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特表2023-542939ヒドロゲル及び活性薬剤を含む徐放性生分解性小管内挿入物
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-10-12
(54)【発明の名称】ヒドロゲル及び活性薬剤を含む徐放性生分解性小管内挿入物
(51)【国際特許分類】
   A61K 9/00 20060101AFI20231004BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20231004BHJP
   A61P 27/04 20060101ALI20231004BHJP
   A61P 27/02 20060101ALI20231004BHJP
   A61P 37/08 20060101ALI20231004BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20231004BHJP
   A61K 47/10 20170101ALI20231004BHJP
   A61K 47/34 20170101ALI20231004BHJP
   A61K 47/18 20170101ALI20231004BHJP
   A61K 47/26 20060101ALI20231004BHJP
【FI】
A61K9/00
A61K45/00
A61P27/04
A61P27/02
A61P37/08
A61P29/00
A61K47/10
A61K47/34
A61K47/18
A61K47/26
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023518341
(86)(22)【出願日】2021-09-23
(85)【翻訳文提出日】2023-04-04
(86)【国際出願番号】 US2021051731
(87)【国際公開番号】W WO2022066891
(87)【国際公開日】2022-03-31
(31)【優先権主張番号】63/082,505
(32)【優先日】2020-09-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】63/124,229
(32)【優先日】2020-12-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521465348
【氏名又は名称】オキュラ セラピューティクス,インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 規雄
(74)【代理人】
【識別番号】100110663
【弁理士】
【氏名又は名称】杉山 共永
(72)【発明者】
【氏名】ブリザード,チャールズ,ディー.
(72)【発明者】
【氏名】エル-ハエック,ラミ
(72)【発明者】
【氏名】ゴールドスタイン,マイケル
(72)【発明者】
【氏名】ジャレット,ピーター
(72)【発明者】
【氏名】ヴァンスレット,アンドリュー
【テーマコード(参考)】
4C076
4C084
【Fターム(参考)】
4C076AA09
4C076BB24
4C076CC10
4C076DD46
4C076DD49
4C076EE23
4C076FF32
4C084AA17
(57)【要約】
本明細書では、ヒドロゲル及び活性薬剤を含む徐放性生分解性小管内挿入物、このような挿入物を投与することによって眼球疾患を治療または予防する方法、及びこのような挿入物の製造方法を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒドロゲル及び活性薬剤を含む徐放性生分解性小管内挿入物であって、前記活性薬剤が粒子形態をとり、前記活性薬剤の粒子が前記ヒドロゲル内に分散されている、前記徐放性生分解性小管内挿入物。
【請求項2】
前記活性薬剤の粒子が、約50μm未満のd50値を有する、請求項1に記載の徐放性生分解性小管内挿入物。
【請求項3】
前記活性薬剤の粒子が、3~17μm、好ましくは4~12μm、より好ましくは5~8μmの範囲のd50値を有する、請求項2に記載の徐放性生分解性小管内挿入物。
【請求項4】
前記活性薬剤が、低溶解性活性薬剤であり、好ましくは、ドライアイ疾患、眼瞼炎、アレルギー性結膜炎、特にアトピー性角結膜炎及び春季角結膜炎を含む眼球表面に影響を及ぼす眼球疾患または障害の治療に用いるものであり、
前記活性薬剤が、より好ましくは、免疫抑制剤、非ステロイド抗炎症薬(NSAID)、抗生物質、抗ヒスタミン剤、必須脂肪酸、及びリフィテグラストからなる群より選択され、
前記活性薬剤が、最も好ましくは、シクロスポリン、エベロリムス、タクロリムス、シロリムス、ピメクロリムス、イブプロフェン、メファナム酸、ジクロフェナク、ネパフェナク、フルビプロフェン、フルビプロフェンナトリウム、フシジン酸、ベシフロキサシン(塩基)、クラリスロマイシン、アジスロマイシン、ケトチフェン(塩基)、アゼラスチン(塩基)、アゼラスチンエンボネート、リノール酸、α-リノール酸、プレドニゾン、プレドニゾロン、酢酸プレドニゾロン、メチルプレドニゾロン、デキサメタゾン、酢酸デキサメタゾン、ベタメタゾンリン酸エステルナトリウム、ブデソニド、フルニソリド、プロピオン酸フルチカゾン、トリアムシノロン、トリアムシノロンアセトニド、トリアムシノロンヘキサセトニド、二酢酸トリアムシノロン、フルオシノロンアセトニド、酢酸フルドロコルチゾン、ロテプレドノール、エタボン酸ロテプレドノール、ジフルプレドナート、フルオロメトロン、フロ酸モメタゾン、酢酸デオキシコルチコステロン、アルドステロン、リメキソロン、ベクロメタゾン、ジプロピオン酸ベクロメタゾン、及びリフィテグラストからなる群より選択される、請求項1~3のいずれか1項に記載の徐放性生分解性小管内挿入物。
【請求項5】
前記ヒドロゲルがポリマーネットワークを含み、好ましくは、前記ポリマーネットワークが同一または異なる架橋ポリマー単位を含み、前記架橋ポリマー単位が、より好ましくは1つ以上の架橋ポリエチレングリコール単位である、請求項1~4のいずれか1項に記載の徐放性生分解性小管内挿入物。
【請求項6】
前記ポリマーネットワークが、約2,000~約100,000ダルトン、好ましくは約10,000~約60,000ダルトン、より好ましくは約20,000~約40,000ダルトンの範囲の平均分子量を有するポリエチレングリコール単位を含む、請求項5に記載の徐放性生分解性小管内挿入物。
【請求項7】
前記ポリマーネットワークが、1つ以上の架橋マルチアームポリマー単位を含み、好ましくは前記マルチアームポリマー単位が、1つ以上の2~10アームポリエチレングリコール単位、より好ましくは1つ以上の4~8アームポリエチレングリコール単位、最も好ましくは1つの4アームポリエチレングリコール単位を含む、請求項5または6に記載の徐放性生分解性小管内挿入物。
【請求項8】
前記4アームポリエチレングリコール単位の4本のアームが、ペンタエリスリトールのコア分子に接続されている、請求項7に記載の徐放性生分解性小管内挿入物。
【請求項9】
前記ポリマーネットワークが、求電子基含有マルチアームポリマー前駆体を求核基含有架橋剤と反応させることによって形成される、請求項5~8のいずれか1項に記載の徐放性生分解性小管内挿入物。
【請求項10】
前記求電子基が活性化エステル基であり、より好ましくはN-ヒドロキシスクシンイミジル(NHS)エステル基であり、さらに好ましくはスクシンイミジルマロン酸基、スクシンイミジルコハク酸(SS)基、スクシンイミジルマレイン酸基、スクシンイミジルフマル酸基、スクシンイミジルグルタル酸(SG)基、スクシンイミジルアジピン酸(SAP)基、スクシンイミジルピメリン酸基、スクシンイミジルスベリン酸基、及びスクシンイミジルアゼライン酸(SAZ)基からなる群より選択される、請求項9に記載の徐放性生分解性小管内挿入物。
【請求項11】
前記求核基含有架橋剤がアミン、好ましくは2つ以上の一級脂肪族アミン基を含む分子量1,000Da未満の低分子アミンであり、より好ましくは、ジリジン、トリリジン、テトラリジン、エチレンジアミン、1,3-ジアミノプロパン、1,3-ジアミノプロパン、ジエチレントリアミン、及びトリメチルヘキサメチレンジアミンからなる群より選択される低分子アミン、さらにより好ましくはトリリジン、最も好ましくはトリリジンアセテートである、請求項9または10に記載の徐放性生分解性小管内挿入物。
【請求項12】
前記求核基含有架橋剤が、標識トリリジン、好ましくは可視化剤で標識された標識トリリジン、より好ましくはフルオロフォア(例えば、フルオレセイン)、ローダミン、クマリン、及びシアニンからなる群より選択される可視化剤で標識された標識トリリジンであり、さらに好ましくはフルオレッセイン結合体化トリリジンであり、最も好ましくはトリリジンアセテートをN-ヒドロキシスクシンイミド(NHS)-フルオレセインと反応させることによって得られるフルオレセイン結合体化トリリジンである、請求項11に記載の徐放性生分解性小管内挿入物。
【請求項13】
前記マルチアームポリマー単位が4a20k PEG単位を含み、前記架橋単位がフルオレセイン結合体化トリリジンアミド単位を含む、請求項7~13のいずれか1項に記載の徐放性生分解性小管内挿入物。
【請求項14】
前記ポリマーネットワークが、4a20k PEG-SGまたは4a20k PEG-SGをフルオレセイン結合体化トリリジンと、約1:2~約2:1の範囲のモル比で、好ましくは約1:1のモル比で反応させることによって得られる、請求項5~13のいずれか1項に記載の徐放性生分解性小管内挿入物。
【請求項15】
前記挿入物が、乾燥状態で、前記挿入物の総重量に基づいて約15重量%~約80重量%の前記活性薬剤及び前記挿入物の総重量に基づいて約20重量%~約60重量%のポリマー単位、好ましくは、前記挿入物の総重量に基づいて30重量%~65重量%の前記活性薬剤及び前記挿入物の総重量に基づいて25重量%~50重量%のポリマー単位、より好ましくは、前記挿入物の総重量に基づいて45重量%~55重量%の前記活性薬剤及び前記挿入物の総重量に基づいて37重量%~47重量%のポリマー単位を含む、請求項1~14のいずれか1項に記載の徐放性生分解性小管内挿入物。
【請求項16】
ヒドロゲル及び活性薬剤を含む徐放性生分解性小管内挿入物であって、前記挿入物が、乾燥状態で、前記挿入物の総重量に基づいて約40重量%~約80重量%の前記活性薬剤を含む、前記徐放性生分解性小管内挿入物。
【請求項17】
前記挿入物が、乾燥状態で、前記挿入物の総重量に基づいて45重量%~55重量%の前記活性薬剤を含む、請求項1~16のいずれか1項に記載の徐放性生分解性小管内挿入物。
【請求項18】
前記挿入物が界面活性剤を含む、請求項1~17のいずれか1項に記載の徐放性生分解性小管内挿入物。
【請求項19】
ヒドロゲル及び活性薬剤を含む徐放性生分解性小管内挿入物であって、前記挿入物が界面活性剤を含む、前記徐放性生分解性小管内挿入物。
【請求項20】
前記挿入物が、乾燥状態で、前記挿入物の総重量に基づいて約0.01重量%~約5重量%、好ましくは0.2重量%~2重量%の界面活性剤を含む、請求項18または19に記載の徐放性生分解性小管内挿入物。
【請求項21】
前記挿入物が、非イオン性界面活性剤、好ましくはポリ(エチレングリコール)鎖を含む非イオン性界面活性剤を含み、前記界面活性剤が、より好ましくは、ポリ(エチレングリコール)モノラウリン酸ソルビタン、ヒマシ油のポリ(エチレングリコール)エステル、及びエトキシル化4-tert-オクチルフェノール/ホルムアルデヒド縮合ポリマーからなる群より選択され、さらにより好ましくは、ポリ(エチレングリコール)-20-モノラウリン酸ソルビタン、ポリ(エチレングリコール)-80-モノラウリン酸ソルビタン、ヒマシ油のポリ(エチレングリコール)-35エステル、及びエトキシ化4-tert-オクチルフェノール/ホルムアルデヒド縮合ポリマーからなる群より選択され、最も好ましくはエトキシ化4-tert-オクチルフェノール/ホルムアルデヒド縮合ポリマーである、請求項18~20のいずれか1項に記載の徐放性生分解性小管内挿入物。
【請求項22】
2~8℃の温度で少なくとも3か月、好ましくは少なくとも6か月、より好ましくは少なくとも12か月保存した後にHPLCにより測定した前記活性薬剤の含量が、約300~約410μgまたは約90~約110重量%である、請求項1~21のいずれか1項に記載の徐放性生分解性小管内挿入物。
【請求項23】
2~8℃の温度で少なくとも3か月、好ましくは少なくとも6か月、より好ましくは少なくとも12か月保存した後にHPLCにより測定した不純物の量が3.0%以下である、請求項1~22のいずれか1項に記載の徐放性生分解性小管内挿入物。
【請求項24】
前記挿入物が繊維の形態をとり、前記繊維が、好ましくは、その乾燥状態で約1.5mm~約4.0mmの平均長さ及び0.8mm以下の平均直径、より好ましくは、その乾燥状態で2.0mm~2.5mmの平均長さ及び0.62mm以下の平均直径、さらに好ましくは、その乾燥状態で2.5mm~2.9mmの平均長さ及び0.62mm以下の平均直径を有する、請求項1~23のいずれか1項に記載の徐放性生分解性小管内挿入物。
【請求項25】
2~8℃の温度で少なくとも3か月、好ましくは少なくとも6か月、より好ましくは少なくとも12か月保存した後の前記挿入物が、その乾燥状態で約2.5mm~約2.9mmの平均長さ及び0.62mm以下の平均直径を有する繊維の形態をとる、請求項1~24のいずれか1項に記載の徐放性生分解性小管内挿入物。
【請求項26】
前記挿入物が、水和から10分後の膨潤状態で少なくとも1.0mmの平均直径、または37℃、pH7.4のリン酸緩衝食塩水中でのin vitro水和から24時間後の平衡状態で少なくとも1.3mmの平均直径を有する繊維の形態をとる、請求項1~25のいずれか1項に記載の徐放性生分解性小管内挿入物。
【請求項27】
前記挿入物が、挿入後約1~約6か月以内、好ましくは2~4か月以内、より好ましくは2~3か月以内または3~4か月以内に前記小管内で崩壊する、請求項1~26のいずれか1項に記載の徐放性生分解性小管内挿入物。
【請求項28】
前記小管に挿入した後の前記挿入物が、挿入後少なくとも約1か月、好ましくは少なくとも2か月、より好ましくは少なくとも3か月の期間にわたって治療有効量の活性薬剤を放出する、請求項1~27のいずれか1項に記載の徐放性生分解性小管内挿入物。
【請求項29】
前記活性薬剤が、ヒト対象への挿入後、前記挿入物から約0.1μg/日~約10μg/日の平均速度、好ましくは1μg/日~5μg/日の平均速度、より好ましくは2μg/日~4μg/日の平均速度で放出される、請求項1~28のいずれか1項に記載の徐放性生分解性小管内挿入物。
【請求項30】
ヒト対象への挿入後の活性薬剤の涙液濃度が、約0.1μg/mL~約10μg/mL、好ましくは約1μg/mL~約5μg/mLの範囲である、請求項1~29のいずれか1項に記載の徐放性生分解性小管内挿入物。
【請求項31】
前記挿入物が、前記挿入物に含まれる前記活性薬剤の粒子が完全に溶解する前に、前記小管内で崩壊する、請求項1~30のいずれか1項に記載の徐放性生分解性小管内挿入物。
【請求項32】
前記繊維が、乾燥前または乾燥後に延伸されている、好ましくは乾燥前に延伸されている、請求項1~31のいずれか1項に記載の徐放性生分解性小管内挿入物。
【請求項33】
繊維形態のヒドロゲル及び活性薬剤を含む徐放性生分解性小管内挿入物であって、前記繊維が延伸されている、前記徐放性生分解性小管内挿入物。
【請求項34】
前記繊維が、長手方向に約1.0~約4.0、好ましくは約1.5~約3.0、より好ましくは約2.7の延伸係数で延伸されている、請求項32または33に記載の徐放性生分解性小管内挿入物。
【請求項35】
徐放性生分解性小管内挿入物であって、
4a20k PEG-SGを、フルオレセイン結合体化トリリジンと約1:1のモル比で反応させることによって得られたポリマーネットワークを含むヒドロゲルと、
約360μgの量の活性薬剤とを含み、
その乾燥状態で約2.5mm~約2.9mmの平均長さ及び0.62mm以下の平均直径を有する繊維の形態をとる、前記徐放性生分解性小管内挿入物。
【請求項36】
徐放性生分解性小管内挿入物であって、
4a20k PEG-SAPを、フルオレセイン結合体化トリリジンと約1:1のモル比で反応させることによって得られたポリマーネットワークを含むヒドロゲルと、
約360μgの量の活性薬剤とを含み、
その乾燥状態で約2.5mm~約2.9mmの平均長さ及び0.62mm以下の平均直径を有する繊維の形態をとる、前記徐放性生分解性小管内挿入物。
【請求項37】
眼球疾患の治療または予防を必要とするヒト対象において前記治療または前記予防を行う方法であって、請求項1~36のいずれか1項に記載のヒドロゲル及び活性薬剤を含む第一の徐放性生分解性小管内挿入物を前記ヒト対象の小管に挿入することを含む、前記方法。
【請求項38】
前記第一の挿入物が、完全に崩壊するまで前記小管内にとどまるようにされ、及び/または前記第一の挿入物が、挿入後約3~約4か月以内に前記小管内で崩壊するように設計されている、請求項37に記載の方法。
【請求項39】
対象におけるドライアイ疾患を治療する方法であって、前記方法が、
(a)前記対象の第一の眼の第一の小管に第一の生分解性挿入物を挿入するステップであって、前記挿入物が、
(1)ヒドロゲルと、
(2)前記ヒドロゲル内に分散されている約100μg~約800μgの活性薬剤とを含み、
(3)前記活性薬剤が、前記対象に前記第一の挿入物を挿入した日から少なくとも約2か月の期間にわたり、約0.1μg/日~約10μg/日の平均速度で前記挿入物から放出する、前記挿入するステップと、
(b)前記第一の挿入物を挿入した日から少なくとも約2か月後に、前記対象の前記第一の眼の前記第一の小管に第二の挿入物を挿入するステップであって、前記第二の挿入物が、前記第一の挿入物と実質的に類似している、前記挿入するステップとを含む、前記方法。
【請求項40】
前記第一の挿入物が、完全に崩壊する前に除去され、好ましくは
第二の挿入物が、前記除去された第一の挿入物を置き換えるために挿入され、及び/または、前記第一の挿入物が、挿入後約2~約3か月以内に前記小管内で崩壊するように設計されている、及び/または
前記第一の挿入物が、完全に崩壊するまで前記小管内にとどまるようにされている、請求項39に記載の方法。
【請求項41】
第二の挿入物が、少なくとも2か月後に、前記第一の挿入物の事前除去なしで挿入され、または前記第一の挿入物が、完全に崩壊する前に除去され、第二の挿入物が、前記除去された第一の挿入物を置き換えるために挿入され、好ましくは、前記第一の挿入物が、挿入後約2~約3か月以内に前記小管内で崩壊するように設計され、前記第一の挿入物が挿入後2か月以内に除去される、請求項37~40のいずれか1項に記載の方法。
【請求項42】
前記眼球疾患が、涙膜及び眼球表面の障害、好ましくはドライアイ疾患であり、より好ましくは、前記眼球疾患が、灼熱感、痒み、充血、刺痛(singing)、痛み、異物感、視覚障害、涙腺の炎症、眼球表面の炎症、T細胞媒介性炎症、涙中の結膜T細胞の存在、及び涙中の炎症性サイトカインレベル上昇からなる群より選択される1つ以上の状態に関連する、請求項37~41のいずれか1項に記載の方法。
【請求項43】
前記治療が、シルマー涙液試験により測定される涙産生量を、前記挿入物の挿入前に10mm未満のシルマースコアを有する対象において改善するのに有効であり、好ましくは、前記シルマースコアが、挿入から6週間後に少なくとも2mm増加し、及び/または挿入から12週間後に少なくとも3mm増加し、及び/または
前記治療が、視覚アナログ尺度における眼乾燥の症状の重症度の評価、視覚アナログ尺度における眼乾燥の症状の頻度の評価、涙膜破壊時間の定量、角膜フルオレセイン染色、結膜リサミングリーン染色、最高矯正視力、眼球表面疾患指数の定量、及び眼乾燥の標準的な患者評価からなる群より選択される1つ以上の評価によって判定される眼乾燥の症状を低減するのに有効であり、好ましくは、角膜フルオレセイン染色値の合計tCFSが、挿入から6週間後に少なくとも1.5、及び/または挿入から12週間後に少なくとも3減少し、好ましくは、視覚アナログ尺度における眼乾燥の症状重症度の前記評価が、挿入から2週間後に少なくとも10、及び/または挿入から6週間後に少なくとも15減少する、請求項37~42のいずれか1項に記載の方法。
【請求項44】
治療期間が少なくとも1か月、少なくとも2か月、または少なくとも3か月である、請求項37~43のいずれか1項に記載の方法。
【請求項45】
請求項1~36のいずれか1項に記載のヒドロゲル及び活性薬剤を含む徐放性生分解性小管内挿入物を製造する方法であって、
a)前駆体混合物であって、ヒドロゲル前駆体と、前記前駆体混合物中に分散されている活性薬剤の粒子とを含む、前記前駆体混合物を調製するステップと、
b)前記前駆体混合物を成形し、前記ヒドロゲル前駆体を架橋させて、ポリマーネットワークを形成し、前記ポリマーネットワークを含む成形されたヒドロゲル混合物を得るステップと、
c)前記ヒドロゲル混合物を乾燥して、前記挿入物を得るステップとを含む、前記方法。
【請求項46】
ステップa)において、前記前駆体混合物が、微粒子化された活性薬剤の粒子の存在下、緩衝水溶液中で、求電子基含有マルチアームポリマー前駆体を求核基含有架橋剤と混合することによって調製され、好ましくは、前記求電子基含有マルチアームポリマー前駆体が、緩衝水性前駆体溶液中で提供され、前記求核基含有架橋剤が、前記微粒子化された活性薬剤の粒子を含む緩衝水性前駆体懸濁液中で提供される、請求項45に記載の方法。
【請求項47】
ステップa)において、活性薬剤の粒子を含む前記前駆体混合物が、その構成要素の混合後に真空下で脱気される、請求項45または46に記載の方法。
【請求項48】
前記方法が、前記ヒドロゲル混合物繊維を延伸することをさらに含み、前記延伸することが、前記ヒドロゲル混合物の乾燥前または乾燥後に実施され、好ましくは前記繊維が、約1~約4.5の延伸係数で延伸される、請求項45~47のいずれか1項に記載の方法。
【請求項49】
ヒドロゲル混合物繊維に形状記憶を付与する方法であって、前記ヒドロゲル混合物繊維が、前記ヒドロゲル内に分散された活性薬剤の粒子を含み、前記ヒドロゲル混合物繊維を長手方向に延伸することによって形状記憶を付与する、前記方法。
【請求項50】
請求項37~44のいずれか1項に記載の、眼球疾患の治療を必要とする対象における前記治療のための医薬品の調製における、請求項1~36のいずれか1項に記載のヒドロゲル及び活性薬剤を含む徐放性生分解性小管内挿入物の使用。
【請求項51】
請求項37~44のいずれか1項に記載の、眼球疾患の治療を必要とする対象における前記治療で使用するための、請求項1から36のいずれか1項に記載のヒドロゲル及び活性薬剤を含む徐放性生分解性小管内挿入物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、眼球疾患、例えば、眼球表面に影響を及ぼす疾患(例えば、ドライアイ及びドライアイ疾患「DED」)の治療に関するものである。本発明に従えば、眼球疾患は、生分解性であり活性薬剤を徐放する挿入物を、例えば小管内に投与することによって治療される。
【背景技術】
【0002】
眼球の疾患及び障害、特に眼球表面に影響を及ぼす疾患は幅広く存在する。例えば、ドライアイ疾患(DED)(乾性角結膜炎の別名でも知られている)は、最も一般的な眼科障害の1つである。眼科クリニックを受信する患者は、高頻度にドライアイの症状を報告しており、これはますます大きな公衆衛生上の問題となっており、眼科開業医が目にする最も一般的な状態の1つとなっている。罹患率は、年齢及び女性において有意に増加する。米国では、1600万人を超える成人がこの障害と診断され、このうち900万人が中等度から重度に分類されると推定されている。
【0003】
DEDは、涙膜及び眼球表面の多因子疾患であり、その結果、乾燥、灼熱感、痒み、発赤、刺痛、かすみ、ゴロゴロ感、痛み、異物感、視覚障害、涙膜不安定、眼球疲労、及びしばしば眼球表面損傷などの眼の不快な症状が生じることがある。また、DEDによって、患者のコンタクトレンズ装用、読書、コンピューター作業、または夜間の車運転が困難または不可能になることもある。
【0004】
涙腺及び眼球表面の両方の炎症がドライアイに関与することが示されている。涙膜の安定性及び浸透圧に悪影響を及ぼす因子は、眼球表面損傷を誘導し、自然免疫応答及び適応免疫応答を活性化する炎症カスケードを生じる可能性がある。これらの免疫炎症応答は、眼球表面のさらなる損傷及び永続的な炎症サイクルの発生につながり得る。例えば、眼球表面に炎症が生じると、結果として涙の産生量が低減し、これによりさらに状態が悪化し、ひいては眼球表面の炎症及び上皮細胞の損傷につながる可能性がある。動物モデルにおいて、T細胞媒介性炎症は、実際のところドライアイの原因でも結果でもあった。ヒトにおいては、ドライアイが結膜T細胞の存在と関連し、涙中の炎症性サイトカインレベルが対照群に比べて上昇していることが分かっており、これにより、炎症が当該障害の駆動源であることが裏付けられている。
【0005】
DEDは、急性、エピソード性、及び慢性に分類される。場合によっては、急性フレアを伴う慢性に分類されることもある。慢性DEDは、年間を通した注意が必要となり得る。DEDにはいくつかの薬理学的療法が検討されており、これには、市販の潤滑剤及び人工涙代替物(点眼薬として送達)に始まり、局所抗炎症療法や、涙排出を遮断するための涙点プラグを用いた涙腺閉塞に至る段階的アプローチが含まれる。
【0006】
人工涙液は涙の量を増加させるが、例えば、眼球上皮を介した蒸発または吸収による涙排出及び涙液損失により、元の状態に戻ることがあるため、頻繁な投与を要する。粘度強化剤を加えることによって滞留時間を長くすることも可能と考えられるが、粘度の高い涙に置き換わるによってかすみ目が生じることがある。涙点プラグがDED患者に有効であることが示されているものの、プラグは紛失することがあり(示される保持力が不十分)、まれに鼻涙管に移動し、その結果炎症または他の重大な状態に陥る恐れがある。場合によっては、DEDを治療する試みの一環で、涙点を高温焼灼で外科的に閉鎖することがある。米国でDED患者向けに承認されているさらなる治療薬としては、Restasis(登録商標)(シクロスポリン)(涙産生量を増加)、Cequa(登録商標)(シクロスポリン)(涙産生量を増加)、及びXiidra(登録商標)(リフィテグラスト)(DEDの徴候及び症状向け)がある。最近では、Eysuvis(商標)(ロテプレドノール)がDEDの急性期治療用に承認された。
【0007】
シクロスポリンAの局所投与は、涙液分泌を増加させることが示されており、これはおそらくは、副交感神経系関連神経伝達物質の局所的放出を促進することによるものである。シクロスポリン点眼液は、現在、以下に示すように複数の管轄地域で複数の製品が局所使用向けに市販されている。
【表1】
【0008】
しかし、局所用液剤の適用には、患者の管理に影響を及ぼす制約が存在する。このような制約としては、瓶の取扱いが困難であること、点眼の精度に限界があること、液剤を休薬する潜在可能性、及び局所用点眼薬のバイオアベイラビリティに限界があることが挙げられる(Aldrich et al,2013,Ophthalmic preparations,USP,39(5),pp.1-21)。現在利用可能なシクロスポリン点眼製剤の具体的な課題は、灼熱感及び刺痛などの忍容性の問題、ならびに作用の発現が遅く、数週間~数か月かかり得ることである。また、投与頻度が高いこと(例えば、1日数回)や、患者の日常生活に大きな影響を与えることも挙げられる。ヒトの場合、局所用点眼薬から眼組織に達するバイオアベイラビリティは5%未満である。他の制約としては、作用の発現が遅いこと(数週間~数か月)、及び点眼薬中の薬物用量が高いことが挙げられ、これは有害反応(例えば、局所用シクロスポリン点眼薬(Restasis(登録商標)NDA#021023)に関連する眼球灼熱感)の原因であり得る。
【0009】
したがって、現在の市販局所用製剤の難点を克服する眼球治療の形態、特に、クオリティーオブライフ及び患者のコンプライアンスを高める薬物(例えば、シクロスポリンA)の徐放及び付随する投与頻度の減少を可能にし、感染のリスク及び有害作用(例えば、眼の灼熱感及び刺痛)がより少ない投与形態に対するアンメットニーズが存在する。
【0010】
涙点プラグからの薬物送達は、薬物がゆっくりと放出されるデポーを形成することによって経時的な薬物の徐放を可能にするという点において、局所用点眼薬よりも有益である。投与はプラグの1回投与からなり、これは、局所用点眼薬の長期投与に固有である上述の制約に対処するものである。
【0011】
しかし、小管内プラグには課題も伴う。小管内の投与経路には、あるいくつかの解剖学的に暗示された制約があり(涙点に進入できるように十分に小型である必要がある)、投与したり、必要な場合は薬物デポーが枯渇したら取り出したりすることが容易で、十分にフィットし、すなわち気づかずに紛失しないように適切に保持され、ただし同時に、いかなる不快感も、意図されない投与部位の反応(例えば、炎症)も引き起こさない眼科用小管内プラグを開発することは困難である。
【0012】
加えて、薬物の放出は、持続的な期間にわたって適切で一定である必要がある。プラグのサイズが小さいことを考慮すると、十分な薬物充填率及び徐放特性を含むように製剤化することは難しい。
【0013】
このような背景に対し、DEDなどの眼球疾患に有効である代替的投与形態に対する需要が存在することは明らかである。
【0014】
本明細書で開示する全ての参考文献は、あらゆる目的においてその全体を参照により本明細書に援用する。
【発明の概要】
【0015】
本発明のあるいくつかの実施形態の目的は、患者の眼球疾患、特にDEDを長期間にわたって治療するために有効な活性薬剤を含む小管内挿入物を提供することである。
【0016】
また、本発明のあるいくつかの実施形態の目的は、患者の眼球疾患、特に眼瞼炎を長期間にわたって治療するために有効な活性薬剤を含む小管内挿入物を提供することである。
【0017】
また、本発明のあるいくつかの実施形態の目的は、患者の眼球疾患、特に眼瞼炎、アレルギー性結膜炎、特にアトピー性角結膜炎及び春季角結膜炎を長期間にわたって治療するために有効な活性薬剤を含む小管内挿入物を提供することである。
【0018】
上記で概説されているように、現在市販されている眼科用製剤(例えば、局所用点眼薬)の主な欠点は、頻回投与の必要性である。本発明は、長期間(例えば、数週間)持続する活性物質を継続的に放出する挿入物を1回だけ投与することによって効果的で長期的な治療を可能にすることにより、これに対処することを目的としている。
【0019】
したがって、本発明のあるいくつかの実施形態の別の目的は、眼球表面への活性薬剤の徐放を提供する活性薬剤を含む小管内挿入物を提供することである。
【0020】
挿入物の装着期間中に効果的な治療を保証するため、活性薬剤の放出は、治療効果をもたらす実質的に一定のレベル(例えば、治療ウインドウ内)にとどまるべきである。
【0021】
したがって、本発明のあるいくつかの実施形態の別の目的は、眼球表面への活性薬剤の徐放、特に一定の放出を提供する活性薬剤を含む小管内挿入物を提供することである。
【0022】
本発明のあるいくつかの実施形態の別の目的はまた、より迅速に(例えば、数日以内または数時間以内にさえ)作用発現する活性薬剤を含む小管内挿入物を提供することでもある。
【0023】
加えて、本発明は、現在の市販製品ではまだ改善の余地がある患者コンプライアンスの遵守及び改善も目的とする。
【0024】
そのため、本発明のあるいくつかの実施形態の別の目的は、忍容性が高く、小管への挿入中または挿入後に耐えられない不快感をもたらさない、活性薬剤を含む小管内挿入物を提供することである。
【0025】
また、本発明のあるいくつかの実施形態の別の目的は、投与が容易である、すなわち、小管内に容易に挿入される、活性薬剤を含む小管内挿入物を提供することでもある。
【0026】
本発明のあるいくつかの実施形態の別の目的は、取り扱いが容易であり、点眼薬のように溢れたり、容易に破損したりしない、活性薬剤を含む小管内挿入物を提供することである。
【0027】
本発明のあるいくつかの実施形態の別の目的は、患者による誤った投与が発生しにくいため過剰投与及び過少投与を回避する、活性薬剤を含む小管内挿入物を提供することである。
【0028】
本発明のあるいくつかの実施形態の別の目的は、一旦挿入されると小管内に十分に適合し、容易に紛失したり、偶発的に涙管を介して排出されたりしない、活性薬剤を含む小管内挿入物を提供することである。
【0029】
本発明のあるいくつかの実施形態の別の目的は、取り外しもしくは交換が容易である、または取り外す必要がない、活性薬剤を含む小管内挿入物を提供することである。
【0030】
したがって、本発明のあるいくつかの実施形態の別の目的は、点眼薬などの一般的な治療に比べて副作用(例えば、眼の灼熱感、刺痛、または痒み)が低減されている、活性薬剤を含む小管内挿入物を提供することである。
【0031】
したがって、本発明のあるいくつかの実施形態の別の目的は、点眼薬などの一般的な治療法に比べて関連リスク(例えば、眼球感染または全身毒性)が低減されている、活性薬剤を含む小管内挿入物を提供することである。
【0032】
したがって、本発明のあるいくつかの実施形態の別の目的は、例えば、治療に関連する制約(例えば、コンタクトレンズの装用、または読書、コンピューター作業、または夜間の車運転が不可であるか、または限定される)によるクオリティーオブライフの悪化がないか、または低減される、活性薬剤を含む小管内挿入物を提供することである。
【0033】
本発明のあるいくつかの実施形態の別の目的は、製造が簡単である、活性薬剤を含む小管内挿入物を提供することである。
【0034】
本発明のあるいくつかの実施形態の別の目的は、保存が容易であり、保存時に安定している、活性薬剤を含む小管内挿入物を提供することである。
【0035】
本発明のあるいくつかの実施形態の別の目的は、涙の産生量を増加させ、長期間にわたって患者の涙液レベルを適切なものにする、活性薬剤を含む小管内挿入物を提供することである。
【0036】
本発明のあるいくつかの実施形態の別の目的は、患者における眼球表面疾患、特にDEDの症状、例えば、眼乾燥、灼熱感、痒み、発赤、刺痛、ゴロゴロ感、痛み、異物感、視覚障害、涙液不安定、眼球疲労、及び眼球表面障害を長期間にわたって解消または低減する活性薬剤を含む眼内挿入物を提供することである。
【0037】
本発明のあるいくつかの実施形態の別の目的は、患者における眼球疾患、特にDEDを長期間にわたって治療または予防する方法を提供することであり、これは、上記に挙げた目的で言及されている問題のうちの1つ以上に対処することができる。
【0038】
また、本発明のあるいくつかの実施形態の目的は、患者における眼球疾患、特に眼瞼炎を長期間にわたって治療する方法を提供することであり、これは、上記に挙げた目的で言及されている問題のうちの1つ以上に対処することができる。
【0039】
また、本発明のあるいくつかの実施形態の目的は、患者における眼球疾患、特に眼瞼炎、アレルギー性結膜炎、特にアトピー性角結膜炎及び春季角結膜炎を長期間にわたって治療する方法を提供することでもあり、これは、上記に挙げた目的で言及されている問題のうちの1つ以上に対処することができる。
【0040】
本発明のあるいくつかの実施形態の別の目的は、DEDを治療または予防する方法であって、患者の小管内に、ヒドロゲル及び活性薬剤を含む生分解性挿入物を挿入することを含み、小管内挿入物の提供を対象とする目的に関して上記に挙げた問題のうちの1つ以上に対処することができる、方法を提供することである。
【0041】
本発明のあるいくつかの実施形態の別の目的は、DEDを治療または予防する方法であって、患者の小管内に、ヒドロゲル及び活性薬剤を含む生分解性挿入物を挿入することと、同じ小管内に、ヒドロゲル及び活性薬剤を含む第二の生分解性挿入物を、長期間(例えば、少なくとも約2か月)後に挿入することを含み、小管内挿入物の提供を対象とする目的に関して上記に挙げた問題のうちの1つ以上に対処することができる、方法を提供することである。
【0042】
本発明のあるいくつかの実施形態の別の目的は、患者における眼球疾患、特にDEDを長期間にわたって治療または予防する方法であって、薬物を含まない涙点プラグによる涙点閉塞と点眼薬の投与との組合せからなる治療によって達成される治療効果を上回る治療効果が得られる、方法を提供することである。
【0043】
本発明のあるいくつかの実施形態の別の目的は、小管内挿入物を製造する方法を提供することであり、これは、上記に挙げたような小管内挿入物に関する目的で言及されている問題のうちの1つ以上に対処することができる。
【0044】
本発明のこれらの目的のうちの1つ以上及びその他は、本明細書に開示し特許請求するように1つ以上の実施形態によって解決される。
【0045】
本発明の個々の態様を本明細書に開示し独立請求項で特許請求する。一方、従属請求項は、本発明のこれらの態様の特定の実施形態及び変形形態を特許請求するものである。本発明の様々な態様の詳細については、以下の発明を実施するための形態に示す。
【図面の簡単な説明】
【0046】
図1】眼及び涙腺系の模式図である。
図1.2A】実施例1.2(実行1及び実行2)で調製した乾燥及び水和挿入物繊維を示している。
図1.2B】実施例1.2(実行3)で調製した乾燥及び水和挿入物繊維を示している。
図1.2C】実施例1.2で調製した乾燥及び水和挿入物繊維を示している(低用量、中用量、高用量)。調製した乾燥挿入物繊維の主要部分は、用量に依存せず、いかなる可視的な表面欠陥も伴わない粒子状で円筒形の形状を示した(左)。加えて、用量ごとに表面変形が最も高度な挿入物も示している(右)。
図1.3】実施例1.3で調製した乾燥及び水和挿入物繊維を示している。
図1.4A】挿入物の乾燥密度及び薬物充填量を挿入物ごとに示している
図1.4B】挿入物ごとの乾燥直径を示している
図1.4C】挿入物ごとの乾燥密度を示している
図1.4D】挿入物ごとの顕微鏡像を示している
図1.4E】実施例1.4で調製した挿入物繊維の水和時間に依存した乾燥直径を示すグラフである。
図2】NHS-フルオレセインからフルオレセイン-トリリジン結合体への変換を示すクロマトグラムを示している。
図3.1】実施例3.4のシルマー涙液試験により、経時的に追跡した涙産生量の結果を示している。
図3.2】A及びBは、実施例3.5のビーグル涙液中で測定した経時的なシクロスポリンA(CsA)濃度を示している。
図3.3】実施例3.6のビーグル涙液中で測定した経時的なシクロスポリンA(CsA)濃度を示している。
図4A】実施例4のヒト臨床試験概要の全般的概略図を示している。
図4B】ヒトの眼の小管内での挿入物設置の例示的な全般的概略図を示している。
図5】A~Dは、ヒトの眼の小管内への挿入物設置に必要なステップの例示的な概略図を示している。
図6】試験眼(A)及び非試験眼(B)に対し、実施例4.1のシルマー涙液試験により、経時的に追跡した涙産生量の結果を示している。黒色の実線は、分析した全個体の平均シルマースコア、破線は、単一の個体のシルマースコアを表す。
図7】A及びBは、実施例4.1を経時的に追跡して、全角膜フルオレセイン染色(tCFS)の値(全眼にわたる平均値)について、絶対値で、及びベースラインからの経時的な変化で示している。
図8A】実施例4.1を経時的に追跡して、視覚アナログ尺度(VAS)における眼乾燥重症度スコアの結果を絶対値で示している
図8B】実施例4.1を経時的に追跡して、視覚アナログ尺度(VAS)による眼乾燥重症度スコアの結果をベースラインからの変化で示している。
図9】実施例4.1を経時的に追跡して、視覚アナログ尺度(VAS)における眼乾燥頻度スコアの結果を絶対値で示している。
図10】実施例4.1を経時的に追跡して、OSDIの結果を平均絶対値で示している。
図11】実施例4.1を経時的に追跡して、SPEEDスコアの結果を平均絶対値で示している。
【0047】
定義
本明細書で使用する場合、「小管内挿入物」という用語は、活性薬剤を含み、すなわち涙小管に投与、すなわち挿入され、活性薬剤を周囲環境に放出する間、ある特定の期間とどまる物体を指す。挿入物は、挿入される前に任意の所定の形状、多くの場合はロッド様の形状であってもよく、その形状は、挿入物を所望の位置に設置した際はある程度まで維持することができるが、挿入物の寸法(例えば、長さ及び/または直径)は、本明細書でさらに開示するように、投与後に水和によって変化し得る。言い換えれば、眼内に挿入されるのは、溶液でも懸濁液でもなく、既に整形された密着性の物体である。したがって挿入物は、投与される前に、例えば本明細書で開示する方法に従って、完全に形成されている。小管内挿入物は、(以下で開示するように)時間の経過とともに生分解性であるように設計することができ、したがって、それによって軟化し、形状を変化させ、及び/またはサイズを減らし、最終的には溶解または崩壊のいずれかによって除去され、その際に挿入物の残部は涙管に排出され得る。本発明において「挿入物」という用語は、(例えば、挿入物が、眼に投与され、または別の方法で水性環境に浸され、(再)水和された後に)水を含むときの水和状態での挿入物、及び(例えば、低水分(例えば、1重量%以下)になるまで乾燥したときの)乾燥(乾燥/脱水された)状態の挿入物の両方を指すために使用される。
【0048】
本発明で使用する場合、「眼」という用語は、眼全般、または眼の任意の部位もしくは部分を指す(「眼内挿入物」は、原理上は眼の任意の部位または部分に投与することができるため)。本発明は、あるいくつかの実施形態において、以下でさらに開示するように、眼内挿入物の小管内注入及びドライアイ疾患(DED)の治療を対象とする。
【0049】
「生分解性」という用語は、in vivoで、すなわちヒトまたは動物の体内に設置されたときに分解される、材料または物体(例えば、本発明に従う小管内挿入物)を指す。本発明のあるいくつかの実施形態の文脈において、本明細書の下記で詳細に開示するように、活性薬剤が含まれるヒドロゲルを含む挿入物は、眼の小管内に投与されると、経時的にゆっくりと生分解する。あるいくつかの実施形態において、生分解は、少なくとも部分的には、小管の水性環境におけるエステル加水分解によって行われる。挿入物はゆっくりと軟化及び崩壊し、その結果、鼻涙管を通じてクリアランスが行われる。
【0050】
「ヒドロゲル」とは、水中で膨潤し、ある量の水を保持する一方で、例えば、個々のポリマー鎖の化学的または物理的架橋により、その構造を維持または実質的に維持することができる、(本明細書に開示するような)1つ以上の親水性の天然または合成ポリマーの三次元ネットワークである。ヒドロゲルは、その高い水分含量ゆえに軟質で柔軟であり、そのため天然の組織に非常に似ている。本発明において、「ヒドロゲル」という用語は、(例えば、ヒドロゲルが水溶液中で形成された後、またはヒドロゲルが、一旦眼内に挿入され、または別の方法で水性環境中に浸漬されて水和または(再)水和した後に)水を含むときの水和状態のヒドロゲル、及び(例えば、低水分(例えば、1重量%以下)まで乾燥したときの)乾燥(乾燥/脱水された)状態のヒドロゲルの両方を指すために使用される。本発明において、有効成分がヒドロゲル内に含まれている(例えば、分散されている)場合、ヒドロゲルは「マトリックス」と称されることもある。
【0051】
「ポリマーネットワーク」という用語は、互いに架橋されたポリマー鎖(分子構造が同じまたは異なり、分子量が同じまたは異なる)から形成された構造を表したものである。本発明の目的に適したポリマーのタイプについて本明細書の以下に開示する。
【0052】
「非結晶性」という用語は、X線または電子散乱実験で結晶構造を示さないポリマーもしくはポリマーネットワークを指す。
【0053】
「半結晶性」という用語は、何らかの結晶特性を有する、すなわち、X線または電子散乱実験で何らかの結晶特性を示すポリマーもしくはポリマーネットワークを指す。
【0054】
本明細書において「前駆体」という用語は、互いに反応し、それにより架橋を介し結合して、ポリマーネットワークを形成し、従ってヒドロゲルマトリックスを形成する、分子または化合物を指す。ヒドロゲル内には、活性薬剤または緩衝剤などの他の材料が存在する可能性はあるが、これらは「前駆体」と称されない。
【0055】
最終的なポリマーネットワークに依然存在する前駆体分子の部分は、本明細書では「単位」とも呼ばれる。したがって、「単位」は、ヒドロゲルを形成するポリマーネットワークのビルディングブロックまたは構成物質である。例えば、本発明での使用に適したポリマーネットワークは、本明細書でさらに開示するように、同一または異なるポリエチレングリコール単位を含むことができる。
【0056】
「徐放」という用語は、本発明の目的において、活性薬剤を長期間にわたって利用可能にするように製剤化され、それにより、即時放出投与形態(例えば、眼に局所的に適用される活性薬剤の溶液(すなわち点眼薬))に比べて投与頻度の低減を可能にする製品を特徴付けることが意図されている。本明細書で「徐放」と互換的に使用することができる他の用語としては、「長期放出」または「制御放出」がある。本発明の意味において「徐放」という用語は、一定の活性薬剤放出、漸減される活性薬剤放出、及びこれらの任意の組合せ(例えば、一定の活性薬剤放出の後に漸減される活性薬剤放出)を含む。本発明の意味において、「漸減される」または「漸減する」という用語は、活性薬剤放出が経時的に減少することを指す。
【0057】
本明細書で使用する場合、「長期間」という用語は、疾患の治療が延長されていると当業者がみなす任意の期間を指し、特に、少なくとも約1週間、または少なくとも約1か月以上、例えば最大約12か月、または任意の中間の期間、例えば、約1~約6か月、約2~約4か月、約2~約3か月、もしくは約3~約4か月などの期間を指す。
【0058】
本明細書で使用する「装着時間」という用語は、小管内挿入物が小管内に存在する期間、すなわち、挿入物の投与から小管から挿入物が除去されるまでの期間を指す。あるいくつかの実施形態において、挿入物の除去は、挿入物の取出し(意図的であっても意図的でなくてもよいが、外部の力が適用されなければ自発的には起こらないと考えられる)により、または長期間後、挿入物がひとたび完全に生分解、完全に崩壊、もしくは実質的に崩壊して挿入物の残りの部分(複数可)が排出された後の自発的クリアランスにより、達成することができる。あるいくつかの実施形態において、装着時間は、少なくとも約1週間、または少なくとも約1か月以上、例えば最大約12か月、または任意の中間の期間、例えば、約1~約6か月、約2~約4か月、約2~約3か月、もしくは約3~約4か月である。
【0059】
本明細書で使用する場合、「可視化剤」という用語は、眼の小管に挿入されたときに挿入物を容易に可視化できるようにする、挿入物のヒドロゲル内に含まれる分子または組成物を指す。可視化剤は、フルオロフォア、例えば、フルオレセイン、ローダミン、クマリン、及びシアニンとすることができる。あるいくつかの実施形態において、可視化剤はフルオレセインであるか、またはフルオレセイン部分を含む。
【0060】
本明細書で使用する場合、「眼球表面」は、結膜及び/または角膜、ならびに涙器などの要素(涙点及び涙小管を含む)ならびに関連する眼瞼構造を含む。
【0061】
本明細書で使用する場合、「涙液」または「涙」という用語は、涙腺によって分泌され、眼を潤滑にし、ひいては涙膜を形成する液体を指す。涙は、水、電解質、タンパク質、脂質、及びムチンから構成される。
【0062】
本明細書で使用する場合、本発明の文脈において「投与」、「挿入」、「投与すること」、及び「挿入すること」という用語は同義的に使用され、例えば実施例4.II (挿入物設置)に記載のような手順に従い、涙小管、特に小管垂直部に挿入物を設置することを指す。
【0063】
本明細書で使用する場合、「両側性に」または「両側性」という用語は、(本発明の挿入物の投与の文脈では)挿入物を患者の両眼に投与することを指す。挿入物は、各眼ごとに独立して、眼の上小管垂直部または下小管垂直部に挿入しても、眼の上小管垂直部及び下小管垂直部の両方に挿入してもよい。
【0064】
「プラグ」という用語は、涙道の閉塞、実質的閉塞、部分的閉塞(「涙道閉塞」)をもたらして涙の排出を防止または低減し、目を湿潤に保つ一助となることが可能なデバイスを指す。プラグは、「涙点プラグ」及び「小管内プラグ」に分類することができる。小管内プラグは、文献内で「小管プラグ」とも称される。いずれのプラグ分類も、眼の上涙点及び/または下涙点を通じて挿入される。涙点プラグは涙点開口部にとどまるため、容易に視認でき、したがって大きな困難を伴わずに取外し可能である。しかし、涙点プラグが示す保持率は不十分であり、また露出した構成であるために微生物に汚染されることがあり、その結果、稀に感染が発生することがある。これに対し、小管内プラグは視認されず、小管の垂直部にも水平部にも設置されるため、涙点プラグに比べて良好な保持率が得られる。ただし、小管内プラグは取外しが容易ではなく、移動のリスクが高まる。市販のプラグは、コラーゲン製、アクリル、またはシリコーン製であることが多い。
【0065】
「小管(canaliculus、複数形はcanaliculi」)または代替的に「涙管」という用語は、本明細書で使用する場合、涙管、すなわち、涙点から鼻涙管に涙液を排出する各瞼の小さなチャネルを指す(図1も参照)。そのため、小管は、涙液を眼の表面から鼻腔に排出する涙器の一部を形成する。上瞼の小管は「上小管」または「上部小管」、下瞼の小管は「下小管」または「下部小管」と称される。各小管は、涙点に続く垂直な領域(「小管垂直部」と称される)と、小管垂直部に続く水平な領域(「小管水平部」と称される)とを含み、小管水平部は鼻涙管に合流する。
【0066】
「涙点(punctum、複数形はpuncta)」という用語は涙点(lacrimal punctum)を指し、瞼の縁にある微小な開口部であり、小管の入口に相当する。涙が産生されると、液の一部はまばたきの間に蒸発し、一部は涙点を通じて排出される。上瞼及び下瞼のいずれも涙点を示すため、これらの涙点は、それぞれ「上部涙点」または「上涙点」、「下涙点」または「下部点」と称される(図1も参照)。
【0067】
「小管内挿入物」という用語は、上涙点または下涙点を通じて、または上涙点及び下涙点の両方を通じて、眼の上小管もしくは下小管に、または眼の上小管及び下小管の両方に、特に眼の上小管垂直部もしくは下小管垂直部、または眼の上小管垂直部及び下小管垂直部に投与することができる挿入物を指す。挿入物は、小管内に配置されるため、小管内プラグでも観察されるように涙腺の閉塞を介して涙の排出を遮断する。あるいくつかの実施形態において、本発明の小管内挿入物は、眼の下小管垂直部に両側性に挿入される。本発明のあるいくつかの実施形態に従えば、小管内挿入物は、徐放性生分解性挿入物である。
【0068】
「API」、「活性(医薬)成分」、「活性(医)薬剤」、「有効(医薬)成分」、「(活性)治療剤」、「活性」、及び「薬物」という用語は、本明細書では互換的に使用され、医薬品最終製品(FPP)で使用される物質、及びこのような医薬品最終製品の調製で使用される物質を指し、このような物質は、薬理学的活性をもたらすこと、または他の方法で疾患の診断、治癒、緩和、治療、もしくは予防に直接的な効果を有すること、または患者の生理機能の修復、矯正、もしくは修正に直接的な効果を有することが意図されている。
【0069】
本発明に従って使用される活性薬剤は、眼球の疾患または障害、特に眼球表面に影響を及ぼすものの治療及び/または予防のための活性薬剤であり得る。本発明のあるいくつかの実施形態において、活性薬剤は、ドライアイ疾患、眼瞼炎、アレルギー性結膜炎、特にアトピー性角結膜炎及び春季角結膜炎の治療及び/または予防に用いるものである。本発明の特定の実施形態において、活性薬剤は、低溶解度活性薬剤である(すなわち、約1000μg/mL未満または約100μg/mL未満の水への溶解度を有する)。
【0070】
あるいくつかの実施形態において、活性薬剤は、免疫調節剤/免疫抑制剤、特にカルシニューリン阻害剤、ステロイド、詳細には合成グルココルチコイド、非ステロイド抗炎症薬(NSAID)、抗生物質、抗ヒスタミン剤、ならびにオメガ3-脂肪酸などの必須脂肪酸、及びリフィテグラストなどの他の薬剤から選択される。
【0071】
例示的な免疫調節剤/免疫抑制剤としては、シクロスポリン、エベロリムス、タクロリムス、シロリムス、及びピメクロリムスがある。例示的なNSAIDとしては、イブプロフェン、メファナム酸、ジクロフェナク、ネパフェナク、フルルビプロフェン、及びフルルビプロフェンナトリウムがある。例示的な抗生物質としては、フシジン酸、ベシフロキサシン(塩基)、クラリスロマイシン、及びアジスロマイシンがある。例示的な抗ヒスタミン剤としては、ケトチフェン(塩基)、アゼラスチン(塩基)、及びアゼラスチンエンボネートがある。例示的な必須脂肪酸としては、リノール酸及びα-リノレン酸がある。例示的な合成グルココルチコイドとしては、プレドニゾン、プレドニゾロン、酢酸プレドニゾロン、メチルプレドニゾロン、デキサメタゾン、酢酸デキサメタゾン、ベタメタゾンリン酸エステルナトリウム、ブデソニド、フルニソリド、プロピオン酸フルチカゾン、トリアムシノロン、トリアムシノロンアセトニド、トリアムシノロンジアセテート、フルオシノロンアセトニド、酢酸フルドロコルチゾン、ロテプレドノール、エタボン酸ロテプレドノール、ジフルプレドナート、フルオロメトロン、フロ酸モメタゾン、酢酸デオキシコルチコステロン、アルドステロン、リメクソロン、ベクロメタソン、及びジプロピオン酸ベクロメタゾンがある。
【0072】
あるいくつかの実施形態において、本発明に従って使用されるAPIはシクロスポリンAである。あるいくつかの他の実施形態において、本明細書で使用される活性薬剤はシクロスポリンAではない。
【0073】
本明細書で使用する場合、「シクロスポリン」という用語は、シクロスポリンAを指し、詳細には、シクロスポリンAの代謝物であるシクロスポリンB、C、D、E、H、及びLは指さず、またシクロスポリンA中に不純物として含まれることがあるシクロスポリンU、G、ジヒドロシクロスポリンA、またはイソシクロスポリンAも指さない。あるいくつかの実施形態において、シクロスポリンAは、シクロスポリンB、C、D、E、G、H、L、及びU、ならびにジヒドロシクロスポリンA及びイソシクロスポリンAを、不純物として各々1.0%以下または各々0.7%以下の濃度で含んでもよく、さらに不明不純物を各々0.3%以下または0.1%以下の濃度で含んでもよく、全体として不純物を2.5%以下または1.5%以下の総量で含んでもよい。
【0074】
シクロスポリンAの分子式はC621111112であり、そのIUPAC名は30-エチル-33-(1-ヒドロキシ-2-メチルヘキサ-4-エニル)-1,4,7,10,12,15,19,25,28-ノナメチル-6,9,18,24-テトラキス(2-メチルプロピル)-3,21-ジ(プロパン-2-イル)-1,4,7,10,13,16,19,22,25,28,31-ウンデカアザシクロトリトリアコンタン-2,5,8,11,14,17,20,23,26,29,32-ウンデコン(CAS番号59865-13-3)である。その分子量は1203ダルトンであり、以下の化学構造を有する。
【化1】
【0075】
シクロスポリンは白色~実質的に白色の粉末であり、様々な有機溶媒(例えば、アセトン、メタノール、エタノール(96%v/v))に可溶であるが、水にはほぼ不溶である。あるいくつかの実施形態において、シクロスポリンは微粒子化される。
【0076】
本発明の目的において、活性薬剤は、多形または任意の医薬的に許容される塩、無水物、水和物、他の溶媒和物もしくは誘導体を含めたその全ての可能な形態で使用することができる。この説明または特許請求の範囲において、活性薬剤が、さらなる指定なしに言及される場合は常に、明示的な記述がない場合であっても、任意のこのような多形、医薬的に許容される塩、無水物、溶媒和物(水和物を含む)、または誘導体の形態の活性薬剤も指す。活性薬剤に関して、好適な固体形態には、当業者に知られている任意の物理的形態の純物質形態が限定されずに含まれる。例えば、活性薬剤は、粒子の形態をとってもよい。粒子は、非結晶性であっても結晶性であってもよく、またはこの2つの形態の混合物を提示してもよく、粗粒子、微細粒子、または超微細粒子として制限されずに分類することができる任意のサイズで作製することができ、その寸法は特に肉眼または顕微鏡下で見ることができ、単粒及び凝集体などの形状を有することができる。また、粒子を微粒子化することもできる。本明細書で使用する場合、「微粒子化」という用語は、限定されずに、例えば、ジェットミリング、ジョークラッシング、ハンマーミリング、湿式ミリング、非溶媒中の沈殿、クライオミリング(液体窒素またはドライアイスによるミリング)、及びボールミリングにより、粒径が低減した小さなサイズの粒子、特に顕微鏡的スケールの粒子を指す。また、活性薬剤は、例えば溶媒中または水性媒体中で、例えば水性懸濁液(任意選択で、界面活性剤などの賦形剤を含んでもよい)中に分散した粒子の形態で、溶解または分散状態で存在することもできる。
【0077】
本明細書で使用する場合、「治療有効~」という用語は、投与後に所望される治療結果をもたらすのに必要な活性薬剤の量を指す。例えば、本発明の文脈において、1つの所望される治療結果は、(例えば、当業者に知られているin vivo試験により測定される)DEDに関連する症状の低減、例えば、シルマー涙液試験スコアの上昇、結膜リサミングリーン染色または角膜フルオレセイン染色により測定される染色値の低下、視覚アナログ尺度(VAS)における眼乾燥重症度及び/または眼乾燥頻度のスコアの低下、眼球表面疾患指数及び/または眼乾燥の標準的な患者評価スコアの低下及び最高矯正視力の低下と考えられる。1つの実施形態において、「治療有効~」とは、治療効果の観点で0.236μg/mLのシクロスポリン濃度(免疫調節に要すると考えられている(Tang-Liu and Acheampong,Clin.Pharmacokinet.44(3),pp.247-261))と同等の涙液濃度を、一旦この涙液濃度が達成されたら、長期間にわたって、特に実質的に挿入物の残りの装着期間全体にわたって達成することが可能な、徐放性生分解性小管内挿入物中の活性薬剤の濃度を指す。
【0078】
本明細書で使用する場合、「d10」、「d50」、「d90」、及び「d100」という値は、ある特定の粒径を満たす粒径分布における粒子の量を特徴付ける値を指す。所与の粒径分布において、10%の粒子はd10以下の粒径を示し、50%の粒子はd50以下の粒径を示し、90%の粒子はd90以下の粒径を示し、実質的に全ての粒子はd100以下の粒径を示す。パーセンテージは、当業者に知られている異なるパラメーターによって示すことができ、例えば、パーセンテージは、体積、重量、または粒子の数に基づくことができる。したがって、d50は、例示的には体積ベース、重量ベース、または数ベースの粒径中央値であり得る。例えば、体積基準のd90が43μmである場合、粒子の90体積%が43μm以下の粒径を有することを意味する。あるいくつかの実施形態において、d10、d50、及びd90は、体積基準の値である。粒径分布PSDは、当業者に知られている方法により一般的に測定することができ、これにはふるい分け及びレーザー回折法が含まれる。あるいくつかの実施形態において、PSDは、USP<429>粒径の光回折測定に従い、レーザー回折法によって測定される。あるいくつかの実施形態において、PSDはレーザー回折により、Beckman Coulter LS 13 320を用いて、光学モデルフラウンホーファーrf780zに基づき7~9%の範囲のオブスキュレーション値で測定される。
【0079】
本明細書で使用する場合、測定された量に関連する「約」という用語は、測定を行い、測定の目的及び測定装置の精度に応じた注意レベルを行使する上で、当業者によって予想されるその測定された量における通常のばらつきを指す。
【0080】
測定された量に関連する「少なくとも約」という用語は、測定を行い、測定の目的及び測定装置の精度に応じた注意レベルを行使する上で、当業者によって予想される測定された量の通常のばらつき及び測定された量よりも高い量を指す。
【0081】
本明細書で使用する場合、文脈による別段の明確な指示がない限り、単数形「a」、「an」、及び「the」には複数の指示対象が含まれる。
【0082】
本明細書において「A及び/またはB」などの表現で使用される「及び/または」という用語は、「A及びB」ならびに「AまたはB」の両方を含むことが意図されている。
【0083】
「含む(include)」、「含むこと(including)」、「含む(contain)」、「含むこと(containing)」などのオープンな用語は、「含むこと(comprising)」を意味する。これらの制限のない移行句は、追加の挙げられていない要素または方法ステップを除外しない要素、方法ステップなどの制限のないリストを導入するために使用される。
【発明を実施するための形態】
【0084】
I.小管内挿入物
あるいくつかの実施形態に従う本発明の小管内挿入物は、徐放を提供し、生分解性であり、ヒドロゲル及び活性薬剤を含むことを特徴とする。
【0085】
上記の定義セクションでも概説しているように、徐放を提供することは、本発明の文脈では、挿入物が活性薬剤を長期間にわたって利用できるようにすることが可能であることを意味する。この挿入物は眼内に投与され、活性薬剤を涙液中にゆっくりと放出する。後者は、涙腺から新しい涙液が産生され、涙管を通って排出される眼球表面の既存の涙液と置き換わることによってゆっくりと更新されるため、挿入物中に存在する活性薬剤は、患者が何らかの行動を起こす必要なく、眼がまばたきするたびにゆっくりと涙液中に放出される。したがって、この挿入物は、従来の点眼薬に代わる有利なハンズフリーの代替物となる。
【0086】
典型的には、徐放は、例えば数週間にわたって維持されるため、現状の製品の1日当たり複数回の投与頻度(製品が、迅速に洗い流されやすい局所用点眼薬の形態であるため)を劇的に低減することができる。このことは、患者が、1日に複数回点眼薬を自己投与することを思い出す必要なく、挿入物の治療効果から利益が得られ得ることを意味し、それ自体が大きな利点であることに加え、不正確な点眼または誤った取り扱い/投与による誤投与のリスク、及び点眼薬ボトルの反復使用による感染のリスクも低減する。
【0087】
さらに、これもまた上記の定義セクションで概説しているように、あるいくつかの実施形態における本発明の挿入物は、一旦投与されると、事前に指定された時間にわたってゆっくりと生分解するように設計されている。これは、挿入物が小管内にとどまることができ、外植する必要がないことを意味する。通常は、挿入物を取り外す必要はなく、患者は挿入物が除去されるまで放置するだけでよい。一方で、予期しない事象、例えば、アレルギー反応、装着時の不快感、または他の有害事象(例えば、刺激感)などが生じた場合、(部分的に生分解した)挿入物は、わずかな圧力を適用して挿入物を涙点から外部に排出させるか、または挿入物をさらに小管の下方に移動させて鼻涙管を通じて除去することにより、取り出すことができる。取出しができること及び/または取出しが容易であることは、装着時間の終わりに挿入物中の活性薬剤が枯渇して、そのため治療効果を維持するために新たな挿入物で置き換える必要がある場合にも有利である。
【0088】
また、本発明の小管内挿入物はヒドロゲルも含む。ヒドロゲルは、定義セクションで詳細に説明しているように、水を吸収し、乾燥状態から水和状態に移行することができる。あるいくつかの実施形態において、ヒドロゲルの水和の結果、挿入物がその形状を変化させる。特定の実施形態において、挿入物は直径が膨張し、長さが縮むため、乾燥状態で細いロッド形状の挿入物は、小管内に容易に挿入することができ、一旦投与され正しく配置されると、小管内で直径が膨張するため、しっかりと適合し、挿入物の移動または紛失のリスクを低減する。水和した挿入物は柔らかいため、所定の位置でしっかりと固定されているにもかかわらず装着が快適である。
【0089】
あるいくつかの実施形態において、ヒドロゲルはポリマーネットワークを含む。ポリマーネットワークの詳細については、以下でさらに示す。
【0090】
高膨張性であるこのようなヒドロゲルプラグがしっかりと位置決めされる原理は、例えば、US8,409,606(あらゆる目的において参照により本明細書に援用され、矛盾する場合は本明細書が優先される)で開示されている。
【0091】
有効成分:
活性薬剤の詳細については、上記の定義セクションに示している。そこで概説しているように、あるいくつかの実施形態において、活性薬剤は水への溶解度が低く、そのため、理論に束縛されることは望まないが、仮説によれば、涙液に接触することで、生理的条件で薬物溶解度が低いこと(約10μg/mL)と、涙液に接触する挿入物の断面積及び涙液の体積が限られていることとの組合せにより、薬物放出速度が調節されると考えられている。
【0092】
一方で、ヒドロゲル内に埋め込まれた活性薬剤の形態及び量は、活性薬剤の溶解及び治療有効放出速度の到達に依然として影響を及ぼし得る。
【0093】
本発明のあるいくつかの実施形態の1つの態様は、ヒドロゲル及び活性薬剤を含む徐放性生分解性小管内挿入物であって、活性薬剤が粒子形態をとり、活性薬剤の粒子がヒドロゲル内に分散されている、徐放性生分解性小管内挿入物である。
【0094】
本発明のあるいくつかの実施形態において、活性薬剤の粒子は、ヒドロゲル内で均一に分散されている。本明細書で使用する場合、ヒドロゲル内で分散されているとは、マトリックス内に埋め込まれた実質的に純粋な物質の形態で存在する活性薬剤の粒子を指すが、マトリックスの表面上に見出される少量の活性薬剤を排除しない。あるいくつかの実施形態において、活性薬剤の粒子は、活性薬剤及び用いられる活性材料中に存在し得る任意の不純物以外にさらなる賦形剤を含まず、詳細には、薬物を封入し、先に示唆した油、脂肪、脂肪酸、ろう、フッ化炭素、または他の水不混和相などのさらなる材料を含むいかなるミクロスフェア、マイクロ粒子、または疎水性マイクロドメインも指さない、別々の疎水相を形成する。実質的に純粋な形態で存在する活性薬剤は、例えばミクロスフェア、マイクロ粒子、または疎水性マイクロドメインを調製するために活性物質をさらに処理する必要がないため、製造が容易であるという利点を有する。
【0095】
あるいくつかの実施形態における活性薬剤は、60℃で、水銀柱5mmを超えない圧力で真空中のキャピラリーストッパー付きボトル中の100mgに対し定量される乾燥減量が1.5%w/w以下、重金属含量が0.002%以下、実施例2の製品仕様セクションで定義している有機不純物、詳細には、HPLCにより定量される全ての不純物の合計が1.5%以下、HPLCにより定量される活性薬剤含量が97.0%以上101.5%以下、GCヘッドスペースにより測定される残留アセトンが4500ppm以下、残留酢酸エチルが2000ppm以下であり得る。
【0096】
本発明の挿入物は、あるいくつかの実施形態において、また実施例(特に実施例2を参照)に示しているように、保存時に安定しており、活性薬剤の含量は長期保存時に実質的に変化しない。
【0097】
したがって、あるいくつかの実施形態において、2~8℃の温度で少なくとも3か月後、少なくとも6か月後、または少なくとも12か月後にHPLCにより測定される活性薬剤の含量、及び保存前に直接HPLCにより測定される初期の活性薬剤の含量は、約300~約410μgである。
【0098】
あるいくつかの実施形態において、2~8℃の温度で少なくとも3か月後、少なくとも6か月後、または少なくとも12か月後にHPLCにより測定される活性薬剤の含量は、保存前にHPLCで直接測定した初期の活性薬剤の含量の90~110重量%以内、または95~105重量%以内、または98~102重量%以内である。
【0099】
あるいくつかの実施形態において、2~8℃の温度で少なくとも3か月後、少なくとも6か月後、または少なくとも12か月後にHPLCにより測定される不純物の量は3.0%以下である。
【0100】
本発明のあるいくつかの実施形態において、活性薬剤は粒子の形態をとる。あるいくつかの実施形態において、粒子は、微粒子化された粒子である。理論に束縛されることは望まないが、分散状態にある活性薬剤の粒子、特に小さな活性薬剤の粒子が十分に迅速な活性薬剤の溶解を可能にし、迅速な作用発現を可能にすると考えられている。
【0101】
本発明のあるいくつかの実施形態において、活性薬剤の粒子は、レーザー回折により測定される約50μm未満のd50値、または約43μm未満のd90値、または約45μm未満のd100値を有する。実施例によって示されているように(実施例1.4参照)、大きな粒子は、小管内挿入物の機械的特性に影響を及ぼすと考えられている。加えて、大きな粒子はチューブをブロックする傾向があり、前駆体混合物(以下でさらに概説する)のキャストを困難または不可能にする。
【0102】
本発明のあるいくつかの実施形態において、活性薬剤の粒子は、約3~約17μm、または約4~約12μm、または約5~約8μmの範囲のd50値を有する。実施例で示しているように(実施例1.4参照)、粒径は挿入物の密度、膨潤挙動、及び表面品質にかなりの影響を及ぼし、より小さい粒子によって達成され得る高密度及びより滑らかな挿入物表面は、大きい粒子が水和及び膨潤挙動に優れていることと比較評価する必要がある。
【0103】
あるいくつかの実施形態において、d50、d90、及びd100値は、挿入物の製造に使用される活性薬剤の粒子の値、または挿入物中に存在する活性薬剤の粒子の値を指す。
【0104】
挿入物中に含まれる活性薬剤の量に関して、挿入物中の活性薬剤の濃度が高いことは、あるいくつかの実施形態では望ましい。これは、同じ挿入物寸法で高用量の活性薬剤(その結果、以下でさらに論じるように、より長い及び/または一定の速度での徐放の持続)を可能にし、あるいは同じ用量でもより小さい製品寸法を可能にするためであり、後者は、投与の容易さ及び装着の快適性の観点で好ましい。その一方で、実施例1.1で示しているように、濃度は、挿入物の品質に無視できない影響を及ぼす。すなわち、高すぎる濃度も低すぎる濃度も、結果として、製造する挿入物を乾燥直径が大きく空洞のある「ストロー化」されたものにする傾向がある。加えて、薬物濃度が低いほど、膨潤/水和挙動の改善をもたらすように思われる。
【0105】
本発明のあるいくつかの実施形態において、挿入物は、乾燥状態で、挿入物の総重量に基づいて約15重量%~約80重量%、または約30重量%~約65重量%、または約45重量%~約55重量%の活性薬剤を含む。
【0106】
本発明の1つの態様は、ヒドロゲル及び活性薬剤を含む徐放性生分解性小管内挿入物であって、挿入物が、乾燥状態で、挿入物の総重量に基づいて約40重量%~約80重量%の活性薬剤を含む、徐放性生分解性小管内挿入物である。
【0107】
活性の絶対量という観点において、用量は、徐放を達成するための重要な因子である。
【0108】
本発明のあるいくつかの実施形態において、挿入物は、約100μg~約800μgの範囲の量の活性薬剤を含む。
【0109】
活性薬剤は、例えば、約100μg~約800μg、約100μg~約300μg、約300μg~約450μg、または約500μg~約800μgの範囲の用量で本発明の挿入物に含まれる。これらの範囲内の任意の量、例えば、約250μg、約360μg、約600μg、または約670μg(全ての値は、+25%及び-20%の分散、または+/-15%の分散、または+/-10%の分散も含む)を使用することができる。
【0110】
活性薬剤の開示された量(言及された変動を含む)は、挿入物内の有効成分の最終含量、及び挿入物を製造する際に挿入物の出発構成要素として使用される有効成分の量の両方を指す。
【0111】
ポリマーネットワーク:
上記に示したように、あるいくつかの実施形態において、ヒドロゲルはポリマーネットワークを含む。ヒドロゲルは、架橋を形成してこのようなポリマーネットワークを形成する官能基を有する前駆体から形成することができる。ポリマーストランド間またはアーム間のこれらの架橋は、事実上化学的(すなわち、共有結合であってもよい)及び/または物理的(例えば、イオン結合、疎水性会合、水素架橋など)であり得る。
【0112】
ポリマーネットワークは、1つのタイプの前駆体から調製することも、反応することができる2つ以上のタイプの前駆体から調製することもできる。前駆体は、得られるヒドロゲルに所望される特性を考慮して選択される。ヒドロゲルの作製で使用するための様々な好適な前駆体が存在する。概して、ヒドロゲルを形成する任意の医薬的に許容される架橋可能なポリマーは、本発明の目的において使用することができる。ヒドロゲル及びそれに組み込まれる構成要素(ポリマーネットワークの作製に使用されるポリマーを含む)は、例えば、免疫応答または他の有害作用を誘発しないように、生理学的に安全であるべきである。ヒドロゲルは、天然ポリマー、合成ポリマー、または生合成ポリマーから形成することができる。
【0113】
天然ポリマーとしては、グリコサミノグリカン、多糖(例えば、デキストラン)、ポリアミノ酸、タンパク質、またはこれらの混合物もしくは組合せを挙げることができる。
【0114】
合成ポリマーは概して、異なるタイプの重合(フリーラジカル重合、アニオンまたはカチオン重合、連鎖成長または付加重合、縮合重合、開環重合などを含む)によって、様々な供給原料から合成的に生産される任意のポリマーであり得る。重合は、あるいくつかの開始剤、光及び/または熱によって開始することができ、触媒が媒介することもできる。
【0115】
概して、本発明の目的において、ポリアルキレングリコールの1つ以上の単位を含む群の1つ以上の合成ポリマーを使用することができ、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド、ポリビニルアルコール、ポリ(ビニルピロリジノン)、ポリ乳酸、ポリ乳酸-co-グリコール酸、ランダムもしくはブロックコポリマー、またはこれらのいずれかの組合せ/混合物が含まれる(ただし、このリストは限定的であるようには意図されていない)。
【0116】
共有結合的に架橋されたポリマーネットワークを形成するために、前駆体を互いに共有結合的に架橋することができる。あるいくつかの実施形態において、(例えば、フリーラジカル重合において)少なくとも2つの反応中心を有する前駆体は、各反応性基が、異なる成長ポリマー鎖の形成に関与することができるため、架橋剤として機能することができる。
【0117】
前駆体は、生物学的に不活性かつ親水性の部分、例えば、コアを有し得る。分岐ポリマーの場合において、コアとは、コアから伸長するアームに連結した分子の連続部分を指し、ここで、アームは、しばしばアームまたは分岐の末端にある官能基を有する。マルチアームPEG前駆体は、このような前駆体の例であり、本明細書で以下にさらに開示する。
【0118】
したがって、本発明で使用するためのヒドロゲルは、例えば、第一の官能基(複数可)(のセット)を有する1つのマルチアーム前駆体及び第二の官能基(複数可)(のセット)を有する別のマルチアーム前駆体から作製することができる。例として、マルチアーム前駆体は、一級アミンで終端された親水性アーム(例えば、ポリエチレングリコール単位)を有してもよく(求核性)、または活性化されたエステル末端基を有してもよい(求電子性)。本発明に従うポリマーネットワークは、互いに架橋された同一または異なるポリマー単位を含み得る。前駆体は、高分子量の構成要素(例えば、官能基を有するポリマー)であっても、低分子量の構成要素(例えば、低分子アミン、チオール、エステルなど)であってもよい。
【0119】
あるいくつかの官能基は、活性化基を使用することにより、反応性を高めることができる。このような活性化基としては、(限定されるものではないが)カルボニルジイミダゾール、スルホニルクロリド、アリールハロゲン化物、スルホスクシンイミジルエステル、N-ヒドロキシスクシンイミジル(NHS)エステル、スクシンイミジルエステル、エポキシド、アルデヒド、マレイミド、イミドエステル、アクリレートなどが挙げられる。NHSエステルは、求核ポリマー、例えば、一級アミン終端またはチオール終端ポリエチレングリコールの架橋に有用な基である。NHS-アミン架橋反応は、水溶液中で、緩衝液(例えば、リン酸緩衝液(pH5.0~7.5)、トリエタノールアミン緩衝液(pH7.5~9.0)、ホウ酸緩衝液(pH9.0~12)、または重炭酸ナトリウム緩衝液(pH9.0~10.0))の存在下で行うことができる。
【0120】
あるいくつかの実施形態において、各前駆体は、求核前駆体及び求電子前駆体の両方が架橋反応に使用される限りにおいて、求核官能基のみまたは求電子官能基のみを含むことができる。したがって、例えば、架橋剤が求核官能基(例えば、アミン)のみを有する場合、前駆体ポリマーは求電子官能基(例えば、N-ヒドロキシスクシンイミド)を有することができる。一方で、架橋剤がスルホスクシンイミドなどの求電子官能基を有する場合、機能性ポリマーはアミンやチオールなどの求核官能基を有することができる。したがって、機能性ポリマー(例えば、タンパク質、ポリ(アリルアミン)、またはアミン終端二官能性または多官能性ポリ(エチレングリコール))を使用して、本発明のポリマーネットワークを調製することもできる。
【0121】
本発明の1つの実施形態において、本発明に従う挿入物を形成するために中で活性薬剤が分散されているヒドロゲルを形成するポリマーネットワークのための前駆体は、それぞれ約2~約16個の求核官能基(官能性と称される)を有し、別の実施形態において、前駆体はそれぞれ約2~約16個の求電子官能基(官能性と称される)を有する。反応性(求核または求電子)基の数が4の倍数、したがって例えば、4、8、及び16個の反応性基を有する反応性前駆体は、本発明に特に好適である。前駆体が本発明に従って使用され、その一方で適切な架橋ネットワークの形成に官能性が十分であることを保証するためには、任意の数の官能基(例えば、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、または16のいずれかの基を含む)が可能である。
【0122】
PEGヒドロゲル:
本発明のあるいくつかの実施形態において、ヒドロゲルを形成するポリマーネットワークは、ポリエチレングリコール(PEG)単位を含む。PEGは、架橋されるとヒドロゲルを形成することが当技術分野で知られており、これらのPEGヒドロゲルは医薬用途、例えば、ヒトまたは動物の身体のあらゆる部分に投与されることが意図される薬物のマトリックスとしての用途に適している。
【0123】
本発明のヒドロゲル挿入物のポリマーネットワークは、2~10個のアーム、または4~8個のアーム、または4、5、6、7、もしくは8個のアームを有する1つ以上のマルチアームPEG単位を含むことができる。あるいくつかの実施形態において、本発明のヒドロゲルで使用するPEG単位は、4及び/または8アームを有する。あるいくつかの特定の実施形態において、4アームPEGが利用される。
【0124】
使用されるPEGのアームの数は、得られるヒドロゲルの柔軟性または柔らかさの制御に寄与する。例えば、4アームPEGを架橋することによって形成されたヒドロゲルは、同じ分子量の8アームPEGから形成されたものよりも概して軟質で柔軟である。詳細には、本明細書で後に挿入物の製造に関するセクションで開示するように、乾燥前に(あるいは乾燥後も)ヒドロゲルを延伸することが所望される場合、より柔軟なPEG単位、例えば4アームPEGを、任意選択で、別のマルチアームPEG(例えば、上記で開示しているような8アームPEG、または別の(異なる)4アームPEG)と組み合わせて、使用することができる。
【0125】
本発明のあるいくつかの実施形態において、前駆体として使用されるポリエチレングリコール単位は、約2,000~約100,000ダルトンの範囲内、または約10,000~約60,000ダルトンの範囲内の平均分子量を有する。あるいくつかの特定の実施形態において、ポリエチレングリコール単位は、約10,000~約40,000ダルトンの範囲内の平均分子量を有する。具体的な実施形態において、本発明に従うヒドロゲルを作製するために使用されるポリエチレングリコール単位は、約20,000ダルトンの分子量を有する。
【0126】
ポリエチレングリコール及びポリエチレングリコール誘導体の分子量は、ゲル電気泳動(例えば、SDS-PAGE(ドデシル硫酸ナトリウム-ポリアクリルアミドゲル電気泳動))、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)、動的光散乱法(DLS)によるGPC、及びマトリックス支援レーザー脱離/イオン化飛行時間(MALDI-TOF)分光法を含むいくつかの方法により、定量することができる。本明細書で開示するポリエチレングリコール前駆体の分子量は、SDS-PAGE、GPC、及びMALDI-TOFを含む当業者に知られている任意の方法によって定量することができ、詳細には、分子量(例えば、MALDI-TOFにより定量)及び多分散度(例えば、GPCにより定量)が既知であるPEG標準物質を用いて、GPCにより定量される。高い精度が必要な場合は、MALDI-TOFを使用することができる。
【0127】
ポリエチレングリコールの分子量とは平均分子量を指し、これは、当業者に知られている様々な平均値(数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw)、及びピーク平均分子量を含む)から選択することができる。このような平均値、特に前述の3つの平均分子量のいずれも本発明の文脈で使用することができる。あるいくつかの実施形態において、本明細書で開示するポリエチレングリコール単位及び前駆体の平均分子量は、数平均分子量として示される。
【0128】
本明細書で使用する場合、指定された分子量を有するマルチアームPEG単位は、例えば4a20k PEGのような形式で略記されることがあり、これは分子量20,000の4アームPEG単位を指す。
【0129】
4アームPEGでは、各アームはPEGの総分子量を4で割った平均アームの長さ(または分子量)を有することができる。したがって、本発明で使用するのに特に好適な前駆体である4a20k PEG前駆体は、各々平均分子量が約5,000ダルトンのアームを4つ有する。4a20kPEG前駆体と組み合わせて、または代替として本発明で使用することもできると考えられる8a20kPEG前駆体は、したがって各々平均分子量が2,500ダルトンのアームを8つ有する。長いアームは、短いアームよりも柔軟性が高くなる可能性がある。長いアームを有するPEGは短いアームを有するPEGよりも多く膨潤する可能性がある。また、アームの数が少ないPEGは、アームの数が多いPEGよりも多く膨潤する可能性があり、また柔軟性が高い可能性がある。あるいくつかの特定の実施形態において、4アームPEG前駆体のみが本発明で利用される。あるいくつかの特定の実施形態において、2つの異なる4アームPEG前駆体が本発明で利用される。あるいくつかの他の実施形態において、4アームPEG前駆体と8アーム前駆体との組合せが本発明で利用される。加えて、長いPEGアームは乾燥時の融点が高くなり、これが保管中の寸法安定性を高める可能性がある。
【0130】
あるいくつかの実施形態において、本発明のヒドロゲルの調製のためにPEG前駆体とともに使用するための求電子末端基はN-ヒドロキシスクシンイミジル(NHS)エステルであり、このようなエステルとしては、限定されるものではないが、NHSジカルボン酸エステル(例えば、スクシンイミジルマロン酸基、スクシンイミジルマレイン酸基、スクシンイミジルフマル酸基)、「SAZ」(スクシンイミジルアゼライン酸末端基を指す)、「SAP」(スクシンイミジルアジピン酸末端基を指す)、「SG」(スクシンイミジルグルタル酸末端基を指す)、及び「SS」(スクシンイミドコハク酸末端基を指す)が挙げられる。
【0131】
したがって、あるいくつかの実施形態において、PEG前駆体は、次式によって表すことができるNHSジカルボン酸エステル終端マルチアームPEG前駆体であり、
【0132】
【化2】
式中、nは、それぞれのPEGアームの分子量によって決定され、mは0~10の整数であり、具体的には1、2、3、4、5、6、7、8、9、または10であり、xはアームの数である(したがって、例えば2、4、8などであり得る;上記参照)。mが1の場合、各アームはスクシンイミジルコハク酸(SS)末端基で終端し、mが2の場合、各アームはスクシンイミジルグルタル酸(SG)基で終端し、mが3の場合、各アームはスクシンイミジルアジピン酸(SAP)基で終端し、mが6の場合、各アームはスクシンイミジルアゼライン酸(SAZ)基で終端する。これらの特定の求電子末端基を用いて、マルチアームPEGユニットは、例えば4a20k PEG-SAPという形式で略記することができ、これは、スクシンイミジルアジピン酸末端基を有し分子量が20,000(4アーム、各々約5,000ダルトン)である4アームPEGを指す。上記の式中、Rは所望の数のアームを提供するのに適切なコア構造である。4アームPEGユニット及び前駆体の場合、Rはペンタエリスリトール構造であり得、8アームPEGユニット及び前駆体の場合、Rはヘキサグリセロール構造であり得る。
【0133】
あるいくつかの実施形態において、PEG前駆体は、4a20k PEG-SGまたは4a20k PEG-SAPである。
【0134】
あるいくつかの実施形態において、本発明のヒドロゲルの調製のために求電子基含有PEG前駆体とともに使用するための求核末端基は、アミン(「NH」として示される)末端基である。チオール(-SH)末端基または他の求核末端基も可能である。
【0135】
あるいくつかの実施形態において、約20,000ダルトンの平均分子量を有する4アームPEG及び上記で開示したような求電子末端基(例えば、SAZ、SAP、SG、及びSS末端基)は、ポリマーネットワーク、ひいては本発明に従うヒドロゲルを形成するために架橋される。
【0136】
例えば、求核基含有架橋剤と求電子基含有PEG単位との反応(例えば、アミン基含有架橋剤と活性化エステル基含有PEG単位との反応)の結果、複数のPEG単位が架橋剤によりアミド基を介して架橋される。
【0137】
NHS-エステル末端基(例えば、スクシンイミジルアゼライン酸(SAZ)-、スクシンイミジルアジピン酸(SAP)-、またはスクシンイミジルグルタル酸(SG)-終端PEG単位(上記参照))を有するPEGの場合、アミン基含有架橋剤との反応の結果、複数のPEG単位が架橋剤により、式(1)
【化3】
(式中、mは0~10の整数であり、具体的には1、2、3、4、5、6、7、8、9、または10である)を有する加水分解性リンカーを介して架橋される。SAZ末端基の場合、mは6となる。SAP末端基の場合、mは3となり、SG末端基の場合、mは2となり、SS末端基の場合、mは1となる。
【0138】
特定の実施形態において、本発明ではSGまたはSAP末端基が利用される。SG末端基は、他のスクシンイミジル末端基(SS基以外)、例えばSAZ末端基を使用した場合に比べて、ヒドロゲルが生分解されるまでの時間を短くすることができる。SAZ末端基は、リンカー内により多くの数の炭素原子をもたらし、したがって疎水性が高いため、SG末端基よりもエステル加水分解が生じにくい可能性がある。
【0139】
あるいくつかの実施形態において、求電子基含有マルチアームポリマー前駆体、特にSGまたはSAP末端基(上記で定義の通り)を有するマルチアームPEG前駆体は、求核基含有架橋剤により架橋される。求核基はアミン、特に一級アミンとすることができる。
【0140】
あるいくつかの実施形態において、求核基含有架橋剤は、求核基含有マルチアームポリマー前駆体である。
【0141】
あるいくつかの他の実施形態において、使用される架橋剤は、求核末端基(例えば、アミンまたはチオール末端基)を含む低分子量構成要素である。あるいくつかの実施形態において、求核基含有架橋剤は、2つ以上の一級脂肪族アミン基を含む分子量1,000Da以下の小分子アミンである。本発明で使用するための特定の架橋剤は、例えば、ジリジン、トリリジン、テトラリジン、エチレンジアミン、1,3-ジアミノプロパン、1,3-ジアミノプロパン、ジエチレントリアミン、トリメチルヘキサメチレンジアミン、それらの医薬的に許容される塩、水和物、またさらに結合体などの誘導体(架橋のための十分な求核基が依然存在する場合に限る)、及びこれらの任意の混合物である。あるいくつかの好ましい実施形態において、トリリジンが架橋剤として使用される。本明細書で使用する場合、トリリジンは、任意の形態のトリリジン(酢酸トリリジンなどのトリリジン塩、または標識トリリジンなどのトリリジン誘導体を含む)を指すものと理解されたい。
【0142】
あるいくつかの実施形態において、求核基含有架橋剤は、標識架橋剤であり、特に標識トリリジンである。架橋剤は、例えば対照試験の過程で、医師が挿入物の有無を確認する一助とするために、可視化剤で標識することができる。フルオレセイン、ローダミン、クマリン、及びシアニンなどのフルオロフォアが、架橋剤を標識するための可視化剤として使用され得る。標識化は、例えば化学的結合体化によって、特に標識との結合体化のために架橋剤の求核基を使用することにより、達成することができる。架橋には十分な量の求核基(少なくとも1モル当量超)が必要であるため、概して「結合体化される」または「結合体化」には部分的結合体化が含まれ、これは求核基の一部のみが標識との結合体化に使用されることを意味する。したがって、あるいくつかの実施形態において、架橋剤は、可視化剤との部分的な結合体化によってトリリジン標識され、特に、トリリジンアミン基の約1%~約20%、または約5%~約10%、または約8%が、可視化剤と結合体化している。
【0143】
あるいくつかの実施形態において、求核基含有架橋剤はフルオレセイン結合体化トリリジンである。フルオレセイン結合体化トリリジンは、トリリジンアセテートをN-ヒドロキシスクシンイミド(NHS)-フルオレセインと反応させることによって得ることができる。
【0144】
あるいくつかの実施形態において、マルチアームポリマー単位は4a20k PEG単位を含み、架橋単位はフルオレセイン結合体化トリリジンアミド単位を含む。
【0145】
あるいくつかの実施形態において、ポリマーネットワークは、4a20k PEG-SGを、フルオレセイン結合体化トリリジンと約1:2~約2:1の範囲のモル比で反応させることによって得られる。あるいくつかの他の実施形態において、ポリマーネットワークは、4a20k PEG-SSまたは4a20k PEG-SAZを、フルオレセイン結合体化トリリジンと約1:2~約2:1の範囲のモル比で反応させることによって得られる。
【0146】
あるいくつかの実施形態において、互いに反応する求核末端基及び求電子末端基のモル比は約1:1であり、すなわち、1つの求電子基(例えば、SGまたはSAP末端基)ごとに1つのアミン基が提供される。求電子基含有ポリマー単位としての4a20k PEG-SGまたは4a20k PEG-SAP及びフルオレセイン結合トリリジンの場合、トリリジンは求電子SGまたはSAPエステル基と反応し得る3つの一級アミン基を有することから、平均で4つの一級アミンのうちの1つを利用してトリリジンの部分結合体化を仮定すると、結果としてこの2つの構成要素のモル比は約1:1となる。ただし、求電子末端基(例えば、SGなどのNHS末端基)前駆体または求核(例えば、アミン)末端基前駆体のいずれかを過剰に使用してもよい。
【0147】
したがって、あるいくつかの実施形態において、ポリマーネットワークは、4a20k PEG-SGを、約1:2~約2:1の範囲のモル比、特に約1:1のモル比でフルオレセイン結合体化トリリジンと反応させることによって得ることができる。
【0148】
あるいくつかの実施形態において、ポリマーネットワークは、4a20k PEG-SAPを、約1:2~約2:1の範囲のモル比、特に約1:1のモル比でフルオレセイン結合体化トリリジンと反応させることによって得ることができる。
【0149】
界面活性剤:
本発明の1つの態様は、ヒドロゲル及び活性薬剤を含む徐放性生分解性小管内挿入物であって、挿入物が界面活性剤を含む、徐放性生分解性小管内挿入物である。
【0150】
あるいくつかの実施形態において、上記でさらに概説しているように、活性薬剤は、親水性ヒドロゲル材料と実質的に非混和性の疎水性活性薬剤であり、あるいくつかの実施形態では、特定の粒径を有する分散された粒子の形態で存在する。挿入物の特性の観点では、ある特定の粒径が有利であることが示されている。しかし、小さな粒子は凝集しやすい傾向もある。理論に束縛されることは望まないが、界面活性剤の存在は、凝集を防止し、ヒドロゲルの内容物の均一性を改善すると考えられている。
【0151】
加えて、実験結果からは、界面活性剤の存在が、挿入物の製造中にキャストされたヒドロゲルの望ましくないチューブ接着を防止する一助となり(実施例1.2参照)、挿入物の品質を改善することが示されている。
【0152】
したがって、あるいくつかの実施形態において、挿入物は界面活性剤を含む。
【0153】
あるいくつかの実施形態において、挿入物は、乾燥状態で、挿入物の総重量に基づいて約0.01重量%~約5重量%、または約0.01重量%~約2重量%、または約0.2重量%~約2重量%、または約0.05重量%~約0.5重量%の界面活性剤を含む。
【0154】
実施例1.2に示しているように、活性薬剤の粒子の凝集を防止する能力を考慮すると、界面活性剤のタイプは重要であり得る。あるいくつかの実施形態において、挿入物は非イオン性界面活性剤を含む。非イオン性界面活性剤は、ポリ(エチレングリコール)鎖を含むことができる。本明細書で使用することができる例示的な非イオン性界面活性剤としては、Tween(登録商標)として市販されているポリ(エチレングリコール)モノラウリン酸ソルビタン(特に、PEG-20-モノラウリン酸ソルビタンのTween(登録商標)20、またはPEG-80-モノラウリン酸ソルビタンのTween(登録商標)80)、Cremophorとして市販されているヒマシ油のポリ(エチレングリコール)エステル(特に、PEG-40-ヒマシ油のCremophor40)、チロキサポールとして市販されているエトキシル化4-tert-オクチルフェノール/ホルムアルデヒド縮合ポリマーがある。
【0155】
追加成分:
本発明の挿入物は、上記に開示しているポリマーネットワークを形成するポリマー単位、有効成分、及び界面活性剤に加えて、他の追加成分を含んでもよい。このような追加成分は、例えば、ヒドロゲルの調製中に使用される緩衝剤から生じる塩、例えば、リン酸塩、ホウ酸塩、重炭酸塩、またはトリエタノールアミンなどの他の緩衝剤である。本発明のあるいくつかの実施形態において、リン酸ナトリウム緩衝剤(具体的には、一塩基性リン酸ナトリウム及び二塩基性リン酸ナトリウム)が使用される。
【0156】
任意選択で、本発明の挿入物には防腐剤を使用することができる。ただし、実施例でも保存安定性試験データと、挿入物が安全であることを示す臨床結果とによって示されているように、本発明の挿入物は、例えば、あるいくつかの点眼薬とは対照的に、防腐剤の存在を必要としない。防腐剤は、対象に不快感(例えば、眼の刺痛及び刺激)をもたらす原因とも考えられているため、本発明の1つの実施形態では、挿入物は防腐剤を含まないか、または本質的に含まない。
【0157】
製剤:
あるいくつかの実施形態において、本発明に従う挿入物は、活性薬剤と、ヒドロゲルの形態をとる、本明細書の上記で開示している1つ以上のポリマー前駆体から作製されたポリマーネットワークと、任意選択の追加の構成要素(例えば、界面活性剤、さらに生産プロセスから挿入物に残存する塩など(例えば、緩衝剤などとして使用されるリン酸塩))とを含む。
【0158】
あるいくつかの実施形態において、本発明に従う挿入物は、乾燥状態で、挿入物の総重量に基づいて約15重量%~約80重量%の活性薬剤及び挿入物の総重量に基づいて約20重量%~約60重量%のポリマー単位、または挿入物の総重量に基づいて約30重量%~約65重量%の活性薬剤及び挿入物の総重量に基づいて約25重量%~約50重量%のポリマー単位、または挿入物の総重量に基づいて約45重量%~約55重量%の活性薬剤及び挿入物の総重量に基づいて約37重量%~約47重量%のポリマー単位を含む。
【0159】
ひとつのさらなる特定の実施形態において、乾燥重量ベースで、活性薬剤:PEGの比率は、挿入物の総重量に基づいて、約50重量%~60重量%の活性薬剤に対しおよそ40重量%のPEGであり、残りはリン酸塩及び他の賦形剤である。
【0160】
あるいくつかの実施形態において、乾燥状態の挿入物の残余分(すなわち、活性薬剤、ポリマーヒドロゲル(例えば、PEGヒドロゲル)、及び任意選択の界面活性剤が既に考慮されている場合の製剤の残部)は、上記で開示しているような緩衝溶液からの残存する塩であり得る。あるいくつかの実施形態において、このような塩は、リン酸塩、ホウ酸塩、または(重)炭酸塩である。1つの実施形態において、緩衝塩はリン酸ナトリウム(一塩基性及び/または二塩基性)である。
【0161】
活性薬剤及びポリマー(複数可)の量は変化させることができ、他の量の活性薬剤及びポリマーヒドロゲルを使用して本発明に従う挿入物を調製することができる。
【0162】
あるいくつかの実施形態において、製剤内の薬物の量は、ポリマー(例えば、PEG)単位の量の約2倍未満であるが、あるいくつかの場合にはそれより高くてもよい。ただし、例えば前駆体、緩衝液、及び薬物を含む混合物(ヒドロゲルが完全にゲル化する前の状態)を、鋳型内またはチューブ内に均一にキャストできることが望ましい。
【0163】
本発明の1つの実施形態において、ヒドロゲルは、形成された後及び乾燥される前、すなわち湿潤状態で、約3%~約20%のポリエチレングリコール(ポリエチレングリコールの重量÷流体の重量×100に相当)を含む。1つの実施形態において、ヒドロゲルは、湿潤状態で、約7.5%~約15%のポリエチレングリコール(ポリエチレングリコールの重量÷流体の重量×100に相当)を含む。
【0164】
あるいくつかの実施形態において、約10%~約30%(w/v)の固体含量(ここで「固体」とは、溶液中のポリマー前駆体(複数可)、塩、及び薬物の合計重量を意味する)が、本発明に従う挿入物のヒドロゲルを形成するために利用される。
【0165】
あるいくつかの実施形態において、ヒドロゲルのその乾燥(脱水/乾燥された)状態での(例えば、眼の小管に挿入する前の)ヒドロゲルの水分は、非常に低くてもよい(例えば、水の1重量%以下であってもよい)。言い換えれば、あるいくつかの実施形態において、挿入物は、乾燥状態で約1重量%以下の水を含む。水分は、あるいくつかの実施形態ではそれよりも低くてもよく、例えば、挿入物の総重量を基準として0.25重量%以下または0.1重量%以下であってもよい。
【0166】
挿入物の寸法、及び延伸による水和時の寸法変化:
乾燥された挿入物は、製造方法(例えば、完全なゲル化の前に、活性薬剤を含むヒドロゲル前駆体を含む混合物をキャストする鋳型またはチューブの使用)に応じて、種々の形態を有することができる。1つの実施形態において、挿入物は、円筒形または本質的に円筒形の形状を有し、円形または本質的に円形の断面を有する。また、挿入物の形状は、繊維(円柱の長さが直径を大きく上回るため)またはロッドと表現されることもある。
【0167】
ポリマーネットワーク(例えば、本発明のあるいくつかの実施形態に従うヒドロゲル挿入物のPEGネットワーク)は、室温以下の乾燥状態で半結晶性、湿潤状態で非結晶性であり得る。延伸された形態であっても、乾燥挿入物は、室温以下では寸法的に安定している場合があり、これは挿入物を小管に挿入する上で有利であり得る。
【0168】
挿入物が眼内で水和すると(これは、37℃、pH7.4のPBSに挿入物を浸漬することによってシミュレートできる)、本発明に従う挿入物の寸法は変化し得、概して、挿入物の直径は増加し得、その一方で長さは減少するか、または少なくとも同じもしくは本質的に同じまま保たれ得る。この寸法変化の利点は、挿入物は、その乾燥状態で小管に容易に挿入できるように十分に細いが、挿入物は、ひとたび小管内に設置されると、短くなって、小管の短い垂直部分及び対応する利用可能な限られた空間に対し装着の快適性を向上するだけでなく、直径も大きくなって、小管壁にしっかりと適合し挿入物を所定の位置に固定するため、挿入物の意図しない移動及び紛失を防止する点である。また挿入物は、軟化することもできるため、タイトに適合するにもかかわらず快適に装着できる。あるいくつかの実施形態において、寸法変化は、少なくとも部分的には、挿入物の製造中に挿入物を長手方向に延伸することによって導入される「形状記憶」効果によって可能になる(以下の「製造方法」のセクションでも開示する)。あるいくつかの実施形態において、延伸は、乾燥状態または湿潤状態のいずれか、すなわち、ヒドロゲル挿入物を乾燥した後または乾燥する前に実施することができる。なお、延伸を実施せず、ヒドロゲル挿入物を単に乾燥し所望の長さに切る場合、挿入物の寸法が実質的に変化しなかったり、水和時に挿入物の直径及び長さの両方が増加したりする可能性があることに留意されたい。これを所望しない場合、ヒドロゲル繊維は乾燥延伸または湿式延伸することができ、すなわち、乾燥前または乾燥後に延伸することができる。特に、繊維は乾燥前に延伸することができる。
【0169】
予め形成された乾燥ヒドロゲルの場合、材料を乾式延伸し、次いで固化させ、分子配向を固定することにより、ある程度の分子配向を付与することができる。これは、あるいくつかの実施形態では、材料を引き伸ばし(任意選択で、材料の結晶化可能領域の融点を上回る温度に材料を加熱しながら)、次いで結晶化可能領域を結晶化させることにより、達成することができる。代替手段として、あるいくつかの実施形態において、乾燥ヒドロゲルのガラス転移温度を使用して、好適なガラス転移温度を有するPVAなどのポリマーの分子配向を固定してもよい。さらに別の代替手段は、完全に乾燥する前にゲルを延伸し(「湿式延伸」とも称される)、次いで張力下で材料を乾燥することである。この分子配向は、硝子体などの水和媒体内に導入されると異方的に膨潤する1つの機序をもたらす。水和時に、あるいくつかの実施形態の挿入物は半径方向寸法のみが膨潤し、その一方で長さは減少するか、または維持もしくは本質的に維持される。「異方性膨潤」という用語は、円筒形において直径は支配的に膨潤するが、長手方向寸法はほとんど膨潤しない(または収縮さえする)ように、一方向において優先的に膨潤し、別の方向には膨潤しないことを意味する。
【0170】
水和時の寸法変化の程度は、とりわけ延伸係数に依存し得る。本明細書で使用する場合、延伸係数とは、延伸方向の測定においてヒドロゲルが延伸される係数を指し、すなわち、延伸の直前及び直後の、(例えば、乾燥または再水和による)いずれのさらなる偶発的寸法変化も考慮しない、長さの変化(直径の変化ではない)を指す。一例として、例えば、約1.3の延伸係数で(例えば湿式延伸によって)延伸すると、効果が顕著でなかったり水和中に長さが大きく変化しなかったりする可能性がある。これに対し、例えば、約1.8の延伸係数で(例えば、湿式延伸によって)延伸すると、水和中に長さが著しく短くなる可能性がある。例えば、4の延伸係数で(例えば乾式延伸によって)延伸すると、水和時に長さがはるかに短くなる(例えば、長さが15mmから8mmに低減する)可能性がある。当業者であれば、延伸以外の他の因子も膨潤挙動に影響を及ぼし得ることを理解するであろう。
【0171】
本発明の1つの態様は、繊維形態のヒドロゲル及び活性薬剤を含む徐放性生分解性小管内挿入物であって、繊維が延伸されている、徐放性生分解性小管内挿入物である。
【0172】
あるいくつかの実施形態において、繊維は、約1.0~約4.0、または約1.5~約3.0、または約2.7の長手方向の延伸係数によって延伸されている。
【0173】
ヒドロゲルを延伸し、水和時に挿入物の寸法を変化させる可能性に影響を及ぼす他の要因に含まれるものとして、ポリマーネットワークの組成がある。PEG前駆体が使用される場合、アームの数が少ない前駆体(例えば、4アームPEG前駆体)は、アームの数が多い前駆体(例えば、8アームPEG前駆体)よりも、ヒドロゲルの柔軟性をより高めることに寄与する。ヒドロゲルが柔軟性が低い構成要素を多く含む場合(例えば、より多くの数のアームを含むPEG前駆体(例えば、8アームPEG単位)の量が多い場合)、ヒドロゲルはより堅くなり、破損なしで延伸するのが容易でなくなる可能性がある。一方、柔軟性が高い構成要素(例えば、より少ない数のアームを含むPEG前駆体(例えば、4アームPEG単位))を含むヒドロゲルは、延伸がより容易で、より軟質である可能性があるが、水和時により膨潤する可能性もある。したがって、挿入物が一旦眼内に設置された際(すなわち、ヒドロゲルが(再)水和された際)の挙動及び特性は、構造的特徴を変化させることにより、及び挿入物が最初に形成された後の挿入物の処理を変更することにより、調整することができる。
【0174】
本明細書の以下の実施例で使用する挿入物の例示的な寸法は、実施例セクションの表2.1に示している。乾燥された挿入物の寸法は、とりわけ、組み込まれる活性薬剤の量及び活性薬剤:ポリマー単位の比に依存し、またヒドロゲルをゲル化させる鋳型またはチューブの直径及び形状によって制御することもできる。さらに、挿入物の直径は、とりわけ、一旦形成されたヒドロゲル繊維の(湿式または乾式)延伸によってさらに決定される。乾燥した繊維(延伸後)を所望の長さのセグメントに切って、挿入物を形成する。このように、挿入物の直径及び長さは、所望に応じて適合させることができる。一方で、涙小管の解剖学的寸法により、小管内挿入物にはある特定の寸法的要件がもたらされる。
【0175】
あるいくつかの実施形態において、挿入物は繊維の形態をとる。繊維は、その乾燥状態で約1.5mm~約4.0mmの平均長さ及び0.8mm以下の平均直径、その乾燥状態で約2.0mm~約2.5mmの平均長さ及び0.62mm以下の平均直径、またはその乾燥状態で約2.5mm~約2.9mmの平均長さ及び0.62mm以下の平均直径を有することができる。
【0176】
本発明の挿入物は、あるいくつかの実施形態において、また実施例(特に実施例2を参照)に示しているように、保存時に安定しており、製品の寸法は長期保存時に変化しないか、または実質的に変化しない。
【0177】
したがって、あるいくつかの実施形態において、2~8℃の温度で少なくとも3か月、少なくとも6か月、または少なくとも12か月保存した後の挿入物は、その乾燥状態で約2.5mm~約2.9mmの平均長さ及び0.62mm以下の平均直径を有する繊維の形態をとる。
【0178】
挿入物の寸法は、例えば、挿入物に組み込む活性薬剤の用量を考慮して、適切な活性薬剤濃度を選択することにより、調整することができる。活性濃度を高めることにより、挿入物の寸法を低減することができる。一方で、活性物質濃度は、乾燥後の膨潤挙動または直径などの挿入物の特性及び品質だけでなく、放出挙動にも影響を及ぼす(特に実施例1.1参照)。本発明者らは、驚くべきことに、あるいくつかの実施形態において、挿入物の寸法、活性濃度、及び/または用量のあるいくつかの組合せが、製造を容易にし、投与を容易にし、装着の快適性を高めることができる適切な膨潤挙動を備えた高品質の挿入物をもたらすだけでなく、長期間にわたる有効な放出ももたらすことを見出した。
【0179】
以上を考慮すると、本発明の1つの態様は、約360μgの量のヒドロゲル及び活性薬剤を含む徐放性生分解性小管内挿入物であって、その乾燥状態で約2.5mm~約2.9mmの平均長さ及び約0.62mm以下の平均直径を有する繊維(または円筒)の形態をとる、徐放性生分解性小管内挿入物である。また、本発明の1つの態様は、ヒドロゲルと、挿入物の総重量に基づいて約45重量%~約55重量%の活性薬剤とを含み、その乾燥状態で約2.5mm~約2.9mmの平均長さ及び約0.62mm以下の平均直径を有する繊維(または円筒形)形態をとる、徐放性生分解性小管内挿入物でもある。
【0180】
このような挿入物に加えて、あるいくつかの他の実施形態における本発明挿入物も、眼、すなわち涙小管内でのin vivo水和時に、またはin vitroで(ここで、in vitro水和は、pH7.4、37℃のリン酸緩衝食塩水中で24時間後に測定される)長さが減少し、直径が増加し得、pH7.4、37℃のリン酸緩衝食塩水中でのin vitro水和から10分後に膨張状態で少なくとも1.0mmの平均直径に、またはpH7.4、37℃のリン酸緩衝食塩水中でのin vitro水和から24時間後に平衡状態で少なくとも1.3mmの平均直径となる。1つの実施形態において、この寸法変化は、ヒドロゲル繊維を約1~約4の延伸係数、または約1.5~約3.0の係数、または約2.7の係数で乾式延伸することによって達成することができる。
【0181】
ある特定の実施形態において、このように延伸することで形状記憶が生じ、つまりこれは、挿入物が、涙小管内に投与されたときの水和時に、元の成形寸法及び組成変数によって決定される平衡寸法に(おおよそ)近づくまで、長さが収縮し(スナップバックとも称される)、直径が広がることを意味する。乾燥寸法が狭いことで製品を小管に挿入することが容易になる一方で、投与後に直径が広がり長さが短くなることで、装着が快適で、それでもなお所定の位置にしっかり固定され、意図しない移動のリスクが最小化される、より短く太い挿入物が得られる。したがって、1つの態様において、本発明はまた、活性薬剤の粒子を含むヒドロゲル混合物繊維に形状記憶を付与する方法であって、活性薬剤がヒドロゲル内に分散されており、ヒドロゲル混合物繊維を長手方向に延伸することによって形状記憶を付与する、方法にも関する。
【0182】
in vitro放出:
本発明の挿入物からの活性薬剤のin vitro放出は、様々な方法により、例えば、37℃のPBS(リン酸緩衝食塩水、pH7.4)中のノンシンクシミュレート生理条件下で、ヒトの眼の涙液と同程度の体積のPBSを毎日交換することを伴って定量することができる。
【0183】
in vitro放出試験を使用して、例えば、品質管理または他の定性的評価の目的で、(例えば、異なる製造バッチの、異なる組成の、及び異なる投与量強度などの)異なる挿入物を互いに比較することができる。
【0184】
in vivo放出及び持続性:
本発明の1つの実施形態において、乾燥した本発明の挿入物が小管に挿入されると、上記で開示しているように水和し、寸法が変化し、次いで完全に崩壊し、任意の残留物が涙管に排出されるまで、経時的に生分解し、崩壊する。挿入物は、(例えば、エステル加水分解を通じて)生分解されると、徐々に膨潤し軟化し得る。本発明者らが、本明細書の以下の実施例セクションに提示している臨床試験から認識しているように、本発明のあるいくつかの実施形態に従う挿入物は、数か月、例えば約2~約4か月またはそれ以上持続することができ、同じく数か月にわたる活性薬剤の持続放出を可能にする。
【0185】
挿入物が完全に崩壊した後、残存する任意の溶解していない活性薬剤の粒子は、涙の排泄システムを通じて排出され得る。したがって、挿入物の完全な崩壊に必要な時間にわたって持続する十分な量の活性薬剤が含まれている場合、徐放の長さは、とりわけ崩壊時間を調整することによって設計することができる。あるいくつかの実施形態において、1つの眼を治療するために2つの挿入物を使用して、例えば、下部及び上部小管の各々に1つの挿入物を使用して、所望の総用量を達成する場合、これらは、同じまたは実質的に同じ時間にわたって崩壊するように設計することができる。
【0186】
涙小管内で、あるいくつかの実施形態における本発明の挿入物は、長期間以内に、例えば、挿入後約1~約6か月以内に、または挿入後約2~約4か月以内に、または挿入後約2~約3か月以内に、または挿入後約3~約4か月以内に崩壊する。このことは、臨床試験で実証されている(実施例セクション、特に実施例4を参照)。
【0187】
1つの実施形態において、小管に挿入した後の挿入物は、挿入後少なくとも約1か月、少なくとも約2か月、少なくとも約3か月、または少なくとも4か月の期間にわたって治療有効量の活性薬剤を放出する。
【0188】
本発明の1つの実施形態において、活性薬剤は、挿入後の挿入物から、約0.1μg/日~約10μg/日、または約1μg/日~約5μg/日、または約2μg/日~約4μg/日の平均速度で放出される。
【0189】
本発明の1つの実施形態において、活性薬剤は、ヒト対象に挿入後の挿入物から、約0.1μg/日~約10μg/日、または約1μg/日~約5μg/日、または約2μg/日~約4μg/日の平均速度で放出される。
【0190】
本明細書の実施例セクションで提示されているように、動物における前臨床試験及びヒトにおける臨床試験により、あるいくつかの実施形態における本発明の挿入物は、挿入物が完全に崩壊するまで、長期間にわたって活性薬剤の治療有効量を継続的に放出することができることが示された。ただし、ある特定の実施形態では、挿入物の完全な生分解の前に、挿入物に含まれる活性薬剤の全量が挿入物から放出される。
【0191】
本発明の1つの態様は、ヒドロゲルと、ヒドロゲル内に分散されている約360μgの量の活性薬剤とを含む徐放性生分解性小管内挿入物であって、小管に挿入した後の挿入物が、挿入後少なくとも約3か月の期間にわたって治療有効量の活性薬剤を放出する、徐放性生分解性小管内挿入物である。
【0192】
あるいくつかの実施形態において、ヒト対象への挿入後の活性薬剤の涙液濃度は、約0.1μg/mL~約10μg/mLの範囲である。
【0193】
あるいくつかの実施形態において、挿入物の挿入後の活性薬剤の涙液濃度は、約0.1μg/mL~約10μg/mL、または約1μg/mL~約5μg/mLの範囲である。
【0194】
あるいくつかの実施形態において、挿入物は、挿入物に含まれる活性薬剤の粒子が完全に溶解化する前に、小管内で崩壊する。
【0195】
あるいくつかの実施形態における本発明の挿入物は、挿入後約1~約6か月以内に、または挿入後約2~約4か月以内に、または挿入後約2~約3か月以内に、または挿入後約3~約4か月以内に涙小管内で崩壊するように設計することができる。
【0196】
1つの実施形態において、ヒドロゲルのポリマーネットワークが、NHSエステル末端基(例えば、上記で開示しているSG、SAP、または同様の基)に由来する連結基に基づいて架橋される場合、水性環境内及び小管内でのヒドロゲルの持続性は、とりわけ分解性エステル基に近接する炭素鎖の疎水性に依存する。本明細書の実施例で使用した挿入物の場合、この炭素鎖は、4a20k PEG前駆体のSG及びSAP官能基に由来するため、3個または4個の炭素原子を含む。これにより、ヒトの眼内で約2か月~約3か月、または約3か月~約4か月の長期の持続性を得ることができる。他の実施形態において、4a20kPEG-SG/SAPとは異なる前駆体及び架橋剤トリリジンを使用して、ヒトの眼内で生分解し、実施例で例示している挿入物と同様のまたは異なる持続性を有するヒドロゲル挿入物を調製することができる。
【0197】
あるいくつかの実施形態において、ヒドロゲル挿入物は分解に伴って経時的に軟化するが、これはとりわけ、ヒドロゲル内のPEG単位を架橋するリンカーの構造に依存し得る。本出願の実施例で使用するような4a20k PEG-SAZ及び8a20kPEG-NHから形成される挿入物は、経時的にかなりゆっくりと軟化する。
【0198】
放出の機序:
理論に束縛されることは望まないが、本発明の挿入物から活性薬剤が放出される機序は、以下のように説明することができる。
【0199】
上記で概説しているように、あるいくつかの実施形態において、疎水性活性薬剤は、親水性ヒドロゲル材料と事実上非混和性である。挿入物は、ひとたび挿入され小管内に設置されると、涙液に接触し、涙液はゆっくりと親水性ヒドロゲルを吸収し、浸透する。生分解、すなわちヒドロゲルマトリックスの加水分解によってヒドロゲルは軟化し、涙液がさらに浸透できるようになるが、疎水性活性物質、特に均一に分散した活性薬剤の粒子形態のものは、依然としてヒドロゲルマトリックス内に封入されており、水溶液への溶解度が低いためヒドロゲルにゆっくりと分配されることによって放出される。
【0200】
また、特定の理論に束縛されることは望まないが、小管内挿入物の上部にある涙液は、活性物質放出がプラグの近位部分の断面積によって制限されることを可能にする傾向のある液柱をもたらすと考えられている。小管壁は、液柱を通じた治療薬剤の枯渇に比べてはるかに遅い速度で薬物を放出するように思われ、及び/または小管壁は薬物で飽和状態となり、そのため壁からの放出が遅くなる可能性がある。したがって、あるいくつかの実施形態において、本発明の小管内挿入物は、従来提案されていたような、複雑で製造がより困難な、任意のバリアシステムまたはリザーバーシステム(例えば、活性物質の放出を遮断し、断面からの放出に限定する挿入物の側壁のコーティング)を必要とせず、詳細には、それを含まない。
【0201】
挿入物の断面から涙液への薬物放出は、液体環境に接触しているヒドロゲルの外部領域(すなわち、涙点により近いヒドロゲルの領域に位置する薬物粒子が最初に溶解及び拡散し、一方涙管により近い挿入物の他端に位置する粒子は最後に拡散する)で最初に起こり得る。これにより、あるいくつかの実施形態において、涙点により近いヒドロゲルの領域は、薬物粒子がなくなる。そのため、この領域は「クリアランスゾーン」とも呼ばれ、これは溶解した薬物のみに限定され、薬物の溶解度以下の濃度を有する。
【0202】
薬物が溶解しヒドロゲルから拡散してクリアランスゾーンが形成されたあるいくつかの実施形態において、ヒドロゲルのこの領域は空洞を生じ、より柔らかく脆弱になる。薬物がヒドロゲルから拡散するのと同時発生的に、ヒドロゲルは、例えば、眼の水性環境内のエステル加水分解によってもゆっくりと分解され得る。この分解は、ヒドロゲルのバルク全体に一様に生じる。劣化の段階が進むと、ヒドロゲルの歪み及び侵食(本明細書では崩壊とも称される)が発生し始める。これが起こると、ヒドロゲルはより柔らかくより液状になり(したがって形状が歪む)、最終的にはヒドロゲルは完全に崩壊し、任意の残存するヒドロゲルの断片及び/または活性物質は、涙液排出システムによって除去される。
【0203】
あるいくつかの実施形態において、活性薬剤が比較的溶解度の低い薬物である場合、挿入物が完全に崩壊した時に溶解していない活性薬剤の粒子が残ることがある、すなわち、挿入物に含まれる活性薬剤の粒子が完全に溶解する前に小管内で崩壊することがあるが、上記で概説しているように、このような場合、残存する任意の活性粒子は涙液排出システムによって除去される。
【0204】
ただし、1つの実施形態では、ヒドロゲルが完全に崩壊する前に全量の活性薬剤が放出される。ヒドロゲルは、活性薬剤の粒子を所定の位置に保持し、凝集を防止することができるため、ヒドロゲルからの活性薬剤の放出は比較的一定の速度で維持することができる。
II.挿入物の製造
【0205】
あるいくつかの実施形態において、本発明はまた、本明細書で開示しているヒドロゲル及び活性薬剤を含む徐放性生分解性小管内挿入物の製造方法にも関する。あるいくつかの実施形態において、当該方法は、
a)前駆体混合物であって、ヒドロゲル前駆体と、前駆体混合物中に分散されている活性薬剤の粒子とを含む、前駆体混合物を調製するステップと、
b)前駆体混合物を成形し、ヒドロゲル前駆体を架橋させて、ポリマーネットワークを形成し、ポリマーネットワークを含む成形されたヒドロゲル混合物を得るステップと、
c)ヒドロゲル混合物を乾燥して、挿入物を得るステップとを含む。
【0206】
1つの実施形態において、活性薬剤の粒子は、挿入物を調製するために微粒子化形態で使用することができ、すなわち、微粒子化粒子の形態で用いられ、微粒子化粒子が均質に分散している前駆体混合物を調製するために分散される。別の実施形態において、活性薬剤は、挿入物を調製するために非微粒子化形態で使用することができる。有効成分のさらなる詳細は、上記で詳細に開示されており、全ての態様において製造に使用する活性物質に適用される。
【0207】
あるいくつかの実施形態のヒドロゲルを形成するための前駆体は、上記の挿入物自体に関するセクションで詳細に開示されている。
【0208】
あるいくつかの実施形態において、ステップa)において、前駆体混合物は、微粒子化活性薬剤の粒子の存在下、緩衝水溶液中で求電子基含有マルチアームポリマー前駆体を求核基含有架橋剤と混合することによって調製される。
【0209】
あるいくつかの実施形態において、ステップa)において、緩衝水性前駆体溶液は、マルチアームポリマー前駆体を水性緩衝溶液に溶解することによって調製され、次いで求核基含有架橋剤及び微粒子化活性薬剤の粒子を含む緩衝水性前駆体懸濁液と、例えば60分以内に混合される。
【0210】
PEG前駆体を使用して架橋PEGネットワークを調製する場合、あるいくつかの実施形態における挿入物を製造する方法は、微粒子化活性薬剤の粒子の存在下、緩衝水溶液中で求電子基含有マルチアームポリエチレングリコール(例えば、4a20k PEG-SGまたは4a20k PEG-SAP)を、求核基含有架橋剤(例えば、トリリジン)と混合することを含むことができる。
【0211】
あるいくつかの実施形態において、PEG前駆体中の求電子基:求核基のモル比は約1:1であるが、求核基(例えば、アミン基)が求電子基より過剰に、またはその逆に、例えば約1:2~2:1の範囲のモル比で使用することもできる。あるいくつかの実施形態において、当該方法は、4a20k PEG-SGまたは4a20k PEG-SAPを、フルオレセイン結合体化トリリジンと約30:1~約50:1の範囲の重量比で反応させることを含む。
【0212】
実施例1.4で示しているように、前駆体混合物を真空脱気によって処理したところ、挿入物の品質に大きな影響を及ぼすことが判明した。詳細には、活性薬剤の粒子の凝集を防止することができた。したがって、あるいくつかの実施形態において、ステップa)において、活性薬剤の粒子を含む前駆体混合物は、その構成要素を混合した後、真空下で脱気される。
【0213】
あるいくつかの実施形態において、前駆体混合物が上記のステップa)で概説しているように調製されると、混合物はステップb)で、所望のヒドロゲルの最終形状を得るために、完全なゲル化の前に適切な鋳型またはチューブにキャストすることによって成形することができ、すなわち、ステップb)において、前駆体混合物の成形は、所望のヒドロゲル混合物の最終形状を得るために、完全な架橋の前に鋳型またはチューブに前駆体混合物を充填することと、ヒドロゲル前駆体を架橋させることとからなる。
【0214】
挿入物が繊維の形状を有するべきである場合、伸長された円筒形状を得るために、反応性混合物を微細直径チューブ(例えば、ポリウレタン(PU)チューブ)に充填することができる。ヒドロゲル繊維の所望される最終的な断面の幾何学的形状、その初期直径(延伸によってさらに減少し得る)に応じて、そして反応性混合物がチューブを均一に充填する能力にも応じて、種々のチューブの幾何学的形状及び直径を使用することができる。
【0215】
したがって、チューブの内部は、円形の幾何学的形状を有しても、円形以外の幾何学的形状(例えば、十字形の幾何学的形状)を有してもよい。チューブは、例えば、約1mm~約3mmまたは約2.0mmの内径を有する円形の幾何学的形状を有することができる。
【0216】
あるいくつかの実施形態において、ヒドロゲルを形成し、完全にゲル化するまで硬化させた後、ヒドロゲルは、既に本明細書の上記にある水和時の挿入物の寸法変化に関するセクションで詳細に開示しているように、湿潤状態または乾燥状態で長手方向に延伸することができる。あるいくつかの実施形態において、延伸係数は、約1~約4.5の範囲内、または上記でも開示しているような他の範囲内とすることができる。あるいくつかの実施形態において乾式延伸が実施される場合、ヒドロゲルは最初に乾燥し、次いで延伸する。あるいくつかの実施形態において湿式延伸が実施される場合、ヒドロゲルを湿式(実質的に乾燥されていない)状態で延伸し、次いで張力下で乾燥する。任意選択で、延伸時に熱を適用してもよい。さらに任意選択で、繊維をさらに撚ってもよい。
【0217】
あるいくつかの実施形態において、挿入物は、ヒドロゲル前駆体及び活性薬剤を含む前駆体混合物を調製し、前駆体混合物をチューブに充填し、ヒドロゲル前駆体をチューブ内で架橋させて繊維として成形されたヒドロゲル混合物を得、挿入物を得るためにヒドロゲル混合物繊維を延伸することによって取得可能である。
【0218】
あるいくつかの実施形態において、挿入物は、室温以下の乾燥状態で保管される限り、延伸後であってもその寸法を維持する。
【0219】
あるいくつかの実施形態において、挿入物は別々にパッケージングされ、例えばガンマ線照射により、滅菌される。
【0220】
延伸による形状記憶効果については、既に上記で挿入物の特性に関し詳細に開示している。あるいくつかの実施形態において、水和時の収縮程度は、とりわけ、上記で既に開示しているような延伸係数に依存する。
【0221】
あるいくつかの実施形態において、本発明はしたがって、ヒドロゲル内に分散されている活性薬剤を含むヒドロゲル混合物繊維に形状記憶を付与する方法であって、ヒドロゲルストランドを長手方向に延伸することによって形状記憶を付与する、方法にも関する。
【0222】
本発明のこれらの方法で使用するための延伸係数を、上記で既に開示しているように利用することができる。
III.治療法
【0223】
あるいくつかの実施形態において、本発明はさらに、眼球疾患の治療または予防を必要とする患者において当該治療または当該予防を行う方法であって、患者に、上記で開示しているようなヒドロゲル及び活性薬剤を含む第一の徐放性生分解性小管内挿入物を投与することを含む、方法を対象とする。
【0224】
あるいくつかの実施形態において、前述の第一の挿入物は、完全に崩壊するまで小管内に残されるか、または、完全に崩壊する前に取り出される。あるいくつかの実施形態において、前述の第一の挿入物は、長期間、例えば挿入後約1~約6か月以内、約2~約4か月以内、または約2~約3か月以内、または約3~約4か月以内に小管内で崩壊するように設計することができるが、場合によっては、崩壊により長く時間がかかると考えられる。通常の状況下では、挿入物は患者側のいかなる行為も必要とせずに分解されるため、挿入物は、完全に崩壊するまで小管内にとどまることができる。患者は挿入物を取り外すために医師または眼鏡販売店に相談する必要がないため、これは利点である。一方で、生分解が進むと挿入物が軟化するため、予期しない事象、例えば、アレルギー反応、装着時の不快感、または他の有害事象(例えば、刺激感)などが生じた場合、必要な場合は、わずかな圧力を適用して挿入物を涙点から外部に排出させるか、または挿入物をさらに小管の下方に移動させて鼻涙管を通じて除去することにより、早期の取出しが容易になる。また、第一の挿入物が柔らかいため、第一の挿入物を事前に取り出す必要なく第二の挿入物を挿入することも可能である。第二の挿入物を挿入することにより、第一の挿入物はさらに小管内に押し込まれ、崩壊が完了するまで装着の不快感を伴うことなくそこにとどまるか、または涙液排出システムに押し下げられる。第二の挿入物は、例えば、第一の挿入物の意図された治療期間が過ぎたらすぐ、または患者が治療効果が切れたと感じたときに挿入することができる。
【0225】
したがって、あるいくつかの実施形態において、第二の挿入物は、前述の第一の挿入物を事前に除去することなく、少なくとも1か月後または少なくとも2か月後に挿入することができる。他の実施形態において、前述の第一の挿入物は、完全に崩壊する前に取り出され、取り出された第一の挿入物を置き換えるために第二の挿入物が投与される。
【0226】
本発明の1つの態様は、対象のドライアイ疾患を治療する方法であって、
(a)対象の第一の眼の第一の小管に第一の生分解性挿入物を挿入するステップであって、当該挿入物が、
(1)生分解性ヒドロゲルと、
(2)当該ヒドロゲル内に分散されている約100μg~約800μgの活性薬剤とを含み、
(3)活性薬剤が、対象に最初の挿入物を挿入した日から少なくとも約2か月の期間にわたり、約0.1μg/日~約10μg/日の平均速度で挿入物から放出する、挿入するステップと、
(b)第一の挿入物を挿入した日から少なくとも約2か月後に、対象の第一の眼の第一の小管に第二の挿入物を挿入するステップであって、第二の挿入物が、第一の挿入物と類似しているか、または実質的に類似している、挿入するステップとを含む、方法である。
【0227】
あるいくつかの実施形態において、前述の第一の挿入物は、挿入後約2~約3か月以内に小管内で崩壊するように設計され、前述の第一の挿入物は、投与後2か月以内に取り出される。
【0228】
あるいくつかの実施形態において、少なくとも2か月の治療期間中に1回投与される片眼当たりの活性薬剤の用量は、約300μg~約400μgの活性薬剤である。他の適切な用量については、上記でさらに開示している。
【0229】
あるいくつかの実施形態において、眼球疾患は、涙膜及び眼球表面の障害である。
【0230】
あるいくつかの実施形態において、眼球疾患はドライアイ疾患である。代替的な実施形態において、本発明の挿入物及び方法は、他の眼球表面疾患、例えば、眼瞼炎、アレルギー性結膜炎、特にアトピー性角結膜炎及び春季角結膜炎を治療するために使用することができる。
【0231】
いくつかの実施形態において、眼球疾患は、灼熱感、かゆみ、赤み、刺痛(singing)、痛み、異物感、視覚障害、涙腺の炎症、眼球表面の炎症、T細胞媒介性炎症、涙中の結膜T細胞の存在、及び涙中の炎症性サイトカインレベル上昇からなる群より選択される1つ以上の状態に関連する。
【0232】
いくつかの実施形態において、本発明のヒドロゲル及び活性薬剤を含む徐放性生分解性小管内挿入物は、ドライアイ疾患または任意の関連する状態を発症するリスクのある対象(例えば、コンタクトレンズを装用する対象)におけるこのような眼球状態を予防する際に適用することができる。
【0233】
いくつかの実施形態において、当該治療は、シルマー涙液試験により測定される涙産生量を、投与前に10mm未満のシルマースコアを有する患者において改善するのに有効であり、及び/または、視覚アナログ尺度における眼乾燥の症状の重症度の評価、視覚アナログ尺度における眼乾燥の症状の頻度の評価、涙膜破壊時間の定量、角膜フルオレセイン染色、結膜リサミングリーン染色、最高矯正視力、眼球表面疾患指数の定量、及び眼乾燥の標準的な患者評価からなる群より選択される1つ以上の評価によって決定される、眼乾燥症状の低減に有効である。
【0234】
いくつかの実施形態において、当該治療は、シルマー涙液試験による測定において、投与前にシルマー点数が10mm未満の患者における涙産生量の改善に有効である。
【0235】
あるいくつかの実施形態において、治療期間中に1回投与される片眼当たりの用量は、1つまたは2つの挿入物に含まれる。
【0236】
あるいくつかの実施形態において、挿入物は下部小管もしくは上部小管に挿入されるか、または1つの挿入物が下部小管及び上部小管に各々挿入される。挿入物は、小管垂直部に挿入することができる。
【0237】
治療期間中に1回投与される片眼当たりの活性薬剤は、1つまたは2つの挿入物に含めることができる。
【0238】
あるいくつかの実施形態において、治療期間中に1回投与される片眼当たりの用量は、例えば、1つの挿入物(例えば、約250μgまたは約360μgの活性薬剤の用量を含む1つの挿入物)に含まれる。
【0239】
あるいくつかの実施形態において、挿入物は、鉗子、ピンセット、及びアプリケーターからなる群より選択される把持デバイスを利用して、小管に挿入することができる。
【0240】
2つの挿入物が投与される実施形態において、挿入物は、本明細書の上記で開示しているように、同時に挿入される。同時に挿入される挿入物は、同じでも異なってもよい。
【0241】
あるいくつかの実施形態において、治療期間は、少なくとも1か月、少なくとも2か月、または少なくとも3か月である。本発明の1つの実施形態に従う「治療期間」とは、ひとたび挿入された本発明の挿入物の治療効果が、その期間にわたって維持されるか、または本質的に維持されることを意味する。言い換えれば、本明細書で「治療期間」と称される長期間の間に治療効果を維持するために必要とされるのは、あるいくつかの実施形態では(本発明の挿入物の)1回の挿入のみである。これは、1日に数回という非常に頻繁な投与を要する現在使用されているドライアイ治療用の点眼薬に対する大きな利点であり、したがって患者のクオリティーオブライフを大幅に改善するものである。
【0242】
本発明の1つの態様は、ドライアイ疾患の治療を必要とする患者において当該治療を行う方法であり、当該方法は、患者に、ヒドロゲル及び活性薬剤を含む徐放性生分解性小管内挿入物を投与することを含み、涙点閉塞及び眼への活性薬剤放出が相乗効果をもたらす。
【0243】
このような相乗効果は、活性薬剤の1日放出量が同じになるように設計された活性薬剤を含む点眼薬の投与に比べて、活性薬剤のバイオアベイラビリティが高い点にあると考えられ、これは例えば、活性薬剤の涙液濃度に基づいて経時的に計算した涙液への活性薬剤放出量によって定量することができる。
【0244】
あるいくつかの実施形態において、活性薬剤の全身濃度は定量化可能な量を下回る。活性薬剤の全身濃度は最小限に抑えられているため、薬物間相互作用または全身毒性のリスクも最小限に抑えられる。そのため、1つの実施形態において、患者が服用する追加の薬剤(複数可)は、有意なリスクをもたらさない。これは、眼球疾患を頻繁に患い、追加で他の医薬を服用している高齢の患者には特に有効である。
【0245】
本発明の1つの態様は、上記で開示しているような、眼球疾患の治療を必要とする患者における当該治療のための医薬品の調製における、または上記で開示しているようなドライアイ疾患/乾性角結膜炎の治療を必要とする患者における当該治療のための、上記で開示しているようなヒドロゲル及び活性薬剤を含む徐放性生分解性小管内挿入物の使用である。
【0246】
本発明の1つの態様は、上記で開示しているような眼球疾患の治療を必要とする患者における当該治療で使用するための、または上記で開示しているようなドライアイ疾患/乾性角結膜炎の治療を必要とする患者における当該治療で使用するための、上記で開示しているようなヒドロゲル及び活性薬剤を含む徐放性生分解性小管内挿入物である。
【0247】
本発明の1つの態様は、シルマー涙液試験により測定される涙産生量を、投与前に10mm未満のシルマースコアを有する患者において増加させる方法であって、患者に、上記で開示しているようなヒドロゲル及び活性薬剤を含む徐放性生分解性小管内挿入物を投与することを含む、方法である。
【0248】
あるいくつかの実施形態において、このような方法において、シルマースコアは、挿入物の挿入から6週間後に少なくとも2mm、または12週間後に少なくとも3mm増加することができる。
【0249】
本発明の1つの態様は、視覚アナログ尺度における眼乾燥の症状の重症度の評価、視覚アナログ尺度における眼乾燥の症状の頻度の評価、涙膜破壊時間の定量、角膜フルオレセイン染色、結膜リサミングリーン染色、最高矯正視力、眼球表面疾患指数OSDIの定量、及び眼乾燥の標準的な患者評価SPEEDからなる群より選択される1つ以上の評価によって定量される、眼乾燥症状を低減する方法であり、当該方法は、患者に、上記で開示しているようなヒドロゲル及び活性薬剤を含む徐放性生分解性小管内挿入物を患者に投与することを含む。
【0250】
あるいくつかの実施形態において、このような方法において、総角膜フルオレセイン染色値tCFSは、挿入物の挿入から6週間後に少なくとも1.5、または12週間後に少なくとも3減少し得る。
【0251】
あるいくつかの実施形態において、このような方法において、視覚アナログ尺度における眼乾燥の症状の重症度の評価は、挿入物の挿入から2週間後に少なくとも10、または6週間後に少なくとも15減少し得る。
【実施例
【0252】
以下の実施例は、特許請求の範囲に記載される本発明のあるいくつかの態様及び実施形態を実証するために含めるものである。ただし当業者は、以下の説明が例示的なものに過ぎず、いかなる形でも本発明を制約するものとして解釈すべきではないことを理解するはずである。
実施例1:シクロスポリン挿入物の調製
【0253】
本出願のシクロスポリン挿入物は、涙液中の溶解度が低いことに基づいてシクロスポリンを徐放するために、本質的に円筒形(繊維として成形される)であり、シクロスポリンがPEGベースヒドロゲルマトリックス内に均質に分散し封入されている。
【0254】
I.実施例1.1:薬物濃度の評価
薬物濃度の影響を評価するため、低用量、中用量、及び高用量のシクロスポリンを用いて3つの異なる製剤を調製した。3つの製剤の組成を以下の表1.1.1に示す。
【表2】
【0255】
低用量、中用量、及び高用量の挿入物を、本質的には試験製品挿入物について概説した製造プロセス(下記の実施例1.5を参照)に従って調製した。ただし、チロキサポールは使用せず、シクロスポリン含有シリンジは、最初にマルチアームPEG溶液含有シリンジと混合し、その後にトリリジンアセテート(TLA)/フルオレセイン溶液含有シリンジと混合し、真空脱気は行わなかった。
【0256】
キャストしたらヒドロゲルを硬化させ、すなわち架橋させ、次いでチューブのストランドを延伸し、窒素流下のインキュベーター内で乾燥した。乾燥したストランドをフレキシブルチューブから取り出し、長さを切った。寸法及び物理的特性は以下の通りであった。
【表3】
【0257】
低用量及び高用量の製剤では、望ましくない「ストロー化」を伴う繊維、すなわち乾燥直径が大きく繊維の中心に空洞を示す繊維が得られた。その結果、ストロー化繊維の密度は低いものとなった。
【0258】
繊維の「丸み」を反転するため、太い側及び細い側で断面直径を測定し、小さい方の直径値を直径1、大きい方を直径2と識別し、アスペクト比を以下のように計算した。
アスペクト比=直径1/直径2
【0259】
中用量製剤ではストロー化は示されなかったが、アスペクト比が非常に低い扁平な繊維が産生された。アスペクト比は0.7で、丸みの欠如が示された。低用量及び高用量の製剤のストロー化繊維はより丸みがあったものの、密度が低いため、所望されるよりもはるかに大きな繊維が産生された。また、以下の表1.1.3にまとめているように、薬物濃度も挿入物の水和特性に影響を及ぼした。
【表4】
【0260】
ここから分かるように、水和直径は全て目標の1.45mmを大きく上回り、用量の増加とともに減少し、また収縮率も用量の増加とともに減少した。
【0261】
II.実施例1.2:界面活性剤の評価
界面活性剤の存在
界面活性剤の影響を評価するため、3つの異なる製剤を調製した。1つは界面活性剤を含み(対照、実行1)、1つは0.05% Tween(登録商標)20を含み(実行2)、第三のものは界面活性剤を含まず、ただしエタノールを用いて調製した(実行3)。3つの製剤の組成を以下の表1.2.1に示す。
【表5】
【0262】
実行1~3の挿入物は、試験品挿入物について概説した製造プロセス(下記の実施例1.5参照)に本質的に従って調製した、すなわち、シクロスポリンの酢酸トリリジン(TLA)/フルオレセイン水溶液中懸濁液を含む1つのヒドロゲル懸濁液前駆体シリンジ(実行1:チロキサポールを含まない;実行2:チロキサポールの代わりにTween(登録商標)20を含む、ラン3:チロキサポールを含まず、ただし水の代わりにエタノールに溶解)及びマルチアームPEG水溶液を含む第二のヒドロゲル溶液前駆体シリンジを調製し、これらの2つのシリンジを混合し、次いで液体懸濁液を注入することによりフレキシブルチューブ片のサブセットにキャストし、その後材料を架橋及び固化した。真空脱気は行わなかった。キャストしたらヒドロゲルを硬化させ、すなわち架橋させ、次いでチューブのストランドを延伸し、窒素流下のインキュベーター内で乾燥した。乾燥したストランドをフレキシブルチューブから取り出し、長さを切った。寸法及び物理的特性は以下の通りであった。
【表6】
【0263】
繊維の「丸み」を反転するため、太い側及び細い側で断面直径を測定し、小さい方の直径値を直径1、大きい方を直径2と識別し、アスペクト比を以下のように計算した。
アスペクト比=直径1/直径2
【0264】
ここから分かるように、Tween(登録商標)20を加えることでアスペクト比が高くなった(丸みのある繊維であることを示す)。対照より平均直径は小さく、密度は高く、これは製品の挿入しやすさの観点で有利である。実行1の対照繊維は、乾燥中にチューブに付着し、扁平な繊維を示す低いアスペクト比を示した(図1.2A参照)。
【0265】
エタノールの使用について調べた実行3では、大きな問題に遭遇した。溶液は硬化開始から1分以内に蒸発し始め、繊維内に気泡が生じた。図1.2Bで分かるように、繊維をインキュベーターから取り出したところ、全て破損し変形していた。
界面活性剤存在下の薬物濃度
【0266】
界面活性剤存在下の薬物濃度の影響を評価するため、0.05% Tween(登録商標)20の存在下の低、中、及び高用量のシクロスポリンで3つの異なる製剤を調製した。3つの製剤の組成を以下の表1.2.3に示す。
【表7】
【0267】
チロキサポールの代わりにTween(登録商標)20を使用したことを除き、本質的には試験品の挿入物について概説した製造プロセス(下記の実施例1.5参照)に従い、実行1~3の3つの挿入物を調製した。真空脱気は行わなかった。キャストしたらヒドロゲルを硬化させ、すなわち架橋させ、次いでチューブのストランドを延伸し、窒素流下のインキュベーター内で乾燥した。乾燥したストランドをフレキシブルチューブから取り出し、長さを切った。滅菌は行わなかった。寸法及び物理的特性は以下の通りであった。
【表8】
【0268】
アスペクト比はいずれも0.9以上であった。これは丸みのある繊維であることを示す。乾燥繊維直径は、用量の増加とともに増加した。ただし、乾燥繊維直径の増加はいずれもわずかであり、これは、用量の増加とともに減少した繊維密度に関連する可能性がある。
【0269】
図1.2Cは、この実行で産生された乾燥及び水和挿入物を示す。ここから分かるように、薬物濃度が高いほど凝集が起こっているように思われる。
【0270】
以下の表1.2.5は、37℃のPBSによる水和から10分後及び24時間後における水和挿入物の特徴を示している。ここから分かるように、水和直径及び収縮係数はいずれも、用量の増加とともに減少している。これは、薬物の含量が再水和速度に著しい悪影響を及ぼすことを示している。
【表9】
【0271】
界面活性剤タイプ
凝集に対処するため、様々な界面活性剤がシクロスポリンの粒径に及ぼす効果を定量した。界面活性剤を、FDAガイダンスに従う最大界面活性剤濃度で試験した。
【0272】
0.05% Tween(登録商標)20(PEG-20モノラウリン酸ソルビタン)、4% Tween(登録商標)80(PEG-80モノラウリン酸ソルビタン)、0.5% Cremophor RH 40(PEG-40 水添ヒマシ油)、及び0.3%チロキサポール(エトキシ化4-tert-オクチルフェノール/ホルムアルデヒド縮合ポリマー)を含むストック溶液を、ガラスバイアル内で既知の重量の界面活性剤にPBSを加えることによって調製した。次いで界面活性剤溶液をボルテックスし、超音波処理した。約9~10%(w/w)のシクロスポリンを含む溶液を、バイアル内で約100mgのシクロスポリンにおよそ1mLの界面活性剤/緩衝液ストック溶液を加えることによって調製した。対照は、蒸留水(DIW)またはリン酸緩衝食塩水(PBS)を用いて調製し、界面活性剤を含めなかった。次いで溶液をボルテックスし、レーザー回折により、Beckman Coulter LS 13 320を用いて、光学モデルフラウンホーファーrf780zに基づき7~9%の範囲のオブスキュレーション値で粒径を測定した。
【0273】
表1.2.6は、溶液濃度及び粒径を示している。ここから分かるように、界面活性剤の使用によって粒径は著しく減少し、凝集の減少が示唆された。試験した界面活性剤のうち、チロキサポールは粒径の最も大きな低減を示した。加えて、チロキサポールを用いて測定した粒径は、供給業者によって提供されたもの(D10、D50、D90がそれぞれ0.5、2.1、7.5μmを示した)に最も近いものであった。
【表10】
【0274】
I.実施例1.3:真空脱気の評価
真空脱気の効果を評価するため、600μg用量のシクロスポリン挿入物を、0.3%(w/w)のチロキサポール及び9%(w/v)の4a20k PEG-SGのヒドロゲル前駆体混合物濃度を用いて調製した。挿入物製剤の組成を以下の表1.3.1に示す。
【表11】
【0275】
シクロスポリン、チロキサポール、及び酢酸トリリジン/フルオレセインを含むヒドロゲル懸濁液前駆体シリンジについて、その構成要素を混合した後、及びPEG含有ヒドロゲル溶液前駆体とさらに混合する前の処理に関する以下の詳細を除き、同じ製造プロセスを用いて3つの異なる挿入物セットを調製した。
【0276】
第一の挿入物セットについては、(i)(全ての製剤で通例行われているように)シリンジをプライミングし、懸濁液を3分間ボルテックスし、手動で脱気することにより、シリンジに入ったヒドロゲル懸濁液を処理した。手動脱気は、真空を作り出すためにキャップで閉じたシリンジのプランジャーを引き、次いでシリンジのキャップを外して真空状態を解除し大きな気泡を崩壊させることによって行った。次のステップ(ii)として、ヒドロゲル懸濁液前駆体を真空チャンバーに入れ、脱気してからヒドロゲル溶液前駆体と混合した。第二の挿入物セットのためのヒドロゲル懸濁液前駆体は、ステップ(ii)の後にステップ(iii)でさらに超音波処理したことを除き、本質的に同じ方法で処理した。第三の挿入物セットのためのヒドロゲル懸濁液前駆体は、ステップ(ii)の真空チャンバー内の脱気を省略したことを除き、第二のセットと同じように調製した。調製ステップの概要を以下の表1.3.2に示す。
【表12】
【0277】
真空脱気のみによって得られた第一の挿入物セットには、ほとんど凝集物が見られなかった。真空脱気及び超音波処理の両方によって得られた第二の挿入物セットには、多数の大きな凝集物が見られ、切断デバイスに適合しなかった。超音波処理あり、真空脱気なしによって得られた第三の挿入物セットには、いくらかの凝集物が見られたが、それ以外は良好な外観であった(図1.3)。
【0278】
II.実施例1.4:薬物の粒径の評価
原薬の最適な粒径を評価及び決定するために、さらなる挿入物を調製した。
大きなシクロスポリン粒子のふるい分け効果
【0279】
より大きな粒子を除外するためのふるい分けの効果を評価するため、400μg用量のシクロスポリン挿入物を、0.3%(w/w)のチロキサポール及び9%(w/v)の4a20k PEG-SGのヒドロゲル前駆体混合物濃度を用いて調製した。製剤の組成を以下の表1.4.1に示す。
【表13】
【0280】
使用したシクロスポリンをふるい分け、以下の表1.4.1に示す粒径分画を使用した。製造中、下記の表1.4.2にもまとめられているように一部のキャストストランドが破損し、使用できなかった。挿入物ごとの乾燥密度及び薬物充填率を図1.4Aに示す。
【表14】
【0281】
このように、大きな粒径は深刻な悪影響を及ぼすと結論付けることができる。
シクロスポリン粒径が水和、乾燥密度、及び機械的不良に及ぼす効果
【0282】
異なる粒径の効果を評価するため、5つの異なる粒径分布(PSD)を有する微粒子化シクロスポリン粒子を用いて挿入物を調製した。5つの製剤の組成を以下の表1.4.3に示す。
【表15】
【0283】
使用したシクロスポリンのd10、d50、及びd90値を以下の表1.4.4に示す。
【表16】
【0284】
製造時に以下のことが観察された:より大きいCSI粒子を用いて調製した挿入物はより大きい乾燥直径を有する傾向があり(図1.4B参照)、一方密度はCSI粒子に伴って減少する(図1.4C参照)。CSI粒子が小さいほど、挿入物の表面は滑らかになった(カメラ付き立体顕微鏡下で撮影した顕微鏡像を示している図1.4Dを参照)。小粒子及び小/中粒子由来の挿入物は、表面がPEGで覆われているように見えた。中粒子及び大粒子を用いて調製した挿入物には、著しい凹凸及び変形を伴う粗い表面が点在した。中粒子では、乾燥中の破損率が最も高かった。粒子が大きいほど、水和挙動及び膨潤が良好となった(図1.4E参照)。
【0285】
結論として、粒子が大きいほど膨潤及びスナップバックが改善されたが、ストランド破損も増加した。加えて、高用量製剤は低用量及び中用量製剤よりも高い破損率を示し、ふるい分けによる非常に大きな粒子(45ミクロン超)の除去によって破損率が著しく改善された。
【0286】
全体としては、「小」~「中」の粒径は、小粒子の密度増加及び繊維の滑らかさと、ストランド破損の低減を達成する中粒子の再水和率との両方のバランスがとれている。
【0287】
III.実施例1.5:臨床試験支援挿入物の調製
以下では、ヒト臨床試験(製剤1、2A、2B、及び3、実施例4参照)ならびに高用量ビーグル犬試験(製剤4A及び4B、実施例3.6参照)で使用する試験品挿入物の調製プロセスについて説明する。試験品挿入物は、PEG-SGに基づく中期持続性シクロスポリン/ヒドロゲル製剤(製剤1及び4A、およそ2~3か月持続する設計)、PEG-SAPに基づく長期持続性シクロスポリン/ヒドロゲル製剤(製剤2A及び4B、およそ3~4か月持続する設計)、及びプラセボとして機能するシクロスポリンを含まない2つのヒドロゲルビヒクル(HV)製剤、PEG-SAPに基づく長期持続性製剤(製剤2B、およそ3~4か月持続する設計)、及びPEG-SSに基づく短期持続性製剤(製剤3、およそ1週間持続する設計)に基づくものである。
【0288】
シクロスポリン含有挿入物の目標直径は0.55mm±0.03 mm、目標長さは2.72mm±0.08mmとし、HV挿入物の目標直径は0.41mm±0.05mm、目標長さは2.72mm±0.08mmとした。製剤の組成を以下の表1.5に示す。
【表17】
【0289】
I.調製プロセスの概要
シクロスポリンを含む挿入物のポリマーネットワークを形成するため、2つの前駆体シリンジを調製した。1つはヒドロゲル懸濁液前駆体シリンジで、チロキサポール及びトリリジンアセテート(TLA)/フルオレセイン溶液中のシクロスポリン懸濁液が入っており、2つ目はヒドロゲル溶液前駆体シリンジで、マルチアームPEG(アミン反応性NHS基を含むペンタエリスリトールコア構造に基づく4アーム20K PEG)溶液が入っていた。2つのシリンジを混合し、次いで材料が架橋し固化する前に、液体懸濁液を注入することによってフレキシブルチューブのサブセットにキャストした。キャストしたらヒドロゲルを硬化させた(すなわち、架橋させた)。次いで、ヒドロゲルネットワーク内に封入されたシクロスポリンを含むチューブのストランドを、窒素流下のインキュベーター内で延伸し乾燥した。乾燥したストランドをフレキシブルチューブから取り出し、長さを切り、バイアル内で保存した。次いで薬品を保護発泡体担体でパッケージングし、窒素環境下でラミネートホイルパウチに入れてヒートシールした。シクロスポリン含有製剤には電子ビーム照射を用いて、HV製剤にはガンマ照射を用いて薬品を滅菌した。
【0290】
HVプラセボ挿入物については、使用する賦形剤の量を表1の組成(マルチアームPEGのバリエーション)に従って適合させ、特にシクロスポリンを使用しなかったことを除き、同様に調製した。
【0291】
II.ヒドロゲル懸濁液前駆体シリンジの調製
使用するマルチアームPEGのタイプ及び二塩基性リン酸ナトリウムの量を除き、製剤1及び2Aと同じ手順及び分量を使用した。製剤4及び5については、シクロスポリンの量も上記の表1.5に示された組成に従って適合させた。
【0292】
ヒドロゲル懸濁液前駆体シリンジは、2つの異なる追加の前駆体シリンジの混合物からなるものであった。
【0293】
1つのシリンジにはチロキサポール溶液中に懸濁した微粒子化シクロスポリンが入っており、これは、704.8mg±5.0mgの微粒子化シクロスポリン(d50:5~8μm、d100:45μm以上)を秤量し、2,775.0mg±20.0mgのチロキサポールの注射用水(WFI)中0.8wt-%溶液に懸濁させることによって調製した。HV製剤(製剤2B及び3)については、シリンジには0.8wt-%のチロキサポール溶液のみが含まれた。
【0294】
他方のシリンジには、二塩基性リン酸ナトリウム緩衝トリリジン-フルオレセイン結合体溶液が入っており、これは、(i)25.0mg±0.5mgのNHS-フルオレセインを、97,5mg±2.5mgの酢酸トリリジン及び243.75mg±2.5mg(製剤1及び3)または690mg±5.0mg(製剤2A及び2B)の二塩基性リン酸ナトリウムを9,750.0±10.0mgのWFI中に含む溶液8,025.0mg±5.0mgと混合し、(ii)得られた混合物を室温で1~24時間反応させ、(iii)溶液を濾過し、(iv)得られた溶液をシリンジ当たり1,575.0mg±10.0mgの部分をシリンジに充填することによって調製した。ステップ(ii)の反応の完了は、未反応の構成要素及び生成物アミドを保持時間(RT)によって識別できるようにするUV検出を用いた逆相(RP)HPLC法によって確認した。ステップ(ii)の後、NHS-フルオレセインと一致するRTでは定量化可能なピークは残っておらず(RT約6.6分)、生成物アミドの形成によって作出された新たなピークがより高いRTに出現した(RT約8.2分)。最初の試験では、結果から、1時間後にアミドに変換されたことが実証され、また反応生成物が溶液中で最大7日間安定していることが示された(図2)。
【0295】
2つの追加の前駆体シリンジをメス-メスルアーロックコネクターで接続し、各シリンジ間を合計25回往復させることによりそれらの内容物を混合して、ヒドロゲル懸濁液前駆体シリンジを形成した。シクロスポリンが水に非常に溶解しにくく凝集しやすいため、チロキサポール、USPを、シクロスポリンの懸濁に使用される溶液に加えて、シクロスポリンの分散及び任意の凝集の抑制を助け、また、挿入物が低アスペクト比の平坦な形状になる原因と考えられるヒドロゲル混合物のチューブ内壁への付着防止を助ける。
【0296】
II.ヒドロゲル溶液前駆体シリンジの調製
ヒドロゲル溶液前駆体シリンジには、PEGの緩衝溶液が入っており、これは、24.5mg±1.0mgの一塩基性リン酸ナトリウムを7,985.0mg±50.0mgのWFI中に含む溶液1,565.0mg±10.0mgと、542.0mg±5.0mgの4a20K PEG-SG(N-ヒドロキシスクシンイミジルグルタル酸末端基を伴う4本のアームを有する20kDaのPEG、製剤1に用いる)または4a20K PEG-SAP(N-ヒドロキシスクシンイミジルアジピン酸末端基を伴う4本のアームを有する20kDaのPEG、製剤2aに用いる)とを合わせることによって調製した。
【0297】
III.キャスト、延伸、及び乾燥
ヒドロゲル/シクロスポリン懸濁液を形成するため、シクロスポリン、チロキサポール、及びトリリジン-フルオレセイン結合体を含むヒドロゲル懸濁液前駆体シリンジ、ならびに4a20k PEG-SG、4a20k PEG-SAP、または4a20k PEG-SSを含むヒドロゲル溶液前駆体シリンジを、最初に真空チャンバーに入れ、プログラムされた真空サイクルに曝露することにより脱気し、次いでメス-メスルアーロックコネクターに接続した。各シリンジ間で合計25回往復させることによって前駆体シリンジの内容物を一緒に混合し、このようにして作出したヒドロゲル/シクロスポリンの懸濁液を1つのシリンジに移した。
【0298】
次いで、ヒドロゲル/シクロスポリン懸濁液シリンジを、オートクレーブ滅菌済みポリウレタンチューブ(内径2.0mm及び外径2.8mm)のタケノコ継手に接続し、適切な長さに切り、材料が架橋し固化する前に、調製したチューブを通じて懸濁液をキャストした。
【0299】
チューブが満杯になったら、チューブをシリンジから除去し、チューブのタケノコ継手にキャップをした。ゲル化時間は、ゲルタップ試験を実施することによって確認した。ゲルタップ試験のために、少量の残存するヒドロゲル/シクロスポリン懸濁液をスライドガラスに載せ、ピペットの先端でタッピングし、およそ2~8分で懸濁液がゲル化し、懸濁液がストランドを形成し始める(これは重合が開始したことを示す)まで行った(すなわち、完全なタッピングサイクル中、ピペットの先端に接続したままである)。
【0300】
ヒドロゲル/シクロスポリン懸濁液が入った充填チューブ(以下「キャストストランド」と称する)を垂直に置き、硬化チャンバー(周囲温度及び湿度)内で3~6時間保管してゲルを硬化させた。
【0301】
硬化時間が経過したら、キャストストランドを延伸固定具に入れ、ダイナミッククランプで所定の位置に固定した。キャストストランドを、元のチューブ長の約2.7倍である延伸固定具の固定長まで延伸した。次いで延伸固定具を移動し、乾燥のために32.0±2.0℃及び53±3SCFH(標準立方フィート/時)の窒素流量に設定したインキュベーター内に垂直に入れた。キャストストランドをインキュベーター内に数日間とどめて完全に乾燥させた。
【0302】
IV.切断、パッケージング、滅菌、及び検査
乾燥したキャストストランドをチューブから取り出し、およそ2.7mmの長さに切った。Vision Systemを10倍の倍率で用いて、挿入物の100%インプロセス目視及び寸法検査を実施した(許容基準:粒子状、円筒形状、視認可能な表面欠陥がないこと、シクロスポリン含有挿入物の直径0.55mm±0.03mm、HV-挿入物の直径0.41mm±0.05mm、全ての挿入物の長さ2.72mm±0.08mm)。
【0303】
全てのインプロセス仕様を満たした挿入物は、発泡体担体に挿入物1つを入れてパッケージングし、ユーザーが剥がして開封できるアルミニウム-LDPEホイルパウチに入れて密封した。挿入物を保持するため、発泡体担体の底部には開口部を有するVノッチがあり、その中に挿入物を鉗子で入れ、挿入物の一部を突出させて容易に取り出せるようにした。挿入物が入った発泡体担体をホイルパウチの中に入れた。密封されていないホイルパウチを不活性窒素環境を提供するグローブボックス内に移して、発泡体及びパウチ材料からの残留水分を低減し、そこで最低16時間、96時間を超えない期間の間保管し、パウチシーラーを用いてグローブボックス内で密封して、パウチを完全に連続的に密封した。パウチ密封を検査し、パッケージを滅菌するまで2~8℃で保管した。
【0304】
パッケージングした挿入物を電子ビームまたはガンマ線照射で滅菌し、最終品質検査まで2~8℃で保管した。
【0305】
パウチに入れた挿入物を滅菌したら、薬品の最終品質検査を実施した。
【0306】
実施例2:挿入物の仕様
得られた挿入物を、視認性試験、顕微鏡分析、HPLC分析、及び保存安定性試験により特性評価した。
【0307】
I.視認性試験
挿入物を青色光で照射したときに、サロゲート試験モデルを通じて目視できることを確認するため、挿入物を目視により検査した。
【0308】
II.顕微鏡分析
挿入物は、Unitron Z850/NSZ-606顕微鏡を用いて顕微鏡的に検査して、乾燥状態、ならびにpH7.4、37℃でのリン酸緩衝食塩水中で10分(拡大状態)及び24時間(平衡状態)水和した後の水和状態での製品寸法を確認した(表2.1)。
【表18】
【0309】
III.さらなる製品仕様の試験
さらなる製品仕様を試験し、以下の表2.2に従って報告する。
【表19-1】
【表19-2】
【0310】
IV.保存安定性試験
製剤1及び2Aに従ったシクロスポリン含有挿入物の安定性を、冷蔵条件下(2~8℃)で12か月にわたって評価している。
【0311】
保存安定性試験の結果は、表2.3.1及び2.3.2(製剤1)、ならびに表2.3.3及び2.3.4(製剤2A)で見出すことができる。
【表20-1】
【表20-2】
【表20-3】
【表20-4】
【0312】
12か月を通じて得られた安定性データは、引き続き所定の安定性仕様を満たしている。ICH Q1Eによれば、冷蔵製品については、長期データが経時的変化をほとんどまたは全く示さず、変動もほとんどまたは全く示さない場合、提唱される貯蔵寿命は最大2倍となり得るが、提唱が分析結果及び関連する参考データに裏付けられている場合、12か月を超えてはならないとされている。実時間長期安定性データは、95%信頼区間(CI)による安定性仕様の上限及び下限に逆らうものであった。全体としては、定量的データにはほとんど傾向が見られなかった。統計分析により、23か月で妨害の可能性を示すアッセイの劣化分析に基づき、製品は23か月の貯蔵寿命に適合することが示された。他の安定性を示すパラメーターはいずれも、36か月超での妨害の可能性を示している。そのため、少なくとも23か月の貯蔵寿命を期待することができる。
【0313】
実施例3:ビーグル犬におけるシクロスポリン挿入物の評価
シクロスポリン含有挿入物の薬物動態を試験するため、ビーグル犬の薬物動態試験で異なる製剤を試験している。
【0314】
6つの異なるビーグル犬試験を行い、試験期間中に挿入物から放出された薬物の量及び/または涙液中のシクロスポリン濃度を定量した。試験及び製剤の概要を表3に示す。
【表21-1】
【表21-2】
【0315】
実施例3.1:概念実証PK試験
名目用量0.7mgのシクロスポリンを含む挿入物を、表3にまとめているようにビーグル犬に投与した。
【0316】
挿入物から放出された薬物の量を経時的に評価し、試験期間にわたって涙液中のシクロスポリン濃度を定量した。
【0317】
試験期間中のシクロスポリンの涙液濃度中央値は1.1~1.9μgであった。以下の表3.1参照。6週目に挿入物のサブセットを取り出して、投与用量と比較した残存薬物の量を定量した。6週間で放出されたシクロスポリンの平均量は0.37mgであった。これにより、涙液濃度が比較的一定を保ったことを裏付けとして投与期間にわたる一定の1日放出速度を仮定すると、1日の推定送達用量は8.8μg/日と計算される。
【表22】
【0318】
実施例3.2:概念実証PK試験
名目用量0.44mgのシクロスポリンを含む挿入物を、表3にまとめているようにビーグル犬に投与した。
【0319】
挿入物から放出された薬物の量を経時的に評価し、試験期間にわたって涙液中のシクロスポリン濃度を定量した。
【0320】
試験期間中のシクロスポリンの平均涙液濃度は1.1~2.8μgであった。以下の表3.2参照。32日目に挿入物を取り出して、投与用量と比較した残存薬物の量を定量した。32日で放出されたシクロスポリンの平均量は0.2mgであった。これにより、投与期間中にわたる一定の1日放出速度を仮定すると、1日の推定送達用量は6.3μg/日と計算される。
【表23】
【0321】
実施例3.3:概念実証PK試験
投与前の挿入物における初期シクロスポリン用量は、n=10の全試料において671±13μg(平均及び標準偏差)であった。28日目及び50日目にそれぞれ4個及び5個の挿入物を取り出し、シクロスポリン含量を分析した。左右の眼で同様の結果が得られたため、取り出した全ての挿入物の平均を計算した結果、放出量(初期量から、取り出した挿入物に残っている量(それぞれ576±18μg及び494±32μg)を引いたもの)は、表3.3に示しているようにそれぞれ3.4及び3.5μgとなった。初期用量を放出用量と比較することによって平均1日放出速度を定量した。試験結果は、28日及び50日にわたり、1日の推定送達用量がおよそ3.5μg/日であったことを示している。試験期間にわたる挿入物の薬物放出量の範囲は、低いもので2.7μg/日、高いもので4.4μg/日であった。
【表24】
【0322】
実施例3.4:ドライアイモデル試験
名目用量0.36mgのシクロスポリンを含み、1.5mmの水和直径及び2.5mmの水和長さを有する挿入物を、表3にまとめているようにビーグル犬に投与した。
【0323】
予めビーグルの右眼の涙腺を外科的に除去して、人工的なドライアイモデルを作出した。左眼は無処置にとどまたため、健康対照の役割を果たした。シルマー涙液試験によって涙産生量を経時的に追跡したところ、右眼の涙産生量がほぼゼロまで減少したことが示され、ドライアイモデルにおける概念実証が得られた(図3.1参照)。挿入物から放出された薬物の量を経時的に評価し、試験期間にわたって涙液中のシクロスポリン濃度を定量した。
【0324】
シクロスポリンの平均涙液濃度は、健康眼では0.8~1.4μg/mL、乾燥眼では1.4~4.8μg/mLの範囲であった。以下の表3.4参照。ビーグルドライアイモデルにおける(健常眼に比べて)より高い涙液シクロスポリン濃度は、シクロスポリンがドライアイ条件下で挿入物から涙液中に、そしておそらくは眼球表面にも首尾よく輸送され得ること、及び眼球表面のシクロスポリン濃度が、ドライアイ条件下では(涙産生量が低減した結果として)涙量が低減し、よって薬物希釈度が低下するために健常眼で観察されるシクロスポリン濃度に比べて高いと考えられることをともに実証するものである。
【表25】
【0325】
実施例3.5:薬物動態試験
製剤1及び2A(PEG-SG及びPEG-SAPヒドロゲル、0.36mgのシクロスポリン)の挿入物を、表3にまとめているように24頭のビーグル犬に両側性に投与した。投与後、1、3、6時間目、1及び3日目、1、2、4、6、8、10、及び12週目に涙液試料を採取した。結果を以下の表3.5ならびに図3.2A及び3.2Bに示す。シクロスポリンは、製剤1(第1群)及び製剤2A(第2群)のいずれにおいても、12週間にわたって挿入物からビーグルの涙液中に放出された。結果からは、2つの製剤間で約3時間時に同等の2.7μg/mLの最大涙液濃度が発生したことが示されている。薬物放出プロファイル及び涙液濃度は、2つの製剤間で最初の6週間にわたり同等(95%信頼区間内)であるように思われる。
【0326】
8~12週目に、SGヒドロゲル製剤においてビーグルのシクロスポリン涙液濃度がSAPヒドロゲル製剤に比べて低下する可能性が指摘される。この差は、SGヒドロゲルの分解がSAPヒドロゲルに比べて速いことに起因する可能性がある。
【表26】
【0327】
実施例3.6:高用量試験
表3にまとめているように、2つのヒドロゲル製剤4A及び4B(PEG-SG及びPEG-SAP)による高用量(0.7mgのシクロスポリン)の挿入物の薬物動態を、GLP準拠毒性試験において評価した。
【0328】
投与前、ならびに投与後1時間、2時間、4時間、24時間、ならびに7、30、60、90、及び104日目に涙液試料を採取した。涙液中のシクロスポリン濃度を表3.6.1及び図3.3に示す。結果からは、このビーグル試験における涙液濃度が2つの製剤間で試験期間にわたって同等(95%信頼区間内)であり、回復動物(104日目の試料採取の2週間前に試験品を取出し)では薬物レベルが定量下限(LLOQ=30ng/mL)未満であることが示されている。
【0329】
薬物動態プロファイルは、2つの製剤間で同等であり、試験期間にわたって継続的な定常状態の用量曝露を示している。真の最高濃度については、涙液濃度が投与期間中の試験期間にわたり用量曝露から1時間以内に見かけ上の定常状態に達しているため、明らかではない。
【表27】
【0330】
実施例4:ランダム化多施設二重遮蔽ビヒクル対照ヒト第1/2相臨床試験
DED患者の治療におけるシクロスポリン挿入物の安全性、忍容性、及び有効性を評価するために、ランダム化多施設二重遮蔽ビヒクル対照第1/2相臨床試験を設計し、145例の対象(290眼)を2つのコホートに登録した。すなわち、コホート1は、製剤2Aヒドロゲル/シクロスポリン挿入物で治療するおよそ5例の対象(10眼)からなる非盲検群とし、コホート2は、2つの異なる製剤1及び2Aヒドロゲル/シクロスポリン挿入物ならびに2つの異なる製剤2B及び3HV挿入物で治療するおよそ140例の対象からなるランダム化二重盲検群とした。
【0331】
両眼とも同じ治療薬/製剤で治療する。両眼がドライアイ症状の観点で適格である場合、角膜フルオレセイン染色の合計スコアが高い方の眼を試験眼とし、他方の眼を非試験眼とする。両眼の角膜フルオレセイン染色の合計スコアが同じである場合、分析の前に生物統計学者が試験眼を決定する。片眼のみが対象となる場合、その眼が試験眼となるが、それでも両眼に同じ治療薬/製剤を投与する。
【0332】
治療内容について以下の表4にまとめる。
【表28】
【0333】
I.試験スケジュール
両方のコホート群は、本質的には同じ試験スケジュールに従う。以下の場合、対象を適格とした。
●両眼において6か月以上のドライアイ疾患の病歴を自己申告しているか、または眼科医による臨床的に確認された診断があること、
●スクリーニング来院時に、視覚アナログ尺度(VAS)眼乾燥重症度スコア≧30によって定義される進行中のドライアイ疾患が試験眼にあること、及び
●同じ適格眼または両眼において、5分後の角膜フルオレセイン染色(tCFS)スコアが6以上15以下であり(NEI尺度、以下の「評価」セクション参照)、シルマースコア(無麻酔)が0mm超10mm以下の濡れであること、
●さらなる選択基準及び除外基準が適用される。
【0334】
対象に対し、挿入/1日目(来院2)の14日前にスクリーニングを行い、来院2(挿入/1日目)に適格性を確認する。コホート2の対象を、来院2の際に4つの治療群のうちの1つに2:2:2:1の比率でランダムに割り付ける。2週目から16週目まで、とりわけ挿入物の有無を判定するために、全ての対象に対し一定の間隔でさらなる治療追跡調査の来院(来院3~8)が予定されており、挿入物の有無は、対応する領域に青色光を照射し、黄色フィルターを使用することにより、非侵襲的な方法で評価する。
【0335】
いずれのコホートについても、16週目(来院8)に挿入物が可視化された場合、対象はクリニック来院を30日後(±10日;来院9)に行い、挿入物が可視化できなくなり、医師が生物学的活性の証拠がないと判断するまで、必要に応じて30日ごとにクリニック来院を継続する。挿入物が16週目(来院8)に可視化できず、医師が生物学的活性の証拠がないと判断した場合、対象は試験を中止する。
【0336】
本試験の全般的模式図を図4Aに示す。
【0337】
各来院時に様々な評価を行う。特に、下記のポイントIIIで概説している全ての眼科評価は、TBUT評価(来院1、2、5、及び7のみに行う)を除き、来院1~8及び来院9(個々の患者について来院9がある場合)で行う。
【0338】
任意の有害事象が発生した場合は、挿入日/1日目以降の各来院時に、以下のポイントIIIに従って同様に評価する(1日目の挿入前に発生した任意の徴候、症状、及び状態は病歴として把握される)。
【0339】
II.挿入物設置
眼科用挿入物は、小管の垂直部分に設置する(図5B参照)。本明細書で開示している臨床試験では、挿入物を下涙点に設置した。
【0340】
挿入物を小管内に設置するため、側圧を適用して小管系を伸長させ、皮膚を涙点付近で一時的に引き下げた(図5A)。涙点拡張器を用いて下涙点を鼻の方向に拡張し、システムが伸長していることを確認し、涙点を通じて小管の深さ及び幅を拡張した。必要な場合はスピン運動で拡張器を回転させて拡張プロセスを支援した(図5B)。
【0341】
眼科用スポンジを用いて、涙点開口部周囲の表面を乾燥した(図5C)。
【0342】
ヒドロゲル/シクロスポリンまたはHV挿入物は、鉗子を用いて鼻の方に少し角度をつけて挿入し(図5D)、最初の動作で挿入の70%を目標とし、鉗子を用いて、変形防止のため挿入物への過度な圧迫を避けながら、挿入物の残部をタップしたり押したりした。挿入物は、涙点開口部のわずかに下に位置していることが確認された。
【0343】
挿入物が、涙点開口部のわずかに下に設置する前に水和した場合(トランペットの形状に類似する)、または理想的な配置の前に水和した場合、または挿入物の一部が突出し挿入できない場合は、挿入物を廃棄し、新たな挿入物を使用した。
【0344】
眼科用挿入物の挿入の容易さのレベルを、「容易」(1)、「中程度」(2)、または「困難」(3)としてグレード付けした。
【0345】
III.評価
本試験は、以下の評価を用いた。
シルマー涙液試験
【0346】
シルマー試験は涙の産生量を定量し、涙液が紙の試験片の長さに沿って移動するのを可能にする毛細管作用によって機能する。試験片に沿って移動する速度は、涙の産生速度に比例する。対象に上を向くように指示し、下の瞼の下眼瞼結膜と眼の眼球結膜との間に試験片の曲がった先端が静置するように試験片を適用する。5分後、患者に両眼を開けて上を向くように指示し、試験片を取り出す。シルマー試験スコアは、試験片の湿った領域の長さによって定量される。両眼に対し同時に試験を行う。麻酔をかけた場合は、涙の基礎分泌のみが測定される。
【0347】
シルマースコアが10mm以上の湿潤は正常とみなされ、5mm未満のスコアは涙液不足であることを示す。
【0348】
涙膜破壊時間(TBUT)及び総角膜フルオレセイン染色(tCFS)
まばたき後に涙膜が破壊するまでの時間は、TBUTと呼ばれる。これは、涙膜の安定性を測定するための定量化試験である。通常の涙膜破壊時間は15秒超である。TBUTを評価するには、食塩水で湿らせたフルオレセインストリップを下結膜嚢に適用する。数回のまばたき後、青色フィルターを伴ったスリットランプのブロードビームを用いて、角膜上の最初のドライスポットの出現について涙膜を調べる。
【0349】
TBUT値が5~10秒未満であれば涙が不安定であることを示し、これは軽度~中等度のドライアイ患者に観察される。
【0350】
tCFS(総角膜フルオレセイン染色)値を測定して、角膜の状態を評価する。角膜表面の擦過傷などの損傷は、例えば、ドライアイに起因し得るものであり、これはフルオレセイン染料によって視認できるようになる。
【0351】
tCFSを評価するには、フルオレセインストリップを食塩水/洗眼液で濡らし、対象に上を向くように指示し、濡れたストリップを眼球結膜に触れずに下眼瞼結膜に適用する。TBUTもフルオレセインを適用することによって評価するため、TBUTのすぐ後にtCFS測定を行えば、フルオレセイン色素を追加で適用する必要はない。対象に数回まばたきするように指示してフルオレセイン色素を分配し、2~3分の待機時間後、コバルトブルー照明及びWratten黄色フィルターを使用して、角膜の5つの領域(中央、下部、鼻側、耳側、及び上部)の各々に対し、NEI(National Eye Institute)の0~3尺度(0=染色なし、1=軽度染色、2=中等度染色、3=重度染色)を用いて角膜染色を評価し、5つの領域の合計(0~15点)をCFS総スコアとする。
【0352】
tCFSスコアが高いほど、角膜表面の損傷が大きい。
【0353】
結膜リサミングリーン染色(LGS)
LGS値を測定して、結膜の状態を評価する。リサミンストリップを食塩水/洗眼液で濡らし、対象に上を向くように指示し、濡れたストリップを眼球結膜に触れずに下眼瞼結膜に適用する。対象に数回まばたきするように指示してリサミン色素を分配し、1~4分の待機時間の後、適度な照明を使用して、結膜の6つの領域(耳側、耳側上部、耳側下部、ならびに鼻側上部、鼻側下部、及び鼻側)の各々に対し、NEI(National Eye Institute)の0~3尺度を用いて結膜染色を評価し、6つの領域の合計(0~18)をLGS総スコアとする。
【0354】
瞼裂斑の隆起によって生じる染色は改善されないことがある。瞼裂斑に関連する染色は、総リサミンスコアから一貫して除外することができる。
【0355】
LGSのスコアが高いほど、結膜表面の損傷が大きい。
【0356】
最高矯正視力BCVA
視力検査は、眼への接触または試験眼への点眼を必要とする検査の前に行うべきである。LogMAR視力は、早期治療糖尿病網膜症試験(ETDRS)または修正版ETDRS視力表を用いて評価しなければならない。この視力表は、各行が5文字からなり、各行は、所与の検査距離における最小分離角の0.1log単位(logMAR)を表す。
【0357】
視力検査は、早期治療糖尿病網膜症試験(ETDRS)または修正版ETDRS視力表を用いて、対象自身の矯正レンズ(眼鏡のみ)またはピンホール屈折を用いた最高矯正視力で実施する。ETDRSまたは修正版ETDRS視力表は、5文字ずつの行からなり、各行は、所与の検査距離における最小分離角の0.1log単位(logMAR)を表す。
【0358】
視力(VA)はlogMAR値としてスコア化され、文字が正しく読み取られた最後の行を基本logMAR値とし、これにN×0.02を加える(Nは、最後に読み取られた行までに含まれる間違えた文字の総数)。この合計和(基本logMAR+N×0.02)が、その眼のBCVAに相当する。
【0359】
BCVAスコアが低いほど、視力は良好である。
【0360】
眼乾燥スコア/視覚アナログ尺度VAS
眼乾燥スコアを評価するには、対象に、現在両眼で経験している眼の不快感のレベル及び眼乾燥の頻度を示す横線(0~100%の値を表す)の上に縦の印を付けることにより、眼乾燥の症状の重症度及び頻度をパーセントで評価することを指示する(0%は「不快でない」、100%は「最大の(最も)不快」に対応する)。
【0361】
眼球表面疾患指数OSDI(著作権)
OSDIは、対象の過去1週間の生活におけるドライアイの症状及び視力関連機能に及ぼした影響を評価する12項目の質問紙に基づき、ドライアイ疾患における眼刺激の症状を迅速に評価することができる(例えば、R.M.Schiffmanらによる Arch Ophthalmol.2000;118(5):615-621(参照により本明細書に援用される)を参照)。
【0362】
最終スコアが高いほど障害が大きい。
【0363】
眼乾燥の標準的な患者評価(SPEED:Standard Patient Evaluation of Eye Dryness)
SPEED質問紙法(Korb and Blackie,Ocular Surgery News Europe Edition.2012(参照により本明細書に援用される))は、ドライアイの症状を経時的にモニタリングするためのもう1つの評価であり、乾燥、ゴロゴロ感、引っかき、刺激、灼熱感、流涙、痛み、及び眼疲労を含む症状の頻度及び重症度を評価する8項目から生じる0~28のスコアを有する。
【0364】
スコアが高いほど、障害が大きいことを示す。
【0365】
IV.有害事象
有害事象(AE)とは、医薬品を投与した患者または臨床試験の対象において、この治療との因果関係が必ずしも明らかでない任意の不都合な医学的事象のことである。そのため、AEは、医薬品(試験薬)と関連するか否かにかかわらず、医薬品(試験薬)の使用に一時的に関連する、任意の好ましくない意図されない徴候(臨床検査異常所見を含む)、症状または疾患とすることができる。
【0366】
重篤な有害事象(SAE)とは、任意の用量で以下のことが生じる、好ましくない医学的事象を指す。
●死に至る。
●生命を脅かす(事象の発生時に対象が死のリスクにさらされていた事象を指し、より深刻であった場合に仮説上死が生じたと考えられる事象は該当しない)。
●入院を必要とする、または目下の入院の延長を必要とする(選択的手術のための入院はSAEに該当しない)。
●持続的または重大な障害/不能をもたらす。
●先天性異常/出生時障害である。
【0367】
各来院時に、対象の回答に影響を与えないように配慮しながら、自由回答式質問法を用いて有害事象について質問する。
【0368】
来院2(挿入/1日目)から来院9(30日後の追跡調査)までに対象が経験した任意のAE及びSAEを、事象の重症度または試験治療との関連にかかわらず記録する。
【0369】
以前の評価で既に文書化され、継続中と指定されたAEは、必要に応じて以降の来院時に再調査し、これらが解消した場合はそのことを文書化する。
【0370】
AEの強度または頻度の変化は、別々の事象として記録する(すなわち、新たな記録が開始される)。
【0371】
対象が試験を完了または中止した際に進行中の任意のSAEは、その事象が解消、安定化、またはベースライン状態に戻るまで追跡調査する。
【0372】
全ての事象を評価して、その事象がSAEの基準を満たすかどうか、その事象の重大性、及びその事象と試験治療との関連性を判断する。
【0373】
実施例4.1:コホート1:非盲検単一施設第1相試験
コホート1は、ヒドロゲル/シクロスポリン挿入物の安全性、忍容性、耐久性、及び生物学的活性を評価することを意図した非盲検第1相試験であり、治療割付けは、治験依頼者、治験責任医師、及び対象に知らせ、上記のI.試験スケジュールで概説されているような試験スケジュールに従った。コホート1の登録対象5例(10眼)全員に、適格性を確認した後、上記のII.挿入物設置で概説しているような手順に従い、来院2で製剤2Aを挿入した。
【0374】
I.安全性及び忍容性
全ての対象が16週間の試験期間を完了し、脱落例はなかった。重篤な副作用は報告されなかった。挿入物は忍容性が良好であることが観察され、刺痛、刺激、かすみ眼、流涙といった有害事象の報告または観察は認められなかった。交換用挿入物は必要とされなかった。挿入物の挿入しやすさのレベルは以下のように評価された。
●8眼:容易
●1眼:中程度
●1眼:困難
【0375】
中程度及び困難の評価は、同じ対象の右眼及び左眼に対するものであった。このことから、全体的な挿入物の寸法及び膨潤挙動が、挿入物の容易な投与のために秀逸に調整されていることがわかる。
【0376】
II.耐久性
全ての挿入物が最後に来院8の際に可視化された。
【0377】
III.生物学的活性/有効性
挿入物の有効性を、各来院時に実施した眼科評価に基づいて評価した。
【0378】
シルマー試験(無麻酔)により測定される涙産生量は、ベースラインの平均値4.2mmから12週目には8.2mmに改善し、5例中1例(20%)の対象において、12週目にベースラインからシルマースコアが10mm以上増加した(図6A及び6B参照)。
【0379】
対象は、tCFSにより測定されるドライアイ疾患(DED)の徴候の改善を示した。tCFSは、ベースラインの平均値6.7から12週目に平均値2.7に改善し(図7A参照)、その結果、12週目におけるベースラインからの変化(CFB)は4.0となった(図7B参照)。
【0380】
視覚アナログ尺度(VAS)眼乾燥重症度スコアによって測定されるDEDの症状も改善し、
(i)ベースラインの平均値51から、12週目には平均値33に改善し(図8A及び8B参照)、また
(ii)VAS眼乾燥頻度スコアは、ベースラインの平均値51から、12週目には平均値31に改善した(図9参照)。
【0381】
挿入物の作用発現は、DEDの徴候及び症状(VAS眼乾燥重症度及び頻度スコアによる測定)の両方に対し2週間という早期に見られ、16週間の試験期間にわたって継続した。
【0382】
加えて、眼球表面疾患指数(OSDI)及び眼乾燥の標準的な患者評価(SPEED)スコアも16週間にわたって低下した(図10及び11参照)。
【0383】
実施例4.2:コホート2:ランダム化多施設二重遮蔽ビヒクル対照第2相試験
コホート2は、ヒドロゲル/シクロスポリン挿入物の安全性、忍容性、及び有効性を評価することを意図した進行中のランダム化二重遮蔽ビヒクル対照第2相試験であり、治療割付けは、対象ならびに治験責任医師及びそのスタッフならびに治験依頼者の担当者に対しても遮蔽し、上記のI.試験スケジュールで概説しているような試験スケジュールに従った。
【0384】
ランダム化スケジュールは、試験実施者またはプロジェクトチームとは無関係の有資格の生物統計学者がコンピューターで作成し、二重遮蔽治療段階でランダム化時に対象に投与するヒドロゲル/シクロスポリン及びHV挿入物は同等の外観とした。対象ならびに治験責任医師及びそのスタッフに対し、最終的なデータベースがロックされるまで、治療に関する情報を遮蔽し、試験の実施及びモニタリングに関与する治験依頼者のスタッフは、試験が完了しデータベースがロックされるまで遮蔽されたままとする。
【0385】
来院2では、コホート2の140例の登録対象に対し、適格性の確認後、来院2におけるランダム化スケジュールに従って挿入物(製剤1、2A、2B、及び3)のうちの1つを投与した。挿入物の投与は、上記のII.挿入物設置で概説しているような手順に従った。
【0386】
開鍵が必要な場合、開鍵したデータへのアクセスを試験実施に関与していない個人2名(治験依頼者、メディカルモニター、及び治験依頼者統計担当)に限定するか、または緊急時に必要な場合、治験責任医師が直接アクセスすることにより、試験評価及び目的の完全性が維持される。
【0387】
IV.安全性及び忍容性
刺痛、刺激、かすみ目、または涙目の発生を含む有害事象を継続的に評価した。
【0388】
V.耐久性
挿入物の耐久性は、挿入物の有無をモニターすることによって評価する。
【0389】
VI.生物学的活性/有効性
挿入物の有効性は、各来院時に行う眼科的評価に基づいて評価する。有効性エンドポイントを以下のように定める。
主要エンドポイント
●シルマーテスト(無麻酔)の12週目におけるベースラインからの変化(CFB)及び絶対値
副次エンドポイント
徴候:
●12週目にシルマースコアが10mm以上増加した対象のパーセント
●ベースライン後の各来院時におけるNEIスケールを用いた角膜フルオレセイン染色(tCFS)のCFB及び絶対値
●ベースライン後の各来院時におけるNEIスケールを用いた角膜フルオレセイン染色サブ領域のCFB及び絶対値
●ベースライン後の各来院時におけるNEIスケールを用いた結膜リサミングリーン染色のCFB及び絶対値
症状(対象による報告):
●ベースライン後の各試験来院時における眼乾燥スコア(VAS)のCFB及び絶対値
●ベースライン後の各来院時における眼球表面疾患指数(OSDI(著作権)の総スコア、3つのドメインの各々、及び個々の質問)のCFB及び絶対値。
●ベースライン後の各来院時におけるSPEED質問紙(全体スコア及び個別の質問)のCFB
探索的項目:
●12週目における涙膜破壊時間(TBUT)のCFB
●ベースライン後の全ての診察時における挿入物の有無
●治験責任医師の評価による挿入の容易性
●治験責任医師の評価による可視化の容易性
【0390】
本発明の複数の実施形態について説明してきたが、発明者らの基本的な実施例は、本開示の化合物及び方法を利用する他の実施形態を提供するために変更することができることは明らかである。そのため、本開示の範囲は、例として示された特定の実施形態によってではなく、添付の特許請求の範囲によって定義されるべきであることが理解されよう。
【0391】
本出願全体において、様々な参考文献が引用されている。これらの参考文献の開示内容は、参照により本開示に援用する。
図1
図1.2A】
図1.2B】
図1.2C】
図1.3】
図1.4A】
図1.4B】
図1.4C】
図1.4D】
図1.4E】
図2
図3.1】
図3.2】
図3.3】
図4A
図4B
図5
図6
図7
図8A
図8B
図9
図10
図11
【国際調査報告】