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特表2023-543107潤滑剤貯留器、圧縮機システム、およびヒートポンプ
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  • 特表-潤滑剤貯留器、圧縮機システム、およびヒートポンプ 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-10-13
(54)【発明の名称】潤滑剤貯留器、圧縮機システム、およびヒートポンプ
(51)【国際特許分類】
   F04B 39/02 20060101AFI20231005BHJP
【FI】
F04B39/02 A
F04B39/02 D
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023501363
(86)(22)【出願日】2021-07-06
(85)【翻訳文提出日】2023-03-06
(86)【国際出願番号】 EP2021068696
(87)【国際公開番号】W WO2022008529
(87)【国際公開日】2022-01-13
(31)【優先権主張番号】102020117899.9
(32)【優先日】2020-07-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523007395
【氏名又は名称】エスペーハー サステナブル プロセス ヒート ゲーエムベーハ-
【氏名又は名称原語表記】SPH SUSTAINABLE PROCESS HEAT GMBH
【住所又は居所原語表記】Zur Kaule 1,51491 Overath (DE)
(74)【代理人】
【識別番号】100109634
【弁理士】
【氏名又は名称】舛谷 威志
(74)【代理人】
【識別番号】100129263
【弁理士】
【氏名又は名称】中尾 洋之
(72)【発明者】
【氏名】ハマー,ティム
(72)【発明者】
【氏名】ムック,アンドレアス
【テーマコード(参考)】
3H003
【Fターム(参考)】
3H003AA01
3H003AC03
3H003BD02
3H003BF01
(57)【要約】
本発明は、ヒートポンプ、特には、高温ヒートポンプの圧縮機システム用の潤滑剤貯留器に関する。潤滑剤貯留器は、潤滑剤(2)の保持室(1)を外側方向に関して少なくとも部分的に画定する少なくとも1つの保持室被覆要素を有する保持室(1)を備える。
既知のシステムと比較して、このような潤滑剤貯留器のライフサイクルアセスメントの向上を達成するため、製造または組立の労力を低減するため、そして潤滑剤の冷却および潤滑剤の加熱を可能にするために、温度調整要素(5)が保持室被覆要素(3、4)に、組み込まれ、かつ/または、配置され、加熱媒体および/または冷却媒体が温度調整要素5を流通することができる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒートポンプ、特には高温ヒートポンプの圧縮機システム用の潤滑剤貯留器であって、潤滑剤(2)の保持室(1)を外側方向に関して少なくとも部分的に画定する少なくとも1つの保持室被覆要素(3、4)を備える保持室(1)を備え、温度調整要素(5)が前記保持室被覆要素(3、4)に組み込まれ、かつ/または配置されており、加熱媒体および/または冷却媒体が前記温度調整要素(5)を流通可能であることを特徴とする、潤滑剤貯留器。
【請求項2】
前記保持室被覆要素(3、4)が、保持室底部、保持室壁、保持室シェル、または保持室カバーであることを特徴とする、請求項1に記載の潤滑剤貯留器。
【請求項3】
前記温度調整要素(5)が、前記保持室被覆要素(3、4)内に形成された空洞室であることを特徴とする、請求項1または2に記載の潤滑剤貯留器。
【請求項4】
前記温度調整要素(5)が、流体流通に関して互いに連通した、または互いに非連通の、複数の空洞室を備える構成として形成され、前記構成が前記保持室被覆要素(3、4)に組み込まれていることを特徴とする、請求項1または2に記載の潤滑剤貯留器。
【請求項5】
前記温度調整要素(5)が、前記保持室被覆要素(3、4)に形成された、前記冷却媒体または前記加熱媒体が流通可能な流路であり、前記流路が、少なくとも部分的に前記保持室(1)内に突出しており、流路壁により前記保持室と隔てられていることを特徴とする、請求項1または2に記載の潤滑剤貯留器。
【請求項6】
前記流路が、前記保持室(1)内に少なくとも部分的に突出するリブ(6)の形状に形成されることを特徴とする、請求項4に記載の潤滑剤貯留器。
【請求項7】
前記温度調整要素(5)が、前記保持室被覆要素(3、4)に形成された、複数の流路を含む構成として設計されており、前記流路のそれぞれが少なくとも部分的に前記保持室(1)内に突出しており、前記流路が、流体流通に関して互いに連通しているか、互いに非連通である、請求項5または6に記載の潤滑剤貯留器。
【請求項8】
前記潤滑剤(2)の保持室(1)が複数あることを特徴とし、少なくとも1つの第1保持室(11)が第2保持室(12)にすぐ隣接しており、前記第1保持室および前記第2保持室(11、12)が、隣接領域被覆要素(13)によって隣接領域において互いに隔てられており、前記温度調整要素(5)が、前記隣接領域被覆要素(13)に組み込まれ、かつ/または配置されている、先行する請求項のいずれか1項に記載の潤滑剤貯留器。
【請求項9】
前記温度調整要素(5)が、単一の外部媒体回路または複数の外部媒体回路を介して前記加熱媒体または前記冷却媒体を供給されるように設計されていることを特徴とする、先行する請求項のいずれか1項に記載の潤滑剤貯留器。
【請求項10】
前記温度調整要素(5)が、潤滑剤貯留器を含む圧縮機システムを備えるヒートポンプの給排ユニットを介して前記加熱媒体または前記冷却媒体を供給されるように設計されていることを特徴とする、請求項1から8のいずれか1項に記載の潤滑剤貯留器。
【請求項11】
前記加熱媒体または前記冷却媒体が水であることを特徴とする、先行する請求項のいずれか1項に記載の潤滑剤貯留器。
【請求項12】
前記保持室(1)が、前記圧縮機システムの圧縮機を収容する圧縮機システムハウジングのハウジング部に形成されていることを特徴とする、先行する請求項のいずれか1項に記載の潤滑剤貯留器。
【請求項13】
前記ハウジング部が、前記圧縮機システムハウジングの一体部品であることを特徴とする、請求項12に記載の潤滑剤貯留器。
【請求項14】
前記保持室(1)が、前記圧縮機を収容する前記圧縮機システムハウジングに連結可能な別体のハウジングにより形成されることを特徴とする、請求項1から11のいずれか1項に記載の潤滑剤貯留器。
【請求項15】
前記ハウジング部または前記ハウジングが槽(15)であり、前記槽(15)が、保持室被覆要素(3、4)としての槽底部(16)および複数の槽壁要素(17)によって外側方向に関して画定されていることを特徴とする、請求項12から14のいずれか1項に記載の潤滑剤貯留器。
【請求項16】
ヒートポンプ、特には高温ヒートポンプ用の圧縮機システムであって、請求項1から15のいずれかによって形成された潤滑剤貯留器を備える、圧縮機システム。
【請求項17】
請求項16に記載の圧縮機システムを備えるヒートポンプ、特には高温ヒートポンプであって、前記温度調整ユニット(5)に連通した給排ユニット、特には、前記ヒートポンプに給排される加熱媒体もしくは冷却媒体または外部の加熱媒体もしくは冷却媒体を前記温度調整ユニット(5)に供給する給排路を備える、ヒートポンプ、特には高温ヒートポンプ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒートポンプ、特には高温ヒートポンプの圧縮機システム用の潤滑剤貯留器に関する。潤滑剤貯留器は、潤滑剤用の保持室を少なくとも部分的に外側方向に関して画定する少なくとも1つの保持室被覆要素を備える保持室を備える。本発明はさらに、ヒートポンプ、特には高温ヒートポンプ用の圧縮機システムに関する。本発明はさらに、このような圧縮機システムを備えるヒートポンプ、特には高温ヒートポンプに関する。
【0002】
本発明は、主にヒートポンプなどの熱力学的加熱システム、特に高温ヒートポンプに使用される(が、これに限らない)。しかしながら、本発明が例えば冷蔵庫や空気調和システムなどの熱力学的冷却システムにおいて実施されることは除外されない。
【背景技術】
【0003】
ヒートポンプの技術は一般によく知られている。ヒートポンプは、例えば、技術的または機械的な作用を利用して、第1外部媒体(例えば大気や液体など)から熱エネルギーを吸収し、それを、使用駆動エネルギーとしてだけでなく、有用なエネルギーまたは有用な熱として第2外部媒体に移動させるために使用される。第2外部媒体は、被加熱媒体である。このようなシステムを地熱プラントで実施する場合、地中岩石に含まれる液体である第1外部媒体が提供され得るが、工業プロセスにおいては、廃熱も第1外部媒体として機能し得る。
【0004】
現在、ヒートポンプは、特に建物を暖めるために使用されている。しかしながら、工業プロセスに必要とされる熱を発生させるためにヒートポンプを使用するという用途も知られてきている。工業プロセスには、媒体の温度が100°Cを超える高温ヒートポンプがよく使用される。
【0005】
独国特許出願公開第102011086476A1号では、高温ヒートポンプの例を用いて、基本的なヒートポンプ原理が明確に記載されている。ヒートポンプは、技術的作用によって少なくとも1つの第1貯留器から流体を介して熱エネルギーを吸収し、流体を介して少なくとも1つの第2貯留器に熱エネルギーを放出してこの第2貯留器を加熱する、流体回路を備える。
【0006】
ヒートポンプ(および高温ヒートポンプ)は、標準的には、蒸発部、凝縮部、膨張部に加えて、流体回路を循環する作動媒体を圧縮するための圧縮部を備える。蒸発部では、液体から気体状に変化した作動媒体が圧縮機によって吸引され、この作動媒体を液化するのに必要な圧力レベルに圧縮される。駆動される(例えば電気的に駆動される)圧縮機が、蒸気状の作動媒体を低レベルの出口圧力からそれより高レベルの最終圧力に圧縮する過程において、作動媒体の温度が上昇する。圧縮機は、例えば、往復動圧縮機、スクロール圧縮機、スクリュー圧縮機、ローリングピストン型圧縮機、およびロータリ圧縮機など様々な圧縮機の種類が従来技術から知られている(このリストが全てではない)。例えば往復動圧縮機は、ピストンがこれを包囲するシリンダ内で下方に移動する際に、運動するピストンが吸引弁を介して気体状の作動媒体を吸引する、という原理に基づいている。ピストンが上方移動を行うときに作動媒体が圧縮される。往復動圧縮機では、作動媒体の圧縮中は吸入弁が閉鎖されている。シリンダ内の圧力が圧縮機の高圧側の圧力レベルを超えると、作動媒体は、圧力弁を介して圧縮機から吐出される。本発明に関連しないため、他の種類の圧縮機に関する実施の形態についてはここでは省略する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、開放型圧縮機システム、半密閉型圧縮機システム、または密閉型圧縮機システムを含む、様々なデザインの圧縮機システムに関連し得る。開放型圧縮機システムでは、駆動部(モータ)が圧縮機から構造的に分離されている。圧縮機の駆動軸がハウジングから引き出され、駆動部に連結される。半密閉型圧縮機システムでは、駆動部と圧縮機とが共通のハウジング内に配置される。密閉型圧縮機システムでも、駆動部と圧縮機とが共通のハウジング内に配置されるが、半密閉型圧縮機システムと対照的に、外側が完全に溶接される。
【0008】
圧縮部は「圧縮機」と称することもある。以下では、一貫して「圧縮機システム」と言う語を使用する。実際の圧縮機は、通常、圧縮機を駆動する駆動部(例えば電気モータ)や潤滑剤貯留器などの他の構成要素と直接的に相互作用するためである。
【0009】
一般に、上述した圧縮機または圧縮機システムは、潤滑剤を保持する潤滑剤貯留器を備える。潤滑剤は、潤滑剤混合物とも理解可能である。潤滑剤は、圧縮機または圧縮機システムの部品、特には、圧縮機の可動部品(例えば、ピストン、シリンダ、軸受、弁等)を潤滑するために使用される。周知の潤滑剤貯留器は、「オイルサンプ(油溜め)」と称されることが多い。しかしながら、「油」以外の潤滑剤も取り扱われる可能性があるため、本願では一貫して「潤滑剤貯留器」と言う語を使用する。オイルまたは潤滑剤がオイルサンプまたは潤滑剤貯留器から吸引され、潤滑対象の各部へ搬送される。
【0010】
ヒートポンプが静止状態のとき、液状の作動媒体(例えば冷媒)が圧縮機のオイルサンプ(潤滑剤貯留器)に蓄積し、オイルまたは潤滑剤と混合すること、あるいは、気体状の作動媒体がオイルまたは潤滑剤に溶解し得ることが知られている。結果として、オイルまたは潤滑剤の特性が変容する可能性がある。例えば、オイルまたは潤滑剤の粘度が減少したり、潤滑効果が低減することがある。オイルまたは潤滑剤の代わりに、オイルまたは潤滑剤と作動媒体との混合物が潤滑対象部分に搬送されると、潤滑効果の減少につながり得る。これにより、最終的には、可動部品同士の間、または軸受で摩擦が増加することになり、機械的な摩耗が増大するおそれがある。これを防止するために、現在は、ヒートポンプが静止状態のときに潤滑剤を加熱できる、オイルヒータまたは潤滑剤加熱器が使用される。このような加熱システムを、オイルサンプまたは潤滑剤貯留器に配置された電気的加熱ロッドの形態で実現することが知られている。また、加熱システムは、オイルサンプまたは潤滑剤貯留器を包囲する複数の電気的加熱片の形態でも知られている。
【0011】
上述したような加熱システムは、それに必要な電気エネルギーを提供するために追加のエネルギー消費を必要とするため、ヒートポンプのライフサイクルアセスメントの点で好ましくない。さらには、既知の加熱システムは、設計または組立の際にシステムに別途実装する必要がある追加の部品であり、設計または組立の労力が増え、好ましくない。
【0012】
高温ヒートポンプの場合、そこで広がる高温の吸引ガス及び圧縮ガスに加えて、圧縮機内で発生する摩擦由来の熱がさらにあるため、必要であれば潤滑剤を冷却する必要がある。これは、既知のシステムでは実現可能ではない。
【0013】
したがって、本発明は、既知のシステムと比較して、ライフサイクルアセスメントの向上が達成され、製造または組立の労力が低減でき、また、潤滑剤の冷却および潤滑剤の加熱が可能となる、ヒートポンプの圧縮機システム用の潤滑剤貯留器と、圧縮機システムと、ヒートポンプとを提供するという目的に基づく。
【課題を解決するための手段】
【0014】
この課題を解決するために、請求項1の特徴を備える潤滑剤貯留器、請求項16の特徴を備える圧縮機システム、および、請求項17の特徴を備えるヒートポンプが提案される。
【0015】
各請求項において個別に列挙された特徴は、いかなる技術的に賢明な方法でも組み合わせ可能であり、本発明のさらなる実施形態を示し得る。本明細書は、特にはさらに図面と組み合わせて、本発明を記述し特定するものである。
【0016】
また、本明細書において使用される、2つの特徴の間に配置されそれらを互いに接続する「および/または(かつ/または)」という接続詞は、常に以下のように解釈されるべきであることに留意されたい。すなわち、本発明の対象物の第1実施形態においては、第1の特徴のみが存在し、第2実施形態では第2の特徴のみが存在し、第三実施形態においては第1の特徴と第2の特徴との両方が存在することができる。
【0017】
本発明は、ヒートポンプ、特には高温ヒートポンプの圧縮機システム用の潤滑剤貯留器に関する。潤滑剤貯留器は、潤滑剤用の保持室を少なくとも部分的に外側方向に関して画定する少なくとも1つの保持室被覆要素を備える保持室を備える。本発明によると、潤滑剤貯留器は、温度調整要素が保持室被覆要素に組み込まれ、かつ/または配置されていることを特徴とし、加熱媒体および/または冷却媒体が温度調整要素を流通可能である。
【0018】
上述したように、潤滑剤は、単一成分の潤滑剤だけでなく複数成分の潤滑剤(すなわち、潤滑剤混合物)とも理解されよう。さらには、潤滑剤は潤滑油とも理解可能である。
【0019】
「保持室」は、潤滑剤が保持される、少なくとも部分的に幾何学的に画定された空間である。保持室は、保持室被覆要素、例えば、保持室底部(もしくは保持室底面)または保持室壁によって、少なくとも部分的に外側方向に関して画定される。保持室は、(例えばそれぞれ溶接により)互いに接続された、複数の保持室被覆要素から形成することができる。また、保持室は、一体品として形成された(これは、例えば鋳造または鍛造により製造可能である)単一の保持室被覆要素によって外側方向に関して画定可能である。本願において、「被覆要素」とは、外部被覆などの意味での被覆要素と解釈されるべきではなく、むしろ、潤滑剤に直接接触する、保持室の収容空間を画定するものが意図されている。
【0020】
保持室被覆要素の形状寸法は限定されない。保持室は、例えば槽の形状であるが、シリンダ状またはサイロ状等もあり得る。シリンダ形状の保持室の場合、例えば、保持室被覆要素に円筒状シェルも含まれると理解できる。
【0021】
温度調整要素を保持室被覆要素に「組み込む」とは、温度調整要素が被覆要素の硬質素材へ取り込まれること、すなわち、被覆要素の硬質素材によって包囲されることと理解できる。温度調整要素を保持室被覆要素に「配置」とは、温度調整要素が少なくとも部分的に保持室被覆要素に結合され、かつ/または、被覆要素に組み込まれるが被覆要素表面から突出、例えば、保持室内へ突出することもあると理解できる。
【0022】
「加熱媒体および/または冷却媒体が温度調整要素を流通可能」という記載は、第1動作モード(例えば加熱モード)では加熱媒体が温度調整要素を流通可能で、第2動作モード(例えば冷却モード)では冷却媒体が温度調整要素を流通可能であるという意味と理解できる。温度調整要素は、動作モードに応じて、加熱媒体または冷却媒体が流通する流路または流通室を提供することができる。つまり、同じ単一の領域を、加熱媒体と冷却媒体のいずれかが流れることを意味する。このような実施形態では、加熱媒体と冷却媒体のどちらかが温度調整要素に供給される。供給路の分離は、好適には、温度調整要素の外部で行われる。排出に関しても同様である。また、温度調整要素は、加熱媒体または冷却媒体用の様々な供給路および排出路を備えることもできる。温度調整要素はさらに、その内部に、加熱媒体と冷却媒体のそれぞれに別の流路または流通室が形成されるように構成することもできる。その場合、これらの個別の流路または流通室はそれぞれ個別の加熱媒体または冷却媒体の供給路および排出路を備える。
【0023】
必要に応じて加熱媒体または冷却媒体が温度調整要素を流通可能であるため、保持室内の潤滑剤を、柔軟に、すなわち実際の要求に対応して、加熱または冷却することができる。このように、本発明は、とりわけ高温ヒートポンプでの使用に適している。温度調整要素を少なくとも1つの保持室被覆要素に組み込むまたは配置することで、ヒートポンプの圧縮機システムの製造または製作の際の組立の手間が大幅に簡略化される。
【0024】
本発明によって提案される潤滑剤貯留器のさらに好適な実施形態が、従属請求項に提示され、また、従属請求項に記載の特徴について、および、後述のさらに好適な実施形態についての以下の記載においても提示される。
【0025】
本発明の第1実施形態によると、本発明によって提案される潤滑剤貯留器において以下の構成が可能である。すなわち、保持室被覆要素が、保持室底部、保持室壁、保持室シェル、または保持室カバーである。これは、保持室の形状寸法に応じて変わる。例えば、槽の形状の保持室では、複数の保持室被覆要素、例えば、保持室底部と、1つの共通の保持室壁を形成する複数の隣接する保持室副壁部とによって、保持室を画定することができる。基本的に円筒形状の保持室では、保持室被覆要素は、保持室シェルによっても形成可能である。したがって、温度調整要素は、例えば、保持室底部、保持室壁、保持室シェル、または保持室カバーなど、潤滑剤貯留器の様々な位置に配置可能である。また、複数の温度調整要素が1つの保持室被覆要素または複数の保持室被覆要素に、例えば、保持室底部と保持室壁(または複数の保持室副壁部)とに、配置されることも可能である。
【0026】
本発明のさらに別の実施形態によると、本発明によって提案される潤滑剤貯留器において、以下の構成が可能である。すなわち、温度調整要素が、保持室被覆要素内に形成された空洞室である。加熱媒体および/または冷却媒体はこのような空洞室を流通可能である。この空洞室は、加熱媒体または冷却媒体用の適切な1または複数の供給路および排出路を備える。空洞室の形状寸法は、加熱媒体または冷却媒体が流通可能であれば限定されない。空洞室は、腐食防止の内側コーティングを備えることができる。
【0027】
本発明のさらに別の実施形態によると、本発明によって提案される潤滑剤貯留器において、以下の構成が可能である。温度調整要素が保持室被覆要素に組み込まれる構成として設計されており、その構成が、流体流通に関して互いに連通した、または互いに非連通の複数の空洞室を含む。互いに連通した空洞室によって、潤滑剤の冷却または加熱の際の被覆要素表面における温度分布が最適化される。非連通に形成された(流体流通に関して互いに非連通の)空洞室の場合も、表面最適化潤滑剤冷却を行うことができる。さらに、1つの被覆要素の個々の空洞室に選択的に流通させることも可能であり、これにより、保持室においてさらに柔軟な温度設定を行うことが可能になる。したがって、保持室被覆要素に関して、(そこに設けられた)特定の空洞室に冷却媒体または加熱媒体を流通させるかどうか、柔軟に調整することができる。
【0028】
本発明のさらに別の実施形態によると、本発明によって提案される潤滑剤貯留器において、以下の構成が可能である。温度調整要素が保持室被覆要素に形成された流路であり、この流路を冷却媒体または加熱媒体が流通できる。流路は、少なくとも部分的に保持室内に突出しており、流路壁によって保持室と隔てられている。このような流路を保持室内に突出させることで、潤滑剤と温度調整要素との間の熱伝導(加熱の際には熱吸収、冷却の際には熱放出)の改善がなされる。
【0029】
本発明のさらに別の実施形態によると、本発明によって提案される潤滑剤貯留器において、以下の構成が可能である。流路が、保持室内に少なくとも部分的に突出するリブの形状に設計される。リブ状に形成することで、熱伝導をさらに最適化することができ、場合によっては、保持室または保持室被覆要素の機械的安定性を高められる。1つの保持室被覆要素が複数のリブを備えることができる。また、保持室を画定する複数の保持室被覆要素が、1または複数のリブを備えることができる。1つの保持室被覆要素に配置された1または複数のリブと、別の保持室被覆要素に、またはリブを備える当該保持室被覆要素の別の位置に配置された空洞室との組み合わせも可能であることが強調されるべきである。
【0030】
本発明のさらに別の実施形態によると、本発明によって提案される潤滑剤貯留器において、以下の構成が可能である。温度調整要素が、保持室被覆要素に形成された、複数の流路を含む構成として設計されており、流路のそれぞれが少なくとも部分的に保持室内に突出しており、これらの流路が、流体流通に関して互いに連通しているか、互いに非連通である。これらの流路はリブとして設計可能である。互いに連通した流路により、潤滑剤の冷却または加熱の際の被覆要素表面における温度分布が最適化される。非連通に形成された(流体流通に関して互いに非連通の)流路の場合も、表面最適化潤滑剤冷却を行うことができる。さらには、1つの被覆要素の個々の流路に選択的に流通させることも可能であり、これにより、保持室においてさらに柔軟な温度設定を行うことが可能になる。したがって、保持室被覆要素に関して、(そこに設けられた)特定の流路に冷却媒体または加熱媒体を流通させるかどうか、柔軟に調整することができる。
【0031】
本発明のさらに別の実施形態によると、本発明によって提案される潤滑剤貯留器において潤滑剤の保持室が複数設けられており、少なくとも1つの第1保持室が第2保持室にすぐ隣接しており、第1保持室および第2保持室が、隣接領域被覆要素によって隣接領域において互いに隔てられており、温度調節要素が隣接領域被覆要素内に組み込まれ、かつ/またはこれに配置されている。このように、温度調整要素が保持室同士の間に配置され、これらの保持室内の潤滑剤を同時に加熱またはその熱を放出(冷却)することができる。各保持室には、同一のまたは異なる潤滑剤を収容可能である。
【0032】
本発明のさらに別の実施形態によると、本発明によって提案される潤滑剤貯留器において、以下の構成が可能である。温度調整要素が、単一の外部媒体回路または複数の外部媒体回路を介して加熱媒体または冷却媒体を供給されるように設計されている。「外部媒体回路」とは、温度調整要素へ加熱媒体または冷却媒体を供給するものであって、外部(圧縮機またはヒートポンプの外部)に配置された供給源に由来するものと理解できる。このため、温度調整要素は適切な供給路および排出路を有する。
【0033】
本発明のさらに別の実施形態によると、本発明によって提案される潤滑剤貯留器において、以下の構成が可能である。温度調整要素が、潤滑剤貯留部を含む圧縮機システムを備えるヒートポンプの給排ユニットを介して加熱媒体または冷却媒体を供給されるように設計されている。この変形例でも、温度調整要素は、適切な供給路および排出路を備える。このような実施形態では、ヒートポンプに取り込まれた特定の温度の加熱媒体(これが蒸発器でヒートポンプの作動媒体に熱を伝達する)が、1または複数の温度調整要素に供給されて潤滑剤の加熱に使用される。ヒートポンプの凝縮器で熱を吸収する媒体も同様である。この媒体が加熱媒体としても働き、温度調整要素に供給される。つまり、ヒートポンプで元来使用される媒体を、同時に潤滑剤を加熱するためにも使用することができ、それにより、システム全体のライフサイクルアセスメントにプラスの効果がもたらされる。
【0034】
また、1または複数の外部媒体回路から1または複数の温度調整要素への供給とヒートポンプ(例えば蒸発器や凝縮器)に導入された媒体による供給とを(需要に応じて)組み合わせたアプローチも可能である。このような形態を実現するために、温度調整要素への給排システムは、それぞれ支流路を備えることができる。
【0035】
本発明のさらに別の実施形態によると、本発明によって提案される潤滑剤貯留器において、加熱媒体または冷却媒体が水である構成が可能である。水は、特に単純かつ無害な方法で取り扱い可能で、とりわけコスト効果が高い。水の温度は、まさに迅速かつ正確に設定することができる。
【0036】
本発明のさらに別の実施形態によると、本発明によって提案される潤滑剤貯留器において、以下の構成が可能である。保持室が、圧縮機システムの圧縮機を収容する圧縮機システムハウジングのハウジング部に形成されている。この場合、圧縮機ハウジングが同時に保持室を形成し、あるいは、これを外部から隔てる。したがって、保持室の領域内に設けられた、圧縮機ハウジングのハウジング壁、ハウジング底部、またはハウジングシェルが保持室被覆要素を構成し、これに温度調整要素が組み込まれることまたは配置されることが可能である。本発明のさらに別の実施形態によると、本発明によって提案される潤滑剤貯留器において、以下の構成が可能である。ハウジング部が、圧縮機システムハウジングの一体部品である。
【0037】
本発明のさらに別の実施形態によると、本発明によって提案される潤滑剤貯留器において、以下の構成が可能である。保持室が、圧縮機を収容する圧縮機システムハウジングに連結可能な別体のハウジングにより形成される。このような連結は、例えば、ネジ連結やリベット連結等により実現可能である。このような(取り外し可能な)取り付けは、保持室を形成するハウジングが損傷を受けた際やメンテナンスの際に、交換、維持、修理等を可能にするために好ましい。
【0038】
本発明のさらに別の実施形態によると、本発明によって提案される潤滑剤貯留器において、以下の構成が可能である。ハウジング部またはハウジングが槽であり、槽が、保持室被覆要素としての槽底部および複数の壁要素によって外側方向に関して画定されている。この構成は、槽底部の領域に複数の流路状のリブが温度調整要素として配置される場合に好ましい。槽は、例えば、適切なネジ連結によって、圧縮機システムのハウジング(ハウジング部)に連結することができる。このために、槽は取付フランジを備えることができる。
【0039】
冒頭に述べたように、本発明の基礎となる課題は、圧縮機システムによっても解決される。すなわち、ヒートポンプ、特には高温ヒートポンプ用の圧縮機システムであって、本発明によって設計された潤滑剤貯留器を備える圧縮機システムである。
【0040】
冒頭に述べたように、本発明の基礎となる課題はさらに、ヒートポンプによっても解決される。ヒートポンプは、特には高温ヒートポンプである。ヒートポンプは、本発明による圧縮機システムを備え、温度調整ユニットに連通した給排ユニット、特には、ヒートポンプに給排される加熱媒体もしくは冷却媒体または外部の加熱媒体もしくは冷却媒体を温度調整ユニットに供給する給排路を備える。
【0041】
図面を参照して以下により詳細に説明する、本発明の非限定的で例示的な2つの実施形態の以下の説明により、本発明のさらなる特徴および利点が明らかになる。図面は概略的に以下を示す。
【図面の簡単な説明】
【0042】
図1】本発明の第1実施形態による潤滑剤貯留器の断面図。
図2】本発明の第2実施形態による槽形状の潤滑剤貯留器の斜視図。
図3】本発明の第三実施形態による潤滑剤貯留器の概略断面図。
【発明を実施するための形態】
【0043】
図1は、本発明の第1実施形態による、ヒートポンプ、特には、高温ヒートポンプの圧縮機システム用の潤滑剤貯留器の概略断面図である。潤滑剤貯留器が潤滑剤2用の保持室1を備えることが分かる。保持室1は、保持室被覆要素3、4によって外側方向に関して画定される。本実施形態では、保持室被覆要素3は保持室底部であり、保持室被覆要素4は保持室壁または保持室シェルである。保持室被覆要素3、4には、温度調整要素5が組み込まれており、温度調整要素5は、特には空洞室または流路として設計される。温度調整要素5は、それぞれ対応する供給路および排出路(図示せず)があり、加熱媒体または冷却媒体が流通可能である。図1に示す通り、温度調整要素5は、潤滑剤貯留器または保持室1の一部を閉鎖するカバー7にも接して配置されている。実施の際は、潤滑剤貯留器は、このように配置された1または複数の温度調整要素5を備えることができ、温度調整要素5は、それぞれ異なる場所に配置可能である。
【0044】
図2には、本発明の第2実施形態による槽形状の潤滑剤貯留器を斜視図で示す。槽15は、槽底部16と複数の槽壁要素17とを備える。槽底部16と槽壁要素17とが保持室被覆要素3、4を構成する。さらに、槽15が保持室1を構成する。槽底部16には複数のリブ6が配置され、流路の形状に設計されている。これらの流路を加熱媒体または冷却媒体が流れることができる。さらに、槽15内の槽壁要素17と槽底部16との間に複数の補強要素8が配置されており、これにより、槽の機械的安定性が高められている。また、槽15は取付フランジ9を備え、これを介して圧縮機システムの圧縮機のハウジング部に槽を連結することができる。
【0045】
図3は、本発明の第三実施形態による潤滑剤貯留器の概略断面図である。本実施形態によると、潤滑剤貯留器は、複数の潤滑剤2用保持室1を備える。第1保持室11は第2保持室12にすぐ隣接している。第1保持室11と第2保持室12とは、隣接領域において隣接領域被覆要素13によって分離されており、温度調整要素5は隣接領域被覆要素13に組み込まれている。
【符号の説明】
【0046】
1:保持室
2:潤滑剤
3:保持室被覆要素
4:保持室被覆要素
5:温度調整要素
6:リブ
7:カバー
8:補強要素
9:取付フランジ
11:第1保持室
12:第2保持室
13:隣接領域被覆要素
15:槽
16:槽底部
17:槽壁要素
図1
図2
図3
【国際調査報告】