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特表2023-543388シャットダウントレランスが強化された電極
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-10-16
(54)【発明の名称】シャットダウントレランスが強化された電極
(51)【国際特許分類】
   C25B 11/093 20210101AFI20231006BHJP
   C25B 11/081 20210101ALI20231006BHJP
   C25B 11/077 20210101ALI20231006BHJP
   C25B 11/061 20210101ALI20231006BHJP
   C25B 11/053 20210101ALI20231006BHJP
   C25B 1/04 20210101ALI20231006BHJP
   C25B 9/00 20210101ALI20231006BHJP
   C25B 11/031 20210101ALI20231006BHJP
【FI】
C25B11/093
C25B11/081
C25B11/077
C25B11/061
C25B11/053
C25B1/04
C25B9/00 A
C25B11/031
【審査請求】未請求
【予備審査請求】有
(21)【出願番号】P 2023513857
(86)(22)【出願日】2021-08-27
(85)【翻訳文提出日】2023-04-20
(86)【国際出願番号】 EP2021073772
(87)【国際公開番号】W WO2022043509
(87)【国際公開日】2022-03-03
(31)【優先権主張番号】102020000020587
(32)【優先日】2020-08-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IT
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】507128654
【氏名又は名称】インドゥストリエ・デ・ノラ・ソチエタ・ペル・アツィオーニ
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】ピーノ, フランチェスコ
(72)【発明者】
【氏名】中井 貴章
(72)【発明者】
【氏名】加藤 昭博
【テーマコード(参考)】
4K011
4K021
【Fターム(参考)】
4K011AA04
4K011AA05
4K011AA22
4K011AA30
4K011AA64
4K011AA69
4K011BA03
4K011BA07
4K011BA08
4K011BA11
4K011DA01
4K021AA01
4K021BA02
4K021DB05
4K021DB12
4K021DB19
(57)【要約】
本発明は、アルカリ電解プロセスで使用するための電極であって、金属基材と;
金属基材上に配置された触媒層であり、ニッケル及び酸化ニッケルを含み、約1m/g未満のポロシティを有する、金属基材上に配置された触媒層と;触媒層の上及び内部の両方に配置された活性組成物であり、コバルト化合物、イリジウム化合物、ロジウム化合物、鉄化合物、白金化合物、リチウム化合物及びマンガン化合物からなる群から選択される1つ又は複数の金属化合物を含む、触媒層の上及び内部の両方に配置された活性組成物とを含む、電極に関する。本発明はさらに、電極を含むアルカリ水電解ユニット、及び電極を形成する方法にも関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルカリ電解プロセスで使用するための電極であって、
金属基材と、
金属基材上に配置された触媒層であり、ニッケル及び酸化ニッケルを含み、約1m/g未満のポロシティを有する、金属基材上に配置された触媒層と、
触媒層の上及び内部の両方に配置された活性組成物であり、コバルト化合物、イリジウム化合物、ロジウム化合物、鉄化合物、白金化合物、リチウム化合物及びマンガン化合物からなる群から選択される1つ又は複数の金属化合物を含む、触媒層の上及び内部の両方に配置された活性組成物と
を含む電極。
【請求項2】
金属に関して触媒層の装填量によって正規化された、約1.0~約10.0mF/gの範囲の二重層キャパシタンスを有する、請求項1に記載の電極。
【請求項3】
活性組成物が、30モルパーセントを超える、コバルト化合物及びイリジウム化合物のうちの1つを含む、請求項1又は2に記載の電極。
【請求項4】
活性組成物が、60モルパーセントを超える、コバルト化合物及びイリジウム化合物のうちの1つを含み、コバルト化合物はニッケルコバルタイトを含み、イリジウム化合物は酸化イリジウムを含む、請求項3に記載の電極。
【請求項5】
活性組成物が、ニッケルコバルタイトから本質的になる、請求項4に記載の電極。
【請求項6】
活性組成物が、酸化イリジウムから本質的になる、請求項4に記載の電極。
【請求項7】
活性組成物が、約40~約90モルパーセントのコバルト化合物、約0~約50モルパーセントのイリジウム化合物、及び約0~約20モルパーセントの、ロジウム化合物、鉄化合物、白金化合物、リチウム化合物、マンガン化合物のうちの1つ又は複数を含む、請求項1に記載の電極。
【請求項8】
活性組成物が、約70~約90モルパーセントのコバルト化合物、約10~約30モルパーセントのイリジウム化合物並びに約0~約10モルパーセントの、ロジウム化合物、鉄化合物、白金化合物、リチウム化合物、及びニッケル化合物のうちの1つ又は複数を含む、請求項7に記載の電極。
【請求項9】
コバルト化合物がニッケルコバルタイトを含み、イリジウム化合物が酸化イリジウムを含む、請求項8に記載の電極。
【請求項10】
活性組成物が、ニッケルコバルタイト、酸化イリジウム、酸化鉄、及びニッケル酸リチウムからなる群から選択される1つ又は複数の金属化合物を含む、請求項1に記載の電極。
【請求項11】
触媒層が、約10μm~約50μmの範囲の厚さを有する、請求項1から10のいずれか一項に記載の電極。
【請求項12】
電極の金属基材が、ニッケル、ニッケル合金及び鉄合金からなる群から選択される1つ又は複数の金属を含む、請求項1から11のいずれか一項に記載の電極。
【請求項13】
触媒層が第1の触媒層であり、金属基材がニッケル基材を含み、
金属基材が相対する第1及び第2の側を有し、第1の触媒層が金属基材の第1の側上に配置されかつ付着しており、
電極が金属基材の第2の側上に配置されかつ付着している第2の触媒層をさらに含み、第2の触媒層は第1の触媒層と実質的に同じ組成物を有し、
活性組成物が第2の触媒層上及び内部の両方に配置されている、
請求項12に記載の電極。
【請求項14】
請求項1から13のいずれか一項に記載の電極を含むアルカリ水電解ユニットであって、電極がアノードであり、アルカリ水電解ユニットが、
カソードと、
実質的に塩素を含まない電解質溶液と
をさらに含む、アルカリ水電解ユニット。
【請求項15】
電極を形成する方法であって、
金属基材を提供する工程と、
溶射、レーザークラッディング又は電気めっきを介して、金属基材上に触媒層を形成する工程であり、触媒層が、ニッケル及び酸化ニッケルを含み、約1m/g未満のポロシティを有する、金属基材上に触媒層を形成する工程と、
触媒層に活性組成物を塗布する工程であり、1つ又は複数の前駆体組成物を触媒層に塗布し、次いで、1つ又は複数の前駆体組成物及び触媒層を加熱して、活性組成物を形成することを含む、活性組成物を塗布する工程と
を含む方法。
【請求項16】
触媒層を形成する工程が溶射によって行われ、触媒層が約1.0~約10.0mF/gの範囲の二重層キャパシタンスを有する、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
触媒層を形成する工程が溶射によって行われ、周囲空気中で電線又はニッケル粉末を金属基材上に含む、請求項15又は16に記載の方法。
【請求項18】
活性組成物が、コバルト化合物、イリジウム化合物、ロジウム化合物、鉄化合物、白金化合物、リチウム化合物、マンガン化合物からなる群から選択される1つ又は複数の金属化合物を含み、前駆体組成物が1つ又は複数の金属化合物の前駆体を含む、請求項15に記載の方法。
【請求項19】
活性組成物が、約40~約90モルパーセントのコバルト化合物及び約10~約50モルパーセントのイリジウム化合物を含む、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
コバルト化合物がニッケルコバルタイトを含み、イリジウム化合物が酸化イリジウムを含む、請求項19に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電極、より詳細には電解プロセスで使用される電極に関する。
【背景技術】
【0002】
水素は、クリーンエネルギーパラダイムの重要部分として浮上しつつある。水素は、再生可能エネルギー供給源から、エネルギーを移動させ、貯蔵し、送達するための高効率、低汚染の燃料、及びエネルギーキャリアとして使用することができる。そのうえ、水素は水から製造することができ、水は豊富で比較的安価な供給原料である。
【0003】
水から水素を製造するために、いくつかの異なるプロセスを使用することができる。これらのプロセスとしては、水電解、光電解、光生物学的製造及び高温分解が挙げられる。これらのプロセスの中で、水電解は、風車及び/又は光起電性太陽電池パネルからの電力などの再生可能エネルギー供給源を使用して水素を製造する、最も実用的な方法である。
【0004】
水素発生に使用されるいくつかのタイプの水電解プロセス、すなわちアルカリ電解、プロトン交換膜(PEM)電解、及び固体酸化物電解電池(SOEC)電解が存在する。アルカリ電解及びPEM電解はより一般的に利用され、アルカリ電解は、大規模な実施には最も先進的で最も適している。
【0005】
水電解では、DC電力供給源は2つの電極に接続され、電極は水中に配置される。理論的には、電極間の電位差が1.23ボルトになると、水は水素と酸素に分解される。カソードでは水素が製造され、アノードでは酸素が製造される。より詳細には、カソードでは水素発生反応(「HER」)があり、アノードでは酸素発生反応(「OER」)がある。HERは、カソードからの電子(e)が水素カチオンに与えられて水素ガスを形成する還元反応であり、一方OERは、電子がアノードに与えられて酸素が発生する酸化反応である。
【0006】
理論的には1.23ボルトにより水が分解されるが、実際にはより高い電圧が必要である。1.23ボルトを超える量は過電位又は過電圧と呼ばれ、損失エネルギー又は非効率を表す。水電解プロセスでは、最大の過電圧はアノードで水を酸素に酸化させる反応過電圧である。そのため、アノードでの過電圧を低減するためにかなりの努力がなされてきた。
【0007】
アルカリ電解では、水は水酸化カリウム(KOH)又は水酸化ナトリウム(NaOH)などのアルカリ電解質を含有し、電極は隔膜によって分離されている。PEM電解では、水は脱イオン化され、電極は、プロトンをアノードからカソードへ通過させる固体高分子電解質によって分離され、電極は電気的に絶縁される。
【0008】
水電解における最近の進歩は、より高い電流密度で運転されるプロセスをもたらした。加えて、再生可能エネルギー供給源をしばしば使用して、水電解実行のための電力が提供されている。再生可能エネルギーの断続的な性質と相まって、より高い電流密度を使用することによって、電極に強いストレスがかかり、従来の電極をより急速に劣化させている。そのため、高電流密度及び断続的電力、すなわち電力シャットダウン(shutdown)が多い条件下で劣化され難い一方で、良好な性能を提供するより強靭な電極が必要である。特に、高電流密度及びシャットダウンによって劣化され難い、酸素過電圧の低減されたアノードが必要である。
【0009】
EP3296431A1は、結晶ナノ粒子を含む被覆層を有する酸化ニッケル発泡体電極について記述しており、結晶ナノ粒子はニッケル、酸化ニッケル及びイオン酸化物を含む。WO2019/172160A1は、酸化ニッケルで作られた中間層及び触媒層を有する導電性基材を含む、アルカリ水電解用アノードについて記述している。EP3064614A1は、ニッケル基材及び基材上に形成されたリチウム含有酸化ニッケル触媒層を有する、アルカリ水電解用アノードについて記述している。EP3375906A1は、ニッケル基材並びに導電性基材上の酸化ニッケル層及び酸化物層上に配置された酸化触媒層を含む、電気化学的反応用アノードについて記述している。
【発明の概要】
【0010】
本開示によれば、アルカリ電解プロセスで使用するための電極が提供される。電極は、金属基材及び金属基材上に配置された触媒層を含む。触媒層は、ニッケル及び酸化ニッケルを含み、BETにより測定した約1m/g未満のポロシティ(porosity)を有する。活性組成物は、触媒層の上及び内部の両方に配置される。活性組成物としては、コバルト化合物、イリジウム化合物、ロジウム化合物、鉄化合物、白金化合物、リチウム化合物及びマンガン化合物からなる群から選択される1つ又は複数の金属化合物が挙げられる。
【0011】
本開示により、電極を含むアルカリ水電解ユニットであって、電極がアノードとして機能する、アルカリ水電解ユニットもさらに提供される。ユニットはカソード及び実質的に塩素を含まない電解質溶液もさらに含む。
【0012】
電極を形成する方法も、本明細書でさらに開示される。この方法によれば、金属基材が提供され、触媒層は金属基材上に形成される。触媒層は、溶射、コールドスプレー、又はレーザークラッディング及び電気めっきなどの他の表面処理プロセスによって形成されるニッケル及び酸化ニッケルを含み、約1m/g(BET)未満のポロシティを有する。活性組成物は触媒層に塗布され、熱分解される。活性組成物としては、コバルト化合物、イリジウム化合物、ロジウム化合物、鉄化合物、白金化合物、リチウム化合物及びマンガン化合物からなる群から選択される1つ又は複数の金属化合物が挙げられる。
【0013】
本発明の特徴、態様、及び利点は、以下の記述、添付特許請求の範囲、及び添付図面に関してより良好に理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】水電解ユニットの略図である。
図2】水電解ユニットの電極の略図である。
図3】異なる触媒層を有する複数の試験電極に対する、平均キャパシタンスのグラフを示す図である。
図4】試験電極に対する、放出された電荷のグラフを示す図である。
図5】試験電極に対する、キャパシタンス対放出された電荷のグラフを示す図である。
図6】本発明による電極の断面のSEM画像を示す図である。
図7図6の電極と同じ領域の、ニッケル及びイリジウムの分布のSEM/EDAX画像を示す図である。
図8図6のSEM画像に重ねた、電極の図6と同じ領域の酸素分布のSEM/EDAX画像を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下の発明を実施するための形態では、同一の構成要素は、それらが本開示の異なる実施形態で示されているかどうかにかかわらず、同じ参照番号を有することに留意すべきである。明瞭さと簡明さの目的のために、図面は必ずしも縮尺通りでなく、本開示のある特徴はやや概略的な形式で示され得ることも留意すべきである。
【0016】
本開示は、電解プロセスで使用するために構築された電極10を対象とする。電極10は、アルカリ電解プロセスで、より具体的には、こうしたプロセスのアノードとして使用するのに特に適している。アルカリ水電解を実行するのに使用され得るユニット12を図1に示す。ユニット12は、アノードとして機能する電極10、及びカソード14を含み得る。電極(アノード)10及びカソード14は隔膜16によって分離され、電解質溶液を含む容器18に配置される。電解プロセスで使用される電解質溶液は、好ましくは、塩素又は他のハロゲン化合物を含まない。電解質溶液は水及び水酸化カリウム(KOH)、又は水及び水酸化ナトリウム(NaOH)を含み得る。隔膜16は、1μm未満の平均孔径を有する微孔性材料からなり、イオンが電極(アノード)10とカソード14の間を移動できるようにするが、ガスを通さず、それによって発生した水素及び酸素ガスの混合を防いでいる。隔膜16は、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)などの多孔質ポリマー、又は執筆時に商標Zirfon(登録商標)の下で商業的に販売されている、二酸化ジルコニウム(ZrO)及びポリスルホンを含む複合材料からなり得る。
【0017】
電極(アノード)10及びカソード14で起こる反応は、以下のとおりである。
カソード:2HO+2e→H+2OH
アノード:2OH→1/2O+HO+2e
【0018】
カソード14は、導電性金属からなり、ニッケル、低炭素鋼、又はステンレス鋼であり得る。カソード14は、以下の電極10に記述する構造を有してもよく、ニッケル又はニッケル-鉄合金で被覆され得る。
【0019】
ここで図2を参照すると、電極10は基材22を含み、その上に触媒層24が配置される。触媒層24は、その中に形成された孔を有するが、中程度の多孔質にすぎない。活性組成物26は、触媒層24の内部及び/又は上に配置される。活性組成物26は層を形成してもよく、かつ/又はその構成成分が触媒層24の孔の中に散在してもよい。いくつかの実施形態では、活性組成物26は層を形成せず、その構成要素は触媒層24のポロシティ全体を通して分散している。他の実施形態では、活性組成物26は触媒層24の上に層を形成し、その構成要素は触媒層24のポロシティ全体を通して分散もしている。触媒層24は、基材22の外表面の全てを覆って配置されてもよく、同様に活性組成物26は触媒層24の全ての内部及び/又は上に配置されてもよい。図2では、電極10は、相対する主な表面が触媒層24及び活性組成物26で覆われた、長方形の形状を有して示されている。示されていないが、電極10の端面も、触媒層24及び活性組成物26で覆われていてもよい。触媒層24及び活性組成物26は、基材22の外面にわたって厚さ及び組成物が実質的に均一であるように、基材22に塗布される。好ましくは、厚さの偏差はほとんど+/-5μmの範囲内である。
【0020】
構造的に基材22は、パンチングプレート、製織ワイヤ(woven wire)、ワイヤメッシュ、金属スポンジ、エキスパンドメタル、穿孔若しくは未穿孔金属シート、平面状又は波状の格子細工、離間した棒若しくは帯状物(spaced apart rod or strip)、又は他の構造形態であり得る。本発明を実行する際に、ワイヤメッシュが特にうまくいくことが見出された。基材22の厚さは、好ましくは約0.15mm~約3.0mm、より好ましくは約0.6mm~約2.0mmである。好ましくは、基材22は電流密度を低減するための開口を有する。基材22は、鉄、鉄合金、ニッケル、ニッケル合金又はステンレス鋼などの導電性金属からなる。使用され得る鉄合金としては、鉄-ニッケル合金、鉄-クロム合金及び鉄-ニッケル-クロム合金が挙げられる。使用され得るニッケル合金としては、ニッケル-銅合金及びニッケルクロム合金が挙げられる。好ましくは基材22は、ニッケル、ニッケル合金又は鉄合金からなる。ニッケル平織ワイヤメッシュが、基材22として使用するのに特に好適であることが見出された。
【0021】
触媒層24は、火炎溶射、ワイヤアーク溶射、プラズマ溶射、高速酸素燃料(HVOF)溶射、高速空気燃料(HVAF)溶射、爆発ガン及び燃焼ワイヤ溶射などの好適な溶射プロセスを使用して金属から形成される。本発明を実行する際に、ワイヤアーク溶射及びプラズマ溶射が特にうまくいくことが観察された。触媒層24は代わりに、コールドスプレー、又はレーザークラッディング及び電気めっきなどの別のタイプの表面処理プロセスを使用して金属から形成され得る。
【0022】
触媒層24が形成される金属は、ニッケル又はニッケル合金及び/又は酸化ニッケル(NiO)であり得る。しかし、ニッケルが好ましい。この点で、析出後に苛性溶液で脱合金した(de-alloyed)ニッケル-アルミニウム合金を使用すると、脆すぎる傾向があり、あまりに急速に劣化する多孔質ニッケル層を生成することが見出された。好ましくは、大気プラズマ溶射(APS)プロセス、コールドガススプレープロセス又はワイヤアークスプレープロセスにおいてニッケル粉末を使用して、ニッケルを基材22上に析出させる。より好ましくは、APSプロセスにおいてニッケル粉末を使用して基材22上にニッケルを析出させる。触媒層24を形成するために使用されるニッケル粉末は、約10μm~約150μm、より好ましくは約45μm~約90μmの平均粒子径を有する。
【0023】
金属(例えば、ニッケル)粉末を基材22上に溶射する前に、基材22を処理して異物を除去し、金属粉末を受け取るために基材表面を調整する。処理としては、溶媒を使用する脱脂プロセスを通した油及びグリースの除去が挙げられる。グリットブラストプロセスは、好ましくはいずれかの脱脂プロセスが実行された後に基材22上で実行される。グリットブラストプロセスでは、チルド鋳鉄又は酸化アルミニウムなどの摩耗性媒体が圧縮空気で加圧され、基材22の表面に向けられる。グリットブラストはいかなる異物もさらに除去し、表面を粗面化して、表面上に溶射される金属粉末の機械的接着を促進する穴及び割れ目を形成する。グリットブラストからの破片は、真空掃除、ブラシ掛け及び/又は空気吹き付けによって除去することができる。
【0024】
APSプロセスは、正に帯電した極(アノード)と負に帯電した極(カソード)の間に強い電気アークを発生させるプラズマトーチを用いて実行することができる。アークは、(アルゴン、水素、窒素及びヘリウムの混合物などの)流れるプロセスガスをプラズマ状態にイオン化し、約10,000℃~約30,000℃の範囲の温度を有し得るプラズマジェットを形成する。通常、アノードは円形であり、プラズマジェットを噴出するノズルを形成するのに役立つ。アノードは銅からなり得、カソードはトリウムタングステンからなり得る。金属(例えば、ニッケル)粉末は、キャリアガス(水素を含み得る)中で流動化され、プラズマジェットの中に供給され、粉末粒子を溶融させ、(300~550m/sの間などの)高速でそれらを基材22上に推進させる。基材22への移動中に、溶融金属粒子の一部は酸化して酸化ニッケル(NiO)などの酸化物を形成する。そのため、APSを使用して触媒層24を形成する場合、触媒層24はニッケル及び酸化ニッケルの両方を含む。
【0025】
プラズマトーチから溶射された溶融金属粒子は、基材22に衝突し、そこで「スプラット(splat)」に平板化され、収縮及び凝固して、孔などのミクロ形態を有するスタックドラメラを形成する。スプラットが収縮及び凝固するにつれて、それらは、機械的フッキングを通して基材22に機械的に結合する。そのため、溶射された金属粒子の接着性は、主として機械的な結合による。
【0026】
コールドスプレープロセスでは、金属(例えば、ニッケル)粉末は、1,000℃までの温度に予熱され、窒素、ヘリウム又は空気からなり得るキャリアガスの高圧流れの中で流動化される。キャリアガス及び金属粒子の流れは、収束発散ドラバルノズル(converging-diverging DeLaval nozzle)を通過し、そこで流れは冷却され、1,000m/sを超える超音速に加速される。金属粒子及びキャリアガスの超音速流れは、基材22上に向けられ、そこで金属粒子は衝突の際に塑性変形を受ける。加速された金属粒子は十分な運動エネルギーを有して基材22と衝突し、金属粒子と基材22の間に機械的及び/又は冶金学的結合を引き起こす。APSなどの溶射プロセスと違って、コールドスプレープロセス中に金属粒子は溶融しない。
【0027】
いくつかの実施形態では、APS又はコールドスプレーなど、触媒層24が形成された後、触媒層24で被覆された基材22は、約300℃~約500℃の温度で約10~約20分の期間炉中で加熱される。いくつかの実施形態では、触媒層24で被覆された基材22は、水素を含む雰囲気で加熱され得る。
【0028】
触媒層24は、基材22の1つの側に約10μm~約300μmの間の厚さを有するように形成される。驚くべきことに、基材22の各側で50μm以下の厚さを有すると、電極10は、驚くべきことに、シャットダウン中に発生する逆転電流(reversal current)を低減し得るという点で良好な特性を示すことが見出された。そのため、触媒層24は、50μm以下、より具体的には約10μm~約50μmの範囲、さらにより具体的には約30μm~約50μmの範囲の厚さを有し得る。
【0029】
上で記載したように、触媒層24は中程度の多孔質にすぎない。ポロシティは、周知のBrunauer-Emmett-Teller(BET)法又は水銀(Hg)ポロシメトリーなどの異なる方法によって測定することができる。BET法は、多孔質固体によるガス分子(例えば、窒素)の物理吸着の測定から、多孔質固体の全体としての比(単位質量当たり)の外表面積及び内表面積を決定する。決定されたm/gでのBET表面積は、ポロシティの尺度を提供する。BET法を使用すると、触媒層24は、1m/g未満のポロシティを有する。
【0030】
ポロシティは、電気化学的特性と関連付けることができる。公知のように、電極の二重層キャパシタンスは、電極の全表面積と直接関係する。BETに関しては、二重層キャパシタンスを測定することによって、電極の「活性なポロシティ」、すなわち、電気化学的反応にとって電解質に実際に利用可能な表面積をより限定的に測ることができる。このため、決定されたm/gでのBET表面積の代わり又はそれに加えて、触媒層24のポロシティは、活性組成物26で被覆される前又は後の、触媒層24の装填量によって正規化された触媒層の二重層キャパシタンスという用語で、特徴付けることができる。触媒層24の装填量は、cm当たりの金属の量(グラム)として測定される。触媒層24の正規化された二重層キャパシタンスは、約1.0~約10.0mF/gの間、好ましくは約3.0~約7.0mF/gの間である。正規化前の二重層キャパシタンスは、以下に記載する手順によって、mF/cmで測定される。触媒層24の典型的な装填量は、50及び1200g/mであり、より好ましくは100~600g/mの間である。触媒層24の装填量が少ないほど、明らかにより少ない触媒層の材料が必要となるが、さもなければ過度に希釈される可能性のある通常高価な活性組成物26もより少なく必要となるので、コスト効率がより良くなる。いくつかの用途、限定はされないが、例えば、活性組成物26のリーチング(leaching)を伴う用途では、典型的な装填量はより高く、金属に関して100~3000g/mの間であり得る。
【0031】
異なる組成物を有する触媒層24の二重層キャパシタンスを、適切な条件、すなわちKOH25%及びT=80℃で、試験電極11を使用して研究した。各試験電極11は、ニッケルエクスパンドメッシュの基材22を含んだ。第1の試験電極11aでは、基材22にニッケルをプラズマ被覆し;第2の試験電極11bでは、基材22にニッケル-アルミニウム合金をプラズマ溶射し;第3の試験電極11cでは、基材22に2本のニッケルワイヤを使用してワイヤアークスプレーし;第4の試験電極11dでは、基材に、それぞれニッケル-アルミニウム合金からなる2本のワイヤを用いてワイヤアークスプレーした。試験電極11は、2kA/mで10分の分極を行うことによって、初期調整した。引き続いて、Hg/HgOに対して0.25V~0Vの電位領域で異なる走査速度でボルタンメトリー走査を行った(一般に、起こり得るファラデープロセス(faradic process)による干渉を回避するために、当業者は活性組成物26に適合する適切な電位領域を選択することを理解されたい)。標準的な式dE/dt=Cdl・dQ/dtを使用して、電気化学二重層キャパシタンスを概算した。平均キャパシタンスを電極タイプ(11a~11d)に対してプロットした図3に示すように、試験電極11は、約0.5~約30mF/gの範囲の比キャパシタンス(触媒層24装填量によって正規化)を示した。とりわけ、試験電極11a、11c、11dは、望ましいことに約1.0~約10.0mF/gの範囲にあった。Alを含有する電極11b及び11dは、KOH(30%)溶液中80℃で2時間、予防的に浸出させた。
【0032】
試験電極11は、適切な条件、すなわちKOH25%及びT=80℃で、逆電流に供された時に放出することができる電荷の量によって特徴付けられた。試験電極11は、10kA/mで2時間のアノード分極を行うことによって、それぞれ最初に条件付けた。引き続いて、電極電位がSHE(標準水素電極)に対して-0.8Vと記録されるまで、120A/mのカソード電流を適用することによって、クロノポテンシオメトリー工程を行った。次いで試験電極11から放出された電荷の全量を、時間に対して電流を積分することによって計算した。試験電極11は、正規化平均電荷を電極タイプ(11a~11d)に対してプロットした図4に示すように、約1,000~約70,000mC/gの範囲の(被覆装填量によって正規化された)制御された電荷を放出することができた。とりわけ、試験電極11a、11c及び11dは、望ましいことに約2,000~約10,000mC/gの範囲にあった。
【0033】
ある実施形態では、触媒層中の90重量パーセントを超えるニッケルはその金属形態であり、一方10重量パーセント以下のニッケルはその酸化物形態、主にNiOであり、すなわち後者の場合では、重量パーセントはNiOを指す。好ましくは触媒層中の金属ニッケル含有量は、90~99.5wt%の範囲にあり、好ましくは95~99wt%の範囲にある。触媒層中の酸化ニッケル含有量は、少なくとも0.5wt%~10wt%の範囲にあり得、好ましくは1~5wt%の範囲にある。
【0034】
電極構成の最適な性能は、多孔質ニッケル層からの制御された電荷放出によるものと考えられる。さらに、利用可能な触媒部位の数を高めるために、ニッケル/酸化ニッケル層のある量のポロシティも要求される。ポロシティと電荷放出の関係が、層の性質に応じて変動することが予想され得る。電極の強靭さ(電荷)を制御するために、ポロシティ/キャパシタンスの制御が使用される。電極11a~11dについて平均キャパシタンス(y軸)を平均電荷(x軸)に対してプロットした図5に示すように、触媒層24を有する電極11についてキャパシタンスと放出された電荷の間に直線関係が存在する。従って、検討した電極構成は、ポロシティ/キャパシタンスと電荷放出の間の適切な関係によって、同様に特徴付けられることが実証された。
【0035】
活性組成物26は、イリジウム(Ir)、コバルト(Co)、ロジウム(Rh)、鉄(Fe)、白金(Pt)、リチウム(Li)、マンガン(Mn)からなる群から選択される1つ又は複数の金属を含む。活性組成物26中のイリジウムは、酸化イリジウム(IrO)などのイリジウム化合物であり得る。活性組成物26中のコバルトは、酸化コバルト、すなわち酸化コバルト(II)(CoO)又は酸化コバルト(II、III)(Co)、又はニッケルコバルタイト(NiCo)などのコバルト化合物であり得る。好ましくは活性組成物26中にあるコバルトは、ニッケルコバルタイトである。さらにより好ましくは、活性組成物26中にあるニッケルコバルタイトはスピネル形態にある。活性組成物26中のロジウムは、酸化ロジウム(III)(Rh)などのロジウム化合物であり得;活性組成物26中のマンガンは、酸化マンガン(MnO)などのマンガン化合物であり得;活性組成物26中の鉄は、酸化鉄(Fe)又はFeなどの鉄化合物であり得;活性組成物26中の白金は、酸化白金(PtO)などの白金化合物であり得;活性組成物26中のリチウムは、ニッケル酸リチウム(LiNiO)などの混合化合物であり得る。
【0036】
いくつかの実施形態では、活性組成物26は、コバルト化合物、ニッケル化合物、イリジウム化合物、リチウム化合物(例えば、ニッケル酸リチウム)、又は鉄化合物(例えば、酸化鉄)から本質的になり得る。代わりに、活性組成物26は、コバルト化合物及びイリジウム化合物から本質的になり得る、又は活性組成物26は、コバルト化合物若しくはイリジウム化合物若しくはコバルト化合物及びイリジウム化合物の両方を含み得る。好ましくは、活性組成物26は、コバルト化合物又はイリジウム化合物、より好ましくはコバルト化合物及びイリジウム化合物の両方を含み、さらにより好ましくは活性組成物26は、ニッケルコバルタイト及び酸化イリジウムを含む。従って、活性組成物26は、以下:0~100モルパーセントのイリジウム化合物、0~100モルパーセントのコバルト化合物、及び0~40モルパーセントの、ロジウム化合物、マンガン化合物、鉄化合物、白金化合物、リチウム化合物からなる群から選択される1つ又は複数の遷移金属化合物を含み得る。より好ましくは、活性組成物26は、以下:約10~50モルパーセントのイリジウム化合物、約40~90モルパーセントのコバルト化合物、及び0~20モルパーセントの、ロジウム化合物、マンガン化合物、鉄化合物、白金化合物、リチウム化合物からなる群から選択される1つ又は複数の遷移金属化合物を含み得る。より好ましくは、活性組成物26は、以下:約10~30モルパーセントのイリジウム化合物、70モルパーセントを超えるコバルト化合物、及び0~10モルパーセントの、ロジウム化合物、マンガン化合物、鉄化合物、白金化合物、リチウム化合物からなる群から選択される1つ又は複数の遷移金属化合物を含み得る。さらにより好ましくは、活性組成物26は、以下:10~30モルパーセントのイリジウム化合物、70~90モルパーセントのコバルト化合物、及び0~10モルパーセントの、ロジウム化合物、マンガン化合物、鉄化合物、白金化合物、リチウム化合物からなる群から選択される1つ又は複数の遷移金属化合物を含み得る。
【0037】
触媒層24及び活動層26は、一緒に組合せとみなして、約80モルパーセント~約99.9モルパーセントのニッケル、0~約2モルパーセントの酸化ニッケル、約0モルパーセント~約0.8モルパーセントのイリジウム化合物、約0モルパーセント~約2モルパーセントのコバルト化合物、及び約0~約2モルパーセントの、ロジウム化合物、マンガン化合物、鉄化合物、白金化合物、リチウム化合物からなる群から選択される1つ又は複数の遷移金属化合物を含む。
【0038】
活性組成物26は、1つ又は複数の塗布プロセスで触媒層24に塗布される1つの単一前駆体組成物から形成され得る、又は活性組成物26は、複数の塗布プロセスで触媒層24に塗布される複数の異なる前駆体組成物から形成され得る。上で記載したように、活性組成物26は図2に模式的に描いたように、触媒層24の最上部に層を形成し得る、かつ/又は活性組成物26は触媒層24の中に吸収されて、触媒層24のポロシティ全体にわたって分散されるようになる。このように、活性組成物26の層は、約0~約20μm、より好ましくは約0~約10μmの厚さを有し得る。
【0039】
一般に、前駆体組成物(複数可)は、熱分解可能で活性組成物26に金属化合物を形成する(有機又は無機金属塩などの)前駆体化合物を含む。金属塩は塩化物であり得、(塩酸及び硝酸などの)酸、並びにイソプロピルアルコール、n-プロピルアルコール、n-ブチルアルコール及びエチルアルコールなどのアルコールを含む溶媒に溶解し得る。前駆体化合物(複数可)のいくつかの例は、以下に示す。
【0040】
酸化イリジウムに対して、前駆体化合物(複数可)は、酸又はアルコールなどの溶媒に溶解した、イリジウムの塩化物、硫酸塩又は硝酸塩を含み得る。より具体的には、前駆体化合物(複数可)は、塩酸及びイソプロピルアルコール及び/又はエチルアルコールと一緒の、三水和物形態(IrCl(HO))にある塩化イリジウム(III)(IrCl)の溶液を含み得る。
【0041】
酸化コバルト(II)に対しては、前駆体化合物(複数可)は塩化コバルト(CoCl)及び水を含み得る。酸化コバルト(II、III)に対しては、前駆体化合物(複数可)は酢酸コバルト(II)四水和物(CCoO_4HO)、エチルアルコール及びシュウ酸(C)を含み得る。
【0042】
ニッケルコバルタイトに対しては、前駆体化合物(複数可)は、尿素(CO(NH、脱イオン水、エチルアルコール、グリセロール及びテトラエチレングリコール(TEG)と混合した、酢酸ニッケル(II)四水和物(CNiO_4HO)及び酢酸コバルト(II)四水和物(CCoO_4HO)を含み得、酢酸ニッケル(II)及び酢酸コバルト(II)は共沈する。代わりに、前駆体化合物(複数可)は、硝酸ニッケル(II)六水和物(Ni(NO・6HO)及び硝酸コバルト六水和物(Co(NO・6HO)を含み得、これらはNHOHに溶解し得る。
【0043】
前駆体組成物(複数可)は、ブラシを使用して、又は静電噴霧、ローラー塗り若しくは浸漬被覆によって触媒層24に塗布され得る。
【0044】
前駆体組成物(複数可)を触媒層24に塗布した後、触媒層24及び前駆体組成物(複数可)で被覆された基材22を加熱して、前駆体化合物(複数可)を熱分解し、活性組成物26を形成する。加熱は、約300℃~約500℃の温度で約10~約20分の時間、炉中で行われ得る。
【実施例
【0045】
実施例1
100×100mm片の、直径0.17mmワイヤによるニッケルワイヤ製織メッシュに、粒径-45/+10μm、純度99.9%のニッケル粉末(Fe<0.5、O<0.4、C<0.02、S<0.01)を、周囲空気中で両側上に4.8±0.5g/dmの量及び(各側)50μmの目標厚さでプラズマ溶射した。その後、溶射ワイヤメッシュを空気中350℃の炉中で15分間加熱した。プラズマ溶射製織メッシュを放冷し、次いで、被覆、加熱及び冷却の一連の工程の中で、ブラシによって前駆体組成物を被覆した。前駆体組成物は、19.77gの硝酸ニッケル(II)六水和物及び39.56gのコバルト(II)/硝酸塩六水和物を含み、脱イオン水で100mLの体積にした。最初、プラズマ溶射ワイヤメッシュを前駆体組成物で被覆し、次いで、空気中350℃の炉中で15分間加熱した。冷却後、ワイヤメッシュに前駆体組成物を再度被覆し、350℃の炉中で15分間再度加熱した。被覆、加熱及び冷却のこのプロセスを繰り返して、7.52g金属/mの装填量を達成した。
【0046】
前述のプロセスにより、各側で触媒層及び活性組成物を有する電極E1を生成した。触媒層は、ほとんどが少量のNiOを有するニッケルであった。活性組成物は、0.0427mol/mのニッケルコバルタイトを含んだ。走査電子顕微鏡(SEM)で観察すると、触媒層は、ニッケル粒子によって形成されたニッケルマトリックス及びNiOの薄いクラスト(crust)であり、ニッケルコバルタイトは触媒層のポロシティの中に分散していた。
【0047】
触媒層及び活性組成物の組合せは、51±6μmの厚さ(片側)を有し、0.3m/g(BET)のポロシティを有していた。組合せは、97.6モルパーセントのニッケル、0.9モルパーセントの酸化ニッケル及び1.5モルパーセントのニッケルコバルタイトを含んだ。
【0048】
実施例2
100×100mm片のニッケルエクスパンドメッシュに、粒径-45/+10μm、純度99.9%のニッケル粉末(Fe<0.5、O<0.4、C<0.02、S<0.01)を、周囲空気中で両側上に4.5±0.5g/dmの量及び(各側)45μmの目標厚さで、プラズマ溶射した。その後、溶射ワイヤメッシュを空気中350℃の炉中で15分間加熱した。プラズマ溶射エクスパンドメッシュを放冷し、次いで、以下に記述する第1及び第2の前駆体組成物を被覆した。
【0049】
第1の前駆体組成物は実施例1で塗布された前駆体組成物、すなわち硝酸ニッケル(II)六水和物及び硝酸コバルト(II)六水和物の溶液と同じであった。第1の前駆体組成物も実施例1と同じ方式でメッシュに塗布し、7.52g金属/mの装填量を達成した。
【0050】
第2の前駆体組成物は、4.27gのヘキサ-アミンイリジウム(III)水酸化物[Ir(NH](OH)を含み、脱イオン水で100mLの体積にした。第1の前駆体組成物の塗布の後、被覆、加熱及び冷却の一連の工程の中で、ブラシによって第2の前駆体組成物を塗布した。最初に、プラズマ溶射及び被覆されたメッシュに第2の前駆体組成物を被覆し、次いで空気中350℃の炉中で15分間加熱した。冷却後、メッシュに第2の前駆体組成物を再度被覆し、350℃の炉中で15分間再度加熱した。被覆、加熱及び冷却のこのプロセスを繰り返して、1.88g金属/mの装填量を達成した。
【0051】
前述のプロセスにより、各側で触媒層及び活性組成物を有する電極E2を生成した。触媒層は、ほとんどが少量のNiOを有するニッケルであった。活性組成物は、9.78mmol/mの酸化イリジウム及び42.7mmol/mのニッケルコバルタイトであり、これは18.6モルパーセントの酸化イリジウム及び81.4モルパーセントのニッケルコバルタイトに相当する。走査電子顕微鏡(SEM)で観察すると、触媒層はニッケル粒子によって形成されたニッケルマトリックス及びNiOの薄いクラストであり、酸化イリジウム及びニッケルコバルタイトは触媒層のポロシティの中に分散していた。触媒層及び活性組成物の組合せは、ちょうど50μm未満の厚さ(片側)を有し、0.4m/g(BET)のポロシティを有していた。組合せは、98.8モルパーセントのニッケル、0.12モルパーセントの酸化イリジウム及び0.53モルパーセントのコバルタイトを含んでいた。
【0052】
実施例3
100×100mm片のニッケルエクスパンドメッシュに、粒径-45/+10μm、純度99.9%のニッケル粉末(Fe<0.5、O<0.4、C<0.02、S<0.01)を、周囲空気中で両側上に4.5±0.5g/dmの量及び(各側)45μmの目標厚さでプラズマ溶射した。その後、溶射エクスパンドメッシュを空気中350℃の炉中で15分間加熱した。次いでプラズマ溶射エクスパンドメッシュを放冷し、次いで被覆、加熱及び冷却の一連の工程の中で、ブラシによって前駆体組成物を被覆した。前駆体組成物は、実施例2の第2の前駆体組成物、すなわちヘキサ-アミンイリジウム(III)水酸化物[Ir(NH](OH)と同じであり、脱イオン水で体積100mLにした。最初に、プラズマ溶射エクスパンドメッシュに、前駆体組成物を被覆し、次いで、空気中350℃の炉中で15分間加熱した。冷却後、メッシュに前駆体組成物を再度被覆し、350℃の炉中で15分間再度加熱した。被覆、加熱及び冷却のこのプロセスを繰り返して、1.88g金属/mの装填量を達成した。
【0053】
前述のプロセスにより、各側で触媒層及び活性組成物を有する電極E3を生成した。触媒層は、ほとんどが少量のNiOを有するニッケルであった。活性組成物は、9.78mmol/mの酸化イリジウムであった。走査電子顕微鏡(SEM)で観察すると、触媒層はニッケル粒子によって形成されたニッケルマトリックス及びNiOの薄いクラストであり、酸化イリジウムは触媒層のポロシティの中に分散していた(図6~8を参照)。触媒層及び活性組成物の組合せは、ちょうど50μm未満の厚さ(各側)を有し、0.4m/g(BET)のポロシティを有した。組合せは、98.7モルパーセントのニッケル、0.9モルパーセントの酸化ニッケル及び0.4モルパーセントの酸化イリジウムを含んだ。
【0054】
比較例1
100×100mm片のニッケルエクスパンドメッシュに、粒径-45/+10μm、純度99.9%のニッケル粉末(Fe<0.5、O<0.4、C<0.02、S<0.01)を、周囲空気中で両側上に13.0±0.9g/dmの量、並びに300μmの目標厚さ及び他方側上に100μmの目標厚さでプラズマ溶射した。その後、溶射メッシュを350℃の炉中で15分間加熱した。次いで、溶射エクスパンドメッシュを放冷し、それによってニッケル及び酸化ニッケルを含む触媒層だけを有する電極CE1を形成した。触媒層はちょうど200μm未満(各側)の厚さを有し、0.4m/g(BET)のポロシティを有していた。
【0055】
比較例2
100×100mm片のニッケルエクスバンドメッシュに、粒径-45/+10μm、純度99.9%のニッケル粉末(Fe<0.5、O<0.4、C<0.02、S<0.01)を、周囲空気中で両側上に4.5±0.5g/dmの量及び45μmの目標厚さでプラズマ溶射した。その後、溶射エクスパンドメッシュを、350℃の炉中で15分間加熱した。次いで、溶射ワイヤメッシュを放冷し、それによってニッケル及び酸化ニッケルを含む触媒層だけを有する電極CE2を形成した。触媒層はちょうど50μm未満(片側)の厚さを有し、0.4m/g(BET)のポロシティを有していた。
【0056】
比較例3
別の100×100mm片のニッケルエクスパンドメッシュ上に、下記を除いて、実施例2を再度行った。メッシュにはプラズマ溶射せず、ニッケル/酸化ニッケル又は他の金属の層で被覆もしなかった。活性組成物を、エクスパンドメッシュ上に直接形成した。プラズマ溶射層が存在しないことを除いて、同じ第1及び第2の前駆体組成物を、実施例2と同じ方式でエクスパンドメッシュに塗布した。
【0057】
このプロセスにより、各側に活性組成物を有する電極CE3を生成した。活性組成物は9.78mmol/mの酸化イリジウム及び42.7mmol/mのニッケルコバルタイトであり、これは、18.6モルパーセントの酸化イリジウム及び81.4モルパーセントのニッケルコバルタイトに相当する。
【0058】
試験
電極E1、E2、E3、CE1、CE2及びCE3をそれぞれ電解セルのアノードとして使用し、SCE参照電極及び20Aブースターを装備したVMP3Biologicポテンシオスタットを使用し、KOH25%、80℃で、3本の電極を組み立てて、アノードの酸素過電圧を測定した。電気化学インピーダンス分光法(EIS)によってiR降下を測定した。10kA/mで決定して得られた電極電位から、pH14での熱力学的酸素発生電位を引いた。これらの測定の結果を、以下の表1に示す。加えて、E2、E3、CE1、CE2及びCE3アノードを有する電解セルをそれぞれ接続して、10kA/mの電流を有する電力を受け取り、次いで6時間のオン/オフサイクルで電力の一連の50回のシャットダウンに供した。各シャットダウン後、セルの10kA/mでの電圧を測定した。これらの測定の結果も、以下の表1に示す。
【0059】
試験の結果は、電極CE2の触媒層は電極CE1の触媒層より実質的に薄い(≒50μm対≒200μm)が、電極CE2の酸素過電圧は電極CE1よりそれほど大きくない(380mV対350mV)ことを示している。電極E1~E3は電極CE1及びCE2の両方より実質的に良好な酸素過電圧を有した。電極E2は、CE1及びCE2より著しく良好な酸素過電圧を有し、電極E3及びCE3より良好なシャットダウントレランスを有した。電極CE3は良好な酸素過電圧を有したが、それほど良好でないシャットダウントレランスを有した。結果は、触媒層24がなく活性組成物26だけを有する電極は、良好な酸素過電圧を有するが、不十分なシャットダウントレランスを有することを示している。逆に、活性組成物26がなく触媒層24だけを有する電極は、良好なシャットダウントレランスを有するが、不十分な過電圧を有する。触媒層24及び活性組成物26の相乗的組合せは、高められた特性、すなわち良好なシャットダウントレランス及び良好な過電圧の両方を有する電極をもたらす。特にコバルト化合物及びイリジウム化合物の両方を含む活性層。こうした電極(例えば、電極E2)は、改善された酸素過電圧も有する。
【0060】
図6図8は、実施例3による電極の断面のSEM/EDAX画像を示し、この電極はニッケル基材30、ニッケル及び少量の酸化ニッケルから作成された触媒層31並びに触媒被覆に熱的塗布されたイリジウム系活性組成物を含む。図6のSEM画像は、粗いニッケルメッシュで作られた基材上に、溶射を介してニッケルを析出させることによって得られた触媒層のモフォロジーを示している。そこから理解できるように、いくつかのポロシティを示す触媒層31は、本質的にポロシティを示さない高密度ニッケル基材30から、輪郭のはっきりした界面32によって明確に区別される。触媒層31のポロシティは、触媒層31の内部に形成された割目33に本質的に起因する。主にこれらの割目33は、本質的に、基材30と触媒層の間の界面32と平行に向いている。黒い領域34は、試料調製に必要な樹脂に相当する。図6と同じ、電極の断面領域を示す、図7のSEM/EDAX画像から理解できるように、活性組成物(図6では見えない)は割目33を介して触媒層に浸透することができる。灰色領域は触媒層のニッケルに相当し、一方白い領域/ドットは活性な組成物のイリジウムに相当する。イリジウムのEDAXマップayは非常にノイズが多いが、図7で黒い円によって示されるイリジウム含有量が増加した明瞭な斑点(patch)は、はっきり目視可能であり、活性組成物が触媒層内に浸透して、図6の多孔性領域に相当する領域に蓄積していることを示している。図8は、図6の電極と同じ領域での酸素分布を示すSEM/EDAX画像である。酸素EDAX画像(白)は、図6のSEM画像(灰色)に重ねられる。ノイズを無視すれば、基材30は純粋なニッケルからなるが、一方触媒層31は、触媒層の酸化ニッケル成分に相当する酸素(黒い円)を含有する斑点を含んでいることを、図8から理解することができる。
【0061】
前述の例示的実施形態の記述は、網羅的ではなく、むしろ単に例示的な意図であることを理解すべきである。当業者は、本開示の精神又はその範囲から逸脱することなく、本開示の主題の実施形態に何らかの追加、削除、及び/又は修正をすることができるであろう。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
【手続補正書】
【提出日】2022-07-18
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルカリ電解プロセスで使用するための電極であって、
金属基材と、
金属基材上に配置された触媒層であり、ニッケル及び酸化ニッケルを含み、BETにより測定した約1m/g未満のポロシティを有する、金属基材上に配置された触媒層と、
触媒層上及び内部の両方に配置された活性組成物であり、コバルト化合物、イリジウム化合物、ロジウム化合物、鉄化合物、白金化合物、リチウム化合物及びマンガン化合物からなる群から選択される1つ又は複数の金属化合物を含む、触媒層上及び内部の両方に配置された活性組成物と
を含む、電極。
【請求項2】
金属に関して触媒層の装填量によって正規化された、約1.0~約10.0mF/gの範囲の二重層キャパシタンスを有する、請求項1に記載の電極。
【請求項3】
活性組成物が、30モルパーセントを超える、コバルト化合物及びイリジウム化合物のうちの1つを含む、請求項1又は2に記載の電極。
【請求項4】
活性組成物が、60モルパーセントを超える、コバルト化合物及びイリジウム化合物のうちの1つを含み、コバルト化合物はニッケルコバルタイトを含み、イリジウム化合物は酸化イリジウムを含む、請求項3に記載の電極。
【請求項5】
活性組成物が、ニッケルコバルタイトから本質的になる、請求項4に記載の電極。
【請求項6】
活性組成物が、酸化イリジウムから本質的になる、請求項4に記載の電極。
【請求項7】
活性組成物が、約40~約90モルパーセントのコバルト化合物、約0~約50モルパーセントのイリジウム化合物、及び約0~約20モルパーセントの、ロジウム化合物、鉄化合物、白金化合物、リチウム化合物、マンガン化合物のうちの1つ又は複数を含む、請求項1に記載の電極。
【請求項8】
活性組成物が、約70~約90モルパーセントのコバルト化合物、約10~約30モルパーセントのイリジウム化合物並びに約0~約10モルパーセントの、ロジウム化合物、鉄化合物、白金化合物、リチウム化合物、及びニッケル化合物のうちの1つ又は複数を含む、請求項7に記載の電極。
【請求項9】
コバルト化合物がニッケルコバルタイトを含み、イリジウム化合物が酸化イリジウムを含む、請求項8に記載の電極。
【請求項10】
活性組成物が、ニッケルコバルタイト、酸化イリジウム、酸化鉄、及びニッケル酸リチウムからなる群から選択される1つ又は複数の金属化合物を含む、請求項1に記載の電極。
【請求項11】
触媒層が、約10μm~約50μmの範囲の厚さを有する、請求項1から10のいずれか一項に記載の電極。
【請求項12】
電極の金属基材が、ニッケル、ニッケル合金及び鉄合金からなる群から選択される1つ又は複数の金属を含む、請求項1から11のいずれか一項に記載の電極。
【請求項13】
触媒層が第1の触媒層であり、金属基材がニッケル基材を含み、
金属基材が相対する第1及び第2の側を有し、第1の触媒層が金属基材の第1の側上に配置されかつ付着しており、
電極が金属基材の第2の側上に配置されかつ付着している第2の触媒層をさらに含み、第2の触媒層が第1の触媒層と実質的に同じ組成物を有し、
活性組成物が第2の触媒層上及び内部の両方に配置されている、
請求項12に記載の電極。
【請求項14】
請求項1から13のいずれか一項に記載の電極を含むアルカリ水電解ユニットであって、電極がアノードであり、アルカリ水電解ユニットが、
カソードと、
実質的に塩素を含まない電解質溶液と
をさらに含む、アルカリ水電解ユニット。
【請求項15】
電極を形成する方法であって、
金属基材を提供する工程と、
溶射、レーザークラッディング又は電気めっきを介して、金属基材上に触媒層を形成する工程であり、触媒層が、ニッケル及び酸化ニッケルを含み、BETにより測定した約1m/g未満のポロシティを有する、金属基材上に触媒層を形成する工程と、
触媒層に活性組成物を塗布する工程であり、1つ又は複数の前駆体組成物を触媒層に塗布し、次いで、1つ又は複数の前駆体組成物及び触媒層を加熱して、活性組成物を形成することを含む、活性組成物を塗布する工程と
を含む、方法
【請求項16】
触媒層を形成する工程が、溶射によって行われ、触媒層が約1.0~約10.0mF/gの範囲の二重層キャパシタンスを有する、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
触媒層を形成する工程が、溶射によって行われ、電線を含む、又はニッケル粉末を周囲空気中で金属基材上にプラズマ溶射することによって行われる、請求項15又は16に記載の方法。
【請求項18】
活性組成物が、コバルト化合物、イリジウム化合物、ロジウム化合物、鉄化合物、白金化合物、リチウム化合物、マンガン化合物からなる群から選択される1つ又は複数の金属化合物を含み、前駆体組成物が1つ又は複数の金属化合物の前駆体を含む、請求項15に記載の方法。
【請求項19】
活性組成物が、約40~約90モルパーセントのコバルト化合物及び約10~約50モルパーセントのイリジウム化合物を含む、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
コバルト化合物がニッケルコバルタイトを含み、イリジウム化合物が酸化イリジウムを含む、請求項19に記載の方法。
【国際調査報告】