(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-10-12
(54)【発明の名称】特にレドックスフロー電池の、電気化学セルおよび対応するセルスタック
(51)【国際特許分類】
H01M 8/18 20060101AFI20231004BHJP
H01M 8/0273 20160101ALI20231004BHJP
H01M 8/02 20160101ALI20231004BHJP
H01M 8/0258 20160101ALI20231004BHJP
H01M 4/86 20060101ALI20231004BHJP
【FI】
H01M8/18
H01M8/0273
H01M8/02
H01M8/0258
H01M4/86 M
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023518374
(86)(22)【出願日】2021-09-10
(85)【翻訳文提出日】2023-05-15
(86)【国際出願番号】 EP2021074972
(87)【国際公開番号】W WO2022063610
(87)【国際公開日】2022-03-31
(31)【優先権主張番号】102020124801.6
(32)【優先日】2020-09-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】502155482
【氏名又は名称】フラウンホーファー-ゲゼルシャフト ツァー フェルデルング デア アンゲヴァンテン フォーシャング アインゲトラーゲナー フェアアイン
【氏名又は名称原語表記】FRAUNHOFER-GESELLSCHAFT ZUR FORDERUNG DER ANGEWANDTEN FORSCHUNG E.V.
(74)【代理人】
【識別番号】100095614
【氏名又は名称】越川 隆夫
(72)【発明者】
【氏名】ヤン ギルシュック
【テーマコード(参考)】
5H018
5H126
【Fターム(参考)】
5H018AA08
5H126AA02
5H126AA08
5H126AA15
5H126BB10
5H126FF05
5H126HH01
(57)【要約】
少なくとも1つのセルフレーム(4)と少なくとも1つの電極(6)とを備えた、特にレドックスフロー電池の、電気化学セル(2)が説明および図示される。この電気化学セル(2)においては、セルフレーム(4)がセル内部(5)の周囲を取り囲み、セルフレーム(4)は、電解液をセル内部(5)に給送するための少なくとも1本の給送チャネル(13)と、セル内部(5)から電解液を排出するための少なくとも1本の排出チャネル(14)とを有し、少なくとも1つのセルフレーム(4)は、セル内部(5)に突出する少なくとも1本のフィンガ要素(17)を有し、電極(6)はセル内部(5)に、少なくとも1本のフィンガ要素(17)の少なくとも両側の領域に、配置されている。より低い圧力損失とより高い出力密度とを確実にもたらす、より適切な貫流を実現するために、少なくとも1本の給送チャネル(13)および/または少なくとも1本の排出チャネル(14)が少なくとも部分的にフィンガ要素(17)内に設けられ、少なくとも1本のフィンガ要素(17)は、電解液を給送するためのセル内部(5)への少なくとも1つの出口開口(20)、および/または電解液を排出するためのセル内部(5)からの少なくとも1つの入口開口(21)、を有する。
【選択図】
図2B
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つのセルフレーム(4)と少なくとも1つの電極(6)とを有する、特にレドックスフロー電池の、電気化学セル(2)であって、前記セルフレーム(4)はセル内部(5)の周囲を取り囲み、前記セルフレーム(4)は、電解液を前記セル内部(5)に給送するための少なくとも1本の給送チャネル(13)と、電解液を前記セル内部(5)から排出するための少なくとも1本の排出チャネル(14)とを有し、前記少なくとも1つのセルフレーム(4)は、前記セル内部(5)に突出する少なくとも1本のフィンガ要素(17)を有し、前記電極(6)は、前記セル内部(5)に、前記少なくとも1本のフィンガ要素(17)の少なくとも両側の領域に、配置されている、電気化学セル(2)において、
前記少なくとも1本の給送チャネル(13)および/または前記少なくとも1本の排出チャネル(14)は少なくとも部分的に前記フィンガ要素(17)内に設けられていることと、前記少なくとも1本のフィンガ要素(17)は前記電解液を給送するための前記セル内部(5)への少なくとも1つの出口開口(20)、および/または前記電解液を排出するための前記セル内部(5)からの少なくとも1つの入口開口(21)、を有することと、を特徴とする電気化学セル。
【請求項2】
前記セル内部(5)の前記電極(6)は、前記少なくとも1本の給送チャネル(13)から前記少なくとも1本の排出チャネル(14)への前記電解液の少なくとも部分的な貫流のための多孔質部分を有することを特徴とする、請求項1に記載の電気化学セル。
【請求項3】
前記電極(6)の多孔質部分(23)に導電接続された、特に双極板の形態の、前記電極(6)の非多孔質部分(22)が前記セル内部(5)を、半透膜(7)とは反対の側で、閉じていることを特徴とする、請求項2に記載の電気化学セル。
【請求項4】
前記少なくとも1本のフィンガ要素(17)は、前記セル内部を跨いで前記セル内部(5)の2つのセルチャンバ(18)を互いに隔てる一続きのストラットとして形成されていることを特徴とする、請求項1~3の何れか一項に記載の電気化学セル。
【請求項5】
前記少なくとも1本のフィンガ要素(17)の高さは、少なくとも部分的に、前記フィンガ要素(17)の対応する領域において、前記セル内部(5)の、および/または前記セルフレーム(4)の、高さに少なくともほぼ相当することと、好ましくは、前記フィンガ要素(17)は、一方の側で半透膜(7)に当接し、もう一方の側で前記電極(6)の非多孔質部分(22)に当接していることと、を特徴とする、請求項1~4の何れか一項に記載の電気化学セル。
【請求項6】
少なくとも1本の流液チャネル(24)が前記電極(6)の、特に前記多孔質部分(23)、に嵌め込まれていることと、好ましくは、前記少なくとも1本の流液チャネル(24)は、前記少なくとも1本のフィンガ要素(17)の入口開口(21)および/または出口開口(20)につながっていることと、を特徴とする、請求項1~5の何れか一項に記載の電気化学セル。
【請求項7】
入口開口(21)につながっている前記電極(6)の少なくとも1本の流液チャネル(24)と出口開口(20)につながっている前記電極(6)の少なくとも1本の流液チャネル(24)とは、特に何れの場合も、電解液の貫流のために、前記電極(6)の多孔質部分(23)を介して互いに隔てられていることを特徴とする、請求項6に記載の電気化学セル。
【請求項8】
少なくとも1つの入口開口(21)につながっている複数の流液チャネル(24)と少なくとも1つの出口開口(20)につながっている複数の流液チャネル(24)とは、少なくとも1つの方向に互いに交互に設けられていることと、および/または前記電極(6)の前記少なくとも1本の流液チャネル(24)と前記セルフレーム(4)の前記少なくとも1本のフィンガ要素(17)とは互いに少なくともほぼ垂直に配置されていることと、を特徴とする、請求項6または7に記載の電気化学セル。
【請求項9】
互いに少なくともほぼ平行に配置された複数のフィンガ要素(17)が設けられていることと、および/または少なくともほぼ平行な複数の流液チャネル(24)が前記電極(6)に設けられていることと、を特徴とする、請求項1~8の何れか一項に記載の電気化学セル。
【請求項10】
奇数のフィンガ要素(17)が設けられていることと、好ましくは、前記フィンガ要素は、それらの配置順に、給送チャネル(13)と排出チャネル(14)とを少なくとも部分的に交互に備えていることと、を特徴とする、請求項1~9の何れか一項に記載の電気化学セル。
【請求項11】
前記少なくとも1本のフィンガ要素(17)は、グリッド構造を形成していることを特徴とする、請求項1~10の何れか一項に記載の電気化学セル。
【請求項12】
前記少なくとも1本のフィンガ要素(17)は、前記半透膜(7)に、および/または前記電極(6)の前記非多孔質部分(22)に、特に前記双極板に、材料結合されていることと、好ましくは、前記材料結合された接続部(27)は接着接合または溶接によって接合されていることと、を特徴とする、請求項3~11の何れか一項に記載の電気化学セル。
【請求項13】
前記電極(6)の前記非多孔質部分(22)、特に前記双極板、と前記電極(6)の前記多孔質部分(23)とは、互いに堅固に接続されていないことと、好ましくは、前記電極(6)の前記非多孔質部分(22)、特に前記双極板、と前記電極(6)の前記多孔質部分(23)とは、互いに形状嵌合式に係合していることと、を特徴とする、請求項3~12の何れか一項に記載の電気化学セル。
【請求項14】
前記電極(6)の前記非多孔質部分(22)の、特に前記双極板の、複数のリブ(26)が前記電極(6)の前記多孔質部分(23)に形状嵌合式に係合していることと、好ましくは、前記電極(6)の前記非多孔質部分(22)の、特に前記双極板の、前記複数のリブ(26)は、前記電極(6)の前記多孔質部分(23)の前記流液チャネル(24)に少なくとも部分的に形状嵌合式に係合していることと、を特徴とする、請求項13に記載の電気化学セル。
【請求項15】
請求項1~14の何れか一項に記載の電気化学セルを複数備えた、特にレドックスフロー電池の、セルスタック(1)。
【請求項16】
前記複数のフィンガ要素(17)は、前記複数の電気化学セルの両ハーフセルにそれぞれ設けられていることと、および/または、少なくとも互いに隣接する複数のハーフセル(3)の前記複数のフィンガ要素(17)は、少なくとも部分的に、前記複数の電気化学セルの前記積み重ね方向に互いに少なくともほぼ位置合わせされて配置されていることと、を特徴とする、請求項15に記載のセルスタック。
【請求項17】
前記複数のフィンガ要素(17)の前記それぞれ位置合わせされた部分の高さは、前記複数のフィンガ要素(17)の前記位置合わせされた部分の領域において、前記それぞれのセル内部(5)の、および/または前記それぞれのセルフレーム(4)の、高さに少なくともほぼ相当することと、好ましくは、前記複数のフィンガ要素(17)の前記それぞれ位置合わせされた部分は、一方の側で半透膜(7)に当接し、もう一方の側で前記電極(6)の非多孔質部分(22)、特に前記双極板、に当接していることと、を特徴とする、請求項15に記載のセルスタック。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも1つのセルフレームと少なくとも1つの電極とを有する、特にレドックスフロー電池の、電気化学セルであって、セルフレームはセル内部の周囲を取り囲み、セルフレームは、電解液をセル内部に給送するための少なくとも1本の給送チャネルと、電解液をセル内部から排出するための少なくとも1本の排出チャネルとを有し、少なくとも1つのセルフレームは、セル内部に突出する少なくとも1本のフィンガ要素を有し、電極はセル内部に、少なくとも1本のフィンガ要素の少なくとも両側の領域に、配置されている、電気化学セルに関する。更に、本発明は、対応する電気化学セルを複数備えた、特にレドックスフロー電池の、セルスタックに関する。
【背景技術】
【0002】
電気化学セルは、さまざまな実施形態で公知であり、電気化学反応が電気化学セル内で生じるため、電気化学リアクタと称されることもある。電気化学セルはその用途に応じて設計され得る。例えば、さまざまな電極での化学反応によって有用な電気エネルギーを供給する電気化学的電流源の形態のガルバニ電池として設計され得る。代わりに、電気化学セルは、電解セルであってもよい。電解セルは、外部電圧の印加によって特定の生成物を生じさせる。この場合、蓄電池セルは、ガルバニ電池のような電流源として、更には電解セルの場合のように電流貯蔵デバイスとして、交互に機能する。
【0003】
本発明は、あらゆる種類の電気化学セルと共に使用可能である。ただし、本発明は、蓄電池セルに関連して特に好適であり、ここではレドックスフロー電池に関連して好ましい。レドックスフロー電池自体はさまざまな実施形態で古くから公知である。そのような実施形態は、例として特許文献1および特許文献2に記載されている。レドックスフロー電池の重要な一利点は、能力および容量のスケーラビリティが柔軟であり、ひいては、低出力レベルが選択された場合でも極めて大量の電気エネルギーの貯蔵を可能にする、更にはこの逆も可能にする、その適合性にある。エネルギーは、電解液に貯蔵される。電解液は、複数の外部タンクに備えておくことができる。電解液は、通常、酸化状態がそれぞれ異なる複数の金属イオンを含む。電気エネルギーを電解液から抽出するために、または電解液を再充電するために、電解液は、所謂電気化学セルを通して送られる。
【0004】
電気化学セルは、一般に、半透膜の形態の隔離板によって互いに隔てられた2つのハーフセルから形成されている。各ハーフセルは、電解液と電極とを有する。半透膜は、1つの電気化学セルの陰極と陽極とを空間的および電気的に隔てる役割を有する。したがって、半透膜はイオンに対して透過性である必要がある。イオンは、貯蔵されている化学エネルギーを電気エネルギーに、またはこの逆に、変換させる。半透膜は、例えば、微孔性プラスチック、ならびにガラス繊維製またはポリエチレン製の不織材、および所謂ダイヤフラム、から形成可能である。電気化学セルの両電極において、酸化還元反応が起きる。一方の電極において電解液によって電子が放出され、もう一方の電極において電子が吸収される。電解液の金属および/または非金属イオンは、酸化還元対を形成し、結果として酸化還元電位を発生させる。酸化還元対の例は、鉄-クロム、ポリスルフィド-臭化物、またはバナジウムである。これらの、または他の、酸化還元対は、基本的に水溶液または非水溶液に存在可能である。
【0005】
酸化還元電位の結果として電位差がその間に形成される1つのセルの両電極は、セルの外側で、例えば電気負荷を介して、互いに電気的に接続されている。電子は、セルの外側で、一方のハーフセルからもう一方のハーフセルに移動する。他方、両電解液のイオンは、一方のハーフセルからもう一方のハーフセルに、半透膜を通って直接移動する。レドックスフロー電池を再充電するために、電位差を、電気負荷ではなく、両ハーフセルの電極に、例えば充電装置によって、印加できる。この電位差によって、両ハーフセルの電極で起こる酸化還元反応が逆になる。
【0006】
記載のセルを形成するために、とりわけ、セル内部を取り囲むセルフレームが使用される。セルフレームは、一般に、セル内部を完全には取り囲まず、周囲の狭い側に沿ってのみ取り囲む。すなわち、セルフレームは、セル内部の周囲に延び、2つの相対する大面積側面を互いに隔てる。これら側面は半透膜または電極に対応付けられている。セルフレームの端縁によって形成されるセルフレームの厚さは、一般に、相対する大面積側面を画成するセルフレームの幅および高さより著しく小さい。
【0007】
電気化学セルの各ハーフセルは、このようなセルフレームを備える。このセルフレームは、例えば射出成形によって、熱可塑性材料から製造される。2つのセルフレームの間に半透膜が配置される。半透膜は、対流物質移動に関しては両ハーフセルの電解液を互いに隔てるが、一方のハーフセルからもう一方のハーフセルへの特定のイオンの拡散を許容する。更に、各セル内部を流れる電解液に電子が接触するように、電極が各セル内部に割り当てられる。電極は、例えば、各セルフレームのセル内部を半透膜とは反対の側で封止できる。この場合、セル内部は、基本的に空にしておくことができ、何れの場合も1種類の電解液のみで充填可能である。ただし、各電極は、セル内部に少なくとも部分的にも設けられ得る。この場合、電極は、一般に、電解液が電極を部分的に通って流れることができるように、設計されている。多くの場合、ここには比表面積が大きい電極が考えられる。そこでは、対応する電気化学反応が相応に迅速および/または広範囲に起こり得る。これは、最終的に、セルの容積当たりの能力を高める。ただし、電極がセル内部に突出する場合でも、セル内部は、通常、半透膜とは反対の側で電極によって閉じられている。例えば触媒または別の物質で被覆され得る所謂双極板も電極の非多孔質部分として使用可能である。
【0008】
各セルフレームは、複数の開口部と複数のチャネルとを有する。これらを通って、対応する電解液は供給ラインから各セル内部に流入でき、そこから再び抜き出されて除去ラインに給送され得る。各ハーフセルの電解液は、レシーバタンクから供給ラインおよび除去ラインを介して、収集タンクに送られる。これにより、電解液の再使用が可能になるので、電解液を廃棄または交換する必要がない。
【0009】
レドックスフロー電池が単一セルのみを備える場合、各ハーフセルのための供給ラインおよび各ハーフセルのための除去ラインは、ハーフセルを形成するセルフレームの外側に位置する。各セルフレームは、少なくとも2つの開口部を備える。これら開口部のうちの少なくとも1つは供給ラインに接続され、別の少なくとも1つの開口部は除去ラインに接続されている。セルフレームの内側で、各開口部は、セル内部に開口している流液チャネルに接続されている。これにより、電解液を供給ラインから給送チャネルを介してセル内部に給送でき、セル内部を流れた電解液を排出チャネルから排出できる。電解液をセル内部の幅全体にわたってより一様に分散させるために、および電解液をセル内部の幅全体にわたってより一様に抜き取るために、外側開口部とセル内部との間で、すなわちセルフレームのフレームケーシングの領域において、各給送チャネルおよび/または排出チャネルを1回または数回分岐させることができる。あるいは、電解液を給送もしくは排出するために、一連の個別の給送チャネルおよび/または排出チャネルがセルフレームに設けられ得る。どちらの場合も、電解液は、セルフレームの一方の側の給送チャネルの出口開口を介して、できる限り一様に分散されてセル内部に入り、セルフレームのもう一方の側の排出チャネルを介して、同じくできる限り一様に分散されてセル内部から出る。このようにして、セル内部を通る、できる限り一様な流れを実現しようと試みている。各給送チャネルは、それぞれの他端において、入口開口を介して、供給ラインに接続されている。これにより、電解液は、供給ラインから、各ハーフセルのセルフレームの少なくとも1本の給送チャネルを通って、対応するセル内部に達することができる。
【0010】
必要であれば、同じ種類の複数の電気化学セルが1つのレドックスフロー電池において組み合わされる。この目的のために、これらのセルは、通常、互いに上下に積み重ねられる。そのため、これらのセルの全体がセルパックまたはセルスタックとも称される。電解液は、通常、個々のセルを通って互いに並列に流れるが、これらのセルは、通常、電気的に直列に接続される。したがって、これらのセルは、通常、流体的に並列に、且つ電気的に直列に、接続されている。この場合、電解液の充電状態は、何れの場合も、セルスタックのそれぞれのハーフセルのうちの一方において同じである。電解液をセルスタックの対応するハーフセルに分配するために、およびそれぞれのハーフセルから電解液を一斉に排出するために、複数のハーフセルが、供給ラインおよび除去ラインによって、互いに接続されている。1つのセルの各ハーフセルまたは各セル内部に流れる電解液は互いに異なるので、この2つの電解液は、セルスタックを通るときに、互いに隔てられている必要がある。したがって、通常、2つの別個の供給ラインおよび2つの別個の除去ラインが、セルスタックに沿って、設けられている。これらチャネルの各々は、通常、セルフレーム自体によって部分的に形成されている。セルフレームは、この目的のために、4つの開口部を有する。これらの開口部は、セルスタックに沿って延在し、供給ラインおよび除去ラインを形成する。これら供給ラインおよび除去ラインは、次々と配置され、必要であれば封止材によって互いに隔てられる。
【0011】
複数の電気化学セルにおいて分かっていることであるが、出力密度を高めるために有用であるのは、少なくとも一方のハーフセル内の電極がセル内部に少なくとも部分的に係合し、多孔質であり、対応する電解液がこの電極を通って流れる場合である。ただし、出力密度の上昇が十分でないことが多い。これが示しているのは、電極によってもたらされた表面積が十分に利用されていないか、またはできる限り効果的に利用されていないことである。これは、同様に多孔質の固体を通る流れにおいて観察可能であるように、電極を通る流れの非一様性によって説明可能である。圧力損失は対応する自由流過横断面および体積流量に大きく依存するので、多孔質の非一様性が僅かであっても非一様な貫流を引き起こす。ただし、電極の多孔質部分がセル内部に全く係合していない場合も、セル内部の非一様な貫流が生じ得る。
【0012】
電解液の流れを少なくとも1本の給送チャネルから少なくとも1本の排出チャネルに、セル内部を通して、案内するために、セル内部の中まで、またはセル内部を通って、延在するフィンガ要素またはストラットを備えたセルフレームが提案されている。この場合、フィンガ要素またはストラットの両側にセルチャンバが設けられている。一方の側からもう一方の側までセル内部全体を通って延在するストラットの場合、これらストラットは複数のセルチャンバを互いに完全に隔てることができるので、対応する電解液のそれぞれ異なる部分がこれらセルチャンバを通って流れる。自由端を有するフィンガ要素の場合、これらセルチャンバは、少なくともフィンガ要素の自由端の領域において相互接続されている。これらセルチャンバの全てにおいて、必要であれば、電解液を貫流させるための多孔質部分を電極の一部に設けることができる。電極の多孔質部分により、給送チャネルから同じセルフレームの排出チャネルに、少なくとも部分的に電極を通して、電解液を流すことができる。さもなければ、対応する電解液は、給送チャネルから同じセルフレームの排出チャネルに、対応する電極の非多孔質面に沿って流れる。
【0013】
ただし、対応するフィンガ要素またはストラットの使用は、理想的に調整可能な、低い圧力損失を有する申し分のない貫流を可能にしない。したがって、多くの場合、対応する電気化学セルおよびセルスタックの潜在的な出力密度を限られた程度でしか実現できない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】欧州特許出願公開第0 051 766(A1)号
【特許文献2】米国特許出願公開第2004/0170893(A1)号
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0015】
したがって、本発明は、より低い圧力損失およびより高い出力密度を確実に可能にする、より適切な貫流を実現できるように、冒頭で言及し上でより詳細に説明した種類の電気化学セルおよびセルスタックを設計し更に発展させるという目的に基づく。
【0016】
この目的は、請求項1の前提部分に記載の電気化学セルにおいては、少なくとも1本の給送チャネルおよび/または少なくとも1本の排出チャネルが少なくとも部分的にフィンガ要素内に設けられていることと、少なくとも1本のフィンガ要素が、電解液を給送するためのセル内部への少なくとも1つの出口開口、および/または電解液を排出するためのセル内部からの少なくとも1つの入口開口、を有することと、で達成される。
【0017】
前記課題は、更に、請求項15によると、請求項1~14の何れか一項に記載の電気化学セルを複数備えた、特にレドックスフロー電池の、セルスタックによって解決される。
【0018】
したがって、各セルフレームのフィンガ要素は、セル内部を複数の異なるセルチャンバに分割するためばかりでなく、セル内部の電解液の流れを相応に案内するためにも使用可能である。場合によっては、フィンガ要素は、少なくとも1本の給送チャネル、および/または少なくとも1本の排出チャネル、を収容できるので、電解液は、対応する出口開口および/または入口開口を介して、セル内部に流入できる、および/またはセル内部から流出できる。このようにして、電解液の流れをはるかに精確に規定および調整できる。その結果、電解液の流れは、ランダム性が低減され、セル内部の、特にセル内部に供給される電解液の、不可避の不規則性に左右され難くなる。その結果、圧力損失の予測をより確実に行える。加えて、電解液の流れをより一様に分散でき、必要であれば、電解液の移動距離をより短くする必要がある。その結果、セルフレームのフィンガ要素の適切な使用によって、セル内部にわたる電解液の圧力損失を低減できる。
【0019】
特に、セルフレームは板様の形状を有し、そこにセル内部が組み込まれている。したがって、セルフレームは、セル内部によって、またはセルフレーム自体によって、画成された平面に垂直な高さまたは厚さを有する。この高さまたは厚さは、セル内部によって、またはセルフレーム自体によって、画成された平面に平行な長さまたは幅の数分の一であり得る。加えて、より単純且つより好都合であるのは、セルフレームがセル内部の周囲に少なくともほぼ一定の高さまたは厚さを有する場合である。この場合、セル内部の高さまたは厚さは、必要であれば、セルフレームの高さまたは厚さに少なくともほぼ相当させ得る。ただし、特に、セル内部の高さをセルフレームの高さよりいくらか小さくすることもできる。その理由は、半透膜および/または電極の非透過性部分を少なくとも部分的にセルフレーム内に設けることができるからである。更に、セルフレームがプラスチック製であると好都合である。その場合、少なくとも1本の給送チャネル、および/または少なくとも1本の排出チャネル、をセルフレーム内に簡単な方法で形成するために、射出成形による製造が適している。
【0020】
電気化学セルの特に好適な第1の実施形態においては、セル内部の電極は、少なくとも1本の給送チャネルから少なくとも1本の排出チャネルへの電解液の少なくとも部分的な貫流のための多孔質部分を有する。電極の多孔質部分は、好適に設けられた電極の非多孔質部分と異なり、電解液が横断できるので、電極の多孔質部分が占める空間はセル内部に対応付けられる。これは、特に機能上の観点から、理にかなっている。電極の多孔質部分は、一体に、またはいくつかの部分から、形成可能である。簡素化のためには、一体設計が適切であり得る。更に、電極は、特にフェルト様の、繊維から形成可能である。グラファイト繊維の形態にできるグラファイトは、電極、電極の少なくとも多孔質部分、のために基本的に適した材料である。電極の多孔質部分は、電極と電解液との間に極めて大きな境界面をもたらす。これは、対応する境界面において生じるプロセスおよび反応のために好都合である。特に、これらプロセスおよび反応が、より迅速に、および/またはより広範に、起こる。
【0021】
このコンテキストにおいて、特に有用であるのは、電極が複数の異なる部分を有する場合である。電極の多孔質部分がセル内部に設けられ、電極の非多孔質部分に導電的に接続されている。電極の多孔質部分と異なり、電極の非多孔質部分は電解液を通さない。非多孔質部分は、セル内部を少なくとも部分的に閉じるために使用可能である。特に、セルフレームの一方の側で、セル内部を封鎖できる。この側は、半透膜とは反対の側であり、セル内部を対応する側で封鎖できる。セル内部は、セルフレームの長さと幅とを画成する側で電極と半透膜とによって閉じられ、セルフレームの高さまたは厚さを画成するセルフレームの狭い側でセルフレーム自体によって閉じられている。ただし、これは、電解液が少なくとも1本の給送チャネルを介してセル内部に給送されること、および/または電解液が少なくとも1本の排出チャネルを介して抜き取られること、を排除しない。これにより、互いに上下に積み重ねられた複数の電気化学セルから成るセルスタックを極めて容易且つ効率的に形成することもできる。これに拘らず、電極の非多孔質部分を双極板の形態にすることができる。双極板と多孔質電極とを組み合わせて使用することは、公知のいくつかの電気化学セルのために既に提供されている。ここでは、簡素化のために、同様の設計が有用であると思われる。
【0022】
電気化学セルまたはセルスタックの製作中、電極は、少なくともその多孔質領域が、不用意に圧縮されることがある。この場合、電極のこれらの領域は電解液をもはや所望どおりに貫流させられないので、圧力損失が増加する。ただし、電解液の相応の圧力上昇は、通常、望ましくない。その理由は、電気化学セルまたはセルスタックの損傷および/または漏洩を容易に引き起こし得るからである。電極の過度の圧縮を防止するために、および/または電解液をできる限り一様にセル内部に流すために、好都合であるのは、必要であれば、少なくとも1本のフィンガ要素を、セル内部を跨ぐ少なくともほぼ一続きのストラットとして、設計することである。これにより、セル内部の2つのセルチャンバをフィンガ要素によって互いに隔てることができるので、一方のセルチャンバ内の状態がもう一方のセルチャンバ内の状態に及ぼす影響が皆無か、または限られた範囲に限られる。したがって、少なくとも一方のセルチャンバ内の電解液の流れがより予測可能になり、少なくともほぼ所定どおりになる。これは、電気化学セルの全体的性能を向上させ得る。
【0023】
フィンガ要素とは、自由端を有し得る要素であると基本的に理解されたい。したがって、フィンガ要素はセル内部に突出でき、その自由端をセル内部に終端させ得る。ただし、フィンガ要素を自由端なしに設計することもできる。この場合、フィンガ要素はストラットの形態に設計される。1本のストラットは、セル内部を取り囲むセルフレームの領域に、2つの異なる箇所で、接続され、それらの間でセル内部に延在する。フィンガ要素またはストラットは、好ましくは2つのセルチャンバを互いから区切る。この点に関して、更に好適であるのは、ストラットがセルフレームの一方の側からセルフレームのもう一方の側まで、セル内部を横断して延在する場合である。更に、簡素化のために、これは、セルフレーム、および/またはセル内部、の長さまたは幅に平行な方向にし得る。代わりに、または加えて、簡素化のために同じく好適であるのは、フィンガ要素またはストラットがセル内部に直線状に延在する場合である。
【0024】
電極の特定の部分領域の偶発的な過度の圧縮を簡単に回避できるのは、フィンガ要素の対応する領域において、少なくとも1本のフィンガ要素の高さが、少なくとも部分的に、セル内部、および/またはセルフレーム、の高さに少なくともほぼ相当することが保証されている場合である。この場合、過度の押圧力をセルフレーム上に逃すことができるので、電極が押圧力を必要に応じてかなりの程度まで吸収する必要がない。これが特に当てはまるのは、フィンガ要素が一方の側で半透膜に、もう一方の側で電極の非多孔質部分に、当接している場合である。この場合、セルフレーム上に逃された力は、その後、つながっている複数の構成要素に逃されるので、発生した圧力は、電気化学セルの望ましくない変形を引き起こし得ないか、引き起こしたとしても僅かである。
【0025】
セル内部を通る電解液の流れをより一様にすることによって、セル内部にわたる電解液の圧力損失を減らすことができる。これを実現するために、少なくとも1本の流液チャネルを電極に嵌め込むことができる。流液チャネルは、流液チャネル内の自由流過横断面が電極の多孔質部分の平均細孔直径より著しく大きい、特に数倍大きい、という事実を特徴とする。この場合、電解液は、流液チャネルを通って、電極の細孔に流入できる。代わりに、または加えて、電極の細孔から出る電解液を流液チャネルに集めることができる。この背景に対して、特に適しているのは、少なくとも1本の流液チャネルが電極の多孔質部分に嵌め込まれている場合である。したがって、代わりに、または加えて、好都合であり得るのは、少なくとも1本の流液チャネルが少なくとも1本のフィンガ要素の入口開口および/または出口開口につながっている場合である。この場合、分散させるべき電解液を流液チャネルによって電極の多孔質部分に分散させることができる、および/または収集すべき電解液を流液チャネルによって収集できる。
【0026】
更に、電解液の貫流のために、一様且つ予測可能な流れを保証できるのは、入口開口につながっている電極の少なくとも1本の流液チャネルと出口開口につながっている電極の少なくとも1本の流液チャネルとが電極の多孔質部分によって互いに隔てられている場合である。この場合、所謂短絡流は発生し得ないが、電解液は電極の多孔質部分の細孔を通って常に最短距離を流れるはずである。したがって、このような流液チャネルがいくつかある場合、電解液の貫流のために得策であるのは、これら流液チャネルの各々が電極の多孔質部分によって互いに隔てられている場合である。
【0027】
セルフレームのセル内部への電解液の流れの分散を一様にできるのは、少なくとも1つの入口開口につながっている流液チャネルと少なくとも1つの出口開口につながっている流液チャネルとが少なくとも1つの方向に互いに交互に設けられている場合である。この場合、この方向は、セルフレームによって画成された平面に平行に位置合わせされていることが好ましい。代わりに、または加えて、電極の少なくとも1本の流液チャネルとセルフレームの少なくとも1本のフィンガ要素とを互いに少なくともほぼ垂直に配置することによって、セル内部の一様な電解液の流れを支援できる。この場合、電解液は、フィンガ要素を通って一方向に流れ、その後、フィンガ要素に垂直な一方向に、電極の少なくとも1本の流液チャネルを通って、流れることができる。
【0028】
必要であれば、少なくとも1本のフィンガ要素に伴う諸利点をより広範に利用できるのは、互いに少なくともほぼ平行に配置された複数のフィンガ要素が設けられている場合である。これにより、より大きなセル内部でも、セル内部を通る電解液の一様な貫流を実現できる。代わりに、または加えて、同じことが当てはまるのは、少なくともほぼ平行な複数の流液チャネルが電極に設けられている場合である。
【0029】
電解液を貫流させるためにできる限り効率的にセル内部を使用するために得策であるのは、奇数のフィンガ要素を対応するセルフレームに設けることである。これが特に当てはまるのは、複数のフィンガ要素が、それらの配置順に、給送チャネルと排出チャネルとを少なくとも部分的に交互に備えている場合である。この場合、電解液は、1本のフィンガ要素内の給送チャネルを介してセル内部に給送可能であり、隣接するフィンガ要素の、またはセルフレームの周縁の、排出チャネルを介して排出可能である。加えて、これにより、セル内部の電解液の流れの方向を、すなわち、常に給送チャネルから排出チャネルへと、精確に規定できる。
【0030】
ストラットと同様に、フィンガ要素は必ずしも直線状である必要はない。有用であり得るのは、例えば、フィンガ要素またはストラットがグリッド構造を形成する場合である。これにより、セル内部を個々の象限に分割できる。この場合、これら象限は、個々の独立したセルチャンバを形成できる。更に、追加の接続部は、セルフレームの更なる補強をもたらし得る。この場合、フィンガ要素またはストラットの個々のセグメントは、隣接する半透膜または、特に、電極の非多孔質部分、との材料結合または形状嵌合接続のために使用することも可能である。このコンテキストにおいて、しかしこのコンテキストに限らず、有用であると判明し得るのは、1本のフィンガ要素内の、または1本のストラット内の、少なくとも1本の給送チャネル、および/または少なくとも1本の排出チャネル、が一方向にのみ延在する場合である。この場合、少なくとも1本の給送チャネル、および/または少なくとも1本の排出チャネル、に対して横断的に位置合わせされたフィンガ要素またはストラットの複数部分は、電解液を導通させない。これらの部分は、電解液の導通以外の目的に役立つ。
【0031】
ただし、フィンガ要素またはストラットの設計に拘らず、得策であり得るのは、少なくとも1本のフィンガ要素を半透膜に、および/または、特に、電極の非多孔質部分に、材料結合させることである。これにより、電気化学セルは、全体として安定性および堅牢性が増す。したがって、セルフレームひいては電気化学セルは、全体として、望ましくない変形または漏洩を蒙りにくくなる。電極の場合、これが特に当てはまるのは、少なくとも1本のフィンガ要素が双極板に接続されている場合である。双極板は、一般に、高いねじり剛性または面積慣性モーメント自体を既に提供している。構造的に単純な材料結合接続の場合、接着接合または溶接接続が特に適している。
【0032】
特に双極板として設計可能な、電極の非多孔質部分と電極の多孔質部分とは、互いに堅牢に接続されている必要がない。これにより、電気化学セルの製造の簡素化および電極の損傷の回避が可能になる。それにも拘わらず、通常、好適であるのは、電極の非多孔質部分または双極板と電極の多孔質部分とが形状嵌合式に係合している場合である。これにより、例えば、組み立ておよび動作中、電極の前記複数部分の僅かな移動が可能になると同時に、電極のこれら部分が互いに所定どおりに確実に位置合わせされていることが保証される。
【0033】
電極の非多孔質部分への電極の多孔質部分の簡単且つ効果的な押し込み接続のために有用であるのは、電極の非多孔質部分が複数のリブを有する場合である。この場合、電極の非多孔質部分の、または双極板の、複数のリブを電極の多孔質部分に形状嵌合式に係合させることによって、電極のこれら異なる部分を互いに対して位置決めすることができる。電極の非多孔質部分の、または双極板の、複数のリブが電極の多孔質部分の流液チャネルに少なくとも部分的に形状嵌合式に係合する場合は、電極の構造が全体として補強されるばかりでなく、セル内部を通る電解液の一様な流れも促進される。その理由は、形状嵌合の故に、流液チャネルの幅が一定に維持されるからである。
【0034】
セルスタックの特に好適な第1の実施形態においては、複数のフィンガ要素が複数の電気化学セルの両ハーフセルにそれぞれ設けられている。これにより、上記の諸利点をいっそう、または電気化学セルの両ハーフセルにおいて、使用できる。このコンテキストにおいて、特に好都合であるのは、少なくとも相互に隣接するハーフセルのフィンガ要素が少なくとも部分的に電気化学セルの積み重ね方向に互いに少なくともほぼ位置合わせされて配置されている場合である。これにより、ハーフセルのセル内部における電解液の流れを一様にできる。加えて、これにより、セルフレームと半透膜との、必要であれば更に電極との、間の形状嵌合を実現できる。これにより、フィンガ要素から隣接するフィンガ要素に、異なるハーフセルを介して、必要であれば、異なる電気化学セルを介して、力を逃すことができる。これにより、望ましくない変形または漏洩を起こしにくい、安定した堅牢なセルスタックを提供できるので、例えば、ハーフセル間、および/または電気化学セル間、に過度の接触圧を必要としない。
【0035】
特に、電極を通る流れを過度の圧縮の結果として非一様化する電極の過度の圧縮なしに、対応する形状嵌合を実現できるのは、各フィンガ要素のそれぞれ位置合わせされた部分の高さが、各フィンガ要素の位置合わせされた部分の領域において、それぞれのセル内部の、および/またはそれぞれのセルフレームの、高さに少なくともほぼ相当する場合である。この場合、フィンガ要素は半透膜および電極に好適に接触しているので、フィンガ要素は、電気化学セルまたはセルスタックをあまり変形させずに、隣接するフィンガ要素に力を伝達できる。これが特に当てはまるのは、各フィンガ要素のそれぞれ位置合わせされた部分が一方の側で半透膜に当接し、もう一方の側で電極の非多孔質部分、特に双極板、に当接している場合である。
【0036】
以下においては、一実施形態の一例を単に示している図面によって、本発明をより詳細に説明する。図面には、以下の図が示されている。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【
図1A】レドックスフロー電池の形態の本発明による第1のセルスタックの長手方向断面図である。
【
図1B】レドックスフロー電池の形態の本発明による第1のセルスタックの長手方向断面図である。
【
図2A】
図1のセルスタックの本発明による電気化学セルのセルフレーム、ならびにセルフレームのセル内部の対応付けられた電極、の平面図である。
【
図2B】
図1のセルスタックの本発明による電気化学セルのセルフレーム、ならびにセルフレームのセル内部の対応付けられた電極、の平面図である。
【
図2C】
図1のセルスタックの本発明による電気化学セルのセルフレーム、ならびにセルフレームのセル内部の対応付けられた電極、のセルフレームの平面に垂直な断面B-Bに沿った断面図である。
【
図2D】
図1のセルスタックの本発明による電気化学セルのセルフレーム、ならびにセルフレームのセル内部の対応付けられた電極、のセルフレームの平面に垂直な断面C-Cに沿った反対側の断面図である。
【
図4】本発明による第2のセルスタックの一細部の拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
図1Aおよび
図1Bには、特にレドックスフロー電池の形態の、電気化学セル2のセルスタック1、すなわちセルパック、が長手方向断面図で示されている。セルスタック1は、3つのセル2を備え、各セル2は、対応する電解液をそれぞれ備えた2つのハーフセル3を有する。各ハーフセル3は、セルフレーム4を有する。セルフレーム4は、セル内部5を備える。レシーバタンクに貯蔵されている電解液をセル内部5に通すことができる。電極6がセル内部5に少なくとも部分的に係合している。電極6は、更に、セル内部5を片側で封止して閉じる。それぞれのセル内部5に流れる電解液は、互いに異なる。各セル内部5は、同じ電気化学セル2の第2ハーフセル3のセルフレーム4に隣接する電極6とは反対の側で、2つのハーフセル3のそれぞれのセルフレーム4の間に設けられた半透膜7によって閉じられている。したがって、2つのハーフセル3の2つの異なる電解液がもう一方のハーフセル3のセルフレーム4のセル内部5に対流移動することが防止される。ただし、イオンは、半透膜7を介した拡散によって、一方の電解液からもう一方の電解液に通過できるので、電荷輸送が生じる。1つのセル2の両ハーフセル3の各電極6における電解液の酸化還元対の酸化還元反応の故に、電子が放出または吸収される。放出された電子は、レドックスフロー電池の外側に設けられた、必要であれば電気負荷を有する、電気接続を介して、1つのセル2の一方の電極6からもう一方の電極6に流れることができる。どの電極6でどの反応が起きるかは、レドックスフロー電池が充電されるか放電されるかに応じて決まる。
【0039】
図示のセルスタック1において、各電極6はセルフレーム4の外側面8に平らに広がっている。したがって、これら電極6は、セルフレーム4の外側面8との接触域にフレーム面を形成する。このフレーム面は、封止面9として機能する。1つのセル2の両セルフレーム4の互いに面する外側面8の間に封止材10が存在し、そこに半透膜7が密封式に受け入れられている。封止材10は、隣接する両セルフレーム4の外側面8に平らに広がり、ひいては封止面9として機能するフレーム面を形成している。
【0040】
図示のレドックスフロー電池においては、4本のチャネルが長手方向にセルスタック1まで延在している。これらのうちの2本は、2つの電解液を各セルフレーム4のセル内部5に給送するための供給ライン11である。他の2本のチャネルは、各セルフレーム4のセル内部5から電解液を排出するための除去ライン12である。
図1Aは、1本の供給ライン11と1本の除去ライン12とを示している。各セル2の一方のハーフセル3において給送チャネル13が供給ライン11からそれぞれ分岐している。給送チャネル13を介して、ハーフセル3のそれぞれのセル内部5に電解液を給送できる。それぞれのセルフレーム4の反対側の部分に排出チャネル14が設けられている。排出チャネル14を介して、セル内部5から除去ライン12に電解液を排出できる。
図1Aに不図示の供給ライン11と同じく不図示の除去ライン12とにより、もう一方のハーフセル3のセル内部5を通る第2の電解液を同様の給送チャネル13および排出チャネル14を介して流すことができる。
【0041】
図2Aおよび
図2Bは、セルフレーム4の平面図と、共通の断面に沿った、しかし視線方向が逆の、断面図とを示す。明瞭化のために、
図2Aは、電極のないセルフレームを示し、
図2Bは、電極が挿入された同じセルフレームを示す。
図2Cおよび
図2Dによる断面図には、挿入された電極も示されている。4つの開口部15がセルフレーム3の隅角部に設けられている。各開口部15は、供給ライン11または除去ライン12の一部を形成している。給送チャネル13および排出チャネル14は、セル内部5を取り囲むセルフレーム4のフレームケーシング16の図示の外側面8に凹部または開放チャネルとして凹ませてある。給送チャネル13および排出チャネル14は、周方向に閉じたラインを形成するために、セルスタック1への組み立て時に閉じられる。図示のセルスタック1において、これは封止材10と電極6とによって、例えば部分的に、行われている。ただし、封止材10、および/またはこれら封止材の電気的絶縁、によって電極6を供給ライン11および除去ライン12から空間的に隔てることもできる。代わりに、または加えて、半透膜7、給送チャネル13、および排出チャネル14、に隣接する封止材10を省くこともできる。
【0042】
図示の実施形態において、給送チャネル13および排出チャネル14は分岐しているので、給送チャネル13を介してセル内部5に電解液を分散給送でき、排出チャネル14を介して分散排出できる。ただし、これは必須ではない。したがって、供給ライン11から個別に分岐した複数の給送チャネル13を設けることもできるであろう。同様に、除去ライン12に個別に接続された複数の排出チャネル14を設けることもできるであろう。
【0043】
この点に関して好適な図示のセルフレーム4は、セル内部5の周囲に設けられており、ストラットとして形成された3つのフィンガ要素17を更に有する。これらフィンガ要素17は、セル内部5を横断して延在し、ひいてはセル内部5を4つのセルチャンバ18に分割している。これらセルチャンバ18は、図示のセルフレーム4内で互いに完全に隔てられている。更に、各フィンガ要素17は、セルフレーム4の平面に平行に、且つ互いに平行に、ならびにセルフレーム4の長手方向延在部分に平行に、延在している。更に、各フィンガ要素17は、隣接するフィンガ要素17、またはセル内部5の側縁19、から少なくともほぼ等距離離れている。これにより、等サイズの複数のセルチャンバ18が設けられている。この点に関して好適な図示のセルフレーム4において、2つのフィンガ要素17の各々は給送チャネル13の一部を有する。給送チャネル13は、フィンガ要素17の領域にも開放チャネルとして形成されており、半透膜7または電極6によって閉じられている。他方、中央の第3フィンガ要素17は、排出チャネル14の一部を有する。排出チャネル14も開放チャネルとして形成されており、セル2の組み立て時に半透膜7または電極6によって閉じられる。図示のセルフレーム4においては、セル内部5からの電解液が流入できる排出チャネル14の複数部分が各側縁19にも設けられている。ただし、給送チャネル13の複数部分をセルフレーム4の側面に設けることもできるであろう。ただし、その場合、各フィンガ要素17は、排出チャネル14の一部に内方で接続されることが好ましいであろう。これにより、例えば、電解液は、給送チャネル13から排出チャネル14に、何れの場合も、セルチャンバ18を介して送られる。
【0044】
電解液は、フィンガ要素17の長手方向延在部分に沿って分散されている複数の出口開口20を介して、セル内部5に流入する。電解液は、セル内部5またはセルチャンバ18から入口開口21を介して排出チャネル14に流出する。この点に関して好適な図示のセルフレーム4において、入口開口21はフィンガ要素17とセルフレーム4の側縁19とに設けられている。給送チャネル13がセルフレーム4の側縁19に設けられる場合は、出口開口20もそこに設けられることが好ましい。その理由は、電解液をそこからセル内部5に流入させるためである。
【0045】
出口開口20および入口開口21は、
図2Cおよび
図2Dに示されている。各フィンガ要素17がセルフレーム4の少なくともほぼ全高にわたって延在することも示されている。ただし、フィンガ要素17の領域におけるセルフレーム4の高さの一部は、電極6によってもたらされている。電極6のこの部分は、双極板の形態の電極6の非多孔質部分22を構成している。電極6の多孔質部分23は、セル内部5のセルチャンバ18内まで延在し、電極6の非多孔質部分22に導電接触させて設けられている。電極6の多孔質部分23は、流液チャネル24を有する。各流液チャネル24の一端は、給送チャネル13の出口開口20に、または排出チャネル14の入口開口21に、接続されている。各流液チャネル24は互いに平行に、且つ互いから少なくともほぼ等距離に、延びている。複数のリブ26が電極6の非多孔質部分22に、流液チャネル24に沿って、設けられている。これらリブは、電極6の多孔質部分23の複数の流液チャネル24に形状嵌合式に係合している。
【0046】
この形状嵌合は、
図3にも示されている。ただし、図示の形状嵌合の代わりに、別の形状嵌合を電極6の多孔質部分23と非多孔質部分22との間に設けることもできるであろう。この場合、各流液チャネル24に自由端25が設けられているので、各流液チャネル24は互いに直接接触していない。各流液チャネル24は、電極6の多孔質部分によって互いに隔てられている。加えて、流液チャネル24は、セルチャンバ18の幅の大部分にわたって延在している。この場合、各流液チャネル24の長さは、ほぼ等しい。この点に関して、流液チャネル24の接続先が給送チャネル13であっても排出チャネル14であっても差はない。図示の電極6の場合、流液チャネル24は、電極6の多孔質材料から切り抜かれている。電極6の多孔質材料は、グラファイト繊維製の一種のフェルトである。これに対して、電極6の非多孔質部分22は、グラファイト製の中実板の形態である。そこから、電極6の多孔質部分23との形状嵌合のために、複数のリブ26が突出している。この場合、電極6の多孔質部分23の厚さは、リブ26の高さより著しく大きい。多くの場合、好都合であるのは、電極6の多孔質部分23の厚さが電極6の非多孔質部分22から成るリブ26の高さの少なくとも2倍である場合である。本ケースにおいて、電極6の多孔質部分23の厚さは、リブ26の高さの少なくとも3倍である。
【0047】
図4は、いくつかのハーフセル3にわたって延在するセルスタック1の断面の詳細を示す。ここで、各ハーフセル3はセルフレーム4を備えている。各2つのセルフレーム4の間に、半透膜7または電極6の非多孔質部分22が設けられている。ここで、半透膜7および電極6の非多孔質部分22は、対応付けられたセルフレーム4に、封止材なしに接続されている。この場合、この接続部の接合は、熱可塑性物質から形成されたセルフレーム4と、同じく熱可塑性物質から少なくとも部分的に作製された半透膜7または電極6との材料結合によって、および溶接によって、行われている。ただし、セルスタック1は、原理上、別様にも設計可能であろう。
【0048】
半透膜7と電極6の非多孔質部分22との間に、フィンガ要素17がそれぞれ設けられている。フィンガ要素17には、給送チャネル13または排出チャネル14が、半透膜7によってそれぞれ閉じられた開放チャネルの形態で、設けられている。図示のセルスタック1の場合、フィンガ要素17は、材料結合された接続部27を介して、電極6の非多孔質部分22に接続、特に溶接、されている。更に、各フィンガ要素17は、電極6の多孔質部分23から隣接する半透膜7まで、したがってセル内部5の全高にわたって、延在しているので、隣接する2つのセルチャンバ18は互いに隔てられている。更に、連続する複数のハーフセル3の対応するフィンガ要素17の各々は、これらハーフセル3の積み重ね方向に互いに位置合わせされて配置されている。これにより、1本のフィンガ要素17から次のフィンガ要素17への形状嵌合による間接的な力の伝達が可能になる。これにより、2本のフィンガ要素17の間で、半透膜7または電極6の非多孔質部分22を介して、力を伝達できる。その結果、対応する力は、セル内部5またはセルチャンバ18において、電極6の多孔質部分23の圧縮を引き起こさない。
【符号の説明】
【0049】
1 セルスタック
2 セル
3 ハーフセル
4 セルフレーム
5 セル内部
6 電極
7 半透膜
8 外側面
9 封止面
10 封止材
11 供給ライン
12 除去ライン
13 給送チャネル
14 排出チャネル
15 開口部
16 フレームケーシング
17 フィンガ要素
18 セルチャンバ
19 側縁
20 出口開口
21 入口開口
22 非多孔質部分
23 多孔質部分
24 流液チャネル
25 自由端
26 リブ
27 接続部
【国際調査報告】