(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-10-13
(54)【発明の名称】確率を基にして車両に対して速度を予測するためのコンピュータ支援方法および装置
(51)【国際特許分類】
B60W 40/10 20120101AFI20231005BHJP
【FI】
B60W40/10
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023519538
(86)(22)【出願日】2021-10-01
(85)【翻訳文提出日】2023-05-26
(86)【国際出願番号】 AT2021060355
(87)【国際公開番号】W WO2022067368
(87)【国際公開日】2022-04-07
(32)【優先日】2020-10-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】AT
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】513131176
【氏名又は名称】アーファオエル・リスト・ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(72)【発明者】
【氏名】ニコ・ディドコック
(72)【発明者】
【氏名】アレクサンダー・ヴァッサーブルガー
(72)【発明者】
【氏名】クリストフ・ハメトナー
(72)【発明者】
【氏名】クリスティアン・マイヤー
【テーマコード(参考)】
3D241
【Fターム(参考)】
3D241BA00
3D241DB02Z
(57)【要約】
本発明は、運転動作、特に実運転動作をシミュレートするのに適切である車両に対する運転サイクルを生成するためのコンピュータ支援方法に関する。本コンピュータ支援方法は、過去の速度曲線から現在の時間間隔に対して運転サイクルの状態ベクトルを確定するステップと、加速度予測モデルを提供するステップと、加速度予測モデルおよび状態ベクトルに起因する確率を考慮して加速度値を決定するステップと、次の将来の時間間隔に対して予測速度値を得るために現在の時間間隔にわたって決定した加速度値を積分するステップと、運転サイクルを生成するために過去の速度曲線に予測速度値を追加するステップとを含む。更には、本発明は、運転動作、特に実運転動作をシミュレートするのに適切である車両に対する運転サイクルを生成するための装置ならびに過去の速度曲線から現在の時間間隔に対して運転サイクルの状態ベクトルを確定するための手段と、加速度予測モデルおよび状態ベクトルに起因する確率を考慮して加速度値を決定するための手段と、次の将来の時間間隔に対して予測速度値を得るために現在の時間間隔にわたって決定した加速度値を積分するための手段と、運転サイクルを生成するために過去の速度曲線に予測速度値を追加するための手段とに関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
運転動作、特に実運転動作をシミュレートするのに適切である車両に対する運転サイクルを生成するためのコンピュータ支援方法(100)であって、
過去の速度曲線から現在の時間間隔に対して前記運転サイクルの状態ベクトルを確定するステップ(102)と、
加速度予測モデルを提供するステップと、
前記加速度予測モデルおよび前記状態ベクトルに起因する確率を考慮して加速度値を決定するステップ(103、104、105)と、
次の将来の時間間隔に対して予測速度値を得るために前記現在の時間間隔にわたって前記決定された加速度値を積分するステップ(106)と、
前記運転サイクルを生成するために前記過去の速度曲線に前記予測速度値を追加するステップ(107)とを含む、コンピュータ支援方法。
【請求項2】
前記加速度予測モデルおよび前記状態ベクトルに起因する確率を考慮した加速度値の前記決定するステップ(103、104、105)が、
前記状態ベクトルの関数としての前記加速度予測モデルを用いて加速の現在のシナリオに対する確率値および減速の現在のシナリオに対する確率値および一定速度の状態の現在のシナリオに対する確率値を確定するステップ(103)と、
現在の加速、減速および一定速度シナリオに対する前記確率値に基づいて前記現在の時間間隔に対して加速、減速または一定速度シナリオをランダムに選択するステップ(104)および/または、
前記状態ベクトルの関数としての前記加速度予測モデルを用いて前記ランダムに選択されたシナリオの加速度値の確率分布を確定するステップと、
前記ランダムに選択されたシナリオの加速度値の前記確率分布に基づいて前記現在の時間間隔に対して加速度値をランダムに選択するステップ(105)とを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記運転サイクルが、前記方法の前記ステップ(102、103、104、105、106、107)を前記列記した順に反復的に実行し、各予測速度値が前の反復からの前記過去の速度曲線に追加されることによって生成される、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
将来の時間間隔に対して統計的速度分布が得られるように、前記過去の速度曲線に基づいて同じ将来の時間間隔に対して複数予測速度値がその都度得られる、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
現在の時間間隔に対する前記状態ベクトルが、以下の成分:
現在の速度値、1つまたは複数の過去の速度値、1つまたは複数の時間間隔の1つまたは複数の加速度値、1つまたは複数の時間間隔の1つまたは複数の加速度変化値、進行中の加速操作の継続時間に応じた時間間隔の数に相当する値、進行中の減速操作の継続時間に応じた時間間隔の数に相当する値、および進行中の一定速度状態の継続時間に応じた時間間隔の数に相当する値、の少なくとも1つを含む、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記加速度予測モデルおよび前記状態ベクトルに起因する確率を考慮して決定される前記加速度値が、進行中の加速操作、進行中の減速操作または進行中の一定速度の状態の継続時間に基づく、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記過去の速度曲線が少なくとも1つの速度値を含む、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
加速の前記現在のシナリオおよび/または減速の前記現在のシナリオおよび/または一定速度状態の前記現在のシナリオが加速度値の確率分布を各々呈する、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
加速度値の前記確率分布の期待値が前記過去の速度曲線に基づいて設定される、請求項2から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記加速度予測モデルが、少なくとも1つの実車両の測定された運転データの統計的評価に基づき、好ましくは前記少なくとも1つの実車両の前記測定された運転データが速度値の時系列を含むだけである、請求項1から9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
アダプティブクルーズコントロールシステム、特に、詳細には予測運転機能のための、運転者支援システムを使用して車両を運転するための方法であって、前記車両の前方で運転する前記車両の前記運転サイクルが、請求項1から10のいずれか一項に記載の方法を使用して決定される、方法。
【請求項12】
将来の時間間隔に対して統計的速度分布が得られるように、前記過去の速度曲線に基づいて同じ将来の時間間隔に対して複数予測速度値が得られ、前記統計的速度分布から、前記車両を運転するための安全条件が導出される、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
特に予測運転機能のための、運転者支援システムによる使用に適切である車両に対する運転サイクルを生成するための方法であって、請求項1から10のいずれか一項のステップを含む、方法。
【請求項14】
自動車両の少なくとも1つの部品を分析するための方法(200)であって、前記少なくとも1つの部品または前記自動車両が、請求項1から10のいずれか一項に記載の方法を使用して決定される少なくとも1つの運転サイクルに基づいて実または擬似試験動作を受ける、方法。
【請求項15】
前記方法が、
所定数の反復後に前記複数予測速度値の少なくとも1つの境界条件、特に実走行排ガス(RDE)ガイドラインの遵守を検査するステップ(203)であり、前記検査が、特に特定数の反復の各々の終了時に周期的に繰り返され、前記特定数の反復が、特に好ましくは約5分の既定の全時間間隔に相当する、ステップを更に含む、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記検査に基づいて前記現在の時間間隔に対する現在の加速シナリオに対する前記確率値および/または現在の減速シナリオに対する前記確率値および/または現在の一定速度状態シナリオに対する前記確率値を修正するステップ(204)および/または、
前記検査に基づいて前記現在の時間間隔に対する前記加速度値を修正するステップ(206)とを更に含む、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
コンピュータによって実行されると、請求項1から16のいずれか一項に記載の方法のステップをそれに実行させる命令を有するコンピュータプログラム製品。
【請求項18】
請求項17に記載のコンピュータプログラム製品が記憶されるコンピュータ可読媒体。
【請求項19】
運転動作、特に実運転動作をシミュレートするのに適切である車両に対する運転サイクルを生成するための装置(300)であって、
過去の速度曲線から現在の時間間隔に対して前記運転サイクルの状態ベクトルを確定するための手段(301)と、
加速度予測モデルを提供するための手段(302)と、
前記加速度予測モデルおよび前記状態ベクトルに起因する確率を考慮して加速度値を決定するための手段(303)と、
次の将来の時間間隔に対して予測速度値を得るために前記現在の時間間隔にわたって前記決定された加速度値を積分するための手段(304)と、
前記運転サイクルを生成するために前記過去の速度曲線に前記予測速度値を追加するための手段(305)とを備える、装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、運転動作、特に実運転動作をシミュレートするのに適切である車両に対する運転サイクルを生成するためのコンピュータ支援方法および装置に関する。
【背景技術】
【0002】
燃焼機関を持つ車両に対する排ガス規制は、道路上の実際の運転条件にますます近づいている運転条件を織り込むことを目的とする継続的変更を免れない。1つのそのような排ガス規制例が、実際の運転条件下の車両排ガスの試験手順、いわゆる実走行排ガス(RDE:Real Driving Emissions)に関する欧州連合の規制である。これらの試験手順は、例えば車種に関する認可手順の一部である。結果的に、排ガス試験は、もはや一般的に定義された運転サイクルにより車両試験台上で排他的に起こるものではなく、代わりに、例えば、実交通条件および運転者の実際の運転行動の影響を考慮に入れるために実運転条件下で行われる必要がある。
【0003】
例えば、そのために、指令対応排ガス定量のための基準として働くRDE対応運転サイクルに、異なる速度範囲および最小または最大停止時間を伴うルートが含まれなければならない。しかしながら、道路上の実運転条件を織り込むことを目的とする排ガス規制は、複数の異なる運転サイクルを見込んでおり、車両開発過程の間に車両メーカにとって莫大な量の試験を要する。実運転条件下で車両の消費量を定量することができるためには、消費量は、約1000のRDE対応運転サイクルに対して典型的に定量される。この試験労力は、現実的な運転行動を考慮に入れる複数の異なるガイドライン対応運転サイクルをシミュレートすることによって削減できる。
【0004】
そのような運転サイクルを作成するため、運転サイクルをシミュレートするためにマルコフ連鎖またはニューラルネットワークを使用できる。しかしながら、このように生成される運転サイクルは、実道路条件下で測定される運転サイクルから有意な偏差を呈する。代替的に、運転サイクルを生成するために、実道路条件下で測定された短ルートを種々の仕方で組み合わせることができる。しかしながら、このように生成される運転サイクルは、互いに比較的類似しており、そのため車両の実際の平均消費量を定量するには不十分な変動性を与えるだけである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の1つの課題は、車両の実走行挙動に対応する複数の異なる運転サイクルを生成するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この課題は、独立請求項に係るコンピュータ支援方法および装置によって解決される。優先実施形態が従属請求項に主張される。
【0007】
本発明の第1の態様は、運転動作、特に実運転動作をシミュレートするのに適切である車両に対する運転サイクルを生成するためのコンピュータ支援方法に関する。本コンピュータ支援方法は、過去の速度曲線から現在の時間間隔に対して運転サイクルの状態ベクトルを確定するステップと、加速度予測モデルを提供するステップと、加速度予測モデルおよび状態ベクトルに起因する確率を考慮して加速度値を決定するステップと、次の将来の時間間隔に対して予測速度値を得るために現在の時間間隔にわたって決定した加速度値を積分するステップと、運転サイクルを生成するために過去の速度曲線に予測速度値を追加するステップとを含む。
【0008】
本発明の意味における運転サイクルとは、特に、一定の速度値が割り当てられる一時間間隔または、各々一定の速度値が割り当てられる、複数時間間隔の時系列である。
【0009】
本発明の意味における運転サイクルの現在の時間間隔とは、特に、過去の運転サイクル時間間隔の直後であり、かつ有限値またはゼロであることができる、現在の速度値が割り当てられる時間間隔である。
【0010】
本発明の意味における過去の速度曲線とは、特に、速度値が割り当てられる現在の時間間隔および/または速度値が割り当てられる過去の時間間隔および/または、各々一定の速度値が割り当てられる、複数の過去の時間間隔である。速度値は、有限値またはゼロであることができる。
【0011】
本発明の意味における加速度値は、正加速度の場合は正値または負加速度、本明細書において減速度とも称される、の場合は負値である。
【0012】
本発明の意味における現在の時間間隔に対する運転サイクルの状態ベクトルとは、特に、1つもしくは複数の速度値および/または1つもしくは複数の加速度値および/または1つもしくは複数の加速度変化値および/または時間間隔の数を示す1つもしくは複数の値に成分が対応するベクトルである。
【0013】
本発明の意味における加速度予測モデルとは、特に、現在の時間間隔に対してまたは現在の時間間隔の時系的に後の1つもしくは複数の時間間隔に対して1つまたは複数の加速度値を決定するためのモデルである。本発明の意味における加速度予測モデルは、条件付き加速度予測(CAP)とも称することができる。
【0014】
本発明は、特に、過去の速度曲線、すなわち現在の時間間隔および/または少なくとも1つの過去の時間間隔と関連付けられた少なくとも1つの速度値、から現在の時間間隔での運転サイクルの現在の状態を表す状態ベクトルを確定し、そして状態ベクトルおよび確率ベースの加速度予測モデルを使用して現在の時間間隔に対して加速度値を決定する手法に基づく。現在の時間間隔にわたってこのように決定した加速度値を積分することによって、過去の速度曲線に追加される将来の時間間隔に対して予測速度値が得られる。
【0015】
先行技術と比較して、本発明に係る車両に対する運転サイクルを生成するためのコンピュータ支援方法は、一方では、不同の速度曲線を有し、他方では、加速度予測モデルの使用により実条件下で測定される運転サイクルとの大きな類似性を示す、任意の数の運転サイクルを生成することができるという利点を有する。
【0016】
運転サイクルを生成するための方法の1つの優先実施形態において、加速度予測モデルおよび状態ベクトルに起因する確率を考慮した加速度値の決定ステップは、状態ベクトルの関数としての加速度予測モデルを用いて加速の現在のシナリオに対する確率値および減速の現在のシナリオに対する確率値および一定速度の状態の現在のシナリオに対する確率値を確定するステップを含む。確率を考慮した加速度値の決定ステップは、現在の加速、減速および一定速度シナリオに対する確率値に基づいて現在の時間間隔に対して加速、減速または一定速度シナリオをランダムに選択するステップおよび/または、ランダムに選択したシナリオの加速度値の確率分布を確定するステップと、状態ベクトルの関数としての加速度予測モデルを用いたランダムに選択したシナリオの加速度値の確率分布に基づいた現在の時間間隔に対する加速度値のランダム選択ステップとを更に含む。
【0017】
本発明の意味における現在のシナリオとは、特に、現在の時間間隔における加速、減速または一定速度の状態である。
【0018】
本発明の意味におけるランダム選択とは、特に、ランダムサンプリング、または統計的意味におけるランダムサンプリングである。
【0019】
現在の加速、減速および一定速度シナリオに対する確率値に基づいた加速、減速または一定速度シナリオのランダム選択ステップの他に加速度値の確率分布に基づいた現在の時間間隔に対する加速度値のランダム選択ステップは、以下の利点を有する:加速度予測モデルを使用して同じ過去の速度曲線から、互いとの類似性がない複数の運転サイクルを生成できる。その上、それらは、実運転条件下で車両の平均消費量を定量するのに十分な変動性を与える。
【0020】
運転サイクルを生成するための方法の更なる優先実施形態において、運転サイクルは、本方法のステップを列記した順に反復的に実行し、各予測速度値が前の反復からの過去の速度曲線に追加されることによって生成される。これは、任意の長さの運転サイクルを生成することができるという利点を有する。
【0021】
運転サイクルを生成するための方法の更なる優先実施形態において、将来の時間間隔に対して統計的速度分布が得られるように、過去の速度曲線に基づいて同じ将来の時間間隔に対して複数予測速度値がその都度得られる。将来の時間間隔に対する統計的速度分布は、生成された運転サイクルの統計的評価を許容する。例えば、それによって統計的速度分布のそれぞれの期待値に対応する速度値を有する運転サイクルを作成できる。
【0022】
運転サイクルを生成するための方法の更なる優先実施形態において、状態ベクトルは、現在の時間間隔に対して、少なくとも1つの現在の速度値および/または1つもしくは複数の過去の速度値および/または1つもしくは複数の時間間隔の1つもしくは複数の加速度値および/または1つもしくは複数の時間間隔の1つもしくは複数の加速度変化値および/または進行中の加速操作の継続時間に応じた時間間隔の数に相当する値および/または進行中の減速操作の継続時間に応じた時間間隔の数に相当する値および/または進行中の一定速度状態の継続時間に応じた時間間隔の数に相当する値を示す。
【0023】
本発明の意味における時間間隔加速度変化とは、特に、時間間隔内の加速度値と前の時間間隔における加速度値との間の差である。
【0024】
本発明の意味における加速操作とは、特に、過去に、すなわち現在の時間間隔より前の過去の時間間隔において始まった1つまたは複数の時間間隔にわたる任意の加速度値の連続加速過程である。進行中の加速操作とは、加速操作が現在の時間間隔の直前の時間間隔まで続くことを意味する。
【0025】
本発明の意味における減速操作とは、特に、過去に、すなわち現在の時間間隔より前の過去の時間間隔において始まった1つまたは複数の時間間隔にわたる任意の負加速度値の減速の連続過程である。進行中の減速操作とは、減速操作が現在の時間間隔の直前の時間間隔まで続くことを意味する。
【0026】
本発明の意味における一定速度状態とは、特に、過去に、すなわち現在の時間間隔より前の過去の時間間隔において始まった1つまたは複数の時間間隔にわたる一定の速度値の維持である。進行中の一定速度の状態とは、一定速度の状態が現在の時間間隔の直前の時間間隔まで続くことを意味する。
【0027】
現在の時間間隔の状態ベクトルが、進行中の加速操作の継続時間に応じた値、進行中の減速操作の継続時間に応じた値、および/または進行中の一定速度状態の継続時間に応じた値を含むので、運転サイクルの既に生成された部分内の加速操作、減速操作の継続時間および/または一定速度状態の継続時間が運転サイクルの更なる経過に影響を有する。
【0028】
車両の実走行挙動に応じて、運転サイクルの過去における加速操作の継続時間が、運転サイクルの現在の時間間隔におけるおよび将来の時間間隔における加速操作の継続に対して本発明に従って確定される確率に影響を有する。同じことが減速操作および一定速度状態にも当てはまる。現在の時間間隔および将来の時間間隔に対するランダムに選択されたシナリオの加速度値の確定された確率分布は、運転サイクルの過去における加速操作、減速操作または一定速度状態の継続時間にも依存している。これは、生成される運転サイクルおよび実条件下で測定される運転サイクルの類似性を更に増加させるという利点を有する。
【0029】
運転サイクルを生成するための方法の更なる優先実施形態において、加速度予測モデルおよび状態ベクトルに起因する確率を考慮して決定される加速度値は、進行中の加速操作、進行中の減速操作または進行中の一定速度の状態の継続時間に基づく。これは、加速操作、減速操作または一定速度状態の継続時間が実運転条件に適合され、そのため生成される運転サイクルと実条件下で測定される運転サイクルとの間の類似性を更に増加させることができるという利点を有する。
【0030】
運転サイクルを生成するための方法の更なる優先実施形態において、過去の速度曲線は、少なくとも1つの速度値を含む。少なくとも1つの速度値は、有限値またはゼロであることができる。これは、運転サイクルを単一の速度値から生成することができるという利点を有する。
【0031】
運転サイクルを生成するための方法の更なる優先実施形態において、加速の現在のシナリオおよび/または減速の現在のシナリオおよび/または一定速度状態の現在のシナリオは、加速度値の確率分布を各々呈する。これは、生成された運転サイクルの統計的評価を可能にする。例えば、それによって個々の時間間隔における加速度値の確率分布のそれぞれの期待値に対応する加速度値に基づく速度値で運転サイクルを作成できる。
【0032】
運転サイクルを生成するための方法の更なる優先実施形態は、過去の速度曲線に基づいて加速度値の確率分布の期待値を設定する。好ましくは、モデル化された確率分布の期待値は、現在の速度値および過去の速度値を基にして導出される。好ましくは、モデル化された確率分布の期待値は、現在の速度値および直前の現在の速度値を基にして設定される。これは、運転サイクルの速度曲線が時系的に円滑または一定の進行を呈するという利点を有する。これは、それによって時間とともに生成される運転サイクルの速度曲線の急上昇を防止して、実条件下で測定される運転サイクルとのその類似性を更に増加させる。
【0033】
運転サイクルを生成するための方法の更なる優先実施形態において、加速度予測モデルは、少なくとも1つの実車両の測定された運転データの統計的評価に基づき、好ましくは少なくとも1つの実車両の測定された運転データは、速度値の時系列を含むだけである。好ましくは、実運転条件下で測定される実車両の運転データは、モデル訓練のために、特にモデルパラメータの決定のために使用される。これは、加速度予測モデルを使用して生成される運転サイクルと実条件下で測定される運転サイクルとの間の類似性を増加させるという利点を有する。
【0034】
本発明の更なる態様は、アダプティブクルーズコントロールシステム、特に、詳細には予測運転機能のための、運転者支援システムを使用して車両を運転するための方法であって、車両の前方で運転する車両の運転サイクルが、列挙した実施形態の1つに係るコンピュータ支援方法を使用して決定される、方法に関する。
【0035】
車両を運転するための方法の1つの優先実施形態において、車両と前方の車両との間の距離は、アダプティブクルーズコントロールのための入力値または境界条件として使用されず、好ましくは車両と前方の車両との間の距離は、それぞれ費用関数解または費用最適化関数解に基づく。車両と前方の車両との間の距離は、そのため一定の変数ではなく、距離を現在の交通条件に適合させることができるという利点を有する。
【0036】
車両を運転するための方法の更なる優先実施形態において、将来の時間間隔に対して統計的速度分布が得られるように、過去の速度曲線に基づいて同じ将来の時間間隔に対して複数予測速度値が得られ、統計的速度分布から、車両を運転するための安全条件が導出される。特に、車両を運転するためのこれらの安全条件の1つが、車両と前方の車両が衝突するのを防止するために2台の車両間に維持される必要がある最小距離を決定することである。これは、それによって車両を運転するときの安全性の増加を可能にする。
【0037】
本発明の更なる態様は、特に予測運転機能のための、運転者支援システムによる使用に適切である車両に対する運転サイクルを生成するための方法に関し、列挙した実施形態の1つに係る運転サイクルを生成するための方法のステップを含む。
【0038】
本発明の更なる態様は、自動車両の少なくとも1つの部品を分析するための方法であって、少なくとも1つの部品または自動車両が、列挙した実施形態の1つに係る運転サイクルを生成するための方法を使用して決定される少なくとも1つの運転サイクルに基づいて実または擬似試験動作を受ける、方法に関する。
【0039】
更に好ましくは、少なくとも1つの自動車両部品を分析するための方法は、所定数の反復後に複数予測速度値の少なくとも1つの境界条件、特に実走行排ガス(RDE)ガイドラインの遵守を検査するステップを含み、検査は、特に特定数の反復の各々の終了時に周期的に繰り返され、特定数の反復は、特に例えば5分の既定の全時間間隔に相当する。これは、RDEガイドライン対応運転サイクルを生成することができるという利点を有する。
【0040】
更に好ましくは、少なくとも1つの自動車両部品を分析するための方法は、検査に基づいて現在の時間間隔に対する現在の加速シナリオに対する確率値および/または現在の減速シナリオに対する確率値および/または現在の一定速度状態シナリオに対する確率値を修正するステップおよび/または、検査に基づいて現在の時間間隔に対する加速度値を修正するステップとを含む。これは、RDEガイドライン対応運転サイクルを生成することができるという利点を有する。
【0041】
本発明の更なる態様は、コンピュータによって実行されると、列挙した実施形態の1つに係る方法のステップをそれに実行させる命令を含むコンピュータプログラム製品に関する。
【0042】
本発明の更なる態様は、列挙した実施形態の1つに係るコンピュータプログラム製品が記憶されるコンピュータ可読媒体に関する。
【0043】
本発明の更なる態様は、運転動作、特に実運転動作をシミュレートするのに適切である車両に対する運転サイクルを生成するための装置ならびに過去の速度曲線から現在の時間間隔に対して運転サイクルの状態ベクトルを確定するための手段と、加速度予測モデルを提供するための手段と、加速度予測モデルおよび状態ベクトルに起因する確率を考慮して加速度値を決定するための手段と、次の将来の時間間隔に対して予測速度値を得るために現在の時間間隔にわたって選択された加速度値を積分するための手段と、運転サイクルを生成するために過去の速度曲線に予測速度値を追加するための手段とに関する。
【0044】
本発明の意味における手段とは、ハードウェアおよび/またはソフトウェアであることができ、特に、好ましくはメモリもしくはバスシステム、および/または1つもしくは複数のプログラムもしくはプログラムモジュールにデータ接続または信号接続される、詳細にはデジタル処理ユニット、特にマイクロプロセッサユニット(CPU)を備える。CPUは、それによってメモリシステムに記憶されるプログラムとして実装されるコマンドを処理し、データバスから入力信号を取り込み、かつ/またはデータバスに出力信号を送るように設計できる。メモリシステムは、1つまたは複数の、特に異なる、記憶媒体、詳細には光学、磁気ソリッドステートおよび/または他の不揮発性媒体を備えることができる。プログラムは、CPUが本明細書に記載される方法のステップを実行でき、そのため特に往復ピストン機関を制御および/または監視できるように、そのような方法を具現化するまたは行うことが可能であるように設けることができる。
【0045】
更なる特徴および利点は、図と併せて以下の説明から導き出される。図は、少なくとも部分的に概略を表す。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【
図1】車両に対する運転サイクルを生成するための本発明によるコンピュータ支援方法の優先的に例証的な実施形態であり、本方法は、実運転動作をシミュレートするのに適切である。
【
図2】車両に対するRDE対応運転サイクルを生成するための本発明によるコンピュータ支援方法の優先的に例証的な実施形態である。
【
図3】実運転動作をシミュレートするのに適切である車両に対する運転サイクルを生成するための装置の優先的に例証的な実施形態である。
【発明を実施するための形態】
【0047】
図1は、車両に対する運転サイクルを生成するための本発明に係るコンピュータ支援方法100の優先的に例証的な実施形態を図示しており、本方法100は、実運転動作をシミュレートするのに適切である。
【0048】
方法100のステップ101は、過去のデータが提供される。過去のデータは、過去の速度データまたは過去の速度曲線を表しており、連続した所定の時間間隔とそれぞれ関連付けられる速度値を含むまたはそれらから成る。所定の時間間隔は、一定の時間間隔であることができ、または長さが変動できる。過去のデータは、単一の時間間隔と関連付けられた単一の速度値を含むまたはそれから成ることができる。この単一の速度値は、ゼロであることもできる。過去の速度曲線の最近の速度値は、現在の時間間隔に割り当てられる。
【0049】
ステップ102において、それぞれ過去の速度データまたは速度曲線から現在の時間間隔に対して状態ベクトルxtが確定される。状態ベクトルxtは、成分として、現在の時間間隔tの現在の速度値vt、現在の時間間隔tの直前の時間間隔t-1の加速度値at-1、現在の時間間隔の直前の加速操作が発生する時間間隔の数に相当する値sa,t、現在の時間間隔の直前の減速操作が発生する時間間隔の数に相当する値se,t、の他に現在の時間間隔の直前の一定速度の状態が維持された時間間隔の数に相当する値sk,tを有する。
【0050】
図1に使用されるs
j,t記号は、s
a,t、s
e,tおよびs
k,tの3つの値を指し、添字jは、加速操作に対してa、減速操作に対してe、または一定速度の状態に対してkを取ることができる。状態ベクトルは、速度値、加速度値、加速度値の変化または時間間隔の数に対応する更なる成分または他の成分を有することができる。
【0051】
ステップ103において、加速度予測モデルを用いて状態ベクトルから現在の加速シナリオに対する確率値p(xt)および現在の減速シナリオに対する確率値q(xt)が確定される。一定速度状態に対する確率値yが、次いで好ましくは以下の関係y=1-p(xt)-q(xt)から生じる。加速度予測モデルは、好ましくは実車両の測定された運転データの統計的評価に基づき、測定された運転データは、時系的に連続した時間間隔と関連付けられた速度値の時系列から排他的に成る。
【0052】
ステップ104において、ステップ103において確定した確率値p(xt)、q(xt)および1-p(xt)-q(xt)に基づいて、次いで3つのシナリオのうちの1つのランダム選択が統計的ランダムサンプリングの意味で続く:すなわち加速シナリオ、減速シナリオ、または一定速度の状態のシナリオ。
【0053】
状態ベクトルの関数としての加速度予測モデルを経由して、ランダムに選択したシナリオに対して加速度値の確率分布が確定され、好ましくはそれに連続確率分布がモデル化される。
【0054】
更に好ましくは、ランダムに選択したシナリオ内の各可能な加速度値に確率を割り当てることができる。
【0055】
ステップ105において、ランダムに選択したシナリオの確立した確率分布から現在の時間間隔tに対して任意のランダム加速度値atの統計的ランダムサンプリングの意味のランダム選択がなされる。
【0056】
ステップ106において、将来の次の時間間隔t+1に対して次の予測速度値vt+1を得るために、ランダムに選択した加速度値atが現在の時間間隔tにわたって積分される。
【0057】
ステップ107において、新たな速度値vt+1は、過去の速度曲線に追加される。時間間隔t+1に対する新たな速度値vt+1は、その後はステップ102における本方法の2回目の反復において現在の時間間隔として扱われる。ステップ102~107を反復的に進むことで、加速度予測モデルの性質により、実条件下で測定される運転サイクルと類似している運転サイクルを作成する。
【0058】
図2は、車両に対するRDE対応運転サイクルを生成するための本発明によるコンピュータ支援方法200の優先的に例証的な実施形態を図示する。
【0059】
方法200のステップ201は、方法100の上記のステップ101と同一である。過去の速度データが提供される。
【0060】
方法200のステップ202は、方法100の上記のステップ102および103を含む。過去の速度曲線から現在の時間間隔に対して状態ベクトルxtが確定される。加速度予測モデルを用いて状態ベクトルから現在の加速シナリオに対する確率値p(xt)および現在の減速シナリオに対する確率値q(xt)が確定される。
【0061】
方法100の反復実行を通じて複数予測速度値が得られて過去の速度曲線に追加された後に、前に予測した、すなわち前に生成した、速度値のRDEガイドラインの基準の遵守の検査が、方法100の所定数の反復の終了時に方法200のステップ203において周期的に繰り返される。例えば、この周期的に繰り返される検査は、運転サイクルの5分の時間帯の経過に相当する数の時間間隔の後にその都度行うことができるが、定期検査のために他の時間帯も可能である。
【0062】
現在の加速シナリオに対するおよび現在の減速シナリオに対する確率値p(xt)およびq(xt)がステップ202において確定された後、ステップ203における検査により、過去の速度曲線に追加された、前に予測した速度値がRDEガイドラインの基準を厳守しないことを示す場合、確立した確率値p(xt)およびq(xt)は、ステップ204においてそれに応じて修正される。
【0063】
現在の加速シナリオまたは減速シナリオは、そのためそれぞれ修正された確率値p'(xt)およびq'(xt)を受ける。例えば、ステップ203における検査により、増速した幹線道路運転の継続中に、前に予測した速度値および対応する時間間隔がRDEガイドラインの基準を満たさないことを示す場合、ステップ204において、加速シナリオに対する確率が修正によって増加され、そして減速シナリオに対する確率がそれに応じて減少される。
【0064】
ステップ205において、その後ステップ204を介して修正された確率値p'(xt)、q'(xt)および1-p'(xt)-q'(xt)に基づいて3つのシナリオのうちの1つがランダムに選択される:すなわち加速シナリオ、減速シナリオ、または一定速度の状態のシナリオ、そして方法100の文脈に記載されるようにランダムに選択したシナリオの確立した確率分布から任意のランダム加速度値atのランダム選択がなされる。
【0065】
ステップ204における修正に代替的または追加的に、ランダムに選択した加速度値は、ステップ203の検査に応じてステップ206において修正でき、それによって修正された加速度値a'tが生成される。
【0066】
ステップ207において、将来の次の時間間隔t+1に対して次の予測速度値vt+1を得るために、修正された加速度値a'tが現在の時間間隔tにわたって積分される。
【0067】
ステップ208において、新たな速度値vt+1は、過去の速度曲線に追加される。時間間隔t+1に対する新たな速度値vt+1は、その後はステップ202における方法200の次の反復において現在の時間間隔として扱われる。ステップ202~208を反復的に進むことで、加速度予測モデルの性質により、実条件下で測定される運転サイクルと類似しており、かつRDEガイドラインを遵守している運転サイクルを作成する。
【0068】
図3は、実運転動作をシミュレートするのに適切である車両に対する運転サイクルを生成するための装置300の優先的に例証的な実施形態を図示する。車両に対する運転サイクルを生成するための装置は、過去の速度曲線から現在の時間間隔に対して運転サイクルの状態ベクトルを確定するための手段301を備える。更には、運転サイクルを生成するための装置は、加速度予測モデルを提供するための手段302と、加速度予測モデルおよび状態ベクトルに起因する確率を考慮して加速度値を決定するための手段303と、次の将来の時間間隔に対して予測速度値を得るために現在の時間間隔にわたって決定した加速度値を積分するための手段304と、運転サイクルを生成するために過去の速度曲線に予測速度値を追加するための手段305とを備える。
【0069】
例証的な実施形態が単に、保護、応用および構成の範囲を限定するとは決して意図されない例であることが留意されるべきである。むしろ、上記説明は、当業者に少なくとも1つの例証的な実施形態を実装するための指針を提供するものであり、それによって特許請求の範囲および特徴の均等な組合せから生じる保護の範囲から逸脱することなく、特に記載される部品の機能および配置に関して、様々な変更を行うことができる。
【符号の説明】
【0070】
300 車両に対する運転サイクルを生成するための装置
301 運転サイクルの状態ベクトルを確定するための手段
302 加速度予測モデルを提供するための手段
303 加速度値を決定するための手段
304 決定した加速度値を積分するための手段
305 過去の速度曲線に予測速度値を追加するための手段
【国際調査報告】