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特表2023-543030ペプチド核酸複合体を有効成分として含有する認知症予防又は治療用の組成物
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  • 特表-ペプチド核酸複合体を有効成分として含有する認知症予防又は治療用の組成物 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-10-12
(54)【発明の名称】ペプチド核酸複合体を有効成分として含有する認知症予防又は治療用の組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/7088 20060101AFI20231004BHJP
   C07K 7/08 20060101ALI20231004BHJP
   C07K 7/06 20060101ALI20231004BHJP
   C12N 15/113 20100101ALI20231004BHJP
   C12N 15/87 20060101ALI20231004BHJP
   A61K 47/64 20170101ALI20231004BHJP
   A61P 25/28 20060101ALI20231004BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20231004BHJP
【FI】
A61K31/7088
C07K7/08 ZNA
C07K7/06
C12N15/113 Z
C12N15/87 Z
A61K47/64
A61P25/28
A61P43/00 105
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023519237
(86)(22)【出願日】2021-09-24
(85)【翻訳文提出日】2023-05-12
(86)【国際出願番号】 KR2021013049
(87)【国際公開番号】W WO2022065919
(87)【国際公開日】2022-03-31
(31)【優先権主張番号】10-2020-0124531
(32)【優先日】2020-09-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】519045000
【氏名又は名称】シーサン・セラピューティクス
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】パク、ミン - ジョン
(72)【発明者】
【氏名】キム、ヘ - ジュ
(72)【発明者】
【氏名】ユ、ジ - ヨン
(72)【発明者】
【氏名】パク、ヒ - キョン
【テーマコード(参考)】
4C076
4C086
4H045
【Fターム(参考)】
4C076AA95
4C076CC50
4C076EE59
4C086AA01
4C086AA02
4C086EA16
4C086MA01
4C086MA02
4C086MA04
4C086NA13
4C086ZA16
4C086ZB21
4H045AA10
4H045AA30
4H045BA15
4H045BA16
4H045EA21
4H045FA10
4H045GA21
(57)【要約】
本発明は、NLRP3遺伝子に結合する配列を有する生理活性ペプチド核酸(Bioactive Peptide Nucleic Acid)と、キャリアペプチド核酸(Carrier Peptide Nucleic Acid)とが相補的に結合した核酸複合体を含有する認知症予防又は治療用の薬学組成物に関し、本発明に係る核酸複合体は、血脳障壁透過能を有し、NLRP3遺伝子とその下位遺伝子であるタウタンパク質の発現及びリン酸化を効率的に抑制でき、認知症の予防又は治療に有用である。
【選択図】 図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
NLRP3遺伝子を標的とする生理活性核酸(Bioactive Nucleic Acid)と、キャリアペプチド核酸(Carrier Peptide Nucleic Acid)とが相補的に結合した細胞透過性核酸複合体を有効成分として含有する、アルツハイマー性認知症の予防、改善又は治療用の薬学組成物。
【請求項2】
前記生理活性ペプチド核酸は、配列番号1~3の配列で表示される配列を含むことを特徴とする、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記キャリアペプチド核酸は、配列番号5~14からなる群から選ばれる配列で表示される配列を含むことを特徴とする、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
前記核酸複合体は、
(i)配列番号1で表示される配列を含む生理活性核酸及び配列番号14で表示される配列を含むキャリアペプチド核酸で構成された核酸複合体;
(ii)配列番号3で表示される配列を含む生理活性核酸及び配列番号10で表示される配列を含むキャリアペプチド核酸で構成された核酸複合体;及び
(iii)配列番号2で表示される配列を含む生理活性核酸及び配列番号7で表示される配列を含むキャリアペプチド核酸で構成された核酸複合体、からなる群から選ばれることを特徴とする、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
前記生理活性ペプチド核酸又はキャリアペプチド核酸は、それぞれの核酸の5’末端又は3’末端に、エンドソーム脱出を助ける物質がさらに結合していることを特徴とする、請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
前記エンドソーム脱出を助ける物質は、ペプチド、脂質ナノ物質(lipid nanoparticles)、接合体ナノ物質(polyplex nanoparticles)、高分子ナノ球(polymer nanospheres)、無機物ナノ物質(inorganic nanoparticles)、陽イオン脂質ナノ物質(cationic lipid-based nanoparticles)、陽イオン高分子(cationic polymer)及びpH感応高分子(pH sensitive polymers)からなる群から選ばれるいずれか一つ以上であることを特徴とする、請求項5に記載の組成物。
【請求項7】
前記エンドソーム脱出を助けるペプチドは、GLFDIIKKIAESF(配列番号15)又はHistidine(10)であることを特徴とする、請求項6に記載の組成物。
【請求項8】
前記生理活性ペプチド核酸は全体的に陰電荷又は中性を有することを特徴とする、請求項1に記載の組成物。
【請求項9】
前記キャリアペプチド核酸は全体的に陽電荷を有することを特徴とする、請求項1に記載の組成物。
【請求項10】
前記核酸複合体は全体的に陽電荷を有することを特徴とする、請求項1に記載の組成物。
【請求項11】
前記核酸複合体は血脳障壁透過能を有することを特徴とする、請求項1に記載の組成物。
【請求項12】
前記認知症は、アルツハイマー性認知症(Alzheimer’s disease)、血管性認知症(vascular dementia)、パーキンソン病(Parkinson’s disease)による認知症、レビー小体型認知症(Lewy body dementia)、ハンチントン病(Huntington’s disease)による認知症、クロイツフェルト・ヤコブ病(Creutzfeldt-Jacob disease)による認知症及びピック病(Pick’s disease)による認知症からなる群から選ばれることを特徴とする、請求項1に記載の組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、核酸複合体を有効成分として含有する認知症治療用の薬学組成物に関し、より詳細には、NLRP3遺伝子に結合可能な配列を有する生理活性ペプチド核酸(Bioactive Peptide Nucleic Acid)と、キャリアペプチド核酸(Carrier Peptide Nucleic Acid)とが相補的に結合した核酸複合体を含有する認知症予防又は治療用の薬学組成物に関する。
【0002】
【背景技術】
【0003】
認知症(dementia)は、正常の老化とは区別される病的な現象であり、このような認知症の原因疾患には、アルツハイマー病(Alzheimer’s disease)、血管性認知症(Vascular dementia)、パーキンソン病(Parkinson’s disease)、レビー小体型認知症(Lewy body dementia)、ハンチントン病(Huntington’s disease)、クロイツフェルト・ヤコブ病(Creutzfeldt-Jacob disease)、 ピック病(Pick’s disease)などが知られている。
【0004】
これらの原因疾患の中で最高の発病比率を占めるのがアルツハイマー病であり、全認知症患者の50~70%を占める。アルツハイマー病は原因によって散発性(sporadic type)と家族性(familial type)とに区別され、患者の80~90%は原因の分からない散発性であって、殆どが65歳以後に発病すると知られている(Selkoe,2001 Physiol Rev 81:741-66)。家族性は全体の20%未満を占めており、アミロイド前駆タンパク質(amyloid precursor protein;以下、APP)、プレセニリン(presenilin;PS)1型及び2型など、遺伝子の変異が主な原因となって発病し、65歳以下でも起きている。アルツハイマー病は、老人斑(senile plaque)及び神経原線維濃縮体(neurofibrillary tangle)がそれぞれ神経細胞の外部及び内部に蓄積される病理学的特徴を示す。老人斑は球状であり、一般に辺縁系(limbic system)や新皮質(neocortex)で主に発見され、ベータアミロイド(β-amyloid;以下、Aβ)というペプチドが相互結合及び沈着して核を形成し、周囲には退化した神経線維軸索突起(axon)、樹状結晶(dendrites)、活性化した小膠細胞(microglia)及び星状細胞(astrocyte)が集まっている形態である。神経原線維濃縮体は、タウ(tau)というタンパク質が異常に多くリン酸化し、相互結合して形成された神経細胞内の物質であり、アルツハイマー病認知症患者の様々な脳組織で多数観察される。タウタンパク質は、微細小管結合タンパク質の一種で、エクソン輸送を調節し、微細小管を安定化させる。しかしながら、アルツハイマー病モデルにおいてタウタンパク質は、過リン酸化が異常に増加し、過リン酸化したタウタンパク質は、PHFs(Paired helical filaments)の形態で凝集する。その結果、タウタンパク質が微細小管結合タンパク質としての機能を喪失してしまい、アルツハイマー病を誘発すると知られている。
【0005】
脳においてNLRP3インフラマソームは、免疫細胞である微細小膠細胞(microglia)の細胞質に見られる免疫複合体であり、平常時には非活性状態で存在するが、PAMP(pathogen-associated molecular patterns)、DAMP(damage-associated molecular patterns)などの危険信号を認知すると、NLRP3が活性化しながらpro-caspase-1、ASC、pro-IL-1βなどの種々のタンパク質が集まり、オリゴマーであるNLRP3インフラマソーム(inflammasome)を形成する。
【0006】
近年、アルツハイマー病の脳において、先天性免疫因子であるNLRP3インフラマソームがアミロイドベータ病理現象の下位信号伝達過程として過リン酸化したタウタンパク質を増加させると報告されたことがあるが、これは、アミロイドベータプラークがNLRP3インフラマソームを活性化させるという結果であるとともに、タウタンパク質との直接的な相関関係があることを確認した結果であるといえる。このような近年の研究から、アミロイドベータが活性化すると、NLRP3インフラマソームが活性化され、微細小膠細胞の炎症反応増加によって過リン酸化タウタンパク質が増加するということが確認された(Ising,C.等、Nature 575,669-673,2019)。
【0007】
現在市販中の薬物は、記憶と関連している神経伝達物質であるアセチルコリン(acetylcholine)の濃度を一定に保持させて記憶改善及び短期的な緩和効果をもたらすアセチルコリン分解酵素(acetylcholine esterase)活性阻害剤であるコグネックス(tacrine)、アリセプト(donepezyl)、エクセロン(rivastigmin)、レミニール(galantamine)などと、Ca2+による神経細胞死滅を抑制するNMDA受容体拮抗体であるメマンチン(ebixa)などがある。これに加え、ニセルゴリン、L-カルニチン、イチョウの葉抽出物などの血液循環改善剤も血管性認知症に間接の効果があることが確認され、使用されている。
【0008】
既存の認知症治療剤は主にコリン作用性薬物であるがため、他のコリン作用性薬物と併用投与が不可であり、抗コリン性薬物の効果を無力化させる問題があり、心血管系に作用して心拍率に迷走神経亢進効果を示すことがある。また、重症の喘息や閉鎖性肺疾患の病力がある患者への使用には注意を要するという短所がある。また、脳疾患治療剤として開発された相当数の薬が脳血管障壁を円滑に通過できないという問題点を抱えている。このような血脳障壁の透過メカニズムはまだ突き止められておらず、中枢神経系に障害が発生しても、中枢神経系の目的とする領域への薬物到達ができない現実であり、効果的な治療方法は開発されておらずにいる。
【0009】
このような理由で、既存治療剤とは異なる方法で認知症を効果的に治療、予防できながらも毒性の低い薬物を見出すことが、認知症の克服のために何よりも重要な状況である。
【0010】
一方、伝統的な薬剤とは違い、核酸薬剤は、標的特異的伝令RNA(messenger RNA,mRNA)の発現を抑制するので、タンパク質を標的とする既存薬剤では治療不可であった研究領域を扱うことが可能になった(Kole R.等、Nature Rev.Drug Discov.11;125,2012.,Wilson C.等、Curr.Opin.Chem.Bio.2006;10:607,2006)。薬剤としての性能及び長所から、核酸を用いた様々な臨床試験が行われているが、増加する核酸ベース治療剤の用途にもかかわらず、細胞内導入又は血脳障壁透過のための運搬体の使用は極めて制限されている。
【0011】
したがって、最近では、薬物のより安全で効果的な利用を図るために、薬物に適する剤形だけでなく、薬物の標的となる生体部位に効率よく薬物を伝達(drug delivery)する方法が注目されている。特に、薬物を、必要な時に、必要な量だけ、必要な場所に効率よく運搬する輸送システムである薬物伝達システム(DDS;Drug Delivery System)の実用化が要求されている。現在、血脳障壁を通過して薬物などを伝達できる伝達体(carrier)に対する開発も活発に行われている。
【0012】
これと関連して、本発明者らは、生理活性核酸と、全体的に陽電荷を有するように修飾されたキャリアペプチド核酸(Carrier Peptide Nucleic Acid)とが相補的に結合した核酸複合体が、驚くべきほど向上した細胞透過性(cell permeability)を示し、これを用いて標的遺伝子の発現を非常に効率よく調節できることを確認し、このような細胞毒性が低く、生理活性核酸の細胞透過性及び遺伝子発現調節能力が向上した新しい構造体に対する特許を出願したことがある(PCT/KR2017/008636)。また、本発明者らは、前記構造体の機能に関する研究を続け、高い効率で血脳障壁を透過できる能力を有する新しい構造体を開発した(KR10-2019-0128465)。
【0013】
そこで、本発明者らは、血脳障壁透過能に優れた核酸複合体を認知症の治療に適用するために鋭意努力した結果、NLRP3遺伝子を標的とする生理活性ペプチド核酸(Bioactive Peptide Nucleic Acid)と、キャリアペプチド核酸(Carrier Peptide Nucleic Acid)とが相補的に結合した核酸複合体が認知症予防又は治療に優れた効果を示すことを確認し、本発明を完成するに至った。
【0014】
【0015】
【発明の概要】
【0016】
本発明の目的は、核酸複合体を有効成分として含有する認知症予防又は治療用の薬学組成物を提供することにある。
【0017】
上記の目的を達成するために、本発明は、NLRP3遺伝子を標的とする生理活性核酸(Bioactive Nucleic Acid)と、キャリアペプチド核酸(Carrier Peptide Nucleic Acid)とが相補的に結合した細胞透過性核酸複合体を有効成分として含有するアルツハイマー性認知症の予防、改善又は治療用の薬学組成物を提供する。
【0018】
本発明は、また、前記細胞透過性核酸複合体を投与する段階を含むアルツハイマー性認知症の予防又は治療方法を提供する。
【0019】
本発明は、また、前記細胞透過性核酸複合体をアルツハイマー性認知症の予防又は治療に使用する用途を提供する。
【0020】
本発明は、また、アルツハイマー性認知症の予防又は治療用薬剤の製造のための前記細胞透過性核酸複合体の用途を提供する。
【0021】
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】マウス小膠細胞(BV-2)に本発明のペプチド核酸複合体を処理した後、認知症関連遺伝子(NLRP3及びその下位遺伝子)の発現をウェスタンブロットで分析した結果である。
【0023】
図2】一次微細小膠細胞に本発明のペプチド核酸複合体を処理した後、認知症関連遺伝子の発現をウェスタンブロットで分析した結果である。
【0024】
図3】LPS/ATP処理によって免疫反応を活性化させた一次微細小膠細胞でのNLRP3及びその下位遺伝子の発現変化(A)及びアルツハイマー性認知症発現遺伝子であるp-tauの発現変化(B)をウェスタンブロットで分析した結果である。
【0025】
図4】LPS/ATPを処理した一次微細小膠細胞に本発明のペプチド核酸複合体を処理した後、NLRP3及びその下位遺伝子の発現変化(A)及びアルツハイマー性認知症発現遺伝子であるp-tauの発現変化(B)をウェスタンブロットで分析した結果である。
【0026】
【0027】
【発明を実施するための形態】
【0028】
別に断らない限り、本明細書で使われる全ての技術的及び科学的用語は、本発明の属する技術の分野における熟練した専門家によって通常理解されるのと同じ意味を有する。一般に、本明細書における命名法は、本技術分野でよく知られており、通常使われるものである。
【0029】
本発明では、生理活性ペプチド核酸(Bioactive Peptide Nucleic Acid)と、キャリアペプチド核酸(Carrier Peptide Nucleic Acid)とが相補的に結合した核酸複合体が血脳障壁透過能を有することを確認し、特に、NLRP3を標的する生理活性ペプチド核酸にキャリアペプチド核酸が相補的に結合した核酸複合体が、NLRP3遺伝子とその下位遺伝子であるタウタンパク質の発現及びリン酸化を効率的に抑制することを確認した。すなわち、本発明のNLRP3遺伝子に結合する配列を有する生理活性ペプチド核酸(Bioactive Peptide Nucleic Acid)と、キャリアペプチド核酸(Carrier Peptide Nucleic Acid)とが相補的に結合した核酸複合体を認知症治療に用いることができる。
【0030】
したがって、本発明は、一観点において、NLRP3遺伝子に結合する配列を有する生理活性ペプチド核酸(Bioactive Peptide Nucleic Acid)と、キャリアペプチド核酸(Carrier Peptide Nucleic Acid)とが相補的に結合した核酸複合体を有効成分として含有する認知症予防又は治療用の薬学組成物に関する。
【0031】
本発明において、生理活性ペプチド核酸とキャリアペプチドとが相補的に結合した核酸複合体は、下記構造式(1)の構造を有することを特徴とし得る。
【0032】
[構造式(1)]
【0033】
[A≡C(+)
【0034】
前記構造式(1)において、
【0035】
Aは、目的とする遺伝子に結合可能な配列、又は目的とする遺伝子配列を有する生理活性核酸(Bioactive Nucleic Acid)であり、
【0036】
Cは、生理活性核酸に結合可能なキャリアペプチド核酸(Carrier Peptide Nucleic Acid)であり;
【0037】
「≡」は、生理活性核酸とキャリアペプチド核酸との相補的な結合を意味し、
【0038】
Aで表示される生理活性核酸はペプチド核酸(Peptide Nucleic Acid)であり、全体的に陰電荷を有し、
【0039】
C(+)で表示されるキャリアペプチド核酸は全体的に陽電荷を有し、
【0040】
A≡C(+)で表示される構造式(1)の核酸複合体は、全体的に陽電荷を有し、
【0041】
前記キャリアペプチド核酸は、キャリアペプチド核酸全般が陽電荷を帯びるように1個以上のガンマ-(gamma-)又はアルファ-(alpha-)バックボーン修飾ペプチド核酸単量体を一つ以上含み、前記ガンマ-又はアルファ-バックボーン修飾ペプチド核酸単量体は、陽電荷を有するアミノ酸を有する単量体が陰電荷を有するアミノ酸を有する単量体に比べて多く含まれ、キャリアペプチド核酸全般の電荷が陽性になることを特徴とする。
【0042】
本発明において、「生理活性核酸」は、発現を減少させようとする目的する標的遺伝子に結合可能な相補的な配列、特に、そのような目的する標的遺伝子のmRNAに結合可能な相補的な配列を有するか、発現させようとする標的遺伝子の発現を促進する配列を有する核酸を含む核酸であって、該当遺伝子の発現を抑制又は促進するなどの遺伝子発現調節に関与する核酸を意味し、発現を減少又は増加させようとする標的遺伝子に相補的な配列を有する核酸であるか、或いはpre-mRNA、miRNA、mRNAなどの一本鎖RNA配列に相補的な配列の核酸であってよい。
【0043】
特に、本発明における「生理活性ペプチド核酸(Bioactive Peptide Nucleic Acid)」は、生体外(in vitro)又は生体内(in vivo)で、標的遺伝子及びこれを含む塩基配列と結合し、当該遺伝子の固有機能(例えば、転写体(transcript)発現又はタンパク質発現)を活性化又は阻害したり、pre-mRNAのスプライシング(splicing)を調節(例えば、エクソンスキッピング(exon skipping)したりするなどの機能を担い、前記塩基配列は、遺伝子調節部位(gene regulatory sequence)又は遺伝子部位(gene coding sequence)又はスプライシング調節部位(splicing regulatory sequence)であることを特徴とし得る。前記遺伝子調節部位は、プロモーター、転写エンハンサー、5’非番駅領域、3’非番駅領域、ウイルスパッケージング配列、及び選択マーカーから選ばれることを特徴とし得る。前記遺伝子部位は、エクソン又はイントロンであってよく、前記遺伝子部位は、遺伝子の転写開始部位の10、5、3、又は1kb又は500、300、又は200bp内に、例えば、開始部位の上流(upstream)又は下流(downstream)に存在してよい。また、前記スプライシング調節部位は、エクソンスキッピング(exon skipping)、隠されたスプライシング(cryptic splicing)、疑似スプライス部位活性化(pseudo-splice site activation)、イントロン保持(intron retention)、選択的スプライシングディレギュレーション(alternative splicing deregulation)関連配列を含むことができる。
【0044】
したがって、本発明における「生理活性ペプチド核酸(Bioactive Nucleic Acid)」は、認知症疾患標的遺伝子であるNLRP3(NLR Family Pyrin Domain Containing3)のアンチセンスペプチド核酸であることが好ましく、より好ましくは、配列番号1又は3の配列で表示される配列を含むものでよいが、これに限定されるものではない。
【0045】
本発明において、「キャリアペプチド核酸」は、生理活性核酸と一部或いは全部の塩基が相補的に結合して機能性を付与する核酸を意味し、本発明で使用されるキャリアペプチド核酸は、ペプチド核酸(PNA:Peptide Nucleic Acid)の他、これと類似の修飾された核酸も可能であり、ペプチド核酸が好ましいが、これに限定される意味ではない。
【0046】
特に、本発明において、前記キャリアペプチド核酸は、配列番号5~14からなる群から選ばれる配列で表示される配列を含むことが好ましいか、これに限定されるものではない。
【0047】
本発明において「核酸複合体」は、脱塩(de-salt)した形態であることを特徴とし得る。
【0048】
本発明において「核酸複合体」は、生理活性物質を体内、究極としては細胞内に浸透させることができ、具体的には、血脳障壁を通過して体内に伝達できる能力を有する。
【0049】
これにより、本発明において、前記核酸複合体は、血脳障壁透過能を有することを特徴とし得る。
【0050】
本発明において、前記生理活性核酸とキャリアペプチド核酸はそれぞれ、2~50個、好ましくは5~30個、より好ましくは10~25個、最も好ましくは15~17個の核酸単量体を含むことを特徴とし得る。
【0051】
本発明において、前記核酸複合体は、配列番号1~配列番号3の配列で表示される配列を含む生理活性核酸;及び、配列番号5~14からなる群から選ばれるいずれか一つの配列で表示される配列を含むキャリアペプチド核酸を含むことが好ましいか、これに限定されるものではない。
【0052】
本発明の組成物は、配列番号1で表示される配列を含む生理活性核酸及び配列番号14で表示される配列を含むキャリアペプチド核酸で構成された核酸複合体、配列番号3で表示される配列を含む生理活性核酸及び配列番号10で表示される配列を含むキャリアペプチド核酸で構成された核酸複合体、又は配列番号2で表示される配列を含む生理活性核酸及び配列番号7で表示される配列を含むキャリアペプチド核酸で構成された核酸複合体を有効成分として含むことが好ましいか、これに限定されるものではない。
【0053】
本発明において、生理活性核酸又はキャリアペプチド核酸は、それぞれの核酸の5’末端又は3’末端に、エンドソーム脱出を助ける物質がさらに結合したことを特徴とし得る。すなわち、生理活性核酸とキャリアペプチド核酸のエンドソーム脱出(endosome escape)を助ける物質をさらに含み、下記構造式(2)の構造を有することを特徴とし得る。
【0054】
[構造式(2)]
【0055】
[mA≡mC(+)
【0056】
前記構造式(2)において、
【0057】
「m」は、生理活性核酸とキャリアペプチド核酸のエンドソーム脱出(endosome escape)を助ける物質を意味する。
【0058】
本発明において、「エンドソーム脱出を助ける物質」は、エンドソーム内部の浸透圧を増加させたり、エンドソームの膜を不安定化させたりする方法によって生理活性核酸のエンドソームから脱出することを助けることを特徴とし得る。生理活性核酸がより効率的且つ迅速に核や細胞質に移動して標的遺伝子に出会って作用するように助けることを意味する(D.W.Pack,A.S.Hoffman,S.Pun,P.S.Stayton,“Design and development of polymers for gene delivery,” Nat.Rev.Drug.Discov.,4,581-593(2005))。
【0059】
本発明において、前記エンドソーム脱出を助ける物質は、ペプチド、脂質ナノ物質(lipid nanoparticles)、接合体ナノ物質(polyplex nanoparticles)、高分子ナノ球(polymer nanospheres)、無機物ナノ物質(inorganic nanoparticles)、陽イオン脂質ナノ物質(cationic lipid-based nanoparticles)、陽イオン高分子(cationic polymer)及びpH感応高分子(pH sensitive polymers)からなる群から選ばれるいずれか一つ以上であることを特徴とし得る。
【0060】
本発明において、前記エンドソーム脱出を助ける物質として生理活性核酸には、GLFDIIKKIAESF(配列番号15)の配列を有するペプチドがリンカー媒介で連結されてよく、キャリアペプチド核酸にはHistidine(10)をリンカー媒介で連結する方法によって結合することを特徴とし得るが、これに限定されるものではない。
【0061】
本発明において、前記脂質ナノ物質(lipid nanoparticles)は、脂質(Lipid)、リン脂質(phospholipids)、パルミチン酸セチル(cetyl palmitate)、poloxamer18、Tween85、トリステアリングリセリド(tristearin glyceride)及びTween80からなる群から選ばれることを特徴とし得る。
【0062】
本発明において、前記接合体ナノ物質(polyplex nanoparticles)は、ポリ(アミドアミン)(poly(amidoamine))又はポリエチレンイミン(polyethylenimine,PEI)であることを特徴とし得る。
【0063】
本発明において、前記高分子ナノ球(polymer nanospheres)は、ポリカプロラクトン(polycaprolactone)、ポリ(ラクチド-コ-グリセリド)(poly(lactide-co-glycolide))、ポリラクチド(polylactide)、ポリグリコリド(polyglycolide)、ポリ(d、l-ラクチド)(poly(d、l-lactide))、キトサン(chitosan)及びPLGA-ポリエチレングリコール(PLGA-polyethylene glycol))からなる群から選ばれることを特徴とし得る。
【0064】
本発明において、前記無機物ナノ物質(inorganic nanoparticles)は、Fe、Fe、WO3及びWO2.9からなる群から選ばれることを特徴とし得る。
【0065】
本発明において、前記陽イオン脂質ナノ物質(cationic lipid-based nanoparticles)は、1-(アミノエチル)イミノビス[N-(オレイックイルシステイニル-1-アミノ-エチル)プロピオンアミド](1-(aminoethyl)iminobis[N-(oleicylcysteinyl-1-amino-ethyl)propionamide])、PTAのN-アルキル化誘導体(N-alkylatedderivativeofPTA)、及び3,5-ビス(ドデシルオキシ)ベンズアミジン(3,5-bis(dodecyloxy)benzamidine)からなる群から選ばれることを特徴とし得る。
【0066】
本発明において、前記陽イオン高分子(cationic polymer)は、ビニルピロリドン-N,N-ジメチルアミノエチルメタクリル酸共重合体ジエチル硫酸塩(vinylpyrrolidone-N,N-dimethylaminoethyl methacrylate acid copolymer diethyl sulphate)、ポリイソブチレン(polyisobutylene)及びポリ(N-ビニルカルバゾール)(poly(N-vinylcarbazole))から構成される群から選ばれることを特徴とし得る。
【0067】
本発明において、前記pH感応性高分子(pH sensitive polymers)は、ポリ酸(polyacids)、ポリ(アクリル酸)(poly(acrylic acid))、ポリ(メタクリル酸)(poly(methacrylic acid))、及び加水分解されたポリアクリルアミド(hydrolyzed polyacrylamide)からなる群から選ばれることを特徴とし得る。
【0068】
本発明において、前記生理活性核酸は、天然(natural)核酸塩基及び/又は修飾された核酸単量体からなっていることを特徴とし、前記キャリアペプチド核酸は、前記生理活性核酸と塩基配列の一部或いは全部が相補的な配列によって構成されることを特徴とし得る。
【0069】
特に、キャリアペプチド核酸は、ユニバーザル塩基(universal base)を一つ以上含むことができ、キャリアペプチド核酸の全部がユニバーザル塩基からなってもよい。
【0070】
本発明において、前記生理活性核酸は、DNA、RNA、又は修飾された核酸であるPNA(peptide nucleic acid)、PMO(phosphorodiamidate morpholino oligonucleotide)、LNA(locked nucleic acid)、GNA(glycol nucleic acid)及びTNA(threose nucleic acid)、アンチセンスオリゴヌクレオチド(antisense oligonucleotide)、アプタマー(aptamer)、siRNA(small interfering RNA)、shRNA(short hairpin RNA)、リボザイム(ribozyme)及びDNAzymeからなる群から選ばれるものでよく、好ましくは、前記生理活性核酸は、DNA、RNA、又は修飾された核酸であるPNA(peptide nucleic acid)、PMO(phosphorodiamidate morpholino oligonucleotide)、LNA(locked nucleic acid)、GNA(glycol nucleic acid)及びTNA(threose nucleic acid)からなる群から選ばれるものであってよい。
【0071】
本発明において、生理活性核酸に使用された単量体がPNAである場合に、生理活性ペプチド核酸と呼び、他の単量体が使用された場合にも同様の方式で呼ぶ。
【0072】
本発明において、前記生理活性核酸とキャリアペプチド核酸は、ホスホジエステル(phosphodiester)、2’0-メチル(2’0-methyl)、2’メトキシ-エチル(2’ methoxy-ethyl)、ホスホルアミデート(phosphoramidate)、メチルホスホネート(methylphosphonate)及びホスホロチオエート(phosphorothioate)からなる群から選ばれるいずれか一つ以上の官能基をさらに含むことを特徴とし得る。
【0073】
本発明において、前記キャリアペプチド核酸は、前記生理活性核酸と塩基配列の一部或いは全部が相補的な配列で構成されることを特徴とし得る。特に、キャリアペプチド核酸は、ユニバーザル塩基(universal base)を一つ以上含むことができ、キャリアペプチド核酸の全てがユニバーザル塩基からなってもよい。
【0074】
本発明において、前記核酸複合体内の前記生理活性核酸及びキャリアペプチド核酸のそれぞれは、電気的特性が全体的に、陽電荷(陽性)、陰電荷(陰性)又は中性電荷を有することを特徴とする複合体であってよい。
【0075】
前記電気的特性の表現において、「全体的に」との意味は、個別塩基の電気的特性ではなく全体的な生理活性核酸又はキャリアペプチド核酸のそれぞれの電荷が外部から見て全体的な電気的特性であることを意味し、例えば、生理活性核酸内の一部の単量体が陽性を有しても、陰性を有する単量体の個数が相対的に多く存在する場合には、生理活性核酸は「全体的に」電気的特性からして陰電荷を有するものであり、キャリアペプチド核酸内の一部の塩基及び/又はバックボーン(backbone)が陰性を有しても、陽性を有する塩基及び/又はバックボーンの個数が相対的に多く存在する場合には、キャリアペプチド核酸は「全体的に」電気的特性からして陽電荷を有するものである。
【0076】
したがって、本発明の核酸複合体は、全体的に陽電荷を有することを特徴とし得る。前記核酸複合体において、好ましくは、前記生理活性核酸は全体的に電気的特性からして陰電荷又は中性の特性を有し、前記キャリアペプチド核酸は全体的に電気的特性からして陽電荷特性を有することを特徴とし得るが、それに限定されるものではない。
【0077】
本発明において、前記生理活性核酸とキャリアペプチド核酸の電気的特性の付与は、修飾されたペプチド核酸単量体を使用することができ、修飾されたペプチド核酸単量体は、陽電荷を有するキャリアペプチド核酸として、リジン(Lysine,Lys,K)、アルギニン(Arginine,Arg,R)、ヒスチジン(Histidine,His,H)、ジアミノ酪酸(Diamino butyric acid,DAB)、オルニチン(Ornithine,Orn)及びアミノ酸類似体からなる群から選ばれるいずれか一つ以上の陽電荷のアミノ酸を含み、陰電荷を有するキャリアペプチド核酸として、陰電荷のアミノ酸であるグルタミン酸(Glutamic acid,Glu,E)又はアミノ酸類似体の陰電荷のアミノ酸を含むことを特徴とし得る。
【0078】
本発明において、前記キャリアペプチド核酸は、全体的に陽電荷を有するように、1個以上のガンマ-又はアルファ-バックボーン修飾ペプチド核酸単量体を含むことを特徴とし得る。
【0079】
前記ガンマ-或いはアルファ-バックボーン修飾ペプチド核酸単量体は、電気的陽性を有するように、リジン(Lysine,Lys,K)、アルギニン(Arginine,Arg,R)、ヒスチジン(Histidine,His,H)、ジアミノ酪酸(Diamino butyric acid,DAB)、オルニチン(Ornithine,Orn)及びアミノ酸類似体からなる群から選ばれるいずれか一つ以上の陽電荷を有するアミノ酸をバックボーンに含むことを特徴とし得る。
【0080】
本発明において、電荷付与のためのペプチド核酸単量体の修飾は、前記バックボーン修飾の他にも、ヌクレオ塩基(nucleobase)が修飾されたペプチド核酸単量体を使用することができる。好ましくは、電気的陽性を有するようにアミン、トリアゾール、イミダゾール残基をヌクレオ塩基に含む、或いは電気的陰性を有するようにカルボン酸を塩基に含むことを特徴とし得る。
【0081】
本発明において、前記キャリアペプチド核酸の修飾ペプチド核酸単量体は、陰電荷をバックボーン或いはヌクレオ塩基にさらに含んでもよいが、修飾ペプチド核酸単量体は、陽電荷を有する単量体が陰電荷を有する単量体に比べて多く含まれ、全体的にキャリアペプチド核酸の電荷が陽性になることが好ましい。
【0082】
本発明に係る前記核酸複合体において、疎水性残基(hydrophobic moiety)、親水性残基(hydrophilic moiety)、標的抗原特異的抗体、アプタマー又は蛍光/発光標識子などからなる群から選ばれる一つ以上の物質が生理活性核酸及び/又はキャリアペプチド核酸に結合していることを特徴とし、好ましくは、前記疎水性残基(hydrophobic moiety)、親水性残基(hydrophilic moiety)、標的抗原特異的抗体、アプタマー及びイメージングのための蛍光/発光標識子などからなる群から選ばれる一つ以上の物質は、前記キャリアペプチド核酸に結合したものであり得る。
【0083】
本発明において、前記疎水性残基(hydrophobic moiety)、親水性残基(hydrophilic moiety)、標的抗原特異的抗体、アプタマー、消光子、蛍光標識子及び発光標識子からなる群から選ばれる一つ以上の物質と生理活性核酸及び/又はキャリアペプチド核酸の結合は、単純共有結合又はリンカー媒介の共有結合であることを特徴とし得るが、それに限定されるものではない。好ましくは、前記核酸運搬体に結合した細胞透過、溶解度、安定性、運搬及びイメージング関連物質(例えば、疎水性残基など)は、標的遺伝子の発現を調節する生理活性核酸と独立して存在する。
【0084】
本発明において、先に述べたように、前記生理活性核酸及びキャリアペプチド核酸の相補的な結合形態は、大きく、逆平行結合(antiparallel binding)と平行結合(parallel binding)の形態を有することを特徴とし得る。前記相補的な結合形態は、生理活性核酸の目的配列(生理活性核酸と相補的な配列)の存在下で分離される構造を有する。
【0085】
前記逆平行結合と平行結合は、DNA-DNA又はDNA-PNAの結合方式において、5’-方向性と3’-方向性によって決定される。逆平行結合は、一般のDNA-DNA又はDNA-PNAの結合方式であり、本発明に係る核酸複合体を取り上げて説明すると、生理活性核酸は5’から3’方向に、キャリアペプチド核酸は3’から5’方向に互いに結合する形態を意味する。平行結合は、逆平行結合に比べては結合力が多少劣る形態であり、生理活性核酸とキャリアペプチド核酸の両方とも5’から3’方向に又は3’から5’方向に互いに結合する形態を意味する。
【0086】
本発明に係る核酸複合体において、好ましくは、前記生理活性核酸及びキャリアペプチド核酸の結合力は、生理活性核酸と生理活性核酸の目的する遺伝子、特に目的遺伝子のmRNAとの結合力よりも低いことを特徴とし得る。前記結合力は、融解温度、melting temperature又はTmによって決定される。
【0087】
前記生理活性核酸及びキャリアペプチド核酸の結合力(融解温度、melting temperature、Tm)を生理活性核酸と生理活性核酸の目的する遺伝子、特に目的遺伝子のmRNAとの結合力よりも低くするための具体的な方法は、例えば、前記生理活性核酸とキャリアペプチド核酸とが平行結合(Parallel binding)又は部分特異結合(Partial specific binding)することを特徴とし得るが、それに限定されるものではない。
【0088】
他の例として、前記キャリアペプチド核酸がリンカー、ユニバーザル塩基(universal base)及び生理活性核酸の対応する塩基と相補的でない塩基を有するペプチド核酸塩基から構成された群から選ばれる一つ以上のペプチド核酸塩基を有することを特徴とし得るが、それに限定されるものではない。
【0089】
本発明において、前記ユニバーザル塩基(universal base)は、アデニン(adenine)、グアニン(guanine)、シトシン(cytosine)、チミン(thymine)、ウラシル(Uracil)などの天然塩基と選択性無しで結合し、相補的な結合力よりも低い結合力を有する塩基としてイノシンPNA(inosine PNA)、インドールPNA(indole PNA)、ニトロインドールPNA(nitroindole PNA)及び無塩基(abasic)からなる群から選ばれる一つ以上を使用でき、好ましくは、イノシンPNAを使用することを特徴とし得る。
【0090】
本発明において、前記核酸複合体の機能調節のための核酸の結合形態と電気的性質の組合せを提供し、前記核酸の結合形態と電気的性質の組合せで粒子サイズ及び作用時点を調節し、細胞透過性、溶解度及び特異度を向上させることを特徴とし得る。
【0091】
本発明において、前記生理活性ペプチド核酸とキャリアペプチド核酸との結合力調節により、目的遺伝子の存在下で、生理活性ペプチド核酸が目的配列と結合する時点(生理活性核酸の目的配列への置換される時点、標的特異的分離及び結合時点)などの調節が可能である。
【0092】
本発明に係る核酸複合体において、生理活性核酸の目的遺伝子への置換(strand displacement)時点、標的特異的分離及び結合(target specific release and bind)時点の調節は、複合体の非特異結合のためのキャリアペプチド核酸の非特異塩基、ユニバーザル塩基及びリンカーの有無、個数及び位置によって調節が可能であることを特徴とし得る。前記ペプチド複合体の相補的な結合の形態である平行(parallel)又は逆平行(antiparallel)形態の結合などと前記条件との組合せによって調節が可能であることを特徴とし得る。
【0093】
本発明の用語「血脳障壁」と「BBB(Blood-Brain Barrier)」は、本願において同じ意味で使われ、これは、血液と脳組織との間に交換されることを綿密に調節し、ひどく制限する脳組織を通して循環することから、血液内に存在する透過性障壁のことを指すために使われる。血液脳障壁成分には、全血管の最も深い内膜を形成する内皮細胞、BBBと構造的に相関する隣接した内皮細胞間の稠密な連接部、内皮細胞の基底膜、及び血管の露出された外部表面の殆どを覆っている近い星状細胞の拡張された足様突起(foot process)が含まれる。BBBは、血液内の大部分の物質、例えば、大部分の大分子、例えば、Ig、抗体、補体、アルブミン及び薬物及び小分子が脳組織内に流入することを防ぐ。
【0094】
本発明の用語「疾患」と「障害」は、本願において同じ意味で使われ、これは、機能の実行をを妨害又は混乱させ及び/又は不快感、機能異常、困難のような症状を誘発させたり、ひいては患者を死亡に至らせたり、或いはそれと接触した人を死亡に至らせる、身体状態又はいくつかの器官上の全ての変更のことを指す。
【0095】
本発明において、前記疾患は認知症が好ましく、より好ましくは、アルツハイマー性認知症(Alzheimer’s disease)、血管性認知症(vascular dementia)、パーキンソン病(Parkinson’s disease)による認知症、レビー小体型認知症(Lewy body dementia)、ハンチントン病(Huntington’s disease)による認知症、クロイツフェルト・ヤコブ病(Creutzfeldt-Jacob disease)による認知症、及びピック病(Pick’s disease)による認知症からなる群から選ばれるが、これに限定されるものではない。
【0096】
本発明において、用語「治療用組成物」は、「医薬(薬剤学的、薬学的)組成物(pharmaceutical composition)」と同じ意味で使われてよく、本発明の生理活性核酸及び前記核酸と結合するキャリアペプチド核酸を含む核酸複合体を有効成分として含み、さらに、前記核酸複合体に、目的とする疾患を治療するための治療用薬物が結合した形態であってよい。
【0097】
本発明の治療用組成物は、標準医薬実施によって血脳障壁内に伝達される形態の剤形にすることができる。これらの剤形は、有効成分の他にも、薬学的に許容される形態の剤形に適合する担体、賦形剤、補助剤又は希釈剤などの添加物を含有してよい。
【0098】
用語「薬学的に許容される(physiologically acceptable)」は、化合物の生物学的活性及び物性を損傷させない特性を意味する。
【0099】
用語「担体(carrier)」とは、細胞又は組織内への核酸複合体の付加を容易にする化合物と定義される。例えば、ジメチルスルホキシド(DMSO)は、生物体の細胞又は組織内への多くの有機化合物の取り込みを容易にする通常の担体である。
【0100】
用語「希釈剤(diluent)」とは、対象化合物の生物学的活性形態を安定化させる他、化合物を溶解させる水で希釈される化合物と定義される。バッファー溶液に溶解されている塩は、当該分野で希釈剤として用いられる。一般に用いられるバッファー溶液は、リン酸塩バッファー食塩水であり、これはヒト溶液の塩状態を摸倣しているためである。バッファー塩は低い濃度で溶液のpHを制御できるので、バッファー希釈剤が化合物の生物学的活性を修飾することは稀である。
【0101】
本発明における核酸複合体を含有する物質は、ヒト患者に、それ単独で又は併用療法(combination therapy)のように他の活性成分と併用して又は適当な担体や賦形剤と共に混合された医薬組成物として投与できる。
【0102】
本発明における使用に適する医薬組成物には、活性成分がそれらの意図した目的を達成するのに有効な量で含まれている組成物が含まれる。より具体的に、治療的有効量は、治療される客体の生存を延長する、或いは疾患の症状を防止、軽減又は緩和させるのに有効な化合物の量を意味する。治療的有効量の決定は、特に、ここに提供された詳細な開示内容の側面において、通常の技術者の能力範囲内にある。
【0103】
本発明で使われる用語「予防」は、前記核酸複合体を含む治療用組成物の投与により疾患の発病を防ぐか、それの進行を抑制するあらゆる行為を意味する。
【0104】
本発明における用語「改善」とは、前記核酸複合体を含む治療用組成物の投与により疾患が治療される状態と関連したパラメータ、例えば、症状の程度を少なくとも減少させるあらゆる行為を意味する。
【0105】
また、本発明で使われる用語「治療」は、前記核酸複合体を含む治療用組成物の投与により疾患の症状が好転又は完治するあらゆる行為を意味する。
【0106】
本発明に係る核酸複合体を含む組成物は、認知症を治療するために又は認知症の症状を抑制(又は、緩和)するために、医薬として効果的な量で適用されてよい。認知症の種類、患者の年齢、体重、症状の特性及び度合、現在治療法の種類、治療回数、適用形態及び経路などの様々な要因によって変わってよく、当該分野の専門家によって容易に決定されてよい。本発明の組成物は、前記の薬理学的又は生理学的成分を共に適用するか或いは順次に適用してよく、また、追加の従来の治療剤と併用して適用してもよく、従来の治療剤とは順次に又は同時に適用してもよい。このような適用は、単回又は多回の適用であってよい。
【0107】
本発明において、「個体」は、本発明に係る核酸複合体を投与して軽減、抑制又は治療可能な状態又は疾患を持っている或いはその危険がある哺乳動物を意味し、好ましくは、ヒトを意味する。
【0108】
また、本発明の化合物の人体への投与量は、患者の年齢、体重、性別、投与形態、健康状態及び疾患の程度によって変わってもよく、体重が70kgである成人患者を基準にするとき、一般に0.001~1,000mg/日であり、好ましくは0.01~500mg/日であり、医師又は薬剤師の判断によって一定の時間間隔で1日1回又は数回に分割して投与してもよい。
【0109】
本明細書に記載の核酸複合体を含む組成物の毒性と治療効率性は、例えば、LD50(群集の50%に対する致死量)、ED50(群集の50%に対して治療効果を有する線量)、IC50(群集の50%に対して治療抑制効果を有する線量)を決定するために、細胞培養又は実験動物における標準製薬過程によって算定されてよい。毒性と治療効果間の線量比が治療指数であり、これは、LD50とED50(又は、IC50)との比率として表現されてよい。高い治療指数を示す化合物が好ましい。これらの細胞培養分析から得られたデータは、ヒトに使用する線量の範囲を算定するために利用することができる。当該化合物の投与量(dosage)は、好ましくは、毒性がない或いは殆どない状態でED50(又は、IC50)を含む循環濃度の範囲内にある。
【0110】
本発明における用語「投与」とは、いずれか適切な方法で個体に本発明の薬学組成物を導入する行為を意味し、投与経路は、目的組織に到達できる限り、経口又は非経口の様々な経路で投与されてよい。
【0111】
本発明の前記薬学組成物は薬学的に有効な量で投与されてよいが、本発明における用語「薬剤学的に有効な量」とは、医学的治療又は予防に適用可能な合理的な受恵/危険の割合で、疾患を治療又は予防するのに十分な量を意味し、有効容量レベルは、疾患の重症度、薬物の活性、患者の年齢、体重、健康、性別、患者の薬物に対する敏感度、使用された本発明の組成物の投与時間、投与経路及び排出比率、治療期間、使用された本発明の組成物と配合又は同時使用される薬物を含む要素、及びその他医学分野によく知られた要素によって決定されてよい。
【0112】
本発明の薬学組成物は、個別治療剤として投与されるか、他の治療剤と併用して投与されてよく、従来の治療剤とは順次に又は同時に投与されてよい。そして、単回又は多回投与されてよい。前記要素を全て考慮し、副作用無しで最小限の量で最大の効果が得られる量を投与することが重要である。
【0113】
本発明の薬学組成物の投与量は、使用目的、疾患の重症度、患者の年齢、体重、性別、既往力、又は有効成分として使用される物質の種類などを考慮して当業者が決定してよい。例えば、本発明の薬学組成物を、ヒトを含む哺乳動物に1日間10~100mg/kg、より好ましくは10~30mg/kgで投与でき、本発明の組成物の投与頻度は、特にこれに制限されないが、1日1回~3回投与してもよく、或いは容量を分割して数回投与してもよい。
【0114】
本発明は、他の観点において、NLRP3遺伝子に結合する配列を有する生理活性ペプチド核酸(Bioactive Peptide Nucleic Acid)と、キャリアペプチド核酸(Carrier Peptide Nucleic Acid)とが相補的に結合した核酸複合体及び/又は前記核酸複合体を含む組成物を個体に投与する段階を含む認知症予防又は治療方法に関する。
【0115】
本発明は、さらに他の観点において、認知症予防又は治療用薬剤の製造のためのNLRP3遺伝子に結合する配列を有する生理活性ペプチド核酸(Bioactive Peptide Nucleic Acid)と、キャリアペプチド核酸(Carrier Peptide Nucleic Acid)とが相補的に結合した核酸複合体及び/又は前記核酸複合体を含む組成物の用途に関する。
【0116】
本発明は、さらに他の観点において、NLRP3遺伝子に結合する配列を有する生理活性ペプチド核酸(Bioactive Peptide Nucleic Acid)と、キャリアペプチド核酸(Carrier Peptide Nucleic Acid)とが相補的に結合した核酸複合体及び/又は前記核酸複合体を含む組成物を認知症予防又は治療に使用する用途を提供する。
【0117】
【0118】
[実施例]
【0119】
以下、実施例を用いて本発明をより詳細に説明する。これらの実施例は単に本発明を例示するためのものであり、本発明の範囲がこれらの実施例によって制限されると解釈されないことは、当業界における通常の知識を有する者にとって明らかであろう。
【0120】
【0121】
実施例1:生理活性ペプチド核酸(Bioactive Peptide Nucleic Acid)及びキャリアペプチド核酸、並びにそれらを用いた複合体の製造
【0122】
本発明の核酸複合体のアルツハイマー性認知症に対する効果を検証するために、標的遺伝子としてNLRP3を使用し、アルツハイマー性認知症の治療効果を確認するために、NLRP3に対する生理活性ペプチド核酸(Bioactive Peptide Nucleic Acid)としてアンチセンスペプチド核酸(antisense PNA)を使用した。
【0123】
本発明において、アルツハイマー性認知症治療効果を確認するために使用した生理活性ペプチド核酸(antisense PNA)は、配列番号1~3番で表示される配列で構成されており、対照群として使用した生理活性核酸(antisense PNA)は、配列番号4で表示される配列で構成されている。
【0124】
本実施例で使用されたペプチド核酸ベースの生理活性核酸のうち配列番号2~配列番号4は、エンドソーム脱出能を助けるためのペプチドGLFDIIKKIAESF(配列番号15)を5’に結合させ、また、配列番号1は、エンドソーム脱出能を助けるペプチドがない形態で合成した。本実施例で使用されたキャリアペプチド核酸は、配列番号14以外はいずれも、エンドソーム脱出能を助けるためのペプチドを5’~3’末端に結合しており、また、配列番号5~13と記載される配列で構成されている。塩基配列、単量体修飾及び構造は、下記の表1の通りである。 本発明で使用したペプチド核酸はいずれも、パナジン(PANAGENE、韓国)でHPLC精製方法を用いて合成した(表1)。
【0125】
【0126】
【表1】
【0127】
上記の表1には、NLRP3を標的とするアルツハイマー性認知症治療剤としての効果を確認するために使用された生理活性ペプチド核酸及びキャリアペプチド核酸と、対照群でとして用いられた生理活性ペプチド核酸及びキャリアペプチド核酸の配列情報を示した。
【0128】
単量体の修飾は、電気的な性質を付与するために、ペプチド核酸のバックボーンを、電気的陽性はリジン(Lysine;Lys、K、(+)と表記)に、電気的陰性はグルタミン酸(Glutamic acid;Glu、E、(-)と表記)に修飾されたペプチドバックボーンを有するように作製した。
【0129】
それぞれの生理活性核酸とキャリアペプチド核酸との組合せは、DMSO下で混成化し、その結果、生理活性核酸とキャリアペプチド核酸とで構成された複合体が作製された。
【0130】
【0131】
実施例2:核酸複合体を用いたアルツハイマー性認知症の治療効果分析
【0132】
実施例1によって、下記の表2の構造で製造されたNLRP3を標的遺伝子とする生理活性ペプチド核酸と、キャリアペプチド核酸とを含む核酸複合体を用いてアルツハイマー性認知症の治療効果を分析した。
【0133】
【0134】
【表2】
【0135】
【0136】
実施例2-1:細胞培養
【0137】
Elabscience(米国)から入手したマウス小膠細胞(BV-2)を、DMEM培養培地(Dulbecco Modified Eagle Medium,WELJIN、韓国)に10%(v/v)ウシ胎児血清、ペニシリン100units/ml、ストレプトマイシン100μg/mlを添加して37℃、5%(v/v)COの条件下で培養した。
【0138】
【0139】
実施例2-2:ペプチド核酸複合体処理細胞の遺伝子発現分析
【0140】
マウス小膠細胞株を、6ウェルプレートに1×10で細胞をシードし、24時間培養後に、実施例2-1の条件で実験を行って生理活性ペプチド核酸及びキャリアペプチド核酸を含む複合体を500nMずつ処理し、それぞれ24、48、72時間培養した。また、RIPAバッファを各ウェルに30μLずつ添加してタンパク質溶解物(protein lysate)を得た。
【0141】
タンパク質溶解物を、BCAアッセイキット(Thermo Fisher,米国)を用いてタンパク質の量を定量し、タンパク質30μgを電気泳動によってサイズ別に分離してPVDFメンブレインにタンパク質を移した後、1次抗体であるNLRP3(abcam,米国)、プロカスパーゼ-1、カスパーゼ-1(SantaCruz Biotechnology,米国)、proIL-1beta、IL-1beta(Abcam,米国)を1:1000で処理し、4℃で1日間放置した。1X TBS-Tを用いて洗浄し、2次抗体であるヤギ抗ウサギ(Cell signaling Technology,米国)、抗マウス(Santa cruz Biotechnology,米国)を1:2000で処理し、常温で1時間放置した。SupersignalTMウェストフェムト最大感度基質(West Femto Maximum Sensitivity Substrate)(Thermo Fisher,米国)を処理し、Image600(Amersham,ドイツ)装備を用いて標的遺伝子の発現抑制効率を分析した。
【0142】
その結果、図1のAに示すように、配列番号2に対しては配列番号2及び7の核酸複合体の組合せ、図1のBに示すように、配列番号3に対しては配列番号3及び10の核酸複合体の組合せを処理した群において標的遺伝子の発現及び下位経路遺伝子の発現が、時間によって最も多く抑制されることを確認した。
【0143】
【0144】
実施例3:脳組織から分離した一次微細小膠細胞(primary cultured microglial cell)において核酸複合体を用いたアルツハイマー性認知症の治療効果分析
【0145】
本実施例では、実施例2で効果の検証された核酸組合せ体を選別した後、培養状態が体内と最も類似する特徴の新生ラット(neonatal rat)から分離した一次微細小膠細胞を用いてアルツハイマー性認知症の治療効果を分析した。
【0146】
使用した核酸複合体の組合せは、下記の表3の通りである。
【0147】
【0148】
【表3】
【0149】
【0150】
実施例3-1:マウスの脳組織から一次微細小膠細胞分離/培養、及び認知症様炎症細胞モデル作製
【0151】
一次微細小膠細胞をマウスの脳組織から分離して培養するために、1日齢新生児SDラット(ナラバイオテック,韓国)を購入し、脳組織を分離した。髓膜と他の組織部位を除去した皮質(Cortex)を、氷で冷やした(iced)1x HBSS(gibco,米国)の入っているペトリ皿に移した後、ピペットを用いて組織を解離させ、1200rpmで5分間遠心分離した。遠心分離後に、上澄液は捨て、残されたペレットに、DMEM培養培地(Dulbecco Modified Eagle Medium,Wellgene,韓国)に10%(v/v)ウシ胎児血清、ペニシリン100units/ml、ストレプトマイシン100μg/ml、GlutaMAX(Gibco,米国)0.1%を添加した混合グリア細胞(mixed glial cell)培養培地を入れて細胞をリリースした後、前日にあらかじめPLL(Poly-L-lysine,Sigma,米国)でコートした75Tフラスコに細胞をシードした。細胞培養14日後に、混合グリア細胞培養培地にインスリン(Sigma,米国)5μg/mlを添加した小膠細胞培養培地に交替した後、前記フラスコを2時間160rpm、37℃の条件でオービタルシェーカーで撹拌し、浮遊細胞のみを有する上澄液を収集して1200rpmで8分間遠心分離した。遠心分離後に、6ウェルプレートに1×10で細胞をシードし、37℃、5%(v/v)COの条件下で培養した。アルツハイマー性認知症様炎症細胞モデルを作るために、核酸複合体処理4時間後に、LPS 100ng/mlとATP 5mMを処理して培養した。
【0152】
【0153】
実施例3-2:ペプチド核酸複合体処理細胞の遺伝子発現分析
【0154】
実施例3-1の培養条件で実験を行って、生理活性ペプチド核酸及びキャリアペプチド核酸を含む複合体を500nMずつ処理し、4時間後にLPS100ng/mlとATP5mM処理してそれぞれ24、48、72時間培養し、RIPAバッファを各ウェルに30μLずつ添加してタンパク質溶解物を得た。
【0155】
タンパク質溶解物を、BCAアッセイキット(Thermo Fisher,米国)を用いてタンパク質の量を定量し、タンパク質30μgを電気泳動によってサイズ別に分離してPVDFメンブレインにタンパク質を移した後、1次抗体であるNLRP3(abcam,米国)、プロカスパーゼ-1、カスパーゼ-1(SantaCruz Biotechnology,米国)、proIL-1beta、IL-1beta(Abcam,米国)を1:1000で処理し、4℃で1日間放置した。1X TBS-Tを用いて洗浄し、2次抗体であるヤギ抗ウサギ(Cell signaling Technology,米国)、抗マウス(Santa cruz Biotechnology,米国)を1:2000で処理し、常温で1時間放置した。SupersignalTMウェストフェムト最大感度基質(Thermo Fisher,米国)を処理し、Image600(Amersham,ドイツ)装備を用いて標的遺伝子の発現抑制効率を分析した。
【0156】
本実施例では、LPS/ATPを用いたアルツハイマー性認知症様炎症細胞モデルにおいてNLRP3及び下位段階遺伝子発現変化を分析した。使用した核酸複合体の組合せは、表3の通りである。
【0157】
その結果、図2に示すように、配列番号3及び10の核酸複合体の組合せ(組合せ6)が、アルツハイマー性認知症類似細胞モデルにおいて標的遺伝子の発現及び下位経路遺伝子の発現を経時的に最も多く抑制することを確認した。
【0158】
【0159】
実施例4:一次微細小膠細胞の炎症反応によるニューロン細胞においてアルツハイマー性認知症発病遺伝子の発現分析
【0160】
本実施例では、体内で微細小膠細胞が炎症反応を起こすことによって発生し得るニューロン細胞のアルツハイマー性認知症の発病遺伝子(タウ、タウリン酸化)発現変化を確認した(Ising,C.,Venegas,C.,Zhang,S.et al.,2019)。11 Ising,C.,Venegas,C.,Zhang,S.et al.,NLRP3 inflammasome activation drives tau pathology.Nature 575,669-673(2019)。
【0161】
【0162】
実施例4-1:脳組織で微細小膠細胞分離/培養及び認知症様炎症細胞モデル作製
【0163】
実施例3-1の条件で新生児ラットから一次微細小膠細胞を分離し、細胞は、37℃、5%(v/v)COの条件下で培養した。アルツハイマー性認知症様炎症細胞モデルを作るために、LPS 100ng/mlをそれぞれ3時間又は6時間処理し、ATP 5mMを30分処理して培養した。
【0164】
【0165】
実施例4-2:脳組織からニューロン細胞分離及び培養
【0166】
微細小膠細胞培養7日目に新生児ラットを購入し、脳組織からニューロン細胞を分離して培養した。
【0167】
分離した脳組織から海馬(Hippocampus)を実体顕微鏡(Leica,米国)下で分離した後、0.25%トリプシン(Gibco,米国)と10μM DNase(Roche、スイス)を入れ、37℃で15分間放置した。ピペットを用いて組織を均質化(homogenization)した後、3,000rpmで5分間遠心分離した。上澄液は捨て、残されたペレットに、Neurobasal-A培養培地(Gibco,韓国)にペニシリン100units/ml、ストレプトマイシン100μg/ml、2% B-27サプリメント(supplement)(Gibco,米国)を添加したNM1培養培地を入れて細胞をリリースした後、前日にあらかじめPLL(Poly-L-lysine,Sigma,米国)でコートした6ウェルプレートにそれぞれグループ別に1×10で細胞をシードした。分離したニューロン細胞のDIV3(Days of in vitro)に、5μM Ara-cを添加したNM1培養培地に交替してグリア細胞が育たないように防いだ後、DIV7に、ニューロン細胞のみがプレートで培養されることを顕微鏡下で確認した。
【0168】
【0169】
実施例4-3:微細小膠細胞炎症活性化及びニューロン細胞コンディショニング
【0170】
微細小膠細胞でアルツハイマー性認知症様炎症モデルを作るために、6ウェルプレートに1×10で細胞をシードし、24時間後に、それぞれLPS 100ng/mlを3時間又は6時間、ATP 5mMを30分処理して培養した。1x PBS(phosphate buffer saline,Welgene,韓国)で1回洗浄した後、ニューロン細胞培養培地であるNM1培地を2mlずつ入れ、24時間培地コンディショニング(media conditioning)を行った。コンディショニング24時間後に、培地はフィルタリングし、B-27サプリメント添加後に再びニューロン細胞に処理して24時間培養した。
【0171】
【0172】
実施例4-5:ウェスタンブロット分析(Western blot assay)で遺伝子発現分析
【0173】
実施例4-4の実験条件で培養された微細小膠細胞とニューロン細胞に、RIPAバッファを各ウェルごとに30μLずつ添加してタンパク質溶解物を得た。タンパク質溶解物を、BCAアッセイキット(Thermo Fisher,米国)を用いてタンパク質の量を定量し、タンパク質30μgを電気泳動によってサイズ別に分離してPVDFメンブレインにタンパク質を移した後、1次抗体であるNLRP3(abcam,米国)、プロカスパーゼ-1、カスパーゼ-1(SantaCruz Biotechnology,米国)、proIL-1beta、IL-1beta(Abcam,米国)、p-Tau(AT8)(Thermo Fisher,米国)、Tau(Thermo Fisher,米国)を1:1000で処理し、4℃で1日間放置した。1X TBS-Tを用いて洗浄し、2次抗体であるヤギ抗ウサギ(Cell signaling Technology,米国)、抗マウス(Santa cruz Biotechnology,米国)を1:2000で処理し、常温で1時間放置した。SupersignalTMウェストフェムト最大感度基質(Thermo Fisher,米国)を処理し、Image600(Amersham,ドイツ)装備を用いてネズミの微細小膠細胞で標的遺伝子の発現抑制効率を分析した。
【0174】
その結果、図3のAに示すように、LPSを3時間よりは6時間処理して免疫反応を活性化させた微細小膠細胞において、標的遺伝子と下位遺伝子が陰性対照群に比べて過活性化されたことを確認した。また、図3のBに示すように、免疫反応の活性化によってコンディショニングしたニューロン細胞において、アルツハイマー性認知症発病遺伝子であるリン酸化されたタウ(p-tau)の発現が経時増加することを確認した。
【0175】
【0176】
実施例5:脳透過が可能な核酸複合体を用いた体外微細小膠細胞及びニューロン細胞におけるアルツハイマー性認知症治療効果分析
【0177】
本実施例では、実施例3で効果の検証された核酸複合体及び配列は同一であるが、エンドソーム脱出能を助けるペプチドが除去された核酸複合体を用いて、脳で微細小膠細胞炎症反応によるニューロン細胞のアルツハイマー性認知症発病遺伝子の発現を確認するために、新生ラット(neonatal rat)を用いた体外実験によって血脳障壁通過の可否及び生体内ニューロン細胞における核酸複合体の効果を分析した。
【0178】
使用した核酸複合体の組合せは、下記の表4の通りである。
【0179】
【0180】
【表4】
【0181】
【0182】
実施例5-1:動物モデルにおける生理活性ペプチド核酸及びキャリアペプチド核酸複合体の投与
【0183】
核酸複合体の血脳障壁透過確認及び生体内微細小膠細胞での標的遺伝子抑制効果検証のために、妊娠16日目のSDラット(ナラバイオテック,韓国)を購入して出産日まで待った後、生まれた直後の仔ラットの側頭静脈(temporal vein)に、実施例5の条件で組み合わせた核酸複合体を20mg/kgずつ投与した。陽性対照群として、NLRP3遺伝子の抑制剤であるMCC950(invivogen,米国)を使用し、10mg/kgずつ腹腔内に投与した。注射して1日目、3日目、5日目に、ラットから微細小膠細胞を分離して培養した。
【0184】
【0185】
実施例5-2:脳組織から微細小膠細胞分離及び培養、並びに認知症炎症細胞モデル誘導
【0186】
核酸複合体を投与してそれぞれ1日目、3日目、5日目に、ラットの脳組織から、実施例3-1の条件と同様にして微細小膠細胞を分離し、細胞を37℃、5%(v/v)COの条件下で培養した。アルツハイマー性認知症様炎症細胞モデルを作るために、LPS 100ng/mlを6時間、ATP 5mMを30分処理して培養した。
【0187】
【0188】
実施例5-3:脳組織からニューロン細胞分離及び培養
【0189】
実施例4-2の条件で新生児ラットの脳組織からニューロン細胞を分離して培養した。DIV7にニューロン細胞のみがプレートで培養されることを顕微鏡下で確認した。
【0190】
【0191】
実施例5-4:微細小膠細胞炎症活性化及びニューロン細胞コンディショニング
【0192】
微細小膠細胞でアルツハイマー性認知症様炎症モデルを作るために、6ウェルプレートに1×10で細胞をシードし、24時間後に、LPS 100ng/ml 6時間、ATP 5mM 30分を処理して培養した。1x PBS(phosphate buffer saline,Welgene,韓国)で1回洗浄した後、ニューロン細胞培養培地であるNM1培地を2mlずつ入れ、培地コンディショニング(media conditioning)を24時間行った。コンディショニング24時間後に、培地はフィルタリングし、B-27サプリメントを添加して再びニューロン細胞に処理し、24時間培養した。
【0193】
【0194】
実施例5-5:ウェスタンブロット分析(Western blot assay)で遺伝子発現の分析
【0195】
実施例5-4の実験条件で培養された微細小膠細胞とニューロン細胞に、RIPAバッファを各ウェルごとに30μLずつ添加してタンパク質溶解物を得た。タンパク質溶解物を、BCAアッセイキット(Thermo Fisher,米国)を用いてタンパク質の量を定量し、タンパク質30μgを電気泳動によってサイズ別に分離してPVDFメンブレインにタンパク質を移した後、1次抗体であるNLRP3(abcam,米国)、プロカスパーゼ-1、カスパーゼ-1(SantaCruz Biotechnology,米国)、proIL-1beta、IL-1beta(Abcam,米国)、p-Tau(AT8)(Thermo Fisher,米国)、Tau(Thermo Fisher,米国)を1:1000で処理し、4℃で1日間放置した。1X TBS-Tを用いて洗浄し、2次抗体であるヤギ抗ウサギ(Cell signaling Technology,米国)、抗マウス(Santa cruz Biotechnology,米国)を1:2000で処理し、常温で1時間放置した。SupersignalTMウェストフェムト最大感度基質(Thermo Fisher,米国)を処理し、Image600(Amersham,ドイツ)装備を用いて、ネズミの微細小膠細胞において標的遺伝子の発現抑制効率を分析した。
【0196】
その結果、図4のAに示すように、LPS及びATPの処理による微細小膠細胞での免疫反応活性化にもかかわらず、配列番号3及び10の組合せ(組合せ6)の核酸複合体、及び配列番号1及び14の組合せ(組合せ10)の核酸複合体を投与した群が、免疫反応誘導対照群及び陽性対照群(MCC950:NLRP3抑制剤)に比べて、標的遺伝子及び下位遺伝子の発現が経時減少することを確認した。
【0197】
また、微細小膠細胞の免疫反応過活性化によるニューロン細胞のアルツハイマー性認知症関連遺伝子の変化を確認した結果、図4のBに示すように、配列番号3及び10の組合せの核酸複合体(組合せ6)、及び配列番号1及び14の組合せの核酸複合体(組合せ10)によって標的遺伝子の発現が抑制された微細小膠細胞で培地をコンディショニングしたニューロン細胞は、他の対照群に比べて、アルツハイマー性認知症発病遺伝子であるリン酸化されたタウ(p-tau)タンパク質の発現が経時減少することを確認した。
【0198】
特に、エンドソーム脱出能を助けるペプチドを有しない核酸複合体により、微細小膠細胞及びニューロン細胞において、標的遺伝子(NLRP3)及び下位遺伝子とアルツハイマー性認知症発病遺伝子(p-tau)の発現抑制効能が、エンドソーム脱出能を助けるペプチド(配列番号1及び配列番号14、組合せ10)を有する核酸複合体の組合せ(配列番号3及び10、組合せ6)に比べて早く奏されることを確認した(図4のA、B)。
【0199】
【産業上の利用可能性】
【0200】
本発明に係る核酸複合体は、血脳障壁透過能を有し、NLRP3遺伝子とその下位遺伝子であるタウタンパク質の発現及びリン酸化を効率的に抑制でき、認知症予防又は治療に有用である。
【0201】
【0202】
以上、本発明内容の特定の部分を詳細に記述したが、当業界における通常の知識を有する者にとって、このような具体的記述は単に好ましい実施態様に過ぎず、これによって本発明の範囲が限定されない点は明らかであろう。したがって、本発明の実質的な範囲は、添付する請求項及びそれらの等価物によって定義されるといえよう。
【0203】
配列目録フリーテキスト
【0204】
電子ファイルとして添付。
図1
図2
図3
図4
【配列表】
2023543030000001.app
【国際調査報告】