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特表2023-543394分離式養分供給ストラテジーの適用により微生物電解セル(MEC)内でメタン生成微生物を利用して合成物、例えばメタンを製造する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-10-16
(54)【発明の名称】分離式養分供給ストラテジーの適用により微生物電解セル(MEC)内でメタン生成微生物を利用して合成物、例えばメタンを製造する方法
(51)【国際特許分類】
   C12P 5/02 20060101AFI20231006BHJP
   C25B 3/03 20210101ALI20231006BHJP
   C25B 3/25 20210101ALI20231006BHJP
   C25B 1/04 20210101ALI20231006BHJP
   C12P 7/04 20060101ALI20231006BHJP
   C12P 7/02 20060101ALI20231006BHJP
   C12P 5/00 20060101ALI20231006BHJP
   C12N 1/20 20060101ALN20231006BHJP
【FI】
C12P5/02
C25B3/03
C25B3/25
C25B1/04
C12P7/04
C12P7/02
C12P5/00
C12N1/20 A
【審査請求】未請求
【予備審査請求】有
(21)【出願番号】P 2023514958
(86)(22)【出願日】2021-08-31
(85)【翻訳文提出日】2023-05-02
(86)【国際出願番号】 EP2021074025
(87)【国際公開番号】W WO2022049074
(87)【国際公開日】2022-03-10
(31)【優先権主張番号】102020123184.9
(32)【優先日】2020-09-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521190406
【氏名又は名称】エレクトロハエア・ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100101683
【弁理士】
【氏名又は名称】奥田 誠司
(74)【代理人】
【識別番号】100155000
【弁理士】
【氏名又は名称】喜多 修市
(74)【代理人】
【識別番号】100188813
【弁理士】
【氏名又は名称】川喜田 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100202197
【弁理士】
【氏名又は名称】村瀬 成康
(72)【発明者】
【氏名】ロドリゴ,ホセ
(72)【発明者】
【氏名】パテール,ニタント
(72)【発明者】
【氏名】コーチャンチッチ,マッテオ
(72)【発明者】
【氏名】ハーフェンブレートル,ドリス
【テーマコード(参考)】
4B064
4B065
4K021
【Fターム(参考)】
4B064AB03
4B064CA02
4B064CC21
4B064CD01
4B064DA16
4B065AA01X
4B065BB02
4B065BC50
4B065CA03
4B065CA60
4K021AA01
4K021AA09
4K021AC02
4K021BA02
4K021DC11
(57)【要約】
本発明は、離散的又は連続的様式で分離式養分供給を適用しつつ、微生物電解セル(MEC)内でメタン生成微生物によりメタンまたは少なくとも1つの他の合成物を製造する方法に関する。
【選択図】図12
【特許請求の範囲】
【請求項1】
微生物電解セル(MEC)内でメタン生成微生物によりメタン製造期中のメタンおよび/または少なくとも1つの他の合成物を製造する方法であって、
i.陽極と陰極とメタン生成微生物の培養物とを適切な液体水性電解質培養培地内に含むMECを供給する工程と、
ii.連続プロセスで前記メタン生成微生物を培養する工程と、
iii.前記MECの前記陽極から前記陰極へ電子を供給し、前記メタン生成微生物を前記電子に接触させる工程と、
iv.前記メタン生成微生物を少なくとも1つの無機炭素源に接触させる工程と、
v.窒素源および/または硫黄源を離散的又は連続的様式で前記培養培地に別々に供給することにより、前記メタン生成微生物を前記窒素源および/または前記硫黄源に接触させる工程と、
vi.前記MECからメタン、メタンリッチガス組成物および/または少なくとも1つの他の合成物を収集する工程と、
を含む方法。
【請求項2】
前記MECは少なくとも
(a)前記陰極と前記メタン生成微生物の前記培養物とを前記培養培地内に含む第1のチャンバと、
(b)少なくとも前記陽極を含む第2のチャンバと、
(c)必要に応じて含まれる、前記第1のチャンバと前記第2のチャンバとの間にあるプロトン透過性でガス不透過性のバリアと、
を含み、
好ましくは前記窒素源および/または前記硫黄源が離散的様式で供給される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記工程v.は、前記培養培地内の前記窒素源の濃度を0.005から0.2Mまたは0.02から0.2M、好ましくは0.01と0.02Mの間という所与の量に維持するように、前記培養培地内の前記窒素源の濃度を連続的に制御および規制することをさらに含む、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記工程v.は、前記培養培地内の前記硫黄源の濃度を0.1から100mMまたは10から80mM、好ましくは15と30mMとの間という所与の量に維持するように、前記培養培地内の前記硫黄源の濃度を連続的に制御および規制することをさらに含む、請求項1から3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記硫黄源は、前記培養培地内の前記硫黄源の濃度(mol/L)に対する予測電極面積(m)の割合を1:0.001から1:0.1、1:0.1から1:10または1:1.5から1:3の範囲、好ましくは1:2から1:3または1:2から1:2.5の範囲に維持するように供給される、請求項1から4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記工程v.は、前記培養培地内において元素の形態またはその任意の適切な非毒性塩イオンの形態にある無機元素、例えばナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、鉄、塩化物またはリン酸塩からなる群より選択される無機元素の少なくとも1つの他の源を連続的または離散的様式で別途供給することにより、前記無機元素の少なくとも1つの他の源の濃度を連続的に制御および規制することをさらに含む、請求項1から5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記メタン生成有機体を培養する工程は、
前記培養物の状態を嫌気性または機能的に嫌気性に保持することと、
温度を32℃から85℃の範囲に保持することと、
前記方法全体または少なくとも1つの前記工程を大気圧状態および/または最大16バール又は最大420バールの加圧状態で実施することと、
前記メタン生成微生物の密度を0.01から50g/L、0.025から0.625g/L、0.1から0.5g/L、3.5から30g/L、5から20g/Lまたは5から10g/Lの範囲に維持することと、
をさらに含む、請求項1から6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記窒素源は、二原子窒素(N)、アンモニア(NH)、硝酸塩または硝酸塩イオン、好ましくはNHOHまたはNHClの形態にあるアンモニウム(NH )化合物、またはこれらの組み合わせである、請求項1から7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記硫黄源は、硫化水素、NaS、L-システイン、元素硫黄または硫酸塩またはこれらの組み合わせからなる群より選択される、請求項1から8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
水素、硫化水素、硫黄源、ギ酸、一酸化炭素、還元金属、糖(例えばグルコース、フルクトース)、酢酸塩、陰極電極またはこれらの組み合わせからなる群より選択される還元元素の源を前記培養培地内にさらに含む、請求項1から9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記少なくとも1つの無機炭素源は電子均等物を含み、COガス、炭酸ナトリウム、炭酸カリウムおよび炭酸アンモニウムまたはこれらの組み合わせからなる群より選択される、請求項1から10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
電子均等物を含む前記無機炭素源の流れを前記電子流に依存して連続的に制御および規制する工程であって、前記電子に対する前記電子均等物の割合が1:20から1:1の範囲であり、より好ましくは1:10から1:6の範囲であり、さらに好ましくは1:8である工程をさらに含む、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記少なくとも1つの無機炭素源はCOガスである、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記少なくとも1つの無機炭素源はCOであり、メタンまたはメタンリッチガス組成物が収集される、請求項1から13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
前記少なくとも1つの他の合成物は、イソプレン、ゲラニオール、ビタミンA、コレステロール、カロチノイドおよび天然ゴムからなる群より選択される、請求項1から14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
初期pH値をpH6から11、pH7から10またはpH8という所与の値に設定し、その後は前記pH値を連続的に制御および規制する工程をさらに含む、請求項1から15のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
前記メタン生成微生物を、Hを含む少なくとも1つの供給ガスに接触させる工程をさらに含む、請求項1から16のいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
前記メタン生成微生物の使用済み前記培養物は前記培養培地内で浮遊しているか又は少なくとも部分的に前記陰極に結合している、請求項1から17のいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
前記メタン生成微生物は水素栄養性であり、Methanobacterium、Methanobrevibacter、Methanothermobacter、Methanococcus、Methanosarcina、Methanopyrusまたはこれらの混合物を含む古細菌(Archaea)または古細菌(archaebacteria)の群のうちの少なくとも1つから選択される、請求項1から18のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、改良型分離式養分供給ストラテジーを関わらせることにより、微生物電解セル(MEC)内で少なくとも1つの無機炭素源からメタン生成微生物により、メタン製造期中のメタンまたは少なくとも1つの別の合成物を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
本特許出願に至ったプロジェクトの一部は、ドイツ連邦経済エネルギー省(BMWi)の「中小企業のための中核イノベーションプログラム」(Zentrales Innovationsprogramm Mittelstand)(ZIM)により参考番号第16KN066610号として資金を提供された。
【0003】
メタンは化石燃料のうち炭素原子1個当たりで最も高いエネルギー密度を有しており、エネルギー変換に対するその可能性は、酸素の存在下での燃焼または燃料電池の使用により直接得られて電気を発生させる他のいずれの天然ガスよりもはるかに高い。エネルギー発生に対するメタンの可能性はグローバルマーケットにおいて益々重要性を増しつつある。
【0004】
したがってメタンは天然ガスとして持続可能で再生可能なエネルギー源を構成しており、今日すでに石炭および他の化石燃料にどんどん置き換わっている。
【0005】
そのため最近の研究はメタン生成菌、例えば古細菌を用いてメタンを製造する方法の開発および改良に焦点が絞られている。メタン生成菌は二酸化炭素と水素とから非常に効率的にメタンを製造することができる、あるいは微生物電解セル内で炭素源および電気エネルギーの入力からメタンを製造することができる。今日の最先端技術としては、メタン生成微生物の採用により製造されたメタンでガス組成物をエンリッチする試みがいくつかある。古細菌を用いたメタンの産業的製造では、例えば寄託され市販されているMethanothermobacter thermautotrophicus株UC120910(ECH100またはECH0100)が通常用いられ得る。
【0006】
バイオメタンの製造を拡張可能で信頼できる確立された再生可能エネルギー源にまで高めることは、特に連続プロセスに対する要件のせいで依然として容易ではないことが証明されている。
【0007】
本発明はバイオエレクトロメタネーションに特化した微生物電気化学技術(MET)に基づいている。このプロセスは微生物電解セル(MEC)内で実現される。これは、触媒として微生物を用いながら化学エネルギーを電気エネルギーに(およびその逆)変換することができるユニークな系である。この系は、単一の反応器であるMEC内で電気分解とメタン製造との組み合わせを実現する。MEC内には例えば陰極(バイオ陰極)にメタン生成微生物が存在する。反応器は単一のコンパートメントを含んでいてもよく、陰極コンパートメントまたはチャンバが例えば半透膜を介して陽極コンパートメントまたはチャンバから分離されていてもよい。最先端技術のいくつかの実施形態では、メタン生成微生物(メタン生成菌、古細菌)によるメタン生成が(バイオ)陰極コンパートメント内で直接起こり、他方、以前からのCOからメタンへの陰極還元に必要な電子流は陽極コンパートメント内で水の酸化により形成される(図1)。
【0008】
より詳細に述べると、このプロセスでは、電力を用いてMECの陽極と陰極との間の電位差を広げ、それによりバイオエレクトロメタネーション反応を可能にする。
【0009】
陰極では、メタン生成微生物の培養物が、例えば水素を用いて以下のメタネーション反応を触媒し得る。
CO+4H→CH+2HO (式1)
または
CO+8H+8e→CH+2HO (式2)
【0010】
あるいは培養物は、中間に介在するレドックス媒体を介してメタネーション反応を触媒してもよい(図1下参照)。
【0011】
このメタネーションプロセス(例えば式1および2参照)により製造された水は「代謝水」または「フリーウォーター」とも呼ばれる。代謝水の製造に関する問題は、培養培地(電解液のうちの触媒液部分)内の培地成分の希釈倍率であり、この問題には特別に取り組まなければならない。この希釈倍率は、以前からの方法でプロトン交換膜により分離され得る陽極チャンバと陰極チャンバとの間で起こる液体のマイグレーションプロセスにより改変される。メタン生成有機体に必要な養分は、従来技術では典型的には培養培地として又は濃縮培地ストック溶液として供給される。これらは、動作中のメタネーション速度が正常であることを確実にするために、連続モードまたはフェッドバッチモードで連続的に追加されなければならない。新鮮な培地ストックをこのように連続的に追加することは、プロセスの動作コストに大きな弊害をもたらす部分である。さらにこの最先端の供給ストラテジーは、微生物がMEC内で直面する実際の微生物養分の要件を特段満たしているわけではない。なぜなら、陰極でのバイオエレクトロメタネーションプロセスは養分に関して特定の要件を課しているからである。さらに、メタン生成微生物の特別の株は養分の使用に関して様々な特別のニーズを有してもいる。この最先端技術の問題に対処する1つの方法は、養分および養分量ごとに異なる方法で生成された細胞培養培地組成物を供給することにより特定の株のニーズを満たすことである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
したがって本発明の目的は、最先端技術の上記不都合を克服し、特に、バイオメタネーションプロセスの基礎となる連続動作条件下でのバイオ電気化学プロセスを状況に応じて最適化し、それによりメタンリッチガス組成物の拡張可能かつ信頼できる連続製造プロセスを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本出願の目的は、本発明の請求項1に特定する新規に開発された方法により解決されている。
【0014】
特に上記目的を達成するために、微生物電解セル(MEC)内でメタン生成微生物によりメタン製造期中のメタンおよび/または少なくとも1つの他の合成物を製造する方法が提供される。この方法は、
i.陽極と陰極とメタン生成微生物の培養物とを適切な液体水性電解質培養培地内に含むMECを供給する工程と、
ii.連続プロセスでメタン生成微生物を培養する工程と、
iii.MECの陽極から陰極へ電子を供給し、メタン生成微生物を電子に接触させる工程と、
iv.メタン生成微生物を少なくとも1つの無機炭素源に接触させる工程と、
v.窒素源および/または硫黄源を離散的又は連続的様式で培養培地に別々に供給することにより、メタン生成微生物を窒素源および/または硫黄源に接触させる工程と、
vi.MECからメタン、メタンリッチガス組成物および/または少なくとも1つの他の合成物を収集する工程と、
を含む。
【0015】
この方法は細胞成長期後、メタン製造期の連続動作プロセス中の改良型メタン製造を提供する。連続動作プロセスは、窒素源および/または硫黄源を離散的又は連続的様式で供給することを含み得る。
【0016】
本発明の別の実施形態によると、メタン以外の合成物を製造および収集する方法が提供される。さらなる実施形態によると、メタンおよび少なくとも1つの他の合成物を製造し、その後メタンとメタンリッチガス組成物と上記少なくとも1つの他の合成物とを別々にMECから収集する方法が提供される。
【0017】
窒素源および硫黄源は各々時間的に互いに分離した離散的様式で供給され、例えば、互いに24時間以内にパルスされ得る。あるいは窒素源および硫黄源は各々同時刻または重複する時刻に、すなわち同時に離散的様式で供給されてもよい。窒素源および硫黄源の同時供給は、硫黄源および窒素源の各々を別々のストック溶液として提供し、両方を例えば少なくともいくつかの時刻で別々の供給手段により培養培地に供給することにより可能となる。あるいは硫黄源および窒素源はすでに予め混合されており、少なくとも1つまたは複数の異なるストック混合溶液であって、窒素源および硫黄源の各々について特定のストック濃度を有するストック混合溶液となっていてもよい。このような特定のストック混合溶液は、その後必要に応じて供給手段により培養培地に供給され得る。
【0018】
ビタミンと非毒性塩イオンと細胞成長に必要なその他の養分とを含む残りの分離された電解質培養培地は、窒素源および/または硫黄源とは別に供給される限り、離散的様式または連続的様式で、好ましくは連続的様式で供給され得る。無機炭素源も好ましくは別に供給されるが、分離された培養培地の一部として供給されてもよい。
【0019】
本発明の発明者らは有利に且つ驚くべきことに、このような分離式供給レジーム(窒素源、硫黄源、無機炭素源)の下でMECを作動させることにより、系の全体的効率が上がることを見出した。系の全体的効率は、培養培地全体を供給する標準的ストラテジーが適用された同等の実験におけるよりも30%以上高く、好ましくは50%以上高いことが観察された。この有効性の計算に含まれ得るプロセスは、コストを下げ、養分を節約し、他方、全体的なメタネーション速度を上げる。
【0020】
例えば30gCH/kWhの効率を達成することができる。
【0021】
さらに養分、重要なものとしては窒素源および/または硫黄源および上記少なくとも1つの無機炭素源であるが、これらを別々に供給することは、メタネーションプロセスの様々な変数に対して独立して作用するという利点を有する。このようにいくつかの実施形態では、上記少なくとも1つの無機炭素源、窒素源および/または硫黄源の各々は別々に培養培地に供給される。本明細書に開示するこれらの供給ストラテジーは、メタン生成、すなわちメタンの形態でのエネルギー製造を最大化するという重要な目標を有するプロセス動作に関して有利な柔軟性を提供する。MEC内でのエネルギー回収に関しては、高いクーロン効率が目標となる。本発明において「クーロン効率」は、エレクトロメタネーションにより製造される所望のメタンを理想的な形でもたらす電子の数を表す。硫黄源および窒素源を互いに別々に供給し且つ無機炭素源も別に供給するストラテジーでは、3つの養分の各々が本発明の方法によってニーズに依存した/状況に依存した様式で供給される。本発明者らはこのストラテジーであれば、(これらの)養分の供給をMEC系内の電子の利用可能性に関する生体触媒のニーズに初めて真に適合させることができる。これによれば、系のクーロン効率は、培地全体を供給する標準的ストラテジーが適用された同等の実験におけるよりも30%以上高く、50%以上高く、または好ましくは60%以上高いことが観察された。
【0022】
メタンを製造および収集する本発明の方法に関する利点は、化学物質および関連するコストを節約し、それによりメタネーションプロセスを維持し、プロセス中で必要とされない化学物質が無駄にされる量を無くすことである。
【0023】
本発明において、本発明で用いる「期」は、本発明のバイオ反応器内のメタン生成微生物の状態および状況を意味する。これはメタン生成微生物に適用される特定の発酵条件、例えば水素および二酸化炭素の分圧の割合、または適用される少なくとも1つの養分、例えばアンモニアの特定の値または範囲、および/または細胞を反応器内に保持する(細胞保持)か否かの設定によって特徴づけられる。
【0024】
本発明における「細胞成長期」は、細胞分裂および細胞成長によるメタン生成微生物のバイオマスの増加に主に特徴づけられる期である。本発明における「メタン製造期」は、細胞分裂および細胞成長ではなくメタン製造によって主に特徴づけられる期である。しかしいずれの細胞成長中においても細胞はメタンをも製造するかもしれないし製造しないかもしれない。いずれのメタン製造期においても全体的なバイオマスは増加し得る。
【0025】
微生物が動作状態にあるとき、メタン生成微生物は様々な代謝期のうちの1つにあり得る。代謝期は、微生物のメタネーション速度、分裂速度、および成長速度によって異なり、後者は微生物数の倍加時間(分裂速度)または細胞量(成長速度)として表すことができる。典型的に観察される期は、誘導期、活発な成長期(微生物が急速に増えるときは指数増殖期または対数期としても知られる)、静止期および死滅期(細胞数の指数関数的減少または対数減少)を含む。いくつかの実施形態では、開示する微生物は誘導期、活発な成長期、静止期または略静止期にある。静止期は概して主要なメタン製造期である。
【0026】
本発明の方法は、メタン生成古細胞を培養する工程を含む。この工程は、すでに文献に記載されており当業者に公知である古細胞の典型的な培養条件に基づいている。当業者の技術によると、このような条件は培養に影響を与える一般的なパラメータにより影響を受け、これらに制御される。一般的なパラメータは、温度、圧力、容積、塩イオン含有率、導電率、炭素含有率、窒素含有率、ビタミン含有率、アミノ酸含有率、鉱物含有率またはこれらの任意の組み合わせを含む。上記は様々に変化し得、本発明の方法の範囲に含まれる。
【0027】
本発明は、国際出願PCT/EP2020/060979号に記載された所謂「細胞保持条件」の下で実施することができる。これは、以前からある従来技術の培養方法で広く起こっているような、かなりの数の細胞が反応容器から連続的に洗い出されるとう事態を避けるためである。これらの洗い出された細胞は、細胞分裂および細胞成長のサイクルをさらに行うことによって、従ってCOおよびHを、目的とするメタン出力の発生のために用いるのではなく細胞の生成および成長のために用いることにより、置換されなければならない。これは系の効率にとって好ましくない。これに代えておよび/またはこれに加えて、MECが細胞保持無し条件(PCT/EP2020/060979参照)下で作動している場合、洗い出された量の細胞を補償するに十分な量の新たなメタン生成微生物を供給するというオプションがあってもよい。
【0028】
本発明の発明者らは有利に且つ驚くべきことに、窒素源、硫黄源またはその両方を別々に供給するストラテジーはメタン製造効率を上昇させること、および別々に供給された窒素源または硫黄源はそれぞれのメタン生成微生物の生理学的ニーズを株に依存して有利に満たすことを発見した。本発明において「離散的様式で供給する」とは、窒素源および/または硫黄源の供給がいくつかの時刻に非連続的に、例えば単一パルスとして又は複数のパルスとして行われ得、メタン生成微生物株に対する具体的且つ特定の要求に応じて行われ得ることを意味する。窒素源および/または硫黄源を離散的または連続的様式で別々に供給するストラテジーのための実現可能な系を図2に示し、文字A-BおよびCで表す。図はさらに陰極チャンバに適用された無機炭素源、陽極液および陰極液の再循環を駆動するポンプ、陽極と陰極との間に電位差を確立するポテンショスタットの電源、および製品ガスの質を測定するマイクロGCを示す。
【0029】
本出願において「メタネーション」または「メタン生成」または「バイオ(エレクトロ)メタネーション」は、メタン生成微生物によって実施されるメタンまはたメタンリッチガス組成物の製造であると理解される。メタン生成微生物は、例えば以下に示す本発明の実施に適したメタン生成微生物のリストに含まれているものである。
【0030】
本発明によると、メタン生成微生物は、1以上の合成物、好ましくはバイオメタンを製造するために微生物電解セル(MEC)内で培養される。本発明において、メタンの製造に関して通常通り工程を開示する。これらの工程は、メタン以外の上記少なくとも1つの合成物の製造にも通常関係しているが、そのことは常に明示的に述べていない。
【0031】
様々な適切なMECが最先端技術において公知であり、当業者に公知である。より詳細に述べると、微生物はMECに含まれる陰極のチャンバ内で培養される。本発明の理解のために述べると、「MEC」はバイオ反応器を表し、バイオ反応容器またはバイオ反応エンクロージャまたはバイオ反応タンクおよび/または少なくともバイオ反応チャンバおよび/またはセル、またはこれらの組み合わせのいずれかであり、最先端技術においても同じである。MECは単一のコンパートメントを含んでいてもよく、陰極コンパートメントまたはチャンバが例えば半透膜を介して陽極コンパートメントまたはチャンバから分離されていてもよい。MECは、本発明を実施するのに重要な意図する反応が起こり得る反応プロセスの前後または反応プロセス中に、特に例えば温度および/または圧力の変化に耐えることができなければならず、および/または例えば温度および/または圧力のどのような値が付与され又は維持されるべきであっても、それを維持することができなければならない。このような反応は、微生物が関与する反応の領域に関係するためバイオ反応であると理解される。本明細書で例えば代謝発酵または好気性または嫌気性消化などの通常の生理に言及すると、このような反応が起こるためには適切な環境、適切な微生物培養物、適切な培養培地および適切な反応物質が必要である。本発明におけるMECは、開示した方法を可能にするために各変数の許容可能な値内で信頼できる動作を行う。さらにMECは、リストアップされた工程がある程度の時間をかけて確実に実施されることを可能にすると予想される。
【0032】
MECは、例えば(a)温度、(b)圧力および/または(C)電位差の値を測定し、および/または予め設定された範囲内に規制する1以上のセンサまたはコンポーネントを含み得る。これらの値は反応プロセス(例えばメタン製造)の前後または反応プロセス中に測定および/または規制され得る。
【0033】
本発明による培養済みメタン生成微生物、または独立栄養メタン生成微生物は嫌気性古細胞であってもよく又は近年分類された耐気性古細胞であってもよい。これらは純系であってもよいし、複数の、すなわち2以上の株の集まりであってもよいし、様々な種にまたがる共生交換によってメタネーションが奨励されることもあり得る混合培養物であってもよい。
【0034】
本明細書において用語「メタン生成」(methanogenic)とは代謝副産物としてメタンを製造する微生物を指す。
【0035】
本明細書において用語「培養物」は、培養培地内または培養培地上の生きている微生物の集団を指す。培養培地はMECの一部である場合、MEC内での導電を促進する電解質媒体としても機能する。
【0036】
本発明によると、本明細書で開示する方法は、「連続プロセス」でのメタン生成微生物の培養に関する。このような連続性は、メタン生成微生物によるメタンまたは少なくとも1つの別の合成物の製造における連続性(連続動作プロセス)、および培養物内での連続性であると理解される。上記の場合、コロニーの活性メンバーから不活性な末期のバイオマスを分離する工程を必要としない。代りに、死んだバイオマテリアルをいくつかの成長段階にまたがって活性メンバーと共に反応器内に保持することが推奨される。なぜなら上記バイオマスまたはバイオマテリアルが活性培養用のさらなる基質を提供し、養分の利用可能性を強化することが有利であると判明しているからである。そのためいくつかの実施形態では、メタン生成微生物を一定期間、少なくとも24時間、2日、3日、4日、1週間、2週間、3週間、1か月またはそれ以上の期間に亘ってバイオ反応器内で死んだバイオマテリアルと共に培養してもよいが、必ずしも必要ではない。
【0037】
メタン製造および培養または少なくとも1つの他の合成物の製造および培養の上記連続性を理解するということには、適切な反応物質が連続的に培養物に供給されることを理解することも含まれる。上記反応物質の連続的な供給により、メタン製造タスクの実施が可能となるが、培養物全体に亘って且つ反応器の動作期内においてメタン生成活性の任意のサイクルから得られる製造メタンの測定量(すなわちメタンの歩留まり)が大幅に変わることはない。代りにある種の反応物質、最も顕著な例としては窒素源および硫黄源の両方または一方のみが少なくとも経時的に、連続的様式ではなく離散的様式で供給されるということ以外は、この化学物質成分の供給レジームが当てはまる。
【0038】
いくつかの実施例では、別々に供給される窒素源および/または硫黄源以外の適切な反応物質が連続モードまたはフェッドバッチモードでMECに供給され、メタン生成微生物がメタン製造を実施することを可能にする。この場合、培養物全体に亘って且つ反応器の動作期内においてメタン生成活性の任意のサイクルから得られる製造メタンの測定量(すなわちメタンの歩留まり)が大幅に変わることはない。いくつかの実施形態では、窒素源または硫黄源またはその両方が、連続的様式ではなく離散的様式で供給され、他方、他の反応物質は連続的様式で供給される。
【0039】
メタンまたは上記少なくとも1つの他の合成物を目標効率範囲内で連続的に確実に製造することは、本発明の重要な特徴であり、上記方法の工程を実行することの有利な効果である。本発明によると、単一の株または混合培養物からメタン生成古細胞によってメタンが製造される。混合培養物は、複数の、従って2以上の株が採用され得る培養物、または複数の追加の種がメタン生成古細胞と相互作用する培養物、またはこれらの組み合わせのいずれかである。
【0040】
本発明の一実施形態によると、「培地のリフレッシュ」は、細胞培養培地を少なくとも部分的に交換することによって、または少なくとも1つの養分を追加することによって実現可能となる。上記少なくとも1つの養分の追加は、細胞分裂および細胞成長を引き起こす。細胞成長および細胞分裂を引き起こす養分は当業者によく知られており、窒素源、硫黄源、リン酸塩および細胞成長因子の追加または増加を含む。培養培地をリフレッシュする上記オプションの組み合わせは、本発明によっても可能なオプションである。このような「培地のリフレッシュ」は毎月、半年毎に少なくとも1日、または少なくとも1日から5日、または少なくとも1日から4日、少なくとも1日から3日に亘って行ってもよいが、必ずしも必要ではない。
【0041】
さらなる実施形態によると、MECは少なくとも
(a)陰極とメタン生成微生物の培養物とを培養培地内に含む第1のチャンバと、
(b)少なくとも陽極を含む第2のチャンバと、
(c)必要に応じて含まれる、第1のチャンバと第2のチャンバとの間にあるプロトン透過性でガス不透過性のバリアと、
を含み、
好ましくは窒素源および/または硫黄源が離散的様式で供給される。
【0042】
電源に接続された導電管は、電源が陽極と陰極との間に電位差を提供するように陽極と陰極とを接続する。MECは必要に応じて、陽極と陰極との間の電位差または酸化還元電位を測定するセンサを含む。MECは必要に応じて、電流密度、温度または圧力を測定するセンサさらに含む。MECは、別々に供給された培養培地、窒素源および/または硫黄源の入力の各々を測定する1以上のセンサをさらに含み得る。
【0043】
本発明の方法のさらなる実施形態によると、工程v.は、
培養培地内の窒素源の濃度を0.005から0.2Mまたは0.02から0.2M、好ましくは0.01から0.02Mという所与の量に維持するように、培養培地内の窒素源の濃度を連続的に制御および規制することをさらに含む。このため、窒素源は好ましくは離散的様式で供給される。
【0044】
従って、メタン生成微生物の培養物は連続的に制御および規定される、すなわち、ある窒素源濃度且つ所与の量で培養され続けるように安定化される。
【0045】
一実施形態によると、窒素源はNHであり、本発明の方法の工程v.は、
培養培地内の窒素源の濃度が0.2M未満、0.02M未満、0.01M未満または0.005M未満である場合に、培養培地内の窒素源の濃度を0.2から0.005Mまたは0.2から0.02M、好ましくは0.02から0.01Mという所与の量に維持するように、培養培地内の窒素源を連続的に制御し、窒素源の上記濃度を規制することをさらに含む。このため、窒素源は好ましくは離散的様式で供給される。
【0046】
本明細書で開示するいずれの実施形態においても、窒素源は最も低い最低レベルで、例えば離散的様式または連続的様式で供給される。方法は、窒素濃度を特定の範囲、例えば0.8M未満または0.07M未満または0.007M未満のレベルに規制するように、MECの陰極チャンバ内での窒素源の濃度を規制することを含み得る。
【0047】
メタン生成微生物は概して窒素源を必要とし、従って全ての公開されている従来技術文献は何等かの方法で窒素を供給することを教示している。窒素源パルスまたは硫黄源パルス(各々離散的に供給された)が、培養培地の塩分(陰極側)、pH、電流、CH/CO変換、水素の製造および光学濃度としてのメタネーションプロセスのパラメータに、理論に縛られることなく、どのように影響を与えるかを図7に示す。
【0048】
本発明の方法の別の実施形態によると、工程vは
培養培地内の硫黄源の濃度を0.1から100mMまたは10から80mM、好ましくは15と30mMとの間という所与の量に維持し、好ましくは硫黄源を離散的に供給するように、培養培地内の硫黄源の濃度を連続的に制御および規制することをさらに含む。
【0049】
従ってメタン生成微生物の培養物は連続的に制御および規定される、すなわち、ある特定の硫黄源濃度且つ所与の量で培養され続けるように安定化される。
【0050】
本明細書で開示するいずれの実施形態においても、硫黄源は最も低い必要最低限のレベルで、例えば離散的様式または連続的様式で供給される。方法は、硫黄濃度を特定の範囲、例えば100mM未満、50mM未満、20mM未満または10mM未満のレベルに規制するように、MECの陰極チャンバ内での硫黄源濃度を規制することを含み得る。
【0051】
本発明のいくつかの実施形態によると、方法は、酸化還元電位(ORP)に応じて硫黄源を規制することを含む。そのため本発明の方法の別の実施形態によると、工程v.は、
培養培地内の酸化還元電位(ORP)が-200未満、-350未満、-400未満または-450未満である場合に、培地内の硫黄源の濃度を0.1から100mMまたは10から80mM、好ましくは15と30mMとの間という所与の量に維持し、硫黄源を離散的に供給するように、培養培地内の硫黄源の濃度を連続的に制御し、培養培地内の硫黄源の濃度を規制することをさらに含む。
【0052】
メタン生成微生物の製造動作、例えばメタン生成にとって重要であると考えられる硫黄は成長培地内で低い酸化還元電位(ORP)を維持する還元剤として作用し得る。さらにメタン生成菌は、例えばコエンザイムF420とHとの可逆反応を触媒するF420還元ヒドロゲナーゼの[4FeS]クラスタ中の補欠分子族の一部として、Hを用いてCOをメタンに還元することに関与する反応を触媒する酵素の重要な要素である。
【0053】
本発明の方法の別の実施形態によると、工程v.は、
培地内の窒素源の濃度を0.005から0.2Mまたは0.02から0.2M、好ましくは0.01から0.02Mという所与の量に維持するように、培養培地内の窒素源の濃度を連続的に制御および規制することをさらに含み、このため、窒素源は好ましくは離散的様式で供給され、
培養培地内の硫黄源の濃度を0.1から100mMまたは10から80mM、好ましくは15と30mMとの間という所与の量に維持し、硫黄源を離散的に供給するように、培養培地内の硫黄源の濃度を連続的に制御および規制することをさらに含む。
【0054】
このため、窒素源および硫黄源は好ましくは離散的様式で供給される。
【0055】
本発明の方法の別の実施形態によると、工程v.は、
培養培地内の窒素源の濃度が0.2M未満、0.02M未満、0.01M未満または0.005M未満である場合に、培養培地内の窒素源の濃度を0.2から0.005Mまたは0.2から0.002M、好ましくは0.02から0.01Mという所与の量に維持するように、培養培地内の窒素源を連続的に制御し、窒素源の上記濃度を規制することをさらに含み、このため窒素源は好ましくは離散的様式で供給され、
培養培地内の酸化還元電位(ORP)が-200未満、-350未満、-400未満または-450未満である場合に、培養培地内の硫黄源の濃度を0.1から100mMまたは10から80mM、好ましくは15と30mMとの間という所与の量に維持し、硫黄源を離散的に供給するように、培養培地内の硫黄源の濃度を連続的に制御し、培養培地内の硫黄源の濃度を規制することとをさらに含む。
【0056】
このため、窒素源および硫黄源は好ましくは離散的様式で供給される。
【0057】
本発明によると、酸化還元電位(ORP)すなわちレドックス電位は、水溶液が新しい化学種の導入によって変化に晒されるときに電子を獲得するか又は失う傾向の測定値である。メタン生成菌は概してOに対する感受性が高い可能性があり、ある程度の量または微量の酸素(株に依存)によって抑制される可能性、さらに殺される可能性がある。そのためO濃度の対数に対して線形に変化する低いORPがその代謝活性を維持する助けとなる。最先端技術ではORPを計算するために使用可能な様々な手順が当業者によく知られている。ORPは例えば、溶液に浸漬された化学的に不活性な(プラチナ)電極の電位を測定することにより決定される。センシング電極の電位はpHプローブの参考電極に対して測定され、その値はミリボルト(mV)で表される。換言すると、これらの電極間の電位差、すなわちORP(mV)はORPメータを用いて測定される。本発明によるメタン製造期中のORPは通常、-450から200mVの範囲にある。
【0058】
驚くべきこと且つ有利なことであるが、本発明の発明者らは最初の比較実験により、窒素源および硫黄源を共に、しかし時間的に互いに間隔を開けて供給する(例えばパルスにより(離散供給))、例えば互いに24時間以内にパルスするか、または同時刻または重複する時刻にパルスすることにより、窒素源または硫黄源の各々を単独で供給する場合に比べてCH/CO変換率が増加する(相乗効果)ことを見出した。本発明者らは理論に縛られることなく、窒素源と硫黄源とを同時に(同時刻に又は重複する時刻に)、特にpHに影響を与えることにより供給することが、この相乗効果が得られる原因だと確信する。このことは反応カスケードで次に起こる反応を積極的に引き起こし、それにより窒素源または硫黄源の各々を単独で供給する場合に比べてCH/CO変換を増加させる(図7および図12参照)。顕著且つ非常に有望なことに、水酸化アンモニウム(増加する触媒液中で計7.5mMの上昇)とNaS(触媒液中でのこの化合物の総濃度が1.2mM上昇することを確立する)とを時間的に規則正しく同時にパルスした後、24時間以内にCOおよびHからCHへの変換率が非常に有利に相乗効果的に増加(50%より高く)した(図12参照)。
【0059】
さらに、メタン生成有機体の培養物に供給すべき一般的培養培地または成長培地は、元素の形態またはその任意の適切な非毒性塩イオンの形態にある一般的な無機元素、例えばナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、鉄、塩化物、硫黄源(例えば硫化水素または元素硫黄)、リン酸源(例えばリン酸塩)、窒素源(例えばアンモニウム)、硝酸塩または窒素ガスを含み得る。本発明による培養培地は窒素源および硫黄源とは別に供給され、必要に応じて上記少なくとも1つの無機炭素源とも別に供給される。培養培地は、ビタミンを含む細胞成長に必要な他の養分および非毒性塩イオンを含み得、必要に応じて最小限の量の硫黄および窒素を含み得るが、好ましくは硫黄および窒素を含まない。
【0060】
本発明によるメタン生成有機体の培養に用いるために供給される典型的な塩は、NaCl、KHPO、FeCl-4HO、NaSeO、NaS、NHOHおよびMgClである。
【0061】
本発明は他の特徴に加えて、窒素源および/または(その結果得られる)窒素源の濃縮物(例えばアンモニア)の外部からの供給を細胞培養培地内で制御する工程によって特徴づけられる。同様に本発明は、硫黄源および/または(その結果得られる)硫黄源の濃縮物(例えばNaS)の外部からの供給を細胞培養培地内で制御する工程によっても特徴づけられる。ここで「制御する」とは、培養に関連するパラメータを常に監視下に置き、当該分野で公知の一般的な方法論および測定装置を用いて上記パラメータまたは状況インジケータを実質的に測定するという一般的な共通の意味で理解される。培養のこのパラメータを常に監視下に置いて制御するだけでは不十分であり得る。そのため本発明のさらなる実施形態は特に、細胞培養培地内の窒素源の濃度および/または硫黄源の濃度を連続的に規制することを含む。
【0062】
本出願の理解のために述べると、「規制する」は、パラメータ、例えば培養物の窒素源および/または硫黄源の濃度に関する「所与の値」または所与の値の範囲を、適切な手段を用いて能動的に維持することを意図している。
【0063】
本発明による「所与の値」は、所与の許容範囲、測定系内の許容範囲、または培養物内での可変性または培養物の多様性による許容範囲を有する規定値であり得る。上記値は、メタネーションを可能にするのに適している。あるいは所与の値は、メタネーションに対して所与の値と同じ効果をもたらす適切な値の範囲であってもよい。
【0064】
本発明の発明者らは驚くべきことに、窒素源と硫黄源とが共に制御されニーズに応じて別々に供給される(離散的または連続的供給により)場合、特にこの供給レジームは、メタン生成、すなわち例えばメタンの形態でのエネルギー製造を最大化するという重要な目標を有する必要プロセス動作に関して柔軟性を高めることを可能にする。さらに、窒素源および硫黄源を状況およびニーズに依存して供給する場合、窒素源または硫黄源のいずれかを単独で供給する場合に比べて、メタネーションプロセスを維持するための化学物質およびそれに関連するコストがより節約され、そのためにプロセス中で必要とされない化学物質が無駄にされる量がより減少するという利点がある。
【0065】
別々に供給された窒素源(例えばNH)と硫黄源(例えばNaS)との培養地内での相互関係は都合のよいことに、いくつかのMECの性能変数、例えばpH、ORP、細胞成長などに対して状況に依存して作用することができる。これらの性能変数は図3に示すように互いの相互関係も有する。これらの変数応答のいくつかは、窒素源(例えばpH)および硫黄源(たとえばORP)と直接関係し、その変化は同時に、1揃いの間接変数、例えばメタネーション速度の変化を引き起こす。培地の成分の残り(例えばビタミン、鉱物、塩イオンなど)を共に供給して、触媒液希釈倍率を補償することができる。触媒液希釈倍率とはすなわち、メタン生成微生物(代謝水)および/または希釈によって駆動されたメタネーション反応のために起こった水の生成であり、これは、電極液のうちの触媒液部分および陽極液部分が膜を介してマイグレートすることにより起こる。
【0066】
本明細書で開示する実施形態のいくつかにおいて、方法は、電流密度または予測電極面積に比例して硫黄源を規制することを含む。さらなる実施形態によると、硫黄源は、培養培地内の硫黄源濃度(mol/L)に対する予測電極面積(m)の割合を1:0.1から1:10または1:1.5から1:3の範囲、好ましくは1:2から1:3または1:2から1:2.5の範囲に維持するように供給される。
【0067】
還元剤として硫黄が用いられない場合、供給される硫黄の量は減少し、上記割合はそれに応じて、例えば1:0.001から1:0.1の範囲に低下する。
【0068】
本発明において、「予測電極面積」とは電極の表面積、すなわち幾何学的面積である。これは、当業者によく知られた幾何学的方法としての最先端の方法によって測定することができる。これらの方法は単純な数式を用いて、三角形、不等辺四角形などの規則的な幾何学的形状の面積または不規則な曲線に囲まれた面積を計算する。
【0069】
さらなる実施形態によると、HOはメタン生成有機体にとって主要な正味の電子ドナーである。
【0070】
より詳細に述べると、理論に縛られることなく、窒素源および/または硫黄源を別々に供給することは、以下のパラメータに対して種に依存しておよび/または状況に依存して有利に作用すると確信されている。
【0071】
・電解液pHおよび株の光学濃度(OD)に対して
例えばNHの形態で供給された窒素源は、無機炭素源、例えばCO(NHOHとして)の溶解により形成される酸度と、陰極(NH として)でのOH生成(HOの還元による)によるアルカリ度とのバランスを取るpH調整剤として機能することができる。本発明の別の実施形態では、窒素源の緩衝剤としての役割が余分の緩衝剤、例えばリン酸塩緩衝剤剤と組み合わされ得る。このような場合、窒素がpHバランスを取る必要性は、細胞を成長させる必要性よりも低いことがあり得る。細胞成長の場合、窒素源、例えばNHが古細胞内でのタンパク質合成にとって重要な養分ととして作用する。NHは、pHのバランスを取りメタネーションを最大化するために必要とされる限りにおいて陰極チャンバに供給され得る。これらは共に最も低いODと組み合わされる変数である。
【0072】
・酸化還元電位(ORP)変数およびメタネーション速度に対して
たとえばNaSの形態にある硫黄源は、メタネーション反応にとって適切な熱力学的条件を提供するための基本的要件である低いORPを確立し得る。ORPがNaSによって十分低く保たれている限り、このような化合物の濃度は、メタネーションに必要とされる酵素成分のさらなる合成刺激にとって必要である場合にのみ上昇する。上記酵素成分は例えば、コエンザイムF420とHとの可逆反応を触媒するF420還元ヒドロゲナーゼの[4FeS]クラスタである。
【0073】
・例えばCO2の形態にある無機炭素源の新規供給および電子流シナリオへの適合プロセスに対して
本発明の発明者らは、pH、OD、ORPおよびメタネーション速度に作用することが必要とされる化合物は、無機炭素源濃度、例えばCO濃度に関する新規の実現可能なメタネーションシナリオに適合するようにも規制され得ることを見出した。これらの新規COシナリオはCOの流入に依存し、COの流入は同時に、陽極チャンバから陰極チャンバへの電子流に依存する。
【0074】
従って本発明の発明者らは理論に縛られることなく、窒素源および/または硫黄源を独立して供給することにより以下の作用が可能となることを見出した。
-メタン生成微生物にとって適切な初期レドックス電位を達成するために最適な濃度の硫黄源を供給すること。この硫黄源の供給は、最大メタネーション速度(CHに対する電子の割合に関して)を達成するために、初期pH範囲(例えば6から11)と最短誘導期とに適合していなければならない。
【0075】
-硫黄源の供給を、系の様々な進化期、すなわち株増殖およびメタネーション速度に関する誘導期、指数増殖期および静止期に適合するように段階的に変化させる。この変化は、例えばCOの形態にある無機炭素源の流れに対して決定しなければならない。
【0076】
-理想的な株成長をサポートし、静止期を含むプロセスの様々な期の各々において、窒素源の濃度を株のニーズに合わせて調整するために、最適な初期濃度の窒素を供給する。
【0077】
・様々な準最適条件/シナリオの下で作用する能力
a 不適切なORP条件:メタン生成微生物によって駆動するメタン生成は概して、約-200から450mVまでの範囲の低い酸化還元電位(ORP)を必要とする。例えば触媒液への酸素の拡散により起こる-250mVより高い準最適値は、NaSが供給され得るイベントであり得る。NaSは、酸素用捕捉剤として作用し、それによりORPを低下させることにより、不十分な膜性能(陰極を介した酸素の拡散)が招いた不適切なORP条件を逆転するように作用し得る。酸素による一時的な汚染は、他のメカニズム、例えば化学溶液(不完全な無酸素化学溶液)、CO2ガス流、またはタイトでないMEC系の要素を介しても起こり得る。
b MEC内での電子流の調整:すなわちバイオエレクトロメタネーション陰極反応での電子ドナーは様々な変数、例えば塩分、MEC電圧、温度、電解液組成などに反応し得る。
【0078】
従って電子ドナー(例えばHO)の酸化およびその結果起こる陽極から陰極への電子流は、無機炭素源(例えばCO)の電位の流れを決定する。無機炭素源はその形成に必要な8つの電子によってメタンに変換され得る。この炭素流の供給(外部からの)の変化は、pH、ORP、細胞成長、メタネーション速度などに影響を与える。例えば以下の実施可能なシナリオ例を参照のこと。本明細書で述べる方法は、以下に述べるように無機炭素源、窒素源および硫黄源を制御し規制することにより、所望の範囲からの変化に対応し対抗する工程をさらに提供する。
【0079】
シナリオA:増加した電流→対抗措置:無機炭素源流(例えばCO流)を増加させる
電流が増加した場合、対抗措置は無機炭素源流(例えばCO流)を増加させることである。このシナリオでは、CO流の増加によってpHおよびORPが変化し得る。溶液中のCO(炭酸として)が増えることによってpHは低下し得る。存在するNaSからHSへの変換(後者はガスとして系を離れる)を引き起こす、より酸性の条件のせいでORPが上昇し得る。
【0080】
実施可能な対抗措置:
ORPに関して:硫黄源(例えばNaS)と共に供給した場合、触媒液をアルカリ化しORPを再び低下させる。
【0081】
pHに関して:ORPが例えば-450mV(目標値)より低い場合は、余分の緩衝剤/窒素源(例えばアンモニア)を急増するべきであるが、pHはある閾値未満、例えばpH6.5未満であれば、弊害を招く。
【0082】
シナリオB:減少した電流→対抗措置:無機炭素源流(例えばCO流)を減少させる
電流が減少した場合、対抗措置は無機炭素源(例えばCO流)を減少させることである。
【0083】
さらに、陰極で新鮮な培地をパルスすることにより塩分を増加させ、それにより電流生成を増加させることが可能である。
【0084】
電流がより少ないままである場合、pHを変化してもよいが、ORPは安定的に変化させないか又はより負の値に向かわせるべきである。
【0085】
溶液中のCO(炭酸として)が減るせいでpHが上昇し得る。
【0086】
pHに関して実施可能な対抗措置:酸(例えばHCl)をパルスすることによりpHを規制する。
【0087】
シナリオC:無機炭酸源(例えばCO)からメタンへの変換の減少
i)このシナリオが、直近の動作時間中に上昇したOD610と関連する場合:
実施可能な対抗措置:成長培地(例えば株特定型)を供給し、必要に応じてニッケルおよび/または硫黄源(例えばNaS)を供給することにより、COからメタンへの変換を最大化し得る株の酵素代謝成分の合成を最大化する。上記酵素代謝成分は例えば、コエンザイムF420とHとの可逆反応を触媒するF420還元ヒドロゲナーゼの[4FeS]クラスタである。
【0088】
ii)このシナリオが、直近の動作時間中に低下したOD610と関連する場合:
実施可能な対抗措置:COへの電子の供給に関してCOからメタンへの変換が最大になるまで、タンパク質-バイオマス(OD610の上昇)製造の重要な成分としての窒素源を供給する。バイオマスが最小で、そのために化学物質の動作コストが最低でありながら変換率が最大である場合に、理想的なシナリオが達成され得る。
【0089】
従って、窒素源および/または硫黄源(例えばNHOH/Cl、NaS)を別々に供給しながら、以前からなされているように無機炭素源(例えばCO)を別途供給することにより、実施可能な介入がニーズおよび状況に依存して新規の電子ドナー流およびアクセプタ流に適合することが可能となり、これにより、特定のメタン生成微生物株に対する(さらに特定のメタン生成菌株全体に対する)メタネーション速度が最大に維持される。
【0090】
従って換言すると以下のようになる。本発明による新規の電子ドナー流およびアクセプタ流のシナリオに適合させることにより、細胞増殖および成長、pHおよびORP安定性およびメタネーション速度に関して、ある特定の実験株培養物をこれらの新規流に適合させる回数が有利に減少する。本発明の発明者らは驚くべきことに、必要な養分をこのように別々に供給することが、メタン生成微生物培養物のメタネーションプロセスの様々な変数に対して独立して作用し、それにより状況に依存して及び株に依存して最適メタネーション速度を可能にするという利点を有することを見出した。従ってこの供給レジームは、MECメタネーションプロセス中の動作に関して柔軟性をさらに提供する。
【0091】
さらに、MECに対するメタン生成微生物の播種開始時の最初の実験(データは示さず)において、本発明者らは、メタネーションが安定するまで状況に依存してNaS(硫黄源)の初期濃度および定期的投与を増加させた。本発明者らは理論に縛られることなく、播種の開始時にこのように別々に供給するレジームを適用することにより、メタン生成微生物の培養物の代謝期のうちの誘導期の長さが短縮されることを見出した。これはメタン製造に関して有利である。なぜならこの場合、静止期(=主要なメタネーション期)がより早期に開始され、そのため早期にメタネーション速度がより高くなるからである。
【0092】
さらにこれらの最初の実験において、初期に且つ常時高い窒素源の濃度および窒素源のさらなる投与は、用いたメタン生成微生物株の培養物のニーズに依存して減少し得る。
【0093】
理論に縛られることなく、メタン生成微生物の大半が、例えばポンプシステムのパイプをも含む反応器または反応系内に保持されている場合(これは本発明の連続動作系の場合である)、細胞の成長は反応器の起動(誘導期)の開始時における「成長期」に著しい量で主に必要とされるにすぎず、メタン製造期には必要とされないと確信されている。その結果、メタン製造期に細胞用の窒素が節約される。しかし十分な数の細胞集団が反応器の起動に直接適用された場合、成長期は必要でない。
【0094】
さらに理論に縛られることなく、メタン製造期において窒素源の外部からの供給が長期間に亘って減少した場合もメタン生成微生物の総細胞数がある程度の時間に亘ってかなり安定している理由は、成長期に成長したメタン生成微生物の細胞量であって、以前から存在していた細胞量が自然に交代する間の窒素を用いて、メタン製造期における古細胞生成サイクル中に新しい細胞が構築されるからであると確信されている。これは、例えば死んでいくメタン生成微生物の養分であって、窒素を含む養分が、生きているメタン生成微生物によってリサイクルされ、分裂によって新しい細胞を成長させる、および/または構築することを意味する。そのため窒素は状況に依存して適度に用いられる、すなわち主に新しい細胞を構築するために用いられるのみであり得る。上記新しい細胞は、例えば反応器系から洗い出されて(反応器が、細胞を保持しない条件で動作する場合)消失したか、あるいは反応器に弊害をもたらす状態が起こって消失したものである。上記弊害をもたらす状態により、メタン生成微生物の培養物の数(例えばOD610において低下した値により測定可能)が減少する。
【0095】
本発明の別の実施形態によると、工程v.は、培養培地内において元素の形態またはその任意の適切な非毒性塩イオンの形態にある無機元素、例えばナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、鉄、塩化物またはリン酸塩からなる群より選択される無機元素の少なくとも1つの他の源を連続的または離散的様式で別途供給することにより、無機元素の少なくとも1つの他の源の濃度を連続的に制御および規制することをさらに含む。。
【0096】
さらなる実施形態によると、培養培地内の無機元素の上記少なくとも1つの他の源の濃度は、メタネーション速度および/または代謝水製造速度に対して特定の所与の値または範囲に維持されるように、すなわち安定化されるように、連続的に制御および規制され得る。これはメタネーションプロセスによって駆動される培養培地内の無機元素の上記少なくとも1つの他の源の消費速度に取り組む/対抗するため、および/または代謝水の製造のせいで進行する希釈に対抗するために行われる。一実施形態によると、少なくとも1つの又は全ての上記無機元素はすでに予め混合されており、少なくとも1つまたは複数の異なるストック混合溶液であって、様々な無機元素の各々について特定のストック濃度を有するストック混合溶液となっていることがあり得る。このような特定のストック混合溶液はその後、必要に応じて供給手段によって培養培地に供給され得、さらに必要に応じてメタネーション速度および/または代謝水製造速度に関連して、または系から余分な代謝水を除去するために細胞培養培地容積全体から希釈細胞培養培地を除去する除去率および除去量に関連して供給される。
【0097】
このことは(窒素源、硫黄源および上記少なくとも1つの無機炭素源を単独で又は2以上を別々に供給するよりも顕著に)供給ストラテジーを有する利点をもたらす。これにより、メタン生成微生物の培養物のニーズは株に依存してより良く満たされ、様々な生成細胞培養培地を連続的に供給する必要もない。
【0098】
本発明の発明者らは理論に縛られることなく、必要に応じて連続的または離散的様式で別々に供給される個々の養分が多いほど、メタン生成のプロセス動作に関する柔軟性がより増すと確信する。
【0099】
本発明の別の実施形態によると、メタン生成有機体を培養する工程は、
培養物の状態を嫌気性または機能的に嫌気性に保持することと、
温度を32℃から85℃の範囲に保持することと、
方法全体または少なくとも1つの工程を大気圧状態および/または最大16バール又は最大420バールの加圧状態で実施することと、
メタン生成微生物の密度を0.01から50g/L、0.025から0.625g/L、0.1から0.5g/L、3.5から30g/L、5から20g/Lまたは5から10g/Lの範囲に維持することと、
をさらに含む。
【0100】
本発明によると、メタン生成有機体を培養する工程は、温度を32℃と85℃との間の範囲、好ましくは50から70℃または62から67℃の範囲に保持することをさらに含む。
【0101】
本発明の別の実施形態によると、メタン生成有機体を培養する工程は、培養物を再循環させる工程をさらに含み、培養物の再循環は定期的に、間隔を開けて、連続的に、または可溶性の培養物を少なくともある特定の遅くて一定の動作状態に保持しながら、実施することができる。
【0102】
温度は培養物内の選択される微生物種の存在に依存して変化し得るが、種の各々は設定された温度範囲内においてより繁栄する。殆どのメタン生成微生物にとって高い温度は弊害をもたらすものではなく、むしろ細胞の代謝の最適化を補助し得、そのため、代謝の交代又はさらにメタネーションを補助し得る。産業プロセスでは、温度はエネルギーの規制によって制御しなければならない。この点に関して、温度制御を可能とすることによりエネルギー消費量を下げることは貴重な特徴であると考えられる。
【0103】
その結果、最適化された培養温度およびそれに対応する水素の溶解性とエネルギー入力のコストとのバランスを取ることはかなり重要である。興味深いことに、本発明の方法は大気圧で、32℃と85℃との間、または50から70℃の温度範囲、または62から67℃の温度範囲において最も効率的であることが判明した。いくつかの実施形態において本発明の方法の1以上の工程が加圧雰囲気下で実施される場合、圧力は好ましくは最大16バール、最大20バール、最大50バール、最大68バール、最大110バール、またはさらに最大420バールに選択される。
【0104】
他の温度範囲または圧力範囲の場合、水素の溶解性は上記に匹敵する特徴として用いることができる。従って本発明は、1から10バールの圧力範囲での培養プロセスにも関する。高い圧力、例えば16バール、20バール、35バール、40バールまたは60バール、およびそれに対応した高い温度は、大気圧において32℃と85℃との間の温度範囲、50から70℃の温度範囲、またはさらには62から67℃の温度範囲と同じ水素溶解性を可能にするが、これらも本発明の範囲に含まれる。
【0105】
メタン生成微生物は概して、複数の他の温度範囲、さらには100℃までおよび100℃を優に超える非常に高い温度範囲、例えば140℃でも生存且つ成長し得る。従って上記温度範囲は好ましい範囲を示すが、本発明の範囲を限定するものではないと理解すべきである。
【0106】
好ましくは、本発明のさらなる実施形態によると、窒素源は、二原子窒素(N)、アンモニア(NH)、硝酸塩または硝酸塩イオン、好ましくはNHOHまたはNHClの形態にあるアンモニウム(NH )化合物、またはこれらの組み合わせであるが、これらに限られない。一実施形態によると、窒素源はアンモニアである。別の実施形態によると、窒素源は好ましくはNHOHの形態にあるアンモニウム化合物である。
【0107】
いくつかの実施形態では、培養培地内の生きている細胞の濃度(培養物密度)はドライウェイトで0.01g/Lより高く維持される。あるいくつかの実施形態では、密度はドライウェイトで50g/L以上である。
【0108】
培養物内の微生物のOD610(610nmでの光学濃度)または簡単に呼ぶと光学濃度は、各時刻での細胞数または濃度を測定するのに実行可能なパラメータである。特に本発明による培養物の光学濃度(OD)は、当該分野で公知の一般的な方法および標準を用いて測定される。細胞数の形態での光学濃度またはむしろ濁度と呼ぶものの測定は、分光光度計を用いて行われ、典型的には600nm前後で行われるが、他の波長が適していることもあり得る。
【0109】
光学濃度は測定の設定に応じて変化し得るため、培養物内の微生物のドライウェイトまたはバイオマス密度を、所与の時刻または成長期において培養物内に存在する細胞の量の測定値として示すことが有用であることが多い。当該分野で公知の標準的方法を用いて、所与の成長段階における所与の培養物のODの測定値とドライウェイトとの相関関係を確立することが可能である。これは、様々な濃度で得られた培養物の多くの異なるOD値の曲線を構築し、これに従って乾燥した培養物サンプルのドライウェイトを測定することにより可能となる。これにより、光学濃度に応じたドライウェイトのデータポイントのセットが提供される。このようなデータセットの回帰線の勾配は通常、ドライウェイトと光学濃度との相関関係を規定する。本発明によると、本出願において、OD610=4という値は概してバイオマス密度1g/Lとなる。
【0110】
本発明によると、メタン生成微生物の培養物を、OD610が少なくとも14、好ましくは20より大きい、さらには30より大きい、さらには40より大きい、ついには最大120または200である高密度培養物に案内することができ、又は導くことができる。これは培養物に十分な養分を供給し、同時に培養物からフリーウォーターまたは代謝水を除去することにより可能となる。こうして本発明の方法は、メタン生成微生物の1以上の株の培養物内で適切に実施可能となる。上記メタン生成微生物の培養物が有する測定可能OD610は、様々な成長段階を通じて、60と200との間、さらには14と120との間、さらには20と120との間、さらには30と120との間、さらには40と120との間、さらには50と120との間、さらには50と100との間、さらには14と80との間、さらには20と80との間、さらには30と80との間、さらには40と80との間、さらには20と80との間、さらには30と40との間、さらには40と60との間、さらには20と40との間である。
【0111】
多数の細胞に対応する高い光学濃度は成長期に得られ、培養物のメンバーをその生涯の全段階から終末段階までを通じてバイオ反応器中に保持することにより維持される。これにより不活性な細胞体の残りの部分は培養物の活性メンバーに養分を供給し得る。
【0112】
さらに本発明によると、メタン生成微生物の培養物を、OD610が少なくとも0.04である、または少なくとも0.1である、好ましくは0.3より大きい、さらには0.4より大きい、さらには0.5より大きい、ついには最大0.6、0.7、0.8、1.0、1.5、2.0または2.5である培養物に案内することができ、又は導くことができる。これは培養物に十分な養分を供給し、同時に培養物からフリーウォーターまたは代謝水を除去することにより可能となる。こうして本発明の方法は、メタン生成微生物の1以上の株の培養物内で適切に実施可能となる。上記メタン生成微生物の培養物が有する測定可能OD610は、様々な成長段階を通じて、0.1と2.5との間、さらには0.3と2.5との間、さらには0.4と2.5との間、さらには0.5と2.5との間、さらには0.6と2.5との間、さらには0.1と2.0との間、さらには0.1と1.5との間、さらには0.1と0.8との間、さらには0.1と0.7との間、さらには0.1と0.6との間である。
【0113】
本発明の別の実施形態によると、硫黄源は、硫化水素、NaS、L-システイン、元素硫黄または硫酸塩またはこれらの組み合わせからなる群より選択される。
【0114】
本発明の別の実施形態によると、方法は、水素、硫化水素、硫黄源、ギ酸、一酸化炭素、還元金属、糖、酢酸塩、陰極電極またはこれらの組み合わせからなる群より選択される還元元素の源を前記培地内にさらに含む。
【0115】
硫黄源は還元元素としても作用することができる。ORPが例えば酸素の拡散によりもたらされた-250mVより高い大きい準最適値である場合には、NaSが適用される。
【0116】
本発明の別の実施形態によると、上記少なくとも1つの無機炭素源は電子均等物を含み、COガス、炭酸ナトリウム、炭酸カリウムおよび炭酸アンモニウムまたはこれらの組み合わせからなる群より選択される。
【0117】
本発明の別の実施形態によると、上記少なくとも1つの無機炭素源に代えて、またはこれに加えて、有機炭素源が用いられ得る。上記少なくとも1つの有機炭素源は、ギ酸塩、酢酸塩、メタノール、メチルアミンおよび糖またはこれらの組み合わせからなる群より選択され得る。
【0118】
上記少なくとも1つの無機炭素源は、特に特定の微生物株の培養物の特別のニーズに対応するように、ニーズに依存して及び状況に依存して適用可能である。従来技術では、以前からのCOガスの形態にある無機炭素源はすでに別途与えられている。本発明によると、例えばCOの形態にある無機炭素源は純粋なガスとして供給されてもよいし、あるいは産業用ガスの供給を用いて届けられてもよい。このような産業用ガスはその源に依存して、非常に多様なガス組成物を含み得る。これらのガス組成物の主な共通点は、空気に比べて大量のCOを含むということである。ガス組成物は、酸素および/または窒素を通常の割合(空気のような割合)で含み得るが、その起源によっては酸素を含まないこともあり得る。さらにガス組成物は、以下のもの、特に一酸化炭素、水素および硫化水素、その他の硫黄化合物(硫化物、ジスルフィド、チオール)、シロキサン(有機シリコン化合物)、水素化化合物、アンモニア、および有機塩素、すなわち塩素化芳香族分子を有する殺虫剤およびその他の合成有機化合物のうちの少なくとも1つをかなりの量で含み得る。
【0119】
本明細書に開示する実施形態のうちのいくつかでは、無機炭素源は電子流に比例して供給または規制される。この場合、電子均等物を含む無機炭素源は、電子に対する電子均等物の割合で供給される。
【0120】
本発明のさらなる実施形態によると、方法は、電子均等物を含む無機炭素源流を電子流に依存して連続的に制御および規制する工程であって、電子に対する電子均等物の割合が1:20から1:1の範囲、または1:20、1:18、1:15、1:12、1:10、1:9、1:8、1:7、1:6、1:5、1:4、1:3、1:2または1:1、好ましくは1:10から1:6の範囲、より好ましくは1:8である工程をさらに含み、無機炭素源、例えばCO2のMECへの流れが測定され得る。
【0121】
本発明の好ましい実施形態によると、上記少なくとも1つの無機炭素源はCOガスであり、方法は、CO流を連続的に制御および規制することにより、以下のCO:電子の割合を受け取る工程をさらに含む。CO:電子の割合は1:20から1:1の範囲、または1:20、1:18、1:15、1:12、1:10、1:9、1:8、1:7、1:6、1:5、1:4、1:3、1:2または1:1であり、好ましくは1:10から1:6の範囲であり、より好ましくは1:8である。100mAの電流は、CO流が0.2mL/分である場合に、CO:電子の割合が1:4であることに等しい。電流を測定する技術および手段は当業者にはよく知られており、例えば、3電極系での定電位制御、2電極系での電源の使用によって行われる。
【0122】
本発明の発明者らは、無機炭素源流(例えばCO流)を上記のような割合で電子流に依存して別途供給するレジームによって制御し規制することが、メタン生成の最大化のプロセス動作に関して有利な柔軟性を提供することを見出した。
【0123】
さらなる好ましい実施形態によると、上記少なくとも1つの無機炭素源はCO、であり、メタンまたはメタンリッチガス組成物が収集される。
【0124】
さらなる実施形態によると、メタンとは異なりメタンリッチガス組成物とも異なる上記少なくとも1つの合成物は、ゲラニオール、ビタミンA、コレステロール、カロチノイドおよび天然ゴムからなる群より選択される。
【0125】
本発明の一実施形態によると、方法は、初期pH値をpH6から11、pH7から10またはpH8という所与の値に設定し、その後はpH値を連続的に制御および規制する、すなわち安定化させる工程をさらに含む。
【0126】
本発明の一実施形態によると、養分を別々に供給する系(窒素源および/または硫黄源)、(窒素源、硫黄源、無機炭素源)は、初期pH設定値をpH6.0から7.5という所与の値に規制することにより細胞分裂および細胞成長を促進させるため、または初期pH設定値をpH7.5から9.0という所与の値に規制することによりCOの捕獲を促進させ、それによりCH/CO変換を促進させるために適用され得る。別々の供給はさらに、状況に依存した上記pH値間のシフトを可能にし、それにより細胞成長とCH/CO変換とを必要に応じて促進させるという利点を有する。
【0127】
本発明の一実施形態によると、pH値を所与の異なる値に保持するように連続的に制御および規制する工程は、適量の塩基および/または酸、例えばNaOH/HClまたはNHOH/HClを培養物に投与することにより行われる。
【0128】
あるいは所望の範囲より低い減少した電流が検出された場合、これに対処する工程は、必要に応じて(a)無機炭素塩(例えばCO流)の供給を減少させることにより、又は(b)追加の新鮮な培地(例えば分離された培養培地)を陰極チャンバにパルスすることにより、塩分を増加させ、従って電流生成を増加させることを含む。別の例として、pHが所望の範囲より低くなった場合、これに対処するため窒素源の供給(緩衝剤の形態で届けられた場合)を一時的に増加させてもよい。pHが上昇すると、これに対処する工程として酸を追加してもよい。さらなる例として、ORPが所望の範囲より高くなった場合、これに対処するため硫黄源の供給を一時的に増加させてもよい。但し硫黄源はpHの上昇をも引き起こし得る。
【0129】
いくつかの局面では、変換効率が低下したことが検出された場合、これに対処する工程は、培養培地またはニッケルおよび/または硫黄源(例えばNaS)の供給を増加させること、または窒素源の供給を増加させることを含む。
【0130】
本発明者らは、全体的なメタネーション効率を維持するために外部からHを供給する必要は概してないことを見出した。なぜなら例えば水の加水分解が、メタン生成微生物の培養物の代謝および維持に十分なHを生成するからである。しかし、例えばMECが誤作動した場合などに必要となれば、培養物を回収するための緊急処置として又は単に補助するという目的のために、離散的様式で外部からHを供給することは適切であり得る。
【0131】
さらに本発明の一実施形態によると、Hの外部からの連続供給も可能である。このように本発明のさらなる実施形態によると、方法はメタン生成微生物を、Hを含む少なくとも1つの供給ガスに接触させる工程をさらに含む。
【0132】
本発明の一実施形態によると、メタン生成微生物の使用済み培養物は培養培地内で浮遊しているか又は少なくとも部分的に陰極、たとえばバイオフィルムに結合している。
【0133】
本発明の一実施形態によると、培養培地に有機無機炭酸源は存在しない。
【0134】
本発明の一実施形態によると、メタン生成微生物は水素栄養性であり、Methanobacterium、Methanobrevibacter、Methanothermobacter、Methanococcus、Methanosarcina、Methanopyrusまたはこれらの混合物を含む古細菌(Archaea)または古細菌(archaebacteria)の群のうちの少なくとも1つから選択される。
【0135】
本明細書で用いる用語「水素栄養性」とは、代謝の一部として水素を他の化合物に変換することができる微生物を指す。以前からの水素栄養性メタン生成微生物は、メタンの製造において水素(H)とCOとしての無機炭素源とを利用することができる。しかし本発明の一実施形態によると、上記の定義による以前からの水素栄養性メタン生成微生物は、例えば遺伝子組み換えによって改変され得、それによってLyuら、2016に記載のようにHおよび炭素源、例えばゲラニオールからメタンのような他の合成物をさらに製造する。
【0136】
本発明による陰極は、容積に対して面積の大きい導電性材料で形成され得る。例えば陰極は導電性材料、例えば黒鉛で形成されていてもよい。陰極は少なくとも表面において多孔性であってもよいし無孔性であってもよい。特に陰極は、網状の硝子体カーボンフォームから形成されていてもよい。ある特定の参考例によると、陰極の孔は、生きているメタン生成微生物をその中に収容するに十分大きい(例えば最小寸法で1から2マイクロメートル)ことがあり得る。陰極マトリクスの導電性は好ましくは、孔内に収容される水性電解質媒体のイオン導電性よりも少なくとも2桁大きい。陰極の役割は、副作用を最小限に抑えてエネルギー損失を最小限に抑えつつ、電子を微生物に供給することである。
【図面の簡単な説明】
【0137】
図1】バイオエレクトロメタネーションのプロセスにおけるメタン製造の様々な実施可能な方法を示すMECスキーム。陽極(Aで示す)チャンバとバイオ陰極(Cで示す)チャンバとはイオン交換膜(PEM)(Bで示す)によって分離されている。電子の流れを「e」で示し、それに関連する矢印は流れの方向を示す。Ean、EcatおよびEcellはそれぞれ陽極、陰極およびMECの電位である。2つの電極電位間の差異はセル電位に等しい:Ecell=Ecathode-Eanodeである。NHE:標準水素電極。Dはメタン生成菌を示す。EおよびGは間接電子移動メカニズムを示す。Fは直接電子移動メカニズムを示す。HおよびIはそれぞれ間接および直接電子移動メカニズム下でのメタン製造用の化学反応を示す。Lは陽極での水の酸化用の化学反応を示す。JおよびKはレドックス媒体を示す。
図2】分離式培地供給系を用いたMECバイオエレクトロメタン生成プロセスの概略図。株培地に必要なものは分離式供給系(3つの分離したコンパートメントで示す)を介して供給され、それにより分離且つ独立した養分の供給が可能となる。この系は実施可能な様々なプロセスシナリオに特化して作用するための多様性を提供する。凡例:1-マイクロガスクロマトグラフィー;2-製品ガス;3-供給系(分離式培地供給系);4-ポンプ;5-無機炭素源;6-MEC(左側:陽極;右側:陰極)および7-電源および/またはポテンショスタット
図3】硫黄源および窒素源と双方向的に相互作用する変数間の関係に関するスキーム(本発明者らの理論)。凡例:1-エネルギー密度(電子);2-水素クーロン効率;3-水素製造速度;4-必要とされる二酸化炭素流(CO);5-ORP;6-pH;7-導電率;8-メタン製造速度(メタネーション)および9-細胞密度(光学濃度、OD);Aは窒素源を示し、Bは硫黄源を示す。
図4】時間的規則正しい硫黄源パルス(NaS;1ml、100g/L)の離散的供給の結果、COからCHへの変換が急速に増加する。凡例:X軸は生体触媒播種後の時間(時)を示す。Y軸はCH/CO変換を%で示す。Aは反応器への播種を示す。
図5】硫黄源(NaS、「硫化物供給」)の初期濃度が上昇した結果、COからCHへの変換が急速に且つ濃度に依存して増加する(短期間実験)。凡例:X軸は4つの異なる濃度(1X-2X-3Xおよび4X)での硫黄供給を示す。Y軸はCH/CO変換を%で示す。
図6】硫黄源(NaS)の初期濃度が2倍になった結果、COからCHへの変換がある程度の時間をかけて増加する(長期間実験)。NaSの初期濃度は時間0、すなわち、株播種の直前に提供される。適用されたNaS濃度の関係が維持された両方の実験、すなわち一方の実験において他方の実験に比べて2倍とした実験において、定期的NaS(各4時間)が適用された。凡例:X軸は、2つの異なる濃度(1X-2X)について、硫黄を供給した後に行った生体触媒播種後の時間(時)を時間で示す。Y軸はCH/CO変換を%で示す。
図7】MECの培養培地内の窒素パルスおよび/または硫黄パルス(離散的供給)が、播種されたメタン生成菌のメタネーションプロセスのパラメータにどのような影響を与えるかを示すフローチャート。凡例:1-窒素源および/または硫黄源のパルス;2-陰極チャンバで上昇した導電率;3-pHおよびORPに対する影響;4-増加した電流生成;5-増加した水素製造;6-増加したCO流入(動作制御下);7-CO/CO変換率に対する影響(増加);8-増加した容積のメタン製造;9-細胞密度に対する影響(上昇したOD)。所望のCO:電子の割合を確立するために電流にCO流を適合させる。
図8】続いて起こる2つの硫黄源パルス(NaS、矢じりによって示す)を供給した結果、COからCHへの変換が急速に増加し、他方、物理化学パラメータは目立った変化を示さない。凡例:X軸は播種後の時間(時)を示す。左のY軸はCH/CO変換を%で示す。右のY軸はpH、ORPおよび導電率(σ(mS/cm))の各々を示す。
図9】続いて起こる2つの硫黄源パルス(NaS、矢じりによって示す)を供給した結果、Hの利用が急速に増加し、それによりCOからCHへの変換が減少する(カラム参照)。他方、電流生成は安定している。凡例:X軸は生体触媒播種後の時間(時)を示す。左のY軸はCH/CO変換を%で示す。右のY軸は電流生成をアンペア(/(A);四角形参照)で示す。
図10】アンモニア(窒素源)を時間的に規則正しく供給した結果、COからCHへの変換が急速に増加する。COからCHへの変換の増加は陰極チャンバでのHの利用可能性に制限を受ける。凡例:X軸はアンモニアパルス前の時間(時)(負)およびアンモニアパルス後の時間(時)(正)を示す。左のY軸はCH/CO変換を%で示す(カラム参照)。右のY軸は導電率(σ(mS/cm)、三角形参照)およびpH(四角形参照)を示す。
図11】アンモニア(窒素源)を供給した結果、系内でのHが急速に減少し、他方、電流生成は安定している。凡例:X軸はアンモニアパルス前の時間(時)(負)およびアンモニアパルス後の時間(時)(正)を示す。左のY軸は製品ガス中のHを%で示す(カラム参照)。右のY軸は電流生成をアンペア(四角形参照)で示す。AはHが完全に消費された2つのアウトガスの組成測定値を示す。
図12】硫黄源(NaS)パルスと窒素源(NH)パルスとを同時に供給した結果、HおよびCOの利用が急速に増加し、それによりメタン(CH)が製造される。これら2つの反応物質からCHへの変換率は24時間で50%より大きく増加する。凡例:X軸はアンモニアおよび硫黄の同時供給前の時間(時)(負)および同時供給後の時間(時)(正)を示す。左のY軸は製品ガス中のH、COおよびCHを%で示す。右のY軸はCH/CO変換およびCH/H変換を%で示す。
【発明を実施するための形態】
【0138】
実施例
以下の実施例は上記方法を意図するように実施するための実行可能な方法を示しているが、本発明をこれらの実施例に限定する意図はない。
【0139】
実験の全体的なセットアップ
実験の全体的なセットアップ(MEC起動)の手順は以下の通りであった。
・陽極リザバーおよび陰極リザバーが完全に満たされるまで陽極回路および陰極回路に蒸留水を追加する。好ましくは陽極リザバーおよび陰極リザバーの各々に250mLの蒸留水を追加する。再循環回路を閉じてポンプで再循環させる。再循環系およびMECチャンバ(陰極チャンバおよび陽極チャンバ)の両方が満たされた後は両方のリザバーに100mLが残っているはずである。そうでない場合、リザバーに100mLが存在するようにする。
・加熱系をオンにする(陽極リザバーと陰極リザバーとに直接熱を加える(独立して))。
・アルゴンで触媒液を15分間浄化する:触媒液再循環系の注入口フィッティングの1つをアルゴンで浄化して嫌気性の環境を形成する。
・リザバーでの温度が正しい(約65℃)場合、電源をオンにする(電源は陽極と陰極との間の電位差を確立して反応を促進させた)。
・陰極リザバー/コンパートメントで触媒液に全化学物質/培地を追加する。アルゴンによる浄化の後に化学物質を追加することにより、浄化期に形成される過度の圧力が陽極から陰極への、又はその逆の、化学物質のマイグレーションプロセス、好ましくは液体のマイグレーションプロセスをサポートすることが回避される。NaSはメタン生成を最適化する硫黄源としてすでにテスト済みである。
・化学物質を追加した後、30分かけて平衡化させる。
・陽極リザバーおよび陰極リザバーからの容積変化についてアノテーションを行う。必要に応じて、液体/イオンのマイグレーションプロセスによっておこる容積偏差を訂正する。
・株の播種:0.5から2、好ましくは1.8のOD610で播種する。
・CO流は陰極チャンバに入る。CO流は、陰極を介して供給される電子流に対して規制される(電子12個に対してCO分子1個の割合)。この関係により、電子密度が十分であることが保証され、特定のCO流が減少する。
・ガスクロマトグラフィー(GC):H、CO、CHおよびHのガス含有率が高い周期(1から150回)で決定され、プロセスのガスの質を確立する。
・クーロン効率(CE)の測定は高い周期(1から150回)で行うべきである。このため、出力ガス、すなわち系を出るガスを固定時間内に採取するべきである。この計算を行うために、単位時間当たりのガスの容積および電荷を登録しなければならない。CEの測定は、電子に対するCOの割合の質を評価するための重要なパラメータであるべきである。
・光学濃度(OD610)、pH、ORPおよび導電率を定期的に測定する。
・代謝水の製造による希釈倍率を補償するために、必要に応じて培地を定期的に供給する。
・窒素源の濃度が100mg/Lより低くなった場合、窒素源を供給する。
・ORPを-350mV未満という理想的値に維持するため、オンデマンドでNaSを供給する。
【0140】
実施例1:硫黄源を時間的に規則正しくパルスした結果、CO/CH変換率が急速に増加する。
【0141】
実験手順は以下の通りであった。
・まず、5mLの0.758M(100g/L)のNaSと6.5mLの4.8MのNHCl(最初のドーズの後はアンモニアを供給しない)とを触媒液に追加し、容積を最終的に250mLにする。
・各4時間の投与(1mL):0.151M(20g/L)のNaS。播種から4時間後に開始。
・メタン生成微生物であるMethanothermobacter thermautotrophicus株UC120910(ECH100またはECH0100)をMECに播種する(含有量10mLの培養物ボトル、OD61045)。
・初期CO流を1mL/分に設定する。
・陰極:グラファイト陰極
【0142】
結果
NaS(1mL、0.758M(100g/L)を時間的に規則正しく離散的にパルスした結果、COからCHへの変換率は顕著に急速に増加した。パルスから1時間後にすでにCOからCHへの変換率が参考変換率より1%高いことが検出された。参考変換率は、MEC播種から20時間後で37%であった。注目すべきことであるが、僅か1時間後、すなわちNaSのパルスから2時間後に変換率は、MEC播種から20時間の参考変換率より3%高かった(図4参照)。
【0143】
実施例2:初期硫黄源濃度(NaS)を上昇させると、COからCHへの変換が最初の24時間で硫黄源濃度に依存して増加する(短時間実験)。
COからCHへの変換率に対する初期硫黄源濃度(NaS)の影響をテストするために、実施例2を行った。
【0144】
実験手順は以下の通りであった。
・メタン生成微生物であるMethanothermobacter thermautotrophicus株UC120910(ECH100またはECH0100)をMECに播種する(含有量10mLの培養物ボトル、OD61045、好ましくは最終的にOD6101.8)。
・初期アンモニア濃度は120mM(最初のドーズの後はアンモニアを供給しない);例えば最初に6.5mLのNHClを追加すると(最初のドーズの後はアンモニアを供給しない)、最終的に容積は250mLになる。
・規制されたCO流は、電子流に依存して電子均等物を含み、電子に対する電子均等物の割合は1:20から1:1の範囲であり、より好ましくは1:10である。好ましくは、初期CO流を1mL/分に設定する。
・陰極:グラファイト陰極
・1x(7.5mM)、2x(15mM)、3x(22.5mM)および4x(30mM)のNaSが実験の初期硫黄濃度となるように初期濃度の硫黄源を供給する。
・硫黄源濃度を設定してから24時間後に測定する。
【0145】
結果
初期NaS濃度を1Xから2Xおよび3Xに上昇させると、COからCHへの変換率がNaS濃度に依存して大幅に増加した。NaS濃度が4Xの場合、COからCHへの変換レベルは、NaS濃度1Xを適用した場合のレベルに比べて40%よりも大きく増加した。さらにそれに依存してpHおよび電流密度も上昇した(図5参照)。予測電極面積[m]:培養培地内の硫黄源濃度[mol/L]の測定割合を表1に示す。
【0146】
さらに詳細に述べると、以下のパラメータの以下の値が検出された。
1X NaS:pH7.3;電流:213mA
2X NaS:pH7.6;電流:240mA
3X NaS:pH7.8;電流:280mA
4X NaS:pH8.1;電流:320mA
【0147】
表1: 全実施例における、100g/LのNaSの添加量(パルス)およびその結果パルス後に細胞培養培地内で得られたモル濃度(細胞培養培地の全容積=250mL)、ならびに予測電極面積[m]:培養培地内の硫黄源濃度[mol/L]の測定割合
【表1】
【0148】
実施例3:硫黄源濃度を2倍にした結果、COからCHへの変換がある程度の時間をかけて大幅に増加する(長時間実験)。
長時間スケールベースでのCOからCHへの変換率に対する初期硫黄源濃度(NaS)の影響をさらに調べるために、1x(7.5mM)および2x(15mM)のNaS濃度を用いて以下の実験を行った。
【0149】
実験手順は以下の通りであった。
・メタン生成微生物であるMethanothermobacter thermautotrophicus株UC120910(ECH100またはECH0100)をMECに播種する(含有量10mLの培養物ボトル、OD61045)。
・初期アンモニア濃度は120mM(最初のドーズの後はアンモニアを供給しない);例えば最初に6.5mLのNHClを追加すると(最初のドーズの後はアンモニアを供給しない)、最終的に容積は250mLになる。
・規制されたCO流は、電子流に依存して電子均等物を含み、電子に対する電子均等物の割合は1:20から1:1の範囲であり、より好ましくは1:10である。好ましくは、初期CO流を1mL/分に設定する。
・陰極:グラファイト陰極
・1x(7.5mM)および2x NaS(15mM)となるように初期濃度の硫黄源を供給する。
・測定時刻:硫黄源濃度を設定してから20時間後および40時間後
【0150】
結果
初期NaS濃度を1Xから2Xに上昇させると、COからCHへの変換率がある程度の時間をかけてNaS濃度に依存して大幅に増加した。MECへの播種から40時間後、COからCHへの変換は、NaSの濃度2Xを適用した場合、NaSの濃度1Xを適用した場合に比べて25%よりも大きく増加した。それに依存して、前の実施例の実験と同様に、pHおよび電流密度も上昇した(図6参照)。
【0151】
さらに詳細に述べると、MECへの播種から40時間後に、以下のパラメータの以下の値が検出された。
1X NaS:pH7.2;電流:220mA;塩分:陽極5.8mS.cm-1、陰極15.7mS.cm-1
2X NaS:pH7.9;電流:290mA;塩分:陽極7.5mS.cm-1、陰極17mS.cm-1
【0152】
実施例4:硫黄源を時間的に規則正しく供給した結果、COおよびHからCHへの変換率が急速に増加する。
【0153】
実験手順は以下の通りであった。
・メタン生成微生物であるMethanothermobacter thermautotrophicus株UC120910(ECH100またはECH0100)をMECに播種する(最終濃度OD6101.8)。
・初期NaS濃度は0.5mM(最初のドーズの後はNaSを供給しない)
・規制された流は、電子流に依存して電子均等物を含み、電子に対する電子均等物の割合は1:20から1:1の範囲であり、より好ましくは1:10である。
・陰極:グラファイト陰極
【0154】
結果
NaSを続けて2回(間隔は5時間)離散的にパルスした(NaS濃度は合計で1.2mM上昇)結果、COからCHへの変換率は顕著に急速に増加した。2回のパルスから25時間後、COからCHへの変換は都合のよいことに35%より大きく増加した。50時間後、さらに顕著に、すなわちパルス前の変換に比べて87%より大きく増加した(図8参照)。物理的化学的パラメータに目立った変化はなかった。メタンの製造にHを利用することに関して平行的な結果が得られた(図9参照)。ここで留意すべきは、非常に安定した電流生成の下で50時間後に90%を超える増加が検出されたことである。
【0155】
実施例5:窒素源を時間的に規則正しく供給した結果、COおよびHからCHへの変換率が急速に増加する。
【0156】
実験手順は以下の通りであった。
・Methanothermobacter thermautotrophicus株UC120910(ECH100またはECH0100)をMECに播種する(最終濃度OD6101.8)。
・初期塩化アンモニウム(NHCl)濃度は16mM(最初のドーズの後は定期的に供給しない)
・規制されたCO流は、電子流に依存して電子均等物を含み、電子に対する電子均等物の割合は1:20から1:1の範囲であり、より好ましくは1:10である。
・陰極:グラファイト陰極
【0157】
結果
水酸化アンモニウム(NHOH)を時間的に規則正しく離散的にパルスした(触媒液中での濃度は合計で7.5mM上昇)結果、COからCHへの変換は僅か1時間以内に顕著に7%増加した(図10参照)。導電率に大きな変化はなかったが、pHはパルス後1ユニットに亘って変化した。興味深いことに、COからCHへの変換の増加は系内のHの利用可能性によって制限を受けたことが判明した。Hは水酸化アンモニウムのパルスの後、完全に消費された(図11参照)。水酸化アンモニウムは、50時間以内にODを2.5倍上昇させた。
【0158】
実施例6:窒素源と硫黄源とを同時にパルスした結果、COおよびHからCHへの変換率は急速に増加する。
養分の時間的に規則正しい供給の影響をさらに調べるために、以下の実験を行った。水酸化アンモニウムNHOH(触媒液中でのこの化合物の総濃度が7.5mM上昇することを確立する)とNaS(触媒液中でのこの化合物の総濃度が1.2mM上昇することを確立する)とを同時に(重複する時刻に、すなわち同時に)パルスする。
【0159】
実験手順は以下の通りであった。
・Methanothermobacter thermautotrophicus株UC120910(ECH100またはECH0100)をMECに播種する(最終濃度OD6101.8)。
・規制されたCO流は、電子流に依存して電子均等物を含み、電子に対する電子均等物の割合は1:20から1:1の範囲であり、より好ましくは1:10である。
・定期的供給はしない。
・陰極:グラファイト陰極
【0160】
結果
留意すべきであり且つ非常に将来有望なことであるが、水酸化アンモニウム(増加する触媒液中での濃度が合計で7.5mM上昇)とNaS(触媒液中でのこの化合物の総濃度が1.2mM増加することを確立する)とを同時に時間的に規則正しくパルスしてから24時間以内に、COおよびHからCHへの変換率が、有益にも相乗効果的に大幅に増加した(50%より大きく)(図12参照)。パルスしてから48時間後にHはほとんど消費され、製品ガス中には5%未満しか残っていなかった。
【0161】
参考
Lyu Z、Jain R、Smith P、Fetchko T、Yan Y、Whitman WB(2016)Engineering the autotroph for geraniol production.ACS Synth Biol 5:577-581
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
【手続補正書】
【提出日】2022-10-24
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
微生物電解セル(MEC)内でメタン生成微生物によりメタン製造期中のメタンおよび/または少なくとも1つの他の合成物を製造する方法であって、
i.陽極と陰極とメタン生成微生物の培養物とを適切な液体水性電解質培養培地内に含むMECを供給する工程と、
ii.連続プロセスで前記メタン生成微生物を培養する工程と、
iii.前記MECの前記陽極から前記陰極へ電子を供給し、前記メタン生成微生物を前記電子に接触させる工程と、
iv.前記メタン生成微生物を少なくとも1つの無機炭素源に接触させる工程と、
v.窒素源および/または硫黄源を離散的又は連続的様式で前記培養培地に別々に供給することにより、前記メタン生成微生物を前記硫黄源または前記窒素源と前記硫黄源とに接触させ、それにより、前記培養培地内の前記窒素源の濃度を0.005から0.2Mという所与の量に維持し、および/または前記培養培地内の前記硫黄源の濃度を0.1から100mMという所与の量に維持するように前記培養培地内の補足物質源の濃度を連続的に制御および規制する工程と、
vi.前記MECからメタン、メタンリッチガス組成物および/または少なくとも1つの他の合成物を収集する工程と、
を含む方法。
【請求項2】
前記MECは少なくとも
(a)前記陰極と前記メタン生成微生物の前記培養物とを前記培養培地内に含む第1のチャンバと、
(b)少なくとも前記陽極を含む第2のチャンバと、
(c)必要に応じて含まれる、前記第1のチャンバと前記第2のチャンバとの間にあるプロトン透過性でガス不透過性のバリアと、
を含み、
好ましくは前記窒素源および/または前記硫黄源が離散的様式で供給される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記工程v.は、前記培養培地内の前記窒素源の濃度が0.02から0.2Mまたは0.01と0.02Mとの間という所与の量に維持されることと、
前記培養培地内の前記硫黄源の濃度が10から80mMまたは15と30mMとの間という所与の量に維持されることと、
をさらに含む、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記硫黄源は、前記培養培地内の前記硫黄源の濃度(mol/L)に対する予測電極面積(m)の割合を1:0.001から1:0.1、1:0.1から1:10または1:1.5から1:3の範囲、好ましくは1:2から1:3または1:2から1:2.5の範囲に維持するように供給される、請求項1からのいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記工程v.は、前記培養培地内において元素の形態またはその任意の適切な非毒性塩イオンの形態にある無機元素であって、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、鉄、塩化物またはリン酸塩からなる群より選択される無機元素の少なくとも1つの他の源を連続的または離散的様式で別途供給することにより、前記無機元素の少なくとも1つの他の源の濃度を連続的に制御および規制することをさらに含む、請求項1からのいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記メタン生成有機体を培養する工程は、
前記培養物の状態を嫌気性または機能的に嫌気性に保持することと、
温度を32℃から85℃の範囲に保持することと、
前記方法全体または少なくとも1つの前記工程を大気圧状態および/または最大16バール又は最大420バールの加圧状態で実施することと、
前記メタン生成微生物の密度を0.01から50g/L、0.025から0.625g/L、0.1から0.5g/L、3.5から30g/L、5から20g/Lまたは5から10g/Lの範囲に維持することと、
をさらに含む、請求項1からのいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記窒素源は、二原子窒素(N)、アンモニア(NH)、硝酸塩または硝酸塩イオン、好ましくはNHOHまたはNHClの形態にあるアンモニウム(NH )化合物、またはこれらの組み合わせである、請求項1からのいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記硫黄源は、硫化水素、NaS、L-システイン、元素硫黄または硫酸塩またはこれらの組み合わせからなる群より選択される、請求項1からのいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
水素、硫化水素、硫黄源、ギ酸、一酸化炭素、還元金属、糖、酢酸塩、陰極電極またはこれらの組み合わせからなる群より選択される還元元素の源を前記培養培地内にさらに含む、請求項1から8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記少なくとも1つの無機炭素源は電子均等物を含み、COガス、炭酸ナトリウム、炭酸カリウムおよび炭酸アンモニウムまたはこれらの組み合わせからなる群より選択される、請求項1からのいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
電子均等物を含む前記無機炭素源の流れを前記電子流に依存して連続的に制御および規制する工程であって、前記電子に対する前記電子均等物の割合が1:20から1:1の範囲であり、より好ましくは1:10から1:6の範囲であり、さらに好ましくは1:8である工程をさらに含む、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記少なくとも1つの無機炭素源はCOガスである、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記少なくとも1つの無機炭素源はCOであり、メタンまたはメタンリッチガス組成物が収集される、請求項1から12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
前記少なくとも1つの他の合成物は、イソプレン、ゲラニオール、ビタミンA、コレステロール、カロチノイドおよび天然ゴムからなる群より選択される、請求項1から13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
初期pH値をpH6から11、pH7から10またはpH8という所与の値に設定し、その後は前記pH値を連続的に制御および規制する工程をさらに含む、請求項1から14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
前記メタン生成微生物を、Hを含む少なくとも1つの供給ガスに接触させる工程をさらに含む、請求項1から15のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
前記メタン生成微生物の使用済み前記培養物は前記培養培地内で浮遊しているか又は少なくとも部分的に前記陰極に結合している、請求項1から16のいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
前記メタン生成微生物は水素栄養性であり、Methanobacterium、Methanobrevibacter、Methanothermobacter、Methanococcus、Methanosarcina、Methanopyrusまたはこれらの混合物を含む古細菌(Archaea)または古細菌(archaebacteria)の群のうちの少なくとも1つから選択される、請求項1から17のいずれか1項に記載の方法。
【国際調査報告】