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特表2023-543550電解プロセスにおけるガス発生のための電極
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-10-17
(54)【発明の名称】電解プロセスにおけるガス発生のための電極
(51)【国際特許分類】
   C25B 11/031 20210101AFI20231010BHJP
   C25B 11/053 20210101ALI20231010BHJP
   C25B 11/061 20210101ALI20231010BHJP
   C25B 11/077 20210101ALI20231010BHJP
   C25B 11/091 20210101ALI20231010BHJP
【FI】
C25B11/031
C25B11/053
C25B11/061
C25B11/077
C25B11/091
【審査請求】未請求
【予備審査請求】有
(21)【出願番号】P 2023513860
(86)(22)【出願日】2021-08-27
(85)【翻訳文提出日】2023-04-20
(86)【国際出願番号】 EP2021073783
(87)【国際公開番号】W WO2022043519
(87)【国際公開日】2022-03-03
(31)【優先権主張番号】102020000020575
(32)【優先日】2020-08-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IT
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】507128654
【氏名又は名称】インドゥストリエ・デ・ノラ・ソチエタ・ペル・アツィオーニ
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】マリーナ, リカルド
(72)【発明者】
【氏名】マティエンソ, ディージェー ドン
(72)【発明者】
【氏名】ディ バリ, キアーラ
(72)【発明者】
【氏名】ピノ, フランチェスコ
(72)【発明者】
【氏名】インストゥリ, エマニュエル
【テーマコード(参考)】
4K011
【Fターム(参考)】
4K011AA05
4K011AA11
4K011AA22
4K011AA27
4K011AA69
4K011BA03
4K011BA08
4K011BA12
4K011DA01
(57)【要約】
本発明は、電解プロセスにおけるガス発生のための電極及びそのような電極の製造のための方法に関し、電極は、金属基板及び前記基板上に形成されたコーティングを含み、前記コーティングは、少なくとも、酸化ニッケル及び水酸化ニッケルを含有する高多孔質触媒外層を含み、前記多孔質外層は、少なくとも40m/g(BET)の表面積を有する。触媒層は、酸化Ni/酸化Vの最初のコーティングに続くVの浸出から調製される。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属基板及び前記基板上に形成されたコーティングを含む、電解プロセスにおけるガス発生のための電極であって、前記コーティングが、少なくとも、酸化ニッケル及び水酸化ニッケルを含有する触媒多孔質外層を含み、前記多孔質外層が、少なくとも40m/g(BET)の表面積を有する、電極。
【請求項2】
前記金属基板が、ニッケルベース基板、チタンベース基板及び鉄ベース基板からなる群から選択される基板である、請求項1に記載の電極。
【請求項3】
前記多孔質外層が、酸化ニッケル及び水酸化ニッケルからなる、請求項1又は2に記載の電極。
【請求項4】
前記多孔質外層が、40と120m/gの間(BET)に含まれる表面積を有する、請求項1から3のいずれか一項に記載の電極。
【請求項5】
前記多孔質外層が、ニッケル塩及びバナジウム塩を含有する、熱処理されたゲル様前駆体コーティングから酸化バナジウムを浸出させることにより得られる、請求項1から4のいずれか一項に記載の電極。
【請求項6】
前記コーティングが、前記金属基板と前記触媒多孔質外層との間に堆積された中間層を含み、中間層は、ニッケル及び/又は酸化ニッケルを含む、請求項1から5のいずれか一項に記載の電極。
【請求項7】
前記多孔質外層が、5~40μmの範囲内の厚さを有する、請求項1から6のいずれか一項に記載の電極。
【請求項8】
前記多孔質外層が、金属元素に関して5~50g/mの範囲内のニッケル投入量を有する、請求項1から7のいずれか一項に記載の電極。
【請求項9】
前記中間層が、金属元素に関して100~3000g/mの範囲内のニッケル投入量を有する、請求項6から8のいずれか一項に記載の電極。
【請求項10】
前記中間層が、約1m2/g(BET)未満の多孔度を有する、請求項6から9のいずれか一項に記載の電極。
【請求項11】
前記中間層が、金属投入量により正規化された約1.0~約10.0mF/gの範囲内の電気二重層キャパシタンスを有する、請求項6から10のいずれか一項に記載の電極。
【請求項12】
多孔質外層及び中間層からなる前記コーティングが、30~300μmの範囲内の全厚を有する、請求項6から11のいずれか一項に記載の電極。
【請求項13】
前記ニッケル中間層が、溶射、レーザクラッディング又は電気めっきにより得られる、請求項6から12のいずれか一項に記載の電極。
【請求項14】
前記ニッケル中間層が、溶射、特にワイヤアーク溶射又はプラズマ溶射により得られる、請求項13に記載の電極。
【請求項15】
前記基板が、ニッケルメッシュである、請求項1から14のいずれか一項に記載の電極。
【請求項16】
酸素発生のためのアノードとカソードとを含む、電解プロセスのための電気化学セルであって、前記アノードが、請求項1から15のいずれか一項に記載の電極である、電気化学セル。
【請求項17】
請求項1から16のいずれか一項に記載の電極を製造するための方法であって、
a)ニッケル塩、バナジウム塩及びゲル化剤を含むコーティング溶液を、金属基板に適用する工程と、
b)80~150℃の範囲内の温度で乾燥させる工程と、
c)300~500℃の範囲内の温度で焼成する工程と、
d)ニッケルの所望の特定投入量を有するコーティングが得られるまで、工程a)~c)を繰り返す工程と、
e)300~500℃の範囲内の温度で最終熱処理を行う工程と、
f)アルカリ浴中で前記コーティングからバナジウムを浸出させる工程と
を含む方法。
【請求項18】
前記コーティング溶液が、水及び/又はアルコール、好ましくはエタノール、並びに酸、好ましくは塩酸を含む溶媒を含む、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記ゲル化剤が、エチレングリコール及びクエン酸を含む、請求項17又は18に記載の方法。
【請求項20】
前記ニッケル塩が、ハロゲン化ニッケルであり、前記バナジウム塩が、ハロゲン化バナジウムである、請求項17から19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
工程f)が、60と100℃の間の範囲内の温度で12と36時間の間の期間、アルカリ水酸化物水溶液中で行われる、請求項17から20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
工程a)の前に中間工程a0)を含み、工程a0)が、溶射、レーザクラッディング又は電気めっきによりニッケル及び酸化ニッケルの中間層を金属基板上に形成することを含み、中間層が、約1m/g(BET)未満の多孔度を有する、請求項17から21のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
工程a0)における中間層が、周囲空気中で金属基板上に、電線による溶射によって、又はニッケル粉末をプラズマ溶射することによって形成される、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記ニッケル粉末が、金属基板上にプラズマ溶射され、約10μm~約150μm、好ましくは約45μm~約90μmの平均粒子サイズを有する、請求項23に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ニッケル基板及びニッケルベース触媒コーティングを含む、電解プロセスにおけるガス発生(gas evolution)のための電極に関する。そのような電極は特に、電気化学セルにおけるアノード、例えばアルカリ水電解における酸素発生アノードとして使用され得る。
【背景技術】
【0002】
アルカリ水電解は、典型的には電気化学セルにおいて行われ、アノード室及びカソード室は、ダイヤフラム又は膜等の好適な隔離板で分けられている。pHが7を超えるアルカリ水溶液、例えばKOH水溶液がセルに供給され、カソード室及びアノード室のそれぞれの電極間、すなわちカソードとアノードとの間に電流の流れが確立され、電位差(セル電圧)は典型的には1.8~2.4Vの範囲である。これらの条件下では、水はその構成要素に分解され、したがってカソードでは水素ガスが発生し、またアノードでは酸素ガスが発生する。ガス状生成物は、セルが連続的に動作し得るようにセルから除去される。アノードの酸素発生反応は、以下のように要約され得る:
4OH→O+2HO+4e
【0003】
アルカリ水電解は、典型的には、40~90℃の温度範囲内で行われる。アルカリ水電解は、エネルギー貯蔵の分野において、特に太陽及び風力エネルギー等の変動する再生可能エネルギー源からのエネルギーの貯蔵において有望な技術である。
【0004】
これに関して、より安価な電極等のより安価な機器の点だけでなく、プロセス全体の効率の点でも、技術的コストを削減することが特に重要である。セル効率の1つの重要な側面は、水電解を効率的に発生させるために必要なセル電圧に関連する。全体的なセル電圧は、可逆電圧、すなわち全体的反応への熱力学的寄与、システム内のオーム抵抗に起因する電圧損失、カソードでの水素発生反応の速度に関連する水素過電位、及びアノードでの酸素発生反応の速度に関連する酸素過電位によって本質的に決定付けられる。
【0005】
酸素発生反応は速度が遅く、これはアノードの高い過電位の原因である。その結果、動作セル電圧が増加し、この技術の大規模商業化が困難となる。
【0006】
さらに、電極の別の重要な特徴は、保護されていないシャットダウンに対する耐性である。実際に、単一電気化学セルのスタックで構成された電解プラントの典型的な動作中、技術的問題によるメンテナンスによって電源を停止することが度々要求され、電極にとって有害な極性の反転がもたらされる。そのような反転は、通常、電流の流れを所望の方向に維持する外部分極システム(又はポーラライザ)を使用して回避される。この補助的な成分は、金属溶解又は電極腐食により引き起こされる潜在的な電極劣化を回避するが、システムの投資コストを増加させる。
【0007】
先行技術では、アルカリ水電解に好ましいアノード/アノード触媒は、裸ニッケル(Ni)電極、ラネーニッケル(Ni+Al)電極、及び酸化イリジウム(Ir)ベース触媒コーティングを有する電極を含む。
【0008】
裸ニッケル電極は、Niメッシュ等のニッケル基板のみで形成され、これは低コストで容易に製造され得るが、高い酸素過電位を示し、速度が遅くなる。
【0009】
ラネーニッケル電極は、プラズマ溶射技術によるNi+Alの触媒粉末の薄膜堆積によって製造される。産業レベルでは、プラズマ溶射技術は、高い製造コスト並びにその技術に関連する健康及び安全上の危険、例えば騒音、爆発性、3000℃を超える温度の強い火炎、フューム等から、頻繁には触媒コーティングに使用されない。さらに、ラネーニッケル製造プロセスは、触媒コーティングからアルミニウムを浸出させ、表面上にほぼ純粋なニッケルを残し、表面積を実質的に増加させることにより達成される活性化プロセスを含む。Al溶解の反応中、Hが生成され、これは突発的な発熱反応に起因する製造プロセス中の問題を引き起こす。プラズマ溶射により堆積されたラネーニッケルの別の技術的問題は、幾分凸凹した形態のコーティングが生じることである。電極が膜に接触したゼロギャップセルでは、鋭い凸凹の表面は、膜に損傷を与える可能性がある。
【0010】
イリジウムベース触媒コーティングを有する電極は、伴う危険がより少ない十分確立された技術である熱分解によって製造される。しかしながら、これらの電極で使用されるイリジウムは、地殻中での存在量が最も少ない貴金属の1つであり、高額となるだけでなく、産業規模の製造プロセスのためにバルク量で購入することが困難となる(例えば、金の存在量はイリジウムより40倍多く、白金の存在量は10倍多い)。さらに、イリジウムベースコーティングは、典型的には多層コーティングであり、費用を要する製造プロセスとなる。多層触媒コーティングは、例えば、Ni基板上に直接適用された中間層、中間層に適用された活性層、及び酸化イリジウム外層を含む。これらの多層組成物は、典型的には、それらの配合物中に存在するIr及び他の非Ni金属、例えばCoが極性の反転中に電解質溶液中に溶解し得るため、保護されていないシャットダウンに対する低い耐性を示す。
【0011】
CN110394180Aは、ニッケル基板、並びに水酸化ニッケル及び酸化ニッケルを含む表面を有する電極を記載しており、これは、アルカリ水電解におけるアノードとして使用され得る。CN110863211A、CN109972158A、CN110438528A及びCN110952111Aは、水酸化ニッケル及び酸化ニッケルを含む外側表面層を有するニッケルフォーム電極を記載している。
【発明の概要】
【0012】
したがって、本発明の目的は、アルカリ水電解用途において低い酸素過電圧を示し、先行技術の電極より安全及びコスト効率的に製造され得る、改善された電極を提供することである。さらに、新たな電極は、保護されていないシャットダウンに対する改善された耐性を示すことが望ましい。
【0013】
本発明は、非常に高い表面積を示す酸素発生用の電気化学的に活性な薄膜の概念に基づく。コーティングの高い表面積は、より多量の電解質が触媒及びその活性部位と接触することを可能にし、例えば酸素ガス(O)の生成のための電気化学的性能を増大させる。ゾル-ゲル合成及び冶金等の異なる分野からの技術を組み合わせ、調整し、また設計することにより、酸素発生反応に特に好適な安定した高多孔質酸化ニッケルコーティングを形成することが可能となった。
【0014】
本発明の様々な態様が、添付の特許請求の範囲に記載されている。
【0015】
本発明は、金属基板及び前記基板上に形成されたコーティングを含む、電解プロセスにおけるガス発生のための電極であって、前記コーティングが、少なくとも、高い多孔度を示す触媒多孔質酸化ニッケル外層を含み、多孔質外層が、BET(Brunauer、Emmett、Teller)測定により決定される少なくとも40m/gの表面積を有する、電極に関する。以下でより詳細に説明される本発明の電極の高多孔質酸化ニッケル外層の形成の特性に起因して、2つの異なる相の酸化ニッケル(すなわち異なる酸化状態のニッケル)、すなわち酸化ニッケル(NiO)及び水酸化ニッケル(Ni(OH))がそれぞれ外層中に存在する。本発明者らは、驚くべきことに、金属基板上の高多孔質酸化ニッケル/水酸化ニッケル触媒層が低い値の酸素過電位を示し、したがってそのような電極を用いてアルカリ水電解用の非常に効率的な電解セルが製造され得ることを見出した。当然ながら、本発明の電極は、低い酸素過電圧から利益を得る任意の他の用途にも有利に使用され得る。
【0016】
本発明の電極の金属基板は、好ましくは、ニッケルベース基板、チタンベース基板及び鉄ベース基板からなる群から選択される基板である。ニッケルベース基板は、ニッケル基板、ニッケル合金基板(特にNiFe合金及びNiCo合金、並びにそれらの組合せ)及び酸化ニッケル基板を含む。鉄ベース基板は、ステンレススチール等の鉄合金を含む。本発明の文脈では、金属ニッケル基板が特に好ましい。裸ニッケル電極のように、本発明の電極は、ニッケルの触媒特性から利益を得るが、裸ニッケル電極の遅い速度を示さず、反応速度を改善するための追加の貴金属又は他の金属を必要としない。その結果、本発明のコーティングは、イリジウム等の貴金属、又はコバルト等の他の遷移金属を本質的に含まない。「本質的に含まない」とは、対応する金属が、例えば典型的な実験室X線回折(XRD)技術を使用した場合に、典型的には任意の検出可能範囲外であることを意味する。しかしながら、コーティングは、以下で説明される好ましい製造技術から生じる微量のバナジウム(V)を含み得るが、好ましい実施形態において、電極はまた、バナジウムを本質的に含まない。
【0017】
一実施形態において、触媒外層は、酸化ニッケル(NiO)及び水酸化ニッケル(Ni(OH))のみからなる。したがって、触媒は、いかなる希少及び高価な金属も含有しない。
【0018】
好ましくは、多孔質外層の表面積は、少なくとも60、より好ましくは少なくとも80m/g(BET)である。ある特定の実施形態において、多孔質外層の表面積は、40と120の間、60と110の間又は80と100m/gの間(BET)に含まれる。したがって、本発明の電極は、高多孔質ニッケルベース触媒外層を有する触媒層を有し、これは、例えば、典型的には10m/g未満の範囲内の市販のイリジウムベース触媒コーティングの表面積より大幅に高い表面積につながる。
【0019】
本発明の好ましい実施形態によれば、多孔質外層は、ニッケル塩及びバナジウム塩を含有する熱処理されたゲル様前駆体コーティングから酸化バナジウムを浸出させることにより得られる。したがって、本発明は、多孔質酸化ニッケル触媒コーティングを得るための2つの技術を組み合わせる、すなわちゾル-ゲル合成を酸化ニッケル(NiO)及び酸化バナジウム(VO)の熱形成と組み合わせる。さらに、冶金からの選択的浸出による犠牲金属の除去の概念を使用して、酸化バナジウムが除去されて表面積のさらなる増加がもたらされる。したがって、酸化物コーティングは、容易に大規模製造につながる十分開発されたプロセスである熱分解によって製造される。さらに、熱分解技術は、基板の形状又はサイズとは無関係に多種多様なニッケル基板に合わせて容易に調節可能である。さらに、高多孔質酸化ニッケルコーティングは、ニッケル及びバナジウムのみ、すなわち地殻中に極めて豊富に存在する金属から得られ、イリジウム等の貴金属より大幅に安価である。高い存在量に起因して、産業規模製造に必要なバルク購入が容易に達成される。さらに、バナジウムの浸出はその溶解中に水素ガスを生成せず、したがって関連する健康及び安全上の危険が回避されるため、コーティングから酸化バナジウムを除去するために必要な浸出工程は、ラネーニッケル製造の浸出工程よりも困難ではない。最後に、本発明の方法に従って製造されたコーティングの形態は実質的に平坦であり、したがってゼロギャップ電解セルにおける膜の損傷が回避される。
【0020】
好ましい実施形態において、コーティングは、ニッケル基板と触媒多孔質外層との間に堆積されたニッケルベース中間層を含む。好ましくは、ニッケルベース中間層は、金属ニッケル、又は金属ニッケル及び酸化ニッケルの組合せからなる。ニッケル/酸化ニッケル中間層は、好ましくは約1m/g未満の多孔度を有する。驚くべきことに、触媒コーティングは、上述のニッケル/酸化ニッケル中間層上に適用された場合、費用を要する追加の分極ユニットを必要とすることなく、電解プラントの動作及びメンテナンスにより要求される保護されていないシャットダウンに耐えることができることが見出された。
【0021】
ニッケル中間層は、金属元素に関して(referred to)100~3000g/m、さらにより好ましくは200~800g/mの範囲内の好ましいニッケル投入量を有する。
【0022】
中間層は、通常、外側触媒層より密度が高い。
【0023】
一実施形態において、中間層は、約1.0~約10.0mF/gの範囲内の電気二重層キャパシタンスを有する。
【0024】
中間層は、様々な技術、例えば溶射技術、レーザクラッディング又は電気めっきを使用して得ることができる。好ましい実施形態において、溶射技術は、ワイヤアーク溶射及びプラズマ溶射からなる群から選択される。
【0025】
一実施形態において、多孔質外層は、5~40マイクロメートル(μm)の範囲内、好ましくは10~20μmの範囲内の厚さを有する。多孔質外層は、金属元素に関して5~50g/mの範囲内の好ましいニッケル投入量を有する。ニッケル基板に直接適用される場合、触媒コーティングは、低電流密度用途(例えば1kA/m又は最大数kA/mの範囲内)に特に有用である。これらの用途では、好ましいニッケル投入量は、典型的には6~15g/mの範囲内である。多孔質外層がニッケル中間層上に適用される場合、これらの実施形態は、高電流密度用途(例えば10kA/m以上)に使用され得、したがって典型的には15~25g/m以上の範囲内のより高いニッケル投入量が好ましい。
【0026】
多孔質外層及び中間層からなるコーティングは、30~300μmの範囲内、好ましくは約50μmの厚さを有する。
【0027】
多孔質外層、及び任意選択で中間層からなるコーティングは、当技術分野において慣例的であるように、またセル構成及びセル内の電極配置に応じて、電極の金属基板の片面又は両面上に適用され得る。
【0028】
好ましくは、金属基板はニッケルベースであり、さらにより好ましくは、メッシュ厚さ及びメッシュ形状に関して様々な構成で使用され得るニッケルメッシュである。好ましいメッシュ厚さは、0.2~1mmの範囲内、好ましくは約0.5mmである。典型的なメッシュ開口は、2~10mmの範囲内の長い方の幅及び1~5mmの範囲内の短い方の幅を有する菱形開口である。
【0029】
その低い値の酸素過電圧に起因して、本発明の電極は、好ましくは酸素発生用のアノードとして、特にアルカリ水電解用の電解セルにおけるアノードとして使用される。したがって、本発明はまた、酸素発生用アノードとカソードとを含む電気化学プロセス用、特にアルカリ水電解用の電解セルであって、アノードが、上で定義された電極である、電解セルに関する。
【0030】
本発明はまた、上で定義された電極の製造するための方法であって、
a)ニッケル塩、バナジウム塩及びゲル化剤を含むコーティング溶液を、金属基板に適用する工程と、
b)その後、80~150℃の範囲内の温度で、好ましくは20~40分、典型的には30分乾燥させる工程と、
c)続いて、金属塩から金属酸化物への酸化のために、300~500℃の範囲内、典型的には400℃の温度で、好ましくは5~15分、典型的には10分焼成する工程と、
d)ニッケルの所望の特定投入量を有するコーティングが得られるまで、工程a)~c)を繰り返す工程と(工程a)~c)の一回の実行で所望の投入量に達した場合、繰り返す必要はないことが理解される)、
e)300~500℃の範囲内、典型的には400℃の温度で、好ましくは1~4時間、典型的には2時間最終熱処理(第2の焼成)を行う工程と、
f)アルカリ浴中で前記コーティングからバナジウムを浸出させ、酸化ニッケル及び水酸化ニッケルを含む高多孔質触媒外層を形成する工程と
を含む、方法に関する。
【0031】
本発明によれば、酸化ニッケル/水酸化ニッケル外側触媒層は、所望のニッケル投入量を正確に調整するために、一連の層として形成され得る。1つのコーティング組成物のみが使用されるため、コーティング電極の製造は、先行技術の方法より速く、より無駄がなく、したがってより安価である。さらに、酸化物コーティングは、産業規模コーティング製造で十分開発されたプロセスである熱分解によって製造される。
【0032】
工程a)におけるコーティング溶液の基板への適用は、好ましくは刷毛塗り又は噴霧技術により達成され、コーティング溶液は、好ましくは水性である。
【0033】
コーティング溶液中の有機及び無機化学前駆体の組合せは、金属塩が埋め込まれたマクロ多孔質ゲル構造を形成する。乾燥工程において、溶媒は乾燥する。前駆体金属塩を焼成することができる温度でのその後の熱処理中、溶解した金属は酸化物となり、一方他の成分はエバポレートするか、又は燃焼し、金属酸化物多孔質構造が残る。コーティング溶液は、好ましくは水及び/又はエタノール等のアルコール、並びに塩酸等の酸で形成された溶媒を含む。ゲル化剤として作用する好適な添加剤は、エチレングリコール及びクエン酸を含む。一実施形態において、ゾル-ゲル手法のための溶媒及びゲル化剤は、溶媒としてのエタノール又は水又はエタノール/水混合物及び塩酸、エチレングリコール、並びにクエン酸を、モル数で14:4,5:1の比率(すなわち溶媒:エチレングリコール:クエン酸)を含む。エチレングリコールは、そのゾル-ゲル合成における機能に加えて、熱処理中の蒸発後に「乾燥した泥」の形態を形成する。エチレングリコールは、その分解温度超まで加熱され、COとして燃焼して、寸法的に安定なアノード製造のための従来の純粋無機コーティング溶液と比較して特に開いた構造を残す。
【0034】
ニッケル塩は、好ましくはハロゲン化ニッケル、例えば塩化ニッケルであり、バナジウム塩は、好ましくはハロゲン化バナジウム、例えば塩化バナジウムである。
【0035】
金属基板上への適用後、コーティングは、2つの分離した結晶相、すなわち酸化ニッケル(NiO)及び酸化バナジウム(VO)で構成され、酸化バナジウムは、活性化された微細孔酸化Ni構造(NiO及びNi(OH)の混合相)を得るために、アルカリ溶液(例えば80℃の6M KOH)での浸出により除去される。したがって、工程f)は、好ましくは、アルカリ水酸化物水溶液中、例えば6M NaOH又は6M KOH溶液中、60と100℃の間の温度、典型的には80℃の温度で、12~36時間の範囲内の期間、典型的には24時間の期間行われる。
【0036】
酸化ニッケル/水酸化ニッケルの比率は、コーティング溶液中のニッケル/バナジウムの好適な比率を選択することにより調整され得ることが見出された。好ましくは、コーティング溶液中のNi/Vの原子比率は約100/100であり、これは、最終的な外側触媒層中の約25~15原子%のNiO及び約75~85原子%のNi(OH)の原子百分率をもたらす。一般に、触媒コーティング中のNi(OH)の原子百分率は、コーティング溶液中のV含有量の減少と共に減少する。
【0037】
本発明の文脈では、ニッケル塩及びバナジウム塩を含む乾燥ゲル様コーティングの熱分解に続く酸化バナジウムの浸出から得られる触媒高多孔質(HP)酸化ニッケル外層は、HP-NiOとして示される。
【0038】
好ましい実施形態において、中間工程a0)が工程a)の前に行われ、ニッケル又はニッケル/酸化ニッケル中間層が、好ましくは溶射、レーザクラッディング又は電気めっきにより工程a)の前に金属基板上に適用され、したがって中間層は、約1m/g(BET)未満の多孔度を示す。これにより、特に高電流密度での保護されていないシャットダウンに対してより高い耐性を有する電極が得られる。
【0039】
好ましくは、工程a0)は、ニッケル粉末を周囲空気中で金属基板上にプラズマ溶射することを含む。一実施形態において、基板上にプラズマ溶射されたニッケル粉末は、約10μm~約150μm、好ましくは約45μm~約90μmの平均粒子サイズを有する。
【0040】
ここで、ある特定の好ましい実施形態及び対応する図面に関連して本発明をより詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0041】
図1】ニッケル中間層を有さない実施例2の電極の触媒外層の表面及び断面像のSEM写真である。
図2】実施例2の電極の外側表面のBET表面積測定の結果を示すグラフである。
図3】実施例2の電極の回折パターンを示す図である。
図4】先行技術の電極と比較した、実施例2の電極の促進寿命試験の結果を示すグラフである。
図5】ニッケル中間層を有する実施例3の電極の触媒外層の表面及び断面像のSEM写真である。
図6】先行技術の裸ニッケル電極と比較した実施例3の電極のシャットダウン試験の結果を示すグラフである。
図7】先行技術のイリジウムベース電極と比較した実施例3の電極のシャットダウン試験の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【実施例
【0042】
実施例1:コーティング溶液の調製
1リットル(l)のコーティング溶液を調製するために、0.4lの脱塩水、0.4lのエチレングリコール及び0.2lの37%塩酸をフラスコ内で混合し、10分間撹拌した。300gのVClを溶液に添加し、30分間撹拌下で溶解した。その後、450gのNiCl 6HOを溶液に添加し、30分間撹拌下で溶解した。300gのクエン酸を溶液に添加し、45分間連続撹拌下で溶解した。
【0043】
実施例2:中間層のないHP-NiOコーティングニッケルメッシュ電極の作製
1mのコーティングメッシュを作製するために、厚さ0.5mmのニッケル菱形網目メッシュをサンドブラストし、塩酸溶液中でエッチングした。4mlの実施例1のコーティング溶液をメッシュの各面に刷毛塗りにより堆積させ、130℃で30分間乾燥させ、400℃で10分間焼成して、1g/m投影面積の1サイクルのニッケル投入量を得た。堆積、乾燥及び焼成工程を合計10サイクル繰り返し、10g/m投影面積の最終ニッケル投入量を得た。その後、コーティング電極を400℃で2時間ポストベーキングした。最後に、電極をバナジウム除去のためのアルカリ性NaOH浴中で80℃の温度で合計24時間浸出させた。
【0044】
実施例3:ニッケル中間層を有するHP-NiOコーティングニッケルメッシュ電極の作製
厚さ0.5mmのニッケル菱形網目メッシュを、45±10μmの粒子サイズを有する99.9%純度のニッケル粉末でプラズマ溶射した(Fe<0.5、O<0.4、C<0.02、S<0.01、周囲空気中、両面上に4.8±0.5g/dmの量、及び各面につき50μmの標的厚さで)。その後、溶射したワイヤメッシュを、炉内で空気中350℃において15分間加熱した。プラズマ溶射した織メッシュを冷却し、次いで、一連のコーティング、加熱及び冷却工程において、刷毛塗りにより前駆体組成物でコーティングした。ニッケル中間層を含んだ1mのコーティングメッシュを作製するために、14mlの実施例1のコーティング溶液をメッシュの各面に刷毛塗りにより堆積させ、130℃で30分間乾燥させ、400℃で10分間焼成して、3g/m投影面積の1サイクルのニッケル投入量を得た。堆積、乾燥及び焼成工程を合計7サイクル繰り返し、21g/m投影面積の最終ニッケル投入量を得た。その後、コーティング電極を400℃で2時間ポストベーキングした。最後に、電極をバナジウム除去のためのアルカリ性NaOH浴中で80℃の温度で合計24時間浸出させた。
【0045】
反例4:LiNiOベース層、NiCoO中間層及びIrO上層で形成された三層コーティングを含む厚さ0.5mmのニッケル菱形網目メッシュを、それぞれの対応する前駆体溶液をメッシュ基板(又はそれぞれの下地層)に刷毛塗りにより順次適用し、熱分解することによって得た。
【0046】
反例5:LiNiOベース層、LiNiIrO上層で形成された二層コーティングを含む厚さ0.5mmのニッケル菱形網目メッシュを、それぞれの対応する前駆体溶液をメッシュ基板(又はそれぞれの前の層)に刷毛塗りにより順次適用し、熱分解することによって得た。
【0047】
本発明による実施例2及び3の電極を様々な技術を用いて特徴づけし、反例4及び5と比較した。
【0048】
A.実施例2の電極(HP-NiO触媒層を有するがニッケル中間層を有さない電極)の特徴づけ
A.1 走査電子顕微鏡(SEM)を使用して、表面及び断面の両方のそれぞれのコーティングの形態を評価した。コーティングの安定性、接着及び消耗としての性質を定性的に推定するために、新しい試料及び使用済みの試料に対して分析を行った。図1は、実施例2に従って作製された本発明の電極の表面図(a)及び断面図(b)のSEM画像を示す。形態学的表面分析は、HPNiOコーティングの平坦な「乾燥した泥」の形態を示し、一方断面は、コーティングの多孔性を示している。さらに、断面では、コーティングの相均質性が観察され得る。画像、特に断面図(b)は、バルクニッケル基板10がサンドブラスト及びエッチング後にある程度の粗度を示すことを示しており、これは、基板に対する触媒多孔質外層11の接着/係止に有益である。しかしながら、本発明の方法に従って適用された触媒外層11の外側表面は滑らかであり、したがって、電解セルに組み付けられた場合、繊細な膜への損傷が防止される。
【0049】
A.2 補正インピーダンス単一電極電位(CISEP)試験を用いて、アルカリ水電解に使用される先行技術のアノードと比較して本発明の電極の電気化学的性能を特徴づけした。本発明の電極の酸素過電圧を決定するために、本発明の電極を三電極式ビーカーセルにおけるアノードとして試験した。試験条件を表1に要約する。
【0050】
まず、試料を10kA/mで2時間の前電解(コンディショニング)に供し、酸素過電圧(OOV)を安定化させる。次いで、いくつかのクロノポテンシオメトリー工程を試料に適用する。CISEP試験の最終出力は、電解質の抵抗により補正された10kA/mで行われた3つの工程の平均である。
【0051】
表2は、裸ニッケルアノード(ベースNi)、反例4(CEx4)のイリジウムベースアノード、ラネーニッケルアノード(Niラネー)、及び実施例2の電極(HP-NiO)の間の比較を要約している。
【0052】
本発明のアノードで得ることができるエネルギー削減(裸Niより140mV低いOOV)は、費用を要する貴金属又は危険な製造プロセスが関与することなく、非コーティングニッケルメッシュのアノード反応の遅い速度によりもたらされる高い運転コストの問題を解決する。
【0053】
A.3 BET測定を行って、同じくアルカリ水電解に好適である反例5(CEx5)の電極と比較して実施例2の電極の表面積を決定した。図2に示される結果は、実施例2の電極が先行技術の電極より大幅に高い表面積を有することを示している。
【0054】
A.4 X線回折(XRD)技術を使用して、形成された酸化物及びその結晶構造の種類を評価した。実施例2による電極から得られた典型的な回折パターンを図3に示す。x軸は回折角2θを示し、y軸は任意単位(例えばスキャン当たりのカウント)での回折強度を示す。強いピーク(1)、(2)及び(3)は、それぞれ結晶面(111)、(200)及び(220)でのNi基板に対応する。より弱いピーク(4)、(5)及び(6)は、それぞれ結晶面(111)、(200)及び(220)での高多孔質触媒外層のNiO相に対応する。さらにより弱いピーク(7)、(8)、(9)及び(10)は、それぞれ結晶面(001)、(100)、(101)及び(110)に対応する、高多孔質外側触媒コーティングのNi(OH)相に対応する。したがって、触媒コーティングは、酸化ニッケル(NiO)及び水酸化ニッケル(Ni(OH))で構成されると決定された。さらに、図3の回折パターンから明確に認識され得るように、本発明の高多孔質触媒コーティングは、明らかにいなかるイリジウム又は他の希少/高価な金属も含有しない。したがって、先行技術の電極に関連するコスト及び供給の問題は、本発明の電極により回避され得る。
【0055】
A.5 促進寿命試験(ALT)を用いて、触媒コーティングの寿命を推定した。試験は、二電極構成を有し、それらに連続電解電流が直接印加されるビーカーセルにおける長期電解からなる。適用条件は、消耗プロセスを促進するためにCISEP試験のものと比較してより過酷であり、典型的な動作条件を超える。促進寿命試験において暗に含まれる条件を以下の表3に要約する。
【0056】
ALTデータを図4に示す。x軸は、時間単位での試験期間を示し、y軸は、ボルト単位でのセル電圧を示す。データ点(1)は、非コーティングNi基板に対する結果を示し、わずか2時間程の動作後に2.5Vから2.7Vへのセル電圧の増加を示している。セル電圧は2.7Vで安定性を維持し、さらなる劣化が生じないことを示している。データ点(2)は、実施例2の電極を示しているが、これはセル電圧の増加に続いで電極の不具合が生じるまで、約250時間の間2.5Vのより低いセル電圧を維持する。これは、高多孔質外側触媒酸化ニッケル層を有する(中間層なし)実施例2の電極が、裸ニッケル基板と比較してセル電圧の点で優れた性能を有するが、ALTの過酷な条件下では長期動作に好適ではないことを示している。上で示されたように、実施例2の電極は、より低い電流密度下での動作に特に好適である。以下の実施例3の電極の特徴づけに関連して、データ点(3)及び(4)をより詳細に説明する。
【0057】
B)実施例3の電極(HPNiOx触媒層及びニッケル中間層を有する電極)の特徴づけ
B.1 ここでも、走査電子顕微鏡(SEM)を使用して、表面及び断面の両方のそれぞれのコーティングの形態を評価した。また、コーティングの安定性、接着及び消耗としての性質を定性的に推定するために、新しい試料及び使用済みの試料に対して分析を行った。図5は、実施例3に従って作製された本発明の電極の表面(a)及び断面(b)のSEM画像を示す(図5の画像は図1の画像より低い分解能/倍率で得られたものであることに留意されたい)。ここでも、特に断面図(b)は、バルクニッケル基板10がサンドブラスト及びエッチング後にある程度の粗度を示す一方、プラズマ溶射によるニッケル中間層12及び本発明の方法を使用した触媒外層11の適用が、滑らかな表面をもたらすことを示している。
【0058】
B.2 上記セクションA.5に記載の促進寿命試験(ALT)を、実施例3の電極でも行った。対応する結果を同じく図4に示す。データ点(3)は、プラズマ溶射NiO中間層を有し、追加のHP-NiO触媒外層を有さないニッケル基板を示す。中間層-電極のみでは、裸ニッケル基板より低いが依然として実施例2の電極より少なくとも100mV高いセル電圧が示され、電極寿命を通してさらなる連続的な増加が見られる。データ点(4)は、実施例3の電極、すなわちプラズマ溶射ニッケル中間層及び高多孔質触媒外層を有するニッケル基板を示す。電極3は促進寿命試験において最高の性能を示し、2.5Vという同様の低い初期セル電圧を有し、約1,500時間の動作寿命にわたり非常に遅い連続的増加を見せる。
【0059】
B.3 極性の反転に対する実施例3の電極の耐性を評価し、また模擬的プラントシャットダウンに対するその耐性を推定するために、以下の表4に要約されるような動作条件下でのシャットダウン試験を行った。
【0060】
以下の試験プロトコールを実行した。48時間のグレートイン期間の後、ポンプをオンにした状態で電解セルを短縮し、温度を室温まで降下させることによって、6時間のシャットダウンを模擬した。シャットダウン後、表4の動作条件で電解を6時間継続した。電極が不具合を生じるまで、シャットダウンサイクルを繰り返した。
【0061】
図6は、実施例3の電極(データ点(1))及び裸ニッケル電極(データ点(2))の結果を示す。x軸上にはシャットダウンの回数が示され、一方y軸はセル電圧を示す。結果は、裸ニッケル電極が、より高いセル電圧で動作する間、40回のシャットダウンに耐え得るのみであり、一方実施例3の電極は、最大55回のシャットダウンに対してその低いセル電圧を維持したことを示している。
【0062】
図7では、実施例3の電極(データ点(1))と反例4の電極(データ点(2))との比較が示されている。x軸上にはシャットダウンの数が示され、一方y軸は、カソード及び隔離板の構成を排除するための正規化されたセル電圧からの偏差を示す。図7から認識され得るように、プラズマ溶射ニッケル中間層上の高多孔質酸化ニッケル外側触媒層は、セル電圧を増加させることなく50回超のシャットダウンに耐えることができる。対照的に、反例4の電極のセル電圧は、20回のシャットダウン後にすでに増加し始める。
【0063】
上記説明は本発明を限定することを意図せず、本発明は、いかなる様式でも目的から逸脱することなく様々な実施形態に従って使用され得、その範囲は添付の特許請求の範囲により一意に定義される。
【0064】
本出願の明細書及び特許請求の範囲において、「含む(comprising)」、「含む(including)」及び「含有する(containing)」という用語は、他の追加的な要素、成分又はプロセス工程の存在を除外することを意図しない。
【0065】
文献、項目、材料、デバイス、物品等についての解説は、本発明の文脈を提供することのみを目的として本明細書中に含まれる。これらの題目のいずれか又は全てが、本出願の各請求項の優先日より前に先行技術の一部を形成した、又は本発明に関連する分野における一般常識を形成したことを示唆又は表明するものではない。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
【手続補正書】
【提出日】2022-07-18
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属基板及び前記基板上に形成されたコーティングを備える、電解プロセスにおけるガス発生ための電極であって、前記コーティングが、少なくとも、酸化ニッケル及び水酸化ニッケルを含有する触媒多孔質外層を含み、前記多孔質外層が、少なくとも40m/gBETの表面積を有し、前記多孔質外層が、ニッケル塩及びバナジウム塩を含有する熱処理されたゲル様前駆体コーティングから酸化バナジウムを浸出させることにより得られる、電極。
【請求項2】
前記金属基板が、ニッケルベース基板、チタンベース基板及び鉄ベース基板からなる群から選択される基板である、請求項1に記載の電極。
【請求項3】
前記多孔質外層が、酸化ニッケル及び水酸化ニッケルからなる、請求項1又は2に記載の電極。
【請求項4】
前記多孔質外層が、40と120m/gとの間のBETに含まれる表面積を有する、請求項1から3のいずれか一項に記載の電極。
【請求項5】
前記コーティングが、前記金属基板と前記触媒多孔質外層との間に堆積された中間層を備え、中間層は、ニッケル及び/又は酸化ニッケルを含む、請求項1から4のいずれか一項に記載の電極。
【請求項6】
前記多孔質外層が、5~40μmの範囲内の厚さを有する、請求項1から5のいずれか一項に記載の電極。
【請求項7】
前記多孔質外層が、金属元素に関して5~50g/mの範囲内のニッケル投入量を有する、請求項1から6のいずれか一項に記載の電極。
【請求項8】
前記中間層が、金属元素に関して100~3000g/mの範囲内のニッケル投入量を有する、請求項5から7のいずれか一項に記載の電極。
【請求項9】
前記中間層が、約1m/gBET未満の多孔度を有する、請求項5から8のいずれか一項に記載の電極。
【請求項10】
前記中間層が、金属投入量により正規化された約1.0~約10.0mF/gの範囲内の電気二重層キャパシタンスを有する、請求項5から9のいずれか一項に記載の電極。
【請求項11】
多孔質外層及び中間層からなる前記コーティングが、30~300μmの範囲内の全厚を有する、請求項5から10のいずれか一項に記載の電極。
【請求項12】
前記ニッケル中間層が、溶射、レーザクラッディング又は電気めっきにより得られる、請求項5から11のいずれか一項に記載の電極。
【請求項13】
前記ニッケル中間層が、溶射、特にワイヤアーク溶射又はプラズマ溶射により得られる、請求項12に記載の電極。
【請求項14】
前記基板が、ニッケルメッシュである、請求項1から13のいずれか一項に記載の電極。
【請求項15】
酸素発生用アノードとカソードとを含む、電解プロセスための電気化学セルであって、前記アノードが、請求項1から14のいずれか一項に記載の電極である、電気化学セル。
【請求項16】
請求項1から15のいずれか一項に記載の電極を製造するための方法であって、
a)ニッケル塩、バナジウム塩及びゲル化剤を含むコーティング溶液を、金属基板に適用する工程と、
b)80~150℃の範囲内の温度で乾燥させる工程と、
c)300~500℃の範囲内の温度で焼成する工程と、
d)ニッケルの所望の特定投入量を有するコーティングが得られるまで、工程a)~c)を繰り返す工程と、
e)300~500℃の範囲内の温度で最終熱処理を行う工程と、
f)アルカリ浴中で前記コーティングからバナジウムを浸出させる工程と
を含む方法。
【請求項17】
前記コーティング溶液が、水及び/又はアルコール、好ましくはエタノール、並びに酸、好ましくは塩酸を含む溶媒を含む、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記ゲル化剤が、エチレングリコール及びクエン酸を含む、請求項16又は17に記載の方法。
【請求項19】
前記ニッケル塩が、ハロゲン化ニッケルであり、前記バナジウム塩が、ハロゲン化バナジウムである、請求項16から18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
工程f)が、60と100℃の間の範囲内の温度で12と36時間の間の期間、アルカリ水酸化物水溶液中で行われる、請求項16から19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
工程a)の前に中間工程a0)を含み、工程a0)が、溶射、レーザクラッディング又は電気めっきによりニッケル及び酸化ニッケルの中間層を金属基板上に形成することを含み、中間層が、約1m/gBET未満の多孔度を有する、請求項16から20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
工程a0)における中間層が、電線による溶射によって、又はニッケル粉末を周囲空気中で金属基板上にプラズマ溶射することによって形成される、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記ニッケル粉末が、金属基板上にプラズマ溶射され、約10μm~約150μm、好ましくは約45μm~約90μmの平均粒子サイズを有する、請求項22に記載の方法。
【国際調査報告】