(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-10-13
(54)【発明の名称】CRISPR/CAS媒介in vivo末端分離による組換えアデノウイルスのレスキュー
(51)【国際特許分類】
C12N 15/09 20060101AFI20231005BHJP
C12N 15/11 20060101ALI20231005BHJP
C12N 5/10 20060101ALN20231005BHJP
C12N 7/01 20060101ALN20231005BHJP
C12N 15/55 20060101ALN20231005BHJP
【FI】
C12N15/09 110
C12N15/11 Z ZNA
C12N5/10
C12N7/01
C12N15/55
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023519438
(86)(22)【出願日】2021-09-29
(85)【翻訳文提出日】2023-04-20
(86)【国際出願番号】 EP2021076757
(87)【国際公開番号】W WO2022069523
(87)【国際公開日】2022-04-07
(32)【優先日】2020-09-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】512315119
【氏名又は名称】アルベルト-ルドビクス-ウニベルジテート フライブルク
(74)【代理人】
【識別番号】100088904
【氏名又は名称】庄司 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100124453
【氏名又は名称】資延 由利子
(74)【代理人】
【識別番号】100135208
【氏名又は名称】大杉 卓也
(74)【代理人】
【識別番号】100183656
【氏名又は名称】庄司 晃
(74)【代理人】
【識別番号】100224786
【氏名又は名称】大島 卓之
(74)【代理人】
【識別番号】100225015
【氏名又は名称】中島 彩夏
(72)【発明者】
【氏名】ルッツシックス,ツォルト
(72)【発明者】
【氏名】リードル,アンドレ
(72)【発明者】
【氏名】フィッシャー,ジュリアン
(72)【発明者】
【氏名】バーガート,ハンス-ゲルハルト
【テーマコード(参考)】
4B065
【Fターム(参考)】
4B065AA90X
4B065AA95X
4B065AB01
4B065BA02
4B065CA23
4B065CA44
(57)【要約】
本発明は、ゲノム末端に隣接する2つの逆方向末端反復(ITR)を有する組換えアデノウイルスゲノムを含む、組換えアデノウイルスをレスキューするための環状DNA分子に関し、ITRの少なくとも1つは、PAM配列に近接する標的配列と会合し、標的配列は、それぞれのITRの外部末端又は外部末端のすぐ外側で、好ましくは約15ヌクレオチド未満で、RNA誘導型DNAエンドヌクレアーゼ媒介DNA二本鎖切断を生成するように構成される。本発明はまた、本明細書に記載の環状DNA分子を含むか又は使用する組換えアデノウイルスをレスキューするためのキット及び方法にも関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゲノム末端に隣接する2つの逆方向末端反復(ITR)を有する組換えアデノウイルスゲノムを含む、組換えアデノウイルスをレスキューするための環状DNA分子であって、
前記ITRの少なくとも1つが、PAM配列に近接する標的配列と会合し、
前記標的配列が、それぞれの前記ITRの外部末端又は外部末端のすぐ外側で、RNA誘導型DNAエンドヌクレアーゼ媒介DNA二本鎖切断を生成するように構成される、環状DNA分子。
【請求項2】
前記2つのITRのそれぞれが、PAM配列に近接する標的配列と会合する、請求項1に記載の環状DNA分子。
【請求項3】
前記2つのITRと会合した前記標的配列が同一であるか又は異なる、請求項1又は2に記載の環状DNA分子。
【請求項4】
前記標的配列又は前記PAMが前記ITRの外部末端に近接して位置する、請求項1又は2に記載の環状DNA分子。
【請求項5】
前記2つのITRと会合した前記標的配列が同一である、請求項1~4のいずれか一項に記載の環状DNA分子。
【請求項6】
前記PAM及び/又は前記標的配列が、前記ITRの外部末端と少なくとも部分的に重複しており、好ましくは、前記標的配列が、それぞれの前記ITRの外部末端でRNA誘導型DNAエンドヌクレアーゼ媒介DNA二本鎖切断を生成するように構成される、請求項1~3のいずれか一項に記載の環状DNA分子。
【請求項7】
前記環状DNA分子が細菌人工染色体である、請求項1~6のいずれか一項に記載の環状DNA分子。
【請求項8】
前記環状DNA分子が高コピープラスミドである、請求項1~6のいずれか一項に記載の環状DNA分子。
【請求項9】
少なくとも1つのガイドRNA(gRNA)用の発現カセット及び/又はS.ピオゲネスCas9(SpCas9)等のDNA二本鎖切断を生成するRNA誘導型DNAエンドヌクレアーゼ用の発現カセットを追加的に含み、前記発現カセット(複数の場合もある)が、前記アデノウイルスゲノムの外側の2つのITRの間に位置する、請求項1~8のいずれか一項に記載の環状DNA分子。
【請求項10】
前記アデノウイルスゲノムがヒトアデノウイルスベクターゲノムである、請求項1~9のいずれか一項に記載の環状DNA分子。
【請求項11】
前記アデノウイルスゲノムがサルアデノウイルスベクターゲノムである、請求項1~9のいずれか一項に記載の環状DNA分子。
【請求項12】
前記アデノウイルスゲノムが、好ましくは少なくとも1つの導入遺伝子を含む、第1世代アデノウイルスベクターゲノム等のアデノウイルスベクターゲノムである、請求項1~11のいずれか一項に記載の環状DNA分子。
【請求項13】
組換えアデノウイルスをレスキューするためのキットであって、
a.請求項1~12のいずれか一項に記載の環状DNA分子と、
b.RNA誘導型DNAエンドヌクレアーゼ又はRNA誘導型DNAエンドヌクレアーゼをコードする核酸分子と、
c.1つ以上のgRNA、又は前記環状DNA分子のターゲティング配列に対してRNA誘導型DNAエンドヌクレアーゼをターゲティングするための1つ以上のgRNAをコードする1つ以上の核酸分子、及び/又は、
d.293細胞又はA549細胞等の組換えアデノウイルスのレスキューに適した細胞と、
を含む、キット。
【請求項14】
前記キットが、組換えアデノウイルスをレスキューするのに適した細胞を含み、前記細胞が、RNA誘導型DNAエンドヌクレアーゼ、好ましくはSpCas9を発現する、請求項13に記載のキット。
【請求項15】
組換えアデノウイルスをレスキューするin vitro方法であって、前記方法が、
a.293細胞等の組換えアデノウイルスのレスキューに適した細胞を提供することと、
b.前記細胞に、ゲノム末端に隣接する2つの逆方向末端反復(ITR)を有する組換えアデノウイルスゲノムを含む、請求項1~12のいずれか一項に記載の環状DNA分子を導入することと、
ここで、前記ITRの少なくとも1つが、PAM配列に近接する標的配列と会合し、前記標的配列の各々が、それぞれの前記ITRの外部末端又は外部末端のすぐ外側で、RNA誘導型DNAエンドヌクレアーゼ媒介DNA二本鎖切断を生成するように構成される;
c.RNA誘導型DNAエンドヌクレアーゼと、前記環状DNA分子の標的配列に前記RNA誘導型DNAエンドヌクレアーゼをターゲティングするための少なくとも1つのgRNAとを前記細胞内に提供することと、
d.前記細胞内に2つの前記ITRを含む組換えアデノウイルスゲノムを線形化することと、
e.前記細胞の上清からウイルス粒子を収集することと、
を含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゲノム末端に隣接する2つの逆方向末端反復(ITR)を有する組換えアデノウイルスゲノムを含む、組換えアデノウイルスをレスキューするための環状DNA分子に関し、ITRの少なくとも1つは、PAM配列に近接する標的配列と会合し、標的配列は、それぞれのITRの外部末端又は外部末端のすぐ外側で、好ましくは約15ヌクレオチド未満で、RNA誘導型DNAエンドヌクレアーゼ媒介DNA二本鎖切断を生成するように構成される。本発明はまた、本明細書に記載の環状DNA分子を含むか又は使用する組換えアデノウイルスをレスキューするためのキット及び方法にも関する。
【背景技術】
【0002】
アデノウイルスは、細胞培養で効率的に複製する直鎖状の二本鎖DNAウイルスであり、組換えアデノウイルス(rAd)ベクターは、invitro及びin vivoでの遺伝子導入用途で最も頻繁に使用されるビヒクルの1つである。rAdゲノムは大腸菌(E.coli)で構築されており、それらのゲノムは環状プラスミド1又は細菌人工染色体(BAC)2、3の形で維持、増殖、及び修飾することができる。アデノウイルスの複製は環状中間体を回避し、それらの線形ゲノムは末端タンパク質(TP)に共有結合されるため、大腸菌由来の環状形態からrAdを複製することのレスキューには問題がある4。アデノウイルス(Ad)ゲノムは逆方向末端反復(ITR)によって提供される末端複製起点(ゲノム末端に隣接)及びTPを介して複製される。したがって、通常、rAdプラスミドとBACは、トランスフェクションによるベクターレスキューの前に、制限エンドヌクレアーゼが媒介する線形化及び再精製が必要である5。これは、環状中間体を介して複製するアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクター等、他のDNAウイルスに基づくベクターのレスキュー方法論とは極めて対照的であり、したがって、それらの複製サイクルには、環状ゲノム形態と線形ゲノム形態との間の切り替えが自然に含まれる(末端分離)。このタイプのベクターでは、特許文献1に開示されているように、レスキュー効率はトランスフェクション効率に直接依存する。
【0003】
特許文献1は、AAVのレスキューのためにクローズドエンドDNAを使用する利点を記載している。しかしながら、AAVはパルボウイルスであり、その生物学的性質はアデノウイルスとは大きく異なる。パルボウイルスとは対照的に、アデノウイルスは複製サイクルで末端分離を行わない。したがって、AAVレスキューはトランスフェクション効率のみに依存し、人工的な末端分離工程(線形化)を必要としないため、AAVレスキュー実験はアデノウイルスレスキュー実験と比較することはできない。アデノウイルスベースのベクターの場合、これに加えて、末端分離を人為的に誘導する必要があるため、トランスフェクション効率を高めるだけでは十分ではない。
【0004】
線形DNAトランスフェクション自体は、共有結合で閉じた環状DNAのトランスフェクションよりも効率が低くなる6、7。さらに、線形DNAからアデノウイルスを再構成するには、別のボトルネックを克服する必要がある。DNA複製が開始される前に、ゲノム末端にdenovo TP結合が必要であるが、これは自然なアデノウイルスDNA複製サイクルの一部ではない8、9。
【0005】
制限エンドヌクレアーゼの線形化を使用するアプローチとは別に、環状DNAは、ITRが互いにすぐそばにある場合にのみ、rAdの生産についてレスキューすることができる10。この技術の主な2つの欠点は、i)逆方向反復の付近が細菌内で不安定になる可能性があること、及びii)ウイルスレスキュー時にrAdゲノムから細菌ベクター配列を除去できないことである。したがって、残りのプラスミド配列は、このベクター系のクローニング容量の約半分を占めるか、これらの配列を除去するために追加の作業を行う必要がある10。さらに、ITR融合は、C種ベースのrAdをレスキューするためにのみ適用されており、他のAd種に基づくベクターをこの方法でレスキューできるかどうかについては、利用可能なデータがない。酵素的線形化とITR融合によるウイルスレスキューの効率は同等であるが10、酵素的線形化により、ほとんどの細菌ベクター配列を直接除去でき、様々なAd種に適用することができる。したがって、今日では酵素によるinvitro線形化のみがrAdの再構成に使用されている。しかしながら、かかる制限ヌクレアーゼベースの用途の重要な欠点の1つは、ITRの末端をマスキングする余分なヌクレオチドが常に残ることである。ITRの両端を正確に切断する方法論がないため、正確な切断がレスキュー効率の重要な要因であるかどうかを試験することはできなかった。
【0006】
特許文献2は、ヘルパー依存性アデノウイルス(HD-AdV)ベクターの産生方法を記載している。ウイルスDNAをinvivoで切断することができ、この切断が標的ゲノムの増殖を効率的に阻害することが示されている。これは、ウイルス増殖を促進するという本発明の目的とは対照的である。
【0007】
従来技術に照らして、トランスフェクトされた環状DNAから組換えアデノウイルスを効率的にレスキューし、切断部位の柔軟性も提供する追加の手段を提供する必要性が当該技術分野において依然として重要である。環状DNAを使用する当該技術分野で知られている方法は、細菌内で環状DNA分子が不安定であり、ウイルスレスキュー時にrAdゲノムから細菌ベクター配列が除去されないという欠点を伴い、一方、線形化DNAを用いる方法は、アデノウイルス産生細胞株へのDNAトランスフェクションが非効率的であるという主な欠点を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】国際公開第2019/113310号
【特許文献2】米国特許出願公開第2002/136708号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従来技術に照らして、本発明の根底にある技術的課題は、産生細胞株から組換えアデノウイルスを効率的にレスキューするための代替手段及び/又は改善された手段を提供することであり、レスキューされたrAdはいかなる細菌ベクター配列も含まない。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この課題は、独立請求項の特徴により解決される。本発明の好ましい実施の形態は、従属請求項により提供される。
【0011】
したがって、本発明は、ゲノム末端に隣接する2つの逆方向末端反復(ITR)を有する組換えアデノウイルスゲノムを含む、組換えアデノウイルスをレスキューするための環状DNA分子であって、
ITRの少なくとも1つが、PAM配列に近接する標的配列と会合し、
標的配列が、それぞれのITRの外部末端又は外部末端のすぐ外側で、RNA誘導型DNAエンドヌクレアーゼ媒介DNA二本鎖切断を生成するように構成される、
環状DNA分子に関する。
【0012】
本発明は、CRISPR/Cas機構を使用して環状DNA分子を切断し、環状形態の分子のトランスフェクション後に宿主細胞内で組換えアデノウイルスゲノム(rAdゲノム)を含む組換えアデノウイルスを直接レスキューするという全く驚くべき考えに基づいている。
【0013】
CRISPR/Cas技術(Hille et al.11で概説)は、適切な調節の可能性を備えた正確なゲノム編集技術であり11、哺乳動物細胞のリバースジェネティクス12、13、ウイルス14、15、及び生物工学16、17に広く適用されている。CRISPR/Cas9複合体は、モチーフ、いわゆるPAM配列、又はその上流に単に「PAM」(プロトスペーサー隣接モチーフ:ProtospacerAdjacent Motif)がある場合、二本鎖切断をdsDNA基質に導入する。Cas9は、認識ドメイン(REC)、ウェッジドメイン(WED)、2つのヌクレアーゼドメイン(それぞれ、HNHヌクレアーゼドメイン及びRuvC様ドメイン)、及びPAM相互作用(PI)ドメインからなるマルチドメインタンパク質である18~20。RuvC様ドメインがHNH-ヌクレアーゼドメインを自己抑制的にブロックしているため、Cas9タンパク質単独ではヌクレアーゼ活性を示さない21。Cas9がそのRECドメイン及びWEDドメインを介してsgRNAと会合している場合、エンドヌクレアーゼコンピテント状態への移行が起こり、sgRNAを標的とするDNA相互作用を介して標的配列が検出される。RNA-DNAハイブリダイゼーションが起こると、Cas9のRuvC様ドメインがPAMをコードする鎖を切断し、そのHNHドメインがアンチセンス鎖を切断する。
【0014】
CRISPR/Cas技術を使用してウイルスを改変することは、細菌のクローンが変異体を増殖するのを回避する可能性を提供する洗練されたアプローチである14、15。しかしながら、これらの論文で明確に示されているように、この方法は変異体の作製には優れているが、結果はi)決してクローナルではなく、ii)常に野生型ゲノムで汚染されている。これら2種類の遺伝的不純物のいずれもが、研究では許容される可能性があるが(null表現型が優勢な場合)、クローナルで純粋な調製物が必要なあらゆる種類のベクター増殖技術では許容されない。したがって、細菌によってクローン化されたウイルスゲノムを使用することは避けられず、本発明は、RNA誘導型DNAエンドヌクレアーゼを利用して、クローン化形態を自律増殖可能なDNAに変える。ウイルスゲノム自体の改変は避けられる。
【0015】
CRISPR/Cas技術は、プラスミドDNA等の環状DNAをin vitroで線形化するために提唱されている(Jia-Wang Wanget al:"CRISPR/Cas9 nuclease cleavage combinedwith Gibson assembly for seamless cloning", Biotechniques, vol. 58, no. 4,1 April 2015)。しかしながら、既知の制限酵素ベースのinvitro線形化技術は比較的非効率的であるため(上記を参照されたい)、かかるin vitroアプローチはrAdのレスキューを支援するのに魅力的ではないようであった。
【0016】
本発明の文脈において、好ましくは環状二本鎖DNA分子である本発明の環状DNA分子は、PAM配列に近接する標的配列を含む。標的配列はPAMに近接して配置されているため(近接とは、標的配列とPAMとの間に塩基がなく、すぐ隣にあることを意味する)、Cas9に会合した適切なsgRNA又は別の適切な当業者に知られているRNA誘導型DNAエンドヌクレアーゼによって標的配列を認識することができる。当業者は、PAM配列及び標的配列の位置に対するCas9等の確立されたRNA誘導型DNAエンドヌクレアーゼの切断部位を認識している。したがって、それぞれのITRの外部末端のすぐ外側にあるCas9等のRNA誘導型DNAエンドヌクレアーゼによって媒介されるDNA二本鎖切断(すなわち切断)の生成を可能にする、PAM配列に近接する少なくとも1つの標的配列を含む環状DNAプラスミドを設計することが可能である。
【0017】
本発明の生成物及び方法を使用することにより、更なる操作なしに組換え型から組換えアデノウイルスを直接レスキューすることが今では可能である。したがって、この方法は、組換えアデノウイルスの再構成のための従来の方法論よりも簡単かつ高速である。しかしながら、本発明のこの新しい技術による1つの主要な技術的利益は、ウイルスレスキューが、rAdレスキューについて記載された他のどの技術よりも約30倍~50倍効率的であることである。これにより、この技術は、ハイコンテンツベクターライブラリーの調製又はプラスミドベースの高容量アデノウイルスベクターの増殖等、一次ウイルスレスキューによって決定される用途のはるかに優れたプラットフォームとなる。
【0018】
好ましい実施の形態においては、標的配列及びPAM配列は、切断がITRの外部末端のすぐ外側、つまりITRの一部を形成する最後の塩基対の直後に生じるように選択及び設計される。本発明の好ましい実施の形態においては、2つのITRのそれぞれが、PAM配列に近接する標的配列と会合している。本発明者らの知る限りでは、本発明は、rAdゲノムをウイルスITRの末端で正確にその環状形態から切り出すことを可能にする最初のアプローチである。
【0019】
しかしながら、本明細書で使用される場合、「すぐそば」という用語は、ITRの外部末端の外側の0~40塩基の範囲、例えば、ITRの外部末端の外側の1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38又は39塩基に位置する、RNA誘導型エンドヌクレアーゼによって生成される切断に関する。
【0020】
好ましい実施の形態においては、RNA誘導型エンドヌクレアーゼによって生成されるDNA切断は、それぞれのITRの外側末端の外側の25ヌクレオチド以内、より好ましくは20ヌクレオチド以内、更により好ましくは15ヌクレオチド、更により好ましくは10ヌクレオチド以内に位置する。実施例のデータから明らかなように、レスキュー効率は、少なくとも一部のITR配列及び対応する標的配列について、ITRの外部末端への切断の近接度が増すにつれて増加する。
【0021】
最も好ましい実施の形態においては、1つ又は好ましくは2つのDNA二本鎖切断が、1つ又は好ましくは2つのそれぞれのITRの外部末端で正確に生成される。しかしながら、本発明はまた、DSBがそれぞれのITRの外部末端のすぐ外側で生成される場合、特にDSBがITRの外部末端の外側の20未満の塩基、ITRの外部末端の外側の19、18、17、16、15、14、13、12、11、10、9、8、7、6、5、4、3、2、又は1塩基以内にある場合に良好に機能する。
【0022】
本発明の好ましい実施の形態においては、2つのITRのそれぞれが、PAM配列に近接する標的配列と会合する。
【0023】
Cas9による細胞内プロセシング後の組換えアデノウイルスの効率的なレスキューを可能にするため、RNA誘導型DNAエンドヌクレアーゼ媒介DNA二本鎖切断を、それぞれのITRの外部末端又は外部末端のすぐ外側で生成するように構成されたPAM配列に近接する1つの標的配列の存在で十分であることが示されたが、2つのITRのそれぞれの外側で2つの二本鎖切断を誘導すると、細胞からのウイルスレスキューの効率がはるかに高くなることが判明した。かかる実施の形態においては、本発明の環状DNA分子によって含まれる組換えアデノウイルスゲノムの2つのITRのそれぞれは、標的配列及び近接するPAMと会合し、これらは、本明細書で定義されるように、RNA誘導型エンドヌクレアーゼによるITR配列のすぐ外で又はそのすぐそばでの切断を可能にするように構成されている。
【0024】
両方のITRがPAM配列に近接する標的配列と会合する本発明の環状DNA分子に関する実施の形態においては、2つのITRと会合するそれぞれの標的配列は、同一であるか、又は異なるrAdタイプをレスキューするために異なっている。
【0025】
異なる種類のアデノウイルスに由来するITR配列はほとんど同一ではないため、実際のITRのすぐ外で、すなわち、ITRの外部末端に含まれる最後の塩基/塩基対のすぐ外で、RNAエンドヌクレアーゼが媒介する二本鎖切断を生成するために、PAM配列に近接する同一の標的配列を使用することはしばしば不可能である。かかる正確な切断には、使用されるRNA誘導型エンドヌクレアーゼの切断挙動に応じて、PAM及び/又は標的配列がITR配列の外側末端及び環状DNA分子の近接配列と重複する必要がある。
【0026】
例えば、Cas9を使用する場合、二本鎖切断はPAM配列の3~4塩基上流で発生する。したがって、Cas9による正確な切断を誘導するために、PAM配列はITRの3塩基内側又は3塩基外側のいずれかに位置しなければならず、標的配列はPAMの上流に伸び、ITRの最後の3塩基とITRの外側の追加の塩基とを含むか、又はITRの外側の最初の3塩基とITRの内側の追加の塩基とを含むかのいずれかである。
【0027】
したがって、ITRの外側を正確に切断しようとする場合、ITRの末端の配列が異なるため、しばしば、異なる種類のアデノウイルスのITRに会合する2つの異なる標的配列を使用する必要がある。
【0028】
2つのITRのすぐ外側で二本鎖切断の誘導を可能にするかかる実施の形態は、高効率のウイルスレスキューを必要とする用途に非常に有利であり得る。
【0029】
実施の形態においては、PAM及び/又は標的配列は、ITRの外部末端と少なくとも部分的に重複しており、好ましくは、標的配列は、それぞれのITRの外部末端でRNA誘導型DNAエンドヌクレアーゼ媒介DNA二本鎖切断を生成するように構成される。かかる実施の形態は、ITRのすぐ外側での正確な切断が必要な場合に有利である。本発明の文脈において、PAM配列と標的配列が連続した配列を形成し、この連続配列が、ITRの境界と、組換えアデノウイルスゲノムの一部ではない環状DNA分子の近接配列とを横切って延びている場合、連続配列は、ITRの外部末端と部分的に重複していることが理解される。
【0030】
しかしながら、実施例に示すように、ITRの外側の二重鎖切断が正確にITRの外側ではなく、ITRの外側のITRのすぐそばで発生している場合、rAdの効率的なレスキューも可能である。したがって、好ましくはITRの外側に位置し、ITRの外側の幾つかのヌクレオチド内、例えばITRの外側の約6ヌクレオチド~7ヌクレオチド内での切断を可能にする適切な同一の標的配列を含む本発明の環状DNA分子を設計し、遺伝子操作することが可能である。
【0031】
ITRの外側の配列を操作することにより、DNA分子の2つのITRに会合するPAMに近接する2つの同一の標的配列を含む環状DNA分子を提供することが可能である。したがって、環状DNA分子を切断し、両方のITRのすぐ外側にdsDNAの自由末端を提供するために、RNA誘導型エンドヌクレアーゼを両方のITRに向ける単一のガイドRNA(gRNA)のみを使用することにより、分子の2つのITRの外側で2つの二本鎖切断を誘導することが可能である。
【0032】
同じ標的配列、したがって同じgRNAを使用して様々な種類のアデノウイルスに由来するrAdのレスキューを行うことができることから、任意の種類のアデノウイルスのITRと会合する同一の標的配列を有する本発明の環状DNA分子を操作できることは大きな利点である。
【0033】
実施の形態においては、標的配列又はPAMがITRの外部末端に近接して位置する。かかる実施の形態においては、環状DNA分子は、ITRの外側の最初のヌクレオチドが標的配列の一部であるか、又は好ましくはPAMの最初の3つのヌクレオチドであるように設計される。例えば、ITRに近接して、標的配列が直接続くPAM配列がある。Cas9が媒介する切断の場合、二本鎖切断はITR配列の外側の6ヌクレオチドで生成される。
【0034】
他の実施の形態においては、標的配列及びPAM配列は、ITRに近接して他の向きに配置され、ITRの外側及びITRに近接して、最初に標的配列があり、その後にPAMが続く。同じ標的配列及びPAMが両方のITR配列の外側及びITR配列に近接して位置するように、本発明の環状DNA分子を操作することが可能である。PAMがITRに直接近接し、その後に標的配列が続くような実施の形態においては、これにより、単一のgRNAのみを使用することによって、各ITRの外側の約6ヌクレオチドで2つの二本鎖切断を生成することが可能になる。
【0035】
本明細書で使用される場合、「近接する」という用語は、他の塩基が間に位置することなく、互いに直接隣り合っている配列又は塩基に関する。したがって、例えばPAMがITR(の外部末端)に近接して位置する場合、これは、ITRの一部ではないITRの外側の最初の塩基がPAMの一部であることを意味する。
【0036】
したがって、実施の形態においては、2つのITRと会合した標的配列が同一である。
【0037】
本発明の文脈において、標的配列は、ITRと会合していると称され、この標的配列は、標的配列が近接するPAMと共にRNAエンドヌクレアーゼ媒介二本鎖切断の生成を、それぞれのITRの外部末端のすぐ外側で又はそのすぐそばで可能にする。
【0038】
本発明の実施の形態において、環状DNA分子は、細菌人工染色体(BAC)である。かかる実施の形態において、組換えアデノウイルスゲノムは、はるかに大きなBACに組み込まれる。かかるBACベースの環状DNA分子を使用することは、例えば、同じDNA分子内で1つ、2つ、又はそれ以上のgRNA及び/又はCas9、又は別の適切なRNA誘導型エンドヌクレアーゼの発現を可能にするDNA配列の送達も可能にするBACの大きなクローニング容量のため有利である。
【0039】
他の実施の形態において、環状DNA分子は、高コピープラスミドである。かかる実施の形態は、高品質のDNA及び産生細胞への環状DNA分子の複数のコピーの導入を必要とする高効率の用途に非常に有利である。組換えアデノウイルスゲノムを含む環状高コピープラスミドを用いるかかる実施の形態においては、gRNA及びCas9又は別のRNA誘導型エンドヌクレアーゼをコードする配列を、他のプラスミド等の異なるDNA分子上に提供するか、又は既にこれらの分子を発現している産生細胞株を使用することが好ましい場合がある。
【0040】
実施の形態において、環状DNA分子は少なくとも1つのガイドRNA(gRNA)用の発現カセット及び/又はS.ピオゲネス(S.pyogenes)Cas9(SpCas9)等のDNA二本鎖切断を生成するRNA誘導型DNAエンドヌクレアーゼ用の発現カセットを追加的に含み、発現カセット(複数の場合もある)は、アデノウイルスゲノムの外側の2つのITRの間に位置する。例えば、本発明のBACベースの環状DNA分子は、同じ分子内にかかる発現カセットを提供するのにも十分なクローニング容量を有し、単一のDNA分子のみの送達によって非修飾産生細胞におけるrAdの産生を可能にする。
【0041】
本発明の実施の形態において、アデノウイルスゲノムは、ヒトアデノウイルスベクターゲノムである。
【0042】
更なる実施の形態において、アデノウイルスゲノムは、サルアデノウイルスベクターゲノムである。サルアデノウイルスベクターの使用は、ヒトアデノウイルスに対する抗体を有する可能性のあるヒト対象への遺伝子送達のために組換えアデノウイルスベクターを使用する場合に有利である。サルのベクターは、かかる既存の抗体によって認識されないため、宿主の免疫系によって認識されない。
【0043】
実施の形態において、アデノウイルスゲノムは、好ましくは少なくとも1つの導入遺伝子を含む、第1世代、第2世代又は第3世代のアデノウイルスベクターゲノム等のアデノウイルスベクターゲノムである。
【0044】
実施の形態において、アデノウイルスゲノムは、好ましくは少なくとも1つの導入遺伝子を含む、第1世代のアデノウイルスベクターゲノムである。更なる実施の形態において、アデノウイルスゲノムは、好ましくは少なくとも1つの導入遺伝子を含む、第2世代又は第3世代のアデノウイルスベクターゲノムである。
【0045】
本発明はさらに、組換えアデノウイルスをレスキューするためのキットであって、
a.本発明の環状DNA分子と、
b.RNA誘導型DNAエンドヌクレアーゼ又はRNA誘導型DNAエンドヌクレアーゼをコードする核酸分子と、
c.1つ以上のgRNA、又は環状DNA分子のターゲティング配列に対してRNA誘導型DNAエンドヌクレアーゼをターゲティングするための1つ以上のgRNAをコードする1つ以上の核酸分子、及び/又は、
d.293細胞又はA549細胞等の組換えアデノウイルスのレスキューに適した細胞(産生細胞)と、
を含む、キットに関する。
【0046】
RNA誘導型DNAエンドヌクレアーゼ又はgRNAをコードする核酸分子は、それぞれの発現カセットを含む核酸分子等のRNA誘導型DNAエンドヌクレアーゼ又はgRNAの発現を可能にする核酸分子であり、かかる発現カセットは、コード配列の転写及び発現を媒介するプロモーター及び/又はエンハンサー配列に作動可能に連結されたコード配列を含むと理解される。
【0047】
実施の形態において、本発明のキットは、組換えアデノウイルスをレスキューするのに適した細胞を含み、細胞は、RNA誘導型DNAエンドヌクレアーゼ、好ましくはSpCas9を発現する。
【0048】
さらに、本発明はまた、組換えアデノウイルスをレスキューするin vitro方法であって、該方法が、
a.293細胞等の組換えアデノウイルスのレスキューに適した細胞を提供することと、
b.上記細胞に、ゲノム末端に隣接する2つの逆方向末端反復(ITR)を有する組換えアデノウイルスゲノムを含む本発明の環状DNA分子を導入することと、
ここで、ITRの少なくとも1つが、PAM配列に近接する標的配列と会合し、標的配列の各々が、それぞれのITRの外部末端又は外部末端のすぐ外側で、RNA誘導型DNAエンドヌクレアーゼ媒介DNA二本鎖切断を生成するように構成される;
c.RNA誘導型DNAエンドヌクレアーゼと、環状DNA分子の標的配列にRNA誘導型DNAエンドヌクレアーゼをターゲティングするための少なくとも1つのgRNAとを細胞内に提供することと、
d.細胞内に2つのITRを含む組換えアデノウイルスゲノムを線形化することと、
e.細胞の上清からウイルス粒子を収集することと、
を含む、方法に関する。
【0049】
本発明の具体的な実施の形態が以下の実施例で開示される。これらは、プラスミドpO6-A5-mChe-WH、弾頭修飾(warhead-modified)C種BACpBWH-C5-mChe、pBWH-C5-mChe-Cas9、pBWH-L-C5-mChe、pBWH-R-C5-mChe、及びpBWH-C5-gRNA-mChe、D種BACpBWH-D64M-GFP、E種BAC pBWH-E04及びpBHW-SE25、B種プラスミドpLWH-B03、並びにC種プラスミドpAC05-CE1を含む。
【0050】
本発明の具体的な実施の形態において、プラスミドpAR-gRNA-Cas9-Amp、pAR-gRNA-Ex、pAR-gRNA-IntC5、pAR-gRNA-IntD64、pSG5-Cas9、pBAd5-mChe、pBAd5-FG40-GFP及び/又はpBWH-C5-mChe-DD-Cas9は、本発明の方法に関連して使用することができ、又は本発明のキットに含まれ得る。
【0051】
開示される本発明のプラスミドは、以下の配列に対応する:
【0052】
【0053】
開示されるオリゴヌクレオチド(プライマー)、合成DNA断片、並びに本明細書に開示された本発明の環状DNA分子及びプラスミドを構築するために使用される更なる配列、特に配列番号1~配列番号34及び配列番号58~配列番号64のDNA配列、並びに配列番号35~配列番号57によるプラスミドに関して、これらは本発明の範囲を限定することを意図するものではなく、本明細書に記載の本発明をより詳細に説明するために提供される本発明の態様の好ましい実施の形態を表す。本発明は、
配列番号1~配列番号64のそれぞれの配列の断片を含む1つ以上の配列と、
a)による配列番号1~配列番号64のそれぞれの配列に相補的な1つ以上の核酸分子と、
ストリンジェントな条件下でa)又はb)に記載のヌクレオチド配列とのハイブリダイゼーションを受ける1つ以上の核酸配列と、
a)、b)又はc)に記載のヌクレオチド配列に機能的に類似する十分な配列同一性を有するヌクレオチド配列を含む1つ以上の核酸配列と、
遺伝コードのために、a)~d)に記載のヌクレオチド配列に縮重された1つ以上の核酸配列と、
欠失、付加、置換、転位、反転及び/又は挿入によって改変され、a)~e)に記載のヌクレオチド配列に機能的に類似するa)~e)のヌクレオチド配列による1つ以上の核酸配列と、
を含む群から選択されるDNA配列にも関する。
【0054】
したがって、本発明は、配列番号1~配列番号64の核酸配列に対して少なくとも60%、好ましくは70%、より好ましくは80%、特に好ましくは90%の配列同一性を有する核酸配列を包含する。
【0055】
本発明の上記特性を維持する、例えば提供された%配列同一性によって定義される、本発明に含まれる記載された特定の核酸配列の配列バリアントも、本発明の範囲に含まれる。別の配列を示すが、提供される特定の配列と本質的に同じ特性を維持するかかるバリアントは、機能的類縁体又は機能的に類似するものとして知られている。配列同一性は、例えばBLAST等のソフトウェアを用いて配列アライメントを行う際の同一のヌクレオチド又はアミノ酸の割合に関する。
【0056】
本発明の環状DNA分子の好ましい特徴の全ての可能なものは、本発明のキット及び方法にも関連して開示されることが理解される。逆に、本発明のキット又は方法に関して開示される特徴は、本発明の環状DNA分子にも関連する。
【0057】
発明の詳細な説明
特許及び非特許文献の言及された全ての文献はその全体が引用することにより本明細書の一部をなす。
【0058】
本発明は、ゲノム末端に隣接する2つの逆方向末端反復(ITR)を有する組換えアデノウイルスゲノムを含む、組換えアデノウイルスをレスキューするための環状DNA分子であって、
ITRの少なくとも1つが、PAM配列に近接する標的配列と会合し、
標的配列が、それぞれのITRの外部末端又は外部末端のすぐ外側で、RNA誘導型DNAエンドヌクレアーゼ媒介DNA二本鎖切断を生成するように構成される、環状DNA分子に関する。
【0059】
アデノウイルスは、アデノウイルス科のメンバーで、約90 nm~100 nmの中程度のサイズを有する。アデノウイルスは、二本鎖DNAゲノムを含む二十面体ヌクレオキャプシドを持つ非エンベロープ(外側の脂質二重層がない)ウイルスである。アデノウイルスは広範囲の脊椎動物の宿主を持っており、ヒトでは、50を超える異なるアデノウイルス血清型が、幼児の軽度の呼吸器感染症(感冒として知られる)から、免疫系が弱体化した人々の生命を脅かす多臓器疾患まで、幅広い病気を引き起こすことがわかっている。本発明は、あらゆる種類の組換えアデノウイルスをレスキューするためのDNA分子、並びに方法及び材料の提供に関する。ただし、ヒト及びサルのアデノウイルスが好ましい。さらに、本発明は、様々な血清型のヒト又はサルのアデノウイルス等、あらゆる種類のアデノウイルスに由来するアデノウイルスベクターのレスキューにも関する。
【0060】
アデノウイルス科の分類は複雑な場合がある。ヒトでは、7つの種に約100のヒトアデノウイルス型が認められている(ヒトアデノウイルスA~G;https://talk.ictvonline.org/ictv-reports/ictv_9th_report/dsdna-viruses-2011/w/dsdna_viruses/93/adenoviridaeで入手可能なICTV 9th Report (2011)による;Lefkowitz etal. Nucleic Acids Res. 2018 Jan 4;46(D1):D708-D717, doi:10.1093/nar/gkx932も参照されたい)。型のナンバリング(1~57)は、以前に血清型に使用された番号と同じであり、A:12、18、31;B:3、7、11、14、16、21、34、35、50、55;C:1、2、5、6、57;D:8、9、10、13、15、17、19、20、22、23、24、25、26、27、28、29、30、32、33、36、37、38、39、42、43、44、45、46、47、48、49、51、53、54、56;E:4;F:40、41;G:52である。血清学的に分類できなかった分離株、及び新たに同定された型については、ICTV委員会によって承認された順に番号が付けられている。本発明は、全ての既知のアデノウイルス型を含み、それらに有用であり、末端ITRを保有する新たに同定された型のアデノウイルスにも適用可能であることが期待できる。
【0061】
様々なタイプ/血清型が様々な状態に関連付けられており、呼吸器疾患は主にHAdV-B種及びHAdV-C種であり、結膜炎は、HAdV-B及びHAdV-Dで発生することが多く、胃腸炎は、多くの場合、HAdV-Fの40型、41型、HAdV-Gの52型に関連し、肥満又は脂肪生成は、多くの場合、HAdV-Aの31型、HAdV-Cの5型、HAdV-Dの9型、36型、37型によって誘発される。
【0062】
本発明は、ヒトに感染するアデノウイルス(本明細書では、ヒトアデノウイルス又は(ウイルスゲノムに言及する場合)ヒトアデノウイルスゲノムと呼ぶ)に限定されず、サル又はチンパンジー等の他の動物に感染するアデノウイルスも含む。
【0063】
特にサルマストアデノウイルス、特にサルマストアデノウイルスA、B及びEが含まれ、サルに感染するアデノウイルスである。また、チンパンジーから最初に分離されたアデノウイルスも含まれ、特定のヒトアデノウイルス(HAdV)と非常に類似しているため、「ヒト」アデノウイルス種に分類される場合がある。例えば、サルアデノウイルスSAdV-22からSAdV-25はヒトマストアデノウイルスE種に属し、SAdV-21はヒトマスタデノウイルスB種に属する。
【0064】
対象をヒトウイルスに限定しない場合、アデノウイルス科は次の5つの属:マストアデノウイルス、アビアデノウイルス、アタデノウイルス、シアデノウイルス、及びイクタデノウイルスに分けることができ、これらは全て本発明の対象となり得る。
【0065】
アタデノウイルス属は、ウシにおけるウシアタデノウイルスD;オポッサムにおけるポッサムアタデノウイルスA;ヒツジにおけるヒツジアタデノウイルスD;シカにおけるシカアタデノウイルスA;フトアゴヒゲトカゲ(beardeddragons)、カメレオン、ヤモリにおけるトカゲアタデノウイルスA;ヘビにおけるヘビアタデノウイルスA;オウムにおけるオウムアタデノウイルスA;アヒルにおけるアヒルアタデノウイルスAを含む。アビアデノウイルス属は、ガチョウ及び家禽類における家禽アビアデノウイルスA~E(鳥インフルエンザウイルス);ガチョウにおけるガチョウアビアデノウイルスA;アヒルにおけるアヒルアビアデノウイルスB;ハトにおけるハトアビアデノウイルスA及びB;ハヤブサのハヤブサアビアデノウイルスA;オウムにおけるオウム類アビアデノウイルスB;シチメンチョウにおけるシチメンチョウアビアデノウイルスB~Dを含む。イクタデノウイルス(Ichtadenovirus)属は、シロチョウザメにおけるチョウザメイクタデノウイルスA(別名、シロチョウザメアデノウイルス)を含む。マスタデノウイルス属は、ヒト及び幾つかはチンパンジー等のサルにも存在するヒトマスタデノウイルスA~F(HAdV-A~HAdV-F);ウシにおけるウシマスタデノウイルスA~C;イヌマスタデノウイルスA;ウマにおけるウママスタデノウイルスA;ヒツジにおけるヒツジマスタデノウイルスA及びB;ブタにおけるブタマスタデノウイルスA;サルにおけるサルマスタデノウイルスA;ツパイ属におけるツパイマスタデノウイルスA;ヤギにおける「ヤギアデノウイルス」(ヤギアデノウイルス2、GAdV-2);モルモットにおける「モルモットアデノウイルス」;ヒツジにおける「ヒツジアデノウイルスC」(ヒツジアデノウイルス6、OAdV-6)を含む。シアデノウイルス属は、カエルにおけるカエルシアデノウイルスA(別名カエルシアデノウイルス1);シジュウカラ科の小鳥におけるシジュウカラシアデノウイルスA;ペンギンにおけるペンギンシアデノウイルスA;猛禽類の鳥(birdsof prey)における猛禽類シアデノウイルスA;トウゾクカモメにおけるトウゾクカモメシアデノウイルスA;シチメンチョウにおけるシチメンチョウシアデノウイルスA(別名シチメンチョウシアデノウイルスA)を含む。
【0066】
実施例に示されるように、本発明はヒトアデノウイルスに限定されるものではなく、例えばサルアデノウイルスにも作用し、アデノウイルスの特定の属又は種、型又は血清型に限定されると考える理由はない。
【0067】
アデノウイルスは、エンドソームを介して輸送できる(つまり、エンベロープ融合は必要ない)既知の非エンベロープウイルスの中で最大のものである。ビリオンはまた、宿主細胞の表面上の受容体を介して宿主細胞への結合を助けるキャプシドの各ペントン塩基に会合する独特の「スパイク」又はファイバーを有する。
【0068】
ビリオン(ウイルス粒子)に含まれるアデノウイルスゲノムは、通常26 Kbp~48 Kbpの線形でセグメント化されていない二本鎖(ds)DNAである。これにより、ウイルスは理論的に22~40の遺伝子を運ぶことができる。ウイルスゲノムは、線形dsDNAの5'末端のそれぞれに会合した末端の55kDaタンパク質を持つ。これらはウイルス複製の「プライマー」として使用され、ウイルスの線形ゲノムの末端が適切に複製されるようにする。
【0069】
本明細書において使用される場合、組換えアデノウイルスゲノムを含む本発明の環状DNA分子に関連して、ウイルス粒子にパッケージ化される組換えアデノウイルスゲノムのDNA配列は、環状DNA分子に含まれることが理解される。本発明の文脈において、組換えアデノウイルスゲノムの配列を含む環状DNA分子は産生細胞に導入される。そこでは、好ましくはCRISPR/Casシステムを使用して、RNA誘導型エンドヌクレアーゼによって線形化され、得られた組換えアデノウイルスゲノムの配列を含む又はそれからなる線形DNA分子を複製し、細胞によって産生されるウイルス粒子にパッケージングすることができる。
【0070】
アデノウイルスは、宿主の複製機構を使用して脊椎動物細胞の核内で複製される線形dsDNAゲノムを持つ。宿主細胞への侵入は、B群ヒトアデノウイルス血清型に対するCD46等の細胞受容体及び他の全ての血清型のコクサッキーウイルスアデノウイルス受容体(CAR)に結合するファイバータンパク質のノブドメインによって開始される。MHC分子とシアル酸残基がこの能力で機能していることを示唆する幾つかの報告もある。この最初の相互作用に続いて、ペントンベースタンパク質(カプソメアを参照されたい)のモチーフがαvインテグリンと相互作用し、アデノウイルスの侵入を刺激する共受容体相互作用として機能する二次相互作用が続く。αvインテグリンへの結合は、クラスリン被覆ピットを介したウイルス粒子のエンドサイトーシスをもたらす。αvインテグリンへの結合は、細胞シグナル伝達を刺激してアクチン重合を誘導し、エンドソーム内の宿主細胞へのビリオンの侵入をもたらす。
【0071】
ウイルスが宿主細胞に侵入すると、エンドソームが酸性化され、キャプシド成分が解散されてウイルスのトポロジーが変化する。キャプシドが不安定になり、タンパク質VIがキャプシドから放出される。これらの変化と並んでペントンの毒性によりエンドソームが破壊され、ビリオンが細胞質に移動する。細胞の微小管の助けを借りて、ウイルスは核膜孔複合体に輸送され、それによってアデノウイルス粒子が解体される。次いで、ウイルスのDNAが放出され、核に入ることができる。この後、DNAはヒストン分子と会合し、ウイルスの遺伝子発現が起こり、新たなウイルス粒子が生成され得る。
【0072】
アデノウイルスのライフサイクルは、初期段階と後期段階の2つの段階に分けられる。両方の段階で、宿主のリボソームと互換性のあるモノシストロン性mRNAを生成するために選択的にスプライシングされる一次転写物が生成され、生成物が翻訳されることを可能にする。初期の遺伝子は、主に非構造の調節タンパク質の発現を担う。これらのタンパク質の目的は3つあり、すなわち、DNA合成に必要な宿主タンパク質の発現を変更することと、他のウイルス遺伝子(ウイルスにコードされたDNAポリメラーゼ等)を活性化することと、宿主免疫防御(アポトーシスの遮断、インターフェロン活性の遮断、及びMHCクラスI転位と発現の遮断)による感染細胞の早期死を回避することである。DNA複製は、初期段階と後期段階とを隔てるものである。初期遺伝子が適切なウイルスタンパク質、複製機構、及び複製基質を解放すると、アデノウイルスゲノムの複製が起こり得る。アデノウイルスゲノムの5'末端に共有結合している末端タンパク質は、複製のプライマーとして機能する。次いで、ウイルスDNAポリメラーゼは、哺乳動物のDNA複製に使用される従来の岡崎フラグメントとは対照的に、鎖置換機構を使用してゲノムを複製する。アデノウイルスのライフサイクルの後期段階では、DNA複製によって生成される全ての遺伝物質を詰め込むのに十分な量の構造タンパク質を生成することに重点が置かれる。ウイルス成分が正常に複製されると、ウイルスはタンパク質シェルに組み立てられ、ウイルスによって誘発された細胞溶解の結果として細胞から放出される。
【0073】
アデノウイルス(Ad)は、効果的な遺伝子送達ベクターとして多大な注目を集めており、実際、その明確に定義された生物学性質、遺伝的安定性、高い遺伝子導入効率、及び大規模生産の容易さにより、厳密な治療開発に入った最初のDNAウイルスであった。Ad血清型は指向性が異なり、更にA~Gの6つのサブグループに分けられる。ウイルスキャプシドの違いは、血清型間の指向性を画定する。ウイルスのキャプシドは、キャプシドタンパク質、コアタンパク質、及びセメントタンパク質で構成されている。これらの多様な血清型は、膨大な範囲の治療候補ウイルスを生み出す可能性がある。
【0074】
アデノウイルスベクターには重要な利点があり、第1に、ほとんどのヒト細胞は一次アデノウイルス受容体と二次インテグリン受容体を発現するため、アデノウイルスはinvivoで遺伝子を送達する最も効果的な手段である。したがって、容易にアデノウイルスベクターに感染し、その結果、導入遺伝子の高レベルの発現が得られる。第2に、「ガットレス(gutless)」アデノウイルスベクターの開発により、抗アデノウイルスベクター免疫を回避することができる。第3に、多くの異なる臨床応用におけるアデノウイルスベクターの豊富な経験があり、最も安全な投薬及び投与経路が十分に確立されている。第4に、アデノウイルスベクターは、治療特性を強化し、ウイルスの標的特異性を改善するために、ウイルスキャプシドを修飾する戦略を開発するための多用途のプラットフォームを提供する。興味深いことに、アデノウイルスキャプシドに対して誘発される免疫及びアデノウイルス遺伝子の低レベル発現等、アデノウイルスに受け継がれた幾つかの欠点は、現在、癌に対する免疫を誘導するか、又は癌細胞を直接死滅させることを目標とする抗癌免疫療法の開発に有益であることが証明される可能性がある。さらに、発現時間の短さと共にアデノウイルスに対する複合免疫は、アデノウイルスをワクチン開発のプラットフォームとして使用するのに理想的である。しかしながら、用途によっては、遺伝子治療用のアデノウイルスベクターを構築するための希少な血清型2及び血清型5の使用は、既存の免疫を回避するために有利な場合がある。
【0075】
アデノウイルスベクターは、複製細胞集団と静止細胞集団の両方に形質導入できるため、in vivo及び成熟組織内に導入遺伝子を送達する際の貴重なツールになり得る。レンチウイルスベクターとは対照的に、アデノウイルスベクターは最大8kbpのサイズのより大きな導入遺伝子を送達できるが、それらのDNAは宿主ゲノムに組み込まれるのではなく、宿主核にエピソームとして存在する。かかるエピソーム形質導入は、宿主ゲノムへの直接の統合を伴わず、挿入変異誘発のリスクを排除する。
【0076】
アデノウイルスのゲノムは、血清型に応じて長さが26 kb~45 kbの範囲の、線形でセグメント化されていない二本鎖DNAである。一般的に使用されるヒトアデノウイルス5型(HAdV-5)のゲノムは、およそ36kbである。ゲノムDNA又はゲノム配列は、ヘアピンのような逆方向末端反復(ITR)によって両端に隣接しており、これは様々な目的に役立つ。ITRの役割の1つは、プライマーゼに依存しないDNA合成を促進する自己プライマーとして機能し、DNA増殖の重要な要素となることである。ITRのもう1つの機能は、宿主ゲノムへの組み込みを容易にすることである。ITRに加えて、アデノウイルスのもう1つの遺伝要素はパッケージングシグナルであり、これはゲノムの左アームに位置し、ウイルス転写産物の適切なパッケージングに必要である。ウイルスの転写産物は、初期又は後期のいずれかに分類される。4つの初期転写ユニットE1、E2、E3、及びE4は、特にウイルスDNA複製において調節機能を持つ非構造タンパク質の発現に関与している。後期タンパク質は、Adビリオンの構造成分をコードする。
【0077】
アデノウイルスベクターの使用における安全性を確立するために、必須のウイルス複製遺伝子が排除された。第1世代のアデノウイルスベクターは、調節遺伝子E1a及びE1b(ウイルスのライフサイクル中に生成される最初の転写調節因子)を取り除いたものである。この遺伝子の欠乏は、5.2kbの初期導入遺伝子クローニング容量を持つ複製欠損アデノウイルスベクターをもたらした。
【0078】
クローニング容量を高め、ウイルス複製能力を引き続き低下させるために、第1世代ベクターには存在しない元のE1遺伝子に加えて、他の非構造遺伝子(E2/E3/E4)を欠失させることにより、第2世代アデノウイルスベクターが開発された。第2世代のベクターは、クローニング容量の向上及び細胞毒性の低下を示したが、それでもinvivoで免疫応答を引き起こし、形質導入細胞の収量が減少した。
【0079】
免疫原性の低いベクターを開発するために、第3世代のアデノウイルスベクターが開発された。これらは、高容量アデノウイルスベクター(HC-AdV)とも呼ばれ、ガットレスAdV又はヘルパー依存型AdV(HD-AdV)としても知られている。HC-AdVから全てのウイルスコード配列が取り除かれ、パッケージングシグナルに加えて5'及び3'ITRのみを含むベクターが得られるため、トランスジェニッククローニング配列(36kb)に対してより大きな容量が提供される。さらに、HC-AdVの構造は細胞毒性を最小限に抑えるため、治療遺伝子の長期発現を可能にし、HC-AdVをこれまでの遺伝子治療に使用する最も有望なAdVとする。HC-AdVは、宿主で免疫応答を引き起こす可能性のあるウイルス要素を欠いているため、有益である。HC-AdVは、これらのベクターにはウイルスの遺伝子成分が欠けている一方で、必要なパッケージング成分も欠けていることから、「ヘルパー依存性」と見なされる。相補的なウイルス、又はヘルパーウイルス(HV)を使用して、Adベースのベクターのパッケージングに必要なタンパク質をトランスで提供することができる。HVは所望のHC-AdVと共にパッケージ化されず、これは、ヘルパーウイルスDNAがパッケージ化されないままになるように、Creリコンビナーゼによって十分に切除されるloxP認識部位がパッケージング配列に隣接しているためである。HVのパッケージング能力は阻害されるが、HVは正常なレベルで複製されるため、適切なシス作用エレメントを含むベクターゲノムの複製及びパッケージングに必要な全ての機能をトランスで発現することができる。
【0080】
組換えアデノウイルスベクターの生成、及び必要な組換えアデノウイルスゲノムの生成は、Lee et al (GenesDis. 2017 Jun; 4(2):43-63. doi:10.1016/j.gendis.2017.04.001)に詳述されており、必要な技術は当業者に知られている。かかるアデノウイルスゲノムの生成は、以下の実施例の記載からも明らかである。
【0081】
遺伝子送達用のアデノウイルスベクターを生成及び産生するために一般的に使用される方法が少なくとも4つ開発されているが、これらは全て組換えアデノウイルスゲノムの線形化を必要とする。第1の従来の方法は、HEK-293細胞における組換えを使用する。目的の遺伝子(GOI)は、最初にシャトルベクターにクローニングされ、シャトルベクターは、5'-ITR、パッケージングシグナル、及びアデノウイルスゲノムへの相同領域を含む。アデノウイルスは、産生細胞へのトランスフェクションの前に線形化する必要があるシャトルベクターと、それ自体ではウイルスを産生できないアデノウイルス骨格ベクターとの間の組換えにより、HEK-293細胞において生成される。第2のアプローチは、Cre/LoxPを介した組換えを使用する。GOIは、LoxP部位(複数の場合もある)を含むシャトルベクターにクローニングされる。Creリコンビナーゼが媒介する組換えは、invitro又は293-Cre細胞においてLoxPを含むアデノウイルス骨格ベクターにより起こり、これがアデノウイルスの生成につながる。第3のアプローチでは、AdEasyシステムを使用する。GOIは、5'-ITRとパッケージングシグナル、並びに相同アームに隣接するカナマイシン含有細菌複製単位を含むシャトルベクターにサブクローニングされる。組換えアデノウイルスプラスミドは、カナマイシン選択下の細菌株BJ5183細胞において、線形化シャトルベクターとpAdEasy1等のアンピシリン耐性アデノウイルス骨格ベクターとの間の相同組換えによって生成される。得られたアデノウイルスプラスミドを線形化し、HEK-293細胞でのアデノウイルス産生に使用する。第4のアプローチでは、HC-AdV(又はHD-AdV若しくはガットレスAdV)の産生にヘルパーアデノウイルスを使用する。GOIは、両方のITR及びパッケージングシグナルのみを含むトランスファーベクターにクローニングされる。アデノウイルスは、通常Cre/LoxP又はFLP/FRT切除システムにより、改変HEK-293細胞において、パッケージングシグナルが削除されているためパッケージ化されないヘルパーアデノウイルスで生成される。
【0082】
「組換え」アデノウイルスゲノムという用語は、本発明の環状DNA分子に含まれるアデノウイルスゲノムのゲノムDNA配列が、分子クローニング等の実験的な遺伝子組換え方法によって形成又は組み立てられて、複数の供給源から遺伝物質を集めて、他の方法では見つからない配列を作るという事実を指す。さらに、アデノウイルスゲノムに関連して、この用語は、異なるウイルス株のゲノムの核酸鎖の相同組換えによって起こり得る、2種以上のウイルス株に感染した細胞におけるウイルスゲノム間の組換えから生じるウイルスゲノムも指すことが理解される。
【0083】
「組換えアデノウイルスをレスキューするのに適した細胞」という用語に関して、それは、組換えアデノウイルスゲノム及び潜在的には組換えアデノウイルス粒子を生成するための他の成分の配列の送達後にウイルス粒子の生成に有用であることが見出された細胞又は細胞株に関することが理解される。したがって、そのような細胞は、プロデューサー細胞/細胞株又は産生細胞/細胞株とも呼ばれる。
【0084】
本明細書で説明し、当業者に知られているように、アデノウイルスベクター(アデノウイルス粒子とも呼ばれる)、特にHAdV-5のベクターは、広範囲の遺伝子治療、ワクチン及びウイルス治療の用途にとって非常に魅力的である。野生型HAdV-5ウイルスは、多数の組織型で複製することができる。しかしながら、治療目的でAdベクターを使用するには、本明細書に記載され、当該技術分野で知られているように、ウイルスゲノムの改変が必要である。ウイルスのライフサイクルが妨げられるような方法でウイルスゲノムが改変されている場合、改変を克服してウイルスの産生を可能にするトランス相補性を提供するために、特定のプロデューサー細胞株が必要である。アデノウイルスベクター及び組換えウイルスゲノムのタイプに応じて、当業者は、アデノウイルス粒子を産生するための適切な細胞株を選択することができる。
【0085】
トランス相補性の提供は、2つの方法、すなわち、トランス相補するために細胞ゲノムに組み込まれた特定のアデノウイルス配列を含むプロデューサー細胞株の使用、又は改変Adベクターゲノムを自然に相補するためのプロデューサー細胞株の使用で発生し得る。適切な細胞株は、当該技術分野で知られており、例えば、Kovesdiet al. (Viruses. 2010 Aug; 2(8):1681-1703. doi:10.3390/v2081681)等の総説論文に基づいて当業者によって同定され得る。本発明の文脈における使用に適した細胞株は、以下の実施例に開示される。
【0086】
例えば、ゲノムのE1領域が発現カセットに置き換えられて、治療に有用な遺伝子産物(自殺遺伝子、抗原、抗体等)を産生する場合、アデノウイルスE1配列を含むプロデューサー細胞株がこの領域を相補する必要がある。対照的に、宿主の防御機構に対抗する産物をコードするE3領域は、invitroでのウイルス複製に不可欠ではなく、必須ではないため、E3のトランス相補は必要ない。E1の欠如をトランス相補するために、歴史的な細胞株はHEK293であった。ヒト胎児腎臓(HEK)293細胞株は、30年超前に、ヌクレオチド(nt)1~4344までのE1A配列及びE1B配列を19番染色体の19q13.2に挿入することによって開発された。別の産生細胞株(プロデューサー細胞株とも呼ばれる)は、プラスミドトランスフェクションによるヒト胚性網膜芽細胞(HER)細胞のゲノムへのAd5nt79~5789の組み込みによって生成された911細胞株である。911細胞株は、プラーク形成及び収量の達成においてHEK293よりも優れていると判断され、その結果、別の好ましい細胞株となった。A549細胞株は、肺癌細胞株であり、アデノウイルス産生、最も注目すべきは、ウイルス遺伝子の転写を担うウイルス癌遺伝子である初期領域1A(E1A)による相補を必要としないアデノウイルスコンストラクトの複製に適していることがわかっている。この細胞株は、E1Aを欠くアデノウイルスの複製を測定するためのアッセイの陰性対照として、及び自律増殖可能なアデノウイルス(RCA)を検出するための標的細胞株として更に利用される。
【0087】
本発明の大きな利点の1つは、組換えアデノウイルスゲノムを含む環状dsDNA分子の線形化が、産生細胞へのdsDNAのトランスフェクションの前に起こる必要はないが、CRISPR/Casシステムによる切断/二本鎖切断の生成により産生細胞内で起こり得ることである。このような環状DNAをトランスフェクトできるため、細胞内での線形化は非常に有利であり、これは、線形化されたDNAのトランスフェクションよりもはるかに簡単で効率的である。さらに、線形化の工程は、CRISPR/Cas技術によって細胞内で自動的に行われる。本明細書において使用される場合、「線形化」は、環状DNA分子における少なくとも1つの二本鎖切断の誘導を指す。実施の形態においては、環状DNA分子内で2つ以上のDSBを生成することができ、組換えアデノウイルスゲノムを含む線形DNA分子をもたらす。これは特に、環状dsDNA分子の組換えアデノウイルスゲノムの両方のITRが、2つのITRのそれぞれの外部末端又は外部末端のすぐ外側でRNA誘導型DNAエンドヌクレアーゼ媒介DNA二本鎖切断を生成するように構成されるPAM配列に近接する標的配列と会合される場合に当てはまる。
【0088】
組換えアデノウイルスゲノムを含む本発明の環状DNA分子は、好ましくは細菌人工染色体(BAC)又はプラスミド、好ましくは高コピープラスミド等の任意の適切な種類の環状DNA分子であり得る。
【0089】
アデノウイルスベクターは大きなゲノム(すなわち、36 kb)を持つことができるため、従来のクローニング戦略による遺伝子操作は困難で効果がない。しかしながら、BACを使用するウイルスクローン技術が存在し、これはBACの大きなクローニング容量の恩恵を受ける。細菌人工染色体(BAC)は、細菌(通常は大腸菌)の形質転換及びクローニングに使用される、機能的生殖能力プラスミド(又はFプラスミド)に基づくDNAコンストラクトである。F-プラスミドは、細菌細胞分裂後のプラスミドの均一な分布を促進するパーティション遺伝子を含むため、重要な役割を果たす。細菌の人工染色体の通常の挿入サイズは150kbp~350 kbpである。PACと呼ばれる類似のクローニングベクターも、P1バクテリオファージのDNAから作製されており、本発明の実施の形態においても使用することができる。
【0090】
プラスミドは環状DNA分子である。細胞内では、プラスミドは染色体DNAから物理的に分離されており、独立して複製できる。プラスミドは、細菌の小さな円形の二本鎖DNA分子として最も一般的に見られるが、プラスミドは古細菌及び真核生物に存在することがある。自然界では、プラスミドは生物の生存に利益をもたらし、抗生物質耐性等の選択的優位性を付与する遺伝子を運ぶことがよくある。染色体は大きく、通常の条件下での生存に不可欠な遺伝情報を全て含むが、プラスミドは通常比較的小さく、特定の状況又は条件で役立つ可能性のある追加の遺伝子のみを含む。
【0091】
本明細書において使用される場合、本発明の環状DNA分子は人工プラスミドとみなすことができる。一般に、人工プラスミドは分子クローニングのベクターとして広く使用されており、宿主生物内で組換えDNA配列の複製を促進する役割を果たす。実験室では、形質転換によってプラスミドを細胞に導入することができる。プラスミドが細胞内で独立して複製するためには、複製起点として機能できるDNAのストレッチを持っている必要がある。自己複製単位、この場合プラスミドは、レプリコンと呼ばれる。典型的な細菌レプリコンは、プラスミド特異的複製開始タンパク質(Rep)の遺伝子、イテロンと呼ばれる繰り返し単位、DnaAボックス、及び近接するATリッチ領域等、多数の要素で構成され得る。小さいプラスミドは宿主の複製酵素を利用して自分自身のコピーを作製するが、大きいプラスミドはこれらのプラスミドの複製に特異的な遺伝子を運ぶ場合がある。幾つかのタイプのプラスミドも宿主染色体に挿入することができ、これらの組込みプラスミドは原核生物ではエピソームと呼ばれることがある。人工的に構築されたプラスミドは、遺伝子工学におけるベクターとして使用される場合がある。これらのプラスミドは、遺伝学及びバイオテクノロジーにおいて重要なツールとして機能し、特定の遺伝子のクローン化及び増幅(多数のコピーの作製)又は発現に一般的に使用される。かかる用途のために多種多様なプラスミドが市販されており、組換えアデノウイルスゲノムをクローニングするための複数の種類のプラスミド及び環状DNA分子が記載されており、産生細胞からアデノウイルスベクターをレスキューする方法に使用されている。
【0092】
本明細書において使用される場合、産生細胞株において組換えアデノウイルス粒子を生成、好ましくは収集、及び任意に単離/精製するプロセスは、「組換えアデノウイルスのレスキュー」と呼ばれる。これは、適切な産生細胞株への環状DNAの導入、一方、好ましくは両方のITRの外側又はすぐ外側のRNA誘導型エンドヌクレアーゼの切断による環状DNAの線形化、及びその後の産生細胞の上清からのウイルス粒子の収集を含む。細胞培養物からのウイルス粒子の収集は、細胞上清の収集、及び好ましくは例えば濾過又は遠心分離によってウイルス粒子を含む液体から細胞を分離することを含む日常的な手順である。ウイルス粒子は、当該技術分野で知られている日常的な技術によって定量化することができ、例えば超遠心分離によって更に濃縮することができる。
【0093】
CRISPRはClustered RegularlyInterspaced Short Palindromic Repeats(クラスター化して規則的な配置の短い回文配列リピート)の略であり、細菌のDNA配列のファミリーである。この配列は、細菌を攻撃したウイルスからのDNAの断片を含む。これらの断片は、同様のウイルスによる更なる攻撃からDNAを検出して破壊するために細菌によって使用される。これらの配列は、細菌防御系で重要な役割を果たし、生物内の遺伝子を効果的かつ特異的に変化させるCRISPR/Casとして知られる技術の基礎を形成する。
【0094】
CRISPR遺伝子座の配列は転写され、CRISPR RNA(crRNA)にプロセシングされ、これは、トランス活性化crRNA(tracrRNA)と共に、CRISPR関連(Cas)タンパク質と複合体を形成し、核酸間のワトソン-クリック塩基対合を介したCasヌクレアーゼによるDNA切断の特異性を決定する(Wiedenheft, B et al (2012). Nature 482:331-338、Horvath,P et al (2010). Science 327:167-170、Fineran, PC et a. (2012). Virology 434:202-209)。
【0095】
II型CRISPRヌクレアーゼシステムに必要な3つの成分は、Cas9タンパク質、成熟したcrRNA、及びtracrRNAであることが示され、これらは、crRNAとtracrRNAを単一のガイドRNA(sgRNA)に融合することによって2つの成分に減らすことができ、Cas9/sgRNA複合体の新たな部位への再ターゲティングは、gRNAの短い部分の配列を変更することで達成できる可能性がある(Garneau,JE et al (2010). Nature 468:67-71、Deltcheva, E et al. (2011). Nature 471:602-607、Jinek, M et al (2012) Science337:816-821)。
【0096】
CRISPR-Casシステムは、細菌及び古細菌のRNA誘導型適応免疫系であり、ウイルス又は他の侵入する遺伝物質に対して配列特異的な耐性を提供する。この免疫様応答は、標的認識及び侵入核酸の切断に関与するエフェクターモジュールの構造に基づいて2つのクラスに分類される(MakarovaKS et al. Nat Rev Microbiol. 2015 Nov; 13 (11):722-36.)。クラス1はマルチサブユニットのCasタンパク質エフェクターを含み、クラス2は単一の大きなエフェクタータンパク質からなる。クラス1とクラス2の両方がCRISPRRNA(crRNA)を使用して、Casヌクレアーゼ成分を標的部位に誘導し、そこで侵入核酸を切断する。そのシンプルさから、クラス2のCRISPR-Casシステムは最も研究されており、ゲノム編集に広く適用されている。最も広く使用されているCRISPR-CasシステムはCRISPR-Cas9である。
【0097】
CRISPR/Cas9システムは、細胞内の二本鎖DNA分子の改変、例えば哺乳動物細胞における効率的な遺伝子改変のために設計できることが実証された。CRISPR/Casシステムの唯一の配列制限は、標的配列のすぐ3'に位置するプロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)の必要性に由来するようである。PAM配列は、Cas9の種に固有である。例えば、PAM配列5'-NGG-3'は、ストレプトコッカス・ピオゲネス(Streptococcuspyogenes)由来の一般的に使用されるCas9によるDNAの結合と切断に必要である。しかしながら、新たなPAMを持つCas9バリアントは指向性進化によって操作されており、また操作される可能性があるため、潜在的な標的配列の数が劇的に拡大する。crRNA及びtracrRNAと複合体を形成したCas9は、コンフォメーション変化を起こし、ゲノム全体でPAMモチーフと会合して、すぐ上流の配列を調べて、gRNAとの配列相補性を決定する。一致した標的部位でのDNA-RNAヘテロ二本鎖の形成により、Cas9-RNA複合体による標的DNAの切断が可能になる。これらの方法及び機構は、当該技術分野で良く知られている。
【0098】
当該技術分野で知られているように、CRISPR/Cas9は、動物、植物及び微生物におけるゲノム操作のための強力なツールを開発するために利用されてきたが、本明細書に示されるように、宿主細胞に導入された外因性DNA分子の操作のために利用することもできる。RNA誘導型Cas9エンドヌクレアーゼは、最初に、標的DNA部位に隣接するプロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)と呼ばれる2塩基対~4塩基対の保存配列を認識する。PAMに結合すると、Cas9は隣接するDNA配列にガイドRNAとの塩基対の相補性を問い合わせる。ガイドRNAの最初の12塩基対(「シード」配列)と標的DNA鎖の間に相補性がある場合、RNA鎖の侵入はローカルDNAの巻き戻しを伴い、Rループを形成する。Cas9のRuvCドメイン及びHNHドメインによる各DNA鎖の正確な切断により、PAMから測定して、プロトスペーサー配列の3'端の3塩基対上流の位置で平滑な二本鎖DNA(dsDNA)切断(DSB)が生成される。
【0099】
好ましいRNA誘導型DNAエンドヌクレアーゼとしてのCas9のこのDSB誘導活性は、適切なgRNA及びCas9を含む産生細胞への導入後に、本発明の環状DNA分子においてDSBを生成するために本発明によって利用される。
【0100】
CRISPR/Cas9ゲノム編集実験は宿主細胞機構を利用して、Cas9が生成したDSBの部位で正確にゲノムを修復する。変異は、DSBの非相同末端結合(NHEJ)又はホモロジー指向修復(HDR)のいずれかによって発生する可能性がある。NHEJは切断部位で小さな挿入又は欠失(INDEL)を生成できるが、HDRはネイティブ(又は操作された)DNAテンプレートを使用して、標的の対立遺伝子を組換えによって別の配列に置き換える。一本鎖アニーリング、選択的末端結合、マイクロ相同性を介した結合、ミスマッチ、塩基及びヌクレオチド除去修復等の追加のDNA修復経路によっても、ゲノム編集を生じさせることができる。
【0101】
ストレプトコッカス・ピオゲネスCas9(SpCas9)に由来するCas9バリアントは、ニッカーゼ、デュアルニッカーゼ、又はFokI融合のバリアントとして使用するために生成されている。最近では、Cas9オルソログ、及びCpf1及びC2c1を含むクラス2のCRISPR-Casシステムに由来する他のヌクレアーゼがCRISPRツールボックスに追加された。豊富な細菌及び古細菌のCRISPR-Casシステムを掘り起こすこれらの継続的な取り組みにより、研究者が利用できる分子ツールの範囲が広がるはずである。
【0102】
本発明の文脈において、「RNA誘導型DNAエンドヌクレアーゼ」という用語は、少なくとも1つのRNA分子と相互作用するDNAエンドヌクレアーゼを指す。本発明の文脈において、RNA誘導型DNAエンドヌクレアーゼ及びRNA誘導型エンドヌクレアーゼという用語は同じ意味で使用される。DNAエンドヌクレアーゼは、DNAポリヌクレオチド鎖内のホスホジエステル結合を切断する酵素である。RNA誘導型DNAエンドヌクレアーゼの場合、相互作用するRNA分子は、RNA誘導型DNAエンドヌクレアーゼを、エンドヌクレアーゼが活性になるDNA内の部位又は位置に誘導することができる。特に、RNA誘導型DNAエンドヌクレアーゼという用語は、クラス1のCRISPR-CasシステムのマルチサブユニットCasタンパク質エフェクター、及びクラス2システムの単一の大型エフェクターCasタンパク質を含むがこれらに限定されない、天然に存在する又は遺伝子改変されたCasヌクレアーゼ成分又はCRISPR-Casシステムを指す。
【0103】
CRISPR/Casシステム及び適切なRNA誘導型エンドヌクレアーゼの技術的応用の詳細は、当業者に知られており、例えばBarrangou R et al. (Nat Biotechnol. 2016 Sep 8; 34(9):933-941)、MaederML et al. (Mol Ther. 2016 Mar; 24(3):430-46)及びCebrian-Serrano A et al. (Mamm Genome. 2017;28(7):247-261)によって文献で詳述される。本発明は、特定のRNA誘導型エンドヌクレアーゼの使用に限定されず、したがって、本明細書に記載の方法での使用に適した本発明の意味での任意の所与のRNA誘導型エンドヌクレアーゼの使用を含む。
【0104】
当該技術分野で知られている任意のRNA誘導型DNAエンドヌクレアーゼを本発明に従って用いることができる。RNA誘導型DNAエンドヌクレアーゼは、限定されるものではないが、クラス1CRISPR-CasシステムのCasタンパク質、例えばCas3、Cas8a、Cas5、Cas8b、Cas8c、Cas10d、Cse1、Cse2、Csy1、Csy2、Csy3、GSU0054、Cas10、Csm2、Cmr5、Csx11、Csx10、及びCsf1;クラス2のCRISPR-CasシステムのCasタンパク質、例えばCas9、Csn2、Cas4、Cpf1、C2c1、C2c3、及びC2c2;対応するオーソロガス酵素/様々な細菌及び古細菌種からのCRISPRエフェクター;例えば、新規のPAM特異性、SpCas9-HF1/eSpCas9等の忠実度の向上、又はニッカーゼ等の変更された機能を備える設計されたCRISPRエフェクターを含む。本発明の特に好ましいRNA誘導型DNAエンドヌクレアーゼは、ストレプトコッカス・ピオゲネスCas9(SpCas9)、スタフィロコッカス・アウレウス(Streptococcusaureus)Cas9、ストレプトコッカス・サーモフィルス(Streptococcus thermophilus)Cas9、ナイセリア・メニンギティディス(Neisseriameningitidis)Cas9(NmCas9)、フランシセラ・ノビシダ(Francisella novicida)Cas9(FnCas9)、カンピロバクター・ジェジュニ(Campylobacterjejuni)Cas9(CjCas9)、Cas12a(Cpf1)及びCas13a(C2C2)(Makarova KS et al. (November 2015).Nature Reviews Microbiology. 13 (11):722-36)である。
【0105】
本明細書で提供される定義と説明は、主にSpCas9 Crispr/Casシステムに焦点を当てている。しかしながら、当業者は、代替Crispr/Casシステムの使用方法、並びにかかる代替システムの詳細に関する情報を提供又は取得できるツール及び方法を知っている。
【0106】
実施の形態において、本発明のDNA分子は、Cas9又はSpCas9とは異なるRNA誘導型エンドヌクレアーゼ(例えば、Cpf1等)によって媒介されるDSBの生成のために構成することができる。Cpf1は、スタガード/スティッキーエンドカット(staggered/stickyend cuts)を生成するために1つの関連するガイドRNAを必要とし、神経細胞等の非分裂細胞を切断する。
【0107】
RNA誘導型DNAエンドヌクレアーゼ、特にCas9は修飾タンパク質であってもよく、タンパク質のヌクレアーゼ機能は、dsDNAの2本のDNA鎖のうちの1本のみを切断するニッキングエンドヌクレアーゼ機能に変更される。言い換えれば、二本鎖標的DNAの両方の鎖を切断する天然に存在するエンドヌクレアーゼ機能は、一方の鎖のみを切断する(すなわち、ニックを入れる)エンドヌクレアーゼに変化される。かかる改変RNA誘導型DNAエンドヌクレアーゼは、本発明.「ニッカーゼ」とも呼ばれる。したがって、Cas9等のRNA誘導型DNAエンドヌクレアーゼを改変する手段及び方法は、当該技術分野で良く知られており、例えば、ヌクレアーゼドメインの1つを不活性にするCas9へのアミノ酸置換の導入が挙げられる。より具体的には、ストレプトコッカス・ピオゲネスCas9(SpCas9D10A; Cong et al. (2013) Science 339:819-823)の10位のアラニンに対してアスパラギン酸が置き換えられ得る。更なる例は当該技術分野で知られており、例えばSpCas9におけるH840A置換である(MaliP et al. Nat Biotechnol.2013 Sep; 31(9):833-8、Ran FA et al. Cell. 2013Sep 12; 154(6):1380-9)。
【0108】
本発明の方法によれば、RNA誘導型DNAエンドヌクレアーゼはタンパク質として導入され得るが、代わりに、RNA誘導型DNAエンドヌクレアーゼは、該タンパク質をコードする核酸分子の形態で導入されてもよい。核酸分子は、細胞内での発現がCas9タンパク質等の機能的RNA誘導型DNAエンドヌクレアーゼタンパク質をもたらすように、発現可能な形態で該RNA誘導型DNAエンドヌクレアーゼをコードすることが理解される。機能的ポリペプチドの発現を確実にするための手段及び方法は、当該技術分野でよく知られている。
【0109】
例えば、エンドヌクレアーゼのコード配列は、ベクター、例えばプラスミド、コスミド、ウイルス、バクテリオファージ、又は例えば遺伝子工学で従来から使用されている別のベクターに含まれてもよい。ベクターに挿入されたコード配列は、例えば、標準的な方法によって合成され得るか、又は天然源から単離することができる。コード配列は、転写調節エレメント及び/又は他のアミノ酸コード配列に更に連結され得る。かかる調節配列は、当業者によく知られており、限定されるものではないが、転写の開始を確実にする調節配列、内部リボソーム侵入部位(IRES)、並びに任意に転写の終結及び転写物の安定化を確実にする調節エレメントを含む。転写の開始を確実にする調節エレメントの非限定的な例は、翻訳開始コドン、転写エンハンサー、例えばSV40エンハンサー、インスレーター及び/又はプロモーター等、例えばサイトメガロウイルス(CMV)プロモーター、SV40プロモーター、RSVプロモーター(ラウス肉腫ウイルス)、lacZプロモーター、ニワトリベータアクチンプロモーター、CAGプロモーター(ニワトリベータアクチンプロモーターとサイトメガロウイルス最初期エンハンサーの組み合わせ)、gai10プロモーター、ヒト伸長因子1a-プロモーター、A0X1プロモーター、GAL1プロモーター、CaM-キナーゼプロモーター、Iac、trp若しくはtacプロモーター、IacUV5プロモーター、オートグラファカリフォルニア多核多角体病ウイルス(AcMNPV)多面体プロモーター、又は哺乳動物若しくは他の動物の細胞におけるグロビンイントロン等を含む。転写終結を確実にする調節エレメントの非限定的な例としては、V40-ポリ-A部位、tk-ポリ-A部位、又はSV40、lacZ若しくはAcMNPV多面体ポリアデニル化シグナルが挙げられ、これらは、本発明の核酸配列の下流に含まれる。追加の調節エレメントは、翻訳エンハンサー、Kozak配列、並びにRNAスプライシングのためのドナー及びアクセプター部位が隣接する介在配列を含む場合がある。さらに、複製起点、薬剤耐性遺伝子又は調節因子(誘導性プロモーターの一部として)等のエレメントも含まれ得る。
【0110】
上記RNA誘導型DNAエンドヌクレアーゼをコードする核酸分子は、cDNA又はゲノムDNA等のDNA、並びにRNA及び特にmRNAを含む。遺伝コードの縮重により、2つ以上の核酸分子が本発明によるRNA誘導型DNAエンドヌクレアーゼをコードし得ることは、当業者には容易に理解されるであろう。トリプレットコードが20個のアミノ酸及び終止コドンを指定するため、縮重が生じる。遺伝情報をコード化するために利用される4つの塩基が存在するため、トリプレットコドンは少なくとも21の異なるコードを生成する必要がある。トリプレットの塩基の可能なeの可能性は、64の可能なコドンを示し、これは、何らかの縮重が存在しなければならないことを意味する。その結果、幾つかのアミノ酸は、2つ以上のトリプレット、つまり最大6つによってコードされる。縮重は、ほとんどはトリプレットの3番目の位置の変化から生じる。これは、異なる配列を有するが、依然として同じRNA誘導型DNAエンドヌクレアーゼをコードする核酸分子が、本発明に従って使用され得ることを意味する。
【0111】
本発明に従って使用される核酸分子は、天然及び(半)合成起源のものであり得る。したがって、核酸分子は、例えば、有機化学の従来のプロトコルに従って合成された核酸分子であり得る。当業者は、上記プローブの調製及び使用に精通している(例えば、Sambrookand Russel "Molecular Cloning, A Laboratory Manual", Cold SpringHarbor Laboratory, N.Y. (2001)を参照されたい)。
【0112】
本発明は、環状dsDNA分子の二本鎖切断の生成に関する。ここでは、本発明の環状DNA分子は、ITRに会合し、RNA誘導型DNAエンドヌクレアーゼに会合する少なくとも1つのガイドRNAによって標的とされる、少なくとも1つ、好ましくは2つの標的配列を含む。
【0113】
本発明によれば、「標的配列」は、ガイドRNAによって含まれる標的特異的配列のために、RNA誘導型エンドヌクレアーゼに会合する少なくとも1つのガイドRNAによって認識されるdsDNA分子中のヌクレオチド配列である。標的配列は、ガイドRNAの標的特異的配列に少なくとも部分的に相補的であり、いわゆるプロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)と会合している。PAMは、標的配列に近接して位置する2塩基対~6塩基対のDNA配列であり、使用されるCrispr/Casシステムに応じて、標的配列の5'末端(例えば、Crispr/Cpf1システムの場合)、又は3'末端(例えば、Crispr/Cas9システムの場合)のいずれかに位置することができる。Cas9又はCpf1等のRNA誘導型エンドヌクレアーゼは、認識された標的配列がPAM配列に会合していない場合、標的dsDNA分子への結合及び切断に成功しない。標的配列とガイドRNAの標的特異的配列との間のDNA-RNAヘテロ二本鎖の形成は、ガイドRNA/RNA誘導型エンドヌクレアーゼ複合体による標的DNAの切断を可能にする。標的dsDNA分子の切断は、使用するRNA誘導型エンドヌクレアーゼ及びCRISPR/Casシステムに応じて、標的配列内又は標的配列に近接する部位で発生する。
【0114】
例えば、SpCas9の場合、少なくとも20ヌクレオチドのDNA標的配列は、不変の5'-NGG-3'PAMのすぐ上流/5'末端に位置している。したがって、SpCas9がRNA誘導型エンドヌクレアーゼとして使用される場合、PAMに近接して位置する標的配列は、標的配列がPAM配列のすぐ上流で開始し、その間に更なるヌクレオチドがないことを意味すると理解される。ガイドRNAとDNA標的配列の正しい対合により、標的配列内のPAMの3塩基対(bp)上流のdsDNA分子において二本鎖切断(SpCas9によるdsDNA分子の「切断」)の生成がもたらされる。
【0115】
しかしながら、例えばCRISPR/Cpf1システムを使用する場合、Cpf1-crRNA複合体は、プロトスペーサー隣接モチーフ(例えば5'-YTN-3'(式中、「Y」はピリミジンであり、「N」は任意の核酸塩基である)又は5'-TTN-3')の下流/3'末端に配置され得る標的配列を特定することによって、標的DNAを切断する。Cpf1は、スティッキーエンド/スタガードエンドのDNA二本鎖切断を導入することができる。AsCpf1及びLbCpf1の場合、4ヌクレオチドのオーバーハングを伴う二本鎖切断が生成される可能性があり、これは標的の(+)鎖ではPAMの19bp下流、(-)鎖ではPAMの23 bp下流で発生する可能性がある。
【0116】
上記の例によって示されるように、二本鎖切断の正確な部位は、本発明の方法で用いられるCrispr/Casシステム又はRNA誘導型エンドヌクレアーゼに依存し、したがって、RNA誘導型エンドヌクレアーゼの選択時に、当業者が決定することができる。
【0117】
本発明の文脈において、標的配列は「プロトスペーサー」とも呼ばれることがある。「標的部位」という用語は、標的配列及び会合したPAMを含むdsDNA分子中の位置又は配列を指す場合がある。
【0118】
本発明の文脈において、「二本鎖切断」又は「DSB」という用語は、dsDNA分子の両方の鎖の中断を指し、二本鎖切断の上流側及び下流側にあるdsDNA分子の部分の分離につながる。対照的に、一本鎖切断は、2つのDNA鎖のうちの1つのみの中断を指し、二本鎖切断の上流側及び下流側にあるdsDNA分子の部分の分離にはつながらない。
【0119】
好ましい実施の形態において、RNA誘導型エンドヌクレアーゼは平滑末端を生成する。別の実施の形態において、RNA誘導型エンドヌクレアーゼはスティッキーエンドを生成する。
【0120】
本発明の文脈において、二本鎖切断は、1つのRNA誘導型エンドヌクレアーゼによる両鎖の切断により、又はニッカーゼによる(+)鎖及び(-)鎖の両方での2つの一本鎖切断により起こり得る。
【0121】
二本鎖切断は、相補鎖上の同じ/対応する位置でのdsDNAの両方の鎖の切断によって生成される可能性があり、ほとんどがCas9を介した切断の場合であることから、結果として得られるdsDNA分子の分離された末端の平滑末端の形成につながる。しかしながら、非標準的な切断の場合、Cas9は、スティッキー/スタガードエンドを持つ二本鎖切断の形成も誘導する可能性があり、dsDNAの2つの相補的DNA鎖の鎖切断は異なる位置にあり、これは切断されたdsDNA分子の末端にあるストランドオーバーハングの形成をもたらす。
【0122】
さらに、特定のRNA誘導型エンドヌクレアーゼは、例えばCpf1等のスティッキーエンドを定期的に生成する。特定の標的配列の選択により、RNA誘導型エンドヌクレアーゼがスティッキーエンド又は平滑末端を生成する傾向に影響を与えることも可能である。
【0123】
さらに、2つの鎖の異なる標的配列を標的とする個々のニッカーゼによって(+)鎖と(-)鎖の両方で一本鎖切断を誘導することにより、特定の構成のスティッキーエンドの二本鎖切断を意図的に生成することが可能である。このアプローチを使用することにより、一本鎖切断部位を正確に選択することが可能である。50ヌクレオチド以下、好ましくは40nt、35 nt、30 nt又は25 nt以下、最も好ましくは、20 nt、19 nt、18 nt、17 nt、16 nt、15 nt、14 nt、13 nt、12nt、11 nt、10 nt、9 nt、8 nt、7 nt、6 nt、5 nt、4 nt、3 nt、2 nt又は1 nt以下の距離内の両方の相補鎖における2つの一本鎖切断の誘導は、対応する一本鎖切断の遠位及び近位にあるdsDNA分子の末端の分離につながり、その結果、対応する長さのオーバーハングを持つスティッキーエンドが形成される。二本鎖切断を誘導するこのアプローチを使用することにより、得られたdsDNA分子の分離された末端でどのようなオーバーハングが生成されるかを正確に選択することができる。二本鎖切断ごとに、少なくとも2つのガイドRNA分子が必要になる場合がある。
【0124】
「発現カセット」という用語は、遺伝子等のコード配列、及びトランスフェクトされた細胞によって発現される調節配列からなるベクターDNAの別個の成分を指すことが理解される。形質転換が成功するたびに、発現カセットは、発現カセットの種類に応じて、細胞の機構にRNAを生成(発現)させ、最終的にはタンパク質(複数の場合もある)を生成させる。タンパク質発現の調節配列を含む発現カセットと、特定の種類のRNAの発現に特異的な発現カセットがある。幾つかの発現カセットは、RNA又はタンパク質をコードする配列のモジュラークローニング用に設計されているため、同じカセットを簡単に変更して別のRNA又はタンパク質を作ることができる。例えば、発現カセットは、1つ以上の遺伝子又はコード配列及びそれらの発現を制御する配列から構成され得る。好ましくは、発現カセットは、プロモーター配列、オープンリーディングフレーム、及び真核生物では通常ポリアデニル化部位を含む3'非翻訳領域の3つの構成要素を含む。異なる発現カセットを、正しい調節配列が使用されている限り、細菌、酵母、植物、及び哺乳動物の細胞を含む種々の生物にトランスフェクトすることができる。
【0125】
本発明の実施の形態において、環状DNA分子は、1つ以上のgRNA及び/又はCas9の発現カセットを含む。かかる発現カセットは、アデノウイルスゲノム配列の外側、すなわち環状DNA分子の骨格内の組換えアデノウイルスゲノムの2つのITRの間に位置する。BACは、1つ又は2つ以上のgRNA及び/又はCas9、又は別の適切なRNA誘導型エンドヌクレアーゼの発現カセットを更に収容するのに十分な大きさであるため、かかる実施の形態は、組換えアデノウイルスゲノムがBACによって含まれる好ましい実施の形態である。
【0126】
本発明の実施の形態において、1つ、2つ又はそれ以上のgRNAを発現するため及び/又はCas9を発現するための発現カセットは、組換えアデノウイルスゲノムを含む環状DNA分子とは異なるDNA分子中の産生細胞内に存在する。例えば、かかる発現カセットは、異なるプラスミド上に導入されてもよく、又はウイルスベクターによって導入されてもよい。発現カセットは、産生細胞のゲノムに組み込まれてもよい。gRNA及びCas9の発現を媒介するためのプロモーター配列及び/又はエンハンサー配列等の適切な調節配列は、当該技術分野で知られており、かかる調節配列の具体例は、以下の実施例セクションに記載されている。
【0127】
実施の形態において、gRNA及びCas9は、RNA若しくはタンパク質のトランスフェクション、又はCRISPR/Casシステムのこれらの成分を提供するための当該技術分野で記載される他の方法によって細胞に導入することもできる。
【0128】
本発明はまた、組換えアデノウイルスをレスキューするin vitro方法であって、方法が、
a.293細胞等の組換えアデノウイルスのレスキューに適した細胞を提供することと、
b.上記細胞に、ゲノム末端に隣接する2つの逆方向末端反復(ITR)を有する組換えアデノウイルスゲノムを含む、本発明の環状DNA分子を導入することと、
ここで、ITRの少なくとも1つが、PAM配列に近接する標的配列と会合し、標的配列の各々が、それぞれのITRの外部末端又は外部末端のすぐ外側で、RNA誘導型DNAエンドヌクレアーゼ媒介DNA二本鎖切断を生成するように構成される;
c.RNA誘導型DNAエンドヌクレアーゼと、環状DNA分子の標的配列にRNA誘導型DNAエンドヌクレアーゼをターゲティングするための少なくとも1つのgRNAとを細胞内に提供することと、
d.前記胞内に2つのITRを含む組換えアデノウイルスゲノムを線形化することと、
e.細胞の上清からウイルス粒子を収集することと、
を含む、方法に関する。
【0129】
本明細書において使用される場合、「細胞に導入する」という用語は、タンパク質又は核酸分子を細胞に入れる任意の既知の方法に関する。RNA誘導型DNAエンドヌクレアーゼ等のタンパク質、又は細胞内の核酸分子の提供は、上記分子自体の事前の導入によって、又は上記分子の発現を可能にする別の分子の導入によって達成することができる。分子を細胞に導入する方法の非限定的な例としては、マイクロインジェクション、ウイルスベクターによる感染、エレクトロポレーション、カチオン性脂質を含む製剤を使用するトランスフェクション等のトランスフェクションが挙げられる。本発明の成分を細胞に導入するための適切な方法は、当業者に知られている。実施の形態において、本発明の方法は、RNA誘導型DNAエンドヌクレアーゼ及び/又は少なくとも1つのガイドRNAをコードする核酸分子を産生細胞に導入することを含む。
【0130】
本明細書において使用される場合、「核酸」は、DNA、RNA、及びそれらのハイブリッド又は改変バリアントを含むがこれらに限定されない任意の核酸分子を意味するものとする。「外因性核酸」又は「外因性遺伝要素」は、細胞に導入された任意の核酸に関し、細胞の「元の」又は「天然の」ゲノムの成分ではない。外因性核酸は、標的細胞の遺伝物質に組み込まれているか、若しくは組み込まれていないか、又は安定して形質導入された核酸に関連している場合がある。
【0131】
本発明に従って使用される核酸分子は、核酸分子の合成又は半合成誘導体、及び混合ポリマー等の、当該技術分野で知られている核酸を模倣する分子であり得る。それらは、当業者によって容易に理解されるように、追加の非天然又は誘導体化されたヌクレオチド塩基を含み得る。本発明による核酸模倣分子又は核酸誘導体としては、限定されるものではないが、ホスホロチオエート核酸、ホスホルアミデート核酸、モルホリノ核酸、ヘキシトール核酸(HNA)、ペプチド核酸(PNA)及びロックド核酸(LNA)が挙げられる。
【0132】
さらに、本発明の方法は、少なくとも1つのガイドRNAを細胞に導入することを含む。本発明の文脈において、「ガイドRNA」とは、RNA誘導型DNAエンドヌクレアーゼによって切断される標的配列の認識をもたらす、RNA誘導型DNAエンドヌクレアーゼと相互作用するRNA分子を指す。したがって、本発明によれば、「ガイドRNA」(又はgRNA)という用語は、限定されるものではないが、標的配列特異的CRISPRRNA(crRNA)、トランス活性化crRNA(tracrRNA)、及びキメラ単一ガイドRNA(sgRNA)を含む。
【0133】
crRNAは、RNA誘導型エンドヌクレアーゼ及びCRISPR/Casシステムによって異なるが、典型的には、長さ20ヌクレオチド~72ヌクレオチドの標的特異的配列を含み、長さ21ヌクレオチド~46ヌクレオチドの2つの直接反復(DR)に隣接している。S.ピオゲネスの場合、DRは36ヌクレオチド長であり、標的配列は30ヌクレオチド長である。crRNAの3'に位置するDRは、対応するtracrRNAに相補的であり、それにハイブリダイズして、次にCas9タンパク質に結合する。
【0134】
本明細書において使用される場合、「トランス活性化crRNA(tracrRNA)」という用語は、pre-crRNA(crRNAの3'に位置するDR)に相補的であり、それと塩基対を形成し、それによってRNA二重鎖を形成する小さなRNAを指す。次いで、このpre-crRNAはRNA特異的リボヌクレアーゼによって切断され、crRNA/tracrRNAハイブリッドを形成し、これはその後、侵入した核酸を切断するエンドヌクレアーゼCas9のガイドとして作用する。
【0135】
本明細書に記載されるように、例えばCas9、tracrRNA及びcrRNA等のCRISPR/Casシステムの要素をコードする遺伝子は、典型的には細菌ゲノムにおいてオペロン(複数の場合もある)に編成される。それぞれのCrispr/Casオペロンで発生する配列反復のバイオインフォマティクス分析により、及び標的配列に隣接する推定DR配列とのCas9タンパク質及びtracrRNAの実験的結合研究により、他の細菌種のCas9タンパク質等のRNA誘導型エンドヌクレアーゼと共に機能するDR配列を同定することができる。
【0136】
好ましくは、かかる標的配列特異的crRNA及びtracrRNAを含むキメラ単一ガイドRNA配列を使用することができる。かかるキメラ(ch)RNAは、(Jineket al. Science 337:816-821)によって示されるように、20個以上のヌクレオチド(nt)の標的特異的配列と、(crRNAの一部として定義される)DR配列の一部又は全体と、tracrRNAの全体又は一部との融合によって設計され得る。キメラRNA内で、DRのセグメントとtracrRNA配列は相補的であり、ハイブリダイズしてヘアピン構造を形成することができる。
【0137】
実施の形態において、本発明の少なくとも1つのガイドRNAはまた、細胞に導入される核酸分子によってコードされてもよい。エンドヌクレアーゼをコードする核酸分子に関して上に列挙した定義及び好ましい実施の形態は、これらのRNAをコードする核酸分子に等しく適用される。RNAを発現するための調節エレメント、例えばU6プロモーターは当業者に知られている。
【0138】
本開示はまた、本発明の方法との関連で使用される材料、分子、及び成分を含むキット、パッケージ、及びマルチ容器ユニットを含む。
【0139】
図面
本発明を添付の図面によって更に説明する。これらは、本発明の範囲を限定することを意図したものではなく、本明細書に記載される本発明の更なる説明のために提示される本発明の態様の好ましい実施形態を示す。
【図面の簡単な説明】
【0140】
【
図1】組換えアデノウイルスゲノムをコードするDNAの線形化戦略の模式図である。
【
図2】主なアプローチ、及びアデノウイルス再構成のCRISPR/Cas9媒介末端分離(CTR)を適用するそれらの効率の図である。
【
図3】CRISPR-Cas9媒介末端分離(CTR)アプローチを使用するリバースジェネティックシステムの概略図である。
【
図4】pSG5-Cas9で安定的にトランスフェクトされた異なる293A-Cas9細胞クローンのCas9タンパク質の相対発現レベルの図である。
【
図5】組換えHAdV-5及びHAdV-4のレスキュー効率に対する正確な切断の影響の図である。
【発明を実施するための形態】
【0141】
図面の詳細な説明:
図1:A)従来のアデノウイルス再構成方法は、rAdゲノムを運ぶ環状DNAを線形化し、プラスミド又はBACとして大腸菌内で細菌維持カセット(bac)を介して維持することによる。コンストラクトは、ウイルスITR(RE)に隣接する部位を排他的に認識する制限エンドヌクレアーゼで精製DNAを処理することにより線形化される。線形化されたDNAは、追加の精製工程の後、次いで適切な細胞にトランスフェクトされ、複製ウイルスが得られる。B)この研究で試験されたアプローチは、invivoでの末端分離を容易にするために、Cas9の標的化エンドヌクレアーゼ活性を使用する。したがって、プラスミドを大腸菌から抽出し、許容細胞に直接導入することができる。C)invitroでの末端分離を可能にするために、ウイルスITRはCRISPR/Cas9標的配列(弾頭;WH)と必要なPAM(灰色文字)によって伸長される。弾頭は、ITRから6bp~7 bpのCas9の存在下で二本鎖切断を誘導するユニバーサルsgRNA(gRNA-Ex、下線で示される)を標的とするように設計された。或いは、同じ配列により、各アデノウイルスの種類に特異的なITRを標的とするsgRNA(gRNA-Int)の設計が可能になる。ここでは、HAdV-C5のITR配列を例として示す。このsgRNAは、ゲノム末端に近位のCas9の存在下で二本鎖切断を指示する。配列番号33(上)の配列と対応する相補的配列である配列番号34(下)が表示され、ITRの外側末端を架橋する領域のDNA二本鎖配列、導入された弾頭配列、及びBACの隣接配列を表す。
【0142】
図2:A)末端分離のためにCRISPR/Cas9成分を提供する様々な方法の概略図である。i)sgRNA及びCas9タンパク質を発現するプラスミドと、rAdゲノムを運ぶコンストラクトによる同時トランスフェクションの表示。ii)rAdゲノムと全てのCRISPR-Cas9成分をコードする1つのコンストラクトを示す。iii)Cas9は、rAdをレスキューするために使用される細胞株の構成的発現によって送達されるが、rAdゲノムをコードするプラスミドは、sgRNA発現プラスミドと一緒に同時トランスフェクトされる。iv)iii)と同じく、sgRNAは、rAdゲノムをコードする同じコンストラクトから発現される。B)invitroエンドヌクレアーゼ(PacI)で処理されたrAdゲノム(互いに近接するITRを運ぶ環状Adゲノム)の導入、並びにpBWH-C5-mChe及びpAR-gRNA-Cas9-Ampの293Aへの同時トランスフェクション後のHAdV-C5ベースのrAd、環状コンストラクトpBWH-C5-mCheのトランスフェクトされたDNAのμgあたりのフォーカスとしての再構成効率。C)又はpAR-gRNA-Cas9-Ampと共に、PacI若しくはpBWH-D64-GFPでinvitroで処理されたpBAd19a-GFP。D)293A細胞に示されたコンストラクト(pAR-gRNA-Cas9-Ampと共に、pBW-C5-mChe-Cas9及びpBWH-C5-mChe)をトランスフェクトした後の送達経路i及びii(Aにおける)の効率の比較。E)コンディショナルCas9(DDD-Cas-9)を発現するコンストラクト(pBWH-C5-mChe-DD-Cas9)の再構成効率は、指定された濃度でShield-1を適用した場合に、上記のように293Aにトランスフェクションした後、wtCas9発現コンストラクト(pBWH-C5-mChe-Cas9)と比較される。F)Cas9発現細胞株(Aに示す経路iii、及びiv)における弾頭付きrAdコンストラクト(pAC05-CE-1又はpBWH-C5-mChe)の再構成効率と、293A細胞に適用される基本的な方法論(Aに示す)との比較。G)pSG5-Cas9及び弾頭配列(gRNA-Ex)又はITR(それぞれ、gRNA-IntC5又はgRNA-IntD64)を標的とするsgRNAで同時トランスフェクトされた、それぞれpBWH-C5-mChe及びpBWH-D64-GFPのレスキュー効率の比較。sgRNA-Exは、ITRから6bp~7 bp離れた二本鎖切断を標的にしているが、株特異的sgRNA-Intは、二本鎖切断をITRの5'末端まで正確に標的にしている(
図1Cを参照されたい)。トランスフェクション後、それぞれ4日目又は7日目にフォーカス数を決定した。H)pBWH-C5-mCheと、弾頭配列(gRNA-Ex)を標的とするpAR-gRNA-Ampを293-Cas9細胞に同時トランスフェクトした、単一のITR隣接コンストラクトpBWH-L-C5-mChe及びpBWH-R-C5-mCheとの、レスキュー効率の比較。フォーカスピークの形成を、トランスフェクション後4日目から開始して決定した。
【0143】
図3:ウイルスDNA(濃い灰色、ITRの白抜きの記号が隣接する)は感染細胞から抽出され、細菌ベクター(薄い灰色)は2つの異なるプライマー対を使用してPCRによって増幅される。各対の外部プライマーは、それぞれのウイルスITR(白抜き記号)との相同性(40nt)によって隣接し、弾頭配列(黒色バー)も含まれる。2つの内部プライマーは、互いに相同性(40 nt)であり、隣接している(灰色のボックス)。ウイルスDNAと得られた2つのPCRアンプリコンをギブソンアセンブリ(GA)反応で融合して、細菌形質転換の準備を整えることができる。
【0144】
図4:G418選択下でpSG-Cas9を用いた293A細胞の安定したトランスフェクションの後、単一のクローンを選んだ。連続G418選択の存在下で連続細胞株を開始できた全てのクローンをx軸に示す。Cas9のC末端Flagタグを検出するフローサイトメトリーを使用して、Cas9の発現レベルを決定した。平均蛍光強度(MFI)を、親293A細胞を染色した後に回収されたシグナルと比較した倍率変化として計算した。細胞クローンB2は、3つの独立した全ての実験で、最高の発現レベルを持つ細胞株であった。全てのクローンを、環状pBWH-C5-mCheとpAR-gRNAの同時トランスフェクション後にHAdC5-mCheを再構成する能力について追加的に試験した。クローンは、2つの独立した実験でrAdフォーカス形成を支援した場合、陽性(許容、灰色のバー)であると見なされた。rAdレスキューを再現可能に支援できなかったクローンは、非許容と見なされた(黒いバー)。
【0145】
図5:A)新たに構築されたITR-バクミドボーダーの1つが、sgRNA-Exによって標的とされ得るpBWH-C5-mCheについて示され(下の鎖、PAMには下線が引かれている)、これはITRの外側6bp~7 bpで二本鎖切断を誘導する(sgRNAターゲティング鎖のみで黒い三角形で示される)。ITR(太字)を標的とする別のsgRNA(sgRNA-IntC5、上の鎖、PAMに下線が引かれている)はITRでCas9が媒介する切断を直接誘導することができる。切断距離の影響を確認するために、ITRの末端(下のパネル、Ad5-18/19を参照されたい)とCRISPR/Cas9標的配列の間に12bpの長さのスペーサーを使用してITRを伸長し、これらは、sgRNA-Ex(下の鎖、PAMに下線が引かれている)によって標的とされ、ITRの18 bp~19 bp上流で二本鎖切断(黒い三角形)を誘導する。ITRの外側末端とBACの隣接配列とを架橋する領域内のDNA二本鎖配列を表す、配列番号61(上)の配列及び対応する相補的配列の配列番号62(下)が示される。B)sgRNA-IntC5(Ad5-Int5)又はsgRNA-Ex(Ad5-Ex)のいずれかの存在下でpBWH-C5-mChe及びpSG5-Cas9を用いて、いずれかのsgRNA-Ex(Ad5-18/19-Ex)の存在下でpBWH18/19-C5-mCheを用いて、293A細胞のコトランスフェクション後にrAd再構成効率を比較した。一次レスキュー効率は、
図2G)のように得られた。WelchANOVA検定を用いて有意性を計算した。C)同様に、上記のHAdV-5ベースのコンストラクト(上のパネル)に、組換えHAdV-4ベースのバクミドが構築され、両方のITRで弾頭配列(PAMに下線が引かれている)が隣接していた(ここでは、右ITRが示される、白色文字)。この配列は、HAdV-5ベースのコンストラクトと同様に、ユニバーサルsgRNA-Exによって標的とされ得る。ここでも、HAdV-4ITR(太字)を標的とする別のsgRNA(sgRNA-Int4、上の鎖、PAMに下線が引かれている)は、Ad4-ITR(灰色の三角形)でCas9が媒介する切断を直接誘導することができる。右ITRの外側末端とBACの隣接配列とを架橋する領域内のDNA二本鎖配列を表す配列番号63(上)の配列及び対応する相補的配列の配列番号64(下)が示される。D)sgRNA-Ex(E4-Ex)を発現するpAR-gRNA-Ex又はsgRNA-Int4を発現するpAR-gRNA-Int4(E4-Int4)のいずれかとのpBWH-E4-DE3による293A細胞の同時トランスフェクション後に、rAd再構成効率を決定した。一次レスキュー効率は、
図2Gのように得られた。有意性は、対応のないt検定を使用して計算した。
【実施例】
【0146】
本発明を以下の実施例によって更に説明する。これらは、本発明の範囲を限定することを意図したものではなく、本明細書に記載される本発明の更なる説明のために提示される本発明の態様の好ましい実施形態を示す。
【0147】
実施例の材料及び方法
細胞、ウイルス、細菌
ヒト胚性腎細胞293A(Invitrogen、米国カリフォルニア州カールズバッド)(rAdを生成する効率について選択された293細胞株22のサブクローンである)、ヒト肺腺癌細胞株A549(ATCCCCL-185)(HAdV-C5形質転換されたヒト胚性網膜芽細胞株91123(Urs Greber、チューリッヒ大学から善意により提供))、及びCas9発現A549-Cas9細胞株24を、ウシ胎児血清(FCS10%v/v、Sigma-Aldrich、米国ミズーリ州セントルイス)及びペニシリン-ストレプトマイシン(100U/ml、Gibco、米国カリフォルニア州カールズバッド)を補充したダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)中で培養した。さらに、A549-Cas9については、培地に1μg/mlのブラストサイジン(InvivoGen、米国カリフォルニア州サンディエゴ)を補充した。
【0148】
コドン最適化SpCas9の安定した発現を伴う293Aベースの細胞株(293A-Cas9-B2)を生成するため、本発明者らは、310V及び無限抵抗の25.5 ms方形波プロトコルを使用するエレクトロポレーションにより、NdeI線形化pSG5-Cas9(後述)及びPvuI処理pGC-neo25で低継代293A細胞を同時トランスフェクトし、トランスフェクションの2日後、500μg/mlのG418(Formedium、英国ノーフォーク)を投与することによって細胞を選択した。単一クローンを選択し、Cas9発現についてフローサイトメトリーで分析し、pBWH-C5-mChe及びpAR-gRNA-Exを同時トランスフェクトすることにより、rAdレスキューの許容性を試験した(下記を参照されたい)。両方のアッセイで良好に機能したクローンの1つ(B2)を選択し、拡張し、この研究ではアデノウイルスE1を相補するCas9発現細胞株として使用した。
【0149】
ヒトアデノウイルスB3型(HAdV-B3)(プロトタイプ株GB、ATCC VR-847、ハノーバー医科大学のThomasAdrianの善意により提供)、ヒトアデノウイルスE4型(HAdV-E4)(プロトタイプ株RI-67、VR-1572)、及びサルアデノウイルス25型(SAdV-25、VR-594)をATCCから入手した。hCMVie1プロモーター下でレポーターmCherryを発現するE1及びE3欠失ヒトアデノウイルスC5型ベクター(Ad5-CMV/mCherry)ベースのrAdベクターを、SirionBiotech(ドイツ国プラネック)から入手した。HAdV-B3及び-E4の一次コンストラクトの生成のため、並びにAd5-CMV/mCherryのrAdベクターのためのウイルスDNAを、以前に記載されたように感染細胞から回収した26。
【0150】
大腸菌株 NEB10ベータ(遺伝子型:Δ (ara-leu) 7697 araD139 fhuA ΔlacX74 galK16 galE15 e14-Φ80dlacZΔM15 recA1 relA1 endA1 nupGrpsL (StrR) rph spoT1 Δ(mrr-hsdRMS-mcrBC))及びNEB5アルファ(遺伝子型:fhuA2 Δ(argF-lacZ)U169 phoAglnV44 Φ80 Δ(lacZ)M15 gyrA96 recA1 relA1 endA1 thi-1 hsdR17)を、ドイツ国フランクフルトのNew England Biolabsから購入した。ori6KγプラスミドPir-1(遺伝子型:F- Δlac169 rpoS(Am) robA1creC510 hsdR514 endA recA1 uidA(ΔMluI)::pir-116)を持つ株を、Invitrogen(米国カリフォルニア州カールズバッド)から購入した。
【0151】
プラスミド
プラスミドコンストラクト又はBACエンジニアリングに使用されるオリゴヌクレオチド及び合成DNA断片を表1に示す。アクセッション番号を含む、この研究で生成されたプラスミド及びrAdコンストラクトの基本的な特徴を、それぞれ表2及び表3に要約する。
【0152】
pO6-A5-mChe-WHは、Wh配列及びpmCherry-C1(タカラバイオ株式会社、日本国草津市)からのmCherryORFをpO6-A5-CMV-gfp(Sirion Biotech、ドイツ国プラネック)に導入することにより、sgRNA標的部位をAd5ベクターの左のITRのすぐ隣に配置するように構築された。同様に、pO6-A5-WH18/19-mCheは、同じ弾頭(Wh)配列をpO6-A5-CMVに挿入することによって構築されたが、Wh配列とITRとの間に12塩基対のスペーサー(CAAATTCCTTGG(配列番号58))を有する。発現カセットDDD-Cas9は、Cas9コード配列の最初のメチオニンコドンの代わりにグルタミンコドンを挿入することにより、pDD-Cas9(AddgenePlasmid #90086、Sordella Rafella27から善意により贈与)に基づいて構築され、Cas9(wt)カセットは、DDドメインを欠失させることにより、pDD-Cas9に基づいて構築された。sgRNA発現カセットは、U6プロモーター(GenBankアクセッション番号JN255693.1)を、Yuen et al. 201728によって記載される低いオフターゲット活性を備えるgRNAターゲティング部位を含むsgRNAスキャフォルド(IDT(米国アイオワ州コーラルビル)製のgBlock)に融合させることにより合成された。このsgRNAコンストラクトは、sgRNA-Exと呼ばれていた。pH-gRNA-DDD-iGFP、及びpH-gRNA-Cas9(wt)-iGFPは、sgRNA-Exと、野生型及び上記のバージョンのコドン最適化されたSpCas927発現カセットをベクターpH-iGFP(GeneBankAcc 2324217)に挿入することによって構築された。これらのコンストラクトを使用して、それらのrox部位にBACを含むrAdゲノムにCRISPR/Cas成分を挿入した(下記を参照されたい)。安定したCas9発現細胞株を生成するために使用されるpSG5-Cas9は、pH-gRNA-Cas9(wt)-FlagからのCas9ORFをpSG5発現ベクター(Agilent、米国カリフォルニア州サンタクララ)に挿入することによって構築された。pH-gRNA-Cas9-FlagからのsgRNA-Ex及びCas9(wt)発現カセットをコードする高コピープラスミドpAR-gRNA-Cas9-Ampは、それぞれのCRISPR/Cas成分をpcDNA3.1のPCR増幅ベクター骨格に挿入することによって構築された。sgRNA-Ex単独をコードするpAR-gRNA-Exは、pAR-gRNA-Cas9-Ampからそれぞれの部分をPCRによって増幅し、EcoRI消化アンプリコンを再ライゲーションすることによって構築された。HAdV-5ITR(Int5)に特異的な正確に切断するsgRNAをコードするpAR-gRNA-IntC5は、pAR-gRNA-Exの外部ターゲティング配列を対応する内部ターゲティング配列(TATATTATTAGATAGCCTC(配列番号59))で置き換えることにより構築された。HAdV-4及びCas9に特異的な正確に切断するsgRNAをコードするpAR-gRNA-Int4は、pAR-gRNA-Cas9-Ampの外部ターゲティング配列をInt4の対応する内部ターゲティング配列(TATATTATATAGATAGCCTC(配列番号60))で置き換えることによって構築された。
【0153】
大腸菌でウイルスゲノムを高コピープラスミドにクローン化するための細菌ベクター骨格として使用されたプラスミドpAR-19は、上記のsgRNA-Ex配列、pKSB229からのクロラムフェニコール耐性遺伝子、及びrox部位をLitmus28(NewEngland Biolabs、ドイツ国フランクフルト)に挿入し、そのアンピシリン耐性遺伝子及びMCSを置き換えることで構築された。
【0154】
既に公開されているAdコンストラクトに基づく組換えアデノウイルスをコードするプラスミド及びBAC
細菌rAdコンストラクトは、ITRに近接するCRISPR-Cas標的部位(弾頭)を導入することにより既存のrAdコンストラクトを新たなレスキュー技術に適合するように改変するか(この章で説明する)、又はギブソンアセンブリを使用して、PCR増幅された高コピーベクター若しくはBACベクター断片へのアデノウイルスゲノムのdenovoクローニングにより(次の章で説明する)生成された。ゲノムコンストラクトを改変するため、本発明者らは、リコンビニアリング(recombineering)又はシングルステップ部位特異的組換え3SR30のいずれかを使用した。リコンビニアリングには、本発明者らは、適用する選択マーカーに応じて、ヘルパープラスミドpKD4631又はpSC101-BAD-gab-tet(GeneBridges、ドイツ国ベルリン)のいずれかに基づく方法論を使用した。
【0155】
既存のrAd BACをCRISPR/Casが媒介するin vivo末端分離に合わせて調整するため、本発明者らは、Adゲノム末端に近接するsgRNA認識部位(弾頭)を導入する必要があった。得られたコンストラクトはpBWH-C5-mCheと呼ばれ、2工程で構築されたHAdV-C5ベースの第1世代ベクター(ΔE1、ΔE3)となった。まず、本発明者らは、Flpが媒介するシングルステップ部位特異的組換え(Flp-3SR)
30によって、pO6-A5-mChe-WHをpBA5-FRT
3に挿入した。この挿入により、左のITRに近接する弾頭配列とmCherry発現カセットが送達された。このコンストラクトは、pBWH-L-C5-mCheと名付けられた。右のITRに近接する第2の弾頭配列を導入するため、本発明者らは2段階のリコンビニアリングを行い
31、これは、同時に、i)Suzukiet al.
32によって記載されるように、このベクターに第2の転写単位を後で挿入するための、右のITRとE4プロモーターとの間のloxP部位の導入、及びii)Dre媒介3SR(Dre-3SR)
30のため右のITRに隣接するBAC-ベクター領域へのrox部位
33の挿入を可能にした。同様に、本発明者らは、最初に、
図5Aに示すように、追加のスペーサー配列を含む合成線形DNA断片とのリコンビニアリングにより右のITRを改変し、次いで、3SRによってpO6-A5-WH18/19-mCheをpBA5-FRT-WH18/19に挿入するという2工程でpBWH18/19-C5-mCheを構築した。本発明者らは、また、同じ方法でpBA5-FRTを改変して、右のITR(pBWH-R-mChe)でのみ弾頭配列が隣接するコンストラクトを生成した。Dre-3SRを使用してpH-gRNAをpBWH-C5-mCheに挿入することにより、細菌ベクター骨格内にsgRNA-Exの発現カセットを運ぶコンストラクトpBWH-C5-gRNA-mCheを構築した。Dre-3SRによってpH-gRNA-Cas9(wt)-iGFPをpBWH-C5-mCheに挿入することにより、細菌ベクター骨格にCas9ヌクレアーゼのみの発現カセットを運ぶpBWH-C5-Cas9を構築した。
【0156】
コンストラクトpBAd5-FG40-GFPは、以前に公開されたpFG40コンストラクトに似ている10。これは、pO6-A5-CMV-gfp(Sirion Biotech、ドイツ国プラネック)の改変バージョンをpBA5-FRTに挿入することによって構築された。このドナープラスミドは、野生型ITRの代わりにpFG40からのパリンドロームITR配列を保有し、それによりpBA5-FRTバックラウンドにおいてpFG40 Adゲノム末端を再現した。
【0157】
HAdV-D64(以前はAd19aと名付けられていた)26のME株に基づいて構築されたΔE1ΔE3第1世代ベクターであるBAd19ΔE1ΔE3-GFPも、2工程のin vivo末端分離に合わせて調整された。最初に、右のITRは、アンピシリン耐性でマークされた弾頭配列に隣接し、次いで、左のITRは、pBWH-D64M-GFPをもたらす64REfor/64RErev及び64LEfor/64LErevプライマー対によって増幅されたそれぞれのPCR断片を使用したリコンビニアリングによって、Kn耐性でマークされた弾頭配列の2番目のコピーに隣接した。
【0158】
CRISPR/Cas媒介末端分離(CTR)のためのde novo構築されたrAdゲノム
CRISPR/Cas媒介末端分離が可能な細菌プラスミド又はBACを新たに構築するため、本発明者らは、ギブソンアセンブリ
34を使用して、精製したゲノムAd DNAをPCR増幅細菌ベクター配列と共に組み立てた。この研究でrAdのde novo構築に使用された一般的なワークフローを
図3に示す。
【0159】
CRISPR/Cas媒介末端分離によってレスキューされ得るrAdを新たに生成するため、本発明者らは、C種由来の第1世代rAdベクター調製物からrAdプラスミド(pAC05-CE1と名付けられた)を構築した。上記のように、ゲノムrAd DNAを、Ad5-CMV/mChe(Sirion Biotech、ドイツ国プラネック)感染293A細胞から単離した。ゲノムAd DNAを、pAR-19テンプレートに対するPCRによって生成されたPCR増幅ベクター断片を使用して、製造元の指示(New England Biolabs、ドイツ国フランクフルト)に従ってNEBuilder試薬を使用して組み立てた。PCRを、弾頭配列に隣接し、左右のITRに対してそれぞれ40 bpの相同性を有するプライマー(LWHC5for/GHLrev及びLWHC5rev/GHLfor)を用いて行った。得られたコンストラクトは、sgRNA-Exを発現することもでき、右のITRに近接するDre組換えのためのrox部位を運ぶことができる。NEB10ベータ細胞はアセンブリ混合物によって電気形質転換され、クロラムフェニコールプレート上で選択された。単一コロニーを採取し、RFLPで分析し、選択したクローンを次世代シーケンシングで検証した。
【0160】
pAC05-mChe-Cas9は、Dre-3SRを使用してプラスミドpH-gRNA-Cas9-FlagをpAC05-CE1に挿入することによって構築された。
【0161】
大腸菌における組換えHAdV-B3及びHAdV-E4のクローニングは、原則として上記と同じプロトコルに従った。ギブソンアセンブリに使用されるベクター断片は、それぞれ、HAdV-B3(プライマーGHLrev/LWHBfor;GHLfor/LWHBrev)の場合はLitmus28(NEB、ドイツ国フランクフルト)で、HAdV-E4(プライマーGHBrev/BWHE4for;GHBfor/BWHE4rev)の場合はpKSB2
29で調製されたオーバーラップエクステンションPCRを使用して生成された。これらの場合、最終的なコンストラクトはsgRNAを発現するように装備されていない。コンストラクトは、製造元の指示に従ってNEBuilder試薬を使用して組み立てられた。次いで、この完成したアセンブリミックス2 μlをコンピテント大腸菌に電気形質転換した。形質転換体を、B3及びE4クローンについて、それぞれAmp及びCam+プレートで選択した。単一コロニーを採取し、RFLPで分析し、選択したクローンを次世代シーケンシングで検証した。検証された分子クローンは、それぞれpLWH-B3及びpBWH-E4と名付けられた。この研究で使用されたHAdV-5ベースのコンストラクトは全て、レスキュー実験用に匹敵するゲノムサイズを得るためにE3欠失を保有していることから、本発明者らは、リコンビニアリングによってnt27.002とnt31.348の間のE3領域(参照配列GenBankアクセッション番号AY594253による)を欠失させた。このコンストラクトは、pBWH-E4-DE3と名付けられ、定量的レスキュー実験においてこの研究に使用した(
図5D)。
【0162】
また、組換えサルAd-BACmid(pBWH-SE25と名付けられた)は、上記のように感染細胞から単離されたサル種EアデノウイルスのゲノムDNAから構築された。ゲノムAd DNAを、pKSB2テンプレートに対するPCRによって生成された2つのPCR増幅ベクター断片を使用して、製造元の指示(New England Biolabs、ドイツ国フランクフルト)に従ってNEBuilder試薬を使用して組み立てた。PCRを、弾頭配列に隣接し、左右のITRに対してそれぞれ40 bpの相同性を有するプライマー(GHBrev/BWHES25for並びにGHBfor及びBWHES25rev)を用いて行った。NEB10ベータ細胞はアセンブリ混合物によって電気形質転換され、クロラムフェニコールプレート上で選択された。単一コロニーを採取し、RFLPで分析し、選択したクローンを次世代シーケンシングで検証し、pBWH-SE25と名付けられた。
【0163】
末端分離によるrAdのレスキュー
製造業者の指示に従って、NucleoBond Xtra-Midi-Kit(Macherey Nagel、スイス国オエンジンゲン)を使用したカラム精製により、トランスフェクトするDNAを細菌から分離し、環状コンストラクトのトランスフェクションに直接使用した。線形化されたDNAがトランスフェクトされた場合、5 μgのカラム精製DNAを、30単位のエンドヌクレアーゼPacI(New England Biolabs、ドイツ国フランクフルト)を使用して100 μlの反応容量で一晩消化した。次いで、酢酸ナトリウムを最終濃度0.3 M及び3容量の無水エタノール(Honeywell、米国カリフォルニア州シャーロット)に添加することによってDNAを沈澱させ、氷上で1時間沈殿させた。その後、DNA沈殿物を遠心分離により収集し、エタノール(70%)で2回洗浄した。ペレットを乾燥させ、40 μlの滅菌H2Oに再懸濁した。
【0164】
293A、A549、A549-Cas9、又は293-Cas9の細胞のトランスフェクションは、Lipofectamine 3000(ThermoFischer Scientific、米国マサチューセッツ州ウォルサム)を使用して、製造業者の指示に従って行った。1 μgのrAdプラスミドと(必要に応じて)500 ng(モル比、1:3)ヘルパープラスミドDNAを含むトランスフェクション混合物に対して6 μlのリポフェクタミン及び5 μlのP3000を使用し、トランスフェクションの24時間前に播種した100万個の細胞に適用した。
【0165】
トランスフェクション混合物を細胞培養培地に直接添加し、細胞を一晩インキュベートした。次いで、トランスフェクトされた細胞をトリプシン処理によって収集し、約1.25×105個の生細胞を24ウェルプレートの少なくとも4つのウェルに播種した。フォーカス/プラーク形成について細胞を毎日観察し、最初のフォーカス/プラークが現れてから1日後にフォーカス/プラークを計数した。プラーク形成がない場合は、培養物を14日間観察し、その後陰性と結論付けた。最終フォーカス/プラーク数を、1 μgのDNAに正規化した。
【0166】
次世代シーケンシング
次世代シーケンシング(NGS)のため、プラスミド又はBAC DNAを、製造業者の指示に従って、Macherey Nagel(ドイツ国デューレン)製のXtra-Midi-kitによって大腸菌から単離し、感染細胞からのDNAを組織培養キット(Macherey Nagel、ドイツ国デューレン)を適用することにより単離した。シーケンシングを、Illumina MiSeqプラットフォーム(1.5 GBパッケージ)を使用してEurofins NSGサービスによって行い、参照配列媒介ワークフローに従ってGeneious Primeソフトウェアによって分析した。
【0167】
実施例の結果
CRISPR-Cas9媒介末端分離への組換えアデノウイルスゲノムのフィッティング
rAdゲノムは通常、制限エンドヌクレアーゼ処理によって環状組換え形態から解放された後、許容細胞をトランスフェクトして組換えウイルスをレスキューする(
図1A)。本実施例に記載のAdレスキューアプローチは、トランスフェクション時にin vivoでゲノム末端を解放して(末端分離)アデノウイルスDNAの複製を可能にするために(
図1B)、プラスミド又はBACでクローン化されたAdゲノムのITRに近接する配列にCas9ヌクレアーゼ活性をターゲティングすることに基づく。したがって、CRISPR/Cas複合体の標的配列は、両方のITRのすぐそばに配置するか、又は実際のCas9媒介切断がクローン化されたAdゲノム付近若しくはその末端で発生するように、ITRと部分的に重複する必要がある(
図1C)。この原理を試験するため、本発明者らは、最も頻繁に使用される組換えAdプラットフォームであるAd5(C種)ベクターを改変した。本発明者らは、弾頭と呼ばれる人工のCRISPR/Cas標的配列(5'-TAATTGCAGTGGACCCCGG-3'(配列番号30))、必要なPAM(5'-CGG-3')と共に、BACクローン化された第1世代Ad5ベクターゲノムの各ITRにて、2工程で挿入した。最初に、逆補体弾頭配列をpBAd5-FRTの右ITRのすぐ下流に挿入した
3(
図1B)。次に、本発明者らは、CMVプロモーター駆動mCherryレポーター遺伝子を運ぶそれに応じて変更されたシャトルベクターのFlp媒介挿入
30により、rAd5ドナーベクターの左ITRのすぐ上流に弾頭配列を導入した。PAMの位置により、本発明者らは、ITRの外側の弾頭配列を相補する標的配列(Ex)又はITRと部分的に重複する標的配列(In)のいずれかをCas9に向けることができた(
図1Cを参照されたい)。Cas9ヌクレアーゼと適切なsgRNAの発現のため、本発明者らは、2つの所望の転写ユニットを運ぶ別の発現プラスミド(pAR-gRNA-Cas9-Amp)を構築した。本発明者らはまた、2つの対照コンストラクトも処理したところ、一方(pBAd5-mChe)は(標準的な方法論
35に従ってレスキューされた第1世代のrAd5ゲノム)を含み、他方の対照であるpBAd5-FG40-GFPも第1世代のrAd5ゲノムを含んだが、その通常のITRの代わりに、Graham et al
10によって記載されたITR融合を持ち、in vitro線形化による通常の方法と同じくらい効率的に、環状DNAトランスフェクション後にウイルスを再構成することが示された。
【0168】
CRISPR/Cas9を介したin vivoでの末端分離による第1世代のrAdベクターのレスキュー
pBWH-C5-mCheとpAR-gRNA-Cas9-Ampの同時トランスフェクション、及び線形化標準コンストラクト又はITR融合対照ベクターの293A細胞へのトランスフェクションにより、本発明者らはプラーク形成を観察することができた。しかしながら、CRISPR-Casによるレスキューでは、はるかに多くのプラークが生成され(
図2Bを参照されたい)、フォーカスは、トランスフェクション後約9日~11日でフォーカスが生じた線形レスキュー又はITR融合駆動型環状レスキューのいずれかによるものと比較して、トランスフェクション後3日~4日というかなり早期に観察することができた。本発明者らによれば、ITR融合コンストラクトのレスキューはわずかに高い効率を示したが、効率は酵素的線形化による再構成と比較すると同等であると報告されていた
10。環状pBWH-C5-mCheが単独で293Aにトランスフェクトされた場合は常に、観察期間(14日)内に感染性粒子が生成されず、Ad5-Warheads-mCheベクターのレスキューには、機能的なCRISPR-Casシステムの存在が必要であることを示す(
図2Bを参照されたい)。
【0169】
次に、本発明者らは、CRISPR/Casを介したベクターレスキュー機能が、Adの別の種に由来する組換えAdゲノムの状況でも機能するかどうかを調査したいと考えた。したがって、本発明者らは、Ad5について上述したように、そのITRに隣接する同じ弾頭配列を保有するように、組換えHAdV-D64ベクター
26を改変した(
図1Cを参照されたい)。設計上、ITRの外側の弾頭配列(Ex方向)は、Cas9ヌクレアーゼを標的にして、実際のITR配列とレスキューされるrAdゲノムのタイプに関係なく、ユニバーサルgRNAによってITRを切断できることに留意されたい。弾頭修飾D種BAC pBWH-D64-GFP及びpAR-gRNA-Cas9-Ampを293A細胞に同時トランスフェクションした後、本発明者らは、トランスフェクション後7日目にウイルスプラーク形成を最初に観察したが、プラーク形成には64-BACのPacI線形化バージョンのトランスフェクション後約14日かかった
26。さらに、CRISPR/Cas媒介末端分離後のベクターレスキューの効率も、線形化されたコンストラクトのレスキューと比較して大幅に増加した(
図2Cを参照されたい)。
【0170】
CRISPR/Casヘルパー機能を提供する最も効率的な方法を試験するため、本発明者らは、最初に全ての成分を単一のコンストラクトにマージして、同時トランスフェクションの不確実性を回避した。したがって、本発明者らは、弾頭に合わせたベクターゲノム(pBWH-C5-mChe-Cas9)に加えて、2つのヘルパー転写ユニットを運ぶmCherry発現rAd5 BACを構築した。rAd5は、2プラスミド設定と同じくらい効率的にこのコンストラクトからレスキューされた(
図2D)。
【0171】
次に、本発明者らは、Cas9の活性がin vivoでの末端分離に必要かどうかを判断したいと考えた。そのため、本発明者らは、wt酵素のORFをDDドメイン調節Cas9コード配列で置き換えることにより、Cas9発現ユニットを改変した27。DDドメインで改変されたCas9は不安定であるため、トランスフェクション時にwt Cas9よりも活性が低くなる。しかしながら、小分子安定剤であるShield-1を添加することにより、安定化及び機能的にレスキューすることができる36。本発明者らは、Shield-1の不在下及び存在下で、DDD-Cas9発現構築物を293A細胞にトランスフェクトした。予想どおり、不安定化ヌクレアーゼの存在下では、環状構造のトランスフェクション後のレスキュー効率が大幅に低下し、この機能の喪失はShield-1の添加によってほぼ完全に防止された。このデータは、弾頭が媒介する末端分離によるrAdレスキューが実際にCas9の活性に依存していることを示した。
【0172】
全ての成分を1つのコンストラクトに入れると、組換えDNAのサイズが大幅に増加するが、本発明者らは、これらの試験にBACクローンゲノムを使用したため、これは問題ではなかった。しかしながら、高コピープラスミド調製物のDNA品質はBAC調製物の品質よりも優れているため、BACコンストラクトは高効率用途には最適ではない。したがって、オールインワンコンストラクトのサイズを制限するため、本発明者らは、SV40初期プロモーターの制御下でFlagタグ付きSpCas9を安定して発現する293A細胞に基づいて細胞株を生成した。Cas9陽性クローンのうち19個を、sgRNA-Exを発現するコンストラクトであるpBWH-C5-mChe及びpAR-gRNA-Exの同時トランスフェクション時にベクターレスキューを媒介する能力について試験し、クローン293A-Cas9-B2が末端分離を支持することができ、更に最高レベルのCas9を発現したため、更なる研究にこのクローンを選択した(
図4を参照されたい)。Cas9発現相補細胞株を手元に持つことで、本発明者らは高コピープラスミドベースの弾頭rAdコンストラクトの効率を試験することができ、本発明者らは293A-Cas9-B2細胞にpAC05-CE1をトランスフェクトした。対照として、本発明者らは、293A-Cas9-B2に基本的なAd5 BACコンストラクトpBWH-C5-mChe及びpAR-gRNA-Exを同時トランスフェクトするか、又は1つのコンストラクトにin vivoでの末端分離に必要な全ての成分を運ぶpBWH-C5-Cas9を293A細胞に同時トランスフェクトした。本発明者らは、3つの設定全てで同じ動態と効率でプラーク形成を観察した(
図2F)。したがって、本発明者らは、CRISPR/Cas9成分を、レスキュー効率に影響を与えることなく、標的細胞株又は(同時)トランスフェクトされたプラスミドのいずれかからのin vivoでの末端分離に提供できると結論付けた。Cas9ヌクレアーゼ複合体の機能的標的配列をITRの外側に挿入することで、本発明者らは、様々なアデノウイルス種に由来するゲノムに基づく場合であっても、rAdをレスキューする様々なコンストラクトにわたるレスキュー実験にユニバーサルgRNAを使用することができた。しかしながら、この設計に基づくと、Cas9切断の性質により、ゲノム末端から比較的離れた部位(6塩基対~7塩基対)でのみDNAの線形化が可能になる。これは最適ではないかもしれないが、上に示したように、末端分離を誘導するには十分であることが明らかである。ゲノム末端のより近くで又は正確に切断を誘導するため、本発明者らは、Cas9活性をITRの末端に向けて、弾頭配列からPAMを取得する別のsgRNA(sgRNA-Int)を設計した(
図1Cを参照されたい)。より近い切断の効率を評価するため、本発明者らは、それぞれ、pSG5-Cas9及びpAR-gRNA-Ex又はpAR-gRNA-IntC5(5'-CTCCGTAGTAGTTATTATAT-3'(配列番号31))と共に、pBWH-C5-mCheを293A細胞に同時トランスフェクトした。比較すると、pAR-gRNA-IntC5は同時にpAR-gRNA-Exよりもほぼ3倍多くのフォーカスを誘導し(
図2G)、ITRに近い切断は実際に遠い切断よりも効率的であることを示した。しかしながら、Adゲノムの末端近くを切断する設計には、異なる配列のITRを標的とする特定のgRNAが必要であり、異なる(予測不可能な)効率で処理される可能性がある。したがって、本発明者らは、pAR-gRNA-Ex又はpAR-gRNA-IntD64(5'-ATTATTAGATAGTTAATTA-3'(配列番号32))のいずれかを使用してpBWH-D64-GFPのレスキューを試験した。
図2Gに示すように、IntコンストラクトによってレスキューされたrAdの収量も増加したが、これはD種ゲノムのレスキューの統計的有意性には達しなかった。これらのデータは、Cas9ヌクレアーゼ部位が近いほどウイルスレスキューの効率が高いことを示すが、この効果の程度は実際の標的配列に依存する可能性が高いため、新しいコンストラクトごとに試験する必要がある。
【0173】
図2Gに示すように、sgRNA-IntC5ベースのCTRは、sgRNA-Exを使用したCTRよりもHAdV-C5ベースのコンストラクトに対して2倍を超えるフォーカスをもたらし、近位の切断が遠位の切断よりも効率的なレスキューを誘導することを示した。ゲノム末端からの切断部位の距離が重要であるという結論を更に確認するために、本発明者らは、更に離れた切断部位がCTRに与える影響も分析した。本発明者らは、ITR末端から更に離れたWh 12塩基対を保有する新たなrAd5ベースのコンストラクトpBWH18/19-C5-mCheを構築した(
図5A下のパネルを参照されたい)。このコンストラクトでは、sgRNA-Exは、ITR末端から離れたCas9切断18/19ヌクレオチドを誘導する必要がある。この設定のレスキュー効率を試験すると、sgRNA-Ex媒介CTR又はsgRNA-Int5によって媒介される正確な切断のいずれかと比較した場合、より近くで切断する他の両方の設定(
図5B)と比較して大幅に低い組換えウイルスレスキューが明らかになった(
図2Gのように)。これらのデータは、切断部位の位置がrAd5ベースのコンストラクトのレスキュー効率について決定的であることを確認した。
【0174】
rAdゲノムの一端のみに向けられたCRISPR/Cas媒介末端分離がウイルスレスキューに十分であるかどうかを試験するため、本発明者らは、左(pBWH-R-C5-mChe)又は右(pBWH-R-C5-mChe)のITRのいずれかに隣接するCRISPR/Cas標的配列を保有するrAd5バクミドを構築した。これらのコンストラクトは、元のHAdV-5バクミドpBWH-C5-mCheと共に、両方のITRに隣接する標的配列を保有し、293-Cas9細胞にpAR-gRNA-Exと同時トランスフェクトされた。ウイルスレスキューは、上記のように一次フォーカス形成を決定することによって定量化された。
図2Hに示すように、両方の単一ITR標識コンストラクトの環状DNAのトランスフェクションにより、ウイルスレスキューが得られた。しかしながら、ウイルスレスキューの効率は、二重標識された元のコンストラクトと比較して低下した。このレスキュー効率の低下は両方のバージョンで見られたが、右のITRに隣接するCRISPR/Cas標的を運ぶコンストラクトでのみ統計的に有意のようであった。
【0175】
CRISPR-Cas媒介末端分離によるrAdに対する新たな構築パイプライン
上に示したように、本発明者らは、CRISPR/Cas媒介末端分離に適合させるために、既にクローン化されたrAdゲノムを変更することができた。しかしながら、本発明者らは、CRISPR/Cas媒介レスキューに基づく組換えAdの直接構築が可能かどうかも試験したいと考えた。全く同じCRISPR/Cas標的配列の導入により、ゲノムに隣接する逆方向反復のサイズが拡大するため、これは些細なことではない可能性がある。したがって、本発明者らは、弾頭配列で伸長されたITRを使用して、rAdプラスミドとBACの組換え構築のワークフローを設計した。このアプローチを試験するため、本発明者らは、ギブソンアセンブリを使用して、野生型HAdV-B3及びHAdV-E4のゲノムをそれぞれ高コピープラスミド及びBACベクターと会合させた(詳細については、
図3、並びに材料及び方法のセクションを参照されたい)。このアプローチにより、弾頭に隣接する感染性rAdゲノム(HAdV-B03をコードするプラスミドの場合はpLWH-B03、バクミドをコードするHAdV-E04の場合はpBWH-E04と名付けた)を運ぶ細菌コンストラクトが得られた。pBWH-E04又はpLWH-B03とpAR-gRNA-ExとをA549-Cas9
24に同時トランスフェクトすることにより、本発明者らは、トランスフェクション後4日~6日以内にプラーク形成による感染性ウイルスのレスキューを得た。レスキューされたウイルスを増殖させ、wt rAdの両方のレスキューされた分子クローン(B3用及びE4用)の配列を次世代シーケンシングによって検証し、それぞれの開始ウイルスストックから調製した元のゲノムと比較した。このデータは、弾頭配列によるITRの伸長がrAdゲノムの組換えクローニングに影響を与えなかったこと、及びin vivoでの末端分離が異なる細胞株で機能できることを示す。
【0176】
同じ方法で、本発明者らは、サルアデノウイルス25型のゲノムDNAを含むバクミドも構築した。本発明者らは、上記のように、ヘルパープラスミドpAR-gRNA-Exと共にpBWH-SE25の2つの配列検証済みクローンから調製した精製BAC DNAを293-Cas9細胞にトランスフェクトした。トランスフェクトされた培養物を、プラーク形成について毎日観察した。トランスフェクションの10日~12日後にプラーク形成が観察されたため、両方のクローンがウイルスをレスキューした。両方のレスキュー上清を増殖させ、wt SAdV-25の両方のレスキューされた分子クローンの配列を次世代シーケンシングによって検証すると、それぞれの開始ウイルスストックから調製した元のゲノムと同一であった。これらのデータは、CRISPR/Casを介したin vivoでの末端分離が、動物宿主種に由来する組換えアデノウイルスのレスキューに適していることを示す。
【0177】
ベクター骨格内の弾頭配列に対して部分的な相同性を持つgRNA転写ユニットの存在が、本発明者らの新たなワークフローによるrAdプラスミドアセンブリの効率に影響を与えるかどうかを試験するため、本発明者らは、ギブソンアセンブリによって感染細胞から分離されたAd5-mCherryベクターゲノムをPCR増幅pAR19ベクター断片に再クローニングした。これにより、pAC05-CE1を得た。本発明者らは、B種及びE種のAdクローニングに使用される標準的なベクターを使用した実験で観察されたコロニー形成と比較して、pAR19ベクター断片を運ぶgRNA転写ユニットを使用したギブソンアセンブリ後のコロニー形成の間に有意差を観察しなかった。最初のウイルスDNAのNGSと新たにレスキューされたAd5-mChe-WHとの比較により、新たなクローニング手順もCRISPR/Cas媒介ウイルスレスキューもrAdの一次配列に影響を与えないことが確認された。
【0178】
細胞内のITR付近のCRISPR-Cas媒介切断により、HAdV-4に基づく組換えアデノウイルスの効率的なレスキューが得られた
HAdV-5に基づくrAdの従来のレスキュー方法と比較して、CTR後の一次レスキュー効率が改善されたため、本発明者らは、別のアデノウイルス種に由来するrAdのCTRの効率を定量的に試験したいと考えた。この目的で、HAdV-5に基づくコンストラクトとのより正確な比較を可能にするため、HAdV-4(E種)に基づく新たなrAd-バクミド(rAd5コンストラクトと比較した
図5CのITR付近の配列を参照されたい)を構築及び改変して、E3領域の欠失により、バクミドpBWH-E4-DE3を得た。sgRNA-Ex及びCas9を発現するこのバクミドとヘルパープラスミドpAR-gRNA-Cas9-Ampを293A細胞に同時トランスフェクションした後、本発明者らは、再びウイルスプラークの形成を観察した。HAdV-4ベースのベクターに対する正確な切断の影響を試験するため、本発明者らは、Cas9ヌクレアーゼをHAdV-4ゲノムの末端に正確に誘導するsgRNAを発現する新たなヘルパープラスミドを構築した(pAR-gRNA-Int4、
図5Dを参照)。ここでも、HAdV-5ベースのレスキューに関しては、正確な切断によって誘導されるCTRによってレスキュー効率が大幅に向上し、rAdの放出が正確な切断で終了することで効率的なレスキューが改善されることが示された。
【0179】
実施例の考察
組換えAdは、in vitroとin vivoの両方の用途で最も頻繁に使用されるウイルス遺伝子導入ビヒクルの1つである。自律増殖可能なrAdベクターの生成は十分に確立されている。しかしながら、rAdプラスミド及びバクミドからのベクターレスキューは非効率的である。これまでのところ、ヘルパー非依存性複製欠損コンストラクトの増殖又はゲノムライブラリー用途等、トランスフェクション時の直接的なウイルスレスキューに基づくあらゆる技術で、このベクタープラットフォームを使用することはできなかった。プラスミドトランスフェクションによる高容量ヘルパーウイルスフリーrAdベクターの増殖は可能であるが、このアプローチの効率は低い。in vivoマウス実験に十分なウイルスストックの調製のため、約100個の大きな組織培養皿をトランスフェクトする必要があることが以前に報告された37。したがって、ヒト遺伝子治療用のベクターを増殖させるには、このアプローチにはより高い効率が明確に必要である。その低い効率は同じ要因(複数の場合もある)によって決定される可能性があり、これは、この研究で本発明者らが使用した自律増殖可能なベクターをレスキューするために重要である。本発明者らは、in vivo末端分離を使用すると、線形DNAを使用する従来の方法と比較して、rAd再構成の効率が20倍~30倍増加することを見出した。これは、Cas9の切断部位を操作することにより、更に3倍に増加する可能性がある。この効率の全体的な80倍~100倍の増加が、新たに説明される高容量rAdのプラスミドベースの増殖に移行できるかどうかを試験することは興味深いことであろう。さらに、本明細書で説明する新たな方法論を使用したrAdレスキューによる効率の向上により、レンチウイルスライブラリに匹敵するサイズのrAdベクターに基づくライブラリの構築が可能になると本発明者らは考えている。最適な条件で、本発明者らの新たなシステムは、約30プラーク/cm2の細胞培養をもたらした。これは、合計で約8.7×104個~1.3×105個の個々のrAdクローンをそれぞれ含む20個~30個の大型細胞培養皿に相当する大規模細胞培養物をトランスフェクトする場合、104個~105個の個々のクローンを含むライブラリの生成に相当する。これは、最適化されたレンチウイルスライブラリ生産の多様性と増殖条件に匹敵する38。しかしながら、このような高コンテンツライブラリの増幅の可能性に関連する2つのプラットフォームの間にはかなりの違いがある。レンチウイルス調製物の最大力価は約109粒子/mlであるが、rAd力価は約1013粒子/mlという高い力価に達する可能性がある39。
【0180】
最後に、本明細書で説明する方法論によってプラスミド調製物から感染性rAdを直接レスキューする可能性は、プラスミド送達後にin vivoでウイルスをレスキューすることに基づく新しいアプローチへの道も開く。これにより、ワクチン接種者へのDNA送達後に最適な免疫化のためにウイルス粒子を増殖させる新たなクラスのワクチンの設計が可能になる。組換えウイルス粒子を使用したワクチン接種と比較して、DNAの直接送達は、コールドチェーンを必要としないため、より安全で、適用しやすく、経済的である40。
【0181】
本発明者らが知る限り、本明細書で提示されたCTRは、野生型ITRの末端で正確にその環状形態からrAdゲノムを切り出すことを可能にする最初のアプローチである。本発明者らのデータは、これは、近位の切断が、より遠いものと比較して有意に高いアデノウイルスのレスキューをもたらしたことから、ITRを解放するための正確な切断の関連性を示した(
図2B及び
図5B)。これは、制限エンドヌクレアーゼが媒介するアプローチが、線形化rAdゲノムの両末端に常に余分なヌクレオチドを残すことから、比較的非効率的であった理由を説明する可能性がある。
【0182】
C種コンストラクトのレスキューは、正確な切断によって2倍~3倍改善され、E種コンストラクトのレスキューは6倍を超えて改善された。in-silico活性スコアリング (J. G. Doench, E. Hartenian, D. B. Graham, Z. Tothova, M. Hegde, I. Smith, M. Sullender, B. L. Ebert, R. J. Xavier and D. E. Root:Rational design of highly active sgRNAs for CRISPR-Cas9-mediated gene inactivation. Nat Biotechnol, 32(12), 1262-7 (2014))によると、sgRNA-Ex(E4及びC5を標的とする活性スコアは、それぞれ0.715及び0.808)は、Int5又はInt4(それぞれ、0.069及び0.067)よりもはるかに活性であり、これは、Int5又はInt4のいずれかによって引き起こされるレスキュー効率の大幅な増加を明確に説明していない。本発明者らは、より弱い正確な切断部位が、離れた位置にある最も活性な切断部位よりも効率的なレスキューを誘導するという事実は、CTR効率の臨界点が正確に切断する能力であることを強く支持すると考える。sgRNA-ExベースのCTRは、HAdV-5レスキューよりもHAdV-4レスキューに対して効率的に機能しなかったが、正確な切断により増加が誘導され、HAdV-4ベースのコンストラクトがほぼHAdV-5のレベルに達し、高効率rAdレスキューに到達する正確な切断の重要性がここでも示された。これは、HAdV-5に基づく最も広く研究されている系よりも、他の種(ここに示すE種等)では、離れた切断の後のマスキングヌクレオチドの悪影響が更に問題になる可能性があることを示す。
【0183】
ITRとITRの外側のCas9切断側との間の好ましい距離の決定及び効率の更なる改善
Cas9切断をITRの外部末端からどれだけ移動できるかを調べるため、上記の実施例で説明したよりもITRから離れた位置にある(ITRの外側約10塩基対~20塩基対等)、Cas9切断の標的配列に隣接するrADゲノムを保有する新たなバクミドを構築した。これらのコンストラクトのトランスフェクション時のウイルスレスキューの効率を、適切なgRNAとCas9発現の共発現の存在下で可能な限り最も近い外部部位で切断されたコンストラクトのレスキュー効率と比較する。特に、Cas9がITRから0/1、6/7、12/13及び18/19ヌクレオチドを切断するコンストラクトの効率を比較する。ITRから更に離れた場所で切断されたコンストラクトも試験することができる。これらの実験は、rAdレスキューの成功のためのCas9標的配列の最も遠い有用な位置に関する情報を提供する。
【0184】
sgRNA Int5及びInt4の活性スコアは、sgRNA Exの活性スコアよりも大幅に低い。対照的に、Int5及びInt4部位を標的にした場合のレスキュー効率ははるかに高い。これは、主な要因がCTR効率を決定する切断部位の距離であることを明確に示している。しかしながら、切断効率が測定可能な役割を果たしていることは明らかではない。本発明者らはまた、Doenchスコアによって測定された切断効率が、正確な切断によるレスキュー効率に及ぼす影響も試験している。ITRの最初の8つの可変位置と、ITR配列とPAM配列の間の4つのヌクレオチドを改変することにより、新たなゲノム末端及び隣接配列を設計することができ、これにより、ここで表されるInt5及びInt4の設定よりも4倍~6倍高いDoenchスコアを持つsgRNAを使用することが可能になる。CRISPR/Casターゲティングの改善が、様々なコンストラクトのレスキュー効率にどの程度影響するかを確認することは興味深いことであろう。
【0185】
実施例の表
【0186】
表1.実施例のオリゴヌクレオチド
【表2】
【表2-1】
【0187】
表2.合成DNA断片
【表3】
【表3-1】
【表3-2】
【0188】
表3.実施例で使用されるプラスミドコンストラクト
【表4】
*Hashimoto-Gotoh, T., Franklin, F. C., Nordheim, A. & Timmis, K. N. Specific-purpose plasmid cloning vectors. I. Low copy number, temperature-sensitive, mobilization-defective pSC101-derived containment vectors. Gene 16, 227-235, doi:10.1016/0378-1119(81)90079-2 (1981).
【0189】
表4.組換えアデノウイルスプラスミド及びBAC
【表5】
*Graham, F. L. Covalently closed circles of human adenovirus DNA are infectious. The EMBO journal 3, 2917-2922 (1984).
【0190】
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【0191】
図面訳
図1
targeting gRNA-Int ターゲティングgRNA-Int
targeting gRNA-Ex ターゲティングgRNA-Ex
図2B
Foci/μg DNA フォーカス/μg DNA
図2C
Foci/μg DNA フォーカス/μg DNA
図2D
Foci/μg DNA フォーカス/μg DNA
図2E
Foci/μg DNA フォーカス/μg DNA
図2F
Foci/μg DNA フォーカス/μg DNA
図2G
Foci/μg DNA フォーカス/μg DNA
図2H
Foci/μg DNA フォーカス/μg DNA
図4
fold MFI/bckgrnd 倍MFI/バックグラウンド
non-permissive clone 非許容クローン
permissive clone 許容クローン
図5A
targeting sgRNA-Int5 ターゲティングsgRNA-Int5
targeting sgRNA-Ex ターゲティングsgRNA-Ex
spacer スペーサー
図5B
Foci/μg DNA フォーカス/μg DNA
図5C
targeting sgRNA-Int5 ターゲティングsgRNA-Int5
targeting sgRNA-Ex ターゲティングsgRNA-Ex
targeting sgRNA-Int4 ターゲティングsgRNA-Int4
【配列表】
【手続補正書】
【提出日】2023-05-11
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゲノム末端に隣接する2つの逆方向末端反復(ITR)を有する組換えアデノウイルスゲノムを含む、組換えアデノウイルスをレスキューするための環状DNA分子であって、
前記ITRの少なくとも1つが、PAM配列に近接する標的配列と会合し、
前記標的配列が、それぞれの前記ITRの外部末端又は外部末端のすぐ外側で、RNA誘導型DNAエンドヌクレアーゼ媒介DNA二本鎖切断を生成するように構成される、環状DNA分子。
【請求項2】
前記2つのITRのそれぞれが、PAM配列に近接する標的配列と会合する、請求項1に記載の環状DNA分子。
【請求項3】
前記2つのITRと会合した前記標的配列が同一であるか又は異なる、請求項1又は2に記載の環状DNA分子。
【請求項4】
前記標的配列又は前記PAMが前記ITRの外部末端に近接して位置する、請求項1又は2に記載の環状DNA分子。
【請求項5】
前記2つのITRと会合した前記標的配列が同一である、請求項1~4のいずれか一項に記載の環状DNA分子。
【請求項6】
前記PAM及び/又は前記標的配列が、前記ITRの外部末端と少なくとも部分的に重複しており、
若しくは、前記標的配列が、それぞれの前記ITRの外部末端でRNA誘導型DNAエンドヌクレアーゼ媒介DNA二本鎖切断を生成するように構成される、請求項1~3のいずれか一項に記載の環状DNA分子。
【請求項7】
前記環状DNA分子が細菌人工染色体である、請求項1~6のいずれか一項に記載の環状DNA分子。
【請求項8】
前記環状DNA分子が高コピープラスミドである、請求項1~6のいずれか一項に記載の環状DNA分子。
【請求項9】
少なくとも1つのガイドRNA(gRNA)用の発現カセット及び/又は
S.ピオゲネスCas9(SpCas9)のDNA二本鎖切断を生成するRNA誘導型DNAエンドヌクレアーゼ用の発現カセットを追加的に含み、前記発現カセット(複数の場合もある)が、前記アデノウイルスゲノムの外側の2つのITRの間に位置する、請求項1~8のいずれか一項に記載の環状DNA分子。
【請求項10】
前記アデノウイルスゲノムがヒトアデノウイルスベクターゲノムである、請求項1~9のいずれか一項に記載の環状DNA分子。
【請求項11】
前記アデノウイルスゲノムがサルアデノウイルスベクターゲノムである、請求項1~9のいずれか一項に記載の環状DNA分子。
【請求項12】
前記アデノウイルスゲノムが
、少なくとも1つの導入遺伝子を含む、
第1世代アデノウイルスベクターゲノムのアデノウイルスベクターゲノムである、請求項1~11のいずれか一項に記載の環状DNA分子。
【請求項13】
組換えアデノウイルスをレスキューするためのキットであって、
a.請求項1~12のいずれか一項に記載の環状DNA分子と、
b.RNA誘導型DNAエンドヌクレアーゼ又はRNA誘導型DNAエンドヌクレアーゼをコードする核酸分子と、
c.1つ以上のgRNA、又は前記環状DNA分子のターゲティング配列に対してRNA誘導型DNAエンドヌクレアーゼをターゲティングするための1つ以上のgRNAをコードする1つ以上の核酸分子、及び/又は、
d.293細胞又は
A549細胞の組換えアデノウイルスのレスキューに適した細胞と、
を含む、キット。
【請求項14】
前記キットが、組換えアデノウイルスをレスキューするのに適した細胞を含み、前記細胞が、RNA誘導型DNAエンドヌクレアーゼ、
又はSpCas9を発現する、請求項13に記載のキット。
【請求項15】
組換えアデノウイルスをレスキューするin vitro方法であって、前記方法が、
a.
293細胞の組換えアデノウイルスのレスキューに適した細胞を提供することと、
b.前記細胞に、ゲノム末端に隣接する2つの逆方向末端反復(ITR)を有する組換えアデノウイルスゲノムを含む、請求項1~12のいずれか一項に記載の環状DNA分子を導入することと、
ここで、前記ITRの少なくとも1つが、PAM配列に近接する標的配列と会合し、前記標的配列の各々が、それぞれの前記ITRの外部末端又は外部末端のすぐ外側で、RNA誘導型DNAエンドヌクレアーゼ媒介DNA二本鎖切断を生成するように構成される;
c.RNA誘導型DNAエンドヌクレアーゼと、前記環状DNA分子の標的配列に前記RNA誘導型DNAエンドヌクレアーゼをターゲティングするための少なくとも1つのgRNAとを前記細胞内に提供することと、
d.前記細胞内に2つの前記ITRを含む組換えアデノウイルスゲノムを線形化することと、
e.前記細胞の上清からウイルス粒子を収集することと、
を含む、方法。
【国際調査報告】