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特表2023-543398トリプシン消化、クロマトグラフィーグラジエント、及びBoxCar質量分析法を組み合わせることによって治療用抗体中の宿主細胞タンパク質を検出するための方法
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  • 特表-トリプシン消化、クロマトグラフィーグラジエント、及びBoxCar質量分析法を組み合わせることによって治療用抗体中の宿主細胞タンパク質を検出するための方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-10-16
(54)【発明の名称】トリプシン消化、クロマトグラフィーグラジエント、及びBoxCar質量分析法を組み合わせることによって治療用抗体中の宿主細胞タンパク質を検出するための方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 30/88 20060101AFI20231006BHJP
   G01N 27/62 20210101ALI20231006BHJP
   G01N 30/06 20060101ALI20231006BHJP
   G01N 30/34 20060101ALI20231006BHJP
   G01N 30/72 20060101ALI20231006BHJP
   C12Q 1/37 20060101ALI20231006BHJP
   C07K 16/00 20060101ALN20231006BHJP
【FI】
G01N30/88 J
G01N27/62 V
G01N27/62 X
G01N30/06 E
G01N30/34 E
G01N30/72 C
C12Q1/37
C07K16/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023515255
(86)(22)【出願日】2021-09-08
(85)【翻訳文提出日】2023-04-11
(86)【国際出願番号】 US2021049398
(87)【国際公開番号】W WO2022055954
(87)【国際公開日】2022-03-17
(31)【優先権主張番号】63/075,617
(32)【優先日】2020-09-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】507302748
【氏名又は名称】リジェネロン・ファーマシューティカルズ・インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【弁理士】
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100188433
【弁理士】
【氏名又は名称】梅村 幸輔
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【弁理士】
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【弁理士】
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【弁理士】
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100214396
【弁理士】
【氏名又は名称】塩田 真紀
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【弁理士】
【氏名又は名称】川本 和弥
(72)【発明者】
【氏名】ニー ソン
(72)【発明者】
【氏名】グリア タイラー
(72)【発明者】
【氏名】オブライエン ジョンソン リード
(72)【発明者】
【氏名】チェン シャオジン
(72)【発明者】
【氏名】リ ニン
【テーマコード(参考)】
2G041
4B063
4H045
【Fターム(参考)】
2G041CA01
2G041EA04
2G041FA12
2G041GA03
2G041GA08
2G041HA01
2G041JA02
2G041LA08
4B063QA01
4B063QA20
4B063QQ79
4B063QR16
4B063QS17
4H045AA10
4H045AA11
4H045AA30
4H045BA10
4H045EA20
4H045EA50
4H045GA21
(57)【要約】
本開示は、改善されたアッセイを用いて、治療用抗体調製物中の望ましくない宿主細胞タンパク質(HCP)の性質をプロファイリングするための改善された方法を提供する。当該アッセイは、超低トリプシン消化と、ロンググラジエント液体クロマトグラフィーと、質量分析(MS)、特にBoxCar質量分析の使用とを含む、3つの例示的なステップを含む。本開示により、患者における使用に適するような治療用抗体の純度を決定することができる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
治療用タンパク質試料中の混入タンパク質の同一性または量を特定するための方法であって、以下:
前記タンパク質試料を消化する工程であって、より小さいポリペプチド配列が得られる、工程と、
前記消化物をクロマトグラフィーステップに曝露する工程と、
前記クロマトグラフィーステップの前記消化物を、質量分析(MS)に曝露する工程であって、前記混入タンパク質の同一性または存在量が特定される、工程と
を含む、方法。
【請求項2】
前記混入タンパク質の同一性が、サイズまたは配列によって特定される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記混入タンパク質の量が、10未満、5未満、2未満、1未満、または0.1未満の百万分率(ppm)レベルで決定される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記混入タンパク質が、宿主細胞タンパク質(HCP)である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記治療用タンパク質が、抗体、抗体バリアント、または抗体融合物である、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記消化物が、低濃度トリプシン消化物である、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記クロマトグラフィーが、ロンググラジエント液体クロマトグラフィーである、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記質量分析(MS)が、BoxCarである、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
治療用抗体試料中の混入タンパク質宿主細胞タンパク質(HCP)の同一性または量を決定するための方法であって、以下:
タンパク質消化物を生成するために、前記タンパク質試料を超低濃度トリプシンに曝露する工程と、
前記消化物をロンググラジエント液体クロマトグラフィーステップに曝露する工程と、
前記クロマトグラフィーステップの前記消化物を、質量分析(MS)BoxCarに曝露する工程であって、前記混入HCPタンパク質の同一性または存在量が決定される、工程と
を含む、方法。
【請求項10】
前記ポリペプチドが、抗体、抗体バリアント、または抗体融合物である、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記混入タンパク質が、ベータ-ヘキソサミニダーゼ、補体Clr-Aサブ構成成分、hPLBD2、カテプシンZ、カテプシンD、シアル酸O-アセチルエステラーゼ、メタロプロテイナーゼ阻害剤1、ペプチジル-プロリル シス-トランス イソメラーゼ、リソソーム酸性リパーゼ、c-x-cモチーフケモカイン、トランスサイレチン、酸性セラミダーゼ、及びプロコラーゲンCエンドペプチダーゼエンハンサー1からなる群より選択される、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記トリプシン媒介性消化物が、10000:1の比である、請求項9~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記ロンググラジエント液体クロマトグラフィーのステップが、50cmカラム及び4時間のグラジエントを含む、請求項9~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記抗体、抗体バリアント、または抗体融合物が、アフリベルセプト、リロナセプト、アリロクマブ、デュピルマブ、サリルマブ、セミプリマブ、及び抗エボラ抗体からなる群より選択される、請求項10~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
請求項9の方法に従って、10未満、5未満、2未満、1未満、または0.1未満の百万分の一(ppm)レベルでの混入宿主細胞タンパク質(HCP)を有すると決定される、ポリペプチド。
【請求項16】
抗体、抗体バリアント、及び抗体融合物からなる群より選択される、請求項15に記載のポリペプチド。
【請求項17】
アフリベルセプト、リロナセプト、アリロクマブ、デュピルマブ、サリルマブ、セミプリマブ、及び抗エボラ抗体からなる群より選択される、請求項15に記載のポリペプチド。
【請求項18】
アフリベルセプトである、請求項15に記載のポリペプチド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2020年9月8日出願の米国仮出願第63/075,617号の優先権を主張し、当該出願を参照によりその全体を本明細書に援用する。
【0002】
技術分野
本開示は、概して、改善されたアッセイを用いて、治療用抗体調製物中の宿主細胞タンパク質(HCP)の性質をプロファイリングするための方法に関するものである。当該アッセイは、超低トリプシン消化と、ロンググラジエント液体クロマトグラフィーと、質量分析(MS)、特にBoxCar質量分析とを含む、3つの例示的なステップを含む。
【背景技術】
【0003】
背景
治療用抗体は、医学に革命をもたらしており、最近開発された薬物のかなりの部分を構成している。多大な投資が開発に投じられた結果、79種の治療用モノクローナル抗体(mAb)が米国食品医薬品局からの承認を受けており、世界のmAb市場が生み出す収益は、2025年までに3000億ドルに達することが予測されている。
【0004】
多くの障害に対しmAb治療薬の採用が増加している主な理由は、特異性が高く、多くの薬物標的と親和性が高く、副作用が最小限であることによるものである。しかし、mAbの巨大なサイズ及び化学的不均一性、ならびに治療用タンパク質とともに細胞発現中に産生される宿主細胞タンパク質(HCP)混入物の存在によって、これらの恩恵は薄められる。
【0005】
治療薬のHCP集団は、患者の安全性を脅かしたり薬物の有効性を低減したりするタンパク質を含み得るため、最大の懸念材料である。例えば、免疫原性HCPは、患者において意図しない有害な免疫応答を誘発する恐れがあり、酵素活性を有するHCPは、治療用抗体自体を分解したり、製剤バッファー中の構成成分と反応して抗体の安定性を低下させ、視認可能な粒子の形成を増大させたりする恐れがある。
【0006】
実際に、免疫原性及び酵素活性の両方を潜在的に有するHCPが報告されている事例すら存在する。このようなリスクから、HCPのレベルを、重要品質特性(CQA)(モニターし許容されるレベルに制御しなければならない)として分類する必要があった。規制ガイドラインは、HCPの存在量の具体的な上限を示していないが、一般的には、精製薬品中100ppm以下を最大合計値とするリスクベースアプローチが用いられている。
【0007】
HCPの存在量をこのような低レベルに減らすには、かなりの幅のサイズ、実効電荷、疎水性、及び他の多くの物理化学的特性を備えた何千種ものタンパク質を実質的に除去可能な、多段階クロマトグラフィープロセスの実行が求められる。このようなプロセスは、典型的には、ほとんどのHCPを除去するプロテインAアフィニティークロマトグラフィーから開始して、続いてアニオン交換、サイズ排除、または疎水性相互作用クロマトグラフィーのような直交性の精製ステップを行って、残った混入物の集団及び存在量をさらに低減する。(Gilgunn,S.et al.Bones,J.J Chromatogr A 2019,1595,28-38(非特許文献1);Liu,H.F.et al.MAbs 2010,2,480-499(非特許文献2);Zhu,M.M.et al.In Handbook of Industrial Chemistry and Biotechnology,2017,pp 1639-1669.(非特許文献3))
【0008】
抗体精製戦略が成功すれば、HCPの総レベルは100ppm未満に低減するため、これらの低存在量の分析物のモニタリングは困難であり、しばしば複数のアッセイを要する。HCPの検出及び定量化の戦略は、酵素結合免疫吸着法(ELISA)で開始されるのが一般的である。この方法は、特異性、正確性、及び精度が高いことに加え、使いやすさ及び自動化を備えていることから、このように主流となっている。(Zhu-Shimoni,J.et al.Biotechnol Bioeng 2014,111,2367-2379(非特許文献4);Rey,G.et al.J Pharm Biomed Anal 2012,70,580-586.(非特許文献5))
【0009】
しかし、ELISAの利点は、その有用性を低減するいくつかの制約を伴う。特に重要なのは、ELISAは、動物をヌル細胞株で免疫することによって産生されるポリクローナル抗体を必要とするが、このヌル細胞株が、産生細胞株由来の全てのHCPを完全に網羅しないことから、より免疫原性の高いHCPを検出する上で偏りが生じることである。(Zhu-Shimoni,J.et al.M.Biotechnol Bioeng 2014,111,2367-2379(非特許文献4);Henry,S.M.et al.MAbs 2017,9,1065-1075.(非特許文献6))また、HCPレベルの過小評価は、タンパク質が治療用抗体と非共有結合的に結合している場合や、その濃度がポリクローナル抗体の能力よりも高い場合にもよく見られる。(Anicetti,V.R.et al.J Immunol Methods 1986,91,213-224.(非特許文献7))
【0010】
最後に、(ホスホリパーゼB様2のような)1つの重要なHCPを検出するELISAキットは存在し、問題を有する他の既知のタンパク質についても開発することはできるものの、従来のELISAプラットフォームは、総タンパク質濃度のみを測定するにとどまり、特定のタンパク質を同定したり個々の濃度を定量化したりすることはできない。(Henry,S.M.et al.MAbs 2017,9,1065-1075.(非特許文献6))これらの制約により、HCPの特性評価において許容されないギャップが生じており、現在、規制当局は、液体クロマトグラフィー-タンデム質量分析(LC-MS2)のような直交性の方法でこのギャップを満たすことを期待している。
【0011】
このような理由から、分析物理化学を用いたロバストで精度の高いアッセイを有することは、タンパク質試料(例えば、治療用抗体)の、高速で正確なHCP品質管理(深いプロファイリング)を行う上で有益である。このようなアッセイは、臨床開発及び商業使用において抗体の製造を完璧にするための幅広い用途があり、公表され確立された方法に比べて高度に全体的HCP制御を行い、約0.1ppmという感度のより高度な同一性カバレッジ及び忠実度を備え、他の方法に比べて高速で使いやすく(ステップ数が最小限)低コストであることが望ましい。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】Gilgunn,S.et al.Bones,J.J Chromatogr A 2019,1595,28-38
【非特許文献2】Liu,H.F.et al.MAbs 2010,2,480-499
【非特許文献3】Zhu,M.M.et al.In Handbook of Industrial Chemistry and Biotechnology,2017,pp 1639-1669.
【非特許文献4】Zhu-Shimoni,J.et al.Biotechnol Bioeng 2014,111,2367-2379
【非特許文献5】Rey,G.et al.J Pharm Biomed Anal 2012,70,580-586.
【非特許文献6】Henry,S.M.et al.MAbs 2017,9,1065-1075.
【非特許文献7】Anicetti,V.R.et al.J Immunol Methods 1986,91,213-224.
【発明の概要】
【0013】
概要
1つの態様において、本開示は、速度及び正確性を改善して、HCP特性評価における許容されないギャップを解決することに関するものである。詳細には、本開示は、治療用タンパク質試料中の混入タンパク質の同一性または量を決定するための高速アッセイを提供するものであり、当該アッセイは、典型的には、治療用タンパク質試料を、(1)超低トリプシン消化、(2)ロンググラジエント液体クロマトグラフィー、及び(3)質量分析(MS)、詳細にはBoxCar質量分析に供することを含む、3つのステップを含む。上記の3つのステップ、すなわち、超低濃度トリプシン消化、ロンググラジエント液体クロマトグラフィー、及びBoxCar質量分析を、本明細書では頭文字からULTLBと称する。
【0014】
1つの実施形態において、当該アッセイは、混入タンパク質、詳細には宿主細胞タンパク質(HCP)の、同一性及び存在量を同時に決定するのに適している。
【0015】
1つの実施形態において、当該アッセイは、タンパク質の同定に十分なアミノ酸配列または部分配列により、混入タンパク質の同一性を決定することができる。
【0016】
いくつかの実施形態において、当該アッセイは、混入タンパク質の存在量を百万分率(ppm)単位の測定レベルで決定することができ、混入タンパク質の量は、百万分の一(ppm)の感度で、約10、5、2、1、0.1、またはそれ未満、すなわち10ppm未満、5ppm未満、2ppm未満、1ppm未満、または0.1ppm未満という低いレベル及びその間で決定される。
【0017】
諸実施形態において、当該アッセイは、原理上、任意の治療用タンパク質、詳細には抗体、抗体バリアント、または抗体融合物などの治療用タンパク質において、HCP不純物の有無を調べるために使用することができる。
【0018】
したがって、当該アッセイは、本明細書で挙げている任意の数の治療用抗体、バリアント、及び融合物の精製ストリームに適用するために使用することができる(「当該アッセイの幅広い用途」という表題のサブセクションを参照)。
【図面の簡単な説明】
【0019】
本明細書に組み込まれ、本明細書の一部を構成する添付の図面は、本開示のいくつかの実施形態を例示するものであり、発明を実施するための形態とともに、本開示の原理を説明する役割を果たす。
【0020】
図1】示されるような3つの主要なステップを有するアッセイの概略図である。ステップ1は、宿主細胞タンパク質(HCP)を有する治療用抗体試料が、超低濃度トリプシン消化プロセスに供されているのを示し、ステップ2は、得られた消化ポリペプチドが、ロンググラジエント液体クロマトグラフィーに供されているのを示し、ステップ3は、直前のステップ2のポリペプチドが、BoxCar質量分析取得プロセスに供され、(ベン図で重ねて示しているように)以前の方法に比べて顕著な改善が得られることを示している。上記の3つのステップ、すなわち、超低濃度トリプシン消化、ロンググラジエント液体クロマトグラフィー、及びBoxCar質量分析は、本明細書では頭文字からULTLBと称する(図1に示す)。「BoxCar」という用語は、より高い忠実度を達成するための、例えば、12個のアイソレーションウインドウ、すなわち「箱」で構成された選択的MSスキャンを指す(図3も参照)。
図2図2Aは、左から右に通常、ネイティブ、及び超低の順に強度を下げた様々なトリプシン消化条件に供した場合の、抗体標準物質(NISTmAb)を含む抗体試料を示している。各試料に対し二重反復で実行した。左パネルは、超低条件を使用することにより、通常及びネイティブ消化条件に比べて、最も多くのHCPが同定されることを示している。右パネルは、超低条件を使用することにより、通常及びネイティブ消化条件に比べて、最も多くのユニークペプチドが同定されることを示している。図2Bは、液体クロマトグラフィー(LC)の様々なカラム長(25cmまたは50cm)及びグラジエント長(2時間または4時間)(左→右)に供したときの、上記の消化条件の、抗体標準(NISTmAb)を含む抗体試料を示している。各試料に対し二重反復で実行した。左のパネルは、長いカラム長(50cm)及び長いグラジエント(4時間)を使用することにより、短いカラム長(25cm)及び短いグラジエント(2時間)の場合に比べて最も多くのHCPが同定されることを示している。右のパネルは、長いカラム長(50cm)及び長いグラジエント(4時間)を使用することにより、短いカラム長(25cm)及び短いグラジエント(2時間)の場合に比べて、同定されたユニークペプチドの量が最も多いことを示している。
図3A図3A~3Cは、低存在量のペプチドのMSシグナルをブーストすることによってHCP同定を改善したBoxCar取得プロファイルを示している。図3Aは、標準的なフルスキャンの代表例を示している。図3Bは、12個の狭いアイソレーションウインドウ(「ボックス」)で構成された隣接するBoxCarスキャンを示している。図3A及び図3Bでは、フルスキャンと比較したBoxCarスキャンで観察可能なペプチドシグナルの増加を、影の挿入で強調している。シグナル:雑音比(S/N)を比較のために示している。図3Cは、BoxCar取得試料により、従来のデータ依存的取得(DDA)に比べてHCP同定率の顕著な改善が得られた(約51%)ことを示している。
図3B図3Aの説明を参照。
図3C図3Aの説明を参照。
図4図4のパネルAでは、試料調製、LC分離、及びMS取得の最適化から、ULTLB法を用いたHCP同定の全体的改善に寄与していることを示している。図の凡例は以下の通り。ネイティブ:ネイティブ消化、25cm及び50cm:カラム長、2時間及び4時間:グラジエント時間。パネルBでは、ULTLB法によって同定した総HCPを、ネイティブ消化法及びMWCO濃縮法の場合との比較でベン図で重ねて示している。ULTLBを含む諸方法により、合計453種のHCPを同定した。
図5図5のパネルAでは、二重反復の実行(反復1及び反復2で示す通り)で同定された、極めて一貫性のあるHCPの重複(92%)を、ベン図で重ねて示している。パネルBでは、二重反復の実行(反復1及び反復2で示す通り)で同定されたタンパク質存在量の一致性が高いことを、ピアソン相関で示している。
図6図6のパネルAでは、例示的な治療用抗体REGN mAb1に対する2つの以前のHCP検出方法(プロテインA及びネイティブ消化)を、本明細書に記載の例示的な実施形態に従う例示的な方法(ULTLBを用いた方法)と比較して、ベン図で重ねて示している。この情報は表形式でも提示している。パネルBでは、第二の例示的な治療用抗体REGN mAb2に対する2つの以前のHCP検出方法(プロテインA及びネイティブ消化)を、本明細書に記載の例示的な実施形態に従う例示的な方法(ULTLBを用いた方法)を比較して、ベン図で重ねて示している。この情報は表形式でも提示している。
【発明を実施するための形態】
【0021】
詳細な説明
1.定義
「分析技法または分析化学」という用語は、例えば液体クロマトグラフィー(LC)、質量分析(MS)、またはこれらの組合せを用いた例示的な方法を行うためのポリペプチド分子の定量的な分析を指す。
【0022】
「抗体」という用語は、疾患または障害(例えば、免疫または腫瘍学的障害)の調節のために対象に導入するのに適している治療用免疫結合体、例えば、モノクローナル抗体、二重または多重特異性抗体を指す。「抗体」という用語は、モノクローナル抗体、二重特異性抗体、多特異性を有する抗体組成物、ならびに抗体フラグメントまたはサブユニット(例えば、Fab、F(ab’)2、scFv、Fv、Fd、Fc/2、及びLC)、抗体誘導体、融合体、バリアント、及びアナログを表すものとして広く解釈するものとする。
【0023】
「BoxCar」という用語は、MS技法として知られている、ポリペプチドを特性評価するための分析技法を指し、選択的に解析される1つ以上のウインドウまたは「ボックス」が存在する。
【0024】
「DDA」という用語は、質量分析ステップの実施に関連するデータ依存的取得(Data Dependent Acquisition)として知られている、ポリペプチドを特性評価するための分析技法を指す。
【0025】
「深いプロファイリング」という用語は、分析技法(例えば、MS)を用いて、試料から高出力のタンパク質定量化を達成する能力を指す。
【0026】
「HCP(単数または複数)」という用語は、タンパク質調製物を宿主細胞、典型的には真核細胞(例えば、CHO細胞)内で製造する(すなわち、遺伝子発現させる)際に、タンパク質調製物中に認められる望ましくない不純物である単数または複数の宿主細胞タンパク質を指す。
【0027】
「HRAM」という用語は、高分解能精密質量分析として知られている、ポリペプチドを特性評価するための分析技法を指す。
【0028】
「LC」という用語は、液体クロマトグラフィーとして知られている、ポリペプチドを特性評価するための分析技法を指す。
【0029】
「LC-MS」という用語は、液体クロマトグラフィー及び質量分析として知られている、ポリペプチドを特性評価するための分析技法を指す。
【0030】
「LCMS2」という用語は、液体クロマトグラフィー及びタンデム質量分析として知られている、ポリペプチドを特性評価するための分析技法を指す。
【0031】
「ロンググラジエントLC」という用語は、液体クロマトグラフィーとして知られている、ポリペプチドを特性評価するための分析技法を指し、ロンググラジエントとは、例えばカラムサイズが50cmで滞留時間が4時間であるものを指す。
【0032】
「mAb」という用語は、モノクローナル抗体を指す。
【0033】
「MS」という用語は、質量分析として知られている、ポリペプチドを特性評価するための分析技法を指す。
【0034】
「m/z」という用語は、例えばMSを用いて、ポリペプチドの局面を特性評価するための分析パラメーターを指し、「m」は質量、「z」は観測されるイオンの電荷数を表す。
【0035】
「NISTmAb」という用語は、「National Institute of Standards & Technology Humanized IgG1κ Monoclonal Antibody standard(NISTmAb)」として知られているモノクローナル抗体標準物質を指す。
【0036】
「Orbitrap」及び「Exploris」という用語は、分析化学の分野で周知されている市販の質量分析計を指し、ポリペプチドの特性評価に用いられている。
【0037】
「トリプシン消化物(digest)または消化物(digestion)」という用語は、トリプシン酵素媒介性の切断ステップに曝露されたタンパク質を指す。消化物は、所望の結果を達成するために、トリプシン濃度及びインキュベート時間により高度に改変することができる。諸実施形態において、トリプシン消化物は、例えば10,000:1の比での「超低消化物」であり得る。
【0038】
「ポリペプチド消化物またはペプチド消化物」という用語は、ULTLBを含む例示的な方法を用いて適切なサイズのポリペプチドまたはペプチドを調べられるように、本明細書に記載のポリペプチド(例えば、抗体)を、大きなタンパク質またはポリペプチドの配列を消化可能な1つ以上の酵素(例えば、トリプシン)とインキュベートした場合に、曝露の結果得られるポリペプチドまたはペプチドの混合物を指す。
【0039】
「ULTLB」という用語は、超低濃度トリプシン消化、ロンググラジエント液体クロマトグラフィー、及びBoxCar質量分析と称される3ステップアッセイの頭文字をつないだ語である。
【0040】
「超低濃度トリプシン消化」という用語は、望ましいペプチドプロファイルを達成するための低いトリプシン比率を指す。
【0041】
別段の定義がない限り、本明細書で使用する全ての用語及び表現は、逆のことが明らかに示されるか、逆のことが当該用語または表現が使用されている文脈から明らかに明白でない限り、その用語及び表現が当技術分野で得た意味を含む。
【0042】
2.治療用抗体調製物中のHCPの性質及び存在量を特性評価するための改善されたアッセイ
本開示は、典型的には3つのステップを含むアッセイを提供する。
【0043】
ステップ1は、宿主細胞タンパク質(HCP)を有する治療用抗体試料を、超低濃度トリプシン消化プロセスに供することを含む。
【0044】
ステップ2は、得られた消化ポリペプチドを、ロンググラジエント液体クロマトグラフィープロセスに供することを含む。
【0045】
ステップ3は、直前のステップ2のポリペプチドを、BoxCar質量分析取得プロセスに供することを含み、その結果、同定されるポリペプチドの数が種類及び存在量の両面で大幅に改善される。
【0046】
例示的な方法及び各ステップについては、以下の複数の実施例で説明する。重要なことは、例示的なアッセイをいくつかの治療用抗体に適用して、既知の技法に比べて優れた結果を得られることである。
【0047】
上記の3つのステップ、すなわち、超低濃度トリプシン消化、ロンググラジエント液体クロマトグラフィー、及びBoxCar質量分析を、本明細書では頭文字からULTLBと称し、図1に概略図の形で提示している。
【0048】
本明細書に記載の例示的なアッセイは、速度及び使いやすさを伴って高忠実度を達成するパラメーターを利用する。さらに、例示的なアッセイは、患者を保護する目的で、抗体治療薬に対しHCP不純物のスクリーニングを行うこともできる。
【0049】
3.幅広い用途
本開示が、治療用抗体調製物中の宿主細胞タンパク質(HCP)の同一性及び存在量を、高い忠実度(約0.1ppm以内)で、迅速かつ正確に決定できるようにするものであることを理解されたい。また、例示的なアッセイを2つの例示的な治療用抗体(REGN mAb1及びREGN mAb2)にも適用し、優れた結果が得られた(それぞれ、図6の上パネル及び下パネルを参照)。したがって、本開示の方法は、商業的に生産される任意の治療用抗体のCMC(化学、製造、及び管理)を補完し改善するものである。
【0050】
例えば、1つの態様において、例示的なアッセイは、複数の抗体治療薬の製造ならびに均質性及び純度の保護の完璧化を可能にする。
【0051】
このような抗体治療薬としては、アブシキシマブ、アダリムマブ、アダリムマブ-adbm、アダリムマブ-atto、ado-トラスツズマブエムタンシン、アレムツズマブ、アリロクマブ、アテゾリズマブ、アベルマブ、バシリキシマブ、ベリムマブ、ベンラリズマブ、ベバシズマブ、ベバシズマブ-awwb、ベズロトクスマブ、ブリナツモマブ、ブレンツキシマブベドチン、ブロダルマブ、ブロスマブ-twza、カナキヌマブ、カプロマブペンデチド、セルトリズマブペゴル、セツキシマブ、ダクリズマブ(Zenapax(登録商標))、ダクリズマブ(Zinbryta(登録商標))、ダラツムマブ、デノスマブ、ジヌツキシマブ、デュピルマブ、デュルバルマブ、エクリズマブ、エロツズマブ、エミシズマブ-kxwh、エレヌマブ-aooe、エボロクマブ、ゲムツズマブオゾガマイシン、ゴリムマブ、グセルクマブ、イバリズマブ-uiyk、イブリツモマブチウキセタン、イダルシズマブ、インフリキシマブ、インフリキシマブ-abda、インフリキシマブ-dyyb、インフリキシマブ-qbtx、イノツズマブオゾガマイシン、イピリムマブ、イキセキズマブ、メポリズマブ、ナタリズマブ、ネシツムマブ、ニボルマブ、オビルトキサキシマブ、オビヌツズマブ、オクレリズマブ、オファツムマブ、オララツマブ、オマリズマブ、パリビズマブ、パニツムマブ、ペムブロリズマブ、ペルツズマブ、ラムシルマブ、ラニビズマブ、ラキシバクマブ、レスリズマブ、リツキシマブ、サリルマブ、セクキヌマブ、シルツキシマブ、チルドラキズマブ-asmn、トシリズマブ、トラツズマブ、トラツズマブ-dkst、ウステキヌマブ、ベドリズマブ、及びリツキシマブならびにヒアルロニダーゼが挙げられる。
【0052】
例示的なアッセイに供する様々な適応における関心対象となる他の治療用抗体としては、アフリベルセプト(眼障害の治療)、リロナセプト(失明及び転移性大腸癌の治療)、アリロクマブ(家族性高コレステロール血症または臨床アテローム性動脈硬化性心疾患(ASCVD)の治療)、デュピルマブ(アトピー性皮膚炎の治療)、サリルマブ(関節リウマチ及びCOVID-19の治療)、セミプリマブ(PD-1関連疾患の治療)、ならびにエボラ治療用の抗体が挙げられる。
【実施例
【0053】
以下の実施例は、例示目的で提供するものであり、添付の特許請求の範囲によって定義される本開示の内容を限定するものと解釈するべきではない。本出願内に記載する全ての参考文献及び特許を、参照により本明細書に含める。
【0054】
材料及び方法
参考文献
本開示の方法は、当業者が実施する際、ペプチド及びタンパク質の分析のために物理化学分野の従来の技法を利用することができ、本開示内に示されているだけでなく以下の文献及び現在の電子バージョンにも示されている(例えば、“Introduction to Protein Mass Spectrometry”(Pradip Kumar Ghosh,2015);“Analytical Characterization of Biotherapeutics”(Jennie R.Lili and Wendy Sandoval,2017);“Mass Spectrometry of Proteins and Peptides: Methods and Protocols Second Edition(Methods in Molecular Biology)”(Mary S.Lipton and Ljiljana Pasa-Tolic,2008);“Advancements of Mass Spectrometry in Biomedical Research”(Alisa G.Woods and Costel C.Darie,2019);及び“Protein Analysis using Mass Spectrometry:Accelerating Protein Biotherapeutics from Lab to Patient”(Mike S.Lee and Qin C.Ji,2017))。
【0055】
材料
トリフルオロ酢酸(TFA)、ギ酸(FA)、及びアセトニトリルを、Thermo Fisher Scientific(Rockford,IL)から購入した。尿素、ヨードアセトアミド(IAM)、トリス(2-カルボキシエチル)ホスフィン塩酸塩(TCEP-HCl)、及びヒト化IgG1κモノクローナル抗体標準物質RM8671をSigma-Aldrich(St.Louis,MO)から入手した。
【0056】
シークエンシンググレード修飾トリプシン(再懸濁バッファーあり)をPromega(Madison,WI)から入手し、Tris-HClバッファー(pH7.5)をInvitrogen(Carlsbad,CA)から入手した。C18 SPEカラムをWaters(Milford,MA)から入手した。精製モノクローナル抗体及びスパイクインCHOタンパク質は、Regeneron(Tarrytown,NY)で内製した。
【0057】
通常消化
200μgの原薬試料を、9Mの尿素/100mMのTris-HClを用いて5mg/mlに希釈した。ジスルフィド結合を10mMのDTTで還元し、50℃で30分間インキュベートした。試料を室温に冷却し、暗中で30分間、15mMのIAMでアルキル化した。
【0058】
還元しアルキル化した試料を、100mMのTris-HClでおよそ8倍に希釈した。トリプシン(1:20のトリプシン:基質比)を用いて、タンパク質分解消化を、37℃で一晩実施した。酸性化して0.2%FAとすることにより、消化をクエンチした。試料をC18 SPEカラムによって脱塩してからnanoLC-MS/MS分析を行った。
【0059】
ネイティブ消化
ネイティブ消化についての詳細な説明は、Huang et al.2017(Anal Chem 2017,89 5435-5444)に示されている。簡潔に説明すると、試料を、50mM Tris-HClバッファー(pH8)を用いて約5mg/mlに希釈した。次いでタンパク質を、37℃のトリプシン(1:400w/wの酵素:基質比)で一晩消化し、最終pHを約7.4とした。
【0060】
続いて、ジスルフィド結合を5mMのTCEPで還元し、90℃で10分間インキュベートした。得られたペプチド混合物を酸性化して約0.2%FAとし、15000gで2分間遠心分離した。上清を10kDa Amicon分子量カットオフ(MWCO)遠心フィルターに移して粒子を除去してからnanoLC-MS/MS分析を行った。
【0061】
低濃度トリプシン消化
10kDa Amicon MWCO遠心フィルターを用いて、試料を脱塩し、50mMのTris-HClバッファー(pH7.5)にバッファー交換した。Thermo Scientific製のNanoDrop 2000分光光度計を用いてタンパク質濃度を測定し、約5mg/mlに希釈した。次いで、再懸濁バッファーで希釈したトリプシン(50μg/μl)を、10000:1w/wのタンパク質:トリプシン比で試料に加え、37℃で一晩消化した。続いて、ジスルフィド結合を5mMのTCEPで還元し、90℃で10分間インキュベートした。試料を酸性化して約0.2%FAとし、15000gで2分間遠心分離した。上清を10kDa MWCOフィルターに移し、粒子を除去してからnanoLC-MS/MS分析を行った。
【0062】
nanoLC-MS/MS
全てのHCP試料は、UltiMate 3000 RSLCnanoシステム(Thermo Scientific)をOrbitrap Exploris 480質量分析計(Thermo Scientific)と連動させたものを用いて分析した。RSLCnanoシステムは、25cmまたは50cmのC18カラム(CoAnn Technologies、外径360μm、内径75μm、先端内径10μm)を備えていた。
【0063】
移動相Aには水中0.1%FAが含まれ、移動相Bは80%アセトニトリル/20%水中0.1%FAが含まれた。試料を、Acclaim PepMap 100、75μm×2cmプレカラム(Thermo Scientific)に流量5μl/分で5分間充填した。2時間のグラジエントについては、以下のようにリニアLCグラジエントを設定した:0分時5%B、8分時8%B、95分時36%B、及び115~120分時95%B。
【0064】
4時間のグラジエントについては、以下のようにリニアLCグラジエントを設定した:0分時5%B、10分時8%B、220分時36%B、及び235~240分時95%B。流量は、25cmカラムに対し0.25μl/分、50cmカラムに対し0.2μl/分とした。
【0065】
質量スペクトルのデータ取得は、Xcalibur v4.3(Thermo Fisher Scientific,CA)を用いて実施した。ナノESIスプレー電圧を2200Vに設定し、従来のデータ依存的取得モード(DDA)において、Orbitrapでサーベイスキャンを3秒のサイクルタイムで実施した。300%の標準自動化ゲイン制御(AGC)及び20msの最大注入時間において60Kの分解能(m/z200)にて、m/z380~1500でMSフルスキャンを取得した。
【0066】
HCDを用いて、15Kの分解能(m/z200)、75%の標準AGC、50msの最大注入時間において、30%の正規化衝突エネルギーによりMS/MSフラグメンテーションを実施した。ダイナミック排除期間を45秒、リピートカウント1に設定し、電荷状態が+2~+6のプリカーサーのみを選択した。
【0067】
Exploris480によるBoxCarスキャン
BoxCarスキャンの設定は、Meier et al.Nat Methods 2018,15,440-448により公表された設定に従い、一部修正を加えた。全体の取得サイクルは、標準的フルスキャンに続いて、m/z400~1200の範囲を網羅する2回のBoxCarスキャン(1.5秒のサイクル時間)を含むものであった。従来のDDA実験と同じ基準及び設定を適用して、先行のフルスキャンから好適なプリカーサーイオンを選択した。
【0068】
各BoxCarは、異なるm/zウインドウを有する12個の異なるボックスを有する。各BoxCarスキャンについて、総AGC目標値を標準AGCの300%に調整し、全てのボックスにわたり均等に分配した。各ボックスについて、最大合計イオン注入時間は20msとした。他の全てのパラメーターは、前述の標準的DDAと同一とした。
【0069】
データ分析
Proteome Discoverer 2.2(Thermo Fisher Scientific)に組み込まれたSEQUESTとMascotを、一般的な混入物を含むSwissProt mouse target-decoyタンパク質データベースに対し用いて、HCPタンパク質同定のデータベース検索を実施した。プリカーサーイオンの質量許容差を20ppm、フラグメントイオンの質量許容差を0.02Daに設定した。
【0070】
データベース検索時にトリプシンを消化酵素として指定し、1回の切断ミスを許容した。通常(アルキル化)消化物に対し、メチオニン酸化(+16Da)を可変修飾として選択し、システインカルバミドメチル化を固定修飾として選択した。
【0071】
偽発見率(FDR)は、ペプチド同定については1%、タンパク質同定については5%に設定し、タンパク質あたり最低2個のユニークペプチドが検出された。
【0072】
実施例1
治療用抗体調製物の純度を調べるためのHCPアッセイの設計態様及び改善
この実施例では、治療用抗体調製物中のHCPを検出するための例示的なアッセイを構築する上で検討した多くの課題及び設計態様の解決について説明する。
【0073】
高分解能のLC分離及び高感度高分解能精密質量(HRAM)質量分析計を連結することにより、免疫原性に依存しない個々のHCPの同定及び定量化が可能になる。このような分析における主な障壁は、豊富な治療用抗体と個々の低存在量のHCPとの間の非常に大きな濃度差(治療用抗体mg当たり1~100ng未満のHCP)から生じる。
【0074】
治療用抗体に対する精製戦略が進歩するに伴い、治療用タンパク質と混入タンパク質との間のダイナミックレンジは増加する一方であり、免疫原性または酵素活性を依然有し得るほとんどの低存在量のHCPは、直接的なLC-MS2法のみで検出することはできない。
【0075】
この課題に対応して、(1)免疫親和性、プロテインA、または分子量カットオフを通じてHCPと治療用タンパク質との間の濃度差を小さくする、(2)多次元クロマトグラフィーを用いてHCP及び治療用ペプチドのピーク間の重複を低減する、そして(3)下限値から外れる種のデータ依存的分析を妨害するスキャン内ダイナミックレンジ制約を回避する、多数の試料調製及び装置の技法が開発されてきた。(Henry,S.M.et al.MAbs 2017,9,1065-1075;Thompson,J.H.et al.Rapid Commun Mass Spectrom 2014,28,855-860;Madsen,J.A.et al.MAbs 2015,7,1128-1137;Chen,I.H.et al.Anal Chem 2020,92,3751-3757;Doneanu,C.E.et al.MAbs 2012,4,24-44;Farrell,A.et al.Anal Chem 2015,87,9186-9193;Kufer,R.;Haindl,M.et al.Anal Chem 2019,91,9716-9723;Walker,D.E.et al.MAbs 2017,9,654-663;Doneanu,C.E.et al.Anal Chem 2015,87,10283-10291;Kreimer,S.et al.Anal Chem 2017,89,5294-5302;Johnson,R.O.et al.Anal Chem 2020;Wang,Q.et al.Anal Chem 2020.)
【0076】
これらの方法の中には、タンパク質混入物をサブppmレベルまで検出できる方法もあるが、多くは、ある特定のHCPに優先的に選択的であったり、スループットが著しく低下したり、新規タンパク質の同定をさらに困難にしたりする方法である。そのため、顕著なバイアスや他の注意点を導入することなくHCPカバレッジの深さを大幅に拡大する比較的シンプルなLC-MS2法が、バイオ医薬品業界及び規制当局から強く求められている。
【0077】
液体クロマトグラフィーと質量分析との組合せ(LC-MS)は、その感度、選択性、及び適応性ゆえに、抗体薬物プロセス開発時の宿主細胞タンパク質(HCP)の分析における強力なツールである。しかし、治療用抗体と付随するHCPとの間の非常に大きなダイナミックレンジのために、LC-MSベースでこれらの低存在量の不純物を検出するのは著しく困難である。
【0078】
この課題に対処するため、典型的には、免疫親和性、プロテインA、2D-LC、または他の戦略によるHCPの濃縮が実施されている。しかし、これらの濃縮は時間がかかり、場合によっては大量の試料を要する。
【0079】
本明細書では、非変性条件下の消化時における超低濃度トリプシンと、長いクロマトグラフィーグラジエントと、四重極Orbitrap質量分析計を用いたBoxCar取得とを組み合わせること(ULTLB)により、煩雑な濃縮を伴わずに治療用抗体試料中のHCPを分析するためのシンプルで高感度な戦略を開示する。
【0080】
この戦略をNISTモノクローナル抗体標準物質(NISTmAb)に適用した結果、453種のマウスHCPが同定され、濃縮を伴わない同定されたHCPの数が以前の報告に比べて顕著に増加した。既知量のHCPを精製した抗体原薬にスパイクしたところ、当該方法が0.1ppmと高感度であることが示されている。このように、ULTLB法は、抗体中のHCPを深くプロファイリングするための高感度でシンプルなプラットフォームに相当するものである。
【0081】
進歩した試料調製、LC分離、及びMSデータ収集の組合せは、通常の障害を伴うことなく深いHCPプロファイリングが可能な方法を開発する鍵を握っていると思われる。このような開発の1つは、非変性条件を利用することによって抗体よりもHCPを優先的に消化するというものである。(Huang,L.et al.Anal Chem 2017,89,5436-5444)。別のプロテオミクス研究では、HCPには適用されていないが、消化時に極めて低いトリプシン濃度(1:25000w/wの酵素:基質比)を適用することにより、低存在量のタンパク質の検出が増強されることが観察された(Fonslow,B.R.et al.Nat Methods 2013,10,54-56)。
【0082】
LCカラム及びグラジエントの長さに関するプロテオミクス研究では、カラムとグラジエントを長くすると、追加的な試料調製及び負担となる多次元LCの時間要件を伴わずに、高感度で深いプロテオームカバレッジが得られることが示されている(Thakur,S.S.et al.Mol Cell Proteomics 2011,10,M110 003699;Hinzke,T.et al.Front Microbiol 2019,10,238)。
【0083】
最後に、「BoxCar」法と名付けられたOrbitrap質量分析計における新規の取得方法は、狭いm/zウインドウからのイオンでCトラップを満たし、これらのパケットをOrbitrapに順次送信して、1回のスキャンで分析することにより、DDA中のフルスキャンMSI取得の障害となるスキャン内ダイナミックレンジの問題を低減する(Meier,F. et al.Nat Methods 2018,15,440-448)。BoxCar技法は、低存在量イオンの取得時間を多くすることができ、またトラップ内で高存在量イオンが消費するスペースを制限することにより、シグナル対ノイズを1桁増加させることができる。
【0084】
この試験では、複数のカラム及びグラジエントの長さを検討することで、いずれについても長い方がHCPの同定を最大化することが明らかになり、またBoxCar取得は従来のDDAよりも多くのHCPを同定することが分かった。さらに、非変性条件下の消化時における超低濃度トリプシンと、長いクロマトグラフィーグラジエントと、四重極Orbitrap質量分析計におけるBoxCar質量分析取得とを組み合わせることにより、深いHCPプロファイリングのためのシンプルで新規のプラットフォームが確立された。本明細書で言及される「ULTLB」法と称される、このシンプルでロバストで迅速なプロトコルは、他の方法に比べてより深いHCPのプロファイリングを可能にする。これは、ULTLB法が、不要で時間のかかる追加的な試料濃縮ステップを回避するためである。
【0085】
本明細書で開示しているように、複数のカラム及びグラジエントの長さを検討することで、いずれについても長い方がHCPの同定を最大化することが明らかになり、またBoxCar取得は従来のDDAよりも多くのHCPを同定することが分かった。さらに、非変性条件下の消化時における超低濃度トリプシンと、長いクロマトグラフィーグラジエントと、四重極Orbitrap質量分析計におけるBoxCar質量分析取得とを組み合わせることにより、深いHCPプロファイリングのためのシンプルで新規のプラットフォームが必要とされることが確立された。
【0086】
「ULTLB」法と称される、このシンプルでロバストで迅速なプロトコルは、他の方法に比べてより深いHCPのプロファイリングを可能にし、不要で時間のかかる追加的な試料濃縮ステップを回避する(図1、実施例6、及び表2参照)。図1で示しているように、本開示のアッセイにより、296種のポリペプチドが同定された。Chenらが同定したのは、わずか104種のポリペプチドである。Huangらが同定したのは、わずか43種のポリペプチドである。
【0087】
したがって、この実施例では、以下にさらに詳細に説明するように、HCP検出の課題を設定し、HCP検出を顕著に改善する本明細書に記載の例示的アッセイ(ULTLBを用いた方法)の様々なパラメーターを示している。
【0088】
実施例2
3ステップアッセイのステップ1に関するアッセイ設計及び結果:
トリプシン消化ステップ
この実施例では、治療用抗体調製物中のHCPを検出するための例示的なアッセイの設計態様について、アッセイにおける3つのステップのうち第一のステップ:トリプシン消化ステップから説明する。
【0089】
新規の消化戦略を用いて、濃縮ステップを伴わないシンプルで高感度な試料調製法を開発した。この消化ステップは、非変性条件における超低濃度のトリプシンの使用を伴い、その結果、mAb自体よりもHCPが優先的に消化された。
【0090】
mAbは、典型的にはほとんどのHCPよりもはるかに大きく、合計16個のジスルフィド結合によって安定化されているため、HCPよりもトリプシンへのアクセス性が低く、還元条件下または比較的高いプロテアーゼレベルで容易に消化される。最適な消化条件を得るため、非変性条件下でNISTmAbを消化することにより、25000:1~1000:1の異なるタンパク質:トリプシン比を試験した。
【0091】
全ての試料を25cmカラム及び2時間グラジエントで分析した。図2は、タンパク質:トリプシン比が10000:1及び2500:1の消化物が、タンパク質:トリプシン比が25000:1及び1000:1の消化物に比べて、より多くのHCP及びユニークペプチドが同定されたことを示している。さらなる分析から、トリプシン濃度の上昇に伴い、同定されたmAbペプチドのスペクトル数が数倍増加した(約1000 対 約4200)。
【0092】
超低濃度トリプシン消化試料(25000:1、10000:1)では、比較的少ないmAbスペクトルが同定された。これは、これらの試料中で最小限の量のmAbが消化されたことを示している。同定されたHCPの数を、見出されたmAbペプチドスペクトル数に対してこ入れすることにより、最も多くのHCPが検出され、最も少ない量のmAbが消化された10000:1のタンパク質:トリプシン比を、最適なタンパク質:トリプシン比として選択した。
【0093】
この方法を通常消化及びネイティブ消化と比較するため、同じLC-MS条件を用いて、各条件で調製した試料を分析した。図2で示しているように、超低濃度トリプシン消化法は、ネイティブ消化法に比べて、HCPの同定を顕著に改善している(タンパク質レベルが68%、ペプチドレベルが60%)。いずれの方法も、わずかなHCP及びペプチドを検出するにとどまった通常消化条件よりも、大幅に優れた性能を示した。
【0094】
HCP検出が低減した主な理由は、通常消化試料中ではLCクロマトグラムを支配した消化抗体ペプチドの存在量が高く、またネイティブ消化試料でも依然として存在量が高いためである。しかし、超低濃度トリプシン消化試料ではmAb消化ペプチドの数が少なく、そのためHCPペプチドの干渉が少ない。
【0095】
この結果は、本開示の超低濃度トリプシン消化が、いかなる追加の冗長な濃縮手順を伴わずに、試料調製中にmAbをインタクトに保つことにより、低存在量のHCPペプチドを選択的に消化するシンプルな方法であることを示している。図2A及び2Bを参照。
【0096】
したがって、この実施例では、HCP検出の課題を設定し、アッセイの3つのステップのうち第一のステップ:トリプシン消化ステップを顕著に改善する本明細書に記載の例示的アッセイ(ULTLBを用いたアッセイ)の様々なパラメーターを示している。
【0097】
実施例3
3ステップアッセイのステップ2に関するアッセイ設計及び結果:
ロンググラジエント液体クロマトグラフィーステップ
この実施例では、治療用抗体調製物中のHCPを検出するための例示的なアッセイの設計態様について、アッセイにおける3つのステップのうち第二のステップ:ロンググラジエント液体クロマトグラフィーステップから説明する。
【0098】
LC分離を最適化しHCP同定を改善するため、NISTmAb HCP試料を用いて、複数のメーカー製の長さ及び寸法が異なる一連のカラムを試験して最良の分離を得た(データは示さず)。続いて、最も高性能のカラム(CoAnn Technologies、LLC,1.7μm、C18カラム)を、NISTmAbネイティブ消化試料を用いたさらなるカラム長及びグラジエントの最適化に使用した。カラム長最適化実験のデータから、2時間のグラジエントを使用する場合、50cmカラムを使用した結果、25cmカラムに比べてHCPが44.2%、ユニークペプチドが36.0%多く同定された(図2)。
【0099】
50cmカラム長の優位が示されたのは、分離がより大きくピーク幅がより狭いためである。50cmカラムでグラジエントの長さをさらに最適化した。その結果、HCP同定は、4時間グラジエントを使用すると、2時間グラジエントに比べてタンパク質レベルで14.7%、ペプチドレベルで13.5%さらに改善できることが分かった。しかし、さらに長いグラジエント(6時間及び8時間)を同じカラムで試験したところ、さらなる改善は観察されなかった。プロテオミクス研究では、複雑な組織または細胞の試料において、8時間グラジエントが4時間または6時間グラジエントに比べて最良の性能を示した(35、36)が、HCP試料を分析する場合、複雑性が低く、単一タンパク質(mAb)が異常に高濃度であり、これが低存在量のHCPペプチド分析を妨害することから、同様の長さのグラジエントを使用する利点が少なくなるように思われる。
【0100】
さらに、6時間または8時間のような長いグラジエントでは、ピーク幅が広がるため、低存在量のHCPペプチドのMSシグナルが著しく低下する可能性がある。これらの知見により、50cmカラムによる4時間グラジエントを最適なLC分離条件として選択するに至った。より短時間の25cmカラムにおける2時間の分離の代わりに、4時間グラジエント及び50cmカラムを使用した場合、NISTmAbネイティブ消化試料中で約65.5%多いHCP(187対113)及び54.4%多いユニークペプチド(772対500)が同定された(図2)。この最適なLC分離及び発明者らの超低濃度トリプシン消化を組み合わせた結果、標準的LC条件を用いたネイティブ消化に比べて、3倍以上の数のHCPが同定された(366対113)。図2A及び2Bを参照。
【0101】
したがって、この実施例では、HCP検出の課題を設定し、アッセイの3つのステップのうち第二のステップ:ロンググラジエント液体クロマトグラフィーステップを顕著に改善する本明細書に記載の例示的アッセイ(ULTLBを用いたアッセイ)の様々なパラメーターを示している。
【0102】
実施例4
3ステップアッセイのステップ3に関するアッセイ設計及び結果:
液体クロマトグラフィー質量分析(LC-MS)BoxCarステップ
この実施例では、治療用抗体調製物中のHCPを検出するための例示的なアッセイの設計態様について、アッセイにおける3つのステップのうち第三のステップ:液体クロマトグラフィー質量分析(LC-MS)BoxCarステップから説明する。
【0103】
LC-MSベースの方法における大きな課題は、試料消化物中のHCPと治療用抗体との間の濃度差が6桁を上回り得ることである。さらに、トラップ型質量分析計の重要な制約は、イオントラップの電荷容量が限られているため、多くの低存在量イオンがMS1レベルの分析から除外されることである。HCP分析を妨害するワイドダイナミックレンジの問題を軽減するため、BoxCar取得法をHCP試料分析に適合させて、検出ダイナミックレンジを増大させた。
【0104】
図3A及び図3Bで示しているように、BoxCarスキャンのイオン注入時間の合計(164.6ms)は、標準的なフルスキャンのイオン注入時間(1.3ms)よりもはるかに長く、個々のボックスの平均イオン注入時間は、標準のフルスキャンの10倍を上回った。最終的な結果として、シグナル対ノイズ比(S/N)が不十分な低存在量種のフルスキャン信号が40倍超増加した。
【0105】
1回のLC-MS実験内で、BoxCarスキャンの回数及びBoxCarスキャン当たりのボックス数は固定されていた。全体的な取得サイクルは、標準的なフルスキャン及びm/z400~1200の範囲を網羅する2回以上のBoxCarスキャンから構成されていた。BoxCarのスキャン回数を増やし、1回のスキャンでより多くのボックスをスキャンすることで検出ダイナミックレンジを増大させることはできるものの、より長いサイクルタイムが必要となる。
【0106】
全体のサイクルタイム及びBoxCarのスキャン回数のバランスをとるため、複数のBoxCar設定を検討した。フルスキャン1回+BoxCarスキャン2回を使用したときに最も多くのHCPが得られた。2つのBoxCarスキャンにおける各ボックスの詳細なm/zウインドウを表1に示す。
【0107】
BoxCar設定を最適化した後、同一のLC条件(25cmカラムで2時間グラジエント)で分離したNISTmAbネイティブ消化試料を用いて、BoxCar取得をDDAと比較した。BoxCar取得を用いて171種のHCPが同定された。これは従来のDDAに対し約51%の改善に相当し、一方ユニークペプチド同定数は約55%増加した(図3C)。
【0108】
したがって、この実施例では、HCP検出の課題を設定し、アッセイの3つのステップのうち第二のステップ:液体クロマトグラフィー質量分析(LC-MS)BoxCarステップを顕著に改善する例示的なアッセイの様々なパラメーターを示している。
【0109】
実施例5
アッセイ設計及び3ステップアッセイの組合せの結果
ULTLB法
この実施例では、アッセイの3つ全てのステップを組み合わせることによる、治療用抗体調製物中のHCPを検出するための例示的なアッセイの設計態様について説明する。
【0110】
したがって、上記の例示的なアッセイの全てのステップ、すなわち、非変性条件下での超低濃度トリプシン消化と、最適なロングLCグラジエントと、BoxCar取得とを組み合わせて「ULTLB法」と称する新たな方法とし、これを標準抗体(NISTmAb)に適用して、他の報告と直接比較できるようにした。ULTLB法により、合計453種のマウスタンパク質が同定された(同定されたHCPの全リストについては表1参照)。
【0111】
図4Aで示しているように、ULTLB法では、25cmカラムにおける2時間グラジエントを用いて分析した標準的ネイティブ消化よりもHCP同定が4倍以上増加した。またこの結果は、試料調製、LC分離、及びMS取得を含む各最適化がHCP同定の改善にどれだけ貢献したかも明らかにしており、より長いカラム(50cm)、より長いグラジエント(4時間)、及びBoxCar取得により、HCP同定がそれぞれ44%、14%、38%改善した。超低濃度トリプシン消化を最適化されたLC-MS条件と組み合わせることにより、HCP同定はさらに75%超増加した。
【0112】
これは、超低濃度トリプシン消化により、ULTLB法においてHCPの同定が顕著に改善されたことを示すものである。最近、Chenら(AnalChem 2020,92,3751-3757)及びHuangら(Anal Chem 2017,89,5436-5444)の両者がHCP同定戦略を開発し、NISTmAbを用いてその有効性を試験し、それぞれ164種のHCP及び60種のHCPを同定した。加えて、ネイティブ消化法(Huang et al.)によって検出された60種中57種のHCPがULTLB法によって同定され、MWCO法によって同定された164種中147種のHCPがULTLB法によって同様に網羅された。合計でNISTmAb中の296種のマウスHCPがULTLB法によって同定されたが、これらは以前の2つの研究では報告されていないものであった(図4B)。
【0113】
(表1)抗体試料にスパイクするタンパク質の濃度を変えることによって試験した検出限界
【0114】
当該方法の検出限界を評価するため、0.1~200ppmにわたる濃度の13種の精製CHOタンパク質を、非常に低いレベルの内在性HCPを含む精製市販グレードモノクローナル抗体mAb1にスパイクした(表1)。リストには、PLBD2、カテプシンD、メタロプロテイナーゼ阻害剤1などの重要な低存在量HCP標的が含まれた。2つのモノクローナル抗体について得られた比較結果については、図6を参照。
【0115】
ULTLB法を用いてスパイクイン試料を処理し、三重反復で分析した。表1は、13種全てのスパイクインタンパク質が高信頼度で同定され、最低濃度のタンパク質(0.1ppm)でも8つのスペクトルで同定されたことを示している。結果からは、ULTLB法の感度が高く、0.1ppmまでHCPを検出できることが示される。
【0116】
ULTLB法の再現性を、NISTmAbを用いた2回の個別実行でも評価し、合計583種のタンパク質(全タンパク質の92%に相当)が実行間で共有されていた(図5A)。この再現性の高い結果は、HCP分析に不可欠なタンパク質同定における信頼度の高さを示すものである。タンパク質存在量についてもラベルフリー定量化によって定量し、両実行で比較した。この方法のピアソン相関は0.95超であり、ULTLB法の再現性が高いことが示された(図5B)。
【0117】
したがって、この実施例では、HCP検出の課題を設定し、3ステップULTLB法の様々なパラメーター及びデータ結果を示している。
【0118】
実施例6
5つの異なるHCP分析技法の比較分析
この実施例では、表2にまとめた5つの異なるHCP分析技法の比較分析を提示する。
【0119】
本開示は、非変性条件下の消化時における超低濃度トリプシンと、長いクロマトグラジエントと、四重極オービトラップ質量分析計でのBoxCar質量分析取得とを組み合わせることにより、ULTLB法と称する深いHCPプロファイリングのためのシンプルかつ新規のプラットフォームを確立する。
【0120】
この戦略を使用すれば、mAb試料中の低存在量のHCPは、非変性条件下で超低濃度のトリプシンを用いて優先的に消化され、mAbは比較的インタクトに保たれ、変性またはMWCOフィルターで取り出すことが可能になる。ロンググラジエント分離及びBoxCar取得を最適化することにより、HCP検出ダイナミックレンジはさらに1~2桁改善した。
【0121】
スパイクイン実験は、ULTLB法が高感度であり、検出限界を0.1ppmまで達成することを示している。また、ULTLB法は、NISTmAb中の450種超のHCPを高い再現性で検出した。これらには、他の方法によって過去に報告されたほぼ全ての同定HCPが含まれている。
【0122】
したがって、ULTLB法はシンプルでロバストであり、他の方法に比べてより深いHCPプロファイリングを可能にし、追加的な時間のかかる試料の濃縮ステップを回避する。
【0123】
(表2)治療用抗体の純度を特性評価するためのHCPアッセイの比較
【0124】
したがって、この実施例では、HCP検出のための既存の4つのアッセイと、例示的なアッセイ(ULTLB使用)との比較を設定し、ULTLBが優れていることを示している。
【0125】
その他の実施形態
以上の明細書において、ある特定の実施形態及び実施例を説明し、多くの詳細を例示目的で示してきたが、本明細書で説明されている例示的なアッセイが追加の実施形態の影響を受けやすく、本明細書に記載のある特定の詳細が本明細書に記載の基本原理から逸脱することなく変化し得ることは、当業者には明らかであろう。
図1
図2
図3A
図3B
図3C
図4
図5
図6
【国際調査報告】