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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-10-13
(54)【発明の名称】アルカリ金属電池のための電解質膜
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0565 20100101AFI20231005BHJP
   H01B 1/06 20060101ALI20231005BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20231005BHJP
   H01M 10/054 20100101ALI20231005BHJP
   C01B 21/082 20060101ALI20231005BHJP
【FI】
H01M10/0565
H01B1/06 A
H01M10/052
H01M10/054
C01B21/082 K
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023544181
(86)(22)【出願日】2021-09-28
(85)【翻訳文提出日】2023-05-18
(86)【国際出願番号】 US2021052361
(87)【国際公開番号】W WO2022067239
(87)【国際公開日】2022-03-31
(31)【優先権主張番号】17/486,597
(32)【優先日】2021-09-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】63/084,068
(32)【優先日】2020-09-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523111290
【氏名又は名称】エンパワー グリーンテック, インコーポレイテッド
(71)【出願人】
【識別番号】500039463
【氏名又は名称】ボード オブ リージェンツ,ザ ユニバーシティ オブ テキサス システム
【氏名又は名称原語表記】BOARD OF REGENTS,THE UNIVERSITY OF TEXAS SYSTEM
【住所又は居所原語表記】210 West 7th Street Austin,Texas 78701 U.S.A.
(74)【代理人】
【識別番号】100134832
【弁理士】
【氏名又は名称】瀧野 文雄
(74)【代理人】
【識別番号】100165308
【弁理士】
【氏名又は名称】津田 俊明
(74)【代理人】
【識別番号】100115048
【弁理士】
【氏名又は名称】福田 康弘
(72)【発明者】
【氏名】シュ ヘンホイ
(72)【発明者】
【氏名】リ ユータオ
(72)【発明者】
【氏名】チェ ヨン
(72)【発明者】
【氏名】グッドイナフ ジョン ビー.
【テーマコード(参考)】
5G301
5H029
【Fターム(参考)】
5G301CA06
5G301CD01
5G301CE01
5H029AJ02
5H029AM16
5H029CJ02
5H029CJ06
5H029CJ08
5H029HJ01
5H029HJ04
5H029HJ07
(57)【要約】
本開示は、アルカリ金属又はアルカリ金属イオン電池のための電解質膜であって、イオン伝導性ポリマーを含む複合膜と、アルカリ金属塩と、窒化炭素ナノシート、含酸素窒化炭素ナノシート又はそれらの組み合わせを含むフィラーと、を備えた電解質膜に関する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルカリ金属イオン電池のための電解質膜であって、
イオン伝導性ポリマーを含むマトリックスと、
アルカリ金属塩と、
窒化炭素ナノシート、含酸素窒化炭素ナノシート又はそれらの組み合わせを含むフィラーと、を備えた、電解質膜。
【請求項2】
前記窒化炭素がg-Cを含む、請求項1に記載の電解質膜。
【請求項3】
前記フィラーが、含酸素窒化炭素ナノシートを含む、請求項1に記載の電解質膜。
【請求項4】
前記フィラーの量が、前記伝導性ポリマーの全重量に対しておよそ0.5重量%から10重量%の範囲である、請求項1に記載の電解質膜。
【請求項5】
前記フィラーの前記量が、前記伝導性ポリマーの全重量に対しておよそ2重量%から5重量%の範囲である、請求項4に記載の電解質膜。
【請求項6】
前記フィラーの前記量が、前記伝導性ポリマーの全重量に対しておよそ2重量%である、請求項5に記載の電解質膜。
【請求項7】
前記窒化炭素ナノシート、前記含酸素窒化炭素ナノシート又はそれらの組み合わせの表面積は、100m/gより大きい、請求項1に記載の電解質膜。
【請求項8】
前記窒化炭素ナノシート、前記含酸素窒化炭素ナノシート又はそれらの組み合わせは、多孔質である、請求項7に記載の電解質膜。
【請求項9】
前記窒化炭素ナノシート、前記含酸素窒化炭素ナノシート又はそれらの組み合わせが、前記ポリマーマトリックス中に均一に分散している、請求項1に記載の電解質膜。
【請求項10】
前記伝導性ポリマーが、ポリビニリデンジフルオリド(PVDF)、ポリアクリロニトリル(PAN)又はポリエチレンオキシド(PEO)のうちの少なくとも1つを含む、請求項1に記載の電解質膜。
【請求項11】
前記アルカリ金属塩が、LiTFSI、LiFSI、LiClO、NaTFSI、NaFSI及びNaClOからなる群から選択される、請求項1に記載の電解質膜。
【請求項12】
前記アルカリ金属塩の量が、前記伝導性ポリマーの全重量に対しておよそ50重量%から80重量%の範囲である、請求項1に記載の電解質膜。
【請求項13】
アルカリ金属イオン電池のための電解質膜を作成する方法であって、
イオン伝導性ポリマーを含むマトリックス、アルカリ金属塩及び溶媒を混合して組成物を得る工程と、
前記組成物と、窒化炭素ナノシート、含酸素窒化炭素ナノシート又はそれらの組み合わせを含むフィラーとを組み合わせて懸濁液を得る工程と、
前記懸濁液を成形し乾燥させて電解質膜を形成する工程と、を有する、方法。
【請求項14】
アノードと、
カソードと、
前記アノードと前記カソードとの間に配置された請求項1に記載の電解質膜と、を備えた、アルカリ金属電池。
【請求項15】
前記電解質膜が、およそ10ミクロンから100ミクロンの厚さを有する、請求項14に記載のアルカリ金属電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
<関連出願の相互参照>
本出願は、2020年9月28日に出願された米国仮出願第63/084,068号の利益を主張する。
【0002】
<連邦政府による資金提供を受けた研究開発の記載>
該当せず。
【背景技術】
【0003】
<共同開発契約に関する記載>
クレームされた発明は、共同開発契約の当事者であるEnpower Greentech社及びテキサス大学(オースティン市)のうちの一方若しくは両方によって、一方若しくは両方を代表して、及び/又は、一方若しくは両方に関連してなされた。本契約は、特許請求の範囲に記載の発明がなされた日以前に効力が発生し、特許請求の範囲に記載の発明は本契約の範囲内で取り組んだ活動の結果として行われたものである。
【0004】
本開示は、概して、電解質膜に関する。より詳細には、本開示は、窒化炭素ナノシート、含酸素窒化炭素ナノシート又はそれらの組み合わせを含むフィラーを有するポリマーベースの電解質膜に関する。
【0005】
高安全・高エネルギー密度のリチウム金属電池の開発は、インテリジェントエレクトロニクス、電気自動車及びグリッドスケールエネルギー貯蔵システムの高まり続ける市場を満たすために非常に高い需要がある。現行の液体有機電解質を安全な固体電解質に置き換えることは、現在、この開発を達成するための最も実行可能かつ有効なストラテジーである。セラミック電解質と比較して、ポリ(エチレンオキシド)(PEO)のようなポリマー電解質は広く研究されている。PEO電解質は、低い界面抵抗、高い可撓性及びシンプルな加工性を示す。しかしながら、PEOベースのポリマー電解質は、1)室温でのイオン伝導率が低いことから、電解質を50℃より高い温度に加熱するのに余分なエネルギーを消費すること、2)特に高い電流密度においてリチウムデンドライト成長を抑制する能力が乏しいこと、3)熱安定性が低いことから、ショートサーキット熱暴走が生じること、及び4)電気化学窓(electrochemical window)が狭いことから、高電圧ニッケル・マンガン・コバルト(NMC)ベースのカソードとの組み合わせでの使用が制限されること、などの不利益な欠点のためにいまだ商業化されていない。
【0006】
したがって、室温での性能が向上した別のポリマー電解質システムの開発が依然として非常に望ましい。ポリビニリデンジフルオリド(PVDF)ベースのポリマー電解質は室温でのリチウム塩の解離における高い極性のために注目を集めている。具体的には、LiLaZr12(LLZO)のようなLi伝導性フィラーを含むPVDFベースの電解質は、室温での高Li伝導率、良好な耐火性及び広い電気化学窓を示す。イオン伝導率の増加は主にLi伝導性LLZO自体の寄与からではなく、LLZOフィラーとPVDF/LiTFSIマトリックスとの間の界面相互作用からくるものである。したがって、PVDFベースの複合電解質においては、PVDF/LiTFSI(リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド)マトリックスと十分に相互作用するのに十分な界面活性領域を提供するためにかなりの量のLLZO(約30重量%)が必要であり、このことは電解質のエネルギー密度を大きく犠牲にする。さらに、PVDFはリチウム金属で不安定であり、リチウム金属アノードと接触するとサイクル中に徐々に分解し、これにより、その長期的なサイクル性がかなり制限される。Li伝導性セラミックフィラーはポリマー電解質の総伝導率にほとんど寄与しないので、大きな表面積とPVDF/LiTFSIマトリックスとの強い相互作用を有する不活性フィラーは電解質のイオン伝導率を高めるのに有効であると期待される。
【発明の概要】
【0007】
本開示の第1の態様では、本明細書において、アルカリ金属イオン電池のための電解質膜であって、イオン伝導性ポリマーを含むマトリックスと、アルカリ金属塩と、窒化炭素ナノシート、含酸素窒化炭素ナノシート又はそれらの組み合わせを含むフィラーとを備えた電解質膜が提供される。
【0008】
本願明細書及び特許請求の範囲の全体を通して、窒化炭素ナノシート、含酸素窒化炭素ナノシート及びそれらの組み合わせについて議論する。当業者に明らかなように、これは材料の単一シートを意味するものではなく、代わりに、本発明で利用されるように、材料は複数のシートを含むことが理解されるべきである。したがって、便宜上、それは、窒化炭素ナノシート、含酸素窒化炭素ナノシート及びそれらの組み合わせと称され、つまりこれらの材料の複数のシートから構成されているにもかかわらず、そのように称される。さらに、本開示の好ましい実施形態は電解質膜中に非イオン伝導性ポリマーを含まず、好ましくは、イオン伝導性ポリマーのみが本開示による電解質膜の形成に使用される。
【0009】
本開示の第1の態様の一実施形態では、窒化炭素はグラファイト状窒化炭素(g-C)である。
【0010】
本開示の第1の態様の一実施形態では、フィラーが含酸素窒化炭素(OCN)ナノシートを含む。
【0011】
本開示の第1の態様のいくつかの実施形態では、フィラーが含酸素窒化炭素ナノシートを含み、フィラーは、伝導性ポリマーの全重量に対しておよそ0.5重量%から10重量%の量で、より好ましくはおよそ2重量%から5重量%の量で存在する。本開示の例示的な実施形態では、含酸素窒化炭素ナノシートの量は伝導性ポリマーの全重量に対しておよそ2重量%である。
【0012】
本開示の第1の態様の一実施形態では、窒化炭素ナノシート、含酸素窒化炭素ナノシート又はそれらの組み合わせはアルカリ金属塩に対して不活性であり、100m/gを超える大きい表面積を有する。本開示の例では、表面積は約171m/gである。窒化炭素ナノシート、含酸素窒化炭素ナノシート又はそれらの組み合わせは、シート状であり、多孔質である。
【0013】
本開示の第1の態様の一実施形態では、窒化炭素ナノシート、含酸素窒化炭素ナノシート又はそれらの組み合わせがマトリックス全体にわたって分散している。本開示の例示的な実施形態では、窒化炭素ナノシート、含酸素窒化炭素ナノシート又はそれらの組み合わせがマトリックス全体にわたって均一に分散している。
【0014】
本開示の第1の態様の一実施形態では、ポリマーがポリビニリデンジフルオリド(PVDF)又はポリアクリロニトリル(PAN)である。
【0015】
本開示の第1の態様の一実施形態では、アルカリ金属塩が、LiTFSI(ビス(フルオロスルホニル)イミドリチウム)、LiFSI(ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドリチウム)、LiClO(過塩素酸リチウム)、NaTFSI(ビス(フルオロスルホニル)イミドナトリウム)、NaFSI(ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドナトリウム)及びNaClO(過塩素酸ナトリウム)からなる群から選択される。
【0016】
本開示の第1の態様の一実施形態では、アルカリ金属塩の量が、伝導性ポリマーの全重量に対しておよそ50重量%から80重量%の範囲で存在する。
【0017】
本開示の第2の態様では、本明細書において、アルカリ金属イオン電池のための電解質膜を作成する方法であって、イオン伝導性ポリマーを含むマトリックス、アルカリ金属塩及び溶媒を混合して組成物を得る工程と、この組成物と、窒化炭素ナノシート、含酸素窒化炭素ナノシート又はそれらの組み合わせを含むフィラーとを組み合わせて懸濁液を得る工程と、この懸濁液を成形し乾燥させて電解質膜を形成する工程と、を有する方法が提供される。
【0018】
本開示の第3の態様では、本明細書において、アノードと、カソードと、アノードとカソードとの間に配置された本開示による電解質膜とを備えたアルカリ金属イオン電池が提供される。
【0019】
本開示における新しい特徴は添付の特許請求の範囲に詳細に記載されている。本開示の特徴及び利点のより良い理解は、本開示の原理が利用される例示的な実施形態を記載する以下の詳細な説明及び添付の図面を参照することによって得られる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本明細書に記載の一実施形態によるPVDF/LiTFSI/OCN膜の表面の走査電子顕微鏡(SEM)画像であり、挿入図はガラス管に巻かれたときの膜の優れた可撓性を示す。
図2】OCN(含酸素窒化炭素)ナノシート材料単独と、PVDF/LiTFSI膜と、2wt%のOCNを含むPVDF/LiTFSI/OCN膜と、PVDF膜単独とのX線回折(XRD)パターンを示す。
図3】異なる量のOCNを含むPVDF/LiTFSI/OCN膜のインピーダンス分光法イオン伝導率を示す。
図4】2wt%のOCNを有するPVDF/LiTFSI/OCN膜を有するLi対称型セルの電流対時間プロファイルを示し、挿入図は、OCNフィラーを加える前とOCNフィラーを加えた後のPVDF/LiTFSIのインピーダンススペクトルを示す。
図5】PVDF/LiTFSI膜と2wt%のOCNを有するPVDF/LiTFSI/OCN膜のリニアスイープボルタンメトリー曲線を示す。
図6】2wt%のOCNを有するPVDF/LiTFSI/OCN膜(上段)とPVDF/LiTFSI膜(下段)の着火試験を示す。
図7】2wt%のOCNを有するPVDF/LiTFSI/OCN膜(上段)とPVDF/LiTFSI膜(下段)の温度分布画像を示す。
図8】3つのパネル(a)、(b)、(c)を示す。パネル(a)は、バルクCのXRDパターンと、バルクCを空気中に曝した後のナノシートCを示す。パネル(b)は、20ミリグラムのバルクCの写真とナノシートC材料の写真を示す。パネル(c)は、バルクCとナノシートCについての、それぞれの表面積を試験するためのN2吸着脱着等温曲線のトレースを示す。
図9】5つのパネル(a)から(e)及びパネル(e)の2つのサブパネルを示す。パネル(a)はバルクC材料の走査電子顕微鏡画像を示す。パネル(b)はナノシートC材料の走査電子顕微鏡画像を示す。パネル(c)はナノシートC材料の透過電子顕微鏡(TEM)画像である。パネル(d)は、ナノシートC材料のエネルギー分散X線分光法(EDX)スペクトルである。パネル(e)はナノシートC材料の走査電子顕微鏡画像であり、サブパネルのうちの上段のサブパネルはこの画像からの炭素の分布を示し、下段のサブパネルは窒素の分布を示す。
図10】6つのパネル(a)から(f)を示す。パネル(a)はPVDF/LiTFSI溶液のバイアルを示す。パネル(b)はPVDF/LiTFSI/CNナノシート材料の懸濁液のバイアルを示す。パネル(c)は、パネル(b)に示すバイアル中の材料組成から形成された電解質膜を示す。パネル(d)は、ガラス管に巻かれたパネル(c)の膜を示す。パネル(e)は、異なる量の窒化炭素ナノシートフィラーを有するPVDFから形成される一連の膜を示す。パネル(f)は、パネル(e)に示される組成物を有する膜の室温伝導率の一連のトレースを示す。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本開示のいくつかの態様は、例示のための適用例を参照して以下に記載される。本開示の完全な理解を提供するために、多数の特定の詳細、関係及び方法が示されていることを理解すべきである。但し、当該分野の当業者は、本開示が一以上の特定の詳細を含まずに又は他の方法で実施可能であることを容易に認識するであろう。本開示は、行為又はイベントの図示された順序によって限定されるものではなく、なぜなら、ある行為は異なる順序で及び/又は他の行為若しくはイベントと同時に生じ得るからである。
【0022】
別段の定めがない限り、本明細書において使用されるすべての技術的及び科学的用語は、本開示が属する技術分野の当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。本明細書で使用される用語は、特定の実施形態のみを記載するためのものであり、本開示を限定することを意図するものではない。本明細書で使用されるように、単数形「a」、「an」及び「the」は、文脈において明らかに別段定めていない限り複数形も含むことが意図される。
【0023】
さらに、「含んでいる」、「含む」、「有する」との用語又はその変形が詳細な説明及び/又は特許請求の範囲において使用される場合、そのような用語は、「備える」との用語に同様のかたちで包含されることが意図される。
【0024】
「およそ」との用語は、当業者により決定される特定の値について許容可能な誤差範囲内であることを意味し、これは、その値がどのように測定又は決定されるかに依存し、すなわち、測定システムの限界に部分的に依存する。例えば、「およそ」とは、当該分野のプラクティスにしたがい、1標準偏差の範囲内又は1を超える標準偏差の範囲内を意味することができる。あるいは、「およそ」は、所与の値の±20%まで、好ましくは±10%まで、より好ましくは±5%まで、最も好ましくは±1%までの範囲を意味することができる。あるいは、特に生物学的システム又はプロセスに関して、この用語は、値の10倍以内、好ましくは5倍以内、より好ましくは2倍以内を意味することができる。特定の値が明細書及び特許請求の範囲に記載されている場合は、別段の記載がない限り、「およそ」との用語は特定の値に対する許容可能な誤差範囲内であることを意味すると仮定すべきである。
【0025】
「g-C」との用語は、Cに近い一般的公式と、ヘプタジン及びポリ(トリアジンイミデ)単位に基づく2つの主要な下位構造を有する炭素窒化化合物のファミリーであるグラファイト状窒化炭素を指す。
【0026】
アルカリ金属塩は、LiTFSI、LiFSI、LiClO、NaTFSI、NaFSI、NaClOを含む(但しこれらに限定されない)当該分野で入手可能な任意の適切なアルカリ金属塩であってもよい。
【0027】
ポリマーは、ポリビニリデンジフルオリド(PVDF)、ポリアクリロニトリル(PAN)、及びポリ(エチレンオキシド)(PEO)を含む(但しこれらに限定されない)当該分野で入手可能な任意の適切なイオン伝導性ポリマーであってもよい。
【0028】
本開示の電解質膜を作成するための溶媒は、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)及びジメチルホルムアミド(DMF)を含む(但しこれらに限定されない)当該分野で入手可能な任意の適切な溶媒であってもよい。
【0029】
本開示のさらなる態様では、アルカリ金属イオン電池は、アノードと、カソードと、アノードとカソードとの間に配置された本開示の電解質膜とを含むことができる。
【0030】
アルカリ金属イオン電池は固体電池であってもよく、電解質膜は固体電解質であってもよい。
【0031】
アノードは、当該分野で入手可能な任意の適切なアルカリ金属を含む金属又は金属合金電極を含む。本開示の例示的な実施形態では、アノードはリチウム金属電極である。あるいは、アノードはナトリウム金属又はナトリウム合金電極であってもよい。
【0032】
カソードは、当該分野で入手可能なアルカリ金属又はアルカリイオン電池に適したニッケルリッチ高電圧カソードを含む任意のカソードであってもよい。本開示の例示的な実施形態では、カソードはLiNi0.8Mn0.1Co0.1(NMC811)である。
【0033】
【0034】
例1.OCNナノシート(2Dg-Cナノシート)の作成
【0035】
当業者は、OCNナノシート材料が市販されており、当該分野で知られている任意の適切な方法によって作成することができることを理解すべきである。例えば、OCNナノシート作成のための方法は、参考文献She,X.;Wu,J.;Zhong,J.;Xu,H.;Yang,Y.;Vajtai,R.;Lou,J.;Liu,Y.;Du,D.;Li,H.;Ajayan,P.M.Nano Energy 2016,27,138に報告されている。
【0036】
この例では、OCNナノシートは、参考文献M.Wang,Z.Li,L.Tian,Y.Xie,J.Han,T.Liu,C.Jin,Z.Wu,International Journal of Hydrogen Energy 2019,44,4102に報告されているように、修正されたレイヤー・バイ・レイヤー熱酸化切断プロセスによって作成された。第一段階において、メラミンの熱縮合(thermal condensation)、5mlの希釈した硝酸(20%)及び3gのメラミンを、お湯の中で十分に混合し、次いで、混合物を室温まで冷却して、約25m/gの表面積を有する黄色がかった沈殿物であるバルクC粉末の沈殿物を生成した。収集された沈殿物は、暖気炉内で、順に行われた3つのか焼処理、すなわち、10℃/minで550℃で2h、その後5℃/minで550℃で1h、最後に2℃/minで500℃で1hのか焼処理の下で、焼結した。この処理の後にOCNナノシートが得られた。これは、本明細書において議論される熱剥離処理である。得られたOCNナノシートは、二次元(2D)g-Cナノシートであり、白色で綿毛状の(fluffy)超軽量粉末であり、多孔性が高く、表面積が大きい。
【0037】
OCNの作成は、PVDF/LiTFSI電解質に現在使用されているLLZOやチタン酸リチウム(LLTO)のような従来のセラミックフィラーと比べてずっと容易であり、また、OCNナノシート材料の前駆体は非常に安価である。
【0038】
本開示により作成されたOCNナノシートの表面積は171m/gであり、一方、g-Cのバルク粒子の表面積はわずか25m/gである。
【0039】
例2.PVDF/LiTFSI/OCN膜の作成
【0040】
この例では、本開示は、異なる量のOCNフィラーを有するPVDF/LiTFSI/OCN膜の例示的な実施形態及びその作成方法を提供する。当業者は、PVDF/LiTFSI/OCN膜が、当該分野で利用可能な任意の適切な方法でも作成され得ることを理解すべきである。
【0041】
この例では、PVDF/LiTFSI/OCN膜を、溶液を真空乾燥する、入手が容易な溶液キャスト法によって作成した。まず、1gのポリビニリデンジフルオリド(PVDF、Arkema社提供のHSV900)と、0.8gのリチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiTFSI)(Sigma-Aldrich)を、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)溶媒(Sigma-Aldrich)に溶解して、組成物を得て、次いで、OCNナノシート(例1の処理によって作成した2Dg-Cナノシート、20mg)を透明なPVDF/LiTFSI溶液に加えて、PVDF/LiTFSI/OCNの懸濁液を得た。5時間撹拌した後、PVDF/LiTFSI/OCN懸濁液をポリテトラフルオロエチレン皿に注ぎ、真空オーブン内で60℃で48時間乾燥させ、PVDF/LiTFSI/OCN膜(サンプル1)を得た。次いで、PVDF/LiTFSI/OCN膜を真空オーブンからグローブボックスに移し、使用のために保存した。
【0042】
得られたサンプル1は、PVDFマトリックスと、LiTFSIと、フィラーとしての2Dg-Cナノシートとを含むPVDF/LiTFSI/OCN膜であり、ここで、g-Cナノシートの量はPVDFの全重量に対して約2重量%であった。
【0043】
図1に示すように、得られたサンプル1は機械的にロバストであり、折り曲げ可能であり、挿入図に示されるようにガラス管に適合する。SEM画像においては膜の表面にOCNナノシートの凝集体は見られず、OCNナノシートがPVDF/LiTFSIマトリックス中に均一に分散していたことが示された。
【0044】
5wt%のOCN及び10wt%のOCNを有するPVDF/LiTFSI/OCN膜も、PVDF/LiTFSI溶液に加えられたOCNナノシートの量が異なるという点を除いて、サンプル1と同じ方法で作成された。5wt%のOCNを有するPVDF/LiTFSI/OCN膜(サンプル2)については、50mgのOCNナノシートを透明なPVDF/LiTFSI溶液に加えて懸濁液を得た。10wt%のOCN(サンプル3)を有するPVDF/LiTFSI/OCN膜については、100mgのOCNナノシートを透明なPVDF/LiTFSI溶液に加えて懸濁液を得た。
【0045】
最後に、OCN材料が加えられていないPVDF/LiTFSI膜を、OCNナノシートを透明なPVDF/LiTFSI溶液に加えないという点を除いてはサンプル1と同じ方法で、対照サンプルとして作成した。
【0046】
例3.電解質膜の電気化学特性評価
【0047】
1.X線回折(XRD)
【0048】
例2で作成した電解質膜サンプル1、対照サンプル膜、例1で作成した純粋OCNナノシート、及び純粋PVDF膜に対し、X線回折(XRD)を行った。結果は図2に示されており、これらは、膜及び材料の詳細な構造及び結晶化度を特徴付けている。
【0049】
図2に示されるように、PVDF/LiTFSIとラベル付けされた下から2番目のトレースであるOCNを有さない対照サンプルPVDF/LiTFSI膜のXRDパターンにおいては、LiTFSI塩のピークは検出できておらず、PVDFポリマーの非常に弱いピークが示されており、これは、LiTFSIがPVDFポリマー中によく溶解されPVDFの結晶化度が減少したことを示す。PVDF/LiTFSI/OCNとラベル付けされた1番上のトレースであるサンプル1の2wt%のOCNを含むPVDF/LiTFSI/OCN膜は、PVDFにおけるさらなる結晶化度の減少を示し、これは、OCNがPVDF鎖の秩序を壊してPVDFの構造を結晶から非晶質相に変換することを示す。より多くの非晶質セグメントが生成されることによって、OCNシートとPVDF鎖との間の界面に沿ったLi輸送が促進され、それによってPVDF/OCN複合ポリマー電解質のLiイオン伝導率を増加させることができる。純粋PVDFは1番下のトレースに示されており、g-Cナノシート材料は下から3番目のトレースに示されている。
【0050】
2.イオン伝導率測定
【0051】
イオン伝導率の測定は、電解質膜サンプル1から電解質膜サンプル3及び対照サンプル膜に、約1ヘルツ(Hz)から約1メガヘルツ(MHz)の周波数範囲で10ミリボルト(mV)の電圧バイアスを印加することによって行われた。電解質膜の室温で測定されたイオン伝導率を図3及び表1に示す。
【0052】
【表1】
【0053】
表1及び図3に示すように、すべてのPVDF/LiTFSI/OCN膜(サンプル1からサンプル3)は、OCNナノシートフィラーが0%であるPVDF/LiTFSI膜よりも高いLiイオン伝導率を有する。具体的には、PVDF/LiTFSI膜は、室温で3.2×10-5S/cmという低い伝導率を有する。OCNナノシートの導入後、複合PVDF/LiTFSI/OCNは大幅に増加したLi伝導率を示す。少量の2wt%OCNを有するPVDF/OCNは、室温で1.6×10-4S/cmという高いイオン伝導率を有し、これは、OCN含有量が5wt%OCNであるPVDF/OCN(7.5×10-5S/cm)及び10wt%OCNであるPVDF/OCN(4.6×10-5S/cm)よりも高い。
【0054】
わずか2wt%の量が、ポリマーマトリックスとの相互作用のための十分な界面活性サイトを提供することによって複合PVDF/LiTFSI/OCN電解質に変化をもたらすのに十分であることが分かる。したがって、2wt%のOCNを含有するPVDF/LiTFSI/OCN膜は最も高い伝導率を示し、一方、従来技術におけるPVDF/LiTFSI/LLZO膜は、利益をもたらすために10wt%以上のLLZOを必要とする。さらに、わずか2wt%の量のOCNで、Li伝導率を高める効果がある。OCNの量がより多いとLi伝導率が低下し、なぜなら、過剰なOCNは自己凝集する傾向があり、これによってポリマー電解質が希釈され、OCNとPVDFポリマーの界面でのLi輸送が阻止され、PVDF/OCNポリマー電解質のイオン伝導率が低下するからである。OCNベースのPVDFポリマー電解質のナイキストプロットは、OCNシート含有量によるイオン伝導率への影響を裏付ける。
【0055】
OCNナノシート材料はかなり綿毛状であり、グラフェン状平面構造のために大きな表面積を有するため、PVDF/LiTFSIマトリックスとの十分な活性サイトを提供する。OCNの表面積が大きいほどLiTFSIとの相互作用が強くなる。OCNはLiと強く相互作用し、このためLiTFSIの解離を促進し、より多くの自由Liをリリースする。酸素原子は層状構造の内部のさまざまなサイトを占めることができ、その結果、高度に多様化されたOCN構造がもたらされる。OCN構造の複雑さにより多くの結合サイトが提供される。オキシ-Cへのリチウムイオンの結合エネルギーは、0から数電子ボルトまでさまざまである。オキシ-Cへのリチウムイオンの広範囲の結合エネルギーにより、LiTFSIの解離を促進することができる。
【0056】
3.イオン輸率(Ion Transference)測定
【0057】
電解質膜サンプル1及び対照サンプルについて、電気化学的インピーダンス分光法(EIS)を行い、その電気化学的安定性を評価した。
【0058】
図4の挿入図に示されるように、「後」とラベル付けされた上側のトレースである2wt%OCNの量を有するPVDF/LiTFSI/OCN膜は、Liイオン輸率が(tLi)0.58であり、これは、「前」とラベル付けされた下側のトレースであるOCNを有さないPVDF/LiTFSI膜についてのLiイオン輸率0.34よりも高い。これは明らかに、OCNがより多くのLiイオンを効率的に遊離できることを示している。
【0059】
2Dg-CナノシートはLiと強く相互作用し、このため、LiTFSIの解離を促進し、より多くの自由Liをリリースする。そのため、2Dg-Cナノシートを加えることにより、PVDF/LITFSIのリチウム輸率を増加させることができる。
【0060】
4.リニアスイープボルタンメトリー(LSV)
【0061】
電解質膜サンプル1及び対照サンプルについて、リニアスイープボルタンメトリー(LSV)を行い、その電気化学的安定性を評価した。結果を図5及び表2に示す。LSVは、約25℃の温度で、約2.5ボルト(V)から約6.0V(V対Li/Li)の電圧範囲で、約1mV/秒(ミリボルト毎秒)のスキャン速度で行われた。
【0062】
【表2】
【0063】
表2及び図5に示すように、OCNとPVDF/LiTFSIとの相互作用はまた、アニオン酸化を抑制することによって電気化学窓を4.85V(対照サンプル:一番左のトレースに示されるPVDF/LiTFSI膜)から5.3V(サンプル1:一番右のトレースに示される2wt%OCNを有するPVDF/LiTFSI/OCN膜)に増加させる。
【0064】
OCNナノシートは171m/gという大きな表面積を有するので、ナノシート構造はPVDF/LiTFSIとの十分な活性サイトを提供する。密度汎関数理論(DFT)計算によって検証されたように、OCNナノシートはLiと強く相互作用し、それにより、LiTFSIから自由Liを解離して移動可能PVDF鎖セグメントにすることを容易にし、それによって、高いイオン伝導率及びLi輸率がもたらされる。さらに、OCNナノシートをPVDF/LiTFSIに導入することにより、PVDF鎖の秩序が壊され、PVDFの構造が結晶から非晶質相に変換される。より多くの非晶質セグメントの生成によって、OCNシートとPVDF鎖との間の界面に沿ったLi輸送が促進され、それによってPVDF/OCN複合ポリマー電解質のLiイオン伝導率を増加させることができる。OCNとPVDFとの強い相互作用はまた、膜の電気化学的安定性についてより高い電圧へと増加させ、これによい、高電圧カソードと組み合わされる理想的な電解質候補となる。
【0065】
結論として、OCNナノシートの追加は、(1)ポリマーの結晶化度を低下させてセグメント移動性を促進すること、(2)大表面積のOCN上にLiをトラップすることによりLiTFSIの解離を容易にすること、(3)g-Cのトリ-s-トリアジンユニットを通るリチウムイオン輸送のための高速経路を提供すること、を含むいくつかの魅力的な利点を有する。CをPVDF/LiTFSI膜に組み込むことによって、Liイオン伝導率が大幅に増加し、安定電圧が広くなり、リチウム輸率が増加する。
【0066】
例4.電解質膜の耐火性評価
【0067】
耐火性評価
【0068】
電解質膜サンプル1及び対照サンプルについて着火試験を行い、その耐火性を評価した。結果を図6に示す。
【0069】
図6に示すように、下側のパネルのセットに示されるPVDF/LiTFSI膜(対照サンプル)は、火炎に接触すると容易に発火し、一方、上側のパネルのセットに示されるPVDF/LiTFSI/OCN膜(サンプル1:2wt%の2Dg-Cナノシートを有するPVDF/LiTFSI/OCN膜)は、発火せず、黒くなるだけである。OCNナノシートを組み込むことによって、元の状態のPVDF/LiTFSI膜と比較して膜の耐火性が大幅に向上することが分かる。
【0070】
2.熱分布評価
【0071】
電解質膜サンプル1及び対照サンプルについて熱分布評価を行い、その熱分布を評価した。結果を図7に示す。
【0072】
図7に示されるように、PVDF/LiTFSIとラベル付けされた下側のボックスに示されるPVDF/LiTFSI膜(対照サンプル)のホットスポットにおける温度は62℃に上昇し、一方、PVDF/CNとラベル付けされた上側のボックスに示されるPVDF/LiTFSI/OCN膜(サンプル1:2wt%の2Dg-Cナノシートを有するPVDF/LiTFSI/OCN膜)の測定温度はわずか45℃であった。より均一な熱分布はPVDF/OCN膜の耐火性の向上にも寄与する可能性がある。また熱伝導性OCNナノシートは膜の温度分布均一性も高めることが分かる。
【0073】
大きな表面積を有するOCNは良好な難燃剤及び良好な熱伝導体として知られているため、PVDF/LiTFSIに2Dg-Cナノシートを加えることにより、電解質膜の耐火性が大幅に向上し、OCNの優れた熱伝導性及び安定性によってPVDF/LiTFSI/OCN膜に優れた耐火性が与えられる。
【0074】
例5.PVDF/LiTFSI/OCN膜を有するリチウム金属イオン電池
【0075】
この例は、PVDF/LiTFSI/OCN膜を含む例示的なリチウム金属イオン電池を提供する。当業者は、本明細書において提供されるPVDF/LiTFSI/OCN膜が、任意の適切な固体電池に使用できることを理解すべきである。
【0076】
この例の電池は、リチウム金属電極であるアノードと、NMC電極(LiNi0.8Mn0.1Co0.1)であるカソードと、アノードとカソードとの間に配置された電解質膜とを備え、当該電解質膜は、PVDFマトリックスと、LiTFSIと、フィラーとしての2重量%のOCNナノシート(2Dg-Cナノシート)とを含む、PVDF/LiTFSI/OCN膜サンプル1である。
【0077】
OCNナノシートを追加することによってPVDF/LiTFSI/OCN膜はアルカリ金属電池にとって理想的な電解質となるため、2Dg-Cナノシートの導入により、PVDFベースのポリマー電解質を用いた電池が商業用途に一歩近づく。好適には、このような電池では、電解質膜の厚さは10ミクロンから100ミクロンの範囲である。これは、どのようなポリマー、どのようなアルカリ金属塩、窒化炭素ナノシート、含酸素窒化炭素ナノシート又はそれらの組み合わせのどのようなレベルが膜の形成に使用されるかに関係なく、本開示にしたがって作成されるすべての膜に当てはまる。
【0078】
PVDF/LiTFSI/OCN電解質を含む組み立てられたままの対称型電池は、300時間、0.05mA/cmから0.4mA/cmの並外れたレート能力、並びに0.1mA/cmで最大2500時間の長期サイクル安定性及び0.1mAh/cmの容量を示す。さらに、NMCをカソードとし、PVDF/LiTFSI/OCNを電解質とする電池は、高レートでの長期サイクル安定性及び1.8mg/cmから8.2mg/cmという高いNMCローディングを含む、室温での極めて優れた電気化学的性能を示した。
【0079】
図8において、パネル(a)からパネル(c)は、バルクC及びCナノシート材料の特徴の差異を示している。パネル(a)は、バルクCと、本明細書に記載する焼結処理を介してバルクCを空気中で熱剥離した後に生成されたCナノシート材料とのXRDパターンを示す。両方とも2つの典型的なピーク(100)及び(002)を有する同様の結晶構造を有するが、Cナノシート材料ははるかに低くかつより広いピーク強度を有しており、これは、薄層ナノシートの形成によって、熱剥離が、バルクCの周期的な積層及び構造的秩序をかなりの程度破壊することを示していることがわかる。これをパネル(b)で見ると、Cナノシート材料は20mgの同じ重量で、その綿毛状の特徴のために、はるかに大きな体積を占めることがわかる。パネル(c)では、ブルナウアー・エメット・テラー(BET)解析の結果において、ナノシートCは特定表面積が、バルクCが25m/gであるのに比べて、171m/gというはるかに大きいものであることが示された。
【0080】
図9において、パネル(a)からパネル(e)とパネル(e)に関連する2つのサブパネルは、バルクCとナノシートCとの間の他の差異を示す。パネル(a)はバルクCのSEM画像を示し、パネル(b)及びパネル(c)はナノシートCのSEM画像及び透過電子顕微鏡(TEM)画像を示す。パネル(d)はナノシートCのエネルギー分散X線分光法(EDX)を示す。パネル(e)はナノシートCのSEM画像を示し、2つのサブパネルは、上側のサブパネルにおいてCの分散を示し、下側のサブパネルにおいてNの分散を示す。パネル(a)から、バルクCは、メラミンの熱縮合を介する形成の後に、密で厚い凝集形態を示すことがわかる。次いで、パネル(b)において、バルクCの熱剥離によって生成されたナノシートC材料が、はるかに異なる形態及び構造を有することが分かる。それは凝集体を有しておらず、代わりに、シート状であり、シート内に多数の細孔を有する。パネル(c)におけるTEM画像は、シート層が非常に薄く、電子ビームに対してほぼ透明であることを示している。パネル(d)に示すように、EDXスペクトルはCとNの元素のみを示す。パネル(e)及びそのサブパネルに示されるように、C及びNはナノシートCに一様に分散している。
【0081】
図10は、一連のパネル(a)からパネル(f)を示す。パネル(a)は、PVDF/LiTFSI混合物の透明な溶液のバイアルの写真である。パネル(b)は、ナノシートC材料を加えた後のPVDF/LiTFSI混合物の写真である。パネル(c)は、真空オーブン内で60℃で24時間、PVDF/LiTFSI/CNから溶媒を蒸発させた後に回収した膜の写真である。パネル(d)は、膜をガラス管に巻き付けて、その可撓性を示したものである。パネル(e)において、伝導性ポリマーの全重量に対して、ナノシートCを0重量%、2重量%、5重量%及び10重量%含む本明細書に記載の一連の膜をみることができる。パネル(f)では、パネル(e)に示されるような作成された各膜の室温伝導率をみることができる。
【0082】
本開示の例示的な実施形態について、本明細書に記載及び例示されているが、これらの実施形態は説明のためのものでしかないことは当業者には明らかであろう。本開示の範囲及び精神から逸脱することなく、これらの実施形態に対して多数の変形、修正及び置換を行うことができることは、当業者には明らかである。本開示の範囲は、添付の特許請求の範囲によって定義され、その同等物と共に特許請求の範囲に含まれる方法及び構造は、添付の特許請求の範囲によって包含されることが意図されている。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
【国際調査報告】