(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-10-17
(54)【発明の名称】後加工性が向上したポリエチレン原糸およびそれを含む原反
(51)【国際特許分類】
D01F 6/00 20060101AFI20231010BHJP
【FI】
D01F6/00 A
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023519666
(86)(22)【出願日】2022-06-21
(85)【翻訳文提出日】2023-03-29
(86)【国際出願番号】 KR2022008770
(87)【国際公開番号】W WO2023277428
(87)【国際公開日】2023-01-05
(31)【優先権主張番号】10-2021-0084613
(32)【優先日】2021-06-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】518215493
【氏名又は名称】コーロン インダストリーズ インク
(74)【代理人】
【識別番号】100121382
【氏名又は名称】山下 託嗣
(72)【発明者】
【氏名】イ,シンホ
(72)【発明者】
【氏名】イ,ヨン ス
(72)【発明者】
【氏名】キム,ソン ヨン
(72)【発明者】
【氏名】パク,ジョン ウン
【テーマコード(参考)】
4L035
【Fターム(参考)】
4L035AA05
4L035BB31
4L035BB55
4L035BB81
4L035BB89
4L035BB91
4L035CC07
4L035EE09
4L035EE20
(57)【要約】
本発明は、後加工性が向上したポリエチレン原糸に関し、より詳細には、高温といった苛酷な環境においても優れた機械的物性を維持し、染色、コーティングなどの後加工性が向上したポリエチレン原糸に関する。本発明に係るポリエチレン原糸は、高温環境で一定レベル以上の強力を維持し、後加工性に優れるのでありうる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ASTM D1238にしたがって測定された溶融指数(MI)が0.3~3g/10minであり、
ASTM D885にしたがって常温で測定された強力(A)に対する、120℃で30分間熱処理後に測定された強力(B)の比(B/A)が、85%以上であり、
前記常温で測定された強力(A)に対する、50℃で30分間熱処理後に測定された強力(C)の比(C/A)が、90%以上である、ポリエチレン原糸。
【請求項2】
前記ポリエチレン原糸は、結晶化度が60~85%である、請求項1に記載のポリエチレン原糸。
【請求項3】
前記ポリエチレン原糸は、CuKα線を用いたX線回折パターンで測定された、繊維軸の平行方向(002面)の結晶の大きさが200Å以上であって、繊維軸の直角方向(110面)の結晶の大きさが110Å以上である、請求項1に記載のポリエチレン原糸。
【請求項4】
前記ポリエチレン原糸は、溶融温度が130~140℃である、請求項1に記載のポリエチレン原糸。
【請求項5】
前記ポリエチレン原糸は、密度が0.93~0.97g/cm
3である、請求項1に記載のポリエチレン原糸。
【請求項6】
前記ポリエチレン原糸の乾熱収縮率が2.5%以上である、請求項1に記載のポリエチレン原糸。
【請求項7】
前記ポリエチレン原糸は、ASTM D2256にしたがって測定される強度が1~20g/dである、請求項1に記載のポリエチレン原糸。
【請求項8】
前記ポリエチレン原糸は、ASTM D2256にしたがって測定される切断伸度が20%以下である、請求項1に記載のポリエチレン原糸。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか一項に記載のポリエチレン原糸を含む原反。
【請求項10】
前記原反は、耐摩耗度が500以上である、請求項9に記載の原反。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、後加工性が向上したポリエチレン原糸およびそれを含む原反に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエチレン樹脂は、安価であり、耐薬品性、製品加工性に優れており、エンジニアリングプラスチック、フィルム繊維、および不織布の用途への活用が増加している。繊維分野ではモノフィラメントおよびマルチフィラメントから製造され、衣類用、産業用などへと用途が拡大している。特に最新の繊維の動向に応じて、高強度および高弾性率が求められる高機能性ポリエチレン繊維に関する関心が増加している。
【0003】
米国特許第4,228,118号では、数平均分子量が20,000以上、重量平均分子量が125,000以下のポリエチレン樹脂を用いて、紡糸温度220~335℃で最小紡糸速度30m/minで巻き取った後、20倍以上延伸して10~20g/dの繊維を製造した。しかし、このような方法は、ポリエチレン繊維の商業的な製造において、ノズルホール数およびスピンドロー法による紡糸速度が低いため生産量に限界があり、数十~数百のマルチフィラメントを生産する際に均斉度および紡糸作業性に優れたポリエチレン繊維を生産するのに困難がある。
【0004】
一般的に、ポリエチレン繊維の場合、高強度、軽量性、および耐薬品性などの固有な特性により、安全用品、レジャー、および生活用品の他にも多様な用途に使用が可能である。しかし、比較的に高い融点を有するポリエチレンテレフタレート繊維またはポリアミド繊維などに比べ、ポリエチレン繊維は、融点が低いため、高温で物性が低下しやすいという問題があり、可能な後加工工程の条件が限定されるという短所がある。このような問題を解消して、高い温度で後加工を行っても機械的物性が維持されるポリエチレン原糸の製造が急がれている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、高温環境においても機械的物性が維持され、後加工性が改善されたポリエチレン原糸を提供することにある。
【0006】
また、後加工性が向上したポリエチレン原糸を含んで機械的物性に優れた原反を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るポリエチレン原糸は、ASTM D1238にしたがって測定された溶融指数(MI)が0.3~3g/10minであり、ASTM D885にしたがって常温で測定された強力(A)に対する、120℃で30分間の熱処理後に測定された強力(B)の比(B/A)が、85%以上であり、前記常温で測定された強力(A)に対する50℃で30分間の熱処理後に測定された強力(C)の比(C/A)が90%以上である。
【0008】
本発明の一実施形態に係るポリエチレン原糸において、ポリエチレン原糸は、結晶化度が60~85%であってもよい(ありうる(以下も同様))。
【0009】
本発明の一実施形態に係るポリエチレン原糸において、ポリエチレン原糸は、CuKα線を用いたX線回折パターンで測定された、繊維軸の平行方向(002面)の結晶の大きさが200Å以上、繊維軸の直角方向(110面)の結晶の大きさが110Å以上であってもよい。
【0010】
本発明の一実施形態に係るポリエチレン原糸において、ポリエチレン原糸は、溶融温度が130~140℃であってもよい。
【0011】
本発明の一実施形態に係るポリエチレン原糸において、ポリエチレン原糸は、密度が0.93~0.97g/cm3であってもよい。
【0012】
本発明の一実施形態に係るポリエチレン原糸において、ポリエチレン原糸の乾熱収縮率が2.5%以上である。
【0013】
本発明の一実施形態に係るポリエチレン原糸において、ポリエチレン原糸は、ASTM D2256にしたがって測定される強度が1~20g/dであってもよい。
【0014】
本発明の一実施形態に係るポリエチレン原糸において、ポリエチレン原糸は、ASTM D2256にしたがって測定される切断伸度が20%以下であってもよい。
【0015】
本発明に係る原反は、上述したポリエチレン原糸を含む。
【0016】
本発明の一実施形態に係る原反において、前記原反の耐摩耗度(cycles)は500以上であってもよい。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係るポリエチレン原糸は、高温環境で一定レベル以上の強力を維持して後加工性に優れることができる。
【0018】
また、本発明に係る原反は、後加工性に優れたポリエチレン原糸を含むことで、ポリエチレン特有の優れた機械的物性が維持されうるのであり、安全用品、レジャー用品、生活用品、または冷感素材などの多様な分野に適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の一実施形態に係るポリエチレン原糸の強力を測定する模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明に添付された図面を参照して、本発明の好ましい一実施形態について詳しく説明することにする。本発明を説明するに際し、関連した公知の機能もしくは構成に関する具体的な説明は、本発明の要旨を曖昧にしないように省略する。
【0021】
下記の具体例または実施形態は、本発明を詳しく説明するための1つの参照にすぎず、本発明がこれに限定されるものではなく、種々の形態で実現されてもよい。
【0022】
本発明において、異なるように定義されない限り、全ての技術的用語および科学的用語は、当該発明が属する技術分野における通常の知識を有する者が、通常理解している意味を有する。本発明の説明で用いられる用語は、単に特定の実施形態を効果的に記述するためのものであって、本発明を制限するためのものではない。
【0023】
また、明細書で用いられる単数の形態は、文脈上、特に指示しない限り、複数の形態も含むことを意図し得る。
【0024】
また、ある部分がある構成要素を「含む」とするとき、これは、特に反する記載がない限り、他の構成要素を除くのではなく、他の構成要素をさらに含んでもよいことを意味する。
【0025】
以下、特に言及せずに用いられた単位は、重量を基準とし、一例として、%または比の単位は重量%または重量比を意味する。
【0026】
本発明者は、ポリエチレン原糸が高強力、軽量性、および耐薬品性などの固有な特性を有するだけでなく、高結晶性により優れた冷感特性を有するにも関わらず、融点が低く、高温に脆弱であるため、後加工工程が非常に難しいことに注目した。そこで、研究を深め、ポリエチレン原糸が、特定の溶融指数および強力の条件を満たすことで、後加工を経ても、高い結晶性が維持され、機械的物性が維持されることを見出し、本発明を完成した。
【0027】
本明細書において、ポリエチレン原糸は、ポリエチレンチップを原料とし、紡糸および延伸などの工程により製造されたモノおよびマルチフィラメントを意味する。一例として、ポリエチレン原糸は、1~3デニールの繊度をそれぞれ有する40~500本のフィラメントを含んでもよく、100~1,000デニールの総繊度を有してもよい。
【0028】
本発明に係るポリエチレン原糸は、ASTM D1238にしたがって190℃、2.16kgで測定された溶融指数(melt index:MI、@190℃)が、0.3~3g/10minであり、ASTM D885にしたがって常温で測定された強力(A)に対する、120℃で30分間の熱処理後に測定された強力(B)の比(B/A)が、85%以上であり、前記常温で測定された強力(A)に対する、50℃で30分間の熱処理後に測定された強力(C)の比(C/A)が、90%以上であることを特徴とする。
【0029】
具体的に、前記常温で測定された強力(A)に対する、120℃で30分間の熱処理後に測定された強力(B)の比(B/A)は、87%以上、有利には90%以上であってもよい。また、常温で測定された強力(A)に対する、50℃で30分間の熱処理後に測定された強力(C)の比(C/A)は、92%以上、有利には95%以上であってもよい。
【0030】
また、溶融指数(MI)は、有利には0.4~3g/mol、より有利には0.7~3g/molであってもよい。
【0031】
このような強力の比および溶融指数を満たすポリエチレン原糸は、高温に長時間さらされても、物性の低下がほぼ発生しないため、製織、撚りなどの後加工に有利であるという長所がある。
【0032】
また、ポリエチレン原糸は、多分散指数(Polydispersity Index、PDI)が1~20、具体的には3~15、より具体的には5~10であってもよく、ここで、重量平均分子量(Mw)が600,000g/mol以下、具体的には80,000~500,000g/mol、より具体的には200,000~400,000g/molであってもよい。上記範囲の多分散指数および重量平均分子量を有するポリエチレン原糸は、原糸の溶融押出時に、溶融物の流動性が良く、熱分解の発生を防止し、延伸時に糸切れが発生しないなどの工程性が確保されることで、均一な物性の原糸を製造することができ、耐久性に優れた原糸を提供することができる。ここで、数平均分子量は、上述した重量平均分子量に対して、上述したPDI値を満たすことができるものであれば限定されない。
【0033】
また、ポリエチレン原糸は、結晶化度が60~90%、より好適には60~85%、さらに好適には65~85%であってもよいが、これに限定されない。前記ポリエチレン原糸の結晶化度は、X線回折分析装置を用いた結晶性の分析時に導出することができる。結晶化度が上記範囲を満たす範囲であると、ポリエチレンの共有結合により連結された分子鎖方向へと「フォノン(phonon)」という格子振動(lattice vibration)により熱が速く拡散および発散されて、優れた熱伝導度を有することができる。
【0034】
そして、ポリエチレン原糸は、CuKα線を用いたX線回折パターンでもって測定された、繊維軸の平行方向(002面)の結晶の大きさが200Å以上、繊維軸の直角方向(110面)の結晶の大きさが110Å以上を満たしてもよい。具体的に、繊維軸の平行方向の結晶の大きさは210Å~360Å、より具体的には220Å~350Åであってもよい。また、繊維軸の直角方向の結晶の大きさは120Å~190Å、有利には130Å~180Åであってもよいが、これに限定されない。ただし、上記範囲にて、ポリエチレン原糸は、高強度および低収縮性の特徴を発現することができ、優れた耐熱強力を満たすだけでなく、熱吸収率が向上して、冷感性が向上しうる。
【0035】
また、ポリエチレン原糸は、溶融温度が130~140℃を満たしてもよい。具体的には138~140℃であってもよいが、これに限定されない。ただし、前記溶融温度を満たす原糸は、比較的に高温においても機械的物性が維持されうる。
【0036】
さらに、前記ポリエチレン原糸は、密度が0.93~0.97g/cm3、具体的には0.941~0.965g/cm3であってもよい。前記密度を満たすポリエチレン原糸は、高温に長時間さらされても機械的物性が維持され、熱による抵抗が高くなり、収縮率が低くなる。
【0037】
具体的に、ポリエチレン原糸は、乾熱収縮率が1.5~3.5%、具体的には2~3%、または2.5~3%であってもよい。
【0038】
そして、ポリエチレン原糸は、ASTM D2256にしたがって測定される強度が1~25g/dであってもよい。好適には1~20g/d、より好適には7~20g/dであってもよい。前記強度を満たすポリエチレン原糸は、比較的に柔軟性が高く、優れた製織性を有しうるため、この後に製織または編成して原反に製造される際に、より優れた品質の原反を得ることができる。
【0039】
以下、本発明のポリエチレン原糸の製造方法について具体的に説明する。本発明のポリエチレン原糸はPDI、強力比、強度などの上述した物性の範囲を満たすものであればその製造方法に制限されず、以下のものは一態様を説明するものである。
【0040】
先ず、ポリエチレンチップ(chip)を溶融させてポリエチレン溶融物を得るステップと、
複数のノズルホールを有する口金を通じて前記ポリエチレン溶融物を紡糸するステップと、
前記ポリエチレン溶融物が前記ノズルホールから吐出される際に形成される複数のフィラメントを、冷却し、5倍~20倍の総延伸比で延伸して熱固定するステップと、
延伸および熱固定された前記マルチフィラメント糸を巻き取るステップと、を含んでもよい。
【0041】
各ステップについて具体的に説明すると、先ず、チップ(chip)の形態のポリエチレンを押出機(extruder)に投入して溶融させることで、ポリエチレン溶融物を得る。
【0042】
前記ポリエチレンチップは、5超過9未満、好適には5.5~8の多分散指数(PDI)を有してもよい。また、0.3~3g/10min、好適には0.4~3g/mol、より好適には0.7~3g/molの溶融指数(Melt Index:MI)を有してもよい。また、600,000g/mol以下、より具体的には80,000~600,000g/mol、好適には100,000~500,000g/mol、より好適には200,000~400,000g/molの重量平均分子量(Mw)を有してもよい。
【0043】
溶融したポリエチレンが、前記押出機内のスクリューにより口金を通じて運搬され、前記口金に形成された複数のホールを通じて押出される。前記口金のホールの個数は、製造される原糸のDPF(Denier Per Filament)および繊度に応じて決められうる。例えば、75デニールの総繊度を有する原糸を製造する場合、前記口金は20~75個のホールを有してもよく、450デニールの総繊度を有する原糸を製造する場合、前記口金は90~450個、好ましくは100~400個のホールを有してもよい。
【0044】
前記押出機内における溶融工程および口金を介した押出工程は、ポリエチレンチップの溶融指数に応じて変更適用が可能であるが、具体的に例を挙げると、150~315℃、好適には220~300℃、より好適には250~290℃で行われてもよい。すなわち、押出機および口金が150~315℃、好ましくは220~300℃、より好ましくは250~290℃に維持されることが好ましい。
【0045】
前記紡糸温度が150℃未満である場合には、低い紡糸温度によりポリエチレンが均一に溶融しないため、紡糸が困難であり得るのであり、ノズル内にて過多の剪断応力が発生してメルトフラクチャー(melt fracture)現象が激しくなるという問題が発生する。これに対し、紡糸温度が315℃を超過する場合には、ポリエチレンの熱分解が加速化され、目標レベルの物性の発現が難しくなり得る。前記口金におけるホールの直径(D)に対するホールの長さ(L)の比(L/D)は、3~40であってもよい。L/Dが3未満であれば、溶融押出時にダイスウェル(Die Swell)現象が発生し、ポリエチレンの弾性挙動の制御が難しくなることにより、紡糸性が不良となり、L/Dが40を超過する場合には、口金を通過する溶融ポリエチレンのネッキング(necking)現象による糸切れとともに、圧力降下による吐出不均一の現象が発生し得る。
【0046】
溶融したポリエチレンが口金のホールから吐出され、紡糸温度と室温との差によりポリエチレンの固化が始まることで、半固化状態のフィラメントが形成される。本明細書では、半固化状態のフィラメントは勿論のこと、完全に固化したフィラメントをも、全て「フィラメント」と称する。
【0047】
複数の前記フィラメントは、冷却部(または、「クエンチングゾーン(quenching zone)」)にて冷却されることで完全に固化する。前記フィラメントの冷却は、空冷方式で行われてもよい。
【0048】
前記冷却部における前記フィラメント冷却は、0.2~1m/secの風速の冷却風を用いて、15~40℃に冷却されるように行われることが好ましい。前記冷却温度が15℃未満であれば、過冷却により伸度が不足し、延伸過程で糸切れが発生し得るのであり、前記冷却温度が40℃超過であれば、固化の不均一により、フィラメント間の繊度の偏差が大きくなり、延伸の過程で糸切れが発生し得る。
【0049】
また、冷却部における冷却時に多段冷却を行うことで、さらに均一に結晶化が行われるようにすることができる。
【0050】
より具体的に、前記冷却部は、2個以上の区間に分けられる。例えば、3個の冷却区間からなる場合、第1冷却部から第3冷却部へと行くほど、温度が次第に低くなるように設計されることが好ましい。具体的に例を挙げると、第1冷却部は40~80℃に設定され、第2冷却部は30~50℃に設定され、第3冷却部は15~30℃に設定されるのであってもよい。
【0051】
また、第1冷却部における風速を最も高く設定することで、表面が、より滑らかな繊維を製造することができる。具体的に、第1冷却部は、0.8~1m/secの風速の冷却風を用いて40~80℃に冷却されるようにし、第2冷却部は、0.4~0.6m/secの風速の冷却風を用いて30~50℃に冷却されるようにし、第3冷却部は、0.2~0.5m/secの風速の冷却風を用いて15~30℃に冷却されるようにしてもよい。このような条件に調節することで、結晶化度が、より高く、表面が、より滑らかな原糸を製造することができる。
【0052】
次に、集束機により、前記冷却および完全固化したフィラメントを集束させ、マルチフィラメントを形成させる。
【0053】
本発明のポリエチレン原糸は、直接紡糸延伸(DSD)の工程により製造されてもよい。すなわち、前記マルチフィラメントが、複数のゴデットローラ部を含む多段延伸部に直接伝達され、5倍~20倍、好ましくは8~15倍の総延伸比で多段延伸された後に、ワインダに巻き取られてもよい。
【0054】
一例として、前記複数のゴデットローラを用いる延伸ステップは、2段以上の多段延伸で行われることが好ましい。好適には、前記延伸ステップは、複数のゴデットローラを用いて、2段以上20段以下の多段延伸で行われてもよい。前記多段延伸が2段未満である場合、ゴデットローラの各区間で急激な延伸が生じ、フィラメント糸の製造時に毛羽の発生頻度が増加し、初期モジュラスが増加し、原反が過度にごわごわになり得る。また、前記多段延伸の際に20段以上で行う場合、フィラメント糸とゴデットローラとの摩擦が増加し、フィラメントの損傷および断糸が発生し得る。
【0055】
また、5~10の多分散指数(Polydispersity Index、PDI)および190℃にて0.3~3g/10minの溶融指数(Melt Index:MI)を有するポリエチレンチップを用いても、本発明の方法による延伸比、延伸温度、および段数条件を満たさない場合には、目的とする物性を満たすことができない。例えば、前記延伸の際、最大延伸温度は100~150℃であってもよく、延伸温度が100℃未満である場合には、原糸に伝達される熱量が十分ではなく、延伸効率が低下して延伸糸切れが激しく発生し、150℃を超過する場合には、フィラメントに融着が発生して原糸の強度が低下し得る。総延伸比が5倍~20倍であり、2段以上の多段延伸を行ってもよい。前記最大延伸温度は、延伸区間中の最も高い温度を意味し、前記総延伸比は、延伸前の繊維に比べた、最後の延伸後の繊維についての最終延伸比を意味する。
【0056】
例えば、前記多段延伸は、複数のゴデットローラを用いて2段以上、より具体的には4段以上20段以下の多段延伸で行われてもよい。前記複数のゴデットローラ(GR1...GRn)のうちの最初のゴデットローラGR1の温度は50~80℃であってもよく、最後のゴデットローラGRnの温度は100~150℃であってもよい。前記最初および最後のゴデットローラ部(GR1、GRn)を除いた、残りのゴデットローラについてのそれぞれの温度は、その直ぐ前段のゴデットローラの温度と同一であるか、またはそれよりも高く設定されてもよい。前記最後のゴデットローラ部GRnの温度は、直ぐ前段のゴデットローラ部の温度と同一であるか、またはそれよりも高く設定されてもよいが、それよりも多少低く設定されてもよい。
【0057】
また、多段延伸時、最後の延伸区間では1~5%の収縮延伸(弛緩)を与えることで、耐久性に、より優れた原糸を提供することができる。
【0058】
より具体的に例を挙げると、前記多段延伸は、総4段のゴデットローラ部からなってもよく、前記第1ゴデットローラ部は、50~80℃で2~4倍の延伸、第2ゴデットローラ部は、70~100℃で3~10倍の延伸、第3ゴデットローラ部は、80~110℃で1.1~3倍の延伸、第4ゴデットローラ部は、100~150℃で1~5%の収縮延伸(弛緩)するように設定されてもよい。前記第1ゴデットローラ部ないし第4ゴデットローラ部は、それぞれ複数のゴデットローラからなってもよい。具体的に例を挙げると、2個以上、より具体的には、2個~10個のゴデットローラからなってもよい。
【0059】
選択的に、前記マルチフィラメントを未延伸糸として一旦巻き取った後、前記未延伸糸を延伸することで、本発明のポリエチレン原糸が製造されてもよい。すなわち、本発明のポリエチレン原糸は、ポリエチレンを溶融紡糸して未延伸糸を一旦製造した後、前記未延伸糸を延伸する2段階の工程により製造されてもよい。
【0060】
延伸工程に適用される総延伸比が5未満であれば、繊維配向度が低いため、ポリエチレン原糸が60%以上の結晶化度を有することができず、強力の発現が難しくなり得る。
【0061】
これに対し、前記総延伸比が20倍超過であれば、糸切れが発生する可能性があり、最終的に得られるポリエチレン原糸の強度が適しておらず、前記ポリエチレン原糸の製織性が良くないだけでなく、それを用いて製造された原反が、過度にごわごわになり、使用者が不便を感じることがある。
【0062】
本発明の溶融紡糸の紡糸速度を決める最初のゴデットローラ部GR1の線速度が決められると、前記多段延伸部において5~20倍、好ましくは8~15倍の総延伸比が前記マルチフィラメントに適用できるように、残りのゴデットローラ部の線速度が適切に決められる。
【0063】
前記多段延伸部により前記マルチフィラメントの多段延伸と熱固定が同時に行われ、多段延伸されたマルチフィラメントがワインダに巻き取られることで、本発明のポリエチレン原糸が完成される。
【0064】
上記のように製造された本発明のポリエチレン原糸は、高い温度に適用されても強度維持率が高く、低収縮性を示し、耐熱強力維持性に優れるため、後加工の工程が必要な物品に用いることができる。例えば、一般衣類の素材として用いることができる。
【0065】
本発明に係る原反は、上述したポリエチレン原糸を含むものであって、後加工性が向上した原糸を含むことで、編織および製織のような原反の製造工程を経るにも関わらず、高強度、低収縮性、冷感性、および耐熱強力などの、ポリエチレン特有の優れた機械的物性が維持されうるため、安全用品、レジャー用品、生活用品、または冷感素材などの多様な分野に適用可能である。
【0066】
また、後加工性が向上した原糸を含むことで、それにより製造された原反も、染色やコーティングといった、後加工の際にも機械的物性を維持することができる。
【0067】
具体的に、本発明に係る原反は、ASTM D3884規格にしたがって測定される耐摩耗度(cycles)が500以上、好適には530~700であってもよい。
【0068】
本発明に係る原反は、前述したポリエチレン原糸を単独で用いてもよく、他の機能性をさらに与えるために異種原糸をさらに含んでもよいが、後加工性および冷感性を同時に有することができる観点から、前記ポリエチレン原糸を単独で用いることが好ましい。
【0069】
以下、実施例および比較例に基づいて本発明をより詳細に説明する。ただし、下記の実施例および比較例は本発明をより詳細に説明するための1つの例示にすぎず、本発明が下記の実施例および比較例により制限されるものではない。
【0070】
ポリエチレン原糸の物性は次のように測定した。
【0071】
<溶融指数>
ASTM D1238にしたがって測定し、測定温度は190℃であり、重りの重量は2.16kgに設定し、10分間の間に流れる量を測定した。
【0072】
<重量平均分子量(Mw)(g/mol)および多分散指数(PDI)>
ポリエチレン原糸を以下の溶媒に完全に溶解させた後、次のゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)を用いて、前記ポリエチレン原糸の重量平均分子量(Mw)および多分散指数(Mw/Mn;PDI)をそれぞれ求めた。
【0073】
-分析機器:Tosoh社HLC-8321 GPC/HT
-カラム:PLgel guard(7.5×50mm)+2×PLgel mixed-B(7.5×50mm)
-コラム温度:160℃
-溶媒:トリクロロベンゼン(TCB)+0.04wt%ジブチルヒドロキシトルエン(BHT)(after drying with 0.1% CaCl2; 0.1% CaCl2での乾燥後)
-インジェクタ(Injector)、検知器(Detector)の温度:160℃
-検知器(Detector):RI Detector
-流速:1.0mL/min
-注入量:300mL
-試料濃度:1.5mg/mL
-標準試料:ポリスチレン
【0074】
<強度(g/d)、初期モジュラス(g/d)、および伸び率(%)>
ASTM D2256方法により、インストロン社製(Instron Engineering Corp.、Canton、Mass.)の万能引張試験機を用いて、ポリエチレン原糸の変形-応力曲線を得た。サンプルの長さは250mmであり、引張速度は300mm/minであり、初期ロード(load)は0.05g/dに設定した。破断点における応力および伸張から強度(g/d)および伸び率(%)を求め、前記曲線の原点付近の最大勾配を与える接線から初期モジュラス(g/d)を求めた。それぞれの原糸ごとに5回測定した後、その平均を算出した。
【0075】
<強力の測定>
ASTM D885方法により、インストロン社製(Instron Engineering Corp.、Canton、Mass)の万能引張試験機を用いて、ポリエチレン原糸の強力(g/d)を測定した。サンプルの長さは250mmであり、引張速度は300mm/minであり、初期ロード(load)は0.05g/dに設定した。
【0076】
図1に示されたように、ポリエチレン原糸を切断して250mm以上の長さのサンプル200を得た後、サンプルについて、両端が開放された円筒形ガラス管100を通過させた後、サンプルの両端をガラス管の両端に固定した。
【0077】
この際、サンプルに荷重が印加されないようにした。その後、熱風循環型の加熱炉を用いて、試験温度(50℃、120℃)で30分間加熱した後、原糸サンプルの強力を測定した。その後、加熱炉からサンプルを取り出して常温(20±5℃)まで徐々に冷却させた後、原糸サンプルの強力を測定した。強力は、総5回、繰り返し測定した後に、平均値を求めた。
【0078】
次に、下記式を用いて強力の比を算出した。
【0079】
[式]
強力の比(%)=(高温におけるポリエチレン原糸の強力(BまたはC))/(常温におけるポリエチレン原糸の強力(A))×100
【0080】
前記式中、高温は試験温度、具体的には50℃または120℃であってもよい。
【0081】
<原糸の結晶化度>
XRD機器(X-ray Diffractomer)[製造会社:PANalytical社、モデル名:EMPYREAN]を用いて、ポリエチレン原糸の結晶化度を測定した。具体的に、ポリエチレン原糸を切断して2.5cmの長さを有するサンプルを準備し、前記サンプルをサンプルホルダーに固定させた後、以下の条件下で測定を行った。
【0082】
-光源(X-ray Source):Cu-Kα radiation
-電力(Power):45kV×25mA
-モード:連続スキャンモード
-スキャン角度範囲(2Θ):10~40゜
-スキャン速度:0.1゜/sec
-結晶化度の計算
結晶化度(%)=IC/(IA+IC)×100
【0083】
XRDを用いてスキャンした前記2Θ範囲で、ポリエチレンの結晶領域の分率がICであり、非結晶領域の分率がIAである。前記結晶化度は、ポリエチレンの結晶領域と非結晶領域の分率に対する結晶領域の分率の比で示したものである。
【0084】
<乾熱収縮率>
25℃、相対湿度65%の恒温除湿室に試料を24時間放置する。無張力下で150℃×30分の条件で熱収縮させた後、25℃、相対湿度65%の恒温除湿室に試料を24時間放置する。原糸の収縮の前後の長さ変化を示す。
【0085】
収縮率(%)=(L0-L1)/L0×100
L0:熱収縮前の試料を25℃、相対湿度65%の恒温除湿室に24時間放置後の試料の長さ
L1:熱収縮後の試料を25℃、相対湿度65%の恒温除湿室に24時間放置後の試料の長さ
【0086】
<耐摩耗度の評価>
本発明に係るポリエチレン原糸を用いて編織して製造された編物の耐摩耗度は、ASTM D3884規格にしたがって測定された。評価機器としては、マーチンデール(Martindale)摩耗試験機を使用した。この際に用いられた摩擦布は320Cwサンドペーパーであり、付与荷重は1,000gとした。
【0087】
[実施例1]
240個のフィラメントを含み、総繊度が500デニールであるポリエチレン原糸を製造した。
【0088】
具体的に、0.962g/cm3の密度、340,000g/molの重量平均分子量(Mw)、7.5の多分散指数(PDI)、および1.8g/10minの溶融指数(MI at 190℃)を有するポリエチレンチップを押出機に投入して溶融させた。溶融したポリエチレンは、240個のホールを有する口金を通じて押出された。口金におけるホールの直径に対するホールの長さの比(L/D)は5であった。口金温度は270℃であった。
【0089】
口金のノズルホールから吐出されることで形成されたフィラメントは、冷却部および延伸部に移動した。前記冷却部と延伸部はそれぞれ4個の区間からなり、マルチフィラメント糸について順次に冷却および延伸を行った。第1冷却部では50℃に冷却し、第2冷却部と第3冷却部では45℃に冷却し、第4冷却部では40℃に冷却した。前記延伸部は、総4段のゴデットローラ部で構成され、各ゴデットローラ部は、1個~10個のゴデットローラからなる。第1ゴデットローラ部は最大温度が80℃、第2ゴデットローラ部は最大温度が90℃、第3ゴデットローラ部は最大温度が95℃、第4ゴデットローラ部は最大温度が120℃に設定されるのであり、延伸比は、第1ゴデットローラ部では2倍の延伸、第2ゴデットローラ部では3倍の延伸、第3ゴデットローラ部では1.4倍の延伸がなされるようにし、第4ゴデットローラ部では第3ゴデットローラ部に比べて4%の収縮延伸(弛緩)がなされるようにして、総8倍の総延伸比での延伸および熱固定がなされた。
【0090】
次に、前記延伸されたマルチフィラメント糸はワインダに巻き取られた。巻き取り張力は0.8g/dであった。
【0091】
製造された原糸の物性を測定して下記表1に示した。
【0092】
また、常温で製造された原糸の強力(A)を測定し、上記で製造された原糸について120℃で30分間の熱処理を行った後の強力(B)を測定した。
【0093】
常温で測定された強力(A)に対する、120℃で30分間の熱処理後に測定された強力(B)の比(B/A)、および、常温で測定された強力(A)に対する、50℃で30分間熱処理後に測定された強力(C)の比(C/A)を計算して、表1に示した。
【0094】
<原反の製造>
上記で製造されたポリエチレン原糸を用いて編成を行うことで編物を製造した。製造された編物原反の物性を測定して、下記表2に示した。
【0095】
[実施例2~3]
下記表1のように条件を変更したことを除いては、実施例1と同様に製造した。
【0096】
また、実施例1と同様に製造された原反の物性を測定して下記表2に示した。
【0097】
[実施例4]
前記実施例1において、冷却部と延伸部は、それぞれ2個の区間からなり、具体的に、第1冷却部では50℃に冷却し、第2冷却部では40℃に冷却し、前記延伸部は、総2段のゴデットローラ部で構成され、第1ゴデットローラ部は最大温度が80℃、第2ゴデットローラ部は最大温度が120℃に設定され、延伸比は、第1ゴデットローラ部では4.4倍の延伸、第2ゴデットローラ部では3倍の延伸がなされるようにして、総延伸比が13倍となるように調節したことを除いては、実施例1と同様に原糸を製造した。
【0098】
[実施例5]
前記実施例1において、0.961g/cm3の密度、340,000g/molの重量平均分子量(Mw)、5.5の多分散指数(PDI)、および1.7g/10minの溶融指数(MI at 190℃)を有するポリエチレンチップを用い、総延伸比が13倍となるように調節したことを除いては、前記実施例1と同様に原糸を製造した。
【0099】
[実施例6]
前記実施例1において、0.961g/cm3の密度、340,000g/molの重量平均分子量(Mw)、8の多分散指数(PDI)、および1.6g/10minの溶融指数(MI at 190℃)を有するポリエチレンチップを用い、総延伸比が13倍となるように調節したことを除いては、前記実施例1と同様に原糸を製造した。
【0100】
[比較例1]
前記実施例1において、0.960g/cm3の密度、200,000g/molの重量平均分子量(Mw)、7.5の多分散指数(PDI)、および5g/10minの溶融指数(MI at 190℃)を有するポリエチレンチップを用い、総延伸比が11倍となるように調節したことを除いては、前記実施例1と同様に原糸を製造した。
【0101】
また、実施例1と同様に製造された原反の物性を測定して下記表2に示した。
【0102】
【0103】
【国際調査報告】