(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-10-13
(54)【発明の名称】フォトバイオモジュレーションを適用するためのデバイス及び方法
(51)【国際特許分類】
A61N 5/06 20060101AFI20231005BHJP
A61B 5/1455 20060101ALI20231005BHJP
【FI】
A61N5/06 Z
A61B5/1455
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023519154
(86)(22)【出願日】2021-10-01
(85)【翻訳文提出日】2023-05-23
(86)【国際出願番号】 EP2021077205
(87)【国際公開番号】W WO2022069755
(87)【国際公開日】2022-04-07
(32)【優先日】2020-10-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(31)【優先権主張番号】PCT/EP2021/059842
(32)【優先日】2021-04-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523106481
【氏名又は名称】ジー ライフ
【氏名又は名称原語表記】G LIFE
(74)【代理人】
【識別番号】100107456
【氏名又は名称】池田 成人
(74)【代理人】
【識別番号】100162352
【氏名又は名称】酒巻 順一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100123995
【氏名又は名称】野田 雅一
(72)【発明者】
【氏名】ゲレッリ, エマヌエル
(72)【発明者】
【氏名】ヨニオバ, ヤロスラヴァ
(72)【発明者】
【氏名】ゲレリ, セバスチャン
(72)【発明者】
【氏名】ワニエール, ジョルジュ
(72)【発明者】
【氏名】ボンノー, ミシェル
【テーマコード(参考)】
4C038
4C082
【Fターム(参考)】
4C038KK10
4C038KL07
4C038KX01
4C082PA02
4C082PC04
4C082PC08
4C082PC10
(57)【要約】
本発明は、生体にフォトバイオモジュレーション(PBM)を適用するためのデバイスであって、光パワーの十分な時間的変化を伴う光を送達する光源を備えており、前記デバイスがまた、生体上/生体内の生体光学係数及び光送達幾何形状に基づいて光パワーの十分な時間的変化を判定する処理及び/又は光制御ユニットを備える、デバイスにおいて、PBM効果が生体の体積の各部分で連続して、1つ又はいくつかの特有の時間中に1つ又はいくつかの特有のフルエンス率を生成することによって誘発されることを特徴とするデバイスに関する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体にフォトバイオモジュレーション(PBM)を適用するためのデバイスであって、光パワーの十分な時間的変化を伴う光を送達する光源を備えており、前記デバイスがまた、前記生体上/前記生体内の生体光学係数及び光送達幾何形状に基づいて前記光パワーの前記十分な時間的変化を判定する処理及び/又は光制御ユニットを備える、デバイスにおいて、前記処理及び/又は光制御ユニットが、前記生体の体積の各部分で連続して、1つ又はいくつかの特有の時間中に1つ又はいくつかの特有のフルエンス率を生成することによって、PBM効果を誘発するようにさらに構成され、前記特有の組み合わせたフルエンス率(複数可)及び前記時間が、180±30秒中に3±2mW/cm
2、又は80±25秒中に11±9mW/cm
2、又は40±20秒中に16±10mW/cm
2、又は15±10秒中に25±10mW/cm
2、又は40±1秒中に10±9.7mW/cm
2のパラメータの群から選択されることを特徴とする、デバイス。
【請求項2】
前記PBM効果に基づいて前記光パワー又は放射照度を調整するように設計されたPBM監視及び/又はフィードバックシステムを備える、請求項1に記載のデバイス。
【請求項3】
グルコースセンサを備えており、前記処理及び/又は光制御ユニットが、前記グルコースセンサによって測定された血糖レベルに従って光線量を調整するように構成される、請求項1又は2に記載のデバイス。
【請求項4】
心拍出量センサを備えており、前記処理及び/又は光制御ユニットが、前記心拍出量センサによって測定された心拍出量に従って前記光線量を調整するように構成される、請求項1~3のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項5】
クレブス回路酵素動態測定手段を備えており、前記処理及び/又は光制御ユニットが、前記クレブス回路酵素動態測定手段によって測定された前記酵素活動に従って前記光線量を調整するように構成される、請求項1~4のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項6】
前記生体に1つ又はいくつかの外因性物質を投与するためのユニットを備える、請求項1~5のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項7】
PBM監視及び/又は前記PBM効果のフィードバックのための監視ユニットを備えており、前記処理ユニットが、前記監視ユニットによって監視される前記PBM効果に基づいて、前記光パワー、光の送達、及び/又は前記放射照度を調整するように構成される、請求項1~6のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項8】
代謝監視ユニットを備えており、前記処理ユニットが、前記代謝監視ユニットによって測定された前記生体の代謝活動に基づいて、前記光パワー、前記光の送達、及び/又は前記放射照度を調整するように構成される、請求項1~7のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項9】
波長の併用を生成するように構成され、前記波長のうちの少なくとも1つが単独で使用されると効果的でないことを特徴とする、請求項1~8のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項10】
周波数分析に基づいて、特に代謝活動を反映する監視されるパラメータのウェーブレット理論を使用して、PBMTで使用される放射及び/又はスペクトル条件の調整を統合するデバイス。
【請求項11】
PBM効果に基づいて光パワー又は放射照度を調整するように設計されたPBM監視及び/又はフィードバックシステムを備える、請求項10に記載のデバイス。
【請求項12】
グルコースセンサを備えており、前記処理及び/又は光制御ユニットが、前記グルコースセンサによって測定された血糖レベルに従って光線量を調整するように構成される、請求項10又は11に記載のデバイス。
【請求項13】
心拍出量センサを備えており、前記処理及び/又は光制御ユニットが、前記心拍出量センサによって測定された心拍出量に従って前記光線量を調整するように構成される、請求項10~12のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項14】
クレブス回路酵素動態測定手段を備えており、前記処理及び/又は光制御ユニットが、前記クレブス回路酵素動態測定手段によって測定された前記酵素活動に従って前記光線量を調整するように構成される、請求項10~13のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項15】
前記生体に1つ又はいくつかの外因性物質を投与するためのユニットを備える、請求項10~14のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項16】
PBM監視及び/又は前記PBM効果のフィードバックのための監視ユニットを備えており、前記処理ユニットが、前記監視ユニットによって監視される前記PBM効果に基づいて、前記光パワー、光の送達、及び/又は前記放射照度を調整するように構成される、請求項10~15のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項17】
代謝監視ユニットを備えており、前記処理ユニットが、前記代謝監視ユニットによって測定された前記生体の代謝活動に基づいて、前記光パワー、前記光の送達、及び/又は前記放射照度を調整するように構成される、請求項10~16のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項18】
代謝活動の測定に基づいてPBM光の印加(複数可)を開始するための最適の時間を予測するデバイス。
【請求項19】
心臓区画、肺動脈、又は大静脈内に含まれる血液中でPBMを直接実行するデバイス。
【請求項20】
PBM効果に基づいて光パワー又は放射照度を調整するように設計されたPBM監視及び/又はフィードバックシステムを備える、請求項19に記載のデバイス。
【請求項21】
グルコースセンサを備えており、前記処理及び/又は光制御ユニットが、前記グルコースセンサによって測定された血糖レベルに従って光線量を調整するように構成される、請求項19又は20に記載のデバイス。
【請求項22】
心拍出量センサを備えており、前記処理及び/又は光制御ユニットが、前記心拍出量センサによって測定された心拍出量に従って前記光線量を調整するように構成される、請求項19~21のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項23】
クレブス回路酵素動態測定手段を備えており、前記処理及び/又は光制御ユニットが、前記クレブス回路酵素動態測定手段によって測定された前記酵素活動に従って前記光線量を調整するように構成される、請求項19~22のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項24】
前記生体に1つ又はいくつかの外因性物質を投与するためのユニットを備える、請求項19~23のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項25】
PBM監視及び/又は前記PBM効果のフィードバックのための監視ユニットを備えており、前記処理ユニットが、前記監視ユニットによって監視される前記PBM効果に基づいて、前記光パワー、光の送達、及び/又は前記放射照度を調整するように構成される、請求項19~24のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項26】
代謝監視ユニットを備えており、前記処理ユニットが、前記代謝監視ユニットによって測定された前記生体の代謝活動に基づいて、前記光パワー、前記光の送達、及び/又は前記放射照度を調整するように構成される、請求項19~25のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項27】
PBM光線量測定を最適化するデバイスであって、前記最適化が、光分配器と標的生物流体とを分離する距離の動的変化に基づいて行われる、デバイス。
【請求項28】
PBM効果に基づいて光パワー又は放射照度を調整するように設計されたPBM監視及び/又はフィードバックシステムを備える、請求項27に記載のデバイス。
【請求項29】
グルコースセンサを備えており、前記処理及び/又は光制御ユニットが、前記グルコースセンサによって測定された血糖レベルに従って光線量を調整するように構成される、請求項27又は28に記載のデバイス。
【請求項30】
心拍出量センサを備えており、前記処理及び/又は光制御ユニットが、前記心拍出量センサによって測定された心拍出量に従って前記光線量を調整するように構成される、請求項27~29のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項31】
クレブス回路酵素動態測定手段を備えており、前記処理及び/又は光制御ユニットが、前記クレブス回路酵素動態測定手段によって測定された前記酵素活動に従って前記光線量を調整するように構成される、請求項27~30のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項32】
前記生体に1つ又はいくつかの外因性物質を投与するためのユニットを備える、請求項27~31のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項33】
PBM監視及び/又は前記PBM効果のフィードバックのための監視ユニットを備えており、前記処理ユニットが、前記監視ユニットによって監視される前記PBM効果に基づいて、前記光パワー、光の送達、及び/又は前記放射照度を調整するように構成される、請求項27~32のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項34】
代謝監視ユニットを備えており、前記処理ユニットが、前記代謝監視ユニットによって測定された前記生体の代謝活動に基づいて、前記光パワー、前記光の送達、及び/又は前記放射照度を調整するように構成される、請求項27~33のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項35】
デバイス発光面から異なる距離に位置する動く生体内で最適のフルエンス率を送達するための可変の長手方向光エミッタンスプロファイルを示すデバイス。
【請求項36】
PBM効果に基づいて光パワー又は放射照度を調整するように設計されたPBM監視及び/又はフィードバックシステムを備える、請求項35に記載のデバイス。
【請求項37】
グルコースセンサを備えており、前記処理及び/又は光制御ユニットが、前記グルコースセンサによって測定された血糖レベルに従って光線量を調整するように構成される、請求項35又は36に記載のデバイス。
【請求項38】
心拍出量センサを備えており、前記処理及び/又は光制御ユニットが、前記心拍出量センサによって測定された心拍出量に従って前記光線量を調整するように構成される、請求項35~37のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項39】
クレブス回路酵素動態測定手段を備えており、前記処理及び/又は光制御ユニットが、前記クレブス回路酵素動態測定手段によって測定された前記酵素活動に従って前記光線量を調整するように構成される、請求項35~38のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項40】
前記生体に1つ又はいくつかの外因性物質を投与するためのユニットを備える、請求項35~39のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項41】
PBM監視及び/又は前記PBM効果のフィードバックのための監視ユニットを備えており、前記処理ユニットが、前記監視ユニットによって監視される前記PBM効果に基づいて、前記光パワー、光の送達、及び/又は前記放射照度を調整するように構成される、請求項35~40のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項42】
代謝監視ユニットを備えており、前記処理ユニットが、前記代謝監視ユニットによって測定された前記生体の代謝活動に基づいて、前記光パワー、前記光の送達、及び/又は前記放射照度を調整するように構成される、請求項35~41のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項43】
生体にフォトバイオモジュレーション(PBM)を適用する方法であって、光が、光パワーの十分な時間的変化で送達され、前記パワーが、前記生体上/前記生体内の生体光学係数及び光送達幾何形状に基づいて判定される、方法において、PBM効果が、前記生体の体積の各部分で連続して、1つ又はいくつかの特有の時間中に1つ又はいくつかの特有のフルエンス率を生成することによってさらに誘発され、前記特有の組み合わせたフルエンス率(複数可)及び前記時間が、180±30秒中に3±2mW/cm
2、80±25秒中に11±9mW/cm
2、40±20秒中に16±10mW/cm
2、15±10秒中に25±10mW/cm
2、40±1秒中に10±9、7mW/cm
2のパラメータの群から選択されることを特徴とする、方法。
【請求項44】
少なくとも1つの外因性刺激の作用からなる追加のステップを含む、請求項43に記載の方法。
【請求項45】
前記外因性刺激が作用因子である、請求項44に記載の方法。
【請求項46】
前記外因性刺激が温度変化である、請求項44に記載の方法。
【請求項47】
少なくとも2つの外因性刺激の作用を含み、前記刺激の1つが外因性物質である、請求項43~46のいずれか一項に記載の方法。
【請求項48】
前記光パワー、光の送達、及び/又は放射照度が、前記生体の代謝活動を反映する1つ又はいくつかのパラメータの変動の振幅、位相、及び/又は周波数を適合させるために使用される、請求項43~47のいずれか一項に記載の方法。
【請求項49】
急性MIを含む心筋梗塞(MI)の治療のための、請求項1~48のいずれか一項に記載のデバイス又は方法の使用。
【請求項50】
虚血及び/又は低酸素/無酸素状態を受けた生体の治療のための、請求項1~48のいずれか一項に記載のデバイス又は方法の使用。
【請求項51】
急性呼吸窮迫症候群(ARDS)の治療のための、請求項1~48のいずれか一項に記載のデバイス又は方法の使用。
【請求項52】
非同期代謝活動の治療のための、請求項1~48のいずれか一項に記載のデバイス又は方法の使用。
【請求項53】
非同期インシュリン分泌の治療のための、請求項1~48のいずれか一項に記載のデバイス又は方法の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[対応出願]
本出願は、2020年10月1日に出願された先行欧州特許出願第2199710.3号、及び2021年4月15日に出願された国際出願PCT/EP2021059842の優先権を主張するものであり、これらの先行出願の内容は、参照によって全体として本出願に組み込まれる。
【0002】
[発明の分野]
本発明は、一般に、フォトバイオモジュレーション(PBM)に関し、より詳細には、フォトバイオモジュレーション療法(PBMT)を適用するためのデバイス及び方法に関する。
【0003】
[先行技術]
定義
以下の定義が本明細書に適用される。
光:250nm~3μmの範囲の波長を有する電磁放射。
放射照度又は1次入射E[W/m2]:放射照度は、光源から直接受け取る単位表面当たりのパワーを示す。
放射輝度L[W/(m2.sr)]:放射輝度は、単位表面積を通過し又は単位表面積から放出されて指定の方向に単位立体角内で伝播する光のパワーである。
フルエンス率F[W/m2]:フルエンス率は、単位断面積を呈する球に入るパワーである。フルエンス率は、標的環境における拡散及び/又は散乱の作用を考慮に入れる。フルエンス率は等方性パワー計によって測定される。フルエンス率は、直接光束(放射照度)並びに散乱及び拡散の影響を考慮に入れる。フルエンス(以下参照)と同様に、標的組織における多重散乱及び拡散は非常に重要であるため、この用語は線量測定において根本的に重要である。
フルエンス又は光線量Ψ[J/m2]:フルエンス率の時間積分である。したがって、フルエンスは、単位断面積を呈する球に入るエネルギーである。
吸収係数μa[m-1]:光子吸収前の平均自由行程の逆数。
散乱係数μs[m-1]:光子散乱間の平均自由行程の逆数。
低減散乱係数μs’[m-1]:μs’=μs(1-g)
異方性因子g[--]:gはコサイン「θ」の平均値に等しく、ここで「θ」は粒子によって散乱される光子の偏向角である。
実効減衰係数μeff[m-1]:μeff=(3μa(μa+μs’))1/2
【0004】
本明細書において、フォトバイオモジュレーション、すなわちPBMは、特定の波長(複数可)の光による組織又は臓器などの生体の治療を指す。この治療により、組織又は神経の再生及びリモデリングを容易にし、炎症を緩和し、浮腫を軽減させ、痛みを和らげ、免疫系及び代謝を調節することができる。PBMは、加齢黄斑変性、血液治療、創傷治癒、免疫調節に積極的に作用し、さらに場合によりウイルス及び細菌感染にも作用する。
【0005】
ミトコンドリア呼吸の欠乏を含む代謝の混乱には、多くの症状が関連する。これらの症状には、神経変性疾患(パーキンソン病、アルツハイマー病、及びハンチントン病)、アテローム性動脈硬化症、特定の形態の糖尿病、自己免疫疾患、癌、慢性創傷、虚血再灌流に起因する損傷、及び急性呼吸窮迫症候群(ARDS)のような慢性又は急性の炎症が含まれる。とりわけ発作、心臓発作、移植、又は虚血性創傷の場合、代謝が大幅に変動することもよく知られている。一例として、ミトコンドリア呼吸が心臓リモデリングにおいて重要な役割を果たすこと[Kindo、2016]、及び心臓代謝がミトコンドリア機能障害による頭頂部ストレスに反応すること[Kindo、2012]が示されている。
【0006】
したがって、多数の症状の治療及び特徴付けのために、代謝を正常化、回復、及び/又は増強するための方策が非常に注目されている。PBM療法は、これらの方策のうちの1つである[Hamblin 2017;Hamblin 2018]。
【0007】
PBM療法は、大部分が600~900nmの範囲の波長の低い(サブサーマル)放射照度の光を投与することに基づき、スペクトル窓はほとんどの軟組織における最大光侵入深さに対応する。PBMは、広範囲の分子、細胞、及び組織効果を有する[Hamblin 2017;Hamblin 2018]。
【0008】
しかし、その機構はまだ完全には理解されていない。さらに、PBM治療パラメータはほとんど最適化及び/又は習得されていない。いくつかのグループによって行われた研究[Hamblin 2017;Hamblin 2018]、並びに最も重要なことに本発明者らによって実施された生体外及び生体内観察に基づいて、PBMは特に次のようないくつかの好影響をもたらすと結論付けることができる。
【0009】
a)低酸素状態後又は低酸素状態中の組織の酸素(O2)消費の増大
b)血管新生の刺激
c)細胞レベルの再生プロセスの刺激
d)O2センサとして使用することができる、5-アミノレブリン酸(ALA)の適用後のプロトポルフィリンIX(PpIX)の体内生産の増大[Sachar、2016]。光増感剤及び蛍光マーカとしての誘発PpIXに対するALAの調合物の中には、それぞれ癌の治療及び検出に関して承認されたものがあることに留意されたい。
e)代謝活動の改善を示すATP生産の増大
f)活性酸素種(ROS)の調節
g)活性窒素種(RNS)の調節
h)中毒状態に陥った細胞の救済
i)無酸素/再酸素化事象を受けた胎児の生存率の上昇
j)長期の低酸素又は血中酸素減少事象中の循環一酸化窒素(NO)の増大
k)長期の低酸素又は血中酸素減少事象中の持続的恒常性(血行力学変数、血糖による血液ガス測定に基づく)
【0010】
これらの観察はおそらく、代謝活動の刺激に起因しており、上述したものを含む多数の医療用途に非常に注目されている[Hamblin 2017;Hamblin 2018]。
【0011】
PBMは、心筋梗塞(MI)の治療に特に注目されており[Liebert、2017]、これは最もよく見られる急性病変のうちの1つである。MIは世界中で主な死因になっている。現在、MIを患っている患者にとって、MIのサイズを制限して急性心筋虚血障害を低減させるための最適な治療は時間がかかり、副作用があり、有効性が制限される。MIの治療は、1次経皮的冠動脈インターベンション又は血栓溶解療法からなる。さらに、治療(再灌流プロセス)自体が、治療から数日後まで心筋細胞の死因となる可能性があり、心筋再灌流傷害としても知られているプロセスであり、これに対する有効な治療は見つかっていない[Chouchani、2016;Ferrari、2017;Kalogeris、2017]。
【0012】
PBMTはまた、線維筋痛症、関節リウマチ、又は自己免疫疾患の場合のように、特に循環血液が直接照射されるとき、全身性炎症の治療としても注目されている。PBMTはまた、サイトカインストームによる強い免疫応答が急性呼吸窮迫症候群(ARDS)を誘発する急性期、又は長期のSARS-Cov2の作用に起因する慢性期において、SARS-Cov2の影響を回避するのに役立つことができる。
【0013】
米国特許出願公開第2007/219604号は、生体にPBMを適用する方法を開示しており、光は光パワーの十分な時間的変化とともに送達され、パワーは生体上/生体内の生体光学係数及び光送達幾何形状に基づいて判定される。この米国特許出願公開第2007/219604号において、PBM効果は、生体の体積の各部分で連続するフルエンス率の生成によって誘発される。この出願では、フルエンス率及び照射時間の特有の値には言及されていないことに留意されたい。
【0014】
しかし、PBMを適用する既存の方法は、特に以下に説明するようにPBMの二峰性効果のため、十分に効率的ではない。
【0015】
PBMTの使用が制限されていることは、生物組織の代謝活動を監視するための方法が存在しないことによって説明することもできる。このことは、PBM効果の重要性が、たとえば酸素消費によって判定される光が代謝活動に適用される時間に依存していることを実証した本発明者らの別の発見によって裏付けられる。
【0016】
したがって、生体の治療のためにPBMの使用を改善することが必要とされている。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】空気-組織境界面の「広範囲」の視準された直交照射に対する半無限組織におけるフルエンス率/放射照度比の深さに対する変化を示す図である。連続する曲線は拡散近似の解であり、破線の曲線はコンピュータに基づくモンテカルロシミュレーションの解であり、ここでμ
a及びμ
sはそれぞれ吸収及び散乱係数である。μ
effは実効減衰係数、gは異方性因子であり、kは光の後方散乱に起因する前指数因子である。[Jacques、2010]から導出。
【
図2】代謝振動を受けたHCM細胞の単層の上で測定されたpO
2(黒色曲線;mmHg)及び温度(灰色曲線;℃)の時間的変化の図である。
【
図3】血管新生に対するSTS及びPBMの相乗効果を示す図である。
【
図4a】ヒト心筋細胞(HCM)において689nm(
図4a)及び652nm(
図4b)で観察された、特に代謝活動を反映するPBMあり/PBMなしのPpIX蛍光強度の比として提示される様々なPBM条件を示す図である。「PBMあり/PBMなし」の比の値は、モノクロームバーによって与えられる。
【
図4b】ヒト心筋細胞(HCM)において689nm(
図4a)及び652nm(
図4b)で観察された、特に代謝活動を反映するPBMあり/PBMなしのPpIX蛍光強度の比として提示される様々なPBM条件を示す図である。「PBMあり/PBMなし」の比の値は、モノクロームバーによって与えられる。
【
図4c】左は、689nm(強力な波長)及び730nm(強力でない波長)におけるフルエンス率依存効果(0.5~15mW/cm
2の範囲のフルエンス率)を示し、右は、非有効フルエンス率(9mW/cm
2)を使用した強力な波長と、PpIX蛍光の相対的増大に著しい効果を誘発する強力でない波長との組合せを示す図である。
【
図5】空気-組織境界面の「広範囲」の視準された直交照射に対する半無限組織におけるフルエンス率/放射照度比(F/E)の深さに対する変化を示す図である。連続する曲線は拡散近似の解であり、破線の曲線はコンピュータに基づくモンテカルロシミュレーションの解であり、ここでμ
a及びμ
sはそれぞれ吸収及び散乱係数である。μ
effは実効減衰係数、gは異方性因子であり、kは、屈折率整合条件(n
tissue/n
air=1.37)及び光学係数に依存しており、光の後方散乱に起因する前指数因子である。[Jacques、2010]から導出。
【
図6】EDD7のCAMにおけるpO
2の周波数分析を示す図である。左上は、血管に適用された金属Clarkプローブを示す実験の画像を示し、左中央は、pO
2信号(50Hzで獲得)を示し、左下は、ウェーブレット分析に基づく関連スペクトルを示し(垂直スケールは周波数であり、モノクロームレベルは振動振幅を表し、水平スケールは秒単位の時間である)、右下は、pO
2信号(1Hzで獲得)を示し、右上は、ウェーブレット分析に起因するスペクトルに関連付けられた振動振幅を表すモノクロームレベルを示す図である。水平軸線は、分単位で示す時間である。NaHS(10μl~1μM)の局所適用から25分(スケール外の時間)後にpO
2緊張の強い活性化が観察され、105分の時点でPBM(850nm、7mW.cm
2、30秒)によって不活性化される(筋原性信号参照)。スペクトル上に報告される水平線は、特有の周波数、すなわち1-心臓、2-呼吸、3-筋原性、4-神経原性、5-eNOS依存、6-eNOS非依存(おそらくプロスタグランジンを示す[Shiogaiら])を示す。心臓周波数はサンプリング内で分解することができない。呼吸及び神経原性帯域はこのEDDに存在しない。
【
図7】
図6に提示した実験の拡大図である。水平軸線は分単位の時間を示す。
【
図8】左は、卵内の無酸素再酸素化実験の画像を示し、右は、実験の全継続時間中に記録されたpO
2信号(OX-100μmのUnisense(登録商標))を示す図である(垂直軸線:mmHg)。N
2を流す(最大60分)ことによる低酸素状態に続いて、再酸素化が行われる。
【
図9】無酸素性心臓麻痺中のPBMによるEDD5におけるニワトリ胚の心臓の刺激を示し、左は、胚を示す画像(右)上に提示される長方形によって画定される関心領域における心臓反射率の変化によって評価される心拍の時間経過測定を示す図である。心拍は0~45秒で停止している。次いで、7秒間のPBM照射が、1分超にわたって心拍を再活性化させる。
【
図10】空気-組織境界面の「広範囲」の視準された直交照射に対する半無限組織におけるフルエンス率(E)の空間的変化を示す図である。Δz=0.3mm;n=10;n
tissue/n
air=1.37;T=180秒;ΔF’=1.6mW/cm
2である。点線の曲線は、フルエンス率の「段階的」変化の連続適合に対応する。この適合の分析式が、この図に挿入物として提示されている。これは、Eを増分的に変化させるのではなく連続して変化させることができることを示す。
【
図11】空気-組織境界面の「広範囲」の視準された直交照射に対する半無限組織におけるフルエンス率(E)の時間的変化を示す図である。Δz=0.3mm;n=10;n
tissue/n
air=1.37;T=180秒;ΔF’=1.6mW/cm
2である。点線の曲線は、フルエンス率の「段階的」変化の連続適合に対応する。この適合の分析式が、この図に挿入物として提示されている。これは、Eを増分的に変化させるのではなく連続して変化させることができることを示す。
【
図12】マスクを通して事前定義されたパターン及び間隔で経心筋(c)に配置された光源(a)に接続された円筒形分配器(d)の冠動脈血栓(b)中の90°の経心筋移植、(e)光分配器、iCAT(登録商標)カテーテル、及び穿刺用のカテーテルに挿入されるガイド、(f)エクスビボブタ左心室筋(652nm~100mW)の中心に移植された等方性分配器(直径0.8mmの球)からの光の伝播を示す画像の略図である。
【
図13】胸骨切開後の原位置におけるブタ心臓の損傷した左心室全体に沿ったiCAT(登録商標)カテーテルの移植を示す図である。A)カテーテルが心尖側から導入されて、B)左心室の頂部から出た。C)カテーテルを取り外していない心臓切除後の心臓の断面である。ここでカテーテルは、心筋厚さの中央付近にうまく配置されている。
【
図14a】ブタの心臓切開手術中に左心室に部分的に灌流させる左前下行冠状動脈(LAD)の閉塞後の虚血区域(IZ)の視覚的ローカリゼーションを示す図である。IZは非虚血区域(NZ)から容易に区別される。電気インピーダンスセンサを使用して虚血区域を特徴付けることもできる。AJP-Heart Circ Physiol
【
図14b】ブタの心臓切開手術中のLADの閉塞後の実施例1に記載する経心筋フォトコンディショニングの視覚的表現を示す図である。虚血期中、組織内カテーテル(iCAT(登録商標)、0.89mm)が左心筋内に心尖から左心房へ、治療面積を最大にするために最適の距離で挿入された。次いで、各iCAT(登録商標)内に円筒形分配器(RD250(登録商標)、スティック長7cm)が配置された。PBM治療は、再灌流前の照射時間に応じて数秒から数分間にわたって実施された。心室の再灌流前の数秒間にわたって、2つの分配器から670nm及び808nmの照射が使用された。次いで、再灌流直後にカテーテルが除去された。最終的に、カテーテルは、さらなる再生照射のために手術後に定位置に残すことも可能である。
【
図15】治療を補うデバイスの一部分の一例を示す簡略図である。疾患及び治療方法に応じて、たとえば組織内か全身性かに応じて、デバイスは、異なる基本通信ブロックの組合せを有するモジュールとすることができる。いくつかのブロックは、本明細書に記載する可観測量に基づくセンサ、又は通常の臨床システムからデータを獲得するためのインターフェースとすることができる。いくつかのブロックは、照射の分光法を特徴付けることができ、他のブロックは、カテーテルへの外因性物質の灌流及び灌流温度を制御することに専用のものとすることができる。PBMによる機械圧力又は温度変化のような複合的外因性刺激に、他の作動因子を加えることもできる。ここに示すように、マルチルーメンバルーンカテーテルを使用する場合、いくつかのブロックは、変化の監視を考慮に入れるかどうかにかかわらず、時間及び/若しくは期間並びに/又は膨張/収縮レベルを制御することができる。デバイスの一部はまた、生体を最適に治療するために、特有のバルーンサイズ及び形状を統合する。たとえば、この図に表すように、両側に2つの円錐形の形状を有する右心房の中心に置かれたバルーンは、大静脈の下部分及び上部分からくる循環物を最適に治療することができる。さらに、特に低酸素又は血中酸素減少中、PBMが生体リズムに強く影響するため、バルーンは、右心房の頂部に位置する洞房結節又は心房心室結節に接触するような形状とすることができる。さらに、マルチルーメンカテーテルを使用して、外因性物質の照射機能の上流又は下流にバルーンを通して外因性物質を注入することができる。デバイスを使用して、感光剤を光活性化することもできることが明らかである。これらのデバイスのブロックはまた、心臓弁への血小板の凝集及び凝固を最小にするために、様々な移植によって直接実装することができる。デバイスはまた、生体適合性/生体安定性を増大させるために、たとえば人工心臓若しくは脾臓チャンバに実装することができ、並びに/又は化学療法に使用される移植チャンバの炎症及び免疫応答を低減させるために実装することができ、他の例として人工股関節若しくは血管ステントの内皮化を活性化するために実装することができる。
【
図16】PBMで使用される照射幾何形状の例を示す図である。点描区域は、組織内のフルエンス率のパターンを概略的に表す。(a)、(b)先端に広いビーム又はレンズを有するファイバからの表面照射。(c)~(e)端部が切断された又は円筒形のファイバによる組織内照射。(f)~(h)腔内及び内腔照射。(i)、(j)等方性の先端を有するファイバ又は光拡散液(影付き)を使用した腔内全面照射。出典:Wilson、1986。
【
図17】空気-組織境界面の「広範囲」の視準された直交照射に対する半無限組織におけるフルエンス率(E)の空間的変化を示す図である。Eの空間的変化は、総照射時間を最小にしながらその値が100mW/cm
2を超過しないように最適化される。この概念は、
図4に見える2つのPBMホットスポットを利用してサンプルに照射することであり、すなわちそれぞれ40秒及び180秒(Tの値)中に15mW/cm
2及び3mW/cm
2のフルエンス率を生じさせることである。ΔF’、Δz、及びn(ステップ数)の対応する値は、それぞれ次のとおりである。 T=40秒の場合、4mW/cm
2、0.15mm、及び13 T=180秒の場合、1.6mW/cm
2、0.3mm、及び4。 n
tissue/n
air=1.37
【
図18】空気-組織境界面の「広範囲」の視準された直交照射に対する半無限組織におけるフルエンス率(E)の時間的変化を示す図である。Eの空間的変化は、総照射時間を最小にしながらその値が100mW/cm
2を超過しないように最適化される。この概念は、
図4に見える2つのPBMホットスポットを利用してサンプルに照射することであり、すなわちそれぞれ40秒及び180秒(Tの値)中に15mW/cm
2及び3mW/cm
2のフルエンス率を生じさせることである。ΔF’、Δz、及びn(ステップ数)の対応する値は、それぞれ次のとおりである。 T=40秒の場合、4mW/cm
2、0.15mm、及び13 T=180秒の場合、1.6mW/cm
2、0.3mm、及び4。 n
tissue/n
air=1.37 フルエンス率の「段階的」変化は、
図11に挿入物として提示する分析式によって適合させることができる。
【
図19a】円筒形分配器からの均一でない長手方向エミッタンスによって示される均一でない光エミッタンスを示す図である。分配器(2)は、壁血管(1)によって範囲が定められた血管内に配置される。分配器のエミッタンスは、スティック(光を放出する分配器の一部)の全体に沿って光勾配をもたらすような形状であり、ここではスティックに対して平行でないフルエンス率のiso曲線によって表される。2つの同一の循環物が分配器全体に沿って特定の距離h
i及びh
jをあけて特定の速度
【数1】
の範囲内で進むと考慮すると、それぞれ特定の位置A
i(h
i)及びA
j(h
j)において、特定のホットスポットΩ
i,λに対処するために、
【数2】
によって画定される照射時間に関して最適のフルエンス率が得られる。光勾配は、循環媒質の光学係数、血管の幾何形状、並びに流れの速度レベル及び性質(層流、乱流、拍動)に基づいて構成されることが明らかである。
【
図19b】円筒形分配器からの均一でない順次長手方向エミッタンスによって示される均一でないエミッタンスの波長の組合せを示す図である。たとえば制約照射時間とアクセス可能なフルエンス率との間の不整合のために特定のホットスポットを選択することができない特定のシナリオにおいて、強力な波長(λ
i)及び強力でない波長(λ
j)の照射の組合せを使用して、この問題を乗り越えることができる。この方式では、任意の種類の循環に対する任意のホットスポットを選択することができる場合、等線量地帯を両方の波長に対して平行とすることができ、次いで均一の順次又は同時照射を使用して、強力なPBM効果を得ることができる。逆に、特定の種類の循環物に対するホットスポットを選択することができる場合、全ての種類の循環物を最適に治療するために、均一でない照射を考慮しなければならない。
【
図19c】バルーン内の均一の長手方向分配器のエミッタンスの調節を示す図である。RD(登録商標)(無線マーカによって範囲が定められた2cmのスティック)が、バルーンに基づくカテーテル内へカプセル化される。バルーンの形状及びサイズは、RDのエミッタンスの形状によって画定される。この場合、バルーンの直径の調節によって分配器内の距離が調節されるため、バルーン付近を通過する循環物は異なるフルエンス率に露出される。
【
図20】矢印がスティック(7cm)の範囲を定める無線マーカを特定している、円筒形分配器(RD(登録商標)70)を示すブタ胸部の蛍光透視を示す図である。スティックは、
図15に示すように、上大静脈から始まり、次いで右心房を通過して、下大静脈で終わる。分配器は、実施例13に記載する処置下で配置されるが、使用されたカテーテルは剥がしてまた使えるカテーテルであり、カテーテルを除去し、光分配器のみを中心静脈ラインに配置することが可能であるという違いがある。光分配器は、数日間慢性照射のために使うことができる。
【
図21】689nmのホットスポット「ライン」を利用する照射方式プロトコルを示す図である。
図4では、0.5~20mW.cm
-2のフルエンス率に対して40秒の相対的な強力なラインが見える。これを使用して、照射時間当たりの治療深さの増大によって、照射治療時間を最適化することができる。半無限媒質に配置された均一の組織内長手方向分配器から放出されるフルエンス率は、第2種ベッセル関数に基づく分析式によって近似させることができることが知られている。
図21は、光学係数の範囲内で画定される分配器軸線に直交するフルエンス率の変化に基づく治療プロトコルを示す(ua=0.17mm
-1:ueff=0.88mm
-1)。0~40秒で、2.8mW.cm
-1の光パワーが分配器に結合され、それにより分配器表面付近で20mW.cm
-2のフルエンス率から、約3.5mmで約0.5mW.cm
-2のフルエンス率を誘発する。40~80秒で、光パワーは100mW.cm
-1で調整され(増倍率P)、3.5mmで約20mW.cm
-2のフルエンス率が得られ、フルエンス率は約7mmで0.5mW.cm
-2に到達する。したがって、このホットスポット線を使用して、この場合、80秒の治療時間内で治療の深さは7mmになる。
【
図22】その特有の照射時間内で生体の異なる部分を同時に治療するために同じ波長のホットスポットの組合せの選択の使用の図である。長手方向分配器が心筋内に配置された
図21に示す同じシミュレーションに基づいて、この図は、差し込み図に提示される時間内に印加される連続する光パワーに対する組織の深さにおけるフルエンス率の変化を示す。たとえば、ホットスポットΩ
i,689=(20±1mW.cm
-2;60±1秒)と、より低いフルエンス率を提示するが、倍の照射時間を提示する別のホットスポットΩ
j,689=(3±1.6mW.cm
-2;180±1秒)との特定の組合せを使用して、60秒ごとに結合表層の治療に成功し(Ω
i,689を使用)、並行して深い第2の区間を累積的に治療する(フルエンス率のうち黒色の下線のある部分)。セッションA中、3つの表層(Ω
i,689に対して60秒ごとに光パワーを増大させることによる)が治療され(照射時間は下のグラフに投影される)、より深い区間は3±1.6mW.cm
-2の範囲において一連の3×60秒で受け取る。次いで深い区域の一部が180秒で受け取ったため、このセッションの光パワーは、すでに180秒で受け取った部分を照射することを回避するように画定される。次いで、示されているように、セッションBの開始光パワーが、Ω
j,689を継続するように画定され、これにより物体の別の部分がΩ
i,689を受け取ることを誘発する。
図20:矢印がスティック(7cm)の範囲を定める無線マーカを特定している、円筒形分配器(RD(登録商標)70)を示すブタ胸部の蛍光透視を示す図である。スティックは、
図15に示すように、上大静脈から始まり、次いで右心房を通過して、下大静脈で終わる。分配器は、実施例13に記載する処置下で配置されるが、使用されたカテーテルは剥がしてまた使えるカテーテルであり、カテーテルを除去し、光分配器のみを中心静脈ラインに配置することが可能であるという違いがある。光分配器は、数日間慢性照射のために使うことができる。
図21:「大型」の生体に挿入された「長い」円筒形光分配器による照射時間を最小にするために、
図4aに見える「ライン」ホットスポットをどのように利用することができるかを示す、照射方式プロトコルを示す図である。この幾何形状では、第2種ベッセル関数を含む分析式によって、光分配器の表面からの距離に応じたフルエンス率の変化をモデル化することができる。上述した距離に応じたフルエンス率の変化が、光分配器の長さのmW/cmで表される2つの異なる線形パワー密度に対する生体の次の光学係数(μ
a=0.17mm
-1:μ
eff=0.88mm
-1)に関して示されている。第1の線形パワー密度(2.8mW/cm)は、40秒にわたって適用され、光分配器表面に20mW/cm
2のフルエンス率を誘発し、このフルエンス率は3.5mmの距離で約0.5mW/cm
2である。第2の線形パワー密度(100mW/cm)は、40~80秒に適用され、したがって3.5mmで20mW/cm
2のフルエンス率をもたらし、その値は7mmで0.5mW/cm
2になる。したがって、このホットスポット線を使用すると、80秒続く治療の場合、治療の深さは7mmである。
図22:1つの波長によって生体内の異なる深さを同時に治療するための、表面Ω
i,689及びΩ
j,689に対応する2つのホットスポットの併用の図である。
図21に対応する幾何形状及び光学条件を考慮して、順次適用される異なる線形パワー密度に関して、深さに対するフルエンス率の変化が示されている。ホットスポット(Ω
i,689:20±1mW.cm
-2;60±1秒)、(Ω
j,689:3±1.6mW.cm
-2;180±1秒)の特定の組合せを使用して、2つの照射セッション(A及びB)において4つの層が治療される。セッションA中に、ホットスポットΩ
i,689を使用するために180秒まで60秒の段階で線形パワー密度を増大させることによって2つの層が治療され、その間にホットスポットΩ
j,689を使用して残り2つの層が治療される。
図22の右上角に位置する挿入物によって示すように、総治療時間は360秒である。セッションBに対して使用される線形パワー密度は、1~約3mmに位置する2つの治療層が隣接するように画定されることに留意されたい。
【
図23】組織内に異なる侵入深さを呈する2つの波長が同期して印加される、
図22の一般化を示す図である。その結果、これら2つの波長の併用により、
図22で述べた治療時間を2分の1低減させることが可能になる。
【
図24a】血液に対応する光学特性(μ
a=0.25mm
-1、μ
eff=1.07mm
-1)を有する流体によって取り囲まれた7cmの長さを呈する円錐形光分配器の周りの正常化されたフルエンス率を(mW/cm
2)/(mW/cm)で示す図である。矢印は、光分配器軸線に平行な軌道に従ってこの軸線から4mmの距離をあけて伝播する血液体積要素を表す。この図は、血液体積要素の位置にかかわらず、血液体積要素が所望の正常化されたフルエンス率に露出されることを示す。
【
図24b】
図24aと同じであるが血液体積要素が円錐形光分配器の表面を伝播する状況を表す図である。
【
図25a】血中酸素減少事象の始めと終わりとの間の血糖値比を示す図である。血中酸素減少中の非酸素化血液におけるPBM照射は、血液中の血糖値レベルを大幅に低減させる。
【
図25b】酸素正常状態にある肺動脈内のPBM照射中の動脈分圧の大動脈におけるClarkプローブの監視を示す図である。
【0018】
[発明の概略的な説明]
本発明者らは、光線量測定(フルエンス率[mW/cm2]、光線量[J/cm2])及び分光法(波長(複数可))の制御、並びに照射継続時間及び照射時間が、最適のPBM効果を誘導するのに非常に重要であることを示した。この観察は、PBM効果は二峰性(二相性と称されることもある)であることが知られていることから非常に重要であり、すなわち高すぎる又は低すぎるフルエンス率及び/又は光線量はPBM効果を大幅に低減させ、したがって薬理学で観察されるアルント・シュルツの法則に関連付けられることが多い。この二峰性の応答は、様々な「標準的」な効果(ミトコンドリア膜電位、ATP生産など)に注目する多くのグループによって報告されている[Huang 2009;Hamblin 2017;Hamblin 2018]。
【0019】
グリオーマ細胞及びヒト心筋細胞(HCM)を含む異なる細胞系におけるPpIXの体内生産に対するPBM効果に注目して、本発明者らは、フルエンス率及び照射時間がどちらも制御された形で適用されなければならないことを見出した。これらの2つのパラメータは、PBM効果を最適化するために、生体の体積の各部分内の所与の照射に対して特有の値によって適用されなければならない。この分野で報告される内容に反して、本発明者らは、PBMの二峰性効果が特有のこれらのパラメータセットのみで観察されることを発見した。本明細書では、これらのパラメータセットを「ホットスポット」(
図4a及び
図4b)として定義する。さらに、本発明者らは、これらのホットスポットのうちのいくつかが波長に依存しないことを示した。
【0020】
吸収及び散乱係数によって大部分が説明される生物組織の光学特性が、光源の周りの光の伝播に重要な影響を与えることも確立されている[Tuchin、2015;Hamblin 2017;Hamblin 2018]。概して、フルエンス率(及び光線量)は、組織内の光の吸収及び散乱により、光源からの距離とともに減少する(
図1参照)。したがって、組織内のフルエンス率及び/又は光線量は、ほとんどの状況において、PBMによって治療される組織内の異なる場所で同時に最適になることはない。上述したパラメータホットスポットの存在と、i)PBMによって治療される組織内の光の不均質分布、並びにii)この分野で活動する研究又は臨床グループの大部分による光送達及び線量測定の非常に制限された制御とを組み合わせることで、文献に報告される制限された矛盾する結果が説明される[Chung 2012]。この状況により、PBMTが現在うまく使用されていない理由も説明される。
【0021】
本発明の目的は、血液及び/又はリンパを循環させる組織などの生体の治療のための改善されたPBMを提供することである。
【0022】
本発明の別の目的は、上述及び後述する条件及び方法で適用されるPBMによって、心筋梗塞(MI)などの虚血再灌流傷害の効率的な治療を提供することである。
【0023】
本発明の別の目的は、上述及び後述する条件及び方法で適用されるPBMによって、心房細動を含む細動の効率的な治療を提供することである。
【0024】
本発明の別の目的は、上述及び後述する条件及び方法で、2型糖尿病、肝疾患、又はホルモン分泌などの代謝障害のPBMに基づく効率的な治療を提供することである。
【0025】
本発明の別の目的は、上述及び後述する条件及び方法で適用されるPBMによって、全身性炎症又は悪化した全身性免疫応答の効率的な治療を提供することである。
【0026】
本発明の別の目的は、上述及び後述する条件及び方法で、血中酸素減少及び/又は低酸素状態中に全身恒常性を維持するために、PBMに基づく効率的な治療を提供することである。
【0027】
本発明の別の目的は、特に幹細胞の増殖速度を増大させ、細胞分化を引き起こすために、細胞に基づく療法における効率的な方法を提供することである。
【0028】
本発明の別の目的は、たとえばPpIX蛍光の撮像による光力学療法又は癌検出において、PpIXに基づく方法の効率的な治療/診断を提供することである。本発明の実施形態は、癌を管理するために使用される光力学検出(PDD)又は光力学療法(PDT)の処置の前に、脳の特有の区域への頭蓋骨を通るPBM照射を誘発する発光ダイオードを組み込んだヘルメットを使用することを伴う。
【0029】
本発明の別の目的は、植物及び幼生におけるPpIXの体内生産を増大及び均質化することである。この手法の一実施形態は、植物/幼生で誘発される光毒性作用の有効性を増大させることである。
【0030】
本発明の別の目的は、代謝活動の監視に基づいたPBMTによって、症状の効率的な治療を提供することである。この監視は、代謝活動を反映するパラメータの周波数分析に基づいており、PBM効果が最大になるように放射パラメータ(フルエンス率、照射時間、光線量、...)及びスペクトルパラメータ(波長(複数可))を調整することを可能にする。またこの監視を使用して、代謝活動の状態を評価し、最適の光印加の瞬間を判定することができる。本発明の実施形態は、代謝活動を反映する生理学的又は生化学パラメータを測定するために、標準的なプローブを使用することを伴う。後述するように、そのようなプローブには、これらのパラメータを測定するための熱電対、ClarkのpO2プローブ、又は光ファイバに基づくプローブが含まれる。これらのプローブによって送達される信号は、次いで、PBM効果及び代謝活動に関する情報を提供するパラメータを抽出することが可能になるように、周波数分析を実行するための専用のユニットによって処理される。
【0031】
上記の目的は、特許請求の範囲に定義される本発明のデバイス及び方法によって実現される。
【0032】
本発明によるデバイス及び方法は、特有の「ホットスポット」に対応する特有の時間中の生体の体積の各部分で連続する選択条件(以下参照)としての特有のフルエンス率の生成によってPBM効果が誘発されることを特徴とすることが有利である。
【0033】
本発明の例示的な実施形態は、1つ又はいくつかの光分配器(複数可)に結合された1つ又はいくつかの光源(複数可)を使用して、
図4a及び
図4bに示す1つ又はいくつかの「ホットスポット」に対応する特有の時間中に特有のフルエンス率を適用し、後述する関心組織/症状における代謝を増大させることからなる。
【0034】
本発明はまた、任意選択で、代謝活動を反映するパラメータの変動の周波数分析(時間信号の差分分析(過去の統合又は現在の導出))に基づいた生体にPBMを適用する時間を予測するデバイス及び方法、又はPBM効果若しくは生体の代謝活動を反映する1つ若しくはいくつかのパラメータの人工知能に基づいた予測方法を含む。
【0035】
任意選択で、デバイスによって送達される光パワー、照射時間、及び代謝活動の変動に対するPBM印加の瞬間は、PBM効果を最適化するように、フィードバック可観測量に基づいて構成される(以下に示すリスト参照)。
【0036】
可観測フィードバック
a)温度
図2は、本発明者らによって開発された実験セットアップにおいて、代謝活動を反映する酸素消費速度(OCR)を測定するために使用される熱電対及びプローブによって測定される温度の変化を示す。このセットアップは、厚さ15mmの生理水層で覆われたペトリ皿の底部に配置されたヒト心筋細胞(HCM)の単層からなる。OCR並びに酸素分圧(pO
2)を測定するための熱電対及びプローブはどちらも、細胞単層から1mm上に配置された。
【0037】
図2に見ることができるように、pO
2、したがってOCRが変化しているとき、容易に測定可能な大幅な温度変化が観察される。温度は、OCRの活動が増大するにつれて増大する。興味深いことに、OCRで観察される高周波振動及びpO
2の最大値後の温度は、同相であり且つ同期する。
【0038】
したがって、温度を測定することで、可観測フィードバックを提供して、PBMに使用される光線量を監視及び/又は構成する。温度を測定することで、代謝の変動に対して最適のPBM照射時間を判定することも可能になる。
【0039】
b)代謝に関与する酵素の酸化還元状態を反映する組織の自己蛍光
酸化は、細胞内で必要なエネルギーを生じさせる主要プロセスである。酸化は、好気性又は嫌気性の条件で生じることができる。多くの状況で、生体酸化は、基質の脱水素反応、すなわち2つの水素原子の変位によって始まり、NAD+、NADP+、及びFADなどの補酵素が、これらの原子の受容体として働く。これらの補酵素は、細胞濃度が低いため、再酸化によって再循環されなければならない。したがって、これらの補酵素は、酸化的リン酸化(OXPHOS)のプロセスにおいて1次ドナー及び受容体として働く[Ferraresi、2012]。NADH及びFADが代謝経路に含まれる多くの酵素に結合されているため[Alberts、2002]、細胞が代謝を切り換えるとき、NADH及びFAD結合部位間の相対比も同様に変化する[Banerjee、1989]。したがって、FAD及びNADHに対する効果に注目して、PBMに起因するO2レベルの変化(代謝活動の変化)に対する細胞応答を監視することができる。
【0040】
これらの補酵素は、自己蛍光に注目して非破壊的に、すなわち外因性プローブを加えることなく研究することができる[Ramanujam、2001]。細胞の代謝状態に関する情報を与える最も一般的な光学技法の1つは、蛍光分光法[Chance、1979;Walsh、2012;Blacker、2016]、特に時間分解蛍光分光法[Skala、2007;Skala、2010;Kalinina、2016;Walsh、2013]によるFAD及びNADHの酸化還元比の判定に基づいており、これは本発明者らの20年以上の専門技術に対応する分野である[Wagnieres、1998]。たとえば、癌細胞の場合、細胞代謝の増大は通常、酸化還元比の減少によって示される[Chance、1989]。
【0041】
したがって、組織の自己蛍光の定常状態及び/又は時間分解の蛍光分光法(又は撮像)は、PBMに使用される光線量を監視又は構成するために観測可能な興味深いフィードバックである。興味深いことに、この手法と、分子プローブ(Kalininaらによって提案されるPPIX又は外因性pO2プローブ[Kalinina、2016])又は組織内Clarkプローブの時間分解ルミネセンス分光法に基づく直接O2感知とを併用することで、PBM効果に関する固有の情報が提供される。これらのパラメータの監視は低侵襲性であり且つ高速である。
【0042】
c)ヘモグロビン飽和の評価
正常条件で、身体は、大部分は呼吸に関連する好気性代謝の化学プロセスによって、安定した酸素飽和レベルを維持する。しかし、異なる代謝活動に対してヘモグロビン飽和が変化しうることがよく知られている。
【0043】
敗血症ショックを除いて心拍出量を反映することが知られているヘモグロビン飽和、特に末梢又は中心静脈飽和を測定するための多くの方法が十分に確立されているため、PBMによって誘発される代謝活動の変化を監視するためにこの手法を適用することが非常に注目されている。
【0044】
加えて、組織及び循環血液内にいくつかのガスを内因的に生成して拡散させることができ、これらのガスは強い光吸収帯を示す様々な金属タンパク質に結合することができ、たとえばNO又はH2Sは、デオキシヘモグロビンに結合して、ニトロシルヘモグロビン又はスルフヘモグロビン又はカルボキシヘモグロビンを生成することができ、それにより利用可能なデオキシヘモグロビンのレベルが減少し、PBMは、ヘモグロビン、特にニトロシルとして金属タンパク質の光解離(光分解)を誘発し[Lohr、2009]、それと同時にメトヘモグロビンを形成することができ、これらの異なる形態の「ヘモグロビン」の変化を測定することができる(光吸収測定による[Van leeuwen、2017])ため、これらの様々な金属タンパク質複合体の評価を通じてPBMによって誘発される代謝活動の変化を監視することが非常に注目されている。
【0045】
d)pH及び炭酸水素塩(HCO
3
-
)レベル
グルコースをピルビン酸塩に変換する代謝経路である解糖は、細胞外周囲媒質の酸性化を招くことがよく知られている。多くの場合、この酸性化は、ピルビン酸塩からのその変換後の乳酸の排出に起因する[Wu、2007]。
【0046】
組織又は循環血液内のpH又は炭酸水素塩レベルを測定するための多くの方法が十分に確立されているため、この手法を適用してPBMによって誘発される代謝活動の変化を監視することが非常に注目されている。
【0047】
皮下極微針[Tsurukoa、2016]などの低侵襲性デバイスによって、又は口の中で、組織(又は唾液)乳酸濃度を常に評価することができるため、この手法を使用して、PBMによって誘発される代謝活動の変化を監視することができる。
【0048】
e)ROSの濃度
活性酸素種(ROS)は、酸素を含む化学反応する化学種である。例には、過酸化物、超酸化物、ヒドロキシルラジカル、一重項酸素[Hayyan、2016]、及びα酸素が含まれる。生物学的な文脈で、ROSは、酸素の正常な代謝の天然の副産物として形成され、細胞シグナル伝達及び恒常性に重要な役割を担う[Devasagayam、2004]。ROSは、細胞及び細胞小器官、たとえばミトコンドリア、ペルオキシソーム、及び小胞体内で様々な生化学反応中に生成される。
【0049】
ROSが細胞代謝に与える作用については、様々な種に関して十分に裏付けられている[Nachiappan、2010]。これには、アポトーシス(プログラムされた細胞死)の役割だけでなく、宿主防衛遺伝子の誘導及びイオン輸送システムの可動化などのプラス効果も含まれる。これは、ROSが細胞機能の制御に影響することを示唆する。特に、創傷修復及び血液恒常性に関与する血小板は、ROSを放出して負傷箇所に追加の血小板を補充する。これらのROSは、白血球を補充することによって適応免疫系への結合も提供する。
【0050】
異常なROSレベルは、多数の病変において、様々な生体カスケードの強い変化によって示唆される[Sies、2020]。興味深いことに、ROSレベルはまた、細胞のリプログラミング[Bigarella、2014;Zhou、2016]及び組織のリモデリングにとって原初的である。たとえば、ROSの生産動態は、ホルモン分泌又は機械力(血管の剪断応力など)などの広範囲の外因性又は内因性の反復刺激に依存し、これは組織の挙動及び特性、最終的には表現型に直接影響する[Hwang、2003;Brandes、2014]。
【0051】
組織内のROSを測定するための多くの方法が十分に確立されているため、PBMによって誘発される代謝活動の変化を監視するためにこの手法を適用することが非常に注目されている。
【0052】
ROS及び活性窒素種(RNS)は本質的に複雑であり[Moldogazieva、2018]、RNSを評価するための多くの方法が十分に確立されているため[Griendling、2016]、ここでは活性酸素及び窒素種RONSという用語が使用されるべきである。実際には、この用語は最大限で活性酸素及び窒素及び硫黄種(RONSS)を指すべきである。
【0053】
f)H
2
Sレベル
硫化水素(H2S)は、生物全体に広範囲の作用を及ぼす。H2Sは、特に細胞分化を可能にするプロセスであるDNAの脱メチル化によってヒストン修飾を誘発する後成的な調節因子である[Yang、2015]。これは、ミトコンドリアDNAの高いレベルのコピー数を維持することによる好気性生物の加齢プロセス[Li、2015]、並びにサーチュイン1の活性化による老化プロセスにおける基本である。興味深いことに、H2Sは、その濃度に応じてミトコンドリア内でOXPHOSの基質にも阻害物質にもなる唯一の種であり[Szabo、2014]、それに並行して有名な観察によれば、外因性H2Sの吸入は、小型哺乳動物において人工冬眠又は代謝低下として知られている冬眠状態を誘発する[Blackstone、2005]。H2Sは、圧負荷に誘発する心不全を含む多くの心臓疾患を予防することが知られている[Snijder、2015]。これは、内因性H2Sが特にストレス状態中の哺乳類細胞におけるエネルギー生産を調節し、酸素供給が十分でないときに細胞がエネルギー需要に対処することを可能にするという仮説を裏付ける[Fu、2012]。
【0054】
さらに、本発明者らは、受精鶏卵において、卵内の無酸素再酸素化を観察した。この研究は、ニワトリの心室又は背部大動脈の上にH2Sマイクロプローブを静かに配置することによって実行された。本発明者らは、H2Sレベルが無酸素性(一時的)心臓麻痺(又は心拍が極めて遅いとき)で有意に増大し、再び鼓動すると減少することを観察した。したがって、血流は、デオキシヘモグロビンに結合してスルフヘモグロビンを形成して伝播させる可能性のあるH2Sの体内生産を除去することによって、役割を担うと考えられる。
【0055】
組織内でH2Sを測定するための多くの方法が十分に確立されているため[Olson、2012]、PBMによって誘発される代謝活動の変化を監視するためにこの手法を適用することが非常に注目されている。
【0056】
g)セレン化水素レベル(H
2
Se)
酸素及び硫黄に並行して、H2Seの構成要素であるセレンはカルコゲン基に属し、類似の排泄及び代謝経路を有する。H2Sと同様に、H2Seは、内因性の小さいガス状分子であり、冬眠状態を誘発することができ、再灌流傷害の予防を示すことができる[Iwata、2015]。H2Seは、ミトコンドリアの呼吸を阻害するCOXに可逆的に結合し、H2S、NO、及び一酸化炭素(CO)に続く第4のガス伝達物質であると考えられる[Kuganesan、2019]。さらに、H2Seは、グルタチオンペルオキシダーゼとして多数のセレノプロテイン酸化還元酵素に組み込まれることで、健康状態及び疾患状態における酸化還元状態の恒常性を維持するのに不可欠であり、H2Seが不足すると、癌及びCVDの1つの重要な原因であると疑われているROSの実質的な増大を誘発する[Bleys、2008]。
【0057】
組織内のH2Se又は血清中のセレンを測定するための多くの方法が十分に確立されているため、PBMによって誘発される代謝活動の変化を監視するためにこの手法を適用することが非常に注目されている。
【0058】
h)イオン濃度
イオンはすべての生物の代謝において重要な役割を担っており、これはイオンが関与する多種多様な化学反応によって反映される[van Vliet、2001]。イオンは酵素の共同因子であり、電子輸送、酸化還元反応、及びエネルギー代謝などの基本機能に触媒作用を及ぼし、細胞の浸透圧を維持するためにも不可欠である。イオン制限及びイオン過負荷による成長遅延はどちらも細胞死を引き起こす可能性があるため、イオン恒常性はすべての生物にとって非常に重要である。
【0059】
組織内のイオン(特に、カルシウム、カリウム、塩素、及び/又は水硫化物イオン)を測定するための多くの方法が十分に確立されているため、PBMによって誘発される代謝活動の変化を監視するためにこの手法を適用することが非常に注目されている。
【0060】
i)NIRSによるシトクロムcオキシダーゼを含むシトクロムレベル
広帯域の近赤外分光法(NIRS)を使用して、ミトコンドリア呼吸において主要な役割を担うシトクロムcオキシダーゼとしてのシトクロムの酸化状態の濃度変化(ΔoxCCO)を監視することができることが、十分に確立されている[Roever、2017]。
【0061】
組織内のΔoxCCO(又は代謝に関与する他のシトクロム)を測定するための異なる方法が十分に確立されているため、PBMによって誘発される代謝活動の変化を監視するためにNIRSを含むこれらの方法を適用することが非常に注目されている。
【0062】
j)医療用(機能的)撮像技法(MRS「磁気共鳴分光法」、MRI「磁気共鳴撮像」、NMR「核磁気共鳴」、PET「陽電子放出断層撮影法」、EPR「電子常磁性共鳴」、SPECT「単光子放出コンピュータ断層撮影法」、BOLD「血中酸素レベル依存」、NIRS「近赤外分光法」)の使用
代謝撮像は、様々な臨床症状の特徴付けのために代謝経路の変化に注目してこれを標的とする。ほとんどの分子撮像技法は、従来の熱平衡における1H及び13CのMRS、並びに過分極磁気共鳴撮像(HP MRI)を含む、PET及びMRSに基づいている。多くの病状で変化する代謝経路、並びにそれらの変化を研究するために使用される対応するプローブ及び技法が、Di Gialleonardoらによって調査されている[Di Gialleonardo、2016]。加えて、Fussら[Fuss、2016]が、人間の様々な症状に対処するための医療用撮像の使用について記載している。
【0063】
代謝を評価するための多くの代謝撮像に基づく方法が十分に確立されているため、PBMによって誘発される代謝活動の変化を監視するために機能的代謝撮像を含むこれらの方法を適用することが非常に注目されている。
【0064】
k)血管緊張及び血管運動
血管緊張とは、血管の最大拡張状態に対して血管が受ける圧縮の程度を指す。基本条件下のすべての動脈及び静脈の血管は、収縮筋と拡張筋の影響の均衡においてある程度の平滑筋収縮を示し、これにより血液の流れ及び圧力を適合/調節するように血管の直径、たとえば血管抵抗が決定される。基本血管緊張は、マクロとミクロの循環及び臓器で異なる。特定の臓器は、大きい血管拡張容量を有し、したがって高い血管緊張を有する(たとえば、心筋、骨格筋、皮膚、内臓循環)のに対して、他の臓器は、比較的低い血管拡張容量を有し、したがって低い血管緊張を有する(たとえば、大脳及び腎循環)。
【0065】
血管緊張の調節は、マクロ(動脈、静脈)とミクロ(細動脈、細静脈、毛細血管)との間で異なる。特に、外因性要因(神経、循環代謝物質)によって緊張を調整することができる場合でも、血管は自然振動(血管運動)を示すことができ、それにより流動が生じる[Aalkaejer、2011]。したがって、局所から全身まで多数の作動因子における血管緊張の依存性によって、この緊張の分析により代謝活動に関する洞察が与えられ、これは、潰瘍リスク、2型糖尿病[Smirnova、2013]、内皮機能障害若しくは高血圧[Ticcinelli、2017]、腎疾患[Loutzenhiser、2002][Carlstrom、2015]、又はメタボリックシンドローム[Walther、2015]として、加齢の程度[Bentov、2015]及び多くの病態生理学的状態を反映することができる。さらに、皮膚微小血管内皮機能の評価は、CVDの診断並びに予知として使用される[Hellman、2015]。
【0066】
例としてビデオキャピラロスコピー、プレシスモグラフィ[Tamura、2019]、レーザドップラ血流測定法、皮膚血管コンダクタンス(CVC)による圧力測定、又は時間周波数分析などの血管緊張及び血管運動を評価するための多くの方法が十分に確立されており、動的観点からすべての心臓血管系が結合された振動体の単一体であると考えられるため[Shiogai、2010]、PBMによって誘発される代謝活動の変化(心拍変動(HRV)を含む)を評価することを可能にするあらゆる方法が非常に注目されており、そのような変化は、ECG又は心音測定[Alvarez、2018]、心音図(PCG)[Patidar、2014]によって自律神経系に関する情報を与える。外科処置に従って本発明者らによって観察されたように、PBMによって誘発される代謝活動の変化を監視するための呼吸数変動(RFI)[stevanovska、2007]又はバリストカルジオグラフィが非常に注目されている。
【0067】
l)内因性電磁信号の使用
心電図(ECG)、脳電図(EEG)、及び筋電図(EMG)は、それぞれ心臓、脳、及び筋肉の代謝の電気活動の標準的な測定である。信号計算分類に基づいた新規なECG分析[Patidar、2015]は、心臓診断における有望なツールであり、特に冠状動脈疾患[Kumar、2017][Acharia、2017]、不整脈、及び虚血性障害[Bhoi、2017]に関する洞察を与える。EEGに関して同じ種類の分析が実行されており、最もよくある脳障害であるてんかん性発作について興味深い結果が示されている[Bhattacharyya、2018]。
【0068】
これらの内因性電磁信号を監視するために多くの方法が十分に確立されているため、PBMによって誘発される代謝活動の変化を評価することを可能にする方法が非常に注目されている。
【0069】
m)生体インピーダンス信号の使用
生体インピーダンス信号は、様々な生理学的パラメータを測定するために、クリニックで使用することができる[Petterson、2016]。この手法は、St Jude MedicalからのEnsite、MedtronicからのOptiVol、及びbiotronikからの閉ループ刺激としてペースメーカーに使用される。
【0070】
組織内で又は直接皮膚で電気生体インピーダンスを測定するための多くの方法が十分に確立されているため、PBMによって誘発される代謝活動の変化を評価することを可能にするこれらの方法が非常に注目されている。
【0071】
n)循環血液中のマーカの存在
PBM中の光線量を監視することが注目されている循環マーカの長いリストには、たとえば、代謝物質(コハク酸、ピルビン酸塩、など)、凝固因子、アポトーシス因子、炎症(誘発及び抑制)因子、並びに肝臓因子、マイトカイン、又は単離ミトコンドリアレベルが含まれる。ここにはほんの数例を挙げることに留意されたい。
【0072】
グルコース値:多くの病変は循環グルコース値の異常調節に関連し、これは糖尿病の場合のように、全身性代謝障害を直接誘発する。したがって、血糖値の評価によって代謝活動の変化を監視することが非常に注目されている。
【0073】
コハク酸:コハク酸は、同化及び異化経路において不可欠な役割を担うトリカルボン酸回路(TCA)回路の主要な中間体である。さらに、コハク酸は特に再灌流傷害に関連する[Chouchani 2014]。ミトコンドリアは、コハク酸の生理学的な供給源であるが、蓄積したコハク酸は、細胞質基質内へ輸送することができ、次いで循環血液へ輸送することができる。このTCAサイクル中間体は、細胞内代謝状態及び細胞間シグナル伝達を接続する[Tretter、2016]。血液中のコハク酸レベルは、2~20μMで変動する可能性があり、この濃度は、低酸素ストレス、炎症誘発性刺激、運動、又は2型糖尿病、肥満、若しくは虚血再灌流傷害などの病状とともに増大する可能性がある[Grimolizzi、2018]。生物発光分析又はラマン分光法によってコハク酸の循環レベルを監視することができるためコハク酸の循環レベルによるPBMによって誘発される代謝活動の変化の評価が非常に注目されている。
【0074】
乳酸及び乳酸脱水素酵素(LDH):LDHは、細胞傷害及び細胞死の一般的なマーカである。加えて、PBMによって、無酸素運動中に生成されるLDHを低減させることができる[Park、2017]。したがって、PBMによって誘発される代謝活動の変化を評価するためにこれらのマーカを使用することが非常に注目されている。さらに、LDHレベルとアスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST)レベルの組合せが、身体組織の損傷の強力な指標として働く。乳酸レベルは、唾液に直接作用する新しい気体測定方法によって評価することができることに留意されたい[Tamura、2018]。
【0075】
特に表現型を変化させる免疫細胞の能力による炎症又は免疫応答における高レベルの代謝活動のため、mtDNAコピー、白血球数、総抗酸化能、炭酸水素塩、マロンジアルデヒド(MDA)、尿酸、ビリルビンなどの免疫/炎症マーカの血清/血漿レベル、たとえばインターロイキンIL2、IL6、IL7、IL10、IL18、又はTNFαなどのサイトカイン又はケモカインマーカレベル、並びにマクロファージ炎症タンパク1-α、IP10、MCP1、並びにフラックスサイトメトリによるリンパ球T及び/又は単球M2の活性化も非常に注目されている。
【0076】
チオレドキシンの血清/血漿レベル:この酵素のレベルは、感染、虚血再灌流、及び他の酸化ストレスの状態で上昇する。したがって、酸化ストレスを監視するのに良好なマーカとなる。チオレドキシンの血漿レベルもまた、冠攣縮性狭心症及び他の心血管疾患を患う患者で上昇する[Nakamura、2004]。
【0077】
心臓マーカ:いくつかの確立されたマーカ(ミオグロビン、クレアチンキナーゼアイソザイム、トロポニンI及びT、B型ナトリウム利尿ペプチド、アミノ基転移酵素)が、心筋梗塞診断及び他の臓器損傷のために臨床的に使用される。比較的程度は低いが、LDH、グリコーゲンホスホリラーゼ、及び最近では虚血変性アルブミンを30分以内の分析で診断に使用することができる[Dasgupta、2014]。これは、チオレドキシンレベルにも当てはまる[Jekell、2004]。
【0078】
循環eNOS並びにNO又は亜硝酸塩若しくは硝酸塩のレベル:これらの化合物のレベルは、特に全身血圧及び全身恒常性の調節にとって極めて重要である[Wood、2013]。さらには、PBMによって誘発される代謝活動の変化を監視するために、循環H2Sのレベル又は亜硫酸塩若しくは硫酸レベルを評価することができる。
【0079】
循環ミトコンドリア:最近、無細胞機能性ミトコンドリアが循環血液中に存在することが示されている。さらに、特に心不全の場合、代謝のリモデリングにおいてマイトカインが重要である[Duan、2019]。したがって、循環ミトコンドリアレベル又はマイトカインレベルの評価による代謝活動の変化を監視することが非常に注目されている。
【0080】
o)心臓電気信号の光学マッピングのための電圧感受性蛍光染料の使用
電圧感受性蛍光色素(VSF)を使用した心臓電気信号の光学撮像は、これらのVSFが臨床使用に承認されていないため、実験的研究のみで実行されているが、インドシアニングリーン(ICG)[Martisiene、2016]などのFDA承認染料は、様々な組織内で電圧感受性を示し、したがって心臓組織の電気活動をクリニックで光学的にマッピングすることができるという期待が高まっている。したがって、PBM中に光線量を監視/適合するように心臓電気信号をマッピングする(又は「ポイント測定」システムによって局所的に評価する)ための電圧感受性染料の使用に基づいた方法が非常に注目されている。
【0081】
p)様々な組織酸化還元状態を評価するための酸化還元センサの使用
代謝及び酸化還元反応は複雑であり、多くの方法が代謝活動を評価する酸化還元センサの測定に基づいているため、酸化還元指標プローブを用いてPBMによって誘発される代謝活動の変化を監視することが非常に注目されている。
【0082】
q)心臓組織を含む様々な組織の状態を評価するための超音波の使用
超音波検査は、心臓組織を調査するための十分に確立された方法である。心臓組織並びに血流を特徴付ける多くのパラメータは、超音波検査中に日常的に取得される。
【0083】
したがって、PBM中に光線量を監視するための超音波検査の使用に基づいた方法が非常に注目されている。
【0084】
r)動脈血酸素(PaO
2
)及び吸入酸素濃度(FiO
2
)の分圧の測定によって様々な組織及び/又は全身の代謝活動を反映するためのpO
2
(及び/又はOCR)の使用
pO2は、異なる区画(組織又は臓器)又は細胞内の異なる細胞小器官における外因性又は内因性プローブ内で容易に測定することができる。たとえば、そのようなプローブは、光学的に検出することができる。PBMによって誘発される代謝活動の変化を評価するために、EPR酸素測定法、ポーラログラフ電極、又はBOLD撮像などの他の技法が非常に注目されている。
【0085】
s)血行力学変数の使用
クリニックにおいて、特に心血管損傷の場合、これらの変数の実時間評価は代謝活動を監視するために必須である。そのような測定は特に、動脈及び静脈ガス圧力、心拍出量、1回拍出量、毛細血管圧、並びに全身及び肺抵抗に関する。したがって、PBMによって誘発される代謝活動の変化を評価するためのこれらの方法の使用が非常に注目されている。
【0086】
t)クレブス回路酵素動態の使用
クレブス回路酵素動態は、特にミトコンドリアタンパク質のレベルを評価するための代謝の良好なマーカであることがよく知られている。たとえば、アコニターゼ又はコハク酸脱水素酵素の活動はクリニックで一般に測定されるため、PBMによって誘発される代謝活動の変化を評価するためのこれらの方法の使用が非常に注目されている。
【0087】
w)PpIXレベル
プロトポルフィリンIXは、ヘモグロビン及びクロロフィルなどの多数の有機金属タンパク質の前駆体である。本発明者らは、PBMによって治療された細胞は、PpIXの体内生産を増大させる傾向があることを示した。したがって、PBMによって誘発される代謝活動の変化を評価するためのPpIXレベルの検出に基づいた方法の使用が非常に注目されている。さらには、ヘム濃度はPpIX体内生産経路におけるフィードバックパラメータであるため、PBMによって誘発される代謝活動の変化を評価するために循環ヘマトクリットのレベルを測定することが非常に注目されている。
【0088】
x)メタボロミクス及びリピドミクス、特にオキシリピンの監視
オキシリピンは、多価不飽和脂肪酸の酸素化から導出される生物活性代謝物質である。さらに、オキシリピンは、心血管疾患血栓症及び危険因子の進行において主要な役割を担う。したがって、オキシリピンの監視が非常に注目されている。
【0089】
y)糖タンパク質レベル
糖タンパク質は、タンパク質及び炭水化物鎖を含み、免疫を含む多くの生理機能に関与することがよく知られている。糖タンパク質は、シグナル伝達分子を補充する受容体シグナル伝達ドメインを保持する。
【0090】
z)グリセロールレベル
グリセロールは、アポトーシスのマーカとして働くことができる。グリセロールの機能の1つは、化学シャペロンとして働くことである。特に、グリセロールは、アポトーシス調節因子(bax)の発現を増強する能力を保持する。
【0091】
aa)PBMによって誘発される免疫調節作用の評価は、樹状細胞を区別することができるCD14、CD16のような炎症誘発性循環単球によって監視することができる。そのような免疫調節作用はまた、マクロファージのサイトカインプロファイルによって評価することができる。
【0092】
ab)オキシトシンレベルの基本の監視。後者の場合、集中治療室における未熟児のオキシトシンレベルの監視が、適当な疼痛マーカとして働くことが示されている。
【0093】
任意選択で、このデバイスによって画定される光パワー、照射継続時間、及びPBMの適用時間が、外因性刺激の投与と組み合わされ、この刺激はPBM効果を増大させる作用因子である(以下のリスト参照)。外因性物質の投与とPBM照射との間の時間は、作用因子の同化継続時間並びに活性化動態を考慮に入れることができることに留意されたい。
【0094】
本発明者らは、PBMの投与と特に外因性物質(硫黄ドナー)及び一酸化窒素ドナーとの組合せに起因する相乗効果を実証した。
【0095】
本発明者らによってすでに示されているように、PBMと組み合わせたALAの投与により、PpIXの蓄積が増大し、その結果として内因性PpIXレベルが増大する。したがって、PBM効果を増大させるために、ALA及び光の同時投与が非常に注目されている。後述するように、他の外因性物質をPBMと組み合わせて、その効果を増大させることもできることに留意されたい。
【0096】
図3に示すように、本発明者らは最近、PBMが硫黄ドナーであるFDA承認外因性物質、チオ硫酸ナトリウム(STS)と組み合わされたとき、ニワトリ胚漿尿膜(CAM)で観察される血管新生がさらに刺激されることを観察した。これは、PBMとそのような外因性物質を組み合わせると、PBM又はそのような物質が別個に印加された場合より、さらなる血管新生又は代謝活動を刺激することを強く示唆する。
【0097】
血管新生に対するこれらのPBM効果の評価は、PBMから数日後にCAMで実行される蛍光血管造影に基づいた手法を使用して実行された。
図3は、本発明者らの研究室で開発された画像処理及び分析ソフトウェアによって定量的に特徴付けられた典型的なCAM蛍光血管造影図(左の画像)を示す[Nowak-Sliwinska、2010]。この開発の主な目的は、蛍光剤の静脈内(iv)注入後、科学カメラを備えたエピ蛍光顕微鏡を使用してCAM血管が監視されるとき、胚発生日数(EDD)6及び12間のCAMの毛細血管/血管網内で生じる動的変化を特徴付けることであった[Nowak-Sliwinska、2010]。その結果得られた血管造影図から、分岐点数/mm
2、血管網メッシュの平均面積、及びメッシュ面積ヒストグラムの第3四分位数の平均という3つの記述子が抽出された。
図3に示すように、本発明者らの概念を実証する結果により、PBMがCAM血管新生を著しく刺激することが実証される。この効果は、PBMが175mMのSTSの外因性適用と組み合わされた場合にさらに顕著である。
【0098】
興味深いことに、並行して、本発明者らは、卵内でニワトリ胚のH2S及びNOレベルを監視することによって、STSの局所適用が長時間(6~12時間)後にNOの大幅な増大を誘発した一方で、STS適用から1~2時間後にPBM照射を実行したときは、NOが生成された時間は大幅に低減し、典型的には1時間まで低減したことを観察した。
【0099】
STSは、H2Sに関してもすでに報告されているように[Yu、2014]、内皮一酸化窒素(NO)合成酵素の上方調節によって圧負荷により誘発された心不全[Kondo、2013]及び腎臓虚血/再灌流傷害[Bos、2009]を含む多くの心臓症状から保護するために臨床的に承認されたH2Sドナーであるため[Snijder、2015]、上述したデバイス/プロトコルによって適用されるPBMと、H2Sドナー(たとえばSTS若しくはメチルサルフォニルメタン(MSM)若しくはジチオールチオンなど、又は異なるH2S動態放出を示す他のドナー)及び/又はNO自体を含むたとえばアルギニンなどのNOドナー物質の投与との併用が非常に注目されている。
【0100】
システインは、人間の代謝における硫化物の重要な供給源であるため、PBMの効果を高めるために、このタンパク質構成アミノ酸若しくはその誘導体、たとえばセレノシステインの投与、又はN-アセチルシステインの合成形態を組み合わせることが非常に注目されている。
【0101】
MSMは、自然に存在する有機硫黄化合物であり、生物活性硫黄の代替源として利用される。MSMは、主に抗炎症治療に使用される。MSMは、動物モデル及び多くの人間での臨床試験で調査された[Butawan、2017]。MSMはまた、その抗酸化能力が認識されており、その抗酸化機構は、化学レベルで直接作用するのではなく、ミトコンドリアを介して間接的に作用することが提案された[Beilke、1987]。FDA承認物質として、MSMは、毎日最大4グラム投与された場合、ほとんど個々に良好な耐容性を示し、副作用はほとんど示さない[Butawan、2017]。生体内及び生体外研究の結果は、MSMの作用が、転写及び細胞内レベルの酸化ストレス及び炎症のクロストークにあることを示す[Butawan、2017]。興味深いことに、Kimら[Kim、2009]は、MSMがまた、ストレスに対する免疫及び細胞応答に関与する転写因子である核因子-κB(NF-κB)の抑制によって、誘発可能な一酸化窒素(NO)合成酵素(iNOS)及びシクロオキシゲナーゼ-2(COX-2)の発現を減少させることができることを実証した。NOは多くの代謝機能に関与する強力な血管拡張剤であるため、この観察は非常に興味深い。ガス伝達物質[Donald、2016]と呼ばれるいくつかの他のガス伝達物として、NOは、その局所的な濃度及び微環境に応じて異なる効果を有することができ[Thomas、2015]、それにより多くの異なるプロセスに影響することができる[Rapozzi、2013;Reeves、2009]。PBMはCOXからのNO光解離を引き起こすことも示唆されている[Karu、2005;Lane、2006]。それに付随して、ニトロシル化された形態のミオグロビン及びヘモグロビンなど、他の細胞内「リザーバ」からのNO光解離も仮定される[Lohr、2009]。細胞呼吸は、ミトコンドリアNO合成酵素によるNO生産によって下方調節されることが十分に確立されている。NOによるCOXからのO2変位は、細胞呼吸及びATP生産を阻害する[Antunes、2004;Cooper、2008]。したがって、PBMはATP生産を増大させると考えられる。PBMによるNOの生物学的利用能の放出及び/又は増大について説明するための代替の場合により並行する機構は、特にO2分圧が低いとき、亜硝酸還元酵素としてのCOXの作用に関連付けることができる(亜硝酸塩を1電子還元するとNOが得られる)[Ball、2011]。
【0102】
まとめると、これらの観察は、MSMがそのNO変化によってミトコンドリア電子輸送鎖(ETC)に間接的な効果を与えることを示す。加えて、文献に関するこの分析は、PBMとNOドナー、たとえばNO自体を含むS-ニトロソチオール又は亜硝酸アルキルとの併用が、強力な相乗効果を誘発することを示す。
【0103】
さらに、H2SとNOとの間の相互作用は、ニトロキシル(HNO)を生成することができ、これは、心臓血管系内で酸化ストレス及び心臓保護、心収縮性、血管緊張、並びに血管新生に関して効果的な役割を担うため[Nagpure、2016;Wu 2018]、PBM効果を増大させるために、たとえば(H)NO及びニトロキシルドナー、シムラノド、又は1-酢酸シクロヘキシルの同時投与が非常に注目されている。
【0104】
FDA承認H2Seドナーであるエブセレンは、本発明者によってすでに論じたように(13頁、項目g)、PBM効果を増大させるために非常に注目されている。
【0105】
すでに述べたように、NAD+は酸化還元反応に必要とされ、エネルギー代謝から細胞の生存まで数百の主要プロセスを制御しており、食物摂取、運動、及び日時に応じて増減する。したがって、PBM効果を増大させるために、PBM内のビタミンB3としてのNAD+ドナーの投与が非常に注目されている。
【0106】
PBMとの併用に関して注目されている他の外因性物質は次のとおりである。
【0107】
ウコン(Curcuma longa,L.)の主要活性成分であるクルクミンが、健康な組織及び癌性組織の両方に様々な効果を有することが知られている。特に、クルクミンはERストレスを誘発し、以て小胞体ストレス応答、主逆行性シグナル伝達、及びカルシウム放出を引き起こして、ミトコンドリア区画を不安定にし、アポトーシスを誘発する。
【0108】
麻酔で使用されるよく知られたα2アゴニスト剤であるデクスメデトミジンは、デクスメデトミジンのプレコンディショニングが肥満細胞脱顆粒を阻害することによって心筋虚/再灌流傷害を緩和することが示唆されるため、最近注目を集めている。同様に、EPOは、腎臓への虚血再灌流傷害及び動脈血管障害におけるリポ多糖類にプラス効果を示す。
【0109】
イベルメクチンは、寄生虫によって引き起こされる腸糞線虫症及びオンコセルカ症の患者を治療するために、FDAによって承認されている。さらに、臨床エビデンスは、SARS-CoV2に感染した患者の死亡率を減少させるためのイベルメクチンの使用を裏付ける。イベルメクチン及びPBMの組合せは、特に副作用を低減させるために、イベルメクチンの投与量を低減させることができる。
【0110】
バイアグラは、様々な形態(亜硝酸アルキル)としての亜硝酸塩の供給源である。
【0111】
さらには、PBM効果を増大させるために、たとえばETC又はROS調節因子の調節によって特にミトコンドリア内で代謝を調節することが知られている外因性物質が非常に注目されている。これは、OCRを増大させることが知られているアデノシン二リン酸(ADP)、又はビタミンK、ケタミン、スキサメトニウム、アセチルコリン、及びアトロピン、並びにブラジキニンに当てはまる。追加の作用剤には、アドレナリン、ノルアドレナリン、若しくはドーパミンのようなカテコールアミン、様々なGタンパク質を活性化するオピオイド、又は様々なキナーゼ調節因子若しくは様々な抗酸化及び/若しくは抗炎症ドナー、たとえばレスベラトロルが含まれる。最後に、PBM効果を増大させるために、ラパマイシン又はサーチュイン調節因子の標的が非常に注目されている。
【0112】
さらには、温度、外因性又は内因性の機械圧力[Li、2005;Hwang 2003]、身体的運動及び電気刺激、酸素過剰、止血(遠隔プレコンディショニング)は、代謝を調節することが知られているため、PBM効果を増大させるために、生体に印加される環境的/物理的/電気的若しくは電磁的刺激のような外因性刺激又はこれらの組合せが非常に注目されている。たとえば、内因性H2Sレベルは温度に逆相関することが知られている。原位置での温度の増大は、間接的な内因性H2Sドナーと見ることができ、相互に原位置での温度の増大は、内因性H2S阻害物質と見ることができる。
【0113】
本発明者らによって観察されたように、PBMの可能性は、光線量[J/m
2]及び分光法(波長)に依存するだけでなく、驚くべきことに特有の照射時間に対するフルエンス率にも依存する。たとえば、本発明者らは、特有の場合、
図4a及び
図4bに示すように、3mW/cm
2の放射照度(細胞培養からなるこの特有の設定におけるフルエンス率に等しい)(すなわち、0.54J/cm
2の線量)で細胞が3分間照射されなければならないことを観察した。たとえば40秒間印加された15mW/cm
2又は22秒間印加された25mW/cm
2の放射照度で観察される「ホットスポット」を除いて、異なる照射時間及び/又は放射照度はいかなるPBM効果も誘発しない。興味深いことに、ホットスポットが放射照度及び照射時間に関して同じ場所に存在する
図4a及び
図4bと比較して結論付けることができるように、これらのホットスポットのいくつかは波長に依存しない。
【0114】
これは、PBMのよく知られている二峰性効果と比較してより複雑なPBM応答を示し、すなわち高すぎる又は低すぎるフルエンス率及び/又は光線量はPBM効果を大幅に低減させる。本発明者らはまた、特定の条件において、最適の条件で印加されるPBMの前及び/又は後に、過剰線量/放射照度によるPBM効果の「中和」が存在しないことを実証した。
【0115】
本発明者らはまた、波長の組合せでPBMを実行したときに驚くべき結果を観察しており、それらの波長のうちの1つは単独で使用されると効果的でない。これは、
図4cに見ることができるように、単独で使用されると強力でない730nmに当てはまる。この図から、3mW/cm
2の放射照度で印加される180秒の照射時間に効果的な689nmの波長は、9mW/cm
2で適用された場合は効果的でないことを見ることができる。驚くべきことに、730nm(180秒間で3mW/cm
2の放射照度)及び689nm(180秒間で9mW/cm
2の放射照度)の同期又は順次照射を組み合わせた結果、顕著なPBM効果が得られ、これはPpIX蛍光強度比(PBMあり/PBMなし)から明らかである。これらの効果は、
図4a及び
図4bに示す「ホットスポット」に対応するものと同等であった。したがって、PBM効果を増大させるために、特に光学的又は幾何学的な制約によって強力な波長の特有のホットスポットに到達することが困難であるとき、少なくとも1つが強力でない(又は不十分である)波長の同期又は順次の組合せが非常に注目されている。
【0116】
実際には、吸収係数μ
a及び低減散乱係数μ
s’によって主に説明される生物組織の光学特性は、光分配器の周りの光の伝播に重要な影響を与えることが十分に確立されている。概して、フルエンス率(及び光線量)は、所与のパワー(及び照射時間)に対して、組織内の光の吸収及び散乱により、光源からの距離とともに減少する。
図5は、半無限サンプルの「広範囲」(μ
eff
-1よりはるかに大きい)の視準された照射の特有の場合に、フルエンス率F(放射照度Eによって正規化される)が表面からの距離に対してどのように減少するかを示す。したがって、組織内のフルエンス率及び光線量は、PBMによって治療される組織の異なる場所で同時に最適になることはない。
【0117】
光分配器の幾何形状(照射幾何形状)は、治療される特有の臓器に適合されることに留意されたい。たとえば、特に1つ又はいくつかのファイバによる正面照射(広域)、バルーンに基づく照射、又は組織内照射が考慮される(実例として、Medlight SA「http://www.medlight.com/#」によって市販されている製品を参照されたい)。
【0118】
本発明者らはまた、代謝活動を反映するパラメータの周波数分析(特に、ウェーブレット理論を使用)に基づいてPBMTで使用される放射及びスペクトル条件を調整するための新方式を確立した。より厳密には、本発明者らは、PBM中にニワトリ胚漿尿膜(CAM)の酸素分圧(pO2)の時間周波数分析を実施した。
【0119】
血液灌流の低周波振動が存在する場合[Kvandal、2006]、複雑な代謝調節機構[Reglin、2014]によって、特に末梢微小循環内の細動脈は周辺組織pO2に強く応答することがよく知られている[Jackson、2016]。
【0120】
市販のClarkプローブ(Unisense(登録商標)、OX-needle、OX100-Fast)を使用して「長時間」(数時間)のCAMで実行されたpO
2の局所的測定に基づいて、本発明者らは、pO
2のウェーブレットに基づく分析に起因する周波数スペクトルを計算した。ウェーブレット分析は、測定時間中に非定常周波数を特徴付けることを可能にするよく知られた数学的変換である。
図6(中央左)は、胚発生日数(EDD)7における新しいCAM細動脈付近のpO
2の典型的な測定を示す。ここで、時間信号(測定時間:約180秒)は主に、2つの周波数(
図6左下参照;垂直軸線が周波数である)、すなわち血管平滑筋の内因性活動を表す心拍(約1Hz)及び筋原性緊張(約0.1Hz)の重畳に起因する。
【0121】
H2Sは、NaSHの投与によって誘発することができる血管緊張の強力な調節因子である[Kohn、2012]。本発明者らは、本発明者らのClarkプローブによって、NaSHの局所適用(生理血清中に10μl~1μM)によって誘発されたCAM細動脈のH2S刺激が、約60mmHgでpO2の強い調節をもたらすことを測定した。この調節は、少なくとも筋原性帯域(0.05Hz~0.15Hz)、内皮一酸化窒素合成酵素に依存する帯域(0.01Hz~0.02Hz)、及び内皮一酸化窒素合成酵素に依存しない帯域(0.005Hz~0.01Hz)で観察される。他のより低周波の帯域もまた、これらの帯域のいくつかが内皮からのプロスタグランジン又はプロスタサイクリン放出に相関することを特に示唆する場合に活性化される。
【0122】
本発明者らの新方式は、本発明者らが正面光分配器(850nm、7mW.cm
-2、30秒)によってt=80分及びt=105分に実行したCAMのPBM照射に起因する(
図7参照)。これらの周波数の調節(「調光」)(
図6(右上)及び
図7)は、PBMによって誘発されたことが明らかである。
【0123】
特に、帯域3、5、及び6、並びに画定されていないより低い周波数に対応する帯域は、PBMによって完全又は部分的に阻止されると考えられる(
図6参照)。帯域3(筋原性帯域)の阻止は、この帯域がNADPHオキシダーゼ(NOX)の活性化及びその後のROS生成[Nowicki、2001;Li、2017]を介した細動脈平滑筋細胞によるものであるため、PBMがNOX活動を阻止することを意味する。NOXスーパーファミリーは、特にNOXが白血球活性化の代謝スイッチで示唆される場合、炎症及び免疫応答に根本的な役割を担うため、本発明者らの観察は、炎症を調節して重要な免疫調節因子として強力であるためのPBMの重要な経路を明らかにする。さらに、PBMによって生体の筋原性緊張を調節することで、たとえば腎臓病変に当てはまるように、多数の高血圧損傷を防止することができる[Loutzenhiser、2002;Moss、2016]。まとめると、本発明者らの結果は、pO
2などの代謝活動を反映するパラメータの周波数分析により、PBMに使用される光線量及び/又はフルエンス率を監視することが可能になることを示す。
図6及び
図7で観察される振動は、例示の目的で、すなわち信号対雑音比を増大させるために、H
2Sによって誘発されたことに留意されたい。実際には、H
2Sがなくてもそのような振動は存在する。
【0124】
したがって、代謝活動を反映するパラメータの周波数分析に基づいてPBM療法で使用される放射及びスペクトル条件を適合することが非常に注目されている。
【0125】
この特有のタイプの監視は、2つの主な目的で、すなわちi)代謝「振動」に対して最適の時間にPBM光を印加するために、又はii)(放射分析に適合するのに)最適になるようにPBMによって誘発された代謝の変化のレベルを評価するために、実行することができる。
【0126】
pO2は、上述したように、PBM中に光線量測定を監視するためにウェーブレット又は周波数に基づく分析を使用して分析される唯一のパラメータではない。上述したリスト(フィードバック可観測量のリスト)は、注目される他のパラメータも示す。
【0127】
本発明者らはまた、生体内の光照射の印加(複数可)時間が、著しいPBM効果を誘発するために極めて重要であることを示した。生体は一時的な又は通常の内因性又は外因性要因によって引き起こされる代謝活動の広い周波数規模の範囲内で動的であるため、これらの観察は非常に重要である。特に、本発明者らは、グリオーマ細胞又はHCMの代謝活動中の特有の時間に光が印加されるとき、細胞の代謝応答は異なる形で有意に調節され、それに応じて表現型の長期応答が調節されることを示した。本発明者らはまた、無酸素/再酸素化研究において卵内ニワトリ胚心臓モデルを使用して、PBM照射が再酸素化直前に開始するときは、再酸素化から相当な時間前又は再酸素化から相当な時間後の虚血中にPBMが実行されるときと比較して、生存率が著しく高くなることを示した。興味深いことに、この条件において、再酸素化によって1秒から数分の範囲の時間中に心拍の停止が誘発されることが観察された。再酸素化前のPBM調節により、この停止が有意に回避される。したがって、本発明者らは、無酸素性心臓麻痺後又は徐脈若しくは頻脈を示したとき、PBMが心拍を再開又は調節するのに対して、鼓動している健康な心臓に対する影響は観察されないことを示した。これらの卵内の観察は、ブタ心臓冠動脈の結紮によって誘発された虚血/再灌流事象中に、本発明者らによって生体内で確認された。
【0128】
本発明者らはまた、低酸素/再酸素化事象中のニワトリ胚の心臓の調節にPBMを使用することができることを示した。
【0129】
本発明の一態様は、特に心筋に影響を与えて急性心筋梗塞(MI)後の梗塞サイズを低減させるために、虚血再灌流傷害を治療するためのデバイス又は方法を適用することである。
【0130】
本発明者らは、ニワトリ胚心臓に基づいて、温度調節されたガスチャンバに卵を配置し、環境及び胚の温度並びにpO
2を連続して監視する、卵内無酸素再酸素化実験を開発した。いくつかの実験では、胚心臓の周り又は胚組織の異なる場所に小型のH
2S、NO、及びpHプローブも配置した。このチャンバは、画像記録のために顕微鏡下に配置された。
図8に示すように、安定化時間(温度安定化)後、環境温度の変化なく、数十分間にわたって卵の周囲全体に窒素を流すことによって無酸素環境が作られ、それに続いて卵の再酸素化が行われた。
【0131】
胚発生日数(EDD)3において、胎児の再酸素化前に45分にわたって純粋N2を流すことで、実験の終了後に48時間で50%より大きい死亡率を誘発した。この実験は、Lathamら(Latham、1951)によって公開された文献で「酸素パラドックス」と呼ばれる「再灌流傷害」の一態様を裏付けており、すなわち再灌流は特定の場合に死を招くことを裏付けている(Piper、2000)。本発明者らの場合、単離したニワトリ心臓胚(Raddatz、2010)と同様に、再酸素化により活性酸素種(ROS)が急増し、恒久的又は一時的な心臓麻痺を誘発し、それに続いて不整脈(徐脈、頻脈)が発生する。本発明者らの実験では、EDD3の胚が45分間の無酸素を受けると、本発明者らは、再灌流直前の胚のフォトコンディショニング(671又は808nm、5mW.cm2、30秒)により、心臓麻痺が著しく回避され、重要なことに48時間生存率が増大することを観察した。興味深いことに、PBMのこのプラス効果は、光が再酸素化後の早すぎる又は遅すぎる段階で印加された場合には観察されない。この最近の観察は、再酸素化に対して光が印加される時間が有益な結果をもたらすのに非常に重要であることをはっきりと示唆している。
【0132】
したがって、本発明にとって非常に注目されている1つの応用例は、本発明者らの元の医療デバイス及び方法によって送達されるPBMを使用して、低酸素再酸素化事象及びさらには虚血再灌流事象に起因する損傷を治療することからなる。
【0133】
本発明者らはまた、ニワトリ胚心臓の無酸素性の非恒久的な心臓麻痺後に、PBMによって心拍を刺激することができることを示した。
【0134】
胚発生日数(EDD)7の前まで、ニワトリ胚の酸素供給は、主に殻全体、次いで胚への拡散によって実行された。EDD2から観測可能な心拍及び血流は、主に心血管の発達のための刺激として作用する。胚は、5日目まで、アルブミン層のすぐ下に位置する「表面」に平坦になっている。したがって、殻の一部分を除去した後は胚に容易にアクセスすることができる。これが、ニワトリ胚の個体発生と並行して、EDD2から最大EDD5までの胚が、発生生物学の優れたモデルとして、特に心臓発生及び律動発生において、数十年間使用されてきた理由である。このモデルはまた、低酸素又は無酸素状態中及びそれ以降の挙動が研究される無酸素-再酸素化研究[Sedmera、2002]に使用されるだけでなく、低酸素に誘発される頻脈、徐脈中、又は細動の研究にも使用される。
【0135】
無酸素性卵内実験中に本発明者らによって観察された1つの興味深いPBM効果は、心臓麻痺後に心臓の再開を可能にする光のプラス効果(複数可)に関連する。実際には、長期の無酸素は心拍の停止を招き、心拍は、不可逆的で完全な心臓麻痺が発生するまで、一時的に再開することもある。本発明者らは、ほとんどの場合、虚血性のブタの蘇生観察と並行して、そのような心臓麻痺後、PBM照射により心拍が再開することが多いことを観察した(
図9)。さらに、胚心臓の小区画(心房、心室、流出路)の拍動の周波数及び位相シフト分析に基づいて、PBM照射は、低酸素状態後にこの周波数(特に、高調波)の回復及び小区画間の収縮の位相シフトを刺激した。ポンプ機能(心拍出量)の有効性を維持するには、この位相シフトが持続されなければならないため、これは特に注目されている。したがって、心拍出量を維持するために、心臓小区画の動きの周波数及び位相シフトを監視することによって、本発明者らによって示されるように、低酸素状態に対して非常に感度が高いことが知られている小区画、特に心房の局所的照射が非常に注目されている。
【0136】
PBMのこの驚くべきプラス効果は、PBMによって無酸素性心臓麻痺後を含む心拍に関与する代謝活動が引き起こされることを強く示唆する。PBMは炎症を低減させて代謝活動を増強することが知られているため、たとえば心房細動を含む細動などの症状を治療するために、PBMが非常に注目されている。
【0137】
さらには、たとえば概日リズム[Bailey、2014]と同様に、代謝は様々な周波数の自律的律動(すなわち、細胞周期に依存しない[Papagiannakis、2017])及び非自律的律動を受けるため、特に2型糖尿病[Petrenko、2020]、癌細胞における好気性解糖の代謝スイッチ(ワールブルク効果)[Gatenby、2018]、又は肝障害及び肝疾患[Zhong、2018]などの様々な代謝障害を治療するために、特有の時間及び/又は周波数でPBM光を印加して、代謝振動をロック、トリガ、及び/又は(再)同期することが非常に注目されている。
【0138】
本発明者らはまた、非酸素化血液を含有する血液を灌流させる大きい血管(ブタの肺動脈、大静脈)又は右心房内に直接送達されるPBM光を使用して、全身の血行動態及び酸素圧を調節し、抗炎症、免疫調節、抗凝集、内皮、及び上皮の細胞保護を生じさせることができることを示した。驚くべきことに、ブタにおける長期低酸素事象中の非酸素化血液のそのような照射は、動脈及び静脈血で実行されるガス測定(cobas b 123 POC System Roche diagnostics(登録商標)を使用)に従って、恒常性を維持する。加えて、これらの照射は、心拍出量などの機能的血行力学変数を維持及び安定化し、それに付随して、PBM照射後数十分間にわたって肺動脈又は心房内に配置されたヘパリン化NOプローブ(NO-NP Unisense(登録商標))内で測定される全身的に不安定なNOレベルの増大及び安定化をもたらした。血液中の不安定なNOの寿命が10~100分の1短いことが一般に広く受け入れられているため、この効果は予期されたものではない。興味深いことに、付随するものなしに、メトヘモグロビンの増大が実験中の静脈又は動脈ガスにおいて評価する。加えて、本発明者らは、非酸素化血液を含有する血液を灌流させる大きい血管(肺動脈)又は右心房内で直接送達されるPBM光を使用して、低酸素状態に関連する血中酸素減少、ヘモグロビン飽和、動脈及び静脈の酸素分圧を制御することができることを示した。加えて、特に血糖値の規制解除に起因する複合臓器不全(MOF)の場合のように全身性組織傷害を誘発する確率を低減させるために、この手法を使用して、血糖値レベル(
図25a)を維持することができる。
【0139】
[本発明の詳細な説明]
HCM細胞がPpIXを生じさせる能力に対するPBM効果を示す
図4a及び
図4bに示す結果によれば、この効果を最大限にするためには、3mW/cm
2のフルエンス率(又は強度)が3分間にわたって適用されなければならない。特定の幾何形状及び特有の光学係数に関して
図5に示すように、固定の放射照度に対して、フルエンス率はバルク(又は3D)組織内で均一でないため、本発明による医療デバイスは、すべての細胞が3分間にわたって最適のフルエンス率を受け取るように、時間とともに変化する放射照度を送達することが好ましい。ほとんどの状況で、照射幾何形状は照射中に変化しない。したがって、放射照度は、組織を照射するパワー[W]を照射スポットの表面[m
2]で割ることによって簡単に与えられる。Yaroslavskyら[参考文献]が類似の概念についてすでに記載しているが、本明細書に記載する本発明者らの発見は、どちらも同時に適用されなければならないフルエンス率及び照射時間の特有の値を識別することである。
【0140】
図5に示す幾何形状及び光学係数に対応する特有の状況を考慮されたい。フルエンス率Fは拡散近似の解によって判定することができるため、次の式が得られる(この拡散近似に基づく前提が満たされなければならず、すなわちi)μ
a<<μ
s’であり、並びにii)本発明者らが光源(複数可)及び境界から「遠い」場所「z」(すなわち、z>1/μ
s’)のフルエンス率に注目しており、「k」は、Jacques[Jacques、2010]によって記載されているように、境界下のフルエンス率を増大させる、組織によって後方散乱させられた光に起因する因子であることに注意されたい)。
F=k.E.e
-μeff z 式1)
【0141】
zの値を増大させるために後にF’と呼ばれるF定数を維持する唯一の方法は、Eを増大させることである。このことは、前述の式の反転から導出され、次のように示される。
E=(F’/k).eμeff z 式2)
【0142】
各HCM細胞がF’=3mW/cm
2で3分間にわたって照射されなければならないため、別の重要な概念はこのフルエンス率に影響する公差に関連する。細胞が厳密に3mW/cm
2で照射されなければならない場合、これらの細胞に対応する体積が0mm
3に等しいため、サンプル全体の全体的な治療には無限の時間がかかるはずである(細胞は0mm
3に等しい体積を有する深さ「z」に位置する平面内に閉じ込められている)。しかし、
図4aを見ると、
図4aは、3mW/cm
2及び180秒に位置する「ピーク」の放射照度の全幅半値(FWHM)が約3.2mW/cm
2であり、すなわち、180秒後に最適のPBM効果を誘発するために、フルエンス率F’が3±1.6mW/cm
2(後にF’±ΔF’と示される)の範囲内になければならないことを示す。これは、最適のPBM効果が誘発されたHCM細胞が平面内ではなく、厚さΔzのスライス内にあることを意味する。このスライスの厚さΔzは、次式によって与えられる。
Δz=ΔF’/(dF/dz)=ΔF’/k.E.μ
eff.e
-μeff z 式3)
【0143】
E=(F’/k).eμeff zであるため、本発明者らは以下を得た。
Δz=ΔF’/μeff.F’ 式4)
したがって、ΔzはF’、ΔF’、及びμeffにのみ依存する。
【0144】
治療される組織体積がz1(近位位置)からz2(遠位位置)の範囲である場合、180秒(以下、Tと呼ぶ)にわたって印加する異なる放射照度の数「n」は、z2-z1/Δzに等しい。
【0145】
その結果、放射照度Eの空間的変化は、
図10に示すとおりになる。
放射照度の時間的変化E(t)(
図11参照)は次のとおりである。
E(t)=(F’/k).e
μeff. Δz.t/T=(F’/k).e
ΔF’.t/F’.T 式5)
上式で、Eは、0<t<TであるときはF’/k.e
ΔF’/2F’に等しく(拡散近似式が有効であることを示す)、T<t<2TであるときはF’/k.e
3ΔF’/2F’に等しく、2T<t<3TであるときはF’/k.e
5ΔF’/2F’に等しく、nT<t<(n+1)TであるときはF’/k.e
(2n+1)ΔF’/2F’に等しく、ここでn=μ
eff.F’.(z
2-z
1)/ΔF’である(下式6参照)。
【0146】
したがって、z1~z2の範囲の体積の組織を治療するのにかかる総時間「ttot」は、T.(z2-z1)/Δzである。Δzの明示的な式(式4)によって、本発明者らは以下が得られる。
ttot=T(z2-z1)/(ΔF’/μeff.F’)=T.μeff.F’.(z2-z1)/ΔF’ 式6)
【0147】
最後に、F’と同様に、照射時間軸線に沿ったPBMピークのFWHMのため、Tも特定の公差で適用することができることに留意されたい(
図4a参照)。
【0148】
要約すると、この例では、本発明によるデバイスは、0~ttotの範囲の時間中に、次式によって与えられる放射照度E(t)を適用する。
E(t)=(F’/k).eΔF’.t/F’.T
デバイスは表面Sの特定の面積[m2]を特定のパワーP[W]で照射するため、本発明者らは以下を得た。
E(t)=P(t)/S
したがって、デバイスは、0~ttotの範囲の時間中に、次式によって与えられる光パワーP(t)を送達する。
P(t)=(S.F’/k).eΔF’.t/F’.T 式7)
【0149】
E(t)及びt
totの式に含まれるすべてのパラメータは、特有の臓器(周知の厚さz
2-z
1)及び照射幾何形状(表面S)に対して判定され、実際には、F’、ΔF’、及びTは
図4a(HCMの場合)から導出されるのに対して、kは組織光学係数(関心組織に関して知られている)から導出される。
【0150】
この詳細な説明は、
図4a及び
図4bの特有のホットスポットに対処する全体積に対する最適のPBM効果に関して、「ホットスポット線」又は「ホットスポット面」Ω
iλに一般化することができ、ここでiは、波長λで
図4dに示すマップ上の特有のホット面を表す。
図4a及び
図4bに示す点は、特有の座標(フルエンス率;照射時間)を表し、ホットスポットの最大値の周りの点は、合理的な有効性を有することができるため、
図4dに表すように、ホットスポットは、長方形Ω
iλによって画定される面積(ΔF’
iλ;ΔT
iλ):ホットスポット面Ω
iλの寸法によって示すことができ、典型的な可能性は、Ω
iλ内の点の平均又は重心に等しい。特有の寸法ΔF’
iλ及びΔT
iλを有する特有のΩ
iλに対応する照射条件の選択は、以下により詳細に説明するように、予期されるPBM効果の付随する低減の範囲内で、総治療時間を最小にするように画定することができる。治療症状、急性、慢性、重症、中等、及び治療区域の幾何形状に応じて、最小化コストアルゴリズムは、使用者によって画定されるパラメータに基づいて、特に予期される最大治療時間値及び最小有効性レベルを画定することによって、最良のホットスポット(点、線、又は面)を画定することができる。たとえば、浅い傷を治療する場合、ホットスポット点を使用することができることが最適であり、この場合、傷の深さが小さいため、治療時間は長くなりすぎない。しかし、急性梗塞の場合、時間が非常に重要であり、治療体積も比較的重要であり、その場合、可能な限り総体積を最小時間で治療するために、ホットスポット点を、比較的高いΔF’
iλ及び/又はΔT
iλを有するホットスポット面に変換することができる。ホットスポットのほとんどは、0.2J.cm
-2~1J.cm
-2の線量範囲内に位置するが、他のホットスポットは、数秒の照射時間範囲内で、1cm
-2当たり数百mWの対応するフルエンス率の範囲内に存在することもあることに留意されたい。
【0151】
上述した説明では、組織は静止していると考えられ、光源のパワーは、標的組織内で最適の時間中に最適のフルエンス率を生成するように、時間とともに変化した。しかし、たとえば血液を含む流体では、たとえば血流によって幾何形状が動的になる状況もある。そのような状況では、光分配器によって送達されるパワーは安定している可能性がある(時間変化なし)が、光分配器によって生成される光パターンは、流体光学特性と組み合わせて、流体の流れによっていくつかの体積要素内でフルエンス率が最適になるようにすることができる。したがって、血液などの動いている流体の異なる場所でPBM効果を誘発するように光線量及び/又はフルエンス率が最適になるようなエミッタンスの長手方向の変動が導入されなければならない。
図19aには、均一でない長手方向の光分配器が血管の中心に配置された実例が示されている。光分配器のエミッタンス(W/cm
2)がその照射窓に沿って増大するため、分配器の表面付近に位置する血液体積要素は、画像の左側で適当な放射照度になり、この表面から離れて位置する血液体積要素は、画像の右側で適当な放射照度になる。したがって、全血液体積が円筒形の光分配器に沿って動いているため、最適の線量測定を受け取る。
【0152】
最適以下の放射条件で印加されるPBM強力波長の使用に起因する効果を、強力でない波長を組み合わせて印加することによって最適化することができることを示す本発明者らによって得られた驚くべき結果に基づいて、別のPBMTプロトコルを画定することができる。実例(
図19b)は、強力な波長及び強力でない波長の両方が連続して送達されるPBMT照射を伴う。そのような波長はまた、分配器の同じ場所で送達することができる。最適の光学的長手方向プロファイルは、血管の直径(幾何形状)、血液の流れ、状況(層流、乱流、拍動態様、...)、及び血液の光学特性を含む多くのパラメータに依存する。デバイスは、
図19cに示すように、均一の円筒形光分配器を実現するために使用されるプロセスの軽微な変化によって、又は特有のバルーンカテーテル形状/サイズを設計することによって、容易に作製することができる。バルーンの使用(膨張、照射、収縮)は、大動脈で使用される対向拍動バルーンと同様に、静的であっても動的であってもよく、そのようなバルーンは、数週間にわたって心拍と同期して膨張又は収縮する。飛行時間(物体がスティック周辺にある時間)もまた、PBM治療を最適化するように調節することができる。これは、たとえば心拍出量の調節に基づいて(NG-モノメチル-L-アルギニン(L-NMMA)による)、又は光分配器を取り囲むバルーンに基づくカテーテルの膨張レベル若しくは膨張/収縮リズムによって行うことができる。この概念はまた、体外循環又は循環支援デバイスで適用することができることが明らかである。
【実施例】
【0153】
実施例1:心筋の虚血再灌流の治療
本発明によるデバイスの詳細な例をこの実施例に示す。
心筋の虚血再灌流のこの治療は、次の場合に実行することができる。
1.急性又は慢性心筋梗塞(MI)
2.体外循環後に誘発された大動脈クランプ及び心臓麻痺
3.臓器移植(心臓、肺、又はその他)。
【0154】
考慮した光学分配経路は次のとおりである。
1.組織内(経心筋)
2.腔内(心室内)
3.血管内(冠動脈内)
【0155】
経心筋医療デバイス
これは、1つ又は複数の光ファイバに基づいて、心臓(
図12及び
図13及び
図14b)を通って、光分配器、好ましくは円筒形光分配器を移植することを伴い、これは心筋血管再生術中に心臓外科医によって、MIの急性期に連続して、又は体外循環下の120分を超える大動脈クランプ後に、又は心臓移植中に行われる。
【0156】
これらの光分配器は、外科処置の終わりに、冠動脈の再灌流前、又は冠動脈の再灌流中に、心臓の患部区域(たとえば、虚血区域)に配置される。
【0157】
これらの光分配器は、以下に示す処置に従って配置される。
1)以下によって治療される区域を特定及び推定する。
a.患部の巨視的評価(
図14a)(視覚指標:浮腫、無運動、運動異常、朱色の外観、及び/又は特徴付け装置の使用)
b.虚血性心筋の解剖学的区域(たとえば、左心室の場合)に対応する冠動脈造影及び超音波データとの相関関係
i.前方領域
ii.側方領域
iii.下方領域
2)虚血区域の拡張及びアクセス性に基づいて光送達に必要な光分配器の数及び相対位置を決定する。
a.貫通を回避するための冠動脈の分布の原位置での考慮
b.光分配器は、分配器によって治療される体積を最大にするとともに、心外膜の可能な限り近くでの固定を可能にするように、心筋の厚さ範囲内時間移動モードの超音波データによる)で、表面に対して水平から垂直の範囲の角度で貫通して移植される。
c.光分配器は、心筋の厚さ全体にわたって光を分散させるために、心筋内の最大長より大きい長さ(5cm)を有する。
3)治療される心臓の心外膜表面に半剛性及び透過性のシリコーン型又は生分解性のマスクを4点(単線5.0ワイヤ)で配置及び固定する。このマスクは、穿刺のためのガイド/テンプレートの両方として働く(適正な移植角で事前に貫通され、すべての孔が、使用される光波長(複数可)に応じた組織内の光の伝播を考慮に入れた幾何学的パターン及び事前定義された間隔に従う)。このマスクはまた、光分配器が挿入された穿刺カテーテルを維持するために使用される。
4)たとえば次の特性を有するiCAT(登録商標)タイプのカテーテルによって、マスクを通って心筋壁を貫通する。
a.20ゲージ未満(出血及び組織の損傷を最小にするため)
b.中空
c.使用される波長で透過性を有する
d.閉じたエンドキャップ
e.カテーテル配置の長さを示すカテーテル上の視覚的なマーキング
5)光分配器デバイスに接続し、それに続いて光学較正ステップを行う。
6)各カテーテルに光分配器を導入する(TOOKAD(登録商標)型の光力学療法で使用される組織内処置と同様)。「ルアーロック」によって分配器をカテーテルに取り付ける。すべての光分配器をマスク及び/又は患者の皮膚に取り付ける。
7)治療された細胞が最適の時間にわたってやはり最適の空間放射照度(「フルエンス率」)を受け取るように、光分配器によって放出される光パワーの時間的変化を判定する。この判定は、使用者によって判定された光分配器の数及び配置に基づいて行われる。この判定は、たとえば、事前設定された重み行列から光分配器によって放出される光パワーの時間的変化を導出することからなる。これらの行列は、処理時間を最適化するために使用される各波長の特異性(光学的及び生物学的)を考慮に入れて、関心組織内の光の伝播のモンテカルロタイプのシミュレーション及びコスト削減アルゴリズムに基づいて生成される。
【0158】
前のステップに記載した判定に従って光源の光パワーの時間変化が行われるように光送達を実行する。光送達は、前述の様々な計器又は生物学的データに基づいた監視方法によって調節することができる。光分配器を補うデバイスの一部の一例を示す簡略図を
図15に示す。
単一照射の場合は次のとおりである。
i.外科的再灌流処置
ii.カテーテル及びマスクの除去
iii.必要な場合は穿刺点での止血
iv.光分配器の較正の認証
v.通常の外科的介入の継続
vi.胸骨切開に関しては正常の縫合処置
複数照射の場合は次のとおりである。
i.外科的再灌流処置
ii.カテーテル及び光分配器を定位置に残し、生分解性マスクに取り付ける。処置を遠隔で繰り返すために、光分配器を皮膚へ通して固定し、8~10日間にわたって定位置に残すことができる。
iii.通常の外科的介入の継続。
iv.胸骨切開に関しては正常の縫合処置。
v.簡単な手動除去によって、胸部ドレーンが定位置にある状態で光分配器の除去を行い、2時間目に超音波チェックを行う。
【0159】
心室内医療デバイス
これは、プレコンディショニング、パーコンディショニング、又はポストコンディショニングで、MIの急性期における心筋血管再生術中に、蛍光透視下で介入的心臓医によって1つ又は複数の光分配器を左心室内へ経皮的に配置することを伴う。
これらの光分配器は、処置の始めに、閉塞冠状動脈(複数可)の血管再生を行う前に配置される。
これらの光分配器は、以下に記載する処置に従って移植される。
1)超音波穿刺によって橈骨動脈又は大腿動脈にアクセスする。
2)セルディンガー法を使用してRadiofocus型のガイディングシース(5F-6F)を導入する。
3)蛍光透視下で、大動脈弁を横切った後、Radiofocus型の診断ガイドカテーテルによって左心室へ誘導する。ガイドを除去し、自己膨張式の収縮拡張バルーンの有無にかかわらず、診断カテーテルによって光分配器を左心室内に配置し、又は虚血性左心室の壁に直接固定する。
4)光送達を実行する。光分配器によって放出された光パワーの時間的変化の判定及び光送達は、上述したように実行される。
5)カテーテル、光分配器、及びシースを除去し、場合により8~10日にわたってデバイスを定位置に残す。
6)閉塞した冠動脈の介入的放射線学による再灌流のための通常の処置を行う。
血管内医療デバイス
【0160】
これは、虚血再灌流現象を受けたMI、肺、又は他の臓器移植中のプレコンディショニング、パーコンディショニング、又はポストコンディショニングで、介入的放射線学における虚血性現象後の血管再生プロセス中に、蛍光透視下で1つ又は複数の光分配器をどこであれ動脈内へ経皮的に配置することを伴う。
これらの光分配器は、再灌流前の処置の始め又は終わりに配置される。
【0161】
これらの光分配器は、冠動脈の場合、以下に記載する処置に従って移植される。
1)静脈内カテーテル(Surflo(登録商標)型)によって橈骨動脈又は大腿動脈にアクセスする。
2)セルディンガー法を使用してRadiofocus型のシース(5F-6F)を導入する。
3)蛍光透視下で、診断カテーテル(4F、タイプJR4)及び0.035インチのガイド(Radiofocus型)によって冠状動脈まで誘導する。
4)ガイドを除去し、診断カテーテルによって光分配器を配置する。
5)光送達を実行する。光分配器によって放出された光パワーの時間的変化の判定及び光送達は、上述したように実行される。
6)カテーテル、光分配器、及びシースを除去する。
7)通常の冠状動脈の再灌流のための処置を行う。
【0162】
虚血性再灌流傷害は臓器移植中の主な問題であり、この問題が移植片拒絶の主な原因となることが知られているため、心臓移植に対してこれらの処置の変換を実行することができる。
【0163】
さらには、上述した処置はまた、たとえば腎臓、肝臓、脾臓、又は脳に当てはまるように、虚血再灌流傷害を受けた他の臓器にも適用することができる。これらの処置を他の処置と組み合わせて、身体の異なる部分、たとえば甲状腺に同時に照射し、I/Rを受けた臓器によって誘発される可能性のある否定的な全身応答を制御することができる。
【0164】
実施例2:光源によって放出される放射照度(又はパワー)の連続する時間的変化
詳細な説明で画定したΔF’は0より大きいため、光源によって送達される放射照度(又はパワー)の時間的変化は、増分的ではなく連続的なものとすることができる(
図10及び
図11のヒストグラムに適合する点線によって示す)。この場合、光分配器(複数可)によって送達される放射照度又はパワーの時間的変化は、それぞれ式5及び式7によって与えられる。
【0165】
実施例3:光源によって放出される放射照度(又はパワー)の増大ではなく時間的減少
放射照度(又はパワー)を(増分的及び/又は連続的に)増大又は減少させながら、厚さΔzの異なる組織層を適当なフルエンス率で照射することができる。
【0166】
この場合、ttotは同じであるが、放射照度(又はパワー)の時間的変化は、それぞれ式E(t)=(F’/k).eΔF’.(ttot-t)/F’.T又はP(t)=(S.F’/k).eΔF’.(ttot-t)/F’.T(0<t<ttot)によって与えられる。
【0167】
実施例4:異なる照射(光送達)の幾何形状
図5は、特有の幾何形状に対するフルエンス率、すなわち空気-組織境界面で広域の視準された直交する光ビームで照射された半無限組織におけるフルエンス率の空間分布を示す。光医学の分野、特にフォトバイオモジュレーション又はLLLTでは、組織/臓器の構造(複数可)及びアクセスに応じて異なる照射幾何形状が考慮されることがよく知られている。
図6は、最も一般的な照射幾何形状のいくつかを示す。
【0168】
フルエンス率を判定するために、拡散近似の解はこれらの幾何形状の多くに対して存在する。したがって、他の照射、臓器、及び/又は光送達幾何形状に対する式5の一般式は、E(t)=FE(μa、μs、g、next、ntissue、F’、ΔF’、S、T、t)として書くことができ、ここでFEは、組織の光学パラメータ、臓器及び照射の幾何形状、フルエンス率及びそのFWHM、並びにPBM効果の極大値を生成する照射時間(複数可)に依存する関数である。実施例6に後述するように、FEを判定するために、多数の異なる手法が知られている。
【0169】
同様に、他の照射、臓器、及び/又は光送達幾何形状に対する式7の一般式は、P(t)=FP(μa、μs、g、next、ntissue、F’、ΔF’、S、T、t)として書くことができ、ここでFPは、組織の光学パラメータ、臓器及び照射の幾何形状、フルエンス率及びそのFWHM、並びにPBM効果の極大値を生成する照射時間(複数可)に依存する関数である。実施例6に後述するように、FPを判定するために、多数の異なる手法が知られている。
【0170】
図16に示す光送達幾何形状の組合せを使用することもできる。直接接触又は擬似接触状態における、たとえば実験施設内又は原位置でのLED又はVCSELなどの光源の使用を想定することもできることが明らかである。
【0171】
最後に、不均質な組織、特に層状組織構造も想定されなければならない。
【0172】
実施例5:異なる組織光学特性
異なるタイプの組織は異なる光学特性を有するため、特にそれらの光学特性が照射中に所与の組織に対する変化を受ける場合、上述した形式は、μa、μs、g、next、ntissueの異なる値に有効である。
【0173】
実施例6:他の手法を使用するが拡散近似の手法に基づくフルエンス率の評価
生物組織内の光の伝播をモデル化するための異なる手法が十分に確立されている[Martelli、2009]。したがって、光輸送式の拡散近似に基づく上述した形式の代わりに、又は上述した形式と組み合わせて、これらの手法を使用して、最適のPBM効果を生じさせるための光源の時間的変化を判定することができる。ほとんどが組織内の光の線量測定を習得するために光医学で開発されてきたこれらの手法は、2つのカテゴリに分類される。
1)分析手法:本発明の詳細な説明に上述した形式を確立するために使用された光輸送理論のよく知られている拡散近似を除いて、この分野では、それだけに限定されるものではないが、クベルカ-ムンク理論、デルタ-エディントン放射伝達式などを含む他の分析手法が十分に確立されている。
2)コンピュータに基づく手法:生物組織内の光の伝播をシミュレートするためのコンピュータに基づく多数の手法が、数十年にわたって提案されている。これらの手法は、それだけに限定されるものではないが、モンテカルロシミュレーション、有限要素シミュレーションなど含む。
【0174】
実施例7:細胞タイプ、波長(スペクトル設計)、及び代謝活動に応じたPBMに対する異なる組織応答の考慮
F’(3mW/cm2)、ΔF’(1.6mW/cm2)、及びT(180秒)に関して上述した特有の値は、サンプル(ヒト心筋細胞:HCM)、環境(媒質、温度、pO2、...)、及びスペクトル設計(1回の照射のみが689nmで実行される)に関して、特有の条件で得られた本発明者らの実験観察に起因する。しかし、これらの条件のうちの1つ又は組合せを変化させることで、特にF’、ΔF’、及びTに対する異なる値が得られるはずである。これは特に、光の印加(複数可)のクロノグラムが変化する場合に当てはまる。
したがって、上述した概念は、異なる条件及び細胞タイプに対して一般化することができる。
【0175】
実施例8:図4a及び図4bの複数の「ホットスポット」に対応する放射条件(放射照度/フルエンス率、継続時間/線量)による組織の照射
図4a及び
図4bは、いくつかの「ホットスポット」を示すことが強調されるべきである。2つの「ホットスポット」、すなわち3mW/cm
2の放射照度及び180秒の照射時間に対応する上述したホットスポット(ホットスポット1)、並びにそれぞれ放射照度及び照射時間に関して15mW/cm
2及び40秒の第2のホットスポット(ホットスポット2)が示されている。
これは、特に総治療時間を最小にするために重要である。
実際には、組織を損傷することなく「高」放射照度を印加することはできないため、照射表面の「近く」に位置する組織のみを、15mW/cm
2の「高」放射照度で治療することができる。
そうでない場合、離れた細胞が比較的高いフルエンス率を受けたとき、光源付近の細胞は熱的損傷を受けるはずである。
赤色(又はNIR)光の数百mW/cm
2の放射照度が広いスポット(μ
eff
-1より直径)に数秒を超えて印加された場合、熱的効果は大きくなり始めることが、この分野の科学界では広く受け入れられている。
以下の
図17及び
図18は、放射照度が100mW/cm
2より小さくなければならない場合(他の条件は
図10及び
図11に関するものと同一とする)、治療時間を最小にするために「ホットスポット2」の存在をどのように利用するかを示す。
この場合、治療アルゴリズムは次のとおりである。E<100mW/cm
2である限り、この放射照度(又はパワー)の時間的変化は、式5(又は7)によって、F’=15mW/cm
2;ΔF’=4mW/cm
2、及びT=40秒として与えられる。そうでない場合、F’=3mW/cm
2;ΔF’=1.6mW/cm
2、及びT=180秒の値が使用されなければならない。
この例は、独自のホットスポット(複数可)の範囲内で波長(複数可)の組合せを使用することによって拡大することができる。
【0176】
実施例9:式5及び7によって連続波(CW)光源で放射照度(又はパワー)の時間的変化を生成するための受動減衰器の使用
今日、PBMによって組織を治療するための多数の光源が市販されている。言うまでもなく、これらはいずれも式5(又は7)に従って放射照度(又はパワー)を生成しない。しかし、これらの市販の光源の多くはCW光を放出し、0.62mW/cm2(本発明者らの特有の条件において、3mW/cm2をk=4.87で割った値)より大きい放射照度を生成するため、放射照度が式5によって与えられる値に対応するように、これらの市販の光源を、時間とともに伝送を変化させるはずの減衰器と組み合わせることができる。
より厳密には、E’が減衰器をもたないそのような光源によって689nmで生成された放射照度である場合、減衰器伝送の時間的変化(Tr)は、Tr(t)=E(t)/E’によって与えられるはずであり、ここでE(t)は式5によって与えられるはずである。
要約すると、本発明によるデバイスの特定の設計は、1つ又はいくつかの減衰器と組み合わせたCW光源を統合して、最終的に式5に与えられるものに対応する放射照度にしなければならない。
実施例1~8に上述した一般化は、この例にも当てはまる。
【0177】
実施例10:実施例4に示す放射照度又はパワーの時間的変化に重畳された光の高周波変調の使用
生体は、一部には酸化還元状態の動的変化により、光に対して動的な光吸収及び応答を有するため、PBMに使用される波長又は多重化された波長は、酸化代謝の酸化還元状態の動態/動力学を考慮に入れて、式5で画定される時間的変動より高い周波数で同期化/変調することができる。
【0178】
実施例11:式5及び7に従ってパルス化光源による放射照度(又はパワー)を修正するためのパルス継続時間変化の使用
実施例10ですでに述べたように、光は、式5及び7に従って放射照度(又はパワー又はフルエンス率)の変動に使用されるものより高い周波数で変調することができる。平均パワーP(t)はパルス化光パワーp(t)の時間平均であるため、
P(t)=∫p(t)dt
になる。P(t)の時間的変化は、所与の周波数及びピークパワーに対して、p(t)のデューティーサイクルの変調によって変化させることができる。
【0179】
実施例12:バイスタンダー又はアブスコパル効果の誘導
本発明者らによって観察されたように、中心静脈ラインで実行される全血量照射下で、paO2及び他の動脈ガス、たとえば塩素イオンの一時的又は中間であるが有意の調節が、動脈血液のみで行われる。実際に、これらの調節は中心静脈血では観察されなかった(
図25b及び
図25c参照)。PBMは特定の条件でバイスタンダー又はアブスコパル効果を誘発することが知られているため、血液などの循環物を含む生体の異なる部分を同時又は順次に照射することが非常に注目されている。
【0180】
実施例13:血管又はリンパ管へ循環生体のPBMによる治療
1)光パワー又は放射照度の時間的変動を実行して、フルエンス率の範囲内で、光分配器付近を通る循環生体に照射することができる。実施例4に与えた放射照度及びパワーの式は、PBMによって標的とされる血管又はリンパ管への生体の異なる速度を考慮に入れるように構成することができる。
2)光のパワーは、血流内の標的生体に最適に照射するように、心拍及び血管運動による流れの変化などの血行力学変数と同期される。
たとえば、本発明者らによって実証されたように、SARS-CoV-2のマイナスの影響を乗り越えるために、より一般にはARDSの場合、免疫応答、ヘモグロビンと酸素の親和性、血栓形成プロセスを最適化し、組織再生を促すために、肺動脈などの血管内に1つ又はいくつかの光分配器を挿入することによってPBMの特にバイスタンダー効果を使用することは、素晴らしいプラス効果を示してきた。
特に、左右の肺動脈に光分配器を配置するための臨床処置の一例(「セルディンガー法」)について以下に説明する。
1.静脈内カテーテル(Surflo、Terumo)を使用して超音波撮像下の右頸静脈の穿刺によって静脈アクセスを得る。
2.セルディンガー法を使用して7Frのシース(Radiofocus、Terumo)を導入する。
3.透視誘導下で、4FrのJR4ガイディングカテーテル(Cordis)を使用し、非親水性の0.035インチガイドワイヤ(Radiofocus、Terumo)を使用して、右肺動脈口に係合する。
4.0.035インチのガイドワイヤを除去し、止血弁Yコネクタを4FrのJR4ガイディングカテーテルに接続する。
5.4FrのJR4ガイディングカテーテルを通して、右上葉肺動脈の入り口と右下葉肺動脈の入り口との間に光分配器を配置する。
6.4FrのJR4ガイディングカテーテルを7Frのシースから完全に除去する。
7.止血弁Yコネクタを通して4FrのJR4ガイディングカテーテルに生理食塩水を流す。
8.第2の4FrのJR4ガイディングカテーテルで3、4、5、及び6に記載したものと同じ処置を使用して、左上葉肺動脈の入り口と左下葉肺動脈の入り口との間に第2の光分配器を配置する。
9.接着システム(Grip Lock、Vygon)によって、2つの光分配器(4FrのJR4ガイディングカテーテル内に挿管されている)を皮膚に取り付ける。
このプロトコルは、
図20に示すように、1つの光分配器が心房並びに下大静脈及び上大静脈に配置された状態で、PBM照射を実行するように構成することができる。光分配器は、治療を周期的に繰り返すために、数日又は数週間にわたって配置することができる。
【0181】
実施例14):異なる照射方式の組合せ
PBM効果は、異なる1次光受容体による光の吸収に起因し、特に多数のシグナル伝達及び転写因子の変化がもたらされる。PBM光はまた、ニトロソヘモグロビンからNOを光解離し、特定の金属タンパク質を伴う硝酸塩レダクターゼ活動(NRA)に影響することも知られており、またこれにより、低い酸素圧及び亜硝酸塩の存在で不安定なNOが放出される。NOは軽度又は重度の血中酸素減少で認識されるため、したがって異なる機構を活性化するために、異なる照射方式が考慮されなければならない。たとえば、循環血液において、第1の照射方式は、たとえばニトロシル-ヘモグロビン又はスルフヘモグロビンの光解離を標的とした適当な波長で、数秒から数分の範囲の最適の時間中に印加される一定又はパルス状の放射照度/フルエンス率(熱的効果を回避しながら可能な限り高いパワー、すなわち典型的には数百mW.cm-2)を送達することからなることができる。この第1の照射方式は、上述したホットスポットの概念に基づいて、第2の方式と組み合わされなければならない。
【0182】
実施例15:生体の照射は、特に継続時間に関して治療を最適化するようなホットスポットの特定の選択によって実行することができる。
図21は、ホットスポット線(10±9.5mW.cm
-2;40秒)の利用を示す。この図は、第2種ベッセル関数を使用して、円筒形分配器から心筋に入るフルエンス率が689nmで照射することを示す。このホットスポット線を使用して、40秒の第1のセッションは、2.8mW.cm
-1の円筒形分配器に入るパワーを使用する(最初の3.5mmの治療を可能にする20mW.cm
-2に等しい分配器の表面のフルエンス率に対応する)。次いで、100mW.cm
-1のパワーを使用する40秒の第2のセッションを使用して、3.5~7mmの組織を治療する。
【0183】
実施例16:生体の照射は、いくつかのホットスポットに対応するパラメータと同期して実行することができる。
図22に示すように、フルエンス率は光分配器からの距離とともに減少するため、光分配器(複数可)付近の組織が高いフルエンス率(たとえば、15又は25mW/cm
2)で治療されるとき、離れた又は深くに位置する組織は、低いフルエンス率(たとえば、3mW/cm
2)に露出される。これを使用して、生体の特有の部分を標的とするように、治療時間も同様に最適化することができる。
【0184】
実施例17:組織内に異なる侵入深さを呈するいくつかのPBM強力波長の同期又は順次使用に基づいた治療プロトコル
図23に示すように、フルエンス率は光分配器からの距離とともに減少するため、離れた又は深くに位置する組織は、
図4a及び
図4bに示す「ホットスポット」に対応するフルエンス率及び継続時間を有する侵入波長で治療されるのに対して、表面により近い組織は、同じ「ホットスポット」に対応するが侵入波長(複数可)がより小さい条件で治療される。これを使用して、生体の特有の部分を標的とするように、治療時間も同様に最適化することができる。
【0185】
実施例18:骨髄を治療するための医療デバイスであり、細胞系を誘発し、骨髄、大腿部、脛骨、腸骨稜、又は他の骨髄区域内へ経皮的に導入されるように設計される。
このデバイスは、1つ又は複数の光ファイバからなる。これらのファイバは、皮膚に取り付けることができるカテーテルシースに入れられる。ファイバの遠位端は、光源に接続されるSMAコネクタを介して、カテーテルに密閉して接続される。近位端は、カテーテルシースを後退させることによって調整可能であり(2~8cm)、光ファイバを配備することを可能にし、光ファイバは、脊髄に導入された剛性材料によって補強される。
【0186】
実施例19 光力学検出(PDD)及びPDTの性能を改善するために、PpIXの体内生産を増大及び均質化する。
この驚くべき効果の実施形態は、以下からなる。
1)膠芽腫を含む脳腫瘍を管理するために、PDD又はPDT処置の前に6~72時間にわたって、脳の特有の区域への頭蓋骨を通るPBM照射を誘発する発光ダイオードを組み込んだヘルメットを使用する。
2)植物及び幼生におけるPpIXの体内生産を増大及び均質化する。この手法の一実施形態は、農業分野で植物/幼生において誘発される光毒性作用の有効性を増大させることである。これは、多くの農業エンジンに適合させることができる。
【0187】
実施例20:生体の代謝活動のトリガ又は空間再同期
代謝活動の空間同期は、局所的又は全身的な恒常性を持続させ、動脈又は静脈毛細血管内への血流を可能にするために必須である。特に、場所ごとの血管の同期した局所的な収縮により、血管運動が誘発される。これらの収縮は、血管全体に沿って動く空間波面として見ることができる。たとえば、筋原性伝導の損傷からくるこれらの同期収縮の途絶は、多くの血管病変の原因となる可能性がある。特定のホットスポットの選択によって、生体の異なる部分を順次又は連続して標的とすることができ、PBMは特に筋原性周波数範囲において特有の代謝活動を調節又はトリガすることができることが示されているため、たとえば収縮波の空間周期によって画定される長さに等しい特有の距離をあけた負傷した血管の照射は、筋原性脱同期の場合は、場所ごとの収縮の同期を持続させることができ、又は血流を回復するために場所ごとの収縮をトリガすることができる。
【0188】
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【国際調査報告】