に30分間インキュベートした。次に、細胞を37℃の加熱チャンバー中にマウントし、10μmol/LのIvacaftor(Cayman chemical)を伴う5%FBSを伴うハンクス塩溶液で30分間潅流し、続いてPLY(0.25μg/ml)刺激を30分間行った。Fura-2蛍光は、波長340及び380nmでの単色照明によって励起された。バックグラウンド補正後、内皮カルシウム濃度の尺度としてTillVision 4.0ソフトウェア(Till Photonics Germany)を用いて340/380比を計算した。陽性又は陰性対照として、細胞をそれぞれ、肺炎球菌溶血素又は非処理細胞のみで刺激した。
【0107】
内皮細胞におけるCFTR発現をウエスタンブロット法により評価した。HPMECを6ウェルプレート中でコンフルエンスまで増殖させた。コンフルエント細胞を10μmol/LのIvacaftor(Cayman chemical)で24時間前処理し、翌日に0.25μg/mlのPLYで18時間刺激した。細胞をRIPA緩衝液中で溶解し、タンパク質濃度をBCAアッセイにより測定し、試料を-80℃で保存するか、ウエスタンブロットにより即時に分析した。7.5%ゲルを用いてウエスタンブロットを行った。ゲル転写後、ブロット膜を0.1%(TBS-T)のTris緩衝生理食塩水で希釈した5%ミルク中で1時間インキュベートした後、TBS-T中で1:500に希釈した一次抗体としてCFTR抗体を用いて24時間インキュベートし、翌日、TBS-T中で1:10000に希釈した二次抗体として、ロバ抗ウサギ中で2時間インキュベートした。
【0108】
図1A及びBは、肺炎球菌溶血素で刺激した後のHPME細胞の耐性の低下を示し、対照細胞と比較した場合、これらの細胞の透過性の増加を示す。Ivacaftor(図1A)又はLumacaftor(図1B)による前処理は、肺炎球菌溶血素による刺激後のHPME細胞の耐性性低下を示し、これらの化合物の内皮透過性に対する保護作用を示唆している。
【0109】
図1Cは、それぞれのウエスタンブロットを示す。CFTR発現は、対照細胞と比較して肺炎球菌溶血素で刺激した後、HPME細胞において減少する。Ivacaftorによる前処理は、対照細胞に匹敵するCFTR発現を示す。したがって、IvacaftorはPLY刺激後にCFTR発現を救出した。
【0110】
図2は、肺炎球菌溶血素で刺激した後のHPME細胞における内皮カルシウム濃度([Ca2+)の増加を示し、対照細胞と比較した場合、これらの細胞の透過性の増加を示す。Ivacaftorによる前処理は、肺炎球菌溶血素による刺激後のHPME細胞における[Ca2+の低下を示し、内皮透過性に対するIvacaftorの保護作用を示した。
【0111】
データは、CFTRモジュレーターIvacaftorとLumacaftorの両方が、肺炎球菌溶血素毒素による刺激後のHPMECs透過性に対して保護効果を与えることを示している。
【0112】
実施例2:実験的肺炎球菌溶血素における肺内皮透過性に対するIvacaftorの効果は、摘出潅流マウス肺において肺バリア不全を誘発した
Ivacaftorの効果は、肺重量増加を測定することにより、PLY(0.25μg/ml)による刺激に対して、摘出潅流マウス肺においてエクスビボで評価された。
【0113】
マウスにケタミン(100mg/kg体重)とキシラジン(20mg/kg体重)を腹腔内注射して麻酔した。気管チューブを気管内に挿入し、胸骨正中切開により胸部を開放した。血液凝固を防止するため、右室にヘパリン(20IU)を注入した。主肺動脈及び左心室にカニューレを挿入した。気管、肺及び心臓を一塊として除去し、孤立性肺潅流システムに接続した。肺を、1mL/分の速度で5%FBSを含有するハンクスバランス塩溶液(HBSS)で連続的に潅流した。肺水腫の形成の指標として、肺重量を継続的にモニタリングする。
【0114】
マウス肺をIvacaftor(最終濃度10μmol/L)で前処理し、次に肺炎球菌由来の肺炎球菌溶血素毒素(最終濃度0.25μg/ml)で刺激した。
【0115】
陽性及び陰性対照として、マウス肺をそれぞれ、肺炎球菌溶血素単独で刺激したか又は非処置マウス肺を使用した。
【0116】
図3は、肺炎球菌溶血素刺激が、非処置肺と比較して肺体重増加をもたらすことを示す。Ivacaftor前処置はこの効果を有意に低下させた。これらのデータは、肺炎球菌溶血素による刺激時の肺体重増加の増加によって明らかな肺内皮透過性及び浮腫形成がイバカフター前処理によって減少することを示す。
【0117】
実施例3:肺水腫形成及び肺免疫応答に対する肺炎球菌感染マウスにおけるIvacaftorの効果(インビボ実験)
肺炎球菌感染後のIvacaftorの影響を、気管支肺胞洗浄液(BALF)及び血漿中の内因性マウス血清アルブミン及び外因性ヒト血清アルブミンの測定により、インビボマウス肺で評価した。
【0118】
マウスをCharles River(ドイツ)から購入し、12時間の明暗周期で、食物及び水への自由アクセスを有する特定の病原体フリー(SPF)条件下で隔離換気ケージに収容した。感染マウスにケタミンとキシラジンで麻酔し、20μLの滅菌PBS中に肺炎球菌(NCTC7978)の5×106コロニー形成単位(CFU)を経鼻接種した。非感染対照マウスに20μLの無菌PBSを投与した。
【0119】
マウスをIvacaftor(Cayman chemical;100μLの腹腔内投与で2mg/kg;i.p.)又は対照として感染24時間前、さらに感染時点及び感染12時間後、24時間後、36時間後、47時間後に溶媒で前処理した。同時に、体重及び直腸温を測定した。
【0120】
したがって、以下の実験群を含めた:
-感染していないが、溶媒で処理されたマウス
-感染していないが、Ivacaftorで処理されたマウス
-肺炎球菌に感染し、溶媒で処理されたマウス
-肺炎球菌に感染し、Ivacaftorで処理されたマウス。
【0121】
感染後48時間(p.i.)、マウスを麻酔(ケタミン/キシラジン)し、失血させた。その後、肺を洗浄し、気管支肺胞洗浄(BAL)を行い、肺組織を解剖し、液体窒素中で凍結した。
【0122】
インビボ実験の実験プロトコールを図4Aに示す。
【0123】
気管支肺胞洗浄液(BALF)及び血漿中の内因性マウス血清アルブミン(MSA)をELISA(Bethyl Laboratories,Montgomery,TX,USA)で定量し、肺血管透過性のマーカーとしてBALF/血漿比を算出した。
【0124】
外因性ヒト血清アルブミン(HSA;1mg/75μl)を、肺調製及びBALの1時間前に静脈内注射した。BALF及び血漿中のHSA濃度をELISA(Bethyl,Montgomery,TX,USA)で測定し、HSA BALF/血漿比を肺血管透過性のマーカーとして算出した。
【0125】
マウスにおけるCFTR発現を、実施例1に記載されたようにウエスタンブロットにより評価した。気管支肺胞洗浄液(BALF)中の全白血球、多形核白血球(PMN)、及び炎症性マクロファージの数を、蛍光活性化細胞選別(FACSCanto II;BD Biosciences)により、細胞ゲーティングの前方散乱特性対側方散乱特性、及びその後の蛍光標識による分化を用いて測定した。この目的のために、BAL細胞をブロッキング抗体と予めインキュベートし、抗CD45、抗CD11c、抗CD11b、抗F4/80、抗Ly6G、抗Ly6C、抗シグレックF及び抗MHCII抗体で染色した。細胞を測定し、FACS Canto II(BD)及びFACSDiva及びFlowJoソフトウェアを用いて分析した。細胞数は、カウントブライトアブソルートカウンティングビーズ(ThermoFisher Scientific)を用いて計算した。
【0126】
図4B及びCは、肺炎球菌に感染したマウスは、非感染マウスの肺と比較して、内因性マウス血清アルブミン及び外因性ヒト血清アルブミンの血漿から肺胞腔への漏出の増加として明らかな内皮/上皮バリアの透過性の増加を示し、そこから気管支-肺胞洗浄によって回収された。Ivacaftorによる前治療は、肺へのタンパク質漏出を減少させた。したがって、肺炎球菌感染時の肺タンパク質透過性は、Ivacaftorによる前処理によって低下する。
【0127】
図4Dは、Ivacaftorの前処理が肺炎球菌感染マウスの生存率を増加させたことを示している。
【0128】
図4Eは、肺炎球菌に感染したマウスが、非感染マウスと比較して、CFTR発現の低下を示すことを示す。Ivacaftor前処理はCFTRの発現を安定化した。
【0129】
図5A~Cは、肺炎球菌に感染したマウスが非感染マウスと比較して、BALF中の(A)白血球、(B)多形核白血球(PMN)及び(C)炎症性マクロファージの蓄積の増加を示すことを明らかにしている。Ivacaftor前処理はBALF中の3つの炎症性細胞サブセットすべてのレベルを低下させ、肺炎球菌感染後の肺胞腔への内皮及び上皮バリアを通過する免疫細胞の移入がイバカフト前処理によって減少することを示した。
【0130】
要約すると、実験データは、LumacaftorとIvacaftor前処理がインビトロで内皮バリア機能、及びインビボで肺バリア機能、すなわち上皮及び内皮バリア機能に保護効果を有することを示す。
【0131】
実施例4:肺水腫形成及び肺免疫応答に対する肺炎球菌感染マウスにおけるIvacaftorの効果(インビボ実験-投与後)
肺炎球菌感染後のIvacaftorの影響を、気管支肺胞洗浄液(BALF)及び血漿中の内因性マウス血清アルブミン及び外因性ヒト血清アルブミンの測定により、インビボマウス肺で評価した。
【0132】
マウスをCharles River(ドイツ)から購入し、12時間明暗周期で、食物及び水への自由アクセスを有する特定の病原体フリー(SPF)条件下で隔離換気ケージに収容した。感染マウスにケタミンとキシラジンを麻酔し、20μLの滅菌PBS中に肺炎球菌(NCTC7978)の5×106コロニー形成単位(CFU)を経鼻接種した。非感染対照マウスに20μLの無菌PBSを投与した。
【0133】
マウスを感染6時間後にIvacaftor(Cayman chemical;2mg/kgを100μLの腹腔内投与;i.p.)又は対照として感染6時間後、さらに感染時点及び感染12時間後、24時間後、36時間後に溶媒で処理した。同時に、体重及び直腸温を測定した。
【0134】
したがって、以下の実験群を含めた:
-感染していないが、溶媒で後処理されたマウス
-感染していないが、Ivacaftorで後処理されたマウス
-肺炎球菌に感染され、溶媒で後処理されたマウス
-肺炎球菌に感染され、Ivacaftorで後処理されたマウス。
【0135】
感染後48時間(p.i.)、マウスを麻酔(ケタミン/キシラジン)し、失血させた。
その後、肺を洗浄し、気管支肺胞洗浄(BAL)を行い、肺組織を解剖し、液体窒素中で凍結した。
【0136】
インビボ実験-後処理の実験プロトコールを図6Aに示す。
【0137】
気管支肺胞洗浄液(BALF)及び血漿中の内因性マウス血清アルブミン(MSA)をELISA(Bethyl Laboratories,Montgomery,TX,USA)で定量し、肺血管透過性のマーカーとしてBALF/血漿比を算出した。
【0138】
外因性ヒト血清アルブミン(HSA;1mg/75μl)を、肺調製及びBALの1時間前に静脈内注射した。BALF及び血漿中のHSA濃度をELISA(Bethyl,Montgomery,TX,USA)で測定し、HSA BALF/血漿比を肺血管透過性のマーカーとして算出した。
【0139】
図6B及び6Cは、肺炎球菌に感染したマウスは、非感染マウスの肺と比較して、内因性マウス血清アルブミン及び外因性ヒト血清アルブミンの血漿から肺胞腔への漏出の増加として明らかな内皮/上皮バリアの透過性の増加を示し、そこから気管支-肺胞洗浄によって回収された。Ivacaftorによる前治療は、肺へのタンパク質漏出を減少させた。したがって、肺炎球菌感染時の肺タンパク質透過性は、治療後にIvacaftorによって低下する。
【0140】
要約すると、実施例4の実験データは、治療後のIvacaftorが、インビボで、肺胞-毛細血管バリア機能、すなわち、上皮及び内皮バリア機能に対して保護効果を有することを示す。
【0141】
実施例5:重症COVID-19患者の血漿で処理したHPMECにおける内皮透過性及びCFTR発現(インビトロ実験)に対するIvacaftor及びLumacaftorの効果
2つのCFTRモジュレーター、CFTR増強因子Ivacaftor及びCFTR補正因子Lumacaftorの効果を、重症COVID-19患者の血漿で刺激したヒト肺微小血管内皮細胞(HPMEC)を用いてインビトロで評価した。
【0142】
HPMECは、Promocellから購入し、微小血管内皮細胞増殖培地、内皮細胞増殖サプリメント、及びペニシリン-ストレプトマイシン中で5%CO下の37℃で培養した。10代までの細胞を用いて実験を行った。細胞をコンフルエントな単層に増殖させ、内皮単層の透過性を、以下のように経内皮電気耐性を測定することによって評価した。経内皮電気耐性は、内皮透過性の尺度として細胞単層の電気細胞-基質インピーダンスセンシング(ECIS)によりリアルタイムで測定される。HPMECを8ウェルのECISプレート中でコンフルエンスまで増殖させた。コンフルエント細胞を、10μmol/LのIvacaftor(Cayman chemical)又は5μmol/LのLumacaftor(TargetMol)で24時間前処理し、次に、COVID-19患者又は健康なドナーからの血漿で24時間、陰性対照として刺激した。陽性対照として、COVID-19患者単独の血漿で細胞を刺激した(CFTRモジュレーターの非存在下)。
【0143】
クエン酸塩血漿は、重症患者8例(高流量O2又は気管挿管及び機械的換気;WHO重症度スコア:5~7)を対象とした前向き観察Pa-COVID-19コホート研究(倫理承認EA2/066/20)の一部としてサンプリングした。健常ドナー8例(倫理承認EA2/075/15)の血漿を対照とした。内皮細胞透過性のパラメータとして、血漿試料を経内皮電気耐性測定のために10%(v/v)に希釈した。
【0144】
内皮細胞におけるCFTR発現をウエスタンブロット法により評価した。HPMECを6ウェルプレート中でコンフルエンスまで増殖させた。コンフルエント細胞を10μmol/LのIvacaftor(Cayman化学物質)で24時間前処理し、翌日COVID-19患者又は健常ドナー由来の上記血漿で24時間刺激した。陽性対照として、COVID-19患者単独の血漿で細胞を刺激した(CFTRモジュレーターの非存在下)。血漿試料をCFTRイムノブロット用に20%(v/v)に希釈した。
【0145】
細胞をRIPA緩衝液中で溶解し、タンパク質濃度をBCAアッセイにより測定し、試料を-80℃で保存するか、ウエスタンブロットにより即時に分析した。7.5%ゲルを用いてウエスタンブロットを行った。ゲル転写後、ブロット膜を0.1%(TBS-T)のTris緩衝生理食塩水で希釈した5%牛乳中で1時間インキュベートした後、TBS-T中で1:500に希釈した一次抗体としてCFTR抗体を用いて24時間インキュベートし、翌日、TBS-T中で1:10000に希釈した二次抗体として、ロバ抗ウサギ中で2時間インキュベートした。
【0146】
図7A及びBは、COVID-19患者由来の血漿で刺激した後のHPME細胞の経内皮電気耐性の低下を示し、対照細胞と比較した場合、これらの細胞の透過性の増加を示している。Ivacaftor(図7A)又はLumacaftor(図7B)による前処置は、COVID-19患者由来の血漿で刺激した後のHPME細胞の経内皮電気耐性の低下を示し、これらの化合物の内皮透過性に対する保護作用を示している。
【0147】
図7Cは、3つの独立した実験のデンシトメトリー定量と共に、それぞれのウエスタンブロットを示す。CFTR発現は、健常ドナー由来の血漿で刺激された対照細胞と比較して、COVID-19患者由来の血漿で刺激された後のHPME細胞で減少する。Ivacaftorによる前処理は、対照細胞に匹敵するCFTR発現を示す。したがって、Ivacaftorは、COVID-19患者の血漿で刺激した後、CFTR発現を回復させた。
【0148】
要約すると、実施例5の実験データは、Lumacaftor及びIvacaftor前処置がインビトロでCOVID-19患者の内皮バリア機能に対して保護効果を有することを示す。内皮及び/又は上皮バリア機能不全を伴う疾患の予防及び/又は治療に使用する嚢胞性線維症膜貫通コンダクタンス調節剤(CFTR)モジュレーターであって、疾患が嚢胞性線維症を含まない。
図1A
図1B
図1C
図2
図3
図4A
図4B
図4C
図4D
図4E
図5A
図5B
図5C
図6A
図6B
図6C
図7A
図7B
図7C
【国際調査報告】