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特表2023-542960微生物細胞産物、前記微生物細胞産物を得るための方法、および前記微生物細胞産物の使用
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-10-12
(54)【発明の名称】微生物細胞産物、前記微生物細胞産物を得るための方法、および前記微生物細胞産物の使用
(51)【国際特許分類】
   A23L 31/15 20160101AFI20231004BHJP
   A23L 31/00 20160101ALI20231004BHJP
   A23C 11/00 20060101ALI20231004BHJP
   A23C 20/00 20060101ALI20231004BHJP
   A23G 9/36 20060101ALI20231004BHJP
   A23L 13/00 20160101ALI20231004BHJP
   A21D 2/08 20060101ALI20231004BHJP
   A21D 13/80 20170101ALI20231004BHJP
   A23K 10/16 20160101ALI20231004BHJP
   C12N 1/16 20060101ALN20231004BHJP
【FI】
A23L31/15
A23L31/00
A23C11/00
A23C20/00
A23G9/36
A23L13/00 Z
A21D2/08
A21D13/80
A23K10/16
C12N1/16 G
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023518458
(86)(22)【出願日】2021-09-13
(85)【翻訳文提出日】2023-04-25
(86)【国際出願番号】 EP2021075137
(87)【国際公開番号】W WO2022058287
(87)【国際公開日】2022-03-24
(31)【優先権主張番号】2026504
(32)【優先日】2020-09-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】NL
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523100814
【氏名又は名称】フミ イングリディエンツ ベーヴェー
【氏名又は名称原語表記】FUMI INGREDIENTS B.V.
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100225060
【弁理士】
【氏名又は名称】屋代 直樹
(72)【発明者】
【氏名】エドガー スアレス ガルシア
(72)【発明者】
【氏名】コリヤン ヴァンデンベルグ
【テーマコード(参考)】
2B150
4B001
4B014
4B018
4B032
4B042
4B065
【Fターム(参考)】
2B150AB20
2B150DD14
2B150DD20
2B150DD22
4B001AC32
4B001EC05
4B001EC99
4B014GB18
4B014GG18
4B018LB01
4B018LB02
4B018LB07
4B018LB10
4B018MD80
4B018MD81
4B018MD94
4B018ME14
4B018MF01
4B018MF07
4B018MF14
4B032DB05
4B032DK53
4B032DK54
4B042AC04
4B042AD36
4B042AK16
4B065AA72X
4B065AC20
4B065BD01
4B065CA41
4B065CA43
4B065CA50
(57)【要約】
本発明は、微生物細胞産物を調製する方法に関し、方法は、微生物細胞を含む水性懸濁液を準備するステップと、前記懸濁液を15~35℃の範囲の温度、好ましくは9~11の範囲のpH値で機械的細胞破砕に供して、破砕した微生物細胞を含む水性懸濁液を得るステップと、懸濁液を分離して、小細胞断片が豊富な抽出物および大細胞断片が豊富な抽出物を準備するステップと、並びに、各抽出物の少なくとも一部を組み合わせて、前記微生物細胞産物を準備するステップと、を含む。本発明はさらに、前記方法で得られた、または得ることができる微生物細胞産物に関する。本発明はさらに、例えば卵白の代用品としての、食品、動物性食品および/または化粧品製剤における前記産物の使用に関する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
微生物細胞産物を調製する方法であって、
i)微生物細胞を含む水性の懸濁液を準備するステップと、
ii)前記懸濁液を15~35℃の範囲の温度で、好ましくは7~11の範囲のpH値で機械的細胞破砕に供して、破砕した微生物細胞を含む水性の懸濁液を得るステップと、
iii)前記懸濁液を分離して、小細胞断片が豊富な抽出物および大細胞断片が豊富な抽出物を準備するステップと、
v)各抽出物の少なくとも一部を組み合わせて、前記微生物細胞産物を準備するステップと、
を含む、方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法において、ステップi)の後かつステップii)の前に、微生物細胞を含む前記水性懸濁液を前処理して、微生物細胞および副生成物を含む前処理された水性懸濁液を得るステップia)をさらに含み、ここで、前記前処理は、好ましくは、デカント、遠心分離、膜濾過などの濾過、およびそれらの1つ以上の組み合わせから選択される、方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の方法において、ステップiii)の前記分離は、沈降、堆積、凝集/凝固、沈殿、デカンテーション、(水)サイクロン分離、(空気)浮選、遠心分離、膜濾過などの濾過、およびそれらの1つ以上の組み合わせからなる群から選択される、方法。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載の方法において、ステップii)の後またはステップiii)の後にステップiv)をさらに含み、ステップiv)は、ステップii)またはステップiii)で得られた微生物産物の少なくとも1つを、洗浄、膜濾過またはダイアフィルトレーションなどの濾過、吸着、クロマトグラフィー、結晶化、凝集/凝固、沈殿、二相抽出、亜臨界抽出、超臨界抽出、溶媒抽出蒸留、およびそれらの1つ以上の組み合わせからなる処理の群から独立して選択される精製処理に供して、少なくとも1つの精製微生物細胞産物を得るステップである、方法。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載の方法において、ステップii)、ステップiii)、ステップiv)またはステップv)の後に、ステップii)、ステップiii)、ステップiv)またはステップv)で得られた微生物産物の少なくとも1つを、好ましくは、噴霧乾燥、凍結乾燥および流動床乾燥から選択される方法を用いて乾燥するステップvi)を行って、乾燥微生物細胞産物を得ることをさらに含み、好ましくは、前記乾燥微生物細胞産物は、該乾燥微生物細胞産物の総重量に対して、10重量%以下、より好ましくは5重量%以下の含水量を有する、方法。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載の方法において、前記微生物細胞は、単細胞またはコロニーの原核生物および真核生物、ならびにそれらの1つ以上の組み合わせから選択され、好ましくは、該微生物細胞は、酵母、藻類、細菌、真菌、およびそれらの1つ以上の組み合わせからなる群から選択される、方法。
【請求項7】
請求項6に記載の方法において、前記微生物細胞は酵母である、方法。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか一項に記載の方法において、ステップi)の前記懸濁液中の微生物細胞の質量濃度は、1~25%、好ましくは5~15%の範囲である、方法。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか一項に記載の方法において、ステップii)の前記機械的細胞破砕は、ビーズミリングを使用して実施される、方法。
【請求項10】
請求項9に記載の方法において、ビーズミリングは、前記懸濁液の所定の粒度分布を得るために実行される、方法。
【請求項11】
請求項10に記載の方法において、前記微生物細胞は酵母であり、また、ステップii)の後の前記所定の粒度分布は、D10<0.5μm、D50<4.5μm、D90<7.5μm、およびD[3,2]<2、D[4,3]<4.5である、方法。
【請求項12】
請求項9または10に記載の方法において、ビーズミリングは、粒子の凝集を誘発するのに十分な時間の間、pH>9で実行され、また、分離前の乾燥重量含有量が少なくとも2.5%である、方法。
【請求項13】
請求項1~12のいずれか一項に記載の方法において、ステップiii)の前記分離処理は、相対遠心力(rfc)4000以下の遠心力で遠心分離することである、方法。
【請求項14】
請求項13に記載の方法において、前記遠心分離は、20分以下、好ましくは15分未満の時間で行われる、方法。
【請求項15】
請求項1~14のいずれか一項に記載の方法において、前記分離するステップiii)の前に、破砕した細胞懸濁液の含水量を調整するステップをさらに含む、方法。
【請求項16】
請求項1~15のいずれか一項に記載の方法において、混合するステップv)の前に、25℃未満で少なくとも60分間、前記小細胞断片が豊富な抽出物をインキュベートするステップをさらに含む、方法。
【請求項17】
請求項1~16のいずれか一項に記載の方法によって直接的に得られるか、または得ることができる微生物細胞産物。
【請求項18】
請求項17に記載の微生物細胞産物を含むか、または請求項1~16のいずれか一項に記載の方法によって生成された微生物細胞産物を含む、食品、動物用飼料製品、または化粧品。
【請求項19】
乳化剤、発泡剤、結合剤、膨張剤、増粘剤、保湿剤、接着剤、褐変剤、透明化剤、ゲル化剤、結晶化制御剤、保水剤、軟化剤、通気剤、構造改良剤、凝固剤、コーティング剤、着色剤、光沢剤、香料、凍結剤、断熱剤、食感改良剤、pH緩衝剤、貯蔵寿命延長剤、脂肪代替剤、肉増量剤、防腐剤、抗菌剤、食品腐敗防止剤、マロラクティック発酵防止剤、テクスチャー改善剤、卵代替品、またはそれらの任意の組み合わせとしての請求項17に記載の微生物細胞産物の使用。
【請求項20】
卵を含まない食用エマルション、卵類似物、卵を含まないスクランブルエッグ、卵を含まないパティ、卵を含まないパウンドケーキ、卵を含まないエンジェルフードケーキ、卵白を含まない代用肉、卵を含まない代用肉、卵を含まないイエローケーキ、卵および乳製品を含まないクリームチーズ、卵を含まないパスタ生地、卵を含まないカスタード、卵を含まないアイスクリーム、または乳製品を含まない牛乳における請求項17に記載の微生物細胞産物の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微生物細胞産物を得る方法に関する。本発明はさらに、前記方法によって得られる、または得ることができる微生物細胞産物に関する。本発明はさらに、前記微生物細胞産物の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
卵は用途が広く、ほぼどこにでもある食品であり、食物の構成要素である。卵は多くの理由で高く評価されている。卵は栄養価が高いだけでなく、パン、ケーキ、クッキー、カスタード、スフレ、マフィン、スコーン、ビスケット、パスタ、ドレッシング、ソース、およびアイスクリームなど、これらに限定されない幅広い食品の必須成分でもある。
【0003】
卵白は、重量で鶏卵の約3分の2を占める。卵白は主に約90%の水で構成されており、その中に約10%のタンパク質(アルブミン、ムコタンパク質、およびグロブリンを含む)が溶解している。脂質(脂肪)が豊富な卵黄とは異なり、卵白は脂肪をほとんど含有しておらず、炭水化物含有量は1%未満である。卵白は、卵中のタンパク質の約56%を含有している。卵白は、食品(メレンゲ、ムースなど)における用途および、その他の多くの(例えば、インフルエンザ用のワクチン調製などの)用途がある。
【0004】
卵の使用には多くの欠点がある。例えば、卵は高レベルのコレステロールおよび飽和脂肪を含み、心血管疾患や肥満のリスクを増加させる。栄養価が高く、卵含有製品を楽しむことで恩恵を受ける他の消費者は、食物アレルギーまたはその他の食事制限に起因してそうすることができなくなる可能性がある。例えば、幼児の1~2%が卵アレルギーであると推定されている。相当数の人口セグメントが、例えばビーガンといった自発的な食事制限に従っており、その他には、動物の搾取を避けるため、または宗教的理由、もしくはその他の理由で卵を食べない人もいる。さらに、卵の工業規模の生産は、鶏の工業的養殖に関連しており、これには、例えば、食品の健康性および農家に対する安全性の制限に関連するコスト、高額な輸送コスト、産卵鶏の給餌および収容のコストなど、高いコストがかかる。産業用の養鶏は環境に悪影響を及ぼし、多くの人道上の重要な問題を引き起こす。
【0005】
さらに、卵の貯蔵寿命は限られており、例えば、サルモネラ菌、大腸菌、および公衆衛生を危険にさらす可能性のある他の病原体などの感染性病原体が潜んでいるリスクがある。
【0006】
卵の望ましくない特徴を最小限に抑えながら、自然の卵の望ましい特徴を再現する卵代用品(全卵代用品または卵白代用品のいずれか)を作るために、多くの試みがなされてきた。卵代用品は、卵または卵白と同様の結合特性、保湿特性、乳化特性および/または膨張特性を達成することを目的としている。
【0007】
多くの家庭料理ベースの代用品があり、例えば、マッシュバナナ、アップルソース、アクアファバ(ひよこ豆の調理液)、アマニの種を卵の代わりに使用し、膨張を付与するためのベーキングパウダー/重曹混合物、並びに、結合および膨張を付与するための小麦粉/水混合物としている。
【0008】
さらに、工業的に生産された植物ベースの卵代用品は、例えば、特許文献1(国際公開第2013/067453号:WO2013067453A1)で知られており、出発材料として豆またはエンドウ豆を開示している。特許文献2(国際公開第2017/102535号:WO2017102535A1)は、10ppm未満のグリアジンを含むグルテンフリーの天然ナタネタンパク質の単離物(isolate)を得るためのプロセスを開示しており、卵白の代わりとなる発泡剤として、任意のヒト栄養食品用途に使用され得る。卵を含まない(egg-free)卵白タンパク質の別の製造方法は、特許文献3(国際公開第2016/077457号:WO2016077457A1)に開示されており、該方法は、2つ以上の卵白タンパク質の組換え発現、および2つ以上の卵白タンパク質を混合するステップを含む。特許文献4(国際公開第2010/045368号:WO2010045368A2)は、1つ以上の他の食用成分との組み合わせで、微細藻類バイオマス、全微細藻類細胞、および/または微細藻類油を含む食品組成物を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】国際公開第2013/067453号パンフレット
【特許文献2】国際公開第2017/102535号パンフレット
【特許文献3】国際公開第2016/077457号パンフレット
【特許文献4】国際公開第2010/045368号パンフレット
【0010】
上述の全卵代用品および卵白代用品は、(食品)製品における組成物の多目的使用を可能にする卵白の特性の所望の組み合わせを部分的にしか有していない。
【0011】
したがって、改良された卵白の代用品が必要とされている。結合剤、保湿剤、乳化剤および/または、油/水保持剤として使用できる卵を含まない組成物がさらに必要とされている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は、結合剤、ゲル化剤、増粘剤、発泡剤、保湿剤、乳化剤および/または、油/水保持剤として使用できる卵を含まない組成物を提供することである。本発明の実施形態のさらなる目的は、例えば卵白の代用品として食品において、例えば、ペレット状、乾燥/粉末、半湿潤または湿潤飼料配合物といった動物性食品において、および/または例えば、溶液、クリーム、ローション、懸濁液、軟膏/ペースト、粉末およびゲルのような化粧品製剤において使用するための改良された組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、第1の態様において、微生物細胞産物を調製する方法に関する。本発明の方法は、i)微生物細胞を含む水性懸濁液を準備するステップと、ii)前記懸濁液を機械的細胞破砕に供して、破砕した微生物細胞を含む水性懸濁液を得るステップと、iii)懸濁液を分離して、小細胞断片が豊富な抽出物(extract enriched in small cell fragments)および大細胞断片が豊富な抽出物(extract enriched in large cell fragments)を準備するステップと、およびv)各抽出物の少なくとも一部を組み合わせて、微生物細胞産物を準備するステップと、を含む。
【0014】
本発明者らは、懸濁液を2つの別個の抽出物に分離し、各抽出物を再結合することにより、単純な懸濁液に対して異なる特性を有する微生物細胞産物を製造できることを見出した。さらに、破砕ステップおよび再結合抽出物の比率のいずれかまたは両方を変更することによって、微生物細胞産物の最終特性を変更できると考えられる。これにより産物を微調整して、特定の用途にある程度適したものにすることができる。追加の「微調整」ステップとは、方法の特定のステップ間の時間、例えば抽出物を再結合する前に、組成物をインキュベートするステップを含めることができる。
【0015】
この微調整および方法の他のステップのさらなる詳細は、本明細書でより詳細に説明される。
【0016】
本発明はまた、この方法で生成することができる微生物細胞産物、およびそのような微生物細胞産物を含む食品にも関する。本発明の他の特徴および態様は、詳細な説明から明らかになるであろう。
【0017】
本発明は、別の態様において、微生物細胞産物を調製するための方法に関する。本発明の方法は、i)微生物細胞を含む水性懸濁液を準備するステップと、ii)前記懸濁液を機械的細胞破砕に供して、破砕した微生物細胞を含む水性懸濁液を前記微生物細胞産物として得るステップと、を含む。本方法に係る機械的細胞破砕は、1~45℃の範囲の温度で起こる。
【0018】
さらなる態様において、本発明は、本発明に係る方法によって直接的に得られるか、または得ることができる微生物細胞産物に関する。
【0019】
さらなる態様において、本発明は、本発明に係る方法によって得ることができる、小細胞断片が豊富な抽出物および大細胞断片が豊富な抽出物に関する。
【0020】
さらなる態様において、本発明は、乳化剤、発泡剤、結合剤、膨張剤、増粘剤、保湿剤(moisturizing agent)、接着剤、褐変剤(browning agent)、透明化剤(clarification agent)、ゲル化剤、結晶化制御剤、保水剤(humectant agent)、軟化剤、通気剤、構造改良剤、凝固剤、コーティング剤、着色剤、光沢剤、香料、凍結剤、断熱剤(insulation agent)、食感改良剤(mouthfeel improvement agent)、pH緩衝剤、貯蔵寿命延長剤、脂肪代替剤、肉増量剤、防腐剤、抗菌剤、食品腐敗防止剤、マロラクティック発酵防止剤、テクスチャー改善剤、卵代替品、またはそれらの任意の組み合わせとしての本発明に係る微生物細胞産物の使用に関する。
【0021】
さらなる態様において、本発明は、卵を含まない食用エマルション、卵類似物(egg analog)、卵を含まないスクランブルエッグ、卵を含まないパティ、卵を含まないパウンドケーキ、卵を含まないエンジェルフードケーキ、卵白を含まない(egg-white free)代用肉、卵を含まない代用肉、卵を含まないイエローケーキ、卵および乳製品を含まないクリームチーズ、卵を含まないパスタ生地、卵を含まないカスタード、卵を含まないアイスクリーム、または乳製品を含まない牛乳における本発明に係る微生物細胞産物の使用に関する。
【0022】
この方法に対して開示された対応する実施形態は、本発明に係る微生物細胞産物、本発明に係る小細胞断片が豊富な抽出物、本発明に係る大細胞断片が豊富な抽出物、および本発明に係る微生物細胞産物の使用にも適用可能である。
【0023】
[定義のリスト]
以下の定義は、記載された主題を定義するために、本明細書および特許請求の範囲において使用される。以下に引用されていないその他の用語は、この分野で一般的に受け入れられている意味を有することを意味する。
【0024】
本明細書において使用される「乾燥(Drying)」とは、含水量を減少させることを意味する。乾燥という用語は、水分が、減少した量において乾燥後に残り得る部分的な乾燥を含み、これは濃縮とも見なすことができる。
【0025】
本明細書で使用される「乾燥重量(Dry weight)(DW)」および「乾燥細胞重量(dry cell weight)」は、水の相対的な不在下で測定される重量を意味する。例えば、乾燥重量で特定の成分の特定のパーセンテージを含む微生物バイオマスへの言及は、実質的にすべての水が除去された後のバイオマスの重量に基づいてパーセンテージが計算されることを意味する。
【0026】
微生物細胞の文脈で本明細書において使用される「破壊(Disruption)」は、「溶解(lysing)」とも呼ばれ、細胞を開いて細胞質化合物(「溶解物(lysate)」とも呼ばれる)を放出することを意味する。
【0027】
本明細書で使用される「破砕(Disintegration)」は、微生物細胞の破砕の文脈において、細胞の断片化を意味する。これは、結果として得られる細胞断片の平均サイズが、最初の微生物細胞の平均細胞サイズよりも小さくならなければならないことを意味する。破砕は、細胞が開かれるだけでなく、細胞が断片化もされる、特定の種類の破壊と見なすことができる。
【0028】
本発明で使用される「細胞質物質(Cytoplasmic material)」または「細胞質化合物(Cytoplasmic compounds)」は、細胞核(存在する場合)以外の、細胞膜によって取り囲まれた細胞内に通常含まれるすべての物質を意味する。細胞が破砕または破壊されると、細胞質物質が細胞から放出される。
【0029】
本明細書で使用される「微生物細胞(Microbial cells)」は、微生物を意味する。これは、真核生物および原核生物の単細胞生物およびそれらのコロニーであり得る。原核生物は、エンベロープで囲まれた核を持たない細胞生物である。分子分析に基づく3ドメインシステムでは、原核生物は2つのドメイン、細菌(以前の真正細菌)および古細菌(以前の原始細菌)に分けられる。核を有する生物は、真核生物という第3のドメインに配置される。本発明による微生物細胞は、酵母(yeast)などの藻類(algae)および真菌(fungi)も包含する。
【0030】
本明細書で使用される「微生物(Microorganism)、(microbe)」は、任意の微視的なコロニーまたは単細胞生物を意味する。
【0031】
本明細書において使用される「微生物細胞産物(Microbial cell product)」とは、微生物細胞を特定の方法で処理することによって得ることができる微生物細胞由来の産物を意味する。
【0032】
本発明で使用される「小細胞断片が豊富な抽出物(Extract enriched in small cell fragments)(EESF)」は、破砕した微生物細胞を含む水性懸濁液の分離によって得られる微生物細胞産物を意味する。この分離中に、破砕した微生物細胞を含む水性懸濁液から抽出物が分離され、小細胞断片が部分的に枯渇した破砕した微生物細胞を含む水性懸濁液が残る。換言すれば、分離処理により、小細胞断片が豊富な抽出物(主産物として)および、小細胞断片が枯渇した水性懸濁液が生成され、後者は、大細胞断片が豊富な抽出物と呼ばれることもあるし、そう呼ばれるだろう。本明細書で使用される「小細胞断片(Small cell fragments)」は、d50≦500ナノメートル(nm)以下のサイズを有する微生物細胞の破砕から得られる細胞断片を意味する。
【0033】
本発明で使用される「大細胞断片が豊富な抽出物(Extract enriched in large cell fragments)(EELF)」または「小細胞断片が枯渇した水性懸濁液(aqueous suspension depleted in small cell fragments)」は、破砕した微生物細胞を含む水性懸濁液の分離によって得られる微生物細胞産物を意味する。この分離中に、破砕した微生物細胞を含む水性懸濁液から抽出物が分離され、小細胞断片が部分的に枯渇した破砕した微生物細胞を含む水性懸濁液が残る。換言すれば、分離処理により、小細胞断片が豊富な抽出物(主産物として)および、小細胞断片が枯渇した水性懸濁液(副生成物として)が生成され、後者は、大細胞断片が豊富な抽出物と呼ばれることもあるし、そう呼ばれるだろう。本明細書で使用される「大細胞断片(Large cell fragments)」は、d50≧500ナノメートル(nm)を超えるサイズを有する微生物細胞の破砕から得られる細胞断片を意味する。
【0034】
本明細書で使用される「微生物バイオマス(Microbial biomass)」および「バイオマス(biomass)」は、微生物細胞の成長および/もしくは増殖によって生成される、または発酵プロセスの副生成物として生成される物質を意味する。バイオマスは、細胞および/または細胞内内容物ならびに細胞外物質を含有し得る。細胞外物質は、細胞によって分泌される化合物を含むが、これに限定されない。
【0035】
本明細書で使用される「ビーズミリング(Bead milling)」は、小さな研磨粒子(ビーズ)による懸濁液中における微生物細胞の撹拌を意味する。せん断力、ビーズ間の粉砕、およびビーズとの/間の衝突により、細胞が壊れる。ビーズによって生み出されるせん断力が、細胞を破壊し、細胞化合物の同時的な放出を伴う破砕を引き起こす。
【0036】
本明細書で使用される「遠心分離(Centrifugation)」は、数あるパラメータの中でも特に、サイズ、形状、密度、媒体の粘度、およびローター速度に従って溶液から粒子を分離するために遠心力を適用することを意味する。遠心分離の速度は、通常は1分あたりの回転数(RPM)で表される角速度、またはgで表される加速度によって特定される。RPMとgとの間の変換係数は、遠心分離機のローターの半径に依存する。遠心分離機の毎分回転数(RPM)を計算するための一般式は以下のとおりであり、
【数1】
式中、gは遠心分離機の各々の力を表し、rはローターの中心からサンプル内の点までの半径を表す。ただし、使用する遠心分離機のモデルによっては、ローターのそれぞれの角度および半径が異なる場合があるため、式が修正される。相対遠心力の計算に使用される最も一般的な式は以下のとおりであり、
【数2】
式中、rは半径(mm)である。
【図面の簡単な説明】
【0037】
本発明は、本発明の実施形態が示された添付の図面を参照して以下に説明され、同様の参照番号は同一または同様の要素を示す。
図1】本発明に係る方法のさまざまな(任意の)ステップ、および得られた(中間)生成物の概要を示す図である。この概要は、本発明に係る微生物細胞産物を得るための多くのさまざまな経路を示している。
図2図2Aは、さまざまなpH値で得られた小細胞断片が豊富な抽出物について、天然の立体構造(native conformation)にあるタンパク質のプロファイルを示しており、図2Bは、さまざまなpH値での小細胞断片が豊富な抽出物中のタンパク質の溶解度を示す。
図3】ビーズミリング試行の過程で、小細胞断片が豊富な抽出物中のタンパク質および炭水化物の可溶化を示す図である。
図4】ビーズミリング後、またはビーズミリング後かつ遠心分離後の細胞画分の粒度分布を示す図である。
図5】精製処理後の最大ゲル強度[Pa]に対する遠心力の影響を示す図である。
図6】ゲル強度G’max[Pa]で測定した、小細胞断片が豊富な精製抽出物のゲル化挙動に対する膜カットオフの影響を示す図である。
図7】空気‐水(左)および油‐水(右)界面で得られた副生成物(P、左図)および小細胞断片が豊富な精製抽出物(R、右図)の平衡表面張力を、卵白プロテイン単離物およびホエイプロテイン単離物の表面張力と比較した図である。
図8】本発明の一実施形態に係る微生物細胞産物を調製するための単純化されたプロセスフロー図を示す。
図9】さまざまな破壊条件での酵母の粒度分布を示す図である。
図10図10A図10Bは、破壊中の経時的な酵母の比表面積および粒度分布を示す図である。
図11】低、中、および高分離強度での微生物細胞産物のゲル硬度を示す図である。
図12】異なる分離強度下での酵母調製物のさまざまな画分の粒度分布を示す図である。
図13】異なる分離強度下での酵母調製物のさまざまな画分の比表面積および濃度を示す図である。
図14】異なる希釈条件で分離した酵母調製物のEESFおよびEELFのゲル硬度を示す図である。
図15】異なる希釈条件で分離した酵母調製物のEELFの水保持力および油保持力を示す図である。
図16】異なる希釈条件で分離した酵母調製物のEESFの粒度分布を示す図である。
図17】異なる希釈条件で分離した酵母調製物のさまざまな画分の比表面積および濃度を示す図である。
図18】異なる希釈条件で分離した酵母調製物の粒度分布を示す図である。
図19】異なる希釈条件で分離した後の、さまざまな微生物からの微生物調製物の油保持能力を示す図である。
図20】さまざまなpHレベルでの破壊後の酵母調製物のゲル硬度、並びに油分および水分の保持能力を示す図である。
図21A】さまざまなpHレベルで破壊された酵母の経時的な粒度分布(d50)を示す図である。
図21B】さまざまなpHレベルで破壊された酵母の経時的な粒度分布(D[3,2])を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
上述のように、本発明は、第1の態様において、微生物細胞産物を調製するための方法に関し、該方法は、i)微生物細胞を含む水性懸濁液を準備するステップと、ii)前記懸濁液を機械的細胞破砕に供し、破砕した微生物細胞を含む水性懸濁液を得るステップと、iii)懸濁液を分離して、小細胞断片が豊富な抽出物および、大細胞断片が豊富な抽出物を準備するステップと、並びに、v)各抽出物の少なくとも一部を組み合わせて、微生物細胞産物を準備するステップと、を含む。機械的細胞破砕は、1~45℃の範囲(すなわち、1℃から45℃までおよび45℃を含む範囲)、好ましくは15~35℃、より好ましくは約25℃の温度で実行して、破砕した微生物細胞を含む水性懸濁液を得ることができる。
【0039】
図1において、前記水性懸濁液を準備するステップ(ステップi)は、左側に灰色で示されている。ステップii)は、中央からやや左側に灰色で開示されている。ステップi)の後、水性懸濁液をステップii)に直接供するか、または第1の前処理(ステップia))を実行することができる。異なる経路(図1に開示され、以下に開示される)のそれぞれについて、この任意の前処理ステップが存在し得る。ステップii)由来の生成物は、破砕した微生物細胞を含む水性懸濁液である。次いで、その画分が懸濁している可溶性化合物に加えて、小断片が豊富な抽出物(EESF)および大細胞断片が豊富な抽出物(EELF)を準備するために、水性懸濁液が分離される(iii)。次いで、豊富な抽出物の一部を組み合わせて(v)、微生物細胞産物を準備する。これは、場合によっては、本明細書では混合抽出物と呼ばれる場合がある。該プロセスは、図8に追加で示されている。
【0040】
この方法は、必要に応じて、ia)前処理、iv)精製処理、vi)乾燥およびvii)混合のステップのいずれかを含む。例えば、この方法は、ステップi)およびii)またはステップi)、ia)およびii)、またはステップi)、ia)、ii)およびiii)、またはステップi)、ia)、ii)、iii)およびiv)、またはステップi)、ia)、ii)、iii)、iv)およびv)、またはステップi)、ia)、ii)、iii)、iv)、v)およびiv)、またはステップi)、ia)、ii)、iii)、iv)、v)、vi)およびvii)を含み得る。
【0041】
本発明に係る方法で得ることができる微生物細胞産物は、混合抽出物、混合精製抽出物、乾燥混合抽出物、乾燥混合精製抽出物、混合乾燥抽出物、および混合乾燥精製抽出物を含む。
【0042】
微生物細胞産物とは、さらに、精製微生物細胞産物および乾燥微生物細胞産物をも意味する。
【0043】
本発明に係る方法で得ることができる精製微生物細胞産物は、混合精製抽出物、乾燥混合精製抽出物、および混合乾燥精製抽出物を含む。
【0044】
本発明に係る方法で得ることができる乾燥微生物細胞産物は、乾燥混合抽出物、乾燥混合精製抽出物、混合乾燥抽出物、および混合乾燥精製抽出物を含む。
【0045】
本明細書に記載の方法の特定のステップを実行して、本発明の方法から得られる混合抽出物とは別個の、代替の産物を得ることができる。例えば、図1のステップを参照すると、破砕した微生物細胞の精製された懸濁液は、以下の後続のステップ、すなわち、ステップi)、ステップii)、およびステップiv);または、ステップi)、ステップia)、ステップii)、およびステップiv)を実施した後に得られる。
【0046】
乾燥精製破砕微生物細胞は、以下の後続のステップ、すなわち、ステップi)、ステップii)、ステップiv)およびステップvi);またはステップi)、ステップia)、ステップii)、ステップiv)およびステップvi)を実施した後に得られる。
【0047】
乾燥破砕微生物細胞は、以下の後続のステップ、すなわち、ステップi)、ステップii)およびステップvi);またはステップi)、ステップia)、ステップii)およびステップvi)を実施した後に得られる。
【0048】
小細胞断片が豊富な抽出物は、以下の後続のステップ、すなわち、ステップi)、ステップii)およびステップiii);またはステップi)、ステップia)、ステップii)およびステップiii)を実施した後に得られる。
【0049】
大細胞断片が豊富な抽出物は、以下の後続のステップ、すなわち、ステップi)、ステップii)およびステップiii);またはステップi)、ステップia)、ステップii)およびステップiii)を実施した後に得られる。
【0050】
小細胞断片が豊富な乾燥抽出物は、以下の後続のステップ、すなわち、小細胞断片が豊富な抽出物に対して、ステップi)、ステップii)、ステップiii)およびステップvi);または小細胞断片が豊富な抽出物に対して、ステップi)、ステップia)、ステップii)、ステップiii)およびステップvi)を実施した後に得られる。
【0051】
大細胞断片が豊富な乾燥抽出物は、以下の後続のステップ、すなわち、大細胞断片が豊富な抽出物に対して、ステップi)、ステップii)、ステップiii)およびステップvi);または大細胞断片が豊富な抽出物に対して、ステップi)、ステップia)、ステップii)、ステップiii)およびステップvi)を実施した後に得られる。
【0052】
小細胞断片が豊富な精製抽出物は、以下の後続のステップ、すなわち、小細胞断片が豊富な抽出物に対して、ステップi)、ステップii)、ステップiii)およびステップiv);または小細胞断片が豊富な抽出物に対して、ステップi)、ステップia)、ステップii)、ステップiii)およびステップiv)を実施した後に得られる。
【0053】
大細胞断片が豊富な精製抽出物は、以下の後続のステップ、すなわち、大細胞断片が豊富な抽出物に対して、ステップi)、ステップii)、ステップiii)およびステップiv);または大細胞断片が豊富な抽出物に対して、ステップi)、ステップia)、ステップii)、ステップiii)およびステップiv)を実施した後に得られる。
【0054】
小細胞断片が豊富な乾燥精製抽出物は、以下の後続のステップ、すなわち、小細胞断片が豊富な抽出物に対して、ステップi)、ステップii)、ステップiii)、およびステップvi)、ならびにステップvi);または小細胞断片が豊富な抽出物に対して、ステップi)、ステップia)、ステップii)、ステップiii)およびステップvi)ならびにステップvi)を実施した後に得られる。
【0055】
大細胞断片が豊富な乾燥精製抽出物は、以下の後続のステップ、すなわち、大細胞断片が豊富な抽出物に対して、ステップi)、ステップii)、ステップiii)、およびステップvi)、ならびにステップvi);または大細胞断片が豊富な抽出物に対して、ステップi)、ステップia)、ステップii)、ステップiii)およびステップvi)ならびにステップvi)を実施した後に得られる。
【0056】
混合抽出物(本発明に係る微生物細胞産物)は、以下の後続のステップ、すなわち、ステップi)、ステップii)、ステップiii)、および小細胞断片が豊富な抽出物(の一部)と大細胞断片が豊富な抽出物(の一部)とを混合するステップv);またはステップi)、ステップia)、ステップii)、ステップiii)および小細胞断片が豊富な抽出物(の一部)と大細胞断片が豊富な抽出物(の一部)とを混合するステップv)を実施した後に得られる。
【0057】
乾燥混合抽出物(本発明に係る微生物細胞産物)は、以下の後続のステップ、すなわち、ステップi)、ステップii)、ステップiii)、小細胞断片が豊富な抽出物(の一部)と大細胞断片が豊富な抽出物(の一部)とを混合するステップv)ならびにステップvi);またはステップi)、ステップia)、ステップii)、ステップiii)、小細胞断片が豊富な抽出物(の一部)と大細胞断片が豊富な抽出物(の一部)とを混合するステップv)ならびにステップvi)を実施した後に得られる。
【0058】
混合精製抽出物(本発明に係る微生物細胞産物)は、以下の後続のステップ、すなわち、小細胞断片が豊富な抽出物および大細胞断片が豊富な抽出物の両方に対して、ステップi)、ステップii)、ステップiii)、ステップvi)、ならびに小細胞断片が豊富な精製抽出物(の一部)と大細胞断片が豊富な精製抽出物(の一部)とを混合するステップv);または細胞断片が豊富な抽出物および大細胞断片が豊富な抽出物の両方に対して、ステップi)、ステップia)、ステップii)、ステップiii)、ステップvi)、ならびに小細胞断片が豊富な精製抽出物(の一部)と大細胞断片が豊富な精製抽出物(の一部)とを混合するステップv)を実施した後に得られる。
【0059】
乾燥混合精製抽出物(本発明に係る微生物細胞産物)は、以下の後続のステップ、すなわち、小細胞断片が豊富な抽出物および大細胞断片が豊富な抽出物の両方に対して、ステップi)、ステップii)、ステップiii)、ステップvi)、小細胞断片が豊富な精製抽出物(の一部)と大細胞断片が豊富な精製抽出物(の一部)とを混合するステップv)、ならびにステップvi);または細胞断片が豊富な抽出物および大細胞断片が豊富な抽出物の両方に対して、ステップi)、ステップia)、ステップii)、ステップiii)、ステップvi)、小細胞断片が豊富な精製抽出物(の一部)と大細胞断片が豊富な精製抽出物(の一部)とを混合するステップv)、ならびにステップvi)を実施した後に得られる。
【0060】
混合乾燥抽出物(本発明に係る微生物細胞産物)は、以下の後続のステップ、すなわち、小細胞断片が豊富な抽出物および大細胞断片が豊富な抽出物の両方に対して、ステップi)、ステップii)、ステップiii)、ステップvi)、ならびに小細胞断片が豊富な乾燥抽出物(の一部)と大細胞断片が豊富な乾燥抽出物(の一部)とを混合するステップv);または細胞断片が豊富な抽出物および大細胞断片が豊富な抽出物の両方に対して、ステップi)、ステップia)、ステップii)、ステップiii)、ステップvi)、ならびに小細胞断片が豊富な乾燥抽出物(の一部)と大細胞断片が豊富な乾燥抽出物(の一部)とを混合するステップv)を実施した後に得られる。
【0061】
混合乾燥精製抽出物(本発明に係る微生物細胞産物)は、以下の後続のステップ、すなわち、小細胞断片が豊富な抽出物および大細胞断片が豊富な抽出物の両方に対して、ステップi)、ステップii)、ステップiii)、ステップvi)、小細胞断片が豊富な精製抽出物および大細胞断片が豊富な精製抽出物の両方に対して、ステップvi)、ならびに小細胞断片が豊富な乾燥精製抽出物(の一部)と大細胞断片が豊富な乾燥精製抽出物(の一部)とを混合するステップv);または細胞断片が豊富な抽出物および大細胞断片が豊富な抽出物の両方に対して、ステップi)、ステップia)、ステップii)、ステップiii)、ステップvi)、小細胞断片が豊富な精製抽出物および大細胞断片が豊富な精製抽出物の両方に対して、ステップvi)、ならびに小細胞断片が豊富な乾燥精製抽出物(の一部)と大細胞断片が豊富な乾燥精製抽出物(の一部)とを混合するステップv)を実施した後に得られる。
【0062】
図1に示すように、さまざまな副生成物が得られる可能性がある。この第1および/または第2の副生成物は、例えば、さらに乾燥または濃縮処理をして、乾燥または濃縮副生成物を得ることができる。
【0063】
微生物細胞を含む微生物バイオマスは、産業上の関心のある幅広い製品を生産するために伝統的に使用されてきた、または多くの用途で直接使用されてきた。ほとんどの産業または商業用途では、細菌、酵母、真菌、藻類のドメインから選択された微生物バイオマス株の群を利用している。全体として、微生物バイオマスから得られる産物は、細胞内または細胞外のいずれかである。細胞外産物は、細胞によってバルク培地、通常は水相に分泌される。反対に、細胞内産物は細胞内にとどまる。細胞内産物を得るためには、これらの産物を細胞から放出し(細胞膜または細胞壁を壊すことにより)、目的の化合物を残りのバイオマスおよびその他の不純物からさらに分離するために、追加の処理が必要となる。
【0064】
食品用途の特定の分野では、微生物バイオマスは、タンパク質(単一細胞タンパク質 ‐ SCP)の供給源として、栄養補助食品として、またはさまざまな成分および添加物を製造するために使用されてきた。
【0065】
微生物バイオマスはしばしば抽出物の形態で使用され、そのために前記バイオマスを形成する微生物細胞を破壊/破砕する必要がある。真菌抽出物、藻類抽出物、および酵母抽出物など、いくつかの異なる出発物質から調製された抽出物が知られている。これら抽出物の中で最も一般的に使用されているのは、酵母由来のもの、いわゆる酵母抽出物(以下、「YE」という)である。YEは、実験室で細胞を培養するための増殖培地から、食品産業用の栄養補助食品および風味増強剤に至るまで、幅広い製品に適用されている(適用され得る)。YEの生成プロセスはよく知られている。一般に、主にSaccharomyces属由来の酵母細胞は、熱誘導または化学誘導自己消化(または原形質溶解)によって破壊(=破砕)され、その後、タンパク質および核酸などの大きな細胞内産物をペプチド、アミノ酸およびヌクレオチドなどの小さな成分に分解(=消化)する内因性酵素を活性化するために、高温(>50℃)でのインキュベーションのステップへと続く。得られた消化スラリーは、最終用途に応じてさらに精製および補充され、YEとして商品化可能な抽出物が提供される。
【0066】
一般に、細胞破砕方法は、非機械的または機械的のいずれかに分類できる。非機械的破砕方法は、さらに次の3つのカテゴリに分類でき、物理的破砕(例えば、減圧、浸透圧ショック、熱分解、超音波、または凍結融解による)、化学的破砕(例えば、溶媒、界面活性剤、カオトロープ、酸および塩基、またはキレートの使用による)並びに酵素的破砕(例えば、自己消化、ファージ溶解、または溶解酵素)がある。本発明は、機械的破砕方法のみに関する。機械的破砕方法の例は、ビーズミルを含むボールミル、およびホモジナイザーである。
【0067】
ホモジナイザーは高圧下で動作し、実際には細胞懸濁液をバルブに通してから衝撃リングに高速で流れを衝突させる容積式ポンプである。多くの場合、高圧で数回通過する必要があり、それにより温度が上昇して不安定な分子が局所的に変性し得る。
【0068】
ボールミル(ビーズミルを含む)は、垂直型および水平型のいずれかであり、粉砕チャンバーに存在する粉砕媒体を使用する。モーターがローターを駆動し、細胞懸濁液を高速で回転させる。細胞懸濁液および粉砕材料(ビーズなど)は、細胞を壊すせん断力を発生させる。これにより、細胞内物質が水性懸濁液に放出され、細胞の断片化(すなわち、破砕)をも引き起こす。ローター速度の増加に伴い、せん断力が増し、細胞の破壊が増加する。粉砕材料のサイズが小さくなると、通常、細胞の破壊が増加する。他のパラメータは、破砕プロセスの性能に影響を及ぼす。当業者は、本発明に従って正しいパラメータおよび変数を選択することができる。
【0069】
先行文献による細胞破砕方法の例は以下の通りである。米国特許第3,888,839号(US3888839A)は、酵母細胞からタンパク質単離物を得るためのプロセスを開示し、ここで、酵母細胞は、高圧ホモジナイゼーション(機械的破砕)およびその後のインキュベーションによって破裂する。欧州特許公開第1199353号(EP1199353A1)は、酵母懸濁液または酵母ペーストを処理し、不溶性成分を分離することによって酵母抽出物を製造するプロセスを開示し、そこで、酵母懸濁液または酵母ペーストは高電圧の電気パルスに供される(物理的破砕)。欧州特許公開第2774993号(EP2774993A1A)は、プロテアーゼを含有しない細胞壁分解酵素(酵素分解)を使用し、次いで生成物を70~80℃で10~20分間熱処理することを開示している。
【0070】
微生物バイオマス懸濁液に存在する微生物細胞は、主にタンパク質、炭水化物、脂質、およびミネラルを含有する。タンパク質およびその他の不安定な分子は、高温、長いインキュベーション時間、極度のpH値、溶媒、塩、およびその他の過酷な化学物質にさらされると、アンフォールディング、変性、および分解が生じる。タンパク質およびその他の機能分子が変性すると(三次構造および四次構造が失われる)、それらの機能活性(の一部)が失われる。変性(アンフォールディング)の際、タンパク質は親水性および疎水性表面と相互作用する能力を失い、また熱冷却処理時に再編成してネットワーク様構造を形成する能力にも影響を受ける。(タンパク質)機能性は、多くの商業的用途、特に卵白と同様のゲル化特性が必要な用途において非常に重要なものとなる。本発明者らは、本明細書に記載の条件(例えば、記載の温度およびpH範囲)での機械的破砕の使用が、タンパク質および他の不安定な分子のアンフォールディング、変性および/または分解を防ぐのに十分穏やかであり、したがって、機能特性、特にゲル化挙動を保護するために必要であることを観察した。
【0071】
一実施形態では、ステップi)の前記懸濁液中の微生物細胞の質量濃度は、1~25%、好ましくは5~15%の範囲である。質量濃度は乾燥重量のパーセンテージであり、10%乾燥重量は100g/Lと同じである。
【0072】
微生物細胞を含む水性懸濁液は、増殖または発酵中に産生される細胞質物質または他の細胞外物質をさらに含み得る。
【0073】
本発明に係る方法の一実施形態では、微生物細胞は、単細胞またはコロニーの原核生物および真核生物、ならびにそれらの1つ以上の組み合わせから選択される。好ましい実施形態では、微生物細胞は、酵母、藻類、細菌、真菌、およびそれらの1つ以上の組み合わせよりなる群から選択される。特定の実施形態では、微生物細胞は酵母である。
【0074】
一実施形態では、方法は、ステップi)の後かつステップii)の前に、微生物細胞を含む水性懸濁液を前処理して、微生物細胞および副生成物を含む前処理された水性懸濁液を得るステップia)をさらに含む。特定の実施形態では、前記前処理は、デカント、遠心分離、膜濾過などの濾過、およびそれらの1つ以上の組み合わせから選択される。前記前処理の前に、微生物細胞を含む水性懸濁液を洗浄してもよい。洗浄およびその後の前処理の組み合わせは、二重の前処理と見なすことができる。洗浄は、例えば、水、酸もしくは塩基、またはエタノールなどの溶媒で行うことができる。この実施形態では、ステップの順序は以下の通りであり、ステップi)、ステップia)、ステップii)となり、前記懸濁液を機械的細胞破砕に供するステップii)において、ステップia)で得られた前処理された懸濁液が使用される。
【0075】
一実施形態では、ステップii)の前記機械的細胞破砕は、ビーズミリングを使用して実施される。一実施形態では、ビーズミリングは、1分~3時間の範囲の時間にわたり使用される。ミリング時間は、水性懸濁液に放出される細胞質化合物ならびにタンパク質および炭水化物などの他の細胞由来化合物の量を調整するためにも用いられる。細胞破砕プロセスは、代謝活性を低下させ、タンパク質の機能を維持し、および冷却コストを削減するために、15~35℃(好ましくは約25℃)で実行され得る。破砕プロセスは、好ましくはpH7~11、好ましくはpH9付近で実施される。あるいは、細胞破砕は、T<25℃で、>3時間、pH11で行われる。
【0076】
破砕条件は、好ましくは、所望の粒度分布を提供するように選択される。本明細書でさらに議論されるように、粒度分布を変更することにより、例えば特定の意図された用途に適合するように、混合製品の最終特性を変更することが可能となり得る。破砕プロセスは、二峰性の粒度分布(psd)が得られ、無傷の細胞のピークおよび細胞断片のピークが表示されるように実行される。酵母の場合、無傷の細胞のピークが6μmまで、細胞断片のピークが0.8μmまで得られる(図4および図9を参照)。
【0077】
細胞破砕プロセスの過程で、psdは変化し、無傷の細胞のピークが減少し、また結果として細胞断片のピークが増加することが示される。破砕プロセスは、特定のpsdが得られるまで実行される。酵母の例では、比表面積は時間の経過とともに増加するが、D[3,2]、D[4,3]、D10、D50、D90は時間の経過とともに減少する(図10A図10Bを参照)。酵母の場合、望ましい目的のpsdはD10<0.5μm、D50<4.5μm、D90<7.5μm、およびD[3,2]<2、D[4,3]<4.5である。当業者は、特定の破砕方法/装置のパラメータを調整して、所望のpsdに到達することができる。これは、例えば、ビーズミル、ホモジナイザー、またはその他の機器および特定の設定を用いることで実施でき、これについては、専門の文献に詳しく記載されている。
【0078】
考えられるビーズのサイズは、0.1~5mmの範囲、好ましくは0.5~1mmの範囲である。適切なビーズ材料は、ジルコニウムおよびガラスを含むが、これらに限定されない。
【0079】
適切と考えられるビーズ充填率(ビーズで満たされたビーズミルチャンバーのパーセンテージ)は、ビーズミルチャンバーの利用可能な総体積に対して、40~90%の範囲、好ましくは65~80%の範囲である。
【0080】
適切と考えられる回転速度は、1~20m/sの範囲である。各ビーズミルの構成およびジオメトリーに応じて、当業者は、対応するローター速度をrpmで見積もることができる。rpmでの適切な回転速度は、例えば500~5000rpm、好ましくは1000~3000rpmである。
【0081】
適切と考えられる微生物細胞の濃度は、乾燥重量で2~25%の範囲である。
【0082】
1つの特定の実施形態では、微生物細胞は、Dyno-mill Research Lab(CB Mills)ビーズミルを使用して破砕される。細胞はまた、ブレンディング(例として高速ブレンダーまたはワーリングブレンダーなど)、フレンチプレス、または細胞壁が弱い場合には遠心分離を使用して、細胞を破砕させるといったようなせん断力によって破壊することもできる。
【0083】
一実施形態では、化学物質および/または溶媒を添加することなく細胞破砕が起こる。
【0084】
一実施形態では、ステップii)中のpH値は4~11の範囲である。好ましい実施形態では、ステップii)中のpH値は7.5~9の範囲である。
【0085】
一実施形態では、ステップii)中の温度は、45℃未満、好ましくは35℃未満、または15~25℃など、35℃以下である。
【0086】
一実施形態では、破砕ステップは、粒子の少なくとも10%が0.5μm以下のサイズを有し、得られた細胞断片の少なくとも50%が4.5μm以下のサイズを有するように実行される。
【0087】
方法はさらに、ステップii)の後にステップiii)を含み、ステップiii)は、ステップii)で得られた破砕した微生物細胞を含む水性懸濁液を分離処理に供し、抽出物が懸濁している可溶性化合物に加えて、小細胞断片が豊富な抽出物および大細胞断片が豊富な抽出物を微生物細胞産物として得る。換言すれば、破砕した微生物細胞を含む水性懸濁液は、2つの抽出物に分離される。これらは、本明細書において、EESF(小断片が豊富な抽出物)およびEELF(大断片が豊富な抽出物)と呼ばれ得る。分離処理は、固‐液分離であってもよい。分離処理は、当業者に知られている任意の適切な方法を使用して行い得る。好ましい実施形態では、分離処理は、デカント、遠心分離、膜濾過などの濾過、およびそれらの1つ以上の組み合わせからなる群から選択される。分離のための適切な方法には、沈降(settling)、堆積(sedimentation)、凝集(flocculation)/凝固(coagulation)、沈殿(precipitation)、デカンテーション、(水)サイクロン分離および(空気)浮選をさらに含む。本明細書で説明するように、特定の好ましい特性を有する濃縮(豊富な)抽出物を得るために、特定の分離条件を微調整してもよい。
【0088】
小細胞断片が豊富な抽出物は、ほとんどが可溶性の細胞質物質と小細胞断片とを含み得、大細胞断片が豊富な抽出物は、ほとんどが大細胞断片といくらかの可溶性細胞質物質とを含み得る。
【0089】
EESFは、低強度および中強度の遠心分離によって優先的に得られる。低強度および中強度とは、短時間または低g力、またはその組み合わせを意味する。低強度の例は、ベンチトップ遠心機での4000rcf未満での2分間未満の分離である。中強度の例は、ベンチトップ遠心機での4000rcf未満での15分間未満の分離である。高強度の遠心分離の例は、>20000rcfでの>20分である。
【0090】
EESFの収率を高めるためには、低および中の分離強度が好ましい。さらに、低強度および中強度の分離により、EESFの優れた機能が得られる。
【0091】
一実施形態では、ステップiii)の前記分離処理は、相対遠心力(rfc)4000以下の遠心力で遠心分離することである。
【0092】
一実施形態では、前記遠心分離は、20分以下の時間で行う。特定の実施形態では、前記遠心分離は、15分以下の時間で行う。
【0093】
一実施形態では、前記小細胞断片が豊富な抽出物は、微生物細胞断片および可溶性細胞質化合物を含み、少なくともd50≦500nmである。
【0094】
一実施形態では、小細胞断片が豊富な抽出物は、同時に得られた小細胞断片が枯渇した水性懸濁液(すなわち、大細胞断片が豊富な抽出物)よりも、少なくとも1%、好ましくは少なくとも10%、例えば少なくとも20%または少なくとも30%または少なくとも50%多くの小細胞断片を含む。
【0095】
分離パラメータを調整して、好ましい粒度分布の優先的な回収をすることができる。例えば、酵母の場合、EESFについて0.1~3μmの範囲(少なくともd50≦500nm)の粒子、EELFについて3~10μmの範囲の粒子の優先的な回収を目標とすることができる。
【0096】
EESFの粒度分布は、遠心分離機での分離強度の結果で変化する。
【0097】
特定の実施形態では、破砕した細胞調製物の含水量は、分離ステップの前に調整してもよい。希釈レベルを変更することで、EESFおよびEELFの機能特性を修正できる。
【0098】
一実施形態では、方法は、混合ステップv)の前にEESFをインキュベートするステップをさらに含む。細胞破砕の過程で、pHが低下することがわかっている(例えば、約9から約6.5へ)。これらの条件下では、かなりの量のCOが放出され得る。これにより、いくつかの食品用途に使用できる膨張効果が得られる。しかし、これは常に望ましいとは限らないため、EESFをインキュベーションステップにかけ、余剰のCOを枯渇させることができる。例えば、EESFは、25℃未満で少なくとも60分間、穏やかに、すなわち攪拌せずに好気条件下でインキュベートしてもよい。一実施形態では、EESFは、>5%のDWを含有する液体懸濁液として、>60分間、およびT<25℃で撹拌下に放置される。インキュベーションプロセス中に、EESFの機能特性を損なうことなく、余剰のガスが放出される。インキュベーションプロセスの後、膨張効果は大幅に減少する。さらに、本発明者らが驚いたことに、例えば破砕後のpH<6.5からpH>6.9、例えばpH6.9またはpH7.0までpHをわずかに上昇させると、膨張効果は実質的に減少し得る。
【0099】
一実施形態では、方法は、ステップii)またはステップiii)で得られた微生物産物の少なくとも1つを精製処理に供して、少なくとも1つの精製微生物細胞産物を得るステップiv)をさらに含む。精製処理は、当業者に知られている任意の適切な方法を使用して行ってよい。精製方法の例は、吸着、クロマトグラフィー、ダイアフィルトレーションまたは膜濾過などの濾過、結晶化、凝集/凝固、沈殿、二相抽出(two-phase extraction)、亜臨界(sub-critical)および超臨界(supercritical)抽出、並びに溶媒抽出である。好ましい実施形態では、精製処理は、洗浄、膜濾過またはダイアフィルトレーションなどの濾過、吸着、クロマトグラフィー、結晶化、凝集/凝固、沈殿、二相抽出、亜臨界および超臨界抽出、溶媒抽出、ならびにそれらの1つ以上の組み合わせからなる群からのものである。ステップii)およびステップiii)で得られた両方の微生物産物が精製処理にかけられる場合、これらの精製処理は独立して選択される。
【0100】
一実施形態では、ステップiv)の前記精製処理は膜濾過であり、使用される膜のカットオフ値は1kDa~20000kDaの範囲、好ましくは10kDa~1000kDaの範囲である。一実施形態では、使用される膜のカットオフ値は、0.1~2μmの範囲である。
【0101】
方法は、ステップiii)で得られた小細胞断片が豊富な抽出物の少なくとも一部と、ステップiii)で得られた大細胞断片が豊富な抽出物の少なくとも一部とを混合するステップv)を行って、微生物細胞産物として混合抽出物を得ることか、または、ステップiv)で得られた小細胞断片が豊富な精製抽出物の少なくとも一部と、ステップiv)で得られた大細胞断片が豊富な精製抽出物の少なくとも一部とを混合するステップv)を行って、微生物細胞産物として混合精製抽出物を得ること、を含む。この混合するステップは、産物をさらに調整するために使用できる。例えば、意図した目的に対して分離が「完全」すぎると思われる場合、つまり抽出物の濃縮が高すぎる(豊富過ぎる)時に、混合が適用される場合がある。例えば、小細胞断片が豊富な抽出物中の小細胞断片の量が特定の目的に対して最適な量よりも多い場合、大細胞断片が豊富な抽出物の一部を小細胞断片が豊富な抽出物と混合して、混合抽出物を得る。
【0102】
これにより、EESFまたはEELFとは異なる特性を備えた混合産物が得られ、さらに、分離ステップ中に少なくとも一部の可溶性成分が除去されるため、破砕した細胞調製物とは異なる特性を備えた混合産物が得られることに言及することが重要である。本明細書で提供される詳細から明らかなように、特定のEESFおよびEELF抽出物は、わずかに異なる条件下においてわずかに異なる方法によって生成され、所望の特性が得られる。次いで、混合産物の所望の特性が得られるように、組み合わせの割合も変更してよい。
【0103】
一実施形態では、方法は、ステップii)、ステップiii)、ステップiv)またはステップv)で得られた微生物産物の少なくとも1つを乾燥するステップvi)を行って、乾燥微生物細胞産物を得ることをさらに含む。好ましい実施形態では、乾燥ステップは、噴霧乾燥、凍結乾燥および流動床乾燥(fluidized bed drying)から選択される方法による。乾燥は濃縮でもあり得る。好ましくは、乾燥微生物細胞産物は、乾燥微生物細胞産物の総重量に対して、10重量%以下、より好ましくは5重量%以下の含水量を有する。150℃を超え、かつ200℃未満で行う噴霧乾燥および流動床乾燥により、無色、無臭および無味の製品が得られる。これは、乾燥中に揮発性化合物が除去されるためである。フリーズドライは、昇華時に保存されるため、香り、色、および味を保存するための好ましい技術である。
【0104】
EESFおよびEELFの機能特性をさらに維持するためには、濃縮が好ましい。濃縮は、好ましくは、生成物が>50℃または<0℃の温度に曝されない当該技術分野で既知の方法で実行される。そのような方法の例は膜濃縮である。EESFおよびEELFは、DW含有量が20%を超えるように優先的に濃縮される。
【0105】
一実施形態では、方法は、ステップvi)で得られた小細胞断片が豊富な乾燥抽出物の少なくとも一部と、ステップvi)で得られた大細胞断片が豊富な乾燥抽出物の少なくとも一部とを混合するステップvii)を行って、微生物細胞産物として混合乾燥抽出物を得ることか、または、ステップvi)で得られた小細胞断片が豊富な乾燥精製抽出物の少なくとも一部と、ステップvi)で得られた大細胞断片が豊富な乾燥精製抽出物の少なくとも一部とを混合するステップvii)を行って、微生物細胞産物として混合乾燥精製抽出物を得ることをさらに含む。乾燥抽出物の1つを精製し、また乾燥抽出物の1つを混合前に精製しないことも可能である。簡潔性のため、このオプションは図1には示されていない。
【0106】
図1で説明したすべての混合戦略は、EESFおよびEELFが乾燥ではなく濃縮されている場合にも適用可能である。簡潔性のため、このオプションは図1には示されていない。
【0107】
一態様では、本発明は、上記の少なくともステップi)、ii)およびiii)を含む方法によって得られる小細胞断片が豊富な抽出物に関し、ここで、該抽出物は、天然の立体構造で分子量が10kDaを超え、好ましくは50kDaを超え、より好ましくは60kDaを超える可溶性タンパク質を含む。一実施形態では、前記抽出物中のすべての可溶性タンパク質の少なくとも95%が、それらの天然の立体構造で、10kDaを超える、好ましくは50kDaを超える、より好ましくは60kDaを超える分子量を有する。
【0108】
この態様の一実施形態では、前記小細胞断片が豊富な抽出物は、微生物細胞断片および可溶性細胞質化合物を含み、ここで、前記細胞断片の少なくとも80%がd50≦500nmである。
【0109】
この態様の一実施形態では、小細胞断片が豊富な抽出物は、同時に得られた小細胞断片が枯渇した水性懸濁液(すなわち、大細胞断片が豊富な抽出物)よりも、少なくとも1%、好ましくは少なくとも10%、例えば少なくとも20%、さらには少なくとも30%、または少なくとも50%多くの小細胞断片を含む。
【0110】
一実施形態では、微生物細胞産物は、卵と同様の結合特性、保湿特性、水油保持特性、および/または乳化特性を提供する。場合によっては、微生物細胞産物は結合剤として使用される。場合によっては、微生物細胞産物は保湿剤として使用される。場合によっては、微生物細胞産物は乳化剤として使用される。場合によっては、微生物細胞産物は発泡剤として使用される。場合によっては、微生物細胞産物は水保持剤または油保持剤として使用される。場合によっては、微生物細胞産物はゲル化剤として使用される。
【0111】
いくつかの実施形態では、微生物細胞産物は、等量または不等量の卵を使用して調製される同等の製品の調製において、卵黄、卵白、または全卵の代用品として使用することができる。好ましい実施形態では、微生物細胞産物は、卵白の代用品として使用される。
【0112】
いくつかの態様では、本発明は、本明細書に記載の混合微生物細胞産物を含む食品を提供する。
【0113】
一実施形態では、ステップiii)および/またはステップiv)の間のpH値は、方法のステップii)の終了時に相当する。一実施形態ではステップiii)および/またはステップiv)中の温度は、方法のステップii)中の温度と同じである。
【0114】
主に酵母細胞から得られる調製物を参照して本明細書に記載されているが、本発明はこれに限定されない。他の様々な微生物を使用することができる。実施形態では、微生物は、酵母(好ましくはサッカロミセス種(Saccharomyces sp)、より好ましくはビール酵母またはパン酵母)を含む真菌;植物、特に微細藻類(テトラセルミス属(Tetraselmis sp)またはクロレラ種(Chlorella sp)、例えばC.ブルガリス(C. vulgaris)を含む);およびシアノバクテリア(アルスロスピラ属(Arthrospira sp)、好ましくはA.プラテンシス(A. platensis)を含む)から選択され得る。微生物は、細菌、例えば乳酸菌からも選択してもよい。
【0115】
開示された実施形態に対する他の変形(物)は、図面、開示、および添付の特許請求の範囲の研究から、請求された発明を実施する当業者によって理解され、また実行され得る。特許請求の範囲において、「含む(comprising)」という言葉は他の要素またはステップを除外するものではなく、不定冠詞「a」または「an」は複数を除外するものではない。特定の手段が相互で異なっている従属請求項に記載されているという単なる事実は、これらの手段の組み合わせが有利に使用できないことを示すものではない。
【0116】
本発明の範囲は、特許請求の範囲によって定義される。本発明の目的の1つ以上は、添付の特許請求の範囲によって達成される。
【0117】
[方法]
[微生物細胞を含む水性懸濁液の準備]
水性懸濁液を準備する例では、100g/Lの濃度(10%乾燥重量)に到達するように、一定温度で穏やかに撹拌しながら、既知の体積の水にパン酵母(乾燥懸濁液または湿潤懸濁液として)を加えることにより、水性懸濁液を調製する。均質な懸濁液が得られるまで撹拌を行う。
【0118】
[pHの調整]
pHの調整は、一例として、微生物細胞を含む水性懸濁液に、5M NaOH溶液を、一定の穏やかな攪拌および一定の温度の下で、所望のpHとなるまでゆっくりと加えることによって行われる。NaOHの他の溶液、および他のタイプの塩基(例えば、CaOH)を使用して、微生物懸濁液のpHを調整することができる。同様に、適切な酸の溶液を使用して、微生物懸濁液のpHを下げることができる。
【0119】
[前処理]
一例では、微生物バイオマスの前処理は、以下の4つのステップを含む洗浄によって実施することができ:
(1)均一な酵母懸濁液(100g/L)を3000rcfで5分間、温度15℃で遠心分離する。
(2)得られた上澄みを除去し、等量の水に置き換える。
(3)得られた懸濁液を、均質な懸濁液が得られるまで穏やかに混合する。
(4)ステップ(1)~(3)を2~3回繰り返す。除去された上澄みは、別々に収集するか、または混合して副生成物(本発明における副生成物1)を得ることができる。
(5)ステップ1~4は、当技術分野で知られているプロセス構成を用いて、当業者によって実施され得る。そのような構成の一例は、向流(counter-current)または並流(co-current)洗浄である。
【0120】
[細胞破砕]
酵母の細胞破砕の例では、ビーズミリングの使用により細胞破砕を実施する。このビーズミリングは、Dyno Mill研究所(Willy A. Bachofen AG)で行われる。pH8.9で100g/L(10%DW)のサッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)を含有する200mlの溶液を、バッチ再循環モードで15分間処理する。2039rpmの一定速度を用いて、温度を24~26℃の範囲で制御する。ミルは、65%の充填率で0.5mmの球状ジルコニウムビーズを含有する。したがって、破砕した微生物細胞を含む水性懸濁液が得られる。
【0121】
[分離処理]
分離の一例では、分離は、スイングバケットを備えたベンチトップ遠心分離機アレグラX-22Rで実施される遠心分離によって行われる。小細胞断片が豊富な抽出物が得られるとともに、大細胞断片が豊富な抽出物とも呼ばれる、小細胞断片が部分的に枯渇した水性懸濁液である残留物も得られる。
【0122】
[精製処理]
精製の一例では、精製は、ラボスケールのTTFシステム(Millipore)を用いて実施される濾過によって行われる。濾過は、<1barの一定の膜貫通圧および再循環モードで行われ、3~6倍の濃縮係数が達成される。試行ごとに、各濾過循環の前に、水で1倍に希釈する。したがって、精製もダイアフィルトレーションプロセスとして行われる。
【0123】
精製は、限外濾過または精密濾過によって行われ、すなわち、上記の方法で限外フィルターまたはマイクロフィルターのいずれかを使用する。限外濾過は、10kDa~1000kDaの範囲の親水性の膜カセット(membrane cassettes)(Biomax)を使用して行われる。0.2μmの中空糸膜ユニット(GE)によって精密濾過を行う。
【0124】
[乾燥]
乾燥の一例では、噴霧乾燥機(Ollital Technology)を用いて180℃で乾燥を行い、最終水分含有量が<5重量%になるようにする。乾燥は、凍結乾燥機 (Zirbuss Gmbh 2x3x3)を使用して、‐20℃および<1mbarで48時間行うこともできる。
【実施例
【0125】
以下の実施例に基づいて本発明をさらに説明するが、これらの実施例は単なる例示であり、本発明を限定するものとは見なされない。
【0126】
[実施例1]
パン酵母由来の微生物細胞を含む水性懸濁液は、上記のように調製する。細胞破砕の前に、水性懸濁液のpHをpH7に調整する。
【0127】
上述のように細胞破砕を適用し、破砕した微生物細胞を含む水性懸濁液を得る。
【0128】
[実施例2]
パン酵母由来の微生物細胞を含む水性懸濁液は、上記のように調製する。細胞破砕の前に、水性懸濁液のpHをpH7に調整する。
【0129】
上述の細胞破砕およびその後の分離を適用し、小細胞断片が豊富な抽出物および大細胞断片が豊富な抽出物を得る。
【0130】
[実施例3]
パン酵母由来の微生物細胞を含む水性懸濁液は、上記のように調製する。細胞破砕の前に、水性懸濁液のpHをpH9に調整する。
【0131】
小細胞断片が豊富な抽出物について、上記のような、細胞破砕、その後の分離、およびその後の限外濾過による精製を適用し、小細胞断片が豊富な精製抽出物を得る。
【0132】
[実施例4]
パン酵母由来の微生物細胞を含む水性懸濁液は、上記のように調製する。細胞破砕の前に、水性懸濁液のpHをpH9に調整する。
【0133】
小細胞断片が豊富な抽出物について、上記のような、細胞破砕、その後の分離、およびその後の精密濾過による精製を適用し、小細胞断片が豊富な精製抽出物を得る。
【0134】
[実施例5]
パン酵母由来の微生物細胞を含む水性懸濁液は、上記のように調製する。細胞破砕の前に、水性懸濁液のpHをpH9に調整する。
【0135】
小細胞断片が豊富な抽出物について、上記のような、細胞破砕、その後の分離、およびその後の限外濾過による精製、ならびにその後の乾燥を適用し、小細胞断片が豊富な乾燥精製抽出物を得る。
【0136】
[異なるステップでの温度およびpHの変化の例]
表1は、本方法に係る異なるプロセスステップ全体を通したpHおよび温度の例を示す。
【表1】
【0137】
[ビーズミリング時の処理温度の影響]
ビーズミリング中の温度は、得られた微生物細胞産物のゲル化挙動に影響を及ぼす。
【0138】
これは、温度を20~55℃の範囲で変化させたことを除いて、実施例1を繰り返すことによって調査した。追加の実験を行い(*)、温度制御なしで1時間の長時間にわたって破砕を実行した。最高温度は60℃を記録した。結果を表2に示す。
【0139】
ビーズミリングの前に、温度を所望の値に調整した。細胞破砕への温度の対応する影響は、フローサイトメーター(BD Accuri C6)を使用して推定した。測定前に、サンプルを水で80倍に希釈し、フローサイトメーターで分析した。細胞破砕を、前方散乱データから決定した。破壊された細胞の割合は、参照としてT=20℃でのバイオマス懸濁液を使用して推定した。
【0140】
すべてのサンプルについて、得られた小細胞断片が豊富な抽出物を収集、乾燥、および分析して、ゲル化性能を決定した。
【0141】
ゲル化を以下のように決定した。水に200g/L(20%DW)を含有する溶液を調製した。150g/L(15%DW)および100g/L(10%DW)に達するように、水でさらに希釈した。ブロックヒーターの使用により懸濁液を95℃で10分間加熱し、次いで水浴中で周囲温度まで冷却した(T=25℃)。得られた材料は、以下のランキング(スコア)に従ってゲル化特性を分析し、0はゲル化が観察されなかったことを意味し、1はペーストが観察されたことを意味し、2は粘度が高いペーストが観察されたことを意味し、3は非常に柔らかいゲルが観察されたことを意味し、4は柔らかいゲルが観察されたことを意味し、5は硬いゲルが観察されたことを意味する。
【0142】
【表2】
【0143】
[異なるpH値でのタンパク質立体構造およびタンパク質溶解度に対するpHの影響]
実施例2を繰り返したが、懸濁液のpHは、ビーズミリングの前の懸濁液のpHと異なる値に調整した。小細胞断片が豊富な抽出物を採取し、次のように分析した。ネイティブゲル電気泳動について、サンプルは、ランニングバッファーとして10xトリス‐グリシンバッファーを使用して、4~12%のクロスリンクを備えたプレキャストゲルに装填した。サンプルを125Vで70分間稼働し、天然のタンパク質マーカーと比較した。タンパク質バンドはクーマシーブルーで染色した。
【0144】
タンパク質溶解度について、タンパク質含有量の指標として、小細胞断片が豊富な抽出物中のタンパク質濃度を分光光度計において280nmで測定した。解釈を容易にするために、データを正規化した。
【0145】
図2Bから、小細胞断片が豊富な抽出物に存在するタンパク質の溶解度は、アルカリ性のpH値で高いことが明らかである。図2Aから、特に4~11(好ましくは7~9)の範囲のアルカリ性pH値において増加したこの溶解度は、タンパク質および他の分子複合体の天然の立体構造に影響を与えないことが見て取れる。図2Aは、タンパク質が天然の立体構造で存在する場合のバンドを示す天然ゲル電気泳動である。タンパク質が変性すると、対応するバンドが完全に消失するか、または異なる分子量で新しいバンドが生じることとなる。
【0146】
[ビーズミルでの滞留時間の影響]
実施例2を繰り返し、さらなる分析のためにビーズミリング中の異なる時点でサンプルを採取した。さらなる分析のために小細胞断片が豊富な抽出物を収集した。
【0147】
タンパク質は、ローリーの方法[刊行物 Lowry, O.H.; Rosebrough, N. J.; Farr, A. L.; Randall, R. J. (1951). 「Protein measurement with the Folin phenol reagent」. Journal of Biological Chemistry. 193 (1): 265-75]に従って、標準タンパク質としてBSAを使用して測定した。炭水化物は、デュボアの方法[刊行物 MICHEL DUBOIS, K. A. GILLES, J. K. HAMILTON, P. A. REBERS, and FRED SMITH. Colorimetric Method for Determination of Sugars and Related Substances. ANALYTICAL CHEMISTRY. VOLUME 28, NO. 3, MARCH 1956]に従って、標準糖としてブドウ糖を使用して測定した。
【0148】
図3は、ビーズミル内の滞留時間(横軸)の関数として、タンパク質(左の縦軸)および炭水化物(右の縦軸)の可溶化量をプロットしたものを示す。図3は、ビーズミリングの滞留時間がタンパク質および炭水化物の可溶化にどのように影響するかを示している。個々の分子の可溶化速度が異なるため、ビーズミル内のせん断力および滞留時間を調整して、さまざまな組成の抽出物、ひいてはさまざまな機能活性を得ることができる。
【0149】
これは、破砕ステップ中の滞留時間を調整することにより、タンパク質および炭水化物の可溶化のレベルを考慮した制御が可能であることを示している。図3は、2つの異なる滞留時間を選択することにより、組成の大きく異なる2つの抽出物が得られる例を示している。滞留時間が5分(P1の矢印を参照)の場合、得られた抽出物は、滞留時間が20分(P2の矢印を参照)と比較して含有される可溶性炭水化物が30%少ないことが判明した。さらに、粒度分布は、滞留時間の関数として調整することもできる。最終産物の機能特性は粒度分布に依存するため、これは本発明において特に重要なものである。
【0150】
[ビーズミリング後の細胞画分の粒度分布]
実施例2を繰り返したが、ミリング時間(ビーズミル内の滞留時間)については異なる値を使用した。得られた破砕微生物細胞を含む水性懸濁液(スラリーとも呼ばれる)を分析のために収集した。その後の分離後に得られた小細胞断片が豊富な抽出物も、さらなる分析のために収集した。
【0151】
粒度分布は、使い捨ての折り畳まれた毛細管セルを備えたZeta-Sizer Ultra(Malvern Panalytical)を使用して測定した。サンプルを、濃度が<10g/L(1% DW)になるように水中で調製する。サンプルを、気泡が形成されていないことを確認しながら測定セルに添加する。サンプルを、25℃、1.33の屈折率で、30秒の待機時間で3回測定した。
【0152】
D99、D70、およびD50の値を、粒度分布データから計算した。D99の粒度は、粒子の99%がこの値よりも大きいことを示している。D70の粒度は、粒子の70%がこの値よりも大きいことを示しており、D70(70%)およびD50(50%)については必要な変更を加える。各サイズカテゴリの粒子の割合は、粒子の総数から決定し、間隔ごとの対応するサイズを推定した。破砕後および分離処理後の粒子範囲を表3に示す。
【0153】
【表3】
【0154】
図4は、15分間(「15分スラリー」 - 黒の実線)および 3時間(「3時間スラリー」 - 灰色の実線) のビーズミリング後の破砕した細胞を含む水性懸濁液中の細胞画分の粒度分布を示している。横軸はナノメートル単位の細胞断片の直径を示し、縦軸はシグナルの強度を示す。これらの実線は、200~400nmの範囲のピーク(小細胞断片)並びに、500~1500nmおよび5500nm付近の領域のピークを示している。さらに、小細胞断片が豊富な抽出物を分離(4000rcfで遠心分離)した後、粒度分布を決定した(15分SN、3時間SN、ここで、SN=上澄み)。図4に示されるように、前記分離処理の結果は、平均サイズが200~400nmの範囲の細胞断片の集団が、遠心分離法を使用して選択的に維持されており、換言すれば、これら小細胞断片は抽出物に移行するが、大細胞断片は最初に破壊された懸濁液(または、小細胞断片が枯渇した水性懸濁液もしくは大細胞断片が豊富な抽出物)内に留まる。これは、本発明の分離ステップの効果を明確に示している。発明者らが驚いたことには、そのような小細胞断片(すなわち、小細胞断片が豊富な抽出物)は、タンパク質単離物などの高純度成分に文献で割り当てられたものに匹敵する機能特性を示す。
【0155】
本発明は、しばしば小断片が豊富な抽出物について500nmの粒度に言及する。明確かつ簡潔にするために、この値はd50を指す。
【0156】
本発明の1つの重要な要素は、小断片が豊富な抽出物および大断片が豊富な抽出物が多峰性分布を示すという事実である。したがって、マスターサイザー2000(Malvern Panalytical)を使用して、分散剤(水)の屈折率を1.33、また酵母の場合は粒子の屈折率を1.34として、上記の抽出物および産物のさらなる特徴付けを行った。すべての分析は、ミー散乱モデルを使用して行った。
【0157】
[遠心力の影響]
実施例2を繰り返したが、分離ステップ中の遠心力にさまざまな値を用いた。得られた小細胞断片が豊富な抽出物を、さらなる分析のために収集した。
【0158】
最大ゲル化強度(G’[Pa])を、レオメーター(Anthon Parr)で測定した。サンプルを加熱冷却処理(順次、25℃、90℃、25℃)に供した。G’max(貯蔵弾性率(storage modulus)とも呼ばれる)の値を、冷却ステップ(約28℃の温度)の最後に得た。
【0159】
図5は、いくつかの遠心力(RFC)および、最大ゲル強度に対するその影響についてのバーを示している。図5に示すように、本発明者らは、遠心力を調整することが、分離処理の結果として得られる抽出物の機能特性に直接影響を与えることを発明的に発見した。低遠心力を用いることで、小細胞断片が豊富な抽出物(上澄み)のゲル化特性が向上する。当業者は、本明細書に開示された発明に基づいて、細胞断片の集団を200~400nmの範囲に維持しながら、所望の固‐液分離を達成するための、遠心力の特定の値および必要な時間を調整することができる。図5に示す例では、遠心力<4000rfc、時間<15分が好ましい。
【0160】
[小細胞断片が豊富な抽出物のゲル化挙動に対する膜カットオフの影響]
実施例3を繰り返したが、精製中に使用したフィルターの膜カットオフ値については異なる値を使用した。
【0161】
得られた小断片が豊富な精製抽出物を、さらなる分析のために収集した。
【0162】
最大ゲル化強度(G’[Pa])を、レオメーター(Anthon Parr)で測定した。サンプルを加熱冷却処理(順次、25℃、90℃、25℃)に供した。G’max[Pa]の値は、冷却ステップの終了時(約28℃の温度)で得られた。
【0163】
図6は、ゲル強度によって測定された、卵白タンパク質単離物、ホエイタンパク質単離物およびエンドウタンパク質単離物などの他のタンパク質が豊富な供給源と比較した、本発明に係る小細胞断片が豊富な精製抽出物のバーを示している。図6は、膜ベースの濾過を精製処理として適用して、小細胞断片が豊富な抽出物のゲル化特性を大幅に向上できることを示している。0.2、100、および10という数字は、膜のカットオフ値、つまり2μm、100kDa、および10kDaを表す。特に、膜ベースの濾過を使用して、小細胞断片が豊富な抽出物を、濃縮水(retentate)相(小細胞断片が豊富な精製抽出物)および透過相(副生成物)に精製できる。図6はまた、比較として、pH7(豊富な画分pH7)またはpH9(豊富な画分pH9)で破砕した小細胞断片が豊富な抽出物を示す。図6に示すように、小細胞断片が豊富な精製抽出物(濃縮水画分)は、良好なゲル化特性を示す。さらに、小細胞断片が豊富な抽出物は、特にpH9でのゲル化特性も示す。
【0164】
[表面張力]
実施例3を繰り返したが、精製中に使用したフィルターの膜カットオフ値については異なる値を使用した。得られた副生成物および小断片が豊富な精製抽出物を、次のようにさらなる分析のために収集した。
【0165】
表面張力は、自動落下張力計(ADT、Teclis Tracker)を使用して測定した。参照サンプルとして、空気‐水および、ヘキサデカン-水(油-水)を使用した。
【0166】
図7は、空気‐水界面の副生成物(P)の平衡表面張力(左)、および油‐水界面の小細胞断片が豊富な精製抽出物(R)の平衡表面張力(右)を示すバーを示している。卵白タンパク質単離物およびホエイタンパク質単離物の値を比較として用いている。平衡表面張力は、表面安定性の程度を反映しており、より低い値は、より優れた活性を有するサンプルから得られる。0.2、1000、100および10、という数字は、精製ステップ中の濾過で使用される膜のカットオフ値、つまり2μm、1000kDa、100kDa、および10kDaを表す。本発明のいくつかの実施形態による精製処理は、小細胞断片が豊富な抽出物を、小細胞断片が豊富な精製抽出物および副生成物に選択的に分画する方法を提供する。これらの抽出物は両方とも、ゲル化挙動に加えて、図7に示すように優れた表面活性を示す。本発明者らは、そのような表面活性はまた、本発明に係る抽出物の発泡活性および乳化活性にも反映され、典型的なタンパク質単離物に匹敵するか、またはより優れていることを発見した。
【0167】
[抽出物の組成例]
実施例3を実施し、得られた抽出物をさらに分析した。
【0168】
分離処理後に得られる小細胞断片および大細胞断片が豊富な抽出物は、タンパク質および炭水化物が豊富であり得る。表4は、小細胞断片が豊富な抽出物および大細胞断片が豊富な抽出物の組成例を示している。表中の「灰分(ash)」は鉱物などの無機物を指す。
【0169】
【表4】
【0170】
[さらなる調査]
微生物調製物の特性に対するさまざまな処理および調製方法の影響に関して、さらなる調査を行った。図9に見られるように、破砕プロセスが長時間にわたって実行されると、粒度分布が変化する。酵母の場合、破壊時間が長くなるにつれて無傷の細胞のピークが減少し、細胞断片のピークが増加して、無傷の細胞のピークが約6μm、および細胞断片のピークが約0.8μmになる。したがって、破砕プロセスは、所望の粒度分布が得られるまで実行することができる。酵母の場合、所望するターゲットpsdは、D10<0.5μm、D50<4.5μm、D90<7.5μm、およびD[3,2]<2、D[4,3]<4.5である。
【0171】
さまざまな分離条件の効果を図11図13に示す。これらの例では、破壊された酵母調製物を、低強度、中強度、および高強度の遠心分離によって分離した。低強度および中強度は、EESFの収率を向上させることができる。例として、EESFの10%を超える収率(DW)は、低および中の遠心強度と高遠心強度とを使用して得られる。
【0172】
さらに、高強度では、EESFのゲル形成特性が低下するが、低強度および中強度ではゲル形成特性が改善される(図11)。高強度の分離を用いると、EESFの機能が低下する。中程度の分離強度が、EESFで優れた機能性を確保するのに好ましい。この文脈における「機能性(functionality)」とは、ゲル化硬度を意味し、例として、低強度分離では0.08~0.1Nのゲル硬度が得られ、高強度分離では0.05~0.07Nのゲル硬度が得られる。
【0173】
異なる分離強度が、EESFまたはEELFの粒子含有量を変更すると考えられる(図12および図13を参照)。分離強度を上げると比表面積は増加するが、粒子数は大幅に減少する。0.1~3μmの範囲の粒子を有するEESFを濃縮するために、低い分離強度を使用することが好ましい。高強度分離条件では、主に可溶性化合物が液相に残り、0.1~0.3μmの範囲の少量の粒子が残る(図12を参照)。分離強度を上げると比表面積は増加するが、粒子数は大幅に減少する(図13を参照)。これらの粒子は、EESFの全体的な収率および機能特性を向上させるために不可欠であり、ゆえに、低分離強度と高分離強度との間のバランスを見つけなければならない。
【0174】
EELFは、優先的に2~10μmの範囲の断片を含有する。油保持能力を損なうことなく水保持能力を高めるには、2~10μmの範囲の細胞断片が好ましい。以下の表を見ると、EESFおよびEELFの水および油の保持能力、それに加えて好ましい粒度分布が示されている。
【表5】
【0175】
EESFおよびEELFのpsdには、特に1~4μmの範囲で重複があることに注意されたい。これは、低強度の分離を使用した場合により顕著になる(図12を参照)。したがって、中間強度の分離を使用することが好ましい。
【0176】
画分の機能特性を修正するために、異なる希釈で分離を行うこともできる(図14図18を参照)。例えば、分離は、20%~2.5%まで変化する乾燥重量(DW)含量で実施することができる。分離前にDW含有量を減らすことにより(希釈程度を増加することに相当)、ゲル化特性およびEELFの水保持能力が向上する。その結果、EESFの機能特性が低下する(図14を参照)。逆に、低いDW含有量で分離が行われる場合、EELFにおける水保持能力および油保持能力はとりわけ改善される(図15を参照)。
【0177】
EESFおよびEELFのpsdの範囲は、異なる希釈レベルが実装されている場合、実際的に影響を受けない。多峰性分布の主要なピークの相対的な寄与のみが変化する。~0.2μmにピークを有する粒子と~1.5‐2μmに広いピークを有する粒子の寄与は、希釈レベルが高くなるほど増加する(図16を参照)。同様に、希釈レベルが高いほどトータルの比表面積(SSA)が高くなり(図17を参照)、D[3,2]およびD[4,3]は希釈レベルの増加とともに減少する(図18を参照)。
【0178】
[他の微生物]
これまでの例では出発微生物として酵母を使用してきたが、機能活性を有する細胞断片を生成するために、記載されたプロセスを他の微生物にも適用することができる。以下の表は、本発明に係る分離条件下で、2つの微細藻類種および1つのシアノバクテリア種のEESFから得られたゲルの硬度を示す。
【0179】
【表6】
【0180】
さらに、S/L(小/大)分離の前に高希釈を行うと、ゲル化硬度などのEELFの機能特性が向上するという有利性がある。
【表7】
【0181】
さらに、S/L分離ステップの前に希釈レベルを調整することで、他の機能特性、例えば油保持容量(OHC)を調整することを有利に行える(図19を参照)。
【0182】
[延長された細胞破砕]
EELFの機能特性を強化するために、細胞破砕ステップをさらに延長することができる。例として、優れたゲル硬度、水保持容量WHC、および油保持容量OHCを備えたEELFを生成するために、psdを240分間にわたって修正できる。
【0183】
【表8】
【0184】
アルカリ性条件、優先的にpH>9で細胞破砕を実施し、低DW含有量(< 5%)でS/L分離を実行することにより、EELFの機能特性が大幅に強化される(図20を参照)。しかし、アルカリ性pHでは、延長された細胞破砕が続く過程でpsdが独特の傾向を示す。微粉化プロセスで予想される、粒度の着実な減少の代わりに、粒子は凝集する傾向がある。この効果は、pH11で特に顕著である(図21を参照)。
【0185】
pH11で行われる延長された細胞破砕プロセスに続いて、高希釈レベル(DW<5%)でのS/Lにより、酵母バイオマスに適用される従来のB-グルカン抽出プロセスと比較して、優れた機能を備えたEELFが生成される。参考までに、細胞の自己消化、細胞の均質化、アルカリ抽出、酸抽出、水抽出(Aut+Hom+Extr)を含むプロセスを、現在提案されている方法(pH11での延長された破砕および高希釈)と比較した。
【表9】
【0186】
参照プロセスは、[Samoani Tammakiti、Manopi Suphantarika、Tanaporn Fayesuan、Cornell Verduyna Preparation of spent brewer's yeast β-glucans for potential applications in the food industry. Food Science and Technology. Volume 39, Issue1, January 2004, Pages 21-29.]によって報告されている。
【0187】
[濃縮と乾燥]
EESFおよびEELFの機能特性は、蒸発や乾燥だけでなく凍結などの熱プロセスの結果として劣化する。したがって、両方の画分(EESFおよびEELF)を湿式成分として適用し、熱変性を誘発する可能性のあるプロセスを避けることが好ましい。優先的に、両方の画分は45℃を超えるまたは0℃未満の温度で処理すべきではない。
【0188】
[成分のブレンド]
一旦調製したEELFおよびEESFを混合して、本発明に係る微生物細胞調製物を得ることができる。乾式または湿式成分(EESFおよびEELF)を組み合わせ/ブレンドすることで、特に食品用途でテクスチャーを生み出すための個別に調整された機能性を付与できる。これらの比率は、破壊されたスラリーの比率と等しくないことに注意することが重要であり、換言すれば、ストリームを分離させ(上記で説明した遠心分離を使用して)、特定の比率でブレンドし直す必要がある。この例としては以下が挙げられ、代替肉バーガーのテクスチャライザーとして、成分の総濃度を同じに保ちながら、EESFおよびEELFの比率を変えると、硬さ、弾力性、ジューシーさおよび乾燥感が変化する。これにより、食品を調合する者は、求めているテクスチャーを実現するための幅広い選択肢を得ることができる。例えば、それぞれを100:0から0:100の範囲の比率で混合すると、70 EESF:30 EELFの混合では固く弾力があり、乾燥していないハンバーガーとなり、一方40 EESF:60 EELFの混合ではより柔らかく、よりジューシーで「脂っぽい」ハンバーガーとなる。したがって、当該比率は特定の市場向けに最適化され得る。
【0189】
ベーカリーでの卵の代替品として、ベーカリーにおける成分の期待される用途は、EESFを使用して、ベーカリー用途における卵白または全卵と置き換えることであろう。これは実にうまく機能することが証明されているが、驚いたことに、EESFおよびEELFを50:50でブレンドして使用すると、全卵に代わってより良いテクスチャーおよびパフォーマンスを得る。ここで必要とされる主な機能はヒートセットゲル化であるため、これは直観に反しており、EESFの方がゲル化特性に優れていることから、期待される結果は、組み合わせよりもEESFがうまく機能することである。
図1-1】
図1-2】
図2
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【国際調査報告】