(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-10-13
(54)【発明の名称】マイクロチップキャピラリー電気泳動を使用するアデノ随伴ウイルスの特徴付けの方法
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/70 20060101AFI20231005BHJP
G01N 33/68 20060101ALI20231005BHJP
G01N 27/447 20060101ALI20231005BHJP
C12N 15/864 20060101ALI20231005BHJP
【FI】
C12Q1/70
G01N33/68
G01N27/447 331E
G01N27/447 315K
C12N15/864 100Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023513578
(86)(22)【出願日】2021-08-28
(85)【翻訳文提出日】2023-03-30
(86)【国際出願番号】 US2021048116
(87)【国際公開番号】W WO2022047269
(87)【国際公開日】2022-03-03
(32)【優先日】2020-08-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】507302748
【氏名又は名称】リジェネロン・ファーマシューティカルズ・インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100188433
【氏名又は名称】梅村 幸輔
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100214396
【氏名又は名称】塩田 真紀
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【氏名又は名称】川本 和弥
(72)【発明者】
【氏名】ジャン ボーウェン
(72)【発明者】
【氏名】ツル フランコ
(72)【発明者】
【氏名】リュウ ディンジャン
【テーマコード(参考)】
2G045
4B063
【Fターム(参考)】
2G045DA36
2G045FA34
2G045FB12
4B063QA01
4B063QQ10
4B063QQ79
4B063QR41
4B063QR50
4B063QS16
4B063QX04
(57)【要約】
アデノ随伴ウイルスのカプシドウイルスタンパク質の比を決定することを含む、ウイルスベクターを含有する試料中のカプシドウイルスタンパク質を同定するための方法及びシステムが提供される。方法及びシステムは、試料中のカプシドウイルスタンパク質を変性させることと、変性したカプシドウイルスタンパク質をリジン結合色素で標識することと、マイクロチップキャピラリー電気泳動を使用して、変性/標識されたカプシドウイルスタンパク質の分離プロファイルを生成することと、分離プロファイルに基づいてカプシドウイルスタンパク質のレベルを定量化することと、分離プロファイルに基づいてカプシドウイルスタンパク質の定量化比を決定することと、カプシドウイルスタンパク質のリジン含有量に基づいて定量化比を正規化することと、を含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つのウイルスベクターを含有する試料中の2つ以上のタンパク質間の定量化比を決定する方法であって、
(a)少なくとも約60℃の温度の変性溶液中で前記試料中の前記2つ以上のタンパク質を変性させることと、
(b)変性した前記2つ以上のタンパク質をリジン結合色素で標識することと、
(c)マイクロチップキャピラリー電気泳動を使用して、標識された前記2つ以上のタンパク質の分離プロファイルを生成することと、
(d)前記分離プロファイルに基づいて前記2つ以上のタンパク質のレベルを定量化することと、
(e)前記2つ以上のタンパク質の定量化された前記レベルを比較して、前記2つ以上のタンパク質間の定量化比を決定することと
を含む、方法。
【請求項2】
前記2つ以上のタンパク質のリジン含有量に基づいて前記定量化比を正規化することを更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記分離プロファイルの移動時間に基づいて前記定量化比を補正することを更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記リジン結合色素が、アミン反応性蛍光色素である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記リジン結合色素が、活性エステル、イソチオシアネート、又は塩化スルホニルを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記リジン結合色素が、活性エステルを含み、前記活性エステルが、スクシンイミジルエステル、スルホスクシンイミジルエステル、テトラフルオロフェニルエステル、又はスルホジクロロフェノールエステルを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記少なくとも1つのウイルスベクターが、アデノ随伴ウイルスである、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記少なくとも1つのウイルスベクターが、ウイルスタンパク質1(VP1)、ウイルスタンパク質2(VP2)、及びウイルスタンパク質3(VP3)を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記変性溶液が、界面活性剤を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記変性溶液が、ドデシル硫酸リチウム(LDS)又はドデシル硫酸ナトリウム(SDS)を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
少なくとも1つのウイルスベクターを含有する試料中の2つ以上のタンパク質間の定量化比を決定するためのシステムであって、
以下:
少なくとも1つのウイルスベクターを含有する試料、
少なくとも約60℃の温度で前記試料中の2つ以上のタンパク質を変性させることができる変性溶液、及び
前記2つ以上のタンパク質を標識することができるリジン結合色素
を受容するためのマイクロプレートと、
以下:
前記マイクロプレートを受容すること、
標識された前記2つ以上のタンパク質を分離して分離プロファイルを生成すること、
前記2つ以上のタンパク質のレベルを定量化すること、及び
前記2つ以上のタンパク質の定量化された前記レベルを比較して、前記2つ以上のタンパク質間の定量化比を決定すること
ができる、マイクロチップキャピラリー電気泳動デバイスと
を備える、システム。
【請求項12】
前記リジン結合色素が、アミン反応性蛍光色素である、請求項11に記載のシステム。
【請求項13】
前記リジン結合色素が、活性エステル、イソチオシアネート、又は塩化スルホニルを含む、請求項11に記載のシステム。
【請求項14】
前記リジン結合色素が、活性エステルを含み、前記活性エステルが、スクシンイミジルエステル、スルホスクシンイミジルエステル、テトラフルオロフェニルエステル、又はスルホジクロロフェノールエステルを含む、請求項11に記載のシステム。
【請求項15】
前記少なくとも1つのウイルスベクターが、アデノ随伴ウイルスである、請求項11に記載のシステム。
【請求項16】
前記少なくとも1つのウイルスベクターが、ウイルスタンパク質1(VP1)、ウイルスタンパク質2(VP2)、及びウイルスタンパク質3(VP3)を含む、請求項11に記載のシステム。
【請求項17】
前記変性溶液が、界面活性剤を含む、請求項11に記載のシステム。
【請求項18】
前記変性溶液が、ドデシル硫酸リチウム(LDS)又はドデシル硫酸ナトリウム(SDS)を含む、請求項11に記載のシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2020年8月28日に出願された米国仮特許出願第63/071,815号の優先権及び恩典を主張するものであり、この仮特許出願は参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
分野
本発明は、概して、蛍光色素と組み合わせたマイクロチップキャピラリー電気泳動を使用して、アデノ随伴ウイルスのカプシドタンパク質を特徴付け又は定量化するための方法及びシステムに関する。
【背景技術】
【0003】
背景
遺伝子治療生物製剤は、遺伝物質の宿主ゲノムへの組み込みなど、移入された遺伝物質の転写及び/又は翻訳によって治療効果を媒介する。遺伝子治療生物製剤には、核酸、プラスミド、ウイルス、ベクター、又は遺伝子操作された微生物が含まれる。アデノ随伴ウイルス(AAV)は、遺伝子治療のための遺伝物質を送達するための遺伝子送達ベクターとして広く使用されている。AAVは宿主ゲノムに組み込まれないが、AAVは非分裂細胞において長期の遺伝子発現を提供することができる。
【0004】
生物医薬品の製造中、製品評価には、製造に使用される成分を評価すること、最終製品を試験/特徴付けること、及び製品の安全性及び品質を保証するために製造プロセスの管理を評価することが含まれる。最終生成物は、純度、同一性、及び効力について試験され、特徴付けられるべきである。したがって、AAVについての製品試験には、非感染性ベクターに対する感染性ベクターの比、空のカプシドの存在、又はウイルスタンパク質の化学量論比を試験することが含まれ得る。AAVカプシドタンパク質の特徴付けは、AAVのウイルスカプシドタンパク質の集合がAAVの感染性、効力、及び安定性に対して著しい影響を有し得るので、ロット間のAAVの産物の品質及び一貫性を確実にするために重要である。
【0005】
AAVのカプシドウイルスタンパク質を同定及び特徴付けるための方法及びシステムの必要性が存在することが理解される。AAVのカプシドウイルスタンパク質の特徴付けは、異なるカプシドウイルスタンパク質の比を決定することを含むべきであるが、これは、カプシドウイルスタンパク質の正確な比は、AAVの生物学的機能(具体的には、カプシド構造、及び組織向性を媒介するアミノ酸差異)に重要であり得るからである。これらの方法及びシステムは、AAVのカプシドウイルスタンパク質の、頑強で、迅速で、信頼性が高く、高感度で、ハイスループットな検出及び特徴付けを提供するものである。
【発明の概要】
【0006】
概要
本出願は、ウイルスベクターを含有する試料中のカプシドウイルスタンパク質を同定及び/又は特徴付けるための方法及びシステムを提供する。これらの方法及びシステムは、カプシドウイルスタンパク質を同定するための、迅速で、信頼性が高く、高感度で、ハイスループットなプロセスを提供し、AAVの異なるカプシドウイルスタンパク質の比を決定することを含む。
【0007】
本開示は、ウイルスベクターを含有する試料中の2つ以上のタンパク質間の定量化比を決定する方法を提供する。一部の例示的な実施形態では、本開示は、少なくとも約60℃の温度の変性溶液中で試料中の2つ以上のタンパク質を変性させることと、変性した2つ以上のタンパク質をリジン結合色素で標識することと、マイクロチップキャピラリー電気泳動を使用して、変性/標識された2つ以上のタンパク質の分離プロファイルを生成することと、分離プロファイルに基づいて2つ以上のタンパク質のレベルを定量化することと、2つ以上のタンパク質の定量化されたレベルを比較して、当該2つ以上のタンパク質間の定量化比を決定することと、を含む、方法を提供する。
【0008】
一態様では、本出願の方法は、2つ以上のタンパク質のリジン含有量に基づいて定量化比を正規化することを更に含む。一態様では、本出願の方法は、分離プロファイルの移動時間に基づいて定量化比を補正することを更に含む。一態様では、本出願の方法のリジン結合色素は、アミン反応性蛍光色素である。別の態様では、本出願の方法のリジン結合色素は、活性エステル、イソチオシアネート、又は塩化スルホニルを含む。更に別の態様では、本出願の方法のリジン結合色素は、活性エステルを含み、活性エステルは、スクシンイミジルエステル、スルホスクシンイミジルエステル、テトラフルオロフェニルエステル、又はスルホジクロロフェノールエステルを含む。
【0009】
一態様では、本出願の方法のウイルスベクターはAAVである。一態様では、本出願の方法のウイルスベクターは、ウイルスタンパク質1(VP1)、ウイルスタンパク質2(VP2)、及びウイルスタンパク質3(VP3)を含む。別の態様では、本出願の方法の変性溶液は、界面活性剤を含み、界面活性剤は、ドデシル硫酸リチウム(LDS)又はドデシル硫酸ナトリウム(SDS)である。
【0010】
本開示は、少なくとも部分的に、少なくとも1つのウイルスベクターを含有する試料中の2つ以上のタンパク質間の定量化比を決定するためのシステムを提供する。一部の例示的な実施形態では、本開示は、マイクロプレートであって、少なくとも1つのウイルスベクターを含有する試料、少なくとも約60℃の温度で当該試料中の2つ以上のタンパク質を変性させることができる変性溶液、及び2つ以上のタンパク質を標識することができるリジン結合色素、を受容するためのマイクロプレートと、マイクロチップキャピラリー電気泳動デバイスであって、当該マイクロプレートを受容し、変性/標識された2つ以上のタンパク質を分離して分離プロファイルを生成し、2つ以上のタンパク質のレベルを定量化し、かつ2つ以上のタンパク質の定量化されたレベルを比較して、2つ以上のタンパク質間の定量化比を決定することができる、マイクロチップキャピラリー電気泳動デバイスと、を備える、システムを提供する。
【0011】
一態様では、定量化比は、2つ以上のタンパク質のリジン含有量に基づいて正規化することができる。一態様では、定量化比は、分離プロファイルの移動時間に基づいて補正することができる。別の態様では、本出願のシステムのリジン結合色素は、アミン反応性蛍光色素である。一態様では、本出願のシステムのリジン結合色素は、活性エステル、イソチオシアネート、又は塩化スルホニルを含む。更に別の態様では、本出願のシステムのリジン結合色素は、活性エステルを含み、活性エステルは、スクシンイミジルエステル、スルホスクシンイミジルエステル、テトラフルオロフェニルエステル、又はスルホジクロロフェノールエステルを含む。
【0012】
一態様では、本出願のシステムのウイルスベクターはAAVである。一態様では、本出願のシステムのウイルスベクターは、VP1、VP2、及びVP3を含む。別の態様では、本出願のシステムの変性溶液は、界面活性剤を含み、界面活性剤は、LDS又はSDSである。
【0013】
本発明のこれら及び他の態様は、以下の説明及び添付の図面と併せて考慮される場合、よりよく認識され、理解されるであろう。以下の説明は、その様々な実施形態及び多数の具体的な詳細を示すが、限定ではなく、例証として与えられる。多くの置換、修正、追加、又は再配置が、本発明の範囲内で行われ得る。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】Venkatakrishnan et al.,Structure and Dynamics of Adeno-Associated Virus Serotype 1 VP1- Unique N-Terminal Domain and Its Role in Capsid Trafficking,Journal of Virology,May,2013,vol.87,no.9,pages 4974-4984による、AAV1カプシドVP3単量体の結晶構造及びAAV1カプシドの表面表示を含むAAV1の構造を示す。
【
図2】Jin et al.,Direct liquid chromatography/mass spectrometry analysis for complete characterization of recombinant adeno-associated virus capsid proteins,Human gene therapy methods,2017,Vol.28,No.5,pages 255-267による、SDS-PAGE及び逆層液体クロマトグラフィーなどの従来の方法を使用したAAVのカプシドウイルスタンパク質の分離を示す。
【
図3】例示的な実施形態による、還元条件下でリジン結合色素を用いてタンパク質を標識するための試料調製のプロセスを示す。
【
図4】例示的な実施形態による、非還元条件下でリジン結合色素を用いてタンパク質を標識するための試料調製のプロセスを示す。
【
図5】例示的な実施形態による、15.9kDa(LA1)、20.4kDa(LA2)、28.9kDa(LA3)、48.4kDa(LA4)、68.4kDa(LA5)又は119.2kDa(LA6)の分子量を有する6つのタンパク質標準物質を含有するPico Protein Expressラダーを示す。
【
図6A】例示的な実施形態による、疎水性色素染色と組み合わせたキャピラリー電気泳動を使用した、AAV8のカプシドウイルスタンパク質(例えば、VP1、VP2、及びVP3)の分離を示す。
【
図6B】例示的な実施形態による、疎水性色素染色と組み合わせたキャピラリー電気泳動を使用した、AAV8のカプシドウイルスタンパク質の比、例えば、VP1:VP2:VP3の比の決定を示す。12個の電気泳動図を重ね合わせて、アッセイの再現性を実証した。
【
図7】例示的な実施形態による、リジン結合色素と組み合わせたキャピラリー電気泳動を使用した、AAV8の標識カプシドウイルスタンパク質の分離を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
詳細な説明
アデノ随伴ウイルス(AAV)は、遺伝子治療のための核酸の送達など、遺伝物質を送達するための遺伝子送達ベクターとして広く使用されている。AAVは、非病原性及び低免疫原性の利点を提供する。AAVは、ディペンドウイルス属のパルボウイルス科の非病原性メンバーであり、感染のためにアデノウイルス又はヘルペスウイルスなどのヘルパーを必要とする(Venkatakrishnan et al.,Structure and Dynamics of Adeno-Associated Virus Serotype 1 VP1- Unique N-Terminal Domain and Its Role in Capsid Trafficking,Journal of Virology,May,2013,vol.87,no.9,pages 4974-4984)。AAVは、約4.8キロベース(kb)の一本鎖DNAゲノムを、タンパク質(例えば、カプシドウイルスタンパク質)の殻から作製される正二十面体カプシド中にカプセル化する。
図1は、AAV1カプシドVP3単量体の結晶構造及びAAV1カプシドの放射状に着色された表面表示を含むAAV1の構造を示している(Venkatakrishnan et al.)。
【0016】
遺伝子送達ベクターとしてのAAVの品質及び効率をモニタするために、純度、カプシド同一性、ベクター粒子力価、空/完全比、及びカプシドウイルスタンパク質比をモニタすることが重要である。カプシドウイルスタンパク質は自己集合して外側カプシド殻を形成し、これは細胞結合及び細胞侵入に能動的に関与する。カプシドウイルスタンパク質は、カプシド殻の構造に重要な特定の化学量論比で自己集合する。したがって、遺伝子送達系として使用されるAAVのカプシドウイルスタンパク質の比を決定するための、迅速で、信頼性が高く、高感度で、ハイスループットな方法を開発することが非常に必要とされている。AAVカプシドタンパク質の特徴付けは、異なるカプシドタンパク質の比を含むべきである。カプシドウイルスタンパク質の正確な比は、AAVの生物学的機能に重要である。カプシドタンパク質の分解は、AAVの感染性に有害であり得る。カプシドは、好適な宿主細胞が出現し、細胞侵入が開始され、そしてAAVゲノムが複製のために放出されるまで、AAVゲノムを保護し得るべきである。
【0017】
AAVカプシドタンパク質の特徴付けは、AAVの産物の品質及び一貫性を確実にするために重要であるが、これは、AAVのウイルスカプシドタンパク質の集合は、ウイルス感染力及びベクター効力に対して著しい影響を有し得るからである(Jin et al.,Direct liquid chromatography/mass spectrometry analysis for complete characterization of recombinant adeno-associated virus capsid proteins,Human gene therapy methods,2017,Vol.28,No.5,pages 255-267)。AAVのカプシドウイルスタンパク質は、ssDNAが包まれた場合の第2鎖合成及びインプットゲノムの転写の両方の開始に関与し得る(Salganik et al.,Adeno-associated virus capsid proteins may play a role in transcription and second-strand synthesis of recombinant genomes,Journal of Virology,January 2014,Vol.88,No.2,pages 1071-1079)。
【0018】
一本鎖AAVゲノムは、rep(複製)、cap(カプシド)、及びaap(アセンブリ)を含む3つの遺伝子を含有する。rep遺伝子は、ウイルス増殖及びパッケージングに関連する。cap遺伝子は、カプシドウイルスタンパク質をコードする。cap遺伝子の発現は、共通のC末端を有する交互にスプライシングされたmRNAから作製される、VP1、VP2、及びVP3を含むカプシドウイルスタンパク質を産生する。VP3は約61kDaであり、カプシドタンパク質含有量の約85%を構成する。VP2は約73kDaである。VP1は約87kDaである。VP1は、ホスホリパーゼA2ドメイン及び核局在化シグナルを含むVP1固有領域(VP1u)を含む(Rayaprolu et al.,Comparative analysis of adeno-associated virus capsid stability and dynamics,Journal of Virology,December 2013,vol.87,No.24,p.13150-13160)。AAVカプシドは、VP1、VP2、及びVP3を含む60のウイルスタンパク質単量体からなる。VP3は主要なカプシドタンパク質であり、したがって、カプシド殻の安定性において主要な役割を果たす。AAVカプシドには約50コピーのVP3が存在する。AAVカプシド中には約5コピーのVP1及び5コピーのVP2が存在する。概して、VP1:VP2:VP3の比は約1:1:10であり、例えば、60個のウイルスタンパク質単量体において、5コピーのVP1、5コピーのVP2、及び50コピーのVP3である(Venkatakrishnan et al.)。
【0019】
AAVカプシドウイルスタンパク質は、SDS-PAGE(ドデシル硫酸ナトリウム-ポリアクリルアミドゲル電気泳動)を使用して、サイズの差に基づいて分離することができる。AAVカプシドタンパク質を特徴付けるための従来の分析方法としては、SDS-PAGE分析及び逆相液体クロマトグラフィー(Jin et al.による
図2に示されるような)が挙げられる。しかしながら、SDS-PAGE分離は、低スループットであり、定量的な変動を伴う。VP1、VP2、及びVP3は、銀染色を用いたSDS-PAGEを使用して可視化することができるが、これは労働集約的で時間のかかるプロセスであり、定量的データが不十分である。銀染色と組み合わせたSDS-PAGEから得られる不十分な定量的データの問題には、試料の過負荷、ゲルの過熱、及び染色/脱染の不適切な標準化が含まれる。別のアプローチは、SDS-PAGE分離をゲル内酵素消化及び液体クロマトグラフィー/タンデム質量分析(LC-MS/MS)と組み合わせて、カプシドウイルスタンパク質を特徴付けることである。しかしながら、ゲルからの消化されたペプチドの回収が限られているため、この方法には限界がある。加えて、逆相液体クロマトグラフィーは、特定の血清型のカプシドタンパク質を分離するのに十分ではない。顕著なウイルスタンパク質の重複が生じ得、かつ分離されるウイルスタンパク質のベースライン分離が不十分であり得る。加えて、1試料当たりに必要とされる分離時間は、約45~約60分であり、これは、産業上の要求に対して低いスループットである。Jin et al.は、正確な質量測定に基づいて一部のカプシドタンパク質のN末端配列及びC末端配列を同定することによって、種々のAAV血清型におけるカプシドタンパク質を特徴付けるための直接的なLC/MSインタクトタンパク質分析を提供している。
【0020】
マイクロチップキャピラリー電気泳動などのキャピラリー電気泳動は、カプシドウイルスタンパク質を分離するための代替技術であり、これは、自動化でより高いスループット(試料当たり約42~65秒)を有する。タンパク質検出のためのキャピラリー電気泳動は、通常、UV検出を伴う。しかしながら、UV検出は、特に、タンパク質濃度が典型的には1mg/mL未満であるAAV薬物製品の場合、より低い感度を有し、より大きい試料体積を必要とする。代替のタンパク質検出方法としては、複数の注入のカラムスタッキング又は蛍光検出が挙げられる。加えて、キャピラリー電気泳動を使用して分離された試料は、試料の疎水性パッチに結合する蛍光色素で染色され得る。しかしながら、タンパク質への疎水性色素の結合は、色素が結合するために利用可能な疎水性パッチの程度が血清型ごとに変動することに起因して、制御されない染色化学量となる。カプシドタンパク質中の疎水性パッチを定量化することも困難である。したがって、疎水性色素染色と組み合わせたキャピラリー電気泳動の方法を使用して、カプシドウイルスタンパク質の比を正確に推定することはできない。
【0021】
一部の例示的な実施形態では、本出願は、ウイルスベクターのカプシドウイルスタンパク質を同定及び/又は特徴付けるための方法及びシステムであって、リジン結合蛍光色素と組み合わせたマイクロチップキャピラリー電気泳動を使用して、ウイルスベクターのカプシドウイルスタンパク質の比を定量化することを含む、方法及びシステムを提供する。一部の例示的な実施形態では、本出願は、ウイルスベクターのカプシドウイルスタンパク質を同定及び/又は定量化するための方法を提供し、この方法は、ウイルスベクターのカプシドウイルスタンパク質を、少なくとも約60℃、最大約95℃、又は典型的には約75℃の温度の変性溶液中で約10分間変性させることであって、変性溶液は、LDSを含有する、変性させることと、変性したカプシドウイルスタンパク質をリジン結合色素で標識することと、マイクロチップキャピラリー電気泳動を使用して、変性/標識したカプシドウイルスタンパク質の分離プロファイルを生成することと、を含む。一部の態様では、ウイルスベクターのカプシドウイルスタンパク質は、リジン結合蛍光色素で標識される。一部の態様では、ウイルスベクターのカプシドウイルスタンパク質は、活性エステル、イソチオシアネート、又はスルホニルクロリドを含むアミン反応性蛍光色素で標識される。一部の態様では、活性エステルは、スクシンイミジルエステル、スルホスクシンイミジルエステル、テトラフルオロフェニルエステル、又はスルホジクロロフェノールエステルを含む。一態様では、本出願の方法のウイルスベクターは、VP1、VP2、及びVP3を含むAAVである。一態様では、ウイルスベクターのカプシドウイルスタンパク質は、還元又は非還元条件下で標識することができる。カプシドウイルスタンパク質が還元条件下で標識される場合、DTT(ジチオトレイトール)を還元剤として使用することができる。カプシドウイルスタンパク質が非還元条件下で標識される場合、N-エチルマレイミド(NEM)又はヨードアセトアミド(IAM)などのアルキル化剤を使用することができる。
【0022】
一部の例示的な実施形態では、本出願は、ウイルスベクターを含有する試料中のカプシドウイルスタンパク質を同定するための方法を提供し、本方法は、少なくとも約60℃の温度の変性溶液中でカプシドウイルスタンパク質を変性させることと、変性したカプシドウイルスタンパク質をリジン結合色素で標識することと、マイクロチップキャピラリー電気泳動を使用して、変性/標識されたカプシドウイルスタンパク質の分離プロファイルを生成することと、分離プロファイルに基づいてカプシドウイルスタンパク質のレベルを定量化することと、分離プロファイルに基づいてカプシドウイルスタンパク質の定量化比を決定することと、を含む。一態様では、本出願の方法は、カプシドウイルスタンパク質のリジン含有量に基づいて定量化比を正規化することと、分離プロファイルの移動時間に基づいて定量化比を補正することと、を更に含む。一態様では、本出願の方法のウイルスベクターは、VP1、VP2、及びVP3を含むAAVである。
【0023】
一部の例示的な実施形態では、本出願は、ウイルスベクターを含有する試料中のタンパク質、例えばカプシドウイルスタンパク質間の定量化比を同定及び/又は決定するためのシステムを提供する。一部の態様では、本出願は、マイクロプレートであって、ウイルスベクターを含有する試料、少なくとも60℃の温度で当該試料中の2つ以上のタンパク質、例えばカプシドウイルスタンパク質を変性させることができる変性溶液であって、LDSを含有する、変性溶液、及び2つ以上のタンパク質を標識することができるリジン結合色素、を受容するためのマイクロプレートと、マイクロチップキャピラリー電気泳動デバイスであって、マイクロプレートを受容し、変性/標識された2つ以上のタンパク質を分離して分離プロファイルを生成し、2つ以上のタンパク質のレベルを定量化し、2つ以上のタンパク質の定量化されたレベルを比較して2つ以上のタンパク質の定量化比を決定することができるマイクロチップキャピラリー電気泳動デバイスと、を含む、システムを提供する。一態様では、定量化比は、2つ以上のカプシドウイルスタンパク質のリジン含有量に基づいて正規化することができる。一態様では、定量化比は、分離プロファイルの移動時間に基づいて正規化することができる。
【0024】
AAVを含有する生物製剤製品の製品品質、一貫性、有効性、及び安全性を改善する要求は、AAVのカプシドウイルスタンパク質を同定及び/又は特徴付けるための要求の増加をもたらした。本出願は、ウイルスベクターを含有する試料中のカプシドウイルスタンパク質を同定及び/又は特徴付けるための方法及びシステムを提供する。本出願の方法及びシステムの利点は、前述の要求を満たすために、カプシドウイルスタンパク質の比を決定することを含む、AAVのカプシドウイルスタンパク質を同定及び/又は特徴付けるための、迅速で、信頼性が高く、高感度で、ハイスループットである方法及びシステムを提供することを含む。本明細書に開示される例示的な実施形態は、長年にわたる必要性を満たすために、AAVのカプシドウイルスタンパク質を同定及び/又は特徴付けるための方法及びシステムを提供することによって、前述の要求を満たす。
【0025】
「1つの(a)」という用語は、「少なくとも1つ」を意味すると理解されるべきであり、「約」及び「およそ」という用語は、当業者によって理解されるように標準的な変動を可能にすると理解されるべきであり、範囲が提供される場合、エンドポイントが含まれる。本明細書で使用される場合、「含む(include)」、「含む(includes)」、及び「含む(including)」という用語は、非限定的であることを意味し、それぞれ「含む(comprise)」、「含む(comprises)」、及び「含む(comprising)」を意味すると理解される。
【0026】
一部の例示的な実施形態では、本出願は、ウイルス粒子を含有する試料中の2つ以上のタンパク質を同定し、それらの間の定量化比を決定するための方法であって、試料中の2つ以上のタンパク質を少なくとも60℃の温度の変性溶液中で変性させることと、変性した2つ以上のタンパク質をリジン結合色素で標識することと、マイクロチップキャピラリー電気泳動を使用して、変性/標識された2つ以上のタンパク質の分離プロファイルを生成することと、分離プロファイルに基づいて2つ以上のタンパク質のレベルを定量化することと、分離プロファイルに基づいて2つ以上のタンパク質の定量化比を決定することと、を含む、方法を提供する。
【0027】
本明細書中で使用される場合、用語「マイクロチップキャピラリー電気泳動」とは、開放管状電気泳動(例えば、微小流体形式のガラスキャピラリー)を使用する電気浸透流の存在下での生体分子の高速分離のためのアプローチをいう。電気浸透流は、電圧がキャピラリーを横切って確立される場合に、穏やかなイオン溶液で満たされたキャピラリー中で生じるバルク溶液流動現象である。キャピラリー電気泳動分離の間の所定の分析物種の速度は、分析物の移動度及び電気浸透流によって決定される。分析物分子の電気泳動移動度は、分離のための重要な因子であり、これは、分析物の質量及び正味の電荷によって影響され得る(Charles S.Henry,Microchip Capillary Electrophoresis:An Introduction,February 2006,Methods in Molecular Biology 339:1-10)。マイクロチップキャピラリー電気泳動では、1kVのオーダーの電圧が使用され、サブミリメートルからセンチメートルのチャネル長では、これは100V/cmから10kV/cmに変換される。
【0028】
本明細書中で使用される用語「ベクター」は、インビトロ又はインビボのいずれかで宿主細胞に送達されるべき核酸を含む組換えプラスミド又はウイルスをいう。AAV由来のベクターは、(i)それらが、筋線維及びニューロンを含む多種多様な非分裂及び分裂細胞型に感染(形質導入)することができ、(ii)それらはウイルス構造遺伝子を欠き、それによってウイルス感染に対する天然の宿主細胞応答、例えば、インターフェロン媒介性応答を排除し、(iii)野生型AAVは、ヒトにおけるいかなる病理とも関連付けられておらず、(iv)宿主細胞ゲノムに組み込むことができる野生型AAVとは対照的に、複製欠損AAVベクターは一般にエピソームとして存続し、したがって、挿入変異誘発又はがん遺伝子の活性化のリスクを制限し、(v)他のベクター系とは対照的に、AAVベクターは、著しい免疫応答を誘発せず(iiを参照されたい)、したがって、治療用導入遺伝子の長期発現を可能にする(ただし、それらの遺伝子産物が拒絶されない場合)ため、遺伝物質の送達のために特に魅力的である。
【0029】
本明細書中で使用される場合、「タンパク質」という用語は、共有結合したアミド結合を有する任意のアミノ酸ポリマーを含む。タンパク質は、概して「ペプチド」又は「ポリペプチド」として当技術分野で公知の1つ以上のアミノ酸ポリマー鎖を含む。タンパク質は、1つ以上のポリペプチドを含有し、単一の機能性生体分子を形成し得る。
【0030】
例示的な実施形態
本明細書に開示される実施形態は、ウイルスベクターを含有する試料中のカプシドウイルスタンパク質を同定及び/又は特徴付けるための方法及びシステムを提供する。
【0031】
一部の例示的な実施形態では、本出願は、ウイルスベクターを含有する試料中の2つ以上のカプシドウイルスタンパク質間の定量化比を決定するための方法を提供し、本方法は、少なくとも約60℃の温度の変性溶液中で試料中のカプシドウイルスタンパク質を変性させることと、変性したカプシドウイルスタンパク質をリジン結合色素で標識することと、マイクロチップキャピラリー電気泳動を使用して、変性/標識されたカプシドウイルスタンパク質の分離プロファイルを生成することと、分離プロファイルに基づいてカプシドウイルスタンパク質のレベルを定量化することと、カプシドウイルスタンパク質間の定量化比を決定するためにカプシドウイルスタンパク質の定量化されたレベルを比較することと、カプシドウイルスタンパク質のリジン含有量に基づいてカプシドウイルスタンパク質の定量化比を正規化することと、を含む。
【0032】
一態様では、試料中のカプシドウイルスタンパク質は、少なくとも約60℃、少なくとも約65℃、少なくとも約70℃、少なくとも約75℃、少なくとも約80℃、少なくとも約85℃、少なくとも約90℃、少なくとも約95℃、約60℃~95℃、約70℃~95℃、約75℃~95℃、約80℃~95℃、又は約85℃~95℃の温度の変性溶液中で、約3分間、約4分間、約5分間、約6分間、約7分間、約8分間、約9分間、又は約10分間変性される。別の態様では、試料中のカプシドウイルスタンパク質は、約60℃~95℃、約70℃~95℃、約75℃~95℃、約80℃~95℃、又は約85℃~95℃で、約3分間、約4分間、約5分間、約6分間、約7分間、約8分間、約9分間、又は約10分間、段階的に加熱することによって変性溶液中で変性され得る。
【0033】
一態様では、本出願の方法のリジン結合色素は、活性エステル、イソチオシアネート、又は塩化スルホニルを含有するアミン反応性蛍光色素である。一態様では、本出願の方法のリジン結合色素は、活性エステルを含み、活性エステルは、スクシンイミジルエステル、スルホスクシンイミジルエステル、テトラフルオロフェニルエステル、又はスルホジクロロフェノールエステルを含む。
【0034】
システムは、前述のAAV、マイクロチップキャピラリー電気泳動デバイス、カプシドウイルスタンパク質、リジン結合色素、又はアミン反応性蛍光色素のいずれにも限定されないことが理解される。上記のように、本発明の方法及びシステムの利点の1つは、疎水性色素の使用のような従来の方法とは異なり、リジン結合色素の使用が、アミノ酸配列中のリジンの数が既知である限り、任意のタンパク質の正確な同定及び定量化を可能にすることである。したがって、例えば、特定のウイルスが例示され得るが、本発明の方法及びシステムは、他のAAV血清型及び他のウイルスに適用され得ることが理解される。
【0035】
本明細書で提供される方法ステップの数字及び/又は文字による連続的な標識は、方法又はその任意の実施形態を特定の指示された順序に限定することを意味しない。特許、特許出願、公開された特許出願、アクセッション番号、技術論文及び学術論文を含む種々の刊行物が、本明細書全体を通して引用される。これらの引用された参考文献の各々は、その全体が全ての目的のために本明細書中に参考として援用される。別段記載されない限り、本明細書で使用される全ての技術及び科学用語は、本発明が属する技術分野における当業者によって一般に理解されるものと同じ意味を有する。本開示は、本開示をより詳細に説明するために提供される以下の実施例を参照することによって、より完全に理解されるであろう。それらは、例示することを意図しており、本開示の範囲を限定するものとして解釈されるべきではない。
【実施例】
【0036】
試薬及び方法
1.リジン結合色素を用いた試料調製、標識及び分析:カプシドウイルスタンパク質を、リジン結合色素又はアミン反応性蛍光色素、例えばPico Protein Express標識色素(PerkinElmer)を使用して、蛍光色素で標識した。アミン反応性蛍光色素は、リジン残基及びN末端アミンを標識することによって、一級アミンと反応することができる。標識反応をクエンチした後、取り込まれた蛍光色素の程度及び位置をモニタした。タンパク質は、標識に利用可能な可変含有量のリジン残基を有する。色素量及びタンパク質濃度を滴定し、標識反応のために最適化する。
【0037】
Pico Protein Express Assay試薬キット(PerkinElmer)を使用して、製造業者によって提供されたユーザガイド(Pico Protein Express Assay User Guide for LabChip(登録商標)GXII Touch、PerkinElmer、Hopkinton、MA)に従って、pH6~9の緩衝液中0.1~1mg/mLの濃度範囲を有するタンパク質試料を標識した。試料の標識には、リジン結合蛍光色素を含有する標識緩衝液を用いた。試料調製のためのPico Protein Express Assay試薬キットの1×標識緩衝液の組成は、0.1M重炭酸ナトリウム、0.14%LDS、pH8である。試料緩衝液はまた、LDSを含有する。タンパク質試料は、還元又は非還元条件下で標識することができる。還元条件下でタンパク質試料を標識するために、
図3に示すように、製造業者の指示に従ってDTTを還元剤として使用した。
図3は、一例としてIgGを使用することによる還元条件下での試料調製のプロセスを示している。
図4は、製造業者の指示に従って例としてIgGを使用することによって、非還元条件下でリジン結合色素を用いてタンパク質を標識するための試料調製のためのプロセスを示している。アルキル化剤(例えば、NEM又はヨードアセトアミド)は、非還元条件のために使用され得る。
【0038】
カプシドウイルスタンパク質を含有する標識されたタンパク質試料を、蛍光検出を使用するLabChip(登録商標)GXII、LabChip(登録商標)GXII Touch又はLabChip(登録商標)GXII Touch HTを使用して分析されるマイクロ流体チップ上にロードした。適切なアッセイ型を、機器によって提供されるアッセイリストから選択した。Pico Protein Express 100を、14~100kDaの範囲でタンパク質をサイズ分類するために選択した。Pico Protein Express 200を、14~200kDaの範囲でタンパク質をサイズ分類するために選択した。機器のアッセイ機能は、タンパク質標準物質とのアラインメント及びスケーリングに基づいてタンパク質濃度を決定することができる。アラインメント後、各タンパク質ピークのサイズを、既知のサイズ及び測定された移動時間の一次ラダーピークに対するlog(サイズ)対1/時間の適合を使用して、アラインメントピーク時間から計算する。試料ピーク濃度を決定するために、ピーク面積を最初に補正して蛍光強度を補償する。蛍光強度は一定の時間間隔でサンプリングされるので、より遅く移動するタンパク質は、速く移動するタンパク質よりも検出器の下でより多くの時間が費やされる。次いで、ピーク濃度は、ラダーピーク面積及びアッセイ分析ウィンドウにおいて供給されるラダーについての濃度を使用して計算され得る。濃度は、試料及びラダーの希釈係数に合わせて調整する(Pico Protein Express Assay User Guide for LabChip(登録商標)GXII Touch、PerkinElmer、Hopkinton、MA)。
【0039】
2.タンパク質分子量標準物質:Pico Protein Expressラダー(PerkinElmer)を使用して、AAVカプシドウイルスタンパク質の分子量を較正又は推定した。タンパク質ラダーを、1:2倍希釈を使用して、7.8ng/μL~250ng/μLの範囲の連続希釈で調製した。15.9kDa(LA1)、20.4kDa(LA2)、28.9kDa(LA3)、48.4kDa(LA4)、68.4kDa(LA5)又は119.2kDa(LA6)の分子量を有する6つのタンパク質標準物質を使用した。
図5に示すように、タンパク質標準物質のピークは、移動時間が増大する順に現れ、これはタンパク質のサイズ増大に対応した。下部マーカー(LM)は、低移動時間で最初に現れた。
【0040】
機器
マイクロチップキャピラリー電気泳動を、ProteinEXact(商標)アッセイ又はPico Protein Express Assayを使用して、LabChip(登録商標)GXII、LabChip(登録商標)GXII Touch又はLabChip(登録商標)GXII Touch HTシステム(PerkinElmer、Hopkinton、MA)で実施した。LabChip(登録商標)GXII Touch Capillary Electrophoresis Systemは、電気泳動分離及び分析の自動化を含む、タンパク質分離のための単一シッパーマイクロ流体チップを使用する。分析のために試料を24、96、又は384ウェルマイクロプレート(又は「プレート」)にロードした。システムの光学系は、レーザ誘起蛍光信号を検出することができる。システムのアッセイ機能は、データを自動的に分析して、ラダー及びマーカー較正標準を使用して、相対的なタンパク質濃度、分子サイズ、及びパーセント純度を提供する。システムは、14~200kDaの範囲の分解能でサイズに基づいてタンパク質を分離することができる。Protein Pico Assayの感度は銀染色と同等である。試料は、Pico Protein Expressについては42秒で、ProteinEXact(商標)については65秒で分析することができる。スループットは、チップ調製物当たり、Pico Protein Expressについては最大384試料、又はProteinEXact(商標)については96試料である。
【0041】
実施例1.疎水性色素と組み合わせたマイクロチップキャピラリー電気泳動を使用するカプシドウイルスタンパク質の特徴付け
カプシドウイルスタンパク質を、疎水性色素と組み合わせたマイクロチップキャピラリー電気泳動を使用して分析した。LabChip(登録商標)GXII Touch HTシステム(PerkinElmer)をProteinEXact(商標)アッセイ(PerkinElmer)と組み合わせて使用して、カプシドウイルスタンパク質を分析し、特徴付けた。ProteinEXact(商標)アッセイは、製造業者の指示に従って行った(PerkinElmer、Hopkinton、MA、ProteinEXact(商標)HR Assay User Guide for LabChip(登録商標)GXII Touch)。反応キット中のProtein Clear HR色素を、タンパク質検出のためにProteinEXact(商標)ゲルマトリックスに添加した。LabChip(登録商標)GXII Touch Capillary Electrophoresis Systemは、染色、脱染、電気泳動分離、及び分析の自動化を含むタンパク質分離のための単一シッパーマイクロ流体チップを使用する。それはまた、再現性及び感度を可能にするために、オンシステム較正ステップを利用する。
【0042】
ProteinEXact(商標)アッセイと組み合わせたLabChip(登録商標)GXII Touch HTシステムは、SDS、例えばMCE-SDSが存在する状態でマイクロ流体キャピラリー電気泳動を使用したタンパク質の分析及び特徴付けのためのハイスループットシステムである。AAV血清型8(AAV8)は、HEK-293細胞において生成され、D-PBS中に少なくとも5×1012ゲノムコピー/mLを含有した。AAV8を含有する試料を、分析を行う前に、例えば試料を約75℃で加熱することによって変性させた。タンパク質試料を調製し、非還元条件下で変性させた場合、タンパク質試料をヨードアセトアミドで処理した。タンパク質試料を調製し、還元条件下で変性させた場合、タンパク質試料をDTTで処理した。
【0043】
アッセイビューアー上で実行されたProteinEXact(商標)アッセイの出力は、サイズ、蛍光、濃度、及び試料中の総タンパク質に対する個々のタンパク質の寄与パーセントの定量化分析を伴う相対的電気泳動図である。電気泳動図において分離されたピークは、VP1、VP2、VP3、及び不純物を含む。濃度に対応する各タンパク質の補正曲線下面積(AUC)を計算し、これを使用して試料中のカプシドウイルスタンパク質の比を決定した。AAV8のカプシドウイルスタンパク質を、
図6Aに示されるように、タンパク質検出のためのProtein Clear HR色素染色と組み合わせたキャピラリー電気泳動を使用して分離した。
図6AのX軸は、kDaでのサイズとして表される。Y軸は、濃度に対応する蛍光を表す。12個の電気泳動図を重ね合わせて、
図6Bに示すように、アッセイの再現性を実証した。
図6Bは、VP1に対して正規化された各ピークの平均濃度に基づいて計算されたVP1:VP2:VP3の比を示している。
図6Bに示されるように、AAV8のカプシドウイルスタンパク質の比、VP1:VP2:VP3は、1.0:1.7:11.3と計算された。このVP1:VP2:VP3比1.0:1.7:11.3は、1:1:10の理論比から有意に逸脱している。
【0044】
実施例2.リジン結合色素と組み合わせたマイクロチップキャピラリー電気泳動を使用するカプシドウイルスタンパク質の特徴付け
AAVカプシドウイルスタンパク質を、リジン結合蛍光色素と組み合わせたマイクロチップキャピラリー電気泳動を使用して定量化し、特徴付けた。AAVカプシドウイルスタンパク質を、Pico Protein Express Assayと組み合わせてLDSの存在下でLabChip(登録商標)GXII Touch HTシステムを使用して分析し、特徴付けた。タンパク質標識を含むPico Protein Express Assayを、表1に示されるような更なる最適化を用いて、製造業者の指示に従って行った。試薬キット中のPico Protein Express標識色素を使用して、カプシドウイルスタンパク質のリジン残基などの遊離アミンに結合することによって、カプシドウイルスタンパク質を標識した。LabChip(登録商標)GXII Touch HT Capillary Electrophoresis Systemは、電気泳動分離及び分析の自動化を含むタンパク質分離のための単一シッパーマイクロ流体チップを使用した。それはまた、再現性及び感度を可能にするためにオンシステム較正ステップを利用した。
【0045】
(表1)Pico Protein Expressアッセイ最適化パラメータ
【0046】
AAVをHEK-293細胞中で作製し、D-PBS中に少なくとも5×10
12ゲノムコピー/mLを含有することが報告された。異なるペイロード、ペイロードA、B、又はCを含有するAAV8試料を分析に使用した。AAV8試料を、
図3及び
図4に示されるように、製造業者の指示に従って、還元条件下又は非還元条件下で、表1に詳述したPico1.0最適化を伴って、Pico Protein Express標識色素で標識した。タンパク質試料を調製し、非還元条件下で変性させた場合、タンパク質試料をヨードアセトアミドで処理した。タンパク質試料を調製し、還元条件下で変性させた場合、タンパク質試料をDTTで処理した。AAV8試料を、還元剤を含むか、又は含まないLDSを含有する標識緩衝液と混合した。続いて、AAV8を含有する試料を、75℃で10分間試料を加熱することによって変性させた。Pico Protein Express標識色素を変性AAV8試料に添加し、1分間混合した後、35℃で30分間、暗所でインキュベートした。停止液を試料に添加して、色素結合反応を終了させた。変性し、標識したAAV8試料を、LabChip(登録商標)GXII Touch HT Capillary Electrophoresis SystemにおいてPico Protein Express Assayを使用する分析に供した。
【0047】
アッセイビューアー上で実行されるPico Protein Express Assayの出力は、試料中の総タンパク質に対する各個々のタンパク質のサイズ、蛍光、及び寄与パーセントの定量化分析を伴う相対的電気泳動図である。電気泳動図において分離されたピークは、VP1、VP2、VP3、及び不純物を含む。AAV8の標識されたカプシドウイルスタンパク質を、
図7に示されるようにキャピラリー電気泳動を使用して分離した。
図7のX軸は、移動時間として表される。Y軸は、濃度に対応する蛍光(RFU)を表す。濃度に対応する各タンパク質の補正曲線下面積(AUC)を計算し、これを使用して試料中のカプシドウイルスタンパク質の比を決定した。
【0048】
表2は、Pico Express Assay Pico1.0を使用した3つのAAV8試料についてのカプシドウイルスタンパク質の計算された比、VP1:VP2:VP3を示している。表2はまた、各カプシドウイルスタンパク質についての対応するリジン数及び移動時間を列挙する。表3は、VP1、VP2、及びVP3の、対応する決定された分子量を示している。各カプシドウイルスタンパク質は、異なるリジン含有量を有するため、比は、リジン残基の含有量を使用して正規化され、表4に示されるように、マイクロチップチャネル内の移動時間で補正された。比をVP1に対して正規化した。
【0049】
(表2)Pico1.0を用いたカプシドウイルスタンパク質比
【0050】
(表3)決定された、カプシドウイルスタンパク質の分子量
【0051】
(表4)Pico1.0を使用して正規化及び補正したタンパク質比
【0052】
加えて、表1に詳述されるような更に最適化されたPico Express Assay Pico2.0を使用して、カプシドウイルスタンパク質の比を評価した。表5は、Pico Express Assay Pico2.0を使用した3つのAAV8試料についてのカプシドウイルスタンパク質の計算された比、VP1:VP2:VP3を示している。表5はまた、各ウイルスタンパク質について対応するリジン番号を列挙する。各カプシドウイルスタンパク質は異なるリジン含有量を有するので、表6に示すように、リジン残基の含有量を使用してタンパク質比を正規化し、マイクロチップチャネルにおける移動時間で補正した。
【0053】
(表5)Pico2.0を用いたカプシドウイルスタンパク質比
【0054】
(表6)Pico2.0についての正規化及び補正したタンパク質比
【0055】
これらのタンパク質比をVP1に対して正規化した。Pico2.0を用いた最適化は、シグナル強度及びデータ再現性の改善を提供し、より低い濃度を有する試料に好適である。
【国際調査報告】