(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-10-13
(54)【発明の名称】眼鏡レンズをコーティングするための蒸着方法、物理蒸着システム及び物理蒸着のためのるつぼ
(51)【国際特許分類】
C23C 14/28 20060101AFI20231005BHJP
C23C 14/06 20060101ALI20231005BHJP
C23C 14/14 20060101ALI20231005BHJP
【FI】
C23C14/28
C23C14/06 E
C23C14/14
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023524418
(86)(22)【出願日】2022-02-25
(85)【翻訳文提出日】2023-04-20
(86)【国際出願番号】 EP2022054807
(87)【国際公開番号】W WO2022184585
(87)【国際公開日】2022-09-09
(32)【優先日】2021-03-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】507062222
【氏名又は名称】カール ツァイス ヴィジョン インターナショナル ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100139491
【氏名又は名称】河合 隆慶
(72)【発明者】
【氏名】アルチュール ラウカート
【テーマコード(参考)】
4K029
【Fターム(参考)】
4K029AA09
4K029BA35
4K029BA43
4K029BA46
4K029BC07
4K029CA01
4K029DB03
4K029DB05
4K029DB07
4K029DB20
4K029DB21
(57)【要約】
本発明は、物理蒸着(PVD)による眼鏡レンズ(3)のコーティングに関する。物理蒸着方法が提示され、本方法は、第1の蒸発材料(41)及び第2の蒸発材料(42)を含むるつぼの提供であって、第1の蒸発材料は、第1の蒸気圧を有し、第2の蒸発材料は、第1の蒸気圧とは異なる第2の蒸気圧を有し、前記るつぼ中の第1の蒸発材料の露出面と第2の蒸発材料の露出面との比が、第1の蒸発材料と前記第2の蒸発材料との間の蒸気圧の差を相殺するように適応している、提供と;同じるつぼからの第1の蒸発材料及び第2の蒸発材料の同時蒸発とを含む。本開示は、更に、物理蒸着のためのるつぼ、及び特に、眼鏡レンズなどの光学面をコーティングするための物理蒸着システムに関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
特に、眼鏡レンズ(3)などの、光学面をコーティングするための、物理蒸着方法であって、前記方法が、
- 第1の蒸発材料(41)及び第2の蒸発材料(42)を含むるつぼ(10)の提供であって、前記第1の蒸発材料(41)は、第1の蒸気圧を有し、前記第2の蒸発材料(42)は、前記第1の蒸気圧とは異なる第2の蒸気圧を有する、提供と;
- 前記同じるつぼ(10)からの前記第1の蒸発材料(41)及び前記第2の蒸発材料(42)の同時蒸発と
を含み;
前記るつぼ(10)の表面での前記第1の蒸発材料(41)の露出面と前記第2の蒸発材料(42)の露出面との比を、前記第1の蒸発材料と前記第2の蒸発材料との間の蒸気圧の差を相殺するように適応させることを特徴とする
方法。
【請求項2】
前記第1及び第2の蒸発材料(41、42)の前記露出面の比は、第1及び第2の蒸発材料の蒸気圧に比に反比例する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記第1の蒸発材料(41)及び前記第2の蒸発材料(42)は、電子ビーム又はレーザー光を使用して蒸発させられ、前記電子ビーム又はレーザー光は、前記第1及び第2の材料の蒸発のために同じ出力に設定される、請求項1~2のいずれか一項に記載の方法。
【請求項4】
より高い蒸気圧を有する前記第1の蒸発材料(41)は、固形物として提供され、及び前記第1の蒸発材料よりも低い蒸気圧を有する前記第2の蒸発材料(42)は、前記第1の蒸発材料の前記固形物を取り囲む顆粒として提供される、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記第1の蒸発材料(41)は、棒、ワイヤ又はシートの少なくとも1つとして提供される、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記第1の蒸発材料(41)の固形物は、前記第2の蒸発材料(42)の顆粒中に真っ直ぐに立っている、請求項4又は5に記載の方法。
【請求項7】
前記第1の蒸発材料(41)の複数の棒、ワイヤ又はシートが提供される、請求項5又は6に記載の方法。
【請求項8】
前記固形物は、前記るつぼの底部に触れることなく前記るつぼ(10)に配置される、請求項4~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記固形物の断面積は、前記るつぼ(10)の高さ方向に垂直の方向で変わる、請求項4~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記第1の蒸発材料(41、44)と、前記第1の蒸発材料よりも低い蒸気圧を有する前記第2の蒸発材料(42、45)とは、前記るつぼ(10)中に顆粒混合物として提供され、及び前記るつぼ(10)中の前記顆粒混合物での前記第1の蒸発材料と前記第2の蒸発材料との比を、前記第1の蒸発材料と前記第2の蒸発材料との間の蒸気圧の差を相殺するように適応させる、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記第1の蒸発材料(41)と、前記第1の蒸発材料よりも低い蒸気圧を有する前記第2の蒸発材料(42)とは、前記るつぼ(10)中に錠剤(46)として提供され、及び前記錠剤(46)における前記第1の蒸発材料と前記第2の蒸発材料との比を、前記第1の蒸発材料と前記第2の蒸発材料との間の蒸気圧の差を相殺するように適応させる、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
特に、眼鏡レンズなどの光学面をコーティングするための、物理蒸着のためのるつぼ(10)であって、前記るつぼが、第1の蒸発材料(41)と第2の蒸発材料(42)とを含み、
ここで、前記第1の蒸発材料(41)は、第1の蒸気圧を有し、前記第2の蒸発材料(42)は、前記第1の蒸気圧とは異なる第2の蒸気圧を有し、
前記るつぼ(10)中の前記第1の蒸発材料(41)の露出面と前記第2の蒸発材料(42)の露出面との比が、前記第1蒸発材料と前記第2の蒸発材料との間の蒸気圧の差を相殺するように適応させられることを特徴とする、
るつぼ。
【請求項13】
特に、眼鏡レンズ(3)などの光学面をコーティングするための、物理蒸着システム(1)であって、前記システムが、
- 真空室(2)と;
- 請求項12に記載のるつぼ(10)と;
- 前記第1の蒸発材料(41)及び前記第2の蒸発材料(42)を前記同じるつぼ(10)から同時に蒸発させるように適応させられた蒸発ユニット(20)と
を含むシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、眼鏡レンズのコーティングに関する。より一般的には、本開示は、物理蒸着(PVD)の分野に関する。PVDは、眼鏡レンズなどの光学面をコーティングするために広く使用されている。特に、本開示は、物理蒸着のための方法、物理蒸着のためのるつぼ及び蒸着システムに関する。
【背景技術】
【0002】
物理蒸気輸送(PVT)とまた言われることもある、物理蒸着(PVD)は、表面上に薄いフィルム及びコーティングを製造するために用いることができる、真空蒸着方法である。PVDにおいて、材料は、凝縮相から気相に進み、次いで薄いフィルム凝縮相に戻る。有利なアプリケーション・シナリオは、眼鏡レンズなどの光学面のコーティングである。
【0003】
コーティングは、例えば、反射防止コーティングを提供するために、又は望ましくない青色光又は赤外(IR)成分をフィルタすることなどの特異的なフィルタ特性を達成するために、光学面に適用され得る。高性能レンズコーティングは、眼鏡を引っかき傷又は粘着性ほこりに対して極めて耐久性のあるものにすることができる。利益として、レンズは、より長期にわたりほこりなしにとどまり得、それらをきれいにするのを著しく容易にする。
【0004】
現代の光源及びディスプレイは、不釣り合いにも大量の青色光を放つ。人体は、睡眠/覚醒サイクルを制御するためにある一定量の青色光を必要とするが、過剰な量の「好ましくない」種類の青色光は、健康リスクを呈し得るし、眼疾患を引き起こし得る。本出願人のZEISS Dura-Vision BlueProtectなどの、調整されたレンズコーティング付きレンズは、高い青色光部分が存在する場合でさえも、快適な視覚を提供するのに役立ち得る、特別なフィルタを特徴とする。
【0005】
ある種の用途では、異なる材料成分又は構成要素を含むコーティングを提供することが望ましいかもしれない。異なる材料成分は、異なる蒸発源から並行して蒸発させることができる。各蒸発源は、コーティング用の組成物を達成するために必要とされる温度まで別々に加熱することができる1つの材料成分入りるつぼを含む。
【0006】
英国特許出願公開第2 230 792 A号明細書は、合金の製造のための物理蒸着プロセスに用いるための装置及び方法を開示している。異なる蒸発材料用の個別の温度制御付きの少なくとも2つの別個の蒸発源を提供することが提案されている。
【0007】
英国特許出願公開第2 230 792 A号明細書に記載されている方法は、独立した温度に維持される少なくとも2つのエバポレータから構成要素を蒸発させること、構成要素蒸気を、蒸気混合室内でそこを画定する容器に流入させること、蒸気混合室を区切るそれの部分において容器壁を、より熱い若しくは最も熱いエバポレータほどに少なくとも高い温度まで加熱し、それによって室壁上での蒸気の凝縮を抑えながら蒸気の反射によってそれぞれの構成要素蒸気の混合を高めること、及び混合された蒸気に容器の排出開口部を通過させ、温度制御されたコレクタ上に衝突させることを含む。
【0008】
国際公開第2011/085109 A1号パンフレットは、タービンエンジンのコーティングに関する。異なる蒸気圧を持った材料の同時蒸発及び蒸着のための方法が開示されている。第1の材料の及び第2の材料の要素を有する2つの密に隣接するるつぼが電子ビームを適用することによって同時蒸発させられる多源蒸発プロセスを用いることが提案されている。2つの密に隣接するるつぼは、デュアルるつぼとも言われる。電子ビームは、第1の材料を基材上へ蒸着させるために第1の蒸気圧を有する第1の材料を蒸発させるための第1の出力で使用される。電子ビームは、第2の材料を基材上へ蒸着させるために第2の蒸気圧を有する第2の材料を蒸発させるための第2の出力で使用される。提案された蒸着方法は、多数の蒸発源からの蒸着が、より大きい及びより幅広い基材表面積一面に蒸着層の新しい組成物を形成するのを可能にすることによって直接蒸着プロセスを改善するであろう。
特開平1275747 A号公報は、薄い金属フィルムの製造を記載している。二次電子ビーム源からの制御された電子ビームは、高蒸気圧成分の濃度が異なる一次蒸着材料及び二次蒸着材料を選択的に加熱するために屈折させられる。
【0009】
しかしながら、前述の方法の欠点は、それらがかなり複雑であり、且つ既存の真空蒸着装置の実質的な変更を必要とすることであると本発明者は認めた。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0010】
物理蒸着のための改善されたシステム及び方法を提供することが本発明の目的である。特に、複雑なコーティングを提供するための費用を削減すること及び/又は限られた努力で高品質コーティングを提供することが有利であろう。特に既存の真空蒸着装置の実質的な変更を必要とすることなしに、既存の蒸着システムをレトロフィットすることを可能にするがまた有利であろう。
【0011】
これらの懸案事項の1つ以上により良く対処するために、本発明の第1の態様によれば、物理蒸着のための、特に、眼鏡レンズなどの光学面をコーティングするための方法が提供される。本方法は、第1の蒸発材料及び第2の蒸発材料を含むるつぼの提供(ここで、第1の蒸発材料は、第1の蒸気圧を有し、第2の蒸発材料は、第1の蒸気圧とは異なる第2の蒸気圧を有し、ここで、前記るつぼ中の第1の蒸発材料と第2の蒸発材料との比は、第1の蒸発材料と第2の蒸発材料との間の蒸気圧の差を相殺するように適応させられる)と、同じるつぼからの第1の蒸発材料及び第2の蒸発材料の同時蒸発とを含む。もっと正確に言えば、前記るつぼの表面での第1の蒸発材料の露出面と第2の蒸発材料の露出面との比は、第1の蒸発材料と第2の蒸発材料との間の蒸気圧の差を相殺するように適応させることができる。
【0012】
更なる態様によれば、物理蒸着のための、特に、眼鏡レンズなどの光学面をコーティングするためのるつぼであって、第1の蒸発材料及び第2の蒸発材料を含むるつぼ(ここで、第1の蒸発材料は、第1の蒸気圧を有し、第2の蒸発材料は、第1の蒸気圧とは異なる第2の蒸気圧を有し、ここで、前記るつぼ中の第1の蒸発材料と第2の蒸発材料との比は、第1の蒸発材料と第2の蒸発材料との間の蒸気圧の差を相殺するように適応させられる)が提供される。もっと正確に言えば、前記るつぼの表面での第1の蒸発材料の露出面と第2の蒸発材料の露出面との比は、第1の蒸発材料と第2の蒸発材料との間の蒸気圧の差を相殺するように適応させることができる。
【0013】
その上別の態様によれば、特に、眼鏡レンズなどの光学面をコーティングするための物理蒸着システムであって、真空室と;上記のようなるつぼと;第1の蒸発材料及び第2の蒸発材料を前記同じるつぼから同時に蒸発させるように適応させられた蒸発ユニットとを含むシステムが提供される。
【0014】
本発明者らは、既存の真空蒸着システムが多くの場合ただ一つの加熱源又は蒸発ユニットを有するにすぎず、ただ一つの蒸発材料をただ一つのるつぼから一度に蒸発させるために使用されていることを認めた。異なる蒸発材料入りの異なるるつぼが、例えば誘電性反射防止コーティングなどの層シーケンスを光学面上へ蒸着させるために、その後蒸発ユニットに提供される。より複雑な真空蒸着システムは、それぞれが別個のるつぼを有する、複数の加熱源又は蒸発ユニットを並行して含み得る。蒸発材料は、異なる蒸気圧を有し得るので、異なる蒸発ユニットは、個別に制御され、所望の蒸着速度を達成するために異なる電子ビーム出力を使用する。しかしながら、構成及び制御は複雑である。
【0015】
本発明の基本的なアイデアは、前記るつぼからの第1及び第2の蒸発材料の蒸発が、コーティングされる表面上で所望のコーティング組成物を提供するように、単一個体るつぼの内容物の組成を特に適応させることである。異なるるつぼ中の第1及び第2の蒸発材料の異なる蒸気圧を埋め合わせるために電子ビーム出力を適応させる代わりに、単一個体るつぼの内容物の組成が変更されることが提案される。前記るつぼ中の第1の蒸発材料と第2の蒸発材料との比は、第1の蒸発材料と第2の蒸発材料との間の蒸気圧の差を相殺するように適応させられる。これ故に、第1及び第2の蒸発材料は異なる蒸気圧を有するけれども、コーティングの所望の組成を達成できるように所望の化学量論又は化学量論比を達成することができる。これ故に、異なる加熱又は電子ビーム若しくはレーザー光出力で第1及び第2の蒸発材料を蒸発させることは必要ではない。これは、制御を簡単にする。更に、既存の蒸着装置は、るつぼの配置に関しても、蒸発ユニットの適応制御及び/又はビームステアリングに関しても、実質的な変更なしに使用することができる。
【0016】
本発明の好ましい実施形態は、従属請求項に定義されている。特許請求されるるつぼ及び物理蒸着システムが、物理蒸着のための特許請求される方法のような、特に従属請求項に定義されるような及び本明細書で開示されるような、類似の及び/若しくは同一の微調整又は好ましい実施形態を有することができることは理解されるであろう。
【0017】
任意選択的に3つ以上の蒸発材料が、コーティングの所望の組成に応じて、使用され得ることが理解されるであろう。第3の蒸発材料は、第1及び/又は第2の蒸気圧とは異なる、その上別の第3の蒸気圧を有し得る。第1の蒸発材料と、第2の蒸発材料と第3の蒸発材料との比は、したがって、第1の蒸発材料と、第2の蒸発材料と第3の蒸発材料との間の蒸気圧の差を相殺するように適応させられ得る。更なる蒸発材料が使用される場合に同じ考察が当てはまる。
【0018】
以下に、本明細書の全体にわたって用いられるいくつかの用語が、手短に説明され、定義されるであろう:
【0019】
本明細書で用いられるような用語蒸気圧(平衡蒸気圧又は飽和蒸気圧)は、閉鎖系において所定温度で、その凝縮相(固体又は液体)と熱力学的平衡状態にある蒸気によってもたらされる圧力を言い得る。平衡蒸気圧は、液体の蒸発速度の指標である。それは、液体又は固体から抜け出す粒子の傾向に関連している。第1及び第2の蒸発材料は、通常、固体形態で提供され、蒸発ユニットによって蒸発させられる。用語蒸発材料は、したがって、蒸発させられる材料を意味する。蒸発ユニットは、特に、第1及び第2の蒸発材料を蒸発させる(昇華させる)ために電子ビーム又はレーザー光を使用する、加熱源であることができる。
【0020】
本明細書で用いられるような用語るつぼは、蒸発材料用の交換可能な容器を言い得る。それは、単一個体るつぼを言う、すなわち、2つの密に隣接するるつぼのデュアルるつぼではない。るつぼは、物理蒸着システムの真空室中のるつぼホルダーへ入れることができる。第1及び第2の蒸発材料は、特に電子ビーム又はレーザー光を使用して蒸発材料に熱を加えることによって前記同じただ一つのるつぼから蒸発させられる。
【0021】
本明細書で用いるところでは、るつぼ中の第1の蒸発材料と第2の蒸発材料との比は、るつぼ中の第1の蒸発材料の濃度と第2の蒸発材料の濃度との比を言い得る。混合物の組成を表す異なる方法があるように、成分の濃度を表すための異なる方法がまたあることは理解されるであろう。比は、モル分率、体積分率、質量分率等として表され得る。基本的な教示は、るつぼ中の第1の蒸発材料と第2の蒸発材料との比が、第1の蒸発材料及び第2の蒸発材料の蒸気圧の差を相殺するように適合させられることである。例えば、第1の蒸発材料はAgであり、第2の蒸発材料はSiO2であり、所望のコーティングは、類似の量のAg及びSiO2を含むであろう。Ag及びSiO2の1:1の比が、例えば1000℃の温度で提供される場合に、これは、SiO2に関して低い圧力約10-3~10-2Pa(圧力の単位パスカル)及びAgに関して約1Paの高い蒸気圧を意味するであろう。これ故に、Ag及びSiO2が(異なる蒸発材料に関して電子ビーム出力を適応させることなく)同じただ一つのるつぼから蒸発させられる場合、これは、SiO2と比較して約100~1000倍の量のAgが蒸着させられることを意味するであろう。これ故に、所与の例において、蒸気圧の差は、るつぼ中のSiO2の量を100~1000倍提供することによって相殺され得る又は埋め合わせられ得る。前記るつぼ中の第1の蒸発材料と第2の蒸発材料との比はまた、第1の蒸発材料と第2の蒸発材料との間の異なる蒸気圧を相殺するように適応させられることに加えて、蒸着されるコーティングでの第1の蒸発材料と第2の蒸発材料との所望の混合比を提供するように適応させられ得ることが理解されるであろう。
【0022】
特に明記しない限り、本出願との関連で用いられる専門用語は、標準ISO 13666:2019(E)における定義に対応する。
【0023】
物理蒸着のための方法の微調整において、前記るつぼの表面での第1の蒸発材料の露出面と第2の蒸発材料の露出面との比は、第1の蒸発材料と第2の蒸発材料との間の蒸気圧の差を相殺するように適応させられる。言い換えれば、前記るつぼ中の第1の蒸発材料と第2の蒸発材料との比は、第1の蒸発材料及び第2の蒸発材料の表面比を言い得る。第1及び第2蒸発材料が蒸着プロセス中に蒸発するにつれて、表面比は意図的に変えられ得ることが指摘されるべきである。これは、蒸着されるコーティングの組成を注意深く調整することを可能にする。利点は、複雑な制御戦略も、及び異なる材料用の別個のるつぼも必要とされないことである。
【0024】
第1及び第2の蒸発材料の露出面の比は、第1及び第2の蒸発材料の蒸気圧の比に反比例し得る。言い換えれば、本明細書で用いるところでは、反比例するは、より容易に(例えば、より低い温度で又はより高い蒸気圧で)蒸発する蒸発材料に対してより小さい露出面が提供され、蒸発するのがより容易ではない(例えば、より高い温度で又はより低い蒸気圧で)蒸発材料に対してより大きい露出面が提供され、それによって第1の蒸発材料と第2の蒸発材料との間の蒸気圧の差を相殺することを意味する。第1の蒸発材料と第2の蒸発材料との所望の比を構成するために追加の因子が考慮され得ることが理解されるであろう。例えば、2:1の比のAg及びSiO2が提供される場合、露出面の比もまた、蒸着される第1及び第2の蒸発材料の所望の比に比例し、第1及び第2の蒸発材料の蒸気圧の比に反比例し得る。これ故に、第1及び第2の蒸発材料の蒸発のための電子又はビームの制御は、簡単にされ得る。加熱源の制御を適応させる代わりに、第1及び第2の蒸発材料の内容物の構成が適応させられる。
【0025】
上に示されたように、第1の蒸発材料及び第2の蒸発材料は、電子ビーム又はレーザー光を使用して蒸発させられ得る。有利には、前記電子ビーム又はレーザー光は、第1及び第2材料の蒸発のために同じ出力に設定され得る。利点は、制御が簡単にされ得ることである。例えば、レガシー・システムが、ビーム出力を変更しなければならないことなしに使用され得る。ビームは、変更なしに全体るつぼにわたって簡単にスキャンし得る。既存の制御が使用され得る。利点には、容易なレトロフィッティングが含まれ得る。
【0026】
第1の蒸発材料は、第2の蒸発材料よりも高い蒸気圧を有し得る。特に、第1の蒸発材料の第1の蒸気圧は、第2の蒸発材料の第2の蒸気圧の少なくとも5倍、少なくとも10倍、少なくとも50倍又は少なくとも100倍であり得る。これ故に、提案される解決策は、強く異なる蒸気圧に対しても有利に用いられ得る。従来のシステムは、異なる蒸気圧の材料に対して、特に強く異なる蒸気圧に対して異なるるつぼを使用したので、これは、やや意外である。
【0027】
ある実施形態では、より高い蒸気圧を有する第1の蒸発材料は、固形物として提供され得、第1の蒸発材料よりも低い蒸気圧を有する第2の蒸発材料は、第1の蒸発材料の固形物を取り囲む顆粒として提供され得る。本発明者らは、この特有の配置が、更に改善されたコーティング品質、特に、蒸着されるコーティングの高い均質性を提供し得ることを認めた。固形物が、るつぼの内容物の表面レベルの真下で蒸発し始める場合、顆粒は、その大きい顆粒表面のおかげで固形物の(直接)蒸発を減速する。これ故に、より高い蒸発圧力固形物の蒸発と、より低い蒸発圧力顆粒の蒸発とのある程度の自動平衡が達成される。
【0028】
より低い蒸発圧力材料の顆粒によって取り囲まれる固形物として提供されるより高い蒸発圧力材料は、第1の蒸発材料と第2の蒸発材料との間の有利な伝熱を提供し得る。可能な説明は、第1の蒸発材料の固形物が、電子ビーム又はレーザー光が材料を加熱する表面から離れて、より低い層への伝熱を容易にし、それによってより高い真空圧を有する第1の蒸発材料の蒸発を遅くし;一方、第2の蒸発材料の顆粒が、第2の蒸発材料の十分な蒸発が達成されるように伝熱を低減することである。本明細書で用いるところでは、用語取り囲むは、少なくとも部分的に取り囲む、すなわち、必ずしも全ての側面で取り囲んでいるわけではないとして理解され得る。本明細書で用いるところでは、顆粒は、8mm以下の、特に5mm以下の、特に3mm以下の、特に1mm以下の最大粒度(最大粒径)を有する複数の粒子を含む又は粒子からなる。用語顆粒はまた、微細顆粒としての粉末を言い得る。第1の蒸発材料の固形物の少なくとも1つの拡大は、第2の蒸発材料の顆粒の最大粒度(最大粒径)の少なくとも2倍、特に少なくとも3倍、特に少なくとも4倍、特に少なくとも6倍、特に少なくとも10倍である
【0029】
第1の蒸発材料の固形物は、第2の蒸発材料の顆粒の任意の個別の部分の少なくとも10倍、特に少なくとも100倍、特に1000倍の質量又は体積を有し得る。第1の蒸発材料の固形物の上部は、電子ビーム又はレーザー光での蒸留のために利用可能であり;第2の蒸発材料の顆粒の上部は、電子ビーム又はレーザー光での蒸発のために利用可能である。蒸発のために利用可能である又は露出されている第1及び第2の蒸発材料のそれぞれの(有効な)表面は、したがって、第1の蒸発材料と第2の蒸発材料との間の蒸気圧の差を相殺するように適応させられた第1の蒸発材料と第2の蒸発材料との比を提供することができる。
【0030】
微調整において、第1の蒸発材料は、棒、ワイヤ又はシートの少なくとも1つとして提供することができる。特に、第1の蒸発材料の固形物は、第2の蒸発材料の顆粒中に真っ直ぐに立っていてもよい。固形物は、例えば、るつぼの高さ方向に伸び得る棒、ワイヤ又はシートとして提供され得る。るつぼが真空室中の蒸発位置に置かれる場合、高さ方向は、重力に平行な方向と言うことができる。
【0031】
任意選択的に、第1の蒸発材料の複数の棒、ワイヤ又はシートが提供される。幾つかのより小さい棒又はワイヤは、1つの太い棒、ワイヤ又は厚いシートよりもコーティングの良好な性能及び均質性を提供し得ることが見いだされた。直接昇華が容易にされ、顆粒のより低い層中へ横に流れ込み得る材料の大きいドロップが形成され得るリスクを低減することができる。例えば、複数のより細いワイヤ、例えば0.2mm以下の直径を有するワイヤが、1つのより太いワイヤ、例えば少なくとも0.5mmの直径を有するワイヤの代わりに使用され得る。より太いワイヤと同じ断面積を有するより細いワイヤの組合せ。同様に、固形物としての薄いシート又は箔は、太いワイヤ又は棒よりも良好な性能を提供し得る。一般に、固形物の形状、例えば、直接昇華を可能にする、又は深み中への熱伝導を阻止し得る大きいドロップの代わりに非常に小さいドロップレットしかもたらさない形状は、ドロップの形成を妨げるように適応させられ得る。
【0032】
固形物は、るつぼの底部に触れることなくるつぼ中に配置され得る。例えば、固形物は、第2の蒸発材料の顆粒中に真っ直ぐに立っていてもよい。第1の蒸発材料の固形物の真下に第2の蒸発材料の顆粒の底部層があり得る。固形物がるつぼの底部に触れないことの利点は、電子ビーム加熱を使用しているときに、るつぼの底部への望ましくない電流路を回避できることであり得る。これは、第1の蒸発材料の過度の局在化を低減し得、こうして蒸発プロセス及びしたがってコーティングの質を高めることを可能にする。
【0033】
固形物の断面積は、るつぼの高さ方向に垂直の方向で変わり得る。それによって、前記るつぼの表面での第1の蒸発材料の露出面と第2の蒸発材料の露出面との比は、第1及び第2の蒸発材料が蒸発するにつれて変わる。これ故に、変化する濃度プロファイルが、容易なことにターゲット上に蒸着させられるコーティングの厚さにわたって発生することができる。蒸発プロセスのための電子ビーム若しくはレーザー光出力の深さに依存しない適応、又は異なるるつぼに関するビーム出力の注意深い調整が必要とされ得る。これ故に、複雑なコーティングプロファイルの蒸着を簡単にすることができる。高さ方向は再び、重力の方向を言い得る。
【0034】
第1の蒸発材料と、第1の蒸発材料よりも低い蒸気圧を有する第2の蒸発材料とは、任意選択的に、るつぼ中に顆粒混合物として提供され得る。るつぼ中の顆粒混合物での第1の蒸発材料と第2の蒸発材料との比は、第1の蒸発材料と第2の蒸発材料との間の蒸気圧の差を相殺するように適応させることができる。これ故に、顆粒混合物は、代替案として提供され得る。例えば、異なる体積百分率の第1及び第2の蒸発材料を使用することができる。例えば、SiO2中に0.1…1原子%のAgを含む顆粒混合物は、蒸気圧の差を相殺する又は埋め合わせることができる。
【0035】
第1の蒸発材料と、第1の蒸発材料よりも低い蒸気圧を有する第2の蒸発材料とは、任意選択的に、るつぼ中に錠剤として提供され得る。錠剤中の第1の蒸発材料と第2の蒸発材料との比は、第1の蒸発材料と第2の蒸発材料との間の蒸気圧の差を相殺するように適応させることができる。錠剤は、本明細書で用いるところでは、固形物の圧縮された又は成形されたブロックを言い得る。錠剤は、るつぼ中へ入れられ得る。利点は、るつぼに装填するときに容易なハンドリングであることである。
【0036】
上述の特徴及びこれから下で説明されるものは、本発明の範囲から逸脱することなく、それぞれ示される組合せでのみならず、他の組合せでも又は別々にも、使用され得ることが理解されるべきである。
【0037】
本発明のこれらの態様及び他の態様は、本明細書で以下に記載される実施形態から明らかであろうし、実施形態に関連して明瞭にされるであろう。以下の図面において、
【図面の簡単な説明】
【0038】
【
図1】異なる蒸発材料で満たされた異なるるつぼを使った物理蒸着のための従来システムの実施形態の略図を示す;
【
図2】本開示の態様による模範的な物理蒸着システムの実施形態の略図を示す;
【
図3a-3f】異なる蒸気圧を有する第1の蒸発材料及び第2の蒸発材料を含むるつぼの幾つかの模範的な構成を示す;
【
図4】物理蒸着のための、特に、眼鏡レンズなどの光学面をコーティングするための方法方法のフローチャートを示す。
【発明を実施するための形態】
【0039】
図1は、特に、眼鏡レンズなどの光学面をコーティングするための、従来の物理蒸着システム1を示す。物理蒸着システム1は、真空室2を含む。真空室の内部に、蒸発材料41を蒸発させる及びホルダー4中の基材3上へ蒸着させるために、るつぼ10及び蒸発ユニット20が提供される。基材は、眼鏡レンズなどの光学要素であることができる。複数のレンズホルダーが提供され得ること、及び複数のレンズが並行してコーティングされ得ることが理解されるであろう。
図1に示される実施形態では、るつぼ10は、蒸発場所にあるるつぼホルダー11中へ挿入される。
【0040】
材料の物理蒸着のために、電子ビーム蒸発が使用され得る。源21からの電子ビーム22は、るつぼ10中の、蒸発材料41、すなわち、蒸発させられる材料を蒸発させるために使用することができる。電子ビーム物理蒸着において、蒸発させられる材料は、高真空中での電子衝撃によって加熱され、拡散により運ばれて(クーラー)ワークピース又は基材3上での凝縮により蒸着する。しかしながら、他の加熱方法も同様にうまく用いられ得る。例えば、パルスレーザー蒸着では、高出力レーザーが材料をるつぼから蒸気へと消散させ得る。
【0041】
物理蒸着における重要なパラメータは、蒸着プロセス中の真空室の真空圧、電子ビームによって使用される走査パターン(すなわち、るつぼ中の蒸発材料一面への電子ビームの繰り返し誘導)及び電子ビームの出力である。パターン及び出力は、材料の表面一面の均質性に影響を及ぼす。既存の真空蒸着システムでは、パターン及び出力変動を変える可能性は非常に限られるかも知れない。固定パターンは、所定のやり方でるつぼの部分一面に統計的スキャンを設定され得る。そのような境界条件にもかかわらず、より多種多様なコーティングを提供することが望ましいであろう。るつぼからの蒸発速度Φ
eは、プロセスパラメータ真空室圧力P
h及び温度T並びに材料パラメータ飽和蒸気圧P
e及び使用される材料のモル質量Mに依存する:
【数1】
(式中、α
eは、係数0…1であり、N
Aは、アボガドロ定数を示し、Rは、気体定数又はモルガス定数を示す)。るつぼ10からの蒸発速度は、基材3上の蒸着速度を決定する。
【0042】
ある種の用途では、異なる材料成分又は構成要素を含むコーティングを提供することが望ましい場合がある。異なる材料成分は、異なる蒸発源から並行して蒸発させることができる。各蒸発源は、別々に加熱してコーティングにとって望ましい組成を達成することができる1つの材料成分入りのるつぼを含む。
図1に言及すると、従来の物理蒸着システムでは、第2の蒸発材料42を蒸発させる及び蒸着させるための第2のるつぼ10’及び第2の蒸発ユニット20’がしたがって提供される。第2のるつぼ10’は、第2の蒸発場所にある第2のホルダー11’中に置かれる。第2の蒸発ユニット20’は、第2のるつぼ10’中の第2の蒸発材料42への第2の電子ビーム22’を提供する第2の電子源21’を含み得る。(第1の)るつぼ20から蒸発する第1の蒸発材料41及び第2のるつぼ20’から蒸発する第2の蒸発材料42は、こうして、基材3上に所望のコーティング組成物を形成し得る。(第1の)蒸発ユニット20及び第2の蒸発ユニット20’は、注意深く制御されなければならない。
【0043】
しかしながら、第2の蒸発ユニット20’及び第2のるつぼ10’を設置することが可能ではない既存の蒸着システムがあり得る。これ故に、かなり実質的な変更が、既存の真空蒸着装置で必要とされ得る。更に、第1及び第2の蒸発ユニット20、20’の制御は、注意深く調整され、それによってシステム複雑性を増大させるであろう。
【0044】
図2は、本開示の態様による模範的な物理蒸着システムの実施形態の略図を示す。類似の成分は、
図1でのものと同じ参照番号によって示される。しかしながら、第1及び第2の蒸発材料41、42に異なるるつぼを提供する代わりに、単一個体るつぼ10からの第1及び第2の蒸発材料41、42の蒸発が、コーティングされる基材3上に所望のコーティング組成物を提供するように、前記るつぼ10の内容物の組成を適応させることが特に提案される。したがって、るつぼは、第1の蒸発材料41及び第2の蒸発材料42を含む。第1の蒸発材料41は、第1蒸気圧を有し、第2の蒸発材料42は、第1の蒸気圧とは異なる第2の蒸気圧を有する。前記るつぼ10中の第1の蒸発材料と第2の蒸発材料との比は、第1蒸発材料と第2の蒸発材料との間の蒸気圧の差を相殺するように特に適応させられる。これ故に、第1及び第2の蒸発材料は異なる蒸気圧を有するけれども、コーティングの所望の組成を達成することができるように、所望の化学量論又は化学量論比を達成することができる。これ故に、異なる加熱又は電子ビーム若しくはレーザー光出力で第1及び第2の蒸発材料を蒸発させることは必要ではない。これは、制御を簡単にする。更に、既存の蒸着装置は、るつぼの配置に関しても、蒸発ユニットの適応制御及び/又はビームステアリングに関しても、実質的な変更なしに使用することができる。特に、提案される解決策は、ただ一つの加熱源を有する蒸発ユニットで混合コーティングの蒸着を可能にする。更に、コーティングの均質性は、異なる材料成分が実質的に異なる角度方向から受け取られ得る、別個のるつぼでの解決策と比較して改善され得る。これ故に、不均質性は、簡単な、その上有効なやり方で低減され得る。
【0045】
第1及び第2の蒸発材料のモル質量の差は存在し得るけれども、それらは一般に、第1の蒸発材料と第2の蒸発材料との間の蒸気圧の差よりも少なくとも1桁低いので、これらの差は一般に無視することができ、したがって、手順を簡単にするために無視され得ることを本発明者らは認めた。
【0046】
図3a~3fは、第1の蒸発材料41及び第2の蒸発材料42を含むるつぼ10の構成の幾つかの模範的な断面図を例示する。
【0047】
図3aに示される例では、より高い蒸気圧を有する第1の蒸発材料41は、棒の形態での固形物として提供される。第2の蒸発材料42は、第1の蒸発材料の固形物を取り囲む顆粒として提供される。例えば、第1の蒸発材料41は、SiO
2の顆粒中に真っ直ぐに立っているAgの棒であり得る。前記るつぼ10の表面での第1の蒸発材料の露出面と第2の蒸発材料の露出面との比は、第1の蒸発材料41と第2の蒸発材料42との間の蒸気圧の差を相殺するように適応させられる。固形物41は、るつぼの底部に触れることなくるつぼ10中に配置され得る。上で説明されたように、これは、潜在的に不安定なやり方での固形物の追加の加熱を誘導するであろう、るつぼの(接地した)底部の方への固形物を通っての高い電流を回避し得る。それによって、プロセス安定性を更に改善することができる。
【0048】
図3bの例において、第1の蒸発材料41の複数のワイヤが提供される。第2の蒸発材料42は、第1の蒸発材料の複数のワイヤを取り囲む顆粒として提供される。るつぼ10中の複数のワイヤの配置は、条件:
【数2】
を満たすように適応させることができる。
それによって、露出面の比は、効率よく近似値を求めることができる。
【0049】
図3cは、第1の蒸発材料41、第2の蒸発材料42及び第3の蒸発材料43が提供されている、例を示す。第3の蒸発材料43は、第1の蒸発材料41の第1の蒸気圧よりも低いが、第2の蒸発材料42の第2の蒸発圧力よりも低い第3の蒸気圧を有する。第1、第2及び第3の蒸発材料の比は、第1の蒸発材料と、第2の蒸発材料と第3の蒸発材料との間の蒸気圧の差を相殺するためにしたがって適応させられる。
【0050】
図3dは、第1の蒸発材料44と、第1の蒸発材料よりも低い蒸気圧を有する第2の蒸発材料45とが、るつぼ10中に顆粒混合物として提供される、例を示す。るつぼ中の顆粒混合物での第1の蒸発材料と第2の蒸発材料との比は、第1の蒸発材料と第2の蒸発材料との間の蒸気圧の差を相殺するように適応させられる。それにもかかわらず、
図3a~3cの例が一般に好ましい。第1の蒸発材料が顆粒混合物中で激減し得るような高い速度で、顆粒混合物中のより高い蒸気圧が蒸発するリスクがあるので、それらは、更にいっそう均質なコーティングを提供し得る。これ故に、棒又はワイヤなどの固形物として第1の蒸発材料を提供することが好ましい。更に、るつぼ中の材料が、通常、全て蒸発するわけではないことを考えると、第1の蒸発材料が固形物として提供される場合に、残りの材料のリサイクリングが容易にされる。これはまた、製造コストを削減し得る。
【0051】
図5eは、第1の蒸発材料47と、第1の蒸発材料よりも低い蒸気圧を有する第2の蒸発材料48とがるつぼ中に錠剤として提供される、例を示す。錠剤中の第1の蒸発材料と第2の蒸発材料との比は、第1の蒸発材料と第2の蒸発材料との間の蒸気圧の差を相殺するように適応させられる。そのような錠剤は、容易なハンドリングを可能にする。それにもかかわらず、
図3a~3cの例が、この解決策よりも他の利点を提供し得る。錠剤での異なる蒸気圧はストレスにつながり得、ストレスは、蒸発材料の1つの爆発をもたらし、それによってコーティングの均質性を危うくし得る。更に、錠剤からの残りの蒸発材料のリサイクリングは、困難であり得る。任意選択的に、顆粒層49は、錠剤46がるつぼ10の底部に触れないように錠剤46の真下に提供され得る。
【0052】
図3fは、第1の蒸発材料41の固形物の断面積がるつぼの高さ方向に垂直の方向で変わり得る、例を示す。高さ方向は、
図3fにおいて矢印zで示される。それによって、前記るつぼの表面での第1の蒸発材料の露出面と第2の蒸発材料の露出面との比は、第1及び第2の蒸発材料が蒸発するにつれて変わる。これ故に、変化する濃度プロファイルが、容易なことにターゲット上に蒸着させられるコーティングの厚さにわたって発生することができる。蒸発プロセスのための電子ビーム若しくはレーザー光出力の深さに依存しない適応、又は異なるるつぼに関するビーム出力の注意深い調整が必要とされ得る。
【0053】
図4は、特に、眼鏡レンズなどの光学面をコーティングするための、物理蒸着のための方法のフローチャートを示す。第1のステップS401において、第1の蒸発材料及び第2の蒸発材料を含むるつぼが提供される。第1の蒸発材料は第1の蒸気圧を有し、第2の蒸発材料は、第1の蒸気圧とは異なる第2の蒸気圧を有する。前記るつぼ中の第1の蒸発材料と第2の蒸発材料との比が、第1の蒸発材料と第2の蒸発材料との間の蒸気圧の差を相殺するように適応させられるように、るつぼの内容物は特に適応させられる。
【0054】
ステップS402において、真空は、その中でるつぼが蒸発場所に置かれている真空室を排気することによって提供することができる。任意選択のステップS403は、均熱段階を意味する。るつぼ中の材料は、シャッターを閉じた前記均熱段階において予備加熱され得る。シャッターは、るつぼからコーティングされる要素へのパスを閉鎖する。ステップS404において、シャッターは開けられ得る。模範的な任意選択のシャッター50は、
図2に例示される。シャッターは、矢印51で示されるように格納され得、るつぼ10からコーティングされる基材3へのパスを解放する。
【0055】
ステップS405において、第1の蒸発材料及び第2の蒸発材料は、同じるつぼから同時に蒸発させられる。このステップは、コーティング段階と言うことができる。
【0056】
有利には、短い均熱及び/又は短いコーティング段階が用いられる。それによって、例えば、第1の蒸発材料の固形物から第2の蒸発材料の顆粒中へ、流れ出得る第1の蒸発材料のドロップレットの形成を低減することができる。均熱段階及び/又はコーティング段階は、15秒未満、10秒未満、又は5秒未満のうちの少なくとも1つの継続時間を有し得る。そのようなパラメータは、固形物の溶融及び顆粒中への固形物からのドロップレットの流れが回避される又は少なくとも低減されることができるので、有利であることを証明した。これ故に、本方法は、例えば15nm厚さ未満の薄いコーティング層にとって特にうまく機能し得る。
【0057】
本発明は、図面及び前述の説明において詳細に例示され、記載されてきたが、そのような例示及び記載は、例示的又は模範的なものであり、限定的ではないと考えられるべきであり;本発明は、開示された実施形態に限定されない。開示された実施形態への他の変形は、図面、開示、及び添付の特許請求の範囲の研究から、特許請求される発明を実施する際に当業者によって理解される及び達成されることができる。
【0058】
請求項において、語「含む」は、他の要素又はステップを排除せず、不定冠詞「ア(a)」又は「アン(an)」は、複数を排除しない。ただ一つの要素又は他のユニットが、請求項に列挙された幾つかのアイテムの機能を果たし得る。ある種の手段が互いに異なる従属請求項において列挙されているという単なる事実は、これらの手段の組合せが有利に使用できないことを示すものではない。
【0059】
請求項におけるいかなる引用符号も、その範囲を限定すると解釈されるべきではない。
【国際調査報告】