(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-10-12
(54)【発明の名称】分泌シグナル配列に融合された標的産物結合タンパク質をコーディングするポリヌクレオチドを含む組換え微生物、それを含む組成物、及びそれを利用して標的産物を生産する方法
(51)【国際特許分類】
C12N 1/19 20060101AFI20231004BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20231004BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20231004BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20231004BHJP
C12P 1/00 20060101ALI20231004BHJP
C12P 5/02 20060101ALI20231004BHJP
C12N 15/62 20060101ALN20231004BHJP
【FI】
C12N1/19
C12N1/15 ZNA
C12N1/21
C12N5/10
C12P1/00 Z
C12P5/02
C12N15/62 Z
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023519309
(86)(22)【出願日】2021-07-08
(85)【翻訳文提出日】2023-03-27
(86)【国際出願番号】 KR2021008714
(87)【国際公開番号】W WO2022065643
(87)【国際公開日】2022-03-31
(31)【優先権主張番号】10-2020-0125985
(32)【優先日】2020-09-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(31)【優先権主張番号】10-2021-0037445
(32)【優先日】2021-03-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】514266091
【氏名又は名称】コリア リサーチ インスティチュート オブ ケミカル テクノロジー
【氏名又は名称原語表記】KOREA RESEARCH INSTITUTE OF CHEMICAL TECHNOLOGY
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100111235
【氏名又は名称】原 裕子
(74)【代理人】
【識別番号】100195257
【氏名又は名称】大渕 一志
(72)【発明者】
【氏名】イ、 ジュ ヤン
(72)【発明者】
【氏名】ソン、 ソ ヒ
(72)【発明者】
【氏名】キム、 ジェ ウン
【テーマコード(参考)】
4B064
4B065
【Fターム(参考)】
4B064AB04
4B064CA06
4B064CA19
4B064DA16
4B064DA20
4B065AA80X
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065BC03
4B065CA03
4B065CA52
4B065CA60
(57)【要約】
分泌シグナル配列に融合された標的産物結合タンパク質をコーディングするポリヌクレオチドを含む組換え微生物、それを含む組成物、及びそれを利用して標的産物を生産する方法を提供する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
分泌シグナル配列に融合された標的産物結合タンパク質をコーディングするポリヌクレオチドを含む、組換え微生物。
【請求項2】
前記分泌シグナル配列に融合された標的産物結合タンパク質分泌能を有するものである、請求項1に記載の組換え微生物。
【請求項3】
前記標的産物結合タンパク質は、脂質結合タンパク質である、請求項1に記載の組換え微生物。
【請求項4】
前記脂質結合タンパク質は、上清タンパク質因子(SPF)、Sec14、TTP、α-トコフェロール転移タンパク質、細胞性レチナール結合タンパク質、イカレチナール結合タンパク質、または標的産物結合能を有するそれらの断片からなる群のうちから選択されるものである、請求項3に記載の組換え微生物。
【請求項5】
前記標的産物生産能が増大されたものである、請求項1に記載の組換え微生物。
【請求項6】
前記標的産物は、代謝産物である、請求項1に記載の組換え微生物。
【請求項7】
前記脂質は、テルペノイド化合物である、請求項6に記載の組換え微生物。
【請求項8】
前記標的産物は、2,3-オキシドスクアレン(2,3-oxidosqualene)、ミルセン(myrcene)、(z)-オシメン((z)-ocimene)、リナロール(linalool)、ゲラニオール(geraniol)、ネロール(nerol)、リモネン(limonene)、メントール(menthol)、α-ピネン(α-pinene)、ショウノウ(camphor)、カルバクロール(carvacrol)、カルボン(carvone)、β-ファルネセン(β-farnesene)、ネロリドール(nerolidol)、β-ビサボレン(β-bisabolene)、バレンセン(valencene)、アモルファジエン(amorphadiene)、カプシジオール(capsidiol)、α-セドラン(α-cedrane)、アルテミシニン(artemisinin)、フィタン(phytane)、フィトール(phytol)、カンホレン(camphorene)、レチノール(retinol)、ラブダン(labdane)、クレロドン(clerodone)、ピマラン(pimarane)、アビエタン(abietane)、チグリアン(tigliane)、カウラン(kaurane)、タキサン(taxane)、スクアレン(squalene)、ラノステロール(lanosterol)、α-アミリン(α-amyrin)、β-アミリン(β-amyrin)、ホパン(hopane)、オレアノール酸(oleanolic acid)、リコペン(lycopene)、ルビキサンチン(rubixanthin)、β-カロテン(β-carotene)、ルテイン(lutein)、ゼアキサンチン(zeaxanthin)及びアスタキサンチン(astaxanthin)からなる群のうちから選択される化合物である、請求項1に記載の組換え微生物。
【請求項9】
前記分泌シグナル配列は、Suc2,Pho5及びMFαからなる群のうちから選択された1以上である、請求項1に記載の組換え微生物。
【請求項10】
該標的産物をコーディングするポリヌクレオチドの発現を増大させる遺伝子改変、または該標的産物を生産する代謝経路を強化させる遺伝子改変を含むものである、請求項1に記載の組換え微生物。
【請求項11】
酵母細胞である、請求項1に記載の組換え微生物。
【請求項12】
サッカロミケス(Saccharomyces)属である、請求項11に記載の組換え微生物。
【請求項13】
前記標的産物は、2,3-オキシドスクアレン(2,3-oxidosqualene)、ミルセン(myrcene)、(z)-オシメン((z)-ocimene)、リナロール(linalool)、ゲラニオール(geraniol)、ネロール(nerol)、リモネン(limonene)、メントール(menthol)、α-ピネン(α-pinene)、ショウノウ(camphor)、カルバクロール(carvacrol)、カルボン(carvone)、β-ファルネセン(β-farnesene)、ネロリドール(nerolidol)、β-ビサボレン(β-bisabolene)、バレンセン(valencene)、アモルファジエン(amorphadiene)、カプシジオール(capsidiol)、α-セドラン(α-cedrane)、アルテミシニン(artemisinin)、フィタン(phytane)、フィトール(phytol)、カンホレン(camphorene)、レチノール(retinol)、ラブダン(labdane)、クレロドン(clerodone)、ピマラン(pimarane)、アビエタン(abietane)、チグリアン(tigliane)、カウラン(kaurane)、タキサン(taxane)、スクアレン(squalene)、ラノステロール(lanosterol)、α-アミリン(α-amyrin)、β-アミリン(β-amyrin)、ホパン(hopane)、オレアノール酸(oleanolic acid)、リコペン(lycopene)、ルビキサンチン(rubixanthin)、β-カロテン(β-carotene)、ルテイン(lutein)、ゼアキサンチン(zeaxanthin)及びアスタキサンチン(astaxanthin)からなる群のうちから選択される化合物であり、
前記標的産物結合タンパク質は、上清タンパク質因子(SPF)、Sec14、TTP、α-トコフェロール転移タンパク質、細胞性レチナール結合タンパク質、イカレチナール結合タンパク質、または標的産物結合能を有するそれらの断片からなる群のうちから選択されるものであり、
酵母細胞である、請求項1に記載の組換え微生物。
【請求項14】
分泌シグナル配列に融合された標的産物結合タンパク質をコーディングするポリヌクレオチドを含む組換え微生物、及び担体を含む、標的産物を生産することに使用するための組成物。
【請求項15】
分泌シグナル配列に融合された標的産物結合タンパク質をコーディングするポリヌクレオチドを含む組換え微生物を、培地内で培養する段階を含む、標的産物を生産する方法。
【請求項16】
前記培養する段階は、培地または水に対する標的産物の溶解度に比べ、標的産物の溶解度が高い化合物を含む培地中で培養する段階を含む、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記標的産物を分離する段階を含み、前記標的産物を分離する段階は、培養物から上清を分離する段階を含む、請求項15に記載の方法。
【請求項18】
前記上清から、前記標的産物を分離する段階を含む、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
培地または水に対する標的産物の溶解度に比べ、標的産物の溶解度が高い化合物層から標的産物を分離する段階を含む、請求項16に記載の方法。
【請求項20】
前記標的産物は、2,3-オキシドスクアレン(2,3-oxidosqualene)、ミルセン(myrcene)、(z)-オシメン((z)-ocimene)、リナロール(linalool)、ゲラニオール(geraniol)、ネロール(nerol)、リモネン(limonene)、メントール(menthol)、α-ピネン(α-pinene)、ショウノウ(camphor)、カルバクロール(carvacrol)、カルボン(carvone)、β-ファルネセン(β-farnesene)、ネロリドール(nerolidol)、β-ビサボレン(β-bisabolene)、バレンセン(valencene)、アモルファジエン(amorphadiene)、カプシジオール(capsidiol)、α-セドラン(α-cedrane)、アルテミシニン(artemisinin)、フィタン(phytane)、フィトール(phytol)、カンホレン(camphorene)、レチノール(retinol)、ラブダン(labdane)、クレロドン(clerodone)、ピマラン(pimarane)、アビエタン(abietane)、チグリアン(tigliane)、カウラン(kaurane)、タキサン(taxane)、スクアレン(squalene)、ラノステロール(lanosterol)、α-アミリン(α-amyrin)、β-アミリン(β-amyrin)、ホパン(hopane)、オレアノール酸(oleanolic acid)、リコペン(lycopene)、ルビキサンチン(rubixanthin)、β-カロテン(β-carotene)、ルテイン(lutein)、ゼアキサンチン(zeaxanthin)及びアスタキサンチン(astaxanthin)によってなる群のうちから選択される化合物であり、
前記標的産物結合タンパク質は、上清タンパク質因子(SPF)、Sec14、TTP、α-トコフェロール伝達タンパク質、細胞性レチナール結合タンパク質、イカレチナール結合タンパク質、または標的産物結合能を有するそれらの断片からなる群のうちから選択されるものであり、
前記組換え微生物である酵母細胞である、請求項19に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分泌シグナル配列に融合された標的産物結合タンパク質をコーディングするポリヌクレオチドを含む組換え微生物、それを含む組成物、及びそれを利用して標的産物を生産する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
組換え微生物を利用し、多くの産物が生産されている。例えば、組換え大腸菌または組換えサッカロマイセス・セレビシエ(S. cerevisiae)を含む酵母細胞を使用し、さまざまな産物が生産されている。
【0003】
しかしながら、一部産物は、組換え微生物において生合成された後、細胞内に存在する。細胞内に存在する産物は、それを分離するために、細胞を破砕するさらなる段階を必要とする。
【0004】
従って、生合成された後、細胞内に存在する産物を、細胞外に分泌させることができる組換え微生物、及びそれを利用して産物を生産する方法を求める要求がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一態様は、分泌シグナル配列に融合された標的産物結合タンパク質をコーディングするポリヌクレオチドを含む組換え微生物を提供する。
【0006】
他の態様は、前述の分泌シグナル配列に融合された標的産物結合タンパク質をコーディングするポリヌクレオチドを含む組換え微生物、及び担体を含む、標的産物を生産するのに使用するための組成物を提供する。
【0007】
他の態様は、分泌シグナル配列に融合された標的産物結合タンパク質をコーディングするポリヌクレオチドを含む組換え微生物を、培地内で培養する段階を含む、標的産物を生産する方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
一態様は、分泌シグナル配列に融合された標的産物結合タンパク質をコーディングするポリヌクレオチドを含む組換え微生物を提供する。
【0009】
前記ポリヌクレオチドは、前記組換え微生物のゲノムにまたはゲノム外に存在するものでありうる。前記ポリヌクレオチドは、調節配列に作動可能に連結されたものでもありうる。前記調節配列は、ポリヌクレオチドから、前記タンパク質を生合成または生産することにおいて必要な配列でありうる。前記調節配列は、転写調節配列、翻訳調節配列及び翻訳後修飾調節配列でありうる。前記調節配列は、プローモーター、オペレーター、ターミネーター、エンハンサ、リボソーム結合部位、またはそれらの組み合わせでありうる。前記調節配列は、前記組換え微生物が組み換えられる前、内在的に存在するもの、または外来調節配列でありうる。前記調節配列は、前記分泌シグナル配列が融合されていないネイキッド標的産物結合タンパク質をコーディングする遺伝子の調節配列、またはそれと異なるタンパク質をコーディングする遺伝子の調節配列でありうる。前記ポリヌクレオチドは、複数個のコピーで、前記細胞に含まれているものでもありうる。前記ポリヌクレオチドは、例えば、2個コピー以上、5個コピー以上、10個コピー以上、50個コピー以上、100個コピー以上、2ないし1,000個コピー、2ないし500個コピー、2ないし100個コピー、2ないし50個コピー、2ないし10個コピー、2ないし5個コピー、5ないし100個コピー、5ないし50個コピー、5ないし10個コピー、5ないし100個コピー、5ないし10個コピー、10ないし100個コピー、または10ないし50個コピーで、前記細胞に含まれているものでありうる。前記ポリヌクレオチドは、前記調節配列と、発現可能になるように連結されたものでありうる。前記ポリヌクレオチドは、内在的ポリヌクレオチド発現に比べ、上昇されたレベルに発現されるようにする調節配列に連結されたものでありうる。例えば、前記ポリヌクレオチドは、内在的プローモーターに比べ、さらに強い転写開始能を有するプローモーターに連結されたものでありうる。
【0010】
前記ポリヌクレオチドはまた、細胞外に分泌された前記複合体、または解離された標的産物結合タンパク質を分離するのに使用するためのタグ(tag)配列をコーディングするヌクレオチド配列も含みうる。前記タグ配列は、オリゴペプチドでありうる。前記タグ配列は、2以上のアミノ酸、例えば、2ないし50個アミノ酸配列、2ないし30個アミノ酸配列、2ないし20個アミノ酸配列、2ないし15個アミノ酸配列、または2ないし10個アミノ酸配列を含むものでありうる。前記タグ配列は、例えば、Hisタグ配列でありうる。前記Hisタグは、前記標的産物結合タンパク質のN末端またはC末端に連結されたものでありうる。前記タグは、6xHisでありうる。
【0011】
前記ポリヌクレオチドは、標的産物結合タンパク質のN末端に、分泌シグナル配列が融合されたアミノ酸配列をコーディングするものでありうる。
【0012】
前記ポリヌクレオチドは、当技術分野で知られた遺伝子改変(genetic modification)方法によって組み換えられる前の微生物細胞に導入されたものでありうる。前記遺伝子改変は、形質変換、形質導入、トランスフェクションまたは電気穿孔(electroporation)によるものでありうる。また、前記ポリヌクレオチドは、組み換えられる前の微生物細胞内の遺伝子を遺伝子編集(gene editing)して生成されるものでありうる。前記遺伝子編集は、CRISPR(clustered regularly interspaced short palindromic repeats)遺伝子編集のような知られた方法によって行われうる。
【0013】
前記組換え微生物は、前記分泌シグナル配列に融合された標的産物結合タンパク質分泌能を有するものでありうる。前記組換え微生物は、前記標的産物生成能を有するものでありうる。前記組換え微生物は、増大された標的産物生成能を有するものでありうる。前記組換え微生物は、標的産物と前記標的産物結合タンパク質とが結合された複合体の形態でもって、細胞外に分泌することができるものでありうる。前記複合体の形成は、細胞内でなされるものでありうる。前記複合体の形成は、外部からの操作なしに、細胞代謝過程において、細胞によって行われるものでありうる。前記複合体において、該標的産物と前記標的産物結合タンパク質との結合は非共有結合によるものでありうる。前記非共有結合は、疎水性結合、水素結合またはイオン結合を含むものでありうる。前記複合体は、液体媒質において、前記結合を解離させるのに適する条件下で解離され、解離された標的産物と前記標的産物結合タンパク質とをそれぞれ形成することができる。前記分泌シグナル配列に融合されていない標的産物結合タンパク質は、自然な宿主細胞内においては、細胞内、例えば、細胞質に存在しており、細胞外に分泌されないものでありうる。前記分泌シグナル配列に融合されていない標的産物結合タンパク質は、自然な宿主細胞内においては、分泌シグナル配列に連結されていないものでありうる。
【0014】
前記標的産物は、代謝産物(metabolite)でありうる。前記代謝産物は、内在的代謝産物、または遺伝子改変によって導入されたその合成経路によって合成される代謝産物でありうる。前記代謝産物は、脂質、多糖、タンパク質または小分子化合物でありうる。前記標的産物は、脂質でありうる。前記脂質は、テルペノイドでありうる。用語「テルペノイド」は、イソプレン(isoprene)を単位体にして合成される化合物でありうる。前記テルペノイドは、炭素を、5ないし100個、10ないし100個、15ないし100個、30ないし100個、5ないし60個、10ないし60個、15ないし60個、30ないし60個、5ないし45個、10ないし45個、15ないし45個、30ないし60個、5ないし30個、10ないし30個、15ないし30個、または5ないし45個を有するものでありうる。前記テルペノイドは、酸素分子を含むものでありうる。また、前記テルペノイドは、酸素分子を含まない炭化水素(hydrocarbon)でありうる。前記テルペノイドは、モノテルペン、ジテルペン、セスキテルペン、トリテルペンまたはテトラテルペンでありうる。前記テルペノイドは、環状化合物または非環状化合物でありうる。前記テルペノイドは、下記43個化合物、すなわち、2,3-オキシドスクアレン(2,3-oxidosqualene)、ミルセン(myrcene)、(z)-オシメン((z)-ocimene)、リナロール(linalool)、ゲラニオール(geraniol)、ネロール(nerol)、リモネン(limonene)、メントール(menthol)、α-ピネン(α-pinene)、ショウノウ(camphor)、カルバクロール(carvacrol)、カルボン(carvone)、β-ファルネセン(β-farnesene)、ネロリドール(nerolidol)、β-ビサボレン(β-bisabolene)、バレンセン(valencene)、アモルファジエン(amorphadiene)、カプシジオール(capsidiol)、α-セドラン(α-cedrane)、アルテミシニン(artemisinin)、フィタン(phytane)、フィトール(phytol)、カンホレン(camphorene)、レチノール(retinol)、ラブダン(labdane)、クレロドン(clerodone)、ピマラン(pimarane)、アビエタン(abietane)、チグリアン(tigliane)、カウラン(kaurane)、タキサン(taxane)、スクアレン(squalene)、ラノステロール(lanosterol)、α-アミリン(α-amyrin)、β-アミリン(β-amyrin)、ホパン(hopane)、オレアノール酸(oleanolic acid)、リコペン(lycopene)、ルビキサンチン(rubixanthin)、β-カロテン(β-carotene)、ルテイン(lutein)、ゼアキサンチン(zeaxanthin)及びアスタキサンチン(astaxanthin)によってなる群のうちから選択されるものでありうる。前記標的産物は、スクアレンまたはβ-カロチンでありうる。前記組換え微生物は、テルペノイド生合成経路が強化されたものでありうる。前記組換え微生物は、前記43個化合物のうち1以上の化合物の生合成経路が強化されたものでありうる。
【0015】
前記標的産物結合タンパク質は、前記代謝産物に結合するものでありうる。前記標的産物結合タンパク質は、前記代謝産物に特異的に結合するものでありうる。前記標的産物結合タンパク質は、脂質結合タンパク質でありうる。前記標的産物結合タンパク質は、細胞質脂質結合タンパク質でありうる。前記脂質結合タンパク質は、上清タンパク質因子(SPF:supernatant protein factor)、ホスファチジルイノシトール転移タンパク質(Sec14:phosphatidylinositol transfer protein、)、α-トコフェロール転移タンパク質(TTP:alpha-tocopherol transfer protein)、細胞性レチナール結合タンパク質(cellular retinal binding protein)、イカレチナール結合タンパク質(squid retinal binding protein)、または標的産物結合能を有するそれらの断片によってなる群のうちから選択されるものでありうる。前記脂質結合タンパク質は、任意の細胞由来のものでありうる。例えば、前記脂質結合タンパク質は、哺乳動物細胞由来のものでありうる。前記上清タンパク質因子(SPF)及び前記α-トコフェロール転移タンパク質(TTP)は、ヒト由来またはマウス由来のものでありうる。ヒト由来上清タンパク質因子(SPF)は、403個アミノ酸配列を有するものであり、脂質結合能を有するN末端ドメインと、ゼリーロールモチーフ(jelly-roll motif)を有するC末端ドメイン、すなわち、ゴルジダイナミックスドメイン(GOLD:Golgi dynamics domain)と、を有するものでありうる。該上清タンパク質因子(SPF)は、スクアレン結合能を有し、C末端ドメイン、すなわち、276番ないし403番のアミノ酸配列が切断されて除去された、切断されたSPF(tSPF)であってもよい。すなわち、該tSPFは、該上清タンパク質因子(SPF)の1番ないし275番のアミノ酸配列によってなるものでありうる。該SPF及び該tSPFは、それぞれ配列番号1及び2のアミノ酸配列を有するものでありうる。該SPF及び該tSPFをコーディングするヌクレオチドは、それぞれ配列番号3及び4のヌクレオチド配列を有するものでありうる。
【0016】
前記分泌シグナル配列は、細胞で発現されたタンパク質を、細胞外分泌させるアミノ酸配列を表す。前記分泌シグナル配列は、真核細胞由来または原核細胞由来の分泌シグナル配列でありうる。前記分泌シグナル配列は、前記組換え微生物において、標的産物結合タンパク質を、細胞外に分泌させる任意のアミノ酸配列でありうる。前記分泌シグナル配列は、組換え微生物細胞と、同一または異なる細胞に由来するものでありうる。前記分泌シグナル配列は、動物由来、植物由来、酵母由来またはバクテリア由来の分泌シグナル配列でありうる。前記分泌シグナル配列は、Suc2,Pho5,MFα,Inu1及びMel1分泌シグナル配列によってなる群のうちから選択された1以上のものでありうる。Suc2,Pho5及びMFα分泌シグナル配列は、配列番号5,6及び7のアミノ酸配列をそれぞれ有するものでありうる。Suc2,Pho5及びMFα分泌シグナル配列をコーディングするヌクレオチドは、配列番号8,9及び10のヌクレオチド配列を有するものでありうる。
【0017】
前記組換え微生物は、真核細胞または原核細胞でありうる。前記真核細胞は、動物細胞、植物細胞または菌類細胞でありうる。前記菌類は、酵母でありうる。前記酵母細胞は、サッカロミケス(Saccharomyces)属でありうる。サッカロミケス(Saccharomyces)属細胞は、サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)でありうる。前記原核細胞は、バクテリアでありうる。前記バクテリアは、エスケリキア(Escherichia)属、コリネバクテリウム(Corynebacterium)属またはバシラス(Bacillus)属に属するものでありうる。また、前記バクテリアは、乳酸菌、例えば、ラクトバチルス(Lactobacillus)属またはラクトコッカス(Lactococcus)属に属するものでありうる。前記バクテリアは、大腸菌(Escherichia coli)、コリネバクテリウム グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)または枯草菌(Bacillus subtilus)でありうる。
【0018】
前記組換え微生物は、標的産物をコーディングするポリヌクレオチドの発現を増大させる遺伝子改変、または標的産物を生産する代謝経路が強化されたものでありうる。前記組換え微生物は、改変される前の細胞に比べ、増大された標的産物生成能を有するものでありうる。前記遺伝子改変は、標的産物をコーディングするポリヌクレオチドのコピー数の増加でありうる。前記遺伝子改変は、標的産物をコーディングするポリヌクレオチドの発現を増大させる調節配列の改変でもありうる。また、前記組換え微生物は、標的産物を生産する代謝経路が強化されたものでもありうる。該標的産物を生産する代謝経路は、標的産物の生合成に関与するタンパク質または酵素のような因子をコーディングするポリヌクレオチドの発現を増大させる遺伝子改変によって強化されたものでありうる。前記遺伝子改変は、標的産物の生合成に関与するタンパク質または酵素のような因子をコーディングするポリヌクレオチドのコピー数の増加、またはその調節配列の改変でもありうる。
【0019】
前記組換え微生物はまた、標的産物生産を阻害する代謝経路が弱化されたものでもありうる。前記代謝経路は、例えば、標的産物を分解する経路またはフィードバック阻害経路でありうる。
【0020】
一具体例において、前記標的産物結合タンパク質は、上清タンパク質因子(SPF)またはそのリガンド結合断片でありうる。前記標的産物結合タンパク質は、配列番号1の上清タンパク質因子(SPF)のアミノ酸配列において、L84,I103,L106,A108,L111,L112,L120,L121,K124,I151,Y153,C155,L158,H162,A167,V168,A170,Y171,F174,L175,L186,L189,F198,A201,Y202,I205,L209,T213及びI217アミノ酸を含むポリペプチドでありうる。前記組換え微生物は、サッカロミケス(Saccharomyces)属、例えば、サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)でありうる。前記組換え微生物は、メバロン酸生合成経路またはβ-カロチン生合成経路が強化されたものでありうる。前記組換え微生物は、HMG-CoA及びERG20のうち1以上の活性を増大させる遺伝子改変を含むものでありうる。前記組換え微生物は、HMG-CoAまたはERG20をコーディングする遺伝子の発現を増大させる遺伝子改変を含むものでありうる。前記遺伝子改変は、前記遺伝子のコピー数増加でありうる。前記組換え微生物は、trp1、leu2、his3及びyp1062wのうち1以上が不活性化されたものでありうる。前記不活性化される遺伝子の発現を完全に除去するものだけではなく、低減させるものも含む。前記不活性化は、trp1、leu2、his3及びyp1062wのうち1以上の遺伝子の欠失でありうる。HMG-CoA、ERG20、trp1、leu2、his3及びyp1062wは、配列番号11,12,13,14,15及び16のアミノ酸配列をそれぞれ有するものでありうる。HMG-CoA,ERG20,trp1,leu2,his3及びyp1062w遺伝子は、配列番号17,18,19,20,21及び22のヌクレオチド配列を有するものでありうる。
【0021】
図1は、Suc2-tSPF融合タンパク質をコーディングするポリヌクレオチドを含む酵母細胞において、スクアレンを分泌する過程を図式的に示した図面である。前記過程は、まず、細胞内において、前記ポリヌクレオチドから転写されたmRNAの翻訳がなされる間、N末端に位置したシグナル(信号)ペプチドは、シグナル認識粒子(signal recognition particle)に結合され、部分的に翻訳された前記融合タンパク質、及びリボゾームの複合体が小胞体膜に伝達される。小胞体において、融合タンパク質の初期ポリペプチド(nascent polypeptide)が合成され、シグナルペプチドが小胞体内腔において、シグナルペブチダーゼによって切断されれば、tSPF、すなわち、標的産物結合タンパク質のポリペプチドだけが残る(段階A)。前記結合タンパク質のポリペプチドは、小胞体のシャペロンタンパク質により、さらなる変形が進められ、その後、成熟したタンパク質を形成する(段階B)。成熟したスクアレン特異的結合タンパク質は、細胞内に蓄積されていたスクアレンと特異的結合を行い、複合体を形成する。該過程が、標的代謝産物を捕獲する過程である(段階C)。該スクアレンが該結合タンパク質と複合体を形成すれば、輸送小胞(transport vesicle)によってカプセル化された複合体は、ゴルジ体に輸送されうる(段階D)。該ゴルジ体から、分泌小胞により、該スクアレン及び該結合タンパク質の複合体は、細胞外空間にも放出される(段階E)。
【0022】
他の態様は、前述の分泌シグナル配列に融合された標的産物結合タンパク質をコーディングするポリヌクレオチドを含む組換え微生物、及び担体を含む、標的産物を生産するのに使用するための組成物を提供する。
【0023】
分泌シグナル配列に融合された標的産物結合タンパク質をコーディングするポリヌクレオチドを含む組換え微生物については、前述の通りである。前記担体は、前記微生物を培養するのに使用される培地、バッファまたは保存溶液でありうる。
【0024】
他の態様は、分泌シグナル配列に融合された標的産物結合タンパク質をコーディングするポリヌクレオチドを含む組換え微生物を、培地内で培養する段階を含む、標的産物を生産する方法を提供する。
【0025】
分泌シグナル配列に融合された標的産物結合タンパク質をコーディングするポリヌクレオチドを含む組換え微生物については、前述の通りである。
【0026】
前記培養は、前記組換え微生物及び培地を含む混合物を、組換え微生物が成長し前記分泌シグナル配列に融合された標的産物結合タンパク質を生産するのに適する条件でインキュベーションすることを含む。
【0027】
前記培養は、炭素源、例えば、グルコースを含む培地において行われうる。微生物培養に使用される培地は、適切な補充物を含む最小培地、または複合培地のような、選択された組換え細胞の成長に適する任意の一般的な培地でありうる。適する培地は、商業的な販売者から入手可能であるか、あるいは公知の製法によって製造されるものでありうる。
【0028】
前記培地は、選択される標的産物に応じて、特定微生物の要求条件を満足させることができる培地でありうる。前記培地は、炭素源、窒素源、塩、微量元素、及びそれらの組み合わせによってなる群のうちから選択される成分を含むものでありうる。
【0029】
前記培養の条件は、選択される標的産物、例えば、スクアレンのようなテルペノイドの生産に適するように、適切に調節されうる。前記培養は、細胞増殖のために、好気性条件においてなされうる。前記培養は、撹拌なしに、あるいは撹拌と共に行われうる。前記培養は、バッチ(batch)、フェッドバッチまたは連続式によって培養されるものでありうる。該連続式培養は、培養物のうちから、微生物または上清の一部を除去しながら、培地を補充しつつ、連続して培養するものでありうる。前記組換え微生物は、標的産物を、標的産物結合タンパク質との複合体の形態でもって、細胞外に分泌し、該培養物から細胞を除去した上清からそれを分離することができる。
【0030】
前記培養は、標的産物に対する溶解度が高い化合物を含む培地において培養するものでありうる。前記溶解度は、培地または水に比べ、高いものでありうる。前記溶解度は、培地または水に比べ、1.2倍以上、1.5倍以上、2.0倍以上、3.0倍以上、5.0倍以上、7.5倍以上または10倍以上、あるいは1.2ないし10倍、1.5ないし10倍、2.0ないし10倍、3.0ないし10倍、5.0ないし10倍、または7.5ないし10倍の溶解度を有するものでありうる。前記標的産物は、脂質、例えば、テルペノイドであり、標的産物に対する溶解度の高い化合物は、脂質、例えば、テルペノイドに対する溶解度が高いオイル性化合物でありうる。前記標的産物は、培養中において、標的産物・標的産物結合タンパク質の複合体の形態でもって細胞外に分泌され、細胞外培地において、前記複合体は、該標的産物と標的産物結合タンパク質とに解離された状態、及び複合体が動的平衡状態で存在するものでありうる。それにより、前記動的平衡状態において解離された標的産物の一部は、前記標的産物に対する溶解度が高い化合物層に分配されるものでありうる。例えば、該標的産物は、脂質、例えば、テルペノイドであり、前記培養は、オイル性化合物を含む培地においてなされる場合、前記標的産物が細胞外に分泌された後、培地中のオイル性化合物層に分配されるものでありうる。前記オイル性化合物は、アルカン溶媒、例えば、C1-C60,C6-C60またはC3-C30アルカンでありうる。前記溶媒は、ヘキサン、ヘプタン、デカン、ドデカンまたはヘキサデカンでありうる。また、前記オイル性化合物は、植物油でありうる。前記植物油は、オリーブ油、カノラオイルまたは精油でありうる。前記オイル性化合物は、前記標的産物と沸点差が大きく、互いに分離されやすい化合物でありうる。
【0031】
用語「培養条件」は、微生物を培養するための条件を意味する。そのような培養条件は、例えば、微生物が利用する炭素源、窒素源または酸素の条件でありうる。酵母が利用することができる炭素源は、単糖類、二糖類または多糖類を含むものでありうる。前記炭素源は、資化可能な糖であり、グルコース、フルクトース、マンノースまたはガラクトースを含むものでありうる。前記窒素源は、有機窒素化合物または無機窒素化合物でありうる。前記窒素源は、アミノ酸、アミド、アミン、硝酸塩またはアンモニウム塩でありうる。微生物を培養する酸素条件には、正常酸素分圧の好気性条件、大気中に、0.1%ないし10%の酸素を含む低酸素条件、または酸素がない嫌気性条件がある。
【0032】
前記方法は、前記標的産物を分離する段階を含むものでありうる。前記標的産物を分離する段階は、細胞を破砕する段階を含まないものでありうる。前記標的産物を分離する段階は、培養物から上清を分離する段階を含むものでありうる。前記分離する段階は、前記上清から、前記標的産物を分離する段階を含むものでありうる。前記標的産物を分離する段階は、標的産物と前記標的産物結合タンパク質との複合体から、該標的産物を分離する段階を含むものでありうる。該標的産物と前記標的産物結合タンパク質との複合体から、該標的産物を分離する段階は、前記複合体を含む培養物または上清を、前記複合体を該標的産物と該標的産物結合タンパク質とに解離するのに適する条件下において、液体媒質内においてインキュベーションすることを含みうる。前記条件は、選択される標的産物と標的産物結合タンパク質とに応じて適切に選択されうる。例えば、前記標的産物は、スクアレンまたはβ-カロチンのようなテルペノイド化合物であり、前記分離する段階は、前記複合体を、疎水性溶媒、例えば、オイル性化合物において、インキュベーションすることを含むものでありうる。前記溶媒は、アルカン、例えば、C1-C60,C6-C60またはC3-C30アルカンでありうる。前記溶媒は、ヘキサン、ヘプタン、デカン、ドデカンまたはヘキサデカンでありうる。前記分離する段階は、前記培養と同時に行われるものであってもよい。
【0033】
一具体例において、前記標的産物は、2,3-オキシドスクアレン(2,3-oxidosqualene)、ミルセン(myrcene)、(z)-オシメン((z)-ocimene)、リナロール(linalool)、ゲラニオール(geraniol)、ネロール(nerol)、リモネン(limonene)、メントール(menthol)、α-ピネン(α-pinene)、ショウノウ(camphor)、カルバクロール(carvacrol)、カルボン(carvone)、β-ファルネセン(β-farnesene)、ネロリドール(nerolidol)、β-ビサボレン(β-bisabolene)、バレンセン(valencene)、アモルファジエン(amorphadiene)、カプシジオール(capsidiol)、α-セドラン(α-cedrane)、アルテミシニン(artemisinin)、フィタン(phytane)、フィトール(phytol)、カンホレン(camphorene)、レチノール(retinol)、ラブダン(labdane)、クレロドン(clerodone)、ピマラン(pimarane)、アビエタン(abietane)、チグリアン(tigliane)、カウラン(kaurane)、タキサン(taxane)、スクアレン(squalene)、ラノステロール(lanosterol)、α-アミリン(α-amyrin)、β-アミリン(β-amyrin)、ホパン(hopane)、オレアノール酸(oleanolic acid)、リコペン(lycopene)、ルビキサンチン(rubixanthin)、β-カロテン(β-carotene)、ルテイン(lutein)、ゼアキサンチン(zeaxanthin)及びアスタキサンチン(astaxanthin)によってなる群のうちから選択される化合物でありうる。前記標的産物結合タンパク質は、上清タンパク質因子(SPF)、Sec14、TTP、α-トコフェロール転移タンパク質、細胞性レチナール結合タンパク質、イカレチナール結合タンパク質、または標的産物結合能を有するそれらの断片によってなる群のうちから選択されるものでありうる。前記組換え微生物は、酵母細胞、例えば、サッカロミケス(Saccharomyces)属でありうる。該サッカロミケス(Saccharomyces)属微生物は、サッカロマイセス・セレビシエ(S. cerevisiae)でありうる。
【発明の効果】
【0034】
一態様による組換え微生物は、標的産物を効率的に生産することに使用されうる。
一態様による標的産物を生産するのに使用するための組成物は、標的産物を効率的に生産することに使用されうる。
一態様による標的産物を生産する方法によれば、標的産物を効率的に生産することができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【
図1】Suc2-tSPF融合タンパク質をコーディングするポリヌクレオチドを含む酵母細胞において、スクアレンを分泌する過程を図式的に示した図である。
【
図2A】分泌シグナル(信号)配列に融合されたtSPFをコーディングするポリヌクレオチドを含む酵母細胞によって生産された細胞外スクアレン濃度を示した図である。
【
図2B】分泌シグナル(信号)配列に融合されたtSPFをコーディングするポリヌクレオチドを含む酵母細胞によって生産された細胞内スクアレン濃度を示した図である。
【
図3】Suc2-tSPF,Pho5-tSPF及びMFα-tSPF融合タンパク質遺伝子でそれぞれ形質転換されたSQ菌株によって細胞外分泌されたスクアレンを、HPLC分析した結果を示した図である。
【
図4】Suc2-tSPF,Pho5-tSPF及びMFα-tSPF融合タンパク質遺伝子でそれぞれ形質転換されたSQ菌株を培養し、細胞破砕物及び培養上清(上澄み液)に対してウェスタンブロット分析した結果を示した図である。
【
図5】p415-BCベクターと、pSEC-tSPFまたはpSEC-Suc2-tSPFとで共同形質転換されたCEN.PK2-1D酵母細胞を培養し、生産されたβ-カロチンの量を示した図である。
【
図6】Suc2-tSPF融合タンパク質遺伝子で形質転換された酵母細胞によって生産されて細胞外に分泌されたβ-カロチンを、HPLC分析した結果を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下、本発明について、実施例を介してさらに詳細に説明する。しかしながら、それら実施例は、本発明について例示的に説明するためのものであり、本発明の範囲は、それら実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0037】
[実施例1.スクアレン分泌能が増大された酵母細胞、及びそれを利用したスクアレン生産]
本実施例においては、酵母細胞に、分泌シグナル配列に融合された標的産物結合タンパク質を導入し、組換え酵母細胞を作り、製造された組換え酵母細胞を利用して標的産物を生産し、その分泌能を確認した。該酵母細胞は、サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)を使用し、該分泌シグナル配列は、Suc2,Pho5及びMFα分泌シグナル配列をそれぞれ使用した。また、該標的産物は、スクアレンを使用し、標的産物結合タンパク質は、上清タンパク質因子(SPF)の切断された断片であるtSPFを使用した。該tSPFは、上清タンパク質因子(SPF)の脂質結合能を有するN末端ドメインに該当するスクアレン結合タンパク質である。該tSPFは、配列番号1のアミノ酸配列を有する上清タンパク質因子(SPF)において、1番ないし275番のアミノ酸配列に該当する。
【0038】
(1.1)スクアレン生合成経路が強化された酵母細胞の作製
酵母細胞は、サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)であり、野生型菌株であるCEN.PK2-1D[(MATα ura3-52;trp1-289;leu2-3、112;his3△1;MAL2-8;SUC2)(EUROSCARFアクセス番号:30000B)を使用した。前記菌株は、ホスホリボシルアントラニル酸イソメラーゼ(trp1(phosphoribosylanthranilate isomerase))、3-イソプロピルリンゴ酸デヒドロゲナーゼ(leu2(3-isopropylmalate dehydrogenase))及びイミダゾールグリセロールリン酸デヒドラターゼ(his3(imidazoleglycerol-phosphate dehydratase))をコーディングする遺伝子が不活性化されている。trp1、leu2及びhis3は、配列番号13,14及び15のアミノ酸配列をそれぞれ有するものでもある。trp1,leu2及びhis3遺伝子は、配列番号19,20及び21のヌクレオチド配列をそれぞれ有するものでもある。スクアレンは、テルペノイドであり、酵母細胞においては、メバロン酸生合成経路を介して合成される。スクアレン生成能を増大させるために、下記遺伝子改変を導入した。
【0039】
まず、前記菌株の欠失されたtrp1,leu2及びhis3遺伝子位置に、サッカロマイセス・セレビシエ(S. cerevisiae)由来HMG-CoAレダクターゼ(β-Hydroxy β-methylglutaryl-CoA reductase)をコーディングするtHMG1遺伝子、及びサッカロマイセス・セレビシエ(S. cerevisiae)由来ファルネシルピロリン酸シンテターゼ(ERG20(farnesyl pyrophosphate synthetase))をコーディングする遺伝子を導入した。該tHMG1及び該ERG20は、配列番号11及び12のアミノ酸配列をそれぞれ有するものでもある。該tHMG1遺伝子及び該ERG20遺伝子は、配列番号17及び18のヌクレオチド配列をそれぞれ有するものでもある。該HMG-CoAレダクターゼは、HMG-CoAをメバロネートに転換する反応を触媒する酵素である。該ERG20は、GPPをFPPに転換する反応を触媒する酵素である。該HMG-CoAと該FPPは、いずれもスクアレン合成の前駆体である。
【0040】
また、前記菌株のゲノムにおいて、ypl062wをコーディングする遺伝子を欠損させると共に、ypl062wサイトに、前記tHMG1遺伝子を導入した。ypl062w遺伝子欠損により、メバロン酸生合成経路の初期基質であるアセチル-CoAレベルが上昇されうる。ypl062wは、配列番号16のアミノ酸配列を有するものでもある。ypl062w遺伝子は、配列番号22のヌクレオチド配列を有するものでもある。
【0041】
その結果、組換えサッカロマイセス・セレビシエ(S. cerevisiae)菌株SQを得た。SQ菌株を作製するさらに詳細な過程は、韓国登録特許公報第10-2176555号に開示されており、その内容は、援用によって本明細書に含まれる。
【0042】
(1.2)分泌シグナル配列に融合されたスクアレン結合タンパク質をコーディングする遺伝子が導入された酵母細胞の作製
分泌シグナル配列は、3種の異なるシグナルペプチドを使用し、スクアレン結合タンパク質は、tSPFを使用した。具体的には、3種の異なるシグナルペプチド、すなわち、Suc2,Pho5及びMFαシグナルペプチドを、それぞれtSPFのN末端に融合させた融合タンパク質をコーディングするポリヌクレオチドを得た。前記融合タンパク質は、C末端において、6xHisタグ配列を含む。
【0043】
Suc2,Pho5及びMFαシグナルペプチドは、配列番号5,6及び7のアミノ酸配列をそれぞれ有するものでもある。Suc2,Pho5及びMFαシグナルペプチドをコーディングするヌクレオチドは、配列番号8,9及び10のヌクレオチド配列を有するものでもある。Suc2,Pho5及びMFαシグナルペプチドは、それぞれスクロース輸送タンパク質(Suc2)、酸ホスファターゼ(Pho5(acid phosphatase))及び酵母α-メイティング因子(MFα:α-mating factor)を細胞外に分泌するN末端シグナルペプチド機能を有するアミノ酸配列である。tSPFは、配列番号2のアミノ酸配列を有する。該tSPFは、配列番号4のヌクレオチド配列を有する。その結果、得られたSuc2-tSPF,Pho5-tSPF及びMFα-tSPF融合タンパク質は、配列番号23,24及び25のアミノ酸配列をそれぞれ有するものでもある。Suc2-tSPF,Pho5-tSPF及びMFα-tSPF融合タンパク質をコーディングするヌクレオチドは、配列番号26,27及び28のヌクレオチド配列を有するものでもある。
【0044】
次に、前記ポリヌクレオチドを、p426-TEF1(配列番号29)ベクターのSpeI/XhoI制限酵素部位に導入し、発現ベクターpSEC-Suc2-tSPF、pSEC-Pho5-tSPF及びpSEC-MFα-tSPFを得た。対照群として、分泌シグナル配列がないtSPF遺伝子がp426-TEF1に導入されたpSEC-tSPFベクター、及び空のp426-TEF1ベクターを使用した。p426-TEF1は、TEF1プローモーターが含まれた高コピー数プラスミド(high copy number plasmid)である。前記融合タンパク質は、TEF1プローモーターによって作動自在に連結されており、それにより、転写開始されうる。
【0045】
前記発現ベクターを、前記SQ菌株に、熱衝撃(heat shock)形質転換方法によって導入し、3種融合タンパク質遺伝子でそれぞれ形質転換されたSQ菌株を得た。前記発現ベクターは、SQ菌株のゲノムと独立して、その外に存在する。
【0046】
(1.3)組換え酵母細胞によるスクアレン生産及び分泌能の確認
pSEC-Suc2-tSPF、pSEC-Pho5-tSPF及びpSEC-MFα-tSPFで形質転換されたSQ菌株を、2%(w/v)グルコース及び10%(v/v)ドデカンが補充された最小培地(YSC medium(0.67%(w/v) yeast nitrogen base without amino acids(BD Difco・米国)、0.19%(w/v) yeast synthetic drop-out medium supplements without uracil(Sigma-Aldrich・米国)))50mLを含む250Lフラスコ内において、250rpmで撹拌しながら30℃で培養した。
【0047】
培養72時間及び144時間後、培養物を4,000rpmで遠心分離し、細胞、培養上清及びドデカン層に分離した。分離された細胞内及びドデカン層内のスクアレン濃度を測定した。細胞内スクアレン濃度測定のために、前記細胞を、メタノールとアセトンとの1:1混合液600μLに再懸濁し、lysing matrix C(ガラスビーズ(MP Biomedicals・米国))が含まれたチューブに移し入れ、FastPrep-24 5Gホモジェナイザー(MP Biomedicals・米国)を利用して細胞を破砕し、13,000rpmで遠心分離し、破砕された細胞と、破砕された細胞から溶解されて出たスクアレンとを含む細胞内代謝産物を分離した。
【0048】
次に、細胞破砕物について、スクアレン濃度を測定した。細胞破砕物内スクアレン濃度測定のために、0.2μmシリンジフィルタ(syringe filter)で濾過した後、Agilent HPLCシステムを利用し、濃度を測定した。
【0049】
また、遠心分離を介して層分離されたドデカン層も、同様に濾過した後、HPLCシステムを利用し、スクアレン濃度を測定した。表1は、分泌シグナル配列に融合されたtSPFをコーディングするポリヌクレオチドを含む酵母細胞によって生産された細胞内及び細胞外のスクアレン濃度を示す。
図2A及び
図2Bは、分泌シグナル配列に融合されたtSPFをコーディングするポリヌクレオチドを含む酵母細胞によって生産された細胞外及び細胞内のスクアレン濃度をそれぞれ示す。
【0050】
【0051】
表1、並びに
図2A及び
図2Bに示されているように、Suc2-tSPF,Pho5-tSPF及びMFα-tSPF融合タンパク質遺伝子でそれぞれ形質転換されたSQ菌株は、細胞外スクアレンの量、または細胞外分泌比が、対照群細胞に比べ、顕著に増大している。
図3は、Suc2-tSPF,Pho5-tSPF及びMFα-tSPF融合タンパク質遺伝子でそれぞれ形質転換されたSQ菌株によって生産され、細胞外に分泌されたスクアレンを、HPLC分析した結果を示した図面である。
図3の結果は、表1において、細胞外分泌されたスクアレンデータに該当する。
図3に示されているように、スクアレン標準を示すピークと同一滞留時間(retention time)でもって、Suc2-tSPF,Pho5-tSPF及びMFα-tSPF融合タンパク質によって細胞外に分泌されたスクアレンだけの明らかなピークを観察することができた。それは、それら細胞から、スクアレン特異的に細胞外に分泌されるということを示す。
図3において、「ドデカン」及び「ドデカン+100ppmスクアレン」は、対照群であり、ドデカン単独、並びにドデカン及び100ppmスクアレン標準を混合して得られた試料を、HPLC分析したものである。
【0052】
図4は、Suc2-tSPF,Pho5-tSPF及びMFα-tSPF融合タンパク質遺伝子でそれぞれ形質転換されたSQ菌株を培養して得られた細胞破砕物、及び培養上清に対してウェスタンブロット分析した結果を示した図面である。tSPF融合タンパク質の細胞外分泌を確認するために、酵母細胞を、2日間、2%(w/v)グルコースが含まれた50ml最小培地(YSC medium(0.67%(w/v) yeast nitrogen base without amino acids(BD Difco・米国)、0.19%(w/v) yeast synthetic drop-out medium supplements without uracil(Sigma-Aldrich・米国)))を含む250mLフラスコ内において、30℃で撹拌しながら培養した。このとき、前記最小培地は、ドデカン層を含んでいない。OD600値が100に該当する量の培養された酵母細胞から細胞内タンパク質を抽出するために、タンパク質分解酵素抑制剤((1x protease inhibitor cocktail(Roche Diagnostics(Mannheim・ドイツ))が含まれた1mlの細胞破砕バッファ(1mL RIPA buffer(Thermo Scientific(MA・米国))に再浮遊させた。懸濁液を、超音波粉砕機を利用し、20%振幅、3秒間隔で、6分間均質化させた。培養液の上清にある細胞外タンパク質は、50ml上清に卜リクロロ酢酸溶液が25%になるように添加し、30分間インキュベーションし、タンパク質を沈澱させた後、4℃で40分間遠心分離した。沈澱されたタンパク質を、冷たいアセトン1mlで3回洗浄し、50μlの滅菌水に再懸濁した。再懸濁されたタンパク質は、30kDaアミコン超遠心フィルタ(amicon ultra centrifugal filters)を使用してさらに濃縮された。
【0053】
準備されたタンパク質サンプル、すなわち、細胞破砕物は、5xSDSサンプルバッファと混合し、10% SDS-PAGEによって分離した。SDS-PAGEゲルで分離されたタンパク質をPVDF膜に移した後、4%脱脂乳(skim milk)含有TBSTにおいて、一日インキュベーションしてブロッキングした。PVDF膜を、一次抗体が含まれた溶液において、室温で1時間反応させた後、TBST溶液で3回洗浄した。一次抗体は、抗アクチン抗体または抗Hisタグ抗体を使用した。前記融合タンパク質は、C末端に、6xHisタグ配列を含む。洗浄されたPVDF膜を、さらにペルオキシダーゼ(peroxidase)が結合された抗IgG抗体が含まれた溶液において、室温で1時間反応させた。抗体が結合されたタンパク質が存在するPVDF膜を、ChemiDocイメージングシステムを利用して視覚化させた。
【0054】
ウェスタンブロット結果は、
図5に示されている。
図5に示されているように、細胞破砕物の場合、Suc2-tSPF及びPho5-tSPFのバンドは、ほとんど示されていないと見られ、分泌シグナル配列に融合されたtSPFは、細胞内に留まらず、細胞外部に移動した。また、該分泌シグナル配列に融合されていないtSPFは、細胞破砕物において、鮮明なバンドが示されているところを見るとき、該分泌シグナル配列が融合されていない場合、細胞外部に移動されていない。培養上清の場合、分泌シグナル配列に融合されていないtSPFは、バンドが示されていない。それは、該分泌シグナル配列に融合されていないtSPFは、細胞外部に移動しないということを示す。
【0055】
[実施例2.β-カロチン分泌能が増大された酵母細胞、及びそれを利用したβ-カロチン生産]
(2.1)β-カロチン生合成経路が強化された酵母細胞の作製
実施例1の1.1節に記載されたCEN.PK2-1D酵母菌株に、β-カロチン生合成遺伝子を含むベクターを導入し、β-カロチン生産能が増大された酵母細胞を作製した。
【0056】
具体的には、β-カロチン生合成経路のcrtE、crtYB、crtI及びtHMG1の発現カセットを含むpMM494ベクター(Plasmid #100539(Addgene社製))から、crtE,crtYB,crtI及びtHMG1遺伝子を増幅し、それを、p415-GPDベクター(配列番号30)の制限酵素BamHIサイト及び制限酵素SalIサイトに導入し、crtE、crtYB、crtI及びtHMG1に係わる発現カセットを含むp415-BCベクターを作製した。p415-GPDベクター(ATCC 87358)は、GPD1プローモーターを含む低コピー数発現ベクターである。crtE、crtYB及びcrtは、配列番号31、32及び33のアミノ酸配列をそれぞれ有する。crtE、crtYB及びcrtをコーディングするポリヌクレオチドは、配列番号34、35及び36のヌクレオチド配列をそれぞれ有する。crtE,crtYB及びcrtIタンパク質は、キサントフィロマイセス・デンドロフス(Xanthophyllomyces dendrohous)由来のタンパク質であり、次の活性を有する。crtEは、ファルネシス二リン酸をゲラニルゲラニル二リン酸に転換する反応を触媒するゲラニルゲラニル二リン酸をコーディングする遺伝子である。crtYBは、ゲラニルゲラニル二リン酸をフィトエン(phytoene)に転換する反応を触媒するフィトエンシンダーゼをコーディングするcrtBと、リコペンをβ-カロチンに転換する反応を触媒するリコペンβ-シクラーゼをコーディングする遺伝子crtYと、を含む。crtIは、フィトエンをリコペンに転換するフィトエンデサチュラーゼ(phytoene desaturase)をコーディングする遺伝子である。
【0057】
(2.2)分泌シグナル配列に融合されたスクアレン結合タンパク質をコーディングする遺伝子が導入された酵母細胞の作製
実施例1の(1.2)節に記載されたところと同一過程を経て、サッカロマイセス・セレビシエ(S. cerevisiae)野生菌株CEN.PK2-1Dに、該(1.2)節で作製されたp415-BCベクターと、pSEC-tSPFまたはpSEC-Suc2-tSPFとを共同形質転換(cotransformation)し、シグナルペプチドに融合されたtSPFを発現するベクターで形質転換酵母細胞を作製した。
【0058】
(2.3)組換え酵母細胞によるβ-カロチン生産及び分泌能の確認
(2.2)節で得られたp415-BCベクターと、pSEC-tSPFまたはpSEC-Suc2-tSPFとで共同形質転換され、β-カロチンを過生産することができるCEN.PK2-1D酵母細胞を、実施例1の(1.3)節に記載されたところと同一条件で144時間培養し、生産された細胞内及び細胞外のβ-カロチン量を測定した。該β-カロチン量は、前記スクアレン濃度測定のために使用された細胞破砕方法及びドデカン層分離方法と同一方法で測定した。表2及び
図6は、p415-BCベクターと、pSEC-tSPFまたはpSEC-Suc2-tSPFとで共同形質転換されたCEN.PK2-1D酵母細胞を培養して生産されたβ-カロチンの量を示したものである。
【0059】
【0060】
表2及び
図6に示されているように、Suc2-tSPF融合タンパク質遺伝子で形質転換された酵母細胞は、細胞外β-カロチンの量、または細胞外分泌比が対照群細胞に比べ、顕著に増大した。具体的には、β-カロチン細胞外分泌は、空ベクターを含む対照群に比べ、約23倍増大した。
図6は、Suc2-tSPF融合タンパク質遺伝子で形質転換された酵母細胞によって生産されて細胞外に分泌されたβ-カロチンを、HPLC分析した結果を示した図面である。
図6の結果は、表2において、細胞外分泌されたβ-カロチン、すなわち、ドデカン層に分泌されたβ-カロチンデータに該当する。
図6に示されているように、β-カロチン標準と同一滞留時間でもって、Suc2-tSPF融合タンパク質によって細胞外に分泌されたβ-カロチンのピークを観察することができた。それは、それら細胞から、β-カロチンが特異的に細胞外に分泌されるということを示す。
図6において、「ドデカン+1ppm β-カロチン」及び「ドデカン+1ppmリコペン」は、対照群であり、ドデカンに、1ppm β-カロチンを含む標準混合物、及びドデカンに1ppmリコペンを含む標準混合物をそれぞれ示す。
【0061】
[実施例3.多様なテルペノイド系物質への拡大可能性予測の評価]
tSPFのリガンド結合部位を確認するために、tSPF(PDBID:4OMK)の三次元結晶学構造を、RCSBタンパク質データバンクから獲得した。分子のドッキング分析には、結晶構造において結合されたスクアレンと水分子とがシミュレーション前に除去された4ONKのAチェーンが使用された。結晶学構造において、丈夫なタンパク質構造を構成するために、各アミノ酸につき、1つの可能な構造を意図的に選択し、A鎖のスクアレン結合活性部位は、CASTp(Computer Atlas of Surface Topology of protein)を使用して決定した。スクアレン結合に必要な確認された残基は、配列番号1のアミノ酸配列を基準に、L84、I103、L106、A108、L111、L112、L120、L121、K124、I151、Y153、C155、L158、H162、A167、V168、A170、Y171、F174、L175、L186、L189、F198、A201、Y202、I205、L209、T213及びI217である。従って、スクアレン結合部位を前記残基が含むものと見られる。
【0062】
リガンド選択のために、PubChem化合物データベースから、sdf形式により、以下のような43個のテルペノイドを選択した。2,3-オキシドスクアレン(2,3-oxidosqualene)、ミルセン(myrcene)、(z)-オシメン((z)-ocimene)、リナロール(linalool)、ゲラニオール(geraniol)、ネロール(nerol)、リモネン(limonene)、メントール(menthol)、α-ピネン(α-pinene)、ショウノウ(camphor)、カルバクロール(carvacrol)、カルボン(carvone)、β-ファルネセン(β-farnesene)、ネロリドール(nerolidol)、β-ビサボレン(β-bisabolene)、バレンセン(valencene)、アモルファジエン(amorphadiene)、カプシジオール(capsidiol)、α-セドラン(α-cedrane)、アルテミシニン(artemisinin)、フィタン(phytane)、フィトール(phytol)、カンホレン(camphorene)、レチノール(retinol)、ラブダン(labdane)、クレロドン(clerodone)、ピマラン(pimarane)、アビエタン(abietane)、チグリアン(tigliane)、カウラン(kaurane)、タキサン(taxane)、スクアレン(squalene)、ラノステロール(lanosterol)、α-アミリン(α-amyrin)、β-アミリン(β-amyrin)、ホパン(hopane)、オレアノール酸(oleanolic acid)、リコペン(lycopene)、ルビキサンチン(rubixanthin)、β-カロテン(β-carotene)、ルテイン(lutein)、ゼアキサンチン(zeaxanthin)及びアスタキサンチン(astaxanthin)。
【0063】
また、対照群分子として、グルタメート(glutamate)とピルベート(pyruvate)とを選択した。ダウンロードされたsdfファイルは、PyRx仮想ツールのOpenBabelツールボックスにより、pdbqt形式に変換された。前述のような情報を利用し、AutoDock Vinaで分子ドッキングし、tSPFと、多様なテルペノイド系物質のとの結合エネルギーを分析した。その結果は、表3、表4、表5及び表6に示されている。
【0064】
【0065】
【0066】
【0067】
【0068】
表3、表4、表5及び表6に示されているように、tSPFと43個テルペノイド系化合物との各結合エネルギー差は、-10.7kcal/molないし-6.1kcal/molの範囲であり、スクアレンとβ-カロチンとの結合エネルギーである-10.5kcal/mol及び-7.7kcal/molとそれぞれ比較しても、大差がなかった。それは、前述の分泌シグナル配列に融合されたtSPFをコーディングするポリヌクレオチドを含む組換え微生物が、多様なテルペノイド系化合物に拡大適用されうるということを示す。
【図】
【配列表】
【国際調査報告】