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特表2023-543549成形された物体をフィラメント巻き取りにより製造する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-10-17
(54)【発明の名称】成形された物体をフィラメント巻き取りにより製造する方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 70/30 20060101AFI20231010BHJP
【FI】
B29C70/30
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023513263
(86)(22)【出願日】2021-08-24
(85)【翻訳文提出日】2023-04-17
(86)【国際出願番号】 EP2021073407
(87)【国際公開番号】W WO2022043330
(87)【国際公開日】2022-03-03
(31)【優先権主張番号】20192605.2
(32)【優先日】2020-08-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522201679
【氏名又は名称】プランティクス ホールディング ビー.ブイ.
(74)【代理人】
【識別番号】100118599
【弁理士】
【氏名又は名称】村上 博司
(74)【代理人】
【識別番号】100160738
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 由加里
(72)【発明者】
【氏名】ジーベリンク,マルティヌス マチルダ ピーター
(72)【発明者】
【氏名】ホルティウス,ベーア
(72)【発明者】
【氏名】バッカー,ライツァー ヤン ウィレム
【テーマコード(参考)】
4F205
【Fターム(参考)】
4F205AA36
4F205AC03
4F205AD16
4F205AG08
4F205AR15
4F205HA02
4F205HA23
4F205HA33
4F205HA37
4F205HA45
4F205HB01
4F205HK04
4F205HK05
4F205HL02
4F205HM13
4F205HT22
(57)【要約】
本発明は、成形された物体を巻き取り方法を通じて製造する方法であって、
樹脂含有繊維を張力の下で巻き取って、成形された繊維状物体を形成すること、ここで、該樹脂は、該樹脂の該ポリマー構成物に対して計算して、2~15個の炭素原子を有する脂肪族ポリオールと3~15個の炭素原子を有する脂肪族ポリカルボン酸とから誘導されたポリエステルを少なくとも50重量%含む、及び
該成形された繊維状物体を硬化工程に付すこと
の工程を含む、上記の方法に関する。
1つの実施態様において、該樹脂含有繊維が、
繊維を液体樹脂組成物と接触させて、樹脂含有繊維を得ること、ここで、該樹脂組成物は、該樹脂の該ポリマー構成物に対して計算して、2~15個の炭素原子を有する脂肪族ポリオールと3~15個の炭素原子を有する脂肪族ポリカルボン酸とから誘導された脂肪族ポリオールポリエステルから誘導されたポリエステルを含む、
該樹脂含有繊維を乾燥工程に付すこと、ここで、該乾燥工程は、該樹脂含有繊維が粘着性になり且つ該樹脂含有繊維が該樹脂含有繊維中の樹脂組成物の重量に対して計算して25重量%以下の希釈剤含有量を有するまで行われる、
の工程を含むプロセスを通じて提供される、
この中間プロセスによって得られることができる粘着性繊維がまた、本発明に従うプロセスによって得られることができる成形された繊維状物体と同様に請求される。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
成形された物体を巻き取り方法を通じて製造する方法であって、
樹脂含有繊維を張力の下で巻き取って、成形された繊維状物体を形成すること、ここで、該樹脂は、該樹脂の該ポリマー構成物に対して計算して、2~15個の炭素原子を有する脂肪族ポリオールと3~15個の炭素原子を有する脂肪族ポリカルボン酸とから誘導されたポリエステルを少なくとも50重量%含む、及び
該成形された繊維状物体を硬化工程に付すこと
の工程を含む、前記方法。
【請求項2】
前記樹脂含有繊維が、
繊維を液体樹脂組成物と接触させて、樹脂含有繊維を得ること、ここで、該樹脂組成物は、該樹脂の該ポリマー構成物に対して計算して、2~15個の炭素原子を有する脂肪族ポリオールと3~15個の炭素原子を有する脂肪族ポリカルボン酸とから誘導された脂肪族ポリオールポリエステルから誘導されたポリエステルを少なくとも50重量%含む、
該樹脂含有繊維を乾燥工程に付すこと、ここで、該乾燥工程は、該樹脂含有繊維が粘着性になり且つ該樹脂含有繊維が該樹脂含有繊維中の樹脂組成物の重量に対して計算して25重量%以下の希釈剤含有量を有するまで行われる、
の工程を含むプロセスを通じて提供される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
該粘着性の樹脂含有繊維は、スプールの周りに巻き取られて、スプールに巻き取られた粘着性の樹脂含有繊維を形成する、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
該粘着性の樹脂含有繊維は、必要な場合にはスプールから巻き出された後に、該樹脂含有繊維を巻き取って、成形された繊維状物体を形成する工程に提供される、請求項2又は3に記載の方法。
【請求項5】
前記樹脂含有繊維が、
繊維を液体樹脂組成物と接触させて、樹脂含有繊維を得ること、ここで、該樹脂組成物は、2~15個の炭素原子を有する脂肪族ポリオールと3~15個の炭素原子を有する脂肪族ポリカルボン酸とから誘導されたポリエステルを含む、
引き続き、そのようにして得られた該繊維を該巻き取り工程に提供して、成形された繊維状物体を形成すること
の工程を含むプロセスを通じて提供される、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記巻き取り工程の間に形成された前記成形された繊維状物体が、前記硬化工程の前に乾燥工程に付される、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
樹脂含有繊維を張力の下で巻き取って、成形された繊維状物体を形成することが、マンドレル上で巻き取られることによって行われる、請求項1~6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記硬化され成形された繊維状物体が、前記マンドレルから除去される、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
該成形された繊維状物体を、前記マンドレルにおいて第1の硬化工程に付して、部分的に硬化され成形された繊維状物体を形成すること、
該部分的に硬化され成形された繊維状物体を、該マンドレルから除去すること、
前記マンドレルからの除去後に、該部分的に硬化され成形された繊維状物体を、更なる硬化工程に付すこと
の工程を含む、請求項7又は8に記載の方法。
【請求項10】
前記マンドレルからの除去後且つ前更なる硬化工程に付す前に、前記部分的に硬化され成形された繊維状物体の形状が変化される工程に付される、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記巻き取り工程が、コアレスのフィラメント巻き取り工程において、フレームワークにおいて行われる、請求項1~6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
該成形された繊維状物体を、第1の硬化工程に付して、部分的に硬化され成形された繊維状物体を形成すること、
該部分的に硬化され成形された繊維状物体を、該部分的に硬化され成形された繊維状物体の形状が変化される工程に付すこと、及び
該部分的に硬化され成形された繊維状物体を、更なる硬化工程に付すこと
の工程を含む、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
2~15個の炭素原子を有する脂肪族ポリオールと3~15個の炭素原子を有する脂肪族ポリカルボン酸とから誘導されたポリエステルを含む樹脂組成物を含む繊維であって、該繊維は粘着性があり、並びに希釈剤の含有量が、該樹脂含有繊維中の樹脂組成物の重量に対して計算して25重量%以下、特には20重量%以下、より特には15重量%以下、更により特には10%重量以下、更になおより特には8重量%以下、一部の実施態様においては5重量%以下、の希釈剤含有量を有する、前記繊維。
【請求項14】
スプール上に存在する、請求項13に記載の繊維。
【請求項15】
巻き取られた樹脂含有繊維を含む成形された繊維状物体であって、ここで、該樹脂は、該樹脂の該ポリマー構成物に対して計算して、2~15個の炭素原子を有する脂肪族ポリオールと3~15個の炭素原子を有する脂肪族ポリカルボン酸とから誘導されたポリエステルを含み、該ポリエステルは、少なくとも0.8の重合度を有し、該重合度は、反応することができる官能基の最大数に対する、反応した官能基の数の比である、前記成形された繊維状物体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成形された物体をフィラメント巻き取り(filament winding)により製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フィラメント巻き取り方法(Filament winding processes)は、当技術分野において周知である。該フィラメント巻き取り工程は、樹脂を含浸されたフィラメントを張力の下で巻き取って、成形された繊維状物体を形成することによって、開口端又は閉口端の構造の製造において使用される。該巻き取りは、マンドレル(mandrel)上に又はコアレスの(core-less)巻き取り方法で行うことができる。コアレスの巻き取り方法において、該繊維はフレームワーク上に巻き取られ、それによって、張力の下で巻き取ることにより、成形された構造を提供する。該物体が、その所望の形状及び厚さに達せられたら、該樹脂は硬化され、適切な場合には、該マンドレルが除去される。
【0003】
ガラス及び炭素繊維は、特には高強度の物体が目的とされる場合、フィラメントとして使用されることが多い。高強度ポリマー繊維、例えばアラミド繊維、がまた使用されてきた。この分野における相対的に新しい開発が、天然繊維、例えば亜麻、の使用である。
【0004】
フィラメント巻き取り方法において使用される該樹脂は、エポキシ樹脂であることが多いが、他の樹脂がまた使用されてきた。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
増大された可撓性を示し、及び/又は該巻き取り工程からは直接的に結果として生じない形状を有する物体の製造を可能にする、成形された物体をフィラメント巻き取りにより製造する方法が、当技術分野において必要である。本発明は、そのような方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、成形された物体を巻き取り方法を通じて製造する方法であって、
樹脂含有繊維を張力の下で巻き取って、成形された繊維状物体を形成すること、ここで、該樹脂は、該樹脂の該ポリマー構成物に対して計算して、2~15個の炭素原子を有する脂肪族ポリオールと3~15個の炭素原子を有する脂肪族ポリカルボン酸とから誘導されたポリエステルを少なくとも50重量%含む、及び、
該成形された繊維状物体を硬化工程に付すこと
の工程を含む、該方法に関する。
【0007】
本発明において、特定の樹脂、すなわち2~15個の炭素原子を有する脂肪族ポリオールと3~15個の炭素原子を有する脂肪族ポリカルボン酸とから誘導されたポリエステルを少なくとも50重量%含む樹脂、が使用される。この特定の樹脂の使用は、特にその特定の硬化性の特徴に起因して、幾つかの利点を有することが見出された。
【0008】
この樹脂の使用と関連する第一の利点は、樹脂を含浸させられた繊維を室温で保存することが可能であるということである。このことは、該繊維に該樹脂を含浸させる工程を、該繊維を巻き取って成形された繊維状物体を形成する工程と分離することを可能にする。該繊維に該樹脂を含浸させる工程を、該繊維を巻き取る工程と分離することは、該2つの工程が異なる速度で行われうるので有利である。加えて、特に非円筒形物体が製造される場合、該巻き取り速度が該物体の直径と共に変わりうるので、直接巻き取り方法における該樹脂の取込みは不均質になりうることが明らかになった。該繊維に該樹脂を含浸させる工程を、該繊維を巻き取る工程と分離することは、この問題を解決する。
【0009】
更に、該繊維に該樹脂を含浸させる工程は、含浸させられた繊維を巻き取る工程とは異なる操作条件を必要とし、健康、安全性、及び環境(HSE:health,safety,and environment)に関して恐らくは異なる、関連した懸念を必要とする。フィラメント巻き取り方法において使用する為の、樹脂を含浸させられた繊維は、それら自体が当技術分野において知られている。該繊維は、プリプレグとして示されることが多い。しかしながら、該知られているプリプレグは、例えば0℃未満の温度の冷蔵条件下での保存及び輸送を必要とするが、本発明のプリプレグは、温度及び湿度の両方に関して周囲条件で保存され、輸送されることができる。このことは、該プリプレグを好適な保存条件下で維持する為により少ない方策で済むので、保存及び輸送がより安価であることを意味するだけでなく、該プリプレグが、該保存条件下で変化しにくいことも意味する。
【0010】
該特定の樹脂の使用と関連する第二の利点は、この樹脂の特定の硬化特性が、該マンドレル上での硬化を部分的にだけもたらすことを可能にするということである。このことは、該物体が形成される該巻き取り工程から結果として生じる形状に、直接的には対応しない形状を有する繊維状物体を製造することを可能にする。より特には、本明細書に記載されている該特定の樹脂の使用が、該成形された繊維状物体を第1の硬化工程に付して、部分的に硬化され成形された繊維状物体を形成すること、マンドレルが存在する場合には、該部分的に硬化され成形された繊維状物体を該マンドレルから除去すること、該部分的に硬化され成形された繊維状物体を、その形状が変化させられる工程に付すこと、及びそのようにして得られた物体を、更なる硬化工程に付すことの工程を含む方法を行うことを可能にすることが見出された。
【0011】
上述の利点に加えて、本発明の方法は、良好な特性を有する成形された繊維状物体を結果として生じる。本発明及びその特定の実施態様の更なる利点は、更なる明細書から明らかになるであろう。
【0012】
本発明は、下記においてより詳細に論じられるであろう。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の方法において、樹脂含有繊維は、張力の下で巻き取られて、成形された繊維状物体を形成し、ここで、該樹脂は、2~15個の炭素原子を有する脂肪族ポリオールと3~15個の炭素原子を有する脂肪族ポリカルボン酸とから誘導されたポリエステルを含む。樹脂含有繊維は、出発繊維(下記において論じられている)に該特定の樹脂(下記に論じられることになろう)が提供された繊維である。
【0014】
本発明において使用される該繊維は、マンドレルの周囲に巻き取られることができる任意の繊維状材料でありうる。例は、モノフィラメント糸及びマルチフィラメント糸、テープ、並びにマンドレルの周りに巻き取られることができる任意の他の縦長形状を包含する。好適な繊維(従って、本明細書の為の該語はまた、テープを包含する)は、ガラス繊維、炭素繊維、ポリマー繊維、例えばポリエステル繊維、例えばアラミド繊維、ポリアルキレン繊維、例えばポリエチレン繊維及びポリプロピレン繊維、でありうる。天然繊維、例えば、亜麻、麻、ヤシ、又は他の植物若しくは動物ベースの繊維から誘導された繊維、が使用されうる。フィラメント巻き取り方法における使用の為に好適な繊維は、当技術分野において知られている。種々のタイプの繊維の組み合わせがまた適用されうる。1つの実施態様において、ガラス繊維の使用が好まれうる。
【0015】
1つの実施態様において、種々のタイプの繊維の層が適用される。特に、外層としての天然繊維の使用は、魅力的な視覚的外観を提供し、及び/又は系(the system)から水を除去する助けになるのに魅力的になりうる。
【0016】
使用される該繊維が、エンドレス繊維でなく、むしろ制限された長さを有する繊維、例えば天然産物、例えば亜麻、麻、又は他の天然繊維から誘導された繊維から構築された繊維、である場合、該樹脂の存在はまた、該巻き取り工程に提供されるときに該繊維の強度にも寄与することが見出された。このことは、下記により詳細に論じられることになる通り、特に、部分的硬化工程が行われた場合に当てはまる。
【0017】
本発明において使用される該樹脂は、2~15個の炭素原子を有する脂肪族ポリオールと3~15個の炭素原子を有する脂肪族ポリカルボン酸とから誘導されたポリエステルを含む。該樹脂は、該繊維中に存在する場合には、ポリマー構成物、及び任意的に希釈剤を含む。
【0018】
該樹脂組成物中に存在する該ポリマー構成物のうち、少なくとも50重量%、特には少なくとも60重量%、より特には少なくとも70重量%は、2~15個の炭素原子を有する脂肪族ポリオールと3~15個の炭素原子を有する脂肪族ポリカルボン酸とから誘導されたポリエステルである。より特には、本発明の利点が該樹脂の性質と関連する場合、該樹脂中に存在する該ポリマー構成物のうち、少なくとも80重量%、特には少なくとも90重量%、より特には少なくとも95重量%が、2~15個の炭素原子を有する脂肪族ポリオールと3~15個の炭素原子を有する脂肪族ポリカルボン酸とから誘導されたポリエステルであることが好まれうる。本明細書の文脈において、語「ポリマー構成物」はまた、該樹脂含有繊維が本発明に従う方法中に遭遇することになる条件下で重合することができるモノマーを含むことに留意されたい。
【0019】
該樹脂組成物は、2~15個の炭素原子を有する脂肪族ポリオールと3~15個の炭素原子を有する脂肪族ポリカルボン酸とから誘導されたポリエステルを含む。
【0020】
本発明において使用される該脂肪族ポリオールはまた、本明細書において時々、ポリアルコールとして示され、少なくとも2個のヒドロキシ基、特には少なくとも3個のヒドロキシ基、を含む。一般的に、ヒドロキシ基の数は、10個以下、より特には8個以下、又は更には6個以下、特には2個又は3個、である。該ポリアルコールは、2~15個の炭素原子を有する。より特には、該ポリアルコールは、3~10個の炭素原子を有する。該ポリアルコールは、ヘテロ原子を含まないことが好ましい。より特には、該ポリアルコールは、C、H、及びO原子のみを含む脂肪族ポリアルカノールである。該ポリアルコールは、ヒドロキシ基以外の非炭素基を含まないことが好ましい。本発明の好ましい実施態様において、該ポリアルコールは、その炭素原子の数と比較して相対的に多数のヒドロキシ基を含む。例えば、ヒドロキシ基の数と炭素原子の数との比は、1:4(すなわち、4個の炭素原子当たり1個のヒドロキシ基、又は1個のジアルコールにつき8個の炭素原子)~1:1(すなわち、1個の炭素原子当たり1個のヒドロキシ基)である。特に、ヒドロキシ基の数と炭素原子の数との比は、1:3~1:1、より特には1:2~1:1、である。特に好ましいポリアルコールの基は、該比が1:1.5~1:1である基である。ヒドロキシ基と炭素原子との比が1:1である化合物が、特に好ましいと考えられる。該脂肪族ポリオールは、飽和していること、すなわち炭素-炭素の二重又は三重結合を含まないこと、が好ましい。
【0021】
好適なポリアルコールの例は、グリセロール、ソルビトール、キシリトール、マンニトール及びソルビタンから選択されるポリアルコール、並びに1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,2-エタンジオール、ブタンジオール、ヘキサンジオール及びイソソルビドから選択されるジアルコールを包含する。グリセロール、ソルビトール、キシリトール及びマンニトールの群から選択された化合物の使用が好ましく、グリセロールの使用が特に好ましい。
【0022】
グリセロールの好選度は、下記に基づく。第一に、グリセロールは20℃の融点を有し、それは、特には全て90℃を十分に上回る融点を有するキシリトール、ソルビトール及びマンニトールと比較して容易な処理を可能にする。更に、グリセロールは、高い質のポリマーをもたらし、従って、容易に入手可能な供給源の材料の使用を、良好な処理条件及び高品質の生成物と組み合わせることが見出された。アルコールの種々のタイプの混合物がまた使用されうる。
【0023】
しかしながら、該ポリアルコールは、少なくとも50モル%、好ましくは少なくとも70モル%、より特には少なくとも90モル%、又は更には少なくとも95モル%、の、グリセロール、キシリトール、ソルビトール、又はマンニトール、特にはグリセロール、からなることが好ましい。1つの実施態様において、該ポリアルコールは、グリセロールから本質的になる。
【0024】
グリセリドとモノアルコールのエステル交換反応によるバイオディーゼルの製造の副産物であるグリセロールの使用は、本発明の特定の実施態様である。好適なモノアルコールは、C1~C10モノアルコール、特にはC1~C5モノアルコール、より特にはC1~C3モノアルコール、特にはメタノール、を包含する。該グリセリドは、グリセロールと脂肪酸とのモノエステル、ジエステル及びエステル(mono-di- and esters)であり、該脂肪酸は一般的に、10~18個の炭素原子を有する。関連付けられたグリセロールを有するバイオディーゼルを製造する為の好適な方法は、当技術分野において知られている。
【0025】
本発明において使用される該脂肪族ポリカルボン酸は、少なくとも2個のカルボン酸基、特には少なくとも3個のカルボン酸基、を含む。一般的に、カルボン酸基の数は、10個以下、より特には8個以下、又は更には6個以下、である。該ポリカルボン酸は、3~15個の炭素原子を有する。より特には、該ポリカルボン酸は、3~10個の炭素原子、を有する。該ポリカルボン酸は、N又はSヘテロ原子を有していないことが好ましい。より特には、該ポリカルボン酸は、C原子、H原子及びO原子のみを含む脂肪族ポリカルボン酸である。該脂肪族ポリオールは、飽和していること、すなわち炭素-炭素の二重結合又は三重結合を含まないこと、が好ましい。
【0026】
1つの実施態様において、ジカルボン酸が使用される。該ジカルボン酸は、それが使用される場合には、2個のカルボン酸基、一般的には15個以下の炭素原子、を有する任意のジカルボン酸でありうる。好適なジカルボン酸の例は、イタコン酸、リンゴ酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、セバシン酸及びシュウ酸を包含する。イタコン酸及びコハク酸が好まれうる。
【0027】
1つの実施態様において、トリカルボン酸が使用される。該トリカルボン酸は、それが使用される場合には、3個のカルボン酸基、一般的には15個以下の炭素原子、を有する任意のトリカルボン酸でありうる。例は、クエン酸、イソクエン酸、アコニット酸(シス及びトランスの両方)、及び3-カルボキシ-シス,シス-ムコン酸を包含する。クエン酸の使用が、費用及び入手可能性の両方の理由で好ましいと考えられる。適用できる場合には、該ポリカルボン酸は、全体的に又は部分的には無水物、例えばクエン酸無水物、の形態で用意されうる。
【0028】
トリカルボン酸の使用は、魅力的な特性を有するポリエステルを結果として生じることが見出された。それ故に、1つの実施態様において、ポリ酸は、ジカルボン酸、他のトリカルボン酸、及びそれらの混合物との組み合わせであるかどうかに関わりなく、少なくとも10重量%のトリカルボン酸を含む。1つの実施態様において、該ポリ酸は、ポリ酸の全量に対して計算して、少なくとも30重量%、好ましくは少なくとも50重量%、のトリカルボン酸を含む。1つの実施態様において、トリカルボン酸の量は、少なくとも70重量%、より特には少なくとも90重量%、又は更に少なくとも95重量%、である。1つの実施態様において、該ポリ酸は、トリカルボン酸から本質的になり、ここで、語「本質的に」は、他の酸が、材料の特性に影響を及ぼさない量で存在しうることを意味する。
【0029】
本発明の別の実施態様において、該酸は、酸の全量に対して計算して、少なくとも10重量%、好ましくは少なくとも30重量%、より好ましくは少なくとも50重量%、のジカルボン酸を含む。1つの実施態様において、ジカルボン酸の量は、少なくとも70重量%である。
【0030】
1つの実施態様において、該酸は、少なくとも10重量%のトリカルボン酸及び少なくとも2重量%のジカルボン酸、より特には少なくとも10重量%のトリカルボン酸及び少なくとも5重量%のジカルボン酸、又は少なくとも10重量%のトリカルボン酸及び少なくとも10重量%のジカルボン酸、の組み合わせを含む。この実施態様において、2つのタイプの酸の間の重量比は、所望の材料の特性に応じて、広範囲に変わりうる。1つの実施態様において、該ジカルボン酸は、所望の材料の特性に応じて、合計2~90重量%、特には5~90重量%、より特には10~90重量%、のジカルボン酸及びトリカルボン酸を構成する。上記において特定されるトリカルボン酸についての好ましい範囲がまた、この実施態様に適用できることに留意されたい。トリカルボン酸、特にはクエン酸、の使用は、特にはトリアルコール、例えばグリセロール、の使用との組み合わせで、高品質の複合材料の形成を結果として生じることが見出された。
【0031】
三酸とトリアルコールとの組み合わせは、高強度ポリマー材料を結果として生じることが見出されたので、特には好ましいと考えられる。1つの実施態様において、少なくとも50重量%、より特には少なくとも70重量%、更により特には少なくとも90重量%、の該ポリアルコールは、トリアルコール、特にはグリセロール、であり、少なくとも50重量%、より特には少なくとも70重量%、更により特には少なくとも90重量%、の該ポリカルボン酸は、トリカルボン(triacarboxylic)酸、特にはクエン酸、である。
【0032】
該ポリアルコールと該ポリ酸とのモル比は、使用される1以上のアルコールにおける反応基の数と1以上の酸における反応基の数との比によって制御される。一般的に、OH基の数と酸基の数との比は、5:1~1:5である。より特には、該比は、2:1~1:2、より特には1.5:1~1:1.5、より好ましくは1.1:1~1:1.1、でありうる。理論的モル比は、1:1である。
【0033】
該ポリエステルは、該アルコールと該酸とを組み合わせて液相を形成することによって形成される。これは、化合物の性質に応じて、例えば、該酸が、該アルコール、特にはグリセロール、に溶解する温度に、成分の混合物を加熱することによって、行われることができる。これは、化合物の性質に応じて、例えば、20~250℃、例えば40~200℃、例えば60~200℃、又は90~200℃、の温度で行われうる。1つの実施態様において、該混合物は、100~200℃、特には100~150℃、の温度、より特には100~140℃、の温度で、5分~2時間、より特には10分~45分間、加熱され及び混合されうる。
【0034】
任意的に、好適な触媒が、該ポリエステルの調製の為に使用されることができる。ポリエステルの製造の為に好適な触媒は、当技術分野において知られている。好ましい触媒は、重金属を含まない触媒である。有用な触媒は、強酸、例えば塩酸、ヨウ化水素酸(hydroiodic acid)(また、ヨウ化水素酸(hydriodic acid)として示される)及び臭化水素酸、硫酸(HSO)、硝酸(HNO)、塩素酸(HClO)、ホウ酸、過塩素酸(HClO)、トリフルオロ酢酸、p-トルエンスルホン酸、及びトリフルオロメタンスルホン酸であるが、それらに限定されるものでない。触媒、例えば酢酸Zn及び酢酸Mn、がまた使用されることができるが、それらはあまり好ましくないものでありうる。
【0035】
該樹脂組成物は、該樹脂含有繊維中に存在するときに、希釈剤を含んでいてもよく、又は含んでいなくてもよい。好適な希釈剤は、存在する場合には、幾つかの要件を満たす必要があり、すなわち該希釈剤は、低粘度の液体である。該希釈剤は、該ポリオール及び該カルボン酸との反応性を有していないか、又は低い反応性を有する。該希釈剤は、該ポリオール及び該カルボン酸の為の良好な溶媒であるべきである。該希釈剤は、該樹脂含有繊維から容易に蒸発するべきである。
【0036】
他の液体が可能であるが、技術的、経済的、及び環境的な理由で、水の使用が好ましいと考えられる。従って、該希釈剤は、存在する場合には、一般的に少なくとも50重量%、特には少なくとも70重量%、より特には少なくとも90重量%、更により特には少なくとも95重量%、の水からなる。
【0037】
本発明の利点は、本明細書において現在使用されている該樹脂が、フィラメント巻き取りにおいて慣用的に使用されている樹脂と比較して、希釈剤を含まないことができ、又は希釈剤として水に頼ることができるということである。このことは、揮発性有機溶媒、例えばアセトン、に基づいて樹脂を取り扱う場合に必要とされる方策の必要性を取り除く。
【0038】
該希釈剤は、該巻き取り工程に提供されるときに該樹脂含有繊維中に存在する該樹脂組成物中に存在する場合には、一般的に、該樹脂組成物に対して計算して、90重量%以下、特には70重量%以下、の量で存在する。幾らかの希釈剤の存在は、該繊維上に適用されるときに該組成物中に存在することに起因して固有になりうるか、又は該繊維の可撓性を維持しうるので有利になりうるが、あまりにも多量の希釈剤の存在は、更なる利点をもたらさず、更には該組成物から除去されなければならない。従って、該樹脂含有繊維中の該樹脂組成物は、該巻き取り工程に提供されるとき、50重量%以下の希釈剤、特には40重量%以下の希釈剤、を含むことが好まれうる。
【0039】
1つの実施態様において、該巻き取り工程に提供されるときに該樹脂含有繊維中に存在する該樹脂組成物の該希釈剤の含有量は、20重量%以下、特には15重量%以下、より特には10重量%以下、である。これは特に、該巻き取り工程に提供された該繊維が、別個に調製されたプリプレグである場合に当てはまりうる。しかしながら、これはまた、直接巻き取り方法における場合、例えば乾燥工程が、該繊維上への該樹脂の適用と、該巻き取り工程への該樹脂含有繊維の提供との間に行われる場合、又は該繊維に適用される該樹脂が、低含有量の希釈剤を有する場合、に当てはまりうる。
【0040】
該樹脂組成物は、該フィラメント巻き取り工程(filament winding step)に提供された該樹脂含有繊維中に存在するとき、幾らかの希釈剤を含むことがより可撓性の繊維をもたらしうるので、幾らかの希釈剤を含むことが好まれうる。これは特に、それだけでなく、より高い樹脂含有量及び/又はより高い重合度の場合にも当てはまりうる。それ故に、1つの実施態様において、該樹脂組成物は、該フィラメント巻き取り工程に提供された該樹脂含有繊維中に存在するときに、少なくとも0.5重量%の水、特には少なくとも1重量%の水、を含む。
【0041】
該樹脂組成物は、更なる成分を含みうる。
【0042】
1つの実施態様において、化合物は、ポリマーと疎水性材料との相互作用を増大するか、又は最終生成物の耐水性を増大する為に添加される。好適な化合物は、例えば、C5~C22の飽和又は不飽和脂肪酸又はその塩、C5~C22の飽和又は不飽和脂肪アルコール、並びに二量体及び三量体脂肪酸又はアルコールを包含する。例えば、グリセロールモノステアレート、クエン酸トリエチル、及び吉草酸が、本発明において使用されることができる。疎水性を増大する為の化合物は、一般的に、該ポリマーの量に対して計算して、0.1~5重量%の量、より特には0.3~3重量%の量、で施与されるであろう。この目的を達成する為の更なる成分は、植物油の完全水素添加から得られた飽和脂肪酸混合物、又は一般的には植物油を含む。
【0043】
一般的に、該巻き取り工程に提供された該樹脂含有繊維は、該樹脂含有繊維の総体積に対して計算して、1~90体積%の樹脂組成物を含む。少な過ぎる樹脂の存在は、不十分な特性を有する成形された物体を結果として生じることになろう。非常に多量の樹脂の存在は、該繊維が、該成形された物体に特定の特性を提供することを意図される場合には、該成形された物体の特性を損ないうる。1つの実施態様において、該巻き取り工程に提供されることになる該樹脂含有繊維は、1~25体積%、特には1~20体積%、より特には1~15体積%、一部の実施態様において1~10体積%、の樹脂組成物を含むことが好まれうる。別の実施態様において、該樹脂含有繊維は、80体積%以下の樹脂組成物、特には70体積%以下の樹脂組成物、を含むことが好まれうる。1つの実施態様において、該樹脂含有繊維は、25~90体積%、特には25~80体積%、より特には25~70体積%、の樹脂組成物を含むことが好ましい。
【0044】
該巻き取り工程に提供されるときの該繊維に対する樹脂組成物の量は、該繊維に対する該樹脂組成物の重量、該樹脂組成物の密度、及び該繊維が構築される材料(ガラス、亜麻等)の密度から、体積%で計算される。
【0045】
該巻き取り工程に提供された該樹脂含有繊維中に存在する該ポリエステルは、一般的に、0.05~0.6の範囲の重合度を有し、該重合度は、反応することができる官能基の最大数に対する、反応した官能基の数の比である。該重合度は、酸値を用いることよって又は重量測定により、決定されることができる。
【0046】
所望の重合度は、幾つかの因子に応じて決まることになろう。一方において、該繊維が該巻き取り工程に提供される段階におけるより高い重合度は、該方法において更なる硬化が少なくて済むという利点を有する。他方において、重合度が高いほど、高い粘性の樹脂組成物を生じうるが、それは、該コーティングプロセスに有害な影響を及ぼしうる。該巻き取り工程に提供されるときの該繊維に対する該樹脂の重合度は、少なくとも0.1、特には少なくとも0.2、より特には少なくとも0.3、であることが好まれうる。
【0047】
1つの実施態様において、該樹脂含有繊維は、上記において論じられている通り、繊維を液体樹脂組成物と接触させることによって得られる。該接触工程は、該樹脂組成物が該繊維に接着するような工程であるべきである。1つの実施態様において、これは、該繊維を樹脂浴に通過させることによって行われる。別の実施態様において、繊維は、該樹脂が提供されたリックロール(lick roll)と接触させられる。過剰の樹脂は、それが望ましい場合には、該繊維から除去されることができる。繊維を液体組成物でコーティングする為の、当技術分野において知られている他の方式がまた適用されうる。該液体樹脂組成物を単一工程で施与することが可能であるが、中間乾燥を伴うかどうかに関わりなく、2つ以上の工程で施与することがまた可能である。
【0048】
該液体組成物の粘度は、該繊維の適切なコーティングが妥当な時間枠内で達成されるような粘度であるべきである。この目的を達成する為に、該粘度は、有意義なコーティングが達成されないほど低い粘度であるべきでなく、また、該繊維のコーティングが緩慢になるほど高い粘度であるべきでない。該粘度は、該液体組成物の温度(温度が高いほど粘度が低くなる)、該ポリエステルの重合度(重合度が高いほど粘度が高くなる)、及びもしあれば希釈剤の存在(希釈剤の量が高いほど粘度が低くなる)を含む、幾つかの特色に応じて決まることになろう。上述のことを考慮すると、適切な粘度を有する液体樹脂組成物を調製することは、当業者の範囲内にある。
【0049】
本発明の1つの実施態様において、該樹脂含有繊維は、
繊維を液体樹脂組成物と接触させて、樹脂含有繊維を得ること、ここで、該樹脂組成物は、該樹脂の該ポリマー構成物に対して計算して、2~15個の炭素原子を有する脂肪族ポリオールと3~15個の炭素原子を有する脂肪族ポリカルボン酸とから誘導されたポリエステルを少なくとも50重量%含む、
該樹脂含有繊維を乾燥工程に付すこと、ここで、該乾燥工程は、該樹脂含有繊維が粘着性になり且つ該樹脂含有繊維が該樹脂含有繊維中の樹脂組成物の重量に対して計算して25重量%以下の希釈剤含有量を有するまで行われる、
の工程を含むプロセスを通じて提供される。
【0050】
該樹脂含有繊維は、20重量%以下、より特には15重量%以下、更により特には10重量%以下、更になおより特には8重量%以下、一部の実施態様においては5重量%以下、の希釈剤含有量を有することが好まれうる。
【0051】
本明細書の文脈において、粘着性は、下記の通り試験される。該巻き取り工程に提供されることになる長さ10cmの樹脂含有繊維が、清潔な乾燥水平ガラスプレート上に平らに置かれる。ローラーを使用して、繊維幅1mm当たり200gの圧力(ローリング前に該繊維に対して決定された)が、5秒間施与される。必要な場合、該ガラスプレートにではなく該ローラーへの該繊維の接着を防止する為に、該ローラーには、非粘着層が提供されうる。次に、該プレートは持ち上げられ、該樹脂含有繊維が下方に面するように回転させられる。該樹脂含有繊維が、該ガラスプレートから15秒間以内に落下するならば、該樹脂含有繊維は、本明細書の文脈において、粘着性でないと考えられる。該試験は、20℃及び40~60%の相対湿度で行われる。
【0052】
この実施態様において、特定の希釈剤含有量を有する該粘着性の樹脂含有繊維は、フィラメント巻き取り工程において使用される前に保存されることができる。該粘着性の樹脂含有繊維はまた、輸送されることができる。フィラメント巻き取りの為の既知のプリプレグ(prepregs)と比較した、このいわゆる樹脂プリプレグの利点は、このプリプレグが、周囲条件で、例えば4~35℃の温度及び10~90%の湿度で、少なくとも4時間、特には少なくとも24時間、保存されることができるが、依然として粘着性のままであるということである。該ポリマーの粘着性は、該ポリエステルの重合度の尺度である。該樹脂含有繊維がもはや粘着性でない場合、該ポリマーは、その形状を十分に保持している成形された物体を形成する為に、該繊維がマンドレルの周りに巻き取られるときに更なる硬化が該繊維を互いに接着させないような程度まで、重合されることになろう。
【0053】
好ましい実施態様において、該粘着性の樹脂含有繊維は、スプールの周りに巻き取られて、スプールに巻き取られた粘着性の樹脂含有繊維を形成する。粘着性の樹脂含有繊維のスプールは、容易に保存、輸送、及び更には処理される。該粘着性の樹脂含有繊維は、必要な場合にはスプールから巻き出された後に、該マンドレルに提供される。
【0054】
本発明はまた、該プリプレグ自体に関する。より特には、本発明は、樹脂含有繊維であって、ここで、該樹脂繊維は、該樹脂の該ポリマー構成物に対して計算して、2~15個の炭素原子を有する脂肪族ポリオールと3~15個の炭素原子を有する脂肪族ポリカルボン酸とから誘導されたポリエステルを少なくとも50重量%含む1~25体積%の樹脂を含み、該樹脂含有繊維は、粘着性であり、且つ該樹脂含有繊維中の樹脂組成物の重量に対して計算して25重量%以下の希釈剤含有量を有する、該樹脂含有繊維に関する。1つの実施態様において、該繊維は、一巻きのスプールである。該樹脂及び該繊維の性質及び量について前述された好選度、並びに更なる好選度がまた、本発明のこの観点に当てはまる。
【0055】
別の実施態様において、該樹脂含有繊維は、別個のプリプレグの形成なしに、直接的に処理される。この実施態様において、該樹脂含有繊維は、繊維を液体樹脂組成物と接触させて樹脂含有繊維を得て、引き続き、そのようにして得られた該繊維を該巻き取り工程に提供することの工程を含む方法により提供され、ここで、該樹脂組成物は、該樹脂の該ポリマー構成物に対して計算して、2~15個の炭素原子を有する脂肪族ポリオールと3~15個の炭素原子を有する脂肪族ポリカルボン酸とから誘導されたポリエステル少なくとも50重量%を含む。
【0056】
プリプレグを用いて加工するか、又は樹脂含有繊維を直接的に処理するかに関わりなく、本発明の方法は、樹脂含有繊維が張力の下で巻き取られて、成形された繊維状物体を形成する工程(また本明細書において巻き取り工程として示される)を含む。上記において示され、当技術分野において周知の通り、該巻き取りは、マンドレルの周囲で行うことができ、又はコアレスのフィラメント巻き取り工程においてフレームワークの周囲で行うことができる。この工程は、フィラメント巻き取り方法の分野において周知であり、更なる解明を必要としない。好適な巻き取りパターンがまた、当技術分野において知られており、フープ状(hoop-like)巻き取りパターン、らせん状巻き取りパターン、無作為な巻き取りパターン等を含む。
【0057】
次に、該巻き取り工程から結果として生じる該成形された繊維状物体は、硬化工程に付される。
【0058】
該成形された繊維状物体は、それが望ましい場合には、過剰の希釈剤を除去する為に、該硬化工程の前に乾燥工程に付されることができる。プリプレグが使用される場合、乾燥工程は、一般的に必要とされないであろう。実質的な量の希釈剤を含む樹脂含有繊維が使用される場合、魅力的になりうる。乾燥工程は、それが行われる場合には、例えば15℃~200℃の温度(空気温度)、特には15~100℃の温度、で行うことができる。該温度に応じて、該乾燥工程は、数分間、例えば少なくとも2分間、特には少なくとも5分間、行われることができるが、該物体のサイズ及び形状、並びに該成形された物体における水の量に応じて、より長期間、例えば0.25時間~3日間、行われることもできる。好適な乾燥条件を選択することは、当業者の範囲内である。該希釈剤の蒸発を増大する為の真空の施与又は気流の提供が、考えられうる。
【0059】
該硬化工程は、該ポリエステルを更に重合することが意図される。該硬化工程の最も重要な点は、該ポリエステルが、反応温度、例えば80~250℃、特には100~200℃、の生成温度にあることである。硬化は、当技術分野において知られている加熱技術を使用して、例えば80℃~450℃までのオーブン温度を有するオーブン内で、行われることができる。種々のタイプのオーブンが使用され得、ベルトオーブン、対流式オーブン、マイクロ波オーブン、赤外線オーブン、熱風オーブン、慣用的なベーキングオーブン及びそれらの組み合わせを含むが、それらに限定されるものでない。硬化は、単一工程又は複数工程で行われることができる。硬化を制御する為に、硬化中の生成温度を増大することが好まれうる。硬化時間は、該物体のサイズ及び形状、並びに使用されるオーブンのタイプ及び温度に応じて、5秒~24時間、特には5分~12時間、である。好適な硬化条件を選択することは、当業者の範囲内である。従って、本発明に従う方法において使用される該樹脂組成物は、熱硬化性樹脂組成物である。電離放射線又は化学線による更なる硬化工程は行われない。
【0060】
製造される該物体の性質に応じて、該硬化され成形された繊維状物体は、該マンドレルから除去されてもよく、又は除去されなくてもよい。フィラメント巻き取りはしばしば、物体、例えば圧力容器、に繊維強化を提供する為に使用される。この場合、該硬化され成形された繊維状物体は、該マンドレルから除去されないであろう。むしろ、該硬化され成形された繊維状物体及び該マンドレルは、単一物体を形成することになる。他の実施態様において、該硬化され成形された繊維状物体は、該マンドレルから除去される。
【0061】
1つの実施態様において、該硬化工程は、
該成形された繊維状物体を、第1の硬化工程に付して、部分的に硬化され成形された繊維状物体を形成すること、
マンドレルが存在する場合には、該部分的に硬化され成形された繊維状物体を、該マンドレルから除去すること、
該部分的に硬化され成形された繊維状物体を、更なる硬化工程に付すこと
の工程を含む、複数工程の方法で行われる。
【0062】
この順序の第一の利点は、該マンドレルが存在する場合には、該マンドレルの除去により、該成形された繊維状物体に熱風が循環しやすくなり得、それが、該硬化速度を増大しうるということである。
【0063】
この方法において、該部分的に硬化され成形された繊維状物体における該ポリマーは、一般的に、少なくとも0.4、特には少なくとも0.5、の重合度を有する。最小の重合度は、一般的に、該成形された繊維状物体が別個の繊維に分解しないことを確実にする為に必要とされる。同じ理由で、該部分的に硬化され成形された繊維状物体は、一般的に、該部分的に硬化され成形された繊維状物体の全重量に対して計算して、2重量%以下、より特には1重量%以下、の希釈剤含有量を有する。
【0064】
一般的に、該部分的に硬化された繊維状物体は、0.8以下、特には0.7以下、の重合度を有し、更なる硬化は、該更なる硬化工程において行われる。
【0065】
該部分的に硬化された繊維状物体は、該マンドレルから除去された後、上記において特定される硬化条件下で更なる硬化工程に付されることができる。
【0066】
1つの実施態様において、該部分的に硬化された物体は、その形状が変化させられる工程に付される。該部分的に硬化された物体は、まだ相対的に可撓性であることができ、それ故に、フィラメント巻き取り方法を使用して、可撓性でなければ達成不可能な形状にすることが可能になる。物体の形状が変化させられる方法の例は、切断、加圧、成型、真空形成等を含む。形状が変化した後、該物体は、前述されている通り硬化されることができる。
【0067】
コアレスのフィラメント巻き取り方法の為に、二工程の方法において該硬化を行うことはまた、特に、該第1の硬化工程と該第2の硬化工程との間に形状変化工程が行われる場合に魅力的になりうる。
【0068】
当業者に明らかであろう通り、該硬化工程は、該アルコールと該カルボン酸の反応によるエステルの形成と共に、副生成物としての水の形成を必然的に伴う。この水は、該成形された繊維状物体から除去されなければならない。特に、該繊維が制限された吸水能を有している場合、例えばガラス繊維、炭素繊維若しくはポリマーベースの繊維、例えばポリアミド繊維の場合、及び/又はフィラメント巻き取りされた層(filament-wound layer)が相対的に厚い場合、該硬化工程において形成された水が容易に蒸発することができることを確実にする為の方策を取ることが魅力的になりうることが見出された。そのような方策の様々な例が言及されうる。1つの実施態様において、該マンドレルは、水を蒸発させることを可能にする為に、例えば孔が存在することに起因して多孔性であり、又は該マンドレルにリブが付けられる。別の実施態様において、吸水性材料、例えば、紙若しくはボール紙、織布若しくは不織布地の層、又は他の吸収性材料、が該マンドレル上に提供される。更なる実施態様において、該マンドレル自体は、吸水性材料、例えばボール紙、製でありうる。相対的に隙間が空いた巻き取りパターンを選択することはまた、適切な水の除去を確実にする助けになることができる。水の蒸発を促進する、低大気圧における硬化がまた、適用されうる。
【0069】
例えば、一般的に低い吸水能を有する合成繊維、例えばガラス繊維又は炭素繊維、を、一般的により高い吸水能を有する天然繊維、例えばセルロースベースの繊維、と組み合わせることによる、繊維の組み合わせの使用がまた、魅力的になりうる。次に、該天然繊維は、導水管として作動することができる。この実施態様において、該天然繊維は、全繊維重量に対して計算して、一般的に1~40重量%、特には1~25重量%の範囲、より特には1~10重量%の範囲、の量で存在する。天然繊維の量は、多過ぎると該合成繊維から製造されることになる該物体の特性を損ないうるので、多過ぎるべきではない。所望に応じて、該天然繊維と該合成繊維とが組み合わされうる。1つの実施態様において、該天然繊維及び該合成繊維は、全体として単一層で施与される。別の実施態様において、天然繊維の1以上の層が、合成繊維の1以上の層と組み合わされる。水の除去を助ける為に、該物体の外側に天然繊維の層を使用することが好まれうる。当然のことながら、繊維層を、天然繊維だけ又は合成繊維だけを含む層と混合することがまた可能である。
【0070】
本発明はまた、巻き取られた樹脂含有繊維を含む成形された繊維状物体であって、ここで、該樹脂は、該樹脂の該ポリマー構成物に対して計算して、2~15個の炭素原子を有する脂肪族ポリオールと3~15個の炭素原子を有する脂肪族ポリカルボン酸とから誘導されたポリエステルを少なくとも50重量%含み、該ポリエステルは、少なくとも0.8の重合度を有し、該重合度は、反応することができる官能基の最大数に対する、反応した官能基の数の比である、上記の成形された繊維状物体に関する。意図された使用に応じて、該ポリエステルは、少なくとも0.9、特には少なくとも0.95、の重合度を有することが好まれうる。
【0071】
樹脂の性質及び量についての好選度、繊維のタイプ、並びに他の好選度がまた、本発明の実施態様に当てはまる。
【0072】
本発明の物体は、多くの分野において、高耐久性適用、例えばランタンの支柱及び風車部品、から、家具を包含するデザイン用途にわたって、適用が見出される。
【0073】
1つの実施態様において、該繊維は、グリセロール及びクエン酸に基づく樹脂が提供された、ガラス繊維である。特に、この樹脂が少なくとも0.9の重合度まで重合された場合、耐久性のある物体が得られることができることが見出された。上記において表されている好選度がまた、互いに排他的である場合を除いて、この実施態様に当てはまる。
【0074】
1つの実施態様において、該繊維は、グリセロール及びクエン酸に基づく樹脂が提供された、天然繊維、特には亜麻又は麻繊維、である。この組み合わせに基づく物体は、魅力的な外観及び感触を有することが見出され、そのことが、該物体を、特にはデザイン適用の為に魅力的にする。上記において表されている好選度がまた、互いに排他的である場合を除いて、この実施態様に当てはまる。
【0075】
本発明は、下記の実施例によって説明されるが、それらに限定されるものでなく又はそれらによって限定されるものでもない。
【0076】
実施例1
ガラス繊維-直接巻き取り
グリセロール及びクエン酸に基づくポリエステルを含む、約0.4の重合度(質量平衡に基づく)及び21重量%の含水量を有する樹脂組成物が用意された。該浴は54℃の温度であった。2400テックスの線形重量を有するガラス繊維が、該樹脂浴に通過させられ、過剰の樹脂が除去された。そのようにして形成された該樹脂含有繊維は、約50体積%の樹脂を含んでいた。
【0077】
該樹脂含有繊維は、直径100mmの鋼パイプの周りに巻き取られた。
【0078】
該鋼パイプは、剥離剤でコーティングされていた。剥離紙がまた、剥離コーティング、例えばテフロン(登録商標)(Teflon)コーティング、と同様に使用されうる。
【0079】
該巻き取りは、5.5rpmの一定のrpm及びほぼ90°の一定の角度で、フープ状パターンで行った。該巻き取り工程が完了したときに、該繊維状物体が提供された該マンドレルは、120℃で1時間、140℃で1時間、及び160℃で2時間硬化された。次に、該繊維状物体は冷却され、そして、該マンドレルから除去された。
【0080】
最終的な物体は、樹脂及び繊維からなる該物体の総体積に基づいて、43体積%の樹脂を含んでいた。そのようにして得られた該繊維状物体の写真は、図1a及び図1bにある。
【0081】
実施例2
ガラス繊維-プリプレグ
樹脂組成物は、実施例1に記載される通り用意された。該樹脂浴は室温であった。ガラス繊維が、該樹脂浴に通過させられた。過剰の樹脂が除去された。該繊維は、50体積%の樹脂を含んでいた。
【0082】
該樹脂含有繊維が、空気トンネルに通過させられた。滞留時間は4分であった。該空気の温度は、135~150℃であった。結果として得られた生成物は、粘着性であった。該生成物は、10重量%未満の含水量を有していた。そのようにして形成されたプリプレグにおける該樹脂の重合度は、該ポリマー浴における該樹脂の重合度よりもわずかに高かった。
【0083】
そのようにして得られたプリプレグは、周囲条件(温度18~22℃、相対湿度40~60%)で4日間保存された。4日後、該プリプレグはまだ粘着性であり、それ以外は未変化であった。同様の材料が、これらの条件下で有害な効果なしに、数週間保存されていた。該プリプレグは、図2に見られることができる。
【0084】
該プリプレグは、シリンダーを製造する為に、マンドレル、この場合は炭素管、の周囲に該プリプレグを巻き取ることによって使用された。巻き取った後、該繊維を有する該マンドレルをオーブンに4.5時間入れると同時に、該温度を80℃から180℃にゆっくりと高められることによって、硬化工程が行われた。4.5時間後、該成形された繊維状物体を有する該マンドレルが、該オーブンから除去され、該物体が、該マンドレルから除去された。該成形された繊維状物体における該樹脂は、0.95超の重合度を有していた。
【0085】
実施例3
亜麻繊維-直接巻き取り
グリセロール及びクエン酸に基づくポリエステルを含む、約0.4の重合度(質量平衡に基づく)及び21重量%の含水量を有する樹脂組成物が用意された。該浴は54℃の温度であった。1000テックスの線形重量を有する亜麻繊維が、該樹脂浴に通過させられ、過剰の樹脂が除去された。そのようにして形成された該樹脂含有繊維は、60体積%の樹脂を含んでいた。
【0086】
該樹脂含有繊維は、鋼パイプの周りに巻き取られた。
【0087】
該巻き取りは、5.5rpmの一定のrpm及び一定の角度で行った。
【0088】
該巻き取り工程が完了したときに、該繊維状物体が提供された該マンドレルは、160℃で30分間、引き続き180℃で60分間、硬化された。次に、該繊維状物体は、該マンドレルから除去された。最終的な物体は、47体積%の樹脂を含んでいた。
【0089】
以下の表は、様々な実験についての処理条件及び結果を示す。3.1及び3.3における形成された該物体の写真は、それぞれ図3a及び図3bにある。
【0090】
【表1】
【0091】
該材料は軽量であり、且つ魅力的な自然な外観及び感触を有している。
【0092】
実施例4
硬化温度の効果
実施例1の該手順が、下記の差異を伴って反復された。
該樹脂浴の温度は、47℃であった
巻き取りは、繊維の3つの二重層が形成されるまで行った
該マンドレルは、5cmの直径を有していた。
【0093】
硬化は、以下の通り行った。120℃で1時間、140℃で1時間、160℃で1時間、及び180℃で1時間。最終的な物体は、45体積%の樹脂を含んでいた。
【0094】
硬化温度の効果を調査する為に、形成された該物体は、長さ4cmを有する小片に分割された。そのうち4つが、更なる硬化に200℃で1時間付された。該後硬化された小片は、該後硬化工程に付されなかった小片よりも高い剛性を示したことが見出された。
【0095】
実施例5
吸収性マンドレル、層状化された系(layered system)
75mmの外径及び2mmの壁厚を有するボール紙の管が、マンドレルとして使用された。該マンドレルの目的は、該巻き取られた複合材料からの水の除去にも同時に寄与する、低価格のコアを用意することであった。
【0096】
グリセロール及びクエン酸に基づくポリエステルを含む、約0.4の重合度(質量平衡に基づく)及び20重量%の含水量を有する樹脂組成物が用意された。該浴は50℃の温度であった。2400テックスの線形重量を有するガラス繊維が、該樹脂浴に通過させられ、過剰の樹脂が除去された。該ガラス繊維は、8mmの層厚さに達せられるまで、該ボール紙マンドレルの周囲に5.5rpmの一定のrpm及びほぼ90°の一定の角度で、フープ状パターンで巻き取られた。
【0097】
2400テックスの線形重量を有する亜麻繊維が、該同じ樹脂浴に通過させられ、該ガラス繊維層上に単層の最上層を提供する為に使用された。
【0098】
該巻き取り工程が完了したときに、該繊維状物体が提供された該マンドレルは、120℃で1時間、140℃で1時間、160℃で1時間及び180℃で1時間、硬化された。最終的な繊維状物体の写真は、図4に提供されている。ガラス繊維コア上に亜麻の外層を使用することは、低コストの高強度ガラス繊維コアにわたって魅力的な視覚的外観を有する生成物を提供することを可能にする。加えて、該亜麻繊維は、該ガラス繊維コアからの水を輸送することを助けうる。
図1a
図1b
図2
図3a
図3b
図4
【国際調査報告】