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特表2023-543213硫化鉛ナノ結晶、その調製方法およびその使用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-10-13
(54)【発明の名称】硫化鉛ナノ結晶、その調製方法およびその使用
(51)【国際特許分類】
   C01G 21/21 20060101AFI20231005BHJP
   B82Y 20/00 20110101ALI20231005BHJP
   B82Y 40/00 20110101ALI20231005BHJP
【FI】
C01G21/21
B82Y20/00
B82Y40/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023518742
(86)(22)【出願日】2021-09-24
(85)【翻訳文提出日】2023-05-22
(86)【国際出願番号】 GB2021052482
(87)【国際公開番号】W WO2022064205
(87)【国際公開日】2022-03-31
(31)【優先権主張番号】2015102.3
(32)【優先日】2020-09-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521438836
【氏名又は名称】クオンタム サイエンス リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 規雄
(74)【代理人】
【識別番号】100176094
【弁理士】
【氏名又は名称】箱田 満
(72)【発明者】
【氏名】パン,ハオ
(72)【発明者】
【氏名】ヴォ,コン-ズアン
(72)【発明者】
【氏名】リ,ジエ
(57)【要約】
本発明は、鉛カルコゲナイドナノ結晶を調製するための鉛(IV)含有化合物の使用、ならびに低費用で、サイズ制御可能であり、スケーラブルな方法で広帯域鉛カルコゲナイドナノ結晶を製造する方法であって、その方法が、鉛(IV)含有化合物を有機酸およびカルコゲン含有試薬と接触させるステップを含む、方法を提供する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉛カルコゲナイドナノ結晶を調製するための、出発物質としての鉛(IV)含有化合物の使用であって、前記鉛(IV)が、鉛化合物出発物質中に存在する全ての鉛の少なくとも50モル%を占める、使用。
【請求項2】
前記鉛(IV)含有化合物が、酸化鉛(IV)を含み、好ましくは酸化鉛(IV)からなる、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
前記鉛カルコゲナイドナノ結晶が、500~4500nmの範囲、好ましくは500~2400nmの範囲、好ましくは950~1600nmの範囲、好ましくは1350~1600nmの範囲の吸収を表す、請求項1または2に記載の使用。
【請求項4】
鉛カルコゲナイドナノ結晶を製造する方法であって、前記方法が、鉛(IV)含有化合物出発物質を有機酸およびカルコゲン含有試薬と接触させることを含み、酸化鉛(IV)の、存在する任意の酸化鉛(II)に対するモル比が、1超:1、好ましくは2超:1、好ましくは3超:1、好ましくは5超:1、好ましくは10超:1、好ましくは20超:1である、方法。
【請求項5】
前記鉛(IV)含有化合物が、酸化鉛(IV)を含むか、好ましくは酸化鉛(IV)からなる、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記出発物質中に鉛(II)含有化合物が実質的に含まれない、請求項4または5に記載の方法。
【請求項7】
前記鉛(IV)含有化合物を前記有機酸と接触させて鉛塩を生成し、前記鉛塩を前記カルコゲン含有試薬と接触させる、請求項4から6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
溶媒の存在下で実施され、好ましくは、前記溶媒が、オクタデセンなどの無極性溶媒、またはDMF、NMP、DMAc、THF、アセトンなどの極性溶媒を含む、請求項4から7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
第1の溶媒中の前記鉛(IV)含有化合物および有機酸の第1の溶液を形成すること、
第2の溶媒中の前記カルコゲン含有試薬の第2の溶液を形成すること、
120~250℃の範囲の第1の温度まで前記第1の溶液を加熱し、前記第1の溶液を前記第1の温度で所定の時間維持すること、
20~100℃の範囲の低減された温度まで前記第1の溶液の温度を下げること、
前記低減された温度で前記第2の溶液を前記第1の溶液に添加して反応混合物を生成すること、
前記反応混合物を20~300℃の温度で所定の時間維持すること
を含む、請求項4から8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
第1の溶媒中の前記鉛(IV)含有化合物および有機酸の第1の溶液を形成すること、
120~250℃の範囲の第1の温度まで前記第1の溶液を加熱し、前記第1の溶液を前記第1の温度で所定の時間維持すること、
前記第1の溶液を50~150℃の範囲の、第2の温度で提供すること、
前記第2の温度で前記カルコゲン含有試薬を前記第1の溶液に添加して反応混合物を生成すること、
前記反応混合物を50~300℃の温度で所定の時間維持すること
を含む、請求項4から8のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
例えば、クエンチ溶媒を前記反応混合物に添加することによって、前記反応混合物をクエンチすることをさらに含む、請求項9または10に記載の方法。
【請求項12】
鉛カルコゲナイドナノ粒子を精製することをさらに含む、請求項9から11のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
前記有機酸が、脂肪酸、好ましくはオレイン酸である、請求項4から12のいずれかに記載の方法。
【請求項14】
前記カルコゲン含有試薬が、酸素含有試薬、イオウ含有試薬、セレン含有試薬、およびテルル含有試薬、およびその混合物から選択される、請求項4から13のいずれかに記載の方法。
【請求項15】
前記カルコゲン含有試薬が、ビス(トリメチルシリル)スルフィドを含む、請求項9に記載の方法。
【請求項16】
前記カルコゲン含有試薬が、チオアセトアミドを含む、請求項10に記載の方法。
【請求項17】
前記鉛塩を、20~100℃、好ましくは30~60℃の温度で前記カルコゲン含有試薬と接触させる、請求項7または8に記載の方法。
【請求項18】
前記鉛塩を、50~300℃、好ましくは50~150℃の温度で前記カルコゲン含有試薬と接触させる、請求項7または8に記載の方法。
【請求項19】
調製されるナノ結晶のサイズを制御するように反応条件を変更するステップを含む、請求項4から18のいずれかに記載の方法。
【請求項20】
変更される前記反応条件が、以下のうちの1つまたは複数、
(i)溶媒の種類
(ii)溶媒の量
(iii)有機酸の種類
(iv)有機酸の量
(v)反応物(特にカルコゲン含有試薬)の添加モード
(vi)反応温度
(vii)Pbのカルコゲン含有試薬に対する比、および
(viii)第2の溶媒の添加
を含む、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
ナノ結晶の生成の進展をモニターするように、光学的性質をモニターすることを含む、請求項4から20のいずれかに記載の方法。
【請求項22】
前記光学的性質が、UV-可視-近赤外吸収スペクトルである、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
ナノ結晶が、量子ドットを含む、請求項1から22のいずれか一項に記載の、使用または方法。
【請求項24】
請求項4から22のいずれかに記載の方法で得られる、1種または複数の(好ましくは複数の)鉛カルコゲナイドナノ結晶。
【請求項25】
請求項4から22のいずれかに記載の方法で得られる鉛カルコゲナイドナノ結晶組成物。
【請求項26】
5nmよりも大きい、好ましくは6~25nmの範囲、好ましくは7~20nmの範囲、好ましくは8~15nmの範囲の平均粒径、および25%未満、好ましくは15%未満、好ましくは10%未満の相対的サイズ分散度を有するナノ結晶を含む、鉛カルコゲナイドナノ結晶組成物。
【請求項27】
約500~4500nmの範囲、好ましくは、好適には500~2400nmの範囲、好ましくは、好適には950~1600nmの範囲、好ましくは1350~1600nmの範囲の吸収、好ましくは、1300nmを超える、好ましくは1350~2500nmの範囲、好ましくは1400~1750nmの範囲、好ましくは1450~1600nmの範囲の最大吸収波長(λmax)を表す、請求項26に記載の鉛カルコゲナイドナノ結晶組成物。
【請求項28】
600~4500nmの範囲、好ましくは600~2500nmの範囲、好ましくは950~1600nmの範囲、好ましくは1350~1600nmの範囲の発光を表す、請求項26または27に記載の鉛カルコゲナイドナノ結晶組成物。
【請求項29】
150nm未満、好ましくは130nm未満、好ましくは115nm未満、好ましくは105nm未満の発光半値幅(FWHM)値を表し、好ましくは、前記FWHM範囲が、75~150nmの範囲、好ましくは80~130nmの範囲、好ましくは85~110nmの範囲、好ましくは90~105nmの範囲である、請求項26から28のいずれかに記載の鉛カルコゲナイドナノ結晶組成物。
【請求項30】
10%よりも大きい、好ましくは20%よりも大きい、好ましくは40%よりも大きい、好ましくは50%よりも大きい量子収率(QY)を表す、請求項26から29のいずれかに記載の鉛カルコゲナイドナノ結晶組成物。
【請求項31】
鉛カルコゲナイドナノ結晶を、0.001重量%よりも多く、好ましくは0.01重量%よりも多く、好ましくは0.1重量%よりも多く、好ましくは1重量%よりも多く、好ましくは5重量%よりも多く含む、請求項26から30のいずれかに記載の鉛カルコゲナイドナノ結晶組成物。
【請求項32】
最大吸収波長500~1000nmを有し、吸収FWHM115nm未満を有する、請求項26から31のいずれかに記載の鉛カルコゲナイドナノ結晶組成物。
【請求項33】
前記ナノ結晶が1.2:1~4:1の範囲、好ましくは1.6:1~3:1の範囲の、鉛原子のカルコゲン原子に対するモル比を有する、請求項26から32のいずれかに記載の鉛カルコゲナイドナノ結晶組成物。
【請求項34】
前記鉛カルコゲナイドナノ結晶が、PbS、PbSe、PbTe、またはその混合物、好ましくはPbSを含む、請求項26から33のいずれかに記載の鉛カルコゲナイドナノ結晶組成物。
【請求項35】
前記ナノ結晶が、実質的な立方構造をとる、請求項34に記載のPbSナノ結晶組成物。
【請求項36】
請求項4から22のいずれかに記載の方法によって得ることができる、請求項26から35のいずれかに記載の鉛カルコゲナイドナノ結晶組成物。
【請求項37】
請求項25から36のいずれかに記載の鉛カルコゲナイドナノ結晶組成物を含む、IRセンサー、光検出器、センサー、太陽電池、バイオイメージングまたはバイオセンシングの組成物、太陽光発電システム、ディスプレイ、電池、レーザー、光触媒、分光計、注入可能な組成物、電界効果トランジスタ、光発光ダイオード、フォトニックスイッチングデバイスまたは光スイッチングデバイスまたはメタマテリアル、ファイバー増幅器、光学利得媒質、光ファイバー、赤外LED、レーザー、および電界発光素子からなる群から選択されるデバイス。
【請求項38】
前記IRセンサーまたは前記光検出器が、携帯および家庭用品、自動車、医療、産業、防衛、または航空宇宙産業の用途における、3Dカメラおよび3Dタイム・オブ・フライトカメラの用途のために変更される、請求項37に記載のデバイス。
【請求項39】
前記バイオイメージングまたはバイオセンシングの組成物が、in vitro用途またはex vivo用途における、バイオラベルまたはバイオタグとして使用するために変更される、請求項37に記載のデバイス。
【請求項40】
前記赤外LEDおよび前記電界発光素子が、電気通信デバイス、暗視装置、太陽エネルギー変換、熱電用途、またはエネルギー発生用途において使用するために変更される、請求項37に記載のデバイス。
【請求項41】
請求項25から36のいずれかに記載の鉛カルコゲナイドナノ結晶組成物を含む薄膜。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般に鉛カルコゲナイドナノ結晶に関連する。特に、本発明は、鉛(IV)含有化合物を使用して鉛カルコゲナイドナノ結晶を製造する方法に関連する。本発明はまた、その方法によって得られる鉛カルコゲナイドナノ結晶および鉛カルコゲナイドナノ結晶の使用にまでも及ぶ。
【背景技術】
【0002】
ナノ結晶は、例えば、その光学的性質を精巧に調整して所望の性質をもたらすことが可能である故に、多様な用途で有用である。ナノ結晶の光学的性質(例えば、光吸収特性および発光特性)は、そのサイズを制御することによって精巧に調整することができる。最大のナノ結晶は、最長の波長(および最も低い周波数)を生じるが、最小のナノ結晶は、より短い波長(およびより高い周波数)を生じる。ナノ結晶のサイズは、それらが製造される方法によって制御することができる。そのサイズを制御することによって、ナノ結晶の光学的性質を精巧に調整するこの能力により、ナノ結晶は、例えば、光検出器、センサー、太陽電池、バイオイメージングおよびバイオセンシング、太陽光発電、ディスプレイ、照明、セキュリティーおよび偽造、電池、有線高速通信、量子ドット(QD)レーザー、光触媒、分光計、注入可能な組成物、電界効果トランジスタ、光発光ダイオード、レーザー、フォトニックスイッチングデバイスまたは光スイッチングデバイス、水素製造、ならびにメタマテリアルなどの、広範囲の用途における使用に好適なものとなる。
【0003】
鉛ナノ結晶は、それを製造する様々な方法がある通り、既知である。例えば、Hines et al., Adv. Mater. 2003, 15, No. 21, 1844-1849では、近赤外(例えば、800~1800nm)全域にわたって調整可能なバンドギャップを有する硫化鉛ナノ結晶を調製する方法が開示されている。硫化鉛ナノ結晶は、酸化鉛(II)(PbO)をオレイン酸と反応させてオレイン酸鉛を形成し、次いでビス(トリメチルシリル)スルフィドと反応させることによって調製することができる。しかし、Hines等において記載された反応は、大規模で制御することが難しいことが分かった。したがって、Hines等において開示された方法は、鉛ナノ結晶の大規模生産に不適切である。
【0004】
Cademartiri et al., J. Phys.Chem. B., vol. 110, no. 2, 2006, 671-673では、塩化鉛(PbCl)をオレイルアミンおよび元素イオウと反応させる、硫化鉛ナノ結晶を調製する方法が開示されている。この方法で得られたナノ結晶は、精製することが難しく、1245~1625nmの限定されたピーク吸収を明示した。硫化鉛ナノ結晶で残った残留塩化鉛は、典型的には長い時間をかけて沈殿し、塩化鉛から高度に純粋な硫化鉛ナノ結晶を製造することを難しくする。したがって、Cademartiri等において開示された方法は、純粋、かつ極めて単分散の硫化鉛ナノ結晶を大規模で製造するのに不適切である。
【0005】
Hendricks et al., Science, 2015, 348, 1226-1230では、オレイン酸鉛を反応性二置換チオ尿素と反応させる、硫化鉛ナノ結晶を調製する方法が開示されている。この方法で調製された硫化鉛ナノ結晶は、850~1800nmの吸収ピークを表した。この方法は、ナノ結晶のサイズ(および吸収)をチオ尿素反応物の側鎖を変えることによって制御するので、大規模で実施するには複雑である。
【0006】
Liu et al, "Reduction of lead dioxide with oxalic acid to prepare lead oxide as the positive material for lead batteries", RAS Adv., 2016, 6, 108513-108522では、鉛電池用の陽極材料として酸化鉛(II)を調製するための、鉛(IV)の還元が開示される。
【0007】
したがって、鉛カルコゲナイドナノ結晶を製造する、いくつかの方法が知られているが、これらの方法は、結晶サイズを容易に制御し、故にナノ結晶の光学的性質を精密に調整することが不可能である。既知の方法では、典型的には、広い吸収範囲を表すナノ結晶を提供することもできない。さらに、既知の方法は、大きな(例えば、商業的に有用な)規模で鉛カルコゲナイドナノ結晶を調製するには不適切である。
【発明の開示】
【0008】
したがって、大きな(例えば、商業的に有用な)規模で使用することができ、および/またはナノ結晶の光学的性質の精密な調整を可能にするように、調製されるナノ結晶のサイズを容易に制御することが可能である、鉛カルコゲナイドナノ結晶を調製する、別の方法を見い出すことが望ましい。また、広い吸収範囲を表す鉛カルコゲナイドナノ結晶をもたらす方法を提供することも望ましい。こうした方法は、広範な用途における使用に好適である鉛カルコゲナイドナノ結晶を提供することになると考えられる。
【0009】
(概要)
本発明の第1の側面によれば、鉛カルコゲナイドナノ結晶または鉛カルコゲナイドナノ結晶組成物を調製するための、出発物質としての鉛(IV)含有化合物の使用であって、鉛(IV)が、鉛化合物出発物質中に存在する全ての鉛の、少なくとも50モル%、好ましくは75モル%よりも多く、好ましくは90モル%よりも多く、好ましくは95モル%よりも多くを占める、使用が提供される。好ましくは、出発物質中に酸化鉛(II)は含まれない。好ましくは、出発物質中に鉛(II)化合物は含まれない。
【0010】
本発明の第2の側面によれば、鉛カルコゲナイドナノ結晶または鉛カルコゲナイドナノ結晶組成物を調製するための、出発物質としての酸化鉛(IV)の使用であって、酸化鉛(IV)の、存在する任意の酸化鉛(II)に対するモル比が、1超:1、好ましくは2超:1、好ましくは3超:1、好ましくは5超:1、好ましくは10超:1、好ましくは20超:1である、使用が提供される。好ましくは、出発物質中に酸化鉛(II)は含まれない。好ましくは、出発物質中に鉛(II)含有化合物は含まれない。
【0011】
本発明の第3の側面によれば、鉛カルコゲナイドナノ結晶または鉛カルコゲナイドナノ結晶組成物を調製する方法であって、その方法が、鉛(IV)含有化合物出発物質を有機酸およびカルコゲン含有試薬と接触させることを含み、鉛(IV)含有化合物の、存在する任意の鉛(II)含有化合物に対するモル比が、1超:1、好ましくは2超:1、好ましくは3超:1、好ましくは5超:1、好ましくは10超:1、好ましくは20超:1である、方法が提供される。好ましくは、出発物質中に酸化鉛(II)は含まれない。好ましくは、出発物質中に鉛(II)含有化合物は含まれない。
【0012】
本発明の第4の側面によれば、鉛カルコゲナイドナノ結晶または鉛カルコゲナイドナノ結晶組成物を調製する方法であって、その方法が、出発物質である酸化鉛(IV)を有機酸およびカルコゲン含有試薬と接触させることを含み、酸化鉛(IV)の、存在する酸化鉛(II)に対するモル比が、1超:1、好ましくは2超:1、好ましくは3超:1、好ましくは5超:1、好ましくは10超:1、好ましくは20超:1である、方法が提供される。好ましくは、出発物質中に酸化鉛(II)は含まれない。好ましくは、出発物質中に鉛(II)含有化合物は含まれない。
【0013】
本発明の第5の側面によれば、本発明の、第3の側面または第4の側面による方法によって得られる、鉛カルコゲナイドナノ結晶の組成物が提供される。
【0014】
本発明の第6の側面によれば、本発明の第5の側面によるナノ結晶の組成物を含む薄膜が提供される。
【0015】
本発明の第7の側面によれば、本発明の第5の側面による組成物を含む、システムまたは組成物、例えば、光検出器、センサー、太陽電池、バイオイメージングもしくはバイオセンシングの組成物、太陽光発電システム、ディスプレイ、電池、レーザー、光触媒、分光計、注入可能な組成物、電界効果トランジスタ、光発光ダイオード、フォトニックスイッチングデバイスもしくは光スイッチングデバイス、またはメタマテリアルが提供される。
【0016】
本発明の第8の側面によれば、鉛カルコゲナイドナノ結晶組成物であって、上記ナノ結晶が、5nmよりも大きい、好ましくは6~25nmの範囲、7~20nmの範囲、好ましくは8~15nmの範囲の平均粒径、および25%未満、好ましくは15%未満、好ましくは10%未満の相対的サイズ分散度を有する、鉛カルコゲナイドナノ結晶組成物が提供される。
【0017】
本発明の第8の側面によるナノ結晶組成物は、好ましくは、500~4500nmの範囲で、好ましくは、好適には500~2400nmの範囲で、好ましくは、好適には950~1600nmの範囲で、好ましくは1350~1600nmの範囲で吸収波長を表す。
【0018】
本発明の第8の側面によるナノ結晶組成物は、好ましくは、600~4500nmの範囲で、好ましくは、好適には600~2500nmの範囲で、好ましくは、好適には950~1600nmの範囲で、好ましくは、1350~1600nmの範囲で発光波長を表す。
【0019】
本発明の第8の側面によるナノ結晶組成物は、好ましくは、150nm未満、好ましくは130nm未満、好ましくは115nm未満、好ましくは105nm未満の吸収半値幅(FWHM)値を表す。好ましくは、FWHM範囲は、75~150nm、好ましくは80~130nm、好ましくは85~110nm、好ましくは90~105nmの範囲である。
【0020】
本発明の第8の側面によるナノ結晶組成物は、好ましくは、150nm未満、好ましくは130nm未満、好ましくは110nm未満、好ましくは105nm未満の発光半値幅(FWHM)値を表す。好ましくは、FWHM範囲は、75~150nm、好ましくは80~130nm、好ましくは85~110nm、好ましくは90~105nmの範囲である。
【0021】
本発明の第8の側面によるナノ結晶組成物は、好ましくは、10%よりも大きい、好ましくは20%よりも大きい、好ましくは40%よりも大きい、好ましくは50%よりも大きい、量子収率(QY)値を表す。
【0022】
本発明の第1の側面から第8の側面によれば、好ましくは、鉛カルコゲナイドナノ結晶または鉛カルコゲナイドナノ結晶組成物は、PbS、PbSe、PbTe、またはその混合物を含み、より好ましくはPbSまたはPbSeを含み、最も好ましくはPbSを含む。
【0023】
驚くべきことに、本発明の方法により、混合鉛(II、IV)出発物質(とりわけPb)を使用して製造されたものに対して、改善された電子特性を有するナノ結晶および組成物、例えば、その教示が参照によって本明細書に援用された、2020年3月25日に出願された同時係属出願PCT/EP20201058346において開示されたものを製造することができる。同等の吸収波長で、本発明のナノ結晶がより良好なP/V比(ピーク対谷)を表す故に、これは驚くべきことである。
【0024】
本発明の方法により、立方構造を主に表し、やはり高結晶化度を示すナノ結晶を製造することができたことも驚くべきことであった。これは、従来、鉛カルコゲナイドナノ結晶について認められず、改善されたp/v比に寄与する構造的特徴であり得る。
【0025】
(説明)
本発明の側面を説明するとき、使用される用語は、文脈上、別段の指示がない限り、以下の定義に従って解釈されるものである。
【0026】
本明細書および添付の特許請求の範囲において、単数形「a」、「an」、および「the」は、文脈上、明確な、別段の指示がない限り、単数の指示物および複数の指示物の両方を含める。例として、「ナノ結晶」は、1個のナノ結晶または2個以上のナノ結晶を意味する。例として、「鉛(IV)含有化合物」は、1個の鉛(IV)含有化合物または2個以上の鉛(IV)含有化合物を意味する。言語を構成することと併せて使用される数については、かかる数、またはかかる数よりも多いものを含む組成を含める。
【0027】
本明細書において、用語「含む(comprising)」、「含む(comprise)」、および「~から構成される(comprised of)」は、「含める(including)」、「含める(include)」、または「含有する(containing)」、「含有する(contain)」と同義であり、包括的、または非限定型であり、追加の、記載されていない部材、要素、または方法ステップを排除しない。用語「含む(comprising)」、「含む(comprise)」、および「~から構成される(comprised of)」はまた、用語「~からなる(consisting of)」も含める。
【0028】
本明細書において、用語「および/または」は、2つ以上の項目のリストにおいて使用される場合、列挙された項目のいずれか1つが、それ自体で用いることができるか、または列挙された項目の2つ以上の任意の組み合わせで用いることができることを意味する。例えば、リストが、群A、群B、および/または群Cを含むものとして記載されているならば、リストは、A単独で、B単独で、C単独で、AおよびBを組み合わせて、AおよびCを組み合わせて、BおよびCを組み合わせて、またはA、B、およびCを組み合わせて含むことができる。
【0029】
本明細書において、明らかに別段の指示がない限り、全ての数、例えば、値、範囲、パーセントの量を表すものは、用語が明確に表されない場合であっても、語句「約」で前置きされるものとして読むことができる。
【0030】
本明細書において、用語「約」は、測定可能な値、例えば、パラメーター、量、経時的な期間などを示す場合、値を決定するために用いられるデバイスまたは方法の誤差の標準偏差を含める値を示す。用語「約」は、特定の値の、および特定の値から+/-10%以下、+/-5%以下、または+/-0.1%以下の変動を、こうした変動が本開示において適切に実施される限り、包含することを意味する。修飾語句「約」が示す値はまた、それ自体詳細に開示されていると理解されたい。
【0031】
端点による数値範囲の記述は、全ての整数、および適宜、その範囲内に属する小数部を含める(例えば、1~5は、例えば要素の数を示す場合、1、2、3、4を含めることができ、例えば測定を示す場合、1.5、2、2.75、および3.80を含めることができる)。端点の記述もまた、端点値それ自体も含める(例えば、1.0~5.0は1.0と5.0との両方を含める)。本明細書に記述された任意の数値範囲は、そこに属する全ての部分的な範囲を含めると意図される。
【0032】
別段の指示がない限り、本開示で使用される、技術用語および科学用語を含める、全ての用語は、本開示が帰属する分野の一技術者によって一般に理解される意味を有する。さらなるガイダンスによって、記載に使用される用語の定義は、本開示の教示をより良好に認識するために含められる。本明細書で参照される、全ての文献は、参照によって本明細書に援用される。
【0033】
本明細書において、別段の指示がない限り、用語「組成物」は、非限定型または限定型であってもよい。例えば、「組成物」は、特定の材料、すなわちナノ結晶、およびさらに不特定の材料を含むか、または特定の材料で構成することができ、すなわち、不特定の材料を実質的に除外する。
【0034】
本発明の好適な特徴をここで明記する。
【0035】
使用
第1の側面によれば、本発明は、鉛カルコゲナイドナノ結晶または鉛カルコゲナイドナノ結晶の組成物を調製するための鉛(IV)含有化合物の使用を提供する。
【0036】
本明細書において、用語「鉛(IV)含有化合物」は、酸化状態+4の鉛を含める、任意の化合物を意味する。任意の好適な、こうした化合物を使用することができる。好適な鉛(IV)含有化合物は、好ましくは酸化鉛(IV)(すなわちPbO)である。好ましくは、出発物質における任意の鉛(II)含有化合物は、50重量%未満、好ましくは25重量%未満、好ましくは10重量%未満、好ましくは10重量%未満、好ましくは1重量%未満で存在する。
【0037】
好適には、鉛(IV)含有化合物は、酸化鉛(IV)からなるか、または本質的に酸化鉛(IV)からなる。
【0038】
酸化鉛(IV)が、大規模(例えば、商業用)工程で、すなわち、産業規模の製造工程で容易に使用することができる、高度に反応性の、かつ安価な材料であるが故に、酸化鉛(IV)の使用は有利である。また驚くべきことに、本発明のナノ結晶は、特許請求の範囲に記載の方法によって製作され得る。それは、主に、Pb(II)試薬または混合Pb(II、IV)試薬を使用する、他の反応とは異なるメカニズムによって作用することが分かる。
【0039】
量子ドット(QD)のサイズ依存形状、表面元素組成、および結晶面は、その化学反応性、エネルギーバンドレベル、および配位子配位化学(ligand coordination chemistry)を決定することにおいて重要な役割を果たす故に、特に重要なものである。それらは、CQD光電子デバイスの電気的性能を最終的に制御するコロイド状量子ドット(CQD)薄膜形成に影響を及ぼす。QDのサイズ、形状、および表面組成は、合成または合成後表面修飾によって制御され得る。好適な合成条件および前駆体の選択によって、コロイド状量子ドットの形状および表面を、光電子デバイス用の高品質の薄膜形成で要求されるように調整することができる。本発明において、Pb(IV)からのナノ粒子のモルフォロジーは、鉛(IV)前駆体/反応メカニズムの使用から得られると考えられるPb(II)試薬または混合Pb(II、IV)試薬とは異なることが明らかである。ナノ結晶の立方構造は、前例のない光学的特性/電気的特性を有することになると想定される。
【0040】
本明細書において、用語「カルコゲナイド(chalcogenide)」は、少なくとも1種のカルコゲンおよび少なくとも1種の陽性元素を含有する化合物を意味する。本明細書において、用語「カルコゲン」は、16族元素を意味する。例えば、「カルコゲナイド」は、酸化物、硫化物、セレン化物、テルル化物、またはポロニウム化物、および少なくとも1種の陽性元素またはカチオンを含有する化合物を含むことができる。「鉛カルコゲナイド」は、酸化物、硫化物、セレン化物、テルル化物、またはポロニウム化物、および少なくとも1種の鉛カチオンを含有する化合物である。
【0041】
本明細書において、用語「ナノ結晶」は、100ナノメートル(nm)未満と測定される、少なくとも1つの次元を有する結晶性粒子を意味する。
【0042】
鉛カルコゲナイドナノ結晶は、量子ドット(QD)を含むか、または量子ドット(QD)からなり得る。本明細書において、用語「量子ドット」によって、原子の性質を模倣することが可能な量子閉じ込め効果を表す半導体ナノ結晶が意味される。量子ドットは、ゼロ次元ナノ結晶としても既知であり得る。
【0043】
第2の側面によれば、本発明は、鉛カルコゲナイドナノ結晶を調製するための酸化鉛(IV)の使用を提供する。
【0044】
好適には、鉛(IV)含有化合物から調製される、鉛カルコゲナイドナノ結晶または鉛カルコゲナイドナノ結晶組成物は、可視範囲および近赤外範囲、好適には500~4500nmの範囲、好ましくは好適には500~2400nmの範囲、好ましくは好適には950~1600nmの範囲、好ましくは1350~1600nmの範囲の吸収を表す。好ましい一実施形態において、鉛(IV)含有化合物から調製された、鉛カルコゲナイドナノ結晶または鉛カルコゲナイドナノ結晶組成物は、1300nmを超える吸収を表す。
【0045】
好適には、鉛(IV)含有化合物から調製される、硫化鉛ナノ結晶または硫化鉛ナノ結晶組成物は、可視範囲および近赤外範囲、好適には500~2400nmの範囲、好ましくは好適には950~1600nmの範囲、好ましくは1350~1600nmの範囲の吸収を表す。
【0046】
好適には、鉛(IV)含有化合物から調製される、セレン化鉛ナノ結晶またはセレン化鉛ナノ結晶組成物は、可視範囲および近赤外範囲、好適には800~4500nmの範囲、好ましくは好適には950~1600nmの範囲、好ましくは1350~1600nmの範囲の吸収を表す。
【0047】
好適には、鉛(IV)含有化合物から調製される、テルル化鉛ナノ結晶またはテルル化鉛ナノ結晶組成物は、可視範囲および近赤外範囲、好適には500~2400nmの範囲、好ましくは好適には950~1600nmの範囲、好ましくは1350~1600nmの範囲の吸収を表す。
【0048】
好適には、鉛(IV)含有化合物から調製される、鉛カルコゲナイドナノ結晶または鉛カルコゲナイドナノ結晶組成物は、可視範囲および近赤外範囲、好適には600~4500nmの範囲、好ましくは好適には600~2500nmの範囲、好ましくは好適には950~1600nmの範囲、好ましくは1350~1600nmの範囲の発光を表す。
【0049】
好ましくは、鉛(IV)含有化合物から調製された、硫化鉛ナノ結晶または硫化鉛ナノ結晶組成物は、1300nmを超える、好ましくは1350~2500nmの範囲、好ましくは1400~1750nmの範囲、好ましくは1450~1600nmの範囲の最大吸収波長(λmax)の吸収を表す。
【0050】
好適には、鉛(IV)含有化合物から調製される、硫化鉛ナノ結晶または硫化鉛ナノ結晶組成物は、可視範囲および近赤外範囲、好適には600~2500nmの範囲、好ましくは好適には950~1600nmの範囲、好ましくは1350~1600nmの範囲の発光を表す。
【0051】
好適には、鉛(IV)含有化合物から調製される、セレン化鉛ナノ結晶またはセレン化鉛ナノ結晶組成物は、可視範囲および近赤外範囲、好適には900~4500nmの範囲、好ましくは好適には950~1600nmの範囲、好ましくは1350~1600nmの範囲の発光を表す。
【0052】
好適には、鉛(IV)含有化合物から調製される、テルル化鉛ナノ結晶またはテルル化鉛ナノ結晶組成物は、可視範囲および近赤外範囲、好適には600~2500nmの範囲、好ましくは好適には950~1600nmの範囲、好ましくは1350~1600nmの範囲の発光を表す。
【0053】
方法
第3の側面によれば、本発明は、鉛カルコゲナイドナノ結晶または鉛カルコゲナイドナノ結晶組成物を調製する方法であって、その方法が、鉛(IV)含有化合物を有機酸およびカルコゲン含有試薬と接触させることを含み、鉛(IV)化合物の、存在する任意の鉛(II)含有化合物に対するモル比が、1超:1、好ましくは2超:1、好ましくは3超:1、好ましくは5超:1、好ましくは10超:1、好ましくは20超:1である、方法を提供する。好ましくは、出発物質中に酸化鉛(II)は含まれない。好ましくは、出発物質中に鉛(II)含有化合物は含まれない。
【0054】
本発明の第4の側面は、鉛カルコゲナイドナノ結晶または鉛カルコゲナイドナノ結晶組成物を調製する方法であって、その方法が、酸化鉛(IV)を有機酸およびカルコゲン含有試薬と接触させることを含み、酸化鉛(IV)の、存在する任意の酸化鉛(II)に対するモル比が、1超:1、好ましくは2超:1、好ましくは3超:1、好ましくは5超:1、好ましくは10超:1、好ましくは20超:1である、方法を提供する。好ましくは、出発物質中に酸化鉛(II)は含まれない。好ましくは、出発物質中に鉛(II)含有化合物は含まれない。
【0055】
方法では、好適には、複数の鉛カルコゲナイドナノ結晶、すなわち、ナノ結晶組成物が調製される。本発明の方法によって調製される鉛カルコゲナイドナノ結晶は、量子ドット(すなわち、結晶性量子ドット)を含むことができる。
【0056】
本発明の方法の様々な側面、例えば、特定の試薬および/または反応条件は、所望の光学的性質、例えば、所望の吸収および発光(例えば、ナノ結晶の特定の使用のため)を実現するように、所望のサイズの鉛カルコゲナイドナノ結晶を提供するために変えることができる。
【0057】
例えば、方法において使用される試薬(特に、カルコゲン含有試薬)は、所望の光学的性質、例えば、所望の吸収および発光(例えば、ナノ結晶の特定の使用のため)を実現するように、所望のサイズの鉛カルコゲナイドナノ結晶を提供するために変えることができる。
【0058】
例えば、方法の反応条件は、所望の光学的性質、例えば、所望の吸収および発光(例えば、ナノ結晶の特定の使用のため)を実現するように、所望のサイズの鉛カルコゲナイドナノ結晶を提供するために変えることができる。
【0059】
言い換えれば、本発明の使用および方法を用いて、サイズ調整可能な光学的性質を有する鉛カルコゲナイドナノ結晶を調製することができる。変えてもよい、試薬および/または反応条件の例は、本明細書で詳述される。
【0060】
本発明の方法は、調製されるナノ結晶のサイズを制御するように、すなわち、所望の光学的性質を有するナノ結晶を調製するように、特定の試薬を選択するステップを含むことができる。例えば、調製されるナノ結晶のサイズを制御するために選択することができる試薬は、特定のカルコゲン含有試薬であってもよい。
【0061】
本発明の方法は、調製されるナノ結晶のサイズを制御するように、すなわち、所望の光学的性質を有するナノ結晶を調製するように反応条件を変更するステップを含むことができる。例えば、調製されるナノ結晶のサイズを制御するために変更してもよい反応条件は、以下の1つまたは複数、
(i)溶媒の種類
(ii)溶媒の量
(iii)有機酸の種類
(iv)有機酸の量
(v)反応物(特にカルコゲン含有試薬)の添加モード
(vi)反応温度
(vii)Pbのカルコゲン含有試薬に対する比、および
(viii)第2の溶媒の添加
を含む。
【0062】
調製されるナノ結晶のサイズを制御するために反応条件を変更することによって、光学的性質(吸収および発光)は、変更され、所望の性質に精巧に調整され得る。これにより、ナノ結晶の、サイズならびに光学的性質(吸収および発光)を精巧に調整する方法がもたらされる。
【0063】
好適には、本発明の方法は、可視範囲および近赤外範囲、例えば、約500~4500nmの範囲、好ましくは、好適には500~2400nmの範囲、好ましくは、好適には950~1600nmの範囲、好ましくは、1350~1600nmの範囲の吸収を表す、鉛カルコゲナイドナノ結晶およびその組成物を提供する。表される特定の吸収は、本明細書で詳述されたように、使用される特定の試薬および/または反応条件を変えることによって選択することができる。好適には、鉛(IV)含有化合物から調製される硫化鉛ナノ結晶は、可視範囲および近赤外範囲、好適には500~2400nmの範囲、好ましくは、好適には950~1600nmの範囲、好ましくは、1350~1600nmの範囲の吸収を表す。好適には、鉛(IV)含有化合物から調製されるセレン化鉛ナノ結晶は、可視範囲および近赤外範囲、好適には800~4500nmの範囲、好ましくは、好適には950~1600nmの範囲、好ましくは、1350~1600nmの範囲の吸収を表す。好適には、鉛(IV)含有化合物から調製されるテルル化鉛ナノ結晶は、可視範囲および近赤外範囲、好適には500~2400nmの範囲、好ましくは、好適には950~1600nmの範囲、好ましくは、1350~1600nmの範囲の吸収を表す。
【0064】
好適には、本発明の方法は、可視範囲および近赤外範囲、例えば、約600~4500nmの範囲、好ましくは、好適には600~2500nmの範囲、好ましくは、好適には950~1600nmの範囲、好ましくは、1350~1600nmの範囲の発光を表す、鉛カルコゲナイドナノ結晶およびその組成物を提供する。表される特定の発光は、本明細書で詳述されたように、使用される特定の試薬および/または反応条件を変えることによって選択することができる。好適には、鉛(IV)含有化合物から調製される硫化鉛ナノ結晶は、可視範囲および近赤外範囲、好適には600~2500nmの範囲、好ましくは、好適には950~1600nmの範囲、好ましくは、1350~1600nmの範囲の発光を表す。好適には、鉛(IV)含有化合物から調製されるセレン化鉛ナノ結晶は、可視範囲および近赤外範囲、好適には900~4500nmの範囲、好ましくは、好適には950~1600nmの範囲、好ましくは、1350~1600nmの範囲の発光を表す。好適には、鉛(IV)含有化合物から調製されるテルル化鉛ナノ結晶は、可視範囲および近赤外範囲、好適には600~2500nmの範囲、好ましくは、好適には950~1600nmの範囲、好ましくは、1350~1600nmの範囲の発光を表す。
【0065】
好適には、上記で詳述された使用に関して、任意の好適な鉛(IV)含有化合物を本発明の方法において使用することができる。好適には、鉛(IV)含有化合物は、酸化鉛(IV)からなるか、または本質的に酸化鉛(IV)からなる。
【0066】
本明細書において、用語「有機酸」は、酸性の性質を有する有機化合物を意味する。本明細書において、用語「有機化合物」は、1個または複数の炭素原子が、他の元素、最も一般的には、水素、酸素、および/または窒素の原子に共有結合した、化合物を意味する。
【0067】
任意の好適な有機酸を、本発明の方法において使用することができる。好適には、有機酸は、カルボン酸、例えば、脂肪酸(例えば、飽和または不飽和の脂肪酸、好適には不飽和脂肪酸)を含む。好適なカルボン酸の例には、C4~C28脂肪酸、例えば、C12~C22脂肪酸が挙げられる。好適には、有機酸はオレイン酸を含むことができる。
【0068】
好適には、有機酸は、脂肪酸、好ましくはオレイン酸を含む。
【0069】
本明細書において、用語「カルコゲン含有試薬」は、少なくとも1種のカルコゲン、すなわち、少なくとも1種の16族元素またはそのアニオンを含む試薬を意味する。任意の好適なカルコゲン含有試薬を本明細書の方法において使用することができる。例えば、カルコゲン含有試薬は、酸素含有試薬、イオウ含有試薬、セレン含有試薬、およびテルル含有試薬(例えば、イオウ含有試薬、セレン含有試薬、およびテルル含有試薬、特に、イオウ含有試薬またはセレン含有試薬)、ならびにその混合物から選択することができる。
【0070】
好適には、カルコゲン含有試薬は、カルコゲン含有化合物または元素カルコゲン、およびその混合物を含むことができる。例えば、カルコゲン含有試薬は、カルコゲン含有化合物を含むことができる。例えば、カルコゲン含有試薬は元素カルコゲンを含むことができる。
【0071】
好適なカルコゲン含有化合物は、酸素、イオウ、セレン、もしくはテルルの原子、またはその組み合わせ、および少なくとも1種の好適な、別の元素の原子を含むことができる。より好適には、カルコゲン含有化合物は、イオウ、セレン、もしくはテルルの原子、またはその組み合わせ(好ましくは、イオウもしくはセレンの原子)、および少なくとも1種の好適な、別の元素の原子を含むことができる。
【0072】
好適には、カルコゲン含有化合物は、酸素、イオウ、セレン、もしくはテルルのアニオン、またはその組み合わせ、および少なくとも1種の好適なカチオンを含むイオン化合物を含むことができる。より好適には、カルコゲン含有イオン化合物は、イオウ、セレン、もしくはテルルのアニオン、またはその組み合わせ(好ましくは、イオウもしくはセレンのアニオン)、および少なくとも1種の好適なカチオンを含むことができる。
【0073】
好適な酸素含有試薬の例には、酸素ガスが挙げられる。
【0074】
好適なイオウ含有試薬の例には、ビス(トリアルキルシリル)スルフィド化合物(例えば、ビス(トリメチルシリル)スルフィド、ビス(トリエチルシリル)スルフィド、およびビス(トリプロピルシリル)スルフィド、特に、ビス(トリメチルシリル)スルフィド)、チオアセトアミド、トリ-n-オクチルホスフィンスルフィド、トリブチルホスフィンスルフィド、(アルキル置換、フェニル)チオ尿素化合物(例えば、N,N’-二置換チオ尿素およびN,N,N’-三置換チオ尿素)、アルキル置換チオアミド化合物、および元素イオウが挙げられる。
【0075】
チオアセトアミドは、低毒性を有する、安価な試薬であり、大規模使用に特に好適なものにする。
【0076】
好適なセレン含有化合物の例には、ビス(トリメチルシリル)セレニド、トリ-n-オクチルホスフィンセレニド(TOPSe)、およびトリブチルホスフィンセレニドが挙げられる。
【0077】
ある種のホスフィン含有試薬は、TOPSeよりも、より高い反応性Se前駆体を形成し得るので、これらを使用することも好ましい。これらの前駆体は、核生成、成長を促進することにおいて、かつQDのサイズ分布を制御するために重要であり、穏やかな反応条件を可能にする、高いPbSe過飽和を維持することにおいて重要な役割を果たす。好ましいホスフィン含有試薬の例には、ジフェニルホスフィンセレニド(DPP)、ジ-オルト-トリルホスフィンセレニド(DOTP)、およびジフェニルホスフィンオキシドセレニド(DPPO)が挙げられる。
【0078】
好適なテルル含有化合物の例には、トリ-n-オクチルホスフィンテルリドが挙げられる。
【0079】
本発明の、以下の例、方法、使用、および側面の全てにおいて、鉛(IV)化合物または酸化鉛(IV)は、好ましくは、鉛化合物出発物質中に存在する全ての鉛の、少なくとも50モル%、好ましくは75モル%よりも多く、好ましくは90モル%よりも多く、好ましくは95モル%よりも多くを占める。
【0080】
例えば、本発明の方法は、酸化鉛(IV)出発物質を脂肪酸およびカルコゲン含有試薬と接触させることを含むことができる。好ましくは、出発物質中に鉛(II)含有化合物は含まれない。
【0081】
例えば、本発明の方法は、酸化鉛(IV)出発物質をオレイン酸およびカルコゲン含有試薬と接触させることを含むことができる。好ましくは、出発物質中に鉛(II)含有化合物は含まれない。
【0082】
例えば、本発明の方法は、酸化鉛(IV)出発物質を脂肪酸およびカルコゲン含有化合物と接触させることを含むことができる。好ましくは、出発物質中に鉛(II)含有化合物は含まれない。
【0083】
例えば、本発明の方法は、出発物質の酸化鉛(IV)をオレイン酸およびカルコゲン含有化合物と接触させることを含むことができる。好ましくは、出発物質中に鉛(II)含有化合物は含まれない。
【0084】
例えば、本発明の方法は、出発物質の酸化鉛(IV)を、脂肪酸および酸素含有、イオウ含有、セレン含有、またはテルル含有(例えば、イオウ含有、セレン含有、もしくはテルル含有、特にイオウ含有、もしくはセレン含有)の試薬と接触させることを含むことができる。好ましくは、出発物質中に鉛(II)含有化合物は含まれない。
【0085】
例えば、本発明の方法は、出発物質の酸化鉛(IV)を、オレイン酸および酸素含有、イオウ含有、セレン含有、またはテルル含有(例えば、イオウ含有、セレン含有、もしくはテルル含有、特にイオウ含有、もしくはセレン含有)の試薬と接触させることを含むことができる。好ましくは、出発物質中に鉛(II)含有化合物は含まれない。
【0086】
例えば、本発明の方法は、出発物質の酸化鉛(IV)を、脂肪酸および酸素含有、イオウ含有、セレン含有、またはテルル含有(例えば、イオウ含有、セレン含有、もしくはテルル含有、特にイオウ含有、もしくはセレン含有)の化合物と接触させることを含むことができる。好ましくは、出発物質中に鉛(II)含有化合物は含まれない。
【0087】
例えば、本発明の方法は、出発物質の酸化鉛(IV)を、オレイン酸および酸素含有、イオウ含有、セレン含有、またはテルル含有(例えば、イオウ含有、セレン含有、もしくはテルル含有、特にイオウ含有、もしくはセレン含有)の化合物と接触させることを含むことができる。好ましくは、出発物質中に鉛(II)含有化合物は含まれない。
【0088】
出発物質の鉛(IV)含有化合物を有機酸およびカルコゲン含有試薬と接触させることは、それらが反応することを可能にするように、すなわち、鉛カルコゲナイドナノ結晶および/またはその組成物を調製することを可能にするように、これらの試薬を一つにまとめることを示す。好ましくは、出発物質中に鉛(II)含有化合物は含まれない。
【0089】
好適には、出発物質の鉛(IV)含有化合物を有機酸と接触させて鉛塩を生成し、鉛塩をカルコゲン含有試薬と接触させる。言い換えれば、鉛(IV)含有化合物を有機酸と接触させて、かつ反応させて鉛塩を形成する。こうして形成された鉛塩は、カルコゲン含有試薬と反応して鉛カルコゲナイドナノ結晶および/またはその組成物を形成する。鉛塩は、カルコゲン含有試薬と反応する前に単離することができるが、典型的にはそうすることは不必要である。鉛塩を単離せずに方法を実施することは、方法の容易な規模拡大を可能にするワンポット合成として方法を実施する利点をもたらす。
【0090】
前述された鉛塩の形成は、任意の好適な方法で、例えば、視覚的に、鉛塩が形成されるときの色の変化によってモニターすることができる。
【0091】
鉛(IV)含有化合物、有機酸、およびカルコゲン含有試薬は、任意の好適な方法で、典型的には、好適な反応容器で混合することによって、接触させる(または反応させる)ことができる。
【0092】
典型的には、鉛(IV)含有化合物は、有機酸と反応して鉛塩を形成し、次いで、鉛塩が、カルコゲン含有試薬と反応して鉛カルコゲナイドナノ結晶および/またはその組成物を形成すると考えられる。
【0093】
典型的には、鉛(IV)含有化合物を、モル過剰の有機酸と接触させることができる。例えば、鉛原子(鉛(IV)含有化合物中)の有機酸に対するモル比は、1:1.5~1:200、例えば、1:1.5~1:60の範囲であってもよい。鉛原子(鉛(IV)含有化合物中)の有機酸に対するモル比は、所望のナノ結晶サイズおよび所望の吸収を実現するように選択することができると考えられる。典型的には、使用される有機酸の量がより多くなるほど、より大きなナノ結晶が形成される。
【0094】
典型的には、鉛塩は、鉛原子がカルコゲン原子に対してモル過剰であるような量で、カルコゲン含有試薬と接触させることができる。例えば、鉛原子のカルコゲン原子に対するモル比は、0.9:1~50:1、例えば、1.5:1~30:1、例えば、1.5:1~25:1の範囲であってもよい。鉛原子(鉛塩中)のカルコゲン原子(カルコゲン含有試薬中)に対するモル比は、広範囲のサイズにわたって、極めて単分散のナノ結晶、それ故により広い範囲にわたって所望の狭い吸収ピークを実現するように選択することができると考えられる。典型的には、使用される鉛原子の量がより多いほど、より広い吸収範囲にわたって、極めて単分散のナノ結晶が形成される。
【0095】
典型的には、反応(すなわち、鉛塩の形成)が実質的に完了し、溶媒中の鉛塩の溶液が生成されるまで、鉛(IV)含有化合物および有機酸を好適な溶媒中で混合する。次いで、カルコゲン含有試薬を鉛塩の溶液に添加することができ、反応して鉛カルコゲナイドナノ結晶および/またはその組成物を形成することが可能になる。カルコゲン含有試薬は、溶媒を含む状態、または溶媒を含まない状態で添加してもよい。
【0096】
鉛塩およびカルコゲン含有試薬は、任意の好適な手法で接触させることができる。好適には、鉛塩およびカルコゲン含有試薬は、例えば、好適な溶媒の存在下で共に混合することができる。好適な溶媒中のカルコゲン含有試薬の溶液を、例えば、好適な溶媒中の鉛塩の溶液(好ましくは同じ溶媒)に添加してもよい。あるいは、カルコゲン含有試薬を、例えば、好適な溶媒中の鉛塩の溶液に直接添加してもよい。カルコゲン含有試薬の添加は、1つのステップまたは多数のステップで実施することができる。例えば、カルコゲン含有試薬を、2つ以上の部分で、例えば、2つの部分で鉛塩に添加することができる。カルコゲン含有試薬の添加モードを使用して、製造されるナノ結晶のサイズを変化させることができ、故にナノ結晶の光学的性質を精巧に調整することができると考えられる。典型的には、多数のステップでのカルコゲン含有試薬の添加により、(すなわち、単一のステップの添加と比較して)より大きなナノ結晶がもたらされる。
【0097】
本発明の方法は、カルコゲン含有試薬を鉛塩に添加した直後に第2の溶媒を添加すること(すなわち、反応を急速にクエンチするように)をさらに含むことができる。第2の溶媒は、典型的には、有機溶媒、例えば、極性溶媒(例えば、アセトン、メタノール、もしくはエタノール)または無極性溶媒(例えばヘキサン)である。
【0098】
本発明の方法は、任意の好適な温度で実施することができる。例えば、任意の好適な温度、すなわち、反応が起こる任意の好適な温度で、鉛(IV)含有化合物を有機酸と接触させることができる。この反応が起こる特定の温度は、反応させる特定の鉛(IV)含有化合物および有機酸に応じて決まり得る。好適な温度は、120~250℃、例えば120~240℃、例えば180~240℃、例えば180~230℃の範囲であってもよい。
【0099】
鉛塩を、任意の好適な温度で、すなわち、反応が起こる任意の好適な温度でカルコゲン含有試薬と接触させることができる。この反応が起こる特定の温度は、とりわけ、反応させる特定の鉛塩およびカルコゲン含有試薬に応じて決まり得る。好適な温度は、20~300℃または20~180℃の範囲であってもよい。特定の反応温度の選択を使用して、形成されるナノ結晶のサイズを変化させることができ、その光学的性質を要望通りに精巧に調整するようにすると考えられる。典型的には、鉛塩およびカルコゲン含有試薬を接触させる/反応させる温度が高くなることにより、より大きなナノ結晶がもたらされる。
【0100】
鉛(IV)含有化合物を有機酸と接触させる温度は、鉛塩をカルコゲナイド含有試薬と接触させる温度と同じであっても、異なっていてもよい。好適には、鉛(IV)含有化合物を有機酸と接触させる温度は、得られた鉛塩をカルコゲナイド含有試薬と接触させる温度よりも高くてもよい。例えば、得られた鉛塩をカルコゲナイド含有試薬と接触させるのに150~300℃の温度を使用して、量子ドットの品質を改善することができる。
【0101】
好適には、鉛塩を、20~150℃、例えば30~100℃、例えば30~60℃、例えば20~60℃、例えば、約40℃の温度で、カルコゲン含有試薬と接触させることができる。こうした反応温度は、カルコゲン含有試薬がビス(トリメチルシリル)スルフィドである場合、例えば、ビス(トリメチルシリル)スルフィドをオレイン酸鉛と接触させる場合に好適であり得る。こうした低い温度条件は、とりわけ大規模生産に関連した使用において利点をもたらす。
【0102】
例えば、鉛塩がオレイン酸鉛を含み、カルコゲン含有試薬がビス(トリメチルシリル)スルフィドを含む場合、これらを反応させる温度は、20~180℃、例えば20~55℃の範囲、好ましくは約40℃であってもよい。カルコゲン含有試薬がビス(トリメチルシリル)スルフィドを含む、この方法は、可視範囲および近赤外範囲、例えば、約500~4500nm、例えば約500~2400nm、例えば約530~2400nm、例えば約530~1450nmの範囲の吸収を表す鉛カルコゲナイドナノ結晶を提供することができる。カルコゲン含有試薬がビス(トリメチルシリル)スルフィドを含む、この方法は、可視範囲および近赤外範囲、例えば、約600~4500nm、例えば約600~2500nm、例えば約630~2500nm、例えば約630~1550nmの範囲で発光を表す鉛カルコゲナイドナノ結晶を提供することができる。
【0103】
好適には、鉛塩を、カルコゲン含有試薬と、50~300℃、例えば50~150℃の温度で接触させることができる。こうした反応温度は、カルコゲン含有試薬がチオアセトアミドを含む場合、例えば、チオアセトアミドをオレイン酸鉛と接触させる場合に好適であり得る。カルコゲン含有試薬がチオアセトアミドを含む、この方法は、可視範囲および近赤外範囲、例えば、約500~2400nmの範囲、例えば500~1700nmの範囲の吸収を表す鉛カルコゲナイドナノ結晶を提供することができる。カルコゲン含有試薬がチオアセトアミドを含む、この方法は、可視範囲および近赤外範囲、例えば、約600~2500nm、例えば600~1800nmの範囲の発光を表す鉛カルコゲナイドナノ結晶を提供することができる。
【0104】
本発明の方法は、溶媒の存在下で実施することができる。任意の好適な溶媒を使用することができる。好適には、溶媒は、鉛と配位錯体を形成しない溶媒である。好適には、溶媒は、有機溶媒、例えば、無極性溶媒もしくは極性溶媒、またはその混合物である。好適な溶媒の例には、C4~C28有機溶媒、例えば、オクタデセンまたは極性溶媒、例えば、ジメチルホルムアミド、N-メチル-2-ピロリドン、ジメチルアセトアミド、テトラヒドロフランが挙げられる。典型的には、鉛(IV)含有化合物と有機酸との反応、および得られた鉛塩とカルコゲン含有試薬との反応について、同じ溶媒が使用される。これは、方法を単純化し、大規模な使用に特に好適なものにする。
【0105】
例えば、鉛(IV)含有化合物を、好適な溶媒の存在下で、有機酸と接触させることができる。好適には、溶媒は、無極性溶媒もしくは極性溶媒、またはその混合物である。好適な溶媒の例には、C4~C22有機溶媒、例えば、オクタデセンが挙げられる。
【0106】
例えば、得られた鉛塩を、好適な溶媒の存在下で、カルコゲン含有試薬と接触させることができる。好適には、溶媒は、無極性溶媒もしくは極性溶媒、またはその混合物である。好適な溶媒の例には、C4~C22有機溶媒、例えば、オクタデセンが挙げられる。
【0107】
使用される溶媒の量は、使用される特定の試薬および/または適用される、他の反応条件に応じて選択され得る。典型的には、溶媒中の鉛(IV)含有化合物の濃度(反応の開始時点)は、0.005~0.10mmol/mlの範囲であってもよい。典型的には、溶媒中の鉛原子の濃度(反応の開始時点)は、0.015~0.30mmol/mlの範囲であってもよい。典型的には、溶媒中の有機酸の濃度(反応の開始時点)は、0.0075~10mmol/ml、例えば0.1~2mmol/mlの範囲であってもよい。溶媒の量は、形成される最終的な鉛カルコゲナイドナノ結晶のサイズに影響を及ぼすことがあり、故に方法で使用される溶媒の量の選択は、その光学的性質の精巧な調整に役立つことがあると考えられる。例えば、溶媒の量を減らすことにより、典型的には、製造される、より大きなナノ結晶をもたらすことがあると考えられる。
【0108】
好適には、本発明の方法は、不活性雰囲気中で実施される。任意の好適な不活性雰囲気、例えば、窒素またはアルゴンを使用することができる。
【0109】
好適には、鉛(IV)含有化合物を、鉛塩の調製を確立するのに必要な時間長で、有機酸と接触させることができる。好適な反応時間は、使用される、特定の試薬および反応条件に応じて決まることになる。典型的な反応時間は、例えば、5分~2時間、例えば7分~2時間の範囲であってもよい。
【0110】
好適には、鉛塩を、鉛カルコゲナイドナノ結晶の調製を確立するのに必要な時間長で、カルコゲン含有試薬と接触させることができる。好適な反応時間は、使用される特定の試薬および反応条件に応じて決まることになる。典型的な反応時間は、例えば、5分~2時間、例えば30分~2時間の範囲であってもよい。
【0111】
本発明の方法は、
第1の溶媒中の鉛(IV)含有化合物および有機酸の第1の溶液を形成すること、
第2の溶媒中のカルコゲン含有試薬(例えば、ビス(トリメチルシリル)スルフィド)の第2の溶液を形成すること、
120~250℃の範囲の第1の温度まで第1の溶液を加熱し、第1の溶液を第1の温度で所定の時間維持すること、
20~100℃の範囲の低減された温度まで第1の溶液の温度を下げること、
低減された温度で第2の溶液を第1の溶液に添加して反応混合物を生成すること、
反応混合物を20~300℃の温度で所定の時間維持すること
を含むことができる。
【0112】
本発明の方法は、
第1の溶媒中の鉛(IV)含有化合物および有機酸の第1の溶液を形成すること、
第2の溶媒中のカルコゲン含有試薬(例えば、ビス(トリメチルシリル)スルフィド)の第2の溶液を形成すること、
120~250℃の範囲の第1の温度まで第1の溶液を加熱し、第1の溶液を第1の温度で所定の時間維持すること、
20~60℃の範囲の低減された温度まで第1の溶液の温度を下げること、
低減された温度で第2の溶液を第1の溶液に添加して反応混合物を生成すること、
反応混合物を20~60℃の温度で所定の時間維持すること
を含むことができる。
【0113】
本発明の方法は、
第1の溶媒中の鉛(IV)含有化合物および有機酸の第1の溶液を形成すること、
120~250℃の範囲の第1の温度まで第1の溶液を加熱し、第1の溶液を第1の温度で所定の時間維持すること、
第1の溶液を50~100℃の範囲の第2の温度で提供すること、
第2の温度でカルコゲン含有試薬(例えば、チオアセトアミド)を第1の溶液に添加して反応混合物を生成すること、
反応混合物を50~300℃の温度で所定の時間維持すること
を含むことができる。
【0114】
本発明の方法は、
第1の溶媒中の鉛(IV)含有化合物および有機酸の第1の溶液を形成すること、
120~250℃の範囲の第1の温度まで第1の溶液を加熱し、第1の溶液を第1の温度で所定の時間維持すること、
第1の溶液を50~150℃の範囲の第2の温度で提供すること、
第2の温度でカルコゲン含有試薬(例えば、チオアセトアミド)を第1の溶液に添加して反応混合物を生成すること、
反応混合物を50~150℃の温度で所定の時間維持すること
を含むことができる。
【0115】
本発明の方法は、ナノ結晶の生成の進展をモニターするように、(すなわち、反応混合物の、例えば、反応物の溶液の)光学的性質をモニターすることをさらに含むことができる。光学的性質は、UV-可視-近赤外吸収スペクトルであってもよい。方法は、光学的性質の値が、鉛カルコゲナイドナノ結晶の、所望のサイズおよび/またはサイズ分布に対応するときに反応を停止するステップを含むことができる。
【0116】
本発明の方法は、反応混合物から鉛カルコゲナイドナノ結晶を単離することをさらに含むことができる。鉛カルコゲナイドナノ結晶を単離する、任意の好適な方法を使用することができる。
【0117】
本発明の方法は、例えば、クエンチ溶媒を反応混合物に添加することによって、反応混合物をクエンチすることを含むことができる。任意の好適なクエンチ溶媒、例えば、アセトン、メタノール、エタノール、またはヘキサンを使用することができる。本発明の方法は、鉛カルコゲナイドナノ粒子を単離することをさらに含むことができる。
【0118】
例えば、鉛カルコゲナイドナノ結晶は、好適な溶媒、例えば、極性溶媒(例えば、アセトン、メタノール、またはエタノール)を使用して反応混合物から沈殿させてもよい。単離するステップは、不活性雰囲気中、または空気中で実施することができる。
【0119】
カルコゲン含有試薬がビス(トリメチルシリル)スルフィドを含む場合、有機酸(例えば、オレイン酸)の量は、調製されるナノ結晶のサイズに大きく影響を及ぼすと考えられる。典型的には、より多くの有機酸が導入されるほど、ナノ結晶のサイズがより大きくなった。
【0120】
カルコゲン含有試薬がビス(トリメチルシリル)スルフィドを含む場合、鉛(IV)含有化合物および/またはビス(トリメチルシリル)スルフィドの多段階添加により、典型的には、より大きなナノ結晶が製造されると考えられる。
【0121】
カルコゲン含有試薬がビス(トリメチルシリル)スルフィドを含む場合、ビス(トリメチルシリル)スルフィドを鉛塩と反応させる温度を40℃から60℃まで上げることにより、典型的にはより大きなナノ結晶が提供されると考えられる。
【0122】
カルコゲン含有試薬がビス(トリメチルシリル)スルフィドを含む場合、アセトン、アルコール、または水を導入することにより、極小サイズのナノ結晶がもたらされ得ると考えられる。
【0123】
カルコゲン含有試薬がビス(トリメチルシリル)スルフィドを含む場合、ビス(トリメチルシリル)スルフィドの注入後に冷ヘキサンを迅速に導入した結果、小さなナノ結晶が形成されると考えられる。
【0124】
カルコゲン含有試薬がビス(トリメチルシリル)スルフィドを含む場合、溶媒(例えば、オクタデセン)の量を増やすことによってオレイン酸鉛濃度を減らすことで、より小さなナノ結晶の形成をもたらすと考えられる。
【0125】
カルコゲン含有試薬がビス(トリメチルシリル)スルフィドを含む場合、上記の方法ステップの、任意の組み合わせを使用して、20~60℃の温度(すなわち、ビス(トリメチルシリル)スルフィドと鉛塩との反応のための)で、広範囲のナノ結晶を製造することができると考えられる。
【0126】
カルコゲン含有試薬がチオアセトアミドを含む場合、チオアセトアミドを反応に単純に加えるか(すなわち、チオアセトアミドを溶媒中に初めに溶解させるステップなし)、または溶媒中のチオアセトアミドの溶液もしくは溶媒の混合物を加えることを可能にするように、方法を単純化することができる。
【0127】
カルコゲン含有試薬がチオアセトアミドを含む場合、有機酸(例えば、オレイン酸)の量は、調製されるナノ結晶のサイズに大きく影響を及ぼし、したがって、使用される有機酸がより多いほど、調製されるナノ結晶のサイズがより大きいと考えられる。
【0128】
カルコゲン含有試薬がチオアセトアミドを含む場合、チオアセトアミドと鉛塩との反応の温度を上げる(例えば、温度約85℃まで)ことは、調製されるナノ結晶のサイズに大きく影響を及ぼし、したがって、使用される温度がより高いほど、調製されるナノ結晶のサイズがより大きいと考えられる。
【0129】
カルコゲン含有試薬がチオアセトアミドを含む場合、溶媒中の鉛塩(例えば、オレイン酸鉛)の濃度を減らすことにより、すなわち、溶媒の量を増やすことによって、より小さなナノ結晶がもたらされ得ると考えられる。
【0130】
カルコゲン含有試薬がチオアセトアミドを含む場合、アセトン、アルコール、または水を導入することにより、極小サイズのナノ結晶がもたらされ得ると考えられる。
【0131】
カルコゲン含有試薬がチオアセトアミドを含む場合、チオアセトアミドの注入後に冷ヘキサンを迅速に導入した結果、小さなナノ結晶が形成されると考えられる。
【0132】
カルコゲン含有試薬がチオアセトアミドを含む場合、上記の方法ステップの、任意の組み合わせを使用して、50~300℃、好適には50~150℃の温度(すなわち、チオアセトアミドと鉛塩との反応のための)で、広範囲のナノ結晶を製造することができると考えられる。
【0133】
本発明の方法により、鉛カルコゲナイドナノ結晶が製造される。好適には、ナノ結晶は、量子ドット(すなわち、結晶性量子ドット)を含むことができる。
【0134】
並行して、PbSナノ結晶を作るための高価で、毒性があり、かつ極めて悪臭の(TMS)S前駆体を、低費用、かつ毒性の低いTAAを使用して置き換えた。TAA反応の閾値温度は約50℃であり、適用される温度が高いほど、つくられるPbSナノ結晶がより大きいことが明らかになった。また、オレイン酸の量は、PbSのサイズに影響を及ぼすことがあり、適用されるOAの量がより多いほど、より大きなPbSナノ結晶が実現されることが明らかになった。
【0135】
したがって、本発明は、TAA試薬を使用して、可視範囲で作動するPbS QDを可能にする。
【0136】
ナノ結晶/量子ドット
本発明は、前述された方法によって得られる鉛カルコゲナイドナノ結晶の、1種または複数(好ましくは複数、すなわち、組成物)を提供する。
【0137】
好適には、鉛カルコゲナイドナノ結晶は、可視範囲および近赤外範囲、例えば、約500~4500nm、例えば約500~2400nm、例えば約530~2400nm、例えば約530~1450nmの範囲、好ましくは、好適には950~1600nmの範囲、好ましくは、1350~1600nmの範囲の吸収を表す。
【0138】
好適には、鉛カルコゲナイドナノ結晶は、可視範囲および近赤外範囲、例えば、約600~4500nm、例えば約600~2500nm、例えば約630~2500nm、例えば約630~1550nmの範囲、好ましくは、好適には950~1600nmの範囲、好ましくは、1350~1600nmの範囲の発光を表す。
【0139】
本発明による鉛カルコゲナイドナノ結晶組成物は、5nmよりも大きい、好ましくは6~22nmの範囲、好ましくは7~20nmの範囲の平均粒径、および25%未満、好ましくは20%未満、好ましくは10%未満の相対的サイズ分散度を有するナノ結晶を含むか、またはそれからなる。好ましくは、上記ナノ結晶は、8~17nmの範囲の平均粒径、および20%未満の相対的サイズ分散度を有する。好ましくは、上記ナノ結晶は、9~15nmの範囲の平均粒径、および15%未満の相対的サイズ分散度を有する。
【0140】
好ましくは、本発明によるPbSナノ結晶組成物は、6~15nmの範囲の平均粒径、および20%未満、好ましくは10%未満の相対的サイズ分散度を有するナノ結晶を含むか、またはそれからなる。
【0141】
本発明によるPbSeナノ結晶組成物は、2~17nm、好ましくは6~15nmの範囲の平均粒径、および25%未満、好ましくは20%未満の相対的サイズ分散度を有するナノ結晶を含むか、またはそれからなる。
【0142】
本発明の第8の側面による鉛カルコゲナイドナノ結晶組成物は、好ましくは、6~20nm、好ましくは7~17nm、好ましくは8~15nmの範囲の平均粒径を有する鉛カルコゲナイドナノ結晶を含有する。
【0143】
本発明の第8の側面による鉛カルコゲナイドナノ結晶組成物は、好ましくは鉛カルコゲナイドナノ結晶を、0.001重量%よりも多く、好ましくは0.01重量%よりも多く、好ましくは0.1重量%よりも多く、好ましくは1重量%よりも多く、好ましくは5重量%よりも多く含有する。
【0144】
一部の用途において、本発明の第8の側面による鉛カルコゲナイドナノ結晶組成物は、好ましくは鉛カルコゲナイドナノ結晶を、5重量%よりも多く、好ましくは30重量%よりも多く、好ましくは75重量%よりも多く、好ましくは90重量%よりも多く、好ましくは95重量%よりも多く含有する。
【0145】
一実施形態において、本発明の第8の側面による鉛カルコゲナイドナノ結晶組成物は、鉛カルコゲナイドナノ結晶からなる。
【0146】
鉛カルコゲナイドナノ結晶ではない、組成物の残部は、担体物質、例えば、溶媒、添加剤、無機配位子、有機配位子、または反応副生成物であってもよい。
【0147】
本発明はまた、前述された方法で直接得られる、鉛カルコゲナイドナノ結晶の組成物も提供する。
【0148】
本発明はまた、前述された方法で得ることができる、鉛カルコゲナイドナノ結晶の組成物も提供する。
【0149】
鉛カルコゲナイドナノ結晶の組成物は、1種または複数の量子ドット(すなわち、結晶性量子ドット)を含むことができる。本発明は、前述された方法で得られる、鉛カルコゲナイド量子ドットの組成物を提供する。
【0150】
本発明はまた、前述された方法で直接得られる、鉛カルコゲナイド量子ドットの組成物も提供する。
【0151】
本発明はまた、前述された方法で得ることができる、鉛カルコゲナイド量子ドットの組成物も提供する。
【0152】
鉛カルコゲナイドナノ結晶(例えば、鉛カルコゲナイド量子ドット)、および上記鉛カルコゲナイドナノ結晶を含有する、組成物、薄膜、システム、または成分を任意の好適な目的で使用することができる。例えば、鉛カルコゲナイドナノ結晶およびその組成物は、光検出器、センサー、太陽電池、バイオイメージングまたはバイオセンシングの組成物、太陽光発電システム、ディスプレイ、電池、レーザー、光触媒、分光計、注入可能な組成物、電界効果トランジスタ、光発光ダイオード、フォトニックスイッチングデバイスまたは光スイッチングデバイスまたはメタマテリアル、熱電(冷却)用途およびエネルギー(高温出力)発生用途、ファイバー増幅器、レーザー、光学利得媒質、光ファイバー通信、高速通信、電気通信、赤外LEDおよび赤外レーザー、電界発光素子を提供するのに使用され得るか、またはそれらにおいて使用され得る。
【0153】
鉛カルコゲナイドナノ結晶組成物(例えば、鉛カルコゲナイド量子ドット)は、IRセンシングおよび光検出器に使用することもできる。例えば、鉛カルコゲナイドナノ結晶(例えば、鉛カルコゲナイド量子ドット)は、携帯および家庭用品、自動車、医療、産業、防衛、または航空宇宙産業の用途における、3Dカメラセンサーおよび3Dタイム・オブ・フライトカメラセンサーの光吸収体として使用することができる。
【0154】
鉛カルコゲナイドナノ結晶組成物(例えば、鉛カルコゲナイド量子ドット)を、バイオイメージングまたはバイオセンシングの用途に使用することもできる。例えば、鉛カルコゲナイドナノ結晶(例えば、鉛カルコゲナイド量子ドット)は、in vitro(インビトロ)用途およびex vivo(エクスビボ)用途におけるバイオラベルまたはバイオタグとして使用することができる。
【0155】
鉛カルコゲナイドナノ結晶組成物(例えば、鉛カルコゲナイド量子ドット)は、有線の高速通信デバイス、暗視装置、および太陽エネルギー変換において使用することもできる。
【0156】
本発明は、本発明の鉛カルコゲナイドナノ結晶組成物を含む薄膜を提供する。
【0157】
本発明は、本発明の鉛カルコゲナイドナノ結晶組成物を含む、システムまたは部品、例えば、光検出器、センサー、太陽電池、バイオイメージングまたはバイオセンシングの組成物、太陽光発電システム、ディスプレイ、電池、レーザー、光触媒、分光計、注入可能な組成物、電界効果トランジスタ、光発光ダイオード、フォトニックスイッチングデバイスまたは光スイッチングデバイスまたはメタマテリアル、熱電(冷却)用途およびエネルギー(高温出力)発生用途を提供する。
【0158】
本発明は、本発明の鉛カルコゲナイドナノ結晶を含む、バイオラベルまたはバイオタグ、生体撮像および生体標識(in vitroおよびin vivo(インビボ))を提供する。
【0159】
本発明の方法は、本発明のナノ結晶に優れた半値幅(FWHM)値をもたらす。FWHMは、その最大強度の半分での光信号の幅を示す。この測定により、最大可能出力50%で作動する光源のバンド幅が与えられる。
【0160】
本発明のナノ結晶の発光特性は、化学依存性およびサイズ依存性の両方である。それらは、通常、ガウス曲線形の発光関数を表す。より低い強度は、より広いスペクトルバンド幅およびスクリーン上の低純度の色表示をもたらし得る。FWHMを決定するために、最大スペクトル強度の半分での低波長点と高波長点との差を計算せねばならない。本発明の、より狭いFWHMは、より高い信号対ノイズ比を与え、吸収波長のより正確な調整を可能にする。本質的には、より狭いバンド幅は、より高いレベルの有効性で、より純粋な色に転換される。
【0161】
例えば、本発明の工程は、1300nmを超える、好ましくは1350~2500nm、好ましくは1400~1750nm、好ましくは1450~1600nmの範囲の最大吸収波長(λmax)、および1200~2500nm、好ましくは1300~2000nm、好ましくは1350~1750nmの範囲の発光波長またはフォトルミネッセンス(PL)を有するナノ結晶を製造することができる。120nm未満、好ましくは110nm未満、例えば、約100nmの吸収FWHM、および120nm未満、好ましくは110nm未満、例えば、約110nmの発光FWHMを有する、本発明の第8の側面による組成物を製造することができる。これらの性質は、20%、好ましくは15%未満、好ましくは10%未満の相対的サイズ分散度を有するナノ結晶組成物によってもたらされ得る。
【0162】
本発明の第8の側面による、組成物のナノ結晶は、本発明で使用される工程の結果として、良好な相対的サイズ分散度を有する。相対的サイズ分散度は、ナノ結晶粒径の変異量の目安である。それは、ナノ粒子の特定のバッチの粒径を測定し、平均サイズに対する変異量を決定することによって決定される。これは、特定の平均サイズxプラスまたはマイナス粒径の範囲として表記することができる。
【0163】
一般に、本発明の工程により、25%未満、好ましくは22%未満、好ましくは20%未満、好ましくは15%未満の相対的サイズ分散度(TEMによって決定される)を有する、本発明の第8の側面によるナノ粒子組成物の製造が可能になる。
【0164】
本発明の好ましい一実施形態において、本発明の第8の側面による、ナノ結晶組成物は、1.2:1~4:1、好ましくは、1.6:1~3:1の範囲の、鉛原子のカルコゲン原子に対するモル比を有する。この好ましい範囲は、PbS、PbSe、およびPbTeのナノ結晶のそれぞれで実現することができる。
【0165】
これらの、鉛原子のカルコゲン原子に対する比は、本発明のナノ結晶によって表される、低い相対的サイズ分布と関係する。一般に、1.2:1~4:1の範囲の鉛原子のカルコゲン原子に対するモル比を有する、本発明の第8の側面によるナノ結晶組成物は、20%未満、例えば18%未満、例えば10%から17%までの間の相対的サイズ分散度を有する。
【0166】
一般に、鉛イオウナノ結晶組成物における、より高いPb対S比は、PbSドットの、大きなナノ結晶サイズおよびより長いλmaxに関係する。一般に、鉛セレン(lead selenium)ナノ結晶組成物における、より低いPb対Seの比(またはSeモル比の増加)は、より大きなナノ結晶サイズおよびより長いλmaxに関係する。
【0167】
鉛原子のカルコゲン原子に対するモル比は、誘導結合プラズマ発光分析(ICP-OES)によって測定される。
【0168】
一般に、本発明の第8の側面による、PbSナノ結晶組成物は、最大吸収波長(λmax)とその平均粒径との間に比例相関を表し、すなわち、より大きなドットは、より長いλmaxを表す。PbSeナノ結晶について、ナノ粒子サイズ対λmaxの相関における同様の傾向が認められる。しかし、PbSeナノ結晶は、一般に同じλmaxでPbSよりも小さい。PbS(λmax=1314nm)およびPbSe(λmax=2046nm)のTEM画像。
【0169】
第4の側面から第7の側面の好ましい特徴は、第1の側面、第2の側面、および第3の側面に関連して定められる通りである。
【0170】
本発明をより良好に理解するために、かつどのように本発明の例示的な実施形態を実行することができるかを示すために、例としてのみ、添付の図面を参照されたい。
【図面の簡単な説明】
【0171】
図1】鉛供給源としてのPbOおよび(TMS)S多段階添加を使用したPbSナノ結晶の吸収スペクトルを示す図である。
図2】異なる倍率の、FWHM=89nmを有する、PbO鉛供給源から調製されたPSナノ結晶のTEM画像を示す図である。立方構造が、鉛(IV)系ナノ結晶で支配的に現れ、ナノ粒子は高結晶化度を示す。
図3】鉛供給源としてのPbおよび(TMS)S多段階添加を使用したPbSナノ結晶の吸収スペクトルを示す図である。
図4】異なる倍率の、FWHM=94nmを有する、鉛供給源Pbから調製されたPSナノ結晶のTEM画像を示す図である。球状構造が、鉛(II、IV)系PbSナノ結晶で支配的に現れ、ナノ粒子は高結晶化度を示す。
図5】鉛供給源としてのPbOおよび(TMS)S多段階添加を使用したPbSナノ結晶の吸収スペクトルを示す図である。
図6】異なる倍率の、FWHM=91nmを有する、鉛供給源としてのPbOから調製されたPSナノ結晶のTEM画像を示す図である。球状の、または丸みを帯びた端部構造が、鉛(II)系PbSナノ結晶で支配的に現れ、ナノ粒子は高結晶化度を示す。
図7】空気中および室温で、無光状態で保存されたヘキサン中のPbSナノ結晶分散液の時間依存性吸収スペクトルを示す図である。ナノ結晶は、42日間保存した後、有意なブルーシフトを示し、ナノ結晶が酸化反応に関わったことを示した。
図8】空気中および室温で、暗室でのヘキサン中の塩化アンモニウム処理済みPbSナノ結晶分散液の吸収スペクトルが、保存時間と共に不変であることを示す図である。これは、ナノ結晶の表面の鉛原子が、ハロゲン化物と共有結合して、(光)酸化からナノ結晶を保護すること示唆する。
図9】様々な温度で加熱したPbSナノ結晶薄膜の最大吸収波長(λ)を示す図である。ナノ結晶は、Pb(II)、Pb(IV)、Pb(II、IV)の鉛供給源および(TMS)S多段階添加から調製された。薄膜を空気中で180℃まで加熱した場合、ブルーシフトは観測されず、Pb(IV)系PbSナノ結晶およびPb(II、IV)系PbSナノ結晶がPb(II)系PbSナノ結晶と同等の熱安定性を示すことを示唆した。
図10】様々な温度で加熱したPbSナノ結晶薄膜のFWHMを示す図である。ナノ結晶は、Pb(II)、Pb(IV)、Pb(II、IV)の鉛供給源および(TMS)S多段階添加から調製された。全ての薄膜について空気中で120℃まで加熱された際に、有意なFWHMの広がりは観測されず、Pb(IV)系PbSナノ結晶およびPb(II、IV)系PbSナノ結晶が、Pb(II)系PbSナノ結晶と同等の熱安定性を示すことを示唆した。
図11】酸化鉛(II)前駆体から製作されたPbS量子ドットのHRTEM画像を示す図である。量子ドットは、切頂八面体結晶で現れる。(002)面、(111)面、および(-111)面が視覚化される。
図12】酸化鉛(IV)前駆体から製作されたPbS量子ドットのHRTEM画像を示す図である。量子ドットは、切頂八面体結晶(大部分)および立方八面体結晶(小部分)で現れる。切頂八面体結晶において、(002)面、(111)面、および(022)面は、視覚化されるが、立方八面体結晶は、(002)面と共に現れる。
図13】スキーム1を示す。
【実施例
【0172】
いくつかの実施例および比較例を以下に記載し、本開示による方法を説明する。
【0173】
本発明の特定の実施例は、説明の目的で以下に記載されるが、当分野の技術者にとって、添付の特許請求の範囲に定められた本発明を逸脱することなく、本発明の詳細の、数多くの改変がなされ得ることは明白である。
【0174】
別段の指示がない限り、以下の実施例および明細書全体の、全ての部および全ての%は、それぞれ重量部または重量パーセントである。
【0175】
コロイド状量子ドットまたは量子ドット薄膜の吸収スペクトルは、400~3200nm波長の測定をもたらし得る、JASCO V-770UV-可視/NIR分光計を使用して得られた。
【0176】
XRDデータは、Panalytical X’Pert PRO MPD回折計で、10<2q<90°の範囲にわたって、室温で、CuKa1X線放射(l=1.5406Å)を使用して収集された。それぞれの場合において、分散試料の数滴をガラス顕微鏡スライドに置き、蒸発させた。データは、Rigaku SmartLab StudioIIソフトウェアならびに結晶学的オープンデータベースを使用して実施された検索および適合を使用して分析された。
【0177】
TEM画像および高分解能透過電子顕微鏡(HRTEM)画像は、X-FEG電子源を備えたFEI Talos F200X顕微鏡を用いて得られた。実験は、加速電圧200kVおよびビーム電流およそ5nAを使用して実施された。画像は、FEI CETA4k×4k CMOSカメラを用いて記録された。それぞれの場合において、溶媒中に分散された量子ドットの数滴を炭素被覆銅グリッドに置き、蒸発させた。試料は、そのまま使用されるか、または画像化前に不要な有機材料を洗浄するために、アセトン、次いでメタノールで処理された。
【0178】
ICP-OESデータは、Agilent720ICP-OESで得られた。それぞれのナノ結晶のトルエン中分散液を水に添加し、加熱して溶媒を蒸発させ、次いで、固形分を温浸し、王水(2HCl:1HNO)中に残した。次いで、これを、容量フラスコでかさ増しし、必要に応じて希釈して、本発明者らのICPの校正範囲内で実行した。試料は、PbおよびSの校正基準について別々に校正を行われた。Pbを含有した、公認の校正CRM溶液は、Fisher Scientificから供給されるSPEX CertiPrepからの28エレメントマルチスタンダード(element multi standard)であり、Sを含有した、公認の校正CRM溶液は、Inorganic Venturesによって供給されるCCS-5で識別されるマルチエレメントスタンダードである。Pb&S校正の両方を0.5ppm濃度および10ppm濃度を使用して実行した。
【0179】
材料
PbO(不純物金属に基づく純度99.999%、Sigma-Aldrich)、Pb(99%、Sigma-Aldrich)、PbO(不純物金属に基づく純度99.998%、Sigma-Aldrich)、ヘキサメチルジシラチアン((TMS)S、合成等級、Sigma-Aldrich)オレイン酸(OA、90%、Fisher Scientific)。
【0180】
チオアセトアミド(TAA、≧99%、Sigma-Aldrich)、トリオクチルホスフィン(TOP、97%、Sigma-Aldrich)、Se、オクタデセン(ODE、90%、Fisher Scientific)、ジフェニルホスフィン(DPP、98%、Sigma-Aldrich)。NaCl(99.5%、Fisher Scientific)、NaI(≧99%、Sigma-Aldrich)、NHCl(不純物金属に基づく純度99.99%、Sigma-Aldrich)。全ての溶媒(ヘキサン、アセトン、メタノール)をFisher Scientificから購入した。
【0181】
[実施例1]
酸化Pb(IV)(PbO)および(TMS)Sの多段階添加を使用した硫化鉛(PbS)ナノ結晶の合成
PbO1.25g(Pb5.23mmol)およびオレイン酸10mL(28.40mmol)を50mLの三ツ口丸底フラスコに加えた。混合物を真空中で脱気し、250℃の窒素雰囲気下で60分間保持して、オレイン酸鉛(IV)溶液を生成した。澄んだ茶色のオレイン酸塩溶液が形成された後、温度を約40℃まで下げ、オレイン酸鉛(IV)溶液1.08g(Pb0.56mmol)を使用して、予め脱気されたオクタデセン(ODE)13.50mLを含有する、100mLの三ツ口丸底フラスコに添加した。混合物を90℃の真空中で30分間さらに脱気し、100℃の窒素中で保った。脱気されたODE中の第1(TMS)S原液((TMS)S対ODEが1/8v/vに等しい)0.8mLを注入した。100℃での7分の反応後、脱気されたODE中の第2(TMS)S原液((TMS)S対ODEが1/12v/vに等しい)0.8mLを添加し、反応混合物は、次の数分以内で薄茶色から暗褐色まで変化し、ナノ結晶形成およびナノ結晶成長を示した。次いで、第2(TMS)S原液0.8mLを、目標の吸収波長が得られるまで5分毎に添加した。反応を室温(20℃~30℃)まで冷却し、PbSナノ結晶を、沈殿および再分散によって、過剰な(4倍の体積)アセトンおよびヘキサンそれぞれにおいて精製した。次いで、ナノ結晶を、n-ヘキサン、n-オクタン、またはトルエンなどの所要の溶媒中に再分散した。
【0182】
図1は、鉛供給源としてのPbOおよび(TMS)S多段階添加を使用したPbSナノ結晶の吸収スペクトルを示す。表1に、その最大吸収、FWHM、およびピーク対谷比をまとめる。
【0183】
【表1】
【0184】
図2は、異なる倍率の、λ=1541nm、FWHM=89nmを有する、PbO鉛供給源を使用して調製されたPSナノ結晶のTEM画像を示す。立方構造が、鉛(IV)系ナノ結晶で支配的に現れ、やはり高結晶化度を示す。
【0185】
参考例2:酸化Pb(II、IV)(Pb)および(TMS)Sの多段階添加を使用したPbSナノ結晶の合成
Pb2.4g(Pb10.50mmol)およびオレイン酸20mL(56.70mmol)を50mLの三ツ口丸底フラスコに加えた。混合物を真空中で脱気し、230℃の窒素雰囲気下で60分間保持して、オレイン酸鉛(II、IV)溶液を生成した。澄んだ薄茶色のオレイン酸塩溶液が形成された後、温度を約40℃まで下げ、オレイン酸鉛(IV)溶液1.07g(0.556mml)を使用して、予め脱気されたオクタデセン(ODE)13.50mLを含有する、100mLの三ツ口丸底フラスコに添加した。混合物を90℃の真空中で30分間さらに脱気し、100℃の窒素中で保った。脱気されたODE中の第1(TMS)S原液((TMS)S対ODEが1/8v/vに等しい)0.8mLを注入した。100℃での7分の反応後、脱気されたODE中の第2(TMS)S原液((TMS)S対ODEが1/12v/vに等しい)0.8mLを添加し、反応混合物は、次の数分以内で薄茶色から暗褐色まで変化し、ナノ結晶形成およびナノ結晶成長を示した。次いで、第2(TMS)S原液0.8mLを、目標の吸収波長が得られるまで5分毎に添加した。反応を室温(20℃~30℃)まで冷却し、PbSナノ結晶を、沈殿および再分散によって、過剰の(4倍の体積)アセトン/メタノールおよびヘキサンそれぞれにおいて精製した。次いで、ナノ結晶を、n-ヘキサン、n-オクタン、またはトルエンなどの所要の溶媒中に再分散した。
【0186】
図3は、鉛供給源としてのPbおよび(TMS)S多段階添加を使用したPbSナノ結晶の吸収スペクトルを示す。表2に、その最大吸収、FWHM、およびピーク対谷比をまとめる。
【0187】
【表2】
【0188】
Pbを使用したPbSナノ結晶の製造と比較して、PbOを使用したPbSナノ結晶の製造は、同様の吸収波長でより高いP/V比を生じることが分かり得る。同様に、PbOを使用したPbSナノ結晶の製造は、Pbを使用したPbSナノ結晶の、対応する製造よりも、より低いFWHM値を生じる。
【0189】
図4は、異なる倍率の、λ=1549nm、FWHM=94nmを有する、Pbを使用して調製されたPSナノ結晶のTEM画像を示す。略球状の、または丸みを帯びた端部構造が、鉛(II、IV)系ナノ結晶で支配的に現れ、やはり高結晶化度を示す。
【0190】
参考例3:酸化Pb(II)(PbO)および(TMS)Sの多段階添加を使用したPbSナノ結晶の合成
Pb1.17g(Pb5.24mmol)およびオレイン酸20mL(28.40mmol)を50mLの三ツ口丸底フラスコに加えた。混合物を真空中で脱気し、150℃の窒素雰囲気下で60分間保持して、オレイン酸鉛溶液を生成した。澄んだ薄茶色のオレイン酸塩溶液が形成された後、温度を約40℃まで下げ、オレイン酸鉛(II)溶液1.07g(Pb0.556mmol)を使用して、予め脱気されたオクタデセン(ODE)13.50mLを含有する、100mLの三ツ口丸底フラスコに添加した。混合物を90℃の真空中で30分間さらに脱気し、100℃の窒素中で保った。脱気されたODE中の第1(TMS)S原液((TMS)S対ODEが1/8v/vに等しい)0.8mLを注入した。100℃での7分の反応後、脱気されたODE中の第2(TMS)S原液((TMS)S対ODEが1/12v/vに等しい)0.8mLを添加し、反応混合物は、次の数分以内で薄茶色から暗褐色まで変化し、ナノ結晶形成およびナノ結晶成長を示した。次いで、第2(TMS)S原液0.8mLを、目標の吸収波長が得られるまで5分毎に添加した。反応を室温(20℃~30℃)まで冷却し、PbSナノ結晶を、沈殿および再分散によって、過剰な(4倍の体積)アセトン/メタノールおよびヘキサンそれぞれにおいて精製した。次いで、ナノ結晶を、n-ヘキサン、n-オクタン、またはトルエンなどの所要の溶媒中に再分散した。
【0191】
図5は、鉛供給源としてのPbOおよび(TMS)S多段階添加を使用したPbSナノ結晶の吸収スペクトルを示す。
【0192】
表3に、その最大吸収、FWHM、およびピーク対谷比をまとめる。
【0193】
【表3】
【0194】
Pbを使用して製造されたPbSナノ結晶と同様に、PbOを使用したPbSナノ結晶の製造は、PbOを使用して製造されたPbSナノ結晶と比較して、同様の吸収波長でより低いP/V比を生じる。同様に、PbOを使用したPbSナノ結晶の製造は、PbOを使用したPbSナノ結晶の、対応する製造よりも、より低いFWHM値を生じる。
【0195】
図6は、異なる倍率の、鉛供給源としてPbOを使用したPSナノ結晶のTEM画像を示す。略球状の、または丸みを帯びた端部構造が、鉛(II)系ナノ結晶で支配的に現れ、やはり高結晶化度を示す。
【0196】
[実施例4]
ハロゲン化物塩によるPbSナノ結晶の表面不動態化および得られたコロイド状PbS量子ドットの保存安定性
手順は、スキーム1にまとめられ、鉛供給源としての酸化Pb(IV)および表面不動態化反応を使用したPbSナノ結晶の調製を説明する。
【0197】
PbSナノ結晶の表面は、様々なハロゲン化物塩で処理されて、その保存安定性および熱安定性を改善した。
【0198】
PbSナノ結晶は、実施例1で、上記で略述されたように合成された。表面不動態化反応の典型的な手順は以下の通りである。PbSナノ結晶が所要の吸収波長に到達した後、反応混合物を、60℃まで急速に冷却し、脱気されたメタノール中の、NaCl、NaI、NHClなどの0.19Mハロゲン化物塩1mLを、窒素中で撹拌しながら、オレイン酸鉛1.07g(Pb0.556mmol)の反応混合物に滴下添加した。不動態化反応は、30分から60分の間で進行することができ、得られたナノ結晶は、非溶媒として、アセトンおよびメタノールで精製された。得られた固形分を、n-オクタンなどの所要の溶媒中に分散した。得られた固形分を、n-オクタンなどの所要の溶媒中に分散した。得られた分散液は、不要な固形分(過剰な塩)の沈殿を取り除くために、さらに遠心分離機にかける必要があり得る。ハロゲン化物処理済みナノ結晶は、典型的には、未処理PbSナノ結晶と比較しておよそ50nmのレッドシフトを示す(表4参照)。
【0199】
【表4】
【0200】
図7および図8は、室温(20℃)の空気中で保存された、ヘキサン中に分散された、未処理PbSナノ結晶およびNHCl処理済みPbSナノ結晶の吸収スペクトルを示す。
【0201】
表4に、ハロゲン化物塩処理済みPbSナノ結晶および未処理PbSナノ結晶の安定性が比較される。ハロゲン化物塩不動態化なしで、PbSナノ結晶は、空気中、および室温で42日間保存された後96nmのブルーシフトを示し、ナノ結晶が酸化反応を受けたことを示唆する。対照的に、ハロゲン化物不動態化PbSナノ結晶は、同じ保存条件の下、同じ時間の後、6nmのブルーシフトのみを示す。
【0202】
[実施例5]
PbSナノ結晶の薄膜形成およびその熱安定性
実施例1において上記で略述された合成を繰り返した。PbSナノ結晶表面を、実施例4のようにハロゲン化物で不動態化した。PbSの薄膜は、ガラススライド上で、n-ヘキサン、n-オクタン、またはトルエン中のPbSナノ結晶の分散液のスピンコーティングを使用して作製された。
【0203】
熱安定性研究のために、ガラススライド上の、200nm範囲の厚さを有するスピンコーティング薄膜を、ホットプレートで、空気中で、様々な温度で加熱し、その薄膜の吸収波長およびFWHMをモニターした。図9および図10は、鉛供給源として鉛(II)、鉛(IV)、および鉛(II、IV)ならびに(TMS)Sを使用して調製されたPbSの薄膜の吸収波長およびFWHMの変化を示す。
【0204】
[実施例6]
PbS量子ドットの合成
6.1 - 酸化鉛(II)からのPbS量子ドット
PbO(0.1723g、0.772mmol)を磁気撹拌子および凝縮器を備えた三ツ口RBF中に装入した。系をシュレンクラインで真空にし、N中に置き、真空サイクルを3回行った。次いで、オレイン酸(1.465mL、4.15mmol)をフラスコ中に注入し、室温で3回脱気し、10分間隔で真空を保持した。次いで、温度を上げてオレイン酸鉛を形成し、それは115℃で起こり始めた。温度を150℃にさらに上げて、15分間保持して、反応を完了した。次いで、脱気された無水オクタ-1-デセン(ODE)20mLをオレイン酸鉛溶液中に注入し、温度を100℃で30分間横ばい状態にした。次いで、(TMS)S0.093MのODE中溶液1.18mLをオレイン酸鉛溶液中に直ちに注入した。溶液は、注入後40秒で黒ずんで見えた。7分後、(TMS)S0.033MのODE中溶液1.28mLをオレイン酸鉛溶液中に直ちに注入した。さらに5分後、反応を氷水浴中で急冷した後、反応フラスコを密封し、グローブボックス中にパージした。反応溶液のアリコート12.5mLを無水IPA(30mL)と合わせ、遠心分離機にかけて(4.5k、3分)生成物を沈殿させた。沈殿物を無水ヘキサン(約5mL)と合わせ、無水IPA(10mL)を添加した後、遠心分離機にかけた(4.5k、3分)。IPA洗浄を繰り返した後、沈殿物を無水オクタン(5mL)中に溶解させた。最後の遠心分離を実施して、不溶性沈殿物を取り除き、精製生成物を含有した上澄み液をN中のグローブボックス内に保存した。
【0205】
6.2 - 酸化鉛(IV)からのPbS量子ドット
PbO(0.1847g、0.772mmol)を磁気撹拌子および凝縮器を備えた三ツ口RBF中に装入した。系をシュレンクラインで真空にし、N中に置き、真空サイクルを3回行った。オレイン酸(1.465mL、4.15mmol)をフラスコ中に注入し、室温で3回脱気し、10分間隔で真空を保持した。温度を上げて、オレイン酸鉛を形成し、それは200℃で起こり始めた。温度を220℃にさらに上げて、15分間保持して、反応を完了させた。次いで、脱気された無水オクタ-1-デセン(ODE)20mLをオレイン酸鉛溶液中に注入し、温度を100℃で30分間横ばい状態にした。(TMS)S0.093MのODE中溶液1.18mLをオレイン酸鉛溶液中に直ちに注入した。溶液は、注入後40秒で黒ずんで見えた。7分後、(TMS)S0.033MのODE中溶液1.28mLをオレイン酸鉛溶液中に直ちに注入した。さらに5分後、(TMS)S0.033MのODE中溶液0.15mLをオレイン酸鉛溶液中に直ちに注入した。3分後、反応を氷水浴中で急冷した後、反応フラスコを密封し、グローブボックス中にパージした。反応溶液のアリコート12.5mLを無水IPA(30mL)と合わせ、遠心分離機にかけて(4.5k、3分)生成物を沈殿させた。沈殿物を無水ヘキサン(約5mL)に合わせ、無水IPA(10mL)を添加した後、遠心分離機にかけた(4.5k、3分)。IPA洗浄を繰り返した後、沈殿物を無水オクタン(5mL)中に溶解させた。最後の遠心分離を実施して、不溶性沈殿物を取り除き、精製生成物を含有した上澄み液をN中のグローブボックス内に保存した。
【0206】
6.3 - 実施例6.1および実施例6.2の特性決定
PbS量子ドットの吸収スペクトルは、400~3200nm波長範囲の測定をもたらし得るJASCO V-770 UV-可視/NIR分光器で得られた。
【0207】
高分解能透過電子顕微鏡(HRTEM)特性決定は、高輝度電子源(200kV超X電界放出銃(super-X field emission gun)-FEG)を備えたFEI(Thermo Fisher)Talos FX200A透過電子顕微鏡で実施された。TEM特性決定からの画像は、CETATM16M(4096×4096ピクセル)CMOSカメラで記録された。ナノ粒子の原子分解能画像は、ナノ結晶の格子縞が視覚化される、顕微鏡の高分解能透過電子顕微鏡(HRTEM)モードで得られた。TEM画像は、デジタル顕微鏡写真(Gatan Digital Micrograph2.3)で分析され、結晶配向の分析はCrysTboxで行われた。
【0208】
表5にまとめられたように、同様の最大吸収波長(約1330~1340nm)およびバンドギャップ(0.92~0.93eV)を有するPbS CQDは、様々な酸化鉛前駆体を使用して(実施例6に従って)合成された。
【0209】
【表5】
【0210】
PbSコロイド状量子ドット(CQD)の形状は、そのサイズ(または吸収波長)が増加するにつれて、八面体から立方体へ変化する。特に、より小さいPbS CQD(<3nm;Eg>1.3eV)は、(111)面によって占められる八面体形状を示す。CQDサイズが増加するにつれて、(100)面は徐々に形成すると予測され、(111)形状面のみの八面体を、(111)および(100)の切頂八面体および立方八面体に変える。(111)面は、鉛に富んだ、極性であり、その一方で(100)面は、より低い表面エネルギーのものであり、無極性である。鉛(II)および鉛(IV)から作製されたPbS CQDのHRTEM画像をそれぞれ、図11および図12に示す。
【0211】
(200)面および(002)面が、面間隔約0.29nmを有する(100)群にあり、(022)面が(110)群にあることに留意されたい。(111)面および(-111)面は、面間隔約0.35nmを有する。
【0212】
図11において分かるように、本発明による酸化鉛(II)前駆体から製作されたPbS CQDは、視覚化された(002)面、(111)面、および(-111)面を有する切頂八面体結晶にある。鉛(IV)から製作されたPbS CQDは、大部分の形状として、立方八面体の有意により高い割合を示す(図12A~D)。(002)面、(111)面が大部分であるが、(022)面が、時折、鉛(IV)PbS CQDの立方八面体結晶において視覚化される。
【0213】
立方八面体のより高い割合を有する鉛(IV)PbS CQDは、鉛(II)ドットに基づいた切頂八面体結晶のみよりも、無極性の、より低い表面エネルギーの(100)面のより高い面積を有するべきである。鉛(II)CQDと同様の最大吸収波長およびバンドギャップの鉛(IV)CQDの(100)面面積の増加は、(100)-(100)カップリングを介してCQDのより高い充填密度をもたらすことができ、それによって、上記CDQを含む薄膜における電荷輸送が改善される。実際、Sargentおよび共同研究者らは、PbS光検出器の正孔移動度および時間応答の両方が、(100)面を支配的にして、カップリングを増やす表面改質によって改善され得ることを報告した(1)。Tanおよび共同研究者らは、n型の大きなPbSナノ結晶の面依存性電気的特性を直接測定することによって、(110)面および(100)面の両方が、高度に導電性であるが、(111)面は、5Vでさえも非導電性のままであり得ることを報告した(2)。これにより、鉛(IV)PbS CQDが、鉛(II)系PbSと比較して、より良好な電荷輸送をもたらし、その結果、とりわけ光電子デバイスのより高い性能をもたらすと実証される。
【0214】
結論において、本発明のナノ結晶およびナノ結晶組成物は、Pb(II)試薬およびPb(II、IV)試薬から製作された、同等なナノ結晶およびナノ結晶組成物と比較して、いくつかの改善された電子特性を有する。上記ナノ結晶は、Pb(II)試薬およびPb(II、IV)試薬から製作された先行技術の材料と比較して、異なるモルフォロジーをとる。安定性などの他の特性は、Pb(II)試薬およびPb(II、IV)試薬から製作された、同等なナノ結晶およびナノ結晶組成物と少なくとも同程度に良好であった。
【0215】
参考文献
【表6】
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
【国際調査報告】