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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-10-13
(54)【発明の名称】耐切創性ポリエチレン原糸
(51)【国際特許分類】
   D01F 6/04 20060101AFI20231005BHJP
   A41D 19/015 20060101ALI20231005BHJP
   A41D 19/00 20060101ALI20231005BHJP
【FI】
D01F6/04 B
A41D19/015 110Z
A41D19/00 Q
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023519511
(86)(22)【出願日】2021-12-29
(85)【翻訳文提出日】2023-03-28
(86)【国際出願番号】 KR2021020204
(87)【国際公開番号】W WO2022146042
(87)【国際公開日】2022-07-07
(31)【優先権主張番号】10-2020-0188147
(32)【優先日】2020-12-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】518215493
【氏名又は名称】コーロン インダストリーズ インク
(74)【代理人】
【識別番号】100121382
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 託嗣
(72)【発明者】
【氏名】イ,シンホ
(72)【発明者】
【氏名】イ,ヨン ス
(72)【発明者】
【氏名】キム,ソン ヨン
(72)【発明者】
【氏名】パク,ジョン ウン
【テーマコード(参考)】
3B033
4L035
【Fターム(参考)】
3B033AB06
3B033AC05
4L035AA05
4L035BB31
4L035BB55
4L035BB65
4L035BB71
4L035CC07
4L035CC11
4L035CC13
4L035EE20
4L035FF01
4L035LA01
4L035MA01
(57)【要約】
本発明は、耐切創性ポリエチレン原糸に関し、より詳細には、優れた耐切創性を有するとともに優れた耐摩耗性を有する製品の製造が可能であり、高危険群の産業および災害の現場に実質的に適用可能な繊維製品の製造が可能な耐切創性ポリエチレン原糸に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
角振動数(ω)に依存する貯蔵弾性率(G’)のグラフにおいて、角振動数が0.1rad/sであるときに貯蔵弾性率が10Pa~100Paであり、角振動数が1rad/sであるときに貯蔵弾性率が100Pa~1000Paであり、
角振動数(ω)に依存するtanδのグラフにおいて、角振動数が0.1rad/sであるときにtanδが9以上である、耐切創性ポリエチレン原糸。
【請求項2】
前記ポリエチレン原糸は、角振動数(ω)に依存する損失弾性率(G’’)のグラフにおいて、角振動数が0.1rad/sであるときに損失弾性率が100Pa~700Paであり、角振動数0.25~0.5rad/sの区間にて損失弾性率1000Paの地点が現れる、請求項1に記載の耐切創性ポリエチレン原糸。
【請求項3】
前記ポリエチレン原糸は、角振動数(ω)に依存する複素粘度(η*)のグラフにおいて、角振動数が0.1rad/sであるときに3000Pa・s~6000Pa・sであり、角振動数0.1rad/s~1rad/sの区間にて平均傾きが-1000~-300である、請求項1に記載の耐切創性ポリエチレン原糸。
【請求項4】
前記ポリエチレン原糸は、1~3DPF(Denier Per Filament)の繊度を有する、請求項1に記載の耐切創性ポリエチレン原糸。
【請求項5】
前記ポリエチレン原糸は、複素剪断弾性係数(G*)に依存する位相角のグラフにおいて、複素剪断弾性係数(G*)が350~1000Paである際に、位相角が75~90°である、請求項1に記載の耐切創性ポリエチレン原糸。
【請求項6】
前記ポリエチレン原糸は、毛羽発生数が20EA/50,000m以下である、請求項1に記載の耐切創性ポリエチレン原糸。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載の耐切創性ポリエチレン原糸を含む、耐切創性原反。
【請求項8】
前記原反は、ISO13997:1999規格にしたがって測定された耐切創性が5.5N以上である、請求項7に記載の耐切創性原反。
【請求項9】
請求項7に記載の耐切創性原反を含む、防護用製品。
【請求項10】
前記防護用製品は、耐切創性手袋である、請求項9に記載の防護用製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐切創性ポリエチレン原糸に関し、より詳細には、優れた耐切創性を有するとともに優れた耐摩耗性を有する製品の製造が可能な耐切創性ポリエチレン原糸に関する。
【背景技術】
【0002】
金属およびガラスの加工作業場、精肉作業場などといった危険度が高い産業分野に携わる作業者、または、警官、軍人または消防士といったセキュリティおよび災害の分野に携わる人々は、刃物といった凶器または鋭い切断ツールから人体を保護するために、耐切創性の手袋または衣服を着用している。
【0003】
一般的に、耐切創性を与える手段としてアラミド繊維などといった高強度の紡績糸からなる製品が開発されているが、高危険群の現場で使用するには、十分な耐切創性を有することができなかった。一方、金属糸を用いた多様な製品も開発されているが、柔軟性が不足するため、作業者の手の使用が多い作業現場には、実質的に、適用することができなかった。
【0004】
そこで、日本公開特許第2002-180324号に開示されたように、高い弾性率および強度を有するポリエチレン原糸を用いた手袋が提案されているものの、耐切創性が、実質的に、高危険群の産業現場で使用する程度には優れておらず、活用性に劣るという短所がある。
【0005】
また、このように強度向上のみを強調して開発されたポリエチレン原糸は、防護用製品として製造されて使用される際に、毛羽が発生しやすく、長時間の繰り返し使用が難しいという短所があった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、優れた耐切創性を有するとともに耐摩耗性が向上したポリエチレン原糸を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る耐切創性ポリエチレン原糸は、角振動数(ω)による貯蔵弾性率(G’)のグラフにおいて、角振動数が0.1rad/sであるときに貯蔵弾性率が10Pa~100Paであり、角振動数が1rad/sであるときに貯蔵弾性率が100Pa~1000Paであり、角振動数(ω)によるtanδのグラフにおいて、角振動数が0.1rad/sであるときにtanδが9以上である。
【0008】
本発明の一実施形態に係る耐切創性ポリエチレン原糸は、ポリエチレンは、角振動数(ω)に依存する損失弾性率(G’’)のグラフにおいて、角振動数が0.1rad/sであるときに損失弾性率が100Pa~700Paであり、角振動数0.25~0.5rad/sの区間にて損失弾性率1000Paの地点が現れうる。
【0009】
本発明の一実施形態に係る耐切創性ポリエチレン原糸は、ポリエチレンは、角振動数(ω)に依存する複素粘度(η*)のグラフにおいて、角振動数が0.1rad/sであるときに3000Pa・s~6000Pa・sであり、角振動数0.1rad/s~1rad/sの区間で平均傾きが-1000~-300でありうる。
【0010】
本発明の一実施形態に係る耐切創性ポリエチレン原糸は、1~3DPF(Denier Per Filament)の繊度を有しうる。
【0011】
本発明の一実施形態に係る耐切創性ポリエチレン原糸は、複素剪断弾性係数(G*)に依存する位相角のグラフにおいて、複素剪断弾性係数(G*)が350~1000Paであるときに、位相角が75~90°でありうる。
【0012】
本発明の一実施形態に係る耐切創性ポリエチレン原糸は、毛羽発生数が20EA/50,000m以下でありうる。
【0013】
本発明は、上述した耐切創性ポリエチレン原糸を含む耐切創性原反である。
【0014】
本発明の一実施形態に係る耐切創性原反において、前記原反は、ISO13997:1999規格にしたがって測定された耐切創性が5.5N以上でありうる。
【0015】
本発明は、上述した耐切創性ポリエチレン原反を含む防護用製品である。
【0016】
本発明の一実施形態に係る防護用製品は、耐切創性手袋でありうる。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係る耐切創性ポリエチレン原糸は、優れた耐切創性を有することで、高危険群の産業および災害現場に実質的に適用可能な繊維製品の製造が可能である。
【0018】
さらに、本発明に係る耐切創性ポリエチレン原糸は、高い耐摩耗性を有する製品の製造が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の一実施形態に係る耐切創性ポリエチレン原糸のレオロジー特性の測定結果のグラフ(1)である。
図2】本発明の一実施形態に係る耐切創性ポリエチレン原糸のレオロジー特性の測定結果のグラフ(2)である。
図3】本発明の一実施形態に係る耐切創性ポリエチレン原糸のレオロジー特性の測定結果のグラフ(3)である。
図4】本発明の一実施形態に係る耐切創性ポリエチレン原糸のレオロジー特性の測定結果のグラフ(4)である。
図5】本発明の一実施形態に係る耐切創性ポリエチレン原糸のレオロジー特性の測定結果のグラフ(5)である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本明細書で用いられる技術用語および科学用語は、他の定義がなければ、当該発明が属する技術分野における通常の知識を有する者が通常理解している意味を有し、下記の説明および添付図面において、本発明の要旨を不必要にぼやけさせる恐れがある公知の機能および構成に関する説明は省略する。
【0021】
また、本明細書で用いられる単数の形態は、文脈上、特に指示しない限り、複数の形態も含むことを意図し得る。
【0022】
また、本明細書において、特に言及なしに用いられた単位は、重量を基準とし、一例として、%または比の単位は、重量%または重量比を意味し、重量%は、他に定義しない限り、全組成物のうちのいずれか1つの成分が組成物中に占める重量%を意味する。
【0023】
また、本明細書で用いられる数値範囲は、下限値と上限値、その範囲内での全ての値、定義される範囲の形態と幅から論理的に誘導される増分、そのうち限定された全ての値および互いに異なる形態に限定された数値範囲の上限および下限の全ての可能な組み合わせを含む。本発明の明細書において、特に定義しない限り、実験誤差または値の四捨五入により発生し得る数値範囲外の値も定義された数値範囲に含まれる。
【0024】
本明細書の用語、「含む」とは、「備える」、「含有する」、「有する」、または「特徴とする」などの表現と等価の意味を有する開放型記載であって、追加的に列挙されていない要素、材料、または工程を排除するものではない。
【0025】
耐切創とは、刃物の刃、または刃のように鋭い部分が存在する物体で切られることに対する耐久性を意味するのであり、金属およびガラスの加工作業場、精肉作業場などといった危険度が高い産業分野に携わる作業者、または警官、軍人、または消防士といったセキュリティおよび災害の分野に携わる人々は、刃物といった凶器または鋭い切断ツールから人体を保護するために、耐切創性の手袋または衣服を着用している。
【0026】
従来、高い弾性率および強度を有するポリエチレン原糸を用いた耐切創性繊維製品が開発されているものの、耐切創性が、実質的に、高危険群の産業現場で使用する程度には優れておらず、活用性に劣るという短所がある。
【0027】
また、このように強度向上のみを強調して開発されたポリエチレン原糸から製造された製品の耐摩耗性が低いため、毛羽が発生しやすく、長時間の繰り返し使用が難しかった。
【0028】
そこで、本出願人は、耐切創性および耐摩耗性に優れたポリエチレン原糸を開発するために踏み込んだ研究を長期間行った結果、特定のレオロジー特性を有するポリエチレン原糸が優れた耐切創性を有するとともに優れた耐摩耗性を有する製品の製造を可能にすることを見出し、それに関する研究を深めた結果、本発明を完成するに至った。
【0029】
本明細書において、ポリエチレン原糸は、ポリエチレンチップを原料とし、紡糸および延伸などの工程により製造されたモノおよびマルチフィラメントを意味する。一例として、ポリエチレン原糸は、1~3デニールの繊度をそれぞれ有する40~500個のフィラメントを含みうるのであり、100~1,000デニールの総繊度を有しうる。
【0030】
本明細書において、レオロジー特性とは、貯蔵弾性率(G’)、損失弾性率(G’’)、tanδ、複素粘度(η*)、および位相角(°)を意味し、本明細書において、他に定義しない限り、レオロジー特性は、DHR-2(TA Instrument)を用いて測定することができる。測定に用いられたジオメトリーはパラレルプレート(plate-plate; parallel plate、PP)であって、角速度の変化に依存する貯蔵弾性率(G’)、損失弾性率(G’’)、tanδ、複素粘度(η*)、および位相角を測定する。他に定義がない限り、レオロジー特性の測定は、窒素雰囲気下で250℃の温度で行われ、測定規格(Sample Dimension)は、直径25mm、Gap pointは1.0mm、変形率10%として測定することができる。
【0031】
本発明のポリエチレン原糸は、角振動数(ω)に依存する貯蔵弾性率(G’)のグラフにおいて、角振動数が0.1rad/sであるときに貯蔵弾性率が10Pa~100Paであり、角振動数が1rad/sであるときに貯蔵弾性率が100Pa~1000Paであり、角振動数(ω)に依存するtanδのグラフにおいて、角振動数(ω)が0.1rad/sであるときに、tanδが9以上でありうる。このようなポリエチレン原糸は、優れた耐切創性だけでなく、優れた耐摩耗性を有する製品に製造されうる。
【0032】
本発明に係るポリエチレン原糸を含む製品の耐切創性は、ポリエチレン原糸の強度だけでなく、ポリエチレン原糸の滑り特性(slippiness)、すなわち、刃物の刃などのように鋭いツールがポリエチレン原糸上を通過する際に前記原糸に引っかかることなくその表面に沿って滑る特性と、原糸のローリング(rolling)特性、すなわち、刃物の刃などのように鋭いツールが原糸上を通過する際に原糸の長さ方向の軸を中心に捩れたり巻かれたりする特性とにより決められうる。
【0033】
本発明に係るポリエチレン原糸は、角振動数に依存する貯蔵弾性率およびtanδのグラフにおいて、上記のような範囲を有することで、優れた滑り特性およびローリング特性を有し、優れた耐切創性を示す製品の製造を可能にする。
【0034】
具体的に、角振動数(ω)に依存する貯蔵弾性率(G’)のグラフにおいて、角振動数が0.1rad/sであるときに、貯蔵弾性率は20Pa~80Pa、より具体的には30Pa~50Paでありうる。ここで、貯蔵弾性率は、平均的に正(+)の傾きを有しうる。詳細には、角振動数0.1rad/s~1000rad/sの区間で平均的に正(+)の傾きを有しうる。このような物性を有する原糸は、耐切創性を有することができる十分な弾性を示し、比較的に優れた強度を有することができる。詳細には、前記角振動数に依存する貯蔵弾性率のグラフにおいて、角振動数(ω)および損失弾性率(G’’)値をログ値に変換した際に、角振動数(logω)0~1rad/sの区間における貯蔵弾性率(logG’)の平均傾きが0.9~1.6、具体的には1.1~1.5でありうる。
【0035】
上記範囲よりも貯蔵弾性率が大きい場合、強度は向上するものの、剛軟度(stiffness)も上昇し、製織または編成して原反に製造される際に、ごわごわになり、所望の製品に加工し難く、製品の着用者が不便を感じうる。
【0036】
この際、角振動数(ω)に依存するtanδのグラフにおいて、tanδは、平均的に負(-)の傾きを有してもよく、より具体的に、0.1rad/s~1000rad/sの区間で平均的に負(-)の傾きを有しうる。すなわち、本発明に係るポリエチレン原糸は、角振動数(ω)に依存するtanδのグラフにおいて、絶対値が比較的高い傾き値を有し、他のポリエチレンとは異なり変曲点を形成しない。このようなポリエチレン原糸は、弾性に比べて相対的に高い粘性を示していることを意味する。詳しく説明すると、低い剪断応力においても高分子鎖間の絡み合いまたはゲルが、流動方向に容易に配向されることを意味し、これにより、ポリエチレン原糸に存在する高分子鎖間の絡み合いまたはゲルが実質的に存在しない。このようなレオロジー特性を有することで、原糸は、ゲルの数が実質的に存在しないかまたは非常に少ないため、延伸時に毛羽が形成されるのを防止することができる。
【0037】
ここで、原糸は、前記角振動数(ω)に依存するtanδのグラフにおいて、角振動数が0.1rad/sであるときにtanδが9以上15未満、具体的には9~12でありうるが、これに限定されない。
【0038】
tanδ値が1である角振動数は200~500rad/s、具体的には250~400rad/sでありうる。tanδ値が1である角振動数区間が比較的に大きいことで、当業界で一般的に用いられるポリエチレン原糸に比べて、粘性に、より優れ、ポリエチレン高分子鎖間の絡み合いがほぼなく、高分子鎖の配列性に優れるのでありうる。このような原糸は、高分子鎖間の配列性に優れることで、より優れた滑り特性およびローリング特性を有する原反を製造できるようにする。このような原糸から製造された原反は、耐切創性に非常に優れるため、刃物の刃および鋭い物体により外力が繰り返し加えられる際にも、毛羽が発生するピリング(pilling)現象によって原反が損傷するのを防止することができる。
【0039】
ポリエチレン原糸は、角振動数(ω)に依存する損失弾性率(G’’)のグラフにおいて、角振動数が0.1rad/sであるときに損失弾性率が100Pa~700Pa、具体的には200Pa~500Paでありうるのであり、角振動数0.25rad/s~0.5rad/sの区間で損失弾性率1000Paの地点が現れうる。
【0040】
また、前記角振動数に依存する損失弾性率のグラフにおいて、角振動数(ω)および損失弾性率(G’’)値をログ値に変換した際に、角振動数(logω)0~1rad/sの区間で損失弾性率(logG’’)の平均傾きが0.75~0.9でありうる。
【0041】
また、角振動数(ω)に依存する複素粘度(η*)のグラフにおいて、角振動数が0.1rad/sである際に、3000Pa・s~6000Pa・s、具体的には3700Pa・s~5000Pa・sであってもよく、角振動数0.1rad/s~1rad/sの区間で平均傾きが-1000~-300、具体的には-800~-500でありうる。
【0042】
また、複素剪断弾性係数(G*)に依存する位相角(°)のグラフにおいて、複素剪断弾性係数(G*)が350~1000Paである際に、位相角が60~90°、具体的には75~90°でありうる。
【0043】
上記のような損失弾性率および複素粘度を有することで、本発明は、溶融紡糸に容易な溶融粘度を有することができ、紡糸工程による欠陥の発生を抑制することができる。
【0044】
本発明に係るポリエチレン原糸は、80,000g/mol~180,000g/mol、具体的には100,000g/mol~170,000g/mol、より具体的には120,000g/mol~160,000g/molの重量平均分子量(Mw)を有しうる。
【0045】
また、ポリエチレン原糸は、0.941~0.965g/cmの密度を有する高密度ポリエチレン(HDPE)であってもよく、55~85%、好ましくは60~85%の結晶化度を有しうる。
【0046】
また、ポリエチレン原糸は、5超過9未満の多分散指数(Polydispersity Index:PDI)を有しうる。多分散指数(PDI)は、数平均分子量(Mn)に対する重量平均分子量(Mw)の比(Mw/Mn)であり、分子量分布指数(MWD)と称されたりもする。PDIが5未満であれば、相対的に狭い分子量分布に起因して、流動性が不良であり、溶融押出時の加工性が低く、紡糸工程中に、吐出の不均一による糸切れが引き起こされる。これに対し、PDIが9超過であれば、広い分子量分布に起因して、溶融流動性および溶融押出時の加工性は良くなるものの、低分子量ポリエチレンが過度に多く含まれているため、最終的に得られるポリエチレン原糸の引張強度が低下し得る。
【0047】
このような本発明のポリエチレン原糸は、3.5~8.5g/deの引張強度、15~80g/deの引張モジュラス、および14~55%の破断伸度を有しうる。引張強度が8.5g/de超過であるか、引張モジュラスが80g/de超過であるか、または破断伸度が14%未満であれば、前記ポリエチレン原糸の製織性が不良であるだけでなく、それを用いて製造された原反が、過度にごわごわになり、使用者が不便を感じることになる。これに対し、引張強度が3.5g/de未満であるか、引張モジュラスが15g/de未満であるか、または破断伸度が55%超過であれば、このようなポリエチレン原糸から製造された原反を、使用者が持続的に使用する場合に、前記原反に毛羽が誘発される。
【0048】
本発明のポリエチレン原糸は、円形(circular)断面または異形(non-circular)断面を有しうるが、優れた滑り特性のために円形断面を有することが好ましい。
【0049】
また、本発明のポリエチレン原糸は、原糸を用いて製造される製品が5以上の耐切創性指数を有することができるように11g/d以上、詳細には13g/d以上の強度を有しうる。
【0050】
本発明の原糸を製造する方法は、当業界で周知のポリエチレンを用いた原糸の製造方法であれば、限定なく利用可能である。具体例として、ポリエチレンチップを溶融させてポリエチレン溶融物を得るステップと、複数のノズルホールを有する口金を通じてポリエチレン溶融物を押出すステップと、ポリエチレン溶融物がノズルホールから吐出される際に形成される複数のフィラメントを冷却させるステップと、冷却された前記複数のフィラメントを集束させてマルチフィラメント糸を形成させるステップと、マルチフィラメント糸を5倍~20倍の総延伸比で延伸および熱固定するステップと、延伸された前記マルチフィラメント糸を巻き取るステップと、を含むことで製造されうる。ここで、延伸ステップは、多段延伸で行われ、多段延伸のうちの最後の延伸時の弛緩率は3%~8%以下でありうるが、これに限定されない。前記最後の延伸の際の弛緩率は、延伸後、巻き取られる前に、最後に行われる延伸時の弛緩率を意味する。
【0051】
ポリエチレン溶融物は、押出機内のスクリューにより複数のノズルホールを有する口金に運搬された後、ノズルホールを介して押出される。口金のノズルホールの個数は、製造される原糸のDPF(Denier Per Filament)および総繊度に応じて設定されうる。一具体例として、1~3DPFおよび100~1,000デニールの総繊度を有する原糸を製造するために、口金200は、40~500個のノズルホールを有しうる。
【0052】
押出機内での溶融工程および口金を通じた押出工程は、150~315℃、好ましくは250~315℃、より好ましくは260~290℃で行われうる。紡糸温度が150℃未満である場合には、低い紡糸温度に起因して、ポリエチレンチップの均一な溶融(melting)が行われないことから紡糸が困難であり得る。これに対し、紡糸温度が315℃超過である場合には、ポリエチレンの熱分解が引き起こされることから高強度の発現が難しくなり得る。
【0053】
フィラメントの冷却は、空冷方式で行われうる。例えば、フィラメントの冷却は、0.2~1m/secの風速の冷却風を用いて15~40℃で行われうる。前記冷却温度が15℃未満であれば、過冷却により伸度が不足し、後続の延伸過程で糸切れが発生し得るのであり、前記冷却温度が40℃超過であれば、固化の不均一によりフィラメント間の繊度偏差が大きくなり、延伸過程で糸切れが発生し得る。
【0054】
マルチフィラメント糸を形成させる前に、オイルローラ(OR)もしくはオイルジェット(oil jet)を用いて、冷却されたフィラメントに油剤を与えるオイリング工程(oiling process)がさらに行われうる。油剤付与ステップは、MO(Metered Oiling)方式により行われうる。
【0055】
また、マルチフィラメント糸がワインダに巻き取られる前に、ポリエチレン原糸の集束性および製織性を向上させるために、交絡装置による交絡工程が、さらに行われうる。
【0056】
このような方法により製造されたポリエチレン原糸は、編成または製織することで、耐切創性を有する原反に製造されうる。
【0057】
具体的に、本発明に係るポリエチレン原反は、カバードヤーン(被覆糸; covered yarn)として編成されうる。カバードヤーンは、本発明のポリエチレン原糸を含有する構成であれば限定されないが、一具体例として、本発明のポリエチレン原糸と、ポリエチレン原糸を螺旋状に取り囲むポリウレタン原糸(例えば、Spandex)と、ポリエチレン原糸を螺旋状に取り囲むポリアミド原糸(例えば、ナイロン6またはナイロン66原糸)とを含むことで構成されうる。目的とする製品の特性に応じて、ポリアミド原糸の代わりにポリエステル原糸(例えば、PET原糸)を含みうる。
【0058】
ここで、ポリエチレン原糸の重量は、前記カバードヤーンの全重量の45~85%でありうるのであり、前記ポリウレタン原糸の重量は、前記カバードヤーンの全重量の5~30%でありうるのであって、前記ポリアミドまたはポリエステル原糸の重量は、前記カバードヤーンの全重量の5~30%でありうるが、これに限定されない。
【0059】
一方、本発明に係る原反は、150~800g/mの単位面積当たりの重量(すなわち、面密度)を有する織物または編物でありうる。原反の面密度が150g/m未満であれば、原反の稠密性が不足し、原反内に多くの空隙が存在することになるが、このような空隙は、原反の耐切創性を低下させる。これに対し、原反の面密度が800g/m超過であれば、過度に稠密な原反の構造に起因して、原反が非常にごわごわになり、使用者が感じる触感に問題が発生するのであり、高い重量に起因して使用上の問題が誘発される。
【0060】
このような原反は、優れた耐切創性が求められる製品に加工されうる。製品は、従来の繊維製品が全て可能であるが、好ましくは、人体に防護機能をするための防護用手袋または衣服でありうる。
【0061】
本発明の防護用製品は、切断荷重(Cut Load) 5.5N以上、より好ましくは5.6N~9Nの優れた耐切創性(Cut Resistance)を有するとともに、5gf以下、より好ましくは2~5gfの低い剛軟度を有することで、優れた着用感を示しうる。
【0062】
以下、実施例により本発明についてより詳細に説明する。ただし、下記の実施例は、本発明を詳細に説明するための1つの参照にすぎず、本発明がこれに限定されるものではなく、種々の形態で具現されうる。
【0063】
また、異なるように定義されない限り、全ての技術的用語および科学的用語は、本発明が属する当業者の1人により一般的に理解される意味と同一の意味を有する。本願における説明に用いられる用語は、単に、特定の実施例を効果的に記述するためのものであって、本発明を制限するためのものではない。また、明細書において、特に記載していない添加物の単位は、重量%でありうる。
【0064】
[原糸のレオロジー特性の測定]
レオロジー特性は、DHR-2(TA Instrument)を用いて測定し、測定に用いられたジオメトリーはplate-plate(parallel plate、PP)であって、角速度の変化に依存する、貯蔵弾性率(G’)、損失弾性率(G’’)、tanδ、複素粘度(η*)、および位相角(°)を測定した。測定は、窒素雰囲気下にて250℃の温度で行われ、測定規格(Sample Dimension)は、直径25mm、Gap pointが1.0mm、変形率10%として測定した。
【0065】
図1図5に実施例1および比較例1のレオロジー特性の測定結果のグラフを示した。
【0066】
具体的に、図1は実施例1および比較例1の貯蔵弾性率(G’)、図2は損失弾性率(G’’)、図3はtanδ、図4は複素粘度(η*)、図5は位相角(°)の測定結果である。
【0067】
[防護用手袋の物性の測定]
*耐切創性(Cut Resistance)
防護用手袋の耐切創性は、ISO13997:1999規格にしたがってしたがって測定された。
【0068】
*剛軟度(stiffness)(gf)
防護用手袋の手の平の部分から試験片(横:60mm、縦:60mm)を採取した後、ASTM D885/D885M-10a(2014)のsection 38にしたがって試験片の剛軟度を測定した。測定装置は次のとおりであった。
【0069】
(i)ユニバーサル試験機(CRE-type Tensile Testing Machine; model:INSTRON 3343)
(ii)ロードセル(Loading Cell)、2KN[200kgf]
(iii)試験片ホルダー(specimen holder):section 38.4.3に規定された試験片ホルダー
(iv)試験片抑え具(Specimen Depressor):section 38.4.4に規定された試験片抑え具
【0070】
具体的に、試験片の手袋の外側面が上方を向き、手袋の内側面が下方を向き、手袋の指に隣接した側およびその反対側(すなわち、手袋の手首に隣接した側)が試験片ホルダーにより直接的に支持されるように試験片を試験片ホルダーの中央に載せた。試験片は、曲がることなく扁平な状態を維持した。この際、前記試験片ホルダーの試験片支持部(specimen supporting part)と、試験片抑え具の抑え部(depressing part)との間の距離は5mmであった。次に、試験片抑え具を動かさずにそのまま置いておいた状態で、試験片ホルダーを15mmまで上昇させつつ最大強力を測定した。
【0071】
*耐摩耗度の評価
防護用手袋の耐摩耗度は、ASTM-D 3884規格にしたがって測定された。評価機器としては、マーチンデール(Martindale)摩耗試験機を使用した。この際に用いられた摩擦布は320Cwサンドペーパーであり、付与荷重は500gであった。
【0072】
<実施例1>
240個のフィラメントを含み、総繊度が400デニールであるポリエチレンマルチフィラメント交絡糸を製造した。
【0073】
具体的に、ポリエチレンチップを押出機に投入して溶融させた。ポリエチレン溶融物は、240個のノズルホールを有する口金を通じて押出された。口金のノズルホールから吐出されて形成されたフィラメントは、冷却部により冷却された後、集束機によりマルチフィラメント糸に集束された。次に、マルチフィラメント糸は、延伸部により延伸および熱固定された。
【0074】
前記延伸ステップは、多段延伸で行われ、多段延伸のうちの最後の延伸時の弛緩率は8%であった。次に、延伸されたマルチフィラメント糸は、交絡装置により6.0kgf/cmの空気圧で交絡された後、ワインダに巻き取られた。巻き取り張力は0.6g/dであった。
【0075】
製造された原糸のレオロジー特性を測定して下記表1および図1図5に示した。また、製造された原糸の密度、重量平均分子量、PDIを分析して下記表2に示した。
【0076】
次に、実施例1~実施例3および比較例1~比較例3のPE原糸に、140デニールのポリウレタン原糸(Spandex)、および140デニールのナイロン原糸を螺旋状に取り囲むことで、カバードヤーンを製造した。前記ポリエチレン原糸の重量は、前記カバードヤーンの全重量の60%であり、前記ポリウレタン原糸と前記ナイロン原糸の重量は、それぞれ前記カバードヤーンの全重量の20%であった。前記カバードヤーンを編成(knitting)して防護用手袋を製造した。
【0077】
製造された防護用手袋の物性を測定して下記表3に示した。
【0078】
【表1】
【0079】
【表2】
【0080】
<実施例2~3および比較例1~3>
実施例1において、前記表1および表2の物性を満たすポリエチレン原糸を用いたことを除いては、実施例1と同様の方法で防護用手袋を製造した。
【0081】
【表3】
【0082】
前記表3によると、本発明に係るポリエチレン繊維を用いて製造された実施例の防護用手袋は、優れた耐切創性を有するとともに優れた耐摩耗性を示すことを確認することができ、低い剛軟度を有することになり、比較例に比べて改善された着用感を有することができることを確認することができた。以上、特定の事項と限定された実施例および図面により本発明を説明したが、これは、本発明の、より全般的な理解のために提供されたものにすぎず、本発明は上記の実施例に限定されない。本発明が属する分野における通常の知識を有する者であれば、このような記載から多様な修正および変形が可能である。
【0083】
したがって、本発明の思想は、説明された実施例に限定されて決まってはならず、後述の特許請求の範囲だけでなく、この特許請求の範囲と均等または等価的な変形を有するものは、いずれも本発明の思想の範囲に属するといえる。
図1
図2
図3
図4
図5
【国際調査報告】