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2023-542912アルミニウム合金、エンジン部品の製造方法、及びエンジン部品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-10-12
(54)【発明の名称】アルミニウム合金、エンジン部品の製造方法、及びエンジン部品
(51)【国際特許分類】
   C22C 21/02 20060101AFI20231004BHJP
   C22F 1/043 20060101ALI20231004BHJP
   F02F 3/00 20060101ALI20231004BHJP
   F16J 1/01 20060101ALI20231004BHJP
   C22F 1/00 20060101ALN20231004BHJP
【FI】
C22C21/02
C22F1/043
F02F3/00 G
F16J1/01
C22F1/00 611
C22F1/00 630A
C22F1/00 630K
C22F1/00 630D
C22F1/00 630G
C22F1/00 650D
C22F1/00 692A
C22F1/00 692B
C22F1/00 691B
C22F1/00 691C
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023517982
(86)(22)【出願日】2021-09-01
(85)【翻訳文提出日】2023-05-16
(86)【国際出願番号】 EP2021074121
(87)【国際公開番号】W WO2022058166
(87)【国際公開日】2022-03-24
(31)【優先権主張番号】102020211653.9
(32)【優先日】2020-09-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】510330840
【氏名又は名称】フェデラル-モグル ニュルンベルク ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ロマン・モルゲンシュテルン
(72)【発明者】
【氏名】ライナー・ワイス
(72)【発明者】
【氏名】クラウス・ラデス
(72)【発明者】
【氏名】アンドレアス・ホラウフ
(72)【発明者】
【氏名】ローベルト・ヴィラルド
(72)【発明者】
【氏名】トーマス・キルステ
【テーマコード(参考)】
3J044
【Fターム(参考)】
3J044AA01
3J044AA18
3J044BA04
3J044BA10
3J044BB40
3J044BC01
3J044DA09
3J044EA00
3J044EA04
(57)【要約】
本出願は、アルミニウム合金、特に鋳造されたアルミニウム合金、アルミニウム合金が重力永久鋳型鋳造法を用いて鋳造されたエンジン部品、特に内部燃焼エンジン用ピストンの製造方法、及び、少なくとも部分的にアルミニウム合金からなるエンジン部品、特に内部燃焼エンジン用ピストンに関する。アルミニウム合金は、下記合金元素:
ケイ素:10質量%から<13質量%、
ニッケル:最大<0.6質量%、
銅:1.5質量%から<3.6質量%、
マグネシウム:0.5質量%から1.5質量%、
鉄:0.1質量%から0.7質量%、
マンガン:0.1から0.4質量%、
ジルコニウム:>0.1から<0.3質量%、
バナジウム:>0.08から<0.2質量%、
チタン:0.05から<0.2質量%、
リン:0.0025から0.008質量%、
並びにアルミニウム及び不可避不純物である残部からなる。更に、上記合金の構造は、その中に成形される主要な析出物を有する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記合金元素:
ケイ素:10質量%から<13質量%、
ニッケル:最大<0.6質量%、
銅:1.5質量%から<3.6質量%、
マグネシウム:0.5質量%から1.5質量%、
鉄:0.1質量%から0.7質量%、
マンガン:0.1から0.4質量%、
ジルコニウム:>0.1から<0.3質量%、
バナジウム:>0.08から<0.2質量%、
チタン:0.05から<0.2質量%、
リン:0.0025から0.008質量%、
並びにアルミニウム及び不可避不純物である残部からなり、
上記合金の微細構造は、平均真円度>0.47である丸み付けられた主要な析出物を含むことを特徴とする、アルミニウム合金、特に鋳造されたアルミニウム合金。
【請求項2】
ケイ素を11質量%から<12.5質量%で含有することを特徴とする、請求項1に記載のアルミニウム合金。
【請求項3】
銅を1.8質量%から<2.6質量%で含有することを特徴とする、請求項1又は2に記載のアルミニウム合金。
【請求項4】
マグネシウムを0.8質量%から1.2質量%で含有することを特徴とする、請求項1から3のいずれか一項に記載のアルミニウム合金。
【請求項5】
鉄を0.4質量%から0.6質量%で含有することを特徴とする、請求項1から4のいずれか一項に記載のアルミニウム合金。
【請求項6】
鉄のマンガンに対する比率が2:1から5:1の間であることを特徴とする、請求項1から5のいずれか一項に記載のアルミニウム合金。
【請求項7】
鉄及びマンガンの含有量の合計は0.9質量%を超えないことを特徴とする、請求項1から6のいずれか一項に記載のアルミニウム合金。
【請求項8】
エンジン部品、特に内部燃焼エンジン用ピストンの製造方法であって、請求項1から7のいずれか一項に記載の化学組成を有するアルミニウム合金が重力ダイカスト法を用いて鋳造され、その後、得られた鋳造物が470℃から530℃で30分から8時間の時間、熱処理に付されることを特徴とする、製造方法。
【請求項9】
熱処理は、490℃から515℃で、好ましくは505℃から515℃で実施されることを特徴とする、請求項8に記載のエンジン部品の製造方法。
【請求項10】
熱処理の時間は、1時間から3時間の間であることを特徴とする、請求項8又は9に記載のエンジン部品の製造方法。
【請求項11】
熱処理に続いて、鋳造物は、2秒から2分の時間以内に160℃未満の温度にクエンチされることを特徴とする、請求項8から10のいずれか一項に記載のエンジン部品の製造方法。
【請求項12】
熱処理後に、好ましくは後続のクエンチ後に、鋳造物は、3時間から36時間の時間、好ましくは最大20時間、160℃から250℃の温度範囲においてエージングされることを特徴とする、請求項8から11のいずれか一項に記載のエンジン部品の製造方法。
【請求項13】
エージングは、200℃から235℃で、好ましくは210℃から235℃で実施されることを特徴とする、請求項12に記載のエンジン部品の製造方法。
【請求項14】
エージング時間は、4時間から15時間の間、好ましくは8時間から15時間の間であることを特徴とする、請求項12又は13に記載のエンジン部品の製造方法。
【請求項15】
少なくとも部分的に請求項1から7のいずれか一項に記載のアルミニウム合金からなることを特徴とする、エンジン部品、特に内部燃焼エンジン用ピストン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウム合金、エンジン部品の製造方法、及び少なくとも部分的にアルミニウム合金からなるエンジン部品に関する。
【背景技術】
【0002】
消費及び排出の最適化された運送手段を目的とした経済的需要及び環境的需要に迫られ、最近の15年では、これまでよりもより強力でかつ低排出のエンジンの急速な発展が見られた。この連続的な進展の決定的な鍵は、軽量でありながらも非常に高い燃焼温度及び圧力で使用できるピストンである。これは、より高性能なピストン材料の開発により実質的に可能となった。
【0003】
この背景に対し、本発明は、軽量かつ耐高温性の鋳造されたアルミニウム合金、及び、これに適した鋳造プロセス及び熱処理を探索するとの目的に基づいている。特に、全ての段階での微細構造分布、形態、組成及び熱安定性は、ここで特別な役割を果たす。微細構造の最適化は、空孔及び酸化物介在物の最小含有量を考慮して実施されるべきである。
【0004】
需要の高いピストン材料は、主にその密度の観点で、及び等温疲労強度(高サイクル疲労、HCF)及びサーモメカニカル疲労強度(サーモメカニカル疲労、TMF)の観点でも最適化されるべきである。TMF応力の下で、ピストン材料の寿命を大きく低減させるおそれのあるマイクロ塑性及び/又は微視クラックは、合金の個々の成分、すなわちマトリックス及び主要相の異なる膨張率に起因し、比較的大きい主要相、特に主要なケイ素析出物で生じる。従って、寿命を延ばすためには、主要相を可能な限り小さいまま維持することが有利である。要約すると、ピストン材料のTMF特性を改良するには、比較的大きい主要相(特に主要なケイ素析出物)でマイクロ塑性又は微視クラックが形成される可能性を低減することで、クラック初発及び伝播の受けやすさを低減する緻密な微細構造を目指すべきである。特に、上記材料はいわゆるウェブ亀裂に対する高い耐性も有するべきである。
【0005】
銅やニッケル等の強度上昇元素であり、重元素でありかつ高価な元素の添加は、特にピストン材料の密度、つまりピストンの質量を増加させる。ここで、密度、強度及びコストの間の折り合いを探すことが常に必要となる。
【0006】
しかし、加圧ダイカストと同様に、重力ダイカストにも、合金元素が導入されるべき量以下、かつ合金の可鍛が困難又は不可能となるよりも上の濃度上限が存在する。更に、あまりに高い強度上昇元素の濃度は、疲労強度(特にHCFであるが、TMFも)を著しく低減させる大きな板状の金属間層の形成を生じさせる。
【0007】
ピストンは、重力ダイカストにより連続的に製造されていることは背景技術から知られている。更に水中でピストンをクエンチすること、そしてオーブン中で人為的なエージングを数時間行うことが一般的に知られている。
【0008】
これに関連し、独国特許第102011083969A1号は、エンジン部品、特に内部燃焼エンジン用のピストンの製造方法であって、アルミニウム合金が重力ダイカスト法を用いて鋳造される方法を開示している。それによる上記アルミニウム合金は下記合金元素を含む:ケイ素:6質量%から10質量%、ニッケル:1.2質量%から2質量%、銅:8質量%から10質量%、マグネシウム:0.5質量%から1.5質量%、鉄:0.1質量%から0.7質量%、マンガン:0.1質量%から0.4質量%、ジルコニウム:0.2質量%から0.4質量%、バナジウム:0.1質量%から0.3質量%、チタン:0.1質量%から0.5質量%。ここで、耐高温性合金を製造するために、高濃度の高価な元素である銅が要求されている。
【0009】
独国特許第102018210007A1号は、アルミニウム及び不可避不純物に加えて下記合金元素:ケイ素:10質量%から<13質量%、ニッケル:最大<0.6質量%、銅:1.5質量%から<3.6質量%、マグネシウム:0.5質量%から1.5質量%、鉄:0.1質量%から0.7質量%、マンガン:0.1から0.4質量%、ジルコニウム:>0.1から<0.3質量%、バナジウム:>0.08から<0.2質量%、チタン:0.05から<0.2質量%、及びリン:0.0025から0.008質量%を含むアルミニウム合金を開示している。しかし、上記合金の微細構造は、本発明による合金から作製されたピストンの大幅に改良されたウェブ強度の要因である、本発明による球状化された主要な析出物を上記合金中に有さない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】独国特許第102011083969A1号
【特許文献2】独国特許第102018210007A1号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
従って、記載された課題の観点における本発明の1つの目的は、重力ダイカストにより鋳造することができ、低密度であり、そしてそれにも関わらず、微細に分散した、耐高温性で、熱的に安定な相の含有比率が高く、更には、好ましくはボウルエッジ領域又はボトム領域において有利な形状を有する高い熱応力を受けたケイ素析出物を有するアルミニウム合金を提供することである。更に、本発明の目的は、前述の合金から作製されたピストンのウェブ強度を大幅に増加させることでもある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上述の目的は、請求項1に記載の合金により達成される。上記合金の好ましい実施形態は、対応する従属項で見つけることができる。下記合金元素:
ケイ素:10質量%から<13質量%、
ニッケル:最大<0.6質量%、
銅:1.5質量%から<3.6質量%、
マグネシウム:0.5質量%から1.5質量%、
鉄:0.1質量%から0.7質量%、
マンガン:0.1から0.4質量%、
ジルコニウム:>0.1から<0.3質量%、
バナジウム:>0.08から<0.2質量%、
チタン:0.05から<0.2質量%、
リン:0.0025から0.008質量%、
並びにアルミニウム及び不可避不純物である残部からなるアルミニウム合金、特に鋳造されたアルミニウム合金は、先行技術よりも密度が低減されているため、高温強度の観点で特に好ましい特性を有し、軽量化された、酷使に耐える内部燃焼エンジン用ピストンの製造に好適である。
【0013】
一方で先行技術に比べて大幅に低減された銅及びニッケルの含有量は、それらが最も高価な合金元素に属するため、合金製造の全体のコストを有利に低減し、このようにしてこれらの二つの元素のいかなる(部分的な)置換又は含有量の低減は大きなコスト節約に繋がる。他方で、これはアルミニウム材料の密度を減少させる。本発明は、高い熱応力を耐えるのに逆に必要な元素である銅及びニッケルの含有量を大幅に低減しているにも関わらず、合金元素であるマグネシウム、鉄、マンガン、ジルコニウム、バナジウム及びチタンの最適調整に起因して、上記にも関わらず良好かつ十分な強度が確保されることを特徴とする。本発明によるケイ素含有量は、アルミニウム材料の良好な可鍛性の達成に寄与する。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明によるアルミニウム合金の中心的な態様は、微細構造における主要な析出物の丸み付け又は球状化である。この球状化は、特別に適合させた熱処理の結果であり、大幅に改良された延性並びに低温での高強度に繋がる。結果として、ピストンの製造における上記合金の使用は、改良されたウェブ強度に繋がる。本発明による主要な析出物の丸み付け又は球状化は、合金に含有される主要な析出物が平均真円度>0.47であることを特徴とする。上記真円度(真円性)は下記方程式に従って決定される:
【0015】
C=(4πA/P
ここで、Cはそれぞれの析出物の真円性を表し、Aは析出物の面積を示し、そしてPは析出物の周囲長を示す。
【0016】
更に、前述の熱処理は、好ましくは平均真円度>0.44を有する金属間層の丸み付けも有利にもたらす。
【0017】
本発明による上記合金は、列記された成分及び不可避不純物、すなわち、機能性成分として意図的に添加されたものではない低濃度の成分のみを含有する。本発明による合金は、特にベリリウム(Be)及び/又はカルシウム(Ca)を含まない。
【0018】
更に、本発明によるアルミニウム合金又は鋳造されたアルミニウム合金は、11.0から<12.5のケイ素及び/又は1.8から<2.6質量%の銅及び/又は0.8質量%から1.2質量%のマグネシウム及び/又は0.4質量%から0.6質量%の鉄を含有することが好ましい。有利には、本発明によるアルミニウム合金又は鋳造されたアルミニウム合金は、鉄/マンガン比が2:1、そして好ましくは2:1から5:1の間であり、及び/又は鉄及びマンガンの含有量の合計は0.9質量%を超えない。前述の濃度範囲は、材料特性、質量/密度及びコストの必須ファクター間の衝突域における最適な折り合いを表す。
【0019】
本発明の別の態様は、エンジン部品、特に内部燃焼エンジン用ピストンの製造方法であって、前述のアルミニウム合金が重力ダイカスト法を用いて鋳造され、その後、得られた鋳造物が470℃から530℃で30分から8時間の時間、熱処理に付される、製造方法にある。この熱処理は、ピストンの製造において、最終的に改良された延性及び強度、そして究極には改良されたウェブ強度を確実にする主要な析出物の所望の丸み付け/球状化を提供する。特に有利な相乗効果は、前述の熱処理と、本発明による濃度のチタン、ジルコニウム及びバナジウムの合金元素とを組み合わせることにより達成される。それは、これらの元素が主要相のネットワークを維持させることで改良された高温での機械特性に繋がるためである。
【0020】
特に有利な微細構造は、490℃から515℃の間、特に好ましくは505℃から515℃の間の温度で、及び/又は1時間から3時間の間の時間で熱処理することにより達成され得る。
【0021】
望ましくは、上記熱処理後に、好ましくはその直後に、2秒から2分の時間以内にエージング温度の最下限未満でクエンチを実施する。エージング温度の最下限は160℃である。
【0022】
本発明の有利な実施形態によれば、熱処理後に、好ましくは後続のクエンチ後に、上記鋳造物は、3時間から36時間の時間、好ましくは最大20時間、160℃から250℃の温度範囲においてエージングされる。一方で、このエージングは、エンジン動作中にピストンの焼付きなく、十分な熱安定性を確実にし、他方で、高い初期硬度、つまりエンジン部品の低温域における強度も確実にする。
【0023】
エージング温度は200℃から235℃、好ましくは210℃から235℃、及び/又は、エージング時間は4時間から15時間の間、好ましくは8時間から15時間の間であることが特に有利であることが実証されている。
【0024】
本発明によるエンジン部品、特に内部燃焼エンジン用のピストンは、少なくとも部分的に前述の本発明によるアルミニウム合金の1つからなることが好ましい。そのようなエンジン部品は改良された(高温)強度、延性及びウェブ強度を発現する。
【国際調査報告】