(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-10-16
(54)【発明の名称】機械的耐久性が改善された透明ガラスセラミック物品
(51)【国際特許分類】
C03C 10/04 20060101AFI20231006BHJP
C03C 21/00 20060101ALI20231006BHJP
C03B 32/02 20060101ALI20231006BHJP
G09F 9/00 20060101ALI20231006BHJP
【FI】
C03C10/04
C03C21/00 101
C03B32/02
G09F9/00 302
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023519270
(86)(22)【出願日】2021-09-13
(85)【翻訳文提出日】2023-05-24
(86)【国際出願番号】 US2021050034
(87)【国際公開番号】W WO2022066455
(87)【国際公開日】2022-03-31
(32)【優先日】2020-09-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】397068274
【氏名又は名称】コーニング インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100073184
【氏名又は名称】柳田 征史
(74)【代理人】
【識別番号】100175042
【氏名又は名称】高橋 秀明
(72)【発明者】
【氏名】ビール,ジョージ ホールジー
(72)【発明者】
【氏名】フィンケルデー,ジョン フィリップ
【テーマコード(参考)】
4G015
4G059
4G062
5G435
【Fターム(参考)】
4G015EA02
4G059AA15
4G059AC04
4G059AC16
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(57)【要約】
ガラスセラミック物品は、40質量%から60質量%のSiO2、18質量%から35質量%のAl2O3、12質量%から16質量%のB2O3、0質量%から4質量%のLi2O、0質量%から5質量%のNa2O、0質量%から5質量%のK2O、0質量%から15質量%のZnO、および0質量%から8質量%のMgOを含む。このガラスセラミック物品中のLi2OとNa2Oの合計は、1質量%から8質量%であることがある。このガラスセラミック物品中のMgOとZnOの合計は、3質量%から20質量%であることがある。このガラスセラミック物品の主結晶相は、ムライト型構造を有することがある。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラスセラミック物品であって、
40質量%以上かつ60質量%以下のSiO
2、
18質量%以上かつ35質量%以下のAl
2O
3、
12質量%以上かつ16質量%以下のB
2O
3、
0質量%以上かつ4質量%以下のLi
2O、
0質量%以上かつ5質量%以下のNa
2O、
0質量%以上かつ5質量%以下のK
2O、
0質量%以上かつ15質量%以下のZnO、および
0質量%以上かつ8質量%以下のMgO、
を含み、
Li
2O+Na
2Oは、1質量%以上かつ8質量%以下であり、
MgO+ZnOは、3質量%以上かつ20質量%以下であり、
該ガラスセラミック物品の主結晶相はムライト型構造を有する、ガラスセラミック物品。
【請求項2】
前記ガラスセラミック物品が、12.5質量%以上かつ16質量%以下のB
2O
3を含む、請求項1記載のガラスセラミック物品。
【請求項3】
Li
2O+Na
2Oが、1.2質量%以上かつ6質量%以下である、請求項1または2記載のガラスセラミック物品。
【請求項4】
MgO+ZnOが、5質量%以上かつ18質量%以下である、請求項1から3いずれか1項記載のガラスセラミック物品。
【請求項5】
前記ガラスセラミック物品が、20質量%以上かつ30質量%以下のAl
2O
3を含む、請求項1から4いずれか1項記載のガラスセラミック物品。
【請求項6】
前記ガラスセラミック物品が、8質量%以上かつ15質量%以下のZnOを含む、請求項1から5いずれか1項記載のガラスセラミック物品。
【請求項7】
(R
2O+RO)/Al
2O
3が1未満である、請求項1から6いずれか1項記載のガラスセラミック物品。
【請求項8】
前記ガラスセラミック物品がZrO
2を含まない、請求項1から7いずれか1項記載のガラスセラミック物品。
【請求項9】
前記ガラスセラミック物品がAs
2O
3を含まない、請求項1から8いずれか1項記載のガラスセラミック物品。
【請求項10】
前記ガラスセラミック物品が、40質量%以上かつ55質量%以下のSiO
2を含む、請求項1から9いずれか1項記載のガラスセラミック物品。
【請求項11】
ダブルトーション法で測定した前記ガラスセラミック物品の破壊靱性K
ICが、0.90MPa・m
1/2以上である、請求項1から10いずれか1項記載のガラスセラミック物品。
【請求項12】
前記ガラスセラミック物品の弾性率が、50GPa以上かつ100GPa以下である、請求項1から11いずれか1項記載のガラスセラミック物品。
【請求項13】
前記ガラスセラミック物品の平均透過率が、0.8mmの物品厚で測定して、400nmから800nmの波長範囲に亘る光の70%以上かつ95%以下である、請求項1から12いずれか1項記載のガラスセラミック物品。
【請求項14】
前記ガラスセラミック物品の熱膨張係数(CTE)が、50×10
-7/℃以下である、請求項1から13いずれか1項記載のガラスセラミック物品。
【請求項15】
ガラスセラミック物品を形成する方法において、
炉内でガラスセラミック組成物を1℃/分以上かつ10℃/分以下の速度で核形成温度に加熱する工程であって、該ガラスセラミック組成物は、
40質量%以上かつ60質量%以下のSiO
2、
18質量%以上かつ35質量%以下のAl
2O
3、
12質量%以上かつ16質量%以下のB
2O
3、
0質量%以上かつ4質量%以下のLi
2O、
0質量%以上かつ5質量%以下のNa
2O、
0質量%以上かつ5質量%以下のK
2O、
0質量%以上かつ15質量%以下のZnO、および
0質量%以上かつ8質量%以下のMgO、
を含み、
Li
2O+Na
2Oは、1質量%以上かつ8質量%以下であり、
MgO+ZnOは、3質量%以上かつ20質量%以下である、工程、
0.25時間以上かつ4時間以下の時間に亘り前記炉内で前記ガラスセラミック組成物を前記核形成温度に維持して、核形成された結晶化可能なガラスを生成する工程、
前記炉内で前記核形成された結晶化可能なガラスを1℃/分以上かつ10℃/分以下の速度で結晶化温度に加熱する工程、
0.25時間以上かつ4時間以下の時間に亘り前記炉内で前記核形成された結晶化可能なガラスを前記結晶化温度に維持して、ガラスセラミック物品を製造する工程であって、該ガラスセラミック物品の主結晶相がムライト型構造を有する、工程、および
前記ガラスセラミック物品を室温に冷却する工程、
を含む方法。
【請求項16】
前記核形成温度が600℃以上かつ900℃以下である、請求項15記載の方法。
【請求項17】
前記結晶化温度が700℃以上かつ1000℃以下である、請求項15または16記載の方法。
【請求項18】
イオン交換浴内で前記ガラスセラミック物品を強化する工程をさらに含む、請求項15から17いずれか1項記載の方法。
【請求項19】
下記の1つ以上を特徴とする、請求項15から18いずれか1項記載の方法:
前記ガラスセラミック物品が、ダブルトーション法で測定して0.90MPa・m
1/2以上の破壊靱性K
ICを有する、
前記ガラスセラミック物品が、50GPa以上かつ100GPa以下の弾性率を有する、または
前記ガラスセラミック物品が、0.8mmの物品厚で測定して、400nmから800nmの波長範囲に亘る光の70%以上かつ95%以下の平均透過率を有する。
【請求項20】
前面、背面、および側面を有する筐体、
前記筐体の少なくとも部分的に内部に設けられ、少なくとも制御装置、メモリ、および前記筐体の前面に、またはその近くに設けられたディスプレイを含む電気部品、および
前記ディスプレイを覆って配置された請求項1記載のガラスセラミック物品、
を備えた、消費者向け電子機器。
【発明の詳細な説明】
【関連出願の説明】
【0001】
本出願は、その内容が依拠され、ここに全て引用される、2020年9月25日に出願された米国仮特許出願第63/083238号の米国法典第35編第119条の下での優先権の恩恵を主張するものである。
【技術分野】
【0002】
本明細書は、ガラスセラミック組成物に関し、より詳しくは、イオン交換可能なガラスセラミック組成物に関する。
【背景技術】
【0003】
LCDおよびLEDディスプレイ、コンピュータ用モニタ、現金自動預払機(ATM)などの消費者向けおよび商業用電子機器の両方に、カバーガラス、ガラスバックプレーンなどのガラス物品が利用されている。これらのガラス物品の内のいくつかは、ガラス物品に、利用者の指および/またはスタイラス器具を含む様々な物体が触れる必要のある「タッチ」可能を備えることがあり、それゆえ、ガラスは、引っ掻き傷などの損傷を受けずに、頻繁な接触に耐えるのに十分に頑丈でなければならない。実際に、ガラス物品の表面に導入される引っ掻き傷は、ガラスの壊滅的な破壊をもたらす亀裂の開始点の働きをし得るので、その引っ掻き傷により、ガラス物品の強度が低下することがある。
【0004】
さらに、そのようなガラス物品は、携帯電話、個人用メディアプレーヤー、ラップトップコンピュータ、およびタブレットコンピュータなどの携帯型電子機器に組み込まれることもある。それゆえ、ガラス物品の透過率など、ガラス物品の光学的特徴が重要な検討事項となることがある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
したがって、ガラスと比べて改善された機械的性質を有しつつ、ガラスと類似の光学的特徴も有する代替材料が必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の態様A1によれば、ガラスセラミック物品は、40質量%以上かつ60質量%以下のSiO2、18質量%以上かつ35質量%以下のAl2O3、12質量%以上かつ16質量%以下のB2O3、0質量%以上かつ4質量%以下のLi2O、0質量%以上かつ5質量%以下のNa2O、0質量%以上かつ5質量%以下のK2O、0質量%以上かつ15質量%以下のZnO、および0質量%以上かつ8質量%以下のMgOを含むことがあり、Li2O+Na2Oは、1質量%以上かつ8質量%以下であり、MgO+ZnOは、3質量%以上かつ20質量%以下であり、このガラスセラミック物品の主結晶相はムライト型構造を有する。
【0007】
第2の態様A2は、ガラスセラミック物品が、12.5質量%以上かつ16質量%以下のB2O3を含む、第1の態様A1によるガラスセラミック物品を含む。
【0008】
第3の態様A3は、ガラスセラミック物品が、13質量%以上かつ15.5質量%以下のB2O3を含む、第2の態様A2によるガラスセラミック物品を含む。
【0009】
第4の態様A4は、Li2O+Na2Oが、1.2質量%以上かつ6質量%以下である、第1から第3の態様A1~A3のいずれかによるガラスセラミック物品を含む。
【0010】
第5の態様A5は、Li2O+Na2Oが、1.4質量%以上かつ5質量%以下である、第4の態様A4によるガラスセラミック物品を含む。
【0011】
第6の態様A6は、MgO+ZnOが、5質量%以上かつ18質量%以下である、第1から第5の態様A1~A5のいずれかによるガラスセラミック物品を含む。
【0012】
第7の態様A7は、MgO+ZnOが、7質量%以上かつ15質量%以下である、第6の態様A6によるガラスセラミック物品を含む。
【0013】
第8の態様A8は、ガラスセラミック物品が、20質量%以上かつ30質量%以下のAl2O3を含む、第1から第7の態様A1~A7のいずれかによるガラスセラミック物品を含む。
【0014】
第9の態様A9は、ガラスセラミック物品が、8質量%以上かつ15質量%以下のZnOを含む、第1から第8の態様A1~A8によるガラスセラミック物品を含む。
【0015】
第10の態様A10は、(R2O+RO)/Al2O3が1未満である、第1から第9の態様A1~A9によるガラスセラミック物品を含む。
【0016】
第11の態様A11は、ガラスセラミック物品がZrO2を含まない、第1から第10の態様A1~A10によるガラスセラミック物品を含む。
【0017】
第12の態様A12は、ガラスセラミック物品がAs2O3を含まない、第1から第11の態様A1~A11によるガラスセラミック物品を含む。
【0018】
第13の態様A13は、ガラスセラミック物品が、40質量%以上かつ55質量%以下のSiO2を含む、第1から第12の態様A1~A12によるガラスセラミック物品を含む。
【0019】
第14の態様A14は、ガラスセラミック物品が、43質量%以上かつ50質量%以下のSiO2を含む、第13の態様A13によるガラスセラミック物品を含む。
【0020】
第15の態様A15は、ダブルトーション法で測定したガラスセラミック物品の破壊靱性KICが、0.90MPa・m1/2以上である、第1から第14の態様A1~A14によるガラスセラミック物品を含む。
【0021】
第16の態様A16は、ガラスセラミック物品の弾性率が、50GPa以上かつ100GPa以下である、第1から第15の態様A1~A15によるガラスセラミック物品を含む。
【0022】
第17の態様A17は、ガラスセラミック物品の平均透過率が、0.8mmの物品厚で測定して、400nmから800nmの波長範囲に亘る光の70%以上かつ95%以下である、第1から第16の態様A1~A16によるガラスセラミック物品を含む。
【0023】
第18の態様A18は、ガラスセラミック物品の熱膨張係数(CTE)が、50×10-7/℃以下である、第1から第17の態様A1~A17によるガラスセラミック物品を含む。
【0024】
第19の態様A19によれば、ガラスセラミック物品を形成する方法は、炉内でガラスセラミック組成物を1℃/分以上かつ10℃/分以下の速度で核形成温度に加熱する工程であって、このガラスセラミック組成物は、40質量%以上かつ60質量%以下のSiO2、18質量%以上かつ35質量%以下のAl2O3、12質量%以上かつ16質量%以下のB2O3、0質量%以上かつ4質量%以下のLi2O、0質量%以上かつ5質量%以下のNa2O、0質量%以上かつ5質量%以下のK2O、0質量%以上かつ15質量%以下のZnO、および0質量%以上かつ8質量%以下のMgOを含み、Li2O+Na2Oは、1質量%以上かつ8質量%以下であり、MgO+ZnOは、3質量%以上かつ20質量%以下である、工程;0.25時間以上かつ4時間以下の時間に亘り炉内でガラスセラミック組成物を核形成温度に維持して、核形成された結晶化可能なガラスを生成する工程;炉内で核形成された結晶化可能なガラスを1℃/分以上かつ10℃/分以下の速度で結晶化温度に加熱する工程;0.25時間以上かつ4時間以下の時間に亘り炉内で核形成された結晶化可能なガラスを結晶化温度に維持して、ガラスセラミック物品を製造する工程であって、そのガラスセラミック物品の主結晶相がムライト型構造を有する、工程;およびガラスセラミック物品を室温に冷却する工程を含むことがある。
【0025】
第20の態様A20は、核形成温度が600℃以上かつ900℃以下である、第19の態様A19による方法を含む。
【0026】
第21の態様A21は、結晶化温度が700℃以上かつ1000℃以下である、第19の態様A19による方法を含む。
【0027】
第22の態様A22は、イオン交換浴内でガラスセラミック物品を強化する工程をさらに含む、第19の態様A19による方法を含む。
【0028】
第23の態様A23は、ガラスセラミック物品が、ダブルトーション法で測定して0.90MPa・m1/2以上の破壊靱性KICを有する、第19の態様A19による方法を含む。
【0029】
第24の態様A24は、ガラスセラミック物品が、50GPa以上かつ100GPa以下の弾性率を有する、第19の態様A19による方法を含む。
【0030】
第25の態様A25は、ガラスセラミック物品が、0.8mmの物品厚で測定して、400nmから800nmの波長範囲に亘る光の70%以上かつ95%以下の平均透過率を有する、第19の態様A19による方法を含む。
【0031】
第26の態様A26は、前面、背面、および側面を有する筐体;その筐体の少なくとも部分的に内部に設けられ、少なくとも制御装置、メモリ、および筐体の前面に、またはその近くに設けられたディスプレイを含む電気部品;およびそのディスプレイを覆って配置された第1の態様A1によるガラスセラミック物品を備えた、消費者向け電子機器を含む。
【0032】
ここに記載されたガラスセラミック組成物の追加の特徴と利点は、以下の詳細な説明に述べられており、一部は、その説明から当業者に容易に明白となるか、または以下の詳細な説明、特許請求の範囲、並びに添付図面を含む、ここに記載された実施の形態を実施することによって、認識されるであろう。
【0033】
先の一般的な説明および以下の詳細な説明の両方とも、様々な実施の形態を記述しており、請求項の主題の性質および特徴を理解するための概要または骨子を提供する意図があることが理解されよう。添付図面は、様々な実施の形態のさらなる理解を与えるために含まれ、本明細書に包含され、その一部を構成する。図面は、ここに記載された様々な実施の形態を図解しており、説明と共に、請求項の主題の原理および作動を説明する働きをする。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【
図1】ここに記載された1つ以上の実施の形態によるガラスセラミック物品のいずれかを組み込んだ例示の電子機器の平面図
【
図3】ここに記載された1つ以上の実施の形態による、ガラスセラミック組成物から製造され、熱処理が施された例示のガラスセラミック物品のX線回折(XRD)スペクトルのプロット(X軸:2θ角度;Y軸:強度)
【
図4】ここに記載された1つ以上の実施の形態による、ガラスセラミック組成物から製造され、熱処理が施された例示のガラスセラミック物品の走査型電子顕微鏡(SEM)画像
【
図5】ここに記載された1つ以上の実施の形態による、ガラスセラミック組成物から製造され、熱処理が施された例示のガラスセラミック物品の全透過率のプロット(X軸:波長;Y軸:全透過率%)
【
図6】ここに記載された1つ以上の実施の形態による、ガラスセラミック組成物から製造され、熱処理が施された例示のガラスセラミック物品の拡散透過率のプロット(X軸:波長;Y軸:拡散透過率%)
【
図7】ここに記載された1つ以上の実施の形態による、ガラスセラミック組成物から製造され、熱処理が施された例示のガラスセラミック物品の散乱比のプロット(X軸:波長;Y軸:散乱比)
【
図8】ここに記載された1つ以上の実施の形態による、ガラスセラミック組成物から製造され、熱処理が施された例示のガラスセラミック物品のナトリウム濃度のプロット(X軸:深さ;Y軸:Na
2O濃度)
【
図9】ここに記載された1つ以上の実施の形態による、ガラスセラミック組成物から製造され、熱処理が施された例示のガラスセラミック物品の応力のプロット(X軸:深さ;Y軸:応力)
【
図10】ここに記載された1つ以上の実施の形態による、ガラスセラミック組成物から製造され、熱処理が施された例示のガラスセラミック物品の中央張力のプロット(X軸:深さ;Y軸:中央張力)
【発明を実施するための形態】
【0035】
これから、機械的耐久性が改善された透明ガラスセラミック物品の様々な実施の形態を詳しく参照する。実施の形態によれば、ガラスセラミック物品は、40質量%以上かつ60質量%以下のSiO2、18質量%以上かつ35質量%以下のAl2O3、12質量%以上かつ16質量%以下のB2O3、0質量%以上かつ4質量%以下のLi2O、0質量%以上かつ5質量%以下のNa2O、0質量%以上かつ5質量%以下のK2O、0質量%以上かつ15質量%以下のZnO、および0質量%以上かつ8質量%以下のMgOを含む。このガラスセラミック物品中のLi2OとNa2Oの合計は、1質量%以上かつ8質量%以下であることがある。このガラスセラミック物品中のMgOとZnOの合計は、3質量%以上かつ20質量%以下であることがある。このガラスセラミック物品の主結晶相はムライト型構造を有することがある。イオン交換可能なガラスセラミック組成物およびそれからガラスセラミック物品を形成する方法の様々な実施の形態が、添付図面を具体的に参照して、ここに言及される。
【0036】
範囲は、「約」ある特定値から、および/または「約」別の特定値まで、とここに表現されることがある。そのような範囲が表現された場合、別の実施の形態は、そのある特定値から、および/または他方の特定値まで、を含む。同様に、値が、「約」という先行詞を使用して、近似として表現されている場合、その特定値が別の実施の形態を形成することが理解されよう。範囲の各々の端点が、他方の端点に関してと、他方の端点とは関係なくの両方で有意であることがさらに理解されよう。
【0037】
ここに用いられている方向を示す用語-例えば、上、下、右、左、前、後、上部、底部-は、描かれた図面に関してのみ使用され、絶対的な向きを暗示する意図はない。
【0038】
特に明記のない限り、ここに述べられたどの方法も、その工程を特定の順序で行うことを必要とすると解釈されることも、またはどの装置についても、特定の向きが要求されていることも決して意図されていない。したがって、方法の請求項が、その工程がしたがうべき順序を実際に挙げていない場合、または装置の請求項が、個々の構成部材に対する順序または向きを実際に列挙していない場合、もしくはそれらの工程が特定の順序に限定されるべきことが、請求項または説明において他に具体的に述べられていない場合、もしくは装置の構成部材に対する特定の順序または向きが列挙されていない場合、順序または向きがいかようにも暗示されることは決して意図されていない。このことは、工程の配列、操作の流れ、構成部材の順序、または構成部材の向き;文法構成または句読法に由来する明白な意味;および明細書に記載された実施の形態の数またはタイプに関する論理事項を含む、解釈に関するどの可能性のある非表現基準にも適用される。
【0039】
ここに用いられているように、名詞は、文脈上明白に他の意味に解釈すべき場合を除いて、複数の対象を含む。それゆえ、例えば、構成部材に対する言及は、文脈上明白に他の意味に解釈すべき場合を除いて、そのような構成部材を2つ以上有する態様を含む。
【0040】
「0質量%」および「含まない(free)」という用語は、ガラスセラミック組成物中の特定の構成成分の濃度および/または不在を記載するために使用される場合、その構成成分が、ガラスセラミック組成物に意図的に加えられていないことを意味する。しかしながら、そのガラスセラミック組成物は、0.1質量%未満の量の汚染物質または混入物としてその構成成分を微量で含むことがある。
【0041】
ここに記載されたガラスセラミック組成物またはガラスセラミック物品の実施の形態において、構成成分(例えば、SiO2、Al2O3など)の濃度は、特に明記のない限り、酸化物基準の質量パーセント(質量%)で指定される。
【0042】
破壊靱性は、その内容がここに全て引用される、「Double Torsion Technique as a Universal Fracture Toughness Test Method」と題する、ASTM STP 559に記載されたダブルトーション技術を使用して測定される。
【0043】
ここに記載されたような、X線回折(XRD)スペクトルは、Bruker Corporation(マサチューセッツ州、ビルリカ)により製造されたLYNXEYE XE-T検出器を備えたD8 ENDEAVOR X線回折システムで測定される。
【0044】
透過率データ(全透過率および拡散透過率)は、PerkinElmer Inc.(米国、マサチューセッツ州、ウォルサム)により製造されたLambda 950 UV/Vis分光光度計で測定される。このLambda 950装置は、150mmの線分球を備えていた。データは、試料位置に何も置かない状態をベースライン(open bema baseline)とし、Spectralon(登録商標)基準反射率ディスクを使用して収集した。全透過率(Total Tx)について、試料は、積分球のエントリーポイントに固定される。拡散透過率(Diffuse Tx)について、球の出口ポートの上にある「Spectralon」基準反射率ディスクを取り除いて、軸上光を球から出し、ライトトラップに入れることができる。試料が置かれていない状態で、拡散部分のゼロオフセット測定を行って、ライトトラップの効率を決定する。拡散透過率測定値を補正するために、式:Diffuse Tx=Diffuse測定-(Zero Offset*(Total Tx/100))を使用して、試料測定値からゼロオフセット寄与を差し引く。(%Diffuse Tx/%Total Tx)として、全波長について、散乱比を測定する。
【0045】
ここに用いられているような「平均透過率」という用語は、各整数の波長が等しく重み付けられた、所定の波長範囲内で行われた透過率測定値の平均を称する。ここに記載された実施の形態において、「平均透過率」は、400nmから800nmの波長範囲(端点を含む)に亘り報告される。
【0046】
「透明」という用語は、ここに記載されたガラスセラミック組成物から形成されたガラスセラミック物品を記載するために使用される場合、そのガラスセラミック物品が、0.8mmの物品厚で400nmから800nmの波長範囲(端点を含む)の光の垂直入射で測定したときに、85%以上の平均透過率を有することを意味する。
【0047】
「透明ヘイズ(transparent haze)」という用語は、ここに記載されたガラスセラミック組成物から形成されたガラスセラミック物品を記載するために使用される場合、そのガラスセラミック物品が、0.8mmの物品厚で400nmから800nmの波長範囲(端点を含む)の光の垂直入射で測定したときに、70%以上かつ85%未満の平均透過率を有することを意味する。
【0048】
「半透明」という用語は、ここに記載されたガラスセラミック組成物から形成されたガラスセラミック物品を記載するために使用される場合、そのガラスセラミック物品が、0.8mmの物品厚で400nmから800nmの波長範囲(端点を含む)の光の垂直入射で測定したときに、20%以上かつ70%未満の平均透過率を有することを意味する。
【0049】
「不透明」という用語は、ここに記載されたガラスセラミック組成物から形成されたガラスセラミック物品を記載するために使用される場合、そのガラスセラミック物品が、0.8mmの物品厚で400nmから800nmの波長範囲(端点を含む)の光の垂直入射で測定したときに、20%未満の平均透過率を有することを意味する。
【0050】
ここに図示され、記載された、走査型電子顕微鏡(SEM)を使用した電子線回折画像は、4.7mmの作動距離(WD)、3.00のEHT(electron high tension)、および高真空モードで、ZEISS GeminiSEM 500走査型電子顕微鏡により撮影される。
【0051】
ここに用いられているような「融点」という用語は、ガラスセラミック組成物の粘度が200ポアズである温度を称する。
【0052】
ここに用いられているような「軟化点」という用語は、ガラスセラミック組成物の粘度が1×107.6ポアズである温度を称する。軟化点は、ASTM C1351Mに似た、温度の関数として107から109ポアズの無機ガラスの粘度を測定する平行板粘度測定法にしたがって測定される。
【0053】
ここに用いられているような「液相粘度」という用語は、失透の発現時(すなわち、ASTM C829-81による勾配炉測定法で決定されるような液相温度)でのガラスセラミック組成物の粘度を称する。
【0054】
ここに記載されたような、ガラスセラミック物品の弾性率(ヤング率とも称される)は、ギガパスカル(GPa)の単位で与えられ、ASTM C623にしたがって測定される。
【0055】
ここに用いられているような「CTE」という用語は、各整数の波長が等しく重み付けられた、0℃と300℃の間(端点を含む)でのガラスセラミック物品の平均熱膨張係数を称する。
【0056】
ここに用いられているような「ガラスセラミック物品」という用語は、ガラスの制御された結晶化により製造された材料を称する。実施の形態において、ガラスセラミックは、約1%から約99%の結晶化度を有する。
【0057】
表面圧縮応力は、有限会社折原製作所(日本国)により製造されたFSM-6000のような市販の機器などの表面応力計(FSM)で測定される。表面応力測定は、応力光学係数(SOC)の測定に依存し、応力光学係数はガラスセラミック物品の複屈折に関連付けられる。次に、SOCは、その内容がここに全て引用される、「Standard Test Method for Measurement of Glass Stress-Optical Coefficient」と題するASTM規格C770-16に記載された手順C(ガラスディスク法)にしたがって測定される。圧縮深さ(DOC)は、当該技術分野で公知の散乱光偏光器(SCALP)と連動したFSMで測定される。FSMは、カリウムイオン交換に関する圧縮深さを測定し、SCALPは、ナトリウムイオン交換の圧縮深さを測定する。最大中央張力(CT)値は、当該技術分野で公知のSCALP技術を使用して測定される。
【0058】
「圧縮深さ」および「DOC」という句は、圧縮応力が引張応力に移行するガラスセラミック物品中の位置を称する。
【0059】
ここに記載されたような、組成プロファイルは、JEOL 8900電子マイクロプローブを使用して測定される。
【0060】
「ムライト型」という用語は、ここに記載されたガラスセラミック組成物から形成されたガラスセラミック物品を記載するために使用される場合、ムライト、ホウ素ムライト(boron mullite)、および準安定亜鉛・マグネシウム含有ムライト固溶体を称する。
【0061】
ガラスセラミック物品は、概して、結晶粒(亀裂成長を妨げる)が存在するために、ガラスから形成された物品と比べて改善された破壊靱性を有し、比較的高い弾性率を有する。しかしながら、ガラスセラミック物品に固有の微細構造のために、所望の透明性を達成することが難しいことがある。さらに、ガラスセラミック組成物中に存在するアルカリ酸化物が、熱処理後の結晶相に含まれることがあり、イオン交換に利用できないことがある。
【0062】
上述した問題を軽減するガラスセラミック組成物およびそれから形成されたガラスセラミック物品が、ここに開示されている。詳しくは、ここに記載されたガラスセラミック組成物は、比較的多量のAl2O3と、Li2OやNa2Oなどのアルカリ酸化物を含み、結果として、残留ガラス相中に比較的多量のLi2Oおよび/またはNa2Oが存在する透明なムライト型ガラスセラミック物品が得られる。それゆえ、Al2O3も比較的多量に含まれる、残留ガラス相は、容易にイオン交換できる。さらに、針状斜方晶系ムライト型ナノ結晶の異方性が、ガラスセラミック物品の破壊靱性の改善に役立つことがある。比較的多量のAl2O3含有量並びに高弾性率のムライト型結晶相の存在により、ガラスのみから形成された物品と比べて、比較的高い弾性率がもたらされることがある。
【0063】
ここに記載されたガラスセラミック組成物は、アルミノホウケイ酸塩ガラスセラミック組成物と記載されることがあり、SiO2、Al2O3、およびB2O3を含む。このガラスセラミック組成物は、SiO2、Al2O3、およびB2O3に加え、Li2OやNa2Oなどのアルカリ酸化物も含んで、このガラスセラミック組成物から形成されたガラスセラミック物品のイオン交換を可能にする。ここに記載されたガラスセラミック組成物は、ZnOやMgOなどの二価陽イオン酸化物をさらに含んで、組成物中のAl2O3の電荷平衡を支援し、それによって、得られたガラスセラミック物品中に所望の結晶相(および所望の量の結晶相)を達成する。
【0064】
SiO2は、ここに記載されたガラスセラミック組成物における主要なガラス形成材であり、ガラスセラミック物品の網状構造を安定化させる機能を果たすことができる。ガラスセラミック組成物中のSiO2の量は、ガラスセラミック組成物をガラスセラミック物品に転化させるためにガラスセラミック組成物に熱処理が施されたときに、結晶相を形成するのに十分に多い(例えば、40質量%以上である)べきである。純粋なSiO2または高SiO2ガラスの溶融温度は不要に高いので、SiO2の量は、ガラスセラミック組成物の融点を制御するために制限される(例えば、60質量%以下に)ことがある。それゆえ、SiO2の量を限定すると、得られるガラスセラミック物品の溶けやすさおよび成形性の改善を支援することができる。
【0065】
したがって、実施の形態において、前記ガラスセラミック組成物は、40質量%以上かつ60質量%以下のSiO2を含むことがある。実施の形態において、このガラスセラミック組成物は、40質量%以上かつ55質量%以下のSiO2を含むことがある。実施の形態において、このガラスセラミック組成物は、43質量%以上かつ50質量%以下のSiO2を含むことがある。実施の形態において、このガラスセラミック組成物中のSiO2の量は、40質量%以上、43質量%以上、またさらには45質量%以上であることがある。実施の形態において、このガラスセラミック組成物中のSiO2の量は、60質量%以下、55質量%以下、またさらには50質量%以下であることがある。実施の形態において、このガラスセラミック組成物中のSiO2の量は、40質量%以上かつ60質量%以下、40質量%以上かつ55質量%以下、40質量%以上かつ50質量%以下、43質量%以上かつ60質量%以下、43質量%以上かつ55質量%以下、43質量%以上かつ50質量%以下、45質量%以上かつ60質量%以下、45質量%以上かつ55質量%以下、またさらには45質量%以上かつ50質量%以下、もしくはこれらの端点のいずれかから形成された任意と全ての部分的範囲にあることがある。
【0066】
Al2O3も、SiO2のように、ガラス網状構造を安定化させることができ、それに加え、得られるガラスセラミック物品に改善された機械的性質および化学的耐久性を与える。Al2O3の量は、ガラスセラミック組成物の粘度を制御するように調整することもできる。しかしながら、Al2O3の量が多すぎると、溶融物の粘度が増すことがある。Al2O3の量は、得られるガラスセラミック物品が所望の破壊靱性(例えば、0.90MPa・m1/2以上の)を有するように、十分に多い(例えば、18質量%以上である)べきである。しかしながら、Al2O3の量が多すぎると(例えば、35質量%を超えると)、溶融物の粘度が増し、それによって、得られるガラスセラミック物品の成形性が低下することがある。実施の形態において、そのガラスセラミック組成物は、18質量%以上かつ35質量%以下のAl2O3を含むことがある。実施の形態において、このガラスセラミック組成物は、20質量%以上かつ30質量%以下のAl2O3を含むことがある。実施の形態において、このガラスセラミック組成物中のAl2O3の量は、18質量%以上、20質量%以上、またさらには22質量%以上であることがある。実施の形態において、このガラスセラミック組成物中のAl2O3の量は、35質量%以下、30質量%以下、またさらには28質量%以下であることがある。実施の形態において、このガラスセラミック組成物中のAl2O3の量は、18質量%以上かつ35質量%以下、18質量%以上かつ30質量%以下、18質量%以上かつ28質量%以下、20質量%以上かつ35質量%以下、20質量%以上かつ30質量%以下、20質量%以上かつ28質量%以下、22質量%以上かつ35質量%以下、22質量%以上かつ30質量%以下、またさらには22質量%以上かつ28質量%以下、もしくはこれらの端点のいずれかから形成された任意と全ての部分的範囲にあることがある。
【0067】
B2O3は、ガラスセラミック組成物の溶融温度を低下させる。さらに、ガラスセラミック組成物にB2O3を添加することは、ガラスセラミック物品を形成するために、このガラスセラミック組成物に熱処理が施されたときに、絡み合った結晶微細構造を達成するのに役立つ。それに加え、B2O3は、得られるガラスセラミック物品の損傷抵抗も改善することができる。熱処理後に存在する残留ガラス相中のホウ素が、アルカリ酸化物または二価陽イオン酸化物(MgO、CaO、SrO、BaO、およびZnOなど)により電荷平衡されなければ、ホウ素は、三角形配位状態(または三配位ホウ素)になり、これにより、ガラスの構造が開かれてしまう。これらの三配位ホウ素原子の周りの網状構造は、四面体配位(または四配位)ホウ素ほど剛性ではない。理論で束縛されるものでもないが、三配位ホウ素を含むガラスセラミック物品は、四配位ホウ素と比べて、亀裂が形成される前にある程度の変形を許容できると考えられる。ある程度の変形を許容することによって、ビッカース圧痕亀裂発生閾値が増加する。三配位ホウ素を含むガラスセラミック物品の破壊靱性も増すことがある。B2O3の量は、得られるガラスセラミック物品の成形性を改善し、破壊靱性を改善するために、十分に多い(例えば、12質量%以上である)べきである。しかしながら、B2O3が多すぎると、化学的耐久性と液相粘度が低下することがあり、溶融中のB2O3の揮発と蒸発が、制御するのが難しくなってしまう。したがって、B2O3の量は、ガラスセラミック組成物の化学的耐久性および製造可能性を維持するために制限(例えば、16質量%以下に)されることがある。
【0068】
実施の形態において、前記ガラスセラミック組成物は、12質量%以上かつ16質量%以下のB2O3を含むことがある。実施の形態において、このガラスセラミック組成物は、12.5質量%以上かつ16質量%以下のB2O3を含むことがある。実施の形態において、このガラスセラミック組成物は、13質量%以上かつ15.5質量%以下のB2O3を含むことがある。実施の形態において、このガラスセラミック組成物中のB2O3の量は、12質量%以上、12.5質量%以上、13質量%以上、またさらには13.5質量%以上であることがある。実施の形態において、このガラスセラミック組成物中のB2O3の量は、16質量%以下、またさらには15.5質量%以下であることがある。実施の形態において、このガラスセラミック組成物中のB2O3の量は、12質量%以上かつ16質量%以下、12質量%以上かつ15.5質量%以下、12.5質量%以上かつ16質量%以下、12.5質量%以上かつ15.5質量%以下、13質量%以上かつ16質量%以下、13質量%以上かつ15.5質量%以下、13.5質量%以上かつ16質量%以下、またさらには13.5質量%以上かつ15.5質量%以下、もしくはこれらの端点のいずれかから形成された任意と全ての部分的範囲にあることがある。
【0069】
上述したように、前記ガラスセラミック組成物は、ガラスセラミック組成物のイオン交換を可能にするために、Li2OやNa2Oなどのアルカリ酸化物を含有することがある。Li2Oは、ガラスセラミック組成物のイオン交換可能性を支援し、ガラスセラミック組成物の軟化点を低下させ、それによって、得られるガラスセラミック物品の成形性を増す。実施の形態において、このガラスセラミック組成物は、0質量%以上かつ4質量%以下のLi2Oを含むことがある。実施の形態において、このガラスセラミック組成物中のLi2Oの量は、0質量%以上、0.5質量%以上、1質量%以上、1.2質量%以上、またさらには1.4質量%以上であることがある。実施の形態において、このガラスセラミック組成物中のLi2Oの量は、4質量%以下、3質量%以下、2.5質量%以下、またさらには2質量%以下であることがある。実施の形態において、このガラスセラミック組成物中のLi2Oの量は、0質量%以上かつ4質量%以下、0質量%以上かつ3質量%以下、0質量%以上かつ2.5質量%以下、0質量%以上かつ2質量%以下、0.5質量%以上かつ4質量%以下、0.5質量%以上かつ3質量%以下、0.5質量%以上かつ2.5質量%以下、0.5質量%以上かつ2質量%以下、1質量%以上かつ4質量%以下、1質量%以上かつ3質量%以下、1質量%以上かつ2.5質量%以下、1質量%以上かつ2量%以下、1.2質量%以上かつ4量%以下、1.2質量%以上かつ3量%以下、1.2質量%以上かつ2.5質量%以下、1.2質量%以上かつ2質量%以下、1.2質量%以上かつ4質量%以下、1.4質量%以上かつ3質量%以下、1.4質量%以上かつ2.5質量%以下、またさらには1.4質量%以上かつ2量%以下、もしくはこれらの端点のいずれかから形成された任意と全ての部分的範囲にあることがある。
【0070】
Na2Oは、ガラスセラミック組成物のイオン交換可能性を支援することに加え、得られるガラスセラミック物品の融点を低下させ、成形性を改善する。実施の形態において、このガラスセラミック組成物は、0質量%以上かつ5質量%以下のNa2Oを含むことがある。実施の形態において、このガラスセラミック組成物中のNa2Oの量は、0質量%以上、1質量%以上、1.5質量%以上、またさらには2質量%以上であることがある。実施の形態において、このガラスセラミック組成物中のNa2Oの量は、5質量%以下、4.5質量%以下、またさらには4質量%以下であることがある。実施の形態において、このガラスセラミック組成物中のNa2Oの量は、0質量%以上かつ5質量%以下、0質量%以上かつ4.5質量%以下、0質量%以上かつ4質量%以下、1質量%以上かつ5質量%以下、1質量%以上かつ4.5質量%以下、1質量%以上かつ4質量%以下、1.5質量%以上かつ5質量%以下、1.5質量%以上かつ4.5質量%以下、1.5質量%以上かつ4量%以下、2質量%以上かつ5質量%以下、2質量%以上かつ4.5質量%以下、またさらには2質量%以上かつ4質量%以下、もしくはこれらの端点のいずれかから形成された任意と全ての部分的範囲にあることがある。
【0071】
前記ガラスセラミック組成物中のLi2OとNa2Oの総量は、イオン交換過程を調節するために制御されることがある。Li2OとNa2Oの総量は、ガラスセラミック組成物のイオン交換を可能にするために十分に多い(例えば、1質量%以上である)べきである。しかしながら、ガラスセラミック組成物中のLi2OとNa2Oの総量が多すぎると(例えば、8質量%を超えると)、透明ガラスセラミック物品が得られないであろう。したがって、実施の形態において、ガラスセラミック組成物中のLi2OとNa2Oの総量(すなわち、Li2O(質量%)+Na2O(質量%))は、1質量%以上かつ8質量%以下であることがある。実施の形態において、ガラスセラミック組成物中のLi2OとNa2Oの総量は、1.2質量%以上かつ6質量%以下であることがある。実施の形態において、ガラスセラミック組成物中のLi2OとNa2Oの総量は、1.4質量%以上かつ5質量%以下であることがある。実施の形態において、ガラスセラミック組成物中のLi2OとNa2Oの総量は、1質量%以上、1.2質量%以上、またさらには1.4質量%以上であることがある。実施の形態において、ガラスセラミック組成物中のLi2OとNa2Oの総量は、8質量%以下、6質量%以下、5質量%以下、またさらには4質量%以下であることがある。実施の形態において、ガラスセラミック組成物中のLi2OとNa2Oの総量は、1質量%以上かつ8質量%以下、1質量%以上かつ6質量%以下、1質量%以上かつ5質量%以下、1質量%以上かつ4質量%以下、1.2質量%以上かつ8質量%以下、1.2質量%以上かつ6質量%以下、1.2質量%以上かつ5質量%以下、1.2質量%以上かつ4質量%以下、1.4質量%以上かつ8質量%以下、1.4質量%以上かつ6質量%以下、1.4質量%以上かつ5質量%以下、またさらには1.4質量%以上かつ4質量%以下、もしくはこれらの端点のいずれかから形成された任意と全ての部分的範囲にあることがある。
【0072】
ここに記載されたガラスセラミック組成物は、K2Oなど、Li2OとNa2O以外のアルカリ金属酸化物をさらに含むことがある。K2Oは、イオン交換を促進し、圧縮深さを増加させ、融点を低下させて、得られるガラスセラミック物品の成形性を改善する。しかしながら、K2Oを添加すると、表面圧縮応力と融点を低すぎるようにすることがある。実施の形態において、このガラスセラミック組成物中のK2Oの量は、0質量%以上、またさらには0.1質量%以上であることがある。実施の形態において、このガラスセラミック組成物中のK2Oの量は、5質量%以下、3質量%以下、1質量%以下、またさらには0.5質量%以下であることがある。実施の形態において、このガラスセラミック組成物中のK2Oの量は、0質量%以上かつ5質量%以下、0.1質量%以上かつ5質量%以下、0質量%以上かつ3質量%以下、0.1質量%以上かつ3質量%以下、0質量%以上かつ1質量%以下、0.1質量%以上かつ1質量%以下、0質量%以上かつ0.5質量%以下、またさらには0.1質量%以上かつ0.5質量%以下、もしくはこれらの端点のいずれかから形成された任意と全ての部分的範囲にあることがある。
【0073】
全てのアルカリ酸化物の合計は、ここではR2Oと表される。具体的に、R2Oは、ガラスセラミック組成物中に存在するLi2O、Na2O、およびK2Oの合計(質量%)(すなわち、R2O=Li2O(質量%)+Na2O(質量%)+K2O(質量%))である。アルカリ酸化物は、B2O3のように、ガラスセラミック組成物の軟化点と成形温度を低下させ、それによって、ガラスセラミック組成物中の多量のSiO2による、ガラスセラミック組成物の軟化点と成形温度の上昇を相殺する。軟化点と成形温度は、ガラスセラミック組成物中にアルカリ酸化物の組合せ(例えば、2種類以上のアルカリ酸化物)を含むことによって、さらに低下させることができ、この現象は「混合アルカリ効果」と称される。しかしながら、アルカリ酸化物の量が多すぎると、ガラスセラミック組成物の平均熱膨張係数が100×10-7/℃超に増加し、このことは望ましくないであろう。
【0074】
実施の形態において、前記ガラスセラミック組成物中のR2Oの量は、1質量%以上、1.2質量%以上、またさらには1.4質量%以上であることがある。実施の形態において、このガラスセラミック組成物中のR2Oの総量は、10質量%以下、8質量%以下、またさらには5質量%以下であることがある。実施の形態において、ガラスセラミック組成物中のR2Oの総量は、1質量%以上かつ10質量%以下、1質量%以上かつ8質量%以下、1質量%以上かつ5質量%以下、1.2質量%以上かつ10質量%以下、1.2質量%以上かつ8質量%以下、1.2質量%以上かつ5質量%以下、1.4質量%以上かつ10質量%以下、1.4質量%以上かつ8質量%以下、またさらには1質量%以上かつ5質量%以下、もしくはこれらの端点のいずれかから形成された任意と全ての部分的範囲にあることがある。
【0075】
前記ガラスセラミック組成物中のMgOは、ガラスセラミック組成物中のAl2O3の電荷平衡を支援することができる。Al2O3の電荷平衡は、ガラスセラミック物品中に所望の結晶相(および結晶相の量)を達成するのに役立つ。MgOは、ガラスセラミック組成物の粘度を低下させ、これにより、成形性、歪み点、および弾性率が向上し、得られるガラスセラミック物品のイオン交換可能性が改善されることがある。MgOは、Al2O3の電荷平衡およびガラスセラミック組成物の粘度の低下を支援するようにガラスセラミック組成物中に含まれる(例えば、0質量%以上の量で)。しかしながら、ガラスセラミック組成物に加えられるMgOが多すぎると(例えば、8質量%を超えると)、ガラスセラミック組成物中のナトリウムイオンとカリウムイオンの拡散性が低下し、これにより、転じて、得られるガラスセラミック物品のイオン交換性能(すなわち、イオン交換能力)が悪影響を受ける。
【0076】
実施の形態において、このガラスセラミック組成物は、0質量%以上かつ8質量%以下のMgOを含むことがある。実施の形態において、このガラスセラミック組成物中のMgOの量は、0質量%以上、2質量%以上、またさらには4質量%以上であることがある。実施の形態において、このガラスセラミック組成物中のMgOの量は、8質量%以下、またさらには6質量%以下であることがある。実施の形態において、このガラスセラミック組成物中のMgOの量は、0質量%以上かつ8質量%以下、0質量%以上かつ6質量%以下、2質量%以上かつ8質量%以下、2質量%以上かつ6質量%以下、4質量%以上かつ8質量%以下、またさらには4質量%以上かつ6質量%以下、もしくはこれらの端点のいずれかから形成された任意と全ての部分的範囲にあることがある。
【0077】
ZnOは、MgOと同様に、組成物中のAl2O3の電荷平衡においてMgOを支援し、それによって、得られたガラスセラミック物品中に所望の結晶相(および結晶相の量)を達成することができる。実施の形態において、このガラスセラミック組成物は、0質量%以上かつ15質量%以下のZnOを含むことがある。実施の形態において、このガラスセラミック組成物は、8質量%以上かつ15質量%以下のZnOを含むことがある。実施の形態において、このガラスセラミック組成物中のZnOの量は、0質量%以上、2質量%以上、4質量%以上、6質量%以上、またさらには8質量%以上であることがある。実施の形態において、このガラスセラミック組成物中のZnOの量は、15質量%以下、13質量%以下、またさらには11質量%以下であることがある。実施の形態において、このガラスセラミック組成物中のZnOの量は、0質量%以上かつ15質量%以下、0質量%以上かつ13質量%以下、0質量%以上かつ11質量%以下、2質量%以上かつ15質量%以下、2質量%以上かつ13質量%以下、2質量%以上かつ11質量%以下、4質量%以上かつ15質量%以下、4質量%以上かつ13質量%以下、4質量%以上かつ11質量%以下、6質量%以上かつ15質量%以下、6質量%以上かつ13質量%以下、6質量%以上かつ11質量%以下、8質量%以上かつ15質量%以下、8質量%以上かつ13質量%以下、またさらには8質量%以上かつ11質量%以下、もしくはこれらの端点のいずれかから形成された任意と全ての部分的範囲にあることがある。
【0078】
前記ガラスセラミック組成物中のMgOとZnOの総量は、組成物中のAl2O3の電荷平衡を支援し、それによって、得られたガラスセラミック物品中に所望の結晶相(および結晶相の量)を達成するのを支援するために制御されることがある。このガラスセラミック組成物中のMgOとZnOの総量は、所望のムライト型結晶相を形成できるように十分に多い(例えば、3質量%以上である)べきである。しかしながら、MgOとZnOの総量が多すぎると(例えば、20質量%を超えると)、尖晶石やβ石英などの他の結晶相を選択して、所望のムライト型結晶相の形成が低下することがある。したがって、実施の形態において、このガラスセラミック組成物中のMgOとZnOの総量(すなわち、MgO(質量%)+ZnO(質量%))は、3質量%以上かつ20質量%以下であることがある。実施の形態において、このガラスセラミック組成物中のMgOとZnOの総量は、5質量%以上かつ18質量%以下であることがある。実施の形態において、このガラスセラミック組成物中のMgOとZnOの総量は、7質量%以上かつ15質量%以下であることがある。実施の形態において、このガラスセラミック組成物中のMgOとZnOの総量は、3質量%以上、5質量%以上、またさらには7質量%以上であることがある。実施の形態において、このガラスセラミック組成物中のMgOとZnOの総量は、20質量%以下、18質量%以下、15質量%以下、またさらには13質量%以下であることがある。実施の形態において、このガラスセラミック組成物中のMgOとZnOの総量は、3質量%以上かつ20質量%以下、3質量%以上かつ18質量%以下、3質量%以上かつ15質量%以下、3質量%以上かつ13質量%以下、5質量%以上かつ20質量%以下、5質量%以上かつ18質量%以下、5質量%以上かつ15質量%以下、5質量%以上かつ13質量%以下、7質量%以上かつ20質量%以下、7質量%以上かつ18質量%以下、7質量%以上かつ15質量%以下、7質量%以上かつ13質量%以下、もしくはこれらの端点のいずれかから形成された任意と全ての部分的範囲にあることがある。
【0079】
実施の形態において、前記ガラスセラミック組成物は、0質量%以上かつ5質量%以下のCaOを含むことがある。実施の形態において、このガラスセラミック組成物中のCaOの量は、0質量%以上、0.1質量%以上、0.5質量%以上、またさらには1質量%以上であることがある。実施の形態において、このガラスセラミック組成物中のCaOの量は、5質量%以下、またさらには3質量%以下であることがある。実施の形態において、このガラスセラミック組成物中のCaOの量は、0質量%以上かつ5質量%以下、0質量%以上かつ3質量%以下、0.1質量%以上かつ5質量%以下、0.1質量%以上かつ3質量%以下、0.5質量%以上かつ5質量%以下、0.5質量%以上かつ3質量%以下、1質量%以上かつ5質量%以下、またさらには1質量%以上かつ3質量%以下、もしくはこれらの端点のいずれかから形成された任意と全ての部分的範囲にあることがある。実施の形態において、このガラスセラミック組成物は、CaOを含まないことがある。
【0080】
実施の形態において、前記ガラスセラミック組成物は、0質量%以上かつ5質量%以下のSrOを含むことがある。実施の形態において、このガラスセラミック組成物中のSrOの量は、0質量%以上、0.1質量%以上、0.5質量%以上、またさらには1質量%以上であることがある。実施の形態において、このガラスセラミック組成物中のSrOの量は、5質量%以下、またさらには3質量%以下であることがある。実施の形態において、このガラスセラミック組成物中のSrOの量は、0質量%以上かつ5質量%以下、0質量%以上かつ3質量%以下、0.1質量%以上かつ5質量%以下、0.1質量%以上かつ3質量%以下、0.5質量%以上かつ5質量%以下、0.5質量%以上かつ3質量%以下、1質量%以上かつ5質量%以下、またさらには1質量%以上かつ3質量%以下、もしくはこれらの端点のいずれかから形成された任意と全ての部分的範囲にあることがある。実施の形態において、このガラスセラミック組成物は、SrOを含まないことがある。
【0081】
実施の形態において、前記ガラスセラミック組成物は、0質量%以上かつ5質量%以下のBaOを含むことがある。実施の形態において、このガラスセラミック組成物中のBaOの量は、0質量%以上、0.1質量%以上、0.5質量%以上、またさらには1質量%以上であることがある。実施の形態において、このガラスセラミック組成物中のBaOの量は、5質量%以下、またさらには3質量%以下であることがある。実施の形態において、このガラスセラミック組成物中のBaOの量は、0質量%以上かつ5質量%以下、0質量%以上かつ3質量%以下、0.1質量%以上かつ5質量%以下、0.1質量%以上かつ3質量%以下、0.5質量%以上かつ5質量%以下、0.5質量%以上かつ3質量%以下、1質量%以上かつ5質量%以下、またさらには1質量%以上かつ3質量%以下、もしくはこれらの端点のいずれかから形成された任意と全ての部分的範囲にあることがある。実施の形態において、このガラスセラミック組成物は、BaOを含まないことがある。
【0082】
全ての二価陽イオン酸化物の合計は、ここではROと表される。具体的に、ROは、前記ガラスセラミック組成物中に存在するMgO、ZnO、CaO、SrO、およびBaOの合計(質量%)(すなわち、RO=MgO(質量%)+ZnO(質量%)+CaO(質量%)+SrO(質量%)+BaO(質量%))である。実施の形態において、このガラスセラミック組成物中のROの量は、3質量%以上、5質量%以上、7質量%以上、またさらには10質量%以上であることがある。実施の形態において、このガラスセラミック組成物中のROの量は、20質量%以下、18質量%以下、またさらには15質量%以下であることがある。実施の形態において、このガラスセラミック組成物中のROの量は、3質量%以上かつ20質量%以下、3質量%以上かつ18質量%以下、3質量%以上かつ15質量%以下、5質量%以上かつ20質量%以下、5質量%以上かつ18質量%以下、5質量%以上かつ15質量%以下、7質量%以上かつ20質量%以下、7質量%以上かつ18質量%以下、7質量%以上かつ15質量%以下、10質量%以上かつ20質量%以下、10質量%以上かつ18質量%以下、またさらには10質量%以上かつ15質量%以下、もしくはこれらの端点のいずれかから形成された任意と全ての部分的範囲にあることがある。
【0083】
実施の形態において、このガラスセラミック組成物中のR2OとROの総量(すなわち、R2O(質量%)+RO(質量%))は、4質量%以上、7質量%以上、またさらには10質量%以上であることがある。実施の形態において、このガラスセラミック組成物中のR2OとROの総量は、30質量%以下、25質量%以下、20質量%以下、またさらには15質量%以上であることがある。実施の形態において、このガラスセラミック組成物中のR2OとROの総量は、4質量%以上かつ30質量%以下、4質量%以上かつ25質量%以下、4質量%以上かつ20質量%以下、4質量%以上かつ15質量%以下、7質量%以上かつ30質量%以下、7質量%以上かつ25質量%以下、7質量%以上かつ20質量%以下、7質量%以上かつ15質量%以下、10質量%以上かつ30質量%以下、10質量%以上かつ25質量%以下、10質量%以上かつ20質量%以下、またさらには10質量%以上かつ15質量%以下、もしくはこれらの端点のいずれかから形成された任意と全ての部分的範囲にあることがある。
【0084】
実施の形態において、ここに記載されたガラスセラミック組成物は、過アルミニウム(peraluminous)(すなわち、Al2O3に対するR2OとROの合計の質量比が1未満である)であることがあり、このことは、スピネルやβ石英などの他の結晶相とは対照的に、所望のムライト型結晶相を形成するのに役立つであろう。実施の形態において、Al2O3に対するR2OとROの合計の質量比(すなわち、(R2O+RO)/Al2O3)は、1未満である。
【0085】
実施の形態において、ここに記載されたガラスセラミック組成物は、結晶相と残留ガラス相の屈折率を等しくするのを支援する改質剤をさらに含むことがある。実施の形態において、その改質剤としては、Y2O3、SrO、B2O3、TiO2、ZrO2、La2O3、GeO2、またはその組合せが挙げられるであろう。実施の形態において、このガラスセラミック組成物中の改質剤の量は、0質量%以上、0.1質量%以上、0.5質量%以上、またさらには1質量%以上であることがある。実施の形態において、このガラスセラミック組成物中の改質剤の量は、5質量%以下、またさらには3質量%以下であることがある。実施の形態において、このガラスセラミック組成物中の改質剤の量は、0質量%以上かつ5質量%以下、0質量%以上かつ3質量%以下、0.1質量%以上かつ5質量%以下、0.1質量%以上かつ3質量%以下、0.5質量%以上かつ5質量%以下、0.5質量%以上かつ3質量%以下、1質量%以上かつ5質量%以下、またさらには1質量%以上かつ3質量%以下、もしくはこれらの端点のいずれかから形成された任意と全ての部分的範囲にあることがある。
【0086】
実施の形態において、ここに記載されたガラスセラミック組成物は、TiO2、MnO、MoO3、WO3、La2O3、CdO、As2O3、Sb2O3、硫酸塩などの硫黄系化合物、ハロゲン、またはその組合せなど、混入物をさらに含むことがある。実施の形態において、抗菌成分、化学的清澄剤、または他の追加の成分が、このガラスセラミック組成物中に含まれることがある。
【0087】
実施の形態において、このガラスセラミック組成物は、ZrO2を含まないことがある。例えば、実施の形態において、このガラスセラミック組成物中のZrO2が、0質量%であることがある。実施の形態において、このガラスセラミック組成物が、As2O3を含まないことが望ましいであろう。例えば、実施の形態において、このガラスセラミック組成物中のAs2O3が、0質量%であることがある。理論で束縛する意図はないが、As2O3は、毒素であると考えられることがあり、ガラスセラミック組成物からAs2O3をなくすと、環境にやさしい(すなわち、「グリーンな」)ガラスセラミック物品が得られるであろう。
【0088】
ここに記載されたガラスセラミック組成物から形成されるガラスセラミック物品は、どの適切な厚さであってもよく、その厚さは、ガラスセラミック物品の特定の使途に応じて様々であろう。実施の形態において、ガラスセラミックシートの実施の形態は、250μm以上かつ6mm以下、250μm以上かつ4mm以下、250μm以上かつ2mm以下、250μm以上かつ1mm以下、250μm以上かつ750μm以下、250μm以上かつ500μm以下、500μm以上かつ6mm以下、500μm以上かつ4mm以下、500μm以上かつ2mm以下、500μm以上かつ1mm以下、500μm以上かつ750μm以下、750μm以上かつ6mm以下、750μm以上かつ4mm以下、750μm以上かつ2mm以下、750μm以上かつ1mm以下、1mm以上かつ6mm以下、1mm以上かつ4mm以下、1mm以上かつ2mm以下、2mm以上かつ6mm以下、2mm以上かつ4mm以下、またさらには4mm以上かつ6mm以下、もしくはこれらの端点のいずれかから形成された任意と全ての部分的範囲にある厚さを有することがある。
【0089】
先に述べたように、ここに記載されたガラスセラミック組成物から形成されるガラスセラミック物品は、そのガラスセラミック物品がより耐損傷性であるように、増加した破壊靱性を有することがある。実施の形態において、このガラスセラミック物品は、ダブルトーション法で測定して、0.90MPa・m1/2以上の破壊靱性KICを有することがある。実施の形態において、このガラスセラミック物品は、ダブルトーション法で測定して、0.90MPa・m1/2以上、1MPa・m1/2以上、またさらには1.1MPa・m1/2以上の破壊靱性KICを有することがある。
【0090】
実施の形態において、ガラスセラミック物品は、50MPa以上かつ100MPa以下の弾性率を有することがある。実施の形態において、このガラスセラミック物品は、50MPa以上、60MPa以上、70MPa以上、またさらには80MPa以上の弾性率を有することがある。実施の形態において、このガラスセラミック物品は、100MPa以下、またさらには95MPa以下の弾性率を有することがある。実施の形態において、このガラスセラミック物品は、50MPa以上かつ100MPa以下、50MPa以上かつ95MPa以下、60MPa以上かつ100MPa以下、60MPa以上かつ95MPa以下、70MPa以上かつ100MPa以下、70MPa以上かつ95MPa以下、80MPa以上かつ100MPa以下、またさらには800MPa以上かつ95MPa以下、もしくはこれらの端点のいずれかから形成された任意と全ての部分的範囲にある弾性率を有することがある。
【0091】
実施の形態において、ガラスセラミック物品は、0.8mmの物品厚で測定して、400nmから800nmの波長範囲に亘る光の70%以上かつ95%以下の平均透過率を有することがある。実施の形態において、そのガラスセラミック物品は、0.8mmの物品厚で測定して、400nmから800nmの波長範囲に亘る光の70%以上、75%以上、80%以上、またさらには85%以上の平均透過率を有することがある。実施の形態において、そのガラスセラミック物品は、0.8mmの物品厚で測定して、400nmから800nmの波長範囲に亘る光の95%以下、またさらには90%以下の平均透過率を有することがある。実施の形態において、そのガラスセラミック物品は、0.8mmの物品厚で測定して、400nmから800nmの波長範囲に亘る光の70%以上かつ95%以下、70%以上かつ90%以下、75%以上かつ95%以下、75%以上かつ90%以下、80%以上かつ95%以下、80%以上かつ90%以下、85%以上かつ95%以下、またさらには85%以上かつ90%以下、もしくはこれらの端点のいずれかから形成された任意と全ての部分的範囲の平均透過率を有することがある。実施の形態において、そのガラスセラミック物品は、透明または透明ヘイズであることがある。
【0092】
実施の形態において、そのガラスセラミック物品は、0.8mmの物品厚で測定して、400nmから800nmの波長範囲に亘る光の0.5%以上かつ1%以下の平均拡散透過率を有することがある。実施の形態において、そのガラスセラミック物品は、0.8mmの物品厚で測定して、400nmから800nmの波長範囲に亘る光の10%以下、またはさらには5%以下の平均拡散透過率を有することがある。実施の形態において、そのガラスセラミック物品は、0.8mmの物品厚で測定して、400nmから800nmの波長範囲に亘る光の0.5%以上かつ10%以下、0.5%以上かつ5%以下、1%以上かつ10%以下、またさらには1%以上かつ5%以下、もしくはこれらの端点のいずれかから形成された任意と全ての部分的範囲の平均拡散透過率を有することがある。
【0093】
実施の形態において、このガラスセラミック物品は、50×10-7/℃以下の熱膨張係数(CTE)を有することがある。実施の形態において、このガラスセラミック物品は、50×10-7/℃以下、47×10-7/℃以下、45×10-7/℃以下、またさらには43×10-7/℃以下の熱膨張係数(CTE)を有することがある。
【0094】
実施の形態において、このガラスセラミック物品は、100P以上、250P以上、500P以上、1kP以上、10kP以上、またさらには25kP以上の液相粘度を有することがある。実施の形態において、このガラスセラミック物品は、100P以上かつ25kP以下、100P以上かつ10kP以下、100P以上かつ1kP以下、100P以上かつ500P以下、100P以上かつ250P以下、250P以上かつ25kP以下、250P以上かつ10kP以下、250P以上かつ1kP以下、250P以上かつ500P以下、500P以上かつ25kP以下、500P以上かつ10kP以下、500P以上かつ1kP以下、1kP以上かつ25kP以下、1kP以上かつ10kP以下、またさらには10kP以上かつ25kP以下、もしくはこれらの端点のいずれかから形成された任意と全ての部分的範囲にある液相粘度を有することがある。この範囲の粘度により、ガラスセラミック物品を、制限なく、フュージョン成形、スロットドロー法、フロート法、圧延法、および当業者に公知の他のシート成形法を含む、様々な異なる技術によってシートに成形することができる。しかしながら、他の物品(すなわち、シート以外の)を形成するために、他のプロセスを使用してもよいことを理解すべきである。
【0095】
実施の形態において、ここに記載されたガラスセラミック組成物は、ガラスセラミック物品の強化を促進するために、イオン交換可能である。典型的なイオン交換過程において、ガラスセラミック物品中のより小さい金属イオンが、ガラスセラミック物品の外面に近い層内の同じ価数のより大きい金属イオンと置換される、すなわち「交換」される。大きい方のイオンによる小さい方のイオンの置換で、ガラスセラミック物品の層内に圧縮応力が生じる。実施の形態において、金属イオンは一価の金属イオン(例えば、Li+、Na+、K+など)であり、イオン交換は、ガラスセラミック物品中のより小さい金属イオンを交換すべきより大きい金属イオンの少なくとも1種類の溶融塩を含む浴中にガラスセラミック物品を浸すことによって行われる。あるいは、Ag+、Tl+、Cu+などの他の一価イオンを、一価イオンと交換してもよい。ガラスセラミック物品を強化するために使用されるイオン交換過程は、以下に限られないが、単一浴または浸漬の間に洗浄および/または徐冷工程が行われる、同じまたは異なる組成の多数の浴中の浸漬を含むことがある。
【0096】
ガラスセラミック物品に曝露される際に、イオン交換溶液(例えば、KNO3および/またはNaNO3溶融塩浴)は、実施の形態によれば、350℃以上かつ500℃以下、360℃以上かつ450℃以下、370℃以上かつ440℃以下、360℃以上かつ420℃以下、370℃以上かつ400℃以下、375℃以上かつ475℃以下、400℃以上かつ500℃以下、410℃以上かつ490℃以下、420℃以上かつ480℃以下、430℃以上かつ470℃以下、またさらには440℃以上かつ460℃以下、もしくはこれらの端点のいずれかから形成された任意と全ての部分的範囲にある温度であることがある。実施の形態において、ガラスセラミック物品は、2時間以上かつ48時間以下、2時間以上かつ24時間以下、2時間以上かつ12時間以下、2時間以上かつ6時間以下、8時間以上かつ44時間以下、12時間以上かつ40時間以下、16時間以上かつ36時間以下、20時間以上かつ32時間以下、またさらには24時間以上かつ28時間以下、もしくはこれらの端点のいずれかから形成された任意と全ての部分的範囲にある期間に亘りイオン交換溶液に曝露されることがある。
【0097】
結果として生じる圧縮応力層は、2時間のイオン交換時間でガラスセラミック物品の表面に100μm以上の深さ(「圧縮深さ」または「DOC」とも称される)を有することがある。実施の形態において、ガラスセラミック物品は、10μm以上、20μm以上、30μm以上、40μm以上、50μm以上、60μm以上、70μm以上、80μm以上、90μm以上、またさらには100μm以上の圧縮深さを達成するためにイオン交換されることがある。実施の形態において、そのガラスセラミック物品は、厚さ「t」を有し、0.1t以上、0.13t以上、またさらには0.15t以上の圧縮深さを達成するためにイオン交換されることがある。
【0098】
この表面圧縮層の発生は、イオン交換されていない材料と比べて、より良好な亀裂抵抗およびより高い曲げ強度にとって有益である。表面圧縮層は、ガラスセラミック物品の本体(すなわち、表面圧縮を含まない区域)に関するガラスセラミック物品に交換されるイオンの濃度と比べて、より高い濃度のガラスセラミック物品中に交換されるイオンを有する。
【0099】
実施の形態において、ここに記載されたガラスセラミック組成物から形成されるガラスセラミック物品は、イオン交換による強化後に、20MPa以上、50MPa以上、75MPa以上、100MPa以上、250MPa以上、500MPa以上、750MPa以上、またさらには1GPa以上の表面圧縮応力を有することがある。実施の形態において、そのガラスセラミック物品は、イオン交換による強化後に、20MPa以上かつ1GPa以下、20MPa以上かつ750MPa以下、20MPa以上かつ500MPa以下、20MPa以上かつ250MPa以下、50MPa以上かつ1GPa以下、50MPa以上かつ750MPa以下、50MPa以上かつ500MPa以下、50MPa以上かつ250MPa以下、75MPa以上かつ1GPa以下、75MPa以上かつ750MPa以下、75MPa以上かつ500MPa以下、75MPa以上かつ250MPa以下、100MPa以上かつ1GPa以下、100MPa以上かつ750MPa以下、100MPa以上かつ500MPa以下、100MPa以上かつ250MPa以下、250MPa以上かつ1GPa以下、250MPa以上かつ750MPa以下、250MPa以上かつ500MPa以下、500MPa以上かつ1GPa以下、500MPa以上かつ750MPa以下、またさらには750MPa以上かつ1GPa以下、もしくはこれらの端点のいずれかから形成された任意と全ての部分的範囲の表面圧縮応力を有することがある。
【0100】
実施の形態において、ここに記載されたガラスセラミック組成物から形成されるガラスセラミック物品は、イオン交換による強化後に、10MPa以上、25MPa以上、またさらには50MPa以上の中央張力を有することがある。実施の形態において、ここに記載されたガラスセラミック組成物から形成されるガラスセラミック物品は、イオン交換による強化後に、250MPa以下、200MPa以下、またさらには150MPa以下の中央張力を有することがある。実施の形態において、ここに記載されたガラスセラミック組成物から形成されるガラスセラミック物品は、イオン交換による強化後に、10MPa以上かつ250MPa以下、25MPa以上かつ250MPa以下、50MPa以上かつ250MPa以下、10MPa以上かつ200MPa以下、25MPa以上かつ200MPa以下、50MPa以上かつ200MPa以下、10MPa以上かつ150MPa以下、25MPa以上かつ150MPa以下、またさらには50MPa以上かつ150MPa以下、もしくはこれらの端点のいずれかから形成された任意と全ての部分的範囲にある中央張力を有することがある。
【0101】
実施の形態において、ガラスセラミック物品を製造する過程は、ガラスの均質化および1つ以上の結晶相(例えば、1つ以上の組成、量、形態、サイズまたはサイズ分布などを有する)の結晶化(すなわち、核形成と成長)を誘発するために1つ以上の事前に選択された時間に亘り1つ以上の事前に選択された温度で炉内のガラスセラミック組成物を熱処理する工程を含む。実施の形態において、熱処理は、(i)1℃/分以上かつ10℃/分以下の速度で炉内のガラスセラミック組成物を核形成温度に加熱すること、(ii)0.25時間以上かつ4時間以下の時間に亘り炉内で核形成温度にガラスセラミック組成物を維持して、核形成された結晶化可能なガラスを生成すること、(iii)1℃/分以上かつ10℃/分以下の速度で炉内の核形成された結晶化可能なガラスを結晶化温度に加熱すること、(iv)0.25時間以上かつ4時間以下の時間に亘り炉内で結晶化温度に核形成された結晶化可能なガラスを維持して、ガラスセラミック物品を生成すること、および(v)ガラスセラミック物品を室温に冷却することを含むことがある。
【0102】
実施の形態において、核形成温度は、600℃以上かつ900℃以下であることがある。実施の形態において、核形成温度は、600℃以上、またさらには650℃以上であることがある。実施の形態において、核形成温度は、900℃以下、またさらには800℃以下であることがある。実施の形態において、核形成温度は、600℃以上かつ900℃以下、600℃以上かつ800℃以下、650℃以上かつ900℃以下、またさらには650℃以上かつ800℃以下、もしくはこれらの端点のいずれかから形成された任意と全ての部分的範囲にあることがある。
【0103】
実施の形態において、結晶化温度は、700℃以上かつ1000℃以下であることがある。実施の形態において、結晶化温度は、700℃以上、またさらには750℃以上であることがある。実施の形態において、結晶化温度は、1000℃以下、またさらには900℃以下であることがある。実施の形態において、結晶化温度は、700℃以上かつ1000℃以下、700℃以上かつ900℃以下、750℃以上かつ1000℃以下、またさらには750℃以上かつ900℃以下、もしくはこれらの端点のいずれかから形成された任意と全ての部分的範囲にあることがある。
【0104】
当業者は、ここに記載された加熱速度、核形成温度、および結晶化温度は、ガラスセラミック組成物が中で熱処理されている炉の加熱速度と温度を称することを理解するであろう。
【0105】
ガラスセラミック組成物に加え、結晶化温度に加熱し、温度をその結晶化温度に維持する熱処理工程の温度-時間的プロファイルは、以下の所望の属性の内の1つ以上を生じるように思慮深く定められている:ガラスセラミック物品の結晶相、1つ以上の主結晶相および/または1つ以上の副結晶相および残留ガラス相の比率、1つ以上の主結晶相および/または1つ以上の副結晶相および残留ガラス相の結晶相集合体、および1つ以上の主結晶相および/または1つ以上の副結晶相の中での粒径または粒径分布。これらは、転じて、結果として得られるガラスセラミック物品の最終的な完全性、品質、色、および/または不透明度に影響することがある。
【0106】
ここに記載されたガラスセラミック物品は、結晶相と残留ガラス相を含むことがある。実施の形態において、そのガラスセラミック物品の主結晶相(すなわち、結晶相の50%以上)は、ムライト型構造を有する。実施の形態において、結晶相は、ムライト、ヴラナイト(vranaite)、またはその組合せを含むことがある。
【0107】
実施の形態において、このガラスセラミック物品は、XRDスペクトルのリートベルト解析にしたがって決定して、ガラスセラミック物品の質量で(すなわち、質量%)50質量%以上の結晶相と50質量%以下の残留ガラス相、60質量%以上の結晶相と40質量%以下の残留ガラス相、70質量%以上の結晶相と30質量%以下の残留ガラス相、80質量%以上の結晶相と20質量%以下の残留ガラス相、またさらには90質量%以上の結晶相と10質量%以下の残留ガラス相、もしくはこれらの端点のいずれかから形成された任意と全ての部分的範囲にある結晶相と残留ガラス相を含むことがある。
【0108】
得られたガラスセラミック物品は、シートとして提供されることがあり、そのシートは、次に、加圧成形、吹き込み成形、曲げ加工、垂れ加工、真空成形、または他の手段によって、均一な厚さの湾曲片または曲げ片に再成形されることがある。再成形は、熱処理前に行われてもよい、または成形工程が、成形と熱処理の両方が実質的に同時に行われる熱処理工程の働きをしてもよい。
【0109】
ここに記載されたガラスセラミック物品は、例えば、LCDおよびLEDディスプレイ、コンピュータ用モニタ、および現金自動預払機(ATM)を含む消費者向けまたは商業用電子機器におけるカバーガラスまたはガラスバックプレーン用途;例えば、携帯電話、パーソナルメディアプレーヤー、腕時計、およびタブレット型コンピュータを含む携帯型電子機器のための、タッチスクリーンまたはタッチセンサ用途;例えば、半導体ウエハを含む集積回路用途;太陽光発電用途;建築用ガラス用途;自動車または車両用ガラス用途;もしくは商業用または家庭用電化製品用途を含む様々な用途に使用されることがある。実施の形態において、消費者向け電子機器(例えば、スマートフォン、タブレット型コンピュータ、腕時計、パーソナルコンピュータ、ウルトラブック、テレビ、およびカメラ)、建築用ガラス、および/または自動車用ガラスは、ここに記載されたようなガラスセラミック物品を含むことがある。
【0110】
ここに開示されたガラスセラミック物品のいずれかを組み込んだ例示の物品が、
図1および
図2に示されている。詳しくは、
図1および2は、前面104、背面106、および側面108を有する筐体102;筐体の少なくとも部分的に内部または完全に内部にあり、少なくとも、制御装置、メモリ、および筐体の前面にあるまたはそれに隣接するディスプレイ110を含む電気部品(図示せず);およびディスプレイを覆うように筐体の前面にあるまたはそれを覆うカバー基板112を備えた消費者向け電子機器100を示す。実施の形態において、カバー基板112および筐体102の一部の少なくとも一方は、ここに開示されたガラスセラミック物品のいずれかを含むことがある。
【実施例】
【0111】
様々な実施の形態がより容易に理解されるように、ここに記載されたガラスセラミック物品の様々な実施の形態を説明することを意図した以下の実施例を参照する。
【0112】
表1は、例示のガラスセラミック組成物(質量%)を示している。表2は、例示のガラスセラミック物品を得るための熱処理スケジュール、並びにガラスセラミック物品のそれぞれの性質を示している。表1に列挙された例示のガラスセラミック組成1~6を有するガラスセラミック物品を形成した。
【0113】
【0114】
【0115】
【0116】
ここで
図3を参照すると、4時間に亘り675℃で炉内に保持される核形成および2時間に亘り775℃で炉内に保持される結晶化が施された例示のガラスセラミック組成物5から形成された例示のガラスセラミック物品に関するXRDスペクトルは、ホウ素ムライト結晶相およびヴラナイト結晶相の存在を証明するピークを含む。ホウ素ムライト結晶相およびヴラナイト結晶相は、アルカリを含有しない。ここで
図4を参照すると、4時間に亘り675℃で炉内に保持される核形成および2時間に亘り775℃で炉内に保持される結晶化が施された例示のガラスセラミック組成物5から形成された例示のガラスセラミック物品のSEM画像が、残留ガラス基質中にホウ素ムライト結晶およびヴラナイト結晶を示している。これらの結晶は針状であり、このことは、ガラスセラミック物品の機械的耐久性の増加に寄与するであろう。
図3および4に示されるように、ここに記載されたガラスセラミック組成物は、そのガラスセラミック組成物中に存在するアルカリが、結晶化後に残留ガラス相中に残って、イオン交換されるように、1つ以上の非アルカリ含有結晶相を有するガラスセラミック物品を形成するための熱処理することができる。
【0117】
ここで
図5~7を参照すると、4時間に亘り675℃で炉内に保持される核形成および2時間に亘り775℃で炉内に保持される結晶化が施された例示のガラスセラミック組成物5、並びに4時間に亘り750℃で炉内に保持される核形成および2時間に亘り850℃で炉内に保持される結晶化が施された例示のガラスセラミック組成物5から形成された、厚さ0.8mmのガラスセラミック物品の全透過率、拡散透過率、および散乱比が、400nmから800nmの波長を有する光について測定される。
【0118】
図5に示されるように、4時間に亘り675℃で炉内に保持される核形成および2時間に亘り775℃で炉内に保持される結晶化が施された例示のガラスセラミック組成物5から形成された例示のガラスセラミック物品は、400nmから800nmの波長範囲に亘り87.9%の平均全透過率を有し、例示のガラスセラミック組成物5の特定の熱処理により、透明ガラスセラミック物品が得られることを示している。4時間に亘り750℃で炉内に保持される核形成および2時間に亘り850℃で炉内に保持される結晶化が施された例示のガラスセラミック組成物5から形成された例示のガラスセラミック物品は、400nmから800nmの波長範囲に亘り86.70%の平均全透過率を有し、例示のガラスセラミック組成物5の特定の熱処理により、透明ガラスセラミック物品が得られることを示している。
図5に示されるように、ここに記載されたガラスセラミック組成物から形成されたガラスセラミック物品は、所望の透過率(すなわち、外観)を達成するために、所定のイオン交換条件に施すことができる。すなわち、より詳しくは、結果として生じる透過率を変えるために、イオン交換の温度を使用することができる。
【0119】
図6に示されるように、4時間に亘り675℃で炉内に保持される核形成および2時間に亘り775℃で炉内に保持される結晶化が施された例示のガラスセラミック組成物5から形成された例示のガラスセラミック物品は、400nmから800nmの波長範囲に亘り1.56の平均拡散透過率を有する。4時間に亘り750℃で炉内に保持される核形成および2時間に亘り850℃で炉内に保持される結晶化が施された例示のガラスセラミック組成物5から形成された例示のガラスセラミック物品は、400nmから800nmの波長範囲に亘り1.68の平均拡散透過率を有する。
【0120】
図7に示されるように、4時間に亘り675℃で炉内に保持される核形成および2時間に亘り775℃で炉内に保持される結晶化が施された例示のガラスセラミック組成物5から形成された例示のガラスセラミック物品は、400nmから800mmの波長範囲に亘り0.0085の平均散乱比を有する。4時間に亘り750℃で炉内に保持される核形成および2時間に亘り850℃で炉内に保持される結晶化が施された例示のガラスセラミック組成物5から形成された例示のガラスセラミック物品は、400nmから800mmの波長範囲に亘り0.0199の平均散乱比を有する。
【0121】
図6および7に示されるように、ここに記載されたガラスセラミック組成物から形成されるガラスセラミック物品に、比較的低い拡散透過率および散乱比(光の散乱が少ないことを意味する)を達成するための特定のイオン交換条件を施すことができる。理論で束縛する意図はないが、比較的低い拡散透過率および散乱比は、結晶相の屈折率の類似性および/またはより小さい結晶サイズによるものであろう。
【0122】
ここで
図8を参照すると、4時間に亘り750℃で炉内に保持される核形成および2時間に亘り850℃で炉内に保持される結晶化が施された例示のガラスセラミック組成物5から形成された、厚さ0.8mmの例示のガラスセラミック物品をイオン交換した。この例示のガラスセラミック物品は、それぞれ、4時間および17.5時間に亘り、100%のNaNO
3の溶融塩浴中でイオン交換した。
図8に示されるように、17.5時間に亘りイオン交換した例示のガラスセラミック物品は、その物品中にイオン交換されたナトリウムの放物線に近いプロファイルを示す。
【0123】
ここで
図9および10並びに表3を参照すると、4時間に亘り675℃で炉内に保持される核形成および2時間に亘り775℃で炉内に保持される結晶化が施された例示のガラスセラミック組成物5から形成された、厚さ0.8mmの例示のガラスセラミック物品をイオン交換した。
図9に示されるように、これらの物品は、それぞれ、2時間、7時間、15時間、22.5時間に亘り、100%のNaNO
3の溶融塩浴中でイオン交換し、SCALPを使用して測定して、様々な厚さ応力プロファイルを達成した。
図10に示されるように、これらのガラスセラミック物品の中央張力は、イオン交換時間と共に増加する。表3に示されるように、圧縮深さ(イオン交換済みガラスセラミック物品の厚さの百分率(「%t」)で表される)は、イオン交換時間と共に増加する。
【0124】
【0125】
図8~10および表3で示されるように、ここに記載されたガラスセラミック組成物から形成されるガラスセラミック物品を、所望の組成/応力プロファイルおよび中央張力を達成するために特定のイオン交換条件に施すことができる。
【0126】
請求項の主題の精神および範囲から逸脱せずに、ここに記載された実施の形態に、様々な改変および変更を行われてもよいことが、当業者に明白であろう。それゆえ、本明細書は、ここに記載された様々な実施の形態の改変および変更を、そのような改変および変更が特許請求の範囲およびその等価物の範囲内に入るという前提で、包含することが意図されている。
【0127】
以下、本発明の好ましい実施形態を項分け記載する。
【0128】
実施形態1
ガラスセラミック物品であって、
40質量%以上かつ60質量%以下のSiO2、
18質量%以上かつ35質量%以下のAl2O3、
12質量%以上かつ16質量%以下のB2O3、
0質量%以上かつ4質量%以下のLi2O、
0質量%以上かつ5質量%以下のNa2O、
0質量%以上かつ5質量%以下のK2O、
0質量%以上かつ15質量%以下のZnO、および
0質量%以上かつ8質量%以下のMgO、
を含み、
Li2O+Na2Oは、1質量%以上かつ8質量%以下であり、
MgO+ZnOは、3質量%以上かつ20質量%以下であり、
該ガラスセラミック物品の主結晶相はムライト型構造を有する、ガラスセラミック物品。
【0129】
実施形態2
前記ガラスセラミック物品が、12.5質量%以上かつ16質量%以下のB2O3を含む、実施形態1に記載のガラスセラミック物品。
【0130】
実施形態3
前記ガラスセラミック物品が、13質量%以上かつ15.5質量%以下のB2O3を含む、実施形態2に記載のガラスセラミック物品。
【0131】
実施形態4
Li2O+Na2Oが、1.2質量%以上かつ6質量%以下である、実施形態1から3のいずれか1つに記載のガラスセラミック物品。
【0132】
実施形態5
Li2O+Na2Oが、1.4質量%以上かつ5質量%以下である、実施形態4に記載のガラスセラミック物品。
【0133】
実施形態6
MgO+ZnOが、5質量%以上かつ18質量%以下である、実施形態1から5のいずれか1つに記載のガラスセラミック物品。
【0134】
実施形態7
MgO+ZnOが、7質量%以上かつ15質量%以下である、実施形態6に記載のガラスセラミック物品。
【0135】
実施形態8
前記ガラスセラミック物品が、20質量%以上かつ30質量%以下のAl2O3を含む、実施形態1から7のいずれか1つに記載のガラスセラミック物品。
【0136】
実施形態9
前記ガラスセラミック物品が、8質量%以上かつ15質量%以下のZnOを含む、実施形態1から8のいずれか1つに記載のガラスセラミック物品。
【0137】
実施形態10
(R2O+RO)/Al2O3が1未満である、実施形態1から9のいずれか1つに記載のガラスセラミック物品。
【0138】
実施形態11
前記ガラスセラミック物品がZrO2を含まない、実施形態1から10のいずれか1つに記載のガラスセラミック物品。
【0139】
実施形態12
前記ガラスセラミック物品がAs2O3を含まない、実施形態1から11のいずれか1つに記載のガラスセラミック物品。
【0140】
実施形態13
前記ガラスセラミック物品が、40質量%以上かつ55質量%以下のSiO2を含む、実施形態1から12のいずれか1つに記載のガラスセラミック物品。
【0141】
実施形態14
前記ガラスセラミック物品が、43質量%以上かつ50質量%以下のSiO2を含む、実施形態13に記載のガラスセラミック物品。
【0142】
実施形態15
ダブルトーション法で測定した前記ガラスセラミック物品の破壊靱性KICが、0.90MPa・m1/2以上である、実施形態1から14のいずれか1つに記載のガラスセラミック物品。
【0143】
実施形態16
前記ガラスセラミック物品の弾性率が、50GPa以上かつ100GPa以下である、実施形態1から15のいずれか1つに記載のガラスセラミック物品。
【0144】
実施形態17
前記ガラスセラミック物品の平均透過率が、0.8mmの物品厚で測定して、400nmから800nmの波長範囲に亘る光の70%以上かつ95%以下である、実施形態1から16のいずれか1つに記載のガラスセラミック物品。
【0145】
実施形態18
前記ガラスセラミック物品の熱膨張係数(CTE)が、50×10-7/℃以下である、実施形態1から17のいずれか1つに記載のガラスセラミック物品。
【0146】
実施形態19
ガラスセラミック物品を形成する方法において、
炉内でガラスセラミック組成物を1℃/分以上かつ10℃/分以下の速度で核形成温度に加熱する工程であって、該ガラスセラミック組成物は、
40質量%以上かつ60質量%以下のSiO2、
18質量%以上かつ35質量%以下のAl2O3、
12質量%以上かつ16質量%以下のB2O3、
0質量%以上かつ4質量%以下のLi2O、
0質量%以上かつ5質量%以下のNa2O、
0質量%以上かつ5質量%以下のK2O、
0質量%以上かつ15質量%以下のZnO、および
0質量%以上かつ8質量%以下のMgO、
を含み、
Li2O+Na2Oは、1質量%以上かつ8質量%以下であり、
MgO+ZnOは、3質量%以上かつ20質量%以下である、工程、
0.25時間以上かつ4時間以下の時間に亘り前記炉内で前記ガラスセラミック組成物を前記核形成温度に維持して、核形成された結晶化可能なガラスを生成する工程、
前記炉内で前記核形成された結晶化可能なガラスを1℃/分以上かつ10℃/分以下の速度で結晶化温度に加熱する工程、
0.25時間以上かつ4時間以下の時間に亘り前記炉内で前記核形成された結晶化可能なガラスを前記結晶化温度に維持して、ガラスセラミック物品を製造する工程であって、該ガラスセラミック物品の主結晶相がムライト型構造を有する、工程、および
前記ガラスセラミック物品を室温に冷却する工程、
を含む方法。
【0147】
実施形態20
前記核形成温度が600℃以上かつ900℃以下である、実施形態19に記載の方法。
【0148】
実施形態21
前記結晶化温度が700℃以上かつ1000℃以下である、実施形態19または20に記載の方法。
【0149】
実施形態22
イオン交換浴内で前記ガラスセラミック物品を強化する工程をさらに含む、実施形態19から21のいずれか1つに記載の方法。
【0150】
実施形態23
前記ガラスセラミック物品が、ダブルトーション法で測定して0.90MPa・m1/2以上の破壊靱性KICを有する、実施形態19から22のいずれか1つに記載の方法。
【0151】
実施形態24
前記ガラスセラミック物品が、50GPa以上かつ100GPa以下の弾性率を有する、実施形態19から23のいずれか1つに記載の方法。
【0152】
実施形態25
前記ガラスセラミック物品が、0.8mmの物品厚で測定して、400nmから800nmの波長範囲に亘る光の70%以上かつ95%以下の平均透過率を有する、実施形態19から24のいずれか1つに記載の方法。
【0153】
実施形態26
前面、背面、および側面を有する筐体、
前記筐体の少なくとも部分的に内部に設けられ、少なくとも制御装置、メモリ、および前記筐体の前面に、またはその近くに設けられたディスプレイを含む電気部品、および
前記ディスプレイを覆って配置された実施形態1に記載のガラスセラミック物品、
を備えた、消費者向け電子機器。
【符号の説明】
【0154】
100 消費者向け電子機器
102 筐体
104 前面
106 背面
108 側面
110 ディスプレイ
112 カバー基板
【国際調査報告】