(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-10-12
(54)【発明の名称】新規の改良された塩基編集または編集用融合タンパク質およびその用途
(51)【国際特許分類】
C07K 19/00 20060101AFI20231004BHJP
C12N 15/867 20060101ALI20231004BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20231004BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20231004BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20231004BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20231004BHJP
C12N 15/09 20060101ALI20231004BHJP
【FI】
C07K19/00
C12N15/867 Z
C12N1/15
C12N1/21
C12N1/19
C12N5/10
C12N15/09 110
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023518469
(86)(22)【出願日】2021-08-13
(85)【翻訳文提出日】2023-05-11
(86)【国際出願番号】 KR2021010785
(87)【国際公開番号】W WO2022059928
(87)【国際公開日】2022-03-24
(31)【優先権主張番号】10-2020-0121730
(32)【優先日】2020-09-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(31)【優先権主張番号】10-2021-0107163
(32)【優先日】2021-08-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】518107501
【氏名又は名称】コリア ユニバーシティ リサーチ アンド ビジネス ファウンデーション
【氏名又は名称原語表記】KOREA UNIVERSITY RESEARCH AND BUSINESS FOUNDATION
【住所又は居所原語表記】145,Anam-ro,Seongbuk-gu,Seoul,Korea
(74)【代理人】
【識別番号】100112874
【氏名又は名称】渡邊 薫
(72)【発明者】
【氏名】キム、ギョンミ
(72)【発明者】
【氏名】ユン、デ ウン
【テーマコード(参考)】
4B065
4H045
【Fターム(参考)】
4B065AA01X
4B065AA01Y
4B065AA57X
4B065AA72X
4B065AA90X
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065CA43
4B065CA44
4B065CA60
4H045AA10
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA41
4H045CA11
4H045DA89
4H045EA20
4H045EA60
4H045FA74
(57)【要約】
本発明は、従来開発された塩基エディターに基づいてクロマチン調節ペプチド(CMP)などの構成の追加とその配列を異にして開発された融合タンパク質に関し、本発明の前記融合タンパク質は、CMPを含むことで塩基編集効率が向上し、deadCas9を用いることで所望しないランダム塩基挿入および欠失発生が除去された新規の塩基エディターとして提供可能であるところ、精巧な遺伝子治療剤、形質転換動物モデルの作製および研究などの遺伝工学技術分野で様々な用途として有用に活用可能であることが期待される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Cas9タンパク質、および
1つ以上のクロマチン調節ペプチド(Chromatin-modulating peptides:CMP)を含む、遺伝子編集用融合タンパク質。
【請求項2】
前記CMPは、高-移動性グループヌクレオソーム結合ドメイン1(high-mobility group nucleosome binding domain 1:HN1)、ヒストンH1中央球状ドメイン(histone H1 central globular domain:H1G)、およびこれらの組み合わせからなる群から選択される1種以上であることを特徴とする、請求項1に記載の遺伝子編集用融合タンパク質。
【請求項3】
前記融合タンパク質は、シトシンデアミナーゼ(cytidine deaminase)をさらに含み、
前記Cas9タンパク質は、dead Cas9(dCas9)であることを特徴とする、請求項1に記載の遺伝子編集用融合タンパク質。
【請求項4】
前記融合タンパク質は、tRNAアデノシンデアミナーゼ(tRNA adenosine deaminase:TadA)をさらに含み、
前記Cas9タンパク質は、nickase Cas9(nCas9)またはdead Cas9(dCas9)であることを特徴とする、請求項1に記載の遺伝子編集用融合タンパク質。
【請求項5】
前記融合タンパク質は、核局在化シグナル(nuclear localization signals:NLS)ペプチドをさらに含むことを特徴とする、請求項3または4に記載の遺伝子編集用融合タンパク質。
【請求項6】
前記融合タンパク質は、N-末端からC-末端の順に[NLSペプチド]-[Cas9タンパク質]-[NLSペプチド]が位置し、
前記CMPは、融合タンパク質のC-末端および/または前記NLSペプチドとCas9タンパク質との間に位置することを特徴とする、請求項5に記載の遺伝子編集用融合タンパク質。
【請求項7】
前記融合タンパク質は、N-末端からC-末端の順に[NLSペプチド]-[HN1]-[Cas9タンパク質]-[H1G]-[NLSペプチド]が位置するか、または
N-末端からC-末端の順に[NLSペプチド]-[HN1]-[Cas9タンパク質]-[NLSペプチド]-[H1G]が位置することを特徴とする、請求項6に記載の遺伝子編集用融合タンパク質。
【請求項8】
前記融合タンパク質は、1つ以上のUGI(uracil DNA-glycosylase inhibitor)ペプチドをさらに含むことを特徴とする、請求項3に記載の遺伝子編集用融合タンパク質。
【請求項9】
前記UGIペプチドは、dCas9タンパク質のC-末端に直接的に連結されることを特徴とする、請求項8に記載の遺伝子編集用融合タンパク質。
【請求項10】
前記融合タンパク質は、N-末端からC-末端の順に[NLSペプチド]-[HN1]-[dCas9タンパク質]-[UGIペプチド]-[UGIペプチド]-[NLSペプチド]-[H1G]が位置するか、または
N-末端からC-末端の順に[NLSペプチド]-[HN1]-[dCas9タンパク質]-[UGIペプチド]-[UGIペプチド]-[NLSペプチド]-[H1G]が位置することを特徴とする、請求項9に記載の遺伝子編集用融合タンパク質。
【請求項11】
請求項1に記載の融合タンパク質、前記融合タンパク質をコード化するプラスミドDNAまたはmRNA、または前記プラスミドDNAまたはmRNAを含むベクターと、
非標的DNA鎖とハイブリダイゼーションして標的DNA鎖の切断を誘導するsgRNA(single guide RNA)、前記sgRNAの発現が可能なプラスミド、または前記プラスミドを含むベクターと、含む、遺伝子編集用組成物。
【請求項12】
前記組成物は、UGIをさらに含むことを特徴とする、請求項11に記載の遺伝子編集用組成物。
【請求項13】
請求項11に記載の遺伝子編集用組成物をin vitroまたはex vivo上で標的核酸配列を含む標的領域(region)と接触させるステップを含む、遺伝子編集方法。
【請求項14】
請求項1に記載の融合タンパク質をコード化するmRNAおよびsgRNA(single guide RNA)を含む、レンチウイルスベクター。
【請求項15】
前記sgRNAは、10~30ヌクレオチド(nt)長であることを特徴とする、請求項14に記載のレンチウイルスベクター。
【請求項16】
請求項14に記載のレンチウイルスベクターを哺乳動物細胞と接触させるステップを含む、形質転換細胞株の製造方法。
【請求項17】
請求項14に記載のレンチウイルスベクターに感染した形質転換細胞株。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、従来開発された塩基エディターに基づいてクロマチン調節ペプチド(CMP)などの構成の追加とその配列を異にして開発された融合タンパク質に関し、本発明の前記融合タンパク質は、CMPを含むことで塩基編集効率が向上し、deadCas9を用いることで所望しないランダム塩基挿入および欠失発生が除去された新規の塩基エディターとして提供可能である。
【背景技術】
【0002】
75,000個以上の病原性突然変異がヒトの遺伝疾患を誘発し、前記病原性突然変異による遺伝疾患中の約50%が点突然変異により誘導される。CRISPRシステムの開発により、ドナーDNAを用いた相同組換え修復(homology-directed repair、HDR)方法が治療的接近方法として提案されているが、その効率性が非常に低く、その適用に限界がある。HDR方法の限界を克服するために、塩基レベルで調節可能な塩基エディター(Base editor:BE)が開発されており、近年、新しい精密ゲノム編集ツールであるnCas9および逆転写酵素で構成されたプライムエディター(Prime editor:PE)が遺伝子エディターとして開発されている。プライムエディターは、Cas9システムの低いHDR効率性を克服し、C→A、C→G、G→C、G→T、A→C、A→T、T→A、およびT→Gに置換可能であるという長所があるが、依然として様々な有機体におけるその作動可能性が検証されていない。そこで、遺伝子編集のためにプライムエディターとともに塩基エディターの利用が避けられない。
【0003】
CRISPRシステムに基づいて開発された塩基エディターとしては、シトシン塩基エディター(cytosine base editor、CBE)およびアデニン塩基エディター(adenine base editor、ABE)が挙げられ、CBEおよびABEは、様々な有機体において効率的にC→T、T→C、A→G、およびG→Aへの置換が可能である。また、最近の研究から、ヒト細胞においてCからGに塩基編集が可能なC-to-G塩基エディター(C-to-G base editors)としてCGBE1が報告されている。しかし、1つ以上の塩基の挿入、置換、または欠失のような正確な標的突然変異の生成は、細胞内HDRにより効率性が低いという問題がある。これを改善するために、様々な塩基エディター変異体が開発されており、中でも、AncBE4maxおよびABEmaxは、BE3およびABEよりも大半の標的に対してさらに高い塩基置換能を示すが、AncBE4maxの編集効率は69~77%に過ぎず、ABEmaxの編集効率は27~52%に過ぎないため、依然としてその効率向上の課題が残っている。
【0004】
一方、様々なPAMとの互換性を向上させるためにxBE3およびxABEが開発されているが、NGG PAMシーケンスにもかかわらず、大半の標的において低い編集効率を示すため、現在まで臨床および生物学的研究のための最適の塩基エディターとしては、AncBE4maxおよびABEmaxが提案される。しかし、上述したように、AncBE4maxおよびABEmaxの編集効率の上昇問題と、所望しない追加の塩基配列の挿入および欠失とオフターゲット問題が残っている。そこで、本発明者らは、編集効率が向上し、オフターゲット問題と、所望しない塩基の挿入および欠失問題が除去された塩基エディターを開発するために鋭意研究し、本発明を完成するに至った。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Int J Mol Sci.2020 Aug 28;21(17):6240.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が達成しようとする技術的課題は、従来開発された塩基エディター(base editor)にクロマチン調節ペプチド(chromatin modulating peptides:CMPs)をさらに含むことで、塩基編集効率が改善された新規の塩基エディターを提供することにある。
【0007】
また、本発明は、前記CMPの追加とともに、nickaseCas9の代わりにdeadCas9を用いることで、ランダム塩基挿入および欠失発生頻度が著しく減少した新規の塩基エディター提供することを目的とする。
【0008】
また、本発明は、前記新規の塩基エディターベースの遺伝子編集用組成物、遺伝子編集用ウイルスベクター、およびそれを用いた遺伝子編集方法、並びにそれを用いて形質転換された細胞株および遺伝子組換え哺乳動物を製造する方法などの提供を目的とする。
【0009】
ただし、本発明が解決しようとする技術的課題は、以上で言及した課題に限定されず、言及していない他の課題は、以下の記載から当該技術分野の通常の技術者に明確に理解され得る。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するために、本発明は、CRISPR/Cas9システムに提供され、塩基編集効率の向上が可能な融合タンパク質を塩基エディター(base editor)として提供しようとする。
【0011】
本発明の前記融合タンパク質は、Cas9タンパク質とともに、1つ以上のクロマチン調節ペプチド(Chromatin-modulating peptides:CMP)を含み得る。前記CMPは、塩基エディターのクロマチンへのアクセシビリティを向上させて塩基編集効率を高めることができ、前記CMPは、高-移動性グループヌクレオソーム結合ドメイン1(high-mobility group nucleosome binding domain 1:HN1)、ヒストンH1中央球状ドメイン(histone H1 central globular domain:H1G)、およびこれらの組み合わせからなる群から選択される1種以上であり得る。
【0012】
本発明の一実施形態として、前記融合タンパク質は、シトシンデアミナーゼ(cytidine deaminase)を含んでシトシン塩基エディター(CBE)として提供されるか、またはtRNAアデノシンデアミナーゼ(tRNA adenosine deaminase:TadA)を含んでアデニン塩基エディター(ABE)として提供され得る。
【0013】
本発明の他の実施形態として、前記融合タンパク質がシトシンデアミナーゼを含んでCBEとして提供される場合、前記シトシンデアミナーゼは、APOBEC(apolipoprotein B mRNA editing enzyme、catalytic polypeptide-like)であり得、前記Cas9タンパク質は、RuvCドメインおよびHNHドメインが不活性化されたdead Cas9(dCas9)であることが好ましい。dCas9は、従来のCBEが誘導する所望しない塩基の挿入(insertion)および/または欠失(deletion)、すなわち、ランダムインデル(indel)の発生頻度を著しく減少させ、正確な塩基エディターとして機能することができる。一方、dCas9の利用による塩基編集効率の減少は、本発明により提案されるCMPの付加によって回復されることができる。
【0014】
一方、CBEとして提供される前記融合タンパク質は、dCas9の利用によりランダムインデルの発生を著しく減少させることができるが、依然として発生するランダムインデルは、デアミナーゼ(deaminase)と結合したdCas9により完全に除去することができる。
【0015】
そこで、前記CBEとして提供される前記融合タンパク質は、UGI(uracil DNA-glycosylase inhibitor)ペプチドをさらに含み得、前記UGIペプチドは、dCas9のC-末端に直接的に連結され得、dCas9に連結されるUGIペプチドは、1つ以上であり得、本発明者らが設計して実験的に確認した融合タンパク質は、2個のUGIペプチドを含む。
【0016】
本発明のまた他の実施形態として、前記融合タンパク質は、核局在化シグナル(nuclear localization signals:NLS)ペプチドをさらに含み得、NLSペプチドは、融合タンパク質のN-末端およびC-末端に位置するが、C-末端のNLSペプチドは、結合するCMPの位置が可変的であり得る。
【0017】
より具体的に、前記融合タンパク質は、N-末端からC-末端の順に[NLSペプチド]-[APOBEC]-[dCas9タンパク質]-[NLSペプチド]が位置し、UGIペプチドは、dCas9 C-末端と直接的に連結され得、NH1は、APOBECのN-末端またはC-末端に位置し、HIGは、UGIペプチドのC-末端または融合タンパク質のC-末端に位置し得る(
図1におけるAncdBE4max変異体、peptide 1a-bおよび2a-b参照)。
【0018】
本発明のさらに他の実施形態として、前記融合タンパク質がTadAを含んでABEとして提供される場合、前記Cas9タンパク質は、RuvCドメインおよび/またはHNHドメインが不活性化されたCas9タンパク質、すなわち、dCas9またはnickase Cas9(nCas9)であり得る。
【0019】
現在まで開発された最も最適化されたABEであるABEmaxは、ランダムインデルの発生頻度が高くないところ、本発明のABE変異体は、nCas9をその通りに含み、CMPをさらに含むことで、標的塩基編集効率が増進された塩基エディターとして提供可能である。
【0020】
ABEとして提供される本発明の融合タンパク質の構造は、N-末端からC-末端の順に[NLSペプチド]-[TadA]-[nCas9またはdCas9タンパク質]-[NLSペプチド]であり、HN1は、TadAのN-末端またはC-末端に位置し得、H1Gは、融合タンパク質のC-末端またはCas9タンパク質のC-末端に位置し得る。
【0021】
また、本発明は、前記融合タンパク質をCRISPR/Cas9システムに利用できるように、前記融合タンパク質、前記融合タンパク質をコード化するプラスミドDNAまたはmRNA、または前記プラスミドDNAまたはmRNAを含むベクターと、
非標的DNA鎖とハイブリダイゼーションして標的DNA鎖の切断を誘導するsgRNA(single guide RNA)、前記sgRNAの発現が可能なプラスミド、または前記プラスミドを含むベクターと、含む、遺伝子編集用組成物およびキットを提供する。
【0022】
本発明の一実施形態として、前記ベクターは、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルス(AAV)、レンチウイルス(lentivirus)、およびこれらの組み合わせからなる群から選択された1つ以上であり得る。
【0023】
また、本発明は、前記遺伝子編集用組成物をin vitroまたはex vivo上で標的核酸配列を含む標的領域(region)と接触させるステップを含む、遺伝子編集方法を提供する。
【0024】
また、本発明は、融合タンパク質をコード化するmRNAおよびsgRNA(single guide RNA)を含む、レンチウイルスベクターを提供する。
【0025】
また、本発明は、前記遺伝子編集用組成物またはレンチウイルスベクターを哺乳動物細胞に導入するステップを含む形質転換細胞株の製造方法、およびその方法により製造された形質転換細胞株を提供する。
【0026】
また、本発明は、前記遺伝子編集用組成物またはレンチウイルスベクターを哺乳動物細胞に導入して遺伝子組換え哺乳動物細胞を得るステップと、前記得られた遺伝子組換え哺乳動物細胞を哺乳動物代理母の卵管に移植するステップと、を含む、遺伝子組換え哺乳動物の製造方法を提供する。
【0027】
本発明の一実施形態として、前記哺乳動物細胞は、哺乳動物の胚細胞であり得る。
【発明の効果】
【0028】
本発明は、クロマチン-調節ペプチド(chromatin-modulating peptides、CMPs)を用いて塩基編集効率を増進させることができ、nickase Cas9の代わりにdead Cas9を用いる場合にランダムインデルを著しく減少可能であることを確認し、著しく増進されたゲノム編集効率および標的特異性が担保された塩基エディターを提供する。また、本発明は、標的遺伝子の突然変異動物モデルを作製して次世代への突然変異の伝達および表現型の変化などを確認した。従って、本発明に係る改善されたプライムエディターを含む遺伝子編集用組成物は、ヒト化動物モデルの作製および研究、遺伝工学技術分野、および遺伝疾患の治療手段などの様々な用途として有用に活用できることが期待される。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】
図1aは、CBE変異体の構造であり、
図1bは、ABE変異体の構造である。
【
図2】従来の塩基エディターの活性を確認したものであって、ヒト遺伝子を標的とするCBE変異体(aおよびb)とABE変異体(cおよびd)の塩基編集効率とランダムインデルの発生頻度を比較確認したものである。各データは、3回繰り返し実験して平均値を示した。また、eは、CBE変異体により発生するインデルパターンであり、fは、ABE変異体により発生するインデルパターンである。赤色矢印と点線は、spCas9の切断部位を示す。
【
図3】活性ウィンドウ(windows)においてCまたはAターゲットの塩基編集効率を確認したものであって、aは、HEK293細胞においてCBE変異体に対するヒト標的HBB、RNF2、HEK3、およびSite18の各編集ウィンドウ(editing window)に対する編集効率を示したものであり、bは、HEK293細胞においてABE変異体に対するヒト標的Site18、Site19、HBB-E2、およびHEK2の各編集ウィンドウに対する編集効率を示したものである。各データは3回繰り返し実験の平均±S.Dで示し、PAM領域は青色で示し、ターゲット配列はアンダーラインで示し、置換されたターゲットの領域は赤色で示した。
【
図4】
図4a~4dは、CBE標的配列の各位置で塩基置換効率を確認したものである。CBE変異体は、PAM配列13-18ntアップストリームでC→Tに置換を誘導し、CからTへの変換は、青色で強調表示した。黄色ボックスは、当初意図したターゲット配列であり、ピンク色ボックスは、非標的塩基の転換(C→AまたはC→G)を示す。各データは、3回繰り返し実験の平均値で示した。
【
図5】
図5a~
図5dは、ABE標的配列の各位置で塩基置換効率を確認したものである。ABE変異体は、PAM配列13-18ntアップストリームでA→Gに置換を誘導し、AからGへの変換は、赤色で強調表示した。黄色ボックスは、当初意図したターゲット配列であり、各データは、3回繰り返し実験の平均値で示した。
【
図6】sgRNA長による標的位置で編集ウィンドウの特異性と編集効率の変化を確認したものである。aおよびbは、sgRNA長によるCBE変異体の標的塩基の転換効率を確認したものであり、cは、RNF2においてsgRNA長によるCBE変異体の標的塩基の転換効率を示したものであり、dおよびeは、sgRNA長によるABE変異体の標的塩基の転換効率を確認したものであり、fは、HEK2においてsgRNA長によるABE変異体の標的塩基の転換効率を示したものである。各塩基置換頻度は、標的化ディープシーケンシングで分析し、全てのデータは、3回繰り返し実験の平均±SDで示した。
【
図7】nCas9を用いた塩基エディターがCas9を用いた塩基エディターよりもランダムインデルの発生頻度を減少させ、dCas9を用いた塩基エディターは、nCas9を用いた塩基エディターよりも著しくインデルの発生頻度を減少させることを確認したものである。各データは、3回繰り返し実験の平均±SDで示した。
【
図8】UGIの追加によりCBE変異体で発生するランダムインデルを除去することを確認したものであって、
図8aは、ターゲット遺伝子の標的位置でCBE変異体の塩基置換効率を示したものであり、
図8bは、UGIの追加処理濃度によるCBE変異体のターゲット遺伝子(HEK3およびSite18)において標的塩基の置換効率とランダムインデルの発生頻度を示したものである。ランダムインデルと塩基転換頻度は、標的化ディープシーケンシングを行って確認し、各データは、3回繰り返し実験の平均±SDで示した。
【
図9】CMPを含む塩基エディターにおいて所望しないランダムインデルが除去されることを確認したものであって、aは、CBE変異体の塩基置換効率を示したものであり、bは、ランダムインデルの発生頻度を示したものである。Cは、ABE変異体の塩基置換効率を示したものであり、dは、ランダムインデルの発生頻度を示したものである。
【
図10】マウスの筋肉細胞と生体内でDmd knock-out誘導実験結果であって、
図10aの(A)は、Dmd遺伝子においてexon20の配列と突然変異配列を示したものであり、(B)は、CMPを含むCBE変異体の塩基置換効率とランダムインデルの発生頻度を示したものであり、
図10bは、前記CBE変異体、BE3、およびAncBE4maxによるCからTへの転換パターンを示したものである。
【発明を実施するための形態】
【0030】
塩基編集は、様々な研究分野で広く用いられるCRISPR(Clustered regular interspaced short palindromic repeats)システムに基づくゲノム編集方法である。塩基編集により、ゲノムに一塩基の置換を誘導することができる。BE3は、CBEの1つであり、nCas9、rAPOBEC1(cytidine deaminase)、およびUGI(uracil DNA-glycosylase inhibitor)を含む融合タンパク質で構成される。また、ABEであるABE7.10は、エンジニアリングされたホモ二量体アデニンデアミナーゼであるTadAとnCas9で構成され、gRNA依存方式でAをGに置換する。両塩基エディター活性化された編集ウィンドウを有し、前記編集ウィンドウは、PAM(protospacer adjacent motif)の13-17nt upstreamの領域を含む。
【0031】
理論的に、病原性一塩基多型(single nucleotide polymorphism:SNP)中の約14%はCBEにより編集することができ、約47%はABEにより編集することができる。しかし、現在までの研究によれば、塩基エディターは、哺乳動物細胞(マウス胚)において29%の割合でランダムインデルを誘発する。従って、DNA標的部位における塩基エディターによるランダムインデル発生の除去は、臨床に塩基エディターを適用するために必須に解決すべき課題として残っている。
【0032】
上述したように、塩基エディターは、ゲノムにおいて正確かつ効率的な一塩基置換が可能であるが、標的部位で所望しない挿入および欠失が発生し、このようなランダムインデルは、塩基エディターの臨床適用に制限となる。本発明者らは、標的部位で発生するランダムインデルを除去するために様々なCBEおよびABE変異体を作製し、段階的にランダムインデルの除去と塩基編集効率を向上させるための塩基エディターの構成要素とその配列を研究し、本発明を完成するに至った。
【0033】
先ず、nCas9は、Cas9と比較してランダムインデルの発生頻度を著しく減少させることができるが、依然としてランダムインデルを発生させ、nCas9の利用により発生するランダムインデルは、dCas9を用いることで除去可能であることを確認した。しかし、dCas9を用いた塩基エディターは、塩基置換効率が非常に低いという問題がある。これを解決するために、塩基エディターのゲノムDNAに対するアクセシビリティを向上させようとした。
【0034】
ゲノムDNAに対する塩基エディターのアクセシビリティを向上させるために、クロマチン調節ペプチド(CMP)ドメインを追加した塩基エディター変異体を作製し、塩基置換効率とランダムインデルの発生頻度を測定した結果、CMPドメインの追加は、標的遺伝子に応じて異なるが、塩基置換効率を向上させ、ランダムインデルの発生頻度を著しく減少可能であることを確認した。
【0035】
一方、ABEにおけるnCas9は、CBE塩基エディターにおけるnCas9と比較してランダムインデルをほぼ発生させず、そこで、ABEmaxにCMPをさらに含むABE変異体を作製して塩基編集効率とランダムインデルの発生頻度を確認した結果、著しく向上した塩基編集効率を示し、ランダムインデルが完全に除去されることを確認した。上記の結果から、塩基エディターにCMPの追加は、標的DNAへのアクセシビリティの増加により、塩基編集効率の向上とともにランダムインデルの発生頻度を低くすることに効果的であることが分かる。
【0036】
そこで、本発明者らは、CRISPR/Cas9システムベースの塩基エディターとして、Cas9タンパク質とCMPを含む融合タンパク質を向上した塩基エディターを提供しようとする。
【0037】
また、本発明は、前記CMPを含む融合タンパク質と、編集しようとする遺伝子特異的なsgRNA(または、それを発現するベクター)とを含む、遺伝子編集用組成物を提供する。
【0038】
前記sgRNAは、非標的DNA鎖に相補的に結合して標的DNA鎖の切断を誘導する10~30nt長のシングルガイドRNAであり、好ましくは19~30nt長を有し得る。
【0039】
本発明において、「遺伝子編集(gene editing)」は、遺伝子矯正、ゲノム編集などと同一の意味として用いられ得る。遺伝子編集は、標的遺伝子内の標的部位に1つ以上の塩基に対して突然変異を誘発する変異(置換、挿入、または欠失)を意味する。好ましくは、前記遺伝子編集は、標的遺伝子の二本鎖切断(double-stranded DNA cleavage)を伴わないものであり得、具体的には、塩基編集(base editing)を介して行われるものであり得る。
【0040】
本発明の一実施形態において、前記1つ以上の塩基に対して突然変異を誘発する変異または遺伝子編集は、標的部位に終止コドンを生成させるか、または野生型と異なるアミノ酸をコードするコドンを生成させることで、標的遺伝子を不活性化(knock-out)させる。または、開始コドンを他のアミノ酸に置換して遺伝子を不活性化させるかまたは遺伝子変異を編集するか、挿入または欠失によるフレームシフト(frameshift)により遺伝子を不活性化させるかまたは遺伝子変異を編集するか、タンパク質を生成しない非コードDNA配列に変異を導入するか、または疾病を誘発する野生型と異なる配列のDNAを野生型と同一の配列に変化させるなどの様々な形態であり得るが、これらに限定されるものではない。
【0041】
本発明において、用語「塩基配列」は、当該塩基を含むヌクレオチドの配列を意味し、ヌクレオチド配列、核酸配列、またはDNA配列と同一の意味として用いられ得る。
【0042】
本発明において、前記「標的遺伝子(target gene)」は、遺伝子編集の対象となる遺伝子を意味し、「標的部位(target siteまたはtarget region)」は、標的遺伝子内の標的特異的ヌクレアーゼによる遺伝子編集または矯正が起こる部位を意味し、一例において、前記標的特異的ヌクレアーゼがRNA-ガイドヌクレアーゼ(RNAguided engineered nuclease、RGEN)を含む場合、標的遺伝子内のRNA-ガイドヌクレアーゼが認識する配列(PAM配列)の5’末端および/または3’末端に隣接して位置し得る。
【0043】
本発明において、前記クロマチン調節ペプチド(CMP)は、ヌクレオソームの再配列および/またはクロマチンの再形成を容易にするためにヌクレオソームおよび/または染色体タンパク質と相互作用する染色体タンパク質またはその断片を意味する。より具体的に、前記クロマチン調節ペプチドは、高-移動性グループヌクレオソーム結合ドメイン1(high-mobility group nucleosome binding domain 1、HN1)またはその断片、ヒストンH1中央球状ドメイン(histone H1 central globular domain、H1G)またはその断片、またはこれらの組み合わせであり得るが、これらに限定されるものではない。
【0044】
前記高-移動性グループヌクレオソーム結合ドメイン(HMGN)は、クロマチンの構造および機能を調節する染色体タンパク質であり、前記ヒストンH1中央球状ドメイン(histone H1 central globular domain、H1G)は、「リンカーヒストン」とも知られたヒストンH1を構成するドメインである。ヒストンH1は、ヌクレオソームアレイの圧縮状態を調節し、形態に影響を与え、前記中央球状ドメインは、ヌクレオソーム上のリンカーDNAのentry/exit部位近くに結合することが知られている。
【0045】
前記クロマチン調節ペプチドは、化学的結合により直接的に、リンカーにより間接的に、またはこれらの組み合わせにより前記CRISPR/Cas9タンパク質または逆転写酵素に連結され得る。具体的に、少なくとも1つのクロマチン調節ペプチドは、融合タンパク質のN-末端、C-末端、および/または内部位置に連結され得る。
【0046】
また、本発明の前記融合タンパク質は、少なくとも1つの核局在化シグナル、少なくとも1つの細胞-透過ドメイン、少なくとも1つのマーカードメイン、またはこれらの組み合わせをさらに含み得、好ましくは、N-末端およびC-末端にそれぞれ核局在化シグナル(nuclear localization signal、NLS)配列をさらに含み得るが、これに限定されるものではない。
【0047】
本発明において、「Cas9(CRISPR associated protein 9)タンパク質」は、DNAウイルスに対する特定のバクテリアの免疫学的防御において重要な役割をするタンパク質であり、遺伝工学の応用に多く用いられるが、前記タンパク質の主な機能がDNAを切断することであるため、細胞のゲノムを改変する際に適用することができる。具体的に、CRISPR/Cas9は、3世代の遺伝子ハサミであり、利用しようとする特定の塩基配列を認識し切断して編集し、ゲノムの目的部位に特定の遺伝子を挿入するかまたは特定の遺伝子の活動を停止させる操作を簡単、迅速、かつ、効率性よく実施するのに有用である。Cas9タンパク質または遺伝子情報は、NCBI(National Center for Biotechnology Information)のGenBankのような公知のデータベースから得ることができるが、これに限定されるものではない。また、Cas9タンパク質は、その目的に合わせて、当業者が追加のドメインを適宜連結し得る。本発明において、Cas9タンパク質は、野生型Cas9だけでなく、遺伝子編集のための核酸分解酵素の機能を有するものであれば、Cas9の変異体を全て含み得る。
【0048】
前記Cas9変異体は、DNA二本鎖を切断するエンドヌクレアーゼ活性を失うように変異したものを意味し得る。例えば、前記Cas9変異体は、エンドヌクレアーゼ活性を失い、ニッカーゼ活性を有するように変異したCas9(nCas9)タンパク質、およびエンドヌクレアーゼ活性とニッカーゼ活性を全て失うように変異したCas9(dCas9)タンパク質の中から選択された1種以上であり得る。
【0049】
前記nCas9は、ヌクレアーゼの触媒活性ドメイン(例えば、Cas9のRuvCまたはHNHドメイン)において変異が起こって不活性化されたものであり得る。具体的に、10位のアスパラギン酸(D10)、762位のグルタミン酸(E762)、840位のヒスチジン(H840)、854位のアスパラギン(N854)、863位のアスパラギン(N863)、および986位のアスパラギン酸(D986)などからなる群から選択された1つ以上が任意の他のアミノ酸に置換された突然変異を含み得、好ましくは、本発明のnCas9は、840位のヒスチジンがアラニンに置換(H840A)された変異を含み得るが、これに限定されるものではない。
【0050】
それと同様に、dCas9は、10位のアスパラギン酸(D10)、762位のグルタミン酸(E762)、840位のヒスチジン(H840)、854位のアスパラギン(N854)、863位のアスパラギン(N863)、および986位のアスパラギン酸(D986)などからなる群から選択された1つ以上が任意の他のアミノ酸に置換された突然変異を含み得、好ましくは、本発明のdCas9は、10位のアスパラギン酸がアラニンに置換(D10A)された変異と840位のヒスチジンがアラニンに置換(H840A)された変異とを含み得るが、これに限定されるものではない。
【0051】
前記Cas9タンパク質またはその変異体は、その由来が限定されず、非限定的な例示として、ストレプトコッカス・ピオゲネス(Streptococcus pyogenes)、フランシセラ・ノビシダ(Francisella novicida)、ストレプトコッカス・サーモフィルス(Streptococcus thermophilus)、レジオネラ・ニューモフィラ(Legionella pneumophila)、リステリア・イノクア(Listeria innocua)、またはストレプトコッカス・ミュータンス(Streptococcus mutans)に由来し得る。
【0052】
前記Cas9タンパク質またはその変異体は、微生物から分離したもの、または組換え的方法または合成的方法などのように人為的または非自然発生(non-naturally occurring)のものであり得る。前記Cas9は、in vitroで予め転写されたmRNAまたは予め生産されたタンパク質の形態、または標的細胞または生体内で発現するために組換えベクターに含まれた形態で用いられ得る。一実施形態において、前記Cas9は、組換えDNA(Recombinant DNA、rDNA)により作られた組換えタンパク質であり得る。組換えDNAは、様々な有機体から得られた異種または同種遺伝物質を含むために分子クローニングのような遺伝子組換え方法により人工的に作られたDNA分子を意味する。
【0053】
本発明で用いられる用語「ガイドRNA(guide RNA)」は、標的遺伝子内の標的部位内の特異的な塩基配列(標的配列)にハイブリダイゼーション可能な標的化配列を含むRNAを意味し、生体外(in vitro)または生体(または、細胞)内でCasのようなヌクレアーゼタンパク質と結合し、それを標的遺伝子(または、標的部位)にガイドする役割をする。
【0054】
前記ガイドRNAは、標的遺伝子(標的部位)内の標的配列と相補的な配列(標的化配列)を有する部分であるスペーサ領域(Spacer region、Target DNA recognition sequence、base pairing regionなどと称する)、およびCas9タンパク質結合のためのヘアピン(hairpin)構造を含み得る。より具体的には、標的遺伝子内の標的配列と相補的な配列を含む部分、Casタンパク質結合のためのヘアピン構造、およびターミネータ(Terminator)配列を含み得る。
【0055】
前記ガイドRNAの標的配列とハイブリダイゼーション可能なガイドRNAの標的化配列は、前記標的配列が位置するDNA鎖(すなわち、PAM配列(5’-NGG-3’(NはA、T、G、またはCである)が位置するDNA鎖)またはその相補的鎖のヌクレオチド配列と50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、90%以上、95%以上、99%以上、または100%の配列相補性を有するヌクレオチド配列を意味し、前記相補的鎖のヌクレオチド配列と相補的結合が可能である。
【0056】
前記ガイドRNAは、RNAの形態で使用(または、前記組成物に含まれる)されるか、またはそれをコードするDNAを含むプラスミドの形態で使用(または、前記組成物に含まれる)され得る。
【0057】
本発明で用いられる用語、「クロマチンアクセシビリティ(Chromatin accessibility)」とは、主にヒストン(histone)、転写因子(transcription factor、TF)、クロマチン修飾酵素(chromatin-modifying enzymes)、およびクロマチンリモデリング複合体(chromatin-remodelling complexes)で構成されたDNAおよび関連タンパク質により形成された複合体であるクロマチンの物理的圧縮レベルを意味する。真核生物ゲノムは、一般的にヒストン8量体(octamer)を囲んでいる~147bpのDNAを含むヌクレオソームに圧縮されるが、ヌクレオソームの占有率は、ゲノムにおいて均一でなく、組織および細胞類型に応じて異なる。ヌクレオソームは、一般的に転写調節因子(例えば、転写因子)と相互作用するシス調節因子(エンハンサーおよびプロモーター)が存在するゲノム位置で枯渇して接近可能なクロマチンを生成することになる。遺伝子編集(遺伝子矯正)に関しては、クローズドゲノム領域よりもオープンゲノム領域を標的とするgRNAの活性に有意な差があり、Cas9の効率が局所的クロマチンアクセシビリティにより影響を受けるため、クロマチンアクセシビリティとCRISPR-Cas9媒介の遺伝子編集効率性との間に正の相関関係があることが公知となっている。
【0058】
本発明の他の態様として、本発明は、前記遺伝子編集用組成物をin vitroまたはex vivo上で標的核酸配列を含む標的領域(region)と接触させるステップを含む、遺伝子編集方法を提供する。
【0059】
前記遺伝子編集用組成物は、好ましくは、真核細胞に適用され得、前記真核細胞は、好ましくは、ヒトなどの霊長類、マウスなどの齧歯類を含む哺乳動物に由来し得るが、これらに限定されるものではない。
【0060】
本発明のまた他の態様として、本発明は、前記遺伝子編集用組成物を含む、遺伝子編集用キットを提供する。
【0061】
本発明において、前記キットは、前記遺伝子編集用組成物とともに、バッファ(buffer)およびデオキシリボヌクレオチド-5-トリホスフェート(dNTP)のような遺伝子編集を実施する際に必要な物質(試薬)を全て含み得る。また、前記キットの特定の反応で用いられる試薬の最適量は、本明細書における開示事項を習得した当業者により容易に決定され得る。
【0062】
本発明のさらに他の態様として、前記遺伝子編集用組成物をヒトを除いた哺乳動物細胞に注入して遺伝子組換え哺乳動物細胞を得るステップと、前記得られた遺伝子組換え哺乳動物細胞をヒトを除いた哺乳動物代理母の卵管に移植するステップと、を含む、ヒトを除いた遺伝子組換え哺乳動物の製造方法を提供する。
【0063】
本発明において、前記哺乳動物細胞に遺伝子編集用組成物を導入するステップは、i)前記細胞を本発明に係る融合タンパク質とsgRNAをコード化するプラスミドベクターまたはウイルスベクターでトランスフェクションさせるか、
ii)前記細胞に融合タンパク質をコード化するmRNA、sgRNAの混合物またはこれらのそれぞれを直接注入するか、または
iii)前記細胞に融合タンパク質、sgRNAの混合物または複合体形態のリボヌクレオタンパク質を直接注入して行われ得る。
【0064】
前記直接注入は、前記ii)またはiii)の各mRNAおよびガイドRNAまたはリボヌクレオタンパク質が組換えベクターを用いず、細胞膜および/または核膜を通過してゲノム(genome)に伝達されることを意味し得、例えば、ナノ粒子、電気穿孔法、リポフェクション(lipofection)、マイクロインジェクション(microinjection)などにより行われ得る。
【0065】
前記遺伝子編集組成物が導入される哺乳動物細胞は、ヒトなどの霊長類、マウスなどの齧歯類を含む哺乳動物の胚であり得、好ましくは、ヒトを除いた哺乳動物の胚であり得る。例えば、前記胚は、過剰排卵誘発された雌の哺乳動物と雄の哺乳動物を交配して得られた受精胚を前記雌の哺乳動物の卵管から採取し得る。前記塩基編集用組成物が適用(注入)される胚は、受精された1-細胞期の胚(zygote)であり得る。
【0066】
前記得られた遺伝子組換え哺乳動物細胞は、前記遺伝子編集組成物の導入により、標的遺伝子に塩基置換、挿入、または欠失突然変異が発生した細胞であり得る。
【0067】
前記遺伝子組換え哺乳動物細胞、好ましくは、卵管に遺伝子組換え胚細胞の移植を受ける哺乳動物は、前記胚細胞が由来する哺乳動物と同種の哺乳類(代理母)であり得る。
【0068】
また、本発明は、前記方法により製造された、遺伝子組換え哺乳動物を提供する。
【0069】
本発明者らが設計および作製して塩基編集効率およびランダムインデルの発生減少を確認した塩基エディター変異体の構造を
図1に示し、それぞれの塩基エディター変異体は、現在知られた最適のCBEであるAncBE4maxとABEのABEmaxをベースにCMPなどの構成を追加し、その配列を異にして作製した。
【0070】
本発明は、様々な変換を加えてもよく、種々の実施例を有してもよいところ、以下では、特定の実施例を図面に例示し、詳細な説明に詳しく説明しようとする。ただし、これは、本発明を特定の実施形態に対して限定しようとするものではなく、本発明の思想および技術範囲に含まれる全ての変換、等価物ないし代替物を含むものと理解しなければならない。本発明を説明するに際し、関連の公知技術に関する具体的な説明が本発明の要旨を不要に濁す恐れがあると判断される場合にはその詳細な説明を省略する。
【0071】
[実験方法]
1.sgRNA製造用プラスミドベクタークローニング
ターゲットsgRNAに特異的なオリゴヌクレオチドは、Phusion polymerase(Thermo Fisher Scientific、USA)を用いたPCR(polymerase chain reaction)実行により合成した。合成されたオリゴヌクレオチドは、T4リガーゼ(NEB、USA)を用いて、pRG2-GGベクター(Addgene #104174)にクローニングした。クローニングされたベクターを用いて受容性DH5a細胞(Invitrogen、USA)を形質転換し、形質転換細胞からMidi Prep Kit(MACHEREY-NAGEL、U.K)を用いてプラスミドを抽出し、Sanger sequencing analysis(Macrogen、Korea)を用いて塩基配列を分析した。
【0072】
前記ターゲットsgRNAに特異的に合成されたオリゴヌクレオチドとPCR実行に用いられたプライマーの塩基配列情報を下記表1および表2に示した。
【0073】
2.塩基編集のためのベクター準備
xCas9(3.7)-BE3(Addgene #108380)、pCMV-BE3(Addgene #73021)、pCMV-AncBE4max(Addgene #112094)、xCas9(3.7)-ABE7.10(Addgene #108382)、pCMV-ABE7.10(Addgene #102919)、およびpCMV-ABEmax(Addgene #112095)はAddgeneで作製され、pCMV-NLS-UGIベクターはGeneCker、Inc.(Korea)で作製された。
【0074】
3.細胞培養およびトランスフェクション(transfection)
HEK293T細胞(ATCC CRL-3216)は、37℃および5% CO2で10%ウシ胎仔血清(FBS;Gibco、USA)が補充されたDulbeccoのModified Eagle’s Medium(DMEM;Welgene、Korea)で培養し、前記培養された細胞は、24-ウェルプレート(SPL、Korea)に各ウェル当たり2×104濃度で接種し、17時間後、1ul Lipofectamine 2000(Thermo Fisher Scientific、USA)を用いて、製造会社のプロトコルに従って、base editor plasmid(750 ng )、sgRNA plasmid(250ng)、またはUGI plasmid(250ngまたは500ng)で形質転換した。形質転換して72時間後に細胞を収穫して溶解し、PCR鋳型(template)として用いた。
【0075】
4.mRNA準備
pET-AncBE4maxおよびpET-UGIは、GeneCker、Inc(Korea)で作製された。
【0076】
各mRNA鋳型は、Phusion polymerase(Thermo Fisher Scientific、USA)を用いたPCR実行により作製された。PCRに行われたプライマー配列を下記表3に示した。
【0077】
mRNAは、RNA transcription kit(mMESSAGE mMACHINE T7 Ultra kit、Ambion)を用いて準備し、MEGAclear kit(Ambion)で精製した。
【0078】
7.標的化ディープシーケンシング(Targeted deep sequencing)
ゲノムDNAにおいて、Phusion polymerase(Thermo Fisher Scientific、USA)とPCR thermal cyclerを用いて標的部位を増幅した。Illumina MiSeq system(Illumina、Inc.、USA)を用いて、PCRアンプリコンをpaired-endシーケンシングした。用いられたプライマーを前記表1に示した。標的化ディープシーケンシングデータは、CRISPR RGEN Tools(www.rgenome.net)およびEUN program(daeunyoon.com)を用いて分析した。
【0079】
8.統計分析
SPSS software、version 18.0(SPSS Inc.、Chicago、IL、USA)を用いてデータを分析した。P値は独立標本(unpaired)および両側検定(two-sided)Student’s t-testsまたは一元配置分散分析(One-way ANOVA)を行い、(multiple comparison)post-hocとしてはTukeyを行って決めた。全てのデータは、平均と標準偏差(S.D.)で示した。
【0080】
[実験結果]
実施例1.塩基エディター変異体がDNA標的位置で意図しないインデル誘導を確認
CRISPRシステムベースの様々な類型の塩基エディター変異体が、より正確かつ効率的な遺伝子操作のために開発された。開発された塩基エディター変異体の中でもAncBE4maxおよびABEmaxは、核局在化シグナル(nuclear localization signals:NLS)、コドン、およびデアミナーゼ(deaminase)の構成とその使用を調節して最適化された。このような調節は、細胞において塩基エディターの効率と正確性を著しく向上させ、正確なSNP修正を可能にする。また、xCas9-BE3(xBE3)およびxCas9-ABE(xABE)は、xCas9(3.7)と融合した進化した塩基エディターであり、NGまたはNGT PAM配列を認識して広範囲のPAMとの互換性が向上した塩基エディターである。
【0081】
本発明者らは、塩基エディターの様々な変異体を作製し、ヒトHEK293T細胞において前記変異体の塩基置換および挿入欠失効率を確認しようとした。CBE変異体としてxBE3、BE3、AncBE4maxを作製し、ABE変異体としてAncBE4max、xABE、ABE、およびABEmaxを作製し(
図1)、CBE標的座位は、ヒトHBB、RNF2、HEK3、およびSite18であり、ABE標的座位は、ヒトSite18、Site19、HBB-E2、およびHEK22である。
【0082】
その結果、AncBE4maxおよびABEmaxの塩基置換効率は、他の塩基エディターよりも高いことを確認した(
図2)。全てのABEおよびCBE変異体は、全てのターゲット座位でAからGに、またはCからTに塩基置換を誘導した(
図3)。CBE変異体の中でもAncBE4maxは、標的位置で最大89%の置換効率を示したが、BE3よりも低い挿入欠失効率を示した(
図3a)。BE3に対するHEK3標的部位の挿入欠失は最大6.5%まで確認された(
図3b)。AncBE4maxとは異なり、ABEmaxは、他の塩基エディターに比べてさらに高いレベルの置換および挿入欠失を示した(
図3c-d)。基本エディターxBE3およびxABEは、全ての標的部位で最も低い挿入欠失および置換効率を示し、これは、xCas9(3.7)の低い活性によるものと見られた。ABE変異体は、CBE変異体よりも相対的なインデル効率が低く、標的配列によりインデルがほぼ発生しなかった。上記の結果から、塩基エディター変異体は、高い効率でDNA標的部位で所望しない塩基の挿入および/または欠失を誘導可能であることが分かる。
【0083】
実施例2.sgRNA長が塩基置換効率およびランダムインデルの発生に及ぼす影響を確認
次に、本発明者らは、sgRNA(single guide RNA)長が塩基エディターのインデル効率に及ぼす影響を確認しようとした。具体的に、各ターゲット位置に19~30個の塩基を拡張して互いに長さが異なるsgRNAを作製し、インデル効率を確認するとともに、標的位置でCBEおよびABE変異体の塩基編集効率、特異性、および編集ウィンドウを比較した(
図4および
図5)。
【0084】
その結果、HEK3およびRNF2において、置換頻度はGx19 sgRNAにおいて最も高く、所望しない挿入欠失の頻度はgx30 sgRNAにおいて最も低かった(
図6)。また、CBE変異体において拡張されたsgRNAは、ABE変異体と比較して標的配列の活性編集ウィンドウを拡張させたが、切断部位の位置には影響がないことを確認した。
【0085】
また、ABEとABEmaxは、ほぼ全てのsgRNA長において類似した置換効率を示したのに対し、xABEの置換効率は、sgRNA長が短いほど増加することが確認された(
図6)。
【0086】
標的別ABE変異体のインデル効率はsgRNA長に応じて若干異なるが、その差は1%未満であった。また、CBE変異体とは異なり、ABE変異体は、sgRNA長に関係なく安定的に狭い編集ウィンドウを一貫して示した。そして、ABE変異体のsgRNAは、gx21を除いた全てのsgRNA長において増加した標的特異性を確認することができた(
図6)。
【0087】
上記の結果から、ABEおよびCBE変異体のsgRNA長の調節により、さらに高い塩基置換効率と所望しない塩基の挿入および/または欠失を排除可能であることが分かる。
【0088】
実施例3.UGI処理に応じたCBEによるランダムインデルの発生頻度の減少を確認
nCas9により誘発された挿入欠失の頻度は、標的に応じて最大6.5%であり、挿入欠失は、主にCas9依存性標的切断部位であるPAM配列のアップストリームの3個のヌクレオチド周囲で誘導される(
図7)。
【0089】
本発明者らは、デアミナーゼ(deaminase)と結合したdCas9を用いて、塩基エディター変異体による意図しない塩基挿入および欠失を十分に除去可能であることを確認した。しかし、塩基エディターにおいてnCas9の代わりにdCas9を用いる場合、CBEおよびABE変異体の両方とも所望しないインデルの発生を完全に除去することができるが、塩基編集効率が著しく低いという問題がある(
図7のc-f)。特に、標的に応じて異なるが、RNF2を標的とする場合、CBE変異体の中でもAncdBE4maxは、AncBE4maxと比較して編集効率が約9.5倍減少した。
【0090】
実施例4.dCas9を用いたCBEにおいてランダムインデルの発生頻度の減少を確認
前記実施例3から確認したように、dCas9を用いるCBE基本エディターにおいてnCas9の代わりにdCas9を用いると、CBEおよびABE変種によるインデルが減少するが、dCas9は、2つの変異体の両方とも非常に低い塩基置換効率を示した(
図1)。このような低い編集効率を克服するために、本発明者らは、塩基エディターにクロマチン調節ペプチド(chromatin modulating peptide:CMP)ドメインを追加して、Cas9が標的配列にアクセシビリティを増加させようとした。高-移動性グループヌクレオソーム結合ドメイン1(high-mobility group nucleosome binding domain 1:HN1)およびヒストンH1中央球状ドメイン(histone H1 central globular domain:H1G)を様々な領域に配置して塩基エディター変異体を作製した(
図8)。ヒト標的を対象とし、各CBEとABEとの間でCMP構成順による塩基編集効率とインデルの発生頻度を確認した(
図9)。
【0091】
dCas9が含まれた全てのBPおよびAP変異体はインデルの発生を除去し、その結果、所望しない塩基挿入および欠失無しに、より正確な塩基編集が可能であることを確認した。具体的に、BP1aおよびBP2bは、AncBE4maxよりは低い塩基置換効率を示すが、dAncBE4maxよりは置換効率に優れ、インデルが発生しなかった。また、AP1aおよびAP1bは、dABEmaxよりは若干高い編集効率を示したが、ABEmaxはインデルの発生頻度が低く、AP1aおよびAP1b(nAP1aおよびnAP1b)にnCas9を用いた。その結果、nAP1bは、標的部位で著しく向上した塩基置換効率を示した。
【0092】
HEK3およびSite18を標的とするBE3変異体は、オープンクロマチン構造を標的としており、クロマチンアクセシビリティの増加によるインデルの発生頻度の減少効果が大きくなかった。
【0093】
実施例5.塩基エディター変異体を用いたDmd KO動物モデルの作製および塩基編集効率を確認
デュシェンヌ型筋ジストロフィー(Duchenne muscular dystrophy:DMD)は、3500-5000人の男性のうち1人の割合で発見される遺伝疾患であり、筋肉弱化および退行を誘発し、ジストロフィン(Dmd)の破壊により発生する。
【0094】
本発明者らは、pre-stop codon(CAG>TAG)を作製するためにDmdのexon 20に特異的なsgRNAを設計し、マウス筋芽細胞(C2C12)においてCBEおよびBP変異体のCからTへの置換能を比較し、全てのBP変異体は、高い編集能と所望しないインデル発生の除去効能を確認した(
図10および
図11)。
【0095】
具体的に、AncBE4maxおよびBP2bは、対照群としてマウス非標的(mouse nontarget:MNT)配列を有するsgRNAまたはDmd(plenti-MNT-AncBE4max、plenti-Dmd-AncBE4max、plenti-Dmd-BP2b)とともにレンチウイルスにパッキングされた。塩基エディターがパッキングされたレンチウイルスをC57BL/6Nマウス(5×105 TU/TA muscle)のP1~P3に注射し1、3、および6ヶ月後にNGSおよび組織学的分析を行って遺伝子編集を確認した。
【0096】
その結果、CBE変異体を用いて筋肉細胞株であるC2C12のDmd(Duchenne muscular dystrophy)遺伝子に終止コドンを生成した際に、BP1a~AP2bのいずれもBE3およびAncBE4maxよりも高い効率でC to T conversionを起こし、所望しないインデルが発生しないことを確認した(
図10)。
【0097】
また、Dmd突然変異(Q863*)C2C12も、ABEおよびAP変異体でトランスフェクションを行った。AP2bまたはnAP1bは、事前に中止した翻訳を正常に復元可能なAからGへの置換に最高の効率性を示した。plenti-MNT-ABEmax、plenti-Dmd rescue-ABEmax、plenti-Dmd rescue-AP2b、またはnAP1bは、レンチウイルスにパッキングされ、CBEと同一の力価(titer)でDmd突然変異(Q863*)マウス出生時に注入された(P1~P3)。注入1、3、および6ヶ月後にNGSおよび組織学的分析を行って遺伝子編集を確認した。
【0098】
以上、本発明内容の特定の部分を詳細に記述したが、当業界の通常の知識を有する者にとって、このような具体的記述は、単に好ましい実施態様であるに過ぎず、これによって本発明の範囲が限定されるものではないことは明らかである。従って、本発明の実質的な範囲は、添付の特許請求の範囲とそれらの等価物によって定義される。
【国際調査報告】